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[64] アジサイノハナ
日時: 2012/04/22 00:30
名前: 也宮 稜 ID:S9eZqT9U






何もない、その場所に、一輪だけ咲いた紫陽花の花。
とても美しく、汚れてない、たった一輪の花。
誰がそれを汚しただろう。黒く染めただろう。

「さよなら。ありがとう。」

どうして、君は逝ってしまったんだ。どこに還ったんだ。
伸ばして掴めば花弁が舞った。とても美しく。次の瞬間、黒く染まった。

遠ざかるその手、だんたん冷たく突き刺さった。





「………」

ゆっくり瞬きを繰り返し、ほのかに香る薬品の臭いが体を反応させた。
名前を呼ぶ声が幾度となく聞こえているが、何かが詰まっているのか聞こえなかった。
何度も瞬きするごとにその声は徐々にハッキリと聞こえてくる。

「優斗…!!!」

「……母さん?」

「優斗!!」

名前を呼ぶなり強く抱きしめる女性。何が何だかわからないまま抱きしめられた“優斗”は困惑したまま尋ねた。

「は、え?何?何があったん」

「何があったんじゃないわよ!貴方車と接触したのよ!覚えてないの!?」

「……車と?」

まったく記憶がないといった顔色で目を見開いた。
それは数時間前の出来事だったらしい。
信号が赤になっても止まらず道路の真ん中を歩きだした優斗は
走ってくる車に気づかずそのまま……。

「たまたま一緒にいた指原さんが救急車を呼んでくれてたのよ」

「指原が……ありがとう」

母親と反対側にいた指原と呼ばれた女性は泣きそうな顔で頷く。
「本当によかった」と堪え切れなくなった涙をタオルでぬぐいながら安堵の声を出した。
その後すぐに優斗の担当の医者が病室を訪れ検診を行う。特に変った症状は見られず
しいていえば、車とぶつかった記憶がないぐらいで問題もなく、今日明日は念のために病院で滞在することになった。

「じゃあまた明日来るから。早く寝なさいよ」

「わかったって」

何度も母親から注意を受けるものの、その言葉の中には
本当に安心したという想いが伝わってきた。一緒にいた指原も「またね」と言って先ほどまで泣いていた顔とは違い
笑顔でその場から立ち去って行った。
一人になった優斗はすっかり沈んで暗くなった外を眺めた。

「何かを忘れてる気がする……」

先生は何も問題はないといっていたが、優斗の心には
なぜかもどかしい気持でいっぱいだった。

「車とぶつかったことも全く覚えてねーしな」

俺は何か、とてつもない大事な事を忘れているんじゃないかという不安が考えるたびに増していた。
その刹那、扉の開く音が聞こえた。
優斗しかいないこの病室では、自分以外に用がある人しか入らないはず。
「誰?」と声をかけると、同時にカーテンが開く。

「よお。車とぶつかったって聞いたからどんなものかと思えば、ぴんぴんしてるじゃねーか」

「………どなたですか?」

時間が止まった。かのように思えた。
優斗を訪ねてきたその男は目を見開き「お前何言ってんだ?」と聞き返す。

「え…あ、すみません。どこかで会いました?全然…覚えてなくて」

「お前まさか……記憶を無くしたのか―――?」



紫陽花が、枯れた気がした。
とても美しく咲いた、その花。


夢の中で何度も映し出されていたが、それが何なのかわからないまま目が覚めた。
俺は何を、忘れてしまったんだ。






********

お久しぶりです、也宮稜です(´`)
今回、3年前に書いた「君がいた」の続編です。

http://dqm.s198.xrea.com/patio-s-kontesuto/read.cgi?mode=view&no=2306


「君がいた」で完結し、小説も書かなくなったのですが
3年が経った今、どうしても書きたいお話が出てきてしまい
こうして「アジサイノハナ」として書かせていただきます。
短いお話かもしれませんが、しばしお付き合いください。
メンテ

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Re: アジサイノハナ ( No.8 )
日時: 2017/08/02 09:06
名前: 也宮 稜 ID:CQ.VrucQ


指原に呼ばれた名前に驚いたのは、あの時の事故にも同じように呼ばれたからだ。
指原ではない。赤羽さんに――。


――“一宮君!!”

