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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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オオカミと七匹の子ヤギの童話風アーリオオーリオ 〜時計仕掛けの語りに添えて〜 ( No.165 )
   
日時: 2012/07/15 21:34
名前: 空人 ID:5A/WRLTk

 チックタック チックタック ボーン

 時を刻む音、鐘の音。
 この家に来てはじめての私の仕事を、この家の家族が見つめます。
 色白で優しい目をしたお母さん。
 そして、彼女の面影を引き継いだ
 一 二 三 四 五 六 七 
 七人の可愛らしい子供たち。
 父親の姿は見えませんが、
 彼らは本当に仲が良く、幸せそうに暮していました。
 彼らの中に一人だけ毛色の違う子も居ましたが、
 彼らは本当に仲が良く、幸せそうに暮していたのでした。

 これから起こる怖ろしい出来事なんて、想像もできないほどに――――。


 チックタック チックタック ボーン ボーン

 その日お母さんは一人、街へ出かけることになりました。
 子供たちは留守番です。
「ああ、かわいい子供たち。おとなしくお留守番していてちょうだいね」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい」
「ああ、かわいい子供たち。おみやげを買ってきてあげますからね」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。早く帰ってきてね」
「ああ、かわいい子供たち。戸締りはきちんとしておくのですよ」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。きちんと戸締りしておくよ」
「ああ、かわいい子供たち。知らない人が来ても、扉を開けてはいけないよ」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。大丈夫、きちんと戸締りしておきますよ」
「ああ、かわいい子供たち。おやつは戸棚にありますからね、仲良く食べなさいよ」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。大丈夫、ケンカなんかしないよ」
「ああ、かわいい子供たち。寂しくても泣かないでちょうだいね」
「もう、おかあさん。いってらっしゃい。行く前に日が暮れちゃうよ」
「ああ、かわいい子供たち。おとなしくお留守番していてちょうだいね」
「はい、おかあさん。いってらっしゃい。それは最初に聞きましたよ」
 一人一人にあいさつをして、おかあさんはようやく出発しました。
 子供たちはそれぞれ楽しい事を見つけ、
 何人かで集まったり、
 邪魔されないように隅に行って一人で本を読んだり、
 二人で並んでおしゃべりしたり。
 ゆったりとした楽しい時間を過ごしました。

 チックタック チックタック ボン ボン ボーン

 そんな時間を壊すような激しい音で、家のドアが騒ぎます。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 そして、少し枯れたような男の声が子供たちの耳に届きました。
「おい、ここを開けろ!」
「ダメだよ、おかあさんが開けるなって言ったんだ」
 小さな反論に小さく舌打ちを残して、声の主は遠ざかって行きました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 ちょっとだけおどろかされた心臓を撫で下ろすように。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 その数分後に、また同じ怒鳴り声がします。
「おい、ここを開けろ! オレはおかあさんだぞ!」
「ダメだよ、おかあさんはそんな怖い声じゃない」
 怯えたように返事をすると、声の主は再び去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 言い知れぬ、不安だけを胸に抱いて。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 また数分後、今度は裏返ったような声がします。
「おい、ここを開けなさい! オレはおかあさんですよ!」
「ダメだよ、おかあさんはそんな変なしゃべり方はしない」
 少し考えるような間があった後、声の主は去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 ちょっとだけ、この対応が面白いなって思いながら。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 さらに数分後、声の主はなぜか歌いはじめます。
「さあ、ここを開けなさーい。ワタシはおかーさんですよー!」
「あははっ、おっさん歌うまいじゃん」
 褒めると声の主はちょっと嬉しそうに去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 また来るんだろうなって、期待しながら。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 そして数分後、声の主はツッコミます。
「いや、そうじゃねえよ。おれはここを開けてほしいんだってば!」
「ごめんなさい、開けられないのです。母からきつく言われているもので」
「お、おう……」
 真面目に返すと困ったように、声の主は去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 ほんのちょっとの憐れみを感じながら。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 数分後に、こりずに同じ声がします。
「こんにちはー、宅急便でーす」
「ごくろうさま。そこに置いていってください」
「う、受け取りのサインを……」
「じゃあ、伝票だけ郵便受けに差し込んでください。そこにサインしますから」
「クッちっくしょう!」
 結局ドアは開けられず。声の主は悔しそうに去っていきました。
 子供たちは安心して、もとの遊びに戻ります。
 さすがにそろそろかわいそうだと思いながら。

 ドンッ ドンッ ドーンッ!

 家に入ってきたのは、ついに声に留まらなくなりました。
「やってられるかーっ!」
「ひっ、ふ、ふほうしんにゅうっ!」
「きゃー!」
「わー!」
「にげろー!」
「かくれろー!」
「こえぇ、おっさんちょーこえー!」
「えっ、あ、かくれる」
 現れた黒い影は、獣のように怖ろしい声をあげながら、子供たちを追い回します。
 子供たちは思い思いの方向に逃げますが、家の中では限度がありました。
 一人、また一人とつかまってしまい、大きな袋の中に押し込められていきます。
 私はただ見ている事しか出来ません。

