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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.136 )
   
日時: 2013/04/20 22:10
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:KcT9yEBw

「ってえんだよこの小娘ええ!」
「だったらそんな道端で寝るの止めてくれるぅ?」
「その猫撫で声もすんげえ腹立つ!」
「むだに煩いその声が腹立つー。」

奏音が痛みに目を覚ますと、一人の女性が彼女を見下ろしていた。
そして痛みの正体は刃の切っ先が肌に触れている身体という事にすぐ気付いた。
振り払おうと手を動かせば今度はその手に対して刃をぴたりと追尾させる。
その触れるだけで決して相手を傷つけないテクニックは素直に賞賛に値する事だが奏音はそれをしなかった。

「うん、質問しよ。あんただーれ?ここはどこだか知ってるかな?」
「だーれって…奏音。ここはあの…リなんとかに行く途中の道。」
「微妙に残念。とりあえず当たってるのはあんたの名前ー。」
「はぁ?!それほとんどはずれじゃんか!」
「馬鹿面がますます馬鹿面ぁ〜。」

きゃっきゃっと目の前の女性は笑う。危険は無いと判断したのか彼女の獲物も消え去った。
しかしその彼女の腕前から言えば余計な事をすれば一瞬で切り裂かれる。
それを証明するかのようにわざとといってもいいくらいに奏音の方を見ようとしない。
馬鹿にされている、むしろなめられていると奏音は理解した。
しかしどこだか分からない場所で孤立している状況で事を荒立てるほど彼女も馬鹿ではなかった。

「どーせあたしは中卒ですよーだ。でも一応エリート校自主転出組だし。なんかの才能はあるし。」
「チュウソツ?…その前にエリート?」
「そ。あたしが通ってたところがそうだった訳。つっても本当に活躍できて名前を残せるのなんてホンの少しな学校だけどさ。」
「学校?!…あ、エリート校だから学校なのは分かるけどぉ。」
「妹も同じとこ通ってるけど。なに、知らない?」

先ほどまでの高飛車な態度が一転、目の前の女性の目が泳ぎ始めた。
エリートと言う響きに憧れでもあるのだろうか。そう疑問に思ったものの口には出さないでおいた。
少しだけ意地悪してもバチはあたるまい。奏音は心の中で笑みを浮かべる。

「まぁいい所に就けるのは保障されてると思うけど。高校以上の自主転出はほぼ他の学校に特待で拾われたりするし。
 学校からの転出はしらん。」
「……どれくらい、勉強できる?」
「あたしは勉強嫌いだったからなぁ…。でもま、形だけ何年生ってのがあって飛び級的なのもできるらしいよ。」
「飛び……それって、どれ位頭よければできる?」
「だからあたしは勉強嫌い…。あ、でも十三、十四でもう高校の勉強理解してあと大学編入までの間
 研究してる人は何人か理系にいた。」

奏音はおぼろげな記憶を元に発言した。
その生徒たちは今は世界的に有名な会社の商品開発に所属しているらしい。
以前実家に逃亡と言う名の帰宅をしたときに奏美が持ってきていた学校誌に書かれていたのを思い出したからだ。

「それって…科挙も、できるかなぁ?」
「カキョ?効果音かなんか?首の骨やる感じ?」
「違うぅ、役人の採用試験って言えばいいのかなぁ?」
「あぁ、なんか習った記憶が…世界初のカンニング事件だっけ。」
「知らないけどぉ。」

軽口を叩きながらも奏音はその女性を眺めていた。
身体は小さく小柄で、衣類は少々汚れているが一枚身に纏っているだけである。
そして足には靴の変わりに包帯が巻かれていた。彼女の足の形は少々変形しているのがその包帯の上からでも分かる。
奏音の視線に気が付いたのか女性は言った。

「あぁ、民族的な風習だからね。でも動きが遅いからって治されちゃったぁ。」
「纏足?」
「そ。熱出たりするー。…見たところ人種的には似てるけど、あんたどこの人?国は?」
「へ?あぁ…カメリア。」
「カメリア?なにその国…響きからして白い国?」
「白?特別白って訳じゃあ。つかあんたは?」

白い国といっても特別カメリアに思い当たる事はなかった。
冬の時期が長いといい、雪の事を表しているのかもしれないと推測したがそれならば素直に雪国と言えばいい。

「こっちは清だよー。」
「シン?始皇帝?」
「そっちは昔の方だよぉ。もっともっと後の方。明の後。」
「…日清戦争の清?」
「ニッシン?…日ノ本と戦争したの?あのちまっこい国が清に勝てるかねぇ。
 あ、あんた日ノ本の人かぁ。それで、こっちではそのカメリアっていう国に拾われたのかぁ。」

中国といえばいいのに清と称し、そして日清戦争を知らない彼女。
そしてカメリアの存在こそ知らなかったものの奏音の何気ない言葉で来訪者である事を見抜いた。
これらから推測されるのは目の前の女性は少なくとも日清戦争が起こる以前の年代からこちら側に来たのだろう。
中華思想と呼ばれる物を持っているであろう彼女にはその戦争の結果など知りたくも無いだろう。
ほんの小さな島国に敗北し、眠れる獅子から張子の虎と言われたその結末。

