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[31] 第九回イベント板一時間小説祭
   
日時: 2013/02/11 01:38
名前: 頑強の戦士鈴木 ID:so7OTIhA

【三連休だよ! 第九回イベント板一時間小説祭】

企画説明:一時間でお題に沿った小説を執筆し合い、みんなで感想の書きあいをします!
参加資格:誰でも参加できます! どんどん参加してください!
日時:2月10日(日)、23:59開始
その後チャット会・感想提出、遅れて提出されても全然大丈夫です!

場所:このスレッドです!

お題:です。


字数制限は一切ありません。

感想:このスレッドにご自由にご投稿ください。

提出作品目次:
>>1「昨日の事故は即死だそうです。」ホモはぶっかけ卒業式
>>2「朝につぶやく言葉」ウルエト
>>3「Wahrheit・Nacht」アナキストin森林
>>4「夜猫」ねみぃ
>>5「廃街マリンスノウ」ひかげ
>>6「贖罪の夜」キモス大佐
>>7「捻れ」寺院仕
>>8「明けない夜」\(^o^)/
>>9「水死体たちのシャングリラ」有理数
メンテ

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贖罪の夜 ( No.6 )
   
日時: 2013/02/11 01:10
名前: キモス大佐 ID:BcwV3rGc

 漆黒の夜の闇、ジャックは森の中で穴を掘っていた。
 昼間殺した女を埋める穴だ。運びやすいようにばらばらにしておいた。
 ジャックという名前は、彼が今まで名乗ってきた数々の名前のひとつにすぎなかった。
 元々の名前は彼自身も忘れてしまっている。
 彼は冒険者で、大陸中を旅して回っていた。訪れた町の冒険者ギルドに加入して、仲間を探してパーティーを結成し、様々な場所へ旅をした。
 そして、彼は衝動を抑えきれなくなったとき、仲間を殺めた。
 女の仲間は徹底的に凌辱してから殺した。男の仲間も徹底的に凌辱してから殺した。
 彼は、性的な衝動を男女両方に向けたし、殺人の欲求に関しても同じだった。
 町から遠く離れた場所へ冒険しにいっている最中は、そのパーティーしか人間がいない、極めて狭い人間関係の中で長期間過ごすことになる。
 そんな状況で、仲間達をみんな殺して、身をくらませてしまえば、自分に嫌疑などかかるわけはなかった。
 死体を埋める穴は、地面に向かって魔法を打ち込んで開ける。道具などなくても死体は隠せる。
 作業中、彼は背中に何者かの視線を感じた。
 とっさに振り向くと、夜の闇にまぎれて、黒いコートに身を包んだ、黒髪の女が立っていた。
 作業のために光属性の魔法で灯りをともしていたため、女の白い肌がありありと目に映った。
 いつから見ていたのだろうか?
 こんな真夜中に、森の奥深くで、自分以外に人がいるなんて信じられなかった。
 見られたことの恐怖に彼は胸が縮みあがった。ともあれ、相手が何者であろうが関係ない。殺すしかない。
 彼は剣を抜き、すぐさま女に斬りかかった。
 しかし、斬りかかる刹那、女の身体はまるで陽炎のように揺らぎ、夜の闇に溶け込んで、消えてしまった。
 幻だったのだろうか?
 彼はしばらく恐怖で硬直していたが、すぐさま大急ぎで死体を埋める作業を再開した。
 今まで自分の犯してきた行為を包み込んで隠してくれた夜の闇が、一瞬にして恐怖の深淵へと変わった。

