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[742] 雨、降る日のバスケ
   
日時: 2013/11/14 00:09
名前: 創魔 ID:eNpJlsL6

なぜバスケをやるのかと聞かれた。

なぜバスケが強いのかと聞かれた。

 バスケよりも好きなことがあるから、それを忘れるためにバスケを始めた。

逃げるために始めたバスケから、僕は逃げられなくなった。


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Re: 雨、降る日のバスケ ( No.5 )
   
日時: 2013/11/07 23:48
名前: 創魔 ID:7V3SLTIQ

ドン ドンッ ドンッ


規則的にアスファルトを打つ、バスケットボールの音。
体育館裏の、錆びついたバスケットゴールが一つあるだけの寂れたスペース。
他の部活の柔道着や、小手。忘れ去られたユニフォームの天日干しのなれの果てなどがフェンスにかかる。

「……。」

月明かりに照らされたその場所だけが、ぽっかりと空いていて。
藍堂はその寂びたゴールに、ゆっくりと筋を伸ばしてシュートを放つ。ゆっくりと、弧。
そしてリングにかすりもせず、綺麗に吸い込まれたボールのシュッ、という音はいつでも耳に心地いい。
藍堂は降ってきたボールを受け止めて、もう一度放った。吸い込まれていくボールを、見つめる。

(そう…。そこに納まんのが、お前の仕事だろ)

そう。もう藍堂の仕事ではないのだ。そこに入れるのは。そこに入っていくべきはボールの方で、それが当たり前。
そんな感覚になってしまったのは、いつからだろう。いつか、練習中にボールを外したとき。
監督の叱責を受けながらも、ボールに恨みがましい目を向けたことがある。お前、何外れてんだよ、と。
今日調子が悪いの、お前の方だろ、と。だから、ボールがそこに吸い込まれるのは当たり前。入って、当たり前。

「藍堂くん」

ボールと藍堂の対話を破り、沈黙に水を差したのは一つの物静かな声。
大人しげな声に、嫌気が差して振り返る。月明かりの闇に浮かぶ、青白い顔。制服姿のそいつ。
藍堂は舌を打つと、自分のYシャツの袖を元も戻して、また苛立たしく声を低くした。

「…話しかけんなって言ったよな」
「確認したいことがあったんです…、君に」

所在なさげに、藍堂の練習を遮った天古河がそう呟く。そんな時でさえ、感情の読めない目。
もう少しビビるか、逆に挑発的な言動してみろっての。生きてんのか、と文句を言いたくなるが、
どうせまたきょとんとした顔を返されるだけなのでその要件を待つ。

「ハッ。俺に確認したいこと。なに」
「…負けたら、入部するな、の話。今さらなんですけど撤回してもらえませんか」

ガクッ、と思わず肩が落ちた。え、なにそれ。どんだけ律儀だこいつ。
拍子抜けしたことにも気が付かず、天古河は真面目な顔でなんとなく頬をかく。

「…勢いで受けた手前、やっぱり僕もバスケやりたいので」
「んな俺が勝手にでっち上げたルール、どこの先輩が認めんだよ」

アホか、こいつ。自分の我っつーのがないのか。いちいちそんな許可取りに来たのか、こんなとこまで。
天古河はまっすぐ藍堂を見つめると、今度は真剣な顔で少し困った口調で喋った。月明かりの中のこいつは、本当にコートの仲とは大違い。
こいつ、友達いんのかってくらい、存在感弱すぎてコミュニケーションが退屈になってくる。

「いえ、仮に先輩が認めても、それじゃ君が認めてくれないと思ったので」
「あ…?なんだそれ」
「だって、君を含めて新メンバーじゃないですか…」

さも当たり前のように、確認するように言われた言葉に、束の間唖然とした。
別に、本当に入部してもいいかどうか尋ねに来たんじゃなかった。こいつはただ、俺との今後を案じて気持ちを確認しに来たんだ。
まっすぐなそいつの目は、その言葉を紡ぐにはあまりに熱気不足で、なのに視線を断ち切れるようなもんじゃなかった。

「バスケのメンバーには、合うあわないはあると思うんです。やっぱり人間ですし…。
でもそういうのって、練習や試合の過程を経て、だんだんと各々気付いて見つけていくものだと思うんです…。
それはそれでいいです…、相性のいいチームっていうのは、勝手にいい試合に繋がっていきますから」

「……。」
「でも今の藍堂くんみたいな関係は、僕は嫌です。初めからギクシャクした関係で、バスケはしたくないです」

意外と、きっぱり言ってくるんだな、こいつ…。
ていうか、ギクシャクしてる原因、こいつ絶対わかってねーだろ…。俺のただの逆恨みだし…。
逆恨みか…、と思うとバカらしく。藍堂は乱暴に頭をかいて、吐息をついた。真面目に正面から諭されると、なんか萎える。

「…あー、もういいよ。悪かったし、わかったわ。別に俺…、お前のこと嫌いなんじゃねーし…。
つか、ギクシャクさせたの俺の方だし…。バスケに勝ち負けがあるなんてとっくの昔に分かってたし。
…それでお前のこと恨んだって、どう考えてもお前、悪くねーよ。俺の勝手な、逆恨みだったわ」

