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[4993] 【2016年度】お題小説スレッド【お題「去る」作品投稿期間】
   
日時: 2016/01/12 23:57
名前: 企画運営委員 ID:7PNV346o



『お題小説スレッド』へようこそ。こちらはあるお題に沿って読みきり小説を書き、その作品をみんなで批評し合う場です。
 初心者も上級者も関係ありません。うまくなりたいとお思いの方であれば、だれでも自由に参加することができます。一生懸命執筆し、一生懸命批評して、小説の技術を高め合いましょう。
 皆様のご参加をお待ちしております。

――――――――――――――――――――

>>002 【ルール説明】:必ず熟読して下さい。(※内容、一言の箇所を訂正しました。ご確認ください)
>>003 【批評のポイント】:批評をする際のポイントをまとめたものです。
>>004 【イベントルール説明】:イベントに関するルールです。必ず熟読してください





▼お題:第32回のお題は「種」です。
 二月に種をまくのか? と思いましたが、調べてみるとじゃがいもは二月にまくそうですね。……さらに調べてみると一年中、なにかしらの種をまいてるみたいです。
 そんなことは置いといて。「種」というお題には「たね」以外にも色々な解釈があると思います。みなさんがどのような作品を投稿してくるのか、楽しみにしております。
※第30回の作品投稿期間は2月1日(土)からです


▼お題:第33回のお題は「姫」です。
 三月なので(笑)
 というのはよくわかりませんが(ひなまつりだから?)「ひめ」というのは可愛らしい語感ですよね。私は緑の黒髪をした和服姿が思い浮かびます。桃色が似合いますよね。桃色……やはりひなまつりでしょうか。それでは、みなさんの作品お待ちしております。
 
※第31回の作品投稿期間は3月1日(土)からです


▼お題:第34回のお題は「嘘」です。
 嘘でした。


▼お題:最終回のお題は「魔法」です。
 奮ってご参加ください。


▼お題:第36回のお題は「友情」です。
 ネタでした。


▼お題:第37回のお題は「音」です。
 奮ってご参加ください。



▼日程(第32回)

1月1日       :お題発表
2月1日〜15日   :作品投稿期間
2月16日〜28日  :批評提出期間


▼日程(第33回) 

2月1日     :お題発表
3月1日〜1月15日 :作品投稿期間
3月16日〜30日 :批評提出期間


▼日程(第35回) 

6月1日     :お題発表
6月1日〜7月31日 :作品投稿期間
8月1日〜   :批評提出期間



▼注意もしくは削除対象となるお書きこみ
・荒らし
・荒らしへの反応
・自分や他人の小説の宣伝
・雑談、チャット化
・ルールに反するもの
・管理人が不適切と判断したもの

――――――――――――――――――――

>目次 >>001


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

================================================================================

▼リンク
小説講座/雑談所』(お礼や言い訳等はこちらへ)
旧お題小説スレッド』(前スレはこちらから)
ツイッター』(朔乱のアカウントです。お題の告知などをしています)

管理人:If 空人 朔乱  補佐:伊達サクット
メンテ

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Re: 新・お題小説スレッド【準備中】 ( No.1 )
   
日時: 2014/04/27 22:15
名前: 企画運営委員◆dQO3LlCLQE ID:8gAh5kM2

>目次

イベント「匿名祭」参加作品(敬称略)
>>017 されど光を          ⇒ 伊達サクットLv5
>>018 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 月音
>>019 ドラマチック生命体      ⇒ アリス
>>020 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 空人
>>021 黒箱の刑           ⇒ If
>>022 天の使い           ⇒ かなちゃん王女
>>023 彼らの英雄          ⇒ 茶野
>>024 あ か り          ⇒ すずか
>>025 夜桜月光華          ⇒ 白鳥 美李亜
>>026 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ sakana
>> ☆  不思議な花園           ⇒ 暁龍
 ※回答 >>30-31  ※茶野さんから優勝コメント頂きました



第7回『時間』:参加作品 >>32-36(敬称略)

>>32 空人:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察
>>33 sakana:境に佇む彼は
>>34 If:時守人:第二章一話
>>35 伊達サクット:時と光と
>>36 アリス:ヘッドフォン・マリー

 ※批評 >>38-44


第8回『ジュース』:参加作品 >>46-51(敬称略)

>>46 空人:貴方に捧げる果実
>>47 かなちゃん王女:胎児
>>48 如月 美織:ジュースと陰謀
>>49 If:うそつきなおいしゃさん
>>50 文旦:過分離
>>51 伊達サクット:食の流動

 ※批評 >>53-57  ※その他


第9回『誕生』:参加作品 >>59-62(敬称略)


>>59 夢華:真っ白カーッペット
>>60 空人:レイクドレイク
>>61 sakana:フォトグラフの施し方
>>62 If:神さまの生みの親

 ※批評 >>63-68


イベント「番外編」参加作品(敬称略)>>69-75

>>069 夢華    「3冊目の日記帳」 >>[4786] ファンタジアワールド!
>>070 天パ    「【死兵達の舞踏曲】」 >>[5082] サンタ狩り
>>071 空人    「『始まりは思い出日和』」 >>[4561] 晴れた日は、召喚日和!
>>072 月音    「DEPARTURE 〜始まりの軌跡〜」 >>[3998]Raising sun ―ライジングサン―
>>073 sakana   「風の忘れ形見」 >>[4870]クロの偶然真理
>>074 真空    「『穿たれし始まり』」 >>[4931]舞いし剣は魔を穿ち
>>075 伊達サクット「決戦島・大陸統一トーナメント大会」 >>[2146] やるせなき脱力神


>第10回 お題『爆発』参加作品 >>77-80(敬称略)

>>77 If:のちに彼は
>>78 天パ:リア充爆発しろ
>>79 空人:カウントダウン!
>>80 sakana:それは邪道です!

 ※批評 >>82-86


>第11回『魔法』参加作品>>87-104(敬称略)

>>87 ゆみたん:まぎかる
>>89 黒猫;魔法少女襲来
>>90 かなちゃん王女:結末を知らない物語。
>>91 ATM:Hannon le.
>>92 天パ:HAPPY LIFE
>>93 ロブスター×ロブスター:ママとお皿と魔法使い
>>94 空人:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法
>>95 8823:王の決断
>>96 伊達サクット:スチームパンク・空の舞い!
>>97 ナルガEx: 魔法の誕生とその歴史
>>98 If:不帰の島
>>99 にゃんて猫:さよなら旅人の唄
>>100 某駐在:さらば、愛しき日々よ。
>>101 どーなつ:世界の魔法の三カ条
>>102 朔乱:たまご
>>103 sakana:ウェザー
>>104 アリス:路地裏のトルバドール

 ※批評 >>106-118 
 ※8823さんの批評
 ※sakanaさんの批評


>第12回 お題『さくら』参加作品(敬称略) >>119-127


>>119 黒猫:神様メモリー
>>121 にゃんて猫:蕾桜
>>122 アリス:いつかの死、いつかの生
>>123 白鳥 美李亞:千代に八千代に
>>124 ナルガEX:「バーチャル」
>>125 空人:さくらのいろは
>>126 菊桜:赤色桜
>>127 朔乱:お前と花見がしたいんだ

 ※批評 >>129-134
 ※

>第13回『オリジナルキャラクター』参加作品(敬称略) >>137-142

>>137 にゃんて猫:歴史
>>138 アリス:嵐の夜のものがたり
>>139 空人:ゆう⇔かつ 〜普通に勇者が活躍する話を書けば良いのにね〜
>>140 sakana:プロジェクト《桜》
>>141 天パ:自分勝手な悲劇
>>142 朔乱:次回の参加もお待ちしております

 ※批評 >>144-150


>第14回『魔王』参加作品(敬称略) >>152-156

>>152 If:なりそこない
>>153 にゃんて猫:少女
>>154 空人:中二病な俺とノリのいい彼女と最終回
>>155 アリス:穏やかな午後のエピタフ
>>156 ジッタ隣人:その存在を喰らいて

 ※批評 >>158-162


>第15回『擬音』参加作品(敬称略)

>>164 にゃんて猫:不協和音
>>165 空人:オオカミと七匹の子ヤギの童話風アーリオオーリオ 〜時計仕掛けの語りに添えて〜
>>166 風雨:バカ
>>167 sakana:意味知らず記号成る
>>168 四角定規:幽霊が見つけた仕事
>>169 朔乱:まだまだ続くよ!
>>170 If:私がいるから

 ※批評 >>172-179


>第16回 参加作品(敬称略)

>>181 十一日       :毒、擬音、あかり   :ヨーちゃんとルゥちゃんの終わらない夢
>>182 にゃんて猫     :時間、出会い、魔法  :茨姫
>>183 If        :魔法、出会い、宝物  :ずっと一緒に
>>184 菊桜        :出会い、時間、魔法  :【俺と彼女と、ありがたいけど迷惑な幼なじみ】
>>185 空人        :雨、擬音、魔法    :『レイニー・バスストップ』
>>186 伊達サクット    :剣、時間、魔王    :多重戦隊サイムレンジャー
>>187 茶野        :剣、出会い、宝物   :背教の子ら
>>188 鳳         :あかり、時間、さくら : 散らない桜
>>189 フロスト      :魔法、時間、雨    :あなたの魂に安らぎあれ
>>190 sakana       :出会い、時間、擬音  :みよんみよん星人
>>191 brain        :宝物、魔王、爆発   : 壁の中の楽園
>>192 アリス       :出会い、宝物、始まり :シーラカンス・エレジー
>>193 朔乱        :さくら、ジュース、毒  :カニクリームコロッケ戦争

 ※批評 >>195-204


>第17回 参加作品(敬称略)

>>206  ステハン太郎:思い出のパン
>>207  にゃんて猫:ロリ体型宇宙人系美少女を手懐けるにはカップ麺に粉末唐辛子を盛れ
>>208  空人:小さな魔女の森〜Before the Brand new days〜
>>209  アリス:ラブラドール
>>210  If:ふたりは

 ※批評 >>212-216


>第18回 参加作品(敬称略)

>>218 太郎、次郎、三郎の汗と涙の結晶:にたものどうし
>>219 にゃんて猫:letter from bad child .
>>220 空人:トライ・アングラー
>>221 文旦:Dead or Kill
>>222 宮塚:ポルフィーリのじゃんけん
>>223 アリス:遊戯魔女パズル

 ※批評 >>225-230


>第19回『美しい』参加作品(敬称略)

>>233 If:海越えの遺書
>>234 白黒黒白:雪の檻、公園の子供
>>235 作詞:空人:フェアリーダンス
>>236 文旦:偶因たぶらかし
>>237 晴天マル:夢を見る彼女。

 ※批評 >>239-244


>第20回 匿名祭『もしも』参加者一覧(敬称略)

>>257 にゃんて猫:物語は始まらない
>>258 空人:しゅうまつラバー
>>259 If:魔王の書
>>260 アリス:Instant Flowers
>>261 某駐在:粉雪ちりりん
>>262 風雨:幽微グッドナイトメア
>>263 菊桜:放課後図書室
>>264 伊達サクット:ゲーム・クィーン


>第21回『機械』参加作品(敬称略)

>>272 ひみつのにんにくちゃん!:日々
>>273 にゃんて猫:螺旋れた心臓
>>274 brain:オルゴールロンド
>>275 ゐぬめ:孤独プロパガンダ
>>276 sakana:たまくずれ
>>277 空人:オートマティックな恋心

 ※批評 >>279-285


>第22回『少女』参加作品(敬称略)

>>287 ゐぬめ:ZooっといっShowの呪い
>>288 If:弓鳴川心中
>>289 宮塚:こより
>>290 空人:『少女の檻』
>>291 sakana:こえだの鈴
>>292 風雨:you so kind
>>293 アリス:パーフェクト・シンデレラ

 ※批評>>295-303


>第23回『死』参加作品(敬称略)

>>305 にゃんて猫:「fix doll after glow」
>>306 あやかし様:リセットボタンをおしました。
>>307 kaia:いんぐingイング
>>309 空人: 第一回スライム学講座「とあるスライムの誕生秘話(バースデイ)」

 ※批評>>311-314


>第24回『食事』参加作品(敬称略)


>>316 kaia:お残しは許しまへんでぇ
>>317 茶野:流れ星のスープ、わたしたちの魔法
>>318 空人:狼さんはレアが好き
>>319 宮塚:龍の肉 →修正版

 ※批評>>221-325


>第25回『祝日』参加作品(敬称略)

>>327 空人:その手に白き花束を
>>328 エシラ:祝日の悪魔
>>欄外 にゃんて猫:虫と布団と僕

 ※批評>>330-331 >>333 >>欄外


>第26回『祈り』参加作品(敬称略)

>>335 にゃんて猫:赤いテントウムシの点々数えながら、
>>336 伊達サクット:祈れ明日へ
>>337 かなちゃん王女: 不器用な勇者
>>338 8823:無垢
>>339 空人:星に願いを
>>340 風雨:シスターの祈り方

 ※批評>>342-347


>『冒頭祭』参加作品(敬称略)

前期「海」
>>349 修羅雪姫:深淵リデンプション
>>350 空人:茜色に染められて
>>351 エシラ:小説の海
>>352 にゃんて猫:春に咲く花
>>353 ひかげ:葬送


中期「見る」
>>359 空人:気にしたら負け
>>360 変幻自在フード仮面様:死してひとの子

後期「犠牲」
>>365 仮面覆面僕イケメン:廻るきざはしの
>>366 sakana:嘘が二つ
>>367 空人:魔法少女アクセルハート・第一速『魔法少女爆誕!』
>>368 白江:蘇生パズル

 ※批評>>355-357 >>362-363 >>370-374


>第28回『旅』参加作品(敬称略)

>>376 伊達サクット:風の旅人
>>377 風雨:融解の温もり
>>378 空人:ノアがはこぶね

 ※批評>>380-382


>第29回『フリー』参加作品(敬称略)


>>384 白江:あなたの好きな色の橋
>>385 伊達サクット:水金火木土天海冥
>>386 空人:光の中に眠る想い ※(期間超過)

 ※批評>>388-391


>第31回『仮面投稿会お題「雪」』参加作品(敬称略)

>>394 びい玉子;VS雪ロボ
>>395 ダンボー:グロリオサ・ハッピー・タクスイン
>>396 オレンジ:サザン・スノーマン

 ※批評>>398-401


>第32回 お題『種』参加作品(敬称略)

>>404 sakana:シロハの辻褄
>>405 伊達サクット:赤い種、青い種

 ※批評>>407-409


>第33回 お題『姫』参加作品(敬称略)

>>411 にゃんて猫:桜舞ふ
>>412  BLUE:神の都

 ※批評>>414-416

メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【準備中】 ( No.2 )
   
日時: 2011/08/20 23:36
名前: 企画運営委員◆dQO3LlCLQE ID:DTHzun2k

【ルール説明】


>>参加要項

>参加資格/参加方法
 誰でも自由に参加可能。
 期限までに作品を投稿することで参加とみなします。

>批評義務(破ってもペナルティはなし)/批評方法
 参加者は参加作品全てを必ず批評すること。自作品の批評は自由。
 期限までに批評を投稿することで批評参加とみなします。

>批評資格
 作品を投稿していない方でも批評可能。参加者は「批評義務/批評方法」の通り。
 期限までに批評を投稿することで批評参加とみなします。
 批評のみ参加の方に批評作品数の決まりはありませんが、できる限り多くの作品を批評するようにして下さい。

>文字数(破ってもペナルティはなし)
 原稿用紙3枚(1200字)以上。目安は原稿用紙15枚(6000字)程度。

>内容
 必ず一話完結で、オリジナルであること。一時保存、二次創作は不可。合作は認めない。
 自小説からの設定、キャラクター、世界観の持ちこみは禁止。参考程度であれば許可する。その小説の内容を知らなければ意味がわからない、ということがないようにすること。
 SF・ファンタジー要素を含まなくても良いが、含まれるものが好ましい。

>タイトル
 どこかに明記すること。

>あとがき、一言
 自由。書くのであれば批評記事の自作部分に書くこと。

>訂正について
 必ず推敲(見直し)してから投稿すること。
 誤字等の訂正は作品投稿期間中であれば受け付けますが、極力しないこと。

>評価後のお礼や言い訳
 雑談所にて行って下さい。当スレッドが雑談所化・チャット化することを防ぐためです。

>>※台本書き(ト書き)について
 台本書き(ト書き)作品も投稿可能。
 該当作品には禁止を出すのではなく、少しずつでも直していくと良いですよと推奨する程度に留めて下さい。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【準備中】 ( No.3 )
   
日時: 2011/08/20 23:39
名前: 企画運営委員◆dQO3LlCLQE ID:DTHzun2k

【批評のポイント】

「批評」ってなんでしょう。どういうことをするのか、よくわからない。なんだか難しそうなイメージがある。そんな方のために、批評をする際のポイントをまとめてみました。
 できないかも、なんて心配しなくても大丈夫。やっている内に自然と身につきますから、あわてたりせず、少しずつ慣れていきましょうね。



[はじめに]

 ここで言う「批評」とは、「作品を様々な観点から見つめ、指摘を交えてその感想を述べること」です。内容だけでなく、文章や構成にも目を向けましょう。
 大事なのは丁寧に取り組むことです。作品をよく読まなければ、ちゃんとした批評は書けません。じっくり読んだ上で、思ったことを丁寧に素直に、そして具体的に書いて下さい。一作品につき一つは良いところを見つけられると良いですね。
 また、批評に実力は関係ありません。必ずしも小説を書くのがお上手な方は批評もお上手、というわけではなかったりします。ですから、「自分よりもお上手だから」「自分でできていないことを指摘するのは偉そうだから」のような理由で、あなたの思いをなかったことにしてしまわないで下さい。素直な感想は相手方の力にもあなたの力にもなり得ます。ぜひ自分の意見に誇りを持って、堂々と批評を行って下さい。
 ただし、あまりに断定的な物言いや挑発的な発言はしないようにしましょう。ご覧になられた方が不快な思いをなさる場合が御座います。言葉遣いにはくれぐれもお気をつけ下さいますよう、お願い申し上げます。


[観点]

 それでは本題に参りましょう。批評するに当たって気にすると良い項目は以下の通りです。よろしければご参考になさって下さい。

>>タイトルはどうか
 まずはぱっと見てどう思ったか、という第一印象。タイトルは小説の顔ですから、印象的で興味を惹くものだと良いですね。本文を読んだ後、内容に合っているかどうかを確認するのもお忘れなく。

>>ストーリーはどうか
 いわゆる感想のことです。本文を読んでみてどう思ったかを具体的に書いて下さい。もしもわからない箇所や矛盾点があれば指摘してあげましょう。

>>キャラクターはどうか
 キャラクターは魅力的でしたか。性格や言動、心境にリアリティがあったでしょうか。人間ならば人間らしさ、怪物ならば怪物らしさが表現できるのも良いことです。

>>世界観はどうか
 舞台となる世界に魅力はありましたか。世界観が不鮮明だと読み手は混乱しやすくなりますので、設定がしっかりしているかどうかもポイントです。

>>文章や描写はどうか
 この二つには個性や工夫が強く出ます。文章にどのような印象を抱いたか、読みやすいか、整っているか、描写はわかりやすいか等を見て下さい。作品の雰囲気に合ったものであることも大事です。
 ついでに、誤字脱字はときに文章を壊してしまう場合があります。あれば教えてあげましょう。

>>視点がぶれていないか
 物語が進むにつれて、語り手の視点がぶれてしまうことがあります。視点のぶれは読者を混乱させるので、あればすべて指摘してあげましょう。

>>伝わるものがあったか
 作品全体を通して、なにか伝わるものはありましたか。読んでみて気づいたことや考えさせられたことを書いてみましょう。

 以上の点に注目して作品を読み、批評してみて下さい。
 また、「おもしろかった」「上手かった」だけではなく、そう思った理由を詳しく書くようにしましょう。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【準備中】 ( No.4 )
   
日時: 2011/09/01 00:07
名前: 企画運営委員◆dQO3LlCLQE ID:GROh.YQY

【イベントルール説明】

 今回はみなさんに匿名で作品を投稿していただき、誰の作品であるかを当ててもらいます。
 基本ルールはいつもと変わりありません。ここでは、いつものお題小説とは異なる点を説明させていただきます。


>参加資格/参加方法

 どなたでも自由に参加できます。 
 参加を希望するかたは参加申し込み期間内に参加する旨を書き込んでください。その時に必ず過去に投稿した作品のリンクを貼ってください
 ※過去の作品は連載でも短編でも構いません。過去に作品を投稿したことがない。もしくはリンクが貼れない方は参加表明の時に短い文章を書いてください。


>作品投稿方法
 作品投稿期間内に匿名で投稿してください。

>批評義務
 今回、批評義務はございません。批評は雑談所やチャットで行うようにしてください。

>回答提出
 回答提出期間になりましたら、その報告と共にメールフォームのURLを貼ります。そちらに回答を提出してください。

>賞品
 1番多くの作品を当てられた方には連載もしくは短編のキャラクターのイラストをプレゼントします。もし1番多く当てられた方がイラストを希望されない場合は2番目に多く当てられた方にイラストをプレゼントします

 質問などありましたら、雑談所で受け付けております。皆様の参加をお待ちしております。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.5 )
   
日時: 2011/09/01 19:00
名前: 空人 ID:nSJ3MzeQ

参加表明します。

自分の作品例
 >>[4561] 晴れた日は、召喚日和!

よろしくお願いします。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.6 )
   
日時: 2011/09/01 22:00
名前: If◆TeVp8.soUc ID:ZhQt.Z6g

勘のよさにはちょっとだけ自信があるような気がするIfです!
全員当てられるように頑張っちゃいますよ!

ということで、参加表明です。よろしくお願いします。
作品例は連載で失礼します。
>>[4669]Hearts

作品投稿期間が20日までなのは助かります。
お題でいくつかやってるから新しい作風の話が書けるか分かりませんが、がんばってみます。
たくさん参加者さんが集まればいいなあ。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.7 )
   
日時: 2011/09/01 22:29
名前: 茶野 ID:e7G5gzPc

参加表明です!

作品例。
>>[4852] 精霊島の花嫁
ひらがなが無駄におおくて、恋愛してたらそれはわたしのやつです。
参考までに→ぼくもの板「時の万華鏡」(空乃名義)

よろしくおねがいします!!
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.8 )
   
日時: 2011/09/01 22:30
名前: すずか◆n/yY7niGRY ID:GROh.YQY

参加表明させていただきます。
どれくらい当てられるかわかりませんが優勝狙っていきます!


作品例
雲の切れ間に君を探して

よろしくお願いします。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.9 )
   
日時: 2011/09/01 23:34
名前: 月音◆aGDHPkqUjg ID:D0nuuUkE

参加表明です。

作品例
>>[3998] Raising sun ―ライジングサン―

宜しくお願いします。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.10 )
   
日時: 2011/09/02 20:58
名前: 伊達サクット:Lv.5 ID:YbZXtWCk

元伊達サクット、伊達サクット:Lv5と申します。

参加表明させていただきます。

作品例
>>[2146] やるせなき脱力神

よろしくお願いします。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.11 )
   
日時: 2011/09/02 21:05
名前: 白鳥 美李亞 ID:tStCCGw2

さんかひょーめーなるものです。ふざけてなんかいませんこれでも真面目です。

>>[4985] 翼ある者

はてさてこれは参加者が多くなってきて難しくなってきましたよと。まあ優勝できずとも楽しめればそれでいっか。
ということでよろしくお願いします。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.12 )
   
日時: 2011/09/02 23:21
名前: アリス ID:CbE6sVj.

参加します。

歪みの語り部

楽しもうと思います。よろしくお願いします。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.13 )
   
日時: 2011/09/08 23:55
名前: 暁龍◆QLoay/dMZQ ID:NhFeq2wg

お世話になってます、暁龍です。
では、参加したいと思います。
自小説は、モンスターハンター二次創作小説の、「徐に赴く」というものです。
皆様、よろしくお願いしますー。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.14 )
   
日時: 2011/09/10 21:28
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:g0F./loU

参加します

>>[4870] クロの偶然真理

ううう、一ヶ月ほど文章を書いていないような気がするので、今回はきちんと書き上げられるか心配だったりします。
でも、イベント楽しそう。これは是非とも参加したいよー、ということで参加表明。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント参加申し込み期間】 ( No.15 )
   
日時: 2011/09/10 21:52
名前: かなちゃん王女◆SX.4l2Qrkk ID:39UjxhmM

 参加します。
 F板のでいいのかな? 書き初めだけれど。
>>[5004] 「この物語はノンフィクションです。」

 もしあれなら、ロック中のジェシカの方見てくださいな。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント期間】 ( No.16 )
   
日時: 2011/09/11 00:50
名前: 企画運営委員 ID:bfWrZ4g6

イベントの参加受付は終了いたしました。
これより投稿期間となります。


☆イベント参加者名簿(敬称略)

  ・空人 >>[4561] 晴れた日は、召喚日和!
  ・If >>[4669]Hearts
  ・茶野 >>[4852] 精霊島の花嫁
  ・すずか  雲の切れ間に君を探して
  ・月音 >>[3998] Raising sun ―ライジングサン―
  ・伊達サクット:Lv.5 >>[2146] やるせなき脱力神
  ・白鳥 美李亞 >>[4985] 翼ある者
  ・アリス 歪みの語り部
  ・暁龍 徐に赴く(ゲーム二次創作/モンスターハンター板)
  ・sakana >>[4870] クロの偶然真理
  ・かなちゃん王女 >>[5004] 「この物語はノンフィクションです。」


以上11名を参加者として承認します。
投稿ルールを守って、期日内に作品を投稿してください。
今回のイベントは“匿名”での投稿になります。
それ故、題名がその人の顔になりますので、題名の付け忘れにご注意ください。

それでは、皆様の投稿お待ちしております。
メンテ
されど光を ( No.17 )
   
日時: 2011/09/18 00:28
名前: 匿名 ID:msDgAINg

 私との縁談が持ち上がった女が殺されと報告を受けた。
 屋敷の自室で死んでいたらしい。これで殺された私の婚約者は5人目だったか、いや、6人目だったかもしれない。
 鋭利な刃物のようなもので首筋を斬られ、毒が身体に流れ込んだのが死因とのことだ。
 しかし、その報告を受けるまでもなく私は既にその事実を知っていた。私が犯人だからではない。ただし、少しばかり前に、殺した張本人からその話を聞いたのだ。



 クロエは、婚約者を殺したそのままの足で私の自室に入り込んできた。彼女は人を殺すときには、決まって夜の闇に身を隠す黒装束に身を包む。そして、人の命を奪った後、決まって私のもとに帰ってくる。
「オルタ様。またあなたの婚約者を殺してしまいました」
 クロエは細め、長椅子に座る私の隣に腰を下ろした。
 そして、沈鬱な面持ちで私の肩に寄り添う。
「やはり、耐えられないか?」
 私は寄り添うクロエの背中にそっと手を回し、彼女を引き寄せる。私はクロエが愛おしくて仕方がない。しかし、望んでもいない政略結婚のために殺されたあの女性に関しては非常に申し訳ないと思う。
「耐えるつもりなんて元々ありません。オルタ様は私にとって光のような存在ですもの。私のオルタ様が他の女のものになったら、私は闇の中で、何も見えなくなってしまいます」
 そう言ってクロエは白く、透き通った肌の、スラリと細長い指が生えそろった手を私の目の前に持ってきた。鋭く伸ばした、紅く塗られた爪が光り、何よりも目を奪う。
「またその爪で?」
 クロエは無言でうなずき、指をくねらせて私にこれ見よがしに爪をちらつかせた。
 クロエの爪には猛毒が塗り込まれている。彼女は剣も魔法も自在に操る実力を持つが、身体の一部であるその爪こそが、暗殺を行う際の最大の武器である。
 私の家が今の地位にまでのし上がっていったのも、その爪のおかげだ。私はこの家の長男として、将来の当主として、父の期待に応えてみせるためにも家を盛り立てていかねばならない。
 私はこの家をより王室に近付けるため、障害となる者達、対立する派閥の者達を次々と闇へ葬っていった。クロエを使って。
 クロエは元々暗殺者だった。昔、とあるきっかけで私は彼女の命を助けることとなった。クロエはそのとき、まだ15歳の少女だった。育ちがいいだけの温室育ちのお坊っちゃまの私とは対極に位置する、闇の世界を生きる少女の生きざまに触れた私は愕然とした。
 こんな理不尽がこの世にあってはならない。何とか彼女の人生に光を与えてやろうと思いった。私は若さに任せ、暗殺者という彼女の経歴を隠して周囲の反対を押し切り、彼女を引き取る決意をした。
 人殺しとは完全に決別し、しかるべき教育を施し、日の当たる世界で生きていけるようにしてやろうと思ったのだ。
 しかし、幼いながらも深い闇の中を生きてきたクロエの心は、とても世間知らずの私が手に負える代物ではなかった。
 祖父が、伯父が、父が、弟達が、我が一族が宮廷で熾烈な勢力争いに火花を散らす中、クロエは自らの意思で嬉々として闇の中へ、人を殺める道へと戻っていった。
 そして、ついには私までもが彼女の意思に同調する形で、邪魔者の排除を命じ、彼女を利用し続けてしまった。
 そして時は流れ、クロエの暗躍のおかげで我が一族は宮廷内部で大きな権勢を得ることができた。その一方、クロエは私への恩義を果たすという純粋な一念で盲目的に暗殺を行う少女から、恩義を恋慕に変え、その成就の邪魔になる存在を暗殺していく狡猾でどす黒い支配欲にまみれた大人の女性へと変貌した。
「何人婚約相手を殺しても、私は君を妻に迎えることはない」
 私はクロエに諭すように、優しく話しかけた。
 この世界には身分というものがある。貴族階級の私と、素姓の知れない暗殺者だった彼女とは相容れない隔たりがある。私が彼女を欲しても、周囲の環境は決してそれを許しはしない。また、仮にクロエが私と政略結婚を結ぶ価値のある一族の出だったとしても、彼女はこの家に入るには血に汚れ過ぎているのだ。
 私の言葉を聞いたクロエはいたずらな表情を浮かべてくすくすと笑う。
「どうした?」
「だって、おかしいんですもの。私に何回も人殺しを命じてきたオルタ様がそんなこと言うなんて」
「私は最初は、君が元に戻らないよう取り計らうのに手を尽くしてきた。でも、君はそんな私の気持ちを裏切って、自分で暗殺を行ったんだ」
「だって、あの人は。オルタ様を陥れようとする悪い人だったから。私が役に立てることって、これしかないんですもの」
 そう言いながら、クロエは両手の爪をそっと、滑らかに、私の首筋に回した。彼女の指の温かみ、爪の冷たくて鋭い硬さが伝わってくる。
「オルタ様は、『君に光を見せてあげたい』って言って下さいましたね。でも、私がオルタ様を闇に引きずり込んでしまいました」
 クロエは熱を帯びて語り始めた。昔クロエを拾った私が、今は彼女の闇を持て余し、彼女の支配下にあると言ってもよかった。
「でも、私、本当はそれを望んでいたんです。オルタ様の考える光なんていらない。だって私にとってあなたそのものが光だから」
 あのとき、彼女を捨てるべきだったのだろうか。クロエが私を愛していることには気が付いていた。そして、私もクロエを愛してしまっていた。だから、私のために人を殺めたクロエが一層愛おしくなり、彼女を手放す気にはなれなかった。叶わぬ愛だということは初めから分かっていたにも関わらず。
 それにクロエを捨てるような真似をしたら、彼女の愛は恨み、憎しみへと変わり、丁度今のようにその毒爪を私へ向けるに違いなかった。
「クロエ、私が憎いか?」
「ええ……。でも、同時に、オルタ様が好きで好きで。もうこのまま殺してしまいそう」
 私の首筋に爪をあてがったまま、クロエは顔を近づけて、私と唇を重ねた。
「じゃあその爪を、私の首に深く埋め込ませてくれないかな?」
 キスを終えた私は彼女の手首を手に取った。死ぬのなら、愛しているクロエの爪にかかって死にたい。彼女が殺してきた犠牲者達と同じように、同じ毒を体内に巡らし、同じ苦しみを味わって死にたいのだ。
 彼女は見る見るうちに、悲しみと怒りを混ぜ合わせたような表情に変わっていく。
「どうしてそんなことを言うのですか? 『君と一緒になるから殺さないでくれ』って言って下さい。私を一人っきりにする気ですか?」
「一緒に死のう。この家の名に傷がつかぬよう。祖父が、父上が築き上げてきた一族の繁栄を失わないよう」
「そんな! オルタ様は家とクロエとどっちが大事なの? 答えによっては、本当に私、この爪を押さえられない」
 クロエは声を荒げる。彼女の瞳に狂気が宿る。その狂愛は私にとってはとても尊く、心地よいものだった。私のような何の取り柄もないつまらない人間をここまで好いてくれるのだから。
「両方大事だ。だから、どちらも失わないために、君と死後の世界で結ばれたいんだ」
 私は正直な気持ちを言った。
「駄目。オルタ様。死んだら意味なんてないんです。生きて結ばれないと」
「でもそれは無理だ」
「オルタ様」
「正直、私は結構疲れていてね。君と同じ闇に堕ちて耐えられるほど心が強くなかったみたいだ」
「だったら、今度は私とあなたで、二人で新しい光を探していけばいい」
 それは昔、私が望んでいたことだった。あのとき、彼女の暗殺をもっと全力で止めていたなら、仮に防げなかったとしても、その後に私が彼女に暗殺を命じたりしなければ、まだ光は見えたかもしれない。でも今は、クロエと共に深い闇の中を泳ぎ、光は見えず、もはやどこに岸があるのか分からなくなってしまったのだ。
「クロエ、もう手遅れなんだよ。私も君も、それをするには罪を背負いすぎてしまったんだ。君は家のためではなく、私を手に入れるために、自分のためにもう何人も殺しているのだから」
 クロエは、顔を落とし、力なく私の首から手を離した。
 そして、再びその身体を私に寄り添える。
「私にとってあなたは闇を照らす存在。あなたに縁談が持ち上がる限り、私はあなたの婚約者を殺し続ける。何人だろうと、ずっと」
「私は君を愛している。でも君を妻に迎えることはできないし、君を手放すつもりもない。しかし、家のため、私は縁談を受けなければならない。君が私を殺してくれるまで、または私と死んでくれる決意をするまで、政略結婚の話は幾度でも出てくるだろう」
「オルタ様」
「クロエ」
 私も、人を何人も殺すほど私を愛してくれるクロエにすがるつもりで、彼女の体を自らの胸に引き寄せた。



 私との縁談が持ち上がった女が殺されと報告を受けた。
 屋敷の中庭で死んでいたらしい。これで殺された私の婚約者は6人目だったか、いや、7人目だったかもしれない。
 鋭利な刃物のようなもので首筋を斬られ、毒が身体に流れ込んだのが死因とのことだ。
 しかし、その報告を受けるまでもなく私は既にその事実を知っていた。
メンテ
【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ( No.18 )
   
日時: 2011/09/18 00:41
名前: 匿名 ID:LNc0beoY

 君へ。
 これを読む頃には、俺は既に君の姿を見ることは出来ない。
 どうやら俺の命もここまでらしい。俺の身体を癌が蝕んでいたようだ。
 以ってあと一ヶ月。医者にそう言われたよ。
 正直、頭が真っ白だった。何も考えられなかった。死ぬ時ってどんな時なのかを真剣に悩んだのは初めてだったよ。
 心臓が止まるのが死ぬってことしか知らなかったからね。
 俺の心臓――灯(ともしび)も消えてしまうと思うと夜も眠れなかった。
 筆が進まなかった日が、この時まで幾度あったことか。
 ……ああそうだ。覚えてるかい。





 高校の時の文化祭。
 君は独りで綿菓子を食べていたね。俺もそこへ君と並んで食ってたっけ。
 その時の横顔が、俺は何故か愛おしく見えた。俺は何時の間にか君に見入っていた。
 俺たちはそれから高校を卒業して、そのまま同じ大学、サークルも一緒に入ったね。文芸で分からない所があると、よく俺を頼っていたのを忘れてないよ。話の作り方や文体等で少し喧嘩もしたな。
 大学四年。
 在学中に君がコンクールで受賞した時は、俺も驚いたよ。自分の事のように嬉しかった。同時に上京って話を聞いたのはショックだった。長い間君とは連絡が取れなくなるからね。

 俺もその後佳作で受賞して、君と同じ道を歩んで一〇年。
 そんな不規則な生活が祟ったのかな。
 身体の激痛を医者に診てもらったら「癌」だって。しかも末期で、それが胃に転移してしまったそうで。
 いつか会おうって空港で誓ったのに、こんな姿じゃ会えないな。帰って気を遣わせる。
 せっかく体を治して復帰しようって時に……。
 俺の小説を愛している者達に顔向け出来ないなぁ。
 俺は、これだけはどうしても叶えたかったんだ。
 でもそんな俺の我侭も、神様は許しちゃくれないらしい。
 
 最近は不便になったもんだよ。
 話を紡ぎたいのに思考が働かない。
 食事をしたいのに手が動かない。
 歩きたいのに脚が動かない。
 景色を見たいのに、いつも病室しか目に映せない。
 けどね、そんなことより、俺は唯一の遣り残しがあったんだ。
 あの時――。

 死ぬ前にせめて……一目君を見たかった。
 死ぬ前にせめて一時、君と二人っきりで話したかった。
 死ぬ前にせめて――君にプロポーズをしたかった。
 死ぬ前にせめて一緒に朝を迎えたかった。

 だけど、それはもう叶わぬ夢となりました。
 遣り残したとしても、俺はそれを悔やまず自身を受け入れます。
 俺はもう前を向けませんが、君はまだ前を向く可能性があります。
 忘れろとは言いません。思い出を棄てろとは言いません。ただ……時々でいいから、挫けそうな時には俺を思い出して下さい。
 そして君は、君の信じた道を歩んで行って下さい。
 さようなら。
 どうか俺を忘れないで。





 西暦××××年 ○月△日   俺より
メンテ
ドラマチック生命体 ( No.19 )
   
日時: 2011/09/19 22:35
名前: 匿名 ID:0J8fvtK.

 僕の部屋にやってきた生命体は、彼女が初めてだった。
 ――あなたが神様ですね。
 僕は、ペンの動きを止めた。もう少しで今日のノルマを達成できるところだった。だがそれよりもっと重要な出来事が、今まさに目の前に立ちはだかったのだ。ノルマどころの話ではない。それは、生命体が入り込むことの出来ないこの部屋に、生命体が入り込んできたということだった。
 ――どうやってここに来たんだい。ここは君の言うとおり、神の部屋だ。普通の生き物が来れる筈が無いんだけどな。
 部屋とはいっても、そこに存在するのは机とイスだけ。全てが真っ白に包まれている立方体の部屋だ。この真っ白い部屋の、机に向かっている僕の真正面にある茶色い扉。そこから彼女は入ってきたのだった。僕はそのイスに座って机に向かい、毎日毎日ノートに文字を書き込む仕事をしている。神っていうのは大変なのだった。
 ――あなたに会いたいと思ったら、来れたんです。神様。
 彼女は長い髪を揺らしながら近づいてきて、机の前に立った。僕は彼女と長く視線を連ねた。凛とした、強い信念を持った目だった。僕の知る限り、ここまで力強い神々しさを感じる生命体は知らない。毎日ただ人の生き死にをノートに書き綴る僕には無縁のことなのだ。
 ――僕に会いに?
 ――そうです。
 ――なぜ?
 ――あなたに怒っているんです。 
 目の前の生命体は、真顔でそう言った。面白いな。生命体というのは怒っている時は怒っている表情をするのではないのか? 例えば、眉を寄せる、口元を曲げる、鼻息を荒げる。そんな風な態度を取ると聞いたが、目の前の彼女はそうではなかった。ただ静かに、僕を見ていた。
 ――怒っている?
 ――はい。
 ――何に対してさ。
 ――私の大切な人たちを奪ったことです。
 大切な人を奪われることなど、生命体にとって日常茶飯事じゃないか。なぜそれを僕に対してぶつけるのだ。もちろん人の生き死には全て僕が決めている。目の前の机に広げてあるノート。ここには人の人生の履歴書が書かれてある。人の一生を、僕が全て最初から終わりまで書くのだ。まるで小説のように。この生命体は西暦何年のあの日に生まれ、どんな親を持ち、どんな青年時代を送り、どんな生活をして。死んでいくか。全て僕がそこに書いている。
 大切な人を奪われた。
 僕はどうやら、目の前の生命体の大切な人を奪ってしまったらしい。正確に言えば、奪ったというより殺してしまったというほうが正しいのか。僕は人の生死を司る。生まれることも、人生の全ても、死に様も全て僕が決めれるのだ。どうやらその神の責務が仇となり、彼女に恨まれてしまったようだ。まったく困ったものだ。
 ――あなたが人の一生を決めているのでしょう。
 ――そうだよ。
 ――ならばなぜ、私の大切な人たちを、あんな風な死に方にさせたのです。惨たらしいではありませんか。
 僕は彼女の大切な人たちを、残酷に殺したようだ。強盗殺人か、それとも天災か、不慮の事故か、病気か、それとも自殺か。僕は様々な形で生命体を下界の人間界に誕生させてやっている。ノートの、ある生命体の枠に『幸せな家庭に生まれる』と書けば、その生命体は幸せな家庭に生まれ、『楽しい人生を送る』と書けば、楽しく愉快な人生を送る。だが僕がその生命体の最後の部分に『事故で死んでしまう』と書けば、その生命体は簡単に命を終えるのだ。そこの慈悲や同情など無い。僕は様々な死因で人を殺した。彼女の言う大切な人の惨たらしい死に方も、そんな何千何億の死の一つ二つでしかないのだ。
 ――僕は神なんだ。人の死に方にいちいち巡らせてたらきりが無い。
 ――あなたは役立たずです。
 ――なんだって?
 ――神様が、人間の幸せを叶えてやら無いなんて、神様じゃありません。
 もっともな意見だがこちとらそんなことを言われても今さらどうしようもない。僕は自ら進んで神を選んだわけじゃなく、気付けば机に向かい、ノートに人の人生の縮図と送り方を書き連ねていたのだ。神は人間の救済をもたらすものだ。そんな神が残虐に人を死に至らしめて構わないのか。
 答えはイエスノーじゃ計り知れない。
 ――どうして、幸せにしてくれないのです。全ての命を、全ての生命を。命の全てを、どうして幸福に導いてくれないのですか。
 全ての生命を幸せにしてやることが、神の勤めなのだろうか。
 だけど、幸せが何かによる。長く生きることだけが幸せだろうか。長生きしたい、長く生きることが幸せア。それならいい。だが早く死にたい人も居るだろう。若いうちに死にたい、人に迷惑掛けたくない。そんな思いで早死を望む人も居る。お菓子をたくさん食べるのが幸せな人もいるし、きっと僕のように一日中机に向かっているだけが幸せなこともあるのだろう。そんな一人一人の幸せのニーズに、神とはいえ応えるのは大変だ。
 ――どうすればよかったんだい。どうすれば君の怒りは収まるのさ。
 やっかいごとは面倒なので、僕は敢えて下手に出た。どうすればよかったか。これは僕が彼女の大切な人をやむを得ず奪ったことを認めているということだ。実際認めてなど居ない。だけど時には相手に譲る言葉を促す事だって大切だろう。それに、喧嘩は嫌いだ。
 彼女は言った。

 無様な死を。
 残虐な死を。
 理不尽な死を。
 悲しい死を。
 無くしてほしいんです。

 全ての生命を、幸せにしてほしいんです。


 僕は返した。
 ――無理だね。
 そんなのわかりきったことだろうに。
 生命体の死は無様だ。ここでいう生命体とは、人のことだ。人の死は無様で、惨めで、理不尽極まりないものだ。死に方はでどうであれ、人の死は残酷で容赦ない。時としてあまりにも惨たらしい死を宣告される人もいるだろう。それらの死に方は、全て僕が決めている。だけど、僕がどのような死に方を書こうとも、人の死は――生命体の死は儚く脆く、崩れやすい。
 ――自ら進んで死んだ人の死は、残虐なのかい。
 僕は問うた。彼女は目を細めた。
 ――悲しい死です。
 ――だけど、それを望んだんだよ。望んで死んだのに、その人はそれが一番だって思ったのに、それを君は悲しいと言えるの。
 ――私が悲しいのです。
 彼女は祈るように、胸の前で指を交互に絡ませた。
 ――誰かが悲しむ死なんて、私は欲しくないんです。
 それから、ぽろぽろと目の端から涙を零し始めた。
 なんて我がままで、自分勝手で、自己中心的な生命体なのだろう。彼女が悲しむから、自分が悲しいから悲しい死を無くしたいなどとは。それでは駄々をこねる子供と変わらない。不都合を排斥したいだけだろう。
 そうは思った。
 だが僕は、この生命体にはどうにも悟りが垣間見えたのだった。ただ悲しいから、悲しみを無くしたいと言っている訳ではないような。水溜りよりも深く、そして空よりも高い、大らかで、そしてあまりにも見透かしづらい心があるような気がした。僕には読めない。彼女の心理が。そして何をもって彼女をこの部屋にやってこさせたのか。神の部屋にやってこれるのは、やはり神に同等するものだけだ。ならば彼女は、悲しみを知りすぎて神といえる存在になったとでもいうのか。
 僕は立ち上がった。
 ――見せてあげるよ。人の死は悲しいけれど、もっと大事なことがある。
 ゆっくりと壁際に向かい、僕は指をパチリと鳴らした。
 ちょっとした余興だ。
 真っ白だった部屋は急激に色を変える。
 部屋は、真っ黒になった。
 真っ暗ではない。真っ黒なのだ。僕と彼女は、姿形がはっきりとお互いに見える。僕らは今、『無』にいた。そこは、僕だけが感じ、そして僕だけが見て触れる世界。生と死の狭間。天国と地獄の狭間。神と生命体の狭間だった。そこに僕らは佇んだ。真っ黒な部屋。それは壁の色が黒いのと同義。だけど、そこは無であって、無限広がる宇宙だった。そこには、果てしない空間がある。空がある。『無』があるのだ。
 彼女は泣きながら、辺りを見回した。
 ――見なよ。
 僕の囁き。彼女がこちらを見た。
 もう一度、指を鳴らした。
 

 暗闇の奥に、ポツリと小さな明かりが灯った。
 そして、また離れたところに、もう一つ明かりがポツリ。
 ポツリポツリ。
 黒の中に、小さな点のような燈がポツリポツリと灯り始めた。
 僕らの周りを、明かりが囲い始める。それはまるで、真っ暗闇の中に灯篭の明かりが灯るようだった。ぼんやりとした、曖昧でおぼろげな光が、少しずつ生まれていった。黒い部屋は少しずつ光に満たされて。ぽつりぽつりと満たされて。
 ――この光は、まさに生まれつつある命だよ。
 僕は言った。
 彼女は、辺りを見回している。その表情は、先ほどの涙に濡れた悲しげなものではなく、少しずつ少しずつ、色を取り戻しているものだった。目の色が輝いていて、それが、目の水分に明かりが跳ね返っているだけにしても、幻想的な風景を見る、確かな驚愕が、感嘆が垣間見えた。
 これは慰めだった。
 全ての正当化だった。
 神として、全ての命を殺す僕の、僕への正当化だった。まさに生まれつつある命があることが、僕と彼女にとっての慰めであり、救いであり、言い訳だったのだ。人の死――生命体の死は、儚く悲しく脆い。そして残酷で、理不尽なものだった。それを創り出すのは僕。僕は酷い神なのだ。
 だけど、こうやって、死に行く生命よりも、遥かな数の生命が生まれているのだ。その生も、僕が創り出した。
 明かりは、世界を包んだ。
 僕らの周りは、明かりによって、真っ白になった。最初とは違う。全てが、生命の色に満たされているのだった。生命の輝きによって、世界が、視界が彩られている。全てが光っているのだった。
 これは慰めなのだ。そして、逃げなのだ。
 僕だってわかっている。神として、生命体の命を自由に出来ることを。
 それでも、新しい命は、きっと死ぬまで幸せなのだろう。
 何言ってんだ僕は。
 ――綺麗、ですね。
 ――うん。
 ――これが、生命なのですか。
 彼女と僕は向かい合っていた。
 泣き止んでいた。
 そして、笑っていたのだった。
 ――僕に怒っていたんじゃないのか。
 ――そうです。まだ怒ってます。
 ――なら、どうして笑ってるのさ。
 ――あなたも、笑っていらっしゃるじゃありませんか。
 僕が?
 ゆっくりと手で、顔に触れてみた。口元が、微妙に釣りあがっていた。
 ――それに。
 ――それに?
 ――命って、素敵だなって思ったんです。
 その言葉が、妙に響いた。僕は神だぞ。全ての生命体の上に立つ概念だぞ。全てを司る存在だ。そんな僕が、彼女の――悲しみを背負った少女の言葉に、共感しているというのか。そして、その笑顔に、僕自身も何か思うところがあるというのか。わからない。わからないけど。
 ――命は、悲しいけど。終わるときは悲しいけど、でも、確かに幸せな一瞬があったんだ。あるはずなんだ。心から笑える瞬間が、幸せな瞬間が、誰の人生にもあるように、僕は人の命を創ってるよ。
 ――私は、今、悲しいですけど、でも。いつかは、そんな風に、幸せになれますか。終わるときは残酷な死に方でも、一瞬でも、幸せになれますか。
 ――そんな言葉が出るってことは、わかってるはずだよ。
 彼女は、笑ったのだった。
 そして笑顔のまま、光の向こうへ歩いていった。


 そうして僕は、机に向かう。
 幸せな最後を迎える人もあれば、不幸な死を迎える人もいる。
 僕はそんな風に、理不尽な世界を創らなきゃいけない。
 だけど、誰の心にも、人生の一瞬でも、幸せな時があるように。
 笑顔が花咲くように。
 素敵な瞬間が実るように。
 全ての生命へ。



メンテ
だから僕らは笑ったんだ ( No.20 )
   
日時: 2011/09/20 00:00
名前: 匿名 ID:f03bqE0Q

 気が付くと俺はただ走り続けていた。行く先は見えず、目の前すらも見えていなかったのかもしれない。それでもその速度を落とすわけにはいかず、足は前へと送り出される。必死だった。とにかく必死だったのだ。駆り立てるものは暗闇だった。恐怖ゆえの遁走だった。
 逃れる先に明かりを見つけてそこに飛び込むまで、俺は走り続ける事しか出来なかったのだ。


1.タカアキの話

「その笑い声は伝染するんだ」
 夏休み気分から抜け出せない昼休みの教室にその話はあまり似つかわしいとはいえない代物だった。
「なんだよそれ、病気かなんか?」
 そしていくら暇だったとはいえ男三人が集まってする話でもないようにも感じられた。
「違うよ、三組の奴が旧校舎で聞いたんだって話を聞いたんだって話だよ」
「オカルトかよ。しかも又聞きの」
 非難は当然の仕打ちだっただろう。もともと心霊の話の類はどこかしらに胡散臭い匂いがするものだ。だというのにそれが他人の、それも聞いた話だけだというのなら疑ってくださいと言っているようなものだ。あと日本語も間違っている。
「なんだよ、信じないのかよ」
「だから、信じるとか以前の話しだっつってんだよ」
 話し始めに出鼻を挫かれたタカアキの三人の中でも一番幼さの残るその顔が不満に歪むのを俺は苦笑交じりで見つめ返した。
「ちぇ、そっちが涼しくなるような話は無いかってふってきたくせにさ」
「そうだっけ? ああ、悪かったよ。良いぜ、話せよ続き」
 不服が残る顔はそのままにタカアキが語ったのは旧校舎で夜な夜な聞こえるという笑い声にまつわる話だった。


2.旧校舎は笑う

 その話はどこにでもあるような怪談から始まった。
 老朽化によって既に使われる事もほとんどなくなった旧校舎が取り壊される事が決定したのも自然な流れといって良いだろう。だがそれは夏休みを前に浮かれ気分の生徒たちには絶好の餌だったと言わざるを得ない。自然、壊される前に旧校舎を探検しようと言い出す輩が現れ、実際に幾つかの探索隊が結成されたらしい。当然その中には夏らしいイベントを盛り込む連中も出てくるわけだ。夜中の旧校舎に忍び込む。いわゆる肝試しというやつだ。もちろん実際に心霊体験を望んだ訳ではなかっただろう。気の合う仲間たちとひと夏の思い出が出来ればそれで良かったのだ。しかしその内の一組がそれに遭遇してしまった。
 防風防塵のために学校の周りに植えられた針葉樹は夜の校舎内を更に暗い闇の色に染めていた。なのにその教室は薄明るい光に包まれていたのだという。当然、興味本位で校舎を徘徊していた探検隊達はそれに気付きその扉を開け放つに至った。
 教室は何の事はない木々の隙間を縫って月の明かりが差し込んでいるに過ぎなかった。ただ、彼らは聞いてしまう。その声を。
 笑い声だと断定してしまうにはあまりにも奇妙な声だったという。しかし頼りない光しか持たない彼らにはそれを確かめようという気概の持ち主は居なかった。奇妙な笑い声は夜の校舎に残響を残す。一目散に逃げ出した彼等を嘲笑うかのように――。


3.ヨシユキの提案

「ふぅん、で?」
 この手の話はオチが読めてしまえば威力は半減どころか無いに等しい。タカアキの話は解りやすくそれを読み取る事が出来た。それは彼の優しさだったのかも知れないし、単にこういう話をするのが得意ではないのかもしれない。
「なんだよ、張り合い無いなぁ。まぁ待ってよ、この話はこれで終わりじゃないんだ。その笑い声を聞いた奴には必ず不幸が訪れるんだよ」
 不満は示したもののこっちの反応は予想の範囲内だったのかタカアキは話を続ける。だがこれ以上どんな物で飾りつけようとも、その話が信憑性を深める事は無いように思われた。
「不幸って? 具体的に何なんだよ」
 そうこの話は、遠く離れた土地の出来事でも今より古い時代の出来事でもなくつい最近のしかもひとつ隣のクラスでの出来事なのだ。
 俺の疑問を待っていたかのようにタカアキは口角を吊り上げた。
「その声を直接聞いたのは三人、一人は階段から落ちて、一人は交通事故で、共に重症らしいけど命に別状は無いってさ」
「…………」
 二つの事故のことは当然俺の耳にも届いていた。今までの話を聞いてそれを関連付けられなかった自分を恥じると共に驚愕に言葉を飲み込んだ。
「も、もう一人は?」
「……知ってるだろ?」
 もちろんそうだった。だけど信じたくは無かったのだ。自分の身近でしかも心霊現象が原因でそういう事が――死者が出る――なんて事は。
「ま、まじかよ」
「詳しくは知らないんだよ。何せ原因不明だっていうし。でも、だからこそそれが原因だと考えるのが当然だろ?」
 今度は俺がしかめっ面を浮かべる番だった。したり顔のタカアキにどこか不謹慎さを覚えたのだ。
「……どう思う? ユウイチ」
 こっちの話に興味を持たなかったのか黙って隣で本を読んでいたユウイチに話を振ってみる。ゆっくりとした動作で本を閉じ眼鏡を押し上げたユウイチはようやくこちらに意識を向けた。
「伝染するっていうのは?」
「へっ、ああ。三人とも旧校舎から戻ってきた後、その話を皆に広めていたんだけど、その笑い声を真似するようになったらしいんだ。で、それをまた真似する人が出て……。もっとも三人が事故にあってから広める人は居なくなったらしいけどね、夏休みに入ったし」
「そうか」
 そう言い残して再び沈黙するユウイチに俺とタカアキの不審な視線が集まる。しかしそんな事はお構い無しにユウイチは声を閉ざし、考え込んだ姿勢のまま動かなくなってしまった。
 結果、痺れを切らしたのは俺の方だった。
「ま、いいか。そんなもん実際に確かめてくりゃあ良い話だろ?」
「確かめるってお前……まさか!?」
 驚きの声を上げるタカアキに余裕を見せてやろうとするが、その笑顔は残念ながらいくらか引きつったものになってしまうのだった。


4.後者は笑う

 一番最後にやってきたのはこの話を持ってきた人物だった。親を誤魔化すのに手間取ったという彼を責めるつもりはないが謝罪くらいはしっかりして欲しい。ともかく俺たち三人は昼間施しておいた仕掛け――と言っても窓の鍵をかけずにおいただけなのだが――を使って旧校舎内に侵入することに成功した。
 旧校舎の中は噂通り一面の闇だった。三人分の懐中電灯のみを頼りに俺たちは正面玄関まで移動する。中から鍵を開け退路を確保する為だ。扉の開閉を確かめていよいよ目的の場所を目指す。しかしすぐに足を止める事になった。遅れてきた扉が閉まる音が思いのほか闇に響いたのだ。誰からとも無く顔を見合わせた後浮かべた笑顔はどこと無く安堵の色が滲んだ。
 それからは無言の行進となる。そして沈黙に耐えかねてよっぽど自分から脅かし役に回ろうかと考え始めた時の事だ。最初に駆け出したのは一番後ろに居たはずのこの話を持ってきたあいつだった。当然これで俺が最後尾となる。恐怖に負けた友人を呆れると共にその突飛な行動の起因を探った。そして、それは聞こえたのだ。後ろから。
 気が付くと俺はただ走り続けていた。行く先は見えず、目の前すらも見えていなかったのかもしれない。それでもその速度を落とすわけにはいかず、足は前へと送り出される。必死だった。とにかく必死だったのだ。駆り立てるものは暗闇だった。恐怖ゆえの遁走だった。逃れる先に明かりを見つけてそこに飛び込むまで、俺は走り続ける事しか出来なかったのだ。
 たどり着いた教室は何の事は無い針葉樹の隙間を塗って現れた月に照らされているに過ぎなかった。一先ず胸を撫で下ろすと同時に注意深く辺りを探る。ここは件の噂の舞台だ。そして見つけてしまった。教室の片隅で何か黒いものが蠢くのを。声は短く吸い込む事でこらえられた。ゆっくりと後退する。しかしそれも止まる。止められてしまう。肩に手を乗せられて振り向いた先に見えたのは暗闇に光る大きな瞳だった。


5.ユウイチの解説

「うわあああああああっ!?」
 ついに声を漏らした俺に告げられたのは聞き覚えのある冷静な声だった。
「落ち着けヨシユキ、俺だ」
「な、なんだよユウイチか。お、脅かすなよ!」
 振り向いた先に月明かりに反射する見知った眼鏡を見つけて胸を撫で下ろす。だが俺はすぐに思い出すことが出来た。この教室にはもう一つ蠢く影が潜んでいるのだ。
「驚いたのはこっちだよ。急に走り出すしさ。ああ、タカアキも居たのか」
「えっ?」
 そういえば先に逃げたタカアキはずっと自分の前を走っていたはずなのだ。闇と混乱のせいで意識していなかったが彼が自分と同じ思考と過程をたどった事は考えるに難くない。つまり先ほど見た影は――。
 再び影に視線を向けると、そこには体を縮こませ両手で耳を覆いガタガタと体を揺する友人の姿があった。体中から力が抜けるのを感じる。ああと声も流れ落ちる。そしてようやく俺は周囲をゆっくり観察する事が出来たのだった。
「何だったんだあの声は」
「ヒィッ!?」
 俺が漏らしたつぶやきはいまだに何物からか自分の身を守り続ける友人の耳にも届いたらしく、
 彼は小さな悲鳴を漏らし身体を、心を震わせている。
「おーい、タカアキー?」
「……何か聞いたのか?」
 タカアキに駆け寄ろうとする俺をユウイチの質問が引き止めた。正直思い出したくはないがあの時聞いた声――だったのだろうか――は耳に残ったままだ。
「ああ……聞こえたぜ。金切り声って言うか、甲高い……笑い声、に聞こえなくはなかったな」
「そうか」
 そうとだけ言い残しユウイチは教室の窓際に近付くと手近な窓を開いてみせた。教室のこもった空気は吐き出され、新鮮な風が頬をくすぐる。そして聞こえてくる。声。
「な、この音は!?」
「ヒイィッ!」
 空気の流れが変わったからだろうか建て付けが悪くなった古いロッカーの扉が揺れる。蝶番が鳴くその音は甲高く短く刻まれていて――。
「笑い声に聞こえなくは無い、な」
「ああ」
「じゃ、じゃあ、廊下で聞いたのは何だったんだ?」
「そうだな、俺たちが入ってきた教室にも同じようなロッカーが有ったんじゃないかな。窓を開けたままだったし。玄関の戸を開け閉めした事で気流が変わったんだろう」
 言われてしまうともうそうとしか考えられなかった。そもそもタカアキがこの話を始めた時点で訝しんでいたのは自分の方だったではないか。
「ふっ、くくくく……なんだよ、脅えて損したぜ」
「幽霊の正体見たりってやつだな、ふふふ」
 俺とユウイチは顔を見合わせて肩を揺すった。
「ひぃいっ!?」
 その声が聞こえたのだろうタカアキが三度悲鳴を漏らす。その姿は実に滑稽でこみ上げていた可笑しさはついに解き放たれた。
「あっははっはははははっ!」
「ふふっ笑っちゃ、くくっ悪いだろ……はは」
「お、お前こそふくく、笑ってんじゃねえか。あははっはは」
「ひひいぃいいい。や、やめてくれぇ!」
「かっかっか」
「きしししししっ」
「ひぃはははっひゃはは」
 その笑いは火がついたように止まらなくなった。言葉とは裏腹にユウイチもついに声を上げ始めた。その内苦しくなって息を吸うときも引き笑いになってしまう。そして互いにそれを見てまた盛大に吐き出す。悲鳴を上げていたタカアキも途中から笑い声に参加していた。恐怖ゆえか俺たちの笑いに誘われたのかは判断できなったが。とにかく俺たち三人は笑い続けた。例え苦しくとも。息が出来なくとも。笑い続けなければならなかったのだ。甲高い音で。それはもう、笑い声とは呼べないものだったのかもしれなかった。


6.旧校舎は笑わない

 朝は誰にでも平等に訪れる。そこを照らす光もまた慈悲によるものだったのだろうか。静かな校舎の誰もいなくなった教室に一迅の風が躍る。ひしひしとガラスを撥ねて建て付けの悪い掃除用具入れのロッカーを撫でて行けば、扉は軋むきしきしと。その音はどこか寂しげに甲高く。笑い声には聞こえない。
メンテ
黒箱の刑 ( No.21 )
   
日時: 2011/09/20 16:30
名前: 匿名 ID:OOBK7Ivw

 黒箱の刑に処された皆さん、ごきげんよう。まずは偉大な我らが王のご慈悲に感謝しなさい。本来なら即刻死刑となるはずの君たちに、王は生の希望を与えてくださった。なんと寛大な国王陛下か!
 罪人たちよ、生き残りたくば明かりを求めよ! 懐かしき陽の明かりを!
 見事脱出が叶えば、罪は不問と致そう。君たちは温かな日差しのもとで、再び生きることができるのだ。
 さあ、足掻け。足掻け足掻け足掻け。とにもかくにも足掻くのだ。醜く無様に足掻き続けてみせろ。
 これが黒箱の刑だ。諸君らの幸運を祈る。

 *

 ひどい臭いだ。血の臭いと、腐臭。誰かが隣で吐いている、その臭いもする。そして何も見えない。
 噂には聞いていた。黒箱の刑。罪人に、真っ暗で罠だらけの迷路を進ませる。陽の光は遥かに遠い、罠にかかって穴だらけにされるか、気が狂うかして、そこへたどり着く前に大半は死ぬ。稀に脱出者が出ては、王は勇んで残酷な仕掛けをやたらと増やし、そうして出来た数段生存率の下がった黒箱に、また罪人を放り込む。脱出できれば無罪、死ねば有罪。王の退屈しのぎのための裁判、それが黒箱の刑。
 生き延びてやる。生きて、脱出してやる。こんなところで死んでたまるか。
 だが……この臭い、ひどい。臭いだけで気がおかしくなりそうだ。服の袖を破けば、鼻と口を覆うことができるだろう。どうする?
 a)おおう⇒【1】へ
 b)やめる⇒【2】へ

【1】
 嗅覚を捨てるのには勇気が必要だが、背に腹は変えられない。左の袖を破って、顔の下半分を覆った。それでも布を通り越して臭いは鼻を突くが、いくらかマシになった。これならどうにかなるだろう。
 さて、進まなくてはならない。もたもたしている間に、一緒に放り込まれた罪人たちは先へ行ってしまった。早速分かれ道だ。右と左、どちらに進もう。
 a)物音のする右⇒【3】へ
 b)物音のない左⇒【4】へ

【2】
 視覚が役に立たない今、頼りなのは聴覚と触覚、そして嗅覚だけだ。その一つを失うわけにはいかない。ここは我慢だ。
 傍には他の罪人たちがいるが、さて。
 a)誰かと行く⇒【5】へ
 b)一人で進む⇒【6】へ

【3】
 それほど離れていないところから、人の足音が聞こえてくる。人が多いほうが安心だ。右の道を行こう。
 ところが、進行方向の先で人の悲鳴がした!
 a)引き返そう⇒【7】へ
 b)進んでみる⇒【8】へ

【4】
 左の道は、ひっそりとしている。他の者はとっとと先へ行ってしまったのか、それともこちらには誰一人進まなかったのか。どちらにしても、今現在、一人であることに代わりはない。ほんのり、背中が冷えた。
 a)慎重に歩く⇒【9】へ
 b)先をいそぐ⇒【10】へ

【5】
 さっきまで吐いていた者が、どうやら、立ち上がった。布擦れの音がする。歩き始めたらしい。
 a)声をかけてみる⇒【11】へ
 b)別の者をさそう⇒【12】へ

【6】
 みな、右側の道を行っている。ならば左だ。すると、後ろから腕を掴まれた。
「殺してえ!」
 女の声だ。震えて、妙に甲高い。今にも気をたがえそうだ。
 a)殺してやる⇒【13】へ
 b)ふりほどく⇒【10】へ

【7】
 駆け、突き当りを右に折れた。人の悲鳴はまだ続いている。早速罠による犠牲者が数人、もしかしたら十数人出たようだ。恐ろしい。
 右側の壁が途切れている。また分かれ道だ。
 a)折れずに直進⇒【10】へ
 b)曲がってみる⇒【14】へ

【8】
 人の波に逆らって進んだ。肩が何度もぶつかる。皆必死に逃げている。先に何があるのか。人の足音が騒々しくて耳は役に立たなかったが、ふと何かの音を拾った。重い音だ。耳を澄ます。ずっと続いていて、しかも、だんだん大きくなっている。地鳴りもするようだ。
「うがあ」
 人の悲鳴がして、別の音がした。何かがひしゃげる音だ。ずいぶん近い。ぞっとする。慌てて逆方向へ駆け出した。焦りで足が思うように動かない。もつれた。転ぶ。音がする。音が、だんだん大きくなって迫ってくる。嫌だ、いやだ、死にたくない。音、音、音。立ち上がれない。ああ。
 最後に、臓腑と骨とが潰れる音がした。
 ▼あなたが一人目の犠牲者です。

【9】
 壁に手を添えながら、慎重に進んでいく。どうやら分かれ道だ。
 a)右折⇒【15】へ
 b)直進⇒【10】へ

【10】
 先を急いだ。知らず駆け足になっている。怖い、早くここから逃れたい。ひたすら前へ前へ直進する。と、強烈な異臭が鼻を突いた。なんだこれは。何かを踏んでいたことに気付く。手で触れてみた。何かに濡れた、硬いもの。
「あああ!」
 指先に痛みが走った。もう片方の指で触れる。痛みと、どろり。溶けている、溶けている。そして次に硬いものに触れた。皮膚が失せて、骨が出てきたようだ。先ほどの固体は、誰かの骨だったのだ。気付いたときにはもう遅い。物音に仰げば、何も見えないが、強いにおいのする液体が降りかかってきた。痛い痛い痛い痛い。皮膚が焼ける、溶ける。のたうっても、苦痛からは逃れられない。でもそれも、だんだん遠くなって。
 ▼あなたが二人目の犠牲者です。

【11】
「一緒に行かないか」
「あ……ええ……」
 女だった。か細い声だ。大丈夫か。
「腕に」
 離れ離れにならないよう、腕を貸す。冷えた指が絡まった。傍に人がいることで安堵する。
「右は……駄目です……左へ」
 女が言った。
 a)従う⇒【16】へ
 b)右へ⇒【8】へ

【12】
 もう一人、傍にいた者がいた。動く気配はない。
「なぜ進まない?」
 聞いてみると、太い男の声が答えた。なんと、笑っている。
「こういうものはな、後から動いた方が賢い。死体やら血やらが、罠の在り処を教えてくれる」
 a)ともに待つ⇒【17】へ
 b)やめておく⇒【6】へ

【13】
 このままでは気が狂って、自ら死を選ぶことも出来ずに、餓えて死ぬまで苦しみ続けるだろう。殺してやるのが一番だ。女の身体に触れ、首を探し、ゆっくりと指を巻きつけた。細い首だった。力をこめると、女が苦しそうに息を詰める。思わず緩めると、その瞬間何かが首に巻きついた。
「あなたも一緒に!」
 女だ。狂った女が首を絞めてくる。すごい力だ。息が吸えない。苦しい。駄目だ、もう、力が入らない。振りほどけない。
 悪魔のような笑い声が、最後に、耳に届いた。
 ▼あなたが三人目の犠牲者です。

【14】
 分かれ道もないまま、ずいぶん歩いた。ようやく突き当たりに出る。いや、突き当りではない。また分かれ道だ。正面には階段、左手には道が続いているらしい。階段の方には、何か少し明るいように思える。
 a)階段へ⇒【18】へ
 b)左側へ⇒【19】へ

【15】
 真っ直ぐ歩き続けた。次の分かれ道は、片方が階段、片方が左折。階段の方には、明かりが見える。
 a)階段⇒【18】へ
 b)左折⇒【20】へ

【16】
「そこは右へ……」
 女はまた道を示した。声は頼りないが、迷いなく言い切るのでつい従ってしまう。
「なぜ、分かるんだ」
「分かるわけでは……」
 言葉を濁し、女は次に「階段へ」と言った。明かりが見える。もしや、もうゴールまでたどり着いたのか? 女を連れ、階段を上る。あかりが近くなってきた。暖かい。ああ、本当にたどり着いたのかもしれない。
「一緒に……」
 女が言った。あかりで顔があらわになる。やつれてはいたが、大きな瞳の、綺麗な女だった。女神のようだと、たまゆら思う。
「ここが一番……なんです……」
「一番? なにが?」
 気のせいか、瞼が重くなってきた。両膝を突く。女も一緒に。
「ここが……一番……楽に……」
「楽に?」
「死ねます」
 ふっと微笑んだ女は、この世のものとは思えぬほどに美しく見えた。いや、もしかしたらその頃にはもう、死んでいたのかもしれなかった。だから見たのは、本当の女神かもしれない。
 ▼あなたが四人目の犠牲者です。

【17】
 男の自信に満ちた答えを、この上なく心強く感じた。勝手に一緒に待つことにする。すると、前方で何か音が行き過ぎた。人の悲鳴を連れている。
「なんだ?」
 口にすると、男はまたも笑った。
「ほらな、間違った方に進んでいたら、今頃轢き殺されていた。さて、進むぞ。右だ」
 先ほどは右から何かが転がってきたようだったが、今度は何も起こらなかった。一度発動したら、次に発動するまでには時間が掛かるのだろう。突き当たりを左へ。あかりの見える階段がある。
「見てみろ。こういうものは、たいていスタート地点近くにゴールがあるものなんだ。すぐ近くまで来ているのに、なかなかたどり着けない俺らを見て、笑いたいんだよ、あの趣味の悪い王さんは。さっきの正解ルートは左だろうが、あっちに行ってればここに着くまでに散々遠回りさせられたろうさ。ま、俺は思い通りにはなってやらないがな」
 上るぞ、と言われて上った。あかりはどんどん強くなる。それと並行して、眠くなっていくような気がした。だんだん、瞼が上がらなくなる。足が重くなって、ついに倒れた。
「おかしい……な……」
 意識が闇に落ちる寸前、男の声を聞いた。
 ▼あなたが五人目の犠牲者です。

【18】
 あかりが恋しい。はやく、はやく、外へ。階段を駆け上る。光は強くなる。しかし長い。いつになったらたどり着けるのか。溜まってきた疲れが、足にまとわりついて歩みを鈍らせる。そこから身体全体へ広がっていく。ああ、眠い。一眠りしても大丈夫だろうか。そうだ、少し休憩して、また登ればいい。疲れた。休もう。大丈夫だ、少しだけ。目を閉じても、まだあかるい。でも、なんでだ、寒いな。身体がどうしようもなく重い。もう、なんだっていい。とにかく眠りたい。全て忘れて、ただ眠るんだ。
 そうして落ちたのは、永遠に醒めることのない闇の中だった。
 ▼あなたが六人目の犠牲者です。

【19】
 臭いがした。巻きつけた布を通して。これは、ガスの臭いか? 危険を悟る。逃げなくては。また二又になっているようだが、臭いは前方から流れてくる。左だ。左に行こう。急げ。致死性のガスなら、長く吸ってはいけない。駆けながらも、壁に手を添えることは忘れない。ずっと、一続きだ。分かれ道はない。折れることはあっても、一本道。これはどこまで続いているのだろう。
 と、左右同時に壁が途切れた。正面にも壁はない。どうやら三叉路だ。
 a)右へ⇒【21】へ
 b)左へ⇒【22】へ
 c)正面⇒【23】へ

【20】
 左へ。慎重に進もう。だが、なんだ? 鼻と喉が痛い。目も痛む。口と鼻を手で覆った。知らず、膝が折れる。つつっと、鼻から何かが流れる。生温かい、どろりとした液体。見えないが、血だろう。そのときになってやっと、麻痺していた嗅覚が戻ってきた。異臭、これは、何かのガスの臭いだ。毒ガスか? 逃げなくては……だが、身体が動かない。咳がこみ上げてきた。何かが一緒にせり上がってくる。口から溢れて、床に散った。これもきっと血だ。力が抜ける。苦しい。突っ伏した。自分の血は、熱いくらいに、温かい。
 ▼あなたが七人目の犠牲者です。

【21】
 選んだ道を進む。ゆっくり。十歩目だった。がくん。音がする。足元だ。視線を落とすが、何も見えない。そのとき、床が消えた。支えを失った身体が、傾ぐ。両手で何か探すが、何もない。空気だけを掴んだ。
 衝撃。自分の胸を、腹を、手足を、何かが。痛い。動けない。とても痛い。
「あ、あ、あ」
 息をしようと口を開けば、空気は喉を通らず、かすれた声が出てきた。苦しい。もういい。楽になりたい。そっと瞼を落とした。
 ▼あなたが最後の犠牲者です。

【22】
 【21】へ

【23】
 正面の道を行くと、ふいに腕を掴まれた。振り返る。少女がいた。肩で切りそろえた髪、つぶらな瞳、あどけない表情。闇の中であるはずなのに、姿かたちはしっかり分かる。少女はほんのり輝いているらしかった。
「お兄ちゃん、わたし、お兄ちゃんと一緒に行く」
「おまえみたいなのも、黒箱の刑に処されたのか」
「わたし、お兄ちゃんと一緒に行くよ。そこね、危ない。ジャンプして」
 手を握られる。伝わってくる温かさに、とても安らいだ。言われるとおり、前へ飛ぶ。何も起こらなかった。少女は少し笑った。
「そこにね、落とし穴があるの。落ちたらね、体中穴だらけになっちゃうよ」
「なんで知ってる?」
「わたし、お兄ちゃんと一緒に行くの」
 少女はそれからも、共に歩きながら、つぶさに指示を出してきた。
「だめだよ。一歩だけ踏み出して、すぐに戻るの」
「ちがうちがう。そっちは間違い。ここは右」
「お兄ちゃん、それはゴールじゃない。うそゴールだよ。本当のゴールはね、こっち」
「壁から手を離して。そこから剣が出てくるの」
「お兄ちゃん、また跳んで。そこ歩いたら駄目」
 長い間、歩いた。どれだけ歩いたか分からない。でも、一度も異変は起こらなかった。そして傍にはずっと少女がいた。心強かった。
「お兄ちゃん、おめでとう。そこがゴールだよ。その階段、五段目と、十三段目は飛ばして上ってね。それから、ゴールの扉は上の方を押して開けるの。ちょうどお兄ちゃんの頭くらいの高さ。他の場所を押したら、死んじゃう」
「おまえは来ないのか?」
「わたし、お兄ちゃんと一緒に行きたい。でもまた、今度のお兄ちゃんが来るから、ここでばいばい」
「そうか……」
 少女が生きてはいないだろうことは、うすうす気付いていた。少女には実体がなかった。光だ。あかり。幽霊ではない。そう呼ぶには、少女は温かすぎた。
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「ありがとうな」
 聞いて、少女はにこりと笑った。
「お日様、すぐそこだよ」
 少女が消えると、また一面の闇が戻ってきた。しかし振り返れば、はるか高いところに扉が見える。そこから光が漏れていた。紛れもない、外の陽のあかり。階段に足をかける。指示通り、五段目と十三段目には触れない。たん、たん、たん。迷わない。そのうち、駆け出す。息を切らして上りきった。たどり着いた。そして頭の高さへ、腕を。
 目を閉じて、全身に陽のあかりを浴びる。温かく優しく、とても心地良かった。
 果てしない希望が、そこにはあった。
メンテ
天の使い ( No.22 )
   
日時: 2011/09/20 22:18
名前: 匿名 ID:HtdY4bCM

 雪がしんしんと降る中。少女と少年が話している。
 その姿は随分みすぼらしく、彼らを気に留める者は居らず、話していることを誰も聞き耳立ててまで聞こうとはしない。
 まばら雪の、足跡付き絨毯が敷き詰められた煉瓦葺きの街中。黄や青のネオンが輝き、人々はみな浮き足立っているようだった。
 時折耳に届く、幸せな夜をというようなフレーズの音楽に、聞き入っているように楽しげである。
 もしくは、はるか高くに積み重なった、屋根の上のネオンの反射に目を奪われているのであろうか。
「もう、なんてことだわ!」
「そう言うなよリリー。試験は毎年あることだろ?」
「マクスウェル……そうですけれど。でも、なんでよりにもよって、今年の昇格試験が『恋の成就』なんですのー?!」
 そんな聖夜の夜に、少女の声が響いた。耳に心地良い、澄んだ声だった。
 彼女の名はリリー。少年の名はマクスウェルと言うようだ。
 リリーは茶色の大人しめのエプロンドレス。それにブロンドの髪と翠の瞳。髪は服装とは違い、空気をたっぷり含んだようにふんわりと鮮やかに輝いている。
 マクスウェルも色は同じ茶のスーツ。それに眼鏡をかけていた。ライトブラウンの髪に碧い瞳で、やや怒ったような顔つきをしている。
 二人とも、歳は十を少し越えたくらいの幼さに見える。
「ふー。叫んだら少しは落ち着きましたわ。さて、それではどのような方のお手伝いをしましょうか」
「そうだな。やっぱり、簡単なのがいいかな。とは言っても……」
「簡単なのって、一体どういうものなんでしょう?」
「そうなんだ。僕もそれが言いたかった。リリー。君、恋をしたことは?」
「あるわけないですわ。天使(エンジェル)とはみな兄妹のようなもの。そうでしょう? マクスウェル」
「……あるわけないよな」
「何か言いました?」
「いや、天使たるもの我欲はよくないな、と」
「そうですか」
 リリーは数歩前に進んだ。そして、マクスウェルを振り返り見る。
「とにかく、探してみましょう」
 微笑んだ顔は、幼さが五割増しだ。マクスウェルはそう思った。


「なかなか恋の成就を“されたい”というような人が見つからないな」
「そうですわね」
 二人はさきほどの場所で唸った。
「おや、可愛い坊やたち。こんなところで何をしているんだい?」
 彼らに声をかけてきたのは、一人の老婦人だった。
 優しそうな顔をしており、身なりから見てそこそこ裕福そうではある。
 手には大きなバケットが顔を出した紙袋を持っており、なんとも良い匂いが漂ってくる。
「なんでもないですわよ」
「リリー。そんなつっけんどんな返し方があるかよ。おばあさん、すみません。気にしないで下さい」
 マクスウェルがリリーの言葉を詫びる。その行為に、彼女は少し不満気であった。
「気にしないで。そんな風に言われるのも慣れているわ。むしろ懐かしいくらい」
 おばあさんはどこか寂しそうな顔をした。けれど、それはほんの一時のことで、すぐにまた楽しそうな、なんとも言えない顔に戻った。
 きゅる。きゅるるるぅ。
 突然、奇妙な音が鳴った。
 マクスウェルは音のした方見る。そこには真っ赤な顔のリリーがいた。
「あらあら。まるでトナカイさんのような顔ね。お腹が空いているのかしら?」
 おばあさんはくすりと笑い、「よければ家にいらっしゃい。今日はスープをたくさん作っているから、ぜひ来るといいわ」


「そう。リリーにマクスウェルと言うのね」
 おばあさんは二人を家に招き入れ、スープを温めなおしながら言った。バケットはすでに小さく切られ、テーブルに置かれたバスケットの中に鎮座している。
 部屋はバケットの香ばしい匂いと、スープの良い匂いで充満しており、ついにはマクスウェルのお腹の虫も鳴き出した。
「元気な子たちだね」
 おばあさんは微笑み、温め終わったスープをお皿に注ぎ、テーブルの二人の前。そして自分の前に並べ置いた。
「さぁ、熱いので気をつけて召し上がれ」
 優しげな笑みに懐かしさを感じつつ、二人はおいしそうなスープを口に運び始めた。
「おいしい……」
「うん……」
「そう、それは良かったわ」
 おばあさんはまた微笑み、自分も口につけた。
「うん、上出来ね」
 二人とおばあさんは顔を見合わせ笑い合った。
 そして。
 空腹と幸せのスパイスを加わえたスープとバケットは、何よりもおいしい食事だった。
 心とお腹が満たされた二人とおばあさんは、先ほどより何倍も幸せな顔をしていた。
「でも、どうしてあんなにたくさん作っていたのかしら?」
「本当なら、今頃息子たちが帰ってくる予定なの。でも、こんな時間になっても帰って来ないのは、きっとお仕事が急がしいのだと思うわ」
 少し寂しそうな顔をした。
「ねぇ。どうせ試験はクリアー出来ないんだし、おばあさんの願い事を叶えるって、どうかしら?」
 リリーはマクスウェルにだけい聞こえるよう、小さな声で言う。
 彼はその提案に、少し考えた後首肯する。
 彼らは二人で一つのことしか、叶えてはいけない決まりがある。もし、ここで本当におばあさんの願い事を叶えてしまえば、もう今年の昇格試験の参加資格を失ってしまう。
 しかし。
「それはいい考えだ。どうせあと数時間しか時間は残されていないんだ。今から探しても見つかるか分からない。それよりも、優しいおばあさんに恩返しがしたい!」
 リリーは、マクスウェルの返事を聞くと、おばあさんを呼んだ。
「おばあさん。もし願い事が一つだけ叶うとしたら、どんなことをお願いしたいですか?」
「え? そうね……おじいさんにもう一度会ってみたいわね」
「分かりました。そのお願い。叶えてみせます!」
 二人はそう言うと、手を繋ぎ祈るように瞳を閉じた。そしてリリーは右肩を。マクスウェルは左肩をくっつけ合う。
 次の瞬間、背中から二人あわせて一対の大きな白い翼が光とともに現れた。
 服も真っ白に変わっていく。新品同様の美しい、染み一つないエプロンドレスとスーツに。
 最後に、頭の上に陽のように輝く環が二つ浮かび上がった。
「おじいさんはすでになくなっているようだな」
 マクスウェルは瞳を開き言う。
「それじゃあ、ほんの一時、夢を見るかのように会うことしか出来ないですわ。それでもよければ、ここに死者を呼び連れましょう」
 リリーも瞳を開き言った。
 おばあさんは、彼らの服を、翼を、環を見た後、顔を見てこくりと頷いた。
「それでは、ほんの一時。死者との歓談の場をここに」
「天使の命により」
「楽園よりこのおばあさんの旦那さんを」
 おばあさんは幻を見るかのように、涙を流した。
 温かい何かが、心の中にぽっと灯るのを二人は感じた。


「合格、合格ー」
 鐘の音とともに声が響いた。
 けれど、道行く人にはその声は聞こえていないようだ。
「まさか、あれが恋の成就に入るだなんて驚きましたわ」
「僕もだよ」
 笑い合う二人は、喧騒の中へと解けていった。
 その時、真っ白な羽が二枚。風に乗って飛んでいった。
メンテ
彼らの英雄 ( No.23 )
   
日時: 2011/09/20 22:41
名前: 匿名 ID:l2TbYzyg



 本当にろくでもない時代だ。道行く人々の表情は暗く、かつては店が立ち並ぶ繁華街であっただろう場所はさびれて生気を失っている。食料や生活品は国によって統制、十八歳以上の男は兵士として徴収される、そんな時代だ。すべて、想像どおりだった。
 さすがに、死体を見たときはぎょっとした。それは人の姿をとどめていなかった。腐りかけたかたまりに、ハエがたかっている。目をそらさざるをえなかった。いやなにおいが鼻をついて、思わず手で鼻と口をおおった。それでも悪寒は消えない。道の片隅で吐いた。吐瀉物をそのままに、路地裏にふらりと入りこむ。町を汚したけれど、きっと住人たちは気にしない。そんなことに余計な気をまわしている余裕なんてない。放置されたままの死体が証拠だ。
 早く帰りたい。こんな時代に生まれなくてよかった――六十年後だってひどいものだし、全然好きじゃないけれど。
 冷たい風が狭い道を通りぬけていく。冬がはじまろうとしている。
「お姉ちゃん!」
 幼い声が前方から聞こえてきた。
「アカリお姉ちゃん」
 最初のものとは別の子どもの声。しばしの騒ぎのあと、しゃべる声は聞こえなくなった。足音をたてないように声のしたほうへと向かう。
 道を曲がると、人影が見えた。陰から顔だけ出してようすをうかがう。
 穴だらけの薄汚れた服を身にまとった数人の子どもが、パンをむさぼっていた。孤児にちがいない。子どもたちのなかに、よく知る顔があった。敵軍の無差別爆撃の際にうけたという顔半分を覆う火傷のあとは、見間違いようがない。彼が孤児だったことは、彼自身に聞いていた。
 子どもたちはひとりの軍人を囲んでいた。軍服から、この国の兵士だということが察せられる。女性兵だった。この国で徴兵されるのは男だけだから、おそらく自分から志願して軍に入ったのだろう。十八歳の私とたいして変わらない年頃だ。まだ顔に幼さを残していた。
「ありがとう、アカリ」
 火傷をあとが残る少年が言った。彼に続いて、他の子どもたちも感謝の言葉を口にする。女兵士は何も言わずにほほ笑んだ。そうして子どもたちを残して去っていく。
 あれがアカリ。
 なんだ、と思わずにはいられなかった。養父はことあるごとに彼女を英雄だと言っていた。だが実際はどうだろう。
 こっそりとアカリのあとをつけた。案の定、アカリは無断外出したことを上司に咎められていた。すみません、と彼女は言う。それだけだった。さらに私は落胆した。
 与えられた食料を孤児に分け与えるだけか。そんなことはなんの解決にもならない。そのうちに兵士のための食料すら支給されなくなるのだ。そのときに彼女はどうするつもりなのか。馬鹿げた戦争を終わらせろとは言わない。ただの一般兵である彼女にそんな力はないのだから。でも、英雄ならばそれ相応のことをしているとばかり思い込んでいた。

 次の日もアカリは食料を持って、路地裏の孤児たちのもとへ向かった。彼女の訪れを子どもたちは喜んだ。それを影からそっと見守っていた。その次の日も、そのまた次の日もアカリは現れた。あの子どもたちだけではない。アカリはそのほかにも困っている人々を訪ねてまわっていた。怪我人がいれば手当し、死体を見つけるたびに手を合わせ丁重に埋葬した。たしかにアカリはいい人だった。だが――『英雄』ではない。携帯食料をかじり、一目につかない場所で眠り、私は機会を待った。

 足元で何かのはぜる音がした。何対もの目が私をとらえる。
「ひっかかった」
 火傷のあとがある少年が言った。
「おまえ、ここんとこずっと俺らのこと見てただろ。何も言わねえからもうここに来るな。答えがノーなら」
 少年はズボンのポケットからナイフを取り出しかまえる。
「おまえを殺す」
 養父の名を呼ぶ声がして、その場の空気が張りつめた。駆けよってくるとアカリは、少年の手からナイフをたたき落とした。むなしく金属が転がる音。
「アカリ」
 戸惑う少年に、アカリはただ首を横に振った。他の子どもたちは互いに顔を見合わせる。少年の頭に手をおいて、彼女はこちらを見やった。
「あなた、家は?」
「ちゃんとあるよ。ただ通りかかっただけ」
「そう、それならいいわ」
 たいして年も変わらないだろうに、アカリの口調は子どもに対するそれと同じだった。たしかに彼女は生まれた年だけを考慮するなら、はるかに年上だけれど。
「自分より大きな人を相手にしてはだめ。そういうときは早く逃げなさい。もしも敵軍の兵士だったら投降しなさい。彼らはあなたたちを悪いようにはしないから」
 投降しろ? その言葉に反吐がでそうになった。
「甘いよ、あんた」
 敵軍はこの国の軍に比べてずっと捕虜に親切だ。投降した人々を殺さないばかりか、彼らに食料を与え命の安全を保障した。それは歴史が語る事実だ。だが、その代償として敵はこの国の人々の自由を奪った。
「敵に捕まったら好きに意見を言うことだってできなくなるんだ」
 敵国――六十年後はこの国を支配している――の批判をするだけで政治犯として刑務所行き、そんなことが許されるはずがない。
「――いいじゃん、そんなの」
 予想外の言葉に虚をつかれた。
「生きてられるんなら、それだってかまわないさ」
 傷のないほうの口角だけが上がった。
「俺、この戦争が終わったら発明家になるために勉強するんだ。アカリが、俺は手先が器用だから向いてるって。戦争さえ終われば、生きてさえいれば、どこでだってできるだろ」
「あたし、みんなが元気ならそれでいい」
「ぼくも……」
 彼らはみんなアカリの甘言にだまされている。抵抗をやめてはいけないのに。アカリは何も言わない。目が合う。きっと彼女の目には怒りに燃える私が映ったことだろう。アカリは違った。ただ、ほほ笑んだ。それだけだった。それだけだったのに、私は喉まで出かかっていた反論のための言葉を失った。
 かわりに火傷を負った少年に言う。
「あんた、いい発明家になれるといいね。さっきの罠、気づかなかったよ」
「だろ?」
 彼はにっと歯を見せて笑った。時間を遡れる装置を発明した、と真っ先に私に報告してきたときと同じ表情だった。

 アカリは今日も上官に叱られていた。そこへ「またか」と顔を出した人物の姿をみとめて、腰に隠していた小型銃に手をのばす。敵軍が攻めてきたときに、民衆を置きざりにして兵をひきあげた司令官。彼を殺せば、他のもっとまともな軍人がまともな判断をして、敵軍の占領を防いでくれるにちがいない。生まれたばかりの私が、両親を亡くすことはなかったのだ。養父が憲兵におびえながら、地下に隠れなくとも自由に発明できるのだ。この男さえ殺せば――。
 銃をかまえる。手が震えた。アカリのほほ笑みがよみがえる。生きていれば、それでいい。甘い考えだ。だが、強い言葉だった。六十年後の自由のためにこの時代に来たはずなのに、私に歴史を変えることはできなかった。帰ったら、また不自由な暮らしが待っていると分かっていても、引き金にかけた指が動かなかった。
 きっとアカリは司令官の命令に逆らいきれないだろう。それでも、民間人のために自分の考えつく最大限のことをするだろう。私には彼女が英雄だとは思えない。だが、養父や彼女の助けを得た人々の目には私が見るのとは違う姿が映るのだろう。
 養父は、私のことをどう思っているのだろうか。彼の英雄みたくなってやるものかとは思う。一方で、彼女のことを否定できない自分もいる。ここはほんとうにろくでもない時代だ。無性に養父の顔を見たくなった。話を聞いてみたくなった。銃をしまって通信機を取り出す。通話口に向かって養父の名を言う。
「アカリです。今から帰ります」
 私は、この名前と、名前をくれた人と、名前をもらうまでの過程を失いたくなかったのだ。
メンテ
あ か り ( No.24 )
   
日時: 2011/09/20 23:05
名前: 匿名 ID:SwkMRhwY

 アンドリューの前に魔界の女王竜姫が立つ。彼の仕事は魔法使いハンター。竜姫によって奪われた世界中の魔力を取り返すこと。アンドリューは数多くの魔法使いを倒してきた。彼の任務は今終わろうとしている。竜姫を倒せばアンドリューの戦いは終わるのだ。
「アンドリューとは貴様のことか。可愛い顔立ちをしておるな」
 竜姫は挑発的な笑みをみせる。赤いオーラが彼女を纏う。過大な魔力を得た魔法使いは感情が魔力として溢れ出てしまうとアンドリューは聞いたのを思い出す。
「竜姫、お前は俺が必ず殺す!」
「アンドリューは異世界の人間だと聞いていたが……随分と流暢な言葉遣いだな。過酷な旅の中で習得したか? 利益もないのに、よくもそこまでやったものだ。アキバに行きたかったと聞いた。考え次第ではわらわが連れていってもよいぞ?」
 竜姫の言う通りアンドリューは元々この世界の人間ではない。アンドリューは元々日本大好きなカナダ人だった。カナダで必死に働いて念願のアキバへ旅行できるだけの資金を得た。旅行が実現し羽田空港に到着した時。アンドリューはこの世界へと召喚された。
「考え? 竜姫も対したことないようだな。アキバには行きたいが、この世界の王は俺をサムライにジョブチェンジしてくれえることを約束してくれた。可哀想だが俺の考えはそういうことだ」
 竜姫に剣を向ける。赤い竜姫のオーラに黒が混ざりはじめる。
「可愛がりの無いやつめ。竜の血を引くわらわを簡単に倒せるとは思うな!」
 青空は一気にどす黒い雲に包まれる。雷を帯びたその雲は竜姫を中心に渦を巻く。竜姫は君の悪い笑みを浮かべながらアンドリューを見る。アンドリューは竜姫へと飛びかかる。雷がアンドリューへと襲いかかる。竜姫の雷はアンドリューをすり抜けて地面へと落ちる。アンドリューは魔法の無い世界で生まれた。彼には魔法が効かない。竜姫の胸をアンドリューの剣が貫く。アンドリューが剣を剣を抜くと赤黒く瘴気に満ちた血が溢れ出す。
「ア、アンドリュー……!」
 かすれた声でアンドリューの名を呼ぶとゆっくり倒れた。竜姫は天へと真っ直ぐに手を伸ばし何か声にならない声でつぶやくと力尽きた。彼女の最後の顔は今まで見せていた恐ろしい顔ではなく美しい笑顔をだった。

 竜姫から世界の全ての魔力を集めた竜の宝玉を奪うと王都へと向かう。アンドリューはあることを考えていた。考えているのは竜姫の最後の顔。彼女はどうして笑っていたのだろうか。アンドリューは考えていた。
「彼女は私のことをよく知っていた。旅行の話はほとんどの人が知らないはずだ。後々考えると、竜姫は私に魔法効かない。勝てるはずのない相手だということを知っていたのではないだろうか。竜姫はなぜ……」
 アンドリューは自分の召喚について聞いた話を思い出した。カレンという竜姫の一人娘が召喚をお行ったらしい。竜姫はカレンをたいそう可愛がり屋敷から一歩も出さずに大切に育てたという。愛した娘のために魔法を独占したという噂もある。
 カレンがはじめて屋敷を出たとき、はじめて世界の現状を知った。竜姫は魔力を独占して人々を苦しめているこを知り、大いに悲しんだ。憧れてた母の悪行を償おうとカレンは世界を救う大召喚を行った。必ず術者の命を奪うという大召喚を……
 竜姫を倒した場所から随分離れ、王都はもう目の前だった。アンドリューにおかしな考えが浮かぶ。
「カレンの子供であり、竜姫の孫なのかもしれないな俺は」
 竜姫はアンドリューのことを恨んでいるにおではないかと思っていた。あの笑顔、あの最期を見たアンドリューは自分が恨まれていないかもしれないと思った。彼の考え方は変わりはじめていた。
「竜姫は天へと手をのばしたのではなく俺に手のばしたのではないか……」
 アンドリューは竜の宝玉を見る。カレンの救いたかった世界が救えるもの。竜姫が自分の命を犠牲にしてまでもアンドリューに託したもの。アンドリューはこの宝玉の始末を自分でつけなければならないと思う。
「彼女たちの意志を継がなければいけない」
 竜の宝玉をぎゅっと握ると王都へと向う。アンドリューの目には召還されたときとは違う決意があった。
「彼女たちの意志を継ぐには魔法が使えなくてはならないな。了解、約束どおりサムライへジョブチェンジさせてもらおう」
メンテ
夜桜月光華 ( No.25 )
   
日時: 2011/09/20 23:50
名前: 匿名 ID:KKfcFcL.

 月明かりに照らされ、剣を振るう女がいた。その女の辺り一面を見た者はそれが血だと理解するだろう。大地を征するその流れ出たものは、異様な光をたたえて月を映し、女を映していた。キンッと、刀を鞘に戻す際に放たれる音が静寂を破った。そして、女は切り捨てた者と大地に染み付いた血を背に歩きだす。己を待つ愛しき者が居た我が家へと。

「おかえりなさい! お母さんっ」
 家へと足を踏み入れるといつも娘の声が家中に響く。まだ歳七つの娘を一人にして外に出る度に苦しい気持ちになるが、生活していくためには仕方のないことであった。
「ただいま、千代」
 千代、と呼ばれた娘はにこりと笑う……が、そこには誰もいない。いつも娘のあどけない表情を浮かべた顔を見ると、辛いことさえ忘れてしまうような感じがする。そんな生活が、今日も続いているものだと女は思っていた。
 女は娘と二人で暮らしていた。父はなく、母も娘も、二人だけで暮らしていて寂しい思いをした覚えはなかった。それが幸せだと信じていたから。それが永遠に続くと思っていたから。しかし、それは長くは続かないものだと気づいたのはいつなんだろうか。こうも運命は残酷なものであったのか。女は、あのとき痛感したのだろう。そして、神をも呪ったことだろう。

 女は農作業の傍ら、暗殺者としての仕事もこなしていた。仕事によってはその身体を売り、その一瞬の隙を狙って仕事をしたり、高貴な貴族に身を装って仕事をするということもやっていた。千代は、仕事の際に身体を売ったときに孕んだ子だった。もちろん、暗殺を頼まれたからには相手の命を絶たなければならない。父親がいなかったのはそのせいであったからだ。娘には「病気で死んだ」と話しているが、真実を知ってしまったら、千代はどのような気持ちで自分と接してくれるのだろうか。娘は……自分を母親として見てくれるのだろうか。女はいつもそんなことを考えていた。娘と接しているときも、仕事をこなしているときも……。
 そんな中、いつものように仕事が依頼された。相手はとある町の長。しかしいつもとは少し変わった内容であった。その長は人の姿に偽って居座っているという。しかも、それは人の命を全て食らうと、獲物を探すために次の町へと転々としているという。たわいもないことだと思いながら、女は町の大通りを歩く。月明かりが女の頬を、首筋を、胸元を、そして太股を照らす。青白く輝くその美しい体躯から、細い刀が伸びていた。桜舞い散る月光の元、ただ仕事をこなす寡黙なる暗殺者……人は彼女を、夜桜花月と呼んでいる。

 暗殺したるその姿は、一輪の花のごとし。

 これは、とある戦士が死ぬ間際に遺した言葉である。文字通り、血で汚れたにも関わらず、返り血で深紅に染まったその身体は妖艶に、一輪の花と見紛うように美しく、華やかであった。地面へと向かって伸びる細い黒髪のなびく隙間からは、ひらひらと夜風に運ばれてゆく桜の花びらが舞い降りて、そして静かにゆっくりと落ちていった。

 長は深い眠りについていた。明日があることを夢見ているのか、女はそう思っていた。だが残念だったな、お前に明日など存在しない。ゆっくりと、長の目が覚めないように一歩一歩近づいていく。刀に込める力がよりいっそう強くなった。そして、長のすぐ傍にまで距離が縮まると、首筋にそっと刀を当てた。次に、喉仏に刃先を当てる。そして、静かに、小声で呟いた。
「人の姿を偽り、人の生命を脅かす邪悪な存在よ……今このときをもってその命、ここで絶たせてもらう」
 そのときだった。長の身体から鋭い突起物が布団を突き破って女へと伸びたのだ。間一髪のところ、かわすことはできたが、ここでは満足に剣を振るうことが出来なかった。長を見たときは、もはや人の姿ではなく、まさに異形と呼べるものだった。蛇、という表現がいいのかもしれないが、もはやその蛇と呼ぶにしては形が歪であった。おそらくさっきの突起物も、その歪んだ身体から放たれたものだろう。そして、再びその突起物をくりだそうとしている。
「ここでは満足に刀を振るえないか……」
 瞬間、女は異形と化した長の背後にある窓へと駆け出した。そしてすぐさま長の身体から突起物が放たれた。刀で切り捨てようとしても、その外皮は固く、強い振動が女の腕へと響いた。その瞬間、女の身体を長の尾が捕らえた。ぎりぎりと締め上げたかと思えば、今度は窓から女を投げ出した。強い力で締め上げられたため、女は力が出ずにそのまま地面へと叩きつけられることとなった。激痛が全身を駆け巡る。すぐ目の前には魔物が迫っていた。
 ――やられる……!
 その瞬間、女は目を疑った。魔物に締め上げられる人の姿を、その姿が自分の娘であったことを……。

 それからのことは、よく覚えていない。気がつけば辺り一面血だらけであること、魔物が無惨にも細かく切り刻まれていること、そして、自分の娘の亡骸を。女は、震える腕で娘を抱き上げた。生命が消えた殻となってしまったその華奢な体は、とても軽く感じた。あどけない表情で笑って自分の帰りを待っていたその表情を浮かべたまま、娘は静かに眠っていた。おそらく、自分の跡をつけていったのだろう。そして、身代わりとなって自分の前に出てきたに違いない。女は己の無力さに絶望した。そして、これが嘘であってほしいと願った。そして、あのとき己が息の根を止めていればと後悔した。しかし、それは無惨にも叶わぬ願いとなってしまった。もう二度と娘を抱くことは出来ない。もう二度と娘の笑顔を見ることが出来ない。もう二度と娘と言葉を交わすことも出来ない……。
 女は娘の亡骸を抱いたまま泣き崩れた。その姿を、無慈悲に月明かりが照らしていた。
メンテ
恐れられた一面の花々を夢見て ( No.26 )
   
日時: 2011/09/20 23:58
名前: 匿名 ID:PBuGAs8Y

「お花畑、というものを見たことはありますか?」
「いいえ」
「そうですか、私もないのです。見渡す限り、花ばかり揃っているそうよ。地平線までもが、様々な色で埋め尽くされているそうよ。さぞかし、綺麗なのでしょう」
 いいえ、いいえ、いいえ。あの花が綺麗なわけないでしょう。使い方を間違えれば、人さえも簡単に死に貶めてしまうもので。あれほど不気味な恐ろしさを与えてくるものを、私は知りません。
「そんなことないわ。だって、あれは彼等の最期の舞い。最期の力を振り絞って放出されるエネルギー。そんな姿の彼等を愛さずに、私たち引捉師(いんそくし)は何を支えとして、頼るのですか」
 でも、あれだけは。
「嫌なことばかりではありませんよ。……では、こうしましょう。明日から私のところにおいでなさい。様々なことを教えてあげます。そしていつか」

「探しに行きましょうね。彼等の楽園を」

 空想の花畑を想像した大先輩は、手を胸の前で合わせ笑った。とても嬉しそうに、彼女の全ての理由を詰め込んだ気持ちを、全身全霊で表現する。

 ≫

 ユシオ先輩という、大先輩がいる。
 ただ先輩といっても、アクセラレートでの先輩ではないし、卒業生でもなく、ましてや教師でもない。私の憧れる促進師であり、勝手に慕っているだけというわけだ。引捉師というのは、促進の能力を持つ一部の人がなれる職業である。そしてその内容は、飛獣という街や人々に害を与える生き物を駆除するというものである。ユシオ先輩は、引捉師でありながら。その仕事とは別に、特別活動等で使用される特水の確保、保管のためにアクセラレート専門学校に出入りしている。
 また、アクセラレート専門学校というのは、促進の能力の使い方を学ぶための学校である。専門学校というだけあって、将来引捉師を目指す人たちばかりが集まっている。
 そして、ここで特水と引捉師という二つのキーワード出てくる。
 特水は、普通の水ではないという区別からその名を付けられた。何とも安易な名前だと思うが、様々な人の間では既に定着しているものだ。元は《花》を原料としていたそうだが、最近は人工の特水ばかりが流出している。今自然界に探しにでても、花がほとんど見られないということが理由である。そして、特水は。私たち引捉師(私の場合、まだ見習いではあるが)にとって欠かせないものなのだ。
 赤、青、黄の三種類があり、花も人工物もその三色しか存在しない。しかし、引捉師はそれを自由にカスタマイズして使用しているため、特水を配布されるところぐらいでしか、原色を目にする機会はない。そして、そのカスタマイズの例を上げると、長時間の効果が期待できる形。威力だけを追求した形。空高くまで舞い上がる形。自分の身に纏い防御に徹底する形。自分の好みで混ぜ合わせ、様々な効果を手にしているのだ。
 以前、ユシオ先輩に詳しく引捉師について教えてもらったことがある。
「よく本に出てくるような、……魔法が使えたら便利なのでしょうに」
 物の雪崩の起こった自室で、片付けを諦め掛けたときの独り言を先輩は聞き付けた。引捉師の見習いではなく、魔法使いの見習いだったら。ぱぱっ、と一振りで部屋が片付くのにという思いからのものだった。
「引捉師も、魔法使いと似たようなものよ?」
 この世界にはない、魔法。お伽噺に時折登場する夢。
「そうね、架空の魔法使いと私たち引捉師を重ねて考えてみると。《魔法を使う》が《促進する》で、《魔力》が《促進の力》で、媒体が《花》または《特水》で、《魔法》が《エネルギー》よ。今は特水が出回っているけれど、かつて人々は花を促進させて、そのエネルギーを得たわ。赤い花は燃え炎となり、青い花は溶けて水となり、黄の花は空気に溶けて風になる。そのエネルギーの主導権を握るのよ。そして、この自然エネルギーは花を《使う》ことにより、発生するのよ。私たちが促進して、手を加えなくとも。花が寿命間近だと、そういった現象は日常的に起こるのよ。……今ではもう、普段の生活で目にすることはないでしょうけれど」
 そして、ユシオ先輩は哀しそうに微笑んだ。
 窓から入ってくる風は、本の下に積まれた紙を吹き飛ばそうとしながらも失敗する。代わりに、私たちの衣服や髪など軽い、あらゆるものを悪戯するかのように靡かせた。大先輩の、緩いウェーブの掛かった髪は風に揺れ、よりいっそう愁色が強調される。色が茶ということも、強調の一部になっているようだった。……大先輩は、恐らくこう続けたかった。それは、――

 ≫

「おっと、足が滑った」
 嘲笑の含んだ野太い声だった。そして、その言葉を遮るかのように、水飛沫の音が辺りに響き渡る。音の原因を目にして、男は再び笑った。優に身長は二メートルを越している大男であり、私の見覚えのない人であった。
 大男の目に映っているものは、広場の噴水とその池に浮かぶ木箱や小瓶、そして私。ぎらぎらと輝く太陽を背に、私は地面に手をついた。
 今の状況を説明すると。大男が歩いていた私の足を引っかけたため、自ら木箱を池の中に投げ込んでしまうということになる。
 私が呆然とレンガの上にへたり込んでいる間にも、木箱は水を吸い、変色しながらどんどん沈んでいく。ぷかぷかと浮かぶ小瓶の中身は、既に池の水と混じっている。無色透明であった池には三色が加わり、色とりどりの噴水となり始めいている。その特水は、薄まりすぎてもう使えない。一瞬だけ、池の水が光ったようにも感じたがそれはどうでも良いことだ。池の水の中へ投げ込まれなかった小瓶も、レンガ張りの地面に衝突して割れている。大先輩に頼まれた仕事だっただけに、その衝撃が強く上手く言葉が出なかった。
「な、な、な……」
「悪いな、ちょっと余所見してて足を引っかけちまった」
「特水が、全て……零れて……使えなくなって…………」
 その瞬間は、ここだけの問題で終わらなかった。周りからも、くすくすと笑い声が聞こえ初めたのだ。私は羞恥心で俯き、悔しさで目に涙を浮かべることになった。絶対に泣いてなんかやらないのだから、と唇を噛みしめる。
 そして、この広場の野次馬たちは、そんな私のことなど気にも留めず、各々の行動を始める。
 笑う、囃し立てる、割れた瓶を広う、教師を呼ぶ、雑談をする、罵倒する……。
「アクセラレートの恥さらしが」
 それが誰の言葉だったのかは分からない。ただ、それが私を指す言葉だけというのは理解できる。肩で切り揃えられた髪が風に吹かれ、ちくちくと首に当たるのを感じながら、とりあえず元凶の大男を睨みつける。
 ある休日の昼下がり。アクセラレート専門学校の広場での出来事だった。



「……エル」
「ごめんなさい」
 困ったように、私の名前を呼ぶユシオ先輩を直視できない。丸机一つを挟み、私とユシオ先輩は向かい座っていた。そこは、学生の中で安いと評判のお店だった。薄暗い店内であるが、中に充満した木の香りが心地良い。
「もう、謝らなくても良いのです。私が、特水の取引先の人と話し込んでいたから……押しつけてしまいましたね」
 エルがアクセラレートで疎まれているということは、知っていたのに。
「そ、そんなことはありません! 学校でユシオ先輩に、引捉師に会うなと決められていますが、私が疎まれていることは性格からです! 規則を破っているということが原因ではないのです! だから、ユシオ先輩は関係ありません。私の性格がとことん悪いことが原因です!」
「……エル、そこは堂々と胸を張って言えることではありませんよ」
 それに私は、エルの性格が悪いとは思いませんよ。ただ、恥ずかしがりやさんなだけですよね。
 うふふ、と華麗に笑う大先輩を前に、私は怯む。どうしてこう……恥ずかしいことを平然と言えるんだ。
「とまあ、エルに関してのお話はこの辺にしておいて……本題に入りましょうか」
 ユシオ先輩がそういった瞬間、私たちの間に緊張が走る。今までの和やかな雰囲気は何処に行ったのかなどの詮索は、意味がない。ユシオ先輩は、仕事で特水を扱っていたのだ。それを無意味にしてしまった罪は重い。
「今日エルに運んでもらっていた特水。ざっと二ヶ月分はありました」
「に、二ヶ月……」
「はい、だから責任を取らなければいけません」
 ゆっくりと、黒い目を細めながら、ユシオ先輩は私の顔を見据える。ちょっかいを出されたという理由があったとしても、私が悪い。それが原因だと、理解している。だから、私は体中に力がこもるのを感じながらも、大先輩の言葉に耳を向ける。
「花を、探しなさい」
「…………え」
「特水を、今から注文するのでは間に合わないそうです。だから、アクセラレートの校長から言い渡されました。私とエルに。花を、探しなさいと」
 花、なんて。そんなものを簡単に見つけられるわけがない。それに、私はまだ花を――。
「大丈夫ですよ」
 ぐるぐると回る思考を感じ取ったのだろうか。ユシオ先輩は、私を安心させるように笑顔を浮かべ、頭を撫でてくれる。
「前に約束したでしょう。これを機に、一緒にお花畑を探しに行きましょう」

 幸いなことに、ユシオ先輩は花畑というものの目撃情報を仕入れたばかりだった。
 そのため、すぐに外へ出発しようという結論に達す。
 私はユシオ先輩に手伝ってもらいながら、街から出る手続きやアクセラレートへ、その間の授業免除の申請をしたりと慌ただしい一日となった。
「外に本当に出かけるの? 飛獣が出るかもしれないから、ちゃあんとユシオさんに引っ付いておくんだよ。飛獣ってもんは、自分の敵が分かっているんだろうね……引捉師や花のあるところに現れるって相場が決まっている」
 同じ事を繰り返す母親の言葉に頷く。
 私は自室で荷造りを始める。何て言っても、今回外にピクニック気分で出ては一発で後悔してしまうだろうと予想出来るのだから。それに、たくさん何らかの容器も持っていかないと。
 確かに今回、外へ出ることは罰であって。決して緩んだ気持ちで行っては行けないのだろう。けれども、ユシオ先輩と……引捉師と。実際に外で行動できるというのは、本当に貴重な体験だ。楽しみに思うのことだけは、多めに見てもらわないといけない。
 先日、ユシオ先輩を招くために片付けた部屋はまだ綺麗で。こうして見ると、何だか自分の部屋ではないようだ。
 薄い水色のカーテンは、大きく開かれ窓の縁は全て確認できる。そのため、中に風が入ってくるとなっても、カーテンが揺れることはない。隅の方で、本やテキストと一緒に積まれている紙は自己主張を初める。ふと、本棚の隣りに位置する等身大の鏡は、佇んでいる私の姿が映す。後ろ髪は、肩の長さとそうでもないが。前髪は大部長くなってきている。手で押さえてみると、藍色の目が完全に隠れてしまう。これは切ろう。帰ってきたら、切ろう。
 私は再びベッドに腰を掛け、鞄に物を詰め始める。そして、大先輩に手渡された小瓶を手に取り、しばらく見つめた後、名残惜しむように中へと押し込む。
 黄色の液体が、小瓶の中で跳ねる音が聞こえた。

 ≫

 絶句。
「…………ユシオ先輩」
「…………これは、何もいうことはありませんね」
 まさに絶景。
 私たちは、街を出て早速その花畑を遭遇することが出来ていた。


「……まさか、これほど早く発見できるとは思いもしませんでした」
「…………こんなにも鮮やかなものなのですね。私、花を初めて見ました。」
 花畑の中で、私たちは話していた。その花畑は小さな盆地となっており、街からも外からも、その盆地に足を踏み入れない限り目にすることは出来ないものとなっている。赤、青、黄の花が思い思いに混じり合い、咲き乱れている鮮やかな風景。近づいてみれば、香りだってあるし、何より一つ一つの花の形が違うということは惹かれるものだった。……けれども。
「……花がどんなものなのか、話には聞いていました。恐い噂ばかりで、恐ろしがっていましたが、ユシオ先輩のように暖かみのある花についてのお話も本当だったのですね。だけど、やっぱり私はまだ」
「大丈夫ですよ」
 私の言葉を遮り、ユシオ先輩は微笑みを見せる。
「これから、本来の――」
 大先輩がそこまで言ったとき、辺りに巨大な風が吹き始めた。妙に生暖かいそれに怖気を感じる。というか、風じゃなくてこれは。
「……飛獣、ですか」
 私たちの周りに存在する花々に影を落とすように、またそれらを蹴散らそうとするような荒々しい動き。
 飛獣がこちらへ降り立とうとしているためなのか、降り注ぐ風に、花びらは空高く舞い上がる。細々としたそれらからは、各々のエネルギーが溢れ出し、鮮やかな色と共に小さな渦を幾つもの作り上げる。
 足を踏ん張らせながら、風に抵抗した後見たものは。笑うように歯を剥き出しにして雄叫びを上げる、黒い獣だった。
 
 小さな叫び声を上げる私のように、既に嫌と言うほど経験を積んでいるユシオ先輩は、その様子に臆することはない。
 大先輩は、すばやく自分自身の鞄から特水を取り出すが。……何を思ったのか、いくつかの小瓶を手に取った状態で動きを止めた。
「先に蹴散らしてからお見せようと思いましたが、このままやってみましょうか」
 ユシオ先輩は、飛獣を強い眼差しで見つめたままである。強風で、髪や裾は全て浮いており、私にとって近くにいる大先輩の声でさえ聞き取りづらい状態であった。
 それでも、ユシオ先輩は続ける。

「本来の、引捉師の役目を見てちょうだい」

「この暖かな明かりこそ、私たちが花に求めたものよ」

 ユシオ先輩は、促進の力を放出した。
 それも、小瓶というピンポイントだけでのものではなく、もっと大規模な。――そう、この花畑全てを包み込むような――もので。
 そうして起こるのは眩い閃光。しかし、どこか暖かくて安心できる光。心の奥底から何かを引き出してくれるような光だった。
「……花が、沢山ありすぎたからかしら」
 唐突に、先輩は言葉を洩らした。目を細めながらも飛獣の様子を伺ってみると、彼等は未だに空で羽ばたいているだけだった。光によってそれ以上進もうとしない。いや、光に遮られ進めないのだろうか。
「……そう。力一杯、舞いたいのね。自分を見て欲しいのね。なら、最期まで――」
 その言葉を境として、大先輩は意識を花から飛獣に移す。そして、先ほどまでの花を愛しむような仕草から、鋭い視線を彼等に向ける。
 飛獣はその動作で、大先輩が自分たちの行く先を阻むものだと認識したようだった。ぐっと翼を圧縮させて、雄叫びを上げる。威嚇するように、牙を剥き出しにしながら大先輩を包む光へと突っ込んで行く。
「……エル、ごめんなさいね」
「でも、私は幸せだから。哀れむことだけはしないでちょうだい」
 ユシオ先輩の笑顔がそこにあった。
 実在する花畑の上に立った大先輩は、手を胸の前で合わせ笑った。とても嬉しそうに、彼女の全ての理由を詰め込んだ気持ちを、全身全霊で表現す――。
「ユシオ先輩!」
 その瞬間、大地が大きく揺れ、辺りに轟きが響きわたる。その場に立っていられなくなった私は、地面に這い蹲りながらも、大先輩から目を離すことだけは頑として拒んだ。
 燃え上がる飛獣に腕を噛みつかれながらも、愛おしそうに。
 翼がもげ、ただの獣と成り下がった飛獣を、哀れむように。
 あらゆる穴から、水を吹き出す飛獣に助けを求められながらも、非道に。
 大先輩は、促進することを続け。花たちが、望んで全てのエネルギーを出し切ろうという望みを一心に叶える。
 その間にも、熱風やよく分からない水蒸気に煽られ。更には、大先輩の行く先を悟ってしまい、溢れ出す涙で私の顔はぐちゃぐちゃだ。
「せんぱ――」
 最期の花が、炸裂した。
 その音に耳がやられ、爆風に耐えながらも、何をすべきなのかという思考は動かない。
「っシオせんぱ……!」
 大先輩の起こしたそれが、消えると。ぱたぱたと音を立てて、弱い自然界の風だけが残る。頼れるものは視覚。手足は震え、地面にへたり込んでいるという動作だけでも一苦労な状態だ。
 目の前には、焼け野原となった元花畑が広がっていた。煙が上がり、先ほどまでの光景が直ぐに思い出されるほどの悲惨さだった。
 一目で分かる。千切れた残骸ばかりが散乱し、生きている飛獣はいないのだと。
 変わり果てた大先輩の姿も、そこに確認できる。腕を咬み千切られているという損傷にだけ目が行き、他のことは何も考えられない。ユシオ先輩は、動かない。

「……せんぱい、…………――そう責任は。ユシオ先輩に頼まれた特水を全部駄目にしてしまった、私の責任はどう取らせるつもりなのですか!」
 ぼろぼろと涙を流しながら、唐突に思い出した本来の目的を叫ぶ。後付の理由を次から次へと探しだし、嗚咽と共に吐きだす。
 けれども、奇跡が起こることはない。
 なくなってしまったものは、もう戻らない。

 ≫

 今はもう焼け野原となってしまった花畑から、私たちは帰還を無事……とは言い難いが果たすことが出来た。そんな私たちを迎えたものは、当然の如く人々からの視線。
 驚くもの。好奇心、恐ろしさ、同情、焦り、その瞬間だけで、様々なものを垣間見ることができたのだと思う。
 私だって引捉師の見習いだ。あの大先輩と飛獣との戦いの終結後、鞄に詰めていた黄の特水を促進した。爆音のようなものに、耳はしばらく使いものにならなくなっていた。しかし、エネルギーである風の音は感じることができていたため、難なく使用することが可能だった。そうして、辺りで渦めき始めた風の加勢を借りながら、私は大先輩を連れて街に帰ったのだ。
 花畑がそれほど離れていなかった、ということが幸いした。街に帰った当初、大先輩は虫の息であった。そのため私は、涙や泥やその他のものでぐしゃぐしゃの顔をいっそう歪め、凄い恐ろしげな形相で医者の元へ詰め寄った。その所為だろうか、いい歳した大人に怯えられたのは。
 ユシオ先輩は、医者の手で命を取り留めた。即座に、とまではいかないが安定するまで回復するまで時間は掛からなかった。

 それから何日か経った後、私は大先輩と外に出ていた本来の目的を思い出した。アクセラレートの特水……花確保のために外へ出ていたと言うことを。けれども、花を確保することは出来なかった。あの戦いで、大先輩は全ての花を促進してしまった。よって、回収できるものはない。それ以前にそんな余裕もあるはずがなかった。
 大先輩は、まだ入院している。
 意識はあるが、大先輩の手を煩わせたくなかった。だから、私は直にアクセラレートの校長と面会を果たす。が、終わった後、私の心境は思わぬものへと変わっていた。ぐるぐると、頭の中でユシオ先輩と校長の言葉の相違点が駆け回る。
 校長曰く、私たちに花を探しに行けなどと言っていないと。
 校長曰く、私が無駄にした特水には予備があるため、責任などいらないと。
 校長曰く、あれは元生徒が作ったもので破格であったから、何の損害も被らないのだと。
 今回、大先輩が外へ出るという申請の理由は、研修のためだということ。


 私は罪悪感に駆られながらも、大先輩のお見舞いと共にその旨を語り、どういうことなのか詰め寄った。大先輩は、両目で包帯で巻かれている状態であるというのに、狼狽した様子が窺えた。
「エルに良いところを見せようと思い、色々な手を回していました。けれども、ひどく失敗してしまったようです」
「……怖がらせてしまいましたか? でも、本当は。あの花たちは」
 それは、いつもの大先輩ではなかった。一つの信念を貫き通し、私に様々なことを教えてくれるユシオ先輩には見えなかった。私に何かを縋るような仕草が、宙を掴む。それも、先輩自身の信念を貫き通すための過程。
 ただの、引捉師のとは違って――……ああそうか、私は既にユシオ先輩と引捉師を区別、していたんだ。だって、まだ花が恐いという言い訳も実際、人が恐いだけで。ユシオ先輩の言う《あかり》は本当に素晴らしいものだったよ感じることが出来る。だから、私は《引捉師》ではなく《ユシオ先輩》のような人になりたかった。個人に、憧れているのだ。
「…………あの明かりは、元々人々が引捉師に求めていたものなのです」
 良かったら、図書館で調べてみてください。……まさに、ぴったりな本があるはずです。



 そうして、私は図書館に入り浸るようになった。
 晴れの日も雨の日も、ユシオ先輩のお見舞い帰りに寄り、様々な文献を漁ったのだ。
 薄暗いその一角に、その本はあった。著者の名前を確認し、ちょうど私の目の高さに位置するそれを手に取る。その本を見ているだけで、無性に懐かしくて、暖かみを感じるようで、涙が溢れてきそうだった。じっと、その想いをかみしめた後、一番後ろの頁を開く。そうすれば、その本は図書館に来てから一人の手にしか渡っていないという事実が発覚した。裏表紙には、著者のサイン。ぱらぱらと内容をめくると、一つの挿絵が目に止まった。
 人々が手に花を持ち、そこにあかりが灯る様子。それが、大先輩の言っていた《本来の役割》。あかりを灯し、人々に道標を示すこと。
 今では、色によって明確に特性が区別された花々、そして特水。
 街に戻ってから、私は三色の花や特水を促進してみることをしたが、どれも結果は同じだった。眩い光が発生し、心の芯から包み込まれるようなあかりをもたらす。しかしそれは、飛獣を倒すという今の目的からすれば、全く役に立たないものであった。大先輩の話を聞くまでは、私でさえ気にも留めない効果だ。
 かつて人々は、それを足下を照らす炎の代わりとして使用していた。
 火のように、恐ろしさもなければ危険もない。ただ、暖かくて。ただ、恋しくて。ただ、そんな人の想いを動かすあかりを与えて、道を、未来を示すだけ。それを、人々は欲していた。

 そんな、花(きぼう)だった


 以前の会話が、鮮明に思い出される。
「――……促進の力は、花を老いさせて、寿命を与えて殺しているの。そして、花たちは最後に力を振り絞る。全身全霊の自己主張で、自然現象が起こるの。最も儚く、綺麗で、雅びやかで、美しいもの」
「……」
 掌に収まるほどの小瓶に入った、色とりどりの液体。引捉師は、それを促進させる。
 私は、小瓶を強く握りしめ。学校では教わることのない、ユシオ先輩の考えを聞いていた。

 ただ、特水は人が作り出した物であるから、ユシオ先輩は強い罪悪感を持たずに戦えた。しかし、本来の用途から離れたものを目的としているため、ユシオ先輩は憂いていたのだ。
 彼女が著者となり、残した本。それに知ったことを全て。引捉師の歴史について、学校で習うはずもない、教わっても何も変わらないため無意味なことを全て、語った。何かを殺すための犠牲を払うなんて、私はそのことが本当に恐かった。飛獣のために、花を殺し。例え、花ではなく特水であったとしても。花が存在する限り起こりうる連鎖。今でも、元々の用途からかけ離れているものとして使用している。だから、いつかは人に向けられて使われるのだろうと簡単に予測できる。だけど、先輩の残してくれたそれだけで。
 あかりを求めていただけなのだと、それだけで。

 私の心は、随分と軽くなりました。

「…………ユシオせんぱい」
 佇んだまま呟くが、大先輩自身の返答はない。本棚二つ分、カウンターの方に進めば人がいる。話し声が聞こえる。私の呟きはかき消される。光は届かない。私と本棚の影になり、本は暗いままだ。
 光は、届かない。
 だから、役に立たないと言われ続けても。
 私はあかりを灯し続けよう。



 二年後、私はアクセラレート専門学校を卒業する。
 そして、引捉師となった。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント作品投稿期間】 ( No.27 )
   
日時: 2011/09/22 23:31
名前: 企画運営委員 ID:Ek5sULLA

作品のご投稿お疲れ様でした。

21日〜30日は解答提出期間です。作品をよく読んで、それが誰のものかを推測し回答を提出してください。
又、自分の作品も得点になります。
その回答を参考に企画者側が答え合わせをしますので、お書き忘れの無い様お願いいたします。

*回答の提出場所は こちら です。

>>17 されど光を          ⇒ 
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ 
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 
>>21 黒箱の刑           ⇒ 
>>22 天の使い           ⇒ 
>>23 彼らの英雄          ⇒ 
>>24 あ か り          ⇒ 
>>25 夜桜月光華          ⇒ 
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ 

   不思議な花園(期限超過)   ⇒

上のリストをコピーして使っていただいてけっこうです。皆様のお答えお待ちしております。
義務ではありませんが、批評も書いてくれたら嬉しいです。
また、参加者以外の方も回答を送っていただいてかまいません。
賞品はありませんが、正答数の多い方には最大限の賛辞と尊敬の念をお送りします。


※尚、皆様の回答の回収及び開示は空人が行いますので、空人には賞品獲得権はございません。
メンテ
Re: 新・お題小説スレッド【イベント回答提出期間】 ( No.28 )
   
日時: 2011/09/30 23:39
名前: 企画運営委員 ID:6dakduU6

【イベント総評】
 初のイベント回ということで、たくさんの方のご参加があり、私自身、書くのも読むのも大変楽しむことができました。みなさんも楽しんでくださっていたら、幸いです。
 匿名祭ということで、書き手さんが全く見えない状態で読ませていただくことになりましたが、驚いたのは平均レベルの高さ。皆がみんなかなり書かれる方で、見分けがつかないくらいにレベルの差がない(それも高いレベルで)。文章は流れていますし展開は凝っている。私が提出した作品が恥ずかしくなるくらいに、皆さん丹精こめて書かれたのだろうなあと感じました。とても面白い回でした。
 テーマがあかりということもあってか、ぽっと心に灯がともるような、温かい話が多かったのも印象的でした。対してちょっと心に傷を残すような、読後に後を引く物語もあり、さまざまなお話を楽しむことができました。短めのお話も多かったのですが、どれも綺麗にまとめられていました。完成度の高い作品が多かったのも、すばらしかったと思います。
 今回の反省点(もちろん私も含め)を上げるとしたら、三点。一点はテーマに関して。少し扱いにくいテーマではあったと思いますが、面白い解釈をされている作品が少なかったこと。誰もが思いつかないような発想、ひらめきがあればもっと面白くなったかもしれません。二点目は、キャラクター。印象的な登場人物が多くなかったのが残念でした。短編では難しいかもしれませんが、だからこそ心に残るようなキャラを作るスキルを身につけることで、さらに一歩高いところへ進めるような気がします。最後に、個性。今回は当てられてはいけない回でしたので、ここに書くのは少々場違いかもしれませんが、普段からその人にしか見られないような、誰にも負けないという長所を作品の中で自然に見せつけることができればいいなあ、と私も書き手の一人として思います。今回は匿名で、誰が誰だかわからなかったからこそ見つけた反省点かもしれません。
 次回のテーマは「時間」ですね。今回できなかったこと、一度試してみたいこと、もっと高めたいこと。一回一回目標を定めて、挑戦することができるのがお題スレの魅力だと思います。これからも皆さんと一緒に実力を高めあっていければと、参加者の一人として、そう思います。
 ご参加いただいた皆さん、作品に目を通してくださった皆さん、本当にありがとうございました。
メンテ
お題小説スレッド ( No.29 )
   
日時: 2011/10/01 00:00
名前: 企画運営委員会 ID:GROh.YQY

 こんにちは。
 第7回「時間」の作品投稿期間となりました。
 作品投稿期間は10月1日(土)〜10月10日(月)までです。
 ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
 皆様力作待っております。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:作品投稿期間】 ( No.30 )
   
日時: 2011/10/01 01:15
名前: 企画運営委員会 ID:nSJ3MzeQ

イベント参加お疲れさまでした。
匿名での投稿という事で、いつもの自分とは違う書き方に挑戦した方もいらっしゃったと思います。
それ故、当てる方も難しかったのではないでしょうか。
それでは、正解を発表したいと思います。(敬称略)

【正解】
>>17 されど光を          ⇒ 伊達サクットLv5
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 月音
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ アリス
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 空人
>>21 黒箱の刑           ⇒ If
>>22 天の使い           ⇒ かなちゃん王女
>>23 彼らの英雄          ⇒ 茶野
>>24 あ か り          ⇒ すずか
>>25 夜桜月光華          ⇒ 白鳥 美李亜
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ sakana
・不思議な花園           ⇒ 暁龍

いかがでしょう。
参加者も参加せずにお読みになった方も、自分の考えと一致していたでしょうか?
参加者の中で一番正答数の多い方が、優勝となります。
では、結果発表です。

第一位:茶野(正答数9、当てられなかった回数9)
第二位:アリス(正答数5、当てられなかった回数8)
同第二位:If(正答数5、当てられなかった回数8)
第四位:すずか(正答数4、当てられなかった回数9)
第五位:sakana(正答数4、当てられなかった回数8)
第六位:伊達サクットLv5(正答数2、当てられなかった回数10)
第七位:白鳥 美李亜(正答数2、当てられなかった回数7)
第八位:空人(正答数2、当てられなかった回数6)
同第八位:月音(正答数2、当てられなかった回数6)
第十位:暁龍(正答数1、当てられなかった回数7)
第十一位:かなちゃん王女(正答数1、当てられなかった回数6)

優勝は茶野さんでした。
茶野さんには賞品として、絵師さんから自キャラを描いてもらえる権利を送呈いたします。
後ほど用意するテンプレにご記入ください。
茶野さん、本当におめでとうございます。

寄せられた回答の詳細は次レスからになります。 >>31
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:作品投稿期間】 ( No.31 )
   
日時: 2011/10/01 00:44
名前: 企画運営委員会 ID:nSJ3MzeQ

【ハンドル名】空人
【解答欄】
>>17 されど光を          ⇒ 白鳥 美李亜 × 
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 暁龍 ×     
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ すずか ×    
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 空人 ◎
>>21 黒箱の刑           ⇒ 伊達サクット × 
>>22 天の使い           ⇒ かなちゃん ○
>>23 彼らの英雄          ⇒ アリス ×    
>>24 あ か り          ⇒ 月音 ×     
>>25 夜桜月光華          ⇒ If ×
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ 茶野 ×
・未提出者一名           ⇒ sakana ×

【 今後やってほしいお題 】:がんばって探します
【 よろしければ、感想など 】:わかんねっす。

【 ハンドル名 】:かなちゃん王女
【 解答欄 】:
>>17 されど光を            ⇒空人 ×
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒すずか ×
>>19 ドラマチック生命体        ⇒月音 ×
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒白鳥 美李亞 ×
>>21 黒箱の刑             ⇒sakana ×
>>22 天の使い             ⇒かなちゃん王女 ◎
>>23 彼らの英雄        ⇒アリス ×
>>24 あ か り            ⇒暁龍 ×
>>25 夜桜月光華           ⇒If ×
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て  ⇒茶野 ×
・未提出者一名            ⇒伊達サクット:Lv.5 ×

【 今後やってほしいお題 】:季節もの。12月なら雪とかそんなの。
【 よろしければ、感想など 】:
投票結果を見てみたいです!
みんなが、誰が書いたと推理したのか気になります。

【 ハンドル名 】:アリス
【 解答欄 】:
されど光を          ⇒かなちゃん王女さん ×
【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒月音さん ○
ドラマチック生命体      ⇒アリス ◎
だから僕らは笑ったんだ    ⇒空人さん ○
黒箱の刑           ⇒sakanaさん ×
天の使い           ⇒茶野さん ×
彼らの英雄          ⇒Ifさん ×
あ か り          ⇒伊達サクット:Lv.5さん ×
夜桜月光華          ⇒白鳥 美李亞さん ○
恐れられた一面の花々を夢見て ⇒すずかさん ×
未提出者一名         ⇒暁龍さん ○

【 今後やってほしいお題 】:
【 よろしければ、感想など 】:
難しかったですね。でも楽しかったです。違う作風になったかは別として、いつもとは違う自分を出してみるぞって頑張るのは勉強になったなあって思いました。あと、参加者さんの過去の作品や連載作品も見れたのはちょっとした出会いというか、いいきっかけにも繋がりそうですね。いい企画でした。
本当に、Ifさん、空人さん、朔乱さん、お疲れ様です。本当に楽しかったです。こういうお題スレとはまた違った感じの趣向のイベント、またやってほしいなって思いました。

【 ハンドル名 】:すずか
【 解答欄 】:
>>17 されど光を          ⇒ かなちゃん王女 ×
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 月音 ○
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ 伊達サクット ×
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 空人 ○
>>21 黒箱の刑           ⇒ アリス ×
>>22 天の使い           ⇒ If ×
>>23 彼らの英雄          ⇒ 暁龍 ×
>>24 あ か り          ⇒ すずか ◎
>>25 夜桜月光華          ⇒ 白鳥美李亞 ○
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ 茶野 ×
・未提出者一名           ⇒ sakana ×

【 今後やってほしいお題 】:りんご 刀 算盤 十字架 キャベツ
【 よろしければ、感想など 】:
めっちゃ楽しかった!

