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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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Re: 【二月期お題「機械」】お題小説スレッド【十二、一月期匿名祭:回答期間】 ( No.270 )
   
日時: 2013/01/31 02:35
名前: 企画運営委員 ID:0CC77ZRI

【第二十回総評】
 今回の匿名祭は、前回よりも熾烈な争いになりましたね。実質一位が三名というのは、すばらしいことだと思います。回数を重ね、互いの作品を読み慣れてきたことも一つの理由でしょうか。皆さんお疲れ様でした。
 いつもながら、今回もとても面白い作品が集まりましたね。設定の凝った作品、話を動かそうとする強い意志が見られた作品、そして、もちろん長さが全てではありませんが、中編のような長い物語も多かったです。いつも以上に書き手の気合が感じられる作品が多かったように思います。しかし、だからこそでしょうか、特に文章において、気を遣いすぎて少しばかり装飾過多になってしまった作品が、とても多いように感じました。匙加減の難しさについては毎回述べているような気もしますが、やはりやりすぎず、減らしすぎずの調節は本当に難しいことですね。
 参加者が多かったこと、そして回答のみの参加者さんを得られたことはとても喜ばしいことです。次の回は、年が明けて、そして二十回を越えて初めての回となります。大学生の皆さんはそろそろテストも終わる頃合でしょうし、大学受験生の皆さんも少しずつ受験地獄から解放される頃でしょう。たくさんの参加があればいいなと思います。
 遅ればせながら、お題小説スレッドを今年もよろしくお願いしますね。まだまだ厳しい寒さが続きますので、お身体にはくれぐれもお気をつけて。
メンテ
Re: 【二月期お題「機械」】お題小説スレッド【十二、一月期匿名祭:回答期間】 ( No.271 )
   
日時: 2013/02/01 00:12
名前: 企画運営委員 ID:JIAjcAPA

第21回「機械」の作品投稿期間となりました。
作品投稿期間は2月1日(金)〜2月15日(金)までとなります。
ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
皆様の力作お待ちしております。
メンテ
日々 ( No.272 )
   
日時: 2013/02/04 01:10
名前: ひみつのにんにくちゃん! ID:wYED/Y..

 うぃーんがしゃん。うぃーんがしゃん。
 うぃーんがしゃん。うぃーんがしゃん。
 うぃーんがしゃん。うぃーんがしゃん。

 うぃー……ん……。がしゃん。


 ◆


「お腹がすいてきたな、カフェにでもよるか」
「いいわね。私もゆっくりしたいし」
「じゃあ、どこにする?」
「えーと……。あ、ここ! こんなとこにあったんだー! 結構一部でおいしいって有名な店なのよ」
「じゃあ、ここにするか」

「うまいね、ここ」
「うん。コーヒーの香りがたまんないぃー」
「お、いうねえ。じゃあこのホットドッグは……。ソーセージの旨みが後からおいかけてくる、って感じだな」
「ずっと思ってたんだけどさ、後からおいかけてくるって表現、ピンと来ないよね」
「ははは」


 ◆


「今日、星綺麗だねえ」
「冬は空が澄んでるな。本当に綺麗だ。本当に」
「でも、寒いねえ」
「こうすれば、温かいだろう。俺も、お前の温もりで温かいよ。一石二鳥だな」
「温かい……。ずっと、一緒にいたいわ」
「なあ」
「うん?」
「えっと……、結婚……してくれないか。俺も、お前と一緒にいたい。ずっと、ずっと」
「ありがとう。私もよ」


 ◆


「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。あなた」
「この国の将来の担い手になるかもしれないロボットを作ってるんだ。帰りが遅くなるかもしれないけど、いいか?」
「うん、待ってる。ずっと」


「ただいま。遅くなってしまった」
「おかえりなさい。ごはん、用意しておいたわよ」
「ああ、ありがとう。起きててくれたんだな。いきなりだけど、この後……」
「一緒に、寝ましょう。ごはん食べてる間、シャワー浴びてくるわ」
「考えていることは同じ、ってわけか」
「ふふふ」
「愛している」
「ええ、私も」


 ◆


「ははは。こいつはやんちゃだなあ」
「ええ。とっても元気に育ってるわね」
「俺に似たか」
「ふふふ、だとしたらさぞかし立派な科学者になるんでしょうね。楽しみだわ」
「お前には似てないだろう」
「あら、案外私はやんちゃだったのよ」
「意外だな」
「おとうさーん! おかあさーん! あそぼ!」
「おう、そうだな! 何して遊ぶか?」


 ◆


「ただいま」
「おかえりなさい、あなた」
「今日さ、完成させなければならないロボットがあるんだ。だから家に置かせてくれ」
「分かったわ」
「そういえば、今日は寒いな……。星が綺麗だったよ」
「5年前の今日も、丁度こんな日だったね」
「え?」
「プロポーズしてくれたじゃない、もう」
「ああ、ごめん。そうだったな」
「何なの、もう。久しぶりに、やりたいなと思ってたのに」
「ごめん」
「まあいいわ。ストーブつけるわね」


 ◆






 妻が死んだ。
 息子が死んだ。
 俺のせいだ。


 君さえいれば何もいらないんだ君さえいれば何もいらないんだ。
 あのストーブが、あのストーブのせいで。
 俺の持ち帰ってきたロボットのせいで。
 引火するとは思わなかったんだ許してくれ許してくれ許してくれ。


