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[5224] セフィール・サーガ
   
日時: 2014/08/12 02:26
名前: 秋乃麒麟◆DGsIZpFkr2 ID:t.rRKayA

プロローグ

「我らが手を下すには、時期尚早では?」
 闇の中に女の声が響く。何処か落ち着いてはいるものの、氷のような冷たさを孕んだ声だ。
 何者かと話しているのだろうが、その内容は解らない。というのも、声の主はその場におらず、彼女の意識に語りかけてきているためだ。
「それは真ですか?」
 一瞬ではあるが、無機質であった女の声に、動揺のようなものが混じる。
 そして、暫くの沈黙の後――
「……はい、ご主人様。その役目、この私が引き受けましょう」
 姿の見えない『主』に対して、女はそう告げた。


===============================

おかげさまで1000HIT
ありがとうございます。わりとどうでもいいけどHN変えました。

王道のファンタジー物を書こうと思い、スレを立てさせていただきました。
一応、シリアスなストーリーを想定してますが、作者の脳内がアレでアレでアレなので、時折ぶっ飛ぶ可能性があるやもしれません。
また、厨二全開なので高二病の方はお引き取りください。


さて、まずは注意事項です。

・かなりソフトですが、流血・暴力描写があります。
・時々神話・伝承ネタが出ますが、色んな体系がごっちゃになってることがあります。
・不定期更新ゆえ、しばしば姿を消します。
・文章力及び表現力が非常に稚拙なため、小説と言っていいものなのか解りません。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・宣伝したい方はどうぞ。ただし、スパム的な物は勘弁してください。

アドバイスやコメントについてですが、辛口大歓迎です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。あまりにも文章力と表現力が稚拙で、語彙も少ないので。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。

===============================
目次

第1章 異界より来る禍つ闇

第1話 不穏 >>1
第2話 迎撃 >>2
第3話 届かない想い >>3
第4話 迫りくる異形 >>4-6
第5話 人ならざる者 >>7-9
第6話 慌ただしい旅立ち >>11


第2章 秘境にて祈る監視者達

第7話 邪眼の少女 >>12-14
第8話 迷いの森サルトゥス・ネブラ >>18-19
第9話 基礎なるイェソド >>22
第10話 月光の踊り子 >>24
第11話 渦巻く邪念 >>26
第12話 イェソド攻防戦 >>27-28
第13話 弱き者の歪んだ愛 >>31-33
第14話 闇の力の代償 >>34
第15話 父と娘 >>35


第3章 真に討つべきは何者なのか

第16話 燻る戦火 >>36
第17話 流浪の女戦士 >>38
第18話 魔人の暗躍 >>40-42
第19話 情報収集 >>44
第20話 代行者 >>45



登場人物設定 

メインキャラクター
レオンハルト >>10

フレーナ >>20

リーゼロッテ >>21
シア >>23
コーネリア >>37
ラフィーナ >>46


サブキャラクター
第1章〜2章 >>39



話が進み次第追加していきます。


設定資料
世界観 >>17
種族 >>25
魔術 >>43


話が進み次第追加していきます。

裏設定とか色々
誰も得しないブログ


なろう様でも書かせていただいております
メンテ

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Re: セフィール・サーガ ( No.46 )
   
日時: 2014/08/11 23:23
名前: 秋乃麒麟◆DGsIZpFkr2 ID:8Yqy9886

「ハッ、そんなの簡単さ。襲いかかってきた莫迦な奴らをぶちのめすだけさ」

ラフィーナ・ナーゲル
性別:女性 年齢:34歳
身長:174cm 体重:65kg
種族:ワービースト
使用武器:バグナク
好き:酒、魔物退治
嫌い:ヤワな男

中原南部の大国シュトルムラント王国南東部の傭兵。特定の傭兵団には所属せず、自由気ままに旅をしている。
サバサバとした姉御肌の女性。細かいことは気にせず、考える前に行動するタイプ。猪突猛進な脳味噌筋肉に思われがちではあるが、考えなしに行動しているわけではなく、傭兵らしく引き際は弁えている。
バグナクという格闘武器と蹴撃を組み合わせた体術を身につけている。魔術の才は無いが、それ以上の身体能力を有しており、中級クラスの魔物とも対等に渡り合うだけの実力を持つ。
頼れる性格なのだが、自分は少しガサツなのではと思い悩む一面もある。しかし、自分の弱みを見せまいと強く振舞っている。

ガレンでの失踪事件の際に、レオンハルトと共に行動をする。特別な感情を抱いているわけではないのだが、レオンハルトに対して何か惹かれるようなものを感じたようだ。
メンテ
Re: セフィール・サーガ ( No.47 )
   
