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[742] 雨、降る日のバスケ
   
日時: 2013/11/14 00:09
名前: 創魔 ID:eNpJlsL6

なぜバスケをやるのかと聞かれた。

なぜバスケが強いのかと聞かれた。

 バスケよりも好きなことがあるから、それを忘れるためにバスケを始めた。

逃げるために始めたバスケから、僕は逃げられなくなった。


>>1-  登場人物一覧
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Re: 雨の降る日のバスケ ( No.1 )
   
日時: 2013/11/23 14:36
名前: 創魔 ID:Sv3zlLbU

≪登場人物≫

□天古河 雨(あまこが あめ)  1年(スモールフォワード) 身長156.5cm
                 無名の帝中学で、いきなり全国大会に勝ちあがり優勝を果たす。
                 小学4年生から始めたバスケを、人一倍磨き続ける努力には、ある理由があった。

□藍堂 秀二(あいどう しゅうじ)1年(パワーフォワード) 身長175.8.8cm
                 名門、清陵中学の厳格なバスケ部で鍛え抜かれ、エースになった天才。
                 しかし最後の全国大会で、無名の帝中に敗れ、その中心にいたアマ公に勝つためバスケを続ける。

             


〜光琳高校〜

■清水 将平(しみず しょうへい) 2年キャプテン (シューティングガード)
■鳴海 達也(なるみ たつや)   2年 (元パワーフォワード)
■篤美 智成(あつみ ともなり)  2年 (ポイントガード)
■大道 謙吾(たいどう けんご)  2年 (センター)

□志田 敦 (しだ あつし)    1年(ポイントガード&シューティングガード)
□小林 蓮(こばやし れん)    1年(初心者&万能プレー)

〜明稟〜

◆美陸 俊之(みおか としゆき)  2年(スモールフォワード)通称:オカ 
                  中学時代、藍堂のいる清陵に練習試合の相手にされ、さんざん惨敗を強いられる。
                  強すぎる清陵の相手をできる唯一の強豪校のひとつであるが、当て馬状態に等しかった。
                  藍堂のことを恨んではいないが、好きでもない。

〜その他〜

◇美咲(みさき) 雨の姉。16歳
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Re: 雨の降る日のバスケ ( No.2 )
   
日時: 2013/10/28 15:06
名前: 創魔 ID:bcK/DOdo

最後のホイッスルが鳴り、ブザーが広い会場に鳴り響く。
眩しい照明で、はるか高い天井が眩しい…。ちがう、自分の睫毛に溜まった汗で、光が乱反射する。それが余計に眩しい。
中学、最後の地区大会。バッシュの音。体育館の床を踏み鳴らす、軽快な音。40分ひたすらなり続けたその音が、絶望的に止む。

地面にへたり込んだ藍堂は、信じられない気持ちで床に横たわった。

(終わった…)

ぜんぶ。なにもかも。この3年間、捧げてきたもの全部。
親が用意してくれたシューズも、ユニフォームも、弁当も、ボトルも。時間も、努力も、…この3年分の汗も。
全部、全部…、こんな納得いかない会場で。こんな納得いかない内容で。こんな…、こんなふさわしくない場所で。

あんな…、ちっこいの一匹の。汗をぬぐった下の、あの冷静で冷めきった目。
あんな熱気のない、やる気のない目に見降ろされて、心底死にたくなった。ホントに死にたくなった。

「アマ公!ナイッシュート!」
「やっぱ清陵中のエースでも、たいしたことねーな!」

なにが、「大したことねー」だ。お前らに、あのフェイクが止められんのか。あのワンオーワンが受けきれんのか。
見れば見るほど忌々しい、あのガキ。自分よりもちっこい、はるかにちっこいあのスモールフォワード。
体ができてないなら、俊敏性だって体力だって、脚力だって出来上がってないはずなのに。

なんであんなに速い?なんであんなに切り返しが素早くできて、俺の動きを…。
納得できない。なら3年間、俺がやってきた死に物狂いのトレーニングってなんだったんだ。体作りってなんだったんだ。
自分だって発展途上なのはよく分かってる。なのに、あのチビにはそういう理屈が一切ない…。

(ふざけんな…。納得いかね…、こんなん!)