【 ハンドル名 】:月音
【 解答欄 】:
>>17 されど光を          ⇒ ifさん ×
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 月音 ◎
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ sakanaさん ×
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 暁龍さん ×
>>21 黒箱の刑           ⇒ 伊達サクットさん ×
>>22 天の使い           ⇒ アリスさん ×
>>23 彼らの英雄          ⇒ 白鳥美李亞さん ×
>>24 あ か り          ⇒ すずかさん ○
>>25 夜桜月光華          ⇒ 茶野さん ×
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ 空人さん ×
・未提出者             ⇒ 無回答 ×

【 今後やってほしいお題 】:
【 よろしければ、感想など 】:
多く正解してますようにっ……!><

【 ハンドル名 】:暁龍
【 解答欄 】:
されど光を          → 白鳥 美李亞さん ×
【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 → アリスさん ×
ドラマチック生命体      → 空人さん ×
だから僕らは笑ったんだ    → 茶野さん ×
黒箱の刑           → 伊達サクット:Lv.5さん ×
天の使い           → sakanaさん ×
彼らの英雄          → 月音さん ×
あ か り          → かなちゃん王女さん ×
夜桜月光華          → すずかさん ×
恐れられた一面の花々夢見て  → Ifさん ×
不思議な花園         → 暁龍 ◎

【 今後やってほしいお題 】:特になし
【 よろしければ、感想など 】:
ごめんなさい。
提出期間に間に合いませんでした。
本当にごめんなさい。
解答、自信ない……。なんか全然わかりませんでした。だからほぼ勘みたいなものです。

【 ハンドル名 】:白鳥 美李亞
【 解答欄 】:
敬称略失礼。

されど光を          ⇒ かなちゃん王女 ×
【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 暁龍 ×
ドラマチック生命体      ⇒ 空人 ×
だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 月音 ×
黒箱の刑           ⇒ If ○
天の使い           ⇒ すずか ×
彼らの英雄          ⇒ アリス ×
あ か り          ⇒ 伊達サクット ×
夜桜月光華          ⇒ \ / ◎
恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ 茶野 ×
不思議な花園         ⇒ sakana ×

【 今後やってほしいお題 】:季節に関係するもの
【 よろしければ、感想など 】:
 結論:難しすぎわろた。

 これ思ってた以上に難しいよ。でも楽しめた楽しめたよかったよかった。
 今回お題自体参加するのは初めてで緊張気味でしたが、いろんな方の作品が読めたこと、そしてその作者を当てることといろんな点で楽しむことができました。実は当日やっぱ書き直そうと思って三時間でお題小説を書き上げたんですけど、私だってもろ分かりそうで恐ろしかったです^ω^
 でも勉強になりました。
 それでは短いですがこれで失礼します。皆様お疲れ様でした。

【 ハンドル名 】:sakana
【 解答欄 】:
※敬称略   


>>17 されど光を          ⇒ if ×
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 白鳥 美李亞 ×
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ アリス ○
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 空人 ○
>>21 黒箱の刑           ⇒ 茶野 ×
>>22 天の使い           ⇒ かなちゃん王女 ○
>>23 彼らの英雄          ⇒ 暁龍 ×
>>24 あ か り          ⇒ 伊達サクット:Lv.5 ×
>>25 夜桜月光華          ⇒ 月音 ×
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ sakana ◎
   不思議な花園(期限超過)   ⇒ すずか ×

【 今後やってほしいお題 】:
【 よろしければ、感想など 】:
以上が私の予想です。
……ダメだ。自分の書いたものしか、当たらない自信がある。
そんな残念な回答かもしれませんが。空人さん、集計お願いします。

【 ハンドル名 】:If
【 解答欄 】:
解答いきますよー。目標半分以上! 優勝したい!

>>17 されど光を          ⇒ 空人さん ×
(理由)
あんまり自信ありません。すごい迷ったんですが、投稿時期とタイトルから空人さんかなあと推測しました。
あとは文章もなんとなく空人さんらしかった。話のまとめ方もです。この綺麗に収める感じはすごく、らしい。
ただ気になるのは、いつもの空人さんの話のパターンとは違ったこと。こういう系統のお話は初めてな気がしたので……自信がない。
他にはアリスさんかもーとは思いました。あとは内容的に美李亞さんも怪しかった。ただ美李亞さんがこの時期に投稿するかなーと思いまして。アリスさんは後でもっとアリスさんらしさを感じたものがありましたので、そちらに。

>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 月音さん ○
(理由)
すごい自信あります。タイトル見ただけで予想できましたし、読んで確信しました。投稿時期も、らしいです。こんだけ言って外してたら恥ずかしいなあ。

>>19 ドラマチック生命体      ⇒ 白鳥 美李亞さん ×
(理由)
難しかったです。自信皆無。タイトルセンス的にはsakanaさんとかアリスさんの印象を受けたんですが、中身は美李亞さんや空人さんぽかった。すずかさんもちょっと怪しい。
最終的に美李亞さんにしたのは、最後。でもこれも空人さんらしくもあるんだよなあ。今これ書きながらも迷います。
でも神様の口調がいかにも美李亞さんぽい。「さ」が特に。
それから文章が美李亞さんと空人さんでなら、美李亞さんに近い気がした。これが決め手でしょうか。

>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 茶野さん ×
(理由)
時期的にないかなあと思ったんですが、このまとまりは茶野さんかなあと思います。文芸誌のを最近読んでいたので、それとちょっと雰囲気が近かったのも理由のひとつかなあ。自信はありません。sakanaさんと迷いました。今も悩んでます。

>>21 黒箱の刑           ⇒ If ◎
 私でしたー。特に文体とか変えてないけど、話の流れがいつもとはちょっと違ったかも。何人に当てられてしまうやら。

>>22 天の使い           ⇒ かなちゃん王女さん ○
(理由)
この女の子らしさはかなさんかなあと思いました。あと、地味に「?!」も大きかった。こっちの並びで使う方は今回の参加者の中ではかなさんだけかなあと。

>>23 彼らの英雄          ⇒ アリスさん ×
(理由)
このひっくり返し方は、アリスさんかすずかさんだろうなあと思っていました。すんごい悩んだんですが、最後の一文がなんとなくアリスさんぽかったので、アリスさんに。ここは難しい……。

>>24 あ か り          ⇒ 伊達サクットさん ×
(理由)
悩みませんでした。このノリはサクットさんかなあと思います。うわー、間違ってたらどうしよう。

>>25 夜桜月光華          ⇒ すずかさん ×
(理由)
最初は美李亞さんかなあと思ったんですが、美李亞さんは『ドラマチック生命体』に置いちゃったので……悩みました。
この作品、一番難しかったです。投稿時期と、後は文章からすずかさんかなあと思ったんですが……たぶん外れてるんじゃないかなあと思います。難しすぎる……。

>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ sakanaさん ○
(理由)
この凝り方はsakanaさんだろうなあと思いました。あんまり悩まなかったです。文章の丁寧さもsakanaさんらしかった。あと、「…」とか「―」の使い方も。ただ、茶野さんとも悩みました。うーん、難しい。

   不思議な花園(期限超過)   ⇒ 暁龍さん ○


【 今後やってほしいお題 】:約束、とかやりやすいかな?
【 よろしければ、感想など 】:
改めてF板のレベルを実感しました。みんながみんな上手くて、レベルに目だった差がないので……誰が誰だか分からない!
でも面白かったです。できればまたやりたいなーって思います。たまにはこういう企画もいいですよね!
「全部あててやる!」って自信満々だったのに、なんだか恥ずかしい^q^ だけど、本当に楽しかった。ありがとうございました。


【 ハンドル名 】:茶野
【 解答欄 】:
>>17 されど光を          ⇒ すずか ×
>>18 【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】 ⇒ 月音 ○
>>19 ドラマチック生命体      ⇒ アリス ○
>>20 だから僕らは笑ったんだ    ⇒ 空人 ○
>>21 黒箱の刑           ⇒ If ○
>>22 天の使い           ⇒ かなちゃん王女 ○
>>23 彼らの英雄          ⇒ 茶野 ◎
>>24 あ か り          ⇒ 伊達サクット ×
>>25 夜桜月光華          ⇒ 白鳥 ○
>>26 恐れられた一面の花々を夢見て ⇒ sakana ○
・未提出者一名           ⇒ 暁龍 ○

【 今後やってほしいお題 】:
【 よろしければ、感想など 】:
ギリギリになってしまいもうしわけございませんでした。
全然わからなかったです! むずかしかったです。へたしたら一人も合っていない可能性が…!
企画運営おつかれさまでした。ありがとうございました!


【 ハンドル名 】:伊達サクット:Lv5
【 解答欄 】:
されど光を⇒伊達サクット:Lv.5 ◎
【魂の灯(ひ)消ゆ時、俺は】⇒かなちゃん王女 ×
ドラマチック生命体⇒白鳥 美李亞 ×
だから僕らは笑ったんだ⇒sakana ×
黒箱の刑⇒すずか ×
天の使い⇒空人 ×
彼らの英雄⇒茶野 ○
あ か り⇒暁龍 ×
夜桜月光華⇒月音 × 
恐れられた一面の花々を夢見て⇒If × 
不思議な花園(期限超過)⇒アリス ×

【 今後やってほしいお題 】:「報酬」「正義」「傷」
【 よろしければ、感想など 】:
遅くなってすいませんでした!


【 ハンドル名 】:緋色のレーゲン
【 解答欄 】:
if → されど光を ×
アリス → 魂の灯消ゆ時、俺は ×
かなちゃん王女 → ドラマチック生命体 ×
すずか → だから僕らは笑ったんだ ×
茶野 → 黒箱の刑 ×
空人 → 天の使い ×
白鳥 美李亜 → 彼らの英雄 ×
伊達サクット:Lv,5 → あ か り ×
月音 → 夜桜月光華 ×
sakana → 恐れられた一面の花々を夢見て ○
暁龍 → 未提出 ○

【 今後やってほしいお題 】:
【 よろしければ、感想など 】:
いつもと違う書き方をしている人もいたのかな、参考の小説を読んでもほぼ分かりませんでした。
一個もあってないかも。というかあってない。うん。
批評……俺に批評なんて、そげんこつできるわけねぇべや。とか言ってもしょうがないので何か言ってみます。
と、言っても何か目に付いたものはありませんでした。
あえて言うならばいつも書いてるのと人称を変えられると相当分かりにくくなるわけですが、まぁ
それを当てるのがイベントですよね!
てなわけで乱文を突っ込んでしまい申し訳ないです。答え合わせの空人さん、お疲れ様です。
では。


寄せられた回答をそのまま掲載させていただきました。
参加してくれた全ての方に、ここまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
そして、お疲れさまでした。   企画運営委員会
メンテ
タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察 ( No.32 )
   
日時: 2011/10/02 01:03
名前: 空人 ID:zWYIgw9U

 かのアインシュタイン博士が立証した特殊相対性理論を打ち破る、光速を越える物質が発見されて既に十年が経過しようとしている。その後、時空間理論は空間圧縮論や物質の電子化に関する考察などの手助けを借りて、僕たちの生活に役立つ技術へと展開した。もちろん宇宙開発にも成果を残し始めているらしいが、僕達が宇宙旅行を気軽に出来るようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。そしてもちろん、人類の夢とされてきたその技術も確かな進歩を見せているわけで。
 だから、突如として現れた彼女の言い分があながち間違っていると否定はできない僕が居るわけです。

「つまり、君は未来から来たって事なのかな? えっと、小林さん」
「はい、その通りです長谷川博士博士。あ、私の事は直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林とお呼び下さい」

 漢字で書かれるとわかり難いかもしれないが、『博士(ヒロシ)』が僕の名前で、『博士(ハカセ)』は彼女が僕に付けている呼称である。つまり未来では僕は博士の称号を貰っているというのが彼女の言葉なのだが。そんな事よりも突っ込まなくてはならないところがある事は御覧の通りである。

「えーと、その長ったらしいのは君のミドルネームっていう事で良いのかな?」
「はい、長谷川博士博士。あ、お気軽に直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林と呼んで下さいね、長谷川博士博士」

 無用と思えるほどのフルネームの連呼は彼女のポリシーか何かなのだろうか。一先ずそこの改善が終わらないと話が長引いて仕方ない。そう判断した事は、間違っては居ないと思いたかった。

「僕の事は博士で良いよ。名前で呼んでくれてかまわない。そっちの方が気楽で良いよ」
「なるほど、わかりました長谷川博士博士。これからは長谷川博士博士の事は名前で呼ぶ事にします。それが長谷川博士博士の意向ならばいたしかたありません」

 本当にわかっているのだろうかと疑いたくなるような返しである。いや、言っていることは合っているのだが。

「本当にわかってるんだよな?」
「もちろんわかってますよ。えっと……博士くん」

 それは不意打ちでした。
 しかし、特筆すべきなのはこういう状況に誘導したのが自分であるという事です。少し戸惑ったように上目遣いで申しわけ無さそうにこちらの反応をうかがってる彼女は何とも言えず、こう、アレなわけで。つまり僕は今、自分を褒めてあげたいというわけです。

「あ、あの。教科書に載るくらい有名な研究者である貴方にくん付けは失礼なのかもとは思ったのですが、この時間軸での貴方は私より年下な訳で、かと言って呼び捨てにする訳にもいかず、こうお呼びするのが妥当ではないかと判断したのですが……ダメだったでしょうか?」
「へぇ、教科書に載るんだ。でも、うん、まあそれで良いよ。くん付けで」
「そうですか、良かった! ありがとうございます。私の事はどうぞ、直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林とお呼び下さいね」

 困ったときはおろおろと、嬉しい時は笑顔で、とても素直な反応を示す彼女はとても心地よく、好ましいと思わざるを得ない。しかし、執拗に自分のフルネームをを繰り返す彼女にどう対処したものか、考える必要があるようだ。

「その……ミドルネーム? のコバヤシコーポレーションって会社の名前だよね?」
「はい、コバヤシテクノコーポレーションは時空間理論を研究して私たちの暮らしに役立つ商品の開発を承っている会社です。恥ずかしながら会社の所有は私の名義になっているのですが、実際は父から受け継いだだけのものでして、経営に関しても未だに父の教えを受けながらという形をとっておりました。今回のような特例が無い限り私はお飾りの代表としてあったわけで、働いてくださっている社員の皆様には申し訳ない思いです。はい」

 どうやらおしゃべりなのが彼女の仕様であるようだが、今回のは何か胸につかえていたものを吐き出すかのような言い方だった。社長でありながら中間管理職的な自分の立場について普段は言えない思うところが有るのだろう。
 それは良いとして。

「えっと、セタガヤシブとかインフォメーションマエとかいうのは? 住所のようだけど?」
「はい、住所です。ミドルネームは自分で考えてつけても良いという制度が出来まして。それは自分の親から貰った名前が気に入らなくて改名する人が増えた事と、法の改正を良しとしないお偉いさんや名前の改正を非情だ不健全だと言い張る団体が現れた事でちょっとした論争になりまして、折衷案として誕生したものなのですが、私自身にはネーミングセンスというものが欠如している節がありまして、それならば何かの役に立つ物にしようと思いついたのがこのミドルネームなのです」
「役に立つ?」
「あ、その。迷子になったときとか……」
「えっ? つまりこれ君の住んでいる場所の住所なの?」
「はいっ!」

 元気な笑顔で二つ返事を返すわけですよ。
 自分が死んだ後の法律なんかに興味はないが、この国の未来は間違いなく不安である。個人情報保護法はどこに行ったんだよ。

「あの、エントランスって玄関口だよね?」
「はい。あ、玄関に住んでいるという訳ではなくて、会社自体に住んではいるのですが、入り口に近い方が便利だろうとエントランス近くに自室を作りましてですね」
「そこで生活してるんだ」
「はい、おかしいでしょうか?」

 度重なる質問でさすがに不安になったのか、こちらをうかがうような質問をしてきた。考え方や習慣が大分未来へ向いている事は仕方のないことなのだろうか。

「うん、いや。おかしいかどうかは、君の時代の人間に聞くと良い。この時代とはズレがあるかもしれないし。とにかく、君の名前については了解したよ」
「本当ですか、良かったです」
「うん、でも、良かったら君の事は小林さんって呼びたいんだけど、ダメかな?」
「え……そんな、それは少しよそよそしくないですか? これから一緒に暮らすのに」
「いや、普通だと思う……て、ちょっと待て。今聞き漏らすには衝撃的過ぎる事を言ったぞ。小林さん」
「直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林って呼んでほしいんですが」
「フルネームで呼ぶのはよそよそしくないのか? ってそうじゃなくて、一緒に暮らすってなんだよ」
「はい、ここで一緒に。私はそのために未来から来たんですからっ」

 今日一番の笑顔を浮かべながら、今日一番わけのわからない事を言い始めた彼女をそれでも可愛いと思ってしまうという、もう末期的な症状を自覚しながら、僕はそれを聞き返さなければならなかった。

「そういえば、君がここに来た理由をまだ聞いてなかったっけ。僕に何かを届けに来たんだと勝手に解釈してたんだけど?」
「すごいです。その通りですよ博士くん。私は貴方に時空転移装置ひらたく言うとタイムマシーンの作り方を伝える為に未来から来たのですよ」
「作り方って……タイムマシーンを作ったのが僕って事!?」
「はい。その功績を称えられて、貴方は教科書に載るほどの有名人になるのですから!」
「……それって、つまり君が教えてくれるからタイムマシーンが出来るって事だよね? 未来から来た君が教えてくれなければそれは完成しない、と?」
「そう、そうなんです。さすがです。飲み込みが早すぎてビックリですよ。あ、ちなみにこれは正史に残っている事実なので、時空間航行法には抵触しません。安心してください」

 どうりで。過去の存在である自分に関わっているにしては彼女は積極的すぎると思ったんだ。つまりこれは歴史に残る行為で、未来の使者である彼女の教えで僕がタイムマシーンを作り上げる事は彼女の居た未来では教科書に載るほど有名な出来事である、というわけか。
 まてよ、それって僕の功績か?

「なんか……僕じゃなくても良いような気がするんだけど?」
「いいえ! 貴方に会って、お話を聞いて確信しましたっ! 貴方ほどこの異常な事態に異常な速さで適応してやや冷静すぎて引くくらいの対応を見せる人物なんて、この時代の地球上をいくら探しても滅多に見つからないですよっ!」

 なんだか褒められている気がしない。むしろ馬鹿にされてる?

「まぁ、いろいろ置いといて。君の言い分はだいたいわかったよ。でも、それならタイムマシーンの制作に関する情報だけ置いて帰っても良いんじゃないかな? わざわざ君がこの時代に残る必要性を感じないのだが?」
「そんな事ありません。だいだい、帰る方法も有りません!」
「え? けして広くは無いうちの庭を今も占領している、君が乗ってきたあの無用に幅をとる球体はタイムマシーンじゃないのか?」
「はい、あれはただの時間移動用のカプセルです。時空転移装置本体は我社の専用転移室に備え付けられていますので。時空転移装置は電荷によって大きな負荷をかけるため、固定式で無ければならないのですよ。その超電荷でカプセルを光速以上の速さで打ち出し、一気に特異点を越える事で時間移動を可能にしているのです。あれはそれらの衝撃から内部のものを保護するためのカプセルなんです」

 うん、説明を聞いても良くは理解できない。こうなると、自分が本当にタイムマシーンの開発者になるという話も、俄かには信じがたくなってきたな。

「えーと、本当に僕が開発者なんだろうか?」
「はい、間違いありません。今はわからなくても、これから私がみっちりと教えますので、大丈夫ですよ!」
「え、君が教えてくれるの? 何かに情報を保存してあってそこから取り出すとか、脳に直接チップを埋め込むとかじゃなくて?」
「はい、情報は私の電子脳に保存してありますので私がお教えします。私の時代では電子脳同士で情報を通信する事も可能ですが……博士くんはまだ電子脳を持っていませんよね?」
「あ、ああ。電子脳っていうのも初耳だけど、なんとなくわかるよ。似たような物が出てくるSF作品を読んだ事があるから。その電子脳は今は使えないんだよね? 専用のネットワーク自体が無いし」
「いえ、簡易的なものならこの時代のインターネット? でしたっけ。それを利用して情報のやり取りをする事は可能です。だけど、ノイズが混じる可能性があるし、文字化けしたものを電子脳に保存したくないので、使用は極力避けたいです」
「な、なるほど」

 これで、彼女がここへ来た経緯は大体わかった。信じがたい話だが、彼女の乗ったカプセルが突然目の前に現れたのをしっかりと目撃してしまった以上、この話を信頼するしかない。
 僕はこれから未来人である彼女の教えを受けてタイムマシンの雛形となるものを制作する事になるのだろう。なんだか『ニワトリと卵』みたいな話だが、その論争すら古代から受け継がれてきたものならば、この世界の真理など所詮はそんなものなのではないだろうか。

「あれ? じゃあ、君は自分の時代に帰れないんじゃないか?」
「はい、そう、ですね。博士くんが時間転移装置を完成させるまで帰還は不可能です」
「ちなみに、タイムマシーンの完成までにはどのくらいの時間がかかるんだろうか?」
「史実では、二十年後です。一・二年なら誤差として認められると思いますが……」

 目蓋を伏せて、それでも笑って見せる彼女に胸が熱くなる。だけど僕はこんな時でさえ、来てくれたのが彼女で良かったなどと、自分勝手なことを考えていたのだ。

「しかしそうなると、あのミドルネームは意味がないね」

 しんみりとする空気を何とか改善しようと放った言葉は、話を振り出しに戻すように思えたけど、この状態を打破する適切な台詞など浮かんでくるはずもなかった。
 しかし、それは思いのほか効果を発揮したようで、彼女は憂鬱に染まる表情を全て洗い流したような、そんな様子で固まるのだった。

「ど、どうしましょう博士くん! とりあえずミドルネームをここの住所に変えるべきでしょうか!? ああ、ダメですそれは許可されないんでしたっ!」
「いや、落ち着いてよ。変えるにしたって、君の戸籍はこの時代には無いし。ミドルネームを付ける文化もまだ無いんだ」
「戸籍ならありますよ! 会社で偽造しましたから。ああ、でも名前が『直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林』になってますっ! この時代にはコバヤシテクノコーポレーションもセタガヤも無いのにっ!」
「だから落ち着けってば。あと、世田谷はあるから! ていうか偽造したのかよ、犯罪だろ!?」
「何言ってるんですか! 未来で作ったものなんですからもう時効です!」
「そ、そういうものなのか? でも戸籍まで用意していたなんて……」
「あ、当たり前じゃないですか。これが無きゃ結婚も出来ませんよ?」
「えっ!? あ、ああそ、そうだよね。うん。えっと、誰と? ってそういう意味じゃないよな、うんゴメン。ちょっとなんか混乱してきたんだけど。一般論としてだよね? うんうん。あ、小林直美で良いんじゃないかな、名前」
「……それじゃあダメなんですよ」

 どうやら落ち着かなければならなかったのは自分の方だったようで、小林さんは俺の様子をジッと見つめた後、なぜかむくれたようにそっぽを向いてだんまりを決めてしまった。今日のところは時空間理論の勉強も時空転移装置の仕組みについての説明もおしまいのようだ。
 そういえば、彼女の名前も伝える側として教科書に載るのかも知れない。それ故に長いミドルネームにあれほどこだわったのだと仮定するなら、彼女の反応もフルネームを連呼していた事にも納得ができるな。うん。
 彼女が一緒に暮らす事は、両親もなぜだかすんなりと受け入れてしまい、彼女が未来から持ち込んだ、簡単な記憶を操作する装置も出番を与えられる事は無かった。僕はそんな物騒な物がある事を後から知らされた訳なのだが。
 とにかく、楽しくも奇妙な僕と彼女との共同生活は、こうして幕を開けたのです。



<終幕>
メンテ
境に佇む彼は ( No.33 )
   
日時: 2011/10/10 12:47
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:g0F./loU

「門番さん、こんにちは。今戻りました。見てください、この荷物。ハムにりんごにキャベツ……あと、香辛料も少々。見てください! 八百屋のお兄さんが、りんごを一つおまけしてくれたんです! 良かったら、どうですか? 真っ赤で、美味しそうですよ。ええ、ええ。是非もらってください。……すみません、渡したりんごを無言で差し出すのは止めてくれませんか? そういう行為は、素直に受け取るものですよ! いつもいつもこの小さな町の門でのお仕事ご苦労様です、っていう労りの気持ちが込められてるのだからね。あっ、それで、りんごのお話は置いておいて。今日は街に買い物に行ったんです。お母さんの付き添いなしでは、始めてなんです! もう、どきどきでした。お母さんったら、心配性なので《男の人に声を掛けられても、無視するのよ》って言うんですけど、やっぱり人を無視することはできませんよね。流石に紙袋を持って、よっこらよっこら通りを歩いているときに声を掛けられたときは驚愕しましたけれど、ボディーガードとしてそこまで送ってくれたんですよ。金髪のお兄さん二人が……って、あれ。先ほどまで、私の後ろにいたのですが、いつの間にかいなくなってしまってます。そういえば、あれが町の門番さんなんですよーと貴方を紹介したとたん、目の色を変えて荷物を返してもらいましたし。一体、どうしたんでしょうね。あ、いけない。早く家に帰って、お母さんに返ったよーって声を掛けないと。では、門番さん。また明日」


「おお、門番さんじゃないっスか! いつもいつもご苦労様ですーということで、俺の愚痴聞いてくれませんか? まったく、もう傍迷惑な話ですよ! この町の――まあ、田舎の村と言ってしまっても差し支えないようなとろこッスけどね――看板娘のあの子! え、知らない? そんなことないっスよ。知っているはずだってば! ほら、この前門番さんにりんごを渡したあの子っスよ! あの流れるような黒髪に、見ていると本当に癒されて此方まで溶かされそうになるあの笑顔。――もう、やばいっスよね! もうむちゃくちゃ可愛いっスよね! そう、それで。今日あの子に会ったんですよ。い、いや! 家の前で出てくるのを待っていたとかじゃなくてっ、ただ純粋に彼女の家の門の真向かいにある大きな石の上に座って、彼女が外に洗濯物を干す姿を眺めていただけっスよ! ……え、な、何っスか。そのジト目は……! 嫌な意味じゃないっスよ! 純粋な真心っス! で、続き話すんで聞いてくださいよ! 昨夜から、俺に追い討ちをかけるような凍える風に耐えながら、ずっと見守っていたというのに。今朝、あの子の母親が出てきて俺をぶん殴ったんっスよ!? まあ、俺も彼女の姿を見た後だったから、気が緩んでいてだらしがなかったというのもあるかもしれないんっスけど、いきなりですよ!? 信じられませんよ! そして囃し立てるんっス。《あの子に何をした! この外道め! ストーカーめ! この町から出て行け! この××野郎!》って。他にもボロクソ言われたんっスよ……。流石の俺もそれには堪えたんスよ。だから、色々その母親に言い返してやったんです。そうしたら、訴えるぞ! とまた言われて……殴られ蹴られした姿も彼女に目撃されて……俺、どうしたらいいんですかね。…………え? その人から、俺を町から追い出せと依頼された? そ、それはないっスよ! …………え? 町長もその判断を下して、正式に依頼された? え、え、え、えええええ!? も、門番さんっ! きょ、今日も寡黙でステキっスね! ほら、ステキ! だから、やめてください! ごめんなさい、門から外に押しやらないでくださ――」


「おや、門番さん。こんにちは。え、そんな。町長なんて呼ばないでください。ここは、外壁に守られている町といっても、本当に小規模で。私としても、村長と呼ばれる方が親しみがあるんですから。今日は、街に行ってきたのですよ。ほら、おみやげ。竜のヒゲですよ、ほらヒゲ。何に使うのか、店の人に聞いたのですが、忘れてしまいました。もう私も年ですしね。そういえば、聞きましたか? 今、街近隣では魔獣が出没するそうですよ。まあ、少し離れているため此処までは来ないと思いますが……いざとなったら、お願いします。一匹や二匹ほどでしたら、私もまだまだ心の方は若いので蹴散らすことぐらい……! え? 大丈夫ですよ、できます、追い払えますってば。だから、私を呼んでくれても構いませんよ。ですが、本当にいつも助かっています。私はこの街で五十年ほど村長をしていますが、気がついたら門番さんは此処に棲み着いていましたね。私は貴方がこの場から離れたところを見たことがありません。町から国に申請して、貴方を雇った訳ではありませんが。そのように門番さんは忠実ですし……一体どこからきたんですか? おおっと、そういえばそのような詮索はしないように、と初めにおっしゃっていましたね。では、止めます。そして、次の話題をっと……。そう、もう一度、魔獣の話に戻りますが。この町は、やはり村のように少人数の方々しか住んでいません。この町を囲う外壁も、中の様子と比例してぼろぼろに過疎っているような状況です。もし、万が一にも大量の魔獣が襲ってきたということがあれば、この場を離れても良いですよ。というか、門番さんが心配です。離れてください。町の人々は直ぐに避難させるので大丈夫です。ここら辺に出没する魔獣は、飛べないヤツばかりですしね。ああ、そして。
……門番さん。もし、私がいなくなっても、この町をよろしくお願いします。」


「まーったく、物騒な話だよな。門番さん聞いてくれよ。……お、酒を持ってきたんだがイケる口か? ――ぷはっ! この満月の夜にはやっぱり酒だ! 酒! なければ今頃俺は娯楽がなくて、ぽっくり逝ってるはずさァーね! うぃーっく! そうそう、でさァ! 隣り国が戦争を始めたっていう話を持ってきたのだァー! おっかねえなァ……ぐすっ、死にたくねえよ。そういや、町長が死んだって話は知ってるか? あの人ももう七十にはなってたからなあ……。気だての良くて、ノリの良いじいさんだった。町長の嫁はもちろん、息子もその嫁もなくなってるって言うし、孫の坊やにとって本当に嘆かわしいことだろうな……。いけねいけね、こんな辛気くさい話してたんじゃ、せっかくの酒が不味くなっちまう。しかも酔いも醒めてきたしなー。うん? 門番さん、もしかして全部覚えてるのか? この町に人が少ないっていう理由と、彼等が出ていったときの姿を。……全て。いやはや、すげえなあ! 一体門番さんは幾つだよ。あのときは、この町も戦争の荒波に揉まれ、男共は戦場に連れていかれ……俺のオヤジも帰ってこなかったよ。俺ァ、あんときは豆粒ほどのガキだったけどよ、鮮明に覚えてるぜ。こんな夜にオヤジは酒を飲んで笑ってた。俺がひっそりと、物陰からその様子を見ていたら、オヤジはそれに気づいて、俺にも酒をくれたんだ。というか、無理矢理飲まされたな。そのあと、二人で酔い醒ましに外へ出たが……本当に、綺麗な月だった。今日のものよりは格段と輝いていた。オヤジの笑顔も、質が高かった。たかが、おっさんの顔だけどな、俺には特別なものだったんだ。それにしても、ん? ん? 俺さえ、そのときはガキだったんだけど、おめェさんは姿形、何も変わっちゃいねえなァ! はっはっは! っはっはっはっはっは――!」


「あー! 門番さん、ただいま、こんにちは! ねねっ、聞いて聞いて! 今日は私、誕生日なんだあ! そして、今日お母さんに、このワンピース! 今私が着てるヤツ、買ってもらったの! 花柄のワンピース、可愛いでしょっ。そしてね、村長のお孫さんのキイチくんとも遊んだの! もう、こんな時間になっちゃったから、早く帰らないとお父さんとお母さんに怒られちゃうかもしれないけど、今本当に楽しいの! 今日あったことはもちろん、門番さんとお話しできて、私幸せなの! あっ、幸せと言えば四葉のクローバーだね。この前、キイチくんのおうちのお庭で見つけたから、今度持ってくる。是非、受け取って! 門番さんはこれで幸せになるよ絶対! というか、私の幸せを分けてあげる! えへへっ。門番さん、だーいすきっ!」 


「…………ああ、この町の門番さんですか。初めまして、私はしがない旅人その一です。で、私の隣りに佇んでいるチビが、その二。まったく、嫌な世の中になりましたね。とうとうこの国にも、戦争がもたらされたんですよ。私たちは、この町に何日か留まった後、この国を抜けようと思っています。……すみません、いきなりこんな話をされても困りますね。ですが、特にやることのない私たちの暇つぶしに、少し付き合ってください。ここ二三年、隣り国との戦争が始まり、日に日に人々の暮らしがひどくなっていくのも、人々の数が減っていっているのを見てきました。けれども、この町は……未だに、そのどんよりとした時代の空気に感染されていない。人の数は少ないものの、生き生きとその時を生きている人が多いですね。といっても、この門から中を眺めただけの感想ですが。この外壁もツタが張って随分古い。けれども、時代を感じます。人の温かみが感じます。本当に、この町は良いものなのですね。滞在時間は短いのですが、楽しみです。それに、何だか不思議です。門番さん、貴方を目の前にしていると何らかの話がしたくなってくる。ですが、今日はここまでにしておきましょう。話を聞いてくれてありがとうございました。では、また」


「門番さん、こんにちは。私たちは今日出発します」



 町は戦火に巻き込まれ、人の姿だって。鎧甲の騎士ぐらいしか目にすることはない。それも、敵国の騎士。人々は手当たり次第虐殺され、生きているのはほんの僅か。様々な所に隠れ住み、難を逃れるしか生き残る統べはない。もう、その町は。外壁があるということだけを取り柄として、敵国に占領されていたのだ。
「町の守りだけではなく、町の中も。もう、どうしようもなく、ずたぼろとなって、しまいましたね」
 男たちの笑い声が聞こえる。門番にとっても、この少女にとっても知らない声ばかり。
「門番さん、今まで。ありがとうございました。私、何年か前の誕生日に四葉のクローバーを見つけて。本当に幸せだったんです。ずっとは続かなかった。けれども、あの瞬間は。本当に、最高だった」
 あどけない面影のある少女は、そう言って過去に思いを馳せた。門番は静かに聞いていた。
 泥まみれの、裾の短くなった花柄のワンピースを身につけ、少女は門番を見る。彼がその場にいながら何故殺されなかったのか、そんなことを疑問に思うこともしない。ただ彼女は地面にうずくまり、浅い呼吸を繰り返す。
「ほんとうに、しあわせでしたよ」
 そうして、血まみれの手を門番に伸ばした。だが、途中で息絶えた身体は重力に逆らえない。
 そして門番は。
 もう何十年も前から外壁と同化した――埋もれた――身体を動かすことは出来ずに、静かにその少女を見守るだけ。
メンテ
時守人:第二章一話 ( No.34 )
   
日時: 2011/10/10 19:46
名前: If◆TeVp8.soUc ID:bTS/adwA

 これは絶対、百年は遡った。もしかすると数百年かもしれない。とにかく記録更新は確実だろう。喜ぶべきこと、なのだけれども。
「うっぷ……」
 見事に酔った。喉元までせり上がってきたものを、すんでのところでどうにか胃に戻す。ああ、だめだ、まだ吐きそう。何回やってもあの奇妙な空間には慣れない。時の狭間なんて洒落た名前がついているけれど、あれは地獄そのものだ。訳の分からない音ががんがん鳴っているし、空気はどんより重くて息が苦しいし、何より真っ逆さまに落ちていくようなあの感覚がひどい。臓器が全部もぎ取られたみたいな、いや、それからさらにかき回されたみたいな、とりあえず気持ち悪いなんてレベルじゃない。死ぬ。その前に吐く。
「お嬢さん、平気?」
 誰かの声が、すぐ傍でした。ここは一体どこ、というより、何年? 聞きたいけれども、声は出てこない。口を開いたら、先に他のものが飛び出してきそうだ。予感は正しかった。青々とした瑞々しい草々の上に、女の子が絶対に人前でぶちまけてはいけないものをぶちまけてしまう。吐瀉物というやつだ。それはもう豪快に、ざばーっと。
「あちゃー」
 よく聞けば、殿方の声だ。本当、あちゃーだ。いっそすがすがしいなと思うと同時、身体が勝手に傾いた。このままじゃ吐瀉物まみれになってしまう。身体を捻ろうとしたが少しも動かない。目が眩んできたそのとき、誰かの腕に優しく受け止められた。
 意識を失う寸前、小さな布袋が揺れるのを見た。故郷の村に伝わるお守り。遠いところで、懐かしいなと思った。

 ◇

「ときもりびと?」
「そうです。時守人」
「さあ、聞いたことないな」
「じゃあ、この時代にはまだ誰も来てないんだわ」
「へー」
 目が覚めたら、木陰に寝かされていた。隣にいたのはちょうど同い年くらいの男の人で、名はラッセというらしい。控えめだがまとまった顔はなかなかのもので、私はさっき目の前で吐いてしまったことを猛烈に後悔していた。恋の見込みがなくなっても、相手は恩人だ、もちろんちゃんと礼は言った。ついでに身の上話をしてみたが、信じてもらえなかったらしい。一応愛想笑いらしきものはしているが、目は口ほどになんとやら、「頭は大丈夫か」と聞いている。
「まあ、質問には答えとくよ。一、今年はセルテェン暦一〇一二年。二、ここはオリタル王国テーム町付近。三、おれはただの――」
「一〇一二年? すっごい、三百二十九年も遡った!」
 話の途中だったが、思わず歓声を上げてしまった。これまでの最高記録は八十一年。つまり、一度に二百四十八年も記録を更新したのだ。我ながらすごい。これでかなり始まりの者に近づいた。小躍りしたい気分だ。少しばかり残っていた吐き気も吹き飛ぶ。
「お喜びのところ悪いんだけどさ、あんたが聞いたんじゃないの?」
 呆れ顔だ。ばつが悪くなって、頭を掻く。
「あ、ごめんごめん、舞い上がっちゃって。構わず続けてください」
「はいはい。三、おれはただの旅人。四、どこかで聞いた気がする」
「聞いたことある? ほんとに? どこで?」
「どこで聞いたんだっけなあ」
 言葉とは反して思い出す努力は一切見せず、ラッセは立ち上がった。
「レーレアって名前だけなら知ってる。何をしたのかは知らないし、どんなやつなのかも知らないけど。どこかで通りがかりに聞いたのかもしれないし、たまたま何かの本で名前を見つけたのかもしれない。要するにそいつについて知りたいんなら、他を当たれってことさ。あんたもう平気? おれ、日暮れまでに町まで行きたいんだけど」
 ラッセは言うだけ言うと、返事を待たずさっさと歩き出してしまった。慌てて腕をつかみ取る。
「待って待って。ようやく見つけた手がかりなのよ。もっとよく思い出してみて。私、その人を見つけるために時間遡上してるの」
「さっきも聞いた」
「うん。必死なの。お願い」
「って言われてもなあ。思い出せないものは思い出せないし」
「そこをなんとか」
「それこそあんたが言う魔法使ってみたら? 数年遡って、おれを見つけてずっとつけてればいい」
「そういうことはできないから頼んでるのよ」
 時間遡上の魔法は、行き先の時代を指定することはできない。面倒そうな顔をして、ラッセはため息を落とした。
「ついてきたいなら好きにすればいいよ。おれはおれのやりたいようにしてるから」
「町に行くんでしょ? 私も情報収集したいから、一緒に行く」
「はいはい」
 気のない応答が返ってきたが、気にしないことにして、先に歩き始めたラッセの背中を追いかけた。

 ◇

 始まりの者、レーレア。時間遡上の魔法は、ずっと昔、彼女が――性別は分かっていないが、名前からしてきっと女性だ――編み出したらしいが、どんな歴史書をあたってみても彼女に関する記述はない。おそらく、生涯の全てをその魔法の研究に捧げたのだろう。しかし、彼女は自らが生み出した魔法の孕む危険をよく理解していた。彼女は研究を封印、そのため近年まで遡上魔法の存在は知られていなかった。だが、封印とて魔法、いつかは解ける。運が悪いことに、彼女の研究文書を最初に見つけたのは、魔法にも通じている歴史学者だった。聡明な彼がその危険性を理解していなかったことはなかろう。だが、歴史の真偽を確かめたいという強い知的好奇心に突き動かされて、彼は遡上魔法の存在を公にし、最初の会得者、そして行使者となった。以来、その魔法はすっかり皆の知るところとなり、多くの会得者と行使者を生んでしまった。過去へ行った彼らは、知らずか故意か、世界の行く末を変えてしまう。誰もが時の破壊者となりうるのだ。そしてセルテェン暦一七三一年、ついに世界は崩壊した。持つべきものを失い、持たないはずのものを手に入れた世界は、本来あるべき姿を見失ったのだ。
 壊れた世界を、元に戻そうと立ち上がった者たち、それが時守人。時守人の目的は、時を遡り、始まりの者レーレアを見つけ出して、彼女に研究を放棄させること。そして世界に平穏を取り戻すこと。
「だから、レーレアに関する情報はどんな些細なものでもほしいの。思い出したら、お願い、教えて」
 さっきよりも熱をこめて数倍丁寧に説明したのに、ラッセは私に一瞥をくれることすらしなかった。大きな欠伸を零して、返してきたのは上の空の「はいはい」
「私、一生懸命説明したんだけど」
「あんたが勝手に話し始めただけだろ」
「ちょっとくらい耳傾けてくれたっていいじゃない」
「おれはおれのやりたいようにしてるからって、言った気がするけど?」
「そーでしたねー」
 確かに言っていたが。ふう、と息をつく。せっかく見つけた手がかりだが、仕方がない。これ以上やっていても埒が明かない。前方に、町らしきものが見えてきた。あそこに行けばたくさん人がいるのだろう。
「じゃあ、私は先に行くわ。助けてくれたのと、案内、ありがとうございました。また、どこかで会えれば」
 急に別れを告げても、やっぱり返事は、抑揚のない「はいはい」だった。

 ◇

「待て」
 町の門をくぐろうとしたら、物々しい格好をした男たちに呼び止められた。鎧に兜、手には武器。衛兵なのだろう。門もよく見ればずいぶんといかめしい。厳戒体制だ。
「おまえはどこから何の目的でこの町へ来た」
「はい?」
 厳しい顔と声で問われて、思わず首を傾げた。
「まずは通行証を見せろ」
「は?」
 どうして町へ入るのに通行証がいるの。言おうと開いた口を、後ろから誰かに塞がれた。
「すいません、こいつ、おれの連れです。通行証ならここに」
 ラッセの声だった。衛兵は差し出された紙を端々まで眺めて、ひとつ、頷く。
「確かに。だが、おまえ一人の通行しか許可されていないぞ」
「なら、これで」
 まだ口を塞がれていて、自由に顔を動かせない。耳の横から視界に入ってきたラッセの指は、銀貨を一枚挟んでいた。
「銀貨一枚か」
「じゃ、もう一枚」
 手品のように、銀貨が二枚に増える。衛兵はそれをじっと見た後、無表情で頷いた。
「よかろう。おい、門を開けろ」
 なおも口を塞がれたまま、私はラッセに開かれた門の向こうへ引っ張っていかれた。

 ◇

「ありがとう」
 自由になってからすぐに、私は頭を下げた。
「どーいたしまして」
 どうでもいいとでも言いたげな口調だ。意識して、気にしないようにする。
「そう言えば、一〇一二年って、戦時中だったわね。相手はトレム帝国だったかしら? だからこんなに厳しいんだ?」
「数年前から戦況が悪化して、通行証がないとどこにも行けなくなった。あんたたちの時代にはこの戦争も終わってるんだな。ま、三百年以上も後から来たなら当然か」
「別の戦争が勃発したりしてるけどね。それで……お金、どうしよう。三百年後のものなら少し持ってるんだけど」
「いいよ銀貨二枚くらい。じゃ、おれはこれで」
 予想していたから、行ってしまう前に腕をつかんで止める。ぎこちなく振り返ったラッセの顔は、戸惑っているように見えた。
「なに?」
「お礼。さっきのもそうだし、気を失ったときも助けてくれた。何かお礼させて。私、魔法なら自信あるわ。何か壊れたもの直してほしいとか、あと欲しいものあったら作れるかも」
 素っ気ないふりをしているけど、ラッセは優しい。一回目は私を助けた上に目が覚めるまで傍にいてくれたし、二回目も放っておけばいいのにお金を払ってまで門番から救ってくれた。なんだかんだで、普通の人が聞いたら当然嘘にしか聞こえないような話を信じてくれてもいるらしい。いい人だ。
「いいって」
「いいから」
「再生魔法も製造魔法も、おれ、使えるし」
「え、あなたも魔法使うの?」
「ちょっとかじってる」
「かじってるくらいじゃ、再生魔法も製造魔法も会得できないわよ……」
 考えてみれば、町まで移動魔法で移動した私に、ラッセは息を切らさず追いついて見せた。彼も移動魔法を使ったのだろう。
「ま、そういうわけで」
「待ってってば」
 離すものかと逃げかけた腕を両腕で抱きしめるようにしてつかみ直す。ラッセは困りきった顔をして、それから息をついた。
「そしたら、ひとつ、頼みがある」
「なに?」
 しばらく視線をさまよわせながら悩んで、冷たい顔を作った。
「これ以上おれに話しかけるな、以上」
 強い力で、腕は振りほどかれる。
「は? あ、ちょっと、待ってよ!」

 ◇

 町中を駆け回って、宿街でようやくラッセの姿を見つけたとき、日は暮れかけていた。
「やっと見つけた。魔法使ってまで逃げるなんて。かじってるだけとかやっぱり大嘘じゃない。高等魔法ばっかり使っちゃって。おかげで苦労したわ。疲れた」
 撒いたと思ったのにと言ってから、ラッセはまたどうしたらいいか途方にくれるような顔をした。
「話しかけるなって言ったけど?」
 冷たい言葉だけど、冷たくなりきれてない。そうすることに躊躇うような部分があって、私は肩を竦めた。
「気になってたんだけど、あなた、どうして旅なんてしてるの?」
「は?」
「あなたの故郷、ノマ村でしょ」
「なんで知って?」
「一回目に助けてもらったときに見えたの。あなたの剣の鞘についてる布袋。ほら、私も同じの持ってる。ノマ村だけに伝わるお守りらしいわね」
 大事にポケットに入れていたお守りを取り出して、見せる。旅立つときに妹が作って渡してくれたものだ。よく握り締めるせいで少し形が崩れて汚れていたが、私の宝物だ。ラッセは渋々確認してから、顔を上げた。
「だから?」
「家族は? 友達は? 会いたくならないの?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
 答えることに、一瞬迷う。でも。またお守りを握り締めた。意を決して、顔を上げた。大丈夫、もう泣かずに話せる。
「時間遡上の魔法はね、時間を遡ることはできても、戻ることはできないの。私はもう二度と故郷にも帰れないし、家族にも友達にも会えない。だから」
 少しばかり、気まずい沈黙があった。ラッセが身じろいで、ようやく言う。
「……へえ」
「あんまり親不孝してないで、たまには故郷にも帰んなさいよ」
「あんたに言われる筋合いはない」
「まあ、そうなんだけど」
「それで?」
 口調が、ちょっとだけ、しかし確かに柔らかくなった。
「ん?」
「なんか用があっておれを探してたんじゃないの?」
 きょとんとする。特に用なんてなかったことを思い出した。
「ううん、別に。なんか逃げられると追いたくなるの。そういうもんでしょ?」
「なんだそれ」
 そう言って、ラッセは、初めて笑った。

 ◇

 翌日、宿から出てきたラッセに笑顔で手を振って見せると、なんとも言えない変な顔をされた。
「いつまでつきまとうつもりだよ」
「昨日の晩ね、色んな人あたってみたんだけど、何か知ってそうなのは結局あなたしかいなかったのよ。思い出してくれるまでつきまとうことにするわ」
「迷惑なんだけど?」
 つれない言葉は変わらなかったが、いくらか拒絶の響きは薄れていた。
「そう言わずに。だってこの時代で初めて会ったのがあなたで、あなたは何か知ってそうで、それから同郷出身だなんて何か運命じみたものを感じるじゃない」
「つき合わされるこっちの身にもなってくれ」
「ごめんごめん」
 言うだけ無駄だと観念したのか、歩き出したラッセを追っても、ため息をついたきり何も言わなかった。
「あんたの魔法ってさ」
 しばらく歩いてから、唐突に切り出されて、驚く。ラッセから何かを話しかけてくるなんて初めてだ。
「どの魔法?」
「時間遡上の魔法? 行き先指定はできない?」
「どうして?」
「行きたい時代があるんだけど」
 少しむっとして応じる。
「あなた、私の話聞いてた? 歴史を変えることは」
「変えたいわけじゃない。知りたいことというか、思い出したいことがあるんだ」
 妙に思いつめたような顔が引っ掛かって、喉元まで出てきた厳しい言葉は引っ込んだ。新しい言葉を探す。
「……破壊者になってしまう者たちも、最初は皆そう言うの。それで、いつに行きたいの?」
「十五年前」
「十五年前? あなたもう生まれてるんじゃ」
「思い出したいことって言ったろ。おれ、十五歳以下に見える?」
「見えないわよ」
「十五年前――」
 深刻な顔で話し始めかけたラッセを、慌てて止める。
「待って。言っておくけど、時間遡上の魔法は行き先指定はできない」
 緊張していた顔が、緩んで、それから落胆に変わった。
「先に言えよ」
「でも、あなた、思い出したいことって言ったわよね? あなたの目の前で昔起こったことを確認したいだけなら、ひとつ、方法がある。はっきりといつのことか覚えてるならね」
「どんな?」
 魔法のことならどんと来い。伊達に時守人はやってない。
「過去共有の魔法っていうのが、一三一三年に完成されたの。過去に目の前で起きた出来事を映像として再生することができる。それを使えば」
 いつの間にか、ラッセには緊張が戻っていた。喉元が上下する。
「あんたが言ってた『お礼』っての、まだ有効?」
「もちろん」
「なら、頼みがあるんだけど」
 よし来た。笑む。
「任せといて。十五年前のいつ?」
「春の月五十六日、夕刻」
「おっけー!」
 答えたときには既に、私は過去共有の魔法陣を広げていた。それからここが大通りのど真ん中であったのに気付くが、細かいことは気にしちゃいけない。しばらく通行の邪魔をしますがあしからず。
 魔法陣から溢れ出る光は、周囲の景色を残らず飲み込んで、新しい景色を生み出した。

 ◇

「昔も今――というか未来も、そんなに変わらないのね」
 過去共有の魔法は、過去を現在に呼び起こすだけだから、時の狭間は通らなくていい。楽なものだ。目の前に広がったのは、懐かしい山間の小村。山の緑がぼんやり橙に霞んで、夕暮れ時は特に綺麗だ。田舎なのは昔からのようで、でも、それはそれなりに情緒がある。父と、母と、妹と、友達と。みんなの顔が眼裏を駆けていった。ポケットの中のお守りを、また握る。本当に、懐かしい。
 世界が揺れる。ラッセの記憶を共有しているのだ、過去に彼が見たものそのままが再現されている。今は走っているのだろう。視界が低い。十五年前ということは、まだ十にはなっていない頃の年だろう。五歳くらいかもしれない。
 小さな木造の建物が近づいてきた。家だろう。走って、走って、その前までたどり着くと、「ただいま!」と言いながら背伸びをして――ちょっと視線が上がったから、たぶんそうだ――小さいラッセは扉を開けて、中に入る。
「かわいい声ねー」
「うるさい。頼むからちょっと黙っててくれ」
 横目で見たラッセの顔は、本格的に緊張していた。これから何が起こるというのか。家の中では若くて優しそうな両親が待っていた。いたって平和な――いや、十五年前といえば九九七年だ。ならば、トレム帝国との戦争は既に始まっていたはずだ。ノマ村は、ちょうどトレム帝国との国境付近にある。そして、確か……トレム帝国との戦に破れたオリタル王国は、ノマ村を含む国の北東の一部の領土を賠償として明け渡すはず。それから二百年後に再び起こった戦争に勝って取り戻すまで、ノマ村はトレム帝国の支配下に――いや、待てよ、戦争が終わるのは一〇一九年だ、これは関係ない。一〇〇〇年ごろまではオリタル王国が優勢だった。それでも普通の民家であろうラッセの家に長槍やら斧やらの武器が平然と鎮座しているのは、きっと戦争の影響なのだろう。
 父親が帰ってきたラッセを笑顔で抱え上げようとした、そのときだった。母親がさっき夕食を並べたばかりのテーブルの上に、突如、浮かび上がった魔法陣。私はラッセと一緒に息を呑む。中央の基本陣に東西南北の副陣を組み合わせたあの複雑な魔法陣は、紛れもなく時間遡上の魔法陣。
 音がした。落ちた食器が割れて、美味しそうな食事が床にばら撒かれて、テーブルの木が割かれる音が。魔法陣の光が消えて、中から現れたひとりの青年の姿に、私はまた、息を呑む。
「デュッセル」
 同時代出身で、同郷出身の時守人だった。昔から何でもできた彼は、私よりはるかに優秀な時守人になって――だから、私が三百年以上遡っても、追いつけないくらい先へ遡っていた。
「て、敵襲か?」
 ラッセの父親は、急いで武器のところに駆け寄り、長槍を手に取った。母親がラッセを背中に庇いながら、金切り声を上げる。
「ま、待ってください。僕は、ただ」
 そう。デュッセルはトレム帝国の兵士でも、悪人でもない。私が知る限り、誠実で、優秀で、真面目な時守人だ。ただ、時間遡上の魔法は時代と同じく出現する場所も選べない。だから、そう、運が悪かっただけ。悪意なんてない。
「す、すみません。人の家の中に出現するなんて。ごめんなさい。お願いです、武器を、お願いです」
 予想外の出来事に焦ったのは、ラッセの一家だけではなくて、デュッセルもだった。冷静なら、魔法で眠ってもらうなり、すぐに移動するなり、彼ならなんだってできた。でも、運が悪すぎた。ラッセの父親は、悲しいかな、勇敢だった。妻と息子を守るために、真っ先に侵入者に挑んでいった。武器を手にして、デュッセルを殺す気で。
 時守人は、自己防衛のための戦闘訓練を受けている。その分野においても、デュッセルは優秀だった。彼自身が冷静を欠いていても、身に染みついた訓練は、勝手に彼の身体を動かす。反射的に放たれた氷の刃の魔法は、過たず、ラッセの父親の腹を刺し貫いた。
「あ……あ……」
 浴びた返り血に、ますますデュッセルは自分を失った。
「あの、あの……生きてますか……」
 返事はない。父親は事切れていた。その事実がさらに彼を苛む。
「あなた! あなたっ! ひ、人殺し! 人殺し!」
 母親が、父親に駆け寄り、泣き叫ぶ。
「お願いです……静かに……お願い……」
 デュッセルがゆらゆら、母親に近づく。母親の声はそのたび大きくなる。
「お願いします……静かに」
 口を塞ごうと、デュッセルが持ち上げた手を振り払って、母親は手にしていた包丁を振り上げた。
「こ、来ないで!」
「違うんです……僕は、僕は……僕はただ、レーレアという女性を……」
「来ないでえ!」
 二度目も、やはり、彼の身体は勝手に反応した。呼び出した無数の蔓は、母親の身体をあっけなく絡めとり、締め上げた。彼女が動かなくなるまで、ずっと。
「あ……違う……違うんだ……なんで、なんでこんな」
 デュッセルはうわ言のように言う。小さいラッセは、泣くことも、喚くこともしないで、じっと両親の仇を見ていた。細かく揺れる世界が、彼が震えていることを示している。ゆっくりゆっくり歩いて、母親の取り落とした包丁を持ち上げた。
「あああ」
 それは、とても小さな男の子の声だった。
「ああああああああっ!」
 絶叫しながら、デュッセルに駆けていく。でも、小さい子供の身長では、デュッセルの大腿に届くのがやっとだった。力も足りない。包丁はほんの少しだけ、デュッセルの足を傷つけただけだった。しかし、デュッセルは、痛みで我に返った。目の前の惨状を見、返り血に染まった自分の姿を見、そして小さいラッセを見て。
「僕は……僕は、なんてことを」
「ああああ! あああああああっ!」
 小さいラッセはずっと、言葉にならない何かを叫び続けている。視界が曇って、それで彼が泣いているのが分かる。デュッセルも、泣いていた。泣き続けながら、贖罪の言葉を、口にした。
「ごめん。ごめんなさい……ごめんなさい……」
 その瞬間床に浮かび上がった魔法陣に、背筋が冷える。駄目。止めようと延ばした手は、無論、映像だけの彼には届かない。
「償います」
 デュッセルが使ったのは、自分を跡形なく消し去る、完全自爆の魔法だった。

 ◇

 テーム町の景色と喧騒が戻ってくる。何を言ったらいいのか。ラッセを見た。青ざめた顔。目が合う。
「なんで、あんたが泣いてるんだよ」
 おかしいなと思っていた。過去共有の魔法が終わっても、視界が曇ったままだったので。泣いていたのは、小さなラッセではなくて、私のほうだったらしい。
「ごめんなさい。あなたの方が辛いのに」
「おれはさ」
 ラッセは、泣いても、怒ってもいなかった。信じられないくらい穏やかな声音で言う。
「両親はずっと……おれが殺したと思ってたんだ。あの日のこと、綺麗に忘れてて。村人たちも、あの光景見たら、おれがやったって思ったんだろうな。追い出されたよ。殺されなかっただけましだけど。それが旅の理由。行くところがないだけなんだ」
「ごめんなさい」
 謝ることしかできなかった。そうする以外、どうしたらいいのか、分からなかった。
「なんであんたが謝る?」
「何も知らないで、たまには帰れなんて言った。それに……あの時守人、私の知り合いなの。友達だった。ごめんなさい」
 やっぱり、ラッセは穏やかに答える。
「友達だからって、あんたが謝る必要はないだろ」
「でも」
「正直言って、どんな事情があろうと、あんたの友達のことは許せない。だけど、死んじまったもの、今さら恨んだってどうにもできない。おれは、あんたのお陰で自分がやったんじゃなかったって知れた。感謝こそすれ、恨んだりしないよ」
 こんなときでも、ラッセは優しかった。
「だけど」
「昨日から、あんたしつこい」
「だって……」
 少しの沈黙のあと、ラッセは何かを思いついたらしく、私の前へ回ってきた。正面から泣き顔を見られる。恥ずかしくなって、顔を俯けた。
「なら、頼みがあるんだけど」
「なに?」
「時間遡上の魔法、教えてくれ」
 信じられない言葉を聞いた。
「え? どうして?」
「さっきも言った。行くところがない。やることもない。だったらおれも、あんたの言うレーレアってやつ、探してみようと思って」
「いや、でも」
「元はといえば、そいつのせいなんだろ。そいつが変な魔法作らなければ、あんたの友達がおれの両親を殺すこともなかった」
 正論。だから、反論はできない。
「そうかもしれないけど」
「はい、決まり」
「え、いや……あっ、そう、時間遡上の魔法ってすごく難易度高いの。魔法かじってるだけの人にはちょっと」
 どうにか諦めてもらおうと頭を捻ったが、相手の方が一枚上手だった。
「移動魔法でおれに追いつけないあんたでも使えるんだろ?」
「すっごい嫌な言いかたね。仮にも教えてもらうんだから」
 言ってしまってから、「教える」と宣言してしまったことに気付く。もう遅い。
「よろしくお願いします。えーと、何先生?」
「名前?」
「そう」
 女に二言はない。観念して、答えた。
「アンヌ」
「よろしく、アンヌ先生」
 そうしてラッセは、二度目に笑った。それで私は三度目に救われる。涙はもう、止まっていた。

 それからラッセはたった三日で時間遡上の魔法を会得してみせ、私を驚かせたのは、また別の話。
メンテ
時と光と ( No.35 )
   
日時: 2011/10/10 23:03
名前: 伊達サクット ID:0Ri04pik

 光の速さで移動する宇宙船が発明された。人類は技術の発展に歓喜した。
 その翌年、人類に更なる吉報がもたらされる。
 70年前に地球から、まだ見ぬ宇宙の隣人へ向けて飛ばした光電波。何と、そのメッセージが答えとなって帰ってきたのだ。これにより、地球の他にも文明を持つ星が宇宙に存在していたことが証明された。遥か宇宙の彼方から飛んできた電波信号を解読すると、こういった内容であった。

『初めましてストテラ。我々はあなたたちの星から光の速さで20年の距離に位置するストテラ星のエフバン人でストテラ。我々は宇宙で孤独な存在かと不安でしたが、遥か遠くに同じ宇宙の仲間がいると知って感無量ストテラ。地球という星は美しいそうですが、我々のストテラ星も負けずと美しいストテラ。現在我々は地球に飛び立つほどの科学力は持ち合わせていませんが、いつか出会う日を楽しみにしているでストテラ。ごきげんよう。ストテラ』

 その5年後、光速宇宙船でストテラ星へ飛び立つことが決まった。片道20年、往復40年、選りすぐりの宇宙飛行士たちは自分の人生を犠牲にし、地球人類の期待を載せて遥か宇宙へと旅立った。
 航海が始まり10年後、光速宇宙船に他の宇宙船がコンタクトをとってきた。初め乗組員はエフバン人とばったり出会ったのかと思ったが、接触してみると船から出てきたのは人間だった。しかも、彼らの代表者というのが祖国の政府の高級官僚であった。彼は松沢と名乗り、宇宙服越しに光速宇宙船の船長に事の次第を話し始めた。
「実は、君たちが宇宙を進んでいる10年の間に我々人類は空間を瞬間移動する方法を発見してしまったのだ。そのため20光年離れたストテラ星にも1日で行けるようになってしまった。技術の進歩の速さが光の速さを超えてしまったのだ。そして、既に我々はエフバン人との交流を始めている。君たちにとっては本当に残念な結果だが、この旅はここで終わりとなる。しかし、君たちは祖国に戻れば英雄だ。当然10年分の補償も国がする。さあ、我々と地球へ戻ろう」
 しかし、その話を聞いた船長はじめ乗組員は驚きもせず平然としていた。そして船長がゆっくりと口を開いた。
「そのことは知っていました」
「な、なんだって、そんなはずないじゃないか」
「いえ、未来の我々から聞かされたんです」
「未来?」
「はい、未来の私たちがタイムマシンに乗ってやってきたのです。10年前に。宇宙へ飛び立つ直前でした。そして我々に警告したのです。彼らは20年後の未来からやってきたと言いました。そして我々に、10年後にはワープの技術が実用化されてこの計画は頓挫すると伝えたのです。この光速宇宙船がストテラ星に着いた少し後に、ストテラ星でタイムマシンが発明されたとのことでした。そして、2つの星の友好の証として、地球のワープ技術、ストテラ星のタイムマシンの技術が交換されたのです」
「なんかややこしい話だな。それならそうと、なぜこんな不毛な旅にでたのかね?」
「誰も信じないでしょう。それに、我々はこの船に誇りを持っております。船乗りとしての。もちろん、この航海に自分の時間を犠牲にできないという乗組員は全員この計画から外しました、この船にいるのは全員志願者です。我々は是非この旅を成功させたいのです」
 松沢はしばらく考えていたが、決意が固いことを見取って彼らの意志を尊重することにした。
「分かった、宇宙局にはそう伝えておこう。必ず成功させろ、全員生きて帰ってこい」
 松沢が船長の肩をしっかりとつかんだ。互いに礼を交わした後、船長が思い出したように言った。
「松沢さん、話によると実は、地球製タイムマシンの初の乗組員って私たちなんですって。松沢さんが任命してくらたらしいですよ」
「馬鹿な、何で私にそんな権限があるんだ」
「科学省を引退した後、パイプのある宇宙局へ天下りするんですよ。そのおかげで我々は未来の自分達と会えたのです。感謝してます」
「我々の未来のためにも、軽率な発言は控えたまえ」
 松沢は苦笑して踵を返した。

(終)
メンテ
ヘッドフォン・マリー ( No.36 )
   
日時: 2011/10/10 23:59
名前: アリス ID:6W2YXxJU


「何なの、部屋に呼び出して」
「実は見せたいものが」
「だが断る」
「まだ見せてねーよ」
「え、指輪じゃないの?」
「ねーよ」
「早とちりしちゃった恥ずかしい」
「その恥ずかしがり方がまずねーよ」
「ウルセー」
「で、本題だけど」
「だが断る」
「何なの君」
「こんな質素な、男一人の下宿の部屋で見せられるものなんてロクなものじゃないわ」
「まあごもっともだけど」
「ばいばい」
「待て待て。質素なのは認めるけど帰るのは認めてない」
「何よ、早く本題に入ってよ」
「いや君だからね、本題に入るのを妨げたの」
「指輪だったら高級レストランの方が雰囲気あるわよ」
「だから違うって。見てくれ」
「なにこれ。ヘッドフォン?」
「そう。だがところがどっこい、実はこれ、ヘッドフォン型のタイムマシンなのさ」
「へえ。どうやって操作するの?」
「教えてもいいけど、別の時代に吹っ飛ぶよ」
「私、ジョン・レノンに会ってみたいわ」
「まあできなくはない」
「でも、時を超えるのって怖いイメージが」
「うん。失敗したら、二度と戻ってこれないぜ」
「なにこのポンコツ。リスクがでかすぎるわよゴミめ」
「ひでーよ」
「そうだ、野口英世も」
「お前のギャグがひでーよ」
「で、なんでこんなの私に見せてきたの?」
「君、ウェルズの『タイムマシン』読んでただろう。こういうのに興味があるのかなって」
「ねーよ」
「ねーのかよ」
「最近名作を読み漁るのにはまってて」
「なんだ、拍子抜け」
「で、タイムマシンを私に見せた理由はそれだけ?」
「それが違うんだ」
「早く言ってね。この後、教育テレビで『THE相対性理論と量子力学』を見なきゃいけないのよ」
「しっかり興味あるじゃねーか」
「教養よ教養。で、ほかの理由は?」
「実はね、君、将来僕と結婚するみたいだぜ」
「へー」
「うん」
「は?」
「ひ?」
「ふ?」
「へ?」
「ほんとうに?」
「昨日試しに未来に飛んでみたんだ。そしたら、僕と君、女の子を連れて公園を歩いてた」
「親戚の子かもしれないわよ」
「君にそっくりな子だったけど」
「実は七十歳年下の姪がいてね」
「何歳だよ君。それ、もはや曾孫だろ」
「私たち二人が歩いてた近くにたまたま私に似てる女の子がいただけかも」
「君の事、ママって呼んでたぞ」
「それ、私じゃないかもよ」
「ヘッドフォンしてた」
「えっ?」
「これを付けてたんだ」
「……」
「だから、今日は、これを君にあげようと思って」
「いいの? 大切なタイムマシンなんでしょう」
「いいんだよ別に。それに、未来の君、結構似合ってたしねヘッドフォン」
「……なによ。結局、これが指輪ってことになるじゃないの」
「まだわからないよ。あれはあくまで未来だから、変わるかもしれないぜ」
「変わってほしい?」
「さあどうだか。なるようになる」
「そうね」
「だけど、君にヘッドフォンを預けとく」
「どうして?」
「そこは、ご想像にお任せするよ」
「……変わってほしくないってことでしょ、それって」
「えっ?」
「なんでもない。わかったわ。預かる。大切にしてあげるわよ」
「よろしく」
「……」
「なんだその、不満足そうな顔」
「これからもよろしく、でしょ」




メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:作品投稿期間】 ( No.37 )
   
日時: 2011/10/15 20:02
名前: 企画運営委員 ID:/.dt6UGk

作品のご投稿お疲れ様でした。
 11日(火)〜31日(月)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。


第7回『時間』:参加作品 >>32-36(敬称略)

>>32 空人:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察
>>33 sakana:境に佇む彼は
>>34 If:時守人:第二章一話
>>35 伊達サクット:時と光と
>>36 アリス:ヘッドフォン・マリー
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:作品投稿期間】 ( No.38 )
   
日時: 2011/10/16 04:51
名前: If◆TeVp8.soUc ID:69.bh3MY

眠気に負けて間違えて雑談所に投稿しちゃったのは内緒の話。ということで、こんにちは!
学校ってなんでこんな疲れるんでしょうか! 毎日同じ時間に起きるとか無理すぎる。
学校には遅刻してもお題の締め切りに遅れるわけにはいかないので、時間があるうちに投下します。私にしては珍しく余裕な時期。いつもこうでありたい。いや、無理ですが^q^
私が一番乗りとか雪降るかもね、って言おうとしたんですが、そろそろ雪降ってもおかしくない時期ですね。昼夜の気温の差が激しいので、みなさんお風邪など召されませんよう。
前置き長くなっちゃった。では、批評の方に。批評というか感想です。


>>32 空人さん:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察
文章が、また読みやすくなっていますね。この上達速度は本当に羨ましい限りです。すごく努力されてるんだろうなあ。
ところどころ笑えて、楽しかったです。長いミドルネームは特に笑いました。そして直美さんかわいいです。本当に空人さんの女性キャラは毎度魅力的。
ただ、今回はお話の方が……ちょっと物足りなかったかなと思います。発想で押し切ってしまったような印象を受けました。だからこそ会話などで工夫を凝らしていらっしゃったんだと思いますし、それはもちろんとても良かったのですが、それでももう一歩何かがほしかったかなあと。(ご本人もチャットで仰ってましたが)
せっかくいい発想だったので、それを活かせるようなストーリー、話の展開があればもっと良かったかなあ。あと、終わりにも、もうちょっと何かあればよかったかもしれません。これから先が気になって気になって、そっちに注意が流れちゃう。短編とはいってもやっぱり物語ですから、終わりってインパクト欲しくなるんです。わがままです。私もできてません^q^
会話主体の話で読者を楽しませるのは、とても難しいと思います。「動」がほしかった。このタイプのお話では難しいとは思うんですが。
SF難しいですよね。私も挑戦してみればよかったかな。タイトルがいつもの空人さんらしくなくて、どんなお話なんだろうって興味を惹かれました。

>>33 sakanaさん:境に佇む彼は
いつもとはちょっと違うお話ですね。漂う雰囲気は一緒でいつものsakanaさんらしいんですけど、形式が違う。こういうチャレンジャーなところはすばらしいと思います。読んでみても、新鮮な感じがして、面白かったです。
個性豊かな登場人物たちの語りが小気味よくて楽しかったです。ついこっちまで微笑みたくなる。門番の心情は何も書かれてないんですけど、なんとなく話を聞けるうれしさと言うかそういう感情を共有しているような気分になります。
少し思ったのは、いつもより時間がなかったのでしょうか。sakanaさんのお話で物足りなさを感じることはそんなにないんですけど、今回はちょっと、特に最後急いでるなあと思ってしまいました。
旅人の話があって、それから町が滅びてしまうまでの間がかなり飛んでるように感じました。それまでがじっくりじっくり進んでいたので、それもその部分を際立ててしまった原因のひとつかもしれません。
門番に関してもう少し情報が欲しかったのも、もうひとつ。門番に何も語らせないところはすばらしかったので、語り手たちにあと少しだけ門番に関して喋らせてほしかったかなあ。
ラストの悲しさは強烈で、すごく印象的でした。最後の一文が特にすごい。心に響きます。

>>34 If:時守人:第二章一話
とりあえずタイトルが。夜通し書いてもう疲れてしまって、適当度が半端ない。言い訳しましたが、今考え直してみてもロクなものが思いつきません。これはなんてタイトルをつければよかったのかな。
薄味ですね、中身も。色々突っ込みすぎて失敗した感。いつかこれは長編で書きたいと思います。もっとしっかり練り直してから。
短編ってどうやればいいのかなあ。試行錯誤を繰り返していますが、中々上手くいきません。今回もちょっと新しい試みでした。始めから短編の中で収めきることを放棄して書いたので。でも、上手くいかなかった^q^
手厳しい批評をいただければ、と思います。

>>35 伊達サクットさん:時と光と
「ストテラ」とか展開とか、端的な文章と話の流れとか、全体的にサクットさんらしいお話だなあという印象です。
これだけ短いのに、ドラマチックでびっくりしました。光速宇宙船の乗組員たちの男気がかっこいいです。
たぶん好みの話になってしまうと思うんですが、さきほど「端的」と書かせていただいた文章のことで少し。
必要不可欠な情報はきちんと書かれていますし、一文一文が短くて率直な文はリズムよく読めるのですが、個人的には、ちょっと物足りないかなあと思います。
かなり登場人物と距離をとった三人称で書かれているので、その中で心理描写しろって要求するのは酷かもしれないですけど、読みたかったです。これもわがまま。
この場合は松沢さんに寄って書くのがいいのかなあ……誰かに移入して読みたかったなと思います。移入できないと、どうしても物語との距離を感じてしまうので。
ですが、絶対にそうしなくてはならないというのではなくて、やっぱりこれは私の好みの問題だと思います。神視点の物語だって存在しますし。

>>36 アリスさん:ヘッドフォン・マリー
いつも本当にアリスさんのタイトルはセンス抜群で羨ましすぎます。どこから出てくるんですかその発想は!
一回目のお題と一緒で会話文だけのお話になっていましたが、どうしてこうも面白いのかなあ。ちょいちょい横道にそれるのもいいです。はひふへほんとうに、とかリズムもいいし。
最後もとても微笑ましくて、良かったです。ただ、私はやっぱり地の文も書いてほしかったなあと思ってしまいます。というのは、物足りない。もっと読みたいと思っちゃう。
例えば男の人が未来の女の子を見つけた瞬間とか、そのときの気持ちとか、あとはプロポーズまがいのことをされて女の人側はどう思ったのかとか……今のままでもすごく想像させてくれるし、それがこの形式の物語の魅力だとも思うんですけど、アリスさんの文章でそういうのが読みたいと思うんです。(時間がなかったのは知ってるので、無理な要求ですが)
ただ、もともと会話形式で書こうって決められてから書かれてたのも知っています。最初から会話形式として見るなら、かなり完成度の高い物語であることは間違いない。さすがです。
しばらくアリスさんの物語が読めないと思うと寂しいです。また春、戻ってこられるのを楽しみにしています。大変かと思いますが、がんばってください。



面白かったですが、今回は前回と比べるとちょっとみなさんお急ぎモードかなという印象でした。もちろん私も含めて。
みんなお忙しいのかな。参加者数も控えめですね。月一ですから参加しましょうぜ! 短編なのでお手軽ですよ!
では、勧誘もしたことですし、今回はこれにて! 参加者と管理の皆さんお疲れ様です。作品と批評を読んでくださった方、ありがとうございました!
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:作品投稿期間】 ( No.39 )
   
日時: 2011/10/26 20:13
名前: 空人 ID:musrRkKQ

一ヶ月以上やってないと、批評の仕方も忘れますね。
えと、おかしなところがあったら教えてください。


>>33 sakana様「境に佇む彼は」

 小さな繁栄を見せる街で、それを見守る存在を周りの視点から導き出すその手法は、見事だったと思います。ただ、台詞のみで表現されていたので、門番さんに話しかけている人物がどんな人物なのか、どういう動きでどういう表情をしたのかが読み取りにくかったです。
 門番さんが今の状態に成るに至った経緯も、もう少し明確にしても良かったのではないでしょうか。
 ストーリーは温かく、そして切なく。とても良かったと思います。話しかけてくる人物が少しずつリンクしているのも上手く描かれていて、面白かったです。


>>34 If様「時守人:第二章一話」

 歴史の改変に対する危険性を軸に良く練られた作品だったと思います。世界観、時間遡行の必要性、登場人物の性格、過去の話など、物語にとてもよく合っていて素晴らしかったです。
 本当に長い話の一部分だけをくり抜いて出された感じがしますね。第二章の一話というタイトルはなるほどという感じでした。ただ、それが短編お題に適しているかと問われれば、首を捻るしかないのですが。
 この話の結末に何が待っているのか、教えて欲しいです。


>>35 伊達サクット様「時と光と」

 長距離の宇宙航行における危険性と、仕事に誇りを持つ男たちの思いを描いた作品でした。
 40年という歳月が無駄になるとわかっていても、宇宙へと旅立った彼らは、誰にも褒められる事も無く。ただ自分たちの仕事に対するこだわりは尊敬に値するものなのかもしれません。
 オチも秀逸。


>>36 アリス様「ヘッドフォン・マリー」

 会話だけの文章で、これほどの完成度を出せることがまず素晴らしいです。
 物語がしっかり出来ているし、掛け合いも面白いです。それに、台詞からでも彼らの表情は詳細に伝わってくる。変に凝らず、ハッピーエンドな感じが良かったんだと思います。
 楽しく読むことが出来ました。ありがとうございます。


>>32 自作「タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察」についての考察

 出オチですね。ワンアイデアではじめて、終わらせるには勢いだけではダメと思い知らされました。ちゃんと締めてあげたかった、ただそれだけです。



そろそろ受験シーズンも近付いて、ストテラはますます寂しくなるのかもしれません。
だけど、人も活気もきっと帰ってくるものだと信じてます。
だから僕は、懲りずに次回も参加するのですよ。

※茶野さんからラフ画を頂いたので、それを元に少しずつ描き進めています。(←結局描く事になった人
 もし、自分も茶野さんのキャラクター描きたいという方が居ましたら、ラフ画をお渡ししますので僕が居る時にチャットの方へ来ていただけると嬉しいです。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:批評提出期間】 ( No.40 )
   
日時: 2011/10/29 00:27
名前: アリス ID:8WXlZBTY

 緊急参加です。とりあえず批評ですね! いつもとは違う感じで批評してしまったので非常に乱雑な感想文になってしまいました。それにしても面白いですね。今回はSFよりな感じでしたが、それでもそつなくちゃんと確立されてる皆さんが羨ましいです。


>>32 空人:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察

 面白かったです。SFですね。もうタイトルからその感じが伝わってきます。というか上手い。すごくお上手なんです。話も素晴らしかった。小さな伏線、とでも言いますか、こちら側に創造の余地を与えるに十分な、一見意味があるのかよくわからない言葉が散りばめられている感じが好きです。ああいうことなのかも、もしかしたらそうなのかも。ぜんぜん見当違いかも知れませんし、空人さんは考えていないことかもしれませんが、私の心の中には、もしかしてもしかしてという物語の続き、時間のその先がたくさん溢れていました。ギャグもくすりと笑えます。特にミドルネームが少しもくどいと感じない辺りに筆力の高さが窺えます。普通文面であろうとなんだろうと、こんな長い名前ギャグだとしても繰りかえされたら正直面白くもないし飽きます。ところがどうでしょうか、空人さんの文章といったら。むしろその長さと奇抜さ、そこに主人公の地味ながらも的確でノリのよい突っ込みも相まって見事に完成された『面白さ』に昇華させてます。女の子も可愛いですし、ちょっとネジがはずれた感じも微笑ましい。
 非常に惜しいのが、というか思ったのは私だけかもしれませんが、『博士くん』がすごく惜しいと感じました。『すでに年上として会っている、普段は別の呼称で呼んでいる相手』を別の名前で呼ぶのって、すごく不自然に感じるんです。普通はそんな風に思わないんじゃないかなって思ったんです。もちろんこの女の子だったら思うこともありえます。難しいですね。
 とにかくお話、最高に面白かったです。完成度が果てしない。ギャグも冴えてる。会話分の統一感や雰囲気も圧倒的。読みにまったく滞りがなくて読みやすいです。ここまで辿り着くのにいったいどれだけ書けばいいのだろうというレベルです。面白いお話ありがとうございました。

>>33 sakana:境に佇む彼は

 これも最高です。ああもう悲しいし切ないし、いろんな感情が湧き上がって来る余韻のあるラスト。会話文だけで大部分が占められた話の完成度と面白さは抜群で、同じくほぼ会話文だけの私とは大違いで恥ずかしくなってきます。それぐらいもう圧倒的。もう魅力が半端じゃないんですよ。文章に個性があるっていうんでしょうか。それは別に作風のことだけを言ってるわけじゃなくて、もう言葉一つ一つが生きてます。だってほぼ会話文だけなんですよこのお話。それなのに登場人物一人ひとりの背景が見事に伝わってくる。ギャグっぽい登場人物からシリアスまでカバーしてるのも素晴らしい。特に前半が微笑ましくて後半にかけて妙に空気が落ち込んできているのも悲しさを助長します。門番さんだーいすきはもう反則です。セリフの一つ一つにそれぞれ喜怒哀楽が詰まってます。これ、お題は時間のはずなんですけど、もうそんなの関係ないぜ! ってくらい感動しました。時間を超越する動けない、形の定まった、それでいていつまでも時を越えて人々を見つめ続ける門番の話。終盤にかけての凄惨さに胸を打たれました。門番がまったくしゃべらなかった(というかしゃべれないのだと思いますけど)のもよかった。
 気になったのがまあキイチくんですね。こういう話だと、あんまり固有名詞、っていうか名前がないほうがまとまりがあるんじゃないかなって思うんです。それと私の読解不足かもしれないんですが、登場人物のそれぞれの中にある物語が繋がってる部分と繋がってない部分があることでしょうか。例えばセリフの中の『時間』という点で言えばとても上手くできていて面白いんですけど、ストーカーがどうとかっていう話も、後半に生きてくるのかと思ったらそうでもなかったですしね。(むしろあると思ったわたしがおかしいのかもしれませんね)。その辺り、もう少し繋がりがあったらもっとよかったですね。
 まあこれ以上よくなったら点数の上限余裕で超えちゃうんですけどね。それぐらいレベルが高くてもう言いようがないです。さっきの指摘は取るに足らないことです。気にしないでいいです。それを抜きにしても出来上がった物語が胸を熱くさせます。題材も素晴らしいですし、考えさせられる要素も素敵でした。読ませてくださってありがとうございました。

>>34 If:時守人:第二章一話

いや、連載してくださいよ! というぐらいの面白さ。続きが読みたいと思わせたらそれは短編として成功だと思うのです。まさにそれを体現したお話でしたね。続き、というか続きだけに留まらず、このお話が始まる前も読みたいという感じ。まあタイトルも第二章一話ですからね、割と長めの長編作品の『第二章一話』の部分をすっぽり抜き出して掲載したような印象です。一見悪く聞こえがちなその印象ですけど、それでいてまったく違和感がないのが面白いところ。というかまあ実際すっぽり抜き出してきたわけじゃないのはわかってるんですよ。でも抜き出したみたい。だけど短編としてしっかり型にはまってるのがすごいんです。伝わりにくいんですけどそういうところが私にはすごくよく感じました。あと、魔法とか時間遡上とか。さっきも言ったんですけど、そのまま連載用に使えそうな概念や設定がもったいないぐらい使われてて。いやそこは悪いわけじゃなくてむしろいいところです。連載してくださいとか言いましたが、短編だからこその良さもあると思うのでこの形がベストだったと思います。まあ要約すると本当に素晴らしいってことです。主人公格の二人のやり取りにもなぜかキュンキュンしたりとかもしました。
 気になったのはデュッセルの存在ですね。あまりに出現、というか登場が突然すぎた気がします。もうちょっと最初のほうに彼について触れてるとよかったかなって思います。なんだか使い捨てのようなキャラになっちゃってる気がしなくもないので。あとデュッセルの自爆魔法に違和感がありましたね。ここだけどうも普通すぎる気がしました。
 もう本当に気になったのはそれだけで、Ifさんの実力を再確認した作品でした。何度も言うようですけど、こんなにアイデアを使っちゃっていいのかと思うぐらいです。短編では疎かになりがちなキャラクターの個性もちゃんと出てる。特に主人公。いいですね。最初の『目の前で吐いたことを猛烈に後悔した』は主人公の人格をよく表してます。それだけで魅力的。可愛い。それにラッセもかっこいいんですよねえ。微妙に笑えるところもあれば悲しいところもあって。だけど最後は爽やかな気分で終わって。いろいろと感情を揺り動かされたお話でした。素晴らしいお話をありがとうございました。
 
>>35 伊達サクット:時と光と

 伊達さんクオリティ。いや、まあ伊達さんのを初めて読ませていただいたときがギャグだったので、こういうのが一番らしい気がしてしまいます。もちろんいろいろ読ませていただいてると、伊達さんがさまざまな作風を持ってらっしゃることはわかるんですが。特にイベントでは驚かせていただきました。だからギャグ(というか、このお話ギャグなのでしょうか)だけが伊達さんらしさじゃないというのはもう十二分にわかってるんです。でも、やっぱり伊達さんのこういう話は最高です。この短さで絶妙なんです。SFって難しいんですけど、伊達さんはもう慣れ切った感じですね。もしかしたら私だけかもしれませんが、このお話、さらっと書き上げられた印象があります。それぐらい重苦しくなくて、軽やかな雰囲気全体的に感じられました。隊員たちもかっこいい。松沢もいい感じですね。
 まあちょっとだけ唸ったのは、語尾のストテラが混乱を招いたことでしょうか。特に『初めましてストテラ』は少しわかりにくいです。一瞬、『あれ、メッセージを発信したのは地球なのに、なんで向こうはこっちのことをストテラって言ってるんだろう』となっちゃったわけです。まあよく読めばわかるんですけど、少しその辺りがわかりにくかったかな。ほかの部分は『でストテラ』という風に語尾として「です」と合体してるんだっていうのがよくわかるんですけど、初めましてストテラだけはすごく違和感がありましたね。よくよく考えると『感無量ストテラ』の部分もあるんですけど、やっぱりこの二つは強引な語尾になってる気がしました。あとの部分はよかったんですけど。
 さて、ストテラ、エフバンといった独特の言葉をお話に組み込むところが伊達さんなんですよね。しかも地の文は普通に真面目というところのギャップに毎度のごとくクスリとさせてもらってます。松沢の名前のチョイスも相変わらずいいです。最後の方の会話はちょっとだけ風刺かな? と思ったりもしたんですがどうでしょうね。さっきも書きましたがこのコンパクトにまとまってる感じが好きです。同じ話をもっと細かに描写したらそれはそれで別のものがいい形ができたかもしれないですが、私はこの重苦しくない空気、言葉選び、何から何までこの形が最高だと思いました。面白い話ありがとうございました。

>>36 アリス:ヘッドフォン・マリー

 先のお題でもう書かないとか言っておきながら書いてしまいました。これを書いたとき、何か物語を書きたくてうずうずしてたんです。それを書いたらこうなってしまったというわけです。第一回のときにやった会話文だけのお話とは違って、明確なオチがまったくないので少し味気なく地味な印象が自分の中にあります。というか、会話文だけのお話に地味じゃないものがあるのだろうか、いやない(反語)。でもsakanaさんは私と同じくほぼ会話文なのにあんなにレベル高いですからね。単純に私の実力不足です。会話文のせいにしちゃ駄目ですね。でも、書きたいことが書けてよかったかなって思ってます。
 タイトルはたまたま机に置いてあったヘッドフォン『mobilecast mLink-マリー』から……と見せかけて、実はヘッドフォンと『marry』です。まあ実際に存在するモバイルキャストマリーはヘッドフォンというよりイヤホンですからね。作中でのヘッドフォンは頭に掛けるタイプの方を想像していただければと思います。たまにリア充は爆発しろとか言うんですけど、世の中の恋する人たち皆さんに幸せがありますように。
 読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:批評提出期間】 ( No.41 )
   
日時: 2011/10/29 00:15
名前: 茶野 ID:k8Dbdh46

 批評だけ参加させていただきます。参加したかった。
 おもしろいか否かだけで書いたものなのでかるく読み流してください。


>>32 空人:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察
 いつもより文章が読みにくいなあと思ったのですが、それはおそらく変換のしかたがごちゃごちゃだからだと思います。どうやら自分は漢字の使い方に異常なこだわりがある人間らしいので、言葉の使い方とかではなくてそちらが気になってしまうのです。かたっぱしから変換しているかと思いきやひらがなのままのところもある。どういう法則なんでしょうか。
 ストーリーはとてもおもしろかったです。空人さんのお題投稿作品のなかで今のところいちばん好きです。時間というテーマでこういった内容をもってくるのは安直かもしれませんが、手堅いおもしろさがあったと思います。名前ネタがよかった。ミドルネームのくだりが特に好きです。理系ではないので時間の移動とかの理論がまったくわからず、深く考えようとすると頭がこんがらがりそうです。パラドックスには弱いです。直美のキャラはやっぱり歴代空人さんお題作品ヒロインの中でいちばん好き。さりげないかわいさがありました。今までのは少しあざとさが感じられてしまって、好みの女性キャラクターではありませんでしたが、直美は違いました。

>>33 sakana:境に佇む彼は
 なぜかF板お題にはこの手の形式が多いですね。3作品目くらいでしょうか。うまくやらないとすごくつまらなくなってしまう形式だと思います。セリフに無駄が多かったために読むのが大変でした。前半の門番に向けられたセリフが後半の内容と関係があることはわかりましたが、もうちょっとうまいことやれなかったかなあ、と。特に少女のセリフはあまりにも作り物っぽすぎたと思います。子どもがしゃべっている感じがしません。他の人物もなんだかストテラの小説によくみられるテンプレっぽいしゃべり方です。しゃべり方が気になりすぎて、あまりストーリーが楽しめませんでした。門番の設定とかすごくおもしろいものなので残念。
 誤変換が多いのが気になります。かなり多かったです。

>>34 If:時守人:第二章一話
 これは短編より長編向きの設定だと思います。この長さにおさめるには設定が細かすぎます。短編ならもっと単純化してやったほうがいいのではないでしょうか。と思ったらご自身で指摘していらっしゃる! 
 世界観もキャラクターもストーリーも大好きなものでした。やっぱり長編で読みたいです。きっとおもしろいはず。気になったのはセリフでしょうか。ところどころ浮いているセリフがあるような気がするのです。一人称のせいか地の文にも読みづらい箇所がちらほら。文章力がどうとかではなくて、こういう語り口に徹しきれていなかった感じがします。もしかしたら普段より文章に気をつかわれていないのではないかと思ってしまいました。

>>35 伊達サクット:時と光と
 すごく好きな作品でした。おもしろかったです。こういうの読みたかった。わたしはこういう文章でアリだと思います。余計なものがないのがいい。たぶん心情描写とかをいれちゃったらじゃまになると思うのです。うまく言えなくて申し訳ありませんが、好きな作品でした。

>>36 アリス:ヘッドフォン・マリー
 期待をうらぎらないおもしろさ。以前のテーマ『宝物』のときはいろいろ言いましたが、やっぱりアリスさんの作品はおもしろい。セリフだけで進められていますがぜんぜんそれが苦になりませんでした。ちゃんと考えられていると思います。今回セリフが気になる作品が多かっただけに、こういった作品が読めて安心しました。読後感も最高。ひとつの作品としてていねいにつくりあげられていてすばらしかったです。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:批評提出期間】 ( No.42 )
   
日時: 2011/10/31 00:09
名前: 伊達サクット ID:RbWmnoHM

批評させて頂きます。的外れな批評をしていたらすみません。敬称略です。

>>32 空人:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察

シュールな世界観や設定などが優れていると思います。現代(近未来)と凄い遠くの未来の価値観の違いをコメディたっぷりに表現してあり、面白いです。物語の序章的な感じですが、文章量からすると仕方ないし、変に詰め込み過ぎて書きあふれるよりは、主人公と直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林とのやりとり、共同生活に至るまでの筋書きが丁寧に書いてあるのでこれでいいと思いました。
指摘する点は、小林さんとの会話をしている場面がどこでのことなのかよく分からなかった点です。多分主人公の部屋で話してるんだと思うのですが。そこに説明があった方がいいと思いました。

>>33 sakana:境に佇む彼は

今回の5作品の中で、お題の消化が最も良くできた話だと思います。「時間」という概念に対して、文学的にアプローチしようとしているのは今回、この話しかありませんでした。門番に声をかける人々・悪化し続ける近隣の情勢・壊滅へと進む村の移り変わりを書き、最後に何十年も前から変わらない「門番」との対比がなされ、時間の流れの残酷さを鮮烈に表現したのが凄いです。
しかし、ストーリーの回し方に関しては、「起・起・起・結」のような展開で、読む側としては狐につままれたようなじれったさを覚えながら読み進め、急にオチが出てきて終わったような印象に囚われます。オチを少々ないがしろにしてもいいから、「門番」の機能・役割・どのように守っていたなど、壁に埋もれた門番の説得力を、村人の会話以外でも書くべきだったかと思いました。

>>34 If:時守人:第二章一話

時間の流れをストーリーの中核に据えながらも、あくまでファンタジー小説を面白くするための材料として組み込んでいるあたりはsakanaさんの作品とは対照的な印象を受けました。時守人の旅は唐突で滑稽、かつ悲劇的でドラマチック。「第二章一話」っていうサブタイトルもいい。一度過去に行くともう戻れない点(アンヌがレーレアを見つけて研究を放棄させても、平穏になった世界に戻ることはできない)や、デュッセルのエピソード、謎の存在であるレーレアなど、いくらでも書けそうな設定の数々も良かったですが、「時間遡上の魔法、教えてくれ」っていう、過去への旅の途中経過の時代で、時守人としての同志が増えるというドラマが素晴らしい。デュッセルをさらっと効果的に殺す点も見習いたい。指摘する点は、年号は1313年みたいに算用数字で表記した方が見やすいし、読み手も素早く計算できるってことぐらいです。個人的には「アリッサ、あなた」より数段優れている作品だと思いました。

>>36 アリス:ヘッドフォン・マリー

テンポよくさらっと読めて、好感触な話だと思います。ヘッドフォンが本当にタイムマシンだったのかどうかはっきりとしない点も、読者に想像する余地を残していて、考えて書いているなと思いました。会話のみでの話で書くという取り組み自体が野心的なものですが、そこでインパクトの強いものを書くとしたら、やはりストーリーのアイディア勝負でしょうか。もっと、あっと驚くような展開があってもいいと思いました。

>>35 自作:時と光と

今回はSFを書きたかったんだけど、話自体にあまり思い入れが湧きませんでした。やっぱあっさり書き過ぎたかも。

今回は、あっさり系の話が多かったように思えました。自分の作品もそうなんですが、時間に時間以上の意味を与えていない感じがあったかと。それでお題を効果的に使えていないかと言えば、そうとは限らないのですが。やはり「時間」って難しいんですかね?
でも、面白い話ばかりで楽しめました。みなさん、お疲れさまです。ありがとうございました。


メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:批評提出期間】 ( No.43 )
   
日時: 2011/10/31 18:33
名前: 企画運営委員 ID:kbyB9Btk

【第七回総評】
 参加者の皆さん、お疲れ様でした! 今回もやはり平均レベルが高く、どの作品も楽しく読ませていただくことが出来ました。SF作品が多かったのが印象的です。タイムマシーンは全人類の憧れですよね。
 今回は全体的にストーリーが薄味だったかなと思います。常と比べてワンアイデアで書かれたものや逆に詰め込みすぎなもの、練りこみが足りないもの、もっと見せ方の工夫が必要なものなど、もう少し書く前に何をどう書くのか考える時間が必要だったかなと思います。短編でどこまで膨らませて書いていいのか、これは本当に難しい問題なのですが、やはり「動き」は重要です。読み手を引き込むような展開、それをどう書くのが一番魅力的か、尽きない問題ですがそこにもう一歩踏み込めればと。みなさんと一緒に作品を書いて、批評をし合いながら、徐々に答えを出していければいいなあと思います。
 地の文章の存在感が薄い回でもありました。もともと地の文章を書く作品が少なかったのも理由のひとつでしょうし、書かれている作品でも目を惹く文章が少なかったかなと思います。違和感なくすらすら読めるという点において存在感がないならばそれは長所になると思いますが、今回はどちらかというと寂しいという印象です。ひとつひとつの文章を大切にしていければと思います。
 次回のお題は「ジュース」ですね。どんな作品が集まるのか、今から楽しみです。お題スレッドは他の方の感想・批評がいただける貴重な場です。ぜひご参加ください! たくさんの作品をお待ちしております。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第7回:批評提出期間】 ( No.44 )
   
日時: 2011/10/31 22:23
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:tQ4eUwJE

企画運営委員さんの総評よりも批評が遅くなってしまいました。
うわわ、ぎりぎりにすみません!

※敬称略

>>32 空人:タイムパラドクスとミドルネームの関係性についての考察
 冒頭部分の説明。これは普通に地の文だと思って読んでみると「〜居るわけです」。何だか良い意味で肝を抜かれました。彼が混乱しているということがよく伝わってきて、何だか可愛らしかったです。それに、博士と直美=コバヤシテクノコーポレーションセタガヤシブインフォメーションマエエントランス=小林(な、長い……)の会話もコントのようで、そして一回一回のものにまとまりがあり、とても読みやすかったです。
 ヒロインが可愛らしい。そして、その執拗な名前への執着の仕方も可愛らしい。というか、可愛らしいとしか私口にしてな(ry
 それに、直美さん(名前が漢字だと、さんを付けたくなります)のセリフに、説明が入って少々長くなっているものがいくつかあるのですが、長くても飽きさせることなく、くどいと感じることもありませんでした。この内容で、すらすらと読める作品となっているのには、本当に感嘆ばかりです。
 地の文よりも、描写やつっこみどころ満載のものがセリフの方に入っているというのも、堅苦しさを全く感じさせず素晴らしいとしか言いようがないです。
 このお話は、幕開けまでのものなのですが、そこで終わりと称しても違和感のないようなまとまりがありました。
 すみません、これ以上どう表現すればいいのか全く分からないという状況。


>>34 If:時守人:第二章一話
 私、先に作品を読んで題名をよく見るということをしているため、その男(ラッセ)こそがレーレアではないのだろうか! と勝手に意気込んで読んでしまいました。偽名か、後に改名でもするのではないのかと、レーレア登場しないと物語として終わらないからなあ、と。……うわわ、ごめんなさい!
 個人的な勘違いは放って置いて……。それにしても、お話の流れがとても丁寧でした。
 会話もすらすらと頭に入ってきて、更に冒頭部分の一生懸命なアンヌと特に気にする様子もないラッセの温度差はリアル。そして、何度も場面が変わっているというのに、読みにくさというものない。
 それに、デュッセルのエピソード。彼の最後が、慌ただしさや混濁の後に訪れた一つの決心。その潔さには、すっと胸に入ってくるものがありました。
 ただ、年号が苦しかった。数少ないというのに、遡って……○○年後で……と、少し理解するのに時間が掛かりました。そして、レーレアを登場させて欲しかった。第二章一話では仕方がないという部分があるのですが、彼女? の謎をちょっくら解明して欲しい! という心境。
 そうして、時間遡上の魔法を覚えたラッセとアンヌは。その長い時代の中で出会った人よりも深い仲でありながら、その魔法を使用すれば二度と会うことのない存在だという、より別れるための魔法なのだと思うと何だか名残惜しくなってしまいました。


>>35 伊達サクット:時と光と
 ちょ、ストテラが語尾のエフバン人がとても素敵なのだけれども。というか、読んだときつい笑ってしまいました。後に、彼等のセリフなどはもう出てこないのですが、冒頭のものだけで物語をいっそう引き立てられていたのだと思います。後々の会話に出てくるエフバン人もすんなり頭に入ってきました。そして、『』内はもう私の中では初めから片言となっていましたし、その場面場面の切り替えがとても分かりやすかったです。
 ただ、宇宙での十年間と地球での十年間が全くおなじ時間として扱われていることに、いくらか違和感を覚えてしまいました。物語としては本当に面白く、スルーしてもいいと思うのですが。小さいときに読んでしまった本の影響で違和感を……ええと「双子のパラドックス」らしいです。ちょっと調べてみました。
 ですが、そんなものを反映させていたら無駄にややこしく……ううん、どうなのでしょう。うわわ、混乱させるようなことを言ってごめんなさい! 聞き流してください!
 松沢さんという名前、官僚として本当にいそう。それに、何気に彼格好いい。心情はないのですが、彼等の言葉の一つ一つに重みがあり、中々のギャグ路線を行っていながらも心に響く作品となっていました。
 

>>36 アリス:ヘッドフォン・マリー
 会話のみといった形式であり、まったく描写はないのですが。読んでいてもの凄く楽しかったです。
 一文字からという会話。そして、登場人物が二人だけなだけに、どちらかがボケれば直ぐさまつっこみが入るというものも、すらすら読める一因となっていたのだと思います。
 ただ、テンポが良く。一気に楽しみながら読める作品だったのですが、温度があまり感じられませんでした。登場人物が何らかの葛藤をしていると、うわああ! 的な感じで熱くなったりするあれです。……あれ、上手く言えない。ううん、個人的に、物語としてはもう少し人物たちの暴走があった方が良かったかもしれません。


>>33 自作:境に佇む彼は
 ただ、今回は時間があまりなかったので。短いもの、短いものを書こうとだけ意識しました。そうしたら、前半(?)は語りのみになってしまったという事態が発生。しかも、一度誤って一番書きたかったシーンを消してしまったという有様。そのため力尽きて、今回投稿したのには反映されていません、うわあ。時間って本当に大切ですね。いつもぎりぎり辺りに様々なものを投稿してしまうと、身をもって感じました。
 そして、自分自身。何だかやってしまったよ! と思えてしまう作品となってしまいました。……やばい、どう改善したらいいか分からない。とりあえず、皆様から頂いた批評で、個人的に書き直ししたいです。上記、言い訳でした。
 ううん、個性的な人物。もの凄く書いてみたくなってきました。あれ、唐突に話がそれた。


最後に
 時間は私たちの側にいつもあり、また目に見えないもの。そのため、目に見える作品にするということは難しい。宝物とか雨とか剣とか、見えて触れて感じれますからね。
 しかし、だからこそ広大で、無限な宇宙に触れた作品が少し目立ちました。かという私も、初めは何らかのうちゅーじんを登場させる作品を書こうとしてまして挫折してしまいましたからね、SFって難しい。

 そして、上記の批評たち。……久しぶりのもののため、何を書けばいいか一向に分からないという中でのものとなってしまいました。
 とりあえず、書きました。的外れなことを言っているような気もします。そのところは、スルーしてくださって構いません! むしろ、スルー推奨しますよ!
 ということで、皆さんお疲れ様でした。どの作品も面白かったです。
メンテ
お題小説スレッド【第8回:作品投稿期間】 ( No.45 )
   
日時: 2011/11/12 23:43
名前: 企画運営委員会 ID:qyrunHIY

 こんにちは。
 第8回「ジュース」の作品投稿期間となりました。
 作品投稿期間は11月1日(火)〜11月20日(日)までとなりました。
 批評期間が短くなってしまう事をご了承くださいますようお願いします。
 ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
 皆様力作待っております。
メンテ
貴方に捧げる果実 ( No.46 )
   
日時: 2011/11/02 00:28
名前: 空人 ID:zWYIgw9U

 流れゆく真紅は指先を伝い。そのしたたかな温かさを感じながら、想いは杯に注がれていく。
 微笑は贈られるべき相手の反応を思い浮かべた故のほころびだった。自らの零落がそのまま想い人の糧となるのならば。それを考える度、背筋を、そして心臓を騒がせるものは歓喜。いや、快楽だったのかもしれない。けれどもそれは秘匿にされるべき感情で。わずかな仕草にさえ示唆を与えようものならば、たちまち露見してしまいそうな危うさを秘めているのだ。しかしそれすらも、二人の関係を楽しむ隠し味にしようという思いに至る。傲慢なのは自覚していた。自分の心はとっくに可笑しくなってしまっているのかも知れなかった。
 それでも、私は――――。



 出会いは感傷や幻想とは程遠いものだった。
 自宅の裏庭に造り上げた果樹園は一人で管理するにはそろそろ大業になってきたほどの広さを誇っている。彼はその片隅で一本の枯れ木に背を預けていた。こけた頬と死を匂わせる表情は、近付くのを躊躇うのに十分な理由だったかもしれない。しかし、彼の背に有る木は枯れてはいなかったはずなのだ。つい昨日までは。ならば彼がその原因を施したのだろうか? 今考えると、答えはその通りだったのだけれど。そんなふうに疑いながらも迂闊に近寄る私に、彼はやさしく微笑んで見せたのだ。
「すいません。木を枯らせてしまいました。ああ、貴女もあまり近寄らない方が良いです。僕は今少々空腹でして、直接触れた生物から精気を吸い取ってしまうのですよ。そういう生き物なのです。ごめんなさい。出来れば新鮮な野菜や果物から採った果汁を一杯いただけないでしょうか? それでここから離れるくらいは出来ると思いますので」
 優しい声だと思った。だから私は彼を家に招きいれるのにそれほど躊躇いなどは無かったのだ。

 客に飲み物を出すのに、外の吹きさらしの中では申し訳ないという私の言葉を、彼は渋々了解した。用意した席に彼は身体をふらつかせながら着座する。手を貸そうという意見は先の理由で却下されたのだ。話を聞くと、彼はヴァンパイアの血を受け継いでいるのだと言う。血筋だという彼の母親にはそれらしい特徴はなかったのだが、自分にはなぜか色濃く受け継がれたのだと。
 彼の、一度も人を襲いその血を飲んだことはないのだという言葉を、私は信じる事にした。しかしそのせいで、まともに動く事も出来なくなっているのなら、それは褒められた行為なのかどうか。私が判断するにはあまりにも知識が足りていない。
 用意した果物の絞りたてのジュースを彼は一気に飲み干す。するとどうだろう。震えていた指は伸び、肌は色身を増し、こけた頬も元通り。新鮮な果物は彼にとって至高の飲み物だったのだ。そんな物を自分で作ることが出来たのだと理解した時、私の胸は今まで感じた事のない感情に震える。そして、よみがえった美しい容姿に微笑を浮かべる彼を見た時、それは別の感情までもを連れてきた。
「本当に良いのかい? 僕は化け物だし、君はここに一人で暮らしているんだろう?」
「ええ、だから良いんじゃない。家族が居たら貴方の事を説明するのが大変だわ。部屋は余ってるし、食費はかからない。それに、私の造った果物が貴方には必要なんでしょう? あ、果樹園の手入れを手伝ってもらえたら助かるわ」
 よほど気に入ったのか彼の体質に合っていたのか、あの後彼は三杯のジュースを飲み干すと、満足そうに一息ついてそのまま倒れこむように眠りに落ちてしまったのだ。その手にしっかりとカップを握り締めたまま。その日はそのまま夜を明かしてもらい、次の日の朝、私は彼にここにしばらく留まらないかという提案を持ちかけたのだ。
 説得は少々熱心が過ぎているようにも感じたが、気が弱いくせに頑固なところがある彼にはそのくらいが丁度良かったのだろう。少し考えた後に彼が口にした『ありがとう』の言葉は、今でも私の記憶の奥に刻まれたままになっている。

 あれから幾日経っただろうか。新鮮な果物の力か、落ち着いて生活できているせいなのか。後これは私の希望的推測なのだが、誰かと一緒に居るという安心感のおかげとか。ともかく彼は見違えるほど元気になったし、果樹園の手入れなら私に劣らないほど上達した。けれどもそれが、今度は私に不安を与えてくる。即ち、元気になった彼に私は必要ないのではないか。この家から――私から離れていってしまうのではないか、と。
 だから私はこの不安の解消にあたり一計を投じる事にした。これが成功すれば彼にとっての私は、より離れ難い存在になるはずなのだと信じて。

「はい、今日の分。濃縮したからちょっと飲みにくいかも知れないけど、ゆっくり飲んでね」
「ああ、いつもありがとう。へぇ、濃縮か、美味しそうな匂いだね」
 心臓が跳ね上がったのは、彼の笑顔のせいではない。その独特の匂いが自分には相容れないものだったからだ。動揺は彼の目に止まっただろうか? だけど彼はそんな私の様子に気付いた様子も無くその杯に口をつける。少しくらい私の反応も気にして欲しいのにと思う事はわがままだとわかっていた。
 杯に満たされていた赤い液体を彼はまず一口だけ含んだ。彼の喉が上下する。それだけの事が私をひどく興奮させた。頬が紅潮するのを抑えられているだろうか、肩は震えていないだろうか。何でもないのを装う事にこれほどの注意を払ったのは、はじめての経験だった。側に居るだけでこんなにもたくさんの新しい感情が芽生えてしまう。その相手が彼のような人だった事を、私はこれ以上無い幸運に思うのだ。
「うん、とっても美味しいよ! 何だろうすごく力が湧いてくる気がする」
「本当? 良かった。そう言ってもらえると私も嬉しいわ。ありがとう」
 微笑見つめ合う二人。ほのかに甘く切ない空気が流れる。互いに想い合っているからこその沈黙。そう信じたかった。傍から見ればそうとしか見えないだろう。だがその片方は自分の出自ゆえ、そしてもう片方は、相手を裏切っているかもしれない行為のため、沈黙は続く。
「うん。美味しいよ、とても……」
「そう……」
 そして言葉は繰り返される。後に続く事はない。
 特別に作った私のジュースを彼はまた口へと運ぶ。その液体を口にしても、彼に思った程の変化は無かった。それが良かった事なのか悪かった事なのか、今はまだわからない。
 だから今は、この瞬間を楽しもう。
 いつか訪れるはずの変化の日のために。



THE END
メンテ
胎児 ( No.47 )
   
日時: 2011/11/13 18:02
名前: かなちゃん王女◆SX.4l2Qrkk ID:2HHLx0QA

 ワンツ・スリー。ワンツ・スリー。
 ワンツ・スリー。ワンツ・スリー。
 お空には、ふわふわもふもふ、綿菓子くらうでぃ!
 そこからぽつぽつ、飴とジュースのシャワーれいん!
 そして、そして。サンサンさにーは、グミが輝き浮かんでいる!
「嗚呼。ここは天国? それーとも。今までいた世界ーが、地獄、だったのかしら?」
 アリス(少女)は歌う。
 飴と、ジュースと、綿菓子と、それにグミを口にして。
 最後にゼリーの川を掬い上げ。
「嗚呼。やっぱりここは、ぱらだいす!」
 口いっぱいの、喜び蓄え。
 ワンツ・スリー。ワンツ・スリー。


「ワンツ・スリー。ワンツ・スリー」
 アリスが歌い、踊っていると、そこには一羽のうさぎさんが。
「こんにちは、ご一緒に、いかがです?」
 かかとを打ってワンツ・スリー。
 楽しい楽しいぱらだいす。
 素敵なダンスでへぶんだわ!
「いやいや、それには及びません。
 私めは、十二分とパラダイスを味わいましたので」
 うさぎさんはどこへ行く?
 待って、待って。
「行かないで!」
「しかし、私は行かねばならない。
 なぜなら私は味わいすぎた。
 虜となっては母を忘れてしまいます」
 アリスは覆う。目を覆う。
 お母さま。お母さま。
「泣かないで。泣かないで。
 ご一緒に、いかがです?」
 貴女のお家。片道の旅
「ええ、行くわ。すぐ行くわ」
「けれども、宜しい、のでしょうか?」
 うさぎさんは綿菓子を、ペロリとすこぉし一舐めし、両の手器に、ジュースをたぷたぷ。
「こんなパラダイスへは、二度と辿り着けませんよ?」
「いいのです。お母さま。私は会いたいお母さま」
「分かりました。では行きましょう。帰りましょう。
 新しき哉、母の元」
メンテ
Re: ジュースと陰謀 ( No.48 )
   
日時: 2011/11/19 11:54
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:XCzagB1.

『おんなじ世界にもう一つぅ、見えない世界がありましてぇ、そこには魔物が棲んでいるぅ』
『そんな世界に行くためにぃ、真っ赤なジュースがつくられたぁ、別世界との架け橋さぁ、……』


   *


 彼は追ってから逃げながら、子供たちの歌を聴いていた。空は黄昏色、子供たちは手を繋ぎながら元気よく歌っている。酸素を求めて喘ぐ体に、もう少しで撒けるはずだと言い聞かせてテンポよく呼吸を行う。白い肌は赤く熱り、焦げ茶色の髪も汗で肌にまとわりつく。不快感を覚えるが、今はそれどころではない。
 こんな生活になってから何日が経っただろうか。ある日突然、会社をくびになったかと思ったら突然警察がやってきて――そこからはあまり良く覚えていない。どうやら、自分は所謂濡れ衣を着せられているらしく捕まったら最後、処刑されることも決まっているようだ。身に覚えのない罪を着せられ、彼の人生の歯車は大きく狂ってしまった。まったくやりきれないよ、と内心盛大なため息をつきながらも、いつ捕まるか分からないスリルに快感を覚えていたのもまた事実。いずれ事実は明らかになるものさ、と呑気なものだ。もっとも、それは彼が普通の人間であったら味わうことのない感情であろうが……。

「……撒いた、か?」背後の足音は途絶え、辺りには何気ない日常の音が満ちている。「さすがにここまでは追って来れない、か」

 何かの倉庫だろうか。食物が保存されているらしく、匂いが部屋を充満させていた。運命を見放された分、このような点で天は彼を助けているらしかった。
 お試し程度に、近くにある箱を手にとって中身を取り出してみる。中にはハムが入っていた。
 ひゅう、と口笛を吹いてハムを頂戴する。初めはこんな生活が嫌で嫌で堪らなかったのだが、生きる道がこれしかないと分かった瞬間にためらいは消えた。

「さて、なるべく遠くに逃げた方がいいよなぁ」
『――いい場所があるぞ』

 背後からの声、それも若い人間のものだ。さ、っと彼は立ち上がり反射的に身構えていた。相手は自分よりも暗い所にいる。非常に不利な状況だった。
 誰なのだろう、彼は暗闇に目を凝らした。敵とは限らない、それに相手は自分が逃げるのに居場所を知っていると言っていた。罠の可能性もあるが、嘘をついているかどうかはまだ分からない。

(一応信じてみよう)
 
 彼が体の力を抜くと、まるで心の声が聞こえていたかのように相手は「ありがとう」と呟いた。
 パタッ、パタッ、と小気味よい足音を立てて相手は近づいてきた。やっと光に照らされてその正体を確認すると――彼は唖然とした。声こそ若者のものであったが、彼の目に映っているのはもう六十は超えているであろう老人のものであったからだ。着ているものはなかなか高級そうなもので、ロマンスグレーのおじさまだった。

「いい場所とは?」

 彼が尋ねると、今度は老人が驚いた表情を浮かべる。だがそれはすぐに愉快そうなものへと変わり、やんわりと笑みを浮かべて老人は応答せず彼に向かって話し始めた。

「声のことを聞かない人間は初めてだよ。君はなかなか面白い奴だ」
「そりゃどーも」

 そっけなく返事を返し、「で、場所ってどこなんですか」と今度は真顔で質問する。

「覚悟はあるか?」
「……はぁ?」

 見当違いな答えを返された気がして、彼は思わず呟きそれから慌てて「生き抜く覚悟ならとっくに」と言った。

「そうか。なら……」老人は倉庫の奥の方へ行き、何かガサガサとやっていたが目的のものを見つけたのかすぐに戻ってきた。「これを飲みなさい」

 彼の手に渡された真っ赤なボトル。瓶に詰められた、真っ赤な液体。
 
「これはなんです?」
「ジュース」

 老人は真顔で答えた。

「いやそうじゃなくて」
「異世界への扉」

 今度は真剣に答えをくれた。老人の答えで、彼はふと子供たちの歌を思い起こした。そう言えば、歌詞に真っ赤なジュースとか言う言葉があったような気もする。
 異世界へ行ってしまえば、当然捕まることはない。だが――。

「異世界へ行けば逃れられる代わり、魔物に追われることになる。ジュースの効果は一時間。この世界と異世界は同じ大地に重なっている。この倉庫も、異世界に存在する。なるべく遠くへ逃げ、帰ってきたときにずっと遠い場所へいればまずは大丈夫だろう。ただし、魔物に食べられたら最後、君は蒸発することになる。一度扉を開けば、戻るには時間の経過しかない。まあ、生きる覚悟があるなら大丈夫だろう」

 彼は、手にしているボトルを暫く見つめていたがやがてキャップを開けると中身をぐ、っと流し入れた。このままでは、いずれは捕まってしまう。なら、どんな方法でも試してみる価値があると思ったからだった。三口ほど飲んだところで、彼の体に異変が起こり始めた。すぅと体が解けていくような不思議な感覚、時と空間と意識が少しずつ混ざりあい、完全に世界から隔離させるような奇妙なものが彼を襲った。
 瞬間、彼の意識は途切れしかしすぐにまた元に戻った。
 老人の姿は消えていた。




 ジュースのせいか、体温があがっている気がした。
 世界の空気が違う。よく分からないが、老人の言うとおり異世界へやってきたようである。ジュースの力は本物だったのだ。思わず瓶を握る力が強まった。
 ふぅ、と小さくため息をついて倉庫の外に出る。何一つ変わらない景色だが、ただ一つ、賑やかさだけがぽっかりと抜け落ちているような感じだ。逃げ回るうちにこの辺りの地形に詳しくなり今だってどう曲がればどこに出るかが分かっているのに、見知らぬ土地に一人取り残されているような感情になった。ともかく、できるだけこの場所を離れなければならない。
 魔物がいつどこから飛び出してくるか分からない。捕まれば待ち受ける運命こそ人間と同じだが、どういう殺され方をされるか分からないだけ恐怖は倍増だ。体の大きさも、武器も、足の速さも何一つ分からない敵が相手となるとさすがに彼も怖じ気づいた。

「……遠くへ、遠くへ」

 呪文のように呟きながら絶えず辺りを見回し走り始める。挙動不審な行動をしていることに羞恥こそ覚えないが、自分が酷く小さな人間に感じられた。
 しんとした世界に、自分の足音だけが木霊する。
 
「遠く、へ……っ!」

 がさ、と音がして思わず後ろを振り返る。そして安堵の息をついた。風で紙が飛ばされてきただけのことだったのだ。そう、何もここまで怯えることはないじゃないか。必ずしも魔物に見つかるとは限らないのだし……。
 彼は本当に覚悟を決めた。一時間――それだけ逃げ切れば、当分の間は自由を得られる。ふつふつと彼の体に闘志がこみ上げてきた。どう足掻いてもいい、絶対に生き延びて見せようと心に誓った。いずれ真実が明らかになるまで生き延びて見せようと決めた。
 再び、彼は走り始めた。残り時間はあと五十分である。


   *


 一体どこまで走ったのだろうか。辺りには見知らぬ世界が広がっている。あまり遠出をするタイプでなかった彼は、近所の域を超えると途端に土地勘が無くなってしまうのであった。後ろを振り返ると、辛うじて見覚えのある塔が見えている。かなり遠くへ来たらしかった。
 この辺りでいいだろう、と彼は隠れる場所を捜し出した。魔物に見つかる前に、身を隠さねばならない。
 途中何度か奇妙な生物を見たが、どれも足の親指の爪程度の大きさで彼に立ち向かおうとする者はいなかった。魔物といってもこんな小さなものなのか、と油断していたことが原因かもしれない。
 は、と振り返ると自分と同じくらいの大きさの鳥が低空飛行で突撃してこようとしていた。まじかよ、と心の中で呟きながらぎりぎりのところでかわす。だが鳥も諦めず何度も立ち向かってくる。人間なんてめったに食べられないごちそうなのだろう。

「悪いがお前の餌にはならねぇぜ」

 まだ半分以上中身の残っているジュースの瓶で鳥の翼を力いっぱい殴る。確かな手ごたえを感じ、確認するとどうやら偶然にも急所を突いたようであった。魔物の弱点は分からないが、鳥は羽根を攻撃されると弱くなるらしい。飛ぶ力を失った鳥は、地面にぐったりと横たわり――そして消滅した。

「ゲームかよ……」彼は鳥のいた場所をみつめ、「ま、ジュースの力で異世界へ行こうっていう発想もそもそも現実味がないというか……」と苦笑した。

 ともあれ命は助かったのだ。彼は細い路地に入り込み、隠れ家を探し始めた。残り時間はあと三十分である。


   *


 路地に入ると、少しだけ懐かしい匂いがした。あっちの世界の空気と似ている。生物の暖かみが感じられた。
 彼は適当な倉庫を探し始める。奥へ進むほど、暖かさが大きくなってきていた。
 暖かさ。
 暖かさ……?

