ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

Re: 【匿名祭開催中!】お題小説スレッド【十二月期お題「もしも」:参加表明期間】 ( No.255 )
   
日時: 2012/12/15 23:18
名前: 菊桜◆KIKU/p2anM ID:VKKQNB1s

>>[4366] 誰かの夢が終わる前に

参加表明いたします。
皆さんよろしくお願いします。
楽しくやりましょう!
メンテ
Re: 【匿名祭開催中!】お題小説スレッド【十二月期お題「もしも」:参加表明期間】 ( No.256 )
   
日時: 2012/12/16 00:06
名前: 企画運営委員 ID:wxKfknLI

匿名祭の参加受付は終了いたしました。
これより投稿期間となります。


☆匿名祭参加者名簿(敬称略)

  ・空人     >>[4561] 晴れた日は、召喚日和!
  ・宮塚     >>[5215] 新都会百篇
  ・アリス    >>[5167] アストリッド・シスター
  ・にゃんて猫  >>[5113]【封*淪*録*季】
  ・If     >>[4669] Hearts
  ・修羅雪姫   >>[5182] IXA ノ 物語
  ・風雨     >>166 バカ  >>237 夢を見る彼女
  ・某駐在    >>100 さらば、愛しき日々よ。
  ・伊達サクット >>[2146]やるせなき脱力神
  ・菊桜     >>[4366] 誰かの夢が終わる前に


以上10名を参加者として承認します。
投稿ルールを守って、期日内に作品を投稿してください。
作品投稿期間は12月16日〜31日です。

今回のイベントは“匿名”での投稿になります。
それ故、題名がその人の顔になりますので、題名の付け忘れにご注意ください。

それでは、皆様の投稿お待ちしております。
メンテ
物語は始まらない ( No.257 )
   
日時: 2012/12/22 09:43
名前: 匿名 ID:7kwZewZk


-壱-

 凍てついた轍の上を狼たちが闊歩する。
 やがて、鹿を見つける。
 轍の上を逃げる鹿に、狼たちは後ろから噛み付く。
 噛み付かれた鹿は必死に暴れるが、すぐ狼たちに組み伏せられる。
 白い毛並の狼が鹿の喉笛に噛み付く。鹿はびくびくと体を震わせ、しばらくして血の海に溺れて息を引き取った。
 物語は始まらない。


-弐-

 鹿は轍を外れて小さな林に入った。
 林の中は不思議な草木や蟲たちで溢れていた。
 やがて、花を見つける。
 蒼い花弁をもった花は、甘い香りを出していた。
 鹿はそれにそっと近寄り、花弁に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
 銀色に輝く花の蜜を舌で舐めとる。鹿は微睡むようにしてその花の下に座り込んで眠り、しばらくして甘い甘い誘いの彼方へ沈んだ。
 物語は始まらない。


-参-

 花は役目を終えて静かに散りゆく宿命のままに。
 茎折れた花の花弁はひらり地面に堕ち朽ちる。
 やがて、腐土へと変わる。
 それは大地を緑へと変え、林を森へと変える。
 黄色い森が遠い空へと手を伸ばす。空は青々と澄み渡り、しばらくして宙の鳥を捕まえた。
 物語は始まらない。


-肆-

 鳥は大空の上から黄色い森を見下ろす。
 湖のように、平に塗り潰した景色が広がっていた。
 やがて、蛾を見つける。
 ひゅうらりと蒼穹より舞い降りて鮮やかな色彩を穢す。
 緑に染まった護謨を口に加えて再び天へ舞い戻る。蛾はぎゃあぎゃあと泣き、しばらくして腐って溶け落ちた。
 物語は始まらない。


-伍-

 斑の目をもった蛾が森を彷徨う。
 二本の長い触覚が塵を感じ、風に煽られて反り返る。
 やがて、森を抜け出す。
 ひらひらと紙屑のように攫われていったそれを、巨大な影が閉じ込めた。
 影はそっと優しく包み込んで蛾を幽閉する。影は喜んで、しばらくして緑の絵の具を握り潰した。
 物語は始まらない。

