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[65] 【短編集】picture of player
   
日時: 2013/03/11 16:06
名前: ピクシー ID:J9olG1.E

勝者とは、常に孤独である。
短編集。の予定だけど変化するかも。
やっぱり変化。

 >>1-3「師弟」
 >>4-15「クラシカル・ファンタジー」
 >>16-「そのスピードで」
メンテ

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クラシカル・ファンタジー10 ( No.13 )
   
日時: 2013/01/16 10:37
名前: ピクシー ID:dgDLds52

「間違いは誰でも犯す。その間違いもサッカーの一部なのだ」――ピエルルイジ・コッリーナ(審判)

 大げさに痛がる窪田と、呆然とする武藤。嘘だと言わんばかりにレフェリーの家入に抗議するGKの李。ガッツポーズをしたのは倉木。後ろのベンチでは抱き合っている。油断するな! と榊原が選手たちを制する。ため息をついたのは関本。アギーレは怒り、ひとみは線審に抗議する。
 余りにも痛そうなので、心配した周囲が駆け寄る。長谷川は呆れ、宮野は腕を組み、鈴木はさっさと立てと言っている。最初の二、三歩こそ痛そうにしているものの、平然とジョッグ始める窪田。武藤は放心状態になってしまっている。誰も武藤にフォローができない。イエローカードをもらっていることすらはっきりしていない状況。
 関本はボールの元へ歩いて行く。
「窪ちゃん、俺が蹴るけどいいね?」
「俺が蹴るとあいつに止められそうだから良いよ」
 頷くと、関本はボールを抱える。審判の判断を待つ。

 関本が家入に何かを確認している。何をしてくるんだ。李は関本の行動を訝しがる。何をたくらんでいるのだと。拍子抜けしたような顔をした家入。実際にはただ世間話をしただけだというのに。ゴールラインを噛むようにしてセットした李。笛が鳴る。勝負の瞬間。助走を取る関本。蹴る瞬間に李は、関本の利き足である左足の方に飛んだ。

 だが、関本の蹴ったボールはふんわりと真ん中に飛んで行った。ど真ん中に突き刺さるというよりも吸い込まれて行ったシュート。チェコスロバキアの名選手が蹴ったチップキックに似ていた。名をパネンカ・キックという。完膚なきまでに打ちのめされたのはアギーレだった。李はしてやられたと悔しがり、武藤は呆然としたままで。流れを再び持って行かれた。すれ違いざまに、窪田と肩がぶつかる。
「お前、わざとすっ転んだのか?」
 ふと我に帰った武藤が次にやったことは窪田の肩を掴んだことだった。
「わざとPKを得るために転んだのか?」
 うわごとのように繰り返した。
「だったら何だってんだよ」
 次の瞬間。武藤はあろうことか頬を殴った。窪田は思い切りグラウンドに叩きつけられる。その瞬間、選手たちがもみくちゃになる。乱闘が始まってしまった。高校サッカーにおいてはまずあってはいけないこと。関本や宮野がまくしたて、李や矢向が言い返す。角田や山野が制止するが、勢いがとにかく止まらない。控え選手たちも口論が始まる。倉木もアギーレも制止する。家入が再び慌てて笛を鳴らす。

 この間、武藤は状況が把握できなかった。頭の中が真っ白になって立てなくなってしまったのだ。遠ざけられる中で、自分がやってしまったことを悔いるには遅すぎた。レッドカードで退場処分。口火を切った窪田にもイエロー、煽った関本と宮野にもイエローが出た。何かを言いだそうとした窪田を慌てて制止したのは山野。
「家入さん、すいませんでした。冷静さを欠いていました」
 何かあったら、お前が止めろ。審判に敬意を払うんだということをお前が行動で示せ。山野は思い出していた。
「そんなことを言っても処分は軽くならないからね」
 カードに選手名をメモする家入。
「いえ、家入さんの判断はいい判断でした。あれ以上になるとまだ2年と1年のあいつらはもっと暴走していたと思うので」
 家入は驚いて顔を上げる。こんな子たちは初めてだった。家入はプロフェッショナルレフェリーとしてJリーグで試合を裁いている立場にある。落ち着いたレフェリングをすれば優秀とされる彼であるが、一度カードを出し始めると止まらないという特徴がある。厳格ではあるのだが、ルールに則りすぎていて人間味が必要と苦言を呈されたこともある。山野は熟知していたのだ。
「きみたちが初めてだよ。こんなに審判とコミュニケーションを取ろうとする高校生は」
「審判あってのサッカーですから。よろしくお願いします!」
 どこまで効果があるか分からない。だが、これ以上の被害は食い止めたかった。そして、山野は指示を出す。落ち着けと。審判へのリスペクトを忘れるな、と。

