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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

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▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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お残しは許しまへんでぇ ( No.316 )
   
日時: 2013/05/04 17:02
名前: kaia ID:JS0m7de.







私がこの世に生れて初めて見たものは広い広い緑の草原と茶色で四本足の生き物。そしてずーっと広がってる青い空。このときはまだ産まれたばかりだったから、自分も茶色で四本足の生き物なんだっていう自覚がなくて。なんていう生物なんだろうってずっと考えてた。
「私たちは牛だよ、牛。牛には体が白と黒のものもいるよ」
当時、一番年をとっていた牛さんが2歳くらいの私に教えてくれたのだった。そこで初めて自分が牛だということを自覚した、恥ずかしながら。
そして自分が牛だと知ってから数年後。私は立派な大きさの牛になった。当然友達もたくさんできた。飼い主さんという人間から名前をもらった。私の名前は『あやめ』なんだって。他のみんなに「人間くさい名前だな」って笑われちゃった。でも私は自分の名前が好きだった。可愛いじゃない?『あやめ』って。
「あやめ、草、草食べに行こうよ!」
彼の名前は『こたろー』と言う。私の友達で雄である。いわば『雄友達』である。
「いいね、あっ、こないだとってもおいしい葉っぱ見つけたんだよ」
「まじでかっ!行こう、今すぐにいこう」
こたろーと私はすぐさま草原に出ていき美味しい草をお腹いっぱいになるまで食べ続けた。そしてお腹いっぱいになったからお昼寝をして夕飯を食べてそしてまた遊んで寝る。これが私の日常だった。とにかく自由でキラキラしてる毎日だった。





「あやめ、こたろう、みずき、はなこ、きんじ、そうた、散歩、行こうか」
いつものようにこたろーと遊びに行こうとしたら飼い主さんに散歩に誘われた。私たちは体をあらったりうんちの処理をしてくれたり寝床を作ってくれたりする飼い主さんが大好きなので無論ついて行った。
でも、連れて行かれたのは一つの大きな車で乗るように言われた。みんな不思議がってたけど『違うところつれてってくれるのかな?』なんて思って結局みんな車におとなしく乗った。
車が大きく揺れて草原が遠ざかっていく。車についている窓からはいろんなものが見えた。大量の車に空よりも青くて水たまりの何倍もある水たまり。大量の人間。窓から見える景色は魅力的だけども私はどうしても空気が臭くて仕方がなかった。
長い間車に乗っていて着いたところで私たちの頭にはたくさんのクエスチョンが出ていただろう。
飼い主さんの言われるままについてきたが………少し怖くなった。
ここに草原のような場所はない。何頭もの牛たちが小さな檻に押し込められている、たった一人で。
――――おじさん?なに?ここどこ?
言い表せぬほどの不安が襲ってくる。
――――さぁ、みんなここが新しい家だよ。
え、やだやだやだやだよ、ここさみしいし暗いよ?
ここには緑もなんにもない、灰色しかないっ!
みんながみんな入っていくことを拒否した。でも飼い主さんが頼むから入ってくれっと泣きそうな声で頼んできたからしぶしぶと一人ぼっちの部屋に入った。
入るとそこで変な紐と壁をつながれた。ここで私は悟った―ーーあぁ、もう自由なんてないんだ。
みんなが「やだっ」「だしてっ」と鳴いているのを聞きながら私は恐ろしく冷静であった。




