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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

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▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
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ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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桜舞ふ ( No.411 )
   
日時: 2014/03/15 23:56
名前: にゃんて猫 ID:OEyR/dEU


 春風が校庭を駆けてゆく。
 午前九時、その高校の中央プラザを満たしていたのは大勢の十五歳の少年少女と付添いの大人たちだった。
「あった! あったよ!」
 車椅子に乗った少女が、受験番号の書かれた紙を握り締めて天に突き上げた。雄々しさすら感じられる、雄叫びのような歓声だった。
 それは、私がこの家の者になって初めて目にした彼女の様子だった。
 薄いライム色をした校舎の壁に張り出された大きな白い紙に、規則正しく並ぶ数字たち。
 その三百足らずの数字たちの中に、彼女が手に握りしめている番号もまた存在していて、彼女はそれを目にした途端抑えきれない感情の爆発を全身で表現したのだった。
 車椅子ごと飛び上がらんばかりの喜び様に、私はつい自分の番号を探すことも忘れて彼女の様子に見入ってしまっていた。
「優子は、優子のはあったの?」
「……あっ、あります。ありました」
 彼女の番号から少し視線を下にずらすと、斜めになって読みにくい下端の番号が、自分のそれであると何とか認識できた。途端に、私も彼女が感じたであろう爆発の感覚を、あるいはそれに似ているであろう感触を味わった。
 言葉では何とも形容し難い、しかし確かにある、大きな達成感。何物にも代えられない充足感が私を包み込んでいった。
「やったあ! ほら、もっと喜ばなきゃ。私立で退屈な勉強地獄を見なくて済んだんだから!」
「はい……嬉しいです」
 嬉しい気持ちに一つも嘘はないのだが、あの彼女の喜び様を見た後だとどうしても控えめになってしまう自分がいた。本当は私も彼女と同様、歓喜の渦が胸の内を暴れ回っている。
「もっと、もっともっと! そんな笑顔じゃ全然足りないわ、もっとよ、もっと……」
 気持ちの昂ぶりを抑えきれない彼女は、今まで見たことのないくらい上機嫌で、甲高い声を躊躇なくあげていた。もっとも周りがそれ以上に歓声で溢れかえっていたため、そのくらい声を張り上げないと声が聞こえないのも事実だった。
「ちょっと離れて、声の届く場所でご両親に伝えましょう」
「ええ、そうしましょう!」
 言うが早いか早速携帯を取り出している彼女を上から見つめ、群衆の波を避けながら車椅子を押して行く。握る手は手汗で滑り、足は高揚した気分が張りつめて棒のように固くなっていた。
 それでも何とか人の塊を脱し、多少落ち着いたスペースまで出た。ふと視線を下げると彼女は既に携帯を耳にあてていた。
「もしもしお父さん? ……ええ受かった、受かったの。もちろん優子も」
 ちらっと彼女が上目づかいでこちらを振り返る。私は下手くそに微笑んで、ポケットの受験番号の紙をもう一度握り締めた。
「ええ……ええっとそれはまだしてない……はい、分かった分かった。ちゃんと撮っておくから、うん」
 携帯を耳からはなし、通話を切った。彼女はもう一度こちらを振り返った。
「優子、張り紙の番号って撮った?」
「……撮ってなかったですね」
「お父さんが撮っておけって。もう一回あの中に入ってかなきゃ」
 私が群衆の方を見やると、なるほど徐々に張り紙周りの人数は減ってきているが、ぞくぞくと人の数は増えているようだった。最初騒がしくなかったこの近辺も、同じく報告をしたり、写真撮影したりする人影が増えてきている。
「そうですね、たぶん待ってもどんどん人来るでしょうし、それなら今のうちに撮ってきましょう」
「よーし、突撃突撃ー!」
 拳を大胆に突き上げて彼女が笑う。私もつられて笑う。
 大きな希望に満ちた私と彼女は、歓喜渦巻く空間へゆっくりと戻って行った。

  ◆

 私が白鳥家の養子になったのは、合格発表の日から数えて二十日ほど前のことだった。
 飲んだくれでろくに家に金も入れずにふらふら出歩いてはパチンコばかりしていた父が数年前に亡くなって、それと同時に病魔に冒された母は日に日に衰弱していった。そして二カ月前、四十二歳の誕生日の前日に病室で静かに息を引き取った。
 一人娘だった私は、ほどなくして親戚の白鳥家に引き取られ居候することになった。
 白鳥家は地元でそこそこ大きな資産家で、その本家は山間の広い土地に建てられている。行って見ると、西洋の貴族屋敷に似た、格式高い風格がどことなく感じられた。
 こんな立派な家に引き取られて、と養子云々の仲介をしてくれた叔母は喜んでいた。が、現実はそう甘くはない。生後十五年間一般家庭(よりも下かもしれない)生活を続けていた私を養子に迎えてくれたのは、決して慈愛の心からではなかったからだ。
「お嬢様をよろしくお願いしますね」
 家に行って、初めて白鳥養父以外の人と対面した時、皆口々に私に言うのだった。養父はもちろん養母も、歳の離れた義兄も、執事、使用人、厨房のおじさん、はては郵便を届けに来た青年にまで。
 お嬢さまというのは、白鳥家の一人っ子で、この名家の大事な跡継ぎとされている少女のことだった。私と同い歳の十五歳で、中学校は違うけれど高校は順当に受かれば同じ公立高校に入るという。
「優子くん、美姫をよろしく頼むよ」
「優子さん、あの子をよろしくね」
 特にご両親二人は、家に来る前の面会の時から何度も私にそう言って聞かせた。
 別にお嬢さんの召使いになれと言われたわけではない。ただ、「よろしくね」と何度も言われているうちに、何となく事を悟った。それがおそらく、私を養子に迎えた理由なのだろう。
「美姫さ……お嬢さんにはいつお会いできるんですか? そんなに言うのですから、ぜひ一度会ってお話ししてみたいんですけど」
 養子届けを出す数日前、私は白鳥夫妻に尋ねた。今考えると少し嫌味な言い方にも聞こえるが、この時は純粋にどんな人か興味を持ったからだった。
 しかし、それを聞いた瞬間夫妻の顔に若干、戸惑いの色がさした。
「ああ……えっとだねえ、そうしたいんだがあの子は授業が終わるのが遅くてね」
「授業……部活ではなくて、授業でですか?」
 その日は平日だったので私も授業を終えてだいぶ経ってから二人と面会していた。時刻はたしか六時半頃、冬で日没も早いし大抵の部活はもう終わっていい時刻のはずだ。
「そうなの……あの子、ね。頭が悪いわけじゃないの、ただちょっと……」
 二人はともに顔を見合わせては私の方を横目で窺い見るような感じで、とても言いにくそうな雰囲気だった。
「あ、いえ。少し興味が湧いただけなので、理由があるのでしたら仕方ありませんよね」
「ごめんなさいね」
 奥さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すまんね優子くん。あの子も君と会うのを楽しみにしていたから、早く手続きを済ませてうちに来ると良い。なあお前」
「ええ、そうね。早くうちにいらっしゃい優子さん」
「ありがとうございます」
 夫妻は二人とも、とても良い人柄の人だった。お金を持っている人は何となく堅物で物分りが悪そうなイメージがあったが、二人は終始柔和な表情で話す言葉も穏やかだった。ただ、その視線が私をまっすぐ直視していない風に感じられたのは、きっと気のせいではあるまい。
 しかし幾つかの不安を差し引いても、養子の条件は身寄りを失った十五歳にとっては破格のものだった。大学、もしくは大学院を卒業して就職するまですべての衣食住を用意し、授業料などの費用、小遣いまで金銭的な面も全額負担してくれると言う。養子になるのだから当然と言えば当然のことだが、血がわずかに繋がっているだけの他人同然の私をここまで世話してくれることに、感謝の意を感じずにはいられなかった。そこに何か特別な理由があったにしても、私はまったくと言っていいほど気にならなかった。
 旧姓、佐藤の苗字を変えることに特段抵抗も感じなかったし、広くなったアパートで叔母の資金援助を得ながらの一人暮らしにいい加減辟易していた。受験を控えている私にとって、白鳥家はまさに理想の環境だった。
 そして書類を役所に届け、アパートに残っていた家具や遺品を整理しつつ必要のないものは捨て、母の遺品は実家に送った。そして、軽微ではあるが引っ越しに備え、持っていく衣服や日用品の整理をしつつ、二月を迎えた。
 白鳥家へ行く日、叔母が車を出して送ってくれた。日曜のよく晴れた昼下がりで、冷い空気のなかに淡い春のささめきが聞こえてくるような快晴だった。
「あっちの家から通学するのは少し遠いかもしれないって言ってたわよね」
「えっと、はい」
 叔母といっしょに遺品の整理をしていた時の独り言が、実は聞こえていたらしい。私は急に恥ずかしいような気持ちになって座席シートに体を埋めた。
「それでね、あちらさんにそのこと話したら、車で送り迎えしてくれるって」
「えっ」
 一瞬、頭の中に校門前に停車した黒いセダンの姿が過った。いや、テレビドラマじゃあるまいし。そんな仰々しいお迎えではないだろう、いやそれにしても車とは。
「そこまでしてくれなくても……一応近くまで電車は通ってるんだし、駅から三十分程度なら歩いて……」
「せっかくの親切なんだから、気兼ねなく受け取ったらいいよ。まったく優子ちゃんは遠慮の塊だねえ、洋子そっくり」
 洋子は母の名前だ。
「お母さんは遠慮しい……って言うより、どんな時も遠慮してばっかでした」
「そうねえ、そうだったわねえ」
 何となく、母の名前が出てきて口が重くなる叔母。その横顔をそっと見つめていた私は、目を閉じて、今度は自分のことについて考えてみた。
 知らない家、知らない家庭、知らない環境、三年間通った中学も終わり、春からは(たぶん)未知の高校生活が待っている。私を取り巻く環境は、ここ十五歳を節目に一気に変化しているようだ。
 家族はいない、親しい親戚もわずか、頼ろうと思えば頼れるけれど、あまり迷惑はかけたくない。養子に行った先で何があっても、それは私自身の力で何とかしなくてはならない。そう思うと、自然と口から重い溜息が出た。
「三回だね」
 突然叔母さんが言った。
「何がですか?」
 私の様子をちらりと横目で見て、叔母さんが溜息を吐いた。ちょうど、私が今したように。
「溜息。今日で三回目」
「えっ」
 そんなに自分は溜息していたのか、まったく自覚がなかったので私はひどく驚いた。こんな、鉛玉を吐き出したような重苦しい表情を、今日だけで三回も叔母さんに見せていたのだろうか。
「あんた疲れてるんだよ、私の前だからって空元気する必要ないさ。あっちに着いて挨拶済んだら、今日はさっさと昼寝しな」
「……はい」
 叔母さんの言う通り、私は疲れていた。まだ昼だというのに、部活し終わった後のように体が重いのだ。それに加え、さっきから不安や心配事ばかり思い浮かべているせいで、表情まで沈んでいるに違いない。
 叔母さんの運転する車がトンネルに入る。ここを抜けて少し脇道に外れた先に竹林がある、その先が白鳥家だ。
「優子ちゃん」
「はい」
 叔母さんは少し言葉を選ぶように「うーん」と悩んだ後、左手をハンドルから放し、私の肩をぽんと軽く叩いた。
「いろいろ悩みの種は尽きないだろうけどね、一人で抱え込んだりするんじゃないよ。あたしも助けるし、白鳥さんとこの人たちだって助けてくれる」
「はい」
「忘れるんじゃないよ、あんたは今日から白鳥家の家族になるんだから」
 私は叔母にも分かるよう、強く頷いた。
 車は脇道を通り、竹林へ到着する。少しひらけた駐車用の空き地に車を置き、外へ出る。
 山特有の深い香りが風に乗って吹きつけてくる。ゆるい風が、薄灰色の空といっしょに不規則に揺らいでいる。
 長くのびた竹林の先、わずかに屋敷の陰が見えた。不意にそこにあるのが豪邸ではなく大きな怪物のように思えて、背筋からどっと冷や汗が湧いてきた。
「お待ちしておりました、こちらです」
 出迎えにきた男性が私たちを見つけて一礼し、竹林の向こうへ先導して歩いていく。
 少し重い鞄を背負って、私は前へ歩を進めた。

