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[5373] ドラグーンストラトス
   
日時: 2017/12/08 16:57
名前: 道標◆XSSH/ryx32 ID:egfgiZkI

 あらすじ

 親父が云っていた。この広い世界を――困った人を――助けたいって。だから親父は《ドラグーンストラトス》を結成させて旅に出た。
 あれから八年が経った。もう俺はあの時のチビ助じゃない。ここから始まるのは俺と相棒の物語――だ。

 第一話:母さん。ごめん。俺・・・・・・旅に出るよ。>>1 第二話:母さん。有難う。俺・・・・・・行くよ。>>2 第三話:分かったよ。クレア。>>3

 第四話:母さん。・・・・・・分かったよ。俺・・・・・・行くよ。有難う。皆。>>4 第五話:剣に頼るだけが脳とは云えないね。アギト君。>>5

 スレッド誕生日→2017年10月19日
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Re: ドラグーンストラトス ( No.2 )
   
日時: 2017/10/20 09:01
名前: 道標◆XSSH/ryx32 ID:7x/.70Bo

 場所は俺の住む村の出入り口。時は魔力獣のガオスを召喚し今にもガオスの背中に乗ろうとしている頃合いだ。
 村長は今にも乗ろうとしている俺を見てまるでもう一人の孫でも見るかのように優しい眼差しを送っていた。
 これからだ。俺とガオスの旅は。正直の話で手汗が酷かった。これから向かうところは魔獣が棲む森だ。
 どうして手汗が酷いのかと云えば――それは――魔獣の卵を無事に三つも取れるかが心配だからだ。
 村長の話を真面目に聴けば聴く程に魔獣に見つかればどんだけ厄介かを知った。無事に――帰ってこれれば良いけど――
「ちなみにのう。魔獣が棲む森の名はナルナーガ森じゃ。ここから南西に向かった先にあるからのう。決して道に迷うことなかれ」
 ガオスに乗るか乗らないかの状態を維持したまま村長の言葉に耳を貸した。親切にも魔獣の棲む森を教えてくれた。
「分かりました。後で地図を確認します。それじゃあ・・・・・・」
 ガオスに乗る前に村長の返事を待たないとと思った。だから急に力が抜けた。
「ああ。達者でな。アギト」
 良し。村長の返事が終わったぞ。だからここは――力を入れ直して――
「待って! アギト!」
 え? ――母さん?
「おお。これはこれはなんと云う顔で会えば・・・・・・」
 村長はそう云いながら端に寄ってくれた。これは村長からの気遣いだろう。なんとも――有り難い話だ。
「・・・・・・母さん」
 母さんは黙って俺に近付いてきた。俺は今にも乗りそうな気持ちを抑えて母さんを待った。そして母さんは俺の近くで立ち止まった。表情は下向きで悲しみを表していた。両手は胸の上で交差していた。
「・・・・・・アギト。これを・・・・・・」
 母さんが差し出してきたのはなんとガスト兄さんの形見であるお守りだった。これは母さんがガスト兄さんの為に作った大事なお守りじゃないか。
「母さん」
 今にも泣きそうだった。だってこのお守りはガスト兄さんの無事を祈って作られた物だから。
「行くんでしょう? なら・・・・・・これを持って行きなさい」
 母さんが俺にこれを持てと云うからには認めてくれたのだろう。だから俺は素直にガオスに乗るのをやめて母さんの下へと急いだ。と云っても歩きだったけど。
「母さん」
 母さんと手が握れる距離まで近付いた。そして立ち止まると急に感極まり今にも涙が溢れそうだった。まさか。こんな形で和解するなんて思いもしなかったから。
「良い? アギト。最後まで諦めないで行くのよ。私達の分まで頑張りなさい。そうすればきっとご利益があるから」
 ふと全体を見ると母さんの後ろにガスト兄さんがいるような気がした。それからなぜかは分からないけれど俺は笑顔で母さんに答えた。
「母さん。有難う。俺・・・・・・行くよ」
 きっと――母さんの温かい手の感触とガスト兄さんの今にも護ってくれそうな眼差しに安心を得たんだと思う。俺――頑張るよ。母さん。そう。思いながらも母さんのお守りを手に入れた。
「うん。いってらっしゃい。アギト」
 母さんはまるで――いや――ガスト兄さんを見送った時のような微笑みを見せてくれた。ああ。ガスト兄さん。親父。俺――後から行くからね。待っててくれよな。無意識に天を仰ぐ。
「んじゃ俺・・・・・・いってきます」
 天を仰ぐ事をやめた俺は母さんを見た。こんなにも早くに和解が出来るなんてこれはガスと兄さんのお陰だな。ガスト兄さんには感謝しても仕切れないや。
「うむ。どうやら和解が出来たようじゃのう。出来れば濃ともと云いたいところじゃが・・・・・・今は一刻も争う事態じゃろう。アギトや。無事に生還するのじゃぞう」
 あ――そうだった。まだ母さんと村長は仲直りしていないんだ。あ――でもこの感じだと後で勝手に仲直りするかもだな。だからここは潔く返事をしておこう。
「はい! 村長!」
 威勢良く返事をした。気付いた時には手汗が引いていた。これも全て母さんの勇気ある行動のお陰だ。母さんにも感謝しても仕切れないや。
「アギト! 無事でね!」
 こんな俺に笑顔で答えてくれた母さん。
「母さん」
 また感極まりそうになった。これは絶対に母さんの云い付けを守らないとな。そうじゃないと本当にお守りのご利益がないぞ。これから本当に気をつけよう。
「貴方の事だからきっとこんな日がくると思っていた。・・・・・・大丈夫。母さんは強いから。後の事は任せなさい」
 きっと後の事はと云うのは村長との和解も含まれているのだろう。そう。信じたいところだ。だから俺に出来る事と云えば――
「うん! 母さん!」
 元気良く頷く事だけだ。
「今思えば貴方とガスト・・・・・・それにお父さんは・・・・・・こうなるのが宿命だったみたいね」
「え? 宿命?」
 間髪入れずに疑問符だらけになった。母さんは一体――なにを云っているんだ?
「ううん。なんでもないわ。さぁ。いってらっしゃい。アギト。今度こそ」
 母さんはまだなにか隠しているに違いない。でもそれを訊き出すには無理かも知れない。しかも俺にはそんな余裕は残されていなかった。
「う、うん! 分かった。俺・・・・・・無事に達成して帰ってくるよ。だから・・・・・・だから・・・・・・母さん。そんなに悲しまないで。お願いだから」
 だから慌てて云ってしまった。ただ単にこれ以上に母さんの悲しみを見たくなかった。だけど勝負の賭けに出るのだからそんな事を云う資格はないのだろう。でも――それでも――どうしても云いたかった。
「そうね。母さん。なにかと間違ってたみたい。・・・・・・事は一刻も争うんでしょう? 止めて悪かったわね。アギト」
 母さんはもう既に寛容になっていた。それどころか。心配をしてくれた。しかも謝ってくれた。なんだろう。これから外界の試練に挑戦するのに今にも泣きそうだよ。でも泣いたら駄目だ。だからここは――
「ううん。母さんのお守り。ガスト兄さんの加護。これより勝る物なんてないよ。・・・・・・んじゃ俺・・・・・・今度こそ行くね?」
 今にも泣きそうな面構えで母さんの非を否定した。全ての温もりが俺の心に負けない気持ちを植えさせてくる。これならどんな事に巻き込まれても枯れたりする事もない。俺は――最強を手に入れたんだ。絶対に生きて帰ってきてやる。
「分かったわ。アギト。帰ってきたら今日はご馳走ね」
 母さんの手料理は旨いんだよな〜。もしご馳走が本当ならもっと美味しいに違いない。これは絶対に悲しませる事にさせない。ってそれよりもそろそろ行かなくちゃいけない。
「うん。分かった。それじゃ・・・・・・」
 なにかを云い終わる前に沈黙に入るとガオスの背中に乗ろうとした。そしてガオスの背中に乗るとガオスに飛べ! と命令した。するとガオスは両翼を羽ばたかせて飛び始めた。
「・・・・・・達者でな〜。アギト〜」
 村長の声が辛うじて聞こえる。もう――この時にはガオスは宙に浮いていた。そしてそのまま上昇していく。
「どうか無事でね! アギト!」
 最後に聞こえたのは母さんの声だ。そしてやがて村長の声も母さんの声も聞こえないところまで飛んでいた。しかも村長の姿も母さんの姿も見えなくなった。これから俺は――外界の試練を受ける為にこの村から離れるんだ。

 場所は俺の住んでいる村から南西上空。時は村長から頂いた地図をガオスの背中に乗りながら見ていた頃合いだ。今――ガオスは十分に高さを維持できているので滑空状態だ。
「えーと・・・・・・地図によればそろそろなんだけどな」
 独り言だ。実に呑気な光景だが至って真剣だ。そもそも地図によればそろそろ巨木が現れても可笑しくない筈だ。なんでもナルナーガ森では真ん中に巨木がありその下に魔獣の巣があるのだとか。
「あ! あれだ! きっとあそこに違いない!」
 遂に秘境を見つけたと云わんばかりに叫んだ。確かにいくつもの巨木が乱立していた。うっへぇ〜。これが外界かぁ〜。なんてでかい木なんだ。地図に描かれているとおりだ。
「早く下りよう!」
 それだけを云い残してガオスを指揮しつつ安全地帯に下りようとした。と云ってもどこが安全でどこが危険なんて分かる筈がなかった。なんせ俺は初めての外だったから。
「うん。この辺で下りれそうだな。ガオス。行けるかぁ」
 下りるも下りないもガオス次第だった。だけど俺はガオスを信じていた。ガオスならやってくれると。
「ギュルル♪」
 ガオスは余裕そうに唸りながら滑空状態から両翼を羽ばたかせて宙に留まり始めた。ちょっとずつだか下降し始めた。
「そうだ。ガオス。その調子だ」
 ガオスを褒めた。それも鱗を撫ぜながら。
「ギュルル♪」
 実にガオスは機嫌良さそうにどんどん下降していた。
「お? 森の中が見えてきたぞ! ガオス!」
 すると今まで森の全貌が見えていたのに今は森の中が見えている。俺は感動を覚えながら云っていた。
「ギュルル!」
 どうやらガオスも外の森の様子が不思議に思えたようだ。ガオスの驚いたかのような唸りを聞いた俺ですら感動を覚えた位だ。
「・・・・・・よぉーし。そのまま。そのまま・・・・・・」
 声で静かに下りる事への合図を送った。するとガオスに伝わった。ガオスはゆっくりと降下した。
「よし! 着いた! ここが・・・・・・ナルナーガ森だ!」
 ガオスが無事にナルナーガ森の地面に両足を付けた。
「よっと・・・・・・」
 そう云いながらガオスの背中から下りた。ガオスは背中が痒かった。だから身震いをした。なんだ。そうなら――ってガオスは魔獣だ。さすがに云っても分からないか。それよりも――
「ここが・・・・・・ナルナーガ森かぁ」
 魔獣の巣どころか巨木すら見当たらない。それでも大体の目星は付いていた。
「えーと・・・・・・大体ここから西の方に巨木があったな」
 すぐさまに地図を確認した。・・・・・・うん。間違いない。ここがここだから目的地はここにある筈だ。地図と睨めっこをして――
「ギュルル?」
 あ――ガオスの事を忘れていた。つい。うっかりしていた。ガオスは不思議がっていた。おーい。俺は水晶に戻らなくて良いのかと云わんばかりに。
「あーごめんごめん。すっかり忘れていたよ。ガオス」
 そうだ。ここからは単独で動きたいとも思っていたんだ。――有難う。ガオス。
「ギュルル・・・・・・」
 ガオスは心の中で褒めた事なんて知らなかった。だから意思疎通出来ずにガオスは項垂れた。テンションががた下がりのようだ。
「はは。ごめんごめん。・・・・・・んじゃあ仕方ないしちょっと散歩がてらに一緒に歩くとするか。なぁ? ガオス?」
 慰めるようにして云った。それにここから巨木まではまだ距離がありそうだった。だからここは散歩がてらに一緒に行く事にした。これでちょっとは気分転換になるだろう。
「ギュルル♪」
 どうやらガオスもそうしたくなってきたみたいだ。ずっと水晶の中だと可哀想だからな。たまにはこう云うのも悪くないかもな。なぁ。親父。
「んじゃあ行くとするか。ガオス。目指すは巨木だ。絶対に見つけるぞ。エイエイオー!」
 俺は空に目掛けて高らかにガッツポーズをした。別に恥ずかしいはなかった。むしろ。清々しい気持ちになった。
「ギュルルル!」
 それはガオスも一緒のようだった。ガオスは俺同様の動きは出来ない。だから両翼の左右に広げて表現をした。なんとも相棒らしい光景だ。
「んじゃ行くぞ! ガオス!」
 地図には珍しい事にコンパスが左下辺りに内臓されていた。凄い便利な地図だなと感心しながらガオスの返事を待った。
「ギュルル!」
 ガオスの返事がきたので俺は歩き始めた。両手で地図を見ながら歩いているので正直のところ目の前が分からない。だけどもし地図どおりならば危ない箇所はない筈だ。地図とコンパスを頼りにしばらく歩こう。
「・・・・・・にしても随分と広い森なんだな。地図とコンパスとガオスがいなければ確実に迷子になるな。これは」
 独り言だ。地図で見る限りはそんなに広く感じないのに実際に立ち入るとこうも広いなんてね。はぁ〜。大分歩く事になりそうだ。
「ギュルル?」
 ガオスが俺の後ろにいて付いてきている。声がしたので間違いないな。とまぁ実際は振り向いて確認しろよと云われそうだ。したいが地図も気になる。どうやら俺は器用じゃないらしい。
「ここにガスト兄さん達は踏み込んだ訳か。そりゃあ危険を伴うよな〜」
 ガスト兄さんと親父はなにを思ってここに辿り着いたんだろう。俺と同じならばドキドキとワクワクが止まらない。冒険ってこんなにも心臓にくるんだ。初めて知った。
「ちょっとでも動く物があるとつい反応してしまう。風だと信じたいけど」
 だけど風ってそんなに吹いてなかったような気がした。それも上空にいた時から気付いていた事だ。ならばこの物音と動く物はなんかの動物のせいか。うーん。そうだと信じたい。いや。そうだとだれか云ってくれ。頼むから。
「・・・・・・と云っても本当にだれもいない。遭難したら大変だな。まっ! いざとなったらガオスの出番だな。な! ガオス!」
 この時はそう考えられる余裕があった。だけどこの後に一体どんな困難が待ち構えているのだろうか。それは――俺には絶対に分からない事だった。
「ギュルル!」
 それにしてもガオスはいざとなったら主人を助ける! 的な雰囲気の唸り声を出していた。それも自信満々だった。果たして俺とガオスの思惑は成立するのだろうか。
「はは! ガオス! 頼もしい限りだな! いざとなったら頼んだぞ! なぁ? ガオス!」
 俺には心強い相棒がいる。そうだ。ガオスと云う相棒が。これならば切り抜けられると云わんばかりにそう云い終わると走り始めた。
「ギュルル!?」
 まるで不意を突かれたかのようにガオスが一生懸命になって俺を追う。俺とガオスは目では見えない鎖で繋がれているのだった。

