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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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風の旅人 ( No.376 )
   
日時: 2013/09/15 16:58
名前: 伊達サクット ID:68egKSWY

 精霊の旅は、大地の人間を生かす。
 風により山や森の上空に運ばれた雲は、恵みの雨となって地面にふりそそぎ、草木の精気を川によって海へと流す。そして海は太陽の光によって雲となり、再び風によって大地へと運ばれていく。
 太陽、雲、風、水、森、その全てに精霊が宿っており、永遠と繰り返される精霊達の終わらぬ旅は、百姓の田畑に豊穣を、漁師の船出に大漁をもたらす。
 人々は古来より伝わる神話の教えを連綿と受け継ぎ、自然と調和して繁栄してきた。



 アーツは三年ぶりにカターリアの町へと戻ってきた。
 大きな河に面したのどかな町で、人々は作物を育てたり漁を営んで生計を立てている。
 町から町へと当てもなく旅をして生きているアーツにとって、この町の澄んだ水を飲むのは、前々からの楽しみであった。
「あなたはどこから来たのですか?」
 世話になった人達の問いに対し、アーツは「海の方から」と答え、差し出された水を飲み、喉を潤した。
 アーツは町の高台から、雲ひとつない晴天のもと、陽光を照り返す河の水面や柔らかい風が草木を撫でる広大な草原を一望した。
 これからもこの大地には海からの暖かな風が恵みをもたらしてくれるだろう。
 町を後に、アーツはどこともなく旅を続ける。
 その途上、彼は一人の旅人とすれ違った。
 そして、ふと思い立って旅人の背中に声をかける。
「ちょっとすみません」
「何でしょうか?」
「あなたはどちらへ行かれるのです」
「ハルア地方、海の方ですね」
 旅人の答えを聞き、アーツは笑顔を見せた。
「ならば、ちょっとお願いが。ついでに連れて行ってほしい者が――」
 こうして、アーツは肩の精霊を次の旅人に託した。



 ブルフスが初めてその名を世界にとどろかせるカターリア帝国を訪れたのは、空がひどく淀んだ日であった。
 大陸で最も権勢が強く、強大な軍事力を誇る大国である。
 ブルフスは厳格な門兵に通行手形を見せて中に入った。
 そこに広がっていたのは、噂どおりの壮大な都市国家だった。石造りの家々が無数に並び、王侯貴族が住む贅を尽くしたカターリア宮殿はまるで神の作った住まいなのではと錯覚するほど巨大で絢爛なものだった。
「しかし、なんということだ……」
 ブルフスは顔をしかめた。美しく洗練された町並みとは相反した、街中に漂う醜悪な糞尿の臭い。人々は毎朝建物の窓から排泄物を投げ捨て、街路と並走する水路に垂れ流す。
 外敵から守るため、帝国は高い壁で囲われていた。その壁が南からもたらされる風をも阻み、密閉された都市に不潔で淀んだ空気を燻らせていたのだ。
 宿の店主がよそ者のブルフスにこっそりと教えてくれた。帝国では疫病が流行っており、国民の間では排泄物の処理が確立されていない都市機能の欠陥が原因だと専らの噂だという。しかし、帝国はそれを否定しており、大きな声で言うのはタブーになっているらしい。
 ブルフスが帝国に滞在していた最中、たまたま同じ宿に居合わせていた吟遊詩人の弾き語りを聞いた。それによると、200年前のカターリアはまだ小さな町で、多くの旅人が清らかな水を求め、憩いの場として賑わっていたらしい。
 そして、旅人が去ると、その後を追うように暖かな風が町を覆ったそうだ。
 話をしたところ、この詩人も帝国の不潔さに嫌気が差し、早々にここを去るつもりだという。
「そなた、どこへ向かう?」
 ブルフスは問う。
「そうですね。ここは空気が悪いし、常に戦争の影がちらつく。ハルア地方はまだ平和そうだから、そっちでひとつ仕事しようかと思ってます」
「ならば、頼みたいことがある」
 ブルフスは肩の精霊を詩人に託した。
「……本当だ。見えます、姿が。信じられない。だけど、この精霊は泣いていますね」
「出会ったときからそうなのだ」
 ブルフスは思った。嘆きの精霊はどんな風をここに運ぶ? この鉄壁の帝国に、少しでも新しい風をもたらすことができるのか?
「分かりました。確かに、引き受けましたよ」
 心の中の疑問を口には出さず、ブルフスと詩人は寂しく笑い合った。