「でもおかしーなぁ、カメリア?間違い無い、絶対?」
「うん。あたしが嘘付かれてない限り。」
「じゃあ早速規律違反の国かぁ。それ敗戦国?」
「…新興国だって言ってた。」
「そーじゃなくて。今はどこも新興国だよぉ。あんたの国主は光の方、支配者の方?」
「そういうのが無いくらい新興国じゃないの?」
「だったら違反なんだってばぁ…。」

話がかみ合わないといったように彼女は首を振った。
そのとき、二人の後ろの茂みから僅かな物音がする。奏音が振り返るよりも早く、隣の女性は飛んだ。
何かが強打される鈍い音と同時に、高らかな音がなる。周囲は濁った色の薄い幕に覆われた。

「畜生が!あんたらだぁれ、敗戦国?だったらお門違い、こっちも敗戦国だよ!」
「……。」
「カノン、スパイ?お情けのお国にまでのばすだなんて光のお方も凄い事!」
「いやいや光って何!あたし行き倒れてたじゃん!」
「スパイじゃないなら、こいつらぶちのめしてぇ!ただし殺さないように!」

口汚く罵りながら女性は一人、また一人となぎ倒していく。
しかしあくまで気絶であるため、暫く時がたてば起きだし再び攻撃を始める。
状況的に不利なのは目に見えていた。薄い膜を出している人間すら分からず闇雲に攻撃しては――。

「こーゆー時は、マイど、ドーター!」
「どぉたー?」
「しゃがんで彼女!そして動かないで!」

反射的にしゃがんだのを確認した瞬間に蔓が動くものを手当たりしだいに絡めとった。
木の上に潜んでいた男も僅かに動いたのか餌食になってしまう。
彼が術者だったのだろう。地に落とされた瞬間に薄い膜は消えうせた。

「なにこれ。」
「へっへっへー!あたしだって少しくらいは出来んのよ。」
「植物じゃない、あんたの指ー。それが発生源でしょ、それがないと出来ないの?」
「出来ないわけじゃないらしいけど。」
「じゃあ取りなよぉ、ここが弱点ですなんて言ってるもんだよ。…痛!」
「え、あれ、棘?棘なんて無いはずなんだけどなぁ。」

奏音が近づけば、その少女の指先はどろりと溶けていた。出血も酷い。

「はぁ?!こんな事なる訳?どんだけ肌弱いの!」
「知らないしー…はぁ、もう。とりあえず一人ずつこいつらはなしてよ。」
「お姉さん手を振らないでください、体液が飛び散ってます手当てしてください。あたしの顔にかか…っ目に!
 何入った、血?リンパ?白血球?!」
「さあね〜。はい、治ったよぅ。」

奏音が顔を拭えば女性はひらひらと手を振っていた。それは元の形をしていて先ほどまで欠損していたのが分からない。
そして既に細いもので男たちを縛り上げていた。
あまりの速さに奏音が口をあけてみていると遠くの方から声がした。

「シャンリー!どこに行ったー?」
「あ、はいはーい!曲者潰してましたぁー。…じゃ、行くから。一応助けてもらったし見逃すよお。
 でも次見つけたら容赦しないからねぇ、よろしくぅー。」
「あぁ、はいはい。」

ざりざりと気を失った男たちを引きずりながらシャンリーと呼ばれた女性は駆けて行く。
その後姿を見て奏音は今時分がどこにいるのか聞くのを忘れたという事を思い出した。
せめてそれだけでも聞こうと一歩踏み出した瞬間、地が消える。
勢いを殺す事ができずにそのまま落ちていくと、なぜ自分がここにいて落ちているのか奏音には理解できなくなった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.137 )
   
日時: 2013/08/27 13:56
名前: あづま◇8kXyVF1umQ ID:30fM5xz6

大戦からの国とは言えども大国となればどこかしら手の回らないところは存在するだろう。
それは地域かもしれないし、民の待遇かもしれない。
リキルシアの城下町から西へと進んだ場所にそこはあった。
税などの負担が無いに等しいかわりに、国の側も何の対策も保障もしない地域だ。
その日暮らしのスラム街。薄く汚れ、色は存在しない。
そんな中、お情け程度に身体を泥で汚した人間が走ってくる。足音に気が付いた一人が顔を上げるとたちまち皆の目は輝く。
駆けて来た人物はローランド=カンター。現国王の五男であり外交を主に担っている。

「これはこれは!」
「前置きはいらないからね!…店の中、入れてよ。」
「畏まりました。」

恭しく、それこそ媚びへつらう様に礼をする男をロズは目の端でとらえた。
彼が持つ店の中に入れば、そこはごたごたとしていて悪臭も酷い。そこら中に虫がわいている。
スラムであり、環境は良くない。それを差し引いてもお釣りがくるほどの汚さだった。

「それでどうすんのさ?このスラムはほぼ味方についてるんでしょ?」
「えぇ。金と、不満をやれば面白いほどに。…失礼、貴方が政治担当でしたっけ。」
「構わないよ、ロズは外交の方だし!内政は関係ないからこのスラムは管轄外。
 君らは入っちゃうけどね、お客様。」
「へへへ…。」

