出会い、時間、魔法:【俺と彼女と、ありがたいけど迷惑な幼なじみ】 ( No.184 )
日時: 2012/08/14 18:30
名前: 菊桜◆KIKU/p2anM ID:nQkb5vu6

「退屈だ……」

 俺はため息をついた。春休みももう終わりで、明日から学校だ。正直言って面倒臭い。担任からこれでもかというほどたっぷり渡された宿題も、三日で終わらせてしまった。遊ぼうかと幼なじみに電話をしたが「今宿題中! 手伝ってくれ! ……もう腕が死ぬ」と言われ丁重にお断りした。その後、担任の愚痴や家族の愚痴を三時間ぐらい聞かされるはめになった。これに似たようなやり取りを三回して今に至る。もうあいつらに電話はしないと誓い、俺は壁に掛けてある時計を見た。午後四時を回ったところだ。本でも読むかと本棚に手を伸ばそうとした。すると、玄関から声がした。

「すみませーん、誰かいますか?」

 鈴のように高く澄んだ声だった。聞き覚えがない声だ。
玄関の扉は木でできているが、二か所切り抜かれたところがありそこにガラスがはめられているという、よく分からないセンスの人が作ったらしい。そのよく分からないセンスは俺が住んでいるマンション――西洋風のデザインで、少女マンガに出てくるような無駄にお洒落な建物――にも活用されていた。こんなマンションに住もうとは思わないが、俺の通っている学校に一番近かったところがここだったから、仕方がない。ちなみに徒歩五分で着く。
 新しく引っ越してきた人だろうか。俺は玄関の扉を開けた。

「はっ……はじめまして、なのです」

 そこに立っていたのは、腰まである銀髪でアホ毛が目立つ、俺と同い年ぐらいに見える少女だった。白のフリルがたくさんついた、水色から紫へグラデーションした膝丈までの着物。帯はピンク。膝下を覆う水色のブーツ。何よりも特徴的なのはその目だった。左は快晴の空のような水色。右は桜の花のようなピンク。俺よりも背が二十センチメートルほど低く自然と上目遣いになっていた。

「今日から隣の部屋に住むことになりました、コハク・ルファーナです。こっ、これからよろしくお願いしますですっ」

 彼女は恥ずかしいのか若干俺から目を逸らし、早口で言った。耳まで赤くなっているのが分かる。やべぇ、可愛い。

「俺はアリーチェ・ベルモンドだ、よろしく。困った時には助け合っていこうぜ」
「は、はいっ」

 俺が右手を差し出すと、彼女は驚いたような目で俺を見た後、おずおずと手を掴んで握手してくれた。握手をした後、再びよろしくと言って彼女と別れた。……今までに見たことがない、可愛い子だったな。
 その後、幼なじみ三人がいきなり家に来て、宿題を手伝わされた。十時までかかったが、何とか全員分の宿題が終わり、また明日学校でといって別れた。なんなんだ、あいつら。
 明日から、またつまらない日常が始まるのかと思うと、気が重かったが俺はとりあえず眠りについた。

 *

 翌日。学校に登校してきた俺はクラスメートが騒がしいのに気がついた。窓側の一番後ろにある自分の席に座ると、待っていましたという様に幼なじみ三人衆が俺の席の周りに集まってくる。

「あーちゃん、おっはよー! 一日ぶりだね!」
「……おはよう、メリル。お前は相変わらずだな……」

 幼なじみ、一人目。腰まである紺色の髪、髪と同じ色の猫耳と尻尾――先が二つに分かれている――を持った少女が真っ先に話しかけてきた。こいつの名はメリル・キャッツハート。普通の人間のような姿だが、猫の力を持った魔物だ。こいつの席は俺の席の斜め右にある。わざわざ俺の方に来なくてもいいんじゃないか。こいつはクラスメートの名前の最初の文字を伸ばすという独特な呼び方をする。……あーちゃんという呼び方は恥ずかしいからやめてくれ。

