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[21] 突発的一時間小説祭
   
日時: 2012/05/22 01:33
名前: 仁井田 ID:mo6xdqoQ

○もうすぐ夏ですし、金環日食ありましたし、こういう日にこそ小説を書きましょう! な祭

説明:お題小説を執筆しあって感想を書きあうというシンプルな遊びです
資格:誰でも参加できますし、むしろ出て欲しいですし
日時:今日(21日)の22:30〜23:30の一時間です。遅れても全然OK!
場所:ここです!

 今回のお題は「蠅」。「蠅」にまつわる小説を募集します。
 字数制限その他は一切なし。
 終わったらこちらで感想の書き合いなど、していきましょう。
 執筆だけ、感想だけの参加もOKです!

 では、よろしくお願いします!

提出作品
>>1 絵空事さん「不快に生きる者たち」
>>2 神楽囃子さん「蝿の王」
>>3 たわしさん「ばら撒かれる」
>>4 ザボンさん「ラフレシア洗礼」
>>6 仁井田「ハエ美の一生」
>>7 とらおさん「いる、ある」

レビュー
>>5 神楽囃子さん
>>8 ザボンさん
>>9 仁井田
メンテ

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Re: 突発的一時間小説祭 ( No.5 )
   
日時: 2012/05/21 23:52
名前: 神楽囃子 ID:/YZMsJow

一言感想

絵空事さん「不快に生きる者たち」
 清潔にしないとね、あいつらすぐ湧いてくるから。

たわしさん「ばら撒かれる」
 嫌過ぎるな、そのバイオ兵器。蝿なんてどこにでもいるからこそいろんな恐怖付き纏いますよね。蝿関連のSF(?)って蝿男くらいしか思いつかないけど。

ザボンさん「ラフレシア洗礼」
 日常すぐる。
メンテ
ハエ美の一生 ( No.6 )
   
日時: 2012/05/21 23:57
名前: 仁井田 ID:rsotSlcc

 もう、信じられないっ。
 私の見ている世界はとても狭くて、ガラスに覆われている。たまに外の空気が入ってくるときもあるけれど、それは一瞬で、逃げ出そうなんて思う間もない。
 それに、そもそも私は知っている。外の世界がとても恐ろしいところだって。
 だから私はこの狭い世界で生きていく他ない。他はないの……。

 私の周りに群がってくる恐るべきオス達。
 私がたった一匹のメスだから、彼らは私を狙っているのです。
 だけどそう簡単には襲わない。前足をすりあわせ、羽をこすりながら遠くからただ見ている。
 数十匹というオスの蠅が私を中心に円を描いて、欲情した眼差しを私に向けるのよ。
 この感覚、あなたわかるかしら。
 彼らの視線は、とてもいやらしいわ。八百を超える複眼が私を映しだす。すっかり固定された視線から私に伝わってくるのは、激しい肉の疼きと、下衆な感情。蛆虫の頃から腐肉を好物としてきたその臭い息が今にも頬に掛かりそうで、うんざりする。その口で私の触覚を舐めまわし、私の羽の下を細い腕で愛撫する。一匹じゃない。数十匹が覆いかぶさって、私は呼吸すら苦しい。全身に彼らの息がかかる。いやらしい。這う触感。休みがないわ。気がつけば精子が擦り付けられている。誰のものかすらわからない。ただ触れる感触だけが熱い。熱を持って。波になって。それが皮膚を走り、体の芯を溶かして、私の意識まで蕩けて――
 いけない! はしたないわ、ハエ美! そんな妄想に耽るなんて、なんていやらしい女なの。そんな営みに、快楽なんてあるわけない。ただ永遠にも思える苦痛の時間を耐え忍ぶだけ、いっそ死んでしまいたいと思うほどの恥辱に溺れて、私の呼気は切なげな喘ぎ声を――
 やめなさい、ハエ美! あなたはいつからそんな娼蠅のような汚らわしい考えを持つようになったの。あなたは十七の少女なのよ。
 でも、こんな数のオスに見つめられていたら、私だって女ですもの――
 ああ、私は今自分の理性と本能との間に、引き裂かれそうに羽を震わせています。このまま空高く飛び去ってしまいたい。でも、きっと外は彼らほど紳士的ではない。彼らは私に手を出さないのです。合意の上でしか行為に及ばないつもりなのでしょう。合意に至ると確信しているからこそこれほどいやらしい視線を投げかけるのに違いありませんが、それでも外の蠅と比べたらずっとましなはずです。外の蠅など、私を見つけたら強姦して、そのまま道端に捨て去ってしまうことでしょう。私のようなか弱い乙女が道端に倒れていたら、すぐに他の動物の餌食です。私はこの外の世界をそんなには知らないけれど、本能は私に伝えてくれます。私なんて生き物の中ではとても弱くて、儚げな存在なのだって言うこと――