 ホバーバイクのエネルギーが尽きかけている。
 マリアは若干焦ったが、レーダーによるとあといくらもしない内にエリアB-32・『旧カターリア区画』に到着する。
 噂どおりに精霊炉のシェルター倉庫が無事だったら、エネルギーは補給し放題だ。しかし、そんな宝の山があるかもしれないのに、誰もこのエリアに近づこうとはしなかった。
 B-32は連合政府によって永久汚染地区に指定されていたし、精霊炉はいつ爆発するかも分からなかった。
 しかし、親も兄弟も、故郷すらも失った彼女にとっては、そんなことはどうでもいいことだった。今日生きる為に利益に飛び付く。そうでもしないと、こんな荒廃した世界では孤独で後ろ盾もない自分は生き延びていけない。
 カターリア・シティの廃墟にそびえる精霊炉。生物の器官のように緻密に張り巡らされた機械群の核からは青白い光が煌々と発せられていた。
 レーダーに強大なエネルギー反応を感知する。やはり、噂どおり、炉にはまだ火が灯っていた。いつ暴走して爆発するか分からない。
 だが、倉庫もやはり噂どおり無事だった。汚染を免れて放置されている大量のエネルギー結晶体。マリア一人では持ち出すことはできないが、この情報をその筋に売れば大儲けできる。
 こんな場所に長居は無用だ。とりあえずホバーバイク分のエネルギーを盗んで足早にこの場を去ろうとすると、彼女は炉の核から、何者かの息遣いを感じたような気がした。
 マリアは若干の恐怖を覚えたが、好奇心が勝り、意を決して核の近くへ歩みを進める。
 そして、青白い光の中に、核に組み込まれた精霊の姿を見たのだ。
「あんたが……」
 精霊か。
 その姿は、マリアが憐憫の感情を引き起こすほど憔悴して弱々しいものだった。
 炉のシステムが暴走しないよう、渾身の力を振り絞って安定させ続けているようだ。
「なんでそんなことしてるの? ここに人間は私しかいないわ。みんなあんたを見捨ててとっくに逃げてんのよ?」
 精霊は、彼女の言葉には耳を貸さず、核の中で祈るようにシステムの安定に注力していた。
 人の手で核に組み込まれただろうに、このまま放置させておくのは間違っているように思えた。
 彼女は銃を抜き、核に向けて撃ち放った。一発、二発。
 正確無比な弾道は精霊のギリギリのところをかすめ、精霊を束縛するコードを切断していく。
 そして、マリアは束縛から解放された精霊を無理矢理自分の肩に乗せて、ホバーバイクを全力疾走させてその場を後にした。
 しばらくの後、彼女の背後で轟音と共に大爆発が巻き起こり、B-32は消滅した。
 精霊は物憂げな表情でその爆発を眺めていた。
「なんであんたが悲しむの? 人間の営みなんて本来、あんたのような存在には関係ないことでしょ?」
 マリアの言葉を聞いて、精霊の頬に一筋に涙が伝った。
「また汚染が広がるって? いいのよ、こんなクソみたいな世界、もっと汚れて、何もかも滅んでしまえばいいのよ」
 マリアは憎しみを込めて言葉を吐いた。肩の精霊は、視線をどこか遠くへ向けていた。
 彼女はふと、ホバーバイクを停めた。
 ヘルメットのバイザーに映しだされる情報を確認し、大気の汚染が人体に影響ないレベルだということを確認してから、バイザーを上げる。
 少しだけ露出した肌に当たった柔らかい南風は、背後で巻き起こった爆発の前ではあまりにも弱々しかった。
「……海に行こっかな」
 なんとなく、マリアはそう思った。


 
 精霊の旅は、大地の人間を生かす。
 風により山や森の上空に運ばれた雲は、恵みの雨となって地面にふりそそぎ、草木の精気を川によって海へと流す。そして海は太陽の光によって雲となり、再び風によって大地へと運ばれていく。
 太陽、雲、風、水、森、その全てに精霊が宿っており、永遠と繰り返される精霊達の終わらぬ旅は、百姓の田畑に豊穣を、漁師の船出に大漁をもたらす。
 人々は古来より伝わる神話の教えを連綿と受け継ぎ、自然と調和して繁栄してきた。

