ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
[44] 絶望に光を灯して
   
日時: 2012/07/30 10:59
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:k59kTYaw

 数ある質問の中、一つだけ神に問うことができるとしたら僕は何を叫ぶだろう。

メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

Re: 絶望に光を灯して ( No.7 )
   
日時: 2012/08/09 08:57
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:snG8BaNM

 なにもかもが、急に可笑しく思えてきた。超能力だなんて、そんな馬鹿げたことが。でも、そうとしか考えようがない。
 人間の聴力は壁を無視するか? 心の声が相手に伝わるか? どちらも否だ。NOだ。ありえない、でも、ありえた。驚きだ。自分のことなのに笑えてくる。超能力だなんて、本当に馬鹿馬鹿しい。ふざけるのもいい加減にしてほしい。けれど、どうしようもない。
 脳内エネルギーが活発に活動しています――。
 そりゃそうだろう、無意識のうちに能力を乱用していたのだから体がついて行かなくなるのは当然の結果。超能力は科学的に証明されてないし、病院側が「原因不明の不治の病」と矛盾した考えを持っても不思議ではない。寧ろ、「これは超能力に違いない」と断定できる人間がいたらお眼に掛かりたいくらいだ。
 そこまで考えて、ふと、我に返った。この心の声も、誰かに届いているんじゃないか……?
 そう思うと、背筋に悪寒が走った。自分が見透かされているような――事実、隠し事などできないのだ。声に出しても出さなくても結果は同じ。想いは超能力によって人々に届けられる。なんてことだ。

「どうしてこんなことになるんだよ」

 一昨日までただの高校生だった。友人と楽しく笑いあい、授業中ふざけて先生に怒られるような、ありきたりな男子生徒だった。それが今や、サイコパワーを突然手にし入院中の珍しい人間だ。博物館ものだ。過去に、こんなケースがあったか。――あるわけがない。あったら、「これはあのときの何某さんのパターンだ」と医者が納得できるはずだ。

「どうすりゃいいんだ……僕は、」

 未来が分からないから人生は楽しい。その通りだ。分かっていたら、楽しむどころではなかっただろう。
 けれど、はっきりいって僕の人生楽しくはない。お先真っ暗だ。十七歳にして、通常コースの道がふさがれてしまった。
 じゃあ、どうするのか。
 そこまで疑問に思ったところで、看護婦が入ってきた。慌てて隠れようとして、今の状況を思い出す。
 嗚呼、僕は今、肉体と精神が分離しているんだっけ――。
 それでも、「そこにいるのに気付かれない」という状況は初めてだったので、内心ひやひやしていた。もしかすると、看護婦は僕の存在に気づいていてあまりの恐ろしさに声が出ないだけなんじゃないかとか、この看護婦だけが僕を見ることができないんじゃないかとか、様々なことを考えた。だが、その心配は無用だった。寧ろ、今こうしてこのことを考えてしまった、という方が重大な事実だった。そうだ、僕の心は見透かされているんだっけ。

「ふふ……よく寝てる」

 ふいに、看護婦が言葉を漏らした。年齢が、母と近い。僕と同年代の子供がいるのかもしれない、と直感で感じる。だが、心には思わない。
 ……?
 今、僕は考えたけれど心では思わなかった。無意識のうちに、「脳」と「心」を分けていたのだろうか。
 否、そんなはずはない。心は存在しないし、心で思うイコール脳で思うのだから、分離などできるはずもない。というのが常識だが、生憎今の僕に常識の二文字はない。どうやら、脳と心を分けるのは僕の力の範囲内らしい。
 これは便利だと思った。だから、僕は深く考えないうちに、脳と心を分けてしまうことに決めていた。




