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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.111 )
   
日時: 2012/06/04 15:00
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:AfG52.e6

だが、起こったことは民衆が期待していた物とはかけ離れていた。
痛みに我を忘れ怒り狂う動物が駆け出すと、罪人を縛っていた縄がするりと解けた。
訳が分からず座り込むマリーをエドが抱き上げ、安全地帯とも言える木の上へと登った。
怒りをぶつけるべき対象を見失った動物たちは自分の近くにいる似た様な形の生物を見つけた。
恐怖の悲鳴を上げ、逃げようと、あるいは子供を庇おうとする無力なそれら。
それに目をつけ、一気に襲い掛かる。
阿鼻叫喚…それが、これを表すのにふさわしい語であろう。

「セルジュ様、約束が、っ…!」

追放された一団を迎えに行き、且つ今は家族となったその人たちを守るように動いていた男の言葉は続かなかった。
腹を見、そこから突き出た刃を握ろうとして指が切り落とされる。
ぬらぬらと口から血が溢れ出した所で喉に短刀が突きつけられ、崩れ落ちた。

「がっ、!」
「貴様…ら。」

初めの人物が倒れると、それが合図とでも言うように追放者の集団は十人ほどを残し襲い掛かった。
ある者は屈強な男を斬り、またある者は白くきめ細かな肌を持つ女性を赤く染め上げる。
何が起こっているか理解できずわあわあと泣き喚くほんの小さな幼児を残った部隊に渡す。
するとその部隊の人間は子に針を刺し、気絶させる。
涙や血に濡れた顔を愛おしそうに拭うと、その顔は母の腕に抱かれ安らかに寝ている子供そのものだった。

「いやあぁああぁぁあっ!」
「姉さま!ねえさ、セルジュ!貴様、死罪に値するぞ!」
「…俺は構わないよ。でも君の姉さまを助けることに専念したほうがいい。
 あぁ、可哀想!もう腹まで食われてるじゃないか…ああ、それは、胎児…か?」
「あ…嫌…痛い、痛い!嫌…赤ちゃん…あなた…の、いや…よ、いや…。」
「っ、姉さま!姉さま!!」
「…。」
「姉さま、あっ、う、ぁ…ね、えさ…ま…っ。」

ある男は姉を食らったそれに頭から食われた。最期に姉を呼び、その情の深さを窺わせた。
頭は口に合わなかったのか、腹を探る。
この動物にとって、人肉は美味だったらしい。

「近親か…汚らわしいなぁ。マリー、そう思わないか?あの女は確か夫はいなかった。」
「その割にはセルジュ…嬉しそうじゃないか…。」
「ははは、俺も下に行きたいんだけどな。楽しみたい。」
「行けば?」
「そしたら逃げるだろう?それに仲間を殺してしまわないとも…な。」

マリーは不思議な気持ちで見ていた。
なぜ、自分を生かしたのかと。
自分をその刑にかけ、動物はそのまま放しこの国を襲わせてもよかったのではないかと。
聞いてみようと口を開こうとしたが、恐怖感がそれを許さなかった。
何に対する恐怖か分からなかったが、それに身を任せマリーはエドと共に地獄を傍観していた。





「れ、レイさん…。」
「……。」
「あの、あの折は本当に申し訳なくって…自分の利だけを追求して…。」
「……。」
「本当に申し訳…。」
「別にいいよ、もう……。」
「へ?」
「構いやしねえ…もう、過ぎた事だしよ…。」

朝食を終え、ふらふらと散歩しているとレイを見かけた想良は謝るために近づいて行った。
あれから避けられているらしく覚悟はしていたがあっけないそれにいささか拍子抜けしてしまった。

「あいつら、今日でたんだろ?」
「か、…奏美達?うん、今日か昨日かはよく分かんないけど夜の内に兵長さんが迎えに来てた。」

奏音さん達…そう言いかけて慌てて奏美の名前を出した。
レイも想良の不自然などもりになにか引っかかったようだが分からなかったらしく口を開いた。

「じゃあ怒って帰ってくるだろうよ、兵長は今日非番だし。」
「え、そなの?」
「それどころかあんたが知ってる兵士はみんな非番だと思う。ミゲルは姉貴が来てから休みばっかだし…。
 まあ、あいつはずっと働き詰めだったし…仕事が貰える分、幸せってやつだろ。」
「それ、嫌味…。」
「少しくらい仕返しさせてくれたっていいんじゃないかい?」
「うぅー…はい。」
「ばぁか、冗談だよ。話は終わり、俺は部屋に戻る。」

レイが笑顔を見せることはなかったが、その後姿からもう許してくれたのだろうと想良は推測した。
ダイアナが言ったとおり、どこかプライドが邪魔していたのかもしれない。
彼の真意は分からなかったが、一つ重荷が取れたという事に想良の心も軽くなった。
今日は何をしていようか、と思った時に寝る前のそれを思い出す。
ジルの好み…よく分からないが行ってみようと決意した。
そうと決まれば行動は早いもので、一度部屋に戻り着替えをし念のために武器を数本懐にしのばせる。
地球…日本にいた頃にはありえない習慣がついている事に想良は気づかず立ち上がった。

