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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.131 )
   
日時: 2012/12/30 22:15
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

想良も加わり水分を粗方拭き終わった時エドがマリーを連れて降りてきた。
マリーはエドに対し疑いの目を向けていたがエドはそれを見てみない振りをしている。
それともただ単に気にしていないのかもしれない。

「あ、マリーさん!晩御飯に来なかったから少し心配してたんだよ。でも大丈夫そうでよかった。」
「あぁ…世話、かけたよ。」
「気にしないで、軽いもの食べる?それ位なら作れるよ。」
「気にしないでいい。もうすぐ私たちは出るんだ。」
「でも想良ちゃん行かないんでしょー。」
「あ、うん。…しゅ、集落まわってみたらもう皆ほとんど寝てるみたいで。」

想良は大袈裟にため息をついた。マリーはそれを見て眉をひそめたが何も言わなかった。
エドが最後の仕上げにと熱風を起こし余分な水滴を蒸発させる。暑いという声は聞いていないようだった。

「ま、想良にはあいつの看病を頼むよ。微妙にしか治してないから血も足りないだろうし。」
「え?レイさんそんなに重症なの?」
「血が足りない感じかな。とりあえず血が増えそうな物でも食わせてやってくれ。
 あ、言ってなかったから一応言っておく。食料庫の奥に小さなへこみがある。あそこを上手く刺激すると開く。」
「うん。」
「その部屋は動物の内臓とかで…食べられない訳じゃないが苦手だった場合を考えて言わないでおいた。
 もし料理できそうだったらやってくれ。」
「うん、レバーとかホルモンとか!勝手は違うかもしれないけどやってみるね!」
「そうか。じゃああれ引っ張ってくるから少し遊んでてくれ。」

エドは家を出て行った。外に出た瞬間懐から紙を取り出しそれを放ると鳥の形に変化し羽ばたいていった。
その際に扉を開けたままにしたので冷たく心地よい空気が一気に流れ込む。
皆しばらくその空気で火照った身体を冷やし、思考を新たにしようと努力した。
奏美は奏音からタオルを奪い取り一瞬躊躇したが流しで洗い始めた。
つけて置けば自分がやると言う想良の声を適当に流して。

「想良。」
「何?」
「…あいつから聞いた。お前だけ、血が繋がってないって。」
「あぁ、一人っ子って事?奏美達とは確かに血は繋がってないけどちゃんとお父さんお母さんいるよ?」
「そうか。……家族は、好きか?」
「え、ちょっといきなり何……。うん、お父さんもお母さんも好きだよ。特にお母さんはやりたい事なんでもやらせてくれる。
 特にお母さんは周りが皆死んじゃったから優しいかな。」
「死んだ…?」
「うん。なんか強盗なんだって。旅行かなんかで違うところ行ってたから助かったらしいよ。
 親戚とかもいない孤立した家庭だったらしいから普通に寮で暮らしてたって。」

淡々と自分の母の上に巻き起こった事を語る。彼女らの世界には戦がないと聞いていたマリーは驚いていた。
戦がないということは上は国力増強に力をいれ打ち勝つ事の出来ないもの意外には全て立ち向かう事。
すなわち豊かなのだろうと思っていた。豊かであれば国民は争う理由がない。
よって殺しも存在しない。そう自己完結していたためだ。しかしこれで前提を間違っていた事を理解し心の中で安心していた。
前提を間違えれば全てが狂う。

「そ、そうか…。」
「うん。しかもそれのショックでそれ以前の記憶がないんだってさ。勉強とか苦労したって。
 でも私が今通ってるところなんだけど、そこをトップクラスで卒業してるから頑張ったんだなぁって思う。」
「え、想良のお母さんってそういうのだったの?!」

台所から戻ってきた奏美が驚愕の声を上げる。
どこからか取り出してきたメモ帳に走り書きする姉を殴るのも忘れない。

「うん。お母さんは隠したりしないで皆に言ってるから知ってると思ってた。」
「いやいやいや!犯人捕まってないの?」
「証拠がないんだってさ。刃物のようなものでスッパリ。でも切り口から刃物じゃない?みたいな感じらしいよ。」
「そうなのか…すまなかった。母親の事とはいえ思い出したくもない事だろう。」
「うぅん、全然。お母さん、昔の縁はもうないけど素晴らしい人に逢えたから幸せだっていっつも言ってるから。
 お父さんもそういうのは気にしてないみたい。今が大切、過去なんてどうでもいいって。」

想良はそう言った。実際そう思っているだろうしそれを信じているのだろう。
彼女の芯の通ったその言い分は誰もに真実に写った。ひょいとエドが顔をのぞかせ、出発を知らせる。

「じゃ、何か分からないけど頑張ってね。私もここで修行頑張るよ。」
「うん!じゃあ行って来る!お土産買えたら買ってくるね。」
「ははは、まぁ色々な所を周るから何かは買ってこれるかもな。じゃあマリーと奏美が一緒に。奏音は俺と。」
「おー。ていうか狭い。」
「仕方ないだろ、俺は大きいし。奏音も…その、な?」
「素直にデブって言えー!微妙な心遣いがいらねえええ!あーもう、向こうに行ったら拓とるかんね!
 紙と墨貰ってエドの服剥ぎ取って拓るからな!」
「…なんで?」

