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[62] 魔門
   
日時: 2012/02/29 05:26
名前: 宮塚◆tdu/XtyVrs ID:ivH0Ur1.

 僕の愛する人、レイカに捧げる。
 そしてクラウディア。君の変わらない系譜にも愛を込めて。

 いずれ誰かが書き留めなければいけない。いずれ誰かがまとめ伝えなければならない。そういう物語はこの世界に数多く存在する。僕もまたそんな物語の一つを書き上げようとしている一人だ。数年前までの大混乱のことについて書かれた物を集め、そして再構築をしてひとつの記録として残しておきたい。そう思って僕はこの書、“魔門”をこの世へと発信することにした。
 この言葉を聞いて怒りを覚える人もいるかもしれない。未だ恨みや憎しみ、哀しみの癒えない人々もいるだろう。そして何のことを言っているのかさっぱりわからないという人も大勢、いると思う。
 だけど僕はそんなことは関係なしに、世界に住まうみんなにこの一握りの物語を聞いてほしい。知ってほしいと思っている。
 生々しい過去があるからこそ肉はくな現在が存在するのだということを。
 これは僕がたくさんの仲間たちから聞き、そして自らみてきたひとつの記録である。
 はじまりをどこに置くかということで僕は散々迷った。
 そもそも僕が産まれ、あの時代の混沌に微力ながらも介入したのはもうその混乱が大きくなってしまっている最中であったし、実際に見てきたものは僕にとってとてつもない衝撃と後悔、苦脳ばかりだったけれどそんなものは時代に干渉してきたあの人や、時代を鑑賞し続けてきた彼女たちの感情と比べればもはや塵芥のごとくみじめなものである。
 それでも、この僕に繋がり、僕を作ってくれた人たちの物語はまぎれもない僕の物語だ。そして僕はそれを未来に語り継がなくてはいけない責任がある。
 運命の輪が閉じたとき、そのアウトサイドに生き残ることのできた僕の、僕にしかできない使命だ。傲慢かもしれないが僕はそう信じている。いや、使命なんて言葉は使わない方がいいのかもしれない。どうも僕たちはその呪いに固執し過ぎた。そうじゃない。確かに責任はある。だけどそれ以上に、これは僕が未来に向けて未来のために僕がしたいことなんだ。
 なぜ事が起こらなければならなかったのか、なぜ事が起こり、何故何人もの人間が堕落し、そして死に逝かねばならなかったのか。それも確かに大切なことだ。だけど、後悔ばかりじゃ先には進めない。僕が世界に知らしめたいのは、希望なんだ。
 ごめん。前置きが長くなってしまったね。
 それでは綴りたいと思う。
 一度世界を作り上げてしまった偽りとそれを打ち砕いた真実の系譜を。
メンテ

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Re: 魔門 ( No.6 )
   