日時: 2016/07/10 01:50
名前: 秋乃麒麟◆DGsIZpFkr2 ID:N1iw21tE

第21話 反撃への一手



 クリークス首都から二時程北へと向かった場所には、ノル=クリークスという小さな村がある。街道から外れているため地図には載っておらず、その存在を知るのは地元民かある程度の修練を積んだ冒険者くらいだ。そのような秘境にある故に重大な秘匿情報があるように見えるが、実態は自給自足の生活を送るだけの寒村である。
 故に、身を潜めやすいという利点があった。反乱に遭い首都を追われたクリークス大公とその親族及び側近達は、ノル=クリークスに落ち延びていた。村民達は初めは何事かと思ったが、彼らは元々大公側の人間であるようで、状況を説明するとすぐに彼らを匿うことにしたのだ。現在は首都奪還のための拠点となっており、散り散りになった大公側の者達が少しずつではあるが集結していた。
「なるほどな。俺の庭で、ヴォルガーのクソ野郎共が好き勝手に暴れているわけか」
 軍議は村の一角にある酒場を利用して行われていた。中央には、軍服の上に胴鎧(キュイラス)を着込んだ大男が佇んでいる。彼がクリークスの大公である、ライン・クリークスだ。しかし、大公というよりも傭兵といった容貌だ。厳つい顔立ちには威厳はあるものの、王族としての高貴さよりも戦士としての荒々しさが浮き出ており、背に担がれている巨大な得物――三日月斧(バルディッシュ)がそれをより助長している。
 ラインの他には彼の側近の他、彼の将であるグスタフとアロイス、そしてラスティートより赴いたコーネリアの姿があった。誰もが何かしらの武装しているため、酒場ではまず有り得ないような物々しい雰囲気が満ちている。そこでは、反乱軍により奪われた首都を如何にして奪還するかが話し合われていた。
「部隊を束ねて正面突破といきたいところだが、下手に乗り込めば戦闘は免れないだろうし、戦闘になれば当然街にも被害が出る」
 ライン曰く、街の構造や敵となる貴族の軍の精度などは知り尽くしているため、戦闘に勝つこと自体は容易いという。しかし、彼としてはなるべく被害を出さずに首都を奪還したいようだ。 出会ったときは粗野そうな人物だと思ったが、しっかりと民のことを考えているのだとコーネリアは思った。
「で、そこで気になるのがアルトレーヴェ殿。あんた達が仕入れてきた情報だ。一週間後だったか、ヴォルガーを初めとする奴らが、西のダグリス王国を攻める。奪還を狙うのはその時だろう。問題は、西のダグリスと俺達クリークスは同盟を結んでいるということだ」
 情報を仕入れた後も何度か調査を重ねたが、ダグリス攻略のための兵力を集めているのは事実のようだ。彼らが出払っている間に街に入る。そうすれば戦闘を最小限に抑え、被害を減らすこともできる。だが、反乱した貴族達が攻め入ろうとしているのは、同盟を結んでいるダグリスである。もし攻め入ればそれは同盟を破棄したものと見なされ、いらぬ戦火を招くこととなる。それ以前にも、貴族の暴走とはいえラスティートとの同盟を破棄しているだけあって、もしそれを繰り返すようであれば周辺の同盟国の信用を失うこととなる。
「使者を送ったところで信用されるかは解らん。だから、ダグリスには俺自らが出向こうと思っている」
「陛下、それはあまりにも危険ではありませぬか?」
 グスタフが心配そうに口をはさむ。
「此処に隠れ続けていては何の進展も無い。ならば、動けるうちに動いた方がいい。それに、流れは既にこちらにあるんだ」
「既に手を打ってあるのですか?」
「まあな。西の街道へと斥候を送ったが封鎖はされていないらしい。この場所の安全も確保できている。そして、何よりもグスタフ、俺の実力は知っているだろう?」
 ラインはそう言うと、豪快に笑って見せた。
「しかし、不安要素も多いですね。アルトレーヴェ殿の話によると、東のナバートとハジャルの動向も気になるところですが……」
 アロイスは口元に手を当てて考え込んだ。彼が言う二国は、先のデール家を初めとする貴族の反乱で、兵力を貸していたとされる国々だ。元々、クリークスとは敵対的な国々であったため、混乱に乗じて攻め込んでくる可能性も充分に考えられる。
「いいや、そっちは暫くは攻めてこないだろう。斥候の情報によると、ナバートとハジャルは、あまり足並みが揃っていないらしい」
 ラインの話によると、ナバート王国とハジャル公国は共にクリークスに対して敵対的ではあるのだが、二国間でも敵対しているという。先の反乱に手を貸したのは、クリークスの貴族達と偶然利害が一致したためなのだろう。しかし、二国は反乱に加担しただけで、その後は自軍を束ねてそれぞれの本土へと引き払っている。
「ダグリスへは今言った通り、俺が出向く。勿論、少人数だが兵と将を連れていく。ファズ、ルーネ。一緒に来てくれるか?」
「はい」
「お供いたします」
 ラインが指名したのは、二人の男女だ。ファズはスピアを持った初老の男性だ。鎧が軽装なのを見ると、速さを生かした戦いを得意としているのかもしれない。一方、ルーネは竪琴を持った女性だ。楽器を持っていることから、呪歌による支援を担当しているのが解る。この二人が、ライン大公と共に西のダグリス王国へと赴くようだ。
「奪還の方はグスタフとアロイス、お前達に任せたい」
「承知致した、必ずや首都を奪還して見せましょうぞ」
「はっ、この一命に代えても」
 グスタフとアロイスは一歩前に出ると、胸に手を置いて敬意を表した。
「さて。どうやって留守の間に忍び込むかだが……。これは俺達王族にしか知られていないんだが、宮殿の地下に通じる道があるんだ」
「陛下、よろしいのですか、そのような情報を」
「ああ、問題ない。正面から突破せずに忍び込むなら、この方法しかない。ただ、長い間使われていない場所だ。魔物共が住みついていてもおかしくない。正攻法なら容易いが、やはり市街戦は避けたい。危険だがやってもらえるか? 勿論、俺の方が済み次第、援軍を向かわせる」
「かしこまりました」
「そして、アルトレーヴェ殿。あんた達ラスティートの協力は有難いが……」
「ええ、存じております」
 六大国のひとつであるラスティートの協力が表向きになれば、中原のパワーバランスに何かしらの影響を及ぼす。それ程名の知れた将ではないが、幾度か周辺諸国と戦ったことがある故、コーネリアの存在を知る者も出てくるだろう。つまり、表立った行動は出来ないということだ。だが――
「あんたには、残りの者とこの村の守備をお願いしたい」
「へ?」
 数日前に他国から来たばかりの人間に、拠点の守備を任せるというのだ。極端な話、他人ともいえる人間にそのような重要な役割を任せるのは、あまりにも無茶と言えるであろう。コーネリアに限らず、その場にいた者は目を丸くした。当然、抗議する者も幾人か出てきた。
「このような何処の馬の骨かも知らぬ小娘と、この村の守備をしろと仰るのですか」
「実はデールめのスパイとして紛れ込んでいるのやもしれませぬぞ!」
(予想していたとはいえ、やっぱり信用はあまりされていないみたいね)
 コーネリアは抗議の声に気を悪くした様子は無く、むしろ当然のことであると受け入れていた。
 ただでさえ反乱が起きたばかりで国家情勢が不安定なのだ。混乱はこのクリークスに限らず、内陸部小国家群の至るところまで広がっている。そのような中で他国からの将が入ってきたとなれば、不信感を抱くのも無理は無い。同盟中であったことまで考えが回らないほど、彼らもまた混乱に翻弄されていたのだ。
「てめーら黙れ。こんな時に疑ってどうする。何もせずにいても、状況は悪くなるだけだ」
 ラインは静かに、しかし威厳のある声でコーネリアに対して不信を抱いていた将達を一喝した。彼らとしても納得のいかないところもあるのだが、行動せずにいるのが現時点では最も愚かな選択肢であることを理解しているのだ。
「それにな、何となくだがこのコーネリアさんからは感じるんだよ。ま、俺の勘って奴だが」
「それは……」
「コーネリアさんよ、あんたには自覚が無いかもしれねえが、あんたには謂わば「英雄としての資質」ってのがある。それは如何なる努力をしようとも、得ることが出来ねえもんだ。天賦の才って奴だな」
「なんと、陛下がそう評価されていたのですか……。アルトレーヴェ殿、今程の御無礼をお許しください」
「あ、いえ……」
 ラインの一喝と彼が口にした「英雄としての資質」という言葉。それを聞いてからか、将兵達の態度が一変した。一体、ラインは何を言っているのだろうか。コーネリアにはそれが理解できなかった。しかし、周りの将兵達にはそれが解っているようだ。
 確かに、自分にはそれなりの力量があり、その辺りの男にも負けないだけの力は持っていると自負している。実際、戦場では何度か一騎討ちを挑まれているが、それを全て打ち負かしてきている。しかし、ラインが口にした「英雄」であるかと言えば、否定せざるを得ない。第一、自分は一人の部将であって、世界を動かすだけの力を持ち合わせているようには思えない。
 そもそも、英雄とは何なのだろうか。コーネリアは一種の疑問を覚えるようになった。
「さて、時間が惜しい。諸君には早速動いて貰いたい。皆、頼んだぞ」
「はっ!」

 一度解散したのちに、コーネリアは共に村を守ることとなった将に、先程ラインが口にした言葉を尋ねることとした。態度を一変させた将、名はアルザと言ったか。
「失礼します。先程のことなのですが――」
「ああ。あれですか。実はですな、我々もよく解っとらんのですよ」
 アルザは何処か申し訳なさそうに、コーネリアの言葉に答えた。その反応は彼女にとって、少し意外だったのだ。先程はラインの眼の前であったためにあのような態度を取っていたのだと思っていたが、今も同じように、ある種の敬意にも似た態度を自分へと向けてくるのが解る。
 アルザ曰く、過去にもラインは同じようなことを口にしていたらしい。そして、彼が英雄としての素質があると評価した人間は、クリークス建国以来、世界情勢に何かしら大きな影響を及ぼすような功罪を成し遂げているようだ。
「私にそれ程の力があるとは思えません」
「自分自身でも解らない何か。陛下はそれを見ているのやもしれませんな。本当のところ、よく解らんのです。何が何なのか、実は全く考えていないとか……おっと、今のは陛下には内緒にしておいてください。ただ、陛下が評価した者は、信頼に足るのです。本当に、根拠は無いのですがね。あのグスタフ殿も、陛下に英雄の資質があると評価されたのです」
「そうでしたか……。私には少々肩の荷が重い感じがしますが……」
「あまり深く考えずとも良いと思いますよ」
「解りました。今は目の前の問題に当たらねばなりませんね」
 気になることはいくらでもあるが、村の守備という重大な仕事を任されている。こうしている間にも、敵が襲ってこないという保証はどこにもない。そもそも敵対勢力以外にも、魔物やならず者といった存在は、戦う力の無い村人にとっては充分な脅威となり得る。
 英雄という曖昧なものについて悩んでいては、目先のことも成し遂げられない。コーネリアは自らを一喝する。
「ははは、その通りですな。では、早速村の周囲の警戒に当たりましょう」
「はい。全力であたらせて頂きます」

