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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.56 )
   
日時: 2012/02/28 20:46
名前: あづま ID:kGhJ4l4c

家を出、想良はできるだけ急いで集会場へとやってきた。集落に入るまで、誰にも会わなかった。
いつもは来ればすぐに子どもたちに囲まれていたので疑問に思っていたが、集会場をのぞいて解決した。
小さな子どもは皆、隅のほうで眠らされている。喋ってしまう危険性が多いからだろうと推測した。
見つかってもすぐに逃げられるよう、常に走れるようにしながら想良は聞き耳を立てた。

『一番上のは一対一の対人戦を得意にしている。』
『それは本当か?』
『あぁ、戦いに行ったことがあるからな、間違いない。ただ力任せにやることが多いからな。
 力の程度は未知数だが大雑把だ。避けることに専念すれば相手の疲労を待てる。』
『それにあいつは女たらしだろ?いざとなったらあたしらが相手するさ!』
『そうだな。女衆が上を相手取ろう。自由にやっていい、それがあいつらの口癖さ。
 なら俺らも自由にやろう。…反乱だがな。』

どうやら密談というのは自分たちに対する反乱のことの様だ。
しかも、仕切っている男の言葉から考えて自由に話していいというようになってるようだ。
想良には諜報の訓練、集落の子どもたちには演技、そして自分たちの弱点を知る。
なかなか上手い方法だ、と想良は感心した。
そして今まで話していたのはエドの事。力任せの攻撃をやめ、戦略をやればいい。そういう事か。

『二番目はどうだ。あいつは脅し程度にしか力を使うのを見たことがない。』
『こちらも。相手を苦しめたりとかそういうのをやってはいないな。生かしておいたらどうだ?
 金をもらうにはあいつらのパイプが必要じゃん。』
『オレ、二番目は違う国の格好とか女の格好してんの見たことあんの。で、一回出かけると長い時間いない。
 短くても一ヶ月。非戦力の諜報だな、簡単に落せる。そんで人形にしちまえ。』
『…まあ、ある程度はまともだしな。捕まえて薬漬けにでもして、俺らの人形にする。死んじまったらそれまでだ。』
『賛成よ。あの男は個人的に嫌いなの。あたしに任せてくれる?』
『妹の事は忘れろ、ナタリー。』

ナタリー、彼女はどうやらあの人たちに強い恨みを持っているという設定らしい。
というよりも、強い恨みを持っている女は複数か。彼女の発言で、エドは女衆が相手をするという事になった。

『三番目はどうだ、ラリー。』
『おれ…?』

戸惑ったようなラリーの声に想良もびくりと体を振るわせる。
恐怖に満ちた、しかし逆らえないというのが姿を見ないでもわかる声だったからだ。
演技でこんな声が出せるのか、想良は思わず口を押さえた。

『当たり前だ。あいつと一緒に仕事に行って帰ってきたのはお前だけだ。なにかあるだろう、ラリー?』
『……。』
『どうした?』
『おれは、その…具合悪くしちゃって、休ませてもらってたから、その……。』
『嘘はよくないぞ?ここにいられるのは誰のおかげだ?お前の両親ではない。
 お前の両親の戯言に付き合ってる我らのおかげだ。力のないお前を養っているのだぞ。』
『…アリーさんは、』
『名を使うな。』
『三番目は戦闘狂。闘ってるうちにだんだん狂って行って、楽しみ始める。
 …これ以上は知らないよ、もういいでしょ…。』
『力の種類は?』
『知らない。』
『嘘を言うな!力のないお前を殺すことくらいどうってことはないんだ!』

一瞬の静寂の後、ラリーの悲鳴が響いた。
あまりにも痛そうで、想良は思わず小さく悲鳴を上げしまったと思う。
何も考えず、いそいで積みあがっている木箱をよじ登り屋根の上に飛び乗る。
しかし想良の悲鳴に気づかなかったのかだれも出てくる気配はない。
中の声は聞こえづらくなってしまったので屋根に顔をうずめ、冷たさを我慢して集中する。

『風、だと思う。あの人は力を使うのが嫌いみたいで、使った力の中で一番強かったのが風…。』
『そうだ、始めからそういえばいい。…しかし厄介だな。一番目の炎、二番目の氷、三番目の風。
 どれも近づき辛いな。ナタリーは水が得意だったし、一番目の性格含め適任だ。』
『…あたしは氷はわからないけど風の弱点はわかる。ジェニーが風を得意としてた。』
『話してくれ。』
『風は自分を中心に起こす。少なくとも自分はの周りは無風空間だ。防御としてはつむじ風を使う。』
『成る程。つまり近距離、遠距離共に厳しいが一度懐に入ればという事だな?』
『そうさ。妹のことも少しは役に立つだろ?』

得意げなナタリーの声と仕切っていた男の唸り声が聞こえた。
しかし中を見ることのできない想良になにが起こっているのかを知ることはできなかった。

『そんであの大きいのは?喋らないし、力も使わない。』
『…血も繋がっていないのは分かるんだがな……ただふらふら出かけることが多い。
 それと女二人がいない時期を狙うのが最適だ。…一月のうちに、やる。』
『そうかい、あたしはいつでもいいからね。』
『…解散。』

男の声を聞き取り、またしても想良はしまったと思った。屋根から下りるタイミングを失ってしまった。
子どもたちの寝ぼけた声も聞こえ始め、見つかるの覚悟で飛び降り、一気に走る。
だれかつけているかも知れないとかそんなことは考えずにまっすぐ家へと戻る。
収穫は上々。具体的な日付こそ聞けなかったが、また頑張ろう。そう思って部屋へと入った。





