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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

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▼リンク
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管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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だから僕らは笑ったんだ ( No.20 )
   
日時: 2011/09/20 00:00
名前: 匿名 ID:f03bqE0Q

 気が付くと俺はただ走り続けていた。行く先は見えず、目の前すらも見えていなかったのかもしれない。それでもその速度を落とすわけにはいかず、足は前へと送り出される。必死だった。とにかく必死だったのだ。駆り立てるものは暗闇だった。恐怖ゆえの遁走だった。
 逃れる先に明かりを見つけてそこに飛び込むまで、俺は走り続ける事しか出来なかったのだ。


1.タカアキの話

「その笑い声は伝染するんだ」
 夏休み気分から抜け出せない昼休みの教室にその話はあまり似つかわしいとはいえない代物だった。
「なんだよそれ、病気かなんか?」
 そしていくら暇だったとはいえ男三人が集まってする話でもないようにも感じられた。
「違うよ、三組の奴が旧校舎で聞いたんだって話を聞いたんだって話だよ」
「オカルトかよ。しかも又聞きの」
 非難は当然の仕打ちだっただろう。もともと心霊の話の類はどこかしらに胡散臭い匂いがするものだ。だというのにそれが他人の、それも聞いた話だけだというのなら疑ってくださいと言っているようなものだ。あと日本語も間違っている。
「なんだよ、信じないのかよ」
「だから、信じるとか以前の話しだっつってんだよ」
 話し始めに出鼻を挫かれたタカアキの三人の中でも一番幼さの残るその顔が不満に歪むのを俺は苦笑交じりで見つめ返した。
「ちぇ、そっちが涼しくなるような話は無いかってふってきたくせにさ」
「そうだっけ? ああ、悪かったよ。良いぜ、話せよ続き」
 不服が残る顔はそのままにタカアキが語ったのは旧校舎で夜な夜な聞こえるという笑い声にまつわる話だった。


2.旧校舎は笑う

 その話はどこにでもあるような怪談から始まった。
 老朽化によって既に使われる事もほとんどなくなった旧校舎が取り壊される事が決定したのも自然な流れといって良いだろう。だがそれは夏休みを前に浮かれ気分の生徒たちには絶好の餌だったと言わざるを得ない。自然、壊される前に旧校舎を探検しようと言い出す輩が現れ、実際に幾つかの探索隊が結成されたらしい。当然その中には夏らしいイベントを盛り込む連中も出てくるわけだ。夜中の旧校舎に忍び込む。いわゆる肝試しというやつだ。もちろん実際に心霊体験を望んだ訳ではなかっただろう。気の合う仲間たちとひと夏の思い出が出来ればそれで良かったのだ。しかしその内の一組がそれに遭遇してしまった。
 防風防塵のために学校の周りに植えられた針葉樹は夜の校舎内を更に暗い闇の色に染めていた。なのにその教室は薄明るい光に包まれていたのだという。当然、興味本位で校舎を徘徊していた探検隊達はそれに気付きその扉を開け放つに至った。
 教室は何の事はない木々の隙間を縫って月の明かりが差し込んでいるに過ぎなかった。ただ、彼らは聞いてしまう。その声を。
 笑い声だと断定してしまうにはあまりにも奇妙な声だったという。しかし頼りない光しか持たない彼らにはそれを確かめようという気概の持ち主は居なかった。奇妙な笑い声は夜の校舎に残響を残す。一目散に逃げ出した彼等を嘲笑うかのように――。


3.ヨシユキの提案

「ふぅん、で?」
 この手の話はオチが読めてしまえば威力は半減どころか無いに等しい。タカアキの話は解りやすくそれを読み取る事が出来た。それは彼の優しさだったのかも知れないし、単にこういう話をするのが得意ではないのかもしれない。
「なんだよ、張り合い無いなぁ。まぁ待ってよ、この話はこれで終わりじゃないんだ。その笑い声を聞いた奴には必ず不幸が訪れるんだよ」
 不満は示したもののこっちの反応は予想の範囲内だったのかタカアキは話を続ける。だがこれ以上どんな物で飾りつけようとも、その話が信憑性を深める事は無いように思われた。
「不幸って? 具体的に何なんだよ」
 そうこの話は、遠く離れた土地の出来事でも今より古い時代の出来事でもなくつい最近のしかもひとつ隣のクラスでの出来事なのだ。
 俺の疑問を待っていたかのようにタカアキは口角を吊り上げた。
「その声を直接聞いたのは三人、一人は階段から落ちて、一人は交通事故で、共に重症らしいけど命に別状は無いってさ」
「…………」
 二つの事故のことは当然俺の耳にも届いていた。今までの話を聞いてそれを関連付けられなかった自分を恥じると共に驚愕に言葉を飲み込んだ。
「も、もう一人は?」
「……知ってるだろ?」
 もちろんそうだった。だけど信じたくは無かったのだ。自分の身近でしかも心霊現象が原因でそういう事が――死者が出る――なんて事は。
「ま、まじかよ」
「詳しくは知らないんだよ。何せ原因不明だっていうし。でも、だからこそそれが原因だと考えるのが当然だろ?」
 今度は俺がしかめっ面を浮かべる番だった。したり顔のタカアキにどこか不謹慎さを覚えたのだ。
「……どう思う? ユウイチ」
 こっちの話に興味を持たなかったのか黙って隣で本を読んでいたユウイチに話を振ってみる。ゆっくりとした動作で本を閉じ眼鏡を押し上げたユウイチはようやくこちらに意識を向けた。
「伝染するっていうのは?」
「へっ、ああ。三人とも旧校舎から戻ってきた後、その話を皆に広めていたんだけど、その笑い声を真似するようになったらしいんだ。で、それをまた真似する人が出て……。もっとも三人が事故にあってから広める人は居なくなったらしいけどね、夏休みに入ったし」
「そうか」
 そう言い残して再び沈黙するユウイチに俺とタカアキの不審な視線が集まる。しかしそんな事はお構い無しにユウイチは声を閉ざし、考え込んだ姿勢のまま動かなくなってしまった。
 結果、痺れを切らしたのは俺の方だった。
「ま、いいか。そんなもん実際に確かめてくりゃあ良い話だろ?」
「確かめるってお前……まさか!?」
 驚きの声を上げるタカアキに余裕を見せてやろうとするが、その笑顔は残念ながらいくらか引きつったものになってしまうのだった。


