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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.126 )
   
日時: 2012/09/17 16:09
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「エド、入っても構わねえかい?」
「ん、あ、待て!俺が開ける、開けるから…五分、いや三分!」
「…始末をしっかりやって俺の部屋に来てくれ。」

扉の向こう側からの兄の慌てた声に対しレイはそっと息をついた。
考えても具体的な解決策は見つからず、多少の意見を聞こうかと思って来てみればこれだ。
つい最近は無かったからと油断していた自分自身も悪かったが、相変わらずのそれに呆れを感じずに入られなかった。
自分の部屋に入り、腰元につけている補助具をはずしドアノブにかける。
その瞬間ぱっと部屋の中が明るくなった。

「あー…片付け……。」

乱雑に積み重った服を見て、自分の始末が悪いのが原因だがうんざりする。
とりあえず地域別に分けようと近くにある山の一つを持ち上げればゴトリ、と音がした。
大方潜入のときに予備として潜ませている武器か、それをとめておく物が落ちたのだろう。
そう思ったレイは踏まないようにどけようと音のしたあたりを足で払った。だが――

「いってぇ!」

予想以上にその物が重く、硬かった。思わず抱えていた衣類を取り落とし、蹲る。
ジンジンと熱を持つ足を庇うように動けばエドがひょっこりと顔を覗かせた。

「大丈夫か?凄い音したぞ。」
「うるせえよ、勝手に入ってくんじゃねえ…!」
「なんだ、心配したから入ってきたのに。で、なんか話?」
「ん、まあな……。」

エドはレイが投げ出した服の上に座り、不快な顔をした持ち主を見てみないふりをした。
レイも言っても無駄である事は過去から重々承知していた。
乗られていない服をかき集め、適当にたたみながら口を開く。

「反乱の気は無し。アリーは消える。俺らが踊らされたって訳じゃねえだろうなぁ…。」
「おいおい、弟を疑うのか。」
「疑う…訳じゃねえよ。でもいなくなれば最低何かしら仕掛けがされると思ったんだよ。
 まあ本家行こうって提案したのは俺だしよ……やっぱりもう引退の時期かねぇ。」
「引退ってまだお前二十超えたばっかりじゃないか。三十くらいまではやるべきだろ。」
「年齢なんて問題じゃねえよ…勘なんだよ、必要なのはよ。」

服を掻き分け、何かに手が触れる。
それを引っ張り出せば木の箱で、先程蹴ったのはこれだったのだろうとレイは納得した。
中を開けても空のようで、空中に放り投げるとそれは一瞬で炎に包まれた。
パラパラと灰が落ち、それも適当に扇げば影もなくなってしまった。

「それか?蹴ったの。俺に言えば燃やすなり変なの作るなりしたんだけどなぁ。」
「そしてまた置き場をなくすのかい?……まあ自分の部屋の中に詰める分には口出すつもりねえからさ。」
「でも燃やしちゃったじゃないか、勿体無いなぁ。それで話は何だ?」
「あ、ああ……。」

レイは覚悟を決めたように話し出した。
彼が話している間エドは黙って聞いていたが時折息を呑んだり、口を開きかけたりしていた。
しかしその度、弟の表情を見て押し黙る。
話が終わった後は暫く沈黙が続いた。そして、エドが口を開く。

「お前…いいのか?」
「構いやしねえさ。…死にたくないってのが本音だぜ?
 でもよ、……うん。ちょっとぐらい、ほんの少しだけなら…時間稼ぎぐらいしてみせるさ。」
「…そうか。最低限の根回しくらいはするよ……。」
「……。」

既に彼の覚悟が決まっているのは分かっていた。
しかし、それが揺らいで欲しいという僅かな願望がこれから起こるであろう事の事実を述べていく。

「お前はここに残って反乱が起きた場合の鎮圧。……の、時間稼ぎ。」
「ああ。」
「俺達は…。リキルシアに、行く…そのあと、パウエル。」
「うまくやれよ。そうすりゃ俺も死なねえで済むんだからよ。」
「あ、ああ…できるだけ、早く…。」
「馬鹿。気づいてるって悟られねえように遅めに行動しやがれ。俺は…死ぬっつっても最悪自我が
 なくなるだけじゃねえかよ。エドやアリーみたいに殺害を最終目的にされてねえんだから。」
「でもそれは…死ぬのと同じじゃないか。傀儡なんて…。」
「薬に対する抗体…というか、慣れさせられてるんだ。いきなり致死量ぶっこまれない限り平気さ。」
「……。」
「あいつらに悟られるなよ。早く…明日にでも出発しろ。」

その冷たく突き放すような口調にエドは部屋を出て行った。
扉を閉め、自分の部屋に戻る。
彼の部屋の中ではマリーが棚に縛り付けられ、虚ろな目でエドを見た。近くには小瓶が転がっている。
エドを認識したのか一度瞬きすると、ゆっくりと目を閉じた。

「マリー、俺はまた血縁を殺すかもしれない…。」
「…そ、ぅ……。」
「しかも間接的にだ。俺が直接手を下すわけでもない、相手が完全に死ぬわけでもない…。」
「……。」
「でも実際、死ぬところは見てみたいんだよ。あいつは普段から感情を殺さなきゃ出来ない仕事だから、
 薬でも何ででもいいから生きたあいつをもう一回見たいんだ。でも情があって死んで欲しくない。
 ……少しは人の話を聞いたらどうだ…!」
「う、あっ、あ、ああ゛あ゛!」

