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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
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ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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中二病な俺とノリのいい彼女と最終回 ( No.154 )
   
日時: 2012/06/11 23:47
名前: 空人 ID:5DiYTvJQ

 決戦の場は夕日に浸され、俺と宿敵とを紅に染める。
 これから始まるのは、俺達の未来を左右する大事な戦いだ。その場を包む緊張感に、頬を流れ落ちる汗にさえかまっている余裕もない。こんな事ではいけないと、まずは宣戦布告をするために震えだそうとする足を叱咤し、ゆっくりと呼吸を整える。息を吸い込み、いざという瞬間。
 しかし沈黙を破ったのは、低く抑えられた奴の声だった。

「よく来たな。待っていたぞ、ユウシャよ」

 出鼻を挫かれ焦る。
 しかし、それをおもてに表したりはしない。隙を見せるわけにはいかないのだ。
 奴は俺の名を既に知っているはずで、その自分を示す通称で呼ばれたという事は、こちらとしても、それに便乗してやるのが筋だろう。

「逃げ出さなかった事を褒めてやるよ、マオウ」

 強大な力を持つマオウは、その台詞を滑稽に思ったのかもしれない。クックッと声に出して笑う奴の姿に、俺の中の血が滾り、思考にも熱を帯びさせる。
 だが、冷静にならなければいけない。ここで下手を打てば、今日のこの場を用意し、今も奴の信者たちを抑えてくれている仲間たちの、熱い期待をも裏切る事になってしまうのだ。
 心を静め、奴を陥落させる為に用意した決戦兵器を掴む手に込める――想いの全てを。


 *


 それは、俺がこの世界における極一般的な教育機関で、新たなる学年へと無事に進級を果たし、早二ヶ月程が経過した頃だった。それまで至極平和に過ごしてきた俺の日常に、一石を投じる出来事が起こったのだ。

「おらぁ、お前ら席に着けぇ!」

 街の闇に蔓延る悪党のごとく声を荒げ教室の扉を開け放ったのは、我らが担任さまだった。何らかの事件や非常事態があったというわけではなく、日頃からこのような態度なのだから始末が悪い。しかし学友たちも慣れたもので、その声に怯えることも無く各自自分の席へと戻る。
 ちなみに担任は女性である。そのような態度だから現在まで嫁の貰い手が無いのだというのが、我々生徒一同の共通の認識なのだが、それを指摘するような勇気ある者は居ない。
 もしかしたら、勇者の血を引く自分こそが申し出るべきなのかもとも思う事もあるのだが、彼女が以前、失態を犯した生徒に施した説教という名の罵詈雑言を長時間聞き続けていられる程の覚悟は持ち合わせていない。
 さて、我らが担任さまの話は置いておいて、問題は彼女に続いて教室に入ってきた存在の方にある。

「授業を始める前に、お前らに新しく級友となる生徒を紹介するぞ」

 教室が静まり返ったのは、担任さまが乱暴に教卓に投げ放った出席簿の音に皆が驚いたからではない。そこに現れた少女がそれまで教室を包んでいた雰囲気を一変させるような空気をまとっていたからである。

「はじめまして、黒木真央です。よろしくお願いします」

 静まり返る教室に、その声は染み渡るように広がる。奴は今、マオウを名乗ったのだ。
 それを指摘しようとする声は上がらなかった。その後に聞こえてきたのは、男子生徒の息をのむ音と女子生徒のこぼれる吐息のみ。
 美しさと括るには整いすぎていて、清楚と語るには艶やかすぎた所作でもあった。浮かべし笑みに虜となるものはこの先も後を絶た無いであろう事を容易に感じさせる。それほどの存在感を撒き散らす女性だったのだ。
 しかしその魅了の力も、俺の中の勇者の力には及ばない。否、苛烈なまでに反応するこの血潮こそが、俺の脳裏に警鐘を鳴らすには十分な威力を持っていたのだ。


 その後も彼女のもとに膝を折るものが続々と現れた。
 彼女がその類い稀なる語学力を発揮した時、秀でた運動能力を見せつけた時、調理実習で味付けを失敗して泣きそうになっている時などに、その数は着実に増していく。
 自らを信者と称する彼らは、基本的に彼女に対して、そして彼女を見守るのみの連中に対しては不可侵を決め込んでいる。だが、彼女への一定以上の距離を縮めようと近付くものが居たならば、その者への粛清は凄惨たるものであったと伝え聞く。
 学園を侵食していくその様は、まさしく魔王そのものであった。

 このままではまずい、そう思い始めた矢先に機会は訪れる。
 それはある日の昼食時の休憩時間。俺が屋上のいつもの場所で持参した弁当を食べ終えた時分のことだった。特に景色が綺麗なわけでもない屋上は、常時閑散としている。ましてや出入り口の上にまで足を運ぶ奴など滅多に居ないので、一人になりたい時、考え事をしたい時などに重宝しているのだ。
 この日も屋上は俺一人。グランドを駆け回る生徒たちを見下ろしながら、この学園の未来を憂いていた時だった。
 不意に入り口の開閉する音がしたので覗き込むと、そこにはかの魔王の姿があったのだ。

「……まったく、どうしてああもつるみたがるのだ人間どもは。用を足す時すら一人ではいられないというのか。何という脆弱なのだ。」

 周囲に人が居ない事に安心したのか、彼女は取り巻きの女子生徒に対する愚痴をこぼし始めたようだ。コッソリと人目につかないところで他人の陰口を叩くなど、なるほど邪なる者らしい所業である。
 しかしこれは好機かも知れない。この彼女の悪態を校内に広めてしまうのはどうだろう。俺が自分から吹聴するのはまずいだろうが、噂好きの女子にことを話せば十二分に足りる。
 或いは彼女の侵攻を止める結果となり得るかも知れないのだ。

「――――何者だっ!」

 小さく笑みをこぼした気配を捉えられたのか、振り向いた彼女の黒い瞳に俺の姿が映りこんでしまった。ここでコソコソ身を潜めるのは勇者の血が許さない。堂々と立ち上がり、宿命の相手を見おろす。

