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[71] 椿色アルミニウム
   
日時: 2013/09/03 23:58
名前: 那月 有留◆hwJdICPTBI ID:oS3ATmbo

「この世に善悪というモノは存在しない。わかるかね? 狐神(こがみ)くん?」
「わかりません」

 私たちの日々は、今日も非平和だ。
メンテ

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Re: 椿色アルミニウム ( No.1 )
   
日時: 2013/09/04 00:56
名前: 那月 有留◆hwJdICPTBI ID:DX73CKEE

「この世に善悪というモノは存在しない。わかるかね? 狐神(こがみ)くん?」
「わかりません」
 目の前にいる少女に私は端的に返す。
 目の前でクルクルとティースプーンを回し続ける彼女は真っ赤なゴシックロリータの衣装を身にまとっていた。
「君はいつも僕の性別を間違えるね。わざとかい?」
 はい、わざとです。あっさりと心の内を見抜かれ、私は渋々考察を訂正する。
 目の前にいる『少年』は未だにティースプーンを回し続けていた。
 ゴシックロリータのドレスは間違いではない。実際に着ているのだから訂正のしようがないのだ。
 赤い紅い髪の毛を後ろでくくった彼は、結局のところか弱い女の子にしか見えない。
 いわゆる男の娘、という奴である。とはいえ、私がその単語を知ったのもつい最近のことなので違和感ありありである。
「館長は相変わらず暇そうですね」
 私がそう言うと、彼は不貞腐れたように押し黙った。かれこれ今日で三回目である。
 彼は暇が出来るとすぐに私に謎の哲学を語りたがる。大学どころか高校すら出れていない私にはよくわからない話ばかりで、右から左に音の波紋が長々と通り抜けていくのを特に何の感慨も抱かず待ち続けるのが私の主な業務である。
 しかしときには聞きたくないときもあるので、そういうときには暇であることを指摘すれば音は止む。我ながら実に楽な方法を考案したものだ。
「緋御神(あけみかみ)のギャラリーも最近はお休みですか?」
「君はいつになったら僕のことを名前で呼んでくれるのかな」
 話題を転換された。むむむ、やるな。
「焔(ほむら)なんてそんな女の子らしくない名前だと興醒めしてしまうじゃないですか」
「僕は男の子だけどね」
 いいえ、男の娘です。
 緋御神焔(あけみかみほむら)。普段は滅多に御目にかかれないような珍しい名前だがそれを笑うことはできない。何故なら私は彼の奴隷だからだ。
 奴隷なのに給料も有休も貰っているというのも不思議な話だが、それについては我が主たる緋御神焔に聞かなければわからないだろう。ぶっちゃけ自分もよくわかってません。
 そんな境遇だが、選択の自由がないというのはやはり奴隷に繋がるのだろうか。それならそこらのサラリーマンも奴隷では? ああ彼らは社蓄か。では私も正社員ですね。やったね中卒で就職口があるよ。

 閑話休題。

「で、善悪がどうかしましたっけ」
「そうだよ。この世には善も悪も存在し得ないという話だ」
「理解できないと思いますが一応聞きます。何故ですか」
「それを待ってたよ」
 これを言うときは彼個人にとって実に重要な話らしく、後でテストに出されるので聞き逃すことができない。つまり私の存在意義は結局のところ彼の話し相手ということになる。
「善悪というのはつまり価値観だ。宗教、環境、教育、経験……その他諸々とたくさんのモノがより集まってできるわけだ」
 はあ。
「それは善悪の定義が人によって変わるということだ。それ故に善悪は存在することが出来ない」
「それぞれの価値観で決めちゃいけないんですか」
「甘いね狐神くん」
 目の前の少女改め少年は私の目の前でチチチと指を振る。やけに決まっているところがたち悪いのだが、本人がそれに気付くことはないらしい。
「それは正義だよ。それぞれの価値観での善とは即ち正義だ。対義語にはならないが、対照的に善というモノは絶対的なラインでなければならない。悪もまた然り。だから人々に絶対的な善悪というモノは何の経験もしていない、教育もされてない赤子にしか宿らないわけだ」
 さいですか。私にはよくわかりませんが。
 彼の話は毎回のごとく理解不能だ。おそらく私には想像もつかないような深い考えなのかもしれないし、ただ単に思い付いたことを自慢気に語っているだけかもしれない。ちなみに私の中では二対八ほどで後者が勝っている。要するに、この人は喋っていないと死んでしまうようなマグロみたいな人種なのだと理解できる。という仮説のもとに私の彼に対する偏見は成り立っている。
 口から生まれてきた人とは彼のようなことを言うのだろうと私が一人思索に耽っていると、急に目の前のピントが合わなくなった。
「何やってるんです?」
「君が僕の話を聞いてないようだったから」
 半ば反射的に体を後ろに反らすと焦点距離より外側にいった彼の顔が私のレンズによって虚像として映った。
「何の話でしたっけ? マグロは何故泳いでいないと死ぬのか、という話だったような気がしますが」
「僕はそんな話をしていないんだけどね」
 あれれ、違ったや。
 私とさほど変わらない身の丈の彼は頬を膨らませて顔の全体で怒りをアピールしていた。それが反則技だということそろそろ気付いてはくれないのかなあ。なんて思って過ごす今日この頃でございますよ今まで本当にありがとうございました。
「君は僕に対する忠誠と言うものを欠片も持っていないようだね……まあ今日に限ったことでもないけど」
 まさか、私ほどの忠誠心を持つ人間などそうそう居ませんよ。なんならその現在進行形で履いている靴下を舐め回してあげましょうか? 下着でもよろしいですよ。
 ポカリ。
 某スポーツ飲料の略称のような擬音に似合わない壮絶な痛みが今私を襲ってます。これは痛い。ですが私の忠誠は欠片も揺らがない。
「君を買い取ったのは大間違いだった気がしてきたよ」
 当社は返品は受け付けておりません。同時にクーリングオフ制度も既に期限を過ぎていますので適用されません。
「それよりも仕事のお話じゃないんですか」
「君は毎度のことながら鼻が利くね」
 当然です。私の好きなものの三位にランクインするほどのモノですよ? 無論第一位は焔さまですが。
「気持ち悪い。それと間の二位が果てしなく気になるね」
 ふふふ、トップシークレットなのですよ。
「それよりも仕事の話を早く」
「今回は、意味がわからないが僕の収集品にもなりそうだね」
 ふむふむ。
「アルミホイルを使って一般人を撲殺した犯人を追えってさ」
 いえっさあ。