「逆恨み…、ですか?」
「結局、お前の記憶にはそんな程度しか残らねーほど。…俺らの試合なんてクソみたいなもんだったってことだろ」

鞄を担いで、ボールを鉄の籠に放り投げる。まだ話を聞いてポカンとしてるこいつの顔見ると、余計ムカムカしてくる。
所詮、その程度だったってことだ。さっきのゲームにも、全く手ごたえを感じなかった。
つまりそれは、手抜きってことだろう。こんな俺に、マジになることもなければ、負けて悔しいとも思われないほど。
俺は大したことない選手だったってこと。それが証明されたようなもんで、怒る気力も失せた。

「…てか、別に俺との関係。お前が心配する必要ねーし。…お前が入部する以前に、俺が入部しねーから」
「え…?」
「お前、たぶん俺が高校にもなってバスケやってる理由知ったら引く」


お前を追いかけてきたようなもんなんだから。お前にリベンジしたくてここまで来たんだから。
なのに、なんだよ同じチームって。山張って、こんな中途半端な高校に入ったのに、近過ぎんだよ。
高くもなく、低くも無く。いつかどっかのチームに入ったこいつと、試合する気でいたのに。
立ち尽くしていたそいつは、突然ハッと気が付いたようにじっと見入った。

「…、他人に引かれるような理由なんですか」
「お前バカだろ」

くっだらね。こんなことのために、高校生活棒に振って過ごすとか。復讐心、野心、ぜんぶ萎れてく。
おまけに相手は覚えてすらない。こっちにとっては、トラウマなほどに圧倒された唯一の試合だったのに。
あのときのコイツは、こんなしょぼい雰囲気で相対する奴じゃなかった。こっちが震えで動けないほど、圧倒的な雰囲気だったのに…。

「…俺は、別にお前と力合わせて仲良くバスケしたいわけじゃねーんだよ。お前ともう一回試合やりたくて来てんだ。
なのに、おんなじ部活入っちまったらまるっきし意味ねーし。隣じゃねぇ、正面に立って敵にしたかった。
そんでもう一回、勝負してお前を思いっきりぶっ潰したかった!じゃなきゃ…、気が治まらなかったからよ」

「…藍堂くん、冷静そうに見えて意外と物騒なキャラだったんですね…」

「だからもう分かったろ。俺がここのバスケ部に入る意味なんかもうねーんだよ。だから入部しねぇ。
…理解したら好きにしろ。俺はお前と一緒にバスケなんかごめんだ、…もう帰れよ」

「それは嫌です」

月が、雲で陰ってアスファルトの上に影が落ちた。冷たい空気だった。
ふと、闇の中にボールを見つけて瞳を細める。目の前には、弱そうな雰囲気で突っ立ってる天古河。
ボールを拾い上げて、それを放る。とっさに相手が掴んだボールに、再び月明かりが舞い降りた。

「なにしてんだ…?」
「ワンオンワン。もう一回。次こそ真剣勝負です」

誰も見てない。あの時の試合みたいに、敗北者に無残なスポットライトが当たることもない。
惨めなほどの、観衆の目にさらされることもない。こいつをその日の元に晒してやれないのは残念だが。でも、それでもいいからこいつに勝ちたい。そうじゃなきゃ、清陵として終われない。
誘われたワンオンワンには、確かにそんな気持ちがこみ上げる。しかし、藍堂は不快に瞳を細めた。

「…そーいうつもりだ」

もっと…、もっと、そう。
もっと実力が見たい。こいつの。無名だった帝中のこいつが、何故決勝までこれたのか。
実は何を隠し持っているのか、この目で見たい。腕の中に納まったボールが、やけにギシリと歪んだ気がした。

「…真剣勝負ってんなら、見せてもらおーか」
「え…」
「お前が、決勝でボールを持った瞬間の…、あの化けもんみたいなオーラを」
「!」

ぴくり、と天古河の手が震えた。同時に、彼は吐息をついてボールをアスファルトに一着きする。
自分の気持ちを落ち着けるように、心臓の鼓動に合わせてゆっくりと、打つ。

「聞かせてください…。どうすれば僕が本気を出してると思ってくれますか」
「『風』、出せよ」

アスファルトを打つボールが、止まった。
静かに手のうちに納まったボール。天古河の眼差しが、細められる。

「噂だったぜ、帝の7番。チビのくせにキレのある動きと瞬身、繊細なテクの裏アタッカー。
…そいつの切り札が、『絶対に誰も触れないボール』。…それを俺は、最後の試合で味わった」

あれは風。風の塊。ボールが他の選手に触られるのを拒否するみたいに、絶対触れない。
触ろうとすれば、相手の体は早すぎて。ボールをまるで風のように操る、そんな幻のボールがあると。

「…でも、お前はさっきのゲームでそれを出さなかった。『風』が来ると思ったとき、お前はボールを持ち替えただけだった。
あの試合だったら、お前はあんなことしなかったよなぁ?勝ちに来てたろ、絶対。それをもう一回、俺にやれっつってんだ!!」

本気の言葉。その気迫は、1年とは思えないほどの狂気。
天古河は、その覇気に圧倒されることなく、ゆっくりと息を吐いて顔を上げた。
ボールを藍堂に返すと、不思議そうな顔をした彼に向かって口を開く。彼の激昂の理由…。心当たりがあったのだ。

