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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.151 )
   
日時: 2015/06/29 15:42
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:HtEQvDR.

輪の中心は酷い有様だった。
外側からもあまりの醜さにうんざりしていたが、それはまだまだ可愛い物だった。
宿の娘が昨日の優しさはどこへやら、涙にぬれた顔で医者にむかって怒鳴っている。
それに対し、いつもの口調ではあるものの埒が明かないことに苛立ちを募らせているであろう
ジークの刺々しい口調が、更に火に油を注ぐ結果となっていた。

「あなたが来なければ!あなたが来なければ両親も死ななかった!」
「お前の主張は間違っている!それは私が賊と組んでいなければ成り立たないものだ!」
「あなたが来てからおかしくなったの!この宿場町は!
 わたくしは貧乏でもよかった!平和に暮らしていければ!その日暮らしでも!」
「もともとならず者がいる事でこの宿場町は有名だったではないか実際周辺で死者も出ている!
 今回はたまたま宿場町の中まで入ってこられたのだろう!」
「それはあなたが内通しているから入ってきたのよ!あぁ、喜んでいるからって遠慮しなければよかった!
 あの医者が怪しいって言えばぁ!みんな死ななかったああ!」

両親をたった今亡くしたか弱い女性と、苛立ちの隠せない男のどちらに人は同情するだろうか?
この宿場町にいる人は、普段の彼女を知っている。どんな優しい人だったかを知っている。
その彼女が人目も憚らず号泣し、またとある男を責めている。
そしてその男とは、今現在皆少なからず憎たらしいと思っている男である。
ジークの言動でただでさえ彼の信頼度が低い時に、この状況でだ。
むしろ、客たちは医者を責める口実ができたことに内心、気付かないところで喜んでいた。

「あなたはお金が欲しかったのよ!自作自演だわ!
 人の命なんて金次第なんて、そんなの医者じゃないもの!金だけのために、ここに来たんだわ!
 病人もけが人も関係ない、あなたは目の前の人間を金としか見ていないの!」
「相手にするのもバカバカしい!お前に一つ教えてやろう!
 よく知らぬものに根拠のない否定をするとき人は自らの欠点を言うのだとな!」
「何が……何が言いたいの!」
「お前自身が目の前の人を金としか見ていないということだ!」
「酷い…ひどいいい!この人殺し!」

ついに娘は突っ伏して、わぁっっと泣き出した。
それに対し侮蔑の表情を浮かべながら、医者は呟いた。

「このジークワルト、医者と呼ばれてから殺そうと思って人を殺した事などない……。
 まして、自分の利得の為に殺して何になる……。」
「何が、言いたい……。」

周りがしんとなった。ただ、宿屋の娘が泣いているだけだった。
その他の音と言えば、人の事情など露と知らない獣たちの起こす音だけである。

「……命を救うことだけに専念してきた、命の持ち主など関係なしに。
 ただ平等に与えられた命だけを救ってきた、それだけだ。」
「てめえ、言い訳になると思ってんのか!」
「私は医者ということに誇りがあると言っている!救う命は救うだけ。」
「金だ金だって、金がなきゃあ救える命すらお前は見捨てるんだろう!命は金じゃねえ!」
「金がなければと言うが何故金を作ろうと努力しない!
 私ならば本当に救いたい者の命には金などいくらでもくれてやれる!例え私自身が死んでもな!」
「黙れ!金に目の眩んだ人殺しが!どうせ金さえありゃあ医者のフリして毒でも盛るんだろう!」
「私の行為で人を殺してなるものか!誇りをなぜ欲に眩んで穢さねばならないのだ!」
「話にならねえ、顔を見るのも不快だ!……ほらよ、纏めて払うからとっとと消えろ!」

男が上着の下から金貨と宝石を取り出すと、ジークに対して投げつけた。

「…多い分は迷惑料としよう。」

中身を確認したジークは、それを懐に入れると荷物を運び出し、宿場町を後にした。
彼の姿が見えなくなったことに客たちは胸をなでおろしたと同時に、あることに気付いてしまった。
この怒りをぶつける相手がいなくなってしまった事を。
金を払った男を責めることはできない。被害の少なかったものをなじる事もできない。
ただ、涙を流し続ける娘を見て、彼女を慰め、医者の悪口を言うだけしかできなかった。
そうして『宿屋の娘より自分はマシ』と言い聞かせることしか、術は残されていなかった。



「見送りに来るのが俺だけで済まないね、まぁ状況を察してくれや。」
「こんな時に、……なんか、気を遣わせてしまったみたいで。」
「奏美は固いんだよ…あたしは寸前でお預け食らったし、足まだ痛いし。」

宿場町を発つ三人を見送りに来たのは、最後まで手伝ってくれた男だけだった。
被害が無いといってもいい彼は、医者の悪口を言っていなければ妬まれる立場にあった。
それを理解し、もうすぐ彼も発つらしい。
荷物を積み込んだエドが、奏音と奏美に対して手招きする。
見送りに来てくれたことに対しお礼を言って機体に乗ると、エドが言った。