「あっ……!」

 彼は重大な失敗を犯した。この世界に人間は存在しない。イコール、暖かさは魔物のものである。そのことにやっと気付いたのだ。
 慌ててきた道を引き返すが、時すでに遅し、人間の香りを嗅ぎつけた魔物たちが群がって来ていた。
 大きな牙を持つライオンのような魔物、足一本一本に巨大な爪を持つ蜘蛛のような魔物、人間の顔を持つ馬――。特徴は違えど、よく観察するとどの魔物も目が赤く光っていることに気付いた。細い路地の前も後ろも囲まれてしまったのだから、絶体絶命の状況である。これが映画かなんかなら、主人公に救いが入って魔物をなぎ倒していくのだろうが……残念ながら、彼には助けてくれる人間など存在しない。
 完全に威嚇体勢に入った魔物たちに精一杯の虚勢を張って、そのとき彼はある作戦を思いついた。


   *


「彼は生きているだろうか」

 老人は彼が異世界に消えたことを確認してからそう呟いた。彼は今まで出会ったどの人間とも違っていた。運命を呪わずただ生きていた。彼なら、きっとやってくれると老人は確信した。
 今まで幾度となく作戦は失敗してきた。五十年――五十年だ。何度も夢を託しては失敗し、裏切られてきた。
 
「…………」

 今でも時折思い出すのだ。濡れ衣を着せられ殺された息子のことを。息子の名誉は守られたが、しかしそれは既に息子が死んだ後のことだった……。遅かったのだ、せめて五日早く真実が分かっていれば殺されることはなかったのに。
 静かな怒りがこみ上げてきた。世の中に対する、どうしようもない気持。やり切れない思いで暮らす中、ある日老人は知った。この大地には二つの世界が重なり合っているということを。それから思いついたのがこの真っ赤なジュースだった。飲んだ人間を異世界に送り出す、そんなことが可能か悩ましかったが、けれど二つの世界が混ざり合う状況がどこかにあるはずだと思い研究を続けた。そして遂に、夢は叶った。二つの世界の交点となる場所で、AとBの温度の差が十七度になり湿度が四十三パーセントのときにAを送りだすという法則を見つけ出したのであった。
 その交点となる場所が、この倉庫である。倉庫は常に湿度を四十三パーセントに保ち、室内温度を二十度に設定した。あの赤いジュースは、体温を上昇、もしくは低下させ三十七度にする効果があるのだ。

「やってくれよ……」


   *


 このジュースには、異世界に送る効果がある。人間だけとは限らないかもしれない。あっちの世界が混乱する可能性があるが、けれど自分が生き残ってさえいればいいと彼は思った。かっこよく生きようなんて思いはとうに消えうせている。どっかのどぶにそんな思いは捨ててしまった。とにかく真実が明らかにされるまでは何としてでも生き抜かなければならないのだ。

「消え失せろ!」

 彼はキャップを外しその中身を魔物たちに向かって振りまき始めた。真っ赤な液体が雨のように降り注いでいく。それは自らの体をも濡らし、魔物の体も赤く染め上げた。
 刹那、変化が訪れた。魔物の動きがぴたりと止まり、空間が渦を巻き始めた。それでも、彼は残りが無くなるまでジュースをこぼした。暫くして、言葉にできない叫び声をあげながら魔物たちが消えていった。何体か残っている者もいたが、彼に恐怖を抱いたらしく尻尾を巻いて逃げだした。

「……勝った」

 彼は呟き――再び意識を手放した。


   *


 彼が意識を取り戻したのは、それから三日が経った日のことだった。気が付くと見知らぬ部屋にいてぼんやりとした意識で彼は老人の姿を認めていた。

「ありがとう。礼をいうよ」

 老人はこれまでになく穏やかな表情で礼を告げた。訳の分からない彼は、小さく首をかしげる。記憶が少し飛んでいた。
 その様子を見て老人は部屋の窓を開いた。微笑をたたえる老人と対照的に、彼は驚愕の表情を浮かべる。
 真っ赤に燃える街、破壊されていく建物、降り注ぐ真っ赤な雨。泣き叫ぶ人間の声、そして狂喜乱舞する魔物たちの姿。彼の脳裏に全ての出来事が蘇った。追われ、ジュースを飲み、そしてその液体を魔物に投げつけた。この世界に来た魔物は、当然溢れかえるようにいる人間を襲ったことだろう。あの真っ赤な雨は、おそらく老人が機械かなんかを使って人工的に降らせているに違いない――真っ赤なジュースを。

「これで世界は滅ぼされる。息子を死に至らせた政府も、これで全滅だ」

 無邪気な青年の声が穏やかな笑みを浮かべる。やはり、しわがれた老人の姿とは不釣り合いだ。
 彼は老人に恐怖を抱いていた。この人は、初めからこれが目的だったのだ。自分は世界滅亡計画の片棒を担いでしまったのだ……何という皮肉だろう! 罪から逃れるために起こした行動が大罪に繋がるなんて。

「さあ、これでわたしと君は共犯だ。仲良く暮らそうじゃないか」

 彼の顔は引き攣った。自分は、二度と出ることを許されない見えない鳥籠に捕らわれてしまったのだから。
 これから待ち受けている過酷な運命を思い、彼は酷く絶望した。


 ジュースと陰謀・(了)
メンテ
うそつきなおいしゃさん ( No.49 )
   
日時: 2011/11/18 17:52
名前: If◆TeVp8.soUc ID:Q4HJrURM

 三度の留年を経て、僕は今年、ようやく医学校を卒業した。配属されたのは、島の南端の小さな村。とっくに定年になったが、後釜がおらず仕方なくドクターを続けていた老人の後を継ぐことになった。
「私は嘘つきだ」
「は?」
「私は嘘つきなんだ」
 顔を合わすなり、腰の曲がったドクターはそう言った。訳が分からないままに、引継ぎがてら、僕は彼の訪問診療に付き合わされることになった。

 ◇

 村の中の家を、二十件くらい回ったか。「次が最後だ」と言ったドクターに従ってしばらく歩き、たどり着いた村のはずれ。そこに、その家はひとつ、寂しく建っていた。屋根は崩れ、壁は蔦に巻かれ、窓はひび割れ、本当に人が住んでいる建物なのかと疑いたくなる有様。まるで幽霊屋敷のようだと思って、僕はちょっと尻込みした。
「もしかして、最後はあの家ですか? ドクター」
「そうだよ」
 白髪頭のドクターは、なぜか悲しい表情をした。皺だらけの顔の眉間を寄せて、眉尻を下げ、厚ぼったい瞼を伏せ、薄い唇を真一文字に結んで。それはこの一軒の診療が医者としての最後の仕事になるからなのか、もっと別の理由があるのか、今日対面したばかりの僕には読み取ることができない。
「なんでそんな顔をしているんですか」
 深刻な表情のまま、ドクターは首を振るだけで答えない。白衣の襟を正して、おもむろに歩き始める。
「行こうか」
 そう言った声が暗いのも、足取りが重いように見えるのも、きっと気のせいではないだろう。ドクターも怖がっているのか。ならば、先ほどの悲しげな顔はなんだ? 分からない。とにかく遅れないように、僕も足を動かした。まだ少し怖いせいで、ぎこちない歩きかたになる。そろそろお化けなんて怖いといっていられない年になってきたが、苦手なものは苦手だ、仕方ない。
「あの家にも、患者さんが居るんですか」
 憂鬱な気持ちを紛らわすために、僕はドクターの隣に並び、意識して明るい声で話しかけてみた。
「そうだよ」
「患者さんの性別と年齢は?」
「幼い……おそらく五つか六つくらいの女の子だ」
「ちゃんとした年が分からないんですか」
「そうだね」
「どんな症状なんです?」
 ここで、ドクターはもっと悲しい顔をした。ああ、原因はその患者さんにあるのかと、ようやく僕は理解する。年配のドクターは言葉を探してから、僕の問いに対して、一語発するたび躊躇うように至極ゆっくりと答えた。
「治せない病気なんだ」
「治せないって、どうして」
 僕が言いかけた言葉は、寂れた家の扉が軋んだ音によって遮られた。ちょっとだけ開けられた扉から、小さい女の子の顔が覗く。二つに結った栗色の巻き髪を揺らしながら、子供らしい無邪気な笑みを顔一杯に広げている。なんだ、幽霊屋敷なんかじゃないじゃないか。ほっとしたが、よく見れば、女の子の頬はこけている。目の下にも黒々とした隈があるし、顔色だってよくない。病気というのは本当らしい。この子が最後の患者なのだ。
「ドクター……ドクター?」
 僕の見間違いでなければ、ドクターは目を潤ませていた。次の瞬間には瞬きしてドクターは腰を屈め、駆け寄ってきた女の子の頭を撫でていたから、しかとは確認できなかったけれども。女の子は、ドクターに温かく笑いかけている。笑顔だけを見れば、とても幸せそうなのだが。ドクターも彼女に穏やかに笑み返しながら――今朝会ったばかりだが、終始無愛想だったこの人が、こんな顔をするなんて驚きだ――ずっと栗色の頭を撫で続けている。
「鞄の中から、ジュースを」
 僕には横顔を向けたまま、ドクターが素っ気ない指示を出してきた。他にやることもないし、素直に従うことにする。ドクターの提げていた黒い鞄を寄せてきて、開いた。いろんな薬品が混ざったにおいにくらくらしながらも、中を無造作に探る。聴診器やらカルテやら包帯やら注射器やら色んな医療道具が顔を並べる中に、ひとつ場違いな、きれいな橙色の液体が入った長細い瓶を見つけた。オレンジジュースだろうか。それにしては鮮やか過ぎる橙だが、他にジュースらしきものなんてないから、やっぱりこれがそうなのだろう。
「ドクター、これですか」
「ありがとう」
 礼は言うが、こちらには顔を向けることすらせず手だけ延ばしてくる。ぞんざいな所作だが、今度も大人しく要求どおりに瓶を渡した。揺れた瓶の中で液体が跳ね返る。傾き始めた陽の光を浴びて、きらきら輝いた。きれいだ。妙に心を惹きつけられる。なにか妖しい魅力があるのだ。これは本当に、ただのジュースなのか?
「さあ、今日も飲んで。ゆっくりでいいからね」
 ドクターの優しい言葉に、女の子は笑ったままで頷いた。彼が栓を抜いた瓶を両手で受け取って、女の子は一気に傾ける。ゆっくりでいいと言われたのに、瓶はあっという間に空っぽになった。とても美味しそうに飲んで、女の子は口元を拭うと、一転の曇りもないかわいらしい微笑みを浮かべながら、ドクターを見上げた。
「おいしゃさん、あしたには、おとうさんかえってくる?」
「ああ、きっと帰ってくるよ」
 ドクターの微笑みが少し陰ったのを、僕は見逃さなかった。
「うん。わたし、いいこだから、ちゃんとまつよ」
「よしよし。それじゃあ、今日はもうお休み。幸せな夢を見るんだよ」
「はあい。ありがとう、おいしゃさん」
 女の子が、たいそう幸せそうな笑顔を残して、ぱたぱた足音を鳴らしながら家の中に戻っていく。その小さな後姿を見送るドクターの目が、また、潤んだ。再び、軋む音。女の子の姿は、傾いたまま閉まった扉の向こうへ消えてしまった。
「ドクター、治療はこれだけでいいんですか?」
「そうだよ」
 ドクターは感情を排した声音で、淡々と答える。
「あのジュース一本で? あの子、あんなにやつれているのに」
「あれでも、少し良くなったんだ」
「あれでですか? あの子は一体何の病気なんです?」
「心の病だよ」
「心の? 精神的なってことですか」
 細い目が、さらに細められた。虚しいだけの記憶を旅する目。
「あの子は早いうちに母親を亡くし、父親と二人暮らしだったのだけれど、数年前、その父親も亡くしてしまった。強盗に、目の前で殺されたんだ。以来心を病んでしまって、何も食べようとしなかった。眠れもしなかったようだ。だから、これを」
 空き瓶の中に数滴残った明るい色の液体を陽にかざして、ドクターは力なく笑った。これまでで一番悲しそうな顔だった。
「ハッピージュースというんだ。理由なしに幸せを感じられる薬だ。それに睡眠薬と栄養剤を混ぜてある。ひとまずこれを飲んでおけば、あの子は命を繋ぐことができるし、幸せな夢を見ながら眠ることが出来る」
 ハッピージュース。噂ではいくどか聞いたことがある。裏の世界では麻薬として取引されているそうだし、自殺未遂者に精神安定剤代わりに飲ませることもあるらしい。それを、あんな小さな子供に? しかも、睡眠薬と栄養剤を混ぜるなど。
「そんなこと……」
「どうした?」
 我に返って、僕は口をつぐんだ。引継ぎもここで最後だ、今さら怒らせるわけにはいかない。
「いえ、なんでもありません」
「言ってごらん。君はどう思う?」
 ドクターは、何か大切なものが抜け落ちたような色の瞳を僕の方へ向けて、静かに尋ねた。真剣な答えを欲しているまなざしだったので、僕も居住まいを正す。正直に言おうと決めた。
「人を生かすのが、僕たち医者の仕事ですよね」
「そうだね」
「でもあの子、あれで生きてると言えるんですか」
 予想に反して、ドクターはすぐに頷いた。
「そうだね」
 視線を寂れた家にやって、今度こそ、ドクターは涙を流した。透き通った、きれいな一筋の涙だ。
「生きていれば、いつか、何かが起こるかもしれない。あの子の病が治る何かが。その何かを信じて、私は、ああして嘘をつきながら、今まであの子の命を繋いできた。医者とて人の身。私には、それくらいしかできなかったんだよ。無力なことにね」
 纏う白衣に目を落として、彼は自嘲の笑みを浮かべた。風にはためいた白衣の裾は、古びて擦り切れていた。
「何が正しいか、この年まで医者をしていても、私には分からなかった。明日から君があの子の医者だ。あとは君が思うように、君が正しいと思うようにやりなさい」

 ◇

 村のはずれ、孤独な一軒の家。僕は今日も、最後にその家にやってきた。
 少女が駆けてくる。大きくなったが、やはりやつれている。楽しげに笑っていても、目は死んでいる。それでも僕は栗色の頭を撫でながら、一瓶の偽物の幸せを、今日もまた彼女に処方する。
「おいしゃさん、おとうさん、あしたにはかえってくる?」
「ああ、帰ってくるよ」
 僕は嘘をつく。少女は笑う。笑って、今日も、少女はまがいものの幸福な夢の中に生きる。いつ来るとも知れぬ救いを待ちながら、少女は笑い続け、僕は嘘をつき続ける。
 明日も、あさっても、しあさっても。
メンテ
過分離 ( No.50 )
   
日時: 2011/11/20 23:58
名前: 文旦 ID:M1NTCBUs

 ちうみが鮫の目をしてやってきたのであっ、またやりぁがったな、と思った。実際ちうみのドレスはペンキとコールタール混ぜたような赤色でドベドベだったし終電逃してテクってるオヤジみたいな千鳥足、何より昔ッからちうみが双子のちまめを目の上のクソほどにも憎みきっていたのを涎掛けしてた時分から隣人の俺はしょっちゅう窓から飛び込んでくる罵声と臓物と翌日ちうみちまめ双方からの怨嗟とで耳に痰壺できるほど知り尽くしていたからだ。ESIEの殺人イタコもかくやな絶叫に浮き沈む夢遊病とさして違わぬ客どもとではちうみは全然マトモな方で、長い足を迷わせつつノンストップでこっちまで来ると、椅子に雪崩れ込むようにしながら「モスコミュール」と呟いた。カウンターは深夜鈍行さながら人まばら、やあちうみちゃん、なんてマスターの言葉どこ吹く風で。
「もうできあがってる調子じゃん」
「疲れてるだけ。ライム多めにしてくれる」ちうみは眉間にクレバスを作って言った。
 俺はグラスに氷を入れてウォッカ、ライムジュース、ちうみのために新しくジンジャーエールのボトルを開いて入れてやった。マニア向けの銅マグなんぞ酒とコークの区別もつかない連中のために取りそろえたって無駄ってもので、頑なに色気のない硝子。ナチュラルもケミカルも混ぜちまえば同じで胃から尿道に新幹線開通するまでなすがまま、だから分類ほとほと意味がない。証明か糾弾か知らないが俺の前任、小便で作った氷の酒を客にふるまった変態で変態ゆえの間抜けさで無差別にやらかしたんで筋肉狂いのホモのラッシュって野郎にとっ捕まって以来行方知れずだ。俺はその翌日店に来てそういう話聞いて、たまたまその日昔児童ポルノ所持でパクられた野郎の店やめてきたから酒の知識皆無なまんまカウンター向こうに立ちんぼってわけ。元々ジュースの用途で酒を呷る連中にはステアもので充分、質にこだわらなきゃ猿でも作れる、そういう方針。
 切ったライムを縁に差し、受け取るちうみがそれを知っていたかは知らない。ちうみは大抵の場合俺を可哀想なくらい大事にしてくれる。
 ちうみはライムを二本の指で摘んで絞り落とし、一口で半分飲み干した。そうしてふと首を傾げるよう視線巡らし、
「相変わらず半端な店だよね」と零した。
 聾するくらいの熱狂の内、ちうみとの相対は夜の森の空気に抱かれているようで玲瓏耳朶を湿し、殺人者も遠のく。
 習慣で顔を寄せて「なんか疲れてんね」と俺、ちうみが言ってほしそうな言を吐く。「うん、なんかね」「その服どうしたの」「いい感じでしょ」「元の柄どうだったかわかんなくね」「やだなあ、あたしいつも着てたじゃん。覚えてない。レイチェル・ゾー」「知らないよ」「真っ白のやつ。ほら、お腹にリボン付いてるの」「ああ」
 泥に溺れた蠅らしきリボンの名残認めて、俺は頷いてみせた。いつもっていうか、ここ何日の服。その前はマヌーシュとかいう少女趣味をよく着ていて、その前はヘイルボブってよくわからん派手な図形。他にも色々、覚えてない。ちうみは常に最新のファッションと音楽と人間に囲まれてないと血が腐るのだと。「白は他にも持ってるし、どうせ衝動買いしたのだったから別にいいかなって。丁度いいっていうのもあるし」「ふーん」「黒は持ってないから。ほら、いかにもって感じじゃない。赤色も同じで持ってないの。ワインレッドなんて特にそうじゃない? 綺麗な色だけどあたしだとどうしても服に着られてる感じがしちゃいそうでちょっとね」「ちうみ肌白いから似合うと思うよ」「それあたしにはコンプレックスなの。知ってるでしょ」
 ちうみは美味そうに氷を含んだままちょっと笑ってみせた。予想外に淫靡だった。
 露出肌は服の凄絶さから信じられないほど清潔で、ちうみが俺に見せるために汚してきたのは明白だった。
 横斜のうねりがダフトパンクの命令形に雑然縦ノリ整列するの背に二杯目要求、モスコミュール。まったく機械的繰り返して、うまいのかまずいのかわからないもの出して、ちうみが飲むのを俺は見守る。
「仕事探してるの?」「え?」「ここに落ち着くつもりなんてないんでしょ」「あー、まあ」「そう」「うん」「何かやってるの」「いや、うん」「どっち?」「いや」「そう」「うん……」「あたしが仕事、紹介してあげるのに」マスターどこ吹く息で。「俺はいいよ」「俺はって、あたしは今あなたの話してるんだけど」「そうだけどさ」
 踊りは明白にばらばらで合わさることなんてないようで。
「やりたくないんでしょ」「何が?」「聞いてなかったの?」「そうじゃないよ」「じゃあ何で、何が、なんて言ってくるの」「いや、だから何がやりたくないのかって意味」「この仕事」「そんなことないよ」「うそ」「うそじゃないよ」「じゃあ何でやる気ないの」「これでも出してるんだよ」背後にTechnologic。「これからのこと、考えてるの」「さあ……」「さあって何、自分のことなのにさあって何」「だって先のことなんて考えたって」「考えなかったら余計駄目じゃん」「そうかなあ」「一生このままでいいわけ」「どうだろう」「さっきから何なの自分のことでしょ、疑問形ばっかり何それ」「何々って、言われても」「いいの、いやなの、どっち」「いいも悪いもなくない」「どうしていつもはぐらかすの」「はぐらかしてなんか」「じゃあ何考えてるの」「別に」「そのままでいいと思ってるの?」「楽しいからいいよ」
 顔色逆光。
「あたしそういうの嫌いだな」スパーク「ちまめみたいでさ」
 明滅の最中ちうみの目あぐらかいてたんであっ、こりゃあやべえなって俺は黙った。ちうみは瞬間湯沸かし器状にカッとなる上そのスイッチがカンボジアの地雷原みたいに縦横無尽潜んでいて、どうやら新発見の形相。円陣、いつの間にできたかすまじく乱れ髪べたつくフラッシュライトに生まれて消えてを外野で過ごし。夜の森を錯覚しても死体はどこかに埋まってて。ちうみ彫像のごとく、踏み抜かず地雷、俺は沈んだライムから昇る泡への既視感が何かを突きとめようと虚しく合間に切断のごとし収束、ちうみぐいぐいグラス空け、俺はモスコミュール繰り返す。
 差し出した俺の手ちうみに絡められて身動きできず。
 細い喉がエイリアンから静止した肉に戻るや否や引っ張られるままつんのめって体臭肉迫。
 馬鹿調子で馬鹿騒ぐ熱気が吹きつけるためかちうみ全然、寒くなさそうだった。俺はアルコールで冷えるのにちうみはアルコールで湧くタイプで、さらに酔いやすい。俺はやめなよと言ったが聞きゃあしない。承知済、多くは言わない。ちうみの爪は短く髪に絡んで抜ける感触が俺は好きだった。ドベドベの服から覗く肩は白く、耳の裏からはちまめと同じにおいがした。
「行こ」
 曲終わり、レディーガガのミックス。
 客らしい客もいないから俺は、すんませんちょっと抜けます、とカウンターを出てちうみの手を引きながら出口に向かう。水中の寝言に似たラーラー・ア・ア・ア・アーがフェードイン、撹拌・揃わぬ足並みが追いかけてくる。
 裏口から出た俺の胸ぐらを掴んで壁に押しつけるちうみ、濡れた瞳で生まぶしい太腿を俺の股間に割り入らせ、身動きできぬ。真新しいインディアンのアウトソールはチョコレートのにおい付きだが誰がゲロがため消えつつあり。
 ちうみは犬を落ち着かせるように、あるいはガキに小便でもさせるよう歯の隙間からシーッと言った。そうしておもむろにキスしてきた。
 どんな美人だろうがアルコール入りとだと口がべとついて気分が悪く。胃液で蒸されたアルコールは甘辛くまとわりつく、腐りかけか腐る寸前の肉のにおいか、既視感の正体を俺はまだ突き止められず。ちうみはそのまま俺の首を三度強く叩き、そこをべろーっと舐めてから噛みついた。
 じゅる、じゅる、とひどくゆっくり吸われていく。蚊やヒルと同じで痛みはなくて、こっちは変に上向いたまま煙草もやれない。
 空は深夜の高架下より真っ暗で色もない。嚥下音は吐く寸前に似て一度気になりだすと髄を直接掻かれるようだったが、ちうみの唾液は脳をバカにする作用があって、それゆえちうみに吸血されたがる輩も多いが俺は違って、ちうみの髪のにおいを無感動に吸っては出していた。頭がぼーっとするのが嫌で九九をそらんじる。腹を圧する低温が僅かに壁越しに響いてくるが俺の鼓動かもしれず。孔を塞げばびゅうびゅうアウトバーン流れる血潮が殺されるのを想えたやもしれず。路地裏の汚水とちうみの化粧が不思議な協奏におわせて。フローラルにドブを垂らせば香りが引き立つのは香水の手法で、だから血と精液を混ぜるのは不自然じゃないのだと。
 ゴックシジュウゴを数える頃に解放される。これ見よがしに糸をひいて離れるちうみ、一旦は目を合わして俺を見るが魔羅の萎縮に気付くと素直に離れた。支えを失って迷彩インディアンたたらを踏んで、
「大丈夫?」
 決まってちうみが聞いてくる。鉄錆臭い。白い顔に真っ赤というよりどす黒い血を滴らせる様すさまじく、たまらなく感じるマニアもまたいるという話だけど俺はただティッシュを渡す。
「俺まだ仕事あるから」
「わかった。お仕事がんばってね」
 きれいに戻ったちうみ微笑みながら夜の街に消えていく。片手にティッシュを持ったまま、またどこかに置き忘れるんだろう。ちうみは手ぶらを好む。霧や蝙蝠になったら確かに邪魔だろう。
 ジェンガの足取りで店に戻るとLFO、カウンターのサケダルがアホついた笑みで俺の首と手の間からジクジク染み出してくる血を見咎めた。「仕事中だってのによくやるぜ」
「ちうみには逆らえない」「ちうみにも、じゃねぇの」「うるせえ」カウンターを潜る。低音地を這う。空のグラスをシンクに置いていつものをこしらえる。
 ♪This is going to make you freak, This is going to make you freak,
「LFOってこれしか印象なくねえ?」ピンがオリーブ突き殺す。「あ? いきなり何だよ」「ひとつが突出してたらそれは傑出なのかって」「あ? 聞こえねえよ」「仮に他のすべてが見劣りしてても何かひとつ突出さえしてればそれは秀逸なのか慰めなのかって」串刺しオリーブは灰皿に葬られ。「何だって?」「突出してるがため大して劣っていなくてもたとえ平均以上だとしてもそのすべてが劣等であるかのように見えることもあるだろうし結局自ら犠牲を志願する同然なそれは不公平じゃないのか、どう判断つけりゃいいのかって」「だから聞こえねえって」「現実はクソだ」「オレはクソじゃねえよ」「おまえスパンカーの方が好みじゃねえの」「あ?」「死ねよ」「てめえが死ねよ」「なんか血、止まらねえんだけど」「知らねえよ」
 サケダルは大酒と煙草で喉を酷使現在進行形の口から二十もサバ読んでるスナックのママみたいな砂やすりボイスぶち撒く野郎でそいつは重音爆音慌ただしくとも相手の鼓膜をザクザク刳り抜けてくる。耳障りなことに違いはなく注意深く興味をそそられる内容なんか殺しても言わない奴だからこっちも注意を向けたくなくて、顔を寄せる気はさらさらなくて、ちうみと面向かうあの錯覚は皆無で、だから普通の人間だ。
 ♪This is going to make you[グ/っでゅっでゅっでぃデ/ギュン]
 耳鳴りがする。血が止まらない。
「毎度ながら何でおまえなんだ? マジ代われよ。ちまめもちうみもって欲張りすぎだろが」「俺はちうみとは寝てないよ」「それに近しいことはしてんだろ」サケダルは二元論信者だけど酒については一神教でマティーニ一丁、三口で飲み干す。「ちうみに好かれたいならあいつの前でちまめの話しないことだね。たまには他の頼めよ」「ちまめの恋人のおまえが何でちうみに殺されないのか疑問だぜ。いいからもう一杯だ」「俺は恋人なんかじゃないよ」「おまえだけだろ、何も渡さずやらせてくれんの。色魔のくせして足元見やがって、あれじゃあそこらの淫売買った方がマシだぜ」「ちまめと比べりゃ他のはカスだろ」
 サケダルは機嫌が良くなったような、微妙な唸り声。
 ドライジン:5に対しドライベルモット:1、ミキシンググラスに氷山流し込んで静かにステアしカクテルグラスへの移送、奴には形骸化したオリーブにレモンピール。
「たまには他のもの作らせろよ」
「ドライマティーニしか作れねえくせに何言ってやがる」
 サケダルは琥珀色を胃に格納し、「おまえが死ねば別のが代わりになんのかァ」と釣り銭強盗そっくりに眇めやる。
「人に代わりなんかいないだろ」
 聞こえないのか聞きたくないのか聞く気がないのか、きっかり三口でフロアに戻っていく後ろ姿は万事どっちだっていいようだった。俺はムーミン谷のもやしみたいな腕の波濤の反動によるエネルギーの膨大がいつエントロピいに達するのかを考えていて、どのくらいコークが必要でアルコールは恍惚のうち何割をしめるのかミキシング消火←化器で突き抜ける酔いと墜ちていく恐こうどっちが快楽キョウ乱としてす ぐれているの かを考えてゐテ、いつ処女が破瓜す るのか考え  ていて、政治 家が内部から爆ハツ!「した?」墨袋をキり裂いたなら表面ンに脂の虹色がテカッテないと困 るけどそうじゃなかッ トきどーするかかn がえていて、どヲだっていいよとkんがえていt、あたmがいたいなtt かんじてちえ――
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ]
 ♪[ギゅッ/ぐ/きゅっきゅっキュびビゅッ] ........
 頭が叩かれる。叩かれていた。
「今日はもういいから、帰っていいよ」
 俺は頷いたが腰砕けで立てそうもなく、歯の根が合わない上に吐気、職務放棄したダッコちゃんイエロー状態を運び出したのが誰なのか、蝶めいた無数の蛍光色が舞っているのを過ぎて胎内の昏さを通り観音開きを抜けてスカッと寒空に放られてもバカから醒めず胃液味。今や細胞の奥まで浸潤したちうみの艶めき思い返してゲロ吐いた。いくらか楽になったところで帰路の半分習癖で辿り、側面まだらに発光する置看板押さえつけてもう半分ゲロかけた。楽になりすぎて蕩けた足を友人に、何度か立ち上がろう立ち上がろうと思っているだけという朝寝の既視感覚えながら、とうとう立ち上がったときには空がいくらか色を成していた。
 帰ると部屋は血河の有様で、ちまめが全裸でベッドの前にひざまずいて掻き出された内臓を手で戻しているところだった。部屋の隅でちまめのキャミワンピがボロ雑巾になっていた。下水が逆流したにおいで鉄臭さはあまりなく、百倍に薄めればどこか馥郁とも称せるであろうそれにちまめが仕事帰ってすぐちうみに殺されたのだとわかった。
 鼻の頭に何かあたって、拭うとぬるり赤い。
「派手にやったね」どうやって天井を洗おう。
 ちまめは胃を戻すと抱きついてきた。肌は温もりつつあった。「おかえりなさい」「ただいま、おかえりちまめ」耳の裏からはちうみと同じにおいがした。それ以外はむせかえる湿った香り。
「痛くない?」「あの吸血女死ねばいいのよ」とちまめ、すぐに甘える声に戻って「それよりねえ、大丈夫? 今日も吸われたんでしょ」「あー、まあ」「ごめんね。あたしが生きてたら殺しに行ったのに」「ちまめは悪くないよ」「そうよね悪いのはお姉ちゃんだもんね」笑った頬に点々赤の飛沫。
 ちまめは悪くないと言っただけでちうみが悪いと一言も言ってないのにちまめは満足して、早速性欲混じりの食欲あらわにしてきた。俺の魔羅は貧血とバッドトリップで使い物にならないだろうという俺の予想を裏切ってすでにデスティニーランド入場心待ちって風情、ちまめの力に改めて感心する。
 ちまめ麝香の装いで俺を血まみれベットに押し倒して早口。
「ねえ血でしょ血だけだよね吸わせたのはあの女なんかとやってないでしょ」
「やってないよ」
「本当? ねえ本当するのはあたしとでしょあたしだけに飲ませるのよねそう言って」
「俺が飲ませるのはちまめにだけだよ」
「あたしにだけよね」
「ちまめにだけだよ」
「そういう約束」
「うん、約束」
 キス。忙しい口元と手元、天井のべったり黒とは程遠い鮮血が俺の鼻と言わず目と言わずはらはら落ちてくる。
 ちまめはベルトを抜くや否やパンツごとズボンを引きおろし、眼光炯々俺を含んだ。熱い泥を割るような心持。再び滴った血に目を閉ざす。
 バンパイアとインキュバス。
 性交の本義たる遺伝子の混合を頑なに拒んだまま片親のコピーそのままに熟成し、血と精液、精髄を異にするのだから本質的に相容れなくて。混迷の坩堝にて分解されながら改修を経ず再構築されるがまま偶然、立ち昇るように。生まれてくる命はどうあろうと可/不可の二分によって成り立つものなのにあまりに多くの可能性を内包し、それは選択肢というかたちになって現れ、見える見えざる関わらず希望と失意を裏合わせに孕んでいる。ばらけた組み合わせの無限通りを欲することはあっても憎むことはないなんてそんなことはなくって、まして家族なんて、それすらも。潤滑油の代わりに攪拌機を。
 喉の奥で強く吸い上げられ俺はちうみの唾液交じりの精液をちまめに捧げる。
メンテ
食の流動 ( No.51 )
   
日時: 2011/11/21 00:00
名前: 伊達サクット ID:REQ.emlY

 ここは海に面したモグモグ王国城下町の港。
 はるか海の向こうから、貨物船がやってくるのが見える。
 湿った風の潮の匂いが鼻を突く。海鳥の鳴き声は甲高い。
 真っ白なシャツを着た、日焼けした作業員達の中に混じって、魔法料理研究家エディアと師匠ゼダが埠頭に立ち、船の様子を見守っていた。

「待ちかねた種が来るぞ」
 ゼダが禿げ上がった頭を汗で湿らせて、感嘆の声を上げる。
「ええ。俺達が待ち望んでいたミックスシードが」
 エディアが頷いた。
 彼らは、料理という文化を極めて重要な位置づけとしているこのモグモグ王国において、魔法を駆使して未知の料理を開拓することを使命とした魔術師、『魔法料理研究家』であった。
 エディアの師匠ゼダはその生涯をジュースの開発に捧げた男だった。
 肥沃な大地と温暖な気候に恵まれたモグモグ王国は、多くの果樹園を有し、さまざまな果物、野菜が栽培されている。
 それらの果物からもたらされる果汁を魔法で融合させ、混ぜ合わせたものがジュースである。
 モグモグ王国で実る果実は独特な風味のものが多い上、手作業で果汁をしぼって混ぜ合わせてもうまく混ざらず、ジュースとしての調和が取れない。
 そこで、ゼダとエディアはさまざまな魔術を施した材料と果汁を混ぜ合わせることによって、栄養価の高い、風味の良いジュースを開発してきたのだった。

 特に完成度の高いジュースは王宮の国王に献上され、王侯貴族達の間でも愛飲された。それによって、ゼダとエディアの所属する魔術師ギルドは褒美を受け取り、彼らの研究費は潤うのだった。
 今回、はるか彼方の異国より取り寄せた『ミックスシード』は、この国では育たない魔法料理の材料である。この種が育つ国では錬金術の媒体として扱われている、非常に高価で希少価値の高い種で、手に入れるために何人もの戦士が命を落とすという話であった。
 ゼダの狙いは、このミックスシードに融合魔法をかけて果汁と混ぜ合わせ、それぞれの果汁のうま味を相殺せぬよう、全ての栄養を濃縮させた最高傑作を作ることであった。

 船の荷揚げを確認してひとしきり感動した後、ゼダは魔術師ギルドの研究所へ戻り、エディアは港の倉庫群に役場を構える物流ギルドに足を運んで貿易伝票を受け取った。
「高っ!」
ミックスシードの値段は1粒10万ギールド。購入した10粒合計100万ギールドとなる。
 聞かされてはいたが、これはエディアにとって目が飛び出るような金額であった。
 エディアは思う。仮にこれで師匠が求める究極のジュースが完成したとして、1杯の値段はいくらになるだろうか。金の有り余った貴族にとって、食の充実は己の力の証。師匠がジュースの開発に成功した暁にはこぞって買いあさることだろう。

 ジュースの開発は予想以上に難航した。ミックスシードは極めて清浄で澄んだ川の水でしか育たず、土壌に毎日栄養魔法をかけ、じっくりと新たな果実・種が実るのを待たなければならない。
 はやく実験材料に使うミックスシードを収穫しようとして促進魔法などかけようものなら、果実内の栄養バランスが崩れ、変な味の失敗作になってしまうという。
 じっくりと、自然の流れに任せ、丁寧に育てていくしかない。悪天候の日、暑い日、寒い日などは、特に注意が必要だった。環境を一定に保つためにゼダとエディアは毎日必死になって畑の土に対して栄養魔法を唱え続けた。

「この分だと実が熟れるまで5年はかかりそうだな」
 そう言ってゼダがため息を漏らした。
 この日もいつものように2人は城下町のはずれにそびえ立つ実験農場からギルドへ戻り研究室で資料の更新、整理を行っていた。ゼダもエディアも魔法を唱え続けて魔力がゼロに近く、もう疲労困憊である。

「師匠、質問があります」
 エディアが尋ねる。
「何だ?」
「仮にミックスシードを使ってジュースが完成したとして、誰が飲むんですか?」
「まあ、王様、王妃様、王子様、あと貴族だろうな」
 ゼダは当然と言った様子で、手に取った資料から視線も離さずに答えた。
「1杯いくらになるか分かりませんが、やっぱり偉い人たちのためのジュースになるんですね」
「不満か? その偉い方々を喜ばせないと、我々魔法料理研究家に金が出んのだぞ」
 ゼダが資料を机に置いて、目の周りにしわを寄せてエディアを見る。
「街の市民にも、ジュースの材料となる果物を栽培している農民の方々にも、味わってほしいんです。俺達が人生の時間の大部分を割いて研究しているジュースじゃないですか。もっと多くの人達に飲んでほしいんです」
 エディアが熱を帯びて語った。ゼダの下で研究を続けて、ずっと内心で思っていたことであった。
「エディア、この国はうまいもんは全て上流階級に流れていく。下々の者はそれなりだ。いちいち気にしていたら料理の研究などできんぞ」
「俺達は料理人じゃない。魔法料理研究家ですよ。料理を芸術作品として捉えるのなんて貴族お抱えの一流シェフの仕事です。料理は生活です。俺達研究者は、魔法の力を使ってみんなの生活を良くしていくことに貢献すべきだと思います」
 エディアの主張を聞き、ゼダは怒るでもなく。豪快に声を上げて笑いだした。嬉しそうに。
「今作っているジュースも、この生産性であれば、そりゃあ金持ちしか飲めんだろう。しかし、改良を重ねればきっと質を落とさずに多く作れる時代が来る。お前がそれを実現するかもしれんぞ?」
「……師匠は、もっとミックスシードの成長を魔法で促進させろって言った役人を追い払ったんですって?」
「当たり前だ。素材が自力で育つまでゆっくりと待つ。魔法をかけるのは土壌だけだ」
「何とか5年経って種を収穫できたとして、ジュースの完成にはどのくらいかかるんですか?」
「知らん」
 そっけなく答える師匠を見て、エディアはこんなことだったら料理魔法や栽培魔法なんて覚えずに、戦闘で使える魔法を取得し、軍に入隊でもした方が良かったと思った。

 ゼダが目指す究極のジュースの研究の志半ばにして、エディアはゼダの下を離れた。理由は『どんな身分の人でも等しく享受できるような料理の研究をしたい』というものだった。
 3年の月日が流れ、エディアは異なる研究室で助手を続け、ある程度の事績を認められた後、自分の研究室を持つまでに至った。
 そこでエディアが行った研究とは、砂糖に様々な魔法や、砕いた晶石を混ぜ合わせ、果汁に近い風味を出してジュースを作るというものだった。彼はその砂糖を『魔法糖』と名付けた。
 最初は果物の果汁を入れて、ある程度補助的に魔法糖を使用していたが、それでも貧乏な者にはかなり値が張るものだということが分かった。もっと安価に大量に生産でき、農村の貧しい人達でも味を楽しめるようなジュースが必要だ。
 そこでエディアが気付いた。
 果汁なんて必要ない。
 魔法糖の配分だけでジュースは作れる。
 エディアは更に魔法糖の研究に傾倒した。それに伴い、自分にあてがわれた実験農場には足を運ばなくなった。

 ある日、研究室にゼダがやってきた。土をいじってきたのか白衣は泥だらけで、昔、港で見たように、禿げ頭に汗を光らせていた。
「お前は何を作っている?」
 ゼダが目を細め、部屋を見渡す。
「ご覧の通り、ジュースですよ」
 エディアは笑顔で答える。
 しばらくの沈黙の後、エディアが魔法糖の利点についてゼダに述べようと口を開きかけたら、向こうから先に話し始めた。
「これはジュースではない、薬だ」
 そう言ってゼダは机に置かれた、包み紙に盛られた食用晶石の粉末を指でつまみ、さらさらと振りまいた。
「しかし、味は師匠の作っているジュースと全然変わりません。おまけにこれなんてコップ1杯20ギールドで飲めるんですよ?」
 エディアは脇に置かれている三脚に設置されたフラスコを手に取り、満たされたオレンジ色の液体を一口飲んだ。
「これは素材を使わずに、砂糖に水を入れただけの、魔法漬けの偽物だ」
「偽物ではありません。方向性の違いでしょう?」
 エディアは眉間にしわを寄せた。ゼダはどうして自分の方針に頑なに固執するのだろうか。魔法糖だって、魔法料理の1つの答えではないか。
「こんなものを幼いころから飲ませたら、その子供はそれをジュースだと思って大人になる。これは国民を、食の王国モグモグの民を欺く行為だ」
「それは酷い言いようじゃないですか師匠。確かに果汁を使っていませんが、これによって貴族も、農民も、全ての身分の人達が等しく手軽に同じ味を楽しむことができるんです。俺は果汁ではなく、食の文化の混ざり合いを目指してるんです。これをジュースと言わずに何をジュースと言いましょうか?」
 エディアは得意げに語った。エディアの心中には既に自分の研究室を持った一人前の魔法料理研究家だという自負があった。
「なぜ、こんな安易な方法に走る。素材を使った、正しい味を量産する方法を考えるべきだ。こんな利に走った研究方法を教えた覚えはない」
「師匠、もうあの頃とは違うんですよ。師匠のやり方では一部の特権階級の人しか食の発展がもたらされない。私は料理人ではなく魔法料理研究家として、もっとジュースの良さをみんなに広めたいだけです」
 すると、師匠は諦めたような、それでいてエディアを憐れむような眼差しで見つめた後、「そこまで考えがあるのなら、もう何も言わん」と静かに言い、部屋を後にした。

 その数ヶ月後、ゼダは静かにこの世を去った。
 天寿を全うしたとのことで安らかな死に顔だったらしい。しかし、彼の研究は完遂を見ないままだった。
 葬式で、エディアは心の中で毒づいた。
 ほれみろ。そんな時間をかけて何を成し得たというのか。結局自分の方が正しかったではないか。
 袂を分かったとはいえ、師匠を失った悲しみに満たされた毒づきであった。

 かくして、エディアの魔法糖ジュースは一定の完成形を見た。
 ジュースを献上するのは国王ではない。砂糖工場を経営している農村の領主に研究資料を持ち込んで、実際に魔法糖だけで作ったジュースを飲んでもらった。領主からは色よい反応をもらえた。
 エディアと領主は綿密に話し合い、製造工程、見込める利益について予測を立て、いよいよ製品化にこぎつけた。
 魔法糖のジュースは国土中で飛ぶように売れた。人々は手軽で身近な嗜好品として、ジュースは全ての人達に瞬く間に定着した。

 エディアの研究目的は達成されたに見えたが、彼の研究は思わぬ方向へと流れていった。そもそも、エディアはジュースを作るのが目的で、あくまでもその手段として魔法糖を発明したのだが、農村の領主は魔法糖そのものに目を付けた。
 領主は魔術師ギルドに依頼して、菓子や酒、戦争に持っていく兵糧など、もっと他の食べ物に魔法糖を流用できないかと提案したのだ。
 そして、エディアの研究ノウハウは他の魔法料理研究家にも反映され、魔法塩、魔法ソースなど、様々な調味料が開発された。
 そして、しまいには、ひとかけらの肉を培養液に満たしたビーカーに入れると、どんどん肉が膨張し、量が増えているように見せかけるなどという技術も生まれた。おまけに1ヶ月近く常温で置いていても腐らない。

 エディアは王国内でもトップクラスの研究家として富と名声を得た。
 しかし、界隈ではエディアの意図と正反対の現象が巻き起こったのだ。
 これらの魔法調味料で作られた料理は安物の紛い物だと貴族達が言い始め、こんなものを食べたらモグモグ王国貴族の食のプライドが損なわれるという風潮が生まれたのである。そして、魔法調味料は貧乏グルメの代名詞とされ、食べ物の住み分けがより顕著になってしまったのである。
 食の王国モグモグでは食の上下が文化レベルの上下となる。食文化のミックスを目指したエディアは、身分間での食文化の隔たりという結果を招いてしまったのだ。

 海に面したモグモグ王国城下町の港。
 はるか海の向こうから、貨物船がやってくるのが見える。
 真っ白なシャツを着た、日焼けした作業員達の中に混じって、エディアは一人埠頭に立ち、船の様子を見守っていた。
 こうやって船を一人で待つのは何回目になるだろうか。
 船には大量の魔法糖が積まれている。植民地で作らせた魔法糖。保存が利き、栄養価が高い魔法兵糧があれば海を越えた大陸の国を攻めるのも容易いものだ。
「師匠、俺は間違っていたのでしょうか」
 エディアは一人でつぶやくが、答える者はいない。

 失意の内に研究室へ戻ると、同僚の研究家が血相を変えてドアを開け、足早に駆け込んできた。
「エディア、どこに行ってたんだよ。大変なことになっているぞ!」
「どうした?」
「ゼダさんの実験農場から、凄い種類の木が生えてるんだ! ポポカとかマンボとかありえない果実が実ってる!」
「何だって?」
 エディアが驚愕した。
 ゼダの実験農場は彼の死後ミックスシードの栽培が頓挫して、ずっとそのまま放置されていたが、まさかそんなことになっているとは。
 自分の目で確かめるべく、すぐに丘の上の農場に向かった。
 農場は、魔術師ギルドの魔術師や魔法料理研究家がニュースを聞きつけ、大勢にぎわっていた。

 雲ひとつない青い空の下、太陽の光を受け、青々としなる葉を携えた木が立ち並び、まるで虹でも見ているかのように、様々な種類の果実が実っている。
「どうしてこんなことが」
 エディアには理解できなかった。どれもここの風土では育たないような果実ばかりなのだ。
「土じゃないのか? たしかゼダって毎日土に栄養魔法かけてたって」
 やじ馬で来ていた同僚の一人がぽつりと言った。
「なるほど、そうかもしれん。おい、土を持って帰って調べよう」
 研究家が農場に入って土を拾い始める。
 今度は別の同僚が「うまい! こんな甘味があるポポカがあるのか」と、真っ赤なポポカにかぶりつきながら感嘆の声を上げた。

 エディアもふらふらと農場に入り、そばにあるマンボをもいで、一口食べてみた。
 果肉が舌で溶けるような水々しい触感に、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。
 こんなものは食べたことがない。自分が研究してきた魔法糖ではこんな味は決して再現できなかった。なぜなら味わったことがないからだ。味わったことのない味を再現することはできない。
 ゼダはミックスシードを媒体とした素材の融合を目指していたが、その副産物としてこの肥沃な土が生まれたに違いない。だからこれほど自然の恵みが詰まった果実が生まれ、この国では育たないとされていたポポカやマンボの木が生えてきたのだ。

 ゼダはこの結果を意図していたのだろうか、していなかったのだろうか。それはエディアには分からない。
 しかし、ゆっくりと、木を育む土に栄養魔法をかけて、もっと大地は豊かになり、果実は自分達の力でその数を増やしていく。
 もしそれが叶ったら、今度こそそれぞれの素材の持ち味がよく混ざり合う、本当のジュースをモグモグ王国に広めることができるかもしれない。なにせそれぞれが同じ土で育つのだ。できない話ではないはずだ。
 そんなことを考えていると、土が入ったビーカーを持った同僚の一人に肩を叩かれた。
「よー、エディア。ゼダさんに感謝しなきゃいけないぜ。お前の夢の叶え方をこうやって示してくれんだからな。あーん?」
 エディアは溢れる感情が喉に詰まり、言葉が出なかった。

(終)

メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品批評期間】 ( No.52 )
   
日時: 2011/11/21 19:04
名前: 企画運営委員会 ID:fDbyVVIo

作品のご投稿お疲れ様でした。
21日(月)〜30日(水)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。
批評期間が短くなっていますので、ご注意ください。


第8回『ジュース』:参加作品 >>46-51(敬称略)

>>46 空人:貴方に捧げる果実
>>47 かなちゃん王女:胎児
>>48 如月 美織:ジュースと陰謀
>>49 If:うそつきなおいしゃさん
>>50 文旦:過分離
>>51 伊達サクット:食の流動
メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品投稿期間】 ( No.53 )
   
日時: 2011/11/27 12:52
名前: 如月 美織◆8zBdnxDwSc ID:SGMhUuLc

 寒くなってきましたねぇ。手がかじかんでキーが押しにくい!←
 お題は初めてなのでちょっと緊張しています。えへ。

>>46 空人:貴方に捧げる果実

 主人公の執着心がちょっと怖いけど、でもそれがとても魅力的でした。血は飲んだことがないという言葉を信じてヴァンパイアと暮らすなんていい人! とか思ってたのに。
 でもその気持ちはなんとなくわかるなぁ、って。わたしも似たような体験あったので。ヴァンパイアじゃなかったけれど( 助けてあげていたのにいつの間にか助けられていた……みたいな。それで、どんどん深みにはまっていちゃったりして。
 最後に与えた赤い液体の正体を明確には明かさなかったところが印象的でした。たぶんそうだろうけど、違う可能性もあるよ、っていう感じでわたし個人としては凄く好きなパターンです。
 でも、強いて言うなら彼が元気になって行く様子をちょっとでもいいから書いてほしかったなぁ。わたしとしては。
 この後にどうなるのかなぁ、っていう空想を頭の中で膨らませられるのでとても印象的でした。
 

>>47 かなちゃん王女:胎児

 変わったタッチの小説だなぁとまず思いました。出だしでぐぅっと惹きつけらちゃいました。
 うーん、でもジュースというお題にはちょっと弱いかなぁ……。最後の方に「ジュースをたぷたぷ」とあったくらいで、どちらかというと母とかそっちの方に物語が偏っている気がしました。
 けれど赤ちゃんがこんな世界から母の元へ来ているとしたらロマンティックですよね。この後ウサギさんに連れていかれて、コウノトリに運ばれるのかしら。夢の国ですね、それこそ。ゼリーの川なんて羨ましい!
 とても楽しい気分になるお話でした。


>>49 If:うそつきなおいしゃさん

 なんかいろいろ考えさせられますね。嘘をつくことは悪いことだけど、でもその嘘でその子は救われる。ハッピージュースですか……確かに幸せな気分になっていい夢を見られるのは幸せかもしれないけれど、いつかそれが儚い幻想だと気づいてしまったらもっと傷つくことになりますよね。で、それが分かっているからおいしゃさんも苦しむ。
 重たくのしかかってきます。でも、少女が健気に生きていることでまだ救われる。読み終わった後の余韻が凄まじかったです。
 切ないですね。少女は幸せなのに、でも切ない。でも、真実を告げたらそれこそ永遠に心を閉ざしてしまうかもしれない。父親が帰ってくることが少女の生きがいだったと思うし……。
 僕の行動は間違っているけど、でも正しかったんじゃないかなと思いました。


>>50 文旦:過分離

 読み始めてすぐ、最初に気になったのは読点が少ないなぁということでした。ちょっとだけ読みにくかったです。
 会話がすごく人間らしいというか、返事になっていない返事とか「あーこういうのある」とか思いました。
 ちうみがバンパイアでちまめがインキュバスか……。不思議な姉妹だなぁ。ほんとにいたら怖いですね。でも、最終的に生きているのはちまめですよね。名前がそうだったし。でも、ちょっと惑いました。
 >>ちまめが仕事帰ってすぐちうみに殺されたのだとわかった。
 あれ、ちまめが殺されちゃったのって感じです。
 ちまめの独占欲が可愛らしくてたまらないですね! ちまめにだけだよ、っていう台詞が好きです。
 特徴的な文章が多くて、とても面白かったです。


>>51 伊達サクット:食の流動

 エディアさんの気持ちも、ゼタさんの気持もどっちも分かるなぁ。もっと手軽にジュースを飲んでほしいから魔法糖を開発した。でも、ゼタさんは本物の味を求め続けた。
 どっちが正しいって話kじゃないと思うけれど、でもゼタさんの職人魂のようなものには心打たれました。
 食の王国モグモグっていう名前に思わずくすりとしてしまいました。あと、ギールドにも。ギルとゴールドかな、あ、でも偶然だったらごめんなさい。
 魔法糖について話すときの、最後の方のエディアの台詞には傷ついただろうな。あの頃とは違うんです、なんて。でもそのあとに、師匠が死んだあとから弟子への道しるべのようなものを示すなんて感動です。
 ミックスシードのような高価なものより、この地では実らないとされていた果実が実る方が幸せな結果だったかもしれないですね。きっと。
 でもゼタさんは偉大な方だなぁ。これは薬だ、の台詞が好きです。


>>48 自作

 相変わらず暗くてごめんなさい。文芸誌のときもそうだったけど、どうやらわたしは主人公をどん底に突き落とす癖があるようです。えへへ←
 短編だからですよ、でも。普段は長編ばっかりだから、きっと短編になれてないからなんです。
 わたしの性格が影響しすぎてあんな状況になっちゃうわけじゃないんですからね!(とわたしは信じて疑わない)。
 もっと救われる話を書きたい……せめて報われてほしいな。主人公が。
 テスト明けだったので割とすぐに書きあげてしまいました。誤字ないといいな。
 なんかこんな力作ばかりの中にわたしみたいな未熟者がいていいのだろうか、という気もするのですが……。
 でも、全力尽くせたからいいかな、と納得させています。自分自身に。

 
 一応、これで批評は終わりです。読書感想文みたいになっちゃったけれど。
 では、失礼します。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品投稿期間】 ( No.54 )
   
日時: 2011/11/27 21:32
名前: If◆TeVp8.soUc ID:oVJMiQ2Y

批評いきますよー。
相変わらず自分棚上げです。ごめんなさい。

>>46 空人さん:貴方に捧げる果実
いつも言っているような気もしますが、やはり工夫の効いた文章が素敵です。一文一文丁寧ですね。ただ序盤だけは、ちょっと肩に力が入っていたような気がしないでもないです。冒頭って構えてしまいますよね。
主人公のヤンデレが可愛いです。遠まわしな表現がいいですね。要の部分をズバリ書かずに表すのはすごく難しいと思うんですが、お上手です。十分分かります。
欲張ったことを言うなら、もう少し突き詰めて主人公の心情を書いて欲しかったかなと思います。どうしてその行為に及ぶほど好きになってしまったのか、もっと読みたかったなあと。
さらにもっと欲張るなら、物語が終始穏やかなままだったのが惜しいかなと思います。波があればもっとよくなった気が。私もなんであんまり大きな声では言えないんですが^q^
終わり方、好みでした。これからの予感を感じさせるもので、よかったです。

>>47 かなちゃん王女さん:胎児
かなさんらしいかわいらしさに溢れるお話でした。冒頭からもう“らしさ”全開ですね。こういう“らしさ”を確立されているのは、羨ましいです。
おとぎの国のような夢いっぱいの世界は、まさしく正統派ファンタジーで、想像するだけで楽しくなれます。素敵です。
タイトルが胎児、ということは、まだ生まれる前の赤ちゃんの話なのでしょうか?
私の読解力が追いついてないことは非常に申し訳ないのですが、少し読み取りにくいです。私みたいな者のために、もうちょっと説明が欲しかったかなあと。
うさぎの会話文の、細かいリズムの連続がすごく気に入りました。いいですね。これだけ短いのに、すごく印象的なキャラに見えます。

>>48 如月 美織さん:ジュースと陰謀
ジュースで異世界に、という発想が面白かったです。ファンタジーしてますね。好物です。
いろんな展開が次々起こって楽しかったです。次はどうなるのか全く先が読めなくて、最後までどうなるか分からなかったのがよかった。
ただ、ちょっとお急ぎモードかな、という印象は受けました。追われている話なのでスピード感があっていい部分もあったんですが、ちょっと丁寧に書いて欲しかったところもあったかなあと。
たとえば、細かいですが、老人は主人公にジュースを撒いてほしかったわけですが、それについて彼が少しもほのめかさなかったところは少々疑問になっちゃいます。
あと、せっかく異世界という面白い世界が出てきてるので、異世界じゃない世界と比較したような表現なんかもあればよかったかなと思います。
老人がいい感じの悪役でよかったです。冒頭でも世界への恨みを匂わせていたら、最後の政府への恨みも説得力があったかな。

>>49 If:うそつきなおいしゃさん
今回も鬱ってごめんなさい。そろそろ真剣に鬱話縛ろうと思います。全然面白くない。
次はもっとがんばります。短編苦手だなあ。

>>50 文旦さん:過分離
文章、さすがの上手さです。私なんてまだまだだなあと痛感させられました。が、ごめんなさい、ちょっと読みにくかった。少し膨らみすぎているかなあ、という印象です。
雰囲気はよく出ているのですが、短編ですので、あんまり詳しいとしんどいです。必要のない情報は落としちゃってもいいんじゃないかなあ、というのは面倒くさがりの私の個人的な意見かもしれません。ごめんなさい。
なんというか……批評が難しいなあ。私、たぶん全部は理解できてないような気がします。
相容れない二人に板ばさみ状態の俺、大変ですね。タイトルが過分離ってことは要の部分はあの姉妹のことになるのでしょう。だとしたら、逆にもうちょっとそのあたりは書いても良かったかもしれませんね。
ちうみに血を吸われるまでとそれからで展開のはやさが変わってしまっていた……ような気がするので。

>>51 伊達サクットさん:食の流動
今の世の中にも通ずるところがあって、なんだかすごく衝撃を受けました。さすがの面白さです。
考えさせられますね。ゼダもエディアも、言うなれば両方とも正しいんですけどね……。
ゼダさんがすっごいかっこいいです。師匠の鑑ですね。エディアが新しい道を歩んでいけることを願っています。
結末部が印象的で素敵でした。鬱な話に走らなくたって、こんな風に読後感を残せるんですね。見習いたいです。
魔術師ギルドやらあとはミックスシードの背景とか、細かく整理されているところもサクットさんらしいですし、モグモグ王国のネーミングも。
今回は本当にほとんど批評できるところがないのですが、強いて一つ上げるならタイトルでしょうか。もうちょっと洒落ててもよかったかなと思います。


今回も楽しく参加させていただきました!
みなさんお疲れ様でした。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品投稿期間】 ( No.55 )
   
日時: 2011/11/28 20:56
名前: 文旦 ID:tywxX3Vg

 初のお題参加です。はじめましての方もいらっしゃるかと存じますのではじめまして。
 多分に主観の混じった批評ですが率直を美徳に以下拙筆。


>>46 空人様:貴方に捧げる果実
 言い訳すると、読む前から自作に取り掛かっていたため、投稿して目を通したときはびっくりしました。ネタ被りをしれっと出してしまった! でも方向性が全然違うものですしセーフでしょうかね?

 ちょっとアダルティックなおとぎ話という感じであります。ヴァンパイアが今日まで創作題材に活用されるのは吸血行為から漂うフェティシズムであり、飢餓と性的欲求という非常に明快かつ普遍的な要素を孕んでいるからで、冒頭から繰り出される甘い文はまさにその体現。
 血は生の象徴であり、血を分け与えることは相手に自らの生を分け与えること。命を救い、衣食住も与え、なお自身を相手の内部に流し込もうとする。傲慢や狂気と断じきれない、いささか哀れな情念が窺えます。
 ただ行為自体はブッ壊れてるのでしょうが、いかんせん行為そのものに注目させたい作者の欲求が勝ってしまい経過がおろそかになっている印象です。「元気になった彼が離れていくという不安」もせっかく良質な供給場所を得た彼がそんなことするかなあ、とか。自らを「化け物」と呼称する彼、おそらく迫害されてきたろうと想像できる一文が先にあるため、かえってそんなの杞憂じゃんと自分は思いました。女は恋ゆえに通常の思考回路ができてないとか色々理由は付けられそうですけども。
 クロージングが好きです。さらに言えば「だから今は、この瞬間を楽しもう。」ですっぱり終わっていればもっと好きでした。現状維持って気持ち悪いですよね(褒め言葉です)。


>>47 かなちゃん王女様:胎児
 胎内って面白いですよね。臍帯は電話線状のゼリーのようですし、綿雲は羊水の不純物かな? グミは胎盤とかでしょうか。ジュースには「体液」「精髄」「活気」などの意がありますし色々と想像力を掻き立てられます。
 生まれる以前の世界をアリスで表現している辺りも興味深いです。永遠の少女の象徴たるアリスが魂とすれば性欲の権化たるウサギは肉でしょうか。
 全体を通して絵本らしく、この長さが丁度いいと思えますね。長すぎるとペースが崩れ短すぎると味がでない。難しい配合をうまく確立させていると思います。かわいらしい雰囲気ですが、どこかせつないような空気も含んでいる。胎内の暗さが胎児の見る夢の陽るさを引き立てているようです。この明暗が生死であり、つまりは出産なのかもしれません。ファンタジー。


>>48 如月 美織様:ジュースと陰謀
 「ロマンスグレーのおじさま」になんか笑いました。それまでの雰囲気と落差があったので。意図して転ばせたのならばいらぬ指摘ですが。
 設定はすごく面白いです。面白いんですが生かしきれてない印象も多々見受けられ、それが見えないところでなく見えるところに位置するため気になります。いや、物語じゃーんって言われればおしまいなのですが。とりあえず「機械かなんかを使って人工的に」ジュースを降らせるなら最初から王国全体を赤い雨で覆って、片っ端から魔物のいる世界に追い込めば楽勝って思ったんですけど、話的に駄目ですか。
 そもあの一文で疑問だったのは<『彼』がジュースぶっかけて現実に来た魔物→老人がジュース雨降らせる→現実に来た魔物雨に打たれる→魔物また異次元に移動する>とかなりません? 何のための雨でしょう。それともあれはやはり人間を移動させる雨なんですか? なら「泣き叫ぶ人間の声」は異次元にあるから聞こえないはずだよなあ…あれー? ここちょっと本気でわからなかったです。他にもちょいちょい引っかかるところがあり、話としては疾走してるはずが立ち止まりつつ読んでしまいました。嫌味のない皮肉は面白かったんですけどね。
 ついでにもうひとつ、子供に歌わせる必要あったのかなあ…最初の最初からどういう話か読めちゃうのは個人的には好きじゃないです。でなくともその辺の子供が異世界についてならまだしも、何でジュースのことについて知ってんでしょう。ロマンスグレーのおじさまが異世界に行きたい奴集めるため餌ばら撒いてたとか理由はつけれそうですが。


>>49 If様:うそつきなおいしゃさん
 すみません、状況が自分の周囲と被ってて笑っちゃいました。私見が入り乱れて純粋な目で作品を見れない!
 言葉のチョイスや語り口は洗練されていて、展開の持って行き方もさすがの一言。場面場面の切り取り方が実にうまいです。無駄がない。
 ただ、そつがないって感じもちょっとしました。話が話だけにもっとグチャッとした、消化しきれない気色悪さもほしかったなと贅沢な注文をしたくなります。おいしい作品だからこそもっとほしくなるんでしょう。
 手慣れている、という感じを読み手に意識させなければ「安易な鬱」にはならなさそうです。今回、実質二者択一なようで路線決まってたようなものでしたから。
 少女が精神年齢幼児のまま外観は大人、とか不毛すぎる年月が窺えたらさらに後味悪いよなーとふと思いました。

 ここからチラ裏:
 生きる力を失った生物は淘汰されるのは自然の習いで、自分で意思決定下せない人間を他人の裁量で無理に生かすのは自己満じゃねと俺は思います。心も死んでいて、肉としても薬物や補助剤無しでは生きる力が無い。それって生ける屍どころか腐ってるじゃん。命を救うって行為を『何が何でも生かす』と直結させるべきでなく、救済を重視するなら尊厳死も視野に入れるべきではなかろうか。尊厳なんてとうの昔に朽ち果ててたとしても。


>>50 自作:過分離
 血膿と血豆という名の姉妹の案は前からあって、特殊な名前にするなら特殊な人物にしようという思惑もありました。
 解題すると『俺』はジューサーでちうみ=血とちまめ=精液を中和する存在です。本来遺伝子情報をミックスさせる性交において卵子の時点で遺伝子の特徴ごと過分離した存在=人外双子を後天的に繋げる間男で、作中でも言ってるよう『俺』は恋人関係ではなく愛憎関係にある姉妹のダシにされています。「人に代わりはいない」の後の「潤滑油の代わりに攪拌機」はそういうことです。
 血と精液という組み合わせはレディーガガの香水でそこから発想を得、カクテル・ドラッグ・クラブミックス溢れるダンスフロアと芋蔓式に広がった感じです。曲は状況とシンクロさせてたり自己満。

 如月美織様の疑問については、双子は人外なので人間めいた死では死にません。人の基準では死んでますが人外の基準では生きていると言える、がより正しいかたちです。「またやりぁがったな」等ある通り、姉妹は殺し合いをするのが日常なのです。
 あくまでも無責任な一般人の一人称を貫きたかったため非現実な部分は最後を除いてぼかしてみたんですが、単なる説明不足ともなる板挟み。情報の開示基準は難しい…。
 なおインキュバスは男名であり、作中での明文化は親子関係を表したものです。インキュバス(父)とバンパイア(母)の娘たち(ちうみバンパイア、ちまめサキュバス←女名)です。


>>51 伊達サクット様:食の流動
 ストレートにお題に取り組んだストレートに面白いお話でした。王道の重要性がよくわかります。
 『食』というわかりやすい問題を挙げることでファンタジーにも関わらずすんなり世界に入っていけましたし、終始設定の面白さをうまく生かす話の盛り方で楽しく読めました。
 オーガニックVS化学調味料は終わりのない戦いですね。味の素にはお世話になってます。味覚音痴とか薬漬けとか言われようとすべての人間が口にするものみなオーガニックとなると生産がとても追いつかないでしょうし、オーガニックというブランド自体粗悪になっていくでしょう。エディアは志はともかくとして「安かろう悪かろう」の路にいき、ゼダはあくまで品質にこだわりいつか「高かろう良かろう」を「安いし良い」に変えられると信じており、その未来を弟子エディアに見出していたがゆえの失望なのでしょう。だが師匠、その荷は若人にはちと重すぎる。
 しかるに代用食の氾濫や、保存が効きすぎる得体の知れない食糧などは近代化の弊害ではなくむしろ必然。体内で直接血肉になるものに無頓着になる(ならざるを得ない)という状況は文明の発達がためある意味人間性を追求した結果なのでしょうが、生物的には三大欲求を蔑ろにしてまで生きるとは愚劣の極みであり人間って頭おかしいですね。ジャンクフードと同じで魔法糖にも中毒性があったりしそうです。こわ!
 現実とリンクした問題なだけにどう〆るか気になっておりましたが、答えはひとつじゃない、また問いは限定されていないという終わり方、とても広がりがあってよかったです。


 ようやくお題部屋に参加できたのは嬉しくありますが、同時に『読む』力が本格的になくなりつつあると痛感しました。いかんなー。もっと素直に物事に取り組めるようになりたいです。
 まあぐだぐだ言う前に書け読めって話なのでこれからもできうる限り参加させていただきたくあります。改めてよろしくお願いいたします。
 それでは皆様おつかれさまでした。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品批評期間】 ( No.56 )
   
日時: 2011/11/30 22:57
名前: 空人 ID:5rSMyth2

 先ず、今回自分のわがままで執筆期間が延び、それに伴って批評期間が短くなってしまった事を深くお詫び申し上げます。
 また、投稿し批評をくれた皆様に、心から感謝したいと思います。
 ありがとうございました。



>>47 かなちゃん王女様:胎児

 リズミカルな言葉選びに芝居がかった台詞回し。まるでミュージカルを読んでいるような感覚は独特の雰囲気で、読んでいてとても楽しい気分になりました。
 タイトルから考えて、これは母親のおなかに宿る以前の子供の魂の在り方を表現したのでしょうか。不思議で長閑でなのにどこか壊れやすい、そんな世界観がアリスの世界に良く合っていて素晴らしいと思いました。
 ジュースというよりは素材まるかじりって感じでした。


>>48 如月 美織様:ジュースと陰謀

 重なり合うもう一つの世界を利用して、世界に根付き根幹の一つにもなっている巨悪に戦いを挑む。けれど、その担い手は心に闇を宿していて。
 面白い設定だったと思います。短編としてしっかり読ませる構成になっているのが好印象です。
 だけど説明不足というか、設定が片寄っている様にも感じました。
 ただただ理不尽な大きな力として描かれている政府。これでは嫌悪するのに少し物足りないです。重なり合ったもう一つの世界。そこに生息する魔物たち。彼らは生き物として扱われていないように感じました。彼らが虚構なら、もう一つの世界が存在する意味がわかりません。
 ジュースに関してはしっかりとした設定があったものの、その設定は必要だったのか疑問に思うところもありました。
 主人公の今後についても、ただ絶望させるのではなく、どこかに逃げ道を見出せる方が主人公の性格を活かす事が出来たのではないでしょうか。
 果汁10パーセントくらいで、加糖有り着色料有りのジュースといったところでしょうか。


>>49 If様:うそつきなおいしゃさん

 辺境の小さな村の医療環境の厳しい現実。現状で手の付けられない病と対峙した時の医者の苦悩が良くあらわされていました。
 長年勤め上げた医者としての地位、村人たちからの信頼も深かったのでしょう。それ故に、“自分ではどうする事も出来ない症例”を抱え込んでしまった時の絶望は計り知れないものだったのではないでしょうか。
 仕事を引き継ぎが済んだ時に見せた涙は、少女への謝罪でも憐れみでもなく、自分への、肩の荷が下りたことへの安堵が滲んでいたように見えました。
 老医師の物語の描き方は秀逸だったと思います。
 ただ最後の終わり方は、物足りないように感じました。
 せっかく若い医師が引き継いだのですから、病状の改善を考える努力をさせるべきだったのではないでしょうか。そうではないのなら、より悪い状況へ少女と主人公をおとしめて終わるとか。
 不毛な状況をも、ただ引き継いでしまうのでは老医師の背負ってきた時間が無駄になっているように思えて残念でした。
 一種類の野菜を煮詰めた野菜ジュースかな? 苦いです。


>>50 文旦様:過分離

 酒と暴力と音楽とファッションと性と欲と。それはとても人間の闇の部分に密接に寄り添っていて。なのに登場人物は人外なわけです。
 なんだか小説を読んでいるというよりは、音楽を聞かされている様な感覚におちいりました。文章のリズムがそうさせたのかもしれません。それにしてはリズムが狂っているようにも感じたかもしれないです。
 どこかふらふらしていて危なっかしい主人公がどこに落としどころを持っていくのかなと思ったら、結局ああ最初っから終わってるんだっていう印象です。
 そうですね、ミックスジュースにアルコールを入れたらあんまり美味しくないという事を教えてもらえたという感じ。(褒めてます)


>>51 伊達サクット様:食の流動

 意見を違えた師弟の栄光と衰退。お互いの主張には頷けるところが有り、またそうでもないところも有り。だからこそ反目しあう二人。
 師匠には長年の研究に基づいた経験があり、弟子が言っている事も考えている事も理解できていたのだと思います。それを止められなかったのは弟子の成長を思ってのことだったのか、それとも説得できるだけの自論を持っていなかったのか。後に偉業を成し遂げて見せるのだとしても、どこか生前にその片鱗を見せて欲しかったです。
 弟子は弟子で、一応の成功を見せるまでに成長しているのですから、突然見せ付けられた本物に絶句と後悔を見せるだけでなく、奮起する姿も描いて欲しかったです。
 ……などといろいろ言っていますが、要するに国土中に認められた魔法糖という技術をまるで悪いもののように描かれてしまったのが残念だったなと思ったわけです。
 ストーリーは良く出来ていて完成度の高い作品でした。
 100%のジュースを作ったけど飲みにくかったから薄めて調整したら美味しかった様です。


>>46 自作:貴方に捧げる果実

 いつもとは違った雰囲気をと思ったんですが、出来ていたかは定かではありません。
 さて、最後に彼女が彼に飲ませたものはなんだったんでしょう?

 1.どろ〜り濃厚! 濃縮還元トマトジュース
 2.新鮮果実でサラサラ! 自分の血液
 3.元気一発! 赤マムシドリンク

 答えはWebで!


言いたい放題言ってますので盛大にスルーする事をオススメします。
次回は『誕生』ですね。
皆様がどんなものを生み出してくれるのか、とても楽しみです。
ではー。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第8回:作品投稿期間】 ( No.57 )
   
日時: 2011/12/01 06:05
名前: 企画運営委員会 ID:OvhWyggI

【第八回総評】
 六時間ほど遅れてしまいました。申し訳ありません。
 抽象的な表現になってしまうかもしれませんが、今回は深みのある作品が多かったという印象です。読む人によって受け取るものも感じるものも違ったのではないでしょうか。私も読むたび考えさせられるものがあって、とても興味深い回になりました。
 しかしながら、前回同様物語の筋が弱いものが多かったのも今回のひとつの特徴と言えると思います。要約すると苦労せずとも一行や二行でまとまってしまうようで、もう少し工夫や“練り”が必要だったかもしれませんね。シンプルが良いこともありますが、あまりに飾り気がないものも寂しいものです。タイトルも同じく、もう一歩捻りがあってもよかったかもしれません。急遽執筆期間を延ばすこととなり、その影響が出てしまった部分もあるでしょう。しかし、延長によって多くの方のご参加を得ることが出来たのは、初参加の方も二名もいらっしゃいましたし、大変喜ばしいことでした。参加してくださった皆さん、ありがとうございます。
 執筆期間の延長について(毎月10日までではなく、もう少し長くすることを考えています)は、今企画運営委員会のほうでも検討しております。ご意見などございましたら、ぜひ雑談所にお寄せくださればと思います。よろしくお願いします。
 今月もまた執筆期間に入りましたね。テーマは誕生。今度もどのような作品が集まるのか、楽しみにしています。お題練習部屋は批評がいただける貴重な場です。みなさんぜひふるってご参加ください!
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:作品投稿期間】 ( No.58 )
   
日時: 2011/12/01 19:06
名前: 企画運営委員会 ID:nSJ3MzeQ

 こんにちは。
 第9回「誕生」の作品投稿期間となりました。
 作品投稿期間は12月1日(木)〜12月10日(土)までとなります。
 ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
 皆様の力作お待ちしております。
メンテ
真っ白カーッペット ( No.59 )
   
日時: 2011/12/02 23:32
名前: 夢華 ID:XHfUzBmY


 冷たい、風というものは、あたくしの頬を通り過ぎ、すぐに見えなくなりました。
 外に出たら、そこは、白い白いじゅうたんがしいてありました。
 
「これは、何でしょう?」

 はてさて、困ってしまいました。



 突然ですが、あたくしが住んでいるところは、ずっとずっと真っ暗なところでした。お昼も、夜もなくて、ただただ、真っ暗なところでした。
 お家の中にある電球たちが、ずっと忙しく働いているところでした。
 ずっとずっと昔の、あたくしのお婆様が子供の頃は、太陽というものと、月というものがずっとあたくしたちを照らしていてくれたそうです。
 けれど、その二つのものは、遠くに行ってしまったと、お婆様はあたくしに教えて下さいました。

「太陽さまとお月さまは、遠くへ行かれたのですよ」

 お婆様が昔、そういっておりました。
 お外には、美しいものがたくさんあるとお婆様は教えて下さいました。けれど、もうそれを見ることはないのだと、嘆いてもおりました。
 
「お外には、雪という、それはそれは美しいものがあるのですよ」
「お婆様、それはどういうものなのですか」
「美しく、綺麗な、白銀の世界です」

 お婆様は、白銀の世界を、もう一度見たいとおっしゃっておりました。
 あたくしは、お婆様の願いを叶えたいと思いました。
 そして、そして、――――。



 「ああ、これが雪なのですね」

 あたくしはやっと理解しました。そう、これが雪なのです!
 お婆様がおっしゃっていた、白銀の世界が、今、あたくしの目の前に広がっておりました。
 きっと、持ち帰ることができたら、お婆様は喜んでくれます!

「つ、めた、い!?」

 しゃがみこんで、雪の中に手を入れてみましたら、手がきゅううんと冷え込みましたので、あたくしは驚いてしまって、つい、雪にしりもちをついてしまいました。
 そうしたら、雪に当たった部分も冷えていって、初めての体験にあたくしはつい怖くなって、ほろほろと涙が出てしまいました。
 その時、また、あたくしの頬に何か冷たいものが当たりました。

「な、何ですの?」

 あたくしは上を見て、驚いて声が出なくなってしまいました。
 お空から、小さな白いものが、ぽつぽつと降ってきていたのです!
 ぽつ、ぽつ、とお空から溢れるように生まれるそれは、なんと、雪でした。

「冷たいです、これでは持ち帰れませんわ」

 つい、独り言を呟きましたが、吸い込まれるように音は消えていきました。
 ふと横を見てみますと、先ほどあたくしが手をついてしまって、手形が残っていたはずの雪が、新しく降ってきた雪と重なって、手形を消していました。
 雪は、ぽつぽつと降ってきておりました。



「と、いう夢を見ましたのよお婆様」

 あたくしは早速、先日の夢をお婆様にお話しましたの。
 そうしたら、「雪とはそういうものですよ」と言われましたので、あたくしは驚いてしまいました。なんと、あたくしの見ていた夢は、本当のことだったのです。

「お婆様、雪はどこから生まれますの?」

 あたくしは、思ったことをお話して見ました。そうしたら、お婆様はにっこり笑って、教えて下さいました。

「雪というものはですね、お空から生まれるのですよ」
「お空?」
「はい、雨が寒さで固まって、お空から落ちてくるのです」

 素敵でしょう、とお婆様は雨が雪へ姿を変えるのが美しいとおっしゃいました。
 あたくしもそう思いました。
 それに、たとえあたくしの夢でしても、外を見ることができたのが、とてもうれしゅうございました。
 また、雪を見たいと思いました。



 ぽつりぽつりと、真っ暗なお空から、真っ白な雪が降った日がありました。
 それはとても幻想的で、あたくしは、空から生まれた雪を、ただただ真っ直ぐに見つめていました。
 優しくて、温かさを感じる、冷たい白銀でした。
 
メンテ
レイクドレイク ( No.60 )
   
日時: 2011/12/06 20:13
名前: 空人 ID:xRIytCDE

 はじめて自分というものを意識した頃、私はまだ小さなトカゲの魔物でした。鬱蒼と茂る森の中で鉤爪を使って木に登り自分より小さな生き物を食べて生活していたのです。その森は私のような魔物が棲み易い環境だったのか、自分と似たような魔物たちも多く生息しておりました。私は他の個体よりもわずかばかり知能が高かったらしく、自分より大きく強い魔物からは巧みに身を隠す事を信条に生きてまいりましたから、概ね平和に過ごしていたのです。
 そんな折、私は自分の体が以前より二周りほど大きくなっている事に気が付きました。成長と言ってしまうには、些か急すぎる変化に当時の私は驚愕を通り越して恐慌におちいる始末でしたよ。それが最初の“種族進化(ランクアップ)”だったのです。
 後に知った事なので、当時はその出来事と変化した体に慣れるまでに必死の努力が必要でした。そうそう“種族進化”とは、それまでの経験や戦闘、捕食等をする事で溜まる“経験値”が一定値を超えた魔物が、より強い魔物に生まれ変わる事だそうです。種族進化じゃないと生存しない魔物も居ると言うのですから驚きですね。
 さて、最初の進化を経た私は『ファイヤリザード』という魔物になっていました。と言っても、以前と変わった事といえば、口から小さな炎を吹く事が出来るようになった程度で、身体が大きくなった事で動きが鈍くなったように感じてしまい、どうも以前より生き難くなっているように感じていました。木の根元で出来るだけジッとしていて、枝や幹に止まった生き物を火で炙って、落ちてきたところを捕食する。この当時、私はその姿をあまり良く思っていなかったものですから、もう一度己の姿が変化すると信じて多くの生き物を狩っていました。自分より大きなものや食べきれないほどの量を。周りから見たら好戦的に見えていたかもしれないですね。
 そんな風に過ごしていましたから、次の進化の機会は思いのほか早く訪れました。二度目の種族進化で私は『ブッシュリザード』という魔物になったのです。ブッシュリザードはより森で生活する事に適した種族でした。木々の間を移動するのに適した小柄な身体と強靭な足腰に加え、鋭い鉤爪とわきから腰の辺りまでの申し訳程度の被膜が有り、木から木へと滑空する事が可能になったのです。更にファイヤリザードの時に取得した火を吐く能力もそのまま使用可能でした。肺活量も増えたのか、その威力も大きくなっているようでした。一度全力での火炎放射を試みたのですが、周辺の木々に燃え移ってしまい、消火が大変だった事を覚えています。そこで、森を燃やしてしまう事無く炎を使う手段として私が考えたのは、出来るだけ高い木に登り、上空を飛ぶ魔物に向けて使用するというものでした。自然、私が口にする物も鳥系などの飛行能力のある魔物になり、その所為なのか次の進化を終えた時、私の背には一対のコウモリのそれに似た翼が生えていたのです。
 進化した私は、もうリザードではありませんでした。亜竜種飛竜属下位『ドレイク』。下位とはいえ竜属性を得た私は、はじめて感動というものを覚えたのでした。
 後に知る事なのですが、竜――『ドラゴン』というのは、正確に言うと魔物ではなくまったく別の種族なんだとか。故に素養が無ければ、種族進化で亜竜になる事すら叶わないと言う話でした。より純粋な竜になるには、更に特殊な条件をクリアする必要があるのだという話で。そこまでいくと、もはや憧れを通り越して夢物語の存在だなと、それを知った当初はそんなふうに思っていたものです。
 閑話休題。さて、ドレイクとなった私は森の中にある小さな湖の畔に同じドレイクの群れを発見しました。どうやらドレイクはこの森の中では最上位の種族らしく、生き残り成長したこの森に棲む爬虫類系の魔物はこの姿に落ち着く事が多く、温厚な正確を獲得した彼らは、こうして寄り添って平和に暮らしているのだとか。湖に居るのは食料が豊富にある為なのだそうです。身体が大きくなり、更に肺活量が上がった私は、湖で魚などを捕ることもそこそこ上手く出来たので、彼らと合流する事に異議は無かったのです。これ以上の進化は無いということが少し残念ではありましたが、只強さを求める事には意義を感じませんでした。私も温厚な性格に落ち着いてしまったのかもしれないです。
 しかし、変化というものはいつも突然訪れるもので、その日湖に顔を出したのは、『人』という種族でした。彼らは自国の軍事強化の為、竜騎士団を創りたいのだと説明してくれました。何でも、最初はワイバーンという飛竜の中でも上位種の魔物を集めるつもりだったらしいのですが、ワイバーン達は気性が荒く、野生からでは人の手に余るのだとか。そこで彼らは、私たちに目を付けたという事らしいのです。彼らについて行けば食事に困る事は無く、戦で武勲を立てれば兵役後の安全と豊かな生活を約束してもらえると言う話で、これにまだ若い連中は飛びつき、私もこの森の外の風景に強い関心がありましたので、彼らについていくことに決めました。炎を吹く事が出来る私は特に歓迎されましたのを記憶しております。こうして、人間の王国での生活は始まったのです。
 日々の訓練は自分たちのと言うよりは人間たちが竜に騎乗する事に慣れることが主で、特に厳しいというものではありませんでした。経験者が手本を見せ、他の者たちはそれに習って竜を操る。それは私たちにとっては些か退屈な時間ではありました。しかし食事に関しては栄養価の高いものを与えられていましたし、何よりも私の興味を引いたのは人との交流だったのです。
 彼らの歴史は、同種族同士での戦いの記録でもありました。それ自体は大変浅ましく愚かなものだと言わざるを得ないのですが、その過程で生み出された技術には目を見張るものがありました。特に私の興味を引いたのは、人間たちが研究発掘している『魔法』というものだったのです。
 魔法に興味を持った私に声をかけてきたのは、竜言語魔法の研究をしているという一人の学者でした。竜言語というのは、竜族がコミュニケーションの手段として使う鳴き声のことで、中には言葉の意味を圧縮してあるものも有り、魔法を唱えるのに必要な長い詠唱を鳴き声として唱える事が出来るのだとか。その学者は片言の竜言語を使い、私たちとも会話をする事が出来ましたので、騎士団には必要不可欠な人材でした。私も彼と会話を繰り返すうちに、他の人間とも親しくなっていったのを覚えています。学者は自分の知識を惜しげもなく私たちに提供してくれました。その中で私は風と重力に関する魔法を覚えたのです。私たちドレイクは、背中の翼で飛行する事は出来ましたが、大きな身体を空中で自在に動かす事が出来るほど得意という訳ではなかったので、私はそれを離陸と着陸に応用するようになりました。理論のみの竜言語の知識を教わっただけで実際に私がそれを使って見せた時は、学者は驚愕と感動を合わせたような複雑な表情を見せてくれたものです。
 そんな生活を三年ほど続けた頃でしょうか、人間の国はついに戦火に巻き込まれました。当然私たちにも声がかかり、程なくして初陣を迎える事になったのです。しかし、その初戦の相手を聞いて私たちドレイクも騎士団の人間たちも動揺を隠せない様子でした。私たちの相手は、なんとワイバーンの騎士団だと言うのです。敵国はワイバーンの親が不在の巣を発見し、そこから数個の卵を持ち帰る事に成功し、そこから孵ったワイバーンは人に危害を加えることは無かったそうで、少数精鋭ながらワイバーンを竜騎とする事に成功したのだとか。こちらの竜騎士たちは、格上の相手と初陣という緊張にすっかり萎縮しているように見えましたが、ドレイク達にとってこれはチャンスなのでは無いかと私は思いました。格上の相手との戦闘なら多くの経験値を得られる、この戦闘に勝てば次の進化も有り得るのではないか、と。その考えが甘いものであった事を当時の私は知る良しもなかったのです。
 敵との遭遇は防衛線である砦の上空で起こりました。向こうの数は六、対してこちらは倍近い数を揃えていましたから、騎士の方たちも勝てると思ったのでしょう。訓練どおりの隊列を組み、訓練どおりの作戦で、訓練どおりに突撃しました。型にはまった行動がどれだけ読みやすいかも知らずに。こちらの攻撃はことごとく避けられてしまいました。決定的なのはその飛行能力でした。肩甲骨の辺りから翼を生やしているドレイクとは違い、ワイバーンは前足が翼に変化したものでしたから、その自在に空を飛びまわり旋回する様は、美しいとさえ思ってしまう有様だったのです。
 結果、ドレイクたちは背後を取られる度に翼を傷つけられ、一体、また一体と地面に落とされていきました。私も、風の魔法の助けと火炎放射で牽制して何とか凌げる程度でしたので、味方の数が減り私に集中し始めた攻撃を回避する事は不可能だったのです。
 どこをどうやって生き延びたのか、気が付くと私は湖の畔で倒れていました。以前に棲んでいた場所よりも大きな湖は、静かな山間にあって、静寂と荘厳な雰囲気をまとっていたのです。透明な湖面に映る自分の顔を見て、傷つき倒れた仲間と自分の背に居ない騎士団員の末路を思って、私は涙を流しました。そして、他に助かったものがここを訪れるかもしれないと思って、私はこの湖で彼等を待つ事にしたのです。
 一年目は戦闘での傷が回復していないという事もあって、ただただ待ち続ける日々でした。幸い湖は透明度が高く、餌も豊富だったので飢えを凌ぐ事が出来ていましたし、目立った外敵も居なかったので、私は静かに暮らしていました。しかし、待てど暮らせど私を訪ねてくるものは無かったのです。
 二年目は身体の不調も治り、湖の周辺を飛び回る事ができるようになりました。かつての戦闘があった砦まで足を伸ばしてみましたがそこは敵国の兵士が見張っていて、もちろん時間の経過的なこともありますがドレイクたちが地面に墜落した形跡すら見つけ出す事が出来ませんでした。ワイバーン騎士団も姿は見えず、もしかしたら私たちが居たあの王国を攻めているのかも知れない、もう既に国は攻め落とされているかも知れない、そんな考えが頭をよぎりました。しかし彼らに見つかるわけにはいかず、砦を飛び越える事の出来ない現状ではそれを確かめる術は残っていなかったのです。
 砦を越えられないのなら、向こうからこちらに来ることも出来ないはずで、仲間の無事を確かめる事は諦めるしかない状態でした。もちろん昔暮らしていた森へ戻る事も。だから私は三年目以降自分を鍛える事に終始しました。いつか故郷へ帰るために。しかし、身体能力はどう頑張ってもワイバーンに及ばないと思われましたので、鍛錬の主は竜言語魔法の研究にあてました。戦闘では牽制程度にしかならなかった火炎放射の改善も魔法に頼る事にしたのです。当然、体が鈍らない程度に動かす事も怠ったりはしませんでした。こうして、自分を磨き上げながら新しい年が明けようとした頃、そいつは現れたのです。
 傷ついた身体を引きずりながら、なおもその眼光にかげり無く、人が乗っていたであろう鞍は主無きままに。それは、この湖を訪れた頃の自身の姿を見るような。そんな錯覚をも引きずりながら、彼は私の目の前に現れました。その容姿にも当然見覚えがあります。向こうも私の姿を捉え憎らしげに牙を剥いたので、同じ認識をしたのでしょう。彼も私と同じように敗北を味わったのでしょうか。しかし、こちらに向けられたのは明確な敵意。そのワイバーンは敵である私に向かって空気が震えるほどの咆哮を上げるとその翼を振るいながら突進して来たのです。
 私は慌てて反重力の竜言語魔法を発動させると一気に真上へ跳躍し、飛行体制をとります。軌道を上に転じ、飛び上がるワイバーンの動きはさすがに素早く、私は炎を壁と目くらましの代わりに吐き出すと進行方向を真横にするため身体をひねりました。風をまとい飛翔する私に彼はピッタリと追いすがって来ます。しばらくは躍るようにもつれ合いながら上昇し、彼を雲の中へと誘導しました。湖の上空には分厚い雲が太陽を覆っています。一度雲を突き抜けて、太陽の恩恵を身体に浴びながら、彼の鋭い眼光が歪むのを確認し一気に地上まで急降下しました。ワイバーンはまだ気付いていないのか、雲の中に影が躍ります。地上に着地した私はすぐに魔法を展開すると湖上の涼やかな風をかき集め、球状の空気の檻を形成しました。そこに流し込む火炎。ありったけの息と精一杯の祈りを込めて、火球は燃えうねりを上げます。風に圧縮されてその色は赤から青へ。全ての息を吐ききった後に私の目の前に在ったのは小さな青い光の粒。一度息を吸い直し、雲の中をうかがいました。影はまだそこに見え隠れします。その影が一瞬二つに見えました。仲間を呼ばれたのかもしれません。冷や汗は私の意志とは違うところで流れますが、私はこの自分の最大の攻撃を繰り出すより他に手は無いのです。火球の熱で気流が変化した事にようやく気が付いたのか、ワイバーンの眼が地上に居る私を捉えました。青白い光は彼の目に映っていないのでしょうか、怒りとも焦りとも取れる歪な表情のまま、彼はその凶暴な牙と爪を私に届かせようと迫ってきたのです。
 その状況で私は何故か落ち着いていました。もう出来る事は他にないのです。竜言語を唱え炎を開放します。後は森に居た頃に何百回と繰り返していた狩りと変わりありません。直上に伸びる一筋の光。遠くから見たら、それは光の塔のように見えたかも知れません。
 湖が静寂を取り戻し、千切れ飛んだ雲から太陽が顔をのぞかせたとき、落下してきたのは焼け焦げた肉片でした。獰猛な眼光は見つけられず、原形さえも留まらない。しばしの黙祷を捧げた後、私はその肉を残さず胃に収めました。せめてもの敬意として、既にボロボロになりかけていた自分の鞍を引きちぎり湖の畔に立て、それを彼の墓標にする事にしました。彼のものは見つけられなかったのです。そこまでの作業を終えると、私は疲弊しながらも高揚していた意識を、手放す事にしました。茜色に染まり始めた空へと向けて。
 気が付くと、私は自分の体が以前より大きくなっている事に気が付きました。あれだけの戦闘と自己鍛錬の成果です。彼の肉をいただけたのも、大きな要因だったかもしれません。久しぶりの種族進化に、私は浮かれながら湖にその身を映します。現れた移し身に向かって何度も瞬きをし、前足を振ってみせたりしたのは、その姿が自分である事を信じられないが故の所作でした。そこに居たのは、人間の国に居た時に図鑑での確認のみが許された、伝説の個体でした。
 その日、この世界に新しく一頭のドラゴンが誕生したのです。


〜Fin
メンテ
フォトグラフの施し方 ( No.61 )
   
日時: 2011/12/10 00:26
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:Vp69b5Nw

 うちは空間を切り取れるんだ、と彼女は言った。
 そんなバカな、と私は笑った。

 ■

「ぱしゃ」
「うん、だからそれは何なのかって聞いてるんだけど」
「チーズ食べたい」
「あの店に売ってるから、買ってきたら?」
「だから、チーズ食べたい」
「買いに行けよ」
 街角の、ある公園にて。私とヴァミアは、一つのやり取りを続いていた。私の友人であるヴァミアは、大切そうに何らかの黒い物体を抱えており、それが何なのかは見当も付かない。ただ時折、それのガラスのような部分を覗きこんでは、その上に乗せた人差し指を静かに下ろす。
 私は、埒の明かない会話に疲労を感じ、木製のベンチに座る。ヴァミアは相変わらず立っているままだ。やはり、それからも。それを覗きこんでは指を下ろすことを繰り返している。耳を澄ましていると、軽い金属が噛み合うような小さな音が出ていることに気がついた。
 そして、時折ヴァミアは此方にそれを向け言うのだ。「チーズ食べたい」と、至って真面目に。
「チーズ食べたい」
「……」
「チーズ食べたい」
「……」
「チーズ食べたい」
「……ちーずたべたい」
 ヴァミアの言動の意味を掴めず、私はとりあえずその言葉を繰り返すことにした。
 そうすれば、ヴァミアの持つものから一つの閃光が走り、私は飛び上がる。その様子を見て、何か不具合でも発見したのだろうか。「あれ」と声を上げる。
「言ってなかったっけ? チーズ食べたい、を合図にして写真を撮るよって」
「何その合図の仕方。というか、写真ってなに」
「え、何って骨董品だよ」
「いや、だから何でひかるの」
「っと、お。出てきた出てきた、見てみてカリアの姿が写し取られた」
 その黒い物体の口から出てきた、一枚の紙。ヴァミアが差し出したそれを覗きこむと、ぶっきらぼうに座る私の姿があった。目元で切り揃えられた茶色と時折混じる黒。上方からの視線ということで、胴体の部分には灰色の影が出来ている。大きめの袖口から伸びる手。膝の上で一様に揃えられ、力強く拳を握っていることから、この紙に映る私も、ヴァミアとの会話が一向に成り立っていないことに苛立ちを感じているのだと分かった。
 そして、同時に。自分と全く同じその姿に、紙を見ていると鏡を見ているような気分に陥る。不思議と恐ろしさは感じなかった。だが、その写真と呼ばれたもののあるべき姿として、一つの可能性に辿りついてしまったため、私は唐突に声を荒げげのだ。
「魂を削り出して、物に映し出す禁術なんていつも間に身につけたの! 今すぐ忘れなさい、まだ誰にも言ってないわよね!?」
 座ったままの格好で、ヴァミアの襟首を掴み、がくがくと揺さぶる。しかし、ヴァミアの周りにはやはりある種の穏やかな空気しか存在していない。私はそのペースに巻き込まれそうになる。それは、ヴァミアの無意識に開発された魔法だった。彼女が意識して捉えたものだけが、考える力を奪われ、感情だけがその場に浮遊するという特製魔法。浮遊感を視界には多くの白が混じり、様々な感情が辺りににじみ出す。そうして、人の中に残ったものは、その魔法を発動させたものが現在持っている感情と同じものだけが残る、というものだった。
 彼女の瞳を媒体にして、私は指先にまで酸素が行き届いていないような錯覚に陥る。足下が覚束ない。だから、それは他のものへと意識を撮られすぎて、感覚がないためだ。
 私は抵抗した。足に力を入れ、一気に立ち上がり。そうして、ヴァミアの襟首に掛かる手に、いっそう力を入れる。歯を食いしばり、身体を支える全てに力を入れて私はヴァミアを怒鳴りつける。
「こんな、防止できるくだらないことで、どうこうされるなんて、許さない、わよ」
 防止、それは。過去に禁止された魔法を使用すること。だって、そんな内容のものを知っていても、使わなければ法に触れるといったことにはならない。それに、今は戦争なんかなくて、そんな危険な魔法を使用する意味だってない。
 私は顔を地面に向け、ゆっくりと口から息を吐く。胸が焼けるように熱い。それでも、ヴァミアからは手を離すことだけはしなかった。脂汗が滲みだし、いよいよ生身で魔法に抵抗をすることが難しくなったとき。
 唐突に、ヴァミアはケラケラと笑い出した。それと同時に、私は様々なものから解放され脱力する。
「ごめんごめん、つい使っちゃったよ。アスに見せたときは、凄く怯えられて。ゲルクンに見せたときは、凄く怒られた。あまりに心配してくれるもんだったから、つい」
 解除してくれたのは、懸命な私の姿に何かを刺激されためなのか。有り難いような、なら初めから魔法を使うなと主張したいような、複雑な気分だ。
 私はゆるゆると浅い呼吸を繰り返し、そんな私の様子にヴァミアは優しく手をのせた。私がベンチに腰を掛けているという状態のため、ヴァミアのお腹の高さに頭があり、それを撫でられるなんて何だか癪だ。
「だから、禁断魔法なんかじゃないって。そんな高度なもの、うちが使えるわけないからね。これ、カメラと言って……ええと、骨董品。魔法がまだなかった頃に、科学で作られたものだって」
「カメラ?」
「うん。家にたくさん写真を現像したものがあるよ。見に来る?」
 
 数千年前、この地球上から《科学》は消え去った。
 幾つもの、発達した技術や製品は確かに存在していたのだ。だが、その発展途上だった時期。次々と《魔力》と思われるものを身につけた人々が現れ始め、魔法といったものを、ある条件下の中で使えることを人々は知った。そして、科学と魔法、どちらを中心に発達させるかということで二つは対立するまでに発展。
 結果として、それ以前から存在してきた科学が競争に負けた。限られた人の知識や技術に頼っているため、不特定多数の魔法に打ち勝つことは出来なかったのだ。そして、文明は科学を切り捨て、魔法を世界の軸として発展する道を選んだ。
 この後には魔法一本の道を進もうと、科学の歴史やその記録さえも。その殆どが葬り去られることとなったのだ。

 そんな長い年月が経ったことによって、私たちは科学技術によって生み出された製品を使いこなす術がない。骨董品として売られている物も、そのほとんどが観賞用として各家に飾られているだけという現状。
 
 その一つを、彼女が持っている。
 その紙には、私が写っている。
 跳ね上がる水飛沫、太陽で脈を浮き彫りにされた木々の緑、空に浮かぶ輪郭のない丸い光、羽を広げ飛び立とうとする鳥、水の波紋、葉に引っ付くてんとう虫の軌跡、コンクリートの剥げた道に差すフェンスの影、此方を伺う猫の真ん丸で純粋な眼差し、傘から滴る雨粒、始終影の中で生きる深い色の葉、光を受け取る蓮の笠、水辺から波紋を描き進む亀、波の音を連想させる笊と豆、赤に染め上げられた曇天、大きく揺らめく橙色の蝋燭、犬の首の毛に食い込む首輪、毛糸の帽子から搾り取られる雨水、植木鉢に挿された折り紙のチューリップ、夜空に浮かぶ満月、前足を大きく掲げる馬。
 全てが、一瞬。その瞬間、目に見えるものとして、形あるものとして、そこに確かに存在している。
 そうして私は「本当だった」と呟いた。
 以前、うちは空間を切り取れるんだといったヴァミアを、私は笑い飛ばした。けれども、今はそれが嘘じゃなかったということが分かる。
 魔法で、空間を切り取るといったことは不可能なものに分類される。けれども、そんな実際に出来るかどうかの話なのではなく。私はただ単に、測定するためのものさしを間違っただけだったのだ。
「――ごめん、この前は笑い飛ばした、ごめん」
 その私の謝罪に、ヴァミアは疑問詞を浮かべたようだった。そのため、私は慌てて言葉を付け加える。
「本当に、本当に空間を切り取れるんだね」
「ふふん、こんなものお茶の子さいさいよ」
 ヴァミアの得意げな表情を見ても、何らかの感想を抱く余裕もない。胸の奥で徐々に広がっていく何とも言えぬ感動によって、胸が。腹に。頭に。そして手足の先っぽまで身体の隅々まで、がつんと衝撃の余波が響き渡る。
 目を見開いたまま、戻らなくて。それで、息が出来なくなるほどの、数々の瞬間を目の当たりにして。今はそれらを脳裏に焼き付けることしかできなくて。

 ■
 
「カリア」
 母に言われて、私は自宅の階段を上る。不審な音がしたような気がしたから、二階の様子を見てきてとのことだ。鼻歌を歌いながら、私はスキップで上がっていた。その度にふくらはぎの筋肉が引き攣るが、今日もヴァミアの《写真》を見れて満足と、気持ちは高揚していたため気にも留めなかった。
 ヴァミアが初めて私に写真を見せてから、既に二ヶ月が経っていた。
 この小さな町で、私の母は花屋を営んでいる。そして私は、その母の手伝いをして毎日を過ごしていた。だが、その毎日の繰り返しに、ヴァミアの元に通うというものが付け加えられることで。私の人生に、生き甲斐を、喜びを、輝きを手に入れたように感じていた。
 朝。町から出て、外の世界に栽培しているお花を摘む。
 昼。町に戻り、昼食を取る。そして、母が予定のある短時間だけ店番をし、その後ヴァミアの元へと出かける。
 夕方。ヴァミアは手にカメラを持ち、一緒に町を回る。町の皆は、私たちが何をしているのだろうと、興味津々で様子を伺ってくる。しかし、これらの風景を紙に移したら、どうなるのだろうと心を躍らせる私は答えない。内心夢中でシャッターを下ろし続けるヴァミアも答えない。
 そうして、私たちは日が落ちるまで町を歩き続けるのだ。
 この後、私は家に帰り。ヴァミアは撮ったものを紙に移し、次の日再び落ち合う。
 そんな充実した日々。ヴァミアの撮る数々の瞬間を待ち浴びて、私の笑顔は増えていった。

 二階への階段を上っていくと、ある部屋から風の音が聞こえた。それは、物置となっている部屋かららしく、恐らく誰かが窓を開けっ放しにしてしまったのだと予想を付け、と私は息を付く。辺りは既に暗かった。普段二階に伸びる廊下には、窓から隣家からの明かりが入ってくるため大部明るいのだが、今は闇が続くだけ。隣の家の人、今日に限って留守なのかあ、と暗闇に溶け込ませるかのように息を潜めて言葉に出した。
 それから、せめて足下だけでも照らそうと、私は指先に小さな光を灯す。
 すると、唐突に「ぎゃ!」という息の詰まるような悲鳴が、直ぐ側から聞こえた。私もつられて叫び声を上げると、つられた私につられるように、再び声が。
「だ、誰かいるの!」
 何かがあったらいけない、本格的な不審者かもしれないと。下の階にいる母に聞こえるように声を張り上げて問うと、その悲鳴の主の声は「カリアか!」と、安堵したようなものへと変化した。
 相手は私のことを知っているのか、と思い。即座に知り合いのものとその声を照合すると、一人の男が頭に浮かび上がる。
「ゲルクン?」
「そうそう、俺俺! 会えて嬉しいぜ、カリア!」
 今にも此方に飛びついてきそうな歓びを声に孕ませ、彼が笑った気配がした。
 とりあえず、私は無言で指に灯した光を消す。
 私の行動に、ゲルクンが戸惑ったような声を上げたため、彼のいる場所を特定する。
 ゲルクンがいると思われる場所の直ぐ側まで、つかつかと歩いていき。私は。 
「痛ってえ――!?」
 渾身の力を振り絞って、ゲルクンの臑を蹴り飛ばした。
「何で二階から入ってくる、バカか!」
 どうしてかは分からないが、二階からゲルクンは私の家に侵入。しかし、誰も居ない。暗闇広がる。不安になる。ということで、少し暴れる。母にそのことを察知される。私呼ばれる。二階見てこい! と指令を出される。二階に上がる。光を灯す。ゲルクン、その光に驚く。あ、カリアだった。知り合いいたぜ! と喜ぶ。
 この流れで合ってると思う、たぶん。
 そして流れの最後に《ゲルクン、臑を蹴られ悶絶する》と付け加えた。
 股間を蹴り上げられないだけ、まだ良かったと思いなさい! と後に声を上げたが、痛みになれていない彼には恐らく聞こえているまい。


「で、何で私の家に?」
「いやー、だから玄関明るいだろ? そしたら、俺のイケメンっぷりにカリアの両親が驚くだろうなーって思って、二階から入ったのさ! まあ、結果的に。このリビングにいるわけだし? カリアのお母様と対面できたことだし、この俺様のイケメンっぷりに……あ、これ大切なことだから二度いったんだぜ? 俺の、俺様のイケメンっぷりに、きっと《ゲルクンと結婚したら良いんじゃないかしら? いえ、寧ろそうしなさい!》とカリアのお母様も、ぐへへ……」
 そのだらしのない表情に一瞥し、私は母と視線を合わせる。
 そのゲルクンって子、早く追い出してしまいなさい。と母。
 いや、でもきっと何らかの話があるんじゃないの? と私。
 その子を見ていると、昔のお父さんを思い出すのよ。と母。
 じゃあ、早く話してもらって追い出すよ。と私。
 視線だけで、これだけの意思を疎通出来るなんて素晴らしい。
 ゲルクンが口を開いた途端、母は昔の思い出を蒸し返されたような苦々しい表情を浮かべた。そのため、そんな母を視界に入れ、ゲルクンの話に相づちを打っているようで、何度も母に共感することができたのだ。
 魔法を使わなくたって、心の近い人とはこれだけ意思疎通が出来るのだ。ヒバ、母。母さん、大好きだ。
 私はこくり、と一度頷く。そして、嬉々とした表情で。早く追い出そうと、ゲルクンに話しかけた。
「で、何の用事?」
「ああ、この俺の! 世界で一番美しいカリアを眺めていたせいで、すっかり忘れてた! ええと何だっけ……そうそう! 今日な、アスがヴァミアの例の魔法のことを告げ口したんたぜ。知ってたか? 俺も、ヴァミアに魂を削り取る禁術を見せられたけど、それで俺まで被害を被ったら嫌だし、とりあえずその時は怒ってやり過ごしたんだ。で、そう言うことで黙っていたわけだ。だけど、アスはずっと怖がってたみたいだし、今回とうとうキレたらしいぜ」
 私はテーブルに置いていたマグカップを持ち上げ、ホットミルクを口に含む。その間にも、ゲルクンは忙しく身振りでぶりで表現する。
 その動作の中で、くいっと眉を指さし持ち上げたものを見て、私は怪訝そうに表情を歪めた。
 恐怖に押しつぶされそうになったアス。その彼女の想いだけが溢れ出す結果となった?
 そういえば、ヴァミアが私に写真を見せてくれた頃。アスとゲルクンにも見せて、各々の反応をもらったと、そのようなことを言っていた。私はヴァミアに共感して、ゲルクンは自分のために。誰にも、見たことを言わずに心の中に閉じこめていた。
 私は、科学という真実を知っていて。ゲルクンは、それが禁術だと勘違いしたまま。誰にも、見たことを言わずに思い思いに口を閉ざしていた。
 だが、アスは。
 気の弱い彼女は、感じた恐怖を自分の中で拭い去ることができずに、その思いを辺りにぶちまけた。と、ゲルクンはそのことを、今、口に、だして――。
「今夜《狩り》があるって。外に、ヴァミアの元へ行かない方が良いぜって忠告しに来たんだ」
 頭を鈍器で殴られたような、重い衝撃で揺れる。
 ゲルクンの言う《狩り》。それは、中世の魔女狩りとある種同じものを指す。
「さっきまで、俺もその様子見てきたが、ひどいもんだったぜ? 町のヤツらは、アスが入手したもの――ヴァミアが魂を写し取ったと思われる紙――を手に持って、口々にヴァミア罵りながら囲んでたし。その騒ぎの張本人のヴァミアは俯いたまま何も言わねえから、気味悪いし」
 体中から、血の気が引く。それは、マグカップを持った指先にまで広がり、既に私が此処にいるという感覚はない。
 それでも、今にも倒れてしまいそうな気分に陥りながらも。今すぐ家を飛び出していきたい衝動に駆られながらも、私はゲルクンの話を最後まで聞かなければと、辛うじてその場に留まる。
「ああ、そう言えば。ヴァミアのヤツ……その長い黒髪や両腕を掴まれて、連行されてた。といっても、法的に裁くんじゃなくて、多分アイツ自身の家にでも連れていったんじゃないか? そして、そこに閉じこめて。そのヴァミアの持つ知識全て、その場で――」
――瞬間、ゲルクンの言葉に重ね合わせるかのように、家を揺れ動かすような轟音が響き渡った。
 何らかの爆発音であり、それは此処から遠くない――町の中で起こったものと、いや。起こされたものと考えられる。
 私と母は、その音に驚き。目一杯、目を見開いた状態で、テーブルに捕まる。が、ゲルクンは、相変わらずイスに座ったまま腕を組んでいる余裕のある状態だった。それは、この爆発音の理由と原因を知っているからだろうか。 
「とうとう始まったみたいだぜ? ヴァミアへの誅罰が」
 その言葉を合図に、私は音を立てて立ち上がった。一度テーブルに拳を突き立て、先ほどまでにやにやと、話を続けていたゲルクンを睨みつける。それからは、驚いた表情のゲルクンを顧みることもせず、家から飛び出した。
 そして向かう先はヴァミアの家だ。
 地面を力一杯蹴りつけ、走る。息をする暇さえも、惜しいと思った。そうして、目まぐるしく過ぎ去る建物や自然を感じることもせず、光の。それも、人を落ち着かせるはずの暖かい色でありながら、今まさに人の命を奪おうとしている憎々しい炎の上がる方向へ、一刻も早く着くことを目指す。
 行って、私に何ができるのだとか。そんな《それから》のことを考える暇もなく、私は今を精一杯駈ける。
 そして、幾度目かの町の角を曲がったとき、ようやくヴァミアの家を目前にすることができた。
 その光の元からは、どす黒い煙が大量に上がっている。辺りにいる人々も騒ぎ立てるわけでもなく、まるでその目前の炎が儀式であるかのように各々の場所に佇み、様子を傍観するだけ。
 皆が皆、ヴァミアのことを憎んでいたわけではない。
 全ての人が、ヴァミアの持っていた写真が《禁術》によるものだと信じていたわけではない。
 小さな町で、ヴァミアに対してそう当たることが新たな時代の第一歩なのだと認識された。それだけ、だったのだ。
「ヴァミア……!」
 私の叫びも虚しく、轟々とうねる炎にかき消される。そして、この状況をどうにかできないのかと、辺りを見回すと――彼女を――アスを発見した。
「アス!」
「……あ、あ、カリア…………。ちが、ちがくて、わたしがこんなこと望んだわけじゃ……!」
「ヴァミア、本当に中にいるの!? 答えて、ねえどうなの!」
「わた、わたしの所為じゃないわ! ……そ、そうよ。だって、ヴァミアがあんな魔法を、見せるから……あんなことさえ、しなければ……わたしは悪くないわ……そうよ――」
 私の姿を捉えておきながら、アスはその瞳の中に私を映してはいない。そして、ぶつぶつとある想いに駆られ続けるだけだった。
 私は一度舌打ちをして、これ以上アスに話しかけても埒が明かないと判断を下す。
 先ほどまで、頭も真っ白となり、ヴァミアを助けなければという衝動にのみ駆られていた。しかし、私よりもひどい混乱状態にあるアスを見ると、幾分か落ち着いた。
 ヴァミアの木造の家の玄関の先に、ぽつりぽつりと佇む人々を確認して、私は裏口へと走り出した。
 巨大な炎や大量の煙によって、裏口への道のりの間にも、ヴァミアの家には近づけなかった。だが、どうやら人々がヴァミアの家を燃やすために使ったのは、火炎瓶のようなものに対しての促進の魔法であり、一度に家全体へ影響を及ぼすものではないと判断できる。それは、表と違って、裏からは。窓という窓から白や黒の煙が出てなかったことからだ。
 表と違って、炎の影も見あたらない。
 少量の煙だけが、二階の窓から吐きだされている。
 そして私は、裏口の扉のドアノブを回した。が、開かない。
「開かな、い。何で、どうして……ヴァミア! ねえ、聞こえているでしょう。開けなさい、出てきなさい! 生きなさい、逃げないで! 早く、早く……出てきてよ、お願いだから」
 何度も何度も扉を叩き、声を上げるが。次第に、今抱える想いは絶望へと塗り替えられていく。扉を叩く力も弱くなっていき、張り上げていた声だって嗚咽が混じり、小さくなっていく。
 だって、きっとヴァミアはこうなることを予想していた。ゲルクンが言っていたように、人々に此処まで連れていかれたとき俯いていたのなら。特製魔法を使わなかったのなら、きっともっと貫きたいことがあったはずなのに。もしかしたら、それは諦めることだったのではないのかという考えに捕らわれる。
「私が、こんなんじゃ駄目なのに。だから、ヴァミア! 逃げるんじゃないわよ! 私はまだ貴方の写真が、その《一瞬》が《新た》な一面が見たいのよ! ヴァミアが新しく私の世界にもたらしたものでしょう、責任を取りなさいよ!」
 そうだ、私はヴァミアの写真が好きなだけではなかった。
 初めは禁術だと思い、一度蔑んだ。
 次に排除された科学の遺産だと知り、分陰軽視した。
 そして彼女しか生み出すことが出来ないと知り、時折畏敬した。
《瞬いて》止まったその《一瞬》を《刹那》として映し出し、まるで《命》が吹き込まれたように輝き、《静止》したその《瞬間》を私は愛した。
 彼女だからこそ。彼女の感性でこそ、そういう一面を持たせられた多数の場面。その写し取られ、生み出された《命》の数々を、美しいと思った。
「――ヴァミア!」
 最後に、これで最後にしよう。
 これ以上呼びかけて、応じなければ。もう、彼女は既に終わりを向かえているということだ。
 私は、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭うこともせずに、声を上げた。渾身の力を振り絞って、そうして――
――とうとうヴァミアが、中から私の声に応じることはなかった。
 音を立てながら燃え上がる家。未だに不完全燃焼を続けているらしく、黒煙も絶えない。
 私は扉に拳を突き立てたまま、力の抜けたように地面に膝を付ける。そうして、私は泣いた。

 
 そしてそれは、唐突だった。
 扉にある振動が伝わってきた。不審に思い、掌で扉に手を翳すと、更に大きな振動が扉を叩く。
 私は慌ててその場に立ち上がり、ドアノブをめちゃくちゃに回しながら引っ張る。そうして、扉が蹴られるような音も次第に激しくなっていき――。
「ふぱっ! 死ぬかと……思った!」
 両手に大きな袋を抱えて、彼女は大きく息をする。そして、裏口の引っこ抜けたドアノブだけを手に、尻餅をついている私の姿を捉えると、煤だらけの笑顔を浮かべる。
「ヴァミア!」
 安堵するより、その無事を喜ぶよりも「何で返事をしてくれなかったの!」先にという言葉を告げば「だって、息しちゃ倒れちゃうでしょ?」と言われる。
「そのふくろ、何?」
「何って、写真」

「うちの写真、また見たいって言ってくれたからね」

 その時もヴァミアは満弁の笑顔で、そんな彼女だからこそ。
 静止した一面に命を吹き込めるのだろう、と私は感じた。

 ■

 うちは命を吹き込めるんだって、とヴァミアは言った。
 それ私が言った言葉だからね、とカリアは笑った。
メンテ
神さまの生みの親 ( No.62 )
   
日時: 2011/12/11 00:00
名前: If◆TeVp8.soUc ID:YFqAH/c6

 現世に発現した地獄。ただ茫々と広がる荒地。今や死だけが息づくこの場所に、数年前までは、他に類を見ないほど豊穣な大地が、女神の園と呼ばれた瑞々しい大地が延々広がっていたのだと、誰が信じられただろう。
 神はいない。その光景を目にすれば、どれほど尊い僧も、どれほど敬虔な信者も、決まってそう口にした。せざるを得なかった。そうして、神は死んだ。長らく続いた戦乱は、神さえも葬ってしまった。もはや誰も祈らない。信じない。
「神託を受けたのです」
 ゆえにその女の言葉を誰一人として信じなかったのは、至極当然のことだった。襤褸の白衣に身を包み、薄汚いロザリオを握って、そういう戯言を吐く女。嘲笑の的でしかない。陛下に会わせてください。そう訴えながら城門まで来ては、衛兵に追い返され。その愚行もそろそろ百を数えようとしていた。衛兵の方がうんざりして、ついに実力行使に出たようだ。白い衣を真っ赤に染めた女は、城門前広場に捨てられていた。もうぐったりしていた。
「死んでんの?」
 声をかけたのは、ただの気まぐれだった。そんな格好で倒れられていると、嫌でも昔の記憶が――死んだ友たちのことが呼び覚まされて、ひどく不快だった。女は微かに瞼を震わせて、それからゆっくり少しだけ開く。消え入るような声で返事する。
「まだ……生きて……います……」
「そっか。がんばんな」
 助けてやってもよかったが、生憎瀕死の人間をどうにかしてやれるような知識は持ち合わせていなかった。わざわざ厄介ごとに首を突っ込んでくれてやる、そんな義理もない。立ち去ろうとすれば、弱々しい声で呼び止められた。いちいち拾う耳を呪う。
「傷だけ……塞いで……もらえませんか。身体がもう……動かなくて」
「って言われても、オレ医者じゃないし」
「お願いします……何か布を……巻いてくだされば……」
 それだけ言って女は気を失った。死んだのかと思って呼吸を確認するが、どうにか息はしているらしい。面倒なことにも。このまま見捨てれば、オレが殺したことになるのだろうか。刺されたらしい腹に目をやる。流れ出す赤が目に痛い。舌打ちしていた。
「死んだってオレを恨むなよ。ド素人なんだから」
 長い裾を少しばかり拝借する。砂と埃で汚れていたが、ないよりましだろう。腹を縛ってやってから抱え上げる。予想していた重さの半分ほどにも満たなくて、眉を上げた。見れば、女は痩せに痩せていた。
「あの藪医者、こんな重傷者治せんのかな」
 呟いたが、それ以外にどうしたらいいのかさっぱり分からない。腕の中の女は青くなってはいたが、まだ確かに温かくて、仕方ないからオレは足を動かした。

 ◇

「若い娘はええなあ。どこぞの小汚いこそ泥を治すより、よっぽど腕が鳴るというものじゃ」
 軽いとは言っても、人一人担いで走るのは容易なことではなかった。息を切らしながら必死に駆け込んだ廃屋同然のぼろ屋。何事かと寄ってきた藪医者は、しかし開口一番そんな悠長なことを言ったので、思わずオレもいつもの調子で迎撃してしまう。
「黙れエロじじい。猥褻罪に問われてもオレは知らないからな――じゃなくて、本当にやばいんだって。ほら、血、こんなに」
 途中で我に返って慌てて女を差し出したが、藪医者は欠けたコップから暢気に茶を啜る。
「わしに掛かればそんなもんいちころじゃ。そこで待っておれ。憎まれ坊主にゃ茶なんぞ出さんぞ」
 手近な台に湯飲みを載せて、ようやく藪医者は女を受け取った。途端真剣な顔になる。藪医者が医者に進化した瞬間だ。
「オレ待つ必要ある?」
「いいから待っておれ」
 玄関に立ちっぱなしのオレを残して、医者と抱えられた女は奥に消えていった。

 ◇

「おまえが人助けとは珍しいこともあったもんじゃ」
「ほっとけよ。気まぐれだ」
 埃っぽい布団にくるまれた女は、幾分血色を取り戻したようだった。肩の荷が下りた気分だ。藪医者とばかり思っていたが、少し見直した。それは言わないでおくが。
 医者はにやりと意地の悪そうな顔をして、なぜか右手をこっちへ延べてきた。とてつもなく嫌な予感がする。オレは一歩、足を引いた。
「なんだよその手」
「お代がまだじゃな」
「なんでオレが払うんだよ」
「おまえが連れてきたんじゃろうが。有り金全部出せ」
 前言撤回。誰が見直すかこんな奴。勢いよく手を払ってやる。ぱしっと小気味よい音が鳴った。
「ふざけんな。あの女から取ればいいだろ」
「聖職にある方から金など恐れ多くていただけん」
 鼻で笑ってみせる。
「何が聖職だよ。神さまなんていないんだろ」
「もしかしたらおわすかもしれん。罰が当たるのはいやじゃからな」
「だったらただ働きだな」
「こちとら商売じゃからそういうわけにはいかん。いただいとくぞ」
 見覚えのありすぎる布袋が医者の手の中にあって、慌てて腰のベルトに手をやったが、そこにいつも挟んであるはずの財布がない。すぐに取り返そうとしたが、医者は余裕の顔でオレを避けると、してやったり顔で笑んだ。
「待て、全財産とかねえよ! ぼったくりにもほどがある。返せよ」
「安いもんじゃろう。人の命は金じゃ買えん」
 急に真面目な顔を装って言ってくるが、全然説得力がない。もう一度抵抗してみたが、やはり無駄に終わる。空を切った腕がむなしい。
「覚えとけよこのもうろくじじい。二度とこんなところ来るもんか」
「前にも聞いたなその台詞。相変わらず口が減らん」
 腹立ち紛れにぶつけた言葉もさらりと返され、怒りのやり場がない。三日分の仕事でようやっと潤ってきた頃だというのに、これではまた今日も働き尽くめになる。大損だ。気まぐれでお節介なんてするもんじゃないと、ここにきて心底後悔した。神さまとやらがいれば、なんなんだこの仕打ちはと呪ってやるところだ。
「その女にオレにいつか恩返せって言っとけよ」
「これしきのことで恩を着せるのか。小さい男じゃ」
「誰のせいだよ!」
 吐き捨てるように言って、オレはぼろ屋を後にした。懐はこの上なく寂しくなったが、不思議と気分は軽く、身体の奥が少し温かいような気がした。

 ◇

「助けてくださって、ありがとうございました。本当にありがとうございました。私がこうして生きていられるのも、あなたのお陰です」
 数日後、街中で出会った女は、何度も何度も繰り返し礼を言ってきた。もういいと何度も言ったのだが、しつこく付きまとってくる。こいつのせいで全財産は取られるし、邪魔で盗みはできないし、もう散々だ。人助けなど二度とするものかと思う。しかし、どうにもひとつ気がかりなことがあって、オレは今なお後を追ってくる女に向き直った。
「あんたさ、神託がどーのと毎日熱心に城まで通ってたらしいけど、その割りには神さま神さま言わないのな」
 少し驚いてから、女は緩やかに微笑んだ。
「人を救えるのは、人だけですわ」
「じゃあ、あんたは神さま信じてないんだ?」
「神は、おわすかもしれません。でもきっと、見ておられるだけです」
「それなら、神託受けたってのは嘘かよ」
「私が神託と信じる限り、それは神託なのです。民がいると信じれば、そこに神はおわすのです。信仰とは、そういうものですわ」
「何が言いたいのかさっぱりなんだけど」
「民は信仰を失い、絶望しました。私が受けた“神託”は、民を絶望から救い、希望を与えること」
「オレの頭がおかしいのか、あんたの頭がおかしいのか、どっち? やっぱり分からねえよ」
「さあ……どうでしょうね」
 女は謎めいた微笑みを浮かべた。どこかの女神像そっくりな、なんだか憎らしい笑い方だった。

 ◇

 しばらくして、城下町はある噂で持ちきりになった。
 ――死んだはずの女が生き返った。神に遣わされた聖女に違いない。
 こうして死んだはずの神は再びこの世に生まれることとなったのだが、オレとしては、なんだか腑に落ちないのである。
「人間って単純だよな」
 結構真剣な感想だったのに、医者はあろうことか、笑い飛ばしやがった。
「ええじゃないか。わしもおまえも聖女さまの命の恩人、ともすると神さまの生みの親じゃ。出世したもんじゃ」
「生みの親がぼったくりの医者にコソ泥じゃあ、神さまも浮かばれねえな」
 徐々に活気を取り戻していく人や町や大地を見る分には、まあ、気分が悪いというわけではないのだけれど。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:作品批評期間】 ( No.63 )
   
日時: 2011/12/11 00:23
名前: 企画管理委員会 ID:bfWrZ4g6

作品のご投稿お疲れ様でした。
11日(日)〜31日(土)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。


第9回『誕生』:参加作品 >>59-62(敬称略)


>>59 夢華:真っ白カーッペット
>>60 空人:レイクドレイク
>>61 sakana:フォトグラフの施し方
>>62 If:神さまの生みの親
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:作品投稿期間】 ( No.64 )
   
日時: 2011/12/11 02:48
名前: If◆TeVp8.soUc ID:YFqAH/c6

12月はみなさんお忙しいんですかねー。4人はちょっと寂しいや。
早速ですが、批評いきますよ! そんな、別に、自作について即言い訳したいからとか、そ、そんなんじゃないですよ。

>>59 夢華さん:真っ白カーッペット
夢の中の雪の描写がすごく印象的でよかったです。特に「手がきゅううんと冷え込みましたので」なんかすごく可愛らしくて、とても好きです。
誕生というテーマから「雪が生まれる」という方向にされてたのも面白かったです。季節にあってるのもいいですね。
また、主人公がかわいらしくて、すごく微笑ましかった。童話みたいな語り口がこれまた作品の雰囲気にふさわしくて、素敵でした。よかったです。
細かいところになりますが、せっかくなら、序盤での太陽とか月とかが昇らなくなった設定とか、もう少し上手く使われたら面白かっただろうなあと思います。
それから、『けれど、その二つのものは、遠くに行ってしまったと、お婆様はあたくしに教えて下さいました。/「太陽さまとお月さまは、遠くへ行かれたのですよ」』は、どちらか一つの文があれば分かったと思います。
また、オチの部分ですが、最後三行はもっと膨らませて書くか、思い切ってなくしちゃってもよかったんじゃないかなあと思います。
雪の話なのに、読んでいるとほんのり温かくなれました。

>>60 空人さん:レイクドレイク
いや、なんていうか、空人さんの本気を見せつけられた気分です。とても面白かったです!
まず驚いたのが、この文の量なのに、全然飽きずに最後まで読めてしまったこと。違和感のある文章もほとんどなくて、すごく上達されてるなあと感じさせられました。
進化過程が面白くて、次はどうなるんだろう、その次は? と本当に読んでいて面白かったです。この設定の数々は短編にはもったいないほどで、ぜひ長編でも読みたいなあと思いました。
あんまり言えることがなくて、重箱の隅をつつくような内容になってしまいますが、誤字がちょっと見受けられたことがまずひとつ。
それからもうひとつは、この主人公がどちらかと言うと冷静な性格なので仕方ないのですが、クライマックスの部分で若干物語との距離があったこと。もっと移入を誘って、のめりこむように読ませて欲しかったかなあ、というわがままです。
すごくファンタジーしていて、面白かったです。人外の生物が主人公であるというのも面白いですね。

>>61 sakanaさん:フォトグラフの施し方
さすがの造りこみですね。一つの作品にかけられる熱意と時間が、私とは比べ物にならないくらいすごいのだろうなあと思います。見習いたいです。
科学→魔法という流れは珍しいですね。今までありそうでなかったんじゃないかなあと思います。こういう発想も素敵です。テーマの消化の仕方も工夫があってよかったです。
また、文章のところどころに仕掛けられた工夫がいいです。全部同じリズムの文章じゃ飽きちゃいますもんね。ここも見習いたい。特に母とカリアの目顔で話するところが好きです。
ゲルクンいいキャラしてますねw こういう面白い人大好きです。
地の文での説明ですが、もうちょっと絞って書いてくださると助かるなあと思いました。わがままです。
たくさんオリジナルな設定が出てくるので、次から次に出てくるものを理解しないといけなくて、少し間が欲しかった部分もありました。
最後、一旦諦めさせかけて……という流れは、よく見るものではあるんですが、今回とても効果的だったと思います。ドキドキしました。面白かったです。

>>62 If:神さまの生みの親
最後に拙作とかお目汚しも甚だしい。全てはセウトな投稿時間が物語っています^q^
本当はもっと書きたかったんですけど(実は他に15枚くらい書いてたんですけど、時間なくていらないとこばっさり全部切り落として、それから最後20分弱で結末書いて、あんな感じになりました。味気なくてごめんなさい! 言い訳^q^)、時間ってシビアですね。毎回言ってるなあ。いい加減学習しないと怒られそうだ。
この手の話はなんかもしかしたら初めてかもしれなくて、特に最後とか楽しかったです。しっかり書けてたらさらに楽しかっただろうなあ。
半年くらい鬱縛る予定でいくので、これからもどんどん新しいことに挑戦していきたいなと思います。がんばります!


