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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

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▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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決戦島・大陸統一トーナメント大会 ( No.75 )
   
日時: 2012/01/31 02:38
名前: 伊達サクット ID:1K6pViOk

 魔界に君臨する支配者、握力大魔王は人間界を征服するために大量の軍勢を率いて、人間界に侵略を開始した。握力大魔王がまず手始めに目を付けたのは、勝利の女神ウィーナを信仰する民が住むリリット大陸である。
 魔界の魔物達で構成された魔王軍が大陸全土を支配するのには一週間もあれば十分であった。
 握力大魔王は大陸制圧の仕上げとして、部下達に魔界の扉を開かせ、そこから『決戦島』という島を呼び寄せた。
 握力大魔王はリリット歴559年6月12日に『大陸統一トーナメント大会』の開催を宣言した。場所は決戦島にある握力大魔王の城。優勝者はこの大陸の王者になれるというものであった。
 下界の民達の救いを求める声、そして大会の開催。天界に住む勝利の女神ウィーナは、いてもたってもいられず、神が直接下界の者たちに加担してはならないという禁を破って大会参加の手続きを行ってしまった。

 トーナメント参加者は16名。見事予選を通過したのは握力大魔王、ちんすこう富松、ゲートボーラー助六、ゲートボーラーじゃない助六、Let’s Go左エ門、滅殺破壊神、ザコ1号、ザコ2号、武器屋ハ・デス、防具屋ベルゼブブ、道具屋ゼウス、万屋フェニックス、キャプテン乳毛、剣士イレババ、魔術師サシババ、NEETムシババである。
 この本選出場者の中にはウィーナはいなかった。
 なぜなら、天界の神殿で、精神集中の為に瞑想しているうちに眠ってしまい、すっかり寝坊してしまったからだ。
 目を覚まして、すでに大会が始まっていることに気付いたウィーナは、それこそ大慌てで天界を飛び出し、光の翼の魔法で超高速飛行。天界と下界を隔てている次元の壁を体当たりでぶち破り、ものの数分で握力大魔王の城のある決戦島までやってきた。

 そこで見た者は参加者達の死屍累々であった。
 予選が終わった後、トーナメントの組み合わせをくじ引きで決めるのだが、握力大魔王は体全体が巨大な手という異様な姿をした魔王であり、くじ引きの箱が小さすぎて手が入らなかったのである。
 そこで参加者兼主催者兼実行委員長兼解説兼実況兼スポンサーである握力大魔王の一存で、急遽くじ引きを中止し、16人バトルロイヤルで決着を付けることになったのであった。しかも始末の悪いことに、握力大魔王はくじ引きの箱に手が入らないことに気付いた途端、唐突に周りの参加者に攻撃をし始め、他の15人が倒れた後で「実は16人バトルロイヤルになったのだ! ヒャーッハッハッハ! はい俺が優勝ーっ!」と言い始めたのだ。
 そのように握力大魔王がやりたい放題やっているときにウィーナが現れ、魔王と相対した。

「誰だ貴様は? たった今大会は終わったぞ!」
 握力大魔王がウィーナに言い放つ。
「ならばこれから王者の防衛戦だ。この私が挑戦者となり、お前からチャンピオンの座を奪う」
 ウィーナが剣を抜いて、声高らかに宣言した。
「馬鹿め! 貴様ごときがこの俺に」
 握力大魔王が言い終らぬうちに、ウィーナは剣に闘気を集中させた。
「きえええええいっ!」
 そして、次の瞬間には、オーラで光り輝く刀身が握力大魔王を真一文字に切り裂いていた。
「ぎょわわわわー!」
 握力大魔王は大爆発し、決戦島は大会スタッフである多くの魔王の部下達の命を巻き添えに海の藻屑と消えた。

 この戦いが原因で、ウィーナは冥界に追放されることになった。
 これは、ウィーナがヘイト・スプリガン事件に見舞われる10年前の出来事である。

 やるせなき脱力神へ続く!
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:作品投稿期間】 ( No.76 )
   
日時: 2012/02/01 02:20
名前: 企画管理委員会 ID:nSJ3MzeQ

 イベントへの参加お疲れさまでした。
 たくさんの作品が集まり、喜ばしい限りです。
 ありがとうございました。


 第10回「爆発」の作品投稿期間となりました。
 作品投稿期間は2月1日(水)〜2月15日(水)までとなります。
 ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
 皆様の力作お待ちしております。
メンテ
のちに彼は ( No.77 )
   