俺の前に現れた彼女。俺を強く突き飛ばした。
彼女が代わりに、車と―――――――。



‐ 9 -


立哉が入れたくれた珈琲を口に入れ、ほっと一息つく。
カチャリとコップをテーブルに置くと、立哉はゆっくりと話しだした。

「彼女、本名宇津木静香と一宮が出会ったのは高2」

いよいよ語られる優斗の“忘れられない人”の話し。
聞きたかった話しだが、いざその時になると妙な緊張が走る。
絢芽はコップを握り締めたまま真剣な表情で立哉を見つめた。

「さらに10年前、静香の両親は不意の事故で亡くなった。
 その後施設に預けられ2年後新しい家族と出会う。それで赤羽という苗字になったんだ。
 俺が静香と会ったのその3年後だ。元々俺も身寄りもなく一人で生きてた。
 そんな時俺を引き取ったのが静香の両親で、静香の事は生まれた前から知ってた。
 本当は両親がなくなってすぐ会いに行きたかった。けど…出来なかった。
 静香の両親が本業とは別でしていた事に俺も加わっていたから」

「…本業とは別?」

握りしめていた手がゆるむ。立哉は苦笑いをした。

「暗殺者だよ」

「えっ――――――」

「静香の両親は暗殺者として人の悩みを解決してきた。二人が亡くなってからも俺もそうしてきてた。
 そんな俺が、6歳の静香を引き取るなんて事、出来なかったんだ…」

再び珈琲を口に含む。緊張のせいだろうか、最初に飲んだ時より喉が絞まっている感じがした。
油断すると珈琲が喉につまってしまいそうになった。
絢芽はゴクリと飲み込み、「でも、会いに行ったんですよね?」と訊く。

「あぁ。二人が亡くなって5年後にな。
 暗闇で蹲った彼女は俺に訊いてきた。両親を殺したのは誰かと…」
 
その瞬間、まるで時間が止まったような錯覚にとらわれた。
さっきまで聞こえていた針の音も聞こえてこない。ゆっくり顔を上げ、立哉の顔を見る。彼の表情は悔しさに溢れていた。

「……一宮の父親だ」

「     」

手が震えだす。そんな関係があったなんて、誰が考えるだろうか。
混乱しそうな頭を必死で整理しようとした。そして絢芽はハッとする。

「もしかして……彼女は―――」

「…殺したよ」

あぁ…なんということだろうか。ショックを受ける絢芽に立哉は話を続ける。

「そして静香とあいつは出会った。さっき言った高2の時に。
 あいつは何かと静香に声をかけ、気にかけてきた。静香が自分の父親を殺した人だと知るのに、そう時間はかからなかったよ。
 けどあいつは決して憎まなかった。むしろ母親はその父親に苦しめられていたからな。…感謝していた」

これが二人の出会いだったのか…。こんなことが今から4年前に起こっていたとは
あまりにも衝撃過ぎる内容に絢芽は言葉を失った。しかし、まだ訊かなければならない事がある。

「じゃあ…彼女は今、どこに?」

「静香は……」

急に真剣になった立哉に絢芽も再び緊張が走る。
コップに入った珈琲は残りわずかとなっていた。

「両親が亡くなってからの静香はずっと孤独に生きてきた。
 新しい親に大切に育てられてきたが、心はずっと曇っていた。生きる意味を失ってたんだ―。
 この世界を憎み、生きている事を苦と感じていた。そんな時出会ったのがあいつだ。
 人を、世界を拒絶していた静香が少しずつ心を開いていき、生きる意味、生きてく場所を見つけていった。
 それが静香にとって、死という選択だった――――」

