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[4960] METAL HEARTS
   
日時: 2016/08/18 23:14
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:tNgRJUfs

<NEWS>
☆な、何故人気のとこにあがってるんだ!?
 社畜になり小説かく暇も無くてほったらかしにしてしまっていた……
 しかし、ほんとうは書きたいんです。いや、仕事も1年経過し、ようやく安定してきたので、必死で時間作って着手したいっ・・・!!



<CONTENTS>

---序章---
第一話 【彼の名は……】   >>1-10
第二話 【埋没】         >>11-22

---第一章 リリィ編 --- この章をまとめて読む → >>23-80 ※重いので注意
第一話 【エルレナ】      >>23-30
第二話 【ロストメモリー】   >>31-37
第三話 【工作員の日誌】   >>38-49
第四話 【セカンドオピニオン】  >>50-55   
第五話 【答え探し01】     >>56-61
第六話 【答え探し02】     >>62-69
第七話 【答え合わせ】     >>70-80
---Memory of Iris---
【育児ロボットのココロ】    >>81-86

---第二章 ---
プロローグ 【ある兵士の解放】 >>89-90
第一話 【崖上の遭遇】     >>91-98
第二話 【ロサ】         >>99-103
第三話 【与えられた仕事】   >>104-110
第四話 【ジュリカの告発@】   >>111-116
第五話 【コミュニケート・クロス】>>117-123
第六話 【ジュリカの告発A】   >>124-129
第七話 【悩みの休息タイム】   >>130-134
第八話 【疑惑のカルテ:治療編】 >>136-141
第九話 【疑惑のカルテ:診断編】 >>142-145
第十話 【疑惑のカルテ:考察編】 >>146-153
第十一話【1/2アイコンタクト】 >>154-158
第十二話【不必要な者たち】    >>159-163
第十三話【ヒーリング】 >>164-169
---Memory of Jurika---
【哀しみの蒼い瞳】    >>170-171
第十四話【人形、糸を切る】 >>172-175
第十五話【Under The Weather】 >>176-179
第十六話【澱んだ心の底で】  >>180-184
第十七話【傷だらけの抱擁@】 >>185-190
第十八話【傷だらけの抱擁A】 >>191-198

●以前こちらで投稿させていただいた『EAL』忙しさから小説は凍結し、過去ログになってしまいましたが、タイトルと内容を大幅リメイクして再び投稿させていただきます。
●作者はまだ未熟です。評価板への依頼でなくとも、評価・アドバイス・感想などある方はいつでも歓迎いたします。というかお願いいたします。気になるところなどはどんどん教えてください
●特に誤字・脱字の連絡は発見次第連絡していただけると助かります。
●更新は不定期です。ご了承ください
●話の内容が変わらない程度に手直しをすることがあります。ご了承ください。


METAL HEARTSに関する独り言やウラデータを綴ったブログ。…METAL HEARTS以外のことは書かれていませんが、METAL HEARTSの裏設定・裏事情が知りたかったり、執筆者の独り言を読みたいという方はよろしければどうぞ。
[!]更新最新話までのネタバレが含まれます
[!]また、そういったウラ話に興味がない、筆者の考察等を交えずまっさらなものを読みたいという場合は読まないほうがいいです
[!]読んで面白いかどうかは……保証いたしかねます
http://mhmaker.blog.fc2.com/
メンテ

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第二章 第十八話 傷だらけの抱擁A ( No.194 )
   
日時: 2014/01/17 23:27
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:3ek84KTE

 ジュリカは思わず、エアルの肩を掴んでしまった。それから、彼の肩をゆするくらいに必死に
「ご、ごめん、なんでもない! ちょっとイライラして、ヤケになっちゃって。ほんとに、悪かった。あんまり気にしないで」
 早口で言葉を並べ、ただひたすら、エアルに謝る。