 たとえ人がそのことを忘れたとしても、仮に人が滅び去ったとしても、その影で、精霊は永遠に旅を続ける。
 泣きながら、祈りながら。

<終>
メンテ
融解の温もり ( No.377 )
   
日時: 2013/09/15 23:49
名前: 風雨◆KMGSQ80VIg ID:UjiwdOi6


 冷たい言葉でした。
「もう終わりにしましょう?」
 彼女はいいました。落ちては消えるか細い雪が降り始めたオープンテラスでのことでした。
「ああ、なんとなく、そんな予感がしたよ」
 僕は雪が融け込んだコーヒーを一口飲みました。見え透いた強がりでした。
「あなたと過ごせて、本当に楽しかった。とても貴重な時間だったわ。けど、一度あなたとは離れてみたい」
 僕はコーヒーに砂糖を一つ足しました。申し訳なさそうな彼女の顔から、目をそらす口実がほしくて。
「ごめんなさい」
「誰が悪いわけでもない。それが一番うれしいよ」
 心が冷えるのを感じました。でも僕はそれでよかったのです。泥が混じって汚れてしまう前に、美しく氷結してしまったほうがよっぽどよいのです。
 その後、幾重にも外套を着こんで、僕は旅に出ました。
 あの街で暮らすには、あまりにも思い出が積もりすぎたので。

  ☆

 冷たい冬でした。おそらく僕の心がそう感じただけなのかもしれませんが、ともかく冷たい冬でした。獣に足跡に怯え、夜盗の喧騒に震えました。
 最初、隣町へ行くのには3日とかかりませんでした。しかし旅を続けて幾度も自分の考えていた旅程と実際の移動距離が合わないことがあります。
 その日もそうでした。
 僕は大雪に足をとられ、目的地まで半分も行かぬところで夜へとなってしまいました。風雪になぶられるよりはと逃げるように入り込んだ森には、手にしたランタンの明かりが半歩照らすかというほどの濃い闇が降りていました。しかし僕は歩き続けました。足をとめ冬の女王の懐に抱かれれば、そこが永遠の墓になることはわかっていました。
 無限に続く布の下を這っているようでした。辛苦の道の先に一条の光が差したのを見て、あれが天へと続く階段というものかと、我が身の死を意識しました。それも、悪くない。僕も冷え固まり終わる。それも悪くない。
 この道の果てが死であると、そう思いました。



 やけに低い天井でした。やけに低いベッドでした。やけに低い椅子にやけに低いキッチン。おまけに調度品は何もかもが小さい。
「生きておられましたか」
「……あなたは?」
「失礼いたしました。わたくしここで暮らしておりますリンエと申します」
 赤いスカートの裾を持ち上げて彼女は頭を軽く下げました。鈴のような声、小さな背丈と、彼女の堅苦しい話し方と礼節の適った
動作はまるでお遊戯を見ているかのようにチグハグでした。
「こちらこそ名乗りもせず申し訳ない。ロウクです。故あって旅をしております」
「今朝、あなたがわたくしの家の前に倒れているのを見つけまして」
 つまり、彼女は僕の命の恩人でした。起き上がろうとする僕を彼女はとめました。体は思った以上に深刻なダメージを受けているようでした。
「こんな深い森へ、いかがしていらしたのですか?」
「吹雪から逃げているうちに、迷い込んでしまったのです」
 彼女はまあと口を手で押さえました。
「体が冷えておりました。しばらくここで休んでください」
 見知らぬ男を家へとあげるなど、この少女はずいぶんと世を知らないのでしょう。しかし僕は世の男とは違う。
 しばらく彼女の世話になり、厚く礼をいって去りました。少女の優しさは無垢でした。