「で、どれくらい儲かったんだ?」
「は?」
「とぼけるな、お前が主犯だろう?」

男が笑う。
エドのまさかの問いと、肯定と言ってよい男の反応に人見姉妹は互いに顔を見合わせた。

「言わないかい?」
「あぁ。」
「ま、死んだ奴がいるのと、治療費も合わせりゃほんのちょいっとだな。」
「そうか。ま、そんなもんだよな。」
「こっちからも質問だ。なんで気付いた?」
「伊達に戦場に出ていない。第一に、お前が屋根に上って逃げたということ。
 屋根で戦って落ちた奴もいた。屋根に行ったっていた奴のお前以外が敵に見つかっている。」
「あぁ、そうか。」
「第二に、なんで荷物を全部持ってかれるんだ?価値が無い物だってあるだろう。
 大方理由をつけて逃げおおせるつもりだったんだろ。というか、俺達に最後まで付き合って道の確認をしてただろ?」
「ご明察。」

男は言った。隠す必要のないことだという雰囲気だ。

「あいつらも馬鹿だ。医者を追い出して、そのあとの治療をいったいどうするつもりなんだか。
 罪をかぶって貰った分、あの医者が良い旅路になるように祈ろうかね?」
「お前の好きにするがいいさ。俺には関係ないんでな。」
「平和って一種類みたいな雰囲気で、あのお嬢さんは嫌いだね。俺達賊にとっては今の感じが平和だな。
 戦いこそあるものの、それなりに飯が食える。戦が無けりゃ、平和だと言えねえ。」
「それはお互い様だ。じゃあな、会うことが無いのを願うよ。」

未だに起こったことを理解できない奏美と奏音を乗せ、危なっかしげに機体は舞い上がった。
男は機体が見えなくなるまで手を振り続けた。

「見破られたなぁ、ミューガ兄?」
「ルカか。さて、俺もおさらばするかねえ。」
「ミューガ兄貴…よかったのか、殺さないでさ。あの医者、治療法を聞いたんだし殺しても……。」
「おっかねえよ、医者も、あいつらも。」

ルカとヒロイチを後ろに従え、ミューガは森の中に消えた。
彼がいなくなったこと、真の黒幕、これから怪我人たちをどう扱えばいいのか知らない、
ということに宿泊客達が気付いたときはもうすべてが遅かった。





水辺の土を掘り返すと、冬眠している虫が見つかった。
動きの遅いそれを針に刺し、突然の刺激に身をよじるのに罪悪感を感じつつ水に投げ込む。

「はぁ……。」

ラリーはため息をついた。彼は今、人気のない小さな池のほとりにいる。
いつもならばここに来るのは暑い季節、補助具を作る材料を一度に集めるときか、
どこかのお偉いさんから直々に注文されたときくらいのものである。
自分に才能が無いと感じてから、ここに来ることはなかった。
技術者の家に生まれ、技術者になる為だけに勉強してきた。
特に一度戦に出てからは、その思いが強くなっていた。
しかし結局果たせなかった。自分の後釜として出陣し死んだ者の顔も浮かんでくる。
才能が全てなのを理解しているが、努力で補える部分もあると信じていた。
しかしどんなに努力しても、根本的な技術がなければ意味のないことだった。
そしてその技術とは、才能以前の問題である。

「どうしようかなぁ、おれ……。」

想良の言っていたことが思い出された。興味はある。
しかし自分ごときにできるのか、という疑問と不安の方が大きい。
ラリーは時間のあてもなく悩んでいた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.152 )
   
日時: 2015/12/06 09:12
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:Y4UwpVLo

「お兄様……?」
「ロズか。お前さん、本気でやる気かい?」
「当然じゃないか!なんのためにロズはここまでやってきたと…!」

ロズは自室で声を落としながら話している。
一応、信頼のおける配下――もちろん、自分の味方に付く人間だけをおいているが、
それでも用心のためだった。
話し相手は兄のフィッツロイ。リキルシアの牢番であるが、今はルイテンにお忍びで来ている。

「ルイテンの連中はな、中々厳しい。」
「そうだね、今回の使者も微妙だったよ。でも仕方が無いじゃないか!」
「なんつうか、成功したら参戦する…だそうだ。」
「ふぅん、いいけどさ!」
「じゃ、予定通りかい?」
「うん!ロズが反旗を翻してお父様とフェビアンは始末する。」

ロズは既に決定事項だとでもいうように言った。これはもう揺らがないらしい。
しかしフィッツの返事がないことで動きを止めた。通話状態の維持ができなくなったのかと
思って機材を確認するが、それも大丈夫らしい。

「お兄様、まさか抜けるだなんて……。」
「いいや、そうじゃない。馬鹿女とペネロペはどうするんだい、お前さん。
 ベティはまだ生かしておくとして、他の兄弟はどうするのか考えてたんだよ。」
「あぁ、そんなこと。」

呆れたようにロズが声を出した。

「気にしないでよ。お兄様が考えることじゃないんだから。」
「そ、そうか…?ま、お前さんなら大丈夫だと思うがね……。
 とりあえず、そろそろ切らせてもらうぞ。これ、けっこう疲れるんだな…。」
「うん。しっかり休んでね。おやすみなさい、お兄様。」