 俺達はようやく巨木を見つけた。もうこの辺りまでこれば後は楽勝だ。なぜなら巨木はある一定の距離に生えている。だからそこに魔獣の巣がなくても次を探せば良い。もちろん。全滅もありうる。気を付けないとな。ちなみにガオスは水晶の中だ。
「あれが・・・・・・巨木か。ここからでもなんて云う太さなんだ」
 初めて見る巨木の存在感に圧倒された。なんて云うんだろう。俺が知っている森の木の太さじゃない。もう立派を通り越している。なんと云うか。いかにも神が宿る木っぽい。それならば俺はとんでもなく神聖な場所を汚そうとしているんじゃ――
「いやいや! もしそうだとしても俺には使命があるんだ!」
 自分の罪悪感を顔を左右に振ることで振り払った。しかもそう云う事で自分を正当化した。だってそうでもしないと一生檻の中ってことになる。それに俺には外界に行かなければいけない理由がある。神聖な場所だと思うけれどどうか許して下さい。
「それにしても・・・・・・あれが・・・・・・魔獣の巣?」
 なんだか巨木の影にすがるように佇む巨大な巣らしきところを発見した。一際広いところに巨木が生えている。つまり今の俺はそれなりに遠い茂みの中から観察していた。どうやら魔獣はいないようだ。よくよく見ても見なくてもあの巣のでかさは異常だ。
「・・・・・・え? だれか・・・・・・いる?」
 どうやら魔獣の卵を狙っているのは俺だけではないようだ。この感じからして大人が三人で子供が一人のようだ。間違いない。俺の視力は良い方だから自信がある。って! 待てよ! あいつらが魔獣の卵を持って帰ってるならば俺の分は!? ――は!?
「魔獣が帰ってきたー! 早く! 逃げろー!」
 俺の声じゃない。既に魔獣の巣にいるだれかが云ったに違いない。それも子供の声だ。どうやら子供は見張り役らしかった。って! こんな事をしている場合じゃない! 早く! 追わないと! って! うお!? 一回聞くだけで魔獣と分かる雄叫びがした。
「あいつら・・・・・・なにを手間取ってるんだ! 子供もいるんだぞ!」
 茂みの中から窺っていると大人三人はまだいけると魔獣の卵を盗んでいるようだ。それにしても魔獣の正体が怪鳥だなんてな。怪鳥は地面に着地するや否や自分の巣目掛けて突っ込んでいった。
「ひぃ!? ひぃいい!?」
 大人三人は子供を見捨てるように一目散に散らばって逃げた。子供は怪鳥に気を取られていた。だから身動きを一切取らなかった。
「危ない!」
 俺が思わず屈んでいたところを立ち上がって云った。これで――多分だが俺もばれたな。だけど俺の言葉のお陰で子供は正気を取り戻した。それと同時に俺も走り出した。どこのだれかも分からない。だけど助けない訳にはいかない。子供は逃げ始めた。
「な!?」
 子供が扱けた。まるで俺の方が扱けたような感じだが。それにしてもそうこうしている内に怪鳥が子供目掛けて走っていた。ジワジワと距離が縮む。子供がうつ伏せから仰向けになって悲鳴を上げている。あの感じからして足を挫いたのかも。
「・・・・・・え?」
 子供の声だ。どうやら目の前に現れた俺を見て不思議に思ったようだ。幸いな事に怪鳥は子供に対して突っ込む気はなかった。それが一番に幸をそうした。怪鳥は俺が現れる前は呑気に歩いていた。それも多分だが子供に噛み付く手前だろう。なんとも幸運だ。
「なぁ! 立てるか!」
 俺が子供の前に立った時には鞘から両刃剣を抜いていた。そして両刃剣を前に構えていた。それから子供に一言掛けた。もし立てなかったら俺がこの怪鳥を倒すか。もしくは撃退するしかなかった。果たして俺と子供の運命はいかに――
「痛い。駄目。立てないよう」
 くそ。そうだった。もし立てても怪鳥から逃げれるとも限らない。ここは――戦うしかない。だけどまずはそれよりも怪鳥の向きを変えさせないと。このままじゃ子供を巻き込んでしまう。とここで怪鳥のデカイ口が開いた。どうやら噛み付いてくる気だ。
「させるかぁ!」
 俺は両刃剣の柄だけではなく剣先にも左手を添えた。そして両刃剣を縦に構えた。すると怪鳥の口が両刃剣に吸い込まれるように当たった。どうやら両刃剣の方が長かったらしい。なんとか怪鳥の噛み付きから身を護る事が出来た。そしてそのまま弾いた。
 すると怪鳥の首が上を向いた。今だと思い。俺は走った。
「え? 待ってよ!」
 どうやら子供は見捨てられたと思い込んだようだ。だが実際は違った。子供から目を逸らさせる為に走った。決して見捨てようと思う程に俺は最低な人間ではない。
「良し!」
 正直のところは賭けだったが怪鳥は狙いを子供から俺に変えたようだ。俺は思わず心の中でガッツポーズをした。そうだ。そのままこっちにこい。怪鳥は徐々にこっちを向いている。そしてやがて子供とは真逆な方へとくると立ち止まった。
「あれ?」
 子供のあどけない声がした。それもそうだろう。怪鳥が目線を逸らし別の獲物を狙っているのだから。その別の獲物こそが俺だ。両刃剣を前に構えてこいと威嚇した。いや。怪鳥なら威嚇しなくても突っ込んでくるだろう。そこが――チャンスだ。
「こい! 怪鳥!」
 怪鳥は多分俺の威嚇なんてどうでも良いと踏ん付けただろう。それでもなんとなく俺は怪鳥の動きが読めた。それは怪鳥が絶対に俺目掛けて突っ込んでくるだった。案の定。怪鳥は俺目掛けて突っ込んできた。俺は両刃剣を構えた。まるで抜剣するかのように。
 狙いは一瞬だ。きっと俺もただではすまないだろう。――はは。なんでこうなったんだ。みずも知らない人間の為になんでこうも――でもその中に子供がいた。だからこそに足が勝手に動いたのだろう。子供をさすがに見捨てる訳にはいかなかった。
 怪鳥がどんどん近付いてくる。巨木と比べれば軟弱そうだがまともに喰らえば死ぬ可能性もあるだろう。嫌だな。生半可な状態も。一体なにがなんでこうなったんだろう。過去を振り返ってもなにもでない。ただ云える事は勝たねば死ぬと云う現実だった。
 ――怪鳥と交差した。俺と怪鳥の大きさは一目瞭然だった。だからこそに俺は脚を狙った。首を狙うなんて無理だった。頭なら尚更に無理だ。ここはひたすらに脚を狙い続けるしかない。そうしたらきっと勝機はある。俺はなんとか避け続ける事に成功した。
 そして遂に――怪鳥は悲鳴を上げながら勢い余って扱けた。この瞬間を逃さなかった。怪鳥は脚を斬られ続けたせいで立つのに苦労している。だから俺はこの隙に怪鳥の側まで行った。そして怪鳥の目の前で立ち止まると両刃剣を前に構えた。これで終わりと。
「悪く思わないでくれ。行くぞ。うおおおおお」
 必死にもがいている怪鳥を他所に俺は雄叫びを上げながら怪鳥の頭部目掛けて突っ込み立ち止まり切り付けた。この時の俺は両瞼を閉じていた。怪鳥の断末魔が聞こえてくるようだった。いや。この時の俺はなにも聞こえなかった。なぜかは分からないけど。
「・・・・・・え?」
 気付けば辺りに静けさがやってきていた。
「お兄ちゃん。やったの?」
「え?」
 気付けば子供の声がした。俺は恐る恐る両瞼を開けた。すると目の前にあったのは両瞼を閉じたきりピクリとも動かない怪鳥の姿だった。
「凄いや。お兄ちゃん。怪鳥をやっつけちゃうなんて」
 気付けば隣りに子供がいた。もう――動けたのか。それは――良かった。俺は知らぬ間に呼吸を止めていた。だから再度呼吸をすると酷く荒れているのが分かった。
「俺は凄くないよ。それに・・・・・・意味のない殺しに罪悪感しかないよ」
 謙遜じゃなくて事実だ。現にもう目的から逸脱している。いくら子供を助ける為とは云え罪悪感しかない。本当にこれで良かったのだろうか。もっと他にしてあげれることがあるんじゃないのか。頭の中で思考が渦巻く。
「ううん。それでもお兄ちゃんは凄いよ。だって僕を助けてくれたから」
 これが――子供なのだろうか。いや。子供と云えば俺も十分に子供だけど。それでも隣りにいる子供よりも年上だ。
「・・・・・・そう」
 俺はそう云うしかなかった。言葉や表情に喜びはない。なぜならどこに住んでいるかも分からない子供だからだ。それでも助けた事に後悔はない。
「おい! エルム!」
 うん? 後ろからだれかの声がする。――あ――もしかしてさっきの大人の内の一人か。俺と子供が振り返る。するとそこにいたのは――
「あ! ガルムお兄ちゃん!」
 うん? ガルムお兄ちゃん? エルムは隣りの子供の名前だろうか。エルムと云われた子供は慌ててガルムの下へと痛そうな足を引き摺りながら歩いていた。
「エルム。大丈夫か。怪我はないか」
 ガルムがエルムの状態を気にした。この感じからしてガルムはエルムの本当のお兄ちゃんだろう。俺には分かる。この二人には俺とガオスと似たような鎖があるのを。
「うん。怪我はちょっと足を挫いた位だよ。命はね。そこのお兄ちゃんに助けて貰ったよ」
 エルムは指で俺を示しながら云っていた。怪鳥に襲われそうになったところを助けた事でなにやら接点が生まれそうだった。
「そうか。・・・・・・おい。あんた。有難うな。弟を助けてくれて」
 やはり。それに良く見ればエルムとガルムは顔立ちがそっくりだ。名前までそっくりなのは驚きだけど。ってそれよりも残りの二人が俺を囲った。
「・・・・・・の割には物騒ですけど」
 俺の事を絶対に残りの二人は怪しんでいるな。その証拠に両刃剣を鞘から出して俺の方に向けている。
「おい! オジン! ガイズ! 余計な事はするな!」
 俺にはどっちがオジンでどっちがガイズかが分からない。だけどどうやらガルムは俺の味方をしてくれるみたいだ。
「だけどよう! こいつは俺達の縄張りにいやがるんだよ?」
 どっちかが分からない。だけど俺が予想するならばこっちがオジンだ。
「そうだ! ここは代々俺達が護り抜いてきた土地なんだ!」
 そしてこっちがガイズだと思う。あくまでもこれはあてずっぽうだ。
「おい! あんた! なんでここにいる?」
 ガルムはきっと俺の事を悪い奴とは思っていない。だからそんな事を訊くのだろう。だけど残念だが俺は最低な人間かも知れなかった。
「・・・・・・ほら! 見ろ! こいつは答えられない理由があるんだ!」
 オジンが両刃剣の剣先で俺を突くようにした。確かに俺は答えられない状態にあった。一体――どうすればこの状態から抜け出せれるのだろうか。
「そうだ! きっと縄張りに手を付けようとしたんだろう! 正直に吐け!」
 ガイズも両刃剣を俺に突くようにした。実際は当たってはいない。だけどそれでも心に突き刺さるのはなんでだろう。俺って――こんな人間だっけな。
「待て! 待てと云っているだろ! そいつはエルムの恩人だ!」
 ガルムが吠えた。確かに俺はエルムの恩人だろう。その事実だけでガルムは俺の味方をしてくれているに違いなかった。なんて――良い奴なんだ。
「だけどよう。素性も分からない奴を受け入れるなんて出来ねぇよ」
 オジンの云う通りで俺の素性は闇の中だ。そこから出せるのは無言だけだ。もしかしてこの状況ってかなり不味いんじゃないのか。どうしよう。
「黙れ! エルムを置いて逃げた奴に恩人の悪口は云わせねぇ! それに! 仲間を見捨ててなにが護り続けてきただ! 甚だしい!」
 うお。ガルムが更に吠えた。関係のない俺ですら驚いてしまった。ただしガルムの云っている事は正しかった。確かにそうだと思えるところがあった。
「う・・・・・・分かったよ。だけど変な動きをしたらその時は・・・・・・」
 オジンが図星を突かれたかのように弱い声音で吐いた。だけど怪しい奴に変わりはないと俺が少しでも変な動きを見せたら切るらしかった。
「分かっているよな? なぁ? あんた・・・・・・」
 あ――これは間違いなく脅迫だな。でも――彼らの信用を勝ち取るには必要不可欠っぽいしここはそれで良いや。
「・・・・・・すまないな。最近は盗賊が多くてな。皆はピリピリしているんだ。俺の名前はガルム。宜しくな」
 お――ガルムが改めて自己紹介をしてきた。これは凄く有り難い。ガルムは右手を差し出してきた。うん? ああ。握手か。
「俺の名前はアギト・・・・・・だ」
 俺とガルムは握手をした。ちなみに俺が沈黙に入ったのはやましい事がバレナイかヒヤヒヤしたからだ。もしバレたらやばいだろう。
「そうか。アギト・・・・・・か。良い名前だな。・・・・・・おい! お前達も自己紹介しとけ!」
 なぜかは分からないけど名前を褒められた。別に気分は悪くないけど実に喜び辛い。しかも残り二人の自己紹介も聴く事になるのか。
「・・・・・・分かった。俺の名はオジンだ。これからは宜しくな」
 俺の予想通りだった。俺の左側にいるのがオジンだった。と云う事は――
「ふん。俺の名はガイズだ。それ以上は云わねぇぞ」
 俺の右にいる人がガイズだ。どうやらガイズには相当に嫌われているようだ。
「分かった。えーと、ガルムにオジンにガイズだな」
 俺は全員の名前を云ったつもりだった。だけど一人だけ忘れていた事を思い出した。
「アギトお兄ちゃん! 僕の名前を忘れてるよ?」
 そうだ。エルムの事を忘れていた。あはは。てか。俺はエルムの自己紹介を妨害した訳か。なんて最低な奴なんだ。俺は。
「ああ。ごめんな。エルムも宜しく」
 だけど俺はもうエルムって事を知っていた。だから俺はエルムの名前を出して音沙汰がないように云った。
「うん! 分かった!」
 エルムはきっと自己紹介をしていないのに憶えてくれていた事に喜んだんだと思う。凄くキャピキャピしながら云っていた。
「それで? 何度でも訊くがあんたはなんでこんなところにいるんだ?」
 う――鋭いパンチを入れられたようだ。く――云えない。けど――云わなければ――
「俺は・・・・・・」
 早速言葉に詰まる。だって云ったら切られる可能性がある。そんな状態でぬけぬけと云う馬鹿はいない筈だ。
「うん? なんだ? もう殺したりはしないから云ってみろ」
 こ、殺す!? あ――でも殺さないのか。それでも云うにはかなりの根性がいる。はぁ〜。云うしかなさそうだな。もう。
「実は・・・・・・俺は・・・・・・魔獣の卵が必要なんだ。それも三つ。でも縄張りがあるなんて知らなかったんだ。そこはごめん」
 云ってしまった。するとガイズの目付きが鋭くなったような気がした。まぁこうなるよね。
「ほら見ろ! ガルム! う・・・・・・」
 だけどガイズよりもガルムの方が怖いようだ。一瞬でガイズを蹴散らした。はぁ〜。良かった。どうやら運が回ってきたみたいだ。
「アギトの思惑は分かった。これからは俺達が恩返しする場面だな」
 ほ――正直に云って良かった。それにしても恩返しだなんてなんだか凄くおこがましいような――だって本来は縄張り荒らしみたいな感じだし――
「な! タダであげるって云うのかよ!」
 ガイズの云う通りだ。とは云え魔獣の卵を三つも頂けたら嬉しい。と云うか。手に入れないと俺は一生檻の中――あ――いや――もうそれはないか。
「そうだ。・・・・・・ほら。この袋に魔獣の卵が入ってる。受け取りな」
 ガルムの太っ腹だ。魔獣の卵が入っている袋を差し出してくれた。さりげなく魔獣の卵入りの袋を頂いた。手段はどうあれ手に入れた事は間違いない。俺は安堵した。
「有難う! 実は俺・・・・・・村の試練を達成するのに魔獣の卵が三つも必要なんだ」
 こんな粋の良い事をしてくれるのは本当に起こり難かった。だから俺はせめてにもと云わんばかりに理由を云い始めた。さすがに云わないと失礼と思った。
「そうか。そんな理由があったのか。にしてもそれを達成してなんになるんだ?」
 ガルムは不思議がっていた。そうか。それはつまりガルムの村? にはそんな仕来りがないんだ。だから訊くんだ。んじゃもうこの際だし全部云おう。
「実は俺の村は十六歳から旅に出れるんだけど俺はまだ十四歳で特別に旅に出れるようになるには試練を達成するしかないんだ」
 正直に全てを云った。もうここまできたら分かってくれると思ったからだ。
「なるほどな。それで? どうして旅に出たいんだ?」
 そこも云った方が良さそうだな。だからここは――
「実は親父が俺を呼んでいるんだ。早く旅をして合流して欲しいって。なんでも緊急事態らしいんだ」
 親父。本当に大丈夫なんだろうか。今思えばどうして親父は俺んち宛じゃなくてわざわざ村長宛に書いたんだ? とにかく今は帰る事に専念すべきか。
「なるほど。大体の経緯は分かった。ならそれを持ってさっさと帰りな。こいつらの気が変わらない内にな」
 ガルムもこう云っているし。あ――でもこれだけは云っておかないとな。
「有難う。この恩は一生忘れないよ。ガルム」
 忘れない。こうして出会えた事を。
「なぁあに。恩を忘れないのはこっちの方だ。さ。行きな。じゃないと俺の気が狂っちまう」
 命の恩人とは云え大事な魔獣の卵をくれたんだ。そりゃあ気が狂っても可笑しいはない。だからここは――
「ああ。それじゃ・・・・・・」
 手を振りながら去ろうとする。余りにも急かされた感じがしたので相手の意見を聴かずに移動を開始した。
「ああ。また・・・・・・会えると良いな。んじゃあな! アギト! ・・・・・・おい! 俺らも一旦帰るぞ!」
 するとガルムはほんの少しの対面の内に云ってきた。俺の名を呼ぶ声がした。だけどその頃には俺は既にガルムに背を向けていた。だから俺はガルムに手で合図した。そして段々ガルムの声が聞こえなくなるのだった。

