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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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結末を知らない物語。 ( No.90 )
   
日時: 2012/03/01 12:08
名前: かなちゃん王女 ID:UisG3afU

 昔々で始まる物語。
 それはある国のお話です――。
 その国には一人の王女様がいらっしゃいました。
 王女様は大層お美しくあられて、求婚者が野を越え山を越え、海を越えやってくる程でございます。
 けれども、王女様はどの求婚も断わってしまいました。
 しかし、それで諦めきれぬ男がおりました。
 それは悪い国の王子様でした。
 彼はお抱えの魔女にこう相談しました。

「王女様が私に振り向くようになる魔法をかけておくれ」

 と。
 魔女は言いました。

「人の心を変えてしまう魔法はありません。けれど、そう仕向ける魔法ならございます」

 それで構わないと言う王子様に魔女は続けます。

「それには王子様に、他の求婚者と同じように努力してもらわなければなりません」

 魔女はそう言って、二つの条件を出しました。

「一つ、王女様には永遠の眠りについていただきます。それは運命の者とのキスで目覚める呪いにも似た魔法でございます」

 王子様は頷きます。
 我こそが彼のお美しい王女様の運命の者と疑わずに。
 魔女は二つ目の条件を口に出しました。

「王女様には私が作り出す棘(いばら)に囲われ、ドラゴンが守る城で眠っていただきます。
 棘の森を抜け、ドラゴンを討ち、見事その難関を自力で突破し、王女様を助け出してください。
 そうすれば、彼の王女様は王子様を運命のお人とお認めになられ、晴れて結婚をすることが出来るでしょう」

 王子様はそれで良いを返事をし、魔女は早速お美しい王女様に呪いにも似た魔法をかけてしまいました。
 突然現れた魔女にお美しい王女様がさらわれてしまったので、ある国の人たちは大騒ぎです。
 ある国の王様は、お美しい王女様を助けるために国中、世界中の人たちにこう言いました。

「我が美しき王女を救い出してくれたものに、王女を妃とする権利を与えよう」

 その言葉を聞いた悪い国の王子様はしてやったりと、早速お美しい王女様が眠る城へと出向きました。
 けれど、悪い国の王子様は棘に囲われ、ドラゴンが守る城に辿(たど)り着くことができず、また他の者も辿り着いても助け出すことは叶いませんでした。
 そうして、お美しい王女様は今でも棘に囲われ、ドラゴンが守る城で眠り続けているというのです。


 ――とあるところに、一人の少年がいました。
 彼は特別な力を持っているわけでも、特別な地位を持っているわけでもありませんでした。 
 けれど、とても優しい心を持っていました。

「昔々の物語。棘に囲われ、ドラゴンが守る城には眠れる王女様がいるという」

 ある日、彼の住む村に流れの吟遊詩人がやってきました。
 それはとても年老いた女でした。

「王女様は今でも運命の人を待ち、眠り続けている」

 吟遊詩人は最後の一句を謡いきると、またどこかへ流れて行ってしまいました。

「棘の城の眠れる王女――」

 彼の心に、王女様を助け出すという火が灯りました――。


 昔々で始まる物語。
 それはある国のお話です――。
 その国には一人の王女様がいらっしゃいました。
 王女様は大層お美しくあられて、求婚者が野を越え山を越え、海を越えやってくる程でございます。
 彼女は悪い国の王子様に、永遠に眠り続ける魔法をかけられてしまいました。
 そして彼女はずっと、長い時間を眠りの中で過ごしています。
 ――けれど、いつしかその物語に続きが書き加えられました。
 王女様はキスという魔法で目覚め、幸せに生涯を終えた、と。

 ――終幕――
メンテ
Hannon le. ( No.91 )
   
日時: 2012/03/01 23:07
名前: ATM◆hRJ9Ya./t. ID:DbNl6UQY

Hannon le.


 幼い頃のわたしは魔法なんて一個も使えなくて、それで執事である、あの男に相談をしたの。
 そうしたら、彼は笑顔で言っていた――

「誰にでも使える魔法があります」
「ほんとう?」
「ええ、本当です。それはですねお嬢様。ありがとう、と言う魔法です」
「ありがとう? それは言葉でしょう、魔法なんかじゃないわ」
「いいえ、違いますよお嬢様。ありがとうとは、感謝の言葉です。言われた側も、言った側もぽかぽかする、心が温かくなる魔法です」
「そんなの魔法じゃないわ。魔法っていうのはね、おっきな炎でドーンって敵をやっつけたりするの」
「それは人を傷つけてしまう悲しい魔法です。お嬢様、わたくしはそれを行使するあなたさまを見たくはないのです。お嬢様はお優しいお方です。それはもう聖母のように、慈愛に溢れております。ですから、そんな人々を傷つける魔法を覚えて欲しくはないのです」
「やだわ、わたしもおとうさまみたいな立派な魔法使いになるの」
「左様でございますか……」