あれから今日で七日目、あの日私は隣の部屋の『金ちゃん』からすべて聞いた。ここは私たちを殺すための場所だと。私たちを殺して私たちの肉を人間に売るために切り刻む場所だと。自分たちは大事に育てられた商品なのだと。
最初は悲しかった、あの優しかった飼い主さんが私たちを殺すなんてありえないと思ったが、来て一日目『みずき』が此処から消えた。檻から出されてどこかに連れて行かれてから帰ってこなかった。
優しい、優しい子だった。私よりも年上でお姉ちゃんみたいで、物知りで。
帰ってくると信じてたのに飼い主さんは『みずき』の夫である『そうた』にあるものを渡した。
「そうた……みずきの形見だ。お前が持ってやっててくれ……」
渡したのはみずきの歯だった。そうたはただ叫び続けた。「みずき、みずき」っと。
悲しいかな、人間には私たちの言葉なんか理解できない。私たちが人間の言葉を理解できても人間は私たちを理解しない。理解しないからこそこんなに楽々と殺せるんだろうけども。
来て二日目、『きんじ』がどこかに連れて行かれた。
きんじは最後まで抵抗した。逃げようとさえした。でも逃げ切れなかった。飼い主さんに向かっていけなかったのだ。そして最後にきんじは私たちに「さよなら」と一言だけ残して食べ物になった。
来て三日目、『はなこ』が連れてかれた。はなこは気が狂ったように鳴き脱走しようと試みたけどその場で殺されてしまった。あの棒が何なのか分からないけど、ばぁんとたった一発ではなこの頭に穴があいてはなこは倒れたきり動かなくなった。
来て四日目、『そうた』が連れていかれた。
そうたは何も言わなかったがその背中は「やっとみずきと会える」そう思ってるんじゃないかと私に思わせた。わたしは来世ではお幸せに………としか言いようがなかった。
来て五日目、この日は『金ちゃん』が連れてかれた。
金ちゃんは最後まで笑ってた、怖くないのかな、そう思ったけどやっぱり金ちゃんは最後まで笑ってるような気がした。なにも声をかけれなかった。
来て六日目、私とこたろーだけになった。こたろーは向かいの檻から私に話しかけてきた。
「………明日は、おれだよな……」
「あたしかもよ」
「楽に殺してくれんのかなぁ」
「聞いた話じゃあの派手な棒で頭にひとつ穴あけるだけだって。痛くないよきっと」
「そりゃありがたいね」
どちらにせよ、ふたりで話せる最後の夜だったからずーっと話してた。
「俺達ってなんで産まれてきたんだろうな」
「人間様の食物になるため………?ばかばかしいよね」
「この世は弱肉強食ってことだよな」
「こたろーすごい、どこでそんな難しい言葉を」
「あやめ、俺をバカ扱いしてたのか?」
クククっと二人で笑いあう。
「金ちゃんの言うとおりだよね、弱肉強食なんだからさ、仕方がないんだよ。もし人間が私たちより弱かったら私たちが人間をたべちゃってたかもしれないんだから」
「うわぁ〜、人間ってまずそう」
またまた声を立てて笑う
「あやめ、俺さ………お前のこと結構好きだったよ」
「………え」
それはあまりにも突然すぎて。
「な〜んてなっ、おっ、お迎えが来たな。どうやら………俺が先みたいだな。せめてその人間が残さずに俺を食べてくれることを願うぜ」
「絶対美味しいって言われるよ、こたろー」
「また会おうな、あやめ。………じゃあな」
そう言ってこたろーが連れてかれた。
最後まで明るくておどけているこたろーは普段のなんにも変ってなかった。
「こたろー!!私もこたろーが大好きだったっ!!」
届いたかわからない、ただ先に逝ってしまうこたろーに伝えておきたかった。
六日目、こうしてこたろーは殺された。
そして、今日。誰もいなくなった小屋で私は迎えを待っていた。
不思議なほど静かな気持ち。怖くない。
飼い主さんが私を迎えに来た。
「あやめ………」
私は折り曲げていた四つの脚を立てて歩き出した。
連れて行かれたのは小さな小さな部屋だった。飼い主さんが引き出しからあの派手な棒をだして私の頭に押し当てた。飼い主さんを見ると泣いていた。
「あやめ、ごめんなっ」
ツゥゥッ―ーー私の目から温かい何かが流れたのを見て飼い主さんはその引き金に力を込めたー―――。
こうして、七日目、私が殺された。






「まま、かなえおにくきらいっ」
「あらぁ、口に合わなかったのね。しょうがないもったいないけど捨てちゃいなさい」
「は〜い」


(「せめてその人間が残さずに俺を食べてくれることを願うぜ」)




メンテ
流れ星のスープ、わたしたちの魔法 ( No.317 )
   