下品な声で笑う相手に対しロズは眉をひそめるがそれを男は気にしていないようだった。
身分の差、そして彼に取り入ればもしかしたらという淡い期待があったのだろう。
事実それを糧にし幼い王族であり人を見下す口調の彼を持ち上げているのだった。
立身出世の希望が無ければこのような人間、男はすぐに潰していただろう。それくらい短気だった。

「とりあえずこのスラム…結構規模が大きいし死兵に出来ると思うんだよ。なにかしらで。
 結束は強いじゃん?だから誰かのタメに!みたいなね!」
「ええ…馬鹿みてぇに情けがある奴らさ…。一度恵んでやったら少ない金で買ってくれるようになりやがった。」
「でも初めのお金はこの僕が出したじゃないか!」
「それはとても…有難く……。」

このスラム街での商人は秘密裏に連合を組んでいる。
しかしその実態はロズを頂点とし弱者を完全に支配下に置くものであった。
スラムは情に厚い。一度商人らが金を出し合ったと言う事にして僅かではあるが食料を恵んだ事があった。
一度は遠慮したものの病人や飢えに喘ぐ幼い子らの為にそれはすべて貰われていった。
それからというものの、少し金が入ればこの店で買いに行く。
つり銭はいいのかという問いに対してもあの時の代金だと言って皆笑っておいていく。
既に元は取れているという事は知らないで自らの生活を貧しくしていくのだ。

「とりあえずね、入っている外交――カメリアの補佐とルイテン。これが終わったら決行するつもり。
 特にルイテンだね。今フィッツがいてそっちが準備出来次第だから。多分三日以上一週間未満だ。」
「フィッツ…?」
「フィッツロイ。三男で頭が弱い牢番だよ!多分彼が国王になる。僕は裏で牛耳る。」
「左様ですか。」
「そう。一応他のスラムも味方には付けてあるから。
 …かつて無い内乱だよ!すっごく楽しいよ、興ったばっかりの時すら内乱は無かったみたいなのに!」
「そうなのですか。」
「そう!しかもそれをロズが扇動しているんだ!とっても凄い!じゃあね!」

必要最低限のことしか話さず、ロズは店を出て行った。
汚らわしいとでも言うように店の外に出た瞬間、座っていたため店のどこかしらに触れていた衣類は全て脱ぐ。
内に着ていたほんの薄い布切れ一枚でスラムを出て行った。
後に残された男はその脱ぎ捨てられた衣類を大事そうに、しかし触れることなく力によって持ち上げた。
そして店の奥――先程まで自分が椅子の代わりにしていた厳重に鍵をかけられた箱を開ける。
その中にはたくさんの衣類。わざと汚したのを証明するように小さな手形が付いていて、それが汚れを伸ばしている。

「どちらに転ぶのかねぇ、王族様よ。」

新たな衣類を男はそこにしまった。その服は全てロズがやって来たときに着て、帰るときに脱ぎ捨てたものだった。
勝負は生死をかけた博打だ。どちらに転ぶかは誰にも分からない。
だからこそ、保険は用意しておく。その理由がこの箱の中身だった。





「やめるって…止めるってどういう事?」
「どういう事?そのままの意味。おれには才能が無い。才能が無い人間に教えても無駄だ。
 その点想良は手先が器用だし…王族なんでしょ?何か才能があるはず。」
「私は王族なんかじゃ……。」
「みんななんとなく分かってるよ。お忍びできたお姫様だって。」

今は場所を移動して、ラリーが普段生活しているという屋根裏部屋に来ていた。
そこには仕事に使うと思われる道具が一式と、衣類が隅に畳まれている。
そして額には指輪やイヤリング等の補助具が数点入れられていた。それはとても素晴らしい装飾が施されていた。

「でも、本当に私は王族じゃないんだ。本当は……その…。」
「言えない様な身分なんでしょ。おれとは天と地の差があるんだろ?」
「そんな事ないよ。普通の一般市民だよ…。」

来訪者だとは言えなかった。
ただ、あの丘の上の家で生活していると言わないでくれと念を押されているだけで来訪者だと告げるなとは言われていない。
それなのに言うのが憚れるのはおそらく来訪者は身寄りが無いのが常だからだろう。
一般市民。身分の“差”が無くあるのは立場の“違い”の日本で育った想良には説明が難しかった。

「おれもさぁ、両親みたいな立派な技術者になりたかったんだけどなぁ。生まれ損なっちゃって。」
「え?」
「力が無かった。親はそれに絶望して自ら戦場に行くのに志願。自殺紛いの特攻で殺されたって…さ。」
「そんな事ないよ…親は子供が本当に好きなんだよ…?」
「想良、君はまだ親になってない。
 おれの両親の最期の願いが息子を頼みます、だったんだって。もはや呪いだよ…おれにも、みんなにも。」

ラリーは顔を伏せた。想良からは彼の表情は分からなかった。
しかし雰囲気から彼は今泣いているのではないかと思った。ただそれは涙となって表面には出ていないだけで。
どうすればいいのか分からず、ただ傍らにいる事しかできなかった。