 チックタック チックタック ボンボーン ボンボーン

 だけどほんのちょっとがんばって、自分の身体を少しだけ開く事に成功しました。
 振り子の付いた扉が開く小さな音に、一番小さな子が気付きます。
 あとは、素早く振り子の裏へもぐりこみ身を小さくするこの子が、見つからない事を祈るばかりです。
 ついに逃げている子供はあと一人になっていました。
 毛色の違うあの子です。
「ふう、おとなしくしてくれよ。こっちは別におまえらに怪我をさせたいわけじゃないんだ」
「うっせぇっ! 信じられるか、変態野郎!」
「あ、てめえ、何てこと言うんだ! 読者が誤解するだろう!}
「知るかっ! ぼくたちを捕まえてどうするつもりだ! あ、ま、まさか……」
「まて、変なこと想像するな。わかったよ、ちゃんと理由を説明するから、聞いてくれ。
 オレはな、一応お前らの父親なんだ。別居中だったけどな。
 そうだほら、ちょうどお前はオレと同じ毛の色だろ?
 でまぁ、離婚調停っつう面倒臭い手続きの途中なんだが、俺は子供を何人か引き取るつもりでいたんだよ。
 だけどあの女。ああ、お前らの母さんな?
 あいつ、子供ら全員を自分が育てるとか言い出しやがったのさ。
 これには、担当の弁護士も、あいつの友人達もみんな反対したのよ。もちろん俺もな。
 経済的な理由とか、いろいろあるしな。
 そしたらあいつ、お前らを連れて行方をくらましやがったのさ。
 もちろん、調停の場にも出て来ねぇし。
 で、俺はようやくここをつきとめて、お前らを迎えに来たって訳だ。
 まぁ、全員を引き取るのは俺にもちょっと厳しいし、お前らの意見も尊重したい。
 出来ればあいつにもう一度、話し合いの場に出てきてほしいのさ。
 子供らはそのための人質っつうわけだ。
 少々手荒なのは認めるが、こうでもしないとあいつはまた逃げかねんからな。
 そうだ、悪いけどお前、このことをあいつに、母さんに伝言してくれないか?
 頼むよ」
 男の長い話が終わり、あの子も呆然としています。
 理解は出来ても、頭が付いてこないといった感じでしょうか。
 どうにか首だけを動かして、了承の意を伝える事が出来たようです。
 男はそれを見て安堵の表情を浮かべると、
 「頼んだぞ」と言って袋に詰めた子供たちを抱え、家から出て行ってしまいました。
 嵐が過ぎ去った後のような部屋の中に、私は自分の中に隠れていた子を開放します。
 家の中に残った二人の子供は身を寄せ合い、互いの心情をうかがいます。
「聞いてたか?」
「うん」
「……どうする?」
「わかんない、おかあさんに相談する」
「そう、だな。それしかないか……」
 子供たちは困ったような、何かをあきらめたような表情です。
 周りの人の話を聞かないらしい母親と、
 子供の数も覚えていないような父親では、
 今後の彼らの生活に不安を覚えても仕方の無いことでしょう。

 チックタック チックタック ボーン ボーン ボンボンボン

 しばらくして、お母さんが帰ってきました。
 そして、家の中のいつもと違う様子に顔をしかめます。
「ああ、かわいい子供たち。これはいったい……何があったの?」
「おかえりなさいおかあさん。それがね」
 子供たちはつたない表現で、おぼつかないままの言葉で、
 それでも一生懸命にさっきの事を説明します。
 さいしょは落ち着いて聞いていたお母さんでしたが、しだいにその表情はくもっていきました。
「そう、あの人が……」
 お母さんはそうつぶやくと、ゆっくりと姿勢を正します。
「おかあさん、もう一度出かけてくるけど、お留守番お願いできるかしら?」
 お母さんのいつもと違う雰囲気に、
 いつもと違う低い声に、
 向けられた背中に、
 子供たちも何かの決意を読み取ったのでしょう。
 心配そうな顔のまま、うなづき、言葉なくお母さんを送り出しました。

 チックタック チックタック ボンボン ボーン ボンボン ボーン

 それからどのくらいの時間がたったでしょう。
 お母さんは無事に戻ってきました。
 連れ去られた子供たちも一緒です。
 ただその顔は一様に青白く、怖い思いをしたのだとうかがい知れます。
 そして出迎えた二人が一番驚いたのは、お母さんの姿でした。
 利き手である右手には大きな包丁が握られており、
 そこから右半身にかけてべっとりと赤黒い色で覆われています。
 左手は背中に背負った大きな袋を支えており、
 袋からはまだ新しい赤い液体が滲み出し始めています。
「さあ、子供たち。みんなそろったわね?
 じゃあ、晩御飯にしましょう!
 ほら、今日は新鮮なお肉が手に入ったのよ?
 ちょっと固そうだけど、煮込めば問題ないわ。
 さあ、お手伝いして頂戴ね。
 今夜はご馳走にしましょう!
 元気が出るように、ね」
 台所へ向かうお母さんに、料理が得意な子供の二人があわててついて行きました。
 残った子供たちも、何か手伝える事が無いかと焦ったように探します。

 チックタック チックタック ボンボーン ボンボーン ボンボーン ボーン

 晩御飯が出そろうと、家族全員が食卓にそろいました。
 そして、楽しい晩餐がはじまるのです。
「さあ、いただきましょう! 全てのしょくざいに感謝をこめて!」
 子供たちはまだ青い顔のまま終始無言でしたが、
 ふるえる指先は食器をつかむ事もおぼつかなくさせますが、
 食事が終わればきっと元気になることでしょう。

 家族はいつまでも一緒です。
 いつまでも、
 いつまでも、
 幸せに暮らしましたとさ。




 __おしまい
メンテ
バカ ( No.166 )
   
日時: 2012/07/15 22:41
名前: 風雨◆KMGSQ80VIg ID:UjiwdOi6





 ガタガタと座席から伝わるリズミカルな振動に揺られる。気を抜くとだらしなく足を開いてしまいそうで、わたしは睡眠を要求して垂れ下がる瞼を持ち上げた。片田舎の夜の路面電車にはほとんど人がいなかったけれど、隣の彼にそんな姿を見せてしまうわけにはいかなかった。
 彼は一番端の席に座って手すりにもたれかかってすやすやと寝息を立てている。前回の頭髪検査は二ヶ月も前で、もう彼の前髪は規定を無視して鼻とぶつかろうしていた。

「短いほうが似合ってるよ」ゴールデンウィーク明けにいって「いや、おれは長いほうが落ち着くから」とにべなく返されて少しへこんだことを思い出す。

 ガタン。

 一際大きく電車が揺れて、彼は手すりでしたたかに頭を打った。もちろん滑り止め用の黒いゴムの上があるから痛みはないだろうけど、目を覚ました彼は眉をしかめていた。
「……おはよ」
「……いまどこ?」
 キョロキョロとあたりを見渡してから彼は口を開いた。
「沼河。もうすぐ玉川駅」
 とっくに日は落ちていて、窓を覗いても電車の中を写すだけで外の景色は見えなかった。じゃあ後二駅か。と彼はつぶやいた。
「疲れてるの?」
 億劫そうにかがみこんでカバンの中を探る彼を見てわたしは聞いた。
「別に」
「反抗期?」
 笑わせようとして冗談めかしていうと、彼は冷ややかにこちらを見つめていった。
「ちげーよバカ」
「バカとかいうな。気にしてるんだから」
「はいはい」
 うっとうしそうに手をひらひらと振る。もう、といってわたしは背もたれに体をあずけた。
 キイィィと、いやな音をたてて車輪がとまった。