エドの疑問は解消される事がなく、それぞれの機体は風に乗り空へと消えた。
想良はそれを見えなくなってから数分間見送り、家に入った。
太陽が顔を覗かせていた。





「君は大切に思われてるね。」
「そう…?」
「うん。ほら、見てごらん。例のヒチョウさん、君のために文書まで捏造してるよ。」

軍師の言葉にアリーは顔を上げれば彼は紙を持っていた。
少し離れた松明のみの明かりでは読み辛かったが、それはカメリア領主からの書類となっていた。
実際署名も行われており、一見それは本物に見える。

「カメリアの国主は大変臆病だからね。いざ決意しても署名でいつも躊躇している。それがこれには存在してない。
 それに常に存在している怯えの雰囲気もない。これを書いた人間は芯の強い、揺らがない人間だ。」
「そう…、マティーは本当に凄いからね。僕なんて……全然……。」
「そうあまり卑下しないで貰いたいな。私の目利きが鈍った事になる。」
「……。」
「一応私は君のことを評価しているんだ。そう卑下されては何の為にここに通っているのか分からなくなってしまう。」

アリーはもう、ほとんど動く事がなかった。この牢に入ってからほとんど絶食を続けている。
それでも尚平常を保つ精神力には驚かされたが動きは鈍くなっていた。見張りが牢に入っても気付かない事があるらしい。
何度か無理やり食べさせようとした見回りもいたようだが、その都度攻撃され傷を負う。
傷を負い医務室へ担ぎ込まれるたびに関わる事を止める様に言っているらしいが聞き入れないのだという。
本来ならばそろそろ解雇か、と今は行方の知れない兄を思い出す。
彼は粗暴で徳も無かったがその非情さが牢番に適していた。彼は今周辺国で何をしているのだろう。

「とりあえず。君の血縁が来るらしいね。だからそれなりの持て成しはする予定だよ。
 ただ君の事は何があっても放さない。賢いからね、分かってるだろう?」
「人質……。」
「そう。まあ明日明後日には来るだろう。そんな状態でいられると困るんだ。リキルシアは囚人一人すらまともに
 扱えないのかと噂を広められてしまっては困るからね。とりあえず簡単な物でも食べてくれ。」

ギィ…と牢があけられ軍師が中に入ってくる。そしてアリーの目の前に食事の椀を置いた。
王族が囚人のためにわざわざ牢に入るという異例な事態だった。
アリーもその待遇に驚いたようだが、目線を椀にやっただけで食べようとはしなかった。
食べるつもりが無いと判断したフェビアンは一度椀を離れた所に置き、アリーを起こした。
そしてアリーの口元に匙をやる。

「そ、そんな事やっていいと、思ってる…?軍師様、王族だよ?僕は…人質……。」
「今は護衛もいない。完全に私だけの気分で来たんだ。それに今は軍師じゃなくフェビアンだ。
 フェビアン=カンターという一人の男としてお前に世話を焼いている。」

そう言って未だに納得していないアリーの口に無理やり匙を押し込んだ。
量ややり方などとても弱っている人間にやるような物ではなく、当然アリーはむせ返った。

「へ、下手くそ……!」
「…悪かったね、こういうのはやった事はないんだ。」
「怒らない訳?下手って…言ったんだよ……。」
「もっと酷い事を初対面で言われたような。それこそ私の本分に関わるくらいの。
 とりあえず今は私は王族ではないしお前は人質じゃない。対等な人間として互いに接して欲しい。」
「なんか納得できないけど…ははは、そういえば軍師様は下を味わってみたいんだっけ。」
「お前が笑ったのを久しぶりに見た気がするよ。」

アリーは口を開き、フェビアンは匙を差し出した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.132 )
   
日時: 2012/12/30 22:16
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

ひゅうひゅうと耳元で風がなる。朝日に照らされているとはいえもうこの地域は冬同然。
遠くの山は雪をかぶっているものも多い。
奏美とマリーは少し離れたところを不安定に移動する機体を微妙な心境で眺めていた。
あちらはとにかく声が耐えないが、それは笑い声であったり悲鳴であったり様々な声だった。
一度猥談すら聞こえ、あたりを思わず見回して同じように飛んでいる人がいないかと探したものだった。

「あっちは愉快だな。」
「そうだね。でもふらふらしててこっちが心配だなぁ。たまにがくってなってるよね。」
「まぁ、気にする事じゃないだろう。セルジュだってある程度のことはできるはずだろうし。」
「そうだねぇ。」

後ろでガンと音がし、機体が落ちていく。呆気にとられはるか上空で眺める二人は顔を見合わせた。
はじめに風に乗せることができれば高度や進行方向を調整するだけのそれ。
なぜこんなにも上手くいかないのかわからなかった。

「どうする?ホバリングする?」
「ホバ…?とりあえずここで待ってみよう。五分たって来なかったら私たちも下りてみればいい。」
「そうだね。」

その場で止まり、二人が消えたあたりを見下ろす。
下は山であるため木々が情報の把握を困難にしていた。ただ黒煙がうっすらと線を描いている。
風で多少は流れているが高低差を考えればそれも誤差のうちだ。
彼らが上がってくるのを二人は黙って待っていた。