日時: 2013/05/15 20:45
名前: 茶野◆EtTblie50o ID:dmv1UT12

 おばあちゃんは魔女だというのに、流れ星スープをつくるときには魔法を使わない。
 庭の畑から収穫した野菜をひとつひとつ包丁で切って、お湯をいっぱいにわかした鍋のなかにそうっと入れる。野菜たちが鍋から転がり落ちないように、両手で包んで少しずつ、少しずつ。まな板からすべらせて直接放り込んでしまえばいいのに、魔法を使えばいいのに、おばあちゃんは時間の流れなど気にもとめず、のんびりとスープをつくる。
 おばあちゃんの流れ星スープを飲むとしあわせな一日を送れるのよ。そう教えてくれたのは、はす向かいのおばあちゃんだった。犬の散歩のついでにうちに来て、スープを飲んで帰っていくのが日課だった。はす向かいのおばあちゃんだってかなりの年なのに、おばあちゃんのことを「おばあちゃん」と呼ぶのは、おばあちゃんがとても長生きだからだ。わたしがあなたくらいのときも、おばあちゃんはおばあちゃんだったのよ。縁側に座ってスープを飲んでいた、はす向かいのおばあちゃんはもういない。おととしの冬、北風に乗ってあっけなく逝ってしまった。今では、おばあちゃんのスープを飲みに来る人はめっきり減ってしまった。常連さんは、子どもと同居することになってこの町を離れたり、病気で入院したり、亡くなったりして、いつのまにかいなくなった。
 何時間もかけてつくったスープを飲む人は、この町にはいないのかもしれない。かつてはすぐにからっぽになった鍋も、今はなみなみとスープが残っている。あまったスープをおばあちゃんは、昼ごはんと夕ごはん、それから次の日の朝ごはんに分けて飲む。それから年寄り猫のハナのお皿に。ハナはキャットフードや魚には見向きもせず、おばあちゃんの流れ星スープをぴちゃぴちゃなめる。わたしは、朝はトースト、昼は食べずに、夜はカップラーメン。両親が聞いたら怒りだしそうなものだけど、おばあちゃんは何も言わない。わたしが学校に行かなくても、スープを飲めなくても、おばあちゃんは怒ったことがない。にんじんは嫌い。こんなスープ、飲みたくない。たった一度だけ言ったことをおばあちゃんは覚えていて、若者はカップラーメンが大好きなのだとかんちがいして、毎日、わたしの前にはカップラーメンを置く。

 猫のハナは、おばあちゃんと同い年だという。手足はよぼよぼで、最近では歩くのもままならない。日のあたる場所で日向ぼっこをしていて、ごはんのときだけ体を起こす。わたしが近づいても、名前を呼んでも見向きもしない。スープを運んでくるおばあちゃんの足音だけには敏感で、おばあちゃんが来ると分かると甘えた声をあげる。おばあちゃんは魔女で、ハナはおばあちゃんの相棒だから、言葉がなくとも心は通じ合っているのかもしれなかった。
 少し前に、おばあちゃんが魔女だという噂を聞いてか、知らないおじさんが訪ねてきた。にやにや笑いを浮かべながら、おじさんは馬鹿にしたようなしゃべり方で言った。
「おばあちゃんは魔女なんだって? 魔女なら、ちょっと魔法を使ってみておくれよ」
 おばあちゃんに流れ星スープをすすめられると、おじさんは顔をしかめた。
「こないだ、煙草屋のぼうやにもすすめたんだってなあ。おばあちゃん、知らないおばあちゃんからもらったスープなんて怖くて飲めないよ。もう、いいかげんにやめたらどうだい。魔女とかいって、子どもをおどかそうとするのもよくないねえ」
 いつもはおとなしく寝ているハナが、唸り声をあげた。ハナを見て、おじさんはやれやれといったように帰って行った。もちろん、スープには手をつけずに。ハナはおじさんの気配が完全に消えるまで、唸るのをやめなかった。まるで、おばあちゃんを守っているようだった。おばあちゃんはおじさんについては何も触れず、ただ、いつものようにハナにスープを運んだ。ハナはおいしそうにスープを飲んでいた。
「魔法はあるのにね」
 わたしが言うと、おばあちゃんはほっほっほっと笑った。
「信じたいひとだけが、信じればいいんだよ、なにごとも」

 昔、まだわたしが両親と暮らしていたころ、おばあちゃんからぬいぐるみが送られてきたことがある。ピンクの毛糸で編んだくまのぬいぐるみだ。幼いわたしはその子が大好きで、いつも肌身離さず持っていたのだけれど、わたしをかばってぐちゃぐちゃになってしまった。おばあちゃんの魔法がわたしを守ってくれたんだと思っている。でも、おばあちゃんにぬいぐるみの話をしても「そうだったかねえ」と首をかしげるばかり。「あれは、もうつくり方を忘れてしまったんだよ」
 魔法の薬も、お札も、みんなつくり方を忘れてしまったんだという。おばあちゃんにたったひとつ残された魔法は流れ星スープだけ。どうしてスープに魔法をかけようと思ったの。かつておばあちゃんに聞いたことがある。
「ハナがスープを飲みたいって言ったからさ。それにねえ、スープならたくさんのひとにすこしずつ、魔法をかけてあげられるからねえ」
 いいことがひとつでもあれば、その日は楽しくなるだろう?
「にんじんが入ってなければいいのに」
「残念ねえ。おばあちゃん、にんじんがいちばん好きだから、入れないと始まらないんだよ」
 星の形をしたにんじんは、あざやかな色をしていてきれいだけど、食べるところを想像しただけで口の中が苦くなる。