==================
長らく放置して大変申し訳ないです。
色々あるんですが弁解はしません。
メンテ
Re: セフィール・サーガ ( No.48 )
   
日時: 2016/07/14 00:14
名前: 秋乃麒麟◆DGsIZpFkr2 ID:AS8g3jRw



 クリークス公国・ダグリス王国国境、旧リグル街道――
 周囲で活動し始めた魔物や獣人達を討伐すべく、ダグリス王国の一軍が国境付近へと赴いていた。魔物襲撃の情報が入ってから一時もせずに、軍の派遣を決めたのだ。獣人の割に統率の執れていた敵だったが迅速なダグリス軍の行動に動揺したことで綻びが生じ、既に流れはダグリス側へと傾いていた。
 知性の低い魔物や獣人の奇襲。色々と気になるところはあったが、まずは目先の問題を片づける。詮索するのはその問題を片づけてからでも遅くは無い。
「うおおおおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 喚声と共に、大男が手にした巨大な槌を振り回す。戦槌(ウォーハンマー)の一種だが、その中でも特に大きなサイズであるのが解る。両手で扱うのがやっとのように思えるが、この大男は馬上で軽々と振り回している。
 グシャッ――肉が潰れる音と共に、一体のオークの頭部が文字通り弾け飛んだ。人のものとは違う異質な肉片と脳漿が辺りへと飛び散る。大男はそれをもろに被るが特に気にした様子もなく、隙を付いて槍を突き出してきた別のオークの攻撃を、もう片方の手に持ったカイトシールドで弾くと、すぐに反撃に移り頭部を粉砕する。
「ルード陛下、ご自重ください!」
「はっ、国のヘッドたる俺が後ろに下がっていられるか。六大国程の力が無い俺達は、こうしてトップが前に出て戦わなきゃ周りがついてこないからな」
 ルード・ダグリス。この大男こそが、ダグリス王国の国王である。国王の身でありながらも常に自ら戦場に立ち、身の丈ほどの戦槌を軽々と振り回す様は、周囲の諸国家からは恐れられている。どうやら元々はかなりの規模を誇っていた傭兵団を率いていた男の家系で、その血を受け継いでいるのかもしれない。
 一瞬の隙を突き、小柄なゴブリンがクロスボウを構えてルードへと向けていた。距離が離れていたために彼は気付いていないようだ。ゴブリンはニヤリと下卑た笑みを浮かべ、クロスボウの引き金を引こうとした。
 だが、ゴブリンは引き金を引くことすら敵わず、赤い炎に焼かれて息絶えた。その様子を見て、ルードはようやく自分が狙われていたことに気付く。そして――
「相変わらずだな、ルード。いや、その動きを見る限り、少し衰えたか」
 三日月斧を構えた男が、何処か意地の悪そうな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
「随分なご挨拶じゃないか、ライン。お前も人のこと言えないんじゃないか。普段ならその得物でぶった切るところを、術に頼るなんてな」
「そりゃもう、俺も良い歳だからな。出来ることなら楽をしたいものさ」
 二人はお互いの皮肉をおどけた様に受け流しながら、配下の将兵達と共に残る魔物の討伐を行っていった。戦いはラインの一軍が合流したことで、より一方的なものとなった。国境周辺を徘徊していた魔物達は、彼らの迅速な行動の前に成す術もなく、次々と駆逐されていった。
 魔物の駆逐が一段落したところで、ラインとルードはお互いが得ている情報を交換すべく、簡易な会議を始めた。既にクリークスでの出来事はダグリスも把握していたようで、魔物の被害が出始めたこともあってか、迅速に行動に出ていたようだ。そのため、ダグリス内での被害は最小限に抑えられたようで、領土内の秩序は守られているらしい。
「なるほどな、話は聞かせてもらった。得体の知れない奴らの存在の情報なら、俺達も掴んでいる。しかし、お前ともあろうものが革新派に後れを取り、首都まで乗っ取られるとは情けない」
「返す言葉もないな」
 ルードの言葉にラインは情けなさそうに俯く。
 自分の無力さ故に、現状があるのは紛れもない事実である。事前に革新派を潰していれば、このような事態にはなっていなかったかもしれない。
「過ぎてしまったことを悩んでも仕方ないがな。で、お前のことだ。こうしてトップがこんなとこまでやってきたんだ、手を打ってあるんだろうな」
「ああ。どうやら革新派はお前らのとこを攻めるようだ。この前、ラスティートとの同盟を破棄して襲撃したようにな」
 自分が赴いた理由の他、首都奪還の為の手管や、拠点を置いているノル=クリークスの防衛などについて簡単に説明するライン。
「ははあ、なるほど。少数で分散させるのは愚策ではあるが、その状況だと無理もないか。だが、こちらの方はお前が来てくれたのだから、問題はあるまい」
 同盟国でありながらも攻められるという情報を聞かされながらも、ルードは特に気にした様子は無い。
「意外だな。不義にブチ切れて、その戦槌で俺の頭を叩き潰すと思ったが」
 勿論、相手がそのような人間ではないことを解っている。その上で、ラインはルードに対して軽い冗談を告げる。
「おいおい、黙って潰されるタマじゃないだろ、お前は」
 ルードもそれを理解しているのか、ラインに対して冗談で返す。その上で真剣な表情になり、現況をラインへと説明し始めた。
「それに、この状況でそんなことして何になる。お前のところにも得体の知れぬ者がバックについて操っていたのはもう把握しているんだ。お前が望んでこのような結果になったわけではないというのは、俺も理解しているさ」
「お前のところ、にも……? まさか」
「ああ。魔族が現れたのはクリークスだけのことだけじゃない。幸い、俺のとこはまだこの手の魔物だけだが……ディンヴィアやレザンド、カヤでも被害が出ている」
 ルード曰く、現在は中原中北部の小国家群では魔族の影が至る所で目撃されているようだ。
「となると、厄介だな。ただでさえこの混沌とした中原中北部の情勢だ。そこに闇の者が現れたとなると……ルード、お前はどう思う?」
「ああ、お前の思う通りだな、ライン。この状況を利用しようとする勢力が出てくるだろう」
 二人の懸念はこうである。中原中北部――六大国のフェルムジア、ラスティート、クファラの三国に囲まれたこの地域は、幾つもの弱小勢力が互いに力を牽制し合っている状況にある。その上で表立った対立はせず、周囲の大国の力を借りたり、あるいは小国同士が同盟を結んで別の勢力へ対抗したりという状態で、何とかギリギリのところで均衡を保っているのだ。
 だが、此処に闇の者が介入すれば、小国間のパワーバランスは脆くも崩れ去ることとなる。というのも、今までは弱小勢力故に、徒に他国への侵攻などを行えばかえって自国の国力を消耗しかねないとして積極的に行ってこなかったのだ。しかし、魔族が持つ大きな力を利用すれば、他国へと侵攻するだけの余裕も出てくる――そのように考える者が出てくるのは、自然なことだ。
