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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.116 )
   
日時: 2012/06/30 06:15
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

「大人になれば何でも出来る…そういう思いは捨てるべきよ。」
「え、何でいきなり。ウチ、何かまずい事言いました?」
「言ってないよ。たださ、私みたいな上の方の人間だけかもしれないけどあんまり大きな希望を持っちゃ駄目って事。
 なんでも出来るって周りにもてはやされて。実際なんでも思い通りになってたのよ。」

ミシェルの顔がかげった。
いつも陽気な様子であった彼女からは想像もつかない。
想良は、未だ自分の肩にかかっているミシェルの手が震えているのを感じていた。
少し爪が食い込み、痛みすら感じるが彼女からもたらされる物だと理解するとその痛みは心地よささえ感じさせてくれた。

「いざ独りでやったらなーにも駄目。知らなかったのよ…私は何も出来ないって。」
「ミシェルさん……。」
「なんでも出来るとか、ね。大人になればもっと出来るって思ってたのにさ?もっと良い国に出来る。
 もっともっと…てね。前代よりさらに良い国に何でも出来る私なら出来るって思ってたんだ。」
「そうなんですか…。」
「そ。大人になると出来ることが多くなるんじゃなくって選択肢が多くなるだけ。
 それを独りで上手く選べる人なんていないから。大抵は変な道選んで失敗して行き詰るから。
 子供のほうが出来ることが多いわよ。」

最後は自分に言い聞かすように、そして自分以外にこの部屋にいる人への脅しといってもいいような言葉だった。
子供への嫉妬と渇望。
かつて失い、気づいてからはもう手に入れることの出来ないものへのせめてもの復讐のような言葉。

「おかげで…ご隠居も出てきちゃうからね。ミゲルも私のせいでこっち来てるからさ。」
「……。」
「ん…なんか悪いね!押しかけといてこんな暗い話しちゃって!」
「えっとミシェルってえの?」
「何…えっと。」
「奏音。まあ落ち込むこともあるけどさ?そういう時は笑いなよ、くっだんねー事でいいし。」
「笑うってねー…私みたいなのが笑ったらかえって国民が恐怖に凍るよ。あぁご乱心って。」
「んじゃこーゆーんは?」

そう言い、奏音が携帯電話をひとつ取り出した。
見慣れないそれにミシェルが近づき、視界が開けた奏美が姉のほうを見る。
姉の持つ携帯の色を見、一瞬息を詰まらせた後叫んだ。

「姉ちゃんそれ駄目!」
「見せちったー。」
「……。」
「ど?これさ、けっこう萌えじゃない?ねっねっ?」
「萌え?」
「なんかこう…心の底からぐっとクるような…そういう感情。」
「ふーん……。」

そう言い、ミシェルは立ち上がった。
そのまままっすぐ歩いていき、扉を開け部屋の外へ出る。
それから仲を振り返り、言った。

「あんたらの事気に入ったよ。私の国にきたらタメ口許可しようじゃん。」
「え、あ、ありがとうございます…。」
「私の国はさ、中心人物はみんななんかの書物の登場人物が語源になってる名前だから。
 ミシェルって言う出来損ないいるかって言ってみ?私の国ならそれで一発だよ、歓迎する。」
「出来損ないじゃ無いですよ、ねぇ?」
「そうだよ、ウチ…結構勉強になったし。」
「そう?へえ、私は一ついいこと出来たわけだ。これからも弟をよろしく頼むよ。
 あんたらは私の萌えだね、じゃーねっ!」

最後の彼女の顔は、初めて会った時のそれと全く同じだった。
嵐を巻き起こし、本人はそれを振り返らず、そして知ることも無く突き進んでいく。
残されたところには何が無くなり、何が残るか。
それは嵐が巻き起こり、それが去らない限り人は全く分からない。
部屋に残った三人もそれと同じ状況だった。

「んま、良かったのかね?」
「そうだね…姉ちゃんもたまにはやるのかな。」
「たまにはっていうかこれが初めてじゃないかな?」
「想良ちゃんひでー。でもま、こっち来てから布教一号!けっこう上の人みたいだし広がってくれると嬉しいな!」
「え?」

へらへらと笑う姉から奏美は携帯を取り上げる。
その画面に映し出された画像を見て、取り落とした。

「あー十八禁なのに。五年早いよ奏美。」
「……。」
「え?奏音さんAVでも入れてたの?」
「……。」

奏美は押し黙った。
その様子を奏音は笑いながら言葉を続けた。

「最近の子はまったくー。あ、そういえばショタ何歳なんだろ?」
「ショタ…?」
「あれ、言ってなかった?婿のところのホームステイ。あたしの資金の使い道を教える約束を…。」
「うわ、馬鹿!姉ちゃんの馬鹿!」
「AV位ならそのショタ君でも存在知ってるんじゃないの?見せるのは良くないけど。
 それよりも奏音さん資金って言える位のお金をAVに注ぎ込んでいるの?」
「いや?同人誌だよ、びーえ」
「姉ちゃん死ね…!」
「うわ、日本刀。」
「危ないなぁ、奏美ってばー。斬れちゃうよ?この部屋のもの。」

楽天的な奏音の声を合図に、無銘の日本刀が振り下ろされた。





「あー…部屋久しぶり……。」
「悪いな、今まで使ってて。」
「別にかまわないぞ、俺が使ってていいって言ったんだからな。」
「…俺はアリーの部屋に行けばいいかな。」
「ん?別に俺の部屋でもかまわないぞ?布団あるし。」
「布団じゃねえだろ?なんか布切れじゃないか。」
「そうだけど…あいつらは文句言わなかったのにー。」
「……。」
「もう演技したくないな…。レイ、俺素直に尊敬するよ。何回セルジュって言われてるのに無視したことか。」