 猫のハナが、とうとう動かなくなってしまった。
 今年初めて雪が積もった日の朝だった。おばあちゃんがスープを持って行っても、ハナはぴくりとも反応しなかった。おばあちゃんはハナの鼻先にスープのお皿を置いた。だけど依然として、ハナは動かないままだった。ハナは死んじゃったんだ。わたしには分かった。かなりの年だったからしかたがない。悲しみより先に、納得した。おばあちゃんは言った。
「これで店じまいだねえ」
 おばあちゃんと一緒にハナのお墓を庭につくった。
「もう、スープはつくらないの?」
「ああ」おばあちゃんはうなずく。「これが最後のスープだよ」
 トーストをかじりながら、おばあちゃんがスープを飲むのを見ていた。昼ごはんのときも。夕ごはんのときになって、カップラーメンを用意しようとするおばあちゃんをわたしは止めた。最後くらい飲んでみてもいいと思ったのだ。
「いただきます」
 最後のスープをおばあちゃんと一緒に飲んだ。カップラーメンにくらべるとものたりない、うすい塩味だった。にんじんはやっぱりおいしくなかった。最初のひとくちはやっとのことだった。カップラーメンのほうがおいしいに決まっている。でも、ほんのりと心があたたかくなって、視界が急に明るくなったような気がした。
 学校に行きたい。ふっと思った。勉強は楽しかったし、部活で汗を流すのも気持ちよかったし、なにより友達と一緒にいる時間がしあわせだった。両親もぬいぐるみもぐちゃぐちゃになってしまった、あの日からわたしの心は灰色に塗りつぶされていたのに。たった一杯のスープが一瞬にして、わたしの心を晴れやかにしてくれた。流れ星のスープは、ほんとうに魔法のスープだったのだ。
「最後に、カナコちゃんにしあわせの魔法が届いてよかったねえ」
 次の日、ハナのあとを追うように、おばあちゃんは息を引き取った。


  ★


 お母さんは魔女かもしれない。気づいたのは最近のこと。
「魔法ってほんとうにあるよね?」
「さあ。あると思えば、きっとあるんじゃないかしら。ヒナノが信じていれば、ね」
「じゃあ、きっとあるんだよ」
 いつもひとをいじめて楽しんでいる子とわたしがちがうところは、ごはんの時間だと思う。お母さんのつくる流れ星スープはおいしくて、食べるだけで笑顔になれる。おばあちゃん魔女をまねした秘密のスープなの、とお母さんは言う。それなら、きっとお母さんも魔女なんだ。わたしが言うと、お父さんが笑った。
「じゃあ、ヒナノも魔女になれるな」
 わたしも大きくなったら、こっそりお母さんのスープをまねしよう。わたしがスープ屋さんをひらいたら、もっと多くの人がしあわせになれるかもしれない。そのなかに、家でまねしてスープをつくる人がいるかもしれない。そうしたら、もっともっと魔法は広がっていくのかも。そうなったら楽しいなあ。
「いただきます」
 きっと、魔法は続いていく。ずっと、ずっと。
メンテ
狼さんはレアが好き ( No.318 )
   
日時: 2013/05/15 23:49
名前: 空人 ID:1op94lCY

 吹き荒ぶ冷たい風は、容赦なく身体の熱を奪っていく。積もりゆく雪は視界を塞ぎ、やがて目の前にあるそれをも白い闇の中に埋めてしまうだろう。
 今、目の前に有るのは食料である。
 厳しい冬を乗り越える為に、俺はそれを食べなければならない。まだかすかに熱を残しているその肉は、十分な栄養と魔力を含んでいる。間違いなく俺の腹を満たし、滴る血は渇いた喉を潤してくれるに違いない。しかし――。
 俺はその食料を前に、一歩も動けずにいた。このまま他の誰かの物になってしまうのは許容できない。保存食として凍らせ埋めてしまうか? だがそれも、掘り起こした時に再び躊躇してしまうのは目に見えている。何者かが掘り起こしてしまうかも知れない危険もあるし、暖かくなれば腐敗してしまうだろう。
 ここに留まり、それを守り続けていくのもやぶさかではない。しかし、この肉の持ち主は俺がこの場に留まる事を良しとしないだろう。

 『あなたが私を食べてね。他の誰でもないあなたが。明日を……生きる為に』

 この肉の持ち主は最後にそう言い残してはてた。
 その声は、その表情は、今も俺の心に燻り続けている。彼女の言葉は至極当然の事だ。俺たち狼は今迄そうやって生き抜いてきたのだから。それでも。
 まだ俺は動けずにいた。俺が唯一心を許した、愛するものの死骸を前に。





 僕らが生を受けたのは、薄暗い洞穴の中だった。その事に不満があるわけではない、雨露が凌げる場所だっただけましだろう。外敵から襲われにくいこの洞穴は、むしろ良い環境だったのだと思う。僕らグレイウルフとしては。
 天井付近に開いた小さな隙間からは陽の光が差してくる。隙間風もあったけど、兄弟たちと寄り添えば寒さは感じなかった。

