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[32] 第十回イベント板一時間小説祭
   
日時: 2013/02/25 01:56
名前: ひかげ ID:2SLgOiF6

【第10回イベント板一時間小説祭】

企画説明:一時間でお題に沿った小説を執筆し合い、みんなで感想の書きあいをします!
参加資格:誰でも参加できます! どんどん参加してください!
日時:2月25日(月)、00:15開始
その後チャット会・感想提出、遅れて提出されても全然大丈夫です!

場所:このスレッドです!

お題:「ペット」です。


字数制限は一切ありません。

感想:このスレッドにご自由にご投稿ください。

提出作品目次:
>>1「ウィトルウィウス的人体図の消し方」ただのホモさん
>>2「リグレットを猫に託して。」ただの空気さん
>>3「DD.Pets.」ひかげ
>>4「彼女の正しい飼い方」あなたが考えた必殺技さん
>>5「猫の恩返し」8823さん
>>6「玩具にくちなし」江里瀬さん
メンテ

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DD.Pets. ( No.3 )
   
日時: 2013/02/25 01:19
名前: ひかげ ID:2SLgOiF6


 一言「待て」といわれればいつまでも従順に玄関で待っている、彼はそんな男だった。男は基本的に犬が多いように思える。むしろわたしが猫のような男を男として認識していないだけなのかもしれないけれども、しかし犬性猫性(と仮に名づけるとするならば)それはサディズムマゾヒズムと同じようにどちらかに極振りすることは適わず多くの人間はその両方の要素を持っているものだ。しかし冒頭述べたように彼は犬のような人間だった。十八番は「持ってきて」で、いつでも彼はわたしの期待を裏切らなかった。ご飯が食べたいといえばすぐになにか作ってくれ、今日発売のファッション誌がほしいといえばすっ飛んで買いに走ってくれる。きっとわたしが嫌いな人(そのような人はほとんどいないのだけど)を殺してといえば彼は忠実な猟犬として役目を遂行するだろう。
 いま彼は何をしているのだろうか。犬は主人が不在の間はどうしているのが普通なのか。わたしが散らばした家の中を綺麗に掃除でもしているのか。悪戯でもしようと画策しているのか。それとも寝ているのか。
 答えは着信を知らせるバイブ音と共にディスプレイに現れた。

  ■

 九時十七分。「卵と牛乳を切らしたから買ってきてくれない?」と彼女にメールした。返信は期待していない。ただでさえ不精な彼女がこんな事務的なメールに返事をよこすとは思えなかった。ぐつぐつと泡を吹く鍋からはトマトのにおいが漂っていて、彼女は玄関をあけたとたん眉間に皺を寄せるだろう。しかし彼女は文句など言いはしない。彼女は僕に横暴な頼みごとをすることはあっても、愚痴や不満を漏らすことはないのだ。それは彼女の見栄なのかプライドなのか、はたまた彼女にはそういうった感情がそも存在しないのか(もちろんそんなことはありえないというのはわかっているのだが)。おそらく彼女が眠りに落ちる前に僕の服の裾を掴むとき、それが彼女の危険信号なのだ。そういうときに、無理に抱きしめたり優しい言葉をささやいたりするのは無粋で、そっと彼女の体温に少し近づくのが、正しい距離感なのだと、僕はそう思う。
 床に落ちたファッション誌をソファのしたのトラックにしまって、椅子にすわった。僕はカーペットを敷いて床に座りたいといったのだけど、彼女がこっちがいいといった背の高い椅子だ。最初は落ちそうで怖かったけれど次第に慣れて、床に届かない彼女の足がプラプラと揺れて僕を蹴る。そういうとき彼女はご機嫌で、料理もパクパクと食べてしまう。
 時計はまだ九時十七分を差していて、近づいてみると秒針が上にあがろうとしては重力に負けていた。