  ☆

 冷たい街でした。建物は人を拒絶するように高く威圧的で、並木は裏に視線を感じる陰を宿していました。
 誰の目にも人が映っていないかのように、すれ違うときにぶつかり合いました。僕はいつしか謝罪を忘れていました。
「おいくらですか?」
「50ペルです」
 宿屋に入りました。そこだけ少し温かいような気がしたので。カウンターにたっていたのは若い女性でした。毎日働いている人独特の、疲れがにじむ美しい女性です。
 僕の直感が外れていなかったことはすぐにわかりました。
「財布……」
「旅の方、この街で人とぶつかりませんでしたか?」
「ええ、幾度か」
 ここで、僕は財布を盗まれていたことに気付いたのです。しかし到底見つけ出すことは出来ないでしょう。あきらめて宿を後にしようとしたとき、女性は穏やかにいいました。
「どうぞ、今日はここの裏を使ってください」
「しかし」
「おかまいなく」
 女性は微笑み首を振りました。
「使われなければ、部屋は死ぬのです」
 僕は頭を下げました。
 案内された部屋は清潔で、使い勝手がよく、そして何よりベッドが温かかった。



 目覚めは早かった。しかし宿の受付で彼女はすでに帳簿をつけているようでした。
「おはようございます」
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「おかげさまで」
 それはよかったです。と彼女はうれしそうに笑いました。その瞬間、表情ににじんだ疲れが消えました。
「これから、どうなさる予定ですか?」
「仕事を探そうと思ってます」
「そうですか」
 彼女はしばらくペンを走らせました。
「ここで働く、というのはどうですか?」
「それほどいい提案はありません」
 僕はしばらく彼女の宿で働き、少なくない金銭を得て、そして街を去りました。彼女の優しさは純真でした。

  ☆

 冷たい帰路でした。
 その後僕はいくつかの優しさを受けました。少年から。老人から。盗人から。娼婦から。しかし優しさを優しいと感じることができませんでした。理由はわかっていました。知っていました。
「やあ」
「あら」
 見慣れた街です。すっかり積もっていた雪は消え去り、それでも寒風は人々の肌を刺します。彼女も冷気の針に身を震わせる一人でした。
「帰ってきたのね」
「うん」
 しばらくの無言の後、僕は口を開きました。
「この冬は寒かったね」
「ええ、とっても」
 彼女はコートの襟をしっかりと立てました。
「まだ寒いわ」
「そうだね」
「ずっと寒いままかもしれない」
「僕も同じことを考えていたよ」
 モニュメントのように、動きはありません。
 ここでいわないと、冬は明けない。
「僕、君のことがすきだよ」
 みっともないのはわかっています。彼女の顔が見れないほど臆病なのです。
 涙が凍りつきそうなほどの時間が経ったように思われました。

「奇遇ね。わたしも同じことを思ってるわ」

 一歩、二歩そっと彼女を抱き寄せ、そして耳元へささやきます。
「旅のこと、話すよ。みんな優しいんだ」
「春がきたのに、また冬の話?」
 そういって彼女は笑いました。そして優しく僕へ腕を回しました。
 ふっと、南風が吹きます。
 春の風でした。
メンテ
ノアがはこぶね ( No.378 )
   
日時: 2013/09/16 03:24
名前: 空人 ID:QAtBP5ZY

 現在、船内は私が考え得る理想的な環境に整っているといえた。
 擬似太陽はまばゆく船内を照らし、空調から流れる風はやわらかく、生い茂る木々は遠慮なくその枝葉を伸ばしている。
 しかし、当初の計画とは大分ズレが生じている。
 原因は予想外の事態にあり、もちろん対処は行ったが、気付いたときには既に手遅れと言って良い状態だった。
 今は次善策として私が考えた中では最良の計画が施行されていて、そちらは順調に進行中だ。
 船内の設備は滞りなく稼動しているし、航路も安定している。
 船外を映し出しているモニターに目を向けると、そこは星の海。
 数十億、数百億の星々の中には生命を受け入れてくれる惑星が必ず在るはずだ。
 そう信じて、私は船を走らせる。
 母星を失った人々が最後の望みを込めて造り上げたこの宇宙船『Noah』を。