 本当に悪いことをしたと、ジュリカも思っていた。
 その思いが伝わったのか、しばらく辛そうにしていたエアルも、やがて少しため息をついて、ジュリカに疲れた笑みを返す。
「うん、うん。わかった。もういいよ、そんなに謝らなくても。ジュリカの気持ち、分からないわけじゃない」
 エアルが、ジュリカの肩をぽんと叩き返す。すこししんどそうに腕を持ち上げた時に服の長そでがめくれ、腕にまかれた防水テープと包帯が露出する。
 ジュリカは目の端でそれを捉え、それから、ますます申し訳なくなって、すっかり俯いた。
「……ほんとにごめん」
「もう、いいってば。気にしなくて良いよ、お互いに」
 エアルはジュリカに笑いかけて、彼女に何度も、励ます言葉をかけた。


 エアルは空気を悪くするまいとかばってくれたが、それでも、あまりよくない沈黙が生まれてしまった。
 ジュリカ自身、このまま話題を切り替えようかとも思ったが、実のところ、先ほどの話が彼女の頭から離れたわけでもなく、胸の苦しさは収まっていないようだった。


 ジュリカはいつしか、ふさぎこんで考えた。

 エアルがあの質問に、迷うことなく答えてくれればどんなによかっただろう。
 自分とリリィ、どちらを大切にしてくれるのか、という質問だ。
 もし仮に、自分だと答えてくれたなら、きっとそれは嘘だ。しかし、嘘でも、自分を気遣ってそんなことを言ってくれるだけで嬉しかった。
 逆に、即座にリリィだと言ってくれたなら。それはそれで、悲しいけれど、吹っ切れる。
 しかし、エアルは答えてくれなかった。彼自身がその質問を嫌がるのはもちろん。それに、彼にはきっと、本当に決めることが出来ないのだ。
 心の奥底では、決まっているくせに。

 ジュリカはただひたすらに苦しくて、辛かった。
 本音を言えば、もう、エアルに当り散らしたくなってしまう気持ちも、彼女の中にはあった。だが、もちろんそんなことは、しようと思っていない。彼女も、優しいエアルを傷つけたくはないからだ。
 しかし、黙っているのも耐えられない。エアルには、この気持ちを正直に聞かせたい。もう、自分の中では抑えられない。
 
 ジュリカはそう思って、もう一度、重い口を開いた。
「エアル、聞いて」
「ん?」
 ジュリカは下を向いていたが、エアルの返事が明るかったことを確かに耳にした。
 本当は、この明るさをまた失わせるようなことは、ジュリカもしたくない。
 だが、そうせずにはいられなかった。そうしなければ、なんだか、もう自分が保てなくなるような気がしたのだ。
「エアル、あんたが優しいのは、よく分かる。嫌って言うほどね……でも、だから辛いの」
「…………」
 ジュリカが顔をあげると、エアルは相変わらず、ちゃんと正面にいる。
 悲しんではいないようだったが、先ほどのように明るい様子でもない。エアルは真顔だった。真剣な表情で、ジュリカの言葉を聞いている。

 ジュリカは、エアルの顔を見て、悲しくて、涙が出そうになってしまった。
 しかし、彼女には彼女なりのプライドもある。涙をぐっと堪えて、それでも気持ちはほとんど崩れるようにして、エアルを見つめ返す。
 もう、エアルに強がったり、体裁を気にしたりする様子はほとんどなかった。
 威張ったり、意地悪なことを言ったりしない。心の弱い部分も、隠そうとはしていなかった。

「エアル……聞いてほしい話があるの」
メンテ
第二章 第十八話 傷だらけの抱擁A ( No.195 )
   
日時: 2014/09/30 11:44
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:XYhXvUgw

「エアル、私……辛い」
 ジュリカはぼそりと呟いた。確かにエアルに聞こえる声量だが、顔をあげてはっきりとは言わず、俯き加減で消え入るような声だ。
 そのしゃべり方も、本当はこの声がエアルに聞こえることなく、聞き流してくれたほうがいいくらいといった口調だった。
 エアルはもちろん、その声をしっかり聞き届けて頷いた。ジュリカはその様子を見て、また悲しそうな顔をし
「分かってる?」
 と念を押す。エアルはもう一度、大きく頷いて見せた。
 分かっているかと聞かれたが、エアルはその内容を言われもせずに把握していたわけではない。だがエアルも、ジュリカが何か思い悩んでいることだけは、その様子から感じ取っていた。
 そのような意味でのエアルの頷き立ったが、しかし、ジュリカはエアルの様子を見て、首を振る。
「あのさ、恥ずかしい話かもしれないけど。私、人に優しくされるのに慣れてないのよね。私に優しかった人は、みんな死んじゃったし……」
「あ……ジュリカ、それは……」
 エアルは思わず言葉をかけそうになり、それから不意に不思議に思ってぴたりと言葉を止めた。
 確かにエアルは、ジュリカの家族が死んだという話を聞いた。しかし、それはジュリカが物心つく前と言っていたのを覚えている。
 そうすると、優しかった、という表現に違和感があった。まるで、ほかに事情があるようだ。他にもいた、だれか優しかった人を失ってしまったという具合だ。