「親方はそれを守ってくれてる。物凄い怒るけど…うちの親との約束を守ってくれてる。
 でもさ、おれ力が無いからどんなに頑張っても…どんなに教えてもらってもアクセサリーでしかないんだ……!」
「……。」
「親方は多分分かってる。おれがどんなに頑張っても補助具として使えるものは何一つ作れない事ぐらい。
 でも他の技術者に教えるのと同じように扱うし、……でも、これ以上親方の手を煩わせる…訳にはいかないから。」

ラリーのその口調は一生懸命自分に言い聞かせているものだった。
本当は彼は両親の用に皆に使われ、愛されるような補助具を作りたいのだろう。しかし不幸にも彼は力を持って生まれなかった。
補助具を作るには自分の力を練りこまなければならない。それが出来ないのだから、補助具を作る事は彼には叶わない。
諦めたくないという感情と作る事が不可能だという現実が彼を押しつぶしていた。

「ラリーさんは…本当に辞めたいの?技術者…。」
「そう。どうせ作れないからね、いくら学んでも無駄なんだ。」
「無駄…。そう思ってるの?」
「思ってる。頑張っても使えなきゃ補助具じゃなくてお荷物。おれがつくれるのは補助するものじゃないから。
 身に付けている人を危険に追いやる危ないものだから、無駄。」

未だ顔を伏せたまま、しかし声だけは奇妙に明るくラリーは言った。
想良はそれで一つの決意をした。

「分かった。私、ラリーさんの後に入る。だから、頼んでね。」

ラリーは顔を上げ、困ったように笑った。その顔にはまだ未練が残っていた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.138 )
   
日時: 2013/08/27 13:57
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:30fM5xz6

「分かった。じゃ、…あ、今は皆に教えてるか。明日までには頼んでおくよ。」
「うん。…その、」
「あ、これあげる。いつまでたってもあったんじゃあおれ辛いし。想良が持ってた方がいいよ。」

想良は額を手渡した。窓から入ってきた光を反射し、中身は様々な影を作る。
綺麗なものだ、と想良は感じた。それに大きな力がはいっている。
しばらくその補助具に魅せられていたが、想良が顔を上げるとラリーが口を開いた。

「それ、おれの両親。それだけになって帰ってきた。」
「え、じゃあ…これラリーさんが持っておくべき物だよ。私なんかが持ってちゃ駄目なものだよ。」
「補助具は使われてこそだよ…。おれが持ってたんじゃ意味無いから。」
「でも…。」
「いいんだ。じゃあ明日、もう一回来てくれないかな?一応引継ぎとかあるかもしれないし。」

ラリーは尚も返そうとする想良に有無を言わせず額を押し付け、そっぽを向いた。
想良が何度呼びかけてももう振り返らなかった。





「いぎゃあぁあああぁぁ!」
「あ、奏音。」

バチン、という音と共に空が割れ奏音がそこから落ちてきた。悲鳴を上げている彼女の元にエドが機体を動かしキャッチした。
ぜいぜいと息切れしている彼女には何があったのか聞くが思い出せないといった。

「おかしい事だな。私たちはお前らが落ちていくのを見た。なのに上から来るのはどういうことだ。」
「俺に言わないでくれよ。俺自身よく覚えていないんだ。」
「変だよね、それなんか新しくなってるし。」

奏美が機体を指差す。
それは何本かラインもはいっており、機体の大きさも大きくなっていた。
そして荷物を入れるためのスペースすらあり、今までのぶら下げるタイプよりも安全だった。

「まぁ覚えていないという事は大した事じゃなかったんだろうな…とりあえずスピードを出していこう。
 何分くらい遅れたかは分からないが出来るだけ…日が沈む前には向こうに着きたい。」
「お前らが変な事をしなければ着いたんだろうな…。」
「そういう事は言いっこ無しだぞ、マリー。」
「じゃあエド、姉ちゃん、もう行こう!追いてっちゃうからね?」
「あ、待て。…まったく。奏音、もういいか。」
「いっすよーだ。ちゃっちゃとお願いしやすよ、旦那ァ。」
「なんだそれは?」

しかし奏音の答えを待たずエドは機体を発進させた。
彼らの記憶には存在しないが新しくなったその機体は風を切り進んでいく。
はるか先を進んでいた奏美とマリーのそれにも容易く追いつき、それ所ではなく追い抜いてしまう。
追い抜く瞬間、舵を取っているマリーの驚いた顔が見え二人は笑った。
そこから競争に発展し、互いに笑いながら抜きつ抜かれつしながら楽しむ。

「ははは…あぁ、見えてきた。あそこがリキルシアだ。塔が見えるだろう?」

エドが指をさす。それ程遠くは無いところに真っ白な塔が見え、その周辺には大きな建物が見える。
城下も賑わってはいる様だが、少し離れたところはすべて薄茶色だ。
砂と風しかその地域には無いのだろう。

「やはりどこにも貧しい所はあるものだな…リキルシアみたいな大国でも貧困層は存在する……。」
「でも、ウチが行った所は皆団結してて結構幸せそうな感じだったよ。貧しいけど、頑張ってるみたいな。」
「行った?」
「私達が行ったんだ。お前らが消えて探すついでにな。」
「ふーん、君たち社交的だねぇ。あたしだったらどっかで潰れてるわ。」
「潰れてくれてた方が有難かったな、探し回らないで済んだ。」
「マリ子のいじわるぅー。」