  ■

 家に着くとトマトのにおいがしてピクピクと頬の筋肉が動いた。ドタドタと走り寄ってくる彼を無視してカバンを放り捨て手を洗う。「おかえり!」わたしのカバンを手にした彼が、わたしの後ろに立つ。鏡に彼の姿が映って気が散った。「今日の晩御飯はね、トマトのミネストローネにパンにカルパッチョだよ」「そう」ぴったりとわたしの後ろを彼はついてくる。かわいいやつめ。しかし彼の声が犬の鳴き声に聞こえて仕方がない。ワン、ワンワンワン。そんなことを考えると可笑しくなって、スーツを脱ぎ捨ててソファに転がり込んだ。「もう皿並べていいよね」無言は肯定。と彼はいつ学習したのだろう。わたしは未だに彼からのメールを一読しては削除している。メイクで顔が重いけど、食欲には勝てない。無理をいって買った椅子の上であぐらをかいて(つまりパンツスーツをたくし上げて)食事を眺めた。すばらしい。「ストッキング破けるよ」と彼が半分あきらめ口調でいったが、わたしはいい感じに冷めたスープを掻きこむのに夢中になる振りをした。

  ■

 時計の電池も買わないとなあ。と僕は彼女の寝顔を眺めながら思った。無防備な首筋に触れると、マニキュアをしなくても十分に綺麗な爪が僕の腕に付きたてられる。しばらく彼女の爪が表皮に食い込む感触を楽しんで、寝返りを打つ。今度は僕の首に、彼女の手が這った。「首輪みたい」と彼女が呟くのが聞こえた。「起きてたんだ」「寝てたよ。君が起こしたの」「ごめん」謝ると、彼女の手が僕の喉仏をなぞった。「もっかい言って」「ごめん」きっと彼女は、僕の「ごめん」ということばに咽頭が震えるのがすきなのだ。だから彼女は、僕にごめんと言わせるようなことをいう。
 朝になれば、彼女はぴったりと僕にくっついている。時計が壊れているので、朝起きれるか心配になった。

  ■

 朝彼が起きる前に目が覚めて、コートを羽織ってコンビニまで出かけた。卵と牛乳と、それから単三電池をレジに出す。朝方の店員は無愛想で、少しむっとした。雨が降りそうだからもってきた傘を忘れかけて、でも忘れなかった自分にうれしくなる。家に帰ると彼が泣きそうになっていた。でもわたしは泣かれるのが嫌いだって彼は知っていたから、彼は必死に涙をこらえているのだ。かわいいね。かわいいのだ。「ごめんね。ちょっとびっくりさせようとおもって。ごめんね」あれ。わたし謝ってる。なんで。「ほら、昨日牛乳と卵、忘れたわけじゃないんだよ? ね?」どうして普段は使っていない、ソファの前に置かれた低い机の上にレジ袋の中身をぶちまけていた。「電池もあるよ? あっ。卵」そのせいで、卵のひとつが割れてしまう。「ごめん。僕こそごめん。」「いや、ごめんね。急にごめんね」なにがごめんね? にじんだ視界の中で時計が見えた。九時十七分。

  ■

 目覚めると彼女がいなくて、叩き折る勢いでケータイを開いてもなんのメッセージも残されていなくて、絶叫しそうになりながらリビングに出たところで彼女が帰ってきた。手にはコンビニのレジ袋を提げていた。僕の目にたまった涙を見て、彼女がオロオロとしはじめて、「驚かそうとおもったの」と机に卵と牛乳と単三電池をぶちまけた。僕はもう正直動揺なんてなくて、ただの涙の余韻が目に残っているだけだったのだけど、彼女のそんな姿は初めてだったから、もう少し彼女を見ていたくなった。「ごめんね」と何度もいう彼女に、僕も「ごめんね」と返すと、彼女はますますオロオロとして、普段僕から「ごめん」のことばを引き出そうとしている彼女ではないようだったけど、それでもやっぱり顔を覗き込むと彼女の顔だったので、こつりとおでこをぶつけてみた。スイッチが切れたように彼女はピタリと動きをとめて、「おなかすいた」とつぶやいた。「じゃあ、卵つかおうね」彼女はこくりとうなずいた。
 時計は九時三十六分。スクランブルエッグを彼女と食べた。皿を洗う僕の横で、カーテンをひいて朝日を浴びる彼女は猫みたいだと、僕はおもった。
メンテ
彼女の正しい飼い方 ( No.4 )
   
