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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

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▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
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ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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うそつきなおいしゃさん ( No.49 )
   
日時: 2011/11/18 17:52
名前: If◆TeVp8.soUc ID:Q4HJrURM

 三度の留年を経て、僕は今年、ようやく医学校を卒業した。配属されたのは、島の南端の小さな村。とっくに定年になったが、後釜がおらず仕方なくドクターを続けていた老人の後を継ぐことになった。
「私は嘘つきだ」
「は?」
「私は嘘つきなんだ」
 顔を合わすなり、腰の曲がったドクターはそう言った。訳が分からないままに、引継ぎがてら、僕は彼の訪問診療に付き合わされることになった。

 ◇

 村の中の家を、二十件くらい回ったか。「次が最後だ」と言ったドクターに従ってしばらく歩き、たどり着いた村のはずれ。そこに、その家はひとつ、寂しく建っていた。屋根は崩れ、壁は蔦に巻かれ、窓はひび割れ、本当に人が住んでいる建物なのかと疑いたくなる有様。まるで幽霊屋敷のようだと思って、僕はちょっと尻込みした。
「もしかして、最後はあの家ですか? ドクター」
「そうだよ」
 白髪頭のドクターは、なぜか悲しい表情をした。皺だらけの顔の眉間を寄せて、眉尻を下げ、厚ぼったい瞼を伏せ、薄い唇を真一文字に結んで。それはこの一軒の診療が医者としての最後の仕事になるからなのか、もっと別の理由があるのか、今日対面したばかりの僕には読み取ることができない。
「なんでそんな顔をしているんですか」
 深刻な表情のまま、ドクターは首を振るだけで答えない。白衣の襟を正して、おもむろに歩き始める。
「行こうか」
 そう言った声が暗いのも、足取りが重いように見えるのも、きっと気のせいではないだろう。ドクターも怖がっているのか。ならば、先ほどの悲しげな顔はなんだ? 分からない。とにかく遅れないように、僕も足を動かした。まだ少し怖いせいで、ぎこちない歩きかたになる。そろそろお化けなんて怖いといっていられない年になってきたが、苦手なものは苦手だ、仕方ない。
「あの家にも、患者さんが居るんですか」
 憂鬱な気持ちを紛らわすために、僕はドクターの隣に並び、意識して明るい声で話しかけてみた。
「そうだよ」
「患者さんの性別と年齢は?」
「幼い……おそらく五つか六つくらいの女の子だ」
「ちゃんとした年が分からないんですか」
「そうだね」
「どんな症状なんです?」
 ここで、ドクターはもっと悲しい顔をした。ああ、原因はその患者さんにあるのかと、ようやく僕は理解する。年配のドクターは言葉を探してから、僕の問いに対して、一語発するたび躊躇うように至極ゆっくりと答えた。
「治せない病気なんだ」
「治せないって、どうして」
 僕が言いかけた言葉は、寂れた家の扉が軋んだ音によって遮られた。ちょっとだけ開けられた扉から、小さい女の子の顔が覗く。二つに結った栗色の巻き髪を揺らしながら、子供らしい無邪気な笑みを顔一杯に広げている。なんだ、幽霊屋敷なんかじゃないじゃないか。ほっとしたが、よく見れば、女の子の頬はこけている。目の下にも黒々とした隈があるし、顔色だってよくない。病気というのは本当らしい。この子が最後の患者なのだ。
「ドクター……ドクター?」
 僕の見間違いでなければ、ドクターは目を潤ませていた。次の瞬間には瞬きしてドクターは腰を屈め、駆け寄ってきた女の子の頭を撫でていたから、しかとは確認できなかったけれども。女の子は、ドクターに温かく笑いかけている。笑顔だけを見れば、とても幸せそうなのだが。ドクターも彼女に穏やかに笑み返しながら――今朝会ったばかりだが、終始無愛想だったこの人が、こんな顔をするなんて驚きだ――ずっと栗色の頭を撫で続けている。
「鞄の中から、ジュースを」
 僕には横顔を向けたまま、ドクターが素っ気ない指示を出してきた。他にやることもないし、素直に従うことにする。ドクターの提げていた黒い鞄を寄せてきて、開いた。いろんな薬品が混ざったにおいにくらくらしながらも、中を無造作に探る。聴診器やらカルテやら包帯やら注射器やら色んな医療道具が顔を並べる中に、ひとつ場違いな、きれいな橙色の液体が入った長細い瓶を見つけた。オレンジジュースだろうか。それにしては鮮やか過ぎる橙だが、他にジュースらしきものなんてないから、やっぱりこれがそうなのだろう。
「ドクター、これですか」
「ありがとう」
 礼は言うが、こちらには顔を向けることすらせず手だけ延ばしてくる。ぞんざいな所作だが、今度も大人しく要求どおりに瓶を渡した。揺れた瓶の中で液体が跳ね返る。傾き始めた陽の光を浴びて、きらきら輝いた。きれいだ。妙に心を惹きつけられる。なにか妖しい魅力があるのだ。これは本当に、ただのジュースなのか?
「さあ、今日も飲んで。ゆっくりでいいからね」
 ドクターの優しい言葉に、女の子は笑ったままで頷いた。彼が栓を抜いた瓶を両手で受け取って、女の子は一気に傾ける。ゆっくりでいいと言われたのに、瓶はあっという間に空っぽになった。とても美味しそうに飲んで、女の子は口元を拭うと、一転の曇りもないかわいらしい微笑みを浮かべながら、ドクターを見上げた。
「おいしゃさん、あしたには、おとうさんかえってくる?」
「ああ、きっと帰ってくるよ」
 ドクターの微笑みが少し陰ったのを、僕は見逃さなかった。
「うん。わたし、いいこだから、ちゃんとまつよ」
「よしよし。それじゃあ、今日はもうお休み。幸せな夢を見るんだよ」
「はあい。ありがとう、おいしゃさん」
 女の子が、たいそう幸せそうな笑顔を残して、ぱたぱた足音を鳴らしながら家の中に戻っていく。その小さな後姿を見送るドクターの目が、また、潤んだ。再び、軋む音。女の子の姿は、傾いたまま閉まった扉の向こうへ消えてしまった。
「ドクター、治療はこれだけでいいんですか?」
「そうだよ」
 ドクターは感情を排した声音で、淡々と答える。
「あのジュース一本で? あの子、あんなにやつれているのに」
「あれでも、少し良くなったんだ」
「あれでですか? あの子は一体何の病気なんです?」
「心の病だよ」
「心の? 精神的なってことですか」
 細い目が、さらに細められた。虚しいだけの記憶を旅する目。
「あの子は早いうちに母親を亡くし、父親と二人暮らしだったのだけれど、数年前、その父親も亡くしてしまった。強盗に、目の前で殺されたんだ。以来心を病んでしまって、何も食べようとしなかった。眠れもしなかったようだ。だから、これを」
 空き瓶の中に数滴残った明るい色の液体を陽にかざして、ドクターは力なく笑った。これまでで一番悲しそうな顔だった。
「ハッピージュースというんだ。理由なしに幸せを感じられる薬だ。それに睡眠薬と栄養剤を混ぜてある。ひとまずこれを飲んでおけば、あの子は命を繋ぐことができるし、幸せな夢を見ながら眠ることが出来る」
 ハッピージュース。噂ではいくどか聞いたことがある。裏の世界では麻薬として取引されているそうだし、自殺未遂者に精神安定剤代わりに飲ませることもあるらしい。それを、あんな小さな子供に? しかも、睡眠薬と栄養剤を混ぜるなど。
「そんなこと……」
「どうした?」
 我に返って、僕は口をつぐんだ。引継ぎもここで最後だ、今さら怒らせるわけにはいかない。
「いえ、なんでもありません」
「言ってごらん。君はどう思う?」
 ドクターは、何か大切なものが抜け落ちたような色の瞳を僕の方へ向けて、静かに尋ねた。真剣な答えを欲しているまなざしだったので、僕も居住まいを正す。正直に言おうと決めた。
「人を生かすのが、僕たち医者の仕事ですよね」
「そうだね」
「でもあの子、あれで生きてると言えるんですか」
 予想に反して、ドクターはすぐに頷いた。
「そうだね」
 視線を寂れた家にやって、今度こそ、ドクターは涙を流した。透き通った、きれいな一筋の涙だ。
「生きていれば、いつか、何かが起こるかもしれない。あの子の病が治る何かが。その何かを信じて、私は、ああして嘘をつきながら、今まであの子の命を繋いできた。医者とて人の身。私には、それくらいしかできなかったんだよ。無力なことにね」
 纏う白衣に目を落として、彼は自嘲の笑みを浮かべた。風にはためいた白衣の裾は、古びて擦り切れていた。
「何が正しいか、この年まで医者をしていても、私には分からなかった。明日から君があの子の医者だ。あとは君が思うように、君が正しいと思うようにやりなさい」