日時: 2012/08/07 07:04
名前: 宮塚◆tdu/XtyVrs ID:bGWdxLsE

 目の前には恐怖を目に浮かべる男とその男を羽交い絞めにし、ナイフを喉に向けた男が立っていた。
「助けてくれ!」
 侵入者に動きを封じられている男(おそらくはさっき無線を寄こした奴だろう)は部屋に踏み込んできたパイソンに叫んだ。パイソンは部屋の扉を閉じると、ちらりと二人が立つ横に目をやった。
「あー、そこに寝転がっている男は……」
「心配ない」
 侵入者がパイソンの言葉を待たずに言った。
「この船は自動操縦だ」
「いや、そっちじゃなくて」
 ということはそこに転がっている人間は船長か。それはそれで問題だが、それより気になったのはまた別のことだ。
「そいつ死んでるよな?」
 こちらからは船長の顔は見えないが、その下には赤黒い液体が流れている。それもおびただしい量だ、この失血量で命があるとも思えない。
「ああ、殺した」
 侵入者は淡々と事実を述べる。
「おい、何してる! はやく私を助けろ!」と監視長がさっきよりも大きな声で怒鳴った。
 そんな二人をパイソンは改めて観察した。監視長はスキンヘッドに、防弾服を着た上からでも隆々とした筋肉がよくわかる。明らかに軍人崩れの傭兵だ。この船が雇っているのはガーディアン・ホロウの傭兵ではないが、それでもこういった退役軍人は少なくない。その男を締め上げているのだから侵入者の力はたいしたものだ。しかし、見た目からはあまり筋力の強い印象は受けない。身体は細く、元とは言え軍人以上の力の持ち主とは思えない。髪は暗い茶髪でしなわかな長髪、男のパイソンから見ても整った顔立ちでそもそもテロリストに見えない。
「あー、すんません。ちょっとやめときます」
 そう言い、パイソンは無線をコールした。
「何、パイソン?」
 カインがひそひそ声で応答した。おそらく他の監視と一緒に居るのだろう。しかしそれを今気にしている場合ではない。
「ボート用意しとけ、わかったな?」
「え? ちょっとパイソ……」
 要件だけ伝えるとすぐに無線を切った。目の前ではパイソンの答えに監視長が目を丸くして顔を紅潮させ、自分の身動きが封じられているのを忘れたかのようにパイソンに罵声を浴びせかけていた。そんな様子に
「うるさい」
 と侵入者がナイフをもっと喉首に近づける。それを見て監視長は息を呑むとすぐに口を閉じた。
「あんた、誰だ?」
 侵入者が尋ねる。
「それに答えるにはちょっと」
 その言葉の意味を理解したのか、侵入者はすぐに監視長の縛りをほどく。監視長はすぐに侵入者から離れようとしたが、願いは叶わなかった。
 侵入者が彼の背中を腕で強打したからだ。監視長はその場に倒れると動かなくなる。気を失ったらしい。倒した男が動かないのを確認すると今度は侵入者はナイフを仕舞うと拳銃を腰から取りだし、パイソンに向けた。
「これでいいな?」
「どうも」
 パイソンは意図を汲んでくれた侵入者に対し礼を述べる。そういうパイソンも銃口は侵入者に向けている。
「あんた、それでこいつを絞めてたのか流石単身で操舵室に乗り込むことはある」
 侵入者の右胸は血で染まっていた。おそらくは先程の第三倉庫で負傷したのだろう。それはお互い様だ、と侵入者は苦笑した。
「あんた米軍か?」
「なんでそう思う?」
