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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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不協和音 ( No.164 )
   
日時: 2012/07/11 21:55
名前: にゃんて猫 ID:MQvvEfbs
























ソド



キャハハハ……


レファ

ドレミファソシレ

ミファラドレソド

ドミファソシファソラ
ソシレファソラドミファ
レファラドレソラド
ミソシドレミファソラドレミソシ
ラドレミソシレファ
      ミソファレドミレドシ
レソラシドレミソ
ミファソシド
ファソシドレファソラシドレミ
レファ――――――


何をしてるの、止めなさい

ミファソラ――――――


止めなさい!

う……ぅ、うわあああああああああああん、いやあだああああ、ひくううう……
バタン ダン 

オゥン ドンドン
バン バン バン バン バッ

うわあああああああああああん

そんな風にピアノを扱う子にわ弾かせません!

うえっ……ふ、ぅ  ヒック……ヒック……

パタ パン  …ゴトリ

ちゃんと弾くって、約束できる?

コクン

じゃあ教室に入って弾きましょう。ここだと迎えに来た人の迷惑になるからね」

ゎかった……

さあ、行きましょ

コクン トン トン トン トン トン

ギィ……  グン ガチャリ



「…………」



毎度毎度息子がお騒がせしてしまってすみません……

いえいえそんなこと……活発なお年頃ですし、元気が無いよりわよっぽど

でわ、今日もレッスンありがとうございました……ほらケンタ、挨拶わ?

センセ、さよぉなら――――いでっ

『さようなら』の前に『ありがとうございました』でしょ。はい、やり直し

……ありがとぅございました

はい、よく出来ましたね

ナデナデ 

じゃあ先生、お疲れ様でした

はい、また来週もお願いしますね

センセイ……えっと、えっとね

どうしたの、ケンタくん

ドン ドドトン

えっと、えっとね。その、ピアノばんばんしてごめん、なさぃ……

もうしないって約束できる?

うん

それじゃあ来週ね

ばいばい、センセイ

じゃあね、ケンタくん

ウィーン  トン トン     シュー ゥン

佐江ちゃんお疲れ様

あ、南美さん。そちらこそお疲れ様です

私なんてまだマシよ−。中学生アンサンブル二つ持ちに個人レッスンが二つだけだもの。特に中学生なんて、放っておいても勝手に練習してくれるから楽よ楽

私アンサンブル一つに個人レッスン三つなんですけど……

ある程度の歳になってくると分かるよぉ個人の難しさが。今わアンサンブルで手一杯でしょう?

はい、7歳児なんですけど、中々上手くいかなくて……

そっかぁ、佐江ちゃんの持ってる個人は大学生とか高校生ばっかだもんねぇ。中学生以下わ持ったことない?

はい……まだ

佐江ちゃんまだ若いからねぇ。受け持たせないようにしてくれてるのかな、まぁ今のうちに小さい子の教え方は身につけておいた方がいいよ? 後々楽になるかもだし

そうなんですか

立ち話も何だし、控え室行かない?

そうですね

トン トン トン ガチャ ヒュー  バタン



 眼は、まだ閉じたままだった。

「中岡さん、時間ですよ」

突然耳の上からかかった声。一瞬の動揺。その幻滅。物腰の優しい印象を与える口調。僅かな息づかいが聞こえてくる。一回、二回。
眼は閉じられたまま顔を上げる。周囲の音の聞こえ方が僅かに変わる。救急車のピーポー音が左右で変わる感じ。そう、そんな感じ。
「もう、時間だったんですか」
私の声、完全な人の声、当たり前か。どことなく緊張した響き。
ちょっとだけ呆れたような鼻息。安心した感じも漂ってる。相手の服に染みついたコーヒーの香りがふわりと鼻をついて和ませた。
「えぇ。どうしたの? いつもは早め早めの部屋に入っているのに」
「……音を」
言葉足らずの回答が口から零れた。慌ててそれを補足する。
「聞いてたんです。不協和音」
「不協和音?」
「男の子が、鍵盤を無茶苦茶に叩いて遊んでいたので」
非難めいた響きが出ないよう押さえて事実を述べる。嘆息。そう、不協和音。
無垢な子どもが奏でた音。弾き出された音達はざらついた風味で混ざり合い、耳障りな音階の羅列を作り出していた。
「健太君かな? 遊び足りない年頃だし、勘弁してあげてね」
先生のフォロー。にっこりと微笑んで私を見てる。そんな気がする。
「はい」
あっけらかんと、そう答えた自分が受付前のソファーにちょこんと座っている。
尻を少し動かすと、それに呼応してソファーが蠢くようにして僅かに形を変えた。
「じゃあレッスンを始めましょう」
「分かりました」
立ち上がる。潰されていたソファーがゴムボールのように弾んで戻る。ぼよよんって。この感触が結構好き。
壁の感触の違いを指先でなぞりながら前へ前へ。左手に提げた鞄に誰かが当たった。反動でよろけそうになるのを右足で踏ん張る。
フラッシュバック・ミュージック。あぁ思い出したら気づいちゃった。
分かってる。本当は分かってる。
不協和音だなんてちっとも思っていなかった。少なくともあの時は。
耳障りな音の連続が、濁りきった心を掻き乱す様な感触に、歓喜にも似た高揚を覚えていたのだ。
重い扉が開く音。防音用につくられた二重窓つきの分厚い金属の扉。間に指を挟んだまま閉じてしまった時はあまりの痛みに泣き疲れるほど泣いたっけ。
開いた扉を跨ぐ。段差で躓くのはもう沢山だ。先生が背後で扉を閉める。ゆっくりと。
部屋に入ると、ロビーよりもやや低めに設定された冷房の風が首筋を撫でるように流れた。ちょっと寒いか、どうせすぐ慣れる。自問自答、馬鹿みたい。
扉がロックされ、ガチャリと鍵のかかった音がする。破砕音のような、それでいて調和を満たす感じ音。牢屋の扉もこんなのかな。
頬が熱い。頬が紅潮しているのか。いつもの感覚。一週間ぶりのサイクル。それでいて止むことのない期限付きの永久運動。
鞄を下ろしてエレクトーンの上に投げ出す。手触りで楽譜を取り出し、左手で手をつきながら鍵盤の蓋を開けた。
眼は閉じたままだった。真の永久。未来永劫に光を喪失。
だから心の瞳をうっすらと開いた。鋭敏になる感覚。指先が自分の意思と完全に同化した感覚。
爪の先まで研ぎ澄まされた。瞳を完全に開いた私が座っている。
「始めましょう」
合図の声。いつもより五分遅いレッスンの開始。
指慣らしにハノンを弾きながら、私はさっき聴いたあの耳障りな音を思い出せていた。
ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられてバラバラになった音達。現実もそうなってしまえばいいのに。
みんな、死んじゃえばいいのにな。



 レッスンはいつも通り一時間で終わった。つまり、五分の延長。
「お疲れ様。先週よりも格段にうまくなってたわよ」
先生の声。滲む満足感。ちょっと褒めすぎかも。でも気分がいいからいいや。
「ありがとうございました」
部屋を出て礼をする。ちょっと温いロビーに出て、もう一度頭を下げる。丁重に。意味もなく低頭に。
「また来週ね。それじゃあ」
「はい、また来週」
身を翻す。感覚の帰化。ばいばい鋭利な指先。おかえり緩慢なワタシ。また下らない日々の始まり。
エレベーターのボタンを押す。ツルツルした、滑りやすい壁を押してる感覚。
改装してから、やけに不便。階に来ても音が小さいから聞こえにくい。それだけ。でもそれが不便に結びつく。可笑しな話じゃん。
非常階段へ行く扉がいつも開いてたらいいのに。
絨毯をひいた床を踏みしめるようにしてぶら下がった鉄の箱に乗る。ガタンと揺れる。これを吊してる糸が切れたら私も死ねるかな。
憂鬱。憂鬱。憂鬱。ダンスパーティーで踊りたい。踊ったことなんて、一度も無いけど。
金属製の扉が閉まる。機械音。ウィーンってロボットアーム的な。でも凄く小さい。だから最新の機械設備とか言うのは好きになれない。
馬鹿みたいに機械感を出してくれたら楽しいよきっと。多分私だけだろうけどね。
振動音。箱の中身がぐらぐらゆらゆら。私足首細いんだから止めてよね。
ここはビルの十一階だから、もし誰かが私の入ったこの箱を吊るしてる糸を切ったら、余裕で死ねるかな。
ぺちゃんこになって、顔も分からないほどマッシュされて、そんな私の入った棺桶を見てみんな嘘泣きしてくれるんだろうなぁ。
行き先は一階。地下まで落ちたらマイナスになっちゃうから、そこは丁度ゼロにあたる地点。そう言えば何で地上零階って無いんだろ。
上下にしか動かない箱が落下を始めた。途中で止まることなく、速度を上げてひたすらゼロへ。
落ちていく。墜ちていく。堕ちていく。やがて止まった。
気の抜けた鉄琴の音に突き動かされるようにして扉が左右に開く。
私の体が潰されることは遂に無かった。
「畜生」
馬鹿みたいに呟いて、私は息苦しい箱を、更には重苦しいビルを出た。
音の無くなった途端全てが鬱陶しいものに見えて、私は瞳をきつく閉ざした。