日時: 2012/02/09 18:02
名前: If◆TeVp8.soUc ID:ZLKmFj4k

 やるせない。昔、学院の窓から仰いだ王城はどこまでも高く聳えて、あんなにも神々しく輝いて見えたのに。そこへ召し出されたと知らされたときには、泣いて喜んだものだ。それなのに、それなのに。俺は今、こんなところで何をしているのだろう。
「ユベル、ユベル、どこにいるの」
 大声で嘆きたいのをぐっと堪えて、俺の名を連呼する主人の部屋へと渋々向かった。今度は一体何の用だ。空を一面虹色に変えてみろだとか、王の召し物を女物のドレスにしてみせろだとか、あの王女は無理難題ばかり押しつけてくるので困りものだ。なんだって俺があんな小娘の相手をしなければならない。侍女や教育係がいるでしょうと何度断ったかしれないが、王女は魔法にひどくご執心と見えて、俺ばかりを呼び出してくる。近衛魔道軍というのは、そして学生時代死ぬ気で磨いた俺の魔法は、王女の機嫌取りのためにあるわけではない。いくら不満を持っても相手は王族、遠い故郷で待つ貧しい家族のためにも従うより他ないのだが、それがどうにもやるせない。本当は、もっと。もっと――どうなのだろう。分からない、けれども、俺が望んでいるものはこの城の中には一つもないように思われた。ここにあるのは、楽しくもないのにいつも笑っている貴族たちと、そいつらの蓄えている金と、誰々を蹴落とすだとか追放するだとかいう陰謀の数々だけだった。
「お呼びですか、アイリア様」
 まだ十四の小娘――それもおそらく、精神的には実年齢よりももっと幼い――にこうして慇懃な態度で接しなくてはならないのも、とてつもなく虚しかった。そんな俺の心内は露知らず、王女は嬉々とした顔をこちらへ向けると、裾の長いドレスをずるずる引きずりながら駆けてきた。
「遅いわユベル。私が呼んだらすぐに来るのよ。いい?」
「は。申し訳ありません」
「ね、ね。ユベル、見せて欲しいものがあるの」
 また始まったか。今度は何を頼まれるのかと考えると頭痛がしたが、表には出さないよう極力注意する。
「なんでございましょう」
「なんて言ったかな、ええとね、なんかね、どかーんてする魔法。本で読んだの。ば、ば……あれ、なんだったっけ?」
「おそらく、爆発の魔法でしょう」
「そうそうそれ! それ見せてよ!」
 はしゃいだ嬌声が耳を刺すようにきんきん響く。いつもの常識を逸脱したおねだりに比べたらまだマシな部類だが、しかしこの王女はいつになったら魔法に飽きてくれるのだろうか。その日が待ち遠しくてならない。
「申し訳ありませんアイリア様。それは出来ません」
「えー、どうして?」
 栗色の豊かな巻き髪を左右に揺らし、唇を尖らせて眉根を下げるその姿は、とても十四には見えない。十か、もっと下に見える。まってくもって幼い娘だ。ほとんど子守りも同然だと考えて、自分で情けなくなった。
「室内でそのような魔法を使えば、建物に大きな被害を与えてしまいます」
「いいじゃない。きっと誰かがすぐ直してくれるわ」
「それでも駄目です」
「なんでよー」
 言葉に詰まる。本当は言わずに断りたかったのだが、今日の王女はいつにも増して諦めが悪い。仕方がない。密やかなため息を零したあと、俺は認めたくない事実を白状した。
「私は爆発の魔法は使えませんので」
「え、そうなの? ユベルにも使えない魔法があるのね」
「いつも申していますでしょう。魔法とて何でもできるわけではありませんし、術者によって得手不得手があるのだと」
「ユベル、私、難しい話は嫌いよ。とにかくユベルは爆発の魔法を使えないのね? それなら、お願いがあるわ」
 まだ何かあるのか。もう一度ため息をつきそうになるのをなんとか我慢した。王女は天井のシャンデリアの光を映してきらきら輝く瞳でこちらを見上げてくる。嫌な予感しかしない。
「なんでございますか」
「三日、暇をあげる。だから爆発の魔法を覚えてきて」
 今、何か、信じられないようなことを聞いた気がした。耳を疑いつつ、俺は期待を込めて聞き直す。
「は?」
「爆発の魔法を覚えてきて、見せてちょうだい」
 聞き間違いではなかったか。この王女は、本当に。もはや呆れて言葉も出てこない。
「アイリア様、そのですね……ですから、先ほど申し上げたように」
「早く帰ってきてね! 私、ユベルがいないと退屈だわ」
「アイリア様、それでしたら爆発の魔法の使い手をお連れしましょう。それならすぐにでも――」
「いや! 私はユベルの爆発の魔法が見たいの!」
 ああ、もうこのわがまま娘には付き合いきれない。しかし暇をくれるならそれは願ってもないことだ。三日適当に休んでその後適当に謝ろう。どうせ分かりやしない。
「お願いユベル。お願いよ」
 ところが、退出しようとした俺をわざわざ引き止めて最後にそう懇願した王女の目はなにやら必死で、先ほどまで考えていたことを猛烈に俺に後悔させ、さらに後ろめたさを感じさせるだけの力を持っていた。
「……承知しました」
 だから俺はそんな気なんてないのに、こう答えてしまったのだろうか。