つぷり、とマリーの露出された太ももに針を刺す。深くまでいくと、硬い何かに当たった。
肉に刺される程度ならば彼女も耐えられただろう。
ゴリゴリとその硬いそれに針を貫通させ、痛みに身体を痙攣させるマリーを眺めた。

「はーっ…はー…お前、どう…っ、ぅ…つお、り…。」
「代わりぐらい果たしてみてくれないか?」
「出来る訳…私は、私……。」

ガクリ、と首をたらしたマリーをエドは眺めた。肩は上下している――ただ気絶しただけのようだ。
針を抜き、血を噴き出している傷口に手を当てる。
間もなく傷は塞がった。エドはマリーの足から流れ床に小さく溜まっている血を掬い取り口に含む。
名残惜しそうに目の前の女性の腕と自ら縛った縄を視界にいれるが、それを解こうとはしなかったし思わなかった。
エドが幾度目か血の付いた手を口に含んだ後彼女が怪我をしていたと理解することは出来なくなった。





「ご飯、何がいいかなって……。」
「なんでも…。」
「……。」
「え、えと、マリーさんは?」
「寝てるぞ。無理やり引っ張ってきたからな、多少は疲れるだろう。」
「そう、じゃあよっぽど疲れてたらお粥みたいなの作ればいいかな?
 ……あのね、なんでそんなに皆して空気が重いのかなぁって気になるよ、私。…あ、話す事じゃなかったらいいけど。」

奏美と想良の間には気まずい空気が流れていて、それを破るかのようにエドがやってきて。
レイは体調があまり優れないからしばらく下に来ないかもしれない。彼はそう言った。
とりあえず台所の掃除をして料理を作ると宣言した想良は二人のあまりの無気力さと流れる空気に困惑していた。

「えっと…あの、あのー……材料見て考えるから。」
「あぁ。頼むぞ。」

ぱたぱたと食料庫に消える想良を見送り、エドも視線を戻した。
奏美は顔を伏せており、エドからはどんな表情をしているのかを理解できない。

「…あれ。」
「ん?」
「奏美、俺は今まで疑問に思っていなかったが。」
「うん。」
「なんで想良は家の物を色々と使えているんだ?教えた覚えが無いんだが。」
「台所とか?アルから教わったんじゃないの?」
「あいつ教えてたか…?」

ふと浮かんだ疑問を口に出せば、奏美もよく分からないというように首を傾げる。
想良はアルがマティーに連れられここを去ってからはほとんど食事を作っているのだ。
トリクシーにも料理を教えるほどを熟知していることになっている。

「なあ、奏美達の世界でも色々とここと共通か?」
「え?いや、ウチはよく分からないけど……あ、でも昔って感じってだけで。」
「昔?」
「あの、電気とか水道とか。あとガスも。魔法使うか、自力でやるかでしょ。
 地球ではそれを作ってる人がいて買う……って言えばいいのかな。そんな感じだよ。」
「ふーん……。」

エドは納得言っていないような声を出すが、それ以上探ろうとはしなかった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.127 )
   
日時: 2012/10/07 12:49
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:OQcm08Vs

「はあぁああ?!ざっけんなまじふざけんなし!
 今日帰ってきたばっかりだよね、今日!また明日には別の国?なにそれ?あたしを殺す気?過労で死ぬよ?」
「姉ちゃん、ウチらは世話になってるんだよ?合わせようよ。」
「奏美もそーやって!ヤダヤダあたしはニートするって約束したんだあああ!」
「誰と。」
「奏音の言いたい事も分からなくは無い。でもな、納得してくれないか?」
「ええええええ……。」
「駄目か?」

もう日も沈み、原理の分からない明かりで照らされた家の中食卓を囲む。
エドが明日にはリキルシアに行くと言った瞬間奏音の猛攻撃を浴びた。休む暇があったもんじゃない、と。
全員が向かうと言えばまだ納得しただろうが、説明の中でレイが残ると言ったのが失敗だったのだろう。
理由は明かせないため、自然とエドの立場は弱くなる。

「私もさ…戻って来て皆と遊びたいんだよ。キルシ君としばらく会ってないし……。
 それにラリーさんに弟子入りするって言っておきながらまだ一回もそういう感じのことしてないし…。」
「そうそうそう!てーかさ、今日までのあれは納得してるよ?勝手に世話になってるしさぁ。
 でもまたって何。外交なんてあたしに任せてごらん?第三次世界大戦幕開けするかんね?お分かりか?」
「第三次って…姉ちゃん……。」
「そうだぞ。世界大戦…っていうのはまだ起こってない。せいぜい大陸全部だぞ?それも創造期。」
「エド、論点そこじゃない……。」

がっくりと肩を落としながら奏美が呟く。
話しながらであるため箸の進みも遅い。普段であれば既に食べ終わっているような量も、人数の欠落も手伝い減らない。
眉間にしわを寄せたまま奏音は箸を咥え、行儀が悪いと嗜めるエドの声を無視した。