今度こそ通話状態が切断された。ロズの味方も部屋を出ていってしまう。
愚鈍な兄を国王の座につけて、自分は好き放題する。
もちろん今まで築き上げられてきたリキルシアの威光を維持するのも忘れないが。
だが、今までなかったことをやると言うのはロズにとって楽しみ以外の何物でもなかった。
最古の国のくせに、内乱どころか王位継承の争いすらなかったらしい。
せっかく、自分達には兄弟が多いのだ。頭の回る邪魔者だって、確かにいる。
少しくらい遊び、支配する。
それだけのために、ロズはこの内乱を計画し、実行寸前まで来ていた。





「何をしているのだ!」
「ミラーさん、落ち着いて…。」
「このようななりで敷居を跨ごうなど不届き千万!」
「この者に説明を……。聞いてくれてる?」
「ミゲル、お前は黙っていろ!」

歩き続けて幾時間。人の気配と声が聞こえ始め、ついにジョナサンは開けた所に出た。
整備されたまともな道を歩けることに感動していたが、すぐさま警笛が耳に入ってくる。
侵入者であるから仕方が無い、そう思いできるだけ目立たずその場を去ろうと考えた。
しかし、それは薬が許してはくれなかった。
急いでやってきた兵士を一人、また一人と気絶させ戦闘不能にに追い込んでしまう。
思いがけぬ強敵に、ついには上級兵士も呼ばれてしまったらしい。
初めに倒した兵士とは身なりも雰囲気も貴いと感じされる彼らの武器に囲まれ、今は両腕を挙げていた。

「…私が聞き出すから。ミラーさん、ちょっと黙っててくれます?」
「お前はそうやって……!」
「すみません、お見苦しい所をお見せしました。
 あなたはしばらくは国内にいらしたようで。しかし警報が発せられたということは……。」
「私は捕虜になっていた…らしい。解放されたらしいのだが、どうも行く当てがない。
 気の向くままにこちらに来てしまった、なにか手順があり今からでも遅くないのならそれをやりたい。」
「捕虜ですか?……どなたの?」
「それを知っていれば、その人に復讐したいと考えているが。」

完全に役目をとられ、ミラーはミゲルの後ろで口を尖らせていた。
ジョナサンは、自分が何者かの支配下に置かれていることは黙っていた。
口が勝手に動かないことから支配者も正体を明かされることは望んでいないのだろう。
彼らの周りでは、戦闘不能になった兵士が目を覚まし始めており、受けたダメージの余韻に顔をしかめる。
特にダメージの酷い者は、他の兵士に肩を貸され退却して行った。
それ以外の者たちは、切っ先をジョナサンに合わせて一つもぶれていない。
流石にこれを振り切るのは無理そうだ、と彼は考え
目の前で今はもう珍しい紙――もちろん、なにかしらのまじないは掛かっているだろうが、
それで情報を照会するミゲルを眺めていた。

「本当に捕虜ですか?」
「正確には分からないが、私が負けて勝者にいいようにされていた。」
「……あなたの名前は?」
「っ……。どうやらあなた方には言えぬよう力が働いているらしい。」
「でしょうね。とりあえず分かった事は正規の手続きを踏んでいない捕虜ということ。
 ミラーさん、お調べですかね……。」
「そうだろうな、よし!ではさっそく準備だ。……おい、お前。」
「……はい。」

ミラーはそばにいた小柄な兵士に声をかける。
まさか自分にお鉢が回ってくると思わなかったのだろう。
一拍遅れて彼女――女性兵も出動するのか、とジョナサンは頭に入れた――が返事した。

「こいつを牢に入れておけ。」
「はい。…あの、どちらに入れれば……。」
「あぁ……地下の方にしておくか?あそこなら、反乱の心配もない。」
「ミラーさんの方が私より上なんだから、どうぞお好きに。」
「では、地下牢へ。」
「はい……。」

女性兵がジョナサンに対して、小さな錠をつきつけた。
それは痛みを伴わず体内に飲み込まれ、彼女の動きに従わされる。
幼いころ、一度だけしか見たことの無い能力をここで再び見ることがあるとは考えてもみなかった。
そして嫌でも自分で命を奪った友の事が思い出される。
子供たちはどうなっただろう、見せしめになったか、尻拭いをさせられることになったか。
その考えを振り払うように、ジョナサンは女性に話しかける。

「珍しい力だな。」
「……なんでも、私の家は…もうないと思うけど……古い血筋だったそうで。」
「もうない、とは?」
「没落したんです。プライドが高かったらしいので……。
 私を身ごもった母だけが逃げて、兄弟たちはおそらく……という訳です。これ以上は答えません。」

そう宣言した通り、彼女はジョナサンのいかなる問いに対しても口を開くことはなかった。
途中から目隠しをされ、どこかの建物に入り、その階段をゆっくりと下りていく。
そして意外に温かく暮らしやすい雰囲気の所に入れられると、目隠しをとられた。
地下牢というが、すばらしいとは言い難いが劣悪だとも言い難い。
尤も、扱いがましであると保証することもできないが。
目隠しをとり、腕から錠が抜かれたジョナサンはやっと、自分の思う通りの行動ができるようになった。
牢の中で動ける範囲で動き、音の反響で判断するにここは牢の中でも最も奥と言っていいだろうと推測した。
自分の他にはやつれた、おそらく四十を超えた女性が向かいの牢にいるのが見えるだけだ。
彼女はとっくの昔に壊れたのだろう、リアルな乳児の人形の口を自らの乳房に押し付けている。
がさついた声で、虚ろに歌われる子守歌は、その歌声はジョナサンの本能的な部分を恐怖させた。