 ◇

 村のはずれ、孤独な一軒の家。僕は今日も、最後にその家にやってきた。
 少女が駆けてくる。大きくなったが、やはりやつれている。楽しげに笑っていても、目は死んでいる。それでも僕は栗色の頭を撫でながら、一瓶の偽物の幸せを、今日もまた彼女に処方する。
「おいしゃさん、おとうさん、あしたにはかえってくる?」
「ああ、帰ってくるよ」
 僕は嘘をつく。少女は笑う。笑って、今日も、少女はまがいものの幸福な夢の中に生きる。いつ来るとも知れぬ救いを待ちながら、少女は笑い続け、僕は嘘をつき続ける。
 明日も、あさっても、しあさっても。
メンテ
過分離 ( No.50 )
   
日時: 2011/11/20 23:58
名前: 文旦 ID:M1NTCBUs

 ちうみが鮫の目をしてやってきたのであっ、またやりぁがったな、と思った。実際ちうみのドレスはペンキとコールタール混ぜたような赤色でドベドベだったし終電逃してテクってるオヤジみたいな千鳥足、何より昔ッからちうみが双子のちまめを目の上のクソほどにも憎みきっていたのを涎掛けしてた時分から隣人の俺はしょっちゅう窓から飛び込んでくる罵声と臓物と翌日ちうみちまめ双方からの怨嗟とで耳に痰壺できるほど知り尽くしていたからだ。ESIEの殺人イタコもかくやな絶叫に浮き沈む夢遊病とさして違わぬ客どもとではちうみは全然マトモな方で、長い足を迷わせつつノンストップでこっちまで来ると、椅子に雪崩れ込むようにしながら「モスコミュール」と呟いた。カウンターは深夜鈍行さながら人まばら、やあちうみちゃん、なんてマスターの言葉どこ吹く風で。
「もうできあがってる調子じゃん」
「疲れてるだけ。ライム多めにしてくれる」ちうみは眉間にクレバスを作って言った。
 俺はグラスに氷を入れてウォッカ、ライムジュース、ちうみのために新しくジンジャーエールのボトルを開いて入れてやった。マニア向けの銅マグなんぞ酒とコークの区別もつかない連中のために取りそろえたって無駄ってもので、頑なに色気のない硝子。ナチュラルもケミカルも混ぜちまえば同じで胃から尿道に新幹線開通するまでなすがまま、だから分類ほとほと意味がない。証明か糾弾か知らないが俺の前任、小便で作った氷の酒を客にふるまった変態で変態ゆえの間抜けさで無差別にやらかしたんで筋肉狂いのホモのラッシュって野郎にとっ捕まって以来行方知れずだ。俺はその翌日店に来てそういう話聞いて、たまたまその日昔児童ポルノ所持でパクられた野郎の店やめてきたから酒の知識皆無なまんまカウンター向こうに立ちんぼってわけ。元々ジュースの用途で酒を呷る連中にはステアもので充分、質にこだわらなきゃ猿でも作れる、そういう方針。
 切ったライムを縁に差し、受け取るちうみがそれを知っていたかは知らない。ちうみは大抵の場合俺を可哀想なくらい大事にしてくれる。
 ちうみはライムを二本の指で摘んで絞り落とし、一口で半分飲み干した。そうしてふと首を傾げるよう視線巡らし、
「相変わらず半端な店だよね」と零した。
 聾するくらいの熱狂の内、ちうみとの相対は夜の森の空気に抱かれているようで玲瓏耳朶を湿し、殺人者も遠のく。
 習慣で顔を寄せて「なんか疲れてんね」と俺、ちうみが言ってほしそうな言を吐く。「うん、なんかね」「その服どうしたの」「いい感じでしょ」「元の柄どうだったかわかんなくね」「やだなあ、あたしいつも着てたじゃん。覚えてない。レイチェル・ゾー」「知らないよ」「真っ白のやつ。ほら、お腹にリボン付いてるの」「ああ」
 泥に溺れた蠅らしきリボンの名残認めて、俺は頷いてみせた。いつもっていうか、ここ何日の服。その前はマヌーシュとかいう少女趣味をよく着ていて、その前はヘイルボブってよくわからん派手な図形。他にも色々、覚えてない。ちうみは常に最新のファッションと音楽と人間に囲まれてないと血が腐るのだと。「白は他にも持ってるし、どうせ衝動買いしたのだったから別にいいかなって。丁度いいっていうのもあるし」「ふーん」「黒は持ってないから。ほら、いかにもって感じじゃない。赤色も同じで持ってないの。ワインレッドなんて特にそうじゃない? 綺麗な色だけどあたしだとどうしても服に着られてる感じがしちゃいそうでちょっとね」「ちうみ肌白いから似合うと思うよ」「それあたしにはコンプレックスなの。知ってるでしょ」
 ちうみは美味そうに氷を含んだままちょっと笑ってみせた。予想外に淫靡だった。
 露出肌は服の凄絶さから信じられないほど清潔で、ちうみが俺に見せるために汚してきたのは明白だった。
 横斜のうねりがダフトパンクの命令形に雑然縦ノリ整列するの背に二杯目要求、モスコミュール。まったく機械的繰り返して、うまいのかまずいのかわからないもの出して、ちうみが飲むのを俺は見守る。
「仕事探してるの?」「え?」「ここに落ち着くつもりなんてないんでしょ」「あー、まあ」「そう」「うん」「何かやってるの」「いや、うん」「どっち?」「いや」「そう」「うん……」「あたしが仕事、紹介してあげるのに」マスターどこ吹く息で。「俺はいいよ」「俺はって、あたしは今あなたの話してるんだけど」「そうだけどさ」
 踊りは明白にばらばらで合わさることなんてないようで。
「やりたくないんでしょ」「何が?」「聞いてなかったの?」「そうじゃないよ」「じゃあ何で、何が、なんて言ってくるの」「いや、だから何がやりたくないのかって意味」「この仕事」「そんなことないよ」「うそ」「うそじゃないよ」「じゃあ何でやる気ないの」「これでも出してるんだよ」背後にTechnologic。「これからのこと、考えてるの」「さあ……」「さあって何、自分のことなのにさあって何」「だって先のことなんて考えたって」「考えなかったら余計駄目じゃん」「そうかなあ」「一生このままでいいわけ」「どうだろう」「さっきから何なの自分のことでしょ、疑問形ばっかり何それ」「何々って、言われても」「いいの、いやなの、どっち」「いいも悪いもなくない」「どうしていつもはぐらかすの」「はぐらかしてなんか」「じゃあ何考えてるの」「別に」「そのままでいいと思ってるの?」「楽しいからいいよ」