 彼の笑顔からは、残念そうな色が少し出ていた。それだけで太陽が雲に覆い隠されたように、輝きをとんと失ってしまった。

「ねぇ、あなたも魔法を使えるのでしょう。わたしに教えてくれない?」
「残念ですがお嬢様、わたくしは魔法などという巧妙な技術は持ち合わせておりません。わたくしがお教えできるのは、ありがとうという言葉のみでございます」
「そう……」

 わたしはそのときの彼の言葉を鮮明に覚えている。まるで昨日の出来事だったかのように、なぜか明澄に。

「お嬢様。ありがとうという魔法は、心が温かくなることもあれば、悲しくなってしまうこともあります」
「?」
「お嬢様はまだ幼いですから、これから十分に経験を積んで答えを見出してください」

 彼はそう言ってその言葉の意味を教えてくれなかった。そして、その後にこうも言った。

「……そうですね。あと少しで意味がわかるのではないでしょうか。わたくしの推測が正しければね」

 まるで悟っているかのように目を細めて言っていた。太陽のような眩しいばかりの笑顔は完全に俤を消して、どこか儚い表情だった。この時わたしは、始めて彼のことを「淋しそうな人だな」と思った。

 その数年後、彼は逝去した。
 わたしは泣いたよ。いつもそばにいてくれて、なんでもお世話をしてくれて、だれよりも優しかったあなたの亡骸の前で。泣きじゃくって、一週間も部屋から出なくて、悲しくて淋しくて食べ物も喉を通らなかった。

 わたし、わかったよ。あなたが黄泉の国へと旅立ったとき、やっとわかったよ。あなたがわたしに教えてくれた唯一の魔法の意味が。あのときの言葉の意味が。
 その魔法を使えば人は自然と笑顔が綻び、嬉しくなる。けど、状況次第で悲しくもなる。
 どれだけ後悔したことか。まだ一度も言ったことがなかったあの魔法(ことば)を伝えられなかったことを。だから今、ここで言うね。

 あなたに最大の感謝を込めて――















――「ありがとう」、と。
メンテ
HAPPY LIFE ( No.92 )
   
日時: 2012/03/03 18:41
名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:QZyt.0sM

 『平成』と呼ばれた時代よりずっと、ずっと先の未来。広大な宇宙の中にその星――『水球』はありました。星の七割を水が占めることから名前がついたそうです。大昔の『水球』は『地球』と呼ばれていましたが、今となっては知る術はありません。大昔の『水球』を知る者や文献は百年前の全世界核戦争で全て消え去りました。核戦争の終戦後に残ったのは、焼け残った焦土と、全人口百万人にも満たない僅かばかりの人間だけでした。
 ただただ荒廃した都市だけが続く大地で、彼らは悔やみました。「なぜ、また同じ過ちを繰り返してしまったのだ」と。人の歴史は、長々と続く戦争によって作られてきました。それを人は温故知新で分かっていたはずなのに、再び繰り返してしまいました。戦争の後に残るのは深い悲しみと絶望と、朽ち果てた大地だけだということも知っていたのに。
 それから彼らは立ち上がりました。微かに見える希望を捨てずに、僅かな人口と何もない大地で、『地球』再建計画を模索したのです。後に彼らは開拓者の意を込めて『パイオニア』と呼ばれるようになりました。
 『パイオニア』達から生まれた長男、長女の位に位置する通称、『第一世代』は特別な能力――俗に言う『特殊能力』『魔法』を持っていました。『第一世代』の彼らは何も無い所から、鉄や炎などの物を出すことができました。彼らのおかげで、何もなかった大地には簡素なモノや家があふれました。しかし、これだけではまだ『地球』再建とはいきません。
 そこで『第一世代』達から――『パイオニア』の孫に位置する――通称、『第二世代』が生まれました。『第二世代』も『第一世代』同様に特殊な能力を持っていました。それは手先の器用さ。彼らは誰にも劣らない技術力を持ち合わせていました。『第一世代』と『第二世代』は協力して、役に立つ道具や工夫してもっと便利になったモノをたくさん作りました。この『第二世代』が成人する頃には、『パイオニア』は全て死に絶え、『地球』は『水球』へと名前を変えました。
 技術革新の止まることを知らない『水球』で、また新たな生命が誕生しました。通称――ここまで来れば言わなくとも分かりますね――『第三世代』です。彼らもまた、地味ではありますが強大な能力を持って生まれました。それは頭の良さ。彼らは一人一人が神童の如く秀才で、子供の頃から様々な法則や原理を発見していきました。彼らが発見した原理は『第一世代』や『第二世代』が作ったモノに組み込まれ、更に人類の生活は豊かさを増していきました。大地に電波塔や工場、ビルが乱立され整備された道路を自動車が走るのにはそう時間はかかりませんでした。このレベルに達するのに約七十年です。凄まじいスピードで、人類は進化を遂げてきました。
 『第三世代』が生まれて二十年ほどの月日が経ちました。その頃には全ての学問は完成されました。数学、文学、哲学、物理学、経済学、心理学――――神や幽霊の存在は完全否定され、全ての事象は科学によって裏付けされました。そして、産業は誰にも止められないくらいのスピードで進化を遂げていきました。

