このスレッドは人気!です。
ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
[2146] やるせなき脱力神【完結】
   
日時: 2019/06/18 01:15
名前: 伊達サクット◆9RYPI.pfjY ID:338Mxons

 

やるせなき脱力神


◆目次◆

 登場人物紹介

 主要人物・味方レギュラー >>3 
 味方サブ・脇(本編) >>110   
 味方サブ・脇(番外編) >>145   
 冥王関係 >>28  
 冥界民間軍事契約組織調整委員会(冥民調/委員会)>>112
 敵サイド・民間人・モンスター・その他の敵なのか味方なのか位置付けが微妙なキャラ >>136


(1)握力大魔王との再戦 >>1     (2)冥界の隙間産業 >>2

(3)失われた力 >>4         (4)大巨人の予感 >>5

(5)軟体ストレンジャー >>6     (6)勝利の女神、スライムに敗北 >>7

(7)複数対複数 >>8         (8)血まみれビキニ女 >>9

(9)唐突なアルティメット >>10    (10)人質は冥王 >>11

(11)部下爆死 >>12         (12)激怒三昧の戦場 >>13

(13)絡み合う巨体、宙を舞う生首 >>14  (14)一頭身 >>15

(15)敗走という名の前進 >>16     (16) 崩壊する職場 >>17

(17)ちっぽけな自分も顧みずに >>18 (18)呪術VS相撲 >>19

(19)呪術VS科学 >>20        (20)呪術VS知略 >>21

(21)死闘の合間 >>22        (22)リレー作戦 >>23

(23)胡散臭い爬虫類野郎 >>24    (24)血まみれの日常生活 >>25

(25)時空の生贄 >>26        (26)時に泳ぐ人魚 >>27

(27)凶行が希望を紡ぐ >>29     (28)滑りまくる雑魚ども >>30

(29)全裸は許してやった >>32    (30)私は諦めない! >>34

(31)入り乱れの総力戦 >>36     (32)部下切腹 >>37

(33)卒業一頭身 >>38  (34)己を貫け!? >>39

(35)漆黒の姫君 >>41        (36)最強最悪の刺客 >>42

(37)厚揚げ+USA=熱燗 >>43     (38) 連絡事項ですじゃ >>44

(39)ババババババババ >>45 >>46 (40) ロシーボ無双 >>51

(41)駄目だ、この話サブタイ思いつかない >>52 (42)冥界民間軍事契約組織調整委員会 >>53

(43)脳筋バングルゼ >>54      (44)黒い報酬 >>55 

(45)女狐と野郎ども >>56      (46)困憊的女神 >>57 >>58

(47)脳筋は2度死ぬ >>59      (48)S.T.A.B >>60

(49)闇を駆ける >>61        (50)哀愁メクチェート >>131

(51)導き合う者 >>132 >>64 >>65  (52)庭に狂い咲くは桜ではなく2輪のDQN >>66

(53)静寂なる狂気 >>67       (54)揺れる男、揺れない女 >>68

(55)終騎士の務め >>69       (56)流血の果て >>70

(57)憎しみの爆発 >>71 >>72    (58)リレー作戦完遂! >>73

(59)インフィニット・インフィニター >>76 (60)諸行無常 >>77

(61)首コキャ大納言 >>78      (62)下着姿の出陣 >>79

(63)女神とケダモノ >>80      (64)一矢の賭け >>81

(65)ウィーナ死す >>88       (66)餓狼の足音 >>89

(67)何を償い、誰に償う >>90    (68)量産化計画 >>91

(69)仲間か手駒か取引か >>93    (70)追跡 >>95

(71) 攻守逆転! >>96 >>97     (72)期を待つ時 >>98

(73)アメリカーン・ドリーム >>101 >>102 (74)小物達の黄昏 >>104

(75)剣が奏でる嘆きの調べ >>107   (76)誰が為に >>111

(77)夢の騎士 >>113         (78)うんざりする対神抑止兵器 >>114

(79)雑魚共と空中戦 >>115      (80)恐怖! 死を呼ぶ変態3兄弟! >>116

(81)戦場の専売特許 >>117      (82)ラスト開始 >>118

(83)ウィーナ様のために >>119    (84)トイレ掃除用のバケツは決戦の場を映す >>120

(85)フルアーマーウィーナ >>121   (86)破壊装置―妹― >>122

(87)広がる波紋 >>123        (88)破理の指輪・青信号 >>124

(89)破理の指輪・黄信号 >>125    (90)破理の指輪・赤信号 >>126

(91)勝利の女神に勝利あれ >>127   (92)ファイナルアタック >>128

(93)天界の神々 >>129        (94)天界神と冥王の対峙 >>130

(95)生き返すとか絶対NG >>133    (96)死ななかった戦士達 >>134

(最終話)やるせなき脱力神 >>135

(番外編)「女神の罪状」  前編 >>74  後編 >>75
       「刺客」 >>82 >>83
      「おねだり」 >>84 >>85 >>86 >>87
     「新人教育」(途中) >>92 >>94 >>105 >>106
     「パンの注文」 >>99 >>100
     「間者の歩む道」 >>103 >>109 >>138
     「恋愛モノ習作」 >>108 >>143 >>157
     「理想研究所」(途中) >>137 >>144
     「Valkyrie5」>>139 >>140 >>141
     「甘い破滅」>>142
     「ジョブゼお宅訪問」>>146 >>147
     「副社長編」(途中)>>148 >>149 >>150 >>151
     「死闘など華麗なるまい」>>152
     「光の三原色」>>153
     「ロシーボ隊 断片集」>>154
     「副社長編 エピソード0」>>155
     「男女友情モノ習作」(途中)>>156
     「逆襲のレンチョー」(途中)>>158 >>159 >>160 >>161 >>164 >>171
     「断片集2018-1」>>162
     「戦闘員が学問などと」>>163
     「武神」>>165
     「聞こえる」>>166
     「春風」>>167
     「熱帯夜」>>168
     「紅葉」>>169
     「初雪」>>170


(If様作・番外編)
 If様に書いて頂いたシュロンが主人公の番外編です。
 本編で敵となってウィーナに牙をむいた、シュロンの心情に切り込んで、ストーリーが進んでいきます。
 是非こちらもご覧にになって下さい!
 素晴らしい作品、ありがとうございます!

【狂信者の叛逆】

01:尊敬も崇拝も超えて


「小説家になろう」様でも連載しています

pixiv小説(内容は本編と変わりません)


◆作者コメント◆

 ついに完結しました……。
 長い時間がかかってしまいましたが、何とか終わらせることができました。こんな拙い作品にお付き合いして下さった皆様、心より感謝いたします。
 完結はしましたが、ほったらかしにしてある番外編があるので、気が向いたら更新するかもしれません。
 スレはしばらくこのままで残しておこうと思います。
 読んで下さった方々、応援して下さった方々、本当にありがとうございました。

◆ブログ◆
 stand shot
 小説に関する裏話等を書いていきます


<イラスト>
 左……エルザベルナ(有料イラストサイト「skima」にて狗影彰様に依頼) 
 中……ヴィナス(有料イラストサイト「skima」にてひゅー様に依頼)
 右……シャルロッテ(有料イラストサイト「skima」にて三玉むぢむぢ様に依頼)

天上より降臨せし勝利の女神 更に地の底へ
死者が集う冥界にて かつての女神は其の使徒共を率いる
人はウィーナと呼んだ 敗北の定めに嘆く魂を、永遠の呪縛から解き放つ者也――
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.167 )
   
