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[2146] やるせなき脱力神【完結】
   
日時: 2019/09/08 11:40
名前: 伊達サクット◆9RYPI.pfjY ID:7DbRrX7k

 

やるせなき脱力神


◆目次◆

 登場人物紹介

 主要人物・味方レギュラー >>3 
 味方サブ・脇(本編) >>110   
 味方サブ・脇(番外編) >>145   
 冥王関係 >>28  
 冥界民間軍事契約組織調整委員会(冥民調/委員会)>>112
 敵サイド・民間人・モンスター・その他の敵なのか味方なのか位置付けが微妙なキャラ >>136
 Valkyrie 5(ヴァリキリーファイブ)>>172


(1)握力大魔王との再戦 >>1     (2)冥界の隙間産業 >>2

(3)失われた力 >>4         (4)大巨人の予感 >>5

(5)軟体ストレンジャー >>6     (6)勝利の女神、スライムに敗北 >>7

(7)複数対複数 >>8         (8)血まみれビキニ女 >>9

(9)唐突なアルティメット >>10    (10)人質は冥王 >>11

(11)部下爆死 >>12         (12)激怒三昧の戦場 >>13

(13)絡み合う巨体、宙を舞う生首 >>14  (14)一頭身 >>15

(15)敗走という名の前進 >>16     (16) 崩壊する職場 >>17

(17)ちっぽけな自分も顧みずに >>18 (18)呪術VS相撲 >>19

(19)呪術VS科学 >>20        (20)呪術VS知略 >>21

(21)死闘の合間 >>22        (22)リレー作戦 >>23

(23)胡散臭い爬虫類野郎 >>24    (24)血まみれの日常生活 >>25

(25)時空の生贄 >>26        (26)時に泳ぐ人魚 >>27

(27)凶行が希望を紡ぐ >>29     (28)滑りまくる雑魚ども >>30

(29)全裸は許してやった >>32    (30)私は諦めない! >>34

(31)入り乱れの総力戦 >>36     (32)部下切腹 >>37

(33)卒業一頭身 >>38  (34)己を貫け!? >>39

(35)漆黒の姫君 >>41        (36)最強最悪の刺客 >>42

(37)厚揚げ+USA=熱燗 >>43     (38) 連絡事項ですじゃ >>44

(39)ババババババババ >>45 >>46 (40) ロシーボ無双 >>51

(41)駄目だ、この話サブタイ思いつかない >>52 (42)冥界民間軍事契約組織調整委員会 >>53

(43)脳筋バングルゼ >>54      (44)黒い報酬 >>55 

(45)女狐と野郎ども >>56      (46)困憊的女神 >>57 >>58

(47)脳筋は2度死ぬ >>59      (48)S.T.A.B >>60

(49)闇を駆ける >>61        (50)哀愁メクチェート >>131

(51)導き合う者 >>132 >>64 >>65  (52)庭に狂い咲くは桜ではなく2輪のDQN >>66

(53)静寂なる狂気 >>67       (54)揺れる男、揺れない女 >>68

(55)終騎士の務め >>69       (56)流血の果て >>70

(57)憎しみの爆発 >>71 >>72    (58)リレー作戦完遂! >>73

(59)インフィニット・インフィニター >>76 (60)諸行無常 >>77

(61)首コキャ大納言 >>78      (62)下着姿の出陣 >>79

(63)女神とケダモノ >>80      (64)一矢の賭け >>81

(65)ウィーナ死す >>88       (66)餓狼の足音 >>89

(67)何を償い、誰に償う >>90    (68)量産化計画 >>91

(69)仲間か手駒か取引か >>93    (70)追跡 >>95

(71) 攻守逆転! >>96 >>97     (72)期を待つ時 >>98

(73)アメリカーン・ドリーム >>101 >>102 (74)小物達の黄昏 >>104

(75)剣が奏でる嘆きの調べ >>107   (76)誰が為に >>111

(77)夢の騎士 >>113         (78)うんざりする対神抑止兵器 >>114

(79)雑魚共と空中戦 >>115      (80)恐怖! 死を呼ぶ変態3兄弟! >>116

(81)戦場の専売特許 >>117      (82)ラスト開始 >>118

(83)ウィーナ様のために >>119    (84)トイレ掃除用のバケツは決戦の場を映す >>120

(85)フルアーマーウィーナ >>121   (86)破壊装置―妹― >>122

(87)広がる波紋 >>123        (88)破理の指輪・青信号 >>124

(89)破理の指輪・黄信号 >>125    (90)破理の指輪・赤信号 >>126

(91)勝利の女神に勝利あれ >>127   (92)ファイナルアタック >>128

(93)天界の神々 >>129        (94)天界神と冥王の対峙 >>130

(95)生き返すとか絶対NG >>133    (96)死ななかった戦士達 >>134

(最終話)やるせなき脱力神 >>135

(番外編)「女神の罪状」  前編 >>74  後編 >>75
       「刺客」 >>82 >>83
      「おねだり」 >>84 >>85 >>86 >>87
     「新人教育」(途中) >>92 >>94 >>105 >>106
     「パンの注文」 >>99 >>100
     「間者の歩む道」 >>103 >>109 >>138
     「恋愛モノ習作」 >>108 >>143 >>157
     「理想研究所」(途中) >>137 >>144
     「Valkyrie5」>>139 >>140 >>141
     「甘い破滅」>>142
     「ジョブゼお宅訪問」>>146 >>147
     「副社長編」(途中)>>148 >>149 >>150 >>151
     「死闘など華麗なるまい」>>152
     「光の三原色」>>153
     「ロシーボ隊 断片集」>>154
     「副社長編 エピソード0」>>155
     「男女友情モノ習作」(途中)>>156
     「逆襲のレンチョー」(途中)>>158 >>159 >>160 >>161 >>164 >>171 >>173
     「断片集2018-1」>>162
     「戦闘員が学問などと」>>163
     「武神」>>165
     「聞こえる」>>166
     「春風」>>167
     「熱帯夜」>>168
     「紅葉」>>169
     「初雪」>>170


(If様作・番外編)
 If様に書いて頂いたシュロンが主人公の番外編です。
 本編で敵となってウィーナに牙をむいた、シュロンの心情に切り込んで、ストーリーが進んでいきます。
 是非こちらもご覧にになって下さい!
 素晴らしい作品、ありがとうございます!

【狂信者の叛逆】

01:尊敬も崇拝も超えて


「小説家になろう」様でも連載しています

pixiv小説(内容は本編と変わりません)


◆作者コメント◆

 ついに完結しました……。
 長い時間がかかってしまいましたが、何とか終わらせることができました。こんな拙い作品にお付き合いして下さった皆様、心より感謝いたします。
 完結はしましたが、ほったらかしにしてある番外編があるので、気が向いたら更新するかもしれません。
 スレはしばらくこのままで残しておこうと思います。
 読んで下さった方々、応援して下さった方々、本当にありがとうございました。

◆ブログ◆
 stand shot
 小説に関する裏話等を書いていきます


<イラスト>
 左……ウィーナ(有料イラストサイト『skima』にて漉粋鹿様に依頼) 
 中……ローリエ(有料イラストサイト『skima』にて漉粋鹿様に依頼)
 右……エルザベルナ(有料イラストサイト『skima』にて狗影彰様に依頼)

天上より降臨せし勝利の女神 更に地の底へ
死者が集う冥界にて かつての女神は其の使徒共を率いる
人はウィーナと呼んだ 敗北の定めに嘆く魂を、永遠の呪縛から解き放つ者也――
メンテ

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Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.169 )
   
日時: 2019/03/03 18:56
名前: 伊達サクット ID:dJ5FGaG2

番外編「紅葉」

「皆の衆! ダオル副社長より指令! 特別任務発生せり! 我こそはと思うユノ隊の戦闘員は直ちに副社長とユノ隊長のいる第二密談室へはせ参じよ! 繰り返す! 副社長より特別任務が――」



 ウィーナの屋敷・第二密談室――。

「我が組織は支払いが遅れている。早くこの金をカタクリコンクリートさんに支払わねば大変なことになる!」
 ダオル副社長が言う。
「そうです。我が組織は支払いが遅れているです。早くこの金をカタクリコンクリートさんに支払わねば大変なことになるです!」
 幹部従者・ユノも言う。
「こいつらの中で腕利きでフットワーク軽い奴はいるか!? この仕事を任せるに値する奴は!?」
 ダオルが集まった戦闘員達を見回しながらユノに問う。
「ならば我がユノ隊最強の戦士! スーパー平従者ウマイバーにお任せを! 彼なら必ずや任務を達成するです!」
 ユノがウマイバーを見て不敵な笑みを浮かべる。
「よおし! 行けえいウマイバーよカタクリコンクリートさんの下へ!」
「行くですウマイバー君! カタクリコンクリートさんにお金払ってくるです!」
 ダオルとユノがウマイバーに命じた。
「承知したああああああっ!」
 ウマイバーは体のありとあらゆるところに金貨を担いで屋敷を飛び出した。その額、総計50万G(ギールド)。