「面白い事になってきたわよ、ダイアナ。」
「何が?」
「見て御覧なさい、これ。」
「鳥…あぁ、エドか。あいつがこれ使うのって久しぶりだね。」

首を前後に動かし歩いてる鳥の首根っこをマティーは掴む。それは一度身震いしただの紙に戻った。
ダイアナはそれを受け取ると目を通す。驚きの色に染まっていく彼女の瞳をマティーは笑みを浮かべながら眺めた。
何度も反復し内容を理解しようとする…それが今できる事の精一杯だった。

「嘘…これは嘘だろ?パウエルってそんな…馬鹿な……。」
「さあねえ。まだお給金あげてないからこっち来る様に言ったんだけどねえ。そうすればあんたも付けられるでしょう?
 でもこれが先にきちゃったって事は直接リキルシアに行くみたいよ。」
「私ですら入れてもらえてないのに…全くの部外者のあいつらが入れてもらえると思う?」
「さあ?頭の固いところを見せるか柔軟なところを見せるか。それとも圧倒的な軍事力かしら。
 でも馬鹿ねぇ、最初にパウエル行けばいいのに。」

マティーの言う事は尤もである。現在、表だった戦闘は無いもののパウエルとリキルシアは互いに睨みあっている。
それは数千年とも言われるくらい長い間続いている。この間戦が無かったのは奇跡と言っても過言ではないだろう。
それは互いの立場が影響しているとも言えた。
リキルシアは元々敗者が勝者から情けで賜った国。基本的に勝者には逆らう事ができない。
しかしその穏健に見せかけた裏で着実に軍事力を高めている。これに騙され侵略した国はもれなく吸収された。
これを繰り返し、現在では最古で最大の国とも言われているのだ。

「それだけじゃないだろ?反乱って…。」
「ダイアナは知らなかった?私は聞いていたからどうでもないけど。」
「でも、レイが…!」
「レイだけならまだいいのよ…。はぁ…、でも最初にパウエルに行ったら相手側に喧嘩売る事になるかもしれないわねえ。
 でもパウエルは未知数…目の前にいる誰かさんが内情を教えてくれれば一番いいんだけど……。」

一方パウエルは勝者側の人間から始まった国――正確に言えば主君からその立場を乗っ取った。
始めの人間は戦時中同様主君の補佐、参謀でいる事を望んだ。
主君はそれに勝る働きをしたと言いなんでも望みを叶えると言ったがそれを受け入れなかったらしい。
主君と共に歩む事が彼女の全てであったと伝わっている。その為彼女は自らの子孫にその願いを託し主君も了承した。
そして遠い年月の果て、とある一人の人間が一つの国の長に言う。

『私を、パウエルの血筋を貴方と入れ替わらせて欲しい。』

長は了承し、かつての最大の勝利者の国は途絶えその者の補佐が国を動かす事となった。
血一つ流れず最古の国の一つは消滅しパウエルという国がその地に刻まれた。
そしてこれがパウエルとリキルシアの溝の原因でもある。
既にその時代の人々は露と消えている。今となってはそんな事が起こったのかすら分からない。
ただ伝説として、突然の来訪者が生み出した大きな戦乱とそれにまつわる話として語り継がれているだけのものだ。
信じている人間などこの世界でもほんの少数、知らずに死んでいく人間も多いだろう。
しかしこの伝説に関わる二つの国には事情が違う。国名を挙げられているのだから意識しないわけにはいかなかった。

「あいつら運だけは強いからそれに任せましょうかしら。ダイアナ、とりあえずアルを見てきて頂戴ね。」
「うん。そうだな、行ってないし。…行っていいのか?」
「私が良いって言ってるからいいのよお。我が愛しきお母様…というか当主は最近篭りっぱなし。
 刺激が無いって嘆いてるらしいけど篭ってたんじゃあ刺激なんて無いのに、馬鹿な人。」
「そうだなぁ…。」

ダイアナは出て行った。自分の出身国に近い人が行くと言うのだから少々複雑そうな顔をしている。
彼女の足音は遠ざかり聞こえなくなった。マティーは伝わっている伝説を思い出していた。
忠誠を誓っていた補佐の子孫の野心家の補佐が主家を乗っ取る。
どこにでもありそうな事がなぜこんなに大きくどうして自分をこんなに縛り付けているのか。
母、そう呼ぶ事すら許されない人間の顔がちらつき首を振った。





「来ないね。」
「そうだな…下に行ってみるか。」
「うん。変なことなってないと良いな。グロはもう見たくないよ。」

奏美がそう言えばマリーが舵を取り下へと降りていく。
もう既に流れてしまっていたが濃い煙のにおいを追ってその場所を目指す。
少々開けたところで枝に移り、機体は補助具となって奏美の手の中に納まった。辺りを見回すが二人の姿はない。

「この辺だったよね?」
「多少の差はあるだろうけどここのはずだ。という事は下山した…いや、それはないかな。」
「なんで?そんなにこの山高くないし…下りられるんじゃない?」
「いいや、不確定な山だった場合上った方がマシだ。ここはあいつらの領地ではないだろうし迂闊な行動はしないだろ。」