「ベルモンド、おはよう……。宿題手伝ってくれて、ありがとう……」
「おはよう、ラルア。どういたしまして」

 幼なじみ、二人目。ピンクの髪を肘ぐらいまである三つ編みにし、髪と同じ色の兎耳――垂れ耳だ――と尻尾を持った少女が話しかけてきた。こいつの名はラルア・ラビファー。普通の人間のような姿だが、こいつも魔物だ。兎の力を持っている。こいつの席はメリルの前にある。こいつは男を名字で、女を名前で呼ぶという独特な呼び方をする。

「アリーチェ、おはよ。大ニュースがあんだけどさー」
「おはよ、シリウス。なんだ、大ニュースって」

 幼なじみ、三人目。肩まである黄緑の髪、髪より淡い黄緑色の翼――広げたら一、二メートルぐらいありそうだ――を持った少年が俺の方を振り返った。こいつの名はシリウス・エンジェ。こいつは天使の力を持っている。悪魔の力を持つ俺とは真逆だ。こいつの席は俺の前にある。授業中にちょっかいかけてくるのはやめろ。

「実はな、転校せ――」
「ここのクラスに転校生が来るんだよ!」

 シリウスが得意げに言おうとすると、メリルがそれを遮って発言した。それが原因で言い争いに発展しているが、俺は無視してラルアに話しかけた。いつものことだ。

「へー、転校生か……」
「ベルモンドは性別、どっちだと……思う?」

 そこで授業開始を知らせるチャイムが鳴り、席につけと担任――男勝りの女教師だ――が言う。名残惜しそうに席に着く幼なじみ三人。全員が席に着いたのを確認すると、担任は教卓に両手を置きどこか楽しそうに発言する。

「今日は転校生を紹介する、入ってきていいぞ」

 どこか、ざわついた雰囲気の教室に転校生が入ってくる。その容姿を見て更にざわつく教室。彼女は腰まである銀髪、特徴的な目――左は快晴の空のような水色、右は桜の花のようなピンク――で教室を見た。小柄――百五十センチメートルぐらいだろうか――で細い体躯はとても十八歳には見えず、十二歳ぐらいに思えてしまう。彼女は後ろ向きになると、電子ボードに自分の名前を書きだした。背が小さいので、背伸びして書いている。やがて描き終わり、彼女は再び前を向いた。

「は、はじめまして……今日からお世話になります。コハク・ルヒャ……あう、か、噛んじゃった……コハク・ルファーナです……よっ、よろしくお願いしますぅっ!」

 彼女は昨日、俺の隣に引っ越してきた少女だった。

「……か」
「か?」
「かわえぇー!」

 教室にいたほぼ全員が叫んだ。よく見ると担任も、かわいいと言って悶えていた。あんた、教師だろ……。十分ぐらいして、全員が落ち着いた後、担任は空いている席を指さした。

「それじゃあ、席は右から二番目の列の一番後ろだな。悪魔の翼が生えた、ぼさぼさの金髪に目つきの悪い奴の隣だ」

 もう一度言う、あんた教師だろ。コハクがこちらに向かって歩いてくる。クラスメートの視線が彼女を追う。主に男子からの殺気の目線がすごい。彼女が席に着き、周りの人にお辞儀をする。俺の方に体を向けた時、彼女は一瞬驚いたような顔をして、また笑顔に戻ると言った。

「こ、こんにちは……アリーチェさん。貴方も同じ学校だったんですね、これからよろしくお願いします」
「……よろしく」

 クラスメートが「知り合い……だと!?」とか「おい、アリーチェ、そこかわれ」とか言ってくるが無視。更に殺気の目線が強まった気がする。

 *

「へー、るーちゃんってあーちゃんの部屋の隣に住んでいるんだー」
「はい、そうなのです……あっ」
「なのです?」
「わ、私の口癖で……恥ずかしいのです……」
「いーじゃん、いーじゃん! 可愛いしー! ねー、らーちゃん?」
「うん……私もルーちゃん……可愛いと思う……」
「うぅ……ラルアさんまで……恥ずかしいのです……」

 長かった一日が終わり、俺達はコハクと一緒に帰っていた。正確にはメリルが強引に連れてきたのだが。まぁ、途中までは帰り道も一緒だし良しとするか。メリルもラルアもコハクのことをるーちゃんと呼ぶことにしたらしい。

