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[5] 魔法戦機ディヴァインバスター
日時: 2012/05/08 12:35
名前: 如月かげ◆2aJoWgktLg ID:e9pg/wcU

――

「罪無き者の礎、牙無き者の剣」



ジャンル・異世界トリップロボットファンタジー

更新頻度・理想は月一

一章
序話>>1
一話「最後の闘い・ラヴァエヤーナへ」>>2 二話「見知らぬ天井・私のパートナー」>>3 三話「貴族・魔法戦機」>>4 四話「ランナー・パートナー」>>5 五話「ローレライ・起動する魔女」>>6 六話「魔法学校・1つ屋根の下」>>7 七話「クラス代表・五大貴族」>>8 八話「血の誇り・名の誇り」>>9 九話「対魔女・対戦乙女」>>10 十話「負けられない・負けたくない」>>11 十一話「ディヴァインバスター・王虎堂々」>>12

二章
序話>>13
一話「英雄の再来・誇りある者」>>14
メンテ

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Re: 魔法戦機ディヴァインバスター ( No.10 )
日時: 2012/01/12 18:28
名前: 如月かげ◆2aJoWgktLg ID:zHNZmqyM

9「対魔女・対戦乙女」


 その日、中央競技場にはとても学園統一選クラス代表を選定するための一試合とは思えないほどの観客が詰めかけていた。しかし、その理由に疑問を感じる者は誰一人いない。
 五大貴族にして一年においての優勝候補、ルシエナ・ウォルコット・アーノワルツ。対するは異世界人のサモンを行ったローラ・ファンセル・アンジェジェ。既に学内発行の新聞では、つい二日前にこの両者が食堂にて静かな火花を散らしていた事が載せられて大きな話題となっていた。観客の中には他の貴族や上級生の姿はもちろん、教師の姿も見える。まさに異例の試合となっていた。 

「……緊張してきた」
「確かに、前哨戦に過ぎぬこの試合にしてはギャラリーがちと多いな」
 否応が聞こえる客席からのざわめきに、競技場決闘者入場口の手前でローラは少々押されていた。
「ちとじゃないわ! 多すぎるわよ! 本戦の優勝候補レベルの試合くらい人が来てるのよ!」
「実際ルシエナ嬢は一年では最優秀株。そしてこっちには僭越ながらこの異世界人の旋風寺翔がいる。前評判としてはこんなものだろう。まあ、派手な初陣になりそうだが」
 普段通りの翔を見て、ローラは少し呆れると深く深呼吸。ピシャリと頬を叩いて活を入れる。
「この試合が新しい私の最初の一歩。カケル、勝つわよ!」
「合点承知……そういえば、誰か見送りや応援に来る者はいないのだな。マット等は来てくれそうなものだが」
 翔が言うと、急にローラは顔を歪める。
「誰があんな奴! 来られても迷惑なだけよ!」
「迷惑で悪かったな」
「……え?」
 馴染みある声にローラが振り返ると、そこにはマットと教諭のライラが二人揃って歩いてきた。

「な、なんであんたがいるのよ! 今更媚売ったって遅いわよ!」
「このマット・レイジー・ティモンズ様が貴様等に媚を売るか。視察だ。五大貴族のデータを取りたいし、かのクライストがデザインした最後の魔法戦機。ローレライの戦いを間近に見たかったのでな」
「ふふん、じゃあそこでアホ面かましてみてなさい。私とローレライの力をね」
「カケルとローレライの力なら存分に見るつもりだ」
「私を入れなさいよ!」
「知るかバーカ」
「馬鹿って言った方が馬鹿なのよ! バーカ!」
「お前もバカって言ったから自分でバカと認めたようなもんだな! クハハハ」
「揚げ足を取るなぁ!」

 いがみ合う二人を見て翔とライラは二人して呟く。
「仲のいいガキ共だ」
「全く同感です……そういえばこうして向かい合うのは初めてですね。ライラ教諭。ローラ嬢のパートナーを務めている旋風寺翔であります」
「ライラ・シェルミーだ。お前とは一度近くで話したいと思ってな。それも兼ねて来た」
 ライラが握手を求め右手を差し出す。翔はそれを見ると、ゆっくりその手を握る。それだけで、ライラが感嘆した。
「やはりお前、ただの異世界人ではないな」
「ライラ教諭こそただの魔法使いとは思えませんが」
 翔は少しだけ顔をしかめる。ライラのその手を握った瞬間。閃光が駆けるような痛みが走ったのだ。あらかじめ身構えて気で手を防護していたからいいものの、無用意に握手すれば痛いで済まなかっただろう。握手を解くとライラは微笑む。

「試して悪かったな」
「いえ、ですが次は是非とも私がライラ教諭の力量を試してみたいところです」
「ほお……ここでするかね?」
 ライラはさも何気に言うが、翔は未だに言い合いをしているローラとマットを見て首を振る。
「いえ、今はやめておきましょう。ですがいずれ」
「楽しみにしておこう」
「ところでライラ教諭。ルシエナ嬢の方へは行かないのですか? それともあちらを先に?」
 担任教諭である以上、いくら翔目的とはいえこちら側のみ見送りに来るのは贔屓というものではないだろうか。するとライラは闘技場の先、ルシエナが待機しているであろう場所を見る。
「いや、あちらにはある特別なお方が来ているのでな。私が行くのも無粋なものだ」