 ◇

 学院を卒業して以来初めて会った友は、しかし、全く変わっていなかった。懐かしい思い出の数々が脳を満たす。あの頃が一番楽しかったかもしれないなと思うと、無性に寂しくなった。風の便りで反乱軍に身を置いているらしいとは知っていたが、それ以外はどこで何をしているのかさっぱりで――久しぶりに使った導きの魔法でカインが王都に居ると知ったときには、幸運に驚いたものだ。城に仕える者として考えるならば、反乱軍の一員がこんなに城に近い場所にいるのは危惧せねばならない事態なのだろうが、思考まで縛られるなんて冗談じゃない。
「くっく、学院を首席で卒業して近衛魔道軍にまで上り詰めたおまえが、まさか俺に教えを請う日が来るとはなあ」
 カインは顔を見るなり心底楽しそうな顔をしてそう言った。七年ぶりの再会だったのに、まったくその時間を感じさせない口ぶりで、今は敵味方だから昔のようにはいかないのではないかとか、都合のいいときだけ頼りやがってと思われやしないかと心配ばかりしていた俺を一度に安心させた。
「嫌な言い方するなよ。攻撃魔法ならおまえの方がずっと成績は良かったろ」
 面白くない事実だったが、事実である以上は認めるしかない。カインの扱う攻撃魔法はどれも強力で、派手で、そしていつだって目にすればすうっと胸がすくほどに爽快だった。
「へへ、俺はおまえと違って身軽だからな。おまえみたいに色々背負い込んでる奴に攻撃魔法は向かねーよ」
 嫌味は少しも含まれていなかった、が、気になった。俺が攻撃魔法を苦手としているのをもちろんカインは昔から知っていたが、こんな風に言われたのは初めてだったもので。
「どういう意味だ?」
「そのうち分かる。で、何の魔法だっけ?」
 カインとて忙しいだろう。あまり時間を取らせるわけにはいかない。街道は賑わっていて、皆忙しい足取りで行き来している。隅で語らう俺とカインの会話には誰も耳を傾けていない。十二分に確認してから、小声で用向きを伝えた。
「王女が爆発の魔法を覚えて来いとさ。あと二日しかない。おまえしか頼れないんだよ。頼む」
 なんであんな小娘のために俺はこんなに必死になっているんだろう。自分自身がよく分からないことに苛立ちと不快感を覚えながらも、俺はただひたすらに頭を下げた。
「あちゃー、そりゃおまえ、無理な話だ」
「ほんと頼むよ。自力で何とかしようとしたが上手くいかなかったんだ。礼なら弾むから」
 言ってしまってから失言だったかもしれないと一瞬慌てたが、カインはここで王城の情報を引き換えにするほど卑怯な奴でも狡猾な奴でもなかったと思い直す。その通りで、カインはすぐに気前のいい答えを寄越した。
「いや、俺は協力は惜しまないつもりだぜ。おまえには学院時代にたくさん借り作ってるからな。だけどな、爆発の魔法はおまえには無理だ。あれは攻撃魔法中の攻撃魔法なんだぜ?」
「それは知ってるが、何としても覚えないと王女の機嫌を損ねる。……そうなんだ、首にされたら家族が――」
 もし爆発魔法を習得できなかったとしても、あの王女は俺を首にしたりはしないだろう。分かっていたが、できないと告げたときに悲しく曇る丸い目を想像すると、なんとしても習得せねばという気になる。つくづく、俺もお人よしだ。
 カインは笑った。学生時代にときどき見せた、やけに大人びた――今はもうお互い大人になったが、それでも大人びていると感じるほどの――笑い方で。
「ほらほら、俺が言ってるのはそういうところさ。そうやって色々考えちまう奴に攻撃魔法は一番相性が悪い。どうとでもなれって気持ちが大事なんだ。そしたら爆発魔法だって自然と出来るもんさ」
「出来ないから来たんだよ」
「おまえのことだ、理論とか術式とかは全部頭に入れて来たんだろ、というか、学院時代からもう知ってただろ? だったら俺が言えることはそれくらいしかないね。まあ、頑張ってみろよ。絶対に出来ないってことはないだろうしな」
 励ましの言葉を付け足して、カインは俺を正面から見た。そして、一言、呟くように言う。
「ユベルは大変だな」
 同情のまなざしだったが、その中にかすかに、哀れみを見た気がした。城の中でよく感じるやるせなさが蘇って、途端に虚しくなった。
「……カインは大変じゃないのか?」
「俺は毎日好きにやってるぜ。さっきも言ったが、身軽だからな」
「少し、カインが羨ましいよ」
 久方ぶりに本音を零すと、心が一挙に透いた気がした。学院の中庭でカインと夢を語った日のことが、ふと脳裏を過ぎる。それがあまりに――窓越しに見上げた城よりもずっと――輝かしくて、泣きたくなった。
「ははっ、おまえにそんなこと言われるとは光栄だね。でも……そうだな。俺はさ、おまえももっと好きに生きたらいいと思うぜ。使い古された言葉だけど、人生一度きりなんだからさ」
 カインは、遠い昔の輝きを今まで持ち続けている。眩しくて、本当に、本当に、羨ましかった。
「また会おうな。できれば、敵としてじゃなく」
 そのカインからそういう言葉をもらえたのが、無性に嬉しかった。急に軽くなった身体を王城へ向けながら、俺は頷いてカインに応える。久しぶりに笑うことが出来た気がした。
「ああ、そうだな。色々ありがとな」
 そのときには既に、心は決まっていた。