 会場が一瞬にして険悪なムードへと変化する。それは一見するとせこく映るサッカーへのアンチテーゼだったのかもしれない。キックオフ。それでも、まだ時間がある。1点ならば確実に返せる。パスを回し始めた瞬間だった。落ち着いて、これで立て直せる。そう思った田中が前線へボールを送ろうとしたときだった。なぜかそこには関本の姿。関本はここがチャンスと思っていた。だからこそ、普段はやりたがらない守備をしたのだ。

 相手を叩きのめすために。

(続)
メンテ
クラシカル・ファンタジー11 ( No.14 )
   
日時: 2013/01/16 14:14
名前: ピクシー ID:dgDLds52

「今日の試合が雨上がりのピッチなら、ぼくの左足で虹を描いて見せるよ」――アルバロ・レコバ(元ウルグアイ代表FW)

 パスをカットすると、ハーフウェイラインのやや後ろの自陣から関本はドリブルを始める。あっという間に角田を抜き去ると、カバーリングに入った田中を左足のフェイントだけで抜き去る。土屋の代わりに入ったCBがプレスをかけながら正面に立つと左に行くと見せかけて股を抜いて突破する。ペナルティエリアに入る。

「浩はスピードがない。止めるの!」
 ひとみは秋元に指示を出す。秋元は関本にスピードがないとは思っていない。フィジカルがないなんて嘘だ。実際にコンタクトしてみたからこそわかる。彼はひ弱な旧式ファンタジスタではないと。突破したCBを右回りで避ける。秋元と1対1。右足でボールをタッチすると秋元を壁にしてボールと戯れるように抜き去っていく。マルセイユ・ルーレット。かつてジダンが得意とした技だった。秋元は抜きされられる前に、関本の顔を見た。笑っていた。ペナルティエリアを右からペナルティスポットまでボールを運んで行く。
『バカな! 旧式の選手に抜かれているだと!?』
 アギーレはうろたえていた。

「いつまでも試合が終わらず、このままプレーしたいと思うときがある」――ジネディーヌ・ジダン(元フランス代表MF)

 倉木は見惚れていた。天から才が降りてくる選手が稀にいる。その選手はたった一人で物語を紡ぐことができる。ファンタジスタとはそういう人間だ。

 関本は自分の体が勝手に動いているような、そんな感覚を覚えていた。あとはキーパーの李だけだ。飛び出してくる前にシュートのモーションに入る。だが、このタイミングで打ったら絶対に弾かれる。するとどうだろう。誰かがささやいているかのようだった。


 一回、わざと空振りしちゃいなよ。真っ白な世界に、関本は関本にささやく。


 だから、ボールをなでるように一回空振りした。李が大げさに反応した。
「引っかかったね」
 もう一回左で触るとグラウンダー性のシュートをゴールに押しこんだ。右手は宙に、左手は人差し指だけ立てて静かにしろと言っている。顔は天を仰ぎ、目を閉じる。まるで険悪な空気を全て打ち消すかのように。重苦しい雲を全て振り払い、空から綺麗な陽光が漏れ始めたように。歓声が上がり、関本コールが鳴り響く。
 そして、その声に応じて左手を突きあげた。

 キックオフされても、歓声がやまない。全ては関本の下へ。この試合というファンタジーは、フィナーレへと向かう。

「そんなにサッカーは甘くない。すべてを賭けろ」――ドラガン・ストイコヴィッチ(旧ユーゴスラビア代表FW、名古屋グランパス選手・現監督)。

(続)
メンテ
クラシカル・ファンタジー12 ( No.15 )
   
日時: 2013/01/17 00:15
名前: ピクシー ID:HLHDe0jM

「サッカーとは人生に似ている。いつもうまく行くわけではない」――イビチャ・オシム(元日本代表監督)