4.後者は笑う

 一番最後にやってきたのはこの話を持ってきた人物だった。親を誤魔化すのに手間取ったという彼を責めるつもりはないが謝罪くらいはしっかりして欲しい。ともかく俺たち三人は昼間施しておいた仕掛け――と言っても窓の鍵をかけずにおいただけなのだが――を使って旧校舎内に侵入することに成功した。
 旧校舎の中は噂通り一面の闇だった。三人分の懐中電灯のみを頼りに俺たちは正面玄関まで移動する。中から鍵を開け退路を確保する為だ。扉の開閉を確かめていよいよ目的の場所を目指す。しかしすぐに足を止める事になった。遅れてきた扉が閉まる音が思いのほか闇に響いたのだ。誰からとも無く顔を見合わせた後浮かべた笑顔はどこと無く安堵の色が滲んだ。
 それからは無言の行進となる。そして沈黙に耐えかねてよっぽど自分から脅かし役に回ろうかと考え始めた時の事だ。最初に駆け出したのは一番後ろに居たはずのこの話を持ってきたあいつだった。当然これで俺が最後尾となる。恐怖に負けた友人を呆れると共にその突飛な行動の起因を探った。そして、それは聞こえたのだ。後ろから。
 気が付くと俺はただ走り続けていた。行く先は見えず、目の前すらも見えていなかったのかもしれない。それでもその速度を落とすわけにはいかず、足は前へと送り出される。必死だった。とにかく必死だったのだ。駆り立てるものは暗闇だった。恐怖ゆえの遁走だった。逃れる先に明かりを見つけてそこに飛び込むまで、俺は走り続ける事しか出来なかったのだ。
 たどり着いた教室は何の事は無い針葉樹の隙間を塗って現れた月に照らされているに過ぎなかった。一先ず胸を撫で下ろすと同時に注意深く辺りを探る。ここは件の噂の舞台だ。そして見つけてしまった。教室の片隅で何か黒いものが蠢くのを。声は短く吸い込む事でこらえられた。ゆっくりと後退する。しかしそれも止まる。止められてしまう。肩に手を乗せられて振り向いた先に見えたのは暗闇に光る大きな瞳だった。


5.ユウイチの解説

「うわあああああああっ!?」
 ついに声を漏らした俺に告げられたのは聞き覚えのある冷静な声だった。
「落ち着けヨシユキ、俺だ」
「な、なんだよユウイチか。お、脅かすなよ!」
 振り向いた先に月明かりに反射する見知った眼鏡を見つけて胸を撫で下ろす。だが俺はすぐに思い出すことが出来た。この教室にはもう一つ蠢く影が潜んでいるのだ。
「驚いたのはこっちだよ。急に走り出すしさ。ああ、タカアキも居たのか」
「えっ?」
 そういえば先に逃げたタカアキはずっと自分の前を走っていたはずなのだ。闇と混乱のせいで意識していなかったが彼が自分と同じ思考と過程をたどった事は考えるに難くない。つまり先ほど見た影は――。
 再び影に視線を向けると、そこには体を縮こませ両手で耳を覆いガタガタと体を揺する友人の姿があった。体中から力が抜けるのを感じる。ああと声も流れ落ちる。そしてようやく俺は周囲をゆっくり観察する事が出来たのだった。
「何だったんだあの声は」
「ヒィッ!?」
 俺が漏らしたつぶやきはいまだに何物からか自分の身を守り続ける友人の耳にも届いたらしく、
 彼は小さな悲鳴を漏らし身体を、心を震わせている。
「おーい、タカアキー?」
「……何か聞いたのか?」
 タカアキに駆け寄ろうとする俺をユウイチの質問が引き止めた。正直思い出したくはないがあの時聞いた声――だったのだろうか――は耳に残ったままだ。
「ああ……聞こえたぜ。金切り声って言うか、甲高い……笑い声、に聞こえなくはなかったな」
「そうか」
 そうとだけ言い残しユウイチは教室の窓際に近付くと手近な窓を開いてみせた。教室のこもった空気は吐き出され、新鮮な風が頬をくすぐる。そして聞こえてくる。声。
「な、この音は!?」
「ヒイィッ!」
 空気の流れが変わったからだろうか建て付けが悪くなった古いロッカーの扉が揺れる。蝶番が鳴くその音は甲高く短く刻まれていて――。
「笑い声に聞こえなくは無い、な」
「ああ」
「じゃ、じゃあ、廊下で聞いたのは何だったんだ?」
「そうだな、俺たちが入ってきた教室にも同じようなロッカーが有ったんじゃないかな。窓を開けたままだったし。玄関の戸を開け閉めした事で気流が変わったんだろう」
 言われてしまうともうそうとしか考えられなかった。そもそもタカアキがこの話を始めた時点で訝しんでいたのは自分の方だったではないか。
「ふっ、くくくく……なんだよ、脅えて損したぜ」
「幽霊の正体見たりってやつだな、ふふふ」
 俺とユウイチは顔を見合わせて肩を揺すった。
「ひぃいっ!?」
 その声が聞こえたのだろうタカアキが三度悲鳴を漏らす。その姿は実に滑稽でこみ上げていた可笑しさはついに解き放たれた。
「あっははっはははははっ!」
「ふふっ笑っちゃ、くくっ悪いだろ……はは」
「お、お前こそふくく、笑ってんじゃねえか。あははっはは」
「ひひいぃいいい。や、やめてくれぇ!」
「かっかっか」
「きしししししっ」
「ひぃはははっひゃはは」
 その笑いは火がついたように止まらなくなった。言葉とは裏腹にユウイチもついに声を上げ始めた。その内苦しくなって息を吸うときも引き笑いになってしまう。そして互いにそれを見てまた盛大に吐き出す。悲鳴を上げていたタカアキも途中から笑い声に参加していた。恐怖ゆえか俺たちの笑いに誘われたのかは判断できなったが。とにかく俺たち三人は笑い続けた。例え苦しくとも。息が出来なくとも。笑い続けなければならなかったのだ。甲高い音で。それはもう、笑い声とは呼べないものだったのかもしれなかった。


