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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

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▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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Re: 【六月期お題「祝日」】お題小説スレッド【五月期「食事」お題投稿期間】 ( No.326 )
   
日時: 2013/06/01 00:32
名前: 企画運営委員 ID:46qpRvH6

第25回「祝日」の作品投稿期間となりました。
作品投稿期間は6月1日(土)〜6月15日(土)までとなります。
ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
皆様の力作お待ちしております。
メンテ
その手に白き花束を ( No.327 )
   
日時: 2013/06/15 21:18
名前: 空人 ID:4fO0hoyQ

 有りあまる元気を大地に押し付けてくる太陽が、校舎を白く染める初夏の午後。校庭の木々はここぞとばかりに枝葉を伸ばし、セミたちは盛大にうなり声を上げて生を謳歌する。
 音が煩わしく感じるのは校内が無人である所為も有るだろう。汗を吸って肌に張り付きはじめた制服を見下ろして、私は一人溜息を吐く。丁寧にブローしたはずのくせっ毛も元気を取り戻してきたようだ。
 校舎にはすんなりと入り込めた。セキュリティはどこへ行ったのだ。教師たちの姿さえ見えないのはどういうことだ。理解が出来ないが、誰にも見咎められないのなら制服など着てこなければよかったと今更ながらにつぶやくとも、その声はセミたちにさえ届きはしない。下着が透けるのを気にしてベストを着てきたのは失敗だったかもしれない。

 そもそも忘れ物などをした自分が悪いのだが、祝日に課題を出す教師もどうかと思う。もっと快く祝える状況を演出してはいただけないのだろうか。
 階段をグダグダと上るにしたがって思考が負の方向へグダグダと下っていくのを暑さと深いコントラストの所為にして、私は立て付けのよろしくない教室のドアを開けた。

 ドアが軋む不快な音はすぐに静寂へと変化した。あれだけ騒ぎ立てていたセミたちさえも。強い日差しが生み出した色濃い影に潜むように、一人の少女が立っていたからだ。
 息を飲んだ。心臓が止まるかと思ったほどだ。襟もスカーフも真っ白なセーラー服。スカートさえも白く、その裾や袖から伸びる手足も透きとおるような白さに見える。肩にかかるくらいまでまっすぐに伸びた髪は黒く、そのモノクロの色彩はあまりにも風景から浮いていて、現実感は陽炎の向こうへと置き去りにされてしまう。
 ドアの音に気がついたのだろう、少女は黒髪をひるがえしてこちらを向いた。大きな瞳が私をとらえ、うすく紅ののった唇が小さく開かれる。

「誰?」

 もちろんそれは、こっちの台詞でも有ったのだが、雰囲気に気圧された私は素直に素性を明かすより他に無かった。

「あ、うん。えっと橘リコって言います。ここの生徒で一年の……あ、忘れ物を取りに来たんだけど……その、あなたは?」

 声は緊張のまま上擦ったものの、内容は伝わったはずだ。一気に上がった体温が頭部の血液を勢い良く循環させているが、それは羞恥と暑さの所為だと信じたかった。

「そう。わたしはハナ。佐藤ハナ……どこにでもあるような名前よね」

 小さく嘆息を吐き自分の名前を卑下するように彼女は紹介したが、果たしてそうだろうか。ありふれた名前過ぎて逆に無さそうだとも感じられた。整いすぎている彼女にはむしろ似合っている。もしくは、やや古風すぎる嫌いはあるが。

 ハナと名乗った少女は、来期からこの学校に通うので今日を利用して、下見に来たらしい。鼓動の響きがどうにか治まってきた私は、それならと案内役をかって出ることにしたのである。
 彼女が現実のものであるかどうか、疑惑は残したままに。

 三階にある一年の教室から特別教室を巡って順に階を降りて行く。学校にある施設なんてどこも変わり映えしないだろうと考えていたがそれでも差異は存在するらしく、特に我校の古さは特筆に値すると言わざるを得ないらしい。
 会話は一方的に私がふっていた。彼女の学校の事や教師たちや授業の事を質問したり、この学校の不満なんかをぼやいたりもした。彼女はそれにぽつりぽつりと返すだけ。それでも次第に打ち解けてきていると感じる瞬間もあった。
 先導する私が歩を進めその距離が大きくなると慌てて追いかけてくる。彼女の歩幅は私なんかとは比べるまでも無くお上品なのだ。制服が可愛い、似合っていると褒めるとほのかにその薄紅をほころばせ、同じ色に染まった頬をこちらに向ける。
 その仕草は一々可愛らしく、私の心臓を体外へと導こうとする。もっと心を近づけたくて、彼女の白い指にこちらから手を伸ばすまで、たいして時間はかからなかった。
 彼女の手はやわらかく、温かかった。少なくとも血の通った生き物だ。可愛らしい生き物だ。もう人外であってもさほど拒絶の意思も無い自分にビックリだ。
 言い訳になるかもしれないが、こんな思いに至るのは生まれてはじめての事だ。今まで、彼女と出会うまで同性をそういう目で見たことは一度としてなかった。全てはこのロケーションのおかげであるとも言える。二人きりの空間。ドラマティックな出会い。つながった体温。
 頬が緩んでいる事をからかわれるのさえ嬉しかったのだ。



「そういえば、忘れ物って何だったの?」
「ああ、課題だ。忘れるところだった」

 一通り校内を見て周り、私たちは教室へと戻ることにする。
 同じクラスになれると良いねとか、次会った時は、友達から始めましょうとか、冗談めかして言うと彼女は本当に楽しそうに笑うのだ。
 足取りは浮かれていた。フワフワと、どこかおぼつかない。

「課題ってどんな?」

 今度は彼女が質問をしてくれる番らしい。それは私に心を開いてくれている証拠かも知れず、嫌な気分にはならなかった。

「んー、何だったっけな」
「忘れちゃったの?」
「そう……みたい。何でだろ。学校に有るっていうのは覚えていたんだけど……」

 何だろう、彼女の質問にちゃんと答えてあげたいのに、急に頭が働かない感じがする。靄がかかったようにハッキリせず、前に踏み出せない。
 陽が落ちてきたのか廊下も暗く、彼女の白さを強調する。

「どうしたら思い出すかな。それは教室にあるの?」
「え? い、いや、うん。そのはずだと思うんだけど」
「本当に?」

 思考は定まらないのに、彼女の声だけがはっきりと聞こえてきて心を揺さぶるのだ。何故だろう。彼女の声しか聞きたくない。セミはどこへ行ったのだ。教師は? 警備員か用務員は?
 答える声は無い。当然だ、ここには二人しか居ないのだから。
 心配そうに私の顔を覗き込んでくるその表情がいたたまれない。そんな表情をさせたくなくて、焦燥は募るばかりで。

「見つけなきゃ……課題……。探さなきゃ……」
「見失ってしまったのね?」

 そもそも今日は何の日だった? 課題はいつ出された? 本当に祝日だった? どうして他の生徒は居ないのだ? 私のクラスはどこだった?
 前にまわったハナは震える私の両手を捕らえる。小さく首を傾げる姿に視線が囚われる。
 初夏の校舎はその影を一段と色濃く染めていく。辺りに闇を満たして。それでもなお、彼女は白く。その存在だけが黒に浮かぶ。やがてそれは光となって。

「どこにあるんだろう……かだい。さがすのが……かだい?」
「そう。そうね」

 彼女の声は優しくて、可愛い笑顔が嬉しくて。
 つないだ手だけがそこに在る自分を見つけてくれて。
 熱が。その暖かさだけが確かに私と彼女をつないでくれる。
 彼女は暖かい光。暗闇から逃げ出したり暴れたりしないのは、そこに彼女が居るからだ。

「どこに……いけばいいの?」
「大丈夫、わたしが連れて行ってあげるよ。リコ」

 嗚呼。名前を呼んでくれた。そこに行けばいいんだ。彼女が私を導いてくれる。
 真っ直ぐに私をとらえた瞳。とらわれて、うばわれて。
 不意に彼女の顔が近付いて。

 ――そして私は、目を閉じた。
メンテ
祝日の悪魔 ( No.328 )
   