「級友の顔をまだ覚えきれていないようだな、優等生さん」

 少々ガラの悪い物言いになってしまったことは否めないが、それでも彼女の顔が失態に歪むのを拝めたのは愉悦に値する事だろう。

「転校してきて一週間かそこらで、顔と名前を一致させろって言うほうが横暴だ。……名のりなさい、特別に覚えておいてあげるわ」

 おそらく彼女は、自分の今の立場を理解しているはずだ。その上で横柄な物言いを止めようとは思わないらしい。ここで下手に出る必要は無い。しかし、名を問われて告げないのは正義の名に恥じる行為だろう。

「覚えておくが良い、俺の名は社。社優司だっ!」
「やしろ……神に仕える者の名。……貴様、ユウシャかっ!」

 名前を告げてだけ看破されるとは思っていなかったが、元より隠すつもりも無い。

「ようやく気付いたようだな、黒木真央……いや、マオウと呼ぶべきかな?」

 マオウの黒く大きな瞳が見開かれる。そして睨みつけてくる凶暴な視線は、しかしすぐに楽しげな笑みへと変わる。凶暴な視線はそのままに。

「私をそう呼ぶということは……覚悟が出来ていると思って良いのかな?」
「ああ、俺は逃げも隠れもしない。だが――」

 正式に彼女の名前を呼ぶ。それが彼女に挑戦する者の作法らしいことは、すでに学園中の周知となっている。しかし今は装備が心許無い。彼女だっていきなりでは準備不足だろう。

「明日の放課後、三階の空き教室で待っているがいい。その時こそ、決着をつけてやる」
「ふん、まあ良いだろう。楽しみにしているよ、貴様の足掻きをね」

 素早く出入り口の上から飛び降りた俺は、おそらく未だに睨みを利かせているであろうマオウに一瞥くれてやることもせず、屋上を後にした。





 その後、俺の行動は迅速だったと言えるだろう。情報通の友人に連絡して、今回の切り札となる武器を取り寄せて貰う事。頭の切れる友人と相談して、信者たちを抑える作戦を考える事。三階の空き教室は、とある事件から人が寄り付かなくなってはいるが、一対一の戦いに邪魔が入らないように万全を期すため、見張りを立てる事など。考えうる全ての条件を打破していったのだ。

 そして終に決戦の時。
 窓に映る校庭の桜は花の時季を終え、夕日に染まる葉を不気味なまでに蠢かせている。この戦いを嘲笑うかのように。
 先手を取る事には失敗したものの、切り札はまだ手の中にある。俺はゆっくりと彼女に見せつけるように二つの“けん”を引き抜いた。白金に装飾されたそれらは沈みゆく陽の光を受け、人を魅了するほどの煌きを放っている。
 その威力はマオウにも理解できたのだろう。表情を抑え動揺を隠しているつもりなのかもしれないが、動きが止まり、視線だけが“けん”を追っているのが分かる。

「これが何か分かっているようだな」
「ええ、そうね。噂には聞いていたけど、まさかお目にかかれるとは、ね」

 “けん”の輝きが眩しいのか、目を細めながらも視線は動かない。このまま言葉のみでマオウを陥落できるかもしれない。そんな欲目が出てきたとしても、誰も俺を責められないだろう。

「そ、それで? その“けん”でどうする気だ?」
「ふっ、知れた事。コイツはお前への……っ!」

 決定的なところで、俺は言葉を飲み込む事となった。突然教室の扉が大きな音を立てて開かれたのだ。そして、そこに現れた人物はこれまでの空気を打ち砕き、鬼の形相で俺たちを怒鳴りつけてくるのだった。

「こるぁっ! 貴様らっ、こんな時間まで校内に残って何をやってるんだっ! さっさと帰らんかぁ!」

 腕を組み仁王立ちで喚いているのは、我らが担任さまだった。おそらく見張りに立っていた友人をも蹴散らしてきたのだろう。
 俺は反射的に“けん”を引っ込める。どうやらコイツの存在に気付いてはいなかった様だが、もしもこんな物を持ち込んだことがバレれば、今の怒りは数十倍となって跳ね返ってくる事だろう。

「す、すいません。すぐに帰ります」

 ペコリと頭を下げる優等生に習って、俺も同様にお辞儀をするとそそくさと廊下に逃げ出した。
 ピシャリと閉ざした扉の中を窺うが、担任さまがすぐに出てくることは無かった。もしかしたら、教室が荒らされていないか確認しているのかも知れない。
 とりあえずの危機が去った事に、俺も彼女も小さく息を吐き出し、勢いの挫かれた互いの表情を見合う。

「なかなか面白い趣向だったよ、ユウシャくん。用意した得物も素晴らしいものだった。だが、タイミングが悪かったな」

 そう言い残し、マオウは俺に背を向けた。この機会を無駄にするのは惜しいが、俺の気持ちとしても仕切り直しが欲しいところだった。まあ、こっちの意図は彼女に伝わっただろうから、良しとする。悔恨の思いを飲み込みつつ彼女の背を見送るため目線を上げると、不意にその足が止まる。

「ああ、そうそう。次回も期待している、と言っておこう。出来るならその“けん”の期限が切れる前に、もう一度場を設けてくれると嬉しいのだがね」

 ハッとして懐から券を取り出す。友人が用立ててくれた大型アミューズメントパークのフリーパスポート、プラチナチケットだ。期限もまだ一ヶ月はある。屋上での彼女の悪態を俺が知っている以上、彼女が俺の誘いを簡単に断ることは出来ないはずだ。再戦は近いうちに果たされるであろう。
 一抹の希望と共にチケットを握り締め、俺はリベンジを誓った。

「ああっ! 必ずお前にコイツを受け取ってもらうぞ。首を洗って待っているがいいっ!」

 声は廊下中に響いたかもしれない。しかしそんな事は些細なものだ。希望はまだ俺の手の中にある。


 ――俺たちの戦いは、これからだっ!