 エアルは過去に、親のない子たちの様子を見たことがあった。イリスが育てていた子供たちだ。
 確かに彼らはイリスたちと同様に苦労をしていたようだったが、それでもまだ、明るく元気に生きていた。なぜなら、自分を育ててくれる孤児院の育て親がいたからだ。
 もし、そんな境遇の子供が、親以外の誰かの愛さえなく生きていたらどうだろう。
 ただでさえ親なき子として生きてきた辛さもあるだろうに、自分に優しい人はおらず、わずかにいたとしても死別をしてしまったとしたら……

 ジュリカには、そういった過去もある。
 エアルはそれを、ジュリカの言葉から感じ取った。
 とてつもなく辛く、重いことだ。そしてジュリカ自身がその口からそれを言うということは、エアルに、そのことを分かってほしいということ。
 分かっているという風に答えたのは少し僭越だったかもしれない。エアルはそう思いながら、しかし、ジュリカにかける言葉が見つからず、それが次の言葉にはつながらなかった。


 ジュリカはその言葉を最後に口を閉じていたが、やがて顔をあげた。
 その様子は、絶望に沈んでいるというほどではなく、むしろ爽やかだった。
「ねぇ、エアル。私の部屋に来てくれる?」
 ジュリカの様子と、急な提案にエアルも顔をあげて驚いた。
「ジュリカ、ど、どうして? さっきは見るなってあんなに言ってたのに」
 ジュリカはくすくすと笑って
「それは、勝手に入られたら怒るわよ。でも、見せて困るものがあるわけでもないの。ほら、来てよ」
 エアルより先に立ち上がると、そのままエアルの手を引っ張って立ち上がらせる。
 エアルはまだ、彼女の意図を察することができず、そのまま彼女についていくしかなかった。
メンテ
第二章 第十八話 傷だらけの抱擁A ( No.196 )
   
日時: 2014/09/30 11:45
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:XYhXvUgw