あの「風」。あの「風」はなんなんだ。あの、フェイクの時の。一瞬で俺を抜くときに吹く、『風』。
天井に、でっかい通気口でもあんのかと思った。扇風機でもついてんのかと。抗議してやろうかと。
でもちがった。あの、ボールにまとわりついた変な『風』。あれは…、『あいつのボールにだけ』ついてた。

「アマ公!いくぜ、監督が呼んでる!」

 仲間に呼ばれて、集合の礼のために走っていくそいつ。シャツで汗をぬぐって、背を向ける。
黒い髪。すっげー目立たない、内気な顔。フォワードに似合わない、勝負弱い顔したバカ。
なんでそんなやつに…、何度も抜かれたのか。何度もボールすり抜けられて、シュート決められて…。

「……ッ!」

大会は終わった。もう全部終わった。2年に渡った、あいつとの数少ない試合ももうない。
あるとすれば…、それは高校。絶対にリベンジしてやる。もう一度、高校のバスケットボールで。
アマ公。そう言う名前で呼ばれてた、あいつを絶対に負かしてやる。そのために…。

(俺はもう一回…っ、バスケやんだ!!)



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Re: 雨の降る日のバスケ ( No.3 )
   
日時: 2013/10/28 15:12
名前: 創魔 ID:bcK/DOdo

 胸糞悪い。胸糞悪い。
入学式、桜吹雪が頭の上を散らすのも。それが雨粒で足元にまとわりつくとも。

「今日せっかくの入学式なのに、雨かよー」
「ついてねー。…ズボン、ビッショビショ。玄関もヤバかったなー」
「ボロボロで穴開いた勧誘のチラシと、桜の花びらでぐっちゃぐちゃ…。入学式なのに幸先わる…」

知ってる顔。知らない顔。そんなのばっかりだ。配られる大量の部活のチラシを、ゴミ箱に捨てて。
ただ一枚のチラシだけを持って、体育館に向かう。クラブ活動、サークル、そんなのどうでもいい。
やりたいのは部活。遊びじゃない、ちゃんと鍛えてくれる本物のバスケができるところ。
強くしてくれるところ。強豪に繋がるところ。才能を伸ばしてくれるところ。

(ここで…っ!俺はバスケをやり直して、帝(ミカド)中のあいつを見返す…!!)

本気のバスケができるところ。
そう思って、練習中の体育館を思い切り開けた。藍堂は、光琳高校の門戸を開いた。









「よーし、そんじゃ。これで初日の新入生はぜんぶか?他に、見学しに来た子いるかー?」

 Tシャツを着た、バスケ部の生徒がそう声をかけて新入生を集める。
初日は7人。光琳のバスケ部は弱くはない。それを承知で、元々入部を希望した新入生の面子がほぼだった。
あとは数人、入るか入らないか決めかねている初心者数人が入口で覗いている。

「あー…、たはは。そっか、いいや。じゃあ、うん。経験者と、初心者に分かれよ。
で、それから入るかどうか決めればいいじゃん。ビビることないよ、初心者大歓迎。ね!」

優しそうな先輩で、手招きする。藍堂は、ぴくりと眉を吊り上げた。
人数を集めるのはいい。例え初心者でも、身体能力が高い奴は後々戦力になる。エースにもなれる。
才能がない奴は、入ったってポロポロ勝手にやめていく。でも、そういう無駄もなるべく欲しくない。
新入生を整理している間、隣の同じ身長くらいの男の子に、脇腹を小突かれて横を向いた。

「…なに?」
「ねぇ、…お前さ。ひょっとして、清陵の、藍堂じゃねぇ?」

ヒソヒソ声で、興奮した声でそうささやかれる。片眉をまたちょっと吊り上げた。
その隣も、その横の子も、同じ顔でこっちを見ていた。気が付けば全員、視線は藍堂に向いていた。