〜END〜
 ご愛読ありがとうございました。空人の次回作にご期待下さい。
メンテ
穏やかな午後のエピタフ ( No.155 )
   
日時: 2012/06/14 22:12
名前: アリス ID:Vbgk9Dfs

 



 結婚して二日後、夫がこんなことを言った。

「言い忘れてたけど、俺、実は魔王なんだよね」





 結婚して二日後、妻がこんなことを言った。

「言い忘れてたけど、私、実は勇者なのよね」








「結婚前は、一生愛するって言ったけど」
「うん」
「俺が魔王でお前が勇者だってわかった以上は、そうは言ってられない」
「……離婚?」
「いや」
「えっ?」
「こうしよう。俺はこれからはお前のこと精一杯嫌うように努力する。いつかお前に殺されるんだから、好きなままじゃ駄目だし」
「……私も、あなたのこと、嫌いになってみせるわ。いつかあなたを殺さなきゃいけないから。好きなままじゃ、殺せないから」
「決定だな。お前のこと、これからは厳しくいくから」
「そうしましょう。私も、あなたにきついことたくさん言うわね」
「喧嘩、たくさんしような」
「ビシバシ行くから、覚悟してね」







「お前の風呂長いんだよ!」
「女なんだから男より長いのは当たり前でしょ!」






「またゲーム? ピコピコうるさいんだってば」
「女ってゲームってだけでいろいろと偏見持ちすぎなんだよな」
「な、なにをー! 女だってケームくらいするわよ!」
「じゃあいいじゃん。ほら、面白いぞ」
「ほら、じゃない! 私、あなたを嫌いになるって決めたんだからね。というか、あなたも私を嫌いになるって決めたんでしょう! そうやって、ゲームを一緒にやろうみたいな空気を出さないで! ……あら可愛いモンスター」





「また本散らかしてる……ちょっとは片づけてよ。足の踏み場もない」
「来週レポート提出なんだよ。ちょっとは勘弁してくれ」
「あら、こんな雑誌や漫画がレポートに必要なのね?」
「う、うるさいな! そ、それは……ちょっと息抜きに読んでただけで」
「にしたって量が多すぎるわ。どうにかしてね」
「その前にお前、どうして俺の部屋に入ってくるんだよ」
「あなたの部屋の方が落ち着くからに決まってるでしょ」
「ほらまた。すぐそういうこと言うよな! 嫌いになるって決めただろ! そういうこと言われたら嫌いになれないだろうが! ……ほら、ベッドは空けてやるよ」





「起きるの遅い」
「時間に几帳面すぎる」
「ゲームやりすぎ」
「お前、本読みすぎ」
「休日ゴロゴロしすぎ」
「カラオケの選曲がマイナー」
「男のくせにスリッパがうさぎとか」
「うさぎはお前も好きだろ」
「……好きだけど」
「お前は嘘つきすぎ」
「あなたは、無理しすぎ」







「もう! 日曜日だからってゴロゴロして! ちょっとは掃除手伝ってよ!」
 私は掃除機を掛けながら、リビングで寝転がっている夫を怒鳴った。天気も良く洗濯日和な日曜日。私は張り切って家事全般をこなしているのだが、夫は朝からリビングに伏せってテレビを見たり新聞を読んでばかりいる。二人とも大学生なので平日は同じ大学に通っているけど、休みになったらこれだ。まったくなんという体たらく。少しも手伝おうという意志が感じられない。掃除をするのは結構疲れるし、動いていると汗だって出る。なのにこの人ったら、女の私に全部任せて自分は動こうとしないなんて。なんて酷い男なんだ。酷すぎる!
 と、自分に言い聞かせる。
 さあ、もっと私は怒らせて。
「そんなことしなくたって、いつも家は綺麗だろ。お前のおかげで」
「えっ……」
 彼が私に、素でそんなことを言う。私の掃除機を動かす手が止まった。ドキッとした。
 やめてよ、お前のおかげだなんて。
 そんな風に褒められると、嫌いになれない。何回目だこういうの。
「あ、ごめん」
 彼は私に謝った。
「い、いいわよ」
 私は恥ずかしくて、顔を背けながらぶっきらぼうに返した。






 お互いに嫌いになるために努力しよう。
 そんな取り決めをしたのが、結婚して二日目のことだ。
 もうあれから一週間、俺と彼女はお互いにお互いを罵倒しまくった。例えば今俺は、寝転んでポテチを食べながらだらしなくテレビを見ている。そして、彼女は一人で一生懸命掃除している。本当はものすごく手伝ってやりたいのだが、嫌われる為なのだから仕方がない。汗をかきながら掃除機をかける彼女の横顔はめちゃくちゃ綺麗で、寝転がっている俺との差は歴然。どうしてこんな綺麗な奴が俺のこと好きになってくれたのか、時折激しく悩む。ホント、俺にはもったいない子だよなあ。五年も付き合ってて何言ってんだ俺も。
「もう! 日曜日だからってゴロゴロして! ちょっとは掃除手伝ってよ!」
 彼女は突然俺に怒鳴った。まあ、彼女も俺がなぜゴロゴロしているかの理由はわかっているだろう。当然彼女に嫌われる為である。頑張って掃除している妻を手伝わずにのんびりする夫。家庭崩壊っていうのはこういう細やかな行動の差から生まれる。その状況を俺はわざと作っている。彼女だってそれには気付いているだろう。だけど彼女は俺を嫌いになるため、そして嫌われるためにそうやってわざわざ俺に怒鳴るのだった。俺は掃除をしないための適当に取り繕った理由を言おうと思った。
 が。
「そんなことしなくたって、いつも家は綺麗だろ。お前のおかげで」
 間違えた。
 最後の一言が蛇足すぎた。これじゃ褒めたことになってしまう。
「えっ……」
 顔を上げると、彼女は顔を真っ赤にしていた。
「あ、ごめん」
 褒めちゃってごめん。俺たち今、お互い嫌いになろうとしてるはずなのに、褒めちゃってごめん。
 俺は魔王で、彼女は勇者。まだ自覚というか魔王としての力みたいなのはないのだけど、いつかは絶対地球を滅ぼす力を持っている。彼女も同じで、今は勇者としての力はないけれど、いつかは絶対、魔王――つまり俺を殺すための力が覚醒する。俺は将来、確実に人々を破滅に導くだろう。それを止めるために、彼女は俺が魔王として目覚めるより早くに勇者として目覚めることになる。俺が魔王として目覚める前に、俺を殺すために彼女は勇者になるのだ。
 お互いにそれはわかっている。まあその事実を打ち明けたのが結婚した後、というのがなんとも苦いけれど。もし結婚する前に彼女が勇者だと知っていたら……いや、でも、彼女のことを好きなことには変わりはなくて、彼女が勇者だと知っても結婚はしたかもしれない。正直なところわからない。でも、俺は彼女を嫌いになりたい。いつか俺のことを殺す勇者。だから、嫌いにならなくちゃならない。
 だけどなあ。
 本音では好きだから、さっきみたいに無意識に褒めちゃったりするんだよなあ。
「い、いいよ」
 彼女はボソッと言って向こうの言ってしまった。
 俺は溜め息を吐いた。
 