 ――玉川、玉川。お降りの方いらっしゃいませんか? なければ発車します

 乗り口も降り口のドアも開かないまま、すぐに電車は動き出す。形式だけの車内アナウンスはひどく聞き取りづらい。あと一駅だね。といおうと思って、だからなに? と返されるのが怖くてやめた。

 なにもないまま、夜の街を電車は進む。車道からのライトが窓を照らして、昼間はまったく意識しなかった古いピアノ教室の看板が見えた。
 そろそろかな。と思ったときに、車掌がアナウンスを流した。

 ――高見橋、高見橋でございます。お降りの方いらっしゃいますか?

「じゃあな」
「うん、バイバイ」
 わたしが返事をする前に、彼はよっこらせとカバンを持ち上げてつかつかと歩き出していた。精算器にお金をいれて、ドアから外にでる。路面電車の電停は道の真ん中にあるから、当然歩道までの道には信号があって、今日はそれは青く光っていた。カバンを背負いなおして横断歩道をのんびりと渡って、彼はパチンコ屋のやかましくひかるネオンに照らされて路地に入っていった。
 点滅していた信号が赤に変わり、プシューと音を立てて電車が動き出す。
 ああ、今日も話せなかったな。くすぶった気持ちを胸に彼の背中を見送ったわたしは、手すりのゴムに手を伸ばして表面をなぞった。

  ■

「ねぇ、セイラって特進科の高本くんと付き合ってるの?」
「へ?」
 四時間目が終わり、机を寄せ合ってお弁当を食べていると、真正面に座っていたリナが唐突にいった。触角と教師に揶揄される、耳の前にもってきた髪を指先でいじりもう片方の手でケータイのボタンを押している。

「えーまじー?」
「玉の輿じゃん、セイラやるー」
 両隣にすわるミヅホとカオリがやんやと騒ぎ立てる。
「別に、付き合ってないよ」
 わたしもケータイを取り出して画面も眺めながらいってやる。「そんなことどうでもいいよ」とでもいうように。実際、付き合ってなどいないのだからすぐに答えられる。

「でも毎日いっしょに帰ってるじゃん」
 リナが、あたし知ってるよ。と顔に出していった。「えー」とわざとらしくミヅホが声をあげる。
「高本くんって部活してったけ?」
 カオリがこちらを覗き込むようにして見ていった。
「ん、してない」
 ケータイのディスプレイから死んだ魚のような少女がこちらを見つめていた。内側カメラを使って、乱れた前髪を整える。特進科の生徒は勉強で忙しいから部活なんてできない。
「じゃあセイラが部活終わるの待ってくれてるんだ?」
 ニヤニヤと笑いながらミヅホが言う。
「別に、ホントに一緒に帰ってるだけだから」
 彼が放課後なにをしてるのかは知らない。どうせ特進科の生徒らしく勉強でもしてるんではないだろうか。

「でもうちらみたいな普通科のアホと特進の男子が付き合うってありえなくない?」
「だよねー。特進からみたらうちらなんてみんなバカでしょ」
「アタックしちゃいなよセイラ、チャンスだよこれ」
「そうそう」
 二人は勝手に口説けだの付き合えだの口やかましくいった。余計なお世話だ。リナはもうケータイに没頭していた。

「……別に、わたしまだそういうの考えてないから。トイレ行ってくる」
 余裕ぶったせりふを吐き、うざったいくらいにしつこい二人から逃げるように席をたつ。
 そういえば、昨日電車で彼も「別に」って言ってたな。高本もわたしのことうざいと思ったのかな。
「あーあ」
 ふと思いついた推測に、ちょっとへこんだ。

  ■

「セイラ先輩、わたし今日もう帰らないと……」
「あ、うん。ごめんね引き止めちゃって」
 部活が終わった後は校門でだらだらとしゃべって、そのうち高本が来るのでそしたら解散する。毎日そうだった。けど今日は高本がこない。
 市街地へと歩き去ってく、ベースを背負った後輩のミサの背中を見送ってから、ポツンとバカみたいに立ちほうける。

「ちょっと、見てこようかな……」
 特進科の教室は校舎の四階だ。少し外壁が古くなった四階建ての校舎を見上げる。ちょっと覗いてくるだけ。ちょっとだけだしね。



 最上階である四階についてわたしは大きく息を吐いた。階段をのぼるのは意外なほどたいへんで、少し汗をかいてしまった。特進科の生徒は毎日こんなたいへんな思いをし

て教室まで歩いているのか。
 デオドラントで体をふくためトイレに入る。三階以下にある普通科のトイレはむっとするようなにおいだったが、四階はだれも使っていないのではないかというほどきれいだった。

「よしっ」
 鏡で前髪をそろえて、わたしは特進科の教室の前に立つ。
「あ」
 ドアを開けようとして一歩前にでると、取り付けられたガラスからさっきまで見えなかった教室の後ろで生徒が勉強しているのが見えた。かわいいらしい、真面目そうな女子生徒だった。たくさんの参考書を広げていて、とても頭がよさそうに見える。
 隣には高本がいて、やはり同じようにたくさんの参考書を広げいていた。同じように、電車で見るよりもとても頭がよさそうに見えた。『特進からみたらうちらなんてみんなバカでしょ』『普通科のアホと特進の男子が付き合うってありえなくない?』昼間のミヅホとカオリの会話を思い出す。ちくしょう。
 そのまま、後ずさるようにドアから離れて、階段に向かって一歩。そのまま二歩、三歩。走り出す。パタパタと人気のない廊下に上履きの間抜けな音が響いた。