  ◆   ◆
 
 それから、十年の月日が流れました。『第一世代』、『第二世代』、そして他の世代よりやや寿命の短い『第三世代』が死に絶え、特にこれといった能力を持ち合わせていない普通の人間、『第四世代』が地球を埋め尽くしました。しかし、それでよかったのです。その時には既に、文化という文化は全て完成され、求めるモノが全て手に入る『水球』が出来上がったのですから。
 町はまさにパラダイスでした。流行に振り回されず好きな服を着た『第四世代』が町を練り歩き、空は『浮遊自動車』と呼ばれる乗り物が秩序を守って通行しています。これのお陰で海に切断された大地と大地を自由に移動することが可能になりました。かつては荒れた更地だった場所には、ビルや色々な店、住宅街が並んでいます。
 『浮遊自動車』ができたお陰で外国人同士のコミュニュケーションが盛んになりました。そこで音声自動翻訳装置、略して『音訳』と呼ばれる物が作られました。最初はヘッドフォンのように耳に直接かけて使っていましたが、最終的には小型化して体に埋め込む形となりました。
 発達した科学は、もはや『魔法』と呼べる域まで達しました。
 人類は遂に念願の夢、不老不死を達成することができました。『第三世代』が発見した技術によるものです。異常に発達した医療技術のお陰で人々の健康を脅かすウイルスは完全に駆除され、人々は死の恐怖を忘れてしまいました。同時に、整形手術の技術も異常に発達しました。町には美男美女が溢れかえりました。
 世の中から「浮浪者」「自殺者」という言葉はなくなりました。使う必要性がなくなったのです。『第三世代』が設定した議会政治のマニュアルにのっとって政治を行うことで、社会の安定は保たれました。そのお陰で、浮浪者は絶滅し、誰もがお金に困らない、幸せな生活を送れるようになりました。
 食料にも困りませんでした。核戦争の以前まで『日本』と呼ばれていた大地に大きなドームが設立されました。この世の全ての食料はそこで作られました。
 あらゆる面で不幸な人間は、完全に消えました。争いごともなく、欲しいモノは全て手に入る夢の世界が出来上がったのです。
 
 ――――が、それもそうは長く続きませんでした。
 
 三百年続いた、平穏。平和。そんなある日。世界中に自殺者が増大し、人口が激減しました。「自殺」という考えすらもない時節の中のそのニュースに、人々は恐れおののきました。政府はただちに原因を解明しようと世界中の死者の統計を取りました。統計を取ったことで、ある一つの事実が浮かび上がりました。それは自殺者の大半が三百年以上生きた初期の頃の『第四世代』ということでした。
 彼らの大半は死ぬ前に遺書のような音声による伝言を遺していました。いわば遺言です。『第四世代』の主な自殺動機は、「生きることに飽きた」でした。
 そのニュースを聞いて、人々は思い直しました。「果たして、自分達は本当に幸せだったのか」と。

 ――――幸せは、人々から『希望』を奪っていったのです。

 何もかもが、頂点へと達してしまったために、人々は高みを目指すこと、挑戦することを止めてしまいました。
 学問が大成されてしまったために、人々の頭はどんどん悪くなっていきました。
 『歩く』『走る』以外の移動手段が全て確立されてしまったために、人々は動くことを忘れてしまいました。やがて彼らの体は退化していきました。
 ちょっと手を伸ばせば欲しいモノは全て手に入ります。そのため、人々は努力をすることを止めてしまいました。
 整形技術が発達してしまったために、町には似たような顔の人間があふれかえりました。どんな人でもその人なりの個性があるはずなのに、人々は自らそれを手放しました。
 発達しすぎた医療技術は人々を必要以上に長生きさせました。人々は生きることに退屈してしまいました。

 ――――人々は自らの愚かさに気づきました。
 
 自分の在り方に人々は絶望し、町には自殺者が続出しました。一日で世界の全人口の半分が減りました。人々の一日の大半は死体の回収作業で占められました。二日目には全世界の人口が皮肉にも百万人を下回りました。人々は不満の捌け口がないためにストレスが溜まりました。
 ――どうしてこうなった? 誰のせい? 誰を恨めばいい? こんな世界を作るきっかけを作った『パイオニア』? それとも魔法のような能力を持った『第一世代』? 『第二世代』? 変なニュースを流した政府? 『水球』とは何? 自分は何のために生きてきたの?
 幸せだったはずの世界は、一瞬で絶望に染まりました。どんなに欲しがっていたモノも今は空虚に思えてきました。幸せな生活が霞のように消えていきます。

 ――――何でもかんでも、貪欲に求めすぎた愚かな人々は、やがて世界から消えました。残ったのは、人々が必死の思いで作り上げてきた文明だけ。

 ……あ、いや。すみません。今の話には一つ、訂正すべき所がありました。
 人々は決して完璧などではなかったのです。
 なぜならば――――私が天地を創造した神だからです。
メンテ
ママとお皿と魔法使い ( No.93 )
   