「何となくな」
「残念だがちがうぜ。あんたの目的は?」
「あんたが明かさないのに俺が明かすのは無理だな」
 話が進まない様子にパイソンは思わず笑った。侵入者の方は右胸の負傷からか苦しそうな表情だ。流石に我慢できないのか、左手を当てていた。このままじゃ埒が明かない。それにまだ来ていないがここに他の監視員が乗り込んでくるとも限らない以上、あまり長居はしてられない。
「アウファニムだ」
 アウファニム。侵入者がその言葉を反芻するのを聞いて、パイソンは銃口を下に向けた。それに対しあちらも同じように返す。パイソンは続きを説く。
「この船にテロリストへ密輸しているアウファニム製武器があるという情報を掴んだ。俺はその証拠を探してるんだよ」
 パイソンはそこで口を噤み、侵入者の出方を見る。こちら側の情報を敵に渡すというのはかなりハイリスクな行為だ。しかし、これで間違ってない。パイソンの直感はそう告げていた。侵入者は相変わらず右胸に手を当てて、失血を防いでいる。
「なるほどな」
 言うと、侵入者はパイソンの目の前に一枚の紙を落とす。パイソンは侵入者に目を向けたままその紙を拾った。
「こりゃあ……」
 写真だ。それもこれは、
「この船にあったアウファニムだ。こっちはこっちでそれを使うつもりだった」
「使うだと?」
「いや、こっちの話だ。忘れてくれ」
 段々と侵入者の呼吸が荒くなっている。やばい状態だ。
「くそ……俺もひよったな」侵入者はうわ言のようにそう呟くと、その場に座り込んだ。パイソンは彼に近づこうとしたが、銃口を向けられ留まった。こんな状況でも基本を忘れない。
「にしてもそんなことやってる場合じゃ……」
「船長! 監視長! 無事ですか!?」
 ドンドンと、扉を叩く音が聞こえた。お出でなすったか。普通に考えれば、このまま監視の仲間のフリをするのが賢い選択だ。一昔前のパイソンならそもそもこの目の前の男を見つけた瞬間に引き金を引いていただろう。だが、今彼にそれをすることはできなかった。
「ちょっと勘弁してもらうぜ」パイソンは侵入者に突進した。侵入者は反射的にだろう、拳銃の弾を打ち出した。だがパイソンは射程内にはいなかった。既に侵入者の懐に滑り込み、そのまま彼を肩に抱えた。銃声に反応したのか、扉の向こうが静かになる。今のうちだ。パイソンは扉を引き、目の前に飛び出た監視にライフルを振り下ろす。狙い通り、頭に命中しそのまま倒した。しかし一人だけではなかった。扉から出たパイソンの右でもう一人がライフルをパイソンに向ける。仕方ない。パイソンも同じようにライフルを監視に向け、弾を撃ち込もうとしたその時、監視は力を失ったかのようにその場にへたり込んだ。
「カイン!」
 船の外のモーターボートから相棒が麻酔銃を構えていた。パイソンはそれを見てにやりと笑うと通路からボートに飛び乗った。
「よおし! よくやった、このまま出せ」
「え!? 証拠は?」
「もう掴んだ。早く出せ」カインはパイソンの言葉にかなり混乱した様子で今にも泣きそうだ。だが、それでもしっかりとボートを発進させ、あらかじめ決めていた退出経路通りに舵を切る。船を見やると、船首付近で待機していた監視たちがパイソンたちに向かって銃口を向けているのがわかる。しかし、大型船とモーターボート。機動力は桁違いで、すぐに船は見えなくなっていった。
 