来月はイベントで、しかもいろんな人の連載の番外編が読めると思うと、今から楽しみで楽しみで。
たくさんの方の参加があればいいなあと思います。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:批評提出期間】 ( No.65 )
   
日時: 2011/12/25 02:05
名前: 空人 ID:Btx8e5.k

メリークリスマス……になにやってたんだろうね僕は。


>>59 夢華さま「真っ白カーペット」

 夢と現実の狭間で描かれる幻想的な物語。
 暗闇の中の光明。冷たさの中の温かさ。その対比がとても上手く表されていました。
 柔らかな世界観がしっかりと構築されていたので、もしかしたら設定としてあったのかもしれませんが、『太陽さまとお月さまは、遠くへ行かれた』理由も作中にほのめかして欲しかったなと思いました。
 少女とお婆様とこの世界、それぞれの優しさがにじみ出てくるような物語でした。


>>61 saksnaさま「フォトグラフの施し方」

 sakanaさんの作品の設定の綿密さにはいつも感心させられます。
 特に今回は、登場する人物の個性がしっかりと描かれていて、秀逸でした。
 見知らぬ知識への羨望と畏怖。おぞましいまでの集団心理が上手く描かれていたと思います。
 だけど、民衆が集団となって糾弾するには、急にふってわいた“禁断魔法”が原因では少しだけ弱いような気がしました。『何らかの小さな事件があってその犯人かと疑われる』とかだったらすんなりと物語りも展開したかもしれません。
 この後、ヴァミアがどうなったのか描かれていないのも、少し寂しいような気がしました。


>>62 Ifさま「神様の生みの親」

 神様が死んだ世界から始まる神誕生の物語(笑
 会話劇のおかげで軽くなりがちな文章でしたが、物語の根幹はしっかり出来ていて楽しくストレスもなく読むことが出来ました。
 人の真摯なる想いで創り出された神が、人の傲慢で死んでしまい、人の浅はかさとほんの小さな親切と成り行きで復活してしまう。こういう人を小馬鹿にしたような話はけっこう、いやかなり好きです。ファンタジーなのに、現実味が深いのも興味深いです。
 Ifさんの『いつもの』テイストの作品も好きですが、違う風味の作品にも挑戦しようという気概は見習わなければいけませんね。


>>60 自作「レイクドレイク」

 丁寧に流暢に話し出す魔物がいたら面白いなーと思って書き始めた話でした。
 ドレイクくんの進化の過程や物語の展開を考えるのがとても楽しかったです。
 しかし、戦闘シーンではどうしても緩慢になってしまいますね。難しいです。
 最後の戦いで彼ともワイバーンとも違う、別の存在がいたことに気がついた人はどれだけ居たでしょうか? 戦闘シーンにスピードを出そうと(これでも)頑張った結果、ほとんど見えなくなってしまいましたが、ドレイクくんが最後に食べた肉はワイバーンではなくソイツのものだったんですよ実は、ってわかるわけ無いよなーと思いつつ、そのままです。
 竜言語を使える学者や、戦いを前にしてもどこか暢気な兵士やドレイク達など、掘り下げたら面白くなりそうなキャラも居たんですが、割愛してしまいました。その辺は技術が、というよりは書こうとする意思かな? が足りてないのだと思います。
 まだまだですね、自分。


 さて、来月。いや、来年ですね。
 イベントを利用して、自分の連載を大いに宣伝して欲しいです。
 たくさんの参加者が来てくれることを願いつつ。
 今年は大変お世話になりました。来年もよろしくお願いしますます。
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:批評提出期間】 ( No.66 )
   
日時: 2011/12/27 14:14
名前: 夢華 ID:MbzZuX3Q

そろそろ年末ですねぇ。
え、クリスマス?クリスマスって一人でいるイベントじゃないんですか?(


>>59 自作:真っ白カーペット

 うわぁ、一人だけ文章が酷すぎる。お目汚しで申し訳ないです。
 誕生って見たときにふと雪を思い浮かべ、下書きも何もなくばばばっと書いてしまった駄作です。
 太陽と月については、一応設定はあったのですが、私の文章力ではうまく表現できずに泣く泣くカットしました。
 最後の三行については、どうして書いたのか自分でも疑問。
 そんな作品でした。


>>60 空人様「レイクドレイク」

 最後まで飽きずにすらすら読めることができて、読み終わりに「ああ、すごいなぁ」としか言えない素晴らしい作品でした。いや、ほんと、あの、すごいです(
 色々な設定がありましたが、とても分かりやすく表現されていて、展開に悩むこともありませんでした。
 ただ、改行がなかったため、私としてはしては少し読みにくかったなぁと。話の展開が変わるときや、少し大きく見せたい場所は、一度くぎって改行。という風にしてみてはいかがでしょうか?…あ、すいませんえらそうにいってしまってほんとごめんなさい(
 戦闘の描写もとても丁寧で、光景が目の前に浮かぶようでした。
 淡々としていたのもそれはそれで作品の味だろうなぁと思います。
 素敵な作品ありがとうございます。執筆おつかれさまです。


>>61 saksna様「フォトグラフの施し方」

 今回、私はなぜ参加したのだろうか(
 皆さんのレベルが高すぎて、おいてけぼり感がいなめない私←
 っと、冗談はここまでにして。
 とても綿密に話が造りこまれていて、sakana様の熱意を感じることができます。
 キャラの設定もとても細かく、関心というかもう憧れながら読みました。
 淡々としすぎた文ではなく、大量の文章量もさくさく読めました。すごいです、ああだからどうして私は参加してしまったの(
 最後までもうどっきどきしながら読ませていただきました。執筆お疲れ様です。


>>62 If様「神様の生みの親」

 だからどうして私は(ry
 読み終わったあとに「ああ、だから生みの親なんだ!」と納得しました、物語がしっかりできていると思います。
 読んでいる途中に「あれ?」となることもなく、「なるほど」と言いながら読んでいました。読んでいて楽しかったです。
 つまり神様は人の思いからできていると。小さな親切が大きなものに変わっていく、そんなこのお話が私は好きになりました。ふぉぉ(
 またif様の小説が読みたいなと思える作品でした。執筆お疲れ様です。




以上三作品(+自分)のレビューでした。
どれも素敵な作品(私を除く)で、読んでいて楽しかったです!
今年はお世話になりました。また来年もよろしくです。よろしければ次回も参加したいなぁ。
では皆さま、よいお年を!

 
 

 
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:批評提出期間】 ( No.67 )
   
日時: 2011/12/31 20:39
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:Djt3eoeo

 もう、お正月間近ですねー……。おもち食べたい。おもち最高、やっふうー!

※敬称略

>>59 夢華:真っ白カーッペット
 誕生というお題と、ちょうど今の季節を窺える内容が盛り込まれており、読みながらとてもにやにやしてしまいました。それに、何としても。語り手の女の子が可愛らしかったです。
 おばあさまも、女の子に似て(おばあさまに女の子が似たのでしょうが……)、雰囲気が柔らかく、全体を通して降りたての雪のようにふんわりとしていて、とても素敵でした。
 ただ、気になったところを上げてみると。太陽と月がなくなってしまって、だからおばあさまは暗い外の美しいものを目にすることができなくなったと窺えるのですが、最後の段落では、女の子は窓から外を窺っているように思えました(もしかしたら、窓からじゃないかもしれませんごめんなさい!)。夢でしたら、それで良いのですが。少しだけ、そこが気になりました。
 ですが、本当に。胸の奥にすう、と消えていくような余韻が心地良かったです。


>>60 空人:レイクドレイク
 先に主張。ドラゴン大好きです。触れませんが、トカゲも大好きです。とりあえず、爬虫類が好きなのかな、と自分に問答しつつ。もう初めから最後までどきどきわくわくと、胸を高鳴らせながら読んでいました。個人的で、とても主観的すぎるのですが……^^
 ドレイクくんの進化過程がとても丁寧で、早くランクアップ、早くランクアップ……! と目標のような楽しみを抱えて読むことが出来ました。初めから、ある種の目標が見えているということで、よりいっそう取っつきやすい作品になったのかな、と思いました。
 そして、文章の中に。ドラゴンになってからの回想であることを暗示するようなものも混じっており……空人さん凄いなあ、としかもう、はい。
 ただ、気になったところを上げてみると。ちょっとラストが呆気なかったように感じました。いえ、文字数も内容ももう本当に十分なのですが、何というか「誕生」で止めてしまった感がもったいなかったです。
 竜言語という設定が素敵すぎる。語り手はドレイクくんなのですが、その語り手の意志が人間側にも伝わるって本当にすばらしいですね。


>>62 If:神さまの生みの親
 この頃ifさんの短編は、本当に短編! と思えるように短いのだけれども、その中で一つのお話が綺麗に完結していたことに、もう感嘆ばかりです。
 にしても、ギャップが。神さまの生みの親が本人も言っているように、ぼったくりの医者というギャップが何だか清々しいです。神さまって、偶然の、出会いの積み重ねで産まれるんだよっていう思し召しですね^^
 一つ一つの場面も丁寧且つ読みやすく、素晴らしいですとしかもう本当に言いようがないです。
 神さまがいないがために、本当なら誰も気に留めない女性の小さな足掻きを。その過程が見えないがために、人々に奇跡だと思われて。そうして、神さまが産まれる。上手く言葉に出来ないのですが、奥深いお話でした。


>>61 自作:フォトグラフの施し方
 何というか、今回「写真」を。とにかく執筆時が、写真にハマってしまった直後のことだったので「これは、是非とも盛り込んでやろう!」と強引に誕生と結びつけて出来た作品でした。もうタイトルなんて、目も当てられないほど、てきとーすぎる……。
 内容全体の起因がそれだけでしたので、展開を考えるよりも先に、ある種の型に嵌めてしまった気もします。それに今回、キャラクターの暴走も起こってしまいました。ええ、本当はあのラストの後に続きが合ったはずなのですが、キャラクターたちがあの場面で納得してしまったので、それ以上動かせないという状態に……。ごめんなさい、言い訳です。
 ただ、ラストを書くのは楽しかったです。もう書きながら、心臓ばくばく。そして、初めからラストばかりに気を取られて、途中に盛り込んだ設定が手薄なものに。……はい、文章も設定も取捨選択が大切ですね。そんなことを、強く感じました。


最後に
 もうそろそろ、2011年も終わりますね。お題小説に参加し始めた当初は、こんなにも何度も参加して。尚かつ、多くの人と関わり合うとは思ってもいませんでした(といっても、まだまだショボイのですが)。
 毎回は参加できませんでしたが、こういった月一の機会があって、本当に楽しかったです。
 そして、前回と同様にぎりぎりまで批評を投稿しないって私……。来年は、改善、できたら、いいなー……。

 皆さんも、風邪には気をつけて年をお越しくださいね。
 そして、早めに。
 
 あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。(by明日の私)
メンテ
Re: お題小説スレッド【第9回:批評提出期間】 ( No.68 )
   
日時: 2012/01/01 00:37
名前: 企画運営委員 ID:eNBo.XXY

【第九回総評】
 あけましておめでとうございます! 去年の常連の方々はもちろんですが、去年は参加できなかった方も、今年はどんどん参加してくださればと思っています。お題小説スレッドの更なる発展を祈っております。
 第九回ですが、設定に凝った作品が多かったのが非常に興味深かったです。奥行きの深い物語が多く、もっと読んでみたいなと思わせる力がありました。舞台となる世界を自分の力で作っていこうとする力が強く感じられて、とても面白かったです。参加者は残念ながら四名と少なかったですが、常連さんだけではなく夢華さんの初参加もありました。これからもぜひご参加ください!
 誕生のテーマの表現の仕方も、みなさんオリジナリティがあって非常に面白かったです。今回は本当に個性が光る回であったと思います。今年の、これからのお題小説がますます楽しみになりました。一年を締めくくる回としてふさわしいものになったと思います。
 反省点を上げるとしたら、ラストの盛り上がりがもう一歩ほしいものが全体的に多かったということでしょうか。終わりよければすべてよし、なんて言葉がありますが、やはりクライマックスは作品の肝であるといえると思います。一番盛り上がる場所ですから、息切れせずに、さらに力を入れることができたらなあと思います。
 次回は連載作品の番外編ということで、私も長い間楽しみにしておりました。たくさんの物語が集まればなあと思っています。今年もどうか、お題小説スレッドをよろしくお願いいたします!
メンテ
3冊目の日記帳 ( No.69 )
   
日時: 2012/01/04 19:34
名前: 夢華 ID:PKaW4Huk


「新年あけましたおめでとうございますさぁ仕事しなさい」
「酷い!」
「お休みは!?」
「普段から仕事しないのに休みなんてありますか!」
「鬼や鬼!」
「畜生恋する暴君め!」
「ちょっと夢光さん表へ出なさい」



 皆さまどうもはじめまして、夢光です。
 さて、我々の事をご存じない方がほとんどだと思いますので、まず自己紹介しましょうか。
 あたし達五人はファンタジアワールドという国の中に存在するギルド【銀色孔雀】のメンバーです。
 自分でいうのも何ですが、あたし達はそこらへんのどこの馬の骨かも分からないギルドよりは知名度が高いです。ぶっちゃけちゃいますがファンタジアワールドでも指折りの実力家で有名です、人数少ないのも有名です。
 ……え? 何で銀色孔雀なんだって?
 そんなのあたしが知ってるわけ、いや、知ってるか。
 まぁうちのギルドの名前はリーダーが考えたらしいですよ。これ以上答える気はないんで引いてくださいます? ネタばれ自重って言葉がこの世には存在するんです覚えておいてください。
 まぁそれはそれ。とにかく、あたしは新年早々仕事しなきゃいけないなんて断固拒否! 普段仕事しないのはほっといてください、これがあたしなんです。
 あーでも、今回は彼女も本気で怒ってるみたいですね、やばい殺される許して下さい仕事はしないけど。

「実務だけが仕事だけじゃないんです! 報告書を提出しなさいどの依頼が片付いてないかわからないでしょう!」
「書類なんてめんどくさいわ! 口で教えりゃええやろ!」
「駄目です! サボろうとしないでください!」

 さて、あたし以外のメンバーも紹介しないと。
 独特の口調で仕事をしたくないと訴えているのは、雨天籠 柚刃。
 ファンタジアワールドの出身じゃないらしいから、言葉が若干こちらとは違うみたいで、初めて出会ったころはコミニュケーションに苦労したなぁ。
 そんな彼女は「ブシ」と呼ばれる男性が好んで着る黒い「ハカマ」というのを身にまとい、黒色のサラサラショートにまーるい黒の瞳と、中々可愛らしい顔立ちをしている。畜生め。そして腰には「ニホントウ」というらしい刀身の細長い刀をさしていて、その刀は「妖刀紅桜」と書き「ヨウトウベニオウ」と読むらしい。やっぱり彼女の出身地の言葉は複雑だと思うな。

「いやや! 仕事するくらいならすとらいき起こすで!」
「ストライキくらいまともに発音しなさい! そして断る!」
「いーやーやー! すとらいきするー!」

 そして一人仕事をしろと叫んでいる彼女は、実はリーダーではないんです。
 彼女はスカイ・オルトスク。
 この国の出身で、真面目でしっかり者の千里眼の持ち主、そして美人。何という非の打ちどころのなさ、畜生完璧超人め。
 そんなスカイさんは私より四つか五つ年上、もうすぐ柚刃の国でいう「ハタチ」である。
 金色の長いストレートをポニーテールで一つまとめにして、水色の迷彩柄のバンダナをつけています。前髪は目にかからない程度。瞳は綺麗なアメジスト色で若干吊り目。黒のタートルネックの上に水色のベストを着ていて、下は紺のミニスカ、水色のハイソックス、ショートブーツという、この冷え込む時期にあり得ない格好で一年を過ごしていらっしゃいます、さむそー。
 そんな彼女はリーダー補佐で、実質このギルドのナンバーツーはってます。めっちゃ強いです。
 彼女は仕事は真面目にこなすタイプで、新年? 何それおいしいの状態です。そしてこのギルドで唯一真面目に仕事をしている人です。
 さて、先日柚刃の国から送られてきた「コタツ」に入って蜜柑を食べながらその口論を見学していたんですが、どうやら飛び火してきそうな雰囲気なので、そろそろ自室に帰ろうかな、と思います。
 ではではさようなら!

「……いや、行かせねぇよ?」
「な、んだと……!?」
「なに満足げに帰ろうとしてんだバーローめ。道連れに決まってんだろ」
「ひっどい! リーダーなら見逃しなさいよ!」
「断る」

 あたしの手をがしぃぃぃっと勢いよく掴んで下さったのは、我が銀色孔雀のリーダーこと奏さん。
 彼こそこのギルドで一番仕事しないやつじゃないだろうか、くっそう巻き添えってことかい、あたしは帰る! その手を離せこの無駄美形! お前が仕事しろ!

「くっそ、はぁなぁせぇ! このサボり魔!」
「ははははははは断るー。俺達仲間だろー」
「嘘臭い棒読み乙!」
「仕事しなさい」

 そんな声が聞こえたとき、あたしの目の前が文字で埋め尽くされた。



「さっさと仕事すれば、実力行使なんてしなかったんですが」
「まさか、文字を見るだけで拒否反応で倒れるなんて」
「ええ、予想外でした」

 ……ああ、始まってたんですね、どうも、星和歌 香緒と申します。
 夢光ちゃんが気絶したので私が代わりに語り手になりました。そして新年あけましたおめでとうございます。
 さて、新年があけて新しい年になり、たくさんの始まりが生まれる時期です。
 私たちのところでは、依頼の処理が始まりました。めんどうです。帰りたい、国に帰りたい。
 紹介されなかったので自己紹介しますが、私は柚刃ちゃんと同じくファンタジアワールドの出身ではありません。
 私の家は代々柚刃ちゃんの家に仕える家系ですので、柚刃ちゃんがこちらの国に来るのと同時期にこの国にやってまいりました。
 まぁそんな柚刃ちゃんも今まで箱入り娘状態だったので、仕事なんて無理だよねぇ、ってことです。見事に文字の羅列を見て撃沈してました。
 私? 私は真面目に仕事をしてますよ。実務雑用お手の物、私の家では必然的に下につく側でしたので、割と雑用は慣れています。でも面倒です、ああ面倒、帰りたい。
 
「まさか全員倒れるなんて。香緒さんがいて助かりました」
「……ああ、そうですね。一人じゃこの散らかった部屋は片付けられませんからね」
「まったくです。仕事したくないから暴れるなんて、新年早々片付けすることになるなんて」

 半分くらいスカイさんの責任ですよね、何ていったら殺されるんで言わない事にしました、私賢い。
 足もとを見ると、茶色の短いポニーテールに暖かそうな白いダウンジャケット、黒のワンピースに黒タイツでショートブーツを身に付けた少女、もとい夢光ちゃんを見つけました。ぴくりとも動きません、ほんとに拒否反応が出てます、体中にじんましんでてます、そこまで嫌かこいつ。
 そんなこんなで私は彼女を起こしてみることにしました。
 ――――ゴッ



「いーっ!?」
「あ、おはよう」
 
 とんでもない痛みで目覚めたら、目の前に香緒ちゃんが居ました。
 むこうの国の独特の髪色でしょうか、柚刃と同じ黒色の肩上までの髪に、黒の瞳、グレーのパーカーに黒と青のチェックのミニスカ、そして同色のハイソックスに黒の運動靴。
 中々見ない美人なんだが、あまり笑わないのが残念なところ。
 っと、どうやら起きたら仕事を手伝わなければいけないらしい、後ろから、さ、さささささ、殺気がします、スカイさんに背後をとられました。
 
「年の始まりくらい、仕事をしなさい!」
「やだやだやだやだやだ! やーだー!」
「少しは香緒さんを見習いなさい!」

 スカイさんから溢れんばかり、てか溢れまくってる殺気が背後に見えます。
 …………さて、仕事しようかな。



「――――これまた、なつかしい日記だこと」

 夢光は手に持っていた分厚い日記帳をぱたんと閉じた。
 窓の外から淡い光がもれている、そろそろ初日の出の時間だろうか。
 夢光の手にある日記帳の日付は、三年前のものであり、きっと彼女が時間をもてあまして読んでいたのだろう。しばらく人目にさらされなかったのか、埃をかぶっている個所もあった。
 窓からの光がどんどん強くなっていく、本格的に日が出てきたのであろう。
 それを見た夢光は日記帳を座っていた椅子の前にあった机に置き立ち上がった。そして部屋の扉を開け、大広間へと出て行った。

「さぁて、新しい一年の始まりね」

 軽やかに新年のあいさつが交わされていく広間に、彼女は出て行った。


メンテ
【死兵達の舞踏曲】 ( No.70 )
   
日時: 2012/01/22 14:49
名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:XW8nIQww

「……始まったな」

「……ああ」

 腕時計を一瞥して俺は言う。隣の鈴木がそれに応じる。
 『KTセンサー』を取り付けられた二十代から三十代の『非リア充』が己の命と金、来年からのクリスマス中止を賭けて諸外国から迫りくるサンタと戦う、史上最悪最低の屑企画、『サンタ狩り』。それが今――西暦二〇二〇年十二月二十三日零時零分に――幕を開けた。
 今俺達がいるのはジャポン最北端の地、ソーヤミサキ。
 『ジャポン最北端の地』と書かれた石碑の前で、俺達はサンタ達の到来を待っていた。寒さに震えながら座して待つこと三分後。俺は水平線の向こうに、暗がりでもハッキリと捉えることの出来る赤い船団を発見した。
 恐怖に戦慄しながら、俺は隣で寝かけていた鈴木の肩を揺らす。鈴木は細い目を擦りながら遠くに目を凝らした。次の瞬間にはその顔は絶望に染まっていった。

「ほん……とに来たのかよ……」

「……俺達は覚悟を決めていたはずだ。ほら、立て」

 俺は恐怖を紛らわすために膝小僧を叩いて立ち上がった。
 三週間前、俺は『ルールブック』に記されていた『あなたの近くの参加者名簿』を見て驚愕した。こんな辺境の地であるが故に俺の仲間はたった一人。俺含めても参加者の頭数は二人。この圧倒的少なさ。おまけにこのホッカイドー地区は地理的に見てもサンタ達が最も集いやすいという最悪の土地。そんな中で俺達は戦い抜く。ハッキリ言って無理。言わば死ぬことを前提に戦う死兵のようなもの。
 だが、俺達は決して希望を捨てることはなかった。何故ならば――

「よし、やるぞ」

 鈴木が手袋を外し、手のひらで頬をバチーンと叩いた。それと同時に切れ長の目が闘志に燃える。どうやら準備は出来たようだ。
 そして鈴木は石碑の裏に回り、自らの武装を取り出した。
 ころのついた木の台の上に、片端に投擲物を乗せる皿がくっついた棒が乗っている。
 梃子の原理を利用して物を飛ばして攻撃する武具。紀元前五世紀頃には既に古代中国で使われたという投石機を更に小型化して俺らのような人間にも使いやすくした物。俗にカタパルトと呼ばれる武器、それが鈴木の武装。
 勿論、これ単体では効果を発揮することは出来ない。この武器で何かを投擲し、初めて効果が発揮される。
 じゃあ何を投擲するのか、という話になる。
 大昔の第一次世界大戦では、手榴弾をカタパルトで投げつけて攻撃したという記録が残っている。
 俺達もそれを模倣すればいいだけだ。幸いにも、双方が与えられた武器は正に状況と一致している。
 俺はダウンコートのポケットに手を突っ込み、自分の武装を取り出した。手榴弾(コートのポケットだけでなく、背負っているリュックサックにも五十発ほど入っている)である。
 俺はそれの安全ピンを抜いてカタパルトの皿に乗せ、安全レバーを掴んだ(こうすることで安全ピンを抜いた状態でも爆発するのを防ぐことが出来る)。
 鈴木はそれを見届けると、皿とは反対側に手を掛けた。やがて、鈴木の投擲までのカウントダウンが始まる。

「行くぞ……三……二……いち――――」

 俺は安全レバーを手放し、後ろに飛び退いた。
 それと同時に、鈴木が全体重を掛けてカタパルトを押す。
 梃子の原理で手榴弾は遠く彼方に飛んでいき、五秒後に海上で爆発した。
 船団には遠く届かなかったものの、動揺は与えられたようだ。船上から微かに叫び声が聞こえてくる。
 良いスタートだ。うまく相手の士気を落とすことが出来ている。この調子で行けば。
 俺の頭に勝利という二文字が浮かび上がる。
 俺達は様子見のためにもう一発、手榴弾を投擲した。
 空中で手榴弾が爆発した後、遂に船団は動きを止めた。

「よっしゃあッ!」

 俺と鈴木ははしゃぎながらハイタッチをした。
 未だ一隻も艦船を落とせていないが、それでも相手のペースを乱すことには成功している。向こうに見える、止まった船団がその証拠だ。
 俺達はそのまま、石碑の前に座りながら船団の動きを窺っていた。
 そして動くことのない景色を眺めながら早十五分。欠伸を噛み殺して腕時計とにらめっこしながら待っているとようやく船団に動きがあった。
 おかしい。先ほどとは比較もできない異常なスピードでこちらへと近づいてきている。俺の脳裏に投げられた手榴弾の軌道が過ぎる。このままでは――上陸どうこうの前に手榴弾の当たらない位置に来られてしまう。
 俺は焦りながらも冷静に鈴木に指示を出した。

「カタパルトを……右に向けてくれ」

「オッケー」

 右手に見える、ここから一番近いと思われる一つの艦船。
 あれを爆破して、先制攻撃を決める!
 俺は右向きになったカタパルトの皿に、先ほどと同じように手榴弾を乗せた。
 そして先ほどと同じように鈴木のカウントダウンが始まる。

「三……二……いち――――」

 俺は手榴弾の安全装置を手放した。鈴木は全体重を下方に向けた。
 船団にも負けず劣らずのスピードで、手榴弾は風を切って飛んで行った。
 それは山なりの軌道を描き、着実に、右の船へと近づいていく。手榴弾が近づくにつれて、船団のざわめきも大きくなる。次の瞬間、手榴弾はふっと見えなくなった。
 刹那。船が爆ぜた。真っ赤な火柱を次々に上げて、船は大破してゆく。中から、丸焦げのサンタと思われしき人間達が次々に海に飛び込んでいった。
 最終的に船は木の骨組みを晒しながら、大海原へと沈んでいった。
 辺りに一時の静寂が走り、次の瞬間には船団から「ウオオオオオオオ!」という言葉にならない自身鼓舞の叫びが聞こえてきた。
 それを皮切りに、船団のスピードは更に増した。
 俺達は猛スピードで迫りくる船団を、次々に落としていった。最早作業的に。周りの気温と同じく、恐ろしく冷めた心で。目と鼻の先に見えるサンタ達を絶え間なく爆殺していった。
 ――――が、快進撃も長くは続かなかった。

「くッ…………」

 鈴木が遂にカタパルトを動かすことを諦めた。理由は簡単だ。手榴弾が船の上を通り過ぎてしまうほどに、船が近づいてしまったからだ。
 しかしそれも当たり前。初めに見た船団の数は両手の指では数え切れないレベル。それらを全て撃墜できる訳がない。連続的に続いた爆発の嵐を切り抜けて、現れた船団は、手榴弾の当たらない安全ゾーンへと入ってしまった。
 俺は目前に迫った船団を前に、歯軋りした。
 このまま、野垂れ死ぬ運命なのか? 俺達に最初から勝ち目は無かったのか? 俺達はやはり死兵なのか? だとしたら、俺達の存在意義って、一体――――!
 ――いや、これで終わる訳がない。まだ、チャンスはある!

「おい、立て!」

 完全に塞ぎ込んでしまった鈴木に、俺は一喝した。鈴木はビクッと肩を震わすと、ゆっくりと俺を見上げた。
 俺は矢継ぎ早に開口する。

「サンタ達の船は、ここまで近づいてきてるんだ。だったら……まだ間に合うはずだ。手榴弾を投げつければ、まだ勝機はあるはずだ」

 鈴木は何も言わずこくりと頷くと、俺の背中のリュックから手榴弾を二、三個取り出した。
 俺達は二人、手榴弾を握り締め、凄まじい速さで近づいてくる船団を見据えていた。
 ……勝つ。俺達は。勝つんだ。迫り来るサンタ達を押しのけて、勝利を掴むんだ。大金と、クリスマス中止を賭けて。
 
「うあああああああああああああっ!」

 槍投げの要領で、俺達は渾身の力を込めて手榴弾を投げつけた。
 山なりの軌跡を描いて飛ぶ二発の弾丸は、船に着弾する前に空中で爆発した。
 鈴木が「何で」と呟いた。
 俺は目をよく凝らして船上にいる人影を捉えた。それは、長い得物を肩に構えて俺達を見下ろすように甲板で腹ばいになっている――スナイパーだった。勿論サンタ服を着た。

「Merry Christmas」

 暗い中でも、スナイパーサンタの口が、そう動いたのを俺は見逃さなかった。
 俺達を死へと誘う呪文。俺達が今まで憎んで憎んで仕方の無かったあの言葉。
 唐突に鳴り響く銃声。
 隣の鈴木が、胸に小さな穴を穿って倒れた。胸に開いた風穴から、鮮血がどくどくと溢れ出る。
 俺はリアルな死を実感した。そして次の瞬間には怒りをぶちまけるように叫んでいた。

「あああああああああああああああああああああああああっ!」

 船上のスナイパーサンタはそんな俺の姿を指差して、嘲笑っていた。
 いいさ。ここで死ぬ運命だったとしても。
 俺達が生きて――――こうして数々の艦隊を墜落させた事実は、サンタ達の記憶の中に死ぬまで留まるだろう。
 俺達が死んでも、俺達の存在は――誰にも忘れさせない。
 俺はライフルのスコープを覗くスナイパーサンタに向かって、微笑した。
 次の瞬間、銃弾が俺の胸を貫通した。

  ◆   ◆

「サンタ狩りの始まり……か」

 四十七つのモニターの前の椅子に深く腰掛けたビジネススーツの男がそう呟いた。
 モニターには各都道府県の『サンタ狩り』参加者の様子が映し出されている。その中の一番上の映像を見て、男は更に呟く。
 一番上のモニターには、既に絶命している二人の参加者を踏みつけながら、北の地ホッカイドーに上陸するサンタ達が映りこんでいた。サンタ達は白い服を纏った者と赤い服を纏った者が混在し、全体である意味カラフルな模様を作り出していた。

「これが……ジャポン最北端チームの惨劇だ……始まって早々、悪い意味でも良い意味でもやってくれた……なあ?」

 男は椅子を回転させて自分の真後ろに立っているタキシードという出で立ちの執事風の男に賛同を求めた。
 タキシードの男は「はい」と静かに返事すると更に続けた。

「白服サンタ、赤服サンタが混合して乗船している艦隊を何隻も堕としたのはサンタの数を著しく減らすことに大きく貢献しています。これからの活躍に期待していたコンビでしたが……さすがにあの数には勝つことは難しいようですね、会長様」

 『会長様』と呼ばれたビジネススーツの男は、口に微笑を称えながら答えた。

「そういえば……この男達と同じように、たった一人で例の『デコピンで鉄に穴を開けられる』白服サンタを倒した男がいるとか聞いたが」

「はい。午前零時十二分四十三秒一四、トーキョー都の131108の3、xが4、yが3、zが2です」

「zの2ということは――まさか集合住宅内で倒したのか」

「そのようです。映しますか?」

「いや、いい」

 『会長』は椅子を回転させて元の位置に戻ると、再びモニターを舐めるように見始めた。
 執事風の男はその様子を表情一つ変えずに見守っていた。
 かくして、『魔女狩り』にも匹敵するほどの愚法、『サンタ狩り』は始まった。

サンタ狩り
メンテ
『始まりは思い出日和』 ( No.71 )
   
日時: 2012/01/17 03:48
名前: 空人 ID:ecW/iNTg

「見て」

 促すようにモノが空を仰ぎ見ると、ジルはつられて顔を上に向ける。
 空はどこまでも青く澄んでいて、太陽のまぶしさに二人は目を細めた。

「ねっ? 『晴れの日は召喚日和』だよ!」

 師匠の口癖だった台詞を口にしたモノを見つめると、なんとも言えぬ感慨が湧いてくる。
 その自信有りげな笑顔を見て、ジルは安心したのか小さく笑い返すと、翼を広げ彼女の肩から近くにあった木の枝へと飛び移った。

「解りました、もう何も言いますまい。お行きなさい。御武運を」

 彼女が不意に頼もしく見えたのは、ジルの親心から来る贔屓目だけではないだろう。
 優しく見守るジルに力強くうなずき返すと、モノは地下室の――自分の今の実力を審議されるその扉を――開いた。

 石造りの扉に入っていくモノを見送って、ジルは一人になった空間を見回した。
 彼らが住処としている家は、モノの師匠でジルの元の主でもあるトリコが用意した研究実験に適した住まいである。今は主無きその家屋を振り返ると、楽しい思い出ばかりがよみがえる。自分がこんな事では現主であるモノを元気付けるなどおこがましいのではないか。そんな考えがジルの頭をよぎり、慌てて首を振る。
 モノを信じたのは自分なのだ。それに彼女はトリコが逝った後、本当に努力を惜しまなかった。敬愛する師匠の安らかな眠りを妨げるわけにはいかないと。そんな彼女を支える存在になりたいとジルは心に誓ったのだ。それに先ほどの彼女は本当にたくましく成長して見えた。

 思い起こされるのは、彼女とのはじめての出会い。そして――。




「明日から一年くらい家を空けるから、留守番よろしくー」
「は? あの、私がついて行ってはいけないのですか?」

 稀代の魔導師であるトリコ=ロールに仕えるようになって以来、ジルは彼女の側を大きく離れる事は無かった。それは、彼女が魔術の研究に没頭すると家事や、ともすれば自身の食事でさえ疎かにする性質があったからで、彼女に快適な環境を用意する事が自分の役目で有ると自負していたからでもある。

「ご、ご命令ならばそうしますが、一体どちらへ、どのようなご用件なのでしょうか」

 少々女々しいなとは思ったが、この人間界に呼んだのが彼女である以上ジルが彼女を守る事は当然で、契約の一部でもある。

「そうねー、東の実験塔が良いかしら。あそこなら地表まで距離があるし、多少の被害も許容範囲でしょ?」
「被害……やはり私もついて行ったほうが」

 自分の主が優秀な魔導師である事は自他共に認めるところであるが、同じように彼女の魔術実験による被害が小さなものではない事もまた周知の事実なのである。

「ダメよ。今度の魔術実験はちょっと大掛かりな召喚と還元になるから。私の召喚獣であるアナタも余波に巻き込まれる恐れがあるのー。だからごめんなさいね」

 聞けば、納得せざるを得ない理由が飛んできた。謝罪を受けるまでも無く、ジルは大人しく引き下がるよりほか無い。

「……では、どのような実験をするのかだけでもお教え願います」

 それでも、彼女の一の従者として引き下がれない一線もある。ジルは恭しく首を垂れ、主の答えと許諾を待つのだった。

「ふふふ……」

 そんなジルを見て、トリコは笑みを漏らす。もとより隠すつもりなど無かったのだ。己が従者の生真面目さを好ましく思うが故の、そして秘密を打ち明けた後のリアクションに期待しての可憐なる微笑であった。

「実はね、ついに例の古き神々へのアクセスを試みようと思うのよー」

 両腕を振り上げ、ファンファーレが聞こえてきそうなほどの勢いの笑顔で、トリコは宣言した。

「ふ、古き神というと、いにしえの神界大戦に敗れ、現主神に封印されたというあの?」
「そう、それ」

 ビシッという効果音付きで人差し指を向ける主にジルは冷や汗を禁じえない。

「それは、もしかしなくとも危険なのではないですか?」
「あらー、心配? 私の事が?」
「いえ……そうですね。どちらかと言えば、周囲の町が、ですが。そこまで言うからには、何か秘策がお有りなのでしょう?」

 溜息混じりにそう答える。どんなに危険な魔術でも、彼女は自分の身を危険にさらさない。必ず安全圏に居て、結果だけを掠め取る。トリコが魔女といわれる所以はそんなところにもあるのだ。

「んー、秘策というか、準備が万全に近い状態で揃っちゃったからっていうのが実際のところねー」
「準備、ですか?」
「ええ」

 大きく頷いた後、トリコは後ろの戸棚から二つの品物を順に取り出しテーブルの上に置いて見せた。

「魔界図書館で見つけた古き神々に関する真書の写本と、天界から持ってきた神を許容できるだけの器。後は私の時空間魔法があれば、失敗する理由が見つからないわー」

 トリコは自信たっぷりに分厚いハードカバーの本と卵型の器二つの品物について説明するが、その聞き手は嘴と三つの目を見開いたまま、あげるべき声を失っている。
 ジルが声を取り戻したのは、動き出さない彼をそろそろ心配になってきたトリコが首を傾げ始めた頃だった。

「ト、トリコ様っ! 古き神々に関する書物は確か持ち出し厳禁のはずですぞ! それに、そちらの器はも、もしや『世界の卵』ではっ!? それは貴女の施術の失敗で全て破壊されたはずではないですかっ! その所為で貴女は天界への出入り禁止の上、『破界の魔女』とかいう不名誉な二つ名まで授かる事になったのですぞっ!?」

 人間界では目にする事すら無いはずの二つのレアアイテムは、彼女が天界と魔界を渡った唯一の魔女である証しでもあった。
 鬼の形相でまくしたてる従者をトリコは涼しい顔でやり過ごし、その鬼が淹れたハーブティーに口を付ける。

「大丈夫よー。写本の方はテトラくんに許可をもらったし、天界みたいな窮屈なところにもう一度行きたいなんて思わないしねー。それに『破界の魔女』って格好良くないかしら?」
「くぅ、あの新米魔王め、事ある毎にトリコ様に色目を使いよって! 己のやっている事の重大さに気が付いておるのか、そろそろ心配になるぞ。……まぁ、天界の方は貴女がそれで良いなら許容しましょう。しかしバレると厄介な事になりますな」
「大丈夫でしょー、ジルか私が口を滑らさない限りバレたりしないわよ。それにそもそも『新世界の卵計画』は現主神様の発案じゃなかったのよー、天使長の独断でっ」
「……」

 魔王や天使の長をも手玉にとるような魔女を、その使い魔風情が言って聞かせる口を持っているわけも無く、ジルは静かに溜め息だけを吐き出した。

「解りました、もう何も言いますまい。お行きなさい。御武運を」

 トリコが満足そうに頷くのを見て、ジルは再び溜め込んでいた言葉を無音に返すのを禁じえなかったのである。



 それからおおよそ一年の時がすぎた頃、ジルの耳に東の実験塔が崩壊したとの知らせが届く。高層の部位が崩れ落ち、周辺の町に被害は無いものの塔はもう修復不可能だろう、と。しかし慌てる事は無い。その知らせは彼にとって、程なくして主が帰ってくるのだろうというだけの事だ。久しぶりに主を家に迎えられる事に喜びを感じながら、ジルは彼女がいつ帰ってきても良いように準備を始めるのだった。
 そしてトリコは帰って来る。傍らに小さな少女を伴って。

「ただいまー」
「お帰りなさいませ、トリコ様。お変わりないようで……そちらのお嬢様は?」
「ジルも元気そうね。この子はモノちゃん、今日からここで一緒に暮らすから、よろしくねー」
「は……はぁ」

 思わず気の無い返事を返してしまいながら、ジルがトリコに手を引かれた少女を嘗めるように観察すると、幼き少女は無遠慮に自分を見つめる三つ目の鳥を不思議そうに見つめ返す。
 その何かを見通すような澄んだ瞳を覗き込むと、ジルの脳裏にはある考えが浮かんできてしまうのだった。

「も、もしや……。い、いったいいつの間に産んだのですか!? 父親はっ!? まさかあの出来損ない魔王ではないでしょうな! あの三下め、なんという事を……っ!」
「落ち着きなさいジル。テトラ君は好みじゃないってば。そうじゃなくて、この子は私が産んだんじゃないのよー、残念ながら。でもそうね、ここで暮らすのだから私の子供って事にした方が都合が良いのかしら?」
「……どこぞからさらって来たのではありませんよね?」
「ちゃんと親の了解はとってますー」

 なにやら騒ぎ始めた二人が自分の話題で盛り上がっているという事を考えもせず、幼き瞳は部屋の中をキョロキョロと観察しているのだった。

「とにかく、モノちゃんと両親は離れて暮らす事になっちゃって一人で放っておけないから、今日からこの子は私の家族になります。そのつもりで対応してねー」
「かしこまりました。ところで、実験の方はいかがでした?」

 質問は確認の為だけだと認識していた。塔が崩れたという事は、塔の体積を超える何者かが呼び出されたという事で、実験の成功を裏付けるものだったからだ。
 しかし、トリコは困ったように眉をひそめる。

「んー、半分成功かな?」
「半分は失敗したのですか? 珍しい事で」
「それは褒めてくれているのかしらねー。まぁ良いわ、古き神の一柱を召喚する事には成功したのだけれど、契約は出来なかったのよー」

 でもね。と前置きをしておいて、トリコはそろそろ退屈になってきて部屋の中をうろつき始めた少女を捕まえる。何も知らない素人が触ると危険な魔道具がこの家には何の配慮も無く置いてあったりするのだ。
 そのまま幼いモノを抱えあげたトリコは、愛し子にそうするように頬を寄せる。

「この子に出会えた。それはこの上ない成功だわー」

 二人がひたいを押し付け微笑み合う姿は、本物の母子を思わせた。ジルは自分が目を細めてその光景を見つめている事に気が付いていたが、それを隠そうとする気は起こらなかった。それは、平凡とは言い難い人生を送ってきたトリコが久しぶりに見せた、人間らしい表情だったのだ。




 あれから十数年。伝承に詠われるまでになった魔女は数々の偉業と共に眠りについた。そして、唯一の弟子として育てられた少女は、今旅立ちの時を迎えようとしている。彼女の成長を一番側で見守ってきたジルにとってそれは嬉しい事であり、少しだけ寂しい事でもあるのだった。
 ふと、モノが入っていった石室から騒がしい声が聞こえてくる。おそらく彼女の魔法が発動したのだろう。ジルは自分の新しき主がその扉を開き外へ出てくるのを胸を張って迎えようと思っていた。
 扉から漏れいずる空気はどこか懐かしく、けれど新しい物語の始まりを予感させるもので――――。





>>本編へ続く
メンテ
DEPARTURE 〜始まりの軌跡〜 ( No.72 )
   
日時: 2012/03/01 10:15
名前: 月音◆aGDHPkqUjg ID:MIB7lyFk

 日野神太陽。当時十三歳。
 自分と兄――青空以外の人間を亡くし、親を亡くし、絶望の淵にいた所を伯父だった鯵本に拾われる。
 鯵本が連れたのは瑠王学院。父親晴天も出た学舎。鯵本の伝手で入学させられた太陽は、一時は親を殺した復習の為にと人間不信に陥ったが、後に出逢った鳶と零土に諭され、少しずつ人の心を取り戻すようになる。
 これはそんな太陽が、自分にとって守るべきものを見つけたきっかけとなった物語――。












「お、お腹が減った〜」

 腹の虫が鳴り止まないでいる太陽。ポケットに入っている所持金はたった一〇レアルだけ。苺ジャムパンを買うにはあと半分必要だった。
 太陽達瑠王学院生には、給料と称して学院から生活費一〇〇〇レアルを支給される。だがその金も素は税金。大人達が収めてきたものを支給されているのだから皮肉としか思えないだろう。
 ……話を戻すが。
 購買部で買えるパンはどれも二〇レアルとお安い。自分用に学生寮も用意されている。公共料金も国が援助してくれている。その等価交換に、学院生は――将来命を代償に国の為に戦うという誓いを立てられる。
 国軍という仕事は生半可じゃない。自身の活躍に応じ見返りで金銭が貰えるが、その分危険も伴う。
 自分達は警察組織。卒業すれば、待っているのはいつ死ぬかも分からない鏡面。そして反政府組織に対する心構え。それら全てが待ち構えている。太陽もまたその坩堝(るつぼ)の中にいた。
 実際卒業出来ぬままはぐれ――主人の元を離れた人間と召喚獣に殺された院生もいたぐらいだ。

 また水飲み場で腹膨らまさなきゃなんないのかよ……。まともな物食べてないから調子悪くなる。しまいには入院する。
 どこかに金でも落ちていないものか……。一レアルでも五レアルでもいい。俺に慈悲を……。
 そう願う太陽だが、そうそう思い通りに落ちているわけもなく、ただただ空腹が増す一方。

 バタンッ!

 とうとう耐え切れず、太陽は白目を向きながら前のめりにつんのめった。
 今にも天使が降りてきそうだ。此処に犬でもいたらあいつの名前でも呼んで、このまま天国に行けるのになぁ。
 嗚呼、お迎えが来そうだ……。
 父さん。
 母さん。
 今そっちに行くよ。

 青空兄ちゃん。
 先立つ弟の不幸をお許し下さい。



「あっ、霜月さんだ」「明日菜さんだ、今こっちを見たぞ!」「バカヤロー! 俺の方を向いたんだ!」「違う! あの聖女のような笑みは僕にこそ向けたんだ!」

 教室を出ると同時にざわつく廊下。男女みなが憧れの目で彼女を見る。
 苺の如く純粋な赤い色の長髪に澄んだ水色の瞳。そして男は誰もが落ちるだろう童顔の美貌にほっそりした体躯。
 この少女こそ太陽がのちに出逢う――霜月明日菜。
 明日菜は廊下を抜けて、いつも食事している校舎の裏庭で一人、木の椅子に座って机にバスケットと紅茶の入った水筒を置く。

「さぁ、今日は何が入っているのかなぁ! えいっ♪」

 明日菜が楽しそうに蓋を開ける。
 バスケットの中には今朝コックに作ってもらったサンドイッチがびっしり入っている。色取り取りのサンドイッチを前にじゅるりと涎を垂らしている明日菜。
 どーれーにーしーよーうーかーなー、天ーのー神ー様ーのー言ーうーとーおーり……。
 食べる順番を決めれず、明日菜はリズムに合わせ人差し指で選んでいく。指が止まった先は――カツサンド。
 カツサンドを手に取り、明日菜は大きな口を開けてそれを食べようとした、その時。

「ヘ……ヘルプミイィー……っ」
「――っ!? うわあぁっ!」

 サンドイッチを食べようとした明日菜が見た先は――うつ伏せになって倒れ伏している太陽だった。
 それを見た明日菜も、手を止めざるを得なかった。
 苦笑いしながら明日菜はサンドイッチを一つ取り出して太陽に差し出して言う。

「あの、良かったらこれ食べる?」





 明日菜から貰ったサンドイッチ――カツサンド、シューサンド、ツナサンドを頬張る太陽。余程腹が空いていたのだろうと悟った明日菜も、特別に数個ほど分ける。
 バスケットの中のサンドイッチはまだ残っている。それらも明日菜が日頃食べる量だ。

「いやぁ、誰か知らないけど助かった。これで昼の授業ももつよ」
「良かった。……そうだ。名前は何て言うの?」
「んあぁっ。俺は『日野神太陽』。Bクラス」
「――っ! わ、私『霜月明日菜』! 一緒のBクラス!」

 偶然ってあるものなんだな。
 そう言い、手渡されたストロベリーティーを飲んで太陽は言葉を紡いだ。

「お前、いつも此処で飯食ってんの?」
「うん……。私、他の人と違うから学校じゃ一緒にご飯食べれなくて……」
「仲間外れか?」
「否、私がそうしてるだけ」
「教室行って一緒に食べればいいじゃないか」
「私にはそういう相手がいない。だから食べない」
「じゃあ、毎日俺と一緒に食べよう。それくらいなら良いよな?」

 太陽のそんな一言を聞き、明日菜は突然手を止めだす。お金持ちの明日菜にとって、今までそんな言葉を吐いてくれる者はいなかったからだろう。きっと嬉しいのに違いない。ささやかに太陽は悟る。

 キーンコーンカーンコーン♪

 言葉を終えた直後、校庭へ鳴り響く昼休み終了のチャイム。授業が始まる二分前の予鈴のチャイム。
 急いで弁当箱をしまい、明日菜は一人でに太陽の手を握って走る。

「いけない! もう五時限目始まっちゃう! 急ごう! ソルっ!」
「ソ、ソルって何? 俺太陽だよ?」
「太陽だからソル! だから私、あなたのことソルって言う!」
「すげぇ! てかそれ恰好良い!」

 なんて話し合いながら、太陽と明日菜は廊下を駆け、鯵本が入って来る一分前に無事に教室に着くことが出来た。



「霜月のこと、何か知ってる?」
「え、明日菜ちゃんの事? 急にどうしたの?」
「昼飯でちょっとな……。俺、女子と喋ったことないから……」

 五時限目終了後の休み時間。太陽は自分の後ろの列にいる少女の事を、零土と鳶に訊いてみた。
 教科書を纏めながら零土は少女を見遣り、頷いて太陽に話した。

「僕が知ってることといったら……僕達が入学した頃に鳶君と一緒に特待生で祝辞を読んでたって位しか……」
「ああ読んだ読んだ。知ってるぜ零ちゃん。霜月って言ったらさ、此処――瑠王学院の資金出すほどメッチャ大富豪なんだろう?」
「明日菜ちゃんのお家、凄いお金持ちらしいから、他の男女は身分が違うからって遠くから見てるみたいだよ。嗚呼、避けてるって意味じゃなくて、近寄れないって事」
「……なんかそれ、おかしいよな」
「本当だよなたっちゃん。金持ちも貧乏人も平等に話せたら良いのにな。まぁそれでも、俺達は隔てなく喋ればいいだけさ。ダチに身分関係ねーしな」

 そうだ、鳶の言うとおりだ。友達に身分も関係ない。だが。
 金持ちと貧乏人。それは当然明日菜と太陽を指している。今でこそ普通に話しているが、妙な誤解を生んでしまったらどうなるのだろうと、鳶の話を通して少々不安になる太陽。

「何にせよ、彼女にはあまり関らない方が良いと僕は思うけどね」

 零土は少々反対だった。明日菜に関わるという事は彼女を通して他の貴族達にも目をつけられる事になる。当然、明日菜の親族にも。下手をすれば命を狙われるなどの問題も出てくる。
 言うことも一理ある。けど、彼女は自分の立場上で気軽に話し合える友達もいなければ相談できる仲間もいない。
 自分が明日菜の友達になろう。
 今日初めて会ったばかりの明日菜に、太陽はそんな感情が芽生えつつあった。



 それから四日後。
 いつもどおり明日菜と食事していた太陽は、突然クリームパンを半分割って明日菜に差し出す。

「はい」
「これ……あなたのパンじゃ……? 貰えないよ。お腹空いちゃうよ?」
「メロンパンがあるから六時限までもつ。メロンパンって意外と腹膨れるんだ。昨日の礼ってことで受け取って?」

 有難う。笑顔でそう言うと、明日菜は太陽からクリームパンを受け取って、バスケットの中のスコーンと水筒に入ったキャラメルティーとともに食事する。
 太陽がメロンパンを千切って口に含んでいた時だった。明日菜の顔がどこか浮かないのを悟る。先生に怒られたのか? 誰かにイジメられたのか?
 心配して太陽は声をかけてみる。

「元気ないよ? 誰かと喧嘩したの?」
「私……結婚させられそうになってるの……」
「? 俺たちまだ13だよ?」

 明日菜は首を横に振って言の葉を紡ぐ。

「13歳でも結婚出来るの、私の場合。相手のお父さんが『政略結婚』っていうのをお父さんに言ってきて……」

 通常、ここパンゲアの法では男性が満18歳、女性が満16歳でなければ結婚は認められない。
だが彼女は太陽達とは違う身分の人間。過去に10歳未満の少女が嫁に出されることも珍しいケースではなかった。

「じゃあ、結婚したらお前どうするんだよ?」
「……学校をすぐに卒業させてもらえる。国軍にも籍を入れてくれる」
「卒業できるの!? スッゲェ!」
「……」
「?」

 太陽達にとって12歳から4年で卒業出来るものは羨ましいものである。明日菜も例外じゃない。
 だが。明日菜は嬉しい様子ではなかった。
 どうしたんだ?
 太陽が一声かける。

「私、まだ結婚したくない。みんなと一緒に卒業したい。せっかく話し合える人に会えたのにすぐお別れするの、嫌……」

 明日菜のその声は震えていた。同時に体も。太陽はそれを見て悟る。
 この子は、本当は好きな人と結婚がしたいんだ。けど、大人達の勝手な都合で好きでもない相手と……。
 それでも明日菜にとってこうして話せる相手は自分しかいなくって……。

「分かった。俺がお前を守る。そんなやつと結婚なんかさせないよ」
「けど相手は貴族だよ? ソルより強いよ?」
「それがどうした? お前まだ結婚したくないんだろう? 俺たちと一緒に普通に卒業したいんだろう? だったら信じてくれ。俺が無理にでもそうする」
「私たちまだ四日しか会ってないのに、どうしてそこまでしてくれるの?」
「お前、あん時俺を助けてくれたじゃん。サンドイッチをくれた。めっちゃ美味かったし、感謝もしてる。だから、今度はお前を助ける」

 ふいに明日菜の手を取って太陽が言い切る。
 そうだ。この子は俺が守ってあげなきゃ。どうしてか分からないけど、体がそうしろと独りでに動いて、口も動いて……。
 やっぱり俺は父さんの子だ。こういう子ほど見ていて放っておけないんだと思う。それに、独りぼっちだったっていうのは、少なからず俺も共感できたから……。
 約束にと、明日菜と指切りする太陽。明日菜も約束してくれると信じ、話して良かったと太陽に言った。





 だが。
 二人のそれは単に口約束で、絵空事だった。



「先生、今日明日菜は来てないんですか?」
「んおぉう。なんか明日菜、結婚するらしいな。見合い結婚? 政略結婚? よくわかんねーが」
「え……?」
「そういや厳道も見合い結婚だったな。あいつ正座しすぎで変顔作ってたって女房も酒の席で言ってたっけな――って、おい太陽! 何所行く!?」
「先生すんません! 教科書家に忘れたんで取りに帰ります!」
「家じゃなくってもちゃんと俺が用意してあるって、ほら! おぉい、戻れってええぇぇ!」





 六月五日。曇り後晴れ。
 最悪だ。よりにもよって今日がその結婚式だったのかよ……! どうりで顔色が浮かなかった筈だ……!
 明日菜の事に気づけなかった後悔が太陽の胸の中をよぎる。
 場所は何所だった……!? 嗚呼そうだ! 確か『瑠王講道館』でやるって言ってた!
 いや落ち着け! まだ家を出てないかもしれない! その前に一目だけでも会わなきゃ!

 家の門前へ辿り着く太陽。とても大きな家だ。庭も学院並みに広い。野球球場並みに広いだろう。流石は瑠王学院を支える柱と言うべきか。
 此処に明日菜が……。もう此処を発ったのだろうか……?
 そう思うといても立ってもいられず、太陽が一歩踏み出したその時だった。

「何者だ貴様! 此処は霜月家の敷居だぞ! 平民が立ち入る場ではない! さぁ帰れ帰れ!」

 門前に立っていた番兵が太陽を乱暴に突き飛ばし追い返そうとする。負けじと太陽は番兵に突撃。しかしがたいの大きい番兵を前に、太陽は前へ進むことができないでいた。

「平民の分際で足掻くか! 良かろう! 貴様を捕らえて我が主、轟嵐様のもとに突き出してやる!」

 番兵がそう言って太陽へ手を伸ばした刹那。

「――ちっ! これはフォノン……新手か!?」

 槍を一つ薙いで番兵が舌打ち。後ろを向くと――。
 先程術を放った鳶と、木刀を二本携えた零土が駆けつけてくれていた。

「大丈夫かたっちゃん!」
「鳶! 零土!」
「ソル君、後ろ!」

 零土の言葉と同時に、直後番兵が槍を両手に刺突を繰り出す。
 かわしきれない。刺し殺される。
 太陽が背中を丸めた刹那。

「――むっ!?」

 槍を受け止める鮮やかに染色された緋色の大剣。
 鳶が背負っていた大剣――火炎剣(フランベルジェ)の刃が、太陽の身を守る盾の役割を果たす。
 防御しきったあと、鳶と零土は太陽を叱咤する。

「たっちゃん! 俺達に黙ってなんでこんな真似しやがんだ! 明日学校で覚悟しとけよ!? 先生マジで怒ってたから! もう顔とか鬼状態だったから、言っとくけど!」
「まったくだ! 君は仲間の為なら自分のことさえ犠牲にするのか! お人好しは国軍じゃ命取りだ! けれど僕はそんな君のこと正しいと思ってる!」

 ……お人好しはお互い様だろうが。苦笑して太陽は心中呟く。
 距離を取っていた番兵が体中から魔力のオーラを放ちながら、太陽達に三人に言い放つ。

「おのれ次から次へと! 轟嵐様の親衛隊の名に懸けて、ワタシは貴様達をここで捻じ伏せてくれよう! 神妙にせいっ!」
「たっちゃん、此処は任せろ! 霜月はあっちだ! さっき入ってったの見えた!」
「此処を気付かれる前に早く! 僕達も後で行く!」
「うん! ごめん鳶、零土!」

 相手を鳶と零土に任せ、太陽は扉を開けて屋敷内へ入るのだった。
 何処だ……。明日菜は何処にいる……?
 長い渡り廊下を走りながら周囲を見渡す太陽。式の準備中の為か、使用人が一人もいない。太陽にとっては好機。
 と、その時。赤い髪の少女を見つけ、太陽が叫ぶ。

「明日菜あぁ!」
「――っ! ソルっ!」

 目に涙を溜めながら、白いベール姿の明日菜は太陽に近づいて両手を握る。

「よかった。式はまだか?」
「うん。今日の十二時からって……。もう私以外の人皆式場に向かってる」
「今十一時か……。そうだ、御両親は?」
「お父さんとお母さんも式場にいるから、遅れて来るからって言ってきた……」

 どうやら間に合ったらしいな。ホッと胸を撫で下ろす太陽。幸いまだ兵はこっちを感づいてはいない。
 廊下に飾られた時計を見遣り、太陽は明日菜の手を握り返して言う。

「逃げよう明日菜。今なら間に合う。好きでもない奴と結婚なんてやっぱり間違ってる。俺たちがパパさんに会って――」
「否、その必要はないよ」

 太陽の後ろから聞こえた男の声。澄み切った青年男性の声だ。
 ふと振り返る太陽。そこには紺色の傭兵団制服を纏ったブルーハワイ色の髪をした美男子が現れる。

「何だてめぇは……!」
「平民でも挨拶はしておかなくちゃね。ボクは『氷室龍成(ひむろりゅうせい)』。国家傭兵団第四小隊所属の隊長をしてる。きみたちとはすぐさよならなんだが、ボクもこういう身の上だからね。庶民相手でも礼儀は通さなくちゃ」

 太陽に話しかけてきた青年――氷室はゆっくりとレッドカーペットを踏み歩いていく。
 明日菜を自分の背後に下がらせ、太陽は氷室が身構える前に攻撃呪文――フォノンを撃ち放つ。
 持ち得る魔力を込めて放った火炎球が直進するのに対し、氷室は回避の動作無しに背負っていた大剣を抜刀。剣を盾に身を守った。

「俺のフォノンが弾かれた……!?」
「ほぅ。なかなか強い球じゃないか。上出来だ。このレベルなら良い兵士に成れるかもね。――平社員クラスだろうけど」
「来る!」
「【ブリザロン】!」

 言い切って氷室はそのまま左手を前に、掌から氷の球を発射する。長剣を握って構える太陽だが――。
 塊は太陽を擦れ擦れで通り過ぎ、後方で爆発を巻き起こす。

「えっ……!?」

 今の術……立ってる位置があと少し横にずれてたら直撃してた。右腕が一瞬だったけど冷たく感じた。
 否、あいつはわざと外しやがった。俺を試したんだ。

「おっと、つい手元が狂ってしまった。怪我をしていたならゴメンね、若き学生君」

 なんなんだ、今のは!?
 ブリザロンなんて演習で何度も見た。けど、こいつのは違う。こいつが撃ってきたそれは大きい塊のようだった。
 あんなものを複数撃てるっていうのか……!? あれで初級呪文……!?
 有り得ない! ふざけている!

「ボクを相手に頑張ろうとしているんだろうが敢えて言う。残念だが、きみに勝機は無い。そして此処に立った以上は生きて帰ることすらもできない。きみは国軍になるべくしてぼくにやられるんだ。学院生のままね」
「ソル、逃げるなら今しかないよ! ソルじゃ貴族には勝てないよ!」
「……ったくどいつもこいつも五月蝿いな金持ちってのは。勝つか負けるかなんてなぁやってみなくちゃわかんねーだろ!」
「太陽……確かそういう名前だったね? 勇気と無謀は別だ。今のきみはその後者。愚考だよ。明日菜さんも身を案じて言ってくれてるんだ。彼女に免じて命だけは取らないでいてあげるから、早々に帰り給え」
「帰るかっ!」

 再度太陽は火炎球を氷室に向けて撃つ。今度のは一発目よりも全力で放ってやった。
 火力も強い! これなら!

「うああああぁぁぁっ!」
「やった!」

 直後。火炎球は氷室を直撃。同時に立ち込める爆風が彼の立っていた場所を取り巻く。
 明日菜、今のうちに。
 逃げる準備にと、太陽が明日菜の手を握ろうとした。
 ――刹那。

「っ!?」

 明日菜の眼前でそれは起きた。
 突如煙から飛来してきた五本の氷の刃が太陽の体へ突き刺さる。突き刺さるとともに太陽は苦悶の声をあげて倒れこんでしまった。
 飛来した瞬間、射程距離にいた明日菜を庇って太陽が変わりにくらったのだ。

「がああああぁぁぁぁぁっ!」

 痛い……痛いぃっ……! 腕や脚に刺さった氷の刃が自分自身を痛めつけている。流れる血とともに蹲る太陽。
 激痛に悶える太陽を無視し、煙の中から現れた氷室は紅色のコートについた埃を払い、冷静な顔で右人差し指を顔に近づけて言の葉を紡ぎ出した。

「きみの魔力を数値で例えるなら……そうだな。一発目が20。二発目が40。計60だ。ボクはその上だ。一発目が100。さっきの二発目が20×5で計200。たった大きな違いだ。二発目を撃つ際にきみは躊躇した。此処を潰すかもしれない。ボクに当たるかもしれないとね。今の術に有りっ丈の魔力を注ぎ込んで放っていたら、手傷くらいは負わせられたものを……惜しい事をしたねぇ」
「……っ!」
「まだ気付かないか? まだ感じないか? ただの学院生が現役国軍に敵うわけないんだよ! 身の程を弁えて帰るんだ、痛い目を見る前にね!」

 嘲笑う氷室。
 駄目だ。こいつとはレベルが違う。だからといって逃げるわけにはいかない。外に零土と鳶がいる。巻き込めない。自分が繋ぎ止めるしかない!
 立ち上がろうとする太陽の前に、明日菜が止めてと前に立つ。

「おや、何の真似だい、明日菜さん? 目の前に立たれると危ない。退いたほうがいい」
「私の友達になんてことするの!? これ以上酷いことをするなら私あなたを許さないから!」
「金持ちに友達が必要か? 明日菜さん? もともとボクたちは平民とは程遠い存在だ。息を吸うことも同じ空間にいることも、苦しみを分かち合うことさえも永劫叶わぬものなんだよ」
「ソルを悪く言わないでよ! ソルは独りぼっちの私でも一緒にご飯を食べてくれた! お金持ちだから関係ないって私に毎日『お早う』を言ってくれた!」
「やれやれ……頭の悪い女だなきみは。見てみなよ、明日菜さん。この男は平民だ。平民――ボクたち貴族とは身分の低い下劣な存在。下品な存在。汚物。ボクを普通の人間と侮ったばかりにこのザマだ。そんな脆弱な驕った心で、生涯きみを守ることなど出来はしない」
「……」
「きみの運命は最初から決まっていたも同然なんだ。きみには生涯伴侶さえいればいい。友だと? 笑わせるな。きみに支えなど不要だ! きみはボクの言いなりになれば良いっ! そうなる運命なんだ! クハハハハハハハハ!」

 氷室の醜く歪んだ笑みに目を遣り、歯噛みする太陽。太陽の隣で明日菜も双眸から悲哀の涙を流す。
 太陽は許せなかった。
 こんな男が明日菜と一緒になることがとても許せなかった。
 何よりも、結婚しようって時にその相手を――明日菜を泣かせたことがとても許せなかった。
 あの顔をぶん殴ってやりたい。けれど氷が腕や脚に突き刺さっていやがる。
 腕に力が入らない。
 こうなったら、天国の父さんと母さん、何所かにいる青空兄ちゃんにでも頼んでみるか。

 父さん。
 母さん。
 兄ちゃん。
 あとほんの少しだけでいいから――俺にこのくそ野郎を殴る拳を下さい!

 直撃した体を引きずって、太陽は突き刺さった氷の刃を引き抜いて掠れた声で明日菜に告げる。

「あ……すな」
「? なぁに、ソル……?」
「明日菜……俺には親がいないんだ。帰る場所も無い。何故なら、自分と兄ちゃん以外の人が皆死んじゃったからだ」
「――っ!?」
「自分の非力で大事なものが無くなってしまうくらいなら俺は一生誰とも関わらない。そう思ってた。けど、今は違う。学校に入って鳶と零土に会って、お前と出会って、少しずつだけど、人を信じられるようになってきた。だから俺、お前とも友達になれる。そう信じてるから」
「あまり口を開かない方がいい。術の直撃が、きみの体にも響いてる筈だ」

 黙りやがれ。太陽は氷室にそう告げると、更に言の葉を紡ぐ。

「俺はお前ほどこんなデケェ家に生まれたわけじゃない。特別勉強も運動も出来ねぇ。ただ棒っ切れ(剣)振り回して生きてきた腕白小僧だ。けれど」
「けれど?」
「昔、父さんや兄ちゃんに言われたことがあった。何があっても忘れない一言だ」
「……それは何?」
「――『守るべき者さえ守らずに逃げる。大事なものに手を出した奴に拳一つも振るえない。そんなくそったれな男にだけは絶対になってくれるな』って! そう言ってくれたんだ! だからさ!」

 目の前の氷室なんて関係ない。笑い話になったって構わない。太陽は泣いている明日菜の顔を笑顔で見据えて。

「ほんの少しでいいから! 少しずつで良い! もっと俺たちを信じてくれ! 俺、もうお前が泣かなくていいようにこれからも強くなるからさ! こんなクソ野郎なんかに負けないでくれよ!」

 そんな太陽の必死な言葉を否定して嘲笑するかのように、氷室は唇に手を添えて微笑する。

「ククククククッ。何を言い出すかと思ったら、きみのどうでもいい苦労話か。お涙頂戴は要らないよ少年。所詮平民と貴族は相容れない存在だ! 生きる空間さえも違う! さぁ、明日菜さんを渡して消え給え!」
「てめぇなんかに明日菜は渡すかボケ! お前がくたばりやがれ!」

 くたばりやがれ。太陽のそんな言葉に、氷室は薄ら笑みを作ると、真剣な眼差しになって。

「そうか……。ならばこの術で爆ぜ死ね! 愚か者め!」

 カッ!
 水色に光り輝く氷室の右手。先程のブリザロンより輝きを増している。太陽と明日菜も悟る。とてつもない一撃が来るのを。
 明日菜が危険を察知し防御呪文を唱えようとするが、太陽は詠唱の時間が無い、駄目だと悟る。
 その直後。


「【ブリザ・マラン】!」
「たっちゃん!」「太陽君!」


 ガチャン! ゴゴゴゴゴッ!
 鳶と零土が扉を開け、部屋に入った直後。氷室の術が発動。直線状の吹雪が太陽に襲いかかる。
 自分が下がったら明日菜だけじゃない。二人に被弾する。
 避けられない状況の中で、鳶は意を決し、自分が背負っていた剣を抜刀、柄を片手に太陽へと伸ばす。

「いけ、たっちゃん!」
「応っ!」

 術の発射と同時に、太陽が咄嗟に距離を取った刹那。
 鳶に渡された剣――火炎剣を手に取り、太陽は柄を両手で握って眼前の術を見据える。

「終わりだ! 平民!」
「こいつをぶった斬りやがれええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 重たいながら太陽は両腕を振り絞り、力いっぱいに剣を縦に振り下ろし。





「――【紅蓮斬】っ!!!」
「何っ……!?」





 ゴオオオオオオオオオッ!
 剣先から迸る火炎の一撃で、直線状の氷を正面から一閃。太陽に触れる筈だった光線は真っ二つに分かれ、それぞれ後方で炸裂した。
 勢いを殺さない剣先から燃え上がる炎。それを見て氷室も心中で呟く。

「馬鹿な……ブリザ・マランをたった一太刀で……! オマエは一体何者なんだ……!?」

 完全に隙の空いたのを悟り、術を斬り裂いた勢いで太陽は氷室の顔面目掛け――。
 ドゴォッ!
 ストレートは氷室の右頬を捉えた。太陽はそのままアッパーカットを繰り出す要領で氷室を吹っ飛ばそうとする。
 反撃に氷室が繰り出した左脚の蹴りに、太陽は腕をクロスして身を守った。
 すぐさま太陽から距離を取る氷室。殴られた右頬を拭い、不気味な笑みとともに太陽に口を開く。

「ひひひ……ひひひひひひひひひひっ! 今のがオマエの全力かぁ? ボクの顔を殴った上にお気に入りのコートをこんなにまでしてくれて――ったれが」
「?」
「ふざけてんじゃねぇぞくそったれがあああああ! 何糞平民の分際で調子に乗ってくれてんだああああああああ!? 何が守ってやるだ!? 一人じゃ何も出来ねぇ屑の集まりが! 平民は平民らしく、金持ちの道具として扱われていればいいんだ! オマエ如きボクの相手じゃねぇんだよ!!!」
「――ソル逃げてええええぇぇぇ!」
「遅せぇんだよヴァカがああああああああああ!」

 氷室の剣先から放たれた水が氷の龍へと形を成し、一直線に太陽へ襲い掛かる。
 もう魔力も残っていない。逃げる為の体力も残っていない。
 死ぬ。
 そう思った次の瞬間。

「【大・防壁(ガ・ドン・プロテクト)】!!!」

 突如太陽の前へ展開された大きなガラス状の壁。勢いを殺せないまま氷の龍が壁へと衝突し、破砕音を立てて崩れ落ちる。
 剣を杖に立ったまま背後を向くと。
 霜月轟嵐――明日菜の父親が左掌を前に出したまま現れる。
 壁が音を立てて破砕するとともに、氷室が口を開く。

「こ、これはこれは。な、何のご冗談でしょうか、轟嵐殿?」
「わたしは、明日菜の友達を侮辱した者に帰れと言った。――きみに言ったんだよ、氷室くん」
「お父さん……? 式場に行ったんじゃ……」
「ウエディングドレス似合ってるよ明日菜。なぁに、少し手洗いに行ってくると滴(しずく)に嘘をね。そしたら、わたしの不在中にどうも面白い余興があったらしいじゃないか、うん?」
「な、何故にボクが!? ボクと貴方が手を組めば、瑠王学院も朱皇学院も来年には多くの新入生が来る! 国軍とて今のままではいずれ零落していく! もっと力のある人材を摘出して――」

 氷室の必死な弁舌に対し、轟嵐は薄ら笑んで一言。

「零落するのはきみの家だよ」
「……っ!?」
「この子が勇気を出して言ってくれたよ。――『結婚したくない。皆と卒業したい』ってね。物乞いをしなかった明日菜が始めてわたしに申し出てくれたのだ」
「そ、それが何だというのですか!? ボクは明日菜さんを好きだ! 彼女の我侭に付き合ってはいられない!」
「自分の家の為に我が娘を利用するというのなら、わたしは自分の娘を嫁には出さない。きみに明日菜は渡さない」
「くっ、お、お言葉ですが轟嵐殿……。貴方は既にボクの父上と協定を結ばれている筈だ。今更協定破棄など許されないはずですが?」
「わたしがいつ判を押した? わたしがいつ結婚させようなど決めた?」

 轟嵐は右人差し指をつき出して、更に言の葉を紡ぎ出す。

「わたしはきみの父君と交換条件を出した。きみと明日菜との結婚に乗り込んでくる者――異議があるものが現れなかった時、その時明日菜をきみに渡そうと、事前にね。だが結果こうしてお友達が来てくれた。実に命懸けだったよ。失敗したらどうしようかと不眠症にもなったぐらいだ」
「うっ……嘘だ……! 父上がそんなこと……!?」
「そして最後に――これも賭けた」

 轟嵐が左拳を宛がった場所は――心臓部分。氷室もすぐそれを悟った。

「命……っ!?」
「そう。わたしの命だ。明日菜をきみにくれてやるぐらいならきみに殺された方がマシだと、この命を賭けることにした。霜月の当主となり財政を担うのであればこの程度のことは造作もないはずだ、そう思っていたのだが、どうやらきみにはそれほどの勇気はなかったようだね」
「ぐっ……!」
「ひっ捕らえろ! この男に、二度と霜月の敷居を跨がせるな!」

 轟嵐の力強い言葉と同時にボディーガードの男が4〜5人現れ、氷室の体を羽交い絞めにする。「離せ離せっ!」という氷室の言葉など無視して、ボディーガードは氷室を外へと連行していった。
 それを最後に、鳶に抱えられながら太陽の意識は途絶えるのだった。




「……此処は?」
「おお、起きたようだね」

 辺りを見渡すと随分と豪勢で広い部屋だった。赤い絨毯に天井に飾られたシャンデリア。
 そして――目覚めと同時に映った中年男性。太陽は直ぐにその人物が何者なのかが判った。そして今いる場所――霜月家内にいることも。

「――っ! あっ、あああ明日菜のお父さん……!?」
「ああ良かった。返事をしても起きないから『ただのしかばね』になってしまったのかと思ったよ」
「い、いや何故そのネタを知ってるんです!? アルスのお母さんですか!?」
「『死んでしまうとは情けない』の方が良かったかい?」
「お父さん、本当はドラクエめっちゃ遣り込んでたでしょう! じゃなきゃ言わないもの!」

 咳払いして気を取り直すと、太陽は素早く本題に移る。

「どうして、助けたんですか? 俺――否、僕は平民ですよ? 彼女とは住んでる世界が違う。助ける必要なんて……」
「明日菜の大切な人を、どうして突き放すようなことをするのだね? 明日菜の大切な婚約者だ。丁重に持て成さなきゃいけない」
「……? 婚約者? いや、婚約者なら氷室ってやつが」
「あんな奴ではわたしの老後を任せられん。きみにこそ適応してる」

 なああああああにいいいいいいっ!? ここにきてまさかのハイスピード展開!? どゆこと!?
 今何て言った? え? 明日菜の婚約者? 俺が……明日菜と結婚って!?

「ちょ、ちょっと待ってください? 何故に僕なんです? 平民と貴族が結婚するのは絵本で知っていますけど、幾らなんでもその真似は……。それに、追い返して良かったんですか? 明日菜の婚約者だったんじゃ……」
「だあああれがあんなケツの青い小僧なぞにわたしの可っ愛い娘をやらにゃいかんのだ! 明らかに明日菜の体目的だったに違いない! 絶っ対にそうだ! 父親の勘だ! そうじゃなきゃわざわざ明日菜を選んたりなんかしないもん!」
「えぇー……」

 すげぇ。お父さんが『もん』って言ったぞ。ごつそうな体で厳格そうなイメージとは正反対だな。
 反応に困る太陽をよそに、轟嵐は話を続ける。

「それに、わたしはきみになら明日菜を任せられると信じている」
「どうして僕なんですか?」
「――明日菜は幼い頃から人見知りで、唯一の話し相手と言えばわたし達両親か、長女の瑠華しかいなかった。みんなでそんな明日菜を励まし合ったものだ」
「……っ」
「けれど最近、明日菜が楽しそうに学校の話をしているんだよ。その大半の話が――太陽くん、きみだ」
「僕ですか?」

 頷いて轟嵐は続ける。

「明日菜はきみの事を喋る時だけとても活き活きしていた。お弁当の話や勉強の話、今日来てくれた零土くんや鳶くんのことも。あんな明るい明日菜は初めて見た。きみは名前の通り、娘に太陽を与えてくれた。だから、わたしはきみにはとても感謝している」

 轟嵐は太陽の顔を見て微笑むと同時に――。

「娘を――明日菜の事を、これからも宜しくお願いします」

 四十五度頭を下げる霜月家当主様。太陽も急いで顔を上げて下さいと彼に懇願する。
 明日菜。お前、本当家族に愛されてるな。羨ましいよ。俺の父さん達にも紹介したかった。
 そう悟り、太陽は轟嵐を見据えて頭を下げた。

「――こちらこそ、宜しくお願いします」





「今日は……本当に有難う、ソル。私、正直もう駄目かと思ってた」
「いいよ。お前が無事で良かったよ。結婚、しなくて本当に良かったな」
「うん」

 笑顔を見せる明日菜。やっぱ苦労した甲斐あったな。良い事をした後はスッキリして良い。
 嗚呼、また明日菜を見る度に胸が苦しくなってる。目を合わす度逸らしてしまう。
 結局……俺はこの子の事を……もうこうなったら勢いだ!
 太陽は想っていた事を全て明日菜に言い放つ。

「俺、お前が結婚するって知った時正直取られたくないって思って、体が勝手に動いてた。お前と会う度に心臓もドキドキしてた。それってさ……多分俺、お前の――」

 刹那。
 太陽の口上を遮るかのように、明日菜の顔が太陽の視界いっぱいに広がる。
 口元に柔らかいものが触れている。同時に温かい。そして鼻腔を刺激する、彼女の髪から香るイチゴの甘酸っぱい匂い。
 太陽は赤面ながらすぐそれを悟った。

 ――自分が彼女にキスされたことを

 離れる明日菜の唇。突然の出来事で身動きできない太陽に、明日菜は恥ずかしながらに叫んだ。

「わ、私これファーストキスだったから! ソルが初めてだったから! せ、責任ちゃんと取ってね!」
「俺も、は、初めてだから安心して! 責任も取るから! 絶対!」
「初めて……! ソルも初めて……! へへへへへ」
「明日菜も初めて……明日菜も初めて……ハハハハ」

 二人向かい合い、目を合わせてもじもじしているのをよそに、零土と鳶が手を振って呼びかける。

「じゃあまた明日学校で会おうね、ソル」
「ああ。また学校でな」
「? 明日菜ちゃん、ソルって何?」
「ソルはソルだよ。太陽のあだ名みたいな?」
「おいおいたっちゃん。いつの間にそんなお近づきになったんだぁ?」

 鳶が苦笑いで太陽に言い寄る。
 零土も「へぇー、なるほど」と小言を呟いた後。

「じゃあ僕もこれからソル君って言おっか」
「零土!?」
「僕としてもしっくり来ると思うから。宜しく、ソル君」
「俺はいつも通りたっちゃんって呼ぶわ」
「バイバイ、皆〜!」

 鳶の言葉を区切りに、太陽達三人は霜月邸をあとにした。
 今日は災難だったな……。怪我だらけだった。明日先生に何て言おうか。
 けど、氷室みたいな悪いやつから明日菜を守るには、俺も強くなくっちゃ駄目だ。今日のでわかった。
 鳶以上に。零土以上に。
 そんなことを考えていた帰り道、太陽はふと鳶に話しかけられる。

「霜月、明日も学校来たら良いな」
「うん」
「それはそうと、大変なことをしてくれたなたっちゃん……」
「? な、何が?」
「ちゅーだよ。霜月とのちゅー。俺たっちゃんの後ろで見てたから」
「〜〜っ!?」
「ファーストキスはどんな味だったんだ!? ブルーハワイか! 苺か、檸檬か!?」
「べ、別に何味だったなんてどーでもいいじゃんか!」
「でもソル君。ファーストキスはブルーハワイって話じゃなかった?」
「なんでだよ! 普通イチゴ味だろ、甘酸っぱいの! キスした時もそんな味だったよ!」

 自分で告げ、太陽はしまったと後悔するも既に遅く、零土と鳶は自白した太陽をほくそ笑んで見ていた。

「墓穴を掘っちゃったねソル君」
「白状したなたっちゃん」
「お、お前らああああぁぁぁぁ!」
「うおおぉぉ、逃げろ零ちゃん!」

 合図とともに、鳶と零土は太陽から逃げるように走っていき、太陽もそんな二人を追いかけ出した。

「それからこの剣、お前のじゃないのかよ鳶! これ返すよ!」
「良いって! それ俺からプレゼント!」
「こんな高いもん受け取れるか!」
「出世払いで返してくれたらいいから、大事に持っとけよ! それがあったら霜月守れるだろう!」

 走りながら鳶は夕陽を背に太陽へ笑みを見せた。
 対して太陽も「ありがとう」と鳶に小さく礼を言って帰り道を歩いていた。





「日野神太陽……か。私も戦ってみたいものだな……」

 ふとガラス越しの太陽を見た、澄んだ銀色の長髪と紫電の如き眼光。右腰に差した太刀――宗次。
 彼女こそ太陽がのちに出会う明日菜の姉――霜月瑠華だった。
メンテ
風の忘れ形見 ( No.73 )
   
日時: 2012/01/28 15:46
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:EEBCdLoA

 耳が裂ける。舌が飛び出す。脳が弾く。
 手足は地面に縫いつけられたように動かず、ただ上の空で風を受け流すことしかできなかった。
 風の音を聞き分けられない。冷たい風に当てられどこもかしこも麻痺している。風で送りつけられる大量の情報を整理できない。
 窓のないコンクリートに固められたこの一室。天使たちの使う魔法で発生させたためだからか。風の発生源があるはずのないこの部屋で、さまざまな風が横行していた。
 ただそこに存在するだけのもの、明白な敵意を持つもの、悪意を持つもの、同情で構成されたもの、ある天使の町での情景、会話、山に現れたという新種の魔獣の姿、海に溢れる幸に紛れる。そして、たまに外部から混じる、久しく忘れた喜びが入り乱れる。
 この天界中の風が、一点に集められようとしていた。そして、それを全て受け止めないといけないのは私。
 何の理由もなく、部屋の隅を見やることしかできなかった。痛みはすでに麻痺し、今だって自分がちゃんと呼吸が出来ているのさえ怪しかった。

 私はあの時からずっと監視されている。
 しかし、どこか離れたところから私を監視しているであろう天使たちの姿を、一度も見たことはなかった。あえて上げるのであれば、ただ一人。その《天使たち》の中にいるであろう者を一人だけ、知っていた。彼は私の村にあった、たった一つの診療所にいた天使。
 
 風に当てられ、ずたずたにされたこの身体も。いよいよ重大な危険信号を発し始めたようだ。この部屋一面に、血は飛び散り、既に変色しているものも多く。私が寝ている間に処理でもされたのか、コンクリートに染みついた幾つもの嘔吐物の跡を見つけることができる。水が欲しかった。そして、せめて休養が欲しかった。もういっそうのこと、死にたかった。もういやだと、本能が告げる。
 身体が痛いのは嫌だ、頭だってあり得ないほどの情報に見舞われパンクしそうだ、実際に破裂しかけている、それにもうこの身体はいやだ。たとえ、何度最低限の施しを受けようとも、それら全てを受け入れるだけの諦めは持っていなかった。作り替えられようとしている私。この身体だって、何度も何度も《元に戻る》度に違うものへと変貌していっているように感じていた。

――そして、次の瞬間起こるのは。
 鼓膜は再生、風に当てられ傷だらけになった耳は形を取り戻す。舌は形を取り戻し、動くように。熱を手に入れ、身体を操作するための主導権を取り戻す。そして、何よりぎゅうぎゅうに押し詰められていた風の主張が弱くなる。一番の苦痛を伴う、有無をいわせない情報の提示が滞る。
 その一方的な破壊と回復。瞬時に切り替えられるそれに、私は絶えきれなかった。口から漏れた空気は、何とか音として聞き取れるものにすることができたが、またすぐに声だって出なくなる。そして、この回復を機に、私は空っぽの胃の中身をぶちまけようとする。床に確かに手をつき、下を向く。身体に蓄えられている空気と共に、全てを吐きだしたかった。けれども、唾液だけが溢れ出し、胸に凝りとなって存在する嫌悪を吐きだすことは出来なかった。生理的涙もまた流れ、ただ苦しいとしか感じることはない。そして、再度始まる破壊。最終的な目的は《完全体な風》であったとしても、その過程で起こる破壊。そんな強引な方法を選んでいることから、この監視者たちの余裕のなさを感じた。
 そして起こる、全身を針で貫かれるような鋭い痛み。非情にも繰り替えられる、その想像を絶するようなつらさに、泣き叫ぶことも助けを呼ぶこともできなかった。この私の受ける仕打ちがいつまで続くなんて露とも知らず、だからこそ死にかけようとも、無駄だと分かり且つ余計な体力を消費することもしたくなかった。ただそれは、過去に諍うことさえ許されないと、身をもって実感した後のことだった。
 肉体的にも精神的にも疲れ果てた私でも、呻くことだけはできた。その行為は、何の力を持つこともない抵抗。ただ、その声だって状況によっては発せない。特に、こんな望んでもいない強制的な回復を施された後は。
 死にたい、としか。その言葉のみが頭に蔓延する。そして、その周期の度にどこからか、私に掛ける声が現れるのだ。

「生きる理由を思い出したかい」

 その声は、全ての元凶。
 この道を指し示し、ある意味私を救った天使だった。

「……例え限界が来ていたとしても、終わることを他の天使たちは許してはくれないよ。それにキミだって、それを望みたくはないんだろう」

 しわがれた声。そのテノールは聞き覚えがあるせいか、どこか心地良かった。
 しゃがれた風。その天使は想いを流失させているせいか、風に乗って私に伝わるものがある。

 そうだ、私はこんなところで死ぬわけにはいかない
 家族を、風と分類される種族の全てを背負った日からずっと。

「わたしが、しんだら……。もう、おぼえてる、なかまも、いないから」
「……――よかった、思い出せたんだね。なら、後もう少しの辛抱だ」

 天使の言う《もう少し》がいつなのか、全く見当はつかなかった。
 それでも、いつか。この苦しみから解放され、全ての風を背負うことに成功したそのとき。私は自由になれるのだと信じて、瞳に光を受け入れる。
 そのときは、今は大嫌いな風も共に。


 ■-several years ago-■

 吹き荒れる風。打ち付ける雨。大きく唸る河水。
 まるで、自らの意志を持ったように暴れ回る自然に、その村の妖精たちは一族滅亡というものを連想させるまでに追い詰められていた。
 体験したことのない危機。たとえ妖精たちに寿命がないといっても、死なないわけではなかった。むしろこの天災に巻き込まれば、彼等にとって死ぬこと以上に好ましくない状態に陥る。

 生まれ落ち、ある一定の年齢まで成長すると、それ以上顔に皺が刻まれることの知らない妖精。彼等がこの世――天界――から去るためには、二つの方法があった。
 一つは、その妖精に関わった者の。全ての記憶から人為的に存在を消したとき。そしてもう一つは、彼等自身が《もういいや》と思い、どういった状況であれ、自分たちの周りに存在する風に溶け込もうと心を静めたときだ。
 そして、《死》を選ぶ場合。後者を選ぶ妖精がほとんどだった。人生を満足いくまで息来たとして消滅することが、自然だとされたのだ。
 だからこそ妖精たちは、この天界の裏側に存在する人間を模すことを好んだ。年が経つにつれて、自らこうであるだろうと思われる姿に変わり。孫が産まれ13年が経てば、この天界を去る。つまり、自ら死を選ぶ。安らぎを求めて、ただ穏やかに想いを残す。
 だが、何の変化もなく過ごすことなどできないに等しかった。不慮の事故は必ず現れる。この天界において、争いだって絶えない。どの種族にも共通する致命傷をおえば、妖精だってこの天界に存在し続けることは難しかった。
 昏睡状態、または自ら仮死状態へと陥り、自ら生きることも死ぬこともできないという最悪な状態へと移行する。誰もがその妖精のことを忘れ去るまで、決して肉体が滅びることはない。
 それを避けるために、やはり普段から無茶なことをしようとはしなかった。寿命に関しては裏側に存在する人間や、この天界に住まう他の種族と同等の振る舞いを指標としたのだ。
 
 そんな一つの危機の中。雨に打たれ、身動きのとれなくなった子は声を張り上げる。
「おかあさん!」
 幼いがために、未だ風を制御できていなかった子。彼女は母を求めて叫び出す。
 村の近くの川が、この嵐によって増水し、溢れ出すことを恐れてその村の妖精たちが避難をしていたときだった。
 小さな妖精は、自らが操るべきの突風に吹き飛ばされ、妖精の列からはじき出されたのだ。
 雨除けのフードは頭から落ち、ぱたぱたと激しく波打つ。そして、その下から現れたのは、色素の薄い緑髪と恐怖に歪められたその表情。まだあどけない顔立ちをしているというのに、全身全霊で表されたその恐れは様になっていた。凍りついたように、ぴくりとも動かない頬。更には引き攣っているがために、口元は軽く開かれたまま、それ以上の助けも求められなかった。悲痛に歪められた緑色の瞳はその姿を保ったまま、大きく揺れる。
 そして、母親はその子に手を伸ばす。
 疾うに空へ放り投げられたその子を引き戻すのは、風の妖精といえども容易ではない。それに、この嵐だ。母親は「助かるわけがない」と周りの妖精に目で促された。それでも母親は手を伸ばし続けた。それこそ、その子の姿が見えなくなるまで――。母親は血を分けた自分の子がいなくなるなんて想像することさえも、絶えきれはしなかった。だが、そんな彼女の行動は無駄に終わる。風に加えて、雨までもが脅威となって妖精たちを襲っていたのだ。その場に踏みとどまることだけが限界だった。それに、これほどの強風であれば、一人で風を制御できる方が規格外なのだ。一人一人の力は、本当に弱かった。そんな風の妖精たちは、自分たちの無力さを嘆く。
 そして、この豪雨の中。
 妖精たちの耳は、確かに何かが川に落ちる絶望的な音を拾い――

――その直後のこと。

 誰もがその異変に気づいた。
 未だに暴風は止まず、フードの下に隠れているはずの髪も暴れている。先ほどまで雨に晒されていたために、コートの裾を掴んでいる手先はかじかんでいる。
 だが、それだけ。

「……雨が、止んでる?」

 そうなのだ、先ほどまで吹き荒れていた雨がぴたりと止んでいたのだ。
 川から溢れ、村を襲おうとしていた濁流も公然と姿を消している。
 それに気づいた母親は、次の瞬間、衝動的に駈けだした。
 子の名前を叫ぶ。母親は声を張り上げ、避難するために向かっていた丘への道から外れる。そして、子を探すために川沿いまで降りてきた。その際、ただ走るのではなく、先ほどまで牙をむいていた風を味方につけ、大きく跳んだのだ。いくつかの木々を飛び越え、何度目かのジャンプで母親は川の中へ足を突っ込んだ。音と共に大きな水飛沫が上がる。しかし、雨によって既に全身が濡れていた母親は、そんなことを気にも留めなかった。ただ、視界を遮りそうになった水だけを煩わしそうに仰ぎ、濡れること自体には何の感懐も抱かない。
 日照りの続く日よりも、はるかに水位は低い。風の妖精にとっての恐怖のほとんどは、風以外のもの。今は風だけが存在している。一つの要素だけであれば、まだ自分の力を使いこなせない者でない限り、自然から自分の身を守るなんてたやすいことだった。

「おかあさん!」
 息を切らしていた母親は、その聞き慣れた声に勢いよく顔を上げる。そうして、先ほど飛ばされた大切なその子が無事だと確認できたのだ。安堵の笑みを漏らす。しかし母親は、発しようとした言葉を飲み込み口を閉じた。子の隣りに佇む、一人の女性に目を留めたためであった。
「あなたの、お子さんですか?」
「…………ええ、そうです」
 緩やかな微笑みを向けられる中、母親はぶっきらぼうに返事を返す。見知らぬ女性は、娘の身体を支えるように、その肩に腕を回していた。
「……娘を助けてくれてありがとうございます」
「いいえ」
 母親は、目の前の彼女への警戒を解こうとはせず、しばらくの間見つめることに徹していた。しかしその行為は、痺れを切らした子の一声で終わることになる。
「おかあさん! あのねっ、このひとが助けてくれたの! 水ががぶがぶーってなって、しぬかと思った。そのときに、助けてくれたの!」
 その子は風の中。足の付く深さまで減少した川を走り、母親の元へ一直線に駈けた。
 そうして笑うのだ。
「あのね、あのねっ! このおんなのひと、たびひと――たびびい……たいひと……あれ? と、とりあえず、お外のせかいからきたんだって! きょう、お外でとまろうと思ってたみたいなの。だからっ……うちに泊まらせてくれないかなあ……?」
 先ほどまでの恐怖を、ころりと忘れたような子の様子に母親は苦笑した。そして、その無邪気な宝物を抱きしめ、目の前にいる女性に声を掛けた。
「あなた、名前は?」
「ロキと申します」
 彼女は間髪を入れずに名乗ったものの、意表を突かれ、その特徴的な深青の瞳を瞬かせた。そして、先ほどまでの警戒心を微塵も感じさせなくなった母親を、物珍しそうに眺めたのだった。



 少女の家にロキが住み始めて、早くも一ヶ月が経った。
 少女はロキによく懐いた。それも母親が少し嫉妬をしてしまうほど。それほど懐き、その光景を目にする者にたくさんの笑顔を与えた。
 そしてロキは少女に外の世界の話をした。様々な想いを語った。水を操り得たものを見せた。
「思い出は、本当に大切です」
「あれだけは、一生の宝物。決して手放すことを良しとしない。どんなことが起ころうとも、わたしはずっと、この手に握りしめておくことを望みます」
 その記憶に関しての話。どうしてそういった話をしてくれていたのか、その経緯を少女は覚えていない。けれども、その植えられた種は近々芽を張ることになる。

 そんな毎日を繰り返して。話として、大きなものを経験した少女。
 ある時、そんな彼女がロキと共に家に帰ると。そこには大勢の妖精たちが集まっていた。
 少女とロキに気づくと、刺々しい視線を投げ掛ける妖精たち。その心境に何があったかなんて、明白だった。
「――診療所の先生がおっしゃっていたわ。貴方、水の妖精っていうの本当?」
 誰がその言葉を発したかなど、少女には分からなかった。その凍っているように動かない雰囲気に圧倒されていたためだ。
 診療所――この村に唯一存在する、安らぎを与える場所――。そこには一人の天使が住んでいる。
 そして彼の仕事は、妖精の記憶を消すこと。そんな彼の発言は、天使であるという事実によって、妖精たちに疑う余地を与えない。
 無言で佇むロキ。妖精たちは、その沈黙を是だと判断した。
「出て行きなさい! 今すぐ、この村を!」
 母親は真っ赤な顔で声を張り上げる。昨日までの、あの暖かい笑顔が信じられなくなるほどの豹変ぶりだった。少女は驚き、ただ呆然と立ちつくすことしかできない。
「あいつは水の妖精だ! 今確定した!」と張り上げる声が聞こえ、その後大きなどよめきが起こる。
 妖精たちからロキへと向かう感情は、にがにがしいものばかりになるのだった。
 ロキは何も言わず、その俯いている顔から表情を見つけることはできなかった。
 少女はロキの側に寄ろうと手を伸ばすが、母親から伸びた腕に制止される。

 そしてロキは村から出て行った。
 一言も発することもなく、ただ寂しそうに。
 その時の表情がひどく儚げなものだったと、少女は記憶する。


 後に、少女は風の妖精たちが荒れた理由を知った。
 たった一つだけ。ロキが水の妖精であるということによる。
 それも十年ほど前、消滅した水の妖精の唯一の生き残り。
 この風の妖精たちは、そのほとんどが村から出たことがなかった。そのため、消滅した水の妖精の村と関わりを持つ者などいなかった。だからその村の《妖精》は知られず、けれども《消滅》したという事実だけが知られた。
 そんな彼女は、この村に存在した数々の水を自由自在に操り、思うがままにする能力を持っていた。普通の妖精であれば、その力を何倍にしてもロキの持つ力に満たないというほど巨大なものを。風の妖精でも、火の妖精でも、土の妖精でも、たとえ今は存在しなくなってしまった水の妖精だとしても。これほどの力は通常持たないものなのだ。
 だからこそ。その膨大な力を持つ彼女だからこそ、ロキが過去に何をして旅人となったのか。風の妖精たちがその経緯を捏造し想像することはたやすかった。
 そしてそれが大きな恐れへと変わっていくのにも、時間はいらなかった。

 ■

 少女の母が死んだのは、水の妖精がその村を去ってから、しばらくしてのことだった。
 村に小雨が迎えられていた日。母親は川に落ちたというのだ。何ヶ月か前に嵐と共に牙を剥いていた川。しかし小雨であるため、流れも普段と特別に変っておらず、水位だって足がつくほどの高さだった。それなのに、溺死。そのため、そこに少女の母親の意志も働いていたように思われる。

 
 ロキが去って数日間。少女は寂しさを感じていた。家には母と二人。昨日までは、昨日までは……と少女は思い出を探る。今まで側にいた誰かが、突如いなくなるという物寂しさは、孤独感となって少女に襲いかかっていたのだ。
 ただ、それだけならばまだ良かった。ロキの正体が村中に知れ渡っている今、彼女のことを良く思う風の妖精は存在しないという現状により、よりいっそう。
 だからよく、少女は口にした。
「おかあさん、あのね。ロキはね」
「ロキはね、ばけついっぱいに入っている水を、どらごんの形にかえたんだよ」
「そのどらごん、じゆうにとびまわって、雨になったんだよ」
「だからあのとき、みっかも、雨がふりつづけたの」
「どらごん、ばけつの水だけじゃなくて、もっといっぱいの水をきゅうしゅうしてたから、とても大きかったから」
「ロキはいいひとなんだよ。すごいちから持ってるんだよ」
 少女の言葉は、水の妖精の味方を増やそうと思ってのものだった。しかし、母親は耳を塞ぐ。他の妖精のように嫌悪を表すのではなく、その存在を否定し続けたのだ。
「ロキは、」「ロキはね」「だから、」「ロキは」
 賢明な少女は、母がロキを恐ろしがっていることに気づいていた。
 気づいてもなお、やめようとしなかった。尋常ではない恐れ方に疑問を持つことだけをし、水の妖精の話を続けた。――その結果、母親を追い詰めてしまったとも知らずに。

 ■

「全てを、忘れてしまいたいほど悲しいだろう」
「だから、全てを忘れてしまいなさい。いいかね?」
 その優しげな物言いに、少女は泣きじゃくりながら頷いた。妖精が《死ぬ》ための条件の一つ、その妖精に関する記憶を全ての者から消し去るという。そのためだけに、村に設けられた一つの診療所。それは天界を制覇する天使がつくったものだった。彼等は妖精を心酔する。彼等は妖精しか持ち得ないある能力を重宝する。しかし、その妖精が動かない屍となり、それでもなお世界の時間から取り残され続けることは、ひどく嫌った。そして、それを除去するための救済策として作られたものが、《診療所》だったのだ。

 そして、このとき。妖精の村に紛れる、唯一の異種が住む診療所へと少女は呼ばれていた。対面するのは、一人の天使。
 冴えない目で、ぼりぼりと頭を掻く天使。妖精と違って寿命のある天使は、その外見と一致する年を重ねていた。中年男性にありがちな、身なりを整えないために剃り残されたひげ。天使はそれを指で摘みながら、まず少女の説得から入っていた。そして、勢いのまま納得したと思われる少女を最後に。今回の、少女の母親についての記憶を消す作業は終了する。
 診療所では、不慮の事故によって二度と動かない妖精を《救う》ことを強要する。それはこの風の妖精たち村内のことだけではなく、全て――火、水、土、風――の妖精の村での掟として存在していた。妖精たちが作り出したのか、天使が診療所と一緒に作り出したのか、定かではない。けれども、それは寿命のない妖精――その決して腐敗することのない肉体――で天界中を埋め尽くすことを恐れてのもので、この段階では双方に不利益は生じなかった。
 だが、この掟とは別に。母を忘れなければならないという決まり事に、少女の感情は置きざりにされていた。ぐつぐつと次第に煮えたぎるものを、少女は感じた。そして少女の思惑とは別に、いつかの洪水の如く、限度をわきまえることなく溢れ出そうとしたのだ。母のぬくもりも、その優しさも、思い出も、いつか帰る場所も、その母から受け取った総てを今から失ってしまう。それが忘却の海に沈められ、もう取り出せないものとなることに絶えきれないと突発的に思ったのだ。

 天使の手が、少女の首筋に添えられたとき、少女は勢いよく俯いていた顔を上げた。そして、声を張り上げ開げ抵抗したのだ。
「――やっぱり、いやだ。わすれたくない。おかあさんのこと、わすれたくない!」
 いやだ! という悲痛な叫びに、天使の手は動きを止める。沈黙が訪れた。
 少女は涙の溜まった目で、天使を静かに睨みつける。次に何をするのか、その目は未熟でありながら見極めようとしていたのだ。
「このままじゃ、つらいんだよ?」
 天使はその少女の行動が不可解なものだと思い、首をかしげた。
 天使は今までに、彼等の中で思い出として生きていた妖精を数え切れないほど消してきた。誰もが思っているよりも妖精は脆いもので、満足に時を生ききる妖精は案外少ないのだ。
 今回の母親に関しての記憶も、その少女が最後となる。
「でも、いやだ! わたしはおぼえていたい! 絶対に、忘れない!」
 力強く主張する少女を一瞥し、天使は手を引き戻した。
 そして、天使は思考を張り巡らせる。そのまま少女の言葉を真に受け、記憶を消さないという選択も。少女の叫びを無視して引き続き記憶の消去を行うという選択も持ち合わせていなかった。その否定的な言葉を聞き、天使は顎に手をやる。そうして、僅かに伸びたひげをさすった。
「僕たち天使に逆らうのかい?」
「なんで?」
 少女の言葉の意味を考え抜いた末、天使は穏やかに尋ねる。そうすれば、いくらか落ち着いた少女は天使に無垢な瞳を向けた。涙で潤んでいるものの、今は敵意や拒絶の色は見あたらない。天使は安堵の息を付く。
「あ、何だ違うのかい。ごめんごめん、おじさん意味を取り間違ったみたいだ。天使に逆らったつもりはなかったんだね」
 少女はその言葉に少しだけ考え込み、小さく「ちがうの」と首を振った。
「どうして、てんしにさからっちゃいけないの?」
 天使は目を見開き、次の瞬間声をたてて笑い始めた。そして、少女の頭を包みこむほど大きな手を差し出した後。くるりと掌の向きをかえ、少女の頭に静かに乗せた。そのときに浮かべた微笑みの中には、少女の知れない複雑な思いが絡み合っている。
「キミは面白い子だね。ああ、なるほど。ただ知らないから」
 自己満足で呟いたもの。そのため、その意味を少女は理解することができない。
「……いいね。そういう子は個人的に大歓迎だ。――キミ、かあさんのこと、ずっと覚えておきたいんだったね?」
「うん」
「じゃあ、これから僕のいうこと。たった二つ、守れるかい」
「わかんない」
「正直で結構。でも、守れるか守れないかはキミの意志次第だ。大丈夫、キミならできるさ」
 天使は、丸椅子に座る少女を一瞥し立ち上がる。そして何を思ったのか、普段は背に隠されたままの羽を勢いよく広げた。普段は背に凝縮して存在するそれに、少女は目を輝かせる。
「てんし、だあー……」
「……そうだよ、僕たちは天使なんだ。純粋無垢で儚さを持ち、幸福を与え、暖かさを兼ね持つというイメージを乱用する天使だ」
 改めて種族の違いを認識した少女に、天使は吐き捨てる。天使でありながら、自らの種族の存在を嘲笑っているかのようだった。
 そして、自分の時間に浸った後。少女のその視線に気づき意識を戻す。優しげな表情を取り戻した天使は、「今の話、誰にも言わないでくれると嬉しいな」と、何とも言えぬ表情で言った。

「そして、さっきの続き」
「一つ、《とき》がくるまで僕たち天使の言うことに決して逆らわないこと。二つ、この村全てを《生きて》背負うこと。できるかい?」
「……わかんない」
 その少女の、困惑したような表情。天使はそれを見て、慌てて言い換えた。いま発した言葉の意味を、少女が理解できていないと悟ったためだった。
「ぼくが《終わりだよ》というまで大人しくしてることと、必ず強い意志をもって生き続けることだけさ。……できるかい?」
「わかんない」
 少女の中に存在していた迷いは、すでに切り捨てられていた。だからこそ、その直後に「きっとできる」と少女は言ったのだ。「――だって、おかあさんのためだもん」
「良い子だ」
 天使は目を細め、微笑みを浮かべた。ただそれは、全てを悲観するような、そして悲壮感に満ちあふれるものだった。
「じゃあ、今日はこの診療所でお休みなさい。……――決して、今日は外に出てはいけないよ」
 少女は頷いた。その天使の目が据わっている意味など知りもせずに。これから先、何が起こるかなんて、彼女に予想できるはずもなかった。
 そして起こるのは一つの悲劇。
 たとえば、数日前まで共に過ごしていた唯一の水の妖精と。たとえば近い将来、少女の後を展開するであろう土の妖精と同様な、数奇な運命を辿ることになったのだ。



「僕は少し出かけてくるから、お利口にしているんだよ」
「うん」
「何が起ころうとも外に出てはいけないよ」
「うん」
「じゃ、そのベッドで休むんだよ」
「うん」
 診察室の奥にある部屋を指さし、天使は言った。少女が素直に頷くのを確認し、外への扉を開け放つ。そして、やはり無垢を象徴させる真っ白な翼を広げ、夕日で赤く染まった大空へと飛び立ったのだった。
 その後ろ姿を見て、少女はくるりと一回転する。自分の背中にも、羽が生えていないかな、と確認しようとした結果だった。妖精であり、天使でない少女の背には、もちろん羽は生えておらず。そのことを少しだけ恨めしく思いながらも少女は笑った。嬉しげで、何処か恥ずかしげな笑顔。今まで続いていたある種の掟から外れ、この天界から存在しなくなった母を覚えておくことが許された、という甘酸っぱいくすぐったさを感じていた。
「おかあさん、おかあさん」
 自らの記憶に鮮明に焼き付いている母親の姿をもう一度。目元に皺を寄せて閉じ、脳裏に浮かべる。小鳥のさえずりのように、幾度も母を呼んだ。
「おかあさん、おかあさん」
 ただ、少女は喜びを感じていた。
 母が死んだという悲しみは消えてはいない。けれども、その喪失までもを忘れてしまうことの方が恐ろしいのだと感じていた。
 少女は診療所の入り口を閉め、奥の部屋を目指した。いつもはこの診察室まで。その奥に入るのは初めてのことだった。浮き足で診療所のデスクとチェアの合間を通り、そのプライベートへ入り込む。扉を勢いよく開け、真っ先に目にしたのは白く大きなベッド。少女は目を輝かせる。このとき、少女にとって天使をイメージさせる《白》は憧れの象徴であったのだ。ベッドに飛び乗り、枕に顔を埋めた。そして、にこにこと笑顔を崩すことのないまま、少女は夢の世界へと旅立ったのだった。

 そんな幸せは、ひとときだけ。
 次に彼女が目を開けたとき。少女の小さな幸福は、大きな災いへと変貌していた。



――悲鳴、誰かの泣き叫ぶ声、怒号、叫声――
 少女は診療所の外から聞こえる声に当てられ、目を覚ました。
 ゆっくりとベッドから身体を起こし、目をこする。そして一度部屋を見渡して、自分は診療所にいるのだと思い出す。
 一番音が大きく聞こえる窓際。少女が眠りにつく前には開いていたと思われるカーテン。それが閉められていることから、診療所の天使はもう帰ってきていることが予想された。少女は白いカーテンを握り、耳をすり寄せる。そしてようやく、その聞こえてくる声が尋常ならざるものだと感じたのだ。
 破れそうになるほど勢いよくカーテンを開け、外を見る。そこには、少女が想像もできない世界が広がっていた。
 夜の闇に浮かび上がる、幾つもの炎。オレンジ色に光るそれは、人型のようにも思えた。苦しそうに蠢き倒れていく。そして、低空を飛び回るいくつかの影。窓の直ぐ外を恐ろしい形相で逃げまどう妖精たち。その内の、逃げ遅れた小さな妖精からは赤い飛沫が上がる。次第に暗闇に目がなれ、見えてくるもの。それは、地面に折り重なるいくつもの妖精たちと、赤く染まった羽で空を飛び回る天使たちの姿。そして、唐突に大きな音を立てて、窓に何かが張り付いた。
「ぎゅぎょぎょぎょぎょぎょぅ」
 ベースとなる色は白。本来白目である部分は薄い青色で、その頭には湾曲を描く白と赤の角が生えていた。こちらもベースは白であったらしい。赤いのは、妖精たちの、血の色。
 くぱあ、と少女の限度の何倍もの大きさの口を開き、それは少女を見た。ぎらぎらと光る青色の瞳と少女の瞳がぶつかり合う。そして異形は笑った。
「え、え、え?」
 少女はそのおぞましい光景に耳を塞ぎ、慌てて部屋の隅へ移動した。そうして震え始める。がちがちと歯をならし、既に窓から去った醜悪な捕食者が目に焼き付いて離れない。それに、死にゆく妖精たちの姿も確認してしまった。――次に少女ができるのは、死にたくないと願うことだけだった。
「にげないと、」
 四つん這いとなり、扉の前まで移動した。慎重に扉を開き、いつもの見慣れた診療所へと踏み入れたとき。
「起きたのかい」
 天使がいた。それも、記憶を消さないでくれると約束した天使。少女はその見知った天使に、放心したまま近寄った。しかし、その彼の背にある羽を見た途端、少女は目を見開き狂ったように絶叫する。
 このとき、少女の脳裏に浮かんだのは。この診療所の外で起こっている妖精たちの虐殺風景。天使たちが殺伐なことをいとも簡単にやりとげていた光景。親愛なる風の妖精たちと、憧れの天使たちの現状を物語った場景。
 そんな荒れ狂う様子を見せた少女を、天使は慌てて抱きしめる。それでもなお、少女は抵抗を続けていた。天使は力強く目を閉じ、よりいっそう、手に力を加えて少女を押し留める。
「大丈夫だよ、大丈夫。絶対にキミは殺されないんだから」
「キミは、生きると誓ったんだ。できるといったんだ。だから生きるんだ。お母さんのために生き続けないといけないんだ」
「それだけじゃない、この《政策》のために殺される風の妖精たちのためにも。この村をずっと背負って生きないといけないんだ」
「もう止まらない。後戻りは出来ない。進むしか、道はないんだ。キミは絶対に生きるんだ」
 どんな言葉を掛けようとも、少女は暴れることを止めなかった。
 そして、次第に。そんな少女の心境に蝕まれた天使までが、混乱状態に陥り支離滅裂なものしか口から発せられることもなうなっていった。

 少女は外から聞こえる声が消えていったのに気づく。
 静かに耳を澄ませば、次の瞬間。診療所の扉を勢いよく開けて一人の天使が現れた。少女は身を強張らせ、妖精の血に染まる無表情の天使を見つめた。

「――アトルト=フォルトン殿。殲滅、完了しました」
「……ああ、そうかい。………………この子は、僕が後で本部に連れていくから、もう撤収して良いよ」
「はっ」
 外から現れた天使は敬礼する。
 そして、次の瞬間。少女は体中の力が抜けたように、床にへたり込んだ。少女を支えていた天使の腕も、いつも間にか緩んでいた。そして、診療所から音もなく出て行った赤い天使と会話をした天使――アトルト――を、静かに見上げる。
「…………な、なんで」
「僕がキミを選んだからなんだ」
 その悶々とした表情で、それでもアトルトはしっかり答えた。
「キミに、全てを話すよ……。この《政策》のことを。あの水の妖精のことを」


 キミは知っているかい? とアトルトは言った。

 この天界の裏側に存在する人間界に、自由に行き来できるのは妖精だけが持つ能力なんだ。
 妖精たちはね、人間を愛している。だから、人間を模することを好む。寿命のことだってそうだし、今のキミがその上級天使に近い姿で存在しているのだって、ある意味人間を模した結果なんだ。
 また、天使たちは妖精を尊いものだと思っている。それとは逆に人間たちは下級生物だと、汚らわしいものだと認識しているんだ。
 そこで天使が思ったのは、《許せない》という感情一つ。あれほど気高く素晴らしい妖精が、低劣な人間のまねごとをするなんて許せない。人間に魅せられた妖精が許せない。人間の存在が許せない。このときから妖精と人間。どっちに対しての感情だったなんて、もうあやふやになっていたんだろうね。
 だから、天使はその交流をやめさせようと考えた。
 まず思いついたのは、人間界に住む彼等を根絶やしにしてしまおうということ。僕らも人間と共存しようと思うんだ、とらしいことを言えば、妖精たちは快く人間界への道を示してくれるだろうってね。
 だけど、その案は直ぐに却下される。
 だって、そうすれば少なからず天使が人間と関わりを持ってしまうことになるから。彼等の記録に、事実として残ってしまうだろうことを恐れた。それほど、人間との縁がいらなかったんだね。人間は、僕たち天使の存在なんかいらなくて良いって。
 そして次に思いついた方法が、今実行されている政策なんだ。
 妖精が多く存在しているから、人間と友好関係を結ぼうと考える輩が出てくるんだ、と天使は思った。
 その数を減らせば、人間に関して気を揉んでいる暇はなくなって、向こうに行くものは絶えるんじゃないのだろうかって。
 だが、それには問題があった。妖精には寿命はないものの、ひどく脆いことが気に病まれたんだ。天使は妖精を滅ぼしてしまおうと考えた訳じゃない。だからこそ、そのまま数を減らすことをすれば直ぐに全ての妖精がこの天界から消え去ってしまうだろうと考えた。
 そして、その救済策として作ったのがこの《選抜》だ。
 火、水、土、風の妖精たちの村に一つ診療所を設けた。その表向きの理由が、キミも知っていることだ。思わぬことで仮死状態になった妖精に関しての記憶を消すための場所。
 そして本当の理由が、《診療所に滞在する天使の判断で一人だけ。この政策で生き残らせる妖精を選び出す》というものだったんだ。水の妖精として、キミの知っているロドキア=ペトラージュが選抜され、風の妖精としてキミが生き残った。火の妖精と土の妖精は、まだ選抜されていない。
 選抜後には村を壊滅させる。選抜された妖精以外は用なしだと。むしろ人間と関わりを持つなんて害しか持ち得ないのだと、一掃するんだ。
 そして選抜されたたった一人の妖精には、ちょっとのことで死なないようにと、大きな力を授けられる。
 妖精たちのひとりひとりの力は、本当に弱い。だから妖精たちは脆いのだと天使は思った。だが、種族が違うがために、どうやって妖精の力を増幅させればいいのかなんて分かるはずもなかった。だから、天使は予測した。とにかく火なら火、水なら水、土なら土、風なら風。その妖精の所属する自然を全て、ねじ込めばいいのだと。
 それは、生易しいものじゃない。むしろ強行突破として作られた疎かな方法なんだ。穴だらけの措置。だけど天使は本当に非情で、目的のために手段を選ばない。だからその案は採用された。

 キミはもっと膨大な力を手に入れるために、多くの苦難を乗り越えないといけない。


「キミが生き続ければ、この村は消えない。風の妖精たちも違った形で生き続けるさ」
「だから、諦めないことが大切だよ」
「それに、今からだって。キミはとても大きな出会いを残しているんだから。運命だと定められた先には、きっと幸福が待っている」

 アトルトは、当惑するような少女に苦笑し。「今はまだ、分からなくても良いよ」と、見ている者の心が痛むような笑顔を作った。
 少女は泣けない。
 今はこの天使を差し置いて、泣きたくないとぼんやり感じたからだった。


 ■-many years later-■

 そして少女は、全ての風を手に入れた。

「おい、風。いつまで休憩してんだ。さっさと行くぞ」
「風って何よ! ちゃんと名前を呼んでくれても良いじゃないの!」
「まあまあ、悪魔も妖精も落ち着いて」
「テメエ……俺の名前、覚えてねえのかよ」
「ちょっと、魔王! アンタもか!」
 ぎゃうぎゃうと、騒がしい声を立てながら。打倒天使の目的を抱える三人は、次の街へと向かっていた。
「とりあえず、新しい仲間を探そうな。なっかっまー」
「やかましいわ魔王」
「くっ……こんな仲間と称しながら、名前も覚えられてないヤツとはひとときも同じ場所にいたくな――」
「アンタも人のこと、言えないからね」
 
 かつて少女だった彼女は、年月を重ね女性となった。
 天使の加えた多くの窮地を潜り抜け、膨大な力を手に入れた。そうして彼女は天使たちの監視から解放されたものの、ただ生きることしかできないという現状に嘆いた。
 そんなとき、人の心を揺さぶる魔王と出会う。
 魔王を支える唯一の悪魔と出会う。
 今の天界の、魔族が虐げられるという現状をどうにかしたいと立ち上がった彼等だった。
 その輝きに彼女は希望を見た。


(世界に良いように君臨していた天使を、そこから引きづり下ろしたとき)
(そして、この旅が終わったとき)
(天界は魔界と名を変える)



クロの偶然真理より】
メンテ
『穿たれし始まり』 ( No.74 )
   
日時: 2012/01/23 13:33
名前: 真空◆qXD1SKwOjs ID:KK90tQ1U

 大上段に振り下ろされた剣を避け、相手の懐に大きく踏み込みながら模擬剣を振り上げた。
 木製の刀身が相手の柄で弾かれるのを確認しながら、俺は踏み込んだ右足を軸に回転。相手の背後に移動する。
 相手の巨体が慌ててこちらへ向くのを気配で感じながら、俺は木刀を脇から背後へ突き出した。巨体の悲鳴と共に、ごりゅ、という気分の良くない手ごたえ。思わず顔が歪んでしまった。
 気を取り直しながら素早く振り返り、再び懐へ飛び込む。相手が反応する前に俺は模擬剣を振り上げた。
 ゴギッ、という鈍い音と共に刀身が相手の顎に直撃。俺よりはるかに大きな巨体がぐらりと後方に傾き、わずかな間をあけた後、対戦相手は床に倒れた。
 訓練場に広がる沈黙。
 しばらく静寂が訓練場を支配していたが、ようやく自分の役目を思い出した審判がようやく叫ぶ。
「勝者、カイナ・トリアット!」
 ワアアアア――という割れんばかりの歓声が、エスタニア魔導学校第一訓練所に響いた。

 模擬戦闘が終わり、更衣室。
「貴様にしては良い動きだったな」
 対人戦闘からの緊張からようやく解き放たれた俺は、早速イヤな気分に早代わりする。良い気分を堪能するヒマをあたえろよ。
 俺は軽く苛立ちを覚えながら、更衣室の入り口に立つバカに返した。
「そういうお前は、随分長い間戦ってたじゃないか」
 ため息を吐きながら、バカに目をやる。
 血のような紅い髪に、赤い瞳。整いすぎた顔。俺をずいぶん上回る長身とその背に引っ掛けられるただの大剣。わかりやすい特徴しかないアギアだ。脳細胞もわかりやすく単純な戦闘バカである。
「戦術指南の監督が相手だからな。少々手を抜いて、愉しい時間を過ごしていただけだ。近接戦闘が平均の貴様とは違う」
 ……あからさまな自慢と皮肉がうっとうしい。それになんだ、その尊大なしゃべりかたは。
 再び大きくため息をつきながら、俺は皮肉をくれてやる。
「たしかに、お前の近接戦闘能力は前衛としてでも群を抜いてるだろうけどな。六回生のくせに、肉体強化系以外の魔導がからきしのヤツが魔剣士になれんのか?」
 俺の言葉に、アギアの笑みが歪んだ。ざまを見ろ、バーカ。
 調子に乗って、俺はさらにアギアをおちょくる。
「最も簡単な火炎系の魔導をレベル三すら発動できないんだからな、お前。いくら魔剣士の前衛志望でもキツイんじゃないか? ま、俺は全系統の魔導はレベル四まで扱えるから、後衛としては心配ないけ」
 ど。言い終える間もなく、俺の頭上を鉄と銀の合金製の大剣が旋風のごとく通過した。既にしゃがんでいるから当たらなかったが、ぼーっとしてたらどうなっていたか。慌てて右へ転がりながらアギアを見た。。
 その顔に浮かんでいる鬼神の表情を見て、俺の全身の肌が粟立つのを感じる。……やりすぎた。

………………

 このときの俺たちは、魔導学校の六回生。今年卒業試験があり、そして魔剣士になれる年である。
 そんな俺たちが魔剣士として始まったのは、この十八の春からだった。

………………

 死ぬかと思った。更衣室を大剣の二撃で廃屋同然にする武神から逃げつづけた俺って、凄すぎだろ。だれか表彰してくれ。
 現在、アギアを伴って教官室へ向かっている。あの後、何とか落ち着いたアギアを褒めちぎってなんとかこの状況を保っているのだ。ああ、こんなアホとどうして幼馴染なんだろうな。コイツも昔は――
 と、モノローグのみで愚痴っている間に教官室に着いていた。
 ノックして許可をもらい、俺たち二人で部屋へ入る。アギアと喧嘩してる最中に、ここへ来るよう達しを受けていたからだ。
 二人して教官に適当に挨拶し、言葉を待つ。態度が悪いのは生前からだ。
「さて、お前たちももう六回生だ」
 俺たちの様子に気を悪くすることなく、気の良い教官は続けて、
「この六年、お前たち二人はよくやった。それでだ、今年の卒業試験の話なんだが」
「いえ、俺はちょっと遠慮させていただきます。ちょうどその時期に腹痛が起きそうなんで」
「……まだ何も言ってないだろ、カイナ」
 音速で断った俺に、教官は呆れた瞳を向けた。いや、内容はだいたいわかってるしなぁ。
「わかっているだろうが、まあ聞け。お前たち二人――近接戦闘第一位のアギアと魔導成績第一位のカイナには、卒業試験時に特別試験が用意されてる」一呼吸おき、教官は続けた。「そいつを合格すると、なんと第七階位から魔剣士ライフがスタートする。通常試験じゃ、第十階位だからな」
 露骨にイヤな表情を浮かべる俺と、横でニヤ、と嗤(わら)うアギア。俺は、平凡に魔剣士やりたいんだよ。下手に難しい試験をうけて落第したくない。
 俺たち二人、特に俺のほうを見ながら、気は良いけど腹になんかありそうな教官は言い放った。
「まあ、拒否はできないだろうから安心しろ」
「え、なんで」
「この試験は各成績の最上位者二人で組んで受けるモノだ。魔剣士の戦闘と同じ状況である二人一組。前衛と後衛の役割をこの段階で理解してもらうためにな」
 そして、と教官はアギアに目をむける。
「この試験は成績最上位者二人のどちらかが受験を拒否すると受けられんのだよ」
 ……つまり、拒否できないってのは?
 俺の肩におかれる手の感覚を無視したくて、俺は問う。
 要は腹黒い教官が、にか、と笑って答えた。
「どうせ、アギアがお前を引きずってでも受けるだろ?」
 ギギギ、と油のさされていない機械の動きで隣を見る。
 俺の肩を引っつかんで、笑みを浮かべるアギア。端正な顔立ちをしたアギアがやると、何かの一枚絵のようだ。が、俺にとっては死神の微笑み。
「受けよう、かいなクン」
 超棒読み。浮かべられた笑顔から目をそらす。アギアが今にも抜刀しようと握る大剣の柄に視線を移動させた。
 肩をつかまれ、俺は逃げることはできない。下手な返事をすれば、亜音速で合金の刃が俺をぶったぎるだろう。うわー、ちょっと、うわー。
 いや、まだだ、あきらめるな俺。まだ何か手はあるはずだ。そう、この絶望的な状況をどうにかするんだ。俺は決して屈しない――
「ついでに言うとだ、アギア。試験にはすごい敵を用意するらしいぞ」
 瞬間、アギアの手の中にあった大剣の柄が破砕した。興奮に、笑みが壮絶なものに変貌する。
「ウケヨウ」
 俺は屈した。



 あのあとも全力で抵抗したが、全てがあえなく撃沈。ついに試験当日を迎えてしまった。
 もうこうなったら腹を括るしかない。
 肩を落としながら、支給された魔剣とその柄に嵌まる魔核の調整を続ける。鈍い鉄色に輝く魔核。鋼系か。
 しっかりと魔核が嵌まっていることを確認し、俺はアギアに目をやった。
 長大な刀身の魔大剣。例によってでかい得物だな。柄に目をやると、肉体強化系の魔核が輝いていた。
 今現在、俺たちは魔導学校第五訓練場の控え室にいる。この第五訓練場は、唯一エスタニアの『研究ブロック』に設置されている。
 研究ブロックには魔物などが捕らえられている。そして、研究済み、もしくは研究に必要のない魔物はこの訓練場にほうりこまれているのだ。
 この訓練場は立方体の形をしており、厚い天井が日光を遮っている。照明は当の昔に魔物に破壊されていて、この控え室にある俺が持ち込んだ旧式のランプが唯一の光源だ。
 試験前に渡された地図によると、この建物は面白い構造をしていた。
 一応二階建てなのだが、二階との境をぶち抜くようにして、真ん中に巨大な空洞がある。いわゆるホールだ。ホールはかなり荒れているらしく、コンクリートだった床は全部砕かれて土がむき出し。木まで生えているらしい。
しかも、そこに魔物は集まっているようなのだ。
 エスタニアで唯一魔物が暴れている場所で、もっとも危険な場所に、俺たちは武器だけ持たされ、置いてかれた。
 ……まあ、つまり、俺たちの特別試験の内容は、魔物狩り、ってことだ。


 試験開始の合図である爆発音と共に、控え室のドアが破砕された。ゴブリンだ。さきほどの爆発で、檻が壊されてここへやってきたのか。盛大なスタートだこった。
 俺が魔導を発動する間もなく、アギアの大剣がゴブリンの身体を両断。断面から青い血を噴き出しながら左右に倒れた。
 血のアーチをくぐってアギアが疾走。俺を置いていくなっ!
 その後を追いながら、爆発音に惹かれた魔物たちに鋼系魔導レベル三〈ジャベリン〉を発動。三本の鋼の槍がゴブリンの群れに斉射される。二本がゴブリンの眼窩と喉に刺さり、残る一本がもう一匹の眉間に突き刺さった。
 投げつけられた木材を避けつつ〈ジャベリン〉を応射。一匹だけ仕留めた。
 やはり、三本しか撃たない〈ジャベリン〉では一対集団では弱いか。
 即座に、頭で〈ジャベリン〉の導式を紡ぐのをやめて、鋼系レベル一〈スティレイ〉に変換する。発動。切っ先を群れに向けると同時、鉄片混じりの小さい爆風が群れの表面に巻き起こった。
 己の身体に突き刺さる鉄片に悲鳴をあげるゴブリン共を無視し、俺は周囲に目をやる。あのバカはどこに突貫した。
 大して苦労せず、青い肌をもつゴブリンの群れの中に、紅い髪を発見した。うわ、真ん中にいるし。
 絶えずゴブリンの青い血が舞っているのを確認しながら、俺は跳躍した。すぐそばに立つ木に着地して、アギアの様子を見る。
 アギアは、魔大剣を自らを軸に回転させて周囲のゴブリンを一掃。第二波のように屍をこえてやってくるゴブリン達に、凄絶な笑みで迎えて突撃。
 大剣を持たない左手で、噛み付いてくるゴブリンの顔面を打ち砕き、こん棒を振り下ろしてきた奴には大剣で反撃。首を刎ね飛ばしながら大剣を地面に突き刺し、柄を掴んだまま軽くジャンプ。上腕の筋力のみで大剣の上で逆立ちしつつ、雷撃の如き回転蹴りで周囲のゴブリンの頭部を破壊した。
 化け物のような運動神経に戦慄を覚えながら、俺は我に返った。とりあえず援護だ。前衛を遠距離魔導で狙撃、いや援護するのが後衛である俺の役目。
 少々頭が痛くなったが、無視して魔導を発動する。〈スティレイ〉を四重発動だ。
 一瞬動きを止めたアギアの四方にそれぞれ発動。四つの鉄片混じりの爆風が、ゴブリン共の突撃を阻んだ。
 波のように次から次へと迫っていたゴブリンの進攻が止まる。それと同時にアギアが俺をにらみつけた。こっちに気づいてたのか。てか、なんだその目は。援護してやったのに。
 もう一度〈スティレイ〉を四重発動しながら、俺はアギアの元へ跳躍。着地。背中合わせになってゴブリン共へ魔剣を向けた。
「おい、突っ走るな。不本意だけど二人一組だからな」
「……雑魚の青豆に心配されるような剣の腕は持っていない」
 〈スティレイ〉のおかげでゴブリンの動きが一瞬止まっているので、こういった皮肉も言い合える。しかし、こっからはまともに口も利けないだろう。
 そう思い、さらに何か言ってやろうとして――とまった。目の前に魔物があらわれたからだ。