 そのルシエナ側の決闘者入場口手前、緊張げながらも断固とした顔でむルシエナとそれに従うガルの前に待っていたかのように立つ初老の男性がいた。ルシエナはその顔を見て心底驚く。
「お、お義父様!? どうして……?」
 その男。アーノワルツ家現当主カーサル・ロキア・アーノワルツはルシエナを見て尋ねる。
「娘の晴れ舞台に父親が応援に来るのはいけなかったかね?」
「い、いえ。その、私はとても嬉しいのですが……」
 恥ずかしげに俯くルシエナの肩に、カーサルはそっと近づいて手を置く。
「今日は学園長の方と話があったので、そのついでにね。最も、お前の決闘が今日あると知って無理にお願いしたのだから、どちらがついでか分かったモノではないがな」
「あ、ありがとうございます! お義父様の御期待に応えれるよう、アーノワルツ家の名に恥じぬ戦いを……」
「ルシエナ、それは違うよ」
 カーサルは優しくルシエナに言う。
「私も妻も確かにお前に期待している。アーノワルツの名に恥じぬ女で有って欲しいとも思う。だが……だからといってそれを気負うようではいけない。お前はいつでも不安かもしれんが、例えお前が負けても、失敗しても、それによって例えアーノワルツの名を汚す事になっても、私たちはお前を見捨てるような事はしない。アーノワルツの家に誓ってもだ」
「お義父様……」
 見上げるルシエナに、カーサルは義娘の頭を撫でる。

「それよりも重要なのは、アーノワルツの人間たる上で最も重要なのは、意味ある行動、意味ある戦いをする事だ。意味無き勝利には何の重みも価値もない。だが、意味のある敗北は次に繋げる事ができる。アーノワルツの貴族は、例え敗北してもそれは意味ある敗北。次への勝利の布石に出来る……ルシエナよ、お前にとってこの決闘。意味ある戦いと出来るか? 私がお前に心配する事があるとすればそれだけだ」
「……大丈夫です。お義父様」
 ルシエナは真っ直ぐカーサルを見つめる。
「この決闘、私にとって勝敗に関わらず大きな意味を持つ戦いであります。それだけ、強敵です」
「聞いたよ。相手は異世界人のサモンを行った子らしいね」
「はい。ですが更に侮りがたしはその異世界人……お義父様、見ていてください。この戦い、おそらく未だかつてないモノとなるでしょう。私はそのための対策を二日間という短い期間でありますが、やってきました」
「ならば私から言う事は何もない。行ってきなさい、ルシエナ」
「はい。お義父様……行きましょうガル!」
 ルシエナの言葉にガルは小さく嘶いて答えた。


「それではこれより、ラヴァエヤーナ魔法学園統一戦のクラス代表選定戦を行う!」
 審判と思わしき魔導師姿の男の号令の下、駆り立てるように管楽器の演奏が響く。大歓声の中でローラと翔、ルシエナとガルは入場する。とはいえ、向かい合うというにはあまりに距離がある。魔法戦機同士の決闘を行うこの中央競技場はおおよその見立てでも横幅百メートル、縦幅は百五十ほどだろうか。
「西! 一年一組ルシエナ・ウォルコット・アーノワルツ! 東! 同じく一年一組ローラ・ファンセル・アンジェリジェ! 両者とも、魔法戦機の召喚を!」
 審判の声と共に、ローラは腰に納めてた短剣を鞘から抜く。杖ではなく、短剣だ。翔の世界でもそうだが、魔法を使うためのアイテムは決して杖である必要はない。木製の杖は雰囲気はあっても実用性に欠ける。ならば自分が魔法のイメージと行使を行うのに最も適した物を使えばいい。ローラの場合はそれは、星銀という特殊な魔法素材で作られた刀身三十センチほどの短剣だった。鍔には魔法戦機に使うのと同じ魔水晶がはめられている。

 ローラは右手で短剣を構えると、それで円に空を斬って叫ぶ。
「来て! ローレライ!」
 同じく、ルシエナも腰から細身の刺突剣を抜くとまず、それを地面に突き刺し魔方陣を展開。引き抜いてX字に空を斬り叫んだ。
「来なさい! ヴァルキュリエ!」
 その言葉と共に、ローレライが空中より具現化して落下。地響きを立てて降り立ち、乗りやすいように膝立ちとなる。同時にルシエナの戦術機ヴァルキュリエは、地面から湧きいでるようにその巨躯を具現化する。

「空から落とすよりあっちの方が効率がよさそうだが」
「こっちの方がかっこいいでしょ! 早く乗って!」
 翔のツッコミを無視してローラは搭乗を促す。翔は軽く跳ねて飛び乗り、ローラも昇降ワイヤーに捕まって乗り込む。乗って翔はまず、手に気の障壁を作り出してからエネルギー伝達用の魔水晶に触れる。
「?」
 しかし、今回は初回のような拒否反応は出なかった。アレは単なる誤作動だったのだろうか? しかしそれなら気にする事もない。翔が魔力を送りこむのを確認して、ローラは起動チェックを行いローレライを立ち上げる。
「ローレライ。起動!」

 同じく、ルシエナもまたヴァルキュリエに搭乗する。後部座席にはガルがちょこんと座って、彼の体躯に合わせた位置にある魔水晶に手を当てる。エネルギーの流れを確認してから、ルシエナはほとんど一瞬でチェックを終わらせてヴァルキュリエを起こす。
「ヴァルキュリエ。フルチャージ」
 ヴァルキュリエ。白をベースに赤のラインが入ったその機体は、ローレライとは違い柔らかい流線型のボディをしており、どこか女性らしさがある。武装は右手に銃型武器。腰に剣はなく、両腕に外付けの短いブレードがついている。更に肩には今は折り畳まれているものの大型のキャノンが搭載されていた。

「ルールを確認する! 決闘は時間制限無し、戦闘中の降参は無条件で認められる! 敗北の判断は、戦闘続行不可能状態となるか、魔力炉のエネルギーが零になる。もしくはランナーが魔法戦機より降りた時点での決定とする! 両者、準備良ければ合図を!」   
 審判の叫びにローレライとヴァルキュリエは左手を挙手し肯定。それを確認した審判は、大きく頷くと、両手を上げて振った。

「それでは、決闘始め!」  
メンテ
Re: 魔法戦機ディヴァインバスター ( No.11 )
日時: 2012/02/26 19:38
名前: 如月かげ◆2aJoWgktLg ID:D.ho5KCs