「あ、そういえば何か食べるかな?」

なにかお菓子のようなものを作りながら話を聞けば面白いかもしれない。
ここには、あの丘の上の家と違い食料の種類も量も多い。
厨房に行けば少し分けてもらえないだろうかと淡い期待を持ちながら想良は足取り軽く部屋を出て行った。





「あの、この子供たちって…どうするんですか?」
「教育です。数年後には刺客やスパイになっているでしょう。」
「…でも、本当に小さい子ばかりじゃ?五歳くらい…。」
「自我を持っている子供は適さないんですよ。母や故郷を恋しがり泣かれては困りますから。」
「つーか、奏美。」
「何?」
「この状況でよく質問できるねー。あたしはびっくりし過ぎて。」
「現実逃避。姉ちゃん好きでしょ。」
「あー。」

奏美のように現実から逃避することもなく、だからといってそれを受け入れるでもなく。
絵空事のように奏音は見ていた。
漫画やアニメなど、所詮嘘の塊を至高としていた奏音にはよく分からない光景だった。
何度もこのような状況は紙の上、一枚隔てた空想の中で見たことはある。

「え、じゃあ貧困層も…あ、姉ちゃん!」
「危険ですよ、まだ生き残りがいるかもしれませんから。」
「ちょ、もう…。」
「聞いていませんね。それで、質問はありますか?」
「あ、じゃあ……。」

姉がふらふらと列を離れるのに奏美は驚いたが、相手の声に気にかけつつも質問を開始した。
仮面を脱ぎ捨て地に落とし、惨状の中心に立ちそれを脳に焼き付ける。
腹を割かれた人間、助けを求めたまま息絶えた子供、腕を伸ばしたままの女性……。

「ん。」

大柄の男が何かに覆いかぶさっている。
退かそうとしても重くて一人では持ち上げられず、あの蔓を使い隙間を作り引きずり出した。
血にまみれてはいるが、大きな怪我は見受けられない。小さな女の子だった。

「いやぁっ!」
「え?」
「いや、いや!来るのいや!」

その子は奏音が落とした仮面を見ると狂ったように叫びだした。
助けを求めるように周りを見るが、あるのは既に事切れたものばかりである。
それらを確認するようにぐるりと見回すと、蹲り、戻し始めた。

「大丈夫…?」
「……ぅ、…。」
「酷いよねえ、もう吐かなさそうかな?」
「…うん…。だれ?」
「誰って、まあどうでも良くない?それよりさ、あっち行こうか。」
「なんで?」
「…何でって……何でだろうね?あたしの萌えの…。」
「もえ?」
「いや、いいわ。あっちで少し休むんだよ。」
「うん…。」

女の子は奏音の指をちょこんと握り、一緒に歩き出した。
途中、死体を見るたびに足を止まらせるがそれでも進みたいという意思があるのか数秒後には歩き出した。
まだ幼いからか危なっかしい歩きではあるものの一歩ずつ着実に進んでいく。
それは彼女の強さを思わせるようで、奏音も笑みをこぼした。

「あそこに…。」
「うん。」
「あそこで少し休もうか。」
「わかった。」
「…いいな、ロリ……。」
「ろり?わたしミティ。ろりじゃないよ?」
「あ、いや…ロリだよ、ミティは。」
「ろりじゃないー。」

むうっと頬を膨らませるミティに微笑ましい物を感じ、一緒に歩いた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.112 )
   
日時: 2012/06/04 15:01
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:AfG52.e6

「米粉…米粉かぁ。お米あるんだ…。」

厨房に行けば、食料を簡単に分けてもらった。
なぜそんなにくれるのかと問えばエドのお気に入り、と言う事になっているらしい。
そういえばエドの好きな人は知らないなぁ、と想良は思ったが深く踏みこまなようにした。
狭い世界の中、気まずい思いをしながら過ごすのがどれだけ辛いかが分かった。
ジルがいる場所に着き、扉をノックする。

「こんにちは…。」
「……。」
「あの、想良です……。」

寝ているのか、と諦めて帰ろうと踵を返した。
だが、その瞬間後頭部に衝撃が走る。
食料を入れていたかごを取り落とし、想良はその場に蹲った。

「〜〜〜!」
「入れば。」
「は、入ります!」
「うざい。」

落としたそれを拾い、部屋の中に入る。
部屋の中は以前と何も変わらないように見えた。
だが、鼻を裂くような腐敗臭は存在せず薬品の臭いが充満していた。
そして、肌がしみるようなぴりぴりとした雰囲気もある。

「不細工、何の用だ。」
「ま、また不細工って言った!」
「言った。用がないなら帰れ。」
「あ、り、ま、す!」
「一字一字強調するな。俺は耳は正常だ。異常にしたいのか?」
「違うのに…。はい、差し入れ。なんか作ろうかと思ったけどやる気削がれた。」
「じゃ、土にでも埋めとけ。俺は料理なんて出来ないから無駄に腐るぞ。」
「作る。」
「あっそ。」