 気がつくと朝だった。いつの間にか、肉体と精神は再会を果たしており、ちょっとした感動を覚える。
 病院での目覚めは、これが二回目だ。一回目は物凄く不快なものだったが、今回はばっちり起きることができた。時刻を見ると、短針と長針、両方とも六を指している。まあ、細かいことを言えば長針は時刻の関係上若干ずれてはいるのだが。
 日光が白い世界で煌めき、僕の瞳に飛び込んでくる。眩しさに眼を瞑り、すぐ開く。白の間を行き交う光は平和と希望の象徴のように思えた。けれど、今の僕には、それが僕のこれから歩む道を嘲り罵る「真っ白な闇」にしか思えなかった。闇が黒いとは限らない、などと詩人めいたことも思い浮かんでくる。
 かちゃり、と扉が開かれる。足音で分かった。祐だ。

「おっはよー」

 懐っこい笑みで挨拶をすると、軽く手を挙げて見せる。この挙手は、イケメンだけに許される特権だ。平凡な僕からすると羨ましい。

「しっかし、健二がこんな早起きになっちまうとはなぁ」

 困った困ったと頭を掻く祐だが、この時間に病院にくるということは相当な早起きをしているはずだ。だが、そのことを決して彼は仄めかさない。彼は、人に甘すぎるくらい優しくて、代わりに自分をとことんまで追い込む人間だ。損な性格だ、と思う。そこまで苦しめなくても、彼は十二分に素晴らしい人なのに。

「……あのさぁ」

 祐が申し訳なさそうな表情で近づいてくる。頼むから、そんな顔をしないでくれよ。反射的に心でそう唱えた。あっ。

「あ、ごめん」

 申し訳ないような、寂しいような、そういう雰囲気で話しかけてしまったことを悔いているのだろう。彼は、人に対してとても繊細な人間だ。きっと、今の僕の考えのせいで彼を苦しめてしまった。一人で悩みを抱えてしまう彼を。

「いや、こっちこそ、こんなこと言ってごめん」正確には、思って、だ。「で、続けて?」
「うん。あのさ、健二、なんか、隠してない?」今度は、殊更明るい口調だ。無理をさせてしまっている。ごめんね、と脳で呟く。

 薄々は、彼が何を言いたいのか分かっていた為、それほど驚きはしなかった。
 暫く、僕はどう答えたものか迷っていた。祐は、静かに僕の返答を待っている。いつもの、穏やかな笑みを湛えながら。
メンテ
Re: 絶望に光を灯して ( No.8 )
   
日時: 2012/12/01 21:49
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:fV/nHnCw

 とりあえず言えることは、自分は病気などではないということであった。しかし、そうすると自分の目覚めた能力のことを話さなければならなくなる。それは避けたい。それを言ったら最後、祐は僕のことを妙な目で見てくるに違いない。――否、それを証明できれば、寧ろ賞賛されるかもしれない。だが、どうやってそれを表現すればいいのか分からない。
 試しに、テーブルの上のコップでも動かしてみるか……?
 動け、と僕は脳で念じる。だが、失敗。今度は、もう少し具体的なイメージを持ってトライする。端っこにおいてあるガラスのコップを、真ん中の方へゆっくり移動させろ。

「え!?」

 僕と祐は同時に声をあげた。コップは、僕の思い描いた通りに行動してくれたのだ。ということは、物体を動かすには明確なイメージが不可欠、ということになる。一歩前進だ。

「何と言ったらいいのか、これが、入院の原因なんだよね」

 証明の方法を見つけ、僕は早速祐に報告する。途端に、祐の瞳がきらきらと輝き、顔に満面の笑みを咲かせて僕を見た。ちょっと、照れ臭い。

「祐すげーよ! え、どうやったの、え、っていうか、何でこれで入院?」
「順を追って説明するとね」

 ある日突然超能力に目覚め、知らない間にその力を乱用していたことで脳内エネルギーの活動が異常になり、ばったり倒れて入院。病院は超能力だとは夢にも思っていないから、原因不明の不治の病と断定して僕を病人にした。が、僕は入院中に自分が持った力に気づき、現在に至る。