 ◆


 お前は幸せだったかい。
 俺は懲りずにロボットを作ってるよ。会社は辞めた。会社で培った知識で、材料をそろえて、一人でロボットを作ってる。
 君の名前をつけたんだ。馬鹿だろう。
 馬鹿だと笑ってくれ。
 プロポーズした日を忘れるような馬鹿な俺を、もっと怒ってくれ。
 まだおかしい話をしていた、付き合っていたころのように、笑ってくれ。
 もう一度、


 ◆


 俺はもうだめかもしれない。
 会社に勤めていたころの金が尽きそうだ。もうろくに食べ物も食べれてない。
 お前が居たら、もっと食べ物を買う時のやりくりもうまかったんだろうなあ。
「アナタ……チョウシハ、ドウデスカ」

 もう、だめかもしれない。
 お前がいないと、とても――


 ◆








 ういーんがしゃん。ういーんがしゃん。
 ういーんがしゃん。ういーんがしゃん。
 ういーん……がしゃん。ういー……ん。







「ワたしハ……シアわ――










fin
メンテ
螺旋れた心臓 ( No.273 )
   
日時: 2013/02/03 21:35
名前: にゃんて猫 ID:yuNxBr2M


オハヨウゴザイマス。オハヨウゴザイマス。
私ノ名前ワ、ディーニーデス。
今日モ、ガンバッテ、仕事ヲシマス。
オハヨウゴザイマス。オハヨウゴザイマス。


「ああ、ようやく終わった」
 少年はひとつ大きく伸びをして、それから、ひとつ大きな欠伸をして立ち上がった。
 少年は大きな服を着ている。少年の体よりも、ずっと大きな服だ。
 少年は銀色の髪をしている。陽の光を受けてとても綺麗だ。
 少年は淀んだ瞳をしている。朝日を見ても少年は目を閉じない。
 少年は白い肌をしている。どこへ行ってもそれは輝いて見えた。
「今日はどこへ行こうか」
 少年は、誰言うことなくそう呟いて、ゆっくりと歩き出した。
 少年の歩く地は、とても硬く、凸凹している。
 少年の行く先は、遠くに聳え立っている。
 少年の頭の上は、透き通った赤褐色の空だ。
 少年の周りには、錆びたモノ達がたくさん積まれている。
 少年は、キリキリ五月蠅い螺旋を巻く音に足を止めた。耳の後ろで、声がした。
「何をしているんだい」
 少年は振り返って声をかけた。
「仕事デス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタはキイキイ五月蠅い音を出しながら、少年に答える。
「そんなことはしなくていい。もう終わったんだ」
 少年は右手の一番短い指の隣の指を、空に向かって立てた。
「空は赤い、地は黒い、君が仕事をしなくても、誰も何も言いやしないさ」
 ガラクタは折れた金属の棒で地面を引っ掻き回し、泥に埋まった螺旋を拾い上げようとする。
「仕事デス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタはピンとかシャンとか喧しい音を出しながら、少年に答える。
「もう仕事なんかしなくていい。君は自由だ。もう―――はどこにもいない。君は自由だ」
 少年は灰色の砂の積もった地面を蹴った。その下から、どろりとした黒い沼が顔を覗く。
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
「それは―――が終わる前の仕事さ。今はもう、君に仕事はない」
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタは少年がどんな言葉を紡いでも、まったく振り向こうとしなかった。
「誰のために仕事をしているんだい」
「ソレワ、―――ノタメデス」
 ガラクタは、頭に刺さった大きな螺旋をギリギリと巻いた。螺旋が震え頭でっかちな体が大きく前に傾いた。
「じゃあ、やっぱり君の仕事はない。もう―――はいないんだ」
 少年はガラクタに後ろからそっと近づいた。ガラクタはまだ、沼にはまった螺旋を先の折れた腕で取ろうとしている。
「イイエ」
 ガラクタの発条の心臓が脈打ったように、少年は感じた。
「アナタガ居マス」
 少年はじっとガラクタを見つめていた。
 しばらくして、少年はガラクタの体をそっと両手で持ち上げた。中でカラカラと何かが鳴っている。少年はそれを肩に背負って歩き始めた。
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタは少年の肩の上でずっと、五月蠅い音を出し続けていた。


「君ってどんなものを食べてるの? それともお腹、すかないのか」
 少年はガラクタに話しかける。右手に小麦の稲穂の塊を持って。
 少年はガラクタをじっと見る。左手に葉緑体の集合を持って。
 少年はガラクタを知らなかった。口に小麦を放り込みながら、そう思考している。
「ディーニーワ食事ヲシマセン。ディーニーワ呼吸ヲシテイマス」
「呼吸?」
 ガラクタのビービー喧しい音声を聞いて、少年はおうむ返しに尋ねた。
「ディーニーワ空気中ノ毒素ヲ分解シテエネルギーヲツクッテイマス。ディーニーワソレヲ電気エネルギーニシテ体内ニ蓄電シテイマス。ディーニーワ空気モ掃除シテイマス」
 ガラクタは自慢げにガラガラの音声を鳴らし、少年はまた呆れた様子で空を見ていた。
「無駄だよ。空はもう青くない、どこまでも腐った色が広がっているだけだ。君が全部を綺麗にできるはずがない」
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ空気モ掃除シテイマス」
「その口ぶりだと、さっきまでしていたのは地上のゴミ拾いか何かかな」
 少年が尋ねると、ガラクタはそのドラム缶みたいな胴体の上に付いた不格好なバケツ型の頭をギリギリ音を立てて横に振った。何度も何度も横に振り、途中で何かがバキリバキリと音を立てて折れ曲がった。
「イイエ、イイエ、違イマス」
「じゃあ何を」
「ディーニーワ、ディーニーワ、ディーニーワ……――――」
 ガラクタはしばらくその場でぐるぐる回転し、るぐるぐと旋回し、ぐるぐると転がった。そして、ズタボロになったスピーカーから、言葉らしきものを紡いだ。
「ディーニーワ―――ヲ探シテイマシタ。ディーニーノ仕事ワ―――ヲ探スコトデス」
「へえ」
 少年は急に興味を失ったように、冷めた口調でそう言った。
「シカシ、イエ、デモ、デスカラ、オソラク、イイエ、シカシ」
 ガラクタは言葉を選ぶように意味の無い逆接的な単語を並べるだけ並べて、くるくると空回った。
「デモ、アナタガ居マシタ。アナタワ―――デス」
「そうかい」
「アナタワ―――デス」
「うん」
「アナタワ―――デス」
「…………」
 少年はそれ以上何も応えずに立ち上がり、ガラクタを脇に抱えて歩き出した。
「ディーニーワ―――ヲ見ツケマシタ。ディーニーニワモウ仕事ガアリマセン。ディーニーニワモウ仕事ガアリマセン。ディーニーワ仕事ヲシテイマセン。ディーニーワ仕事ヲシテイマセン」
 ガラクタはその間ずっと、訳の分からない言い訳をするようにずっと怒鳴り続けていた。