「金の臭いがする!」
 ウィーナの屋敷を出た途端、金の臭いにつられた街の浮浪者がウマイバーにつかみかかる。
「うおおおお!」
 ウマイバーは力任せに浮浪者を放り投げ、壁に叩きつけた。
「ぶけえっ!」
 倒れ込む浮浪者。
「ヒャッホー! 金だ金だああああっ!」
 今度は重度の金マニアがどこからともなく寄ってきてウマイバーに襲いかかる。
「どけえっ!」
 ウマイバーは金マニアを殴り飛ばす!」
「ふははははは! まだまだああああっ!」
 ひるまぬ金マニア。
「だあああっ!」
 もう一発ウマイバーは金マニアを殴り飛ばす。
「あべべ!」
 金マニアを倒した。
 大量の金貨を担いでカタクリコンクリートの屋敷へ走るウマイバー。
「金を寄こせ! その金を寄こせええええっ!」
「その金は俺の者だ! 貴様のようなうまい棒の出来損ないが金を持つ資格などないわ!」
「金の臭いがする! 金の臭いがするぞおおおお! ぎゃんがぎゃんがああああ!」
 金の気配を感じ取った金の亡者達が一斉にウマイバーに踊りかかる。
「ぎゃああああああ!」
 悲鳴を上げるウマイバー。
 あっという間に金の亡者達に金貨を奪われる。
 ウマイバーはたまらず全速力で走って逃げる。これで10万Gほど金貨がなくなったと思われる。
「待てえええええ!」
 金の亡者達はどんどん増えていきウマイバーを追ってくるが、何とか物陰に隠れてやり過ごした。
 ウマイバーは人通りの少ない路地裏を進む。
「いらっしゃい! ここは武器の店だよ! どんな用だい!」
 突如として立ち塞がった武器屋。武器屋はウマイバーの首を両手で絞める。
「買いにきた! 売りにきた! やめる!」
 そう言いながら激しく首を絞めつけてくる武器屋。
「うぐぐぐ……」
 息が止まりウマイバーの意識が遠のく。
「待てえええええい!」
 突如防具屋が乱入。
 武器屋にドロップキックを入れる。
「うげえっ!」
 吹き飛ぶ武器屋。咳き込むウマイバー。
「ここは防具の店だぜ! どんな用やねん! 買いにきた! 売りにきた! やめる!」
 ウマイバーの金袋に抱きつく防具屋。
「ふざけんな! 渡すかあああ!」
 金袋を死守するウマイバー。
「ぐおおおお!」
 鉄球で思いっきり防具屋の頭を打ち付ける武器屋。
「うげっぴ!」
「死ね! 死ね! 死ね!」
 武器屋は鉄球で防具屋の頭を何度も何度も殴りつける。
 防具屋は頭から激しく血を流して動かなくなっていた。死んでいた。
「死んだ。死んだ」
 ウマイバーが言う。
「ヒ、ヒイイイィィィィ!」
 死んだ防具屋の死体を見て怯える武器屋。
「お前が金を渡さないからこんなことになったんだ! 俺に金を寄こせえええええ!」
「うるせえええええ!」
 ウマイバーは武器屋にタックルをして彼を吹き飛ばした。
 その瞬間、目にもとまらぬスピードで俊足の泥棒が三人、三方向から現れ、ウマイバーが身に着けている金袋をあっという間にごっそりと奪っていった。
「ああっ……!」
 慌てて泥棒達の逃げた方を振り向いたが、彼らは忽然と消えていた。
「私は旅の油売りです。こんなところで油売ってます」
 油売りが現れた。彼の周りには油の入った樽が沢山置かれている。
「うああああああ! あああぎゃあああああ!」
 先程吹き飛ばされた武器屋が全身に油を被り、自らに火をつけた。
「ファイヤアアアアアア! ここは武器の店だおォォォォ! 買にきた! どれにしますか! 油1G! 油1G! 油1G!」
 全身火だるまになり奇声を上げる武器屋。
 油屋も巻き込まれ火だるまになる。周りの民家を巻き込み辺り一面火の海となる。
「手を抜くからそういうことになるザマス!」
 PTAの人がクレームを入れたがすぐ火だるまになって「ザアアアマスウウウウ!」と言って焼け死んだ。
「馬鹿共がみんな焼け死んでしまえ!」
 ウマイバーは捨て台詞を吐いてその場を後にした。泥棒に金貨を随分持っていかれた。残り25万G程しかないが、おかげで身のこなしは軽くなる。
「待ちなさい旅のお方! 我が教会に何のご用ですかな?」
 突如ウマイバーの行く手に立ち塞がる神父。
「何だ貴様は! 貴様も俺の邪魔をするのか! うぐぐぐ〜!」
 ウマイバーが歯を食いしばる。
「え!? 何!? このお金を我が教会に寄付したいですと! さすれば寄付しなさい!」
 神父が高くジャンプしてウマイバーに踊りかかる。回避するウマイバー。
「寄付しろと言ったあああああ! 金は人の心を欲にまみれさせ狂わせる! この私に預けなさいいいい!」
「寄付するなんて一言も言ってない!」
「貴様は言ったんだよおおおお!」
「うるせええええ!」
 神父を思いっきりウマイバー蹴り飛ばす。
「馬鹿なあああああああ! 神はなぜこんな理不尽をぉぉぉ……!」
 神父は鼻血を噴出させぶっ倒れ、ヒクヒクと痙攣した。
 そのとき地面が盛り上がり、地中から巨大なカニのモンスターが現れた。
「我が名はビッグモンス・クラブカニ五郎! その金このワシが頂くぞええええ!」
 クラブカニ五郎が巨大なハサミを振り回してウマイバーを威嚇する。
「さっきからうるせぞテメェーら!」
「おんどりゃああ!」
 騒ぎを聞きつけたヤクザ系ギルドの怖いお兄さん達が大量に現れ、クラブカニ五郎に殴りかかる。
「何だテメェーふざけんじゃねえぞオラァ!」
 ヤクザ系ギルドの連中がウマイバーにも襲いかかり、彼の金をひっぺがし始めた。
「やめろおおおお!」
 叫ぶウマイバー。
 必死に身に着ける金貨を守ろうとするが、ヤクザ達は容赦なくウマイバーに暴行を加える。
「ぎゃあああ!」
「テメーこの野郎こんな大金持ちやがってさてはこの俺を舐めてやがんな!」
 ヤクザ達がよってたかってウマイバーから金貨をむしり取っていく。
「死ねええええええぃ!」
 クラブカニ五郎が口から泡を放射する。その泡がウマイバーを囲うヤクザ達に覆い被さる。
「ぎゃああああああ!」
 泡を被ったヤクザ達は頭から溶解し、ドロドロに液化した末に、皆死んでいった。
「次は貴様の番ぞえええええ!」
 ウマイバーに向かって正面から突進してくるクラブカニ五郎。カニのくせに余裕で前歩きをしてくる。
「ヒーッ! また会おうぞ!」
 ウマイバーは一目散に逃走する。金を奪われ続けたおかげで逃げ足が速い。しかし残りの所持金は10万Gほどに目減りしていた。
「待ーてー!」
「待てと言われて待つバカいるか!」
 ウマイバーはクラブカニ五郎から必死に逃げるが、袋小路に来てしまう。
「でっへっへぇ〜! 追い詰めたぞえぇぇ!」
 両手のハサミを閉じたり開けたりしてこちらを威嚇するクラブカニ五郎。
「ま、待てっ! 話し合おう。3万Gやる、だから見逃してくれ!」
 ウマイバーはクラブカニ五郎に交渉を持ちかけた。
「ぶへへへへぇ〜! 貴様を殺して全部奪うに決まってんだろ〜! ばっへっへへへ!」
「そ、そんなのやだ〜!」
 泣き叫ぶウマイバー。万事休す。
「首チョンパぞえ! 死ぬぅぅぅえ!」
 クラブカニ五郎がハサミを振り上げたその瞬間、クラブカニ五郎の全身が電撃に包まれて火花を散らした。
「ぞえええええええ!」
 黒焦げになってその場に倒れるクラブカニ五郎。クラブカニ五郎の背後には、幹部従者ロシーボが銃を構えて立っていた。
「ロ、ロシーボ殿!?」
「ウマイバー! 助太刀にきた!」
「ありがとうございます!」
 ウマイバーは礼を言ったが、ロシーボは残念そうな顔をしている。
「申し訳ないけど次の予定が押しててカタクリコンクリートさんの所までは護衛できない。ここまでだ」
「いえいえ、十分です。ありがとうございます!」
「さらば!」
 ロシーボは颯爽と去っていった。



 その後、ウマイバーはカタクリコンクリートの屋敷への入場料5万Gを門番に支払い、ついにカタクリコンクリートの屋敷へとやってきた。
「ふざけんな! 足りねーじゃねーか!」
 カタクリコンクリートは手元に残った約5万Gを見て激怒した。
「す、すいません!」
 慌てて謝るウマイバー。
「すいませんじゃねーよ! 何? お前この俺を舐めてんの?」
「いえ、途中で色々あって……」
「知らねーよ。そんなのそっち都合だろうが。あと45万G一体どうするの?」
「もう一回取ってきます」
「もういいよ! 今あるだけでいい! よこせ!」
 カタクリコンクリートが手を出して言う。
「え? 残りはいいんですか?」
 ウマイバーがおずおずと尋ねる。
「いいっつってんだろボケ! その代わり二度とワルキュリア・カンパニーには関わらんからな!」
「あ、ありがとうござ……」
「いいからよこせ! さっさと!」
 カタクリコンクリートが怒ってウマイバーの言葉を遮る。
「は、はい」
 すぐさまあるだけの金を差し出すと、カタクリコンクリートはそれを舌打ちしながら乱暴に受け取った。
「あ、あの〜……、できましたら残りはもういいってことを一筆……」
「はいはい、分かってるよ! ちょっと待ってろ」
 カタクリコンクリートは残金を受け取る権利を放棄する旨の書類を乱暴に殴り書きし、「おらっ!」とウマイバーの胸元に付き突けた。慌ててウマイバーは受け取る。
「用が済んだらさっさと出てけ! クソが! ふざけんなまったく!」
「は、はい〜!」
 ウマイバーは慌ててカタクリコンクリートの屋敷を飛び出した。



 ウィーナの屋敷に帰参したウマイバー。
 経緯を報告した後、腰を下げ、揉み手をしながら上目づかいでダオルとユノに言う。
「特別任務を達成したってことで、特別ボーナスとかは……」
「そんなもんないぞ」
 ダオルが言った。
「そんなもんないです」
 ユノが言った。
「ないんかい!」

<終>
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.170 )
   