「アリーチェはいいよなぁ、あんな可愛い子が隣なんだから」
「なんだよ、急に」
「羨ましいってことだよ」

 シリウスは呆れたように言葉を返してきた。羨ましい? 訳が分からない。俺が顔をしかめると、シリウスは困ったように笑った。

 *

 それからは、何をするのにも五人で過ごした。夏には花火を見たことがないというコハクの為に、夏祭りでやっていた花火を見に行った。黒い生地に桜模様の浴衣を着たコハクは、彼女の銀髪がよく生えてガラス細工のように綺麗だった。秋にはハロウィンパーティ、冬には雪合戦と、コハクがまだしたことがないものをやった。彼女は俺達と過ごすどんな時も楽しそうに笑っていた。
 そういえば、コハクは勉強や運動があまり得意ではないようだった。テストではいつも半分ぐらいの点数を取っていた。彼女はそんな結果を見るたびに、落ち込んでため息をついた。メリルは「あたしより点数いいんだから、落ち込む事ないよ」と言っていたが、彼女との差は五点程度。そして俺達の結果を見てさらに落ち込む。ラルアはなんだかんだで学年十位以内には入っていたし、シリウスも学年二位から下がったことがない。俺は……いつもと同じ、代わり映えのしない結果、学年一位だった。マラソンではラルアと同じぐらい――半分ぐらい――だったが、彼女はよく転び、膝や腕をすりむいていた。メリルは運動はできる方で女子では学年一位だったし、シリウスは学年二位、俺は……いつもと同じ、代わり映えのしない結果、学年一位だった。冬に行うテストの前、彼女とメリルが勉強を教えて欲しいと頼み込んできた。俺達は一週間、四苦八苦しながら勉強を教えた。その結果、彼女は学年九位、メリルは学年十五位をとった。彼女は目に涙を浮かべながら、お礼を言ってきた。そしてみんなで思いきり遊んだ。楽しかった。

 *

「るーちゃんと出会ってもう一年かー、早いねー」
「そうですね、時間が立つのは早いのです」
「ルーちゃん……これからも、一緒だよ……」
「はい、みんな一緒なのです! 仲良しなのですよー」
「あ、もうわかれ道かー、それじゃまた明日ねー」
「また明日……ルーちゃん、ベルモンド……」
「バイバイ、アリーチェ、コハクちゃん」
「じゃあな、シリウス、メリル、ラルア」
「バイバイなのです、メリルさん、ラルアさん、シリウスくん」

「そういえばさ……あーちゃん、変わったよね」
「ベルモンド……前は顔、変わらなくて……ちょっと、怖かった」
「いっつもつまらなそうにしていたよね、アリーチェ」
「あーちゃん、小学生のころからそうだったよね」
「いつも……勉強で一番……だったよね」
「あいつが一番から落ちたことなんてなかったよな」
「大人に天才だーとか言われてさ、もてはやされて……かわいそうだった」
「リルちゃん……」
「そのころに比べたらさ、あいつ、よく笑う様になったよな」
「そうそう、特にるーちゃんといるとき!」
「花火見たとき……着物着たルーちゃん見て……ベルモンド……顔真っ赤にしていたよ……」
「へー、あいつ、もしかしたら……」
「もしかしたらじゃなくてさー」
「ホント……?」
「アリーチェはコハクちゃんのことが――」
「好きなんだよ!」
「また……リルちゃん、エンジェの言葉……遮った」
「それじゃあさ……メリル、ラルア、ちょっと耳かして……」
「ふん……ふん……るーちゃんを……へーそれはいいね! 乗った!」
「私も……賛成」
「決定だな、決行は明日! それじゃあまた放課後に」
「了解! また明日ー」
「了解……また明日……」

 *

 今日は幼なじみ三人衆が全く話しかけてこなかった。会話といえば、登校しておはようと挨拶をしたくらいだった。それから、移動教室の時も昼飯を食う時も、三人は近寄ってこなかった。唯一、俺と一緒に行動してくれたのはコハクだけだった。
 帰りの支度をしているとメリルが声をかけてきた。