6.旧校舎は笑わない

 朝は誰にでも平等に訪れる。そこを照らす光もまた慈悲によるものだったのだろうか。静かな校舎の誰もいなくなった教室に一迅の風が躍る。ひしひしとガラスを撥ねて建て付けの悪い掃除用具入れのロッカーを撫でて行けば、扉は軋むきしきしと。その音はどこか寂しげに甲高く。笑い声には聞こえない。
メンテ
黒箱の刑 ( No.21 )
   
日時: 2011/09/20 16:30
名前: 匿名 ID:OOBK7Ivw

 黒箱の刑に処された皆さん、ごきげんよう。まずは偉大な我らが王のご慈悲に感謝しなさい。本来なら即刻死刑となるはずの君たちに、王は生の希望を与えてくださった。なんと寛大な国王陛下か!
 罪人たちよ、生き残りたくば明かりを求めよ! 懐かしき陽の明かりを!
 見事脱出が叶えば、罪は不問と致そう。君たちは温かな日差しのもとで、再び生きることができるのだ。
 さあ、足掻け。足掻け足掻け足掻け。とにもかくにも足掻くのだ。醜く無様に足掻き続けてみせろ。
 これが黒箱の刑だ。諸君らの幸運を祈る。

 *

 ひどい臭いだ。血の臭いと、腐臭。誰かが隣で吐いている、その臭いもする。そして何も見えない。
 噂には聞いていた。黒箱の刑。罪人に、真っ暗で罠だらけの迷路を進ませる。陽の光は遥かに遠い、罠にかかって穴だらけにされるか、気が狂うかして、そこへたどり着く前に大半は死ぬ。稀に脱出者が出ては、王は勇んで残酷な仕掛けをやたらと増やし、そうして出来た数段生存率の下がった黒箱に、また罪人を放り込む。脱出できれば無罪、死ねば有罪。王の退屈しのぎのための裁判、それが黒箱の刑。
 生き延びてやる。生きて、脱出してやる。こんなところで死んでたまるか。
 だが……この臭い、ひどい。臭いだけで気がおかしくなりそうだ。服の袖を破けば、鼻と口を覆うことができるだろう。どうする?
 a)おおう⇒【1】へ
 b)やめる⇒【2】へ

【1】
 嗅覚を捨てるのには勇気が必要だが、背に腹は変えられない。左の袖を破って、顔の下半分を覆った。それでも布を通り越して臭いは鼻を突くが、いくらかマシになった。これならどうにかなるだろう。
 さて、進まなくてはならない。もたもたしている間に、一緒に放り込まれた罪人たちは先へ行ってしまった。早速分かれ道だ。右と左、どちらに進もう。
 a)物音のする右⇒【3】へ
 b)物音のない左⇒【4】へ

【2】
 視覚が役に立たない今、頼りなのは聴覚と触覚、そして嗅覚だけだ。その一つを失うわけにはいかない。ここは我慢だ。
 傍には他の罪人たちがいるが、さて。
 a)誰かと行く⇒【5】へ
 b)一人で進む⇒【6】へ

【3】
 それほど離れていないところから、人の足音が聞こえてくる。人が多いほうが安心だ。右の道を行こう。
 ところが、進行方向の先で人の悲鳴がした!
 a)引き返そう⇒【7】へ
 b)進んでみる⇒【8】へ

【4】
 左の道は、ひっそりとしている。他の者はとっとと先へ行ってしまったのか、それともこちらには誰一人進まなかったのか。どちらにしても、今現在、一人であることに代わりはない。ほんのり、背中が冷えた。
 a)慎重に歩く⇒【9】へ
 b)先をいそぐ⇒【10】へ

【5】
 さっきまで吐いていた者が、どうやら、立ち上がった。布擦れの音がする。歩き始めたらしい。
 a)声をかけてみる⇒【11】へ
 b)別の者をさそう⇒【12】へ

【6】
 みな、右側の道を行っている。ならば左だ。すると、後ろから腕を掴まれた。
「殺してえ!」
 女の声だ。震えて、妙に甲高い。今にも気をたがえそうだ。
 a)殺してやる⇒【13】へ
 b)ふりほどく⇒【10】へ

【7】
 駆け、突き当りを右に折れた。人の悲鳴はまだ続いている。早速罠による犠牲者が数人、もしかしたら十数人出たようだ。恐ろしい。
 右側の壁が途切れている。また分かれ道だ。
 a)折れずに直進⇒【10】へ
 b)曲がってみる⇒【14】へ

【8】
 人の波に逆らって進んだ。肩が何度もぶつかる。皆必死に逃げている。先に何があるのか。人の足音が騒々しくて耳は役に立たなかったが、ふと何かの音を拾った。重い音だ。耳を澄ます。ずっと続いていて、しかも、だんだん大きくなっている。地鳴りもするようだ。
「うがあ」
 人の悲鳴がして、別の音がした。何かがひしゃげる音だ。ずいぶん近い。ぞっとする。慌てて逆方向へ駆け出した。焦りで足が思うように動かない。もつれた。転ぶ。音がする。音が、だんだん大きくなって迫ってくる。嫌だ、いやだ、死にたくない。音、音、音。立ち上がれない。ああ。
 最後に、臓腑と骨とが潰れる音がした。
 ▼あなたが一人目の犠牲者です。

【9】
 壁に手を添えながら、慎重に進んでいく。どうやら分かれ道だ。
 a)右折⇒【15】へ
 b)直進⇒【10】へ

【10】
 先を急いだ。知らず駆け足になっている。怖い、早くここから逃れたい。ひたすら前へ前へ直進する。と、強烈な異臭が鼻を突いた。なんだこれは。何かを踏んでいたことに気付く。手で触れてみた。何かに濡れた、硬いもの。
「あああ!」
 指先に痛みが走った。もう片方の指で触れる。痛みと、どろり。溶けている、溶けている。そして次に硬いものに触れた。皮膚が失せて、骨が出てきたようだ。先ほどの固体は、誰かの骨だったのだ。気付いたときにはもう遅い。物音に仰げば、何も見えないが、強いにおいのする液体が降りかかってきた。痛い痛い痛い痛い。皮膚が焼ける、溶ける。のたうっても、苦痛からは逃れられない。でもそれも、だんだん遠くなって。
 ▼あなたが二人目の犠牲者です。