 騒がしい日常。その真っ只中、七月。昼下がり。
乾いたチャイムの音が、蒸されたような熱気の教室に響いて反響する。
「イチ、ニ、サン、シ、イチ、ニ、サン、シ。はい、このテンポをしっかり覚えておくこと。本番まであと二週間しか無いんだから」
尖った声。無駄に大きな声量。見えなくても分かる、絶対太ってる。デブ。消えなさいよ。
嫌みの様に皆唱えてる。「イチ、ニ、サン、シィ」あぁ退屈だ。義務教育の音楽なんて所詮この程度。欠伸が出ちゃう。
「知っての通り我が貴金武中学の合唱祭まで残り二週間を切りました。今年は例年とは違い、夏休み直前の七月十九日火曜日にあります。
 テストの関係もあって大変だとは思うけど、頑張って成功させましょう。大丈夫。あなたたちなら絶対素晴らしい合唱ができるわ」
自己満足の声。皆聞いてない。私も聞いてない。正確には聞いてないフリ。でもどうせすぐ忘れる。だから聞いてないことと変わりない。
退屈でしょ? 目的のない日々なんて。消えてしまえばいいのに。



「中岡さんってピアノ習ってたっけ」
 帰り際、誰かが声を掛けてきた。変声期を過ぎたのにまだちょっと高い。女子に混じってアルトくらいなら唱えるんじゃないかな。
腰に鍵でも提げてるのか、チャラチャラと金属音がする。
この音は『千里裕太』だっけ。クラスの学級委員長。一応仕事はこなしてるっぽい。たまに忘れてることがあるのが玉にキズだけど。
不機嫌な顔ってどうしたらいいか分からない。知ってた気もするし、知らなかったのかもしれない。どっちでもいいや、結局いつもの表情のまま私は振り向く。
無色透明で味気のない演出が出来ていますか? いいえ。だってそんな余計なこと考えてる時点でアウトでしょ。
「そうだけど、」
何か続けて言おうとして、思わず口が二の足を踏んだ。何て言う? 言葉が見つからない。何て言おうとしたんだっけ。そもそも決めて無かった気もする。
気まずい空気。相手も何か言おうとして躊躇したのか、変なため息を零している。可笑しい。笑えちゃう。あはは。
「そこで、頼みがあるんだけどさ……」
気弱。もっと強引に迫ったらどう? ここに来て、私は相手が何を言おうとしているのか。自分がどんな回答を用意していたのかを一瞬のうちに思い出した。
思わず口元が吊り上がってにやり。どんな顔をしているのかなんて分からないけど、今の私は他人に対して凄く正直になっていた。
嫌みな気持ち。それそのままなんだから、やっぱり私正直者。万歳。
「悪いけど、合唱の伴奏はしないから」
憮然とした態度で言い放ったつもり。向こうが僅かに息を呑む。ざまぁみろ。見えない左手で薬指を突き上げる。ざまぁみろ。もう一度。
「あ……待って!」
そのまま悠然とした態度(彼の目にそう映ったかどうかは定かではないが)でその場を立ち去ろうとすると、後に振った右腕が引かれた。
突然の重心移転に体がついて行けず、私の四肢が後方に倒れ込む。足がもつれる。地面から足裏が遠のく感触。
そのまま失墜の波に押し倒されるような感覚を、誰かの掌が支えて止めた。
脈動。波打つ二の腕。それを掴む大きな掌。声。誰の? 多分、自分の。高いソ。悲鳴のような、金切り声のような。
「大丈夫?」
耳元より少し上から声がする。頭にかかる僅かな吐息に、うざったい程に身体が敏感に反応した。
心臓が一瞬だけ高鳴る。私どんな表情してるのかな。数秒だけ桃色に近いときめきのような何かを覚え、それは次の瞬間には真っ赤な怒りへと変貌していた。
「離して!」
二の腕を掴んでいた掌を羽虫を払うように除ける。走り去ろうと踏み出した右足に重心を移そうとすると、また体が後ろに引かれた。
今度は肩を掴まれている。止めてよ。離せ離せと心の底から思っているにも関わらず、体はぴくりとも動かせなくなっていた。
まるで彼の掌によって私の身体が操作されているような、気づいた時にはまた桃色に染まった心臓の自分が居た。
「お願いだよ。あと二週間しかないんだ」
「……何で私なの」
当然の問いで言い返す。そう、クラスには私の他にもピアノを習ってたり、習ったことのある上手い人間は居る。おそらく両手の指を使わないと数え切れないくらいには。
それがどうして私なのか。全会一致で伴奏者に決まった木村さんが居るというのに、どうして私なのか。
「この『旅立ちの夕焼け』の伴奏、お前じゃなきゃ出来ない。絶対」
「そんなに難しい伴奏には思えなかったけど?」
正直に答える。それが命取りになった。
「―――――お前、あれを難しく思わないのか?」
「えっ……あ」
慌てて口元を手で抑えるがもう遅い。千里が私の肩を強引に揺さぶって半回転させる。私は丁度千里と向かい合って見る形になった。
奴め、どんな顔をしているだろうか。自ら墓穴を掘った自分をさぞ嘲笑っているのか。
否。彼のような気弱な人間のことだ。素直に喜んで私に再び頼むだろう。そして私は次こそ断れずに、嫌々引き受けてしまうことになるのだ。
「それじゃあ…………あぁ、でも」
「でも、何?」
とっくの昔に自分への叱責や憤怒の感情を放出し、それを受け入れることを決定と捉えていた脳がその言い淀んだ声に反応した。
躊躇っている? 何を。後は全て私に押しつけてしまえば、彼はもうクラスから伴奏者不在について糾弾されることはない。
誰かが批判を受けるとすれば、それは私が期限までに伴奏が出来ずに天手古舞いになることくらいだろう。
「……今、クラスでもちょっと微妙な雰囲気だしさ。中岡さんに無理に頼んで嫌な思いもさせたくないし」
一瞬、相手が何を言っているのか分からなかった。その意味を初めて理解した時、全身の血が彷彿する感覚に襲われた。
「何よ、それ。そんなことで尻すぼみするくらいなら、初めから頼んだりなんてしないでよ」
「……引き受けてくれる?」
目眩がする。を超えて、虫唾が走る。何言ってんのこの変態。蛞蝓みたいにダラダラした物言いで。私を試しているのか? 素でやられているよりはその方が数段マシだ。
肩を掴んでいた彼の手を咄嗟に握り返す。爪が食い込むかもしれない力の入れ方に、彼が少し驚いたように息を呑んだ。
言ってやる。鼻を突き出して。言ってやる。その気弱な態度丸出しであろう顔面めがけて、唾を飛ばして汚してやるくらいの気概で。言ってやる。言ってやる。

「――――――引き受けるわ」

言い放って数秒、動きのないそのひょろっこい体を少し力を入れて突き飛ばす。
そのままの勢いで後方へ座標を変換。走り出す。重心移動。走る。走る。敵前逃亡? 別にいいわ。一撃喰らわせてやったもの。ざまぁみろ。
耳の遙か後ろから声がした。「ありがとう」だって。ふざけんな。
何を勘違いしてるんだか。私はあんたの気色悪いくらいに白黒はっきりしない態度に苛立って引き受けてあげたまで。
「バッカじゃないの!」
青空か曇天か分からない空へ向かって大声で吠える。叫んでる?喚いている?違う、『吠える』。私は吠えた。犬とか猫みたいに獣臭丸出しの、実に私らしくない醜態で。