 それから、彼は町へは戻らず、遠くの地へと旅立った。
 そこで訪れた町の冒険者ギルドに登録して、またパーティーを結成した。
 ここではリチャードと名乗った。
 みんなで巨大なドラゴンを退治した。想像を絶する強敵を相手に、仲間達はボロボロになった。
 彼はパーティーの中で一番積極的に戦ったが、無傷だった。彼は、巨大なドラゴン相手に無傷でいられるほどの実力があったのだ。
 彼は心の底から湧き上がってくる衝動、おぞましい欲望を必死でねじ伏せようと試みた。いつものように。
 そして、いつものように彼の理性は、本能に抗えなかった。
 こんな場所に死体を転がしていては、冒険者ギルドが異常を悟って他の町にも自分のことを連絡する。
 必ず、自分も含む全ての痕跡を消してしまわなければならない。
 今度は誰も人が立ち入らないような渓谷の底にまとめて死体を埋めることにした。
 誰も人が立ち入らないような僻地で、彼は作業を始めた。
 気配を感じて、後ろを振り向いた。またあの女だ!
 彼はまた斬りかかった。しかし、あのときのように女は揺らいで消え去った。
 死体の方に向き直ると、漆黒のコートに身を包んだ女は、積み上げている死体の山の上に浮いていた。
 一筋の冷たい風が吹き、コートの裾をなびかせる。
 彼は無我夢中で剣を振りまわした。しかし、何度斬りかかっても刃が女を捉えることはなかった。
 物理攻撃が効果がないならと、攻撃魔法を放ってみたが、結果は変わらなかった。
 女は消えたり現れたりしては、こちらを無表情な目で見つめている。
 彼は上がった息を整え、剣を鞘に納めた。
「……いい。あんただって、どうせ俺をどうにかすることなんてできないんだからな」
 彼は女が見ている中で、構わず作業を再開した、地面に魔法を打って大きな穴をあけ、そこに死体を収納していく。
「俺にしか見えない幻に何ができる。できるものなら俺を裁いてみろ」
 作業が終了したとき、女の姿はもう消えていた。

 作業中、毎回女は現れた。彼は段々、気にしなくなっていった。幻に何ができる。

 彼は旅先で、ある女性と知り合った。
 身を寄せた教会に従事する聖女で、花を愛でる優しい女性だった。彼は彼女に告悔し、救いを求めた。彼女は彼を許した。
 彼はこの女性を愛した。今までにない感情。だからこそ、彼女とは夜に出会ってはならない。自分は去る必要がある。
 彼は夜が訪れるのを待って、こっそり教会を去ろうとした。
 そのとき、あの黒い女がこちらを見ている。こちらを見て、冷たい笑みを浮かべている。初めて見る表情だ。
「違う! 彼女はそんなつもりじゃない!」
 彼は恐怖にひきつった顔で、漆黒の女に訴えかけた。
「どうしたのですか? 誰に向かって話しているの?」
 彼が愛する女性、教会のシスターが彼が騒いでいるのを聞きつけ、起きてきた。心配そうな表情をしている。
「……あなたがずっと望んでいたこと。大切なものを失ってこそ、あなたは罪を受けることができる。本当の意味で、己を呪うことができる。あなたを裁くのは、あなた自身」
 今まで沈黙を貫いてきた女が、初めて彼に語りかけた。
「そんな! 許してくれ!」
 男は泣きそうな表情で漆黒の女に懇願する。
「どうしたのですか?」
 シスターが優しい手つきで彼の背中に寄りそう。彼女の暖かい感情に触れ、またあの衝動がムラムラと湧き上がってきた。
 彼の手が鞘にゆっくりと流れていく。
 その様子を、女は悲しそうな様子で見つめていた。
 この女の見ている前で、彼はまた。

<終>
メンテ
捻れ ( No.7 )
   