「…ー、……のこぇ……は、今……」
「はぁ……。」
「子を…母の……ぃ、……。」

何の歌か、ジョナサンにはわからなかった。
所々母がどうしたとか、子がどうなったとか聞こえるだけだった。
彼女の中で、乳児は満腹になり、眠ったらしい。
背中を数回たたき、彼女は着ていた服のほとんどを人形のための寝床にした。
そしてまた、子守歌を歌い始める。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.153 )
   
日時: 2016/03/22 22:32
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:VK8HM60s

「あ、あの、準備……。」
「いや凄い!ソラどうやってんの、これ?」
「だ、だからこう切れ目を……。」
「へーえ、…あ、切り過ぎた。」

桂剥きに感心され、ならばど皮を剥き終わった後、
自分たち女の食べる分だと除けられていた傷物や形の悪い物を飾り切りにしてみればこの様だ。
ある程度簡単なものを教えてしまったのが間違いだった。
手の空いたものからそれを習いにやってきてしまう。そして熱中し、料理が放置される。
今では想良が厨房内を駆け回り、分からなくなり教えを乞いに来た人にそれを教える。

「あの、後でしっかり教えるんで、お願いだから……!」
「いいんだよ、どーせ男たちは皿を叩いて待つことしかできないんだから。」
「そうそう、こういう凝ったものだせばこっちのモノなんだよ、ソラちゃん。」
「でも私、親方様?親方さん?に呼ばれてて……。」

想良がそう言った瞬間、厨房内の空気が凍った。
皆意外だと言う顔をして、かつ視線は想良とエステラの間を行き来している。
意味の分からない想良と、ばつの悪そうな顔をしているエステラ。
想良が戸惑っているとエステラが耳元でささやいた。

「技術者ってね、基本的に男の仕事なんだよ。
 女の人がやるのはサポートだけ。……こう本格的にやるのは、ラリーのお母さん以来だよ。」
「え、そうなの…?」
「どーりでこういう事ができるんだね、ソラちゃん。ここの仕事は任せて、ほらもう行く。」
「え、でも、まだ。」
「いいからいいから。」

そのままエステラに想良は厨房を追い出されてしまった。
他の女性たちもそれに異議を唱えないことから、想良は厨房に戻るに戻れない。
とりあえずナタリーが持たせてくれた簡単な朝食を素早く口に入れ飲み込んで、修行場へと行く。
ラリーが顔を腫らせ、後片付けをしていたあの場所だ。
自分もああいう指導を受けてしまうのだろうか、そう思いながらも想良の足は進んでいた。

「おう、来たか。」
「はいっ!」
「まだ型を作らせるわけにもいかねえ、力のコントロールだ。
 量だけはあることが分かった訳だがお前、今までろくにそれを使った事ねえだろう。」
「はい…。」

実際はそれなりに使っている方なのだが、やはり積み重ねはごまかせない。
同い年の女性――男性は徴兵されることが多く滅多に帰ってこない――と比較しても、格段に劣る。
さらに、この世界での力をつかってこなす仕事も、工夫次第ではそれを使わずにできてしまう。
なので、想良は力を使うことが少なく、それが親方には分かってしまったらしい。

「本当に、どうなってんだろうなぁ…?まぁいい、ついて来な。」
「え、ここでやるんじゃないんですか?」
「馬鹿野郎!んなとこでやったら思いっきりできねえだろうが!」

怒鳴りつけられたことにより、想良は一瞬で血の気が引いた。それ位親方には迫力があった。
彼もそれに気づき、やり過ぎたと気付いたらしい。
ポリポリと頭を掻きながら、修行場の奥の壁を思い切り押す。
するとそこは音も立てずに開き、中からは小さな子供たちの声が聞こえてきた。

「入んな、ソラ。ただし、ここの事はなにがあっても口に出すんじゃねえぞ。」
「はい。」

真っ暗な中を数分ほど進むと、急に明るくなった。
しかしその明かりは太陽や炎によるものではなく、天上にぶら下げられた数々の補助具からなっていた。
その下では数人の男、働き盛りとも言える三〇代くらいの男達に技術者の子供たちが挑みかかっている。
男も女も関係なく、体中に傷を作りながらも休んだり、弱音を吐くことはなかった。
パンッ、と親方が両手を叩くと皆が瞬時に動きを止める。そして大人たちが子供たちの手当てをした。

「どうだ、様子は。」
「それなりには進歩しているがね、まだまだだ。」
「そうか。……明け方、ナタリーが来た。」
「どうして?」
「……また、だ。」

その言葉で一瞬にして空気が固まった。
想良はどういう事かわからず、おろおろすることしかできなかった。
ただ、子供達からも強い憎しみのような雰囲気を感じてしまい、どうすることもできなかった。
想良の知っている日本では、普通のたった一言でここまで憎しみを露わにさせる状況などないし、
そもそもそうなってしまうほど子供たちが苦労することなどなかった。