 外の世界で、一つだけ知っていることがあります。「ニンゲン」と呼ばれる大きな生き物のことです。
 周りのオス達は「ニンゲン」のことを憎んでいるようでした。「ニンゲン」は俺たちのことを蠅とも思っていない。大方蛆みたいなもんだと思ってるんだろう。俺たちを好き放題弄び、散々良いようにした後、殺しちまうんだ。
 しかし、私は彼らの言っていることが正しいとは思えません。
 なぜなら私の純潔が守られているのは、「ニンゲン」のおかげだからです。
 幼い頃、私はこのケージで育ったのではありません。
 成虫になってからの蠅生の半分は、向かいのデスクに載ったもっと薄汚れたケージの中で過ごしてきました。
 そこは女の園と言うべき場所で、私を含めメスの蠅しかいないケージでした。その中には一人のお姉さまがいて、多くのメス蠅はそのお姉さまに憧れていました。
 お姉さまに処女を捧げること。それがそのケージの中での皆の望みだったのです。
 お姉さまは確かに偉大な蠅です。私達に美しさとは何か、女性らしく生きるとは何かを手取り足取り教えてくださったのですから。
 私もお姉さまに憧れなかったといえば、嘘になるでしょう。
 しかし、憧れと性愛とは、私には別のものでした。
 私はどれほどお姉さまを尊敬していたとしても、お姉さまに処女を捧げる気持にはとうとう慣れなかったのです。
 いつか現れるはずの、王子様に。
 短く整った触覚、ただ私だけを見つめる複眼、強く逞しい羽、羽音はまるで歌うように響き、しなやかに広げた両手をすり合わせる、甘美な誘惑の肢体――
 夜な夜な夢に見るその殿方を、私はいつか出会う運命の人と思っておりました。きっとこのケージを出て、オスの蠅と番になりたい。誰もがお姉さまに憧れを抱くケージの中で、私は一人そんな願いを強く抱いていたのです。
 それは、ある日突然に叶いました。
 ケージの蓋が開き、「ニンゲン」の手が私へと差し伸べられたのです。
 それはとても細い、冷たい、銀色の指でした。
 私はお姉さま達が必死で止めるのを振り切るようにして、その指に両足を載せました。
 するすると引き上げられて行くと、私は目の前に初めて「ニンゲン」の顔を見たのです。
 ああ、その時の私の気持をどうお伝えしたらよいでしょう。
 透き通るような肌に覆われ、美しい単眼は傷一つない宝石のようでした。唇から熱っぽく息が漏れ、それは私達にはない甘やかな芳香を漂わせています。鼻に溜まった皮膚の滓を一舐めしたら、どれ程の悦びが全身を駆け巡ることでしょうか。
 動く度に脈動する血液と肉の力強さ。その上を踊るように這いまわりたい。実を言うと私はその時「ニンゲン」に恋をしてしまったのかもしれません。その夜から、私は今のケージに移されましたが、そこにいた殿方達は、もう私にとって何の魅力も感じられないものだったのです。夢にまで見たオス蠅が、数十匹もいて、私に欲情の眼差しを注いでいるのに――私は少しも体を許す気にはなれませんでした。その日から、私の夜の夢に出てくるのは、オスの蠅ではなく、「ニンゲン」の男性、白馬に乗った王子様になったのでした……。

 また、ケージが開けられました。最近、やけに多くなったという気がいたします。
 開けられる度に、オスの一匹が抜き取られていき、私たちの目に見える場所で、彼は「ニンゲン」に妙なものを刺されています。
 ああやって俺たちをなぶり殺しているんだ、とオス蠅達は口々に言います。
 確かに、戻ってくる蠅はあまりいないようです。
 しかし、中にはぐったりした様子で戻ってきて、そのまま動かなくなる蠅もいます。
 熱を持っているらしく、顔をすっかり火照らせて、苦しそうにしています。しかし彼らは看病しようとすると、「俺に触るな。絶対に触っちゃいけない。近寄るのも駄目だ」と頑なに拒むのです。
 ああ、「ニンゲン」達は一体彼らに何をしているのでしょう。
 彼ら程には「ニンゲン」を恐れていない私でも、さすがに何か恐ろしいことが怒るのではないかと思われて仕方がありません。