 ――プゥゥゥ。まもなく、龍江高校前、篠崎電停行き電車が発車します。足元にご注意下さい。

 アナウンスがぼんやりと、ずいぶん遠くに聞こえる。電車はアナウンスが流れてから五分ほどで発車する。端の座席はクーラーの風が気持ちよかった。
 やっぱりバカだな、わたし。毎日毎日彼女気取りで校門で高本のこと出待ちして。『別に』っていいたくなるだろうなそりゃ。あーあ。普通科の分際ででしゃばるから、たまたま乗り合わせた電車で話しかけられたからって調子にまで乗って。上手くないか。でも高本は上手いこといってんじゃねーよとかいってくれるかも。
 さっさと発車してくれればいいのに。いま何時だろう。今日、何時まで高本は学校に残るんだろう。バカらしい。何時だっていいじゃないか。そんなこと考えるなよ。

「おう」
 声をかけられて自分がうつむいていることに気付いて、顔を上げて高本が電車にはいってきたことに気付いた。なんで? 勉強してたじゃん、このタイミングでこないでよ。ため息をついて、彼がよくするようにゴムでカバーされた手すりに頭をもたれさせる。
「目、なんか赤いけど大丈夫?」
 よいしょ。と座席の前にカバンを置いてわたしの隣に無遠慮に座った。いつもわたしが座ってる場所だ。
「……別に」
 もう君とは話したくない。だから、君になにか言われてもちゃんとお返事しないよ。ごめんね今まで。ぐるぐると頭の中でことばが巡る。口には出さない。し、出せない。
 彼はそれっきり黙る。沈黙。

 ――龍江高校前、篠崎電停行きの電車が発車します。

 ようやく電車がでた。けどどうでもいい。わたしはただ頭を手すりに預けて目を閉じる。

「部活どう?」
「別に」
 沈黙を破って、珍しく彼のほうから話しかける。でももういいから。気なんて使わないで。
「そか」
 無愛想な返事に、無愛想な相槌。ガタンガタンと電車が揺れるせいで、なかなか落ち着けなかった。リズミカルな振動が、ナイーブになっているわたしをほんのちょっとだけ落ち着かせる。

「去年の文化祭でさ、ギター弾いてたじゃん?」
「うん、軽音楽部だからね」
 またもや唐突に彼は口を開いた。軽音楽部は毎年文化祭で一年の練習の成果を発表しなければならない。面倒な行事、練習室でのセッションのほうが楽しい。なんにもいわないというのも、意外と疲れる。素直に答えるほうが楽だった。
「おれさ、なんか感動したんだよね」
「へえ、そうなんだ」
 ガタガタと電車がゆれて、頭がゆさぶられる。高本のことばにゾワゾワと心が揺れる。車道のライトに通行人のおじさんが照らし出される。
 知ってたんだ、わたしのこと。

「部活なんてくだらないと思ってたけど、やってみたくなったよ」
「うん……」
 あいかわらず、目は閉じたまま。けれど彼はまたもや口を閉ざして、それっきり何もいわなかった。

「勉強は?」
 どうしても、気になった。正しくは、また気になった。思わぬ告白になにもかも吹き飛ばされてしまったような気持ちだ。
「勉強と、ドラムとなにか関係あるの?」
 きっといま目を開けば、彼はわたしのほうを見ているだろう。そう思った。
「ううん、ないや」
 ないね、ぜんぜんない。と、わたしは独白する。勉強なんて関係ない。

 ――次は、高見橋、高見橋でございます。

 車内アナウンスが次の駅を告げる。もう高本の降りる駅か。

「あと一駅だね」
 勇気を出してことばにする。
「ああ、あっという間だったな」
 ドキリと胸が高鳴った。調子のいいやつ。と心のどこかで誰かがつぶやく。揺れる電車の振動で、目を閉じていてもまったく眠れない。
 だんだん電車が失速していく。くい、と停車したときの反動で体が傾いて左腕がだらりとシートに落ちる。指が何かに触れた。温かい。それがぴくりと動いて、一瞬だけ固まってから逃げていった。

「じゃあな」
「ばいばい」
 それが何か考える前に、彼がいった。返事をすると、カバンを持って立ち上がる気配がした。チャリンと小銭を精算器に入れる音がする。

 彼が席を立ってから目を開く。自分が緊張していたことに気付いた。
 外を見る。


「あ」
『じゃ あ な』
 彼は、大きく口を動かして、電停でこちらに手を振っていた。目頭が熱くなる。
『ま た ね』
 わたしも口を動かして、手を振り返す。
 そして電車が動き出して、窓ガラスは暗闇に戻る。そこには顔をほころばせた少女が写っていた。
「ふふっ」
 右手で指先をなぞる。温かかった。

 end. 





メンテ
意味知らず記号成る ( No.167 )
   
日時: 2012/07/15 23:16
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:2rpb94Ok

 流暢な日本語を喋る異国人がいた。
「あの家を、譲ってあげましょう」
「いえ、今は宿舎で生活しているし、僕自身もまだ学生ですから必要ない、です」
「将来役に立ちますよきっと」
「でも身内ならいざ知らず、……………一応。他人、だし。頂いてしまうのはちょっと」
「ではこうしましょう。何年掛かっても良いです。お金を貯めて心がけてください。あの家が取り壊されないように。あの方たちの居場所がいつまでも残っているように」
 その人は、多くの皺が刻まれた顔で優雅に笑った。
 まだ僕が承諾していないにもかかわらず、その話を進める様子から。話をするということに関して、異国人だとしても他の老人とそう違いはないのだということを実感させられた。

 ■ 

「私は死んでも良いよ」
「じゃあ、僕はこう言うべき? 《死んでくれてありがとう》って」
「うん、それで良い。すごく良いよ」
 おさげの女性は、恍然とした表情で夜空を見上げた。そこには三日月が浮かぶだけで、お世辞にも綺麗だとは言えない。人々を見下して笑っているようだと、言う人もいるのだから。
 それでも二人は、蝋燭の灯と月で照らされる薄暗い縁側に座り、静かに手を重ねた。
「死んでも良いよ」
 うわごとのように小声で繰り返し、女性はぎゅっと隣りに座る男性の手を握りしめた。
「うん、すごく。すごく幸せだから」
「じゃあ、僕も何か言うべきかな」
「今度で良いよ。今はまだ、こうしていたい」
「そう」
 それでも無言で静寂の中に浮かぶ彼等は、ただ時の流れに逆らうかのように。鈴虫の音色に包まれる。