「と、まぁ……こんな感じ」
「凄いなぁ。え、他にどんな力が使えるの?」
「幽体離脱と、さっきのコップを動かすやつと、物体を無視して音を聞き取るものと、心で思ったことを相手に伝える……テレパシーっていうやつ? くらいかなぁ。今のところ分かっているのは」

 説明したところでおそらく分かってくれないであろう、心と脳のことについては黙っていることにした。
 一通りの説明を終えると、祐は感動し切った様子で、何度も大きく頷いていた。よかった、と安堵する。信じてくれない可能性もあったのだから。
 僕たちは暫く黙っていたが、それは決して不快なものでなく、信頼しあっているもの同士特有の優しい静寂であった。外から、徐々に強さを増していく朝に光が差してくる。それはまるで、分かり合えた僕たちを祝福するかのようであった。
 僕たちは暫しの間談笑をしていたが、やがて僕は重大なことに気がついた。
 ……あ、祐、学校は? 遅刻させるわけにはいかない、と思い、いま何時だろうと時計を見ようとした刹那、僕の脳内にぱっと時刻が思い当たった。七時半。もしやと思い時計を見れば、案の定その時間。僕の新たな能力らしい。それを教えようかと思ったが、そろそろ病院を出ないと学校に間に合わないので僕は彼に時を知らせる。

「え、まじで? うわっ、ありがと、じゃ、また来るわ!」

 手を振って駆け出す彼に、心で別れを告げれば、それがテレパシーだと彼は気づいたらしく手を振り上げてグーサインをしてきた。
 祐をこれ以上苦しめなくてよかった、と感じたら、急に眠気が襲ってきて、僕はそのまま目を閉じた。
 あのときの悪夢を思い起こしたのは、このすぐ後のことだ。
メンテ
Re: 絶望に光を灯して ( No.9 )
   
日時: 2012/12/23 17:32
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:B/NzpDhM

『どうやら、気づいたようだね』

 僕とは眼を合わせずに、小さく彼は呟いた。
 夢の中で再び彼と出会ったとき、僕の脳裏に第一回目の悪夢が蘇った。彼から正体を告げられているせいか、最初ほどの衝撃はない。人間とは、慣れる生きものなのだ。
 世界は相変わらず真っ暗だ。彼の立つその場所だけが、妙に白っぽい。通常、白は全色の中で最も明度の高い色であるが、この白は明るいと同時に、絶望しそうなほど暗い。あえて例えるなら、仕事用の手帳の書き込みが少なく白ばかりが目立つ、というような。その空白の眩しさが、心を焦らせ、どうしようもない虚無感を覚えさせるのである。

 夢は人間の深層心理が現れるともいうし、漫画の世界なんかでは予知夢として登場することもある。この夢は後者の方だが、彼のいる世界が暗黒に閉ざされていることを考えると、夢の世界に住む彼の心を映し出している可能性も考えられる。いずれにしても、僕の予想が正しければ「彼イコール未来の僕」で、「彼の世界が暗いイコール僕の未来は暗い」だ。
 彼は、以前よりやつれている気がした。僕の住む世界の時間が流れれば、彼の住む世界もまた、前進していくのだろうか。そうでなければ、いずれ僕は彼を追い越してしまうこととなる。彼が僕の未来なのであれば彼の姿も多少は変化があるはずだ。軟弱な身体になっていることは少々僕の心を苦しめたが、姿の変化は未来の彼が、すなわち僕がまだ生きていられる証だ。未来は変えられるというし、健康に生きようと、力を乱用しないようにしようと心がければ、身体の変化に関してはなんとかなるかもしれない。

『けれど、総てを知ったわけではない』
「そうだね」

 彼の言葉に相槌を打つ。この発言で、彼はようやく僕と視線を交わしてくれた。が、僕は目線を外したくて仕方が無くなった。彼の総てを諦めきった表情を見ていると、なんとも居た堪れない気分になるのだ。将来このようになると考えるだけで、じわり、と心を闇に浸食されていく気がする。