「どうしてっ………」

気づけば涙があふれ出していた。立哉は口元をゆがめ「それが彼女の生きる道だったから」と答えた。

「あいつは、もう前を向いていると思ってたが、違ってたんだな…。
 ここから先は本人に聞かないとわからない」

立哉は珈琲がなくなった絢芽のコップに再び注いでいく。
気づけば日は落ち、元々暗かった部屋がさらに暗くなっていた。
絢芽は注がれていく珈琲を見つめる。満杯になった珈琲に自分の顔が映った。

そのまま洗い場に向かう立哉は「指原さん」と背を向けたまま呼んだ。

「真実を知った今でも、あいつを好きと言える?支えていきたいと、思った?」

「……私は―――――」


彼女の言葉は部屋に響いた。そして満杯に入った珈琲を一気に干した。




あたりはすっかり夜となり、夏でも少し冷え込むぐらいだった。
優斗はずっとブランコに座って空を見つめていた。明かりも少ないこの場所は夜空を見上げれば星が綺麗に見えた。

「帰らないとな……」

ブランコから立ち上がり、静香が倒れていた場所に立つ。
事故直前自分の前に現れた静香。紛れもなく彼女だった。
こんなこと、誰が信じるだろうか。もうこの世界にいない彼女が自分の事を助けたなど…。

「なんで…俺を助けたんだよ」


聞きたい事がたくさんある。何で俺の前に現れて、俺を助けたのか。
気づいているのだろうか。俺がこの4年間悩み続けているある事に――。


考えても考えても答えは見つからない。2日後立哉と会う約束をしているが、
それまで整理出来る自身もなかった。仕方なく家に帰る優斗。足が重く感じた。

「ただいま」

鍵を空け家に入ると真っ暗だった。呼んでも返事はない。リビングに言っても誰もいない。
その時、今日は二人とも帰りが遅いという事を思い出す。
優斗はリビングの扉を閉め、自分の部屋へ向かうため階段を上って行った。その時だ。

「…紫陽花…?」

階段に紫陽花の花びらが一枚落ちていた。…どこから?
その花びらを拾い、ゆっくり上がっていく。自分の部屋の扉は少し開いていて、隙間から月明かりが廊下を照らしていた。
そっと扉を開くと、窓から吹き抜けた風と共に花びらが舞った。

「       」

誰かいる。真っ白いワンピースを着て、こちらに背を向け窓から夜空を見ていた。



「赤羽、さん――――――?」

そう恐る恐る言うと、その人はゆっくりと振り返る。夢と同じだ。でも今度は、その姿がハッキリと……。


「久しぶり」


紛れもなく、静香だった。





メンテ
Re: アジサイノハナ ( No.9 )
日時: 2012/06/03 21:14
名前: 也宮 稜 ID:sBzKE21k



夢では見れなかった彼女の姿。現実で今目の前にいるのは紛れもなく赤羽静香。
けれど最後に見た彼女とは違っていた。彼女もまた、4年という月日を経た姿をしていた。
それはあの頃よりもさらに美しく、そして儚げで…。