 顔色逆光。
「あたしそういうの嫌いだな」スパーク「ちまめみたいでさ」
 明滅の最中ちうみの目あぐらかいてたんであっ、こりゃあやべえなって俺は黙った。ちうみは瞬間湯沸かし器状にカッとなる上そのスイッチがカンボジアの地雷原みたいに縦横無尽潜んでいて、どうやら新発見の形相。円陣、いつの間にできたかすまじく乱れ髪べたつくフラッシュライトに生まれて消えてを外野で過ごし。夜の森を錯覚しても死体はどこかに埋まってて。ちうみ彫像のごとく、踏み抜かず地雷、俺は沈んだライムから昇る泡への既視感が何かを突きとめようと虚しく合間に切断のごとし収束、ちうみぐいぐいグラス空け、俺はモスコミュール繰り返す。
 差し出した俺の手ちうみに絡められて身動きできず。
 細い喉がエイリアンから静止した肉に戻るや否や引っ張られるままつんのめって体臭肉迫。
 馬鹿調子で馬鹿騒ぐ熱気が吹きつけるためかちうみ全然、寒くなさそうだった。俺はアルコールで冷えるのにちうみはアルコールで湧くタイプで、さらに酔いやすい。俺はやめなよと言ったが聞きゃあしない。承知済、多くは言わない。ちうみの爪は短く髪に絡んで抜ける感触が俺は好きだった。ドベドベの服から覗く肩は白く、耳の裏からはちまめと同じにおいがした。
「行こ」
 曲終わり、レディーガガのミックス。
 客らしい客もいないから俺は、すんませんちょっと抜けます、とカウンターを出てちうみの手を引きながら出口に向かう。水中の寝言に似たラーラー・ア・ア・ア・アーがフェードイン、撹拌・揃わぬ足並みが追いかけてくる。
 裏口から出た俺の胸ぐらを掴んで壁に押しつけるちうみ、濡れた瞳で生まぶしい太腿を俺の股間に割り入らせ、身動きできぬ。真新しいインディアンのアウトソールはチョコレートのにおい付きだが誰がゲロがため消えつつあり。
 ちうみは犬を落ち着かせるように、あるいはガキに小便でもさせるよう歯の隙間からシーッと言った。そうしておもむろにキスしてきた。
 どんな美人だろうがアルコール入りとだと口がべとついて気分が悪く。胃液で蒸されたアルコールは甘辛くまとわりつく、腐りかけか腐る寸前の肉のにおいか、既視感の正体を俺はまだ突き止められず。ちうみはそのまま俺の首を三度強く叩き、そこをべろーっと舐めてから噛みついた。
 じゅる、じゅる、とひどくゆっくり吸われていく。蚊やヒルと同じで痛みはなくて、こっちは変に上向いたまま煙草もやれない。
 空は深夜の高架下より真っ暗で色もない。嚥下音は吐く寸前に似て一度気になりだすと髄を直接掻かれるようだったが、ちうみの唾液は脳をバカにする作用があって、それゆえちうみに吸血されたがる輩も多いが俺は違って、ちうみの髪のにおいを無感動に吸っては出していた。頭がぼーっとするのが嫌で九九をそらんじる。腹を圧する低温が僅かに壁越しに響いてくるが俺の鼓動かもしれず。孔を塞げばびゅうびゅうアウトバーン流れる血潮が殺されるのを想えたやもしれず。路地裏の汚水とちうみの化粧が不思議な協奏におわせて。フローラルにドブを垂らせば香りが引き立つのは香水の手法で、だから血と精液を混ぜるのは不自然じゃないのだと。
 ゴックシジュウゴを数える頃に解放される。これ見よがしに糸をひいて離れるちうみ、一旦は目を合わして俺を見るが魔羅の萎縮に気付くと素直に離れた。支えを失って迷彩インディアンたたらを踏んで、
「大丈夫?」
 決まってちうみが聞いてくる。鉄錆臭い。白い顔に真っ赤というよりどす黒い血を滴らせる様すさまじく、たまらなく感じるマニアもまたいるという話だけど俺はただティッシュを渡す。
「俺まだ仕事あるから」
「わかった。お仕事がんばってね」
 きれいに戻ったちうみ微笑みながら夜の街に消えていく。片手にティッシュを持ったまま、またどこかに置き忘れるんだろう。ちうみは手ぶらを好む。霧や蝙蝠になったら確かに邪魔だろう。
 ジェンガの足取りで店に戻るとLFO、カウンターのサケダルがアホついた笑みで俺の首と手の間からジクジク染み出してくる血を見咎めた。「仕事中だってのによくやるぜ」
「ちうみには逆らえない」「ちうみにも、じゃねぇの」「うるせえ」カウンターを潜る。低音地を這う。空のグラスをシンクに置いていつものをこしらえる。
 ♪This is going to make you freak, This is going to make you freak,
「LFOってこれしか印象なくねえ?」ピンがオリーブ突き殺す。「あ? いきなり何だよ」「ひとつが突出してたらそれは傑出なのかって」「あ? 聞こえねえよ」「仮に他のすべてが見劣りしてても何かひとつ突出さえしてればそれは秀逸なのか慰めなのかって」串刺しオリーブは灰皿に葬られ。「何だって?」「突出してるがため大して劣っていなくてもたとえ平均以上だとしてもそのすべてが劣等であるかのように見えることもあるだろうし結局自ら犠牲を志願する同然なそれは不公平じゃないのか、どう判断つけりゃいいのかって」「だから聞こえねえって」「現実はクソだ」「オレはクソじゃねえよ」「おまえスパンカーの方が好みじゃねえの」「あ?」「死ねよ」「てめえが死ねよ」「なんか血、止まらねえんだけど」「知らねえよ」
 サケダルは大酒と煙草で喉を酷使現在進行形の口から二十もサバ読んでるスナックのママみたいな砂やすりボイスぶち撒く野郎でそいつは重音爆音慌ただしくとも相手の鼓膜をザクザク刳り抜けてくる。耳障りなことに違いはなく注意深く興味をそそられる内容なんか殺しても言わない奴だからこっちも注意を向けたくなくて、顔を寄せる気はさらさらなくて、ちうみと面向かうあの錯覚は皆無で、だから普通の人間だ。