  ◆

 もてなしは、予想よりずっと簡素なものだった。
 それもそのはずで、午後に帰宅予定だった白鳥夫妻の車が渋滞につかまってしまい、まだ帰って来ていなかったのだ。
 叔母さんはこの後用事があるとのことで、三階南側の部屋(ここが私の部屋になるらしい)まで荷物を運ぶのを手伝った後、すぐに帰ってしまった。
 四階建ての広い屋敷にいたのは、出迎えてくれた執事らしい男性と、メイドではないが使用人と見られる女性が数人、それから一階厨房で料理をしている二人のおじさんコックだった。
「広いんですね、お屋敷。それに外から見たよりも中は綺麗で」
「十年ほど前に引っ越してきたので、建物自体は相当古いです。そうですね、私も前の屋敷の持ち主についてはほとんど存じません」
「あの、執……日向さん」
 目の前の初老の男性から漂う側用人オーラに、思わず教えてもらった名前を忘れそうになる。
「はい、なんでしょう」
 日向さんが微笑んでいるような柔和な顔でこちらを向く。こう話している最中も、彼は合間合間で時計を見たりメモをとったりと忙しそうだ。が、それを一切感じさせないほどの穏やかな立ち振る舞いだった。
「お嬢さん……美姫さんは今いますか? 一度も会ったことがないので、今のうちに挨拶を……」
 私はと言うと、まだどのくらいの敬語で話せばいいのか掴めず、何を話すにしても歯切れが悪いと自分でも分かる。ただ単純に「会いたい」だけなのに。
「お嬢様でしたら、裏庭にいらっしゃると思います」
「裏庭?」
 この屋敷の正面にあった植物園のような庭だけでなく、まだ他にも似たようなものがあるというのか。予想外の敷地の広さに唖然とする。
「先ほどお手洗いの場所を言いましたね? そこの廊下をまっすぐ行って右に折れると古い金属製の門扉がありますので、それを開けると裏庭へ出ます」
「ありがとうございます」
「ご案内しましょうか」
「いえ、自分で行ってみます」
 日向さんの申し出を丁重に断り、私は言われた通り廊下を右折箇所が現れるまで進んでみる。まるでホテルのロビーのように長い廊下だ、壁には絵画やステンドグラスなどの美しい装飾品が並べられ美術館のようにも思える。
 少し行って右に曲がると、たしかに門扉があった。錆び鉄で指を切らないよう、持ち手の部分は下から上までゴム製のカバーで巻かれていた。そして門の装飾もやはり、職人技と言っていいほど華美で繊細だった。
 門はどちらかと言うと格子状になっていて、庭からの風がひゅうひゅうと吹き込んできている。間から覗く景色は緑に満ちている。
「失礼し……ます」
 誰かいないか、少し目で庭の方を探り見しながら、門を開ける。
 きぃ―――、と門が鳴る。ちょっとしたゴルフ場のグリーンくらいの広さの草地を、建物と背の低い広葉樹が囲んでいる。裏庭と言うよりは中庭のような空間だった。
 その奥側の、門からは見えなかったところに、車椅子に乗った少女の姿があった。
 冬だというのに、薄手のワンピースの上にショールを羽織っただけの恰好で少女は景色を眺めていた。黒く長い髪に、水晶のような碧眼、同い歳とは思えないほど小柄で華奢な体つきをした少女が、ずいぶん大きく見える車椅子に乗って、そこにいた。
 私は思わずその姿に見とれ――――我に返って話しかけようとした。だがその光景に再び魅入られかけた心が、この均衡を崩すべからずと思い、それを躊躇する。
 すると、草花を物憂げしく眺めていた少女がぱっとこちらを振り向いた。私は不意に、真正面から少女に視線で射止められたような気がした。
「初めまして、あなたが優子さん?」
 雲雀が啼くような、高くてしっとりとした声だった。
「あ、……そうです。佐藤優子です、初めまして」
 思わず裏返ったような声になってしまい赤面しながら私が答えると、少女は急にくすくすと笑いだした。
「優子さん、苗字が違うわ」
 え、と思わず聞き返しそうになって思い出す。そうだ、今日から私はこの家の養子になるのだ。「白鳥優子」が私の名前でないとおかしいのに。
「すみません、まだ慣れてなくて……」
「謝ることじゃないわ。大丈夫、すぐこの屋敷にも慣れますから」
 車椅子の少女はそう言って、足元の花を一輪摘んだ。
「どうぞ、そこは風が通って寒いでしょうから。こちらへ」
 勧められるままに、私は少女のもとに歩み寄る。少女はまた一輪、もう一輪、花を摘んでいく。しかし足元の花々はまったく変わらないように見えた。そんなに多いようにも見えないのに、まるで摘み取っているのが嘘のように万遍なく咲いている。
「あんまり摘むと園芸員の方に怒られるんですけど……」
 物憂げな表情は消え、少し嬉しそうな顔をして少女が言う。
 私は彼女の隣にしゃがみ込んで、その花を眺めた。花弁の色は白や黄色、たまに赤も混じっている。あまり大きくなく、背もそこまで高くない。
「これ、なんて花ですか?」
 少女に尋ねると、少女は花を摘む手を止めて私の方を向いた。しゃがんでいる私と比べても、あまり見下ろされている感じがしないくらい、彼女は小柄で小さい。
「サクラソウです。プリムラとかジュリアンとも言うらしいですけど」
 桜草、たしか母がベランダに一時期植えていたのを思い出す。酔っぱらった父に鉢を壊され、そのまま枯れてしまったが。
「優子さん、サクラソウの花言葉知ってますか?」
 私はその問いかけにかぶりを振る。
「適当でいいですよ、一つ1だけじゃないので。もしかしたら勘で当たるかもしれませんし」
 何故かクイズの流れになってしまっているが、ちょっと面白そうなので考えてみる。私の知識にサクラソウはおろか花言葉なぞはほとんど入っていないが、当てずっぽう言って外すのもまた楽しみかもしれないと思えたからだ。
「なんだろ、可愛らしい花だから……『可憐』とか?」
「わ、すごい。当たりです」
 少女が驚いた顔で私をじっと見る。私も曖昧に照れ笑いながら彼女を見返す。打ち解けているように感じる傍ら、私の心はどこか警戒してしまっている。もしかしたら彼女の方も同じ心情なのだろうか。
「でもですね、ほかにも色々花言葉はあるんですよ。たとえば『富貴』『うぬぼれ』『永続する愛情』……」
 語る少女の姿は、やはり美しかった。近くで見るとよりそれを鮮明に見て、感じる。人を惹きつける何かがある。でも魅力と呼べるほど煌びやかでも具体的なものでもない、不思議な感覚が私を包み込んでいた。
「でも私は、この意味が一番気に入ってます」
 そう言って、少女はサクラソウの小さな花束を私に差し出した。
「『運命を切り開く』……ようこそ、白鳥家へ」
 渡された花束の花弁に、サクラソウの白がそっと映えていた。