 ◇

「わあユベル、お帰りなさい! 早かったのね」
 王女は満面の笑みを浮かべて俺を迎えた。一瞬後ろめたい気持ちがぶり返したが、気付かない振りをして俺は言った。
「申し訳ありませんアイリア様。仰せの件ですが、果たせませんでした」
「仰せって? ああ、爆発の魔法ね? そう……分かったわ。でもユベル、いつか見せてちょうだい。約束よ」
 王女は思ったよりも落胆を見せなかった。その代わりに約束をねだる。王女の目は、今日もきらきらしていた。その目から逃げるように視線を外して、俺は首を振る。
「いいえアイリア様。お約束することはできません」
「どうして?」
「私は今日一杯でお暇をいただくことにしたいと思っております」
「疲れちゃったの? いいわよ、明日からじゃなくても今日から休むといいわ。でもユベル、なるべく早く帰ってきてね。私、あなたがいないと退屈で」
 退屈しのぎのくだらない遊びに付き合わされるこっちの身にもなれ、という言葉をすんでのところで飲み込んだのは、七年仕えたこの王女に少しばかりは思い入れがあったためかもしれない。
「いいえ、疲れたわけではありません。嫌気が差したのです」
「いやけ? それって何? 嫌ってこと?」
 だがもう限界だった。ついに叫ぶように語尾を荒げてしまう。
「だから、このお城に仕えるのはもうたくさんなのです!」
 王女は驚きに呆然として、しばらく口が利けないらしかった。
「……ユベル? どうしたの?」
 ぷつりと、身体のどこかで何かが途切れるような音がした。途端に感情がせめぎ合いあふれ出して、俺は何が何やら分からないまま口任せに言葉を吐き出した。
「いいですかアイリア様。私の魔法はあなたのわがままのためにあるわけではありません。貧窮する民を捨て置いて己の保身だけ考える貴族のためにあるわけでもありません。……本当は俺は、カインと一緒にこの国をぶっ潰したかったんだ。このまま権力に媚びへつらって生きるのはもうごめんなんだよ!」
 言い切ってしまうと、さらに身体が軽くなった。勢いに身を任せたことは初めてで、この先どうなってしまうのかよりも、得体の知れない解放感にふわふわ浮き上がりそうな、心地良い酔いのようなものを感じていた。
「ユベル、私、難しい話は分からないわ。でもユベル、あなたはこの城が嫌いなのね? それなら私と一緒よ」
 そういうときに王女が意味不明な発言をしたので、俺の思考は完全に凍結した。
「は?」
「このお城の人は、みんな同じ顔してるわ。笑ってないのに笑ってるの。気持ち悪いわ。でも、ユベルは違った。あなたは笑わなかった。ずっと退屈そうな顔してたわ。私と一緒だなって、ずっと思っていたのよ。だから私、ユベルが好きよ」
 王女が他の城の人間と違うのは、毎回わがままに嫌々付き合わされながらも、きっと頭のどこかで分かっていた。こういう話を王女の口から聞いても驚かなかったのは、そういうことだろう。けれども今その返答を聞かされる意味が分からない。こちらは暇をもらうと言ったはずだが、それは一体どうなったというのだ?
「……はあ。それで、あの」
「アイリア様! いかがされました!」
 けたたましい声と足音がした。王女の部屋で怒声が上がれば当然の結果で、俺は後先考えずに暴走したことを今になってひどく後悔した。遠い故郷の家族を思う。なんてことをやらかしてしまったのだろうと思わないではなかったが、それよりも、きっと家族は分かってくれるだろうという根拠のない安心感の方が勝っていた。
「ねえユベル。あなたお城から出て行くの? それなら私も連れて行って。私もこんなところ嫌よ。ユベルと一緒に行きたいわ」
 王女はこの緊迫した状況をどこ吹く風で暢気だ。その上こんなことを言い出すものだから、全く、困った姫君である。
「ええと、アイリア様。それ本気で仰っていらっしゃるんですか」
「もちろんよ」
 ちょうどドアを開けて入ってきた大臣が、直近の会話を聞いていたらしく、俺をものすごい形相で睨みつけてきた。なんだ、いつも笑ってるだけかと思っていたらこういう顔できたんだなと、王女の暢気さが移ったのか、俺は悠長にそんなことを考えた。
「おのれ平民風情が! 王女様をたぶらかすとは何たることを。衛兵よ集え! あの者をひっ捕らえるのだ」
 あちこちから鎧の鳴る音が、つまり、兵隊が近づいてくる音がした。ああ、もう、こうなったらどうしようもない。そのとき、カインのアドバイスが耳に木霊した。
 ――どうとでもなれって気持ちが大事なんだ。そしたら爆発魔法だって自然と出来るもんさ。
 今ならできるような気がした。ほとんど確信だった。
「ふふふっ。逃げましょうユベル。私、なんだかすごく楽しいわ」
 楽しい。なるほど、この緊張感と高揚感は確かに「楽しい」という感情だ。これまた、久しい感覚だった。急に膨らんだ充足感に背中を強く押される。俺は片手を壁に向けて、昨日徹夜で学び直した爆発の魔法の術式を展開した。
「では、こちらから。アイリア様、ご覧ください。これが爆発の魔法です」
 眩い光の中から生み出された赤色が、視界一帯で派手に暴れた。景気のいい爆音が城中に響き渡ったかと思うと、城は大きく揺れて、あちこちに吹き飛んだ瓦礫が新たに作られた空洞からぱらぱらどこかへ落ちていく。カインの魔法に負けない爽快さだなと思って、俺はそっと笑った。王女はすごいすごいと喜色をあらわにして俺の腕にしがみついてくる。本気でついて来る気らしい。これからどうなるか分からないってのに、全く、物好きな王女様だ。
 まるで俺たちを歓迎するように大きく開いた新しい世界への風穴を、王女と共に俺は飛び出すようにしてくぐった。
 本当は、もっと。この先の答えに、確かに、今、近づいている。まずはカインに会いに行こう。俺と王女は、城から何やら騒ぎながらこちらを悔しげに見下ろしている大臣や兵たちを後目に、風切りの魔法でふわふわ下降した。そいつらの顔が少し俺たちを羨んでいるように見えたのは俺の気のせいかもしれないが、そのとき頬を心地良くなぶった風は、これまで二十数年間で感じたものの中で最も澄んだ空気を運んでいたと思う。
 そうして見渡した世界は、どこまでも広く鮮やかだった。
メンテ
リア充爆発しろ ( No.78 )
   