 そう、僕には兄弟たちが居たんだ。
 一番上の兄は頭が良く、規律に厳しい性格だった。ほとんど同時に生まれたはずの僕らに順番をつけたのも彼だ。その事に文句は無い。順番を付けるのはグレイウルフの本能だってお母さんも言っていたし、兄は仕切るのが好きそうだったから任せっきりになっている。自慢の長い耳をピンと立ててドヤ顔するのは少しムカつくけどね。
 二番目の兄は体が大きく、力持ち。一番大喰らいでもあるけどね。力だけなら一番上の兄より強いけど、考える事はあまり得意ではないらしく、彼得意の突進を避けるのは難しくなかったし、何より言葉で攻撃されることに弱かった。
 僕は三番目で身体は小さい方だけど、機敏さなら他の兄弟にも負けないつもりだ。せっかちなせいで一人突っ走って後で慌てる事もあるけど、その辺も一番上の兄がよく見ていてくれてフォローしてくれたりする。長い尻尾に噛み付いて止めるのはヤメて欲しいけどね。
 そして、僕の下には妹が居る。身体は一番小さくおとなしい彼女は、交わす言葉も多くない。普段はお母さんにべったりだ。兄弟の中では一番下だけど、彼女の地位は低いわけではない。唯一の女の子だし、その表情は何者よりも愛くるしい。そして、何より彼女を特別たらしめているのは、その毛色だった。
 彼女の毛はグレイウルフとは思えないほど黒いのだ。漆黒と言っても良いかも知れない。色が濃いのは魔力が強い証だってお母さんは教えてくれた。それでもこんなに黒い仔は始めてみたとも。
 そんな見た目も相まって、彼女は兄弟の中でもマスコット的な扱いを受けている。

 つまりそれは、この群れで僕が一番下になっているという事だ。上の二人には使いっ走リにされている。走り回るのは嫌いじゃないけど、自分で出来る範囲はやって欲しいとも思う。序列を付けたがる一番上の兄も難しい顔をする事があった。
 そして、ある日そんな彼女の立場を危うくする出来事が起こってしまうのである。

 それは、歯が生えそろってきた僕らの為に、お母さんが獲物を狩ってきた時のことだった。
 それまでお母さんの乳で過ごしてきた僕らはそれを見て目を輝かせた。喧嘩しないようにと、お母さんが人数分に噛み千切って分けてくれたご馳走に、僕らは我先にと口をつける。新鮮な仔鹿の肉は臭みも無く、噛むほどに旨味が口に広がるのだ。僕も上の二人も行儀なんて気にする事も無く夢中で喰らい付いていた。
 そんな中、妹はただジッとその光景を眺めていたのだ。

「食べないの?」

 二番目の兄がいち早く食べ終わったせいで、自分の分を盗られないよう気にしながら妹に目を向けると、彼女は申し訳無さそうに首を振り、お母さんの所へ行って母乳をせがんだ。

「じゃあオレが貰うね」
「あ、ずるい」

 妹の態度に気をとられていた僕や一番上の兄の隙をついて、二番目の兄は彼女のために小さく千切られていた肉片をあっという間にその大きな腹に収めてしまうのだった。


 そんな事が数回続くと彼女への心配は僕だけのものじゃなくなっていた。僕と二番目は必死になってこの肉おいしいアピールをしてみるが、その度に妹が『それで?』って感じで冷たい目線を飛ばしてくるので、ちょっと楽……じゃなく哀しくなってきている。一番目はこの肉がいかに美味しいか、僕らの身体の成長に必要か長々と語っているが、妹の『だから?』っていう顔を見るに、あきらかに逆効果だろう。
 気がつくと僕らは妹の身体よりひとまわりもふたまわりも大きくなってしまっていた。

 ここでようやくお母さんも思い腰を上げた。僕らを狩りに連れて行くと言い出したのだ。
 頃合いでもあったのだろう、それは今後僕らが生きていく為に必要でもあるし、妹にいろいろ教える機会にもなるだろう。命の儚さとか尊さとか、そんな感じのことをさ。