メンテ
Re: 魔門 ( No.7 )
   
日時: 2012/08/10 02:04
名前: 宮塚◆tdu/XtyVrs ID:xvqViCW6

3.
 早起き鳥は虫を捕まえる、と言う。ニホンでは早起きは三文の得と言うらしいですよ、と日系三世のエリムが言った。三文ってなんのことだよ、とエリムに聞くとそれは僕もわかりませんけど、と口籠もった。中途半端な知識を披露するんじゃねえ、とパイソンはモーニングコーヒー入りのマグカップで後輩の頭を小突く。そんなやりとりをするパイソン達を鋭い眼光が貫いた。我らがボス、サラ・クロークのオフィスデスクの前に毅然として立つ青年が発したものだった。パイソンは肩を竦める。この場面は何度見ても慣れない。
「率直に申し上げます」
 青年が言った。
「ふざけないでください」
「ホントに率直な」
 サラは笑いながら髪を掻き毟る。その仕草に苛立ったのか青年はその目つきを更に鋭く、眉間の皺を大きくする。
「流石に似たようなことが何度も重なれば苦言を言いたくもなります」
 青年は嘆息する。「まあ、アルヴァ」サラは慰めるように青年の名を呼ぶ。
「人生そんなもんだって。物事ってのはうまくいくってことの方が珍しいだろ。それに事務総長ともなれば上から下からうまくいかない悩みの種のオンパレードだ。そんな立場のあんたがさ、そうイライラしててもしょうがねーって」
「それは本気で言っているんですか」
「ん、ちょっとからかってる」
 アルヴァがさっきよりも更に深い溜息をつく。そしてより強い口調で話し始めた。
「いいですか。先日の貿易船でのテロリスト騒ぎの日、何者かが船の監視ネットワークに侵入した形跡が発見されました。跡を辿ってみましたが、どうやら複数のサーバを経由しているらしく発信元を特定するのが困難でした。実際、どこからのハッキングなのかはまだわかっていません」
 しかし、とここでまたアルヴァが溜息をついた。気持ちはよく分かるぜ、とパイソンは彼の後ろ姿にほんの少しだけエールを送った、勿論心の中で。
「“もしや”と思い調べさせると、同日にとある警備会社のクラウドサーバに政府関係者がアクセスした形跡が発見されました。それを発見するのも困難でしたが、我が国が誇る分析官のおかげで解明できましたよ。どこからどこへだったと思いますか、クローク所長」
「検討もつかないね」
 サラは笑っていた。相変わらずこういうときの姐さんは楽しそうである。
「AMACOからあの船の警備を委託された会社にです! 何をやっているんですか」
「数日前にあんたに送った書類見てないか?」
「は?」
「その会社にアウファニムを受注された際の記録に不備があったのを見かけてね。連絡をして、会社側の記録も見せてもらうよう要求したんだが、送られてきた記録にも残念なことに不備が残っていたようでね。これじゃどうしようもないんで、権限を使わせてもらった。アウファニムの不正入手が疑われる場合、あたしらにはその捜査が一任されるはずだ。緊急性を要する場合、事後承諾でも良かったはずだよな」
「あくまで警備会社へのアクセスはその捜査に過ぎないと」
「そう」
「そして今回のそれは緊急性を要する案件だったと」
「そう」
「あの船の件に関してはあなたがたは無関係で、たまたまアクセス同日テロがあったと」
「まあ、そういうことだな、偶然ってのは怖いねえ」
 サラは言いながらニヤけていた。アルヴァは頭を抱える。そしてしばらくしてから彼は「いいでしょう」と呟いた。
「今回も結局状況証拠だけですからね、それに実際アウファニムの不正入手はあったみたいですし」
 アルヴァは目の前の机に置いてあった数枚の写真を手に取ると、それを背広の内ポケットにしまった。
「見逃します」
「だから何もやってないって」
「そうでしょうね!」
 アルヴァは投げやりなセリフを吐いてサラのデスクの前を退き、部屋の出口に向かった。パイソンはそんな彼に「じゃあな」と挨拶をする。無視をされてしまったが、その顔にあの日のパイソンと似た苦笑が浮かんでいたのを見ると何も言えない。
「まあ今回はこんなもんかな」
 サラはデスクの書類を数枚確認した。
メンテ
Re: 魔門 ( No.8 )
   
日時: 2012/08/19 20:18
名前: 宮塚◆tdu/XtyVrs ID:XaA9PD6.