「…つか今思ったんだけど、あんた箸使えるんだね……。」
「ん?あ、まあな。敵地とかでは手で食べる…あれ?向こうで何回か一緒に食べた時に…。」
「ナイフとフォークだったよね?」
「ウチに聞かないでよ…まぁ、箸は使ってなかった。」
「まあ、いいか。俺は気にしてないし。祖母さまの影響だろうなぁ。
 で、とりあえず強制的に参加だ。俺だって休みたいんだぞ?他人のフリをして、何回か無視して…疲れるんだ……。」

皿に取り分けていたものを全てかきこみ、異論は許さないと言った表情でエドは三人の顔をのぞいた。
元々賛成していた奏美は頷き、奏音もしぶしぶといった表情だ。
だが、いつもは従う想良が異を唱えた。

「私はここにいたいよ。レイさんに用事があるんだったら集落の人に頭下げて泊めて貰う。」
「そういう訳には…。」
「なんで駄目なの?公儀の秘密です、とか?私探らない。だからここにいさせて欲しいな。」
「想良、…迷惑が、かかるんじゃ。集落の人たちにも生活はあるんだよ?
 ウチらはおいて貰ってるんだよ…できるだけさ、迷惑にならないようにって…。」
「…そうだけど、そうだけどさ……。」
「つか疑問。はーい。」
「なんだ?」
「なんでわんこは残る訳?」

渋る想良を尻目に、奏音が思ったことを口に出す。
なぜレイだけを残して行きたいのか、強情ともいえるその雰囲気を素直に受け取ってのことだった。
謀反の疑いがあり、それを誘い出し且つ最低限の犠牲しか出さないため。
戦の中、親兄弟が敵同士になる様なそんな世界で生きているエドですら今回のことには躊躇を覚えた。
まして今彼に疑問をぶつけているのは血縁同士殺すことなどありえない、最大限の争いと言っても口喧嘩くらいの生温い
環境を精一杯依存しあいながら生きている人間たちだ。
まず反対されるのは目に見えている。決めたのがレイであってもだ。

「…婿、入り?」
「エドさんって嘘つくの苦手でしょ。」
「そんな事ないぞ。色々隠してることもあるし……。」
「へぇ、どんな事?」
「軽くお家騒動になりそうな事とかな…。」
「エド、誘導尋問的なことされてない?想良も探らないって言ったのにさぁ。」
「あ…まぁ、パベーニュのとは言ってないだろ?」

無理やり継ぎ合わせた言葉を繋げる。

「……パベーニュ?」
「え?あぁ、俺達の苗字。言ってなかったっけ?」
「あーあたしは知ってたけど。奏美達は知ってるっけ?」
「知らないかも…。」
「私も知らなかった。」

聞きなれない姓を何度か呟き、奏美は首をかしげた。
エドはこのまま話をうやむやに出来るのではと何気なくそちらのほうへ広げていく。
想良もこれには今まで知らなかったことに気をとられ気づかなかった。

「知らなくても困ることは無いから安心してくれ。そもそも国主以外に姓を名乗ることなんてほとんど無いから。」
「ふーん。でもさ、ウチ的に苗字ないと辛い気がするんだけど。名前同じ人なんて結構いるでしょ。」
「上流階級では被る事が少ないからな。役職呼びがほとんどだし。」
「へぇ。あ、武士の社会とかもそんな感じだったかなぁ。大納言とか何とかの守とか。」
「俺らの祖母さまはそんなの無かったけどな。ま、とりあえず準備はしててくれ。
 といってもまだ荷の紐は解いていないだろう?よっぽど必要なものはリキルシアも都会だから調達できる。安心してくれ。」
「……私は、残るから。」
「……。分かった、レイにも言っておく。死ぬ覚悟でいること。」
「大袈裟だよ、エドさん。」

からかう様に想良は言った。
その口調には自信がこめられており、それはどこから出てくるのかエドには疑問だった。
しかしそれにより、もしかしたら彼女らがこの世界に来たのは"レオン"ではなく想良にあるのかもしれない。
根拠の無い手ごたえが、彼にはあった。





「お兄ちゃん、ふふ。」
「……」
「ねぇねぇ、次は抱っこして欲しいなぁ。私ね、ちっちゃいでしょ?ここに入る前は木に登ったり高いところにいるのが
 好きだったの、いいでしょー?」
「……」
「うわっ、やったー!お兄ちゃんありがとう!」

媚びへつらう声。彼女は頭の中でため息を付く。しかし、声は嬉しそうにきゃっきゃっと弾んでいた。
長い間、それこそ物心付いたときから狭い暗い部屋の中。あらゆる手を使い痛めつけられた身体。
成長するという事を放棄した結果、年相応の外見など手に入れられなかった。
そのかわり彼女に授けられたものは、相手を惑わす幼い外見。精々7、8歳程度のそれは相手を油断させるのに事足りた。
痛みから逃れるために身に付けた無気力で敵ですら哀れと思う頭の弱さの演技も彼女の固い鎧となった。

「え、もう終わり?もっとやって、お兄ちゃん。いい子にするから!」
「……」
「ねぇ、お願い…お兄ちゃん。私、いい子にするよ、お願い…だ、よぅ…。」

ぽろぽろと涙を零せば、仕方が無いと言うようにもう一度肩に乗せられる。
ここまで絆すのにそう時間はかからなかった。寡黙だという印象で困難な道を描いていた彼女は逆に困惑した。
寡黙なのではなく、口が聞けない。その分相手への意思疎通のため普段からの身振り手振りが大きく表情もよく動く。
分かり易さを心がけたのかジェスチャーは誰もが理解できる内容。
そして子供の精神のまま身体だけ大きくなったかのように、彼の感情の起伏は分かりやすかった。
頼りにされれば精一杯背伸びして、少しでも上手くいかなければぽい、と投げ出す。