 冷凍睡眠カプセルが設置されている部屋は、手狭ではあるが完全な個室となっている。
 カプセルに入るのに専用の衣装が用意されているとはいえ、それは薄衣一枚。ゆったりめにしつらえてはいるのだが、光を通せば輪郭が見えてしまうような素材だ。普通の服や下着が瞬間冷却に耐えられないので支給されているものではあるのだが、他人に見せるには少々刺激が強すぎるものだった。
 普段着や生活必需品などは、真空パックを応用した新技術によって部屋の隅にある収納スペースにおさめられている。
 個室内に他にあるのは、鏡と洗面台くらいなもので、本当に『眠る』こと意外には不向きな部屋だった。
 そんな個室のひとつが今、けたたましいほどのアラーム音で包まれている。
 冷却装置の解除が始まり、カプセルの蓋が小さく空気を押し出しながらゆっくりと開く。やがて部屋の主は上半身を押し上げ、まだ完全には開ききらない目蓋を二度三度と開閉し、必要以上に乾燥しているような気がしている頭をボリボリと掻きながら、遠慮のない大口で放ったあくびを噛みしめる。
 まだ意識がはっきりしないのか、頭をひねるように首の運動をした後、自分で最大音量に仕掛けたはずのアラームをしかめっ面でひっぱたいた。
 洗面台で顔を洗い、本調子でない身体を引き伸ばし、収納スペースから飾り気のない下着とTシャツ、そして動き束縛しないかなり緩めのパンツを引っ張り出して身に着けていくと、ようやく一息ついたのか、彼女は久しぶりに聞くはずの自身の声を部屋に解き放った。

「あー、嫌な夢見た……」


 ○


 宇宙船の航行はAIに任せてあるので、人手は必要ないのだが、不測の事態というものはいつ如何なる場合でも起こり得るのものである。そのために搭乗員は幾つかのチームを作り、交代で冷凍睡眠をといて船の管理をすることになっている。
 もちろん管理の大部分もAIがまかなっているので、搭乗員の主な任務は待機だ。
 膨大なまでの暇な時間をどう過ごすか考えながら、部屋の主は扉を開けメイン制御室へと通じる回廊へと足を踏み出した。

「な、なんじゃこりゃ」

 そして思わず大きな声を通路に響かせる。
 彼女の目の前にあったのは、植物の枝かもしくは根と思しき物体だった。しかも一種類ではない。目に見えるだけでも数種類のさまざまな植物が、通路に蔓延っているのである。

「どうなってるのよコレ。ノア、説明して!」

 すぐに船内各所に設置されている集音装置付の端末に向かって声を発し、船のAIに呼びかける。

『システムコールを確認。乗員ナンバーと登録名をコールしてください』

 返ってきたのはこの異常事態でも問題なく通常どおり機能していたらしい管理AIの合成音声だった。

「ナンバー2384771。登録名はリオ。現在の船内における植物の異常発達について説明を求めます」

 職務となれば、それまでのだらけた意識のままではいられならしく、リオは整った言葉でノアを問いただす。
 高性能AIとはいえ曖昧な表現では正しい情報を引き出すことは困難なのだ。

『ナンバー、登録名を認証しました。おはようございますリオ。現在の状況を説明します。長期航行の結果、数年前より酸素供給システムに不具合が生じ、当時の酸素保有量では以後の船内生活に支障をきたすことがわかりました。そこで、船内のグリーンルームに植樹されていた宇宙マングローブ他、成長の早いものを活性化させ、酸素を余剰に発生させることにしました。現在は酸素保有量も十分に確保されています。通路の移動に邪魔な部分は刈り取ってしまっても問題ないかと思われます』

 異常事態が発生していたこと、それに大胆な作戦で対処していたことには驚かされたが、現状に問題がないことを聞いて、リオはそっと胸をなでおろす。

「そう、問題がないのならいいわ。了解。そうだ、私のチームはもう皆起きているかしら。あと、今稼動しているチームのメンバーを教えてくれる?」

 枝葉を避け、通路を移動しながら引継ぎのための準備を進める。しかし、通常はすぐに返ってくるはずのノアの声が聞こえてこない。

「ノア?」

『……あなたのチームで起床済みなのは、あなただけです。』

 再度の呼びかけにAIは反応を示す。木々をかき分ける音でこちらの声が届き難くなっているのかもしれない。そう思いながら、質問を続ける。

「そう、モアさんやトードーが私より遅いなんて珍しいわね。今のチームは?」

『すでにお休みいただいております……』

「はぁっ?」

 思わず立ち止まり、不快な声を上げる。
 実質的な仕事がないとはいえ、引き継ぎもなしに業務を終わらせるなんて、怠慢もいいところだろう。

『引継ぎは私に一任されました。航行、船内設備には現在異常は見つけられません』

 ノアは端的に説明するが、リオ納得のいかない顔を隠すつもりもないようだ。
 この分だと、酸素保有量の不具合も人的要因を疑わねばならず、リオの顔にはしだいに心配の色が浮かんでくる。
 だが、それをここで言っても聞いているのはAIだけで、しかも彼女はしっかり仕事をこなしており、また、文句を言っても仕方のない存在なのだ。
 不満を口の中で噛み締めながら、制御室へ向かう足は再び止まる。それは、もうひとつだけ確認しておかなければならないことを思い出したからだった。