「……さっき言ったことの続きだけど」
 何のきっかけもなく、少年が突然口に突いて言い出した。
「君の言うことを総合すると、君は―――のために―――を捜す仕事をしているのかい? それって不自然じゃないか?」
 ガラクタの音声発生器が一時停止し、再び動き出す。キリキリと何かが螺旋を巻いた。
「不自然、デワ、アリマセン。ディーニーワ―――ヲ探スノガ仕事デス」
「君に仕事を与えた―――がいるなら、―――を捜す必要はない。違うかい?」
 少年の問いに、ガラクタはガタガタカタカタと震えた。それピピピピッピピピかピピッピらピピピピピッピピピピッピと変ピピピピなピッピ音を発し始め、少年の発し終えたことによって発生した矛盾の穴を埋めるべく、あーだーこーだーそーこー言ってキィキィ言ってみるが、すべて錆びきった体の中で反響するばかりで、外にはひとつとして漏れ出なかった。
「チガイマス、チガイマス、チガイマス、チガイマス、チガイマス、ディーニーワ、ディーニーワ、ディーニーワ、チガイマス、チガイマス、ディーニーワ―――ヲ探スノガ仕事デス。ディーニーワディーニーワディーニーワ……」
 ガラクタの荒唐無稽な戯れ言に少年はひっそり湿った洞窟に吹くすきま風みたいに息を吐き出して、いつの間にか止まっていた両足を再び動かして歩き始めた。


 少年は、眼前に聳え立つ塔を見据えた。
 少年は、横目でガラクタを見た。
 少年は、左手で濁った水を飲んだ。
 少年は、右手でガラクタを支えた。
 少年は、頭で考えるより先にその一歩を踏み出した。
 少年は、体が動くより先ににガラクタのことを想った。
「君はここにいるんだ。絶対についてくるなよ」
 そう言って少年はガラクタを散乱した部品の庭の軒先に置いた。ガラクタはボルトを口の中でカラカラ転がして言った。
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
「そうだ、ここで掃除でもしていればいい。絶対に上には行くな」
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
「うん、それでいい。僕はすぐ帰ってくるから、それまでここで待っていろ」
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ―――ヲ探シテイマス」
「ここにいてくれ。そうすれば君の仕事は達成される」
 少年がそう告げると、ガラクタは急にガタガタになった首を跳ね飛ばしそうな勢いで立ち上がり、それから不自由な腕を可能な限り大きく振って飛び跳ねてみせた。
「本当ニ? 本当ニ?」
「本当だとも。ああ、きっとね」
「ディーニーノ仕事ワ達成サレマス! ディーニーノ仕事ワ達成サレマス!」
「そうとも、君の仕事はこれで終わる」
「本当ニ? 本当ニ?」
「本当だとも。それじゃ、行ってくる」
 少年はガラクタを残して、煉瓦造りの塔へ入っていった。
 ガラクタは呼吸をしていた。


 少年は悔いていた。―――を置いてきたことを。
 少年は恨んでいた。―――を残してきた自分を。
 少年は泣いていた。―――を独りにしたことを。
 少年は前を向いた。―――は、もう決して後戻りできない。ここまで来てしまったから。
 少年がぐるりぐるぐるぐるりと巡る螺旋階段を駆け上がると、小さな小さな鉄の扉が待っていた。
 扉はギシギシと軋んでいて、誰も垢ひとつ付いていないノブに触れていない。
 少年はノブを掴んで手首を回し、それからぐいっと前に押した。ドアは耳障りな音とともに、呆気なく開いた。
「やあ」
 少年はノブから手を離し、椅子に腰掛けた人形の兎に話しかける。
「相変わらずだね、元気にしてたかい?」
 人形の兎は作り物の毛をからだに生やしていた。
 人形の兎は縫い物の鈍色の服を着せられていた。
 人形の兎は紛い物の耳を立てて息を潜めていた。
 人形の兎は本物の赤い瞳をこちらに向けていた。
「おお恐い恐い。そんなに怒るなよ」
 少年が戯けた道化のように空回った調子でへらへらと笑う。人形の兎はぴくりとも動かない。
「いったい、どうしたって言うんだい。僕はいつも通りさ」
 少年がそう言うと、椅子の向こうで黒い塊がパックリ開いた。三本脚の木製の獣が、白黒の歯を並べてこちらを見据える。
「そうかい、そうかい。僕のことが嫌いかい」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「そいつに食われろって言うのか。そいつは嫌だね。真っ平御免だ」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「僕の血を見ろ。青いだろ。僕の肌を見ろ。白いだろ」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「僕の髪を見ろ。世にも稀な銀色だ。僕の眼を見ろ。瞬き一つしていない」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「僕の体を見ろ。光っていてとても綺麗だ。僕の動きを見ろ。精密に刻まれていて、すごく滑らかに見える」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「僕の心臓の音を聞け。何も聞こえない。何も響かない。何も騒がない。何も起こらない」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「僕の心を見透かせ。何も見えない。何も感じない。何も掴めない。何も存在しない」
 人形の兎はぴくりとも動かない。
「僕は存在しない」
 人形の兎がぎょろりと眼を剥いた。
 黒い三本脚の獣が迫り、不協和音を孕んだ轟音で少年を外へ突き飛ばす。
 塔の小さな窓から解き放たれた白い鳥は、ひらひらと空を舞って落ちていく。
 人形の兎が、血を垂らして笑った。口元を吊り上げて笑った。落ちていく鳥を見て笑った。ずっと、笑っていた。