10「負けられない・負けたくない」


号令と共に、ローレライとヴァルキュリエは即座に脚部動輪を展開して走行。お互い一気に距離を詰め、ローレライは左手で腰の鞘から剣を抜刀。そしてヴァルキュリエは左腕に備え付けた外付けブレードを構えると、ブレードが発光、光の剣を形成する。瞬間、両者の剣がかち合う! 金属音とも衝撃音ともつかぬ音と、火花が散り合う。つばぜり合いを続けながら両者は円を描くように回転すると、両者はほぼ同時に距離を取り右腕の銃を構え合う。ローレライの魔法銃からは鉄の弾丸が。ヴァルキュリエの粒子銃からは濃圧縮された魔法粒子の塊が発泡! 両者の弾は正しく本体を捉え合い、魔法戦機が展開する魔法障壁を削るが、ヴァリュキリエは寸前で身を逸らすように胴体を傾け、上手くかすらせる。しかしローレライは反応が遅れ、魔法障壁を大きく消耗する。
「くっ!」
 ローラが呻く。衝撃も並ではない。魔法障壁で多少のダメージなら防げるとはいえ、決してノーダメージではないのだ。特に粒子銃は魔力の塊。魔法障壁を削るのに非常に優れている。だがその一方でローラは驚く。大幅に削られはずの魔法障壁だが、瞬時にその魔力値が回復したのだ。
「ローラ嬢。動きに反応するのではない。動きそのものを予見するのだ」
 後ろで翔の冷静な声。
「燃料の消費なら気にするな。そのためのパートナーだろう」
「……分かった!」

 ローラは即座に魔法銃を高速チャージしながら連射。本来ならばパートナーに負担のかかる行為だが、ローラは気にせず撃ちこんでいく。ヴァリュキリエのもつ粒子銃は、魔力そのものを圧縮して撃ち出す、弾丸いらずの画期的なシステムだが、無闇な連射は出来無い。ならばこちらは、弾数で勝負するしかない。ヴァリュキリエはそれらの攻撃を躱していくが、ルシエナは舌を巻く。
「何て贅沢な攻撃……」
 しかしあくまでこちらに当てるのではなく、とにかく数を撃って牽制する事が目的であるためか、躱す事そのものはたやすい。ルシエナは瞬時に狙いをつけると、発泡。ヴァリュキリエの粒子銃は高速機動するローレライを寸分たがわず撃ちぬく。魔法障壁がローレライを護るが、それでも相応の衝撃が機体にはしる。
「あの距離からあの状況で当ててきた!?」
「予測射撃が出来ているだけだ……ローラ嬢! 右! 切り返せ!」
「え?」
「いいから急げ!」
 いきなり行動を指示する翔に疑問と若干の不満を感じながら、ローラはローレライは右に緊急旋回……した次の瞬間。何も無ければローレライがいたであろう場所を、粒子銃の圧縮魔力が飛ぶ。

「っ! って……避けれた!」
「来るぞ! ローラ嬢! 近接戦闘!」
「んっ!」
 翔の言葉通り、ヴァリュキリエがローレライに急速接近。射撃による連撃が来るかと思った途端である。しかしローレライは左腕の剣でヴァリュキリエの粒子剣を受け止める。
「ここは距離を……」
「退くな! 突き入れてくるぞ! 受け流せ!」
 その言葉がローラの行動を変える。後退を躊躇させ、ヴァリュキリエの刺突を受け流した。そのままローレライは距離を取りながら魔法銃を連射。バックアタックによってヴァリュキリエの魔法障壁を削る! 
「くっ!」
 ルシエナもまた態勢を立て直すため退く。

 まさしく一進一退の攻防。観客達は大いに湧き上がる。クラス代表を決定するための予選とは思えない好カードである。ローラは素早く魔法銃のカートリッジを交換しながら翔に問いかける。
「カケル、助言ありがと。でも、なんで分かったの?」
 すると翔はさも何気に言う。
「魔法戦機の行動時に機体関節やシリンダーの動きがあるだろう? そこから行動内容を割り出して言ってるだけだ」
「……は?」
 何言ってんのこいつ。みたいな顔でローラは口をポカンと開ける。
「まあ、相当な集中力がいるから、戦闘には向かない技だ。しかしこうして力を送り込んでいるだけの状態なら、敵の動きを見切るのに全力を注げる。気にするな。パートナーとして当然のサポートだ」
「いや。いやいやいやいや。そんな超絶技術。普通のパートナーも、異世界人のパートナーもそうそう持ってないよ!?」
「ではその技術を持ってる俺をパートナーに出来たローラ嬢のアドバンテージだ。とはいえ油断するなよ。自覚してるだろうが、技術も武器も向こうが上だ」
「そんな事百も承知。その不利はカケル。貴方で巻き返す。負けたくないの。全力でサポートしなさい。これは命令よ」
 ローラは前を見据えて鋭く言う。翔はそれを見て満足そうに笑った。
「仰るままに」

 一方、ルシエナは魔法障壁の魔力値回復を見ながら素早く状況を分析する。異世界人のパートナーを持つ事による最大の利点は、魔法戦機のエネルギー管理をほとんど必要とせず、更に無尽蔵な魔力を利用とした戦いができる事にある。ローラはそれを完璧とは言えずとも効果的に使用し、兵器面や技術面の差を埋めている。しかし、先程の回避はそれだけでは説明出来無い。更に言えば、事情分からぬ異世界で最初からあそこまで手馴れた魔力の供給は普通の異世界人には出来無い。やはり最大のアドバンテージは旋風寺翔という人間そのもの。
「貴方の友達はすごいわね。ガル」
 ルシエナが言うと、ガルは低く声を返す。
「でも、貴方も負けないほどすごいわ」
 バックアタックによって削られた多量の魔法障壁。通常ならこれほど削られての回復は戦闘中には困難なレベルであったが、すでにヴァリュキリエのエネルギー値は一定までの回復が完了している。ベビードラゴン。内包魔力とその出力においては異世界人に匹敵する力を持つ最上級パートナーの一人。
 お互いが魔力供給、出力における最上級のパートナーを擁してる以上、生半可な小競り合いでは勝負は永遠につかない。
「負けられないわね、この戦い。ガル、出し惜しみ無しで行くわよ」
 ルシエナの笑みに、ガルは一声叫びを上げて答えた。


