ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
[15] 奇人の橋
   
日時: 2012/05/19 14:12
名前: 草竹遊幻 ID:JsHMR4Hc

>>1 序文

>>2-3 第一章
メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

序文 ( No.1 )
   
日時: 2012/05/07 14:01
名前: 草竹遊幻 ID:oMls0/hY

これから私が語るのは、一人の男の記録である。

誰よりも未知の領域を模索し、誰よりも大いなる知識に耽溺し、そして、もう二度と戻ることの出来なくなった彼。その彼について語る。

これから語ることについては彼の両親や友人、そして彼自身からも、事実を語るのであれば、何をどう書いてくれても構わないという許可を得ている。

これを読むあなたがたは、この話を作り物だろう、と疑ってかかるかもしれない。あるいは、なんて不気味なんだ、と目を背けるかもしれない。

いずれの形にせよ、私やこの記録に登場する人々や出来事は、私の見聞きしたものをそのまま書いているにすぎない。

あるいは人づてのものは大幅に脚色され、私の元に届いたものかもしれないが、この記録から得るものがあったと言ってくださるならば、私も、彼も、ただただ幸いである。
メンテ
Re: 奇人の橋 ( No.2 )
   
日時: 2012/04/01 21:13
名前: 草竹遊幻 ID:EvbFQfz2

早咲きの桜が道端にちらほらと見えるようになった三月のことであった。

しかし大抵の桜の木は白と桃に彩られた枝先から、舞い散るのを待ち侘びる如く大きく蕾を膨らませ、春の訪れを待っていた。

私の部屋の窓から外を見ればそれらの桜が目の前に見えて非常に風流だった。

しかし、窓の外の空気は未だ寒く、三寒四温とはよく言ったものだと彼はしきりに感心していた。

「先人かく語りきだよ。やはり、古い言葉に耳を傾け、知識をより深めるべきだ……君もそう思わないかい?」

そう言って、手に持った文庫本を私の目の前に静かに置いた。

その本を彼の手元に押し戻して私は言った。

「私は御免だな。古臭い本なんか読む気がしないよ……読むんならもう少し楽なものが読みたい」

「いかんよ、それじゃあ。新しい本なんかに何が期待できるんだ……そういえば、この前君に勧められた推理小説、あれは酷かった」

「何が酷かったんだよ」

私はこの前彼にある推理小説を勧めたのだ。最近ドラマ化し、おまけに読みやすいと聞いて読んでみたところ、とても面白かったので彼に勧めたのだ。

「まず第一に、主人公の描写だな。主人公は根っからのお嬢様と書いてあるのに、まったくお嬢様という感じがしない……第二に、推理がおざなりだ。膝這いになって荷物を取りに行ったところを殺されたとあるが、普通は靴を脱ぐか、靴のまま入るだろう。その程度のこともわからない馬鹿な作者だ。第三に……」

「ああ、わかったよ。とにかくつまらなかったんだな」

そう私が制すと、彼は再び文庫本を私の手元に置いた。

「推理小説ならば、僕はこの【二銭銅貨】を勧める。江戸川乱歩の代表作にして、推理小説の必読本とも言われている傑作だ。おまけに、この本には【D坂の殺人事件】も収録されている。これらの作品郡を読めば、あんな推理小説はつまらなくなるよ」

「そんなに面白いのか。だったら、借りてもいいかな」

「読んだ方がいい。その【D坂の殺人事件】は明智小五郎が初めて登場した作品でもある」

彼の言葉を聞きながら、私は幼い頃に漫画か、アニメで見た明智小五郎の勇姿を思い返していた。

「まあ、ゆっくり読むといい。僕はもう読み終わったから……ところでお腹がすいたな。タコ焼きでも買ってこようよ」

そう言って私を外に連れ出そうとする。私はにべもなく

「いや、私は行きたくない。行くんなら、一人で行ってくれ」

そう行って頑なに拒否した。

「そうかね……あんまり部屋に篭ると気分も良くならないぞ。たまには外に出て、早春の風にでもあたろうじゃないか……」

「早く行けったら!」

そう怒鳴ると彼は悲しい顔をして

「じゃあ、今日はこの辺でお暇するとしよう……ノートはここに置いておくから。明日取りに来るよ」

そういって部屋を出て行った。

部屋の中は途端に静かになり、彼が階段を降りていく音だけが、廊下から小さく聞こえているばかりだった。
メンテ
Re: 奇人の橋 ( No.3 )
   