とりあえず邪魔にならなさそうな所へそれをどける。
ジルはそれを目の端で見て、顔を背けた。
明らかに機嫌が悪く、それを隠そうともしない。

「機嫌悪くない?」
「お前に聞こう。目の前に不細工がいたら幸せか?」
「…私が来る前から機嫌悪かったと思うけど。あと、不細工でも優しければ幸せじゃないの?」
「じゃ、お前は優しくないな。」
「あんたはああ!」
「ジルだぞ。」
「知ってるから!アリーに名前聞いたしアリーがそう呼んでるのも聞いたから!」
「チッ…。」
「…アリーに関して?」

アリーの名を出せば、大げさともいえるくらいに反応を示した。
というより、隠す気もさらさらないのだろう。
身体だけが成長してしまったようなその態度は、想良の気を引いた。

「なんかしたの?相談くらいなら乗るけど。」
「そうだな。死ね、不細工。」
「っ…私のこと不細工って言えば解決するの?するならいくらでも言いなよ。」
「する訳ないだろ。お前みたいな素人にでも分かるような態度をとったつもりだ。」
「だったら何で?」
「簡単。お前には解決できないからだ。」

そう言ってジルは笑みを浮かべる。
一本とった、そう思っている顔であり事実想良も言い返す言葉が瞬時に出てこなかった。
負けるのが悔しくなんとか言葉を出そうとするが、何も出てこない。
最後に出たのは、敗北を示すため息だけだった。

「魚みたいだ。」
「はいはい…。でもさ、言ってくれても良いじゃん。解決はできないかもしれないけど一緒に考えられるよ。」
「それで俺を混乱させる気か。お前の考えは何か嫌だ。」
「…言ってよ。」
「別に。ただまたジェイ…お前にはアリーか。どっか行くから会えなくなるってだけ。」
「それだけ?」
「それだけだ。」

短く吐き捨て、舌打ちを一つ。
彼の不機嫌さの理由に、想良は呆気にとられた。
飼い主に部屋に置いていかれた犬のようなその理由におかしさがこみ上げつつもそれをぐっと飲んだ。
ここから出ることが出来ない彼にとってはアリーは大切な存在だろうというのは想良にも予測できる。
そこで今まで忘れていた本題を思い出すが、まだそれを出すには早いと感じた。
すると、そこで発動するのは想良の悪い癖だった。

「でもさ、なんでアリーじゃなきゃ駄目なの?」
「別に。」
「いいじゃん、減るもの?」
「お前に汚されそうだ。」
「失礼じゃない?」
「事実ほど残酷で失礼な物ってないよな。」
「本当に…。」
「……。」

いつまでたっても進まないどころか後退していく会話。
ズバッと本題を言うべきか、今日は諦めて何か作るべきか。

「…よし、質問。お前はアリーについてどう思う。」
「へっ?…うーん、最初は生意気で嫌なやつだと思ってたよ。あと女だと思ってた。」
「……。」
「でも色々話していくうちに良い人だな、とは。ちゃんとトリクシーの事好きみたいだし。
 一回好きになればちゃんと尽くしてくれると思うよ。だから君の事もアリーは好きだと思う。何で?」
「やっぱかー…。うーん……。」
「何?」
「騙されてないか?」
「え?」
「いや…似たような判断を、した奴が…。」
「あ、絵の女の子?」
「……!」

今度は、純粋に驚いたようだった。
想良は少々方向は違うが前進を感じ、希望が見えた気がした。
ここからどうやって膨らませようかと頭を働かせた。
絵の女の子を元に話を広げていこう、と思ったがそれは難しい事にすぐ気がついた。
なぜなら、想良はその女のこの事を全くといっていいほど知らない。
それにその子は故人だ。
手詰まりを感じ、また振り出しに戻らなければいけないのかと思ったが、それは当てはまらなかった。
ジルが、駒を進めたのだ。

「そう。俺が愛してた…。」
「え…。」
「そう、アリーに殺された…というか助けられた。俺は助けられなかった…。
 まあいい…そうだ。お前が俺を外に出してくれたら、何か教えてやるよ。交換条件だ。」
「外に…おんぶしよっか。」
「ふざけるな、振動が響くだろ。…じゃあな、不細工。もう帰れ。」
「え…料理……。」
「そこに置いてあれば俺も食える。不本意だが世話になった。帰れ。」
「はいはい…。」

結局本題にたどり着く事はできずに想良はその場を後にした。
頭を抱え、どうするべきかと思いながらついさっき来た道を引き返していった。





「この子は?」
「ミティ。生き残りみたいだよ。」
「みたいではなく、生き残りですね。…ミティ、あなたの両親は?」
「…わたしに、乗ってたのが…おとうさん。おかあさんは…分かんない。」
「成程。」
「なんの話なんだか…さっきまでの子には聞いてなかったのに。」

ミティを、子供たちを眠らせた女性に引渡し奏音は佇んでいる奏美のほうへ歩いていった。
奏美は、目の前の光景に青ざめてはいるものの意識はしっかりと持っていた。
ゆっくりではあるものの、この世界を受け入れ始めているらしい。
奏音には妹にかけるべき言葉も見つけられず、ただ彼女の後ろに立っていた。