「近接戦闘!」「分かった!」
 翔の声と共にローレライは魔法銃を投げ捨て、両手に剣を構えると、一直線へとヴァリュキリエに突っ込んでく。
「剣戟!」
 ヴァリュキリエもそれに答えるように粒子銃を放棄。粒子剣を両腕から発生させてローレライへの突進を兼ねた刺突攻撃をピンポイントで受ける。お互いに手持ちの飛び道具を捨てての接近戦。魔法障壁を飛び道具で削る作戦がお互いに有効でない以上、自らが大ダメージを受けるリスクを負ってでも、直接戦闘によって魔法障壁を削りきって攻撃する方が有利と考えたのだ。
「退かば負けぞ! 出力ならいくらでも出してやる! 押し切れ! ……蹴りだ! 右!」
 ヴァリュキリエの不意打ちめいた左ハイキックがローレライ襲う。ローレライはそれを剣で受けきろうとするが、ヴァリュキリエの目的は物理的なダメージでなく質量を伴った衝撃が狙いである。例えダメージがなくとも受ける衝撃によって魔法戦機が態勢を崩せばそれがそのまま勝機となる。
「右腕部最大出力!」「応ッ!」
 ローラの叫びと共に翔が腕に力を込める。ヴァリュキリエの蹴りを受けた右腕はそのまま押し切られるどころか弾き返す。蹴りを繰り出したはずのヴァリュキリエが逆に姿勢を崩す。
「そこっ!」
 ローレライがそのまま突撃、ヴァリュキリエを押し倒し大きな衝撃がガルとルシエナを襲う。ローレライはそのままヴァリュキリエを踏みつけると、その胴体部に剣を突きつける。と思った瞬間。
「回避だ! 距離を取れ!」「……え?」

 この圧倒的優位な状況下での翔の意味不明な発言にローラは反応が遅れる。それが命取りとなった。倒れこんだヴァリュキリエの背中からほぼ一瞬。呆れるような速さで折りたたまれた大型キャノンが展開される。ルシエナは照準をつける事すらせず即発射。ゼロ距離からの魔法粒子砲。最大チャージではないものの、その一撃は魔法障壁を貫いてローレライを競技場の端まで吹き飛ばした。壁に叩きつけられ尋常でない衝撃が二人を襲う。翔はとっさに受け身を取るが、ローラはそうは行かない。気こそ失いはしないものの、背中を強打し激痛が走る。
「がはっ! っぁ! はっ! ああぁ! ぐっ!」
 ローラが操縦桿へと手を伸ばしローレライを立ち上がらせようとするが、ローレライ自体の関節部が損傷を受け、立ち上がる事ができない。そこへヴァリュキリエが止めをさすため近づいてくる。このままでは負けは必至である。
「くっ! 動いて、ローレライ! お願いっ!」
 可能な限りの動作を試すがローレライは動かない。翔も与えれる限りの魔力を供給しているが、意味はない。
「ダメ、ここで負ける訳にいかないのに! 勝たないと始まらないのに! 家のためにも、兄様のためにも、私自身が変わるためにも負けられないのに! お願い、動いて!」
「……どうしても、勝ちたいか?」
「え?」 
 翔が目を閉じて問う。
「どうしても勝ちたいか? 手段を選ばず、お前自身のプライドをも捨てて、ただ勝利を得るという結果を得たいか? 決して万感の勝利とは言えない勝利でも、お前は欲しいか?」
「……欲しいって言えば、得れるの?」
「確実ではない。しかし、俺はその可能性をお前に与える事が出来る。お前が命令すれば、俺はそのために命を賭けてもいい。だが、お前にその覚悟はあるか?」
 つまりそれは、翔が直接ヴァリュキリエと戦うという事なのだろうか。そんなバカな。と思う反面、ローラには何故か、翔がヴァリュキリエに勝つ光景を想像出来た。それだけ翔は普通ではない存在に見えた。それを信じれるか、そして、自分自身の勝利ではなく、パートナー任せの勝利をローラ自身が認めれるか。
 ヴァリュキリエが放棄した粒子銃を拾い上げて掌部に接続。ローレライに狙いをつける。それをローラは見ながら、静かに頷いた。
「主が名において命令するわ。翔、ヴァリュキリエを倒しなさい」 
 
「御意」 

 ヴァリュキリエが粒子銃を撃とうとした瞬間、コクピットハッチが開く。降参か? とルシエナが思ったのもつかの間、すぐコクピットハッチが閉まった。
「? ……フフ」
 ルシエナが笑う。ヴァリュキリエの先、ローレライの前に一人の男、旋風寺翔が腕組みをして立っていた。なんだ? と観客がザワつく。パイロットが魔法戦機に出た時点で敗北は確定するが、パートナーだけなら負けでも反則でもない。しかしパートナーがいなければ、魔法戦機は最低限起動を維持する魔力だけでも数十分程度しか保たない。しかし翔はローレライから降りて、何とヴァリュキリエを前に戦闘姿勢を取った。

「我が名は翔、旋風寺翔。罪無き者の礎、牙無き者の剣。今このラヴァエヤーナにて我は再びその拳を振るおう……参る!」
メンテ
Re: 魔法戦機ディヴァインバスター ( No.12 )
日時: 2012/02/28 22:35
名前: 如月かげ◆2aJoWgktLg ID:vGdYqbRk