「後はつじつま合わせと、事務総長としてのアルヴァくんの活躍を期待しよう」
「性格わりぃ……」
「おい、てめえ何か言ったか」
 サラとアルヴァの様子をただ無言で見守っていたディアバレーのつぶやきにサラは怒声を被せる。何にも言っちゃあいませんよ、といつもの言葉で返すとディアバレーは再びパソコンを弄りだした。
「だが流石にちょっとヒヤヒヤしたわ。まさかテロリストと同乗することになるとは思ってもいなかった」
 その件に関しては確かにサラは嘘をついていなかった。元々、あそこまでの騒ぎを起こすつもりはなかったのである。あの船に乗せられたアウファニムの写真は、警備会社のサーバから入手したもの、だなんて嘯くつもりだったのだがここまでコトが大きくなってしまうと、その辺りの機微は青年事務総長に任せた方が良さそうだ、と判断したAMACO所長はアルヴァの訪問時からこれみよがしにデスクに写真を置いたのだった。
「その肝心のテロリストは昨日ようやく動けるようになったところだけどな」
 あの船に潜入した日からもう一週間が経っていた。あのモーターボートでの逃亡ルートは衛星などによる特定もできないようディアバレーがはかったものなのであの日、パイソンとカインの二名、そして今AMACOに保護されている件のテロリストが船に乗っていた事実はよほどの幸運が重ならなければ掴むことができないはずだ。
「それにしてもテロリストを所内に連れ込むんじゃねえよ」
「姐さんに言われたかねえよ」
 そう言って、パイソンは休憩室に入る。休憩室のベッドには今は誰もいないが、さっきまでは傷だらけの男が寝ていた。
「そういや、あいつとカインはどこに連れてったんだ。起きてすぐに外に出すなんて」
「お使いだ」
「はあ? お使いだ?」
「印刷機のインクが切れてんだよ。後、諸々の日用品買ってくるように言った」
「お前は鬼畜か」
 少しは休ませてやれよ、とのパイソンの言葉にサラはどこ吹く風で休憩室の棚にある雑誌を開く。
「それに来たばっかのやつを簡単に使う癖なんとかならねえのか」
「連れてきたのは今回はお前じゃねえか」
「今回は、な」
 パイソンは溜息をつくと懐から煙草を取り出して火を付けた。休憩室以外では禁煙と言うことになっている。その辺りは紫煙嫌いのディアバレーが来てから、規則にうるさいアルヴァが管理するようになってからはもっと厳しくなった。
「それにしてもアウファニム武器の件はどう思う?」
「どうも何もな……」
 パイソンは頭を掻いた。そもそもアウファニムそのものがテロリストの手に渡るのは実はそう珍しくない。だからこそパイソン達のような人間が国にも必要なのだ。だが、既に武器化されたアウファニムを所有していたというのでは話が違う。アウファニム武器という最新鋭技術はいわば国のシークレットであり、本来ならばテロリストどころか外に情報が漏れること自体もご法度なのだ。その辺りはアルヴァには追及しなかったが、おそらく彼も同じようなことを感じているに違いない。パイソンもあの若き事務総長の正義感には信頼を置いている。
「中国から漏れたって可能性もなきにしもあらず、か。実際、アウファニム武器がどれほどのものか詳しくは調べられなかったし、どこの国の物であるかもわからねえんだろう」