 ♪This is going to make you[グ/っでゅっでゅっでぃデ/ギュン]
 耳鳴りがする。血が止まらない。
「毎度ながら何でおまえなんだ? マジ代われよ。ちまめもちうみもって欲張りすぎだろが」「俺はちうみとは寝てないよ」「それに近しいことはしてんだろ」サケダルは二元論信者だけど酒については一神教でマティーニ一丁、三口で飲み干す。「ちうみに好かれたいならあいつの前でちまめの話しないことだね。たまには他の頼めよ」「ちまめの恋人のおまえが何でちうみに殺されないのか疑問だぜ。いいからもう一杯だ」「俺は恋人なんかじゃないよ」「おまえだけだろ、何も渡さずやらせてくれんの。色魔のくせして足元見やがって、あれじゃあそこらの淫売買った方がマシだぜ」「ちまめと比べりゃ他のはカスだろ」
 サケダルは機嫌が良くなったような、微妙な唸り声。
 ドライジン:5に対しドライベルモット:1、ミキシンググラスに氷山流し込んで静かにステアしカクテルグラスへの移送、奴には形骸化したオリーブにレモンピール。
「たまには他のもの作らせろよ」
「ドライマティーニしか作れねえくせに何言ってやがる」
 サケダルは琥珀色を胃に格納し、「おまえが死ねば別のが代わりになんのかァ」と釣り銭強盗そっくりに眇めやる。
「人に代わりなんかいないだろ」
 聞こえないのか聞きたくないのか聞く気がないのか、きっかり三口でフロアに戻っていく後ろ姿は万事どっちだっていいようだった。俺はムーミン谷のもやしみたいな腕の波濤の反動によるエネルギーの膨大がいつエントロピいに達するのかを考えていて、どのくらいコークが必要でアルコールは恍惚のうち何割をしめるのかミキシング消火←化器で突き抜ける酔いと墜ちていく恐こうどっちが快楽キョウ乱としてす ぐれているの かを考えてゐテ、いつ処女が破瓜す るのか考え  ていて、政治 家が内部から爆ハツ!「した?」墨袋をキり裂いたなら表面ンに脂の虹色がテカッテないと困 るけどそうじゃなかッ トきどーするかかn がえていて、どヲだっていいよとkんがえていt、あたmがいたいなtt かんじてちえ――
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ] ........
 頭が叩かれる。叩かれていた。
「今日はもういいから、帰っていいよ」
 俺は頷いたが腰砕けで立てそうもなく、歯の根が合わない上に吐気、職務放棄したダッコちゃんイエロー状態を運び出したのが誰なのか、蝶めいた無数の蛍光色が舞っているのを過ぎて胎内の昏さを通り観音開きを抜けてスカッと寒空に放られてもバカから醒めず胃液味。今や細胞の奥まで浸潤したちうみの艶めき思い返してゲロ吐いた。いくらか楽になったところで帰路の半分習癖で辿り、側面まだらに発光する置看板押さえつけてもう半分ゲロかけた。楽になりすぎて蕩けた足を友人に、何度か立ち上がろう立ち上がろうと思っているだけという朝寝の既視感覚えながら、とうとう立ち上がったときには空がいくらか色を成していた。
 帰ると部屋は血河の有様で、ちまめが全裸でベッドの前にひざまずいて掻き出された内臓を手で戻しているところだった。部屋の隅でちまめのキャミワンピがボロ雑巾になっていた。下水が逆流したにおいで鉄臭さはあまりなく、百倍に薄めればどこか馥郁とも称せるであろうそれにちまめが仕事帰ってすぐちうみに殺されたのだとわかった。
 鼻の頭に何かあたって、拭うとぬるり赤い。
「派手にやったね」どうやって天井を洗おう。
 ちまめは胃を戻すと抱きついてきた。肌は温もりつつあった。「おかえりなさい」「ただいま、おかえりちまめ」耳の裏からはちうみと同じにおいがした。それ以外はむせかえる湿った香り。
「痛くない?」「あの吸血女死ねばいいのよ」とちまめ、すぐに甘える声に戻って「それよりねえ、大丈夫? 今日も吸われたんでしょ」「あー、まあ」「ごめんね。あたしが生きてたら殺しに行ったのに」「ちまめは悪くないよ」「そうよね悪いのはお姉ちゃんだもんね」笑った頬に点々赤の飛沫。
 ちまめは悪くないと言っただけでちうみが悪いと一言も言ってないのにちまめは満足して、早速性欲混じりの食欲あらわにしてきた。俺の魔羅は貧血とバッドトリップで使い物にならないだろうという俺の予想を裏切ってすでにデスティニーランド入場心待ちって風情、ちまめの力に改めて感心する。
 ちまめ麝香の装いで俺を血まみれベットに押し倒して早口。
「ねえ血でしょ血だけだよね吸わせたのはあの女なんかとやってないでしょ」
「やってないよ」
「本当? ねえ本当するのはあたしとでしょあたしだけに飲ませるのよねそう言って」
「俺が飲ませるのはちまめにだけだよ」
「あたしにだけよね」
「ちまめにだけだよ」
「そういう約束」
「うん、約束」
 キス。忙しい口元と手元、天井のべったり黒とは程遠い鮮血が俺の鼻と言わず目と言わずはらはら落ちてくる。
 ちまめはベルトを抜くや否やパンツごとズボンを引きおろし、眼光炯々俺を含んだ。熱い泥を割るような心持。再び滴った血に目を閉ざす。
 バンパイアとインキュバス。
 性交の本義たる遺伝子の混合を頑なに拒んだまま片親のコピーそのままに熟成し、血と精液、精髄を異にするのだから本質的に相容れなくて。混迷の坩堝にて分解されながら改修を経ず再構築されるがまま偶然、立ち昇るように。生まれてくる命はどうあろうと可/不可の二分によって成り立つものなのにあまりに多くの可能性を内包し、それは選択肢というかたちになって現れ、見える見えざる関わらず希望と失意を裏合わせに孕んでいる。ばらけた組み合わせの無限通りを欲することはあっても憎むことはないなんてそんなことはなくって、まして家族なんて、それすらも。潤滑油の代わりに攪拌機を。
 喉の奥で強く吸い上げられ俺はちうみの唾液交じりの精液をちまめに捧げる。
メンテ
食の流動 ( No.51 )
   