 まるで、彼の背後には天使の羽が付いているかのように。最後の笛が鳴るまで関本は軽やかであり続けた。それはマークが軽減されたことによる解放からなのかもしれないし、単に疲労が来ていたからなのかもしれない。だが、観客は誰もが確信したはずだ。関本浩という選手が美しいということを。
 全国大会出場を決めた笛と同時に、関本はひどい脱力感を覚えた。脱水症状でもなく、心の中がぽかんと開いたようなモチベーションの低下でもない。まるで夢の中にでもいたかのような心地よさ。歓喜の輪ができ、もみくちゃにされてもまるでタンポポの綿毛のようにふわふわしたままで。

 倉木はがっちりと榊原と握手をして逃げようとしたが、あっさりと選手につかまって胴上げされる。倉木は安心した故か、どこかひどく疲れていた。早く帰って眠りたいというのが本音で、表彰式も榊原に任せて自分はロッカールームで休む始末。準優勝でも表面上は堂々としているアギーレとは対照的に、なんとも緊張の糸が切れてしまったようだった。
 しかし乱闘は物議を醸すだろうし、発端となった財前や窪田は処分が下されるだろうと、ロッカールームで横になったまま倉木は思った。さて、どうやって策を練るか。ということを思っているうちに、倉木は眠ってしまった。

 アギーレは表彰式が終了した後、倉木を呼び止める。寝ぼけ眼の倉木はひどく間抜けに見える。
『優勝おめでとう、というべきかね』
『ありがたく頂きますよ、その言葉』
『君たちのフットボールの勝利だ。私たちのフットボールは未熟だった』
 節々に、悔しさがこもっているな。倉木はそう感じた。握手をする手に、強い意志を感じ取った。
『負けず嫌いなんだな、あんたの手』
『よく言われる。次は、負けないよ』
 立ち去るアギーレに、倉木は声をかけた。
『あんたらにとってヒロシ・セキモトが旧型かどうか知らんがね、その事実を受け止めないと次も負けるね、うちに』
 一度止まったが、再び前を向いて歩きだした。

 ひとみたちは関本を待っていた。彼女たちにとって自分たちのサッカーを否定されてしまったショックは大きなものだった。そして、全てをひた隠しにしてまで関本はひとみたちのやり方に反発していたのだ。
「どういうつもり」
「何が」
 呼び止められた関本は帰りたくてうずうずしているようだった。
「どうしてそこまでして私たちのサッカーを否定するの? 私たちのサッカーを否定して楽しいの?」
「楽しいよ」即答だった。「サッカーはね、人間がやるもんだから。システムでも、戦術でもないの」
 全員がその言葉に納得をしようとしなかった。それは意地のようなものだった。
「システムとか戦術とか。それだけやりたかったらウイイレでもやってろよ。ばいばい」
 引きとめようとするひとみ。その腕を関本は振り払った。
「それでも、自分たちのサッカーに自信があるなら続けてみろよ」
 李たちも囲んで止めようとするが、さっさと小走りで逃げられてしまう。ひとみは顔を覆って泣き出し、周囲が慰めて悔し涙に暮れた。

 倉木は2人の選手を思い出していた。財前と関本だ。財前は世界で活躍することを義務と定義づけた。関本はそのひらめきで世界中の人々に愛される権利があると。そして今回は将来、世界で戦う選手たちのおかげで勝ったのだと、確信している。彼らは次の年にいなくなるかもしれない。そう考えると、また帰ったら研究だ。サッカーに終わりはない。相手がいる限り、常に研究せねばならない。楽しくもあり、しんどくもあり。

 関本はバスへと足を運んだ。さっさと帰ってクールダウンをやりたいと思う。ひとみの腕を払ったときになんとなくだが、もうひとみたちと対決することもないだろうと直感していた。誰にも止められないと感じてしまった関本は自分の中に閉ざされていた扉がこじ開けられる瞬間をイメージしてしまったのだから。もう自分は高校生では止められない。傲慢に近い自信はやがて2カ月後には現実のものとなり、そしてその先はまだ続く。

 ファンタジーは、まだ序章である。

(了)
メンテ
そのスピードで1 ( No.16 )
   