布団に寝転がり伸びをする。
それにあわせ、ギシリと音を立てたそれをレイは気遣うように眺めていた。
そのまま顔を押し付け感傷に浸っている兄を横目で見ながらレイは義眼を取り出した。
大事に扱っているつもりだが、傷が目立つ。

「ん、まだ使っていたのか。」
「あぁ。変えたいとは思うんだけどねぇ、愛着がよ。」
「目玉に愛着持つなよ。」
「うるせぇな、俺の身体の一部分なんだから愛着持っていいだろ。」
「ふーん。俺はまだ五体満足だから分からないな。」
「嫌味かい?」
「いいや。…あー…石の上に布切れだけってのはもう嫌だ…。」

エドはまるで百年会うことが叶わなかった恋人を抱きしめるように布団を扱った。
顔を埋め、並大抵の力では放すことが出来ないことが側からも分かる。

「エド…ベッドが物凄く軋んでるんだけど。少しは痩せたらどうだい?」
「大丈夫大丈夫、まだ耐えられるだろう。俺百キロも無い…と、思う……。」
「脂肪じゃないからいいもんだけどよ。」
「レーイ。」
「ん?」
「こっち向いて。」
「あ、じゃあちょっと…。」
「いや、義眼はいいから。その辺置いとけ。」
「あのな、っ!」

顔を背け、義眼をはめ直そうとすればいつの間にかベッドを降りた兄がその手を封じる。
手の中のそれは難なく絡め取られ、ぎりぎり届かない位置に置かれてしまった。
手を伸ばし、取り戻そうとするが指先がほんの微かに触れただけ。
仕舞いには両の手を纏められ拘束されてしまった。
単純な力の差が抜け出すことに首を振らない。レイは諦めた様に手の力を抜いた。

「前から不思議に思ってたんだがな。」
「あぁ。…あまり近くで見ないどくれよ。」
「生々しい傷とか無いよな、勿体無い。…じゃなくて、なんで義眼が動いてるんだ?」
「あれは補助具の職人が作った。」
「なるほどな。」

塞がれ、開くことの出来ないそこを触る。中は空洞のため、帰ってくる感触は物足りない。
エドが閉じたまま動きを見せないまぶたを開かせれば、レイは顔をしかめる。
筋肉と思われる部分は保護のためなのか薄い色のカバーの様な物が覆っている。
普段戦場でしか見る事の許されない体の内部の色にエドは魅せられた。
触れてみようか、その一瞬の気のそれと同時にレイの両手がするりと抜け出した。
そして、一瞬で距離が置かれる。

「縄抜けは得意なんでね。」
「油断したか…あーあ。」
「ああ。俺の勝ち…ってな?」
「勝ちを宣言するのか。…なら。」

また、一瞬で距離が詰められる。
エドの手に握られた刃物――その切っ先はレイの首筋へ触れていた。

「俺を叩きのめしてからだ、ぼーや?」
「坊やって…年そんなに離れて無いだろ。」
「はは、まあな。はい、返す。」
「握るな!壊れたらどうしてくれんだい?」
「弁償?」
「はー…。」

レイはため息をつき、手の中のそれで空洞を満たす。
何度か居心地悪そうに瞬いたが、それが終わると顔を上げた。

「ん、トラウマ解消?」
「トラウマじゃねえだろ。」
「え、結構泣いてたじゃないか。そりゃもう折檻受けるくらいに。」
「ただ単に勝ったと思ったら反撃されただけだからな、あれ。
 …思うんだけどよ、泣いてるときにさらに折檻って酷くねえか?俺あの時気絶したよな。」
「そうだっけ?」
「覚えてないなら、いい。」

もう戻ることの出来ない幼い頃の記憶。
ふと触れたそれに懐かしさを感じることは無かった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.117 )
   
日時: 2012/07/08 12:07
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:3s5vSD6c

朝になり、窓から差し込んだ光が三人を照らした。
奏美と想良はそれを感じ、身体を起こす。奏音はぶつぶつと言葉になっていない文句をいい、布団に包まった。
それを奏美が起こそうと姉のベッドに近づいた。

「おはよ…。」
「あ、姉ちゃんはやい。」
「ほんとだ。槍が降るんじゃない?」
「物騒な事言わないでよ、想良。ほら、姉ちゃん起きて。」
「ねでだい…。」

ぶつぶつと文句を言う姉を一度引っ叩き、意識を覚醒させた。
起き抜けに叩かれた事で一気に不機嫌になる奏音だが、携帯を見てにんまりと微笑んだ。
その機器の色から、奏美はそっと身を引く。
この間に想良は着替えを済ませ、姉妹の準備が整うのを待っていた。

「んー…そういえばずっと思うんだけどさ。」
「奏音さんどうしたの?」
「いや、下着関係でね。」
「朝ごはん食べに行こうか。想良、少し待っててね、ウチも着替える。」
「うん。」
「無視?!」

奏音の大声に帰ってくる視線は冷たい。
なぜそんな話をしなければならないのか。そういう話をする必要はあるのか。
当たり前の反応ではあるが、面と向かって否定されるのではなく無視という形をとられた奏音は不快だった。
とりあえず自らも着替え、二人の後を追い朝食へ向かう。
すれ違う兵士に想良はは愛想よく挨拶し、向こうもわざわざ一度歩みを止めそれを返す。