 次回に続く
メンテ
Re: ドラグーンストラトス ( No.3 )
   
日時: 2017/10/24 17:37
名前: 道標◆XSSH/ryx32 ID:VE6RRYHs

 遂にだ。遂にこの日がきた。魔獣の卵を入手してから一夜が明けた。昨日は皆が盛大に祝ってくれた。俺は気付かなかったけれど魔獣との戦いの時に頬に傷を負っていた。すぐに傷が元に戻りそうで良かった。
「うーん。今日はなんて良い日なんだ」
 目覚めは絶好調だった。だからこそに窓際に立ってカーテンを開けて背伸びをしていた。今日は晴々とした日和だった。まるで朝日が俺を歓迎してくれているような気分だった。実に清々しい一日になりそうだった。
 無言のままに着替えに行った。今日は当然旅に出るのだから一番動きやすくて尚且つ丈夫な服を選ぼう。――そうだ。これが良い。出したのはお気に入りの服とズボンだった。これなら外に出ても恥ずかしくない。絶対に。そう云いつつ早速着替え始めた。
 着替えが終わると颯爽とネックレスと長剣入りの鞘を装備して自分の部屋から出て階段を下りようとした。階段はL字型になっていていつも壁にぶつかりそうになる。とまぁそれは置いといていつもこのタイミングで叫ぶ言葉がある。それは――
「母さーん!」
 いつもなら母さんは台所にいる筈だ。だから慌てて台所に向かった。
「どうしたの? アギト? 今日も元気ねぇ?」
 台所に元気良く向かうと危うく転びそうになった。だけど転ばずに母さんの横で立ち止まった。良かった。いつもの母さんだ。母さんは既にフライパンの上に目玉焼きを乗せていた。いつもの代わり映えしない料理だけどそれでも俺は大好きだ。
「・・・・・・へへ。母さん。ご飯まだ?」
 恥ずかしそうに右手で鼻の下を擦った。そしてそのまま云い終わった。云い終わると右手を元の位置に戻した。
「なによ。いきなりきて。それはないでしょう。挨拶はどうしたの」
 母さんはいつもの文句を云う。今の俺にはそれがとても居心地が良かった。なんだろう。凄くフワッフワッの布団に包まれたような感じかな。
「母さん。おはようございます」
 律義にお辞儀までして挨拶をした。なんだろう。今日はいつも以上にやる気が出てくるぞ。それもこれも今日が旅立ちの日だからか。
「なによ。今日はやたらとしっかりしているわね。いつもは・・・・・・」
 うげ!?
「ああ! それ以上は云わないで! 自分でも分かってるから!」
 本当に。分かっている事だから。いつもは本当に母さんに迷惑ばかり掛けていたよ。本当にごめん。
「そう。料理の前に手を洗いなさいよ。アギト」
 母さんは微笑した後に優しく云った。いつものやり取りは実に微笑ましかった。
「はーい」
 素直に台所で両手を洗った。いちよう洗面所もあるけどこっちの方が近いから使っている。
「・・・・・・手を洗ったわね? んじゃあ今日のご飯よ。さ。食べなさい」
 沈黙の時に俺が洗っているところを見ると母さんはそう云った。
「はーい」
 母さんの云う通りにテーブルの下にしまいこんでいる椅子を引き下げて座った。
「・・・・・・はい。どうぞ。今日はパンの上に目玉焼きよ」
 見た感じは質素だ。それでもこれが俺にとっての最高の一品だ。そりゃあ一流とかと比べると種類も少ないけどそれでも俺の愛するご飯に違いはなかった。
「フフ。そんなに慌てて食べないの。ほら・・・・・・ミルクもあるわよ」
 母さんが微笑んでいる。昨日はあんなに情緒不安定だったのにこんなにも変わるもんかな。あーでもこっちの方が良いや。もう俺は檻の中の私物じゃないんだ。
「そう云えば・・・・・・村長が朝早くにきてアギトに用事があると云ってたわよ。暇があったら村長の家に行ってらっしゃい」
 そうなんだ。村長がそんなにも早くに。
「うん! 分かった! 後で行ってみるよ!」
 食べながらも云った。実に味は平凡だけどそれでも好きなもんは好きなんだ。それにしてもこの感じからして母さんは村長と仲直りしたみたいだ。多分だけど。
「それと・・・・・・朝の内に行くんでしょう? アギト?」
 図星だ。母さんは俺の事となるとすぐに分かるみたいだ。凄く背筋がゾクッとした。
「う、うん!」
 思わず声が吊り上った。なんでだろう? 別にやましい事なんてないのにな。
「そう。・・・・・・なら渡したい物があるの。だから私は今すぐにでも村の出入り口でアギトを待っているわ」
 今すぐにでも待つって云うけれど――
「え? 今じゃ駄目なの?」
 あ――要らない一言だったかな。母さんは母さんなりの考えがあるだろうしな。
「駄目なの。そうね。かなり大事な物だから時間がある時に渡したいのよ」
 母さんが俺の物真似をした。凄く似ていたような気がする。と云っても特徴が似ているだけど声音は似ていなかった。
「そうなんだ。一体・・・・・・なんなんだろう?」
 凄く気になるけど母さんはそう簡単には見せてくれないからな。
「フフ。それは見てのお楽しみ」
 それに余りにしつこくし過ぎると怒られるだろう。母さんをもう一度情緒不安定にさせる訳にはいかない。
「分かった。んじゃそろそろ村長のところに行くよ」
 だからここは軽く頷いた。そして村長のところに向かうと云った。それにしても村長は俺になんの用があるんだろう。まぁ行ってみれば分かる事だな。きっと。
「そうね。それじゃあアギト。粗相のないようにね」
 母さん。俺はもう十四歳だよ。粗相のないように出来るよ。多分だけど。それよりも今は――
「うん! 分かった!」
 深く素早く頷いた。そして俺は廊下と台所を結ぶ扉の前まで移動した。もちろん狙いは廊下だ。
「それじゃあ行ってらっしゃい」
 母さんは実に寛容になった。それもより一層に。もう――気にしていないんだろうか。
「それじゃあ行ってきまーす」
 だけど俺は訊けなかった。きっと怖かったんだと思う。だから逃げるようにそう云い残して廊下にまで走って行った。そして次の狙いは玄関だった。
「はい。行ってきなさい」
 母さんの声が聞こえた。
「うん。バイバーイ」
 だから返事をした。
「バイバイ」
 すると母さんの返事が最後に聞こえた。それからほんのちょっと経つと既に俺は家の外にいた。目指すは村長の家だ。果たして一体なんの用事なんだろうか。

 母さんに云われて俺は今村長の家の中にいる。なんだか大接間が堅苦しい。村長は和やかに話し掛けてくれるけれど。どうやらその空気を作っているのはクレアのようだった。村長もクレアも俺の反対側の椅子に座っている。
「じゃからのう。アギトや。お前さんに合った防具を作ろうと思う。良いな?」
 なるほど。確かに今の服だと申し訳ないけれど心許ないかも。
「あ! はい! そうしてくれると助かります!」
 渾身の服を選んだつもりだけどこれだけでは心許ないと村長に云われた。だから村長と俺で新しい防具を調達しようと云う事になった。
「ならば話は決まりじゃ。早速武具屋に向かおう」
 この村は武器屋と防具屋が一心同体と云わんばかりに合体していた。つまり同じ店舗で武器と防具が買える訳だ。なんでも少ない資金でやりくりする為の方法らしかった。
「ちょっと待ってよ! 勝手に話を決めないでよ! フォスカーお祖父ちゃん」
 あ――クレアが申した。それもかなり不服そうだ。昨日のあの態度は不味かったかな。
「うぬ? まだクレアは納得しておらんかったか」
 村長が渋々云い始めた。激怒寸前のクレアを宥める様子はない。これでは逆撫でしているようなものだ。
「してないよ! そもそも昨日からこんな様子だったでしょ? わ・た・し・は!」
 確かにクレアは昨日からブスーとしている。両頬に空気を溜め込んでまるでリスのようだ。なんだか。可愛い。って今はそんな時じゃないか。
「ふむぅ。すまんのう。アギト。少しばかり時間をくれんかのう」
 村長からの頼みは断れないな。なんせ俺に旅の許可をくれた人だからな。だけどそのせいで今はクレアとは険悪なムードが流れている。
「え? あ! はい! 分かりました」
 出来れば俺は蚊帳の外に――
「大体! アギトもアギトよ。云ってくれれば良かったのに」
 なれなかった。それもそうか。事の一端は俺にもあるからな。いや。そもそも俺が発端か。
「あ、あの時は自分の事しか考えられなかったんだよ」
 そうだ。あの時は自分の事しか考えられなかったんだ。それは事実だ。
「さぁあて・・・・・・本当のところはどうでしょうかね」
 どんなに事実を云ってもこんな感じならば意味はないな。はぁ〜。母さんよりも面倒なのがいたもんだな。
「う・・・・・・」
 図星を突かれた俺は言葉に詰まりまくった。くおー。だれか第三者はいませんかー。
「まぁまぁ二人とも冷静になりなさい。アギトもアギトなりに考えておったんじゃよ。なぁ? アギトや」
 おお。さすがは村長だ。って俺に振られても――
「え? あ・・・・・・」
 しか反応出来ません。
「そうかしらね!」
 しかも続きを云おうとしたらクレアに止められる始末。だけどここは本当の事を云い続けるしかない。
「あの時は母さんと喧嘩別れをしてしまって他に頭が回らなかったんだよ」
 これも本当の事だ。でも結果的には和解出来たけど。はぁ〜。こっちは和解が可能だろうか。
「ふーん。そうなんだ。私とは喧嘩別れしたくなかったんだ。へぇ〜。ふーん。そうなんだ」
 う――俺の体力は0になりかけている。それだけの威力があった。きっとその分をクレアは喰らったんだな。これは俺の自業自得だな。
「コレ! クレア! いい加減にしなさい!」
 遂には村長が怒る始末。本当にいい加減にして欲しいよ。そもそも俺は親父に呼びつけられているんだ。こんなところで立ち往生している場合じゃない。
「だったらさ。私もその外界の試練を受けるわ。そしてアギトと一緒に旅をするわ」
「絶対に駄目!」
 あ――村長と被った。唯一違うのは語尾だ。俺はだに対して村長はじゃと云った。
「なにを二人して。そんなに私が足手纏いかしら」
 もう拗ね始めたクレア。両腕を組んでそっぽを向く。
「そう云う訳じゃないんだ。でも・・・・・・外に出て分かったんだ。俺が思っているよりも外は危険なんだなって」
 前屈みになって必死にクレアを納得させる。だけどクレアの事だ。きっと云う事を聴かないだろうな。幼い頃からの付き合いの俺が云うんだから本当だ。
「そうじゃ。外はのう。お前さん達が思っているよりは酷い世界なんじゃ」
 確かに村長の云う通りだ。昨日はたまたま話の分かるガルム達で良かった。だけどこれがもし本当に話し合いにならない人達だったらどうだろうか。俺は生きている心地がない。
「ふーん。なんだか。私だけ除け者扱いされているような」
 分かっていない。クレアは。外がどれだけ本当に危険かを。外は今日生きるので一生懸命な人達もいるって事をなんとしてでも理解させたいところだ。
「違う! それは違うんだ。本当に外は生温いような人間がいないんだ。外に出て分かったよ。俺達の村がどれだけ温かいかを」
 とりあえず誤解を解かないとと思った。――本当に外は優しくなんてない。いつも危険が伴うところでは共存は難しいだろう。なんとしてでも止めないと。
「そうじゃ。アギトの云う通りじゃ。外はのう。とにかく危険なんじゃ」
 村長の言葉が胸に突き刺さる。――親父も――ガスト兄さんも――こんなにも危険な道を渡っていたのか。そりゃあ母さんも止めたくなる筈だ。――母さん。有難う。
「でも! それでも! 私は十六歳になったらこの村から出るわよ!」
 え? クレアが立ち上がりながら云っていた。
「な! なにを云っておるんじゃ! クレア! 濃は・・・・・・」
「うるさい! 私だってはい。そうですか。なんて云えないわよ。とにかくアギトの旅が許されるのなら私の旅だって自由な筈よ」
「いかん! クレアはなにも分かっとらん!」
「うるさい! うるさい! うるさい! 私はだれかの指図で生きるなんて真っ平ごめんだわ! だってそうでしょう!? 私の人生は私の物なんだから!」
 あ――俺と一緒だ。クレアは俺と一緒なんだ。――そうか。俺だけじゃないんだ。檻の中の人間は。
「分かったよ。クレア」
 そうだ。俺だけではないんだ。こんなにも近くに俺の仲間がいたなんてな。気付かなかったよ。クレア。ごめん。
「え?」
 クレアの頭の上に不思議が一杯だった。どうして急に味方になったのかと不思議がっていた。
「コレ。アギト」
 村長の困ったような言葉が聞こえた。弱ったかのような声音は虫並みか。
「きっとクレアがきた時には俺がどこにいるかが分からない。だけどこれだけは云える。俺は今アーデルホイム王国を目指している。そこに親父が待っているんだ」
 それでも俺は続けた。俺とクレアは一緒なんだ。ここで仲間を見捨てたら俺の名折れだ。もちろん。クレアといつかは合流しないとな。
「それは本当?」
 クレアが不思議がっている。念の為に訊いているのだろう。もちろん。俺は嘘なんて付いていない。
「ああ。本当だ。だから・・・・・・クレアがもし旅をしたくなったらそこを目指すと良い。それか俺が定期的に手紙を送るかだな」
 そうだ。手紙を送れば親父みたいに現在地が分かる筈だ。何年後の再会になるかも知れないけれど俺はクレアと合流したい。
「アギト・・・・・・」
 感銘を受けたクレアがいた。もうそこにはそっぽを向くクレアの姿はなかった。
「全く・・・・・・お前さんときたら」
 村長は嫌々許可をくれたらしい。と云う事はこれでクレアはいずれ旅に出れる事になる。まぁいずれと云っても二年後だと思うけど。
「分かったわ! アギト! 私! 絶対に! 貴方に追いついて見せるから! 待っときなさいよ! アギト!」
 クレアが急に元気を取り戻した。二年後――か。俺は一体どんな風になっているだろうか。親父に無事に逢えているだろうか。とまぁそれよりも――
「うん! これで一件落着ですね! 村長!」
 どうやら解決したみたいだ。俺の見た限りでは村長はまだ嫌々らしかった。それでも俺は同志が出来たようで心地よかった。
「ええーい。濃も男じゃ。二言はないわーい」
 村長が半ばやけくそ気味に云っていた。それでクレアが旅に出れるようになるんだ。逢える日を楽しみにしとかないとな。
「フォスカーお祖父ちゃん・・・・・・」
 クレアの感銘が止まらない。もう喋ることはないと云わんばかりの感情がクレアを襲っているに違いなかった。
「なら話は決まりだ! 俺と村長は武具屋に行く」
 話を武具屋に戻した。もうそろそろ戻しても良いだろうと勝手ながらに判断した。軽率ならば謝らないといけないがそんな事がないような気もした。
「あ! わ、私も行くわ! だってアギトと別れ離れになるんだもの」
 クレアも一緒にくるらしい。それもそうだな。今日でお別れになるかも知れないんだ。今日位は良いか。
「分かった。なら行きましょう。村長も」
 クレアを連れて行くことに反対はなかった。何度でも云えるけれど今日でお別れかも知れなかった。それにここでくるなと云えばまた機嫌が悪くなるだろう。俺はそう思って反対はしなかった。
「ああ。そうじゃな。そろそろ向かうとするかのう。アギトや」
 村長もクレアがくる事に反対はしなかった。なぜかは分からないがきっと付いてきても支障ないと判断したのだろう。それよりも俺達は村長の家から出て武具屋に向かったのだった。