「…ひとつ、君に謝っておかないといけないことがあります」
「あ…?」

「…決勝戦の日の試合を、忘れたわけじゃありません。清陵vs帝。99−112。
僕らは勝とうと必死でした。初めての決勝で、負けたら何か大事なものを失うとさえ思っていた…。
それに、清陵とやった試合は、他のどの団体よりも面白くて、苦戦して…、絶対負けたくないって思いました」

「…、はぁ…?」

「でも…、その頃の僕らは逆にこうも思っていました。勝たなければ何の意味もないと。
楽しかったバスケも、いつの間にか『勝つためにバスケをしている』ような感じで、正直僕は…。
あの頃、バスケを全然楽しんでなかったと思います。さっき君が言ったように、バスケに勝ち負けがあるなんて当然なのに」

それは、子どもならではの負けず嫌い。今よりも、人一倍。
バスケがなんなのか、そんなことに興味なんてなくなっていた。結果がすべて。
その過程に、見向きするなんて一人もいなかった。まるで盲目…。勝ちが欲しくて、バスケを無視した。

「藍堂くんはさっき…、逆恨みだと言っていました。試合に負けた、逆恨みだと。
けど僕は…、それはあってると思います。きっと僕は…、あの時ひどい目をしていたと思うから」

「!」

試合が終わった直後。コートに横たわって放心した藍堂を見下ろした、あの目。
まるで感情なんかこもっていない、あの死んだような目。勝者の目なんかじゃ、ない。
突然やる気をなくしてしまった天古河は、鞄を背負いなおしてゆっくり踵を返した。藍堂はそれを引き留める。

「おいっ!!勝負は!?」

「もうひとつ…、謝っておきます。さっき、『風』が見たいって言いましたけど…。
僕はもうあの技は絶対にやりません。…もう二度とやらないって決めたんです…、すみません」

「は!?…や、ケチってねーで見せてけや!!コラッ!」
「一通り謝ったと思うので…、その。逆恨みの件はなかったことにしてくれませんか…。あと入部の件も」
「ならねーよ!なに勝手なこと言ってんだお前!サービス精神ゼロか!」

なんだこいつ。ワケわかんね。本気出さねーわ、必殺技は封印したって言うわ。
なんのためにバスケ部入ってんだ。いや、なんでバスケに対してこんなやる気ねーんだ…。
体育館裏の闇の中に消えていくその背中に向かって、藍堂は居た堪れなかったり、腹立たしかったりで怒号を飛ばした。

「おい!!…バスケやる気なしかお前!嘘だろ、おい!!」
「やる気ならあります。馬鹿にしないでください」
「…その抑揚のねー喋り方で言われても、説得力ねーんだよ!!」

何度声をかけても、天古河がコートに戻ってくることはもうなかった。
一気に押し寄せた、虚無感。悲しさ。なんでそんな…、そんな程度のやる気しかないんだよ。
やっと見つけたのに。どんな形であれ…、やっと見つけたのに。あの宿敵を。あの…、最強のフォワードを…。
ふと、闇の中で立ち止まった天古河に視線を奪われる。その唇が、微かに夜の影で動いた。

「僕は、この光琳でバスケをやり直すと決めたんです。…1から、やり直そうって」
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Re: 雨、降る日のバスケ ( No.6 )
   
日時: 2013/10/31 23:22
名前: 創魔 ID:rswhgoVg

翌翌日の練習から、1年生の参加は始まっていた。
まず朝練に始まり、コート整備、走り込み、パス練、シューティングが朝礼までにできるメニュー。
放課後、16:30に集合して走り込み、基礎練、体力アップ、シューティングで1コース。
その後にスタメンとベンチ、その他の1年と部員に分かれてメニュー分けがあり、ミニゲームで2コース。
内容は多いがやっていればあっという間で、外は暗くなっていった。

その日1日。帝中のそいつを観察する。
動きはまぁまぁ。ていうか普通。特にフォームが綺麗とか、清陵の俺に言わせれば別にふつう。
シュートの時とか、外すし。ドリブルの動きも、微妙にバランス悪いとこあるし。パスもガチ速ってんじゃないし。
唯一、見どころがあるとすれば体力だ。こいつは意外にタフで、他の1年の走らせればその差は歴然。

(あと…、瞬発性か)

反復横跳びなんかは、他より倍はこなす。清陵の俺の体力に、よくまぁついてくる。
けどそのほかのテクはてんで並み。あのミニゲーム中のフックとか、フェイクとか。あのキレはどこにもない。

(やっぱ手ぇ抜いてんだろーな…。んだよ、やる気ねぇ)

目を逸らして、自分の分のシュートを決める。何も狂いなく、吸い込まれていく俺のボール。
早くミニゲームの時間にならないかと思った。唯一、あいつの本気が見れた試合。
ダッシュの時、順番待ちに並んでいると、不意に視界の端にチッこい背丈の頭が見えた。
藍堂は吐息をついて、腕を組む。ちらり、と視線を上げたらしい天古河が口を開いた。

「あの…、僕のことチラチラ盗み見るの。やめてもらえませんか」
「…べつに。誰もお前なんか見てねーよ」
「視線、感じるんで。あと、僕注目されるの苦手なので…、余計気が散ります」