「…っ、ありがと、お兄ちゃん。」
「……。」

感謝の意を見せるため、ぽんぽんと頭を軽くたたいてからぎゅっと抱きしめる。
小さいなりの、感謝。彼女が落ちないよう小さく頷いた青年の表情は柔らかかった。

(ちょろいなぁ。…こういう作りなんだ。ふぅん……。)

背が小さく見渡せなかった全体を彼女は今、見ていた。
所々死角になっている所はあるものの、全体図を思い描くのには十分な範囲だった。

「ありがとう、お兄ちゃん。もういいよ。」

お前はもう、私にはいらない。忠誠心だけ馬鹿高い、お荷物さん。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.128 )
   
日時: 2012/10/07 12:51
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:OQcm08Vs

「お断りします。」
「こっちが断るよ!姉ちゃん、さっさと寝てくれない?結構その、リキなんとか遠いんでしょ。」
「あたしは知らないよ。つかリキなんとかってどこよ。徒歩ならよく分からんけど飛ぶでしょーよ。」
「そういう問題じゃ…!なんで解いちゃったのさー……。」

物臭の姉なら荷を解くことは無いだろう。そう思っていた奏美の予想は外れた。
少なくとも食事前までは手を付けられていなかったので、明日には出かけると言うことを知っていて解いた事になる。
それも目的の物が見つからなかったのかはたまた嫌がらせかほぼすべての物が部屋中に散乱している。

「あーもー!想良は集落行っちゃうし!姉ちゃんは姉ちゃんだし!」
「そりゃそうさ!あたしはいつまでもオリジナリティさ!」
「訳分かんない!」
「落ちつけ落ちつけ。現地調達も可能なんでしょ?補佐の家なんでしょ、この人らは。金あるだろうし。」
「……。」
「とりあえずこっちになさそうなこれらを持ってければあたしは満足よ。」
「……。」

腰につけてある小さな物入れをふる奏音を奏美はため息をつきながら見た。
その中には携帯と彼女の好む物が入っているのを知っていて、携帯でないほうの必要性を理解できていないからこその反応だった。
そもそもそれは必要な行為をしなければ用いられないし、それをしなければ死ぬわけでもないし。
ミゲルが小袋に入れると言い、その通りになったそれは日の目を見ることが出来ず彼女の腰に居ついていた。

「ほんとこれ使わねーわ。十一の二乗あるよ。十二の二乗あったからまぁ使ってるのかもしれんけど。」
「二乗?二乗って…じゃあ、え?!」
「まぁこっちに来てから一回も使ってないし。よく耐えられてるわ、まったく。仕事無いからかね?」
「女でそれ携帯してるのもどうかと思うんだけど……。」
「エチケットっしょ。まああっちの滞在期間長かったらいいかもなぁ。あ、エドにあげた方いいかな?」
「各自の判断でどうぞ!」

思ったよりも強い口調で言葉が出たことに奏美は驚いたが姉も気にしている様子はなく彼女はほっとした。
気を取り直しあちこちに散らばった姉の私物を集め、荷造りをはじめる。使うかどうかは分からないが一応だ。
となりで持つべきものは優しい妹、なんて聞こえるがそれを無視した。

「そういえば独り身なのってわんことマテちゃん?
 エドは縛られたくないって言ってて実際好き放題暴れ放題みたいだから除外として。アリちゃんにはトリリンいるし。」
「あぁ、そうだね。…レイもまぁ、好きな人…。」
「なんか想良ちゃんにあたし押されてるよね。まぁ来るもの拒まずで行くけどさ。
 …何個か上げようかな、男共に。日頃のお礼として。マテちゃんは……いるかな?どう?」
「ウチに聞かないでよ……。」

トリクシーのことが出た瞬間、奏美の手は一瞬止まってしまった。
しかしそれに気付かなかったのか通常運転を繰り広げる姉に対し安心感を覚える。
言っている内容は最低に近いが、ばれていないと言うのが彼女にとっては幸いだった。
ふだんの奏音のスタンス――来るもの拒まず、去るもの追わずという無頓着に近くその時を楽しむのが一種の鈍感さを生み
それが奏美にとっては幸に働いた。
一方、振り回されているような人もいる、と一瞬レイのことを奏美は思い浮かべ一人苦笑した。





集落に遊びに行く、と半分嘘をつき想良は木の枝片手に目的の場所へと走る。
もう日も沈んでいるという制止の声を振り払い、その必死さに一種の疑いの念を向けられているのも承知していた。
むしろそれを欺いているというのが心地よく、また秘密の行動を任されているという一種の優越感が彼女を虜にした。
走っていて、気付いたことがある。
トリクシーが驚き半ば強引に離れた場所。それがこの道に通じていた。おそらく彼女は知っていたのだろう。
秘密の場所だと教わっていたこの隠れ場所。あの時はなんとなく歩いていたから自然と足が向かってしまっていた。
それに気付き、慌てて家まで戻った。

(あれ…?確かあの時今の所は関係ないって言われた。え、トリクシーは私が関わる事を知ってた?)