日時: 2013/02/11 01:06
名前: 寺院仕 ID:1Tlz9p8s

 ある晩のことアメリカ合衆国、ヴァージニア州マササスに住むひとりの女性が、血相を抱えた声で救急車を呼んだ。彼は夫の男性器を切り落とされたと叫んだ。救急隊は急いで彼女の家に赴き、夫を病院に運んだ。切り落とされたという男性器は数時間に及ぶ手術の末につなぎとめられ、彼は九死に一生を得た。
「彼女が一体なぜそんなことをしでかしてしまったかと言うのは彼女自身にも分からなかった。彼女には旦那のペニスを切り落としたという記憶がなかったからだ。後に分かったことだが、彼女の夫はDV、性的虐待を妻に繰り返すクソ野郎だったようで、彼女は神経衰弱状態にあったとして、罪には問われなかった。医学的に解離と呼ばれる現象だ。記憶喪失とか、二重人格とかそういうものを指した言葉だな」
 宇尾は寂れた病室を彷徨きながら、そんな雑学を披露した。僕はなんとなくその話を聞きながら、病室の棚や机を探っていた。確かに、こんな幽霊病棟で静かにしているのは寂しいからと話をするようには頼んだが、ワザワザそんな話を持ってこなくても良いだろうに。別の意味で寒くなる。
「解離と言う現象は、医学の発達しなかった昔は悪魔憑きとして恐れられた。各地で見られたことだし、我が国でも例外ではないけれど、人間の精神の病を見る輩といえば、祓魔師や祈祷師がデフォだった。全く馬鹿げた話ではあるが、学問が発達していなかった時代だ仕方がない。しかし、現代は違うだろ。解離現象についても、彼の有名なピエール・ジャネがメカニズムを解明、治療にも成功した。医学も科学も発達し、全てとは言わないが多くの現象が解明できてる。少なくとも、オカルティックな解説は必要ない程にな。神や仏のいらない社会を俺達人間は手に入れたのさ。だから、嘉田、お前の彼女のもそうさ。夜な夜な魘されて、魔女みたいな呪いの言葉を吐いたって? そういうのはな、早めに病院に行くべきだったんだよ」
「分かったよ。分かったから、早くしてくれ。早く、彼女がバラしちまった身体を探せよ」
「なあ、これは俺も共犯ってことになるんだろうな」
「なるんだろうな」
「はあ、人生順風満帆に過ごしてきたと思ってきたんだがなあ、こんな所でゲームオーバーかよ」
「それにしては落ち着いてるじゃねえか」
「だってよ、まだ俺はお前の話を信用してねえからさ」
 彼のその後も何かを語っていたようだが、その言葉は僕には届いてなかった。見つけてしまったからだ。
「おいあったぞ」
「あったって何が?」
「首だよ……、人間の首だ」
 僕は思わず嘔吐した。心配して、宇尾が駆け寄ってくる。そして宇尾も気づいたようだった。
「こりゃあ、おいひでえ……」
 宇尾は眉間にシワをよせて口元をおさえた。
「信用しないするはもうどうしようもねえな。確かにここに死体があるからにゃあ」
「通報するか?」
「やめとけ、いや絶対にやめろ。こういうのはな、無視するに限るんだよ。そしてお前の女、明日から病院連れてけ。そしてそれからは何にも知らぬ存ぜぬを決め込む、これだ。こうやって皆生きてんだよ。たまに馬鹿正直はいるけどよ」