日時: 2012/03/05 21:41
名前: ロブスター×ロブスター ID:POdj6o9g

「あの、お皿を割っちゃったんだけど」
 部屋に入るなりそう言うと、彼女は口元に小さく弧を描いた。見れば、彼女の頬はうっすらと赤く染まり、瞳は奇妙に揺れている。それからしばらくの沈黙があって、僕は読んでいた本をベッドの脇のテーブルに置いた。そして、すこしばかり眉を上げて、忙しなく揺れる彼女の瞳を改めて見つめた。
「お皿を?」
 僕はゆっくりと、噛み締めるかのように言い、ベッドの上で体を動かして座り直した。
「そうなの。またママに叱られちゃうわ」
 そう言って彼女が視線を下に落とすので、僕は目のやり場に困り、仕方なく窓へと視線を向けてみた。すると、夕暮れの暖かそうなオレンジ色の光が町をつつみこんでいくのが目に入った。やがて、その光は町のみならず、僕の薄暗かった部屋までもオレンジ色に染め上げて行った。窓の近くには花が飾られていたのだが、僕はその影が見る見るうちに形を変えて行くのがなぜかたまらなく面白くなった。
「だから、だからね」
 そんな声に我に返った僕は、再び彼女の方へと視線を移した。成る程、よく見れば忙しなく動いていたのは瞳だけでは無かった。お腹のあたりで組み合わされた白く細い指もまた、何度となく組んでは開いてを繰り返していたし、唇はもごもごとおかしな具合に動かされている。
 僕は唇が歪みそうになるのを間一髪咳払いで殺すと、怪訝そうに目を細めた彼女の次の言葉を待った。やがて彼女は元いた場所から二三歩前へ歩みを進め、口を開いた。
「だから、魔法を使って、元に戻してほしいの」
  魔法を使って。彼女は確かにそう言ったようだ。
 僕は今まで膝の上に置いていた手を持ち上げ、顎へと移した。そして、視線を左斜め横へと流し、体をずらして二度目の座り直しを行った。
「お願いよ」
 彼女の声が微かに空気を揺らして、僕の鼓膜を振動させた。視線は流しているので、彼女の顔は見えないが、この声の掠れ具合から推測するにおそらく涙ぐんでいるのだろう。はたまたもう泣いているのか。
 それから十九秒の時を経て、僕は漸く言った。
「いいとも」
 刹那、彼女の表情は劇的な変化を遂げた。いや、それは表情に限ったことでは無く、彼女の身振りも、口ぶりも、はたまた周囲の雰囲気までもが一瞬にして色を変えたようだった。
「本当に! ありがとう。これで、ママに怒られなくてすむわ!」
 まず、そう言って笑う口元に変化が見られた。もはやそれは最初に部屋に入ってきた時に見せた機械的な曲線の一部ではなく、ヒトが喜びを体現する時に見せる完全な笑顔というものに他ならなかった。次に、ピンと張られた糸の様に動かなかった眉が完全に弛緩し、今やハの字を形成している。当然、それの意味するところは安心である。
雰囲気とは、その人自身が創りだすものである。それを証明せよ
 そんな証明問題があったなら、彼女は間違いなく百点の答案を導けるに違いない。
「ねぇ、魔法を使えばすべて元通りかな」
 不意に僕はそう尋ねた。すると、彼女は瞳を丸くし、僕の顔を見つめた。そして、首を三十度程傾けて言った。
 「そうよ。だって、お皿さえ直れば、すべてすむことだもの。ママは怒らないし、あたしは怒られない」
 当然でしょとでも言うかのような瞳が、まっすぐ僕を見据えていた。既にそれは揺れてもいなかったし、涙ぐんでもいなかった。
「じゃあ、こうしよう。今から僕と競争をしよう。僕が魔法でお皿を元通りにする間、お前は自分の部屋に戻って答えを考えてみるといい。いいかい? お皿が直っても、直らないものなぁんだ、だよ」
 僕はそう言って口元に弧を描いた。
「わかった。じゃあ、競争よ」
「うん。はやく行きなさい。ママが戻ってこないうちにね」
 ママがもどってこないうちという言葉が効いたのか、彼女はうっすらと微笑みを浮かべ、しかし足早に自分の部屋へと戻って行った。
「さて」
 僕は一つため息をつくと、ベッドから腰を上げた。そして、コートを羽織ると、魔法を使うべく、デパートへと向かうのだった。(了)
メンテ
気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法 ( No.94 )
   
日時: 2012/03/10 00:01
名前: 空人 ID:3aIHTkMs

 休日の図書館は粛々とした喧騒の中にある。
 大陸中の魔道書、禁書、楽譜等が一堂に会すこの魔道図書館においてさえ、書籍のデータ化の波は抑えられないものであった。
 幻術士たちが編み出した“奇界”は、空間魔術でもちいる仮想空間に、人の力で顕現せしめた異界である。彼らはそこに規則性と限度を埋め込み、魔力を有する者であれば誰でも利用できるオリジナルスペース“上部催都”の設立をやってのけたのだ。これによってある者は自社の紹介や宣伝、販促を行い、またある者は個人の趣味や、仲間たちの集う対話空間に利用した。
 この魔道図書館も例に漏れず上部催都を建ち上げており、そこで閲覧できる書籍数は無限に思えるほど膨れ上がっているのである。ひとえに仮想空間であるが故の矜持だと言えるだろう。