 そして、僕らは思い知る。……もちろん命の儚さと尊さを、さ。





 それはあまりにも唐突だった。
 「あなたたちを狩りに連れて行きます」と宣言した母は、自信満々に見えた。母がいつも使っている狩場で、標的は小さな角の生えたウサギで。一匹二匹はすぐに狩り終えていた。兄弟の分をそろえるなら後、二・三匹は必要だろう。
 順調な母の狩りを私は困り顔で眺めていた。そもそもコレは私が生肉を食べようとしなかったことが原因なんだろう。体が成長してきたとはいえ、兄たちを狩りに連れ出すにはやや尚早だったように感じる。だとすると、森を闊歩する他の魔物たちを十分に警戒しつつ、確実に狩れる獲物を探し、その狩りの間にも私たちを守らなくてはならず、その負担は計り知れない。はるかに格下のはずの角ウサギ相手に母は必死だった。
 だいたい、何故私が生肉を食べる事を嫌がっているのかというと、ひとえに『記憶』のせいだと言わざるをえない。私は人間だった時の記憶を持っているのだ。
 狼として生まれた事に遺恨は無い。母や兄たちとモフモフするのは至高の時間だったといえる。黒髪を引き継いだのも地味に嬉しかった。しかしその食事にはやはり、抵抗を覚えてしまうのだ。狼としての本能は生の肉でも美味しくいただけてしまう事を教えてくれている。だけど私は肉をよく焼いて食べる派の人間だったのだ。お高い肉でさえ、だ。生の肉とか、考えられん。
 そんな自分の我侭で、遠足気分の兄たちはともかく母に負担を強いている現状をどうにかしたいと考え、私は母から目を離した。他の兄弟たちも既に飽きはじめていたらしく、遠くない程度で辺りをウロチョロし始めている。
 さすがにコレは危険な状態だろう。母の負担を軽くする為にも兄たちに声をかけようと口を開いた時だった。

 一番離れた位置に居た三番目の兄の前に、角ウサギが居た。いつもの兄ならばその俊敏さで逃げる事も出来ただろう。しかし、突然の出会いに驚いて尻餅をついている彼にそれを期待するのは酷だろう。私は声を上げる事も出来ず、その後に訪れるだろう悲惨な現実から逃げる為に目を瞑った。そして――――。

 私の横を灰色の影が駆け抜ける。

 目を開けたとき見えたのは母の雄志だった。鋭い牙は獲物の急所をとらえ、その力を誇示するが如く高々と持ち上げている。この光景には流石に私の枯れかけていた心も震えた。誇らしいと思った。この森で母ほど強い狼は居ないだろうと。
 傾き始めた陽に母の灰色の毛はキラキラと煌めいて、逆光でよくは見えないが表情は達成感に満ちている事だろう。足元に広がる紅がコントラストとなって……紅?
 見間違いではなかった。母の銀色にも見える体毛が半分以上赤に侵されている。角ウサギが兄へと放った一撃は、目標には届いていない。遮ったものがあったからだ。
 母は満足げに微笑んで、自分の血溜まりへと身体を沈めていった。


 悲鳴にも似た鳴き声を上げて私たちは母へと駆け寄った。その身体には深い穴が開いていて、素人目にも致命傷だとわかる。兄弟たちが声をかけるが、母の目は閉じられたままだ。三番目の兄は白を通り越して青く見えるほどだった。
 彼を責める事は出来ない。他の兄弟でも同じ事は起こり得たのだ。責められるならむしろ私だろう。この狩りが強行軍になったのは、私の我侭からだ。私が生肉を本能のままに貪っていれば、兄弟たちはもっと成長してから狩りを習うことが出来たはずだ。三番目の兄はその機敏さで避ける事が出来ただろうし、一番目が指示して二番目を迎撃に向かわせる事も出来たかもしれない。母のサポートだってこの兄弟たちなら可能だったはずだ。私の、私のせいなのだ。

「子供たち……わたしの子供たちは居るの?」

 母が擦り切れそうな声を出した。

「しゃべっちゃダメだ母さん! 今、薬草で」
「……聞きなさい、子供たち」

 一番上の兄の声は届いていないのかもしれない。薬草程度でどうにかなる傷ではない事は、兄もわかっているだろう。少しでも身体への負担を和らげようと気遣う兄の言葉はしかし、聞き届けられなかった。
 最後の力を振り絞って、母は私たちに言葉を残した。

 「あなたたちがわたしを食べなさい。他の誰でもないあなたたちが。明日を……生きる為に」

 その言葉に兄弟たちは呆然となった。もちろん私もだ。嫌だ、と声を上げたかった。しかし、ならば母の肉は誰が食べるのだ? 埋葬しても臭いをたどって何者かが掘り起こすだろう。そうして肉を食み骨を砕き、力を得るのは誰だ。嫌だ、と声を上げたかった。巣穴へ持ち帰って埋めるのか? 母は大地の養分になるのか。嫌だ、と声を上げたかった。傍に居て、もっと教えて欲しい事がいっぱいあったのだ。狩りの仕方を。狼としての生き方を。誰のせいだと問いただして欲しかった。お前のせいだと糾弾して欲しかった。しかし兄たちは誰も動こうとはしない。母の最後の教えを、生きる為に食べるという行為を、自ら進んですることも出来ずに。このまま野ざらしになるのを見ているつもりなのだろうか。嫌だ、と声を上げたかった。だから――――