日時: 2019/08/01 01:03
名前: 伊達サクット ID:b5LMDQ.A

「おい、死ぬな! しっかりしろ!」
 ギャントが左肩に背負う戦友、リューラに対して訴えかける。
 リューラは息も絶え絶えで、まぶたを震わせ微かな息を吐くことしかできない。
「もうすぐ、もうすぐで町だ……」
 同じくリューラを右肩に背負うカッカイが自分に言い聞かせるように声を振り絞る。
 リューラを肩に背負うギャントとカッカイも、また血まみれだった。鎧は砕け剣は折れている。
 今回の悪霊は強過ぎた。彼らは管轄従者・ビッスムから最低ランクの任務だと聞かされていた。ビッスムは前もってユノから下されていた指示に反し、彼ら平従者八名だけで悪霊に向かわせた。
 しかし、遭遇した悪霊は圧倒的な強さを誇っていた。
 逃げるのがやっとで、生き残ったのはこの三人だけ。他五人はその場で死んだ。
 ビッスムが待つコノロックの町を目前にして、リューラは力尽きて死んだ。
 仕方なく、ギャントとカッカイはリューラの亡骸を野ざらしにし、コノロックへと足を引きずる。
 重傷を負って命からがらコノロックへ向かう二人。すると、町へ続く街道で青い髪のヒューマンタイプの管轄従者・ビッスムが鬼の形相で待ち構えていた。
 ビッスムは開口一番、二人に対して怒りの言葉をぶつけた。
「はぁ!? 何生きて帰ってきてんの!? お前らが死んでくれないと人員不足を理由に戦力補充をウィーナ様に申請できないだろうが! だからお前らが絶対勝てない相手に行かせたのに! 空気読めよクソが!」
「い、今、何と……」
 カッカイが呆気に取られて言う。
 ギャントは放心状態で言葉も出ない。顔の中央に大きな単眼を持つギャントはその目を更に大きく見開き、青い肌を更に青ざめさせた。
「そもそもあんな凶悪な悪霊をお前達如きに任すわけねーだろ! 常識で考えろ!」
「な、何故だ!? 何故〜っ」
 カッカイが奥歯を震わせ声をしぼり出す。ギャントが激しく咳き込む。口から血を出しながら。
「何だ上司に向かってその口の聞き方は!?」
 ビッスムは手に持つ杖に魔力を凝縮させ、雷撃の魔法を放った。
 青白い稲妻がギャントとカッカイに直撃する。
「グワーッ!」
「アバーッ!」
 悲鳴を上げて二人は倒れ、ぴくりとも動かなくなった。倒れた二人から血と小便が混ざった水たまりがじわじわと広がっていく。
「ああああっ!」
 怒りに任せビッスムは二人の頭を幾度か蹴り飛ばし、二人を放置してさっさとその場を去っていった。
 そして、ウィーナの屋敷に帰還した後、部下の八人は自分を裏切り、敵に恐れをなして逃亡したと報告した。
 それで構わないのだ。なぜなら八人とももうこの世に存在しないから、本当のことを言う者がいないからだ。唯一の生存者であるビッスムの報告が真実となる。






  番外編「初雪」






「テメェ! ごめんなさいはどうしたごめんなさいはああああっ!?」
 ウィーナの屋敷の中庭で白昼堂々怒鳴り声が轟く。
 ローブに身をまとい杖を携えた男、ビッスムが血走った目で平従者・イネンの胸倉をつかんでいる。その目は怒りで燃え、煮え滾っていた。
 イネンは猫型の獣人タイプの平従者だ。ちなみにビッスムもイネンも幹部従者・ユノの隊の所属である。
「ご、ご……」
 言いかけたイネンの二つの鼻の穴に、ビッスムは自分の人差し指と中指を力いっぱい突っ込んだ。
「ギャアアア!」
 悲鳴を上げるイネン。構わずビッスムは鼻の穴に突っ込んだ指先から雷属性の攻撃魔法「サンダーボルト」を唱え、鼻の穴から激しい雷撃を放った。
「ギャアアア!」
 鼻の穴から体内に電撃が走る。体中からバチバチと火花を放ち、地面に膝を突き、上半身をうずくまらせて、小便を漏らしながら痙攣する。
 ビッスムは自分の人差し指と中指がイネンの鼻水で湿っているのを見て、更に激昂した。
「貴様あああああっ! あああああっ!」
 ビッスムは意識を失っているイネンの頭部や脇腹を何度も何度も蹴る。力加減が全く感じられない。
 イネンはゴロリと仰向けになり、ゴボゴボと喉に血が詰まったような、聞いたものを不安げにさせるような咳をする。
「ビッスム殿! おやめ下さい!」
「本当に死んでしまいます!」
 中核従者のリーガとダムダが悲鳴のような忠告を出すが、ビッスムは「こんなクズ死ぬべきだ!」と言って自らの右手に魔力で形成された炎を纏わせ、小便に濡れたイネンの股間部を炙ろうとする。
「ビッスム殿!」
「ビッスム殿! 何があったんです!?」
 リーガとダムダが二人がかりでビッスムを取り押さえる。二人は腕力逞しい屈強な戦士だ。身体能力で劣る魔術士のビッスムは抵抗できない。
「放せ! 何考えてんだお前ら!? 誰に向かって!」
 ビッスムが暴れようとするが、リーガとダムダが必死に彼を制止する。
「これまずいッスよ!」
 リーガがビッスムの腕をつかみながら言う。
「はぁ!? 誰に向かって口利いてんだ!? 人に暴力振るいやがって! 警察呼ぶぞ!」
「ちょっと落ち着きましょ! まずは!」
「一体何があったんですか!?」
「痛い痛い痛い! 警察呼ぶぞウィーナ様に言うぞ!」
 ビッスムは全身から激しい電撃を放射した。
「ギャアー!」
「グワーッ!」
 感電して倒れるダムダとリーガ。
「何が落ちつけだふざけんな! 人に暴力振るうの棚に上げて! 殺すぞボケ!」
 ビッスムはダムダの背中をガシガシと踏みつけた。
「やめなさい!」
 更に現れた一人の人物。ジョブゼ隊の管轄従者、女騎士エルザベルナ。長髪をマントのようになびかせ、ビッスムに刺すような視線を向ける。
「あ゛ぁ!? 誰だお前!? どうやってここが分かった!?」
 ビッスムもエルザベルナに対抗して血走った目を向けた。
「ジョブゼ隊のエルザベルナよ。一体この騒ぎは何?」
「関係ねぇだろ。何様のつもりだ!? ウィーナ様に言うぞ!」
 ビッスムがウィーナの威光を笠に着てエルザベルナを威圧するが、彼女は毛ほども動じない。
「ウィーナ様の従者なのはイネンだって彼らだって同じでしょ? どうしてこんなことができるの?」
 エルザベルナが倒れる三人に目を遣りながら問いかける。
「俺は何もしてない。何も知らない」
 一切悪びれもせず、当然のように言うビッスム。本気でそう思っているとしか思えない態度だ。
「彼らの手当を」
 エルザベルナが指示を出すと、同じジョブゼ隊の部下達がかけつけ、倒れる三人を運びだそうとする。
「おい勝手なことすんな! 誰の許しを得てやってんの!? こいつらよってたかって俺に暴力振るったんだ。俺が被害者なんだぞ!?」
 食ってかかるビッスム。
 どういう事情があったのかは知らないが、エルザベルナはビッスムの言うことを全く信用できなかった。
 彼の普段の言動の90%は嘘であり、残りの10%は大げさに話すか極端に矮小化して話すかだ。酷いときだと一つのセリフの中に限定しても矛盾が生じたりする。
 信用できないと言うよりは、ビッスムと会話することそのものが多大な徒労なので、信じる信じないの判断すらシャットアウトし、騒音として聞き流すしかないというのが実情だ。
 ワルキュリア・カンパニーは戦闘能力至上主義の職場だ。強さだけを評価の基準にすると、こういう人格の者でも管轄従者にまで昇りつめる。
 しかし。
「黙りなさい。あなたに人の上に立つ資格はないわ」
 あえてエルザベルナが厳しく言い放った。
「黙れ! みんなでよってたかって俺のことを悪者にしやがって! 俺を否定する奴は誰であろうと許さん!」
 ビッスムがわめき散らしながら杖をエルザベルナに向ける。杖の先端に青白い魔力が集中し始める。
 エルザベルナはその瞬間、ビッスムの懐に入り込み、彼を背負い投げした。
 宙に浮き上がり地面に叩きつけられるビッスム。
「うわあああん! 痛い! 痛い! 痛いよおおおっ!」
 全身に電流を纏い、赤ん坊のようにジタバタしながら泣きわめくビッスム。成人男性の肉体と、行動の幼稚さの不釣り合いたるや。その姿はみっともないを通り越して、見る者によっては恐怖すら覚えるであろう。
「何の騒ぎだ」
 そのとき、涼し気な声色の女性の声が聞こえた。エルザベルナが振り向くと、そこにウィーナが立っていた。
「ウィーナ様……」
 エルザベルナが思わずウィーナの名を漏らす。
「ウィーナ様! これは誤解です! 完全に誤解です! 違うんです! 落ち着いて下さい! これは完全に違うんです! こいつらの言ってることは全部嘘です!」
 ビッスムはすぐに立ち上がり、ウィーナに向かって必死に、かつ攻撃的にまくし立てた。
「話は中でゆっくり聞こう。エルザ、すまないな」
「いえ」
 ウィーナは有無を言わさずビッスムの腕をつかみ、屋敷の中へ連行していった。
「うわああああん! こんなのおかしい! これ絶対はめられてます! みんなして私をはめようとしているんです! 信じて下さい!」
 ビッスムが再び泣き叫ぶが、ウィーナは構わずビッスムを連れていってしまった。
 エルザベルナは医務室へ運ばれていくイネン、ダムダ、リーガの様子を見て溜息した。