日時: 2011/11/21 00:00
名前: 伊達サクット ID:REQ.emlY

 ここは海に面したモグモグ王国城下町の港。
 はるか海の向こうから、貨物船がやってくるのが見える。
 湿った風の潮の匂いが鼻を突く。海鳥の鳴き声は甲高い。
 真っ白なシャツを着た、日焼けした作業員達の中に混じって、魔法料理研究家エディアと師匠ゼダが埠頭に立ち、船の様子を見守っていた。

「待ちかねた種が来るぞ」
 ゼダが禿げ上がった頭を汗で湿らせて、感嘆の声を上げる。
「ええ。俺達が待ち望んでいたミックスシードが」
 エディアが頷いた。
 彼らは、料理という文化を極めて重要な位置づけとしているこのモグモグ王国において、魔法を駆使して未知の料理を開拓することを使命とした魔術師、『魔法料理研究家』であった。
 エディアの師匠ゼダはその生涯をジュースの開発に捧げた男だった。
 肥沃な大地と温暖な気候に恵まれたモグモグ王国は、多くの果樹園を有し、さまざまな果物、野菜が栽培されている。
 それらの果物からもたらされる果汁を魔法で融合させ、混ぜ合わせたものがジュースである。
 モグモグ王国で実る果実は独特な風味のものが多い上、手作業で果汁をしぼって混ぜ合わせてもうまく混ざらず、ジュースとしての調和が取れない。
 そこで、ゼダとエディアはさまざまな魔術を施した材料と果汁を混ぜ合わせることによって、栄養価の高い、風味の良いジュースを開発してきたのだった。

 特に完成度の高いジュースは王宮の国王に献上され、王侯貴族達の間でも愛飲された。それによって、ゼダとエディアの所属する魔術師ギルドは褒美を受け取り、彼らの研究費は潤うのだった。
 今回、はるか彼方の異国より取り寄せた『ミックスシード』は、この国では育たない魔法料理の材料である。この種が育つ国では錬金術の媒体として扱われている、非常に高価で希少価値の高い種で、手に入れるために何人もの戦士が命を落とすという話であった。
 ゼダの狙いは、このミックスシードに融合魔法をかけて果汁と混ぜ合わせ、それぞれの果汁のうま味を相殺せぬよう、全ての栄養を濃縮させた最高傑作を作ることであった。

 船の荷揚げを確認してひとしきり感動した後、ゼダは魔術師ギルドの研究所へ戻り、エディアは港の倉庫群に役場を構える物流ギルドに足を運んで貿易伝票を受け取った。
「高っ!」
ミックスシードの値段は1粒10万ギールド。購入した10粒合計100万ギールドとなる。
 聞かされてはいたが、これはエディアにとって目が飛び出るような金額であった。
 エディアは思う。仮にこれで師匠が求める究極のジュースが完成したとして、1杯の値段はいくらになるだろうか。金の有り余った貴族にとって、食の充実は己の力の証。師匠がジュースの開発に成功した暁にはこぞって買いあさることだろう。