 


「はア、そうしてアナタはそう言ったわけですか。死んでも良いッて。理解ができまセーん」
「そう、アンデーには難しいのかな。それとも知らないだけ?」
「アナタはその人のことが好きなのでショウ? アイ・ラブ・ユーと言ってしまえば一発デスのに」
「好きって言葉じゃ物足りないのよ。それに、それはどういう意味なの?」
「アイアンドラブですヨ」
「分かんない、それ」


「アンデー。それは一体何なんですか? 良い匂いがするような気がします」
「カステーイラ」
「黄色くて、ふかふかしてそうです」
「食べてみまスか?」
「……僕に対する嫌がらせですか?」
「アア、そうでした。では見て楽しんでくだサい。…………実際のトコロ、暑さや寒さを感じないアナタたちが羨ましいデす」
「生きている内が花ですよ。頑張ってくださいアンデー。誰かいい人を紹介してあげましょうか? といっても、あの人はどういう性格でどういう人が好みで、こういった言葉に弱いなどとしか僕からは言えませんが」
「いえ、このツラを鬼ダー、化け物ダーなどと言われ。このカステーイラがない限り、日本の人たちは寄ってこないぐらいなので……虚しいダケでスよ」
「ごめんなさい」


「アンデー。この家、私たちのだったからひとつ教えてあげる」
「何をデスか?」
「こっちこっち」
「……っと、こちらにはイロリしかないタタミ部屋デスよ?」
「えいって、囲炉裏を押してみて」
「エイヤッ! ……オオオ、なんと! イロリが動き、その下に抜け穴が!」
「これもこれも」
「ウオオオオ! 板壁が裏返えりマシたよ!」
「ふふふーん、これでアンデーも私たちの家族だね」
「忍者屋敷……なのデスか。ナラバ、アナタ方はジャパニーズニンジャ!」
「……変に期待させてごめんなさい、忍者ではないです。ただ絡繰り屋敷に憧れて家を改造した一般市民でした」


「アンデー、アンデー。あの人たちは一体誰ですか?」
「神社から来た、除霊師さんだそうです。…………ウオオオ! 何と言うことでしょう。よく考えてみれば、あの人たちの所為であなた方がいなくなってしまいます! 今すぐ追っ払わなくては」
「いえ、大丈夫ですよ。だってあの人もあの人も、僕たちに気づいた様子がありませんから」
「ううう、あなた方のお陰で私は今までこの日本で生活が出来ていたというのに……!」
「ですから、要するにインチキだってことですよ」
「うわうおうぐぎょ!」
「変な呻き声を上げて泣かないでください。それにしてもアンデー、日本語上手になりましたね」


「アンデー」
「アンデー」
「いつもありがとね」
「いつもありがとうございます」
 

「こちらこそ、感謝しきれないほどの恩があります……」




「月が綺麗ですね」
「……」
「小っ恥ずかしいので無言にならないでください」
「ずっと前から、私は君のために死んでも良いよって言ってるけれど」
「そうですか」
「うん」
「ずぅっと前に、アンデーにあい、らぶ、ゆーって言葉教えられたよ」
「僕も教わりました、ずっと前に。でも未だに感覚が湧きません。一体どういうものなんでしょうね」
「さあ」
「あいらぶゆうー……アンデーはあらびゅーって言いますね」
「あらぶー」
「らぶー」
「もう省略してらぶーで良いよね」
「ですね」
 そしてひとりの男性は「そうだ」と、思い出したように言葉を続ける。
「これを言ったら、この時間も全部終わりになってしまいます」
「うん」
「けど、もう区切りをつけてしまいましょう」
「……うん」
「何年、いや何十年ここで過ごしたか覚えていますか?」
「覚えてないぐらい、ずっと」
「僕たちがアンデーと出会って。彼ががかすてーらを作りはじめて三十年。それから十年ほど経ちました。そして最近聞いた話によるともう、この家は他の誰かに買われるそうです」
「アンデーは?」
「奥の部屋で」
「……そう」
「彼もまた、僕たちと同様に早かった」
「うん」
「といっても僕たちよりは長かった、けれど」
「さびしいね」
「時が経つのは遅いようで早すぎる」
「さびしい、ね」
「だから、僕はいま。伝えます」
「うん」
「死んでくれてありがとう」
「どういたしまして。それに、あなたこそ」
「今までありがとうございます」
「うん」
「さようなら」
「――本当に、今日は月が綺麗だね」

 ■

「うん、ありがとう。アンディーおじいちゃん」
 これは明治という時代の終わり、そんな何気ないある昼下がりの、縁側での約束事。
 そして一ヶ月も経たない内に僕は知る。
 譲り受ける前の、その木造建ての家の一室で。彼は静かに息を引き取ったという。
「アンディーさん」
 がたつき、虫に食われた木戸。ちいさな虫を潰してしまわないよう木戸を押し、僕は入れ庭へ立ち入った。静かで簡潔。鬱蒼と草木が生い茂ることもなく、虫が湧いている様子もない。砂利を踏みしめ、そうして僕は縁側からおじいさんの家へ上がった。
 年期の入った家だった。誰も居ない。アンディーさんの気配の名残だけが存在した。この雰囲気。この匂い。全てがどこか懐かしい。
「らぶ」
 そんな記号が、何故か頭に浮かんだ。
メンテ
幽霊が見つけた仕事 ( No.168 )
   
日時: 2012/07/15 23:24
名前: 四角定規 ID:wyGv.HzM

私の名前は憶無 麗。この名前は私の体感時間で32分ほど前に自分でつけた。その32分の間で私は自分が置かれている状況に関する3つのことを理解した。

まず1つ目は、私が既に死んでいること。
これは一番最初に理解したことだ、どういうわけだかは知らないものの自分が死んだというどうしようもない実感があった。

2つ目は私が幽霊だということ。
これは簡単に理解できた。
通行人が自分の体をすり抜けていくのを知り、通行人の誰もが自分に気づかないのを知れば大抵の人間はきっと「自分は幽霊なんだ」と判断するだろう。
私もその大抵の人間の中の一人というわけだ。最も死んだ実感があったのも理由だが。