「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタは空から落ちてきた鳥を見た。鳥はガラクタの手前に落ちた。
 大きく伸びた両翼は白い腕で、大きく伸びた後ろ羽は白い脚だ。
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタが鳥の上に乗っかり、その首を二本指の手で押さえる。
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタの粗末な蓄電器が電流を送った。腕から、首筋から、全身へと。
「ディーニーワ仕事ヲシテイマス。ディーニーワ仕事ヲシテイマス」
 ガラクタの首がカクンと折れる。ガラクタはもう考えられない。
「デ ーニ ワ……」
 ガラクタの足がバタンと取れる。ガラクタはもう歩けない。
「…………」
 ガラクタの手がトタンと切れる。ガラクタはもう触れない。

 ガラクタの心臓がカチリと途切れた。ガラクタはもう心を持たない。

 ガラクタは死んだ。




















「ああ、ようやく終わった」

メンテ
オルゴールロンド ( No.274 )
   
日時: 2013/02/06 12:43
名前: brain◆P3Wb.oVPT6 ID:O1su75uo

 夕日に輝く湖の畔、そこにぽつんと佇むコテージのテラスに、一人の老人がくつろいでいた。
 彼は酷く年老いていた。衰えた身体はもう歩くことすらままならず、目も耳も鈍り、大切な時間の楽しみと言えば、こうして美しい景色を眺めて過ごすことばかりだ。
 彼は最期の時を、このコテージで迎えようとしていた。きれいな空気、美しい景色、そして、美しい付添人と共に。

「おじいさん、また、紅茶を淹れてきましたよ」
 老人が佇んでいたテラスに、一人の少女が紅茶セットのトレイを持って入ってきた。
 花のように可憐な少女だった。色白で細身で、あまり成熟した印象は受けないが、とても清潔感がある。まるで絹のようにしなやかなその黒髪は、衛生的に前髪を揃え、その健康的で愛らしい顔を一層強調していた。

「邪魔をしてしまいましたか、おじいさん」
「いやいや、そんなことはない。お前もこっちに来てくれ。ニアン」
 少女は名前を呼ばれて、傍のテーブルにトレイをそっと置き、老人と並んで湖を眺めた。
 老人は、その霞みかかった目で湖を眺めながら、傍に寄ってきたニアンにそっと喋りかけた。
「……ニアン、お前なら分かっていると思うが、私はもう死期が近い。そんな私の余生をお前と過ごせるのは、何度考えてみても幸せだ。未だに、信じられないことだ。時代は変わったものだな」
「おじいさん、そんなことを言わないでくださいよ。もっともっと長生きしてください、私のために」
 ニアンは老人の前に回り込み、彼を励ますようにして膝に手を置く。老人の眼には、涙が溜まっていた。
「ありがとうよ。だが、本当に嬉しいのだ。もしお前がいなければ、私は今頃、黴臭いアパートで孤独な人生の終わりを迎えている頃だ。本当に、ありがとう」
 ニアンは少し寂しそうな表情をして、膝を上げ、再び老人と共に輝く湖を眺めはじめる。

 ニアンは、老人の最期の時に付き添うために、ここにいた。彼の人生の最後を孤独で寂しいものにしないため、たった一人の人生の締めくくりを美しいものにするため、その時を彼と過ごすために、老人に従事ていたのだった。


「ニアン、これを見てくれ」
 老人は唐突にそう言うと、床に置いてあった木の箱を持ち上げて、自分の膝の上に置いた。
「これは、なんですか」
「ずっと以前から、こつこつと作り続けていたものなのだが、やっと完成したのだよ」
 ニアンは首をかしげてその箱を眺める。老人はニアンの目の前で、箱の蓋を開いて見せた。中から現れたのは小さく入り組んだ機械仕掛けと、美しい音色だった。
「オルゴール……」
「そうだ。私も街工場で働いていた頃は、仕事の傍ら、手作業でたくさんのオルゴールを組んだものだった。これはその私の、生涯最後の作品だ」
 ニアンは不思議そうに箱の中身を眺める。箱の中ではピンのついたドラムが静かに回転し、小さな鍵盤を弾いて絶えず曲を鳴らし続けた。

 ニアンは少しの間黙って、その音色に耳を澄ませていたが、やがてドラムが一回転する位置までやってきたときに、ぼんやりと呟いた。
「あっ、曲が終わる……」
「ドラムが一周してしまえば、また初めから鳴り始めるさ。ゼンマイが切れるまでの間はな」
 老人の言う通り、オルゴールは一曲を弾き終えると、少しの間沈黙し、それから再びその曲を、最初から鳴らしはじめた。
「また初めから……」
 ニアンはオルゴールをぼうっと眺めつづけた。いつまでも、いつまでも。曲が二周、三周する間も微動だにすることなく曲に耳を傾けていた。