【11】
「一緒に行かないか」
「あ……ええ……」
 女だった。か細い声だ。大丈夫か。
「腕に」
 離れ離れにならないよう、腕を貸す。冷えた指が絡まった。傍に人がいることで安堵する。
「右は……駄目です……左へ」
 女が言った。
 a)従う⇒【16】へ
 b)右へ⇒【8】へ

【12】
 もう一人、傍にいた者がいた。動く気配はない。
「なぜ進まない?」
 聞いてみると、太い男の声が答えた。なんと、笑っている。
「こういうものはな、後から動いた方が賢い。死体やら血やらが、罠の在り処を教えてくれる」
 a)ともに待つ⇒【17】へ
 b)やめておく⇒【6】へ

【13】
 このままでは気が狂って、自ら死を選ぶことも出来ずに、餓えて死ぬまで苦しみ続けるだろう。殺してやるのが一番だ。女の身体に触れ、首を探し、ゆっくりと指を巻きつけた。細い首だった。力をこめると、女が苦しそうに息を詰める。思わず緩めると、その瞬間何かが首に巻きついた。
「あなたも一緒に!」
 女だ。狂った女が首を絞めてくる。すごい力だ。息が吸えない。苦しい。駄目だ、もう、力が入らない。振りほどけない。
 悪魔のような笑い声が、最後に、耳に届いた。
 ▼あなたが三人目の犠牲者です。

【14】
 分かれ道もないまま、ずいぶん歩いた。ようやく突き当たりに出る。いや、突き当りではない。また分かれ道だ。正面には階段、左手には道が続いているらしい。階段の方には、何か少し明るいように思える。
 a)階段へ⇒【18】へ
 b)左側へ⇒【19】へ

【15】
 真っ直ぐ歩き続けた。次の分かれ道は、片方が階段、片方が左折。階段の方には、明かりが見える。
 a)階段⇒【18】へ
 b)左折⇒【20】へ

【16】
「そこは右へ……」
 女はまた道を示した。声は頼りないが、迷いなく言い切るのでつい従ってしまう。
「なぜ、分かるんだ」
「分かるわけでは……」
 言葉を濁し、女は次に「階段へ」と言った。明かりが見える。もしや、もうゴールまでたどり着いたのか? 女を連れ、階段を上る。あかりが近くなってきた。暖かい。ああ、本当にたどり着いたのかもしれない。
「一緒に……」
 女が言った。あかりで顔があらわになる。やつれてはいたが、大きな瞳の、綺麗な女だった。女神のようだと、たまゆら思う。
「ここが一番……なんです……」
「一番? なにが?」
 気のせいか、瞼が重くなってきた。両膝を突く。女も一緒に。
「ここが……一番……楽に……」
「楽に?」
「死ねます」
 ふっと微笑んだ女は、この世のものとは思えぬほどに美しく見えた。いや、もしかしたらその頃にはもう、死んでいたのかもしれなかった。だから見たのは、本当の女神かもしれない。
 ▼あなたが四人目の犠牲者です。

【17】
 男の自信に満ちた答えを、この上なく心強く感じた。勝手に一緒に待つことにする。すると、前方で何か音が行き過ぎた。人の悲鳴を連れている。
「なんだ?」
 口にすると、男はまたも笑った。
「ほらな、間違った方に進んでいたら、今頃轢き殺されていた。さて、進むぞ。右だ」
 先ほどは右から何かが転がってきたようだったが、今度は何も起こらなかった。一度発動したら、次に発動するまでには時間が掛かるのだろう。突き当たりを左へ。あかりの見える階段がある。
「見てみろ。こういうものは、たいていスタート地点近くにゴールがあるものなんだ。すぐ近くまで来ているのに、なかなかたどり着けない俺らを見て、笑いたいんだよ、あの趣味の悪い王さんは。さっきの正解ルートは左だろうが、あっちに行ってればここに着くまでに散々遠回りさせられたろうさ。ま、俺は思い通りにはなってやらないがな」
 上るぞ、と言われて上った。あかりはどんどん強くなる。それと並行して、眠くなっていくような気がした。だんだん、瞼が上がらなくなる。足が重くなって、ついに倒れた。
「おかしい……な……」
 意識が闇に落ちる寸前、男の声を聞いた。
 ▼あなたが五人目の犠牲者です。

【18】
 あかりが恋しい。はやく、はやく、外へ。階段を駆け上る。光は強くなる。しかし長い。いつになったらたどり着けるのか。溜まってきた疲れが、足にまとわりついて歩みを鈍らせる。そこから身体全体へ広がっていく。ああ、眠い。一眠りしても大丈夫だろうか。そうだ、少し休憩して、また登ればいい。疲れた。休もう。大丈夫だ、少しだけ。目を閉じても、まだあかるい。でも、なんでだ、寒いな。身体がどうしようもなく重い。もう、なんだっていい。とにかく眠りたい。全て忘れて、ただ眠るんだ。
 そうして落ちたのは、永遠に醒めることのない闇の中だった。
 ▼あなたが六人目の犠牲者です。

【19】
 臭いがした。巻きつけた布を通して。これは、ガスの臭いか? 危険を悟る。逃げなくては。また二又になっているようだが、臭いは前方から流れてくる。左だ。左に行こう。急げ。致死性のガスなら、長く吸ってはいけない。駆けながらも、壁に手を添えることは忘れない。ずっと、一続きだ。分かれ道はない。折れることはあっても、一本道。これはどこまで続いているのだろう。
 と、左右同時に壁が途切れた。正面にも壁はない。どうやら三叉路だ。
 a)右へ⇒【21】へ
 b)左へ⇒【22】へ
 c)正面⇒【23】へ