日時: 2012/05/19 14:11
名前: 草竹遊幻 ID:RR1NhXTI

ここで彼について書く。

彼の名は龍野 修司(たつの しゅうじ)といい、私と同じく文芸部の一年生だった。

入部の初日の自己紹介で「僕は、なによりも月並みな感覚とは違う作品を書くつもりです」と言ったのを昨日のことのように私は思い出せる。

彼は暇があれば文庫本を懐から取り出し読むか、手帳に詩のようなものを書き散らしていた。時々それを私に見せたが、語句が難解で、まるで意味がわからなかった。それを彼に言うと「なあに、私の作品は大人向けだからね。なかなか高校生にはわからんさ」と言ってカラカラ笑っていた。ゆえに、部内で彼の作品を理解できるのは、私も含めて誰もいなかった。

また、彼が怒った時は非常にうるさく突っ掛かって来る。少しでも自分の意に沿わないと、すぐに口論になる。それも、廊下全体に響き渡るような大声で、相手に反論すらさせないほどまくし立てる。そしてその矛先は私や部員、時には顧問に向かった。顧問は文芸に通じていない新米教師で、なにより顧問自身、龍野に負けず劣らずの自己中心的性格のため、その衝突は日を追うごとに悪化していった。

それだけ厄介なのに、なぜ私が彼と親しくしているかと言われれば、あれはあれで義理堅かったし、何より引きこもっている私なんかを尋ねて来るぐらいにはお人よしであった。

そして何より、私にここまで親切にしてくれるのは、彼だけであった。
メンテ
Re: 奇人の橋 ( No.4 )
   
日時: 2012/06/02 22:53
名前: 草竹遊幻 ID:VP20MitQ

私自身については、一切語る気は無い。主観が入り込むのは読者諸君も私自身も非常に不愉快にさせるからである。

しかし、今の私を取り巻く環境については言及せねばならない。

現在、私は空気の濁りきった部屋に引きこもっている。それも、一ヶ月ほど外に出ていない。理由としては至極簡単だ。例の文芸部の顧問と揉めたのだ。

一週間ほどの停学を喰らった。しかし、私だって自分のやらかしたことぐらいは責任は取るが、向こうにも問題はあったのだ。こともあろうに、彼は部員から集めた部誌の原稿を、全て紛失したのである。

そのことを顧問が言い放つや否や、部員全員から侮蔑の声が上がり、部長は憤死しそうな勢いで立ち上がり怒鳴り、龍野はネチネチと嫌みを零し続けた。私自身も、かなり出来の良い原稿だったため大いに怒った。全員が全員、締め切り間近だったためコピーなど取っていないし、直筆原稿だったためデータも残っていなかった。

だが、彼は我々の怒りに火を注ぐかのように「小説なんてまた書き直せばいいじゃないか。どうせ誰も読まないだろうが」と言い放った。

気がつけば、私は彼の頬を打ち、胸倉を掴んで揺さぶっていた。部長と龍野がそれぞれ、私と顧問を押さえていたのが最後の記憶である。その時、私は龍野と同じぐらい怒りっぽい人間だと初めてわかった。無論、私は停学処分を喰らった。部長曰く「あのクソ顧問が誇張して報告した」らしい。

受験で忙しい長や、龍野が職員室や校長室で抗議をしたらしいが、ことなかれ主義の教師陣は全く聞く耳を持たなかったらしい。わざわざ家までやって来た部長がそう知らせた。

私は、よっぽどかあの顧問を夜陰に紛れて、部員全員で打ちのめそうかと提案したが、あまりにも不毛なので中止になった。

停学処分を喰らって一週間が過ぎても私は学校に行く気がしなかった。あんな事件があった後で、教師陣と顔を合わせるのも嫌だったからだ。特にあの顧問とは二度と顔を合わせたくなかった。私はその日その日を龍野の書くノートで繋いでいた。
メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
パスワード (記事メンテ時に使用)
コメント

   クッキー保存