そう言うとマリーは奏美にこの場所に残っているように念を押し彼女を中心に動き始める。
互いの視力でも確認できる程度の円を描いて捜索するが二人は見つからなかった。
数十分ほど探していたが結局手がかり一つ見当たらずまた二人は上空に戻る。

「折れた枝でもあれば…全く。」
「あぁ…そうだね。多分寸前で生身になったとかなのかなぁ。」
「こっちの身も考えて欲しい……山頂にはいない、か。下山したとなるとどれだけの範囲を…。」
「あ、そういえば。なんで頂上目指す方が良いの?」
「山の頂上は一つだけ、ごく狭い範囲。上っていれば必ずたどり着く場所。
 一方下山はたどり着く地点が広範囲で大体国境は山頂で分かれてる。敵地に行かないとも限らないから。」
「へえ、確かに防寒対策とか出来てれば安全だねえ。」
「川があってそれを使ってるならそれを辿る方法もあるけど野生動物に会わないとも限らないし。
 凶暴な大型ならまず死を覚悟で戦わなきゃいけないしそれで敵を呼び寄せないとも限らない。」

山の頂上近辺を離れ今度は大きくふもとの辺りを旋回する。
しかし二人を見つける事は叶わず、マリーと奏美は再び顔を見合わせた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.133 )
   
日時: 2013/03/05 11:46
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:ErBYH.V.

「嘘だ!落ちる?!」
「はああ?!あり得ないあり得ない!何この煙?!ばかじゃねーの?!」
「奏音がのど渇いたって言うから俺が渡したんじゃないか!それを零すって…!」
「今は目先の事考えてよ!ちょ、けむっ!」

時はほんの数十分ほど前。視界で確認できる程度の距離を行く奏美とマリーの機体を追いかけていた時。
喉が渇いたという奏音にエドが飲み物を差し出す。普通であればそれはそのまま奏音の手に渡るはずだった。
しかし、突如起こった強風によって機体がゆれ互いの手がぶつかりコップは地上へと落ちてゆく。
お前らも道連れだといわんばかりに液体をメインともいえる部分に引っ掛けていったのだった。
二人が顔を見合わせた瞬間に機体は大きな音を立て、その力を失った。

「痛い痛い痛い!手ぇ千切れる!ばか!馬鹿変態!」
「その言葉はそのままお前に返すぞ!」
「うっせぇこのドS魔人!さんざん人の肉刺弄んだのは覚えてるだろーな!」
「お前だって俺の事変な蔓で弄んだだろうが!」
「千切ってたくせにー!ぐぁっ!煙が目に!いったた、み、見えない!」
「擦るな、手を放すな!まったく、えっと、俺質量変動はできないんだよなぁ…。」

騒ぐ二人。五十歩百歩としか言えないような議論ではあるがそれは今の状況を忘れさせるのは十分だった。
しかし物事の打開には繋がっていない。
もうすぐ木々に激突する。そう思ったときになぞの出来事が起こった。

「……助かり、たい?」
「え?」
「お兄さんと、お姉さん…。助かりたい?」

耳元で激しい音を立てていた物がやみ、かわりに聞こえてきたのは少年の声だった。
声変わりする以前の高い声で、それは自信がないとも取れるし遠慮しているともとれる。
エドが周りを見回せば自分と目の前の少年――正確にはフードをかぶっていて分からない――以外の全ての物の時間が停止していた。
奏音は黒煙が目に入ったと直前に叫んでいた事を証明するかのように左手で顔を覆っている。
右手はしっかりと機体を掴んでおり、その機体は黒煙を上げていた。しかしその煙も停止している。
常に動くはずのそれが止まっているのを見るのは不気味だった。

「ぼくの質問……。」
「あ、あぁ。こんな所でお陀仏はごめんだ。」
「助かりたい……で、いいの…?」
「そうだ。」
「そう……。」

少年はそう呟き、エドを眺めた。頭からつま先まで時間をかけ吟味しているようだ。
次に奏音を眺める。今度は彼女を触った。コツコツ、と人間を触っているとは思えない音が返ってくる。
暫く奏音はいじくられ、その度に彼女はマネキンのような音を立てる。
それは最初は面白かったものの数回で飽きてしまいエドは風を起こし上へと上ってみた。
奏美とマリーが落ちていく自分たちを目で追っていたのが分かると少々申し訳ないと思う。
ふと、エドは気になることがあり目の前の人間に聞いた。

「お前、奏音を知っているのか?」
「……。…知ってる、でも……ここでは、未来。……ぼくには、…過去。」
「なんだそれは。意味がわから…!」

ふと、遠い昔。まだ体力面では未成熟と判断され勉学を中心に受けていた幼少時代を思い出した。
実際いるのかどうか分からない術者。エドだけには限らず周りの人間は皆あこがれた能力である『時間の所有』。
過去へ行く事も未来へ行く事も全て思いのままに出来る能力。
理屈よりも直感で動く事が好きであったため勉学の時間は苦痛であったエドもその項目だけには心引かれた。
結局一番に力を手中におさめたエドは今度はそれに磨きをかけるためにすぐに忘れてしまっていた。