日時: 2013/02/25 01:30
名前: あなたが考えた必殺技 ID:aYPZ7GW6

「あ、おかえりなさい。ごはん出来てるよ」
「ああ」

 帰宅と同時に嬉しそうに駆け寄ってきて、頭の後ろで高く結い上げた尻尾をふる。
 幼馴染はこの春から無事に進学が決まって、その元気さに拍車をかける。家の掃除や炊事などを引き受けてくれるという条件で合鍵を渡してからというもの、女房さながらに俺の世話を焼いてくる彼女だが、どうしても懸念を抱かずにはいられないのだ。

「なぁ……お前って、俺の何?」
「な、何って……幼馴染で……その。か、彼女のつもりなんだけど……?」

 言いにくそうにうつむき、自分の指をいじっている姿は、どこか小動物を思わせる。時折こっちの反応を確かめるために上目遣いをしてくるから尚更だ。

「な、何でそんな事聞いてくるのかな?」
「いや、別に」

 話を切り上げようとする俺に自称彼女は不満顔を近づける。

「別にって顔じゃないなあ、何か言われたんでしょ?」

 こんな時ばかり勘が鋭い。彼女の親は俺のことをあまり快く思っていないらしく、事あるごとに口を出してくる。まあ、今回言われたのはどちらかと言えば彼女の事だ。教えてもかまわないかも知れない。

「娘をペット扱いするなってさ」
「ええっ、私、ペットなの!?」
「そうだな」
「ちょっ」

 時々、本当にそうなんじゃないかと思う事がある。だから俺は言い返せなかったのだ。
 不満げに声を上げた彼女にも、思うところがあるらしく、尻尾も元気なく垂れ下がるから、俺には頭を撫でてやる事くらいしか出来なくて。
 嬉しそうに目を細める彼女は本当にペット染みて見えるのだ。

「……誰にでも尻尾をふるなよ?」
「しないよ、そんな事。……もししたらどうなるの?」

 そんな事を真顔で聞いてくるものだから、俺の顔はきっと情けなく歪んでいたのだろう。今度は彼女が俺の頭を撫でる。
 まったく、ダメな飼い主だ。

「そうだな。そしたら首輪でもしなきゃダメだな」

 そう言って彼女の白く細い首筋に指をまわす。そのまま力を込めてしまえば容易く折れてしまいそうなのに。彼女はとても嬉しそうで。

「何で笑ってんだよ」
「だって、嬉しかったから」

 きっと俺の顔にもその色は移っているのだろうから、背けた顔を戻す事は出来なかった。
メンテ
猫の恩返し ( No.5 )
   
日時: 2013/02/25 01:54
名前: 8823 ID:BO60kIB2

 それはまさしく直感のようなものだった。
 学校へ向かう途中、交差点で止まっている僕へ「こんにちは」と声がかかった。振り向くと同じ制服を着た女の子が立っていた。少し年上かもしれない。にこにこと愛嬌のある笑みを浮かべている。僕は彼女にまったく見覚えがなく一瞬「誰?」と思ったが、そこで不思議な直感が働いた。
 一年前――12歳の時に一匹の子猫を助けた記憶が僕にはあった。小学校の帰りにある空き地の前を通ったとき、フェンスの破れた所に子猫が引っかかって動けなくなっているのを見つけた。僕は家からペンチを持ってきてその猫を助けてやったのだ。鈴がついていたのを覚えている。誰かの飼い猫だったのかもしれない。
 そして今目の前に立っているこの少女はまさしくその猫だろうと僕は直感的に確信した。どことなく猫っぽい雰囲気が彼女にはあった。屈託のない笑顔は今にもにゃーと鳴きそうな感じがした。きっとこの子は人間の姿になって僕に助けてもらった恩を返そうというつもりなのだろう。猫の恩返しだ。
 信号が青になり僕と彼女は横に並んで歩きだした。「えーと誰ですか」ととりあえず僕は言った。「田中山花丸子」と彼女は言った。冗談のような名前だ。「何年生?」「ん? ……三年」「じゃあ先輩ですね」
 僕が一瞬にしてその子の正体を見破ったことは気付かれないほうが望ましいだろう。それに、一年前に{この子を}助けたとき僕にあったのは猫に対する愛情や親切心などではなく、たまたま一緒に歩いていた女の子に猫を見捨てることで薄情な印象を与えたくない、あるいは助けることで優しい印象を与えたいという考えだった。その子は私立中学に行ってしまって交流という交流ももうないけど。とにかくそういうわけだから人間に化けたこの猫の恩返しを素直に受けるつもりも僕にはなかった。
 女の子は楽しそうに「わたしのこと覚えてない? 覚えてないよね」と言って笑った。
 学校に着くとその子は「じゃあね」と言って校門を通ることなくわき道に消えていった。やっぱり。