日時: 2019/02/19 22:28
名前: 伊達サクット ID:gqQpJYec

番外編「春風」

「おい起きろ!」
 ダンダンと激しく玄関の戸を叩く音。
 ロシーボはその音に起こされ、パジャマ姿のまま慌てて玄関を開けた。
 そこに立っていたのはこのアパート『限界亭』の大家、タケチハンペーターであった。
「タ、タケチハンペーターさん……」
 ロシーボが狼狽しながら頭を下げる。
「挨拶もなしか!」
 タケチハンペーターが怒りの声を上げる。ロシーボは今挨拶をしたつもりだったが、相手はそう受け取らなかった。
「スイマセン、おはようございます」
「当たり前だ! ワシが最強だ!」
 怒鳴るタケチハンペーター。
「ウルセーコノヤロー! 新しいNIPPONの夜明けぜよ!」
 ロシーボの隣の103号室の住人であるザガモ゛ドリ゛ョ゛ーマ゛が怒りの形相で飛び出してきた。
「住人の分際で誰に向かって口を利くか!」
 タケチハンペーターはザガモ゛ドリ゛ョ゛ーマ゛に対し即座にドロップキックを放った。
「ほたえな!」
 宙に浮きあがり地面に叩きつけられるザガモ゛ドリ゛ョ゛ーマ゛。彼は白目をむいて痙攣し、小便を失禁した。
「あわわわ……」
 うろたえるロシーボ。
「屋根のところにズズメバチの巣ができてるぞ。さっさと駆除しろ! 来い!」
 タケチハンペーターが怒り心頭の様子でロシーボに同行を促す。
 ズズメバチとは昆虫系の小型のモンスターである。強烈な毒を持っており刺されたら死ぬ可能性が高い極めて危険なモンスターだ。
 どうも最近ズズメバチが多いと思い、ロシーボはなるべく窓を開けないようにしていたのだが、まさかこのアパートに巣があったとは。
「いや、そういうことは正式にワルキュリア・カンパニーに依頼してほしい」
 ロシーボが怪訝な顔を作って言う。
「黙れクソガキ! 家賃を十倍にするぞ!」
「ナムサン!」
 タケチハンペーターの脅しを受け、ロシーボはやむを得ずついていった。
 確かに、アパートの屋根の下に大きな丸いズズメバチの巣があり、ブンブンと羽音を立てながら大勢飛び回っている。刺されたらひとたまりもない。
「俺はこれから町内会の寄合に行く。帰ってくるまで始末しておけよ!」
 タケチハンペーターは頭から湯気を出しながらその場を去っていった。一先ず胸を撫で下ろすロシーボ。
 ロシーボは入念に準備をした。
 まずズズメバチの強力な針を跳ね返す、戦闘任務でも使う特殊素材の防護服を着こんだ。そして、顔をすっぽりと覆うヘルメットを被り、バイザーを下げる。
 肌が露出する箇所が一切なくなる完全武装だ。
 更にロシーボは彼が発明した科学アイテムの一つである『ダイソン・バキューマー』を持ち出した。
 このダイソン・バキューマーの凄まじい吸引力でズズメバチを吸いこみ、逃がして周囲に被害を及ぼさないようにするためだ。
 準備を終え、再びズズメバチの巣の下にやってきたロシーボ。
 するとそこには、組織の同僚・シュロンが立っていた。
「あれ、どうしたの?」
 ロシーボが問う。
 するとシュロンはその問いに答えることなく、ズズメバチの巣に向かって、スッと軽く手をかざした。
 すると一瞬にして、巣とそれを守るかのように飛び回っていたズズメバチ達はカチンコチンに凍結したのだ。
「うわ!」
 驚くロシーボ。一秒でズズメバチは全滅した。
 シュロンが指を曲げると、凍った巣が紫色の光を放つ魔力に包まれ、シュロンの元へ引き寄せられる。
「呪術の材料に、丁度必要だったの。邪魔したわね」
「あ、ああ……」
 ポカンとして答えるロシーボ。シュロンは巣を浮かせたままウィーナの屋敷の方角へ去っていった。
 そこに大家であるタケチハンペーターが戻ってきた。
「おお、やったか。それじゃ家賃は二倍で許してやろう」
「はぁ……」
 二倍にはなるのか。ロシーボは心の中でそう思いながら、月末に転居した。

<終わり!>
 
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.168 )
   
日時: 2019/03/25 03:07
名前: 伊達サクット ID:lBMsvmu6

番外編「熱帯夜」

「ファウファーレ、最近退屈してないか?」
 ウィーナは自分の執務室にファウファーレを呼んだ。
「いえ、寧ろ忙しくなっています」
 ファウファーレが答える。
 ウィーナは彼女を秘書官に任命し、日程の管理や他の者への取り次ぎを任せた。
 すると自分の仕事がかなり楽になり、ウィーナ自ら任務へと出かけて悪霊を倒す時間も生み出せた。
 ウィーナにとっては、机に向かっての仕事より、悪霊と戦っている方が遥かに楽だった。ファウファーレは非常に優秀だったので、ウィーナは味をしめていた。
 こんなことならもっと早くから秘書を置けばよかった。ウィーナは本気でそう思っていた。
「そうか……。実はな、この前ユノがヨシギュナルドという者を倒したのだが」
「はい」
「これはその後で分かったことなのだが、ヨシギュナルドは『自由平等平和解放軍』の幹部だったのだ」
「そうだったんですか!?」
 ファウファーレが面食らった顔をする。
「ああ。そして、ユノはその後、他の幹部を二人立て続けに殺した。奴らは魔界と契約していた」
 ウィーナは静かに、力強い口調で続ける。
 ユノはヨシギュナルドを殺し、ヨシギュナルドが制圧していたラクトール地方で英雄扱いされてしまった。
 するとユノは自由平等平和解放軍につけ狙われるようになり、幹部のスキヤードーナツ、スシローゼリヤが刺客として送り込まれた。
 しかしユノはスキヤードーナツを殺し、次いで襲ってきたスシローゼリヤも返り討ちにした。
 ユノが刺客達が自由平等平和解放軍の者だと知ったのはそのスシローゼリヤと戦ったときである。
 ユノの報告では、ヨシギュナルドを含んだ彼ら幹部はいずれも魔界と契約しており、冥界人とはかけ離れた異形の魔物と化したという。
「魔界と……」
 そう返しつつも、ファウファーレは特段驚く様子もなかった。どこかで自分とは関係ないことだと思っているのではないかとウィーナは感じた。
「ユノってば、自由平等平和解放軍の幹部を三タテしたもんだから、ウチらが敵対することになっちゃったわけ」
 ウィーナがこれから説明しようとしたことを、脇に控えるリティカルが言ってしまった。ウィーナは軽く頷く。
 ユノが一人でヨシギュナルド、スキヤードーナツ、スシローゼリヤを殺したおかげで、ワルキュリア・カンパニーは自由平等平和解放軍と敵対関係になったのであった。
「まったく、ユノの奴も余計なことをしてくれたものだ」
 ウィーナが溜め息混じりにこぼす。
「いや、それは理不尽じゃないですか?」
 珍しくリティカルがウィーナにツッコミを入れた。元はウィーナがユノをヨシギュナルドの元へ向かわせたことがきっかけだったからだ。
「いや、あんな気色悪い手紙を寄越してくる者が自由平等平和解放軍の者だとは思わなかった」
 ばつが悪い思いで弁解するウィーナ。話を本題に戻す。
「その自由平等平和解放軍なのだが、実はリーダーが離反したという情報が入った」
「はい」
 神妙な顔で頷くファウファーレ。
「こちらで得た情報によると、魔界との契約のことで幹部達とリーダーが揉め、結果としてリーダーの方が軍を離れたらしい」
 ウィーナは詳細をファウファーレに説明していった。
 自由平等平和解放軍のリーダー、ライオは年若い少年ながらも、そのカリスマ性で冥王の王政に対抗する一大勢力を作り上げていた。
 そのカリスマが、仲間割れで自由平等平和解放軍を放り出して離脱したのである。
 自由平等平和解放軍はライオの下に結束している。彼に抜けられたら士気を保てない。末端から軍は瓦解していくであろう。
 幹部達は血眼になってライオの行方を追っている。幹部達はライオを連れ戻し、無理矢理にでも魔界と契約させ、自分達と共犯関係にして二度と自由平等平和解放軍から抜け出せないようにしようとしている。
 ウィーナはそこまで説明し、本題を切り出した。
「冥王がライオに興味を持っている。自分の小姓として側に置きたいらしい。軍を差し向ければ冥王に楯突いた者だから処刑せねば示しがつかない。そこで、成り行きで敵対することになった我らにライオを確保してほしいと依頼がきた。それをお前に任せたい」
「……しかし、そうすると我々はますます自由平等平和解放軍と敵対することに……」
「今更だ。実はつい先程、ユノが自由平等平和解放軍の幹部・ビックリドンキホーテを殺したと報告が入った。ビックリドンキホーテも魔界との契約で人ならざる異形になり果てていたらしい」
 ファウファーレの懸念をウィーナは一蹴した。そして、脇のリティカルが親指を折り曲げた掌を見せ「四タテ」と言った。
「もう全部ユノ殿でいいのでは……?」
 ファウファーレが言う。
「ユノは誰も殺すつもりがなかった。自由と平等と平和と解放の使者達を自らの手で四人も殺めてしまったことで深い悔恨の念に苛まれている。『もし五タテした暁には首を吊って死ぬです』と騒いでトイレに引きこもってしまった」
 ウィーナがユノの口真似をしながら言った。
「ウィーナ様、ふざけてませんか?」
 ファウファーレが少し目を細めて言う。
「ふざけてない。ふざける理由がない」
 図星を突かれたウィーナは真顔で否定した。そして「お前の腕がなまっているだろうから、たまには楽しめそうな仕事をやらせようと思った」と続けた。
 ファウファーレは「了解しました」と即答した。内心何を思っているかは分からないが。
「頼んだぞ」