 斯く言う私もそんな上部催都を利用する者の一人であった。催都を利用する為には補助魔道具である“魔道眼鏡”を使用する必要がある。レンズに映る情報を思念で操作できるのだ。これをかけながらであれば、歩きながらであっても情報の閲覧は可能ではあるが、注意が周囲に向かなくなり、衝突事故が起こった例も少なくない。
 故に私は、この図書室の賑やかな静寂に身を委ねることが日課になっていた。最近のお気に入りは、各人で作り上げた幻術映像を上部移相し、上部閲覧者に無料で配信する催都『世を滑る会』にアクセスして、魔道眼鏡の蔓の部分から骨伝導で伝わる音楽を聞き流しながら、魔道書の文字を指でなぞる。そんな贅沢を満喫しているのだ。

「――っ」

 しかし最近、酷使してきた魔法端末にはノイズが混じるようになってきた。この魔道眼鏡はもう三年も使い続けている。そろそろ機種変更をしなければならないのかもしれないと思いながら、これまでは愛着と怠惰の導くままにしていたのである。

「どうしたのシー、浮かない顔して。『よをすべ』でグロい動画でも見つけた?」
「ユー……」

 眼鏡をはずして見上げると、そこには心配顔の友人が居た。彼女もまた重度の上部依存者だ。自分の術歌を世を滑る会(略称:よをすべ)に上部移相している謡い人でもある。それなりに人気があるらしく、私もしばしば彼女の術歌の視聴に時間を割いていた。

「違うよ、ちょっとノイズがね」
「あー、古いもんねその機種。買い換えないの?」
「まぁ、それには先だつものが、ね……」

 仕送りとアルバイトで食いつないでいる学生に、魔道眼鏡の買い替え等、必然性の高い出費は鈍い痛みのように懐具合を蝕むのである。顔をしかめる私を見て、友人は何かを思いついたように表情を変えた。

『そうだ、ちょっと待ってね……ほい』

 今更ながら周囲に気を配ったように念話通信に切り替えて、ユーはとある催都のアドレスを私に提示してきた。

『これは?』
『今年起業した眼鏡メーカーの広告催都。その下の方を見てみて』

 友人のどこか胡散臭い誘導と、やはりどこか胡散臭い広告に眉をしかめながら、私は催都の文字を追う。
 そこには、新製品のモニター募集という文字が躍っているのだった。





 催都に載っていた住所が近所だった事もあり、半ば強引ではあったが私はユーに手を引かれ件の新規眼鏡メーカーを訪れていた。シンプルな装いの建物は街中に溶け込むように慎ましやかに建っていて、さりげないセンスの良さに期待以上のものを感じた私達はガラス戸をくぐり受付へ足を進める。

「いらっしゃいませ、コバヤシテクノコーポレーションへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

 どうやら眼鏡の製作会社というよりは、魔道具の技術開発を担う研究所と言ったほうが正しいようだ。受付のお姉さんの貼り付いた接客に会釈をかえしながら、躊躇する私を置いてユーが進み出る。

「モニター募集の広告を見てきました」
「かしこまりました。ただいま担当の者をお呼びいたしますので、待合室にてお待ちください」

 やや礼節に欠けるユーの態度が受付嬢の笑顔を揺るがすことも無く、私たちは簡素な一室に通され担当者を待つ事となった。程なくして現れたスーツ姿の男性は私たちを油断の無い瞳で観察した後、その切れ長の目に営業スマイルを貼り付ける。

「お待たせして申し訳ありません。ワタクシ、新商品開発担当のオギと申します。今回はモニターを引き受けて下さるとのことで、まことにありがとうございます。先ずはお名前と、ご職業もしくはご所属を教えていただけないでしょうか?」

 あきらかな年下相手に対しての丁寧すぎる言葉遣いが、私の警戒心に拍車をかけてくる。しかも先ほどまで勢いのあった隣の友人までも、なにやら萎縮してしまっているようで、意図してかどうかはわからないがそれなりの効果があったのだろう。

「シー・クエンス。メビウスアカデミーの二年生です」
「あ、同じくアカデミー二年のユー・ジュアルです。よろしくお願いします」

 後半の声をフェードアウト気味にしてどうにか自己紹介を終えたユーの姿に溜め息をこらえながら、私は対面の男性『オギさん』の様子にも注意を忘れなかった。彼の営業用の笑顔に作り物らしからぬ意思が宿るのを微かに感じたのだ。

「ほう、アカデミーの学生さんでしたか。失礼ですが何か証明できるものはお持ちですか?」
「ああ、はい。学生証で良いでしょうか」
「ええ、かまいませんよ」

 私たちが学生証を提示すると、その写しを作成するとの事でオギさんは一時的に席を外す。イチイチこちらに許可をとるという丁寧な姿勢は相変わらずだ。
 緊張気味の相方に声をかけ、その緩和に努めているとオギさんが戻ってきた。