 
 この日、任務はなかったが、エルザベルナは隊長である幹部従者・ジョブゼに呼ばれていた。
 ウィーナの屋敷の応接室で対面する二人。
「ビッスムを止めたそうじゃないか。ご苦労だったな」
「いえ。大したことでは」
 ジョブゼ曰く、先程の騒動のきっかけは『イネンが「同じ」を「おんなじ」と発音したのが、ビッスムの気に食わなかった』という、聞いていて眩暈がするような内容だった。
 冷静に考えるとむしろ眩暈が強くなり、謎の徒労感が押し寄せるので、エルザベルナは考えることをやめた。
「ビッスムは今さっきウィーナ様が警察隊に引き渡してきた」
「そうですか」
 エルザベルナは何も意外に感じず答えた。ビッスムは今までも似たようなトラブルを繰り返しており、遅かれ早かれこのようなことになるだろうと思っていた。
「多分、ウィーナ様も厳しい処分を出す。ユノも何らかの責任は取らされるだろう。だがお前は気にしないでいい」
「ご心配なく。全く気にしていません」
 エルザベルナは眉一つ動かさず答えた。
 ビッスムなどいない方がこの組織のためになる。彼女はそう思っていた。
「そうか。じゃあ本題に入る」
「はい」
「……実はな、お前を幹部に推薦しようと思うんだが」
 前置きもほどほどに、ジョブゼが改まった口調で言った。
 彼が着る真っ白なランニングシャツは、その内側の筋骨隆々の胸板がありありと浮き出ていて、その前ではたくましい灰色の腕が組まれている。
「私が……ですか?」
 エルザベルナが一呼吸おいて言う。
「どう思う?」
 ジョブゼがニッと悪人面を綻ばせた。
「どうと……言われましても……。私でよろしいのでしょうか?」
 彼女としては、今、目の前にいるジョブゼや、その他の幹部従者に自分が連なるというイメージが沸かなかった。
 管轄従者に昇格してまだ日も浅く、エルザベルナはまだそこまで自己評価を上げてはいなかった。
「マネジメントライデンの連中の分析だと、今、組織が儲からなくなってきているって話だ」
「だと思います」
 エルザベルナがうなずく。ジョブゼの隊はロシーボ隊と並んで特に採算性が悪い。それだけ割に合わぬ仕事を引き受けているということなのだが。
「だから隊を増やして、その分依頼を多く受けるようにする。それでウィーナ様は新しい幹部従者は女がいいと仰ってる」
「はい」
「そこで、誰を昇格させるかって話になったとき、俺がお前のことを言った」
 ジョブゼが組んだ腕を解き、片腕をテーブルの上に預け、やや前のめりになった。
 エルザベルナは真っ直ぐに背筋を伸ばし、凜乎たる態度を崩さない。
「なぜウィーナ様は女がいいと?」
 エルザベルナが問う。
「男共が不甲斐ないからだそうだ」
「ジョブゼ殿は、私が女だから、私を推薦したのですか?」
 悪気なく問うエルザベルナ。
「いや、違う。ウィーナ様は以前からお前の指揮や隊を運営する能力を評価してた」
 ジョブゼが再び先程のような笑顔を見せた。
 エルザベルナが配属されてきた頃のジョブゼ隊は、強い者が弱い者を従える戦闘能力至上主義を地で行く気風だった。
 もちろん、ワルキュリア・カンパニーがそういう組織である以上、ロシーボ隊を除いたどの隊も多かれ少なかれそうなのだ。
 だがジョブゼ隊は特にその傾向が強かった。隊と言うよりは野獣の群れと言ってよい。
 個々のフィジカルな強さ、あるいは魔力的な強さに依拠しきった、戦略も後方支援もない、野放図な運営であった。
 それを変える取り組みをしていたのが、すでに死んでいる管轄従者のエンダカであったり、その役割を引き継いだエルザベルナであった。
 実際、エルザベルナのマネージメントにより、ジョブゼ隊は大きく変わった。
 予算の取りつけ、隊の編成の見直し、報・連・相の不備が発生しやすかった指揮系統の再構築、戦闘員の戦闘スキルの調査、個々の能力を補完できる効果的なパーティー(小隊)編成、個人個人に見合ったスキルの伸ばし方、任務失敗時の徹底した原因調査・反省、回復魔法の教育、無謀な任務の拒否による人命損失の低減、偏ったスケジュールの見直し、ウィーナから問題児ばかり押し付けられるのを何とかするよう隊長のジョブゼに要請、果ては隊員の男女関係のもつれの仲裁。
 エルザベルナがこの組織に来る前にいた、冥王軍のエリート部隊である近衛騎兵隊では当たり前に行われていたあらゆる事が、ジョブゼ隊はできていなかった。あるいはやっていても、やり方が間違っていたり効果がさほど上がっていなかったり、やった後の点検を怠ったりしていた。
 ただ、エルザベルナがその手腕を存分に振るい、隊を改革できたのも、隊長であるジョブゼの後ろ盾があったからだ。
 もしジョブゼがエルザベルナを後押ししなかったら、エルザベルナの取り組みに隊員達は従わなかったであろう。それは彼女も重々承知していた。
「そう言って頂けるのは嬉しいですが。正直、私には力不足だと……」
 エルザベルナは少しばかり視線を落とした。
 この組織は戦闘能力至上主義。
 戦いの強い者が上に昇る。
 そうでなければ一癖も二癖もある猛者達をまとめ上げることなどできない。
 今、彼女の目の前に座る上司など、正に戦闘能力至上主義を体現するような人物だ。
 そんなワルキュリア・カンパニーで、指揮官としての能力で幹部従者に推されるというのはあまり聞かない。
「心配するな。俺達でフォローする」
「……ただ、幹部従者になってしまうと、権限は大きくなりますが、ウィーナ様のお側で働くことができません」
 エルザベルナは、幹部従者になって隊を任されるよりは、ウィーナ直属の部隊へ配属されることを望んでいた。
 例えば、ファウファーレは管轄従者だが、この前ウィーナの秘書官に任命された。幹部になって隊長になってしまえば、地位相応の役割、貢献を求められ、このようなチャンスはなくなる。
 このジョブゼ隊で実績を作り、今の管轄従者のまま、ウィーナの隊に行くのが彼女の希望するルートだった。
「お前はウィーナ様の隊に行きたいのか?」
「はい。私を推薦されるのでしたら、幹部よりはウィーナ様の隊を希望します。可能であれば、小隊の部下達と共に」
 エルザベルナは、ためらうことなくハッキリと自分の意思を表明した。
 彼女の直属の部下であるライラ、エイリア、エレーナとの連係・信頼関係はこれ以上ないレベルに高めてある。
 できればこれからも彼女達と共に戦っていきたい。
「いや、今回は新しく隊を編成するって方針だからなぁ……」
 ジョブゼは再び腕を組んで、考えるようなそぶりを見せた。
「ジョブゼ殿は私をどう見ているのですか? 幹部になれるだけの戦闘力があるとお思いですか?」
「ああ、思ってる」
 即答するジョブゼ。
「でもまだ、ジョブゼ殿には遠く及びません」
「闘う力に限って言えばそうだが、他のあらゆる能力を合わせるとお前の方が優秀だ。俺なんかより。俺は闘うことしかできん。これからの組織にはお前のような人材が必要なんだ」
「ジョブゼ殿は戦闘能力至上主義をどう見ます?」
 エルザベルナの問いに、ジョブゼは若干の間を作り、口を開いた。
「俺は今の方が居心地がいい。だが、最近はそれじゃ厳しくなってきた。昔はよかったんだが」
「組織が大きくなって、それだと問題が出てきていると?」
「そうだ」
 エルザベルナはユノ隊やロシーボ隊、そしてレンチョーの隊のことを想起した。
 ロシーボは戦闘能力が低いが、『科学』という他の者にはない技量を保有しているため、幹部の地位にいる。しかし、隊を運営する資質に欠ける彼をサポートするために、シュドーケンを始めとした優秀な管轄従者・中核従者を回している。
 ユノに関しても、彼個人の戦闘力は抜群だが、コミュニケーション能力はロシーボ以下だし、意味不明な言動や行動も多い。そのうえ、ビッスムのような人物が野放しになっている。ユノはそれに対して何ら対策を取っていない。
 レンチョー隊に関しては、成果と利益を上げることは目覚ましいが、その分隊員を酷使し過ぎている。レンチョーのやり方に疑問を持つ声も多く出ている。
 それぞれの隊長の人格で、隊の性格もかなり色濃く分かれることになっている現状は、戦闘能力至上主義の生んだひずみだろう。
 そんな中で、エルザベルナがジョブゼ隊に留まっていたのは、この愚連隊のような隊の中で、『強き者が弱き者を守る』という精神だけは徹底されていたからだ。中核従者が平従者を、管轄従者が中核従者を盾にすることなど許されない。
 エルザベルナはこのジョブゼ隊に、腐敗した近衛騎兵隊が失っていた騎士道精神を見出していたのだった。だから彼女はこの隊の持つ良い部分を残しながら、問題点を改善しようと動き出したのだ。
「……せっかくですが、やはり私は幹部になるよりは、ウィーナ様の下に就くか、ここで留まりたいです」
「ただ、来期のところでお前の異動自体は決まりそうなんだ。どこへ移るかは別として」
 ジョブゼが渋い顔で言う。
「そうですか。それでは、そのつもりでいます」
 エルザベルナは答え、「ただ……」と続けた。
「ん?」
「レンチョー殿が私を引き抜こうとしているって噂を聞いたんですが」
 それを聞いたジョブゼが目を少し見開き、凄まじく筋肉の分厚い胸板を震わせた。
「何でそれ知ってんだよ。まだ俺達幹部しか知らんはずなのに」
 エルザベルナは顎に手を当て、微笑してみせた。女の友情ということで、普段から仲の良いファウファーレから聞いたのだ。当然、彼女はウィーナの秘書だけあって内情を色々と知っている。
 彼女はレンチョー隊への異動は嫌だった。当然、あの男の下に就くのが嫌だからである。何とか回避したいと思っていた。
 それに、レンチョー隊の中で強い発言力を持つサクラーシャともあまり反りが合わなかった。
「まぁいい。その件はな、どうせお前は嫌がるだろうからと思って断っといた」
「え?」
「俺がレンチョーとサシで話してそうなった。仮に他へ異動するにしても、レンチョー隊に行くルートはない。他の幹部連中もウィーナ様もその認識だ」
「あ、ありがとうございます」
 エルザベルナは安堵に胸を撫で下ろした。どうやってレンチョーからの引き抜きを回避しようか、水面下での立ち回りを思案していたところだったのだ。
 ジョブゼの表情は少し笑いで綻んでいた。『しょうがねえな』とでも言いたげな笑顔。
 こういうとき、このジョブゼという男は異様なまでに頼りになる。エルザベルナが行おうとした改革に関しても、当初は環境の変化を嫌って反発していた同僚も、ジョブゼの一言で彼女に協力するようになった。
「お前の隊の改革、上の方でも話題になってる。一定の信頼を得てるから、お前の希望通りにしてもいいんじゃないかって話になってる。例えば、あのビッスムが同じ希望を出したとして、俺達が叶える気になると思うか?」
「それは分かります」
「だろ?」
「ええ」
 わずかに間を置いて、ジョブゼは咳払いをした。
「まあ、お前の希望は分かった。ウィーナ様には伝えとく」
「ありがとうございます」
 滑らかな所作で一礼するエルザベルナ。
「だが、希望通りになるとは限らんぞ。レンチョー隊に行くことはないが」
「承知してます」
「じゃあ、そういうことだ。悪かったな非番のとき呼び出して」
 ジョブゼがいそいそと席を立とうとする。
「ジョブゼ殿、一ついいですか?」
「ああ?」
 呼び止めに反応し、一旦腰を下ろすジョブゼ。
「来期に私が動くとして、その後、私の役目を引き継ぐ者はいますか?」
 エルザベルナは言った。自分が隊を離れると、この隊は自分が来る前の状態に戻ってしまうのではないかという懸念があった。
「ああー……」
 ジョブゼが渋い顔をして頭を掻く。
 彼の頭の中には、死んだエンダカがエルザベルナと同じ取り組みに当たっていた際、上手くサポートしてやれなかった負い目があるだろうとエルザベルナは分析していた。
「正直、私がここでしてきたことを無にしたくはありません」
 そこは自信を持って、毅然と言った。
「分かった。考えとく」
 ジョブゼが言った。
「来期のところだとしたら、あまり時間がありません」
「そうだな……」
 ジョブゼがぽつりと言って、席を立った。エルザベルナもそれに続く。
 ジョブゼは『考えとく』と言ったが、実はエルザベルナは自分が隊を離れた場合、自分の後を継ぐ者の候補までとっくに考えていた。