暗闇の部屋に差し込む月明かりに照らされ、彼女の周りを紫陽花の花びらが可憐に舞っていた。


- 10 -


“久しぶり”そうフッと微笑んだ彼女に、優斗は言葉を失い固まった。

「もしお前が“誰”?と聞いたら振り返らず消えるつもりだったのに」

いたずらっぽく笑う彼女にハッとする優斗。そういえば夢の中では名前を呼ばなかった。記憶がなく、呼べなかったんだ。
だから目が覚めてしまったのだろうか…と。

「どうして…赤羽さんがっ」

何故?何故ここにいる?優斗の頭の中では静香がここにいるという現実が信じれなかった。
焦り、慌てる優斗に口元をゆるめ、不敵にほほ笑んだ。

「せっかく私が体を張ってお前を助けたというのに、記憶をなくした?
 お前はホント、私の想像しえないことをやってくれるな」

「…やっぱり、あの時俺を助けてくれたのは赤羽さんだった――」

突然光が俺を包み、大きな叫び声とともに、強く押された。その感触は記憶が戻った今、しっかりと覚えている。

「でも、何で赤羽さんが!?何で今俺の前に現れてるの!?」

彼女は4年前、確かにこの世界から亡くなったはず。命を絶ったはず。
ならどうして今ハッキリと姿が見えるのか。どうして突き飛ばす事が出来たのか。
困惑する優斗に静香はハーっと息を吐き「お前が呼んだからだ」と呟いた。

「気づけば今にも車と接触するお前がいた。心の中で私の名前を呼んで――。
 助けてもらったとか思うなよ。一応…お前には借りがある。私に生きる道を教えてくれた恩が…」

静香は窓から離れ1歩、2歩と優斗に近づいた。彼女をまとっていた紫陽花の花びらが一緒に揺れる。

「4年前、私は生きる道を見つけ、この世界から旅立った。
 お前も前を向いて歩こうとした。そう……“歩こうとした”。違うか?」

「……っ」

優斗の前まで来た静香は顔を上げ寂しげに言う。「この4年間、お前は何を考えてた?」

「俺は――――――」


ずっと隠し続けていた。ずっと、誰にも言えず一人で悩んでた。
彼女が俺の前に現れたのも、俺の心に気づいたからだ。ずっと……願ってた

「赤羽さんに、会いたかった―――――…っ」

それがこの4年間、俺が隠してきた事だ。


目の前に映し出されるのは倒れた彼女から溢れ出た血と、瞳から流れた涙。俺の脳に、強く焼き付いた。
それでも、浅野さんから受け取った日記と、彼女が俺に宛てた言葉…。
彼女が選んだ道ならば、俺がしっかりと見送らないといけないと思った。
俺を道標にして前に進むと言った彼女の為に、俺自身も前を進もうと思った。


彼女の死を、受け入れたはずだった―――――。


「大学に入ってから、サークルに入って友達も増えて、楽しいと思った瞬間…怖くなった」

「…どうして?」

「そのふとした瞬間、思い出すんだ。赤羽さんと過ごした日を。
 でも日を増すごとにその瞬間はなくなっていた。そのたびに、赤羽さんと過ごした日々が過去に変わっていくことに怖くなった…!」

過去に変わっていくごとに、過去が増えていくごとに、
彼女の存在が小さくなっていくことが、怖くてしかたがなかった。

たった数カ月だけだったけど、赤羽さんと過ごした時間は俺にとって永遠なのに、
俺の音楽を、知っていた人なのに――――。


本当はずっと俺のそばにいてほしかった。もっとこの世界で笑ってほしかった。
この先の未来も、彼女と思い出を作りたかった。

けれど隣にはいない。彼女は彼女の生きる道へと旅立った。
俺は道標にならなければいけないのに、進むごとに彼女といた日々が薄くなって、彼女が隣から消えていくみたいで、


「前を向こうと決めたのに、全然出来てなくて…今度は俺が、止まったままだ――――」

一人で悩んでいた。どうすれば解決するのだろうかって。
けど、考えれば考えるほど苦しくなった。時間は止まらない。進み続ける。
いつしか赤羽さんが残した日記も奥へ隠すように仕舞い込んだ。
それがまた怖さを増した。何で時間が存在するのだろうか―――――。何で、俺たちはそれに沿って生きているのか。