私は吠えた。



渡された楽譜は読まずに、代わりに音楽担当教師から貰ったCDを家にある音楽再生機器で聴いてみた。
『旅立ちの夕焼け』は、確か九十年代に若手の作詞家が書いた詩を、当時人気だった歌手が歌って大ヒットになった曲だ。
第何回かの合唱コンクールの課題曲で合唱用に編曲された。合唱の方はよく分からないけど、伴奏はそこそこ難しい。
『そこそこ』って言うのは、私からしてみればあんまし難しくないレベル。
音を三回くらい聞いた後、空鍵盤で指を動かす。大体の音は把握した。
「バッカじゃないの」
気がつくとまた呟いてしまっている。意味の無い言葉の反芻。羅列羅列。
停止命令。応答拒否。私の中で白と黒が対立している。言うことを聞かない私は口元付近に存在している模様。
「全軍突撃。抹殺せよ。抹殺せよ」
呪文のように口から零れ出す。私が抹殺しようとしているのか、口元に潜むもう一人の私が抹殺しようとしているのか。
「抹殺せよ。抹殺せよ」
まだ溢れ出している命令。意味ナシ。阿呆らしくなって、私は部屋を出た。
駆け下りる。補給所まで残り二メートル。慎重に進め。ラジャー。アイサー。
そのまま洗面所へ滑り込むように進む。シャワールームに人の影。察知されていない。セーフ。
「補給開始。抹殺せよ。抹殺せよ」
コップに水を汲み、それを口の中へと一気に流し込む。殲滅中。殲滅中。
ガラガラゴロゴロと雷雲が口内で発生中。大雨洪水警報発令。遅いってば気象庁さん。
「何やってんだよ姉貴」
電撃のない積乱雲もとい濯ぎ水を口の中で発生させていると、隣から思わぬ敵が襲来した。
「口濯いでんの」
「風邪? バッカじゃねーの」
「うっさい」
空になったコップを『血の繋がった弟』に投げつける。ミス。ダメージなし。
「そんなんだから、精神年齢がいつまで経っても低いんだよ」
弟の攻撃。発言によるダメージ発生>>微少 反撃→歯ブラシを投げつける。回避。弟逃走。敵を殲滅した! 全っ然嬉しくないんだけど。
「何馬鹿やってんの二人とも」
呆れた声。台所遠くから。思わぬ所からの攻撃に面食らう。弟は逃走済みなので結果的に全ダメージは私に。
ふざけんな。拾い上げたコップと歯ブラシを乱暴に元の場所に戻して、私も逃走劇を始めた。部屋へと続く階段を駆け上るまでの所要時間およそ5秒。
電撃のような終幕を迎える。拍手? そんなのいらない。あぁ馬鹿馬鹿しい。こんな事してる自分が馬鹿馬鹿しい。本気に思ってる周りも馬鹿馬鹿しい。
死んじゃえ。死んじゃえ。死んじゃえ。みーんな仲良く。巨大隕石でも落っこちたらいいんだ。
落ちるなら、落下の中心は私にしてね。痛いの嫌だから、一瞬で灰になりたいもん。



時は巡る。遡りはしないけど。進むだけ進んで私を乱暴に引っ張る。そこで私がどう足掻いても大した結果の変更はあり得ない訳で。
「へぇ、中岡さん伴奏するの? 二週間後って随分急ね。大丈夫?」
「大丈夫?」のところだけ心配する風な響きがあった。ちょっぴりですけど。他は、まぁ、それっぽい反応。
「はい。級長に無理矢理頼まれて……」
事実と僅差で違う言い訳。何か文句ある? 引き受けてやったんだから、ちょっとくらい事実ねじ曲げても許しやがれ。
「『旅立ちの夕焼け』かぁ。先生も実は一度だけ弾いたことがあるんだけど、中岡さんならそこまで難しく感じないと思うわ」
分かってるじゃない。ちょっと鼻が高くなった気分。本気で高くなられたら困る。なので高く思うのも程々に。
「Dの部分からの左手のタイミングが掴みにくいんです。弾いてくれますか?」
練習済みであることをアピール。課題で出されている曲が犠牲になってることを隠し通すため。それもあったりする。
「サビの前後かしらね。分かったわ、ちょっと弾いてみるわね」
椅子から立ち上がる。選手交代。つい先ほどまで私と一体になっていたはずの鍵盤は一瞬で相方を乗り換えた。嫉妬? するほどの仲じゃない。
先生の指から奏でられるピアノの旋律が滑らかに鼓膜に響いてくる。「滑らかに響く」ってちょっと変かもしれないけど、本当にそんな感じなんだから仕方ない。
私には出来ない演奏。きれいな球が緩やかな斜面を下ったり登ったり、たまに弾んだりする。
この軽快かつ優美な響きが、気がつけば私の全能を支配してしまっていた。ずっと聴いていたい。ふとそんな欲求に駆られてしまう。
でもこれは私のレッスンであって先生の演奏会じゃない。先生は必要な部分だけ弾いたらプツリと弾くのを止めてしまった。残念。
レールの先の無くなった球が驚いて雲隠れしてしまう。そして誰も居なくなった的な。あぁ、もっと聴いていたかったな。この音の奔流。
「メッゾフォルテだけど、出だしはちょっと大きめがいいかな。ほら、合唱だと皆ピアノ聴いてから入るでしょ? 出しゃばり過ぎない程度に強く弾いてあげた方が思い切り声が出せるはずだから」
的確なアドバイス。本当に無駄がない。八方美人。あ、それは違うか。
「あと、ここは伴奏も複雑になってるから集中しがちだと思うけど、なるべく指揮の方を見るといいかもね。声とピアノがズレちゃったら、どっちかが引っ張られて酷い事になるから」
「分かりました。ありがとうございます」
お辞儀。礼。にっこり微笑んだのかな。無音。あぁまた何か忘れてる。
そうだ課題。全然やってない。進んでないのバレたらどうしよう。
先生たまに怒ると声が怖い。恐怖。通算過去一回だけ怒られたことがある。恐かった。声は全然穏やかなのに。幸い、すぐ収まってくれたけど。
「課題は……」
先手を取って言っておく。伴奏の譜読みをしていてできませんでした。大嘘だ。多分バレる。この程度の曲私なら一発楽勝じゃん。実際そうだったのが仇になってるけど。
「あ、今週は仕方ないわね。来週も休んでいいから、今は伴奏の方に集中しましょう」
息を呑む。誰? 私が。不意を突かれた感じ。鳥肌が立ったみたいに皮膚が泡立ってる。部屋にかかった冷房からの冷風がやけに敏感な感触を伴って肌を撫でた。
「何で……ですか。だって、そんなに練習の居要る曲でもないし」
「貴重な経験よぉ。合唱の伴奏なんて、今しか出来ないことだし。それに、多分声と合わせるようになったらそうそう「簡単だ」なんて言ってられなくなるかも」
押し黙る。黙秘。疑問。初めてのことだから分からない。声と合わせるのって、そんなに難しいのかな。
「中岡さんは完璧な演奏をしたがるから、合唱の伴奏みたいに兼ね合いが要る様なものにはあまり向いてないかもしれないけど。でも、これも経験の内って思って頂戴」
何となく発せられた単語が心の隅に痛々しい音を立てて突き刺さる。「完璧」? 私はそんな演奏をしている様に、先生の目には映ったのだろうか。
私はただ譜面通りに音を拾って、譜面通りに弾くだけの演奏が好き。ではない。否定。
「私は完璧な演奏がしたいわけじゃないんです」
自己主張。なのに食い違い。これじゃまるで「完璧にしてる」という事実を認めてるみたいじゃない。
自己否定。あぁもう訳わかんない。回答を。完璧な解答をプリース。please give me.バッカみたい。
「じゃあ中岡さんはどんな演奏をしたいの?」
傷ついた心が一瞬で今度はフリーズされた。凍結。過度の冷却は思考回路の緊急停止を誘います。ご注意下さい。
どんな演奏? 他人の、うまい人の猿真似ぐらいしか考えたことがない。先生やCDのパクり。まんま。
完璧な解答以前に、私は質問すらまともに用意できていなかった模様。私の演奏。私の出したい音。今まで、一瞬でも考えたことがあっただろうか。ノー。
「自分のしたい演奏が、見つかるといいわね」
黙秘を、了解と見なした言葉掛け。反駁しかける。中断。断念。的を射た発言に抗う術なし。バッドエンド。
したい演奏。純粋で無垢な、あの不協和音が思い起こされた。あんな音を私は出してみたいのだろうか。惹かれているだけに過ぎないのなら、あの音も違う?
だとすれば、私は一体どんな音を出したいのだろう。何より、見つけ出したその音を出せるのだろうか。
先生の言葉に黙って頷く。ただ、それだけ。心に軽く誓ってみた。伴奏を頑張ってみよう。何か見つかるかもしれない。
これがもし賭け事なら見つからない方に絶対掛賭ける。それでも賭けてみようと思った。当たるはずのない方向へ。
アイゴーバッドエンド。何か違う。英語の教職に聞いてきな。何かを間違って、そこから何かを学ぶんだって、どっかの偉い人も言ってたでしょ。
全身が震える感覚。秒針が揺れる。ハトの声。終わりを告げる時計の音。ジ・エンド。
「それじゃあ。来週はお休みだから、さ来週に。合唱の結果、楽しみにしてるわ」
付け加えたような声。あくまで私を伴奏に集中させたいらしい。
ならば乗ってやる。たとえ滝の底へ落ちようとも、やってやる。そしてあの憎たらしい級長に、千里に言ってやる。どうだ、私はできたぞ。ざまぁみろって。