 俺の気配の変化に気づいたのか、アギアが僅かにこちらを向く。そして、武神の笑みを浮かべた。
 俺が驚き、戦闘狂のアギアが喜ぶような魔物。緑の肌に分厚い紫の唇。そこから垂れるヨダレ。隆々の腕に握られる大木。そいつの名は、トロール。しかも、通常四メートルのところが、七メートルぐらいはありそうな体長である。
 危険ランクC級の魔物を、まだ魔剣士にもなっていない生徒に倒せと? 馬鹿いうな、無理だろ無理。こういう危険なのは先に駆除してくれよっ。
 俺の心中の叫びが届くはずもなく、トロールは腕を振り上げる。唸りを上げて上昇する大木。やばい。
 直後、落雷のような一撃が振りおろされた。
 地面と激突し、破壊音をたてて地面が砕ける。既に俺達は左右に逃げていた。掴みかかってくるゴブリンを蹴り飛ばしながら木の枝に着地した。
 近接戦闘の成績が秀でてるわけじゃない俺が避けることができたのは、ひとえにアギアのおかげである。
 アギアが俺に発動した肉体強化系レベル五〈ブレイクスタイル〉で、俺の筋力は一時的に三倍になりトロールの超破壊を避けられたのだ。が、俺にはあまり向かない魔導らしく、即座に解除されて俺はがくりと枝の上で膝をつく。
 もともと筋肉量が後衛魔剣士程度しかない俺には、筋肉量を増やして筋力を強化するこの〈ブレイクスタイル〉は負担以外の何者でもない。ムキムキのアギアなら負担のふの字にもならんだろうがな。
 何とか立ち上がり、俺は大木の反対側のアギアに視線を送る。向こうも同様にこちらを見ていた。

――俺達が相手するか? それとも教官に報告するか?
――いや、闘るぞ、貧弱。

 アイコンタクトでバカにされつつ、俺はため息をついた。そう言うと思ったよ。

 理解すると同時に〈スティレイ〉を二重発動。六本の槍がトロールの顔面へ射出される。
 六本のうち四本が顔面に突き刺さる。二本は硬い皮に弾かれた。
 神経が鈍いのか、痛がる風はなかったが、注意が俺へ向いた。汚い顔面に銀色の針が四本突き刺さった絵図をこちらにむけ、再度、腕を振り上げた。
 直後、赤い流星のようにアギアが襲来。鍛えに鍛え上げられた筋肉を以(も)って、大剣をトロールの振りあがった腕に突き立てる。
 瞬間、背筋、肩甲骨、三角筋、上腕が一気に隆起。〈ブレイクスタイル〉で強化された腕力が、一息にトロールの腕をぶった切った。
 綺麗な断面を見せてトロールの右腕が宙を舞う。大木のような腕は一回転だけして地面に落ち、巨大な地響きをたてた。
 しかし、安心はできない。
 なぜなら、トロールには強力な再生能力があるからだ。脳か心臓を破壊すれば流石に死ぬが、それ以外の部位が破損しても、気持ち悪いくらいの生命力で再生するのだ。
 だから、再びあの腕が振るわれる前にぶち殺さないといけない。
 腕が落ちたのを視界の端で認めたのと同時に、俺は鋼系レベル四〈マグネブレイド〉を発動していた。
 既に周りに撒いていた砂鉄が刀身の周りに集まり、刀身の延長として三メートルの刃と化す。切れ味は、本体の刃よりも良いぐらいだ。
 発動完了と同時に、トロールの傷が泡立ち始める。再生が始まったのだ。
 アギアが一旦着地した木から跳躍するのとほぼ同じタイミングで俺も跳ぶ。
 ようやく痛みを感じ始めたトロールが、意味のない怒号をあげて、左腕を振るう。狙いは俺かっ!
 判断し、即座に両手で砂鉄の剣を握り、迫る巨木のような左腕に振るう。激突。両腕に凄まじい衝撃が伝わり、思わず弾かれそうになった。が、すぐに切り込む角度を僅かに変える。
 その瞬間、両腕にかかる負担が消えた。そして、視界の端で跳んでいくトロールの左手。よし、切った、俺は生きてるっ。
 あわてて地面に着地。アギアをみると、トロールの身体を駆け上がっているところだった。
 〈ブレイクスタイル〉を維持したままトロールのだらしなく太った身体の上を疾駆。一気に肩まで駆け上がり、そのまま蹴りつけて跳び上がった。
 未だに再生しきらない右腕。切断されたばかりの左腕。アギアを邪魔できる障害は、ない。
 空中で魔大剣を両手で握り、落下。その勢いのまま、アギアは全力で振り下ろした。
「うるるるあああぁぁっ!」
 気合の怒号と共に、瀑布の一撃がトロールの頭部へ落とされた。巨大な刀身が、トロールの皮膚を、頭蓋を、そして脳をぶち砕き、そのまま降下。背骨を砕き鎖骨を破壊しながら遂に心臓へ到達。その瞬間、バキン、という小気味良い音と共に、魔大剣が半ばから折れた。
 刀身の半分を心臓の真上に残したまま、アギアの身体は地面に落下。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて戦闘狂は着地した。
 そこへ、俺が跳躍。ダメ押しと言わんばかりに砂鉄の剣を突き出す。狙いは未だ鼓動する心臓。頭部からぐちゃぐちゃになった脳がこぼれていることから、再生不可能なことはわかっているが、俺は臆病なんでな。
 胸筋を引き裂き肋骨を砕き、〈マグネブレイド〉は心臓を貫いた。素早く魔導を解除して、俺はアギアの隣に降り立った。
 トロールだった肉塊を見上げる。両腕は再生途中で肉片をぶらさげたまま静止。頭部は完全に両断され、その裂傷は胸部にまで達していた。そして、心臓のあった所には穴が穿たれ、僅かに覗く肉片は再鼓動しない。ここまでやって死なない生き物なんて、生き物じゃない。

 一息ついて、俺は座り込んだ。疲れた。傍らを見上げると、折れた魔大剣を眺めている武神が目に入る。つまらなそうな表情だった。
「……この俺には強力な武器が必要だな」
「ああ、まったくだ」
 同意を返して、手元の魔剣をみる。柄と鍔の部分がガチガチと不協和音を奏でていた。緩んでる。いくら支給用の安物とはいえ、強度が随分低い。魔剣士になるなら、マトモな武器がほしい。
 と、そこへ破壊音。頭上からだった。
 緩慢な動作で首をもたげて、確認した。さっきの爆破音は、天井に穴を開けるためのもののようだ。マトモに扉をあけてくれんものか。その穴から、教官が遥か高い天井から手を振っている。そして、ここまで届くには長さが全然足りない梯子を降ろしてきた。試験終了ということか。
 痛む両脚を奮い立たせて俺は立ちあがろうとして、アギアが俺の襟を掴んだのを感じた。いや、ちょっと待て、まだ足が震えて仕方がな、
「行くぞ」
 俺の悲鳴の尾をひきながら、アギアは遥か天井の梯子まで跳躍した。



「よくやった、お前達」
 七メートル級のトロールの件などまるで無かったことのように、にか、と教官は笑みを浮かべる。その白い歯を折ってやろうか。
 試験後、俺達は表彰を授与され、晴れて魔導学校を卒業できた。そして、今は魔剣士として出発できるよう、教官のありがたい言葉を聞いている最中だ。本来ならすっぽかしたいが、できなかったのでここに居る。
 面倒くさげな俺達をみて、教官は苦笑いをこぼした。そして、壁に飾られた二振りの魔剣のもとへ歩みながら言う。
「見事特別試験を合格したお前達には、第七階位認定証を授ける」
 ピシッ、と音を立てながら、教官は認定証を俺達に向けて弾いた。
 それを空中でアギアはキャッチし、俺は地面に落ちたものを拾う。となりの赤毛のドヤ顔は無視だ。
「そして、俺から卒業祝いをやろう」
 壁の二振りの魔剣を取り出して、教官は俺達に差し出した。俺に向けられたのは、白い刀身をもつ八〇センチメートルほどの魔剣。鞘には『咎人クレイネン』と銘打たれていた。アギアに差し出されたものは、魔剣というより魔大剣とあらわすのが相応しい巨大さだった。
 とりあえず、俺の目には両方ともかなりの業物とだけわかった。俺の剣の柄には魔核が三つも嵌まる穴があいている。アギアにいたっては四つだ。魔核が嵌まっていないにしても、これはかなり高価だぞ。
 なぜ、という視線を送ると、教官はまたも、にか、と笑った。
「優秀な魔剣士には優秀な武器が必要だろう? 気にするな、それはすでに死んだ先輩のもんだ。墓前に飾るより、血を浴びるほうを望むはずだよ」
「ありがとうございます。使わせていただきます」
 アギアの分も礼をいい、魔剣を腰のベルトに差した。傍らのバカは、恍惚の笑みで刀身を撫でていた。そんなに喜ぶんなら礼を言え。
 俺達はそのまま、教官室をあとにする。良い人だけど、これ以上言葉を交わす感慨もない。態度がわるいのは、生前からだってば。

………………

 ――とまあ、こんな感じに俺達の魔剣士としての世界は始まった。この後に、強制的にアギアとコンビを組まされたのはまた別の話だ。

舞いし剣は魔を穿ちより】
メンテ
決戦島・大陸統一トーナメント大会 ( No.75 )
   
日時: 2012/01/31 02:38
名前: 伊達サクット ID:1K6pViOk

 魔界に君臨する支配者、握力大魔王は人間界を征服するために大量の軍勢を率いて、人間界に侵略を開始した。握力大魔王がまず手始めに目を付けたのは、勝利の女神ウィーナを信仰する民が住むリリット大陸である。
 魔界の魔物達で構成された魔王軍が大陸全土を支配するのには一週間もあれば十分であった。
 握力大魔王は大陸制圧の仕上げとして、部下達に魔界の扉を開かせ、そこから『決戦島』という島を呼び寄せた。
 握力大魔王はリリット歴559年6月12日に『大陸統一トーナメント大会』の開催を宣言した。場所は決戦島にある握力大魔王の城。優勝者はこの大陸の王者になれるというものであった。
 下界の民達の救いを求める声、そして大会の開催。天界に住む勝利の女神ウィーナは、いてもたってもいられず、神が直接下界の者たちに加担してはならないという禁を破って大会参加の手続きを行ってしまった。

 トーナメント参加者は16名。見事予選を通過したのは握力大魔王、ちんすこう富松、ゲートボーラー助六、ゲートボーラーじゃない助六、Let’s Go左エ門、滅殺破壊神、ザコ1号、ザコ2号、武器屋ハ・デス、防具屋ベルゼブブ、道具屋ゼウス、万屋フェニックス、キャプテン乳毛、剣士イレババ、魔術師サシババ、NEETムシババである。
 この本選出場者の中にはウィーナはいなかった。
 なぜなら、天界の神殿で、精神集中の為に瞑想しているうちに眠ってしまい、すっかり寝坊してしまったからだ。
 目を覚まして、すでに大会が始まっていることに気付いたウィーナは、それこそ大慌てで天界を飛び出し、光の翼の魔法で超高速飛行。天界と下界を隔てている次元の壁を体当たりでぶち破り、ものの数分で握力大魔王の城のある決戦島までやってきた。

 そこで見た者は参加者達の死屍累々であった。
 予選が終わった後、トーナメントの組み合わせをくじ引きで決めるのだが、握力大魔王は体全体が巨大な手という異様な姿をした魔王であり、くじ引きの箱が小さすぎて手が入らなかったのである。
 そこで参加者兼主催者兼実行委員長兼解説兼実況兼スポンサーである握力大魔王の一存で、急遽くじ引きを中止し、16人バトルロイヤルで決着を付けることになったのであった。しかも始末の悪いことに、握力大魔王はくじ引きの箱に手が入らないことに気付いた途端、唐突に周りの参加者に攻撃をし始め、他の15人が倒れた後で「実は16人バトルロイヤルになったのだ! ヒャーッハッハッハ! はい俺が優勝ーっ!」と言い始めたのだ。
 そのように握力大魔王がやりたい放題やっているときにウィーナが現れ、魔王と相対した。

「誰だ貴様は? たった今大会は終わったぞ!」
 握力大魔王がウィーナに言い放つ。
「ならばこれから王者の防衛戦だ。この私が挑戦者となり、お前からチャンピオンの座を奪う」
 ウィーナが剣を抜いて、声高らかに宣言した。
「馬鹿め! 貴様ごときがこの俺に」
 握力大魔王が言い終らぬうちに、ウィーナは剣に闘気を集中させた。
「きえええええいっ!」
 そして、次の瞬間には、オーラで光り輝く刀身が握力大魔王を真一文字に切り裂いていた。
「ぎょわわわわー!」
 握力大魔王は大爆発し、決戦島は大会スタッフである多くの魔王の部下達の命を巻き添えに海の藻屑と消えた。

 この戦いが原因で、ウィーナは冥界に追放されることになった。
 これは、ウィーナがヘイト・スプリガン事件に見舞われる10年前の出来事である。

 やるせなき脱力神へ続く!
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:作品投稿期間】 ( No.76 )
   
日時: 2012/02/01 02:20
名前: 企画管理委員会 ID:nSJ3MzeQ

 イベントへの参加お疲れさまでした。
 たくさんの作品が集まり、喜ばしい限りです。
 ありがとうございました。


 第10回「爆発」の作品投稿期間となりました。
 作品投稿期間は2月1日(水)〜2月15日(水)までとなります。
 ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
 皆様の力作お待ちしております。
メンテ
のちに彼は ( No.77 )
   
日時: 2012/02/09 18:02
名前: If◆TeVp8.soUc ID:ZLKmFj4k

 やるせない。昔、学院の窓から仰いだ王城はどこまでも高く聳えて、あんなにも神々しく輝いて見えたのに。そこへ召し出されたと知らされたときには、泣いて喜んだものだ。それなのに、それなのに。俺は今、こんなところで何をしているのだろう。
「ユベル、ユベル、どこにいるの」
 大声で嘆きたいのをぐっと堪えて、俺の名を連呼する主人の部屋へと渋々向かった。今度は一体何の用だ。空を一面虹色に変えてみろだとか、王の召し物を女物のドレスにしてみせろだとか、あの王女は無理難題ばかり押しつけてくるので困りものだ。なんだって俺があんな小娘の相手をしなければならない。侍女や教育係がいるでしょうと何度断ったかしれないが、王女は魔法にひどくご執心と見えて、俺ばかりを呼び出してくる。近衛魔道軍というのは、そして学生時代死ぬ気で磨いた俺の魔法は、王女の機嫌取りのためにあるわけではない。いくら不満を持っても相手は王族、遠い故郷で待つ貧しい家族のためにも従うより他ないのだが、それがどうにもやるせない。本当は、もっと。もっと――どうなのだろう。分からない、けれども、俺が望んでいるものはこの城の中には一つもないように思われた。ここにあるのは、楽しくもないのにいつも笑っている貴族たちと、そいつらの蓄えている金と、誰々を蹴落とすだとか追放するだとかいう陰謀の数々だけだった。
「お呼びですか、アイリア様」
 まだ十四の小娘――それもおそらく、精神的には実年齢よりももっと幼い――にこうして慇懃な態度で接しなくてはならないのも、とてつもなく虚しかった。そんな俺の心内は露知らず、王女は嬉々とした顔をこちらへ向けると、裾の長いドレスをずるずる引きずりながら駆けてきた。
「遅いわユベル。私が呼んだらすぐに来るのよ。いい?」
「は。申し訳ありません」
「ね、ね。ユベル、見せて欲しいものがあるの」
 また始まったか。今度は何を頼まれるのかと考えると頭痛がしたが、表には出さないよう極力注意する。
「なんでございましょう」
「なんて言ったかな、ええとね、なんかね、どかーんてする魔法。本で読んだの。ば、ば……あれ、なんだったっけ?」
「おそらく、爆発の魔法でしょう」
「そうそうそれ! それ見せてよ!」
 はしゃいだ嬌声が耳を刺すようにきんきん響く。いつもの常識を逸脱したおねだりに比べたらまだマシな部類だが、しかしこの王女はいつになったら魔法に飽きてくれるのだろうか。その日が待ち遠しくてならない。
「申し訳ありませんアイリア様。それは出来ません」
「えー、どうして?」
 栗色の豊かな巻き髪を左右に揺らし、唇を尖らせて眉根を下げるその姿は、とても十四には見えない。十か、もっと下に見える。まってくもって幼い娘だ。ほとんど子守りも同然だと考えて、自分で情けなくなった。
「室内でそのような魔法を使えば、建物に大きな被害を与えてしまいます」
「いいじゃない。きっと誰かがすぐ直してくれるわ」
「それでも駄目です」
「なんでよー」
 言葉に詰まる。本当は言わずに断りたかったのだが、今日の王女はいつにも増して諦めが悪い。仕方がない。密やかなため息を零したあと、俺は認めたくない事実を白状した。
「私は爆発の魔法は使えませんので」
「え、そうなの? ユベルにも使えない魔法があるのね」
「いつも申していますでしょう。魔法とて何でもできるわけではありませんし、術者によって得手不得手があるのだと」
「ユベル、私、難しい話は嫌いよ。とにかくユベルは爆発の魔法を使えないのね? それなら、お願いがあるわ」
 まだ何かあるのか。もう一度ため息をつきそうになるのをなんとか我慢した。王女は天井のシャンデリアの光を映してきらきら輝く瞳でこちらを見上げてくる。嫌な予感しかしない。
「なんでございますか」
「三日、暇をあげる。だから爆発の魔法を覚えてきて」
 今、何か、信じられないようなことを聞いた気がした。耳を疑いつつ、俺は期待を込めて聞き直す。
「は?」
「爆発の魔法を覚えてきて、見せてちょうだい」
 聞き間違いではなかったか。この王女は、本当に。もはや呆れて言葉も出てこない。
「アイリア様、そのですね……ですから、先ほど申し上げたように」
「早く帰ってきてね! 私、ユベルがいないと退屈だわ」
「アイリア様、それでしたら爆発の魔法の使い手をお連れしましょう。それならすぐにでも――」
「いや! 私はユベルの爆発の魔法が見たいの!」
 ああ、もうこのわがまま娘には付き合いきれない。しかし暇をくれるならそれは願ってもないことだ。三日適当に休んでその後適当に謝ろう。どうせ分かりやしない。
「お願いユベル。お願いよ」
 ところが、退出しようとした俺をわざわざ引き止めて最後にそう懇願した王女の目はなにやら必死で、先ほどまで考えていたことを猛烈に俺に後悔させ、さらに後ろめたさを感じさせるだけの力を持っていた。
「……承知しました」
 だから俺はそんな気なんてないのに、こう答えてしまったのだろうか。

 ◇

 学院を卒業して以来初めて会った友は、しかし、全く変わっていなかった。懐かしい思い出の数々が脳を満たす。あの頃が一番楽しかったかもしれないなと思うと、無性に寂しくなった。風の便りで反乱軍に身を置いているらしいとは知っていたが、それ以外はどこで何をしているのかさっぱりで――久しぶりに使った導きの魔法でカインが王都に居ると知ったときには、幸運に驚いたものだ。城に仕える者として考えるならば、反乱軍の一員がこんなに城に近い場所にいるのは危惧せねばならない事態なのだろうが、思考まで縛られるなんて冗談じゃない。
「くっく、学院を首席で卒業して近衛魔道軍にまで上り詰めたおまえが、まさか俺に教えを請う日が来るとはなあ」
 カインは顔を見るなり心底楽しそうな顔をしてそう言った。七年ぶりの再会だったのに、まったくその時間を感じさせない口ぶりで、今は敵味方だから昔のようにはいかないのではないかとか、都合のいいときだけ頼りやがってと思われやしないかと心配ばかりしていた俺を一度に安心させた。
「嫌な言い方するなよ。攻撃魔法ならおまえの方がずっと成績は良かったろ」
 面白くない事実だったが、事実である以上は認めるしかない。カインの扱う攻撃魔法はどれも強力で、派手で、そしていつだって目にすればすうっと胸がすくほどに爽快だった。
「へへ、俺はおまえと違って身軽だからな。おまえみたいに色々背負い込んでる奴に攻撃魔法は向かねーよ」
 嫌味は少しも含まれていなかった、が、気になった。俺が攻撃魔法を苦手としているのをもちろんカインは昔から知っていたが、こんな風に言われたのは初めてだったもので。
「どういう意味だ?」
「そのうち分かる。で、何の魔法だっけ?」
 カインとて忙しいだろう。あまり時間を取らせるわけにはいかない。街道は賑わっていて、皆忙しい足取りで行き来している。隅で語らう俺とカインの会話には誰も耳を傾けていない。十二分に確認してから、小声で用向きを伝えた。
「王女が爆発の魔法を覚えて来いとさ。あと二日しかない。おまえしか頼れないんだよ。頼む」
 なんであんな小娘のために俺はこんなに必死になっているんだろう。自分自身がよく分からないことに苛立ちと不快感を覚えながらも、俺はただひたすらに頭を下げた。
「あちゃー、そりゃおまえ、無理な話だ」
「ほんと頼むよ。自力で何とかしようとしたが上手くいかなかったんだ。礼なら弾むから」
 言ってしまってから失言だったかもしれないと一瞬慌てたが、カインはここで王城の情報を引き換えにするほど卑怯な奴でも狡猾な奴でもなかったと思い直す。その通りで、カインはすぐに気前のいい答えを寄越した。
「いや、俺は協力は惜しまないつもりだぜ。おまえには学院時代にたくさん借り作ってるからな。だけどな、爆発の魔法はおまえには無理だ。あれは攻撃魔法中の攻撃魔法なんだぜ?」
「それは知ってるが、何としても覚えないと王女の機嫌を損ねる。……そうなんだ、首にされたら家族が――」
 もし爆発魔法を習得できなかったとしても、あの王女は俺を首にしたりはしないだろう。分かっていたが、できないと告げたときに悲しく曇る丸い目を想像すると、なんとしても習得せねばという気になる。つくづく、俺もお人よしだ。
 カインは笑った。学生時代にときどき見せた、やけに大人びた――今はもうお互い大人になったが、それでも大人びていると感じるほどの――笑い方で。
「ほらほら、俺が言ってるのはそういうところさ。そうやって色々考えちまう奴に攻撃魔法は一番相性が悪い。どうとでもなれって気持ちが大事なんだ。そしたら爆発魔法だって自然と出来るもんさ」
「出来ないから来たんだよ」
「おまえのことだ、理論とか術式とかは全部頭に入れて来たんだろ、というか、学院時代からもう知ってただろ? だったら俺が言えることはそれくらいしかないね。まあ、頑張ってみろよ。絶対に出来ないってことはないだろうしな」
 励ましの言葉を付け足して、カインは俺を正面から見た。そして、一言、呟くように言う。
「ユベルは大変だな」
 同情のまなざしだったが、その中にかすかに、哀れみを見た気がした。城の中でよく感じるやるせなさが蘇って、途端に虚しくなった。
「……カインは大変じゃないのか?」
「俺は毎日好きにやってるぜ。さっきも言ったが、身軽だからな」
「少し、カインが羨ましいよ」
 久方ぶりに本音を零すと、心が一挙に透いた気がした。学院の中庭でカインと夢を語った日のことが、ふと脳裏を過ぎる。それがあまりに――窓越しに見上げた城よりもずっと――輝かしくて、泣きたくなった。
「ははっ、おまえにそんなこと言われるとは光栄だね。でも……そうだな。俺はさ、おまえももっと好きに生きたらいいと思うぜ。使い古された言葉だけど、人生一度きりなんだからさ」
 カインは、遠い昔の輝きを今まで持ち続けている。眩しくて、本当に、本当に、羨ましかった。
「また会おうな。できれば、敵としてじゃなく」
 そのカインからそういう言葉をもらえたのが、無性に嬉しかった。急に軽くなった身体を王城へ向けながら、俺は頷いてカインに応える。久しぶりに笑うことが出来た気がした。
「ああ、そうだな。色々ありがとな」
 そのときには既に、心は決まっていた。

 ◇

「わあユベル、お帰りなさい! 早かったのね」
 王女は満面の笑みを浮かべて俺を迎えた。一瞬後ろめたい気持ちがぶり返したが、気付かない振りをして俺は言った。
「申し訳ありませんアイリア様。仰せの件ですが、果たせませんでした」
「仰せって? ああ、爆発の魔法ね? そう……分かったわ。でもユベル、いつか見せてちょうだい。約束よ」
 王女は思ったよりも落胆を見せなかった。その代わりに約束をねだる。王女の目は、今日もきらきらしていた。その目から逃げるように視線を外して、俺は首を振る。
「いいえアイリア様。お約束することはできません」
「どうして?」
「私は今日一杯でお暇をいただくことにしたいと思っております」
「疲れちゃったの? いいわよ、明日からじゃなくても今日から休むといいわ。でもユベル、なるべく早く帰ってきてね。私、あなたがいないと退屈で」
 退屈しのぎのくだらない遊びに付き合わされるこっちの身にもなれ、という言葉をすんでのところで飲み込んだのは、七年仕えたこの王女に少しばかりは思い入れがあったためかもしれない。
「いいえ、疲れたわけではありません。嫌気が差したのです」
「いやけ? それって何? 嫌ってこと?」
 だがもう限界だった。ついに叫ぶように語尾を荒げてしまう。
「だから、このお城に仕えるのはもうたくさんなのです!」
 王女は驚きに呆然として、しばらく口が利けないらしかった。
「……ユベル? どうしたの?」
 ぷつりと、身体のどこかで何かが途切れるような音がした。途端に感情がせめぎ合いあふれ出して、俺は何が何やら分からないまま口任せに言葉を吐き出した。
「いいですかアイリア様。私の魔法はあなたのわがままのためにあるわけではありません。貧窮する民を捨て置いて己の保身だけ考える貴族のためにあるわけでもありません。……本当は俺は、カインと一緒にこの国をぶっ潰したかったんだ。このまま権力に媚びへつらって生きるのはもうごめんなんだよ!」
 言い切ってしまうと、さらに身体が軽くなった。勢いに身を任せたことは初めてで、この先どうなってしまうのかよりも、得体の知れない解放感にふわふわ浮き上がりそうな、心地良い酔いのようなものを感じていた。
「ユベル、私、難しい話は分からないわ。でもユベル、あなたはこの城が嫌いなのね? それなら私と一緒よ」
 そういうときに王女が意味不明な発言をしたので、俺の思考は完全に凍結した。
「は?」
「このお城の人は、みんな同じ顔してるわ。笑ってないのに笑ってるの。気持ち悪いわ。でも、ユベルは違った。あなたは笑わなかった。ずっと退屈そうな顔してたわ。私と一緒だなって、ずっと思っていたのよ。だから私、ユベルが好きよ」
 王女が他の城の人間と違うのは、毎回わがままに嫌々付き合わされながらも、きっと頭のどこかで分かっていた。こういう話を王女の口から聞いても驚かなかったのは、そういうことだろう。けれども今その返答を聞かされる意味が分からない。こちらは暇をもらうと言ったはずだが、それは一体どうなったというのだ?
「……はあ。それで、あの」
「アイリア様! いかがされました!」
 けたたましい声と足音がした。王女の部屋で怒声が上がれば当然の結果で、俺は後先考えずに暴走したことを今になってひどく後悔した。遠い故郷の家族を思う。なんてことをやらかしてしまったのだろうと思わないではなかったが、それよりも、きっと家族は分かってくれるだろうという根拠のない安心感の方が勝っていた。
「ねえユベル。あなたお城から出て行くの? それなら私も連れて行って。私もこんなところ嫌よ。ユベルと一緒に行きたいわ」
 王女はこの緊迫した状況をどこ吹く風で暢気だ。その上こんなことを言い出すものだから、全く、困った姫君である。
「ええと、アイリア様。それ本気で仰っていらっしゃるんですか」
「もちろんよ」
 ちょうどドアを開けて入ってきた大臣が、直近の会話を聞いていたらしく、俺をものすごい形相で睨みつけてきた。なんだ、いつも笑ってるだけかと思っていたらこういう顔できたんだなと、王女の暢気さが移ったのか、俺は悠長にそんなことを考えた。
「おのれ平民風情が! 王女様をたぶらかすとは何たることを。衛兵よ集え! あの者をひっ捕らえるのだ」
 あちこちから鎧の鳴る音が、つまり、兵隊が近づいてくる音がした。ああ、もう、こうなったらどうしようもない。そのとき、カインのアドバイスが耳に木霊した。
 ――どうとでもなれって気持ちが大事なんだ。そしたら爆発魔法だって自然と出来るもんさ。
 今ならできるような気がした。ほとんど確信だった。
「ふふふっ。逃げましょうユベル。私、なんだかすごく楽しいわ」
 楽しい。なるほど、この緊張感と高揚感は確かに「楽しい」という感情だ。これまた、久しい感覚だった。急に膨らんだ充足感に背中を強く押される。俺は片手を壁に向けて、昨日徹夜で学び直した爆発の魔法の術式を展開した。
「では、こちらから。アイリア様、ご覧ください。これが爆発の魔法です」
 眩い光の中から生み出された赤色が、視界一帯で派手に暴れた。景気のいい爆音が城中に響き渡ったかと思うと、城は大きく揺れて、あちこちに吹き飛んだ瓦礫が新たに作られた空洞からぱらぱらどこかへ落ちていく。カインの魔法に負けない爽快さだなと思って、俺はそっと笑った。王女はすごいすごいと喜色をあらわにして俺の腕にしがみついてくる。本気でついて来る気らしい。これからどうなるか分からないってのに、全く、物好きな王女様だ。
 まるで俺たちを歓迎するように大きく開いた新しい世界への風穴を、王女と共に俺は飛び出すようにしてくぐった。
 本当は、もっと。この先の答えに、確かに、今、近づいている。まずはカインに会いに行こう。俺と王女は、城から何やら騒ぎながらこちらを悔しげに見下ろしている大臣や兵たちを後目に、風切りの魔法でふわふわ下降した。そいつらの顔が少し俺たちを羨んでいるように見えたのは俺の気のせいかもしれないが、そのとき頬を心地良くなぶった風は、これまで二十数年間で感じたものの中で最も澄んだ空気を運んでいたと思う。
 そうして見渡した世界は、どこまでも広く鮮やかだった。
メンテ
リア充爆発しろ ( No.78 )
   
日時: 2012/02/11 18:41
名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:l6af4kJQ

「そうか……遂に出来上がったのだな、アレが」

 茶色の着物を華麗に着こなした、白髪頭の老人が椅子をくるりと回してこれから重大報告をする男に向き直った。その目は玩具を貰った少年のように輝いていた。彼の傍らに立つ黒スーツにサングラスといういかにも怪しげな出で立ちの男が「はっ」と一礼すると語りだす。

「苦節十七年……偉大なる会長、斉藤様の莫大な財産と豊富な人脈を最大限に活かして今日この日、遂に完成しました。例の『スイッチ』が」

「そうかそうか。それでは、その部屋に連れて行ってくれ」

 黒スーツの男はその言葉を聞くやいなや、老人の手を握ってエスコートした。老人は椅子から立ち上がると、傍らに置いてあった杖を手に取り、歩き出した。黒スーツの男がそれを先導する。二人は老人の書斎を後にした。
 二人はゴージャスな絨毯が敷かれ、シャンデリアがビル郡の如く立ち並ぶ廊下を黙々と歩く。やがて老人を先導していた黒スーツの男が不意に立ち止まり、「危ないのでお下がりください」と老人に促した。
 黒スーツの男はその場で思い切り身をよじると、何も無い壁に向かってパンチを繰り出した。すると壁の一部は忍者屋敷よろしく半回転し、人が半身で通れるほどの道を作り出した。

「行きましょう」

 老人を先に行かせ、黒スーツの男はその後についていく。そして自分が部屋の中に完全に入ると、後ろ手で半開きになった壁を閉めた。
 『例のスイッチ』があるその部屋はゴージャスな廊下とは違い、無機質な鉄で覆われた物だった。老人の位置から部屋の一番奥に超特大のモニターが設置されているのが見える。
 老人は後ろを振り返り、黒スーツの男を一瞥する。男はゆっくりと頷く。老人は満足そうに笑みを浮かべると、杖をついてモニターへと歩いていった。
 モニターの前には小さな椅子とテーブル。そのテーブルの上には赤いボタンと右向きの三角矢印ボタンが取り付けられた黒塗りリモコンが置いてある。
 老人は杖をテーブルに立てかけ、ゆっくりと腰掛ける。老人が座ったことを確認すると、黒スーツの男はリモコンの操作方法を語りだす。

「リモコンについている赤いボタンが電源ボタンと爆破ボタンになります。長く押せば電源のオンオフの切り替え、お好きな場面で短く押せば爆破となります。矢印のボタンは映像の切り替えボタンとなります。爆破後に押せば次のリア充の映像へと移ることが出来ます」

 黒スーツの男の説明を嬉しそうに聞いていた老人は早速リモコンの電源ボタンを長押しした。

「それでは……粛々と始めるとしよう……」

  ◆   ◆

「問題っ! 今日は何の日でしょう?」

 まだ日も高い午後。マンションとマンションの間にある小さな公園のベンチに座った制服を着た少年と少女。その質問を投げかけたのは少女の方だった。爽やかなスポーツ刈りの少年は、背の小さな少女の額を人差し指でつん、と押すと返答を返す。

「俺が忘れてる訳ねえだろ? 今日は――俺と愛が付き合った日だろ?」

「せいかーい、よく出来ました〜」

 公園に人気が無いことをいいことに少女は少年の肩に頭を乗せると、甘えた声を出した。少年はそんな少女の肩に手を回し優しく撫でる。

「好きだよ……ユウ君」

「俺もだブギャぶっ」

 少年の頭が内部から爆発を起こし、脳髄と鮮血を辺りに撒き散らした。ベンチに留まっていた小鳥数匹が驚いて羽ばたいて行く。それらは少女の頭に降りかかり、真っ白なブラウスを一瞬で目の覚めるような赤に染めた。少しの静寂の後、首から上の無くなった少年の死体がベンチから転げ落ち少女が悲鳴を上げた。

  ◆   ◆

 泣き叫びながら、しかし少年の死体には一切近づこうとしない少女の姿が部屋の巨大モニターに映し出される。モニターの前に座っていた老人はさもおもしろそうに手を叩いてその様子を笑いながら見ていた。黒スーツの男は後ろでそれを冷ややかな目で見守っていた。
 老人はモニターを指差しながら、嬉々として後ろを振り返り、黒スーツの男を見据える。その目は玩具を貰った子供のように輝いていた。

「見たか、これが女の本性というものだ! 死ぬまで本気で一人の男を愛そうというのにいざ死んだら手の平を返し、こうしてうわべだけの涙を見せる! 何とも愉快な生物よ!」

 老人は未だ泣き叫ぶ少女の姿を見て更に大爆笑した。それは三十秒ほど続き、呼吸困難を引き起こした。黒スーツの男が焦りながら老人へと駆け寄りその小さな背中を擦る。
 暫くして呼吸は収まり、老人は含み笑いを零しながらモニターへと向き直る。黒スーツの男は胸を撫で下ろしながら口を開いた。

「ええ……この『リア充爆発スイッチ』、対象者の中身だけではなく愛人の本性すらも曝け出す画期的大発明と言えるでしょう。流石は偉大なる会長、斉藤様」

 老人はフフン、と鼻を鳴らすと再びリモコンを掴み、矢印ボタンを押した。映像は泣き叫ぶ少女から坂道を疾走する二人乗りの自転車へと移り変わった。
 自転車のハンドルを握っていた少年が後部座席の少女に「俺もお前のこと、大好きだよ」という途中で老人は爆破ボタンを押した。少年の鮮血を浴びた少女はショックのあまり失神して自転車から転げ落ち、操縦主のいなくなった自転車は民家の塀に激突した。老人はその様子を見て再び爆笑、映像を切り替える。
 次の映像はいざ性交に走ろうとしていた高校生のカップルの映像だった。どこかぎこちない動きは両方とも初体験ということを暗示している。画面を穴が開くほどに見つめて約二十分。少年が行く寸前で老人は起爆スイッチを押した。少年の頭が爆発した。血が首元から勢い良く噴出し、双方の体を朱に染めてゆく。何が起こったことすらも分からない様子で呆然とする裸の少女を見て、老人は死にそうになるほど笑った。
 その後も老人は画面に映る年端もいかぬ少年達――その全員が全員、青春を謳歌している途中であった――の頭をボタン一押しで爆発させていった。老人にとっては時間の経過が随分と早く感じられたことであろう。老人は三十二人目の少年の頭を爆発させた所で黒スーツの男に時間を聞いた。黒スーツの男は「午後六時四十七分です」と答えた。
 老人はこれで最後か、と呟くとリモコンの矢印ボタンを押した。次の瞬間。四分割された画面には老人をありとあらゆる角度から撮った映像が映し出された。。それは部屋の四隅に設置された監視カメラの映像の物であった。
 老人は慌てふためきながら立ち上がり、黒スーツの男の方向へと振り返った。

「く、黒山! い、一体何なんだこれは!」

 黒山と呼ばれた黒スーツの男は表情をピクリとも変えずに――サングラスのお陰で見事に表情が分からないが――吐き捨てるように口を開く。

「『リア充爆発スイッチ』は正直でしてね……本物の『リア充』を寸分違わず選び抜き、その頭蓋を爆破します」

「そのようなことを聞いているのではない! 何故私が『リア充』なのだ!」

「まだ気付いておられないのですか? 今まであなたが風俗で無理やり抱いてきた女の数を思い出して御覧なさい。如何にあなたが『リア充』かよく分かるでしょう」

「それが『リア充』だと! 肩腹痛いわ! 双方が愛し合ってこそが恋愛というもの――――」

「まあまあ。それでもあなたはこのスイッチに『リア充』だと選定されたのだから。ここは潔くスイッチを押すのが筋ってものでしょう」

 黒山は老人に歩み寄り、スイッチに手を掛けた。老人はその手を撥ね付ける。スイッチが床に落ちる。老人はその隙に杖をとり、出入り口へと走って行った。
 黒山は壁を必死で叩く老人の後ろ姿に声を掛ける。

「その壁は一キロ以上の衝撃を一瞬で与えないと動かない仕組みになっております」

 老人は壁を叩くのを止め、後ろを振り返った。視線の先にはスイッチを持った黒山。老人の表情が絶望に染まっていった。
 黒山はそんな老人の姿を鼻で笑い、赤いボタンに親指を掛けた。

「さようなら。『リア充』さん」

 黒山は親指に力を込め、一息にスイッチを押した。
 老人の頭が爆発し、中身が床に四散する。しわくちゃの脳髄が辺りに散らばり、鮮血が赤いインクをぶちまけるように壁に床に飛び散った。暫くして、老人の体が床に伏した。
 黒山はその様子を見届けると鼻で笑いながら矢印ボタンを押した。次の瞬間、巨大モニターに四分割された自分の姿が映し出された。

「ま……因果応報か」

  ◆   ◆

 翌日。屋敷から忽然と姿を消した主人と一人の執事の死体が、例の部屋で発見された。第一発見者は死んだ執事と親しくしていた執事仲間。二つの亡骸を一瞥するなり携帯電話で警察に連絡したらしい。
 が、その二つの死体の共通点は両方とも頭がまるで刎ねられたように無いこと。検死の結果によると死因は爆死。それも頭の内側から木っ端微塵にするような。
 その事故とも事件とも結論付けられない特異な死因に、警察も頭を抱えた。
 全国の男子高校生百万人の脳内に出生時、視覚と聴覚をジャック出来る機械を取り付け、『リア充』と選別された男子のみを選び脳内の機械を爆発させる『リア充爆発スイッチ』の存在が明らかになったのは事件発生一週間後のことである。
メンテ
カウントダウン! ( No.79 )
   
日時: 2012/02/13 01:16
名前: 空人 ID:eW9741Jk

 朝起きると、俺は爆弾になっていた。
 これがゲーム内の話とか、何かの比喩とか、そんなのだったらどんなに良かったか。気付いたのはパジャマ代わりのスウェットを脱いだ時。それまでは、なんだか今日はやけに時計の音が大きく聞こえるなとか、そんな程度に感じていたいつもどおりの朝だった。それはそうだろう、カチカチという規則正しい音は俺の体の中から聞こえていたのだから。
 今俺は洗面所に来ている。自分のわき腹にある異物をじっくりと観察する為だ。

「うわ、マジかよ」

 思わず声に出てくる。鏡に映るひかえめな筋肉に埋もれているのは、紛れも無く液晶画面と数本のコード。そこに数字が並んでいて、例のカチカチに合わせてカウントダウンしているのだ。液晶をコツコツと叩いてみる。触れられた感触は無いが、肌を引っ張られるような感じがした。本当に引っ付いてるよ。しかもなんだよカウントダウンって。これ、あれか? 時限装置的な?
 液晶を引っ張ろうにも取っ掛かりも無く、コードを引き抜く勇気は無い。今はまだ五桁はある数字を恨みがましく眺め――――ちょっと待てよ。一日って何秒だ?
 血の気が引く。そしてそれとは対照的に跳ねる鼓動。
 ドクンドクン、カチッカチッ、ドクンドクン、カチッカチッ。
 そして今、唐突に気がついた。このカウントは一秒ごとにされているのではないという事実。コイツは俺の鼓動と連動しているようだ。うわっ、ちょっと待て。止まれ俺の鼓動! いや止まっちゃダメだ、静まれ! ダメだな、焦ると思考が鈍るし余計に動悸が激しくなる。素数でも数えるべきか? いや、そんな事で落ち着けるとは思えないし、ふざけてる場合でもない。どうにかしてこの状況を改善しなければ。


 結局思い至ったのはいつもの毎日と同じように学校へ行くというものだった。
 病院に行く? そんな事をして物珍しがられ、実験動物まがいの事をされたらどうするんだ。
 図書館で文献を調べる? 予備知識も無しじゃ、どれだけの時間がかかるんだ。
 少なくとも学校にはいつもの生活がある。刺激の無い凡庸なる平和がある。複合施設であるそこには、保健室も図書室もある。知識を教えてくれる教師が居て、安全と安心がある。
 学生である俺には大いに利用する権利があるのだ。使わないでどうする。
 ともかく俺は日々の繰り返しである支度を終え、焦らず急がず行こうと玄関の扉を開くのだった。

「遅いよ、健ちゃん。遅刻しちゃうかと思ったよ」
「……ちゃん付けはやめろよ、芽衣。それに、先に行って良いっていつも言ってるだろ」

 扉の先に、いつものように俺と一緒に登校するつもりだったらしい幼馴染の少女を見つけ、日常を実感すると共にいろいろと面倒臭い事情が頭を持ち上げてくる。
 おそらく芽衣は走る事を要求してくるだろうが、今の俺には自殺行為だ。それになんというか、彼女は活発な少女で、その物怖じしない性格は同性異性問わず人気がある。顔はあどけなさを残しつつも、昨今では薄化粧なども手がけており、それが何をどうしたのかやたらと周囲に好印象を残しているのだ。体つきも実に健康的な成長をしてきていて、制服のブラウスを押し上げるふくらみは自己主張を強め、スカートとハイソックスの隙間にある素肌はまぶしいほどなのである。
 つまり何を言いたいのかと言うと、コイツが側にいるだけでも野郎どもからの視線が俺の精神をすり減らし、気さくな笑顔を向けられようものなら貴重なカウントをガッツリ減らされるであろうことは想像に難くないわけだ。

「あー、芽衣? 悪いんだが本当に先に行ってくれないか?」

 とにかく、走っていく事は出来ない。やんわりと同伴を断る俺を、彼女の下から見上げる慈愛が容赦なく襲い掛かってくる。

「どうしたの健……私なにか気に障ること言った?」
「い、いや、そんな事は無いぞ。ただ、寝不足で調子が悪いから走れないってだけだ。学校には遅れるけどちゃんと行く。だが、それにお前を巻き込むことも無いだろうと思っただけだよ。……そうだ、先に行ってそのことを先生に伝えてもらえるとありがたい」

 とっさの言い訳だったのだが、俺の顔色がけして良いものではなかったことも手伝って、芽衣はしぶしぶ納得してくれたようだった。しきりに後ろを気にしながら走って行った彼女に手を振りながら、ようやく一呼吸入れる。さて、俺も行くか。


 どうにか一限目の授業の前に教室に入る事に成功し、遅刻を指摘する級友に苦笑いを返しながら席に着く。やがて始まったつまらない授業を聞き流しながら、今後のことを考える。指名を受けない限り、授業で大きくカウントが減るイベントは起こらないだろう。体育は見学させてもらうしかないか。
 あとはこのわき腹の爆弾をどうしたら良いのか、だ。図書室にコレを解体する手引書はあるだろうか。普段寄り付かないので、どの程度の専門書があるのかさえもわからない。まぁ、普通の学校には爆弾処理の仕方なんぞ置いていないだろう。図書委員に一応確認しておくか。
 保健室はどうだろう。こんな症状が他にもあるのだろうか。専門の治療とかは無理かもしれないが、生徒の身になって相談にのってくれる養護教諭がいるはずだ。決め手にはかけるが、悪いようにはならないだろう。
 ……なんて言うか、コレっていう決め手が無い。先の見えない未来に不安を隠せず、血の気が引く音を聞いていると、芽衣が話しかけてきた。いつの間にか授業は終わっていたらしい。

「大丈夫? 保健室行く?」
「そう、だな。何もしないよりはマシか」

 立ち上がり、少々おぼつかない足取りで保健室へ向かう。どうやら芽衣もついて来ているようだ。具合の悪い人を放っておけないのだろうが、このままでは彼女にも聞かれてしまう。いや、聞いてもらうべきだろうか? 要らぬ心配をかけることにはなるが、事情を知ってくれている人が居るのは正直心強い。


「失礼します」

 ノックをして扉を開く。が、そこに居るはずの養護教諭の姿を見つけることは出来なかった。主の居ない保健室は清潔すぎて落ち着かない。出直そうかと迷っていると、芽衣が背中を押してきた。

「寝不足が原因なら寝てれば直るんじゃない?」

 そういえばコイツには寝不足うんぬんで説明していたのだった。どうせ聞かれるのだから先に弁明しておくか。そう思っているのだが、彼女は容赦なく俺をベッドに押し込む。

「お、おい」
「いいから寝なさい。自分では気付いてないかも知れないけど、どんどん顔色悪くなってきてるんだから」

 だからそれは寝不足の所為ではないのだが、そのことを説明する暇も与えてはもらえず、彼女は世話女房よろしく俺に布団をかぶせる。そして心配そうに額に手を当てられれば、その冷たさが心地よく文句までも押さえ込まれてしまう。

「あ、あの、芽衣さん?」
「あのね」

 声が重なり、言葉までも押さえ込まれれば、さすがに不快感を禁じえない。聞けよ、話。

「健ちゃんはもっと周りの人を頼っても良いと思うの」
「は?」

 挙句にどんな上から目線なんだよ。ちゃん付けもやめろよと何度言わせる気だ?

「何を言い出すんだよ急に……」
「急じゃないよ、ずっと思ってたんだよ」

 話を打ち切らせてどうにかしてこっちの話にもって行きたいのだが、向けられた瞳の真剣さに気がつけば、それさえも困難だった。何だろう、何かを伝えようとしている?

「健ちゃんはいつも、なにか問題が起こっても自分ひとりで解決しようとするよね? それはすごい事だと思うけど、でもさみしい事だと思うの」

 こっちが黙っているのを幸いにと、芽衣の口は饒舌に思いを語り始める。それはこんな機会でもなければ聞けない貴重なものなのかもしれない。俺がこんな状態でなければ、もっとゆっくり聞いてやりたいところなのだが。

「今日だって、何か私に隠してるでしょ?」
「なっ、お前、気がついてたのか!?」

 さすがに驚いた。起き上がりそうになる上半身をふたたび押さえ込まれながら、俺は彼女の顔を見つめ返す。当たり前だよと自慢げに言い放つ彼女は誇らしそうに微笑んだ。

「だから、もっと私を頼って、ね」

 ベッドが揺れる。芽衣が腰を降ろしたのだ。そのまま俺の顔を覗き込むように身を乗り出し……。
 ちょっと待て、なんだコレは。いったい彼女は何をしようとしている?

「私はもっと健ちゃんの近くに行きたい。だって、私は……」

 こ、これはどう考えてもアレだろ? わかっていたさ、いつも彼女が俺に好意的だったことも。その視線に他の異性が映らないことも。俺自身が彼女のことを同じくらい深く思っていることも。
 しかし、なにもこんな時じゃなくても良いだろう。心臓に負担のかかるイベントは勘弁して欲しい。そんな考えとは裏腹に、俺の鼓動は高鳴り、心拍数は速やかに上昇を開始する。

「ちょ、ちょっと待っ……」
「私はっ! 健ちゃんが好きだよ」

 制止の声は遅すぎるものだった。そんなものに押されるほど彼女の想いも弱くはなかっただろう。熱い告白は心臓を直撃し、そのまま頬を寄せてくる彼女を拒むことなどできるはずも無い。
 昇り続ける心拍数を止められない。いや、止めようなんて思わない。彼女の背中を引き寄せながら、俺は一つの真理にたどり着こうとしていた。

 ――もう、死んでもいいと。

 体を離したときには保健室に警告音が鳴り響いていた。わき腹がわずかに振動しているのがわかる。残された時間が少ないようだ。間に合わないとしても、彼女を逃がすべきかもしれない。だけど、これだけは伝えたい。
 だから俺はエゴを通した。警告音に驚いている彼女をもう一度抱き寄せたんだ。

「俺も、好きだよ」

 甘いムードの保健室を轟音と閃光が支配して――……。






「そこで目が覚めたんだよ」
「なによそれ、意味わかんないんだけど?」


__終われ
メンテ
それは邪道です! ( No.80 )
   
日時: 2012/02/14 19:16
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:hORHvzwY

 窓の外に青々と広がっている空を見上げ、ぼくは心の中で泣きます。
 そして思うのです。これはもらい物の愛だから、そうなったのだと理由づけます。
 そうです、ぼくは往生際が悪いのです。

 ■

 皆さん初めまして、こんにちは。ぼくはしがない男子高校生です。
 男子AでもZでも、アイツでもコイツでも。好きなように呼んでください。あと、不必要な情報かもしれませんが、高校のクラスではまとめ役なんてものをしています。ただ、学級委員長ではありません。しがない男子高校生です、と繰り返します。
 実はぼく、秘かに「番長」と呼ばれているとかいないとか。そんな噂を耳にしたことがあります。友人に聞いてもぼかされました。ですので、はっきりしたことは分かりません。ただ、ぼくは自分の顔が厳ついということは自覚しています。そう呼ばれても仕方がないと思っています。
 と、ぼくの紹介は此処までにして、一つ回想をしてみますね。
 しかし、その前に。皆さんも気になっていると思われることの答えを先に言ってしまいます。
 影で「番長」とまで呼ばれるぼくが、何故このように丁寧な言葉遣いをしているかということ。
 それは、つい先日あった出来事。ぼくの先入観をはり倒し、心に思いがけないダメージを与えられたことが原因です。
 
 
 ぼくは、某県の特産品であるカキノタネは邪道だと思います。いえ、そのスナック菓子そのものは素晴らしいものだと思いますが、そのときぼくの目についたものは言い表すことの出来ないほど、ぼくの心に衝撃を与えました。
 塩気が利いたスナックとそれを覆うチョコレート。
 これは邪道です邪道。何故、甘いものと塩気あるものを一緒に食べなければいけないのですか。むしろ、チョコレートの甘みを感じることができないじゃないですか。それに、あの手のチョコレートの層は、厚いと感じてしまいます。
 少々甘みを感じて、直ぐさま塩が口内に広がり……何とも言えぬ胸焼けを体験することができます。
 修学旅行で「おみやげにー!」と、はしゃいで買うクラスメイトや友人が信じられませんでした。
 そのカキノタネ以外にも、チョコレートに包まれた塩というものはありますが、ぼくはその全てを拒絶してしまいます。
 要するに、ぼくはそういったものが好みではなかったというだけの話です。
 また、よくお祭りの屋台で売られているチョコバナナ。あれは、チョコレートと同類の糖分を包んでいます。一応食べることはできます。しかし何故、歯ごたえのあるチョコレートと、ある国では離乳食とされているバナナが一緒になっているのですか。バナナのエキスがチョコレートの表面を覆い、そのものの味を感じなくなってしまうじゃないですか。
 バナナの味だけを噛みしめ、……何とも言えぬ寂しさを体験することができます。
 おそらく、チョコレートに限らなければ。固いものの中に、柔らかい食べ物を含むものは世の中にたくさん流通しているのだと思います。けれども、チョコレート。あれだけは、純粋に食べたいです。
 要するに、ぼくはそういったものが好みではなかったというだけの話です。

 前置きはここまで。それではレッツ回想。
 それは、一昨日過ぎ去った2月14日。ある男子高校でのバレンタインデーでの出来事でした。

 ■

 いつものような平日でした。バレンタインデーという秘かなイベントを意味する2月14日であったとしても、男子校では意味のないものです。ただし、塾や部活、中学校での繋がりを維持したままこの年になり、他校の女子からチョコレートをもらうリア充なヤロウ共は例外です。
 ぼくだって男ですから、女子との関わりには憧れるものがあります。何故男子校に入ってしまったのか、と自分を責めるときもあります。ええ、ぼく自身の頭がそれほど宜しくなかったために発生した現実ですからね。第一志望の共学には行けませんでしたからね。しばしば、そのことを思い出し後悔してしまいます。
 昼休み。その時間帯にお昼ご飯を食べます。
 運動部の友人とお昼を食べようと、その隣り席を拝借したときのことでした。
 ぼくは目を見開き、しまったと呟きました。この日は、お弁当を持ってくるのを忘れてしまっていたのです。
 2月14日はくたばれ、と散々口にして着床したのが昨日でしたから、その恨み言の所為でしょうか。朝寝坊してし、親からお弁当を受け取ることを忘れていたのです。
 お財布の中を覗いてみると、残金は27円しかありません。これでは食堂はおろか、売店でパンの耳すら買えません。ぼくは昼は抜きになるのか、と危惧します。そしてその時、友人はそっと大きなバスケットを取り出しました。ぼくの困惑する不可解な行動の理由に気がついたのでしょうか。
 おにぎりを一つ、ぼくに差し出します。
 その優しさに、ぼくは感動しました。そしてお礼を言い、おにぎりを受け取ったのです。その時の、彼の様子をぼくは覚えていません。ただ、後からでもこれだけは断定できます。友人は真っ青な表情をしていたのだと。彼のお昼は、そのバスケットいっぱいに詰められたおにぎりのみだったのだと。そして、彼はぼくにその処分の荷担をさせたのだということを。
 ぱくり、と食べます。具は何かな、と楽しみです。
 ぱくり、と食べます。具はまだかな、と楽しみます。
 ぱくり、と食べます。
 ぱくり、と食べます。……ぱくり、ぱくり。
 喉に詰まりました。水筒のコップに、慌ててお茶を注ぎ飲み干します。おにぎりはようやく半分食したところでした。
 そして友人の顔を見たのです。
 彼は、ぼくから視線を逸らし、バスケットの中に詰まったおにぎりを睨みつけていました。そして「不必要な愛だ……」と何かを悟ったように呟きます。
 誰から、とぼくは問いました。誰から持たせられたのだと聞いたのです。
 姉ちゃんから、と友人は答えました。全部食べないと殺されると続けたのです。
 ぼくは無言で立ち上がりました。友人は申し訳なさげに眉を下げていました。それに、この世の終わりを見てしまったような絶望をも織り交ぜます。
 ぼくはそんな友人の様子を無視して声を上げます。
 女子からの愛、受け取れー! と。
 休み時間にもかかわらず、机に向かい勉強をする者。音楽再生プレーヤーに引き込まれ別世界に行っている者。ただクラス内でじゃれ合っている者。読書をしている者。死体ごっこをしている者。運動場や体育館でスポーツをする者がいないあたりから、このクラスには不健全な人が多いようです。
 友人のバスケットに入ったおにぎりは、ちょうどひとクラス分の数ありました。もしかしたら、友人の姉は全てを知っていたのかもしれません。
 バスケットを抱え、誰にも彼にも。友人のおにぎりを配り与えます。そしておにぎりを手に持ち、呆然としているクラスメートに、ぼくはもう一度声を張り上げます。
 ××の姉からの差し入れだー! さあ、喰え!
 そして彼等は、女子からの差し入れということで、喜びながらそのおにぎりを食べ始めたのです。教室は各々の歓喜で溢れかえります。さあこれで、ノルマは一人一つ。友人の負担は減りました。ぼくの負担だって減りました。クラスメートに対して、申し訳ない気持ちもないことはなかったのですが、もう見て見ぬふりです。
 そして、少し時間が経つと。この教室は呻き声で埋め尽くされていきました。
 ぼくも、チャレンジとして。もう一口、ぱくりとおにぎりを食べます。
 無理です、邪道です。ぼくには無理です。
 胸を押さえつつ、椅子に座っている友人を見ると、彼は全身全霊で幸せのオーラを発していました。
 それほど食べたくなかったのでしょう。ですが、このおにぎりは友人の姉の愛の形です。バスケットに有り余ったおにぎりを持ち帰っていると、後に悲惨な運命を辿ることになっていたのでしょう。ぼくも自然に頬がほころびます。しかし、おそらくぼくの顔も、大部青ざめていたことでしょう。

 
 そのおにぎりは、一つの爆弾を抱えていたのです。それも決して爆発しない不発弾。ただ、身体の中を蝕んでいくという愛の形。
 ぼくはその半分になったそれを見つめ、手元に残る透明のラップへ、そっと戻しました。辺りを見回すと、ぼくはあることに気づきました。どうやらこのクラスメイトたちは、もらったものを残すのはいけないのだという想いが強い人ばかりのようです。ぼくと友人が配り与えたおにぎりを、涙目になりながらも懸命に食べていました。
 そうです。そのおにぎりは、ぼくの可能性を遙かに上回るほどの邪道だったのです。

 なかにはえきたいのちょこれーとたっぷり。

 む、胸焼けが……!
 待て吐くな! ××さんの言いつけだぞ!
 あ、これ意外においしいかも。
 え?
 え?
 え?
 え?

 ・
 ・
 ・

 ・
 ・
 ・

 
 決して奇抜なものを作らない、料理上手な女子からの手作りチョコレート。
 押しつけではないそんな本物の愛が欲しいと思います。
 2月14日が、ぼくたちにとって非道な日であったとしても。そのお零れを素直に受け取ることをするぼくら。
 何たって、そんな気さくな人が好かれるのですから。はいそこ、男子校では関係ないだなんて禁句です!
――……そんな無難なものを、いつか食べたいと切実に思った日でした。
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.81 )
   
日時: 2012/02/16 12:09
名前: 企画運営委員会 ID:sol8ZDAs

作品のご投稿お疲れ様でした。
16日(木)〜29日(水)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。


第10回『爆発』:参加作品 >>77-80(敬称略)

>>77 If:のちに彼は
>>78 天パ:リア充爆発しろ
>>79 空人:カウントダウン!
>>80 sakana:それは邪道です!
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.82 )
   
日時: 2012/02/24 21:37
名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:o8yeVxps

どうも、前髪天然パーマ野郎、略して天パです。
文の書き方が上手い人は批評も上手とかどこかで聞いたことがあります。
つまりは逆を返せば批評が下手だと文の書き方も下手だと。人事とは思えない、というか自分のことですねー。

>>77 If様:のちに彼は

わがまま王女の召使いとして生きてきたやるせない、苦労の日々が、最後の魔法と一緒に弾け飛ぶ。
青春物のような、爽快な終結。見事でした。
人生も同じで何か自分を縛っていたものを完全に破壊しつくした時には爽やかな気持ちなのでしょうね。よし明日学校破壊しよう。
何と言うか、見失っていた何かを発見できた良いお話だと思います。

>>79 空人様:カウントダウン!

一行目から唐突に突きつけられるシュールな出来事と何の変哲もない日常が程よく絡み合い、それが主人公のユーモア溢れる語りで表現され、読みやすくおもしろい作品でした。
ラストの夢落ちもありがちなんだけど意表をつかれました。定番ネタだからこその妙技ですね。
それと果てしなくどうでもいいんですが読み始めてからハンターハンターのあの能力を思い出した方は自分だけなのでしょうか。

>>80 sakana様:それは邪道です!

丁度バレンタインデーに読んだので「あれ?これお題関係なくね?」と最初は思ったのですが、ラストに行くにつれて納得することができました。確かにそれは爆弾ですね……
これもまた軽快な一人称で読みやすく、全体的に哀愁漂う作品でした。
ちなみに自分は超甘党なのでたぶん食すことができると思い(ry

>>78 自作:リア充爆発しろ

ああもう駄作。自分の趣味と欲望を「爆発」させた結果がこれです。
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.83 )
   
日時: 2012/02/24 18:18
名前: 空人 ID:6DS2AMe2

十回以上やってるのに、批評が上手くなってる気がしないのはなんでなんでしょうね?


>>77 If様:のちに彼は

 エリートであるが故の悩みということで共感を生むのは少し困難でしたが、現状の仕事に満足できないと考えることはどんな世界にでもありえる事なのだなと思いました。なんだか寂しい気持ちにもなりましたが。
 少しずつ溜め込んだどこにも吐き出せない思いは、友人の導きで活路を見い出し、純真な瞳のお願いと思わぬ告白に引き鉄をひかれ、溢れ出す。
 爆発を象徴するような物語の構成は、面白かったと思います。だけど溜め方も解放の勢いも、もう少しギリギリまで追い込んでやったほうがメリハリがついて良かったかもしれません。
 エリートとして歩んできた青年と、世間知らずのお姫様。どう考えても困難しか待っていない二人の行く末に、二人の幸せが待っていることを願わずにはいられませんね。


>>78 天パ様:リア充爆発しろ

 ある種の復讐劇、なのでしょうか。「リア充爆発しろ」をそのまま実行したらこうなった、ですか。命が軽いですね。人がゴミのようです。
 爆弾やシステムの開発費、新生児への手術費、病院ほか各所への手回し等を考えると、莫大な時間と費用がかかってますね。しかしその結末はあまりにも無残でした。リア充への怒り妬みを他の方向へ向けられていたら、それこそこの老人が思い描いていた真のリア充な生活を送れたのではないでしょうか。
 燻っていた残り火が一瞬大きく燃え上がり、また小さな火種にもどり、もっと大きくと思ったら消されてしまった。そんななんとも言えない後味の悪さを感じました。


>>80 sakana様:それは邪道です!

 チョコレートおにぎりを最初に創ったのは誰なんでしょうね。ネタだったのか、ただのチョコ好きだったのか。否、チョコ好きならば絶対にやらないですね。
 ポテチや柿の種にかかっているあれは、実は食べた事が無いのですが、主人公やおそらくsakanaさんとも同じように、食べたいとは思いません。邪道、そう邪道ですよね。
 話の構成としては、序盤でおにぎりの中身はバレバレだったので、どうにか衝撃の告白チックに説明しようとする事が、文章を少し緩慢にさせていたのではないかと思います。こういう話の持っていき方は本当に難しいですよね。キャラクターの見せ方が上手かっただけに惜しかったなと思いました。
 不発弾という表現はこの話に合っていて良かったです。
 ところで死体ごっこってなんですか?

>>79 自作:カウントダウン!

 夢オチは微妙だろう、と自分でも思いますよ。
 最後のセリフも、もう少し何とかならないものかと。まぁ、あれです。告白のきっかけにするには唐突すぎる話だったかもしれないですね。


 さて、次回は『魔法』お題小説スレも一周年ということで、一年前と同じお題です。
 今まで参加してくれた全ての皆様と、これから参加しようとわずかでも思ってくれている全ての皆様に、心からの感謝を。
 ありがとうございます。
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.84 )
   
日時: 2012/02/29 02:29
名前: If◆TeVp8.soUc ID:3dyvhr22

やっぱりギリギリなのです。すみません^q^ 閏年万歳!
連載の執筆が進まない……っ! 久しぶりの行き詰まりです。ということで批評やってみました。
私もいつまで経っても批評が上手くならない。うーん。精進します。

>>77 If:のちに彼は
割と本気で「たまには王道書いたっていいじゃない」ってタイトルにしようかどうか迷いました。
一夜漬けの勢いだけでできた作品です。ごめんなさい。もう読み直すのも恥ずかしい^q^

>>78 天パさん:リア充爆発しろ
序盤笑いました。もうスイッチ出てくるところから、いい意味で先が予想できて、しかもその予想をいい意味で裏切らない進行で、また笑いました。いいぞもっとやれ、って感じです。
ところがびっくり、中盤から、蓋を開けてみればシリアスな物語でした。そうきたかって本当に驚いて、どうなんだろう、そのまま麻痺しちゃった感じです。それがいいのか悪いのか分からない。
序盤の勢いそのままにギャグに走っても良かった気もするし、それじゃありきたりだからこうしてシリアスにしてみるのも面白いといえばそうかもしれません。私としては前者がよかったかなって思いますが、たぶん趣味の問題でしょう。
これ、暗に、「リア充爆発しろなんて言ってるとそのうち自分が爆発するぜ!」ってメッセージ含んでません?^q^ ごめんなさいもう言いません。でも、一杯でてくるリア充カップルたちには、つい「爆発しろ」って言ってしまいたくなりますね! 爆発させたのが男子ばっかりなのは、天パさんの優しさの表れなのかどうなのか。
天パさんはシリアスもギャグも書きこなすことができそうだなあ、と思いました。ぜひまた別の作品も読ませていただきたいなと思います。

>>79 空人さん:カウントダウン!
「終われ」に笑いました。なんだろう、これは元々夢オチで終わらすつもりだったのか、それとも収拾がつかなくなって夢オチにしたのか、どっちなのでしょう。
初っ端からぶっ飛んだ展開にはドキドキしました。続きが気になって、どんどん先へと読ませる力を持っていたと思います。
けれども、たぶん、空人さんご自身もお気づきのことでしょうけれど、最後は少々強引だったかなと思います。
夢オチにするにしても、もう少しその準備を整えてから終わらせて欲しかったかなあと。せっかくの面白さが最後でぶつりと切れてしまったような気がして、とてももったいない感じがしました。
空人さんは書くたび文章がスムーズになっていきますね。羨ましい発展速度です。とても読みやすかった。

>>80 sakanaさん:それは邪道です!
笑いました。まさかsakanaさんのこんな話が読めるなんて驚きです。いつもとはちょっと違った新しい味わいですね。
思いっきりのよさとノリのよさが伝わっていて、いい意味ではっちゃけていました。でもなんだかほんのり温かくて、やっぱりその辺りにはsakanaさんらしさが見える作品です。
ただ、前述した思いっきりのよさに引っ張られて、物語が少々軽くなってしまった印象は受けました。工夫された軽快な読み口の語りのおかげで退屈さは感じなかったのですが、ワンアイデアで突っ切ってしまった感じがします。
もう少し、物語の方に何か工夫があればより楽しめたんじゃないかな、というわがままでした。挑戦心の感じられる一作でした。
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.85 )
   
日時: 2012/02/29 22:51
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:H3HRPK4Y

※敬称略


>>77 If:のちに彼は
 希望に満ちあふれ、自らの期待を映した未来。現実とはかけ離れすぎたそれに憂くユベル。その様子が、冒頭部で語られたキャラの背景によりいっそう伝わってきました。それに、失敗せずアイリアさまの要望を叶え続けるユベルにはプレッシャーが掛かっていたんでしょう。冒頭部では、アイリアさまとの口調に温度が感じられませんでした。ええ、もう何とも言えません。表面と内面のギャップの効果が素敵すぎます。……あれ、何を言いたいのかよく分からなくなってきました。
 少し贅沢をいうと、あとちょっと。印象的なタイトルが欲しかったです。ネーミングセンスのない私が言えることではないのですが、何というかこう……短編っぽいタイトルを、かな?
 とにかく、一文一文が流れるように丁寧で、もう本当に感嘆ばかりです、とだけ。
 今回は特に、この物語の彼等キャラクターに魅せらてしまったように思います。
 それにしても何だか素敵な衝動(今回もお題に参加していふさんの感想絶対に書くんだ!)を頂きました。ここで暴露してしまってすみません^^


>>78 天パ:リア充爆発しろ
 何だか天パさんといえば、リア充という印象が出来上がってしまったようです。連載の作品の方も、今回のお題も(題名からして思いっきりリア充!)。ですが、内容はど肝を抜かれてしまうような感じです。では以下から批評です。
 愛ちゃんとユウくん、自転車の乗っていた少年と少女、高校生のカップル、他のリア充の人たち、そして老人。モニターに映る人はどんどんと変わり、更にリア充少年が爆発する度に喜ぶ老人の様子と交えるのですが、そのくるくるとテンポ良く彼等の様子を描写ていることが、かなり効果的で印象強かったです。一文一文が本当に凝縮されていて、もう感嘆ばかり。
 それに、壁にパンチを繰り出して半回転など、細かな設定が素敵。物語自体はシリアスなのですが、そういうところにはお茶目心が見え隠れして楽しかったです。
 ただ気になったところを上げると、黒山さんのリア充理由が不明瞭だったのが心残りでした。彼女や妻がいたからそうなのか、はたまた老人をリア充と認定されたことに幸福を感じたためか(……これもリア充になります、よね?)。もう少しその辺りの暗示をどこかに入れて欲しかったように思いました。
 それにしても、リア充たちが爆発する仕組みが壮大すぎる。老人、どんだけリア充を恨んでいたんだー。


>>79 空人:カウントダウン!
 見事にやられました。夢オチとはつゆ知らず、あああ主人公ー……などと思い、同様に心拍数上がっていったところで――落とされた私って←

 鼓動と共にカウントダウン。いやもう焦るなというのは無理ですね。その主人公の真逆の葛藤にどきどきしながらも何だか微笑ましく思いました。
 それにしても芽衣ちゃんの描写がちょっとえろい。私からしても、主人公の視点に何だか新しい境地が芽生えそうです。本当に眩しいよう。
 ただ気になったところを上げると、冒頭部に比べてラスト部分が少し手薄になってしまっているかなと感じました。けれども、本当にお話のどきどき感はやばい、やばいです。それに何だかこの二人互いを分かり合っているという点が、お似合いに見えてくる理由かな。
 当初の訳の分からないまま死にたくない、という思いから。恋によって死んでもいいや――と幸福感にまみれるまでの流れがとても良かったです。
 また夢から起きた主人公。彼の話が突拍子過ぎて、告白したことを後回しにされているようです。そんな不憫な主人公にエールを送ります^^


>>80 自作:それは邪道です!
 初めに一言。ご め ん な さ い … … !
 何も考えずに書いてしまいました。手抜き感が見え見えです。ちょっと頭湧いてました。ものすごく主観的すぎます。あのおにぎりは忘れられません。と、反省点が盛りだくさん。
 何も考えずに書いたら、こんなに短くなるものなんだなあ、と新たな発見ができました。それは良いことなのかな。
 バレンタインデーのノリって恐いですね←
 あと死体ごっこなるものは。探偵ごっこなどのときの被害者で、話が進むのを待って待って待ちまくって、それでも生きている人たちの会話が終わってなくて、動こうに動けない人たち……などと、今設定を考えてみたり。


最後に
 何だかこの頃は、批評を書く度にどういう風に書くものだっけ……? と混乱してしまいます。この頃は、手が止まってしまうこともしばしば。もしかしたら、スランプ気味なのかもしれません。書きたいネタだけはたくさんあるのにー、とぼやいてみます。
 それにしても、締め切り間近に批評提出……うわあ、ごめんなさい! 次回からはもっと早く提出するように努力……します!
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.86 )
   
日時: 2012/02/29 23:40
名前: 企画運営委員 ID:3dyvhr22

【第十回総評】

 今回はテーマが『爆発』だったこともあってか、勢いのある作品が多かったのが印象的な回でした。ぐいぐい読ませる力が強く、どの作品もとても楽しんで読むことが出来ました。参加者が少なかったのは、少々難しいテーマだったからでしょうか。しかし、今回は初参加の天パさんの参加がありましたね。これからもたくさんの方に参加していただければと思います。
 課題としては、ストーリー展開が単調なものが多かったかもしれません。勢いと取ればそれは確かにそうでもあるのですが、もう一歩踏み込んだり、工夫が効いていればよりいっそう盛り上がったのではと思います。また、最後の片付け方に課題が残る作品も多かったですね。クライマックスを迎えた後の処理、もしくはそもそもクライマックス自体の盛り上げ方。特に短編は息切れしたくなるときに迎えるところなので、なかなか難しいのですが、重点を置いて書くことができればなと思います。
 次回のテーマは「魔法」ですね。私も一年前を思い出して恥ずかしくなったりしているのですが、ご自身の上達を実感されるために、もしくはこれから実力の向上を目指していくために、ぜひふるってご参加ください。F板のこの盛り上がりと一緒に、お題板も盛り上がればなと思います。ありがとうございました。
メンテ
まぎかる ( No.87 )
   
日時: 2012/03/01 00:00
名前: ゆみたん ID:ruzrDVA6


 私は魔法使いだ。
 決して、神聖を貫いたまま年を老いたわけではない。それに、これでも脱ゆとり世代のいまどき中学生だ。しかし、まぁ、だが、私は、まぁ、まだ神聖だ。当然といえば当然なのだが……あ、でも彼氏の一人や二人! 彼女の三人や四人いるし! ……あぁ……ごほん、いや、こんな話はどうでもいいだろう。そうだ。そうに違いない。
 話を戻すが私は魔法が使える。だから魔法使いだと自分でも思う。
 火が出せるとか、時を戻せるとか、そんな害や欲をもたらすものではない。
 だけど、そんな私利私欲のための魔法じゃなくて、人のための魔法を私は昔からつかえた。
 それは魔法ではない、という人もいるかもしれない。それもまぁ一つの答えだ。そして、その魔法は誰でも使える。つまりだ、人類生けとし生けるもの全て魔法使いだといえる。話を掘り返すようだが決して、童貞を貫いたからとかではない。決してない。
 だけど、そんな誰でも使える魔法はとてもとても偉大だと私は思う。
 私は、思うのだ。





 今日も私は魔法を使う。
 学校で。
 家で。
 明日も使うだろう。
 明後日も使うだろう。
 私は魔法を使うのが得意だ。
 魔法を使うのは楽しい。
 だから、今日も私は魔法を使う。










 あっ。


「おはよう」

「おはよう」



 今日も、私は魔法を使う。




 ――あいさつの魔法を。



 ――あいさつの魔法は、とても偉大だ。





 ぽぽぽぽ〜ん。
メンテ
Re: お題小説スレッド【二月期:批評提出期間】 ( No.88 )
   
日時: 2012/03/01 00:18
名前: 企画運営委員会 ID:nSJ3MzeQ

第11回「魔法」の作品投稿期間となりました。
作品投稿期間は3月1日(木)〜3月15日(木)までとなります。
ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
皆様の力作お待ちしております。
メンテ
魔法少女襲来 ( No.89 )
   
日時: 2012/03/01 00:49
名前: 黒猫 ID:M4XlPArE



 この世界では皆が魔法に頼って暮らしてる。
部屋の明かりもお風呂を沸かすのも料理をするのも全て魔法。
魔法が無くなれば生活ができなくなってしまうと言っても過言ではない程、魔法に頼り切っている。
生まれた時からそうだし、別にそれが不思議とも思わない。
でも魔法を使って全世界に一つの放送が流れた。

「この世界にある魔法の根源である魔力が底を尽きてしまう」

 すぐに受け入れることはできなかった。
生まれてから当然のようにある魔法。それが無くなってしまうなんて想像できないし、したくもない。
もし本当に無くなってしまえば、生活は出来なくなってしまうから人間は全滅に近い状態になってしまうだろう。
人類相続の危機と言える程の出来事。
しかし放送は続いた。

「皆様はこことは別の異世界というものがあるのをご存じだろうか」

 さっきから嘘か本当か分からないような事を連発する放送だ。

「かつて謳われた伝承の中にこんなものがある、枯れた大地に人間の血肉を与えることで大地は生を取り戻す」

 大地から魔力が流れてきているというのは当然の知識で、この場合に言っている大地とは魔法の事だろう。
なんとなくだが解釈すると「魔力が枯渇すれば人間の血肉を大地に与えればそこにある魔力は再び復活する」とかそういうこと。
でも、そんなもの伝承に過ぎなかった。

「異世界への扉は既に開かれつつある、異世界の住人全てを要に世界を復活させようという案が出ているのだ」

 放送はまだまだ続く。
何処の誰がこんな変な宗教染みたことを言っているのか知らないが、こんなことバカげてる。
まともに聞く人間なんて一人もいるわけない。
大体、魔力が枯渇寸前って時点で誰も信じていないと思う。
でもだったら一体何のために世界的な放送をしているのか、大ボラを吹くためにこんなことをするだろうか。
私はふと考えた。
それから月日を重ねるごとに、心なしか魔法の力が弱まってきている気がする。
何故だろう。そう思い始めた人々の中にあの放送が思い出された。
本当に魔力が枯渇しているのだろうか。だとすれば存続のために異世界の扉をくぐり、その住民たちを全て殺してしまわなければならないのだろうか。
様々な想いが全世界に住む民衆の頭を駆け廻る。

 ああ、世界は滅んでしまう――。
全世界、数えきれない程の人間が史上初、同様の事を考えた瞬間であった。
勿論、魔法少女である私も同じことを考えていた。



「と、いう夢を見ました」
「何それ、バカみた〜い」
学校に行く途中、私が話した夢を聞いて大爆笑するユーちゃん。
転校してきて間もない私に話しかけてくれた親友で、今は何でも話せる仲。
夢の話で高笑いをあげながら楽しく学校の校門をくぐり、ユーちゃんは他の友達と会って様々な人に挨拶を交わしていく。
一人で取り残された私。今なら小さく呟く程度誰にも聞こえない。


 ごめんね、私、本当は――――。



メンテ
結末を知らない物語。 ( No.90 )
   
日時: 2012/03/01 12:08
名前: かなちゃん王女 ID:UisG3afU

 昔々で始まる物語。
 それはある国のお話です――。
 その国には一人の王女様がいらっしゃいました。
 王女様は大層お美しくあられて、求婚者が野を越え山を越え、海を越えやってくる程でございます。
 けれども、王女様はどの求婚も断わってしまいました。
 しかし、それで諦めきれぬ男がおりました。
 それは悪い国の王子様でした。
 彼はお抱えの魔女にこう相談しました。

「王女様が私に振り向くようになる魔法をかけておくれ」

 と。
 魔女は言いました。

「人の心を変えてしまう魔法はありません。けれど、そう仕向ける魔法ならございます」

 それで構わないと言う王子様に魔女は続けます。

「それには王子様に、他の求婚者と同じように努力してもらわなければなりません」

 魔女はそう言って、二つの条件を出しました。

「一つ、王女様には永遠の眠りについていただきます。それは運命の者とのキスで目覚める呪いにも似た魔法でございます」

 王子様は頷きます。
 我こそが彼のお美しい王女様の運命の者と疑わずに。
 魔女は二つ目の条件を口に出しました。

「王女様には私が作り出す棘(いばら)に囲われ、ドラゴンが守る城で眠っていただきます。
 棘の森を抜け、ドラゴンを討ち、見事その難関を自力で突破し、王女様を助け出してください。
 そうすれば、彼の王女様は王子様を運命のお人とお認めになられ、晴れて結婚をすることが出来るでしょう」

 王子様はそれで良いを返事をし、魔女は早速お美しい王女様に呪いにも似た魔法をかけてしまいました。
 突然現れた魔女にお美しい王女様がさらわれてしまったので、ある国の人たちは大騒ぎです。
 ある国の王様は、お美しい王女様を助けるために国中、世界中の人たちにこう言いました。

「我が美しき王女を救い出してくれたものに、王女を妃とする権利を与えよう」

 その言葉を聞いた悪い国の王子様はしてやったりと、早速お美しい王女様が眠る城へと出向きました。
 けれど、悪い国の王子様は棘に囲われ、ドラゴンが守る城に辿(たど)り着くことができず、また他の者も辿り着いても助け出すことは叶いませんでした。
 そうして、お美しい王女様は今でも棘に囲われ、ドラゴンが守る城で眠り続けているというのです。


 ――とあるところに、一人の少年がいました。
 彼は特別な力を持っているわけでも、特別な地位を持っているわけでもありませんでした。 
 けれど、とても優しい心を持っていました。

「昔々の物語。棘に囲われ、ドラゴンが守る城には眠れる王女様がいるという」

 ある日、彼の住む村に流れの吟遊詩人がやってきました。
 それはとても年老いた女でした。

「王女様は今でも運命の人を待ち、眠り続けている」

 吟遊詩人は最後の一句を謡いきると、またどこかへ流れて行ってしまいました。

「棘の城の眠れる王女――」

 彼の心に、王女様を助け出すという火が灯りました――。


 昔々で始まる物語。
 それはある国のお話です――。
 その国には一人の王女様がいらっしゃいました。
 王女様は大層お美しくあられて、求婚者が野を越え山を越え、海を越えやってくる程でございます。
 彼女は悪い国の王子様に、永遠に眠り続ける魔法をかけられてしまいました。
 そして彼女はずっと、長い時間を眠りの中で過ごしています。
 ――けれど、いつしかその物語に続きが書き加えられました。
 王女様はキスという魔法で目覚め、幸せに生涯を終えた、と。

 ――終幕――
メンテ
Hannon le. ( No.91 )
   
日時: 2012/03/01 23:07
名前: ATM◆hRJ9Ya./t. ID:DbNl6UQY

Hannon le.


 幼い頃のわたしは魔法なんて一個も使えなくて、それで執事である、あの男に相談をしたの。
 そうしたら、彼は笑顔で言っていた――

「誰にでも使える魔法があります」
「ほんとう?」
「ええ、本当です。それはですねお嬢様。ありがとう、と言う魔法です」
「ありがとう? それは言葉でしょう、魔法なんかじゃないわ」
「いいえ、違いますよお嬢様。ありがとうとは、感謝の言葉です。言われた側も、言った側もぽかぽかする、心が温かくなる魔法です」
「そんなの魔法じゃないわ。魔法っていうのはね、おっきな炎でドーンって敵をやっつけたりするの」
「それは人を傷つけてしまう悲しい魔法です。お嬢様、わたくしはそれを行使するあなたさまを見たくはないのです。お嬢様はお優しいお方です。それはもう聖母のように、慈愛に溢れております。ですから、そんな人々を傷つける魔法を覚えて欲しくはないのです」
「やだわ、わたしもおとうさまみたいな立派な魔法使いになるの」
「左様でございますか……」

 彼の笑顔からは、残念そうな色が少し出ていた。それだけで太陽が雲に覆い隠されたように、輝きをとんと失ってしまった。

「ねぇ、あなたも魔法を使えるのでしょう。わたしに教えてくれない?」
「残念ですがお嬢様、わたくしは魔法などという巧妙な技術は持ち合わせておりません。わたくしがお教えできるのは、ありがとうという言葉のみでございます」
「そう……」

 わたしはそのときの彼の言葉を鮮明に覚えている。まるで昨日の出来事だったかのように、なぜか明澄に。

「お嬢様。ありがとうという魔法は、心が温かくなることもあれば、悲しくなってしまうこともあります」
「?」
「お嬢様はまだ幼いですから、これから十分に経験を積んで答えを見出してください」

 彼はそう言ってその言葉の意味を教えてくれなかった。そして、その後にこうも言った。

「……そうですね。あと少しで意味がわかるのではないでしょうか。わたくしの推測が正しければね」

 まるで悟っているかのように目を細めて言っていた。太陽のような眩しいばかりの笑顔は完全に俤を消して、どこか儚い表情だった。この時わたしは、始めて彼のことを「淋しそうな人だな」と思った。

 その数年後、彼は逝去した。
 わたしは泣いたよ。いつもそばにいてくれて、なんでもお世話をしてくれて、だれよりも優しかったあなたの亡骸の前で。泣きじゃくって、一週間も部屋から出なくて、悲しくて淋しくて食べ物も喉を通らなかった。

 わたし、わかったよ。あなたが黄泉の国へと旅立ったとき、やっとわかったよ。あなたがわたしに教えてくれた唯一の魔法の意味が。あのときの言葉の意味が。
 その魔法を使えば人は自然と笑顔が綻び、嬉しくなる。けど、状況次第で悲しくもなる。
 どれだけ後悔したことか。まだ一度も言ったことがなかったあの魔法(ことば)を伝えられなかったことを。だから今、ここで言うね。

 あなたに最大の感謝を込めて――















――「ありがとう」、と。
メンテ
HAPPY LIFE ( No.92 )
   
日時: 2012/03/03 18:41
名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:QZyt.0sM

 『平成』と呼ばれた時代よりずっと、ずっと先の未来。広大な宇宙の中にその星――『水球』はありました。星の七割を水が占めることから名前がついたそうです。大昔の『水球』は『地球』と呼ばれていましたが、今となっては知る術はありません。大昔の『水球』を知る者や文献は百年前の全世界核戦争で全て消え去りました。核戦争の終戦後に残ったのは、焼け残った焦土と、全人口百万人にも満たない僅かばかりの人間だけでした。
 ただただ荒廃した都市だけが続く大地で、彼らは悔やみました。「なぜ、また同じ過ちを繰り返してしまったのだ」と。人の歴史は、長々と続く戦争によって作られてきました。それを人は温故知新で分かっていたはずなのに、再び繰り返してしまいました。戦争の後に残るのは深い悲しみと絶望と、朽ち果てた大地だけだということも知っていたのに。
 それから彼らは立ち上がりました。微かに見える希望を捨てずに、僅かな人口と何もない大地で、『地球』再建計画を模索したのです。後に彼らは開拓者の意を込めて『パイオニア』と呼ばれるようになりました。
 『パイオニア』達から生まれた長男、長女の位に位置する通称、『第一世代』は特別な能力――俗に言う『特殊能力』『魔法』を持っていました。『第一世代』の彼らは何も無い所から、鉄や炎などの物を出すことができました。彼らのおかげで、何もなかった大地には簡素なモノや家があふれました。しかし、これだけではまだ『地球』再建とはいきません。
 そこで『第一世代』達から――『パイオニア』の孫に位置する――通称、『第二世代』が生まれました。『第二世代』も『第一世代』同様に特殊な能力を持っていました。それは手先の器用さ。彼らは誰にも劣らない技術力を持ち合わせていました。『第一世代』と『第二世代』は協力して、役に立つ道具や工夫してもっと便利になったモノをたくさん作りました。この『第二世代』が成人する頃には、『パイオニア』は全て死に絶え、『地球』は『水球』へと名前を変えました。
 技術革新の止まることを知らない『水球』で、また新たな生命が誕生しました。通称――ここまで来れば言わなくとも分かりますね――『第三世代』です。彼らもまた、地味ではありますが強大な能力を持って生まれました。それは頭の良さ。彼らは一人一人が神童の如く秀才で、子供の頃から様々な法則や原理を発見していきました。彼らが発見した原理は『第一世代』や『第二世代』が作ったモノに組み込まれ、更に人類の生活は豊かさを増していきました。大地に電波塔や工場、ビルが乱立され整備された道路を自動車が走るのにはそう時間はかかりませんでした。このレベルに達するのに約七十年です。凄まじいスピードで、人類は進化を遂げてきました。
 『第三世代』が生まれて二十年ほどの月日が経ちました。その頃には全ての学問は完成されました。数学、文学、哲学、物理学、経済学、心理学――――神や幽霊の存在は完全否定され、全ての事象は科学によって裏付けされました。そして、産業は誰にも止められないくらいのスピードで進化を遂げていきました。

  ◆   ◆
 
 それから、十年の月日が流れました。『第一世代』、『第二世代』、そして他の世代よりやや寿命の短い『第三世代』が死に絶え、特にこれといった能力を持ち合わせていない普通の人間、『第四世代』が地球を埋め尽くしました。しかし、それでよかったのです。その時には既に、文化という文化は全て完成され、求めるモノが全て手に入る『水球』が出来上がったのですから。
 町はまさにパラダイスでした。流行に振り回されず好きな服を着た『第四世代』が町を練り歩き、空は『浮遊自動車』と呼ばれる乗り物が秩序を守って通行しています。これのお陰で海に切断された大地と大地を自由に移動することが可能になりました。かつては荒れた更地だった場所には、ビルや色々な店、住宅街が並んでいます。
 『浮遊自動車』ができたお陰で外国人同士のコミュニュケーションが盛んになりました。そこで音声自動翻訳装置、略して『音訳』と呼ばれる物が作られました。最初はヘッドフォンのように耳に直接かけて使っていましたが、最終的には小型化して体に埋め込む形となりました。
 発達した科学は、もはや『魔法』と呼べる域まで達しました。
 人類は遂に念願の夢、不老不死を達成することができました。『第三世代』が発見した技術によるものです。異常に発達した医療技術のお陰で人々の健康を脅かすウイルスは完全に駆除され、人々は死の恐怖を忘れてしまいました。同時に、整形手術の技術も異常に発達しました。町には美男美女が溢れかえりました。
 世の中から「浮浪者」「自殺者」という言葉はなくなりました。使う必要性がなくなったのです。『第三世代』が設定した議会政治のマニュアルにのっとって政治を行うことで、社会の安定は保たれました。そのお陰で、浮浪者は絶滅し、誰もがお金に困らない、幸せな生活を送れるようになりました。
 食料にも困りませんでした。核戦争の以前まで『日本』と呼ばれていた大地に大きなドームが設立されました。この世の全ての食料はそこで作られました。
 あらゆる面で不幸な人間は、完全に消えました。争いごともなく、欲しいモノは全て手に入る夢の世界が出来上がったのです。
 
 ――――が、それもそうは長く続きませんでした。
 
 三百年続いた、平穏。平和。そんなある日。世界中に自殺者が増大し、人口が激減しました。「自殺」という考えすらもない時節の中のそのニュースに、人々は恐れおののきました。政府はただちに原因を解明しようと世界中の死者の統計を取りました。統計を取ったことで、ある一つの事実が浮かび上がりました。それは自殺者の大半が三百年以上生きた初期の頃の『第四世代』ということでした。
 彼らの大半は死ぬ前に遺書のような音声による伝言を遺していました。いわば遺言です。『第四世代』の主な自殺動機は、「生きることに飽きた」でした。
 そのニュースを聞いて、人々は思い直しました。「果たして、自分達は本当に幸せだったのか」と。

 ――――幸せは、人々から『希望』を奪っていったのです。

 何もかもが、頂点へと達してしまったために、人々は高みを目指すこと、挑戦することを止めてしまいました。
 学問が大成されてしまったために、人々の頭はどんどん悪くなっていきました。
 『歩く』『走る』以外の移動手段が全て確立されてしまったために、人々は動くことを忘れてしまいました。やがて彼らの体は退化していきました。
 ちょっと手を伸ばせば欲しいモノは全て手に入ります。そのため、人々は努力をすることを止めてしまいました。
 整形技術が発達してしまったために、町には似たような顔の人間があふれかえりました。どんな人でもその人なりの個性があるはずなのに、人々は自らそれを手放しました。
 発達しすぎた医療技術は人々を必要以上に長生きさせました。人々は生きることに退屈してしまいました。

 ――――人々は自らの愚かさに気づきました。
 
 自分の在り方に人々は絶望し、町には自殺者が続出しました。一日で世界の全人口の半分が減りました。人々の一日の大半は死体の回収作業で占められました。二日目には全世界の人口が皮肉にも百万人を下回りました。人々は不満の捌け口がないためにストレスが溜まりました。
 ――どうしてこうなった? 誰のせい? 誰を恨めばいい? こんな世界を作るきっかけを作った『パイオニア』? それとも魔法のような能力を持った『第一世代』? 『第二世代』? 変なニュースを流した政府? 『水球』とは何? 自分は何のために生きてきたの?
 幸せだったはずの世界は、一瞬で絶望に染まりました。どんなに欲しがっていたモノも今は空虚に思えてきました。幸せな生活が霞のように消えていきます。

 ――――何でもかんでも、貪欲に求めすぎた愚かな人々は、やがて世界から消えました。残ったのは、人々が必死の思いで作り上げてきた文明だけ。

 ……あ、いや。すみません。今の話には一つ、訂正すべき所がありました。
 人々は決して完璧などではなかったのです。
 なぜならば――――私が天地を創造した神だからです。
メンテ
ママとお皿と魔法使い ( No.93 )
   
日時: 2012/03/05 21:41
名前: ロブスター×ロブスター ID:POdj6o9g

「あの、お皿を割っちゃったんだけど」
 部屋に入るなりそう言うと、彼女は口元に小さく弧を描いた。見れば、彼女の頬はうっすらと赤く染まり、瞳は奇妙に揺れている。それからしばらくの沈黙があって、僕は読んでいた本をベッドの脇のテーブルに置いた。そして、すこしばかり眉を上げて、忙しなく揺れる彼女の瞳を改めて見つめた。
「お皿を?」
 僕はゆっくりと、噛み締めるかのように言い、ベッドの上で体を動かして座り直した。
「そうなの。またママに叱られちゃうわ」
 そう言って彼女が視線を下に落とすので、僕は目のやり場に困り、仕方なく窓へと視線を向けてみた。すると、夕暮れの暖かそうなオレンジ色の光が町をつつみこんでいくのが目に入った。やがて、その光は町のみならず、僕の薄暗かった部屋までもオレンジ色に染め上げて行った。窓の近くには花が飾られていたのだが、僕はその影が見る見るうちに形を変えて行くのがなぜかたまらなく面白くなった。
「だから、だからね」
 そんな声に我に返った僕は、再び彼女の方へと視線を移した。成る程、よく見れば忙しなく動いていたのは瞳だけでは無かった。お腹のあたりで組み合わされた白く細い指もまた、何度となく組んでは開いてを繰り返していたし、唇はもごもごとおかしな具合に動かされている。
 僕は唇が歪みそうになるのを間一髪咳払いで殺すと、怪訝そうに目を細めた彼女の次の言葉を待った。やがて彼女は元いた場所から二三歩前へ歩みを進め、口を開いた。
「だから、魔法を使って、元に戻してほしいの」
  魔法を使って。彼女は確かにそう言ったようだ。
 僕は今まで膝の上に置いていた手を持ち上げ、顎へと移した。そして、視線を左斜め横へと流し、体をずらして二度目の座り直しを行った。
「お願いよ」
 彼女の声が微かに空気を揺らして、僕の鼓膜を振動させた。視線は流しているので、彼女の顔は見えないが、この声の掠れ具合から推測するにおそらく涙ぐんでいるのだろう。はたまたもう泣いているのか。
 それから十九秒の時を経て、僕は漸く言った。
「いいとも」
 刹那、彼女の表情は劇的な変化を遂げた。いや、それは表情に限ったことでは無く、彼女の身振りも、口ぶりも、はたまた周囲の雰囲気までもが一瞬にして色を変えたようだった。
「本当に! ありがとう。これで、ママに怒られなくてすむわ!」
 まず、そう言って笑う口元に変化が見られた。もはやそれは最初に部屋に入ってきた時に見せた機械的な曲線の一部ではなく、ヒトが喜びを体現する時に見せる完全な笑顔というものに他ならなかった。次に、ピンと張られた糸の様に動かなかった眉が完全に弛緩し、今やハの字を形成している。当然、それの意味するところは安心である。
雰囲気とは、その人自身が創りだすものである。それを証明せよ
 そんな証明問題があったなら、彼女は間違いなく百点の答案を導けるに違いない。
「ねぇ、魔法を使えばすべて元通りかな」
 不意に僕はそう尋ねた。すると、彼女は瞳を丸くし、僕の顔を見つめた。そして、首を三十度程傾けて言った。
 「そうよ。だって、お皿さえ直れば、すべてすむことだもの。ママは怒らないし、あたしは怒られない」
 当然でしょとでも言うかのような瞳が、まっすぐ僕を見据えていた。既にそれは揺れてもいなかったし、涙ぐんでもいなかった。
「じゃあ、こうしよう。今から僕と競争をしよう。僕が魔法でお皿を元通りにする間、お前は自分の部屋に戻って答えを考えてみるといい。いいかい? お皿が直っても、直らないものなぁんだ、だよ」
 僕はそう言って口元に弧を描いた。
「わかった。じゃあ、競争よ」
「うん。はやく行きなさい。ママが戻ってこないうちにね」
 ママがもどってこないうちという言葉が効いたのか、彼女はうっすらと微笑みを浮かべ、しかし足早に自分の部屋へと戻って行った。
「さて」
 僕は一つため息をつくと、ベッドから腰を上げた。そして、コートを羽織ると、魔法を使うべく、デパートへと向かうのだった。(了)
メンテ
気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法 ( No.94 )
   
日時: 2012/03/10 00:01
名前: 空人 ID:3aIHTkMs

 休日の図書館は粛々とした喧騒の中にある。
 大陸中の魔道書、禁書、楽譜等が一堂に会すこの魔道図書館においてさえ、書籍のデータ化の波は抑えられないものであった。
 幻術士たちが編み出した“奇界”は、空間魔術でもちいる仮想空間に、人の力で顕現せしめた異界である。彼らはそこに規則性と限度を埋め込み、魔力を有する者であれば誰でも利用できるオリジナルスペース“上部催都”の設立をやってのけたのだ。これによってある者は自社の紹介や宣伝、販促を行い、またある者は個人の趣味や、仲間たちの集う対話空間に利用した。
 この魔道図書館も例に漏れず上部催都を建ち上げており、そこで閲覧できる書籍数は無限に思えるほど膨れ上がっているのである。ひとえに仮想空間であるが故の矜持だと言えるだろう。

 斯く言う私もそんな上部催都を利用する者の一人であった。催都を利用する為には補助魔道具である“魔道眼鏡”を使用する必要がある。レンズに映る情報を思念で操作できるのだ。これをかけながらであれば、歩きながらであっても情報の閲覧は可能ではあるが、注意が周囲に向かなくなり、衝突事故が起こった例も少なくない。
 故に私は、この図書室の賑やかな静寂に身を委ねることが日課になっていた。最近のお気に入りは、各人で作り上げた幻術映像を上部移相し、上部閲覧者に無料で配信する催都『世を滑る会』にアクセスして、魔道眼鏡の蔓の部分から骨伝導で伝わる音楽を聞き流しながら、魔道書の文字を指でなぞる。そんな贅沢を満喫しているのだ。

「――っ」

 しかし最近、酷使してきた魔法端末にはノイズが混じるようになってきた。この魔道眼鏡はもう三年も使い続けている。そろそろ機種変更をしなければならないのかもしれないと思いながら、これまでは愛着と怠惰の導くままにしていたのである。

「どうしたのシー、浮かない顔して。『よをすべ』でグロい動画でも見つけた?」
「ユー……」

 眼鏡をはずして見上げると、そこには心配顔の友人が居た。彼女もまた重度の上部依存者だ。自分の術歌を世を滑る会(略称:よをすべ)に上部移相している謡い人でもある。それなりに人気があるらしく、私もしばしば彼女の術歌の視聴に時間を割いていた。

「違うよ、ちょっとノイズがね」
「あー、古いもんねその機種。買い換えないの?」
「まぁ、それには先だつものが、ね……」

 仕送りとアルバイトで食いつないでいる学生に、魔道眼鏡の買い替え等、必然性の高い出費は鈍い痛みのように懐具合を蝕むのである。顔をしかめる私を見て、友人は何かを思いついたように表情を変えた。

『そうだ、ちょっと待ってね……ほい』

 今更ながら周囲に気を配ったように念話通信に切り替えて、ユーはとある催都のアドレスを私に提示してきた。

『これは?』
『今年起業した眼鏡メーカーの広告催都。その下の方を見てみて』

 友人のどこか胡散臭い誘導と、やはりどこか胡散臭い広告に眉をしかめながら、私は催都の文字を追う。
 そこには、新製品のモニター募集という文字が躍っているのだった。





 催都に載っていた住所が近所だった事もあり、半ば強引ではあったが私はユーに手を引かれ件の新規眼鏡メーカーを訪れていた。シンプルな装いの建物は街中に溶け込むように慎ましやかに建っていて、さりげないセンスの良さに期待以上のものを感じた私達はガラス戸をくぐり受付へ足を進める。

「いらっしゃいませ、コバヤシテクノコーポレーションへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

 どうやら眼鏡の製作会社というよりは、魔道具の技術開発を担う研究所と言ったほうが正しいようだ。受付のお姉さんの貼り付いた接客に会釈をかえしながら、躊躇する私を置いてユーが進み出る。

「モニター募集の広告を見てきました」
「かしこまりました。ただいま担当の者をお呼びいたしますので、待合室にてお待ちください」

 やや礼節に欠けるユーの態度が受付嬢の笑顔を揺るがすことも無く、私たちは簡素な一室に通され担当者を待つ事となった。程なくして現れたスーツ姿の男性は私たちを油断の無い瞳で観察した後、その切れ長の目に営業スマイルを貼り付ける。

「お待たせして申し訳ありません。ワタクシ、新商品開発担当のオギと申します。今回はモニターを引き受けて下さるとのことで、まことにありがとうございます。先ずはお名前と、ご職業もしくはご所属を教えていただけないでしょうか?」

 あきらかな年下相手に対しての丁寧すぎる言葉遣いが、私の警戒心に拍車をかけてくる。しかも先ほどまで勢いのあった隣の友人までも、なにやら萎縮してしまっているようで、意図してかどうかはわからないがそれなりの効果があったのだろう。

「シー・クエンス。メビウスアカデミーの二年生です」
「あ、同じくアカデミー二年のユー・ジュアルです。よろしくお願いします」

 後半の声をフェードアウト気味にしてどうにか自己紹介を終えたユーの姿に溜め息をこらえながら、私は対面の男性『オギさん』の様子にも注意を忘れなかった。彼の営業用の笑顔に作り物らしからぬ意思が宿るのを微かに感じたのだ。

「ほう、アカデミーの学生さんでしたか。失礼ですが何か証明できるものはお持ちですか?」
「ああ、はい。学生証で良いでしょうか」
「ええ、かまいませんよ」

 私たちが学生証を提示すると、その写しを作成するとの事でオギさんは一時的に席を外す。イチイチこちらに許可をとるという丁寧な姿勢は相変わらずだ。
 緊張気味の相方に声をかけ、その緩和に努めているとオギさんが戻ってきた。

「失礼ながら控えを取らせていただきました。こちらはお返しいたします。お二方とも大変優秀なご様子なのでこちらとしても喜ばしい限りですよ」
「いえ、所詮学生の身ですので」
「これはご謙遜を。先ほどからの対応一つ一つにも優秀さが現れておりますよ。それに……失礼ですがユーさまはもしかして『詠い人』では?」
「えっ、ご存知なんですか!?」
「はい、いつも拝聴させていただいております。先日上部移相された『異次元ドリームフィーバー』は素晴らしい出来でした」

 先ほどまでおとなしかった友人が身を乗り出すようにして会話を始める。彼女の緊張を緩和させるための話題だったとしても、オギさんの抜け目の無さは侮れないものだといえるだろう。もちろんただ彼女のファンだったという事も考えられなくは無いが、学区内でも彼女のファンだという者を見かけたことは無かったので、その光景に違和感を覚えたのだ。
 術歌に関する二人の会話を聞き流していると、オギさんの部下らしき女性が書類と小さな箱を二つ抱えて部屋に入ってきた。私たちの前に並べられたそれらに促されるように、二人の会話は止まり、オギさんの説明が始まる。

「そちらには新製品の取り扱いについての説明とモニター試験に関する説明が書かれています。こちらが誓約書。よく読んでサインして下さい」

 渡された資料をパラパラとめくる。どうやら基本的な使い方は従来のものと変わらないようだ。しかしもう一つの品はどう考えても違う。渡された箱は従来の魔道眼鏡にしては小さすぎるのだ。

「そちらの箱が今回モニターしていただく新製品になります。当社の自慢の品ですので、どうぞご覧になってください」

 やはりコレが新製品らしい。訝しく思ったのは友人も同じようで、互いの顔をうかがいながら私たちはその箱を開ける。中には二つの対になったケースが入っており、それを開けた先にようやく見つけ出した新製品は、何の飾りも無い小さなレンズだった。

「これ、フレームは無いんですか?」
「はい、そちらは直接目に装着するタイプになっておりますので」
「えっ、そんな事をして痛くないんですか?」
「個人によっては痛みや違和感が発生するケースもありましたが、慣れてしまえば問題ないようです。もちろんそのあたりは実証済みですので、ご安心ください。簡単に説明いたしますと、直接装着する事で、ご覧になった情報を素早く、そして大量に脳へと送ることが可能になったのです。上部催都の閲覧の他、目の前で展開される魔術や魔力のこもった現象に関しても情報を表示できるようになっています。そちらのケースには浄化の魔方陣が仕組まれていますので、就寝時に外していただいて洗浄なさるのがよろしいかと思います」

 目蓋の中に異物を仕込むというのには少し抵抗を覚えるが、言っていることは確かに納得のいくものだった。さらに、一週間試験的に着用し、その感想や問題点などをレポートで提出すれば、その後このレンズは私たちの私物として使ってもかまわないという。機種交換が必要な私にとっては願っても無いことだ。

「ただし、モニター中のレンズの破損、紛失には相応の金額をもって責任を取っていただく事になります。また、何らかの犯罪に関わるトラブルにはこちらは関与できませんのでご了承ください。あとは、周りの方に商品の宣伝もしてくださるとありがたいのですが、その辺りは任意でという事でお願いします」

 要するに、盗まれたりすると双方にとっての痛手だという事を理解した私は、了承の合図として首を縦に振る。ユーも「わかりましたっ」と元気に返事を返して、その場はお開きとなった。

 こうして、私たちは最新型の魔道眼鏡『コンタクトレンズ』を手に入れたのだった。





 かくして私はまた、図書館の粛々とした喧騒の中にいる。
 はじめは装着や目蓋の裏の異物感に戸惑ったものの、慣れてしまえばどうということも無かった。図書館に来る顔見知りに、魔道眼鏡の有無をたずねられるたびコンタクトレンズの事を説明するのは少々大変だったが、二三日すればそれもおさまってくるだろう。
 しかしこのレンズは非情に優秀な機能を持っている。上部催都の情報はレンズに映すだけで、一瞬にしてその内容を全て把握できてしまうのだ。魔道書など枚数のかさむ教本も、数秒で読破できてしまう。物語を読むときは少し物足りなく感じてしまい、結局一文一文目で追う事になるのだが、それも下手をすれば作者の意図する読ませたい部分やそこに込めた感情にまで理解が進んでしまうため、ストーリーそのものを楽しむ事が困難になるほどだ。
 よをすべ等から流れる音楽は直接脳に届くため多少違和感があるものの、使い勝手は概ね悪くないものだと言えるだろう。目をつぶり、その特異な感覚に身を委ねる。
 このレンズの優位点はまさにここにあるとも言えよう。魔道眼鏡では考えられなかったが、目を閉じたままで催都の閲覧が可能なのだ。更にこのままで、周囲の状況も魔力の探知で有る程度把握できる。だから、後ろから驚かそうと友人が近寄って来たとしても、動じる事は無い。

「何か用? ユー」
「あれ、わかちゃったか」

 振り向いた先でユーは、決まり悪そうに頭をかく。その顔にはいまだ魔道眼鏡が備わっているがいわゆる伊達眼鏡らしい。コンタクトレンズの説明が面倒だし、何も無いと落ちつかないのだとか。その気持ちはわからなくも無いが、宣伝にはならなそうだ。
 その友人が何かを話したそうにそわそわしているのだが、こちらからきっかけを与えるべきなのかは悩みどころだ。

「あ、あのさ、シー。ちょっとこれを見てくれないかな」
「どれ?」

 どうにか声を振り絞ったユーが提示してきたのはこの図書館の蔵書の一冊で、私は何も疑問に思うことなくそれを開いた。

「あんた、これ禁書じゃない! 私たちが閲覧する許可がおりるわ、け……?」

 小声で叫ぶ声さえもかすれて出てこなくなってしまう。私のレンズには本来閲覧が許されるはずの無い禁書の一頁が何の警告も無しに展開してしまったのだ。

「どう、して?」
「たぶん新製品だからかな? 規制の対象になっていないのか、規制をかいくぐれる仕様なのかはわからないけど。すごいよね、これ」

 すごい、どころの話ではない。今の一瞬見ただけで私の脳には禁書に書かれていた魔法が焼きついてしまっていた。そして流れ込んでくる、この書の製作者の意図と思想。

「これ、転移魔術? なんで禁書に……え、転移先の制限無し!?」
「あはっ、覚えたんだね。これで、わたしと同じだ!」

 嬉しそうに笑う友人の言葉に、顔を上げ目を見張る。それはつまり、彼女も禁じられた術を覚えているという事。しかしそんな事は後回しで良い。彼女は笑っているのだ。もし誰かに知られたら厳しく罰せられてもおかしくない状態に友人をおとしいれてなお。

「どういう、つもり?」

 疑問と共に素早く周囲に視線を飛ばす。こちらに視線を向けたり注意を払うようなそぶりをしている人は居ないようだ。というより、周囲の人の気配が妙に希薄に感じられる。やがてそれすら白く染まって。
 気付いた時にはそこはもう、いつもの図書館ではなかった。

「気付いた? ここはわたしが創った仮想空間。一応上部の隙間にある事になっているけど、そもそもここでは厚みとか関係ないしね。思ったより簡単に出来たよ。ああ、これも禁書の中にあった魔術ね。他にもいっぱいあるし、いっぱい覚えたよ。ねえ、わたしすごくない!?」

 言葉を返すことが出来なかった。確かにこの現象は普通の術者には出来ない芸当だろう。例え禁書に掲載されている魔法を覚えたにしても、一介の魔術師が、それもまだ教育を受けている段階のひよっこがだ、こんな魔術を一人でこなせるとは到底思えない。彼女には才能が有ったのだろうか。普段の彼女からは想像がつかない。
 自分が禁書を見たときのことを思い出す。そうだ、アレを見た瞬間に覚えたのは魔術の使い方だけではない。おそらく一流であっただろう魔術師の知識。それも複数のものが彼女に流れ込んだのだとしたら? 彼女は本当に彼女だろうか。

「質問に答えて。こんな事をして、いったいどういうつもりなの?」
「わからない? わからないかな。これだけの力をわたしは、わたしたちは使えるのよ? もう学生なんかで居る必要は無いわ。この力をもってすれば。世界中の禁書、魔術書を閲覧できたなら! わたしたちは無敵だわっ! 何者にも縛られず、何者にも屈さない。わたしたちは神になれるのよっ! あっはははははははっ!」

 これでハッキリした。彼女は私の知る彼女ではない。私の友人はこんな事を望むような娘ではなかった。おおらかで、お調子者で、歌が好きで、強がってはいるけれど本当は寂しがり屋で、人を思いやる事が出来る優しい子。ユーはそんな娘だったのだ。

「なぜ私をここに連れ出したの? 私をどうするつもり?」
「んふふ、わたしに賛同して、一緒に世界に干渉しようって言うのなら、連れて行ってあげても良かったんだけど。あなたってほら、クールを装っているくせに妙に正義感が強くて、暑苦しいところがあるじゃない? だからきっと反対するんだと思ったのよね。だからあなたはここに閉じ込めようと思うの。殺しちゃっても良かったんだけど、そんな事をしたらかわいそうでしょ? この空間は時間の流れの外にあるから、年もとらないし、お腹も空かない。怪我をするようなものも無いし。あ、不老不死だわ、やったね」

 ぎりっと奥歯を噛みしめる音が聞こえた。自分で思っているよりも感情的になっているらしい。当たり前だ、お前の口で私を語るなと言ってやりたかった。それは友人だからこそ許せる軽口だと。しかし現状の私には何も出来ない。抵抗できる手段も無く、反論できる持論も無い。
 ただ沈黙を守る事しか出来ない私に、彼女は優しい笑顔で詠う。

「もし気が変わったら、さっきの術でわたしに会いに来たら良いよ。そしたらもう共犯者だし、仲直りしようね。やっぱり一人は寂しいもんね。じゃ、待ってるからさっ」

 そう言って、彼女は虚空に消えてしまった。
 彼女が私をここに閉じ込めたのは、おそらく同じ力が使える者が邪魔だったからだろう。彼女は私を恐れているのだ。しかし、一人は寂しいと言ったあのセリフはユーの本心から出たものだったかもしれない。
 ここに残れば何も出来ず、ただ生きるだけの人形になる。長いだけの時間に気が狂ってしまうかもしれない。
 彼女の元へ行けば、共犯者。二人で世界を動かす事はもしかしたら楽しいかもしれない。だが彼女のように禁書の意思に精神を蝕まれ、とんでもない過ちを罪悪感も感じずに行ってしまう可能性もゼロじゃない。
 ……たらればを言ったところで解決には至らない。だから私は決断する。いや、元より選択の余地など有りはしなかったのだ。
 大きく息を吸い込んで、私は魔力を解放した。





 転移した先も似たような空間だった。場を安定させる為に貼り付けられたタグに、ユーの気配が匂う。どこからか聞こえてくる歌声は間違いなく彼女のものだ。先ほどの場所と雰囲気が違うのは、閉鎖されていない空間だからだろうか。

「あはっ、来たね。待ってたよ」

 途切れた歌を惜しみながら、駆け寄ってくる歓迎の声と対峙する。その言葉に嘘偽りは無いのだろう。そうでなければ、さっさと目的を果たせばいいのだ。彼女の、ユーの意思は確かに存在している。ならばなぜこのような事態に陥っているのだろうか。

「一緒に、来てくれるんだよね?」
「申し訳ないけれど、それは出来ない」

 私の返事を聞いて、彼女はこの世の終わりのような表情を浮かべる。拒絶は二人の決別を意味していたのだから。うつむき、こぼれる言葉は涙か。

「……だったら、あなたはここで死ななければいけない。わたしを邪魔するものは、排除しなきゃダメ、だから」

 小さく吐き出された言葉に、込められていたものは殺意などではなく。燃え上がるのをこらえてにじむ、悲しみ。

「無理だね」
「どうして? 禁書に書かれていた術を使えば、わたしはあなたを簡単に殺せる。だから、反対するのならあなたはあの閉鎖空間に居るしかなかった、なのにっ!」

 振り絞った感情は、けれど私には届かない。

「あんたは私を殺せない。もう、気付いているはず」
「そんな事無い! わたしは出来る、出来なきゃ、わたしはっ! ああああああっ!?」

 慟哭に膨らんだ魔力を、彼女は一気に解放した。

「キャンセル」
「えっ!?」

 空間をきしませるほどに膨らんでいた魔力が突然に消失し、彼女は支えを失い膝をつく。そして、今目の前で起きた現象を信じられないといった表情で見つめる。彼女には、見えているはずだから。

「コネクト。ハイパーリンク。わかったでしょ? あんたには無理だよ」
「どう、して……これ、こんな魔術シラナイ……あなたはあの禁書に載っていた魔術の他には、アカデミーで習ったものしか使えないはずなのに……」
「あんたが見せてくれたじゃない。そこから応用して、意図と解釈から読み取って、再構築。そう、これはどこにも無い、さっき私が考えた魔術。新しい魔法。そしてこれを見せても、きっとあんたには使えない。あんたは……優しすぎるから」

 力なく地面にへたり込んだ友人に優しく手を伸ばす。抱擁し、彼女の頬を伝う悲しみを全て抱え込む。きっと彼女にはもう理解できているはずだ。今から私が何をするのかが。

「や、やだっ。ねえ、やめてよっ! そんなの、嫌だよっ!?」
「ごめんねユー。ばいばい」

 私は自分が泣いてなんかいない事に気がついていた。

「デリート」

 コンタクトレンズを通じて直接つないだ回線から、彼女に送り込むのは消滅の指示。彼女は意識を手放し、力尽きる。主からの指示と魔力の供給を失って、崩壊を始めた空間が悲鳴をあげた。
 目をつぶり、転移の魔法を展開しながら彼女の身体を抱きしめたのは、自分が失ったものの重さとぬくもりを感じていたかったからなのかも知れなかった。







 図書館の定位置で、私はコンタクトレンズに関する報告書をまとめていた。
 閲覧制限に対する規制の甘さを指摘しつつ、禁書に触れたこと等は秘密にしなければならず、頭を悩ませる。手元にあるコンタクトレンズのケースは二つ。自分の物と回収したもう一つを視界の端に収めながら、報告書に意識を戻す。いろいろ考えるのは後回しにしたかった。
 今使っているのは使い古した魔道眼鏡だ。コンタクトレンズはコバヤシテクノコーポレーションに返却しようと思っている。私にはもう、必要の無いものだから。

 報告書を書き終えた私は、二つのケースをきつく握りしめ、席を立つ。これで一先ず肩の荷を降ろすことが出来る。それでも足取りは軽くなんてなりはしないけれど。
 不意に聞き覚えのある澄んだ笑い声が聞こえても、私は立ち止まる事を許されなかった。友人と談笑しながら向かってくる彼女に、軽い会釈だけ返しながらすれ違う。顔見知り程度の級友ならば、こんなものだろう。
 図書館を出るところまで歩ききった私は、そこでようやく自分の頬を伝うものが涙だったと気が付くのだった。



〜Fin
メンテ
王の決断 ( No.95 )
   
日時: 2012/03/10 22:18
名前: 8823 ID:bZtGeguU

 大地は底のしれない闇となってひたすらに広がっていた。雲に覆われた空からは光もなく、連なる山々がさらに濃い影を浮かべ、ぬるい風に揺れる木々は闇の表面を逆立たせている。
 不穏な空気の流れの間を縫うように、毒花の噴き出す瘴気の漂うかげに隠れるように、音もなく進む一連の赤い光があった。彼らは戦意と憎悪の渾然としたしぶとい負のエネルギーをたたえながら、着々と歩を進めている。
 肥大した植物の密とした茂みを越えると、山脈に囲まれた険しい土地に高くそそり立つ城があった。外壁を黒く染められ汚染したつたに覆われてなお、崩れることなく頂をよどんだ空に突き立てている。瘴気の漂う暗い森の中、ものものしいガスマスクの奥で彼らが赤い光を揺らして睨みつける先はそこだった。
 国土を広く見渡せる城のバルコニーでは、行軍の様子を見つめる二人がいた。
「およそ50時間です」
 片方が言った。大きな頭部と細い手足、頭身が不釣り合いな身体を小刻みに震わせている。長い指にからみつかれるようにしてある小さな機械が青い画面で位置状況を示している。
「クルトの様子は」
 もう片方が言った。毅然とした声だった。毒気の混じった風に吹かれて微塵も揺るがず、超然と森を眺めている。彼は、今まさに反乱を迎えている国の王だった。メルクと言った。
 帝国アルドは現在、王権剥奪を掲げた反乱の勃発において、二つの脅威にさらされていた。
 一つは反乱軍によってその種をまかれた、「毒花」と呼ばれる生体兵器である。それは、開発者自身をも圧倒させるその成長スピードでもって今や国土の大部分を占めていた。毒花が発する、瘴気と呼ばれる毒ガスにより、人口は反乱軍も含め三分の一に減少した。建物は黒い植物に覆われ、大地は闇に沈んだ。
 もう一つは、ヒトの感情を大きく左右できる特殊な魔法が、反乱軍の士気を操作する目的で使われているという事実だった。その魔法は今、行進する戦士たち数万人が、赤い目を光らせ、彼ら自身をも滅ぼしうるほど強い闘志を持つ事態に至らしめている。
 このことで現状、帝国軍と反乱軍の単純な兵数には大きく差が開いていた。
 地下と連絡を終えたゼブが言った。
「現状、クルト様の成長速度は予定より少し遅れております。潜在魔力は、かなり高い数値のようですが……」
「十分だな」
 それを聞いて王は、戦争の終結が時間の問題であることを確信した。彼は、息子クルトの内に秘める莫大な魔力が敵兵を一掃してくれることを考えていた。それに自分の力が加われば反乱の鎮圧は容易いものである、と確信していた。
「地下へ向かおう。そろそろ生まれるころだ」
 ゼブは眉をひそめた。「クルト様がカプセルから出られるようになるまで、あと最低でも30時間とかかる計算ですが」
 メルクは答えず、ただゼブの声が以前よりしわがれていることに、マスクを持って出なかったことを後悔させられながら彼を城の中に促した。すでに毒は城の近くまで広がって来ている。

 *

 階段を下りるにつれ白い内装は少なくなり、地下の壁は石の肌が露出していた。等間隔に置かれた松明の明かりは乏しく、熱がこもったように暑い通路。
 部屋へ着くと、中は騒然としていた。中の人間たちは一様に、青白い顔に汗を浮かべて部屋を駆けまわっていた。国王が姿を現したことに見向きもしない。
「どうした、騒々しい」とゼブが怒鳴り、研究者の一人が彼を見て言った。
「所長、クルト様の容体がおかしいのです」
 騒ぎの原因が、空間の中心に据え付けられた巨大カプセルにあることは明らかだった。中には六、七歳ほどの幼児が培養液に浮かんでいてしきりに水泡を発している。
 ゼブは壁の大画面に映し出され絶えず変化する数値を睨みつけ、やがて驚愕に目を見開いた。「こんなことが」
「驚くことはない」メルクが言った。「成長を促す魔法を、奴は自分自身にかけているのだ」
 ゼブは信じられないという顔をした。「しかし、クルト様はまだ」
「魔力を測ってみろ」
 ゼブが指示を下すと画面が切り替わった。そこで部屋にはどよめきが起こった。示された数値はすでに、国王かつ帝国軍総指揮官であるメルクのそれの四割を超えていた。
「生体反応急上昇」と誰かが叫んだ。次の瞬間、カプセルが弾け、ガラスが四散し内部の液が勢いよく床を濡らし始めた。
 そして、身体を丸くして小さく眠っていた「それ」の目がかっと開き、迷わずにメルクを射抜いた。
 その時、メルクも「それ」を見ていた。メルクと「それ」はお互いを見つめ合った。そのとき彼は言いようのない不安を一瞬にして強く感じた。自分の中に何か矛盾が存在していることへの、恐れと言うものに近い不安を感じた。
 メルクは驚いた。生まれたばかりの我が子に、神から自分の過ちを問われたような気にさせられたことに。そしてその過ちが何なのかも分からないのだ。
 一同は凍りついたようにクルトを見つめていた。彼はその視線を尻目に、自らの小さな体を確かめるように見つめていた。やがて、自分の足でメルクのもとまで歩いた。
「父上」
「何だ」父に対して、恐れや畏敬といった感情を全く含まない物言いに、王は少なからず動揺した。
 そして王子は言った。
「母上はどこですか」
 メルクは、もう一度驚いた。今度こそ驚いた。かろうじて表情には出さなかったものの、あまりの驚愕に口を開くことも出来なかった。まさか、生まれて最初の言葉が母親の所在を問うものであるとは、彼は予想だにしていなかった。
 さらに言えば、メルクはその問いに答えられなかった。
 クルトの母親は瘴気に侵され、彼を腹に残したまま死んだ。彼女が身ごもっていたことは城中の者しか知りえないことであるが、もしクルトが母の死を知れば、彼女を蘇らそうという意思で、アルドで唯一の蘇生術を使おうとすることは確かだとメルクは思った。しかし、その術を行使するには膨大な魔力が必要であり、クルトが現時点で持つそれでは足りなかった。誕生してばかりの彼には、それをやろうとするだけの絶対的な才はあっても、実際に成功させるだけの力はまだ存在していなかった。何より、クルトには戦争を終わらせるという使命があり、間違ってもこの状況で彼に蘇生術を行使させるわけにはいかなかった。
 クルトはメルクから視線を外し、辺りを見回した。メルクを含めて、彼を除いた誰もが動くことを忘れていた。
 やがてクルトは父に視線を戻し、再び訊いた。
「母上はどこですか」
「お前の母親は」かすれた声で父は言った。父は、子の目を真っ直ぐに見られなかった。「お前の母親は今、反乱軍に捕らわれている」

 *

 毒花の技術と人心操作の魔法はどちらも城で生まれていた。地下で秘密裏に開発されたそれらは、そこで働いていた一人の研究者によって外部に持ち出された。彼の名をグリフィスと言った。グリフィスは本来敵国の土地に撒くべき毒花の種を、あえて自国にばら撒いた。それは彼の予想を上回るスピードで成長し、国土を支配した。そして彼はそれが城で開発されたものであることを民衆に伝え怒りを煽った。その際に人心の魔法が使われたことは言うまでもない。城がそれに気付いたときには遅かった。彼はすでに反乱軍を作りあげ、開城を迫る進軍を始めていた。
 兵士たちは瘴気の霧の中を黙々と進んでいる。先頭に立つグリフィスは森を進む途中で、城に存在する巨大な魔力が二つに増えたことに気付いた。一つはメルク国王のものであるが、もう一つの正体が分からない。
 彼はその事実に少なからず動揺したが、行進をここで止めるわけにはいかなかった。兵の歩を進めている魔法が一度解けてしまっても、彼にその魔法をもう一度ほどこす魔力が残っていなかったためである。異常に成長した毒花のために進軍の速度は大幅に遅れていたし、それに加えて帝国軍側に時間を与えるわけにいかないという選択だった。

 *

 時計が正午を報せる。カーテンを開けると窓ガラスにはびっしりと黒い蔦が張り付いており、曇った空からはおよそ昼と夜の区別もできない。
 反乱軍が城にたどり着くまでの時間はおよそ20時間に迫っていた。
「ゼブよ」メルクは言った。「この国は滅びるしかないのだろうか」
「そんなことはありません」とゼブは否定した。「クルト様の力が加われば容易に反乱は収められるでしょう」
「国土の汚染はどうする」
「解毒剤を開発中です。土壌に至るまで元に戻るでしょう」とゼブは誇らしげに言った。彼は、敵が使用する二つの武器が、いずれもこの城で作られ盗まれたものであることを忘れているようだった。多少歪められ増幅されていると言っても、国民の怒りが正当であることをメルクは否定できなかった。やはりこの国は一度滅びる結末を迎えるべきかもしれないと考え始めていた。
 そして、クルトの存在。
「あいつは、気付いているだろうか」
「それは分かりません」とゼブは言った。「ただ、クルト様がそういう行動に出る恐れがあるのならば、王妃様の死を教えるわけにはいきません。少なくともこの反乱終わるまでは」
「クルトは今」
「寝室にて、眠っておられます」とゼブは答え、「もちろん、本人様に気付かれないよう見張りを立てております」と付け加えた。
 メルクはその時初めて、自分が一国の王に値しない存在であることを思った。そしてそこから広がるように、クルトが生まれた瞬間、自分を襲った強烈な不安の正体を悟った。
 国王は決意した。「ゼブ。解毒剤が完成するまでいくつかかる」
「今は、クルト様のこともあり開発を中断させておりますが……再開させた場合、およそ20時間かと」
「進軍の到着に間に合わせろ」
「はっ?」とゼブは思わず聞き返した。
「私は部屋にこもる。解毒剤が出来上がるまで、クルトを含め、誰も入れてはならない」王は彼に背を向けそれだけ言うと、素早く部屋を出ていった。

 *

 城には赤い目の大軍が押し寄せていた。戦いの亡者と化した彼らはヒトのものとも獣のものとも区別できない怒声を上げながら行進していたが、先頭が止まると彼らも歩みを止めた。グリフィスは混乱していた。彼は数時間前に、城の内部に巨大な魔力が二つ存在していることに気付いた。それだけで作戦を危惧すべき緊急事態だったのだが、それが今は一つに減っている。さらには、城門前にも、門を抜け庭園を突っ切った先にも帝国兵の姿が一人も見えないこと。不審を感じるべき点があまりに多すぎた。罠の可能性もあったが、帝国軍側からの動きがあると見たのだ。
 そのタイミングを見計らったように、メルク国王が突如としてグリフィスの前に姿を現した。彼にとって不可解なことに、現れたメルク国王にはもうほとんど魔力は残されていなかった。戦士を操るために限界まで魔力を行使したグリフィスにさえ劣るほどの力しかなかった。王が国軍トップの戦力であったことは彼も承知していた。その王が消耗しきったように息も絶え絶えの様子なのだ。巨大な魔力が一つ消えたのはきっとこのことだろう。
 しかしそれが何を意味するのか、彼には全く分からなかった。ただそれでも、この戦争が自分の勝利に終わることをグリフィスは確信した。彼が狙うものは王の座のみだった。王はただ一人敵軍を目の前にして、話がしたいと言った。グリフィスは襲いかかろうとする反乱軍の戦士たちを抑え、王の話を聞くことにした。
 王は言った。「王権を貴様に譲ろう。ただし条件がある」
 グリフィスはせせら笑いを浮かべた。「奪うつもりであるから、譲り受ける必要はない」
 今度は王が薄く笑いを浮かべる番だった。「貴様は敵軍の戦力も把握できないのか」と王は言った。
 グリフィスはそこで、もう一つ巨大な魔力が城の中にあることを思い出した。しかしその分をふまえても、総合的な戦力は自分たちの方が上回っているはずである。
 しかし、そのもう一つの魔力の正体、さらにはこの状況にあって余裕な表情を見せる王の真意と分からないことが複数ある事実が、グリフィスを慎重に振る舞いざるをえなくさせた。
「条件を満たしさえすれば、王権を譲るというのだな」
「そうだ」
「その条件とは」
 王は一枚の紙を掲げた。誓約文書だった。以下の条件が満たされた場合、王権が指定の者に譲渡される旨が王のサインとともに記されていた。そしてその条件は、『【1】国土に蔓延する毒花を一本残らず処分すること【2】「人心操作の魔法」行使の禁止【3】王室付属研究室の閉鎖』の三つだった。
 グリフィスは文書から王に目を移した。「条件は飲めない」
「なぜ」
「毒花はもはや我々にも手が付けられないからだ」
「解毒剤を研究室が開発した」と王は言った。「もともと、種を作ったのはこちらなのだ」
「分からない」とグリフィスは言った。「王よ、貴方の考えていることが私には理解できない」
「交渉は」王は苛立ち気に言った。「イエス、オアノー」
 グリフィスは深く考え、やがて諦めたように首を振って、「イエス」と答えた。