  ◆

 お嬢さんの正体は白鳥美姫という一人娘の少女だった。
 歳は私と同じで十五歳、手先が器用で音楽手芸家事など『可能な範囲でできること』は何でもできるらしい。
 そして何より同姓の私が思わず見とれてしまうほど容姿端麗、白鳥夫妻がまるでお姫様のような口ぶりで言っていたのも、今となっては納得できる。そのくらい彼女はあらゆる面で優れ、秀でていた。
「これでも昔はかけっこも速かったの。五歳のときに幼稚園の運動会で一番だったこと、今でも憶えてるわ」
 顔合わせの晩餐を終え、私は美姫の自室に呼ばれて話していた。あまり広くない、私の部屋よりも少し小さいくらいの部屋だった。こじんまりした空間の中に、あまり豪華ではない質素な家具と、勉強道具や日用品が机の上に置かれている。
「私の足のこと、もう聞いてる?」
「いえ、まだ」
 実際、彼女の両親は娘のことについて詳細に語ることをほとんどしなかった。庭で初めて見た時は、予想とだいぶ開きがあったように思う。
「……五歳の、たしか冬頃ね。車に撥ねられたの」
「車に?」
「ええ、猫か何かを追いかけてたんだと思う。歩道のない狭い道路だったのに確認もせずに渡ろうとして、気が付いた時にはご覧の有様だった」
 美姫は、何故か嬉しそうな様子で飄々と事故のことを私に話した。掛け毛布の下、動かない両足を手でノックするようにして叩く。まるで自分の体の一部ではないかのように。
「はじめはちょっと絶望したけど、すぐにやる気取り戻した。それでリハビリも一生懸命やったし、本を読んだりして、この足は絶対に治るんだって信じてた。……だってまだ五歳だったんだから、怪我は元通りになるってどこかで盲信してた」
 美姫はやはり、どこか嬉しそうな表情のままだ。明るい様子で話すことでもないだろうに、何故こんなに嬉しそうなのか、私にはまったく分からなかった。
「小学校に上がってからは?」
 私は夫妻からまったく話を聞けなかった反動からか、ぱっと聞いてみたいことが次々と頭の中に浮かんできていた。この謎に満ちた少女をもっと知りたいと、心の底で思っていた。
 美姫はすぐには答えなかった。しばらく聞こえていない風に花瓶から生花を一本抜き取って、夢中で眺め見ている。しかし、見えない視線は常に私を向いていて、決して無視しているわけではないのだと私も思った。
「優子さん、察しは付く?」
「……失礼かもですけど、たぶん」
 私のいた小学校でも、車椅子の同級生はいた。だが顔はほとんど知らないし、話したこともなかった。私たちのクラスがA組やB組なら、彼らのクラスはきまってZ組で、隔離されたような感じがして(興味のある児童以外は)お互い関わり合うことがほとんどなかった。
「普通の公立の小学校だけど、私が入ったのは特別クラスってところだった。私のほかに子どもは二人だけだった。おまけに内一人はほとんど学校に来なかったし、もう一人の子は全然自分から喋ろうとしない内気な子だった。でもクラスが違うからほかの同級生と話すのも難しくて……大変だったなあ」
「中学に入ってからも、特別クラスだったの?」
「うーん、えっとね、そうかな」
 少し言葉を濁して美姫が答える。
「何か隠してる? 言いたくないこと?」
 私も、よせばいいのに要らぬ追い打ちをかける。
「……うん。そう、今はまだ言えないかな」
 美姫は視線をしっかりと合わせて、逃げることなく私に答えた。凛とした、爽やかと言ってもいいほど迷いのない表情を浮かべて。
「あのね優子さん」
「はい」
「私のことはね、名前で呼んでね。間違っても『お嬢様』なんて呼ばないで。約束よ」
「……分かりました。一応、理由を聞いてもいい?」
 そう尋ねた途端、またくすくすと彼女は笑い始め、そして言った。
「ばかねぇ優子さん。だって私たち『家族』じゃないの」
 あゝ、そう言えばそうだった。
 行きがけに叔母さんに言われたことを、そっくりそのまま美姫にも言われてしまった。それがおかしくて、私もつい笑いを堪えきれなくなってしまう。
「やだ、何で優子さんまで笑うのよ。ふふふ」
「ごめ、すみません。本当に、だって、はは、あはは……」
 笑いながら、彼女を見る。もうそこに警戒の障壁はなかった。
 私は美姫にとって家族になったのだ。もう一つ、それは私にとっても同じだった。

  ◆

 次第に打ち解けながら、しかし気づいたら世話焼きになりつつ、私と美姫は受験を終え、各々の中学を卒業し、今日に至る。
「あっという間だったねー、卒業まで」
 車椅子の上、美姫が気の抜けた笑みを浮かべて伸びをする。私もつられて欠伸してしまいそうな、そんな解放感が漂っていた。
「美姫さん、ずいぶん敬語抜けましたね」
「そう言う優子は全然抜けてないね」
「なんか板に付いちゃったんです。こっちの方が自然みたいで」
 卒業して後、特にすることもなくなった私はほぼ一日中、美姫といっしょにいることが多くなった。(単に彼女以外に話相手がいなかったこともあるが、それ以上に白鳥夫妻から相手をしてあげるよう念押しされていたため)
 私は初対面でこそ完全無欠の才女の如き印象を美姫に持っていた。が、実は人並みな面も多くあることを、いっしょに時間を過ごすうちに知るようになった。例えばちょっとからかうとすぐにのせられてしまうこととか(これはおそらくされた経験があまりないから免疫がない所為と推測)
「でも良かったです。美姫さんが思ったよりも……」
「思ったよりも?」
「人間らしくて」
「いったい私をなんだと思ってたのかしら」 
 お互い軽口を言い合って、それから美姫が先に笑い出し、私もつられて笑う。美姫は、決して下品な笑い方はしない。それこそ本当にお嬢様みたいに上品に笑う。人によっては飾った風に聞こえるかもしれないけど、私は心地良い感じがして好きだった。
「……楽しみですね。高校生活」
 二週間後から通うことになる高校の正門を、車椅子を押しながら歩く。桜はまだ蕾のままだが、ぽつぽつ植えられた梅は満開を迎え、風に吹かれて飛んでいく小さな花吹雪はとても美しかった。
「高校生活……か。優子と同じクラスになれたらいいんだけど」
「それは当日行ってからのお楽しみですね」
「帰ったらおまじないしようかな」
「それより先にお祝いですよ」
 咲くは未だ梅の花のみ。桜並木が芽吹く頃に、私たちは再びここへやって来る。今度は、真新しい制服に袖を通して。 