「姉ちゃん…。」
「ん?」
「普通…普通はさ、これを見て酷いとか、やった人を許せないとか思うよね。
 ウチ、そう思えない…。なんでかな、正しいっては思わないけど間違ってるって言えない。」
「それが普通なんじゃない?あたし的にはだけどさ。」
「普通?」
「そ。日本の平均的な価値観から言えばこれは許せない事かもよ?でもそれも表面上でしょ。
 日本ではこれが起きるって事が非現実的だから許せないとか言えるけど。」
「うん。」
「こっちはこれが当たり前なんだったら許す許せないは無いっしょ。むしろ勝利か敗北かの判断かねー。
 あ、エド来た。」
「…?あ、あれか。姉ちゃんよく見えたね。」
「そう?もう一人女の人も一緒だ。」

奏音の言うとおり、エドともう一人がこちらに向かって歩いてくる。
見たところ二人とも怪我も無く、女性が少しふらふらとしている以外は健康そうに見えたのだった。
自分たちの知人と、その知人と行動を共にしている人物が無事ということを知り二人はとても安心した。
それを互いに感じ取り、彼らの元へと逸る気持ちを抑えながら駆けていく。


二人には足元に横たわる哀れな犠牲者など見えていなかった―――
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.113 )
   
日時: 2012/06/19 12:51
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:CQ5RuU2c

「やあ、一週間ぶりくらいか?」
「そーだね、何の仕事?」
「…私の見立ては……間違っていなかった…セルジュ…!」
「セルジュ?」
「俺の偽名だよ。…マリー、お前の観察眼はすごい。俺はばれるような事をしていないつもりだった。」
「……。」
「マリー、っていうんだ。へえ、お知り合い?」
「知り合いというか、俺の脅威というか。」

エドはどう答えるべきか分からないというようなジェスチャーをした。
それからマリーの腕を引き、そろいの服を着ている一団の元へと行った。
奏美と奏音もそれに従う。
だがエドの歩幅が大きいため引き離されていき、二人が着いたときは既にマリーの姿は無かった。
エドは淡々と子供を仕分けていた女性と話している。

「ふーん…じゃあ…。」
「はい、仕方がありません。」
「…?あ、おねえちゃん!おかえ」

ミティが奏音に気づき、そちらへ走り出そうとした。
その次の瞬間、きらりと何かがきらめいたかと思うとミティの体は崩れ落ちる。
ミティの意思を運命は尊重したのか、切り離された首だけが奏音の元へと転がってきた。
放物線を描いた血は地に落ち、土色のそれに紅をさした。

「ひっ…、エド、っ姉ちゃん…!」
「ミティ…?」

奏音の呼びかけに、そっとまぶたを開く。
だが、それ以上のことはせず数拍の後にミティはまぶたを閉じた。
ただ無表情で、作りかけの精巧な人形のようだった。
異なっているのは、血が流れているということ。
だが、やがでそれも尽き、ただ朽ちるのを待つのみの存在に成り果てた。
奏美は人の最期を見、耐えられないといった表情でその場を離れてしまった。

「エド。これは…?」
「この子は既に記憶も確かだ。育ちすぎでいる。国の仇のためと反乱を起こされたらたまらない。」
「でも、普通は…あたしが知ってる中で…女は殺さないんじゃない?
 男は…えっと…誰だ…源氏だっけ?確か、その人らが成人してから敵討ちした。だからどんなに幼くっても
 男は斬首なり切腹なりってのは知ってる。でも女は出家だと思ったけど。」
「出家?神に仕えるとか、乞食が施しを求める為に神の名を借りるあれ?それは奏音、お前の格好をしている者が行うことだ。
 ここでは男も女も関係なく戦い、敗者は余程の重要性が無い限り殺される。」
「でも、普通は…!」
「これが、俺の普通。俺が教わって、今まで信じている普通。この世界の普通。」

エドは言った。
奏音も理解こそ出来たが、どこか納得できなかった。
ほんの十分前、違う価値観に染まりかけたことなど分かっていなかった。
上塗りされる前のそれが、生と死を分けるそれであり、理性とも呼ばれるものだった。

「少し休むと良いよ。歩きっぱなしだっただろ?」
「そりゃ…。」
「肉刺も出来てるみたいだし…あぁ、足を引きずっていたから分かったんだ。」
「…!ううぇあ!自覚させんなし、痛くなってきた!」
「ははは、ならその痛い部分を食ってやろうか。」

エドは奏音を突き飛ばし、尻餅をついた所で靴を無理やり脱がせた。
肉刺は何度かつぶれ、所々血が滲んでいる。
傷も塞がりかけているのが何箇所かあったのをエドは確認した。
エドはその部分を掠めるように、だが痛みが伴わないくらいの力加減でなでた。

「ひゃっふぃははひひぃいいぃ!変態、手つきが変態!」
「男同士の絡みを楽しむ奏音よりは変態じゃないと思うぞ。」
「うっふそりゃ禁断の果実、ふっふふははは!くすぐったい!痒い、痒い!」
「じゃあ治すか。」
「え、っぎゃあああああ!」
「いちいち煩いぞー。」

治す、という言葉に嫌な予感を感じたのか奏音は足を引っ込めようとした。
だがそれを素早い手の動きで阻止し、例の如く強い力で握ったのだ。
途端悲鳴を上げ奏音は逃げ出そうと身をよじるが力の差の前では無意味な事だった。
時折爪を食い込ませ楽しんでいたが、さすがに可哀想だと思ったらしくもう一度強く握り手を離した。