 掃除機をしまって、お昼ご飯を作ることにした。
 まったく、お互いに嫌いになるために努力しようって決めたのは向こうじゃないの。なのに、あんな風にナチュラルに褒められると内心嬉しくて仕方ない。彼はそのことをわかっているのだろうか。お互いに嫌いになる。そう決めたのに、私が喜ぶような言葉を言うなんて。あいつは何にもわかってない。本当は……本当は、大好きなんだってことに。
「……あー、もう。辛いなあ」
 私はめちゃくちゃにお昼ご飯を作った。もうほとんどやけくそだった。調味料の分量なんてほとんど無視。本当にまずい料理を作れば、私のこと、嫌いになるでしょ。本当は嫌だよ。美味しい料理、作ってあげたいよ。結婚する前の恋人時代はよく作ってあげたから、本当はあいつも私の料理がそこまで酷くないってことは知ってる。でも、突然まずい料理を出せば少しは私のこと、嫌いになるはず。
「……おりゃ! そらっ! ていっ!」
 胡椒をビンごと鍋に突っ込んだ。自分で掛け声まで掛ける。塩も大量に入れる。これはもはや、食べ物じゃない。色がすごいことになっている。私だったら絶対に食べない。あいつも多分、こんなの食えるか! って言って拒否するだろう。そして喧嘩になる。よし、ちょっとはあいつのこと嫌いになれるかもしれない。
「できた! おーい、お昼ご飯できたよ」
 私は鍋を抱えて、キッチンを出た。






 しかし、すごい匂いがしてるなあ。
 テレビの内容は右から左へ通り抜けていくのに、気になっているのはキッチンの彼女だった。時刻はお昼時。ガスを使う音がするからお昼を作っているんだろう。それは別にいい。しかし、なんだこの匂いは。いつも彼女が料理をする時は、もっとこう、お腹の減りを助長するようなすごくいい匂いがするはずなんだが……。すごい匂い、という形容しかできない匂いがする。まったくお腹は減らない、むしろなんか食欲を削がれる匂いがキッチンからこちらへ流れ込んでいる。
「おりゃ! そらっ! ていっ!」
 彼女の声が聞こえる。いやしかし、何の掛け声だ何の。料理中に発する声じゃないぞそれ。ポテチの袋はすでに空っぽ。テレビは評論家の垂れ流しワイドショー。今年は地球が終わるって? それ多分あれだ、俺がやるのかもしれないな。俺が地球を滅ぼしちゃうのは魔王だし。ごめんね皆さん。それでも、勇者さんが止めてくれるから安心してくれ。
「できた! おーい、お昼ご飯できたよ」
 彼女が鍋を抱えて、キッチンから出てきた。寝転がったまま彼女の方を見る。俺の目に飛び込んできたのは、モクモクと煙を出す鍋。匂いが、やばい。彼女は汗をかいた微妙な顔で、なんかこうすごい悟った感じが見て取れる。何があった。いや理由はわかるんだが。
 部屋の中央に置いてあるテーブルに二人で向かい合って腰かけた。
 鍋を見下ろす。
 こいつはひでえ。例えるなら……いや、例えようもない。これは酷いとしか言いようがない酷さ。酷すぎる。料理に対して敬意という物がまるで感じられない。しかし、建前として聞くしかない。俺は背中に走る悪寒を全力で無視しながらなんとか鍋を見下ろし尋ねる。
「これは、なんだ?」
「チャーハンよ」
「嘘つけ! そこらへんにある泥の方がまだおいしそうじゃ!」
「な、なによそれ! 私の料理なのに! 心を込めて作ったのよ!」
「それも嘘つけ! どうせ、嫌われるために適当に作ったんだろ!」
「う……」
「すごいまずそうだぜ。こ、こんなの食えそうにねーよ」
 めちゃくちゃ心が痛いけど、俺は料理と彼女を罵倒しまくる。彼女が言い渋ってるところを考えると、やっぱり俺に嫌われるために適当に作った節があるな。まあこんな料理出されたら普通の夫はマジギレするだろうけども。でも、本当は料理が上手で嫌われるためにわざとまずくしたっていうのが俺には分かりきってるからなあ……マジギレなんかできやしない。
 これは、怒りじゃないさ。
 そうさ、わざとなんだ。
 しゅんとしてしまった彼女が見てられない。
「おい、スプーン貸せよ」
「えっ? まさか、食べるの?」
「食ってやるよ。匂いや見た目はあれだが、食えるかもしれないだろ?」
「そんな無茶な。自殺行為よ!」
「魔王が自殺なんて、それはそれでいいじゃん」
 一口食べた。







 どうして、怒らないの。
 せっかく――せっかく、嫌われるための美味しくない料理を作ってあげたのに。
 どうして、もっともっと怒ってくれないの。
 嫌われたい。
 嫌いになりたい。
 私はいつか、あなたを殺さなきゃいけないの。
 だから、好きなままじゃ駄目なの。好きなままでいたら、殺せないんだから。
 だから、もっと怒ってほしかった。あの程度じゃ、嫌いになんかなれない。

 私は、一口だけ食べて気を失ってしまった彼を、膝枕してあげていた。
 寝顔が、可愛い。
 電気もつけない、昼下がり。
 窓から差し込む、暖かな陽光。
 穏やかな午後。
 寝ている、彼。

 ……ごめんね。美味しくない料理を食べさせちゃって、ごめんなさい。
 好きになっちゃって、ごめんなさい。
 好きにさせちゃってごめんなさい。
 まさか、あなたが魔王だなんて。
 どうして、私は勇者なの。あなたはまだ魔王じゃない。私もまだ、勇者じゃない。だけどいつか、あなたは魔王になって、いろんな人を殺す。街を壊して、最後には世界を滅ぼすの。それを私は止めなくちゃいけない。あなたを止めるだけならそれでもいい。だけど、最悪の場合、あなたを殺さなきゃいけない。
 そんなの、嫌なのに。
「……よく眠るなあ」
 この寝顔を、ずっと隣で見ていきたかったのに。
 いつかはこんな幸せを、自分の手で壊さなきゃいけないんだよね。
「……そんなの」
 彼の寝顔に、水滴が落ちた。
 ポタリポタリ。
「やだよ……そんなの、嫌だ……っ……やだよ……」
 涙が溢れてきた。
 愛しいあなたを、私はいつか殺すの。
 だから、嫌いにならなきゃいけない。
 そう思って、しばらくあなたを嫌ってみせていたけど。
 そんなの無理。
 わかってた。
 好きだよ。
 だから、嫌いになんてなれない。