 まともな冥界人なら間違っても立ち入らない前人未踏の地・ヘルサハラ。
 暗闇の満天の下、ただただ灰色の砂漠が広がる魔境。周囲は魔物と悪霊の邪気に満ち満ちている。
 そんな不毛の砂漠を、一筋の足跡が延々と糸を引く。足跡を伸ばしているのは、煤けたマントを羽織った独りの人影。
「確かに、小姓向きな顔だ」
 下卑た男の声色。
 こんな砂漠の真っただ中で、人影の前に幾人もの人物が立ちはだかった。
 ウィーナの命を受けてこの地へとやってきたファウファーレ。
 そして彼女直属の部下が四名。何れもワルキュリア・カンパニーでは中核従者の地位にある。
 吟遊詩人風の出で立ちに、腰に長剣と短剣の二本を差した、色白の比較的整った顔立ちの持ち主、アンヴォス。
 肩と胸元までを覆った安物の鎧に、ごくごくありふれた冒険者風の旅装姿の、垂れ耳の犬型の獣人、グルービー。
 十字の傷が生々しい隻眼で、毛もクチバシも黒いカラスの顔、背中の黒い翼は片方がボロボロに引き裂かれていて飛べそうにもない鳥人系の男、パーシブル。
 鎧から長い首が伸び、緑色の肌に両端に広がった細く鋭い目。カマキリの顔。そして鎧の下からは安定感抜群の節足系の四脚が伸びた昆虫系種族、ガブラン。
 先程の声の主、ガブランは「ひっひっひっひ……」と長い首を揺らし、牙を覗かせながら馬鹿にしたような笑いを見せる。
「……失せろ。今僕は誰の顔も見たくないんだ」
 ファウファーレと相対する人影が澄んだ声で言う。フードの中から見える顔。
 鋭い切れ長の目に赤い髪の少年。なるほど、美意識の塊とも言えるファウファーレの目から見ても、大衆から崇められるに相応しい、絶世の美少年だ。
「私達はあなたの味方よ。あなたを安全な場所へ案内するわ」
 ファウファーレがライオに優しい口調で言う。
「そんな話信じると思うか?」
 ライオが冷たい口調で言う。
「俺達はワルキュリア・カンパニーの者だ。禁を破って魔界と契約するような奴を敵としている。アンタと気が合うと思うけど?」
 アンヴォスが腰に提げた名剣『ストテラ7号』に刻まれたワルキュリア・カンパニーの社章を見せながら言う。
「随分と疲れてるでしょ? この砂漠を一人で越える自信があって? もしあなたに危害を加えるつもりなら不意打ちでとっくにやってるわ」
 ファウファーレが理詰めで懐柔にかかる。
「ああ疲れてるね。お前達と話すのもめんどくさい」
 わざとらしく、うんざりしたような様子を見せるライオ。
「喉乾いてると思って、水持ってきたんだけどな」
 パーシブルが小袋から水筒を取り出し、これ見よがしに見せつけた。
「失せろと言ってるんだ。僕は今、自分でも信じられないほどに機嫌が悪い。何するか分からないよ……」
 ライオが再び冷たい口調で言い放つ。
「随分とこじらせた奴だな」
 呆れたようにパーシブルが言う。相変わらず下卑た笑いを崩さないガブラン。背中に携えた二本の鎌が冥界月の赤い光を浴びて妖しげにきらめく。
 一条の風が両者の間を横切り、砂煙を巻き上げる。
 グルービーは腕を組んで、眉間に皺を寄せながら、大きく突き出た鼻を震わせ、大きなくしゃみをした。
 そのくしゃみを皮切りに、剣を抜いたライオが砂煙をかいくぐり突っ込んできた。
 それに反応し回避するグルービー以外の四人。ファウファーレは翼を羽ばたかせ空に舞い、高みの見物を決め込む。
 グルービーは鼻をズズッとすすりながら、左手の盾を突き出してライオの剣を受け止める。至近距離で殺気を込めて睨み合う二人。グルービーはもう片方の手を腰の鞘に伸ばす。
 アンヴォスがストテラ7号を抜いてライオに斬りかかる。瞬間、ライオは地面を蹴ってアンヴォスに砂をかける。袖で砂を受け止めるアンヴォス。
 グルービーが剣を抜いた。するとライオはグルービーを跳ね除けてアンヴォスに突貫。砂を払い除けたアンヴォスがライオの剣を受け止める。砂漠に散る火花。
「死ねえええっ!」
 ガブランが背中に携えた二つの鎌を両手に構え、四本の脚を素早く動かしライオに向かってダッシュ。両刃をもってクロス斬りを放つ。
「ハアッ!」
 ライオが掛け声を上げると、鍔迫り合いをしていたアンヴォスと自身の周囲に青白いオーラが発生し、アンヴォスとガブランを吹き飛ばす。クロス斬りは発動寸前で中断。
「ぐっ!」
「うおっ!」
 たまらず吹き飛ばされ倒れ込むアンヴォスとガブラン。
「だああああーっ!」
 パーシブルが満足に動く片翼のみで地面スレスレを滑空し、高速回転しながら曲刀を突き出し突撃してくる。ライオはジャンプでパーシブルの背中を踏みつけやり過ごす。
 四脚の高速ダッシュで追い付いたガブランが両手の鎌を振りかざして再び襲いかかる。ライオは剣を一閃。ガブランの手から二つの鎌が弾かれ、宙を舞いながら砂に突き刺さった。
 ガブランの喉元の寸前にライオの剣が向けられる。
「ヒッ!」
 怯えて両手を上げ、降参のポーズをするガブラン。
「へえ……」
 空からその様子を見て、一人ファウファーレは妖艶な笑みを浮かべた。
「なめんなテメー!」
 アンヴォスが再び斬りかかる。ライオは刀身に真っ白な光を纏わせ、アンヴォスを迎え討つ。幾重にも剣がぶつかり合い、両者文字通り火花を散らす。
 砂に四つの膝を突き、恨みがましい目でライオを見上げるガブラン。
「でやぁーっ!」
 一進一退の斬り合いを演じるライオの背後めがけてグルービーが剣を突く。
 しかしライオはグルービーの殺気を予見したかのように高くジャンプして回避。向かい合うアンヴォスをも飛び越える。
 着地したライオに向けてパーシブルが左手を突き出す。
「食らえ!」
 すると彼の左手は瞬時に変形し、六連の発射口を持つ金属性のボウガンとなった。
 六連式の発射口が高速回転し、六本の棘のような矢が連続で発射される。
 ライオは瞬時に地面を転がり身をかわす。発射された矢はその奥にいるグルービーに向かって飛んでいく。彼は咄嗟に盾を構える。盾に突き刺さる六本の矢。
「馬鹿野郎ッ!」
 グルービーが盾から顔を覗かせ怒鳴る。パーシブルは忌々しげに舌打ち。
 ファウファーレはタイミングを見極め、急降下して地面に転がったライオを蹄で踏みつけた。
「ぐっ!」
 唸るライオ。抵抗するが、彼を抑えるファウファーレの脚力は強く、立ち上がることもままならない。
 彼の周りを囲むアンヴォス、グルービー、パーシブル、ガブラン。
 パーシブルは曲刀を鞘に納め、ギミックアームのボウガンをライオへ向けた。
「手こずらせやがって……」
 ガブランが長い首をもたげ、触角を揺らしながら、悔しそうに顔を歪めた美少年を覗き込んだ。
「一緒に来てもらうわよ」
 ライオを見下ろしてファウファーレが言う。勝負はついた。
 


「冥王が、もうライオはいらないとのことだ」
 ライオをウィーナの元へ引き連れてきたファウファーレは、さすがに面食らった様子だった。
 冥王は気が変わったようで、ライオに対する興味を、それどころか自由平等平和解放軍そのものに対する興味を失い始めていた。
「では、この者は……」
 ファウファーレの問いに、ウィーナはしばらく考えた後、こう答えた。
「乗りかかった船だ。自由平等平和解放軍の件が片付くまでウチでかくまう。問題はどこでかくまうかだが……」
 ウィーナはしばし考え込む。屋敷に置いてもいいが、他の者達への説明も面倒だし、自由平等平和解放軍にかぎつけられてここを狙われるのも迷惑だ。
「殺せ」
 ライオがウィーナを刺すように睨みつけた。
「せっかく拾った命だ。大事にしろ」
 ウィーナが言い聞かせるようにそう言ったが、彼に届いているようには思えなかった。
 しばらくして、ファウファーレが切り出した。
「それでしたら、この者、私が預かりましょう」



 ファウファーレの隠れ家。
 かつて自由平等平和解放軍を率いていた少年は上半身を裸にし、ファウファーレにひざまづいていた。
 筋肉の引き締まった鍛え上げられた肉体。しかしその肌は白く蝋のようで、その背中は天井の照明を受けて滑らかに光る。
「ファウファーレ様」
 ライオは全ての重圧から解放されたような恍惚の表情で、ファウファーレの脚にすがりつく。
 ついこの間まで、多くの民衆から尊崇されていた少年の美貌と才覚は、今やファウファーレ一人の占有物となっていた。
 ライオはもはや自由平等平和解放軍のことなどどうでもよくなっていた。自由平等平和解放軍がまだ存続しているかどうかすらも知らなかったし、ファウファーレに尋ねなかった。
 彼はファウファーレの下僕になることで、精神的な救いを得たのだ。
「さあ……」
 ファウファーレは静かに赤い唇を釣り上げ、白馬の下半身の後部をライオに向けた。
「はい……」
 ライオは彼女の三つ編みにされた尻尾を首に巻き、尻に唇を近づけていった。
 次第に、隠れ家はファウファーレの嬌声に満たされてゆく。