考える事が限界になって、
一瞬、思ってしまった。“全て、忘れてしまえばいいのに”と。


「ごめんっ…赤羽さん――本当にごめん…!!」

「…馬鹿だな。ホント、お前は馬鹿だ…」

そっと伸ばした手は、優斗の体を包み込む。

「赤羽さ――――」

「本当は、お前が事故にあいそうになった時、勝手に体が動いた。
 お前にはまだこっちの世界に来るのは早い。ただ……」

優斗を抱きしめる手が強くなる。

「私も会いたかった。一宮君に――――」

「      」

――どうして彼女はこんなにも、俺を救うのだろうか。


さっきまであんなにも淀んでいた心が解放されていっていくみたいだ。




メンテ
Re: アジサイノハナ ( No.10 )
日時: 2012/06/06 16:54
名前: 也宮 稜 ID:QVhuDeAM




あともう少し、この時間が続けばいいのにと思った。


けれど時間は進んでいく。止まることなく…今も、ずっと。

だからこそ、今あるものを大事にしなければならない。


- 11 -


優斗を抱きしめる彼女の手は暗殺者として過ごしてたとは思えない
細く、優しいぬくもりだった。
静香の肩が少し揺れる。笑っていた。

「時々あんなにも鬱陶しかったお前の存在が隣にないと寂しく感じる。
 けど、自分の選んだ道に後悔はしてない。でもお前はまだ、こっちの世界に来るのは早い…」

静香は「よく聞け」と言い、おでこを優斗の胸元にあてる。まるでそこから体温が伝わってくるようだった。

「時間だけは誰しも平等に与えられるものだ。それをどう使うのかもその人次第。
 そしてその使い方が、一人一人の生き方になる。お前の言うように、今もこうして過去は増え続けてる。……幸せな事じゃないか?」

「え―――?」

予想しなかった言葉が静香の口から出る。再び、風が吹き抜けた。

「過去が増えるという事は、それだけたくさんの思い出があるという事…。今を楽しんでる証拠だ。
 だから人は、楽しい時間が終わる時寂しいという気持ちになる。
 でも…楽しい過去が増える事はその分その人の人生がより良いものになっていってるからだ。
 そして……生きる道を見つけ、旅立つ最期の時、自分の人生を振り返って
 その人の過去に自分が出てきたら、幸せだろ?」

「       」

そんな考え、したことなかった。
過去が増えるごとに苦しくなって、今はいない人の存在を想って、何度も振り返った。
前も向けない。ただ積もりゆく恐怖に、怯えてた。

「生きる道を見つけ、あの公園に立った時…」

静香は自分の死の瞬間の事を静かに話しだす。その口調はとても穏やかだった。
優斗も先ほどまで公園でその時の記憶を思い出していた。
あの時彼女は何を想っていたのだろうと、ずっと考えてきたことだ。

「お前の声が聞こえた。私の名前を叫ぶ、貴方の声が……」

「俺の、声?」

「最後の最後で、泣いてしまった――――」

優斗はハッとした。あの時の涙は自分の声が聞こえて泣いたのかと。
静香の再び肩が震えだした。泣いているのだ。

「私が幼い時に聞いた曲、貴方が…弾いてくれた曲が聞こえて、
 始業式、貴方が初めて私に声をかけてくれた時の事を思い出した。
 私の“過去”は、全部…一宮君だった―――――」

「……っ」

今ようやく互いの気持ちが通じた。優斗の目にも涙があふれ出す。確かに彼女はこの世界で生きていた。
それは、一宮優斗という人間が存在していたから。それが彼女の生きる道になったのだ。
抱きしめていた手がそっと離れ、静香は顔を上げた。