【20】
 左へ。慎重に進もう。だが、なんだ? 鼻と喉が痛い。目も痛む。口と鼻を手で覆った。知らず、膝が折れる。つつっと、鼻から何かが流れる。生温かい、どろりとした液体。見えないが、血だろう。そのときになってやっと、麻痺していた嗅覚が戻ってきた。異臭、これは、何かのガスの臭いだ。毒ガスか? 逃げなくては……だが、身体が動かない。咳がこみ上げてきた。何かが一緒にせり上がってくる。口から溢れて、床に散った。これもきっと血だ。力が抜ける。苦しい。突っ伏した。自分の血は、熱いくらいに、温かい。
 ▼あなたが七人目の犠牲者です。

【21】
 選んだ道を進む。ゆっくり。十歩目だった。がくん。音がする。足元だ。視線を落とすが、何も見えない。そのとき、床が消えた。支えを失った身体が、傾ぐ。両手で何か探すが、何もない。空気だけを掴んだ。
 衝撃。自分の胸を、腹を、手足を、何かが。痛い。動けない。とても痛い。
「あ、あ、あ」
 息をしようと口を開けば、空気は喉を通らず、かすれた声が出てきた。苦しい。もういい。楽になりたい。そっと瞼を落とした。
 ▼あなたが最後の犠牲者です。

【22】
 【21】へ

【23】
 正面の道を行くと、ふいに腕を掴まれた。振り返る。少女がいた。肩で切りそろえた髪、つぶらな瞳、あどけない表情。闇の中であるはずなのに、姿かたちはしっかり分かる。少女はほんのり輝いているらしかった。
「お兄ちゃん、わたし、お兄ちゃんと一緒に行く」
「おまえみたいなのも、黒箱の刑に処されたのか」
「わたし、お兄ちゃんと一緒に行くよ。そこね、危ない。ジャンプして」
 手を握られる。伝わってくる温かさに、とても安らいだ。言われるとおり、前へ飛ぶ。何も起こらなかった。少女は少し笑った。
「そこにね、落とし穴があるの。落ちたらね、体中穴だらけになっちゃうよ」
「なんで知ってる?」
「わたし、お兄ちゃんと一緒に行くの」
 少女はそれからも、共に歩きながら、つぶさに指示を出してきた。
「だめだよ。一歩だけ踏み出して、すぐに戻るの」
「ちがうちがう。そっちは間違い。ここは右」
「お兄ちゃん、それはゴールじゃない。うそゴールだよ。本当のゴールはね、こっち」
「壁から手を離して。そこから剣が出てくるの」
「お兄ちゃん、また跳んで。そこ歩いたら駄目」
 長い間、歩いた。どれだけ歩いたか分からない。でも、一度も異変は起こらなかった。そして傍にはずっと少女がいた。心強かった。
「お兄ちゃん、おめでとう。そこがゴールだよ。その階段、五段目と、十三段目は飛ばして上ってね。それから、ゴールの扉は上の方を押して開けるの。ちょうどお兄ちゃんの頭くらいの高さ。他の場所を押したら、死んじゃう」
「おまえは来ないのか?」
「わたし、お兄ちゃんと一緒に行きたい。でもまた、今度のお兄ちゃんが来るから、ここでばいばい」
「そうか……」
 少女が生きてはいないだろうことは、うすうす気付いていた。少女には実体がなかった。光だ。あかり。幽霊ではない。そう呼ぶには、少女は温かすぎた。
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「ありがとうな」
 聞いて、少女はにこりと笑った。
「お日様、すぐそこだよ」
 少女が消えると、また一面の闇が戻ってきた。しかし振り返れば、はるか高いところに扉が見える。そこから光が漏れていた。紛れもない、外の陽のあかり。階段に足をかける。指示通り、五段目と十三段目には触れない。たん、たん、たん。迷わない。そのうち、駆け出す。息を切らして上りきった。たどり着いた。そして頭の高さへ、腕を。
 目を閉じて、全身に陽のあかりを浴びる。温かく優しく、とても心地良かった。
 果てしない希望が、そこにはあった。
メンテ
天の使い ( No.22 )
   
日時: 2011/09/20 22:18
名前: 匿名 ID:HtdY4bCM

 雪がしんしんと降る中。少女と少年が話している。
 その姿は随分みすぼらしく、彼らを気に留める者は居らず、話していることを誰も聞き耳立ててまで聞こうとはしない。
 まばら雪の、足跡付き絨毯が敷き詰められた煉瓦葺きの街中。黄や青のネオンが輝き、人々はみな浮き足立っているようだった。
 時折耳に届く、幸せな夜をというようなフレーズの音楽に、聞き入っているように楽しげである。
 もしくは、はるか高くに積み重なった、屋根の上のネオンの反射に目を奪われているのであろうか。
「もう、なんてことだわ!」
「そう言うなよリリー。試験は毎年あることだろ?」
「マクスウェル……そうですけれど。でも、なんでよりにもよって、今年の昇格試験が『恋の成就』なんですのー?!」
 そんな聖夜の夜に、少女の声が響いた。耳に心地良い、澄んだ声だった。
 彼女の名はリリー。少年の名はマクスウェルと言うようだ。
 リリーは茶色の大人しめのエプロンドレス。それにブロンドの髪と翠の瞳。髪は服装とは違い、空気をたっぷり含んだようにふんわりと鮮やかに輝いている。
 マクスウェルも色は同じ茶のスーツ。それに眼鏡をかけていた。ライトブラウンの髪に碧い瞳で、やや怒ったような顔つきをしている。
 二人とも、歳は十を少し越えたくらいの幼さに見える。
「ふー。叫んだら少しは落ち着きましたわ。さて、それではどのような方のお手伝いをしましょうか」
「そうだな。やっぱり、簡単なのがいいかな。とは言っても……」
「簡単なのって、一体どういうものなんでしょう?」
「そうなんだ。僕もそれが言いたかった。リリー。君、恋をしたことは?」
「あるわけないですわ。天使(エンジェル)とはみな兄妹のようなもの。そうでしょう? マクスウェル」
「……あるわけないよな」
「何か言いました?」
「いや、天使たるもの我欲はよくないな、と」
「そうですか」
 リリーは数歩前に進んだ。そして、マクスウェルを振り返り見る。
「とにかく、探してみましょう」
 微笑んだ顔は、幼さが五割増しだ。マクスウェルはそう思った。