『ヒントをあげるよ』

 僕の想いを悟ったのか、彼は目線を外した。ちょっと申し訳ない。
 とはいえ、ヒントをくれるとはなかなか優しいじゃないか、良心も残っているんだなぁと感じたところで、僕は慌ててその考えを否定した。
 ヒントっていうか、全部教えてよ。もったいぶるなっ。

『力の種類は、大きくまとめて七つ。今のところ君は、こうして夢で僕と会話をしたり、さっきのように時刻が分かったりする『予知能力』と、障害を越えて音を聞き取れる――他の力はまだ見つけてないけれど、特別に言ってあげるよ――『五感に関する能力』、『幽体離脱』、それから物体を動かす『念力』、『テレパシー』の五つ』

 ということは、既にかなりの能力を発見しているということか。ただ、五感に関するものや予知能力はまだ隠れた効果がありそうだ。前者は、あと四つは確実にあるはずである。
 こんなに彼が長く話したのを、僕は初めて聞いた気がした。まあ、これはヒントだし、長くなるのは仕方がないか。今までの会話を思い出すと、彼は必要以上に多くを語らないようであるし。

『あ、あとさ。君が考えている、脳と心を分けてうっかりテレパシーを使わないようにしよう、っていう考え方だけど、これはなかなかいいアイディアだよ』
「え、なんで」
『テレパシーは、乱用しやすい能力でさ、最初のうちは。ほら、例えば、「母さんにプレゼント買ってあげよう」とか思うでしょ。そうすると、想いの対象は母親になるわけで、伝えるつもりはないけれどその対象に通じちゃうってことが結構あるんだよね。だけど、脳と心と分けるとそれがなくなって、サプライズも成功。秘密も守れるといいことだらけ』

 前言撤回。彼は、結構お喋りでした。

『さて、言いたいことは言えたし、暫く僕は向うに戻っているよ』

 彼の周りの白が消えて、再び僕は完全な眠りに落ちた。ただし、今度は目が覚めても夢のことを覚えていた。
メンテ
Re: 絶望に光を灯して ( No.10 )
   
日時: 2012/12/26 15:35
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:TtCsv0nk

 深みに沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上してくる。混沌とした世界が、徐々に明確さを増してくる。事実上、まだ寝ている僕は無意識の中で完全に目覚めた。状況を確認しなくても、一度知った感覚だ、すぐに理解した。再び、僕は実体と精神が分離したのだ、と。
 瞳を開く。眩い白が僕を出迎えた。振り返れば、僕は寝息を立てている。もう、すっかり見慣れてしまった景色だ。
 せっかく幽体離脱したのだから、この状況でどれだけの力を使用できるのか試してみようと、僕はふと心に思った。それから、しまった、と僕は心に呟き、それである一つの事実に気がついた。

 ――肉体と精神が別れている最中は、脳と心を分けることができないのだ。

 脳で思ったことは相手に伝わらず、心で思ったことはテレパシーとして通じてしまう。おそらくだが、「脳」が肉体で「心」が精神なのではないだろうか。だから、肉体と交信が途切れている今は脳で思うことができない。きっと、そういうことなのだろう。

 ――否、それはあり得ない!

 僕は慌てて自分の考えを否定した。初めて脳と心を分けたそのときが、まさに幽体離脱中だったではないか。
 だとすると……どういうことなのだろうか。どんなにがんばっても、イメージを固めても、脳と心は分かれない。何か、違いがあるのか?
 強いて言うなら、前回は夜で今回は昼だ。そして、前回は近くに人がいて今回は無人。何が関わっているのかを明確にするためにも、起きている間の情報をもう少し集めるべきだ、と一先ず結論付ける。
 そしてもう一つ。初めて幽体離脱を経験したとき、近くには看護婦さんがいた。そのときに、「きっと同年代の子供がいるのだろう」といった類のことを感じた記憶があるのだが、その想いは彼女には届いていなかった。つまり、現在は二つの能力が使えていないこととなる。