  ◆

 春休みも半分が過ぎ、カレンダーは三月から四月に。
 アパート暮らしの時からは考えられない広い部屋にもだんだんと慣れ、屋敷での豪勢な生活もようやく体に馴染んできていた。
 馴染んだと言えば、美姫ともだいぶ親しくなったように思う。当初は私もカチカチの敬語が抜けず、本当に使用人になったような受け答えばかりするので美姫が憤慨し始めるほどだった。
 態度の変わるきっかけになったのは、受験勉強の合間の休憩時間に二人で行く短い散歩だった。私が車椅子を押して彼女の言う目的地まで行き、少し話したりして時間を潰し、来た道を帰る。行ける範囲は屋敷の敷地内だけだったが、それでも全然退屈しないほど美姫は多くの散歩スポットを知っていた。
 その道中、
「優子はさ、どう?」
 きまってこう前置きしてから、美姫は色々なことを私に訪ねてくる。受験勉強の息抜きと言いつつ、その延長で知識比べをする時もあれば、記憶すら曖昧な歳だった時の昔語りをすることもあった。
 私の敬語は相変わらずだったが、崇拝の念にも近かったそれは会話を繰り返すうちに次第に変質し、自分でも親しみを感じられるくらいの温かみを持つものになっていた。
 美姫の方もそれを感じているのか、あまり敬語を正すよう言うことはなくなった。途端に、私には積極性が足りないとか押しが弱いなどと、急におせっかい焼のような物言いを私にするようになった。
 こうなると少し楽しくなってきて、私も美姫の恥ずかしがるようなところを次々と指摘してやり返した。決して嫌味や悪口には受け取られない範囲でだが、美姫は本気になって言い返したり、それをまた私がひらりと返して言葉に詰まったりと、今までの二人にはなかった、弾むような会話が増えた。
 そしてそれを晩餐の時などに彼女が白鳥夫妻に話すので、私はなんとなく恥ずかしい気がして身を縮めるのだが、夫妻は「仲良くやってくれてるね、結構結構」と上機嫌になり私を褒める。それがまたどうにもむず痒い恥ずかしさを誘発し、寝る前に美姫にしてやったり顔をされたりと、お互い十五歳らしくない、子どもみたいなやり取りをして日々を過ごしていた。
「今日はどこまで散歩しようか?」
 少し思考を延ばしていた私は彼女の問いかけにすぐに反応できなかった。ちょっと間を開けてそれに気づくと、曖昧に笑って答える。
「美姫さんの好きな所まで」
 すると美姫は珍しく「じゃあこっち!」と即断して進路を決定したりせず、じっと腕を組んで考え始めた。
「どうしました?」
「……えーっとね、ちょっといつもより歩くけど、良い?」
「いいですよ」
 美姫は少し堅い表情をして、私に指差しで進路を教える。私はそれを見ながらゆっくりと屋敷の外の入り組んだ庭を進んで行く。植物園のようにうっそうと茂った観葉植物の森を抜け、プランター置き場の隣、屋敷を囲む柵の近くまで来た時「ストップ」と言って歩みを止めた。
「? ……この柵がどうかしたんですか」
 美姫は答えず、自分で車椅子を漕いで青銅製の柵に近づき、そのうちの一本を両手に握った。
「せーの」
 と自分で掛け声をかけて、ぐいっとそれを手前に引っ張る。ガチャリと音がして、柵の一部が門のように開いた。空いた空間からは、車椅子に乗っても十分に外に出れそうだった。
「優子が来る前は、一人でこっそり来てたんだけど」
「いいんですか? 勝手にお屋敷の外に出て」
 心配になってそう訊ねると、美姫は振り返って心外そうな表情をした後、にやりと微笑んで
「だって、私の好きな所で良いって言ったじゃん」
「それは……そうです、けど」
 大丈夫大丈夫と自信満々な表情の美姫に、私はまだ不安を隠せなかった。勝手に外に出たりして、咎められるのはまだ良いとして、万が一それが原因で美姫が怪我でもしたらと思うと、屋敷の外にほいほい出てしまうのはどうも躊躇してしまう。
「優子が来る前も何度も行ってるから、山の中だからってそんなに不安にならなくても大丈夫。ほら早く、他の人に見られたら使用禁止にされちゃう」
 私は迷いを捨てきれないまま、しかしゆっくりと外に歩き出した。隠し門を閉じ、美姫を押すと言うより腕から引っ張られるように外の獣道を進んで行く。
「ね、獣道だけど足場もしっかりしてるでしょ。この調子で目的地まで続いてるから」
「だからって、さすがにちょっと危険じゃありません?」
「大丈夫だって。出て行ったことさえバレなかったら無問題、これから行くのは私の秘密基地なんだから」
 秘密基地? とても屋敷のご令嬢には似つかわない単語を聞いて私はますます混乱した。
 ひとまず、逸る彼女が窪地に落ちたりしないよう、道の先に気を付けながら車椅子を押して行く。庭の植物園以上にうっそうと茂った低木林と雑草に全身を包まれながら。

 門を出て歩くこと五分、視界の先がすこし白くなった。この先に何か広い空間があるようだった。
「ここですか?」
 美姫に訊ねると
「ええ」
 と返答。たしかにこの距離なら美姫一人でも十分漕いで来れそうだ。
 その空間は、ちょうど屋敷の裏庭のような開けた草地になっていた。所々に背の高い雑草や、誰かに植えられた跡のある植物群が見えた。ただ、特に人工物などはどこにも見られない。
「私の秘密基地よ」
 誇らしげな調子で美姫が言う。予想と違い、とてもそれっぽい要素が見当たらないので、私はどことなく秘密の楽園のようなイメージを抱いた。
「花を植えているんですか?」
 一番近くに植わっていた小さな白い花の群生を見ながら私が聞く。美姫は脇目で花を見た後
「別に花を植えてるわけじゃないの。雑草でも綺麗な感じがしたら残してるし、何の種か分からずに植えてそのまま育ったのとか、けっこう目茶苦茶」
 周囲を見渡してみると、たしかに裏庭の花たちと比べて華美な感じはあまり受けず、統一性もなくばらばらに植えられている印象を受けた。それでも、右手側の端に植わるサクラソウの白色はとても映えて見えた。
「でもなんだか良いですね。好き勝手できるこんな広い空間があるなんて、秘密基地って言うより楽園みたいで」
「でしょでしょ? 私と優子だけの秘密の場所ってことで」
 片目を瞑ってウインク&人差し指を唇に立て、悪戯っぽく彼女が笑う。
「分かりました。二人だけの秘密の場所ですね」
 私も真似をして合図。美姫が満足そうによしよしと頷いて私を見る。
「……入学式まであと何日だっけ?」
 ふいに美姫がそんなことを訊いてきた。
「あと七日です」
 答えながら、私自身まったくそんな実感が湧いていないことに気付く。誰かが言っていたが最上級生で後輩たちを統率してきた中学三年生が、高校に入るとまた一番下の一年生に逆戻りするのだから、変な気持ちもする。それと同時に、義務教育とは違う異質な、恐れにも似た僅かな恐怖を高校に感じている気もする。
「そっかあ……あと一週間なんだ」
 美姫が何度かそれを反復し、困ったように空を見上げた。
 快晴ではないけれど、薄雲の張った水色の空に、きらきらと光るものが舞っている。何かと思ってよく見てみると、山のどこからか飛んできた桜の花弁のようだった。木々に囲まれたここではよく分からないが、たぶん上空では激しい春風が吹き荒れているのだろう。
「ねえ優子」
「はい」
「最初に会ったとき、私がまだ言えないって言ったことがあるの、憶えてる?」
 私はすぐには思い出せず、ここ二カ月弱の記憶を必死に掘り返してみた。最初に会ったのは引っ越した日の昼下がり、初めて入った裏庭だ。そこで彼女の美しさに見とれてしまって……イメージはぽんぽんといくつか湧いてくるのに、どんな会話をしたのかはなかなか思い出せなかった。
「……私ね、中学の時のこと『まだ言えない』って言ったの。思い出した?」
 そう言われて、もう一度記憶の中を探してみると、ようやく会話の大体を思い出してきた。私が頷くと、美姫はいつもより重そうに口を開いた。
「私ね、こう見えて結構やんちゃなの。足怪我してからもその癖抜けなくて、小学校の時みたく特別クラスだった時は相手も先生くらいしか居なかったから、何もなかったんだけど。でも中学校は特別クラスがなくて、私も足が悪いだけだったから公立の普通の中学校に入ったの。みんな車椅子に乗ってるのをじろじろ見てくるから、すっごくやりにくかった」
 それは車椅子よりは美姫本人の美貌故だと思うのだが、話の腰を折るのは悪いと思い、私は黙って聞いていた。
「やっぱり車椅子だといろいろ皆に迷惑かけちゃうけど、たぶんそれが問題だったんじゃないと思う。私がクラスの人気女子と口論になっちゃって、それからかな。どうなったと思う?」
 ずいぶんとぼかした言い方だった。私は彼女の透き通った微笑の裏に、悲痛な表情が隠れているように思えてならなかった。
「……クラスの居心地が悪くなった、ですか?」
 そんな彼女の心裏を思うと当然私も、オブラートに包んだ表現しか言えなかった。
 彼女はマイナスな表情などおくびにも出さず、やはり澄ました笑顔で答えた。
「そうね、車椅子が三回壊れるくらいには悪くなったわ」
 私の予想していたどんな答えよりも現実的で、すぐには何の反応も返せなかった。
「先生も、二回目に壊れるまではどうにかしようとしてくれなかったし。私も別にそんなのは期待してなかった。言い負かして打ち勝てば何とかなると思って、階段から突き落とされても文房具投げ返してたんだから」
 そう言って笑みを浮かべる彼女は、どこから見ても傷だらけに見えた。この宝石のようなお姫様が誰かと口論になったり、喧嘩しているところなどまったく想像できなかった。
「想像できないでしょ? 私が本気の本気で怒ってるとこ」
「……はい」
 私は消沈して今にも消え入りそうな声で答えた。何故だろう、傷ついたのは彼女のはずなのに、その痛みがどんどん聞いている私の心に沁みてくる。
「家ではね、半分猫被ってるの。でも学校でも半分被ってた。家で慎ましやかにおとなしくしているのもたしかに私だけど、学校で対抗心燃やして孤軍奮闘してたのも私自身だったから」
「そうまでしないと、許せないことだったんですか。その発端になった口論って」
 私の口から不意にそんな言葉が飛び出ていた。私はそこに居なかったにも関わらず、彼女の痛みも、苦しみも、何も知らない人間なのに、何の抵抗もなくそれを訊ねてしまった。
「ううん、それは本当に最初のきっかけになっただけで、私ももう何が原因だったか憶えてない。ただ、相手は徒党を組んででも私を貶めようとしたし、私は絶対にそれで折れるようなことはしなかった。たぶんお父さんが学校に苦情入れてなかったら、三年間暗黒時代になってたかも」
「それで、特別クラスになったんですか」
「定時制みたいな感じでね。私が三回目の突き落としで頭打っちゃって、その診察時間の関係もあって夕方頃からマンツーマンで授業受けるようになったわ。一応クラスに席はあったけど、一年生の三学期からは一度も行かなかった。卒業アルバムの集合写真だって、一人だけ別室で撮った写真だし。本当、これじゃ小学校の時と同じじゃない! って話」
 もはや軽快なノリで話を進める彼女は、とてもそんな過去を背負ってきたようには見えない。傷はたしかに負っているのかもしれないけど、それを感じさせないほどの強さがある。たぶん、私よりもずっと強いものが。
「うん、長々話したけど言いたかったのは結局私がそういう人間だってこと。学校始まったら嫌でも私のそういうとこ目にしちゃうだろうから、その前に言っておかなきゃと思って」
 自らにも汚点があることをしっかり自覚している。それでいてそのことを包み隠さず話す勇気も兼ね備えている、私の顎までしか背丈のない小さな彼女が、今はとても大きく、揺らぎそうになく見える。
「分かりました。じゃあ私は美姫さんが言い過ぎてしまう前に場を取り繕ったらいいんですね」
「え? あ、いや別にそういうつもりで言ったんじゃないよ? 私もさすがに自制心付いたし今度こそは……」
「安心してくださいね。不利になったら私も非難する側に寝返るので」
「どう安心しろって言うの!」
 美姫がまた、いつもの調子に戻って言う。この少し天然で純粋な、ちょっと口の回る美姫の方が私にとっては自然だった。
 美姫が私に初めて見せた、あの表情、声、言葉。そのすべては、私の知らない彼女のもうひとつの顔だった。そうでないなら、美しく脆い仮面の下に隠れた素顔だった。愛おしさ故誰にも触れられてこなかった彼女の『強さ』を、私は垣間見たのだ。
 ゆっくりと車椅子を押す。まだ居たいと言う美姫を何とか言いくるめながら屋敷へと獣道を戻って行く。今日の散歩はいつもと少し違ったようだ。少なくとも私にとっては、ただ彼女のことを教えられただけではなかった。
 一つ新しい思いを胸に、空に舞い散る桜のように消えてしまわないよう、深く奥底に繋ぎ止める。
「今日のデザートは美姫さんの好きなチェリーパイですよ」
「ちょっと、何で優子がそんなこと知ってるの」
「さあ、何ででしょう」
 桜前線の到来の中、二人は歩く。門をくぐると、風に運ばれて昼食の匂いが漂ってきた。