 宇尾は僕を無理やり立ち上がらせると、腕を引っ張った。
「とにかく、こんなとこは直ぐにとんずらしようぜ。まあ人は来ないだろうが、万が一ってこともあるだろ」
 それもその通りだと僕は頷き、気味の悪さを押し殺した。宇尾は一足先に病室を出て、廊下を懐中電灯で照らしてくれていた。来たルートを宇尾はしっかり覚えているようで、僕の様子を気にしながらすたすたと先導を切る。心なしか、早足になっているように見えた。
「なあ、嘉田」
「何だ、宇尾」
 声を出すと、また吐き気を催しそうになった。おい大丈夫か? と宇尾が一瞬立ち止まる。さっきは何もどうじていない風を装っていた彼だが、顔には冷や汗が観察できた。さすがの彼も焦っているようだった。
「くっそ、今更だがお前について行ったのは間違いだったぜ。何で俺がこんな目によ……あん?」
「どうした」
「おい、俺らさ、こんなに長い廊下、歩いて来たか?」
「何言って……」
「後ろ見てみろ」
 震えた声で宇尾が背後を指差す。僕は脳天を打ち割られた思いだった。
 宇尾が懐中電灯で照らす廊下は先が見えず、どこまでも暗い道が続いている。行きのときはこんなことはなかったそもそも、僕らが居たのはこの寂れ病院の扉を潜ってすぐの病室だったんだ。
「くそう! どうなってるんだよ!」
 宇尾が地団駄を踏んだ。
「前も! 後ろも何も! 何もねえ!」
 いつの間にか、僕らは前も後ろも先の見えない廊下の真ん中に放り出されていた。体が冷水に入ったばかりのように震えていた。僕も、宇尾も。
「くそお!」
 宇尾が、懐中電灯を持って、走った。
「待てよ!」
 僕はポケットから携帯電話を取りだした。あいつが、懐中電灯を持って行ってしまったら、こちらに明かりがなくなる。
 宇尾はもうここからは見えなくなっていた。しかし、走っている足音だけは聞こえる。しかし次の瞬間だった。
「ギャアアアアアアアアアア!」
 宇尾の悲鳴が聞こえた。
「おい、どうした宇尾!」
「なんだよ! お前は何なんだよ!」
 僕は宇尾を追って走り出そうとする。だが、あまりに急いでいて携帯電話を廊下に落としてしまった。携帯電話は廊下を滑っていく。僕は息を荒くして携帯電話の明かりを目指して走った。
 あまりに気が動転して居たのか、その携帯電話を人が拾い上げたのを見ても何も思わなかった。
「ありがとうございます」
 僕は携帯電話を拾い上げた人にそうお礼を言う。けれど、僕はその人間の顔を見て、ぎょっとした。
 僕の、彼女だった。
「ダメだよ、こんなとこにきちゃあ」
 彼女は感情の無い声で静かにそう言った。そして僕の肩を掴んだ。キスをされた。普段通り、あまりに自然に。その瞬間、僕の意識は飛んだ。
 目を明けると、病院の外にいた。いつの間にか夜はあけ、鳥の鳴き声が耳に届いた。僕は直ぐに病院から遠ざかり、車で家まで戻った。
 あれから、宇尾と彼女には会っていない。
メンテ
明けない夜 ( No.8 )
   