事実ではあるが不可抗力の部分、そして記憶の無い部分を攻められ奏音はただむくれただけだった。
一方エドはマリーが一緒ならば安全だろうがひとつ引っかかる事があった。
おそらくスラムに行ったのだろうがそこで何か物のやり取りをしなかったかと。
基本的に最下層に位置する場所ではそれを言いがかりに何かをされないとも限らない。
しかし、マリーは諸国をめぐっている。それが相手を滅ぼすための情報収集だとしても。
大丈夫だ、影響は無いと自分に言い聞かせエドは機体を進ませる。

「とりあえず手前の方で降りるからな。少し道からずれたところだ。」
「そうだな。私が見える範囲では行商のような人間しかいない…車を引いていたり、だね。」
「へえ、よく見えるねぇ。ウチにはさっぱり。」
「え、割と見えるけど。やだなぁ奏美視力落ちたんじゃね?あたしより見えないとかやばくね?」
「ウチのは勉強で目が悪いんだから。姉ちゃんみたいにゲームだったりで目が悪いんじゃないから。」
「でもあたしより悪いじゃーん。事実はっきりー。」

笑みを浮かべ、嫌味を含ませながら奏音は妹に言った。それに対し奏美は余計な反応はしてはいけないとでもいう様に黙っていた。
しかし機体の端を掴んでいる手がわずかに強張ったのをマリーは見とめた。
それから間もなくエド達が降下し始め二人もその後を追う。
そこは木々に覆われ道からの視界は悪いものの十分な広さを持っており周りを傷つけることなく二機は着陸した。

「ん?」
「どうした。」
「ここ、誰か殺されたね。草が千切れているし。」
「あぁ。マリー、よく気がついたな。」
「周りを見て前提を作らなければいけないからな。私の推理が間違ってなかったのはセルジュ、おまえ自身が良く知ってるだろ。」
「そうだな…ところでマリー、俺の事セルジュって言わなくていいぞ。普通にエドでいい。
 そっちが本名だし、無視しないですむだろうし。」

エドの提案にマリーはただ笑っただけだった。聞き入れるつもりはさらさら無いらしい。
奏美は地に降り立った一瞬でそれを判別したマリーに対して感心していた。
千切れている、と言われなければそんな所気にも留めなかっただろう。
事実、その殺人から時間は経っているのか少々いびつな形をしている葉だという印象しか抱けなかった。
もし気付いたとしても、それが殺人に結びつく事はなかっただろう。
野生の生物が食べたとしか考えないのが平和な世界の人間であるという一番の理由になるのだ。

「比較的リキルシア本国から近いな…一応軽く探ってみるか。
 ……。奏音、何してる。草を食べたければリキルシアは大きいから食用だと保障されているのがあるはずだ。」
「酷いわエドにーさま!…っつーのはおいといてね。そろそろ長男が欲しいなと。」
「長男?…奏音ってお前の姉だよね?あいつ、草と契りを結ぶのか?」
「え、そういうんじゃなくって…一種の相棒的なやつです。補助させるんです…色々と。」

話をふられた奏美が戸惑いがちに答えた。マリーは納得半分疑問半分と言った様子だった。
奏音は今、おそらく植物を支配の対象においているのだろう。
長女と称されている、本拠地の近くに生えていた草から作られた蔓。主に手足として使われている。
そして次女が投獄された時、独房の中に生えていた苔。これはクッションの役割だ。
そして今度の長男とは…。

「じゃじゃじゃじゃあーん!」
「なんだそれ。」
「いやぁ、見た事無いからさぁ。こっちの植物はそりゃ、地球では見た事あるような無いような…的なのだよ。
 ただこれはカオスだったので長男にしました。」

奏音の手の中には一株の植物があった。頂からは水滴か蜜を垂れ流している。
エドは分からないといった様子ですぐに興味を失ったようだった。人通りが切れるのを見計らっている。
記憶の中を探るのは奏美とマリー。しばらく黙っていたが奏美が口を開いた。

「食虫植物だ。蝿を掴むっていうか挟むっていうか…それの類だ。」
「ああ…これ、猛毒の奴だ。奏音、悪い事は言わないよ。その長男は勘当しろ。」
「はああ?折角の家族なのに…ちゃんと独り立ちまで面倒見るから見てろ!」

奏音は腰にくくりつけてある小箱にその植物を入れた。中には先客が新入りを歓迎するかのように首を上げていた。
その中身を見てマリーは互いに食いつぶす事をひそかに願った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.139 )
   
日時: 2013/10/06 22:53
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:Y4UwpVLo

リキルシアに入国し、マリーとは一旦そこで別れる。彼女はカメリアの人間でもなく、リキルシアの人間でもない。
だからといって自国の名前を明かす気はさらさら無いらしく、自分一人で暫く内情を探るといった。
会談が終わり次第すぐ出国するつもりだと言う旨を伝えれば少し眉をひそめた。