「……。」
「奏音さんも、ね?下着とか別にどうでもいいでしょ。」
「あーうん。よくないよ。」
「えー?」
「まあ、男女で差が無いフォルムっていったのはあたしだけどさ。」
「……。」
「奏美、どうしたの?黙ってるよ。」
「あ、ううん。平気平気。」
「そう?」

まだ不思議そうに思っている想良をあいまいな笑いで振り切る。
奏美は想良に対し抱いた恐怖心が完全には取れていなかった。
地球にいるときはどこか抜けていて、マイペースに物事をこなしていく人間だった。
そして言いたい事をずばずばと言い小さないさかいが生まれる事もあった。

「おはようございまーす。」
「あ、今日トマトみたいなあれじゃね?そうでしょ?」
「すいません…私は厨房を把握してなくて…。」
「あ、そなの?ごめんさぁーい。」
「奏音さんご飯になったら一気に機嫌よくなったー。動物みたい。」
「人間は動物ですから!奏美、行こ!」
「はいよ。」

なるほど、扉の前だというのにもうおいしそうな匂いはしている。
部屋に入ると、今日はエドとレイしかいなかった。
二人ともまだ食事には手をつけておらず顔が付きそうなくらいに身を寄せて話している。
それを見た奏音が、自らが動いても彼らが反応しないところを見てゆっくりと近づいて行った。

「残念だったな。」
「へっ。」
「ばーか、扉が開く音がしてる時点で気づくべきじゃないか?」
「え、え!」
「奏音っ、お前!…俺に何させる気だい?!」
「…レイさんは分からなかったんだ。」

二人の後頭部を狙った手は、エドによって押さえられていた。
そのためレイが一人でつんのめる様な形になり、彼は恥ずかしさで顔を逸らした。
しかし想良の追い討ちでもう誰も見たくないという様に突っ伏す。
給仕が運ぶべきなのかと遠慮がちに厨房から続く扉から窺い見るのに気づく人はいなかった。

「うるせぇ…見えなかっただけなんだ…。」
「見えないってやばくねーの?暗殺とかさ、ねえ?」
「やばいけどなあ、でもレイは義眼だ、おっと!」
「エド…言う事じゃねえよなぁ?俺が義眼って事今言うことじゃねえよなぁ?」
「あ、レイさん怒ったね。クソ女って言った時とおんなじ声だ。」
「想良、いまそれ思い出すこと?」
「ん、思い出しただけ。」

エドに向かっていった氷解が炎に包まれ、下には水が滴っていく。
宙に浮く炎とはなんとも滑稽だが、それも数十秒の後に互いを道連れにし消えてしまった。
だが、それを作り出した両人には険悪な空気が流れる。
想良は肩を少しだけすくめ、扉から顔を覗かせている給仕に話しかけ二人から一番離れている席に着いた。
奏美と奏音もそれに習い、想良の周りに座る。
離れているとはいえエドとレイを取り囲む暗く重い空気は目に見えてしまうようだった。
と、それから目を逸らさせる為と言ってもいい位のタイミングで料理が運ばれてくる。

「あ、ありがとうございまーす。」
「…あれ?トマトは?」
「トマト?」

給仕係がよく分からないというような仕草をする。
それに対し疑問を口にした本人は身悶えてしまい代わりに奏美が説明した。

「それでしたら夕食にと今煮込んでいるものですね。」
「だってよ姉ちゃん。」
「うっはぁあ〜…マジっすか。やった、起きてよう!」
「無理じゃないの?いつも寝てるじゃん。」
「うぐぅ。」

痛いところを口に出され黙る奏音。
エドが言い争いを投げ出し、レイの抗議の声も聞かずに口を開いた。

「はぁ…。そうだ三人とも、もう二、三日で帰るからな。」
「え?」
「だってもう実力は見せただろ?後はもう帰るんだ。ここにもう用は無い。」

エドが短く吐き捨てる。
確かに、もう用は無いといえるだろう。
だが彼らは折角生まれた家に帰ってきたといってもいいのだ。
なぜそんなに早くあの丘の上に戻ろうとするのかが分からなかった。

「いいな?」
「いいよ、ウチらは…世話になってる身だから。」
「私も…うん、あと二日はいるんだもんね…。」
「奏音はどうだ?」
「いいけど。来たくなったらあたし一人でもいけそうだっつーのは分かったしさ。」
「…そうか。」





「想良ちゃん…?」
「あ、散歩してくるから。」
「散歩ってなぁ…一人で出歩くのはやめてくれないか?」
「勝手にすりゃいいじゃねえか……自衛なら出来るんだしよ…。」

朝食を終え、各々部屋に戻ろうとした時一人別方向へ歩みだす想良を奏音が呼び止めた。
散歩というとっさの嘘は通用しない。そんな事は想良には分かっていた。
渋るエドと投げ出すレイ。奏美は二人の反応を見て口を開いた。

「だったらさ、一緒に行こうよ。」
「一緒?!それは…ちょっと……。」
「何で?」
「いや…うー…。」
「想良ちゃん…彼氏?!」
「違います…。」

未だ納得しない姉妹に対し、エドが奏音の肩に手を置く。
彼の表情はいつもと変わりが無いように見えた。
何か考えがあるのだろうと二人は身を引く。

「…早めに帰ってきてね。」
「うん、分かってるよ。」

四人に見送られ想良は離れていく。
角を曲がり、互いの姿が見えなくなる。すると想良はため息をついた。
ただジルに会いに行き、アリーから頼まれたことをするだけ。
たったそれだけの事をなぜ言うことが出来なかったのだろう、そう思った。
理屈とかそういうものではなく、あくまで直感。