 ☆

 放課後になり校門を出るとその子が待っていて、僕を見つけると素早い動きで近づいた。「あのね、ちょっと一緒に寄ってほしい所があるんだけど」
「すみません、今日塾なんで」と僕は言って歩調を気持ち速めた。確かに今日は塾だったがその時間までには余裕があったし彼女についていくことはできたが僕はそんなことはしなかった。
「大事なことなの」と彼女は僕の横をついてきてそう言った。「それにたぶん、けっこうすごいものが見えると思う」
 すごいもの? 何だろう? 僕は気になったが内心で首を振った。僕があのとき誠実な気持ちで彼女を助けていれば素直についていっただろう。しかし僕にはその資格はないのだ。
 僕は立ち止まり、諦めたように「分かりました。鞄を家に置いてくるのでここで待っててください」と言った。彼女は全身で喜びを表した。尻尾と耳が見えた気がした。
 僕は交差点で彼女を置いていった。
(自習室はあいているかな)

 ☆

 授業は長引き、塾を出たときには夜の十一時になろうとしていた。家には遅れると連絡していた。
 早足で家へと夜の道を向かう途中、交差点で、電灯が灯す暗闇のなかじっと待っている彼女を見るまで、僕の意識から彼女のことは完全に抜け落ちていた。
 彼女は明らかに焦っているようだった。ひょっとしたら、人間になれるのは時間的な制限があるのかもしれない。そして、一度猫に戻れば二度と人間に戻ることはできないのかもしれない。
(だとしたら、かわいそうだよな)と僕は思った。
 交差点が青になり、僕は横道をそれることなく、横断歩道を渡って彼女に近づいた。彼女は僕の手をとり、「急いで」と言って思ったより速いスピードで走り出した。道路を渡り、商店街を抜け、坂道を登って向かった先は僕が彼女を助けたあの空き地……ではなく、その空き地の横から続く細い山道だった。
 満月の照らすなか僕らは落ち葉を踏みしめて山道を進んだ。そこで僕は、握り合った彼女の手の暖かい感触がしだいに変わっていっていることに気付いた。それは明らかに体毛の柔らかさだった。
 そして彼女は声もなく泣いていた。僕を引っ張って行く彼女の顔は見えなかったがそれは明らかだった。「どうして泣いているの」と尋ねることはできなかった。気が付くと僕の手から柔らかい感触は消えていた。ちりん、と悲しげな鈴の音がどこかから聞こえた。
 僕はしばらく途方に暮れていたが、生い茂る木々の隙間から漏れる青い月明かりが視界の向こうで特に明るくなっていることに気付いた。そこへ向かうと崖になっていて危うく踏み外しかけた。しかし林が開けており、そこからの光景に僕は目を見開いた。
 夜の街が、月の発する柔らかい青色のオーラに包まれて海のように見渡す限りに広がっていた。ぽつぽつと点在する家の点りは蛍のような何かが飛んでいるようだった。
(彼女が見せたかったのはこれだったんだ)
 僕は感動しながら、しかし心の底で彼女への罪の意識にいっぱいだった。
 
 ☆

 翌朝僕はいつものように家を出て学校へと向かった。
 交差点で止まっていると、店の間の茂みに隠れて一匹の猫がこちらを見ていることに気付いた。その首には鈴が下がっている。
 僕はその猫に近づいた。猫は上目遣いでじっとこちらを見つめている。
「ありがとう。すごいものが見れたよ」と僕は言うと、猫はにゃーと鳴いた。