「ならば、他の力も使えないのか……?」

 僕は簡単に推測し、最も手軽に試すことのできる能力――念力を使用する。物体は、先ほど動かした、ガラスのコップだ。あれは、僕の力で移動することが証明されている。

 真ん中に置いてあるガラスのコップを、ゆっくり端っこに移動させろ。

 静かに念じ、物体が動く具体的なイメージを心に刻む。だが、コップは一ミリも動かない。もう一度、より正確に想い描き挑戦したが、結果は変わらなかった。
 これも推測だが、コップを動けと念じた声は祐には届いていなかった。あのときはコップを動かす事だけに集中していた為気づかなかったが、よく考えれば心で唱えたなら誰かに声が届いてしまっていたかもしれないのだ。それとも、対象がコップだっただけであってテレパシーは発動していたのか?
 いずれにしても、離脱中に念力が使えないことは完全に証明された。今はそれだけ分かれば十分だ。

「さて……」

 意識だけがはっきりしている今が、外出のチャンスだろう。僕はふわふわと漂いながらドアの方へ向かい、開ける直前で留まった。
 肉体がないのだから、ドアを開けることができない!
 さて困った。念には念をとドアに触れてみたが、思うように掴めない。僕の手はドアに触れているが、触っているという感触がない。
 仕方がない。ちょっと怖い気もするが、壁をすり抜けるしかないようだ。幸いにも、感覚がない為窓からすり抜け下に落ちても痛みはなさそうである。
 
「よし……っ、」

 覚悟を決め、思いきり窓に向かって突進する。ぶつかる直前、恐怖のあまり目をつぶったが衝撃はなかった。安堵感を覚える。も、それは一瞬のこと、目を開けた瞬間、総て真っ白になった。覚悟していたとはいえ、地上に向かってまっさかさまは恐怖以外の何物でもない。興味がなかったため訊きもしなかったが、どうやら僕は五階の病棟にいたらしい。そこからの落下は、想像以上に時間がかかった。僕は現在意識だけの状況だし、重みという重みがない為、ティッシュペーパーのようにひらりひらりと落ちているのかもしれない。だんだん落ち着いてくると、地面が近づくスピードが心なしか遅く思えてきた。

 はっと気が付いたら、落下が終わっていた。足は地面に着いておらず、数センチ浮遊している。病室とあまり変わりはない。
 とりあえず無事に地上に降り立ち、今度は一気に病室に戻ることができるか挑戦してみた。最大限の想像力を働かせ、膝を曲げ、腕を振り下げ、力いっぱい空に向けて飛び立つ。ふわ、っとした何かを感じ、気がつくと病院の二階ほどのところにいた。そこから、再びひらひらと落ちて行く。再び、上に飛び立つ。今度は四階。全力で飛べば、二階分、おそらく、五メートルほど飛べるらしい。今度は、弱めの力で飛ぶ。丁度窓のところに来た。僕が寝ているのが見える。窓の方へ進むと、その間に落下して目の前に壁が迫った。慌てて浮上し、今度はうまく窓にダイブする。無事、病室に生還。

「あとは、どうやって肉体に戻るかだけど」

 試しに、肉体に飛び込んでみる。が、身体を突き抜け、ベットも突き抜け、床数センチのところまで来てしまった。残念。この方法では戻れないようだ。
 意識が抜けている以上、僕が目覚める心配はないので、時間を掛けて方法を探ることができる。その点は安心だ。