 十四年前のあの戦争以降、中国の立場は微妙なものになっている。図太いアジア人らしく、今でも世界経済のトップに躍り出る国ではあるが、あの戦争で中国はテロリストを匿った。実際、戦争の漁夫の利を得ようとしていたと専らの噂だ。テロリストに裏から加勢することでアメリカを完全に追い抜こうとした、と。
「だがそんなことは大衆が勝手に騒いでる都市伝説レベルの話だ。事実としては逃げたテロリストのうちの自国民を受け入れたにすぎない。まあ仲間意識だけは強い国だからな」
 サラはパイソンと話しながらも雑誌を捲る手を止めなかった。何か探している記事があるらしい。眉間に皺を寄せて唸るように雑誌の記事を見ていた。
「社長の意見はどうなんだ」
「それなんだ」
 パイソンの言葉にサラが雑誌を繰る手を止め、パイソンに人差指を突き出す。
「R・ジェンは自社に内通者がいると思っている」
「ルビコン社にか?」
 思わずパイソンは声を荒げる。だが考えてもみればアウファニム武器をテロリストが不正入手したという情報を持ってきたのは他ならぬジェンキンソンだ。自社の不始末を片付けようとして旧知の仲であるサラ率いるAMACOに調査を依頼した、という形は至極納得できる。
「だがあの会社から情報を持ち出すのは至難の技だぞ」
 国もアウファニムの加工を依頼する大手企業だ。セキリュティは並大抵のものではない。それこそ、国からの補助でセキュリティを運営しているという話も聞く。
「それにルビコンは対罪会支社だ」
 世界に名立たるガーディアン・ホロウカンパニーの傘下会社のことを、人々は対罪会支社と揶揄して呼んでいた。だが、誇張でなく対罪会は世界のテクノロジー・テクニックのトップを走っていた。だからこそ、アウファニム武器の製造さえ受注されるのだ。社長のジェンキンソン自体はその体制を好ましく思ってはいないようだが。
「いや、対罪会だからこそなのか?」
 対罪会の本拠地ガーディアン・ホロウ社ビルの倒壊。それが引き起こしたもの?
「確かに対罪会はトップだった。だがそれもこの前までのことだ。ビルが崩壊してからは明日もわからない斜陽企業に過ぎない。だが、対罪会が関与してまわっていた企業は何も本社の傭兵派遣会社だけじゃない。ルビコン社のように」
「まあ、あたしは対罪会は近いうちにいずれまた回復すると踏んでいるけどな」
 あそこ以外に今、世界を背負ってたてるところはねーんだよ。サラは言った。
「だが、対罪会の力が弱まっている今なら確かに前よりはその内通者とやらも動きやすくなるのかもしれない」
「なるほどな」
「まあ与太話は以上だ。パイソン、お前エリムを連れて工場地区の査察に行って来い」
「今からか」
 聞いてないぞ、とパイソンは不満を漏らす。しかしその手は既に煙草の火を消し、外出の準備をしていた。
「お前等が船でドンパチやってるときに今日行くって決めてたんだよ。ホントはエリムとカインの仕事にするつもりだったんだが、カインは今外行ってるだろ。だからお前が行け」
「了解、姐さん」
 蜜蜂はせっせと蜜を運びます。パイソンが呟くと、蜜蜂って何のことだ? とサラが聞いた。こっちの話です、とパイソンは笑って整理した荷物を手に取って休憩室を出る。
「仕事ですか?」
 オフィスデスクで悠長にコーヒーを飲んでいるエリムの頭を、お前も行くんだよと小突く。
「あ、もうそんな時間ですか」
 エリムは余ったコーヒーを飲み干す。そして慌てて身仕度をし、もうオフィスの外に出たパイソンを追いかけた。
メンテ
Re: 魔門 ( No.9 )
   