「お前はまだ生きてる。その時間を、大事にしろ」

「うん…。ごめん、ありがとう…!」

あふれ出た涙を腕でぬぐい、笑って見せる。しかし、その笑顔もすぐ消えた。
静香の体が消え始めていたからだ。

「赤羽さん…!?」

「悪いが…時間だ。本来私が生きてる世界とお前の世界が接触することは出来ない。
 簡単に言えば、かなりの体力を使う。それについ先日お前を助けたばかりだからな」

「もう…会えない?」優斗の問いに静香は左右に首を振った。

「しばらく眠りに入るだけだよ。でも、次に会うときは…今度はお前が生きる道を見つけた時だ」

静香は優斗の胸元に手を置き、いったん下を向いてから顔を上げた。

「それにもう貴方の隣には、守るべき者がいるから。心配ない」

月明かりに照らさた彼女は今まだに見たことない笑顔を浮かべた。

「私が、人を好きになったのは一宮君、貴方が最初で最後だよ。
 これかもずっとずっと、大好きだからな!」

「赤羽さん―――!!!」

静香は勢いよく優斗の胸元を押し、そのまま消えていった。
彼女が見せた最後の笑顔はとても美しく、可愛くて、最高の笑顔だった。

残された紫陽花の花びらは彼女が消えた後も風と共に舞っていた。
唇に触れた一枚の花びらが、全身を温かくしていく。 
初めて見せた彼女の笑顔が、嘘じゃないと教えてくるようだった。



「――――っありがとう…!!」

彼女があんな風に笑顔を見せたのはきっと、初めてかもしれない。

ずっとこの世界を憎み、生きる事を苦痛と感じてきた彼女が
生きる道を見つけ、その最期に俺を思い出してくれた。


彼女の言葉一つ一つが俺の中にあった不安な気持ちを全て取り除いてくれた。


――――“これかもずっとずっと、大好きだからな!”

もう、何も迷いわない。彼女が残した想いを俺はしっかり受け取った。
紫陽花の花の美しさと共に、彼女も永遠だ。


次会う時は俺も堂々と『この世界で生きた』と言えるような、そんな過去を作りたい。


「…俺もずっと、大好きだ。赤羽さん――――」


紫陽花の花を添えて――――――。





メンテ
Re: アジサイノハナ ( No.11 )
日時: 2017/08/02 09:11
名前: 也宮 稜 ID:CQ.VrucQ




私も少しは恩返しが出来ただろうか。


今でもハッキリと覚えているよ。
貴方が私に声をかけてくれたあの日を……。

しばらく私は眠りに入るけれど、次目が覚めた時も貴方は
私を呼んでくれる事を信じてる。そう、願ってる。


“それにもう貴方の隣には、守るべき者がいるから”

再び流れる涙は、恋だった。



- 12 -


次の日、優斗はたくさんのお花を手に、とある墓地へと来ていた。
赤羽静香が眠るお墓の前に立つとそのまましゃがみこんで持ってきた花を添えた。
手を合わせ、目を瞑る。昨日の光景がよみがえってきた。

「夢みたいだよ。赤羽さんに会うなんて」

死んだ人間が自分の目の前に現れるのは夢だと思わせるのは当然だ。
それでも夢じゃないとわかっている。彼女が触れた手。抱きしめた手は確かに温かさがあった。
彼女が見せた最後の笑顔は、きっとこれからも忘れる事はない。
暗殺者として生きたのではなく、赤羽静香として見せた笑顔だった。

空を見上げると初夏の空気が漂った。
雲ひとつない快晴の空を、鳥がどこまでも高く飛びまわっていた。
お盆にはまだ早いこの時期のお墓には人はおらず、優斗一人だけ。
静かに時が流れていくようで、ずっと空を見ていたくなるほどだった。そんな時。
ジャリ…と誰かが踏み入れた音が聞こえる。優斗はとっさにその音の方を向くと
そこには花束を持った絢芽が居た。

「指原……」彼女は微笑み、優斗の隣に座ってお花を添える。


「浅野さんから全て聞いたの。赤羽さんのこと…4年前、何があったのかも。
 ここに来れば会えるって教えてもらって」

「そっか…」

やっぱり彼には全てお見通しか…。それが何故かおかしく感じてフッと笑みをこぼす。
手を合わす絢芽を一瞬見て、再びお墓へと目を向けた。

「俺が公園にかけつけた時にはもう赤羽さんは銃を撃って倒れてた。その光景が目に焼きついたんだ。
 でも…赤羽さんは生きる道を見つけた。俺のおかげだと言って…。
 だから俺も、前を向こうと決めたけど…結果記憶をなくしてしまった……」