   
-陸-

 人間の少女はひらひらと舞う蝶を掴まえる。
 握った手をそっとひらくと中から蝶が飛び出していく。
 やがて、手に付いた輝きを見つめる。
 きらきら光る自分の手を眺め、すっと身を翻して轍を踏む。
 轍の上を歩いていると、小さな灰色の仔がきて手を舐めた。
 舐めた舌で手首に噛み付く。少女は轍の上に倒れ込み、しばらくして朱色の染みに滲んだ。
 物語は始まらない。
 
 

 螺旋ではなかった 無限に続く回廊の中

 どこから来て どこへ行くのか

 誰も 知らない 
 
 知らない 

 知らない

 知らない


 物語は始まらない。                 
                                   

 
メンテ
しゅうまつラバー ( No.258 )
   
日時: 2012/12/27 03:53
名前: 匿名 ID:uWOZ.giQ

「世界にたった二人だけ生き残ったら、レナはどうする?」
「なんだよ、それ」
「たとえ話だよ。もしもの話」
「そ、そうだな、もし本当にそうなったら付き合ってやっても良いぜ」
「……そうか、その時までにその口の悪さが治ってるといいんだけどな」
「んだとこるぁ」


 何気無い会話。喧騒を交えながらも変わらない絆を信じての言葉。軽く小突きあった後の笑顔。どれも大切で、掛け替えのないものだ。
 だからこそ、この手を伸ばすことは出来ない。
 どんなに言葉を重ねようとも、どんなに時間を費やそうとも。彼との距離が縮まる事はない。
 そんなことをして、逆に彼との距離が離れてしまったら。
 元に戻らないほど、壊れてしまったなら。
 それを思う時、胸の中を支配するのは痛みだけではない。言い知れぬ恐怖だ。怖い。怖くてたまらない。
 身はすくみ、言葉は枯れて、心は凍りつく。
 このままでいれば、いつの日か後悔する日が訪れるに違いない。絶望のまま家に引きこもって涙に溺れる日々を過ごすことになるのだろう。それを知っていても、私の足はいっこうに前に向こうとはしない。それでも――――。

 私は彼が好きなのだ。







「う、くっ……えっ?」


 気が付いた時、私が居たのはひどく窮屈な空間だった。
 いや、空間と呼ぶのもためらわれるくらい狭く暗い場所だ。隙間と言って差し支えないだろう。背中には冷たい鉄の感触。押し付けられている地面はアスファルトの硬さ。
 だけどなぜ、自分がこんな所に居るのかの覚えがなく、記憶を手繰る。
 確か私は特に急ぐ用事もなく、学校からの帰路を歩いていたはずだ。途中でコンビニに寄り雑誌等を立ち読みして、そのまま何も買わずに出てきたのだった。
 そして、道を歩いている時に突然地面が揺れだして。大きな看板がゆっくりとこっちに向かって倒れてきて――――。

 なるほど、背中に当たっているのはその看板だろう。隙間を狭くしているのは入り込んできた瓦礫の欠片だろうか。大きな看板が倒れてくるほどの地震だったのだ、他の建物が崩れてないとは限らないだろう。
 そう考えると、私は幸運だったのかもしれない。ぶつけた背中や肩は痛むが、骨折などのひどい痛みは感じないし出血もないようだ。倒れてきたのが薄い鉄板でなければこんなものでは済まなかっただろう。


「だ、誰かっ! 居ないのかよ!」


 どうにか声も出るようで、小さく光の差している外へ呼びかけてみるが、反応はいっこうに返ってこない。だが、腕に力を入れ看板を持ち上げてみると隙間が大きく広がったので、自力での脱出を試みる。何度か押しつぶされそうになり、手のひらや膝にすり傷を作りながらも、私は隙間から這い出る事に成功した。
 どれくらいの間そこに居たのか、そして地震の被害状況はどれほどのものだったのか。確かめるために私は立ち上がり、目を見開いて周囲に視線を飛ばし、そして驚愕する。