3つ目は私に生前の記憶の50%がないこと。
これは理解するのに時間がかかった、死んでから5分程かかったと思う。
私が何故死んだのかを思い出そうとして、そして全く思い出せないことに気がつき「きっとショックで忘れたのだろう」と自分に言い聞かせた。
けれども思い出せないことがあまりに多かったので、私は自分の記憶が50%程消えていることを理解した。
思い出や家族構成等の自分に深く関係のある記憶のみが消えていて、知識面の記憶はハッキリ残っていたので「50%」という表現を使った。

しかしそれにしても思い出や過去が完全に消えてしまったのは、少し辛いと感じる。残っている知識という記憶は私が私でなくても得ることができるであろうものばかりだ。つまりは自分が代えがいくらでもある大量生産された品の一つになってしまった気分だ。私と同じ姿形をして知識を身につければあっというまにもう一人自分が出来上がる。

これからどうするべきだろうか。私の目線があまり高くないこと、それから今着ているセーラー服からして生前は中学生か高校生だったはずだ、なので学校に登校するべきだと思うのだがどこの学校に通っていたのかがわからない。
自宅に帰ることも考えたが、やはり自宅もわからないのだ。

やることもないし成仏すべきだろう、と思い成仏しようとしたが、成仏の仕方というのもわからない、知識のなかに成仏の仕方というのは載っていなかった。


はあ、とため息をついて座り込む。
正面に視線を向ければ忙しそうに、あるいは楽しそうに道を歩く人々が見える。彼等、彼女等はなんらかの目的があってああして歩いているのだろう。
死んでいるとはいえ私も、今道を歩く人々の仲間だったはずなのだ、そして今も同じ人間のはずだ。違いは死んでいるかどうか、たったそれだけに過ぎない。

仲間であるのだから私も今目の前を通った学生服を着た男のように、今私をすり抜けた赤いTシャツを着た女のように目的を持って行動すべきだ。

さてとそうと決まれば早速目的を探すとしよう。

立ち上がり、目の前の人々を真似て歩きだす。今はまだ真似をしているだけだがいつかは真似ではない歩きをしたいものだ。

テクテク、テクテクと歩き始めてから1分、いやもしかしたら3分かもしれない。まあとにかくそんなに時間はたっていないな、私は右足に何か硬いものが当たるのを感じた、そのまま無視して歩こうかとも思ったがこの硬い何かが目的発見につながるかもしれないと、それを拾う。

それは透明なガラスのような正方形の板で、広さは大体マッチの箱くらいだろうか、厚さは小さめの飴玉一つ分くらい、つまり小さい。
そしてとても気になるのが中央に「テクテク」と黒い文字が書かれていることだ、不思議なことに二つの大きな面のどちらから見ても「テクテク」という文字が見えた。

はて、これはなんなのだろうか、不思議だけれどあまり意味のあるものには感じない。とりあえず指でつついてみる。すると、指が、指そのものが意思持ったように動き始めた、それはまるでテクテクと歩くように。

まさか、と50%の疑いと50%の信じる心で板を、そこらへんの小石に投げつけてみる。

小石にぶつかった板を乾いた音とともに転がる、小石は全く動かない。しかし次の瞬間。

テクテク、と歩いたのだ。

この板がどんなものかはある程度理解した、けれどどうやったら板は作られるのだろう。ガリガリと頭をかきながら考える。

と指に何かが当たり。

現れたのはガリガリの文字の板。


これは、使えると思う。


板はぶつかった対象に板ごとに違う効果をもたらす、板を増やすには自分で音を立てれば良いと理解した。

これでなにをしよう。

二枚の板を持ちながらキョロキョロとあたりを見渡すと。

背中に何度も手を伸ばしては引っかき伸ばしては引っかきをしている人がいるではないか。

私はその人物に近づき、手が届いていない部分にガリガリ、という板を当てた。





さて、私にも目的ができた。
板を増やし、困っている人を助けるという目的が。


私は自分の好きな歩き方でテクテクと歩き始めた。
メンテ
まだまだ続くよ! ( No.169 )
   
日時: 2012/07/15 23:43
名前: 朔乱 ID:whLMJ2Rw


 コツ、コツ。コツ、コツ、コツ。

 彩乃はハイヒールの音を気にして、立ち止まったり歩幅を狭めたりと、不規則に歩く。
 午前三時。静かな住宅街にハイヒールの音はよく響いた。

 コツ、コツ、コツ。コツ、コツ。

 民家はすでにどこも暗く、街灯だけがぼんやりと彩乃を照らしていた。けれども、数メートル先には周りと違う、ひときわ明るい場所がある。コンビニ、彩乃の目的地。
 明るいとはいっても、コンビニの明かりも街灯と同じぼんやりとしたものだった。
 近くには高校がある。学生たちはよく、部活終わりにこのコンビニにたむろした。客らしい客といえば、それぐらいだった。

 コツコツ、コツ、コツ。コツ。段差。

 彩乃ははっとして立ち止まる。道路とコンビニの駐車場との間には段差があった。慣れた道とはいえ、彩乃はよくこの段差につまずいた。今日もそう。あと少しでつまずくところだった。

 コツコツコツ、コツ、コツ。

 コンビニの前まで来る。やはり誰もいない。店員が一人、ボーッと宙を眺めている。彩乃にはこのほうが都合が良かった。
 彩乃は面倒な客だった。

 ピロンピローン。

 入店を知らせるチャイムがなり、店員が気付く。店員は彩乃だとわかると、肩の力を抜いた。

「いらっしゃいませ、こんばんは。彩乃さん? また、ですか。そんなに面白いんですか?」

「ふふふ。ごめんなさい……でも、ふふふ。でも、ピロンピローンって……何なのよ、ピロンピローンって。いつ見ても面白いわ」

 店員にとっては見慣れた光景。彩乃は入店チャイムの音が大好きで、入るたびに笑った。店員は好青年らしい、一方で営業的とも言える笑みを返すと、彩乃が落ち着くのを待つ。
 彩乃は一通り笑った後、商品には目もくれず、真っ直ぐレジへと向かった。