「あーちゃん……四時に屋上に来て……話したいことがあるから」
「? あ、あぁ……分かった」

 俺が了承すると、メリルは微かに微笑んで、俺の隣で帰りの支度をしていたコハクに耳打ちし、教室を出て行った。メリルにしてはやけに真剣な顔だったな……。カタンと隣から何かが落ちた音が聞こえ、俺はそちらを見た。

「あ……すみません」

 コハクが筆箱を拾いながら、俺の方を見て謝った。彼女は何故か顔面蒼白だった。

「どうした? メリルに何か――」
「す、すみませんっ! 失礼するのですっ!」

 コハクは急いで筆箱をかばんに入れると教室を走って出て行ってしまった。……? なんでだ? 時計を見ると三時五十分だった。もうすぐ四時だ。俺はコハクが出て行った事を考える暇もなく、屋上に向かった。

 *

 屋上に行くとメリルがこちらに背を向けて立っていた。俺が来た足音を聞きつけたのか、ピクリと猫の耳を動かし彼女は俺の方に振り返った。その顔は唇を真一文字に結び目を細めた、いつも天真爛漫な彼女には不釣り合いなものだった。そのいつもは見せない彼女の顔に驚愕している俺に向かって、彼女は言葉を紡ぐ。

「あーちゃん、私、あーちゃんのことが――」
「ま、まままっ、待ってくださいのですーっ!」

 鈴のように澄んだ声がメリルの声を遮った。俺達がその声のした方に振り向くと――

「来たね、るーちゃん……」

 コハクが息も絶え絶えに、俺達の方に歩いてきた。彼女は呼吸を整えるとメリルと俺の間に割って入る。メリルは彼女に耳打ちした後「るーちゃんが話した後に話すよ」と言って屋上の隅に歩いて行った。

「わ、私も……アリーチェさんに言いたいことがっ……」
「あ、あぁ……なんだ?」
「わ、わたっ、私……ア、アリーチェさんのことが……す、すっ……すすっ――」

 顔を真っ赤にしながら言葉を紡ごうとするコハク。だか相当パニックになっているのか、その続きはなかなか出てこない。俺もある程度、彼女の言おうとしている事が分かってきてしまい、だんだん恥ずかしくなってきた。

「――今だよっ! らーちゃん! しーちゃん!」
「すっ……すっ……ひゃあぁっ!?」
「うおっ!?」

 どこから現れたのかラルアとシリウスがコハクにぶつかり、コハクが俺の方に倒れてきた。俺はコハクの体を何とか受け止め、幼なじみの方を見る。

「お、おい、お前ら……何を――」
「まぁまぁ、気にすんなって。コハクちゃんに集中しなよ」

 シリウスにそう言われ、俺はコハクの方を見た。彼女は耳まで真っ赤になりながら、叫ぶ。

「わ、私っ……貴方のことが……好きですっ! ……大好きですぅっ! ……付き合って下さいなのですっ!」
「へ……?」

 その言葉を言われた瞬間、俺の思考が一時停止した。落ちつけ、アリーチェ……。落ちつけ……。やがてコハクに言われた言葉を理解すると、今までほんのり熱かった顔が、一気に熱くなった。なんだ、コレ……。俺も彼女と同じように、耳まで真っ赤になっていそうだ……。やばい。それより、返事だ。……先を越されてしまったが、俺も言おうと思っていた言葉。俺は彼女に向かって告げる。

「お、俺も……ずっと、すっ……好きだった……は、初めて会った時から……ずっと……。俺もずっと言おうと思って……つ、付き合って下さいっ……」

 その瞬間。

「やったー! 大成功!」
「おめでとう……二人とも……」
「あっ、アリーチェ、顔真っ赤ー! そんな顔するんだ、意外!」

 幼なじみ三人が物陰から飛び出してきた。……意味が分からない。俺とコハクが訳を問いただすと三人は楽しそうにこう言った。

「だってあーちゃん、るーちゃんが来てから毎日とても楽しそうなんだもーん」
「ベルモンド……着物着たルーちゃん見て、顔真っ赤にしていたから……」
「だから、僕らは二人がくっつくように手伝いをしてあげた訳……あー、楽しかった!」
「……はぁ?」