 そこにあったのは、一面の瓦礫の山だった。







「あ、新商品のプリン発見!」
「レナって時々女の子っぽいよな」
「ちょっと待て、時々ってなんだよ。どっからどう見ても女の子だろうが」
「えっ」
「『えっ』ってなんだよ!」
「あ、いや、うん。女の子だったよね……(見た目は)」
「……なにか言ったか?」
「いや、何も」
「っていうか、だったってなに? なんで過去系?」
「さあ、何でかな?」
「誤魔化すんじゃねぇよ!」
「まあ、落ち着けって。あ、そうだ、ほら。プリン奢ってやるよ」
「…………マジで?」


 高校に入学して、はじめての隣の席になった男子は、なんだか妙に気の会う奴で。帰る方向も同じだというので、彼の部活が休みの時にはこうして一緒に帰る機会がある。
 学校帰りに買い食いなんて不良だな等と互いに軽口を叩きあいながら立ち寄ったコンビニは、何故だかいつもより輝いて見えて。大好きなスイーツも、おいしそうな香りをそのパッケージ越しに伝えようとしているように見えた。
 この時にはもう、彼を特別に感じ始めていたのだろう。

 無遠慮に見つめた彼の背中から、目を逸らせなくなるくらいには。







 見渡すかぎり、三百六十度、似たような風景が広がっている。今は西日が差していて、それらを同じ色に染めてしまっているから尚更だ。
 それでも方角が知れたのは、見知ったコンビニの看板が残骸の中から顔を出していたからだった。
 中に居た店員はどうなったのだろうか。数人居た他の買い物客は?
 重なり合い絡み合って、動かせば崩れそうな瓦礫の山をどかすことが出来れば確認は出来るだろう。だが私の力では時間がかかるだろうし、誰も居なければ骨折り損だ。まして、怪我人なんかが見つかってもどうしろというのか。今の私には治療をするための知識も道具も無い、助ける事も出来ずに苦しむ姿を見続けなければならなくなるのだ。


「誰か居ないのか! 返事をしろ!」


 だからせめて声を張り上げる。だけど返ってくるのは風の音くらいなもので、どんなに耳を澄ませても人の声も存在がある事を知らせる音も聞こえてはこない。
 ならば今は見知らぬ他人より我が身の心配をするべきだろう。ふと思いついて、肩に引っかかったままになっていた鞄から携帯電話を引きずり出す。電池は心許無いが、液晶に傷は無く機能も生きていた。
 しかし電波がない。振っても叩いても空にかざしてみても、圏外のままアンテナは一本も伸びてこないのだ。気が付いて周りを見やれば、中継所となっているはずの高い塔などは一切見つからない。そもそもほとんどの建物が倒壊しているのだ。
 その異常さに私はようやく気が付いた。西日は瓦礫の地平線へと沈もうとしているのだ。


「なに、これ……なんなんだよ、これはっ!」


 目の前が一瞬暗くなったように感じた。そこに有るのは負のイメージを連想させるものばかりで、役立たずの携帯にも、破れかけた制服にも、底冷えする風にも、今は明るい夕日にさえ希望の欠片が見つからない。
 驚愕と恐怖と悲愴とが絡み付いてきて、手足は振るえ、歯は噛み合わず、なのに涙は凍りついたかのように沈黙したまま。喉は渇く。カラカラと鳴り出す呼吸音が私を更なる奈落へと誘うのだ。
 世界の終末が頭をかすめた時、一つの台詞が目の前を駆け抜ける。