日時: 2013/06/15 23:47
名前: エシラ ID:eADqlp3o

 僕たちの国には、王国記念日というものがある。
 春の半ばにあるその祝日は、特に何かお祭りが開かれたりするわけではないが、僕たちの国をまとめている王家に対して、いつもよりも感謝の意を持とうというような日だった。元々は、大きな戦争で辛くも勝利した騎士が築いたこの国だったが、彼は建国間もなくすぐに死んでしまい、それを追悼する意味で作られた祝日だった。しかし長く時が経つとそういった意味合いも少しずつ忘れられ、今ではその騎士一人に対して追悼する祝日ではなく、『王家に対して感謝を捧げる休日』となっていた。とはいっても、別にお祈りをしたりお祭りをしたりといった特別な行事は行われない。ただ心の片隅にちょっとだけ、そういったことを思い出してくれればいいのだと王様は言う。つまり、普段のお休みとほとんど変わらない、ありふれた祝日だった。
 しかし、僕が小学生だった頃に起きた事件が、この祝日の意味を大きく変えることになる。
 王国記念日に、当時の王様が殺されたのだ。
 王様は寝室で縄で縛られた後天井に吊るされ、ナイフで滅多刺しにされて死んでいたという。この事件はすぐに王国中でとんでもないニュースになり、王様の惨たらしい姿があまりにも衝撃的で、国は騒ぎに騒いだ。殺され方や部屋の状況から、まず間違いなく殺人事件であると断定され、警察はすぐさま犯人捜索に乗り出した。しかし、あれだけの凄惨な現場を残しておきながら犯人の手掛かりはまったく見当たらず、事件はそのまま終息に向かってしまった。
 それから、殺された王様の跡を継いで、彼の息子が新しい王様となった。彼はまだ若かったが、真摯に国のために当たろうとする姿勢や、大変優しいところを国民は大いに認め、国のリーダーとして少しずつ受け入れられていった。彼の尽力もあって、先代の王が殺されるという事態の騒ぎも少しずつ鎮静化。悲しみは収まりつつあった。しかしそんな折、第二の事件が起こった。
 先代の王が死んで一年後の王国記念日。
 お城の一番高い尖塔で、若い王様が死んでいるのが見つかった。
 首が引き千切られた状態で、お腹をその鋭利な頂に突き刺された姿で死んでいたのだ。その場には見当たらなかった彼の首は、玉座の上に虚ろな表情で置いてあったという。先代の王が殺された一年後、同じ日に王様が殺されるという事態は、再び国を悲鳴の渦に陥れた。日付の一致や、王様が被害者であることから、警察は同一犯とみなし、今度こそ犯人を逃すまいと息巻いたまではよかったが、またも手がかりや証拠は見当たらず、必死の捜査もまったく意味をなさなかった。一年前と同じく、犯人は見つからなかったのだ。
 今度は死んだ若い王様の妹で、可愛らしい女の子が女王様となった。まだ王政の勉強もままならない十五歳の女の子で、大抵の政治をお付の人間やお城の上層部に任せていたため、お人形とまで揶揄された。けれどそれは、彼女が大変可愛らしい容姿をしていたことの裏返しであり、褒め言葉とも取れた。父親と兄を続けて亡くした悲しみを表に出さないで、とにかく笑顔で国を導こうとしていた彼女は、同情を信頼に変えて見せた。そうして、二年連続の悲しい事件が少しずつ人々の関心から外れてきた頃、三年目の王国記念日が訪れた。
 大層可愛がられた若く美しい女王様は、両腕をもぎ取られた状態で、愛用のピアノの天板とフレームに挟まれて死んだ。
 これが三件目、そして三年目の王国記念日の殺人事件だった。
 それから現在に至るまで十年、王国記念日では毎年、王様の位についている王家の人間が死ぬことが続いた。それも、全員が奇妙なまでに惨たらしく死んでいたため、毎年のように国を恐怖に陥れた。当然その年その年の王様や女王様とて例外ではなかったようで、当日は城の地下室に籠った人もいた。何重もの壁と鍵で囲まれたその部屋で記念日を迎えた彼は、まるで絞った雑巾のようにしわくちゃにねじられた姿で死んでいるのを発見されたという。これもまた、犯人の手掛かりはまったく残っていなかった。壁や扉は完全に密閉され、誰かが入り込める隙間はない。隠し扉もない。当時の王様は、毎年王様が死んでいくことに恐れをなして大変怯えていたそうだから、警戒心も万全で、誰かを迎え入れるはずもない。それなのに、やはりその王様は殺された。
 お城もお城とて知恵を絞った。例えば前回の王様が殺された後、誰も王様に即位させないという異例の方法がとられた。王様になった人物が殺されるというのなら、誰も即位させなければ死なないのではないか。そうした措置が取られたのは七年目の王国記念日の時だった。――しかし、その方法も無意味だった。結局誰も王に即位はしなかったが、もし王様になるとすればこの人物だっただろうという先代の王の息子が、部屋で四肢をバラバラにされて殺された。戴冠式も行ってはいない。つまり彼は王という立場ではなかったというのに殺されたということになる。その次の八年目、彼のまた弟も王にならずに一年間を過ごしたが、やはり彼も惨たらしい姿で殺された。
 以上のことを考えると、王様というくらいに即位したということはまず関係がなく、血縁的・家系図的に王様に値する人間が王国記念日に殺されるということなのだ。だから王様を擁立せず、玉座を開けっ放したままにしたとしても、記念日の謎の死は避けられない。必ず殺人が起きてしまうのだ。この十年間、犯人の手掛かりは見当たらず、殺され続けている。城のお付の者が王立記念日まるまる一日王様の傍にいた年もあったが、一瞬でも誰かの視線から外れた瞬間に死んでいるらしい。そうした事実が発覚すると、この王様の連続殺人事件は他殺などではなく、過去の戦争の祟りだとか、騎士の亡霊の憤りだと考えられるようになった。あまりにも非現実的だったが、そう考えるのもやむを得ない。実際人の手には不可能すぎる殺人だからだ。
 かくして、こうした一連の事件の犯人を、『祝日の悪魔』と呼び、恐れるようになったのだった。
 今から語るのは、そんな不可解な事件を止めるべく立ち上がった、僕の姉の物語である。







 さて、季節はそろそろ秋に入ろうとしているある日のことだ。沈みかけの夕暮れが山の端っこに引っかかって、群青のような妖しい雰囲気が夜と一緒に舞い降りてくる、そんな時間に、その男はやってきた。僕は一階で勉強をしていたのだが、元々来客の少ないこの家に、コンコンというノックが響く。僕はあまり警戒せず、間延びした声で返事をしながら玄関の扉を開けた。そこには、少しだけ鋭い目をした、背の高く、爽やかな風貌の男が立っていたのだった。僕は一瞬呆気にとられてしまったが、それよりも驚かされたのが、彼が突然僕に深々とお辞儀をして、敬語交じりに言葉を発したことだった。
「夕食時に申し訳ございません」
「あ、いえ」
 いろいろと気になることはあったが、まず目に飛び込んできたのは彼のしっかりとした正装だった。まるで豪華な祝典か、お城に出向いたり、王家の人たちと謁見するかのような格好をしていたのだ。僕は彼にとってどう考えても年下なのに、そこまで畏まった言葉遣いをするのもわからない。そういう性格の人なのかなあ、と考えあぐねたが、ますます彼の素性がわからなくなる一方だった。そんな違和感やらに思考を巡らせていると、彼は穏やかに口を割る。
「お姉様を呼んでいただきたいのですが」
「姉ですか?」
「はい。大事なお話があるのです」
 彼の毅然とした態度に負け、僕は彼に少しだけ時間をくれと返し、一度扉を閉めた。
 僕には一人、姉がいる。
 高等学園を卒業してはいるのだが、どこかに働きに出るということはなく、家で毎日ごろごろしている怠け者だ。その癖、本来ならばしっかり国立大学に行けるくらいの学力は持ち合わせていたし、変なところで頭がいいので、存外馬鹿には出来ない。その頭を何かに生かせばいいのに、と、僕は勉強を教えてもらいながら小言のように姉に告げているのだが、姉はやる気を出すつもりはないらしい。そんなちゃらんぽらんな姉に、いったい彼が何の用だというのだろう。僕は階段をのぼりながら、いろいろな可能性を考えてみた。
 大事なお話と言っていた。なるほどまさか! 僕は冷や汗をかいた。
 姉は身内贔屓を抜きにしても、割と整った顔立ちの美人である。そういう外見のこともあって、学生時代はなかなかにモテたようだった。僕と姉は二つ違いなので、同じ学校にいた時期もあった。そういった頃は、男子学生に僕が呼び出され、お前の姉にこの手紙を渡してくれないかとか、恋のキューピッドまがいのことまでやらされたことだってあるのだ。結局姉は誰かとお付き合いすることはなかったみたいだが、それは現状そうであるだけで、今も姉に好意を持っている男の人なんて、それはまあ少なくはないだろう。つまりはそういうことなんじゃないか? 僕は彼の姿を思い出す。そりゃ、好きな女の人に会いに来るのにだらしない格好はしないだろう。それに、僕はそんな意中の女性の弟だ。ちょっとは畏まった態度を取ってもおかしくはない。大事なお話というのも、まさに告白なのではないか。なるほど筋が通る。
 いや、余計な詮索は無しというものだ。告白だろうが訴訟だろうが、あとは二人に任せることにしよう。しかし姉と恋人同士になっても、決して楽しくはないと思うんだけど……僕は姉と二人きりでの生活を何年も過ごしているため、姉のあまりにも怠惰すぎる生き方に少しばかり辟易していた。どうなっても知らないぞ僕は。
 姉の部屋の扉をノックすると、はーい、という返事が聞こえた。遠慮なく部屋に入ると、姉はベッドに仰向けで寝そべり、その綺麗な黒髪を扇のようにふわりと広げた状態で本を読んでいた。姉は本好きである。いや、それは結構なことだが、大量の本が部屋に散らばっていて足の踏み場もないのはどうかと思う。僕は足元の本を一瞥した。『怪談』『恐怖奇談集』……うーん、またしてもおどろおどろしい本ばかり読んでいるようだ。僕は扉に手を添えたまま溜め息を吐き、呆れるように要件を告げた。
「姉さんにお客さんだよ」
「お客さん? 私に? 誰?」
「なんか、男の人?」
「名前は名乗ってた?」
「いや。えーっと、鋭い目をした背の高い人。なんかすごい畏まってたなあ。僕にさえ敬語を使ってたんだ」
「あんたに敬語って、なんだか笑えるわね」
「なんでだよ」
「しかし、鋭い目をした背の高い人かあ。私には思い当たる知り合いがいないけど……まあ、話せばわかるかな」
「ちょっと待った姉さん、その服装はまずいよ」
 姉はパジャマだった。
 僕は無理やり姉さんを着替えさせると、姉を玄関へと送り出した。もし告白だとかそう言った話ならば、僕がいるのは邪魔だろう。僕は男の人にもう一度顔を出して、一度だけお辞儀して勉強を再開するつもりだった。しかし彼は踵を返した僕の背中に、弟様もお話があります、と言ったのだった。僕? と、振り返りざまに自身に指を向けて首を傾げた僕だったが、彼は躊躇なく頷いて見せた。なぜだ、なぜ僕が必要なのだ。僕はまたも釈然としないまま姉の横に並んで、男の人と再び向き合うこととなった。姉はかなりめんどくさそうな表情をしていたが、彼は少しも気に留めず、もう一度だけ深々とお辞儀をした。それがあまりにも思慮深かったため、さすがの姉も僕を一瞥し、どういうことこれ、と目で言った。僕にもさっぱりだ。それから彼は顔を上げ、ようやく本題へと進んだ。
「突然お邪魔して申し訳ありません、今日は大切なお話がありまして」
「それはこの子から聞きましたけど、話って?」
「はい」
 男の人は、一度咳払いをすると、深刻な顔で姉に言い放った。
「次の女王が、あなたに決まりました」