 ジョブゼとの面談の数日後、ビッスムがワルキュリア・カンパニーを追放されたことを聞かされた。
 未だ官憲に拘留されている最中での処分だった。隊長であるユノは監督責任を問われたが、減給処分を下されただけに過ぎなかった。
 平従者のイネンはこれをきっかけにワルキュリア・カンパニーを退職した。

 数か月の後、エルザベルナは直属の部下であるライラ、エイリア、エレーナと共に、ウィーナ隊に異動となった。
 ジョブゼはエルザベルナの敷いた体制を継続させるべく、隊全体にその意識を持たせようと尽力している。
「あなたが来てからジョブゼ殿も少し変わったみたいだって、ウィーナ様が言ってたわ」とは、ファウファーレの言である。



 王都の大通りを、ピンク色の艶やかな長髪をなびかせ歩く女騎士・エルザベルナ――。
 それを路地の影から付け狙う、一人の青い髪の男。
 ボロボロのローブを身に纏い、頬はこけ落ち、落ちくぼんだ目ばかりがギラギラと、猜疑と怒りによって病的に光っている。
「お前さえいなければ……、お前さえいなければ……」
 組織を追放処分となったビッスムは、拘留期限を終えて釈放されて以降、ずっとエルザベルナをつけ狙っていた。
 そしてビッスムは、この瞬間を好機とし、エルザベルナの背後から雷撃魔法を放とうと密かに杖を構えた。先端に魔力が集中する。
「おい! ビッスム!」
 背後から名前を呼ばれた。
 詠唱を中断して振り向くと、フードに身を包んだ人物が三人。
 すると大通り側からも、同じくフードを深く被った人物が二人。
「あ゛ぁ!?」
 ビッスムが自分を囲む連中を見回す。
 彼らは鞘から剣を抜いて、ビッスムを取り囲んだ。
「ヒッ……、な、何だ!? 人違いじゃないか?」
 怯えるビッスム。
 他人から恨みを買うような覚えは全くない。心当たりがない。
 すぐさま走り出し、大通りへ逃げようとしたが二人に遮られる。
「がぁっ!?」
 すぐさま激痛が走る。背後の一人に背中を斬られたのだ。地面に倒れ込むビッスム。
「な、何を……」
 囲む五人の内、フードからわずかに覗かせた顔。一人は青い肌に大きな一つ目を持った男、もう一人は猫型の獣人。
 どこかで見たような気がするが、全く記憶にない。
「や、やめろ……」
 自分が狙われる理由も理解できないまま、命乞いの言葉をしぼり出すビッスム。
 五人は当然の如く耳を貸さない。ふと、裏路地に白く冷たい粉がちらほらと降り注ぎ始めた。五人のフードや流れ出るビッスムの血に白い点を作っていく。血に被さった白い点はたちまちの内に血だまりに溶融して、ただの赤に戻る。
「初雪だな……」
 猫の獣人が言いながら剣を構え、一切の情け容赦なく、ビッスムの喉を突き刺した。
「がはっ!」
 自分の喉から伸びる雪の乗った刀身が、ビッスムが人生で見た最後の景色となった。



「初雪……」
 大勢の人が行き交う大通りに雪が降り注ぎ、エルザベルナはふと足を止めた。
 先程から自分をつけ狙っていた殺気は、雪が覆い被さったかのように消えていた――。


<終>
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.171 )
   
日時: 2019/05/13 02:09
名前: 伊達サクット ID:MzNRgmr2

番外編「逆襲のレンチョー」6
 
 ウィーナの屋敷の別館、ワルキュリア・カンパニーの戦闘員事務所。
 仮眠室のベッドに横たわるロシーボは、相変わらず熱に浮かされていた。
 トド系統の獣人タイプ・ラトーレが非常に口臭のきついアイスブレスで冷やし続けるが、ロシーボは苦しそうな顔でうなされるばかりであった。
 その様子を見ていたミナピーは、思い立ってラトーレに切り出した。
「ラトーレ」
「ン?」
「ロシーボ殿が辛そうなの、あなたの息が良くなんじゃないの?」
 ミナピーがラトーレの顔色を伺う。彼はきょとんとした顔をしている。
「何でマドマギ?」
「その、熱があるとはいえ、あまり冷やしすぎるのは逆に良くないのかも。無理やり冷やしても」
 ミナピーは口臭のことは言及せず、他の理由を述べた。
「なるほど……。じゃあ、アイスブレスはやめて、普通の息にするけもフレ」
「えっ?」
 ミナピーが聞き返すが、ラトーレは構わず、ロシーボの顔面に普通の吐息を吐きかけた。これではただ臭い息を吐きかけているだけだ。
「ウィーナ様……ウィーナ様ぁ……」
 更にうなされるロシーボ。
「ラトーレ、それじゃ意味ないわ!」
 慌ててミナピーが言う。するとラトーレは「確かに」と言ってようやく息を吐きかけるのをやめた。
「ロシーボの調子はどうだ?」
 背後から透き通った女性の声。
 二人が顔を向けると、そこには組織の長であるウィーナが立っていた。
 ロシーボが倒れる原因となった、腹部を露出したタイプの鎧を着ており、マントは外している。
「ウィーナ様!」
 目を丸くして驚くミナピーにラトーレ。
 ウィーナは紅潮したロシーボの顔を間近にのぞき込み、彼の額に手を当てた。
「……うんこれは良くないな。お前達、後は私が代わろう」
「えっ?」
 顔を見合わせるミナピーとラトーレ。
「そもそもロシーボがこうなったのは私が原因だ。私が看病しよう」
 ウィーナのその姿が原因でロシーボは勃起して倒れた。本当にそれで良いのだろうか。
「しかし……」
 ラトーレが言いかけると、ウィーナは「いいから」と押しの強い口調で言うので、二人はその場を去るしかなかった。
 ラトーレと別れ、ミナピーがジャスティス仮面をどう探すか、リティカルに相談しに行こうと廊下を歩いていた。
 すると、前方に一人の印象的な容姿をした人物と出くわした。
 レンチョー隊の管轄従者・シュザ。蛙のような両生類タイプ。青い肌に黄色く発光するタトゥーが上半身の至る所に刻まれている。
 彼は廊下の壁によりかかって腕を組み、待ち構えていたようにこちらを見ていた。
 それだけでミナピーはぎょっとし、軽く一礼してその脇を通り過ぎようとする。
 そのとき、シュザは水かきのついた腕をミナピーの眼前まで伸ばし、脇の壁を掌で激しく叩いた。
 ビクッとして背を縮こませるミナピーを尻目に、シュザは腕でミナピーの行く手を塞いだまま、彼女を壁際に追い詰める。
「な、何でしょうか!?」
 ずれた眼鏡を直しながらミナピーが問う。
「ミナピーちゃん、いいこと教えてあげるよ」
 シュザが男ながらも妖艶な雰囲気の笑みを浮かべた。胸では両方の乳首に装着されたピアスが揺れている。
 ミナピーはその趣向を受け入れられず、顔を引きつらせた。
「はい?」
「今、冒険者ギルドにジャスティス仮面がいるよ」
 シュザの口から出た言葉に、ミナピーは驚愕した。
「それは誠でござるか?」
 思わず『素』になって聞き返すミナピー。
「ああ、本当さ。今誰かと戦ってるみたい」
「しかし、なぜそのことを拙者に?」
「ミナピーちゃん、ジャスティス仮面を追ってるんでしょ?」
「あっ……」
「ウチの隊長も会いたがっててね。君に協力するよう言われてるんだ」
 ウィーナはレンチョーに対し『好きにしろ』と伝えている。レンチョー隊はレンチョー隊で、独自にジャスティス仮面を追っているのだろうか?
「シュザ殿は冒険者ギルドに行かないのでござるか?」
 ミナピーが問う。なぜシュザは自分でジャスティス仮面を捕らえず、ミナピーにその情報を伝えるのだろうか。
「手柄は君にあげるよ。その代わり、ジャスティス仮面を捕まえたらこっちに引き渡してくれないか?」
 シュザが金髪をさらりと揺らし、ねっとりとした視線をミナピーへ向ける。
 ミナピーは唇を結び、少しだけ回答を考えた。
「……ウィーナ様は、『私刑』をせぬように仰せです。生かして官憲に引き渡すようにと」
「心配ないよ。ちょっと聞きたいことがあるだけだから。ほら、それより早く行った方がいいよ? 戦闘になるかもしれないからちゃんとリティカル殿と一緒にね」
「あ、はい」
 ミナピーはシュザに礼儀正しく一礼し、「ラトーレ! ラトーレ!」と言いながら、ばたばたと外へ飛び出した。
 しかし、ジャスティス仮面のことを追わねばならないと思いつつも。
(乳首にピアス!!! 変態でござる!!! 拙者耳にも開ける勇気ないのに! 開けるときどれぐらい痛いでござるか!? シュザ殿の彼女は乳首ピアス触り放題でござるか!?!?!?)
 シュザのピアスに大いなるショックを受け、しばらく彼の乳首のピアスのことで頭がクラクラしてしまった。
「どうしたまほいく?」
 ミナピーの呼ぶ声に駆け付けたラトーレが、怪訝な顔して問いかけた。
「え? あ? な、何でもないでござる! ちょっと加勢願いたいでござる!」
 ラトーレの口臭で現実に戻されたミナピーは、我に返り、ラトーレと共にリティカルを呼びに行った。

(やれやれ……。アホの子だねえ)
 その姿を見送ったシュザは、その美しい顔立ちを、人の悪そうな笑みで歪ませた。
 そして、誰もいなくなった後。
 彼自身も事務所から出て、黄金の翼を羽ばたかせ、冥界の空へと飛び立っていった。

(続く)
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.172 )
   