「あのね、探るのはそれこそ時間がかかる。」
「そうだろうな。レイも準備期間から入れたら本当に具合悪そうだし。」
「…一緒に行動できるとは限らない。」
「え、折角一緒に来たのに?ウチ、もう少し色々話してみたかったよ。」
「そうだな…とりあえず行けそうだったらあの現場の草を少し刈る。形くらいは覚えてるだろ?」
「ん…まぁ。俺はそれなり…に。」
「うん。偶数の鐘が鳴る頃合に私は結ぶ。…そうだ、あんたらが行った場合も草を一応いじって。
 そうすれば互いの行動が分かる。」
「あぁ。」
「じゃあ、もう行く。一緒にいるの見られてるから、長居はできない。」

そう言ってマリーは一行から離れた。
エドは彼女が捕虜である事からできるだけ手元に置いておきたかったが諦める事にした。
彼女が同盟に悪影響を及ぼす事は全く無いとは言い切れない。
旅芸人の集団の中に消えていくマリーを目で追い、判別できなくなると口を開いた。

「とりあえず…腹ごしらえしておくか?」
「そんな訳いかないでしょ。エドって最近姉ちゃん化してない?」
「え?!俺そんな事になってるか?」
「割と根本が似てるからね。異性好き。あっはっはー仲良くしようじゃないか同胞よ!」
「仲良くする分には構わんが…嘘だろ……!」
「ねえなんでショック受けるの?あたしに対するいじめなの?」

呟く奏音に対しエドは一瞬否定するがすぐにまた自問を始めた。奏音はそれが答えだとでもいう様に肩を落とした。

「ほ、ほらもう行こう?エドも姉ちゃんも元気出してさ。」
「そうだな…とりあえず来た事だけでも伝えるか…。」

明らかに元気をなくしたエドを少々気遣いながらも奏美は進んでいった。奏音もその後を付いて来る。
一番と言っても良い位に賑わっている塔の入り口までやってきた。
自由に出入りできる所には最低限にも満たない兵士しか存在していない。
進みながらも人数を数えているエドを知ってか知らずか時刻を聞いてくる奏音の事を軽く小突いた。

「いてえ…。」
「悪いな。」
「ほんとだよ。」

短いながらも性格を現したやり取りを交わしながら進んでいく。
するとあるラインで人がふつりと途絶えていた。周りを見渡せば一定の間隔で三人ずつ兵士がたっている。
エドはそのうちの一組に話しかけた。するとカメリアの人間が来るという事は伝えられていたらしい。
ほとんど時間を置かずに外に立っている兵士達よりも豪華な衣類を身に纏っている者が現れ三人を案内した。
案内された先は応接間のようで、必要以上の装飾は見られないものの威厳が存在していた。
どこから湧き出てくるのか分からないその威圧感。それは長年の間に最大の国となったからかもしれない。
五分程待たされ、扉が静かに開けられる。
顔を出したのはまだ幼さが残る少年で、頬にうっすらと煤がついていたがそれを本人は気付いていないようだった。

「はじめましてカメリアの皆様!リキルシア国王が五男、ローランドと申します。お気軽にロズと呼んで下さい!」
「こちらこそ突然の来訪でありながらこのような対応をしていただき光栄です。
 カメリア国補佐のエドゥアールです。……。」
「とりあえず正式な会談は明日の朝になってます!それまでは国と国の境を忘れて、ね?」
「え、じゃあ…。」
「うん、敬語とか色々無し!エド…でいいかな、外交慣れして無いでしょ?けっこう辛そうだよ。」
「あ、あぁ…はは…なんでもお見通しで…。」
「そういう硬い態度はいらないよ!ロズも今は王族としてではなく一人の人間としてあなたにあたるから!」

実際彼の言う事はその通りだった。王族と、身分は高い方だといっても所詮補佐である家の者がほぼ対等に話している。
ほぼ、というのはエドが許可されたにもかかわらず敬意を忘れなかったためだ。
ロズはそれに気付いていたが指摘しようとは思わなかった。
初めから砕けた態度で来なかった時点でこの場にいるカメリアの使者はカードには使えない事を悟ったからだ。
それが例え国の補佐、ナンバー2であったとしてもだ。

「あはは。ロズが知れない事をちょっとだけだけど分かれてよかったよ!
 そっちのお嬢さん方も入ってきてもいいよ?でもちょっと疲れてるみたいだね。もう部屋を用意させようか?」
「あ、いえ…お構いなく。ウ…、私達はお世話になる身なんで…。」
「わー奏美が私っつったのひっさしぶりに聞いたわー。」
「……。」
「いっだだだ!やめてよ本当、弛んだらどうすんのさ!」

無言でつねられた事に対し奏音は苦言を呈すが、それに対し奏美は無視を決め込んだ。
同盟の相手国であり、しかも地位は格段に上である。少々硬くなるのは仕方ない事だ。
むしろ今までずっと一人称に気遣っていなかった事を今更ながら奏美は後悔した。

「おもしろい人達だね、漫才を見てるみたいだよ。でも、国は一個跨ぐもんね!じゃあ部屋を用意させるよ!
 明日の朝までゆっくりしていってね!」
「ありがとうございます…何から何……まで…。」
「あははは、だから気にしないでいいんだよ。でも、明日の朝までだけどね!」