日時: 2013/02/11 01:28
名前: \(^o^)/ ID:VAki7T4U

「リア、あなただけが頼りよ」
 父が死んで以来、幾度となく母に言われ続けた言葉だった。五百年続いたベリエルデ家は、曽祖父の贈賄がもとで没落し、今は辛うじて名前を掲げることができるというほどの小貴族に成り下がっている。
「リア、あなただけが頼りよ」
 母の言葉は、呪いのように耳に染みついていた。重荷で、鎖のようだった。しかし同時に誇りでもあった。私がベリエルデ家のすべてを背負っていると、その自負だけを支えに、リアはこれまでどんな目に遭おうと耐え忍んできた。
 だから、今度もきっと、耐えられるはずなのだ。

 ◆

 今はもう使われていない旧館の裏庭。真夜中、忍んでのリアと彼との逢瀬は、今年でもう三年続いていることになる。
 毎夜、今日こそは最後にしようと覚悟を決めて訪れるのに、逢ってしまうといけなかった。ならば行かずにおこうと思うのだが、時間になると足が勝手に動いている。
 でも、駄目なのだ。今日こそは、けじめをつけなくてはならないのだ。
「リア」
 彼の声がした。今日こそは、今日こそは、今日こそは。刻めつけるように唱えることで、決意を忘れまいとする。
「……レオ」
「今日は早いな」
 レオは、愛しい人は、微笑んでリアに寄る。抱き寄せようと伸ばされた腕を、しかし、リアは意を決して阻んだ。
「今日は、お別れを言いに来たの」
 身が千切れそうなのを堪えて、リアは声を絞り出す。恐ろしくて、レオの顔を見ることができなかった。
「今日で、最後にしましょう」
 言ってしまったら、張り詰めていたものがぷつりと切れて、涙が溢れた。崩れ落ちそうになった身体が、すんでのところで支えられる。レオの腕の中は、いつもと同じように温かくて、だからこそ苦しかった。
「例の婚約、受けるのか」
 レオは、全て分かっているらしかった。怒りも悲しみも感じさせない、ただ穏やかな声で問う。リアが頷きを返すと、レオは静かに「そうか」と応じた。
「ごめんなさい」
「謝られてもな」
「……そうね」
「おまえの決めたことに、口を出すつもりはない」
 レオなら、そう言うと思っていた。リアは静かに震える息を吐く。これで本当に終わってしまうのかと思うと、辛くてたまらなかった。
「だけど俺は」
 一度強く抱きしめられて、それからリアは自由になった。吸い寄せられるようにレオを見上げる。
「いつでもここにいる」
 彼の瞳は強く、ひたすらに澄んでいた。

