ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
[5372] 永久を往く者
   
日時: 2017/10/03 22:54
名前: 抹茶ラテ ID:8nb02mqA

 サローシュは、およそ千数百年生きている不死人だ。
 かつてしこたま飲んだ酒の席で、酔っぱらっていたところを顔見知りの神獣に勧誘され、うっかり頷いてしまったらしい。
 当の本人は、人生最大の失敗だと愉快げに語っている。
 それでも、世を儚むこともなく、不条理を憂い苦しむこともなく、むしろ楽しそうに不死人の人生を謳歌している。

 これは、不死人となった彼と、ごく平凡なちんまい子供の私の、旅の物語。


(目次)

◆プロローグ:どこか遠く、暖かな腕のなかで
>>01


メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

プロローグ:どこか遠く、暖かな腕のなかで ( No.1 )
   
日時: 2017/10/03 22:52
名前: 抹茶ラテ ID:8nb02mqA

 気が付くと、真っ白な手触りのいい亜麻布に包まれて、深く抱きしめられていた。
 白濁の視界をぐるりとまわすと、お化けみたいな青白い髪の男が笑っていた。蛍のような色鮮やかな緑色の瞳を持っている。それなりに節くれだった指が、二度、三度とファルチェの猫毛の頭を撫でる。
 それがとても心地よくて、ばたばたと両手両足を動かして笑っていると、おおっと驚いたような声が男からあがった。

「わっ。こらっ、暴れるな!」
「あはは、珍しいね。サロが焦っている」

 男が慌てていると、奥の間からひょっこりと別の男が顔を出した。
 青白い髪の男より、幾分か歳を取っていた。髪は青みのかかった黒髪で、瞳も変わらない色をしていた。ファルチェは、なんとなくお父さんだと気づいた。
 赤ん坊なりに、あー、うー、と手を伸ばすと、お父さんは照れた様子で青白い髪の男――サロというらしい――から、ファルチェを受け取った。

「やっぱり、父親が好きなんだな。見た目も、お前にそっくりだ」
「私としては、レベッカに似て欲しいところだったんだけどなあ。私に似たら、ろくでもないところばかり受け継いでしまうのに」
「そんなことねーよ。レベッカはいい亭主を持った。あんたはいま、父親らしいイイ顔をしてるよ」
「……ありがとう。サロにそう言って貰えると、なんだか安心するよ」

 お父さんは、ふっと年季の入った皺のある口角を上げて、穏やかに微笑んだ。
 そうして、ファルチェの背中をぽんぽんと叩いてあやす。時々揺すられていると、大きな船で海を漂っているような不思議な感覚になる。
 誘われるように目を閉じると、どこか遠い場所から声が聞こえた。

「サロ、お願いがあるんだ。もし、私とレベッカの身になにかあったらそのときは、ファルチェを守ってほしい」
「……」
「君がこういった約束事を嫌うのは、知っている。でも私もレベッカも、天涯孤独の身なんだ。私たちが死んでしまったら、この子はストリートで物乞いをするか、貧しい孤児院しか行くところがなくなってしまう。だから……」
「ダメだ。お前の代までという約束だ。その子を守りたいなら、お前かレベッカが死ななければいいだけのことだろ」

 その言葉に、お父さんはぐっと唇を噛んだようだった。

「そう、だよな。死ななければいいんだ。死ななければ……」

 ぽつりと零したお父さんの言葉は、どこか不安そうだった。
 ファルチェはお父さんが泣いていたらそうしてくれたように、お父さんを抱きしめたくなった。けれど、ファルチェは赤ん坊で、おまけに半分くらい眠っていた。
 それでもなんとかお父さんの服を握り締めると、お父さんも当たり前のように抱き返してくれた。

「ファルチェ、私の可愛いファルチェ。愛しい君と妻のために、私は精一杯生き抜くよ。足がもげても、心臓を打ち抜かれても、どんなに遠い場所に連れ去られても、かならず……」

 ファルチェを抱きしめる腕の力が、強くなる。
 とはいえ、亜麻布に包まれたファルチェは苦しくもなんともない。ただ温もりと、どこか懐かしい香りを堪能していると、なんだかとても幸せな気持ちになり、ファルチェはことんと眠ってしまった。
メンテ
Re: 永久を往く者 ( No.2 )
   
日時: 2017/10/14 09:44
名前: Κ ID:xBjWjRE.

はじめまして、Κといいます。

読ませていただき、思わずコメントさせていただきました。迷惑でしたらお伝えください。

不死人という難しそうな、でも興味ある内容と、温もりを感じる物語の展開に、早く先を読み進めたい気持ちになっています。

次話をお待ちしています。失礼します。
メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
パスワード (記事メンテ時に使用)
コメント

   クッキー保存