日時: 2012/09/22 08:43
名前: 宮塚◇tdu/XtyVrs ID:2fLK5LuY

4.
 政治には無駄が多い。以前、サラがそんなことを言っていた。
「実際、省庁や機関ごとの管理なんてものがいるのか。それだけじゃない。アウファニム関連は更に神経質で、施設ごとに専用の保守要員を設けたりする。あたしらだけじゃ不満か? そんなに人件費を無駄にしてよ、だったら何のためにウチを取り込んだんだと殴りこんでやりたくなる」
 まあその無駄があるからこそ周っている部分もあるんだけどな。と最終的には勝手に自己完結していたけれど、それはパイソンにも思う所はある。何よりも、サラは自分が作り上げたこのAMACOが国の一機関に過ぎなくなってしまった現状を好ましく思っていない。
 AMACO、アウファニム管理/運搬所はサラが戦争の折りに造り上げたものである。主な仕事はその名称通り、市民にとっても国にとっても重要なアウファニムという資源を守り管理すること。そして必要となる機関、施設にアウファニムを運搬することだ。勿論、アウファニムを置いた施設の査察も重要な仕事である。元々はサラ個人が立ちあげた個人企業で、サラの手腕から大きく成長した。そしてその範囲が国のほぼ全ての州にまで及んだ時だ。戦争で疲弊した国を建て直した機会にと、「此度の戦を巻き起こした」アウファニムの管理を国が全面的に行うように法律を変えた。それまでにもサラは国と法律の制定を巡って対立をしていたが、結局は負けた形になる。サラは今あるAMACOをそのまま残すことを条件に会社が国に取り込まれることを受け入れた。
「そういう過去もあって、あいつはあまり国を信用しちゃいねえよ」
「でも、国がしっかりと資源を管理するのは良いこと、っていうか当たり前ではないんですかね。サラ所長もアウファニムを国が責任持って管理すると言ったんですから任せても良かったんじゃ」
「あいつがAMACO立ちあげたのはよ、アウファニムという資源をもっと自由に使いたかったからなんだよ」
 決して全てを管理する側になりたかったわけじゃないんだ。
 工場の査察を終え、社に戻るトラックの中でパイソンとエリムはそんな話をしていた。エリムはつい最近本所にきた新人だ。支社で働いていたところをサラが気に入って連れて来たらしい。本所の人間は皆、そういう奴らばかりである。まあそういうワンマン経営なところがある以上はどことも相容れねえのかもしれないけどな、とパイソンは苦笑する。
「パイソンさんはどうしてAMACOに?」
「そういう大人の事情は深く突っ込んじゃあいけねえんだよ」
 まあいずれ話すことがあればな、というパイソンに、子供扱いするなあとエリムは首を項垂れた。こういうところはカインに似ている。似たもの同士話が合うのか、最近はカインにとっても一番仲のいい同僚はエリムになってきている。
 子離れできねえ親じゃねえんだから。こうやってあまりカインの心配ばっかしてもしょうがねえなあ。
 カインは確かに子供だが、もうAMACOには七年いるベテランだ。仕事のことはよく理解している。最近は一人でもしっかりと負わされた責任は果たす。だからあの件のテロリストにサラはカインをつけたのだろう。昔はそう言った面倒は全てパイソンの仕事だった。カインが来た時もパイソンはサラに指導係に任命されて四六時中二人でいたものだ。だが、いつの間にか下は成長するものだ。分かってはいるが、それでも心のどこかに寂しさがあることはパイソン自身誤魔化せなかった。
「あ、パイソンさん前見てください」
 急にエリムが大きな声を出した。
「ほら、カインさんたちですよ」
 本当だ。バス停のベンチにカインたち二人が座っていた。二人の両手には中身いっぱいにつめこんだ買物袋が握られている。長いお使いだと思ったがあれだけ買わされればな。パイソンはつい数日前に船で暴れていたテロリストがパシリにされて買物袋を持っているという状況に腹から何かこみ上げてくるものがあった。
「拾ってやるか」
 笑いを抑えきれない声でパイソンはそう言うと、バス停に近づきクラクションを鳴らす。
「お前ら乗ってくか!」
 カインはパイソンを見つけると目を輝かせてトラックに近づいた。
「座席に座るとこはねえから荷台になるけどな」
「感謝する」
 件のテロリストが言った。
「ヴィンセントって言うんだよ」
「あ?」
「この人の名前、ヴィンセントって言うんだって」
「そうか。じゃあカイン、ヴィンセント、お前等は早く荷台に……いや」
 パイソンは少し考える素振りを見せると、助手席のエリムの肩を叩いた。
「お前荷台行け」
「ええ! なんでですか」
 エリムは不満を言ったが、いいから行けと頭を小突く。仕方ないなあ、とエリムは助手席を降りた。カインが代わりに入ってこようとしたが、パイソンはそれを手で制する。
「いや、今日は」
 パイソンはヴィンセントの方を見た。ヴィンセントはパイソンの視線の意味を理解したようで、こちらに歩み寄ってくる。そしてトラックに乗り込むと扉を閉めた。
「二人とも悪いな」
 カインは頷くとエリムの手を引いてトラックの荷台に飛び乗った。パイソンは二人がちゃんと乗ったことを確認するとトラックを再び走らせる。