「しかも女数名……らしい。」
「……畜生。」
「おい、それは本当かい?!」
「あぁ。」
「そんな……。」

一人の大人が崩れ落ちた。周りにいた子供たちが心配そうに彼に駆け寄る。

「え、あの…っどうしちゃったんですか…?」
「上の奴らが人をよこせと言ってきた。もうこっちには余裕が…ねえんだよ。」
「上のって……あの、大きい家の人、ですか?」
「そうだ。」

つまり、ナタリーにコンタクトをとったのはレイなのだろう。
しかしなぜここまでショックを……そう考えたことで想良は気付いた。
そういえば、自分はただラリーとの約束を果たすために弟子入りしたのではない。
集落の人たちが想良を騙す役割をおっていて、まだ彼らはそれが続いていると考えているのだ、と。
実際はそうではなく、彼らは本気で憤って、悲しんでいるのだがそれを想良が知る由もない。

「あの、上の人に呼ばれるのって…そんなに悪いことなんですか。」
「……そうだよ。あの人たちはね、自分だけよかったらそれでいいんだよ!」
「お兄ちゃんも、お父さんも、あの人たちが来てたたかいに連れて行っちゃったの。
 お父さんは助かったけどね、もう足が無いの。とられちゃった……お兄ちゃんは、死んじゃった……。」
「今、身ごもってなくて…手も空いてて、技術者じゃないのは俺の娘だけなんだ…。」
「お前、もう下がれ。しばらく娘と一緒にいろ。」

崩れ落ちた男は、もう一人の男に肩を貸されて外に出ていく。
心配そうにそれを見る子供たちに彼は笑って見せたが、どちらかといえば泣いているように見えた。

「数日貸せ……って話だったんだけどな。信用ならねえよ、あいつらは。」
「…え?つまり、戦に行くって限らないんじゃ……。」
「姫さ…ソラ。お前はあいつらを知らねえからそう言いきれる。あいつらは、俺達よりはるか上のお人様だ。
 そんな奴にはな、下々の感情なんてわからねえ。俺らもあいつらは分からん、平行線だ。」
「でも、本当のことを言ってるって可能性も…!」
「数日で帰って来るのは本当だ。今までもそういう事はあった。
 ……いわゆる、テストなんだ。基準は分からねえが、次引っ張っていくやつを選別するんだ。」

ここまでしか親方からも、残っている大人たちからも話を聞くことはできなかった。
仕切り直しだとでもいうように、親方がもう一度手を叩く。
その乾いた音は空気を振動させ、また気持ちを切り替えさせるのには十分な刺激だった。

「じゃあソラ。…そうだな、クルチアでいいか。こいつと思いっきりやれ。」
「やれ……って、え?た、戦い?!」
「そりゃそうだ。物だけ作っていっても、どうコントロールするかなんて覚えられねえ。
 一番は闘うことだ。それで臨機応変に、最小限の力で最大限の効果を生み出すのを覚えさせる。」
「で、でも……!」

想良は親方に指名され、一歩進み出てきた人物を見下ろした。
その子は先ほど父親が足に障害を負い、兄が死んだと涙ながらに告白した女の子だった。
そして想良の記憶が正しければまだ六歳である。
まだ遊びたい盛りの年頃だ。
想良にぴたりと狙いが定められたその武器――模擬刀ではあるが、
それの鞘には以前想良が教えたことのあるミサンガが括り付けられていた。

「ソラお姉ちゃん、仲間なんだね。私たちといっしょなんだね。」
「そ、そうだよ……。」

にっこりとほほ笑むと、もうクルチアの瞳からは子供らしさが消えた。
ただ獲物を狙い、期を窺う獣のような目に、想良は彼女の本気を知る。
仕方が無い、と自分に言い聞かせると彼女はクルチアに意識を集中させた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.154 )
   
日時: 2016/03/22 22:36
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:VK8HM60s

喉が焼ける様だった。息をするたびに気管が痛み、それに咳き込めば体中が痛む。
想良は今、首に刀を当てられてへたり込んでいた。

―――クルチアの予想以上の強さに圧倒され、反射的に彼女を投げ飛ばしてしまう。
壁にぶち当たり気を失った彼女に駆け寄ろうとしたとき、頭に強い衝撃を受けた。
別の子供が想良に襲い掛かってきたのであった。
クルチアを傷つけたことに対し怒っているのだろう、謝らなければと思った瞬間だった。
彼の剣が想良にむかってきた。慌てて避けて、想良は気付いてしまった。
これは連戦だと。
それからは、必死だった。子供たちは大きい子でも想良より頭一つ分は小さい。
腕や足の長さも想良が有利だ。彼らは想良の懐に入り込み、彼女に投げ飛ばされた。
しかし最後の子だけは違った。今まで自分の仲間がどうやって倒されたかをしっかりとみていた。
想良の懐どころか、手の届く範囲には近づかない。
自分自身は大きすぎる剣や槍を変幻自在に扱い、想良を翻弄した。
結局、腕を一本犠牲にして想良が勝った。しかし、ぐにゃりと曲がった腕は見ると吐き気を催した。
その一瞬で、大人の一人が想良に挑みかかる。
腕の痛みでまともに動けない想良は、一方的に嬲られた。
大人が動けない想良につかみかかった時、想良は無意識的に体を動かした。
もう腕の感覚はない。しかし体中に響く振動から、男を投げてしまったのだと感じた。
彼の両腕は、ありえない方向に曲がっていた。
次の一人が、二刀で想良に挑みかかる―――