「だよなっ、やっぱ!去年の全国で決勝までいったとこの、清陵のエース…!」
「マジ!おまえっ、この高校はいんの?…この部活はいんの!?」
「だったらオレ、ぜってーはいるんだけど!」

面食らって目をしばたいて、でもそれならそれで、頷いた。
経験者なら、知っているヤツもいるかもしれない。去年の全国大会、2位。強豪、清陵中学選抜。
毎年必ず決勝まで勝ち抜くエリート集団は、中学校のくせにスポーツ科を持つキチガイ校。
藍堂はパワーフォワードだった。中学の指導監督とは思えない、鬼の監督。怒号、メニュー。
そういうのに締め上げられて、精神を鍛え抜かれた不屈の集団は、高校生さえ負かす強豪だった。

「すっげー…!お前もキチガイ校のスポーツ科だったの…!?」
「いや…、俺は普通科だけど」
「マジ…!そういうの、ふつうでもやれんだ!」

入部したら最期。そのあまりの厳しさに、子どもの親でさえ泣いてチームをやめさせるほどの強烈な練習。
残れるのは、監督のノルマをこなせるベンチと、選びに選び抜かれたスタメンの精鋭だけ。
いつでもスタメン争い、競争にさらされて、メンタルやられてやめていくメンバーは顔も覚えられないほど。

それであの最終戦。無名校のスモールフォワードに任されたんだから。
誰もが涙も出ず、愕然として幕を迎えたのは無理もない。地獄の6年間を、踏みにじられたんだ…。

「あー…、やっぱお前。あの清陵中選抜の藍堂だったんだ。顔見たら、なんか知ってるなーと思った。
そっか、うちの高校入ったんだ。うちに入ってくれんの!嬉しいし、期待しちまうよ!」

「…別に期待されても、そんなすぐに出せるもんも出ないッスけど」

戻ってきた上級生がくすくす笑いながら下級生を引っ張ってきて、藍堂は目を逸らしてそう言う。
…どうせ、体格差やスタミナに差はあれ。すぐに上級生なんか追い越して、俺がスタメンに入るんだ。
やるなら手っ取り早く、俺を引き抜いて入れてくれた方がこっちもいいけど。

「ま、うちも弱くはないけど。…清陵と比べられると、さすがになー」

「別に、清陵ひきずる気はないッスよ。…俺も、他のやつとおんなじ1年なんで。
ボール拾いもコート整備も、積極的にやるんで。…スタートは同じ、その後実力で選んでくれればいいんで」

「お…、言うね」
「…俺、ぶっちゃけどこでもいいッス。学校とか。ただ、帝(みかど)のアイツをもう一回ぶっ飛ばせれば…、それで」

「え…、帝?」

そう言ったとき、新入生の名簿を持ってきた別の上級生が頭をかきながら歩いてきた。
キャプテンのようで、背はさほどでもないが、しげしげと名簿を見ながら歩いてくる。

「んじゃー、とりあえずアップして、ミニゲームだけやって帰ってもらうわ。今日は。
で、それで入る気になったヤツは後日、提出書類持って体育館脇の監督んとこか、部活中オレんとこきて」

「はい!」

「入部後のイメージギャップ避けるために、先に誤解ないように説明しておくと…。えーと…。
朝は7:20集合。帰りはだいたいいつも19:30。土日問わず、練習毎日。休みは月2。練習試合週1回。
…それで親が許してくれる子だけ、入部届け持ってきて。親の印鑑偽造して持ってきたヤツは、朝礼で絞首刑だから」

「…、うす」
「じゃ。中学名と、名前呼ぶんで返事して。声ちーせぇヤツ、…パンツ被って一昨日出直せ」

次々と、名前と学校名が呼ばれていく。ほとんどが、中学校の時点での有名校か、地元チーム出身。
周辺の中学がほとんどで、結構がたいが好かったり、当然ながら身長がある。