ふと立ち止まりあの時の事を回想する。
あの時は確か奏音の奔放さに呆れ、それの被害を被らないために外に出た。
確か虫を食べるとか、歩き方を教えてもらったような記憶もある。実際彼女の左手に握られている枝がその証拠だ。
その後家に戻り、トリクシーはアリーがいないからと言って上に行った気がする。
なんとも曖昧だが、関わることを知っていたとは思えない。偶然だったのだろうか。

「ま、いいか……。あれ?」

遠く、ちらちらと炎が見える。一筋煙も立ってはいるものの狼煙ではないようだ。
近づけばそれは帰ってきてすぐにこちらに来たときの人物だと言うことが分かった。
相手側もこんな短時間で再びあったことにいささか驚いてはいるようだが出てきた声はとても穏やかなものだった。

「昼間…の方で。こんな夜更けに散歩…ですか?」
「いえ、あ、まぁ。そんなところです。こっちは星が…よく見えるんで。」
「そうですか。…戦の、絶えない地域の人ですか?炎で、明かりが消える。」
「いえいえ、戦なんて。むしろ人一人殺されたくらいでニュースになるくらい平和な国。
 …あ、一人殺されたくらいって…うわ、うわぁ。」

自らの発言に驚いたような雰囲気を出している女を男は横目で見る。
人一人死ぬのなんてありふれている。この大陸にはどんなに豊かに見える国であっても貧困層は存在する。
物価の違いなどから国を移れば金持ちになれるのもいるが、それはごく少数。皆生れ落ちた国に腰を落ち着けている。
人一人死んだ程度でニュースになるであろう国を思い浮かべるが、思い当たる物はない。

「もしや…。」
「え?」
「貴方は、海を渡りましたか?この大陸からは断絶された小さな島国が存在していて。
 情報は無いに等しいから、私は知らないけれど。そこはとても富があふれ豊かな国で、差別も無い国だとか。」
「うわ、ジパング?」
「それが国名ですか?」
「私の出身?まぁ、ジパングって言われれば…凄い昔だけどそう呼ばれてはいたよ。」
「ジパング…。そうか、ジパングか……。」
「あ、あのあなたが言った島国は多分ジパングじゃない……。」

想良の戸惑いの声も相手には届いていないようだった。ぶつぶつと何かを喋っている。
時折ジパングと言う言葉が聞こえるがそれは地球の、はるかむかしの書物がそう称しただけ。
訂正の言葉をかけようとするものの男の集中する姿に何を言っても無駄だと言うことを悟った。
どうにか上手くして後ろに見える建物に入れないかと腰を浮かした瞬間、腕を掴まれた。

「えっ?」
「ジパング。案内してもらいたい。この場所はもう情報は得られない。やっと決意できた。」
「どういう事…?は、放してよ!」
「駄目だ。」

ぎりりと腕を掴まれている手に力がこもる。振り払おうとするも力の強さがそれを許さなかった。
手を繋がれていると言うことは互いに逃げ場も無い。一か八か、懐に忍ばせた小刀を相手に突き立てる。
どこかに刺さったのは確実だったが、男は身じろぎ一つしない。想良は初めて恐怖を感じた。
手にかかった暖かい液体ももう温度が逃げ、より寒さを際立たせる。

「野蛮なのはいけない。案内してくれ。土産話がたくさん欲しい。」
「そんな、ジパングじゃ、私の出身国は!それに私は――っ!」

『来訪者』そう言おうとした瞬間、なにかに口を塞がれるような感覚に襲われた。
目の前の男もぎょっとした顔をして思わず想良のことを放した。後ずさりし、武器を構える。
男は想良のすぐ後ろを狙い、一瞬息が出来るようになったがまたナニカによって息が詰まってしまう。
ぐっと後ろに引かれ、よろよろとよろける。意識が無くなる、そう思った。
想良は意識が薄れていくその間ずっと、男の恐怖の表情。細く青白いものが武器に絡みつく様子。
朽ちていく刀や彼の最低限の鎧。がくりと膝を突く目の前の男を見ていた。
彼が倒れたのを確認すると想良自身の意識も途切れ、地面へと倒れた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.129 )
   
日時: 2012/11/17 08:46
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「う……。」

冷たい風が頬を撫で想良は意識を取り戻した。
夢だったのかと思いたいが、目の前に人間が倒れているのを見て現実だと思い知らされた。
既に固まった金属があちらこちらに飛散している。
目の前の男の生死を確認しようと近づけばただ単に気を失っているだけだと分かった。口元の草葉が揺れている。

「大丈夫ですか…?」
「……。」

軽く揺り動かすが反応は見られない。しばらく気を張っていたのだろうか。
立ち上がり、何かかけるものでもないかと辺りを見回して想良は思い出した。この男は確か捕虜だ。
奏美が初めて仕事に行った時に捕虜にされた人間。確かあの時は眠らされていた。あちらに記憶が無いのもこれで頷ける。
想良自身あの時は寝ぼけていて記憶は曖昧ではあるが確信はあった。

「……捕虜になるくらいなら、優秀なのかな。」

多分、その通りなのだろう。
半端な強さの場合レイは情けをかけてしまいそうだが、他の二人はあっさり殺しそうだ。
それを捕虜にしたということ。何かしら彼らには足りない強さがこの男には存在していた。だから捕虜になった。