 事実、クリークス内でのクーデターもそのひとつである。他にも、周辺の小国で貴族や王族が暗殺されるといった事件が度々報告されているのも、魔族が絡んでいるとみても間違いないであろう。
「このクソみたいな状況。莫迦みたいに争っている場合ではないんだがな。今こそ、この小国家群で連合を組まねばならんというのに」
 自国はまだ大した被害は受けていない。だが、このまま放置していては何れ魔族の手が忍び寄ってくることは避けられないだろう。それでも、今のままでは後手に回ってしまうのが現実である。
 以前から思うことはあった。いつまでも国同士で争い合っているわけにはいかない。六大国程の国力が無い小国家群が纏まりを欠いていては、待ち受けるのは滅びの道だけである。それを今ほど実感できたことがあるだろうか。ルードはもどかしさを隠せずにいた。
「ご尤もだ。だがな、俺達が纏まったところで世界は動かせやしない」
 ラインはルードの考えに賛同を表しつつも、大局には影響しないと否定する。
「世界を動かせるのは、一握りの英雄だけさ。俺もお前も、この小国家群の王はおろか、六大国のトップでさえも、そんなものを持ち合わせているかどうか聞かれれば、否定せざるを得ないな」
「お、いつものが出たな。つまり、魔族が蔓延るこの世界情勢を解決できるのも、お前の言う英雄とやらか?」
 ラインが時折口にしていた英雄という言葉。ルードもそれをよく耳にしていた。
「実際は良く解らないけどな。そもそも英雄なんてものが曖昧すぎるからな」
「お前なあ……」
 自分でもよく解っていない様子のラインに、ルードは呆れたように肩を竦める。尤も、彼がこのような人間であることを理解しているつもりだ。そして、自分自身も、ある程度ではあるがその世界を動かせる人間には、何かしら異質なモノが眠っているのではないかと考えている。
 結局は、大多数の人間はただ世界の流れに翻弄されるだけなのか。それを理解してしまうと、全てが空しく感じてしまう。それならば全てを諦めるしかないのか。いや――
「悩んでいても始まりはしないな。今後だが、どう動くべきか」
 抗えるところまで抗う。そして、今解決できる問題を解決していく。それが、弱小でありながらも国を統べる立場にある自分達の定めである。
「まずは、お前が提供してくれた情報を元に動くとしよう。まずは、襲撃するという部隊を迎撃するための軍を再編成といったところか。ライン、動員できる兵力は?」
「あまり目立ちたくはなかったんでな。連れてくることが出来たのはこれだけだ」
 ラインは申し訳なさそうに、近くに駐留させている将兵達の方に視線を向ける。
 連れてきたのは、百人ほどの部隊をふたつ。兵力は二百強と言ったところだ。それぞれの部隊を率いるのは、ファズ・フロッティという名の将と、ルーネ・レシスという名の将だ。共に、小国家群ではそれなりに名の知れた将だ。
「お前のとこはどうだ、ルード」
「ああ。兵力自体は問題ない。だが、先程俺達が抱いた不安要素も考えると、こちらの方に割ける兵力は、今連れている四百程度といったところか」
 本拠地であるダグリスへと戻れば、今よりも多い兵力を動員することは可能だ。だが、首都をがら空きにさせるわけにはいかないし、敵は反大公派の者達だけとは限らない。この混乱に乗じて、攻めてくる国が存在してもおかしくはないのだ。
「北のディンヴィアとレザンド、西のカヤへの警戒もしたい。問題は南だな。大国のラスティート……彼の国がどう動きを見せるのか」
 ダグリス王国はクリークス公国と同じく、南方を六大国のひとつであるラスティート王国と隣接している。これと言って敵対はしておらず、此処数十年の間大きな争いは起きていない。だからといって、同盟を結んでいるわけでもない。
 事実、このような関係というのはある意味厄介と言える。全く警戒をしないというわけにはいかず、下手に警戒をして変に兵力を動員させては、それにより相手を刺激し、宣戦布告行為と見られてしまう可能性もあるのだ。もし、ダグリスとラスティートで戦いともなれば、結果は火を見るよりも明らかだ。一方的に蹂躙され、いらぬ血を流すことになるのは、ルード自身が最もよく解っている。
「その点は大丈夫だろう。此処だけの話だが、ラスティートの部将が一人、俺の元に来ている。今は、ノル=クリークスの防衛に当たらせているがな。おっと、あまり公にしないでくれ。味方でもこれを知っている者は限られているんでな」
 名前は伏せたが、秘密裏にラスティートの力を借りているということを告げる。部下でもこの事実を知る者は限られているようだ。
「味方にもあまり知らせていないのは、この小国家群の情勢を考慮してのことか」
「ああ。同盟を結んでいるとはいえ、下手に大国を介入させるといらぬ混乱を招くからな。勿論、同盟云々よりも、魔族関係の調査がメインだがな……」
「まあいい。南のことはお前の言葉を信じるとしようか。とにかく今は、お前のとこの叛逆者の迎撃だな。先程も言ったように兵力は出せないが……」
 そう言いつつも、ルードは辺りを見渡しながら不敵な笑みを浮かべていた。
「新リグル街道……。あの地形ならば、寡兵でも迎撃可能、か」
 ルードの考えを見抜いたかのように、ラインが頷く。
 クリークス公国とダグリス王国は、山岳地帯に築かれた国家だ。故に、周囲の街道は狭い作りになっており、一度に大軍が通れない地形となっている。敵軍の侵攻に備えて、この街道をふさぐように布陣するのがセオリーだろう。勿論、それだけではない。
 二国間を結ぶリグル街道は二つ存在し、ダグリスにて合流するような形となっている。ひとつはクリークス首都から直接西側へと伸び関所へと向かう新リグル街道。もうひとつが、現在はほぼ破棄された状態にある街道で、ラインが通ってきたノル=クリークスとダグリスを結ぶ旧リグル街道だ。
「この旧リグル街道にも部隊を配置したいものだが……」
 敵軍が旧リグル街道より進軍をすることは、ノル=クリークスを落とされたことを意味する。それを防ぐために、幾つかの部隊をノル=クリークスに滞在させているが、最悪の事態も考えておかなければ、有事に思うように動けないだろう。
 首都奪還や革新派の討伐の為、大公派の士気自体は高い。しかし、相手には魔族という得体の知れないバックが存在することも考慮しなければならない。
「珍しく弱気だな。だが、落とされようが落とされまいが、この旧街道は利用したい。実は、一つだけ旧街道と新街道を結ぶ抜け道があるのだ」
「なるほど、そこを利用し、通過する敵の側面を突くというわけか」
「察しが早くて助かる。さて、それでは早速準備に取り掛かるとしようか」