決勝であんだけ視線浴びてたやつが、何をぬかすか。それも気に食わなくて、舌を打ってそっぽを向く。
相変わらず声が小さくて、若干ボソボソ話す天古河はどうみてもスポーツマンっぽくはない。
いや、清陵であれだけ声を張り上げて鍛えこまれた藍堂から見れば、この部活自体ぬるすぎて話にならない。
だからもう一度ミニゲームの時間になるのを待っていた。この後、自主練でもしなきゃ体がなまる。

「てめーのそのふざけたシャツが気になってるだけだよ。…んだそれ?」
「これ…、1年の小林君から借りました。僕のシャツ…、お弁当のマヨネーズが鞄の中で炸裂して、見るに堪えなかったので」

「は…?」

天古河のシャツは、オレンジの派手な色と、背中に『大勝利』の文字。
どう見てもふざけているとしか思えないシャツを、ジョークとは無縁の世界に生きてるみたいなやつが来てるので、
気にはなっていたが、同学年のヤツから借用したと聞いて納得する。その理由もまたアレだが。

「あと…。ずっと僕の練習風景見て皺寄せてますけど…。真面目にやってますよ、練習」
「あぁ?」

「…ずっと気に食わなそうな顔で見てたので。
人がシュート外す度に、盛大に舌打ちするの止めてください。…正直傷つきます。それから、靴下逆です」

最後の一言と同時に、ダッシュの位置について行ってしまった天古河に取り残される。
小さい声でぼそぼそ言うくせに、言いたいことは余さず言う。
メンテ
Re: 雨、降る日のバスケ ( No.7 )
   
日時: 2013/10/30 16:46
名前: 創魔 ID:Wgt1WWyc


「うーっし。じゃあ、1年の顔合わせ会祝してー、かんぱーい!」



暗くなった帰り道。ファーストフードのハンバーガー店の前で、声を上げる。
疲れてるから早く帰りたいとぼやいた天古河と、家が遠いからと断った藍堂もその場に突っ立っていた。
手に持っているのは、アイスのザリザリちゃんと、ポテトのLと、スーパーの半額の串カツ、肉まん。

「…なんで顔合わせ会がどっかの店じゃねぇの。なんで買う物がこんなバラバラなの」

「なんでもいいから各自乾杯するもの買ってこい」と言われ、集合してみればこれだ。
手にコンビニのペットボトルを持って、あまりのお手軽感に藍堂がため息をつく。
天古河に至っては酢昆布をくわえていて、まさかそれとペットボトルで乾杯するんじゃないだろうな…、と自分の手持ちをひっこめた。

「バーカ。店に入る金があんなら奢れっての」
「藍堂、金持ってそうだもんなー。なんてったって清陵だもんなー」
「どーいう認識だそれ。…お前、清涼中学なんだと思ってんだ、別に仕事先じゃねーぞ」

結局、入部した1年はぜんぶで4人。あまりにも少ない入部だった。
毎日こなすメニューがあまりにもキツく、毎日時間ぎりぎりの夜遅くなので、臆したのだ。
藍堂にとっては、むしろ練習メニューが緩すぎて、アップ程度にしか感じられないのだが、中編高校ならこんなものかとも思った。

「お前ら…、練習では音ぇ上げなかったな。バスケやってたのか」

炭酸を飲み干して、藍堂が訪ねる。短髪で体格のいい男子と、髪が長めの長身の男子。
それに藍堂と、天古河で全部。途中入部でもない限り、このメンバーだけでは練習試合もできない。

「俺はやってたよー。中学ではスタメンだったし。志田 友哉」
「スタメンか…。どこ中?」
「無名だから多分わっかんねーよ。インターハイ予選でおっちまったもん」

カラカラと笑う志田だが、やはりその顔は苦笑していて悔しそうだった。藍堂は瞳を細めた。
そう、この光琳はそんなレベルのプレーヤーがゴロゴロと流れてくる、そんな場所なのだ。期待はしてない。
そもそも、初めから雰囲気がまずかった。中学でバスケをやっていて、そこそこやれるから高校でも続けようと思った連中。
それらが、藍堂と天古河の存在を見つけただけで、もうレギュラーを諦めてバスケを断念し、多くが去ってしまったのだ。

(やる気がない奴はさっさと消えてくれりゃこっちも嬉しいけど…、さすがにこりゃ萎えるな)

4人か、と思い先が重くなる。追慕でもやらないと、まずいかもしれない。
隣でくしゃり、と袋を潰した音に、振り返った。まったく表情は変わらないが、天古河は口を開く。

「追慕…、した方がいいかもしれませんね。僕らだけじゃ、他校と試合するにも無理があります」
「だなー。先輩たちもそう人数がいる方じゃないし、あと2人は欲しいなー」

そう提案した天古河を見下ろして、ちょっと目を見開く。全く発言しない物静かさだが、先のことはちゃんと考えている。
自分も思ったその不安を、同じく口に出したので少し安心した。人数が少ない分、せめてしっかり意見くらい癒えてくれなきゃ困る。
藍堂はゆっくりと首筋を撫でて、面倒臭そうに溜息を吐きつつ空を仰いでペットボトルを握りつぶした。

「…んじゃ、入部して早々にアレだけど。張り紙くらいつくってどっか貼っつけっか…」
「そうですね…。早めにやっておかないと、他の新入生も大半が部活を決めてしまうかもしれません…」