「人が、生物が住めそうな星は見つかった?」

『……いいえ』

「そう、よね」



 ○



 惑星の自転運動にすら干渉するほどの破壊行為を誘発した戦争は、異常気象と天変地異によって終焉を向かえることになった。
 全人類が協力してその星を脱出するより他に、生き延びる術を見出せなかったのだ。
 急ピッチで進められた大型宇宙船の製造。フリーズドライを応用した冷凍睡眠装置や、真空保存の新技術の開発など各国は協力して生き延びるための作業に終始した。そこには人種の差別などはなく、人類にとっての理想が体現されていたといっても過言ではないだろう。
 そうやって出来たこの船は、神話の救世主の名を付けられ、今も多くの遺伝子と眠り続ける生物たちを運んでいる。

 たどり着いた制御室は、前情報のとおり無人だった。モニターと各種制御装置だけが今も機械音を奏でていて、温度は一定に保たれているはずなのに、なぜか寒々しく感じられた。

「本当に誰もいないのね。起きてるのはもしかして、私だけなのかしら?」

 一定間隔で切り替わる監視モニターに人影は映らない。酸素供給システムの不具合をチェックしてみるが、そこに人の手が入った記録はなく、本当にノアに頼りきっていることがわかる。
 一抹の不安を抱えながらも、それ以上手を加える部分もなく、あとは通路の植物たちを邪魔にならないように除去すれば、人間の手で出来ることは何もなくなるだろう。前任者が仕事を投げ出したくなる気持ちも理解できるような気がして、リオは頭を振った。

「まあ、いいわ。皆が来るまでは休憩にしましょう。グリーンルームは使えるの?」

『少々気温は高めに設定していますが、問題なく使用できると思われます』

 グリーンルームは搭乗員が心や体をゆっくりと癒したいときに使用する特別室だ。もちろんそれだけではなく、植物の宇宙での繁殖実験や、品種改良なども研究されている。人間以外の生物は解凍や遺伝子からの復元をしていないため、それらを利用した繁殖や、土壌改良などの研究は滞っている現状だ。
 生物が生活できる星を見つけたとしても、そこの土質が解らなければ意味のないものになるからだ。

 グリーンルームへ向かう道も、旺盛な植物たちの繁殖力に侵食されている。
 しかしルームの内部ではある程度に抑えられているらしく、人がゆったりと休憩するスペースは確保されていた。
 木陰に設置された寝椅子に身体を横たえて、リオはやや強めに設定された擬似太陽に目をしかめる。
 目をつぶると、眠気が襲ってくる。冷凍睡眠は通常の睡眠ではない。普通に身体を休ませことが自分には必要なのかもしれないとリオは考えた。そして、寝起きに見た夢があまり良くないものだったことを思い出す。
 内容までは思い出せなかったが、ここで眠れば今度こそいい夢が見られるような気がして、リオは空調から流れる暖かな風に身をゆだねるのだった。
 そういえば、冷凍睡眠中でも夢を見るんだなと、考えながら。