結局想良は、その二刀の男に負けた。
長刀で攻撃をされ、短刀で攻撃を受けられる。
懐に入ろうとすれば、防御の短刀がたちまち攻撃用の武器に変化する。
想良はダイアナから接近戦のイロハは教わってきた。しかし、遠距離のものは全くと言っていいほどだ。
武器を作り出し攻撃する余裕があればよかったのかもしれないが、それには想良の経験が足りない。
作り出すことはできるものの、攻撃に移る時には男は防御の体勢をとっていた。

「ま、こんなもんかね。終わりでいいかい、旦那。」
「あぁ。予想以上ではあったな。治してやれ。」

男が想良の折れた腕を握る。本来ならば痛みで飛び上がっていただろう。
しかし既に感覚の無かったそれは、見ていなければ触られている事すら気づかなかったはずだ。
骨が動き、元の場所に戻ろうとするのを外から見るのは何と奇妙なことだろう。
痛みを感じないからこそ見れたのだが、想良は呆然とそれを見ることしかできなかった。

「鈍武器でやったから傷も傷らしいものはない、ちょいと水で流せばいいだろうさ。」
「あ、ありがとうございます。」
「まさか俺までよばれるとはね、参った参った。おい旦那、あとどうすんだい?」
「想良、今日は終いだ。ナタリーの所なり、ガキどもと遊ぶなり勝手にしてろ。」
「え、もう?!」
「んな体でやらせるほど旦那は鬼じゃないし、そもそもメニューを考えなきゃ。でしょ、旦那。」
「いいからもう行け。」

追い出されたと言ってもいいような形で、想良は修行場に戻り、そして外に出た。
いったい自分はどれくらいの時間建物の中にいたのだろう。
既に太陽は高く昇っている。ずっと外にいたわけでもないから、想良は時刻を知る事は出来なかった。
技術者の面々はすでに修行や、制作を始めている。
女たちは畑で働くか家事を行い、技術者でない男たちは数名を畑に残して狩りに行く。

「あ、ソラー!」
「キルシ君!」
「終わったんだ、大丈夫だった?」
「うん。本格的に始まるのは明日からなのかな?」
「たぶんね。なぁ、今日は俺も休みなんだ、ね、あそぼ!」

キルシに押され、また想良に気付いた子供達が駆け寄ってきた。仕方が無いと思いつつも、想良は皆の案内で少し開けた所に行く。
冷たい空気は、火照った体に心地よい。
と、遠くで一人が想良たちを見ていることに気付いた。
子供たちに少し待っている用を声をかけその人に近づく。正体はエステラだった。

「やっほ、ソラちゃん。」
「あ、えっと、エステラさん。」
「エステラでいいんだよ、同い年だもん。……あの人たちの事、なにか知ってたり…する?」

彼女は丘の上の家を指さす。
想良は良く知っているが、初めて来た時エドに言われた事を思い出しぐっと言葉を飲み込んだ。

「うぅん、知らない。」
「ソラちゃん、嘘はやめて。」
「え?」
「私気付いちゃった。ソラちゃん達、でいいのかな?他にも二人いたよね。
 …あそこの、長男といっしょにちょっと前来てたよね。間違ってるなんて言わせないもん、本当の事だから。」

エステラはしっかりと言っていた。想良は何も言えなかった。
それは肯定と同義だった。悲しそうな顔をして、エステラは言った。

「ソラちゃん、騙されてるよ。あの人たちは絶対良い人じゃない。」
「違う!」
「認めたね、知ってるんだ。」
「え、あ……。」
「ふふ、大丈夫。ソラちゃん、どっかのお姫様であの人たちのお世話になってるんだろうって思う。
 ただね、私今回で最後かもしれない。」
「最後?」
「私が指名されたんだ。他にも一人…ナタリーさんが行く。
 ねぇ、ここの人にも、ナタリーさんにも言わない。私安心したいんだ。……あの人たちって、どんな人?」

手を握られて、初めて想良はエステラが震えている事に気が付いた。
そして世話になっている彼らがどう思われているのかも、改めて感じ取った。
自分たちは常に彼らと触れ合っているのだから、彼らがどのような性格か知っている。
しかし、エステラをはじめとした集落の人たちはどうだろう。
身分の上下、命じられればその通りに動かなければいけないという現実。
どんな人間でも、ただ命じられるがままに動かなければいけないのだとしたら、恐怖と憎悪が生まれることは当然だ。

「今いるのはね…戦うのが嫌いな人だよ。血を見るのが嫌なんだって……。」
「それが嘘って思った事はない?」
「どうなんだろ、私そういうのあまり得意じゃないんだ。自分が思ったままに信じちゃうから。
 それで暴走しちゃうんだよね、悪い癖だよ。」
「ん…今ってことは……出かけてるの、他の奴ら。」
「分かんないや。よくいなくなるんだ、それでいつの間にか戻ってきてる。」