 この密室の隠れ家で、ファウファーレと少年の間で一体どのようなことがあったのか。それはこの二人のみが知ることである。



「鍵が壊れたです。出れないです」
 そして、ユノはまだトイレに引きこもっていた――。

<終>
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.169 )
   
日時: 2019/03/03 18:56
名前: 伊達サクット ID:dJ5FGaG2

番外編「紅葉」

「皆の衆! ダオル副社長より指令! 特別任務発生せり! 我こそはと思うユノ隊の戦闘員は直ちに副社長とユノ隊長のいる第二密談室へはせ参じよ! 繰り返す! 副社長より特別任務が――」



 ウィーナの屋敷・第二密談室――。

「我が組織は支払いが遅れている。早くこの金をカタクリコンクリートさんに支払わねば大変なことになる!」
 ダオル副社長が言う。
「そうです。我が組織は支払いが遅れているです。早くこの金をカタクリコンクリートさんに支払わねば大変なことになるです!」
 幹部従者・ユノも言う。
「こいつらの中で腕利きでフットワーク軽い奴はいるか!? この仕事を任せるに値する奴は!?」
 ダオルが集まった戦闘員達を見回しながらユノに問う。
「ならば我がユノ隊最強の戦士! スーパー平従者ウマイバーにお任せを! 彼なら必ずや任務を達成するです!」
 ユノがウマイバーを見て不敵な笑みを浮かべる。
「よおし! 行けえいウマイバーよカタクリコンクリートさんの下へ!」
「行くですウマイバー君! カタクリコンクリートさんにお金払ってくるです!」
 ダオルとユノがウマイバーに命じた。
「承知したああああああっ!」
 ウマイバーは体のありとあらゆるところに金貨を担いで屋敷を飛び出した。その額、総計50万G(ギールド)。



「金の臭いがする!」
 ウィーナの屋敷を出た途端、金の臭いにつられた街の浮浪者がウマイバーにつかみかかる。
「うおおおお!」
 ウマイバーは力任せに浮浪者を放り投げ、壁に叩きつけた。
「ぶけえっ!」
 倒れ込む浮浪者。
「ヒャッホー! 金だ金だああああっ!」
 今度は重度の金マニアがどこからともなく寄ってきてウマイバーに襲いかかる。
「どけえっ!」
 ウマイバーは金マニアを殴り飛ばす!」
「ふははははは! まだまだああああっ!」
 ひるまぬ金マニア。
「だあああっ!」
 もう一発ウマイバーは金マニアを殴り飛ばす。
「あべべ!」
 金マニアを倒した。
 大量の金貨を担いでカタクリコンクリートの屋敷へ走るウマイバー。
「金を寄こせ! その金を寄こせええええっ!」
「その金は俺の者だ! 貴様のようなうまい棒の出来損ないが金を持つ資格などないわ!」
「金の臭いがする! 金の臭いがするぞおおおお! ぎゃんがぎゃんがああああ!」
 金の気配を感じ取った金の亡者達が一斉にウマイバーに踊りかかる。
「ぎゃああああああ!」
 悲鳴を上げるウマイバー。
 あっという間に金の亡者達に金貨を奪われる。
 ウマイバーはたまらず全速力で走って逃げる。これで10万Gほど金貨がなくなったと思われる。
「待てえええええ!」
 金の亡者達はどんどん増えていきウマイバーを追ってくるが、何とか物陰に隠れてやり過ごした。
 ウマイバーは人通りの少ない路地裏を進む。
「いらっしゃい! ここは武器の店だよ! どんな用だい!」
 突如として立ち塞がった武器屋。武器屋はウマイバーの首を両手で絞める。
「買いにきた! 売りにきた! やめる!」
 そう言いながら激しく首を絞めつけてくる武器屋。
「うぐぐぐ……」
 息が止まりウマイバーの意識が遠のく。
「待てえええええい!」
 突如防具屋が乱入。
 武器屋にドロップキックを入れる。
「うげえっ!」
 吹き飛ぶ武器屋。咳き込むウマイバー。
「ここは防具の店だぜ! どんな用やねん! 買いにきた! 売りにきた! やめる!」
 ウマイバーの金袋に抱きつく防具屋。
「ふざけんな! 渡すかあああ!」
 金袋を死守するウマイバー。
「ぐおおおお!」
 鉄球で思いっきり防具屋の頭を打ち付ける武器屋。
「うげっぴ!」
「死ね! 死ね! 死ね!」
 武器屋は鉄球で防具屋の頭を何度も何度も殴りつける。
 防具屋は頭から激しく血を流して動かなくなっていた。死んでいた。
「死んだ。死んだ」
 ウマイバーが言う。
「ヒ、ヒイイイィィィィ!」
 死んだ防具屋の死体を見て怯える武器屋。
「お前が金を渡さないからこんなことになったんだ! 俺に金を寄こせえええええ!」
「うるせえええええ!」
 ウマイバーは武器屋にタックルをして彼を吹き飛ばした。
 その瞬間、目にもとまらぬスピードで俊足の泥棒が三人、三方向から現れ、ウマイバーが身に着けている金袋をあっという間にごっそりと奪っていった。
「ああっ……!」
 慌てて泥棒達の逃げた方を振り向いたが、彼らは忽然と消えていた。
「私は旅の油売りです。こんなところで油売ってます」
 油売りが現れた。彼の周りには油の入った樽が沢山置かれている。
「うああああああ! あああぎゃあああああ!」
 先程吹き飛ばされた武器屋が全身に油を被り、自らに火をつけた。
「ファイヤアアアアアア! ここは武器の店だおォォォォ! 買にきた! どれにしますか! 油1G! 油1G! 油1G!」
 全身火だるまになり奇声を上げる武器屋。
 油屋も巻き込まれ火だるまになる。周りの民家を巻き込み辺り一面火の海となる。
「手を抜くからそういうことになるザマス!」
 PTAの人がクレームを入れたがすぐ火だるまになって「ザアアアマスウウウウ!」と言って焼け死んだ。
「馬鹿共がみんな焼け死んでしまえ!」
 ウマイバーは捨て台詞を吐いてその場を後にした。泥棒に金貨を随分持っていかれた。残り25万G程しかないが、おかげで身のこなしは軽くなる。
「待ちなさい旅のお方! 我が教会に何のご用ですかな?」
 突如ウマイバーの行く手に立ち塞がる神父。
「何だ貴様は! 貴様も俺の邪魔をするのか! うぐぐぐ〜!」
 ウマイバーが歯を食いしばる。
「え!? 何!? このお金を我が教会に寄付したいですと! さすれば寄付しなさい!」
 神父が高くジャンプしてウマイバーに踊りかかる。回避するウマイバー。
「寄付しろと言ったあああああ! 金は人の心を欲にまみれさせ狂わせる! この私に預けなさいいいい!」
「寄付するなんて一言も言ってない!」
「貴様は言ったんだよおおおお!」
「うるせええええ!」
 神父を思いっきりウマイバー蹴り飛ばす。
「馬鹿なあああああああ! 神はなぜこんな理不尽をぉぉぉ……!」
 神父は鼻血を噴出させぶっ倒れ、ヒクヒクと痙攣した。
 そのとき地面が盛り上がり、地中から巨大なカニのモンスターが現れた。
「我が名はビッグモンス・クラブカニ五郎! その金このワシが頂くぞええええ!」
 クラブカニ五郎が巨大なハサミを振り回してウマイバーを威嚇する。
「さっきからうるせぞテメェーら!」
「おんどりゃああ!」
 騒ぎを聞きつけたヤクザ系ギルドの怖いお兄さん達が大量に現れ、クラブカニ五郎に殴りかかる。
「何だテメェーふざけんじゃねえぞオラァ!」
 ヤクザ系ギルドの連中がウマイバーにも襲いかかり、彼の金をひっぺがし始めた。
「やめろおおおお!」
 叫ぶウマイバー。
 必死に身に着ける金貨を守ろうとするが、ヤクザ達は容赦なくウマイバーに暴行を加える。
「ぎゃあああ!」
「テメーこの野郎こんな大金持ちやがってさてはこの俺を舐めてやがんな!」
 ヤクザ達がよってたかってウマイバーから金貨をむしり取っていく。
「死ねええええええぃ!」
 クラブカニ五郎が口から泡を放射する。その泡がウマイバーを囲うヤクザ達に覆い被さる。
「ぎゃああああああ!」
 泡を被ったヤクザ達は頭から溶解し、ドロドロに液化した末に、皆死んでいった。
「次は貴様の番ぞえええええ!」
 ウマイバーに向かって正面から突進してくるクラブカニ五郎。カニのくせに余裕で前歩きをしてくる。
「ヒーッ! また会おうぞ!」
 ウマイバーは一目散に逃走する。金を奪われ続けたおかげで逃げ足が速い。しかし残りの所持金は10万Gほどに目減りしていた。
「待ーてー!」
「待てと言われて待つバカいるか!」
 ウマイバーはクラブカニ五郎から必死に逃げるが、袋小路に来てしまう。
「でっへっへぇ〜! 追い詰めたぞえぇぇ!」
 両手のハサミを閉じたり開けたりしてこちらを威嚇するクラブカニ五郎。
「ま、待てっ! 話し合おう。3万Gやる、だから見逃してくれ!」
 ウマイバーはクラブカニ五郎に交渉を持ちかけた。
「ぶへへへへぇ〜! 貴様を殺して全部奪うに決まってんだろ〜! ばっへっへへへ!」
「そ、そんなのやだ〜!」
 泣き叫ぶウマイバー。万事休す。
「首チョンパぞえ! 死ぬぅぅぅえ!」
 クラブカニ五郎がハサミを振り上げたその瞬間、クラブカニ五郎の全身が電撃に包まれて火花を散らした。
「ぞえええええええ!」
 黒焦げになってその場に倒れるクラブカニ五郎。クラブカニ五郎の背後には、幹部従者ロシーボが銃を構えて立っていた。
「ロ、ロシーボ殿!?」
「ウマイバー! 助太刀にきた!」
「ありがとうございます!」
 ウマイバーは礼を言ったが、ロシーボは残念そうな顔をしている。
「申し訳ないけど次の予定が押しててカタクリコンクリートさんの所までは護衛できない。ここまでだ」
「いえいえ、十分です。ありがとうございます!」
「さらば!」
 ロシーボは颯爽と去っていった。