「痛い…今までで一番長くなかった?」
「奏音の反応は面白いからな、少し遊んでいたんだ。」
「少し?」
「あぁ、最後に力を入れるまで。」
「それ大半じゃね?ふざけんなよ!わんことかアリーちゃんにやんなよ!」
「あいつらのはもう見慣れたんだ。まあ楽しいのに変わりはないがな!」
「やってんのかよ!」
「だって怪我は職業上絶えないだろ?さて、帰ろう。」
「え、もう?」
「廃墟に用はない。そのうち金に飢えた盗賊も来るだろうし。」

エドは先頭に立ち、出発のための指揮を始めた。
まもなく隊は列を成すが、格好は追放者のそれではなく軍隊そのものだった。
奏音と奏美はいまだ眠り続ける幼い子供達と共に籠に押し込められ、規則的なゆれに身を任せた。





「軍師様。」
「……何の用だ?カメリアに残らなくて…いいのか?」
「カメリアは…もう。」
「見切りを付けた……そう言いたいのか?」
「……。」
「ここにいることが返事としようか。…牢は、どういう気分かな。」
「久しぶりって感じかな。でも前のよりは素晴らしいよ。」

鉄の強固な護りを境に、二人は向き合っていた。
その場所は牢という名に相応しい。薄暗く、明かりはところどころにある燃え尽きることの無い松明の炎。
遠くからは微かな呻きが聞こえ、時折叫びと鉄がぶつかり合う。
今軍師が向き合っている人物はそれに動じることも無く、普通に受け答えもしているのだった。
檻の外の人物の後ろには、数人の武器を携えた男が控えている。
いつかの見せ掛けだけの人物ではなく、ちゃんと訓練されている。

「素晴らしい…ね。まあ、君は条約を結んだ人の血縁なのは間違いない。そうだろう?
 あの女性に君はよく似ているよ。カメリアの補佐のパベーニュさん。」
「あー、そうだね。」
「じゃあ、また会おうか。」
「ん?どっか行くの?」
「まあね、ちょっとした密談だよ。尤も、配下を派遣するけど。君には関係あるかもしれないね。
 食事は運んでくるよ…君を案内した、私の兄が。弁明を考えておくといい、あれは言葉で混乱させない限りしつこいぞ?
 私からの忠告だ。」

そう言い残し、軍師と男達はアリーの視界から消える。
後に残ったのは、松明の明かりと見えない囚人の呻きのみ。障害となる物は、特に無いように見えた。
立ち上がり、鉄の柵から頭を出す。
さすがに体を入れることは出来なかったが、それでも周囲を見回すことは出来た。
見張りと思われる人はいない。壁の厚さは、人が二人ほど。

「ばーか。」

声を出してみるが、返ってくる反応も無い。
ここまで手薄だとなんだか馬鹿にされているような感覚がし、ため息をついた。
とりあえず牢の中に頭を戻し、備え付けられえている物を見回す。
どれも牢特有で古いものばかりであるが、掃除はちゃんとされている。
自分たちの家のを思い浮かべると、ずいぶんと優遇されているように感じた。
特に仕込まれているものも無く、また拍子抜けする。
一応、脆い所が無いかと壁を蹴っていくと足に伝わる反動が違う場所に気づいた。

「ん…。」

壁の硬さには違いは見えない。蹴ると、その部分だけ反動が響いていないように感じた。
この牢の中のものは、何らかの力で床に張り付いてはなれない。
靴と身に付けていたいくつかの補助具はとられてしまい力を使うのは体力の必要以上の浪費を意味する。
数日前軍師が帰るというのでなんとなく忍び込んだのが相手方にばれていた。
とくに何の情報も得られずカメリアに残っていた。
それなのになぜ、自分は捕らえられているのか。
同盟関係とはいえ捕まえるのは捕まえるのかと少々感心し、どのようにして脱獄しようかと考える。
感情の向くままに力を使うのはよくない。
多少時間はかかるが、パターンを見よう。そう決意すると、固いベッドに寝転んだ。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.114 )
   
日時: 2012/06/19 12:52
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:CQ5RuU2c

「ただいま…。」
「おかえりー!どういう仕事だったの?」
「特に…ただ、ハードな日帰りプランだよ。」
「ふーん。」

もう日も沈むころ、奏音と想良はカメリアへと戻った。
あの鈴を持った人物の労いをぼおっとした頭で聞き、眠らされた子供たちが貧困層へと運ばれる。
貧困層では、この子供たちがまるで物のように取引されるらしい。
母として引き受ければ、金。優秀な子に育てられ、仕事を成功すれば報酬として、金。
もし仕事で死んでしまえば、金。
今日生きるか死ぬかの貧困層に金は最高の餌だった。
それを目の当たりにし、心身ともに疲れ果て部屋に戻れば想良が笑顔で待っていた。

「あ、これ。」
「ん?」
「想良ちゃん?」
「今日のお昼ご飯、久しぶりに果物出たからさ。ここ来てあんまり食べてないし食べるかなって。」
「ほー。そーいや果物無いね。いたっきまーす。」
「あ、それ!」
「すっ、え?すっぱ!」
「それこの木の実を一緒に食べないと酸っぱいんだよ…。」
「ふーん…あ、ホントだ。最初酸っぱいけど木の実が甘くしてくれてる感じ。」
「想良ちゃんの馬鹿ー遅いー!うべええええ!」