 ◆

 あれから十年が経った。
 政略結婚の夫は、病で死んだ。リアが全てを捨てて守ってきたベリエルデ家も、夫の死を契機に、ついに爵位を取り上げられてしまった。リアにはもう何も、残っていない。
 ただ、あの三年間の真夜中の逢瀬だけが、燦然と胸の中で輝いていた。
 期待をしたわけではない。ふらりと、あのときと同じように、足が勝手に動いていた。たった一つの幸せな記憶が、夢ではなかったことを、確かめたかったのかもしれない。
 だから、その背中を見つけたときには、心臓が止まりそうになった。
「……レオ?」
 背中が、弾かれたように振り返る。レオに、間違いなかった。
「リア」
 名前が呼ばれる。息を呑んだ、次の瞬間、リアは懐かしい温もりの中にいた。
メンテ
水死体たちのシャングリラ ( No.9 )
   
日時: 2013/02/11 01:37
名前: 有理数 ID:/4eBgJHc

 大嫌いなあいつと喧嘩したから、夜の海にやってきた。さざなみに光を当てがって、真っ暗闇なんか遠くに吹き飛ばすほどの月が頭上に瞬いたりするから、私の歩みはそれほど不安じゃなかった。さくさくと踏み鳴らす軽快なリズムと私の心は反比例、だけどまだ遠くに見える潮の満ち引きがそれでも脳裏で囁くんだ。こっちに来なさいと。別に入水しようとか、叫びたい言葉があるわけじゃない。あいつと喧嘩したからって、ちょっと落ち込んでいるだけで、それほど燻っている何かが震えを帯びるなんてことはないのだ。今はただの、熱冷まし。逆上した喉や頭を冷やすために、夜の中を、そして、穏やかな波の音を、まるで音楽みたいに耳に差し当てれば、頭の中にあいつの優しい声が聞こえて、きっとまた会いたいなと思えるようになるから。だから、こうして今でも、海の境界に細やかでも足を向かわせていたりするのだ。
 波打ち際に、人が倒れていた。
 女の子だった。
 月明かりがそれを照らしていて、淡い淡い髪の色が彼女の肌にべったりと付いて、怪しく不気味に思えた。けれどそんな感想よりも先に、さっと私は彼女に駆け寄って、大丈夫ですかと叫び、肩に手をやって揺らしてやった。返事はなく、水でしっとりとしている唇はいつまでも一文字を刻み続けたままだった。指先も何もかも、潮の香りがした。頬に手を当てると、氷のように冷たくて、私はぞっとした。死体だ。そんな言葉が頭を駆け巡って眩暈がした。
 真っ白な肌は、元々そんなに白かったのか。それとも、月の残酷なくらいな光がそうさせているのか。月の光が何色かなんて知らないけれど、それはきっと白だ。でも、月の光に当てられた私の腕は、それほど白くない。だから彼女はきっと、元からこんなにも白い肌をしていたのだ。そうでなければ、こんなにも美しい死体を演出することなんてできないのだから。私なんかより、ずっとずっと、この子は美しいのだから。
 彼女に傷はなく、どこを選び取っても綺麗だった。それは、美しいという意味でもあるし、血の流れる場所が一つもないという意味でもあった。血が流れたら、それはそれで美しいのかもしれない。何かしらの損傷が美しさを損なうなんて話は私は信じない。でも、この子は何かを失っても、いつまでも綺麗なままでいられる。そんな気がした。
 どうして死んだのだろう。
 波に飲まれたのだろうか。今日は二月なのに、海水浴でもしていたのだろうか。沸騰した水のあまりの熱さに、相対的な冷却を求めて、さっと足をこの水に委ねたのかもしれない。けれどそんな間抜けな話は有り得ない。プラスマイナスゼロがこの海辺に存在するはずがないのだ。だから、体を冷やすためにこの冬の海に入ったはずがない。きっと何か理由があるのだ。冬の海が好きだとか、冬の海でも冷たく感じない特殊体質でなければ、きっとそうしなくてはならない理由があったのだ。それが何かなんて、私には邪推でしかない。死人が横たわっている。それも、これだけの美しさを残して。これだけの水死体に、汚らしい理由があるなんてことは考えたくない。もしかしたら誰かに殺されたのかも。眠っている時に、崖から投げ落とされたのかも。そうだとしたら、可哀想。私には到底及ばない悲しみが、天国でも彼女をいつまでも苛んでしまうだろうから、それは生きているよりも辛いことかもしれないから。死んだらそれはそれで、暗闇よりも暗い無だって話もある。それなら彼女は嬉しがって手を叩くんだから、そっちであることを私は望みたい。私には祈るよりも、彼女の髪を触り、頬を撫で、手の冷たさを細やかに実感するしかないんだから。あいつだって今、明るい家で楽しく何かをしているんだから、私だけでもそんな冷たさに寄り添ってあげるべきなんだ。月明かりだって、そして今でもリズムに揺れるさざなみだって、人間の吐息さえ寄り添おうとしないから、まして水死体なんかには寄り添ってくれないんだもの。