 場所は武具屋。時はそんなに変わらず。今日も天気は良い日だ。俺達は今武具屋の中にいる。どうやら武具屋の店主は男らしい。まぁ想像通りかな。
「それで・・・・・・村長。アギトの防具を作れば良いんだな?」
 武具屋の店主が豪快に云った。なにが豪快って筋肉隆々でリアクションが大袈裟だった。どんなリアクションかと云えば両手を腰に当てて胸を張っていた。
「うむ。そうじゃ。是非ともアギトに防具を作ってやって欲しい。出来るか。ガロン」
 武具屋の店主はガロンと云う。ガロンさんと村長は知り合いのようだ。それもそうか。そうでなかったら村長は務まらない。
「ああ。出来るぜ。・・・・・・とその前にちょっと調べさせてくれ。なんせピッタリの防具を作らんといかんからなぁ」
 ガロンさんが沈黙に入ると俺のところにきた。あ――どうやら俺のサイズを測るようだ。確かにこれをしなかったら防具が入らないなんて事にも繋がりかねない。
「分かりました。宜しくお願いします」
 だから快く請け負った。果たして俺のサイズってどれ位なんだろうか。
「おうよ。そこで立っとくだけで良いからな。・・・・・・さて早速調べるか」
 ガロンさんがにこやかになりながら頷いた。それにしても丁度良くガロンさんの右手には採寸を測る為のメジャーがあった。
「はい!」
 メジャーを見ながら頷いた。するとガロンさんがどんどん近付いてくる。なんだろう。凄い筋肉量で図体がでかいから近付く度にびびる。
「・・・・・・ふむふむ。なるほどな。・・・・・・ほほう。なるほど。・・・・・・おうよ。調べ物は終わったぜ。んじゃ俺はちょっくら店の奥に篭る事にするぜ」
 とまぁなんやかんやで測り終えました。内心凄く武者震いが起きていた事は内緒だ。
「分かった。なるべく早く頼む。アギトをなるべく早く旅出させたいんじゃ」
 村長。そこまで俺の事を――
「おうよ。任しときな。この俺が最速で仕上げてやるよ。んじゃあな。村長」
 ガロンさんも最速で仕上げてくれるらしい。なんて頼もしい限りなんだ。
「うむ。宜しく頼んだぞ。ガロン」
 村長は微笑みながら頷いた。するとガロンさんが奥の方に歩き始めた。
「・・・・・・私も二年後にはガロンに頼もうかな」
 クレアはジロジロと物品を眺めながら云っていた。
「コレ。まだ早いわ」
 村長のすかさず突っ込みが入った。
「別に良いじゃない。先約しても」
 クレアは二年後に俺の後を追う気で満々だった。別に旅が悪い訳じゃない。ただ単に心配なだけだ。
「別にそうじゃが・・・・・・濃は心配じゃよ。クレアや」
 村長も心配のようだ。だからと云ってまた反対をしたら名折れになるだろうな。きっと。
「なによ。今更。今頃になって反対なんて止めてよね。私・・・・・・反対されても出て行くから」
 幸いな事に今すぐじゃないところが良かった。二年後ならまだ猶予はあるしそれなりの訓練も出来る筈だ。俺の場合は準備不足かも知れないけれど。
「全く・・・・・・誰に似たのやら」
 村長の厭きれ声が聞こえた。この時の村長は項垂れるようにしていた。
「あ! 母さんに似たとでも云う気? 確かに母さんは世界は浪漫に溢れているって云ってアギトのお父さんと一緒に旅に出たけど・・・・・・」
 そうなんだ。どおりでクレアの母親が見当たらない訳だ。母さんはそんな事まで黙っていたのかな。でも――なんだか。複雑だな。
「あの頃の連中は本当にどいつもこいつも腕白じゃった。濃があれ程に教え込んだ事をあれ程に守らんとは・・・・・・いかがなものか」
 村長。俺――親父の代わりに謝ります。
「あはは。きっとなんやかんやで母さんに似たのね。私・・・・・・」
 世界は浪漫に溢れている――か。一体どんな世界が広がっているんだろう。このちっぽけな眼差しでどこまでの世界を見れるのだろうか。
「そうじゃな。お前さんの父親はそこまで無茶を云うような性格ではあるまい」
 そう云えば――クレアの父親とも会った事がないな。一体どんな感じの人なんだろう。
「そうよね。お父さんはどっちかと云えば石橋を叩いて渡るような性格だし。空を飛んで世界へなんて云わないわよね」
 ふーん。俺の親父とは真逆の性格らしいな。これは多分だけど親父は崩れる前に渡ってしまえ的な人だと思う。憶測だけど。
「ああ。そうじゃ。全く・・・・・・浪漫よりも子育てをせんかっちゅう話じゃ」
 村長が珍しく怒っている。ここはいちよう謝っておこう。
「はは。それはすみません。うちの親父が」
 ここで謝っておかないと絶対に俺んちの名折れになる。それだけは避けたい。絶対に。
「うむ」
 村長は俺が謝った事で気を静めてくれたらしい。それはそれで凄く助かるな。村長の器のでかさを見習わないとな。
「そうよ。そもそもアギトのお父さんが存在感を発揮し過ぎなのよ」
 はは。そう云われるとそうなのかもな。
「後でうちの親父に云います。余りよそ様の家庭を滅茶苦茶にするなよって」
 こうでも云わないと二人は納得しないだろうな。
「うむ。そうしてくれると助かる」
 良かった。村長は納得してくれたようだ。
「私は別に・・・・・・母さんがいなくても平気だけど」
 へぇ〜。ってそれもそうか。クレアは今まで母親がいなくても生活が出来たんだから。
「クレアや。またそう云う事を云いおって」
 村長は飽きれて怒れないようだ。
「あ・・・・・・ガロンさんがきましたよ。村長」
 俺の見つめる先にガロンさんがいた。ガロンさんは両手で防具を持っていた。きっとガロンさんが持っている防具が俺のだろう。
「おうよ! 待たしたな! 選んできたぜ! アギトの防具を!」
 あ――どうやら俺の声がガロンさんに聞こえたようだ。ガロンさんは頷かずに返事をしてくれた。一体ガロンさんはどんな防具を選んだんだろう。
「うむ。早かったのう。どれどれ」
 村長はそう云いながらモゾモゾと腰巾着を腰から取った。
「え?」
 俺とクレアはきっと察したに違いない。だから重なり合っていた。
「ふむぅ? どうかしたのかのう。二人共?」
 村長は不思議そうにこちらを見てきた。いや。不思議なのはむしろこっちだと云わんばかりの目線を送った。
「村長が払うんですか! あ・・・・・・でも俺にはお金がありません」
 村長はなんと俺が払わなければいけないところを肩代わりしてくれるらしい。
「良いんじゃよ。アギトや。ここは濃の顔を立ててくれ」
 優しいオーラを顔から発して云われた。う――そう云われるとなんだかな。
「・・・・・・そうね。ここは聴いて上げて。アギト」
 クレアまで。うーん。確かにここは甘えたい場面だ。だから――
「・・・・・・分かりました。宜しくお願いします。村長」
 腰を曲げて頭を下げた。いちよう礼節を重んじているつもりだ。出来ているかは分からないけれどこれが俺の誠意だ。
「うむ。ここは濃に任しときなさい。どれ。ガロンや。防具はなんぼじゃ?」
 村長は頷くとそう云い残した。なんだか。悪いな。いくら今が無一文とはいえ――な。
「はっはっはっ! 良いよ。これは俺からの餞別品だぁ! どうか。タダで受け取ってくれ!」
 え――それじゃあもっと悪いような。
「な!? ガロン! ここは濃が払うと云ったろうに」
 なんて事だ。ここにきてガロンさんの太っ腹を見るなんて。
「良いんだよ。村長。これはいつもお世話になっている証だ。どうか。ここは俺の顔の方を立ててくれ」
 タダでくれるなんて凄まじいものを感じる。村長は――どうするんだろう?
「うむぅ。そうかのう。なら・・・・・・仕方ないの。アギトや。早速試着してみるのじゃ」
 あ――納得した。それにしても試着か。してみたいな。
「はい! 試着します!」
 だから云った。ここにきて初めての防具装着だ。似合ってれば良いけどな。
「なら試着室はあっちだぜ。それと・・・・・・ほらよ」
 ガロンさんが試着室を指しながら云った。そして沈黙の時に持っている防具を俺に渡してくれた。
「分かりました。んじゃ俺・・・・・・行ってきます」
 渡された防具を持って試着室に向かった。果たして俺にこの防具は似合うのだろうか。それは鏡の前の俺と周りでしか知り得ない事だった。

 次回に続く
メンテ
Re: ドラグーンストラトス ( No.4 )
   