 すでに今年の王国記念日は終わっており、やはり今度も王様は犠牲となった。
 これにより正統的な王家は全員亡くなってしまい、次に誰が王様になるのかお城は頭を悩ませていた。王様になるということは、『祝日の悪魔』の犠牲になるということと同義だ。それはある意味、国の統治のための生贄であるという考え方も今では起こりつつある。国を治めるには王様が必要。しかし王様は例え即位したところで、来年の王国記念日までということになる。つまり、国を治めるために毎年王様が生贄として死んでいるようなものだ。しかし、例え王様を特定の誰かに即位させずに玉座を無人にしたとしても、血縁上本来ならば王様になっていたはずの人物が王国記念日に殺されることになる。正統的な王家がお城にいなくなれば、これで『祝日の悪魔』事件は幕が下りるのではとの意見もあったが、一般国民から嫁いだ女王が、王様の死んだ翌年の王国記念日にやはり殺されている年もあったため、その意見――希望とも言えるが、それが無意味であることは誰の目にも明らかだった。だから、来年もやはり王様に当たる人物が殺されてしまうのである。どうあがいても殺されてしまうのであれば、それを受け入れ、一年間だけでも国を治める方に力を注ぐべきであると、お城は苦心の末に判断をした。正統的な王家を全員失ったお城は、過去の家系図を漁り、正統的でなくとも王家の血を引いた人間が次の王様になる可能性に行き当たった。お城は家系図から、新たな王様を見つけ出すことに尽力したのだ。
 その結果、僕たちの曾祖母にあたる女性が、実は当時の王家の第三王女で、一般の国民との恋愛で駆け落ちしていたことが発覚した。つまり、僕と姉はどちらも王家の血を引いているのである。そしてそれは、姉が現在最も女王にふさわしい人物であるということでもあった。やってきた男の人はお城の人間で、前の王の付き人をしていたらしい。今度の件もあって、はるばるここにやってきたのだった。彼が正装をしていたのは、姉が次期女王で、僕は女王の弟になるからだった。畏まるのも当たり前だし、礼節に配慮するのも当然だろう。彼の違和感に塗れた行動が、ここに来て一切納得がいった。
 しかし、話自体にはそれほど納得したわけではない。
 僕は顎に手を当てて、混乱する頭を整理しながら言った。
「ちょっと待って、つまり姉さんは、女王になるってことだよね?」
「うーん……え? あ、そうなの?」
「姉さん、話聞いてた?」
「聞いてたけど、なんだか実感が無いのよね。えーっと、私が女王?」
「そうです」
 男の人の首肯。
「あなたが女王になることは、すでに決定しています。今日はそのことを通告に参ったのです」
「いやあ、参ったなあ」
「冗談言ってる場合じゃないよ、姉さん」
 そうなのだ。
 女王になることがどうとか、そういうことに対して何かしらの喜びだとか、そういう感情に委ねている場合じゃない。女王になるということは、来年の王国記念日には殺されてしまうということなのだ。つまり姉さんはその祝日になると、きっと毎年と同じく惨たらしい死に方をする。僕はそのことを一瞬想像して、ぶんぶんと頭を振った。しかし、そういう想像をいくら打ち消したところで、今までの流れから、姉さんがそうならない確率はあまりにも低すぎる。姉さんだけが無事に生き残るなんて話はありえないし、きっと来年の王国記念日に、姉さんはやはり殺されてしまうのではないか。今でも暢気に微笑んでいる姉さんに、事の重大さを突き付けるつもりで僕は言う。
「姉さんは殺されちゃうのかもしれないんだよ?」
「そうねえ。あら、心配してくれてるの?」
「マジで冗談言ってる場合じゃないんだよ姉さん」
 僕が反抗すると、姉さんはどきっとするほど艶やかな笑みを見せて、ぽんぽんと軽く僕の頭を数回叩いた。
「まあ、決まってしまったのなら仕方がない。女王かあ、やってやろうじゃないの」
「姉さん!」
「安心なさい。私はあんたが悲しむところなんて見たくないから、そう簡単に殺されるつもりはないわ」
 姉さんはそこで、微笑みを消して、男の人に向き直った。







「ちなみにあなた」
「はい」
 男の人に姉は問うた。
「『王国記念日』は、どんな休日?」
「『王家に対して感謝を捧げる休日』ですが」
「お城では、何かする?」
「王への感謝を、普段より噛み締めたりしますよ」
「そう……」







 戴冠式さえなかったというのに、新たな女王の誕生のニュースはすぐさま国中を駆け回った。国の若い学生は、一度は目にした憧れの先輩が女王になったと聞いて、どんよりと重い空気で、同情の瞳を寄せたのだった。当然だ。姉はもう一年経たないうちに死んでしまう。それをどうして喜べるだろうか。僕の同級生も僕に手紙を寄越して、必死に励ましの言葉をくれた。姉さんはすでに、国中から可哀想だと切なげな視線を集めてしまっている。
 僕がそのことを玉座の姉に伝えると、姉は伸びをして、それからふうと溜め息を吐いた。その息は決して悲嘆にくれたものではなく、明らかにそういった悲哀の言葉たちに対する微妙な苛立ちが垣間見えた。姉は真っ白な手のひらを宙でひらひらさせると、僕に向かって強気に言葉を紡いでみせるのだ。
「まったくみんな、どうして私が死んでしまうのだと諦めているのかしらね。まだ一年もあるのに……」
「だって仕方ないじゃないか。この十年のことは姉さんも知っているだろう? 王様は必ず死ぬ。姉さんだって例外じゃない。みんなはそれを心配しているんだよ」
「私が女王になったからには、そんな悲劇は終わらせてみせる」
 姉は聡明な瞳を見せた。
 僕は知っていた。
 姉はいつも怠け者で、本ばかり読んでいてすっかりだらしがないけれど、いざ瞳をこうして鋭く輝かせれば、不可能なことは何もない。元々大変有能な人で、頭をよく回る。普段はそれを発揮しないか、そういった機会に恵まれないだけなのだ。姉はとことん突き詰めれば、あまりにも才長けた人間で、そういう才能が今にも発揮されうる時、姉の表情や態度はまことしやかに妖艶さを纏い始める。ベッドで寝転がっている姉とはまったく違う、凛とした雰囲気がそこに降り立つのだ。
 今まさに、そんな姉がそこにいる。
 僕は知っているのだ。
 姉ならば、もしかすれば――。