「清陵中。藍堂秀二」
「ッス」

名前が挙がって藍堂が頭を下げれば、瞬時に周囲がどよめく。キャプテンの視線を感じて、そのまま返した。
当然と言えば…、まぁ当然。光琳は、正直強豪とはいいがたい。ストレートに言えば、中の中。
調子次第で、中の上にも、中の下にも落ちる普通校。清陵のスタメンがくるようなところじゃない。
でも…、俺はどこだっていい。それには、ちゃんと理由があるんだ。

「…っと、藍堂、秀二っと。お前、清陵選抜の。…光琳にきたんだ」
「よろしくッス」

「でもなんで?他につぇーとこ、いっぱいあんじゃん…、強豪校。今年は上、目指してねーの?」
「目指してますよ。…でも、その前に」

帝のアイツは、正直よくわかんねぇ。強いのか、弱いのか。
はっきり言って、見た目じゃわかんねぇ。身長があって、伸び白がはっきり見えたなら、強豪校に入るはず。
典型的なバスケバカは、体見りゃすぐそのレベルが分かる。…けど、帝のあいつはまったくわからなかった。
仮に、俺が強すぎる高校に入れば、上としか当たれない。弱すぎれば試合相手なんて話にもならない連中が集まる。

どのレベルにいれば、また帝のアイツに会えるのか。全く分からなかったんだ。
だから、上でもない、下でもないここに来た。ここなら、いくらでもレベルの違う相手に会える。
バスケを続ける目的は、今はただひとつ。帝にいた、アイツ一人を倒すこと。上は、それからいくらでも目指せる。

「いいんス。俺は、ここでやりたいんス」
「ま…、いいけど。入ったなら入ったで、俺らも期待さしてもらうから。で、次…っと」

見つけて見せる。名簿や、マネージャーの目じゃ見つけ出せなかったアイツの所在を。
そしてもう一度、あいつと勝負するんだ。それだけが…、今の目標。

「帝中学校。えーと…、あま…、あまがこ…あが、のがわ…アガ…。ッなんだこれ、何語?なんて呼ぶの」
「天古河です。帝中学校から来ました…、あまこが雨です」

「んだこりゃ。読みづらい字だな!…ったく最近のガキが名前ばっかりキラキラキラキラしやがって!!」
「名前じゃありません…、苗字です」
「ふーん…、バスケ経験は?」
「5年です。…小4から、一応」

か細い、暗い声が申し訳程度に呟かれる。キャプテンは、しげしげと名簿を見ながら首をひねる。
その時は、自分の中の葛藤に忙しくて全然気が付かなかった。探し求めたそいつが…、自分のすぐ隣にいたなんて。

「あれ…?帝っていや…、去年の全国で優勝したとこじゃん…」
「…あ、はい。…一応」
「ちょ、今年すっげーな。お前、試合でたの?」
「…出ました、ちょっとですけど」

あれ、でも名前覚えてねーや…。とキャプテンが頭をかく。
そのとき、初めて自分の頭の中が覚醒して、真っ白になって、言葉を忘れた。今…、帝…って。

「あ、れ…!?」
「はい…?」

勢いよく振り返った先には、さっきまでそこにはいなかった。否…。
身長が小さすぎて、視界にも映っていなかった小さな少年がそこに立っていた。マジで、小さい。
160、あるかないか。いや、たぶん、ない。黒髪に、前髪を目の上まで伸ばした小柄なやつ。
大人しそうな目が、ゆっくり振り返って。ぴたり、とやけにおっとりこっちを見る。

刹那、錯覚した。あの眩しい会場で。やかましいコートの中で。
床に転がった俺を見下ろした、あのやる気のない死んだみたいな、目。あの試合中とは思えない、目みたいな…。