日時: 2017/11/01 13:27
名前: 道標◆XSSH/ryx32 ID:uiuGOn36

 初めての防具を着てみた。なんとも云えない位に冷たくてなんとなくだけどしなやかだ。きっと冷たいはじきに温かくなるだろう。それにしてもこれが防具か。いかにも狩人になったような気分だな。なんだろう。凄く懐かしい感じがする。なぜだろう。
「・・・・・・どうですか」
 気付けば三人共試着室の前にいた。試着室は開ける前はカーテンを閉めていた。当たり前だけど俺だって恥ずかしいやらがある。それに俺の破廉恥な姿を見たい人なんていないだろう。そもそもそんな人はいて欲しくもない。変体がいないことを祈りたい。
「うむ。凄く似合っておる。まるでお前さんの幼かりし頃の父親を見ているようじゃ」
 村長が逸早く云ってくれた。一方のクレアは恍惚とした――いや。呆然としている。それでも俺の姿に見惚れているな。多分だけど。ガロンさんは両腕を組んで両瞼を閉じてひたすらに頷いている。そんなに自慢げにいられてもなんだか照れ臭いな〜。
「は・・・・・・に、似合ってるじゃないの。で、でもきっと私の方が似合うわよ。絶対」
 照れ臭そうに右手で頭を掻いているとクレアが正気に戻った。はは。それはどうも。うーん。俺の防具は多分だけど男用だよな。クレアにも似合う防具はありそうだけど。それにしてもこんなにも密着するもんなんだな。防具って。なんだか凄く違和感がある。
「おうよ。似合ってるじゃないか。アギト。見違えるようだぜ」
 なんだろう。一言多いような気がする。それでもガロンさんは褒めてくれたつもりだろうからここはポジティブに受け止めておこう。そもそも似合っているかどうかの確認をする為に試着室にある鏡を見た。そこには照れ臭そうにしている自分の姿があった。
「自分で見てどうじゃ。アギトや」
 村長に訊かれた。なんだかより恥ずかしさが込み上げてきた。なんだろう。村長の言葉に不意を突かれた感じもした。いや。間違いなく。不意を突かれただろう。これ位ならば予測出来そうだった。けれど恥ずかしさの余りに考え事が手に付かなかったようだ。
「え・・・・・・そうですね。凄くかっこいいと思います」
 顔が――胸が――全身が――熱い。この時の俺はもう自分がなにを云っているのかが分からないでいた。だけど俺の言葉を聴いた三人はなにを云ったのかの判断が出来るだろう。それに比べて俺の判断力は最早当てにならない位になっていた。凄く耳が熱い。
「プッ。自分で云うの? それを」
 なぜかクレアに笑われた。だから今一度冷静になって考え直してみた。すると俺の云った言葉がまるで自分自身を表しているような気がした。きっとクレアは俺の云った言葉がまるで俺自身を云っているような気がしたのだろう。断じて云う。それはない。
「え? あ! いや! 俺じゃなくて! 防具が! だよ!」
 凄まじい勢いで訂正した。そうじゃないと俺がナルシスト扱いになる。しかもだ。大真面目に云わないとクレアに遊ばれる事になる。それだけはなんとしてでも防ぎたい。だから俺は何度でも云えるように大真面目に云った。伝わるかはさすがに分からない。
「そうなの? 本当に? 実はナルシストだったりして?」
 やはり――遊ばれている。ここは強く云わなければより酷い感じになりそうだ。だから俺は慌てて云い始める。それはもう返って逆に周りが引きそうな位に。と云ってもこの時の俺は引かれないようにする術を知らない。考える余裕すらなかった。際どいが。
「ち、違う! お、俺は断じてそのような事は云っていない!」
 全力で否定した。そうしないと本当に分かって貰えないと思った。これでクレアに伝わらなければ俺の今後の活動はどうすれば良いんだ。たった一言の失言で俺の人生はいじられキャラに変わるのか。それとも――いや。なるものか。絶対に打開してやる。
「・・・・・・そう。なら良いわ」
 ほ。安心した。どうやらクレアは納得してくれたらしい。はぁ〜。一時は本当に駄目かと思った。でもそれでも諦めないで云えばなんとかなるもんだな。ただし今はクレアの潔さに感謝するべきだろう。もしクレアが悪ガキだったらかなりショックだな。
「それよりもアギト。外は危険だぜ。気を付けろよな」
 ガロンさんが急に云った。
「え? あ! はい!」
 急に云われたのでつい勢いで反応してしまった。この時のガロンさんは親身になって云ってくれたに違いない。それなのに俺は一瞬の間合いだったように回答してしまった。とは云えこんな対応でもいちようの事で正解だろう。支障も感じられない。
「外はな。魔物で一杯だ。・・・・・・なんて云うかな。俺のところにくる業者人の中にも死者が出る位だからな」
 ガロンさんが続けた。
「そ、そうなんですか」
 これまたつい勢いで云っていた。
「ああ。とは云えアギトの場合は空を飛べるだろう?」
 間髪入れずにガロンさんが云い始めた。
「え? あ! はい! ガオスの背中に乗れば飛べます」
 三度目も同じ感じで云ってしまった。それでもなんとかガロンさんの云っている事が理解出来た。確かに俺はガオスの背中に乗れば飛んでいける。
「そうだろう? なら比較的に安全か。と云っても山や洞窟には近付くなよ。間違いなく本物の竜がいるからな」
 ガロンさんの云う通りだ。山や洞窟に不用意に近付くのは危険過ぎる。しかも俺はまだ素人だ。そこで死ぬ訳にはいかないと俺は親身になって聴いていた。
「はい。気を付けます。・・・・・・忠告の方・・・・・・どうも・・・・・・です」
 胸の高鳴りが止まらない。平常心を意識しているけれどそれでも心拍数がどんどん急上昇しているのが分かる。
「なぁあに。俺がアギトにしてやれる事なんてそんなもんさ」
 ガロンさんは照れ臭そうに頬を右手で掻いていた。そして次の言葉に差し掛かった時に掻くのをやめた。
「有難う御座います。感謝です」
 素直になって云った。ガロンさんの旅に長年身を置いている人でも亡くなる事があるんだろうか。でも訊けなかった。いや。訊こうとはしなかった。
「おうよ。・・・・・・親父に逢えると良いな。アギト」
 ガロンさんが両腕を組んで意気揚々とし始めた。そしてそのままの勢いでガロンさんは云い始めた。
「はい!」
 正直嬉しかった。親父はこんなにも慕われているのかと。もしそれが幻想などだったらかなりショックだけど。多分そんな事はない筈だ。
「本当に・・・・・・逢えたら手紙頂戴よね。アギト」
 クレアがしんみりしながら云っていた。――ああ。そうだな。もし親父と無事に合流出来たならクレアに手紙を送らないとな。だけどもし親父との合流が二年後なら話は別になっているが。
「濃らの分まで元気でやっておると伝えて置いてくれ。それと不束者のクレアが向かうとも云って置いてくれ。頼んだぞ。アギトや」
 村長。二年後のクレアは不束者だと困ります。
「・・・・・・お祖父ちゃん」
 クレアは感銘半分に失礼な事に怒り半分が混じっていた。それでも感銘の方が勝っていたのでなんとか喧嘩にならずにいた。
「え・・・・・・あ! はい! 分かりました」
 俺のむなしい声が店内に響いた――ような気がした。本当に俺は分かったのだろうか。なんとも違和感があるがここで訊いたら炎上しそうなのでやめた。
「うむ。では・・・・・・そろそろお別れの時間じゃのう。向かうするかのう。おっとガロンもくるかのう」
 流されるようにそろそろ村の出入り口に向かう事になった。村長は率先してガロンさんも誘った。――そうしてくれると有り難いな。是非ともお見送りをして欲しい限りだ。
「おうよ! 俺もアギトのお別れに参加するぜ!」
 そう云う事でくる事になった。良かった。一人でも俺の旅立ちを見送ってくれないとどこ行ったの? になるに違いないからな。だからここは是非ともきて欲しい。
「それでは・・・・・・向かうかのう。・・・・・・行こうか。二人共」
 村長が空気を入れ替えるように云った。あぁ遂に俺の旅立ちの時がくる。あ――母さん。俺を待っていてくれているのかな。
「うん!」
 クレアが元気良く返事をした。俺はと云うと母さんの事を考えていた。
「・・・・・・アギト! 行こうよ! ねぇ!」
 クレアが立ち止まっている俺に声を掛けてくれた。
「え? あ・・・・・・うん」
 こうして俺達は母さんが待つであろう村の出入り口に向かったのだった。――母さん。

 村の出入り口。静かな時の流れを手に取るように母さんが待っていてくれた。――母さん。
「・・・・・・母さん」
 思わず口にした。これで母さんとお別れすると思ったらなんだか後ろめたい気持ちになった。
「・・・・・・アギト。これ。持って行きなさい」
 母さんは沈黙の時に俺の側まできて袋を二個差し出した。
「え?」
 俺は疑問に思った。だって急に差し出されたから。
「いい? 決して無駄遣いはしちゃ駄目よ?」
 母さんはそう云い終わった。その直後に渡された。するとひとつの袋からお金の音がした。
「・・・・・・あ・・・・・・お金だ。もう一つの方は?」
 俺は瞬時に袋に入っているのがお金である事を認識した。硬貨と硬貨が重なり合う音がしたからだ。ただしもう一つの袋からはなんの音もしなかった。だから素直に訊いてみた。
「干し肉が入ってるわ。いい? アギト。こっちは食べ過ぎないようにね」
 すると母さんがそう云った。
「母さん」
 余りの出来事に涙が零れそうだった。母さん――あんな事を云ってごめん。
「いい? アギト。疲れたりしたらいつでも帰ってきなさい。私はいつでも待っているから」
 母さんはどうしてこんなにも優しいんだ。なのにー―なのに――俺は一体なにを母さんに云ったんだ。でも――
「母さん。・・・・・・ううん。俺・・・・・・そんな簡単に諦めたりはしないよ。でもね。母さん。俺・・・・・・そう云ってくれた事が嬉しいんだ」
 そうだよ。母さん。俺――嬉しいんだ。涙が出そうな位に。
「そう。母さんも嬉しいわ。そんな簡単にへこたれる子じゃなくて」
 あは。母さんの云う通りだよ。そんな簡単にへこたれてどうするんだよ。だからここは泣かずに――
「うん! 俺! 親父みたいな強い存在になるんだ!」
 涙が出そうになりながらも笑顔で答えた。こんなにも嬉しい事はない。だって母さんと和解出来たから。
「そう。・・・・・・なら頑張りなさい。もう・・・・・・私は止めたりしないから」
 母さんは首を横に傾げながら笑顔をしてくれた。――母さん。俺――絶対に負けない存在になるから。それまで待っといてくれよ。
「有難う。母さん」
 涙を必死に堪えて感謝の意も含ませた言葉を云った。本当に――母さんには頭が上がらないな。こんなにも用意してくれるなんて。
「おほん。濃らの分まで頼んだぞ。アギトや」
 急に咳払いが聞こえた。慌てて顔の涙を拭い振り返った。すると村長が真ん中にその左右にクレアとガロンさんがいた。
「村長。はい! 俺! 絶対に親父に逢いますから! それまで待っといて下さい!」
 当然の事で俺は知っていた。だからすぐさまに村長に話し掛けた。本当なら母さんに対して云わなくてはいけないような事を云った。どうあれもう手遅れだ。
「アーギト。私はすぐに追いつくから。それまで待っときなさいよ」
 クレアだ。クレアは両手を腰に当てている。云い終わっても体勢を元に戻さなかった。
「クレア。ああ。二年後が楽しみだよ」
 二年後か。その頃にはとっくに親父に逢えているだろうか。もし逢えなかったら大変な事になる。その時はどうしようか。
「それまで私は必死に頑張るんだから! て云うか。死なないでよね? そんな簡単に」
 俺が悩んでいるとクレアがズケズケと入り込んできた。はは。なんともクレアらしい発言だな。それももう当分は聞けなくなるのか。
「コレ! クレアや! お前さんはなんと云うことを」
 村長が気遣ってくれた。でも俺はいつものクレアでもいいんだ。むしろそっちの方が気持ちが楽になる。
「はは。いいんですよ。・・・・・・クレア。俺はそんな簡単にやられないよ」
 そうだ。俺はそんな簡単にやられるつもりはない。それに親父の跡を追うだけだからそんなに過酷でもなさそうだ。
「そう。なら約束ね。もし破ったりなんかしたら来世で鍛え直してあげるんだから」
 来世か。そこでも会ってくれるなんてなんて優しいんだ。ただその頃にはこんな風に話し合った事も忘れるのかな。だったら俺は嫌だ。死ぬ訳にはいかない。
「ああ。胆に銘じておくよ。クレア」
 俺は真顔で云った。そうだ。俺は絶対に死なない。親父に逢っても二年後のクレアに逢っても――俺は――死なない。
「まだ・・・・・・云いたい事が沢山ある。でも・・・・・・もう云えなくなる。だから・・・・・・本当はもっと喋りたい。どうしてこう云う時に限って出てくるんだろう」
 クレア。普段はおちゃらけてばっかりだったけれどこうして逢うとなにを云っていいのかが分からなくなるか。それは俺も一緒だ。
「クレア。俺だってそんな感じだよ。でも安心してくれ。手紙は次の村に行く度に出すつもりでいるから」
 そうだ。かつて親父がやっていたように俺も手紙を書いて送るんだ。そうすればクレアも村長も母さんも安心してくれる筈だ。
「そう。・・・・・・元気でね。アギト」
 クレアが先程まで威勢を失い項垂れるように云ってきた。きっとなんやかんやでお別れが寂しいのだろう。
「ああ。クレアこそ。元気でな。・・・・・・とガロンさん。有難う御座います。防具の方」
 だけど俺が涙を堪えたようにクレアもまた堪えようとしているのだから話しかけない方がいいだろう。きっと。
「おうよ! 決して安くはないから安心してくれ。それとな。アギトに頼みたい事があるんだ。いいか」
 ガロンさんが胸を張りながら云った。どうやらこの防具はそこそこの値打ちがあるらしい。そんな防具をくれるなんてなんて太っ腹なんだ。ガロンさんは。それよりもガロンさんからの用事? なんだろう?
「はい! なんですか。ガロンさん」
 威勢良く返事をした。一体ガロンさんの用事ってなんだろう?
「アギトはアルデンクス村に向かうんだろう?」
 うへ?
「え? どうしてそれを?」
 なんで? ガロンさんがこれから俺が向かう所を知っているんだ?
「アギトの親父はそこに行くと云っていたからな。知っているんだ。ところで用事を引き受けてくれるか」
 ああ。なるほど。
「そうなんですか。・・・・・・分かりました。俺で良ければ手伝いますよ」
 手伝わないはさすがに失礼だろう。なによりも防具をくれたガロンさんの頼みとあったら断れない。
「おお。それは助かる。用事はな。これをアルデンクス村のガスドンに渡して欲しいんだ。出来るか」
 ガロンさんはそう云いながら腰に掛けていた布袋を取り外して差し出してきた。
「はい! 喜んで!」
 俺はそう云うと自らの足でガロンさんの近くまで寄った。
「おお。そう云ってくれるとはな。タダであげた甲斐があったぜ。んじゃこれを」
 ガロンさんはそう云い終わろうとした時により布袋を差し出してきた。
「はい。確かに受け取りました。・・・・・・んじゃあ俺・・・・・・そろそろ行きますね」
 静かに受け取るつもりがなにやら布袋の中から金属音が鳴った。きっと中はアクセサリーなどが入っているのだろうと深くは考えずに沈黙に入った。そして沈黙の時にガロンさんから預かった布袋を腰に取り付け始めた。取り付けると振り返り歩き出した。
「うむ。行くがいい。アギトや」
 村長の言葉を耳に入れながら俺はネックレスの先の宝石からガオスを出現させようとしていた。そして村長が云い終わった頃には既にガオスが出現していた。ガオスはかなり元気そうだ。
「アギト。元気でね」
 母さんの声だ。あ――中側に母さんと村長がいて外側に母さん達を挟むようにクレアとガロンさんがいた。
「母さん」
 もう既に涙は引いていた。だけど心の底から感動していた。きっと今の俺は親父とは違う旅立ちの仕方をしているのだろう。それでも皆と別れ離れになるのがこんなにも悲しいものだとは思わなかった。
「アーギト。私との約束を破ったら許さないんだからね」
「クレア」
 感動しているから即答だった。とは云え感動に浸りすぎて言葉が中々見つからないでいた。
「・・・・・・逃げる事もまた勇気のひとつだ。分かったか。アギト」
「ガロンさん」
 これはもう感動と云うよりは感銘に近いのだろう。
「さぁ。行きなさい。アギト。貴方が望む先に試練がある筈だから」
 母さんが一歩前に出て云った。
「母さん。・・・・・・分かったよ。俺・・・・・・行くよ。有難う。皆」
 そう云い終わるとガオスの背中に乗り始めた。完全に背中に乗るとガオスは空気を読んだかのように宙に浮き始めた。ガオスは両翼を羽ばたかせていた。小さな風圧が起きた。
「アーギートォ! 達者でね〜!」
 それが母さんの最後の声だった。これから向かう先はアルデンクス村だ。アルデンクス村に着いたらまずはガスドンさんを捜そう。それからだ。親父の足跡を辿るのは。これは――俺と相棒の物語だ。