「お前…時間を…幻って言われてる…?」
「これ……ぼくのじゃない…。ごめんなさい……ぼくのじゃ…。」
「じゃ、じゃあお前の近い人に協力者がいるのか?!それを持ってるんだろ?」
「……ぼくは、知らない。」

少年が答える。その声は素っ気無かったが確かな説得力を持っていた。
ならばこの状態は?エドは周りを見回す。確かに時間は止まっている。相変わらず自分達二人以外は動く兆候すら見せない。
本当にいないのか、そう聞こうとした瞬間時間が再生された。
自分の真下にはさっきまでは青々とした森が広がっていたが今は乳白色の切れ目が存在している。
いつのまに、と上を見上げるが既に少年はいなかった。

「奏音!」

自分が身勝手に行動したせいで随分と奏音と離れてしまっていた事にエドは気付いた。
そして彼女の落ちる先にもまた、違う色の切れ目がある。澄んだ色の青空だ。
もしかしたら奏音は帰れるのかもしれないと思ったがならば自分はどうなるのかと疑問がエドを包み込む。
さっきの少年の質問に助かりたい、とはっきりと答えればよかった。そう後悔したときにはもう遅かったのだ。





「なんでいない…。」
「さぁ…姉ちゃんがいるからそんな遠くにいける筈ないと思うんだけど……。」
「案外分離してしまったのかもね。動かないで私たちに見つけてもらうっていう選択肢ないんじゃないか?」
「あぁ…せめてなんか花火でもあげてくれれば…。」
「しれくれる人たちではないだろうけど。」

とりあえず人通りがそれなりに多い所を徒歩で捜索し、すれ違う人々には二人を見なかったかと質問するが返答は皆同じだった。
それどころか奏美の肌の色に驚かれる事もしばしばである。
集落にも黄色人種は極端に少なかったというのを思い出したがここまで見られるとは思っていなかった。
流石に研究させてくれ、金なら出すと浚われそうになった時はマリーが無言で相手を気絶させた。
とがめる奏美を無視しマリーはその気絶した男の懐からずっしりとした巾着を出す。

「えっと、そんなにウチって珍しい?」
「まあ、肌が黄色いから…。」

マリーは地球には興味がないのかあまり話には乗ってこなかった。
来訪者と呼ばれる事も歩きながら話したがそれも適当に流されてしまった。
もしやマリー自身が来訪者なのかと思いつき聞いたが否定されてしまう。
彼女は諸国を仕事で渡り歩くのでそれほど黄色人種も来訪者も珍しくないらしい。

「正確に言えば来訪者からの家系、だけど。」
「じゃあ結構いるの?」
「大きい国なら二つ三つは…。」

スラム街にまで足を伸ばし、金貨をチラつかせるが収穫は得られなかった。
それにイラついたらしくマリーは懐から財布を取り出しあたり一面に中身を散らす。
見た目からずっしりとしていたのが分かるくらいの金貨は普段静寂に包まれているスラムに音をもたらした。
驚いたスラムの人々が彼女と奏美を見つめる。

「私はそれを使わない。協力してくれた礼だ、拾え。」

そう言うとめったに来ない客人を拝んでみようと集まってきた人々がわっと散り金貨を拾い出した。
老若男女、動ける人間が手早く集めだす。
これから金貨をめぐる醜い争いが始まるのかと裕福な人間は思っただろうが、それは違った。
皆が集め、とある一つの家の前に集める。そして一枚ずつ、その場にいる人間に分け与え始めた。
しかしその金貨の量は膨大で、その場に集まった人間に分け与え終えた今でもまだ拳一つ分は余っている。

「それ、どうするんですか?もう一枚ずつには量が少ないよ。」
「これか?ここには歩いて来れない人間も大勢いる。せめて若い芽を生かすために使うとしよう。」
「そうなんだ。」

皆が明日を生きれるかわからない様な極限の中で生きている。死は常に彼らの背中を眺めている。
そんな状況の中だからこそ、この結束は存在しているのだろう。
奏美はそんな状況に暖かいものを感じ、マリーと共に機体に乗ってからもスラムが見えなくなるまで手を振り続けた。
太陽は既に高く上り、空は綺麗な青だ。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.134 )
   
日時: 2013/03/05 11:47
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:ErBYH.V.

「レイさん、大丈夫?」
「あ、ああ…!そ、想良?!」
「うん。心配だったし、なにより集落の皆と遊びたいし。残っちゃった。」
「なんで…!」

レイは数時間意識を失っていた。その間想良は食事の下ごしらえをする時以外は彼に付き添っていた。
その想良の心遣いをありがたいとは思いながらもレイは頭を抱えた。これでは計画が上手くいかないのは明瞭だ。
自分だけの身を守る事すら危ういのに想良も守るというのは彼には自信がない。

「あ、やっぱり迷惑だったかな。レイさんも一人でいたいときぐらいあるもんね。
 じゃあちょっと皆に泊めてもらえないか聞いてくる。いざとなったら親方さんに頼んで一晩中稽古つけてもらう。」
「え、おい。」
「ご飯下ごしらえは済ませてあるから後は焼くだけだよ。煮てもおいしいかも。その時は味は薄めにね。」