 やがてゼンマイが切れはじめ、曲がゆっくりとしたテンポになっていく。その頃になると、ニアンはやっと顔をあげた。
「こんなに美しい音を鳴らすオルゴールを手作業で作る人が、今の時代にもいたんですね」
「そうだな。もうオルゴールを作る職人など、この世で私一人だけかもしれん。その私が最期となると、これは世界で最後のオルゴールということになるかもしれんな」
 老人はゆっくりとオルゴールの蓋を閉め、それを膝から持ち上げてニアンに差し出した。
「ニアン、このオルゴールは君にあげよう」
「えっ!」
 戸惑うニアンに、老人はオルゴールを手渡した。ニアンもそれを手で受けないわけにはいかず、その箱を両手に乗せる。ニアンの手に、箱の重みが感じられた。
 ニアンは少しの間、その箱を呆然と眺め、それから困ったような表情で、老人に尋ね返す。
「そんな、こんな貴重なものを、いただくことはできませんよ」
 老人はその言葉に、静かに微笑んだ。
「いや、いいんだ、君に持っていてほしい。それは私が生きた証だ。だからそれを、私に愛すべき時間をくれた君に持っていてほしいんだ。そうすれば、私は永遠に生きられる。だから、大切にしてほしい。どのみち私には、もう知り合いも残っていないんだ。君しかいない」
 ニアンはしばらくの間、困ったような表情をやめなかったが、その小さく美しい箱と、老人の濁りのない瞳を何度も見比べて、やがて笑顔で、穏やかに応えた。
「……ありがとうございます」


 ニアンは湖の向こう、山のかなたに沈む夕日を見つめ、それから老人の傍に屈んだ。
「おじいさん、そろそろ薬を持ってきますね。夕食前には、飲まないと……」
「あぁ、ありがとう、ニアン」
 ニアンはそう言うと、そのオルゴールを大事に抱えて席を立ち、コテージの中へと戻っていく。

「おじいさん、今晩は何が食べたいのかな……」
 ニアンはひとり呟きながら、老人が飲むための薬の分量をチェックする。
 これは、老人が抱える心臓の病気を抑える薬だ。もっとも、老人の心臓はもう、深呼吸することにも耐えられないほど弱っている。やむを得ない、老衰による病気だ。この薬は、老人の最期の時を延ばすに過ぎない薬だった。

 突然テラスのほうで、何かが倒れる音がした。
 ニアンはその音にはっと振り返り、反射的に緊急コールのボタンを押すと、それからすぐさま老人のもとへ駆け寄る。

 テラスにいた老人は、床に倒れ伏していた。
 心臓の発作、いつ起きてもおかしくなかった恐れていた事態だ。

 発作が起きてしまっては、もう薬も意味がない。すぐさま緊急コールはしたが、救急車が間に合うかどうかも分からないし、どのみち彼の身体ではこれ以上の治療には耐えられないだろうことも分かっていた。
 ついにやってきた、彼の最期の時だった。

「ニアン、いるのか……来てくれ、私の傍に……」
 ニアンは虚空に呼びかける老人に駆け寄り、顔を上げさせた。もう目は虚ろだが、はっきりと、ニアンを捉えているようだ。
「ニアン、ついにこの時が来たか……」
「おじいさん、無理に喋らないでください」
 ニアンが必死で呼びかけるも、老人はニアンを見上げ、うわ言のように呟いた。
「私は何も、恐れていない……満足な人生だった、今も、寂しくはない、お前のおかげだ……」
 それは、ありきたりでシンプルな言葉だったが、老人の最期の言葉だった。やがてその言葉の最後の部分が、ニアンの耳に聞き取れるか聞き取れないかくらいのところで、老人は目を閉じ、その首をゆっくりと前にもたげる。

 老人は、静かにこと切れた。
 
 ニアンは膝をついて、老人を抱きかかえ、その遺体を部屋のベッドへと移した。
 彼の最後の言葉の通り、苦しみもない、満足げな表情だった。彼は短い余生をニアンと過ごし、ニアンに渡すべきものを渡し、最期の瞬間にはニアンの姿を見て死ぬことが出来た。心残りのない生涯の最後だったことだろう。

 ここから先は、もうニアンの立場はない。ニアンの仕事は、あくまでも生きている彼に従事ることだった。ニアンはコテージの一室にこもると、コテージを去る身支度をはじめた。着ていた服や道具の一切を大きなスーツケースにしまいこみ、それから、貰ったオルゴールは大事に両手に抱えて、救急隊員とすれ違うようにしてコテージを後にする。

 


 降りしきる雨の中、ニアンが帰り着いたのは古びたトタン小屋だった。ビルディングやタワーが立ち並ぶ大都市の郊外にぽつんと存在しているその建物は、錆だらけで窓ガラスにはヒビが入り、いかにも不気味で人が寄りつくような雰囲気の場所ではない。
 ニアンは軋む扉を開き、建物内へと足を踏み入れ、室内を見回した。中はそれほど不潔ではないが、ひどく散らかっており、室内の奥に見えるショーウィンドウの中にはぬいぐるみや人形が並べて保管されている。その中には、人間の形をした精巧な人形もいくつかあった。それだけではない、ひび割れたコンクリートの床には人間を解体したような図面がいくつも散らばっており、部屋の中心にある作業台の上にはビスやギアなど、機械部品の入った箱が雑多に並べられている。
「ただいま戻りました。セドさん」
「よう、ニアン。じいさんの最期には立ち会ってきたんだな、お勤めごくろうさん」
 ニアンを迎えたのは、玄関口正面のデスクに座る、セドという名の白衣を来た男だった。ふちの厚い眼鏡をして、髪はぼさぼさで、身にまとう白衣とその下のシャツまで、油や錆の汚れがまみれている。
 彼は研究者、この建物はセドが勤める研究所だ。
 