この中で、絵、得意な人いますか…?と囁くような声で聴かれたので、互いに顔を見合わせる。
カッコいいビラこそ人を集める。大方見学に来て、既に諦めてしまった生徒が大半だ。
ただシンプルに「追慕中!」と乗せても、人が来るかどうか。おまけに先輩たちのポスターがかなりカッコ良かった。
バスケの有名校ならともかく、こういう高校ではセンスこそものを言いそうだと何となく感じていた。

「…あー…、俺…絵心はちょっとなぁ」
「俺もだ。…絵なんか小学校の図工の時間以来だぜ」
「…僕もです。顔がないキリンなら描けますけど…、人間はどう考えても僕の画力じゃ無理です…」
「お前のそれたぶんキリンとは呼ばねーぞ」

うーん、と首をひねった3人の前で、ポテトを口にくわえていた少年がふと手を上げた。
屈託のない笑顔に、細めで活発そうな容姿。もう一人の1年生が、手を上げた。

「俺、絵なら得意だよ。中学の時、詐欺防止ポスターで金賞もらったから」
「!うぉ、なにそれ。スッゲーな!」
「へっへー、任せろ」

1年のもう一人の名前は、小林直太郎。この4人が、今年の唯一のバスケ部新入生だ。
実力もてんでバラバラの4人が、今後光琳高校のバスケ部をどんなふうに変えるのか楽しみだった。
話はチラシをどんなふうにするか、金賞取ったなら30人は余裕で鷹ってくるようなポスターにしろ、と無茶振りする。

「絵だけじゃ物足りねーから、なんかこう、3Dとかにしようぜ!」
「え…マジ。金賞ってそんなスゲーのか?」
「おい、夢膨らますな。普通に2次元しか無理だわ」
「…んじゃ、俺が筆とってやるよ。中学でバスケの他に取り柄つったら、俺は習字くらいだからな」
「マジ!…藍堂、お前習字できんの!」

それ、スッゲーカッコイイポスターになんじゃん!と直太郎が叫ぶ。
それを見ていた天古河が、自分も何か…、と思案顔でうつむく。顔を上げ、真面目な顔で藍堂を見た。

「じゃあ、僕もその隣にキリンを描きます」
「やめろ馬鹿」

すげぇシュールなポスターになるわ、と半目でトドメを刺される。
食べ終わったアイスの棒を捨てて、背の高い藍堂は改めて目の前の3人を見た。
中学時代スタメンだった志田に、運動神経のよさそうな直太郎、…背はかなり小さいが帝中出身の天古河。
期待通り、とは言わないが、その力不足も自分が引っ張って行けばいい話だ。特に天古河の真の実力を…、自分は知っている。

「ん。…とりあえず覚えたわ、顔。…簡単にやめんなよ」
「どーだかなぁ。藍堂にしごかれて、メンタルやられたら俺やめるかも」
「お前らばっかボール取るなよ。俺らも早めに強くなるように頑張るからさ、協力してくれよー」

若干本心も入っているかのような2人に、藍堂は飽きれ、天古河はクスッと笑った。
そんな天古河の様子を見て、藍堂は改めて普段の練習風景の天古河を思い出す。あのプレイ…。
半年前の試合とは大違いだ。その本気の実力を…、もう一度見るまではコイツのことは正直よく分からない。
いや…、むしろ自分が真っ先にこのバスケ部をやめる可能性すらある。こいつは…、本当なら仲間じゃない。
誰よりも、何よりもリベンジして、倒したかった敵になるはずの男だったのだから。本気の勝負を望むなら。
だから…、そのためならあえて今、この部をやめることだって…、できる。

「はい…、一緒にがんばりましょう」

穏やかな顔でそう返す天古河には、自分がそんな対抗心を燃やしているとは分からないだろう。
藍堂はやるせない顔で目を逸らし、影でそっと大きな拳を握りしめた。でもそれまでは…、近くでこいつの本性を見てみたい。
その機会は、きっとたくさんある。これからの練習、これからの試合。きっとその中で、見つけて見せる。

「それにしても、藍堂も志田もいいとして。お前のその変な苗字だけはどーしても呼び辛いよなぁ」
「…変な苗字って言わないでください。だったら下の名前で呼べばいいじゃないですか」

むっ、と眉間に皺を寄せた天古河が、そう呟く。確かに、部が始まってまだ数日だが、一向にその苗字を呼ぶものは現れない。
そこの1年、とか。ちょっとキミ、とか。どうしても舌を噛みそうになるその名前は、彼には毎回のことだった。
それは1年生全員を含めてそうで、周りを上から囲まれて天古河はまばたきした。

「お前…、下の名前ってなんだっけ?」
「雨です」

「雨って…、雨は雨で紛らわしいよな。雨降ってる日とか、『うわ雨マジうぜー』って俺普通に言うけど」
「やめてください。…傷つくんで」
「でも試合中にいちいち『天古河』なんて長い名前言いたくねーよ。舌噛むわ」

なんかあだ名つけねーとな…、と腕を組む。「…、雨でいいのに」とそれを待つ天古河。
そこで、ふと思いついたように彼は瞬きして、悩める3人を見上げた。その目には、慣れた顔があった。