11「ディヴァインバスター・王虎堂々」


 人が、それも魔法使いでなく本来魔力以外に特別な力を持たない異世界人のパートナーが魔法戦機に勝負を挑む。荒唐無稽、無謀無茶。観衆達はざわめきだす。しかし、それを観戦していたライラ教諭が笑う。
「やはりあの男、普通では無いか」
「いやいや、普通で無いのは分かるが、アレは無茶だろ」
 その横で見ていたマットが呆れるが、ライラがそれを愉快そうに尋ねる。
「おや? 常なる時も道理を無視した事ばかりするかのティモンズが、目前の事象すら信じれないのか?」
「い、いや。そういう訳ではないが……」
 負けず嫌いらしいマットの発言にライラは鋭い眼光を翔に向ける。
「まあ、見ていれば分かるだろうさ。あの男がただの馬鹿か。それとも……ディヴァインバスターの称号を継ぐ者なのか」

 一方、翔を前にしたルシエナは予想外の事態に驚いているというよりは、想像通りの展開になったという満足の顔であった。
「貴方がどこまで『特別』なのか……このラヴァエヤーナ第三貴族。ルシエナ・ウォルコット・アーノワルツが試してあげます!」
 ローレライは粒子銃の照準をローレライから翔へと定める。粒子銃は魔法障壁を貫通するための銃とは言え、その物理的威力は人間を殺すのに十分すぎる威力だ。翔は銃口を睨むと静かに拳を構える。
「旋風寺戦闘術を実戦で使うのは、獄門島での決戦以来だな……」
 万全ではない。しかし、不調を敗北の理由に出来るほど訛ってもいない。この数日夜間で密かに行なってきたリハビリ運動によって、翔の身体能力、技術力は以前の水準を既に取り戻している。

「シャアッ!」
 跳躍! 鍛えあげられた筋肉と大気の力を借りてまさしく飛翔とも言うべきほどのジャンプ! 翔は一瞬にしてその視線をヴァリュキリエ頭部と並べる。
「旋風寺戦闘術・空蹴り!」
 そしてそのまま接近! 空蹴りとはその字の如く、空を蹴る事によって空中戦闘を可能とする旋風寺戦闘術の基本移動術である。ヴァリュキリエはしかし、その行動に素早く反応。すぐさま照準を付け直して翔目掛けて粒子銃を躊躇なく撃つ。
「旋風寺戦闘術・鷹翼!」
 旋空! 翔は空中で回し蹴りを行う。翔の履くブーツには特殊合金性の仕込みブレードが搭載されており、技を繰り出す瞬間に任意展開出来るようになっているのだ。身体から発する気と外部の大気、二つの気を纏わせた仕込みブレード回転蹴りは粒子銃の魔力圧縮弾を切り裂く! 翔は蹴りを振り切った姿勢から回転して再び空を蹴ると、懐に装備している投擲ナイフの一本を取り出す。間合いに踏み込みヴァリュキリエの粒子銃にナイフを投擲すると、今度はそのナイフに向けて踵落としを行う!

「旋風寺戦闘術・獅子爪!」
 その踵落としは釘を撃つハンマーのように対象を叩き貫く。そしてそのまま粒子銃の銃身を貫通して叩き落とす! しかし翔には違和感があった。余りにも手応えがぬるい。
「ッ!」
 してその真相は、何とヴァリュキリエは翔の獅子爪に反応して瞬間的に粒子銃を手放していてたのだ。そしてヴァリュキリエの策はそれだけでは終わらない。空中で停滞する翔へと、左粒子剣が薙いで襲う!
「く!」
 翔は跳ね避けるが、更に突き入れるような右粒子剣! 翔はそれも間一髪で躱して一度地上に足をつけると、懐から二本の釘をそれぞれ両手に握る!
「旋風寺戦闘術・狼牙!」
 鋭く投擲されたナイフが狙うはヴァリュキリエの肘関節部。比較的攻撃力の無い技である狼牙であるが、関節部を破壊するには十分な攻撃であるはず。しかしヴァリュキリエはすぐさま肘関節部を覆い隠すように防御。硬い装甲部に釘が弾かれる。

 なんという者だ。翔は舌を巻く。異世界の、旋風寺戦闘術を全く知らないはずの人間がいくら魔法戦機、巨大ロボに乗っているとはいえ、否。むしろ小さな的である翔相手に魔法戦機で対抗しているのだ。彼女の魔法戦機操縦技術が尋常でないと同時に、翔と一度喋っただけでこうなる事を予測するという常識はずれの先見性である。しかしだからといって、負ける訳にもいかない。ローラにあそこまでデカイ口を叩いたのだ。主の名誉、旋風寺戦闘術の誇りがかかっている。翔は折りたたみナイフを一本取り出し展開した。
 一方のルシエナも翔の戦闘力に驚愕していた。まさかとは思っていたが本当に魔法戦機に対して生身で拮抗するとは。それもルシエナが酔狂とも言えるような勘で生身の人間相手に魔法戦機で戦う鍛錬を行なっていたからいいものを、もしもいきなり翔の行動を取られれば、確実に負けていたはずである。そして翔にはまだ技がある事を示すように、ナイフを構えている。まだ勝負は分からない。ルシエナは精神を研ぎ澄ますと両腕の粒子剣を構える。

 更に一方、観客達はお互いに剣を構え対峙する両者に片時も目を離せないでいた。ローレライとヴァリュキリエの一進一退の攻防から続く、生身の人間と魔法戦機の戦闘。荒唐無稽と思われたその戦いは、これ以上なく勝敗の予測を困難にしている。とてもではないが、クラス代表を決める一試合ではない。ギャラリーは減るどころか、その熱気を知った人間によってより数を増していた。