 現在は、夏が終わった直後、そろそろ秋の訪れが風に感じられる季節だ。そろそろ東の森の農作物の収穫もピークを迎え、市場も大賑わいの時期である。そんな時、姉は一つだけ提案をした。
「国営リンゴ園の収穫をお祝いする祝日を新しく作りましょう」
 東の森の中には、国営のリンゴ園があった。そこは初代の騎士王の頃から続く、大変由緒あるリンゴ園で、毎年多くの実りを豊かに木々に宿している。秋になると、休日などはこのリンゴ園を解放して、家族でリンゴ狩りなどをしてもらったり、収穫したリンゴが市場に流れて多くの人が買ったりと、またそれも秋の市場の賑わいに一役買っていた。そんなリンゴ園での収穫を祈る祝日を、来月新たに作るというのだ。
「姉さん、いったいどういうこと? それに何の意味があるのさ」
「落ち着きなさい。私の判断は間違っていなかったと、今に証明してあげるわ」
「…………」
 姉は未だに、あの聡明な輝きを瞳に内包したままだった。
 結果として秋の半ばに新しく作られた『リンゴ収穫祭』と名付けられた祝日は、それほど違和感なく国民に受け入れられた。平日が一日減ることも休み欲しがる人たちはありがたがったし、普段の休みと合わせて連休にすることで、秋の市場の賑わいに再び滑車を掛けようというのが名目上の理由だった。祝日の意味合いは、『国営のリンゴ園の長い歴史への理解を深め、その実りがこれからも国の豊かさに貢献することを祈念する』というものだ。『リンゴ収穫祭』当日は、国営リンゴ園で大勢の人を招いたリンゴ狩りを開くことになった。それが、姉さんの女王としては初の大きなお仕事だった。
 しかし当日、信じられない光景がそこにはあった。
 国営リンゴ園のリンゴが、全て木から落ちて腐っていたのだ。
 前日に大きな嵐や大雨、強い風が吹き荒れたといった報告はないし、リンゴ園は高い柵に覆われて侵入の可能性は極めて低い。だというのに、リンゴがいっさい地面に落ちて、瑞々しさの欠片もない無残さで居座っていた。それも、根こそぎである。木に残っているリンゴは一つとしてなく、まさに徹底的に地面に叩きつけられていた。
「ひどい――」
 珍しく早起きした姉に起こされ、二人で朝一番にリンゴ園に向かった僕は、口元を抑えて絶句した。なんて有り様だ。冷たい空気の中に、異様すぎる光景が僕の目に張り付き動かない。これからやってくる大勢の人たちの悲しむ顔が目に浮かぶ。同時に、いったいどうしれこんなことになったのかと、理由を渇望する思考が巡り巡った。入園するための門の鍵はしっかり閉まっている。では、そこからリンゴ園を囲むように設置された高い柵を越えて入り、誰かが一つ一つもぎ取ったのだろうか。しかし、そんなことをして何の意味がある? それに、高い柵をどうやって越える? 普通の男の人の何倍もあって、見上げるほどの柵なのに……僕がそうして推理を浮かばせ打ち消している一方で、姉はゆっくりとリンゴ園へと歩んでいった。
「――――……やっぱり、そうね」
 姉は適当なところで立ち止まると、ゆっくりしゃがみ、潰れたリンゴを指でつんつんしながらそう言った。僕は姉の後ろについていたが、姉の言葉の真意を量り損ねた。やっぱり……? となると、姉はこの状態になることを知っていたのだろうか。しかし、知っていたのならどうして防ごうとはしなかった? それに、この状態になるということを知っているのなら、この状態にした犯人だって知っているんじゃないか……? 僕は姉の後姿に声を掛ける。
「やっぱりって、何がやっぱりなの、姉さん」
「分からない?」
 くるりと首だけこちらに向けた姉は、にやりとした。何を笑っている余裕が、と突っ込む言葉は、姉のやはり冷静さに据わった瞳が押し留めた。姉はふざけてなどいない。確かに何かの意図をもって、この状況に接している。恐らくはその考えを、今もその明晰な頭脳で練りに練っているのだ。僕は姉をやれ怠け者だのなんだのと罵りはするが、結局はこういった姉には敵わない。詰まる所、僕は姉をこれ以上ないほどに信頼している。それだけに足る姉なのだ。
 だとしても、僕にはさっぱりだ。
「姉さん、どうするの? 今日は『リンゴ収穫祭』なんだから、大勢の人がここに来ることになってるんだよ? もし姉さんがこうなることを予見していたのならそれでもいいけど、この状況はどうするのさ? リンゴは全部駄目になっちゃったんだよ」
「落ち着きなさい。ほら、奥――」
「えっ?」
 僕は姉に案内されて、国営リンゴ園のさらに奥へと歩んだ。
 あっ、と僕は思わず声を上げた。
 国営リンゴ園のさらに奥に別の柵があり、その向こう側に別のリンゴ園があったのだ。そちらは朝の冷気に、しっとりとした雫を実に這わせた真っ赤なリンゴが、葉と葉の間から所狭しと顔を覗かせていた。立派なリンゴ園だった。
「どうなっているの?」
 僕は姉に問うた。姉はやはり穏やかな言葉遣いで、僕の質問に答えをくれる。
「私は今日の『リンゴ収穫祭』、こんな風に国営リンゴ園のリンゴが駄目になるだろうことを知っていた」
「どうして?」
「それはまた教えてあげるわ。そしてここ。ここは、私がお城の人にわざわざ言って作らせた、『国立リンゴ園』よ」
「こくりつ?」
「そう、国立……」
「名前が違うけど」
「わざと変えたのよ。国営リンゴ園は駄目になってしまったけれど、こちらの国立リンゴ園は無事。今日やってくる大勢の国民さんたちは、こっちに案内させることにするの」
「ちょ、ちょっと待ってよ。話が掴めない。姉さんは、『国営リンゴ園』が駄目になることを知っていた。だから代わりに『国立リンゴ園』を造った。そうだね?」
「そうよ」
「どうしてわざわざ名前を変えたの? 別にこっちの新しいリンゴ園も『国営』で構わないだろうし、それに、どうして起こることが知っていたのなら、国営の方を守ることに徹しなかったの?」
「何言ってるの? これも、『祝日の悪魔』の仕業に決まってるじゃない」
「――」
 姉は言いきって見せた。
「これも、王国記念日に王様を殺す、あの意味不明な事件の一つだっていうの?」
「そうよ」
 姉は宣言した。
「言ったでしょう。私は『祝日の悪魔』に負けるつもりはないの。そのための準備よ」







 それから姉は、東の森にある、国が所有する湖に関する祝日を新しく作った。『みずうみ記念日』だ。
 『古くから残る湖がもたらす美しい情景を未来まで残すことを祈る休日』として制定された。それをお城で告げた時、やはりリンゴ園での一件もあって最初は眉をひそめる人も多かったけれど、姉の優麗な瞳には誰も叶わず、姉はそれでもやっぱり女王で、結局のところ祝日は実現した。冬の終わりにその日を設置したのだ。『リンゴ収穫祭』から、ほぼ一か月後に訪れる祝日である。この日はリンゴ狩りのような催しは開かず、ただ祝日として制定しただけの、なんてことのない日となった。国民にとってはただの休日でしかないだろう。しかし、それが姉の作り出した祝日であれば、当然僕は黙っていられない。
「姉さんはいったい何がしたいんだ」
 僕はまだ、リンゴ園での姉の行動についてきちんとした答えが出ていない。それなのに、姉はまたしても不可解な祝日を作っては、またこうして僕の頭を悩ませようとしている。もちろん姉には意図があり、それは当然不可謬のはずである。姉のやることは大抵正しいのだから、こうやって悩んでいるのは僕だけで、姉の中ですっかり道筋が出来ているのだろう。その道筋が僕にはわからなかったし、いったい姉がどこに向かっているのかもよくわからなかった。
 さて、みずうみ記念日当日がやってきた。
 僕は玉座でまたしても恐ろしげな本を読んでいる姉に歩み寄り、その呑気さに呆れて思わず声を荒げた。
「王国記念日まであと三か月だよ姉さん。もうすぐ春が来る。このままじゃ姉さん、殺されちゃうよ」
「心配?」
 姉は上目遣いで一度こちらを見、それからパタンと本を閉じる。
「そりゃ心配するに決まってるじゃないか。姉が理不尽に殺されて喜ぶ弟なんていないよ」
「あんたって、普段は私を悪しざまに言うくせに、結構私のこと好きよね」
「まあ姉だからね。でも姉さん、そうやってニヤニヤしてる時間はないんだよ。何か考えがあるの?」
「考えが無いように見える?」
「……いや」
「なら、いいじゃない」
「でも!」
 姉は僕の反抗を遮るように、すっと玉座から立ち上がった。
「とりあえず、まだ三か月も先のことに憂いても仕方がないわ。それじゃあ、行くわよ」
「えっ、どこに」
「湖」
 姉は読んでいた本を、玉座の上に置いた。