 ラインとルードは情報魔術を駆使しつつ、この場にいる者の他にノル=クリークス、首都ダグリスにいる者達に作戦の概要を伝えた。その結果、部隊は以下のように配置されるようになった。
 ノル=クリークスでは、アルザ・オードという将が街の防衛とノル=クリークス南方に布陣。ラスティートからの魔族調査に赴いたコーネリア・アルトレーヴェは、無名の傭兵としてノル=クリークス北方――クリークスとは中立関係にあたる国々の動向を探ることも兼ね、周囲の魔物の討伐に当たる。ダグリス防衛には、ルード麾下の将ジェイク・エルダーがあたることとなり、魔族の被害に遭った北方と西方の国々に備えることとなった。
 旧リグル街道では、ファズ・フロッティ率いる部隊が防衛の為に布陣、更に抜け道には、呪歌を得意とするルーネ・レシス率いる部隊が伏せられることとなった。主な戦場となる新リグル街道には、ルード・ダグリスとライン・クリークス自らが布陣。国の長である二人が主戦場に立つということで当然反対の声は上がったのだが、この小国家群に於いて国王が前に出ることは、決して珍しいことではないのだ。
 そして、戦いが行われている間に、グスタフ・ヴェークとアロイス・ホルンが少数精鋭の兵を率いて地下より侵入、首都を奪還するという手筈になっている。
 この戦いは、本来ならば歴史書に『ヴォルガー・デールの乱』のうちのひとつ『リグル街道の戦い』とだけ、簡潔に記される程度の小規模なものであろう。だが、事態はラインとルードはおろか、敵方のヴォルガーでさえも予測できない方向へと進みつつあった。
メンテ
Re: セフィール・サーガ ( No.49 )
   