メンテ
玩具にくちなし ( No.6 )
   
日時: 2013/02/25 01:55
名前: 江里瀬 ID:Kz.JC1kk

 いつからそんな風な気持ちを抱いていたのかは覚えてないのだけど、小学校の時、クラスメイトのさやちゃんという女の子が好きだった。あの頃は幼かったから、ちょっと二人きりになった時、ねえねえわたしさやちゃんのことが好きなのよ、と言ってしまうぐらいだった。するとさやちゃんは、嬉しいよと言って、わたしにいくつか質問をした。好きな食べ物はなあに? 嫌いな食べ物はなあに? その二つだった。前者には、お母さんの作るオムライスが好きだよ、と答えて、後者には、ピーマンが嫌いだよ、と答えた。ふうん……と、さやちゃんは微笑んだ。わたしの好意を聞かされて、どうしてそんな質問をわたしにするのかわからなかったのだけど、それじゃあ今から私の家に来て、と首を傾げながら差し伸べられたさやちゃんの手のひらが、頭の中をふわりとした恍惚で満たしてしまって、質問の意味なんてわからなくってもいいやって、あどけなさが違和感たちを優しく消してしまっていた。
 そう思ったのだけど、さやちゃんはわたしを部屋に連れて行くと、わたしの両手首を後ろで重ねて紐で縛り、それから私の両足首を縛った。わたしは、どうにか使える口を使って、ねえ何をしているのさやちゃんと、笑いながら言った。わたしの唇がそれでも三日月形を維持できたのは、きっとそれでも、これは遊びの一つなのでしょう、というさやちゃんへの期待と確認を宿していたからだった。さやちゃんは、そうよ遊びよと答えて、ちょっと待っててねと部屋を出ていき、それから少しして、一枚の皿を持って部屋に戻ってきた。わたしと同じ目線の高さにしゃがむと、皿の上に乗っている物が見えた。ピーマンだった。皿の上に添えられていた箸を掴んださやちゃんは、ある程度の大きさに切られて並べられていたピーマンを一つそれで挟み、わたしに、あーんと言って差し出した。ねえねえさやちゃん、ちょっと待ってよ、どういうこと……? わたしは問うた。いいじゃないいいじゃない、ねえ食べてよ。わたしのこと、好きなんでしょう? だったら食べれるよね。はいあーん。
 わたしは仕方なく、直前つばを飲み込むと、差し出されたピーマンを口にくわえ、咀嚼し、飲み込んだ。嫌いな食べ物が舌の上で転がる時、そして喉を通って行こうとするときの、あまりにも気色の悪い、競りあがってくるような嘔吐感は、さやちゃんの前だからというそれだけのために、なんとか微笑むことで諌めた。さやちゃんは続いて、まだ皿の上で待っていたピーマンを箸でつまんで、じゃあ次ね、と言って、はいあーん、と続けた。わたしは口の中に残っていた嫌悪感に、また再びプラスが加わることに恐れをなして、そしてやっぱりどうしてこんなことをするのか考えも思いつかなかったから、それでも笑って、ねえさやちゃん、こんなことに意味があるの? わたし、ピーマン嫌いだって言ったよね、なのにどうしてこんなことするの? と訴えるように言った。さやちゃんは一度、片手の箸と片手の皿を同時に床に置くと、箸を持っていた手で皿を掴んで、皿を持っていた手でわたしの唇を無理やりこじ開けた。その指が触れる時、唇の上をあまりにも強引な感触が襲って、逃げおおせるよりも先に驚きに意識がすっと浸されてしまって、さやちゃんが続けざまに皿の上に残っていたピーマンたちを全て、わたしの口の中に流し込むように入れるのを、成す術もなく受け入れてしまっていたのだった。それから口の中いっぱいになったそれらは、やっぱり嫌いなものだったから、抑えきれず吐き出したいという気持ちは当然生まれたのだけど、さやちゃんはにこにこ笑って、駄目よとわたしの口を片手で押さえつけるように塞いだ。
 身を捩ってその手を払いのけると、噛み切れず飲み込めきれずのそれらが、唾液塗れのまま床に吐き出された。わたしは咳き込んで、驚きと嫌悪に忘れられていた呼吸を肩の上下と共に思い出した。のたうちまわったように転がって、手首も両足首も縛られているけれど、それでも首はまっすぐで、わたしの絶え間ない呼吸の音だけが響き渡る室内に、さやちゃんの存在をもう一度見ようと思うには時間が掛かった。わたしが何度も喉を震わせて咳き込み、やっと呼吸に一定の感覚が甦った気がした時、苦しさに溢れていた涙の滲みと一緒にさやちゃんの方を見ると、さやちゃんは、平坦で、形容しがたく真顔な瞳をもってこちらを見つめていた。
 何してるの、ねえ何してるの。わたしのことが好きなんだから、わたしの言葉くらいちゃんと聞いてよ。それぐらいはいいんだよねって、そういう心があったから、わたしのことが好きだったんじゃないの? 違うんだったら、別にいいんだけど。でも、それならわたし、あんたのこと嫌いになっちゃうよ? あーあ、せっかくわたしもあんたのこと好きだったのになあ。もったいないもったいない。わたしの言葉が聞けないんだったら、ねえ、わたしもあんたのこと、嫌いになっちゃおうかな。
 ね。続き、どうする?
 さやちゃんがわたしにそっと近づいて、わたしの唇を撫でた。





