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[742] 雨、降る日のバスケ
   
日時: 2013/11/14 00:09
名前: 創魔 ID:eNpJlsL6

なぜバスケをやるのかと聞かれた。

なぜバスケが強いのかと聞かれた。

 バスケよりも好きなことがあるから、それを忘れるためにバスケを始めた。

逃げるために始めたバスケから、僕は逃げられなくなった。


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Re: 雨、降る日のバスケ ( No.20 )
   
日時: 2013/11/23 20:04
名前: 創魔 ID:Sv3zlLbU

練習が終わったら、高天原山のふもとにある空き地に集合と言われた。
練習はいつもより30分早く終わり、汗を流したら『肉』と『野菜』を持ってダッシュしろとのこと。
わけがわからず、そもそも空き地なんてどこにあるのかもわからず、全員が道に迷った。
ようやくの思いで全員が集合したとき、そこに広げられた光景に目を丸くした。

「…ンすか、コレ?」
「何って、え…お前ガキの頃キャンプとかしたことないの」

 憐れむような眼差しで聴き替えさえ、清水は「そうじゃなくて!」と突っ込んだ。
何が始まるのかと思い駆けつけてみれば、そこには網と、炭火と、調味料が並んでいた。
全員が急いで買いだしてきた袋を下げているのを見てニッと笑うと、トングで肩を叩いた。

「光琳バスケ部の未来を担う先輩と、ピカピカの新入生と、美少女マネージャーと、ピカピカの俺。
…で、懇親会。やっぱこういうのやんないと、仲間!って感じしないよな。てか腹減ったし」

「腹減ってんのは練習してた俺らだ!!ッ…つか、こういうのって普通監督おごらね!?」
「あぁ、器具と調味料はおごってやるよ。あと飲み物」
「…うわー…、こんなことならもっと肉持ってくんだった…、しめじとネギしか持ってきてねー…」
「お前…、それ完全に鍋の具材だろ」

まったく予想の斜め上を行く結果だったので、2年と1年はお互いに持ってきたものを確認し合う。
小林はしめじ、ネギ。志田は人参、キュウリ、ナス、豚肉。キャプテンはなぜか『特製・鍋奉行スープ』。
鳴海はそこそこウィンナーや鶏肉を持ってきてはいたが、あとは大量の乾燥わかめの袋。
他の2年生も、袋の中身を出すがバーベキューに仕えそうなものはあまりなかった。

「藍堂、お前は?」
「…野菜と肉っつーから、ポテチとジャーキー…」
「お前、… 普段のメシの栄養バランス大丈夫か…?」
「マネジ!お前は何持ってきた、…こうなったらお前の具材だけが頼りだ!」

そう言われて、渚は思わず自分の袋を隠そうとした。しかし、清水にひったくられる。
ガサガサと引っ張り出してみれば、渚は頬を赤くしながら清水を睨み付けた。

「な…、なによ!あたしだってバーベキューなんて聞いてないわよ!
…と、とりあえずエナジードリンクと、プロテインと。…あと肉の代わりに、乾燥干し肉」

「アメリカ軍じゃねーか!!」
「んだお前らー。もっとまともなもん、持ってきてるやついねーのか。肉焼けねーよ」
「あんたが一言付け足してくれてれば、もっとまともなもん持ってきてたよ!」

 地面に溢れた食品は、どれもこれも火の上で網焼きにすると原型が危うくなりそうなものばかりだ。
調味料がいくらあってもこれは調理しきれない。藍堂は頭をかいて、「…闇鍋がいいんじゃね」と物騒なことを言いだす。
ベースがキャプテンの鍋奉行スープ。そこにぜんぶぶち込めば何とかなるだろうという、今後の活動に影響が出そうな行事だった。

「…一回、買い出しに戻るか」
「日暮れちまうよ。…つか、監督行き当たりばったり過ぎ」
「そうか?闇鍋でも案外いけるんじゃね。…ほら、干し肉とかも水吸って肉に戻るかも」
「そんなダシ抜けきった昆布みてーな肉、バーベキューで食いたくねーよ!!」

「あの…」

ふと、一人の少年の声が全員の注目を細々と集めた。その背中に背負っていたのは、何やら大きい布袋だ。
息を切らして「遅くなりました」と告げたアマ公は、その袋を重そうに背中から降ろして吐息をついた。
どさり、という音がやけに生々しく、次いでその袋の地面への横たわり方が、何が物騒なものを感じさせる。

「…アマ公、何だその荷物?」
「肉って言われたんですが、家になかったので獲ってきました…」
「…なにを?…え、ちょっと待って。取ってきたって何を?」

 アマ公が袋を開ける手前、「グロッキーなのがダメな人は、下がっててください」と念を押す。
袋の中から現れたのは、巨大なツノ。それから力の失せた首が、だらりと目の前に横たわって悲鳴が上がった。
背負ってきたのは、巨大なシカだった。血抜きされたのか、首に切り裂き痕がある。目はぎょろり、と虚ろに宙を見つめていた。

「いやぁあー!!なにそれ!!…いやあーー!!」
「おー、すげぇな1年くん。この鹿、どこでとってきたの」
「浦山です。…祖父の家から」

 そういえば、藍堂はいつかの早朝、のことだったな、と思い返した。
アマ公が猟師である祖父の家からおすそ分け称して、大量の動物の肉を持ち帰っていたこと。
袋から出てきたのは、シカ一頭、山鳩4羽、小型のイノシシ一頭、キジ一羽。どれも狩ったばかりのように血がついている。
しゃがみこんで生々しい動物の死骸をまじまじと見降ろし、藍堂は吐息をついた。見かけによらず、マジかと思う。