『世界にたった二人だけ生き残ったら、レナはどうする?』


 気がつくと私は走り出していた。瓦礫に足をとられよろけながらも、身体を前へと運んだ。

 あの時交わした何気無い約束を守るために。







「やあ、おまたせ」
「……今の女、誰だよ」
「さぁ?」
「『さぁ?』 って、随分長く話し込んでたじゃねぇかよ!」
「いや、自己紹介はしなかったし、道を聞かれてただけだから」
「は? 道を聞かれただけで十分も二十分も話し込むのかよ?」
「複雑な道順だったからね。それより、レナはなんでそんなに怒ってるのさ」
「えぇっ? え……と。か、絡まれているんじゃないかと心配したからだろっ!」
「ああ、そうなんだ。ごめんごめん、大丈夫だよ。それに向こうも悪い人じゃ無さそうだったし、心配要らないって」
「そうかよ。じゃあさっさと行くぞ、時間が無くなっちまう」
「ああ、待ってよ」


 彼はイケメンというほど顔が整っているわけではないが、どこをどう切り取っても悪人に見える要素がなく、いわゆる人が良さそうな面構えなのだ。おかげで、さっきのように道に迷った人がたずねて来たり、質問がある下級生に声をかけられたり、係りでもないのに教師たちに次の時間に使う教材を運ばされたり、多種多様な申しつけを世代性別を問わない連中から受け付けるのである。
 人が良いにも程が有ると思うのだが、彼に言わせると『自分を頼ってきた人を蔑ろには出来ない』らしく、できる限りの手を尽くすし、出来ない時は出来る人を探して声をかける。度が過ぎると思えるほどのお人好しだ。
 そのせいで私は、彼が女性に声をかけられる度に綺麗とは言い難い感情を心の中でグルグルとかき混ぜ続けなければならない。そしてその感情は時として彼自身にぶつける事になったりする。
 それは理不尽だし、彼に申し訳ないとも思う。しかし下手に謝ったりしたら、そのせいで彼が気に病む事になり、逆に謝られたりするから性質が悪い。
 人付き合いの良い彼が、特に異性とのそういった関係に陥らない理由がそこに有るのではないかと思うのだが、もちろん私からそれを丁寧に教授するなんて事はしないのである。

 結果、私は自分嫌いに拍車をかけるのだ。







 この時間、本来なら彼はまだ部活をしている時間のはずだ。学校までの近道に公園を抜ける。木々がなぎ倒されてはいるが、建造物の少ない公園はまだ走りやすかった。
 吸い口の破壊された水飲み場からは、噴水のように水が溢れ出している。いつまで出てくれるかわからないが、今の私には願ってもない吸水ポイントだ。
 髪留めが外れるのもお構い無しにそこに頭を突っ込んでカラカラの喉に水を注ぎ込む。そして、頭を振って水気を吹き飛ばし、私はまたすぐに走り出さなければならなかった。
 しかし、私の目はあるものを捉える。
 今迄それを目にしなかった事の方が異常だったのだ。私はその事実に軽く緊張を覚えるとともに、どこか心が安堵するのを感じる。
 救いを求めるかのように、或いはこちらを手招きするように、数少ない瓦礫の隙間から突き出しているのは、人間の腕だった。


「だ、大丈夫か? おい、聞こえてるなら返事しろ!」


 さっきのコンビニでのように無視することも出来た。だけど今度は目に見えてしまっている。それでもこれまでの自分なら見捨てていたかもしれない。
 手を伸ばしたのは、こんな時彼ならどうするかが脳裏をかすめて行ったからだった。
 泥と埃にまみれた手のひらは冷たく、手を放してしまいたい気持ちが徐々に大きくなってくる。呼びかけに応えなかった事から、意識がないのは確かだ。すでに息も無いのかも知れない。そう思うと、脈を確認するのが怖かった。もしそうだとしても、せめて瓦礫の下から出してあげよう。平らな地面に寝かせてあげようと、両腕に力を入れた。
 ひと一人の体重だ、引っ張っただけでは抜けてこないかもしれない。そう考えていたのだから、私は精一杯に力で引こうと思っていた。もし生きているなら、それで意識が回復するかも知れないとも考えた。
 だがそれらの全てが徒労に終わる。腕はすぐに抜けてきたのだ。
 そう、腕だけが。