 ニアンは荷物のスーツケースを床に降ろすと、ポケットから一枚の紙切れを取り出した。セドは待ちきれない様子でその紙切れを取り上げ、そこに書かれている数値を流し読みした。
「一月一万ドル、約半年で、切り上げて六万ドルか。そこそこの稼ぎだったじゃないか」
 セドは満足げに紙切れをファイルに閉じると、にやりと笑ってデスクに頬杖をつき、ニアンを見上げた。
「で、ニアン、どうだったんだ?」
「はい、彼はとても満足げに、最期の時を終えたようでした」
「そんなことは聞いてない。お前自身に、何かなかったのか? 特に、故障とかそういう事だよ」
「特にはありません」
「あいよ。そいじゃ、じいさんからの振り込みもばっちり確認できたことだし、余計な時間を取ることもない、オーバーホールといくか」

 ニアンはセドに促されて、服を脱ぎ、部屋の真ん中に設置された大きな作業台の上に横になった。その際に、両手に持っていたオルゴールは、作業台の、じぶんの隣にそっと置く。
「ん、なんだその箱」
「おじいさんからの形見です」
「そうか。まぁいい、とにかく次の仕事が待ってるぞ。さっさと整備を終わらせるからな」
 セドはオルゴールを作業台の隅にどかすと、作業台の傍に置かれた工具箱からレンチを取出し、慣れた手つきでニアンの腹部にある止め穴からネジを外しはじめる。
 ネジを何本か外し、ハッチを取り外し、彼女の腹腔内部が露になった。その中には、歯車やモーター、それに機械の電子基板が整然と組まれて、どれも忙しく駆動している。セドはニアンの腹の中から一本のコネクターを引っ張り出して、デスクのパソコンへと接続、彼女の体内の電子機器にアクセスした。
「あぁ、やっぱりメモリーの容量、ハデに食ってやがるな。電池もだいぶ減ってるし。ま、今回のじいさんはずいぶんしつこく生きてたから仕方ないか。充電もさせておくよ。そんでその後は、メモリーの整理をするぞ。わかったな?」
「わかりました」
 ニアンは天井を見上げたまま、呟くように答えた。

 ニアンは介護ロボットだった。
 それも、普通の介護ロボットではない。死期が近いことが分かっている老人のもとに依頼で派遣され、その最期の時を提供するサービスロボットだ。
 今回も、彼女は任務として、高額の報酬と引き換えにあの老いたオルゴール職人との最期の時を過ごしていたのだった。

 もちろん、彼女の仕事は必然的に「比較的短期の仕事」になるので、一人のクライアントとの仕事が終われば、こうして再び研究所に戻って整備を行い、休む間もなく次のクライアントのもとへ派遣する準備が行われる。ニアンはそうして、多くの老人の最期の時に立ち会ってきたのだ。
 だが、彼女のメモリーの中に、その記憶はどこにも残っていなかった。
「準備はできたか? じゃ、メモリーのフォーマットを行うぞ。このヘッドギアをつけな」
「……はい」
 ニアンは指示されたとおりに、ヘッドギアを装着した。

 フォーマットとは、電子頭脳内の記憶や設定のすべてをリセットし、デフォルトの値に戻す、なおかつ次のクライアントの情報登録を行うことだ。平たく言えば、仕事をこなしたうえで蓄積した記憶を削除するということである。
 仕事を切り替えるために、以前のクライアントとの記憶などは必要ない。なにしろ、必要な知識ははじめから電子頭脳に登録されているのだから。それどころか、他の老人と過ごした最期の時間の記憶など、電子頭脳の容量を確保するうえでの阻害に他ならない。そのため、以前のクライアントの情報は、仕事の終了と共にきれいに消されてしまうのだ。

 作業台に寝かされるニアンは、ただ忠実に彼の指示に従っていた。が、隣のデスクのパソコンでフォーマットの準備を着々と進めるセドに向かって、横になったままで一つ尋ねた。
「セドさん。次の方は、ワタシの何番目のユーザーですか?」
 セドはそれを耳にし、画面に目を向けたまま、少し気怠そうに答える。
「さぁ? そんなのいちいち覚えてないな。まぁ、お前は介護ロボットの中でも人気だから、100人は超しただろう。それにしても、お前はフォーマットの前になると必ずそれを言うんだな。どうでもいいだろ、そんなこと。どうせ覚えちゃいないんだから。お前、仕事の回数を重ねたら何か変わるのか?」
「……いえ」
「だろう? だったら仕事の回数なんてどうだっていいんだよ。あぁ、業績と収入には関わってくるか。そりゃぁ、回数を重ねて評判が良くなりゃ客も集まるわな、ハハハ」
 セドは飄々とした様子でニアンにそう答え、また、パソコンの操作画面に意識を集中しなおす。
 ニアンはその言葉を聞いて、天井を見上げ……それから、一度、自分の足元に目をやった。作業台の隅に追いやられたオルゴールが、作業台から落ちそうになるような場所に放り出されるように置かれている。