 翻って見た屋敷の陰は、もう怪物には見えなかった。
メンテ
神の都 ( No.412 )
   
日時: 2014/03/16 01:21
名前: BLUE ID:05S/szf2

 ――静かすぎる扉の向こうには 綺麗な鳥が居座っていた。滝の内側に泉があり、ただ轟轟とする音がひたすらそれを叩きつける頃、今宵、また朝焼けの頃、それでも呆然とする時間がいつまでも流れるあの空に、ただ舞うように飛び立ったあの鳥を、私はいつまでも覚えていたいと思っているのに、あなたが記憶を啄もうとする。酷い、恐ろしく酷い。けれどそんな悪夢は、嘴が私のうなじを穿つ時、心地よいと喉が震えるのを、骨が柔らかく伝えるのだ――。


 あの鳥は、滝のすぐ傍にある大樹の枝に、静かに座っています。二十四時間のうち、二十三時間はそこに座っていて、雪が降れば彼の全身に雪が積もるのですが、それでもまったく微動だにしません。冷たいのに、とやってくる旅人や僧侶たちは呟きます。しかし動きません。鳴きもしない、泣きもしない、哭きもしない。震えることもありません。しかし二十三時間が経つと、まるで待ちくたびれたように大らかな翼を広げ、滝の入口へと飛び立っていきます。かの翼は虹色にも見えます。森の中に住んでいる侏儒――とりわけ、<凍れる森>と呼ばれる北に住む人たちのことです――によれば、あの鳥の翼は銀色に見えるとのことですが、きっと人間とはその見え方が違うのでしょうし、時間的なもの、時空的なもの、光の角度も太陽の囁きも、多くのものが違うからこそ見える現象でもありましょう。もしくはあの鳥の翼には、本当の色などないのかもしれません。ただ綺麗に、確実な美しさを持って飛び立つのですから、誰しもが目を奪われる天空を持っているのです。
 <凍れる森>の侏儒の話は、ずっと前に聞いたことがありました。
 私はその時、森の中でどこか休めるところを探していましたが、侏儒は人間を怖がり、あまり近寄ろうとしませんでした。彼らは木々の裏に隠れてこちらをじっと見つめてはいるものの、近づけばすぐにさっと逃げていく。もちろんそれが彼らの普通の反応なのです。彼らの小屋は大変に小さい。例えば子どもがお遊びで使うような、本当に小さな小屋なのです。だから私も、彼らに休める場所など求めても無駄だろうと、手近な洞窟などを探していました。<凍れる森>はその名の通り、大変に寒々しい土地です。その命名は元々、考古学者にして侏儒研究の第一人者・パトリック・ブランド博士の最も著名な論文によるものだそうですが、彼はその最後を、侏儒に分解されるという残虐な形で迎えています。彼の助手が発見したらしいのですが、その助手の手記には――ブランド博士の死体は、その首回りを残して、ほぼ完全に捕食されていた。しかし、それは動物に狩られたかのような野性的な食された方ではなかった。侏儒は彼らが使うためのフォークとナイフで彼を切り分け、まるで我々が鶏肉を食べるかのように、非常に丁寧に博士を食べていた。しかし、その丁寧さが故の残虐さがあったのである――とあります。これは七年前の手記でありますが、かのブランド博士は、侏儒たちと友好を図ろうと侏儒たちの小さな館の傍にテントを立て、しばらくの間生活したのでした。しかし侏儒はその意図など知らないまま、眠っているブランド博士を糸で拘束し、助手の手記の通り、丁寧すぎる残虐さを持って、博士を食したのだといいます。これでは彼らに休める場所を求めても、私が自滅するだけでしょう。やはり彼らに見つからない程度の、遠くの洞窟を探すのが良いと、<凍れる森>の歩きやすい雪を踏み締めていました。
 ちょうどその時ですが、空をあの綺麗な鳥が飛んでいきました。かの鳥の棲家としている廃墟――の奥にある滝と泉、それはこの<凍れる森>の奥にあるのです。それを見つめていると、近くにいた侏儒がなぜか近寄ってきました。彼らは非常に小さく、私のような人間の膝ほどしかありません。しかし、ほぼ人間と同じ機構をしています。
「お前さんは運がよいな。銀色の鳥を見たぞ」しゃがれた声をしていました。「あの鳥は奇跡の鳥であり、我々の神だ」
「そうですか。しかし、あなたはなぜ私に話しかけたのですか」「別に、我々は人間と意思疎通できないわけではない」「とはいえ、ずっと私を避けていたのでは。それに、あなたたちは人間を喰らいますよね」「人間は喰わんよ。特別な時だけだ」「七年前、あなたたちは男を食べませんでしたか」私は、一応訊ねてみた。「初老の男です。あなたたちに必死で話しかけていたと聞いていますが」「あの男か」「おぼえているのですか」「ああ、あの男は大変に良い人間だったな」「なのに、食べたのですか?」「逆だ。良い人間だから食べたのだよ」
 侏儒はなるほど、こちらも初老のような雰囲気を醸し出していました。しかし、まったく完全に人間です。彼の足元は雪に埋まっていますが、裸足であるところを見ると、冷たさを感じていないのかもしれません。それはすでに、ブランド博士の論文に書いてあり、学者間でもすでに知られている事実でしょう。そこは人間との違いですし、だからこそ<凍れる森>に住んでいると言えます。「悪い人間など喰わん。あんたは、まったく苦手で嫌いな人間と、『同じ』になろうとするかの。違うだろう。友好関係を結べると実感すれば、手を繋ぎ、同じ輪に入れる。それだけじゃの」
「喰うとは、そういうことなのですか」
「奴は侏儒ではないからな」
「あの鳥は、あなたたちの神ですか?」
「そうじゃの」
「あの鳥の翼は、何色です?」私には、虹色に見える。それは人間の証明です。人間には虹色に見える。侏儒には銀色に見える。それは知っています。しかし、ただ流れのうちに、その冷たさに口を勝手に動かすことしかできませんでした。侏儒は完全に、一つの固形のように動きません。口はあるのに、口を開けずに喋るのです。
 「銀色だ」そう答えました。「そして、最も綺麗な色だ」侏儒はそう言い、木々に隠れていた仲間たちと、北に向かって歩いていきました。銀色。この世で最も綺麗な色。ブランド博士は、常々同じことを言っていました。彼は人間ですが、その精神はできるだけ侏儒に近寄ろうとその微笑みを打ち砕き、ただ凍れる時間に閉じこもろうとしたのでしょう。何かを理解するために、そのために多くの物を犠牲にして、人間を犠牲にして、その論理を磨き上げるために、あちら側へ歩み寄った。彼は人間を捨てていました。あの論文は我々の言語で書かれてはいても、決して私たちの世界ではなかった。それだけは確実で、当時学会では総叩きにあったと言います。仕方がありません。彼はもう、侏儒の世界に憑りつかれていたのですから。ブランド博士の最後の論文は、彼が最後に<凍れる森>に向かう前夜に書かれたもので、その最後はこう結ばれています。――その全てを、いっさいを完全な未知に身を預けると言うことに、どうしてこうも苦しまなければならないのだ。ところがその苦しみが、もう全身全霊をかけて私を喜ばせる、震わせる。その震えがもたらした温もりで、あの凍てつく森に生きる道が生まれる――。
 鳥は神です。翼から放たれる煌めかしい羽を拾ったものには、幸福が約束される。そんな宗教が、確か南の村で栄えていたはずでした。その宗教が始まったのはブランド博士が死去してからだったはずですから、もし彼が生きていたら、きっとその宗教についても研究したのかもしれません。あの鳥は、侏儒の神。そしてかの宗教も鳥を神としている。では、その信仰者たちと侏儒の共通点はいったい何なのか。そもそも、鳥とは何なのか。