 広い屋敷の階段を上がり、そのすぐそばの部屋がジュリカの部屋のようだった。
 鍵はついていない。ジュリカはすぐに自分の部屋の戸を引いて、エアルを招き入れた。
「ここに人をいれるなんて滅多にないのよ。……まぁ、家に来る人自体がいないんだけど。さ、入って」
 ジュリカに招かれて、エアルは部屋の真ん中まで入ってきて内装を見まわした。
 他の部屋に比べると、確かに生活感があって物が多い。とはいえ、年頃の女の子の部屋にしては妙にすっきりしていて、それらはきれいに整頓されていた。
「私、余計なものは置かないようにしてるから。このご時世に、贅沢もできないしね」
 ジュリカが若干皮肉っぽく言葉で付け加えたが、エアルはとにかく部屋の中をきょろきょろと見まわしている。
「エアル、もう、あんまりジロジロ見ないでよ」
「えっ? あぁ、ごめん」
 エアルは前に向き直った。その片方の瞳は相変わらずジュリカを気遣うように優しいが、今ではそれに、さらに好奇心が加わって明るさが増しているようだった。
 ジュリカはその様子を見て、また少し微笑んで
「エアルみたいな人は……まぁ、人じゃないけど……アンタみたいな相手と話したこと、今までなかった」
「ん?」
 ジュリカはエアルの瞳をじっと見つめて、それから、思わずため息をついた。
「エアル、あんたのこと、不思議でしょうがない」
「不思議って、何が?」
「ほら、昨日、エアルが見せてくれたじゃない。自分がロボットだっていうこと」
 ハッチの中を見せた時だ。
「アンタがロボットだっていうことは、確かにこの目で、間違いなく確認できた。でも……でもさ、あんたがロボットだって、どうしても感じられないのよ。こんなにずっと話を続けていてもね。今だってまだ、ちょっと疑ってる」
 エアルにも、ジュリカの言っていることは理解できた。
 ロボットだと信じられないというよりも、ロボットだと分かっているが、どうしてもロボットに見えない、ということで錯覚をしているようだった。
 ジュリカが不意に、エアルの手を取った。エアルの掌は少し大きく、指が細くしなやかだ。その感触は、人間の手となんら変わらない。
「この体で銃弾を受け止められるなんて、ちょっと信じられない」
 エアルはジュリカにとられた自分の手を見つめる。
「それは、確かによく言われるよ。確かに身体の表面は人間と違いないから普通に傷が付く。でも身体の中の合金は弾丸でも平気なんだ。皮膚部だけなら修復も簡単だしね。だから触れてこんな感触でも、人間よりはずっと強い」
「あっ、ほんと」
 エアルの説明もおかまいなしに、ジュリカが急に手を伸ばし、エアルの胸部に触れた。
 見た目の胸板は薄く、お世辞にも頼りがいのある体とはいえない見た目だが、胸部は明らかに他とは違って、かなり硬い。それこそ鉄板が仕込まれているかのようだ。重要な生体機関が収納されている胸やハッチがある腹部は表面からでもわかるほどの頑丈さでできている。
「あぁ、でも脇腹のほうは柔らかいんだ」
「ちょ、ちょっとジュリカやめてよ、くすぐったい!」
 ジュリカの手が触れて、エアルが身をよじってジュリカから離れてしまう。
 ジュリカは急な反応に驚いたが、また見えたロボットらしからぬ反応に、興味を示したようで
「くすぐったさも感じるんだ?」
「ま、まぁね。感覚は人間と同じように再現してあるんだ。さっき平気だっていった身体の表面部だって、痛みは感じるようにできてる。兵役中はもっと痛みに耐性があったんだけど、今は民間ロボット並みなんだ。まぁ、チタン合金製なのは変わりないから、丈夫さだけは今のままだけど」
「へぇ、面白いこと知った」
 エアルの説明ににやにやしたかと思うと、隙をついて
「くすぐったさに耐性はないの?」
 急にエアルの体に手を伸ばし、エアルの脇腹をくすぐった。
「わっ、ジュ、ジュリカ、ちょっと!」
「あ、だめなんだ、ははっ」
 エアルがくすぐったがるのを面白がって、嫌がるのも無視して、強引にくすぐりつづける。
「あ、やめて! ほんとにやめて! あっ、あんまり声出すと! リリィが起きちゃうから!」
 別の部屋で寝ているリリィを起こしてしまわないように、しかし叫び声を挙げそうになりながら、ジュリカから逃れようとする。それでもジュリカは面白がって、少しの間、くすぐったがるエアルの反応を楽しんだ。

 少しの間エアルで遊んだジュリカは、妙に満足げに、エアルの傍に腰掛けた。
「ふふふ、ほんと飽きないわね」
「もう、ひどいなぁ……」
 あんまりくすぐられて、少しへそを曲げたエアルだったが、ジュリカがにこにこしているのを見て、内心は安心して、ジュリカと並んで座る。
 ジュリカはエアルの様子を見て笑っていたが、少し宙を見て、ぼんやりと呟いた。
「心は?」
「ん?」
 エアルが振り向くと、ジュリカはぼうっと考え込むようにして
「痛みよ。体に痛みとかくすぐったさを感じるのは分かったけど。心の痛みとか、そういうのはどうなの?」
「えっ……そ、そうだなぁ」
 ジュリカに不意にそんなことを言われて、エアルはうーんと唸って考えた。
「痛み……心の。僕には分からない。けど、僕だって、やっぱり傷つくときは傷つくよ」
「どんな時?」
「え?」
「どんな時に傷つくの?」
 ジュリカが真面目な視線でエアルを見つめる。
 エアルはその様子を見つめ返してじっと考えてから 
「えぇ? そうだなぁ。君に冷たくされたときとか」
 直後に後頭部に走る痛み。いくら軽くとはいえ、間髪入れずに引っ叩くのは卑怯だ。
「いっ……ひ、ひどいなぁ、ジュリカ。今の僕の話聞いたでしょう。僕にだって痛覚が……」
 急な攻撃に驚いたものの、また、楽しそうに笑うジュリカ。
 エアルもつい、微笑んで返した。
「ごめん、エアル。ただ、さ。こうやって話してるのだって、不思議なのよ。まるで、ロボットと話しているなんて嘘みたいで」
 ついエアルのことを面白がってしまう。そんなことは、今までのジュリカではありえなかったことだ。ロボットと接して笑う、などということは。
「……私、アンタのことが不思議でしょうがなかった。ロボットのようで、ロボットじゃないみたいで。そんなやつ、今までいなくて」
 エアルはそう言われて、もちろん悪い気はしなかった。