「うん…」

「昨日…あの後家に帰ったらさ…俺の前に現れたんだ。赤羽さんが」

「え…!?」

絢芽は目を見開いて優斗の方を向く。彼はお墓を見たまま穏やかな表情を浮かべていた。

「事故で俺が生きてたのも、赤羽さんが助けてくれたからだった。
 俺がこの4年間何で悩んでるのかも当てられて……。
 ずっと前を向けずにたことも、ばれてた。俺、過去が増えていくことが怖かったんだ。
 赤羽さんと過ごした思い出がどんどん薄れていく気がしてさ……。
 でも彼女は、俺に言ってくれたよ。“お前はまだ生きてる。その時間を、大事にしろ”って」

優斗の言葉に絢芽も再び視線をお墓に戻す。

「それで、生きる道を見つけて、振り返った時自分が出てきたらいいって…。
 …ホント、さすがだな」

ハハっと笑う優斗の表情はもう全て吹っ切れた様子だった。
それほど優斗にとって静香の存在は過去も現在も大きいものだったのだろう。
同時に、静香も優斗の存在は大きかったはずだ。この世界で生きる優斗を大事に想っていたのだから。
絢芽は微笑み、目を閉じる。

「私、気づいてたよ。一宮君がときどき見せる表情。誰かの事、想ってるんだなって」

「え?」

「みんなが楽しそうにしている時、ふと時間が止まったかのように表情が固まってるの、知ってた。
 全部…赤羽さんのことだったんだね」

浅野さんから初めて赤羽さんの事を聞いた時、一宮君がどれほど
彼女の事を大事に想っていたが伝わってきた。
自分だけが生きて、時を刻んでいくことに恐怖を感じたいたんだね…。

「私がここに来たのは理由があるの。赤羽さんにも伝えなきゃと思って!」

彼女の言葉に優斗は目を丸くし、きょとんとする。
ふふと笑い、立ち上がる。空を見上げた。


―――“真実を知った今でも、あいつを好きと言える?支えていきたいと、思った?”

―――――“私は……”


「一宮君の事が好き。大好きなの。赤羽さんの想いも一緒に、背負っていく。
 貴方の人生ごと、背負っていく。だから―――」


―――“彼と共に歩きたいんです、これからの人生。…彼の事が好きだから”


「私と付き合ってください」

「      」

快晴の空からハッキリと見える太陽。その光は彼女を優しく包むように輝かせていた。
優斗はフッと照れるように笑い、立ち上がる。

「返事遅くなってごめん。俺も指原が好きだ。こんな俺でよければ、付き合ってください」

「――――っはい!」

今度の返事は確かに「YES」だった。
まるで二人の恋を祝福するかのように鳥が羽ばたく。二人を太陽が包んだ。

本当は絢芽と出会った時から優斗の心は救われていっていたのかもしれない。そうふと思った瞬間だろう。
過去を振り返る事はあっても、過去に戻る事は出来ない。
しかし未来を考えると、その未来はやってくる。これが時間だ。
優斗がこの4年間その時間に恐怖を覚えていたのは自分だけが前を進む事を恐れていたから。
隣にいない静香の存在、薄れていく静香との思い出に寂しさを感じていたからだ。