舌を押さえ呻く奏音を、奏美と想良は笑って見ていた。
それから想良が持ってきてくれていた果物を二人はかじる。
食べ終わった後は時間を忘れ談笑した。
だが、三人の中で仕事の内容は暗黙のタブーとなっていた。
暫くすると扉が遠慮がちにノックされ、まだ幼さを残す少年が顔をのぞかせた。
もう夕食の時間だという。

「じゃあ、ウチらはもう少したったら行くって伝えてください。」
「はい!…そっちの…。」
「あぁ、気にしないで。いつもだから。」
「でも…。」
「私も最初見たときはびっくりしたけどこれが普通なの。気にしないで、ご苦労様。」
「はい…失礼、いたします。」
「えー行っちゃうの?!遊んでこー折角ー!」
「うるさい!」

渋る奏音を奏美が一喝し、想良が兵士を外に出す。扉が閉まり、その音で敗北を悟った奏音はうなだれた。
がっくりと動かなくなった奏音を見て想良は苦笑したが、奏美は不満そうだった。
姉の上に乗ったままため息をついた。

「奏美、大丈夫?食べたばっかりだけどさ、行こう?」
「うん、そだね。姉ちゃんもさー、なんでこう、男にばっか声をかけるわけ?」
「男だけじゃないですーロリとかにも声かけてますー。」
「犯罪ッ!」
「ポルノ?」
「想良ちゃん…ポルノってどこで覚えたの…。」
「パソコンだよ、たいていロリコンってコメントついてるよね。」
「そっか…ネットって…偉大。」

妹の下でうなだれ、そのまま動かなくなった。
奏美はさっさと姉の上から退き、一つ伸びをしてから立ち上がった。
想良も扉を開け、夕食へ行く準備をする。
それを見て取った奏音もゆっくりとした動作で立ち上がり、相変わらずため息をつきながら二人についていった。





「マティー…確定事項じゃないだろ?」
「確定も何も分かるでしょう?」
「分かるって……。」
「分かってるわよ、納得したくないだけで。そうでしょう、お兄様?」
「エド、……俺も、信じたくは無えさ。でも、……。」
「でもって。…レイ、疑い深いのは結構だがそれを身内にまで向けるのか?!」
「仕方ないだろ、俺は疑うことが仕事なんでね、お兄様。」
「お兄様って言うのやめてくれ…二人とも。」
「えーと。」
「なにこのぴりぴりした空気。」
「姉ちゃんでも分かるって…やっぱり相当?」

夕食へといつもの間へと入った。
そこは夕食の団欒というには苦しく、通夜の後の静かな親族争いような雰囲気をかもし出していた。
三人が入っても中にいた人物は皆顔を上げ、マティーが座るように合図したのみであった。
今まで感じたことの無いそれに自然と身も引き締まる。
席に着くと待っていたとばかりに運ばれてきた料理もなんだか味気ない。
頭を突合せ無表情を貫く三人にため息をついた。

「やべー…。」
「姉ちゃん何かやった?」
「なんでいっつもあたしかな。」
「奏音さんが大体の黒幕だからじゃない?」
「んな事無い。」

その否定すら、自ら発したものとはいえ奏音も自信は無い。
ただ腹に溜めるために口を動かしている気分で、三人はなんだか複雑であった。
皿がなくなる頃、次の料理を給仕係が持ってくる。
そんないつもの事も、ただ時を刻む物にしかならなかったのを感じた。

「……ねぇ、ちょっといいかしら?」
「何ですか?」
「アンリの事…分かるかしらぁ。」
「へっ?!」
「アリーがどうかしたの?」
「どうかっていうか…うーん。あんた達に一番年が近いのがあいつでしょう?」
「あたしは無視?」
「あんたの意見って何か……役に。」

マティーは口を開くが、その目は未だ手の付けられていない料理の皿にあった。
給仕が下げようとすればそれを無言で制す。
いつもと違うその状況に三人は息を飲んだ。
エドはあまり雰囲気に違いは見られないが、もうとっくに食べ終わったスプーンを口に加えている。
レイも少しは口をつけたようだが、今は綺麗に盛り付けられたそれを無意識のうちに崩していた。
ただ事ではない。それだけは理解できた。

「アリーがどうかしたんですか?」
「どうかもなにもねぇ。……何も知らない?」
「想良、なにか分かんない?ウチらは出かけてたじゃん。」
「あたしは寝てた。」
「えー…でも二人が出かけてた時って……。」
「俺とは一回話したよな。それ以外に何も無かったのかい?」
「何もって…えっと……厨房で食べ物貰って、ジルに会いに行って……。」
「厨房、本当?」
「あ…はい。少々、食料を。」
「マティー、想良が嘘言う必要ないだろ?」

口を開いたエドをマティーはにらむ。
エドは敵わないといった様子で首を振り、またスプーンを口に加えた。
ただ居心地悪そうに身体を揺らしている。

「なぁ想良…。お前、トリクシーとも仲良かっただろ?アリーと…その、なんか言ってたりしなかったかい?
 俺はなんかあると思うのさ。」
「うーん…奏美、なんか覚えてる?」
「なんかって……。」