 *

「王よ、本当によろしいのですか、この決断で」ゼブは狼狽した様子で言った。「まさかグリフィスのような輩に、王権を渡すなど」
「条件が満たされなければ、お前が王をやればいい」とメルクは鞄に荷物を詰め込みながら言った。彼がまとっているのは白い王衣ではなく、擦れた皮の服である。
 奥の寝室からクルトの呼ぶ声が聞こえ、メルクはそれに答える。「――それにゼブ、私はもう王ではない。家族ぐるみで国を追われることになった、ただの重罪人だ」
 クルトが服にまみれて奥から飛び出してくる。「父上、母上がどちらの服を置いていくべきか聞いてきなさいと」
「両方だ、エリアに伝えてくれ」と即座に答えると、メルクは最後にゼブを一瞥してから、「後は頼んだぞ」と言った。ゼブは、長い沈黙ののち、やがて細い手足を震わしながら
「分かりました」と言った。そして今まで握りしめていた通信機を床に叩き落とし、一礼をすると、王に背を向け部屋を後にした。
「あなた」クルトと入れ替わりに、エリアが顔を覗かせる。服は王妃のころと違ってみすぼらしいものになったが、その振舞いには王家の高貴さが漂っている。
「何だ、エリア」
 エリアは、クルトがまだ奥ではしゃいでいるのを確認すると、メルクの方に近づいて、「――本当に、この結果で良かったのですか」と小声で尋ねた。「魔力を失い、国を追われてまで、私を生き返らせる必要があったのですか」
 メルクは肯いた。「クルトが、私たちの子供であるためには、お前が絶対に必要だったのだ」
 エリアは目を丸くした。
「――さあ、クルトが呼んでいる」メルクは言った。
 三人は円になって、手を繋いだ。寝室の窓に張り付いたツタのわずかな隙間から、夜明けの光が山の端を照らし始めるのが見えていた。
「クルト、私はもう魔法を使えないから、頼んだぞ」
「はい父上。父上は、どこに行きたいのですか」
「エリアは、どこがいい」
「そうですね」とエリアは首飾りを外しながら言った。「どこでもいいですわ。三人で一緒なら、それで。あなたこそ、どこか行きたい国はないのですか」
「わたしはそうだな」メルクは楽しそうに言った。「遠い国が良い。私たちのことを誰も知らないような遠い、そして魔法も兵器もない国だ」
メンテ
スチームパンク・空の舞い! ( No.96 )
   
日時: 2012/03/14 00:28
名前: 伊達サクット ID:53qyxv8k

 元マテリアル商工会議所、現魔術師ギルド事務所の一室で、横一列に並べられた椅子に、五人の男達が座っている。彼らは、みな一同に両手を構え、目をつぶり、歯を食いしばって力んだ表情をしていた。
「はい、そこまで!」
 5人の男達の前に立っている、ローブを着こんだ老人がパチンと手を叩いてそう言うと、男達は構えを解いて楽な姿勢になった。
「いかがですか? 大魔道殿」
 部屋の隅の椅子に座り、その様子を見ていた若年の男、セレクト=ラザース下院議員が立ち上がり老人に近付いた。その老人・大魔道は「うーん」と唸りながら、しかめっ面で口髭を指先で撫でた。
「やはり、この方々からは魔力を感じ取ることができません。素質がないみたいですね。これでは魔法の習得は難しいかと」
 大魔道の言葉に対して、セレクトは失意の表情を作った。
「本当ですか? 一応、商工会……じゃなかった、魔術師ギルドの者達の中でも格別魔法の素養を持っていると思われる5人なのですが」
 セレクトは椅子に座った5人の男達、武器屋・防具屋・道具屋・鍛冶屋・宿屋を左から右へと渡す。それぞれが困惑しているようだった。
「議員殿、魔法って言っても、どうすればいいのか正直ピンときませんわ」
 武器屋が辟易したように言った。
「もういいんじゃないッスか?」
 防具屋も続ける。
「そうは行きません! もうギルドの予算案を組んで、上院に通しちゃってるんですから。あの、大魔道殿。一体、この者達の何がいけないのでしょうか?」
 セレクトが再び大魔道に尋ねた。
「何が、とかいうレベルではなく、もう根本的に魔法ができる人達ではないですのう」
 大魔道もどうしていいのか分からなさそうな様子である。
「では、精霊と契約させるなどしてみては?」
 セレクトが続けて問う。
「そうですなあ。それではこれから私が風の精霊を召喚してみます。見ていて下さい」
 大魔道が目をつぶって意識を集中し、呪文のようなものをゴニョゴニョ唱えながら、両手で水をすくうような仕草を取った。そのポーズのまま、大魔道は特に何もしなくなる。
「……あの、精霊を出すんじゃないのですか?」
 セレクトが言う。他の5人も狐につままれた風に大魔道を見つめていた。
「議員殿。私は掌に、もう精霊を呼んでいるのです。まず、精霊が見えないようでは契約のしようもありませんな」
 大魔道の言葉は率直的で、かつ納得がいくものであった。見えない相手とどう契約せよというのか。
「あの、もう帰っていいですか?」
 道具屋が、おそるおそるセレクトに打診した。
「……分かりました。魔法訓練はここで終了することにしましょう。大魔道殿、わざわざ我が国にお越しいただきありがとうございました。国境まで『バード』でお送りします」

 事務所を出た所に停めてある、前面の大部分がフロントガラスに覆われて、それ以外の部分はにび色の装甲に覆われた乗り物。半重力蒸気機構内蔵型飛行装甲『バード』。セレクトの愛機には、装甲板に家の紋章が刻まれているのが特徴だ。
 セレクトはバードの背部ラックから、同乗者用のバイザーヘルメットを取りだし、大魔道に渡した。
「そう、ベルトを、こう固定して。あ、髭、食い込んでますよ」
 大魔道はいかにも嫌そうな顔をして慣れないバイザーヘルメットを装着した。
 セレクトもすぐにヘルメットをかぶり、側面のドアを開け、大魔道と共に内部の座席に座り込んだ。
「大魔道殿はバードに乗るのは初めてですか?」
「こういうときは魔法の絨毯や、ワープの魔法を使うからな」
 セレクトが操縦盤脇のワイヤーを力強く、かつ丁寧に引っ張ると、機体下部のノズルから蒸気が噴出し、バードは柔らかく宙へと浮き上がる。いつものことながら、この浮遊感は素晴らしい。しかも、魔法の世界に生きている者を同乗させ、初めてのフライトを見せるとなるとその快感もひとしおだ。
地面からの乖離。天空への飛翔。そして、ハーピーやワイバーンも凌ぐ高速飛行。セレクトもまた、バードの魅力に狂った男の一人であった。
「国境まで、1時間ほどです」
 操縦桿を倒すと、バードは緩やかに上昇しながら加速する。
 気付いた時には、小さくなった市街地の遠望が遥か下に広がっていた。そう、排出蒸気に汚され、淀み切った空気に包まれた首都の遠望が。

 剣と魔法のこの時代において、カーライル庭国(ていこく)は極めて特殊な単一民族を有する国であった。国民は、みな生まれながらに魔法を使うことができなかった。
 魔法にもさまざま種類がある。己の魔力を頼りに使う通常魔法。精霊と契約して、自然界の元素の力を借りるシャーマン魔法、魔界と契約して闇の力を放出する黒魔術や呪術の類。また、力の強い精霊などを呼び出す召喚魔法など。
 さまざまな国の魔法の使い手が文明を発達させ、各分野の魔法の充実・体系化は進み、日常や戦闘などにおいて人々の営みから魔法は切り離せないものとなっていた。
 そんなご時世で、カーライル人は魔法を使えないため、もう一つの文明、科学を発達させて今日まで至った。科学とは、人々が魔法を追求するあまり実現させた魔法の出来損ないである。
 国で産出される半重力物質・ダカルガタルナカ鉱石と蒸気機関を融合させたシステム・半重力蒸気機構を最たるものとして、今、真下に広がる草原を突っ走る磁場列車など、独自の技術を多岐に渡り開発し、国を発展させてきた。魔法が科学と違う点。それは全て理論で説明でき、計算で結果を証明できることであった。
 しかし、科学は魔法と比べて「性能の低い文明」であると言わざるを得ない。
 科学による文明の発達は、国土の資源を多く消耗し、また、バードの排出ガスや工場の煙突から出る煙は、森を、空を、川を急速に汚し、緑に溢れて美しかったカーライル庭国はみるみる内に灰色の、くすんだ鉄の国になった。自然の産物を多く浪費していながら、自然そのものを否定しているかの如きたたずまいであった。
 だから国は考える。
 魔法が発達した美しい周囲の国々のように、カーライル庭国を魔法国家に転換させ、元の緑と澄んだ水に溢れるカーライルの大地を取り戻したいと。
 今、国立議会で政権を握っている魔法革新党は、元々の二大政党の対抗馬・科学保守党を圧倒しつつある。
 セレクトは魔法革新党所属の下院議員で、魔法転換派の最右翼である父親を持つ二世議員だ。議員立候補可能になる最年少の20歳になってすぐ、父親の手によって無理矢理政治の世界に入らされた典型的なボンボンである。
 バードに乗って世界の果てまで旅をするという夢を完全に諦めたセレクトは、魔法転換を推進するため、首都の中小零細職工衆・マテリアル商工会議所を「魔術師ギルド」と改名し、所属する職人達に魔法を習得させようと頑張っていた。
 セレクトは魔法の分野に関する筆記試験を実施した。そして、成績上位5名の武器屋・防具屋・道具屋・鍛冶屋・宿屋に魔法の才能ありと踏み、国境を同じにする隣国、魔法国家エルミナから有名な大魔道を呼び寄せ、高いギャラを払って魔法の伝授を依頼したのだ。
 大魔道は数日の間、魔術師ギルドの事務所で5人に対して魔法の特訓を仕込んだが、ちっとも使えるようにならず、早々にさじを投げた。大魔道いわく、3つか4つの子供でもとっくに覚えるはずだ、とのことであった。

 国境の関所にバードを着陸させ、大魔道をエスコートしながら降ろす。
 別れ際、大魔道は言った。
「魔法とは、神が作った森羅万象の力をお借りして使うようなもの。カーライルの民は、自然を汚し、神々や、精霊に嫌われているから魔法が使えないのではないでしょうか。科学によって、世界からの搾取を選び、融和を否定したがために。世界とは人だけで作られているわけではありませんからのう」
 その言葉は、セレクトの心にグサリと突き刺さった。
「大魔道殿。我々には、その融和する手段、魔法がない。だから科学を発展させざるを得なかったのですよ」

 魔法の特訓が終了して数ヶ月後が経った。
 セレクトは、魔法の使い手が一人もいないという滑稽な魔術師ギルドの扱いに頭を抱える日々であった。
 そんなとき、セレクトは博士に呼び出された。
 薄汚れた白衣に身を包んだ博士は、研究所の屋上で望遠鏡をのぞき込んでいた。
「博士、こんにちは」
 セレクトが声をかけると、博士はこちらに気付いたようで慌てて望遠鏡から目を離し、こちらに振り向いた。
「おお、いらしてましたか、議員殿。実は、世紀の大発見をいたしまして。王家のないこの国で、誰に報告すべきか迷ったところ、我ら学者や職工と懇意にしているラザース家の方にお伝えしようかと」
「世紀の発見?」
「まず、この望遠鏡をご覧下さい」
 言われるままに、望遠鏡をのぞいてみた。
 レンズに映っているのは、はるか天空に浮かぶ巨大な要塞のような建造物であった。
「な、なんだあれは!」
 セレクトは目を見開いてなんとかその巨大な物体の正体を探ろうとするが、豆粒見たいに小さくて良く見えない。
「……あれは、おそらく我が国の伝説にある空中庭園に間違いないかと」
 セレクトが望遠鏡から目を離すと、博士は古い伝説が記されている文献を取りだし、ページをめくる。
 そこに描かれている空中庭園の絵は、今双眼鏡で確認した物体と形状が酷似している。
 空中庭園の伝説はセレクトもよく知っていた。
 はるか昔のこと。カーライルは他の大陸で高度な文明を持って栄えた大国であったが、国は魔界から襲来した悪魔の侵略によって脅かされた。悪魔達の力は強力で、神の力をもってしても民を守ることはできなかった。
 神は悩み、考えた。
 そして、神は空を飛ぶ大地・空中庭園を作り上げ、カーライル人を新天地へ移住させることを決めた。
 神の作ったゆりかご、天空に存在する空中庭園までは悪魔の手は届かなかった。
 そして、新たにカーライル人がたどり着いた地が、現在のカーライル庭国なのである。
「空中庭園……。まさか、伝説は本当だったのですか? だとしたら、あそこに我らの神が?」
 セレクトが博士に力強く問う。
「行ってみなければ分かりません」
「そうですね。行きましょう」
「は?」
「神に直接聞いてやる。何で我々は魔法が使えないのかを!」
 大魔道の言葉がずっと胸につかえていた。カーライル人は科学によって世界を汚したため、神に、世界の森羅万象に嫌われているという。しかし、カーライル人は、元々魔法が使えなかったら、科学で発展する以外に道はなかったのだ。
 神がカーライル人を否定しているのか、カーライル人が神を否定しているのか。どちらが原因で魔法が使えないのかは分からない。
 でも、空中庭園に出向き、神と直接話をし、理解を得ることができれば神の、自然の力を借りて魔法が使えるようになるかもしれない。
「博士、飛行船テアリゴを出しましょう。この国の未来のために」

 飛行船テアリゴは、カーライル庭国の科学力の結晶とも言える巨大な飛行船で、半重力蒸気機構を惜しみもなく使った非武装の商船である。元マテリアル商工会議所が開発したもので、主任設計者・開発作業監督は博士だったが、冷却機構と通信機構に関してはセレクト自らが設計・開発を担当している。
 早速父親や、魔術師ギルドの職人達に呼びかけを行い、空中庭園へ向かう準備は秘密裏に進められた。
 魔法文明への転換を避ける科学保守党や、バードや磁場列車の開発大手・ダカルガタルナカ半重力磁場産業にとっては、カーライル人は魔法が使えないままの方が都合がいい。
 もし空中庭園の存在が知られたら、必ず相手は邪魔をしにかかってくる。下手をしたら空中庭園を破壊しようなどという暴挙にでるかもしれない。
 セレクトは父親に頼み、職人達の間に戒厳令を敷き、市民への情報統制を徹底させた。

 しかし、この極秘事項は科学保守党にどこからか漏れてしまったらしい。
 出発直前になって、テアリゴの機関部が何者かによって爆破されたのだ。
 目撃した万屋や測量屋の証言によると、黒装束に身を包んだ怪しげな数人の人物が、テアリゴから飛び出し、飛行装置『バックパック』を背負って空へと去っていったという。その直後に爆発が起きたのだ。
 おそらく爆破工作を行ったのは科学保守党が裏で抱える忍者達だ。
 相変わらず卑怯な連中だ。セレクトは苦虫を噛み潰した。
 
 結局、科学保守党の空中庭園への接触が危惧されるので、飛行船の修理は断念し、作戦の決行は予定より繰り上げて行うことになった。
 そして作戦決行の日、準備は終わって誰ひとりとして魔法が使えぬ魔術師ギルドの事務所に商人・職人達が集う。
 セレクトを含む全員がバイザーヘルメットにフライトアーマーを装着し、バックパックを背負っていた。
 セレクトはメンバーの前に立ち、みんなの顔を見回して口を開いた。
「みなさん、我々の力で神への血路を切り開き、美しいカーライルの大地を取り戻しましょう! 空中騎兵隊、いざ出陣!」
 セレクトが声高らかに掛け声を上げ、手に持った銃を高く掲げると、男衆もそれに呼応して手に持つ銃を掲げた。

 事務所の外に全員が出ると、まずは先鋒を務める2班、4班、6班がそれぞれバックパックからスチームを噴出させ、雲ひとつない蒼天に向かって爆走する。白い煙がまるで空へ昇る竜のように一直線に伸びて行き、バックアップから発せられるダカルガタルナカ鉱石の放つ赤い光のめくるめく交錯は、まるで上昇する流れ星が意思を持って空を踊っているかのようであった。
 続いて、セレクトが班長を務める1班に加え、3班が出撃し、最後に司令塔であるセレクトの父親の搭乗する大型バードと、その護衛の任に就く5班が出撃する。

 空中騎兵隊が装備している銃は、『相殺銃』と呼ばれるもので、銃口からレーザーを発射して、対象のダカルガタルナカ鉱石の半重力作用を打ち消す効果がある。すると相手はたちまちに自由落下、地面へと墜落し、バックアップに搭載されたパラシュートが展開するという寸法だ。
 なぜ実弾を使わないのか。政治上で戦闘行為と定義されないためである。
 カーライル庭国は軍隊を持たない。国家警備隊はいるが、警備隊の出動は外敵からの脅威から身を守るため、国内の治安を維持するためという場合に限られていて、議会の承諾がないと出動はできないのだ。
 もし、一発でも実弾の発射が確認されようものなら、たちまち警備隊が出動して、こちら側の空中騎兵隊は鎮圧されるであろう。そうなると、魔法革新党の政治的立場が危ういのだ。武装したバードでの出撃などは論外である。

 1班合計6名、セレクト・武器屋・防具屋・道具屋・鍛冶屋・宿屋は編隊を組んで空中庭園へと突き進む。人の身一つで鳥のように風を切って飛ぶ。話だけ聞くとさも爽快な風に聞こえるかもしれないが、バックパックに依存し、乗り物に頼らない飛行は想像以上に孤独で心細いものがある。だから小隊行動を伴い、互いに安否を確認しながらの飛行が重要となる。

『4班より司令塔・全班へ! 敵飛行部隊を確認! おそらく科学保守党のジェット忍者部隊だと思われる。警戒されたし!』
 セレクトの通信回線に無線が入ってきた。
 やはり来たか。
 遠目に、スチームの白煙を噴射させた大量の黒装束の忍者達を確認できる。
 一筋の青白い閃光が空を裂いた刹那、一つの光芒が明滅した。
 そして、一つの赤い光が消滅し、はるか下方でパラシュートが展開した。
『こちら4班パン屋! 敵にやられて飛行不能! パラシュート展開!』
 仲間の通信が再び伝わる。科学保守党側も装備しているのは相殺銃だ。
 セレクトは心の中で祈る。
――神よ、あなたに文句を言いに行くつもりでしたが、この空中で、死人の出る可能性の極めて低い相殺銃で戦うという状況をお与えになったことを感謝いたします。あなたの作りし世界を汚す我らカーライルの民に、まだご加護を与えて下さっているのでしょうか?

 パン屋は市街地上空での空中戦の脱落第一号となり、パラシュートで住宅街へ不時着した。
 上空を見ると、まるで花火のようにあちこちに光の爆発が発せられ、相殺銃のビームの筋が空に絶え間なく直線を描く。
 市街地の住民達は、情報統制により何が起こっているのかも良く分からずに、空の様子を唖然とした様相で眺めているだけであった。
「あーあ。こちとら通常業務が減るわけでもないってのに……」
 パン屋はぼやいた。そして、本作戦において彼ができることはもうなかったので、速やかに撤収して、店に戻り、通常営業を開始した。

 激しい空中戦はなおも続いていた。
 セレクトは半重力装置のお陰でどちらが上か下かも分からず、必死でジグザグに動き回りながら黒装束を探していた。上下左右、どこからレーザーがくるか分からないので、いかに相手を撹乱できる動きができるかにかかっている。
 いいタイミングで忍者の背後を取った。旋回される前に銃の引き金を引く。ビームは初弾が外れたものの、2発目は忍者に命中し、激しい光を放射した。半重力の恩恵を失った忍者が墜落し、パラシュートを展開する。
『こちらセレクト、一人撃破!』
 バイザーヘルメットの通信機の回線を1班専用のものに合わせ、メンバーに連絡する。
 そのとき、何者かに背後からしがみつかれた。
 忍者に後ろを取られていたのだ。
「この魔法論者めええええっ! カーライルの既存産業は潰れ、経済は崩壊するぞおおおっ!」
 忍者が絶叫しながらセレクトの後頭部に頭突きをかました。ヘルメット度同士の硬質な衝突音が頭の中に鳴り響く。しがみつかれている状況ではうまく飛行姿勢を取ることができず、忍者共々空中を暴走する。しかし、セレクトも負けてはいない。
「お前たちこそ、今の環境破壊の状況を見て何も思わないのかあああっ! しかも空中で忍者装束って意味ねえだろうがああっ!」
 空中を高速スピンしながらも、忍者に何度も肘討ちを浴びせた。その過程で、持っていた自分の相殺銃を手から滑り落とす。
 セレクトは渾身の力で忍者の持つ銃を奪い取り、体を反転させて思いっきり忍者を蹴飛ばした上で、レーザーを発射。忍者にパラシュートを展開させた。
 すぐにセレクトは通信で班内に自身の無事を連絡する。
『こちらセレクト、なんとか一人やった!』
『了解! こちら鍛冶屋、1班まだ全員健在!』
 その報告はセレクトに束の間の安堵をもたらした。

『こちら6班本屋! 離脱します。6班は全滅です!』
『こちら3班用紙屋、狙われている! 誰か!』
『今は無理だ!』
『こちら4班宝石屋。いまウチの魚屋をやったのが司令塔に向かっている!』
『こちら司令塔。もっとみんな高度を上げろ! 2班、そこを抜かれたら敵は空中庭園に取りつく、先回りしろ!』
 通信が錯綜する。どうもこちらが不利らしい。

 セレクトも空を舞いながら敵から奪った銃を撃ち、何人かの忍者を倒したが、1班もまた鍛冶屋、宿屋がやられていた。
 焦りと疲労からくる集中力の途切れが災いし、セレクトの飛行軌道は一瞬ひどく直線的で単調なものになった。そこを忍者に狙撃された。
 視界がまばゆい閃光に包まれ、次の瞬間には風切って体が自由落下し、すぐにパラシュートが開き落下速度がゆるやかになる。全ては瞬く間のできごと。状況の把握が風の流れにだいぶ遅れて追いついた。
『こちら1班、セレクト下院議員! 敵にやられた。離脱します! リーダーを武器屋に託します!』
 仲間に報告し、心中に悔しさが沸く。ここで脱落するとは。あとは仲間達に託すしかない。
 そんな時に耳に入ってきた、聞きなれた低いエンジン音。
 はっとして音のする下方を確認すると、そこに現れたのは荘厳な鉄の飛行船。テアリゴであった。
 セレクトはテアリゴに救助された。これで形勢は一気に空中騎兵側に傾く。テアリゴは1班の鍛冶屋、宿屋など、パラシュートで地面に落ちる途中の味方を救助しており、もう一度新しいバックパックを装備させ、戦列に復帰させていたのだ。
「どうして、テアリゴは飛べたんだ?」
 爆破工作によって機関部が吹き飛び、エンジンが完全に壊れていたはずだ。
「修理したんです。博士が一晩でやってくれました」
 乗組員が答えた。セレクトは博士の底力に驚愕した。

 飛行船の到着後、忍者達はほどなくして退却した。
 テアリゴは空中騎兵達を内部に回収し、半重力機関を全開に作動させてどんどん高度を上げて、ついに空中庭園に降り立った。
 神の領域に踏み込んで生還できる保証は全くない。
 1班の6名が代表で探索に出ることにし、他のメンバーは船内に待機することとなった。
 1人の若手議員と、筆記試験の成績がたまたま良かっただけの5人のオッサン達は船を降り、神の住まう場所、空中庭園の地面を踏む。
 そこに広がっていたのは、澄んで暖かい空気と、鮮やかな花や緑に覆われた、さしずめ楽園のような庭園であった。一同は息を飲む。周囲は優しげな静寂に包まれており、微かに小鳥のさえずりが聞こえる。
 まさに伝説の通りの空中庭園。セレクト達が先へ進もうと歩み始めたとき、背後から「あー、待ちや、そこでええって」という老人の声が聞こえた。
「あなたは……」
「ワイは神や」
 そこにいたのは、伝説で聞いた通りの、長く白い髭に、白髪を生やし、白い服に身を包む存在・神であった。
「あ、あの……」
 いざ神と対面するとなると、緊張して言葉が出ない。まず、何から聞けばいいものか。
「まあ、立ち話も何やし、そこの神殿ではなそうや」
 神は気さくな感じで、セレクト達を庭園中央の神殿に案内した。

「あー、その歴史、間違ってるで。ほんまのところ、あんたらが自分で前いた土地を駄目にしたんや。ほな、ワイがこの地に導いた後で、歴史を改竄し、悪魔のせいにしたってわけやな」
 神の口から全ては語られた。
 セレクトが神に見せた文献。悪魔に以前いた土地を奪われ、今のカーライル庭国に移り住んだという記述は実は歪められたものだった。
 神は語った。元々カーライルは非常に高水準な魔法文明を有していたが、富を求めて際限なく自然の元素の力を操り、錬金術を使おうとした。それによって、物質の法則が乱され、激しい災害や異常気象が巻き起こり、その土地に住めなくなり、見かねた神が自身の乗り物である空中庭園に民を招き入れて、新天地に案内したというのが真実だったのだ。
 なぜ今のカーライル人が魔法を使えないか。それは神が同じ過ちを繰り返さないようにカーライル人から魔法という手段を完全に奪い取ったからだった。
 しかし、人々は魔法の代替手段として科学に手をつけた結果、同じ過ちを繰り返そうとしている。
 セレクトは、人間の愚かさに嫌気がさしてしまった。
「あんたらが離れた土地な、もう自然は蘇っているんや。でもな、そこに連れ戻したかて、また同じことを繰り返すで?」
 神が言った。
「カーライル人は愚かですね……」
 宿屋が言う。その通りだとセレクトも思った。
「そう気落ちすることもないで。そういった過ちに関してはカーライル人が一番よく知ってるわけやん。ワイも魔法ばかりに目が行っとったもんで、この数百年で随分勉強させてもらったわ。魔法かて科学かて、どっちにしろ破滅を招く危険をはらんでるんや。ほんま堪忍なんやが、あんまワイがあんさん達を直接助けるってでけへんのや。今の土地が本当に環境が破壊し尽くされたら、ワイもこの庭園に導くか考えんでもないんやが……」
 神は魔法をカーライル人に返すつもりはないらしい。セレクトの心中に失望の念が広がる。
「でもせっかくきてくれたんや。この庭園を見ていってほしいんや。昔と違って庭園も中身が変わっとってな、これは神のワイがあんたらの国の技術をちょいとパクらせてもらって、科学と魔法の融合を果たしてるんや。魔法と科学、いいところを融合させれば、人の力でこの庭園のような世界を地上に作れる。神のワイが保証するんだから、間違いないで!」

一年後――
カーライル・エルミナ国境――

 国境地帯、国を隔てる外壁が部分的に取り崩され、国と国の境目に新しい街を開拓することが両国間で決定した。
 実は、カーライルだけでなくエルミナの方でも魔法の使いすぎで自然元素のバランスが崩壊しかけており、厳しい状況にあるというのだ。
 そこで、魔法と科学、両方の利点を生かして新たな文明のあり方を模索する都市モデルを作るということで、国の隔たりを部分的に壊したのだ。
 この都市を起点に、やがては両国の国境を完全に取り払うことを視野に入れた取り組みだ。これで双方に科学・魔法両方の恩恵がもたらされる。
 いま、セレクトの目の前で、父親とエルミナの大臣が固い握手を結んでいる。
 歴史的瞬間に居合わせている職人達に、セレクトは呼び掛けた。
「街を作ろう! 空に浮かぶ楽園のような!」
 職人達だけでなく、エルミナ人側の方からも歓声が上がった。
 予想外の反応の大きさに、セレクトは赤面した。

 胸の晴れた気持ちになり、セレクトは久しぶりに愛機のバードでフライトを楽しんだ。
 一年前、空中庭園を発見した空域。あの庭園はどこに行ってしまったのか、そこにはただ虚空があるだけだった。
 しかし、セレクトはあの楽園の光景をしっかり目に焼き付けている。機体の高度を下げ、操縦席から地面を除くと、国境地帯・見渡す限りの草原に、新たな街の息吹が芽生えているのが確認できた。

<終>
メンテ
魔法の誕生とその歴史 ( No.97 )
   
日時: 2012/03/13 00:53
名前: ナルガEX ID:.PcCVk.6

ここは無の世界。

何も存在せず、何もないこの場所。

ある時、一つの光が生まれた。

その光は、無数の点を作り、生命を誕生させた。

その生命の周りには7つの神々が均一を保つように並んんだ。

生命はその神々に見守られる為の優位つの場所で生活をしていた。

様々な動植物が住む果樹園。生命は飢えることもなく日々生活をしていた。

しかし、ある時生命は罪を犯した。

そして、その罪は生命に自我を与えた。

神はその自我による世界の崩壊を恐れ、その園から生命を追放した。

しかし、自我の進化は収まらず、生命に言葉、知能、五感を与えた。

しばらく生命は、それを上手く利用し園の外で生活していた。

追放から500年の歳月がすぎたある時、生命はその五感と言葉を匠に操り一つの武器を作った。

魔術の誕生である。

魔術で人は文明築き上げた。

光を作り、作物を作り、安心と安定を作り上げた。

しかし、魔術を悪用する者も出現し、一時期世界の崩落が危ぶまれた。

それを哀れに思った神は魔術をその世界から持ち去った。

魔術を失った事で、生命は戦う事が不可能になった。

それからしばらく、平穏な日々が続いた。

しかし、言葉には少量の魔術が残っていた……。

生命の進化は未だに止まらず、新たな武器も生まれ続けている。

しかし、己の過ちにより一つの答えが今、現れようとしていた。

出てくるようで出てこない。そんなアンバランスな状態が続く第二世代パンゲア大陸。

もしかしたら、その答え自体が開けてはならないパンドラの箱なのかもしいれない………。
メンテ
不帰の島 ( No.98 )
   
日時: 2012/03/13 15:15
名前: If◆TeVp8.soUc ID:VRhd8Q8Q

「『花園』への通信魔法を受け取りました。えーと、この感じは『蘭』かしら?」
「はい、お疲れ様です。その声は『椿』さんですか?」
「ええ、久しぶりね。無事で何より。あなたは今どこだったかしら」
「クレジア島です」
「ああ、『不帰の島』……最近見ないと思っていたら、今度はあなたがそこに派遣されてたのね」
「はい」
「どう?」
「順調です」
「そう。でも何があるか分からないから注意するのよ。『欅』も『楠』も、『向日葵』も『百合』も『牡丹』もそう言いながら帰ってこなかったんだから」
「はい、十分注意します」
「今日は定期報告?」
「ちょうど一年なので。万事問題ないとお伝えください。引き続き警備隊の一員として情報を収集します。何か分かり次第、また連絡しますね」
「確かに伝えるわ。では、また生きて会いましょう」
 通信が切断され、足元に描いていた紋の光が消えた。久しぶりの魔法だったのに少しも疲れなかったのは、やはりこの島の魔力のお陰なのだろう。精霊の庭園とはよく言ったものだ。よそ者のあたしにも力を貸してくれるとは、ずいぶん懐が深い。
 魔力溢れる島クレジア。またの名を、精霊の庭園。そこで使われる魔法は、いかなる者のいかなる術であっても、ことごとく強化される。世界の覇権を狙う四大国はその不思議な島を手中に収めんと競って兵を派遣したが、桁違いの魔法の前に幾度も敗れ去り、そして悟ったのである。一に、他国との協力が必要不可欠であること。二に、クレジアの情報が要ること。そうして四大国は勝利後島を四分割することを約束し同盟軍を結成、クレジアへ密偵を放った。三年前になる。ところが、送り込んだはずの密偵が一向に帰らない。通信魔法での連絡も途絶え、探索魔法を使ってみても反応がなく、全員が全員消息不明になっているのだ。どうも殺されたわけではないらしいが、奇妙な行方不明事件はかえって同盟軍の恐怖を煽った。四大国合わせればクレジアを圧倒する兵力を持つにも関わらず、同盟軍は思い切った行動を取れずに、正確な情報を欲して密偵を送りこみ続けている。それで、今度はあたしに仕事が回ってきたというわけだ。
 通信魔法の痕跡を消しながら仰いだ空では――建物に囲まれているせいで狭かったが――綺麗な星がいくつも輝いている。落ち着いて空を眺めるなんていつ以来だろう。ここの人間は、誰も疑うことを知らない。同業者たちの間では不帰の島なんて呼ばれてはいるが、今まで引き受けたどの任務よりも楽に感じるほどで、ひどく拍子抜けした。国の中枢機関である警備隊の連中も、入隊して一年のあたしにもう己の命を預けるようなことまで任せてくる。帰ってこなかった者たちは一体どんなへまをやらかしたのかと笑いたくなるくらいだ。これなら、任務を達成して無事帰還できる日も近かろう。
 夜風が冷たい。宿舎に戻ろうと足を踏み出しかけたそのとき、首筋に薄ら寒い気配を感じてあたしは硬直した。視線、人の気配だ。悟った途端心臓が肥大化して、身体の内側で鼓動が大きく木霊した。利き腕を剣柄にそろりと延ばす。こちらが気づいたことを気取られるわけにはいかない。
 一体、いつから? 通信魔法の前からか? だとしたら――だとしたら、殺すしかない。舌打ちしたい気分だった。この仕事においては、順調なときほど危険が増すことは身に染みて知っているはずだった。それなのにあたしはその順調さに慢心して、おそらく尾行を許してしまったのだ。
 ここまで来て失敗するような愚かな真似はできない。目だけ動かして、これから取るべき行動に最適な場所を探す。よし、あの角を折れたところで待ち伏せしよう。敵がどれほどの手練であったとしても、不意打ちで仕留めてしまえば問題ない。ならば剣より懐剣の方がよかろう。腰に延ばしていた手を懐に戻しながら、あたしは不自然にならないよう細心の注意を払って足を動かし、角を折れた。すぐに建物の陰に身を潜めて、その瞬間を待つ。肥大化した心臓は、まだ元の大きさに戻らない。どくどくうるさい胸を、抑えた深呼吸で落ち着かせる。懐剣をぎゅっと握り締めた。騒がれるわけにはいかない。一突きで。
 じっと決行の瞬間を待っていたのに、いつまで経ってもそのときは訪れない。そっと壁から頭を出して様子を窺ったが、そこには暗い路地が見えるだけだ。
 刹那。
 またしても首筋を這った悪寒に、あたしの身体はひとりでに跳ねた。鞭のような敏捷さで振り返って、月光の薄明かりの下に見たは遠くに翻る警備隊の制服。同職の誰か。やはりつけられていた。一瞬目に入った鞘色は紅だったと思い返して、一人、覚えのある顔が浮かぶ。
 どうする、どうする、どうする? 今すぐ追って殺すか? 敵うのか? 視線を感じるまで、あたしにはあいつの気配を察知することが出来なかった。今から追いかけたところで、相手が本気なら当然撒かれてしまう。ならば寝首を掻くか? あいつの部屋は宿舎の三階南端。どれだけ素早く上ろうと、必ず巡回兵に見咎められる位置だ。このまま宿舎に戻らないという手もあるか。逃げるのだ。だが、それは失敗と同義。
 ――おまえが頼りだ。分かっているな?
 長は出発前、わざわざあたしの前に現れて、両肩を強くつかんでそう言った。言外に失敗は許されないとにおわせて。駄目だ、逃げられない。逃げ戻ればきっと殺される。同業者に殺されることとなろう。数少ない、唯一味方と呼べる者たちの手にかかって死にたくはない。それならばどれほど惨たらしい目に遭おうとも、敵地で死ぬことを選びたい。それに、もしかしたら。戻ればあいつが他言する前に始末できる機会が巡ってくるかもしれない。
 戻ろう。
 あたしはいまだ落ち着かない心臓を抱えたまま、懐剣を握り締めそう決めて、敵地である警備隊宿舎への帰路についた。
 十日前の話だ。

 ◇

 生臭い気息が降りかかる。合成獣、溢れる魔力に狂わされた哀れな生物。これは、その腹の中で朽ちていった血肉が残した臭いだ。嫌悪感は既にない。代わりに少し高揚する。いつだってこうしているときは何も考えずにいられた。剥き出しになった急所の青白さが目に染みて、知らない間にあたしは笑んでいた。返した剣を両手で握る。渾身の力で突き立てた剣は、みるみる肉のうちに滑り込んで――血に餓えた獣の息の根を止める、そのはずだった。だが、突如剣先から迸った電流が、指から腕へ、そして全身へ駆け巡る。何かとても、硬い物。本来はそこにあるはずがない骨。阻まれて剣は止まる。痛みに怯んだか、驚愕に麻痺したか、それとも窮地に臆したか、あたしの身体はそれきり動かない。仕留め損なった合成獣が耳元で苦しげな咆哮を上げた。肩に熱い物が落ちてくる。赤黒い染み。仰げば、合成獣は己の血を滴らせた牙を鈍く光らせて、あたしを見下ろしていた。また、あの臭いがした。とても生臭い。
 死んだかなと思った。少し安堵した自分がいた。けれども牙は、あたしには届かなかった。
 ずうん、と地響きがする。愛剣はいつの間にか手を離れていた。あたしは何やら分からぬままに、斃れた巨躯と、派手に裂かれた首と、その隣に頼りなげに刺さる剣と、そいつの背中を見た。
「よーし、北側は片づいたな。あとは南だ。怪我人はいないな――って、うおっ、カルト!」
「あ、すいません。ちょっとドジって」
「何悠長に言ってんだおまえは! さっさと傷塞げ!」
「大丈夫っすよこれくらい。早く南の方行きましょう」
「おいおいおいおい。アイラ! その馬鹿今すぐ止血してやれ。で、そこのおまえは医者呼んで来い。そっち二人は担架の用意!」
「リーダー、んな大げさな」
「おまえはもう黙ってろ!」
 背中が、合成獣の骸に刺さったままの剣に寄って、柄を握った。あたしの力ではぴくりとも動かなかった剣が、いとも簡単に引き抜かれる。刃を濁らせる赤色を一振りで払い切って、そいつはあたしを振り返った。
「はい、これ」
 柄をこちらへ向けて差し出したその男は、左半身が血染めになっていた。返り血もあっただろうが、肩口に負った傷からは今も絶えず血が溢れ出している。剣を受け取るより先に、あたしの手は腰のポーチに延びていた。包帯、包帯が見つからない。乱暴に中身をひっくり返して、散らばった道具の中にようやく白い巻き布を見つけた。拾い上げた手が震えている。
「座って」
 聞こえているはずだが、そいつはすぐには従わない。その間も腕を伝った血が指先から流れ落ちていく。
「肩の止血するから! リーダー命令よ」
 右の腕を引っ張ってそいつを強引に座らせた。覗きこんだ傷の深さに背筋が凍る。震えた指では包帯が上手く解けない。上から手が延びてきた。
「いーよ。自分でやるから。おまえ不器用だし」
 あたしから包帯を奪い取って、そいつは片端を咥えると右手だけで――左は動かないのだろう――傷口を塞ぎ始めた。真新しい白に鮮やかな赤が滲んでいく。どんどん広がる。目を背けずにはいられない。
 少しばかり冷静になって、あたしはようやく何が起こったか理解した。脳は死を覚悟した瞬間に見た映像をすぐに受け取っていたが、それを正確に認識するまでには果てしなく長い時間を要したのだ。なぜなら、あたしは知らなかった。こんな風に身を挺して庇われることが、現実に起こり得るなんて。
 それに。
「なんで助けたのよ」
 この男は確かに知っているはずだった。こいつの鞘色は紅色、あの晩あたしはこいつに見咎められたのだから。助けられる理由なんてない。むしろ、見殺しにされて然るべきだった。包帯を結び終えてもそいつは答えない。無言であたしを見ているだけで。
「何よ」
「おまえさ、向いてねーよ」
「……剣が?」
「そうじゃなくて――わっ」
 伸びてきた筋肉質で傷痕だらけの腕が、そいつの無事な方の腕を掴んだ。血まみれの重症人を引き起こしたリーダーは心配顔だ。その後ろでは、担架の準備が済んでいる。
「怪我人搬送するぞ!」
「いやリーダー、俺普通に歩けるけど」
「急げ!」
 そいつはリーダーたちに力ずくで引っ張られ、有無を言わさず担架に乗せられるとそのまま運ばれていった。取り残されたあたしの目の前には、血溜まりと、綺麗になったあたしの剣があった。
 息が苦しくなった。

 ◇

 救護室のベッドの上で布団にうずめられ、そいつは青い顔をして眠っていた。少々音を鳴らしても寝息を乱すことさえしない。平気なふりをしていても、やはり傷は深かったのだろう。
 深夜だ。他に人の姿はない。忍ばせた懐剣に、服の上から手をやった。やるなら今しかなかった。
 こいつは、あの晩のことを、十日間喋らずにいた。でなければ、私がこうしてここにいられるはずがない。目的を達成するまで喋らずにいてくれればそれでいい。が、その保障はどこにもない。確実に任務を遂行するためには、ここで殺している方がいいに決まっている。
 殺せ。取り出した懐剣を逆手に握った。殺せ。一歩ベッドに詰め寄る。殺せ。窓からのほのかな明かりに刃がきらめいた。殺せ。色んな薬品が混じったにおいがする。殺せ。首を一突き、それだけでいい。殺せ。早鐘。殺せ、殺せ、殺せ。さあ殺せ。早く殺せ。
 扉が開けられる音がして、あたしは空気の塊を一挙に飲み込んでしまった。咽ながら振り返る。リーダーが立っていた。
「おーアイラ、おまえもいたのか。灯くらいつけろよ。合成獣の群れ、ようやくさばききった。これで明日は休めるかもな。カルトは無事か――って、おまえ」
 目は、当然あたしの胸元にある抜き身の懐剣に留まった。すぐに顔が険しくなる。
「どういうつもりだ?」
 低く重く響く声で、そう聞かれた。ほとんど詰問だった。言い逃れるのは不可能、そう思った。
「……あたしは」
「違うんですよ、リーダー」
 思わぬ後ろからの声に驚愕する。そいつは、いつの間にか上半身を起こしていた。
「カルト、起きてたのか」
 なぜか、そいつは笑った。
「すいません、外してもらえますか。今修羅場で」
「修羅場?」
「浮気がばれちまって」
「あー……ああ、おまえたちそういう……あー、そうか、そうだったか……」
 訳が分からない。立ち尽くすあたしをよそに、話はどんどん先へ進行していく。
「だけどアイラ、ほどほどにしといてやれよ。そいつは確かに馬鹿やらかしたが、今は怪我人だ。せめて剣はしまえ」
「リーダー、俺は大丈夫ですから」
「そうか? ……そうか、そうだな……まあ、そういうことは二人で解決した方がいい。なんだ、邪魔したな。すまん」
 リーダーは踵を返すと、そのまま救護室から出て行った。絶体絶命の窮地だったはずだが、知らない間にあたしは逃れていた。標的の助けによって。なぜ? 分からない。全く分からない。
「殺さねえの?」
 筋が弛緩して、それまで強く握りこんでいた懐剣が滑り落ちた。響き渡った耳障りな音が、動転しきった脳内をさらにかき乱す。そいつは、真っ直ぐにあたしを見ていた。
「殺せないんだろ」
「……ち、違うわ。殺すわよ。殺さなきゃいけないの」
「だったら殺せよ」
 足元に横たわった懐剣に目を落とす。おそるおそる延べた手を、横からふいに掴まれた。
「なんで震えてんだ?」
 知らない間に、あたしの手は震えていた。困惑する。抑えようとしても震えは止まらない。それどころか全身に広がっていく。
「殺し未経験?」
「わ、悪い? 内偵だもの、ばれなければそんなことしなくたって良かったの」
 声の調子もおかしい。妙に裏返っている。自分で自分の制御ができない。まだ身体は震えている。震え続けて止まらない。
「死んでたらよかったのよ」
 喉を突いて言葉が飛び出てきた。今度は頭が真っ白になって、唇だけが勝手に動く。
「そしたらこんな風には……殺さないと……そうじゃなくて、でも……」
 支離滅裂な言葉だと分かったが、自分でも何をどう言いたいのか定かではなくて、訳の分からないことを呟くうちに、ついには一言も出てこなくなった。沈黙しても、頭の中で絶えず思考が浮いては沈み、沈んでは浮いて、何が何やら、混乱を極め前後不覚の状態に陥っている。溺れているみたいに息苦しくて、気づいたときにはあたしは浅い息を小刻みに繰り返しながら膝をついていた。
「落ち着けよ。とりあえずゆっくり息しろ。そのままじゃ過呼吸になる」
 苦しくて苦しくて、だから息を吸おうとする。でもそうすればするほど、もっと苦しくなった。手が痺れてきた。目が眩み始める。息ができない。死ぬかと思うほど苦しくて、生理的な涙が目の端から零れた。身体はまだ震えている。そいつはベッドから降りてくると、あたしの正面にしゃがみこんだ。手首を掴んだままだった腕を放して、代わりに背中に遣る。優しくさすられると、ようやくゆっくり息が吐けた。
「なんでまた……助けてるの? あたし……あなたを……殺しに……来たのよ」
 しばらくしてどうにか喋れるくらいには回復したらしく、切れ切れながらもあたしはそいつに聞いた。楽になったのに涙は止まらない。顔を見られるのが恥ずかしくて、あたしはずっと俯いていた。
「殺すつもりなかっただろ」
「殺すつもりだったの……殺さなきゃいけないの……でも、だって、あなたがあたしを……何度も助けたりするから」
「おまえには殺せねえよ」
「でも、殺さなきゃ」
 床に落ちたままの懐剣を見た。涙のせいかひどく歪んで映る。もう、手を延ばす気にはなれなかった。
「なんで密偵とかやってるんだよ」
「そういう生き方しか、あたしは知らないの」
「家族は?」
「知らない。孤児だもの。物心ついたときには、もう軍の養成所にいたわ」
 何を取り繕う気にもなれなかった。正直に話すたび、あらゆる束縛から解放されていく心地がした。
「なんで助けたの」
 そいつはほんの少し、黙った。
「おまえが入隊したきっかけ、覚えてるか」
「合成獣退治でしょ」
「そのときおまえが助けたガキ、俺の弟なんだよ」
「ああ、あの子……ずいぶん歳が離れているのね。そう、だからあたしを助けたの」
「それもある」
「あとは?」
「おまえが密偵だって気づいたの、あの晩じゃない。もっと前だ」
「嘘でしょ? 全然気づかなかったわ。最初からあたしを疑ってたの?」
「いや俺、リーダーにおまえの監視役言いつけられてたから」
「リーダーにもばれてたの?」
「いいや。隊に入って一年未満の新米兵には全員世話役兼監視をつけるんだ」
 涙が止まっているのに気づいて、あたしは顔を上げた。思ったより近いところにそいつの顔があって、即また伏せる。
「それで……でも、じゃあ、なんであの日、わざわざあたしに尾行してるのばらしたのよ。リーダーに言わなかったのもなぜ?」
「やめさせたかったから」
「密偵を?」
 もう一度、今度は心構えをしてから面を上げる。そいつはやっぱり、あたしの目を真正面から見ていた。
「やめろよ。おまえ、向いてねーよ」
 そいつはあまりに容易く言った。やめる。考えたことすら、いや、思い浮かべたことすらなかった。
「そんな簡単にやめられるものじゃないわよ」
「簡単さ。やめるって決めたらそれでやめられる。本当はやめたいんだろ?」
「やめたいわけじゃ……」
「おまえ何のために密偵やってんだ?」
「それは、クレジア島の魔力を手に入れるために」
「それ手に入れて、おまえなんか得すんのか?」
 思わずあたしは瞬いた。
「分からないわ」
「しないだろ」
「そうかもしれない」
「ほら、やめとけって」
「でも、やめても何も得しないわ」
 あたしがそう言うと、そいつは静かに笑んだ。
「俺が得する」
「は?」
「なんで身体張ってまで助けたと思ってんだよ、おまえは」
「え? ……え?」
 戸惑う。今度は思考が入り乱れるのではなくて、停止した。そいつはあたしの背中に残したままだった腕で、あたしを引き寄せた。何が起こっているのか分からない。でも、とても、温かい。
「やめないってんならやめさせる」
「やめたら居場所がなくなるわ」
「ここにあるけど?」
 本当は、ずっと、心のどこかで憧れていた。疑いを知らないこの島の無垢な人たちに。そんな世界があるなんて知らなかった。あたしがこれまで生きてきたのは、猜疑と欺瞞だらけの世界だったから。ここで何も知らない振りをして暮らせたら、どんなにいいかと思っていた。気づかないようにしていただけだ。だって気づいてしまったら、二度と取り返しがつかなくなりそうで。
「怖いわ」
「なんで?」
「……分からないの。もう、どうしたらいいのか分からない。怖いわ」
「どうしたらいい、じゃなくて、おまえはどうしたいんだよ?」
「どうしたいか……」
「人間、普通はやりたいように生きていくもんなんだよ」
「そうなの?」
「ああ」
 それでもやっぱり、どうしたらいいかも、どうしたいのかも分からない。でも、ここは落ち着く。温かいから。期待に満ちた長の目や、同業者たちと過ごした日々を遠く霞ませてしまうほどに。
「ここにいたいわ」
「だったら」
 ここであたしは我に返った。そしたらまた泣きたくなった。
「でも、いられない」
「理由は?」
「あたしには束縛の呪いがかけられているもの」
 強力な呪いだ。生きている限り、術者に居場所を把握され、そして同時に生死も握られている。密偵には皆、この呪いがかけられているのだ。だから裏切れない。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって、束縛の呪いがどんなに強い呪いか――」
「ここがどこか分かって言ってんのか? 『精霊の庭園』だぞ?」
「あ……」
 言葉を失うくらいに、あたしは唖然とした。障害物だらけだった視界が、急に大きく開けたようだ。
「他の場所でかけられた呪いを解くなんて楽勝」
 言いながら、そいつは――カルトは、解除魔法の紋を広げた。孤光が幾重にも広がって、溢れ出た綺麗な空色の光が周囲を柔らかに照らしながらあたしを包み込む。途端、身体がすっと透いたように軽くなった。本当に、本当に、信じられないくらいに、軽くなった。
「はい、終わり」
 新しい涙が流れた。何をどう口にしたら上手く言えるのか、あたしには分からない。分からないから、あたしは黙って両手を持ち上げて、カルトを抱きしめ返した。
 やっぱり、温かかった。

 ◇

「カルト、何やってんの! もう日昇ってるわよ」
 大声で呼びかけながら、あたしは強めに部屋の戸を叩く。昨日の合成獣討伐は夜遅くまでかかったから、きっと寝坊したのだ。かすかな物音がした後扉は開かれて、眠そうな目のカルトが顔を出した。
「……あのさ、せっかく呼びにきてくれたところ悪いけど、俺今日非番」
「え? 嘘でしょ、だって今日……あっ」
 そう言えば、昨日の討伐前にそのようなことを言っていたような気がしてきた。
「なに? そんなに俺と一緒にいたいわけ?」
 謝ろうと口を開いたのに、カルトがそんなことを言うからつい飲み込んでしまった。代わりに素直じゃない言葉が出てくる。
「違っ! ただ間違えただけ――」
「分かったから、ちょっと待ってろ。すぐ用意する」
「い、いいわよ! 休みなんでしょ」
「おまえが仕事なら、どうせ暇だし」
 そう言って笑ってから、カルトは再び扉の向こうに消えた。今度は素直に待ちながら、ふと遠い古巣を思った。今頃はあたしも消息不明者の仲間入りをしていることだろう。この島は、また不帰の島として恐れられることになるのだ。密偵たちがなぜ帰ってこないのか、その理由も知られないままに。そう考えるとなんだかおかしくて、あたしは笑った。
 支度を済ませたカルトと並んで歩きながら、あたしはとても幸せだなと思った。
メンテ
さよなら旅人の唄 ( No.99 )
   
日時: 2012/03/13 15:29
名前: にゃんて猫 ID:tIX3no7U

焼き付くように照る太陽、蜃気楼、灼熱の海に沈んでいく。

「…………ぃ」
……あぁ、誰だろうか。

「……ぉぃ!おいってば!」
ばさばさという布の擦れる音と砂嵐の起こす悲鳴にも似た風の音
それらに負けないよう、必死に耳元で声を上げている 見知らぬ誰かの声

「……ぃ、おっさん!頼むから目を覚まして!んでもって立ち上がってくれ!」
ふむ、生き倒れの男をおっさんと呼んで目を覚まそうとしていることまでは理解できる。
しかし「立ち上がれ」とは一体どういうことなのだろう。

「だーっ!もう頼むから起き上がってくれよ、重くて死にそうなんだ!」
今度は「起き上がれ」ときたか。そして「重い」と言って嘆いている。
いったい、何が重いのか。おそらくは砂であろう と私は推測した。
砂漠の砂というものはかなり地下深くまで積まれており、重い荷物を持って立っていたり
井戸のあった所などに足を踏み入れると、たちまち砂に呑まれてしまう。
逃げようとしてもがけば、それこそ底無し沼やアリジゴクのようにますます体が沈んでいくのだ。
実際、鉄の鎧に身を包んだ愚かな騎士がそのまま砂漠を越えようとして
兜を残して沈んでしまったという笑い話は有名だ。

……などと、くだらないことを考えていると 腹の下で何かが窮屈げに蠢いた。
毒蛇かと思い、あわてて目を開けて己の腹部を見る。
見えたのは毒蛇ではなく、麻の布地だった。
「どいてぇ〜、重い〜」
麻のシャツにスカートを履いた 小柄な子供が私の腹の下で苦しそうに呻いていた。







「生き倒れるのは勝手だけど、いきなり人の頭にのりかかってくるのは止めてよね」
少女と呼ぶのにもまだ幼い、小柄な女の子が饒舌ともとれる口調で言った。
乗り掛かった私としては、ただ謝ることしかできない。
「ほんとに重かったんだから……」
「……すまない、悪かった」
私は目の前の少女に向かって頭を下げる。
確かに、あのまま私が動かずに下敷きにされたままだったら
今ごろ笑い事にならないことにまで発展していただろう。
「…もういいよ。ところでおっさんは誰?」
中性的な声で少女が聞いてくる。どことなく仕草や口調が少年らしい。
「ライナバ国務大臣補佐のコラットラズ・ベリーだ。コラットと呼んでくれ」
「君は?」と私は少女に尋ねる。返ってきたのは少し陰鬱で暗い声だった。
「……ごめん、言えない」
「名前が無いのか?」
どことなく寂しげな表情に、私が聞き返す。
少女は首を横に振った。
「……村の掟でさ、今は言えないんだ」
「そうか」と短く答え、私はそれ以上の追及を諦めた。
こういう砂漠地帯には昔ながらの暮らしをしている部族がいる。彼女もその出身なのだろう。
その部族の掟を破ることは万死に値することだと聞いている。無闇な追及は避けるにしかずだ。

「なら、名前を言えない間は君を何と呼べばいいのかな?」
少女は少し考えてから私に言った。
「……愛称で、<ナホ>って呼ばれてる。真名じゃなかったら教えてもいいらしいし」
「分かった、じゃあ君のことはナホと呼ぶことにしよう」
私たちはそれから砂地に座って食料を分けて食べた。
私はナホの持っていた干し芋をもらい、ナホは私の非常食を食べた。
初めて食べるらしい加工食品の味を、ナホはおいしいと言った。
なぜだろうか、私からしてみればあんな不味い加工品などよりもナホのくれた干し芋の方が、数倍おいしく感じた。
長らく同じものしか口にしていなかったものだから味覚がにぶくなったのだろうか。
食後、貴重な水を少しずつ飲みながら 私はナホに尋ねた。
「ナホは何故ここにいるんだ?」
それは、私が彼女に出会ってから、ずっと聞きたかったことだった。
ナホはしばし視線を泳がせた後、私の方を向いて言った。
「うん……【アスベルの塔】に行くんだ」
やはりそうか、と私は小声で呟いた。
このヒドラ砂漠の丁度真ん中 中央無人区に人が来る理由などそれくらいしか見当たらない。
【アスベルの塔】はこの地帯に存在する唯一の建造物だ。その中には魔女が住んでおり、代償を払えばどんな魔法でもかけてくれるという。
「塔か、一体魔女に何を頼むつもりだ?」
ナホはまたしても首を横に振った。
「掟で、塔に着くまでは言えない」
そうか、と答えて私は南の地平線を見た。
灼熱の光に揺れるその彼方に、わずかだが細い赤が見える。【アスベルの塔】だ。

「おっさんは?」
ナホが聞いてくる。私は頷いて言った。
「私もそうだよ」
そうだ
私はあの塔を調査するために、この地にやってきたのだ。







塔の入り口は石作りの扉によって固く閉ざされていた。
鍵穴はなく、塔の周りにも他に侵入出来そうな所はない。ここが唯一の出入り口のようだった。
「よし」
手で押しても開きそうになかったため、私は今度は引くことにした。
カカカカカ……と弾け軋むような音が響く。
しばらく引っ張り続けて、何とか人が入れる程の空間ができた。
「行こうか」
「うん」
ナホが緊張した顔で足を踏み出す。
私は離れないようにその後ろに続く。
こうして私たちは塔の内部へと足を踏み入れた。







塔の中は長くて急な螺旋階段になっていた。
手すりがないので、慎重に一段一段登っていく。
埃で滑りやすくなっている上、割れたガラス窓から吹いてくる強風に、何度も足をすくわれそうになる。
それでも何とか登り切ると、目の前に小さな鉄の扉が現れた。
端端は錆びて風化しており、取っ手を見ても長く開けられていないことが分かる。
ナホが取っ手に手をかける。この先にいるのは、魔女だ。
「開けるね」
「ああ」
ナホが取っ手を掴んで強く押す。
キィキィと音を立てて扉が開かれる。
扉の向こうで、椅子が揺れているのが目に映った。







椅子に座っていたのは頭をフードですっぽり包んだ老婆だった。
ナホが手をきつく握りしめて老婆に近づく。
「アスベル様、リッタ族の使いでございます」

「……何用じゃ」
しゃがれた声で老婆が答える。
その声に並みならぬ歳月の片鱗を私は感じ取った。
「潤しの魔法です、アスベル様。我らが部族は今、四十年に一度と言われる酷い干ばつに遭っています」
ナホが丁寧かつ堂々と老婆の魔女、アスベルに言う。
「……代価は」
ナホが前に一歩進み出て言った。
「私、ラノアホルフ・リペチェルの命です」
私は戦慄が自分の中で走ったのを感じた。
そうか、こういうことだったのか。驚き嘶く心の反対側で、それは鋭く突き刺さってきた。現実だった。
彼女の部族・リッタ族はナホの命を代償に干ばつを脱しようとしているのだ。
「ナホ!」
私は叫んでいた。
なぜこんな子供が
なぜナホがその生贄にならなくてはいけないのか
そんなことがまかり通る そんな掟があっていいのか
頭の中はそんなことでいっぱいだった。
私はむりやりナホを抱きかかえると、急いで部屋から飛び出した。
ナホが腕の中で激しく反抗する。
しかしそんなことはおかまい無しにと、私はひたすら螺旋階段をかけ降りた。

だが遅かった。
老婆が部屋から出てきた。
手にはーーーーー銃が

重い発砲音が連続で塔内に響きわたる。
その一つがすぐ近くの石に跳弾して、頬を切る。
赤い血が、私の右頬から首筋へと溢れ出した。

……魔女の正体は科学者だ。
最も確証があったわけではない。
ただ、このような無人地帯で自生していくのには、科学的にはバイオ技術による食糧の栽培が必須なはずだ。
そういう政府の見解により、私はその調査のためにここへ来たのだ。
あわよくぱ、砂漠をはさんで南に位置する未開拓地域に進出するという狙いもあったのだろう。
砂漠近くの町で、魔女や塔に関する噂をいくつか聞いた。
それによると、昔 若い白衣の男がレンガ造りの塔を無人地帯に建てたのが始まりなのだそうだった。
また、魔女の魔法についての噂も、ほとんどが科学的に説明可能な事柄だった。

老婆は残弾を撃ち切ると、舌打ちして階段を降り始めた。
足取りは遅い。私は何とかナホを抱えて螺旋階段の下まで降りると、螺旋階段を降りて追ってくる老婆を見上げた。
そして手に銃を構える。
老婆は驚いてなんとかして隠れようとしたが、もう遅かった。
私は撃鉄を起こし、引き金を引いた。
重い発砲音が塔内に鳴り響いた。
鈍い音といっしょにねじれた格好で老婆が落ちてきた。
心臓を打ち抜かれて、すでに息はない。その顔のマスクを剥がすと、老婆だった顔の下から老齢の男の顔が現れた。
やはり男だったか。多くの女たちが今までこの男のオモチャにされてきたのだろう。
あと少しで、ナホのような少女までもがこの男の餌食になるところだったのだ。
私は意味もなく男の顔を打ち抜くと、血だまりから外に出て、塔の門まで戻っていった。
腕の中でナホは震えていた。状況に着いていけていないのだろう。
初めて銃を見たせいもあろう。私は銃の弾倉を外し、腰に吊した。
そして塔を出てナホを下ろし、全てを彼女に明かした。 







「どの道、アスベルに雨を降らせるほどの技術はなかったはずだ。
 それで雨が降らなければ、「代償がもっと要る」と言って下僕集めに回ったはずだ。
 あの男は過去にもそうやって女子供を集めていたらしい」

「そう……なのか……」

ナホが弱弱しく頷く。
その瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ出ていた。
「……死なずに済んだんだ。なのになんで泣く」
嗚咽まじりにナホが答える。
「……生贄になった者は、二度と、村には帰れない……っ!」
「ならば私がいっしょに行って説明を……」
ナホはその申し出に首を振った。
「私は、食うだけの子だと言われてきた。ろくに仕事も手伝えずに、ただただ食べるだけの役立たずだった……。
 帰っても皆に迷惑がかかるし、それに、村の人たちはよそ者を信用しない」
「そうか……」
私は何と言えばいいのか分からなくなり、口を閉ざした。
砂の大地を 黙って二人で歩いて行く。
私は、ふと思い付きで話しはじめた。
「ナホ、行く宛がないのなら、私といっしょに来ないか?」
ナホは「え?」と、すっとんきょうな顔をしてこちらを振り向いた。
「私は今回の件を伝えるため本国に帰るつもりだ。ここから本国までの間にはたくさんの国や町がある。
 ナホさえよければ、私といっしょにそこまで……」
「行く!」
ナホの元気な声が私の誘い文句を打ち消した。
私は即答したナホの瞳をじっと見据えた。
一片の未練なく、その目は期待と希望を抱いて真っ直ぐに私を見つめ返してきた。
私は思わず微笑んで「行こうか」とナホに言った。
ナホが初めて首を縦に振った。
まるでそれを合図にしたかのように、ぽつりと水滴が落ちてきた。雨だ。
ほどなく豪雨になった。今までの乾きを取り返すような大雨だ。
これで彼女の村もひとまずは救われるだろう。ナホも雨の中、終始笑顔でその水を水袋にためていた。
雨はやみ、この足で、私たちはやがて砂漠を抜ける。

大丈夫だ と私はナホに言い聞かせた。
これから様々なことがあるはずだ。そしてそのほとんどは困難や未知との遭遇になるだろう。
生半可なことでは乗り越えられないことも多々とあるだろう。
だが、大丈夫だ。私はそう信じている。

魔法などなくとも、私たちは自分の力と小さな奇跡を信じて、歩いて行ける。

どこまででも
メンテ
さらば、愛しき日々よ。 ( No.100 )
   
日時: 2013/05/03 01:17
名前: 某駐在 ID:4TsHtBAs

 そこは鈍い光で満たされた白が広がっていた。
 ここはどこだ。ここには建物や人影がないどころか、大地も青空もない。あるはずの音も、温度も、空気すら感じられない。まるで買ったばかりのデッサンのなかに迷い込んだようだ、と思ってしまうのも、あながち大げさではない。それほどまでに見事な空虚だった。
 状況を把握するべく辺りを見渡そうとしたが、まるで見えない糸で縛られたように動かない。人を呼ぼうとしたが、口が開かない。どうやら僕は本当にとんでもない場所に迷い込んでしまったようだ。溜息を零したくなった。――そもそも、呼吸が出来ているのかすら怪しかったが。
 仕方ない。なかば諦めて、ふかく意識を落とす。じりじりと脳を焼け付くような痛みのあと、視界に粒子の星が弾けた。
――リンッ。
 鈴のような涼やかな音のあとに、おびただしいほどの情報が流れ込んでくるのが分かる。
 それによると、どうやら僕はいま東京の大病院の一室にいるようだ。日本に来るために乗った旅客機のエンジンが渡り鳥を吸い込み、墜落事故を起こしたのだ。生存者は四百二十名中わずか七十人強で、その何割かが重傷者らしい。ちなみに僕もそのうちの一人に組みこまれている。墜落の衝撃で後頭部とけい隋を強打した僕は、全身麻痺に五感の喪失という重傷を負った。そこまで来たらいっそ殺してほしかった、と考えてしまうのは失礼なことだろうか。だが五感を失った僕は、まるで生きた屍だ。この空虚な世界でなにもできないまま、のこり六十年にもおよぶ生をただ垂れ流し続けるしかない。しかもだれかに生かされる形で、だ。ならさっさと死んだ方が、何倍もマシだろう。たとえ彼女はそれを望まなかったとしても。
 ああ、嫌なことを思い出した。溜息のひとつもつけないのが窮屈で仕方ない。夢物語でしばしば描かれた白の世界はフローラルの香がとても気持ちいい世界だった。透き通った黄金色のガラスの光が万華鏡のように反射しあって、生きたまま天国にいるような夢心地にさせるのだ。ああ、そういえば。そんな世界に一度行ってみたいとか、あいつは言っていなかったか。きっとたまに光のアーチが出来たり、色合いや明暗が変わるに違いない。とか言って、色素の薄い茶髪をひらひらと揺らしていたような気がする。
 彼女はいまごろ怒っているのだろうか。散々会うのを拒否した、その果ての事故だから当然だろう。そう考えるだけで、じくじくと胸が痛い。もういい。もうやめてしまおう。どうせ今更じたばたしたってどうにもならない。このまま空虚の世界をただよい続けよう。
 そう決めて僕は、意識をまどろみへと落とした。
 だが、皮肉なことに見たのは彼女の夢だった。



『……ねえ、一生のおねがい! 本当にさせてよう!』
 今年で十六歳になる彼女は、わずかに口を尖らせて拗ねてみせた。癖のない黒髪が夕日で艶やかに光る。ふっくらと柔らかな唇に、黒ボタンのようなまん丸の瞳。愛嬌のある彼女はしばしば天使に例えられていたが、なるほど。それも合点がいくな。と思いながら彼女――美穂を見た。
『昨晩もまったく同じことを言われた。……英語の勉強で』
『う、そうだけど……細かいことはいいじゃない。とにかくさせてさせてー!』
『駄目だ。ってか、そんなにやりたいなら、鏡相手にすればいいだろう』
『そ、それは……ちょっとやだな。なんだか、嘘臭いし……』
『我侭な奴だな』
『怜治にだけは言われたくない!! 我侭ナルシスト!!』
 ムカツクー! と美穂が声を荒げる。突然喋りだした彼女に、驚いた仲間たちが一斉にこちらを振り向いたが、その傍にいる僕に気づくとますます困惑の色を濃くした。
 僕は気づかなかったフリをして、美穂と会話を続ける。
『……してもらうつもりはない。そもそも僕には必要ないし、そんな下らないことで騒ぐのは美穂くらいだろ』
 『そうだけど』と、美穂がまた唇を尖らせる。『でも、怜治がいなくなったら凄く寂しいし、だから元気が出るおまじないをしたいんだ。怜治だって施設を出たら、寂しいんじゃない? そういうときにこんなおまじないがあったら、すごく嬉しくなると思うんだけど』
『下らないな』
 どうしてそんな信憑性のないものが流行るのか、理解できない。まだ食いさがろうとする美穂を、僕は害虫を払うように手を振った。こんなことも日常茶飯事だ。
『もう。そんなことだから友達ができないんだよ!』
『生憎、そんなものに時間を割くほど僕は暇ではないので。むしろ好都合だ』
「こんの……天邪鬼!」
 軽く怒った美穂がベンチから立ち上がって、叫んだ。途端にまわりの人が振り返る。しかし、よほど僕が気に入らないのか、普段は聡いはずの彼女がそれに気づいていない。
「だいたいから、どうしてあんたって子はこうも無神経なの? 普通、女の子から言われたらもっと嬉しそうに……」
「おい、落ち着け」
「落ち着いているわよ!」
「いや。落ち着いてないだろ。声に出てるぞ」
「それがどうしたって……あ」
 すぐに彼女は口を覆う。だが、もう遅い。黒い影は彼女のすぐ傍まで迫っていた。
「ねえ、二人とも」それは同じ施設の友達だった。「二人でずっと見つめあったと思ったらいきなり叫んだり……まさか、無言で会話でも出来るの?」
 途端に体が硬直するのが分かった。人当たりのいい美穂は「そんなわけないないよ」とおどけてみせる。
「え……でも、美穂。さっきから怜治の顔をみて笑ってたし……」
「あ、ごめんね。私たち、小声で話してたんだよ。なんか怜治が風邪で軽く喉を痛めたみたいで」
「え、そうな、の? ごめん」
「お前がやたら声がでかすぎるんだ」
「う、うるさいわね。怜治が怒鳴らせるからいけないんでしょ!」
「ちょっとしたことでもカッとなるのは貴方の短所だと思うのですが。美穂さん?」
 わざと眉間を潜めて、美穂を睨む。美穂は苦々しげに唇を噛むと『覚えてなさい』と僕にだけ聞こえる声で言った。それがおかしかったらしくクスクスと友達は笑ったが、同じグループの子供たちに呼ばれると「じゃあね!」と言い残して去っていった。それを見守ったあと、にこやかに手を振る美穂を睨む。
『マホウを使ってるあいだは笑ったり喋ったりしないって約束しただろ。こっちの声は、ラインを引いた人たちにしか聞こえないんだから』
『ごめん、なんかやっちゃった……』
 あはは、と後頭部を掻く彼女に、苦笑する。
『僕がイギリスに行っても、マホウは使ったら駄目だぞ。僕たちは本来の形に戻るべきだ』
『うん』
『あと、無闇に僕以外にラインを繋ぐなよ。下手に強くなると、なにが起こるか分からないからな。僕に意識をトスするのもこれきりだ』
『……え、じゃあ私、どうすればいいの!?』
『手紙があるだろ』
 呆れ眼で言うと、「そ、そんなあ〜」と彼女は困り果てた。すぐに何人かがこちらを振り向いたので、僕は咄嗟に美穂の脛を思い切り蹴りあげた。
『……い、痛い』
『いっそ痛覚が麻痺するくらい全力で踏んで上げましょうか、美穂さん?』
『ごごごご、ごめん! ごめんってば! だから許して!』
 『プリーズフォアギブミー!』と叫ぶ美穂に、本当に泣きたくなった。
 同じ日に同じ施設に入った縁からか、神様の気紛れか。僕たちは特別な能力を持っていた。『意識』を共有するマホウ。それにはラインを引く必要があるが、これは相手の身体に接触すればいいだけなので苦ではない。また本人の意思で解除できる。
 そのマホウのため、僕たちは誰よりもお互いを把握できた。知識や経験はもちろんのこと、美穂の現在位置から価値観まで知らないことはない。僕は美穂を身体の一部だと思っているし、美穂も同じように感じているのを知っている。僕そのものが携帯電話みたいだ、なんて考えたら美穂に笑われた。
 まあ、それも今日までの話だが。
「ねえ、怜治。先生がみんなを呼んでいるみたいだよ。そろそろ行こう」
 考え込んでいたら、ふいに美穂が僕の腕を掴んできた。咄嗟のことに対応できず、足が縺れて派手に膝を打ちつけてしまう。慌てて膝を見ると、切れて血が滲んでいた。「おい!」と僕は美穂を睨む。美穂もわずかに焦った顔でごめんと謝り、ふたたび手を握りなおした。そのとき、スッと足の痛みが消えた。
――え?
 膝を見る。怪我がない。すると子供一人が声を上げた。
「あ、美穂。膝に怪我してるよ!」
「ホントだー。痛そうー」
 おもわず息が詰まった。美穂もビックリしたらしく、僕と自分の膝を交互に見比べている。
「みほ」僕は知らず名前を呼んだ。「いつ、ひざをきったんだ?」
「知らない。覚えてない!」
 青ざめた顔で美穂は首を振っていた。本当に嘘をついていないようで、余計に恐ろしかった。誰かがもぐもぐと口を動かしていたが、なにを言っているのかさっぱり分からない。大丈夫、今から消毒しましょうね、なんて言っていた気がするけど僕の頭にはろくに残っていなかった。ただ痛々しいほどの真っ赤な傷と青ざめた美穂の顔だけが、それから十年経っても忘れられなかった。




「……行けないんだから仕方ないだろ……ああ、ああ……じゃあ、切るぞ。……分かってる。来月にはかならず……」
 プツッと音を立てて携帯電話を閉じ、革張りのソファに身を沈める。相変わらず喧しい幼馴染である。それを煩わしく、懐かしく思いながら、オフィスを明るく照らす月を見た。
 あれから、十年か。
 眼を閉じると、いまでもあの日の夕焼けが色鮮やかによみがえる。マホウが共有できるのは、知識や経験だけではなかった。縁が深まれば対象の怪我や体質、精神的外傷(トラウマ)まで、なんでも有りだった。 しかも同系統同士だとその効力は数倍になり、オーナーですらコントロール不能になることも知った。
 幼いながらにそのことを知った僕たちは二度と事故を繰り返さぬよう、徹底的に接触を避けた。会話はもちろん電話とメールで、プライベートで会こともせず、必要なときは代理を立てた。幸いにも僕の引き取り先はイギリスだったので、気軽に会いにゆくことはできなかった。
 美穂はしつこく会いたいと言ってきかなかったが、「冗談だろう」と僕は笑い飛ばして相手にしなかった。次に触れたらなにが起こるか分からないのに。もはやこれは共有じゃない、融合だ。
「……本当になんなんだろうな」
 知らず、嘲笑した。きっとこの世界を創った神様は、気紛れでハプニングをこよなく愛する重度の刺激中毒者に違いない。そうでなければこんなマホウに何の意味があるのだろう。
 ましてこれは美穂だけじゃない。ラインさえ引けば、友人だろうと、赤の他人だろうと関係なく相手の意識を乗っ取ることができる。歴史を変えることも、自身が神になることも、このマホウを使えば不可能ではないのだ。
「……あーあ」
 深く重い溜息が零れた。理由は、自分でもよく分からない。ただやりきれぬ想いがジクジクと胸に痛かった。



 ふつりと意識が戻る。とはいえ、変わらぬ白の世界は夢を見ているときのような色鮮やかさなど微塵もない。どちらが夢なのか分からなくなりそうだ。
――あれは、子供のころの記憶か。途中からロンドンの事務所で美穂と電話したときに飛んだが。
 まさか美穂も、あれが最後の会話になるとは思わなかっただろう。日本にいる彼女は幸福に満ち溢れていて、聴いているこっち恥ずかしくなるほどだ。それだけ、彼女は日本で幸せだったのだ。
 そのことを知るたびに、嬉しかった。――マホウのショックからか最初の数年間、彼女はろくに笑うことすらできなかった。それなのに僕は事故の罪悪感と馴れない英国への移住からくる疲労で、ろくに声もかけてやれなかった。彼女は自分に厳しい人だから、弱音を吐くこともできず、それが緩やかに彼女を壊していっているようだった。そのうち僕は電話をかけないほうが良いのでは、と思うようになり、受話器を取るのが億劫になった。居留守を使い、彼女の希望を無視したことも、一度や二度ではない。
 だから彼女が僕の望みどおり、順風満帆にしあわせを享受しているのが嬉しくてならなかった。たとえそこに僕が居なかったとしても。







――おじさん、おじさん。
 遠くで誰かが僕を呼んでいる。重いまぶたを上げると、コックピットの白い壁と幾列も並んだ青い座席が見えた。窓の外はほのかに明るく、ちらほらと起きている人も見られた。どうやら寝てしまっていたようだ。長い夢をみていた気がするが――よく覚えていない。あれはなんだったのだろう。
「よかった、起きた」
 ふと隣から声が聞こえた。日本人らしき少年が、にこにこと笑っている。
「ねえ、おじさん。ポップコーンを食べない? カードゲームしようよ」
「やらない」
 即答だ。付き合っている時間はない。
「えー、やろうよー。僕ヒマなんだよー」
「家族がいるだろう。早くもどれ」
「何言ってるの、おじさん。僕の席はここで、家族はいないよ。最初にここに座ったときにそう話したじゃない」
「そうだったか?」
「うん」
 しっかりと首を振る少年に、そういえばそうだったと思い出す。頭が鈍っているのだろうか。
「……名前は?」「ここに乗ったときに教えたじゃん」「僕は無駄なことは覚えない主義なもので」「もー!! 斉藤結城だよ!!」「……そう」「どうしたの?」「いや、なんでもない。それより、僕は何時間くらい寝ていた?」「三時間くらい」「お前は起きていたのか」「ううん、寝てたよ。ついさっき起きたんだ」「へえ、日本まではあと何時間だ?」「もう着くって。だからおじさんを起こしたんだよ!」「そうか、ありがとう」「おじさん、大丈夫?」「なぜ?」「なんだか顔色が悪いから……嫌な夢でもみたんじゃないかなと」「それはない。悪い夢ではなかった」「本当に?」「ああ」……。
 テンポの良い会話が続く。五分ほどの話し合いの途中、結城は「ねえ、おじさんはどうして日本に行くの?」と聴いてきた。
「どうして?」
 どうしてだろう。たしか美穂と日本で会う約束をして、それから――
 ハッと息を飲む。テーブルに置いた新聞の日付欄を見る。『May.28,2014』――あの墜落事故のあった日だ。まさか、ここは日本行きの旅客機の中か!
「お、おじさん? どうしたの?」
 不安そうに僕を見上げる少年の手を握り、僕は立ち上がる。
「いや。大した問題ではない。だが、手は離すな」
 たしか機関室は先頭だったか。急げば二分とかからない距離だ。
「ちょっと、おじさん! 落ち着きなよ!」
「いいから、黙――」
 ゴウンッという爆発音のあと、機体が激しく揺れた。後を追いかけるように動揺した人たちがざわめき始める。
「お、おい、あれを見ろ!」
 男の声につられて窓外を見ると、手前のエンジンから黒い煙が吹き出ていた。――バードストライクだ。
 機体がわずかに揺れる。人の悲鳴が聞こえる。青ざめ、混乱している。スチュワーデスの「落ち着いてください。大丈夫です」という叫びが、ギリギリでみんなの心を繋いでいる。――だがこれはほんのわずかな時間だ。実際に体験した僕は、これから起こる未来を知っている。
 三分後、ギリギリで右翼を支えていたもう一つのエンジンもバードストライクを起こし、旅客機は完全にバランスを失う。生存確率はほぼゼロパーセント。そんな絶望的な状況のなか、機長は高度が低いことと海のなかの不時着にわずかな希望を見つつ操縦桿を最後まで握り続けた。そして自身と三百五十名の命を犠牲にして、七十名を救うのだ。
 そのなかに結城が入っているかどうか、僕は知らない。機体がバランスを崩したときに空中へ投げ出されたかもしれないし、混乱した乗客によって引き離されてしまったのかもしれない。マホウには縁が深くかかわる。座席が隣だった程度の縁では、数センチの距離だけでラインは簡単に切れてしまう。
 だからこそ。
「手を離すな。絶対に家族のもとへ帰してやるから」
 少しでも離れないように、結城の小さな身体を胸の奥へと押し込む。苦しいだろうに、怖いだろうに、結城は文句一つ言わない。じっと息を潜めて、すべてが終わるのを待っている。我慢強い子だ。
「おじさん」
 ふと結城が微笑む。目尻に小粒の涙をためて。「神様に祈ろう」
「……いや、神には祈らない。僕の知る神は、気紛れでハプニングが大好きで人の気持ちをまったく考えない刺激中毒者だから」
 今までどんなに苦しいことがあっても、神にだけは祈らなかった。たとえ異端者として冷たい視線を浴びたとしても、頭を下げるよりずっといい。だから神には祈らない。たとえそれが死の間際だったとしても。
 じゃあ、だれに祈る? ブッタか? キリストか? 聞いたこともない宗教の神か? 日本で僕を待つ美穂か? 僕を置いていった両親か? ああ、どれも役に立たない。誰も信じられない。
「どうせなら、僕に祈れ。僕がお前の神だ」
「えええ!?」
「この場にいない奴よりずっと頼りになるだろ? 少なくともクッションくらいにはなるはずだ」
「そ、それじゃあ、おじさんはだれに祈るの?」
「僕は僕自身に祈る」
 マホウがどこまで通じるか、僕には分からない。しかし僕にだってできるはずだ、この子を守ることくらい。いや、この場の乗客を一人でも多く救うことができるはずなんだ。
「みんなで家に帰れろう」
 大丈夫。きっと、上手くいく。
 そう願って、僕はふかく眼を閉じる。――遠くで、二つ目のエンジンが爆発する音が聞こえた。




「……ナルシスト」
「うるさい」
 空虚からクスクスと軽やかに笑う女性の声が聞こえる。それに重ねるように、僕も笑う。夢から醒めたとき、真っ白な空虚には一人の女性が立っていた。
「さっきの子、斉藤結城君だっけ? 彼ならほとんど無事だよ。いまは怜治と同じ病院で、休んでる」
「怪我とか? 両親とは、無事に会えたか?」
「大丈夫。擦り傷があちこちにあるけど、大したことないから明日にでも帰れるんじゃないかな。ご両親にもその日のうちにあえたよ。よかったね」
「……ああ、よかった」
 思っていた以上に彼のことが気がかりだったらしく、分かった途端にホッと安堵の溜息が漏れた。それを見た彼女がわずかに笑う。
「十年ぶりだね、怜治」
「ああ、十年ぶりだな。美穂」
 美穂は記憶のなかの少女とは違い、身長も伸びて、顔立ちも大人びていた。声もずっと透き通っていて、柔らかい。数年で女性はここまで変わるものだろうか。
 美穂も同じ気持ちなのか、まじまじと僕を観察すると感嘆の声を漏らした。
「やっぱり怜治、綺麗だなあ……あっちじゃ、モテモテだったんじゃない?」
「まさか。僕の職業はお前も知ってるだろう? そんな奇特な奴、居なかったよ」
「本気で好きになったら気にならないよ、そんなこと。うわあ……なんか一番耀いていた数年間が見られなくて、すごくショック! やっぱり無理してでもイギリスの大学に行けばよかったなあ」
「高校のとき、僕に英語を教えて貰っていたのはどこのどいつだ?」
 「そ、そうだけど」と美穂が苦々しげに唇を尖らせる。相変わらずの彼女に苦笑した。
「私ね、あのとき実は君の近くにいたんだ。君が落ちた海のすぐ近くの海岸に」
「あそこに居たのか。空港からはだいぶ距離があったはずなのに」
「うん。なんとなく、嫌な予感がして。だから私は、あのときなにがあったのか、よく知っている。あのあと君が『なにしたのか』も。……きっと頭を打った衝撃でまだ思い出せないんでしょ。興味ない?」
「……全然」
 僕は首を横に振る。だが、最初から意見など聴くつもりがないのか、「まあ、そう言わずに」と言って勝手に語り始めた。
「墜落するまでの数分間。君は旅客機そのものとラインを結ぶことで、機長といっしょにバランスの崩れた旅客機を操縦した。焼け石に水程度だったけどね。なにせ、右翼のエンジンはほとんど壊れていて、翼だけでバランスをとっているような状態だったのだから。……案の定、機体は強い衝撃を受けた。君はそれを自分へ向けることで機内の火災と分裂を抑え、七十名もの命を救った」
 僕はなにも応えない。それをどう取ったのか、美穂の白い顔がわずかにほころぶ。
「普通なら有りえない話だよ。受信器官をもたない無機質とリンクするなんて……でも、実際に君は病院のベットとリンクして自分の状態を把握している。ここまで使いこなせる人は地球でも君だけじゃないかな。このことを超心理学者が知ったら、涙を滝のように流して君の爪の先まで解剖するんだろうね」
「それで? 僕に栄光あるケンブリッジ大学の恩師のために、解剖同意書に判子でも押せっていうのか?」
「君はそっちのほうが嬉しいのだろうけど……私としては、やっぱり却下」
 だろうな、と僕は胸中で相槌を打つ。
 研究者の僕と違い、美穂はどこにでもいる一般人だ。人の為になると分かっていても、抵抗があるのだろう。そもそも美穂に決定権はないのだが――
「君があのときに下した決断を私は攻めない。そもそもマホウがなければこうして話すことすらできなかったんだから、君の判断には感謝するべきなんだと思う」
「何が言いたい?」
 小さく溜息をついた。遠まわしに伝えようとするなんて、美穂らしくない。
「ねえ、怜治。私と一つになろうよ。マホウを使えば、きっと私たちは肉体を共有できるはずだよ」
 彼女の声が空虚に静かに響いた。
 やっぱりな、と思った。美穂の瞳は力強い、覚悟を決めてここまで来たのだろう。けれど、素直に受け止めることはできない。それは美穂のためにならないからだ。
「僕の答えは、ノーだ」
 「どうして?」と彼女は即座に聴き返す。薄々僕の答えは分かっていたのか、動揺している様子はない。
「あそこはお前が帰るべき場所であって、僕の場所じゃないから。僕は望んだ場所以外、帰りたくないんだ」
「私、怜治が望むならイギリスに行ってもいいよ。身体が欲しいならあげる。研究したいならいくらでも使っていいよ」
「……それにもうあそこは僕の居場所じゃない。事故に遭った時点で、僕の居場所はここになったんだ」
 色なんてろくに存在しない空虚の世界。おそらく永遠に終わらない孤独。だが、後悔はしない。僕は限られた一瞬一瞬のなかで、常に全力で生きてきたのだから。その結果、あんな絶望的な状況の果てで彼女にまた会えた。
 これ以上、幸福なことはない。
「マホウの研究、できなくなっちゃうよ?」
「必要ない。どちらにしても、この時代の技術には限界があった。それより神に聴いたほうが早い」
「研究所の人たちにもなにか言いたくない?」
「彼らはマホウの力を使っていた僕なんかよりずっと優秀だ。それにどうせすぐに僕の穴は埋まる」
「好きな子とかいたんじゃない? プロポーズできないよー?」
「生憎マッドサイエンティストなもので。そんな奇特な人は居ませんでした」
「……そっか」
 「わーすごく残念だよーうー。私、君にあえるの楽しみにしてたのにー」と美穂がなげやりに笑った。しかし笑顔が硬いことに、彼女は気づいているだろうか。知らないふりをしよう。気づかずにいよう。そして暖かく送り出そう。
 美穂が前へ歩いてゆけるように。僕がもう過去にとらわれないように。
 「じゃあ、私。そろそろ行くね」そう言って彼女がおもむろに彼方へ向く。「そろそろ朝だから、看護師さんが朝の巡回に来ちゃう」
 ああ、もうそんな時間なのか。知らぬまに狂ってしまった体内時計に苦笑する。
「ああ、さっさと行け」
「元気で……っていうのも、変だけど。逢えてよかった」
「ああ、僕もだ」
 その言葉にひとつうなずくと、そのまままっすぐに歩き出した。みるみると彼女が小さくなってゆく。きらりと果てが耀く。光の中に青色の扉が見える。雲が見える。そこは生者の世界へと繋がっていた。
「美穂」願うように、請うように。僕は呟く「お前はだれよりも長く生きろ」
 生きて、生きて、生き続けろ。
 何年でも、何十年でも。お前のまわりのみんなが呆れるくらい、長く。
 泣いて、笑って、怒って、楽しんで。
 そして、幸せになってくれ。
 それが僕の唯一にして最大の願いだ。
「大好きだよ、美穂」
 溢れるかぎりの想いをこめて、彼女の背中に願った。きっと、この言葉は届かない。届かなくてもいい。面と向かって告げるのは気恥ずかしいし、そうなることで美穂の足を鈍るようなことにはなりたくない。
 だからこれが最初で最後だと、硬く口を閉ざした。
 そのとき、急に美穂がこちらを振り向いた。どうしたのだろう。こっちに戻ってくる。
「なんだ? 言い忘れでもあったのか」
 施設の古い友達辺りは伝言していそうだな。そう思っていたら、彼女は勢いそのままに僕に美穂が飛びついた。避けきれなかった僕の首に美穂の白い腕が絡みつく。ふんわりと唇に触れ、その甘さと柔らかさにしばらく我を忘れた。
 「おまじない!」そして彼女はとても暖かな声で笑った。「いままで守ってくれて、本当にありがとう。私もず――――っと大好きだよ!」
 その言葉を最後に彼女は腕を解くと、また青空へと走っていった。
 二度と振り返ることなく。
――ねえ、キスさせてよ!
――寂しいときにこんなおまじないがあったら、すごく嬉しくなると思うんだけど。
 あの夕暮れの日、美穂は熟れた林檎のように顔を真っ赤にしてそう言った。
 本当だ。美穂、お前は凄い。きっと世界最高の魔法使いだ。お前がかけていったキスの魔法は、根底にあった孤独感や罪悪感をすべて拭ってしまった。
 遥か遠い未来、どんなに苦しいことがあったとしても、僕は生きてゆける。たとえ同じ世界には居なかったとしても、数十年の孤独が待っていたとしても、安心してゆける。
 本当にありがとう、美穂。
 そう言って、僕は永い眠りにつくべくゆるりと意識を落とした。



 死ぬのは、とても簡単なことだった。リンクしているベッドのどれかの傷を僕の心臓にあてればいい。
 だが、僕は白の空虚に残り、淡い生に浸りつづけた。あれから様々なことが起こった。
 結城が無事に退院したこと。数年たって、青年になったこと。ほかにもあの飛行機事故をきっかけに、たくさんの人が知り合ったこと。なかには結婚した人たちまで居たこと。――そして美穂が結婚したこと。相手は同じ会社の同僚で、共に息災であること。先日、子供が生まれたこと。娘だったこと。
 美穂は約束通り、幸せに生き続けていたのだ。そのことを知り、僕はようやく笑った。
 そろそろ、逝こう。さっきからだれかが僕を呼んでいて、そろそろ怒ってしまいそうだから。一歩、一歩、前へと踏み出してゆく。やがて黄金色のガラスの光で溢れた世界へと出た。その向こうから駆けてくる彼女たちはいったいだれなんだろう。ゆるりと手を伸ばす。甘いフローラルの香が、僕を暖かく迎えてくれた。


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世界の魔法の三カ条 ( No.101 )
   
日時: 2012/03/14 16:31
名前: どーなつ◆GxLXiW30Go ID:NXdb/eR6

 「うーん……今日も成果は無し、か」
 そんなつまらぬ独り事に相槌を打ってくれる人など最初から居る筈が無いのに、ここの所私はこうやって一人で呟く事が多くなってきていた。
 湿気が籠もり埃が充満するこの部屋に、好んで訪れようとする者は居なかった。もし居るとすれば、カビやダニくらいのものだった。
此処の特徴といえば、天井に届くぐらいの本棚がずらりと並び、それらに囲まれるように、部屋の中心に巨大な壷が置いてある事くらいである。
この壷を相手に、私は先週から一人でああでもないこうでもないと苦悩しているのだった。

 事の始まりは、こうだった。
「貴女になら、依頼出来ると思って来たんです! お願いします!」
私が経営している魔法事務所――所謂何でも屋だ――に彼が訪れたのは、丁度先週頃の事だった。
 六月というのは、私たちのような魔女にとっては一年間で最も憂鬱な時期と決まっていた。
何故なら、ろくでもない仕事(家のカビ取りだの、穴の開いた屋根の修繕だの)が増え、おまけに魔女が使役している猫が嫌う梅雨の時期にあたるからだ。
当然仕事のペースは遅くなるし、モチベーションはだだ下がり。しかしそんな事も言ってられないので、私はいつもの様にお気に入りの週間雑誌を読みながら店番をしていた。

 そんな所に、顔を真っ青にして目を白黒させながら、息も絶え絶えという感じの男がドアを壊さんばかりの勢いで店に入ってきたので、私はびっくりして思わず護衛の体制を取ってしまった。
その後彼が客だと気付いて、慌てて杖をしまった私の姿は彼の目にしっかりと滑稽な姿で映ったことだろう。あの時の事を思い出すと、私は恥ずかしさのあまり顔から火が出んばかりの思いになる。

 彼は店に入ってくるなり、何やら魔法薬のレシピらしい紙を薄汚れた上着のポケットから取り出し、どんとカウンターに置いた。
そして、驚いた事に、いきなり彼は土下座をしたのだ!
「馬鹿な願いだとは百も承知です。しかし、人の命……私の娘の命が懸かっているのです。リリスは昔から病弱で、病院に行くお金も尽きてしまいました。どうか、どうかこの魔法薬を作ってはもらえないでしょうか」
私はレシピを見る間も無く、彼に顔を上げてもらうように頼んだ。
 彼はかなりの長身で、そのわりには頼り無い体付きだった。長細い顔で、頬もこけ、目は落ち窪み、鈍く光る金属のようだった。
彼は私が黙ったままなのを見て、すかさず名前を名乗った。「ポール・エインスワーズと申します」低く自信無さげな声が、静かな事務所に響いた。
「分かりました。喜んで引き受けましょう。娘さんの命が懸かっているんですってね、それなら早く作らなっくちゃあね」
 そう言って、私は彼が持ってきたレシピに目を通した。都合の良い事に、私の一番の得意分野は魔法薬学だ。きっとエインスワーズ氏もその噂を聞いて此処に来たのだろう、と予測がついた。
 「『名称・強制滋養増強剤。材料・マンドレイクの根っこ、雄牛の腸、乾燥させた曼荼羅の花一輪、月長石50グラム、エメラルド一カラット分。効果・服用した者の体を一時的に完全に健康な状態に戻す。効果の続く期限は約一日。また、期限が過ぎると服用者は死亡する』……」と、ここまで読んだ所で、私は多くの違和感を覚えていた。
「ちょっと、これは違法魔法薬ですよ!? 貴方、『魔法および魔法薬における三カ条』を知らないんですか? それ以前に、何故こんな危ないレシピを、貴方が……」
疑問を一気に吐き出した後、私は項垂れた。厄介な客を店に入れてしまった……長年店をやってきた中で、こんな事は初めてだったので、私はいささか焦っていた。
ゆっくりと顔を上げた先には、深刻そうな表情を浮かべたエインスワーズ氏が居た。どうやら、彼は何が何でも私にこの薬を作らせようとしているな、と私は思った。

 「魔法および魔法薬における三カ条」。魔女や、魔法をちょっぴりかじっている人ならば誰もが知っている、魔法世界の常識ともいえるものだ。
一、それぞれ魔法の種類ごとの認定証の無い者がその魔法を使用してはならない。二、魔法薬の材料は必ず国の認定した市場で購入すること。三、人を死に至らせる事の出来る魔法および魔法薬は総じて禁ずるものとする。そして、これらの法を破った者には厳しい罰が与えられる。
 エインスワーズ氏の持ってきたレシピはこれらの中の二つに違反している。効果は元より、材料の中では、通常の市場では絶対に入らないような物がある。つまり、世界の掟を破っているという事なのだ。

 「でも、これしか娘の命は救えないと言われたんです! 罰なら喜んで受けますとも!」
「誰にレシピを貰ったのです?」これ以上、この男に関わりたくないと思っていたが、ここまで話を聞いたのだから、と私は仕方無しに事情を尋ねる事にした。
「そこの酒場で出会った、魔法使いを名乗る男です。あっ、酒場と言っても酒は一切飲んでませんよ。第一お金も無いし、そこには情報集めの為に来ていたので――ええと、その男は真っ黒のローブを羽織ってました。背は私よりも随分低かったです。後、左足を引き摺っていました」
視線を左上に動かしながら、彼は答えた。やはり、まだ掟を破ったという実感が無いのか、暢気なように見えた。
「しかし、おかしな話ですね。その男は、何故貴方のような魔術の素人に、こんなレシピを渡したのか……」
「あぁ、それは簡単です。町には魔女の営んでいる店が幾つもあるから、そこで頼めば作ってくれる、と言われました。私、必死だったもので、そこの酒場から一番近い貴女の店に駆け込んだのです」
「なるほど。エインスワーズさん、残念な話ですが……この薬を作る事は不可能です」
それを告げるのはとても心苦しかったのだが、私はそう言ってレシピをエインスワーズ氏の方に差し出した。予想通り、彼は唇を噛み締め俯いていた。
「掟破りなのもあれですが。まず第一に、材料を手に入れるのが非常に困難なのです。それに、レシピに書いてあるような製法は私もやった試しが無く、相当高度な技術を持った魔法使いで無ければ作る事が出来ないのです」
 私の言っている事は本当だった。マンドレイクの根っこは麻薬の部類に入るとも言われる程危険なものだし、曼荼羅の花など伝説上のものではないか、という説が出る程貴重であった。
少なくとも私の様な、平凡な魔女には手の付けられない代物だ。
「材料なら任せて下さい。男の連絡先こそ分かりませんが、実は少しだけ入手ルートを教えてもらったんです。では、またすぐ持ってきますからね」
私は深い溜息をついた。――駄目だ、彼は何も私の話を聞いていないようだ、と。おまけにレシピもカウンターに置きっぱなしになっていた。しとしと降る雨が、私の憂鬱な気持ちを助長させた。

 あれから四日程経った頃だろうか。その日は店の定休日で、女中が私の部屋に慌てた様子で入ってきた。
「メイシーさん、先ほどお手紙が届いて……エインスワーズというお方です。それと一緒に、この箱が届きました」
女中はテーブルに荷物を置くと、そそくさと部屋を後にした。箱はかなりの大きさがあって、テーブルにぎりぎり乗っかる程であった。
 まず最初に、私は手紙を開いた。
「『拝啓 ミス・メイシー様。このお手紙を読んでいる頃には、私はもう死期が近づいているのかもしれません。その代わり、先日渡したレシピの材料を揃える事が出来ました。後は作るだけです。どうかお願いします。それと、契約書も作りました。全ての罪は私が受ける、と。これがあれば大丈夫です。住所も書いておきますので、取りに来て下さい。私は動けそうにありませんので。娘をよろしくお願いします。 ポール・エインスワーズ』――嘘だわ!」
文字がだんだんとミミズがのたくった跡のようになっていたり、文法がおかしくなっていたりして随分読むのに時間が掛かったが、大まかな内容はこんなものだった。そして、私は彼の書いている事がまるで信じられなかった。
 この中に材料がみんなある、とでも言いたいかのように、その箱は偉そうに私の部屋に居座っていた。
幸い箱には鍵などかかっていなかったので、簡単に開ける事が出来た。その瞬間、私は目を見張った――驚いた事に、本当にあの薬の材料一式が揃っていた。
問題のマンドレイクの根っこや曼荼羅らしき花も、丁寧にそこに収められていた。どうやってこれらを集めたのか、その時の私には想像もつかなかった。

 それから、話は現在に至る。
ほんの気まぐれと、エインスワーズ氏の真剣さを買って、試しに薬を作ってみようと決意したのだ。
自分のやっている事がいかに危険な事か分かっていないのは自分の方かもしれないな、と私は自嘲気味に思った。
 あの後、もう一度彼から手紙が来たのも理由の一つだった。彼の娘が生まれつき重い病気にかかっていて、余命幾許も無い事。彼の妻も病弱で、二年前に死んでしまった事。そして、彼の娘が「今年の誕生日は元気でいた。死んでも構わない」と口にした事。
娘の衝撃的な発言を聞いた後、彼は何を思ったのだろうか。いや、何も思っていないのかもしれない。只一心に娘の願いを叶えてやりたいと考え、あらゆる場所を尋ね周り、あの薬の存在を知ったのだろう。
もしも薬が出来たとして、捕まっても悔いは無いなと思っていた。お客の願いを叶えるのが、魔法事務所として一番大切な事だと心に決めているからだった。
 「それにしても、変ねえ。いくら難しいと言っても、術式は確かに合ってる筈なのに」
何日も夜通しで、私は同じ術式を繰り返し試していた。この薬は、壷に材料を入れすり潰す所までは比較的簡単なのだが、材料を混ぜる為の術式が非常に難関だった。
レシピ通りに魔方陣を杖で描いても、材料は全く反応しない。時間や場所、その他諸々を変えてみても反応は無いまま、時間だけが過ぎていった。
このままぐずぐずしていたら、いつかエインスワーズ氏の娘は亡くなってしまうのではないだろうか? 私はそう考え、ついに行動を起こす事にした。

 エインスワーズ氏の家は、言うなれば「ボロ屋敷」だった。
古びたトタンの屋根に、蔦の絡まっている崩れかけの石壁。窓は、壁に粗く穴を空けて作ったものらしかった。
「すみません……わっ、酷い臭い」返事が一向に無かったので、私は勝手にすまないと思いながらドアを開けた。
その瞬間、生臭い臭いが埃と共にこちらへ吹き込んできた。すかさず手で鼻を摘むと、散乱した家具や本を掻き分けて、私は部屋の奥へと進んでいった。
「あ、メイシーさん……。ほら、リリスや。薬を作ってくれる魔女さんがいらっしゃったぞ」
エインスワーズ氏とその娘リリスは、どちらもベットに横たわっていた。青い顔をしたエインスワーズ氏は首をもたげると、奥のベットで眠っている娘を起こそうと、片腕を伸ばした。
 その時、私は大変な事に気付いてしまった。彼のもう片腕が無くなっていたのだ。腕の付け根であった所には、荒々しく包帯が巻かれていた。
彼は最初会った時よりも痩せ細り、今にも死にそうな様子だった。見ている私の方が痛々しい気持ちに苛まれる程に。
「こ、この腕は何でもありません。利き腕なので、字を書いたりするのが少し不自由になっただけで。でもその代わりに材料が手に入りました……薬、出来ましたか?」
「ちょっと待ってください。それは……腕を売る代わりに、あの材料を貰ったという事ですよね?」
「そう、そうです。金が無いと言ったら、それで代用してくれると言われたので。すみません、今娘を起こしますので……娘は五日ぶりに寝たもので……おい、リリスや」
「エインズワーズさん。この紙には、貴方が材料を貰った所の住所が書いてありますね。これさえあれば十分です。では」
 私は考えるよりも先に、家を抜け出て、その住所の下へと向かっていた。

 「あん? おばさんが何の用だね。見かけは裕福そうだし、冷やかしならお断りだよ」
「ベルギズの質屋」と看板の提げられた店を見つけると、私はすぐさま入っていった。
薄暗い雰囲気の漂う店には、柄の悪そうな禿げ頭の店主がカウンターに頬杖をつきながら座っていた。
「この店、只の質屋じゃあないわよね。人身売買が行われているようですが。先日、エインスワーズ氏の片腕を買って、偽物の魔法薬の材料を渡しましたよね?」
「ちっ。アンタ、素人の癖して闇商売に首を突っ込むとはいい度胸だな。ここで殺すのが惜しいくらいにねぇ」
やはり推理の通りだったな、と私は呟いた。左足を引き摺っている点といい、身長といいエインスワーズ氏から聞いた、魔法使いを名乗る男特徴とぴったり合っていた。つまり、これは全て店主が仕組んでいた事だったのだ。
エインスワーズ氏に、嘘の薬の情報を流して、法を破る程の薬でなければ娘は助けられないと言い、その後姿を変えてその薬の材料を渡す代わりに腕を寄越せと言いつける。
そして、娘を思うあまりに彼はその話に飛びつき、まんまと罠にはめられたのだった。腕は闇社会で高額で取引されるというから、きっと店主はそれを狙ったのであろう。

 店主は意地悪そうにせせら笑うと、ポケットから杖を抜いた。それを見て、私も反射的に杖を出し、戦闘態勢に入った。
「推理ごっこか。道理で最近の女は狡賢いわけだ」
 店主は素早く杖を振り、おぞましい声を上げながら呪いの魔法を繰り出した。
迫る。迫る。迫る――すんでの所で黒い閃光をかわすと、私は体勢を持ち直した。
 実はというと、私は攻撃魔法の認定書を取っていなかったのだった。「一、それぞれ魔法の種類ごとの認定証の無い者がその魔法を使用してはならない。」流石の私も、こんな事の為に法など破っていられない、と考えていた。
 「遅いぞ!」もう一発、店主の攻撃が飛んできた。さっきよりもスピードが増し、ビュンと音を立てて向かってくる。
咄嗟にそれをしゃがんで避けると、閃光は床に当たり、焼け焦げを残して消えていった。「くそ!」店主は地団太を踏んだ。
 店主の攻撃から逃げている内に、ある一つの魔法が私の頭に浮かんだ。――これなら、攻撃魔法でなくとも相手を倒せれるかもしれない。一筋の光が差してきた。
「防御魔法『ムーロ』!」杖でゆっくりと魔方陣を描くと、小さな光の壁が私の前に現れた。
「ふん、そんな物無いのと一緒だな!」店主は私を一頻り嘲笑した後に、同じように黒い閃光を杖から繰り出した。
当然の如く、それは光の壁に当たる。すると、それは面白い位に巨大な閃光になって、店主の元へ跳ね返っていった。
「防御魔法を極めた先には、反撃魔法があるのをご存知でなくて?」
私が杖をエプロンのポケットにしまうと同じタイミングで、哀れな店主はばったりと倒れ、床に突っ伏した。

 「メイシーさん。貴方にはいつも助けてもらっていますよ。しっかし、今回は直接悪党を倒すとは!」
私の横で豪快に笑っているのは、この町を担当する警部補のマージマル氏だ。
「いえいえ。私はただ防御魔法を張っただけです。あの店主が無知で、同じ魔法を何発も繰り出すような輩で無ければ、今頃私がやられていましたわ」
これで、また元の平凡な日常に戻るのだな、と私は晴れ晴れしいような、退屈なような気持ちになった。
 でも、後一つだけやり残している事があるのだ。
「――それと、エインスワーズ氏という方に伝えておいてもらえませんか? 『今度は三カ条を破らない魔法薬を作っておきます』って……」


おわり
メンテ
たまご ( No.102 )
   
日時: 2012/03/15 21:14
名前: 朔乱◆dQO3LlCLQE ID:ncET9xII

 瓶が傾く。中の液体がコップへと注がれる。コップからは湯気が出てくる。湯気が出てくるのはこの液体が温かいからだ。温かいものからは湯気が出てくる。そんなことは今までの経験からわかっている。問題は、液体が一時間前も湯気を出していたということだ。
 普通、ものは火に通さないと温かくならない。電子レンジやオーブンなんかでも温かくすることができる。給湯器なんかもあるが、あれはガスを使っているらしい。つまり、給湯器は火を使っているということだ。そして、温かいものはすぐに冷めてしまう。僕の温かい飲み物も、飲み頃が来たと思えばすぐに冷めてしまう。それが普通だ。温かいものはすぐに冷めてしまう。これは、世界中の全てのものにあてはめることができるだろう。しかし、この瓶に入っている液体は違う。冷めない。ずっと温かい。この瓶に入っている液体は、僕の提唱した理論に反する。こいつの謎を解明することが今現在、僕がするべきことだと思う。
 まず、瓶に入っている液体が何なのかを考えよう。この液体は、瓶に入る前はどこにあるのか。それは前日の調査で明らかになっている。液体は瓶に入る前、ヤカンに入っている。その前は蛇口の中だ。蛇口に入っているのはただの水だということは明らかにされている。しかし蛇口というものも、中々不思議なものだ。永遠に水が出続ける。尽きることがない。しかし、この謎はいずれは明らかにするとしよう。今明かすべきなのは瓶の謎だ。今まで瓶の水の出所を確認するため、あえて水が辿る道を逆方向に進んできたが、今度は水が辿る順番通りに進むことにする。蛇口からヤカンに注がれた水は火に通される。つまりは温められるということだ。そして温められた水、一般的に言うお湯のことだが、お湯は瓶へと注がれる。当然、このお湯はただ水を温めたもののだ。すぐに冷めてしまう。それがこの瓶に入れた途端、冷めない液体へと変化してしまう! 
 ここまで状況を整理してみて、僕はあることに気がついた。それは蛇口から出る液体は水で、ヤカンで温められた液体も水。瓶に注がれる液体も水ということだ。何度も容器は変わっているのに、水という液体は他の液体には変化していない。ここで一つの仮定が生まれてくる。「液体はどんな状態でも等しく水である」この仮説が正しければ、瓶から出てくる液体も水である。丁度この仮説を裏付けるように、ヤカンで温められた直後の水も、瓶に入っていた液体も、同じ使われ方をしている。
 こうなると、瓶に入っている液体を調べる必要はなくなる。瓶に入っている液体はただの水で、水は簡単に冷めてしまう。水が冷めない原因は瓶にあるということになる。そして、瓶を調べるのはかなり難しい。瓶に入っている液体は何度も移動していたため、瓶に触れずに調べることができた。しかし、今回ばかりはそうはいかない。僕は直接瓶を調べる必要がある。
 さて、瓶を直接調べるにあたって、どのような障害を乗り越えなくてはいけないのかを考えることにする。
 まず、はじめに考えなくてはいけないのが、瓶のある場所だ。今、瓶は食卓の上に置かれている。食卓とは、僕の体の三倍はある巨大な建築物だ。ここに上がるためには、一度イスを経由しなければならない。しかし、イスも僕の体の倍はある。不可能なことではないが、かなり疲れてしまう。食卓に上がれるのは、一日に一回が限度だろう。
 そして、もう一つの障害はセキュリティの高さだ。僕が食卓へ上がることをママは許さない。そして、僕が瓶に近づくこともママは許さない。
 つまり、瓶を調べるには、ママに見つからないように食卓の上へと登らないといけない。そして、食卓は巨大で登るにはかなりの時間がかかり、その上一日に一回しかできない。これは綿密な作戦を練る必要がある。

 ☆

 丸一日考えた作戦はこうだ。作戦を実行するのは平日の昼食後。休日はパパがいるため、セキュリティは上がってしまう。そして、床とイスと食卓は丁度良く段々になっていないといけない。つまり、イスが引かれたままになりやすいご飯後がいいのだ。朝食後でもいいのだが、眠いから昼食後にする。次にママの気をそらす作戦だが、これは食卓から離れた場所で、漏らすか吐くかをすればいいだろう。僕の後始末をしなければならないことを考えると、吐くほうがいい。食事後なら容易いことだ。そう考えると、脱衣所で吐くのがいい。洗面器や風呂場の水を使用するだろうから、キッチンには来ない。それに、濡れる前提の設計になっているはずだから、シミとかは残らないだろう。、迷惑はほとんどかからない。これで作戦は完璧だ。早速、今日決行しよう。

――頑張った。
 今、ママは脱衣所にいる。イスは引かれたままだ。計画通り。緊張で手足が震える。しかし、気付かれないよう静かに登らなくてはいけない。ゆっくりと、物音を立てないよう慎重に手をイスついていく。日ごろの筋トレの成果を見せるときだ。上半身のほとんどがイスに乗っかった。そろそろ足をかけられるはずだ。足を伸ばす。そのとき、重心が動いた。耐えられず手がすべり、つうっと鳴る。やばいやばい、かなり響いたぞ。しかし、気付かれた気配はしない。大丈夫みたいだ。なんとかイスに乗ることはできた。いわゆる四合目到着だ。本番はこれから。
 イスは掴むところや手をつける場所がたくさんあるが、食卓はそうはいかない。己の握力と腕力、若き手の吸着力に頼るしかないのだ。緊張とさっきの恐怖心から少し湿ったこの手は、最良の状態と言える。さぁ、新たなる世界へ、未知なる発見への第一歩を!
 ……イスとあまり変わらなかった。さっきのイスを登った経験を活かせば、さほど難しくもなかった。わりとすんなりと登れたことに拍子抜けしているが、今回の目的は食卓を登ることではない。例の瓶を調べることだ。瓶はもう目の前、ついにその謎が明かされるときがくる……

 ☆

 さて、結果から言うことにしよう。瓶の謎はわからなかった。今、僕は自宅にいない。瓶は僕が思っているほど軽くはなかった。瓶を持とうとしたがかなわず、瓶は倒れ液体は僕の全身に降り注いだ。熱かった。かなり熱かった。
 ただ、わかったこともある。瓶の中にある水は熱いということだ。今まで瓶に入ってる水は、人体に害のない温かい水だと思っていた。しかしそれは間違いで、瓶に入っていた水は温かいよりもさらに熱を持った熱いものだとわかった。熱いという概念を知れたことは、かなりの収穫だ。
 今、僕は病院にいる。物音に気がついたママがすぐに救急車を呼んで、ここに運ばれた。幸い大した火傷ではなく、すぐにママとも会えた。ママは僕を見るなり、抱きしめてくれる。僕はいつも感じているママの優しい匂いと温もりに包まれる。
 ん、温もり? 温もりということは……温かい? そういえば、ママはいつも温かい。あの瓶なんかよりもずっとずっと長い間冷めていない。これは大変だ。こぼれてきたらひとたまりもない。危ない危ない。死ぬところだった。近づかないようにしよう。

 ☆

 その日を境に、突然自分を拒絶した息子のことを母親は理解できず、親子の溝はどんどん深くなっていった。そして息子のほうは「温かいものはすぐに冷める」という持論の正しさをさらに裏付けることができ、満足していた。
 
メンテ
ウェザー ( No.103 )
   
日時: 2012/03/15 23:56
名前: sakana◆092jpOU0d. ID:2rpb94Ok

 0-1

「えーんえーんなのです。ちーちゃんは泣いているのです」
 妹は涙に咽ぶ。
《いつも》を回想すると、妹は隠れるようにひっそりと泣いていたはずだった。自らが人に掛ける負担を少しでも軽くしようと日々気を遣って過ごしていたあの子。そんな彼女が周りを顧みることもせず、大粒の涙を惜しむことなく流している。
「おれは泣いてなんかいない」
「泣いているのです。泣いているのです、悲しいって言えなくて、苦しんでいるのです」
 嗚咽が混じる声。鼻を啜り、顔は涙で他人に見せられるものじゃない。そんな自らの恥を晒しながらも、妹の行動は手で目を覆うだけに留まる。
「なら、どうしてお前が泣く必要がある」
「ちーちゃんの代わりです。みがわりなのです。ちーちゃんは泣かないから、泣けないから、わたしが泣くのです。泣くことに、したのです」


 1-1

「卯田小太郎」
 唐突に。何の前触れもなく、俺の席を占領していた藤村は誰かの名前を口にした。聞き覚えのあるような、それでいて真新しいような不思議な気分を覚える。
「だれ?」
「二組のヤツ」
 その返答に、ふうんと相づちを打ったが、藤村が何を言いたいのか少しも分からなかった。重ねて問う。
「そいつがどうかしたのか?」
「死んだんだって」
「は? ……もう一度」
「だから、いまそいつ学校に来てないらしいんだけど、その理由はそいつが死んだからっていう噂があるってことだ!」
 藤村は俺の机の上で力強く手を鳴らし、椅子の上では胡座をかくという強行に出たまま我が物顔でふんぞり返っている。この授業の合間の休み時間も残り二分を切っているのだから、いい加減自分の席に戻って欲しいのだが。
 とりあえず話を切り上げようと、「何でそいつの話をするんだ」と質問に答えるように促す。が、彼はそれに耳も貸さない。ただ独り言のように好き勝手に話を進める。
「さらに、噂によれば出るらしい。そう、出るって! 誰某が事故にあったとか、死んでしまったとか、やっぱりそういったことも珍しいけどそれ以上に……やばいよな、素晴らしすぎるよな! 幽霊はオカルトだよ、オ、カ、ル、ト! だからさ、実物がいたのかってことの確認がてらに、今日の昼休み二組に行こうぜー」
 ちょいと待て。出るって何だ、出るって。
 ある男子生徒の幽霊が学校にでるという噂を口にした藤村に、引き攣った笑みだけを返す。
 そして藤村は、俺の返事を待つこともせずに言いたいことだけを吐いて会話を切り上げるのだ。口笛を吹いているあたり、かなり上機嫌であるらしい。話を切り上げさせる、という点では、俺が望んだ展開なんだが……何だか釈然としない。
 藤村が俺の席を立ったとき、既にチャイムが鳴り始めていた。慌てて自分の席に戻っていく彼の後ろ姿に目をやり、いい気味だ、と当てつけに笑ってやった。


 0-2

 血の繋がっていない妹だった。
 だからこそ、妹はおれによく懐いたのかもしれない。
「ちーちゃん、ちーちゃん」と小鳥のように何度も口走り、おれの後ろをついて回る。振り返ると、そこにはいつも妹の笑顔があった。
 太陽の光を反射する彼女の髪は、金色にきらきらと輝いていた。目を細め、色を含めた全てがまぶしいと純粋にそう思う。

 それが、いつからだっただろう。たったひとりの、妹の表情が海の色一色に染め上げられてしまったのは。

「ちーちゃん」とおれを呼び、身代わりになるあの子――(――ただ、物悲しい)
「ちーちゃん」とおれを呼び、泣くあの子――(――ただ、うれしい)
「ちーちゃん」とおれを呼び、幸せなあの子――(――だから何も言えない)

 泣くあの子に、手を差し延ばすことのできない自分がもどかしい。


 1-2

「んじゃ、早く行こうぜー」
 四時間目終了のチャイムが鳴り、昼休みを過ごすために誰かが動き出すよりも早く、藤村は立ち上がった。
 頭で腕を組み、上機嫌で歩き出す藤村。その後ろを慌てて追いかける。まだ人通りの少ない廊下。この六組から二組へと向かう途中、いくつもの教室の窓を目まぐるしく通り過ぎる。同じ光景は目に痛い。なんだって、教室はすべて同じ造りなんだと文句を言いたい。
「おーい、上早。ウワサいるかー?」
 一年二組、と掲げられたプレート。それを見上げ、二組に来たのだと意味のない確認をした。ただ、そのときにはすでに藤村によって二組の扉は開かれており、藤村は近くに佇んでいた男子生徒に声を掛けていた。俺は彼の背後に佇んだまま銅像のごとく動かない。だって二組に知り合いいねーもん、と心の中でぶつくさ言い訳をする。
「あっ! 藤村きゅん、わざわざ久美に会うために来てくれたのー? うわあ、うれしい! 久美は泣いて喜ぶよ!」
 藤村に人を尋ねられた男子生徒は、正確にその者を呼んでくれたらしい。
透き通るような声を上げ、廊下に佇む藤村に勢いよく駆け寄る女子生徒がいた。ぴょんぴょんと飛び跳ねる姿はどこかウサギのようだ。
 俺の思い違いじゃなければ、この女子生徒は藤村が教室を覗いた時からぎらぎらと目を光らせていたように思う。
「あれれー? もしかして藤村きゅんのお友達? へえー、藤村きゅん。中学のときと違って女の子のお友達を作らなくなったんだね、えらいえらい」
 腕を組み、うんうんと頷く彼女に藤村は「こら」と静止の声を上げる。
「ひとが女侍らせていたような物言いをするんじゃねえよ。それにお前に会いに来たのだってほら、……お前の情報網を頼ってきたんだよ。だから、ちげーって。会いに来たんじゃ……ない、のか?」
 会いに来た、その文句が正しいのかそうじゃないのか。自分が何を思って彼女のところまで来たのか、その概念自体危うくなってきたらしい。語尾には絶対クエスチョンマークがついてる。
「うふふー、盛大な告白ありがとう! でも二年前から久美は藤村きゅんの彼女だよー!」
「……え? マジか」
 ちょ、おまっ彼女いたのかよ。
 俺は驚き藤村を睨みつける。が、そのとき視界に入った藤村はすでに白目を剥いていた。俺の驚きの度合いよりも、よっぽどショックが大きかったらしい。
 そして我に返った藤村は、俺の発する不穏な空気を感じ取ったのか、慌てて本来の目的を口にした。
「その話はあとだ。あと! 今日お前に会いに……来たのはな、噂に関することは何でも知ってる学年一の情報網にある噂の確認をするためなんだ」
「ふうーん、へえーん、ほおーん。それでこの上早久美(うわさくみ)さまを頼ってきたのね!」
 にまにまと、盛大に顔を崩しながら彼女は藤村の腕を取る。
「藤村きゅんのことだから、最近話題になっている幽霊のことでも聞きに来たんでしょ? なら話は早いわ」

「図書室まで、行くわよー」

 腹が減っているんだが、とは言えない雰囲気だった。


 0-3

 目を閉じると、脳裏に浮かぶ妹の姿がある。

「ちーちゃん、この世界に魔法なんてないのですか?」
 否定的な言葉を発したのは、眉の端を垂れさせ、何とも頼りなさげな表情をした妹だった。
「前にも、おかあさんに違うって言われたのだけど、実はすっかり忘れていて」
 そして思い出したように、その《魔法》をいつまで信じていただの、いつから信じられなくなっただの、果てにはその存在意味をおれに聞くのだ。
「……魔法、か」
「のですよ……」
 妹になんと返答をしようかと考えながら、おれと同様の目線の先。リビングのテーブルにつき、地につかない足をぶらぶらと遊ばせる妹の様子を伺う。
 学校から帰ってきてしばらくの時間が経っているというのに、妹はまだ赤いランドセルを背負っていた。
 それに妹の目には涙がうっすらと滲んでいるようにも思える。
 ……学校で、何か言われたのか。ただそうぼんやりと認識し、未だにまとまっていない考えを口にする。
「この頃、魔法少女が流行っているだろう」
 すん、と妹は反応する。
「テレビでよくやっている魔法少女の番組、あれは戦いだ」
 すん、と訝しむ感情をあらわにした妹は反応する。
「魔法を戦いの手段として、《魔法》を使っている」
 すん、と納得がいかないようするで妹は反応する。
「あと……この頃じゃなくても、本とかでよくファンタジーな物語があるだろう」
 すん、と英国の某魔法学校に通う少年を妹は想像する。
「舞台は大体が、今より昔のヨーロッパ……外国で、これも戦い」
 すん、と妹は想像する。
「魔法を戦いの手段、日常生活を補うものとして、《魔法》を使っている」
 すん、と日常に溢れかえる魔法を妹は想像する。
「こんなものはもちろんない。存在しない。どこを探しても、夢や物語にしか登場しない空想でしかない」
 そう言い切ったとき、妹から何やら沈滞とした雰囲気が漂ってくる。おそらくおれまでもが、魔法を否定したのだと、そう思ったのだろう。しかし出した結論は、魔法がこの世に存在しないというものではない。妹にこれ以上の失望をさせないようにと、慌てて言葉を紡ぐ。
「……そう、魔法の杖。ほらこの前《欲しくてサンタさんに頼んだことがあるのです》って言っていた、一振りすれば何でも願いが叶う魔法の杖」
「それも、ファンタジーな物語に出てくるものじゃなく。それだけの、単体。現代から孤立するようにぽつりと存在する魔法の杖」
「あれは、戦いが身近にあって必要に急を要されたわけでもないし、普段の何の変哲もない繰り返しをより単純化させるものでもない」
「ただの《願い》だ」
「願いを叶え、不思議を巻き起こす。決して悪用されない、子どもの内だけの、ただ純粋な――」

――魔法(ふしぎ)。

 魔法の杖、それ一つに絞っても思うところはいくらでも出てくる。
 それも、覚えたばかりの言葉を使い、知ったかぶりをしていきながら口にした自らの考え。どこからそれが破綻していたかなんて、覚えていない。
 いま、明確に想起できるのは、ひとつも妹の様子を顧みることもせずに、捲し立てたことだけ。
 その後に妹はおれの答えを聞いて失望したのかそうじゃないのか、どんなやり取りをしたのか、思い出せない。色あせた記憶の綻びとなり、疾うに消えてしまっている。
 ただ、少しだけ。ほんの少しだけ、未練とまではいかない程度に心残りだと思う。


 1-3

 藤村の「お前のクラスに卯田小太郎はいるのか」という問いに、上早久美は「いないわよ」と答える。
 藤村の「お前のクラスのいたのか」という問いに、上早久美は「初めから久美のクラスにはいないわよ」と答える。
 藤村の「噂とどまり……?」という何とも気弱な問いに、上早久美は「それだったら今図書室に向かってないよー」と笑った。

「ちょっと訳アリで、久美のクラスじゃこの話できないの。わざわざ場所移動してもらって、藤村きゅんごめんねっ!」
 ぺろっ、と舌を出し自分の頭をぐーで小突く。
 そんな藤村が知りたい情報を一つも手に入れられないまま、俺たちは閑散とした図書室に足を踏み入れた。
 入り口からは本棚の側面ばかりが見え、初めに認識できる景色は本じゃないらしい。四月に一度踏み入れた限りの図書室は、やはり見慣れない。この本棚の背の高さ、数より、人がいたとしてもどこに誰がいるかなんてちっとも分からないような部屋だった。俺はその雰囲気に圧倒される。
「聞いた話によれば、例の幽霊はこの図書室に出るらしいの!」
 上早久美はその声に歓喜を孕ませる。誰もいないと思われるこの図書室に、異様に響く声だった。

 にまにまと、再び笑顔を浮かべ、上早久美は藤村の腕に絡みつく。そして俺に一瞥した後、ここから真正面の場所に位置する窓へと視線を向け――「さくら」と。ただそれだけを発した。
 その言葉に反応して、俺と藤村も同じように図書室の奥に視線をやる。しかし、縁どられた窓の奥で揺らめく桜の枝はこの季節に相応しい姿をしているだけだった。
この学校に入学して早三か月。窓の向こうで枝を伸ばす七月の桜の木。もちろん花などついているはずもない。
 少なくとも俺にとって、葉を生やした桜の木を「さくら」と呼ぶことには抵抗があった。


 藤村のように、それほど幽霊騒動に興味があるわけではないから、と。上早久美の話を聞き流しながら、ふとある本棚に視線をやると、動くものに意識を取られた。目が釘付けとなり、どうしようもない欲求に駆られる。
 よし、と心の中で意気込み藤村に声を掛ける。
「本を返そうと思うから先に帰ってて」
 ちらちらと、金色が映る。
「本? でもお前、何も持ってないけど」
「あ、間違えた。本借りるから先に帰っててくれないか?」
 藤村は、訝しげな様子で俺を窺いながらも「分かった」と言って上早久美と共に図書室の扉を開けた。
 ちらちらと、俺の方を見ているヤツなんか知らない。
 そうして俺は、廊下から見える彼等の背が点になったのを見届けたのち、カウンターから三つ離れた本棚の裏をそっと覗きこんだ。ちなみに入り口から見える本棚は、カウンターから離れた二つ目の裏と三つ目の表だ。
「……ひと?」
 そこにいたのは一人の女子生徒だった。
 濃紺のセーラー服が浮き立つ色白の肌。すらりとした首筋。目に映る金色は、窓からあふれでる日差しにより、一段と輝いている。
 物音一つしない図書室に佇む、黄色の斜光を浴びた女子生徒。
 ただ、きれいだと思った。人を惹き付ける魅力が、彼女として存在全てに凝縮されているのだと思った。
 思わず声を上げる。
 そうすれば、彼女は大きく肩を揺らし、何か恐ろしいものを目撃したような表情で振り返った。


 0-4

「ちーちゃん」
 今思い返すと、妹は決しておれを兄と呼ぶことはなかった。
「ちーちゃんっ」
 眩く、まだあどけない顔に溢れんばかりの笑み。こぼれ落ちてゆくそれを、しっかりと目に焼き付けながら「どうしたんだ」とやさしく、聞いた。
「ちーちゃんはチョコ、食べれるのですか?」
 バレンタインデーが近いのですよ、と呟いた妹の表情は、ただそのときだけ。おれの答えが気が気ではないと、僅かに不安を孕んでいたように感じる。
「……甘いものは、好きだ」
「本当ですか! 良かったのです。こんど、今度っ、チョコレート作るので、良かったら受け取ってください」
 そしてその先を想像したのか、いっそう楽しげな表情を露わにする。
 図書室のバーコードのついた真新しいレシピ本。妹は力一杯それを、抱きしめていた。