日時: 2016/07/14 00:21
名前: 秋乃麒麟◆DGsIZpFkr2 ID:AS8g3jRw



 首都クリークス――
 白亜の宮殿の最上部の部屋に、ヴォルガー・デールは佇んでいた。
 デール家はクリークスの貴族の中でも特に権謀術数に長けた家系だ。王位に就いたことは無いが、幾つもの弱小国が犇めく中原中北部の小国家群に於いて、周辺諸国との外交でクリークスを上手く台頭させてきたのもデール家の手腕によるものが大きい。
 このヴォルガー・デールという男も例外ではない。如何にも老獪という言葉が相応しい男だ。老齢のために皺が目立つが、その眼光からは自身が抱く欲望を容易く感じ取ることが出来る。だが、その老獪な男からは、苛立ちや焦りと言った感情も溢れ出ていた。
 秘密裏に闇の者と取引をし、ラスティート領を急襲。更にクーデターを起こし、大公を追い出すところまでは思うように進んでいた。国内の不安要素は恐怖政治により何とか抑え込んでいる。しかし、ノルト=フェルゼス砦を奪還された辺りからか、事態は自身にとってあまり都合が良くない方向へと傾き始めていた。
 闇の者の力を借りて攻め落とすことは出来たのだが、ラスティート側に手練の将がいたのか、フェルゼス攻めの際の街道における戦闘は大敗。そこで勢いを失ったため、数日でノルト=フェルゼス砦を奪還されてしまう。その際に、砦を守っていた貴族派の将を失い、更に闇の者達との連絡も途絶えている。アロイスやグスタフといった将も、何処かへと去ってしまった。もし彼らが落ち延びていたとすると、厄介だ。大公派の将で、力も決して弱くない。自分の野望の大きな障害となるのは間違いないからだ。
 部屋の扉が激しい音を立てて開かれた。それと同時に、一人の兵士が慌てた様子で部屋の中に駆けてくる。
「デール様、大公派に動きがあったようです。ノル=クリークス南部には既に部隊が布陣されており、迂闊には攻められぬ様子。こちらは数に勝りますが、周囲の魔物の討伐に梃子摺っており被害は拡大中。首都内でも再び大公派が――」
「騒々しい。少し黙らぬか」
「え?」
 ヴォルガーが手を翳すと同時に、兵士の足元に魔法陣が現れる。そして――
「ぐげっ!? が、あががっ……」
 兵士の身体に向けて、岩石で形成された複数の槍が突き出された。突然の出来事に兵士は反応することすら敵わず、鋭利な岩槍に身体を貫かれてしまう。傷口からは夥しい量の血が流れ、何度かもがくが、それも空しく絶命してしまう。
 兵士が死んだのを確認するとヴォルガーは再び術を詠唱し、兵士の亡骸の上から一つの岩を落とした。肉が潰れるような音と共に兵士の身体は四散し、血と臓物の海がその場に形成された。
「クスクス……、報告を聞かなくて良かったのかなあ」
 凄惨な処刑が行われたその場にはそぐわない、可愛らしい少女の声が響く。
「隠れていないで出てきたらどうだ」
「はいはーい。ちょっと待っててね、おじいちゃん」
 ヴォルガーの呼びかけに応えるかのように、一人の少女が現れる。いや、彼女の場合は幼女と言った表現の方が相応しいかもしれない。
 姿形は、十歳にも満たない幼い子供のものだ。まるで人形のような出で立ちで、突き抜けるような白い肌と、淡い桃色の髪。ルビーを思わせるかのような赤い瞳は、爛々と輝いている。そして、その身を包むのはフリルが施された黒を基調とした――所謂ゴシック・ロリータのドレスで、それが人形らしさをより演出しているのが解る。
「ねえねえ、何で殺しちゃったの? ちゃんと報告は聞かないと」
 ヴォルガーの行いを咎めるわけでもなく、非難するわけでもなく――幼女はただただクスクスと笑っている。そこには一切の濁りは無く、何も知らない純粋な子供の笑顔だ。だが、彼女が人ならざる者であることを、ヴォルガーは知っていた。
「人如きが抗ったところで、闇の力を手に入れた私には敵わないのだよ。最後に笑うのはこの私だからな。貴様も解っているだろう、人間では闇の者には勝てぬことを」
 そう言って、ヴォルガーは懐から妖しい輝きを放つ小さな石を取りだした。
 この幼女ではなく、アンブルという名の魔族から受け取ったものだ。これを身につけてから、衰えつつあった力を取り戻すことが出来た。特に魔術に関してはそれが顕著で、普段は使うことすらままならなかったようなものまで、まるで呼吸をするかのごとく使えるようになった。
 元々は緩やかな凋落の道を進みつつあったデール家の立て直しという目的だった。だが、これさえあれば立て直しどころか、国を奪うことだって可能だ。現に、クリークス公国を乗っ取ることに成功している。その後には躓きがあったが、自分がこの力を見せつければ、再びこちらに流れを取り戻すことが出来る。
「ふーん、おじいちゃんがそれでいいなら、リュナもそれでいいけど。だって、リュナには難しいことは解らないし。リュナはただ遊べればそれで良いもん」
 自身のことを自分の名で呼んでいる辺り、肉体的だけではなく、幼女――リュナは精神的にもまだ成熟していないのだろう。純粋な子供そのものと言ってもいい。
 リュナはつまらなさそうに、ヴォルガーの言葉を聞き流す。ただ面白いか面白くないか、それが彼女の判断材料なのかもしれない。故に――
「西のダグリス攻めは、お前が指揮を執れ。好きなだけ遊べばいい。既に将には話を通してある」
「面倒くさいなあ。でも、遊べるならいいかな。それじゃあ行ってくるね」
 ワザとらしく欠伸をすると、リュナは部屋の外へと出て行った。その様子を見ながら、ヴォルガーは軽く舌打ちをし、安堵のため息を漏らす。
 そう。ヴォルガーは恐れているのだ。魔族自体を恐れているのではない。このリュナという幼女をだ。
 闇の者と関わるようになってから様々な相手を見てきたが、この幼女の場合、純粋であった。それこそ、何も知らない子供そのものの純粋さだ。だから、恐れているのだ。世間から見れば、闇の者と関わる自分は「悪」である故に、善悪の判断と言えば語弊があるかもしれないが、リュナは何が悪いことなのかを解っていない。つまり、何をやらかすかは解らないのだ。いきなり「つまらない」といった理由でこちらに牙を剥いてくる可能性もある。
 彼女の強大な力は利用したいが、少しでも自分から遠ざけておきたい。それがヴォルガーの本音だった。
(恐れているだと、この私が)
 認めざるを得ない自分が腹立たしかった。ヴォルガーは拳を机に叩きつけた。
「厄介払いといったところか。彼女を怒らせる結果にならねば良いがな……」
 低いながらも澄んだ声と共に、一人の青年がヴォルガーの前に現れる。
 一言で言い表せば美青年だ。だが、彼も人ならざる存在であることを、ヴォルガーは知っていた。名前はアンブル・リリト・アィーアツブスといったか。自分に『クリフォトの輝石』という石を与えた者だ。
「貴様は……」
 力を与えてくれた恩はあるが、それだけで後のことはほぼ放任されていた。それ故に、自分が思うように進んでいない苛立ちもあり、ヴォルガーはアンブルに対してあまり良い感情を抱いていなかった。
「今まで何処をほっつき歩いていた」
「お前ほど暇ではないのでな。我々の計画の為に動いていただけだ」
「好き勝手に動きおって……」
 忌々しげにアンブルを見据えると、ヴォルガーは手元に魔力を集中させようとした。だが、
「やめておけ。お前では私には勝てん。如何に『クリフォトの輝石』の力が強かろうが、結局は仮初の力に過ぎぬ」
「ぬぅ……」
 敵わないことなどは初めから解っていた。人と、人ならざる存在の絶対的な差。これを覆すことなどできはしない。
 結局、自分は矮小な人間に過ぎないのか。いや、違う。今は人としての一線を越えている。今はこの者に勝てないだろうが、何れは打ち勝ってみせようではないか。強大な力を目の前にしても、ヴォルガーの野心は尽きることは無かった。
(ふむ。欲望に満ちた心……素質はあるが……使えんな)
 一方、アンブルはヴォルガーの心を見抜いていた。放置しておけば、この男は自分達に牙を剥く存在になり得るだろう。だが、この場で討つ気などは彼には無かった。
「まあいい。貴様はこの街を守っておれ。私はノル=クリークスを攻め、今こそ大公の息の根を止める」
「……承知した。我らの兵を貸そうか?」
「必要ない。貴様らが居ない間、好き勝手に暴れるような駒など、あっても邪魔なだけだ。それに、今の私ならば単騎でも街を滅ぼすことなど造作もないことだ」
「そうか、好きにするがいい」
 好意を無碍にされたことに腹を立てたわけでもなく、アンブルはただ淡々と答える。
「では、私は街の防衛の為の準備を始めるとしようか」
 そう言うと、アンブルは部屋を後にした。しかし、彼には最早この街のことなど眼中に無かった。ヴォルガーの言葉もただ適当に聞いているだけで、身を削ってまでこの地を守ろうとは思ってもいない。勿論、最低限のことはするつもりであるが――
 アンブルが部屋を出ると、一人の青年が廊下の壁に寄り掛かって、彼を出迎えた。
「うーっす。元気そうじゃん、アンブル君」
 年齢は二十代前半と言ったところか。癖のあるライトブラウンの髪を弄りながら、青年はアンブルのもとへと歩み寄ってくる。
 何処となく軽くチャラチャラとした雰囲気の青年だ。アンブルと同じく、整った顔立ちで容姿端麗ではあるが、落ちついた雰囲気のアンブルとは対照的で、悪く言えばだらしがない。纏っている衣服もワザとらしく着崩しており、身体のあちこちにアクセサリーをぶら下げている。
「マテルか。何故こんなところに」
 アンブルは軽い嘆息を漏らしつつ、青年の名を呼んだ。
「なんか暇だから遊びに来た」
「……マルクト攻めはどうした?」
「んー、いつでも出来るしまだやってない。それよりもシュトルムラントに面白いことがいっぱいあるからさ、暫くはそこで遊ぼうかなと」
「呆れたものだ。いや、それでこそ我が友か……」
 マテルの予想通りの答えに安堵するアンブル。
「最低限の仕事はやってるから大丈夫だよ、うん。多分」
 マテル・ナム・キムラヌート。これが、この青年の名前である。そして――、アンブルと同じく、闇に属する者の中でも特に上位に位置する魔族である。ドルイドの力が弱まり、魔族が暗躍し始めてから、アンブルとは別に行動していたようだ。
 ドルイドの柱のひとつ、マルクトの攻略に赴いていた筈なのだが――、どうやら仕事をほったらかして、遊び歩いていたらしい。一応、本人曰く、六大国のシュトルムラント王国にて色々と情報を集めたり、同国内での動乱を煽動したりといったことはしているようだ。
「いやあ、何も危険を冒して柱を壊さずとも、世界の方を掻き乱して混沌とさせちまった方がいいんじゃないかなーって。そっちの方が時間がかかるけど、楽しめるし」
「お前が思っている程、時間の猶予は無いんだがな……まあ、いい」
 アンブルは適当な様子のマテルを咎めつつも、彼の性質を理解していた。
「で、何か手伝ってほしいことはあるかい?」
「そうだな、あのヴォルガー・デールという男の元で動いてくれ」
「えー、あの弱そうなおっさんと? もう切り捨てる気満々なのに?」
 マテルは不満そうな表情を見せた。先程から部屋の外で二人の会話を盗み聞きしていたのだが、既にアンブルはこの街のことなど眼中にないのは、マテルにも理解できた。アンブルの配下であるリュナが、ダグリス方面へと向かう事実も把握しているが、こちらも単なる余興程度にしか考えていないであろう。
「お前が引導を渡しても構わん。それよりも少し、気になることがあってな……敵方に気になる存在がいる。どんな相手なのかを見てきてもらいたい」
「気になる存在ねえ……」
「恐らくは、因子を持つ存在だ」
 アンブルは神の御使いのもとにいた二刀を扱う青年やエルフの魔術師、イヴルアイのドルイドを思い出していた。直接対峙したのはエルフの娘だけであるが、彼女は間違いなくアンブルが懸念する存在であることは確認できた。
 あの者達と同じく、魔族の脅威となり得る力を秘めた者の気配が感じられた。定かではないのだが、もしその者がいるとすれば、自分達の計画に支障を来す恐れが考えられる。
「おいおい、それって……」
 軽かった様子のマテルも、アンブルの言葉を聞いて真剣な表情を見せる。
「ああ。思った以上に深刻というわけだ」
「解ったよ。で、どうすりゃいいの? 会ったら即ブチ殺す?」
「それも構わんが、こちら側に引き込めれば心強い」
「難しいこと言ってくれちゃって……。まあ、存在するかどうかってのも曖昧なんでしょ? 適当にやってくるよ」
「すまないな」
「何を今更。それじゃ、行ってくる」