 体を起こすと、俺はベッドで寝ていた。
 記憶がほとんどない。
 彼女のあの料理を食べて、気を失ってしまったのだろうか。多分そうだ。口の中に微妙な感覚が残っている。彼女を悲しませたくなくて、無理したのが祟ったか。
 俺はベッドから下りて、部屋を出た。彼女はどこにいるのだろう。とりあえずはリビングに行こう。階段の横の窓から差し込むのは、お昼の暖かな光だった。洗濯日和って彼女は言っていたけど、本当だった。穏やかな午後。心地よい時間。
「おーい」
 リビングに入って一言。だが返事はなく、彼女はテーブルに突っ伏して眠っていた。顔は横を向いていて腕からはみ出しており、寝顔が丸見え。窓際から差し込む光がちょうど彼女に重なっていて、その綺麗さに思わず立ち止まる。そんなところで寝てるなんてだらしないな。そんな言葉は喉元で消えた。
「……まったく、ありえねーよな」
 俺は溜め息を吐いた。最近溜め息ばかりなのは、なんでだろう。
 それはきっと、いろいろと気に病んでることがあるからなんだろうな。無理して嫌いになろうとするから、いろいろ大変なんだよ。溜め息だって吐きたくもなるさ。好きでたまらないって言うのに、わざわざ嫌いになろうとするから、辛いんだよ。言い出したのは俺だ。俺は魔王で彼女は勇者。いつか俺は、彼女に殺される。だから好きなままではいられない。だから嫌いにならなきゃいけない。そう思ってたはずなのになあ。
「無理に決まってんだろ」
 自分を嘲笑った。
 自分で提案しておいて、自分から辞めるなんてのは恥ずかしいよな。
 ソファの上にあった薄い布団を彼女に被せた。
 それから、起こさないようにそっと彼女から離れる。
 部屋に戻って、俺も寝ようかな。
 足音を消した。



「……――」


 名前を呼ばれて、振り返った。
 彼女は眠そうな目で、俺を見ていた。


「起こしちゃったか」
「……ううん、いいよ。もう、大丈夫?」
「大丈夫って?」
「私の料理食べて、気絶したでしょ」
「ああ、それならもう大丈夫だ。特になんともないよ」
「そう……よかった」
 目を擦りながら、ゆっくりと体を起こしていく彼女。
「これ、ありがとう」
 薄い布団を掴んで彼女は言う。結局すぐに目覚めてしまったから、あまり意味なんてなかった。 彼女は椅子から立ち上がって、俺の傍に寄ってくる。俺は立ち尽くしたままで、歩み寄ってくる彼女の妖艶な表情に見惚れてしまっていた。目の前まで彼女がやって来た時、初めてやっと言葉が出るほどに。
「……どうしたんだよ」
「ありがとね……」
「何度もそう、お礼を言うなって」
「ごめん」
「いや、別に責めてるわけじゃなくてだな――」



 言い終わる前に、抱きつかれた。
 
「って、おい」
「……やっぱり、無理」
「何が」
 俺は応えるように、彼女の背中にゆっくりと手を回した。まだしっかりとは、抱きしめ返せなかった。添えるだけ。今はまだ、添えるだけ。彼女の匂いがふわりと俺を包む。華奢な体。これで勇者だなんて、信じられない。いつかは俺を殺す刃。その刃を持つ手が、今は俺の背中に回されてるなんて。
「……嫌いになんて、なれない」
 胸に顔を押し付けられた。
 細い声。
「泣いてるのか」
「泣いてなんか、ないわよ」
「お前は」
 添えていた手を、今度はぎゅっと抱き寄せるように。
 抱きしめた。
「お前は嘘つきすぎ」
 結婚して二日後に、お互いの将来を明かした。俺はいつか魔王になって、誰かや誰かの大切な人を殺す。そして、街を壊して世界を滅ぼす。彼女はいつか勇者になって、どこかにある聖なる剣で、俺を倒しにやってくる。だから、お互いに嫌いになろうって決めた。嫌いにならなきゃ、俺は彼女に殺されたくなかった。好きな人に殺されたくなんかなかった。彼女だってそうさ。好きな相手を殺したくなんかないだろうから。
 それは彼女も同じだったって、俺は十分知っていた。彼女の気持ちは知っている。時折伏し目がちに、ぶっきらぼうに受け答えする赤い顔。誰よりも輝く笑顔。細やかな幸せをくれる言葉。いろんな彼女を見てきた俺ならわかる。わかってる。わかりきってる。彼女は、俺のことを好きでいてくれる。だから、だから、嫌いになろうと努力してくれた。
 胸に押し付けていた顔を上げた彼女。
 やっぱり、泣いていた。
 だけど彼女は俺を見つめて、精一杯に笑ってみせるのだ。
「あなたは、無理しすぎ」
 よくわかってるじゃないか。
「……俺もお前のこと、嫌えないなやっぱり」
 それこそわかりきってた。
 あんなに好きなのに、嫌いになれるはずないさ。
 抱きしめる温もりが、伝わる。


「好きだ」
「私も、大好きよ」







「魔王になるなら、なればいいわ。私が必ず殺してあげるから」
「いいね。お前に殺されるなら本望だ」
「そして、すぐに追いかけてあげる。魔王のいない世界に、勇者は必要ないから」
「そうだな。勇者がいなきゃ、魔王だって意味がないからな」
「だから、いつまでも一緒にいてね」
「わかりきったこと言うなよ。ずっと一緒さ」




メンテ
その存在を喰らいて ( No.156 )
   
