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[742] 雨、降る日のバスケ
   
日時: 2013/11/14 00:09
名前: 創魔 ID:eNpJlsL6

なぜバスケをやるのかと聞かれた。

なぜバスケが強いのかと聞かれた。

 バスケよりも好きなことがあるから、それを忘れるためにバスケを始めた。

逃げるために始めたバスケから、僕は逃げられなくなった。


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Re: 雨、降る日のバスケ ( No.23 )
   
日時: 2013/11/25 15:14
名前: 創魔 ID:gBtzJEE2

「あーぁ…、あの怪力女のマッサージのせいで…余計に体中がイテェ…。
つか…マジ死ぬかと思った…。二度と受けねーぞ、あんな全身足つぼマッサージみたいなモン…」

自分の教室に戻った藍堂は、ぐったりと机に突っ伏して青筋を立てていた。
靴の中はテーピングだらけでまともに動かせもしない。まるで石のように固定され、ギブスかと思った。
しかし、想像以上に足のだるさはなくなっていて、覚悟していた激痛も全く怒らない。痙攣も収まっていた。

(…すげーな、あの女…。あれだけは…、マジで本物だ…)

処置も、対策も、分析もなにもかも一つも間違っていない。放課後の練習には出られるとまで言ってのけた。
天才と言うのは、隠れた所に居るものだ。有名校や、光の当たるところだけにではなく。…こういうところにも。
その時、不意に休み時間のクラスの戸がノックされる音がしたかと思うと、伏して寝ていた藍堂の背中が誰かに揺すられた。
顔を上げると、クラスメイトが顔を覗き込んでいる。「誰か訪ねてきてるけど…」と指を差され、扉を見た。
教室の戸口に、どこかで見た顔が立っているのが見えた。アマ公が、クラスを訪ねて待っていた。




「すいませんでした…」
「……。」

ポツリ、と呟かれた言葉に、思わず藍堂の剣幕が曇る。
廊下に出た2人は始終黙りっぱなしで、藍堂は壁に寄りかかって助けられたまま話を聞いている。
その、表情にはほとんど出ていないくせに、見るからに気落ちした様が伝わってくる顔に、舌を打つ。

「…んで俺が頼み込んだことに、お前がわざわざ謝りにくんだよ。筋違いだっつの…」

「いえ、正直…他の人にとってこんなに負担になるトレーニングだと思って無くて…。
分かってれば、僕ももっと考えてました…。…バスケにとって足は命です、…危ない真似させました」

「…テメ、そりゃ俺に喧嘩でも売ってんのか。地獄のトレーニングは、お前くらいすごくないと出来ませんてか」
「僕がすごいだなんて言ってません。…ただ、僕には僕のやり方があって、キミにはキミの鍛え方があるっていうことです…」
「……。」

アマ公は正論だ。間違っていない。自分がこいつの秘密を暴こうとして、他人のやり方に手を出した。
それが間違っていたということは、正しい。それにしても、気に入らなくて吐息をつくと、頭をかいて首を撫でた。
横目にそいつを睨んで腕を組むと、少しばかり動揺したのかアマ公の眼差しがかすかに揺れる。
藍堂は目つきの悪い顔で、かったるそうにその少年を睨み、首筋をかいた。

「…まぁ、お前がなに言いたかったのかだけは…、確かに分かったわ…。
あの山を、全力疾走するだけじゃねぇ。犬がちょいちょい方向変えるおかげで、合せるこっちの瞬発力は相当上がる。
…ありゃ、相手がどっちに動くかわかんねぇ、ディフェンスの動きを見極めるようなもんだ…、反射もつく」

「……。」

「スタミナは勝手に上がるし、筋力も着く。…動体視力もつくってことは、お前の速さの謎は大体わかった。
ただ、あれを毎日やってるっつったら…俺は納得しねぇ。…この俺だって、これだけ体壊してんだ。
ひょろっひょろのお前があんなんやったら、10分もたねぇだろうよ…。当たりか?」

「……、5割正解、かもしれません」
「あ?」
「僕だって、今日のキミみたいな無茶はやりません。…2時間以上、休憩なしで挑むなんて」
「結局、捕まらないままどっか行っちまったけどな」

 最終的に、犬を捕まえることはできなかった。それは、山の中で道を見失ったわけじゃない。
犬は姿を眩ますが、すぐに姿を現して藍堂の目に見えるところに現れる。それも、目と鼻の先に。
追いかけさせて、目の前でわざと複雑な追わせ方をして、逃げる。だから山の中でも息が切れる。
…あの天敵の前から逃げる、餌食になる動物みたいな動き。相手の動きを拡散させる、あの動きにやられた。

「大体…、んだあのデッケー山犬は…。山を平野みたいに疾走しやがるわ、脚力もハンパねぇわ…。
普通飼い犬ってのはあーはならねぇだろ。…人をおちょくるみたいに逃げやがって。本当にお前んちの犬か」

「あの…、はい」
「何食ったらあんなデカくなんだ」
「…えと、…ドッグフードとか…、シカとか」
「あんなデケー犬、山で放し飼いにしてたら猟師に撃たれんだろ…。名前は?」

急にたどたどしく答え始めたアマ公に、藍堂が何気なくそう聞く。低い声なので、それだけで迫力が増す。
傍から見れば、長身で体格がよく、強面の藍堂に、貧弱で気弱な少年が絡まれているかカツアゲしているようにみえる。
ひそひそと噂話の聞こえる廊下で話す2人の光景はそれほど異様で、アマ公は不意をつかれたように瞬きした。

「えっ…?」
「名前だよ、犬の名前。太郎とか次郎とかあんだろうが」
「な、まえ……ですか…」
「あぁ?」

名前を聞かれた瞬間が、アマ公の一番つっかえ始めた場面だった。
眉をひそめる藍堂の顔を、焦ったように見つめたり逸らしたりした後、やっと絞り出した。

「…、イヌ」
「あ?」
「…イヌです」
「わかってんよ。だから名前」
「…イ、イヌ…です」
「は?」

眉をひそめた藍堂の眉間に谷が生まれる。そのまま沈黙が過ぎ去り、口を開けっ放しの藍堂が瞬きした。

「…犬の名前が、イヌ…?」
「……。」
「…マジかよ、ウケ狙う奴多いけど。…それは斜め上だわ。チワワにチワワってつけるようなもんだぞ…」
「…すいません…、今のが渾身です」


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