 そしてローラは、
「……」
 ただ静かに、何かを言うでも、行動するでもなく翔を見ていた。既にローレライの残魔力は二十分を切っている。

「旋風寺戦闘術・気剣」
 翔が言って、ナイフの刀身を右手でなぞる。すると何たる事か。まるでヴァリュキリエの粒子剣が如く。翔のナイフに閃く気の刃が伸びる。その刀身たるや翔の身長とほぼ同じ。太刀と呼ぶに相応しい長さである。翔はそれを両手で持つ。ヴァリュキリエは動かない。が、翔が動けばすぐさま必殺の一撃を叩きこむものであろう。
「ッハア!」
 しかしここで翔は待たない。先手必勝、攻めるが勝ち。瞬時にヴァリュキリエも反応。その体躯に三倍以上の差がある両者の激しい剣戟がぶつかる。圧倒的に翔不利に見えるこの戦いはしかし、巨体であるが故の不利をヴァリュキリエは背負っており、ルシエナには通常の剣戟を遥かに超える精密な技術が必要とされる。両者がそれぞれに圧倒的不利を持つ状況の最中、両者互いに一歩も譲らず、お互い退くもなし、突き進めるでなし。しかし翔は体力が、ルシエナは集中力がそれぞれ激しく消耗していく。先に音を上げたのはルシエナの方だった左粒子剣の反応がわずかに遅れる。
 翔はその一瞬、猛攻が途切れた瞬間を狙って跳躍! すぐさま右粒子剣が翔を襲うが、翔はそれを空中回避すると、ヴァリュキリエの右腕に着地して疾走! そして気剣を右腕肘関節部に突き刺す! 炸裂音と共に煙が上がり、翔は素早く後退に転じる。ルシエナが動かそうとするが、右腕部は肘から先がダラリと下がっており、粒子剣も消える。これは致命傷だ。今までも何とか互角で戦えてた状況で、右腕粒子剣を失うのは敗北とほぼ同義である。
 一筋の汗がルシエナの額を伝う。もう一度あの攻防を行うのは不可能である。対して翔はさも当然という方に立っている。その顔は汗一滴、苦痛の表情一つ示さない。化物か。否、このラヴァエヤーナでは翔のような男の事を示す、ある称号がある。
「ディヴァイン……バスター……」
 かつて、ラヴァエヤーナに存在した伝説の英雄。伝説の異世界人。破滅の巨神・ディヴァインを打ち倒す者。
「ならば、敗北を恐れるのも馬鹿らしい話です」
 ルシエナは笑うと、最後の一矢を報いるべくヴァリュキリエを動かした。
 
 右腕を実質失ったヴァリュキリエが左粒子剣のみを構える。例え劣勢であっても決して降参を選ばず立ち向かう様。敵ながらあっぱれである。翔自身も全力で挑まなければ勝つに難い強敵あった事には間違いない。そしてそれは今も変わらない。一件ヴァリュキリエに勝ち目がなくなったように見えるが、翔とて決してノーダメージではない。かなりの体力を消耗し、そうでなくても一撃が敗北につながる戦い。まだ翔に油断はできないのだ。だから全力。全身全霊居を尽くす。それが翔の勝ち筋であると同時に、敵対者への礼儀である。
 翔は両腕を力を溜めるように引くと、深く深呼吸をする。旋風寺戦闘術には、基礎となる多才な技の他に、所謂必殺技と呼ばれるものが存在する。旋風寺ビッグバンパンチはその最大であるが、アレは命を代価とする例外だ。よって、旋風寺戦闘術で必殺奥義といえば、旋風寺戦闘術七大奥義を指す。旋風寺戦闘術の正式な継承者を自称するには、少なくとも七大奥義の内の二つを習得しなければいけない。

 翔が習得している七大奥義は三つ。内今から出すのは、旋風寺四兄弟の中でも翔だけが習得している技にして、翔が最も得意とする技である。
「旋風寺戦闘術・七大奥義がその三」
 誰に言うでなく、翔は喋る。旋風寺戦闘術において技名を言うのは、重要な意味を持つ。言葉は言霊となり、力を生み出す。言葉に出す事で技のイメージを明確し、繰り出すのを容易とするのと同時に、強固なイメージと力を撃ち出す事が出来るトリガーともなる。技名を言わないでも技は出せるが、そのデメリットは想像以上に大きい。
 ヴァリュキリエが翔へと突貫を開始する。翔は一瞬で精神を統一すると、怒号と共に両拳を繰り出す。

「王虎堂々!」

 王虎堂々。それは大地と大気。二つの自然の力を借りて撃ち出す超威力の衝撃波である。その余りの力に、一瞬大気が虎の相を為すほどまでと例えれる一撃。空中では撃てない欠点を持つが、その一撃は例え敵が巨大な鉄塊であろうとも撃ち飛ばす。魔法戦機もその例外にあらず。ヴァリュキリエはまるで見えない何かに叩き伏せられるように、突貫方向と逆に不自然な体型のままぶっ飛び、先程のローレライとは比較にならない衝撃を以って壁に叩きつけられる。ローレライの時は無傷だった競技場の壁が、メキリとめり込むほどであるからその威力は一目瞭然である。これには観衆も、唖然とするばかりである。ヴァリュキリエは完全に停止。試合続行不可能状態であるのは明確だった。

「審判! 判定を!」
 翔が大声で叫ぶ。一瞬呆気に取られていた審判だったが、すぐさま気を取戻すと、ローレライ側に旗を上げて宣言する。

「勝者! ローレライ!」
メンテ
Re: 魔法戦機ディヴァインバスター ( No.13 )
日時: 2012/03/29 18:40
名前: 如月かげ◆2aJoWgktLg ID:puYCkwVI

序話

 ラヴァエヤーナに一人の英雄有り。それすなわち、ディヴァインバスター。

 数百年の昔、群雄割拠のラヴァエヤーナにおいて魔導師達が起動させた最終兵器、ディヴァイン。

 ディヴァインとは神機、神の威を持つ禁忌の巨神。戦争を終結させるために起動されたディヴァインはしかし、奢る人に天罰を下すが如く破滅の神となりてラヴァエヤーナをかの終末戦争へと導いた。
 