「じゃあ…、アマ公って呼んでください」
「?なにそれ」
「…僕の名前、やっぱり長いので。前の中学でもそう呼ばれていました」

良かったら、そう呼んでください、と。惜しげもなくあだ名を教えられて、3人は顔を見合わせた。
アマ公。なんか犬みたいだけど、それはそれでなんか合ってる。雰囲気は、何を考えてるか分からない犬そっくりだ。

「いいけどよ。なんだその、アマ公って」
「…『天古河』の最初と、僕の名前の『雨』を『う』って読み方した人がいて…、くっつけてアマ公です」
「たっはっは!なんだそれ、考えたヤツうめーっ!」

大笑いした直太郎をちらっと睨んで、「…笑わないでください」と一言。
くしゃり、と頭を上から撫でられて、「んじゃーよろしくな、アマ公!」と名前を呼ばれる。
それが何故か中学の時に戻ったような錯覚を覚えて、天古河は手を払いつつ「はい」と返事をした。
メンテ
Re: 雨、降る日のバスケ ( No.8 )
   
日時: 2013/11/07 23:32
名前: 創魔 ID:7V3SLTIQ


土砂降りの日だった。その日は、バスも電車も駄々遅れ。
交通の手段が一切ない中、傘さえ持ってくる頭なんてなかった藍堂は、盛大に遅刻した。
日曜日。他校との初めての練習試合。体育館に入れば、すでに着替えた仲間たちとすれ違う。

「…ッ、悪い」
「藍堂いそげ!ロッカーそこ曲がって左!」

先輩たちも今しがた着いたばかりのようで、他校を待たせないよう濡れた髪を拭いつつ着替えていた。
ガチャリ!とロッカーを開ければ、びしょ濡れの体が、さらにびしょ濡れの誰かとぶつかった。
自分の勢いに負け、勢い良く吹き飛ばされたらしい相手が、床にしりもちをついて倒れた。

「!悪い、大丈夫か…っ。って…」
「藍堂くん…、今日はもう来ないのかと思いました」

自分以上にズブ濡れ…、というか。いくら雨降っているにしろ、シャワーでも浴びてきたのかというほど。
全身めちゃくちゃに濡れた姿で自分を見上げる姿に、軽く眩暈がした。いやそれ、タオル何枚あっても足りねぇ。
バッグを片手に、困った顔をしている少年を無理やり助け起こして、改めてまじまじとその有様を眺めた。

「おまっ…!んだそれ…、着衣水泳か!?」
「……、今日雨降るとは思わなくて。鞄の中までびしょびしょなので、用意したシャツが着れないんです…」

困り果てた顔で、「今からここの部員の人に、シャツ借りようと思って…」と呟く。
しかし今から誰かを探してシャツなんか探していたら、確実に整列に間に合わない。
藍堂は苛立ちながらも、自分の鞄の中に手を突っ込んで、予備の黒いシャツを引っ張り出して投げつけた。

「さっさと着替えろ!…あと、その恰好であんま歩くな!床が滑るわ!」
「すみません…、ありがとうございます」

シャツを持って、2人一緒にロッカーへ走る。これからアップすれば体は温まるが、風邪でも引きそうだ。
靴下もバッシュも濡れて全滅だそうで、途方に暮れるアマ公にアップ用の着替えを全部貸してやる。
「サイズでかすぎです…」とか「アップ用のシューズ、滑るんですけど…」とかいう文句は一蹴だ。
急いで準備して体育館に出れば、全員もうアップを始めていた。







「今日は、いきなり雨降ってくるの大変だったろう。ま、風邪ひかないように。後怪我しないように。
十分体あっためてから、練習試合はじめよう。2,3年は右コート。2校の新入生は、奥のコートで練習試合。
今日1日、びしょ濡れでせっかく来たんだから、お互い無駄にはしないように。じゃあ、今日はよろしく」

「よろしくお願いっしゃーす!」

藍堂とアマ公は、言われたとおり奥のコートへ移動する。早く2,3年に交じって練習したいところだ。
だが、とりあえず今週いっぱいは1年同士、互いの実力を見極めるためにも合同で練習する。
中学でスタメンだった志田。未知数の直太郎。そして一番道なのは、アマ公だ。

「…、おい」
「はい?」

「…、練習試合だからって気抜くんじゃねーぞ。本気出せ」
「…、いつも本気出してますよ」
「抜かせ。少しでも手抜きやがったら、その貸したシャツ速攻返却さして、全裸で試合させっからな」
「…どんな羞恥プレイですか」

…バスケだけに、と無表情で続けようとしたアマ公をひっぱたいて、コートに向かう。
不足分の人数は、ベンチ入りの先輩が満たしてくれた。あとは、初めての試合で勝くじを見極めるだけだ。
メンテ
Re: 雨、降る日のバスケ ( No.9 )
   
日時: 2013/10/31 15:31
名前: 創魔 ID:rswhgoVg

「ではこれより、城西対光琳1年同士の練習試合を始めます。礼!」
「お願いしゃーっす!」

始まるバッシュの高い音。ジャンプボールを誰にするか決めていなかった光琳は、
迷ったように仲間たちを少しだけ振り返る。のろのろと移動した藍堂が、腕の筋を伸ばしながら振り返った。