 森の開けた土地を円形に切り抜いたような、そんな東の森の湖。しかし、僕と姉が辿り着いたそこは、僕の歩みがすっかり止まってしまうほど異様な光景が鎮座していた。
 湖の水が、一切消えてしまっていたのだ。
 鏡のように美しく光をはじいていた湖面は見る影もなく、ごつごつとした茶色い岩肌が、逆転させた円錐のような図形を描きながら下へ下へと掘られている。まるで大きなお椀ようなその場所は、水分のひとかけらも見受けられず、そこに確かに湖があったのだということを一瞬忘れてしまうほどだった。それほど、突拍子のない光景が僕の目を焦がしたのだ。
「ど、どうなっているのこれは……姉さん、湖に水が無いよ!」
「ええ、そうね」
「そうねじゃないよ」
 僕は姉の横顔を見て、はっとした。
「まさか姉さん。今度のことも、こうなることを知っていたって言うのかい」
「さあどうかしらね」
「答えてよ。知っていたんだろう?」
「こうなることを『知ってはいなかった』けれど、こうなるかもしれないとは思っていたわ」
「つまり、湖の水がなくなることを予見していたんだね」
「そこまではっきりとは考えていなかったけれど……」
 姉は、本当ならば水にすっかり浸っていたはずの緩やかな斜面をゆっくりと歩き出した。お城の人に無理やり履かされている高級な靴が、こつこつと地面を踏み鳴らす。僕は後れを取らないようにすぐさま駆け出し、もう一度姉の隣に並んだ。姉は余裕を含んだ口元で微笑みながら、その冷静さを歩みにさえ体現したままだ。何がそんなにも余裕なのだろう。僕には不思議でならなかった。
 湖だったその場の斜面は、最初は非常に緩やかだったが、途中から急にぐんと沈み、ほとんど崖のようになっていた。姉はそこまで辿り着くなり足を止め、しゃがむようにしながら、そっと崖の下を覗きこんだ。僕も同じくそこを覗くと、一番奥底まで、やはり茶色い岩肌がむき出しになっていた。かなり深い。これほど深い湖を底まで浸していた水が一晩で消えてしまうなんて……僕はぞっとした。
「さて、この湖を見て、あんたはどう思った?」
 姉はすっと立ち上がると、僕を見て、人差し指を立てた。
「どう思ったって……水が無いとか?」
「そうね、水が無いわね」
「だからなんなの姉さん」
「じゃあ、どうやって水を無くしたと思う?」
「……どうやってって」
 僕は言葉に迷った。湖の水を一晩で無くすための方法が、まったく浮かばなかった。
 明確な答えを出す前に、姉さんは先走る。
「答えは『不明』よ」
「はあ?」
「正確には、人間には不可能」
 確かにそうだ。
 湖はなかなか深いところがあるし、水の量は多い。例えば湖の底に穴が開いて海へと洞窟を伝って流れ出てしまうとか、そういった自然現象が起きなければまずこんなことは起きない。けれど見る限り、湖にそのような現象が起こった形跡はない。ではやはり、人為的なものだろうか。しかし少なくとも、湖の水をすっかり消してしまうなんてことはまず人間にはできないだろう。けれど、そんなことは見ればわかるじゃないか。僕はまだ姉さんの言葉の意図が読めない。
「人間には無理だよ。だけど、それが何?」
「人間には無理だということが証明できた」
 姉は誇らしげに笑うと、くるりと体を翻して、帰ろうと僕に言った。







 さて、とうとう春の王国記念日まで残すところあと一か月というところで、僕は姉に王の間に来るよう言われた。姉はほとんどの政治をお城の人に任せていたが、そろそろお城も姉が死んでしまうことを考えて、重苦しい空気になりつつあった。僕はそんな空気が嫌で溜まらなかったためにほとんど部屋から出なかったが、姉の呼び出しならば仕方がない。僕は赤い絨毯が眩しい廊下を進んだ。するとどうしたことか、お城の人たちも王の間へと向かっている節があり、姉の付き人さん――僕たちの家にやってきたあの背の高い男の人――を見つけると、僕は彼に声を掛けた。
「弟様、どうかされましたか」
 未だにその呼び名に慣れない。確かに女王の弟だけど……僕は苦笑いして、彼に本題を問う。
「お城の人たちがみんな、姉さんのところに向かっているようだけど?」
「ええ、どうやら新しい祝日をお作りになるようです」
「新しい祝日? また?」
 『リンゴ収穫祭』、『みずうみ記念日』と祝日を作った姉だったが、今度もまた何か祝日を作るらしい。僕はまたしても首を傾げてしまった。これ以上いったい何のつもりなのだろうか。お城の人たちも、どこか掴みどころのない祝日をこうも何度も作っては、国民の生活や、年間の様々な事柄に支障をきたすことを心配しているというのに。傍若無人っぷりがここでも出たのか、それとも――……それでも僕は、姉に対する不信感を無理やり拭った。きっと何か意図するところがあり、目的があり、そのために僕たちには理解の及ばない行動をしているのだ。それはあの、穏やな鋭さを宿した雰囲気と瞳が、長い間一緒にいた僕だからこそ見極められる、可能性の輝きを秘めているのだと知っているからだった。
 王の間に集められた僕たちは、姉の笑顔に迎えられた。
「さて、みなさん集まったわね」
「姉さん。また新しい祝日を作るんだって?」
「あら、もう聞いたの? そうよ」
 姉は玉座を立ち上がり、両腕を広げて、高らかに宣言した。
「新しく祝日を作ります。その前に、ちょっと私の推理を聴いて欲しいの」
 それから姉は、『祝日の悪魔』に関する推理と、新しい祝日の内容を詳しく説明した。
 姉の清々しい笑顔とは反対に、王の間に集まっていたお城の人たちは、ざわざわとどよめき始めた。
 そんな推理が、本当に正しいのか? そんな祝日、あっていいのか? と。
 しかし、僕だけは何も言わず、じっと姉を見据えていた。
 あの聡明な目をしている。







 姉が新しく設置した祝日は、国民にも酷い動揺を与えた。当然だった。それは姉の人格が疑われる、あまりにも危険な祝日であり、女王であるということ、もしくは姉の評判にも関わる、本当に難しい祝日だったのだ。僕は姉が間違いでないことを信じているし、あの姉が何の意味もなく、遊び半分とか、そういういい加減な理由でその祝日を作りだしたのではないことを知っている。姉はそういう人だからだ。けれどその祝日は、少なくとも受け入れやすいものではないというのは僕も認めざるを得なかった。それほどまでに、姉が新しく制定した祝日は、今まで作った二つの祝日よりも、難解で、信じがたいものだったのだ。
「まあ仕方がないわ。逆にあの祝日を簡単に受け入れてくれる人がいたら、逆に不思議よ」
 姉は玉座で、日々受けるバッシングにも何の弊害もないというように、んーと声を上げながら背伸びした。
「暢気なものだね……」
 信じてはいる。
 しかし、緊張はしていた。
 とうとう王立記念日が明日に迫っていたからだ。
「何? 私が信じられないの?」
「信じているよ姉さん。だけど、もうちょっと危機感を持とうよ」
「そうねえ」
 姉は僕の言葉を受け流す。
「私が死んだら、あんたが王様になって、来年死んじゃうもの」
「そういう意味で言ってるんじゃない」
「わかってるわ。私はあんたに死んでほしくないからね。だから、私が生き残らなきゃいけないわ」
 僕は姉と向かい合ったまま、その言葉を静かに聴いた。
「見てなさい。私は殺されない。必ず勝利して見せる」







 王国記念日の前日の深夜、王の間には僕と姉だけがいた。
 勝負は一日。
 姉さんによれば、『祝日の悪魔』が王を殺すのは、王国記念日の一日の間だけだ。それは今までの王様や女王様の検死結果から判断したもので、確定とは言えない。けれど、姉はそうだと確信していた。姉は玉座について、ゆったりとした面持ちで僕と向かい合っている。僕は半々の複雑な気持ちで、姉の正面に立っていた。
「――――時間、だ」
 時計が回り、王国記念日となった。
 王の間の外では、警備の兵たちが位置に着き、お城は厳戒態勢を敷いている。お城も警察も諦めたわけではなく、止め得られるのであれば止めたい一心で、この十年を過ごしてきたのだ。一方僕はこの時、少しだけ自分勝手だった。そういう警察の威信や、お城のことはどうでもよかった。僕には貴族である自覚などなく、この半年以上過ごしたお城に、これっぽっちも愛着などない。僕にあるのは、姉その人のことだけだ。つまり、姉さえいればそれでよかったし、姉が生きていてくれれば僕はそれだけで満足だということだ。姉に死んでほしくない。だからこそ、僕は姉に何度も疑問をぶつけてきた。それでも、その疑問が解決されぬまま、とうとうこの日を迎えてしまった。だから、いくら姉が不可謬だとしても、不安は今も心に巣食っている。
「時間だよ、姉さん――たった今から、王国記念日だ」
「ええ、そうね」
「姉さん、死なないで」
 僕は会話の流れの中で、一応気持ちを伝えておいた。
 すると姉は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑ってくれた。
「死なないわよ」
 姉は、言い切った。
「言ったでしょう。あんたの悲しむ顔なんて見たくないから、殺されるつもりはないって」
 僕のため。
 死にたくないから、じゃないのか。
 そういうところ、さすが僕の姉だ。
 僕の不安が、少しずつ払拭されていくのを感じる。
 やっぱり、信じるよ。
 きっと姉なら――。
 その時だった。
 姉は、突然すっと立ち上がり、声を高らかに響かせた。
「そう――――死ぬのは、あんたよ……『祝日の悪魔』」
 それに反応したように、突如異変が起こった。
 王の間の中央当たりの空中に、霧のような黒い何かが立ち込め、黒々しく渦を巻いていた。それが少しずつ形を成すと、人間のような姿になった。全身真っ黒で、まるで黒い粘土で作られた大人の彫刻のようだった。僕は驚愕し、喉を詰まらせ呼吸を忘れた。額から汗が滴ることも、ただ一瞬でもそれから目を離したくないそれだけのために無視した。
 あれが、『祝日の悪魔』……?
 あれが、今まで起こった王家の悲劇の根源――。
 それが顕現した時、僕は姉に飛びついて、守ろうとも思った。姿を現したそれが今にも姉に近寄り、その不気味な姿で姉を殺してしまうかもしれないと、一瞬頭で想像してしまったからだ。例え姉の論理が正しかったとしても、いかにも悪魔らしいその体躯が目の前にあるという、それだけで惨劇が現実味を帯び始める。姉さんの計画は正しいはずだ。けれど、今目の前に『祝日の悪魔』がいるんだぞ! 僕は姉さんの元へ走り出そうと思った。しかし姉さんは澄ました顔で、手のひらをこちらに向けた。来ないで。そう、姉さんが告げた気がした。僕は奥歯を噛み締めて、どうにかその場に留まる。
 姉さんの論理を、信じるしかない。
 姉さんは、間違えていないのだ。
 僕はそれだけを祈り、もう一度上を見上げた。
 その瞬間だった。
 信じられないことが、起こったのだ。
 王の間の空中に浮いている『祝日の悪魔』が、自分の両手を自分の首にやり、おぞましい悲鳴を上げながらその首を絞め始めたのだった。表情もない、顔もない。けれど確かに人間の姿を模しているそれは、両手で自分の首を締め上げている。悲鳴は、女性と男性の甲高い声が入り混じったかのような、禍々しいものだった。何を、やっている――? 自分で自分の首を絞めた……! 予想外すぎる光景に、思わず目を見張った。
「……さようなら、そして安らかにおやすみ」
 姉が、穏やかな言葉を投げ掛ける。
 それから、最大級の嘶きを響かせ、悪魔は床に落下した。まったく動かなくなったそれは、まるで砂像が風に吹かれて少しずつ形を崩していくかのようにゆっくりと砕け始めた。霧のような黒々しい粒子となって、それも同じく風のように消えて行く。そうして悪魔は体を完全に消滅させ、王の間からは姿を消してしまった。
「ふう……これにて、一件落着ね」
 姉は額の汗を拭う動作をして、玉座に身を投げるようにして座ると、脱力して息を吐いた。
「言ったでしょ、死なないって」
 姉は僕にウインクをした。