「そういえば、あなたの名前聞いてなかったわね」

「あれ、そうでしたっけ。何だか今更ですね。でもほら、僕、ちゃんと名札つけてますよ」

 くいっと、店員は名札を持ち上げる。

『小林剛』

「ほんとだ。気づかなかったわ。えーと、こばやしつよしさん?」

「ややこしいですよね。これ、たけるって読むんです。こばやしたける」

「あ、そうなの。ごめんなさい」

「いえいえ、よくあることなんで。一応、ルビ振ってあるんですけど、小さくて読めませんよね」

 剛は名札を外して彩乃に見せる。そこには、小さな文字で『たける』とルビが振っていた。

「さて、今日の注文は何ですか?」

「え? あぁ、そうね。注文ね。すっかり忘れていたわ。……ちょっと待っててね」

 剛は返事をすると、ボールペンと貰われなかったレシートを取り出す。

・薄力粉
・沢庵
・あんぱん(つぶあん)
・ポン酢(前回のとは違うやつ)
・ドレッシング(シーザー)
・チョコレート
・旨味調味料
・お茶
・野菜

「じゃあ、言うわよ」

 いつでもどうぞと剛はペンを構える。

「薄力粉、沢庵、あんぱん、今日はつぶあんでお願い。ポン酢、この前とは違うやつで……」

 カツカツ! カッ! カツ! カツ!

「あら、少し速かったかしら?」

 剛の乱暴なペンの音に、彩乃は注文をやめる。剛は余裕なのを伝えようと笑みを返す。

「もう何度もやっているんで慣れちゃいましたよ。もう少し速くてもいいですよ」

「そう、ありがとう」

「じゃあ、続き言うわよ。シーザードレッシング、チョコレート、旨味調味料、お茶、後は適当に残ってるお野菜を頂戴」

 カツカツカッカッ! カツ!

「はい、確認しますね。薄力粉、浅漬け、あんぱん、かっこつぶあん、かっこ閉じる」

「ふふっ」

「癖なんです! ……続けますよ。前回とは違うポン酢、ドレッシング、旨味調味料、お茶、残っている野菜。以上、八つで大丈夫ですか?」

「うーん、ちょっと待ってね。一、二、三……九。一つ足りない。えーと……チョコレート! チョコレートがないわ」

「え、あれ。ほんとだ。すみません」

「やっぱり、もう少しゆっくり言うべきでしたね」

 イタズラっぽく笑う彩乃に、剛は苦笑いしかできなかった。

「それじゃあ、商品をとってきますね」

 剛はレジを出、カゴをとり、商品棚へと向かう。彩乃はそれを笑顔で見守っていた。

「やっぱり、あの新商品のポン酢、ダメでしたか」

 調味料の置かれた棚の前に来て、剛は言う。

「そう……ね。美味しくなかった」

「そうですよね。すみません。僕もあの後買ってみたんですけど。あ、これは失敗したなーって、変なものをすすめてしまったなーって、後悔しましたよ」

「別にいいわよ。色んな味を知っていた方が料理のレパートリーも増えるし、いい経験になったわ」

「彩乃さん、料理上手そうですもんねー。すごいなぁ、目が見えないのに……あ!」

 しまった! と剛の顔が青ざめる。恐る恐る、剛は彩乃の顔を覗き込むと、彩乃は笑顔を返した。

「いいわよ、それぐらい。事実なんだし。それにね、私は目が見えなくっても、耳が聞こえなくっても、味も、臭いもわからなくっても、こうやって文章が教えてくれるから。別に……いいの」

「そ、そうなんですか……。あれ? 彩乃さん味覚も失っているんですか? それじゃあ……」

「だから、文章が教えてくれるのよ。美味しいものを食べたときはおいしい。まずいものを食べたときはまずいってね」

 彩乃は幼い頃、ある事件に巻き込まれて両親を失った。そのとき受けた心の傷が大きく、彩乃は視覚、聴覚、味覚、嗅覚を失った。それを補うかのように、彩乃の頭には文章が浮かぶようになった。文章が彩乃の身辺を描写することで、目や耳の代わりになった。

「たまに、変な説明が入るんだけどね」

「そうなんですかー。あ、そうだ。彩乃さんレタス好きですよね? 彩乃さんのためにとって置いたんですよ」

「え、本当? 嬉しい。こんな買い方してるとレタスなんて滅多に食べられないから……ねぇ、見せてくれる?」

 コツコツ、コツ。コツ、コツ。

 剛のいる商品棚へと向かう彩乃は、やはりハイヒールの音が気になった。

「そんなに気になるなら、履かないほうがいいんじゃないんですか?」

「……なに? 私はおしゃれをしちゃいけないの……!」

 突然、彩乃に睨まれた剛は驚いて、黙ってしまった。彩乃は文章を読んではじめて自分が感情的になっているのに気付く。

「ごめんなさい。いつも言われてるから……つい」

「いえ、僕のほうこそ、彩乃さんのことを考えずに……」






 ピロンピローン。

「ぷふっ」

「ちょ、彩乃さん!?」

 剛は入ってきた客が自分を笑ったのかと誤解しないか焦った。入ってきた客がガタイのいい、酒の臭いを振り撒いたいかついおじさんだったのが、剛の不安をさらに強めた。

「そんなに慌てると、余計に怪しまれますよ」

「え、あ……はい」

「それじゃあ、私はいつものイスに座っていますね」

 カウンターの中にイスがある。元々は店員が暇なときに座って休むためのものだが、彩乃がここにくるようになってからは、注文を待つ彩乃の席にもなっていた。

「ほぅ、兄ちゃん。楽しそうじゃないか。バイト先に彼女なんか連……


 ☆


 最低だな、私。
 結局、邪魔者になっているじゃないか。
 目が見えなくても、耳が聞こえなくても、文章があるから大丈夫だと。不自由なことがあっても、努力と工夫でなんとかひとりで生きていけると意気込んで……それなのに、今、私は……。