「失礼ながら控えを取らせていただきました。こちらはお返しいたします。お二方とも大変優秀なご様子なのでこちらとしても喜ばしい限りですよ」
「いえ、所詮学生の身ですので」
「これはご謙遜を。先ほどからの対応一つ一つにも優秀さが現れておりますよ。それに……失礼ですがユーさまはもしかして『詠い人』では?」
「えっ、ご存知なんですか!?」
「はい、いつも拝聴させていただいております。先日上部移相された『異次元ドリームフィーバー』は素晴らしい出来でした」

 先ほどまでおとなしかった友人が身を乗り出すようにして会話を始める。彼女の緊張を緩和させるための話題だったとしても、オギさんの抜け目の無さは侮れないものだといえるだろう。もちろんただ彼女のファンだったという事も考えられなくは無いが、学区内でも彼女のファンだという者を見かけたことは無かったので、その光景に違和感を覚えたのだ。
 術歌に関する二人の会話を聞き流していると、オギさんの部下らしき女性が書類と小さな箱を二つ抱えて部屋に入ってきた。私たちの前に並べられたそれらに促されるように、二人の会話は止まり、オギさんの説明が始まる。

「そちらには新製品の取り扱いについての説明とモニター試験に関する説明が書かれています。こちらが誓約書。よく読んでサインして下さい」

 渡された資料をパラパラとめくる。どうやら基本的な使い方は従来のものと変わらないようだ。しかしもう一つの品はどう考えても違う。渡された箱は従来の魔道眼鏡にしては小さすぎるのだ。

「そちらの箱が今回モニターしていただく新製品になります。当社の自慢の品ですので、どうぞご覧になってください」

 やはりコレが新製品らしい。訝しく思ったのは友人も同じようで、互いの顔をうかがいながら私たちはその箱を開ける。中には二つの対になったケースが入っており、それを開けた先にようやく見つけ出した新製品は、何の飾りも無い小さなレンズだった。

「これ、フレームは無いんですか?」
「はい、そちらは直接目に装着するタイプになっておりますので」
「えっ、そんな事をして痛くないんですか?」
「個人によっては痛みや違和感が発生するケースもありましたが、慣れてしまえば問題ないようです。もちろんそのあたりは実証済みですので、ご安心ください。簡単に説明いたしますと、直接装着する事で、ご覧になった情報を素早く、そして大量に脳へと送ることが可能になったのです。上部催都の閲覧の他、目の前で展開される魔術や魔力のこもった現象に関しても情報を表示できるようになっています。そちらのケースには浄化の魔方陣が仕組まれていますので、就寝時に外していただいて洗浄なさるのがよろしいかと思います」

 目蓋の中に異物を仕込むというのには少し抵抗を覚えるが、言っていることは確かに納得のいくものだった。さらに、一週間試験的に着用し、その感想や問題点などをレポートで提出すれば、その後このレンズは私たちの私物として使ってもかまわないという。機種交換が必要な私にとっては願っても無いことだ。

「ただし、モニター中のレンズの破損、紛失には相応の金額をもって責任を取っていただく事になります。また、何らかの犯罪に関わるトラブルにはこちらは関与できませんのでご了承ください。あとは、周りの方に商品の宣伝もしてくださるとありがたいのですが、その辺りは任意でという事でお願いします」

 要するに、盗まれたりすると双方にとっての痛手だという事を理解した私は、了承の合図として首を縦に振る。ユーも「わかりましたっ」と元気に返事を返して、その場はお開きとなった。

 こうして、私たちは最新型の魔道眼鏡『コンタクトレンズ』を手に入れたのだった。





 かくして私はまた、図書館の粛々とした喧騒の中にいる。
 はじめは装着や目蓋の裏の異物感に戸惑ったものの、慣れてしまえばどうということも無かった。図書館に来る顔見知りに、魔道眼鏡の有無をたずねられるたびコンタクトレンズの事を説明するのは少々大変だったが、二三日すればそれもおさまってくるだろう。
 しかしこのレンズは非情に優秀な機能を持っている。上部催都の情報はレンズに映すだけで、一瞬にしてその内容を全て把握できてしまうのだ。魔道書など枚数のかさむ教本も、数秒で読破できてしまう。物語を読むときは少し物足りなく感じてしまい、結局一文一文目で追う事になるのだが、それも下手をすれば作者の意図する読ませたい部分やそこに込めた感情にまで理解が進んでしまうため、ストーリーそのものを楽しむ事が困難になるほどだ。
 よをすべ等から流れる音楽は直接脳に届くため多少違和感があるものの、使い勝手は概ね悪くないものだと言えるだろう。目をつぶり、その特異な感覚に身を委ねる。
 このレンズの優位点はまさにここにあるとも言えよう。魔道眼鏡では考えられなかったが、目を閉じたままで催都の閲覧が可能なのだ。更にこのままで、周囲の状況も魔力の探知で有る程度把握できる。だから、後ろから驚かそうと友人が近寄って来たとしても、動じる事は無い。

「何か用? ユー」
「あれ、わかちゃったか」

 振り向いた先でユーは、決まり悪そうに頭をかく。その顔にはいまだ魔道眼鏡が備わっているがいわゆる伊達眼鏡らしい。コンタクトレンズの説明が面倒だし、何も無いと落ちつかないのだとか。その気持ちはわからなくも無いが、宣伝にはならなそうだ。
 その友人が何かを話したそうにそわそわしているのだが、こちらからきっかけを与えるべきなのかは悩みどころだ。