 この私。主様の下着のため、全力で仕事に取り組みましょう。
メンテ
Re: 椿色アルミニウム ( No.2 )
   
日時: 2013/09/10 16:55
名前: 那月 有留◆hwJdICPTBI ID:lsVrle.c

「よかった。まだ死体はあったようだね」
 焔様は足元の死体を愛おしそうに眺めて言った。恍惚とした表情は私の性欲を半端じゃなくそそるのだが、場所が場所なので自重。足元の死体は後頭部全般の陥没したそこらのスプラッタよりもショッキングな生物である。しかし、我が主はそれをまるで赤子でもなぞるかのように優しく撫でた。ネチャリとした血が主の指に絡み付く。それを舐めて甘美な表情をあげる。
 我が主はいわゆるネクロフィリア、という奴である。死体性愛者だっただろうか。詳しい和訳はよく知らないが、要するにこの人は死体に限りない愛を注いでいるのだ。しかし、ストライクゾーンという言葉があるように、死体だからといってどれでもいいわけじゃないらしい。私にはよくわからないが、こだわりのようなモノがあるというのが本人の談である。ちなみに私は具体的な線引きはされてないと思っている。
 ただ一つわかるのは、この人は不可思議な死体でないと興味を持たないということだ。それは殺され方でもあるし、不可解な形の遺骸ということでもある。つまり普通じゃあり得ない死に方をしていれば何でもいいのだこの人は。
 話を戻そう。ここは警察も立ち寄らない危険区域であるため、我が主のようなか弱い女の子、失礼か弱い男の娘はゴロツキどもにとっては格好の的になってしまう。ここにはもう何度も訪れているから、古参の人間は触らなければ問題はないと理解しているため、気にもしない。故に危ないのは新参者の場合だ。
「おい嬢ちゃん。こんなところに何の御用かな?」
 とか言ってたら来やがりました阿呆が。こそこそ見てた古参の人間は深くため息を吐いてからその場を去っていく。それはうん、懸命な判断です。
「ちょーっと俺達の相手してくんねえかな?」
 うるさい黙れ下衆野郎が。焔様に近づくんじゃあない。
「本のちょっとでいいか……ら……」
 喋っていた軽薄そうな男が急に口をパクパクさせ始めていた。いったいどうしたんだろうとちょっと考えて、すぐに私が理由だと確信する。ああそういえば、そうだったなと。
 まあいいや。懲らしめて差し上げましょう。

 残虐なシーンがしばらく続きますのでこのままお待ちください。

 お掃除終了。この汚い町が綺麗になりましたよ。ほんのちょびっとだけですが。
「君は相変わらず加減というものを知らないね」
「加減はしてますよ。殺さなければいいんでしょう」
「まあ、それはそうなんだが……死体は回収できた。後は君に任せるよ」
 了解しました。私、この猟奇事件解決のために一肌脱ぎましょう。
 主様をギャラリーまで送り届けてから、私は臭いを辿って街中を走った。血のような匂いがあちらこちらに点在し、捜すのは困難を極める。確実に当たりだとわかるルートを辿り、障害物や邪魔な人間は蹴り壊した。
 広い公園に出た。そこではじめて違和感に気付く。
「はれ?」
 臭いが、中央でぷっつりと切れている。まるでそこでテレポートしたように気配が完全に絶たれている。
 むむむ、これは困ったぞ。何の手かがりも掴めないのでは主様に無能扱いされてしまう。それは困る。
「しかしぬーん」
 撒かれちゃったにゃー。これじゃあどうしようもないんですよ。どうしましょうかにー?
「……戻りますか」
 残念無念また明日。私はせっかくのいかせるチャンスを完全に棒に降ってしまったわけだ。焔様になんと言われるだろう。
 しかし、それすらもご褒美になるわけで。んー、まあいいや帰っちゃおう。
 どうせ明日には尻尾だすでしよ。
メンテ

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