「ひぃ!? うぎゃあああああっ!?」


 およそ女性らしくない悲鳴を上げた私は、引き抜いた勢いのまま地面に転がった。つかんだままの腕は血の気が抜けていて、身体から離れてから時間が経っていることがうかがえる。おそらく本体は瓦礫のもっと奥に有るのだろうけど、すでに私にはそれを堀り出す気力は残っていなかった。
 震える指先に苦労しながらつかんでいた手を離し、動かない両足を叱咤して学校への道を再び走り始める。もうひと時もこの場所に居る事が嫌だったから。

 そう、私は逃げ出したのだ。







「なにこれ、ちょーかっけー! これが良いよこれにしよう」
「なあレナ、シューズが必要なのは俺なの。俺のを買いに来たの」
「知ってるよ?」
「……じゃあせめて、俺に合うサイズのを持って来てよ」
「おお! これピッタリじゃん」
「聞いてないし、もう履いてるし」
「やっぱ良いよこれ、これ買おう。うん。私も買うし」
「買うんかい……まあ、いいけどさ」


 彼の言葉が聞こえていなかった訳ではない。ただ、彼に本心を悟られまいと一生懸命だったのだ。
 もちろん靴自体を気に入ってない訳でもないが、良さを誇張し声を高めてでもやり過ぎない程度に、そういう小手先を披露するのに必死になっていた。
 ひとえに彼と同じものを身につける口実を捻出する為に。
 彼に合うサイズなら既に見つけてある。素知らぬ顔でそちらを指差せば、彼は仕方ないなっていう顔で同型のシューズを手に取り、そのシューズは私の宝物になった。

 それからの数日ニヤニヤが止まらなかったのは、お気に入りのシューズを手に入れたからだけではなかったのである。







 瓦礫の上を走り抜けたお気に入りのシューズは傷を増やし、泥まみれになってしまっている。その事に歪んだ顔を引っ張りながら、私は視線を持ち上げた。
 ようやく学校の前までたどり着いたのだ。
 しかしその感慨が口から漏れ出すことは無い。そこに有ったのは、目を疑う光景だったのだから。


「……マジ、かよ」


 肯定も否定も返ってきたりはしないが、口から漏らさずにはいられなかった。見開いた目に飛び込んできたのは、見知った風景とは程遠いものだったのだ。
 半年以上を過ごした校舎は面影が残らないほど倒壊し、体育館と講堂は骨組みを残すのみになっている。いつもなら運動部が練習しているはずのグラウンドには大きな亀裂が入っていて、近くの河川から流れてきたのであろう水が流れ込み、大きな川のようになっていた。
 それぞれの放課後を過ごしていたはずの生徒たちはどこへ行ったのだろうか。もちろんここは避難場所としては機能しないだろうから、どこかもっと安全な場所に移ったのかも知れない。だが、それにしたっておかしい。
 地震があってからそれほどの時間が経っているとは思えないのに、校舎に残っていた全員が移動できたのだろうか。怪我をした人や瓦礫に埋まった人は居なかったのか。それともそれらの人は放置していったのか。
 疑問は尽きない。とある予感が思考の隅にわだかまる。しかしそれを確かめる手段も精神的余裕も、私には残っていなかった。
 だから向かうのは自分の目的のある場所だ。真っ直ぐに。足取りはもう覚束ないが、それでも私にはそれにすがるしか残っていない。彼が居たはずの場所は体育館だ。傷だらけのシューズだけが、私の道標になっていた。






 少しずつ積み上げられていく体育館だったもの。日常の欠片。積み重なっては崩れ落ちる。体育館の瓦礫はもう一通り探し終えてしまっていた。次は校舎の方に取り掛かろうと思う。
 もう気付いていた。これだけ探しても、数日が経過しても、目的の彼はおろか他の人間らしき影も見つからない。それどころか、災害救助のための車両やヘリもやってこないのだ。