日時: 2012/02/11 18:41
名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:l6af4kJQ

「そうか……遂に出来上がったのだな、アレが」

 茶色の着物を華麗に着こなした、白髪頭の老人が椅子をくるりと回してこれから重大報告をする男に向き直った。その目は玩具を貰った少年のように輝いていた。彼の傍らに立つ黒スーツにサングラスといういかにも怪しげな出で立ちの男が「はっ」と一礼すると語りだす。

「苦節十七年……偉大なる会長、斉藤様の莫大な財産と豊富な人脈を最大限に活かして今日この日、遂に完成しました。例の『スイッチ』が」

「そうかそうか。それでは、その部屋に連れて行ってくれ」

 黒スーツの男はその言葉を聞くやいなや、老人の手を握ってエスコートした。老人は椅子から立ち上がると、傍らに置いてあった杖を手に取り、歩き出した。黒スーツの男がそれを先導する。二人は老人の書斎を後にした。
 二人はゴージャスな絨毯が敷かれ、シャンデリアがビル郡の如く立ち並ぶ廊下を黙々と歩く。やがて老人を先導していた黒スーツの男が不意に立ち止まり、「危ないのでお下がりください」と老人に促した。
 黒スーツの男はその場で思い切り身をよじると、何も無い壁に向かってパンチを繰り出した。すると壁の一部は忍者屋敷よろしく半回転し、人が半身で通れるほどの道を作り出した。

「行きましょう」

 老人を先に行かせ、黒スーツの男はその後についていく。そして自分が部屋の中に完全に入ると、後ろ手で半開きになった壁を閉めた。
 『例のスイッチ』があるその部屋はゴージャスな廊下とは違い、無機質な鉄で覆われた物だった。老人の位置から部屋の一番奥に超特大のモニターが設置されているのが見える。
 老人は後ろを振り返り、黒スーツの男を一瞥する。男はゆっくりと頷く。老人は満足そうに笑みを浮かべると、杖をついてモニターへと歩いていった。
 モニターの前には小さな椅子とテーブル。そのテーブルの上には赤いボタンと右向きの三角矢印ボタンが取り付けられた黒塗りリモコンが置いてある。
 老人は杖をテーブルに立てかけ、ゆっくりと腰掛ける。老人が座ったことを確認すると、黒スーツの男はリモコンの操作方法を語りだす。

「リモコンについている赤いボタンが電源ボタンと爆破ボタンになります。長く押せば電源のオンオフの切り替え、お好きな場面で短く押せば爆破となります。矢印のボタンは映像の切り替えボタンとなります。爆破後に押せば次のリア充の映像へと移ることが出来ます」

 黒スーツの男の説明を嬉しそうに聞いていた老人は早速リモコンの電源ボタンを長押しした。

「それでは……粛々と始めるとしよう……」

  ◆   ◆

「問題っ! 今日は何の日でしょう?」

 まだ日も高い午後。マンションとマンションの間にある小さな公園のベンチに座った制服を着た少年と少女。その質問を投げかけたのは少女の方だった。爽やかなスポーツ刈りの少年は、背の小さな少女の額を人差し指でつん、と押すと返答を返す。

「俺が忘れてる訳ねえだろ? 今日は――俺と愛が付き合った日だろ?」

「せいかーい、よく出来ました〜」

 公園に人気が無いことをいいことに少女は少年の肩に頭を乗せると、甘えた声を出した。少年はそんな少女の肩に手を回し優しく撫でる。

「好きだよ……ユウ君」

「俺もだブギャぶっ」

 少年の頭が内部から爆発を起こし、脳髄と鮮血を辺りに撒き散らした。ベンチに留まっていた小鳥数匹が驚いて羽ばたいて行く。それらは少女の頭に降りかかり、真っ白なブラウスを一瞬で目の覚めるような赤に染めた。少しの静寂の後、首から上の無くなった少年の死体がベンチから転げ落ち少女が悲鳴を上げた。

  ◆   ◆

 泣き叫びながら、しかし少年の死体には一切近づこうとしない少女の姿が部屋の巨大モニターに映し出される。モニターの前に座っていた老人はさもおもしろそうに手を叩いてその様子を笑いながら見ていた。黒スーツの男は後ろでそれを冷ややかな目で見守っていた。
 老人はモニターを指差しながら、嬉々として後ろを振り返り、黒スーツの男を見据える。その目は玩具を貰った子供のように輝いていた。