「女の子じゃないけど…でも、優しいだろうし。」

自分に言い聞かせていると言うのが正しいだろうか。
あの建物にいたと言う確証は無いが、付近に住んでいたということは知っている可能性も高い。
少々、違反にはなるかもしれないがいいだろう。
この男は自分を土壇場で助けようとしてくれたのだ。結果は失敗に終わってしまったが。
男の首筋に小さな棘を刺す。弱い力でやったと思っていたそれはずぶずぶと肉に埋まりやがて小さな模様が浮かび上がった。
こうなったらもう、完了だろう。
想良は急いでその場を離れた。

もう、ここにいる必要は無い。
ここにいるはずの人間じゃないんだから。地球の人間…だから。





「は、え?寝れないの?あたしのシャーベット計画は?」
「まぁ寝るつもりだったんだが…なんかもう行けって言われた。あいつ無駄に準備が良くて…。
 もう向こうに使者が行きますっていう手紙まで捏造したらしい。」
「あいつ?レイがやったの?」
「いや、マティー。どっちにしろ俺が行かなきゃならないんだってさ。」
「なんというご都合主義…。」
「ところでシャーベット計画って?というよりシャーベットって何だ?」
「なんかアイスとカキ氷の中間的な。レイに出掛けにやって貰おうかって言ってたんだよ。」
「アイス?」

明日は早いだろう。そう思い二人は早々に寝る準備をしていた。
途中奏音はそういえば近頃アイスを食べていないと呟き、折角レイが氷を作れるのだから何かを凍らせてもらおうかと提案した。
奏美はそれに対しあまり乗り気ではなかったが、いつもの姉のことだと適当に合わせておいた。
部屋の半分を覆う奏音の私物を隅にどけ、布団を敷きかけたときエドが出立を知らせたのだ。

「じゃあ待って。想良の布団敷いちゃうから。遅いね……。」
「案外もう約束を取り付けたのかもな。想良はなぜか運がいいというか。姐さんの試験もパスするし、
 マティーに一本入れるし。」
「あぁ…なんか営業向いてそうだわ……。キシの代わりに担当なってくんないかねー…。」

遠い目をする奏音に奏美は驚いた。
今まであちらを拒絶しているような雰囲気を受けていたため、懐かしむ様子が見られるとは思ってもみなかったためだ。
エドもそれを察したらしく、何度か頷いた。
奏美は出来るだけ丁寧に、しかし手早く布団を整理し立ち上がった。方に荷物をかける。

「よし、行こう!」
「ん、やけに張り切っているな。」
「まぁくよくよしてても仕方ないからね。ウチはウチができることを精一杯やるよ。」
「奏美は良いねえ、あたしゃあもう年だから。早寝しないと…。」
「その割りにいっつも最後まで起きてるじゃん。それに最高でゲームだかで二徹したんでしょ?」
「三徹だよ。それが精一杯。あん時は流石のキシも寝ろって言ってた。そんでゲーム盗られた。」
「それ姉ちゃんの自業自得…。」
「あ。思い出したら腹立つわー!あれ限定版の奴だったんだよ?今頃ヤツの押入れの中だろーさ!ケッ!」
「奏音、汚いぞ。……はい、もう行こう。」

足を踏み鳴らす奏音を担ぎ、もう片方の手で扉を開けて奏美を通す。
しばらく奏音はじたじたとしていたがやがて血が上り大人しくなった。
階段に差し掛かり、エドが降りようとした瞬間奏音の声があたりを貫いた。あまりの大きさに奏美が振り返る。

「隙あり!」
「はっ?ぅ、わっ!」
「え、わちょ、え、エド!」

奏音の腰から蔓が飛び出て、エドの足を絡めとった。結果踏み外すことになり、先に下りていた奏美の方へ大きく傾いた。
片手に奏音、もう片手に荷物をぶら下げていたエドはそれを防ぐ事も押し留めることもできない。
奏美は下を見下ろし、上を見上げどちらでも絶望しか見えないことを悟った。

「え、あ…!」
「奏美、飛んでくれ!下に!」
「そん、もう無理…!」

目前まで迫る二人を見て、奏美は無我夢中に両腕を彼らに向けた。
重さだけでなく勢いもあり支えきるなんて馬鹿馬鹿しい事ではあったが奏美にはそれしか出来なかった。
一瞬目の前が真っ白になり、その後グン、と勢いをつけて自分が落ちていくのが分かった。
巻き込まれた、受身を取らなくては、そう思うと同時に床が視界に入る。

(背中から落ちれない――!受身、取れない!)