……ちょっと、何であんな奴のこと思い出してんの。馬鹿みたい。何よ、何で。あぁもう。
「馬鹿!」
罪無きエレベーターの堅い扉を革靴で蹴って、その日は終わった。



残り時間七十時間です。
聞いていた話以上に、合唱の伴奏は難航した。
私の演奏は、先生の言葉を借りると、いわゆる「完璧」なものだった。自分で言うのも何だが。
だが、声と合わせてみると、まるで違った。期待はずれとか、そんなレベルじゃない。スタート地点にも立ててない奴らと同列にされた。そんな気分。
「中岡さん、テンポ早くない? ちゃんと指揮に合わせてよね」
誰かが不満げにそう洩らす。ふざけんな。私はテンポ通りに弾いてる。おかしいのは手前等だろ。
サビの部分だけ勝手に突っ走って、そこをベースに全体のテンポを合わせて弾いたらそれ以外の部分で度々ピアノが一人歩きしている。
指揮も飾りだ。一応は私に合わせてくれてるみたいだけど、ほとんど皆見ていない。すぐに周りの声の速度に流されていっちゃう。
四拍子も取れない馬鹿の群れにぶち込まれた。最悪。頑張るとか言ってたけど、私が頑張っても骨折り損なだけ。意味無い。畜生。畜生。
「まぁまぁ、中岡さんも頑張ってるんだから。僕たちの方がテンポ遅いだけかもしれないしさ」
千里の声だ。こういう時のフォローは上手いくせに肝心の合唱では声が小さい。
ちゃんとテンポ守って唱ってる数少ない人間なのに、声が小さいから周りを引っ張れていない。
さりげなく、気弱なフォローにほっとした自分が一瞬で馬鹿らしく見えてくる。もう、こんな奴しか味方についてくれないの。ホントどうかしてる。
「……もう一度、いってもいい、かな?」
千里に負けず劣らず気弱な性格の女級長が言う。
クラス立候補が一人も出なかったため、仕方なく指揮者になった。
その経緯や日々の雑用務ばかりこなしている立場上の事もあって、クラスの指揮者に対する団結力は皆無に等しい。
お飾りのコンダクターが苦笑してこちらを見つめてくる。お前が決めろと一閃したいけど、それすら言わせない気弱さ。嗤っちゃうね。
「もう一回通しするよ!」
仕方なく、私が全員に声をかける。僅かな舌打ちや愚痴が鮮明に聞こえてくる。あなた達に良い事教えてあげる。
地獄耳じゃなくっても、意外と聞こえる物のよ。こういうのに限ってだけど。
「それじゃ、さん、はい、イチ、ニノ、サン!」
かけ声が分かりにくいのよ。ったく、仕方ないわね。半数が仕方ないで運用されてるクラス。もう一回嗤ってみようかな。
千里が男子の中でほぼ唯一まともに唱っている。罪滅ぼしのつもりか。って何のよ。馬鹿。
食い違う旋律。声。響き。不協和音を醸し出す。あの子供が弾いてた不協和音に方が百倍マシ。
始めから無茶苦茶って分かってる音よりも、要所要所でキモいズレ方した音の方が数千倍気色悪い。吐き気がする。
鋭敏な指先と鍵盤が一体になっている感覚までもが淀んだものに変わっていく。
もうヤだ。さっさと終わりたい。だから早めにスパート。文句たらたらのくせに、こういう時はサビメロで付いてくる。
ちょっと男子またソプラノ唱ってるじゃん。アルト弱すぎ。ソプラノは音外しすぎなのよ。いつもキーキー超音波で喋ってるくせに。
最後にピアノだらだら弾いて終了。怠い。怠い。怠すぎて死んじゃうんじゃない? 死んだらクラスで責任取ってよね。
「中岡さん、本当にごめんね」
千里が鍵盤に突っ伏して死んでる私に声をかけてくる。うるさい。てめーも消えろ。うざったい。てか、頼んだのアンタでしょ。今更謝るな、もう手遅れだって。
「別に……」
死にかけのカエルみたいな声で答える。皆帰った後だから、声が音楽室に反響している。開け放した窓から吹く僅かな風が心地良い。
「やっぱり、こんな直前に頼むべきじゃなかったよね」
「別に……」
イライラゲージ絶賛上昇中。その辺で止めとキきな。吹っ切れたら私も恐いよ、多分。
「でも、やっぱり中岡さんに頼むしかなかったんだよね。でも、それで中岡さんが苦しむのならやっぱり頼まない方が良かったのかもしれない。
 俺が弾いたら良かったんだよね。自分にはそんな技術無いからって言い訳して逃げてきたけど、頑張ったらちょっとくらいなら弾けたかもしれないよね。
 でも頼んじゃったってことは、まだ俺には勇気が足りないって証拠だよね。だから―――――」
「うるさいなこの馬鹿!」
鍵盤を思い切り叩いて顔を上げる。不協和音。初夏の涼しい風と混ざって阿鼻叫喚。耳が不幸せです。
顔を上げて初めて気づいた。千里の顔が思った以上に近い。というか、鼻息が感じ取れるくらいに近い。ちょっとどんだけ近づいて喋ってたのよあんた。
「――――っ」
息を驚いて吸ったフリをして顔を前へ近づける。鼻先を何かが擦った。続いて上唇。カサカサしたゴムみたいなものが当たる。違う、千里の下唇。
目を閉じる。一瞬。息を吐く寸前に押しつけた唇を一気に離した。目を開ける。呆然としてこちらを見つめている千里の人形が立ってる。違った、本物だ。
赤面。頬が上気しているのが鏡を見なくても分かる。彼の瞳に映った自分の輪郭が見えた瞬間、逃走劇が開始された。
「…………ぁ、待って!」
私が最初の一歩を踏み出してから声が耳に届くまで約五秒。音速が急に遅くなったのかな。そうじゃなかったらよほど鈍感な猿ね。そんな猿とキスしちゃったわけだけど。
過去最高速度で階段を駆け下り、荷物を教室に置いたままなのも忘れて無我夢中で逃げ出した。逃走。
この場から逃げ出したかった? そうじゃない、あの馬鹿猿にこんなおかしな行動ばかりとってしまう自分に嫌気がさして逃げ出した。
きっと、そう。本心からしたんだとしたら、私も立派な馬鹿の仲間入りだしね。



そして起爆装置もとい本番までのタイムリミットはいつの間にか三十分に迫っていた。
飛んだ六十九時間は何をしていたのかって? 運よく平日二連休だった。ほんと奇跡。何かの振替休日だったと思う。感謝してもし足りないくらい。
だってあんな事して次の日も学校行かなきゃいけないとか、できるわけないじゃん。
あの後クラスで騒ぎになってたらどうしよう。あの気弱な奴のことだし、自分からバラすことなんてあり得ないだろうけど。
それで、本番はどうするのかって言うと、考え中。全然決めてなかった。心の高鳴りが止まらなくなってもう不協和音と美旋律の区別もつかないくらいの状態が六十八時間くらい続いてた。
今になって今日これから本番だって気づいたけど、何か行こうかどうか迷ってる。
合唱祭自体はとっくの昔、一時間前にもう始まってる。私のクラスは最後の方になってるから、まだ猶予があるって話。
でも、家から学校まで急いでも十五分はかかるから、どんなにギリギリでもあと十五分で決めないといけない。
思考。思考。思考。あぁ頭ぐるぐるして気色悪い。水飲もう。
一階に下りて水を汲む。それを飲む。コップを漱いで洗う。以上の動作を合計して二分かかったので残り十三分です。
あー、あー、アー、アー。もうどうすればいいのか分かんない。そもそもあの馬鹿が悪いんじゃん。そう、全部あいつのせい。あいつが帰り道にあんな相談持ちかけてからだよ。こん畜生が。
「…………ばーか」
私以外誰もいない寝室でぼやく。やっぱり真っ暗なまま。桃色の光が見えているのは二人の時だけだった。鍵盤に触れている時よりも一体になってる感覚が沸き起こっていた。反芻。思い出す。
「……ばぁか、ばか、バカ、馬鹿」
意味もなく、ただ、ツレツレナルママニ。私ってばアホか。自分の方がよっぽど馬鹿みたいじゃない。
「馬鹿、馬鹿、ほんとに馬鹿、私も馬鹿、やーい馬鹿、私も馬鹿、やーい、やーい……」
不思議と空しい気持ちとか、そんなのにはならなかった。あら不思議。心の中の黒い霧がちょっとずつ霞んでく。目は閉じたままだけど、今なら何か垣間見ることができそうな気がした。

だから、気が付いたら全力で自転車を漕いで学校に向かっていた。



本番二分前になって私が到着した時のクラスメイトの顔が今でも忘れられないね。特に指揮者の女級長のあの顔。私は地球滅亡を救った英雄かっての。愛は地球を救うって? 馬鹿馬鹿しい。
頭の中が馬鹿ばっかで構成されてる。本当にお馬鹿さんね。でももう知らない。どうせ皆馬鹿の集まりなんだから、自分も馬鹿な方が溶け込んじゃって目立ちにくいでしょ。
私にとって今世紀最大の馬鹿とは視線を合わせないようにした。あちらも声をかけてこなかったから好都合。リハも無しに、ぶっつけ本番でやる。