嘘だった。エドは人見姉妹とマリーとで一緒に出掛けたことを想良は知っている。
しかし、ある可能性にぶち当たってしまった。
反乱は演技ではない。本当の事で、アリーが嘘をついて想良に探らせていた。
なぜそう思ったのか、いや、なぜ今までその可能性に至らなかったのか想良にはわからない。
だが可能性を見出してしまった以上、余計なことをしゃべるわけにはいかない。

「とりあえず…本当に血を見るのが嫌いなら……いざとなったら、大丈夫なんだ。」
「え?」
「ふふ、意外と私ね、強いんだ。父さんに鍛えられてる。
 ソラが上の残ってる人について言ってることだけは嘘じゃないって…分かった。ちょっと安心した。」
「そう?」
「うん、その気になったら私でも殺せる。じゃあね。」

まさかの返答に、想良は何も考えられなくなった。
手を振って、先ほど肩を貸されて出ていった男の人の元へ走っていくのをただ見つめていた。
レイに伝えるべきか。
そう考えたものの、戻ったら最後ナタリーに自分の関係性を知られてしまう。
いや、それだけではない。エステラが喋ってしまわないとも限らない。
やってしまった。そう思いながら想良は待たせている子供たちの方へと歩いて行った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.155 )
   
日時: 2018/10/01 13:28
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

慌ただしく宿場町を出てから何時間飛んでいるだろう。
途中で小さな市に寄って足りなくなったものを補給しているが、それを勘定に入れないでいても
パウエルに到着する時間は遅れていた。
もちろん宿場町に賊がやってきて、それに巻き込まれ出発が大きく遅れたことも関係しているが、
それ以上にパウエルへの道中の気候が関係していた。

「野宿は無しになるかもしれないぞ。奏美、奏音、今のうちに眠っていてくれないか?」
「よっしゃおやすみ。」
「ちょっと姉ちゃん!……はやっ。」

エドが眠るように声をかけた瞬間から、奏音は横になってしまう。
奏美の抗議の声を上げると同時に静かな呼吸音が開始する。
いったいいつ寝ていつ起きているのか、と奏美は呆れたがそれ以上に気になる事があったのでエドに質問した。

「野宿なしって言うけどさ、それをしないといつごろに着くの?」
「そうだな…多分ぶっ通しで進んで陽がでる位だなぁ。
 ちょっと仮眠が取れれば幸いで、特に余裕はなさそうだ。だから奏美、寝ていていいぞ。」
「それはいいんだけどさ……エド、交渉とかできるの?」
「……。」
「エド?」
「多分できるんじゃないか?眠らない方が自棄になれてとんとん拍子な感じで。
 実際寝る暇なかったからな!賊のせいで。」
「……本当に大丈夫かなぁ。」
「ま、なるようになるさ。それより……。」

奏美が機体に寝転がったのを確認してからエドが口を開いた。

「風がなさすぎるな……飛ぶのがやっとすぎる…。」
「両脇に山があるから、こっちまでそんなに来ないんだろうね……。」
「…そうだな。おやすみ、奏美。」

奏美は目を閉じた。すると自分が感じていた以上に疲れていたのだろう。
当然だ。自身で武器を持って戦い、その後は怪我人の手当てにあちこち走り回っていたのだから。
エドはそれを見て安心した。二人が寝たことによって、ある事が可能になったからである。

「待っててくれて嬉しいよ。紳士もいるものだな。」
「ふっ、お前が仕掛けてこなければ無粋なことはしないのだ。」

何もない所から声がしたかと思うと、一瞬光が乱れ景色がゆがむ。
歪みが収まると、そこには小さな機体――エドたちが使っている物よりも遥かに小型で、
一人が乗るスペースしかないものに乗った褐色の少女が現れた。
彼女はエドを、そして奏美と奏音を品定めをするような目で見てから口を開く。

「聞いていたところわが国パウエルへの御用命だとか。何かあればお聞きするのだ。」
「わが国…と言うが、本当にあなたはパウエルの人間なのか?」
「あぁ、それは失礼した。」

少女は胸元から小さな石のはまった指輪を出した。
それをはめ、エドに手を向ける。瞬間、金属音と共に両者の獲物がぶつかった。

「察しのいい人は…嫌いだ。私はもちろん、パウエル自身も嫌いだ。」
「そうかい、そりゃあ残念だ。」
「お前を知っているぞ、エドゥアール=パベーニュ。姉が世話になっているそうだ。」
「それじゃ……。」

君はダイアナの――そう続けようとしてエドは口を噤んだ。
ダイアナは支配者の血を持ちながら国を捨てている人物である。
例え中枢にいた時間が短くても、元の国にいる人物たちにとっては恐怖の存在である。
どんな情報を持っているか、彼らに知る事はできないのだ。

「君は姉を世話してもらっている人間に武器を向ける無礼な人間なのか?」
「勘違いするな、これはパウエル式の歓迎なのだ。」
「信じられないな、それは……。」

風が少なく、機体を安定させ続けるには余計な動きができない。
それは両者に共通することだった。そのため、大きく動くときは相手を始末するときだった。
互いに武器を合わせ、しかし不戦の意を持っていることを相手に錯覚させようとする。
相手に対しやろうとしていることが同じなのは二人には分かっていた。
そして、先に降参した方が相手に対して劣勢になるのも分かり切っていた。