 どうしてこんなに綺麗な子が死んでしまったんだろう。私が死ねばよかったのにな。あいつと大したことやっていけなくて、今でも誰かを傷つけてばかりなのに。誰かに影響を与えることも与えられもしないのに。生きているってことは、誰かと手を繋ぐことなんだ。空間に空間を作ることなんだ。でも、私なんかじゃそんなことはできなかった。あいつは今でも、私を忘れてくれる。忘れたままでいる。喧嘩したことをこうして、今でも熱を帯びさせたまま引きずっているのは私だけ。別れ際に、あいつはどんな顔をしていたか。少なくとも、私よりもきっと、こんなことをいつまでも考えそうな頭はしていなかった。だから、だからこうして海辺に来ているんだ。
 そんな私よりも、あなたが生きるべきだったのよ。私は、指先で彼女の頬をなぞった。冷たい。時折私の足元まで迫ってくる、さざなみよりもずっと、ずっと冷たい。氷みたい。その氷じゃあ、私の頭の熱は冷ませない。逆に凍えさせてしまうぐらい、危険で妖しい冷たさ。死体ってこんなに冷たいの。それはきっと水死体だからかな。元々の冷たさにプラスした、最上級の冷たさだ。その温度的な冷たさは、言葉の返事がないみたいな、そういった冷たさもあって、ますます私の心は凍てついてくる。ここは寒い。二月の海なんて、寒いことぐらい知っていた。寒いだろうからここに来た。寒さを期待してここに来た。そんなことは知ってる。死体が冷たいことなんて知ってる。全部全部知ってる。知ってるから――知ってるくせに、今でも文句ばかりだ。
 ねえ、あなたは生きたかったの? 私と代わってあげてもいいのよ。あなた、とても綺麗だから。きっとあなたのことを愛していた人もいるのよ。私は囁いた。彼女は砂に全身を押し当てて、沈むように重たい。死んでいるから当たり前なんだ。でも、私はそんな当たり前にも、また馬鹿正直に唇を彷徨わせたくなって、ああどうにでもなれどうにでもなれと、呪文まがいを喉から絞り出す。あなたを愛していた人が悲しむかもしれない。いえ、きっと悲しんでいるから、私の命を、どうか代わりに受け継いでくれないかしら。そしたらあなたの美しさは、きっと誰かを幸せにしてくれるのに。あなたが笑ってくれるだけで、誰かが笑ってくれるのに。ああ、なんて儚い命なの。いつか笑うことのできた――あなたと出会うことで、あなたの微笑みを、美しさを、その目で見ることできっと手に入った幾千の笑顔たちが、今、死んで行っているのよ。だからあなたは、本当に美しくて、そして、本当に恐ろしい罪を犯してしまったのよ。ねえ、その罪を償うには、今から私の命と取り替えっこするしかないのよ。やっぱり罪を背負って死んでいくなんて、とっても辛いことじゃないの。ねえ、答えてよ。わたしは――死にたいの。
 そんな自己満足は大概にしろ。
 私は振り向いた。
 あいつが立っていた。
 どうしてここがわかったの。
 あいつは長めの髪を、海風からの主張をうっとおしそうにしながら片手で押さえ、私を見ていた。月はどうして、あんなにも白いんだろう。普段は感じない淡白って、どうしてあいつにも与えちゃうんだろう。あいつは私を見つめていた。私の指先が、水死体の頬を撫でる動きを止めた。何もかも止まった――と、思った。あいつはゆっくりと砂に足跡を刻みながら歩み寄り、私と女の子を交互に見た。
 なんだこれ。
 水死体よ。綺麗でしょう? 私が見つけたの。ここで、死んでいたのよ。
 私はあいつから視線を逸らして、もう一度、本当に綺麗な水死体に目を向けた。神々しい。何もかもが眩い。この世に月明かりなんかなくても、この世に言葉や語彙がいくら足りてなくても、きっと新しい言葉が生まれ、それでも美しいと何もかもが寄ってたかって認めたがる。嫉妬したがる。愛したがる。そんな存在が今、確かに死んでいるのだ。呼吸を止めて、冷徹な温度の中にその全身を殺し続けているのだ。
 なんて羨ましい。
 こんな死に方を、私は今、どれだけ渇望しているか。
 私がそう言うと、あいつは言った。
 さっきお前は言ったな。この少女が出会うことで生まれた笑顔が、死んでいったと。その罪がどれだけ恐ろしいのかと。
 だから何。実際そうなんだから、仕方ないでしょう。
 もしお前が死んだら、俺だってそう思うぞ。
 嘘吐き。綺麗な言葉ばっかり吐いてれば、許されるなんて大間違いよ。別に誰だって、死んだっていい。これだけの美しさを持っていても死ななきゃいけないんだから、それでも私が生きているなんて残酷よ。この子にだって、あなたのような言葉を教えてくれる人はいたはずなのに、それでも死ななきゃいけなかった。だったら、あなたの言葉なんて、きっと大したことないんだわ。こんなにも美しくて綺麗な彼女が、死ななくてはいけないんだから、きっと、何もかもが、本当に偽りだって言葉さえも厭わないのよ。
 なら死ねよ。
 死んでもいいの?
 そんな言葉を返すんだったら、もう答えは出てるだろ。
 怒ってないの? 
 怒ってないよ。俺が怒っていたら、お前は死ぬの。
 死んでもいい。
 それは許さない。
 許して。
 喧嘩は許す、死ぬのは許さない。
 どうしたら許してくれるの?
 俺と一緒に、死ぬまで生きてくれたら、許してあげるさ。
 