 その後、ウマイバーはカタクリコンクリートの屋敷への入場料5万Gを門番に支払い、ついにカタクリコンクリートの屋敷へとやってきた。
「ふざけんな! 足りねーじゃねーか!」
 カタクリコンクリートは手元に残った約5万Gを見て激怒した。
「す、すいません!」
 慌てて謝るウマイバー。
「すいませんじゃねーよ! 何? お前この俺を舐めてんの?」
「いえ、途中で色々あって……」
「知らねーよ。そんなのそっち都合だろうが。あと45万G一体どうするの?」
「もう一回取ってきます」
「もういいよ! 今あるだけでいい! よこせ!」
 カタクリコンクリートが手を出して言う。
「え? 残りはいいんですか?」
 ウマイバーがおずおずと尋ねる。
「いいっつってんだろボケ! その代わり二度とワルキュリア・カンパニーには関わらんからな!」
「あ、ありがとうござ……」
「いいからよこせ! さっさと!」
 カタクリコンクリートが怒ってウマイバーの言葉を遮る。
「は、はい」
 すぐさまあるだけの金を差し出すと、カタクリコンクリートはそれを舌打ちしながら乱暴に受け取った。
「あ、あの〜……、できましたら残りはもういいってことを一筆……」
「はいはい、分かってるよ! ちょっと待ってろ」
 カタクリコンクリートは残金を受け取る権利を放棄する旨の書類を乱暴に殴り書きし、「おらっ!」とウマイバーの胸元に付き突けた。慌ててウマイバーは受け取る。
「用が済んだらさっさと出てけ! クソが! ふざけんなまったく!」
「は、はい〜!」
 ウマイバーは慌ててカタクリコンクリートの屋敷を飛び出した。



 ウィーナの屋敷に帰参したウマイバー。
 経緯を報告した後、腰を下げ、揉み手をしながら上目づかいでダオルとユノに言う。
「特別任務を達成したってことで、特別ボーナスとかは……」
「そんなもんないぞ」
 ダオルが言った。
「そんなもんないです」
 ユノが言った。
「ないんかい!」

<終>
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.170 )
   
日時: 2019/03/24 23:53
名前: 伊達サクット ID:CvsSb9Io

「おい、死ぬな! しっかりしろ!」
 ギャントが左肩に背負う戦友、リューラに対して訴えかける。
 リューラは息も絶え絶えで、まぶたを震わせ微かな息を吐くことしかできない。
「もうすぐ、もうすぐで町だ……」
 同じくリューラを右肩に背負うカッカイが自分に言い聞かせるように声を振り絞る。
 リューラを肩に背負うギャントとカッカイも、また血まみれだった。鎧は砕け剣は折れている。
 今回の悪霊は強過ぎた。彼らは管轄従者・ビッスムから最低ランクの任務だと聞かされていた。ビッスムは前もってユノから下されていた指示に反し、彼ら平従者八名だけで悪霊に向かわせた。
 しかし、遭遇した悪霊は圧倒的な強さを誇っていた。
 逃げるのがやっとで、生き残ったのはこの三人だけ。他五人はその場で死んだ。
 ビッスムが待つコノロックの町を目前にして、リューラは力尽きて死んだ。
 仕方なく、ギャントとカッカイはリューラの亡骸を野ざらしにし、コノロックへと足を引きずる。
 重傷を負って命からがらコノロックへ向かう二人。すると、町へ続く街道で青い髪のヒューマンタイプの管轄従者・ビッスムが鬼の形相で待ち構えていた。
 ビッスムは開口一番、二人に対して怒りの言葉をぶつけた。
「はぁ!? 何生きて帰ってきてんの!? お前らが死んでくれないと人員不足を理由に戦力補充をウィーナ様に申請できないだろうが! だからお前らが絶対勝てない相手に行かせたのに! 空気読めよクソが!」
「い、今、何と……」
 カッカイが呆気に取られて言う。
 ギャントは放心状態で言葉も出ない。顔の中央に大きな単眼を持つギャントはその目を更に大きく見開き、青い肌を更に青ざめさせた。
「そもそもあんな凶悪な悪霊をお前達如きに任すわけねーだろ! 常識で考えろ!」
「な、何故だ!? 何故〜っ」
 カッカイが奥歯を震わせ声をしぼり出す。ギャントが激しく咳き込む。口から血を出しながら。
「何だ上司に向かってその口の聞き方は!?」
 ビッスムは手に持つ杖に魔力を凝縮させ、雷撃の魔法を放った。
 青白い稲妻がギャントとカッカイに直撃する。
「グワーッ!」
「アバーッ!」
 悲鳴を上げて二人は倒れ、ぴくりとも動かなくなった。倒れた二人から血と小便が混ざった水たまりがじわじわと広がっていく。
「ああああっ!」
 怒りに任せビッスムは二人の頭を幾度か蹴り飛ばし、二人を放置してさっさとその場を去っていった。
 そして、ウィーナの屋敷に帰還した後、部下の八人は自分を裏切り、敵に恐れをなして逃亡したと報告した。
 それで構わないのだ。なぜなら八人とももうこの世に存在しないから、本当のことを言う者がいないからだ。唯一の生存者であるビッスムの報告が真実となる。