「お前とはもっと話しときたいからな」
 パイソンは右手をハンドルから離す。そして懐から煙草とライターを取り出し、煙草を咥えた。火をつける。
「船でも咥えてたな」
 ヴィンセントが煙草を見てそう言う。
「今時ニコチン中毒か?」
 パイソンは苦笑いをする。
「吸ってなきゃやってられない環境に居たもんでね」
「やっぱりあんた、元軍人か」
 軍隊と煙草はセットだ、という言い方がよくされる。実際、民間人よりも軍人の方が喫煙率は高い。勿論、これまでに何度も喫煙率を減らそうと政府も多く画策をしてきた。だが、そうした努力により一度は減っても喫煙自体は絶対になくならない。未だに前線に配備される米国軍人の喫煙率は3割を超える。対罪会でさえ、喫煙を完全になくすことは出来ていないという話もある。
「あんたの方はどうなんだ?」
 パイソンはヴィンセントの問いには答えずに逆に聞き返した。だが応答はない。どうやら向こうさんも答える気はないらしい。パイソンは攻め方を変えることにした。
「カインはどうだった?」
「え?」
「いや、お前カインに名乗ったんだろ。俺には名乗らなかったじゃねえか」
「ああ」
 ヴィンセントはまた黙ったが、さっきとは違って答え方を捜している素振りだった。パイソンは煙草を吹かしながらヴィンセントの答えを待つ。
「なあ」
「ん、なんだ」
「あいつはいつ頃からここに居るんだ」
「やっと会話する気になったか」
 パイソンはにやりとする。ヴィンセントは表情を変えなかったが、少なくとも最初よりはコミュニケーションを取るにはなったらしい。
「七年前からだ。あいつも姐さんに拾われてな」
「あいつも?」
「ウチはそんな奴ばっかだ」
「あんたも軍崩れで拾われたのか」
 あんたも意外としつこいな。パイソンは煙草の煙を吐き出した。
「俺のことはいい、いずれ分かるだろ」
「あいつは、あのカインってのは歳の割には幼いように見えるが」
「カインは……ちょっとな、七年以上前の記憶がないんだよ」
「記憶が?」
 ヴィンセントが初めて表情を変えた。
「七年前って言うと例のあれか」
メンテ
Re: 魔門 ( No.10 )
   
日時: 2013/03/02 02:44
名前: 宮塚◆tdu/XtyVrs ID:oB8eNG9g

 七年前にも今回と似た事件があった。
 対罪会の所有するビルがテロにあった事件だ。丁度、AMACO本社にも近いあのビルだ。表向きには爆発テロだと言うことになっているが、どうやらガーディアンホロウとテロリストの交戦が行われていたらしい。何故そんなことをパイソンが知っているかと言うと、例によってサラがこの事件にも一枚噛んでいたからだった。
 だが、今そんなことをヴィンセントに言うわけには行かない。パイソンは適当に新聞やテレビでわかる範囲でその事件について話す。
「そのテロの時にあいつは爆発に巻き込まれてな。それ以来記憶が不安定だ」
「7年前の事件より前から、あんたはあいつのことを知ってるのか?」
「まあ、そうだな……」
 これは嘘だった。
 本当は、パイソンがカインを知ったのは七年前からだ。記憶を失う前のカインがどこで何をしていたのか、どこから来たのか、丸で知らない。
「だが、さっきあんたはカインは姐さんに拾われたとそう言ったな」
「元々近所のガキだったんだが、そこで事件に巻き込まれて親兄弟をなくしたようでな。行くあてもねえところを姐さんが会社に引き入れたんだよ。まあ、ぶっちゃけ俺もそんなに会社に入る前までのあいつを知ってるわけじゃねえ。そもそも、その頃のあいつはまだちっちぇえガキだったしな」
 と、カインのことを聞かれた時はいつもこう答えるようにしている。戸籍上もそういうことになっている。サラがR・ジェンや、“義父”に頼んで手を回したのだ。
 なんでそこまでするのかをサラに聞いたことは何度かあるが、いつもはぐらかされる。「目が気に入った」だの「恵まれない子供を助けるのは大人の義務だろ」だの。何が大人の義務だ、7年前のサラはパイソンから見ればカインとそんなに変わらない子供だったと言うのに。
「あんたもカインのことが気に入ったか? まあ見た目と中身がそぐわないからな。興味を引く。それに明るくて無邪気だ。取引先にも結構あいつのファンは多いんだぜ?」
「まあそんなとこだ」
 急にまた素っ気なくなってしまった。どう会話を繋げよう、と考えているともうAMACO本社のエントランスが目の前に見えた。
「着いちまったな」
 横目でパイソンはヴィンセントを見る腕を組み、微動だにしない。パイソンは溜息をついた。
「ま、これから一緒に社で働く仲間だ、よろしく頼むぜ」
「は?」
 ヴィンセントが眉を曲げる。パイソンはその反応にハンドルを回しながらほくそ笑んだ。
メンテ

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