全校生に教師陣、それから思ったよりも多い保護者の群集に監視されて入場。パチパチ。御飾の拍手はお済になった?
指揮を一瞬見る。あの気弱な顔の女級長が、今日は何だか心強く見える。気迫、ムードが違うって。肌で感じてる。本番に強いのかな。
コンダクター・ミッションスタート。目標は特にない。多分、報酬も無い。だから突っ走る。ひた走る。見えないゴールめがけて。それだけ。それだけのこと。
周りの音も聞こえない。ただただ熱中。何時から? きっと、横目で盗み見たあいつの音が真っ直ぐ過ぎたから。
ごく平凡で無色透明だった私の演奏に、訳の分からない色が映えた瞬間だった。
そして気づいた時には終了の拍手が鳴り終わっていた。お辞儀、礼。そういえば始めの時にしてなかったっけ。まぁいいや。
終わって、退場して、皆緊張が解けて頬が緩んでる時に、もう一度だけ彼を見た。
たまたま、あっちも私を見ていた。交錯。絡み合う視線。艶めかしい表現に見える? 案外ドライでさっぱりしてるよ。
手招きされて、体育館裏で壁を背にして並ぶ。心拍数が跳ね上がっていた。本番の時の二倍くらい。これで早死にしたら責任とってよね。
「今日は、さ。ありがとう」
「何が」
「来てくれて」
「あんたが頼んだんでしょ。当たり前じゃん」
「うん……ありがとう」
「……えっと、私も遅れて来てごめんね。心配かけたよね?」
「ううん。クラスの皆も、ちょっと反省したみたい。声、練習の時より出てただろ」
「そ、そうだね……」
「…………」
「…………っあのさ!」
「な、何!」
「……察しなさいよ馬鹿!」
「え―――――」
唇が触れ合った。もう一度だけ。今度は瞳は開いたまま。直視する。その瞳奪ってやるわ。いつか。気弱な子羊さん。
そういえば、いつから目を開けてたんだっけ。随分前からだった気がする。太古の昔のことだから忘れちゃったよ。でも、今でも覚えてる。あの鼓動の高鳴りを。

一体になった感触を噛み締めた。なんて馬鹿な不協和音。それでもいい。私にお似合いの色を、ようやく見つけた。



end.
メンテ
オオカミと七匹の子ヤギの童話風アーリオオーリオ 〜時計仕掛けの語りに添えて〜 ( No.165 )
   
日時: 2012/07/15 21:34
名前: 空人 ID:5A/WRLTk

 チックタック チックタック ボーン

 時を刻む音、鐘の音。
 この家に来てはじめての私の仕事を、この家の家族が見つめます。
 色白で優しい目をしたお母さん。
 そして、彼女の面影を引き継いだ
 一 二 三 四 五 六 七 
 七人の可愛らしい子供たち。
 父親の姿は見えませんが、
 彼らは本当に仲が良く、幸せそうに暮していました。
 彼らの中に一人だけ毛色の違う子も居ましたが、
 彼らは本当に仲が良く、幸せそうに暮していたのでした。

 これから起こる怖ろしい出来事なんて、想像もできないほどに――――。


 チックタック チックタック ボーン ボーン

 その日お母さんは一人、街へ出かけることになりました。
 子供たちは留守番です。
「ああ、かわいい子供たち。おとなしくお留守番していてちょうだいね」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい」
「ああ、かわいい子供たち。おみやげを買ってきてあげますからね」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。早く帰ってきてね」
「ああ、かわいい子供たち。戸締りはきちんとしておくのですよ」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。きちんと戸締りしておくよ」
「ああ、かわいい子供たち。知らない人が来ても、扉を開けてはいけないよ」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。大丈夫、きちんと戸締りしておきますよ」
「ああ、かわいい子供たち。おやつは戸棚にありますからね、仲良く食べなさいよ」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。大丈夫、ケンカなんかしないよ」
「ああ、かわいい子供たち。寂しくても泣かないでちょうだいね」
「もう、おかあさん。いってらっしゃい。行く前に日が暮れちゃうよ」
「ああ、かわいい子供たち。おとなしくお留守番していてちょうだいね」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。それは最初に聞きましたよ」
 一人一人にあいさつをして、おかあさんはようやく出発しました。
 子供たちはそれぞれ楽しい事を見つけ、
 何人かで集まったり、
 邪魔されないように隅に行って一人で本を読んだり、
 二人で並んでおしゃべりしたり。
 ゆったりとした楽しい時間を過ごしました。

 チックタック チックタック ボン ボン ボーン

 そんな時間を壊すような激しい音で、家のドアが騒ぎます。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 そして、少し枯れたような男の声が子供たちの耳に届きました。
「おい、ここを開けろ!」
「ダメだよ、おかあさんが開けるなって言ったんだ」
 小さな反論に小さく舌打ちを残して、声の主は遠ざかって行きました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 ちょっとだけおどろかされた心臓を撫で下ろすように。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 その数分後に、また同じ怒鳴り声がします。
「おい、ここを開けろ! オレはおかあさんだぞ!」
「ダメだよ、おかあさんはそんな怖い声じゃない」
 怯えたように返事をすると、声の主は再び去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 言い知れぬ、不安だけを胸に抱いて。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 また数分後、今度は裏返ったような声がします。
「おい、ここを開けなさい! オレはおかあさんですよ!」
「ダメだよ、おかあさんはそんな変なしゃべり方はしない」
 少し考えるような間があった後、声の主は去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 ちょっとだけ、この対応が面白いなって思いながら。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 さらに数分後、声の主はなぜか歌いはじめます。
「さあ、ここを開けなさーい。ワタシはおかーさんですよー!」
「あははっ、おっさん歌うまいじゃん」
 褒めると声の主はちょっと嬉しそうに去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 また来るんだろうなって、期待しながら。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 そして数分後、声の主はツッコミます。
「いや、そうじゃねえよ。おれはここを開けてほしいんだってば!」
「ごめんなさい、開けられないのです。母からきつく言われているもので」
「お、おう……」
 真面目に返すと困ったように、声の主は去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 ほんのちょっとの憐れみを感じながら。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 数分後に、こりずに同じ声がします。
「こんにちはー、宅急便でーす」
「ごくろうさま。そこに置いていってください」
「う、受け取りのサインを……」
「じゃあ、伝票だけ郵便受けに差し込んでください。そこにサインしますから」
「クッちっくしょう!」
 結局ドアは開けられず。声の主は悔しそうに去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 さすがにそろそろかわいそうだと思いながら。

 ドンッ ドンッ ドーンッ!

 家に入ってきたのは、ついに声に留まらなくなりました。
「やってられるかーっ!」
「ひっ、ふ、ふほうしんにゅうっ!」
「きゃー!」
「わー!」
「にげろー!」
「かくれろー!」
「こえぇ、おっさんちょーこえー!」
「えっ、あ、かくれる」
 現れた黒い影は、獣のように怖ろしい声をあげながら、子供たちを追い回します。
 子供たちは思い思いの方向に逃げますが、家の中では限度がありました。
 一人、また一人とつかまってしまい、大きな袋の中に押し込められていきます。
 私はただ見ている事しか出来ません。

 チックタック チックタック ボンボーン ボンボーン

 だけどほんのちょっとがんばって、自分の身体を少しだけ開く事に成功しました。
 振り子の付いた扉が開く小さな音に、一番小さな子が気付きます。
 あとは、素早く振り子の裏へもぐりこみ身を小さくするこの子が、見つからない事を祈るばかりです。
 ついに逃げている子供はあと一人になっていました。
 毛色の違うあの子です。
「ふう、おとなしくしてくれよ。こっちは別におまえらに怪我をさせたいわけじゃないんだ」
「うっせぇっ! 信じられるか、変態野郎!」
「あ、てめえ、何てこと言うんだ! 読者が誤解するだろう!}
「知るかっ! ぼくたちを捕まえてどうするつもりだ! あ、ま、まさか……」
「まて、変なこと想像するな。わかったよ、ちゃんと理由を説明するから、聞いてくれ。
 オレはな、一応お前らの父親なんだ。別居中だったけどな。
 そうだほら、ちょうどお前はオレと同じ毛の色だろ?
 でまぁ、離婚調停っつう面倒臭い手続きの途中なんだが、俺は子供を何人か引き取るつもりでいたんだよ。
 だけどあの女。ああ、お前らの母さんな?
 あいつ、子供ら全員を自分が育てるとか言い出しやがったのさ。
 これには、担当の弁護士も、あいつの友人達もみんな反対したのよ。もちろん俺もな。
 経済的な理由とか、いろいろあるしな。
 そしたらあいつ、お前らを連れて行方をくらましやがったのさ。
 もちろん、調停の場にも出て来ねぇし。
 で、俺はようやくここをつきとめて、お前らを迎えに来たって訳だ。
 まぁ、全員を引き取るのは俺にもちょっと厳しいし、お前らの意見も尊重したい。
 出来ればあいつにもう一度、話し合いの場に出てきてほしいのさ。
 子供らはそのための人質っつうわけだ。
 少々手荒なのは認めるが、こうでもしないとあいつはまた逃げかねんからな。
 そうだ、悪いけどお前、このことをあいつに、母さんに伝言してくれないか?
 頼むよ」
 男の長い話が終わり、あの子も呆然としています。
 理解は出来ても、頭が付いてこないといった感じでしょうか。
 どうにか首だけを動かして、了承の意を伝える事が出来たようです。
 男はそれを見て安堵の表情を浮かべると、
 「頼んだぞ」と言って袋に詰めた子供たちを抱え、家から出て行ってしまいました。
 嵐が過ぎ去った後のような部屋の中に、私は自分の中に隠れていた子を開放します。
 家の中に残った二人の子供は身を寄せ合い、互いの心情をうかがいます。
「聞いてたか?」
「うん」
「……どうする?」
「わかんない、おかあさんに相談する」
「そう、だな。それしかないか……」
 子供たちは困ったような、何かをあきらめたような表情です。
 周りの人の話を聞かないらしい母親と、
 子供の数も覚えていないような父親では、
 今後の彼らの生活に不安を覚えても仕方の無いことでしょう。