 私はあいつの手を取った。
 なんだか頭の中も目の前に見える全てもぐちゃぐちゃだけど、彼女が見ていたものは、私なんかよりもずっとぐちゃぐちゃだったんだろうか。生きることと死ぬこと。生きていることと死んでいること。そういうのって、そういうことなんだと思う。境界があるってことは、境界があるってことなのだ。何もかもが違うから、違ってなきゃいけないから。きっと、彼女の閉じられた目が見ていたものは、何もかもを許してくれと願うような恐ろしい処刑台なんかじゃない。けれど、私よりも残酷で、冷たい冷たい浮遊に身を投げるほどの世界だったのだ。だから、それを羨ましがったりしちゃいけない。それを欲してはいけない。生きていることと死んでいることは違う。だから、私と彼女は違う。私がどれだけ呼吸をしようと、彼女が死にながら呼吸をしようと、どれだけの共通点を見つけても、私と彼女は違う。それは、あいつのような、許してあげると言葉をくれるような誰かがいるかどうか。そして、本当の冷たさに身を投じる時に、ああ、それでも私はって踏み止まれるような、そんな柔らかな地平が在るかどうかだ。
 
メンテ
Re: 第九回イベント板一時間小説祭 ( No.10 )
   
日時: 2013/02/11 03:09
名前: \(^o^)/ ID:VAki7T4U

こ れ は ひ ど い \(^o^)/
適当な感想ですが、あしからず。すみません。

>>1「昨日の事故は即死だそうです。」ホモはぶっかけ卒業式さん
私も平坂さんの弟か妹としての朝を迎えたいです。ぼくは平坂さんに惚れちゃってるんですよね! ね^q^ タイトルで情報を与えてみる、というのも面白い発想だったなと思いました。星をほくろって呼ぶのも、なんかかわいくて好きです。

>>2「朝につぶやく言葉」ウルエトさん
太陽と月ネタはいつか私も書いてみたいと思ってたんですが、先を越されてしまったぞ! やっぱり月は女性ですよね。なんか微笑ましい。太陽のことが好きなんだよね? ね?w でも日食でもない限り、会うことはできないんですよね……そう考えると、この作品も切ないな。優しい感じがして、微笑みながら読むことができました。最後の結びも好きです。

>>3「Wahrheit・Nacht」アナキストin森林さん
文章が弾む感じで、ぐいぐい読めました。ものすごく読みやすいのに、ときどきくすって笑わせてくれたり、なんかもう本当に一時間クオリティとは思えない。色々勉強させていただきました。夜に変なテンションになるっていうのはあるあるで、ものすごく共感してしまいました。最後の終わりかたも素敵で、とても微笑ましかったです。

>>4「夜猫」ねみぃさん
怖いなあ。ホラーというか、なんというか、恐怖をかきたてますね。夜ってきくとやっぱり吸血鬼とか想像しちゃいますよねw さらにそこへ黒猫を持ってきたり、夜ってイメージを存分に出してるお話でした。なんか、黒猫が全ての黒幕のようにも見えてしまって、そう考えるとまた恐ろしいことに……いや、考えすぎですよね^q^

>>5「廃街マリンスノウ」ひかげさん
文章に気合が入っている作品だなあと思いました。色んなところに工夫がきいていて、一時間でよくここまで書いたなあ、という印象です。散々ゴミを見下していたのに、最後の最後で自分もゴミだと気づいてしまうのが、なんだかちょっと辛い感じで、胸にきました。

>>6「贖罪の夜」キモス大佐さん
ああ、これはまたえげつない話ですね。しかしきっちり最初から最後まで書けてるとは……一時間でこんなに綺麗に話を組み立てられるものなんですね。最後、余韻を残す感じなんですけど、ちゃんと結末が予想できるように書いてあって素敵でした。タイトルもいい感じでしかもふさわしくて、お腹一杯です。ごちそうさまでした。

>>7「捻れ」寺院仕さん
怖いなあもう。最後、彼女おそろしすぎる。宇尾さんは犠牲になったのだ……。でも、主人公が無事に帰れたのは、彼女はやっぱり主人公を愛していたからなのかな、とかって考えると、ちょっと救いもあるように見えてくる。でも怖い。

>>8「明けない夜」\(^o^)/
ちゃんと書き直したいです。アイデア浮かんだとき、ものすごく中編向きだなあと思いながらも、無理やり書きました^q^ すごく安っぽくなっちゃった。無念。
いつかちゃんと書いて、またどこかで発表したいと思います。F板お題で使えそうなのが来たときにでも……。

>>9「水死体たちのシャングリラ」有理数さん
これだけの時間でこんな量を書いてしまったのがまずすごすぎて。それに、まとまってますね。何をおいても、とにかく、「俺と一緒に、死ぬまで生きてくれたら、許してあげるさ」の一文にきゅんきゅんしてしまいました。いつも男の人がすごくかっこいいんだから。水死体の発見から始まるのに、不気味な感じはなくて、むしろ神秘的と言うか……雰囲気の操作が上手いなあと感じました。



また一時間やりましょうね! 今回のこのもやもや感を晴らさなきゃ安眠できません^q^
メンテ

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