「なかなか恋の成就を“されたい”というような人が見つからないな」
「そうですわね」
 二人はさきほどの場所で唸った。
「おや、可愛い坊やたち。こんなところで何をしているんだい?」
 彼らに声をかけてきたのは、一人の老婦人だった。
 優しそうな顔をしており、身なりから見てそこそこ裕福そうではある。
 手には大きなバケットが顔を出した紙袋を持っており、なんとも良い匂いが漂ってくる。
「なんでもないですわよ」
「リリー。そんなつっけんどんな返し方があるかよ。おばあさん、すみません。気にしないで下さい」
 マクスウェルがリリーの言葉を詫びる。その行為に、彼女は少し不満気であった。
「気にしないで。そんな風に言われるのも慣れているわ。むしろ懐かしいくらい」
 おばあさんはどこか寂しそうな顔をした。けれど、それはほんの一時のことで、すぐにまた楽しそうな、なんとも言えない顔に戻った。
 きゅる。きゅるるるぅ。
 突然、奇妙な音が鳴った。
 マクスウェルは音のした方見る。そこには真っ赤な顔のリリーがいた。
「あらあら。まるでトナカイさんのような顔ね。お腹が空いているのかしら?」
 おばあさんはくすりと笑い、「よければ家にいらっしゃい。今日はスープをたくさん作っているから、ぜひ来るといいわ」


「そう。リリーにマクスウェルと言うのね」
 おばあさんは二人を家に招き入れ、スープを温めなおしながら言った。バケットはすでに小さく切られ、テーブルに置かれたバスケットの中に鎮座している。
 部屋はバケットの香ばしい匂いと、スープの良い匂いで充満しており、ついにはマクスウェルのお腹の虫も鳴き出した。
「元気な子たちだね」
 おばあさんは微笑み、温め終わったスープをお皿に注ぎ、テーブルの二人の前。そして自分の前に並べ置いた。
「さぁ、熱いので気をつけて召し上がれ」
 優しげな笑みに懐かしさを感じつつ、二人はおいしそうなスープを口に運び始めた。
「おいしい……」
「うん……」
「そう、それは良かったわ」
 おばあさんはまた微笑み、自分も口につけた。
「うん、上出来ね」
 二人とおばあさんは顔を見合わせ笑い合った。
 そして。
 空腹と幸せのスパイスを加わえたスープとバケットは、何よりもおいしい食事だった。
 心とお腹が満たされた二人とおばあさんは、先ほどより何倍も幸せな顔をしていた。
「でも、どうしてあんなにたくさん作っていたのかしら?」
「本当なら、今頃息子たちが帰ってくる予定なの。でも、こんな時間になっても帰って来ないのは、きっとお仕事が急がしいのだと思うわ」
 少し寂しそうな顔をした。
「ねぇ。どうせ試験はクリアー出来ないんだし、おばあさんの願い事を叶えるって、どうかしら?」
 リリーはマクスウェルにだけい聞こえるよう、小さな声で言う。
 彼はその提案に、少し考えた後首肯する。
 彼らは二人で一つのことしか、叶えてはいけない決まりがある。もし、ここで本当におばあさんの願い事を叶えてしまえば、もう今年の昇格試験の参加資格を失ってしまう。
 しかし。
「それはいい考えだ。どうせあと数時間しか時間は残されていないんだ。今から探しても見つかるか分からない。それよりも、優しいおばあさんに恩返しがしたい!」
 リリーは、マクスウェルの返事を聞くと、おばあさんを呼んだ。
「おばあさん。もし願い事が一つだけ叶うとしたら、どんなことをお願いしたいですか?」
「え? そうね……おじいさんにもう一度会ってみたいわね」
「分かりました。そのお願い。叶えてみせます!」
 二人はそう言うと、手を繋ぎ祈るように瞳を閉じた。そしてリリーは右肩を。マクスウェルは左肩をくっつけ合う。
 次の瞬間、背中から二人あわせて一対の大きな白い翼が光とともに現れた。
 服も真っ白に変わっていく。新品同様の美しい、染み一つないエプロンドレスとスーツに。
 最後に、頭の上に陽のように輝く環が二つ浮かび上がった。
「おじいさんはすでになくなっているようだな」
 マクスウェルは瞳を開き言う。
「それじゃあ、ほんの一時、夢を見るかのように会うことしか出来ないですわ。それでもよければ、ここに死者を呼び連れましょう」
 リリーも瞳を開き言った。
 おばあさんは、彼らの服を、翼を、環を見た後、顔を見てこくりと頷いた。
「それでは、ほんの一時。死者との歓談の場をここに」
「天使の命により」
「楽園よりこのおばあさんの旦那さんを」
 おばあさんは幻を見るかのように、涙を流した。
 温かい何かが、心の中にぽっと灯るのを二人は感じた。


「合格、合格ー」
 鐘の音とともに声が響いた。
 けれど、道行く人にはその声は聞こえていないようだ。
「まさか、あれが恋の成就に入るだなんて驚きましたわ」
「僕もだよ」
 笑い合う二人は、喧騒の中へと解けていった。
 その時、真っ白な羽が二枚。風に乗って飛んでいった。
メンテ
彼らの英雄 ( No.23 )
   
