気にしたら負け ( No.359 )
日時: 2013/08/17 20:05
名前: 空人 ID:ixa4Qf/E

 気になる異性が居る。
 それは、思春期の学生諸君になら見に覚えのある、ごく普通な日常のひとコマであるだろう。
 しかしそれが、恋愛感情ではないとしたらどうか。
 否むしろ、そうであるからこそ、そこから恋に発展するのを期待するのかもしれない。
 別段目立つわけでもないその人物を、何故か目で追ってしまい、気がつくと居場所を探って視線をさまよわせ、声のする方へ振り返ってしまう。
 つまり俺には、クラスにちょっと気になる異性が居るのである。

 彼女は明るい性格ではない。むしろ暗いと言ってしまってもいい。いつも机に顔をうつむけて、猫背のまま何かを読みふけっている。
 友人と呼べるほど仲の良い人物と接触した場面を、ここひと月は見ていない。目鼻立ちはぼんやりとしていて、度の強い眼鏡がそこに覆いかぶさるために表情もハッキリせず。まぁ、笑顔なんかは見たことも無い。
 いや、読んでいた本によほど趣のある事が書いてあったのか、口角を緩める事は有ったのだが、それを笑顔と呼ぶには少々勇気が必要だと言わざるをえないだろう。
 髪は丁寧とはけっして言えぬ編み方の三つ編みで、二つに分けてはいるが高さが違うのか長さも違って見える。華奢な身体は肉付きが悪く大きめの制服がその野暮ったさに更なる拍車をかけるのだ。
 ある意味目立つ容姿ではあるものの、クラスメイトへの印象は一様に芳しくなく、意図的に彼女の方を見ないように勤めている者も少なくない。

 そんな少女の何が気になるのか説明せねばなるまい。
 俺には彼女がずれて見えるのだ。

 クラスから浮いている、会話のタイミングが遅れているなどと言うのではない。
 否それも有るのかもしれないが、俺が言っているのは実際の見た目の事である。
 それはまるで、レイヤー分けしていた線画と下塗りの部分をコピー&ペーストでずらしてしまったかのように、彼女の輪郭からはほんの少しだけ色がはみ出しているように見えるのだ。
 他のクラスメイトに聞いてみても、そんな現象は確認できず、見えているのは俺だけらしい。

 今日もおしゃべりな友人に行くてを遮られる心配も無く、黙々と帰り支度を進めている彼女を、特にこちらからは好意らしい感情も無く眺めている。
 すると不意に、彼女が底が知れない眼鏡の奥からこちらを睨みつけ、颯爽とは言い難い足取りで向かってくるではないか。
 その眉間には深く不快な縦じわが、釣りあがった両眉によって打ち寄せられており、不覚にも俺の心の臓は通常の三倍は高い音を奏で始めるのだった。
 主に、恐怖とか畏怖とか呼ばれる感情によって。