「見たか、これが女の本性というものだ! 死ぬまで本気で一人の男を愛そうというのにいざ死んだら手の平を返し、こうしてうわべだけの涙を見せる! 何とも愉快な生物よ!」

 老人は未だ泣き叫ぶ少女の姿を見て更に大爆笑した。それは三十秒ほど続き、呼吸困難を引き起こした。黒スーツの男が焦りながら老人へと駆け寄りその小さな背中を擦る。
 暫くして呼吸は収まり、老人は含み笑いを零しながらモニターへと向き直る。黒スーツの男は胸を撫で下ろしながら口を開いた。

「ええ……この『リア充爆発スイッチ』、対象者の中身だけではなく愛人の本性すらも曝け出す画期的大発明と言えるでしょう。流石は偉大なる会長、斉藤様」

 老人はフフン、と鼻を鳴らすと再びリモコンを掴み、矢印ボタンを押した。映像は泣き叫ぶ少女から坂道を疾走する二人乗りの自転車へと移り変わった。
 自転車のハンドルを握っていた少年が後部座席の少女に「俺もお前のこと、大好きだよ」という途中で老人は爆破ボタンを押した。少年の鮮血を浴びた少女はショックのあまり失神して自転車から転げ落ち、操縦主のいなくなった自転車は民家の塀に激突した。老人はその様子を見て再び爆笑、映像を切り替える。
 次の映像はいざ性交に走ろうとしていた高校生のカップルの映像だった。どこかぎこちない動きは両方とも初体験ということを暗示している。画面を穴が開くほどに見つめて約二十分。少年が行く寸前で老人は起爆スイッチを押した。少年の頭が爆発した。血が首元から勢い良く噴出し、双方の体を朱に染めてゆく。何が起こったことすらも分からない様子で呆然とする裸の少女を見て、老人は死にそうになるほど笑った。
 その後も老人は画面に映る年端もいかぬ少年達――その全員が全員、青春を謳歌している途中であった――の頭をボタン一押しで爆発させていった。老人にとっては時間の経過が随分と早く感じられたことであろう。老人は三十二人目の少年の頭を爆発させた所で黒スーツの男に時間を聞いた。黒スーツの男は「午後六時四十七分です」と答えた。
 老人はこれで最後か、と呟くとリモコンの矢印ボタンを押した。次の瞬間。四分割された画面には老人をありとあらゆる角度から撮った映像が映し出された。。それは部屋の四隅に設置された監視カメラの映像の物であった。
 老人は慌てふためきながら立ち上がり、黒スーツの男の方向へと振り返った。

「く、黒山! い、一体何なんだこれは!」

 黒山と呼ばれた黒スーツの男は表情をピクリとも変えずに――サングラスのお陰で見事に表情が分からないが――吐き捨てるように口を開く。

「『リア充爆発スイッチ』は正直でしてね……本物の『リア充』を寸分違わず選び抜き、その頭蓋を爆破します」

「そのようなことを聞いているのではない! 何故私が『リア充』なのだ!」

「まだ気付いておられないのですか? 今まであなたが風俗で無理やり抱いてきた女の数を思い出して御覧なさい。如何にあなたが『リア充』かよく分かるでしょう」

「それが『リア充』だと! 肩腹痛いわ! 双方が愛し合ってこそが恋愛というもの――――」

「まあまあ。それでもあなたはこのスイッチに『リア充』だと選定されたのだから。ここは潔くスイッチを押すのが筋ってものでしょう」

 黒山は老人に歩み寄り、スイッチに手を掛けた。老人はその手を撥ね付ける。スイッチが床に落ちる。老人はその隙に杖をとり、出入り口へと走って行った。
 黒山は壁を必死で叩く老人の後ろ姿に声を掛ける。

「その壁は一キロ以上の衝撃を一瞬で与えないと動かない仕組みになっております」

 老人は壁を叩くのを止め、後ろを振り返った。視線の先にはスイッチを持った黒山。老人の表情が絶望に染まっていった。
 黒山はそんな老人の姿を鼻で笑い、赤いボタンに親指を掛けた。

「さようなら。『リア充』さん」

 黒山は親指に力を込め、一息にスイッチを押した。
 老人の頭が爆発し、中身が床に四散する。しわくちゃの脳髄が辺りに散らばり、鮮血が赤いインクをぶちまけるように壁に床に飛び散った。暫くして、老人の体が床に伏した。
 黒山はその様子を見届けると鼻で笑いながら矢印ボタンを押した。次の瞬間、巨大モニターに四分割された自分の姿が映し出された。

「ま……因果応報か」

  ◆   ◆

 翌日。屋敷から忽然と姿を消した主人と一人の執事の死体が、例の部屋で発見された。第一発見者は死んだ執事と親しくしていた執事仲間。二つの亡骸を一瞥するなり携帯電話で警察に連絡したらしい。
 が、その二つの死体の共通点は両方とも頭がまるで刎ねられたように無いこと。検死の結果によると死因は爆死。それも頭の内側から木っ端微塵にするような。
 その事故とも事件とも結論付けられない特異な死因に、警察も頭を抱えた。
 全国の男子高校生百万人の脳内に出生時、視覚と聴覚をジャック出来る機械を取り付け、『リア充』と選別された男子のみを選び脳内の機械を爆発させる『リア充爆発スイッチ』の存在が明らかになったのは事件発生一週間後のことである。
メンテ
カウントダウン! ( No.79 )
   