 ――ここは、この世界に居るのは、私だけなのだと。

 それが解っていても、私は今の作業を止める気は無かった。いずれは力尽き、この世界で最も醜い残骸として醜態をさらすだろうことがわかっていても。
 せめて二人なら、彼が居てくれたなら。きっとそれだけで私は救われるのだ。だから。

 私はこの作業を止める事は出来なかった。






「でも、二人だけの世界じゃあ生きていくのも大変だろうね」
「まぁ、何とかなるんじゃね? 二人居るんだしさ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「……そうだね、何とかなるか。二人なら」
「うん!」
メンテ
魔王の書 ( No.259 )
   
日時: 2012/12/31 22:00
名前: 匿名 ID:kqq6K2/E

<序>

 この書を手にした諸君、君たちは実に不幸である。なぜ不幸なのかは、君たちがこの書を最後のページまで読み進めたときに、きっと分かっていただけると思う。
 最初、君たちはこの書を馬鹿馬鹿しいと思うに違いない。それは仕方のないことだ。だが、どうか懲りずに最後まで読んでいただきたい。そうすれば、君たちは自らに課せられた崇高な使命を理解することができるだろう。

 いいかい。君はこの書に選ばれたのだ。今まさに、世が君を必要としている。そして、君は、高潔な魔王の血と器を持っているのだ。どうか誇ってくれ。
 今この書を得た君もまた、数々の偉大な先人たちと同じように、この悲しくも尊い使命を立派に果たしてくれることを切に願う。

<第一章 勇者の選定>

 君が魔王になるにあたって、真っ先にやっておかなければならないのが、勇者の選定である。君が倒される人物を、あらかじめ決めておくというわけだ。
 勇者を定める際には、満たしておくべき条件がいくつかある。以下に記す。

 一、勇気ある人物であること
 言うまでもないが、勇者が逃げ出してしまっては、全ての計画が無に帰す。何があっても逃げ出さない、豪胆な人物を慎重に見定めること。

 二、体の丈夫な人物であること
 勇者が途中で倒れてはならない。病知らずで怪我知らずの丈夫な人物を選ぶべし。

 三、戦いの経験が豊富な人物であること
 君が倒される際、経験の浅い者の手にかかれば、すぐに死ねない恐れがある。今際に苦しみたくなければ、戦いに慣れた者を選ぶべきである。

 四、カリスマ性のある人物であること
 勇者にカリスマ性は不可欠である。世界を救う英雄たる役割にふさわしい、人徳と人望ある人物を選定すること。

 五、欲のない人物であること
 勇者は魔王討伐後、世界に名を知らしめることとなる。よからぬ野望を持たないような、無欲な人間であるのは必須条件である。

 六、最期に会いたい人物であること
 勇者は君が最期に会う人物となる。この者になら殺されてもよい、という人間を選んでおくとよい。

 七、血縁者でないこと
 君の血縁者は、魔王の血脈を伝えるために存在する一族である。勇者にはなれない。決して選ばないこと。

 以上の条件を満たす者を勇者として選ぶとよい。

<第二章 心身研磨>

 魔王の血を引く者は、その資質を受け継いでおり、総じて極めて優秀である。しかしそれに甘えることなく、心身の研磨を怠らないこと。特に、体力と魔力はあればあるほどよい。
 健康にも配慮し、規則正しい生活を送ることを強く勧める。薬物などには決して手を出してはならない。酒や煙草も慎むとよい。

 可能な限り多種多様な知識も身につけておくとよい。国際情勢に関しては、必ず詳細まで調べておくこと。

<第三章 血の継承>

 魔王の血が絶えてしまってはならない。魔王として覚醒する前に、妻あるいは夫をもらい、子を成すこと。ただし、子は一人に限る。元来魔王の血を持つ者は、むやみにその血を世に広めないよう、子を一人しか成せない。

 妻、または夫になる者は以下の条件を満たす者が好ましい。

 一、体が丈夫であること
 魔王の血が絶えないよう、丈夫な子を産む必要がある。

 二、強い精神を持つ人間であること
 彼または彼女は、配偶者との死別を経験することになる。それを乗り越え、一人でも子を育てられるほど強い精神を持つ人間でなくてはならない。