 ほとんど表情が動かないと言われるおれだが。妹には、せめて妹だけにはやさしく。そう接することをいつも頭の隅に置いていた。
 彼女に好かれていたらいい。
 それも、ただ懐かれていたのではなく、愛されていたら。おれはどんなに幸せだろうか。
 もしかしたら。一つの過程としておれが妹を愛していた、それだけの話だったのかもしれない。


 1-4

「こっ、これは違いますよ! 決してわたしが本を読もうと手に取っているわけではないのです! そうなのです、そうなのです。ただ、本が……この《図書室に棲み着くには》という、わたしの願望に沿った本が落ちていたのでただ拾っただけなのです! けして、決してっ、わたしにやましい考えなどっ! ……ううう、そんな目で見ないでください。違うのです、違うのです。わたしは図書館出入りを禁止された生徒じゃありません。違うのですよ、です……ごめんなさい! 嘘です、嘘でした、白状しますからっ! わたしが出入り禁止にされた生徒ですよーっ! だって、だって、しょうがないのです、涙が勝手に出てくるものですから。本の上にぼたぼたと落ちてしまうのはしょうがないのですー……。閲覧禁止にしなくたって、いいじゃ、ないですか」

 図書室で見つけたその印象深い女子生徒。俺はそんな彼女の前でどう振る舞うのか、そう考えることに躍起になっていた。
 だが残念なことに、彼女は挙動不審だった。そのため、夢心地だった気分は一瞬にして現実に引き戻された。
 こそこそと、本棚の隙間から貸出カウンターを除く女子学生。胸には一冊の本が抱かれており。《図書館に棲み着くには》なんていう、小説なのか随筆なのかはたまた別のジャンルなのか、何とも言えぬ不思議なタイトルの本を手にしていた。
 それに、俺を何か恐ろしいものと重ねてしまったのだろうか。振り向いた彼女の顔には、恐怖といっても過言ではない表情が張り付いていた。目が合う俺。何も聞いていないのに、あたふたと言い訳を述べ始める彼女。そして彼女は、よく理解しがたい言い訳の中で、最後には拗ねてしまった。
「……ええと、それでどちら様なのですか?」
 眉よりも少し上の辺りで切りそろえられた前髪。後ろは肩に到達するぐらいの長さで、驚くべきことに色は金だ。染めたようなくすみは見受けられないため、生まれながらに持っている色なのだろうと予測する。
「今日は天気がいいですね」
「……えと」
 彼女は困ったように笑い、背後に位置する窓へと視線を向けた。
 図書室には、彼女と俺しかおらず閑散としている。そして俺の目線の先に、彼女の背後に、窓は存在しているのだが、そこから見える空模様は見間違えようもない曇りであった。
 しまった、と内心焦りつつ見かけだけでも平常心を保とうと言葉を次ぐ。
「……お、俺はっ! 曇りが一番好きだし、だからっ。晴れじゃなくて、曇りを一般に言う《良い天気》にしたらいいと思う!」
「…………そうですね」
 言動がまともじゃない、という第一印象を獲得。……全然うれしくないや。


「思う存分、学校の図書室で本が読みたいという願望を叶えるために図書委員になりましたが……まさか先生方から出入りを禁止されるとは思いもしませんでした」
 その女子生徒は桜と名乗った。そして「実はですね」と今までの経緯を述べ始めるのだ。
「初めは、理由があったのですが。今ではもうそんなことお構いなしに涙が出てくるのです」
 何でも泣き癖があるため、図書室の出入りを禁止されたそうだ。
「あっ、でも。ストレスがーとか、そんな重大なことじゃないのです。ただ、気持ちの問題なのでいつでも改善できる……はずです。だから、わたしがこのままでいいと思っているからなのでしょうね。泣いてしまうのは」
 けれども今の彼女から、そんな様子は少しも見受けられないと思った。
「そして、辺りを何度も何度も確かめて、ようやく誰にも目撃されずにここへ辿り着いたのです。ですが、一つだけ。重大なことを一つ忘れていたのです」
 さくら、と口の中で復唱すれば、「敬称はいらないのです」と彼女は言った。
「この学校の図書室の貸し出しは、本のバーコードと生徒手帳のデータ読み込んで行うものだったのです。このままわたしが本を借りれば、先生方に《立ち入り禁止にしたはずの生徒が現れた!》とばれてしまいます」
 どうして泣くんだ、と理由を尋ねれば、「大好きな人がいるのです」と彼女は表情を歪めた。
「なのでお願いです。今日初めて出会った人にお願いするのは忍びないのですが、生徒手帳を貸していただけませんか! ……クラスメイトの方たちはわたしの髪の色に驚いているようで、まだ打ち解けた人はいませんし、頼める人がいないのです」
 彼はもういないのか、と過去を確認すれば、「やはりそんな噂が広まっているのですね」と悲しそうに笑った。
「ええと、わたしが調査した結果から推測するに……。明日の放課後は、図書委員さえここにはいないはずです。加野さんが良ければ、の話なのですが……」
 どんな本が好きなんだ、と興味を示せば、「ふぁんたじー、です!」と姿とは見合わない舌足らずで答えた。
「これ以上のご迷惑はかけないので」
 ファンタジーはあまり読まないなあ、と呟けば、「魔法の概念は子どもの頃に夢見たものが一番自由で、一番、いちばん、素敵だと思うのです」と笑顔をいっそう輝かせる。
「だから。また会って、くれませんか?」


 0-5
 
「――アナタ、本当になんなの! 気味が悪いわ、あの人に愛された人によく似て、本当に気味が悪い!  あの人が見ていた人はもう死んだのに、なんでアナタは死ななかったの? 何故、なぜ、共にいなくならなかったの! アナタがいるから、あの人は私だけを見てくれない! それに気持ち悪いのよ、その顔、その表情、その姿、ぜんぶ、もう全部! あの人が愛してしまった汚物に似ているわ! あの人、今でもあんなのの写真を大事に仕舞っているの、私に語るの、うるさい、煩わしい、そうよ、私の目の前からいなくなってちょうだい! ぜんぶ、その全部がアナタがいるからっ、だから、あの人は安心して何もかも忘れることができないのよ! 何が息子よ、実の子よ。血が繋がっているから何だって言うのよ、知らないわ、しらないわよ、そんなこと! これもそれも全てアンタが生まれてきたせいよ! そう言われたくないなら、アイツと一緒に死んでおけばっ――」
 
 新しく、母となった絹子さん。
 彼女は終日、涙に暮れるような人だった。仕事が忙しくて父が帰らないとき「きっと捨てられてしまったんだわ」と言って泣いた。父が母の話をして別室に行った後「わたしを見てはくれないんだわ」と呟いて泣いた。決して人がいない場所で、孤独となったときには泣かない人だった。誰かの同情が欲しくて、それでいて愛情が欲しくて、咽せ叫び、そうして身近にいる《愛されるため》の対象外に手を出す人だった。
 父が今でも亡くなった母を愛しているのだと感じ、義母はおれへと憎しみをぶつける。
 頬をぶたれ、物を投げつけられ、家を閉め出される。それでも諦めずにそこにいれば、暴言の嵐が降り注ぐ。
 おれは何も言わなかった。それは、ただ必死に堪えていただけ。けれども不思議と、理不尽な物事による怒りが爆発することさえなかった。義母を憎むことができなかったからか。小学生でありながら、自分の気持ちを表すことを苦手とした自分。彼女に対する同情により、堪えることで必死に彼女を哀れんでいたのかもしれない。

 そして一つ下の妹は、そういう日には決まって泣いていた。
 電気の消えた部屋の隅で、一人細々と目を赤く染め上げる。


 1-5

 教室に戻った俺は、藤村を探してきょろきょろと辺りを見回した。そして視界の端に捉えた藤村。心なしか、二組の上早久美のような、にまにまとした笑みを浮かべているように思える。
「な、何か目ぼしいことでもあったのか」
 普段とはまた違った様子の藤村の尻込みしながら問えば、うふふーなんて女々しい笑い声を上げた。
 こ、こいつ……完全に上早久美に侵されてやがる。
 俺は顔を引きつらせながらも、そういえば、と一つ話題を上げる。
「あの後な、誰も居ないと思ってたけど、図書室で女の子と会った」
 決していやらしいことなど考えてないぞ、と察してもらうために顔を引き締める。そして「金髪で小柄の」と付け加えたとき、藤村は顔を強張らせた。
「……その子だよ」
「なにが?」
 ぴっ、と腕を伸ばしその先端を俺へ向ける。
「あの後ウワサに聞いたんだけど、例の卯田小太郎。その人、一つ上の学年だった」
 だから二組にはいないって、ウワサは執拗に笑ってたんだな、と藤村は苦笑する。
 そして、どこか独り言のように続けるのだ。
「まさかウワサも図書室に本人がいたとは思ってないだろうな。本人の前で話すことを回避するためにあそこまで行ったって言ってたし」
 一旦ここで言葉を切り、藤村は一呼吸する。
「ウワサが図書室で口にした《さくら》」
「卯田小太郎の妹が《さくら》。一年二組の卯田桜だとさ」


 0-6

 真っ黒。そして同様に広がる真っ白な世界。
「色が、ない」
 セピア、モノクロ、黄色、赤色、青色、移り変わる世界は目まぐるしく色を変える。映る景色だって、それは、見慣れたもののはずだ。
 毎日桜と通っていた学校の図書室。木の匂いが鼻孔をくすぐる。日差しは暖かくて明るい。けれどもそれらを認識できたのもひとときだけ。
 次の瞬間、その場に立っていられないほどの眩暈を感じ、しっかりと目を閉じた。
 そして視覚から手に入れた情報を整理するのだが、その中から、今おれを取り巻く世界がおかしい理由を知る。
「おれは、死んだのか」
 変化を感じる。うねりを感じる。大きく作用する力を感じる。
 時は絶えず動いていて、今身を置く世界もまた目まぐるしく変動していくのだということ。
 それを言葉にすることも、体で表すこともできない。ただ、周りの世界が崩されては構築され、裂けては融合し、それらの目まぐるしい繰り返しを感じていくことしかできないのだ。
 いわゆる傍観者。けれどもここから手を差し伸べることだけは、否定されている。
「すべては変わりゆく、ということなのか」
 ならば、妹の。あの子の世界も変わらないといけない。
 いなくなったおれの代わりなどしてはいけない。
 どうやって伝えればいいのか、ゆっくりと考えを巡らせるが、頻繁に訪れるノイズは思考を鈍らせる。
 小難しいことを考える暇はない。だから、ここに。残ることだけを強く望もう。
「まほう、か。そんなものがあったら……いや、あるんだ。あるから、おれはここにいるし、しばらくと留まれる」
 そう考えよう、と心の中に前提を設置した。

 だが、あの子の世界の変化を望むといっても。次第に単調化されていったやり取りを壊し、おれが新たに何かを作っても結果は変わらない。だれか、おれ以外の誰かに、託せるような人はいないのか。
「……きっかけが欲しい」
 すでに言葉を紡ぐのだってどこか億劫で、ここに残るということを身が拒絶しようとしている。
 瞼は開けない。今そのシャッターを開ければ、それだけで、この世界に飲み込まれて終わり。そんな気がする。
「変化、か」
 ひとつだけの心残り。それを消し去るため――……。

 この場所が学校の図書室だという確証を得て、おれは動かない。
 時間はそうない。
 それでも目を閉じ、次々と訪れる望まない変化に耐え忍ぶ。人を待つ。ただあの子を想って。ただただ変化を望んで。


 1-6

「本当に悪かったな、変なの連れてきて」
「変なのって何だ、まさか俺のことか!?」
 翌日の放課後、俺は図書室を訪れた。それは昨日会った桜との約束からだったのだが、何故か藤村を同行。
 本の貸し借りを終えた桜は、丁寧に生徒手帳を渡してくれた。その後に少し話をした。主に普段の学校生活についての質問のし合い。「友達は、どうやったらできるのですかか!」と割と本気で聞かれた。
 藤村は桜の兄のことを話題に出したがっていたが、流石に噂の幽霊の妹だと、本人を前にして言うことはなかった。
 けれども今は、桜に対して謝罪の気持ちでいっぱいだ。
 桜ごめん、本当にすまん。人を連れてきたことは後悔してるから、涙目になら…………泣かないでください。
 この状況から察するに、どうやら桜は人見知りをするらしい。昨日俺と話したときはそんな風ではなかったけど、と思うところはあるが、そのときの彼女の状態によるのだろうと判断した。

 桜の言った通り、この時間帯。図書室に俺たち以外に人影は見あたらなかった。
 そして目的を済ませた桜と藤村が、図書室の扉に手を掛けたとき。
「あ、先に帰ってて」
 デジャブ。しかし人物は違う。
「なんでだ?」
「なんでも」
 そう言って小さく頷けば、はいはい、と藤村は扉の奥に消えた。角を曲がったのだろう。
「あ、えと。加野さん、何かあるのですか?」
「ちょっとだけ」
 曖昧に笑って、早く行けと促す。
 この図書室で一人になった、そう思い息を吐いた。
「あの子のこと、どう思う」
「はっ?」
 空気を求めて咽せた。その際、声が裏返ったとかきっと気のせいだ。
 人の声がし、慌てて振り向けば。そこには見慣れない男子生徒が立っていた。
 上靴や上着についている校章から、一つ上の学年だと知れた。
「い、いつから……」
 二人を帰らせたのは、ただ本当に図書室に人がいないのか確認するためだった。
 それも、この男子生徒がいるとかそういったことではなく。図書の先生や委員の生徒がいるかどうか、明確な人物は特定されていた。
 桜の言うことを疑うわけではないが、彼女の性格はかなり抜けている。
 だというのに、図書室にいつ人がいて、いついないなど。調べられるはずもないのだと思ったのだ。
――本当は桜の図書利用は黙認されていて、どこかに先生が隠れて見ているんじゃないのだろうか。
 そう思っただけなのだ。

 だというのに。
「あの子のこと、どう思う」
 同じ質問。
 ニット帽を目元まで深く被り、何を考えているか分からない真剣な表情を纏う彼。
「……えっと」
「好きなのか」
「いや、いきなり言われても」
 え、なにこれ。俺、ライバルか何かだと思われてるのか?
 思わぬ人の登場により、俺はあたふたと言葉を濁らせる。
「おれはどうやら桜を愛しているらしい」
 だから変化を求める、と彼は変わらない表情のまま口にする。

「頼むよ」


 0-7
 
 父が再婚相手として連れてきた義母。その連れ子が桜だった。

 初めておれが彼等と対面したのは、ある一流レストランの最上階。父は仕事柄、こういった場所を仕事でよく利用していたそうだ。スーツを着こなし、父はまるで毎日通っているかのように優雅に佇む。その隣で、おれは被っていたニット帽をずらし、視界を広げた。取ることはしない。特に何かがない限り、身につけていたものだから、外したことによって生じる違和感をこんなところで味わいたくなかった。
 いくらか時間が経ち、隣りにいた父が動く気配を感じた。片手を挙げ声を上げる父。その視線を辿り、おれは少しだけ頭を下げた。
 景色を決して遮らない、ガラスを通して映る街の光。それをも自らを飾り立てるように上手く立ち回り、ただ嬉しそうに笑っていた義母を覚えている。胸元が開いた赤いドレスを身につけ、それを上品だと思うこともみっともないと思うこともなかった。ただ、きれいな人だと思った。
 そして次に、そんな義母の背後からひょっこりと顔だけを出し、恥ずかしそうに俯いている少女を見つける。地毛なのだろう。惜しげもなく、そのきらきらと輝く金色の髪を晒す少女。緊張した表情で、おれと父をちらちらと窺う。前もって父から話を聞いていたにも関わらず、彼女が妹になるのだと、この場で初めて兄という立場についての悩みを感じ、ある種の目眩を感じた。
 そうして少女は義母の赤いドレスをよりいっそう強く握りしめ、意を結したように顔を上げた。もごもごと、何らかの単語を繰り返して呟いた直後のことだった。「小太郎さん、これから、これからよろしくお願いします」とおれの名前と挨拶とを小さな声で――それでも彼女の精一杯であろう声で――叫んだ。


 1-7

「見たことはありませんが、感じたことはあるのです」
「なにが?」
 唐突に、桜は口を開いた。
 今日もまた、本の貸し借りをしたいという桜に付き合い、図書室で過ごすひとときのことだった。
「ちーちゃ……先日亡くなった兄の話です」
 藤村さんが、わたしの兄についての噂に興味を持っていることには気づいていました、と彼女は言う。
 俺は図書館に備えてある椅子に腰掛け、目の前で本を開いている桜を無言で眺めるだけだった。
 そして、兄とは血が繋がっていません。と経緯を静かに語り始める。
「わたしは、兄が。ちーちゃんが母に嫌われていることを、邪魔者に思われていることを知っていたのです」
「けれども、何も出来なかった。ちーちゃんも、母もどちらも大好きで。その大好きな人が、大好きな人に虐げられることを見ていることしかできなかった」
「非力な自分が嫌いだった。母にも、兄にもなにもしてやれないのに、それで笑っていることしかできない。でも、兄に関して言うと。母に虐げられている現状を知っていたのに、泣いてやることしかできなくて、もう結局は……事故だと片付けられ、学校側には生徒に公表しないようにと通知され……。おそらく母が原因だと思うのですが、わたしもちーちゃんの最期を知りません。だから、もう忘れたくないのです――」
 そう言った桜の瞳からは、透明な涙が溢れんばかりとなっていた。
 それに俺は声を掛けることはできない。所詮、気休めの言葉にもならないのだ。
「ここで、この図書室で。兄が側にいるような、そんな気がするときがあるのです」

「桜は兄のこと、好きだった?」
「――はい、好きでした。ただ、あの背中をずっと追いかけることをしたかった」
 彼女は力強く答え、それだけに目を輝かせた。


 0-8
 
「桜ちゃん。そんな他人行儀な呼び方をしなくても良いんだよ」
 小太郎さん、とおれの名前を呼び、その後顔をりんごのように真っ赤にさせた少女。その顔にはまだあどけなさが残っていて、今この場所にいるのも、学校帰りだったのだと予想できた。少女の背に光る一つのランドセル。身につけているものは制服であるため、正装には変わりない。
「あ、良い機会だから絹子さんにも紹介するよ。実際に会うのは初めてだよね。この子は息子の卯田小太郎。そうだね……《ちーちゃん》なんていうあだ名が馴染みやすいかもしれないね。小太郎の《こ》は小さいの《こ》。だから、ちいさい、にちなんでの《ちー》。……少なくとも亡くなった小太郎の母親は、そう呼んでいたよ。小太郎が生まれる前から、そう呼んでやるんだ! と意気込んでいたんだ。名前と違うあだ名を呼びたがる人だったからね」
 少女は何度も何度も口をもごもごと動かした。心なしか、《ちーちゃん》と形取っているようにも思える。そして義母に視線をやると、次の瞬間「あ、この人いやだ」と咄嗟にそれだけを感じた。父は口にした亡き母の話題。その際にも義母の表情はどこか苦々しく、母の存在自体を目の敵にしているような、そんな敵意を感じ取ったのだ。
「うん。じゃあ顔合わせも終わったことだし、そろそろ食事を始めようか」
 真っ白なテーブルクロスが映える、窓際の一角。チェアーを手慣れた手つきで引き、父が一番初めに座った。
 そしておれ、絹子さん、桜の順で席に着くのだ。
「ということで、今日から僕たちは家族です。改めてよろしくお願いします、絹子さん。桜ちゃん」
 テーブルの上に催したグラス。そこに水を注ぎ父は笑った。


 新しい家庭。そこに幸せはなかった。続かなかったわけではなく、元から存在しなかったのだ。

 妹はいつも呆然とその様子を見ていた。初めは奥の部屋で、次にはおれたちのいるこの部屋の端で、最後には義母の服の裾を掴んで。とても悲しそうな顔をしておれと母を見比べるのだ。
 そのとき、桜はまだ小学生。
 年月が経ち、おれは中学の三年へと学年が上がり、妹が中学の二年になったとき。桜は泣きはじめた。
 おれが苦しんでいるのだと、そう言った。泣いているのだとも、悲しんでいるのだとも言い、桜がそれらすべてを受け持つことを望んだ。
 だから、かもしれない。
 心を揺さぶれ、妹に声を掛けることもできなかった。
 様々な想いが巡り会い、どんな言葉がこの場合適しているかなど、正常に考えることもできなかったのだ。


 1-8
 
「えーんえーんなのです、ちーちゃんは泣いているのです」
 涙を堪えることをやめたらしい。
 咽びなく彼女を見つけてしまった。
 
 人知れず図書室の一角で、桜が泣いていた。周りを顧みることもせず、大粒の涙を惜しむことなく流している。
 授業が終わり、部活はなく、今日の日課が終わり、暇だと思った。図書室に行けば、人目を忍んで図書室に侵入することを常に目標とする桜に会えるかもしれない、そう思ってのここまできたのだ。
 そして、目撃した光景。
 一つの本棚に向かったまま、地面に座り込み涙を拭うあの子。
 泣くことによって起こる困難に妨害されながらも、言葉だけはしっかりと紡ぐ。それだけの強さを持っていながら、何故と思う。
 本棚に挟まれたその場所に差し込む夕日は、それでもあの子に降り注ぐことはない。ただ、もう半分のカーテンに隠されるところに位置するあの子は、そんな暖かな光を気にする様子もなかった。
「おれは泣いてなんかいない」
 はた、と唐突に表れたその声の主を求めて視線を漂わせれば、あの子の背後に男子生徒が佇んでいた。いま気づいた。気配なんて、ちっとも感じなかった。あの子に声を掛けるためだけに、突如現れたようにしか思えなかったのだ。
 辛うじてその人が男子生徒だということは分かるが、逆行で顔は見えない。
「泣いているのです。泣いているのです、悲しいって言えなくて、苦しんでいるのです」
 嗚咽が混じる声。鼻を啜り、顔は涙でぐしゃぐしゃだ。けれども、そうやって縋るように泣いているあの子がどこか愛らしい。
「なら、どうして桜が泣く必要がある」
 男子生徒の掛けるその言葉は、まるでお決まりのセリフをなぞるように、もはや温度を持っていない。
「ちーちゃんの代わりです。身代わりなのです。ちーちゃんは泣かないから、泣けないから、わたしが泣くのです。――泣くことに、したのです」
 えぐ、えぐっ、と懸命に呼吸をしながら、それでもあの子は言葉を紡ぐ。まるでそれだけが彼らの唯一のつながりであり、それを絆を断ち切られることだけを恐れて。
「そうか」
 その男子生徒はあの子の言葉を聞いて、それだけを漏らした。そしてこの図書室を包むのはあの子の嗚咽だけ。俺はこの雰囲気に圧倒され動けないし、あの男子生徒もまた何かすることもせんず、今は佇ずむだけだった。あの子を慰めることもしない。ただ見ている。愛おしそうに見守ることだけに徹底する。

 ふいに、カーテンが揺れ。半分だけ開いた窓から風が流れ込んだ。その風は時間だった。あの二人の間で止まった時間。それを突き動かすための衝動。
 男子生徒は視線を上げた。今まで地面に散った本へ向けられていたものを、前へ動かしたのだ。そして彼の目に映ったものはおそらく未来。自らのそれが望めなくとも、人の未来は祈ることができるのだと、繰り返し行われたやり取りの。わずかな変化で察知した。
「――そうだ。もう、泣かなくて良いんだ」
「桜は泣かなくて良い」
「だってもうおれはいない。桜の気の済むまでといえば、それは永遠と続いてしまう」
「それに桜はおれに依存しなくても、たくさんの物事を感じることができるだろう」
「桜は泣かなくていい」
「だから、おれのためにもう泣くな」
 その言葉にはっとしたのはあの子だけではなかった。そのいくつかのセリフから耳にする声色は、先日聞いたものと同じだと気付く。学年を表す上履きの色。それから一つ年上なのだと分かる。目元が隠れそうなほど深くかぶっているニット帽。それはいつか見た、表情の変わらない先輩のもので――。
「じゃあ、笑うのです。ちーちゃんの分まで笑うのです」
「いや、それも……泣くよりは良い、けど」
「ちーちゃんはちーちゃんなのです。わたしはちーちゃんをひたらす想い続けることをしたいのです。そこにちーちゃんの意図は介入させてあげないのだから」
 そういってあの子は、赤く泣きはらした目で大きく笑った。ただ、彼女の目の前には大きな本棚。背後にいる彼を直接目にしようと身動ぎさえしない。
「忘れられれば、それが一番良いはずだ」
「それだけは嫌なのです。いくらつらい目にあっても、それはわたしの望むところなのです」
 その返答に彼は小さく苦笑し、その場から一直線上に位置する図書館の入り口へと目を移し――。
「あ、」
 彼もまた、全ての幸せを胸に抱き十分に満足したような微笑みを浮かべた。ただそれは、俺に向けられゆっくりと。それでいてはっきりと、口は文章を形取る。

(たのむよ、いもうとを)

「……俺の精一杯を、尽くさせていただきます」
 はたして、彼は消えた。元からそこにいたことが幻だったんじゃないだろうかと思えるほどの清々しさだった。
 そうしてあの子に視線を戻すと。あの子は――桜――は、未だに笑顔を作っている状態だった。自分の背後にいた、彼女の兄がもういなくなったことには気づいていたかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。それでも俺は桜の兄、卯田小太郎とのひとときを無に帰すために声を掛ける。彼が望んだ、変化。それは無から始まる。
 一歩踏み出し、本棚を視界に入れる。一歩踏み出し、桜だけを目に映す。一歩踏み出し、そして――
「――魔法の」
 あ、出だしから間違えた。

 桜は突如登場した俺の存在に目を丸くするが、次の瞬間彼女ははにかむ。そしてかつて見た夢を語るのだ。
「魔法ですか。確かに魔法って、不思議なことを起こすきっかけなので同じ事だと、思うこともあるのです。ほら、むかし夢見た魔法少女。魔法使い。魔法の杖。どこれもこれも、子どものときに知ったのは、小難しい概念ななんてなくて、それでいてただ純粋に願いを叶えるだけのもの。あのときに夢見た不思議とは、すこしだけ離れたものになったのです」
「けれども魔法の杖、あれだけは。あれだけは、いまも同じ。手に持ち一振りすれば、事が思うとおりに進み願いが叶う」
 そして桜は「小さいときにちーちゃんが言ってたのです」と思い出を噛みしめるのだ。
「ですからわたし、もしかしたら魔法の杖を持っていたのかもしれない。今はもう、無くしてしまったのだけれど」

「魔法は不思議。だからこそ、魔法という言葉を不思議の類義語として使ったら駄目なのですよ」
 いたずらに失敗した子供を叱るように、笑いながらそう言った。


 0-9

 あのときおれは、絹子さんがぶちまけた酒瓶の中身を被り、一瞬の眩暈を感じた。
 鼻を奥をつくアルコールの刺激。濡れた上半身。おぼつか無くなる足元。
 全ては刹那。現実でさえないのかもしれない。
 浮遊感を感じ、自分の体が投げ出されているのだという諦め。
 そのとき上げた、絹子さんの金切り声を聞いても、何を言っているのか分からないし。第一に理解できたとしても、その考えがどこから湧いているのだとか、おれと関係のないことだとしか思わなかったに違いない。
 ただ、桜が。おれの代わりに、と。泣く桜の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
 さくら、さくら、さくら。頼むから、もう――。
(なかないで、くれ)


 1-9

 恋だの愛だの、俺はそういったことに敏感なわけではない。
 考えようとしてもどこか心がむずかゆく、気づけば他のことを考えている。いわゆる照れからの逃げ。そのため、その類の感情を誇らしげに語ることはできない。
 けれどもこれは。これだけは。
 ある兄妹の、淡い恋の終結だったんじゃないかと、そう思う。
メンテ
路地裏のトルバドール ( No.104 )
   
日時: 2012/03/16 21:41
名前: アリス ID:e87Slv02

 



 泣くぐらいなら、私の歌を聴いてよ。
 違う、違うの。
 暗がりの路地裏。夕刻。雑踏。そんな音たちはゆっくりと向こうに消えていくのに。
 彼女の声は私の脳裏に大きく反響した。穏やかで繊細、それでいて芯のある綺麗な声の女性だった。  
 私は涙を服の袖でゴシゴシと拭き、鼻をすすりながら頷いた。
 自分でも何に頷いてるのかわからなかったけれど、でも、彼女の声に応答したかったのだ。
 それでも涙は止まらない。

 ありがとね。
 ぼやけた視界で、彼女は微笑んだ。



 彼女は小さな椅子に座り、足を組んで、ギターを弾いていた。
 そして私は、路地裏の泥に塗れた地面に膝をつき、わんわん泣いていた。
 何に泣いてるのかもわからなかった。もうわからないことだらけだった。
 頭が沸騰するみたいに熱くて、涙と鼻水が止まらなくて。
 嗚咽だって出るし、咳だって止まらない。
 喘ぐように息をするので精一杯。 
 声だって、張り裂けそうなほどの大声で。
 私は泣くのだった。
 悲しい。
 何が悲しいかわからないのに。
 悲しい。
 恋人が死んだ? 家族が死んだ? 誰かに裏切られた?
 どれが正解でも間違いでもどうでもいいと思えるほどに、憔悴しきった体と心が、ただ叫びを上げて泣き続けることだけを欲していた。
 お腹がすいたら何かを食べる、喉が渇いたら何かを飲む。
 その延長のように、私は今、泣きたいから泣いていた。
 頭で考えることなど何も無い。
 滲んでぼやけているのは視界だけではなく、頭の中、私の気持ち――普段は形ある全てのものが、今確かに、形を無くしているのだった。
 なのに。
 なのに私の目の前に座っている女性は、ただ静かに音楽を奏でていた。
 ギターを爪弾く音が、私を抱くように響く。
 それらは皆、きちんとした形があって。
 私に直接触れてくる。



 聴きたくなんか無かった。
 やめて。
 もうやめてよ。
 聴きたくなんか無いよ、あなたの歌なんか。
 だって、痛いよ。
 あなたの歌、私をどんどん泣かせるの。
 私に何か起こって、きっと街に繰り出したんだ。
 雑踏の中にいれば、人ごみに紛れていれば、私の悲しみも、海に飲まれていくペットボトルみたいにどこかへ消えていくんじゃないかって。
 そう思って、夕方の褐色に足を委ねたんだ。
 なのに、私は路地裏に迷い込んだ。
 そうしなきゃ、いけない気もして。
 だから、路地裏に来た。 
 雑居ビルの隙間。 
 だけどそれなりに広い暗がり。頭上からは夕焼けの色が注がれている。
 私はそこに、ゆっくりと歩みを進めてた。
 そして、あなたがいた。
 歌っていたのだ。ギターとともに。
 椅子に座って、こんな路地裏で、歌っていたのだ。
 その声が私の涙腺を溶かして、その音色が私の喉を奮わせた。
 

「泣くぐらいなら、私の歌を聴いてよ」


 違う、違うの。
 あなたはわかってない。
 わかってないよ。
 あなたの。
 あなたの歌が、私を泣かせてるんだよ。


 聴きたくないなんて嘘。
 やめてなんて嘘。
 痛いのは、優しい痛み。
 この涙は、あなたの優しさ。


 だから、やめないで。
 やめないで、歌い続けて。
 私も泣くの、やめないから。
 だから、私を泣かせ続けて。


「ありがとね」

 
 私はただ、路地裏で歌うあなたに、そう言うために、泣くことをやめない。

 
 
メンテ
Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.105 )
   
日時: 2012/03/16 00:35
名前: 企画運営委員会 ID:sol8ZDAs

作品のご投稿お疲れ様でした。
16日(金)〜31日(土)は批評期間です。作品をご提出なされた方は必ず全作品の批評を行ってください。批評だけのご参加もお待ちしております。


>第11回『魔法』参加作品(敬称略) >>87-104

>>87 ゆみたん:まぎかる
>>89 黒猫;魔法少女襲来
>>90 かなちゃん王女:結末を知らない物語。
>>91 ATM:Hannon le.
>>92 天パ:HAPPY LIFE
>>93 ロブスター×ロブスター:ママとお皿と魔法使い
>>94 空人:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法
>>95 8823:王の決断
>>96 伊達サクット:スチームパンク・空の舞い!
>>97 ナルガEx: 魔法の誕生とその歴史
>>98 If:不帰の島
>>99 にゃんて猫:さよなら旅人の唄
>>100 某駐在:さらば、愛しき日々よ。
>>101 どーなつ:世界の魔法の三カ条
>>102 朔乱:たまご
>>103 sakana:ウェザー
>>104 アリス:路地裏のトルバドール
メンテ
Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.106 )
   
日時: 2012/03/28 23:23
名前: ナルガEX ID:VunpUaMs

まだ途中


どうも、初投稿のナルガEXです。前回の批評コメを参考にして書きます。作品もおぼつきませんが、評価もおぼつかないのでよろしくお願いします。


  • >>87 ゆみたん:まぎかる

    評価
    アイディアが素晴らしい!冒頭部のじらし方も物語に吸い込まれて行く様だったし、最後の「なぁ~んだ!」って言うちょっとした笑と妙にバランスが取れてる。最後のポポポポーンは反則www(良い意味で)
    目立って悪いところは見当たりそうも無いが、強いて言うならば、題名とストーリーの関連性がないような気がする。まあ、このタイプは題名でネタバレする可能性も否定出来ないので大丈夫だと思うが……。まあ、マギで連想出来たのが「まどかマギカ」だったから大丈夫。

  • >>89 黒猫;魔法少女襲来

    評価
    語り方が上手い。シリアスな雰囲気で引き寄せつつ、最後のコメディーでちょっとした笑いを誘う。シリアスを基本的に書いている(自分の)立場から見ると見習いたい。シリアス雰囲気にする為の代償もすんごいピッタリ。世界観も難しすぎず、かと言って簡単すぎず。そこのバランスが取れている所が良い。


  • >>90 かなちゃん王女:結末を知らない物語。

    評価
    余計なものが入ってない所が良い。純粋に王子が姫を振り向かせたいと思う心が良く伝わってくる。王子が姫を助けるだけにせず、第三者を登場させた所も良い。結末をわざと隠し、ここからはお察し下さいって言う部分で、色々な想像が出来て遊び心満点の作品だと思う。読み終わったあとに、かなちゃん女王さんの「してやったり!」という顔が思い浮かびました。


  • >>91 ATM:Hannon le.

    評価
    真面目、泣いた。ACのありがとうさぎを舐めてた。文一つでありがとうがこんなに切なくなるなんて思わなかった。
    文も語り口調で統一して、切ない感をだすあの芸当が凄いと思った。故意では無いと思うが、設定を執事とお嬢様にしていた事で、どちらが喋っているかが説明が入らなくても分かるという発想も良い。
    最後に質問!これって「謎解きはディナーの後で」の世界観ですよね?


  • >>92 天パ:HAPPY LIFE

    評価
    スンギェエエエエエエェェェェェェェェェグッと来たーーーー!♪───O(≧∇≦)O────♪
    この作品を読んだ時、自分の作品が糞に思えてきた……(⌒-⌒; )
    ストーリー的な観点だけで見ると、最初からのどんでん返しの繰り返しで一気にその世界に吸い込まれて行くようだった。
    人類はどうあるべきなのか?そういう発想もvery good!
    目標を立てるって大事だなーとつくずく実感出来る作品でした!

    よーし。勉強頑張ろう!


  • >>93 ロブスター×ロブスター:ママとお皿と魔法使い

    評価
    登場人物の感情が手に取るように分かる、そんな感じで目の前で起こってる様な言葉の表現が凄いなと思った。
    ちょっとした動きも文中に加えて、彼女の焦りが物凄く表現できている、そんなちょっとした工夫が良かった。
    そして、僕(主人公)の魔法と言うものと彼女の魔法と言うもを食い違わせる。こういう発想も以外と面白く、ニヤリと笑ってしまう様なストーリーも良かった。
    しかし、魔法で元通りにならない物が、未だによく分からない。今後の自分の課題……かな?(笑)


  • >>94 空人:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法

    評価
    切ない。題名が明るいのに切ない。でも面白かったぁ!
    何か複雑な感じに魔術の楽しさとストーリーの切なさが妙な感じにミックスしていて、面白切ない。
    魔法と科学が完全に同化している世界観も以外と良い。呪文に飾り気がなく、シンプルすぎない様な所もすんごく見習いたい。
    周りに流されず、一つの意志を貫き通す。そんな主人公にちょっと拍手。


  • >>95 8823:王の決断

    評価
    物語の世界観、状況、結末。起承転結、共々バランスがよく取れていて物語が掴みやすく、飾りすぎず。こりゃあもうピンポイント!ベストポジションを全く崩さず、しっかり最後まで通し切れてる所が良い。
    王の決断によって王は家族と、財産だけではない本当の幸せを勝ちとった。切ないようで、good endな所が作品的に良い。
    なんかなー。しんみりしてしまってこれ以上書けないわ………。(涙)


  • >>96 伊達サクット:スチームパンク・空の舞い!

    評価
    ストーリー、と世界観が申し分ない程平和的で良いものになっている。
    他の物と違って、そんなに過激な戦闘シーンが無いと言うのも悪くない気がした作品だった。
    戦闘シーンが無い分、内容が濃く、かと言って分かりにくい所も無い。
    そんな釣り合いが適度に取られている所が良いです。
    平凡な日常も悪くないな………。



  • >>97 ナルガEx: 魔法の誕生とその歴史

    評価・反省
    自分で書いた物なのに、他の人のものを読んでると自分の作品が糞に見えてくる。
    今回の自分的反省は、ストーリーを濃くする所。一様考えさせる様な物にして行く予定が、詩の用な物になってしまった。
    もっと練習しなきゃな………。



  • >>98 If:不帰の島

    評価
    ストーリー、キャラクター設定、ストーリーと世界観の釣り合いがベストポイントにお互いを高め合ってる。
    主人公の予想出来ない言動と、展開の予想出来ないオリジナリティー溢れる作品でした。
    やっぱり予想出来ないって所が良い。むしろ、予想出来る作品はつまらない。
    束縛から離れて、自由の翼を広げる主人公には、同情出来る。



  • >>99 にゃんて猫:さよなら旅人の唄

    評価
    物語の起点を微笑ましく、少々笑いを取らせてから、中盤でシリアスにして行くドキワクをうまく引き立たせている所が良い。そして、キャラクターの性格みたいな物がしっかりとセリフに出てきている所が良い。そのおかげで、各キャラクターの性格や個性が脳裏に浮かんでくる。あと、周囲の状況を上手く再現で来ている所も良い。その世界も脳裏に浮かび、その世界に入ったつもりになれる作品でした。



  • >>100 某駐在:さらば、愛しき日々よ。

    評価
    哀しくて書けないが書く。泣いた。真面目に泣いた。本当に泣いた。
    悲しい雰囲気が上手に、そしてさりげなく表現されているところが良い。
    そして、悲しくしながらも過去の明るい場所を照らしていっそう雰囲気を盛り上げている所も良い。
    ストーリーと出来事の設定が申し分ない程良い。



  • >>101 どーなつ:世界の魔法の三カ条

    評価
    物語の入り方がとても良い。いきなり事が起こった様な表現が上手にできている。
    娘を救う為に法おも破る父の必死さも上手に表現されている。
    世界観も結構難し目の様だが、そこを簡潔に表現できている。さりげなく説明を入れる、この技を習いたいwww。



  • >>102 朔乱:たまご

    評価
    小さい子供の視点から、しっかりと物語が出来上がってて面白かった。
    魔法ビンの中を見る(?)為にちょっとした計画を立てて実行する。
    僕なんて、計画立てても実行までいかない時があるから………。
    落ちも面白く、とても読みやすい作品でした。


  • >>103 sakana:ウェザー

    評価
    人生経験の浅い僕にはまだ難しい作品でした。
    でも、ちょっと考えさせる型の小説で上手に主人公の気持ちを文に滲み出させている。
    そんな、良い作品でした。


  • >>104 アリス:路地裏のトルバドール

    評価
    とても考えさせられる作品でした。
    前を向いて歩こう。現実逃避ダメダメ。人の愛はしっかり受け取ろう。的なことを訴えてるのでは?そう感じる作品でした。
    さりげなく、意味を盛り込むのがお上手ですね!
    みならわなくては。


    全体的な感想
    誰か一番だなんて言えない!みんな良い!全員の作品と評価を吸収して、次回作にしっかり生かさなくては!


  • メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.107 )
       
    日時: 2012/03/16 11:31
    名前: にゃんて猫 ID:ojTFPRPY

    お疲れ様です。初めての批評となりますがよろしくお願いします。



    ◆ゆみたん様>>87「まぎかる」

    しょっぱなから精神的なダメージがデカかったです……薄々オチは予想してましたが、
    まさか本当にあのネタでくるとは。
    語りだしから引き込まれました。もう少しストーリー性のある話を次回に期待です!


    ◇黒猫様>>89「魔法少女襲来」

    シリアルな雰囲気が一気にコメディになって、でもラストでストンと落とす。
    話の運びが上手く、主観もハッキリとしていて読みやすかったです。
    タイトルに釣られっ……いや、何でもないですww


    ◎かなちゃん王女様>>90「結末を知らない物語。」

    お伽話、童話を思わせる語り口がすごく印象深かったです!
    よく知ってる童話の別な解釈が読めた気がしました。
    「もっと、もっと読みたい……」って画面に向かって吠えてました。←変態
    経験者のなせる技でした、感服。


    ○ATM様>>91「Hannon le.」

    ありがとウ●ギを連想しかけたわっちはとりあえず一度タヒらねばな……。
    すみません。読んでてホロっときそうになりました。
    魔法=言葉というサッパリした解釈もいいなと思いました。
    ストーリーと心情描写のバランスの良さを見習いたいですな。


    ●天パ様>>92「HAPPY LIFE」

    「俺が神だ!」ってことでいいんですよね……?((((((魔貫光殺砲
    細かな時代の流れが分かりやすくまとめられていて、歴史小説さながらの出来に思わず唸りました。
    全世界の人間たちに対する強いメッセージ性も感じました。


    □ロブスター×ロブスター様>>93「ママとお皿と魔法使い」

    ストーリーとキャラの行動・思考がすごく良くできていると思いました。
    ひとつひとつの描写もとても丁寧で「僕」の財布の中身に同情しまs(殴
    純粋に面白かったです。


    ■空人様>>94「気になるあの娘を(ry」

    タイトルに釣られたのは俺だけないはずだぜ、うん、多分。
    と、そんなタイトルとは裏腹にストーリー構成はしっかりしてるし
    流行(例「二次元ドリームフィーバー」)は取り入れてるわてんわやんわで
    ワアアアアアアッ!てなりました。一番ドキドキして読めましたよ。
    読み切った後の爽快感もたまらなかったです。


    ◇8823様>>95「王の決断」

    なぜでしょうか。読んだ後、頭のなかがほわほわもやっとなりました。
    これでよかったのだろうか。良かったんだろうな とか考えさせられました。
    人間ドラマのような深い心層描写も精練されたものようで良かったです。


    △伊達サクット様>>96「スチームバンク・空の舞」

    ちょっとひょうきんで抜けた人たちが織り成すポップなストーリーなイメージを抱きました。
    書くところは緻密なまでに描写されてて、ファンタジー性も怖いくらいにしっかり確立されてて
    「あぁSFFだなぁ」と思いました。


    ▲ナルガEX様>>97「魔法の誕生とその歴史」

    多少ご本人様の連載小説から引っ張ってきている設定にも思いましたが
    精練された語り口と言葉のひとつひとつがしっかり根付いてきました。
    言葉にふたつ以上の意味を持たせるのがお上手ですな!見習いたいです…


    ☆If様>>98「不帰の鳥」

    キャラがしっかり立ってて、重いのにあっさりした風のストーリーで気負いなく読めました。
    予想以上の出来と、魔法ラインの絡ませ方のうまさ。
    起承転結がしっかりしている感じがしました。


    ¥にゃんて猫とかいうアホ>>99「さよなら旅人の唄」

    話にならない。原案も何も無しで適当に書いたらこうなる。
    魔法ェ……科学になってるしww
    キャラも思ったように動かせず、描写もカス。
    とりあえず出直してこい、俺。


    ★某駐在様>>100「さらば、愛しき日々よ。」

    ラストで思わず泣きそうになりました。伶治ィィィ!
    解放の物語と私は認識しました。現代×魔法の難しい世界観も
    あっさりと染み付かせた上、リアリティとフィクションの混ざり具合が絶妙でした!
    美穂たんカワイいなっ(殴


    ♪どーなつ様>>101「世界の魔法の三カ条」

    アクション・推理・研究……色々なことをたったこれだけの
    文に詰め込めるなんてスゴいです!
    自分の中身がいかに薄っぺらいことか、自覚しました。


    @(諸都合により名前が表示できませんでした。)>>102「たまご」

    他の皆さんとは違う魔法のとらえ方をされていて面白いな、と思いました。
    息子クンの歳にそぐわないであろう思考内容(?)にも面白いアイデアだと思いました。
    文章長いことも気にせずにスラスラ読めました。


    ∞Sayaka様>>103「ウェザー」

    一番長かったにも関わらず、終始文体から何ひとつ崩さずに書かれていてすごいです!
    0と1の交わらせ方から主人公の心境がひしひしと伝わってきました。
    魔法はあえてサブに据えておいて話を進めるやり口にも感動しました。


    #アリス様>>104「路地裏のトルバドール」

    ちょっと長めの歌詞のようなイメージを持ちました。
    「私」の痛みや思いがじりじり焦らすように迫ってきてドキっとしました。
    魔法はこの詩のどこかにうまく隠されているようですね。←見つけられなかった奴
    一風変わった雰囲気で、面白かったです。



    初めての批評ですが、疲れますね。
    ノートにリストとそれぞれの感想個条書きにして、それをまとめ直して打ち込みなんてしてたら半日経ってましたよww
    でも達成感みたいなのがあっていいですね。
    批評というか感想になってますが、こんなもので良かったですか……?
    でわでわ。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.108 )
       
    日時: 2012/03/16 13:21
    名前: 茶野◆EtTblie50o ID:wtgpqIFA

     ひとこと:魔法=科学ネタ多すぎ。

     批評とはなんぞや、という問いに答えることすらできない。あいまいな立場からの批評になります。今月こそは参加したかったのにー! ら、らいげつはなんとかする……!
     表現方法にこだわりすぎるのはよくないのかもしれませんが、わたしは小説を読むとき以下の点を気にしています。それがどこまで必要なのかはわかりません。
    ・漢字変換
    ・言いかえ
    ・難しい言葉の使い方
     作品数は多かったけれど、なぜか『宝物』のときよりは楽でした。参加していないからか、おもしろい話が多かったからか。
     背伸びはよくないな、と自己をふり返るいい機会にもなりました。自分の言葉で語りえないものに対しては口を閉ざすほうがよいのでしょう。たぶん。きっと。
     敬称略。

    >>87 ゆみたん:まぎかる
     今だからできる話だろうな、と思います。きっと来年あたりではもう使えないネタでしょう。そして何年もたってこのネタを知らない人が読んだら、おそらくこの作品のいちばんおもしろいところは伝わらない。それが悪いことだとわたしは思いませんが、やっぱりネタに走ってしまった感はぬぐえない。それはそれでいいんじゃないかな、と。そういう姿勢で書かれたであろう作品なので深くはつっこみません。率直な感想を述べると、ネタが古いです。一年前にやればよかったんじゃないでしょうか。ネタ自体が使い古されたものであったため、目新しさがなかったのが残念です。

    >>89 黒猫:魔法少女襲来
     ちょっと説明不足かもしれません。魔法についても、世界のしくみについてもそうだし、「夢を見ました」からあとの場面とのつながりももう少し言葉がほしい。やりたいことはわかるのですが、それをおもしろく読ませるためには言葉が足りない気がします。あと、魔法少女という名称の説明も、今という時代の流れに任せてしまっているように思います。魔法少女といえばだいたいの人(ここに投稿するような人)には想像がつくでしょう。おそらく二年前だったら、この名称を理解することは今ほど容易ではなかったはず。既存のイメージにすべてを任せてしまうのはどうかなあ、とわたしは思います。自分の言葉による説明が少しはほしかったです。
     「暮らしてる」「事」あたりの表現が個人的に気になりました。

    >>90 かなちゃん王女:結末を知らない物語。
     既存作品から脱しきれていないのが残念。これではおとぎ話を語りなおしただけにすぎません。既存作品をモチーフにするなら、もっと新しい切り口がほしかったです。
     地の文は語り口調になっていますが、それに徹しきれていないのが惜しい。どうせならこれこそおとぎ話を参考にすればよいのではないでしょうか。王女に敬語を使ったり使わなかったり、「お美しい」の多用が目立ったり、語り口調のわりには人称代名詞が多かったり。難読漢字と思われるものに読み方を書いていますが、はたしてそれは必要なのでしょうか。「辿る」は「たどる」でも充分でしょうし、「いばら」も一般的な「茨」や「荊」のほうが伝わりやすい。「棘」は「とげ」と読まれることが圧倒的に多い字です。二回目以降は読み方も書かれていないので、つい「とげ」と読んでしまう。だとすればはじめから「茨」や「荊」あるいは「いばら」「イバラ」にしておけばよかったのではないかという話です。「棘の城」たしかに字面はかっこいい。意図があればそれでかまいません(書籍であればルビがふられるでしょうし)が、深く考えずにこの漢字を選んだならちょっとなあと思います。気にしない人がほとんどだと思うので流してくれてもかまいません。
     おとぎ話レベルの話をしようとしているのはわかりますが、「悪」ってなんなのでしょうか。「悪い国」とはいったい。安易に言葉を使いすぎかなと思います。ひとつひとつの言葉にもっと重みがほしかった。

    >>91 ATM:Hannon le.
     まさかのあいさつの魔法ネタ二作目。ちょっと予想してたのでまさか、は言いすぎかもしれませんが。
     世界観がわからない。お嬢様と執事である必要があるのでしょうか。たぶんこれをおじいちゃんと孫に置きかえても成立するでしょう。この設定ではないと成り立たないというわけではなかったように思います。どうせならお嬢様と執事設定をもっと有効利用してほしかったです。執事のさみしそうなキャラ設定も生かされているとは思えません。西洋風っぽい世界観なのに「黄泉」っていうのはどうか。
     執事が死去してから地の文がいきなり語りかけるようなものになってしまっていました。最初から最後まで地の文は統一したほうがよいと思います。
     お嬢「様」なのにおとう「さま」、あなた「さま」だったり、ところどころ変換ミスがあったりしました。なぜ「俤」なのか「面影」ではだめなのか。もうちょっと気をつかって文章を書いてほしいです。

    >>92 天パ:HAPPY LIFE
     好きなタイプの話でした。しかし『水球』の発展、退廃過程に納得はできません。フィクションだとしてもこういう話は読み手に納得させるだけの根拠が必要だと思います。
     『第一世代』がなぜ特殊な力を持って生まれることができたのかは、ひとまず置いておいて。彼らは一応、今の地球人の子孫であるのですが、神さまの力によりなんとでもなったと解釈します。『第二世代』は器用さに特化しているとのことですが、『第一世代』はいったいどれほどのものだったのか。簡素だとしても家が作れるってけっこうすごいんじゃないのかと。そもそも『地球』時代の技術がどれくらい残されていたのかわかりません。もしすべての技術が消滅していたとしても、人間は生きていたわけですから言葉も残っていたはずです。口伝である程度のことは伝承されていたのではないでしょうか。文献などが焼けてしまったというだけでは、技術が消え去ったことの説明にはならないと思います。同じあやまちをくりかえしてしまったと言っているということは、過去のできごとがきちんと言い伝えられているわけですから。
     そして学問は完成しないという考えに対する説明が一切ありません。後半の「自分はなぜ生きてきたの」という問いだって学問です。議会制ははたして、すばらしい完璧なしくみなのでしょうか。「不幸」とはなんなのか。他人と関わるうえで、すべてが自分の思いどおりになるなどということは不可能です。他人との衝突についてはいっさい書かれていないのが気になりました。ようするに明らかな思考不足。浅い知識や思考だけでは書けない題材だと思います。地球は「表面の」七割が水なのです。理系でもなんでもないド素人のわたしにさえ指摘されるような間違いが、こういう話を書くときには命取りになります。フィクションの中にでも論理は必要だと思いました。

    >>93 ロブスター×ロブスター:ママとお皿と魔法使い
     かわいい話だと思いました。最後の文がとてもほほえましくて好きです。
     僕と彼女の関係が不透明ですが、これはちゃんと説明してもよかったのではないかと。
     くわしく描写がなされているわりに、それがかえってじゃまをしているように感じられます。地の文は半分くらい必要なかったのではないでしょうか。無駄な描写に勢いがそがれてしまったように思います。しかしそれを削ると枚数も少なくなります。内容としてはそれだけだったということです。もうひとつふたつエピソードがあってもよかったでしょうし、描写をはぶいて掌編にしてもよかったかと。必要のない文をいれて嵩増ししたことがマイナスになっていると思いました。

    >>94 空人:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法
     固有名詞につい笑ってしまいました。なるほど。タイトルだけ見ればコメディっぽいのですが、ちょっと違う。設定がとてもおもしろかったです。もうすこしスムーズに山場を作ってくれれば、もっと楽しめたんじゃないかなと思います。
     短編だとかなり難しいと思いますが、キャラクターが物足りません。テンプレっぽかったのが残念でした。シーがユーを「こんな事を望むような娘ではなかった。おおらかで、お調子者で、歌が好きで、強がってはいるけれど本当は寂しがり屋で、人を思いやる事が出来る優しい子」と言葉で説明してはいます。しかし、行動とかセリフでキャラクター性を見せてほしかった。シーの言葉だけでは説得力がないかなと思います。

    >>95 8823:王の決断
     好きな話でした。おもしろかったです。設定もよかった。
     母親のことを教えられない理由のくだりが説明くさいので、もう少し楽に理解させてほしかったです。説明の部分だけ読みにくいのが残念でした。物語の中で自然に設定を説明してほしかった。
     誤字脱字が少しあった程度で、文章じたいは読みやすかったです。

    >>96 伊達サクット:スチームパンク・空の舞い!
     おもしろかったです。一気読みしてもぜんぜん苦になりませんでした。楽しかったです。安定のおもしろさ。
     魔術とか科学とか神といったものを自分で語れるレベルで扱っていたのに好感を持ちました。今回同じような題材を扱って、手に負いきれず破綻している作品が多かっただけに。科学が生み出したモノたちがとにかくかっこいい。忍者を出してくるセンスもいいなあと思いました。本来の仕事に戻ってしまうパン屋さんとか、細部までおもしろかったです。セレクトも神さまもキャラがいい。
     一文に情報をつめこみすぎかもしれません。修飾語を削るか、二文に分けるかすれば、もっと読みやすくなるのではないかと思います。
     
    >>97 ナルガEx: 魔法の誕生とその歴史
     ちょっと批評に困っています。
     文章量のわりに誤字や脱字が多いのは問題だと思います。たぶんきっと他のみなさんが指摘してくださるでしょう。それを読んでください。逆接で「しかし」以外のものを使うだけでもっとよくなると思います。

    >>98 If:不帰の島
     Ifさんにしては珍しいかんじの作品でした。ブログのほうでランクづけをされていましたが、たしかに時守人>今作だとわたしも思いました。
     今作はとにかく飲みこみづらかったです。主人公が島で何をしながら内偵しているのか、合成獣とは何か、人間関係がどうなっているのか、とか。警備隊にいるという説明が冒頭部であるのですが、わかりにくい。警備隊とはなにか途中までわからなかったので戸惑いながら読んでいました。宿舎の説明もほしい。読み進めていくと「アイラ」が主人公だと理解できますが、初出の場面ではイコールが成り立たなかった。会話しているのが主人公とどのような関係にある人物か、最初読んだときにはわかりませんでした。
     幼いころから軍の養成所で育てられたわりに、主人公は殺すことに対して甘すぎだと思います。そしてそんな内偵を送るのもどうかと。いつもうまくいっていたから人を殺す必要がなかったという理由だけでは不十分だと思います。国家間の機密情報を扱うだけに、密偵はきちんと訓練されていなければならないはず。
     カルトが主人公を助け出したい動機もいまいちかなあと。彼の主人公に対する気持ちをもう少しうかがえたらよかったです。主人公がそれほど魅力的な人物に思えなかったせいでもあるかと思います。いい子とかそういう話ではなく、「足を洗ってまっとうな生き方をしてもらいたい!」と思わせる人物であったならカルトの言動にも納得がいくということです。
     密偵たちが帰ってこない理由はよかったです。不帰の島についてはうまいと思わされました。文章もすごく上手です。やっぱりあとはストーリーなのではないでしょうか。

    >>99 にゃんて猫:さよなら旅人の唄
     またも魔法=科学ネタ。その関係性がいまいち理解できませんでした。結局魔法で願いをかなえるというのは何だったのか。倒れているシーンに文字数を割いたわりに、塔への旅路についてはまったく書かれていないというバランスの悪さも気になりました。主人公はそれなりに科学にくわしいのでしょうか。いきなりバイオ技術という単語がでてきて戸惑いました。対価が命だとして、ただ殺すだけでは魔女に利益があると思えません。もてあそぶとかでなく、何もせずただ殺すだけ? ちぐはぐな印象でした。
     ちゃんと練ればもっとおもしろいものが書ける方だと思いました。次回作に期待しています。

    >>100 某駐在:さらば、愛しき日々よ。
     わりと好きな話でした。きれいにまとまっていると思います。時間や魔法の説明がもっとわかりやすければなおよかったかと。
     おまじないが予想通りすぎてちょっと残念。でもかわいかった。いいお話だったと思います。

    >>101 どーなつ:世界の魔法の三カ条
     うおおお、かたっぱしから漢字変換しているんですね! 特にこれといった理由がなければ「此処」「事」「居る」あたりなんかはひらがなでいいと思います。
     正統派の魔女のお話でした。好きです。腕が蘇らないのが残念ですが、いい話でした。最初から条件内で魔法薬を作れるって言えばいいのに! そして罰というのが不明瞭です。どのような罰がくだるかがわかれば、掟を破ることの危険も自然と理解できるのに。ちょっとご都合主義なところもありましたが楽しく読めたのでよかったかなと思います。

    >>102 朔乱:たまご
     思考の過程がおもしろかったです。魔法といえば魔法、なんでしょうか。こういう話もアリだなあと思いました。

    >>103 sakana:ウェザー
     一瞬、来月のテーマとまちがえたのかと思いました(笑) 桜ちゃんがとてもかわいいです。「えーんえーん」のところでもう、ぐっときました。かわいい。
     最後まで楽しく読めました。視点を織り交ぜたのは正解だったのではないでしょうか。親切な表記のおかげで混同することもありませんでしたし。
     誤字脱字があったことを思うと、もっと推敲してもいいんじゃないかと思います。洗練の余地があるはずです。

    >>104 アリス:路地裏のトルバドール
     アリスさんの作品はほんと、いつもタイトルがすてきです。うらやましいセンス。
     好きな文章なのですが、小説として成り立っているかといえばそうでもない。でも好きです。でもでも、やっぱりちゃんとストーリー性のあるアリスさんの作品を読んでみたかったです。そうは言いつつも好きなんだよなあ。次回作も楽しみです。待っています。ぜひ書いてください。

    >まとめ
     楽しかったです。特におもしろかったのは8823さん、伊達サクットさんの作品でした。次点で空人さん、ロブスター×ロブスターさん、sakanaさんの作品。読むのを途中でやめたくなるような作品がひとつもなかったのが驚きでした。どれもすてきな作品でした。来月も楽しみです。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.109 )
       
    日時: 2012/03/20 17:15
    名前: If◆TeVp8.soUc ID:W6W4UTZI

    時間があるうちにやっちゃいます。最近私締め切りよりだいぶ余裕持って投稿できてません? いつまで続くやら。
    作品数は多かったですけど、盛り上がるのは楽しいので苦になりませんでした!
    批評になってない批評で申し訳ないです。批評もちっとも上手くならない。難しいですね。
    文章より物語重視です。面白い話が好きです。いつもどおり自分棚上げで失礼しますね。

    >>87 ゆみたんさん:まぎかる
    ワンアイデアに徹した感じですね。冒頭の語りは面白くて、今から何が始まるのか興味を惹かれました。
    ただなんだろう……もうちょっと書いてほしかったでしょうか。せっかくだから起承転結作ってストーリーで読ませて欲しかったかなと思います。
    大真面目で書いているのかと思いきや、一番最後の一文でひっくり返しましたね。こういう手法はとても面白いと思います。これも一種のどんでん返しになるのかな?

    >>89 黒猫さん:魔法少女襲来
    これも一番最後の一文でがらりと方向を変えた作品でした。「なんだ夢オチか、良かった」と安心させておいてもう一度、というのは面白いです。
    親友にも信じてもらえない主人公の心を思うと、切ないような苦しいような気持ちにさせられますね。この短さでまとめてみせたのはさすがですが、個人的にはもう少し書いて欲しかったなという感想を持ちました。
    必要以上に書かず、いらないところを削って研ぎ澄ますのももちろん素敵なのですが、今回はちょっとそれをやりすぎてしまった気がします。あらすじをなぞっているような感じに見えました。
    魔法の力が弱まっていく世界だとか、世界が滅びると分かったときの動揺とか、もっと読みたいなと思う箇所が多かったです。きっと物語に惹かれていたからですね。わがままです。

    >>90 かなちゃん王女さん:結末を知らない物語。
    元祖ファンタジーといったお話ですね。おとぎ話風なのもかなちゃんさんらしくて、つい微笑んでしました。
    最後の締め方、特に「――けれど、いつしかその物語に続きが書き加えられました。」のところはすごく良かったです。おお! って思わずテンション上がりました。
    ただ真新しさがなく、短くまとめようとしたせいか、黒猫さんと同じようにあらすじを書いているような印象を受けたのは残念でした。
    せっかくですから、『運命の人』が王女様を助け出すところなどを、はらはらするような展開を織り交ぜて読ませて欲しかったかなと思います。
    かなちゃんさんは自分のカラーをしっかり持っておいでで、羨ましいです。私も“売り”を持つ作家になりたいな。

    >>91 ATMさん:Hannon le.
    悲しいですけど、どこか心が温まったりもするお話ですね。挨拶は魔法シリーズ第二弾。私もちょっとそっちの方向で考えてたことは内緒です。
    この作品も、ワンアイデアで突っ走ったような印象でした。短いので仕方ないかもしれないのですが、ストーリーが少し弱いかなと思います。
    何かエピソードを入れてもうちょっと色々動かした方が、執事の言葉もより活きたのではないかなと思います。
    タイトルお洒落ですね。何語だろう。

    >>92 天パさん:HAPPY LIFE
    背景設定はとても面白く興味深かったのですが、冒頭からずっとあれだけ説明が続くと、読む方としてはちょっと息切れしてしまいました。
    すごくわがままな要求になりますが、もう少し読みやすい工夫があればとっつきやすくなったかなと思います。でも本当に面白い設定でした。
    「〜た。」で終わる文章がとても多かったのは、やはりこの作品もあらすじを書いていくといったものになってしまっているからだと思います。
    今回これだけの内容を書こうと思えば、おそらく短編では足りなかったかなと思います。あまり古くからのものに縛られるのもよくないかとは思いますが、小説はやはり登場人物がいて〜という段取りを取っていて欲しいなと私は思ってしまいます。
    しかし、ラストはとても良かったです。伝えたいことはすごく伝わってきました。私も昔こういうことを書こうとしていた口なので、なんだかすごく親近感が湧いちゃいました。

    >>93 ロブスター×ロブスターさん:ママとお皿と魔法使い
    まず、文章はとても綺麗でした。婉曲的な表現が想像力をかきたてますね。でも少々くどかったような気もします。
    要らないなあと思う文章が何個かありましたし、もっと直接的に表現してもよかったんじゃないかなとも思う部分もありました。
    結末部はとてもきれいですごく心惹かれました。自然なのにほっこり温かくなって素敵です。私もこんな風に書けるようになりたい。
    ただ、ストーリーがちょっと弱かったかなと思います。もう2、3エピソードがあったほうがより楽しめたかもしれません。

    >>94 空人さん:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法
    ラスト切ないですね……こんな作品読んじゃうとこういう方向の話が書きたくなっちゃうじゃない! とても面白かったです。
    アイデアがまず面白かったですし、ちゃんと物語もしっかり作られていて読んでいてワクワクしました。よかったです。
    わがままな注文をつけるとしたら、後半駆け足だったのがもったいなかったかなと思います。
    特に最後から二つめの連というか固まりというか、ちょうどそのクライマックスの部分がスピーディーすぎたのは本当に惜しい!
    二人が戦う? というかそのシーン。シーがどっちかって言うと冷静な子なのもあるかもしれないですが、もうちょっと葛藤してるようなものを読みたかったかなという。個人的な好みの話になるかと思いますが。

    >>95 8823さん:王の決断
    文章綺麗なんですが、特に序盤はちょっと重いかなと感じました。いくらか間引いても良かったんじゃないかなと。
    ストーリー、よく動いていて読み応えがありました。設定も凝っていて面白かったです。
    タイトルにもなっている王の決断ですが、その決断の瞬間をできれば読みたかったかなと思います。エリアの蘇生も、少々唐突だったかなと感じました。もうちょっと下準備がほしかったような感じです。
    あとはもう少し山場と呼べるような場所があればなと思いました。ここが見せ場だよ!って分かりやすく盛り上げてくださると、読み手側も乗りやすいかなあと。
    幸せなのかそうなのか、簡単には言い切れないラストですね。反乱軍が統治するようになって国はよい方向に進んだんでしょうか。

    >>96 伊達サクットさん:スチームパンク・空の舞い!
    サクットさんは明るい話をまとめられるのが本当にお上手ですね。今回の作品も色々勉強させていただきました。
    科学と魔法は相克しあうものだという先入観があったので、共存という道に進んだのは意外であり大変楽しめました。
    この作品の見所は、なんといっても空中戦だと思います。山場としてワクワクしながら読むことが出来ました。
    キャラクターも、関西弁の神さま、面白かったです。登場人物がたくさん出てきたのによく動かしていたなと思います。
    サクットさんの小説はいつも凝った設定があって、それが私の楽しみの一つにもなっているんですが、今回はちょっと序盤から飛ばしすぎたかなという印象を持ちました。
    本当に大事なところをメインに解説するか、もしくはもう少しバラけさせてゆっくり読ませて欲しかったかなというわがままを。今回は特に、先述したように登場人物も多かったので、少々混乱しました。

    >>97 ナルガExさん: 魔法の誕生とその歴史
    んーと、やはりこの作品もあらすじを書いてるなあという印象を受けました。
    短い中で収めようとしたら自然とそうなってしまうのはとても分かるのですが、やっぱり小説ですから物語を書いて欲しいなあと思ってしまいます。
    せっかく面白そうな設定が散りばめられているので、登場人物を作って、物語を作って、動かしてみてほしかったなあと。
    『しかし、魔術を悪用する者も出現し、一時期世界の崩落が危ぶまれた』特にこのあたりは、物語にしたらすごく面白いんじゃないかなと思います。

    >>98 If:不帰の島
    結構いけたかもと思ってたんですが、全然ダメだった。茶野さんにいただいた批評で気づいたのですが、欠陥が多くてぐらぐらしてますね。一年もやってるのに才能なさすぎ^q^
    趣味は好きなだけ詰め込みましたが、迷走しながら書いて苦しかったです。統一感に欠けるのは、上手くいかなかったときに書いた部分を切り落とすことができなくて、全部ごっちゃにしちゃったからだと思います。
    精進します。今回は書いてる途中に自分で駄目だって気づけなかったのに寒気を感じました。感覚麻痺してるのかな。ばさばさ切っていただければ喜びます。

    >>99 にゃんて猫さん:さよなら旅人の唄
    テーマの消化の仕方に驚きました。まさか魔法を使わずして『魔法』をテーマにした作品を書いてみせるとは驚きです。
    ナホが命を差し出すところには驚愕しました。きちんと物語が作られていて、読んでいて面白かったです。
    山場ですが、魔女(もどき)の銃乱射のところはもっとひやひやさせて欲しかったかもしれません。魔女をもっと悪役らしく極悪に書いて欲しかったかなとも思います。
    文章もよく書かれているのですが、ところどころ違和感を感じるところがあったかもしれません。
    砂漠の中に塔、魔女。それだけ見るとファンタジーなのにそこから科学に転がしてみせる発想が、意外性抜群で本当に面白かったです。

    >>100 某駐在さん:さらば、愛しき日々よ。
    あー、好きですこの話。ほとんど報われてないのにちょっと報われてるところがなんだろう、逆に切ないですね。ぐっときました。
    マホウの説明が少し分かりにくかったかなあと思います。特にライン云々のところが。そのほかはすいすい読めました。
    作中では少ししか書かれていませんが、操縦士さんもかっこいいですね。怜治ももちろんかっこいいのですが。
    しっかり流れているのですが、マホウ以外はなんとなく先が見通せてしまったのがちょっと惜しかったかなと思います。
    先が読めていても十分心に響いたので、ほんの些細なことなのですが。あとはキャラクターをもう少し立てて欲しかったかなと思います。

    >>101 どーなつさん:世界の魔法の三カ条
    動きがあって、とても面白かったです。主人公のメイシーさんが上品だしそれにとてもかっこいい。キャラの立った主人公をかけない私にとって、よいお手本になりました。
    文章も読みやすかったですが、やはり何より物語の展開が面白かったです。最初から最後まで滞ることなく流れ続けていて、一気に読めました。
    欲を言うなら、やはり山場の、バトルのところですね。もうちょっと危なっかしかったりした方がより楽しめたかもしれません。リズミカルだったのはそうなんですが、溜めてみたりしても面白かったかもしれませんね。
    あともう一つだけ言わせていただくなら、タイトルにもう少し工夫が見られればなあと。ですが、とても面白かったです。

    >>102 朔乱さん:たまご
    まず最初に驚きました。文章めちゃくちゃ上手くなってませんか! ものすごい滑らかでしたよ。朔乱さんの久々に読んだからかな?
    謎が解けるまで、そして謎が解けてからも楽しく読めました。ストーリーは弱いんですが、なんだろう、面白いです。不思議な魅力がありますね。
    テーマ『魔法』から魔法瓶を思いついたその発想力もさすがです。それをこうして書いてみせるのもすごいと思います。作戦決行のときの緊張感はすごかった。
    何か注文をつけるとしたら、最後のオチ。親と子の溝が〜の部分は、なくてもよかったんじゃないかなと思います。お湯被ってそれで終わりでも十分楽しめたと思います。

    >>103 sakanaさん:ウェザー
    悲しいお話ですね。この構成、ものによっては話が入り混じって混乱することがありますが、今回はとても成功していたと思います。中盤あたりで仕組みに気づいてなるほどと思いました。
    話としてはとてもよく出来ていました。少し贅沢な要求をするなら二点。一点目は、前半部が少々冗長であったこと。削ろうと思えば藤村くんたちは出さなくても成立したんじゃないかと思います。もうちょっとコンパクトにしてもよかったかも。
    もう一点は構成に関して。ちーちゃんの回想? は1−8を迎える前に切り上げていた方が綺麗に収まったんじゃないかなと思います。これは個人的な好みの問題になるかもしれません。
    あともう一つ、主人公が完全な第三者として語り役を引き受けていましたが、主人公をちーちゃんにしてみても面白かったかなと思います。こういう形式を取ると、どうしても主人公の影が薄くなってしまうので。
    色々言いましたが、本当に好きなお話でした。胸に来るものがありますね。桜ちゃんがとても魅力的でした。ぜひ幸せになってほしい。

    >>104 アリスさん:路地裏のトルバドール
    タイトルにわくわくしました。さすがです。アリスさんのセンスはやっぱり素敵ですね。羨ましい。
    すごく詩的で美しいですね。黄昏時のオレンジ色に染まった路地裏がすぐに頭の中に浮かびました。この舞台設定にもセンスを感じます。
    ただ、アリスさんの一ファンとして言わせていただくなら、やっぱり物語が読みたかったかなと思ってしまいます。今回は時間がなかったと仰っていましたが、きっとそのせいもあるでしょう。
    心情描写もぐっとくるものがあってよかったのですが、動きのないものを膨らませようと無理をされていたような、ちょっとだけぎこちない印象も受けてしまいました。
    しかし、綺麗な比喩も多く勉強させてもらいました。



    批評苦手なんです。ごめんなさい。
    初参加の方もたくさんいらっしゃって、今回は本当に楽しむことが出来ました。
    参加者多いのに長いしかも駄作を投稿しちゃってごめんなさい。次はもっとがんばる。

    参加者の皆さん、それから作品を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
    それでは今回はこれにて。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.110 )
       
    日時: 2012/03/20 18:17
    名前: 天パ◆5eZxhLkUFE ID:k//9.tvQ

    今回は参加者多かったですねー。
    自分の駄目な批評が更に目立ちます。
    もはやただの感想になっているものも多いですが許してください><

    >>87 ゆみたん様:まぎかる
    読んだ後にシリアスなのかギャグなのかが分からなくてもやもやしていたんですが、二行目などを見る限りギャグ路線っぽいのでそのつもりで批評という名の感想をさせてもらいます。
    やはり挨拶の魔法は偉大ですよね。なんたって楽しい仲間がぽぽぽぽ〜んなんですから。どうでもいいんですけどあのCM大震災前も流れてたんですよね。
    全体としては咎めるべきところは何も見当たらないと思います。ただ一つ言うならばもうちょっと前半部分を長くすると最後が際立つかなあ、と思いました。
    前半部分が短いと最後の大事な所も「ふーんそうなんだ」で終わりがちになってしまうので最後を印象付けるためにも前半部分を長くする(要するに『焦らし』の原理です)と良いと思います。
     
    >>89 黒猫様:魔法少女襲来
    この世界の源である魔法がなくなりそう=世界滅亡か異世界の住人達を殺し大地に血肉を与えるか。究極の二者択一ですね。おお怖い怖い。
    いきなりの大ピンチからの夢オチでほっとさせた所に最後の一文でもう一度絶望に叩き落される。個人的にかなり好きな構図でした。
    魔法少女が夢の話と称して友達に真相を語ったのはある意味優しさなのでしょうか。何と言うか、次が気になるお話でした。これで長編一本書けそう。
    ところでちょっと気になったんですが、所々中途半端に行頭下げを行っているのが目に付きました。強制させるつもりはありませんが、やるかやらないかどちらかに統一した方がよろしいと思います。

    >>90 かなちゃん王女様:結末を知らない物語。
    強すぎる欲、身の丈に合わない欲はやはり身を滅ぼすんだなー、と改めて実感したお話でした。
    昔話のように優しい、心がポカポカするような良いお話でした。
    ところで悪い国の王子様のお抱えの魔女ってどうなったんでしょうかね。

    >>91 ATM様:Hannon le.
    やはり挨拶の魔法は偉大ですよね。あれこの言葉どこかでも言った気が……
    それに気付けないのは幼さ故でしょうか。
    執事さんも生きている間に彼女の「ありがとう」を聞けなくて残念でした。天国で喜んでいることでしょう。
    ゆみたん様のお話と同様に、何か大事な物を取り戻せたような良いお話でした。
    しかし自分的には最後の「ありがとう」が印象薄いかなー、と思いました。
    これは個人の自由ですが最後の一文以外の「ありがとう」を全て「――」で隠してしまうと最後の言葉がグッと印象に残り、感動的になると思います。

    >>93 前髪天然パーマ野郎: HAPPY LIFE
    前回の作品の後味の悪さが凄まじかったので今回はHAPPYな物語書いてやろーぜと意気込んで書いたら持病の中二病の発作が起きて出来上がったのがこの駄作です。
    色々駄目です。読むのも疲れるし設定にも欠陥ばかりの駄作です。次はもっとハードルを落とした作品を書きたいと思います。
    色々長ったらしく書きましたが要は「神様なんていたって人を助けるような存在じゃないんだぜ! ただの傍観者なんだぜ!」とか「完全なんか求めるもんじゃないんだぜ!」とかそういうことを言いたかった訳です。

    >>93 ロブスター×ロブスター様:ママとお皿と魔法使い
    主人公の心境の変化、情景描写、視線の移り変わりがとても分かりやすいお話だと思いました。自分もいつかこういう描写をしてみたい。いいなあ。
    比喩も上手で、話も上手く纏まっており、全体的に良いお話だと思いました。
    しかし、「彼女」と「僕」の関係性がよく分からないためにいまいちスッキリとはしませんでした。
    「僕」と「彼女」はどういう関係にあるのか。それが作中に書かれていないために想像で補うしかありません。「彼女」の口調が幼いことから「彼女」は「僕」の妹ということは大体察することはできましたが、今度は「彼女」が「僕」に魔法を使うように頼んだのはこれが初めてなのか。それとも何回かこのようなことがあったのかが分かりません。
    もし初めてならこの後「彼女」と「僕」はママにこっぴどく怒られるだろうし、何回かあったことなら「僕」は「彼女」を魔法と称したお買い物で何度も騙し続けていることになりますよね?そこら辺の感情移入がうまく出来なかったのであまりスッキリしませんでした。
    しかしそれも会話の内容などから十分推察できる範囲でしたので、あまり気にしなくても大丈夫だと思います。

    >>94 空人様:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法
    まず、「よをすべ」などのちょっと凝った設定に顔が綻ぶのを抑えられませんでした。ファンタジーではファンタジーでも、現実世界と似通った所があることで、より一層想像しやすくなりました。
    最後の最後にシーの友達思いであるが故の非情さが出てきたのがすごく自分好みでした。
    設定から色々な所まで、良く出来た作品だと思いました。

    >>95 8823様:王の決断
    「のぼうの城」を連想させるような物語でした。タイトルに忠実で、ラストも切なさが残るお話でした。
    それに加え冒頭の情景描写、メルクとグリフィスの間で揺れる心理描写が実に美しいなあと思いました。
    全体的に上手く整っていて、良いお話だなあと思いました。

    >>96 伊達サクット様:スチームパンク・空の舞い!
    素直に面白かったです。「ああ、伊達サクット様らしいお話だなあ」と思いました。
    設定も空人様同様に凝っており、キャラ一人一人にも味があって良いと思いました。自分は神とか撃墜されてぶつくさ言いながらも通常業務に戻るパン屋さんとかが好きです。
    これも全体的に良いお話だなあと思いました。

    >>97 ナルガEx様: 魔法の誕生とその歴史
    お話には特に言うことはありません。短いというのもあるんですけど結構分かりやすくて良いお話だと思ったからです。
    が!
    咎めるべきは誤字です、誤字。「優位つ」→「唯一」です。ちなみにこれは「ゆいいつ」と読みます。
    このお話には関係ないのですが、様々な所でナルガ様がよく使っているのが「一様」です。「いちよう」ではなく「いちおう」です。
    言葉は正しく覚えた方が良いですよ。書き込む場所によっては馬鹿にされてしまうこともあるので要注意です。(他にも「ゆう」とか「ふいんき」などが例に挙げられます)

    >>98 If様:不帰の島
    タイトルを「かえらずのしま」と読んだ自分はやはり中二病なのだろう
    これもまた設定の土台がしっかりと作られていて良い話だなあ、と思いました。
    ラストのどんでん返しで冒頭に語られていたことと、タイトルの意味が分かり、感動しました。
    しかしやはり中盤辺りで何が起こっているのか少し分かりづらいな、と感じました。
    中盤辺りの情景描写に少し手間をかけたらもっと良い作品になると思いました。

    >>99 にゃんて猫様:さよなら旅人の唄
    設定も情景描写も、全体的に良いお話だと思いました。
    しかし序盤の主人公が生き倒れしている場面で、主人公の語りがいかにも神のような視点で客観的に、淡々と語るのでやや違和感を覚えました。
    生き倒れになっているならここまで頭が回らないし、意識があるならすぐにも立ち上がると思います。
    それと「手にはーーーーー銃が」の一文、「ー」は「―」を偶数個並べるのが決まりです。これからも直した方がよろしいと思います。

    >>100 某駐在様:さらば、愛しき日々よ。
    読み終わった後に「ほお」とため息を吐いてしまいました。ちょっと切ない、良いお話だと思います。
    「インセプション」のような少しクセのある特殊な力が自分好みの設定でした。

    >>101 どーなつ様:世界の魔法の三カ条
    設定も話も綺麗にまとまっており、すらすら読むことも出来る良いお話だと思いました。
    しかし皆様も仰られているように、戦闘シーンにもっと描写を割くことができたらもっと良くなると思いました。

    >>102 朔乱様:たまご
    「魔法」から「魔法瓶」を連想したその想像力に感服です。ほんとすごいです。
    中学二、三年レベルの赤ん坊の語り口にちょっと吹いてしまいました。赤ん坊が本当にこんなことを考えて行動してたら逆におもしろいですねww
    ラストも赤ん坊の冷静さがよく滲み出ていておもしろかったです。発想の時点から、良くできたお話だと思います。

    >>103 sakana様:ウェザー
    映画を見ているような気持ちになれる短編でした。
    「一体これは何だろう」と思いながら読み進めるごとに、こんがらがっていた謎や伏線が一気に解消され、読むのが苦にならない作品でした。まるでハリウッド映画を見ているみたいに。このような構成方法だからこそできることですね。
    話の構成から設定まで、とても良く出来たお話だと思います。

    >>104 アリス様:路地裏のトルバドール
    詩的なお話……ですね。
    うぬぬぬぬ。美術の成績が2という自分の美的センスが無いからか、「魔法」というテーマに乗っ取った作品なのかどうか、よく分かりませんでした。誰か教えてくださいおながいします
    「私」の感情の揺れ動きがとても美しい作品だと思いました。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.111 )
       
    日時: 2012/03/22 00:57
    名前: 某駐在 ID:g1VbGCn6

     人数が人数だったので大変でした。
     どうも主観として見てしまいがちなので、頓珍漢な意見を言ってしまいそうですが、それでも宜しければ。



     >>87 ゆみたん:まぎかる
     綺麗な物語の最初に「童貞」とか色んな単語があって「ちょwww」と吹いてしまいました。そこが第一印象なのは内緒です。
     ただちょっと気になったのですが、もっとストーリーを作りこんで、ネタをもっと考え抜いてほしかったです。せっかくの挨拶の魔法なのに、登場人物がほぼ一人しか居ないのはちょっと寂しいですよね。
     ただ、こういうキラキラしたネタが凄く好きなので、また書いてほしいなと想います。お疲れ様でした。


     >>89 黒猫;魔法少女襲来
     魔力が枯渇し、新しい魔力を求め異世界にゆく、という考えは、なんとなく現代の日本にもよく似ていますよね。
     ただ夢落ちと魔法少女襲来の落ちが二つありましたが、ややこしいように感じました。「あ、やっぱり来たんだ」とビックリしたのですが、そこを面白いかときかれるとちょっと悩みどころ。題名と序盤で全貌は分かっちゃいましたしね。
     ただ前半の放送は現実味があって面白かったです。ネタから某漫画を連想したのは私だけでしょうか?w


     >>90 かなちゃん王女:結末を知らない物語。
     甘い!! 全体的に童話風に仕上がっていたのは個人的に乙でしたし、最後のキスの魔法の落ちもよかったです。この王子様、もう同情の余地なしです。
     ただ全体的にコンパクトに纏まっている感があったので、意外性やオリジナリティや起伏があるとより良かったかもしれません。この手の作品はむかしから親しまれてきているので、消極的な纏まりはむしろマイナスでした。
     ただ気持ちの良い作品だったので、また読めたらなと思います。有り難うございました。


     >>91 ATM:Hannon le.
     こっちも個人的に好みのネタでした。ありがとう、という言葉は大事ですよね。最近はなにかされるのが当たり前に感じる人が増えてきて、ちょっと寂しいです。
     ただこれも、ネタの掘り下げが甘かったように感じます。言葉には陰と陽の両面がある、というのは私くらいの年齢になると常識の話で、小説として読むにはちょっと物足りない。ストーリーも短かったので、余計に小説として楽しめませんでした。
     ただ文章も綺麗な方なので、ぜひぜひまた読ませてください。お疲れ様でした。


     >>92 天パ:HAPPY LIFE
     手に余る技術への肯定と否定。不老不死になることが幸福なのか、不幸なのかと考えると若干怪しいところですよね。
     ただこれは好みもあるかもしれませんが。後半は明示的に伝えるという形に倒れすぎて、ストーリーが二の次になっていることでしょうか。それに明示的にするにしてもこの考え方はけっこう色んな場所で使われているので、柱として使うにはちょっと弱いのではないでしょうか。
     残念ながらこの程度の考えでは、読者を納得させるには至らないと思います。


     >>93 ロブスター×ロブスター:ママとお皿と魔法使い
     面白い! 3000字未満の掌編のなかでは、これが一番面白かったです。ちょっと気になったのが、結局主人公は魔法が使えるのでしょうか。個人的な希望としては使えないほうが面白いです。
     ただ、これはワガママかもしれませんが、お題が道具くらいにしか使われていないように感じました。もともと掌編ということもあり、ここら辺の考えは難しいですよね。なにか良い手はないものか……。
     私も『魔法でなおせても、なおせないもの』についてもう一度考えてみたいと思います。有り難うございました。


     >>94 空人:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法
     世界観と言葉の使い方が面白かったです。コンタクトの設定からああいう風に展開されるとは思っていなかったので、ビックリしました。違和感なく飲み込めるあたりもまたいいです。
     ただ全体の文体の文体と比べると序盤の妙な格調の高さは、ちょっと考えさせられます。たしかにインパクトがあって面白かったし、この文体じゃないとここまで引きこまれることはなかったと思います。ですが後半になるにつれてちょっとずつ雰囲気が下がってくると「ん?」と違和感を覚えるのは私だけでしょうか。
     あとはキャラクターの個性も弱いように感じます。一癖、二癖あるとよかったです。
     ただ私のなかでは空人さんの作品が一番面白かったです。ご馳走様でした。


     >>95 8823:王の決断
     冒頭の文章に強く惹かれて、次にストーリーに心が揺さぶられました。物語がしっかり考えこまれていて、不思議と面白かったです。
     ただ最後のエリアの蘇生シーンはしっかりと書いてほしかったように感じます。敵軍到着までの緊迫感をもう少し書いてほしかったし、クルトももう少し見せ場を作った方がよかったのかもしれません。彼の出番が少なくてちょっと寂しかったですね。
     そういう意味では、もう少し前ふりや見せ場を書いてほしいなと思います。
     綺麗に纏まっていて、楽しい作品でした。実は私の古いハンネの一つがクルトだったりします^q^


     >>96 伊達サクット:スチームパンク・空の舞い!
     上手でした。ストーリーの展開、世界観、魔法への考え方、キャラクターの動かし方。どれをとってもきちんと考え込んでいるのが分かりました。
     ただ……これは好みの問題もあると思いますが、世界観がやや懲りすぎていて小説として楽しめなかったことでしょうか。凄いとは感じるのですが、面白いのかときかれるとちょっと悩んでしまいました。フルメタル・パニックのような長編なら、一向に構わないのですが……。
     ただこういうのが好きな読者さんは気にならない気もします。それに長編にすらなり得るネタを、始まりから終わりまで綺麗に纏めていたのは凄いと思います。
     最後の落ちへの繋ぎ方も、爽快でした。私も伊達さんを見習いたいです。


     >>97 ナルガEx: 魔法の誕生とその歴史
     スラスラと読めて、頭にスッキリと入っていく作品でした。ストーリーに筋が通っていてよかったです。
     ただ……これ、私が言うのもどうかと思うのですが。小説の書きかたを知ってほしいな、と思います。おそらく考えて書かれていると思うのですが、小説のエンタメ性も伝えたいことの内容の説明も浅く、読者になにかを伝える力が弱いように感じます。
     私のなかでこれはネタに近いです。ここから広げれば、よりよい作品になったのではないでしょうか。


     >>98 If:不帰の島
     普段のもっしーさんとは毛色違いの作品で、新鮮味がありました。そういえば、どこかの国(たしか中国)では女性スパイが敵と駆け落ちすることが多かったとか……。
     話を戻します。ただ毛色違いの作品はやっぱり難しいもので、弱いように感じました。詳しいことはほかの方も説明すると思うので割愛しますが、ストーリー展開、キャラクターの使い方、起伏の激しさはこちらのほうがやや消極気味です。あと物語が飛び飛びだったからか、主人公の悲壮感があまり感じられませんでした。
     ただキャラクターはすごくいい人でしたし、ネタ的にも面白かったです。これの続きが読みたいですね。ご馳走様でした。


     >>99 にゃんて猫:さよなら旅人の唄
     読後感の爽やかな、綺麗な話ですよね。ナホが固執したのは村というよりは、居場所だったのだと知ってキュンときました。
     ただ起・承にあたると思われるアスベルの塔につくまでのストーリーが少なく、ネタもほとんど明かされていないのがちょっと悲しかったです。この落ちにもっていきたいのなら、前半はもっと起伏を激しくして伏線を張らないと、ご都合主義や主人公が浅慮でかなりのお人よしに感じられてしまうかもしれません。
     あと、ラストでナホはすとんと納得してしまって良いのか……。そこら辺ちょっとあっさりしてますよね。
     ただこういう綺麗な作品は、また読みたいなと思います。有り難うございました。


     >>100 某駐在:さらば、愛しき日々よ。
     参加しないと言っていたのに、結局参加してしまいました。みなさんの作品が面白くて、楽しそうで、脇から傍観するのが苦しかったです(笑)お祭りは見ているよりも参加するほうが好きなタイプです。
     ただ完成度が低かったのがものすごく残念。読者に対して妙にサディスティックだったのは、構成のほかにネタの選択と文章に問題があったと思います。今回はネタの取捨選択に完全に失敗しました。皆さんの好かれる作品をもっと模索したいと想います。ありがとうございました。


     >>101 どーなつ:世界の魔法の三カ条
     毒々しい……(笑)私にとってこの毒々しさはよかったです。やっぱり小説は、ちょっとドロッとしている方が面白いですよね。
     ただ若干残念だったのが、ストーリー展開がよくある改善懲悪ものに嵌りすぎていたことでしょうか。そのため早い段階から先の展開が読めてしまい、読むのが少しだけ窮屈に感じました。
     それから父親もやや世間知らずすぎて現実味がなかったようにも感じました。かなり酷い立ち居地だったのにあまり同情できなかったので、残念でした。
     ですが、全体的にしっくりと纏まっていて、読むのがあまり苦になりませんでした。


     >>102 朔乱:たまご
     ごめんなさい、前半の途中から吹きました(笑)ネタがちょっと下らない、なのに真面目に書いている。そのギャップがおかしかったです(笑)
     ただ「液体はどんな状態でも等しく水である」の定義が字数のわりに浅すぎると思います。子供らしさを主張するためかとは思いますがその割りに、この子は妙に頭がよすぎるし、描写に使われている言葉も難しく、やや現実味がなかったです。ここらへんで矛盾が……。
     あとは魔法瓶をもうちょっとかけてほしかったですね。魔法瓶の原理は空気ですから、解体したら空だった。吃驚。ママに怒られた。という展開もありだったのではないでしょうか。
     ただあくがあって、面白かったです。最後の落ちにも爆笑しました。こういうブラック・ユーモアも好きです。


     >>103 sakana:ウェザー
     ほぼ17000字……私より多い人がいらっしゃるとは思いませんでした。二つの物語がきちんと絡まっていたのは、凄いですよね。
     ただこの字数が多すぎるのか、少なすぎるのかときかれるとかなり悩みどころ。視点が展開が17回も変わったのは、ちょっとしつこかったかもしれません。あとはもしかしたら0と1の二つの物語を上手く纏めるためとは思いますが、話はもっと削れたと思います。主人公の友人二人はたぶんどちらかを消せたんじゃないでしょうか。ここはもっしーさんと一緒ですねー。
     あとはちょっと好みの話ですが、0はあともう一歩悲しい感じでもよかったのかもしれません。始まりが「えーんえーん」なのも、ラフさはあってよかったかもしれませんが、悲壮感は薄れたんじゃないかなと思います。
     ただ私も似たような感じで失敗した口なんで、ちょっと胸が痛いですね。でも0-0とか番号を振ってあったのはいいなあ。私もすればよかった。


     >>104 アリス:路地裏のトルバドール
     優しい話だなあ、と思ったのが第一印象です。ほかの方と違って、○○の魔法と語っていないのが逆にいい。クリアで、格好つけた感じがしないから、余計にぐっときました。
     やや残念だったのは、主人公が悲しかった理由などが不明瞭だったことでしょうか。時間はなかったんだから仕方ないですけど、でも気になって仕方ないゼ! とちょっと叫びたいです。
     こういう読んでいるだけで気持ちが前向きになれるような作品がわりと……いえ、かなり好きです。


    >最後に。
     特別みなさまのお役に立てるような批評ではなくてすみませんでした。あと、変なのを投下した奴が偉そうに言いまくったことも。
     初参加でしたが、お題小説そのものは何度か読ませてもらったことがあったので、夢が叶って嬉しかったです。今回は思っていた以上に読者の負担が大きかったみたいなので、次回こそはより読みやすく親しみやすい作品を書きたいと思います。頑張ります。
     それでは、失礼しました。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:作品投稿期間】 ( No.112 )
       
    日時: 2012/03/22 11:57
    名前: アリス ID:ivTeu3N6

     受験のために引退宣言をして早九ヶ月……一応復活しました。ときたまチャットに顔を覗かせていただいた時、温かい声を掛けて下さった皆さんにはとても感謝してます。またお題小説に参加できるのをとても楽しみにしていました。
     案の定拙い批評になると思いますが、精一杯書かせていただきます。よろしくお願いします。


    >>87 ゆみたん:まぎかる

     いきなり批評しにくいお話が来て驚きました。語り口は軽やかで親しみやすかったんですが、題材にちょっと難ありかなって思います。どうもネタに走っている感が否めないですし、普遍的でないです。魔法=あいさつ、っていうのも元のままだったので、独創性にも欠けてるかなって思います。ゆみたんさんの書いたオリジナルの話がぜひ読みたいです。次回以降楽しみにしてますね。


    >>89 黒猫;魔法少女襲来

     アイデアはとってもよかったと思います。魔法に依存した世界、謎の放送、枯渇していく魔法……面白そうな要素は詰め込まれてると感じました。ですがそれをイマイチ活かしきれてないようにも思います。謎のままに終わっている部分が多すぎるのも一因でしょうか。もちろん、完全に全てを語りきらないというのも手段の一つとしてあるとは思いますが、読み切ったときになんだか納得はできませんでした。気になったのは、「魔法少女」です。作中の世界は魔法に頼りきりの世界のはずですが、魔法が当たり前の世界に「魔法少女」っているんでしょうか。それとも何か特別な存在なのかな。……と、読者の方に「考えさせる」というよりかは「考えなきゃ駄目」「わからない」という部分を多く残してしまっていると思います。読者へ丸投げ、と言うんでしょうか。そういう点を直したらもっと良くなるかなって思います。
     読み返した後にタイトルをもう一度見て感心しました。さっきは丸投げとか言いましたが、最後の「本当は――」のところとタイトルがうまく呼応し合ってるのがいいですね。また次回以降も楽しみにしてます。


    >>90 かなちゃん王女:結末を知らない物語。

     御伽噺系のものはよくありそうなものなのに、SF板で見るのは初めてだったので新鮮でした。非常に読みやすく、コンパクトに纏まっているのもよかった点です。
     御伽噺を意識されたと思うので、あんまり複雑にしたりするのもどうか、というのもあるとは思いますが、少年の登場が随分と唐突すぎる気がしました。一国の王様ができなかったことをなぜ一人の少年がやってみせたのかとかもちょっと疑問ですね。読者にいろいろと想像させるのもありといえばありですが、もうすこしあっと言わせる展開が欲しかったなって思います。もしかしたら寓話なのかなとも思いましたが(読みが足りないかもしれないです。すいません)
     それでもこういうタイプのお話は本当に新鮮で楽しく読ませていただきました。かなちゃんさんはいつも独特のお話をお書きになるので、毎回楽しみにしてます。次回以降にも期待してますね。ありがとうございました。


    >>91 ATM:Hannon le.

     読後感が最高でした。感動しました。魔法=言葉という題材は今回二回目でしたが、こちらはすっと胸のうちに入り込んでくる感じがして好感触だったと思います。会話文での応酬が、読み手を物語にうまく引き込んでました。
     ひとつだけ気になったのは、黄泉の国でしょうか。本当にそれだけが惜しいなって思いました。どうやらファンタジーの世界のようなので、天国とかのほうがいいかなって気がします。あと、執事に対して二回ほど太陽の比喩による描写をしていたので何か意味があるのかなって思ったんですが、そうでもなかったようで。それは私のただの思い込みだったんですが、ちょっとだけ気になりました。
     温かくて、とてもいいお話でした。ありがとうございました。


    >>92 天パ:HAPPY LIFE

     いろんなアイデアが詰まったお話で、唸りました。科学の力ってすげーという感じでした。実は最初に読み始めたとき「『大昔の『水球』を知る者や文献は百年前の全世界核戦争で全て消え去りました。』だって? じゃあなんでこの語り手は知ってるんだろう。よし、批評で指摘しよう」って思ってたんですよ。しかし最後でまんまとやられましたね。神様でしたか。納得です。だからあんなにも語ることができたのですね。
     ただ、お話自体はあんまり納得のいくところがなかったなって印象です。話全体がただのあらすじっていう感じが否めないですし、実際あらすじを語ってるだけのようにも感じました。それと、さすがに自殺しすぎかなあ、とか。一日で人口半減は普通に考えるとありえないでしょう。誇張しすぎる表現というか、確かに自殺で人口半減はすごいことなんだってのはわかるんですが、そう描写した理由が見えてこないんです。一日や二日で世界を衰退に招いたのも少し早すぎるとも思います。もっとじわじわと、苦しめるように星を滅ぼしていくほうが、人々の不満も募るように思います。
     設定はとても科学的でSFらしさ満点でした。面白かったです。ありがとうございます。


    >>93 ロブスター×ロブスター:ママとお皿と魔法使い

     最後の一文が全て、というぐらいに最後の一文がすごくよくて、私はとっても爽やかな気持ちになりました。主人公と女の子の掛け合いもニヤニヤします。魔法の使い方も面白いなあって思いました。タイトルや本編にも出てくる『ママ』という人物があまり描写されていないのも個人的にはいい方向に働いてると思います。
     あまり指摘するところが無い……というか、よく纏まってて洗練されてる感じですね。強いて言うなら、雰囲気とは〜証明せよ のくだりでしょうか。ここはあまり際立って描写しなくてもよかったかなって思います。それにしたっていいお話でした。読ませていただいてありがとうございました。


    >>94 空人:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法

     これは本当に面白かった。上部催都とか、よをすべとか細かな部分に笑わせてもらったんですが、打って変わった後半には心が震えました。シリアスな笑いというか、作中のキャラは大真面目なのに現実の私たちにとっては明らかなネタにしか感じれない部分も要所要所にあって面白かったです。設定のほうもギャグかと思いきや結構奇抜で練り込まれてる。丁寧さを感じました。後半のシリアスさには本当に舌を巻きます。
     気になったのは、上部催都の設定でしょうか。これ、すこしだけイメージしにくいです。まあ単純なインターネット程度を想像すれば済むし、とりわけイメージを強固にしなくても読み進めることは可能だったのでさほど気にはなりませんでしたが……ちょっと立ち止まってしまったので。あとはとってもよかったです。空人さんのお話は毎度安定して面白いなって思います。また楽しみにしてます。ありがとうございました。


    >>95 8823:王の決断

     最高でした。面白かったです。「毒花」とか「人心操作の魔法」というような設定も、すんなりと飲み込めた気がします。描写の力、というか文章力に感心させられっぱなしでした。私としては風景描写から入られると読み辛く感じるんですが、それがまったくない。一人一人の台詞が短めに決められているのも洗練されている感じがしてよかったです。何よりお話は感動しました。
     気になったところはほとんどないんですけど、まあ強いて言うならメルクが母親を蘇らせようとしたきっかけでしょうか。クルトの母親の所在を尋ねるセリフだけがそれだとしたらちょっと弱いかなって思います。まあ短編としての長さを考えるとありだとは思うんですけど、つい寸前まで反乱軍の一掃を考えていた人がクルトのその台詞だけで王権を投げ出すまでになるとは考えにくいと思います。もう少し物語の中で、王に決断を後押ししている要素を明確にできるとよかったかなって思いました。あと、「イエス、オアノー」ってあるんですが、英語が作中の世界にあるのかなって思って少し違和感です。
     読んでいて、随分書き慣れてるなって印象がありました。これは私だけかもしれませんが「(台詞)」〜は言った。「(台詞)」という形で文章を書かれる方って、とても書き慣れてる方だって思ってるんです(勝手にですけど)。8823さんはそれが本当に顕著で、それを証明するかのような読みやすさ。面白かったです。読ませていただいてありがとうございました。


    >>96 伊達サクット:スチームパンク・空の舞い!

     これは面白かったです。面白かったっていうのは、純粋に面白かったっていう意味と、笑いの意味での面白いの両方ですね。笑いました。サクットさんの細かいところにすっと入れてくるネタが好きです。それなのに終わり方がじーんと染みてくる感じで。ストーリーも面白かったです。
     気になったのは、漢字でしょうか。少しくどいように思います。固有名詞をカタカナや漢字を織り交ぜて堅い感じに説明するのは、確かにちょっと読み手に『なんかすごいぞ』っていうのを伝えるのには合ってるといえば合ってるんですが、読みにくいんです。ディスプレイに表示しただけで、その漢字の量っていうのがよくわかるし、『魔法』って文字が多様に使われてるのもちょっと気になります。
     でもこの分量でよくこれだけ物語を広げたなあって思います。魔法に科学に空中庭園。わくわくさせる要素が多くて、楽しかったです。特に空中戦はすごくよかった。『こちら〜〜!』っていう通信の部分などの焦燥感っていうか、追い詰められてる感じがとてもよく伝わってきて。それでも笑いは忘れない、そんな作風がきちんと確立できているのがすごいなって思いました。次回以降も楽しみにしてます。ありがとうございました。
     

    >>97 ナルガEx: 魔法の誕生とその歴史

     最初は、まあよくある、世界の成り立ちをあらすじ風に説明していくタイプなのかなって思いましたが、突然固有名詞が登場して終わったのには驚きました。できればその、第二世代パンゲア大陸ってところにいる人たちを主人公に物語を展開して欲しかったなって思います。またお話を読ませてください。期待してます。


    >>98 If:不帰の島

     とてもよかったです。実は結構恋愛モノが好きだったりするので、後半の会話文から少しずつ二人の距離が縮まっていく感じは読んでいてキュンキュンしました。こういうの本当にいいですよね。カルトがイケメンすぎて辛い。Ifさんのお題は短編に使うのもったいないなっていう設定がてんこもりですごいなって思います。そのアイデアは一体どこから出てくるのか。タイトルも好きです。かえらず。ドキッとするタイトルだと思います。
     気になったのは、アイラとカルトの関係が少しわかりにくいところでしょうか。後半の会話文が大半を占めるところで割りと補完されてるとは思うんですが、もうちょっと事前に二人の関係について触れてるとなおよかったと思います。あと『蘭』とか『椿』『欅』『楠』『向日葵』『百合』『牡丹』とかいろいろと出てきますよね。かっこいい二つ名(?)だなあと思っていたので、あんまり物語に関わってなかったのが少し残念でした。どうやらすごいメンバーたちがやられてしまっているらしい、というのは伝わったので、それはそれでよかったかもしれませんね。
     でも毎度Ifさんのお話は男の子と女の子の絡みが面白いなって思います。そして何より上手い。読むだけで勉強させられっぱなしです。肥大化した心臓、なんて表現がよく書けるなあと唸りました。壮大な話かと思いきや、重すぎず、微笑ましい幸せにストンと落とす。そんな雰囲気がとても好きでした。ありがとうございました。


    >>99 にゃんて猫:さよなら旅人の唄

     魔法を使ってもらうために魔女に会いに行く、というシンプルなお話ながら、意外な事実があったりとか銃撃戦もあったりして面白かったです。
     気になった点は、一つにナホの言葉遣いがあります。「起き上がってくれよ」と男のような乱暴さがあるかと思えば「止めてよね」とか「重かったんだから」と急に女らしくなるのには違和感がありました。というか、少年らしい口調にする必要があったのかなって思いました。どちらかに統一するか、特別な理由が無いならはじめから女口調でも全然よかったと思います。もう一つは、『魔女の正体は科学者だ』でしょうか。なぜ? って思いました。断定するのに理由が足らないかなって思います。バイオ技術が必要だとしても魔法で補ってるとすれば説明がつきますし、今までの魔法の噂が科学的に説明可能だからといってそれが魔法じゃないとは言い切れないのではないでしょうか。
     個人的にはタイトルが好きです。終わり方も印象的で素敵でした。なんかこう、一難去っての旅立ちを予感させるラストが好きなんですよね。面白かったです。次回以降もまた期待してますね。


    >>100 某駐在:さらば、愛しき日々よ。

     すごくよかったです。とても感動しました。感動を表現する語彙が見当たらない。冒頭から文章が突き抜けてるなって思いました。会話もすごくよくできてるし、盛り上げ方もお上手。逆に気になるところを探すのが難しいくらいでした。キャラクター(特に美穂)もかわいらしかったです。
     マホウの設定が少し伝わりにくいとは思いました。読みきった後に、マホウというのは〜〜という能力だ、と言い切ることができなくて。意識を共有できる、っていうシンプルな程度で話に持っていった方がわかりやすかったと思います。なんだかマホウの設定が後から後から付け足されていった印象なので。
     いや、本当に感心させられっぱなしでした。キスをお願いする場面を後半に持ってきたのは本当に舌を巻きます。面白かったです。読ませていただいてありがとうございました。


    >>101 どーなつ:世界の魔法の三カ条

     非常に読みやすくてよかったです。余計な描写がないというか、読者を信頼してる文章だなって思いました。というのも、あまり具体的すぎる描写がほとんどないんですよね。一見悪いと思われがちですけど、具体的すぎる描写がない分、こっち側、つまり読んでる側が自由に容姿やらなんやらを想像出来る。そういう意味でも、本当に必要な情報だけを読みやすく取り入れてるように思います。実際読むのに滞りを感じませんでした。
     とはいったものの、全体的に平坦な印象です。もっと盛り上がるところ(まあ戦闘シーンはあるんですが短かったので……)が欲しかったなって思います。
     特別よかったのが、薬の材料です。マンドレイクの根っことか、すごくよかったです。何がよかったって、それを詳しく説明しなかったところです。文章は魔女の一人称なので、ここで『マンドレイクの根っことは〜』なんて説明が入ってたら、ちょっとおかしいですよね。でも、作中ではマンドレイクの根っこは危険だ、という風に、魔女だからこそ知ってる要素だけ言っている。これってすごく上手だと私は思うんです。面白かったです。ありがとうございました。


    >>102 朔乱:たまご

     朔乱さんの作品は何度か読ませていただきましたが、いきなり雰囲気の違う作品が出てきたことにまず驚いてます。引き出しの広さを感じました。言葉の選び方や語りの口調も面白く、ドミノ倒しみたいにトントンと進んでいく様子はとても面白かったです。アイデアが素晴らしいです本当に。ママはいつも温かい、という風につなげてくるとは思いもしませんでした。読みやすくて話もコンパクトに纏まってるのが好印象です。私個人としては特に指摘するところもありませんでした。とても面白かったです。ありがとうございました。


    >>103 sakana:ウェザー

     今回のお題は結構感動させられるお話が多かったんですけど、とりわけsakanaさんのは感動させられました。まず構成がすごいです。二つの視点を分けて進めることで、少しずつ謎が解けていく感じは読んでいて気持ちよかったですし、物語全体に流れるシリアスな空気を前面に押し出すに申し分ない文章力に脱帽するばかりでした。
     惜しいのは、ちょっと長すぎる点でしょうか。読み終えて見てあまり必要の無い場面もいくつか見られたような気もするので(sakanaさんとしては必要だったのかもしれませんが……)。物語にまったく過不足が無い、というような統一感が出てるともっとよかったと思います。
     魔法という言葉を不思議の類義語として使ったら駄目、というような台詞回しの溢れるセンスに感心させられっぱなしでした。図書室に窓から光が差し込む情景を思い出すような、温かで、切ない空気がよく伝わりました。面白かったです。ありがとうございました。


    >>104 アリス:路地裏のトルバドール

     折角の復帰作(?)なのに、大失敗しました。毎回時間が無いっていうのを理由にしてしまう自分が本当に情けない。いつも誰かに批評で「時間が無かったみたいなので……」とか言われちゃう自分は駄目な奴だと思います。『魔法』っていうお題も全然消化できなかったし、ファンタジーですらない。本当に恥ずかしい限りです。やっぱり書くにあたって、ちゃんと時間をとって、推敲もして、小説なんだから『物語』を作り上げなきゃなって痛感しました。力量不足が際立ってますね。
     某ゲームに『トルバドール』って役職があるんですけど、それが妙に頭に残ってて、いつかそれを使って何か書いてみたいなーって思ってたんです。もっと時間がある時に、トルバドールでまた何か書こうかなって思いました。



     読むのはとっても楽しくて言いようの無い気持ちになるのですが、批評は全然書けませんでした。こんな酷い感想文でも、皆さんのお役に立てたらいいなって思います。
     次回以降もできれば参加したいなって考えてます。また皆さんの作品が読めることを楽しみにしてます。ありがとうございました。お疲れ様です。

    (※敬称略)


    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:批評提出期間】 ( No.113 )
       
    日時: 2012/03/27 01:57
    名前: 空人 ID:.J7NAwf6

    一周年の記念すべき今回。たくさんの人が作品を寄せてくれた事に感謝しつつ、批評でございます。


    >>87 ゆみたん様:まぎかる

     挨拶の魔法。
     まわりくどくもったいぶった言い回しでの序文から一気に種明かし。構成としては面白いですが、やや物足りない印象は拭えませんでした。
     ミスリードを利用するのなら、日常パートをもう少し引き伸ばして、それとわからないようにこの魔法(挨拶)を使わせたりすると、もっと面白かったかもしれません。
     時間をかければ、しっかり読ませる短編に出来たのではないかと思うと少し残念です。


    >>89 黒猫様;魔法少女襲来

     滅亡を避けるため、平和な世界を取り戻す為の破滅の魔法。
     今まで何の疑問も無く湯水のように使い続けてきたものが突然消滅した時、彼らの絶望はきっと想像し得ないものだったのだと思います。宗教染みた成否のわからない言葉に踊らされてしまうほどに。
     なので、そこをもう少し強調して書いても良かったのではないかと思いました。
     異世界の人間を殲滅しようというのに、その具体的な手段は説明されておらず、ただ魔法少女が異世界に来たと匂わせる文章での終了。ちょっとだけ消化不良でした。
     もし本当に大量虐殺を考えているのなら、彼らの日常に入り込む必要は無く。また難なくそこに馴染めるのなら、争う必要も無い。そのままそこで暮らしていけばいいのだから。
     そう考えると、魔法少女の言動は、少しちぐはぐな印象ですよね。
     もっと練りこめば発展性のある物語だったと思います。


    >>90 かなちゃん王女様:結末を知らない物語。

     悪巧みは度を越えて、御伽噺になってしまった呪いの魔法。
     若者に物語を語った吟遊詩人は、最初に魔法をかけた魔女だったのでしょうか。罪滅ぼしのつもりなのか、己の失敗を無かった事にするためか。登場人物の心情はほとんど書かれていないため、想像する事しか出来ません。
     童話風に描きたかったのだろうとは思いますが、もう少しかなちゃんらしい色を付けても良かったのではないかと思いました。
     主人公として最後に現れた若者も、後付になってしまっている印象です。前半に何らかの伏線があっても良かったかもしれませんね。


    >>91 ATM様:Hannon le.

     感謝の言葉、想いを伝える魔法。
     執事は人生の最後の時まで、少女の教育係として素晴らしい仕事をしてくれました。一つの別れは少女を少しだけ大人にする。切ないストーリーが良く描かれていたと思います。
     しかし、もったいないとも思いました。詰め込められるエピソードはもっとたくさんあったと思います。残り少ない時間を小さな主のために使う姿を、もう少し丁寧に書いて欲しかったと思いました。
     彼女が彼に向けた最後の言葉が、謝罪ではなかった事が素晴らしかったと思います。


    >>92 天パ様:HAPPY LIFE

     滅亡と再生、その先に待っていた終末。
     人間たちの愚かな行いと、復興への奮闘を描こうという意欲作だったと思います。完成を見た末の結末も、実に人間らしいものだったのではないかと思いました。
     しかし、それを紡ぐための細かい設定などは、穴だらけだったような印象です。
     地球がその名前を変えた理由、第一世代の得た魔法の出所、後世に遺伝しない特殊能力、不老不死、完璧な政治マニュアル、ウイルスの完全駆除など、さすがに無理があるんじゃないかなと思ってしまう事が多数あり、疑問の度に文章を追うことが困難になっていく感じがしました。
     何の能力も無く一番努力しなければならない世代が一番怠けている事も、少し残念に思います。使わなければ失ってしまう。そのことを理解しているのなら、せめて維持する努力をして欲しかったと思いました。
     最後の一文も、『私が神だったから人間は完璧ではない』と読めます。ちょっと意味がわかりませんでした。
     一見不可能に思える設定でも、無理やりに説得できるような説明をでっち上げてしまえば、それなりに見えるものです。そこのところをもう少し、考えて欲しかったと思いました。


    >>93 ロブスター×ロブスター様:ママとお皿と魔法使い

     破壊された物質を取り戻す為の、ひどく経済的な物質交換魔法。
     小さな女の子がとても可愛らしく、一つ一つの動作も丁寧に描かれていました。それに対応する『僕』の対応も、とても上手く表されていたと思います。
     彼女が彼の質問の答えを導くのにはまだまだ時間がかかりそうでしたが、それを含めて感じられる未来への展望を期待させてもらえました。
     読後感も心地よく、好きな作品です。


    >>95 8823様:王の決断

     現在の地位と名誉を捨ててまで、取り戻した時間。それを成す為の魔法。
     たった一人の兵士の野望によって滅亡しようとした国。それを救うために下した実に潔い決断は、王としては少々物足りないものだったのかもしれません。
     これから乗っ取るはずの自国に毒をばら撒いた反乱兵に、国を任せられるような器量があるようには思えませんし、国土を元に戻そうとする意思や策が有ったようには見えませんでした。そんな状態で国をあけわたすのは、少し無責任すぎたのではないかと思ったのです。これから復興に向かわせようというのに、研究室を閉鎖させようとするのも、まずいような気がします。
     全てを投げ出して、必要なものだけを手に入れた元王は、きっと幸せになるのでしょう。そこはせめてもの救いですね。
     一度使った魔力が戻らないというのはとても潔く、良い設定だと思います。後もう少し細かいところに気を使っていたら、とても素晴らしい作品になったのではないかと思いました。


    >>96 伊達サクット様:スチームパンク・空の舞い!

     失われた魔法を取り戻そうという奮闘記。
     魔法世界で魔法が封じられたというのに、あきらめず努力を怠らなかったカーライル人たちは尊敬に値すると思います。彼らが発展させてきた科学はこれからの世界で大いに役立つ事でしょう。
     武器屋達がそのまま職業名で呼ばれるのは、まるで特殊部隊がコードネームで呼び合っているみたいに見えて、とても楽しかったです。パン屋が撃墜された後、普通にパン屋の営業に戻るというシュールな展開も、サクットさんらしくて面白かったです。
     しかし、武器屋達を選抜した方法は何故筆記試験だったのでしょうか。魔法に関する情報が入手できなかったわけでは無さそうなので、その素養を見抜く方法も考慮して欲しかったです。他国の血筋を少しでも有しているとか。
     発展のどん詰まりから神の導きもあって、融合する二つの力。明るい未来を象徴するような爽快な描写。その終わり方がとても清々しく、素敵でした。


    >>97 ナルガEx様: 魔法の誕生とその歴史

     無から生まれた存在が体得した、力としての魔法。
     神話のような、聖書の一節のような語り方は、独特の雰囲気が有って良かったと思います。
     しかし、箇条書きで断片的に書かれた文章は、物語として読むには少々物足りなく感じてしまいました。楽園からの追放された悲しみも、繁栄の喜びも、力を失った喪失感も、平和の安らぎも、これではただの飾りになってしまい、盛り上がりに欠けてしまいます。
     このままでは、ただのプロローグかあらすじと変わらないと思われます。
     次回があれば、今度は物語の起伏を、生きたキャラクターたちを書いてくれたら嬉しいです。


    >>98 If様:不帰の島

     魔力溢れる楽園の島。訪れたものを虜にする優しい魔法。
     何人もの行方不明者を出している場所に送り込まれる密偵としては、主人公はやや力不足な感じでした。手際が良いようには見えず、覚悟も意識も足りていない印象です。
     この島の環境がそうさせていたのかもしれませんが。案の定、島の魔力の秘密には触れることすら出来ませんでした。島に残る事になった後あっさりと秘密を教えられるとか、途中で主人公二人の仲を親密にする為のイベントとしてとか、何らかの種明かしがあったほうが面白かったかもしれませんね。
     主人公の心の動きを軸として、物語はなめらかに進行出来ていたと思います。ただなめらか過ぎて、大きく印象に残るような場面が足りなかったようにも感じました。
     組織を抜けた他の人たちが、どんな暮らしをしているのかも、ちょっと見てみたかったです。


    >>99 にゃんて猫様:さよなら旅人の唄

     それはまるで神のごとく、崇拝の対象として根付いた偽りの魔法。
     一人で塔を建て、周囲の町に知れ渡るほど人々の願いを叶えてきた。そう考えると、魔女=科学者はそれほど悪い人でも無いように感じますね。対価に問題があったとはいえ、相応の報酬を支払うのは当然だったのかも知れません。
     砂漠地帯で寄せられる依頼は、食糧の問題か、ナホがしたような雨を降らせて欲しいというものが多かったのではないでしょうか。食料に関してはバイオ技術の専門家であっただろう科学者には簡単にこなせるものだったでしょう。では、雨に関してはどうでしょう。直接降らせることは出来なくとも、降りそうな日を予測する事は可能だったのではないでしょうか。
     一方、依頼したナホの村はどうでしょう。村は身寄りの無い少女を口減らしと報酬を兼ねて寄こした。成功すれば良し、失敗しても村に損害は無い。村人が生き残る為とはいえ、あまりにも乱暴な考えだったのではないでしょうか。
     科学者が人を集めていたのは、一人では解決できない依頼があったからかもしれません。ナホを撃ち殺そうとしたのは、彼女に居場所が無いことを理解していて、塔に住まわせるような余裕も無かったからなのかもしれません。つまり彼は一概に悪という訳ではなかったのかも知れないのです。
     と、まあこんな風に歪んだ物の見方をする自分はよほどひねくれているんだろうな、と思うのでした。
     魔女の塔の中で、どんな科学を使っていたのか見てみたかったです。
     物語の展開はわかりやすく読みやすいものでした。読後感も良くほほえましい終わり方だったと思います。ただ、最後に雨が降ったのは少し都合が良すぎというか、取って付けたような印象でした。何らかの要因があって降り出したとか、ナホの心境と重ねさせるような描写が有ると良かったかもしれませんね。


    >>100 某駐在様:さらば、愛しき日々よ。

     異能者としての苦しみであり、想い人との絆でも有った魔法。そしてそれとは別の、想いを伝えるための魔法。
     他人と深く触れ合うことの妨げになるかもしれないその力は、人知れず彼をヒーローにする。報われない主人公がなんとも切ないです。もしかしたら彼のこの能力は、事故から人を助けるその為に有ったのかも知れないですね。
     だとすると、彼女の方の力は誰のためにあったのでしょう。僕は彼のために有ったのではないかと思いました。彼女なら傷を移すことが出来る、だけど彼はそんな事は望まない。それは彼により重い苦痛を与えてしまう事になると理解できてしまう。彼の望みは彼女の幸せに生きていく事だったから。そんなやるせない思いが伝わってくる、素晴らしい物語でした。
     ただ、ベッドの傷を自分に移すことが出来るなら、その逆は出来なかったのでしょうか。もし、それが出来る可能性に彼が気付いていなかったのだとしたら、ちょっと悲しすぎますよね。


    >>101 どーなつ様:世界の魔法の三カ条

     魔法に関する法律と、それを絡めた魔法薬にまつわる話。
     規則とは別に自分の信条を持っている魔女の生き方が格好良く描かれていました。
     気になったのは、「魔法および魔法薬における三カ条」の二つ目です。
     曰く、魔法薬の材料は必ず国の認定した市場で購入すること。魔方陣が必要なので、専門知識が無いと魔法薬は作れないというのは解るのですが、市場にある材料だけで作る薬ではたかが知れていると思ったわけです。魔法と薬を合わせることで効果の高い魔法薬を精製するのだと思いますが、なんというか、それでは浪漫が足りません。やはり生産系の職業としては、困難な冒険の末に手に入れた材料で物を作るというのが面白いのではないかと思ったわけです。(←勝手な見解
     ストーリーやキャラクターがしっかりと設定されていて、明快で考えられた戦闘シーン等、とてもよく出来ていたと思います。


    >>102 朔乱様:たまご

     内溶液の温度を保つ魔法のごとき機能の瓶。
     最初、主人公は猫か何かだと思っていたのは内緒です。
     疑問に思ったことへの考察とアプローチ、その行動力は素晴らしいものでした。決行した作戦も彼の力を最大限に使用した秀逸なものだったと言えるでしょう。
     結果は失敗だったものの、彼の今後に多大なる影響をもたらしたのは間違いなく、未来に期待できるものだったと思います。
     物語のオチも素直に面白いと感じることが出来ました。
     子供の言動には驚かされることがあります。親御さんにはしっかりと目を放さないようにして欲しいですね。


    >>103 sakana様:ウェザー

     言葉を伝える為の肉体は既に無くて、それでも残された幻影は想いをつなぐ。
     それは魔法とは言えないものだったのかも知れないけれど、確かにそこにあった。
     キャラクターの作り込みがすごいですね。それぞれの役割をしっかり果たしているのが素晴らしいです。ただ、友人やその彼女(?)が後半まったく触れられていないのが、少し残念です。
     場面を交互に語る書き方は、読者を混乱させやすいのですが、この作品はそこを上手く切り分ける事が出来ていたと思います。
     もし難癖をつけるなら、クライマックスのシーンがややあっさりし過ぎていたところでしょうか。もうひと味付いていたなら、主人公とさくらちゃんのこれからの関係を後押しする事が出来たのではないでしょうか。あと「魔法」が後付っぽかったかな?
     一つの終わりと始まりをしっかりと読ませる、だけど切なくて可愛らしい作品でした。


    >>104 アリス様:路地裏のトルバドール

     心を揺さぶる歌は魔法。
     理由もわからず泣き続ける私に、優しく突き刺さる旋律は、慰めるように、包み込むように。
     そんな歌の歌詞のような文章はやわらかく、そして綺麗だと思いました。
     文章に出てこない、泣いている私の物語は、きっと歌の中にあったのでしょう。多くを語らないやり方は、正解だったと思います。
     なので、ところどころに現れる「どうにか泣いている理由を表そうとする部分」が逆に余計だったんじゃないかと感じました。
     終わりの一文が、この作品を上手く表現していて、とてもよかったと思いました。


    >>94 自作:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法

     高度な科学が魔法のように見えるなら、高度な魔法もまた科学のように見えるのではないか。そんないいかげんな考えから、この物語は生まれました。適当もいいところです。
     だらだらと長いわりに、設定もキャラクターも描ききれておらず最後の方は台詞に頼るなど、いろいろダメダメな作品でした。
     タイトルも二転三転してまして、これはけっこう気に入っているのですが、いかがだったでしょうか?