日時: 2012/02/13 01:16
名前: 空人 ID:eW9741Jk

 朝起きると、俺は爆弾になっていた。
 これがゲーム内の話とか、何かの比喩とか、そんなのだったらどんなに良かったか。気付いたのはパジャマ代わりのスウェットを脱いだ時。それまでは、なんだか今日はやけに時計の音が大きく聞こえるなとか、そんな程度に感じていたいつもどおりの朝だった。それはそうだろう、カチカチという規則正しい音は俺の体の中から聞こえていたのだから。
 今俺は洗面所に来ている。自分のわき腹にある異物をじっくりと観察する為だ。

「うわ、マジかよ」

 思わず声に出てくる。鏡に映るひかえめな筋肉に埋もれているのは、紛れも無く液晶画面と数本のコード。そこに数字が並んでいて、例のカチカチに合わせてカウントダウンしているのだ。液晶をコツコツと叩いてみる。触れられた感触は無いが、肌を引っ張られるような感じがした。本当に引っ付いてるよ。しかもなんだよカウントダウンって。これ、あれか? 時限装置的な?
 液晶を引っ張ろうにも取っ掛かりも無く、コードを引き抜く勇気は無い。今はまだ五桁はある数字を恨みがましく眺め――――ちょっと待てよ。一日って何秒だ?
 血の気が引く。そしてそれとは対照的に跳ねる鼓動。
 ドクンドクン、カチッカチッ、ドクンドクン、カチッカチッ。
 そして今、唐突に気がついた。このカウントは一秒ごとにされているのではないという事実。コイツは俺の鼓動と連動しているようだ。うわっ、ちょっと待て。止まれ俺の鼓動! いや止まっちゃダメだ、静まれ! ダメだな、焦ると思考が鈍るし余計に動悸が激しくなる。素数でも数えるべきか? いや、そんな事で落ち着けるとは思えないし、ふざけてる場合でもない。どうにかしてこの状況を改善しなければ。


 結局思い至ったのはいつもの毎日と同じように学校へ行くというものだった。
 病院に行く? そんな事をして物珍しがられ、実験動物まがいの事をされたらどうするんだ。
 図書館で文献を調べる? 予備知識も無しじゃ、どれだけの時間がかかるんだ。
 少なくとも学校にはいつもの生活がある。刺激の無い凡庸なる平和がある。複合施設であるそこには、保健室も図書室もある。知識を教えてくれる教師が居て、安全と安心がある。
 学生である俺には大いに利用する権利があるのだ。使わないでどうする。
 ともかく俺は日々の繰り返しである支度を終え、焦らず急がず行こうと玄関の扉を開くのだった。

「遅いよ、健ちゃん。遅刻しちゃうかと思ったよ」
「……ちゃん付けはやめろよ、芽衣。それに、先に行って良いっていつも言ってるだろ」

 扉の先に、いつものように俺と一緒に登校するつもりだったらしい幼馴染の少女を見つけ、日常を実感すると共にいろいろと面倒臭い事情が頭を持ち上げてくる。
 おそらく芽衣は走る事を要求してくるだろうが、今の俺には自殺行為だ。それになんというか、彼女は活発な少女で、その物怖じしない性格は同性異性問わず人気がある。顔はあどけなさを残しつつも、昨今では薄化粧なども手がけており、それが何をどうしたのかやたらと周囲に好印象を残しているのだ。体つきも実に健康的な成長をしてきていて、制服のブラウスを押し上げるふくらみは自己主張を強め、スカートとハイソックスの隙間にある素肌はまぶしいほどなのである。
 つまり何を言いたいのかと言うと、コイツが側にいるだけでも野郎どもからの視線が俺の精神をすり減らし、気さくな笑顔を向けられようものなら貴重なカウントをガッツリ減らされるであろうことは想像に難くないわけだ。

「あー、芽衣? 悪いんだが本当に先に行ってくれないか?」

 とにかく、走っていく事は出来ない。やんわりと同伴を断る俺を、彼女の下から見上げる慈愛が容赦なく襲い掛かってくる。

「どうしたの健……私なにか気に障ること言った?」
「い、いや、そんな事は無いぞ。ただ、寝不足で調子が悪いから走れないってだけだ。学校には遅れるけどちゃんと行く。だが、それにお前を巻き込むことも無いだろうと思っただけだよ。……そうだ、先に行ってそのことを先生に伝えてもらえるとありがたい」

 とっさの言い訳だったのだが、俺の顔色がけして良いものではなかったことも手伝って、芽衣はしぶしぶ納得してくれたようだった。しきりに後ろを気にしながら走って行った彼女に手を振りながら、ようやく一呼吸入れる。さて、俺も行くか。