「これは疑われちゃったな。」

だが、疑われたからといって何か違う行動をとればそれはさらに深めるだけだろう。
普通に過ごせばいい。
さっと外に出て、まだ二回しか行ったことのない道を歩く。
知らなければ見落としてしまいそうなその場所。
素早く入り込み、想良は姿を消した。





「エド、行かせてよかったの?ウチらは外に出てないけど危ないんじゃない?」
「治安が良いとは言えないよなぁ。」
「知るか。俺はあいつが良く分かんねえよ、お前らで一人だけなんか違うっつうか…。」
「そりゃ、想良はウチらとは姉妹じゃないし違うでしょ…。」
「まぁまぁ、エドはなんかあるんでしょ?あたしらを止めたんだしさぁ、はいご拝聴!」

奏音が仕切りなおすように手を鳴らした。
だが話す気配の無いエドを見ると、その顔は妙な戸惑いがあった。
レイは不干渉を決め込んだらしく奏音から顔を逸らしてしまう。
最後に奏美を見れば、まるでこれらの反応が理解できないというように首を振った。

「…言うか。とりあえず聞かれると困る。俺の部屋に集合。」
「あ、はーい…。」
「ここじゃ駄目系?」
「姉ちゃん、盗聴とかあるかもしれないでしょ。」
「あぁ、なるほど。」

そして、残った四人はゆっくりと上へあがっていった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.118 )
   
日時: 2012/07/08 12:11
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:3s5vSD6c

「帰れ。」
「帰りません!」
「失せろ。」
「話聞くまで失せません!」

ノックをし、普通に開けられた扉。
やはり前回は虫の居所が悪かったのだろうと思った想良が一歩踏み出すと、水の洗礼を受けたのだった。
髪から水を滴らせ、ベッドに横たわる人物と言い合うのは、相手の態度を知らなければ不謹慎に写っただろう。
だが今の想良にはそのような事を気にする暇など無いし、例え気にしていたとしても判断する第三者など存在しなかった。
言葉がつまり、唇の端をかむ相手を面白そうに眺める。

「お前、本当にタイミングが悪いのな。俺は機嫌がいいときにでも来い、と言っただろ?
 さっきまでは普通だったのにな、お前が来たせいで最悪だ。」
「最悪だったら笑ってないでしょ!」
「俺は今では…こんなんだけどな、ちょっと前までは優秀だったんだからな?
 感情を表に出さないなんて普通にやれていたことだ。お前もう少し感情を隠すことを勉強してみろ、不細工な嬢さん。」
「〜〜〜!」

ニヤニヤと笑い、相手の出方をジルは楽しんでいる。
これに乗り怒りを見せるなど相手の思う壺であり最もしてはいけない事だ。
だがそれを頭では理解していても実行するということはとても難しい。
抑えようとする葛藤すら窺えるのもジルは楽しんでいたが、想良はそこまで知らなかった。

「っはー…。あのね、私はアリーからあなたに対して聞いて欲しいって言われた事から来たの。」
「へぇ?どうせ俺につける人だろ?」
「そう、当たり。で、どういう人がタイプ?教えて?」
「さぁな。」
「な、なんで?!」

今までのジルの受け答えを見ていればそれは当然といってもいいような反応だった。
しかし頼まれた身である想良にとってはその答えがなによりも痛い。
小さいが確実にダメージを蓄積させられているのを感じ、それが焦りへとつながっていく。

「ねえ、じゃあ…あの女の子。あの女の子はどういう人だったの?」
「アリア…か?」
「多分…絵が、上手な…。」
「……。教えねえよ、外に出さしてくれてないんだから。」
「そっか。」
「あぁ、そうだ。」

気まずい沈黙が流れる。
死者――特に目の前の人物が愛していたという人について全くの部外者が踏み入るのは一種の冒涜行為だろう。
それを想良は感じ取り、口に出したことを後悔しながらも解決の糸口を探る。
あと数日すればカメリアの中心地を後にし、あの丘の上の家へと戻ることになる。
そうすればこちらへ派遣する人を選ばなければならないが、適当に選んだのであれば
無意味な死者を出すことになるのは目に見えて分かっていることである。
ならば、外に出る方法。
負ぶったりという事をジルは好んでもいないし受け入れないだろう。
地球のことを思い出す。

「…ねえ、外に出るってさ。どれ位出たいとか…あ、そもそもアリーに言ったりしてるの?
 アリーはあなたのこと結構考えてくれてるみたいだし…善処してくれると思うよ。」
「言える訳…無いだろ。俺は本来ならもう殺されている。それを金で抑えてくれてるのはあいつだ。
 それに忙しいし…嫁さんだっているのに無理言って来てもらってる…言える訳無いだろ。」
「そ、そうなんだ……。」
「それに。俺はもう分かってるんだけどな、ずっと嘘つかせてる。これ以上苦労はかけたくない。」
「嘘って…あ、言わなくていいよ。私顔に出やすいんでしょ?」

減らず口だが、人を気遣っている。突き放そうとしているが、意外と寂しがりや。
ここまで話し合ってきて、想良が抱いた彼への印象だった。
だがそれによりもたらされる負の感情を満たしてくれるような人柄を彼女は分からない。