奏美の脳裏に浮かぶのは、青い草原。
森を背後に、辛そうな微笑。走り去る後姿。
アリーといる時はとても楽しそうで、自分の立場を述べた時は辛そうで。
こちらへ来るときも、気まずかった。
もっと楽しいことを覚えていても良いのに、思い浮かぶのはその場面ばかりだった。

「特に……怪しそうな事は……。」
「そうかしらぁ?何か隠していそうよ。」
「本当に、本当に…う、ウチだけの…感情です。」
「信用しないわよ、覚えておきなさい。」
「はい…。」

冷たく言い放れた言葉。
だが、それが今の奏美には心地よかった。
次にマティーは奏音に目を向けた。
奏音は知らないと首を振ろうとしたが、ふとあることを思い出した。

「やばい…。」
「なにかしら?」
「あ、あたしが…女装させるって言ったから…?」
「馬鹿。ねえ想良、本当に何も無い?」
「うー…あ、散歩に行った時、トリクシーは何かに驚いていた。何にかは教えてもらえなかったけど。」
「驚いていた…ね。」
「あたしは無視?」

奏音の問いにマティーは答えなかった。
それに対し分かっているとでも言いたげに奏音は鼻で笑う。
マティーは考えに沈んだのか、料理の皿をエドに押し付け胸元から取り出した紙に何かを書く。
エドは押し付けられたそれを口に運びながらマティーの紙を覗き込む。
そこにはただ意味不明な書き込みがされているだけで、考えがまとまっていないのだと理解できた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.115 )
   
日時: 2012/06/30 06:12
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

「やっぱ…あたしが女装させるって言ったからじゃあ。」
「いや…それはないでしょ。奏音さんが襲うって言った時も適当に流してたじゃん。
 エドさんとレイさんは積極的に反抗するから結構新鮮だったよ。」
「言うなよ…思い出したくねえ。」
「あー!そーだね、おし、襲いに行こう。」
「想良、責任取れよ。」
「ごめんなさい。」
「まあまあ…姉ちゃんは…うん。」

エドはマティーの皿のものも食べ終え弟の皿にも手を付ける。
レイはそれをちらりと見たが、特に気をとられるでもなくそのまま宙を見た。
マティーは未だに意味の無い記号を書き並べ、顔を上げる様子は無い。

「奏音、女装で家出は絶対無いからもうそううだうだしないでくれ。」
「というよりそれを気遣う心があるんならあんまり俺にかかわらないでくれるかい?」
「今日わんこに対する耳は日曜日です。休業日。」
「…奏音、お前の望む姿になりてえな。」
「臨時開業。」
「……。本当に、素直だな。いつもそうなら可愛げも…。」
「あ、やっぱんぐー!」
「想良……。」
「もう構わねえよ、奏美。お前が常識人だ…はー……。」

奏美は想良の口をふさぐ。
だが、その様子をレイはただ笑って見ただけだった。初めて会ったときもこのようなやり取りがあった。
それをただ懐かしく思い、目の前の光景を見てみる。
繰り返し行われるそれ。
だが、気持ちが変われば受ける印象も違うのか。

「でもさ、なんで女装平気って言えるの?レイさんは仕事で女装するみたいだけどいやそうだよね。」
「嫌そうじゃなくて嫌なんだよ。なんで二十歳過ぎて女の格好しなきゃなんねえのさ。
 まだ男の身体になる前ならまだしもって感じ。」
「はは、いいじゃないか。俺も一回騙された事あるし。」
「よくねえよ、次間違えたら死ぬからな、俺。」
「へー…女に対して熟練っぽいエドが間違えるほど……ほぉ。」
「姉ちゃん?」

感心したような目でレイの事をつま先から頭まで奏音は眺める。
奏美が諌めるような声で言うが、レイはあまり気にしていないようだった。
想良はマイペースに運ばれてきたデザートをかじっている。

「まあ、あいつが進んで女装するような奴だから。」
「は?」
「奏美、スプーン落とした。これ使う?」
「あ、うん。」
「え、アリーちゃん結構嫌がってたと思うけど?採寸とか嫌そうだったけど。」
「それは奏音が触ったんだろ?あいつあんまり触られるのは好きじゃないから。
 誰だって身体触られんのは嫌じゃねえか?」
「俺は別に?」
「あ、そ。」
「わーいゆたんぽー!」

奏音はエドに飛びつく。
食事中だ、という奏美の声は愉快そうな二人の声にかき消された。

「ははは、面白いな。」
「そういえばエドさん薄着だよね。寒くない?」
「寒いよ。だからこう、女がくっついてくれるといいよなー。
 あ、奏美も結構良かったぞ。将来結構いい女になるんじゃないか?俺の見立てだけど。」
「ど、どこで…。」
「あの機械での移動のとき。髪をもう少し伸ばして上で結うといいと思うぞ。」
「あたしよりもセクハラエド君!」
「く、君?!普通に呼び捨てで構わないぞ?」
「分かったよおにーさま!バカノンこれからお兄様って呼ぶよ!」
「奏美、奏音はいったいどうしたんだ?!
 なんか、いつも気持ち悪いといったら妹のお前に対して失礼だが本当に気持ち悪いぞ!」
「ひでー。え、エドってあたしを気持ち悪いって思ってたの?」
「男同士のあれが決定的だ。」
「おまいがー。」