日時: 2019/07/08 02:27
名前: 伊達サクット ID:7DbRrX7k

<Valkyrie 5(ヴァリキリーファイブ)>

 番外編に登場する5人組の戦うアイドルグループ。本編のキャラではない。
 幹部従者の一人、レンチョーが組織の財政悪化を立て直すべく考案したのが「歌って踊って闘うダンスバトルユニット」の立ち上げあった。
 ワルキュリア・カンパニーで活躍している女性戦闘員達を今一度見直し、その中で特に(美人で)優秀な人材を抜擢し、精鋭部隊を組織し、チームワークによって彼女らの才能を最大限に活用しようというのである。
 そして、任務がないときは、劇場でダンスによる芸能活動をすることによって興行収入を獲得し、財政難を解決しようというのである。
 レンチョーは今までも「レンチョープロデュース」の名の下に、様々な企画を立ち上げてきた過去があり、当たった企画外れた企画様々だったのだが、これは大当たりで、Valkyrie 5はその連係プレーで困難な任務を次々と成し遂げ、ステージではたちまち人気を博した。
 ステージの興行収入に加え、レンチョーはロシーボが開発した音声を記録できる魔石波動プレートに曲を録音して販売、これまた飛ぶように売れてしまった。
 Valkyrie 5は建前上はウィーナの直属舞台だが、実質はレンチョーの親衛隊のような立場にある。
 Valkyrie 5の成功により、これまでウィーナに嫌われていたために組織運営上、あまり主導的な立場に立つことが少なかったレンチョーの発言力が(一時的に)増すことになった。
 Valkyrie 5は業績上は成功したものの、これによってウィーナが長年堅持してきた「エリート部隊(キャリア部隊)は作らない」「戦闘能力至上主義」「他の業界には手を出さない」「職群及び任務における戦果に応じた報酬制(Valkyrie 5は芸能活動での給料が圧倒的で、幹部従者を軽く超えることになってしまった)」といったことに代表される、組織の方針が一気に崩れることとなり、ワルキュリア・カンパニーが組織として末期を迎えていることを図らずも証明する結果となった。


・ヴィナス

 Valkyrie 5のサブリーダーでありセンター。管轄従者。ヒューマンタイプ。
 女の細腕で、身の丈より大きい巨大な剣を振り回す巨大武器っ娘。
 剣は腕輪と常に一体の武器で、その腕輪を付けた者は剣の重量を感じなくなるという魔剣である。ゆえに、他の者は持ち上げることすらままならない。
 6年前、13歳の頃、とある事情でウィーナが養女として迎えてきたので、ウィーナの義理の娘ということになる。かなり高貴な身分の出自だと言われているが、出生の経緯が非常に複雑かつ仮に公になったら世間を騒がせることになるのが必至なため、出自を明らかにすることができないらしい。
 ウィーナの娘になってからはマネジメント・ライデンの執事長・ピエールの下で英才教育を施され、一流の戦士に育て上げられた。
 養女に入った時から、組織で活躍していたヴィクトに恋心を抱いており、そういった感情を心の内に隠しておくタイプでもなかったので、何回も告白してきたが、ヴィクトはのらりくらりと断ってきた(ヴィクトもヴィクトではっきり断ればいいものを、ヴィナスを傷つけまいとやんわりと拒んでる)。
 ワルキュリア・カンパニーの戦闘員となったが、当然思いっきり縁故採用なため、ウィーナの七光りと思われないようにするため、実戦の試験時に幹部従者ロシーボを完膚なきまでに叩きのめし、組織中の話題をかっさらってのデビューとなった。
 それ以来、ヴィクトの副官になること熱望してヴィクトの隊に希望を出すが、思うようにいかなかった。
 ヴィクトの隊は、異動希望を募る度に、ニチカゲの隊と並んで倍率が高いのが通例であり、そもそもの話、ヴィクトは副官を置いていなかった。
 何でもできるオールラウンダー型で、友人のグループ内では常に話題の中心となり、自然とリーダー格になるタイプ。抜群の身体能力を持ち、剣技、魔法、更には頭脳面でも優れており、ヴィクトを目標に腕を磨いてきた。
 とにかく上昇志向、自己実現の塊のような人物で完璧主義。相当な努力家で一流志向。一方、周囲から常にチヤホヤされてきたため、かなり自己中心的な面がある。自分が格下とみなした相手には冷淡に接したり、ウィーナの娘という立場や、芸能ギルドの力を笠に着て他人を威圧したりする。
 腹部を大きく露出し、下半身はぴっちりフィットする戦闘服を着用している。
 当初はValkyrie 5などという見世物のような部隊に入ることを嫌がっていたが、レンチョーから「代わりのメンバーが入るまで暫定的に入ってほしい。その次にヴィクトの副官にしてやる」と言われ加入した(ヴィクトはそのことを知らない)。
 Valkyrie 5の中では一番人気で、歌と踊りの才能も群を抜いている。
 Valkyrie 5のリーダー候補だったが、ウィーナの義理の娘という身分でリーダーになるのは、周囲の反感を買う可能性がある(格下とみなした相手は軽蔑する傾向が強い性格のため、ただでさえ嫌う人間が多い)ので、サブリーダーに落ち着いたが実質リーダー的存在。
 最初はヴィクトの副官になるための通過点としてメンバーになったが、すぐにアイドル戦士としてのやりがいを覚え、芸能界のトップを目指すようになる。
 義理とは言えウィーナの娘ということもあり、ワルキュリア・カンパニー内では普通の管轄従者以上に立場・発言力が強く、Valkyrie 5のメンバーもサクラーシャ以外はヴィナスの顔色を伺い追従する傾向が強い。
 母親のウィーナからはそれなりに愛情を受け大切にされているが、母娘としてのすれ違いが多く、言い争っている場面を見かける者も多いという。
 また、自分のファンに対しては「キモヲタ」と吐き捨てて心底気持ち悪がっている。
 人気絶頂のValkyrie 5を、ワルキュリア・カンパニーから大手芸能ギルド・エィーベックゥースーに移籍することを提案した張本人。おかげでレンチョーがプロデュースしたValkyrie 5の企画に関しては、これまで投じた費用を回収できず大赤字となり、結果的に組織の傾きを加速させることになってしまい、後にヴィナスはレンチョーより手痛い報復を受けることとなる。

HP  280   MP  200  攻撃力  330  防御力  120  スピード 300
運動能力 600   魔力 300   魔法耐性 140   総合戦闘力  2270

「あなたお母様のこと何も分かってないのよ! あのお方はとても冷たい人なの。私達がどうなったって心を動かすことなんかない。所詮は神様。私達のような下々の者達に解り得る存在じゃないのよ。何でそこまで尽くそうとするのよ?」


・サクラーシャ

 Valkyrie 5のメンバー。元人気キャバ嬢。管轄従者。紫の肌と背中に悪魔の翼をもつサキュバス系の妖魔タイプ。
 元々戦闘員と冥界の高級クラブとの兼業をしていた。昼は戦闘、夜はクラブで、他の連中からはいつ寝てるんだと言われていた。
 とにかく妖艶なサキュバス系お姉さまで、その魔性の魅力で数々の男を落としてきた。高級店に勤めているために客に重要人物が来ることが多く、客に接近して情報を得るなど、キャバ嬢は表向きの姿で、その実はフリーランスの工作員であった。
 戦闘員としても超一流で管轄従者の中でも上位クラス、Valkyrie 5内では最強を誇る。相手を惑わす数々の妖術を駆使する。接近戦時は靴を脱いで素足になり、手足の爪を普段の何倍もの長さに鋭く伸ばし、計20本の毒爪で戦う。爪はある程度の時間なら伸縮自在。
 元はレンチョーと付き合っており、職場ではレンチョーの報復を恐れて誰もサクラーシャには楯突こうとしない。恋人であるレンチョーの要請でValkyrie 5のメンバーとなった。
 ヴィナスと並んで頭脳明晰で権謀術数に長ける。妖艶なことではファウファーレとタイプが似てるが、ファウファーレと違い彼女は私利私欲でなはく、仕事として、命がけでプライドをもってお色気工作員をしている。レンチョーに対する感情は内心では冷めおり、自分をアクセサリーとしかみなさず、器の小さいレンチョーを見限っていた。
 Valkyrie 5の力をワルキュリア・カンパニー内で大きくし、レンチョーの指揮下から独立し、レンチョーを切り捨てようと画策おり、後にValkyrie 5はエィーベックゥースーに移籍。そのときにレンチョーとの関係を終わらせた。
 メンバー内では一番年上だが、年齢を聞くのはタブー。キャバ嬢として多くの人間模様を見てきただけあって、バランス感覚に優れており、リーダーには立たずとも、Valkyrie 5内では大人の立場から他メンバーに裏から色々アドバイスをする良き姉貴分のポジション。
 Valkyrie 5の収入で得た資金と、大手ギルドの力をバックにすることで、王都最大の繁華街・シルバーストリートに目標だった自分の店を構えるに至り、店の用心棒もこなせる男性スタッフをワルキュリア・カンパニーから引き抜こうとしてレンチョーに接近する。
「一流の女」として頂点に上り詰めたとき、周囲の男はサクラーシャのことを男の価値を上げる為のアクセサリーとしか見做さない者達ばかりとなってしまい孤独を感じ、レンチョーのウィーナに向ける忠誠心を手に入れようと、過去捨てた男を再び取り込もうとする。
 

HP  300   MP 360  攻撃力 200  防御力  180  スピード 340
運動能力 400   魔力 410   魔法耐性 210   総合戦闘力  2400

「嗤いに来たのよ。貴方を」


・ナルス

 Valkyrie 5のメンバー。妖精タイプ。最年少の妹的存在。ツインテールの縦ロールが特徴的。
 彼女は、元々冥王アメリカーン直属の、通称「冥王の大奥」とも言われる親衛隊に所属していた強化戦士。冥王が「ロリは趣味じゃない」とのことで、ナルスをウィーナにプレゼントした。
 高度な肉体改造処理によって背中に蝶の羽を展開でき、空中からの魔法攻撃の応酬を得意とする。
 閉鎖的な実験施設で長年育ったためか精神的には幼く世間知らず。エリート意識が強く、強化処理を受けていない一般人を見下している。
 ウィーナは冥王から押し付けられたナルスを持て余していたが、Valkyrie 5立ち上げの際、レンチョーの提案で、ナルスに管轄従者の位を与えてメンバー入りさせることに。
 メンバーのヴィナスに心酔しており、ほとんど彼女の言いなり同然の立場。

HP  160   MP 230  攻撃力 110  防御力  160  スピード 460
運動能力 320   魔力 330   魔法耐性 360   総合戦闘力  2130