それを自覚すると一気に落ちる速度が下がったように奏美は感じた。
幼少期、転びそうになったら両手でちゃんと身体を支えなさいと教わった記憶が頭をよぎる。
少し違うけれど。そう思って奏美は両腕を前に出し来るべき衝撃に備えた。





「……。」

一月の内、と言っていたらしいがもうそれは終わりに近づいている。集落の人間もあせっているだろう。
自分が一人だけであると示すにはどうしたらいいか。家に入れればいい。
皆いなくなり人手が足りない、次の仕事で必要なものを作れ。ただし極秘だからここでやれ。
数日ほど適当な衣装なりなんなりを作らせ帰らせる。途中いなくなった事を愚痴れば信用するだろうとレイは考えていた。
所詮、自分で仕事を取るのではなく命令されて戦地に赴く。必要な訓練も全てカメリア側の指示の元。
どんどんと出来上がっていくシナリオにレイは満足していた。
しかし、ふと違和感に気付く。レイは顔を上げた。
先ほど下でものすごい音がしたがどうせ行きたくないと奏音がごねているのだろうと片付けていた。
特に気にすることではない、どうせいつもあいつはそうだ、俺には関係ない。そう言い聞かせ計画を練っていた。
計画に対する違和感ではない。ならばこれは――?そう思い辺りを見回すと窓枠に水滴が付いていた。

「は?いや、まだそこまで寒くねえのに。外、そんなに寒いか…?」

違和感の正体を知るために窓を開けた。途端に吹き込む風に思わず体が震える。
そんなに気温が下がったのかと一瞬驚いたが、違うと思い知らされた。
虫が鳴いている。こんなに寒ければ雪が降り、虫は最期を向かえとっくに朽ちているはずだ。
まさか既に…と戸を開ければむわぁ…と生ぬるい塊が彼を包み込んだ。

「はぁ?!…あ、おいエド!」
「あ、レイ。ちょうど良かった。少し手伝って…。」
「家の中で火を焚くんじゃ、」
「馬鹿!走るな!」
「うぁわっ!」
「わんこがー…。」

兄の制止を振り切り、火を焚いていることを責めようと力強く踏み出したその瞬間。
ずるり、と滑り訳の分からないままレイは階段から転げ落ちた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.130 )
   
日時: 2012/11/17 08:47
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「大丈夫?死んだ?」
「死んでねえっ!」
「あらまぁ生きのいい死体。…わんこ、目、目。」
「え、あ、わっ!」
「驚いてばっかだねー。」

義眼が飛び出ていたことに気付かず、ただ階段から落ちたことに呆然として落ちたままの体勢でいたレイは遠くにとんだ義眼を
慌ててとりに行く。それをのん気な奏音の声が追った。
それだけがぽつんとあるのはなんとも奇妙でグロテスクだ。
上下を確認しはめ直しその場にいる全員を見た。相変わらずエドは片手に炎を浮かべあちらこちらを歩き回っている。
奏音は被害の少なかったであろうテーブルにタオルを敷いて座っている。奏美はその近くの椅子に座りテーブルに伏していた。
そして一階のほとんどがまるで掃除をする前のように水浸しだ。事実レイの服も水に濡れている。

「はっははわんこ風邪引くよー。ワクチンないからさっさと服脱げー。」
「わくちん?え、やめっ!」
「姉ちゃん……やめなよ……。」

奏音はレイの服に手をかける。
彼女としては親切心二割、下心八割くらいの比率なのだろうがそれを感じさせないような笑みを浮かべていた。
テーブルに伏したままの奏美のくぐもった声にも柔らかく対応する。

「えーあたしは気遣って」
「やめろって言ってんだろうがぁっ!」
「うぉ!びっくりしたぁ…。わんこいきなり大声だしたら心臓に悪いよ、主にあた…しの……です。」
「手を出すな俺に触るな俺に構うなぁっ!いつもいつもいつもいつも!」
「え、わんこ…え?何それ、日本刀?」
「あー…まーたこうなる。もういないだろ、全く。」

レイの大声で様子を見に来たエドがうんざりだと言うように首を振った。
奏音は血の気の失せた顔でそれを眺める。今までも獲物を向けられたり氷をぶつけられたりしたが今回は何か違った。
初めて会ったとき、奏美を人質に取ったときの空気よりもさらに刺々しく、重かった。
奏美もただならぬ雰囲気に顔を上げ、置かれている状況を理解した。
尋常ではない倦怠感を振り払い、どうやれば事態は好転するかと頭を働かせた。

「はぁ、奏音、少し離れろ。」
「え、何で。」
「巻き込まれても知らないぞ!」
「だから、何!」
  
  ギィインッ――!

奏音に対する返事はこの耳を裂く様な音だった。
この音の正体はエドの放った閃光がレイの手にする刀を巻き込み粉々に砕いた音だった。
キラキラと光を乱反射し、後には何も残さない。余韻だけがその空間を支配する。
次の瞬間には既に二人は武器を合わせ、互いに一歩も譲らない雰囲気を備えていた。にやり、とエドが笑う。

「あ、この音…!」
「どした?」
「アリーと、戦って……その時のより、すごい。」

奏美は理解した。あの時アリーは本気を出していない。
薬のせいというのもあっただろうが、それを勘定に入れずとも手を抜いていたのだろう。
奏美が一人を潰すまでの間に四人、殺している。ほとんど組み合ってすぐに一人が斬られたのも覚えている。
その時の刃と刃のぶつかる音と、今の音とは全く違っていた。今の方が音も大きく、なにより一打一打が研ぎ澄まされている。
少しのぶれも見えず、目標へただ一直線に進む光の影。

「お前はそれだから駄目なんだ!なよなよしてたと思えばブチギレて!」
「うるせえ…うるせぇよ!あんたに何が分かる!」
「外的な事しか分からないな、お前は何も言ってくれないから。もう少し頼ってくれた方が嬉しいぞ?」
「そんなに言える訳ねえだろうが!」
「あー怖い怖い。」
「はっ…軽口叩いてると怪我するよ!」
「おっと。」
「ぎゃ、ああああ!」
「姉ちゃん、見てなよ……。」