 ブランド博士の助手に、その鳥についてご高説を願ったことがあります。助手はブランド博士の研究を引き継ぎ、侏儒の研究から、彼らの神――鳥についての研究に、六年ほど前から入っています。彼は現在、首都の大学で教授をやっていますが、彼によると、侏儒はこの世に、空を飛ぶものがあの鳥しか存在しないと考えているのでは、という仮説を立てました。確かに、あの寒い地方ではほとんど鳥が寄り付かず、春になっても基本的に氷は解けません。ですから大抵の種はあの森に近寄らないのです。しかし、あの鳥だけはあの森に住み着き、その奥にある廃墟の裏手の泉に棲家を作って生きている。その『天空』に思いを馳せる侏儒たちの『高い』という事象への憧憬――とりわけ、侏儒は、人間との差異の中で『高低』という概念の内側で、劣等感が遺伝の中で培われた。それが、空を舞う鳥を神と崇める信仰に変化した。そして、鳥はあの綺麗な鳥一匹。だとすれば、あの鳥を崇めるのも無理はない。もちろんそれは仮説だけれど――と最後に付け加える助手の瞳が印象的です。彼の名前は、シーハー・スタン。恐らくは、侏儒研究の今後を担っていく人間であるでしょう。
 私が今日この<凍える森>に来たのは、もちろん鳥を見つけに来たのですが、そのシーハー・スタン助手に、鳥の写真を取ってくるように命じられての事でした。近年カメラの小型化が進み、やっとこの森に持って行けるほど小さくなったのが一年ほど前。首都の大手写真家が開発したのを、彼が大学の費用で買い、そこの研究室に採用された私が、こうして命じられてやってきたのでした。もうこの際、休まず、かの廃墟まで向かってしまってもいいのかもしれません。
 その時でした。私は後頭部に、重すぎる何か一撃を受けました。振り向くと、石を持った侏儒たちの群れがいて、私のすぐ後ろの雪の上には、同じような石が転がっていました。それからほとんど間髪入れずに、石を私に投げつけてきました。その中には、先ほど消えたはずのあの侏儒――おそらく集落の長でしょうけれど――がいて、こちらをじっと見つめていました。
 「何がしたいのです?」「その機械で何をするつもりかね」さっき近付いたのは、私の手にある写真機を近くで見るためだったのであり、また、写真機の先端についているレンズが、ブランド博士の使用した望遠鏡に似たものであるから、その機械が神の姿を見て何かをする機械だと推測したのでありましょう。しかし、弁明はしなければなりません。「これは、大した機械ではありませんが」「神を凌辱するつもりか――」「違います。その御姿をひとつ、図におさめるだけです」「それが許されないのだ」「こちらにそのような意図は――」瞬間、投げられた石が私の右目に辺り、頭の内側にぐわんとする震動が響き渡りました。同時に明滅し、見えなくなります。強すぎる衝撃でした。それからあまりの痛みに機械を投げ出し、雪の上に膝を付く。それから連続して石を投げられ、顔に何度も痛みが走り、その内、意識を失いました。
 次に目覚めた時、まずその目には、虹のような息吹が降り注ぐ、同時に轟音が響き渡る、寒々しい場所でした。右目が見えませんでした。そこは真っ暗で、硬質な肌触りが全身にひたすら押し寄せる、洞窟の中だと気付くに、そう時間は掛かりませんでした。轟音は恐らく滝の音で、そうなれば――あの場所の近くということになります。けれどここは洞窟の奥地らしく、音だけが遠くから聞こえるだけで、廃墟の影さえも視界には認められない、晴天とはほど遠い暗部でした。ゆっくりと体を起こし、辺りを見回します。暗い、昏い――ブランド博士の論文と、ここに来るように命じたスタン助手の言葉が頭を何度も穿ち、それが混迷を極めた後、自分の歩みが洞窟の奥地を目指していると気付きました。気付いた、違う、これは気付いたというよりも、勝手に、痛い、これは、スタン助手、機械は失われ、もうここにいる意味は無く――そうして辿り着いたのは、轟轟と燃える炎が輝く燭台がシンメトリーを描く、宗教的な麻薬が当たりに漂った祭壇がありました。洞窟の奥の、祭壇。ここは、侏儒の、いったい何らかの。彼らの住まいは小屋のはず。なのに、ここはどこなのでしょうか。右目を押さえ、その祭壇を見つめます。ブランド博士、ここはどこですか。あなたはここを知らない。あなたが最後に死んだのは、ここじゃない。あなたの死体が見つかったのは、ここじゃない。<凍れる森>にこんなところがあるなど、誰も――そこに、私は確かに神を見ました。
 祭壇の中央にいたのは、女でした。
「ようこそ、ここまで」「あなた――あなたは、鳥ですね」「わかりましたか」「なぜわかったのでしょう。あの鳥は、廃墟に住んでいる。学会でも、スタン助手もそう言っている。なのに――どうしてですか、教えてください。私の目では、あなたの姿が、瞬きの度に変わるのです。一瞬前はあなたの、麗しい姿なのに、次の瞬間には、同じ場所に止まっている鳥に見える。わかりません。鳥は、廃墟にいるのではないですか。どうして、何もわかりません」「落ち着いてください。あなたの目は――左目は、死んだ侏儒の眼です」「侏儒の――――」
 あの侏儒たちの眼が、ここにあるというの。これは自分の眼だという実感を常に蔓延らせた生命など、この世にいないのです。誰しも、そんな感覚は捨てている。呼吸をしていること、自分の舌の位置、眠る時の時計の音――決して気にしていない者ばかり。自分が自分であることに意識を向ける――自分のものだとわかり切っている物、生まれた時から確かに自分の物である物は慣れによって普段は意識されない。これを大学では、人文物理学的に<生命慣性>と呼びますが、しかし今この左目にある眼もまさに、生まれた時から持っている眼と決して感覚の違いなどなかったのです。それなのに今、目の前にいる女は、確かに侏儒の眼と言いました。
 嘘を吐いている? 
 嘘に意味はあるのですか。
 意味などない。けれど意味は――。
 私は痛かったはずの右目を、開きました。
 姿が変わる。女と、鳥。侏儒の、眼。これは――侏儒の眼。
 この女が鳥に変わる、その色は。
 銀色。
「あなたは――違う、侏儒は……自分たちの体の一部を他人に移植することで、侏儒の輪に入れる。あなたたちは私を襲撃し、この両目に、あなたたち侏儒の眼を移植した! そして、私を仲間に入れるつもりだったのですね?」「どうでしょうか。あなたを我々の人脈の中に入れる意味は?」女が言いました。何を澄ました顔で。私は言いました。「いいですか。私の眼はあなたたち侏儒のものだ。そしてその侏儒の眼を受け入れた私には、あなたの姿が女にも鳥にも見える。けれど確かに……こんなこと、言いたくはありませんが、侏儒の味方をしたくなっているのですよ」
「そうですか。喜ばしいことです」
「疑問が晴れました。あなたたちはブランド博士を食べましたね? そしてその残虐の食べ方のされた博士の遺体を、スタン助手が発見した。そんな博士を食べた行為について、侏儒の老人はこのように説明した。『友好関係を結べると実感すれば、手を繋ぎ、同じ輪に入れる』――だからあなたたちは博士を食べた。これは逆のことも言えるのではないですか? あなたたちは医療技術を持っている! だから、自分たちの体の一部を、ここにやってきた人間に『移植する』ことができる。これは、あなたたちが博士を食して『体の一部にした』のと同じです。あなたたち侏儒が人間を体の内側に入れることで、人間を理解する。とすると、こうしてここにやってきた私にあなたたちの『体の一部を移植した』のならば――そうして、私があなたたちに理解を示して、あなたたちの味方になりたいという思考に少しずつ沈んでいくというのなら――」
 私は、その女の銀色の翼を見つめて、言いました。
「あなたたちは、人間を支配するつもりなのですね」