 それは単に、ジュリカがロボットに対して良いイメージを持ち始めている、ということだとエアルは思っていた。
 だが、ジュリカにとっては、そう単純なことではなかったのだ。
メンテ
第二章 第十八話 傷だらけの抱擁A ( No.197 )
   
日時: 2014/09/30 11:45
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:XYhXvUgw

「私は今まで、ロボットに感情とか心なんてない、あったとしても人間の真似をしてるだけだとしか思ってなかった」
 ジュリカがエアルに向かって、真正面にそんな言葉を投げかけた。
「それは、エアルと会った時も同じだったのよ。エアルが人間じゃないって聞いた時から、他のロボットと同じだと思った。ずいぶん人間らしい振る舞いをしてるけど、やっぱり中身はからっぽの機械なんだと思った」
 エアルはその話を無言で聞いていたが、ジュリカは直後に
「……ごめん」
 と言葉を付け足し、また話を続けた。
「アンタのこと、ロボットだって見下してた。リリィのことも、ロボットとこんなに仲良くしてるなんて、ヘンだって思って見てたんだ。でもね、エアルのこと、ちょっとは気にし始めてたのも確かだったのよ」
 ジュリカは腕を組み、うーんと唸って考えてから、
「単に優しくされたから、っていうのじゃなくて。理屈じゃなくて、なんていうか……やっぱり納得いかなかった気持ちもあったのよね。エアルが他のロボットとは違う、っていう、何かが。……その時はまだ、単にエアルのこと、面白がって見てただけなんだけどね、だからね……」
 ジュリカはエアルの片方の瞳をじっと見つめた。
「私は、エアルを試してみることにしたの……」

 ジュリカは窓の外に視線を移した。外は真っ暗で、窓ガラスに当たる大粒の雨粒しか見えない。
「私の記憶の中にあるロボットは、みんな分からずやで、味気ないやつらばっかりだった。炭鉱で、タングステンの採掘に反対していた奴らのことよ。もちろん悪いのは私たち。でも、奴らのことはどっちにしても気に食わなくて……」
 ジュリカは視線を落とし
「分かってるわよ、悪いことをしていたことくらい。……仕方ないじゃない……」
 僅かに呟き、それからジュリカの視線がまたエアルに移った。
「私はね、エアルがそんな奴らと同じなのか、違うのか。それを見てみたかった。だから、アンタに仕事を手伝わせたのよ。そして、私たちがしていることを教えてみた」
 エアルはその場面はよく覚えている。鉱山まで連れて行かれ、唐突にこの街の秘密についての告白を受けた時だ。
 しかし、エアルはその後、自分がどうしたのかよく覚えていなかった。途中でリリィが入ってきてしまったし、なにしろいろいろなことがありすぎて、その時のことをぱっと思い出せないのだ。
 
 エアルが再びジュリカを見つめ返すと、ジュリカは話を再開する。
「私たちの不正について聞いた時、たとえば、エアルが他のロボットみたいに頭ごなしに反対したら、エアルのことなんて他の奴らと同じなんだって分かる。もしそうだったとしたら、私はロボットなんて二度と信用しないって決めたと思う。でも……」
 ジュリカはエアルをじっと見つめて、
「そうじゃなくて、もし私たちの気持ちを理解して、少しでも分かってくれたら……そうね、ロボットの中にも少しは柔軟な奴がいるんだな、って考えたと思う」
 そう言って、申し訳なさそうに目を伏せた。
「私はそうやって、軽い気持ちでエアルのことを確かめようと思ったの。でも、エアル……アンタはその時に……どっちでもなかった」
 エアルはびくっと肩を震わせて、その時のことを細かく思い出そうとしたが、どうにも思い出せない。
 思い返してみても、普段通りの、当たり前の反応をしていたような気しかなかった。
 少なくとも、やたらとジュリカを否定したはずはないということだけは、覚えていたが。