 私は母の肉に口をつけた。





 その後、兄弟たちは無事に成長を遂げ。それぞれの新しい家族を作るために散らばっていった。
 狼としての生をまっとうするなら、私もいつかどこかの狼と愛し合うのだろう。
 そして最期にはその肉を、愛する者へと差し出すのだ。
 その時私は愛する者にあの時の自分と同じ葛藤を強いるのだろう。
 苦悩を乗り越え、強く生きる事を願いながら。


__
メンテ
龍の肉 ( No.319 )
   
日時: 2013/05/16 00:41
名前: 宮塚◆tdu/XtyVrs ID:FPQCd5I.

ないかを探すのだ。1週間調査した段階では、当てもなくただ徘徊しているだけのように見えたが1ヶ月が経つと、ドラゴンはしっかりとある法則に従って巡回ルートを決めていることが分かった。そのルートの中で、安全な場所はないかを探すのにまた1ヶ月かかり、小さな丘の下をドラゴンが通る日に丘の上から狙い撃つのが最も安全だとの結論に至った。そして明日、ドラゴンは丘の下を通る。私は今、その前準備をしているのだった。
 ジャッカロープの肉から溢れるこんがりと美味しそうな薫りが鼻に届いた。そろそろ良いだろう。私は肉を火から離し、枝を少し振って肉を覚ましてからその兎肉にかぶりついた。旨い。ジャッカロープはこの辺で一番狙い易い獲物だが、その肉は柔らかく好む者が多い。村から少し離れた都会でもなかなかの値段で売れる為、ジャッカロープを専門に捕える猟師もいる程だ。勿論、シャム爺の教え通り村の猟師が一日に獲っていい獲物の量は決まっているが。
 兎肉で腹いっぱいになったところで私は明日、勝負の場所となる丘に向かった。明日は丘の上に陣取りドラゴンを待つことになるが、今日はドラゴンの巡回ルートである丘の下に向かう。いつもと違う匂いを与えると警戒される可能性があるため予めインスタントワンドで完全に自分の匂いを消しておいた。だが、効き目はそう長くはないのですぐに仕事を負えなければならない。私は自分の手書きの地図を見て、獲物をおびき寄せるべき場所を確認した。ドラゴンを一発乃至猟銃のリロード限界の3発までの数発で仕留める為に確実にドラゴンの頭を狙う必要がある。丘の上からドラゴンの頭を狙う為、ドラゴンが丘の方角に顔を向けるよう、木にジャッカロープの血を塗りたくった。これでドラゴンは血の匂いに惹かれ私の前にその無防備な頭を差し出すだろう。私はほくそ笑み、血の塗られた木を見つめた。魔法の効果がなくなる前に丘を後にして、明日の為に狩猟小屋に帰る。たっぷりと睡眠をとる為帰るやいなや寝袋に体を埋めたが、目が冴えて仕方なかった。
 シャム爺がもし生きていたら今私がやっていることには反対するだろう。けれど、もう止められないのだ。ここまで来てしまってはもう奴を仕留める他ない。私の心は怒りに燃えていた。