 それから一日、姉の体が無事であったのは言うまでもない。
 姉は『祝日の悪魔』に勝利し、王国記念日の悲劇を止めて見せたのだった。







 僕たちを王の間に呼び出した時、姉は新しい祝日を作ることを宣言した。
 その際披露した姉の推理はこうだ。
「『王国記念日』『リンゴ収穫祭』『みずうみ記念日』……この三つの祝日に起こる事件の共通点は何だと思う? それは、『祝日の意味合いとは矛盾した事件が起きる』ということよ。『王国記念日』は『王家に対して感謝を捧げる休日』なのに、その王家の王様が殺される。『リンゴ収穫祭』は『国営のリンゴ園の長い歴史への理解を深め、その実りがこれからも国の豊かさに貢献することを祈る休日』なのに、リンゴが台無しになる。『みずうみ記念日』は、『古くから残る湖がもたらす美しい情景を未来まで残すことを祈る休日』なのに、湖の水が消え去る。この三つの共通点から、祝日の内容や意味合いとは真逆、もしくは矛盾した事件や悲劇が起こっているのではないか。そんな仮説をまず立てたの。
 けれど、仮説は仮説。
 最初はね、『王国記念日』に王様が殺される時点で、祝日の意味合いと真逆の事件が起きている気がするとは思っていた。けれどそれは推論でしかなかったし、決してそれが正しいとは言い切れなかった。だから『リンゴ収穫祭』と『みずうみ記念日』という二つの祝日を新しく作ることで、祝日の意味合いとは矛盾した事件が起こるという仮説の裏付けを取ったの。
 最初に『リンゴ収穫祭』を作ったのは、『国営』と『国立』という二つのリンゴ園を隣接させて、祝日の内容では片方だけを示すように設定した時、『祝日の悪魔』がどのように動くかを見たかったから。『リンゴ収穫祭』の意味は『国営のリンゴ園』だけを対象としている。すると、きちんとその通りに、国営リンゴ園だけが被害に遭った。すぐ隣に『国立』のリンゴ園があるのに、ご丁寧に『国営』のリンゴ園のリンゴだけを台無しにして見せたの。これはつまり、『祝日の悪魔』の犯人が、きっちり祝日の意味合いとは矛盾するように事件を起こす――いえ、起こさざるを得ないのではないか、ということ。例えばリンゴ園を台無しにするのが目的であったのなら、明らかに隣にある国立のリンゴ園も台無しにしなければ意味がない。それなのに、ちゃんと国営だけを狙った……それは、『国営のリンゴ園』という対象が祝日の意味合いに含まれており、一方『国立のリンゴ園』は祝日の意味合いに含まれていなかったからではないか。私はそう考えた。いい? リンゴ園が目的だったからではなく、『国営リンゴ園』だけが祝日の意味合いに含まれていたから、そちら側だけを狙ったのよ。
 となると『祝日の悪魔』は、何か特定のものに対して事件を起こしているのではなく、単純に祝日の意味合いだけを判断して事件を起こしているということになる。だって、もし犯人が王家へ事件を起こしたいだけなら『王国記念日』に事件を起こせばいいだけだし、別の祝日である『リンゴ収穫祭』に事件を起こす必要なんてない。だけどきちんと『リンゴ収穫祭』にリンゴを台無しにしてみせたということは、王家に対して事件を起こすことが目的だったわけではなく、この二つの日がどちらも祝日だったからというそれだけの理由で事件を起こしているという、紛れもない規則が見えてくる。それがとても重大なポイントなの。いい? 犯人は、言うなれば闇雲に、『祝日だから』という理由だけで、祝日の意味合いとは真逆の事件を起こしているということが、『リンゴ収穫祭』によって決定付いたのよ。
 そして次に、『みずうみ記念日』を作った。これは、祝日の意味合いとは矛盾する事件がきちんと起きるかどうかの確認もあったけれど、特に『祝日の悪魔』が人間ではないことを証明するためのものだった。王様を殺すとか、リンゴを台無しにするとか、そういう事件は人間でも不可能とは言い切れないでしょう? 密室殺人だってトリックを使えば不可能とも言い切れないし、リンゴを台無しにするのは時間を掛ければできる。けれど、湖の水を一晩で消してしまうのは人間にはできない。すでに二つの祝日から、祝日の意味合いと真逆の事件が起きることは予想済みだったから、今度は湖に関する祝日を制定すれば、恐らく湖が被害を被るのだろう予測していた。その結果によって、『祝日の悪魔』の犯人が、人間なのかそうではないのかが判断できるだろうと考えたの。結果、湖の水が一晩で消え去るという、人間には不可能な事件が起きた。これにより、『祝日の悪魔』が人間ではないことが証明されたの。
 この三つの祝日から導き出される結論は五つ。

 1、『祝日の悪魔』は、祝日の意味合いとは矛盾した事件を起こすということ。
 2、『祝日の悪魔』は、祝日の意味合いをきちんど吟味せず、単純に『祝日である』という理由だけで矛盾した事件をその日に起こしているということ。
 3、『祝日の悪魔』は、祝日の意味合いをかなり細かく反映したうえで、矛盾した事件を起こしているということ。
 4、『祝日の悪魔』は、祝日の意味合いとは真逆の事件を、闇雲に、義務的に起こしているということ。
 5、『祝日の悪魔』は、人間ではないということ。

 こうなると、自ずと犯人である『祝日の悪魔』の正体が見えてくる。
 人間ではなく、本当に悪魔か、幽霊か――……どちらにしろ、その存在は闇雲に事件を起こしているのだから、きちんとした判断能力が無く、何か強い意志に拘束された行動をしていると考えられることよ。それを先ほど、義務的と称したけれど……事件を起こすことに躊躇が無いし、ただ祝日というだけで事件を起こすその行動には、どこか強い執着や、固執のようなものが感じられる。恐らくそれは、『祝日の悪魔』が、祝日の意味合いとは真逆の事件を起こす意志だけを持って生まれついたからじゃないかしら。その時、私は実家で読んでいた本の内容を思い出したのよ。
 ――祟り。
 死んでしまった人間が、何か強い未練や心残りを残すと、その意識がこの世に残り、人々に悪事を働いてしまうことがあるそうよ。もしくは死んだ後にこちらを見守っていた幽霊が、その後何らかの理由でこちら側に幽霊として戻ってきて、悪事を働く。そういう強い想いを残している幽霊は理性的ではなく、人間のように判断能力もない。けれど強い恨みがあれば、その恨みだけが姿かたちに定着した形で現れ、その恨みを晴らすその一心だけで行動する場合もある。今回の一連の事件が、恐らくそれに当てはまるのではないかしら。私、実家では本ばかり読んでいたのだけど、今度の『祝日の悪魔』の行動は、そうした強い恨みを抱いて現世に舞い降りた幽霊の祟りではないか。そう考えたの。
 そしてそれが、『祝日の悪魔』を止める一つの鍵になった。
 では、どのようにして『祝日の悪魔』止めるのか?
 それは、三つの祝日から導き出された五つの結論から、自然に導き出されるわ。
 ここまで言えば、わかるんじゃないかしら?」
 姉は、高らかに宣言した。


「『王国記念日』を、『祝日に悲劇をもたらす者へ感謝を捧げる日』とします」


 

 