 人は初めて団結するが、神機ディヴァインの前には悉く無力。人々が自らの破滅を確信した時、かの者は現れた。

 始めは、ただの女魔導師の一使い魔だった。次第に、その存在はラヴァエヤーナの人々の心をお掴み、そしてついにはディヴァインの全てを破壊した。

 その者こそがディヴァインバスター。神の兵器を討ち倒す者。その存在は使い魔をパートナーという位置にまで押し上げ、現代の魔法戦機の技術の礎を築いたと言われる伝説的人物。彼は最後まで自らの主たる女魔導師とその生涯を共にしたという。

 ディヴァインバスター。その存在をラヴァエヤーナで知らない者はいない。
メンテ
Re: 魔法戦機ディヴァインバスター ( No.14 )
日時: 2012/05/02 23:25
名前: 如月かげ◆2aJoWgktLg ID:X8DUKNTE

1「英雄の再来・誇りある者」


「ディヴァインバスター!」「ディヴァインバスターだ!」「ディヴァインバスターは実在した!」「ディヴァインバスターの再来だ!」

 熱狂する観客の歓声が、翔を包む。ディヴァインバスター。聞きなれない単語だ。しかしそれは、翔を賞賛する言葉である事は分かる。
「カケル!」
 ローレライから降りたローラが翔に駆け寄る。翔がローレライから降りる際、先日と同じようにローラの背中をさすって痛みを若干中和させておいたので、もう痛みはないのだろう。しかしそれ以上に、ローラは興奮していた。
「すごいわカケル! 普通の異世界人じゃないとは思ってたけど、生身で魔法戦機を倒しちゃうなんて! 貴方、ディヴァインバスターなの!」
「いや、ディヴァインバスターと言われても何が何だか分からん」
 翔はあくまで冷静に応対するが、それに対する答えが背後から聞こえる。
「ディヴァインバスター……ラヴァエヤーナに存在したと言われる伝説の英雄ですわ。先人の過ちによって、かつてラヴァエヤーナを崩壊の危機に陥れた巨神ディヴァインを打ち倒した者。それがディヴァインバスターです……ケホッ」
 やや前屈姿勢で背中をさすりながら、ガルを連れてルシエナがやって来る。
「アーノワルツさん! 大丈夫なの?」
「少なくとも、貴方より治癒魔法は得意ですわ。後、受け身もね」
「むぅ」
 少し苦しげな顔をしながらもルシエナは得意げに言い、ローラは顔をしかめる。

 神を打ち倒した英雄。なんとも大層な話だと翔は首を振る。
「ならばディヴァインバスターというのは俺には身に余る言葉だ。増して従者が主を差し置いて英雄を名乗る等……」
 翔はこれまで、六戦魔王や暗黒総理等、数々の巨大な強敵を打ち破って来たがさすがに神を打ち倒した覚えはない。魔神や邪神ならあるが。
「伝説のディヴァインバスターも、最初はある女魔導師の使い魔だったっていうよ」
「しかもその女魔導師は、格別優秀な魔導師でもなく、むしろ落ちこぼれであったとか。その辺りも貴方達は似てますよね」
「さっきからアーノワルツさん。地味に酷い事言うわね……」
 ローラはぐぬぬと憎々しげな顔でルシエナを見ると、ルシエナは微笑んで手を差し出す。
「ルシエナでいいわ」
「え?」
「魔法戦機の操縦技術や魔法の成績はともかくして」「ともかくするな」「貴方のサモン技術は、その他の欠点を帳消しにして余りあるモノ。ライバルとしても友達としても、もう他人行儀な呼び合いはやめましょう。ローラ」
「……」
 差し出された手をローラは黙って見て、翔の方を向くが翔は我は関せずという顔でいる。そして少しだけ悩んで、ローラはその手を握った。
「サモン以外でもいつか見返すわ……ルシエナ」
「それくらいの意気でなくては」
 両者は笑いあい握手を交わす。熱き青春の一ページだなと翔は関心する。何かとこういうベタな展開には弱い旋風寺翔である。

「すみません!」
 後ろからの声。翔が振り返ると、眼鏡をかけた一人の生徒が羊皮紙のメモ帳と羽ペンを持って、翔に駆け寄る。
「新聞部のパーラ・デル・ベルルです! 是非とも熱気こもった会場の皆さんに一言ほしいんですが!」
「お、私に?」
「いえ。申し訳ないですが、使い魔の方の方に……伝説のディヴァインバスターを彷彿とさせる新たなる英雄への独占インタビュー! という形にしたいので……」
「ですよねー」
 ローラは分かっていたかのように反応するが、翔は首を振る。
「インタビュー? ローラ嬢でもルシエナ嬢でもなく俺がか? 生憎だが、一介の使い魔が主を差し置いて名誉を得る等もっての外だ。すまないが、それは承諾できない」
 そう言って断ると、ローラが背伸びして翔の頭を叩く。
「こら!」
「何をするのだ。ローラ嬢」
「今のは断る所じゃなかったでしょうが! そりゃ私を差し置いてカケルなのはちょっと不満だけど、実際今回の戦いにおける一番のヒーローは貴方なんだから。主に代わって名誉を受けるのも、使い魔の役目と知りなさい。命令するわよ」
「ふむ。では受けよう」
「ありがとうございます! じゃあちょっと待っててください! 拡声魔法を使いますので……」
 パーラは言って一言二言唱えて羽ペンで空中に字を書く。さすれば字は空中を飛んでいく。そして数秒後。競技場全体に行き渡るような声が響く。