「リリス様、必ずこの偽りの神々の世界から解放してみせます……。その暁には……」
 誰もいなくなった廊下で、アンブルは憂いを帯びた表情で呟いた。
メンテ
Re: セフィール・サーガ ( No.50 )
   
日時: 2016/07/19 22:37
名前: 秋乃麒麟◆DGsIZpFkr2 ID:Lt6hFkcg

第22話 闇との戦いへの誘い

 ノル=クリークス南方の山道では、戦いが始まろうとしていた。前方から土煙を上げ、街道を駆けてくる敵影。予想より敵の動きは早かったものの、情報魔術により事前に作戦の概要を聞いていたため、到達よりも早く陣容を整えることが出来たのだ。
 ノル=クリークス防衛軍は、大公派の貴族であるアルザ・オード率いる部隊が六百。対する革新派は、先鋒としてドラン・ガスコインという、デール家と懇意にしている貴族が率いる部隊が八百。共に後詰めはいるが、数に於いてやや大公派が劣っているという状況だ。
「西方では陛下とダグリス卿が布陣なさっている。そして、此処での交戦をしている間に、秘密裏にグスタフ殿とアロイス殿が首都奪還へと向かう。更には、同盟国ラスティートのコーネリア殿が、ノル=クリークス内と周囲の治安維持。此処を抜かれるわけにはいかないか」
 考えれば考えるほど、自身に与えられた役目は重大であり、重圧に押しつぶされそうになる。
 一部将に過ぎない自分に、果たして務まるのだろうか。いや、愚問である。アルザはそう言い聞かせると、サーベルを抜刀して、それを天に掲げた。
「私には陛下が言われたような英雄としての素質は無い。だが、クリークスを想う気持ちはある。今こそ、闇に魂を売った不義の輩デール卿を討たねばならん。皆、力を貸してくれ!」
 月並みだが、部下を鼓舞するために鬨を上げる。すると、彼に感化されたのか、配下の兵士達もそれに倣って各々の武器を掲げた。
 それから程なくして、戦いは始まった。先ずは、お互いの魔術師兵と弓兵部隊による遠隔攻撃による応酬が幾度かあった後に、前衛の白兵戦を得意とする者達同士が、山道の中央でぶつかる。此処まではほぼセオリー通りの戦運びである。
 戦況は数に劣るとはいえ、アルザ率いる部隊がやや優勢と言ったところか。潰走することが許されない戦いであるために士気が高まっているというのもあるが、攻めよせる敵の様子を見ると、どうも不可解なことがあった。
「妙だな。思ったより敵の士気が低い。こちらは寡兵故に助かるが……」
 敵の攻めの様子を見て、アルザは呟いた。激戦になることは想像していたのだが、思ったより敵の攻撃が大人しい。こちらの様子を窺っているというわけでもないようで、軍の精度が低いというわけでもない。
 計略の気配はないようだが、戦いが始まってからも何人かを斥候に向かわせている。その帰還を待ってから動くのが得策だろう。アルザは一先ず戦線を維持すべく後方から中衛へと移動し、前線の部隊に対して支援魔術によるサポートを行った。
「こうして支援することしか出来ぬが……」
 まだ被害は少ないが、いつまで続くかは解らない。戦況を見ながら、戦線が引き下がらぬように、適宜予備兵力を前線へと送っていく。着弾する魔術に対しては、防御系の力場を展開することで被害を最小限に抑える。
 だが、アルザはあることに気付き始める。味方の兵に動揺が見られ始めたのだ。士気が高かったにも関わらず、前衛の兵士達が押され始めている。しかし、敵方の兵士の様子もおかしく、逆転し始めた流れに乗じようともしていない。
「一体何が……」
 怪訝に思っていると、斥候が息を切らしてアルザのもとへと駆け寄ってきた。
「報告します! 敵に、闇の者の存在を確認! こちらに向かって来ているようです」
「マズイな。数は?」
 此処に来て戦局を覆されるのは厳しい。此処最近の戦いで魔族とは刃を交えているとはいえ、まだ慣れていない者が多い。故に、一度恐慌状態が伝染してしまうと、そこから立て直していくのは至難の業となる。
「それが、単騎――」
 言いかけたところで、斥候の身体が盾真っ二つに両断された。夥しい量の血液と脳漿がぶちまけられ、それがアルザへと降りかかる。
「うーっす。敵の総大将さんかな、こんにちは」
 惨劇と共に現れたのは、一人の青年だった。容姿端麗だが、戦場にはあまりに似つかわしくない、大量のアクセサリーを身につけ、普段着と言っても良いような服装をしている。しかし、武装はされているようで、右手にはやや小ぶりな大剣――クレイモアが握られている。本来は両手で扱う剣であるが、此処まで斬りこんでくるのに片手で振り回してきたようだ。何故なら、青年のもう片方の手には、何かが握られているからだ
「くっ、ガスコイン卿の元にこれ程の者がいたとは」
 鎧の類も身につけず、大剣を片手で振り回す膂力に驚嘆しながらアルザは青年を見据える。
 闇の者というのは、此処まで規格外なのだろうか――
「えっと、がすこいん? あー、もしかしてこのおっさんのことか」
 青年はそう言うと、左手に持っていた何かを投げてきた。その何かが、人間の頭であることに気付くのに時間は要さなかった。
 アルザはそれに見覚えがあった。その頭こそ、対峙していた筈のドラン・ガスコインのものであったためだ。それならば、敵の様子がおかしかったのも納得できる。
「莫迦な……」
「いや、ちょっと口論になっちゃってさ。つい手を出したら、首にクリーンヒットしちゃったって言うか……。流石に味方殺しちゃうのはマズかったね」
 青年は気まずそうにぼりぼりと頭を掻いたのち、クレイモアを両手で握り直す。
 アルザは何の感情も沸いてこなかった。いや、違う。状況が整理できないのだ。何故、このような事態になっているのか。怒りもなければ悲しみもない。勿論、敵方で仲間割れをしたことに対する喜びもない。
「っつーわけで、何か手柄取らないと気まずいんで、総大将っぽいそこの人。死んで」
 軽い調子を崩さずに、そのまま青年はクレイモアを構えてアルザへと斬りかかった。
「なっ!?」
 アルザはすぐさまサーベルで、青年が振り下ろしてきたクレイモアを受け流す。だが、重量の大きな大剣の一撃を受けるには心許なく、アルザのサーベルは宙を舞って地面に突き刺さった。防御系の術を続けて唱え、周囲に防壁を展開するが――
「その程度じゃ防げないぜ!」
 ガラスの割れるような音と共に、魔術により形成した防壁が粉砕される。クレイモアの刃はそのままアルザを捉えようとしていた。だが――
「らあああああああああああっ――!」
 喊声と共に、アルザの眼の前に一つの影が現れ、彼に襲いかかろうとしていた青年の斬撃を受け止める。ガキン、と鈍い金属音が鳴り響き、青年は思わずその場から飛び退いた。
 アルザの前に割り込んできたのは、緑髪の女性だった。手には波打った刀身が特徴のフランベルジェが握られている。コーネリア・アルトレーヴェ。ラスティート王国に属し、今回クリークスに協力していた部将である。
 本来ならば表に出ずにいるところであったが、戦況を見る限りはそうも言っていられないだろう。此処を崩されると、ダグリス方面にも影響が出る。
「アルトレーヴェ殿!? 何故此処に」
「私も斥候を向かわせておりました。部下に、情報魔術に長けた者が一人おるので」
 背を向けたままでは礼に欠くと思いながらも、相手の動きにも対応せねばならないため、コーネリアは自分が此処に来た経緯をアルザへと簡潔に伝える。
 この混乱に乗じたのか、魔物達がノル=クリークス周囲にも現れ始めたのだ。コーネリアは初めはそれの駆逐にあたっていたが、斥候であるジェシーの情報を聞いて、此処まで来たのだ。
「街の方は、テッドとジョンという者に指揮を取らせています。魔物の駆逐は滞りなく進んでおります。それより、この状況――くぅっ!?」
 話している暇などは与えられる筈も無かった。報告の途中で、青年が再び斬りかかってきたのだ。此処は既に戦場であって、呑気に喋っていては命を落とすことになるのは、必然と言えよう。だが、それでもコーネリアは青年の斬撃を受け止め、あるいは受け流しつつ、後方のアルザへと話を続けた。
「オード殿、此処は私が引き受けます。貴方は、乱れた部隊の立て直しを!」
「しかし――いや、承知した。……御武運を!」
 これ以上話していては、コーネリアの邪魔になる。色々と思うことはあったが、自分ではこの青年には勝てないだろう。アルザはそう判断すると、後衛へと下がっていった。