 場所はアルデンクス村近くの上空。今はガオスが滑空してくれている。このお陰で安心して地図を見れている。地図通りならばもうすぐで着く筈だ。
「・・・・・・ガオスならあっという間だな。な♪ ガオス?」
 地図を見るのをやめて下げるとそう云った。そもそも本物の竜なんてそうそうにお目にかかれるもんじゃない。ガオスは竜の形をしているけれど所詮は魔力で構成されているに過ぎない。だから人を襲う事はない。主人の命令には従うけど。
「ギュルル♪」
 ガオスも俺と同調したようだ。こうして見るとガオスは本当に生きているのでは? と思いたくなる。それ位の愛嬌を思わせてくれるのだから家族と云っても過言ではない。きっとガオスもそう思っているだろう。
「お? そうか! そうか! ガオスもそう思うか!」
 内心喜んだ。だって家族も同然のガオスと同調出来たのだから。こんなにも嬉しい事はない。俺にとってガオスはもう相棒と云うよりは家族だからこれからも良好を続けたい。絶対に。
「ギュルルル♪」
 ガオスの唸り声は至って楽しそうだ。これだからガオスとの交流はやめられない。何度でも云えるけれど本当に身近で抱き締めると温かいんだ。それも生きているような錯覚になる程に。
「うんうん。そうだよな。空を飛べるって便利だよな。・・・・・・うん? どうした? ガオス?」
 可笑しい。いつもなら嬉しそうな唸り声をあげるのにな。今回はあげないな。
「ギュルル!」
 ガオスは滑空状態で下がり始めた。うん? どうやらなにかを伝えたいようだ。――それって――もしかして。
「え? あ! もしかして! あ! 見えた! 多分あそこがアルデンクス村だ! だとしたら下りる準備をするぞ! ガオス!」
 ガオスの肩辺りから顔を出した。すると目の前に村が見えた。俺はその村をアルデンクス村だと思った。もしアルデンクス村じゃなかったら大変だ。とりあえずまぁ下りる事にした。だから地図を袋にしまいこんだ。
「ギュルルル!」
 ガオスは理解してくれた。だからガオスは村のど真ん中で飛び下りる準備をした。滑空状態から浮遊状態になった。とは云え両翼は羽ばたかせている。
「よしよし。その調子で下りてくれ。ガオス」
 ちょっとずつ下りていく。この下降していく感じが無性に堪らない。これだからガオスの背中はやめられない。
「ギュルル!」
 ガオスが俺の言葉に反応してくれた。ガオスの唸り声を俺は分かったに聞こえた。ガオスの言葉が分かるのは俺位かもな。
「・・・・・・よっと。ここがアルデンクス村かぁ」
 そうこうしている内にガオスが地面に着地した。だから無事に下りれる事を確認してから跳び下りた。そして見渡しながらそう云うとガオスをネックレスの先の宝石に戻そうとした。
「そこの者! ちょっと待て!」
 その時だった。謎の老人の声がしたのは。
「うん?」
 何事かと思った。だから振り向いた。するとそこには凛々しい老人がいた。
「貴様は魔力獣使いと見た」
 魔力獣使い? なんだ? それ?
「え?」
 あ――でも魔力獣は知っている。ガオスの事だろう。
「良いか。魔力獣ごと村に入ってはならん。無論。その他の村や王都もそうだ」
 凛々しい眉毛を上にあげながら云っていた。どうやら説教をされているらしい。
「え? そうなんですか」
 もしそうならどうなるんだろうか。ふと嫌な予感が脳裏をよぎる。
「おほん! 今回は見逃してやるが・・・・・・今度同じ事をすれば罰金か牢獄行きだぞ」
 咳払いをされた。しかも嫌味的に。どうやら物の云い方が不味かったらしい。それよりも――
「え? 罰金も牢獄も嫌です」
 正直に云った。――これからは気をつけよう。だって本当に罰金も牢獄行きも嫌だから。
「ならば! しっかりと守る事だ。さすれば濃も相手にせずにすむ」
 謎の老人は両腕を組みながら云っていた。まるで自分自身もなにかを悟ったかのようだ。
「そうですね。これからは気をつけます。ところでここはアルデンクス村ですか」
 当たり障りのない言葉を並べた。と云っても事を荒立てたいはない。だからこのままでいいんだ。
「うむ。いかにもここがアルデンクス村だ。うむ? 貴様はもしやここの人間ではないのか」
 謎の老人は両腕を組みながら頷いた。そして感がいいと云うよりはこの感じだと当たり前か。ばれて。
「あ! はい! 俺はここから西のベルベット村からきました。アギトと云います。こいつの名前はガオスです」
 自己紹介をした。無論。ガオスの紹介もした。
「うむ? うむむむ? お主・・・・・・今なんと云った」
 謎の老人の最初は聞き間違いかと云わんばかりの感じだった。すると段々ヒートアップしてきた。そして最後には訊かれた。
「え? ・・・・・・西のベルベット村からきました」
 だから云った。
「違う! その次だ!」
 凄い剣幕で云われた。両瞼によって防がれた両目が見えている。なんだか。怖い。
「え? 俺の名はアギトです・・・・・・けど」
 けど――なんですかと云いたかった。けれど云えなかった。どうして云えなかったのか。それは単純に謎の老人の意気込みに負けたからだ。
「な! なんと! 彼の者はあの伝説の竜騎士の一族とな!?」
 訳が分からずに――
「え? え? ええ?」
 なにを云っているんだ? 俺が伝説の竜騎士の一族?
「これは失礼致しました。濃の名はガスドン。この村でしがない道具屋をしております」
 ガスドン?
「え? ええええええ!?」
 ダブルの衝撃だった。
「うむ? どうかされましたかな」
 俺の目の前にいる謎の老人こそがガスドンさんだったのか。ここは早急に確認をしなくては。
「あ、貴方がガスドンさんなんですか!」
 訊いてみた。本当にガスドンさんならここで会えてラッキーだな。
「うむ? 濃になにか用ですかな。アギト様」
 否定はない。と云う事は本人なんだ。――ってそれよりも。
「・・・・・・アギト様?」
 呼ばれた事のない言葉に俺は戸惑った。――謎が深まるばかりだ。どうして俺が伝説の竜騎士の一族なんだ?
「うむ。そうですぞ。この村では伝説の竜騎士の一族はそう呼ぶ決まりなんですぞ」
 ガスドンさんが云う。うーん。そう云われてもなんだか急に胡散臭くなってきたな。
「・・・・・・ま! まぁいいや。あの! ・・・・・・これ! ガロンさんからのお届け物です!」
 第一の沈黙の時に気を改めた。そしてそう云いながら第二の沈黙に入ると腰からガスドンさん宛ての布袋を取り外した。
「ぬお!? ガロンの奴! 伝説の竜騎士の一族にこのような事を頼みよってからに!」
 ううん。なんだか。やりづらいな。これは親父のせいなのか。
「はぁ? とりあえず受け取って下さいませんか」
 ガスドンさん宛ての布袋を差し出した。なんだろう。さっさと次の村にでも行きたい気分になってきた。いや――でも次の村でも同じだったらどうしようか。
「ぬお!? すみませぬ! 濃ときたら・・・・・・どうですかな。ここではあれですしここは濃の家にでも」
 あ――ガスドンさんが取ってくれた。とここで誘われた。そうだな。やっぱりここはアルデンクス村にいなくちゃあな。だってクレア宛に書かなくてはいけないんだから。
「・・・・・・分かりました。今のところガスドンさんしか頼る当てがないので付いて行きます」
 覚悟を決めた。それになによりもガスドンさんは悪い人には見えなかった。だから俺はガスドンさんの家に向かう事にした。
「なんとも有り難い話だ。こうして子孫に会えるとは。人生・・・・・・なにが起きるか分かりませんな。さてさて・・・・・・こちらが濃の家ですぞ。アギト様」
 ガスドンさんはそう云った。云い終わると案内をしてくれるそうだ。
「は。はぁ」
 ほんのちょっと引きながらも俺はガスドンさんの後を付いていった。無論。ガオスも俺の後を付いてきた。果たして伝説の竜騎士とはなんなんだろうか。

 次回に続く
メンテ
Re: ドラグーンストラトス ( No.5 )
   
日時: 2017/12/08 16:55
名前: 道標◆XSSH/ryx32 ID:egfgiZkI

 ガオスはネックレスの水晶石の中だ。いくら魔力獣であるガオスが他人を襲わないからと云ってガスドンさんの家に入れる訳にも外で放置する訳にもいかない。
 だからここはネックレスの水晶石の中で休んで貰う事にした。ちなみに俺は今ガスドンさんの大接間にいる。どうやらガスドンさんの家は三階建てのようで二階が来客用になっているらしかった。
 今俺とガスドンさんは対面しながらソファに座っている。座り心地は最高で今にも寝てしまいそうだった。だってそれ位に気持ちがいいんだもん。
「眠たそうだな。なんなら少しの間だけ寝るか」
 ガスドンさんが微笑みながら云った。すっかりガスドンさんのソファに寝心地を覚えてしまった。はは。確かに眠い――けど。
「ふはぁ〜。確かに眠たいですけど・・・・・・頑張ります」
 欠伸をしながら云った。すっかり疲れ果ててしまったようだ。でもそれでも云ったからには我慢しよう。
「ふむ。そうですか。・・・・・・ところでなにか訊きたい事はありますかな。例えばアギト様の一族について・・・・・・とかは」
 ガスドンさんが顎に手をやりながら云った。沈黙を打ち破ると顎から手を離した。その代わりに前のめりになって云い始めた。
「あの! 親父を・・・・・・親父を知っているんですか!」
 もしガスドンさんの云うとおりで俺が伝説の竜騎士の子孫ならば親父は一体この村でなにをしていたんだ? 凄く気になる事だ。
「周知しております。なにも濃だけが知っている話ではありませんぬ」
 ガスドンさんが微笑みながら云ってくれた。この感じからして親父は別に失礼な事をした訳ではなさそうだ。でもそれにしても親父が伝説の竜騎士だなんて――一体どう云う事なんだ?
「なら! なら! 親父は! 一体アルデンクス村でなにをしたんですか!」
 ガスドンさん以外にも知っている人がいる? 一体――親父はこの村でなにを。
「ふむぅ。そうですな。まずはどうしてアギト様の父殿が伝説の竜騎士となったのかを説明しなくてはなりませぬ」
 ガスドンさんは再び顎に手をやった。沈黙を入れることなく自然と顎から手を離すと淡々と云い始めた。そうだな。そこからじゃないと俺が理解出来ない。
「・・・・・・分かりました。教えて下さい。是非」
 一度冷静に戻りガスドンさんの言葉に耳を傾けようとした。そうした方がいいと思ったのは逆上のように振る舞っても理解出来ないと感じたからだ。
「ふむぅ。分かりました。では・・・・・・教えましょう。あれは・・・・・・八年前の事です。濃らは昔からゴブリンの襲撃に悩まされておりました」
 ガスドンさんが喋る前に思わず固唾を呑み込んだ。なんだろう。とてもつもなく嫌な予感がする。だって伝説の竜騎士だなんて。普通はそうは呼ばれないだろうから。
「ゴブリン・・・・・・ですか」
 ゴブリン――か。童話で良く耳にしたな。あ――母さんが立派になりますようにと読んでくれたっけな。にしてもそのゴブリンがどうかしたのだろうか。
「はい。ゴブリンです。しかしただのゴブリンではありません。なんと竜血同盟を結んだゴブリン達なのです」
 え? ただのゴブリンじゃない? それに。
「竜血同盟?」
 なんだろう? 聞いた事がない。でも竜は知っているぞ。魔物の中で頂点に君臨する程の厄介な存在だ。だから――えーと。
「おほん。竜血同盟とは・・・・・・急に世界に現れた暗黒竜と同盟を結ぶ事です」
 あ――ガスドンさんが咳払いをした。これはきっと俺が深く考え込もうとしていたからだろう。それにしても。
「暗黒竜?」
 暗黒竜ってなんだ? うーん。竜は分かるけど暗黒だから夜にでも出没するのかな。
「そうです。竜の中でも一際狡猾でこの世を闇に染める史上最悪の竜です。しかも竜血同盟には続きがあるのです。それは・・・・・・暗黒竜は自らの血を分け与える事でゴブリンの力が倍増するのです」
 うーん。なにがそうですなんだろうか。良くは分からないけれどどうやら暗黒竜はかなり厄介な存在らしい。あ――夜にでも出没するのかと思いきやこの世を闇に染めるだって? しかもゴブリンに自らの血を分け与える事で力が倍増する――だって?
「・・・・・・恐ろしいな」
 考えなくても恐ろしい事だった。いや。考えても恐ろしい事だ。いや。考えられなくなる位に恐ろしい事だろう。ただのゴブリンが急に強くなるのだから苦戦をしていたかも知れない。
「はい。故に濃らは戦う事が出来ずに泣き寝入りする羽目でした。しかし・・・・・・そんな時にアギト様の父殿が複数の仲間を引き連れてこられたのでした。なんでもドラグーンストラトスを立ち上げたのだとか」
 ただのゴブリンだったらまだ対処が出来たのだろうけどこの感じからして親父が来るまでは本当に泣き寝入りをしていたっぽいな。――親父。本当に人助けをしていたんだな。なんだか。俺――感動したよ。
「親父・・・・・・」
 感動の余りになんだか涙腺が緩んだような気がした。いや。これは気のせいじゃない。確かに俺は今泣きそうになっている。だけどあくまでも泣きそうになっているだから泣いた訳じゃ無い。
「アギト様の父殿はそれはもう名に恥じぬ活躍ぶりでしたぞ。ここにきて改めて御礼申し上げます。濃らアルデンクス村を救っていただき真に感謝しております。こうして濃らが生きていられるのもレックス殿のお陰ですぞ」
 へ――親父が? 俺の親父はそんなに凄い人だったのか。なんだか。不思議な気分だ。――レックス? あ――レックスは俺の親父の名前だ。
「レックス・・・・・・親父の名だ」
 と云う事は本当に俺の親父は伝説の竜騎士なのか。心なしか。ガスドンさんが更に微笑んだような気がした。
「ふむ。尚更に確信しましたぞ。アギト様。それにしてもどうしてこんなチンケな村に?」
 どうやらガスドンさんは親父の名前から俺を本物の子孫と認識したようだ。でも俺はそれでも疑心の状態だった。
「え? ああ。それは親父に呼ばれたからです。なんでもアーデルホイム王国にて待つとか」
 そう。俺は親父に呼ばれたんだ。――本当は――ガスドンさんに親父の事をもっと教えて貰いたかった。だけどガスドンさんは無情にも俺の心を察してはくれなかった。また俺も心を曝け出す事がなかった。
「ふむ? アーデルホイム王国?」
 うん? なんだ? 知っているのか。もしかして。
「え? 知っているのですか!」
 俺は飛び跳ねるように立ち上がった。ここでアーデルホイム王国の所在地が分かれば一気に親父に近付けれる筈だ。――どうなんだろう?
「いや。知りません。しかし・・・・・・濃が知っている学者ならば知っているかも知れませんな。なんせあ奴は地理に詳しいからな」
 え? 知らない? ――それは残念だ。だけどガスドンさんの知り合いが知っているっぽいな。聴いた感じは地理学者っぽいな。一体――どんな人なんだろうか。
「誰なんですか! その学者は!」
 俺は立ちながらも云った。だってここでアーデムホイム王国の事を知れたのなら後が絶対に楽になるから。ここはなんとしてでも聴いていたい場面だ。
「ふむふむ。いいでしょう。教えましょう。いいですかな。ここから更に東に行ったところに一軒だけ家があります。そこにガーメイルとか云う学者がおります故会うといいでしょう」
 ガスドンさんは快諾してくれた。これも皆親父のお陰だ。親父が――親父が遺してくれた名誉のお陰だ。あ――それにしてもここから更に東のところにガーメイルさんの家があるのか。憶えておこう。
「はい! 分かりました! 東の家ですね!」
 ここから東か。歩いていける距離なのかな。もしそうじゃないのならガオスに手伝って貰おうかな。あ――でも空からでは見えないかも知れないな。どうなんだろう? 歩いていける距離なんだろうか。
「ここから歩いていけます。しかし運が悪ければ魔物と出くわすので気をつけて下さい。濃から出来る事はこれ位です。あとはアギト様の力でどうにかして下さい。どうか健闘を祈っております」
 ほ――良かった。ここから歩いていける距離なんだ。なら楽だなと思いきや運が悪いと魔物に出くわすらしいな。ここは気を引き締めていこう。だからここは。
「情報の方! 有難う御座いました! 俺! ここから東にあるガーメイルさんの家にまで歩いていきます! それじゃ俺はこの辺で失礼します」
 俺は座らずに最後に一礼した。ここで親切な――しかも親父と接点がある人と出逢えて良かった。これでここに戻ってきても大丈夫なような気がした。なにか。進展が欲しい時はここに戻ってこよう。多分だけどなにかまだあるかも知れないし。
「ふむぅ。もしレックス様にお逢いしたのなら濃らは元気でやっておりますとお伝え下さい。それでは・・・・・・アギト様・・・・・・どうかお達者で」
 俺は分かったと云わんばかりに頷いた。そしてガスドンさんの言葉を最後まで聴いた。ここからは俺だけの力で乗り切らないとな。だってそうしないと親父と出逢った時に馬鹿にされそうだからな。
「はい!」
 だから俺は威勢良く返事をした。ここで親父の七光りだなんて云われたくない。俺は――俺は――たとえ親父の二の舞だなんて云われても親父の背中を目指して頑張るつもりだ。だって――それが俺の目標だから。だから俺は危ない道を歩むんだ。絶対に。