 もしかして期待に添わない反応をしたせいで怒らせたのかもしれない、なにか変なことを言っていたかな? エアルはその時のことを思い出しきれないまま
「そ、そうだったかな」
 思わずとぼけた返事をしてしまった。
 エアルは思い出せなくてどうしようかと気を揉んだが、ジュリカはそれに対して怒ることもなく、素直にほほ笑んで、エアルが思い出す代わりにその答えを言った。
「忘れちゃったの? エアル……やっぱり、素のままで言ってたのね。エアルは、ロサの話について、善悪なんてどうでもいいって感じだった。そんなことより……私のことばっかり気にしてた……」

 あの時エアルは、ジュリカがしていることを考え、即座にジュリカの身に危険が及ぶのではないかということを心配した。
 それは決して、ジュリカの話と正義感について軽視していたわけではない。だが、ロサが悪いだの、同情の余地があるだの、そんな口うるさいことは挟みもしなかったのだ。
 
 そう言われてエアルはようやく、あの時の会話をはっきりと思い出した。
 というより、忘れていたわけではない。あの時はジュリカの言った通り、話に対する答えを二の次にして、ジュリカの身を案じていたのだ。
「私はあんたに、反対なのか、賛成なのか、はっきり言ってほしかった。でも、アンタはそうしなかった。アンタ、私の心配ばっかりするんだもの。ほんとにもう……」
「ご、ごめん」
 エアルは思わず謝ったが、ジュリカはその様子をキッと睨み、エアルはますます恐縮する。
 ジュリカはしばらくエアルに厳しい視線を送っていたが、やがて深いため息をついて、エアルから顔を逸らした。
「あんな風に優しく言われるなんて、思わなかった。アンタの言った言葉が、本当に心を込めて言ってくれたことなんだっていうのも、分かったわよ。……私は、ロボットに正義とか悪とかを人間らしく判断させるってことばっかり押しつけようとしてた……エアルみたいなロボットもいるのに……本当に後悔した」
メンテ
第二章 第十八話 傷だらけの抱擁A ( No.198 )
   
日時: 2014/09/30 11:46
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:XYhXvUgw

 ジュリカはそれっきり黙ってしまった。どうやら話はこれで終わりのようだ。
 エアルは、自分のためにジュリカに気を悪くしないでほしいと思ったが、あまり余計なことを言うとますます彼女を責める結果になるような気がして、なんと声をかければいいのか分からなかった。
 そうしてエアルは、少しだけ困惑する素振りを見せていたが
「うん、その……話してくれてありがとう。どうしてあんなこと、急に話す気になってくれたのか気になってたんだ」
 とにかく、そのことだけは、ちゃんと言葉にした。
 なぜこの街の不正のことを急に打ち明けてくれたのか、エアルの中ではずっと疑問だった。しかし、ジュリカの説明を聞くと納得がいった。エアルを試すために、わざと教えたのだ。
 今となっては、ジュリカはそのことを後悔しているようだった。
「……私、アンタを試したの……。ごめん」
 エアルはそんなことは本当に気にしていない。
「謝ることなんてないよ。人を疑うのは悪いことじゃない。僕を疑ったってことは、僕を信じようとしてくれたってことでしょう」
 すぐにそう言ってやると、ジュリカは苦笑して
「また、アンタはほんとに耳触りのいい言葉にするのが得意ね」
 皮肉な言葉を吐いた。
「……」
 エアルはまた悪いことをした気になって、何も言い返すことができない。
 なにか、何を言っても彼女に辛い思いをさせるような気がして、エアルは酷く息苦しさを感じていた。本当は、少しでも彼女を救いたいと思っているだけに、なんだかやるせない気分になって、エアルの気分まで沈んでしまう。