 最低だ。八つ当たりまでしてる。
 人は自分のことしかわからない。他人の痛みや辛さはわからない。そんなこと、ずっと前から知っていたのに……
 だから人と関わるのはやめようと思っていたのに。それなのに、今、私は……


 ☆


「彩乃さん? 彩乃さーん。朝ですよー」

「え、嘘。朝!?」

 ピクッと動く彩乃に合わせて、彩乃を覆う何かも一緒に動いた。それは、彩乃の動きに合わせてパリパリと音を立てる。

「あれ、これは……」

 最近設けられた防災コーナーに置いてある防寒シートだった。

「あぁ、それ。お買い上げありがとうございます!」

 剛の爽やかな営業スマイル。彩乃もそれに応えてにっこりと笑う。

「商売上手ね」

「冗談ですよ。それ、いつも僕が仮眠するときに使っているやつです」

「仮眠……?」

 彩乃はさりげなくカウンター内にあるゴミ箱へ目をやる。そこにはさっき開けたばかりの防寒シートの袋が捨ててあった。

「はい、仮眠です。仮眠。……そうだ! 今日の注文はもう揃いましたよ。後はお会計だけです」

「あ、そうだったわね。ありがとう。そう、あれから大丈夫だった?」

「はい、大丈夫でしたよ。酔っ払いの相手はよくしてますから……はい、どうぞ。五千二百五十八円です」

 剛から商品を受け取ると、彩乃は持ってきた大きめのバッグに入れる。剛もそれを手伝う。一通り詰め終わると、彩乃は硬貨ごと、紙幣ごとに分けられたサイフを取り出す。

「はい、五千二百五十八円丁度いただきますねー。どうぞ、レシートです」

「ありがとう。それじゃあ、またね」

「……あの、彩乃さん!」

 帰ろうとした彩乃を剛は呼び止める。きょとんと立ち止まる彩乃を前に、剛は力んだ。

 少し、間が空く。

「……彩乃さん、本当は見えているんじゃないですか?」

「え?」

 絶対に言ってはいけないことだった。
 幼い頃から彩乃は中途半端だった。
 五感のほとんどを失っている彩乃には不自由なことが多く、他人の助けが必要になることがよくあった。しかし、頭に浮かぶ文章のせいで一人でできることも多かった。
 何ができて、何ができないのか。
 他人にはそれがなかなか理解できなかった。彩乃への関心が低ければ、尚更理解できない。
 そういう奴らは決まって彩乃に「本当は見えているんでしょ?」と言った。
 その言葉はヒ素のように彩乃の心に残り彩乃を傷つけた。いつしか、その言葉は嫌いな人を判断するものさしになった。

「どうして……どうしてそんなことを言うの?」

 理由なんて聞く必要なかった。答えを聞く必要もない。もう、剛は彩乃を傷つける存在でしかない。
 彩乃はハイヒールの音も気にせずに、早歩きで出口に向かった。

「待って! 彩乃さん、何か勘違いしてます!」

「離して!」

 剛は慌ててカウンターを飛び越えると、彩乃の腕を掴む。彩乃はそれを振り払うと、剛を睨みつけた。そんな必要はないのに……。

「彩乃さんの目も耳も、ちゃんと機能しているんです! 彩乃さんの心が、見ることを拒否しているんです。彩乃さんは見たものや聞いたものを、文章というフィルターにかけているんです!」

「あなたは医者なの! それとも私なの!? どうして……どうしてそんなことがあなたにわかるのよ」

「それは……好きだからです。僕が、彩乃さんを、好きだから。だから、わかるんです。ずっと見て来たから……だから、わかるんです!」

「え……?」

 彩乃は固まった。何を言われたのか理解できなくて、何度も文章を読み返す。
 しかし、剛の答えは、答えとしては不十分だった。

「不十分なんかじゃないわ」

 剛が彩乃のことが好きだからと言って、彩乃の辛さがわかるわけじゃない。

「そう、無理かもしれない。でも、でも! 私のために、努力してくれた。わがままだって聞いてくれた。その気持ちを尊重しないなんて、それこそ最低よ」

「えっとー……誰と話しているんですか?」

「え? ……あれ。そういえば私、誰と話しているの? うーん……ちょっと、待っててね」

 彩乃はイスに座ると、目を瞑った。


 ☆

ーーあなたは誰なの?

 私は彩乃の幸せを誰よりも願うもの。

ーーどうして、文章を綴るの?

 彩乃のが幸せになるため。見なくていいものを見なくて済むようにするため。

ーー迷惑よ。

 本当に?

ーー本当。私がどれだけ辛い思いをしたと思ってるの?

 それはよく知っている。でも、見えていたらもっと辛い思いをしていた。そうは考えられない?

ーーそうだったかもしれないわ。でも、もういいわよ。私は、直接この世界を見たい。

 そんなことができるの? 私があなたを守ってきたから、今の彩乃がある。彩乃は、一人で生きていけるほど強くはないよ。

ーー知ってるわ。私が弱いことぐらい分かってる。そうよ、一人では何もできない。

 あ、そう。
 結局、彩乃は剛とくっつきたいだけなんでしょ?

ーーそうよ。それが悪いことなの?


 ☆


「お待たせ」

「あ、大丈夫でしたか?」

 大丈夫、と笑顔で立ち上がると剛の手を取る。

「私ね、さっきの言葉、すごく嬉しかった。さっきは気が動転してて、ひどいこと言っちゃったけど、私も剛さんのこと好きよ。私、剛さんを直接見たい」

「そ、そうですか。でも、今見られるのはちょっと困るかなー。だって、今僕顔真っ赤です」

「ふふっ、私だって真っ赤なはずよ。剛さんは私の真っ赤な顔を見てるんでしょ? そんなの不公平だわ」

「はい、すごく真っ赤です」

「もう……」

 二人は目を閉じると、唇を重ねる。
 長い時間の後、彩乃は目を閉じたまま離れた。

「ん、どうしたんですか?」

「剛さんの最高の表情を見たいと思って」

 照れ笑いをする剛をからかいながら、彩乃は剛への想いを爆発させる。剛を直視したいという想いで頭の中がいっぱいになる。


 ゆっくりと、目を開いた……







ピロンピローン。
メンテ

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