「もちろん追い返したよ? なんかその冥王軍の人、すっごいキモいオッサンだったから、ふざけんなって蹴り入れてやったけど」


・フォートゥナ

 Valkyrie 5のメンバー。ヒューマンタイプ。中核従者だったが、Valkyrie 5加入に際して管轄に昇格。
 全身のいたるところにトライバルタトゥーが入Valkyrie 5結成の話が入ったときから加入を熱望していたが、肝心の戦闘力が伸び悩んでおりValkyrie 5に要求されるレベルを満たしていなかった。
 そこでプロデューサーのレンチョーが、本来ウィーナが禁じている身体改造の強化処理を受けて戦闘能力の底上げをするようにと、悪魔の誘惑を仕掛ける。
 フォトゥーナは葛藤の末、レンチョーの口車に乗せられ、ウィーナや他メンバーには秘密の上で、闇社会の施設で身体にメスを入れることになる。戦闘能力は飛躍的に向上したが、彼女の受けた処理は違法な手段によって行われる「脱法強化」であり、ナルスのように高度な魔術師・技術者を揃え、贅を尽くした実験施設で施されたものではなく、被験体のリスクが非常に高いものだった。
 粗悪な強化処理を身体に施された結果、力の代償として副作用が生じるようになり、彼女の身体と精神を少しずつ蝕み始める。
 それでも彼女は自分に力を与えてくれたレンチョーに感謝しており、Valkyrie 5のメンバー中、最もレンチョーに忠実で、彼に喜んでもらうことを第一に動こうとする。Valkyrie 5に対する執着は随一であり、身体の苦痛・変調を必死に隠し、副作用の恐怖と孤独に戦いながら、笑顔でステージに立つ。
 表面上はイケイケ、奔放な性格を演じているが、その実は依存心が強い。プライベートでのイザコザ、醜聞が多い。また、ナルスほどではないにしろ、ヴィナスに追従し、彼女の立ち位置を補強する立場である。
 メンバー内で最もファンが少ない彼女だが、それはステージ上での彼女達しか見ていないファンが大半だからである。部族の神聖な舞を取り入れた格闘技はメンバー内で最も華麗と言われており、戦闘中の彼女の姿に心を奪われて熱狂的なファンになった玄人層も少数ながら存在する。
 魔法都市セタサーガで美容整形術を施され、美しさと引き換えに人形のような、表情に生気がない、俗に言う『セタサーガ顔』になってしまい、周囲からは「前の方がよかった」と言われることがほとんどである。整形術によって似たようなセタサーガ顔の女が、街中に溢れているため、セタサーガに行くことを嫌っている。

HP  220   MP 160  攻撃力 280  防御力  110  スピード 280
運動能力 470   魔力 250   魔法耐性 250   総合戦闘力  2020

「私も。何があっても五人一緒だって誓いを立てたでしょ」


・ルビー

 Valkyrie 5のリーダー。ヒューマンタイプ。中核従者だったが、メンバー入りに際して管轄従者に昇格。
 他の4人の加入が正式に決まり、残り1人をレンチョーは探していたが、なかなか条件に該当する者がおらず、最終的に「そこそこカワイイから」という理由のみでルビーの加入が決定した。ほとんど消去法の数合わせ。戦闘能力は、中核従者では上位であり、なんとかギリギリValkyrie 5でやっていけそうなレベルだろうと判断され、レンチョーはフォトゥーナのように強化処理は持ちかけなかった。ゆえにリーダーの癖に戦闘力は最弱。
 レンチョーに任務があると呼び出されたら、既に勝手にValkyrie 5に自分の名前が登録されており、そのとき初めてメンバーになっていると知らされた。
 ウィーナの義理の娘であるヴィナス、レンチョーの愛人であるサクラーシャ、精神的に幼いナルス、脱法強化人間で精神的に不安定な面があるフォトゥーナ、他メンバーは全員リーダーになるには問題があり、唯一アヤのないルビーが消去法でリーダーになった。
 ただし、ステージでは中央に立つだけのお飾りリーダーで、サブリーダーのヴィナスが事実上のリーダー。ルビー自身はValkyrie 5内で発言力が最も低い。
 肌が褐色で銀髪だが、実は、肌は白く髪は黒髪。レンチョーから個性がないと言われ、キャラ付けのために日焼けさせられ髪も銀髪に染められた。元々普段は市販品のローブを着用していたが、コスチュームとして用意されたビキニアーマーのような鎧を着ることになる。
 魔術士であり、全般的なジャンルを操れるが、特に得意なのは味方をパワーアップさせる補助魔法。
 戦闘時は後列でValkyrie 5のメンバーをサポートする。実はValkyrie 5の目覚ましい戦果の影の功労者である。
 彼女自身は大人しく、流れに乗って生きるタイプ。極めて自然体でValkyrie 5に臨んでいる。
 以前と比べて報酬がケタが違うほど上がったが、Valkyrie 5として入る給料(そしてそれがルビーの給料の大部分を占める)は、全額悪霊で被害を受けた冥界人を支援する団体に寄付している。
 主体性のない彼女だが、レンチョーの横暴な態度が度を過ぎる場合は、普段からは信じられないほど毅然とした態度を見せることがあり、芯の強さをうかがわせる。

HP  200   MP 350  攻撃力  30  防御力  150  スピード 200
運動能力 240   魔力 400   魔法耐性 200   総合戦闘力  1770

「待ちます。ヴィナスは絶対来ますから。私達、五人一緒なんです」

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・コムロツンク秋元

 Valkyrie5に楽曲の提供をしている人物で、数々のアイドルや音楽グループを世に出した伝説のプロデューサー。
 Valkyrie5立ち上げの際に、レンチョーが呼び寄せた。ワルキュリア・カンパニーより多額のギャラを支払っていたが、人気が上がってきた矢先にValkyrie5は芸能専門ギルドの大手の一つである『エィーベックゥースー』に電撃移籍することになる。


・魔僑

 魔僑(まきょう)とは、急速に冥界で勢力を伸ばし、従来のヤクザ系ギルドを押しのけて芸能界で影響力を増してきている在冥魔界人系グループの総称である。
 エィーベックゥースーは芸能系ギルドの中では冥界でも三本の指に入る力を持っており、興行の既得権益を守るための武力として有力な魔僑とも繋がりを持っている。
 レンチョーもValkyrie5の醜聞をリークすることを画策した際には魔僑の報復を警戒していた。
 
メンテ
Re: やるせなき脱力神【完結】 ( No.173 )
   
日時: 2019/07/28 14:46
名前: 伊達サクット ID:YBNp6yCc

番外編「逆襲のレンチョー」7

 ミナピーとラトーレは、戦闘員事務所から飛び出し、本館とも言えるウィーナの屋敷へ向かった。
 そして、医務室で勤務中のリティカルに事情を話し、協力を要請した。
「分かったわ。タカ、後お願い」
 リティカルは自身の直属である、魔導治療士の資格を持つ中核従者・タカに自らの代理を任せ、バトルスーツの上から羽織る白衣を脱ぎ捨てた。
 リティカルも加わった三人は、訓練所の脇の詰め所にいる(自称)副隊長のシュドーケンに出動の報告をした。
「分かった、冒険者ギルドだな。そうしたら、こちらからももう一個小隊後から向かわせる。レカヒンあたりに行かせよう」
 そうシュドーケンは言った。
「御意」
 ミナピーがシュドーケンに一礼した。
「そんなの必要ないわ。私だけで十分」
 リティカルがシュドーケンに言う。長い前髪で隠れたところから、不満げな目つきが見え隠れしていた。
「まぁ、一応、念の為です。ちょっと現場経験積ませたいヒラもいるもので」
 シュドーケンが愛想よく笑顔を見せ、リティカルに説明する。すると彼女は不満げな様子ながらも「分かった」とロシーボ隊の増援を認めた。
「それじゃ、アタシらは先行ってるから」
「お気をつけて」
「そっちが来る頃には終わってるかもね」
 そう言い、リティカルは背中から、手足と同じように透き通った一対の翼を展開した。
 そして、自らの両手を広げて念じる。両手が緑色の光に包まれ、前髪はゆっくりと浮き上がり隠れていた目が露わになる。
 すると、彼女の前に立つミナピーとラトーレの身体も、同じように緑色の光に包まれた。
「あっ!?」
「おわっ!?」
 戸惑う二人を尻目に、リティカルが微笑を浮かべた直後、ミナピーとラトーレの身体が宙に浮き上がった。念動力である。
「それじゃ」
 リティカルの翼が緑色の光を帯びると彼女自身も浮遊し、三人はそのまま詰め所の窓から空へ向かって飛び立っていった。
「キャーッ!」
「うひーっ!」
 ミナピーとラトーレの悲鳴が聞こえたが、あっという間に小さくなっていく。
 その様子をシュドーケンは無表情で見送っていた。



 シュドーケンは訓練所に行き、同じロシーボ隊の同僚である、管轄従者・レカヒンに事情を説明した。
 レカヒンは頭にターバンを被り、砂漠の民の民族衣装を身に纏ったヒューマンタイプの男である。ターバンからは真っ赤な前髪を覗かせる。
 腰には曲刀の一種・シャムシールの鞘を提げていた。銀の装飾が白く光る。
「……そういうことなんだが、行けるか?」
「分かった」
「リティカル殿、とりあえず今は大丈夫そうだが、何かあったら頼む」
「ああ、分かってる」
 レカヒンが渋い顔をしてうなずいた。

 現在、リティカルは精神的に安定しているように見えるが、強化戦士ゆえ、戦闘などの刺激でいつ精神が不安定になり暴走するか分からない。リティカルは非常勤とはいえ、歴としたワルキュリア・カンパニーの準幹部従者だ。もし何か事が起こればワルキュリア・カンパニーの責任である。
 そのため、万一の事態のための監視としてレカヒンも向かわせることにしたのである。
 数日前の話だ。ミナピーが今回受けた任務にリティカルが絡むと聞いた後、シュドーケンはタカにリティカルの様子を聞きに行った。
 タカは理想研究所でリティカルの直属の部下として勤務しており、立場上、リティカルやその他の冥王サイドの研究員の監視も行っている。赤い十字の描かれた白衣に身を包み、大きなマスクを着用し、漆黒のサングラスをかけた男だ。
 単に回復魔法の使い手というだけでなく、一般的な回復魔法では担い切れない、深刻な病の治癒や病床の除去などもやってのける。
 伊達に合格率12〜13%ほどと言われる屈指の難関・二級魔導治療士の資格を取得しているわけではない(リティカルは一級だが)。
 タカ曰く「ここのところは無事安定した調子」とのことだったが、シュドーケンは一抹の不安を拭えなかった。
 シュドーケンが「本当か?」と聞き返すと、タカは「魔導治療士の誇りにかけて」と答える。
 だが、顔を覆うマスクとサングラスのおかげで表情が読めず、真偽の程は分からない。
「クスト殿はリティカル殿のことに関して、何か言ってないか?」と尋ねても「別に何も」と答えるだけであった。余談だが、クストとは理想研究所の副所長で、リティカルの側近的立場の男だ。リティカルが冥王城から連れてきたスタッフ研究員の一人である。ワルキュリア・カンパニー側のフランシスやタカは、クストのような冥王政府に籍を置く研究員達とも上手くやっていかないとならないのだ。
 結局、タカとの会話でシュドーケンの不安が取り払われることはなかった。
 それならば、万一リティカルが暴走したらミナピーでは抑えられないだろうと思い、客観的に状況を判断でき、これまでも面倒事を上手くまとめてきた実績があり、そして何より腕の立つレカヒンを同行させることにしたのである。