 チックタック チックタック ボーン ボーン ボンボンボン

 しばらくして、お母さんが帰ってきました。
 そして、家の中のいつもと違う様子に顔をしかめます。
「ああ、かわいい子供たち。これはいったい……何があったの?」
「おかえりなさいおかあさん。それがね」
 子供たちはつたない表現で、おぼつかないままの言葉で、
 それでも一生懸命にさっきの事を説明します。
 さいしょは落ち着いて聞いていたお母さんでしたが、しだいにその表情はくもっていきました。
「そう、あの人が……」
 お母さんはそうつぶやくと、ゆっくりと姿勢を正します。
「おかあさん、もう一度出かけてくるけど、お留守番お願いできるかしら?」
 お母さんのいつもと違う雰囲気に、
 いつもと違う低い声に、
 向けられた背中に、
 子供たちも何かの決意を読み取ったのでしょう。
 心配そうな顔のまま、うなづき、言葉なくお母さんを送り出しました。

 チックタック チックタック ボンボン ボーン ボンボン ボーン

 それからどのくらいの時間がたったでしょう。
 お母さんは無事に戻ってきました。
 連れ去られた子供たちも一緒です。
 ただその顔は一様に青白く、怖い思いをしたのだとうかがい知れます。
 そして出迎えた二人が一番驚いたのは、お母さんの姿でした。
 利き手である右手には大きな包丁が握られており、
 そこから右半身にかけてべっとりと赤黒い色で覆われています。
 左手は背中に背負った大きな袋を支えており、
 袋からはまだ新しい赤い液体が滲み出し始めています。
「さあ、子供たち。みんなそろったわね?
 じゃあ、晩御飯にしましょう!
 ほら、今日は新鮮なお肉が手に入ったのよ?
 ちょっと固そうだけど、煮込めば問題ないわ。
 さあ、お手伝いして頂戴ね。
 今夜はご馳走にしましょう!
 元気が出るように、ね」
 台所へ向かうお母さんに、料理が得意な子供の二人があわててついて行きました。
 残った子供たちも、何か手伝える事が無いかと焦ったように探します。

 チックタック チックタック ボンボーン ボンボーン ボンボーン ボーン

 晩御飯が出そろうと、家族全員が食卓にそろいました。
 そして、楽しい晩餐がはじまるのです。
「さあ、いただきましょう! 全てのしょくざいに感謝をこめて!」
 子供たちはまだ青い顔のまま終始無言でしたが、
 ふるえる指先は食器をつかむ事もおぼつかなくさせますが、
 食事が終わればきっと元気になることでしょう。

 家族はいつまでも一緒です。
 いつまでも、
 いつまでも、
 幸せに暮らしましたとさ。




 __おしまい
メンテ
バカ ( No.166 )
   
日時: 2012/07/15 22:41
名前: 風雨◆KMGSQ80VIg ID:UjiwdOi6





 ガタガタと座席から伝わるリズミカルな振動に揺られる。気を抜くとだらしなく足を開いてしまいそうで、わたしは睡眠を要求して垂れ下がる瞼を持ち上げた。片田舎の夜の路面電車にはほとんど人がいなかったけれど、隣の彼にそんな姿を見せてしまうわけにはいかなかった。
 彼は一番端の席に座って手すりにもたれかかってすやすやと寝息を立てている。前回の頭髪検査は二ヶ月も前で、もう彼の前髪は規定を無視して鼻とぶつかろうしていた。

「短いほうが似合ってるよ」ゴールデンウィーク明けにいって「いや、おれは長いほうが落ち着くから」とにべなく返されて少しへこんだことを思い出す。

 ガタン。

 一際大きく電車が揺れて、彼は手すりでしたたかに頭を打った。もちろん滑り止め用の黒いゴムの上があるから痛みはないだろうけど、目を覚ました彼は眉をしかめていた。
「……おはよ」
「……いまどこ?」
 キョロキョロとあたりを見渡してから彼は口を開いた。
「沼河。もうすぐ玉川駅」
 とっくに日は落ちていて、窓を覗いても電車の中を写すだけで外の景色は見えなかった。じゃあ後二駅か。と彼はつぶやいた。
「疲れてるの?」
 億劫そうにかがみこんでカバンの中を探る彼を見てわたしは聞いた。
「別に」
「反抗期?」
 笑わせようとして冗談めかしていうと、彼は冷ややかにこちらを見つめていった。
「ちげーよバカ」
「バカとかいうな。気にしてるんだから」
「はいはい」
 うっとうしそうに手をひらひらと振る。もう、といってわたしは背もたれに体をあずけた。
 キイィィと、いやな音をたてて車輪がとまった。

 ――玉川、玉川。お降りの方いらっしゃいませんか? なければ発車します

 乗り口も降り口のドアも開かないまま、すぐに電車は動き出す。形式だけの車内アナウンスはひどく聞き取りづらい。あと一駅だね。といおうと思って、だからなに? と返されるのが怖くてやめた。

 なにもないまま、夜の街を電車は進む。車道からのライトが窓を照らして、昼間はまったく意識しなかった古いピアノ教室の看板が見えた。
 そろそろかな。と思ったときに、車掌がアナウンスを流した。

 ――高見橋、高見橋でございます。お降りの方いらっしゃいますか?

「じゃあな」
「うん、バイバイ」
 わたしが返事をする前に、彼はよっこらせとカバンを持ち上げてつかつかと歩き出していた。精算器にお金をいれて、ドアから外にでる。路面電車の電停は道の真ん中にあるから、当然歩道までの道には信号があって、今日はそれは青く光っていた。カバンを背負いなおして横断歩道をのんびりと渡って、彼はパチンコ屋のやかましくひかるネオンに照らされて路地に入っていった。
 点滅していた信号が赤に変わり、プシューと音を立てて電車が動き出す。
 ああ、今日も話せなかったな。くすぶった気持ちを胸に彼の背中を見送ったわたしは、手すりのゴムに手を伸ばして表面をなぞった。

  ■

「ねぇ、セイラって特進科の高本くんと付き合ってるの?」
「へ?」
 四時間目が終わり、机を寄せ合ってお弁当を食べていると、真正面に座っていたリナが唐突にいった。触角と教師に揶揄される、耳の前にもってきた髪を指先でいじりもう片方の手でケータイのボタンを押している。

「えーまじー?」
「玉の輿じゃん、セイラやるー」
 両隣にすわるミヅホとカオリがやんやと騒ぎ立てる。
「別に、付き合ってないよ」
 わたしもケータイを取り出して画面も眺めながらいってやる。「そんなことどうでもいいよ」とでもいうように。実際、付き合ってなどいないのだからすぐに答えられる。

「でも毎日いっしょに帰ってるじゃん」
 リナが、あたし知ってるよ。と顔に出していった。「えー」とわざとらしくミヅホが声をあげる。
「高本くんって部活してったけ?」
 カオリがこちらを覗き込むようにして見ていった。
「ん、してない」
 ケータイのディスプレイから死んだ魚のような少女がこちらを見つめていた。内側カメラを使って、乱れた前髪を整える。特進科の生徒は勉強で忙しいから部活なんてできない。
「じゃあセイラが部活終わるの待ってくれてるんだ?」
 ニヤニヤと笑いながらミヅホが言う。
「別に、ホントに一緒に帰ってるだけだから」
 彼が放課後なにをしてるのかは知らない。どうせ特進科の生徒らしく勉強でもしてるんではないだろうか。

「でもうちらみたいな普通科のアホと特進の男子が付き合うってありえなくない?」
「だよねー。特進からみたらうちらなんてみんなバカでしょ」
「アタックしちゃいなよセイラ、チャンスだよこれ」
「そうそう」
 二人は勝手に口説けだの付き合えだの口やかましくいった。余計なお世話だ。リナはもうケータイに没頭していた。

「……別に、わたしまだそういうの考えてないから。トイレ行ってくる」
 余裕ぶったせりふを吐き、うざったいくらいにしつこい二人から逃げるように席をたつ。
 そういえば、昨日電車で彼も「別に」って言ってたな。高本もわたしのことうざいと思ったのかな。
「あーあ」
 ふと思いついた推測に、ちょっとへこんだ。

  ■

「セイラ先輩、わたし今日もう帰らないと……」
「あ、うん。ごめんね引き止めちゃって」
 部活が終わった後は校門でだらだらとしゃべって、そのうち高本が来るのでそしたら解散する。毎日そうだった。けど今日は高本がこない。
 市街地へと歩き去ってく、ベースを背負った後輩のミサの背中を見送ってから、ポツンとバカみたいに立ちほうける。