「お、前……」
「あっれ?ってことは…、試合でスタメンの藍堂と、あま…がこ?って。ひょっとして決勝で会ってんじゃん?」

上級生のチャカしたような言い方も耳に入らず、藍堂は相手から目を離せないまま凍り付いていた。
間違い、ない。あのコートで、光の中で見たあの姿。あの顔。圧倒的な絶望の中で見つめ返した、あの目。
あの日、自分の中でトラウマになっていた光景が、今この場で目の前の選手にピタリと重なった。

「天…、古河…!!」
「…、すみません。僕、基本的に人の名前と顔を覚えるのが苦手で。特に試合中は…」

その台詞で、藍堂の頭の中は再び白く閉ざされた。
「え…、つまり。藍堂の顔全然覚えてないってこと…?」と念押しされて、相手がじっとこっちに目を向けた。
試合終了。勝利の喜びも、チーム最後の試合の終わりに涙を流すこともなく。ただ汗をぬぐって、コートの中に消えた男。
相手は、少し瞳を細めて藍堂を見つめた後、スッと視線を外した。

「…いえ、覚えてます。パワーフォワード。…名前は、すみません」
「おー。よかったな、藍堂!お前のこと、覚えてたってよ。そりゃ最終試合で戦った相手だものなー」

ハラワタが、煮えくり返りそうだった。覚えて、ない?
こっちはお前を追いかけて、わざわざこんな弱小校まで来たって言うのに。
あのコートの中での、光に包まれたコイツがこれほどトラウマだったってのに。それだけ?

「んじゃ、これで全部だな。10人いるから、5対5で30点先取。
振り分けはー、…ま。実力差はまだ分からんから、とりあえず決勝戦組の藍堂と天古河だけ別チームにして、
あとはじゃんけんで適当に決めてくれや。1年は半コートで、向こう側な。2,3年はいつも通り…」

「ちょっと待てよ」

半コートの向こう側へ、1年と一緒に消えようとする小柄なチビを呼び止める。
練習に向かおうとした1年も、基礎練をまとめに行きかけた上級生も思わず足を止めた。
その低い…、低周波な声に。聞くも不快が伝わってくる、その唸るような低い声に。1年も、先輩も固まる。
静かに振り返ったそいつは、驚くほど落ち着いた様子で首をかしげた。まるで、俺なんか見てもいないような目で…。

「…あの。僕は、先輩のチーム分けの仕方に不満とかはありませんけど」
「…、ちげぇよ。名前。覚えてねぇってんなら、こっちから親切に教えてやろうと思ってよ」

こっちが怒りくるってのは、見れば百も承知のはずだ。案の定、少しだけ戸惑ったように瞳が揺れる。
けれどそれはほんの小さな光の加減で、数ミリ眉をひそめただけのようにも見えた。
体半分だったそいつが、ゆっくりと改めてこっちに向き直る。くぐろうとした緑のネットから手を離して、真っ直ぐ対峙する。

「…それは、どうも御親切に」
「清陵の、藍堂秀二だ。…お前が、去年。無様に負かしてくれた…」
「はい。パワーフォワードの…、覚えてます」

そこだけは生意気に、繰り返してくる。こいつにだけは…、負けたくなかった。
こんなやる気のない、…こんなよわっちい迫力しか出せない。こんな…、こんなのに。
藍堂は手を差し出した。それを、驚きの眼差しで見つめ返す相手。当たり前だ。こっちの顔は逆上してる。それに、手を出されたのだから。

「…覚えちゃいねーだろ。藍堂秀二だ、…今度こそきっちり覚えとけ」
「はい…、藍堂くん。覚えました」

一瞬、ためらった手を藍堂のそれに重ねて握り返す。そのまま、握りつぶしちまうんじゃないかと思うほど。
藍堂の感情は沸騰していた。けれど、その冷え切った熱のない眼差しを見ていたら…。
なんだか不快を通りこして、空気でも睨んでいるんじゃないかと思うほど、自分がしょうもなくなった。