  番外編「初雪」






「テメェ! ごめんなさいはどうしたごめんなさいはああああっ!?」
 ウィーナの屋敷の中庭で白昼堂々怒鳴り声が轟く。
 ローブに身をまとい杖を携えた男、ビッスムが血走った目で平従者・イネンの胸倉をつかんでいる。その目は怒りで燃え、煮え滾っていた。
 イネンは猫型の獣人タイプの平従者だ。ちなみにビッスムもイネンも幹部従者・ユノの隊の所属である。
「ご、ご……」
 言いかけたイネンの二つの鼻の穴に、ビッスムは自分の人差し指と中指を力いっぱい突っ込んだ。
「ギャアアア!」
 悲鳴を上げるイネン。構わずビッスムは鼻の穴に突っ込んだ指先から雷属性の攻撃魔法「サンダーボルト」を唱え、鼻の穴から激しい雷撃を放った。
「ギャアアア!」
 鼻の穴から体内に電撃が走る。体中からバチバチと火花を放ち、地面に膝を突き、上半身をうずくまらせて、小便を漏らしながら痙攣する。
 ビッスムは自分の人差し指と中指がイネンの鼻水で湿っているのを見て、更に激昂した。
「貴様あああああっ! あああああっ!」
 ビッスムは意識を失っているイネンの頭部や脇腹を何度も何度も蹴る。力加減が全く感じられない。
 イネンはゴロリと仰向けになり、ゴボゴボと喉に血が詰まったような、聞いたものを不安げにさせるような咳をする。
「ビッスム殿! おやめ下さい!」
「本当に死んでしまいます!」
 中核従者のリーガとダムダが悲鳴のような忠告を出すが、ビッスムは「こんなクズ死ぬべきだ!」と言って自らの右手に魔力で形成された炎を纏わせ、小便に濡れたイネンの股間部を炙ろうとする。
「ビッスム殿!」
「ビッスム殿! 何があったんです!?」
 リーガとダムダが二人がかりでビッスムを取り押さえる。二人は腕力逞しい屈強な戦士だ。身体能力で劣る魔術士のビッスムは抵抗できない。
「放せ! 何考えてんだお前ら!? 誰に向かって!」
 ビッスムが暴れようとするが、リーガとダムダが必死に彼を制止する。
「これまずいッスよ!」
 リーガがビッスムの腕をつかみながら言う。
「はぁ!? 誰向かって口聞いてんだ!? 人に暴力振るいやがって! 警察呼ぶぞ!」
「ちょっと落ち着きましょ! まずは!」
「一体何があったんですか!?」
「痛い痛い痛い! 警察呼ぶぞウィーナ様に言うぞ!」
 ビッスムは全身から激しい電撃を放射した。
「ギャアー!」
「グワーッ!」
 感電して倒れるダムダとリーガ。
「何が落ちつけだふざけんな! 人に暴力振るうの棚に上げて! 殺すぞボケ!」
 ビッスムはダムダの背中をガシガシと踏みつけた。
「やめなさい!」
 更に現れた一人の人物。ジョブゼ隊の管轄従者、女騎士エルザベルナ。長髪をマントのようになびかせ、ビッスムに刺すような視線を向ける。
「あ゛ぁ!? 誰だお前!? どうやってここが分かった!?」
 ビッスムもエルザベルナに対抗して血走った目を向けた。
「ジョブゼ隊のエルザベルナよ。一体この騒ぎは何?」
「関係ねぇだろ。何様のつもりだ!? ウィーナ様に言うぞ!」
 ビッスムがウィーナの威光を笠に着てエルザベルナを威圧するが、彼女は毛ほども動じない。
「ウィーナ様の従者なのはイネンだって彼らだって同じでしょ? どうしてこんなことができるの?」
 エルザベルナが倒れる三人に目を遣りながら問いかける。
「俺は何もしてない。何も知らない」
 一切悪びれもせず、当然のように言うビッスム。本気でそう思っているとしか思えない態度だ。
「彼らの手当を」
 エルザベルナが指示を出すと、同じジョブゼ隊の部下達がかけつけ、倒れる三人を運びだそうとする。
「おい勝手なことすんな! 誰の指示でやってんだ!? こいつらよってたかって俺に暴力振るったんだ。俺が被害者なんだぞ!?」
 食ってかかるビッスム。
 どういう事情があったのかは知らないが、エルザベルナはビッスムの言うことを全く信用できなかった。
 彼の普段の言動の90%は嘘であり、残りの10%は大げさに話すか極端に矮小化して話すかだ。酷いときだと一つのセリフの中に限定しても矛盾が生じたりする。
 信用できないと言うよりは、ビッスムと会話することそのものが多大な徒労なので、信じる信じないの判断すらシャットアウトし、騒音として聞き流すしかないというのが実情だ。
 ワルキュリア・カンパニーは戦闘能力至上主義の職場だ。強さだけを評価の基準にすると、こういう人格の者でも管轄従者にまで昇りつめる。
 しかし。
「黙りなさい。あなたに人の上に立つ資格はないわ」
 あえてエルザベルナが厳しく言い放った。
「黙れ! みんなでよってたかって俺のことを悪者にしやがって! 俺を否定する奴は誰であろうと許さん!」
 ビッスムがわめき散らしながら杖をエルザベルナに向ける。杖の先端に青白い魔力が集中し始める。
 エルザベルナはその瞬間、ビッスムの懐に入り込み、彼を背負い投げした。
 宙に浮き上がり地面に叩きつけられるビッスム。
「うわあああん! 痛い! 痛い! 痛いよおおおっ!」
 全身に電流を纏い、赤ん坊のようにジタバタしながら泣きわめくビッスム。その姿はみっともないを通り越して、成人男性の肉体と行動の幼稚さの不釣り合いは、見る者によっては恐怖すら感じさせるであろう。
「何の騒ぎだ」
 そのとき、涼し気な声色の女性の声が聞こえた。エルザベルナが振り向くと、そこにウィーナが立っていた。
「ウィーナ様……」
 エルザベルナが思わずウィーナの名を漏らす。
「ウィーナ様! これは誤解です! 完全に誤解です! 違うんです! 落ち着いて下さい! これは完全に違うんです! こいつらの言ってることは全部嘘です!」
 ビッスムはすぐに立ち上がり、ウィーナに向かって必死に、かつ攻撃的にまくし立てた。
「話は中でゆっくり聞こう。エルザ、すまないな」
「いえ」
 ウィーナは有無を言わさずビッスムの腕をつかみ、屋敷の中へ連行していった。
「うわああああん! こんなのおかしい! これ絶対はめられてます! みんなして私をはめようとしているんです! 信じて下さい!」
 ビッスムが再び泣き叫ぶが、ウィーナは構わずビッスムを連れていってしまった。
 エルザベルナは医務室へ運ばれていくイネン、ダムダ、リーガの様子を見て溜息した。