「とりあえず…あなたに派遣する人、頑張ってみるね。殺したりしちゃ駄目だよ。アリーが直接持ってる所から
 連れて来るんだから。」
「勝手にしろ。」
「うん、勝手にする。…あ。」
「どうした。」
「うぅん、何でも。じゃあね、私はもう後何日かで帰っちゃうからもう会えないかもしれないけど。」
「そうか。俺は不細工な顔見なくてせいせいする。もう来るな。」
「最後まで素直じゃないね、またね!」

人材の決め手はよく分からない。だが、想良には一つの光が見えていた。
そしてそれを実行するためにはやくあの元の地へ帰りたい。
彼女自身作ったことは無いが、使ったことはある。
何度か試作を重ねる必要がありそうだったが、頭に思い浮かんだそれを思うと自然と足取りが軽くなっていった。





暗い、呻き。
叫び、懇願、嘆き。
なぜここに閉じ込められなければならないのか。そんな声を彼は幾度聞いただろう。
自分は悪人だ。殺すならばさっさと殺せばいいのに物好きだ。そんな自嘲をこめた呟きは何度耳にしたのか。
未だ指に残る感触。生理的な嫌悪感を覚えるその行為。
ありありと浮かび、忘れることを許さないとばかりに絡みつき腕を回す。

「煩い、全く。」
「…、ぁ……し、にし…?」
「もう、死ぬか。」
「……ぅぁ、あー…。」

目の前で、何かに拝むような仕草をするすでに女の面影を残さないそれ。
興味を持てず、その場を離れ自らが割り振られた場所へと戻る。

『抜け出すなり何なり、ご自由に。』

あの言葉に違いは無く男はすぐに逃げ出すことが出来た。
外に出れば草木が深く生い茂り、僅かに揺らせば小さな虫が驚きはねる。
日中ということもあり正確な時間を知ることは叶わなかったが、あまり長い時間は監禁されていなかったのだろう。
自らの内に残る最後の外の記憶と、その景色に大きな違いは見られなかったのだから。

「たすっ、助け…。」
「またか…あの女……。」

尤も、この人知れず存在している牢に入れられ強制的に目覚めさせられるまでの間に長い時を刻むか
余程の…大陸を渡る位の移動をしていなければの話ではあるが。
とりあえずこの牢の周りには泉が存在し、日に数匹は魚を採ることが出来た。
生活には困ることは無い。
幻覚に苦しみ叫ぶ女に舌打ちし、黙らせるために重い腰を上げる。

「ひ、い、やあ、ぁっ!苦し、痛い、い、たっ!」
「……。」
「あ、お助け…慈悲を、ぉ。」
「…騒ぐな。」
「痛い、痛いのよ…!あ、腹がぁ、骨があ、ぁ!あっうぅ…。」
「私は医者です。静かに、動かないで。」
「あぁ、あぁ!私みたいな、ぁ、こんな、貧乏人を見て下さる?」
「ええ…ですから、……お静かに!」

男に対し手をあわせ、開くことの無い目から涙を流す女の腹を殴る。
痛みに鋭い叫びを上げ、どこにそのような力があったのか分からないような蹴りが回る。
腐っても、罪人。国が手を負えなくなり、金により追い出された者。
その一撃を防ぐことには成功したものの痺れを覚え女が全盛期ではなかった事を男は感謝する。
身体を丸め、口から液体を吐き出し続けるその女は静かになった。
何度目か分からないそのやりとり。数日でまたこの女は痛みに喘ぎ、医者という言葉に手を合わせるのだろう。

「寝た、か。」

遠くではまだ、叫びや懇願が聞こえる。
男が特別なのだろう、彼のように牢から抜け出している者はいなかった。
足元に転がっている女のように、牢に鍵がかかっていない者がほとんどなのに、だ。
たいていは空腹に喘ぎ、耐え切れなくなると自らの排泄物を口にする。
男は同情し、魚を差し入れたことがあったが毒を警戒し口に入れる者は存在しなかった。
おそらく一種の刷り込みなのだろうが、その異様さは恐怖に値する。

(なぜ俺はここにいる。情報なんて、得られそうも無い。なんで。)

もう、数週間はここに人は来ていない。
自らの主のためとなりそうな情報が得られないことはとっくに理解している。
なのになぜ、不変の、繰り返すことしかないこの小さな世界に腰を下ろしているのか。
外に出ればいくらでも変化するだろうに。
男は、不変の世界の中でただ、傍観していた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.119 )
   
日時: 2012/07/15 08:48
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:A3byF9ug

「ただいま。…あれ?」

ジルとの話し合いを追え、想良が部屋に戻れば誰もいなかった。
エドの部屋だろうか。そう思いノックをすれば返事は無い。
いないのか、と諦めつつもふと出来心で扉を開けようとすれば、開いた。
鍵が閉まっているだろうと予測していたので彼女は驚く。
そして勝手に入るという罪悪感を抱えながらも部屋に入れば、確かに誰にもいない。

「いないのかな?…。」

皺がよるベッドを触れば、僅かに温もりが残っていた。
この部屋にはいないにしても、どこかまだ近くにいるのだろう。
ただ、それを理解したことを悟られてはいけない。

「いないのかぁ。…じゃ、準備してようかなぁ。」

ポツリ、と言い残す。
そして後ろを振り返ることも無く、自分達の部屋に戻るために出て行った。





バタン、と戸が閉まる音がする。
その音から数十秒後、何かが軋む音がし窓からエドが顔をのぞかせる。
あたりを素早く見渡し、部屋に何も変化が無いことを見て取ると自らの首に手をまわす奏美に放しかけた。