「あ、あのさ、シー。ちょっとこれを見てくれないかな」
「どれ?」

 どうにか声を振り絞ったユーが提示してきたのはこの図書館の蔵書の一冊で、私は何も疑問に思うことなくそれを開いた。

「あんた、これ禁書じゃない! 私たちが閲覧する許可がおりるわ、け……?」

 小声で叫ぶ声さえもかすれて出てこなくなってしまう。私のレンズには本来閲覧が許されるはずの無い禁書の一頁が何の警告も無しに展開してしまったのだ。

「どう、して?」
「たぶん新製品だからかな? 規制の対象になっていないのか、規制をかいくぐれる仕様なのかはわからないけど。すごいよね、これ」

 すごい、どころの話ではない。今の一瞬見ただけで私の脳には禁書に書かれていた魔法が焼きついてしまっていた。そして流れ込んでくる、この書の製作者の意図と思想。

「これ、転移魔術? なんで禁書に……え、転移先の制限無し!?」
「あはっ、覚えたんだね。これで、わたしと同じだ!」

 嬉しそうに笑う友人の言葉に、顔を上げ目を見張る。それはつまり、彼女も禁じられた術を覚えているという事。しかしそんな事は後回しで良い。彼女は笑っているのだ。もし誰かに知られたら厳しく罰せられてもおかしくない状態に友人をおとしいれてなお。

「どういう、つもり?」

 疑問と共に素早く周囲に視線を飛ばす。こちらに視線を向けたり注意を払うようなそぶりをしている人は居ないようだ。というより、周囲の人の気配が妙に希薄に感じられる。やがてそれすら白く染まって。
 気付いた時にはそこはもう、いつもの図書館ではなかった。

「気付いた? ここはわたしが創った仮想空間。一応上部の隙間にある事になっているけど、そもそもここでは厚みとか関係ないしね。思ったより簡単に出来たよ。ああ、これも禁書の中にあった魔術ね。他にもいっぱいあるし、いっぱい覚えたよ。ねえ、わたしすごくない!?」

 言葉を返すことが出来なかった。確かにこの現象は普通の術者には出来ない芸当だろう。例え禁書に掲載されている魔法を覚えたにしても、一介の魔術師が、それもまだ教育を受けている段階のひよっこがだ、こんな魔術を一人でこなせるとは到底思えない。彼女には才能が有ったのだろうか。普段の彼女からは想像がつかない。
 自分が禁書を見たときのことを思い出す。そうだ、アレを見た瞬間に覚えたのは魔術の使い方だけではない。おそらく一流であっただろう魔術師の知識。それも複数のものが彼女に流れ込んだのだとしたら? 彼女は本当に彼女だろうか。

「質問に答えて。こんな事をして、いったいどういうつもりなの?」
「わからない? わからないかな。これだけの力をわたしは、わたしたちは使えるのよ? もう学生なんかで居る必要は無いわ。この力をもってすれば。世界中の禁書、魔術書を閲覧できたなら! わたしたちは無敵だわっ! 何者にも縛られず、何者にも屈さない。わたしたちは神になれるのよっ! あっはははははははっ!」

 これでハッキリした。彼女は私の知る彼女ではない。私の友人はこんな事を望むような娘ではなかった。おおらかで、お調子者で、歌が好きで、強がってはいるけれど本当は寂しがり屋で、人を思いやる事が出来る優しい子。ユーはそんな娘だったのだ。

「なぜ私をここに連れ出したの? 私をどうするつもり?」
「んふふ、わたしに賛同して、一緒に世界に干渉しようって言うのなら、連れて行ってあげても良かったんだけど。あなたってほら、クールを装っているくせに妙に正義感が強くて、暑苦しいところがあるじゃない? だからきっと反対するんだと思ったのよね。だからあなたはここに閉じ込めようと思うの。殺しちゃっても良かったんだけど、そんな事をしたらかわいそうでしょ? この空間は時間の流れの外にあるから、年もとらないし、お腹も空かない。怪我をするようなものも無いし。あ、不老不死だわ、やったね」

 ぎりっと奥歯を噛みしめる音が聞こえた。自分で思っているよりも感情的になっているらしい。当たり前だ、お前の口で私を語るなと言ってやりたかった。それは友人だからこそ許せる軽口だと。しかし現状の私には何も出来ない。抵抗できる手段も無く、反論できる持論も無い。
 ただ沈黙を守る事しか出来ない私に、彼女は優しい笑顔で詠う。