 エアルのそんな気持ちはすぐに彼の顔に出た。ジュリカはエアルの様子を見て、彼を思いやりを感じ取り、ひねくれたことを言うのをやめた。
「まぁ、だからこそ、話しててほっとできるんだけどね。確かにそうかもしれない。アンタを信じたいって気持ちはゼロじゃなかった」
 ジュリカの言葉が柔らかくなったことと、表情が綻んだのを見て、エアルは安心した様子で
「それでいいんだよ。僕なんて、すぐに人を信じるからってリリィにいつも叱られるんだ」
「ははは、それは分かる」
 そんなことを言って、彼女の笑いを誘った。


「エアルはいいわよね。私には、そんな器用なことはできない」
「えっ?」
 ジュリカが急にそんなことを言い出して、エアルはまた、真剣に話を聞く姿勢に戻った。
「出来ないって、何が?」
 エアルがきょとんとしていると、ジュリカはその顔を見て、なおさらといった様子で笑った。
「エアルはどんなものでも柔軟に受け入れて、信じることができる。それって、すごく羨ましいことよ」
「う、うん……?」
 エアルはジュリカが言っていることが良く分からないといった顔をし、ジュリカはさらに言葉を付け足す。
「私は何か一つを信じたら、それに依存してばかりだった。どんなことでもまずは信じる、なんてことは出来なかったの。一つのことしか信じられない、そうしないと、生きられなかった」
「えっ、そ、それは……」
「今になって分かった。……私の周りに、本当に信じられる相手なんていなかったの」
 エアルははじめ、そのことをロサの街の話なのかと思った。
 今まではロサに依存し、言われるがままのことをし続けて、それ以外を信じることをしない。ロボットの助言などのことを指しているのかと思っていた。
 エアルはその問いについて、あまり深く考えずに
「だ、大丈夫だよ。もし考え方が間違っていたって気づいたなら、今から変えればいいんだ。そうすれば……」
 ロボットを疑うということをやめたくらいで、なにもそこまで思い悩まなくても。エアルはそう思い、ジュリカに声をかけた。
 だが、ジュリカは首を横に振るばかりだった。
「エアル、待って、違うの。エアルが思ってるよりずっと、私は……」
「……私は?」
 ジュリカの言葉は続きが出てこず、エアルは困惑した。
 自分がどんな思い違いをしているのか。そしてそれは、ジュリカを傷つけているのか。エアルはいろいろなことを心配して、つい、ジュリカの答えを急かすような言い方をしてしまう。
 ジュリカはそれに対しても、すぐには答えを言わなかった。
 もう、エアルを見ている場合ではないのか、がっくりと俯き、床を見つめて
「私は、一人じゃなにも出来ない……」
 こぼれるように、呟いた。

 それは自虐の意ではなかった。
 純粋に、気を落とし、まるで自分自身に酷く失望しているかの様子だ。

「ジュ、ジュリカ、大丈夫?」
 エアルは思わずジュリカに声をかけ、それでも反応がないので、その顔を覗きこみ
「えっ、泣い……」
 彼女の頬が濡れていることに驚き、どうすればいいか分からずたじろいだ。
 ジュリカは両手で涙を拭い、深く息をついて、エアルが思ったよりも早く平静を取り戻した。
 エアルが困った顔をしていると、ジュリカは、覚悟を決めたように
「エアル、教えて……助けてほしい……」
 しかし、あまりに元気のない口調でエアルに言った。
 助けてほしいと言われても、エアルにはどうすればいいのか全く分からない。ジュリカもそれは承知のようだった。
「エアル、聞いてほしいの。まだあなたに話していない、この街の過去の話……」
「過去? ジュリカ、辛い話を無理にはしなくてもいいよ?」
「ありがとう、エアル。でも、聞いてほしいの。こんな話を聞いてくれる人は、他に誰もいない。それに、エアルに分かってほしいことがあるの。……言い訳なんかじゃないから聞いて。私のために……」

 ジュリカはエアルに助けを乞い、そのために、自分のことを全て明かす決意を固めた。
 エアルは相変わらず、あまり頼りになりそうな様子ではない、それでも、ジュリカの目を見つめることだけはしっかりとやって、彼女の苦痛を受け入れようと、気持ちをできるだけ落ち着けて、彼女の一言も漏らさぬように話に耳を傾けた。
メンテ

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