 ジュースの開発は予想以上に難航した。ミックスシードは極めて清浄で澄んだ川の水でしか育たず、土壌に毎日栄養魔法をかけ、じっくりと新たな果実・種が実るのを待たなければならない。
 はやく実験材料に使うミックスシードを収穫しようとして促進魔法などかけようものなら、果実内の栄養バランスが崩れ、変な味の失敗作になってしまうという。
 じっくりと、自然の流れに任せ、丁寧に育てていくしかない。悪天候の日、暑い日、寒い日などは、特に注意が必要だった。環境を一定に保つためにゼダとエディアは毎日必死になって畑の土に対して栄養魔法を唱え続けた。

「この分だと実が熟れるまで5年はかかりそうだな」
 そう言ってゼダがため息を漏らした。
 この日もいつものように2人は城下町のはずれにそびえ立つ実験農場からギルドへ戻り研究室で資料の更新、整理を行っていた。ゼダもエディアも魔法を唱え続けて魔力がゼロに近く、もう疲労困憊である。

「師匠、質問があります」
 エディアが尋ねる。
「何だ?」
「仮にミックスシードを使ってジュースが完成したとして、誰が飲むんですか?」
「まあ、王様、王妃様、王子様、あと貴族だろうな」
 ゼダは当然と言った様子で、手に取った資料から視線も離さずに答えた。
「1杯いくらになるか分かりませんが、やっぱり偉い人たちのためのジュースになるんですね」
「不満か? その偉い方々を喜ばせないと、我々魔法料理研究家に金が出んのだぞ」
 ゼダが資料を机に置いて、目の周りにしわを寄せてエディアを見る。
「街の市民にも、ジュースの材料となる果物を栽培している農民の方々にも、味わってほしいんです。俺達が人生の時間の大部分を割いて研究しているジュースじゃないですか。もっと多くの人達に飲んでほしいんです」
 エディアが熱を帯びて語った。ゼダの下で研究を続けて、ずっと内心で思っていたことであった。
「エディア、この国はうまいもんは全て上流階級に流れていく。下々の者はそれなりだ。いちいち気にしていたら料理の研究などできんぞ」
「俺達は料理人じゃない。魔法料理研究家ですよ。料理を芸術作品として捉えるのなんて貴族お抱えの一流シェフの仕事です。料理は生活です。俺達研究者は、魔法の力を使ってみんなの生活を良くしていくことに貢献すべきだと思います」
 エディアの主張を聞き、ゼダは怒るでもなく。豪快に声を上げて笑いだした。嬉しそうに。
「今作っているジュースも、この生産性であれば、そりゃあ金持ちしか飲めんだろう。しかし、改良を重ねればきっと質を落とさずに多く作れる時代が来る。お前がそれを実現するかもしれんぞ?」
「……師匠は、もっとミックスシードの成長を魔法で促進させろって言った役人を追い払ったんですって?」
「当たり前だ。素材が自力で育つまでゆっくりと待つ。魔法をかけるのは土壌だけだ」
「何とか5年経って種を収穫できたとして、ジュースの完成にはどのくらいかかるんですか?」
「知らん」
 そっけなく答える師匠を見て、エディアはこんなことだったら料理魔法や栽培魔法なんて覚えずに、戦闘で使える魔法を取得し、軍に入隊でもした方が良かったと思った。

 ゼダが目指す究極のジュースの研究の志半ばにして、エディアはゼダの下を離れた。理由は『どんな身分の人でも等しく享受できるような料理の研究をしたい』というものだった。
 3年の月日が流れ、エディアは異なる研究室で助手を続け、ある程度の事績を認められた後、自分の研究室を持つまでに至った。
 そこでエディアが行った研究とは、砂糖に様々な魔法や、砕いた晶石を混ぜ合わせ、果汁に近い風味を出してジュースを作るというものだった。彼はその砂糖を『魔法糖』と名付けた。
 最初は果物の果汁を入れて、ある程度補助的に魔法糖を使用していたが、それでも貧乏な者にはかなり値が張るものだということが分かった。もっと安価に大量に生産でき、農村の貧しい人達でも味を楽しめるようなジュースが必要だ。
 そこでエディアが気付いた。
 果汁なんて必要ない。
 魔法糖の配分だけでジュースは作れる。
 エディアは更に魔法糖の研究に傾倒した。それに伴い、自分にあてがわれた実験農場には足を運ばなくなった。

 ある日、研究室にゼダがやってきた。土をいじってきたのか白衣は泥だらけで、昔、港で見たように、禿げ頭に汗を光らせていた。
「お前は何を作っている?」
 ゼダが目を細め、部屋を見渡す。
「ご覧の通り、ジュースですよ」
 エディアは笑顔で答える。
 しばらくの沈黙の後、エディアが魔法糖の利点についてゼダに述べようと口を開きかけたら、向こうから先に話し始めた。
「これはジュースではない、薬だ」
 そう言ってゼダは机に置かれた、包み紙に盛られた食用晶石の粉末を指でつまみ、さらさらと振りまいた。
「しかし、味は師匠の作っているジュースと全然変わりません。おまけにこれなんてコップ1杯20ギールドで飲めるんですよ?」
 エディアは脇に置かれている三脚に設置されたフラスコを手に取り、満たされたオレンジ色の液体を一口飲んだ。
「これは素材を使わずに、砂糖に水を入れただけの、魔法漬けの偽物だ」
「偽物ではありません。方向性の違いでしょう?」
 エディアは眉間にしわを寄せた。ゼダはどうして自分の方針に頑なに固執するのだろうか。魔法糖だって、魔法料理の1つの答えではないか。
「こんなものを幼いころから飲ませたら、その子供はそれをジュースだと思って大人になる。これは国民を、食の王国モグモグの民を欺く行為だ」
「それは酷い言いようじゃないですか師匠。確かに果汁を使っていませんが、これによって貴族も、農民も、全ての身分の人達が等しく手軽に同じ味を楽しむことができるんです。俺は果汁ではなく、食の文化の混ざり合いを目指してるんです。これをジュースと言わずに何をジュースと言いましょうか?」
 エディアは得意げに語った。エディアの心中には既に自分の研究室を持った一人前の魔法料理研究家だという自負があった。
「なぜ、こんな安易な方法に走る。素材を使った、正しい味を量産する方法を考えるべきだ。こんな利に走った研究方法を教えた覚えはない」
「師匠、もうあの頃とは違うんですよ。師匠のやり方では一部の特権階級の人しか食の発展がもたらされない。私は料理人ではなく魔法料理研究家として、もっとジュースの良さをみんなに広めたいだけです」
 すると、師匠は諦めたような、それでいてエディアを憐れむような眼差しで見つめた後、「そこまで考えがあるのなら、もう何も言わん」と静かに言い、部屋を後にした。