「侏儒が人間を食べる。そして人間を友好の輪に入れる。その逆を、あなたたちは実践して見せたのです。まさか、わざと自分たちの体の一部を、ここにやってきた人間に移植するとは! それは半強制的に、私たち人間があなたたち侏儒を『体に入れた』のと同じです。とするならば、人間はあなたたちを理解した。そしてあなたたちを友好の輪に入れたと思考するようになる」
 女はこちらを見ています。怪しげに、いつまでも妖しげに。翼は、虹色だと学会には――しかし、確かに、今目の前にいる女が、一瞬でも鳥になる、その瞬間は果てしなき銀色が私の瞳を撃ちます。そんなことは、けれど真実を明らかにしなければ。
「侏儒研究の第一人者であるブランド博士が死亡すれば、必ず、その後継ぎとなるべき人間が探しに来る。その後継ぎとなる人間は、これからの侏儒研究を先導し、後に世界的に有名になる学者です。発展性のある人間と見ていいでしょう。あなたたちはここにやってきたブランド博士を殺し、それを探しにやってきたシーハー・スタンに――あなたたち侏儒の一部を移植したのですね! だから『高低差』などというまやかしの論文を発表した! なぜならあの鳥は、侏儒の姫だったからです。それを悟られないように、あなたたちはスタンの体に侏儒の一部を移植することで、深層心理的な洗脳を施し、スタンが侏儒の味方を――言うなれば、侏儒の秘密を暴露しないように潜在的に仕向けた。だからスタンの論文は間違いだったのです」
「なぜ間違いだと?」
「今、私の目の前にいるあなたが、そうだからです」
「『高低差』の憧憬による信仰――それが過ちだとしたら、侏儒たちがなぜあの鳥を信仰するのでしょう」
「答えも、やはり私の眼が見ています。侏儒は基本的に男性です。男性が種族を担い、全てを男性が満たしている。私たちが出会ったのは皆一様に男の姿をしています。しかし、今目の前にいるあなたは、女だ。言うなれば、侏儒一族の中に生まれた『姫』なのですよ。であれば、あなたが信仰の対象になるのも不思議ではない」
「そうです。私は侏儒唯一の女。姫なのです」
「だが、あなたは鳥です」
「そうです。侏儒ではなく、鳥です」
「侏儒は食べた物をその内側に入れる。友好関係を築く。それを仲間と見なす。あなたは雌だ。侏儒は鳥を食べた。鳥も侏儒の仲間となった。そしてあなたは雌で、あなたは『姫』になり、『侏儒唯一の女』になったのです」
 だから、女に見える。
 けれど、彼女は鳥だ。
「あなたは侏儒に食べられた。そして、あなたも侏儒を食べた……そしてあなたは鳥であり、侏儒であるという両義性の化け物となった。だからこそ、あなたは侏儒の全てを掌握している」
 鳥が神であり、姫であり、全ての上にいる。それが信仰だ。
 侏儒の女に見える。
 そして鳥にも見える。
 なぜなら、私も……目を移植され、少しずつ、侏儒になりかけているからです。
「あなたたち侏儒はここにやってくる人間の研究者に、ひたすら侏儒の一部を移植した。そのための一番最初の『犯罪』は、第一人者であるブランド博士だった。ここに初めてやってきたのは彼だったからです。彼を殺せば、それを探しに来る人間がたくさん現れる。そして、やってきた人間は、今度は殺さず、一部を移植する。そして普通に人間社会に帰還させる。そうして、侏儒社会にとって利益的な論文ばかりを発表させる。真実を隠す。あなたが女だということ、そして鳥でもあるということも」
「それがなぜ、人間を支配することに繋がるのですか」
「今はまだ研究途上です。これから少しずつ、侏儒がいかに人間の仲間であるかを、スタン助手を含め、ここにやってきた人間たちが証明していくでしょう。様々な論理があなたたちを味方し、人間を騙すのです。ここにやってきた人間は、あなたたちから体の一部を貰い受けた、侏儒の似姿なのですからね。侏儒のために論文を欺瞞と詭弁と、もっともらしい論理で飾る」
「はい」
「そして人間は騙される。侏儒のような未開社会の論理が、発表された論理と合致し、正しいかどうかの判断は、未だ人間たちの常識に根付いていない。ですから、発表すればするほどそれは先駆的な研究となり、ブランド博士のように、ひたすらその分野で権威としてのし上がることが出来る。最初から世界的権威だったブランド博士に移植すればいいではないか、という疑問はナンセンスです。彼の存在が圧倒的すぎて、侏儒研究の新規参入は圧迫されていた。彼があまりにも凄すぎただからです。しかし、彼がそんな研究のフィールドワークの最中に死亡すれば、その『死亡』という事象自体が新たな研究者を駆り立てる。夢半ばで死亡した博士は可哀想だ、なんてことで侏儒研究を始める人間も増える。偉大な人間の発言力が消失し、若い人間だけで切削琢磨しながら分野の発展が望める。他にも様々ですが、第一人者の死亡という事件は、後続を育てるのにはもってこいのものだったのです。だからブランド博士を殺した。食べたのです。こうして研究の分野が広がる。侏儒研究に熱を上げる人間が増える。この洞窟や、侏儒の住まいにやってくる人間が増える。あなたたちはそうした人間全員を襲撃して、彼らに侏儒の一部を移植する。やってきた人間は全員、侏儒の味方になる。『そういう思考をするように』体が出来上がってしまう」
「スタン助手が我々の味方をするのなら、我々がブランド博士を残酷に食べたなんて発表しないのでは?」
「人間はそれよりずっと、そんな残虐の種族にさえ友好を図ろうとした、という偉大な研究者の『物語』にずっと心を打たれるのですよ。だからその研究に足を踏み入れるものはずっと多かった。復讐で何でもよいのです。ただ、この場所を訪れるきっかけが作れれば良いのですから。そんなきっかけを作るのには、死は便利です。必ず調査がやってきます。スタンのように……そして、例えやってきた人間が少数でも、彼らが学問を制してのし上がれば、その影響力は絶大です。その影響力の源が、そもそも侏儒たちの仲間であったとなれば……」
「どうすると、思います」
「支配して、喰らうのですね」
「主食は元々、人間でしたから」
 女は言った。
「人間を支配します。人間を少数だけ残しておき、生殖させる。けれど、人間社会の内側に私たちの居場所を作りたいです。このような<凍れる森>ではなく、虐げられた民族が、いかに彼らに力を持って制裁を加えることができるのか、それを証明したいところです。彼らは生かしましょう。けれど、世界を統べるのは侏儒です。人間を食べ、少しずつ少しずつ。移植して、あなたたちを少しずつ支配したいと思います。そのために――――」
 私は踵を返しました。
「あなたには、素敵な人生を送ってもらいたいと思います。侏儒に捧げる、全ての言葉を操って」



 私は洞窟を出ました。それから森を歩き、あの廃墟を見据えます。しばらくすると、その廃墟に鳥が止まりました。銀色の、輝かしく眩しい翼が輝いていました。人間には虹色のはずの翼が、今は無機質な銀色が光をひたすら弾き返して、私の眼には眩しく、痛みが広がっていました。それはとても恍惚で、明らかな不安定さを伴ったものでしたが、そこに違和感はありませんでした。廃墟を抜けた森に、様々な侏儒がこちらを見ていました。瞳だけで意思の疎通が出来ました。それはまったく恐ろしくありませんでした。彼らの意識が雪崩れ込んでくる、以前の記憶とはほとんど擦り合わすことのできない、穏やかだけれど少しだけ好奇心が満ちていく心地よさ。一体になれた。ブランド博士、あなたは――殺される時、食べられる時、もしかしたら……喜んでいたのではないですか? でしょうね。きっと……あなたは侏儒の内側に、その輪の内側に入った。そして彼らと共に生きている。同一の存在になる。境界を失うというのは、とても心地のいいことでしょうから……。
 私は森を抜け、大学に戻りました。
 スタン助手は私を、微笑みと共に迎え入れました。
「――――どうだった?」
「とても素敵、でした」
「そうだろうそうだろう」
 スタン助手は笑いました。
「ようこそ」