日時: 2011/09/20 22:41
名前: 匿名 ID:l2TbYzyg



 本当にろくでもない時代だ。道行く人々の表情は暗く、かつては店が立ち並ぶ繁華街であっただろう場所はさびれて生気を失っている。食料や生活品は国によって統制、十八歳以上の男は兵士として徴収される、そんな時代だ。すべて、想像どおりだった。
 さすがに、死体を見たときはぎょっとした。それは人の姿をとどめていなかった。腐りかけたかたまりに、ハエがたかっている。目をそらさざるをえなかった。いやなにおいが鼻をついて、思わず手で鼻と口をおおった。それでも悪寒は消えない。道の片隅で吐いた。吐瀉物をそのままに、路地裏にふらりと入りこむ。町を汚したけれど、きっと住人たちは気にしない。そんなことに余計な気をまわしている余裕なんてない。放置されたままの死体が証拠だ。
 早く帰りたい。こんな時代に生まれなくてよかった――六十年後だってひどいものだし、全然好きじゃないけれど。
 冷たい風が狭い道を通りぬけていく。冬がはじまろうとしている。
「お姉ちゃん!」
 幼い声が前方から聞こえてきた。
「アカリお姉ちゃん」
 最初のものとは別の子どもの声。しばしの騒ぎのあと、しゃべる声は聞こえなくなった。足音をたてないように声のしたほうへと向かう。
 道を曲がると、人影が見えた。陰から顔だけ出してようすをうかがう。
 穴だらけの薄汚れた服を身にまとった数人の子どもが、パンをむさぼっていた。孤児にちがいない。子どもたちのなかに、よく知る顔があった。敵軍の無差別爆撃の際にうけたという顔半分を覆う火傷のあとは、見間違いようがない。彼が孤児だったことは、彼自身に聞いていた。
 子どもたちはひとりの軍人を囲んでいた。軍服から、この国の兵士だということが察せられる。女性兵だった。この国で徴兵されるのは男だけだから、おそらく自分から志願して軍に入ったのだろう。十八歳の私とたいして変わらない年頃だ。まだ顔に幼さを残していた。
「ありがとう、アカリ」
 火傷をあとが残る少年が言った。彼に続いて、他の子どもたちも感謝の言葉を口にする。女兵士は何も言わずにほほ笑んだ。そうして子どもたちを残して去っていく。
 あれがアカリ。
 なんだ、と思わずにはいられなかった。養父はことあるごとに彼女を英雄だと言っていた。だが実際はどうだろう。
 こっそりとアカリのあとをつけた。案の定、アカリは無断外出したことを上司に咎められていた。すみません、と彼女は言う。それだけだった。さらに私は落胆した。
 与えられた食料を孤児に分け与えるだけか。そんなことはなんの解決にもならない。そのうちに兵士のための食料すら支給されなくなるのだ。そのときに彼女はどうするつもりなのか。馬鹿げた戦争を終わらせろとは言わない。ただの一般兵である彼女にそんな力はないのだから。でも、英雄ならばそれ相応のことをしているとばかり思い込んでいた。

 次の日もアカリは食料を持って、路地裏の孤児たちのもとへ向かった。彼女の訪れを子どもたちは喜んだ。それを影からそっと見守っていた。その次の日も、そのまた次の日もアカリは現れた。あの子どもたちだけではない。アカリはそのほかにも困っている人々を訪ねてまわっていた。怪我人がいれば手当し、死体を見つけるたびに手を合わせ丁重に埋葬した。たしかにアカリはいい人だった。だが――『英雄』ではない。携帯食料をかじり、一目につかない場所で眠り、私は機会を待った。

 足元で何かのはぜる音がした。何対もの目が私をとらえる。
「ひっかかった」
 火傷のあとがある少年が言った。
「おまえ、ここんとこずっと俺らのこと見てただろ。何も言わねえからもうここに来るな。答えがノーなら」
 少年はズボンのポケットからナイフを取り出しかまえる。
「おまえを殺す」
 養父の名を呼ぶ声がして、その場の空気が張りつめた。駆けよってくるとアカリは、少年の手からナイフをたたき落とした。むなしく金属が転がる音。
「アカリ」
 戸惑う少年に、アカリはただ首を横に振った。他の子どもたちは互いに顔を見合わせる。少年の頭に手をおいて、彼女はこちらを見やった。
「あなた、家は?」
「ちゃんとあるよ。ただ通りかかっただけ」
「そう、それならいいわ」
 たいして年も変わらないだろうに、アカリの口調は子どもに対するそれと同じだった。たしかに彼女は生まれた年だけを考慮するなら、はるかに年上だけれど。
「自分より大きな人を相手にしてはだめ。そういうときは早く逃げなさい。もしも敵軍の兵士だったら投降しなさい。彼らはあなたたちを悪いようにはしないから」
 投降しろ? その言葉に反吐がでそうになった。
「甘いよ、あんた」
 敵軍はこの国の軍に比べてずっと捕虜に親切だ。投降した人々を殺さないばかりか、彼らに食料を与え命の安全を保障した。それは歴史が語る事実だ。だが、その代償として敵はこの国の人々の自由を奪った。
「敵に捕まったら好きに意見を言うことだってできなくなるんだ」
 敵国――六十年後はこの国を支配している――の批判をするだけで政治犯として刑務所行き、そんなことが許されるはずがない。
「――いいじゃん、そんなの」
 予想外の言葉に虚をつかれた。
「生きてられるんなら、それだってかまわないさ」
 傷のないほうの口角だけが上がった。
「俺、この戦争が終わったら発明家になるために勉強するんだ。アカリが、俺は手先が器用だから向いてるって。戦争さえ終われば、生きてさえいれば、どこでだってできるだろ」
「あたし、みんなが元気ならそれでいい」
「ぼくも……」
 彼らはみんなアカリの甘言にだまされている。抵抗をやめてはいけないのに。アカリは何も言わない。目が合う。きっと彼女の目には怒りに燃える私が映ったことだろう。アカリは違った。ただ、ほほ笑んだ。それだけだった。それだけだったのに、私は喉まで出かかっていた反論のための言葉を失った。
 かわりに火傷を負った少年に言う。
「あんた、いい発明家になれるといいね。さっきの罠、気づかなかったよ」
「だろ?」
 彼はにっと歯を見せて笑った。時間を遡れる装置を発明した、と真っ先に私に報告してきたときと同じ表情だった。