「…天古河、雨です。こちらこそよろしく」

握り返された手は、予想以上に冷たくて。そして、あっさりと解かれた。
お互いに繋がった眼差しの温度差は、異常で。それから遠慮がちに伏せられた瞳は、そのまま離れてコートへ消えた。
これが…、因縁の敵との再会。それも、これからコートで直に対戦できる。こんなにも早く…、こんなにも…、間近で。

(やり返せると思うと…、鳥肌とまらねぇ…っ)

コートに入って、対峙する。藍堂と、天古河。
周囲はミニゲームとはいえ、生唾を飲んだ。思いもしなかった、決勝校同士の試合。
緊迫が知らず、肌を焦がした。藍堂が焼き切れそうな目で睨めば、ゆっくりと息を吐く相手。
ブザーが鳴った。バスケットボールが、宙に舞った。あの日が、あの因縁のトラウマの試合が、藍堂の中に戻ってきた。



メンテ
Re: 雨の降る日のバスケ ( No.4 )
   
日時: 2013/11/09 16:24
名前: 創魔 ID:1KfeOAXU

「はじめ!」

 試合の内容は、藍堂にしたらかなり異様だった。異様、不気味…、そして、無感触。
最初は初心者や、素人経験者が入り乱れる手前、生ぬるいパスやドリブルの殴打に藍堂の足も緩くなる。
しかし、間違いなく経験者ということを頼りに、藍堂と天古河にパスが集中してくる。そうなれば、容赦はない。

「!うぉっ、清陵のヤツ…いきなりぶっちぎった!!」

 ボールを取るや否や、敵のディフェンスに一直線。守りなんてあって無いようなもの。
ブロックもカットも、止まってるも同じ。2人、3人、4人、一気に抜いて行く。舌打ちした。
あっという間にスリーフローライン。ここから打てば、いくらでも入る。

正確に弧を描く。足の踏込、いつもと変わらない重心と、傾く体重。清陵時代と、何も変わらない。
天古河の瞳が、ゆっくりと見開かれた。凍りつくその他の1年と、練習の手を止める先輩。
揺れるネット。落ちるボール。ドンッ、と床を打った音に、ホイッスルが鳴る。

「ッしゃあ!3点先取!」
「はー…っ。綺麗だなー、姿勢。フォロースルーまで完璧…」
「基礎の基礎がさすがにカッチリ出来上がってんなー元清陵の選手は…。お手本だわ」

ネット下へボールを取りに行った天古河が、ふと傍に立っていた藍堂に視線を向けた。
それすら気に食わなくて、ムッと睨み返す。まっすぐ、凝視した瞳が、まばたきした。


再びコートへ戻って、下手な仲間のパスを何とかもらいつつ仕切り直す。その後も、パス、パス、またパスと。
どれだけボールが回っても、ここぞというところで戻ってくる。シュートする気あんのかコイツラ、と呆れてくる。
しかし、一番呆れるところは、別にあった。一番、藍堂のイラつきを募らせる部分だった。

(…、やる気あんのかコイツ!)

ある程度のフェイクはうまい。指先のボールの扱いも、俊敏な切り返しも。
でも、こんなもんじゃなかったはずだ。ヘタなディフェンスに止められては、きょろきょろしてパス先を探す。
まったく攻めてこない。やっと攻めたと思ったら、軟弱そうな1年にたらいまわし。たまにシュートを打つ。
最初は生真面目に止めていたが、だんだん馬鹿らしくなってきて止めた。

(喧嘩売ってんのかコイツ…!?俺を舐めてんのか…!?)