 ガスドンさんから歩いていけると云われたのでガオスの出番はない。これが遠出ならガオスと共になんだろうけど今はいかんせん近いようだ。ただ一つだけ云える事があるとすれば――それは――魔物に遭遇するかしないかだ。
 もしもだ。魔物と遭遇する事になったら確実に戦う事になる。しかも聴いた話ではゴブリンが出没するらしい。これは多分だけど竜血同盟のゴブリンは全滅している筈だ。――うん? どうなんだろう? 凄く気になる話だ。
 あーここはガスドンさんに訊いておくべきだった。でもガスドンさんの話を聴いたらもう大丈夫そうだし。うん。きっと大丈夫な筈だ。そうじゃないと親父がここから離れられる訳がない。うん。きっと終結している筈だ。
「・・・・・・うん? なんだろう? なんだか煙臭いな」
 は! この感じからしてこの周辺のどっかで誰かが焚き火をしているんだ! ――え? でも――誰がなんの為に?
「とにかくここは慎重にいこう」
 急に身構えるように体勢を低くした。そしてゆっくりと歩いた。恐る恐る煙のする方へと近寄った。
「うー。よりによって東の方角だ」
 どうしよう? ここは遠回りをするか。あーでも俺には地理と云う才能がない。確実にここで遠回りをしたら迷子になる。――仕方がない。ここは恐る恐る近付いてみよう。体勢を屈ませてゆっくりと歩いて近付いてみた。すると。
「・・・・・・あちゃー! 案の定ゴブリンと遭遇かぁ」
 恐る恐る茂みの中から視線を送ってみると広い空間がありゴブリン達が焚き火と戯れていた。見た感じは本当に童話どおりの風貌だ。
「うん。間違いない。あれはゴブリンだ」
 それにしてもどうしよう? あーでもこれ位なら隠れて進めるかも。――よーし。ここは隠れながら進むぞー。ほんのちょっとだけ遠回りになるけどこれ位なら迷子にはならないぞ。
「キエエエエエ!」
 ビクリ。急な奇声に背筋が驚いた。――なんだ? なんだ? とここで困惑していると茂みの向こうからなにやら光った。――え?
「うお!?」
 俺が屈んでいたから良かったけれどもう少しでも高かったら斬られていた。あの光は両刃剣から発せられた物だ。く。それよりもまさかまだゴブリンがいただなんて。――うげ。はぐれゴブリンが俺の発した声に気付いた。やばい。このままだとばれる。
「あ・・・・・・」
 はぐれゴブリンと目線が合った。あは。あははははは。これは見つかったって思うべきなのか。
「キエエエエエ!?」
 あーはいはい。見つかったようです。はぐれゴブリンが奇声を上げた。どうやら人間と遭遇して驚いているようだ。
「キエ?」
 うげ。この声は。あーでもこの感じからして焚き火周辺の二匹は警戒しているだけだな。きっと。だからここは。――サイレントキルをしようとしたらはぐれゴブリンが笛を吹いた。あ! まずい! 俺は慌ててはぐれゴブリンに突き攻撃をした。
「キエエエエエ!?」
 しかし時既に遅かった。はぐれゴブリンが鳴らした方に二匹のゴブリンが近付いてきた。そして俺がはぐれゴブリンから両刃剣を抜く前に二匹のゴブリンに見つかってしまった。二匹のゴブリンは双子かと云わんばかりに奇声を上げた。
「あーもう!」
 二匹の内の一匹は両刃剣を高らかに上げながら突っ込んできた。俺はここで両刃剣を引き抜く事が出来ずにいた。仕方がないのではぐれゴブリンで防御した。――こいつら――仲間内でも切れるのか。そう思った瞬間に俺ははぐれゴブリンを力一杯蹴った。
「キエエエエエ!?」
 するとはぐれゴブリンは案外簡単に両刃剣から抜けた。急にはぐれゴブリンがぶつかってきた。だから一匹のゴブリンははぐれゴブリン諸共倒れ込んだ。一匹のゴブリンの上にはぐれゴブリンが圧し掛かる。既にはぐれゴブリンは死んでいた。
「キエ!?」
 だから一匹のゴブリンは身動きが取れないでいた。とは云えゴブリンの馬鹿力だ。すぐに立ち上がるだろう。もう一匹のゴブリンが困惑しているような声を出した。――来ないのならこっちからいくぞ。そう。思うと俺は立ち竦んでいるゴブリンへと走った。
「キエエ!?」
 さすがのもう一匹のゴブリンも俺の動きは丸見えだった。だから人間で云うとなんだ? 突っ込んでくるのか! と云っているも一緒だった。もう一匹のゴブリンは両刃剣を構えることなくラフな感じで戦うようだ。ならここはあえて両手を使おう。
「キエエエエエ!」
 もう一匹のゴブリンが奇声を上げた。どうやら俺と剣戟をやるようだ。――俺が思うにゴブリンには剣術を使う脳みそはない筈だ。その代わりに人間よりも力は強い筈だ。だからむしろ余裕で片手で使っているのかも知れない。このゴブリン達は。
「うぐ」
 もう一匹のゴブリンとの剣戟だ。思った以上に力を出していた。しかも両手で柄を持っていた。なのにこの力の差はなんだ? 全く――刃が立たない。俺は一瞬ガスドンさんの云った言葉を思い返した。俺は剣戟をしながら固唾を呑み込んだ。
「やばい!?」
 正直のところでゴブリンを舐めていた。く。しかも倒れ込んだゴブリンまで立ち上がって怒ったように突っ込んできた。く。やばい。俺はこんなところで死ぬ運命なのか。嫌だ。せめて親父に逢ってから死にたかった。親父。ごめん。俺――いけそうにない。
「キエエエエエ!」
 背後から立ち上がったゴブリンの奇声がした。やばい。このままだと挟み撃ちだ。く。一匹は殺せたけどこの二匹は手強い。こんな事ならば遠回りをするべきだったかも知れない。と云っても後悔は先には立たないんだけど。――え? 風切り音が鳴った?
「・・・・・・剣に頼るだけが脳とは云えないね。アギト君」
 え? 俺の背後からだれかの声がした。しかも俺の事を知っているようだ。だけど俺は謎の声を知らなかった。それに今の俺は振り返る余裕がなかった。――あれ? 背後にいたゴブリンの気配が消えている? は! もしかして弓矢の音か。さっきのは。
「さぁ! 後は自分でやるんだよ! アギト君!」
 やっぱりだ。背後からだれかの声がした。一体誰なんだ。この感じからして俺の事を知っているようだけど。――く。それよりも今は云われたとおりに俺の力で乗り越えなくっちゃあ。だけどまともな剣術が効かないんだった。ここは一体どうすれば。
「一撃が駄目なら連撃を加えるのはどうだい!? アギト君!」
 連撃? ――は! そうか! ここは連撃を入れてちょっとずつ崩すしかない。そうだ。出来るだけ三連撃で済むようにしよう。いくぞ。――まずは思いっきり叩き切るんだ。三回転切りはその後だ。いくぞ。――踏み込んでから切る。良し。決まった。次は。
「そうだ! 君なら出来る! 信じてやってみるんだ! アギト君!」
 今は聴く耳よりも集中が大事だ。今の内に一回転切りを。――良し! 入った。ゴブリンは手が痺れたのだろう。手捌きが出来ていない。良し。このままの勢いで叩きのめすんだ。だから次は更にもう一回転だ。喰らえ。これが渾身の一振りだ。
 甲高い音と共にゴブリンの両刃剣が更にずれた。良し。やはりゴブリンは防御さえも出来ない位に手が痺れているのだろう。なら――これが最後の一振りだ。いくぞ。ゴブリンめ。本当なら俺も手が痺れていただろうけれど根性でどうにかした。
 これが――最後の一振り――で終わる筈だ。俺は慌てて最後の一回転切りを行った。すると見事に最後の一振りがゴブリンの両刃剣を更に弾いた。ゴブリンは手を動かせずにいた。だから今のゴブリンは相当に弱っている筈だ。後は――突き攻撃をするだけだ。
「止めを刺すんだ! アギト君! 君のお父さんのように!」
 え? 親父のように? とここで台無しにするなんて馬鹿だ。集中しなくちゃ。俺は一回転を終えるとゴブリンの目の前で止まり両刃剣を引っ込めた。そして突きの動作に入った。一方のゴブリンは今も尚手が痺れていた。だからきっと硬直している筈だ。
「これで・・・・・・終わりだぁっ!」
 俺の声が森の中で木霊した。それと同時に身動きが取れないゴブリンに対して突き攻撃を繰り出した。やはり――ゴブリンは手が痺れているようだ。良し。このままいけばすんなりと決まる筈だ。もう他に邪魔をする影はない。これで――終わりだ。
「グヘ・・・・・・」
 見事に突き攻撃がゴブリンに決まった。ゴブリンは貫かれたまま息絶えた。そっとしておきたかった。だけどこのままにしておく訳にもいかなかった。だから俺は両刃剣を抜く為にゴブリンを蹴った。するとすんなりと両刃剣は抜けた。
「・・・・・・良くやった。おっと失礼。僕の名はガーメイル」
 息を荒げているといつの間にか謎の声が近付いてきていた。しかも謎の声は自らをガーメイルと名乗った。と――云う事は――見つける必要性がなくなったのか。――いや。でも――本物と分かった訳じゃないからここは用心しないと。静かに向けた。
「・・・・・・そこまで固くなる必要性はない。君は僕を必要としてくれているのだろう?」
 え? どうしてそれを? なんだか凄く怪しいな。この人が本当にガーメイルさんなら凄くラッキーだけどなんだか怪しいな。
「はは。そこまで警戒するとはね。まぁいい。云っておけばつい先程にガスドンさんからの伝書鳥がきてね。伝説の竜騎士の息子が向かったから後は頼むと書かれていたよ」
 うへ? あーだからどおりになった訳か。もしこの人がガーメイルさんならアーデルホイム王国の事を知っているかも知れない。
「この道は一本道でね。必ずここを通ると思っていたよ。とまぁ堂々と縄張りを作るゴブリンもいるんだけどね。・・・・・・さてとこんなところで長話はやめてそろそろ僕の家にでもくるといいよ。ね? アギト君」
 偽者である可能性は低そうだ。だけど万が一に備えておこう。ただし今は自称ガーメイルさんしか頼る当てがない。だからここは――と云いたいところだけど。
「あの・・・・・・どうして俺の名前を知っているんですか」
 これを訊かないと信用が出来ないような気がした。だから俺は自称ガーメイルさんに訊いてみた。この返答によっては――実に惜しいけど信用は出来ないな。
「うん? ああ。そんな事で悩んでいたのか。いいかい。僕と君のお父さんは例のゴブリンと戦った仲なんだ。そして僕達が勝った後に祝勝会で君の名前を教えてくれたんだ。君のお父さんがいなければ今頃僕達は闇の中だっただろうね。本当に感謝しているよ」
 へぇ。俺の親父と共に戦ったんだ。――嘘をついているようにも見えない。ここは信用してもいいかも。それに――頼る当てはもうこの人しかいないんだ。ここで不信がっていたら先には進めないだろうな。きっと。だけど。
「親父の・・・・・・親父の名前を知っていますか。その・・・・・・ガーメイルさんは」
 きっとこの質問は愚問だろう。だってガスドンさんが云うには親父は有名人らしいし。だけどそれ以前である可能性もある。だからここは決して無駄ではないと思っている。
「ああ。知っているよ。確か君のお父さんの名前はレックスとか云ったよね」
 知っているんだ。――と云う事は少なからず接点はあったと云う事か。それになによりも俺の名前を知っていたんだ。信じてもいいかも知れないな。――うん。ここは――信じてみようかな。
「・・・・・・分かりました。ガーメイルさん。俺は貴方を信じてみます」
 男に二言はない。云ったからにはこれからガーメイルさんと付き合っていく事になる。だけど決して百%は信用した訳じゃない。四十%から六十%は信じてもいいかも。
「はは。そうか。それは良かった。なら・・・・・・付いてきてくれ。僕の家はこっちにある」
 ガーメイルさんは俺に気遣いながら背を向け始めた。ちょっと進むと立ち止まって俺の方を見てきた。どうやら案内してくれるらしい。本当は親切な人なのか。それとも。静かに俺はガーメイルさんの後を追った。