「ちょっと、見てこようかな……」
 特進科の教室は校舎の四階だ。少し外壁が古くなった四階建ての校舎を見上げる。ちょっと覗いてくるだけ。ちょっとだけだしね。



 最上階である四階についてわたしは大きく息を吐いた。階段をのぼるのは意外なほどたいへんで、少し汗をかいてしまった。特進科の生徒は毎日こんなたいへんな思いをし

て教室まで歩いているのか。
 デオドラントで体をふくためトイレに入る。三階以下にある普通科のトイレはむっとするようなにおいだったが、四階はだれも使っていないのではないかというほどきれいだった。

「よしっ」
 鏡で前髪をそろえて、わたしは特進科の教室の前に立つ。
「あ」
 ドアを開けようとして一歩前にでると、取り付けられたガラスからさっきまで見えなかった教室の後ろで生徒が勉強しているのが見えた。かわいいらしい、真面目そうな女子生徒だった。たくさんの参考書を広げていて、とても頭がよさそうに見える。
 隣には高本がいて、やはり同じようにたくさんの参考書を広げいていた。同じように、電車で見るよりもとても頭がよさそうに見えた。『特進からみたらうちらなんてみんなバカでしょ』『普通科のアホと特進の男子が付き合うってありえなくない?』昼間のミヅホとカオリの会話を思い出す。ちくしょう。
 そのまま、後ずさるようにドアから離れて、階段に向かって一歩。そのまま二歩、三歩。走り出す。パタパタと人気のない廊下に上履きの間抜けな音が響いた。



 ――プゥゥゥ。まもなく、龍江高校前、篠崎電停行き電車が発車します。足元にご注意下さい。

 アナウンスがぼんやりと、ずいぶん遠くに聞こえる。電車はアナウンスが流れてから五分ほどで発車する。端の座席はクーラーの風が気持ちよかった。
 やっぱりバカだな、わたし。毎日毎日彼女気取りで校門で高本のこと出待ちして。『別に』っていいたくなるだろうなそりゃ。あーあ。普通科の分際ででしゃばるから、たまたま乗り合わせた電車で話しかけられたからって調子にまで乗って。上手くないか。でも高本は上手いこといってんじゃねーよとかいってくれるかも。
 さっさと発車してくれればいいのに。いま何時だろう。今日、何時まで高本は学校に残るんだろう。バカらしい。何時だっていいじゃないか。そんなこと考えるなよ。

「おう」
 声をかけられて自分がうつむいていることに気付いて、顔を上げて高本が電車にはいってきたことに気付いた。なんで? 勉強してたじゃん、このタイミングでこないでよ。ため息をついて、彼がよくするようにゴムでカバーされた手すりに頭をもたれさせる。
「目、なんか赤いけど大丈夫?」
 よいしょ。と座席の前にカバンを置いてわたしの隣に無遠慮に座った。いつもわたしが座ってる場所だ。
「……別に」
 もう君とは話したくない。だから、君になにか言われてもちゃんとお返事しないよ。ごめんね今まで。ぐるぐると頭の中でことばが巡る。口には出さない。し、出せない。
 彼はそれっきり黙る。沈黙。

 ――龍江高校前、篠崎電停行きの電車が発車します。

 ようやく電車がでた。けどどうでもいい。わたしはただ頭を手すりに預けて目を閉じる。

「部活どう?」
「別に」
 沈黙を破って、珍しく彼のほうから話しかける。でももういいから。気なんて使わないで。
「そか」
 無愛想な返事に、無愛想な相槌。ガタンガタンと電車が揺れるせいで、なかなか落ち着けなかった。リズミカルな振動が、ナイーブになっているわたしをほんのちょっとだけ落ち着かせる。

「去年の文化祭でさ、ギター弾いてたじゃん?」
「うん、軽音楽部だからね」
 またもや唐突に彼は口を開いた。軽音楽部は毎年文化祭で一年の練習の成果を発表しなければならない。面倒な行事、練習室でのセッションのほうが楽しい。なんにもいわないというのも、意外と疲れる。素直に答えるほうが楽だった。
「おれさ、なんか感動したんだよね」
「へえ、そうなんだ」
 ガタガタと電車がゆれて、頭がゆさぶられる。高本のことばにゾワゾワと心が揺れる。車道のライトに通行人のおじさんが照らし出される。
 知ってたんだ、わたしのこと。

「部活なんてくだらないと思ってたけど、やってみたくなったよ」
「うん……」
 あいかわらず、目は閉じたまま。けれど彼はまたもや口を閉ざして、それっきり何もいわなかった。

「勉強は?」
 どうしても、気になった。正しくは、また気になった。思わぬ告白になにもかも吹き飛ばされてしまったような気持ちだ。
「勉強と、ドラムとなにか関係あるの?」
 きっといま目を開けば、彼はわたしのほうを見ているだろう。そう思った。
「ううん、ないや」
 ないね、ぜんぜんない。と、わたしは独白する。勉強なんて関係ない。

 ――次は、高見橋、高見橋でございます。

 車内アナウンスが次の駅を告げる。もう高本の降りる駅か。

「あと一駅だね」
 勇気を出してことばにする。
「ああ、あっという間だったな」
 ドキリと胸が高鳴った。調子のいいやつ。と心のどこかで誰かがつぶやく。揺れる電車の振動で、目を閉じていてもまったく眠れない。
 だんだん電車が失速していく。くい、と停車したときの反動で体が傾いて左腕がだらりとシートに落ちる。指が何かに触れた。温かい。それがぴくりと動いて、一瞬だけ固まってから逃げていった。

「じゃあな」
「ばいばい」
 それが何か考える前に、彼がいった。返事をすると、カバンを持って立ち上がる気配がした。チャリンと小銭を精算器に入れる音がする。

 彼が席を立ってから目を開く。自分が緊張していたことに気付いた。
 外を見る。


「あ」
『じゃ あ な』
 彼は、大きく口を動かして、電停でこちらに手を振っていた。目頭が熱くなる。
『ま た ね』
 わたしも口を動かして、手を振り返す。
 そして電車が動き出して、窓ガラスは暗闇に戻る。そこには顔をほころばせた少女が写っていた。
「ふふっ」
 右手で指先をなぞる。温かかった。

 end. 





メンテ
意味知らず記号成る ( No.167 )
   
日時: 2012/07/15 23:16
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:2rpb94Ok

 流暢な日本語を喋る異国人がいた。
「あの家を、譲ってあげましょう」
「いえ、今は宿舎で生活しているし、僕自身もまだ学生ですから必要ない、です」
「将来役に立ちますよきっと」
「でも身内ならいざ知らず、……………一応。他人、だし。頂いてしまうのはちょっと」
「ではこうしましょう。何年掛かっても良いです。お金を貯めて心がけてください。あの家が取り壊されないように。あの方たちの居場所がいつまでも残っているように」
 その人は、多くの皺が刻まれた顔で優雅に笑った。
 まだ僕が承諾していないにもかかわらず、その話を進める様子から。話をするということに関して、異国人だとしても他の老人とそう違いはないのだということを実感させられた。

 ■ 

「私は死んでも良いよ」
「じゃあ、僕はこう言うべき? 《死んでくれてありがとう》って」
「うん、それで良い。すごく良いよ」
 おさげの女性は、恍然とした表情で夜空を見上げた。そこには三日月が浮かぶだけで、お世辞にも綺麗だとは言えない。人々を見下して笑っているようだと、言う人もいるのだから。
 それでも二人は、蝋燭の灯と月で照らされる薄暗い縁側に座り、静かに手を重ねた。
「死んでも良いよ」
 うわごとのように小声で繰り返し、女性はぎゅっと隣りに座る男性の手を握りしめた。
「うん、すごく。すごく幸せだから」
「じゃあ、僕も何か言うべきかな」
「今度で良いよ。今はまだ、こうしていたい」
「そう」
 それでも無言で静寂の中に浮かぶ彼等は、ただ時の流れに逆らうかのように。鈴虫の音色に包まれる。

 


「はア、そうしてアナタはそう言ったわけですか。死んでも良いッて。理解ができまセーん」
「そう、アンデーには難しいのかな。それとも知らないだけ?」
「アナタはその人のことが好きなのでショウ? アイ・ラブ・ユーと言ってしまえば一発デスのに」
「好きって言葉じゃ物足りないのよ。それに、それはどういう意味なの?」
「アイアンドラブですヨ」
「分かんない、それ」


「アンデー。それは一体何なんですか? 良い匂いがするような気がします」
「カステーイラ」
「黄色くて、ふかふかしてそうです」
「食べてみまスか?」
「……僕に対する嫌がらせですか?」
「アア、そうでした。では見て楽しんでくだサい。…………実際のトコロ、暑さや寒さを感じないアナタたちが羨ましいデす」
「生きている内が花ですよ。頑張ってくださいアンデー。誰かいい人を紹介してあげましょうか? といっても、あの人はどういう性格でどういう人が好みで、こういった言葉に弱いなどとしか僕からは言えませんが」
「いえ、このツラを鬼ダー、化け物ダーなどと言われ。このカステーイラがない限り、日本の人たちは寄ってこないぐらいなので……虚しいダケでスよ」
「ごめんなさい」