 私、今の今まで、大切なことを知らずに生きてきました。
 動物には、一部の例外を除いて、「発情期」という時期があるということ。
 私だってもう十八になります。世間のことが大分わかってきて、ここは「ニンゲン」が管理している場所だということにも、薄々勘付いてきています。
 実は「ニンゲン」とは、「発情期」を持たない数少ない動物の一つなのだそうです。
 そんな「ニンゲン」の管理下で育ったから、
私にも「ニンゲン」の感覚が感染ってしまったのでしょうか。
 ああ、これをこうして伝えている私は、今とても震えているのです。
「発情期」がこんなにも恐ろしいものだったなんて。
 理性を失った複眼の視線がケージを埋め尽くし、飛び交う羽音が一つとなって鼓膜を叩きます。
 私の目の前で交尾が行われているのです。
 まるで野蠅のようでした。
 精子が弾け、えもいわれぬ匂いが満ちていきます。
 苦しげな声。
 必死の羽音。
 悲鳴にも似た絶叫が後から響きます。
 ああ、もう随分昔のことだけれど、これが夢にまで見た殿方の交尾だなんて。
 でも、私は見入っています。
 ええ、見入っているのです。
 なぜなら私は、一人無事だったからです。
 殿方は、殿方と交尾しているのでした。
 一心不乱に。
 私のことなど眼中に無いかのように。
 それはとてもインモラルで、見ているだけでも淫靡なもので、切なくて、甘やかで、薔薇の芳香が漂ってくるかのようで――
 なんて美しいのでしょう。
 私は見ているだけで三度、果ててしまいました。
 ――ああ、ハエ美ったら、本当にはしたない女――
 よだれを垂らしながら、私は今までにない歓喜の歌を、胸に噛み締めておりました。

 やがてケージが開き、果てた蠅たちを「ニンゲン」が拾い上げていきます。
「本当に皆同性愛になったんだな。見ろよ、このメス蠅に見向きもしなかった」
「すげえな。これ、大発見だよ」
「なあ、でもこのメス蠅もなんかぐったりしてないか」
「精神的ストレスか、あるいは――」
「おい、やめろよ。さすがに気持悪い」
「何も言ってないぜ、まだ」
「蠅にも淫乱がある、とか言い出すんだろ。お前の考えることなんて全部わかってるんだよ」
「まあそういうことだ。擬人化すれば結構悪くないぜ?」
「実物が目の前にいるのに擬人化できるか」
 ああ、私は「ニンゲン」が何を話しているのか、まるでわかりません。
 ただ、彼らのうち片方が私に殺意を持っていることが、視線から知れたのです。
 もう片方は、私を慈愛に満ちた顔で見つめていたというのに。
 私は、意地悪な殿方の手にかかって、殺されるのでしょう。
 そう思うと、私は必死に羽を震わせ、ケージから飛び出しました。
 殆ど無意識に「ニンゲン」のケージから抜けだしたのです。
 意地悪な殿方はすぐに私を捕まえようとしましたが、私の飛行能力を甘く見てはいけません。
 彼の手をすり抜けて、私は廊下に逃げ込みました。
 そして影に隠れて息を潜め、ただじっと夜を待ちました。