レイが目を覚ました事で肩の荷が下りたのか想良は走っていく。
止めるレイの声も聞かず、一直線に走っていった。部屋に取り残されたレイは頭を抱えた。
想良がいたのでは自分が捕まる事などできない。ただ、集落に泊まるのであれば相手方を呼びやすい。

「っあー…ったく、なんでこうも上手くいかねえのさ…。」

一人呟くも、それに反応する人間はいない。
相談する事ができる人間すらいない事にレイは何も思いつかなくなってしまった。
ただ願う事は一つ。反乱が彼らがいない間に起こらないことだ。





「あ、ソラだー。」
「久しぶりー、元気だった?」
「うん、元気だよー。ソラが教えてくれたミサンガが切れてね、ぼくね、合格できたんだよ!」
「わたしはお兄ちゃんが帰ってきたんだ!ソラのおかげだよ!」
「そっか、みんなお願いかなってるんだ。」
「うん、だからね、新しいの作ったりしてるの!うまい?」
「うんうん、上手だよー。」

集落に行けば想良はあっという間に子供たちに囲まれた。
すっかり顔なじみとなり、通りかかる人が陽気に笑いかけ手を振ってくる。
今日もまた何かを教えて欲しいとねだる子供たちに何を教えようかと悩んでいると、一人の大柄な男が近づいてくる。

「おいお前ら!抜け出して何やってんだ、あぁん?」
「あ、げっ!」

一斉に振り返った子供たちはその人間を見て散り散りになった。後に残された想良に男が近づく。
この男のことを想良は知っている。キルシの父でありこの地域の技術者を統括している。
そして、密談でナタリーと共に仕切っていた人物だ。

「あぁ、来ていたのか。暫くお前の事は見ていなかったな。」
「すいません。」
「構わんさ、どっかの姫さん。お忍びは楽しいだろう?」
「えぇ、まぁ。楽しいです。」

想良は曖昧に答えた。この男はまさに職人と言った感じで容赦がない。
一切の妥協を許さない人間らしく、自他共に厳しい。何度か会ううちに想良は分かっていた。
ナタリーとは違い彼はあの密談でも演技はしていなかったのだろう。低い声が腹に響く。
曖昧な想良の雰囲気を彼は恐れと戸惑いととったらしく幾分か和らいだ声で想良に話しかけた。

「あまり気ぃ使うな、国を知らない限り俺らは対等に扱う。敬われたかったら国をいうんだな。
 ……それと、ラリーが小屋の奥にいる。変に張り切っていたな、あいつ。」
「本当ですか?」
「身分違いもいいとこだ、せめてヤツの親なら救いがあったが。力すら全くない人間が姫さんに教えるなんざ阿呆らしい。
 気に入らない事があったら打つなりなんなりしてやれ。」
「ぶ、物騒です…。」
「姫さんのでかい力をぶっこんでやれれば、な。」

へらりと笑い、男は逃げた子供たちを追うために走っていった。十分もあれば皆捕まってしまうだろう。
想良はその光景を想像した。次々と捕まっていく子供たち、みな諦めと自らの力に対する失望の色が見えるだろう。
そしてその失望を糧に訓練し秘密裏に打倒する事を計画するのだ。
微笑ましい光景が頭に浮かび、笑みを浮かべながら想良は技術者達の住まいへと向かった。

「こんにちはー、お久しぶりでーす。」
「あぁ、ソラじゃないか。ラリーなら奥だよ、絞られてカスになってやがるぜ。」
「かす…?」
「抜け殻だよ、抜け殻。」
「親方は厳しいだろ?その中に情が無いと言ったら嘘になるけどな、気付くまでは本当に辛い。
 先輩が親方はお前の事を気にしてるから怒るんだぞー、なんて言われても本気で辛い。家系を恨むさ。」
「てめ、オレにそんな事思ってたのか?」
「割と思ってた。」
「よし、親方に進言しておこう。ソラ、とりあえずラリーが絞られて飛び出た中身を補給してやってくれ。」
「はーい。」
「やめて!そんな事されたら死んじゃう!殺されちゃう!」
「先輩としての愛情ー。」

じゃれている二人の若手の技術者の言い合いをバックに想良は奥へと進んだ。
彼らの声が聞こえなくなるのと同時ぐらいに想良はラリーを見つけ出した。彼は今想良に背を向けている。
表から見える作業場とは違うもう一つの作業場。ここは、主に見習いの技術者が特訓する場だと教えてもらった。
ラリーは今、あたり一面に散らかった道具類を片付けていた。
ガラスの破片のようなキラキラしたものもあり、近付くのが憚られた。そのため、入り口で声をかける。

「ラリーさん。」
「……想良?」
「はい、お久しぶりです。」
「あ、あー…ここ片付けていくから。」
「手伝おうか?」
「いや、危ないから……そこで待っててくれる?おれ、さっさと終わらす。」

想良は言われたとおりに作業場の入り口で待っている事にした。あいている場所を見つけ腰掛ける。
ラリーは散らかったところを一心不乱に片付け、それは見る間に片付いていった。
几帳面な人だなあ、と想良は彼を眺めていた。