 
 この日、任務はなかったが、エルザベルナは隊長である幹部従者・ジョブゼに呼ばれていた。
 ウィーナの屋敷の応接室で対面する二人。
「ビッスムを止めたそうじゃないか。ご苦労だったな」
「いえ。大したことでは」
 ジョブゼ曰く、先程の騒動のきっかけは『イネンが「同じ」を「おんなじ」と発音したのが、ビッスムの気に食わなかった』という、聞いていて眩暈がするような内容だった。
 冷静に考えるとむしろ眩暈が強くなり、謎の徒労感が押し寄せるので、エルザベルナは考えることをやめた。
「ビッスムは今さっきウィーナ様が警察隊に引き渡してきた」
「そうですか」
 エルザベルナは何も意外に感じず答えた。ビッスムは今までも似たようなトラブルを繰り返しており、遅かれ早かれこのようなことになるだろうと思っていた。
「多分、ウィーナ様も厳しい処分を出す。ユノも何らかの責任は取らされるだろう。だがお前は気にしないでいい」
「ご心配なく。全く気にしていません」
 エルザベルナは眉一つ動かさず答えた。
 ビッスムなどいない方がこの組織のためになる。彼女はそう思っていた。
「そうか。じゃあ本題に入る」
「はい」
「……実はな、お前を幹部に推薦しようと思うんだが」
 前置きもほどほどに、ジョブゼが改まった口調で言った。
 彼が着る真っ白なランニングシャツは、その内側の筋骨隆々の胸板がありありと浮き出ていて、その前ではたくましい灰色の腕が組まれている。
「私が……ですか?」
 エルザベルナが一呼吸おいて言う。
「どう思う?」
 ジョブゼがニッと悪人面を綻ばせた。
「どうと……言われましても……。私でよろしいのでしょうか?」
 彼女としては、今、目の前にいるジョブゼや、その他の幹部従者に自分が連なるというイメージが沸かなかった。
 管轄従者に昇格してまだ日も浅く、エルザベルナはまだそこまで自己評価を上げてはいなかった。
「マネジメントライデンの連中の分析だと、今、組織が儲からなくなってきているって話だ」
「だと思います」
 エルザベルナがうなずく。ジョブゼの隊はロシーボ隊と並んで特に採算性が悪い。それだけ割に合わぬ仕事を引き受けているということなのだが。
「だから隊を増やして、その分依頼を多く受けるようにする。それでウィーナ様は新しい幹部従者は女がいいと仰ってる」
「はい」
「そこで、誰を昇格させるかって話になったとき、俺がお前のことを言った」
 ジョブゼが組んだ腕を解き、片腕をテーブルの上に預け、やや前のめりになった。
 エルザベルナは真っ直ぐに背筋を伸ばし、凜乎たる態度を崩さない。
「なぜウィーナ様は女がいいと?」
 エルザベルナが問う。
「男共が不甲斐ないからだそうだ」
「ジョブゼ殿は、私が女だから、私を推薦したのですか?」
 悪気なく問うエルザベルナ。
「いや、違う。ウィーナ様は以前からお前の指揮や隊を運営する能力を評価してた」
 ジョブゼが再び先程のような笑顔を見せた。
 エルザベルナが配属されてきた頃のジョブゼ隊は、強い者が弱い者を従える戦闘能力至上主義を地で行く気風だった。
 もちろん、ワルキュリア・カンパニーがそういう組織である以上、ロシーボ隊を除いたどの隊も多かれ少なかれそうなのだ。
 だがジョブゼ隊は特にその傾向が強かった。隊と言うよりは野獣の群れと言ってよい。
 個々のフィジカルな強さ、あるいは魔力的な強さに依拠しきった、戦略も後方支援もない、野放図な運営であった。
 それを変える取り組みをしていたのが、すでに死んでいる管轄従者のエンダカであったり、その役割を引き継いだエルザベルナであった。
 実際、エルザベルナのマネージメントにより、ジョブゼ隊は大きく変わった。
 予算の取りつけ、隊の編成の見直し、報・連・相の不備が発生しやすかった指揮系統の再構築、戦闘員の戦闘スキルの調査、個々の能力を補完できる効果的なパーティー(小隊)編成、個人個人に見合ったスキルの伸ばし方、任務失敗時の徹底した原因調査・反省、回復魔法の教育、無謀な任務の拒否による人命損失の低減、偏ったスケジュールの見直し、ウィーナから問題児ばかり押し付けられるのを何とかするよう隊長のジョブゼに要請、果ては隊員の男女関係のもつれの仲裁。
 エルザベルナがこの組織に来る前にいた、冥王軍のエリート部隊である近衛騎兵隊では当たり前に行われていたあらゆる事が、ジョブゼ隊はできていなかった。あるいはやっていても、やり方が間違っていたり効果がさほど上がっていなかったり、やった後の点検を怠ったりしていた。
 ただ、エルザベルナがその手腕を存分に振るい、隊を改革できたのも、隊長であるジョブゼの後ろ盾があったからだ。
 もしジョブゼがエルザベルナを後押ししなかったら、エルザベルナの取り組みに隊員達は従わなかったであろう。それは彼女も重々承知していた。
「そう言って頂けるのは嬉しいですが。正直、私には力不足だと……」
 エルザベルナは少しばかり視線を落とした。
 この組織は戦闘能力至上主義。
 戦いの強いものが上に昇る。
 そうでなければ一癖も二癖もある猛者達をまとめ上げることなどできない。
 今、彼女の目の前に座る上司など、正に戦闘能力至上主義を体現するような人物だ。
 そんなワルキュリア・カンパニーで、指揮官としての能力で幹部従者に推されるというのはあまり聞かない。
「心配するな。俺達でフォローする」
「……ただ、幹部従者になってしまうと、権限は大きくなりますが、ウィーナ様のお側で働くことができません」
 エルザベルナは、幹部従者になって隊を任されるよりは、ウィーナ直属の部隊へ配属されることを望んでいた。
 例えば、ファウファーレは管轄従者だが、この前ウィーナの秘書官に任命された。幹部になって隊長になってしまえば、地位相応の役割、貢献を求められ、このようなチャンスはなくなる。
 このジョブゼ隊で実績を作り、今の管轄従者のまま、ウィーナの隊に行くのが彼女の希望するルートだった。
「お前はウィーナ様の隊に行きたいのか?」
「はい。私を推薦されるのでしたら、幹部よりはウィーナ様の隊を希望します。可能であれば、小隊の部下達と共に」
 エルザベルナは、ためらうことなくハッキリと自分の意思を表明した。
 彼女の直属の部下であるライラ、エイリア、エレーナとの連係・信頼関係はこれ以上ないレベルに高めてある。
 できればこれからも彼女達と共に戦っていきたい。
「いや、今回は新しく隊を編成するって方針だからなぁ……」
 ジョブゼは再び腕を組んで、考えるようなそぶりを見せた。
「ジョブゼ殿は私をどう見ているのですか? 幹部になれるだけの戦闘力があるとお思いですか?」
「ああ、思ってる」
 即答するジョブゼ。
「でもまだ、ジョブゼ殿には遠く及びません」
「闘う力に限って言えばそうだが、他のあらゆる能力を合わせるとお前の方が優秀だ。俺なんかより。俺は闘うことしかできん。これからの組織にはお前のような人材が必要なんだ」
「ジョブゼ殿は戦闘能力至上主義をどう見ます?」
 エルザベルナの問いに、ジョブゼは若干の間を作り、口を開いた。
「俺は今の方が居心地がいい。だが、最近はそれじゃ厳しくなってきた。昔はよかったんだが」
「組織が大きくなって、それだと問題が出てきていると?」
「そうだ」
 エルザベルナはユノ隊やロシーボ隊、そしてレンチョーの隊のことを想起した。
 ロシーボは戦闘能力が低いが、『科学』という他の者にはない技量を保有しているため、幹部の地位にいる。しかし、隊を運営する資質に欠ける彼をサポートするために、シュドーケンを始めとした優秀な管轄従者・中核従者を回している。
 ユノに関しても、彼個人の戦闘力は抜群だが、コミュニケーション能力はロシーボ以下だし、意味不明な言動も多い。そのうえ、ビッスムのような人物が野放しになっている。ユノはそれに対して何ら対策を取っていない。
 レンチョー隊に関しては、成果と利益を上げることは目覚ましいが、その分隊員を酷使し過ぎている。レンチョーのやり方に疑問を持つ声も多く出ている。
 それぞれの隊長の人格で、隊の性格もかなり色濃く分かれることになっている現状は、戦闘能力至上主義の生んだひずみだろう。
 そんな中で、エルザベルナがジョブゼ隊に留まっていたのは、この愚連隊のような隊の中で、『強き者が弱き者を守る』という精神だけは徹底されていたからだ。中核従者が平従者を、管轄従者が中核従者を盾にすることなど許されない。
 エルザベルナはこのジョブゼ隊に、腐敗した近衛騎兵隊が失っていた騎士道精神を見出していたのだった。だから彼女はこの隊の持つ良い部分を残しながら、問題点を改善しようと動き出したのだ。
「……せっかくですが、やはり私は幹部になるよりは、ウィーナ様の下に就くか、ここで留まりたいです」
「ただ、来期のところでお前の異動自体は決まりそうなんだ。どこへ移るかは別として」
 ジョブゼが渋い顔で言う。
「そうですか。それでは、そのつもりでいます」
 エルザベルナは答え、「ただ……」と続けた。
「ん?」
「レンチョー殿が私を引き抜こうとしているって噂を聞いたんですが」
 それを聞いたジョブゼが目を少し見開き、凄まじく筋肉の分厚い胸板を震わせた。
「何でそれ知ってんだよ。まだ俺達幹部しか知らんはずなのに」
 エルザベルナは顎に手を当て、微笑してみせた。女の友情ということで、普段から仲の良いファウファーレから聞いたのだ。当然、彼女はウィーナの秘書だけあって内情を色々と知っている。
 彼女はレンチョー隊への異動は嫌だった。当然、あの男の下に就くのが嫌だからである。何とか回避したいと思っていた。
 それに、レンチョー隊の中で強い発言力を持つサクラーシャともあまり反りが合わなかった。
「まぁいい。その件はな、どうせお前は嫌がるだろうからと思って断っといた」
「え?」
「俺がレンチョーとサシで話してそうなった。仮に他へ異動するにしても、レンチョー隊に行くルートはない。他の幹部連中もウィーナ様もその認識だ」
「あ、ありがとうございます」
 エルザベルナは安堵に胸を撫で下ろした。どうやってレンチョーからの引き抜きを回避しようか、水面下での立ち回りを思案していたところだったのだ。
 ジョブゼの表情は少し笑いで綻んでいた。『しょうがねえな』とでも言いたげな笑顔。
 こういうとき、このジョブゼという男は異様なまでに頼りになる。エルザベルナが行おうとした改革に関しても、当初は環境の変化を嫌って反発していた同僚も、ジョブゼの一言で彼女に協力するようになった。
「お前の隊の改革、上の方でも話題になってる。一定の信頼を得てるから、お前の希望通りにしてもいいんじゃないかって話になってる。例えば、あのビッスムが同じ希望を出したとして、俺達が叶える気になると思うか?」
「それは分かります」
「だろ?」
「ええ」
 わずかに間を置いて、ジョブゼは咳払いをした。
「まあ、お前の希望は分かった。ウィーナ様には伝えとく」
「ありがとうございます」
 滑らかな所作で一礼するエルザベルナ。
「だが、希望通りになるとは限らんぞ。レンチョー隊に行くことはないが」
「承知してます」
「じゃあ、そういうことだ。悪かったな非番のとき呼び出して」
 ジョブゼがいそいそと席を立とうとする。
「ジョブゼ殿、一ついいですか?」
「ああ?」
 呼び止めに反応し、一旦腰を下ろすジョブゼ。
「来期に私が動くとして、その後、私の役目を引き継ぐ者はいますか?」
 エルザベルナは言った。自分が隊を離れると、この隊は自分が来る前の状態に戻ってしまうのではないかという懸念があった。
「ああー……」
 ジョブゼが渋い顔をして頭を掻く。
 彼の頭の中には、死んだエンダカがエルザベルナと同じ取り組みに当たっていた際、上手くサポートしてやれなかった負い目があるだろうとエルザベルナは分析していた。
「正直、私がここでしてきたことを無にしたくはありません」
 そこは自信を持って、毅然と言った。
「分かった。考えとく」
 ジョブゼが言った。
「来期のところだとしたら、あまり時間がありません」
「そうだな……」
 ジョブゼがぽつりと言って、席を立った。エルザベルナもそれに続く。
 ジョブゼは『考えとく』と言ったが、実はエルザベルナは自分が隊を離れた場合、自分の後を継ぐ者の候補までとっくに考えていた。

 ジョブゼとの面談の数日後、ビッスムがワルキュリア・カンパニーを追放されたことを聞かされた。
 未だ官憲に拘留されている最中での処分だった。隊長であるユノは監督責任を問われたが、減給処分を下されただけに過ぎなかった。
 平従者のイネンはこれをきっかけにワルキュリア・カンパニーを退職した。

 数か月の後、エルザベルナは直属の部下であるライラ、エイリア、エレーナと共に、ウィーナ隊に異動となった。
 ジョブゼはエルザベルナの敷いた体制を継続させるべく、隊全体にその意識を持たせようと尽力している。
「あなたが来てからジョブゼ殿も少し変わったみたいだって、ウィーナ様が言ってたわ」とは、ファウファーレの言である。