 私は、恋をしたのです。
 あの慈愛に満ちた美しい眼差し。
 私は自分の内に体の芯から燃えるような激しい感情が去来するのを感じました。
 一目惚れ、というものなのでしょう。
 しかし、それは種族の壁を超えた恋愛です。
 私の意思を彼に伝えるには、限られた手段しかありません。
 私はそれを決行することに致しました。
 今は明け方に近い真夜中。この研究所もすっかり寝静まっております。
 慈愛に満ちたあの彼も、自室に戻って行きました。
 そして彼は今、私の目の前の白いベッドで眠っております。
 すやすやと寝息を立てて、無防備な姿はまるで少年のようです。
 私はそっと、布団の中に忍び込みます。
 白いお御足。繁生した毛に絡まりそうになりながらも飛び続けると、一層毛が密集したその場所が見えてきます。
 それを、「ニンゲン」の性器であると、私は知っております。
 本能が既に知っていたのです。
 すっかり亀頭がむき出しになっている立派な形でしたが、その色はピンク色でした。
 私はそっとそこにくちづけをいたします。
 くすぐったいような心地よさが、きっと彼にも感じられたことでしょう。
 血流の音が聞こえ、ゆっくりとその首が持ち上がります。
 亀頭が下着に引っかかり、それがまた快楽になるようです。
 私は細い手足を広げて、その竿に飛びつきます。
 そして上下しながら、静かに刺激を続けていきます。
 時に羽を擦りつけたり、唾液を含ませてくちづけをしたりしながら。
 彼の手足が、僅かにこわばっているのがわかります。
 声は出さないお人なのでしょう。
 それがまたかわいらしい。
 私は亀頭の裂け目にそっと羽根を忍ばせます。
 そして羽ばたくように静かに震わせてみせるのです。
 これにはどんな殿方もイチコロでしょう。
 とうとう声が漏れました。
 それは絶頂の声だったようです。
 亀頭の奥から、濁流の音が聞こえてきます。
 それは甘美な匂いを運び、私に向けて白い液体を吐き出すのです。
 ああ、私は逃げられません。
 私は全身にその液を浴びて恍惚とするのです。
 これが、エクスタシー。
 私はその液体を口に含みながら、羽を震わせます。
 しかしもう羽もドロドロに汚れてしまって、少しも動くことはありません。
 羽の先がかけ始めました。
 呼吸が苦しくなって参りました。
 ああ、でもこれが幸せということなのでしょう。
 私は真っ白になる意識の中で、静かにこの言葉を唱えるのです。
「ア・イ・シ・テ・ル」
 言葉は溶けて流れ夢の中で混ざり合うことでしょう。
 その一瞬だけ、私とこの殿方とが、結ばれるのです。
 なんて素敵、
 なんて、美しい、
 なんて、エロチックな――
 ――ああ、ハエ美はいやらしい娘です。
 そして彼女は精液にまみれたまま息絶えた。

 翌朝目覚めた男が驚いたのは言うまでもない。
 夢精したパンツの中に、蠅の死骸が紛れ込んでいたのだから。
 パンツを洗いながら、男はその蠅と交尾したような感じがして、たまらなかった。
 人間、下手な同情はするもんじゃないなあ。
 男はとにかく嫌で嫌で死んでしまいたいほどだったのだ。
 ハエ美はそのことを知らずに死んだ。
 幸せな生涯とは、きっとこういうことを言うのであろう。

 了
メンテ
いる、ある ( No.7 )
   