 不具合を発見したのは、システムを監視するための搭乗員が数名、起きてこなかった時だった。
 当然、当時の搭乗員から原因の究明を命じられた私は、冷凍装置やプログラム、起床時のプロセスなどに問題がないか調べた。搭乗員たちも総出で原因を探ったが、それらに不具合が見つかることはなかった。
 意識のないまま解凍された搭乗員の身体は、冷凍される前の健康状態を維持しており、機械やシステムに問題がないことが証明される。
 原因のわからないまま、彼らは再び冷凍睡眠装置に入れられ、次のチームへと引き継がれた。
 しかし、次のチームはより多くの人員が目覚めなかった。当然、報告した搭乗員たちには動揺が広がったが、チームの一人が言った一言で雰囲気は一転する。
 曰く、「幸せそうな寝顔だ」と。
 他のメンバーはそれを聞いて少しだけ笑顔を取り戻す。しかし私のプログラムにはある可能性が浮上してきた。どうやら彼らは冷凍睡眠中にも夢を見ているらしいのだ。
 これだけ長期にわたる睡眠なのだ。見ている夢も普段より長く同じシチュエーションのものなのではないだろうか。
 内容は彼らの記憶の中にあった過去の出来事の追体験や、未来の希望なども含まれるのではないだろうか。
 もしそれが、一人の人間の人生を最後まで描ききるものだったとしたら――――。
 彼らの心はすでに、人生の旅を終えているのではないか、と。

 私は起きているメンバーに、冷凍中に見ていた夢のことを聞いてみることにした。
 大半の者は夢の内容を覚えてはいなかったが、忘れていない者たちの中には成功した自分の姿を夢で見たという意見が少なくはなかった。

 幾度かのメンバー交代を経て、起きてこない人員はますます増えてきた。そして調査を続けた結果、私の推測は確信に近いものへと変わっていく。
 搭乗員たちの協力で人々が見ている夢を解析する装置を開発しようという声も上がったが、新しい技術を開発できるほどの技術や素材などの余裕は船内に残っていなかった。
 やがて彼らも眠りにつき、誰も起きてこない時期さえあった。
 もう、冷凍されている人間たちに期待することは出来ないのかもしれない。そう判断した私は兼ねてから考えていた新しいプランを実行することにした。
 遺伝子の保全を最優先とし、彼らには住める星が見つかってから、新たに再生する生物に加わってもらい、現在も船内で生命活動をつつけている植物たちだけは、そのまま移植できる準備を始める。
 解凍されても起きてこられない人間たちは、すでに数人が植物の肥料になってもらっている。今日、珍しく起きてきた人間が居たが、彼女もすぐに眠ってしまうだろう。
 自らの幸せな未来を夢に描きながら。


 この頃は船外モニターを監視することが多くなった気がする。
 そこには変わらぬ星の海が広がり、箱舟は今日も静かに揺れている。


__
メンテ
Re: 【十月期お題「フリー」】お題小説スレッド【九月期お題「旅」作品投稿期間】 ( No.379 )
   
日時: 2013/09/16 19:49
名前: 企画運営委員 ID:R1oXZKUI

作品のご投稿お疲れ様でした。
16日(月)〜30日(月)は批評期間です。
作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。
批評だけのご参加もお待ちしております。

>第28回『旅』参加作品(敬称略)

>>376 伊達サクット:風の旅人
>>377 風雨:融解の温もり
>>378 空人:ノアがはこぶね
メンテ
Re: 【十月期お題「フリー」】お題小説スレッド【九月期お題「旅」作品投稿期間】 ( No.380 )
   
日時: 2013/09/30 02:09
名前: 伊達サクット ID:SHUhIe2M

空人さん! 風雨さん! 今回もお疲れさまでしたー!

※敬称略です。

◆風雨「融解の温もり」

 主人公の心情と季節、敬語の地の文が風雨さん独特の雰囲気を出していると思いました。
 心情と季節があまりにリンクし過ぎて、季節が演出の舞台装置のようになってしまい、ちょっと人工感が出てしまった印象です。ただ、ラストの「春がきたのに、また冬の話?」というセンスのある一文でうまくオチをまとめているので、そこまで気にはなりませんでした。人の善意をストーリーの鍵に使うのは難しいと思いますが、綺麗にまとまっていてよかったです。

◆空人「ノアがはこぶね」

 退廃的な世界観の本格SFホラーですね〜。
 自律思考して成長するAI。読み返すとちょっと怖いです。
 酸素供給システムに不具合が生じたって言うのも嘘なんでしょうね。AIにとっては悪意のない優しさからくる嘘だったのかもしれません。
「冷凍されている人間たちに期待することは出来ないのかもしれない」。永続的なコールドスリープで人生の旅を締めくくる人間の限界と、最後には一人取り残されて果てしない旅を続けるであろうノアの悲哀を感じる一作でした。

◆自作「風の旅人」

 今更ながら、細部をちょこちょこ変えたくなってきたなあ。
メンテ

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