日時: 2013/03/11 16:28
名前: ピクシー ID:J9olG1.E

【そのスピードで】

 朝日が昇る前にウォーミングアップを始めることは、習慣となっていた。だが、やっと走ることが許可されたときに最初に襲ったのは不安だった。体は戻っているのか、またブルペンに立てるのか。ひどく不安になった。左ひざの故障は秋に入ってから抱えていたものだった。だけれど、言い出せなかった。ぼくの学校で戦える投手はぼくしかいないからだ。ひざにテーピングを巻いて、痛み止めを飲んで強行出場を続けた。そして、秋の都大会で優勝した。その後からだった。いくら痛み止めを飲んでも、テーピングをしても、マッサージを受けても。ひざの痛みが引かない。
 そして、秋の明治神宮大会(秋に行われる全国大会)でのことだった。その試合でとうとうひざが悲鳴を上げる。左足を踏み込んだときにひざがビキッとという音と頭に電流が走った。そして、動けなくなった。診断結果は棚障害。左足に体重をかけすぎるぼくのピッチングフォームが原因で、ひざには予想外の負担がかかっていたのだ。それに伴いふくらはぎの肉離れ、太ももの筋肉の炎症。春の選抜高校野球には間に合うかどうかすら分からないという。
「もう大丈夫ですよ」そういわれたのが昨日――つまり、大会まで1週間と少しである。リハビリに耐えて、どうにかここまでやってきたが投げ込みもやっていない状況でどうするのか。少なくとも投げられる状態にしておきたい。だから、今日からまたがんばらなくては。
 と思って、家の鍵を開けたときだった。
「よう」
 家の外に待っている男。その声の主はぼくの相棒だった。
メンテ
そのスピードで2 ( No.17 )
   
日時: 2013/03/19 15:40
名前: ピクシー ID:z2x3qfas

「やっぱり、朝から走ると思ってたよ」
 穣はぼくのことを待ち伏せしていたのだ。こんな朝早くから。
「監督もさ、おまえは絶対に無茶をするから見に行って来いってさ」
「で、止めに来たと」
「うん、表向きはね」
 表向き。その言葉に違和感を感じた。
「夏もあるし、今気張られてフォームを崩されても困るから大人しくしてほしいみたいよ」
「それで?」
「でも、俺はお前が言っても聞かないことぐらい知っている」
 まあ、歩きながら聞けよと穣は歩きだす。ぼくも歩きだすと、太陽が徐々に昇って来ているのが分かった。
「控えは?」
「ものにはなっているけど、正直一人で9回は投げられないな」
 ぼくの学校にはぼくとは別に2人投手がいる。一人は左の溝上。120キロのストレートとカーブを武器にするが、球の威力がないから捕まり始めるとどんどん打たれてしまう。もう一人は右の千原で癖のあるぐちゃっとしたストレートとスライダーが武器。だが、コントロールが悪いために投げさせるのが怖い選手だ。
「だから、俺はお前が投げてくれないと勝てないと思う」
 それじゃあ、少し走るか。そう言って穣はジョッグを始める。久々のジョッグに、思わず恐怖が沸いた。また膝が悲鳴を上げたらどうしよう、と。ただ、穣の後ろをついて行くしかなかった。同じリズムで、同じように。
「それだけか? お前が来たのは」
 大きな公園に着いたとき、訊ねた。体からは汗が滲む。こんなに体力が落ちていたのか。
「ボールは握っているか?」
「握って感触を確かめる程度には」
「投げては」
「いないよ」
 頷いた穣。何か納得したような表情だった。
「やっぱりな」
「何が」
「お前、体力が落ちているだろ」
 その言葉に、返すものがなかった。小さく頷いた。
「リハビリをやって膝は治ったのかもしれない。けど、また無理をすると別のところが壊れるかもしれない」
「なんとなくわかるよ」
「だけど、勝つためにはやっぱり木田が必要だ。だから監督だって背番号1を与えたんだ」
「そうだろうな」 
「無理を言うかもしれないけど、ここから直せるところまで直そう。協力はする」

 リハビリによって体力が落ちていたのは分かっていた。筋力の落ちた左膝の回復、運動能力の回復に努めるのが精いっぱいだった。腹筋と背筋を中心とする体幹トレーニング、柔軟性を失わないためのストレッチ。運動能力を保持することに精一杯で、持久力はあっという間に落ちていた。一気に取り戻すことは容易ではない。というより、できない。
 放課後にブルペンへ入る。構えられたミット。久しく忘れていた感覚。ボールを投げるという快感。
「全力で投げてこい!」
 穣の声。まずは立ち投げ。振りかぶって、上から下へ。肘から腕へ。そして指へ。感覚を思い出すように。

 ボールは、大きく逸れた。
メンテ

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