 ミナピー、ラトーレ、リティカルは目の前の光景に我が目を疑った。
 冒険者ギルドの施設前に広がる『冒険者広場』では、阿鼻叫喚の地獄絵図が巻き起こっていたのだ。
 広場に転がる人体のパーツや血だまり。燃え上がるギルドの施設。悲鳴を上げて逃げる市民達。
 そこに広がるのは、軍服姿に赤いマントを羽織ったドラゴン系種族の男が、ジャスティス仮面の姿をした大量の人物達を片端から殺戮している光景であった。
 逃げ惑うジャスティス仮面と追いかける男。何者かは知らないが、この男が着ている軍服から、相当階級の高い人物であることは推測で来た。
「ジャスティス仮面は皆殺しだああああっ!」
 竜の軍人が激しい雄たけびを上げた。大きな翼を広げ空へ舞い上がり、大きく開けた口から燃え盛る火炎を地上に向かって放射する。
「ギャアアアアア!」
 ジャスティス仮面の姿をした者達が何人も火だるまになった。
「こ、これは!? どういうことフリウォ!?」
 ラトーレが目を丸くした狼狽の声を上げた。そんなことミナピーが聞きたい。
「おのれ、ジャスティス仮面! はああああああっ!」
 リティカルがすぐさま両手を広げ構えると、彼女の周囲に青白いオーラが放出され、凄まじい魔力の奔流が駆け巡り始めた。
「リティカル殿! お待ち下さい! これちょっと様子が変です!」
「なんか関わらない方が良さそうタイバニ!」
 ミナピーとラトーレが慌てて止めに入る。
「うっさい! あんなの見せられて黙ってられるか!」
 リティカルの胸の谷間から牙が生えそろった第二の口が開き、乱暴な言葉使いを吐いた。
 そして、念動力でミナピーとラトーレを押しのける。
「あっ!」
「ぐわっ!」
 見えない力に押されて尻もちをつく二人。
「アハハハハ!」
 リティカルが興奮し、楽しそうに笑い飛ばした。
 両腕を突き出すと、肘から先が分離した。そのままオーラに包まれた手が矢のように飛翔し、竜の軍人に向かって飛んでいく。
 そして、竜の軍人の後頭部と右の翼をそれぞれの手でつかむと、手から激しい電流を浴びせた。
「ぐわあああああ!」
 突如の不意打ちに悲鳴を上げる竜の軍人。
「ジャスティス仮面はアタシの得物なんだよ!」
 胸の口から威勢よく啖呵を切るリティカル。顔の口は邪悪な印象を受ける笑みを浮かべ、ペロリと舌なめずりをした。
 そして胸の口の周囲から六本の花びらのような触手が展開し、透明な彼女の四肢が深緑に染まる。
 彼女の胸元の前に、風属性の呪文が刻まれた魔方陣が出現。そこから竜の軍人目がけ、うねりを上げた突風が吹きすさぶ。
 突風が竜の軍人に達する直前、電撃を浴びせていた両手は離脱。竜の軍人だけを遥か上空に吹き飛ばす。
 両手がリティカルの元へ戻り、肘に音もなく接着。間髪入れず、背中の翼から大量のクリオネ型の生物を発生させ、広場から逃げようとしているジャスティス仮面の集団に向けて飛ばす。
 クリオネ達はジャスティス仮面達にみるみる内に追い付き、彼らを挑発するかのように周囲を縦横無尽に飛び回る。
「クリオネビット!」
 リティカルが腕を突き出し命令すると、飛び交う無数のクリオネから光線の雨が四方八方より降り注ぎ、ジャスティス仮面の集団を撃ちのめしていく。
「ぎゃあああああ!」
 光線が直撃し、悲鳴を上げるジャスティス仮面達。クリオネビットのビームは細いがかなりの攻撃力であった。ジャスティス仮面達は次々と黒焦げになってぶっ倒れていく。
「リティカル殿! おやめ下さい!」
 ミナピーが必死に警告する。こんなことにわざわざ首を突っ込むとろくなことにならないのは自明の理。
「危ない!」
 ミナピーがリティカルを制止すべく駆け寄ろうとした瞬間、リティカルの軟体の腕が伸び、ミナピーを突き飛ばした。
 刹那、竜の軍人が急転直下。リティカルが目の前に魔力の防壁を発生させ竜の軍人を防ぐが、バリアにはヒビが入り、粉々に砕け散る。
「貴様ぁっ!」
 竜の軍人が腕を振り上げ、リティカルを殴り飛ばした。
「がふっ!」
 リティカルの身体がパンチ一発で宙に舞い上がる。しかし、そこで自らの身体を反転させ、翼を広げ滞空する。
 その間に、飛ばしていたクリオネビット達が遠距離から竜の軍人にビームを一斉射。
「邪魔だぁ!」
 竜の軍人はクリオネビットのビームを全身に浴びているにも関わらず、大したダメージを受ける様子がなく、それどころか反撃してきた。
 クリオネビット達のいる方に向かって炎のブレスを吐いたのだ。
「うおっ!」
 一直線上にいたラトーレは必死に身をよじって炎を回避。クリオネビットもそれ以上に機敏に回避し、統制の取れた軌道で周囲を飛び交う。
 リティカルはその隙に腕を伸ばし、竜の軍人の胴にグルグルと巻きつけた。
「捕まえた!」
 巻きつけた腕から電流が放射される。
「ぐわあああ!」
 竜の軍人が再び叫ぶ。彼の身体が真っ白に赤熱するが、「二度は効かん! 慣れたわ!」と叫び、巻き付いた腕を粉々に引きちぎった。
 リティカルは千切れたスライム状の腕の破片を自分の元に呼び寄せ、すぐに再生。
 彼女はすぐさま構え直し、両手を突き出す。
 そして。
「ねぇ見て、私のネイル! ほら、お手入れしたばっかなんだから!」
 合計十本の指からオレンジ色の鋭い爪を伸ばし、竜の軍人を串刺しにせんと襲いかかる。
「フハハハハハハハ! 遅い遅い遅い遅い遅い! 遅くて遅くて押尾学だあああ!」
 竜の軍人は意味不明なことを言いながら腕組みし、激しく唸りを上げ襲いかかる鞭のような爪を全て紙一重で回避する。余裕の表情だ。
「私の爪を全部避けてる!? せっかくめっちゃ予約取り辛いネイリストにデザインしてもらったのに! 当たってよ!」
 顔の口からリティカルが言う。
「だったらこれプラス、オールレンジ攻撃はどうよ?」
 続けて胸元の口からこう言い、クリオネビットを竜の軍人の周りに展開させ、360度の全方位からビームの嵐を浴びせる。
「こんなビームなど全て食ってくれるわ!」
 竜の軍人は上を向いて大口を開け、大きく息を吸いこむと、レーザーを全て飲み込み、その勢いでクリオネビットも吸い込んだ。
 リティカルの爪が収縮し、胸元に炎属性の呪文が刻まれた魔方陣が現れる。彼女の透明な四肢が赤く染まる。口元から竜の軍人に勝るとも劣らない業火が巻き起こった。
 竜の軍人も対抗し口から火炎のブレスを吐き出す。
 両者の中央でぶつかる炎。
「くっ!」
 ミナピーは思わず顔をコートの裾で覆い、戦う二人から後ずさる。
「あなた達も見てないで手伝いなさいよ!」
 リティカルが上の口からミナピーとラトーレに呼びかける。
「ええっ!?」
 うろたえるミナピー。
「レベルが高くてついていけないアニポケ!」
 ラトーレは一応武器のハンマーを持って構えているが、全然バトルに介入する様子を見せない。ミナピーも人のことは言えないが。
「傍観してるだけの奴は罰として後で生命エネルギー八割吸うから!」
 リティカルがミナピー達に脅迫じみた言葉を投げかけた。
「そ、そう言われましても……」
 杖を構えつつ、おろおろとその場を動けないミナピー。どのタイミングで加勢していいかつかめない。すぐ巻き込まれて死にそうだ。
 ラトーレは申し訳程度に、ぶつかりせめぎ合う煉獄の火炎の間に臭いアイスブレスを吐いたが、一瞬で蒸発した。
 両者炎の放射をやめ、リティカルと竜の軍人は上空に飛んでの空中戦を展開する。
 リティカルは距離を取ってアウトレンジからの魔法攻撃、竜の軍人は接近して格闘戦に持ち込む図式だ。
 リティカルは牽制で両目からビームを放ちつつ、腕を伸ばし電流を浴びせるが、竜の軍人はだんだんと身体が慣れていくようで電撃を我慢できるようになっていく。異様な程タフな男だ。
 リティカルの四肢が紫色に染まり、胸元に毒属性の魔方陣を作り出し、猛毒の紫煙を放射するがまるで通じていないようである。
「あの竜の人、化け物?」
 ミナピーは眼鏡を押さえながら空を見上げることしかできなかった。
「まったくシュドーケンの野郎、面倒な案件には俺ばっかあてがいやがって!」
 そのとき、ミナピーの後ろから声が聞こえた。
 ミナピーとラトーレが振り向くと、そこにはロシーボ隊の管轄従者・レカヒンが立っていた。
 彼の両脇には二人の平従者、グランガチとバッベラー。
「お前らはあそこでぶっ倒れている連中から状況を聞き出せ。こっちは俺が何とかする」
 レカヒンがそう言うと、グランガチとバッベラーはクリオネビットの攻撃を受けて倒れているジャスティス仮面達に駆け寄っていった。
「うるせええええ!」
 竜の軍人がレカヒンに急接近し、腕を振り上げ鋭い爪でレカヒンを袈裟切りにした。
「がはっ!」
 血しぶきを上げレカヒンはその場に倒れ、即死した。あまりに一瞬のできごと。ミナピーは言葉も出ない。
「レカヒン殿!」
「レカヒン!」
 地上のラトーレと空中のリティカルが同時に叫んだ。
「くそおおおお!」
 ラトーレがハンマーを構え、ドスドスと巨体を揺らし、竜の軍人に突撃していった。

(続く)
メンテ

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