 三、心から愛する者であること
 この先君を待ち構える運命は、救いのない過酷なものとなる。このときの記憶が支えとなるよう、愛する者とできる限り長い間、幸福な時間を過ごすようにするとよい。

<第四章 覚醒>

 君が魔王として覚醒する際に、まずは、己の存在を死した者として葬り去る必要がある。
 家族を悲しませることになるが、君という存在のまま魔王になれば、彼らは世間の冷たい目に晒されることになる。それだけで済めばまだよいが、憎しみを向けられて殺害される可能性さえある。
 必ず己を何らかの形で死んだことにするように。事故を装うのが最も手軽な方法である。偽の死体を用意しておくと、信憑性も高まる。

 また、言うまでもないかもしれないが、君が死ぬことによって家族が貧窮しないようにしておく必要がある。全員を一生養えるほどの金を溜めておき、君が死んだら家族の手に渡るよう手配しておくのを忘れないよう。

 死亡工作を終えれば、君は旅に出なくてはならない。魔王の力を覚醒させるには、この書の巻末にある地図に示された、魔の祭壇を目指せばよい。道中にはあらゆる魔物たちが溢れるが、君はその全てを打ち負かし、服従させなければならない。苦難を極めることと思うが、魔王の血を引く君ならば、きっと乗り越えられるだろう。健闘を祈る。

 祭壇にたどり着けば、君はいよいよ魔王に生まれ変わることができる。祭壇の中央に立つだけでよい。後の事は君の中の血が知っている。これで君は、晴れて魔王の姿とその莫大な力を手に入れられるのだ。

<第五章 存在意義>

 ここで、なぜ魔王が必要なのかを記しておこう。

 君も知っていることと思うが、数々の国がせめぎ合うこの世界は、常に危うい均衡の中にある。それゆえ争いが絶えず、いつでも非常に不安定な状態だ。
 人間とは愚かなもので、いつもどこかに敵を作りたがる。そうして古代から戦争が頻発しては、世界は緩やかに、しかし着実に疲弊していくのだ。
 愚かな戦いを防ぐためには、共通の敵を作ってやらねばならぬ。そうすることでしか国と国は協力できぬ。魔王はそうした、人類共通の敵として生まれた。膨大な力をもって、国境を越えて残虐の限りを尽くし、全ての人間の憎しみを一身に集めることによって、世界を安定させるのである。
 魔王は、これまで幾度となく起こりかけた戦争を止め、世界の危機を救ってきたのだ。決して光の当たらない場所で、だが。

 我ら一族はこの報われえぬ使命を、いつかこの世に永遠の安寧が訪れるまで、担っていかねばならない。聡い君なら理解してくれることと思う。魔王は、平和のために必要な存在なのであると。君こそが、今ここに訪れている世界の危機を救う真の英雄であるのだと。

<第六章 破壊活動>

 魔王たるもの、悪事を働き、憎しみを集めねばならない。破壊行動が最も効果的な手段といえるだろう。いくつか条件があるので、これも記しておく。

 一、全ての破壊活動は平和のためのものでなくてはならない
 私怨による破壊等をしてはならない。我ら誇り高き魔王の血は、君のために存在するわけではない。世界のために存在するのである。

 二、人命を奪うことは極力避けるべし
 魔王が見境なく人を殺しては、戦争を避ける意味がなくなってしまう。殺すのは戦争にひた走る独裁者、悪魔のような破壊魔法を生み出す研究者など、どうしてもこの世から消さねばならない者のみとするべし。

 三、強国にこそ多大なダメージを与えること
 この危うい均衡を少しでも長く保つためには、全ての国の勢力を均等にすることが必要である。強国の力を削ぎ、小国には恵みを与えるように配慮するとよい。強国の力を削ぐには、武器や鎧の製造所や、鉄鉱石の採掘場、魔法研究所などを狙うと効果的である。畑や食糧庫には手を出さないよう注意したい。真っ先に飢えるのは民たちである。