 姉の論理は正しかった。
 祝日の意味合いとは真逆の事件が起きているという仮説を立て、女王になったのをいいことに、新しい祝日を作り、その仮説を証明して見せた。同時に、その犯人が人間でないこと。人間でないのならば、祝日に事件を起こすただそれだけに執着する幽霊が『祝日の悪魔』であることを、僕たちに示して見せた。そうして、『祝日の悪魔』――悲劇をもたらす者に感謝する日を王国記念日の意味合いとして書き換え、『祝日の意味とは真逆の事件を起こす』というその習性を逆手に取り、『祝日の悪魔』の自殺を促したのだ。今までの不可解な姉の行動も、こうなってしまえば、まるで砕けていたパズルがぴったり一致するかのように、僕の中で合点がいく。姉は、祝日の悪魔の自殺を、最初から狙っていたのだ。
 結局、王国記念日は何事もなく過ぎ、姉は無事に生き延びた。
 それから姉は、付き人の男の人にあることを伝えると、そのまま女王を退位した。もし『祝日の悪魔』が来年も悲劇を起こすとしても、恐らく殺されるのは自分だから責任はとれる、と姉は言う。姉は女王を止めたとしても、現時点で血縁的に最も女王にふさわしい人であるから、もし『祝日の悪魔』が再び現れれば、本来は女王であったはずの姉が殺される。けれど姉の様子を見ていると、きっと『祝日の悪魔』はもう現れないだろうということを、僕はなんとなく悟っていた。姉と僕はお城を離れ、半年ほど開けたままにしていた実家に戻った。
 しかし、一つだけ僕は疑問に思っていることがあり、実家に戻る際、姉にそのことを問うた。
「姉さんは、『祝日の悪魔』の幽霊の、本当の正体を知っているんでしょう?」
「そうね」
「それは?」
「恐らくはこの国を作った騎士ね」
 姉は屈託なく答えた。僕はその真実に驚き、そしてすぐに納得した。
 姉はこの半年ですっかり流暢になった口元を動かし、その思考の過程と結論を述べていく。
「長い年月を経て、騎士への追悼や感謝の意を捧げるはずの『王国記念日』が、いつの間にか、現在の王への感謝ばかりになり、騎士への弔いはすっかり忘れられてしまった。それに怒った騎士が、強い恨みをもってこの世に顕現し、『祝日の悪魔』となって悲劇をもたらしたんじゃないかと思うの。恐らく彼は不遇の死を遂げたのね。だからこちらに強い未練があったし、だからこそ『王国記念日』の意味合いとは真逆の悲劇を起こすことで、本来の祝日の意味合いを思い出してほしかったんじゃないかしら。恨みを伴ってこちらに現れたのだから、その行動はその恨み一心に支配されて行動する。自分のための祝日が忘れられたから、祝日に矛盾した悲劇を起こすという行動原理も理解できるし、そもそも『王様が死ぬ』『リンゴ園が台無し』『湖の水が消える』という三つの被害が『国に対する恨みからくる復讐』という一括りだと考えれば、無念の死を遂げた騎士が、悲劇を起こすだけの幽霊となったのも頷けるわ」
 姉が城を離れる時、付き人に何かを言っていたのは、この騎士への弔いのことだった。姉が退位した後、少しだけ落ち着いてから、『王国記念日』の祝日の悪魔に関する部分を消して、代わりに騎士のことを祝日の意味合いに加えつつ、本来の『王国記念日』に戻しておいてほしい。姉はそう言ったのだ。長い年月を経たために、本来弔われていたはずのその魂が、いつの間にか恨みつらみを積み重ねた。だからこそ、彼を倒した姉が女王として最後に行ったのは、そんな報われなかった魂をもう一度弔う祝日として、『王国記念日』を新しいものに変えたことだった。
「姉さん、女王のままだったらもっと楽をして暮らせたのに、どうして退位したの?」
 姉は家に戻ると、すっかり元の体たらくに戻ってしまった。一日中パジャマで寝転び、本を読み、ご飯を食べ、寝る。女王の頃は常に宿らせていたあの鋭く聡明な瞳は、今はすっかり欠伸の涙目で消えてしまっている。元の姉に戻ったのだ。僕はお城にこれっぽっちも未練がなかったからよかったが、姉は姉で、城で暮らしていた方が贅沢で、姉の望む非常に楽な生活だって叶っていたろうに。僕がそう言うと、姉は柔らかく笑った。
「だって、あんたと二人暮らしの方が気楽でいいじゃない」
 僕はきっと、この姉には一生敵わないだろうなと、この時強く思った。
 無事でよかった。
 お疲れ様、姉さん。

 かくして、僕の姉のささやかな物語は終わり、日常へと戻ってきたのだった。
 
 
メンテ
Re: 【七月期お題「祈り」】お題小説スレッド【六月期「祝日」お題投稿期間】 ( No.329 )
   
日時: 2013/06/19 15:50
名前: 企画運営委員 ID:IXrQKsnA

作品のご投稿お疲れ様でした。
16日(父)〜30日(日)は批評期間です。
作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。
批評だけのご参加もお待ちしております。

>第25回『祝日』参加作品(敬称略)

>>327 空人:その手に白き花束を

>>328 エシラ:祝日の悪魔

>>欄外 にゃんて猫:虫と布団と僕
メンテ
Re: 【七月期お題「祈り」】お題小説スレッド【六月期「祝日」お題投稿期間】 ( No.330 )
   
日時: 2013/06/29 23:29
名前: エシラ ID:K8PdYSRY

 こんにちは。
 今回も参加させていただきました。よろしくお願いします。



>>327 空人さん:その手に白き花束を

 白という色は禁忌と魅惑の色だということをどこかで聞きました。
 空人さんのこのお話は、佐藤ハナという女の子を白と結びつけようとする意図や姿勢により、物語に独特な雰囲気を与えることに成功しています。ガール・ミーツ・ガールという導入部から急展開を迎える最後まで、何ものにも染まっていない、まさに白色の存在らしさが彼女の様々な要素から伺えて、しっかりと収斂されたお話になっていると感じました。ところで先ほど何ものにも染まっていないと言いましたが、まさに白とはそういう色で、それは校舎が静かであるとか、名前に特徴が無いとか、そういう部分も同じく「白」と同じように、何ものにも染まっていないのと同義なのではないかと思うわけです。となるとこのお話は、そういう「白」に統一された大変細かいお話なのではないかと考えます。だからこそ、非常に纏まったお話に感じるのですね。
 ストーリーに関しては、最後の展開がとても好きです。先ほど白が魅惑の色だと書きましたが、まさしくハナは、主人公であるリコを魅惑する女の子だと言えます。だからこそ、実は舞台自体がまったく不思議な世界であることに気付いても、ハナにすっかり魅了されてしまっているリコは、そんなハナを信じ切って、舞台がどこなのかというような疑問を晴らそうとはしない。しかし読者は、リコの、自分の現在いる場所への疑問を晴らさずハナへついて行こうとする行動に、どうにも違和感を感じるわけです。今までリコの視点で一緒に寄り添いながら物語を進めてきたのに、最後になって突然、読者だけが動けなくなり、リコとハナが歩いていくのを遠くから見つめるしかなくなってしまう感じがします。そういった主人公と読者の間に生まれる溝が、いい意味で物語に奇妙さを与えているのかなと。最初から全てハナの手の上で踊っていただけなのでしょうか。そういう想像の余地を与えるお話で、とても好きでした。ちょっとだけ二人が怪しい雰囲気なのも、個人的によかったです。相変わらず、空人さんは、女の子を描くのがお上手ですね。
 ちょっとだけ気になったのが、名前でしょうか。もちろん登場人物に名前はあるべきだとおっしゃる方もおられるでしょうし、空人さん自身がそう感じていらっしゃるのかもしれませんが、私はこのお話の登場人物である佐藤ハナに、具体的な名前を付けるべきではなかったのではないかと思います。このハナという女の子がリコを魅了したのはなぜかということを考えると、それはまったく素性のわからない、秘密の多い女の子だからだと考えます。『彼女が現実のものであるかどうか、疑惑は残したままに』とあるように、結局ハナはどこまでも不明瞭な存在であるわけです。現実の人間なのかそうでないのか、非常に曖昧な立ち位置にいる。しかも会話はほとんどリコから発していたわけですから、まさしくハナはほとんど喋らない、秘密の多い女の子ということになります。つまりリコから見れば、ハナという存在から発信される情報はほとんど皆無だったわけです。ところがその中に突然、『ほのかにその薄紅をほころばせ、同じ色に染まった頬をこちらに向ける』とあるように、可愛らしい仕草を見せる。今までずっと秘密が多いような、自分からはほとんど何もしないような子が、笑ってくれた。秘密が多いからこそ、こういう数少ない向こうから発信される情報というのが特別際立って、リコの中に印象を残すことになります。例えば、笑ってばかりの女の子が笑ってもその笑みはさほど印象には残りませんが、秘密が多くほとんど笑わない女の子がやっと笑ってくれたというような場合の方が、当然その笑顔を印象に残しやすいというわけですね。
 つまり、現実かそうでないのか不明瞭で、秘密が多いからこそハナは魅力的に映るのだと言えます。
 それは逆に言えば、ハナに関する情報があればあるほど、彼女の魅力が減るということです。例えば「佐藤ハナ」というような名前の「情報」を与えてしまうと、今まで不明瞭で掴みどころがなく「現実かそうでないのかわからない」存在だからこそ魅力的だった彼女が、名前を与えるという行為により、急激に地に足がついており、「現実にいそう」という現実側にちょっとだけ近寄ってしまった存在になってしまいます。もちろんこれにより、読者に現実世界だと思わせて、実は舞台が不思議な世界であったというミスリードに一役買っているとは言えるのですが、現実世界であることは、最初の数行にわたる教室に辿り着くまでの情景描写できちんと示すことができていますし、名前を付けることでミスリードを狙うよりか、名前を与えず、佐藤ハナという女の子を完全なまでに不思議で曖昧な存在にする方が、彼女の存在を逆に際立たせ、圧倒的な存在感をもって物語を魅力的にしたのではないかと私は思います。そもそもこの物語の根幹にあるキーワードが「白」であるのなら、名前さえも「空白」であることで彼女の情報は極端に減り、まさに何ものにも染まらない「白」の象徴としてのキャラクターになりますし、妖しいヒロインとしてもっと魅力的にできたのではないかと思います。まあ、名前を与えなかっただけでそこまで変わるかと言われれば違うのかもしれませんが……。
 先ほど述べましたが、この二人の怪しげな雰囲気を堪能しました。ハナちゃんはリコのことを気に入って、どこかへ連れ去っていこうとしているのでしょうか。もしくは転校してきたというようなことさえ嘘なのかも、と邪推してしまいます。この物語のキーワードが「白」であると私は勝手に考えてしまいましたが、もしそうだとするならば、目を閉じることで「黒」の世界へと身を投じるという物語の切り方も纏まっていて綺麗です。このように「白」と「黒」を対立のものだとしたうえで、白を示す佐藤ハナの存在こそが光である、道を照らす灯りである、ということが暗に示されているようで、かなり完成されたお話だと感じました。面白かったです。読ませていただいてありがとうございました。