日時: 2012/06/15 23:56
名前: ジッタ隣人 ID:AsNeU.nc

「はっ!」

 気合と共に繰り出した一撃で、全身に溶岩をまとった異形の魔神は、洞窟内に轟音を響かせながら崩れ落ちる。このフロアの主であった者を倒した為、周囲に蠢いていた一回り小さな岩の異形たちも形を失っていく。
 大部屋に静寂が訪れるのを待って、短く息を吐き出したのは、たった一人この場に残された女戦士だった。女性らしい身体のラインは保ったままに、闇に浮かび上がる筋肉は屈強な戦士を思わせる。
 彼女がこの場に立ち尽くしているのは、何も次の敵を警戒しているわけではない。数瞬後に起こるはずの現象を待っているのだ。

 それは待つまでも無く始まった。
 崩れた岩の塊から、魔神の姿を形作っていた力の結晶が、光となって浮かび上がってきたのだ。そしてすぐに周囲の岩からも光が集まってくる。光は彼女の周囲に旋回しながら漂い、順番にその身体の中に取り込まれていく。
 これが、この世界で唯一の法則であり、全てを形作っている力。『エルゴ』である。

「……あと少し」

 つぶやいた言葉は、誰に向けたものでもない。ただ自分の心に響けば良い、そんな静かな一言だった。





 ルイザが生まれたのは辺境にある農村だった。政治的な干渉も無く、飢饉が続かない限り貧困の心配も無い。そんな平和な村にあって、彼女の誕生だけが異端であったと言わざるを得ない。
 ルイザは生まれながらにして、とある特殊な体質の持ち主だったのだ。

「化け物……」

 それが、彼女の父親が誕生したばかりの我が子に放った最初の言葉であった。それは、ルイザが母親のエルゴを喰い尽して生まれたことが原因だったのはもちろんだが、誕生したばかりの幼子はそれに満足せず、周囲にあった物を自らの手で破壊し、そのエルゴを吸収し始めたのだ。

 『存在力吸収体質』

 それだけをとれば、この世界では稀にある症状である。たくさんの生物を殺傷したり、巨大な建造物を壊した時に、エルゴの吸収過多によって発作的に現れる症状だと一般的には知られていたのだ。
 しかしルイザのそれは、先天的に彼女に備わっていたもので、村中の誰もがその力を止める術を知らなかった。彼女が満足するまでエルゴを吸わせてやるより他、対処のしようが無かったのである。
 彼女が幼い間はその量も少なく、それほど大きな騒ぎにはならなかった。成長して食事から栄養を取ることが出来るようになれば、治まるものだと村人たちは楽観視していたのだ。
 もちろん彼女の方も物心つく様になった頃から、自分の力を抑えることができるようになっていった。村人の中にはルイザに期待する者も居る。エルゴの力を制御できれば形あるものを消滅させるだけではなく、作り出すことも可能なのだ。しかしある日、事件は起こった。
 酪農家の牧場に野犬が出たのだ。もちろん野犬はすぐに退治されたが、数頭の家畜が殺されてしまった。それだけならば、酪農家も仕方がないとあきらめただろう。肉を売り捌き、それなりの収入があれば、また酪農を再開できていたのだから。
 だが、そうはならなかった。死んだ家畜も退治された野犬も、その存在を光に変え、導かれるように集まったのだ。通りかかっただけのルイザのもとに。
 本来ならばありえない現象だった。魔法で形作られた魔物ならばいざ知らず、生命を得た生き物が自らをエルゴへと昇華するには長い年月が必要となる。しかもルイザはその家畜をその手にかけた訳ではなく、ただ通りがかっただけなのだ。
 酪農家の怒りと家畜の代金は彼女の父親に請求され、父親は自分の子供がしたことだと思ってそれを飲み込むことにした。
 だが、そんな事が二度三度と続けばどうだろう。生活は苦しくなり、村中から可笑しな目で見られる。そんな日々に疲れ、ルイザの父親は毎日同じ事を思うようになっていった。
 自分と、娘の死を。

 怪我をすればルイザに食われる。そんな噂が村には流れていた。彼女自身の意思では無いのだから、否定してしまえば終わりだったかもしれない。しかしそれは事実なのかも知れなかった。確かめる勇気もなく協力者も居ないため実証出来ていないに過ぎなかったのだ。
 当然ルイザに近づく者も居らず、彼女はいつも独りだった。
 それでも彼女は村人を恨むような事は無かった。そして希望も有った。幼い頃からエルゴを吸収していた彼女は、既に大人でも敵わないような怪力と強靭な肉体を手に入れていたのだ。そしてそれに驕らず、鍛錬も続けてきた。強くなれば傭兵として働ける。お金を稼げれば、他人に迷惑をかける事も少なくなり、育ててくれた父や村人たちに恩返しが出来る、と。そんなふうに考えていたのだ。
 その日も彼女は一人、村外れで木刀を片手に鍛錬をしていた。剣を振るう形の練習や、小さな獣を相手に戦闘の訓練などを繰り返し行っていたのだ。繰り返し打ち出す斬撃。彼女の意識は剣先のみに集中していた。だからだろう、視界には捉えていたはずなのに、気がついたときにはその存在はルイザの間近に迫っていた。
 フードで顔を隠し表情は見えないが、背が高く骨ばった体格。大人の男性である事がうかがえた。村人が彼女に近付く事は珍しい事だったが、自分に用事があるのなら挨拶くらいはしなくてはいけないだろう。そう思って意識を転じ――そこでようやく気付く。その男が持っている凶器に。
 それは刃渡り十数センチほどの小さなナイフだった。それでも、人を殺すには十分な武器だ。ルイザにとっては始めて相対する人間の敵。思考は停止し視界はぶれる。
 男は何事かをつぶやいたようだったが、聞き取る事は出来なかった。そして繰り出される明確な殺意と小さな凶器。ルイザは思考を止めたままだった。男への対処もわからないまま、しかし反復される練習どおりの剣捌きは、男の肩口に吸い込まれるように振り下ろされた。

「化け物め……」

 そのまま動かなくなる男の前でルイザは立ち尽くし、骨を砕いた感触だけが彼女の身体に染み込む。
 この日以来、ルイザとその父親が村人の目に止まることは無かった。





 数年後、ルイザはとある傭兵団の一員になっていた。拾われた当初から、大人顔負けの実力を示して見せた彼女は、しかしここでも独りだった。
 初めのうちはルイザの特殊な体質も珍しいだけで、彼女の若さと実力の影に身を潜めてくれていたのだが、自分が倒した相手のエルゴまで持っていかれるのではたまらない。
 彼女と一緒の任務に就こうとする者は居なくなり、上からも一人で出来る任務のみを与えられるようになっていったのだ。それでもルイザが傭兵団に居続けていられるのは、彼女の実力はもちろん、その任務の成功率の高さが原因だった。それ故彼女に一目置いている団員も少なからず居たのだ。
 しかし悲劇は繰り返される。まるでそれが運命だと知らしめるが如く。