「こんだけありゃ、肉には困らねーな。でかした、1年!」
「…え…、それ…マジで食うの?」
「誰か、これ解体できますか」

「できるわけねーだろ!…え、つか解体ってなに。これバラすの!?この可愛いヤツをバラすの!?」
「いちいちうっさいわね。根性ない男は下がってな」
「よーし、俺がやろう」

アマ公が振り返ってそう言うと、監督がサバイバルナイフのようにデカい刃物を取り出した。
ぎょろりとした目が現れたときはドン引きしていたマネージャーも、今は興味津々に初めての動物を眺めていた。
それ以上近寄れないキャプテン、志田、小林、その他2年たちは、解体手順をどうするか悩む監督を凝視した。
「マジで!やめて!」「そんなグロッキーなとこ見せられたら、食欲どころじゃねぇよ!!」と発狂する。

「うん、まぁ…、なんとかなるだろ」
「あたし、こっちのキジの羽なんとかしてくるわ」
「おー、頼んだ」
「…嘘だろマネージャーッ…!!」
「…あんなたくましいマネージャー、俺未だかつて見たことない!」

震え上がる一同の前で、ザクザク始めた監督を見てさらに悲鳴が上がった。
アマ公はマネージャーを手伝いにふらりと姿を消し、藍堂はしげしげと獲物を眺めた。
イノシシの屈強な足を掴んで、持ち上げる。ふと、その頑丈な毛皮に目を奪われて、瞳を細めた。
イノシシの喉元に、何かが食らいついたような噛み傷があった。そこから血の抜けたような形跡がある。
そういえば、アマ公のじいさんが猟師で、その獲物だと聞いたからどこかに銃弾の跡があるかと思ったが。
どこを見ても、そんな致命傷の弾痕は見つからない。ただイノシシの喉には、鋭く深々と突き刺さった牙の跡があった。

「……。」




「じゃ、今後の光琳バスケ部の健闘を祈って!かんぱい!」
「かんぱーい!!」

合わさった紙コップの中身を、各自が飲み干す。目の前には、綺麗に解体し尽くされた肉が並んでいた。
こうなってしまえばただの食用の肉に違いなく、焼けばうまそうな具材に変わるから不思議だ。
肝からもも肉まで、すべての肉がそろっているから贅沢だ。清水は意を決して、箸で肉を掴んだ。

「なんかこう…、思いがけず食の教育みたいになっちまったな」
「あぁ…。なんかこう、すげぇ…命を頂いてますって感じがしてきた…、俺」
「バカヤロー、当たり前だろ!命に感謝しろ、現代っ子ども!食う時はしっかり崇めて食え!!」

監督の檄に、慌てて返事をして肉に食いつく。不思議と肉には何の臭みもなかった。
「タレってすげぇ!」と称賛しながら肉を頬張る仲間たちを見て、アマ公はくすりと笑った。
こういうのは、ひどく久しぶりな気がする。新しい仲間たちと囲む食事は、にぎやかでやかましくて楽しい。

「アマ公、テメ野菜食えよ」
「…すいません。ネギとかシイタケとかダメなんです」
「好き嫌いすんじゃねーよ!肉しか食ってねーじゃねーか、おらタマネギも食え!」
「一番ダメなやつです」

「ねぇ、キミ。1年のアマ公っていうのね」
「あ…、はい」

不意に、後ろからマネージャーに声を掛けられてアマ公は返事をした。
目の前にしてみるとやはり顔立ちは綺麗で、しかし姉御的な感じが伝わってくる。

「…マネージャーは、すごいですね。あんなふうに生身の鳥をさばける女性、初めて見ました…」
「初めてのことでビビっても、やんなきゃ始まんないことってあんのよ」
「……。」

その言葉にまた驚いて、改めてすごいと思う。彼女の隣で、ずっと様子を見守っていた。
途中で泣き出してしまうのではないかとハラハラしながら見ていたのに、彼女はなんとやり抜いた。
自分が手を出すまでもなくて、驚いたのだ。アマ公は微笑み、肉を口に入れた。

「…キミも、去年の大会では優勝にまで勝ち上がった、要注意プレイヤーなのよね…」
「え…」

「藍堂くんは、それまでもずっと要注意人物として、すべての中学が目を離さず、対策を練って警戒してきたわ…。
けどあなたは違う。それまで誰にも注目されず、ノーマークのまま突然光の中へ出てきて、周りを騒然とさせた。
誰にも止められない最強兵器を、いきなり試合に出されたようなもの。あなたみたいなルーキー、初めてだわ」

「……。」

帝中学は、弱かった。誰にも相手にされず、バスケにおいては有名どころではなかった。
なのにその年の全国の決勝で、いきなり清陵を下してトップに成りあがった。各校が騒然としたのは言うまでもない。
渚が身を乗り出してきたので、アマ公は食べる手を止めて彼女を凝視し、瞬きした。真剣な眼差しとぶつかった。

「僕は…、バスケが好きで、ただそれだけで帝中でやってきました。…仲間と一緒に」
「指導員は?誰からバスケ教わったわけ?」
「誰からも」

そう呟き返したアマ公に、渚はちょっと面食らった顔をした。
アマ公も、彼女の目を見つめ返して、真面目な眼差しでそう答え返した。

「…帝中学は、弱かったので。指導してくれる人も、マネージャーもいませんでした。
僕らは、ただバスケが好きだった…。バスケが好きだったから、強くなろうと思えば、強くなれたんだと思います…」

「…、なによそれ……。」


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