 どうにか一限目の授業の前に教室に入る事に成功し、遅刻を指摘する級友に苦笑いを返しながら席に着く。やがて始まったつまらない授業を聞き流しながら、今後のことを考える。指名を受けない限り、授業で大きくカウントが減るイベントは起こらないだろう。体育は見学させてもらうしかないか。
 あとはこのわき腹の爆弾をどうしたら良いのか、だ。図書室にコレを解体する手引書はあるだろうか。普段寄り付かないので、どの程度の専門書があるのかさえもわからない。まぁ、普通の学校には爆弾処理の仕方なんぞ置いていないだろう。図書委員に一応確認しておくか。
 保健室はどうだろう。こんな症状が他にもあるのだろうか。専門の治療とかは無理かもしれないが、生徒の身になって相談にのってくれる養護教諭がいるはずだ。決め手にはかけるが、悪いようにはならないだろう。
 ……なんて言うか、コレっていう決め手が無い。先の見えない未来に不安を隠せず、血の気が引く音を聞いていると、芽衣が話しかけてきた。いつの間にか授業は終わっていたらしい。

「大丈夫? 保健室行く?」
「そう、だな。何もしないよりはマシか」

 立ち上がり、少々おぼつかない足取りで保健室へ向かう。どうやら芽衣もついて来ているようだ。具合の悪い人を放っておけないのだろうが、このままでは彼女にも聞かれてしまう。いや、聞いてもらうべきだろうか? 要らぬ心配をかけることにはなるが、事情を知ってくれている人が居るのは正直心強い。


「失礼します」

 ノックをして扉を開く。が、そこに居るはずの養護教諭の姿を見つけることは出来なかった。主の居ない保健室は清潔すぎて落ち着かない。出直そうかと迷っていると、芽衣が背中を押してきた。

「寝不足が原因なら寝てれば直るんじゃない?」

 そういえばコイツには寝不足うんぬんで説明していたのだった。どうせ聞かれるのだから先に弁明しておくか。そう思っているのだが、彼女は容赦なく俺をベッドに押し込む。

「お、おい」
「いいから寝なさい。自分では気付いてないかも知れないけど、どんどん顔色悪くなってきてるんだから」

 だからそれは寝不足の所為ではないのだが、そのことを説明する暇も与えてはもらえず、彼女は世話女房よろしく俺に布団をかぶせる。そして心配そうに額に手を当てられれば、その冷たさが心地よく文句までも押さえ込まれてしまう。

「あ、あの、芽衣さん?」
「あのね」

 声が重なり、言葉までも押さえ込まれれば、さすがに不快感を禁じえない。聞けよ、話。

「健ちゃんはもっと周りの人を頼っても良いと思うの」
「は?」

 挙句にどんな上から目線なんだよ。ちゃん付けもやめろよと何度言わせる気だ?

「何を言い出すんだよ急に……」
「急じゃないよ、ずっと思ってたんだよ」

 話を打ち切らせてどうにかしてこっちの話にもって行きたいのだが、向けられた瞳の真剣さに気がつけば、それさえも困難だった。何だろう、何かを伝えようとしている?

「健ちゃんはいつも、なにか問題が起こっても自分ひとりで解決しようとするよね? それはすごい事だと思うけど、でもさみしい事だと思うの」

 こっちが黙っているのを幸いにと、芽衣の口は饒舌に思いを語り始める。それはこんな機会でもなければ聞けない貴重なものなのかもしれない。俺がこんな状態でなければ、もっとゆっくり聞いてやりたいところなのだが。

「今日だって、何か私に隠してるでしょ?」
「なっ、お前、気がついてたのか!?」

 さすがに驚いた。起き上がりそうになる上半身をふたたび押さえ込まれながら、俺は彼女の顔を見つめ返す。当たり前だよと自慢げに言い放つ彼女は誇らしそうに微笑んだ。

「だから、もっと私を頼って、ね」

 ベッドが揺れる。芽衣が腰を降ろしたのだ。そのまま俺の顔を覗き込むように身を乗り出し……。
 ちょっと待て、なんだコレは。いったい彼女は何をしようとしている?

「私はもっと健ちゃんの近くに行きたい。だって、私は……」

 こ、これはどう考えてもアレだろ? わかっていたさ、いつも彼女が俺に好意的だったことも。その視線に他の異性が映らないことも。俺自身が彼女のことを同じくらい深く思っていることも。
 しかし、なにもこんな時じゃなくても良いだろう。心臓に負担のかかるイベントは勘弁して欲しい。そんな考えとは裏腹に、俺の鼓動は高鳴り、心拍数は速やかに上昇を開始する。

「ちょ、ちょっと待っ……」
「私はっ! 健ちゃんが好きだよ」

 制止の声は遅すぎるものだった。そんなものに押されるほど彼女の想いも弱くはなかっただろう。熱い告白は心臓を直撃し、そのまま頬を寄せてくる彼女を拒むことなどできるはずも無い。
 昇り続ける心拍数を止められない。いや、止めようなんて思わない。彼女の背中を引き寄せながら、俺は一つの真理にたどり着こうとしていた。

 ――もう、死んでもいいと。

 体を離したときには保健室に警告音が鳴り響いていた。わき腹がわずかに振動しているのがわかる。残された時間が少ないようだ。間に合わないとしても、彼女を逃がすべきかもしれない。だけど、これだけは伝えたい。
 だから俺はエゴを通した。警告音に驚いている彼女をもう一度抱き寄せたんだ。

「俺も、好きだよ」

 甘いムードの保健室を轟音と閃光が支配して――……。






「そこで目が覚めたんだよ」
「なによそれ、意味わかんないんだけど?」


__終われ
メンテ

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