「それで、どうしたの?」
「あ、えっと…弟子入りの…。やろうやろうって言ってて一回も出来てないし。
 今回は暫く泊り込みも出来るからお願いしたいなぁ、って思ってきたんだ。今日からいいかな?」
「あぁ…そういえば……。」

ラリーは思い出したように言った。度々話題に出していたし忘れる事じゃないのでは、と想良は思ったが黙っていた。
いつも余計な一言で厄介な事が起こる。ラリーの機嫌を損ねないとも限らない。
しかし彼の様子は尋常ではなかった。無気力で、全てを受け流している。
一度気分転換しようと誘って散歩に行こうか、そう想良が考えたときに片づけを終えたのかラリーが口を開いた。

「それ、やっぱり無しにしてもらえない?」
「え…?」
「だっておれに教えてもらう…じゃない、おれが教えて差し上げられる事なんてないよ。
 見て分かるでしょ、今日も怒られちゃってさぁ。」

今日初めてラリーが想良のほうを向く。彼の顔には幾筋かの火傷の痕が見受けられた。
それも軽いものではない。顔の形が変わってしまうような重いもので、水ぶくれもある。
何か布で覆っているわけでもないため、菌が入り重症になることは目に見えていた。

「火傷!消毒しないの?」
「おれ、力使えないから。このままでいいよ、大丈夫。」
「大丈夫じゃないよ、目も塞がりかけてる。見えなくなっちゃうかもしれないでしょ。
 そんなんだったら色々作れないよ…先天的ならまだしも後天的なら…今までのが全部無駄になっちゃう。」
「無駄…無駄になっていいんだよ。」
「え?」
「おれ……おれ、技術者やめる。」
「そんな…。」

思わず脱力した声が出てしまう。想良はラリーの顔を見上げたが、その目は真っ直ぐだった。
しかし希望の光は宿っておらず、先を考えての決断ではない。
むしろ自棄になり、絶望し先を見出せていないからこその決断だと言う事が分かった。

「だからさ、想良がおれのあとに入ればいいよ。ちょうど空きが出るんだから。
 最後のお願いって親方におれのかわりに想良を入れる様に頼むから。想良は凄いから、親方も喜んでくれる。」

ラリーは笑った。その声はからからとしていて、周りにむなしく響いた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.135 )
   
日時: 2013/04/20 22:09
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:KcT9yEBw

「ここは……。」

エドは目を覚まし辺りを見回した。見慣れない部屋ではあるが、様子から上流階級の人間の住む館だろうと推測した。
自分が寝かされていたベッドは大きく、身体を包み込むような柔らかさだ。豪華な刺繍のソファや壁にかかる姿見。
そのほかにも生活するには十分な物がそろっており、誰に拾われたのだろうとエドは首をかしげた。
外の様子から大体の地理は分かるかもしれない。そう思って窓から世界を見れば、言葉が出なかった。
全てが白といっても過言ではない光景。人気は全くなく、だからといって廃墟のような不気味さはない。

「やあ、はじめまして。」
「うわっ!」
「驚かせてしまったかい?何度か覗いたんだけどね、気を失っていたから。」
「え、あ、…貴方は俺が気を失っている間に何度か近くに……?」
「気持ちよさそうに眠っていたよ。」

目の前の男性の言葉にエドは戸惑いを隠せなかった。
おそらく彼は自分を拾いここまで連れてきてくれた人間なのだろう。それだけならまだしも、近づかれていた。
しかも“何度も”と口に出していたため、少なくとも数回はあったのだろう。そのいずれもエドは気づく事ができなかった。
急に黙り込んだエドを男性は面白いと思ったのかくすくすと笑っていた。

「君みたいな反応をする人が前に来たことが…正確には無理矢理招いた事があるよ。」
「そ、そういうもの…か?」
「ここに客人を呼ぶ事自体が少ないけどね。これからも、ずっと。…まぁ、座って欲しいな。」

男はソファを指差す。エドはそれに従い座った。男は彼の目の前に立っている。

「行き倒れていたところを拾っていただき有難く思います。俺は、カメリアの補佐、」
「エドゥアール=パベーニュ。当たりかい?」
「え、は、はあ…そうです。」
「よかった。こちらだけ名を知っているのも悪いからね。私は…デストル。姓は無いから。」
「そうですか…。姓は、無い?ならば貴方は国主では無いんですか?」
「そうだよ。」

男――デストルは答えた。
エドはこの部屋、そしてそれから予想される建物の全体像からてっきり彼が国王だと思っていた。
補佐であっても表向き姓を名乗らないだけで存在はしている。同盟の締結などで必要なためだ。
しかし彼は姓を持っていないという。
それに自分の名前が知られていた事にも驚いた。エドが出る戦といえば目標の全てを破壊するものだ。
他の兄弟たちのように撹乱や主要な人物を闇討ちし戦を先延ばしにするものではない。
建物を崩し、人を凶器の様に使うため力任せに戦っていると言われる事もあるが――
しかし名はなぜ知られている。エドは表には出さないものの答えを探していた。