 王都の大通りを、ピンク色の艶やかな長髪をなびかせ歩く女騎士・エルザベルナ――。
 それを路地の影から付け狙う、一人の青い髪の男。
 ボロボロのローブを身に纏い、頬はこけ落ち、落ちくぼんだ目ばかりがギラギラと、猜疑と怒りによって病的に光っている。
「お前さえいなければ……、お前さえいなければ……」
 組織を追放処分となったビッスムは、拘留期限を終えて釈放されて以降、ずっとエルザベルナをつけ狙っていた。
 そしてビッスムは、この瞬間を好機とし、エルザベルナの背後から雷撃魔法を放とうと密かに杖を構えた。先端に魔力が集中する。
「おい! ビッスム!」
 背後から名前を呼ばれた。
 詠唱を中断して振り向くと、フードに身を包んだ人物が三人。
 すると大通り側からも、同じくフードを深く被った人物が二人。
「あ゛ぁ!?」
 ビッスムが自分を囲む連中を見回す。
 彼らは鞘から剣を抜いて、ビッスムを取り囲んだ。
「ヒッ……、な、何だ!? 人違いじゃないか?」
 怯えるビッスム。
 他人から恨みを買うような覚えは全くない。心当たりがない。
 すぐさま走り出し、大通りへ逃げようとしたが二人に遮られる。
「がぁっ!?」
 すぐさま激痛が走る。背後の一人に背中を斬られたのだ。地面に倒れ込むビッスム。
「な、何を……」
 囲む五人の内、フードからわずかに覗かせた顔。一人は青い肌に大きな一つ目を持った男、もう一人は猫型の獣人。
 どこかで見たような気がするが、全く記憶にない。
「や、やめろ……」
 自分が狙われる理由も理解できないまま、命乞いの言葉をしぼり出すビッスム。
 五人は当然の如く耳を貸さない。ふと、裏路地に白く冷たい粉がちらほらと降り注ぎ始めた。五人のフードや流れ出るビッスムの血に白い点を作っていく。血に被さった白い点はたちまちの内に血だまりに溶融して、ただの赤に戻る。
「初雪だな……」
 猫の獣人が言いながら剣を構え、一切の情け容赦なく、ビッスムの喉を突き刺した。
「がはっ!」
 自分の喉から伸びる雪の乗った刀身が、ビッスムが人生で見た最後の景色となった。



「初雪……」
 大勢の人が行き交う大通りに雪が降り注ぎ、エルザベルナはふと足を止めた。
 先程から自分をつけ狙っていた殺気は、雪が覆い被さったかのように消えていた――。


<終>
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.171 )
   
日時: 2019/05/13 02:09
名前: 伊達サクット ID:MzNRgmr2

番外編「逆襲のレンチョー」6
 
 ウィーナの屋敷の別館、ワルキュリア・カンパニーの戦闘員事務所。
 仮眠室のベッドに横たわるロシーボは、相変わらず熱に浮かされていた。
 トド系統の獣人タイプ・ラトーレが非常に口臭のきついアイスブレスで冷やし続けるが、ロシーボは苦しそうな顔でうなされるばかりであった。
 その様子を見ていたミナピーは、思い立ってラトーレに切り出した。
「ラトーレ」
「ン?」
「ロシーボ殿が辛そうなの、あなたの息が良くなんじゃないの?」
 ミナピーがラトーレの顔色を伺う。彼はきょとんとした顔をしている。
「何でマドマギ?」
「その、熱があるとはいえ、あまり冷やしすぎるのは逆に良くないのかも。無理やり冷やしても」
 ミナピーは口臭のことは言及せず、他の理由を述べた。
「なるほど……。じゃあ、アイスブレスはやめて、普通の息にするけもフレ」
「えっ?」
 ミナピーが聞き返すが、ラトーレは構わず、ロシーボの顔面に普通の吐息を吐きかけた。これではただ臭い息を吐きかけているだけだ。
「ウィーナ様……ウィーナ様ぁ……」
 更にうなされるロシーボ。
「ラトーレ、それじゃ意味ないわ!」
 慌ててミナピーが言う。するとラトーレは「確かに」と言ってようやく息を吐きかけるのをやめた。
「ロシーボの調子はどうだ?」
 背後から透き通った女性の声。
 二人が顔を向けると、そこには組織の長であるウィーナが立っていた。
 ロシーボが倒れる原因となった、腹部を露出したタイプの鎧を着ており、マントは外している。
「ウィーナ様!」
 目を丸くして驚くミナピーにラトーレ。
 ウィーナは紅潮したロシーボの顔を間近にのぞき込み、彼の額に手を当てた。
「……うんこれは良くないな。お前達、後は私が代わろう」
「えっ?」
 顔を見合わせるミナピーとラトーレ。
「そもそもロシーボがこうなったのは私が原因だ。私が看病しよう」
 ウィーナのその姿が原因でロシーボは勃起して倒れた。本当にそれで良いのだろうか。
「しかし……」
 ラトーレが言いかけると、ウィーナは「いいから」と押しの強い口調で言うので、二人はその場を去るしかなかった。
 ラトーレと別れ、ミナピーがジャスティス仮面をどう探すか、リティカルに相談しに行こうと廊下を歩いていた。
 すると、前方に一人の印象的な容姿をした人物と出くわした。
 レンチョー隊の管轄従者・シュザ。蛙のような両生類タイプ。青い肌に黄色く発光するタトゥーが上半身の至る所に刻まれている。
 彼は廊下の壁によりかかって腕を組み、待ち構えていたようにこちらを見ていた。
 それだけでミナピーはぎょっとし、軽く一礼してその脇を通り過ぎようとする。
 そのとき、シュザは水かきのついた腕をミナピーの眼前まで伸ばし、脇の壁を掌で激しく叩いた。
 ビクッとして背を縮こませるミナピーを尻目に、シュザは腕でミナピーの行く手を塞いだまま、彼女を壁際に追い詰める。
「な、何でしょうか!?」
 ずれた眼鏡を直しながらミナピーが問う。
「ミナピーちゃん、いいこと教えてあげるよ」
 シュザが男ながらも妖艶な雰囲気の笑みを浮かべた。胸では両方の乳首に装着されたピアスが揺れている。
 ミナピーはその趣向を受け入れられず、顔を引きつらせた。
「はい?」
「今、冒険者ギルドにジャスティス仮面がいるよ」
 シュザの口から出た言葉に、ミナピーは驚愕した。
「それは誠でござるか?」
 思わず『素』になって聞き返すミナピー。
「ああ、本当さ。今誰かと戦ってるみたい」
「しかし、なぜそのことを拙者に?」
「ミナピーちゃん、ジャスティス仮面を追ってるんでしょ?」
「あっ……」
「ウチの隊長も会いたがっててね。君に協力するよう言われてるんだ」
 ウィーナはレンチョーに対し『好きにしろ』と伝えている。レンチョー隊はレンチョー隊で、独自にジャスティス仮面を追っているのだろうか?
「シュザ殿は冒険者ギルドに行かないのでござるか?」
 ミナピーが問う。なぜシュザは自分でジャスティス仮面を捕らえず、ミナピーにその情報を伝えるのだろうか。
「手柄は君にあげるよ。その代わり、ジャスティス仮面を捕まえたらこっちに引き渡してくれないか?」
 シュザが金髪をさらりと揺らし、ねっとりとした視線をミナピーへ向ける。
 ミナピーは唇を結び、少しだけ回答を考えた。
「……ウィーナ様は、『私刑』をせぬように仰せです。生かして官憲に引き渡すようにと」
「心配ないよ。ちょっと聞きたいことがあるだけだから。ほら、それより早く行った方がいいよ? 戦闘になるかもしれないからちゃんとリティカル殿と一緒にね」
「あ、はい」
 ミナピーはシュザに礼儀正しく一礼し、「ラトーレ! ラトーレ!」と言いながら、ばたばたと外へ飛び出した。
 しかし、ジャスティス仮面のことを追わねばならないと思いつつも。
(乳首にピアス!!! 変態でござる!!! 拙者耳にも開ける勇気ないのに! 開けるときどれぐらい痛いでござるか!? シュザ殿の彼女は乳首ピアス触り放題でござるか!?!?!?)
 シュザのピアスに大いなるショックを受け、しばらく彼の乳首のピアスのことで頭がクラクラしてしまった。
「どうしたまほいく?」
 ミナピーの呼ぶ声に駆け付けたラトーレが、怪訝な顔して問いかけた。
「え? あ? な、何でもないでござる! ちょっと加勢願いたいでござる!」
 ラトーレの口臭で現実に戻されたミナピーは、我に返り、ラトーレと共にリティカルを呼びに行った。

(やれやれ……。アホの子だねえ)
 その姿を見送ったシュザは、その美しい顔立ちを、人の悪そうな笑みで歪ませた。
 そして、誰もいなくなった後。
 彼自身も事務所から出て、黄金の翼を羽ばたかせ、冥界の空へと飛び立っていった。

(続く)
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
パスワード (記事メンテ時に使用)
コメント

   クッキー保存