ロズは控えている人間の一人に手振りで指令を出し、男は扉から外に消えた。
再び男が戻って来るのにはそう時間はかからなかった。あまりの速さに三人は顔を見合わせる事になった。
ロズはその様子を面白そうに笑って、案内するように言うと部屋を出て行こうとした。
しかし扉を閉める寸前、グラスに映った自らの顔に煤が付いているのを見てぎくりとしたのをエドは見逃さなかった。
男に案内され、部屋に入った。

「すげぇ。金持ち。スイートルーム…。」
「姉ちゃん、靴脱いでね?」
「いやなんか、やっぱ気後れするよねぇ。なんか想良ちゃんとかも来ればよかったのにさー。」
「……。」
「エド?大丈夫……。」
「変態にーさま?」
「お、終わった……長かった……。」
「いだぁっ?!」

奏音の頭を軽く叩き、エドはそのままベッドに寝転んだ。それからぴくりとも動かない。
頭をさすっている姉に対し奏美は冷やす為の氷を出したが、まだ力のコントロールが不完全のためできたのは
ごつごつとした大きな塊だった。
それでも構わないと奏音は言って直接それを当てていた。余程痛かったらしい。

「二人とも大丈夫?どっちも異常なまでに疲れてるよね……?」
「まぁ、な……。外交なんてクソ食らえだ…。」
「そんであたしに八つ当たりしたわけ?ふっざけんなよネタ消えたり不調になったらあたしの物書き生命どーしてくれんの?
 一応家のローンもあるんだからね?」
「ローン…、え、姉ちゃんローンあったの?買った買った騒いでたじゃん。」
「あたしデビュー十五歳だよ?今二十二。まだ十年も働いてないのにあんなでかい家建てられるわけないじゃん。
 あと三百万くらいあるんだかんね?」
「三百?!」
「まあ二年以内に返せる予定だけど。作家関係の何が素晴らしいって印税だよね!一回書いてうければ
 右下がりにはなるけど継続して買ってくれる人いるしね!」

氷を頭に乗せたまま笑う奏音に対し奏美は一種の畏敬を抱いた。
普段の生活費を除いても二年以内に三百万を返済できるであろう能力があることに驚いた。
こんな自堕落な生活をしていて、むしろ欲望を抑えればもっと早くローンを返済できるであろう姉を持った事を
誇らしいような、恥ずべきようなよく分からない感情だった。

「三百万…?奏音、お前は領地でも持ってるのか?」
「領地?家はまあ土地ごとだけど?」
「そうなのか…すごいんだな……三百万石…か。」
「ごく?……エド、絶対すごい誤解してると思うよ。姉ちゃんに三百万石背負わすお殿様なんて絶対いない。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.140 )
   
日時: 2013/10/06 22:54
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:Y4UwpVLo

「よっ……と。ただいまー。」
「想良?」
「そう。明日からって言われちゃった。レイさんはもう起きてて平気なの?」
「まぁな。」
「そっか。でも今日位はちょっと休んでもいいんじゃない?ご飯食べた?」

想良はレイの答えを聞かずに台所に入った。
そして手を付けられていないのを確認すると温めるために補助具をかざした。鍋の下にふわりと火がともる。
すっかり冷え切ってしまっているので暫く待たなければ火は通らないだろう。

「レイさん、…私に何か付いてる?あんまり見られるのは居心地悪いなぁ。」
「別に。……想良、それの使い方がなんで分かるんだい?」
「なんでって…?アリーに教わったんだよ。ジルの所に連れて行かれたときにお湯沸かしてって。
 火の関係は補助具使って思い浮かべればできる事だよね。あ、その時は念じれば水も出てきたなぁ。」
「それは違うだろ、想良。」
「え?」

思わぬ反論に想良は聞き返した。
なぜこんな事を聞かれるのかも分からなかったが、レイの態度が大きな原因だった。
突き放し、軽蔑するような雰囲気。想良自身、彼にはなにかしら非常識な態度をとった事を自覚している。
それには申し訳なく思っている。しかし今回の態度はそれとは無関係のようだった。

「あんた、なんか作ってたじゃねえか。トリクシーと一緒に。」
「タルトの事?」
「あぁ、たしかそんな名前だったな。今まで疑問に思わなかった事が恥ずかしくて仕方ねぇ。
 想良……どうして作れた。あの時主導権を握っていたのはあんたじゃなかったかい?」
「それは…な、なんとなく……かなぁ。」

実際、想良も指摘されて驚いていた。確かに自分は何も教わっていないはずなのに料理が作れていたと。
アルが料理を作っていた所を見ていないわけではないがそれは離れてみていた。
後姿ではどのようにして料理をしているのか、ましてや地球と違う料理の仕方をしているのかなんて分からなかった。
なのになぜ、自分は分かっているのだろう。今更ながらの疑問だった。

「なんでだろう…。私も、本当に分からないよ。」

想良は言った。それはレイに答えたものでもあるし、自分に言い聞かせたものでもあった。
得体の知れない謎のもの。想良はその答えから逃げるように離れ、台所の様子を見に行った。