 その数ヶ月後、ゼダは静かにこの世を去った。
 天寿を全うしたとのことで安らかな死に顔だったらしい。しかし、彼の研究は完遂を見ないままだった。
 葬式で、エディアは心の中で毒づいた。
 ほれみろ。そんな時間をかけて何を成し得たというのか。結局自分の方が正しかったではないか。
 袂を分かったとはいえ、師匠を失った悲しみに満たされた毒づきであった。

 かくして、エディアの魔法糖ジュースは一定の完成形を見た。
 ジュースを献上するのは国王ではない。砂糖工場を経営している農村の領主に研究資料を持ち込んで、実際に魔法糖だけで作ったジュースを飲んでもらった。領主からは色よい反応をもらえた。
 エディアと領主は綿密に話し合い、製造工程、見込める利益について予測を立て、いよいよ製品化にこぎつけた。
 魔法糖のジュースは国土中で飛ぶように売れた。人々は手軽で身近な嗜好品として、ジュースは全ての人達に瞬く間に定着した。

 エディアの研究目的は達成されたに見えたが、彼の研究は思わぬ方向へと流れていった。そもそも、エディアはジュースを作るのが目的で、あくまでもその手段として魔法糖を発明したのだが、農村の領主は魔法糖そのものに目を付けた。
 領主は魔術師ギルドに依頼して、菓子や酒、戦争に持っていく兵糧など、もっと他の食べ物に魔法糖を流用できないかと提案したのだ。
 そして、エディアの研究ノウハウは他の魔法料理研究家にも反映され、魔法塩、魔法ソースなど、様々な調味料が開発された。
 そして、しまいには、ひとかけらの肉を培養液に満たしたビーカーに入れると、どんどん肉が膨張し、量が増えているように見せかけるなどという技術も生まれた。おまけに1ヶ月近く常温で置いていても腐らない。

 エディアは王国内でもトップクラスの研究家として富と名声を得た。
 しかし、界隈ではエディアの意図と正反対の現象が巻き起こったのだ。
 これらの魔法調味料で作られた料理は安物の紛い物だと貴族達が言い始め、こんなものを食べたらモグモグ王国貴族の食のプライドが損なわれるという風潮が生まれたのである。そして、魔法調味料は貧乏グルメの代名詞とされ、食べ物の住み分けがより顕著になってしまったのである。
 食の王国モグモグでは食の上下が文化レベルの上下となる。食文化のミックスを目指したエディアは、身分間での食文化の隔たりという結果を招いてしまったのだ。

 海に面したモグモグ王国城下町の港。
 はるか海の向こうから、貨物船がやってくるのが見える。
 真っ白なシャツを着た、日焼けした作業員達の中に混じって、エディアは一人埠頭に立ち、船の様子を見守っていた。
 こうやって船を一人で待つのは何回目になるだろうか。
 船には大量の魔法糖が積まれている。植民地で作らせた魔法糖。保存が利き、栄養価が高い魔法兵糧があれば海を越えた大陸の国を攻めるのも容易いものだ。
「師匠、俺は間違っていたのでしょうか」
 エディアは一人でつぶやくが、答える者はいない。

 失意の内に研究室へ戻ると、同僚の研究家が血相を変えてドアを開け、足早に駆け込んできた。
「エディア、どこに行ってたんだよ。大変なことになっているぞ!」
「どうした?」
「ゼダさんの実験農場から、凄い種類の木が生えてるんだ! ポポカとかマンボとかありえない果実が実ってる!」
「何だって?」
 エディアが驚愕した。
 ゼダの実験農場は彼の死後ミックスシードの栽培が頓挫して、ずっとそのまま放置されていたが、まさかそんなことになっているとは。
 自分の目で確かめるべく、すぐに丘の上の農場に向かった。
 農場は、魔術師ギルドの魔術師や魔法料理研究家がニュースを聞きつけ、大勢にぎわっていた。

 雲ひとつない青い空の下、太陽の光を受け、青々としなる葉を携えた木が立ち並び、まるで虹でも見ているかのように、様々な種類の果実が実っている。
「どうしてこんなことが」
 エディアには理解できなかった。どれもここの風土では育たないような果実ばかりなのだ。
「土じゃないのか? たしかゼダって毎日土に栄養魔法かけてたって」
 やじ馬で来ていた同僚の一人がぽつりと言った。
「なるほど、そうかもしれん。おい、土を持って帰って調べよう」
 研究家が農場に入って土を拾い始める。
 今度は別の同僚が「うまい! こんな甘味があるポポカがあるのか」と、真っ赤なポポカにかぶりつきながら感嘆の声を上げた。

 エディアもふらふらと農場に入り、そばにあるマンボをもいで、一口食べてみた。
 果肉が舌で溶けるような水々しい触感に、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。
 こんなものは食べたことがない。自分が研究してきた魔法糖ではこんな味は決して再現できなかった。なぜなら味わったことがないからだ。味わったことのない味を再現することはできない。
 ゼダはミックスシードを媒体とした素材の融合を目指していたが、その副産物としてこの肥沃な土が生まれたに違いない。だからこれほど自然の恵みが詰まった果実が生まれ、この国では育たないとされていたポポカやマンボの木が生えてきたのだ。

 ゼダはこの結果を意図していたのだろうか、していなかったのだろうか。それはエディアには分からない。
 しかし、ゆっくりと、木を育む土に栄養魔法をかけて、もっと大地は豊かになり、果実は自分達の力でその数を増やしていく。
 もしそれが叶ったら、今度こそそれぞれの素材の持ち味がよく混ざり合う、本当のジュースをモグモグ王国に広めることができるかもしれない。なにせそれぞれが同じ土で育つのだ。できない話ではないはずだ。
 そんなことを考えていると、土が入ったビーカーを持った同僚の一人に肩を叩かれた。
「よー、エディア。ゼダさんに感謝しなきゃいけないぜ。お前の夢の叶え方をこうやって示してくれんだからな。あーん?」
 エディアは溢れる感情が喉に詰まり、言葉が出なかった。