決勝戦の借りを返そうと思っていたのに、まるで手ごたえがない。
そのまま点は、平行線のままダラダラとかさんでいき、互いに残り2点。正直、ボールを投げ捨ててそいつを殴りに行きたかった。
なんだこれ。なんだこの試合。ミニゲームったって、初心者の体育の授業じゃねーんだぞ…。これは、俺の…、復讐の…。

「!」

天古河に、パスが回った。案の定、フォワードの癖にまた打つ気はない。
マークのない選手を探して…、それに藍堂はついに切れた。そして、もう面倒だとも思った。
目の前に立ちはだかった藍堂に、天古河は目をしばたく。あまりに気迫を放つ藍堂に、ボールを持ったまま固まった。

「藍堂くん…」
「…おちょくってんのか、てめぇ。やる気あんのか!!あ!?」

ぎゅっ、とボールを手に掴み、天古河は顔をしかめる。1年がビビる中、眉間に皺を寄せた相手は動かない。
清陵のエースが、ミニゲーム中にブチ切れればすくみ上るのは当然だ。

「…やる気はあります。何でそう思うんですか」
「へぇ…、そうかい。なら俺とワンオンワンで勝負しろ。負けたら入部は諦めろってことで」
「え…?」

呆然とした天古河が、呆けた声を出して藍堂を見つめた。
言葉を聞いた1年が騒然とする。

「えっ、ちょ…何そのルール!勝手すぎだろ!」
「っせぇ。一生懸命やってんなら訳ねーだろ、俺抜くくらい。試合では何回も抜いてたんだ」
「……。」

ボールを握る手に、余計に力がこもるのを藍堂は目撃する。
そう、本気になれ。本気になったお前を倒さないと、意味がないんだ。お遊びなら、他でやれ。

「…仮にそれがやる気100%マックスってんなら、いるだけ邪魔なんだよ。この先。
お前ら1年も、そこどけよ。邪魔だ。今からこいつと1対1で勝負する。…ひっこんでろ」

「……。」

ボールを掴んだ天古河の手が、わずかに震えた気がした。
それからブザーの秒読みと、点数を横目に見る。残り1分。点差は互いに2。攻守の攻防ではない。

「…これ、先輩方が拵えてくれたミニゲームですよ。本気でやる気ですか…」
「ったりめぇだ。…他の連中の実力はもう分かったろ、大体」
「……。」

先輩たちも、数人が手を止めてこっちの試合を見ていた。キャプテンも心配げだったが、注意はされなかった。
この決勝戦同士の相対に、少なからず関心を抱いているからこそ。天古河は、ふっと息を吐いた。

「…わかりました。何故か、さっきから恨み買われているみたいですし。
…30点先取の残り2点。先に取った方が、このゲームを取るってことですね…」

「物分りいーじゃねーか。…さっさと来いよ」

他の1年が、急いでコートの隅へと避難していく。天古河と、藍堂。1対1。
決勝戦の対戦相手同士、サシの勝負には全員の視線が注がれた。わずかに、深く沈む天古河の体。

「…正直、がっかりしました」
「…?」



一瞬にして、藍堂の前からその姿が消えた。残像だけが、左右に振られた。
気を盗られた隙に、脇を抜けるその俊敏な動き。なめらかな四肢の動きが、ボールを浚って行った。

「!?」
「なんだ今のフェイク…っ、今右と左どっちから抜けた!?」
「っくっそが!!」

速い。違う、見えなかった。騙された瞬間に、別のフェイクに騙された。
急いで追いかけ、フローラインに到達した天古河に追いついた瞬間に背後からバックチップを仕掛けた。
指で突き落とす。それだけの動作が、天古河の腕の中でするりと潜り抜けたボールに届かない。

(見切られた…!?)

ワンオーワン。向かい合い、藍堂のディフェンスが天古河の行く手をふさぐ。
右に振り、左に振り、数度行く手を変えた天古河の爪先に集中する。その振りさえも、素早い。

(チッ…、ハチドリかこいつ!?すばしっこ…!!)

体が小さい。余りにも小さく、読み切れない行動判断。不意を突かれた瞬間に、天古河の目が、藍堂の腕の隙間からゴールを捉えた。
その落ち着き払った眼差しに、ゾクリと寒気が走る。まさか、この俺のディフェンスからもう軌道が見えてる…?
一度、ボールが床に叩きつけられた。右。その体の振りに合わせ、ブロックに入る。その歩幅で、この体格差どう埋めんだ。
そう思ったのも束の間、小さな体が、藍堂の腕をすり抜けた。相手が抜けたのは、自分の左側。

(いつ左に踏み出した…!?つか、動きキレッキレすぎだろ…ッ!)