日時: 2012/05/22 00:01
名前: とらお ID:AxdtFiok

 元より港に近い町だったから、魚がそこらへんに落ちていた。
 うちは漁師でないこそ、そうした職業に就いた人々が近所に沢山いたから魚をよくもらった。そして猫たちがしばしば盗んで、辺りを散らかした。それを片付けるのが僕の役割だった。大小問わず魚を一匹見つけるたびに、母か祖母から五十円もらえた。小学生の頃はそれでよく稼いだ。たとえ家の周りでなくても、まあ良いことなのだと金をくれたから、夏なんかは毎日のように町を巡った。すると目星をつけるために蠅を探す。一度友達と喧嘩したときは、ほとんど親友のようだった。ブウン、と
 それでいつも魚を見つけられるわけでもない。ただの生ごみのときだってあったし、交尾を迫っているだけのときもある。なにより困ったのは、小道で誰かの小指を見つけた時だった。太く短く、おそらく成人男性だったものだ。荒く断ち切られたそれは、少し前、やくざの事務所から上がった悲鳴を僕に思い出させた。また猫か何かが盗んだのかもしれない。しばらく迷った末、ついと摘まんで近くの溝に投げ捨てた。見つからないことで、誰かが困ることもあるまい。あれについては今でも覚えている。小指は生ぬるかった。
 中学生になると月初めにちゃんとした小遣いをもらえるものだから、そういうことをしなくなった。母からも、もうみっともないからやめなさい、と言われたせいもある。たしかにその頃から身長が随分伸びていて、猫背ぎみのもやしめいた少年が目を皿にし、きょろきょろと周囲を見てる姿はさぞ気味が悪かろうと思えた。
 しばらくして、父がいなくなった。両親が不仲だった頃だ。原因はすべて父にあると言っても過言でなく、仕事もせず飲んだくれてばかりいるから、母が怒っていたのだ。しかし僕がいたのと、祖父母は好きだったせいで母は離婚を考えることもできなくて悩んでいたようだったから、失踪というのはちょうど良かったらしい。父が居なくなって一週間ほどして、形だけでもと捜索届を出し、すっきりした顔を見せた。よほど気持ちが良かったのか普段厳しかった母の羽振りが妙に良く、祖父母を旅行へ行かせたし僕自身も友人宅へ泊りに行かせた。帰ってくると、新しい大きな冷蔵庫を買っていたほどだ。祖母が若くに使っていた古い冷蔵庫しかなくて不便だったのに男子台所に入るべからず、を未だ実行していたうちの家では父が首を縦に振ってくれなかったから、本当にようやくだったのだ。
 ついでに今でいうガーデニングに凝り出して、庭を華やかにさせた。しかし、どこからか蠅がよくやってきた。蠅も蜜を好むのかしら、と母親に尋ねたが、本に書いてないことは分からないらしく首を傾げられた。
 父がいなくなって七年して、死亡届が出された。庭に蠅もたからなくなっていたと思う。僕はもう上京していたから、さだかでない。

 大学のため上京した僕は、妙にもてた。素朴さだとか純粋さが良いともてはやされて、しかし調子に乗ったことはないはずだ。困ったのはその気になった女性の相手だった。扱い方なんて分からないのを承知のはずが、勝手に言い寄って傷ついて怒って去っていく。幸いその他の周囲が理解をしていてくれたおかげで大勢から非難されるようなことはなかった。一年もすれば大体落ち着いたが、逆に友人として仲が良かった女子二人が意識し始めたのを友人に教えられた。どちらも良い奴だったが、僕にその好意を晒すことなく、二人の間だけがどんどん気まずくなっていってるらしいのを知った。僕と相手がならさておき、相手同士で仲悪くなってほしくはなかった。僕は仕方なく、どちらとも付き合う気がないのを順番に釈明しに女子の一人、A子の家を訪れた。できたらどこかの店で話したかったが、うちの大学の近くは良い店がないと言い張ったA子に負けたのだ。
「あがってよ」
 A子は普段通りを装うとしながら、浮かれた調子が隠しきれないでいた。
「玄関でいいよ」
「だめ。もう料理作っちゃったし、あなたが食べなくても私は食べるから」
 あなた、という響きはなんだかぞっとするほど、身体にこびりついた。僕は話を早く済ませたいがため、部屋に上がった。一人暮らしらしい、ワンルームだ。
「うち一階だから、庭付いてるのよ」
「そういえば、ガーデニングが好きだったんだっけ」
「最近はサークルが忙しいから、あんまりちゃんと出来てないんだけどね」
「うちの母親も趣味なんだ。ちょっと見てみてもいいかな」
「……暗いから、大して見えないけど。なにより、まだ何を植えようか迷ってるところで、何もないの」
 A子は肩をすくめる。
「まあ、おおよそだけでもさ」
 A子はくすっと笑って了承した。良い奴だった。しかし付き合う相手としては見られない。庭を見たがったのも、ワンルームに二人きりというのが耐えきれなかったせいだ。
 庭は四畳半ほど、まあまあの広さだった。引越し当時に家族総出で綺麗にしたというだけあって、ちゃんとした花壇が作られている。これで今は何も植えてないのが勿体ない。しかし。
「蠅がたかってるね」
「うん、このあたり、なんだか多いのよ。近くに工場があるからかしら」
「にしても多い」
「あなた、港町出だったっけ」
「うん」
「だからそんなに気になるのかしら。次は、うん、植える花が決まったらちゃんと除虫しておく」
 今だ、と僕は口火を切った。
「次はないんだ。いや、仲間たちとなら良いけれど、僕一人でこの家に来ることは、金輪際ありえない。……僕は、君とは付き合えない」
「今日来たのは、その話をするためだったの」
「ああ、悪いけども」
「……そう、そんなら、仕方がないわね」
 A子は案外とすっぱり諦めた。仕方なさそうに首を振る。僕はほっとした様子を見せないよう、なるべく悪そうな顔でいたが、しばらくして玄関へ向かった。A子がその後を追ってくる。僕は靴を履きながら、その沈黙をそっと破った。
「今日はもう帰るけど、別にA子と絶交したいわけではないから。次は仲間たちとガーデニングを見にくるよ」
「そう、そうね」
「いっそみんなで植えるのも、良いかもしれないな」
「そうね……」
 A子はしばらく思案した顔をみせて、それから。
「まだまだガーデニングはできないみたい、残念だけど」
 仕方がない、という顔だった。たしかに、仕方がなかったのだった。
メンテ
Re: 突発的一時間小説祭 ( No.8 )
   