「まず、話を進めよう。君は何でここに来たか分かるかい?」
「いえ。気がついたらここにいました。」
「そうか。…とりあえず普通に話してもらえるかな、私は敬語を使われる立場じゃないからね。」
「でも…。」
「いいんだ。追放された裏切り者に敬意は不要だ。」
「わ…分かった。」

追放されたはずなのに、なぜこのような立派な館を所有しているのだろう。
ふと引っかかったものの、エドは探らない事にした。誘導尋問などは彼の専門ではない。

「じゃあ何も知らないか。グリーネルは今回も説明をしなかったのかな。」
「グリーネル?」
「君をここまで連れてきた…いや、落としてきた子だよ。」
「あれか…そういえば、助かりたいかって聞かれた…。」
「そう、その子。とりあえず説明だけするからね、質問は最後にだ。」

有無を言わせない口調だった。

「私は一人、救いたい人間がいるんだ。その為には、時空に負荷がいる。」
「はあ。」
「既に二つはある。ここと、向こう。あと二つがいるんだ。」
「それを、俺が探せばいいって事か?」
「質問は後のつもりだったけどこれは答えよう。違う。」
「じゃあ…?」

デストルはきっぱりと言い放った。ならばなぜ、自分がここに来たのだろうとエドは考える。
そもそも言っている事も分からなかった。時空に負荷を与えるとはいったいどういう事なのだろうか。
もしや『所有者』が彼なのか。口を開こうとしたが、質問は後だと言い聞かせエドは言葉を飲み込んだ。

「君、隠してる事があるでしょ。家族にも、誰にも。自分も騙そうと必死になって否定してる事。」
「何の事だ?俺は特に…。」
「本当に?これでも?」

エドの耳元でデストルが囁く。デストルの唇が動くたびにエドの目も見開かれていく。
全てを語り終えたデストルはエドの事を眺めた。彼は今、何を思っているのだろう。

「何で…?」
「さあ、何でだろうね。」
「俺は誰にも言っていない!誰にも悟られて無いはずだ!」
「それは間違いだよ。その当事者と因果を背負った彼、そして私。少なくとも四人は知っているね。」
「う…。」
「まあ、君に責はないさ。強いてあげれば彼女と関わって味方してしまった事ぐらいだよ。
 それで、その彼か君の弟。もしくは両方と周辺の人たち。この人たちを貸してほしいんだ。」
「え、え……貸すって…?」

しかしその質問にデストルは答えなかった。ただ笑みを見せただけである。
その笑みを見た瞬間にエドの背筋は凍りついた。自分と彼は決定的に何かが違う。
首から下げられた装飾品。身体に幾重にも巻きつけられた清潔感のある白い布。隙間から覗く帷子。
どこか複数の国の文化を合わせたような外見ではあるがそれとは全く違う違和感と抱かずにはいられない畏怖。

「まあ、君に選択権は無いかもしれない。彼らは確定に近い候補者だから。」
「……。」
「よほどあれがショックだった?大丈夫、記憶くらいなら消してあげるよ。ここも忘れてもらいたいし。」
「そんな簡単に記憶が消えるわけないだろう。現に…俺が忘れたくても忘れられなかった。」
「そう。でも私なら出来る。といってもその出来事の記憶を消すわけじゃない。私に指摘された事を消すだけだ。
 君はあくまで自分と彼らだけが知っている事だと頷くんだ。」
「……、それでいい。」
「だろうね。……さあ、行くよ。」

強制的ともいえる雰囲気でエドは外に連れ出された。
意識を取り戻してからずっと振り回されっぱなしであるが、それは仕方ない事だと彼は思っていた。
それが何故かは分からなかったが世界の理に似たものだと感じていた。
館の扉を開けると、そこは異世界のようにエドは感じた。
空はどこまでも乳白色で、活気は全く感じる事ができない。

「君はリキルシアに向かう途中だったね。」
「え、ああ。奏美とマリーも一応心配してくれてる…かな?あと、奏音。」
「奏音なら大丈夫、私は彼女を良く知っている。その強さのために彼女は今違う場所に行っている。」
「そうなのか?どこで奏音を知ったんだ?」
「レオン=フレスキ。覚えていられたら奏音に聞くといいよ。」

デストルは立ち止まり、何かを開けるような動作をした。
地面に切れ目が生まれそこから下を覗くと、はるか下にマリーと奏美が見えた。
二人とも機体に乗っており何かを興奮気味に話している。

「はい、これ。少しだけパワーアップしたかもね。一応、君の事はこれで助けたつもり。負荷は背負わせないよ。」
「どうも。…負荷って?」
「彼女らはとても幸せそうだ。…その幸せは盲目にならなければすぐに壊れてしまう。」
「は?」
「なんでもないんだ。…最後に教えようかな。」
「ん?」
「私は過去を生きて未来を作るモノだって。じゃあ。」

トン、と眉間のあたりをエドはつかれた。くらりと眩暈がし、何かが流れ出ていくような感覚を味わった。
思わず苦痛に目を硬く閉じる。
次に目を開けたとき、彼の身体は空を舞っていた。上の方に黒い髪の青年がたっていて手を振っている。
彼は誰だろう、たしかこの補助具をくれた人――そう思いながら補助具に力をこめ機体が現れた。
メンテ

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