 戦いを生業とする集団であるからには当然、怪我や故障はついてまわる問題だった。故郷に流れていた彼女の噂がまるで呪いのように付きまとってくる。ルイザにはそんな風に感じられてならなかった。
 任務から帰還した団員の一人が、負傷した足を引きずりながらルイザの側を通った。ただそれだけの事だった。気がついたのは、彼を迎えた同僚だ。

「お、おい!」
「え?」

 現象としてみれば、破壊された防具と張り付いていた彼の血が光となってルイザに集まっただけだったのだが、それを見た者の印象は当然ながら違う。その場に居た全員が顔色を失くし表情を凍らせてルイザから遠ざかった。
 
「ま、待って、違うっ!」

 もちろんエルザは弁明する為に立ち上がる。しかしそれはあきらかに逆効果だった。

「ひっひぃいっ!? や、やめろ! 俺を喰わないでくれぇっ!」

 負傷した足を床に付け懇願する男に、ルイザは二の句を告げる事は出来なかった。周囲から寄せられる嫌悪の視線と罵倒に、ルイザは堪らずにその場から逃げ出したのだ。

 その後、ルイザにはとある任務が与えられる。『戦場におもむき、敵を足止めしろ』と。当然敵は集団であり、ルイザはいつもどおりの単独任務である。
 同士の手にかかるよりは人道的だったかも知れない。そう思えば、ルイザの足取りは重いものではなくなった。

 もうどのくらいの間、戦っていたのだろう。任務として受けたからには精一杯の功績を残そうと、ルイザは力の限り戦場を駆けた。一人倒せばエルゴが得られ、ルイザの傷と体力を回復させる。迫り来る攻撃は、良く見て回避するか打ち払う。一人、また一人と敵を倒していく度に、自分の感覚が研ぎ澄まされていく事に、ルイザはもう気が付いていた。
 なかなか倒れない相手に、敵兵たちは徐々に指揮を削がれていく。大人数で相手するには彼女の身体は小さすぎて、最大でも三人が集まれば互いの攻撃を阻害する結果になる事に、敵兵は歯噛みした。自分たちのエルゴが吸い取られている事に気付く者も居たが、指揮官に伝わるまでには時間がかかる。
 戦場に背を向けた者には、容赦なくルイザの剣が突き刺さった。

 気が付くと、戦場に立っているのはルイザただ一人だった。生命の残骸すら残らない荒野を眺めて、ルイザはようやく自分が何者であるのかを悟る。

「化け物……か」

 誰も見る者の無い自嘲は怖ろしいほどに美しく――そして、哀しかった。





 ルイザは傭兵団に戻ることは無く、とある洞窟へ向かった。噂だけを頼りにたどり着いたそこは、彼女が今まで感じたことの無い威圧感を漂わせている。躊躇する気持ちとは裏腹に、足は暗闇へと向けられた。まるで不思議な力に導かれるように。
 この洞窟の噂は傭兵団に居た頃から流れていた。『そこは魔王が封印された洞窟である』と。
 自分の願いを叶えるものは、もうここにしか無い。そう思えば、足取りは次第に確かな物へと変化していくのだった。

 洞窟は層になっており、階を降りるごとに蠢く魔物の凶悪さが増していく。その中でも最強とうたわれる魔王はおそらく最下層に位置するのだろう。
 求めるものがそこの有るのだと信じて、ルイザは進み続ける。魔物のエルゴをその身に浴びる度、自分が強い存在になっていくのをルイザは感じ取っていた。しかし、その程度を測る術を彼女は有していない。たどり着く先がいったい如何なるものなのか、答えは闇に溶け込んでいる。

 終にたどり着いた最下層は、重苦しい空気と強大なる者の気配で満たされていた。目の前には複雑な模様で封印を施された扉。押して開く手にはもう、迷いは残っていなかった。





「……一人か?」

 問いかけられた言葉が自分に向けられている事に気が付くのに数瞬の間が必要だった。威圧感は確かに目の前の人物から発せられている。しかしその姿かたちは、普通の、ルイザと同じ年頃の男性にしか見えなかったのだ。

「あ、貴方が……魔王?」
「そう、呼ばれているらしいな」

 問えば返ってくるのは肯定。だからルイザは一呼吸おいて、気持ちを切り替える。目の前に居るのは最強の魔物。自分の望みを叶えてくれる唯一の存在なのだから。
 ゆっくりと剣を向ける。捧げるように。体中に溢れるエルゴを注げば、輝きだす白き刃。言葉にさえ力を、想いを込めて。ルイザは宣言した。

「お願いがあります。……私と、戦ってください」

 捧げられた言葉は届いたのだろうか。驚く事も嘲る事も無く、魔王はゆっくりと頷いた。






 いったいどのくらいの時間戦いは続いたのか。切り裂くたびにエルゴを得、切り裂かれるたびにエルゴを奪われる。互いの意識をを取り込み、互いの意思をぶつけるような戦いに時間を忘れさせられて、気付いた時に眼前に広がっていたのは彼女が見慣れた風景だった。
 立っているのは己一人。周囲に残るものは無く、倒れ伏す魔王は次第に光を帯び始めている。

「どう、して……? なぜ私は立っているの? 貴方はっ、最強の生物ではないのっ!?」
「そうだな、今より最強はそなただ。喜ばしいな」
「違う! 違うわっ。私が求めていたのはこんな結果じゃない! どうして……」

 己を倒した存在が慟哭し声を荒げるのを、魔王は静かな心のままに眺めていた。それは、次に続く彼女の言葉を解っている故からかも知れない。

「どうして私を殺してくれないの……?」

 それは、この場所に封印されて以来、魔王の中に常に在った懇願でもあったのだ。

「……エルゴの力は、福音などではない。単なる法則でしかないのだ。それに選ばれた汝もまた、運命に逆らう事の叶わない世界の一部。汝が死ぬ事が無いのは、世界がそれを許さないからだろう」