「…どこだ、ここは?」

意識を失い、気が付けば何かに導かれるように歩いていた。もう何時間歩いたか分からない。
歩くのを止めようとしても体が言う事を聞かず、何かに操られているように感じていた。
彼の最後の記憶は、話しかけてきた少女の背後から青白いものが現れた。
初めは誰かがつけていたのだろうと思った。自分か目の前の少女か。どちらが目的かは分からなかったが。
それが彼女の口をふさいだ途端、地を蹴り得体の知れないそれを斬りつけた。
一瞬驚いたかのようにそれは身を引いた。しかしそれも次の瞬間には勢いを取り戻し、彼の身体に絡みついた。
それからの出来事は曖昧だ。刀や鎧が溶け、だんだんと意識が薄れていった事しか覚えていない。

「よぉ、…金、持って……るか?」
「……。金など持っていませんよ。私は医者ですから。」
「医者?…医者なら、金を……!」
「よこせ、よこせ……。」

せめて道を、そう思いながら茂みに真正面からぶつかる事は何度目だろうか。
そしてこのようにあぶれた人間たちに出くわすのも。
ぱっと見、もう彼らは堕ちる所まで堕ちている。助けられる者がいるとすれば神でしかないだろう。
必死に手を伸ばす彼らを振り切ろうとした瞬間、男はその手を握っていた。

「…え?」
「なんだ、助け」

嬉しそうにする男の顔は一瞬で引きつり、そして悲鳴を上げた。
彼の身体は宙に浮いていたのだった。そこで初めて、自分は彼を投げるために手をとったのだと理解した。
ぐじゅり、という音がして二つのモノが地に落ちる重たい音がした。
自分の周囲に絡んでいた男たちはそれを見て、悲鳴を上げながら走っていった。
しかしその後を追うように数人の面をかぶった人間が目にも止まらぬ速さで駆けて行く。
もう彼らは助からないだろう。

「よ、ジョナサン?暫くいなくなってると思ったら奇遇だねー?」
「……ハリソン。追放か?それとも口封じか?」
「へっへへー、どっちでしょー。」

面を取り気楽に笑う目の前の男。
同郷の人間であり、もう役に立たなくなった人間や出奔した人間を始末するのが彼の仕事だ。
階級は貴族。その実態は落ちぶれたとある貴族の跡継ぎをすべて潰し、無理矢理養子に入ったただの平民だ。
すでに二児の父でもあり、こうして外に出ているのはまだ幼い子に領地などは譲ったためだ。

「はっきり言えばいい。俺は長い間連絡もやらなかった。始末……それでいい。」
「あっらあらあら楽しみ奪わないでくれるー?せっかくおちょくろうと思ったのにさー。」
「お前がいる時点で結果は見えている。」
「ふーん…そりゃそうだけどつまんないのー。」

口を尖らせ、拗ねるふりをする彼はまだまだ子供らしい。
未だ構えを見せないジョナサンに対し、すでに諦めの境地だと思ったのだろう。
つまらなそうにそれを眺めていたが、空気が切り替わった。一つ、舌なめずりをした。
そして彼は大型の――自らの身の丈以上の長さを持つ刀を取り出した。

「あっはは、こういうの残虐でいい感じじゃない?ちょっと重いけどさー。」
「勝手にしろ。」
「んだよ、つまんねーの。俺がお前の事取り立ててやったのに。」

数歩後ろに下がり、ハリソンは構えた。精一杯に勢いを付けようとしているらしく全身に力が入っていた。
そして一番高く獲物があげられた瞬間、風を切る音があたりを支配した。
次の音は肉を切る音だった。

「なんで…?」
「……、こっちの、セリフだ……!」

ぼとりと落ちたのはハリソンの腕だった。武器の重さから遠くへと飛んでしまっている。
反して、ジョナサンの手には剣が握られていた。いつの間に作り出したのか彼には分からなかった。

「お前は、お前は俺に勝てないはずじゃないか…今まで勝てた事ないじゃないか……!」
「そう、その筈だ。……体が勝手に…。」
「体が勝手に?――ははっ、そうか!お前操られたか!馬鹿だ、馬鹿だなァ…っははは!」
「……。」
「そうかそうか!まぁ腕一本位くれてやる!さぁ、続きしよーじゃん…っ?!」

その後は言葉にならなかった。ハリソンは膝を突き、足を押さえた。
信じられない。彼の目はそう言っていた。

「お前…毒、を……!」

搾り出された、最期の言葉だった。
言い終えた瞬間にハリソンの鼻から口から。あらゆる所から血が噴き出した。
心臓の辺りをかきむしる彼はもう言葉すら発する事ができず、やがて静かになった。

「毒――神経毒か。異常を、この短期間で……。」

事切れた同郷人を眺めて呟いた。そして気がかりなのは彼の息子たちだった。
気にかけてやりたいが、ハリソンが来たということは既に自分は国にいらないと判断されていることだろう。
ならばもう、やってやれる事はない。

「……。」

死体を眺める。目は虚を眺め、腕の一方は渡さないと言わんばかりに自らの心臓を覆っている。
もう一方は諦めないというように武器を握った形のまま転がっていた。

「じゃあ…な。ハリソン……。」

最期くらい穏やかに。生前の彼の人柄からは考えられないかもしれないが。
まぶたを下ろし、花を手と心臓の間に滑り込ませた。
メンテ

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