「前は、気がつくと戻っていたからなぁ」

 時間が経てば、戻るのか?
 よく分からないが、今はそれしか思いつかない。仕方ないな、と僕はベットに腰掛け、静かに目をつぶると時が経つのをただ待った。
 頭に時刻が刻まれていく。これって……能力の一つだよな……? 離脱中でも、時間は分かるのか……。
 ぼんやりとそう思い、再び目を閉じる。
 気がつくと僕は病院のベットで寝ていた。三時間ほど時が流れている。どうやら間ている間に寝てしまったようであった。高校生は、眠くなくても寝れてしまうという能力を誰しもが持っているのである。
 ああ、また分からないままに再会してしまった。
 超能力は、よく分からない。
メンテ
Re: 絶望に光を灯して ( No.11 )
   
日時: 2013/03/23 12:31
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:Kfrz6HEE


 前回は夜だったため気づかなかったが、正常な状態と離脱状態では見える景色の色が微妙に違っていた。今の方が、圧倒的に美しい色合いをしている。差し込む光の色、茂る緑の色、歩く人々の服の色、何より、空の色が。
 離脱して初めて分かったことだ。
 世界は、こんなにも色で溢れているのだと。
 こんなにも素晴らしい世界に、なんの感動も覚えていなかったのか、と。
 心が、ふるえている。恐怖ではなく、生きていることに対する喜びにだ。僕は、いままで何も知らずに、何も気づかずに人生を過ごしてきた。友人と笑い合ったり、喧嘩したり、家族と過ごした日々は、僕の中での大切な宝物ではある。
 けれど、それを盛り上げていてくれたのは、他でもない、周りの景色ではなかったか。

 楽しい時は、世界も凄く輝いているように見えた。
 悲しい時は、空も一緒に泣いているように見えた。
 穏やかな時は、自然も微笑んでいるように見えた。
 
 暫く景色に見とれていた僕は、そこで再びある事実に気付く。

 ――肉体と精神が出会っている今も、脳と心を分けることができていない。

 世界が急速に冷めていった。ああ、このままでは、僕の声は聞いてくれる人を求めて彷徨ってしまう。
 僕の言葉は、勝手に人に届いてしまう。
 僕の言葉は――。

「健二、あんたさっきからぶつぶつ呟いて、どうしたの?」

 え、と振り返ると、いつもの鞄にリンゴを入れた母の姿があった。いつのまに来たのだ、と思うと、「たったいま」と返事が返ってきた。畜生、脳で呟くことができない……。

「脳で呟く?」
「あ、なんでもない。気にしないで、母さん」

 僕は静かに微笑んで、「リンゴ買ってきてくれたんだ」と言った。
 
「え」

 固まる母は、更に「なんで分かったの」と継ぐ。
 僕も青ざめた。リンゴがある、というのは僕の感覚の話で、鞄のみを見ようと思うと中身はまったく分からない。
 当たり前だ。中身が丸見えでは、鞄の意味がない。
 おそらくこれは、五感の視覚に関する能力――透視だ。

「透視……?」
「あ……」

 仕方がない。ここは、すべて話すことにしよう。





「……ってわけ」
「ん、要するに、倒れたのは超能力を乱用していたからで、たぶんそれはテレパシーで全然知らない人のところに届いていて、とりあえず今は、透視や念力が使えることが分かっているのね」
「そういうこと」

 無言になった母に僕は何も言えず、ただじっとその姿を見ていた。
 その間、脳と心を分けることができなくなっていたため「何も考えない」という原始的な方法を用いていた。

「よく分からないけど……コップが動いたのは事実だしね。原因が分かった以上、入院しても仕方ないし、先生に言って退院させてもらおうか」
「あー、うん」

 母に話したことで、病院とはおさらばだ。
 そこから先生との話し合いで、とりあえず明日は様子を見て、大丈夫そうであれば明後日から学校に通っていい、という了承を得た。
 久しぶりの学校だ。祐にも連絡を入れておこう。
 冷たかった世界も、少しだけ暖かみを取り戻していた。
 やっぱり、僕は学校が好きだ。
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
パスワード (記事メンテ時に使用)
コメント

   クッキー保存