レイの一撃によりエドの手から離れた剣が奏音の目の前まで飛んできたのだ。
彼女が悲鳴を上げると同時にそれは光の破片になり消えた。
エドは既にスピアを持ち攻撃に転じている。レイはエドが武器を変えた瞬間から押されていた。

「ほら、さっきの威勢はどうした。」
「うるせ、槍の方が有利……。」
「それを覆してみせろ。俺は片手だぞ?遠心力とかでぶれてしまって面倒だ。」
「そんなハンデいらねぇ!本気できやがれ!」
「いいのか?じゃあ…。」
「、ぐっ!」

左手を添えたと確認した瞬間、空間がうなりを上げレイに襲い掛かった。
レイはあまりの速さに受け止め損ねたスピアの衝撃だけではなく、自らの刀で身体を傷つける事になった。
血が流れ、彼の服を赤く染め上げる。それでも作り出した武器は先が震えていた。
やがて服は血を吸えなくなり、床に流れ出す。レイはひざをついた。息は荒く、焦点が時々合わない。

「攻撃や不意打ちは受け止めるとき両手で、な。反射的だと片手でやってしまう事が多い。」
「……。」
「そうすると自分の得意とするものだったり癖だったり。利き手を偽装していれば利き手がばれてしまう。
 攻撃を逃がすのも片手では難しい。……ほら、治してやるから。」

エドが差し出した手をレイは払った。意外そうな顔をしたものの、エドはただ頷いただけだった。
それから弟の首に手をかけ、絞めていく。
レイは小さく呻き声を上げたが抵抗しなかった。もう血を流しすぎて出来なかったのかもしれない。
数秒後には気を失いどさりと倒れた。そこでエドがレイの傷口に手をあてて治す。

「はぁ。みっともない所を見せてしまったな。」
「いやまぁいいけど。つか何が起こったよ。原因はあたし?」
「だろうなぁ。とりあえず寝かせてくるから奏音は掃除してくれ。水と血を拭いて。
 布類は作れなかったら台所のなんか棚っぽいやつの中!よろしくな!」

にかっと歯を見せて笑うとエドはレイを抱えて上階へと消えた。
奏音は雑巾のようなものを手の上に出してみるがすぐに形が変形したり、消えてしまう。
何度か挑戦したが結果は全て同じと言っても過言ではない。最後には舌打ちして自分が座っていたタオルで拭いていた。
その様子をぼんやりと眺めていた奏美がぱっと玄関の方向を眺めた。あまりの速さに奏音もつられる。
何事かと奏音が妹の方を見たのと同時に想良が家に入ってきた。

「な、何この大惨事。私がいない間に何が起こったの?」
「んっと刀沙汰。ガチバトル一歩手前を拝ませて頂きました。もぐもぐー。」
「それでで奏音さんは後片付け。ていう事は奏音さんが原因?水は水道管…じゃなくて水瓶でも壊したの?」
「い、いや…これはウチが…。」
「え?!奏美?」

想良が意外そうに奏美の事を見た。こういったトラブルを起こすような人間だとは思っていなかったからだ。
その視線すら奏美は答えるのが面倒である。疲労感はなかなか抜けない。
説明すらしてくれないくらいに自分は疑われているのかと想良は眉を潜める。
これを抗議ととった奏美は目を伏せ、途切れ途切れに喋った。

「階段から落ちそうになった。どうしようも出来なかった。」
「え、うん。」
「もう駄目だ、って思って。……姉ちゃんが落ちる前、シャーベットの話をしてた。
 向こうでは姉ちゃんが、行った時。冷え込むって言ってた。雪国の雪かき…を思い出した。」
「そう…。」

本題が見えてこない想良は相槌を打つしか術がない。
しかし奏美にはそれは冷たい反応だとしか思えなく、自分のことを証明するために口を開く。
その言葉は少々熱が篭っていた。

「それで…雪があればクッションにって。思った。それしか考えられなかった。」
「じゃあ、つまり…?」
「そう、奏美は氷属性です。エドには弱いだろうね。」

ある程度拭き終わった奏音が口を挟む。とりあえず血液だけ拭ったらしく水はまだあちらこちらに滴っていた。
能力の発現。しかも訓練すらせずこんなひょんな事で。
教えてもらわなければ出来ないだろうと思い込んでいた想良は呆然とした。

「それでまぁ、奏美は力加減が出来ないから一階特に階段周りが雪だらけよ。で、エドが溶かして掃除中に
 わんこが落ちてきましたとさ。そしてバトル。残念ながら戦いのアツさでは蒸発しませんでした、ちゃんちゃん。」
「そっかぁ。奏美、凄いじゃん!私たちの中で一番最初だよ、しかも自力だよ!」
「……そんな事、ないよ。なんかね、今物凄く疲れてるんだ。」
「いきなり使ったからじゃない?それも大量に。」
「想良、分かるの?」
「うぅん、なんとなく。多分限界で百出せるとしていきなり九十位使ったんだよ。
 こっちの人は小さいうちからちょっとずつやって常に六、七十出せるようにして必要なとき百出せるようにするみたいな。」

想良はなぜこういう事を思ったのか分からなかったが、言葉が勝手に口から出てきていた。
これには本人が一番驚いていたが目の前の姉妹はそれに納得の声を上げただけだった。
メンテ

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