 朝になって朝食を腹八分目まで身体の中に満たすと、猟銃を手に私は丘に向かった。昼過ぎになるまではドラゴンが此処を通ることはないが、今日の風向きや天候、鳥の動きまで把握する為に早めに猟に出るのが私の日課だ。憎しみの相手とは言え、ドラゴンに対しても万全を帰す為にやれることは全てやる必要がある。今日は清々しいほどの晴れで、特に猟に問題はない。ドラゴンが丘の下を通るまでいつものように辛抱強く待つだけだ。太陽が私の真上に登るまでの時間はあっと言う間だった。早く奴を仕留めくて仕方がない。
 ズシン。大きな質量が森の土を踏む音がした。来た! ドラゴンだ。私は草むらの中で神経を尖らせる。息を殺せ、汗もかくな、自分と自然を一体にしろ。ズシンズシンと大きな音と共に森の奥から、巨体が現れる。蛇のような頭とずんぐりと太った蛙のような胴体を持ったその巨体は舌をちろちろと出し入れしながら当たりに獲物がいないか探っていた。暫く、首を左右に揺らしてから、ドラゴンは一定方向に向かって歩き出した。木に塗ったジャッカロープの血の匂いを感知したらしい。いよいよだ、と思わず猟銃を握り締める手に力がこもった。ドラゴンと血の塗られた木までの距離は1ヤード。まだまだ遠い。確実に頭の狙える距離になるまで辛抱強く待たなくては。しかし、ドラゴンはおもむろに首を持ち上げた。どうした? ドラゴンは私の導く方とは別方向に体を動かした。見ると、ドラゴンの視線の先には小さな子供が腰を抜かしていた。
 母親に言われて木の実を取りに来て迷ってしまった少年だろうか。だが、こんな森の奥深くまで来るとは、しかもドラゴンに遭遇してしまうとは運が悪い。ドラゴンはその鋭い眼光で少年を睨みつけ、熊のような咆哮を上げた。
 まずい! 此処からではドラゴンの頭に確実に弾を当てることが出来ない。しかし、だからと言って何もしなければ少年は殺されてしまう。ええいままよ! 私は一発引き金をひいた。その音に驚いて、ドラゴンがこちらを向く。その瞬間に、私は二発目をドラゴンの頭に狙いを定めて撃ち込む。だが、弾はドラゴンの右目を掠めただけだった。ドラゴンは痛みでまた熊に似た咆哮を上げた。右目からはドラゴン特有のピンク色の血液がだらだらと流れていたが、まだ身体はピンピンしている。ドラゴンは、怒り狂ったように蛙に似たその胴体で私に向かって突進してきた。そして蝙蝠のような羽で羽ばたき丘の上まで飛んできた。ドラゴンと私の距離、僅か1フィート。ドラゴンは私の姿を確認するとその蛇のような首を伸ばして私に食いつこうとしてきた。私は突撃するドラゴンの喉に向かって3発目を撃ち込んだ。3度目の咆哮と共にドラゴンが丘の上に倒れる。やったか? 私は薬莢を捨て、新しい弾を猟銃に込める所だった。だが、その時だった。ドラゴンの左目が輝き、その身体は大きく弧を描いて回った。尾っぽが私の横っ腹にぶつかり、私はその重みで吹き飛ばされた。何がなんだかわからなくなっている所に、ドラゴンは容赦なく私に食いつこうとする。万事休すか、そう諦めかけた私の右手にちょうど猟銃が転がっていた。ドラゴンに吹き飛ばされる前にかろうじて弾は一発込められていた。私は無我夢中で銃を構え、目を瞑り引き金をひいた。
 咆哮は聞こえなかった。代わりにズドンと重い音と衝撃が当たりに響く。目を開けてみると、ドラゴンが左目を見開き舌をだらしなく出して果てていた。やった。私は溜息をつく。同時にドラゴンに狙われそうになっていた少年のことを思いだし、そちらの方を向いた。少年はまだ同じ所にヘタリこんでいた。私は痛む脇腹を手で支えながら、少年の元へ向かう。
「大丈夫かい?」
 私が少年にそう尋ねるやいなや、少年は何かが切れたかのように目一杯泣き出した。私は泣く少年の肩を抱き、もう大丈夫だよと安心させる。少年は長い間涙を地面に流していたが、急にその泣き声を止めた。どうしたんだ、と私は少年の顔を見る。すると、少年は丘の上で倒れているドラゴンを見つめていた。
「すごい」
 少年は静かにそう言った。
「あれ、お兄ちゃんが倒したの?」
 少年の言葉に、私は頷いた。
「すごいや!」
 少年は今まで泣いていたことなど忘れたかのように目を輝かせて言った。
「お兄ちゃん、ありがとう」
 私は少し戸惑いながら、少年に微笑みかけた。良かった。もし私が此処にいなければ、少年はどうなっていただろう。為す術もなく、ドラゴンに食われてしまっていたに違いない。そう思うと、私の中に良い考えが浮かんだ。
「君、ドラゴンの肉って食べたことある?」
「ううん、ない。お兄ちゃんは?」
「俺もないんだ」
 私はにやりと笑った。
「一緒に食べてみようか、村の皆と一緒に」
 少年は楽しそうな顔でいいね! と私のことばに答えた。私は腰に巻き付いたナイフを取り出して、1ヤードも離れていないドラゴンの下に歩いていった。
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Re: 【六月期お題「祝日」】お題小説スレッド【五月期「食事」お題投稿期間】 ( No.320 )
   
日時: 2013/05/16 01:13
名前: 企画運営委員 ID:vUMX2RQA

作品のご投稿お疲れ様でした。
16日(木)〜31日(金)は批評期間です。
作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。
批評だけのご参加もお待ちしております。

>第24回『食事』参加作品(敬称略)


>>316 kaia:お残しは許しまへんでぇ

>>317 茶野:流れ星のスープ、わたしたちの魔法

>>318 空人:狼さんはレアが好き

>>319 宮塚:龍の肉
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