だが、そいつの弱点。圧倒的な体格差。逃げても、まだ藍堂の腕は届く。
床から舞い戻ってくるそのボールに、手を伸ばした。届く、奪える。そう確信した瞬間。

「!?」

あの日。トラウマとなった、あの日。全く同じことが、藍堂の身に起きたことを思い出した。
動きに翻弄され、いとも簡単に抜かれた。その時、まだ届くと思った。
するり、と拒むように風に阻まれたボールが、指から離れていく。確かに…、触れたはずのその距離で。

(その時まるでボールに…、嫌われたのかと思った)

途端に、ボールを右から左へ持ち替えた。その行動に、藍堂は不意を突かれる。
素早い切り返しからの、ボールを床に着いて、再び右手へ。藍堂の手から逃がすように、素早く。
天古河の、とっさの判断。そのまま脇を抜かれて、場所は相手のフォワードポジションへ。

「…さっせるか!」

ゴールへ向かって手を伸ばす。身長は、明らかに藍堂の方が上。余裕で手が届く、そう思った瞬間。
天古河の指が、大きく後ろへ逸らされた。そのまま跳ねを付けて、跳ね上がるボール。
藍堂は反射的に手を伸ばした、相手よりも、さらに高い場所へ跳び上がる。アマ公の目が、ゆっくり目開いた。
最後に指先で鮮やかに返されたボールは、アマ公の大きな手をすり抜けて、届かない場所へと行ってしまった。









ブザーが鳴って。ちょうどそれがブザービーターを現す。試合終了の笛。
いつの間にか、基礎練習も完全に停止し、全ての眼差しが2人のワンオンワンに注がれていた。

「…すっげぇー!!これが王者同士の戦いかぁ!!」
「速ぇ!全然見えなかった!」
「キレてんなぁ、動き!2人とも、すげぇよ!!」

切れる息の音。止まらない汗。体格の違う2人が、同じだけ息を切らして、シャツで汗をぬぐう。
顔を見合わせると、藍堂には苛立ちと舌打ちが、天古河には変わらない普段の眼差しがあった。
やっぱり、チビのくせにうまい。そう思った。技術が高い。それも、型に囚われない自由で奇抜な癖のある動き。

「…はぁ、…」
「……100年早ぇーよ…、ヘタクソ」

 なんで…。なんでこいつと、敵じゃないんだろう。もっとこいつと試合がしたい。
敵として、真剣に向かい合いたい。なのに…、何で同じバスケ部なんだろう。それが悔しくて、腹が立つ。

「あの…、まだ見学終わってないです」
「……。」

入口に並べてあった鞄を担ぎ、上着を引っ掴んで藍堂は荒々しく入口を開ける。
しかし、手前で立ち止まってしばらく考え込んだかと思うと、唐突に踵を返して戻ってきた。
目の前には、ボールを持ったまま突っ立っている天古河の姿。その真正面に立つと、唐突に相手の胸に指を着きつけて突き飛ばした。

「それからお前。…気安く俺に話しかけんな、胸糞悪ぃんだよ。帝中」
「……、」

軽くよろけた天古河を残して、大きな音を立てて扉を閉める。
嵐が過ぎ去ったような、その場。ポツン、と震えながら残された1年。引きつる2,3年。
ボールを持ったまま、立ち尽くす天古河は、不意にそろりと先輩たちの方を見た。

「…あの、僕。藍堂くんに負けたんですけど、本当に入部できないんでしょうか…?」
「…え? いや!?なんでっ?」

「いや…、負けたら入部するなって言われたんですけど、彼に…」
「マジで…?」


バスケ部。見学初日。大物ルーキーの2人の実力を目の当たりにしてしまった一同と、
その藍堂という名の、天才の嵐に巻き込まれた少年は、今しばらくそこに立ち尽くしていた…。


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