日時: 2012/05/22 00:37
名前: ザボン ID:Oxm00cWk

>>1 絵空事さん「不快に生きる者たち」
 一人暮らしあるあるな感じですね。
 タイトルを踏むなら腐海っぷりをねちねち描写してもいいんじゃない、とか思いました。

>>2 神楽囃子さん「蝿の王」
 一人暮らしあるある2。
 蠅は餓鬼か何かなのでしょうか。

>>3 たわしさん「ばら撒かれる」
 HN変えても誰だかわかる文体で安心しました。
 前置き長いなあって印象。

>>4 自作「ラフレシア洗礼」
 ラフレシアが人食い植物と思われてた=ヴァギナデンタタと繋げたかったけど途中で飽きました。
 ビョークを聴きながら書きました。

>>6 仁井田「ハエ美の一生」
 一時間半くらいでなんでこんなに書けるのすごい。
 蠅姦っていう発想がすごいです。徹頭徹尾擬人化させないのも男らしい。

>>7 とらおさん「いる、ある」
 一時間半でなんでこんなに書けてひねれるのすごい。
 予想がついてもヒヤリとするホラーって上質だと思います。楽しめました。
メンテ
全作レビュー ( No.9 )
   
日時: 2012/05/22 01:33
名前: 仁井田 ID:mo6xdqoQ

 全作レビュー

絵空事さん「不快に生きる者たち」
 描写だけで小説にしてしまったショートショート。不快なものの不快さがもっと突き詰められると面白いかも。書くことそのものの面白さがはっきり打ち出されてこないと、なかなかこの路線で読ませるのはつらい。でも「こういうこと書きます」のところが、その面白さまで見通しよくなってるから、時間をかけて書きなおしたのを読んでみたいな。

神楽囃子さん「蝿の王」
 象徴としての存在感が弱くて、グロテスクなだけで押し切るには描写が足りなくて、ぞわっとする感覚を脱色したホラーって感じがしました。同じ分量で五倍怖がらせることはできるはずです。テニスボール大の蠅が具体的にどう気持ち悪いのか+どうしてこんなのが出てきたのか数カ所直接的に示唆する、ってところかなあ。

たわしさん「ばら撒かれる」
 シンプルにオチのあるショートショートは読んでいて気持ちがいいから、もう少しリーダビリティを高める文章の抜き方がここに合わさってくるとちょうど良いかもしれない。話は凄く面白かった。蠅爆弾って気持ち悪いしこわいし良いなあ。

ザボンさん「ラフレシア洗礼」
 密度の高い文章で、これで一時間小説を書こうとするのは凄いなあと思うのが半分、密度と内容とが足並みを揃えるまでは一歩届かなかったのかなあと思うのが半分。限りなく詩的な言語感覚で書かれたもののように読みましたが、それにしては散文的な結ばれ方が顕著? と思いました。中心を欠いたままぐるぐる回っているかのよう感じで、だけど線上に現れる断片が強烈に焼けつく一歩手前であるかのような。途中で投げたのかもなあ、とも。イメージの強烈さで自然と結び合わせるのを期待して、半ばやけくそで書いてもよかったかもしれません。

仁井田「ハエ美の一生」
 蠅姦というジャンル

とらおさん「いる、ある」
 読解力がなかったから最初全然わからなかったけどそういうことか! わかればこわい、の感覚のつかみかたが上手いなあ。完成されてる。普通は一時間ちょっとで書くような小説ではない。でもその辺の省エネ感も適度にあって、むしろそれがショートショートとしての完成度高めてたりするから本当凄い。面白かったです。
メンテ

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