「君はパウエルの人間だと言うが、俺はその証拠をまだ見せてもらっていないぞ。」
「ならば武器を下してくれないか、証明できるものは服の中にあるのだ。」
「服の中に?だったらその指輪を出す前に証明できるものを出すのが普通じゃないか?」
「お前は誰だかわからない奴に自分の証を求められればほいと見せるのか?」
「君は俺の事を知っていたじゃないか。……どこから流れてるんだ、ったく……。」

憎々しげにエドは言い放った。
ただでさえ他国との交渉と言う苦手分野の仕事をこなして、休めると思えば賊の奇襲。
それの鎮圧も彼本来の戦い方ができなかったので、ストレス発散どころか逆に溜めてしまう。
そして今目の前の少女に対する苛立ちが頂点であった。

「戦場じゃないから首を刎ねるわけにもいかないんだよな。」
「できるのか?」
「やろうと思えばな。だが、君が本当にパウエルの人間だった場合を思うとできない。」
「だから武器を収めれば……。」
「そうしたらとびかかって来るのは、さすがの俺でもわかるぞ?」

少女はただ笑みを見せた。

「じゃあこうしようエドゥアール。私がお前のそれに乗り移るのだ。
 そうして私の体を預けよう。場所を指示するから、お前が目的のものを取り出すといい。」
「あのな、年頃の奴が……。」
「色仕掛けと言いたいのか?残念ながら私には色のかけらもないのだ……。
 い、いやとにかくだな!私がお前に証明を見せればいいだけなのだからそうすればいいのだ!」
「……。」
「…そんな顔をするな、お前の噂を聞いていると色気もなくて悪かったとすら思ってしまう……。
 譲歩しよう、乗り移らない。ギリギリまで機体を近づければ何とかなるはず。」

必死過ぎる、と思いながらもエドは仕方なくその少女の案に乗った。
少女は武器をゆっくりと離した。エドもそれに倣い武器を離す。
だがお互いにその存在を消すことはない。少しでも変な動きをすれば、相手を切れるように注意を向ける。
少女が機体を操り、エドと奏音の乗る機体に近づいてきた。擦れ合う寸前でそれを安定させる。

「…っ、どうぞ……!」

少女が上着をはだけさせた。その下には何も着ておらず、未発達な体が露わになる。
しかしそれは年齢のせいだけでもなさそうだった。
彼女の体には沢山の傷がある。この世界の、戦を生業とする人には多少あるそれとは比べ物にならない。
鞭の痕、刀傷、焼印、刺青――ありとあらゆる方法でその小さな体に傷がつけられていた。
そして、あばらの浮いた腹に獣の皮で作ったとみられる紐で、小さな紙が括り付けられていた。
それをエドがとった瞬間、初めて少女は少女らしい笑みを見せた。

「私はもう無理だから…他の人たちを……その気があったら助けてほしいの……。」
「これは……。」
「姉が世話になっている、それは義理ではあるが本当の事なのだ。手紙もたくさん来ていて、生きてて嬉しい。
 でも、姉が出ていったから私の一族は…一族どころか、一族に仕えてくれた人たちでさえ……。」
「つまり……。」
「そうだ。」

答えは聞くまでもないことだった。
国の中枢の人物が出奔した。だからその家族と関係者が代わりに罰を受けた。
罪のない人たちに……と彼女たちなら憤慨しただろうか、とエドは奏音と奏美を眺めた。
だが、出奔という不敬な人物を生み出したことが既に罪なのだ。
自分達も今抱える問題でありながら、エドはその時が来ないのをひそかに願っていた。

「私の一族はパウエルでも末端の分家筋。姉がいれば本家筋になれたかもしれないが、もう関係が無いのだ。
 だから痛めつけてもそんなに損害はない。
 だが、もう耐えられない……姉はこれを知らなくっていい。でも、私たちはもう……。」
「待ってくれ。助ける助けないの前に質問だ。なぜ俺が来ると分かったんだ?
 あと、どうして襲ってきたんだ?」
「姉が急いで手紙をくれたんだ。姉の手紙は、もう本家は読まない。
 襲ったのは…あんたに頼んでいいことなのか、分からなかった…でも、もう安心した。」
「もう一つ……その気があったら、というのは?」

少女は諦めたように笑った。

「私には何もできない。金も、力も、身体も、なにも捧げられるものはないのだ……。」
「だから、か。」
「……生きて働き、それで返すというのも選択肢としてはあるかもしれない。
 でも、もう……疲れちゃったんだ……。ありがとう、話を聞いてくれて。最期に嬉しかったぞ。」

彼女の乗っていた機体が消えた。彼女自身の最期の精神力でそれはできていたのだろう。
高い上空をそれは飛んでいた。助かる事はありえなかった。
エドは紙の内容を見て、託されたそれをどうするべきか悩んだが、
今はその時でないと言い聞かせ自分たちが今進むべき道を目指して進んでいった。
メンテ

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