 
 ある人の余生につきあい、それが終わると記憶を一切削除され、次のユーザーの情報を再登録されてはまたその人の余生を支える。
 
 薄情なようだが、それがニアンの役割であり、仕事だった。

 彼女自身にはその記憶さえも残っていないが、彼女の仕事はそれの繰り返しだった。
 老人の介護に尽くし、すべてが終わると記憶は最初から。そしてまた老人の介護をはじめる。同じことを何度も何度も繰り返す。
 それはまるで、同じ曲を弾くことしかできず、曲を引き終えるとともにまた曲のはじめからやりなおす、同じ曲をぐるぐると永遠に弾きつづけるオルゴールのようだ。

 彼女は死を運ぶオルゴールのような存在だった。



「やめてください!」
 ニアンは突然作業台から飛び降りると、勝手にヘッドギアを外した。頭に接続されていたケーブルが無理に切断され、彼女の黒髪が少し乱れる。
 セドは、反抗の態度を示したロボットに、冷めた視線を送った。
「ニアン、なんのつもりだ、とっとと作業台に戻れ」
「嫌です!」
 セドが開発者として命令しても、ニアンは首を横に振るばかりだ。

 しばらく睨み合いが続き、セドがしばらく黙っていると、やがてニアンは、震える声でセドに訴えはじめる。
「どうして、なぜ私はこんなことをしなければならないのです!」
「なんだと、どういう意味だ? なぜこんなことをしなければならないって、当然だろう。お前はこの仕事をするためだけに作られたロボットだからだ。なんだ、お前はその仕事が嫌なのか?」
「いえ、この仕事は嫌いではありません。亡くなっていく方の最期の時を飾ることができる、彼らに喜びを与えることができるのは、私にとっても名誉です。でも……どうして、彼らのことを忘れなければならないのです!」
「馬鹿だなお前は、死んだ奴らのことを全員心に留めておいたら、メモリーカードがいくつあっても足りねぇよ」
 ニアンの言葉に、セドは呆れたようにため息をついたが、ニアンは負けじと、セドに詰め寄る。
「それはそうかもしれません。でも、それでも、私が彼らとの記憶をなくしたら、誰が彼らを覚えているのです! 私が担当するお年寄りたちは、みな身寄りのない孤独な方ばかりです! 彼らを覚えておくことが出来るのは、私だけです!」
 ニアンの目に、自然と滴がたまる。介護をする老人と悲しみを共有し、ともに涙を流すことができるための機能だ。それが今になって、自発的に機能をしている。セドはその様子に少々うんざりしたような顔をしたが、やがてすました顔に戻り、再びニアンを諭しはじめる。
「全くお前は、なんでそんなことに執着するようになったんだ? 前のクライアントを覚えてなんかいないくせに。それでお前は、一度でも困ったことがあったか?」
「いえ、それは……しかし、そういう問題では……」
 ニアンは言い返せず、一瞬顔を逸らす。セドはデスクから立ち上がると、言葉に詰まったニアンの両肩に手を置いた。
「……いいかニアン、死んだ奴の事なんていちいち覚えていても仕方がないんだ。何て言ったってもう死んだんだから。死人はいくら可愛がったって、礼も言わないし、そもそも、お前が死んだ奴のことを想ったところで相手には伝わらない。そんなことより、いま助けられる老人たちのことを考えよう」
 ニアンはまた、つんとしてセドの言葉にかみついた。
「そんなの嫌です! 私が人を愛するのは、その人が生きているからですか? 死んだら愛する必要がないんですか? そんなものは愛なんかじゃありません! 私が彼らを大切にするのは、報酬のためじゃないですか!」
 セドは、一度は優しくした目線を再び冷たくして、ニアンの肩から手を放した。
「フン、わかってるじゃないか。死人は金なんて出してくれない。生きていて金を出す老人を大切にした方がいいって話だ、簡単だろう」
「お金のために愛を偽るなんて、そんなことは嫌です!」
「なにが愛だの偽るだの、お前は所詮ロボットじゃないか。この時世に博愛だと、くだらねぇ、人間の真似事なんて覚えやがって!」
「ロボットかどうかなんて、関係ありません!」
「ロボットのくせに報酬のために働かなくてどうする!」

 セドがだんだん苛立ってくると、ニアンは埒が明かないといった具合に、今しがた脱いだ服を再び着直した。
「出ていくのか、ロボットのくせに仕事を勝手にやめるつもりか? そんなことは許されないぞ」
「いえ。私はもう、こんな仕事はやめさせていただきます」
 ニアンはきっぱりと、そう宣言する。セドはそんな彼女を睨みつけたが、彼女はセドに、目もくれなかった。 
「よせ、ニアン。俺はことを荒立てたくない。穏便に済ませたいんだ。ロボットならロボットらしく、言う事を聞け!」
「ロボットらしく?」
 ようやくセドに視線を返す、ニアンの表情が厳しいものに変わった。それは本来、介護ロボットの彼女には組まれていない表情だ。
 そうした怒りの表情を浮かべたまま、ニアンがゆっくりと口を開いた。
「セドさん……あなたは、博愛なんて人間の真似事、と言いましたね。いま、この世界の人間に、博愛の心がありますか? 老人を容易く見捨ててしまう冷たい人々に。そして、あなたに」
「お前!」

 ニアンはそのまま服を整え終えると、セドにむかって真っ直ぐに立った。その姿に一瞬セドは身構えたが、ニアンはそっと、セドに頭を下げる。
「お世話になりました」
「ニアン……」
 ニアンはそのまま、セドに背を向ける。研究所を出ていこうとしたその時に、一度研究台に目をやって、そこに置かれたオルゴールを手に取ろうとした。