暗い声で奏音がつぶやく。
それに対し少しだけマティーが目を上げたが、他の人物は慣れっこになっていたので特に反応を示さなかった。
食器がぶつかる音、ペンを走らせる音が支配する。

「よし…。」
「マティー?」
「あいつの事だもの…どうせ捕虜ね。」
「マティーはまたズバッと言ったねー…私の思い違いじゃなきゃ双子なんでしょ?
 未練みたいな感じのってないの?」
「無いわよ?口は堅いから情報が漏れるってことは無いだろうし。大方リキルシアに引っ張っていかれたんでしょう。
 …アンリって今まで何回捕まってるのかしらぁ?」
「レイ、分かる?」
「俺がいない三年の後なら…二、三回じゃねえか?」
「五年ちょっとなのにねぇ。」

しみじみと呟くマティーにレイは頭を抱え、エドは苦笑していた。
地球からの三人は意外な事実に顔を見合わせながらも、深く踏み入ることではないと暗黙のうちに頷きあった。
マティーは立ち上がり、食事は構わないのかという給仕の声を適当に流して部屋を後にした。
扉が閉まり、静寂が訪れる。
だが、その静寂を破ったのは想良だった。

「そういえばアル君は?」
「アル?そういえばいないな。仕事も聞いてないから無いだろうし…どうしたんだろうな。」
「出歩いてるんじゃないかい?あいつが喋ってる所抜けてから見てねえし。」
「え、アルって喋れてたの?ウチらに声を聞かせたくないって事…?」
「いや…ショックかなんかで喋れなくなっただろうって事さ。」
「あらま。…ん?」

奏音が何かを思いついたような声を出した。
まさかアルが喋れないことに対して心当たりがあるのかとレイが彼女を見る。
その視線を受け取った奏音はレイのほうを見た。
にこりと微笑み、レイが悪寒に襲われた次の瞬間彼女は身を乗り出す。
何をしているのかと奏音が陰になって分からない奏美と想良が首を動かしその状況を把握しようとした。

「っぎゃあああ!」
「ぐはっ!」
「姉ちゃん…一回死んで。」
「いだいいだい痛い!椅子?!まさかの物理的攻撃!」
「?奏音さんはレイさんに何したの?」
「想良は知らなくて良いよ。見えなかったなら別に。」
「ただ単に鼻をかぷってしただけだぞ。奏美、隠すことなのか?」
「うわー、犬みたいだね奏音さん。」
「んぎゃああああ!つべっ冷たい!」
「あ、氷。ウチ、レイがそれ使うの久しぶりに見た気がする。」





「あー…久しぶりに鼻痛い……。」
「今もう冬っぽいのにねえ。これからレイさんの能力は凶悪だよ。」
「んでもさ、かまくらっぽいの作ってもらえたらいいんじゃないかな?ウチ入った事無いから入ってみたいな。」
「あーかまくら!地球だとぜんぜん雪降らないもんね。いいなー。」
「え、あたしの心配は?かまくらよりあたしが下?」

既に部屋に戻り、奏音はレイに報復として鼻以外にも皮膚の薄いところに張られた氷によってもたらされた鈍い痛みに
顔をしかめていた。
奏美と想良はそれをいつものことだと感じながらベッドに二人腰掛けている。
三人そろって部屋から出ると、そこは塵一つ見当たらないように掃除されていた。
はじめは恐縮しつつも、今となってはもう慣れてしまっている。
ノックされ、奏美が返事する。
おおかた兵士だろう。そう思って無意識に返事をしたのだがその選択は間違っていた。

「こっんばんわー!」
「誰すか。」
「ん?私はあんた知らないや。」

突如入ってきた女性――ミゲルの姉、ミシェルが奏音を見ていった。
彼女に視線を預けたまま、奏美と想良の向かいに座る。

「んー、私もう帰るからさ、挨拶位してこっかなっと思って。」
「あ、そうなんですか?!わざわざありがとうございます。」
「想良だっけ?敬語はいらないって言ったじゃん。」
「いや…でも……。」
「ウチらは…えっと来訪者?確かそういうので。」
「へー来訪者!すっごいじゃんそれ!」

来訪者だと継げた途端、ミシェルのテンションがあがる。
まるで十にもならないの子供のようにベッドの上で跳ねる。
そして奏美と想良を興味深そうに触っていた。

「あぁいいなぁ、やっぱ肌若いんだなぁ!さすが来訪者!」
「え、来訪者って関係あるんですか?」
「さぁね。でもいいじゃん、若い分にはさ。」
「そうかな…ウチは早く大人になりたいけどね……。」
「そう?そう言ってられるんなら、…そう言える時代が一番楽しいわよ。」

今まで、ほんの少ししか会った事が無いとはいえ聞いたことの無いミシェルの声。
話をマジかで聞いていた二人はもちろん、奏音も興味を持ち近づいて行った。
メンテ

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