そしてそんな優斗の前に現れた静香。
優斗は彼女の姿を見て感じた。彼女もまた、時間を刻んでいるのだと――――。

彼女の一つ一つの言葉が体に埋め込まれていった。それはこれからも消える事はない。
なぜなら、最期に会えると信じているから。


だから今までの過去、これからの未来。もう、何も恐れる事はなくなった。



「さて…行くか。浅野さんに全て話さないと」

「今の一宮君を見たら、きっと喜んでくれるよ。本当は一宮君の事、かなり心配してたと思うし」

「……そうか?」

「うん!」

絢芽は自信満々にほほ笑み、そう答えた。
そんな絢芽を愛しく思ったのか、そっと手を取り歩きだす。
今、新たな未来が動き出した。一人で進むのではない、自分を支える全ての人と共に―――。



浅野さんに全てを話して家に帰ったら、赤羽さんからもらった日記を見よう。
そうしたら、もう悩む事はない。寂しい想いをさせる事もない。

君は一人じゃない。俺たちがいる。


―――“私も会いたかった。一宮君に――――”


初めて君の本音を聞いた。本当は寂しかったんだよね?

俺を思い出して泣いてくれてありがとう。
俺を助けてくれてありがとう。
俺の過去を、未来に変えてくれてありがとう。

赤羽さんの人生、俺にしてくれて、ありがとう―――――――。


俺はこれから生きる道を見つけるため、歩きだす。
少しの間、さよならだけど必ずまた会えると約束だ。


その時もあの日のように――――――――……





サーっと吹いた風が体をすり抜ける。




紫陽花の花は今日も空を舞っていた。







      END













.
メンテ
Re: アジサイノハナ ( No.12 )
日時: 2012/06/10 20:43
名前: 也宮 稜 ID:2qRJUES2



あとがき。


改めまして、也宮稜です(・ω・)
今回3年前に書いた「君がいた。」の続編として
「アジサイノハナ」を書いたのですが、見直してみるといろいろ考える事が多々あり…。


君がいた。自体当時の私の感情をもろに出した話しだったので
文章力がないながらもありのままに書いた事を覚えてます。
その分思い入れも強かったので続編を書きたくなったのですが、
あの時は「生きる」をテーマにして書いてま。そこから月日が経ち
私自身「過去」を振り返る事が多くなりました。

君がいた。の終わり方を3年前の自分は納得してたんですが
そこから過去を振り返る事で別の気持ちが生まれたんです。
ふとあの頃は楽しかったな、とか、あの時は辛かったな、とか…。
変わりゆく未来に不安と寂しさを覚えたんですよ。

それが優斗や静香にもあるんじゃないかな…って。

ちょうどそんな続きを書きたいなって思ったのと同時に、私の知り合いからある話を聞いて
生きる事や時間について考える時があって、
人間に与えられた時間をどう使うかについて私は答えたんです。
それが今回のアジサイノハナの結論に至るんですが、

アジサイノハナでは優斗メインの視点から過去が増えていく不安と
静香がいない未来の不安を書いていたのですが
最終話は静香の気持ちも含みました。

作品の中では4年間、優斗は悩んできましたが
それと同時に静香も悩んでいたんです。
もう自分はこの世界に居ない、2度と優斗と関わることが出来ない。それが彼女にとっての唯一の後悔でしょう。
それでも自分の選んだ道だから認めなければならない。それが辛かったと思います。
優斗はこれから新たな道を見つけ、新たな人と出会う。それを望んでいるけど
優斗の中に自分が居なくなる事への恐怖が、心のどこかであったんですね。

だから最期思い出してくれればいいと、せめてもの願いを言ったんです。


最終話、静香が流した涙は叶わぬ恋に対する想い、
隣にはいられないけど、せめて幸せになってと、恋をした女の子の純粋な願いです。


もし、静香が優斗の手を取って共に生きていたら……。
当時の私も本当に静香をどうしようか悩んで書いてたのを覚えてます。

今となってはその想いが強くなって「アジサイノハナ」を書いたわけですが…(苦笑)


でもこうして完結出来て私自身スッキリしました。
この先何が起こるかわからないけれど、その人その人の“生きる道”を見つけてもらいたいと思います。


それでは、ありがとうございました。


メンテ

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