「…良いぜ、俺は別に。志田、いけよ」
「え、いいの?絶対お前の方がジャンプ力あんのに…」
「いーんだよ。俺より身長あんだろ、…さっさと跳んで俺にボール回せ」

つまりそういうことらしい。ジャンプボールするより、早く点を取りに行きたい、と。
志田は苦笑して頷き、真ん中へ歩み寄る。開始を待っていたアマ公の隣で、ひそりと声が囁かれた。
横を見れば2年の中尾先輩がいて、優しそうな顔でなぜか困った顔をしていた。

「俺、あんまり役に立てないからさぁ。あんま期待しないでね」
「…大丈夫です。ヘルプありがとうございます。今日は1年の試合なので、1年の力で頑張ります」

やっぱり、スタメンではないとはいえ、1年の人数はそろえた方がいい。
ホイッスルが鳴ってボールが浮くと同時に、志田の手がボールをはじいてまっすぐ藍堂の所へ堕ちてきた。
そこからのクイックネスが以上に速かった。試合開始と同時に3人抜きした藍堂を、誰も目で追うことができない。

「えっ!?」
「お、おいおいお…!」

ホイッスルと同時に、クイックリリースでボールがゴールをくぐる。
目の前にいたブロックすら反応が間に合わず、ジャンプさえ許さない。ドンッ、とボールが床につく。
呆気にとられる一同の中で、藍堂は頬の滴を拭って舌を打った。余りにも速すぎるファストブレイク。

「汗なのか、さっきの雨なのかわかんねーや…」

先制した藍堂に、呆気にとられる4人。ざわり、と空気が揺れた。
相手校の1年生たちが、ざわざわと藍堂の背中を見つめて嫌な汗を浮かべる。

「あれって…、まさか清陵中だったヤツじゃねぇ…?」
「中学で全国出てなかったかアイツ…。1年から3年まで…スタメンで出続けたエースの…」
「嘘…!なんでそんな奴が、バスケじゃかなりそこそこの光琳なんか入ってんだよ…、普通もっと有名校行くだろ」

つか、今日の練習試合死んだ…!と勝手に死亡フラグにしている選手たち。
そっぽを向いている藍堂に、影から歩み寄ったアマ公が眉間に皺を寄せた。
打ち震える相手の1年生選手たちを憐れむような眼差しで、得意げにすらしない藍堂を責めた。

「…なに相手の出鼻、初っ端から挫いてるんですか。飛ばし過ぎです…」
「うるせーな。その方が早く先輩の試合に交じれていーだろーが」

こんな温い試合から、さっさと撤退したいらしかった。
事実、藍堂が本気を出せばあっという間に勝負も着くだろうが、アマ公は至って慎重だった。
ポジションにつく仲間たちの方を見て、深慮深げに、ふっと吐息をつく。

「そう、簡単にいくでしょうか…」
「あぁ?」

ホイッスルが鳴って、ボールは相手チームへ。パスが通り、リバウンドからオフェンスへ流れる。
相手のPFへ繋がろうとした瞬間、圧倒的なパワーでボールをもぎ取った藍堂が、向きを変えた。
ディフェンスが一気に囲んでくる。少しの気のゆるみが、3Pという完璧なブロックを許していた。

「おっ…」
「い、行かせねーぞ!!ここはぁ!!」
「屍越えて行けやぁ!」

意地でも、といった目で藍堂をブロックする。前にも後ろにも引けないブロック。
藍堂はちょっと片眉を吊り上げると、視線を外へ流した。ノーマークな人間がたくさんだ。
フェイクをかける。右へ、左へ、右往左往する相手を目の前にして、藍堂は背後にパスを出した。

「へっ、俺!?」
「…ばやし、ゴー。シュート」

のんびり囁かれれば、ボールをもらって驚いた小林が藍堂を見る。
ゆっくり背筋を伸ばして立ち上がれば、あとはもうそこにボールのない長身の藍堂が立っているだけ。
にやりと笑った藍堂が腰に手を当てて、ポカンとした敵選手に首をひねると、慌てて小林を追いかけ始めた。

「…っディフェンス!止めろ!」
「おっわ…、守りガラ空き。マジかよ…」

可笑しそうにくすくす笑った藍堂は、必死になって背を向ける相手が面白くて仕方ない。
こんなに緊張感のない試合をしたのはいつ振りだろう。あくびが出る。あり得ないほど退屈な試合だった。
相手コートに背を向けて、ボールが戻ってくるのを待とうとしたときだった。突然のホイッスルに、藍堂の目は丸くなる。

「トラベリング!」
「えっ…?」

ゴールに到達する前に、ドン…と音を立てて小林の手からボールが零れ落ちる。
恐る恐る…、何事だ?というふうに振り返って、相手ゴールの手前に立つ仲間を見つめた。
審判と、小林を追いかけていった大勢の1年。あと一歩でシュート、というところだったはずなのに…。

「小林くん。バスケは、ボールを持って3歩歩いたら反則です。…昨日言ったじゃないですか」
「あれ…、そうだっけ?」

「あと、攻撃の時は台形に入ってから30秒以内にシュートを打たなくては反則になるので…。
自分ばっかり持ってないで、積極的にボール回してください。…一人で持ってると、スティールされますよ」