 アカリは今日も上官に叱られていた。そこへ「またか」と顔を出した人物の姿をみとめて、腰に隠していた小型銃に手をのばす。敵軍が攻めてきたときに、民衆を置きざりにして兵をひきあげた司令官。彼を殺せば、他のもっとまともな軍人がまともな判断をして、敵軍の占領を防いでくれるにちがいない。生まれたばかりの私が、両親を亡くすことはなかったのだ。養父が憲兵におびえながら、地下に隠れなくとも自由に発明できるのだ。この男さえ殺せば――。
 銃をかまえる。手が震えた。アカリのほほ笑みがよみがえる。生きていれば、それでいい。甘い考えだ。だが、強い言葉だった。六十年後の自由のためにこの時代に来たはずなのに、私に歴史を変えることはできなかった。帰ったら、また不自由な暮らしが待っていると分かっていても、引き金にかけた指が動かなかった。
 きっとアカリは司令官の命令に逆らいきれないだろう。それでも、民間人のために自分の考えつく最大限のことをするだろう。私には彼女が英雄だとは思えない。だが、養父や彼女の助けを得た人々の目には私が見るのとは違う姿が映るのだろう。
 養父は、私のことをどう思っているのだろうか。彼の英雄みたくなってやるものかとは思う。一方で、彼女のことを否定できない自分もいる。ここはほんとうにろくでもない時代だ。無性に養父の顔を見たくなった。話を聞いてみたくなった。銃をしまって通信機を取り出す。通話口に向かって養父の名を言う。
「アカリです。今から帰ります」
 私は、この名前と、名前をくれた人と、名前をもらうまでの過程を失いたくなかったのだ。
メンテ
あ か り ( No.24 )
   
日時: 2011/09/20 23:05
名前: 匿名 ID:SwkMRhwY

 アンドリューの前に魔界の女王竜姫が立つ。彼の仕事は魔法使いハンター。竜姫によって奪われた世界中の魔力を取り返すこと。アンドリューは数多くの魔法使いを倒してきた。彼の任務は今終わろうとしている。竜姫を倒せばアンドリューの戦いは終わるのだ。
「アンドリューとは貴様のことか。可愛い顔立ちをしておるな」
 竜姫は挑発的な笑みをみせる。赤いオーラが彼女を纏う。過大な魔力を得た魔法使いは感情が魔力として溢れ出てしまうとアンドリューは聞いたのを思い出す。
「竜姫、お前は俺が必ず殺す!」
「アンドリューは異世界の人間だと聞いていたが……随分と流暢な言葉遣いだな。過酷な旅の中で習得したか? 利益もないのに、よくもそこまでやったものだ。アキバに行きたかったと聞いた。考え次第ではわらわが連れていってもよいぞ?」
 竜姫の言う通りアンドリューは元々この世界の人間ではない。アンドリューは元々日本大好きなカナダ人だった。カナダで必死に働いて念願のアキバへ旅行できるだけの資金を得た。旅行が実現し羽田空港に到着した時。アンドリューはこの世界へと召喚された。
「考え? 竜姫も対したことないようだな。アキバには行きたいが、この世界の王は俺をサムライにジョブチェンジしてくれえることを約束してくれた。可哀想だが俺の考えはそういうことだ」
 竜姫に剣を向ける。赤い竜姫のオーラに黒が混ざりはじめる。
「可愛がりの無いやつめ。竜の血を引くわらわを簡単に倒せるとは思うな!」
 青空は一気にどす黒い雲に包まれる。雷を帯びたその雲は竜姫を中心に渦を巻く。竜姫は君の悪い笑みを浮かべながらアンドリューを見る。アンドリューは竜姫へと飛びかかる。雷がアンドリューへと襲いかかる。竜姫の雷はアンドリューをすり抜けて地面へと落ちる。アンドリューは魔法の無い世界で生まれた。彼には魔法が効かない。竜姫の胸をアンドリューの剣が貫く。アンドリューが剣を剣を抜くと赤黒く瘴気に満ちた血が溢れ出す。
「ア、アンドリュー……!」
 かすれた声でアンドリューの名を呼ぶとゆっくり倒れた。竜姫は天へと真っ直ぐに手を伸ばし何か声にならない声でつぶやくと力尽きた。彼女の最後の顔は今まで見せていた恐ろしい顔ではなく美しい笑顔をだった。

 竜姫から世界の全ての魔力を集めた竜の宝玉を奪うと王都へと向かう。アンドリューはあることを考えていた。考えているのは竜姫の最後の顔。彼女はどうして笑っていたのだろうか。アンドリューは考えていた。
「彼女は私のことをよく知っていた。旅行の話はほとんどの人が知らないはずだ。後々考えると、竜姫は私に魔法効かない。勝てるはずのない相手だということを知っていたのではないだろうか。竜姫はなぜ……」
 アンドリューは自分の召喚について聞いた話を思い出した。カレンという竜姫の一人娘が召喚をお行ったらしい。竜姫はカレンをたいそう可愛がり屋敷から一歩も出さずに大切に育てたという。愛した娘のために魔法を独占したという噂もある。
 カレンがはじめて屋敷を出たとき、はじめて世界の現状を知った。竜姫は魔力を独占して人々を苦しめているこを知り、大いに悲しんだ。憧れてた母の悪行を償おうとカレンは世界を救う大召喚を行った。必ず術者の命を奪うという大召喚を……
 竜姫を倒した場所から随分離れ、王都はもう目の前だった。アンドリューにおかしな考えが浮かぶ。
「カレンの子供であり、竜姫の孫なのかもしれないな俺は」
 竜姫はアンドリューのことを恨んでいるにおではないかと思っていた。あの笑顔、あの最期を見たアンドリューは自分が恨まれていないかもしれないと思った。彼の考え方は変わりはじめていた。
「竜姫は天へと手をのばしたのではなく俺に手のばしたのではないか……」
 アンドリューは竜の宝玉を見る。カレンの救いたかった世界が救えるもの。竜姫が自分の命を犠牲にしてまでもアンドリューに託したもの。アンドリューはこの宝玉の始末を自分でつけなければならないと思う。
「彼女たちの意志を継がなければいけない」
 竜の宝玉をぎゅっと握ると王都へと向う。アンドリューの目には召還されたときとは違う決意があった。
「彼女たちの意志を継ぐには魔法が使えなくてはならないな。了解、約束どおりサムライへジョブチェンジさせてもらおう」
メンテ

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