 三人の話を要約するとこうだ。俺とコハクがお互いに好意を抱いていると思ったシリウスが、メリルとラリアに協力するように頼んだ。メリルは俺を屋上に呼び出す役とコハクに宣戦布告する役。あの時、メリルがコハクに言った言葉はそういうたぐいの奴だったらしい。ラルアとシリウスは、屋上にコハクが来たらいい感じになったところでコハクにぶつかり、俺に受け止めさせることで告白を促す役。コハクは内気だから、肝心な部分をいつまでも言えないままだと思ったらしい。まぁ、実際そうだったが。告白するまでにシリウス達がぶつかってくれなかったら、何時間も言えないままだっただろう。シリウスとラルアはどこにいたかと言うと、シリウスがラルアを抱えて羽ばたいていたらしい。翼が疲れたとシリウスが愚痴をこぼしていた。コハクが来なかった場合はどうしたのかと彼らに 問いただすと、メリルに告白する気はなかったと言われ、シリウスとラルアにはなんかめんどくさいことになりそうだからそのまま帰っていたかもと言われた。……もう宿題手伝ってやらないからな。

「とにかく、コハクちゃんはアリーチェの心を癒してくれたんだよ。天才と言われ続けて疲れきっていたアリーチェの心をさ。
 ……本当はもっと時間がかかるはずだったのに、コハクちゃんは一瞬で治してくれたんだ、まるで魔法のようにさ」
「へっ……?」

 シリウスがまるで俺の言おうとしていたことを見透かしていたかのように言った。きょとんとしているコハクにメリルが言う。

「あーちゃんは子供のころから天才天才って言われていてねー、大人たちにもてはやされていたんだよ。
 だからあーちゃん、るーちゃんが来るまでは全く笑わなくて、つまらなそうだったんだ」
「……そうだったんですか」

 悲しそうな顔でメリルの話を聞くコハクに、続けてラルアが話す。

「ルーちゃんが……ベルモンドに出会ってくれたから……ベルモンドは怖くなくなったの……ルーちゃん……ありがとう……」

 コハクは三人の話を聞くと、三人にお辞儀をして、俺の方に向いた。うつむいて目を伏せた、憂いをおびた顔だった。

「私が……アリーチェさんと出会ったのは、ただの偶然です。でも、私がアリーチェさんの心を知らぬ間に癒していたなんて……」

 そう言うと彼女は顔を上げた。何か決意を秘めた顔だ。その真剣な顔に俺の胸が高鳴る。

「アリーチェさん、ちょっとしゃがんでもらっていいですか?」
「……? あぁ……」

 言われたとおりに、俺は片膝をついてしゃがんだ。更に、目をつぶって下さいと言われたので、俺は目をつぶる。

「好きです」

 直後、頬に一瞬だが、何かが触れた。俺が目を開けると、コハクは泣きそうな顔で笑っていた。

「キャー! ねぇねぇ、写真撮った!? 写真!」
「あぁ、バッチリ! 残っている! 待ってろ、今携帯におく――」
「おい、待て、お前ら」
「シリウスさん……? 何を送るんですか?」
「うわぁ!? いつものアリーチェに戻ってる!? てか、コハクちゃん、顔怖っ! いや、怒った顔も可愛いけど……。
 ちょっ、待ってアリーチェ携帯取らないで! お前の貴重な照れ顔が……データ消すのだけはやめてえぇぇ!」

 *

 こうして晴れて恋人同士になった俺とコハクは、劇的に変わるのかと思いきや、そんなに変わらない生活を送っていたりする。恋人同士になったことで、幼なじみ三人衆が更にちょっかいをかけてくることが多くなり、むしろ二人きりになれない事がほとんどだ。だけど、お前らには……ちょっとだけ感謝しているんだ。直接は言わないけどな。
 玄関から、コハクの声がした。今日はみんなで遊園地に行く約束がある。今日も、楽しい一日だろうな。
 いつまでもこの日々が続きますように。

<了>