 するとまた開けた場所に出た。と云っても開けた場所にはガーメイルさんの家らしき建物があった。だから開けた場所が広いとも思わなかった。にしても立派な一軒家だな。ここに一人で住んでいるのかな。ガーメイルさんは。
「ここはね。僕の書斎兼研究所でもあるんだ。・・・・・・さぁ。遠慮しないで入ってくれよ」
 そう云われたからには返答をしないと失礼だろうな。そもそもこれから頼るんだから失礼があったらどん引きされるだろうな。きっと。それでも失礼な事を笑って許してくれそうな雰囲気はある。とは云え失礼は避けておこう。
「分かりました。・・・・・・入ります」
 と云っても警戒し過ぎかな。この警戒が失礼にならなければいいけど。なりそうで怖いな。ただただ多少の失礼があっても嫌われる事はなさそうだ。何度でも云うけど失礼は極力避けたいところだ。
「はは。んじゃ・・・・・・付いてきてくれ」
 うん。あからさまに引いてるな。むしろここまで警戒していれば清々しいのかも知れないな。とは云え訊いて見ないと分からない事だろうけど。ガーメイルさんは家の中に入っていった。俺はそんなガーメイルさんの後を追った。
「あ! お帰りなさい! ガーメイル先生!」
 え? 謎の少女の声がした。よくよく見ると玄関の向こう側に謎の少女が立っていた。謎の少女は段差の上で立っていた。うんと。この感じからして凄く可愛らしい感じがする。
「おや? ホッホッホォウ。どうやらガーメイルが帰ってきたようだな」
 今度は老人の声だ。老人の姿は謎の少女に覆い被されていて見えない。一体どんな人達なんだろうか。うーん。これから長い付き合いになるのかな。
「はい! お師匠様! ガーメイル先生が帰ってきましたよ!」
 それにしてもガーメイルさんを先生と呼んだり謎の老人をお師匠様と呼んだりとこの少女は忙しそうだな。
「メメル。それにガインズ師匠。ただいま帰りました。ガーメイルです」
 へぇ。メメルって云うんだ。見た感じは俺よりも年下ぽいな。これは童顔だからかな。かく云う俺は童顔なんだろうか。うーん。分からない。歳で言えばまだまだだろうけどどうなんだろうか。
「・・・・・・うむ。無事でなりよりだ。そして・・・・・・良くぞきなすった。その・・・・・・なんだ」
 そうこう思っているとメメルちゃんの隣りに謎の老人がやってきた。うーん。いかにも学者と云わんばかりの風貌だな。地理学者の師匠なのかな。にしても俺の名前を思い返そうとしているのかな。
「アギト君です。ガインズ師匠」
 するとガーメイルさんが俺を紹介してくれた。これできっと思い返すだろう。ちなみに謎の老人はガインズさんと云うらしい。
「おお! そうだ! そうだ! アギト様だ」
 はは。ここでもアギト様と呼ばれたよ。あ――それにしてもどうしてガーメイルさんは君呼びなんだろうか。あーでもそっちの方がしっくりくる。だからなにも愚痴や文句もない。とそれよりも自己紹介をだ。
「初めまして。アギトです。危ないところをガーメイルさんに助けていただきました」
 本当に――ゴブリンに見つかって戦っていた時はどうなる事かと思った。確かあの時は死を覚悟したっけな。決して笑い事じゃないから忘れないようにしないとな。  
「うむ。まだ若いのにしっかりしていらっしゃる。濃なんて最近は記憶力が曖昧だな」
 ガインズさんは見た感じは本当に老人だ。師匠と呼ばれているからにはきっとなにかの達人なのだろう。ただしなんの達人かまでは当てれないけれども。
「ガインズ師匠。話もいいですがここは上げさせましょう。アギト君を」
 あ。ガーメイルさんが気を使ってくれた。村の外れとは云え親切な人が多いな。ここは。なんだか。凄く故郷を思い出すな。母さん。元気かな。
「そうですよ! お師匠様! ここで立ち話は失礼になりますよ!」
 メメルちゃんも気を使ってくれた。ただしどちらかと云えばここだと寒いから早く暖かいところにいきたいだけじゃないのか。これは多分だけど。
「おお。そうか。そうか。・・・・・・まぁゆっくりして下さいな。アギト様や」
 ガインズさんがそう云うとメメルちゃんから離れて隙間を作ってくれた。一人分なら余裕で通れそうだ。メメルちゃんも妨害する気はないようで快く開けてくれている。
「さぁ。ガインズ師匠もこう云っている。遠慮する事はない。上がるといい。アギト君」
 ガーメイルさんも快く云ってくれた。なんだろう。当然の事で断るつもりはないけれど緊張する。なんせ先程の村とも俺の村とも雰囲気が違うからだ。とは云えアットホームな感じは似ていた。
「・・・・・・お邪魔します」
 俺は緊張しながらも云った。ガーメイルさんが土足で段差を上がった。だから俺も土足で段差を上がった。はぁ〜。模範行動を起こしてくれる人がいて良かった。
「ああ。んじゃ大接間にいこうか。アギト君」
 ガーメイルさんは振り返る事がないままに云っていた。ガインズさんとメメルちゃんはどうやら俺が通り過ぎるまで待っていてくれるようだ。
「はい。分かりました。ガーメイルさん」
 だから俺がそう云い終わるとガーメイルさんの後を追った。目指すは大接間だ。それにしても先程の村と云いこの家と云い各家庭に大接間があるのか。俺の村にはそんな部屋なんてなかったような。
「どれどれ濃らも付いていくとするか。のう。メメルや」
 後ろの方でガインズさんの声がした。警戒感はないのが分かるけれどこうして挟まれると緊張する。なんだか。どこかに連行されているみたいだ。
「はい! お師匠様! メメルも伝説の竜騎士について気になります!」
 メメルちゃんの声も後ろの方から聞こえた。しかも割とはっきりと。伝説の竜騎士――か。そう云えば――騎士ってあの騎士だよな。と云う事は親父はどこかの王国に所属していたのか。
「ならいくか。メメルや」
 ガインズさんとメメルちゃんが付いてくるようだ。とは云えあれから距離も出来たしそこまでの緊張感はなくなったな。これならガインズさんやメメルちゃんに付いてこられても大丈夫そうだ。
「はい! 付いていきます! お師匠様!」
 メメルちゃんの声が聞こえた。元気そうな声はなんとも元気を貰えそうだ。それにしても大接間はまだかな。大接間だからすぐに着きそうなところにありそうだけどな。
「・・・・・・ここが大接間だ。どれ。どこでもいいから座り給え」
 お? ここが大接間か。ガーメイルさんが云うにはどこでも座ってもいいらしい。でもそれでも気を使いそうだ。と云っても良くは分からないからこの辺に座ろうかな。とその前に返事だな。
「はい」
 俺はどこでもいいと云われた割には偉そうなところを避けた。なぜなら違和感を覚えるからだ。ただし俺はそこまでマナーに詳しい訳じゃないからここからはご愛嬌にして欲しい。出来れば。
「・・・・・・うん。そこに座ったか。なら僕はここに座ろう」
 あ。ガーメイルさんが沈黙を保ちつつ俺を見ると沈黙を打ち破り云いながら軽く頷いた。ガーメイルさんは俺の反対側に座った。それもそうだろう。これから会話するのに隣りだとやり辛い。それに変な感じにもなる。
「・・・・・・ぬおう? ホッホッホォウ。なぁあに。そこまで畏まる必要はない。濃らは立っていても平気だ。ささ。気にせず訊きたい事があったら訊きなされ。アギト様や」
 ガインズさんが沈黙しながら先頭を歩いていた。一方のメメルちゃんはガインズさんの後ろを歩いていた。とここでガインズさんがテーブルの横に立ち止まると俺の表情を見ては強張っているように見えたらしい。そもそも俺にはそれ位に訊きたい事がある。
「・・・・・・単刀直入に訊きます。あの! ガーメイルさんは! アーデルホイム王国を知っていますか!」
 俺は大真面目に云った。それはもう生まれて初めてと云っても過言ではない位に云った。もしかしたら訊きたい余りに盲目になっているかも知れない。いや。なっているだろう。それ位に親父の居場所を知りたかった。
「うむ? アーデルホイム王国ですか」
 ガーメイルさんは深い目付きに変わった。予想外ではなかっただろうけど単刀直入過ぎたようだ。だけど今の俺に抑えつけれるものなんてない。その証拠に俺は尚もヒートアップした。
「そこに・・・・・・そこに親父がいるんです! だから! なにか! 知っている事があったら! 教えて下さい! この通りです! 宜しくお願いします!」
 親父のところに行く為にはアーデルホイム王国の場所を知っておかないといけない。俺は勢いの余りにガーメイルさんに対して目の前にあるテーブルに頭をぶつけそうになった。それ位に頭を下げたのだった。
「ふむぅ。遂に見つけて辿り着いたのですね。レックス様は」
 するとガーメイルさんは溜め息よりかは安堵したかのように声を出していた。最後までガーメイルさんの言葉を聴いて見るとガーメイルさんは親父の居場所を知っているかのような発言をした。
「え? 知っているんですか」
 俺は云いながら思わず顔を上げた。驚いた。なぜならガーメイルさんは親父の事もあれからの親父の事も知っていそうだったからだ。あ。そうじゃなかったらなんでガーメイルさんは俺の名前を知っているんだ?
「ええ。知っていますとも。最果ての未開拓地として有名ですね。なんでも植民地時代に唯一の犠牲にならずに済んだとされる未知の王国」
 やっぱり! ガーメイルさんは俺の親父を知っていたんだ。それにしても最果ての未開拓地? 植民地時代? 犠牲にならずに済んだ未知の王国? あ! いや! 今は――
「だとしたら! だとしたら! どうやっていけるんですか! そこに!」
 俺は慌てていた。だからこんなにも云い続けた。必死だったかも知れない。こんなに云っても親父のところにはすぐにはいけないだろう。でも――それでも――俺は今すぐにでも親父に逢いたいんだ!
「・・・・・・いいですか。アギト君。世界は広いですよね?」
 俺の事を見越してか。ガーメイルさんは深い沈黙を打ち破り重たい口を開いた。急に不意打ちされた。だから一瞬の戸惑いがあった。だけどそれもほんの一瞬だったのだからすぐに我を取り返した。
「え? あ・・・・・・はい。広いです」
 それでも最初の反応は戸惑っていた。だけどすぐさまに冷静に戻った。沈黙に入るとより一層に冷静になった。すると案外普通に広いですと答えた。一体それがどうしたのだろうか。
「もし・・・・・・空に島があったらどうしますか。それもたった一つの」
 え?
「え? ・・・・・・え?」
 空に島? ガーメイルさんは一体なにを云っているんだ?
「君のお父さん。つまりレックス様が向かった先は恐らく雲に隠れた空島よりも上の未知の世界・・・・・・宇宙です」
 う、ちゅ、う?
「ええ!?」
 ってあの宇宙!?
「いいですか。アギト君。この世界には古代文明に竜撃船と呼ばれる乗り物がありました。竜撃船は宇宙にいっても大丈夫な程に頑丈でパワフルでした」
 古代文明? 竜撃船?
「・・・・・・夢のような話ですね」
 本当に――ガーメイルさんが云っている事は夢のようだ。
「はは。これは夢などではありません。ちなみに古代文明の竜撃船は空島で造られた乗り物らしいです。本来は地上に向けての運用がなされていたのですが物好きな科学者は真逆な事を考えていたみたいです」
 夢じゃない? へ? 空島で造られた乗り物? ってそれよりも――んじゃ――親父が宇宙にいけたのは――
「それじゃあ親父が宇宙にいけたのは空島のお陰なんですか」
 もしガーメイルさんの云う事が本当ならばこれはとんでもない話になってきたぞ。世界は広いと云うのに――空島とか。宇宙とか。どれだけのスケールなんだ。
「その通りです。きっとレックス様は今も尚我が星の周りをグルグル回り続けている宇宙の星にいる事でしょう」
 宇宙の星――か。もし本当に親父がそこにいるのなら――
「どうやったら・・・・・・どうやったらいけるんですか! そこに!」
 一刻も早く親父に逢いたいのに――どうすればいけるんだ? 一体――どうすれば――
「・・・・・・今や竜撃船は全滅の傾向にあります。これは天地戦争のせいですね。・・・・・・いいですか。アギト君。君は今からフェルディア王国を目指すんだ」
 へ? 全滅? ――天地戦争? なんだそれは。あ。ガーメイルさんが沈黙に入ると気を改めたかのような表情をし始めた。
「フェルディア王国?」
 どこだ。そこは。聴いた事も訊いた事もない。
「そうです。きっとそこにいけば僕の知っているジャンク屋のハイソンに会える筈です。彼ならば君の役に立ってくれるでしょう」
 ちょっと待って欲しいけれどガーメイルさんは話を止めなかった。だけどきっとフェルディア王国になにかがあるのだろう。きっと竜撃船に纏わるなにかが――
「フェルディア王国のハイソンですね。分かりました」
 俺は記憶力は良い方だ。ガーメイルさんに云われたフェルディア王国とジャンク屋のハイソンさんを憶えたぞ。
「・・・・・・簡単そうに云いますがフェルディア王国はここから更に東の海の先です。正直に云いますともう一人位仲間が欲しいところですね。でなければガルデンクロス大陸は抜けれません」
 まただ。またガーメイルさんは気を改め直してくれた。きっとこれは本当に俺の事を心配してくれている余りの事なんだろう。でもそれでも――俺には魔力獣と云うガオスがいる。だからここは――
「大丈夫です。俺には頼もしい相棒がいます」
 云ってみた。この時の俺は正直のところで舐めていた。だけど――
「・・・・・・魔力獣ですか。残念ですがここから先は結界が張られており魔力獣での進入は出来ません。いいですか。アギト君。僕は今忙しくて手助けが出来そうにありません。だけどきっと他に君の手助けとなる人がいるでしょう。その人を見つけるんです」
 再び気を改め直してくれたガーメイルさんが真剣に云ってくれたお陰でなんとか重たくなる事が出来た。ここから先は治安的に結界が張られていて魔力獣のガオスは通れないと云う事か。うーん。だとしたら――
「どこにいけば・・・・・・見つけれますか」
 俺は正直のところでガーメイルさんに訊いたみた。俺はまだ若いしどこで出会いになるかなんて分からない。だからここはガーメイルさんに教えて貰おうとした。
「それは当然・・・・・・酒場などでしょう。あそこにギルドキャラバンを目的にした人達が集まりますからいってみるといいでしょう。いいですか。アギト君。僕が出来る事はここまでです。後は自分の力で成し遂げて下さい。きついかも知れませんが」
 さ、か、ば? ってあの酒場? ――俺の歳でも入れるのかな。年齢制限があったりしたら入れないような。あーでもここは念の為にいってみようかな。だからここは――
「・・・・・・分かりました。俺・・・・・・なんとかして見ます。では・・・・・・俺はこの辺で失礼します」
 本当のところは不安だらけだった。でも――それでも――云ったからには云った限りの事をしないと駄目だ。本当はガーメイルさんを仲間にしたかったけれど無理そうなのでここは諦めよう。
「はい。素敵な仲間と出会えるといいですね。魔力獣との旅路もいいですがたまには馬車での移動もいいと思いますよ。では・・・・・・お達者で・・・・・・アギト君」
 仲間――か。――ガーメイルさん曰くここからは馬車での移動がメインになってくるらしい。はぁ〜。なんだか肩身が狭い旅路になりそうだ。でも――それでも――俺は――なんとしてでも親父の元にいくんだ。だからここは――
「はい。お邪魔しました。また会える日を楽しみにしておきます。では・・・・・・」
 俺は返事をした。その後に立ち上がりそう云った。もしかしたらガーメイルさんと再会する日は近いのかも知れない。それでも今は――この事は黙っていこう。だって――未来はだれにも予測出来ない事だから――

 次回に続く
メンテ

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