「行ったぞ。」
「うん…姉ちゃん、生きてる?」
「しむぅ〜腹が、食い込んでる…ハムになっちゃう…。」
「ハム?」
「えっと、食材の一つだよ。お手軽においしい感じ。」
「早くしやがれぇっ!奏音を持つ俺を少しはぁ、気遣っとくれよ!」
「ああ悪い、じゃあ窓を開けるから。奏美、よろしく。」

息を呑み、彼が片腕だけで自分とそのほかの人の体重を支える。
そしてエドに負ぶさるような形をしていた奏美が窓にとても薄い透明な板を差込み鍵を開ける。
すぐに窓を開け奏美が室内に入ると始めにエドが、そしてレイが室内に入り最後に奏音を引っ張りあげる。

「っあ゛あ゛あーー…腹が、本当に腹が!深刻な二段腹になったよ、これ!」
「てめぇ…どんな体重してるってんだよ!俺の腕を殺す気かい?えぇ?!」
「うっさいなぁ、わんこがひ弱なだけでしょうが!エドを見習いなよ!奏美をおんぶ、片手であたしとわんこ!
 必然的に自分の体重を支えるのは片手だけなんだかんね!」
「しつこく何度もわんこって呼ぶんじゃねえ!ったく、そもそも俺とエドは仕事の質が違うだろうが。」
「そーそー女の子のお仕事ー。初めて会ったときから可愛かったでちゅよぉ、
 お目目ばっちりアイラインでー。きれーなお人形しゃんみちゃいでちたぁー。わんこたんかぁいいねー。」
「てめえぇ…!」
「人の部屋で暴れるなよ?」

エドの一応の忠告も、二人には届いていないようだった。
赤ちゃん言葉で煽る奏音と、それに乗りどんどんと怒りを増幅させていくレイ。
そういうのに乗らないで冷静に判断するのがお前の仕事だろう、というエドの心中を弟は知らない。
奏美はそんな二人を呆れながら眺め、収束しなさそうなのを見て取るとエドに話しかけた。

「あのさ、…想良がどっか敵と繋がってるとか、無いと思うよ?」
「まあ、それが一番だけどな。でもな、お前たちは来訪者だ。それも争いの無い世界。駆け引きなんて分からないだろ?」
「そりゃ、ウチらの世代だったら小説とかそれ位しか…。」
「それに想良は…集落の人と仲良かっただろう。あそこなら人数自体少ないからよそ者も把握できる。
 ただここは貧困層自体多いし、繋がりなんて俺は分からない。多分無いんじゃないかな。」
「孤立してる…って事?」
「そういう感じだ。…特殊な薬で、ある一定期間、一定の条件で洗脳下に置くことも可能な薬がある。」
「そんな事…。」
「あるよ。奏美、お前も経験している。」

奏美はそんな事があったかと過去を振り返る。
しかし分からない。ぽっかりと記憶が抜け落ちているという事も無く、何か価値観が変わったという事も無い。
どれほど考えても思い浮かばないそれに、奏美は頭を抱えた。

「ほら、俺がアリーの足を手当てした時。あの時お前は戸惑っていただろう?」
「え、ああ!でも洗脳って感じじゃ…。」
「厳密にはな。あの時はお前の手に刺した小さなとげ。それで奏美はアリーの事を完全に押さえ込んだ。
 俺の力が無かったら絶対抜けられてただろう?」
「うん。…そっか、あれエドの力だったんだ。」
「まあな。自分の力とでも思ったか?それともアリーが怪我したからとか。…お前ら、終わりにしてくれ。
 俺はさ、レイ…お前の事を追い出してもいい。奏音、飢えた獣共の餌にしても俺は構わない。」

未だ言い争いを続けるレイと奏音にエドが低い声を出す。
栗色の髪が揺れ、二人を見つめたその目はとても冷たかった。
奏音はそのような挑発、と彼をからかおうとした。
だが、レイは動きが止まり脱力したかのように腕をたらし口を噤んだ。

「わんこ?」
「分かったよ…はぁ、黙るさ。」
「え、うぃ、ウィナー!」
「……。」
「釈然としない…。」

奏音が不満げにレイを眺めるがそれも一瞬で懐から携帯を取り出し眺める。
圏外であり、通話という本来の役目をそれは全うしないが保存されているそれで彼女は満足していた。
担当からのメールをことごとく削除し、出来るだけ仕事の束縛から逃げる。
ボタンを押す無機質な音を響かせながら奏音は会話を待つ。

「エド、ウチ思うんだけど想良に対して怯え過ぎっていうか…なんか、警戒心が……。」
「奏美…一つ聞こう。想良は本当にお前の世界の想良だな?」
「そうだよ。え?」
「そうだよな…うん…。強いのは…っと、何か武道をやっていたから。
 たまたまシチュエーションが体術方面だったからそれの経験が発揮されただけ。そうだよな。」
「うん、柔道でしょ?そうだと思うよ。」
「じゃあ…違うのか……?」