妙に律儀に忠告するアマ公に、小林は大人しく頷いている。
え、ちょっと待ってなにその注意。と顔を強張らせていると、小林が笑顔で振り返った。
その手にボールを拾い上げて、困ったように眉を八の字にして、満面の笑みで手を振ってきた。

「悪いー、藍堂ー。パスもっかい!」
「……へ」

再び試合が再開して、ボールが回ってくる。なんだか妙な空気になってくる。
適当に相手をかわし、ゴール付近まで来たところでブロックが硬いので周りを見回す。
マークがついていないのは、小林だけ。さっきのことの意味が分からないまま、笑みを浮かべる小林に再びパスを出す。
次の瞬間、あっという間にスティールされたボールが猛烈な勢いで逆流を始めたので、思わず目を向いた。
急いで踵を返し、マッハでボールを追いかけていると、ちょうど隣にアマ公が並んできた。

「藍堂くん、昨日の話聞いてなかったんですかっ…。小林君はバスケ初心者なんですよッ」
「は、…?」

初心、者…。
ボールを奪われて全力疾走する前方の小林に、目を向ける。
昨日、俺にもボールちゃんと回せとかほざいてた…、あの運動神経良さそうなチャラ男が、バス…ケ、初心…

「ッ…はぁあ!?」
「それも、トラベリング知らないくらい超ド級。パスを出すときは気を付けてください」
「…っんなヤツにパス回さねーよ!!つか、んなもん試合出すとか!!」

言ってる傍から、偶然ボールをうばった途端にシュートを放つ。
誰もが目を見張って言葉を飲み込んだ。華麗な弧を描いて決まったゴール。つまり…

「…オウンゴールじゃねーかッ!!」
「なにやってんだ1年お前!そっちお前らのゴールだっつーの!!」
「えっ…?どっちでも入れりゃ得点じゃないの?俺、体育の授業でずっとそうしてたけど…?」
「お遊びゲームと一緒にすんじゃねーよっ!…つか、初心者にしてもその年でバスケのルール知らないとかマジか!」

再びゲームが中断し、あまりのショックに藍堂は立ち尽くした。
初心者…、ンな話は聞いてない。ていうか、初心にもほどがある。初めて文化に触れる宇宙人かコイツ…。
相手チームに謝りつつ、ボールを拾い上げて小林が仲間を振り返る。満面の笑みに、再度突き落とされた。

「悪ぃー悪い、次は間違えないから!もっかいやらして!」
「ッ…ざっけんな!ルール暗記して出直して来い!!」

いくら有名選手がチームにいるからといって、これは相手チームもキレていいレベル…。
そこをポンと肩を叩かれて、振り返る、というより見下ろした位置にアマ公がいた。

「大目に見てあげてください…、人数足りませんし。小林君のミスは、藍堂くんがフォローすればいいんです」
「はぁ!?ンで俺がそんな尻拭い役…ッつかお前、知ってたならルールくらい教えとけよッ!」
「…昨日、夜を徹して教えました。でも、途中でお互いに寝落ちしたので」
「じゃあ試合に出すなっ!」

まだ始まって3分経っていないのに、もう試合存続さえ危うくなってきた。
というより、何より今日見抜いてやろうと思っていたアマ公のプレーを、まったく見れていない。
苛立ちと失意。そんな様子に気が付きもしないアマ公は、周囲を見回してから落ち着き払って顔を上げた。

「小林君はまだフェイクもドリブルも慣れていないので、センターにいてもらいましょう。
さっきのシュートも綺麗に入りましたし、彼もともと運動神経は抜群に良さそうなので、
リバウンドやシュートなら決めてくれると思います。…それに、これ以上ファウル取られるとさすがに痛いので」

「……。」

ポジションの交代を伝えに行くアマ公。タイムアウトも取らず、律儀に待ってくれる相手チームに涙が出る。
ていうか試合中にこんなことしてたら馬鹿なので、本来なら声掛けや身振りで伝えるものなのだが。
小林にはその手ぶりさえ伝わらず、ポカンと笑顔を見せているので、アマ公もため息をついた。
戻ってきたアマ公が、さすがに珍しく消沈した様子で肩を落とした。

「…とりあえず、センターの志田くんと変わってもらいました」
「…、あとでみっちり勉強会だな」

苛ついた口調で藍堂が歯ぎしりする。試合の再開。
しかし、問題が浮上したとはいえ、この試合は退屈すぎる。藍堂は思い付きのまま、アマ公の肩を掴んだ。
真上から力強い腕に掴まれて、アマ公の体が大きく揺れた。不思議そうに顔を上げるアマ公に提案する。

「…俺とお前、どっちが多く点入れるか競争するか」
「嫌です。子どもですか」

呆気なく振り払われた手と同時に、ブザーが鳴る。
自分の持ち場へ戻っていく後姿を見て、藍堂は再び舌打ちをした。
ンなこと言ったって、全国決勝まで行った2人にとって、この試合の何が楽しいというのだ。
アマ公は、理解できない。自分とは全く異質のプレーヤー。いや、人間そのものが違う。

「…ンだよ、つまんね」

藍堂はガリガリと乱暴に頭をかいて舌打ちし、背を向けてため息をついた。
気が付けば、自分以外は再び試合に集中し、ボールが流れていた。瞳を細める。
何年も見慣れたボールが、あんなにゆっくりとコートを移動するのを藍堂は初めて見た気がした。




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