 
メンテ
Re: 【四月期お題「嘘」】お題小説スレッド【三月期お題「姫」作品投稿期間】 ( No.413 )
   
日時: 2014/03/18 20:15
名前: 企画運営委員 ID:dpylTH/Q

作品のご投稿お疲れ様でした。
3月15日(土)〜31日(月)は批評期間です。
作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。
批評だけのご参加もお待ちしております。


>第33回 お題『姫』参加作品(敬称略)

>>411 にゃんて猫:桜舞ふ
>>412  BLUE:神の都
メンテ
Re: 【四月期お題「嘘」】お題小説スレッド【三月期お題「姫」作品投稿期間】 ( No.414 )
   
日時: 2014/03/25 01:26
名前: BLUE ID:QzyFjJYg

 にゃんて猫さん:桜舞ふ


 この時期にふさわしいお話ですね。『空間』の処理の仕方が良いです。空間というのは、二人が暮らすことになった館であるとか、二人が出会った植物園のような『物理的な空間』と、二人が学校で築いているような人間関係の輪とか、家族の関係のような『精神的な空間』に分けられます。後者はよく『居場所』とか言ったりしますけど、美姫と優子はこの『物理的空間/精神的空間』の両方を失っている、鏡合わせの存在として絶妙に機能していますね。
 美姫は自分の住んでいる館や植物園を失ったわけではないのですが、まず足を失った。物理的な空間に対しての制限を掛けられてしまうわけです。これがある意味物理的な空間の喪失だと思われます。そして、中学での口論によって生まれてしまった人間関係の崩壊、これが精神的空間の喪失になるわけです。一方優子はというと、まず物理的な空間の喪失といえばもちろん家を離れざるを得なくなったこと、精神的な空間の喪失となれば家族を失ったこととなります。つまり、二人はそれぞれ二種類の空間を失っている。この対立構造がよくできていると思います。この二人が出会うことになるという物語は、やはりこれだけ空間を喪失しているわけですから、新しい空間、それこそ物理的においても精神的においても、二人による二人のための新しい空間作りに主題が置かれるわけで。そんな『新しい空間作り』が、ラストできちんと全て処理されているのが素晴らしいのです。登場人物が二人とも空間を失っていた。その二人が出会うことで、まず物理的な空間を築き上げる。それはラストで優子が「翻って見た屋敷の陰は、もう怪物には見えなかった。」と言っているように、二人にとって館がきちんと「家庭」になったことを示していることや、新しい「学校」という空間に一歩を踏み出そうとする、そこにも物理的な空間が二人の元へやってくることが示唆されています。そして精神的な空間作りとなると、やはり二人がきちんと家族になったこと、あるいはこれからなっていくんだろうなあという未来を想像する余韻を残したことでしょう。ラストで優子は、美姫のことを真に理解した。過去の傷を分かち合って、未来に目を向けていますね。優子が美姫に少し意地悪っぽくからかうのも、親密になった結果でしょう。美姫の「家ではね、半分猫被ってるの。」という言葉を何の気なしに優子に言って見せたのも、二人が家族よりもずっと近いものに発展したようで、そこに精神的な空間がきちんと築かれていることが伺えます。それは二人が最後に会話する秘密基地、『私と優子だけの秘密の場所』という言葉に表れているような気がしますね。二人は家族になったよ! というよりも『私と優子』、『美姫と優子』という空間を築き上げたのですから。このように『空間』の喪失を経験した二人が出会うことで、新しい空間が形成される、形成されていく、その過程が非常に丁寧に描かかれていたように思います。
 少しだけ気になったところと言えば、美姫の過去の事件がとても重要な事柄らしく引っ張ったのに対し、真実はそれほど意外性がなかったことでしょうか。『まだ言えない』ともったいぶったにしては、彼女の中学での経験は読者にも優子にも予想しやすいことだったと思います。もちろん痛ましいことではあるのですが、それをフックとして引っかけて後半に作用させるにはもう少し意外なところを真相として明かしてみせる方がよかったかもなあと。それこそ、優子が美姫を本気で嫌いそうになるくらいな痛ましい出来事。物語の起承転結として、彼女の中学での事件を「転」に持ってくるには、少しだけ弱いのではないかと思ってしまいます。もちろん美姫にとっては大変な出来事だったというのはわかるのですが……。
 とはいえ、中学から高校へ、一人から家族へ、という新しさに踏み込んでいく心情をよく描けていたと思います。高校に入学して以降の話を絵が描かなかったのはいい判断だったと思います。あくまで狭間の時期といいますか、このようなかなり微妙な時期にフォーカスするっていうのはできそうでなかなかできないことです。季節感もとても素敵でした。桜を含め、植物が小道具として活きていますね。とても面白かったです!



 自作


 一時間ほど時間をオーバーしてしまいました。申し訳ありません。
 言い訳がましいですがかなり急いで書いたために推敲もろくにできておらず、主述の乱れや、文脈的な矛盾が見られるようです。ずっとですます調だったくせに唐突に常体になってるところとか……左目やら右目やら不正確なところもあるようです。情けないですね。お話も自分ではあまり満足していません。お見苦しいものを提出してしまって恥ずかしい限りです。でもまあ出してしまったのは仕方がないので、どうぞよろしくお願いします。
 
メンテ
Re: 【四月期お題「嘘」】お題小説スレッド【三月期お題「姫」作品投稿期間】 ( No.415 )
   
日時: 2014/03/30 17:07
名前: にゃんて猫 ID:9Uwe2N5I

批評感想

神の都(No.412) BLUEさん

ちょっと昔のSF読み切り小説のような読後感。とても民族的且つ神話的な雰囲気と猟奇的な殺人の要素がマッチしていて、登場人物の少なさも相まって非常にすらすらと、楽しんで読めました。
侏儒という種族の設定が込み入っていて面白いです。元は人間が主食で、ほとんどが男性(的)、且つ鳥を姫として崇拝している。もし現代で未開の北方森林地帯に人が住んでいたなら、こんな風になっちゃうんでしょうか
後半の怒涛の謎解きトークは突然すぎて若干引っ張られる感じもしましたが、逆にそれが主人公やその他の事例にどんどん色を付けていくように塗り重ねられていき、気付けば読者が『鳥』を見る目は最初の時とまったく違っている。外形しかなかった事件や事象にどんどん中身が作られてゆく。そして神のような存在だった鳥も、とても近い存在に変わっていました。一般的な姫のイメージと比べると少々腹黒くて、姫よりも女王みたいなオーラがしますが、このくらいの人間臭さがあった方が、味があって良いのではと私は思いました。
本当に、細部までよく練られて推敲された完成度の高い小説だったと思います。ですます調が一部乱れている部分こそありましたが、これはご自身でも気づいておられるようなので追及はしません。むしろ限られた投稿期間の中でよくこれだけ誤りのない文体を維持できることを素晴らしく思います。久々に戻ってきたお題で、このような傑作を読めたことを嬉しく思います。思考の運び方や、無駄の少ない台詞のやり取りなど、参考になる表現や技がいくつもありました。いつか私もこんな風に肩の力を抜いて読める&密度の高い小説を書けるようになりたいです。

あと、最後の「ようこそ」のところはすごく痺れました。こういう幕引き、めっさ好みです。







自作(No.411)

ちょっと言い訳します。お題に気付いたのが十三日の夜でした(曖昧
まったく別の、学園モノの予定で書いてた原案を雛型にして『姫』っぽい雰囲気をちょい混ぜしながら(雑なお題消化)書いてたのですが、入学前まで書き終わった時にはすでに〆切一時間前でした。いらない場面や文を書き連ねる癖がまだ治ってません。
もういっそ諦めようかとも思いましたが、最近参加者が少ない様子なのを見てやっぱり駄作でも出すだけ出そうと思い、なけなしの修正と途中で終わっても違和感ないように最後を結んで、結構ギリギリで投稿しましたのが本作です。タイトルも桜要素ほとんどないことからお察しの通り、適当にその場で付けました。
車椅子の少女の二面性と主人公の微細な変化を描こうと思っていたのですが、まったく描写できてません。ただ車椅子の少女(一応立ち位置は姫です)に主人公が連れ回されるだけ、面白い展開もないまま打ち切りみたいな仕上がりになってしまいました。現在猛反省中。

久々のお題と言うこともあって、どんな風に書いてたか思い出すのに結構時間がかかりました。小説を書くこと自体久々だったので、書いててあんまり気分ものってこなかったです。次機会があるかどうかは分かりませんが、もしあれば今度はもっとリラックスして書いてみたいと思います。作品の出来は別にして。
あと、時期を考えすぎてファンタジー&SF要素が迷子になったので、次からは気を付けます。長々と弁明すみませんでした。
メンテ

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