エドは考え込む素振りを見せる。それの意味が分からない奏美もまた黙る。
レイがため息をつき、口を開いた。

「ようするにな、来訪者――俺らはお前らをそう呼んだだろ?それに当て嵌まらねえんだ…資料の上ではな。」
「え?資料?」
「本家に行けばあるっていつか言ったじゃねえか。色々見てみたのさ。
 一度に同じ場所に出てくるってのがねえ。創成期の方々じゃあるまいしよ…分かるか?」
「全然。つうかあたしがだったら原因だと思うわけよ。」
「はぁ?!」
「いやだってレオンの言った通りに行動したらこの世界来たんだし。」
「じゃあ原因はそのレオンっていう奴じゃないか?奏音、そのレオンっていうのはどういう奴だ。」
「え、だからー…。」

奏音はレオンと知り合った経緯、そしてこの世界に来た経緯を話す。
なんの変哲も無く、いたって普通なそれ。
幾度か話を聞いているレイは黙って聞いていたが、エドは奏音が一言話す度に質問をする。
そのやり取りが終わる頃には、奏音はぐったりしていた。

「分からないな…。」
「だったらなぜ聞いたし。」
「多分関係はあるんだろうが…その人が直接の原因かというと、怪しい。」
「でもレオンは気弱だしなぁ、ないんじゃない?」
「まあ、俺らと別世界って言う時点で俺たちが対策立てても意味が無い、か…。」

ぽつり、と呟きエドは奏美と奏音に対し追い払うような素振りをする。
それを汲み取った奏美はまだ行きたくないとごねる奏音を引っ張り自分達の部屋を目指した。





「お前さん、へえ。」
「こんにちは、軍師様のお兄様。できればお名前を窺っても?」
「フィッツ。よくも騙してくれたな、おい。」
「お兄さんが話しかけてきたんじゃん。」
「うるさいな、おかげで重要な所を案内しちまった。」

ぶつぶつと呟く体格のよい青年。
軍師が言ったように、食事を片手に彼はやってきたのだ。それを格子の隙間から差し入れられる。
ドロドロとし、僅かながら腐敗臭のするそれを目の端で確認した。

「どうしたんだ?食いな、腹減ってるだろ。」
「別に。」
「へぇ、じゃあ下げてもいいかね?」
「お兄さん、その体格だし物はいっぱい食べるでしょ。」
「下げるからな、坊主。」

軍師の兄、フィッツが差し入れた手を振り払い皿を奪い取る。
その速さに一瞬目を見開いた彼を無視し、中身を眺めた。
どうやら食べ残しをかき集めたもののようで、歯形が残っているものも存在している。
そして腐敗臭の正体は皿の大部分を満たすドロドロとしたものであった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.120 )
   
日時: 2012/07/14 18:08
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:/oQuYf76

「食べなよ、ほら!」
「うわっ!」

フィッツめがけて皿を投げる。
皿は格子に阻まれたが、皿を満たしていたそれは向こうへと飛び散る。
もろにそれをかぶった彼は激昂し、格子を揺さぶる。

「てめぇ!俺にこんなんぶっかけて無事ですむと思ってんのか、あぁ!」
「無事ですむでしょ、格子があるじゃないか。
 お兄さんのその身体じゃあ入ってこれないでしょ、痩せたら?でぶ。」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

言葉になっていないそれを叫ぶ。
野生の、本来狩られる立場の物にからかわれた獣の怒りに似たその声は牢の中にこだまする。
前から、後ろから――反響するその音に呼応するかのように他の囚人も叫びだした。
大きな音に怯え、パニックに陥ったのだろうか。

「ねえ、汚いよ。唾飛ばして、青筋立てて。
 軍師様を見る限り美形の家系だと思ってたけど彼が特別だったのかな?」
「黙れ!この髪色の美しさが分からないか?はっ、お前さんは女じゃないから分からんだろうよ。
 女どもはみんな褒めるぞ?」
「色は綺麗かもね。その顔だから余計髪の色の美しさが映えるよ。」
「それ…。」
「分かんないかな、醜男って言ってんだよ?それに女が褒めてたのは家柄だよ。
 お前みたいなのに興味持つと思う?お前の一族はみんな結構美形なのにね、妾の子だったりするのかな?」

アリーが喋れば喋るほど、相手の叫びも酷くなる。
だが、互いに気づいてはいなかった。
あの堅牢な格子がギシギシと音を立てていることに。フィッツの叫びにかき消され、僅かばかり動く。

「そんなに自分の容姿に自身持ってたわけ?身分の補正がかかっているよ。」

挑発をこめたその言葉は、届いているかは分からなかった。
そもそも、フィッツは醜男という訳ではなく完全におちょくる為に言った物を真に受けていただけだった。
しかしここまで発狂するのはどこかそういった劣等感があったのかもしれない。
アリーはため息をつき再び寝転がる。
牢に慣れた身体では、多少の煩さなど気にならなかった。





「お帰り、エドの部屋にいると思ったけどいなかったね。」
「あ、うん…。」
「へえ、どこ行ってたの?」
「えっと、外。ウチも見たいって言ってみんなに連れて行ってもらった。
 想良を探して一緒に行動しようと思ったんだけどね、見つからなくてさ。ごめん。」
「ううん、いいよ。私はすぐに戻ってきたからね。」
「あたしは寝るから、お荷物まとめてね。よろしゅー。」
「あ、姉ちゃん!」