「もし気が変わったら、さっきの術でわたしに会いに来たら良いよ。そしたらもう共犯者だし、仲直りしようね。やっぱり一人は寂しいもんね。じゃ、待ってるからさっ」

 そう言って、彼女は虚空に消えてしまった。
 彼女が私をここに閉じ込めたのは、おそらく同じ力が使える者が邪魔だったからだろう。彼女は私を恐れているのだ。しかし、一人は寂しいと言ったあのセリフはユーの本心から出たものだったかもしれない。
 ここに残れば何も出来ず、ただ生きるだけの人形になる。長いだけの時間に気が狂ってしまうかもしれない。
 彼女の元へ行けば、共犯者。二人で世界を動かす事はもしかしたら楽しいかもしれない。だが彼女のように禁書の意思に精神を蝕まれ、とんでもない過ちを罪悪感も感じずに行ってしまう可能性もゼロじゃない。
 ……たらればを言ったところで解決には至らない。だから私は決断する。いや、元より選択の余地など有りはしなかったのだ。
 大きく息を吸い込んで、私は魔力を解放した。





 転移した先も似たような空間だった。場を安定させる為に貼り付けられたタグに、ユーの気配が匂う。どこからか聞こえてくる歌声は間違いなく彼女のものだ。先ほどの場所と雰囲気が違うのは、閉鎖されていない空間だからだろうか。

「あはっ、来たね。待ってたよ」

 途切れた歌を惜しみながら、駆け寄ってくる歓迎の声と対峙する。その言葉に嘘偽りは無いのだろう。そうでなければ、さっさと目的を果たせばいいのだ。彼女の、ユーの意思は確かに存在している。ならばなぜこのような事態に陥っているのだろうか。

「一緒に、来てくれるんだよね?」
「申し訳ないけれど、それは出来ない」

 私の返事を聞いて、彼女はこの世の終わりのような表情を浮かべる。拒絶は二人の決別を意味していたのだから。うつむき、こぼれる言葉は涙か。

「……だったら、あなたはここで死ななければいけない。わたしを邪魔するものは、排除しなきゃダメ、だから」

 小さく吐き出された言葉に、込められていたものは殺意などではなく。燃え上がるのをこらえてにじむ、悲しみ。

「無理だね」
「どうして? 禁書に書かれていた術を使えば、わたしはあなたを簡単に殺せる。だから、反対するのならあなたはあの閉鎖空間に居るしかなかった、なのにっ!」

 振り絞った感情は、けれど私には届かない。

「あんたは私を殺せない。もう、気付いているはず」
「そんな事無い! わたしは出来る、出来なきゃ、わたしはっ! ああああああっ!?」

 慟哭に膨らんだ魔力を、彼女は一気に解放した。

「キャンセル」
「えっ!?」

 空間をきしませるほどに膨らんでいた魔力が突然に消失し、彼女は支えを失い膝をつく。そして、今目の前で起きた現象を信じられないといった表情で見つめる。彼女には、見えているはずだから。

「コネクト。ハイパーリンク。わかったでしょ? あんたには無理だよ」
「どう、して……これ、こんな魔術シラナイ……あなたはあの禁書に載っていた魔術の他には、アカデミーで習ったものしか使えないはずなのに……」
「あんたが見せてくれたじゃない。そこから応用して、意図と解釈から読み取って、再構築。そう、これはどこにも無い、さっき私が考えた魔術。新しい魔法。そしてこれを見せても、きっとあんたには使えない。あんたは……優しすぎるから」

 力なく地面にへたり込んだ友人に優しく手を伸ばす。抱擁し、彼女の頬を伝う悲しみを全て抱え込む。きっと彼女にはもう理解できているはずだ。今から私が何をするのかが。

「や、やだっ。ねえ、やめてよっ! そんなの、嫌だよっ!?」
「ごめんねユー。ばいばい」

 私は自分が泣いてなんかいない事に気がついていた。

「デリート」

 コンタクトレンズを通じて直接つないだ回線から、彼女に送り込むのは消滅の指示。彼女は意識を手放し、力尽きる。主からの指示と魔力の供給を失って、崩壊を始めた空間が悲鳴をあげた。
 目をつぶり、転移の魔法を展開しながら彼女の身体を抱きしめたのは、自分が失ったものの重さとぬくもりを感じていたかったからなのかも知れなかった。







 図書館の定位置で、私はコンタクトレンズに関する報告書をまとめていた。
 閲覧制限に対する規制の甘さを指摘しつつ、禁書に触れたこと等は秘密にしなければならず、頭を悩ませる。手元にあるコンタクトレンズのケースは二つ。自分の物と回収したもう一つを視界の端に収めながら、報告書に意識を戻す。いろいろ考えるのは後回しにしたかった。
 今使っているのは使い古した魔道眼鏡だ。コンタクトレンズはコバヤシテクノコーポレーションに返却しようと思っている。私にはもう、必要の無いものだから。

 報告書を書き終えた私は、二つのケースをきつく握りしめ、席を立つ。これで一先ず肩の荷を降ろすことが出来る。それでも足取りは軽くなんてなりはしないけれど。
 不意に聞き覚えのある澄んだ笑い声が聞こえても、私は立ち止まる事を許されなかった。友人と談笑しながら向かってくる彼女に、軽い会釈だけ返しながらすれ違う。顔見知り程度の級友ならば、こんなものだろう。
 図書館を出るところまで歩ききった私は、そこでようやく自分の頬を伝うものが涙だったと気が付くのだった。



〜Fin
メンテ

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