「アンデー。この家、私たちのだったからひとつ教えてあげる」
「何をデスか?」
「こっちこっち」
「……っと、こちらにはイロリしかないタタミ部屋デスよ?」
「えいって、囲炉裏を押してみて」
「エイヤッ! ……オオオ、なんと! イロリが動き、その下に抜け穴が!」
「これもこれも」
「ウオオオオ! 板壁が裏返えりマシたよ!」
「ふふふーん、これでアンデーも私たちの家族だね」
「忍者屋敷……なのデスか。ナラバ、アナタ方はジャパニーズニンジャ!」
「……変に期待させてごめんなさい、忍者ではないです。ただ絡繰り屋敷に憧れて家を改造した一般市民でした」


「アンデー、アンデー。あの人たちは一体誰ですか?」
「神社から来た、除霊師さんだそうです。…………ウオオオ! 何と言うことでしょう。よく考えてみれば、あの人たちの所為であなた方がいなくなってしまいます! 今すぐ追っ払わなくては」
「いえ、大丈夫ですよ。だってあの人もあの人も、僕たちに気づいた様子がありませんから」
「ううう、あなた方のお陰で私は今までこの日本で生活が出来ていたというのに……!」
「ですから、要するにインチキだってことですよ」
「うわうおうぐぎょ!」
「変な呻き声を上げて泣かないでください。それにしてもアンデー、日本語上手になりましたね」


「アンデー」
「アンデー」
「いつもありがとね」
「いつもありがとうございます」
 

「こちらこそ、感謝しきれないほどの恩があります……」




「月が綺麗ですね」
「……」
「小っ恥ずかしいので無言にならないでください」
「ずっと前から、私は君のために死んでも良いよって言ってるけれど」
「そうですか」
「うん」
「ずぅっと前に、アンデーにあい、らぶ、ゆーって言葉教えられたよ」
「僕も教わりました、ずっと前に。でも未だに感覚が湧きません。一体どういうものなんでしょうね」
「さあ」
「あいらぶゆうー……アンデーはあらびゅーって言いますね」
「あらぶー」
「らぶー」
「もう省略してらぶーで良いよね」
「ですね」
 そしてひとりの男性は「そうだ」と、思い出したように言葉を続ける。
「これを言ったら、この時間も全部終わりになってしまいます」
「うん」
「けど、もう区切りをつけてしまいましょう」
「……うん」
「何年、いや何十年ここで過ごしたか覚えていますか?」
「覚えてないぐらい、ずっと」
「僕たちがアンデーと出会って。彼ががかすてーらを作りはじめて三十年。それから十年ほど経ちました。そして最近聞いた話によるともう、この家は他の誰かに買われるそうです」
「アンデーは?」
「奥の部屋で」
「……そう」
「彼もまた、僕たちと同様に早かった」
「うん」
「といっても僕たちよりは長かった、けれど」
「さびしいね」
「時が経つのは遅いようで早すぎる」
「さびしい、ね」
「だから、僕はいま。伝えます」
「うん」
「死んでくれてありがとう」
「どういたしまして。それに、あなたこそ」
「今までありがとうございます」
「うん」
「さようなら」
「――本当に、今日は月が綺麗だね」

 ■

「うん、ありがとう。アンディーおじいちゃん」
 これは明治という時代の終わり、そんな何気ないある昼下がりの、縁側での約束事。
 そして一ヶ月も経たない内に僕は知る。
 譲り受ける前の、その木造建ての家の一室で。彼は静かに息を引き取ったという。
「アンディーさん」
 がたつき、虫に食われた木戸。ちいさな虫を潰してしまわないよう木戸を押し、僕は入れ庭へ立ち入った。静かで簡潔。鬱蒼と草木が生い茂ることもなく、虫が湧いている様子もない。砂利を踏みしめ、そうして僕は縁側からおじいさんの家へ上がった。
 年期の入った家だった。誰も居ない。アンディーさんの気配の名残だけが存在した。この雰囲気。この匂い。全てがどこか懐かしい。
「らぶ」
 そんな記号が、何故か頭に浮かんだ。
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幽霊が見つけた仕事 ( No.168 )
   
日時: 2012/07/15 23:24
名前: 四角定規 ID:wyGv.HzM

私の名前は憶無 麗。この名前は私の体感時間で32分ほど前に自分でつけた。その32分の間で私は自分が置かれている状況に関する3つのことを理解した。

まず1つ目は、私が既に死んでいること。
これは一番最初に理解したことだ、どういうわけだかは知らないものの自分が死んだというどうしようもない実感があった。

2つ目は私が幽霊だということ。
これは簡単に理解できた。
通行人が自分の体をすり抜けていくのを知り、通行人の誰もが自分に気づかないのを知れば大抵の人間はきっと「自分は幽霊なんだ」と判断するだろう。
私もその大抵の人間の中の一人というわけだ。最も死んだ実感があったのも理由だが。

3つ目は私に生前の記憶の50%がないこと。
これは理解するのに時間がかかった、死んでから5分程かかったと思う。
私が何故死んだのかを思い出そうとして、そして全く思い出せないことに気がつき「きっとショックで忘れたのだろう」と自分に言い聞かせた。
けれども思い出せないことがあまりに多かったので、私は自分の記憶が50%程消えていることを理解した。
思い出や家族構成等の自分に深く関係のある記憶のみが消えていて、知識面の記憶はハッキリ残っていたので「50%」という表現を使った。

しかしそれにしても思い出や過去が完全に消えてしまったのは、少し辛いと感じる。残っている知識という記憶は私が私でなくても得ることができるであろうものばかりだ。つまりは自分が代えがいくらでもある大量生産された品の一つになってしまった気分だ。私と同じ姿形をして知識を身につければあっというまにもう一人自分が出来上がる。

これからどうするべきだろうか。私の目線があまり高くないこと、それから今着ているセーラー服からして生前は中学生か高校生だったはずだ、なので学校に登校するべきだと思うのだがどこの学校に通っていたのかがわからない。
自宅に帰ることも考えたが、やはり自宅もわからないのだ。

やることもないし成仏すべきだろう、と思い成仏しようとしたが、成仏の仕方というのもわからない、知識のなかに成仏の仕方というのは載っていなかった。


はあ、とため息をついて座り込む。
正面に視線を向ければ忙しそうに、あるいは楽しそうに道を歩く人々が見える。彼等、彼女等はなんらかの目的があってああして歩いているのだろう。
死んでいるとはいえ私も、今道を歩く人々の仲間だったはずなのだ、そして今も同じ人間のはずだ。違いは死んでいるかどうか、たったそれだけに過ぎない。

仲間であるのだから私も今目の前を通った学生服を着た男のように、今私をすり抜けた赤いTシャツを着た女のように目的を持って行動すべきだ。

さてとそうと決まれば早速目的を探すとしよう。

立ち上がり、目の前の人々を真似て歩きだす。今はまだ真似をしているだけだがいつかは真似ではない歩きをしたいものだ。

テクテク、テクテクと歩き始めてから1分、いやもしかしたら3分かもしれない。まあとにかくそんなに時間はたっていないな、私は右足に何か硬いものが当たるのを感じた、そのまま無視して歩こうかとも思ったがこの硬い何かが目的発見につながるかもしれないと、それを拾う。

それは透明なガラスのような正方形の板で、広さは大体マッチの箱くらいだろうか、厚さは小さめの飴玉一つ分くらい、つまり小さい。
そしてとても気になるのが中央に「テクテク」と黒い文字が書かれていることだ、不思議なことに二つの大きな面のどちらから見ても「テクテク」という文字が見えた。

はて、これはなんなのだろうか、不思議だけれどあまり意味のあるものには感じない。とりあえず指でつついてみる。すると、指が、指そのものが意思持ったように動き始めた、それはまるでテクテクと歩くように。

まさか、と50%の疑いと50%の信じる心で板を、そこらへんの小石に投げつけてみる。

小石にぶつかった板を乾いた音とともに転がる、小石は全く動かない。しかし次の瞬間。

テクテク、と歩いたのだ。

この板がどんなものかはある程度理解した、けれどどうやったら板は作られるのだろう。ガリガリと頭をかきながら考える。

と指に何かが当たり。

現れたのはガリガリの文字の板。


これは、使えると思う。


板はぶつかった対象に板ごとに違う効果をもたらす、板を増やすには自分で音を立てれば良いと理解した。

これでなにをしよう。

二枚の板を持ちながらキョロキョロとあたりを見渡すと。

背中に何度も手を伸ばしては引っかき伸ばしては引っかきをしている人がいるではないか。

私はその人物に近づき、手が届いていない部分にガリガリ、という板を当てた。





さて、私にも目的ができた。
板を増やし、困っている人を助けるという目的が。


私は自分の好きな歩き方でテクテクと歩き始めた。
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