 目の前の女戦士に、伝わったかは解らない。それでも自分が消えるまでの間に、彼女に伝えておきたい事はある。

「我は許された。……あれから何年経ったのかは解らぬが、こうして闇に滅する事が出来る。これより目指すものが無いのならば、汝もここで、待ってみるが良い。己を……殺す為に選ばれた存在を」

 魔王の身体は既に光になってルイザと一つになり始めていた。故に最後の言葉はルイザの耳に届いたのではないのかもしれない。
 洞窟内のエルゴは既に彼女の意のままだった。自らの玉座を作り出し身を沈めると、妙に落ち着く自分が居る事に気が付く。

「化け物の王か……なるほどね」

 新たに生まれた闇の主は、途方も無い時間に身を浸し、ただ待ち続ける。己の望みを叶えてくれる存在を。
 次の世代の魔王となる資格を持つ者を。




END
メンテ
Re: 【七月期のお題は「擬音」】お題小説スレッド【六月期お題「魔王」:批評投稿期間】 ( No.157 )
   
日時: 2012/06/16 00:08
名前: 企画運営委員 ID:dBI4WAgA

作品のご投稿お疲れ様でした。
16日(土)〜30日(土)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。


>第14回『魔王』参加作品(敬称略) >>152-156

>>152If:なりそこない
>>153にゃんて猫:少女
>>154空人:中二病な俺とノリのいい彼女と最終回
>>155アリス:穏やかな午後のエピタフ
>>156ジッタ隣人:その存在を喰らいて
メンテ
Re: 【七月期のお題は「擬音」】お題小説スレッド【六月期お題「魔王」:批評提出期間】 ( No.158 )
   
日時: 2012/06/24 11:12
名前: If◆rf3Ncl3QUs ID:c2Falh4g

批評いきますよー。相変わらず自分棚上げです。ごめんなさい。
今回はギリギリ仲間さんが誰もいなかったので、私が最後かなーと思っていたんですが何とかなりました。よかった!

>>152 If:なりそこない
できそこない^q^

>>153 にゃんて猫さん:少女
怖くもあるんですが、私はそれよりも切なさを感じずにはいられませんでした。女の子可哀相すぎます。でも、もしかしたら少女は最初から魔王だったのかな、って考えるとやっぱり怖いですね。
終始静的で不気味な雰囲気で統一されていたのが素敵でした。面白い作品です。ただ、緩急が少なかったのが残念かなと思います。
溜めるべき場所で文章をもっと書き連ねてみたり、淡々と流していいところは文章を省いてみたり、もう一歩の工夫があればよりよくなったのではないでしょうか。
また、中盤の妻と夫の場面ですが、個人的には二視点重複させた描写は必要なかったんじゃないかなと感じました。一視点からしか書けないもどかしさは私も常々感じているのでよく分かりますが、視点にできない人の感情は表情や仕草、台詞で語らせる方が効果的かなと思います。
最後の一文、魅力的ですね。倒置も効いています。

>>154 空人さん:中二病な俺とノリのいい彼女と最終回
しかし空人さんは学校が好きですねw これまでの作品でも結構な頻度で学校が舞台になっているような気がするんですが、気のせいでしょうか。
いい感じに中二病な誇張表現が見受けられて面白かったんですが、ときどき硬いというか優等生な文章が混ざっていてそれがちょっと惜しかったかなあと感じました。どうせなら突き抜けて演じきって欲しかったかな。
“けん”は良かったです。ユウシャからの“剣”(「期限が切れる」から大根の“けん”も想像したのは私だけじゃないはず……!)へのミスリードというかそんなものに、なんというか、笑いました。
ただ、少し「中二病」のキャラに頼りきってしまった感じがあるのは否めないかなと思います。中二病をなくしてしまえば、ということを考えると、もう一つ二つ、話に工夫があっても良かったんじゃないかなあ、と。
この短さでまとめあげたのは、すばらしかったです。さくさく読めました。

>>155 アリスさん:穏やかな午後のエピタフ
リア充会話すぎて嫉妬が止まらない! くそう! 大学生で結婚とかなんだよ!
なんかものすごい読みやすさが上がっててびっくりしました。余計な文章がほとんどなくて、読むのを妨げるような表現もなく、とても良かったです。
恋愛小説として読むならもう満足しすぎてお腹一杯です。ニヤニヤしっぱなしでした。アリスさんのこんな雰囲気のお話もしかして初めてかもしれない。
ただ、ファンタジーとして読むならもうちょっと書いて欲しかったかなと思います。勇者と魔王の件はもう少しはっきりさせてくれたほうが、悲痛な感じが伝わってくるんじゃないかなあと。
どうしても幸福感の方が目立って見えてしまって、せっかくの悲壮感というかそっちの感情が打ち消されてしまった感じがします。もっと後者の感情が際立ってくれば、最後の素敵な会話もより映えたんじゃないかなと思いました。

>>156 ジッタ隣人さん:その存在を喰らいて
実は私も考えたんですよ。輪廻する魔王の話。それと今回書いたのどっちを書こうか迷って結局別の方を選んだんですが、輪廻の方を選んでなくてよかったと思いました。これは勝てない。
私が考えていたものよりもずっと設定とストーリーの連結が上手くて、悔しくなったくらいです。完敗と言わざるを得ない! やっぱりちょっと悔しいですw
『エルゴ』、いいですね。今回の話はこの小道具あってこそと言っても過言ではないと思います。存分に効果的に使われていました。単に話を作るだけじゃなくて、もう一歩の発想がいるんだって教えられました。すごく勉強になりました。
何か言うことがあるとしたら、時間切れだったのかもしれませんが、せっかくの山場となったであろう前魔王との戦闘シーンは書いても良かったんじゃないかなと思います。
同じように、最後自分の運命を悟ったルイザの心中ももっと読みたかったなと思いました。他は全く過不足なく書かれていたので、ここだけちょっと気になりました。
かなり完成度が高いと思います。


面白い作品ばかりでした。敗北感半端ないです!
こ、今度は負けないんだからねっ!
冗談抜きで闘争心が掻き立てられました。これだからお題はやめられない。

参加者の皆さんお疲れ様でした。今度もよろしくお願いしますね。
また、作品を読んでくださった全ての方に、心からの感謝を。
メンテ

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