「ご来場の皆さん! 今回の決闘において驚愕の活躍を遂げた使い魔殿に、新聞部はインタビューを行いたいと思います!」 
 その一言に会場が沸く。どうやら翔の行為はよほどラヴァエヤーナでは英雄的行為であるらしい。確かに、魔法戦機という強大な兵器に対し生身で撃破を行うのは脅威に当たるべき事である。しかしそれは翔が旋風寺戦闘術の粋を以って対応したに過ぎない。一方で、人々の声には常に耳を傾け、人望を持つのも旋風寺家の人間として行うべき行為だ。
「それでは、使い魔殿。お名前を教えてもらえるでしょうか?」
「性は旋風寺、名は翔。旋風寺一族四兄弟が三男。旋風寺翔だ。ローラ・ファンセル・アンジェリジェ嬢の召喚に応じ、今は使い魔の身分である」
「魔法戦機を生身で撃墜という、ラヴァエヤーナにおける英雄。ディヴァインバスターの再来を思わせる強さでしたが、その秘密は?」
「一族に伝わる旋風寺戦闘術を習得している。それだけだ。その概要はここで説明するには少し難しい」
「なるほど。異世界人のいる世界は、機械技術が発達していると聞きますが、そのような戦闘術も存在するのですね。それでは旋風寺翔さん。皆さんに何か言いたい事はある」
「ああ、ある。少し長くなるがいいだろうか?」
「もちろんです!」

 翔は観客席をグルリと見回すと、声を張り上げる。
「僭越ながら、この場にて使い魔の身ながら英誉を受ける事となった! 使い魔と言えども差別せず武勲を賞賛する事、素晴らしき行為と思う! しかし、賢明なるラヴァエヤーナ魔法学園の諸君ならば我が言うまでも無いだろうが、此度の戦いの真の英雄は、我などではなく二人の貴族! ルシエナ・ウォルコット・アーノワルツとローラ・ファンセル・アンジェリジェの両名にある事を忘れてもらっては困る! 我が主のローラ嬢の適切な判断あってこそ、我はこの誉れを受ける事が出来たし、ルシエナ嬢程の手練でなければこれほどの勝負とはならなかっただろう。まずそれについてが一つ。そして……ディバインバスターがこのラヴァエヤーナの英雄である事は今知ったが……我はあえてここで注意を喚起したい! ラヴァエヤーナの勇士たる者、異世界の木端風情を英雄扱いするなど誇り無き行為! 故に、我こそは真にラヴァエヤーナの英雄と名乗らん者は、ぜひとも我を打ち倒して欲しい! この旋風寺翔、逃げも隠れもせぬ! 旋風寺戦闘術の秘技にて迎え討とう! 以上である!」

 翔は長い演説を一気呵成に叫ぶ。それを聞いた観客は一瞬呆気に取られて、静まり返ったが、数秒後、熱狂と歓声の渦が翔を包み込む。翔はそれを聞きながら、側にいるパーラに言う。
「これで良いだろうか? 少々無礼に過ぎたかもしれんが」
「あ……あ、いえ! 大丈夫です! 素晴らしいスピーチをありがとうございました!」
「こちらこそありがとう」
 翔は一礼してローラの元へ歩み寄る。
「ローラ嬢よ。命令の方。確かに遂行した」
「……うーん、いろいろ突っ込みたい所あるけど、まあ上出来かな」
「それは良かった」
「それにしてもカケルは……もうちょっと自分を誇っていいのよ? 実際とんでもない事をやったんだし」
「自画自賛はどうも苦手でな。所詮我なぞ、旋風寺戦闘術以外にさした特技もない男だ。あまり英雄と褒め称えられるのは慣れてない。英雄というのは得てして名だけを担ぎ上げられる存在だからな」
「そんなものかしら……素直に喜べばいいと思うんだけどなあ」
「ローラ嬢も英雄と呼ばれる立場になれば分かるよ。存外面倒なのだ、英雄とは」
 旋風寺戦闘術はその圧倒的力を持つ都合上、必ずそれを英雄と担ぎ上げ悪用しようとする者がいる。翔もその経験が幾度かあった。

「旋風寺翔」
 ふと、ルシエナが翔を呼ぶ。翔は振り返った。
「ルシエナ嬢。そういえばいうのが遅れたが……素晴らしい、いい動きだった。ほんの一重が戦いの勝敗を分けたと言えよう。再戦の時には我も鍛錬せねば負けるだろうな」
「それはこちらのセリフです。本当に素手で戦いだすなんて、予知魔法は苦手なのですが」
「存外才があるやもしれんぞ」
「そうかもしれません。それでは失礼します」
 翔とルシエナは笑いながらすれ違い様、言葉を交わす。

「次は勝ちます」
「良い気迫だ」

 ルシエナとガルが退場していく。それを見ながら、ローラは気づいたように翔に言う。
「あ、そういえばカケル。またとんでもない事言ったじゃない!」
「?」
「ディバインバスターもそうだけど、ああも大見得を切って喧嘩を売ったのよ? 多分魔法学部の戦闘系魔導師があんたに突っかかってくるわよ」
「何、それくらいが面白い。というより、それを期待して言ったのだ」
「カケルはいいけど、私は大変なのよ……」
「確かに。使い魔に勝利を丸投げするのは貴族としてあまり褒められた行為ではない。だが、その程度は次の試合で汚名返上をすればいい話だ」
「いや、そういう意味じゃないんだけど……まあいいわ。お疲れ様」
「ありがたき言葉だ」

 そして、退場したルシエナの前には、
「いい試合だったぞ。ルシエナ」
「はい、お父様……負けてしまったのは悔しいですけど」
 カーサルは柔和な面持ちでルシエナをねぎらう。
「それでいい。負けは認め、それを悔いて、次の勝利を誓う。それがアーノワルツの正しい考えだ。よく頑張った。敗者であろうと、私が認める。お前は誇りある者だ」

「……はい、ありがとうございます」
 冷静に、しかしどこか嬉しそうに、ルシエナは頷いた。
メンテ

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