    さて、次回は「さくら」ですね。完全なファンタジー世界は書きにくいかもしれません。でも難しいお題だからこそ、挑戦する価値はある。はず。
    その次のお題となる「オリキャラ」も続々と集まっているようなので、楽しみですね。
    今年もF板を盛り上げていきましょう。

    ※もし、オリキャラの絵を描いた、もしくは誰かに描いてもらったのだけど、貼り付け方が解らないという方は、僕がチャットにいる時に言っていただければ、お力になれるかも知れません。

    ではー
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:批評提出期間】 ( No.114 )
       
    日時: 2012/03/31 21:09
    名前: 伊達サクット ID:H.RbaDtI

    ようやく書けた……。作品が多くて大変でしたが、楽しく読ませていただきました。
    敬称略です。

    ◆ゆみたん「まぎかる」

    以前ニコニコ動画で広告協会のCMで「ぽぽぽ〜ん」っていうシーンの抜粋をやってたような気がするのですが、もうあまり覚えていません(笑)。いや、そのネタだってことだけは分かったのですが、自分の記憶力がないせいでいまいちピンと来ませんでした。
    語り手が中学生なのに「年を老いた」という表現をしていたり、「彼氏の一人や二人」「彼女の三人や四人」など、性別がよく分からなかった点に違和感がありました。
    最後の「ぽぽぽぽ〜ん」が肝心なのでしょうけど、思い切ってこの一文無しの作品にしても、挨拶の大切さが分かるメッセージ性のある作品として成立すると思いました。

    ◆黒猫「魔法少女襲来」

    ショートショートとしてうまくまとまっている作品だと思います。
    夢オチと見せかけて実は……という感じの。
    なぜ主人公の魔法少女はユーちゃんに自分の世界の話をわざわざしたのかなって思いました。まあ、この作品においてあまりそこはツッコむべき点ではないのでしょうけど。
    文章は、一文があまり長くなりすぎず、語り口もテンポが良くて読むのにストレスを感じませんでした。
    ちょっと思ったのですが、異世界の人々の血肉を大地に捧げて魔法を取り戻したとしても、いずれ魔法世界の人類同士で血肉を捧げる為の争いが起こるのは目に見えてますよね。

    ◆かなちゃん王女「結末を知らない物語。」

    かなちゃん王女さんの持ち味の、可愛らしい世界観が表現されていて、自分のスタンスをよく作れていると感心しました。
    「吟遊詩人」や「求婚者」という単語を考えると、児童向け作品の様相をした大人の絵本を想起させます。今作は一つの試作という意味では、雰囲気を出せてよく書けていると思いますが、個人的な要望としては、かなちゃん王女さんには「絵本的な皮を被ったガチ小説」を書いてみてほしいです。
    今作のような雰囲気を持つ作品の中に、大人をうならせるための隠し味として、ストーリーにユニークな工夫をこらしてみるといいと思いました。
    あと、「悪い国の王子様」は「ある国の悪い王子様」とかにした方がいいと思います。悪い国の王子様が悪い奴とは限らないので。まあ、今作では事実悪い奴でしたが。

    ◆ATM「Hannon le.」

    少女と執事の関係を書きたかったんですよね? シチュエーションに関しては書きたいものを書けばいいと思うので、そこに必然性がなくてもいいような気がします。
    執事が「……そうですね。あと少しで意味がわかるのではないでしょうか。わたくしの推測が正しければね」と言っていますが、そこから執事が死ぬのに数年かかったのは間を置き過ぎかと思いました。
    「わたし」は聖母のように慈愛に満ち溢れた人なのだから、執事のことを「淋しそうな人だ」と感じたら「わたし」なりにその淋しさをなんとかしようとアクションを起こすはずだし、そんなに慈愛に満ち溢れた「わたし」が執事が死ぬまで数年もあったのに、「ありがとう」の一つも生きている間に言わなかったというのは不自然です。執事がおべっかを言っている可能性もなくはないですが、あまり冒頭で人の性格をキャラの口からしゃべらせるのはあまりうまいやり方ではないと思いました。

    ◆天パ「HAPPY LIFE」

    まさに神の視点ですね。
    第四世代は全てが完成された時代に生まれた世代で、彼らはああやって生きて行く以外の方法はないんですよね。それなのに神様に「何でもかんでも、貪欲に求めすぎた愚かな人々」とひとくくりにされるのは神様はちょっとヒデーなって思いました。
    あとは、最後の部分の「人々は決して完璧などではなかったのです」は、特にこのセリフだっていうこだわりがなければ何か他のものに差し替えた方がいいかもしれません。前半から延々と続く、神の口から語られる第一世代〜第四世代の歴史は割と好意的な立ち位置から語っており、この一言によって今までの語りが全部悪意ある皮肉っぽく見えてしまうからです。
    元からそういう演出を意図していたのならいいのですが、読者としてみたら何か「出来レース」のようなものを見させられていた気分が……。
    文章に関しては最後の方の文章が「〜してしまいました」で終わっていることが多いのが気になりましたが、分かりやすくて、読んでいて心地よかったです。

    ◆ロブスター×ロブスター「ママとお皿と魔法使い」

    ママが登場人物の口から語られるだけで、実際登場しないまま話が終わるのに、題名に「ママ」が入っているのは斬新だと思いました。
    オチが秀逸で微笑ましいですけど、「お皿が直っても、直らないもの」が結局なんだったのか気になりました。
    「成る程」はできれば平仮名で、「瞳だけでは無かった」の無かったは、使い方が(多分)間違っているので平仮名にしておいた方がいいかと。
    話としては面白かったです。

    ◆空人「気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法」

    空人さんの書く女の子は可愛らしいw
    題名や、「よをすべ」を初めとする言葉達、以前のお題小説で出てきた「コバヤシテクノコーポレーション」を出してくるあたり、軽いノリの話だと思いきや、マジでシリアスで、オチも切ない感じの話でした。いい意味で意表をつかれました。
    「書籍データ化の波」や「上部催都」「仮想空間」など、世界観のところどころにIT分野の応用が利いてて面白かったです。決着を記憶の消去(デリート)で着けるのもうまいと思いました。
    主人公のシーが女性だということが分かりづらかったです。自然とヒーロー&ヒロインという先入観があった自分もいけないのですが。「シー」という響きだと男性、女性、どちらの名前としてもあり得ますし。
    ストーリー展開にメリハリがあって、相方の豹変の強烈さなど、とても面白かったです。
    今回の16作品の中ではかなり上位の完成度を持つ作品と言っていいのではないでしょうか。

    ◆8823「王の決断」

    空人さんの作品と並んで、今回のお題小説の中では上位の完成度だと思います。
    読んでいて、植物に浸食され闇に包まれた国土、城の情景がありありと浮かんできました。一方、ストーリー構成も、タイムアップまで一直線という鬼気迫る感じが好きです。その辺の、緊迫感やシリアスな感じを文章で演出するのがとても巧いと思います。
    ただ、自分が一国の行く末を担うメルクの立場だったら、グリフィスのような人間に王位は渡さないだろうと思いました。例え妻や子供を犠牲にしたとしても。あくまで自分だったらの話ですが。細い手足を震わせているゼブに後を託して国を去るのも結構キツイかと。せめて、メルク達家族が幸せになれたらいいと思いました。

    ◆自作「スチームパンク・空の舞い!」

    普通。

    ◆ナルガEx「魔法の誕生とその歴史」

    小説を読む側としては、自分の人生の中で感じるさまざまな思い、五感の累積をベースに「作品」と接します。他の方々がおっしゃっているように、自分もこの話はあらすじで終わっているのが残念で「もっと読ませてよ!」っていう感想を持っているのですが、例えばこの話の全てを地に足が付いた世界観、例えば、無の世界などではなく現代世界の一つの部屋を舞台に置き換えれば物語なんてなくても斬新な作品になると思うんです。読み手それぞれが持つ地に根差した感覚でナルガExさんの文章から物語のようなものを感じ取れるのではないかと。しかし、本作は世界観がとても壮大で、神話のごとき語り回しだから読む方としてもあまりピンとくるものがなくて「もっと物語がほしい」という感想を持つのだと思います。

    ◆If「不帰の島」

    アイラの境遇や心情がとても丁寧にそつなく描写されており、読んでいて自然と感情移入できました。スパイと言う危険と隣り合わせの生き方をしている女性の孤独感・不安感をうまく表現できていました。
    物語も面白く、大筋の流れは特に指摘する点はないです。結末も微笑ましく、この終わり方でよかったのではないかと思います。
    合成獣と戦っているシーン、カルトが負傷した直後の台詞のかけ合いや、字の文の描写が、誰が行動しているのか把握しづらかったのが気になりました。「背中が、合成獣の骸に刺さったままの剣に寄って〜」の「背中」は、「カルトの背中」などにした方がいいかもしれません。
    また、お題の魔法がすこし薄かったと思いました。クレジア島の設定はあくまで背景だし、カルトに束縛の呪いを解いてもらう場面も、「どっかに魔法入れとかないと」感が否めません(束縛の呪いの話が出てきた瞬間、カルトに解いてもらうんだって予測できました)。そのシーンを山場として演出を強化するため、いっそ話の初期から呪いの恐怖をチラつかせるとか、伏線を張ってもいいのではないでしょうか。
    女スパイ×恋愛ものというコンビネーションは、よくあるように見えて、なかなか難しいと思いました。

    ◆にゃんて猫「さよなら旅人の唄」

    非常にもったいない作品。
    料理する際、いい素材や器具が揃っているのに、調理で失敗した感じがします。
    冴えないけど正義感のあるオッサン&影のある少女の組み合わせや、魔女は科学者でしかも男性という急展開、砂漠の部族の存在、代償の代わりに要求を叶えてきた魔女の、実は女性をオモチャにしたいだけだったという生々しい真実など、面白く、読者を惹きつける要素がたくさん盛り込まれているのに、ストーリーにかなりアラがある印象でした。
    なぜコラットは広い砂漠地帯でピンポイントでナホの上に行き倒れてしまったのか。どうしてそうなったのか? 行き倒れる直前、ナホの存在にまったく気付いていなかったのか? その当たりの説明が全くなかったので、かなり不条理に感じてしまいました。また、塔の調査も、砂漠という過酷な環境で、どんな手を使ってくるかわからない科学者の調査を国務大臣補佐(肩書きを見ても、超エリート官僚のお偉いさんで、現場に行くような立場の人とは思えません)のオッサンが一人で行うというのが不自然でした。
    こういう場合は、2〜30代の男性で構成された特殊部隊や、軍人でなくても、その道のプロを雇って調査させると思うのです。
    その辺りをきっちりと違和感なく作中で説明できたら、完成度が相当上がるはずです。とはいえ、楽しんで読むことができました。ラストの雨の降らせ方、ああいうドラマチックな自然現象の使い方は見習いたいです。

    ◆某駐在「さらば、愛しき日々よ。」

    対象とリンクするという「マホウ」を、怜治と美穂の再開や、美穂から怜治への墜落シーンの記憶の伝達、飛行機の翼とリンクしてバランスを取る、更にはベッドの傷を心臓に移して命を絶つなど、具体的に色々な使い方をしているのが良かったです。能力の定義はそれほど詳しく説明がなくても、話の細部に組み込んでもらえたので、感覚的に理解することができました。お題小説としての書き方は申し分ないと思います。
    冒頭と最後の、白の世界の「フローラルの香」という具体的チョイスな言葉で、どうも現実世界に引き戻されてしまう印象がありました。

    ◆どーなつ「世界の魔法の三カ条」

    魔法の三カ条という定義を作中に設定し、その三カ条全てを効果的に使っているのに感心しました。文章量も丁度良く、起承転結がしっかりしてて明快な面白さがありました。
    敵の店主がザコだったから結果オーライになった印象を受けたのは自分だけでしょうか。せっかく攻撃魔法を使えないという縛りを設けているのだから、もっと工夫を凝らした倒し方を見たかったです。
    あと、他の方もおっしゃっていましたが、三カ条破らない薬作れるんだったら、まず初見の時に、娘さんの病気がどんな病気なのか聞き取りした上で、「あ、その薬なら三カ条破らなくても作れますよ」って教えてあげましょうよ、メイシーさん!

    ◆朔乱「たまご」

    すみません。冷めないビン=魔法ビンにお題の「魔法」をかけていたって、他の方の批評を読むまで気付きませんでした。
    水の温度と人の温もりを混同するオチも、なるほどなとニヤリとさせられました。
    赤ちゃんなのに思考は妙に論理的という不思議な世界観を保つ上で、「電子レンジやオーブンなんかでも温かくすることができる。給湯器なんかもあるが、あれはガスを使っているらしい」の部分はいらないかもしれません。そんな器具を知っていて魔法ビンだけ知らないのが不自然になってしまうので。「温かいものはすぐに冷めてしまう。僕の温かい飲み物も、飲み頃が来たと思えばすぐに冷めてしまう。それが普通だ」の部分だけで主人公の前提知識は十分ですからね。

    ◆Sakana「ウェザー」

    文章量や、2つの筋を交互に進めて行くという凝った形式を裏切らない骨太で力の入った小説でした。
    加野が傍観者になってしまっていて、あの血のつながっていない兄弟の仲を引き継げるのかと思ってしまいました。加野の立ち位置が若干微妙だったのではないかと。あと、上早の読みがなはフルネームが出たときではなく、「おーい、上早(うわさ)。ウワサいるかー?」みたいな感じに、初めて苗字が出てきたときに出した方がいいです。「久美」の部分にはルビ不要でしょうし。

    はたして、この作品における「魔法」とは、「魔法の杖」のことなんでしょうか。
    桜の魔法の杖(=願いを小難しい概念なしに、ただ純粋に叶えてくれるもの)が死んだ小太郎との繋がりを維持させていてくれたんでしょうね。
    小太郎の願い(=桜の世界の変化)を叶えるきっかけになったのが加野だとしたら、小太郎にとっては加野が魔法の杖だったのだと思います。
    桜の変化は「ですからわたし、もしかしたら魔法の杖を持っていたのかもしれない。今はもう、無くしてしまったのだけれど」って台詞から考えると、魔法の杖を喪失したことだと思われます。「魔法は不思議。だからこそ、魔法という言葉を不思議の類義語として使ったら駄目なのですよ」って変化後の桜が言っている。魔法(の杖)が引き起こした小太郎との繋がりの維持。絶えず変化する世の中から外れた変動のない空間(=図書館)。そんな魔法を不思議の類義語として使うことを桜は否定してみせた。つまり、この「ウェザー」という作品における魔法とは、自然と移りゆく人の変化のことを言っているのではないでしょうか。ちょっと考えてしまいました。

    ◆アリス「路地裏のトルバドール」

    復帰おめでとうございます。
    細かい理屈は抜きにして、シチュエーションを楽しませてもらいました。語らずとも、作品の背後にしっかりと魔法のようなものの存在をにおわせている感じがいいですね。「夕方の褐色に足を委ねたんだ」って表現は、夕焼けの空をイメージした表現に見受けられますが、そこに「足を委ねる」という地面を踏みしめるような感じの言葉が続くのは、若干ちぐはぐな印象を受けました。


    最後に、お題小説一周年おめでとうございます!
    管理人の皆さま、お疲れ様です!
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:批評提出期間】 ( No.115 )
       
    日時: 2012/03/31 22:12
    名前: 朔乱 ID:Z.gm56R6

     どこにターゲットを持っていって執筆していいのかわからない今日この頃。「お前、まだそんなレベルじゃねーだろ」というツッコミを言われるのは分かっていますので、言わないでください(T△T)



    ☆ゆみたんさん:まぎかる

     なんだろう。序盤での神聖のくだり、意味がわかってしまった自分が悲しい。
     ぽぽぽ〜ん一発勝負のお話。「挨拶の魔法」というアイディアはすごく好きです。誰でも使えるってことは私も使えるってことですもんね。私も魔法使い。いや、だから神聖とかそういういm(ry ただ、文章の少なさと脇道にそれまくった内容のせいで、本編が薄っぺらになっていたと思います。ネタがネタなだけに、隠すのが難しかったとは思いますが、もう少し応用が利かせられないかな? と思いました。タイトルにも、何か工夫が欲しかったです。いや、シンプルなタイトルは好きですけどね。
     そういえば、震災から一年でもあるんですよね。あの異常事態を振り返るアイテムの一つとして、この時期にこの作品を書くのは良かったのかもしれません。


    ☆黒猫さん:魔法少女襲来

     最後まで読んで、ぞっとしました。あれ、でも、怖くない? いや、でも、確かに怖‥‥い……のか? あれ、あれれ? 「私」はユーちゃんの友だちで、でも、実は滅んだ(もしくは滅びそうな)異世界からやってきた魔法少女で、でも異世界に魔力はないから「私」は魔法が使えなくてユーちゃんとほとんど同じ存在なわけで、ちっとも脅威じゃないけど、でも魔法がある世界の人は魔法がない世界の人を殺して魔法を取り戻そうとしているわけだから……怖い話なんですね。この後、友達に血という血を搾り取られちゃうユーちゃんの地獄絵図が見られるわけですね。怖いです。
     張り詰めた空気を一旦緩やかにしてから落とすお話。典型的な怖いパターンです。典型的なんて、さもこのオチ予想してたんだぜオーラだしていますが、全く予想できませんでした。黒猫さんのオチを隠す技術の賜物だと思います。ただ、前半部分が物語全体に対して長すぎるような気がします。起承転結で言うと、魔法世界のことが「起」「承」はなくて、ユーちゃんとの会話が「転」最後の一文を「結」だとすると、明らかに「起」が長いです。頭でっかちです。「起」の大きさで物語の量を推測した読者にとっては、どうしてもボリュームが少なく感じてしまうと思います。ただ「起」はこの程度の長さを使わないとオチを上手く隠せないのも事実です。「私」の魔法生活をもっと細かく、物語をつけて、魔法生活を「起」魔法世界の崩壊フラグ「承」と分割して「起」を小さくすればよかったのかもしれません(あくまでも個人の意見です)
     最後に、言葉のリズムを気にして書くと、もっとよくなると思います。リズムよく書かれた文章は、読者の頭に入ってきやすいと思いますので^^


    ☆かなちゃん王女さん:結末を知らない物語。

     うーん、少年の冒険とかをもっと書いてほしいかな? と批評で書こうとしてタイトルを見てびっくり。なるほど、少年がその後どうしたのかわからないのが、この物語のポイントなんですね。ふむ。やられました。
     ベースは茨姫ですね。おとぎ話らしい丁寧な文章は雰囲気をこわしてなくて、良かったです。ただ、地の分に読点や助詞を増やしたり、文章を細かく切ってテンポを遅らせると、さらにゆったりと優雅な雰囲気が出ると思います。
     それと、これはすごく細かいことになりますが、これって二次創作になるのではないでしょうか? あまりにも原作の色が強いように思えます。著作権だとか、そういう話をするつもりはありませんが(そもそも、茨姫の著作権なんて切れてますよね)この企画はオリジナル小説を書くところ。もっと、かなちゃん王女さんの作る世界を見てみたかったです。


    ☆ATMさん:Hannon le.

     ぽぽぽぽ〜ん!
     えと、あ、はい。すみません……
     「ありがとう」という言葉も大切な言葉ですよね。感謝の気持ちを素直に伝えることができたなら、世界はどれだけ平和になることだろう……昔からそう考えています。
    ♪た〜のしい な〜かまが……
     魔法が存在している世界観のなかで、あえて挨拶の魔法を選ぶという……私は好きです。「ありがとう」の大切さを伝えるいい対比になっていると思います。ただ、作品の雰囲気が少し淡白すぎるかな? 主人公の行動やストーリーがかなり少ないので、所々にある比喩表現などが浮いてしまっています。お嬢様と執事なんてセレブで重厚な設定なんですから、もっと細かいアクションを増やして、作品自体に重さを付けてもいいと思います。それと、句読点の位置がおかしいな? と思う箇所が何個かあました。句読点の位置が少し変わるだけでも、文章の意味は全然違ったものになります。推敲の際、注意してくださいね。


    ☆天パさん:HAPPY LIFE

     深いお話。完璧になることがいけないのなら、自分はどうして努力してるんだろう……? そんなことを考えてしまいます。はい。哲学(笑)を語る場所ではないので自重します。
     独特の世界観は面白かったのですが、この作品はそれを紹介しただけのように感じました。語り手=神というオチがつけたかったから仕方ないのかもしれませんが、登場人物がいないのはやっぱり寂しいです。語り手(神)が第四世代の一人にスポットをあてて物語を進めていく、というのが良かったかもしれません。ただ、登場人物のない、伝記みたいな作品だと考えると、この淡白な文章はすごく合っていると思います。もっ時間をかけて、細かい世界観まで練れていれば、登場人物なしでももっと面白くできたかもしれません。
     最後の二行に疑問を感じました。物語の中で、人間が完璧だという描写が見られませんでした。第三世代の作った世界は優れたものでしたが、結果としては人類を滅亡に追い込まれたわけですから、完璧とは言い難いです。語り手(神)も作中で一度も人が完璧とは言ってませんよね。「完璧=神 神≠人間 ∴完璧≠人間」ということでしょうか? 宗教によっては(特に日本人は)「神=完璧」の図式が成り立たない場合がありますので、そこの描写が必要だったかもしれません。


    ☆ロブスター×ロブスターさん:ママとお皿と魔法使い

     あれ、この魔法……私も使えるよ。今回のお題で、私はたくさんの魔法を覚えることができました(笑)  皆さん、ありがとうございます。
     美しい文章が作品全体を彩っていて、楽しかったです。私もこんな綺麗な文章がかけるようになりたいです。ただ、書きすぎにも思えました。密度がこすいぎるといいますか、文章量=読み手の時間なわけで、文章量に対してアクションが少ないと、作品がまったりとしてしまいます。今回の作品は「僕」と「彼女」のほのぼのとしたやりとりがメインのお話ですから、ある程度のまったり感は必要ですが、今回はまったりしすぎたと思います。すごく、スローモーションでした。
     この作品も一発ネタで、ある程度の作品の短さは仕方ありませんが、もうちょっとボリュームがあってもいいと思います。前に書いた描写の多さもスカスカ感を増長させてると思います。「僕」がもったいぶって「彼女」のお願いを断るとかして、アクションを増やすといいかもしれません。ボリュームがあったほうがオチの強さが増すと思います。


    ☆空人さん:気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法

     タイトルェ……。気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法が割と本気で知りたかっただけに、ちょっぴり残念。いや、でも、これはすごく個人的なことで、批評とは全然関係ありません。でも、上部催都を作った人は世界中の人々を眼鏡っ娘にすることができたんですよね。実にうらやm(ry そして、禁術とはいえ、上部のなかに入れるんですよね。……あれ? これ、完全に空人さんの趣味ですよね(笑)
     主人公シーが男の子か女の子かわかりませんでした。すごく親しい女友達がいる、最後にユーを抱きしめていることなどを考えて、女の子だと判断しましたが(リア充爆発しろ!)一人称視点なのに地の文が女の子っぽくないように感じました。
     それと、背景描写や世界観の設定はすごく面白くって、力がはいっていたのですが、登場人物の感情表現が甘かったように思えます。そのせいで、後半部分のクライマックスがなかなかついていけませんでした。文章量のバランスを考えると難しかったのかもしれませんが、登場人物の感情表現のほうにももうすこし気を使えれば、もっといい作品になったと思います。
     とかなんとか言っていますが、なんだかんだで結構楽しく読ませていただきました。ごめんなさい。

     
    ☆8823さん:王の決断

     なぜか、今回のお題では珍しい純粋なファンタジー。何ででしょうね。今回「魔法」っていう純粋ファンタジーがたくさん来そうなお題だったのに……。皆さん、へそ曲がり何ですね☆
     んー、やっぱり冒頭ですね。なかなか物語りに入り込めませんでした。やっぱり、読者は作品を読む前は現実世界にいるわけで、作者は冒頭で読者を物語の世界へ引きずり込む作業が必要だと思うんです。冒頭で物語の世界に入り込めないと、結局もやもやしたまま最後まで読んじゃいますからね。また、はじまりから終わりまで、これといった山場がなかったのももやもやを増長させていると思います。もう少し横道にそれてもよかったのかなと思いました。

    ☆伊達サクットさん:スチームパンク・空の舞い!

     サクットさんは自分の個性をはっきりと表現できていて、羨ましいです。嫉妬です。嫉妬しています。
     ところどころに隠されたシュールなネタが面白かったです。無線で、自分たちのことを職業で呼び合っているのとか、声を出して笑いました。
     物語の雰囲気とか、文章のバランスが上手く整えられていて、ストーリーの緩急もちょうど良く、物語だけでなく、技術的な面でも感動しました。
    どうしても、どうしても何か一つ問題点をあげなければならないとしたら、空中戦でしょうか。空中戦でセレクトが忍者にしがみつかれたシーンです。なぜ、忍者はレーザーを撃たなかったのでしょうか。銃撃戦という、遠距離攻撃が主体の場所で、ずつきという近距離で、攻撃力の低い攻撃をするメリットが無いように思えます。混戦の最中に標的が目に止まれば、反射的に撃ってしまうと思います。


    ☆ナルガExさん:魔法の誕生とその歴史

     ここから壮大な物語が始まる! といった感じのお話。楽園追放やパンゲア大陸など、色々なものを盛り込んでいますね。しかし、盛り込んだだけとも言えます。既存の物語や地名を詰め合わせただけでは、ナルガExさん作品とは言い辛いと思います。今後、短篇を書くような機会があるときは、ナルガExさんの想像力、妄想力をフルに使った作品を書くようにしてほしいです。
     意味の通じない言葉も何個か見当たりました。執筆する際は是非、辞書を使ってください。


    ☆Ifさん:不帰の島

     お、おう……怖い。こんな風に思った私はきっと純粋じゃないんですね……。でも、送り込む密偵という密偵が恋の虜になって、任務を放棄する。不帰の島とか、精霊の庭園じゃなくて、誑しの島にしたほうがいいんじゃないかと。魔力による補正でイケメンが量産されてるんでしょうねきっと。……こわっ!
     相変わらずのIfさんらしい雰囲気の作品。でも、今回は文章を詰め込み過ぎたかな? Ifさんのお上品な文章が雑多に詰め込まれたような感じがしました。デパートの売り尽くしセールみたいな感じ。物語も、文章もすごく綺麗なのに残念。このごちゃごちゃ感は戦闘シーンにだけして、あとはさっぱりさせたらいいんじゃないかと思いました。


    ☆にゃんて猫さん:さよなら旅人の唄

     またもや科学的なお話。あれ……今回のお題……魔法だよね? ドジッ娘オーラがぷんぷんするナホの今後がどうなるのか……面白そうです。
     一人称視点のお話って、主人公の感情を表すのは簡単なんですけど、情景や動作を表現するのは難しいですよね。最初、行き倒れていたコラットさんが、地の文でスラスラと情景を説明していたのに、違和感を覚えました。もっとも、これは好みの問題かもしれません。戦闘シーン、コラットさんの悪戦苦闘する場面もなくスッと終わってしまったのは残念でした。頑張るおっさんが見たかったよ……(´・ω・`)
     そもそも、ナホとコラットさんの会話に重点を置きすぎているのかもしれません。短篇でまとめようとすると、どうしても省く場所は増えてしまうでしょうが、もう少しキャラの動きにも力をいれたほうが良かったと思います。


    ☆某駐在さん:さらば、愛しき日々よ。

     融合とか、ちょっぴりいやらしいですよね(笑)はい、最低です。ごめんなさい。
     文章がとても上手くて羨ましい。しかも、さらっと書いている雰囲気。書きなれてるんですね〜。すごいです。ストーリー展開もお手本にしたくなる完成度です。でも、そこが欠点でもあるんでしょうか? 収まるとこに収まりまくってるといいますか。もう少し力を抜いてもいいんじゃないでしょうか? お手本としては文句なしですが、作品としては、パンチが無いように思えます。私が変態なだけかもしれませんが……。
     なかなか、オリジナリティを発揮するのが難しい世の中だとは思いますが、某駐在さんのオリジナリティを発揮してほしいと思います。


    ☆どーなつさん:世界の魔法の三ヶ条

     不覚にも、エメラルド一カラットに反応してしまいました。宝石で薬を作るなんて勿体ない! ……でも、絵の具の材料にするよりはマシなのかな? すごくどうでもいいことを考えちゃっています。ごめんなさい。
     テンポいいですね。物語がぽんぽんと進んでいくのは、いいことです。文章のほうも、テンポを気にしているのでしょうか? すごく読みやすかったです。
     個人的には結末が消化不良。悪徳業者をメイシーさんが倒したところで、本来の目的をロストしているような気がします。せめて、メイシーさんが娘を直接見たときに、治せる病だと気がついた描写があれば、最後の一文が際立って、いいエンディングを迎えられたのかもしれません。そうすると、種明かしのシーンが弱くなってしまいますけどね……小説は難しいです。

    ☆自作:たまご

     みなさんに散々あれこれ言っていますが、当人はこんなものをかいています(汗)
     もし、限られた知識だけで魔法瓶を解明するなら、どう解明するか? という疑問を自分なりに考えたものを赤ん坊に言ってもらいました。超自己満足です。
     書いてる途中で理科のレポートを書いているような気になってきました。文体そのものが読みにくかったんじゃないかと思います。でも、こういう書き方が結構書きやすいと思っていたり……。


    ☆sakanaさん:ウェザー

     魔法についてすごく真剣に取り組んでくれました。やっぱり、ストレートなのが一番ですよね。
     場面を数字で区別させるのはいいですね。わかりやすかったです。そして、長い。すごく長い。こんなに長い話を書けるのはすごいです。変化球と掌編の多かった今回のお題では、、sakanaさんは勇者ですね。でも、ちょっと長すぎたと感じます。特に、主人公が桜と出会ってからの部分。個人的になんですが、冒頭から積み上げていった謎を明かすとき、ぽつぽつと明らかにしていくのが好きじゃありません。高く積み上げたつみ木を根元から払うように、ばばぁー! と解明していったほうが好きです。桜と出会ったシーンで大体の展開は読めてしまいます。今回の作品では急展開、と言えるものはなかったので、どうしてもだらだらとした印象を受けてしまいました。長すぎてもダメだし、短くてもダメ。小説って難しいですよね。

    ☆アリスさん:路地裏のトルバドール

     とりあえず悲しいから泣いていて、歌を聞いたらもっと泣けてきた。つまりはそういうお話ですね。あとは読者の想像力に任せると、上手く作品の断片を拾ってつなぎ合わせろと、そういうことですね。つまり、これは挑戦状! おーけー、受けて立ちますよ!
    ……はい。わかりましたよ。わかりましたけど、これは心の中に閉まって置きます。これは私が見たアリスさんの作品ですからね。大切に心の中に閉まって置きます。
    ……はい、ごめんなさい。
     うーん、なんとも言い難いです。執筆時間がないというのは、本人が前々から言っています。それが、すべてだと思うんですよね……。私の方からは何も言えません。





     今回は17名と過去2位の参加者数となりました。本当に素晴らしいことです。もう、色々な意味で涙が出ましたよw
     とりあえず、大盛況のなか、一周年を迎えることができました。皆様、本当にありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。
     さて、ちょっと横道にそれますが、私のHN「朔乱」なんですが、多くの方は「さくらん」と読んでいます。もちろん、これでも正解です。……が! 「さくら」と読んでもらっても構わないんです。「さくら」って。
    ……それでは、次回もたくさんのご参加をお待ちしております。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:批評提出期間】 ( No.116 )
       
    日時: 2012/03/31 23:45
    名前: 黒猫 ID:iAhrTs7c

    >>87 ゆみたん様「まぎかる」

     魔法というものが使える定義、ファンタジー世界で描かれてきた魔法等を取り上げた前振りでしたが、最後に『あいさつ』という現実で誰でも使える『魔法』だったというオチがしっかりしたものでした。
    個人的には前振りの箇所をもう少し固めてストーリー性を濃くして欲しかったなという欲もあります。
    ストーリー性を濃くすればあのオチに対する印象も少なからず良い方向へ変わっていたのかなと思います。
    最後の最後の一言には一時期電波ジャックしたあのCMを思い出し、思わずふいてしまいました。


    >>90 かなちゃん王女様「結末を知らない物語」

     読み終えて最初に思ったのが、長編RPGをプレイしているような気分でした。
    物凄く王道で、読んでいるこっちがスッキリするような作品でゲームが好きな私としては凄く好きになりました。
    短く纏めて、読みやすい文面で、私が理想とする形でした。見習いたい部分もいくつかありました。


    >>91 ATM様「Hannon le.」

     心温まる哀しくも優しい物語で、実際に誰にでも使える魔法というテーマ。
    その言葉が魔法と呼ぶにふさわしいものだということが全体を通して伝わってきました。
    執事の温かさと淋しさ、お嬢様の悲しさ。登場人物の感情がダイレクトで感じることができた心に来る作品でした。


    >>92 天パ様「HAPPY LIFE」

     タイトルからワクワクドキドキな話が待ち受けているのかな〜と思って読んでみると、愉快そうなタイトルとは裏腹に本当の『HAPPY LIFE』を考えさせられる奥深い作品でした。
    転々と初期から最後まで時代を進め、繰り出されるテンポの良い話は見習わなければな〜と一人思っています。


    >>93 ロブスター×ロブスター様「ママとお皿と魔法使い」

     魔法と言うお題に対して、火を出したり水を出したりという表現よりも言葉の魔法や、魔法という言葉自体を比喩として使った表現が目立ちますね。それはそれで、納得なんかを得られて好きですが。
    今回のこの作品は、壊れてしまったお皿を魔法で直しても直らないものがある。という意味深な内容で、心躍っちゃいました。(何故
    そして文に関してですが、証明問題の件や夕陽を見上げている僕の部分は個人的に結構ツボでした。


    >>94 空人様「気になるあの子を眼鏡っ娘にする方法」

     世界観の設定から前半の明るめな雰囲気とは一転して後半につれてシリアスになっていく展開、少し切ないラストは非常に好みで一読者として愉しませていただきました。
    楽天的なタイトルとのギャップがまたまた好きだったり。


    >>95 8823様「王の決断」

     やはり短編はそのラストに気が行ってしまいます。
    切ない感じのラストといい、グッと引かせるような冒頭といい、丁寧な文章でまとめられていて物凄く読みやすいなと言うのが初めに思った感想です。
    テンポ良く進んでいる感じは凄く尊敬できました。もう少し見せ場のようなものを作ってほしかったかなとも思います。


    >>96 伊達サクット様「スチームパンク・空の舞い!」

     まず最初に思ったのが短編の創り方が非常に上手いなということです。
    短い中にしっかりと笑える要素もしんみりとくるような要素も入れられ、短編らしく最後でギュッとしまっていました。
    この短い中でこれだけの要素を含み、歯切れ悪さも残すことなく終わらせられていて、非常に参考になりました。


    >>97 ナルガEX様「魔法の誕生とその歴史」

     様々な作品中で描かれる絵本や神話、物語に大きく関わってくる話のように展開されていてキャラクターの登場は一切なしという、今回の中では唯一無二の作品でした。
    そういった印象が強く残っており、奥深さも感じることができます。
    あらすじのような書き方になっており、様々な展開を想像しちゃったりもできますね。


    >>98 If様「不帰の島」

     全体を通してみると切ないエンドが目立つのに対して、綺麗にハッピーエンドでしめられており読み終わった後の爽快感もありました。
    ファンタジー色が強く、魔法というお題に対してストレートでこれぞF板のお題小説という感じでした。


    >>99 にゃんて猫様「さよなら旅人の唄」

     今回のお題作品の中で最も好きなタイトルでした。
    綺麗な文章で造られた淡々と展開されていくストーリー。
    魔法を求めていた主人公達が最後には魔法を否定して自分達の力で生きていくというエンドからは読破後の達成感を頂きました。


    >>100 某駐在様「さらば、愛しき日々よ。」

     感情表現が強く、色々と考えさせられるお話でした。
    最後の語り(?)では一つの物語が終わるという実感を与えられ、その存在感を凄く放ち、素晴らしいエンドに仕上げられているなと感心しています。


    >>101 どーなつ様「世界の魔法の三カ条」

     タイトルにもなっていた三カ条。この設定は私のツボでした。
    このうち、主体になっていたのは三つ目の人の死に関する魔法薬で、この三カ条の下で展開されるストーリーは非常に愉しむ事が出来ました。


    >>102 朔乱様「たまご」

     魔法と魔法瓶をかけてくるとは予想外でした。
    それとトントン拍子で進んでいく展開と長くなく読みやすい文章のお陰でスラっと読むことができました。
    これは完全に発想にやられたという感じです。


    >>103 sakana様「ウェザー」

     まず、読む前に幾つにも場面分けされた書き方が興味をそそりますね。
    二つの異なるように思えたストーリーが徐々に擦れ合っていく感じが堪らなく良いです。好きです。
    文字数の多さに最初は「なんだって」とか思いましたが読むとその理由も分かりますし、スッキリとした文体で見た目ほど長く感じませんでした。
    こういった二つの話を擦れ合わせるような話は大好きです。


    >>104 アリス様「路地裏のトルバドール」

     歌詞のような書き方と悲しげな文章が目を引く作品。
    全体通して少し重たいかな? という感じもしましたが、こういった切ない話は好きです。
    短い中で主人公の心情が変化していくのが分かり、最後の「ありがとね」は全体を締めくくって素晴らしい存在感を放っていました。






     お題小説&批評初参加ということで、まだ右も左も分からないながら精を尽くしました。
    皆さんの作品と並べると自分の作品が小さく見えて来て、それがまたやる気や向上心に繋がればな〜とそう感じてます。
    数々のすばらしい作品の中でまだ存在感の薄い自身の作品も大きく成長させていければなと思い、参加してみて非常に楽しかったこの企画はどんどん続けていきたいと思います。

     批評大変だったざんす。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ募集中! 投稿は雑談所へ!!】お題小説スレッド【三月期:批評提出期間】 ( No.117 )
       
    日時: 2012/04/01 00:35
    名前: どーなつ◆TZeKIucSoc ID:wraBUbs6

    ・ゆみたん様:まぎかる
     惹き付けられるような出だしだなーと思っていたら、最後に某cmでオチる。
    個人的に、こういう作品は凄く好みです。だからこそ、もうちょっとオチまで引っ張ってほしかったですね。

    ・黒猫様:魔法少女襲来
     この作品も、小粋だと思わされるオチが目立つ作品でした。妄想オチと見せかけての……というのは結構斬新な考えだと思います。
    タイトルが直球すぎて先が読めてしまうのが少し残念でした。

    ・かなちゃん王女様:結末を知らない物語。
     流石だなと感心させられる、流れるような綺麗なストーリーが魅力的でした。
    まるで幼い頃に童話を読み聞かせてもらった時の様な、懐かしい気持ちにさせてくれる作品でした。

    ・ATM様:Hannon le.
     初め、タイトルの意味を知らなくて実際に検索してみたのですが、「ありがとう」という意味なんですね。勉強になりました。
    短い中にきっちりお話しがまとめられているのと、所々の細やかな描写が素敵だと思いました。

    ・天パ様: HAPPY LIFE
     最後の一文で「なるほど」と言わせられる作品でした。これがほんとの「神」視点……あ、何でもないです。
    淡々とした語りのようですが、読み手の想像力を煽るような文だと思いました。

    ・ロブスター×ロブスター様:ママとお皿と魔法使い
     日常の中の一時を描いた、ほんのり心が暖まる作品でした。
    少女のちょっとした感情の揺らぎまでもが丁寧に描かれていました。


    すみません……間に合わなかった上にまだ途中ですorz
    メンテ
    Re: 【オリキャラ投票受付中! 詳しくは雑談所へ!!】お題小説スレッド【四月期:作品投稿期間】 ( No.118 )
       
    日時: 2012/04/01 04:19
    名前: 企画運営委員 ID:1GeJwNec

    【第十一回総評】

     初参加者の方を大勢迎えられ、とても賑やかな回になったことを大変喜ばしく思っています。参加者の皆さん、お疲れ様でした。批評の集まりが少々よろしくなかったのは残念でしたが、次からもたくさんの方に参加していただければと思います。まだ提出が出来ていない方は、雑談所のほうでいつでも提出が可能ですので、ぜひよろしくお願いいたします。批評を書くのも書く力の上達のためには重要ですよ!
     個性的な話が多く、一つのテーマからこんなにも多彩な物語が生まれるのかと驚くほどでした。テーマの料理の仕方も様々で興味深かったです。どの作品もとても魅力的で、私自身、非常に楽しんで読むことが出来ました。何か課題をあげるとしたら、短編という短い物語の中で、どの事柄をどのように書くのか、しっかり取捨選択することが必要かなと感じています。全部書こうとしてあらすじのようになってしまった作品、逆にシーンを限定しすぎて広がりが小さくなってしまった作品、色々ありました。難しいことではあるのですが、見せ方の工夫だったり、構成をしっかり練ることだったりすることで、まだまだ物語を研ぎ澄ませることはできると思います。さらなるステップアップのために、出たとこ勝負ではなくて、書く前にラストまでしっかり先を見通すことができればなあと。
     もう一つ、タイトルに工夫があればいいなと感じる作品も多かったです。魅力的なタイトルを冠することで、より読者を呼びこむことができるはずです。苦手な方も多いと小耳に挟みましたが、ここで練習を重ねることによって上達できれば素敵ですよね。
     次回のテーマは『さくら』です。今回のように盛り上がることが出来ればと願っています。たくさんの方の参加をお待ちしております!
    メンテ
    神様メモリー ( No.119 )
       
    日時: 2012/04/02 16:32
    名前: 黒猫 ID:PAw6ht36

     暑かった夏はとっくに終わり、この田舎町にも秋がやってきた。緑で包まれた山は紅葉に包まれ、心地よく涼しい風が人々の心に安らぎを運んでくる。物静かなこの辺りも夏には祭りが開かれて人々の騒がしくも聞こえる楽しげな声で溢れていたが、再び静けさを取り戻していた。
    寺の前には沢山落ち葉が転がり、毎年それを竹箒で掃除するのが私の役目だった。最初は恥ずかしかった巫女服も今は大分慣れて落ち着く。
    溜まっていた落ち葉を掻き集めていると、その中で桃色の花がやけに存在感を放っていることに気付く。桜の花弁。
    なんでこの季節に桜の花弁があるかというと――。この町で崇められている『桜神様』という神様がいて、その桜は何故か一年中花を咲かせているという不思議な種。いや、種類といえば少し変で、この桜は間違いなく『ソメイヨシノ』である。これは『桜神様』の調査に来た大学のお偉いさん方が必死にリサーチした結果。何故一年中咲いているのかは分からなかったらしく、彼らが持ち帰った唯一の情報。
    その『桜神様』を永年守り続けているのが私の家系で、この神社の神主は実の父親。一人娘である私は跡取りとして神社を継がなければならない。だけどそれが嫌だった。
    元々、神主っていうのは男が多い職業で女の神主は全体の一割ぐらいしかいない。神主の仕事はあまり知らないから忽然と分かるぐらいだが、当然苦労も強いられるだろうし、私は私が決めた道を歩いていきたいと強く思っていた。こうして掃除をしているのは、ほんの手伝いとかそういう気持ちで継ごうなんて欠片も思ってない。お父さんとはそれでぶつかったりもする。
    ただ、問題なのは私自身が進みたい道なんて少しも見えてない。高校二年の秋ということもあり周囲は進路のことについて真剣に悩み始めていた。それは私も同様で、なんとか私がやりたいことを見つけようとしてるけど、こればかりはすぐに見つかるものじゃない。
    お先真っ暗で思わずため息をつく私の肩に桃色の花弁が落ちて来る。桜神様にも気遣わせちゃってるのかな。そう思って見上げた桜は何処か淋しげで、お世辞にも綺麗と呼べる色合いをしていなかった。白にも近い桃色の花が咲き誇る桜は確かに綺麗だけど、この桜神様は濁った色で暗い表情を浮かべているよう。春に我こそ一番と綺麗に咲き誇る桜達と並べば、色の濁りは一目瞭然だった。
    しばらく、私は桜神様と向かい合ったが相手は人間じゃないんだし意志の疎通もできるはずがない。やさしい風の音だけが空間を支配した後、私は落ち葉を集めて掃除を終わらせた。

     畳に布団を敷いた部屋の木造箪笥から折り畳まれた制服を取り出してさっさと着替える。気付けばもう八時前、遅刻にもなりかねない時間。今にも抜けそうな程、軋む音を立てる床の廊下を走って行き他の家族二人が集うリビングへと出た。朝食のご飯とみそ汁と焼き魚は定番といえば定番だけど少し古い気もする。漫画みたいに食パンだったら咥えながら登校できたが、さすがにこんな定食系料理は登校しながら食べる事は困難で、仕方なく椅子に座って食べることにした。
    「愛理、遅刻するわよ」
    「もう! 分かってるんなら声かけてよ」
    両親が食べていた所、私も混ざって三人で食卓を囲んでいるが朝ということもあるんだろう、会話が弾むことはない。しかし、突然お父さんが焼き魚とご飯を交互に食べていく私に話しかけて来た。
    「進路は決まったのか? もうすぐ三者面談だろ」
    「ま、まだだけど」
    「お前はウチの一人娘なんだ、桜神様を守っていってほしい」
    「それって神主になれってことでしょ! 私は絶対嫌だからね」
    「もし桜神様に何かあれば、リゾート建設とかいう罰当たりな輩のせいで代々守られてきた神社も壊されてしまうんだぞ!」
    「知らないよ! 大体、神主の娘に生まれて来たからって彼氏も作っちゃいけないなんておかしい! こんなボロ臭い所なんかよりリゾートの方が全然いいじゃん!」
    会話の中で苛立ちを覚え始め、まだ食べかけのご飯をテーブルに置いたまま勢いよく立ちあがって、その場を走って後にする。あんな腹立つ場所にいたくない、それだけが理由だった。
    リゾート建設で立ち退きを指示されているのは分かるし、ウチには拒否するだけの権力もないから桜神様っていう存在のお陰で居続けられているというのも分かっている。だけど私は私。やりたくもないことをするのは真っ平御免だった。
    住宅と神社が一つの建物の中に収まった大きな敷地、その脇に止めていた自転車の籠に鞄を入れてこぎ始める。私の中にある苛立ちがペダルを漕いでいく力を強めているんだろう。いつもより速く自転車は前へ前へと進んで行く。秋の気持ち良い風に私の髪は靡き、山の中にある家を出てすぐの下り坂を滑走。落ち葉達が華麗に宙を舞う様子が目に映った。

     三十分程、自転車を進めているとすぐに学校へ到着した。駐輪所に自転車を停めてからは何人もの友達と会い、その度挨拶を交わす。二階にある教室まで行くと、もう知ってる顔がズラリと並んでいた。当然といえば当然だけど。
    私の到着からすぐにチャイムは鳴り響き、灰色のスーツを着た担任である女教師が扉を開き入ってきた。朝礼を済ませると生徒たちの下に一枚の紙を回し始める。一番後ろの席だった私はこういった場合、大体最後にプリントを確認するという形。ようやく回ってきたかと思えば、それは進路希望調査票だった。
    今の私にとっては苦痛以外の何でもない。「今日中に提出すればいい」という担任の言葉に甘え、白紙のまま引き出しの中へと収める。
    その後の休み時間では仲のいい女友達と進路について色々話したりもした。明確に決まっていないのは私だけじゃ無かったらしいが、それでもみんなは『明確に』決まっていないだけ。ある程度の方向性は見い出せているのだ。そんな彼女達が少し羨ましかった。
    「モヤモヤっとでも見えてるだけマシだよ、美容師なんてカッコいいじゃん」
    「愛理だって、神社継ぐんじゃないの? 桜神様を守れる仕事なんてカッコいいよ」
    「ムリムリ、あんなの絶対ならない、彼氏作っちゃいけないんだよ? ありえないって」
    「中学校ん時、彼氏家に連れてったら怒られたって言ってたもんね」
    笑いながら言ってるが、実際の所は笑い話なんかになってない。生まれたのがたまたま神社ってだけでこの仕打ちは酷過ぎる。厳しい門限があるから普通の女子高生並みに遊ぶことも禁じられてるし。
    だからといって進路希望調査票にかけるような自身がやりたいことも見つからず、人生で一番悩んでいるかもしれない。淡々と続く授業のことなど全く耳に入ってこなかった。
    そんな時、歴史の授業で開いていた教科書の一部分が私の目を強く引いた。教科書の隅にある人物紹介。そこにいたのは『江ノ助(えのすけ)』という戦国時代の足軽兵だった人。別に大きなことをやらかした偉人という存在ではなかったが、彼は有名な関ヶ原の戦いにて西軍として参加、戦の前日に故郷へと帰ってきた江ノ助は一本の苗木を自宅の前に植えて戦へと行ったらしい。
    彼の事を読んでいると、植えた苗木は桜で故郷はなんとこの町だった。私の直感に過ぎないが、もしかしてと桜神様のことが頭に浮かぶ。
    授業が終わった後、歴史の先生に聞いてみるが確かに江ノ助という人物はこの町出身の人間で桜を植えてから関ヶ原の戦いへと臨んだ。そういうことは聞けたけど詳しい情報は手に入れることが出来なかった。

     放課後、結局何も書くことが出来なかった進路希望調査票を白紙のまま担任に渡すと少しの間説教が続く。それが終わった後は友達からの誘いも断り、一人で自転車を飛ばす。学校の近くにあった図書館で江ノ助のことを調べたい。私の直感が正しかったのか知りたい。お父さんに聞けば楽に解決してしまうのかもしれないが、継ぐのを否定していたのに今更そんなことを聞くのも嫌な感じがした。
    周囲の歴史に関する資料、関ヶ原の戦いに関する歴史の資料。どれを見ても私のほしい資料は見つかりはしなかった。空は茜色に染まり、諦めた私はすぐに家へと帰って行く。
    神社を継ぐ事は否定している。だけど朝に見た桜神様の暗い表情だけは忘れることが出来なかった。ずっと咲き続けてるから綺麗とか言われているかもしれないが、あんな濁った色の桜なんて綺麗でもなんでもない。
    家に帰ってくると、早速お母さんが晩御飯の支度を始めていた。
    「ただいま」
    「おかえり」
    お母さんだけは私の進路について何も言ってこない。最初は私のことなんかどうでもいいのか、なんて思っていたけど数週間前にお母さんとお父さんが話している所をたまたま聞いてしまった。
    私に後を継がせたいと言うお父さんに対して、「あの娘にはあの娘の人生があるんだから、私はそれを優先させたいです」と私自身が見つける私の道を尊重してくれた。これを聞いた時は正直泣きそうにもなった。だけど、そんなお母さんに私はまだ応えられていない。私の事を信じてくれているのにどうしても応えれないことが悔しくて悔しくて堪らない。
    「ご飯、もうすぐできるからね」
    「分かった、できたら呼んで」
    そう言ったまま部屋に戻って行くと畳の床に鞄を投げつけ、制服のまま横に転がる。本当は諦めかけていた。神社を継ぐ以外に私の進路はないのかなと、心の何処かでそう思っていた。だけどそれを認めてしまうのが恐い自分もいる。双極の自分がまだ頭の中で戦っているんだ。
    この家を継いで、桜神様を守って――。ん? 家? 桜神様?
    ふと、私の頭に電撃が走った。慌てて起き上がると私は神社の中にあった書物庫へと急いで足を運ぶ。そこに並べられているのはすっかり黄ばんでしまった数々の書物。古文とかで読み辛いやつもあるが、簡単な古文程度なら読める。
    家――。桜――。確か江ノ助は『自宅の前に桜の苗木を植えて』から戦へと行ったんだ。お父さんが呪文のように『代々守られてきた』と言っていた。江ノ助がいた時代からずっと守られてきたんなら、辻褄が合わないこともない。彼が植えた桜こそが一年中花を咲かせる神秘の桜、『桜神様』なのか。ようやく、私の中で引っ掛かっていたものの答えが出されようとしていた。
    「あった」
    巻物のようになっている家系図を開くと、ずっと上の方。確かに『江ノ助』という名前は存在した。少しずつ点と点が繋がって行く――。
    次から次へと書物を見ていくと、その中の一つに『江ノ助』と黒い表紙の隅に書かれてあるものが見つかった。何かと思い黄ばんだ紙をゆっくりと一枚ずつめくって行く。日付が書かれてあることから江ノ助の日記ということが分かった。
    やっぱり本物の古文は難しく、字も掠れていて読めない部分がある。だが、その内の一節に大体だがこう書かれてあった。

     久しぶりに帰ってきた故郷。戦の前に桜を一本植えておきたい。
    春になれば綺麗に咲く桜達が多い故郷の中でも一番輝きを放つ桜であって欲しい。
    天下泰平の世がやってくるまで生き続けたい、そう思い、この桜は思いの証としてここに植える。
    絶対に帰ってくるから、俺が帰ってくる頃には綺麗な花を咲かせて待っていろ。

     綿密に書かれていた日記は、そのページで最後となっていた。おそらく彼は戦で命を落としてしまったんだろう。これだけでは江ノ助が桜神様を植えた張本人ということまでは断定できない。だけど私は彼が植えた苗木こそ桜神様だろうと信じて止まなかった。
    その後、すぐにお母さんから呼ばれてお父さんも含めた三人での夕食。朝に私とお父さんが喧嘩になってしまったせいか、今日はやけに静かな食事となった。すぐに食事を済ませ、自分が使った食器を洗い流した後、部屋へと戻って行く。特にやることもなかったのですぐに布団の中へと潜った。
    両親も寝静まり、家の中だけでなく山は風の音しか聞こえない。そんな中で私はふと目を覚ました。布団から出ると、寝巻のまま神社の方へと出ていく。桜神様のことが気になって仕方なかったのだ。その辺にあった草履を履き、桜神様の前に立つとその大きな体にそっと手を触れた。
    夜でも輝きを放つ程の美しい桜達とは違い、彼だけは夜の闇に溶け込むような色合い。これは悲しみの表れなんだろうか。
    両手を添えてゆっくりと目を瞑る。もし彼が江ノ助が植えた桜なんだとすれば、それは悲しすぎる。彼との約束を果たすために死んだ事も知らずにずっと咲き続けて、悲しみで色は落ち桜としての華麗さまで失いつつあるなんて、それは辛すぎる。
    「桜神様、あなたは神様なんかじゃなくていい、普通の桜でいて……そして春になったらまた綺麗に咲いて、江ノ助さんもきっとそれを望むはずだから」
    何をしてるんだろう。桜に向かって話しかけるなんて、私も進路先で悩み過ぎてとうとう頭が吹っ飛んでしまってるんだろうか。だけど、こうしている事に不思議と何も無駄な行為だということは感じられなかった。
    「もう、無理しなくていいの、江ノ助さんは多分ずっと前からあなたを見ていた、だから安心して、そんなに悲しまないで……」
    この桜が本当に江ノ助が植えたという証拠はない。だけど、私は勝手にそう確信して彼に話しかけていた。そして約束を果たそうと努力し続ける彼を前に少し涙があふれて来る。
    そんな時、風が大きく桜神様の体を揺らした。
    「ありがとう……」
    確かにそう聞こえた。そんな言葉に思わず顔を上げて周囲を見渡してみるが、私と桜神様以外は何もいない。桜神様が、いや桜が――――喋った?
    思いも寄らない現象に、ただ唖然とすることしかできずにいる。
    「……ありがとう」
    また聞こえた。これはもう間違いない。桜神様の言葉だ。
    最初はビックリしたけど、この数秒でもう慣れた。私は瞳に溜まった涙をぬぐった後、満面の笑みを桜神様に向けて、そこを後にした。

     あの後、ゆっくりと眠り再び朝を迎える。三月に待っている『第二弾・進路希望調査票』に何をかこうか悩みながら手伝い用の巫女服に着替えていた所。外からはやけに騒ぐ声が聞こえる。
    着替えてから竹箒を取りに外へ出ると、今にも泣きそうな声で叫ぶお父さんと緑色の葉で化粧をした桜神様の姿があった。
    「子供じゃないんだから」
    そんなお父さんの姿に呆れながら落ち葉を掻き集めていく。
    ただ、桜神様を失ってしまった衝撃は町だけでなく全国的にショックらしくて、文化遺産にまで登録しようとしていたぐらいの一年中花を咲かせる桜が、ただのソメイヨシノに戻ってしまったと新聞では大騒ぎだった。

     そんなこんなで数ヶ月が経った四月。高校三年として初の登校日、いわゆる始業式だ。落ち葉の無くなって行くこの季節は掃除も雑なものでやらない日の方が多い。いつも通り朝起きて朝食を食べた後、学校へ行こうと外に出る。すると、そこにあったのはあまりにも綺麗に花を咲かせる桜達。そしてその中でも一際輝きを放っているのは間違いなく、桜神様。
    「うわ、超綺麗じゃん」
    また「ありがとう」なんて言ってくれないかな、とか希望を込めて言ってみたがやっぱりあれ以来、声は聞こえない。あれは幻聴だったんだろうか。
    桜の花弁は次から次に宙を舞い、その景色はあまりにも幻想的で私の目を奪った。こんなに生き生きとした桜神様は見たことないため、綺麗に咲き誇る彼を見ているだけで嬉しい。咲いている彼自身はそれ以上の喜びを味わっているんだろうか。
    「純潔ってヤツだね、本当に」
    汚れなく清らかな心という意味を持つソメイヨシノの花言葉。今の桜神様を見ているとまさしくその言葉通りだった。そして私の覚悟は固まって行く。
    「あなたの純潔は、私が守り抜いてみせるから」
    拳を握り、気合を注入――までは良いけど学校遅刻寸前だということを今更になって思い出した。こんなことしている場合じゃない。遅刻したら廊下に立たされて、なんか色々面倒だからそれだけは嫌だった。慌てて自転車の籠に鞄を乗せてペダルを漕ぎ始める私の傍で、風が大きく桜を揺らした。それはまるで桜神様が笑ってくれたかのような――。
    「たとえみんなが神様と呼ぶのを止めようとも、あなたは私にとってずっと神様だよ」
    リゾート建設になんか負けない。ずっと悲しみの中で江ノ助さんを待ってた桜神様、その悲しみから開放された途端に殺されるなんて絶対にさせない――。

     愛理が三月に提出した進路希望調査票。担任が座る机の上にそれは置かれてあり、第一希望にはしっかり『神主』と書かれてあった――――。
    メンテ
    Re: 【オリキャラ投票受付中! 詳しくは雑談所へ!!】お題小説スレッド【四月期:作品投稿期間】 ( No.120 )
       
    日時: 2012/04/01 18:52
    名前: 企画運営委員 ID:nSJ3MzeQ

    第12回「さくら」の作品投稿期間となりました。
    作品投稿期間は4月1日(日)〜4月15日(日)までとなります。
    ルール説明>>002 を熟読の上、ご参加ください。
    皆様の力作お待ちしております。
    メンテ
    蕾桜 ( No.121 )
       
    日時: 2012/04/02 16:32
    名前: にゃんて猫 ID:st8khiDk

    ※この作品は事実をもとにしたフィクションです。



    「はぁ……」
    まただ。家の中にずっとこもっているとため息ばかり出てしまう。
    五月病というのはよく聞くけど、三月病というものはないのだろうか。
    初夏の体育祭や定期テストで忙しい五月なんかよりも、春休みですることが何ひとつ無い三月末の春休みの方が、よっぽど暇だ。
    僕は力なくノートパソコンを閉じる。
    ネットというものはどうも苦手だ。
    一方的な発言や嘘の情報が跋扈する無法地帯、それがネットだ。
    現実でも人との接し方が分からない僕が、そんな世界でうまくやっていけるわけがない。
    事実、僕はしばらくネットをしているとだんだんと頭が痛くなって止めてしまう。
    ネット中毒ってよく社会で言われてるけど、こんな物にどうやれば中毒になれるというのか。
    ベッドの上に投げ出されたままの漫画とケータイ、充電器。
    布団をめくれば、つけっぱなしのゲーム機に音楽プレーヤー、文庫本。
    春休みが始まって二週間弱、漫画と文庫本は何度も読み返して飽きてしまった。
    メールをするような奴もいないし、ゲームは完全攻略を何度かした物ばかりでやる気になれない。
    音楽も聞き飽きているし、本当にすることがないのだ。
    「……はぁ」
    自然とため息をついた。もう何度目かも分からない。

    一階に降りる。
    両親は仕事で家にいない。
    時計の針が正午を指していたので朝御飯の余り、野菜炒めを軽く温め直してパンを焼く。
    別段腹が減っていたわけではなかったが、無為にだらけたくなかった。
    もそもそとパンを頬張りながらテレビのリモコンを手に取る。
    チャンネルを適当に変えるがこの時間帯だ。
    ニュース、ドラマ、映画、三流番組の再放送……そもそもテレビはあまり見ないのだが、本当にどれも面白くない。
    「はぁ……」
    電源を切り、リモコンをいささか乱暴に投げ棄てる。
    うまい具合にソファーに落下したリモコンを見て、僕は何故だか腹立たしさがこみあげてきて、無意味に野菜炒めを焦がしつけた。
    結果的に僕は、黒く炭化したそれを「不味い」と零して捨てることになる。


    大体四時を回ったころだ。
    やることがなく、ボーッとしていた僕をインターホンのチャイムが叩き起こした。
    だるい体を引きずるようにして玄関へと向かう。
    扉を開けると、白髪の薄い男の人が玄関口に立っていた。
    「おじいちゃん……!」
    白髪の老人……僕の祖父は手にリードとビニール袋を持って言った。
    「ゲン、ちょっと散歩に行かないか?チロの」
    「チロの散歩?何で俺が……」
    当惑する俺の手を祖父が引っ張る。俺は否応なく外に出ることになった。実に十日ぶりの外出だった。

    祖父母は、僕の家の隣の古い家に住んでいる。二人とも今年で七十歳だ。
    チロというのは祖父母が飼っている犬のことで、雌のビーグル犬だ。
    俺の生まれた年に飼いだしたというから、今年でまもなく十六。犬の年齢にしては中々長生きだと思う。
    昔はよく祖父と三人で散歩に行ったものだったが、中学に上がる前ごろからめっきり行かなくなり
    チロ、という名前を聞くことすら随分久しぶりだ。

    「長らくゲンと散歩してなかったと思ってなぁ、久しぶりに行かないか?」
    すでに俺を家の外にまで連れ出しておいてよく言ったものだ。
    まぁ、ただ家でだらだらと過ごすよりは百倍マシだろう。特に断る理由もない。
    「分かったよ……で、チロは?」
    祖父はリードを手に「連れてくる」と言って一旦引き返して行った。
    チロにも久しく会っていない。元気にしているのだろうか。
    「はぁ……」
    まだ開いていない桜の蕾を見て、僕はまたため息をついていた。
    今年の桜は開花が遅いらしい。
    現に、例年ならこの時期に桜の花びらでいっぱいになるこの並木道も、今年はまだひとつとして開いていない。
    「ウォン!」
    「ひっ!?」
    突然の吠え声に驚いて振り向く。
    見ると、祖父のリードの先に少し太ったビーグルが繋がれていた。チロだ。昔とほとんど変わっていない。
    元気にしっぽを左右に振っている。顎を撫でてやると気持ち良さそうにうなった。
    僕のことを忘れていないか心配だったが、ちゃんと覚えてくれているようだった。
    「よし、ゲン。リードはお前が握れ」
    祖父が赤い紐を僕に向かって差し出す。
    今まで、リードはほとんど祖父が握って散歩していたため、この申し出は少し意外だった。
    「お、俺が持つの……?」
    「春から高校生なんだろ?このくらいできない訳ないだろ」
    まぁその通りか。僕は少し緊張しながらもリードの輪っかになっているところへ手を通す。
    チロはリードを持つのが僕に変わっても何ら変化を見せず、早く散歩に行きたいのかそわそわしている。
    どんっと背中を祖父に叩かれて、俺は上体を起こした。
    「ほら、行くぞ」
    祖父とチロに先導されるような形で、僕はなつかしい散歩道を行く三十五分間の旅に出た。

    道中、チロが他の犬と吠えあったり、車線に飛び出しそうになったりして、中々に大変だった。
    犬の力は思ったよりも強く、僕は何度も引っ張っていかれそうになった。
    散歩は、丘の上にある池のまわりをぐるっと廻って帰ってくるのがルートだ。
    途中、池周りにある大きな木の影で休憩をとることになっていた。
    「よし、あそこでちょっと休んで行こう」
    祖父が丘を登り切った後、湖の向こう岸にある巨木を指差して言った。
    やはり記憶の中の姿とあまり変わっていない。大きな木が一帯の空き地に影をつくっていた。

    何とかそこまでたどり着き、僕は空き地の草むらに寝ころがった。
    上を見上げると、たくさんの蕾が枝についていた。が、やはり開いているものはひとつもない。
    そういえばこの木も桜だったか。チロとはこの木の下でよく遊んだ記憶がある。
    「ゲン……高校の入学式は、いつだったかな」
    祖父がベンチに座って言う。
    「四月の……六日だけど」
    「四日にはここいらの桜も満開になるらしい。楽しみだな」
    「……そうだね」
    祖父の発言の意図が掴めず、僕は曖昧にそれに答えた。

    そうだ。

    三月病だとか言って皮肉ってたけど、暇なのは今だけだ。
    高校生活が始まってしまえば、また忙しい日々に早変わりするのだ。
    こうして三人で散歩することなんて、まず無くなる。
    チロの寿命を考えれば、本当にもうこんな機会は永久に来ないかもしれない。

    「…………」
    無言で蕾桜を眺める。
    それが花開くまでには、まだ時間がかかるようだった。

    休憩を終え、僕たちは来た道を折り返して家の前まで帰ってきた。
    「お疲れさん、ほれ」
    祖父がチロのリードを外し、庭へと放す。
    祖父が「久しぶりだったろ?」と聞いてくる。僕は静かにそれに頷くと、条件反射のような素早さで口を開いていた。
    「明日も、行きたい」
    無意識のうちに出た本音だった。
    祖父が一瞬驚いて目をしばたき、そして柔らかい口調で言った。
    「もちろんだ。明日も行こう」


    ……しばらくの後
    桜の花はまだ咲いていない。
    が、蕾が割れて中のピンク色がうっすらのぞくようになっている。そう待たずに開花するはずだ。
    「チロ」
    名前を呼ぶと、足下のビーグル「ウォン!」と吠えて応えた。
    日々だらけて無為に時間を過ごしていた自分を恨めしくさえ思う。
    だが過去はどうしようもない。今をしっかりと生きなければ。
    「おじいちゃん、ありがとう」
    声はきっともう届いていないだろうけど、この想いが桜の蕾に宿り、花開いてくれたらと願う。
    大きな桜の木の幹に触れる。
    一瞬だけ、脳裏をあの優しい笑顔がよぎった。
    「……行こうか」
    リードを引いて、桜の木を後にする。

    蕾から花へ、そして散りゆく桜の花びらに少しだけ想いを込めて……
    メンテ
    いつかの死、いつかの生 ( No.122 )
       
    日時: 2012/04/14 17:53
    名前: アリス ID:Vbgk9Dfs

     

     おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。





    「おい××……聞いたか? 今日さ、この学校に霊能者が来るらしいぜ」
     友人のSが、読書中の僕に話しかけてきた。窓際の席に座っている僕にとって、少しだけ日当たりの眩しい昼休みのことだった。陽気に息を弾ませる彼は、飛びっきりの話題を持ってきたと興奮気味のようだ。しかし僕からしてみれば、何の脈絡もなく非日常にに吹き飛ばされた気分であった。
    「なんだそりゃ。霊能者だって? 意味がわからない」
     霊能者という胡散臭い存在についても意味不明ではあるが、それ以前に、なぜそんな輩がこの高校にやってくる必要があるのか。
    「あれ、お前知らないのか? この高校にさ、最近幽霊が出るらしいんだ。それを退治するためにその霊能者さんが来るんだとよ」
     この高校に幽霊が出るだって? そんな話は聞いたこともない。学校という建造物に幽霊は付き物といえば付き物かもしれないが、この高校には無縁だと思っていたのだが。彼の言葉には突拍子のないことが多すぎるため、幽霊にしろ霊能者にしろ信じがたい。僕は溜息を吐きながら本を閉じた。
    「しかし霊能者か……信じられないよ」
    「だよな。俺も、幽霊自体信じてないし」
     そりゃそうだ。幽霊なんて不可思議なものを信じろというほうが難しい。まあそのような噂が流れてるってことは、誰かが面白がって流したか、それか本当に幽霊を見た誰かがいるということなのだろう。しかし僕は前者だと推測する。幽霊なんてこの世にはいない。
     Sは僕の席の前を通り抜け、すぐ左の窓際に手を置いて外を見た。瞬間「おっ」と小さく声を漏らし、外を見つめたまま僕に、おい××、見てみろよと言いながら手招きした。何か外に気になるものでも見つけたのだろうか。どうした、と僕は本を置いて立ち上がり、彼と並んで窓から外を見た。Sは僕の隣で、あそこあそこと指を刺す。ここからは正面玄関の前辺りの少し開けたところが見えるのだが、そこに人が立っていた。二人である。一人はOLといった風貌の女性。今は僕らに背を向けていて顔まではわからないが、礼儀正しい恰好をしている。
     そしてもう一人は、黒いブレザータイプの制服に身を包み、腰にまで届きそうな長い黒髪をなびかせる女の子であった。この距離でもよくわかる、文句無しの美少女である。どうやらSが僕に手招きしてまで見せたかったのはこの二人――とりわけ女の子のほうであるようだった。
     Sが言った。
    「あそこにいる女の子、可愛くないか? どこの高校だろう」
     それは僕も気になった。僕の高校の女子の制服はセーラー服だから、当然彼女はうちの高校の生徒ではない。しかし、僕の記憶違いかもしれないが、僕らの学区には黒いブレザータイプの制服を採用している学校は無かったはずだ。となると、西部からわざわざここまでやってきたか、県外からやってきたかのどちらかということになる。それは少し妙な話だ。真昼間から僕らと同じ学生が他の高校に来る理由が思い当たらない。近々転校してくるため下見に来たのだとしても、今は九月半ば。明らかに時期がおかしい。
    「まさか、あの子が霊能者さんだったりしてな、あはは」
     Sが笑った。僕も笑い返した。
     その時、その女の子が、こちらを見た。
     僕と目が合った。





    「やべえ、教科書忘れた」
     Sは、授業開始五分前になってそんなことを言い出した。そろそろ先生が入ってくる頃合であった。僕は冷静に、隣のクラスから借りてくることを提案し、Sは急いで教室を出て行った。化学教師のT先生は、チャイムと同時に教室に入る。きっと間に合うだろう。僕は胸を撫で下ろしながら席に着いた。ふと右隣を見ると、隣の席のNさんがクスクスと笑っている。
    「どうしたの?」
    「ご、ごめん……Sくんと××くんのやり取りが面白くて」
    「そうだった?」
     心当たりは無かったが、Nさんの頬をちょっとだけ赤くして笑う姿は可愛らしかった。それから先生のやってくるまでの五分間ほど、僕とNさんは他愛も無い話をした。予習の問題四が難しかったことや、T先生の面白い癖など。僕は普段あまり女の子とは喋らないのだが、Nさんとは比較的話をしていた。
    「Sくん、帰ってきたみたいだね」
     もう残り時間は三十秒、といったところでSが大慌てで教室に戻ってきた。どうやら教科書は借りてこれたようで、手には化学の教科書がきちんとあった。安心するが、Sはどうも普段から抜けている。注意してやら無いと駄目だな。
    「あいつは物忘れが激しいから」
    「××くんは、保護者みたいだね」
    「違いない」
     二人で笑い合った。





     例の高校の正面玄関前で少し待っていると、切り揃えた髪に眼鏡、スーツという改まった服装の女性が歩いてきた。私に幽霊退治を依頼してきた際の電話の声も女性であったが、おそらくその人であろう。
    「おはようございます、もしかして、皆口さんですか」
     彼女は私に近づき、丁寧にお辞儀をしながら挨拶をした。「市役所の土橋と申します」
     私も返すようにお辞儀をする。「はい、ご依頼ありがとうございます」
     正直幽霊退治というのは乗り気になれないし、幽霊を『退治』という言い方があまり好ましくはないのだが、堂々と依頼してきたからには仕方が無い。近所の人は私を霊媒師だとか霊能者と呼ぶが、実際のところ職業としての正式名称はない。ただ役割として、迷える幽霊たちを鎮めることを主としている。あまり公にしたい職ではないが、一族揃って霊に関することに長けていたため、それを生かせる職業とのことで、母が始めたものだった。
    「あの、本当に退治してもらえるんでしょうか」
     彼女は不安がちに漏らした。そもそも彼女は、私の霊云々のことについてすら信じていないようであった。それはそうだ。自分のことを胡散臭いと思っているのも仕方ない。依頼しておいて信用してもらえていないというのは少し不満が残るが、まあ信用されなくても構わない。いつものことだから慣れている。
    「依頼されたからにはやらせていただきます。ところで、問題の幽霊というのは……」
    「はい、目撃情報によると――」
     その時、彼女の肩越しに、二階の窓が見えた。
     こちらを見下ろす、影。
     




    「××、奇遇だな」
     部活を終えて、生徒玄関を出ようとしていると、Sが声を掛けてきた。どうやら彼も部活を終えて帰路に立つらしい。一人寂しく帰るよりは、Sと話しながら帰る方がいいだろう。同じ方向であるのも知っている。僕らは並んで帰ることした。
    「S、お前今日も予習してなかっただろう」
    「なんで?」
    「化学の時、当てられて困ってたじゃないか。あの問題は簡単だったんだぞ」
    「そ、そうか。ま、教科書忘れてる奴が予習してるわけないだろ?」
    「誇ってどうするんだよ」
     くだらない話であったが、僕にとってはこんな話でも楽しかった。オレンジの夕暮れを背に歩き、影は伸びる。カラスの鳴き声。言いようの無い温かみが胸にじんわりと広がっていくのがわかった。それがなぜかはわからなかったが、Sと話していることや、哀愁の漂う空気が胸を締め付けたのだった。疲れているのだろうか。
     ふとポケットに手を入れると、携帯電話を忘れたことに気付いた。そうか、体育のとき机の中にしまったのだ。それを回収せず、そのままにしていた。あれがないといろいろと厳しい。
    「S、悪いが学校に忘れ物をした」
    「そうか、じゃ、ここでお別れだ」向かい合って言葉を交わす。だがSの目は、寂しそうだった。「じゃあな」
    「……? ああ、またな」
     僕は釈然としないまま答え、Sとは別れた。Sはそのまま歩き出し、僕は真逆――今先ほど二人で歩いてきた、学校への道へと踏み出した。







     学校へ到着して玄関に到着すると、靴を履き替えているNさんに会った。
    「Nさん、今帰り?」
    「うん。××くんはどうしたの?」
    「ちょっと教室に忘れ物をしたんだ」
    「そう……」
    「Nさん?」
    「あ、ごめん、なんでもないの……」
     Nさんは、少しだけ顔を赤らめて俯いてしまった。何か僕に言いたいことでもあるのだろうか。だが自分から何も話さないのだから、話したくないことなのだろう。もっと話していたいという気持ちはあるが、踏み込んだら変に思われるだろうか。僕らしくない。Nさんに対してはどうも調子が狂う。
    「じゃあ僕は教室に行くよ。気をつけてね」
     僕は言葉を捻り出し、彼女の横をすれ違って廊下の方へ歩み出した。


     しばらく歩いて廊下の中ほどに差し掛かるときだった。
    「××くん!」
     Nさんの声がした。僕はゆっくり振り返った。
     彼女は僕の方を見つめていた。
    「私、君の事好きだったから!」
     その言葉を理解する前に、Nさんは外へ走っていってしまった。玄関とこの廊下は一直線。ただ外へと走っていくNさんの後姿を見つめるだけだったのに、どこか胸が痛かった。これは、Nさんの気持ちを聞いた事の痛みなのだろうか。僕も、君のことが好きだったのかもしれないと。だけど、返事も聞かずに走って逃げていく彼女は、何もかもが怖かったのだろうか。どうして今、気持ちを告白してくれたのか。僕にはわからなかった。
     最終下校のチャイムが鳴り、僕は急いで教室に向かった。
     オレンジの黄昏は少しずつ薄暗くなり始め、カーテンの開き切った教室は儚く切ない。だがそこに、いるはずのない誰かが立っていたのだった。
    「こんにちは」
     教室の真ん中に佇む影。
     僕とSが昼間見た、制服の美少女その人であった。
     




    「探し物は、これですね」
     彼女は僕に気付くと、携帯電話を見せてきた。紛れも無く僕のものであった。
    「そうだが、なぜ君が持っている?」
     聞きたいことは山ほどあったが、それしか出なかった。
    「単純な話です。この携帯電話の持ち主に会いたかった。それだけですよ」
     僕に会いたかった、ということだろうか。意味がわからない。しかし彼女は、この携帯電話の持ち主、と言った。つまり僕自身と特定してはいない。携帯電話の忘れ物があればなんでもよかったということだろうか。ますます意味がわからない。
    「君が噂の霊能者さんか?」
    「その呼び方は好きではありませんが……まあ良しとしましょう。確かに私は、この学校に現れる幽霊を鎮めるためにきた霊能者です」
    「その霊能者さんが、なぜ僕の携帯を?」
    「携帯電話にはこれといった意味はありません……用があるのは、あなたです」
     彼女は鋭い瞳で僕を突き刺した。心臓を手で握られたような切迫感が襲い、急に息が苦しくなったように感じた。彼女の雰囲気が毒々しく、締め付けるような感覚。声がすぐには出せなかった。首を絞められているかのようだった。
    「僕に、用だって?」
    「はい。あなたに話したいことがありまして」
     彼女は僕に一歩一歩近づいてきた。僕の体は動かなかった。恐怖か、何か。胃にナイフが刺さっているかのような、じわじわと体を蝕んでいく何か。彼女は僕の前に立ち、動けない僕を上目遣いで見つめた。
    「その様子だと、気付いていないのですね」
     もはや、思考の中にしか僕は存在しなかった。
    「……悲しい人」
     僕が。
     僕が何に気付いていないというんだ?
     彼女は神妙な顔つきで言った。
    「すでに、幽霊だということにも気付かないなんて」
     それが引き金になったように、僕はゆっくりとその場に崩れ、倒れた。
     まどろむ意識の中で、少女はもう一言、僕に浴びせた。
     

    「桜の木の下で、お待ちしてます」





     目が覚めると、僕は家のベッドで寝ていた。
     ガバリと布団を投げ飛ばして体を起こす。自分の両手のひらを見つめたり、指を曲げ伸ばしてみた。体もある。頬をつねっても、ちゃんと痛みはある。昨日携帯電話を取りにいってからの記憶がまるで無いが、どうやらあの後無事に帰宅できたようだ。枕元には携帯が置いてあるし、ベッドで寝ていたのが何よりの証拠だ。窓からは朝を告げる陽光が眩しく差し込んでいる。僕は額を押さえた。
     あの女の子は……なんだったんだ? 

     すでに幽霊だということにも気付かないなんて。



     ……意味がわからない。
     馬鹿馬鹿しい。霊能者だなんて自分で語っていたけど、結局狂言で惑わす馬鹿な奴じゃないか。胡散臭いとは思っていたけどまさかここまでとは。幽霊だって? どこにそんな要素があるというんだ? 僕にはちゃんと体はあるし、足だってある。やはりあの女の子の言っていることは間違っている。間違っているどころの話ではなく、彼女の言葉全てが意味不明なだけだった。


     学校に登校して廊下を歩いていると、Sがクラスの友人と話していた。
    「おはよう、S」
     僕は声を掛けた。
     だがSに返事はなく、笑顔で談笑を続けている。
     僕は昨日の女の子の件もあって少しいらいらしていたし、冗談でも無視されると腹が立った。僕はちょっと苛立ちを見せ付けるように声を荒げながら、Sの肩を掴もうとした。
    「おい、S」
     ――!
     Sの肩を、僕の手が擦り抜けた。





     土橋さんから電話が掛かってきたのは、人の込み合う朝の街中であった。私は一応高校生だから、授業中などに掛かってくる電話には受けれないのだけど、今回は朝の登校中であったので受けることができた。
    「はい、皆口ですが」
    「あの……度々すいません。その、依頼の方は進んでますか?」
     渡ろうとした横断歩道が赤になり、私は立ち止まった。駅前の交差点なので人は多く、雑音に電話の声は掻き消されそうになる。
    「はい。一応やることはやりましたが」
    「あれ、今はどちらに?」
    「駅前の交差点にいます。一応学生なので、登校中です」
    「そうでしたか、お忙しいときにすいません」
    「あ、いえ。お構いなく。それで、今回はどのようなご用件で」
    「その……依頼内容はもう終わりなんですか? まさか昨日だけで幽霊を退治したんですか?」
     信号が青になり、立ち止まっていた人たちが歩き出す。私は前方から来る人たちとぶつからないように意識しつつ、電話の向こうへと話しかける。私の職業に理解の無い人は、大抵こういう質問をしてくるから慣れていた。まあ霊とか、そういうものを理解するのは難しいのはよくわかるから、別に面倒だとは思わなかった。
    「あの高校に結界を仕掛けました。おそらく今日辺りから、幽霊の力は弱まってくると思います」
    「力が弱まる……と言いますと?」
    「まあ単純に言えば、現実世界に干渉できなくなります。よくホラー映画なんかにあるでしょう。『今誰かに肩触られた』みたいなのが」
    「ありますね」
    「幽霊は、人間に触れます。それは幽霊の力が強い証拠なんです。でも私の仕掛けた結界は、そういう幽霊の力を弱めてくれる。あの高校に現れる幽霊も人間には触れなくなってくるし、人間の目には見えなくなってくるはずです。結界に即効性はないので、仕掛けるだけ仕掛けてしばらく様子見ということになります。まあ今日の夕方辺りにもう一度高校には行きますけど」
     横断歩道を渡りきり、駅への歩道を歩く。
    「だから、皆口さんは学校に行かれてるというわけなのですね」
    「はい。信じてもらえるかはわかりませんが」
     わかっている。どうせ信じてもらえない。
     私は依頼さえこなせればいいのだ。
     雑踏を歩く。もうすぐ駅だ。

    「いえ、信じますよ」
     私の足が止まった。
    「では、引き続きよろしくお願いします。お電話すいませんでした」
    「あ、いえ」
     電話は切れた。私は携帯電話を耳から離し、それを見つめる。
     ……真っ向から信じてもらえていたなんて。
     昨日の出会った感触からして、彼女は私のことや幽霊のことを信じていないのだと思った。だけど、彼女の先ほどの言葉は、そんなのとは無縁で、きちんと私は信じてくれたような力強さがあり、戸惑いや疑惑がほとんど感じられなかった。
     ……こういう人も、いてくれるんだ。
     不慣れな感覚を抱きながら、私は駅に向かった。
     幽霊を鎮めるのは、今日の夕方。
     真実は、残酷だ。
     私は奥歯を噛み締めた。



     

     別の友人と楽しそうに話をしながら廊下の向こうへと歩いていってしまうS。僕はその背中を、言いようの無い黒々しい不安とともに見つめていた。鈍器で頭を殴られたような衝撃さえ体を迸る。そのくせ、自分の状況を静かに描写する心は嫌味なほどに冷徹だった。
     僕の手が、Sの肩をすり抜けた。
     それはまるで、ホログラム映像に手で触れたように、触れたという感覚はまるで無く、空を切ったのだった。何にも触れていない。僕は廊下の真ん中で佇み、ただ自分の手のひらを見つめ、指を曲げ伸ばしするだけだった。
     どうなってるんだ? 僕はどうなってしまったんだ。
     始業も近かったので僕もSの後を追った。最初の授業は化学だから、化学室へ移動しなければならない。しかし移動中も僕の頭は宙を舞うように留まりが無く彷徨い、説明のつかない事態に混乱し続けていた。
     化学室に到着するが、まだ始業まで数分残っており、室内はざわめきに満ちていた。こういう特別教室では、通例出席番号順に座ることになっている。僕は自分の所定の席に座り、先生が来るまで予習をしようと考えた。教科書を開いて、ノートを捲る。しかし、恐怖に似た切迫感が、まるで背後からじりじりと迫るようで落ち着かなかった。僕はそれから逃げるように、隣の席のNさんを見た。
     昨日のことは……僕にもよくわからない。
     Nさんに好きだと言われたけど、今僕の隣に座っているNさんは、僕の方に見向きもせず、静かに予習をしているようだった。僕には、彼女の言葉を考える余裕など無かったし、返事だって考えられなかった。彼女の告白を聞いてすぐ、あの霊能者の少女に出会い、それ以降の記憶がまるでないのだから。しかしNさんの横顔は、僕などまるで意識していないようにも思えた。……僕は何を考えているのだろう。そして今彼女は何を考えているのだろうか。
    「N、さん」
     怖かった。
     告白されて気まずいこともあった。だが、いろいろと気に掛かることがありすぎて。
     Nさんが、まるで『隣に誰もいないような』素振りばかりするから。
     だから。


    「Nさん」
     彼女の視線は、いつまでもノートと教科書に注がれている。
     ……嘘、だ。
     僕はゆっくりと、Nさんの頬に手を伸ばした。触れてしまったら申し訳ない、ではない。頼む、触れてくれであった。Nさんに触れたい。邪な考えではない。ただここに僕がいると証明する手立てが欲しいのだ。聞こえてる? 触れる? 僕はここにいる? さまざまな疑問を解決したい。そのために、僕は彼女に触れようとした。できるならば、僕が頬を触れることによって、Nさんの恥らう赤い顔が見れればいいって。そう思って。
     そう思ったのに。

     僕の手は、ゆっくりと彼女の頬に沈み、すり抜けた。


     嘘だ、こんなの。

     僕は立ち上がって、手当たり次第クラスメイトに触れようとした。だが、誰一人として触れることができなかった。ありえない、こんなのはありえない。なんで、なんで触れられないんだ。誰も彼も僕と目を合わせない。試しに殴ろうとする。しかし僕の腕は弧を描いてすり抜ける。そいつは何も感じなかったように隣の奴と談笑している。そんな馬鹿な。気持ちの悪い汗が流れ出し、体が震えた。どうすればいいのかわからなかった。僕は、僕は今なんなのだと、教室を見渡してもわからないままだった。
     始業のチャイムが鳴る。先生が入ってくる。教室は静まる。授業の開始を告げ、先生は教科書とチョークを片手に掴んだ。


    「じゃあ、教科書七十二ページの――」
     先生。
     先生は授業が始まってるのに、席を立っている僕を注意しない。
     クラスの皆もだ。
     僕は確かに教室の中央に立っている。後ろの方の席の人は、僕の所為で黒板は見えないはずだ。僕は明らかに、邪魔者で、こんなところに立っていたらノートを写すために視線を上げるクラスメイトたちの障害にしかならないはず。そのはずなのに、皆はきちんと黒板とノートを交互に見てノートを取っている。
     見えてない。
     見えていない。
     誰からも、僕は見えていない?
     そんなことが。




     ――その様子だと、気付いていないのですね。


     突然再生される、昨日の少女の声。


     ――悲しい人。


     すでに、幽霊だということにも気付かないなんて。






     生暖かい風が頬を撫でる。
     切り取られたように輝く月が世界を照らす中、僕はゆっくりと歩んでいた。地面を擦る靴音が嫌に大きい。緊張しているのだろうか。何が待つかわからない、でもそれを知らなければならない。言いようの無い使命感、焦り、恐怖が入り混じる。
     桜の木は、光っていた。
     夜の闇に生える、ピンク色の恍惚。
     冬の街を彩るクリスマスツリーのような、黒々しい背景の中にはっきりと光を放つそれは、まるで目印のように、僕の向かうべき場所のように、視界の中にはっきりと姿を見せていた。
     近づく度に、桜の前に立つ人影が見えるようになった。
    「……来たのですね」
     彼女は振り向いた。
     僕は何も言えなかった。
     彼女は、シャベルを僕の前に投げ捨てた。
    「するべきことが、わかっているのですか?」
    「……ああ」
    「真実は、残酷です」
    「知っている」
     真実は、残酷。わかっていた。生半可なものではないということを。しかし僕には、この桜の下にある『何か』に導かれるように、そうしなければならないと知っているかのように、やるべきことが頭の中ではっきりしていたのだった。
     僕は、足元に落ちているシャベルを持った。鋭利な先端。長い柄に両手を添える。桜の輝きは電灯のように辺りを照らし、辺りを余裕で見渡せる明るさであった。月の光も相まって、僕の視界は冴えている。シャベルの先端に光が瞬いた。
     きっと彼女は、高校に現れる幽霊を退治するために、何か霊の力を抑える魔法のようなものを使ったのだろう。だから僕は、SやNさんに触れられなくなった。だって僕は……。
     桜の根元の地面をシャベルで突き刺した。
     固かった。先端が少しだけ地面にめり込んだだけだった。その反動が手のひらを伝わり、全身に痺れを与える。一度で、これだけの疲労感。柄を握る指にかすかな隙間が開いた。やめろ、やめてしまえ。僕の中の僕が叫んだ。真実は残酷だ。その真実に、お前は死ぬような思いをして近づく必要はないだろうと。だが僕の中の小さな誇り――SやNさんと過ごした日々が無残にも壊された、その理由がここにあると知っての憤り、そして使命感に帯びたもう一人の僕が反抗する。やるしかない、ここを掘るしかないのだと。その力を吐き出すように、シャベルに全身の体重をかけた。じわじわと先端が地面に埋まっていく。力を込めて、地面をすくい上げた。小さな穴が開いた。だが、これでは駄目だと思った。僕が知りたい真実は、この程度掘っただけでは見つからない。知ることができない。だから、もっと……。もっともっと。
     僕は死に物狂いで掘り進めた。
     地面を、とにかく掘り続けた。
     何が埋まっているかの見当はついていた。だが、それを深く思慮することはなく、ただ一心不乱に、本能のままに、求めるままに掘り続けた。思考する暇はなかった。自分という自分の程度を落ちるまで落とす。音が消え、生理的な音だけが体中を包み上げた。吐き出す息、暑さによる汗が目に染みる。
     桜の花びらが、僕の掘った穴に落ちてくる。
     それをシャベルが切り裂き、地面をえぐる。
     地面は少しずつ柔らかくなり、僕が掻き出す土の量は増える。
     だが、見つからない。
     見つからない、見つからない。
     どれだけ掘っても、どれだけ土を掻き分けても、現れるのは黒々しい土だけだった。
     それでも、ここに『埋まっている』のだ。
     そう、わかっているのに。
     僕はただ夢中で掘り続けていたはずが、それほど穴は大きくならない。なぜだ? どれくらいの量や時間を掘ったかはわからない。だが、それなりに時間は掛けたはずだ。それなのになぜだ? 僕の横にある掻き出して避けて置いた砂の山が、それほど大きくない。なぜなのだ? あれだけ体中の力を使って掘り進めたはずなのに、いつまで経っても兆しが見えない。どれだけ掘っても、それらしきものは出てこない。
     僕はすでに死にそうなほど汗をかき、心臓音が自分でも聞こえるほど苦しい。時折漏れる咳や喘ぎ声。息が詰まり、体が自由に動かない。疲れている? 僕は異常なまでに疲れていた。シャベルを地面にもう一度刺した。その瞬間、お腹から胸、そして喉の辺りを激痛が襲う。僕は喉奥から競りあがる気持ち悪さに耐えかね、手で口を覆い咳き込んだ。桜と月の灯りが照らす、自分の口を覆った手のひら。指の隙間を滴る液体。それが血だと気付くのには、重いまぶたを何度も擦り続けた後だった。
     シャベルを握っていたはずの手はあまりに強く握りすぎたのか、中指が奇妙な方向に曲がり、薬指は皮から骨が飛び出していた。血すら出ていなかった。あまりに掘ることに必死すぎて、自分の手の崩れなど気になっていなかったのか。シャベルの柄を握ろうとするだけで激痛が走る。だが止められなかった。まるでそうせざるを得ないかのような、糸で引かれているかのような不思議な魔力を、桜の根元から感じ続けていたからだ。
     僕は、見つけなければいけないのだ。
     全てを晒し出す様に叫び、地面にシャベルを突き刺した。



    「じゃあな」
     
     S……お前は、僕の一番の親友だったよな。
     あんな別れ方、したくなかった。


     
     まるで憎らしい人を刃物で何度も刺すように、憎らしい人を鈍器で何度も殴打するように。僕はひたすら地面をシャベルで殴り、刺し、砕き、掻き続けた。その度に、誰彼の言葉や顔が頭に浮かぶ。その温かい様相に、僕の狂気は増していく。



    「私、君の事好きだったから!」
     
     Nさん。僕も君の事、好きだったよ。
     なのに、返事もできなかった。



     僕の怒号は、もはや自分の耳にすら聞こえなくなっていた。聞こえるのは、真っ白な空間だけだった。僕には、何も聞こえていなかったのだ。自分の命を燃やしているような気がした。この先にあるのは、死。ただそれだけの闇。しかしそれでもいい。そうさせるだけの理由がある。僕はそれでいい。それでいいから、見つかって欲しい。ただ、そうさせてくれればいいのだ。
     何度も何度も、幾度も幾度も、ひたすらに、地面をえぐる。

     
     もう幾度目かの叫びを上げた時、明らかに土とは違う、柔らかな感覚をシャベルが突き刺した。硬い、だがシャベルの先端を無機質に受け入れる何か。
     見つけた。
     見つけた……。
     僕はシャベルを投げ飛ばし、その部分をまるで大切なものでも扱うように、しゃがんで手のひらを使い土を払った。白い部分が見えた。一瞬で、これは頭蓋骨だとわかった。僕は自分の爪でその白い部分の横辺りをえぐった。少しずつ、少しずつ、見えてくる形。
     僕は声を上げた。



     見つけたのは、Sの首だった。






    「空襲ですか」
     私は、向かい合って座っている土橋さんに問いなおした。あの高校の校舎に現れる幽霊のことで、私には少しばかり気になることがあったのだった。学生の姿の幽霊というから今までこなしてきた依頼のように一人程度かと思ったが、まさか学園全員とは。それを彼女に伝えると、あの近辺で空襲があったらしい。
    「はい。五十年ほど前なのですが……あの学校の生徒職員のほとんどの方が亡くなったそうです」
    「もしかしたら、死体は見つかっていないのでは」
    「お察しの通りです。どうやら被害が甚大であった学校近辺は、死体の捜索などもせず土で埋め立ててしまったといいます」
    「あの校舎は?」
    「あれは空襲の数年後に、埋め立てた土地の上に再建されたものですよ。まあ、ご存知の通り数年前に隣町の高校と合併され、今はもぬけの殻の廃校ですが」
    「なるほど……恐らく目撃される幽霊は、空襲で亡くなった当時のまま、自分が幽霊になったことにも気付かずあの校舎に通い続けているのでしょう」
     学生の姿のまま、教師の姿のまま。
     気付かないまま、学校に通って、永遠に学校として機能していく。
     そんな悲しいことがあっていいのだろうか。
     いいわけが無い。
     全てのものは流れ去り、浄化されるべきだ。
     不慮の死を与えられた人たちには、安らかな眠りについてほしい。
    「……先ほど、ほとんどの方がなくなられたっておっしゃいましたよね。もしかしたら、生存者がいたのではないですか」
    「聞くところによると、一人……たった一人だけ、生き残った方がいらっしゃるそうです」
     私の脳裏に、昨日の光景が過ぎった。
     彼女の肩越しに見えた、二階の窓から見下ろす影。
     あれは……あれは、老人だった。





     目の前で項垂れる老人を、私は静かに見下ろした。
    「……あなたは、ここであった空襲の、唯一の生き残り」
     こんなにも悲しい宣告を、私がしなければならないなんて。
     いろいろと依頼はこなしてきたつもりだったけれど、ここまで悲しい結末を私自身の手で下さなければならなかったのは初めてだ。まさか、生きている人間が、幽霊たちと一緒に学校生活を営んでいたなんて誰が想像できようか。おそらく一番辛いのは、目の前で項垂れている彼であるのに……。
    「あなた以外の全ての人は、幽霊だったのですよ」
     彼は自分を、老人だとは思っていなかった。
     若かりし頃の――かつての級友たちと共にいたあの日あの時の自分だと錯覚したまま通い続けていたのだ。永遠の学校に、昔確かにいた一人の学生として。
     最初に彼が掘り返したのは、ただの頭蓋骨だった。
     しかし、彼は――膝をついて涙を流す老人はその頭蓋骨を見つめ、しきりに誰かの名前を呟き続けていた。それから、ハッと思い出したようにもう一度シャベルを手に取り、桜の木の周辺を掘り出したのだ。土が掘られる度に、現れてくる大量の骨。しかし彼はそれらには見向きもせず、先ほどのように一心不乱に地面を掘り漁った。最後に動きが止まったと思えば、またもう一つ頭骸骨を掘り出したのである。彼は感嘆し声を漏らすと、愛おしそうにそれを抱きしめ、女性の名前を言った。二つの頭骸骨を並べ、彼はそれを座って眺め続けた。


     私たちの間を、風が撫でた。
     ただ『彼ら』を見つめるだけで、何もいえなかった。
     彼は、いつまでも、偽りの中にいたのだから。
     私には、彼に掛けていい言葉がわからない。
    「……ごめんなさい。あなたには、辛い現実かもしれません。でも――」
     老人は、ゆっくりと顔を上げた。
     見下ろす私と、見上げる老人。
     彼は唇を震わせて、言った。

    「……いいんだ、ありがとう」
     
     そこで彼は、そのままの恰好で、静かに息を引き取った。

     



     朝になって、桜を見上げていると、土橋さんがやってきた。生温い、しかしそれでいて爽やかな風が吹いた。つぼみすらなく寂しげな桜の木は風に揺れ、ざわめきもない。校庭の砂を巻き上げる、囁くような音が辺りを包むだけだった。
    「おはようございます」
     彼女は私に近づくと、丁寧に挨拶をした。「おはようございます」と私も返す。土橋さんは私の言葉を聞くなり、怪訝な顔をして私に尋ねた。
    「……あの、どうしてそんなに泥だらけなんですか?」
    「えっ?」
     私は自分の体を見た。手だけではなく、着ていた高校の制服まで泥に汚れていた。簡単には落ちそうにない、黒い汚れがそこかしこにしっかり染みている。今まで夜だったから気付かなかったのか……こんな恰好を人に見られてしまったことに、少しばかり恥を覚えた。
    「何をされていたんですか?」
     彼女は私の横に並び、先ほどの私のように、枯れた桜を見つめながら問うた。
     私は、「幽霊を、鎮めてました」とだけ答えた。

     
     頭蓋骨を二つ掘り当てた老人は、その場で亡くなった。
     私は彼が使っていたシャベルを手に取り、彼が掘り返した『二人』、彼、そして掘り出されたたくさんの骨を、桜の下に埋めた。そのために夜を全て使い切ったのだった。なぜあの学校が、永遠の学校として機能していたのか。それはきっと、この老人と、この老人の愛する人が再会するのを待ち望んでいたからなんじゃないかって、私は思ったのだ。
     だから、眠るときは、一緒のほうがいい。
     私は、彼が大事に見つけた頭蓋骨を、彼の遺体に並べて、そっと土を被せた。
     ……おやすみなさい、と。


     私の今回の依頼は、終わった。






     私は、花のない桜を見上げた。
     


     全てのものは流れ去る。
     彼と『彼ら』はそれに気付かず、いつまでも永遠にいた。
     それでも、『彼』は、幸せだったのだろう。
     幽霊でも、偽りでも、幻でも。
     自分が確かにいた過去の情景に身を置くことは。自分の肉体を精神が凌駕し、自分を学生だと思い続けて、幽霊たちと交流したことは。ただ楽しく、仲間たちと共に過ごした記憶に想いを馳せることは。そして、級友たちの死を知って、自分も同じ場所にいけると悟ったことは。
     彼は、いいんだと言った。
     それだけで、十分だったのだ。
     悲しい人。
     でもそれ以上に、大切だったものを抱きしめて、確かに幸せなひとときがあった人。



     彼の死に顔の微笑みを、私は覚えている。
     あなたの死を、あなたたちの死を。
     私はずっと、憶えている。


    「おやすみなさい」


     いつかの死、いつかの生を。
     静かに受け入れる、ただそれだけの眠りを。

     私はいつまでも憶えている。








    (終)

    メンテ
    千代に八千代に ( No.123 )
       
    日時: 2012/04/07 16:34
    名前: 白鳥 美李亞◆R8IcPdfslw ID:0XGMb2lw

    「シェーラ」
     愛する妻の名を呼び、庭先に広がる桃色の世界の中を歩いていく。花の香りが鼻孔をくすぐり、新緑の大地を踏みしめる音と感触が、自分が生きているという実感を与える。妻と共に生き、将来を誓い合ってからいったい幾年が過ぎたのだろうか。二人の子供はすでに独立し、残された私達は、残りの余生を二人で静かに過ごそうと誓った。戦で私がいなかった時間を、不幸の倍の幸せでお前を幸せにしよう、心の中でそう誓って。
    「あなた」
     妻の優しい笑みが、そこにあった。
    「またこの季節が訪れましたね」
    「あれからもう数十年と経つのか」
    「いやだわ、あれからまだ六年しか経っていないじゃありませんか」
     そうか、と妻と共にくすりと笑う。六年。それは私が軍人として幕を下ろした時。それは私がこれ以上人を殺めないと天に誓った時。軍師として、軍隊の指揮を行うという事は、軍人としては栄えある事だとしても、人を殺め、数々の勲章や称号を授与されたとしても……妻と共に生きる、これ以上の幸せを味わったことはないだろう。長年連れ添ってきた妻にはたくさん苦労をかけた。そして苦しませてきた。これで妻と本当の幸せが送れる。そう思いながら私は妻の手を握った。生と死の隣り合わせの人生で、裕福とはいえない生活を支えてくれた妻の手は、あの若かった頃に見た手とは違い、すっかり老いてしまった。その手は、皮と、あとは薄く肉がついているだけのように見え、指は骨だけがしっかり残っていると錯覚してしまうほどほっそりとしていた。花びらが、ひしと重ね合った自分達の手に舞い降りる。
    「この桜の木……」
    「ん?」
    「この桜の木の下で、あなたは私に契りを交わしてくださったわ」
     ああ、そうだなと、妻の言葉に頷く。この季節だった。妻と共に人生を歩もうと誓ったのは。あの時はまだ女性との交流が未熟で、女性が喜ぶようなものすら知らずに過ごしてきた私は、軍服に身を包み、手持ちのものがなかったから桜の木の枝を折って作ったブーケを両手に、妻に告白するという何とも周囲が呆れるような方法で意気揚々と妻の元に向かった。周囲が私を嘲りながら見ている中、何とその告白を妻は受け入れてしまったのだ。それには周囲よりも、私が驚いてしまった。まさか不器用な自分の告白が、妻に受け入れられてしまうなんて、夢にも思っていなかったからだ。それを不思議に思って数年経ったある日、私は妻に訊ねた。妻はこう答えた。「私は、不器用でも何とかしてそれをしっかり伝えようとする勇気をお持ちのあなたに惹かれたのですよ」、と。
     ああいう頃もあったのだなと、私は再び笑った。妻は昔とは変わらない笑みで私に微笑みかける。私は桜の木を見て、妻の名を呼ぶ。はらりとまた花びらが舞い、それが妻の白髪が混じった鳶色の髪に触れたとき、私は妻にこう話を持ちかけた。
    「精霊様にお祈りでもしようか」
     やわらかな笑みを浮かべたまま、妻は答える。
    「何をおっしゃいますか。精霊なんてこの世界に存在しないとおっしゃったのはあなたじゃないですか」
    「この年になると、精霊の存在がだんだん自分の中では本当になってきてね」
     本当のところ、私はある事がきっかけで前から精霊の存在を信じていた。詳しく言えば、実際この目で見たのだ。

     あれは息子と娘がまだ年五つと満たない頃の事だった。そのときはまだ精霊の存在を信じていたわけではなかったのを思い出す。古来から精霊が住むとされる森に、三人で遊びに行って帰ろうとした矢先、息子が私の護身用の剣をいじって遊んでいたのを取り上げようとしたとき、息子が手を滑らせ、更に息子が足を滑らせたものだから剣と共に私にのしかかり、その勢いで剣が私の脇腹を貫いたのだ。脇腹を貫いたとはいえ、激痛ということには変わりなく、私は意識を失ってしまった。息子は私の元で泣きつき、娘にいたってはまだ片言ながら回復魔法を唱えている。薄れゆく意識の中で、私はそれだけを確認できた。どれくらい時が経ったのだろうか。意識が戻った時には日はとうに傾き、泣きついて私から離れなかった息子と、魔法を詠唱していたはずの娘は何事もなかったかのように眠っていた。よほど疲れたのだろうか、私はそう思い、娘の髪に手を触れ、貫かれた脇腹を見て思った。
     傷跡がない。
     娘の詠唱がうまくいったのだろうか。にしては綺麗に跡が消えている。本当に娘が唱えた魔法のおかげなのだろうか。そう思って辺りを見回したとき、私の脇腹に触れる感触がした。子供達の手かと思ったが、子供達の手にしては大きい。ふと振り替えると、そこには美しい妙齢の女性が座っていた。
     ――お気づきになられましたか。
     新緑の、艶やかな長い髪がとても似合う女性だったことを覚えている。白い肌をなぞるように髪が晒されていて、細い髪が、夕焼けの空に踊るようになびいていた。
     ――あなたは……?
     ――私はアリシア。この森に住むニンフという種類の精霊です。
     精霊、という言葉を疑ってかかったのは、私がまだ精霊の存在を信じていなかったからであろう。だが、精霊と言われれば納得がいく風貌であったのも確かである。人間とは思えない、妻がいつも身に纏っている、というより庶民が普段身につけている着衣よりも露出が多い服を身につけていたから、でもあろう。だが、それは他人から聞いた情報を元にした自分の思い込みであって、真実とはいえない。精霊は露出が多いものを好む、など友人は言っていたが、はたしてそれが定かなのかは、精霊しか知らないことであるから。
     ――この傷はあなたが治したのか?
     ――はい。そうでもしないとあなたが死んでしまうところだったので。
     その精霊はおっとりとした口調で話すが、信用しがたい感じはしなかった。だがそれ以前に、本当に精霊なのかと疑ってしまうのが先に表れていて、私は再度アリシアに訊ねた。
     ――あなたは本当に精霊なのか?
     ――はい。
     ――信じられないな。
     ――信じられないでしょう。
     ――精霊など本当にいるのか。
     ――精霊がいなければ、この世の万物は形をなすことはなく、幾年経っても無形のままでしょう。
     という会話をしたのを覚えている。アリシアは息子の頬を撫で、柔らかな口調で話していた。ふと顔を上げると、もうすでに暗闇が空を支配していた。息子と娘は静かに寝息をたてて眠っているが、早く戻らないと妻が心配しているだろう。早く帰らなければと、私が息子と娘を起こさないように静かに立ち上がると、アリシアはそれを制するようにして、私の服の袖口を握った。
     ――私がお送りします。どうぞそのままで。
     子供達も眠っているし、体も満足に動けないのでアリシアに頼んだ。星々が燦々と、時間が経つほど一層輝きを増す中、アリシアは静かに私を見て、こう言った。
     ――あなたは、ローザンブルク元帥ですね。
     あの時はその言葉を聞いて驚くしかなかった。
     ――なぜ私の名を知っている?
     だから私はそう訊ねたのだろうと思う。
     ――私はあなたのお子様の祈りで現れたのですから。
     アリシアが言った事はこうだ。精霊は強い祈りに反応し、祈った人間の元に現れるのだという。アリシアが反応した強い祈りの元を辿って見つけたのが、私の子供達なのだと。
     ――風の便りでも、ちゃんとあなたのことを伺っていますのよ。なんとその人は、人間には珍しい和解の道を探っているんですって。
     くすくすと笑い出すアリシアを見て、私は、はっとなった。あの時、自分が可笑しな道を歩んでいるのだなと思っていたのかもしれない。だが、アリシアのその一言は決して蔑みの意味を込めているように感じなかった。むしろ自分の気持ちを察してくれているような、そんな感じがしていた。だから、あの時正直な気持ちをアリシアに話すことが出来たのかもしれない。妻には今まで苦労ばかりをかけ、幸福と呼べる時間を与えることができなかった自分の愚かさと、内心を述べ、抱えていた気持ちが消え去った安堵感。あの時私は初めて、救済されたような感覚を味わうことが出来たのだろうと思った。気づいたら、私は何度もアリシアに礼を述べていたのだから。
     ――私は何もしていませんのに。さあ、準備ができましたわ……。

     不思議なことに、この場面までしか覚えていない。我ながら細々とよく覚えているなと思いながらも、半ばあれは嘘だったと、私の中で処理されていたようだ。処理されていたおかげで私は今に至るまで、ずっと忘れていたのだから。そして驚いたことに、息子と娘は事の成り行きを覚えていないと言うのだ。思い出そうとしても思い出せない、とも言う。結果的に、精霊を見たどころか私が傷を負った事すら、彼らは忘れていた。
     以上が、私が覚えている出来事の全てだ。全て、と呼ぶには、記憶の断片が全て揃っていないが、私はこれが嘘だと思えない。私は確かにあの時、この目で見て、そしてこの身で感じたのだから。もちろん精霊などいないと頑なに否定していたもので、周囲にはおろか妻には言っていない。
     あれから……もう時は過ぎた。残された短い時間で、私は妻に何をしてあげられるのだろうか。移り変わりゆく季節の中で、私は幾度も考えた。同じように変わりゆくこの桜の木の下で、何度も、何度も。
    「ねえ、あなた、私……あなたと過ごせて幸せでした」
     そんな妻から出た言葉に私は驚いた。
    「何故だ……? 私はお前に決して良いという時間と人生を与えることができなかったのに」
    「だって、夫に全力を尽くせる時間と人生を与えてくださったのはあなたじゃないですか。高貴な身に生まれ、苦労をすることなく育った私に、あなたは民と同じように苦労をして過ごせる日々を与えてくれた。苦労せずに生きた私に、家族を営む役割を与えてくださったのも、あなたじゃないですか」
    「しかし……」
    「……私は幸せでした。夫に尽くせる喜び、家族に囲まれて私を必要としてくれた幸福を、例え別の男性と契りを交わしたとしても、それすら知らずに一生を終えるであろう私にあなたは全てを教えてくださった。だから……」
     一呼吸間を置いて妻は言った。
    「だから、私はあなたと家族同然に過ごした桜の木になりたいのです。あなたが幸せなひとときを与えてくれた、その幸せと同じ時間を生きた、この桜の木のように、私は人々に幸せを刻む桜の木になりたいのです」
     そう言って、一本の桜の木に触れた。その木は、私達が結婚したあとに妻と共に植えた小さな苗木が成長したものだ。あれから見違えるほど大きく成長し、背丈はまだ他の桜の木と比べて小さいが、他の桜の木には劣らないような花を咲かせ、若さを強調するように枝をしげらせていた。
    「シェーラ」
    「はい」
    「ならば、それを精霊様にお願いしよう。私達が幸せだったあの時を象徴するように、美しく凛とした花を咲かせよう」
     私には、迷いはなかった。妻と共に桜の木になろう。そして、同じ分の幸せを人々に与えよう。そう私は誓った。
    「精霊様に、お願いするのですか?」
    「ああ。私がいなかった時間の倍を、お前と共に生きよう」
     妻の目尻には、涙が浮かんでいた。短い時間を、こうして二人で静かに暮らすことができる。私はそれ以上の幸福を感じていた。今度は、妻を幸せにしよう。たとえこの身が滅びようとも、妻に全てを捧げよう。そして、妻の傍を片時も離れることなく、ずっと傍にいよう。目を閉じ、妻の手を握り、強く祈った。私達を桜の木にしてほしい、と。
     目を開けたその時、私は夢を見ているような錯覚にとらわれた。
    「その願い、確かに承りました」
     ああ、あの時と変わらない姿。
    「人々に永久の幸せを与え続ける、その役目をあなた方二人に託しましょう」
     ――アリシア。
     そこには、あの時と全く変わっていないアリシアがいた。
    「ありがとうございます、精霊様」
     私はアリシアに恭しく言った。アリシアは私を見て、にっこりと微笑むと、その白い手で妻と私の手をとった。
    「三日の時が経てば、あなた方はその役目を担います。それまで、あなた方のお好きなように時間をお過ごしになられるとよろしいでしょう」
    「ありがとうございます、精霊様……」
     私と同じ言葉を繰り返し、妻は静かに涙をこぼした。

     私達は、息子と娘宛に、遺書に似た置き手紙を書いた。私達は桜の木になって見守っている。だが、離れていてもずっと二人を見守っている、だから安心して生活してほしい、と。そして残された二日間は妻と旅行へ行った。妻が行きたかった所へ行き、妻が食べたかった料理も食べた。そうして最後の一日は、家でのんびり過ごすことにした。庭先で紅茶をたしなみ、桜舞い散る世界の中で静かにその時を待っていた。
    「静かですね」
     ティーカップの中の紅茶の波紋を見ながら妻が小さく呟いた。
    「ああ」
     そして私は、妻が焼いた焼き菓子を口の中で、いつもより長い時間をかけて味わいながら答えた。
    「あなた」
    「ん?」
    「一日というものは、とても長いのですね」
     本当に一日というのは長かった。こうして妻が淹れる紅茶を飲みながら焼き菓子を味わい、長年変わらずに桜の花を眺めているのに、今日という一日は、とても長く感じられた。あの桜の木の下で、私は妻と契りを交わした。あの桜の木の下で、妻と共に桜の花を眺めていた。あの桜の木の下で、私は妻に誓った。もう、私は妻に幸せを与えてもらった。今度は、私の番だ。私が妻に、そして人に幸せを与えよう。花は時に不幸を忘れ去らせる力がある。その美しさは、人々の心に残ってゆくだろう。花は幸せをもたらす。そう教えてくれたのは妻と、そしてアリシアだった。アリシアが最後に、私に話した事を思い出したのだ。
     ――花は美しきもの。人の心のように繊細で、儚きもの。そして同時に、善悪に染まりやすい人の心のように様々な色に染まっていくもの。花に赤く染まった水を与えていけば赤い花が咲きますし、青く染まった水を与えていけば青い花が咲きます。けれど、その美しさだけは決して失われることはありません。自然を失い、その中で花が咲いたとしても、美しい花を咲かせる。そんな命の輝きを、人々の心に留め、人々の心を幸せな気持ちにさせます。形を永久にとどめることが出来ずとも、その儚さの間に輝き続ける美しさはとどめることはできるのですから。桜の木だって同じこと。あの美しさは花から葉となり、蕾となり、そしてまた花となって幸せを届けるのですから……。
     その通りだな、と思う。私は幾度となく幸せを与えられた。この季節、我が家へ戻るといつも妻と桜の木に幸せを与えられて、私はいつも幸せな気持ちになっていた。妻との思い出の桜の木。幸せを運ぶ桜の木。雨風に挫けず、私達の傍で幸せを与え続けてくれた桜の木。言葉では表せられないが、そんな気持ちがたくさんつまっている桜の木と、傍に植えた、見間違えるほど大きく成長したあの時の苗木。小さくても、その姿は勇ましいものである。私達も、その傍で花を咲かせよう。そして、妻と添い遂げよう。静かに妻の顔を見た。妻も、静かに私の顔を見た。
    「シェーラ」
    「はい」
    「愛してるよ」
     それは紛れもなく、本心だった。人として妻に言う、最後の告白だった。
    「私もですよ、あなた」
     妻は小さく頷き、答えた。私達は立ち上がり、二人で植えた苗木を間に挟むようにして立った。暖かい春風が、私達を包む。それは私が幸せを実感した瞬間でもあった。
    「あら……?」
     変化が訪れたのは、それから一時もしない時だった。妻の足元が褐色に染まっていき、次第にそれは木の根本となっていった。
    「もう時間が来たんだね」
    「ええ」
     妻が微笑んで答えた。これが妻の最後の笑顔かと思うと、どこか悲しく感じる。私は声の限りに、妻に言った。
    「シェーラ! 私は桜の木となろうと、君を愛している! 私は人々だけじゃなく、今までそばで支えてくれた君にも幸せを届けよう!」
    「私もあなたを愛しています! たとえ桜の木になったとしても、私はあなたを支え続けます!」
     妻の頬には、人として最後に流す涙が伝っていた。胴体が幹となり、胸が侵蝕されていくその時、私はほぼ同時に、向かいの愛する者に手を伸ばした。指が絡み合って枝となり、そして顔が蝕まれようとする瞬間、私と妻は同時に言った。
    「これからも、よろしく」
    「これからも、よろしくおねがいします」

    「愛する者と運命を共に、か……」
     苗木の左右に寄り添うようにして立っている桜の木を見ながら、女は呟いた。
    「それが人が形作った愛なのね」
     桜の花は頷くように風に揺れた。くすりと女は笑うと、腰掛けていた枝から立ち上がり、別の枝に移って、小さく呟いた。
    「さようなら、永久に、そしてその誓いと愛を大切に幸せを運び続けてね」
     桜の木に背を向けると、ふわふわと桃色の世界を浮かびながら姿を消した。かつて人であった桜の木は、女を惜しむかのように枝をゆらゆらと揺らせた。

     その後、その桜の木は幸せを運ぶ木として、世界中に幸せを送り続けているという。
    メンテ
    「バーチャル」 ( No.124 )
       
    日時: 2012/04/15 11:05
    名前: ナルガEX ID:ToOw2koo

    「バーチャル」



    俺はこの世界に降り立って何年立つだろうか。

    草原に座り、桜を眺めながらビールを飲んだ。

    握っていた手を開くと風が舞込み、花びらが渦の様に回る。

    「この現象も偽り。この風景も偽り。この世界も偽りか………。」

    そう言ってまたビールを飲んだ。

    この世界……いや、この星の全ては嘘で出来たものだった。

    そう。それは、26年前だった………。

    ◆◆◆

    「バーチャルプラネット!?」

    「そうだ、近年になって発見された未開の星だ。」
    そう言うのは俺の上司

    「仮想の惑星……。なんかのテストとかじゃなくて?」

    「いや、今度のは実在するやつだ。」

    上司の話によると、この星から5000光年離れた気体状の惑星、ちょうど太陽の様星らしい。

    その星に決まった形状は無く、常に変化しているらしい。
    霧状になったり、楕円形になったり、半円形になったりと形は様々。惑星に降り立っても同じで、風景も幻想的になったり、近代的になったりと少し不思議な惑星らしい。

    「チケットはとってある。君は惑星観察機の乗組員と共に惑星に降りてもらう。いいな?」

    「……はい。」
    俺に選択の余地はなかった。どうせ、もう少しでもクビになるんだから。

    俺は何をやっても今まで上手く行った試しがない。

    だけど、例の惑星には魅力を感じた。

    そこには、俺の居場所があるかもしれないと………。

    ◆◆◆

    もしかしたら、この星も地球もさほど変わらないのかもしれない。

    自分を守るため、他人を傷つけないため、周りから良く思われるため、人々は皆必ず自分に綺麗な偽りを被って生きている。

    汚いものは地下の奥深くにほっぽり投げ、綺麗なものはより磨き上げる。今の国はみんなこんなことばっかりやっていて、汚いものの掃除すらしようとしない。

    昔のことわざで「嘘つきは泥棒の始まり」と言う物があるが、それを誤魔化すように「嘘も方便」と言うものもある。

    あまりこの星と変わらない。

    バーチャルプラネットには雨が降らない。

    雨と言う薄暗いイメージを表に出さない。

    そして、食物連鎖がこの星では確立してない。

    星の動物は、幻想的な生き物が多数いるが、捕食をしている姿は確認されていない。

    それに、風景が綺麗なものしか出てこない。

    これには正直、嫌気がさした。
    しかも、それらのものに触れようとすると消えてしまう。
    偽りとはそんなものだ。

    俺は高台に一本の桜の木を植えた。

    物であるれていそうで何もないこの星に、一つの事実というものを植えた。

    時がすぎて、地球に帰還する日に桜の木は満開になった。

    俺は木に触れた。
    これは消えない。

    俺は座り込み、ビールを開けた。

    ◆◆◆

    「もう船に乗り込め。帰るぞ!」

    振り返ると上司が立っていた。

    俺はしばらく黙った。

    「………俺は………ここに残る。」
    それは俺の一つの結論だった。

    それは、事実から逃れることだったのかもしれないが、ここで過ごしていると何か答えが見出せそうな気がした。

    「…………そうか……お前ならそう言うと思ったよ。」

    俺は上司の言葉に少し疑問を感じたが、だいたい理解した。

    「俺たちは先に帰る。お前はここでじっくり考えて、お前自身を見つけとけ。来年になったらまた迎えにくる。」

    そう言って上司は俺のもとから離れて行った。

    俺はあの人が上司で良かったと思っている。

    きっと、帰ったら部下を置いてきたという理由でクビになってるだろう。

    座ってると動物がよってくる。

    俺は頭を撫でようとするが、触ると消えてしまう。








    やはり、ここが俺の居場所だった。






    メンテ
    さくらのいろは ( No.125 )
       
    日時: 2012/04/12 00:08
    名前: 空人 ID:qyrunHIY

    「ねぇ、亮くん。どうして貴方は毎日ここに来るの?」
    「えっ?」
    「だって、ここは亮くんの教室からは遠いし、毎日変わり映えしない風景しかないでしょう?」

     小首を傾げ、長めに整えられた前髪から見え隠れしている大きな瞳で、八重先輩は俺の目を覗き込むように見つめてくる。それだけで、俺の心臓は全力疾走した後のように酸素を求め始めるのだけれど、彼女の質問はそれ以上の過酷を強いる。
     彼女が言うように、ここは俺のクラスがある校舎の東側とはほぼ反対の西側、しかも階まで違う場所にある。放課後の、しかも上級生が往来している階層に毎日のように通ってきているのでは、疑問に思わないほうがどうかしている。
     その答えは自分でも明確に理解できている。ここに来る理由なんて一つしかない。彼女に、会いたいからだ。

    「あっ、え……と。それは、ですね」

     しかし、それをストレートに伝えてしまって良いのだろうか。先輩と出会ってからまだ一ヶ月も経っていない。そんな俺から告白まがいの、というかそれは告白と言って良いであろう言葉を聞いても、彼女を困らせてしまうだけなのではないだろうか。とぼけてしまうのは簡単だ。この教室からよく見える校庭の桜を見に来ているのだと、言葉を濁せば良い。だけど――。
     西日差す教室には沈黙の風が流れ、開いた窓から散り舞う桜のはなびらは彼女の艶やかな黒髪に身を寄せる。小さな春の訪れに誘われるように手を伸ばせば、こちらを見上げる先輩の表情がはっきりと眼に飛び込んでくる。
     こぼれそうに潤う瞳。春の彩に染められた頬。小さな唇はわずかに振るえ。悩ましげに寄せる眉はまるで、俺の答えに期待しているような、そんな風に思えて。
     言葉を飲み込むこともままならず、美麗に飾る暇も無く、ただ口から吐き出した。

    「貴方に、会いに。貴方が好きだからです。先輩」

     血の逆流は、言い終えてから感じられた。込み上げる熱は脳を沸かせ、思考をも止める。
     再び訪れた沈黙が長い。そう感じてしまうのは、血流が俺の脳を活性化させているからなのか、それともうつむいた先輩が、息を飲み込んでいるからなのか。
     黒髪がひとふさ流れ落ちるのを掬い取ろうとして、手を止める。

    「名前……」
    「え?」

     聞き返した声が震えていたのは、彼女の声もまた震えていたからで。

    「名前で呼んでくれないの?」
    「八重……先輩?」
    「うん」

     呼ばれた自分の名を愛しむように抱きしめて、八重先輩は満開の笑みで伸ばしかけていた俺の手を包み込んだ。



     彼女との出会いは、まだ俺が入学したてで校舎内の配置ですらろくに把握していない頃の事だった。
     その日、一緒に帰ろうと約束したくせに部活のミーティングにだけ出るから待っていろなどと横暴な事をぬかした幼馴染のおかげで、俺はぶらぶらと校舎内を徘徊していた。どこかの部活動を見学しても良かったのだが、幼馴染のようにこれという情熱を傾けられるものは持っていなかった為、どこか腰を落ち着けられる場所を探して彷徨う事になってしまったのだ。
     校舎内には運動部の元気な声がどことなしに響いている。周りを見回せば俺と同じのようにさすらう影は無く、襲い来るのは酷い焦燥感と、孤独感。
     だからかも知れない。
     俺は、彼女を見つけた。
     クラスの縮小で置き去りにされた教室は、西日に燃やされていて。頬をかすめた花びらが、桜だとわからないほど一面の橙。もしも彼女が声を聞かせてくれなかったなら、俺は誰かがそこに居る事にすら気が付かなかっただろう。

    「誰?」

     振り向けばたなびく長い髪。

    「君は……新入生かな?」
    「は、はい」

     鼻にかかった甘い声。返事をするのがやっとの俺に、返される優しい笑顔。立ち振る舞いにもどこか上品さを感じられるこの学校の先輩らしきその女性は、高校に上がりたての自分よりも背が低く、制服を着ていなければ桜の精霊だと思っていたに違いない。

    「君もお花見しに来たの?」

     息を飲み込むのを止められなかった。小さく首を傾げる仕草は可愛らしく、妙に型にはまっていて。俺はこの学校に入学できた事を神に感謝した。
     その日以来、俺は放課後の空き教室に足しげく通いつめた。八重先輩はこの学校の行事や出来事を面白おかしく話してくれる。俺は専ら聞き役だったが、話し好きの彼女とは良く馬が合った。時折訪れる沈黙の時間すら心地よく感じられた。話をする時の輝くような顔に、窓の外にある桜をうっとりと眺める横顔に、自分が好意を寄せているのだと気付くのに、それほどの時間はかからなかった。



     そんな可憐な先輩が、いまや俺の彼女なのである。だから授業中にニヤニヤと思い出し笑いをしていても、頭を叩かれるような謂れは無いはずだ。

    「痛いぞ、遊羽」
    「亮が気持ち悪い顔してるのが悪い」

     どうだろう、この横暴な言い草は。しかしこれが腐れ縁の極みこと、我が幼馴染様なのである。
     叩かれた部分を撫でつけながら視線を上げると、ショートカットを揺らし、顔をそらしたまま、幼馴染の眉はつり上がる。

    「昨日の放課後からニヤニヤしっぱなしだぞお前。今度はいったい何をやらかしたんだ?」

     彼女の中では、俺が何かをやらかした事は決定事項らしい。しかし、そんな心外な言葉をも許容して余りある心の広さが今の俺にはあるのである。

    「だいたいなんで部活あがりの私と下校時間が重なるんだよ。毎日放課後に何をやっているんだ」
    「随分と信用が無いんだな。俺は何もやってないし、これからやるつもりも無い。放課後やっていたのは……そうだな、あえて言うならお花見、かな。あと顔は生まれつきだ」

     優羽が言ったことを一つ一つ訂正していくと、瞬きを数回繰り返したあと、彼女の眉は壮大に歪む。

    「一人でお花見かよ。さみしい奴だ」
    「一人じゃねえよ。か、彼女と一緒だし……」

     言った後で顔が熱くなる。あらためて口に出すとなかなか恥ずかしいものだ。
     しかし、言及する台詞が返ってくると思っていた幼馴染の口は、続く言葉をつむげないまま固まっている。

    「……本当なのか?」
    「え? ああ、嘘じゃねえよ。昨日告白して。ニヤニヤしていたとしたら、そのせいだ。許せ」
    「チッ」

     舌打ちで返事をした幼馴染は苦々しい表情で再び視線をそらす。せめて形だけでも祝ってくれたら良いのにさ。

    「後で、写メ寄こしな。そしたら、納得してやる。そしたら……」

     なんともおさまりの悪い台詞でその場をしめた優羽は、振り向きもせずに教室を後にした。
     あんな調子では、彼女に恋人が出来るのは当分先のことだろう。幼馴染の未来を案じ、溜め息を落とした。



    「そんなわけで、写真を取らせてください」

     携帯を片手に空き教室へ飛び込んだ俺は、咲き乱れる桜を背景に振り向く先輩を写し取る。許可を得ずにシャッターを切ったことに苦笑いする先輩が俺の携帯に納まっている。残念ながら少し逆光気味だったが。

    「それは良いんだけど、亮くんそれ、変なことに使わないよね?」

     八重先輩は可愛らしい笑顔を浮かべたまま俺の素行を疑う。もう一度携帯を構え構図を模索しながら、俺はどうにか信用を取り戻させようと言葉を探すことにした。

    「変なことって、どんな事ですか?」
    「え?」

     質問に質問を重ねると、先輩は少し考えるような仕草をした後に、視線を外し頬を赤らめる。

    「そ、そんな事、言えないよ」
    「……どんな事考えたんすか。本当に」

     紅く染まったまま、あははと誤魔化すように笑う先輩は、俺が思っている以上に耳が達者らしい。

    「まあ、良いですけどね。何もしませんよ。友達が先輩を見たいと言うので、撮らせてもらったんですよ。……えと、写真にキスくらいはするかも知れませんが」

     大事な恋人の写真だ、それくらいしても罰は当たらないだろう。もちろん他人に見られるようなところでやるつもりも性癖もない。
     俺の言葉を聞いて、先輩は携帯のレンズに近寄ってくる。まだほんのりと桜色の頬が可愛らしく、思わず撮影ボタンを押した。携帯をどけるとその顔は至近距離にあって、鼓動は跳ねる。

    「本物がここに居るのに、写真にしかしないの?」
    「え、あっ」

     そんな大胆なお誘いに、乗らない理由も見つからなかった。先輩のふっくらとした唇に自分のを重ねる。触れるだけの口付けは、互いのぬくもりで熱くなり、離れてもなお残る。目を開ければそこには潤んだ瞳があって、おれは思わずその細い体を抱きしめた。

    「亮く……んん」

     名前をつむごうとする唇をもう一度ふさぐ。もっと強く、もっと深く彼女を感じたくて奥へ。存分に味わい、離した後も溢れ出す想いを首筋へとあてた。零れ落ちる小さな悲鳴に、俺の情熱は昂っていく。仰ぎ見た先輩の表情に、思わぬところから出た声に対する驚きと羞恥が見て取れる。彼女がうつむくとぶつかる額。互いの熱を交換するように。三度目のキスは、先輩の方から押し当てられた。



     なんだか夢心地のまま、今日は授業にも集中できないでいた。昨日の先輩を思い出すと頭がボーっとして、幼馴染に叩かれても動じないほどだ。

    「大丈夫か、お前。顔が変だぞ?」
    「優羽か……」

     俺の挙動を不審に思ったのだろう、仁王立ちの幼馴染は心配そうに眉を寄せる。しかしそれならば頭を叩いたのは何故なのかと問いたい。

    「何でもないよ、ちょっと疲れが出ただけさ。あと顔は生まれつきだ」

     本当の原因を話す訳にもいかず、適当にありがちな理由をつける。優羽もそれほど気にしていないらしく、すぐに話題を変えてきた。

    「まあ、いいや。それよりお前、昨日の写メ。あれは何なんだ」
    「何って、俺の彼女だよ。可愛いだろ?」
    「可愛いって言うか、まぁ綺麗だとは思うけど。これがお前のお花見の相手ってことだよな?」
    「ん? ああ、そうだな」

     俺が可愛い恋人を得た事が信じられないのだろうが、それにしても年上に対してちょっと敬意が足りていないんじゃないのだろうか。まあそれがコイツの良い所でもあるのだが。

    「あんまり言いふらすなよ。二人の時間を邪魔されたくないしな」
    「……ま、お前が変態なのはわかっていたけどな」

     酷い言い草だ。そりゃあ昨日の自分の行動は、少し行き過ぎたところはあったかも知れないが。――と、昨日の先輩を今思い出すのは、いろいろな事がいろいろとマズイ。湧き出る青春の奔流を押さえ込むため、俺は反論をあきらめて無言を貫く事にした。豪胆な幼馴染は俺の口答えなんて期待すらしていなかったようだがな。

    「なぁなぁ、そんなに綺麗なら、私にも見せてくれよ。その、お前の恋人? とやらをさ」
    「疑問系はやめろよ。あと、ついさっき邪魔するなと言ったはずだぞ」
    「かたい事言うなよ。ちょっと見たらすぐに帰るって」

     優羽は何が楽しいのか、ニヤニヤと笑っている。こんな面白半分の奴を愛しの先輩に会わせたくはないが、今断っても隠れて覗きに来るに違いない。
     渋々了承を伝える俺に、優羽は嬉しそうな笑顔で答えた。



    「こんにちは、八重先輩」

     いつもの場所に立ち、いつもの笑顔で振り向く八重先輩。薄紅に彩られたその姿は儚くも可憐で。

    「今日も素敵ですね」

     お世辞なんかじゃない素直な気持ちでそう伝えると、はにかんだ様にクスクスと肩を揺する。風に揺れる髪の毛