「おっと、お話は終わったかい?」
 青年は飄々とした調子を崩さずにコーネリアに問いかける。
「……あんた、今まで本気出してないわね。私を無視して、他の者に斬りかかるは出来た筈よ」
「まあ、出来たことは出来たけど、なんつーかマナー違反じゃん」
「話の途中で私に斬りかかっといてよく言えるわね」
 半ば呆れた様子を見せつつも、コーネリアは一切の緊張を解いていない。
「いや、ねえ。これから面白そうなことが始まるのに、邪魔者がいちゃあ困るでしょ。退散して貰ってこちらもやりやすいってね……あ、ちょっと待って」
 この機に追撃をしようとしていた敵兵たちに向けて、青年は手を掲げた。すると、その敵兵たちの上から幾筋もの電撃が迸り、彼らの身体を一瞬にして消し炭にした。
「あんた……味方を……」
「あー、怖い顔しないでよ。君可愛いんだしさ」
 この軽い調子が癇に障る男だ。だが、相手のペースに乗せられまいとコーネリアは剣を構えた。
 コーネリアはすぐにフランベルジェを振り翳し、青年との距離を詰めていく。相手もそれに対応するかのように、クレイモアで彼女の攻撃を受ける。激しい打ち合いが始まり、その度に金属音が何度も鳴り響く。
「はぁっ!」
 力が拮抗した状態から、コーネリアは至近距離で火炎の魔術を発動させた。自らの身体の周りに、炎を発生させる支援魔術《ブレイズスパイク》だ。青年は炎の熱に怯んだのか力を弱め、すぐにその場から飛び退いた。
「あちっ、あっちぃ! ちょっと酷いじゃん! 顔火傷したらどうすんのさ」
 青年の言葉を無視し、続けてコーネリアは牽制の為に初級攻性魔術《ファイアボール》を詠唱、発動させ、小さな火の球を次々と放っていく。しかし、青年は軽い身のこなしで火の球を回避し、コーネリアとの距離を詰め、クレイモアで斬りかかった。コーネリアはすぐさまフランベルジェでそれを受けるが、僅かに反応が遅れてバランスを崩す。
「ちぃっ――」
 チャンスと言わんばかりに青年が連撃を加えてくるが、コーネリアはワザと地面を転がるようにして攻撃を回避し、攻撃範囲外に逃れたところで立ちあがる。青年は彼女の回避方法は流石に予測できなかったのか、追撃することは出来なかった。
 只者ではない。コーネリアは青年の剣捌きを見てそう思った。華奢ながらも膂力があり、斬撃も両手剣とは思えぬほど速い。しかし、速いだけではなく、両手剣の特徴である一撃の重さも失われておらず、少しでも力の入れどころを間違えれば、そのまま押し切られてしまう。それ程、青年の技術が優れているのだ。
 正攻法で勝つのは厳しいか。だからといって、搦め手が通用するような相手には思えない。
(見た感じ、相手は全力を出していない。けど、こっちは全力で戦ってこのザマか……)
 弱みを見せたら、殺られる。焦りを覚えつつもそれを表情には出さないように努め、コーネリアは青年を見据えながら、相手の出方を窺った。
「えー、あー、何か怖い顔してるけど、別に君を殺そうとは思ってないんだしさ」
「どういうつもり?」
「こっちも色々事情があるワケさ。君からは何やら不思議なモノを感じてね……うおっと!?」
 話の途中を突いて、コーネリアは青年へと斬りかかる。しかし、相手もそれを予想していたかのように対応する。
「いいねえ、そういうところ。俺は大好きだよ。でも、今回はお預けってところか」
「なっ……」
 青年は残念そうな表情で、クレイモアを納める。
 この隙に斬りかかることも出来たかもしれない。だが、コーネリアは青年が魔術を味方に向けて発動させたのを忘れていなかった。今の戦いでも、明らかに手を抜いていたのが解る。此処で斬りかかったところで、雷撃の魔術で返り討ちにされるのがオチだ。
「事態は色々と大変なことになっているみたいでね、ほら、アレ」
 青年はクリークスの首都の方角を指差した。そこには、道中自分が斬り殺してきた兵士達の死体の山が築かれていたが――問題はその先にある、「異形」だった。
「まったく、あのオッサン自分の力量も解んねえのかなあ……」
 ライトブラウンの髪を弄りながら、青年は面倒くさそうに呟く。自分には関係ない。自分は悪くない。そのような思いが伝わってくる。
「どういうこと」
「よし、それではこっちの世界に関わる宿命にある君に教えてあげよう。アレはね、この国で俺達に唆されて反乱を起こしたヴォルガー・デール……だっけ、それのなれの果てさ」
「だからどういうことなの?」
 思考が追いつかない。
 ヴォルガー・デールが反乱を起こしたことや、その背後に魔族が存在していたことは解る。だが、その「異形」が明らかにおかしいモノなのだ。周囲の人影よりも、一際巨大な何か。察するに、十メートルは越えているだろうか。遠めの為に詳しい形までは解らないが――
 それが、土煙を立てながらこちらにやってくるのが解る。それに巻き込まれているのか、敵方の兵士達が次々と跳ね飛ばされていく様も見える。そして、それを捨て置いた歳の結末も。
「『クリフォトの輝石』っていうモノがあってね。それを身につけた奴は、普段のウン十倍の力を引き出せるんだ。あのヴォルガーっていうおっさんはそれを身につけているみたいだね」
「まるで他人事ね」
「うん。だって、俺が渡したわけじゃないし。渡したのはアンブル君だし……って、うわ!?」
 態度が気に食わない。それだけでも、コーネリアに再び抜刀させるだけでも充分だった。だが、彼女のフランベルジュが青年の身体を捉えることは無かった。そして、青年からの反撃もない。彼の姿と気配は、その場から忽然と消えていた。
(逃したか……)
 コーネリアは深い嘆息を漏らした。無念と思いつつも、半分は安堵のものだ。
 もし、青年と戦い続けることになっていたら、今の自分では確実に殺されていただろう。徐に自分の掌を見ると、震えているのが解る。それが恐怖からであるのは、情けないと思いつつも自分自身で痛感している。
 青年は言っていた。自分が闇の者と関わる運命にあると。それと同時に、コーネリアはラインが言っていた言葉を思い出す。自分には英雄としての資質があると。
(冗談じゃないわよ。何で私なんかに……)
 ふざけるのも大概にしてほしい。戦いに身を置いているとはいえ、何故そのような世界に関わることまで背負わされなければならないのか。
「それはともかく、ウジウジ悩んでいられる状況じゃないわね」
 気がつくと、「何か」が姿を確認出来るような距離まで迫っていた。
 それは異形としか例えようのないものだった。辛うじて人の姿をしているが、それの十倍を超える大きさを誇っており、人間では有り得ない数の無数の腕が伸びているのが解る。その腕には、数人の兵士達の身体が握られており、彼らはその中でじたばたと抵抗している。だが、化け物である「何か」には空しい抵抗でしか無い。
 短い絶叫と共に、兵士の身体が文字通り握り潰される。赤黒い液体が異形の手から滴り落ち、ただの肉塊となったモノが気色の悪い水音と共に地面に叩きつけられた。あまりのおぞましい光景。コーネリアは込み上げてきたモノを飲み込み、「何か」を睨む。
「このまま逃げるべきか……いや」
 捨て置けばより被害が広がるだろう。命は惜しいが、このままでは民間人にまで被害が及ぶ可能性がある。
(あの時からこっちの世界に足を突っ込んでいるようなものね)
 何処か自嘲的な笑みを浮かべ、フェルゼスでの戦いのことを思い出すコーネリア。既にあの時から、闇の者との戦いは始まっていたのかもしれない。この場は逃げ出すのが一番の得策だろう。だが、少しでも闇の者を斃し、その正体に近づくことで貢献したいという想いの方が強かった。
(レオン……。もしかしたら、貴方もこのような運命にあるのかもしれないわね)
 元々、途中で何かを投げ出すのは嫌いだった。こうしている間にも、自分が想う人は今何処かで戦っているのだ。この場で逃げ出すことが出来ようか。何処までやれるか解らない。だが、想い人のことを考えるだけで、不思議と恐怖心が和らぐ。
 上等だ。やってやろうじゃないか。
(さて、やれるとこまでやらないと)
 コーネリアは一度深呼吸をして自身を落ちつけると、異形へと向けて進んで行った。
メンテ

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