(終)

メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品批評期間】 ( No.52 )
   
日時: 2011/11/21 19:04
名前: 企画運営委員会 ID:fDbyVVIo

作品のご投稿お疲れ様でした。
21日(月)〜30日(水)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。
批評期間が短くなっていますので、ご注意ください。


第8回『ジュース』:参加作品 >>46-51(敬称略)

>>46 空人:貴方に捧げる果実
>>47 かなちゃん王女:胎児
>>48 如月 美織:ジュースと陰謀
>>49 If:うそつきなおいしゃさん
>>50 文旦:過分離
>>51 伊達サクット:食の流動
メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品投稿期間】 ( No.53 )
   
日時: 2011/11/27 12:52
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:SGMhUuLc

 寒くなってきましたねぇ。手がかじかんでキーが押しにくい!←
 お題は初めてなのでちょっと緊張しています。えへ。

>>46 空人:貴方に捧げる果実

 主人公の執着心がちょっと怖いけど、でもそれがとても魅力的でした。血は飲んだことがないという言葉を信じてヴァンパイアと暮らすなんていい人! とか思ってたのに。
 でもその気持ちはなんとなくわかるなぁ、って。わたしも似たような体験あったので。ヴァンパイアじゃなかったけれど( 助けてあげていたのにいつの間にか助けられていた……みたいな。それで、どんどん深みにはまっていちゃったりして。
 最後に与えた赤い液体の正体を明確には明かさなかったところが印象的でした。たぶんそうだろうけど、違う可能性もあるよ、っていう感じでわたし個人としては凄く好きなパターンです。
 でも、強いて言うなら彼が元気になって行く様子をちょっとでもいいから書いてほしかったなぁ。わたしとしては。
 この後にどうなるのかなぁ、っていう空想を頭の中で膨らませられるのでとても印象的でした。
 

>>47 かなちゃん王女:胎児

 変わったタッチの小説だなぁとまず思いました。出だしでぐぅっと惹きつけらちゃいました。
 うーん、でもジュースというお題にはちょっと弱いかなぁ……。最後の方に「ジュースをたぷたぷ」とあったくらいで、どちらかというと母とかそっちの方に物語が偏っている気がしました。
 けれど赤ちゃんがこんな世界から母の元へ来ているとしたらロマンティックですよね。この後ウサギさんに連れていかれて、コウノトリに運ばれるのかしら。夢の国ですね、それこそ。ゼリーの川なんて羨ましい!
 とても楽しい気分になるお話でした。


>>49 If:うそつきなおいしゃさん

 なんかいろいろ考えさせられますね。嘘をつくことは悪いことだけど、でもその嘘でその子は救われる。ハッピージュースですか……確かに幸せな気分になっていい夢を見られるのは幸せかもしれないけれど、いつかそれが儚い幻想だと気づいてしまったらもっと傷つくことになりますよね。で、それが分かっているからおいしゃさんも苦しむ。
 重たくのしかかってきます。でも、少女が健気に生きていることでまだ救われる。読み終わった後の余韻が凄まじかったです。
 切ないですね。少女は幸せなのに、でも切ない。でも、真実を告げたらそれこそ永遠に心を閉ざしてしまうかもしれない。父親が帰ってくることが少女の生きがいだったと思うし……。
 僕の行動は間違っているけど、でも正しかったんじゃないかなと思いました。


>>50 文旦:過分離

 読み始めてすぐ、最初に気になったのは読点が少ないなぁということでした。ちょっとだけ読みにくかったです。
 会話がすごく人間らしいというか、返事になっていない返事とか「あーこういうのある」とか思いました。
 ちうみがバンパイアでちまめがインキュバスか……。不思議な姉妹だなぁ。ほんとにいたら怖いですね。でも、最終的に生きているのはちまめですよね。名前がそうだったし。でも、ちょっと惑いました。
 >>ちまめが仕事帰ってすぐちうみに殺されたのだとわかった。
 あれ、ちまめが殺されちゃったのって感じです。
 ちまめの独占欲が可愛らしくてたまらないですね! ちまめにだけだよ、っていう台詞が好きです。
 特徴的な文章が多くて、とても面白かったです。


>>51 伊達サクット:食の流動

 エディアさんの気持ちも、ゼタさんの気持もどっちも分かるなぁ。もっと手軽にジュースを飲んでほしいから魔法糖を開発した。でも、ゼタさんは本物の味を求め続けた。
 どっちが正しいって話kじゃないと思うけれど、でもゼタさんの職人魂のようなものには心打たれました。
 食の王国モグモグっていう名前に思わずくすりとしてしまいました。あと、ギールドにも。ギルとゴールドかな、あ、でも偶然だったらごめんなさい。
 魔法糖について話すときの、最後の方のエディアの台詞には傷ついただろうな。あの頃とは違うんです、なんて。でもそのあとに、師匠が死んだあとから弟子への道しるべのようなものを示すなんて感動です。
 ミックスシードのような高価なものより、この地では実らないとされていた果実が実る方が幸せな結果だったかもしれないですね。きっと。
 でもゼタさんは偉大な方だなぁ。これは薬だ、の台詞が好きです。


>>48 自作

 相変わらず暗くてごめんなさい。文芸誌のときもそうだったけど、どうやらわたしは主人公をどん底に突き落とす癖があるようです。えへへ←
 短編だからですよ、でも。普段は長編ばっかりだから、きっと短編になれてないからなんです。
 わたしの性格が影響しすぎてあんな状況になっちゃうわけじゃないんですからね!(とわたしは信じて疑わない)。
 もっと救われる話を書きたい……せめて報われてほしいな。主人公が。
 テスト明けだったので割とすぐに書きあげてしまいました。誤字ないといいな。
 なんかこんな力作ばかりの中にわたしみたいな未熟者がいていいのだろうか、という気もするのですが……。
 でも、全力尽くせたからいいかな、と納得させています。自分自身に。

 
 一応、これで批評は終わりです。読書感想文みたいになっちゃったけれど。
 では、失礼します。
メンテ

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