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[10] 廃墟病院―黒蔦棟―
日時: 2012/03/15 18:43
名前: 宮川 諒法 ID:EUKzbm4U

はじめまして
宮川諒法と申します
此処では短編を書かせていただきます
おもしろくもない小説だとは思いますが、どうぞお読みください

舞台はどこか
主人公は誰か……
という不完全な小説でございます

[目次]
メンテ

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Re: 無形 無造作 無思想 無法 無関係 ( No.5 )
日時: 2012/03/13 20:13
名前: 白虎 ID:5r6yQoCY


貴方は誰のために行きますか?
そう聞いてきた女は一瞬にして消えた
俺はどうやら頭がおかしくなってきたみたいだった
“あの日”から一週間、俺は隔離されていた
普通の病棟は真っ白くて物凄く新しい
なのに俺がいる隔離病棟はこれでもかというぐらいに管理が悪い
蔦が外壁を伝い、内壁は所々ひび割れ、コンクリートが砕けて中の鉄骨が見えている
これといった装飾はなく、あるのはベッドとカーテンだけだ
この場所を管理しているのは看護師の女だった
医師免許を持っているらしく、隔離病棟の人間全ての世話をしているらしい
世の中のそういう人間が見れば、これこそナースだ、という風貌をしている
彼女は毎日六時ごろに来る
「こんにちは田中さん」
彼女から得たものは、俺が田中だという事だけだ
俺の周りには何もない
名前だって、自分の顔だって、家族構成だって忘れてしまった
だから俺は今日も彼女に泣きつく
「看護師さん、俺は誰なんだい?」
「ごめんなさい、針、刺しますね」
看護師は俺の問いには答えてくれない
口止めされているのか
あるいは……
答えられない何かがあるのだろうか
ただ俺はそれを聞く言葉を知らない
だからこそそれを知りたい
メンテ
Re: 廃墟病院―黒蔦棟― ( No.6 )
日時: 2012/03/18 19:30
名前: 宮川 諒法 ID:o4tOiYOU

毒々しいまでに綺麗な蛍光ピンクの液体が点滴の管を伝い腕に突き刺さる銀色の針を通り血管に注がれていく
そんな光景を見ているだけの理由は、何も分からないからだ
一体自分が何を注射されているのか、なぜここにいるのかも分からない
だから俺は看護師に聞きたい
その液体は何か、と
聞きたい、つまりまだ聞いてはいないのだ
聞かない理由は、聞く隙が見つからないこともあるし、聞いてはいけない気もするからだ
「はい、おしまいです」
看護師はにこりと笑い注射針を抜く
多少の痛みとともに小さな穴から少量のピンク色の液体が漏れだす
我慢できないわけではない
しかし今はそれがとてつもなく痛く感じた
「看護師さん」
「はい?」
「一体この液体は何ですか?」
何を言っているのか分からなかった
さっきまで聞いてはいけないとか、聞く隙がないとかぐだぐだ言っていたはずだ
なぜ俺は聞いてしまったのだろう
看護師は考えるそぶりをする、しかし考えていないことが見え見えだ
そして考えるふりをしながら注射器を棚の形になっている台車の一番上に載せ、帰る準備を終える
最後に、看護師は冷めたまなざしを俺に向けて言った
「お体に障りますので、お休みになってはいかがでしょう」
メンテ
Re: 廃墟病院―黒蔦棟― ( No.7 )
日時: 2012/03/18 19:46
名前: 宮川 諒法 ID:o4tOiYOU


次の日
こんな暗い場所にいたら次の日も昨日も何も分かったものではないが、なんとなく分かった
第一看護師が「おはようございます」と言っていたから分かるのだが
看護師は変わり映えせず薄いピンクのナース服を着ていた
時たま、ピンクが濃くなったり、壁に混ざりこんでしまいそうな黒いナース服を着ているのだが
そして今日も、あの訳の分からない液体を注ぎこまれた
今日はいつもより量が多かった気がする
「今日、俺に面会はあるんですか?」
看護師曰く、今日は面会の日だそうだ
一か月に一回だった気がする
今の俺は記憶があいまいだ
誰かがこればきっと少しは思い出すんだろう
だが、もしも相手が俺が記憶喪失であることを知らない場合失礼にあたるかもしれない
「ええ、ありますよ」
衝撃的だった
まさか俺に面会しようとする人間がいるとは
以前のことはよく分からないが、きっと俺はロクな人間ではなかったんじゃないかと思う
今の精神状況が良好でないことは分かっている
その状態で此処まで思ってしまうんだから、良好でも、絶好調でもこんななのではないだろうか
きっと俺を好きだった人間は両親とその人間だけだろう
まぁ、両親も好きだったかは知らないが
むしろ、両親すら覚えていないが
「では、お呼びしますね」
看護師は小走りで出ていく
注射器を棚に置き、俺から離れた場所において
―――*―――
「では入ってください」
看護師の声がドアの向こうからした
面会人は無口なのか、何もしゃべらない
ただドアが開く音がする
起き上がろうと体に力を入れる
しかし背が異様に痛む、いや異様にというか……
まるで何かが染み込んで、動きを抑制しているような
しいて言えば、油の逆だ
あまりの痛みに目がくらみ起き上がれない
「そーちゃんっ!」
聞き覚えのあるような声が聞こえる
しかし、それ以前に頭が重くて仕方ない
ベッドのふちにぶつけるんじゃないかという勢いで落ちていく気がする
最後に耳元で「そーちゃん」と聞こえた
それで、その日の僕の記憶は途絶えた
まるで何かを切られてしまったかのように
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Re: 廃墟病院―黒蔦棟― ( No.8 )
日時: 2012/04/07 13:13
名前: 宮川 諒法 ID:DwKfK0VM


次に意識が戻った時、初めに聞こえたのは電子音だった
綺麗な感覚でぴ、ぴ、ぴと耳に届いてくる
そのうち視界も開けてきて、ベッドの横には女がいた
「そーちゃん……」
女は憂いを帯びた目で私を見ていた
まだ少し頭痛や、背中の痛みがあるが、私は腕の力だけで起き上がり、少し後ろに下がりベッドのふちに背を持たれるようにして座った
その姿、というか自分で動く元気があることに安堵したのか女は近くにあったパイプ椅子に腰をかけた
「……」
「私の……私の事分かる?」
「……」
「……友子、よ」
友子、その名前に聞き覚えはなかった
だが私はそれに対して何も返さなかった
別に友子に対して何かあるわけでもないし、知らないと死ぬわけでもない
だから、聞かなかった、それだけだ
「自分の名前は、分かる?」
まるで言葉を覚えたての幼子にかけるような声で友子は聞く
分からない、思いだせない
というよりは、自分に名前がある、なんて此処に来た時から考えてもいなかった
名前がないことが普通だった
だが山田、と呼ばれていたのは覚えている
それを私はただの【識別番号】のような感じで聞いていたらしい
自分の考え方と聴力の恐ろしさを知った
「山田……」
「そう……そう……」
だが、そのあとは出てこなかった
何度も繰り返すうちに、友子はあきれたように言った
「宗司、山田宗司、よ」
山田宗司
それが私の名前だった
メンテ

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