 わたしの頭をお姉ちゃんが撫でた。よくやったわね、と褒めてくれた。お姉ちゃんの手のひらはすごく温かったのだけど、別に温かい手のひらだったら世の中にいつだってあったし、お父さんもお母さんも手のひらはすっごく温かくて、そんな温かさなら日常の誰にでも転がっているようなものだった。だけどお姉ちゃんの手のひらは、そんなどこにでも居座っている乱雑な優しさとはきっと違っていて、何かを包み込むような、優しくて軽やかで、何もかもを許してくれる、そんな包容力のある温かさを持っていた。そんな温かさが大好きだったし、その手のひらをわたしの頭に伸ばして、くしゃくしゃと髪を掻き分けるようにしながら笑うお姉ちゃんのことも、当然のように大好きだった。だから、お姉ちゃんはわたしに、幼い頃からこう言った。
 ねえ、さや。
 わたしのことが大好きだというのならね、わたしの言葉は絶対に裏切っては駄目よ。わたしだって、さやのことが大好きなの。でもね、もしさやがわたしの言ったことを守らなかったり、やって? とお願いしたことをきちんとやり遂げなかったらね、あなたのこと嫌いになっちゃうからね。だから、もしわたしのことを好きだって言うんなら、わたしの言葉は絶対守ってね。絶対よ? お願いね、さや。
 だからね、さや。
 あなたのことを好きだって言う人が現れたのならね。
 あなたが依然そうだったのと同じことをしてあげてね。
 お姉ちゃんはそう言って、わたしの頬にキスをして、抱きしめてくれた。
 わたしは嬉しくって、お姉ちゃんに、わかった! と言って、冷蔵庫に向かった。


 ピーマンはあっただろうか。
 
 
 
メンテ
Re: 第十回イベント板一時間小説祭 ( No.7 )
   
日時: 2013/02/25 02:44
名前: 8823 ID:BO60kIB2

>>ただのホモさん
 えーなにこれ怖い。最初はかわいい話かと思っていたら。そして題名の意味が分からん。
>>ただの空気さん
 いいですね。上手いです。でも、彼女の名前をペットにって少しひどいかも。それでも彼女はいいみたいだけど。
>>ひかげさん
 男は女の前だとたいがい犬ですよね。悔しいけどね。
 男女間の絶妙なバランス。安定しているようですぐにももろくくずれそうな。
>>あなたが考えた必殺技さん
 あー変態やこれ。変態!
>>自分の
 楽しかったです。
>>江里瀬さん
 「ペット」からの発想が怖いですね。ちょっとひかげさんのと似てる?
 ピーマンくわされてる時の描写はけっこう真に迫ったものがあって上手いと思いました。一時間ならではの勢いか。
メンテ

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