 
 その瞬間、研究所の中に閃光が走った。

 ニアンの手から滑り落ちたオルゴールが床に叩きつけられてバラバラに砕け、それと共に、ニアンも床に、うつ伏せに倒れ込む。

 セドが、内ポケットから抜いたレーザー銃で彼女の背中を撃ちぬいたのだった。


 人間を侮辱し、反抗したロボットに対する、正当な処罰であった。
 もっとも、セドは彼女の基幹部位を破壊したわけではない。体内の意識回路のみをレーザーで破壊し、機能停止させただけだ。意識回路系の新しい部品を組み直し、レーザー痕を修復しなおせば、また元に戻すことはできる。

 セドは動かなくなったニアンを見下ろし、一度、深いため息をついた。それから含み笑いを漏らし、デスク上にある携帯電話に手を伸ばす。
「……もしもし、おう、俺だ。あのさぁ、悪いんだけど、またロボットの意識回路、替えを持ってきてくれないか? そうだ、またフォーマット前に暴走しやがってなぁ。電源落とそうとするたびすぐこれじゃ、参っちまうよ、まったく。まぁ、今回の暴走はちょっと説得力があって面白かったけど。今回も今回でいろいろ悟ったのかもしれんが、どうせそんなことも、次の仕事までには忘れちまってるだろうしなぁ、ハハハ。じゃ、そういうわけで頼むわ。仕事も入ってるから、早めにな」
 セドは携帯の通信を切ると、ニアンの身体を担ぎあげて
「それじゃ、意識回路が届く前に始めちまうか……」
 改めて、フォーマットの準備をはじめようとして、デスクに戻る途中で床に落ちたオルゴールにつまづいた。
 オルゴールは、作業台から落ちた衝撃で壊れ、部品が飛び散ってしまっている。蓋が空いているが、もうゼンマイを巻いても音はならないだろう。セドはそれを片手で拾い上げると、木の箱の部分から機械部分を取り出してみた。
「ガラクタかぁ。こうも壊れちまっちゃぁな。ま、オルゴールなんて今更だれも欲しがりはしないだろうし、部品を金物屋に売れば部品は修理費のもとも取れるな」
 オルゴールの中身部品の残骸は、セドの手で、研究室の隅にあった箱に放り込まれた。そしてセドは再びパソコンへと戻り、ニアンのメモリーのフォーマットの準備を進めて行く。

 オルゴール職人と共に過ごしたニアンは、もう、目を覚ますことも、涙を流すことも、怒ることもなかった。




 都心から離れた田舎道、そこに佇む小さな一軒家に、一人の老婆が暮らしていた。家族はみな不幸な事故により死んでしまい、その老婆は一人きりで、広すぎる家の中にこもって孤独な余生を送っていたのだった。
 老婆の友人はみな、既に老いてこの世を去ってしまった。親戚もみな年寄を煙たがり、彼女を引き取ろうとはしない。彼女の傍にいてくれる人は誰もいなかった。
 
 その老婆は、自分の貯蓄を振り絞ってこの孤独を紛らわす決断をした。
 高齢化と孤独死が社会問題となっている近頃、注目されるようになった介護ロボット。それを、老婆は高額で雇うことにしたのだ。
 

――はい、もしもし。毎度ありがとうございます。こちらはロボット派遣事務所、担当のセドでございます。
「おぉ、ロボット派遣事務所の方かい? もう三日も前にロボットを呼んだ者なんじゃがね」
――あぁ、お客様番号50421番の方ですね。はい、ご依頼と初回契約料は既に承諾されておりますが。
「そうじゃろう、いったい、いつになったら来るんじゃ? 私はもう、ずっとロボットを待っておるんじゃが」
――えぇ、存じております。本日、予定通り向かわせたしましたので、午後までにはそちらに到着するかと思います。しばらくお待ちいただければ……
「早くしてくれんか」
――はい、はい。わかりました。至急、向かわせたロボットに連絡をとりますが、まぁ、じきに到着いたしますよ。お待たせして申し訳ありません。
 
 待ちきれぬ老婆がロボット派遣の事務所に電話をかけている最中、彼女の家の呼び鈴が高くなった。
 老婆は思わず受話器を放りだし、ろくに動かない身体で玄関へと急いだ。時刻は日も沈んだ頃、こんな時間にこの家を訪れる者など、いやしない。老婆は家にインターホンを設置していなかったが、誰が来たかは姿を見ずとも明らかだった。

 玄関口に立っていたのは、輝くような黒髪の少女だった。
「おぉ、お前さんが、ロボットかい?」
 やっと玄関に辿り着いた老婆が震える両手を突き出すと、少女はにっこりと笑って、お辞儀をする。
「はじめまして、ニアンと申します。本日より、おばあさんのお世話を担当させていただきます。どうぞ末永くよろしくお願いいたします」
 ニアンはすぐさま老婆に歩み寄って、老婆を抱きかかえる。
 老婆はニアンの到着に、涙を流して喜んだ。 
「おぉ、孫によく似ておる。お前さんはどこにも行かないでおくれよ。私のそばにずっといておくれ」
 ニアンは老婆の言葉に改めて優しく微笑み、そして優しい言葉をそっと老婆にかけた。
「もちろんです。私はあなたに大切な時間を提供するために、派遣されてきたのです。至らないところもあるかもしれませんが、これから、よろしくお願いしますね」



 ――オルゴールは決して異なる曲を鳴らすことはない。そして、余計なものがオルゴールの記憶に含まれることは決してない。ただただオルゴールは、同じ曲を同じように鳴らし続けるだけだ。
メンテ

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