>>328 エシラ:祝日の悪魔


 与えられた情報だけを元に解決へ導くお話が書きたかったんですが、説得力のある文章がどうしてもうまく書けなくて、肝心の推理の部分がおざなりになっているかもしれません。もっと論理的に書ければよかったと思うし、どうしても盛り上がりに欠けてしまった気がして、その辺りは反省しています。ですが、久しぶりに余裕を持って書けました。とても楽しかったので満足です。誤字があるのが悔しいです。ありがとうございました。


雑談所 にゃんて猫さん:虫と布団と僕


 夢野久作という人が書いた作品に『ドグラ・マグラ』というものがあって、私は未読なのですが、このお話の冒頭は、記憶喪失の主人公が蜂の羽の音で目を覚ますシーンから始まっていた気がします。にゃんて猫さんのこのお話を読ませていただいた時、強烈にこの作品を思い出しました。『ドグラ・マグラ』は日本三大奇書にも数えられるほど非常に奇妙な作品だそうですが、にゃんて猫さんの今回の作品も、大変奇妙なお話だったと思います。どうやらにゃんて猫さんは最近、どこか奇怪的なお話を書くのを好んでいるようですね。何かが蠢いているのに、その実体が掴めないような雰囲気は非常に素敵で、特に前半の雪崩れ込むような語りから、後半の急激に淡々とラストに向かっていく流れが、このお話の不思議さの一つの要因として作用しているように思います。これは、前半と後半が時系列的に巡っている仕掛けになっているのでしょうか。だとしたらとても巧い構成だと思います。同時に、それぞれの部が「布団」ということにクローズされた終わり方をしているのも、整っていて綺麗に感じました。
 気になったのは、主人公である「僕」の思考があまりにも饒舌であるということでしょうか。後半に登場する謎の人物が『そのくせ、当の考えていることといったら、本当にどうでもいいことばかり』と言っていることからも、前半部の「僕」がどうでもいいことをつらつらと思考しているように見せようとした、という意図は理解できます。しかし個人的には、このお話が「僕の思考」というよりは、書き手が思いついた言葉をそのまま置くようにしながら書いていくという「書き手の思考」の方が見え透いてしまって、登場人物と書き手の差別化が図れていないように感じてしまいました。
 問題となるのは、この「僕」が論理的に思考しているはずなのに、まったく論理的ではないという点です。『脳に染み付くほど鮮明に覚えているはずなのに、具体的に思い出せない…(略)…やはり僕はその具体性を取り戻すところから初めなければいけない』と雄弁に記憶を掘り返そうとする語りのすぐ後に、『いや、ちょっと待て。何故僕は今「推理」という言葉を使ったのだろう。普通なら、忘れていたことを「思い出す」はずなのに。僕の脳は無意識下に僕の中に昨日の夜に関する情報がこれ以上残っていないと勝手に判断したのだろうか。』と、突然自分の行為に対して疑問をぶつけ始めます。こんな風に、Aという思考→Bという思考、と少しずつ自分の思考を突き詰めて連結させていっているはずなのに、まったくもって論理的でなく、前後の文章に歪みが生じてしまっている。Aという思考を確かにしたのに、A自体をなかったことにしているわけですね。他にも『おそらく疲労だろう。そう、そもそもの根幹となっている疲労が先ほどの僕のおかしな思考を導き出したのだ』→『疲労のせいだと言うのなら、そもそもまともな思考が一時でも続けられるはずはない。おそらく思考を放棄して、とっとと睡眠なり現実逃避なりしているだろう』……前者がA、後者がBとするなら、Aでは確かに疲労しているのに、Bでは疲労という事実を打ち消してしまっている。そもそも睡眠が出来ないのは疲労しているとかしてないとか以前に、虫の存在があります。『何故眠れないのか――――原因はハッキリしている。この布団防壁の外にいる虫軍団だ』とあるように、「僕」の睡眠を阻害するのは、思考や疲労云々ではなく、単純にそういった虫の雑音が原因のはずなんですね。しかし先ほどのBでは「こういう風に思考が続くのは疲労ではない。だって疲労しているんなら眠っているはずだからね」と、眠れない原因であると同時にタイトルにもあるほど大切な要素である「虫」という一要素を、このBではすっかり捨て去ってしまっている。
 こういうところが悪い意味での矛盾で、先ほど言った、「僕」というよりも「作者」の思考に感じられるということです。つまりはバシバシと文章を打ち込んでいく過程で、作者自身が「僕」になり切れていない。こういう思考をしたからこうである、という本来「僕」という存在ならば簡単にできるはずの思考過程が、にゃんて猫さんが「作者」という「僕」ではない人間の立場であるために、「僕」という存在が思考するにしてはあまりに不自然な語りになってしまっているのではないかなと。
 もちろんこの「僕」の語りは『思考が噛み合っていない訳ではないが、前提であるそう……何と言えばいいのだろう。『常識』『定理』『普遍真理』、かみ砕いて言うと『当たり前』のことが過程から吹っ飛んでいるような気がするのだ』とあるので、平常の思考ではなく、どこか不条理さを持った思考をしているのでしょう。だからこそ先ほどの思考の矛盾や論理の隙なども仕方がないとは言えるのですが、だとすれば、ここまでも難しい言葉が連なった重苦しい語りではなく、もう少しふわふわした語りに徹した方がよかったのではないかと思います。こういった饒舌さは焦りとも取れるのですが、それにしては思考を様々な方向に宛がうだけの余裕が感じられてしまって、むしろ常識に沿っている。難しい言葉を使おうとしているので、だとしたらそんな思考はそれほど『常識』『定理』『普遍真理』といったものを吹き飛ばしているようには感じられません。こんな風にどこか文章に奇妙な歪みが見えてしまうのは、ただ思いついた言葉をどんどん書いていくような書き方をしたのでしからではないかなあと邪推してしまいますが、そうでなかったらごめんなさい。急いでいらっしゃったとか、締め切りの事情もあったのかもしれませんね。そういう文章のズレや矛盾こそがいい意味で気持ち悪く、作品の良さに作用しているとも言えなくはないのですが、やはり違和感が先行してしまうと個人的には思いました。
 先ほども言いましたが、にゃんて猫さんの最近の傾向は幻想的で、どこか恐ろしげな奇怪なお話じゃないかと勝手に考えていますが、今回もそういったテイストで非常に面白かったです。いったいどこに帰結するのかがわからない感触が、最後にこういった終わり方をするという発想それ自体ですでに凄いのですが、なんといっても冒頭と最後の丁寧さです。布団というワードがこんな風に物語を巧く締める役割として作用させる構成、展開もすごくいいですし、何よりも、カレンダーの赤の真実に気付いた時には本当に驚かされました。人は死ねば死ぬ瞬間を延々と繰り返すだとかそんな逸話もありますが、このお話はそういった類いのものかなと考えたりもします。恐ろしい話ですね。もしかしたら全然違うのかもしれません。でも、そんな風に考えがいろいろと変えたり変わったりできるほど、本当に不思議なお話だったと思います。不思議不思議と連呼すると、なんとなく掴みどころのない話だと感じがちですが、このお話はかえってスリリングです。「不思議」というそれ一点だけのものではなく、合理的な恐ろしさが上手く含まれている。それがつまり殺人ということなのですが、単純な怪奇に終わらず、何重かによる恐怖が絶妙なところで組み合わさっているのが素晴らしいと思いました。こういった展開はそう思いつくものではありません。面白かったです。読ませていただいてありがとうございました。



メンテ

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