早々にベッドにもぐりこむ姉を奏美が止める。
荷物のまとめくらい自分でやったらどうだという声を、想良は軽く聞き流していた。
二人――といっても奏美だけではあるが嘘をついている。
皆で行ったのならば、ベッドのあの温もりは何だったのだろうと。
自問するが、答えは全く思いつかなかった。
ここの兵士は、部屋の主がいないうちに掃除をしているようだがベッドに座ったりはしないだろう。
それにもし座ったとしても、あの皺のよりようは無い。
僅かずつ、互いを疑っているのだということを想良は自覚し、気持ちが冷めていくのが分かった。

「あーあ、姉ちゃん寝た。
 想良、ウチらだけでも準備しようよ。もし姉ちゃんが準備しなくても対応できるようにさ。」
「そうだね。…。」

腰を上げ、双方準備に取り掛かる。
だが、滞在期間が短かったこと、そして荷物を取り出したりする必要が無いくらいに
こちらは物資があったこと。これの影響でそれはすぐに終わってしまう。
時計こそ無いが、窓からのぞく日の高さで一時間したかしないかぐらいだろうというのが推測された。
寝息を立てている奏音を奏美は恨めしげに見やり、彼女は書物を眺める。

「奏美、それ何?」
「ん?エドに借りたんだよ、兵法書じゃなかったかな、って言われた。」
「ふーん、読めるの?」
「草書だから雰囲気は。ていうか、本当に日本人だったんだなぁって感じ。」
「お祖母さんだっけ。私たちと同じなんだねえ。」

奏美の肩からその書物をのぞく。
確かに草書で、読みづらいとしか感じなかったが久しぶりに祖国を実感させていた。
慶長あたりのその人物が遺したそれ。
はるか昔であるそれが、こうして目の前にあり、それは一世紀もたっていないだろう。
この世界の法則性も分からないままその書物を眺めていた。





「お兄ちゃんお兄ちゃん。」
「……」
「少しおしゃべりしよう。」
「……」
「ねえ、聞いてるー?」

足をぷらぷらさせながら、新しくこの牢に入ってきた人物を眺めた。
背は高くて、寡黙な男性だということが分かった。
何度か話しかけるも、反応は全く示さない。つまらない、そう思った。

「ねえね、私暇なんだよ。お兄ちゃん、遊ぼう?」
「……」
「遊んでくれないの?私が捕まっちゃうみたいな悪い子だから遊んでくれないの?」
「……」

腕に触れ、存在を彼に認知させるがそれに対しても反応は示さなかった。
ただ体温を感じ、生きている人間だということは理解できたが…。
彼女は一言も言葉を発さない彼に対し幼い少女のような悪態をつき、ボロボロな布切れをかぶった。
数日前入ってきたその男性は、彼女と同じ牢に入った。
彼女は過去に脱獄を先導し、その手腕を脅威ととられ座敷牢へと移された。
初めは、あの陰鬱な牢と同じように脱獄を先導しようとした。
だが、それは叶わなかった。ここに入れられている人物は国に対し忠誠を誓っていたのが分かったのだ。
なのになぜ、牢に――その疑問は長い間暮らしていても分かることは無かった。

「ねえねえお兄ちゃん、お兄ちゃんは何でここに入れられちゃったの?大逆罪?不敬罪?
 カメリアの領主様の悪口言ったの?」
「……」

首を振った。耳が聞こえないという訳ではないらしい。
これなら…脱走できないまでも、外の様子を知ることは出来るかもしれない。
そうしたら、祖国のために情報を持って帰れるかもしれない。

「違うの?だったら…パベーニュ様?」
「……」
「ねえ、教えてよ、お兄ちゃん。お顔見せて、私が相談乗るよ!」
「…、…」
「75、何やってるんだ?」
「…!、あなた、は…。」
「パベーニュの長男のだよ、75。」

音も無く突如現れ、会話に割り込んできたその男。
いつのまにか番号で呼ばれるのにも慣れてしまったが、彼の表情だけはいつまでも慣れなかった。
冷たさと、それを引き立たせる赤い舌と短い黒い髪。
時々こうやって訪問しては、彼女の考えを乱し去っていく。

「何しに来たの?私を出してくれるの?」
「出すわけ無いじゃん。そんなに出たかったらそこにいる彼を誘惑でもしてみれば?」
「…誘惑?なぁに、それ。」
「とぼけんな、75。お前の腕の見せ所だろ。」

そう言うと、その人物は奥のほうへと進み彼女の視界からは消えてしまった。
奥の方にはほんの僅かな人数しかいない。
看守が運ぶ食事の量、僅かな衣擦れの音から彼女が判断したことだった。
最近では一人の男が入れられ、別の男とおそらく自分と同じくらいの女が彼を連れて行った。
ほんの一時間の間の出来事であったため彼女は何も知ることが出来なかった。
ただ入牢の際から男の様子が変だったことくらいである。
その症状から薬か、それに近い何かが行われていたのだろう。理解できても、いらない知識だが。
だが、先ほどの男の言葉にふと引っかかるものを覚え、反芻する。

(パベーニュ?おかしい、あんなやつパベーニュにはいなかった。
 養子…ここは女が継ぐ。実は女…うぅん、声は男だった。喉も出てた。男…嘘ついてるのか?)

自らの記憶との相違。思い違いだろうか。
なにか、この関係には隠されたものがある。そしてそれを解く鍵が目の前に転がっている。
だが、それに手を触れるには時間がかかるだろう。

「お兄ちゃん、遊びましょ。」
「……」
「眠っちゃったの?じゃ、私も寝よー。」

口を開きかけていたのに――あいつ、余計なことをしてくれた。
男の言うことに従うのは癪ではあるが、どう誘惑しようか考えた。
メンテ

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