 四、魔王の仕業であるのを明確にすること
 破壊活動を行う際には、必ず魔王が手を下した結果であることを民に知らしめるように。隣国の仕業にされては、逆に戦争を引き起こすことになりかねない。

 五、魔物は使いどころを選ぶこと
 彼らは暴走すると、民たちを惨殺しかねない。使いどころを間違えないよう留意するべし。命令違反は厳しく処罰せねば、魔物たちはいずれ命令を聞き入れなくなる。彼らは協力者であるが、敵でもあるということを忘れないようにしたい。決して気を許してはならない。

 この破壊活動は、魔王の名が全ての地域に広まり尽くすまで続けるとよい。このとき有用になる魔法なども、巻末に記しておく。ぜひ活用して欲しい。

<第七章 最期>

 破壊活動を終えれば、君は勇者に会いに行かなくてはならない。勇者が君を己の敵と認識し、倒しに来てもらえるよう、何らかの行動を起こさねばなるまい。

 最も効果的な方法は、勇者にとって一番重要な人間をさらうことだ。勇者が親であるならその子を、恋人がいるならその恋人を。とにかく勇者が見捨てられえぬ人物を選び、さらうとよい。複数名でもよいが、死なさぬよう丁重に扱うこと。
 勇者が魔王を倒せば容易に見つけられる、そして安全な場所に閉じ込めておくとよい。

 決戦の場所は、勇者が間違いなくたどり着ける場所にしておくとよいが、他の者が訪れえぬような場所である必要がある。難所に設定し、最奥で待ち構えながら、手がかりや休憩場所を設置するなど、勇者の手助けをしてやるとよいだろう。

 いよいよ決戦のときを迎えたら、勇者は懐かしい人物であると思うが、決して正体を明かしてはならない。あくまでも残虐非道な魔王を演じきること。真実は常に闇の中に残しておかねばならない。
 勇者にはそれなりに苦戦させ、いくつか傷を負わせてやるとよい。無傷で帰ってきては疑われる恐れがあり、またこのときの負傷が、世に勇者を勇者と認めさせる証拠となろう。だが殺さぬように細心の注意を払うこと。

 倒されるときは、魔法で勇者が魔王を倒す瞬間をできるだけ多くの人間が見届けられるようにするか、もしくは勇者が魔王を倒したという確固とした証拠を残すようにすることを忘れないように。ここで失敗しては、今までの努力が全て水泡に帰す。くれぐれも注意するべし。
 勇者があまりに弱いときは、気づかれないよう手を貸してやるか、上手く自害するとよい。
 君の最期が、少しでも安らかであることを願っている。

<終わりに>

 君は、魔王の血族として生まれてきたことを呪うだろうか。だが、もしも普通の人間として生まれてきていたら、とは考えないで欲しい。
 我々は、我々にしか果たせぬ、この世で最も偉大な使命を負う者たちなのである。己の手を汚すことと引き換えに、世界に平和をもたらせる唯一の存在なのである。

 魔王の、孤独な英雄たちの高邁な魂は、君と共に。



 必ずやこの世界に平穏を   初代魔王ディレル=オーマ

 魔王になれたことを誇りに思う   二代目魔王マイク=オーマ

 我が身をこの世の刹那の平和に捧げる   三代目魔王シモン=オーマ

 私たちの子孫らが、少しでも長い間、魔王にならずに済みますよう   四代目魔王アリア=ヒーロ

 君もまた、誇り高き我らの仲間だ   五代目魔王ジェイソン=ヒーロ

 これまでの魔王と、これからの魔王たちの魂の平穏を願う   六代目魔王レムレカ=ヒーロ

 妻よ、娘よ、幸せに   七代目魔王ビリー=ヒーロ
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
パスワード (記事メンテ時に使用)
コメント

   クッキー保存