「逃げなかったのはいいよ、でも吐くのは駄目ー。」
「内臓…におい…うっ。」
「ダメージ受けすぎじゃない?エド、僕ここまでなったっけ?」
「なってないな…。というより吐くなら吐いていいぞ?耐えると余計辛いし。」
「大丈夫…うぅ…声、が。」
「あーあ、だらしないなぁ。」
「はー…もう少し早くでてくるべきだったな。」
「あ、みっけ。どこの人?さよーなら!」
「うっ!」
「大丈夫か!アリー、お前なぁ…。」
「何回目かな、このやり取り。君もさ、慣れてよ、ね?」

戦いが終わり、エドも交え三人で移動していた。
奏美は先ほどのショックが癒えず、エドに支えてもらいながら歩いている。
そのエドも、顔や腕などに血が付着しており奏美は寒気しか感じなかった。
アリーは袋に入れていた何か…おそらく非常食の類のものを齧っている。
時折残党や伝令を見つけてはアリーが始末しに行くので中々彼女も辛い。
その度にエドがアリーに注意をするのだが、聞く耳を持っていないのか自分から探している始末だ。

「ていうかさぁ、飛ぼうよ。歩いてったら時間かかるしさ、ね?」
「…うん。」
「しおらしいなぁ、威勢はどこいっちゃったのさ?じゃ、出すよ!」

ギュン、という濁った音と共にこちらに向かうときに乗ってきたものが現れる。
よろよろと奏美はそれに乗り、座り込んだ。

「エドは乗る?」
「ああ。でも大丈夫か、運転とか。」
「エドも座って、膝の上に奏美を乗せてよ。それでいける筈だから。」
「はいはい。…これでいいか?」
「うん。あはは、なんか、違和感。じゃ、飛ぶよ。」

補助具を付けられたそれは空高く舞い上がった。
冷たい風が肌をなで、奏美もようやっと一息つくことができた。
特に障害もなく、下を大自然の景色が流れる。
ふと、奏美は気づいた。ここには高層ビルなどの高い建物がまったくない。
それどころか自給自足といってもいい…とにかく近代化していない世界だ。
たまにこの世界にやってくる人がいるのだというし、少しぐらい高い建物があってもいいのでは?
そう思った奏美だが、高い建物の必要性も今のところ感じられない。
でも、水道や電気は必要なのでは?なぜ、こちらの世界にはないのだろう。
いままで疑問に思わなかった自分に驚いたが、流れる景色と共にそれも忘れてしまった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.57 )
   
日時: 2012/03/03 15:17
名前: あづま ID:K3IWWju6

もう辺りも暗くなり、常に明かりがあふれている世界に育った奏美は周りが見えなくなってきた。
ただ、背中に感じるエドの温もりと息遣いが彼女を安心させた。
冷たい風が三人の肌を撫でる。
こちら側に来てからは暗くなってしまうとやれる事が少なく寝ていた奏美はすでにうとうとしている。

「寝てもかまわないぞ。まだ時間かかるだろうし。」
「うん…、でも足大丈夫…?」
「平気平気、俺は頑丈だから。つくちょっと前に起こす。」
「ありがと…ごめん。」
「…いいな、僕は眠れないのにさぁ。」
「着いたら寝ればいいじゃないか。あと一時間かそこらだし。」
「まあ、うん。そうだね……。」

頭の上で行われる会話を聞きながらエドの言葉に甘え、奏美は目を閉じる。
常に冷たい風が体にあたるが、エドと体温を共有している彼女にとって寒さは感じなかった。
まず、二人が話している内容がわからなくなって、だんだんと音が消えていく。
ゆっくりとした、確実な動きに身を任せ意識を手放しかけた。
しかしその時、大きく揺れたかと思うと風が下から吹き上げてくる。

「おい、あぁ奏美、少し避けてくれ!」
「え…?あ、はい!」
「居眠りはやめろってば、なんなんだ!」

奏美は眠い頭であわてて避けたもので前にあった何かに思い切り頭をぶつけ、それによって目が覚めた。
完全に覚めた目で見ると機械は急降下しており、エドが何とか立て直そうとしている。
それを操っていたアリーは彼の足元に座り込んでいて息が荒い。

「く、そ…!アリー、これどうやるんだ!」
「…、上にやれば…戻るはず。…なんなら、不時着でも…。」
「上?…こうか?…できない!仕方ない、不時着するからな!」
「え、え?何が起こってんの?」
「後だ!」

自体が飲み込めない奏美はエドに問うが今は答えられる状況ではない。
ぐらぐらと不安定な機体を横から体を起こしたアリーが安定させ、山の比較的ふもとに近い場所に不時着させる。
地面に機体がつき一拍の後、それは消えて三人は地面に落とされた。
ころころと転がっていく補助具をエドが取りに走る。

「どうしたの…?」

奏美はアリーに問うが答えない。ただ首を振ってうずくまってしまった。
戻ってきたエドも奏美と同じ質問をするがアリーの示した反応もまた同じだった。
エドはアリーの体を起こし、顔を覗き込む。
奏美にはどんなことが行われているのか分からなかったが、アリーはエドにされるがままだという事が分かった。
完全に体を預けている。

「…なんか俺には分からないな。とりあえず、行ける所まで戻ろう。奏美、大丈夫か?」
「ウチは、うん…平気。でもアリーって何?どうしたの…?」
「なんかやられたんだろう。これ持ってくれるか?」
「え?あ、うん。」

バキッという音がしてからエドから何かが手渡される。ずっしりとしたそれを握ると炎が先端に現れた。
どうやら木の枝だったらしく、何も見えないに等しかった奏美の目にもようやく情報が入ってきた。
アリーは焦点の定まっていない目でどこかをぼんやりと見ている。

「よっと…奏美、取り合えずふもとに降りる。ここは狩猟が行われる地域だから小屋くらいはあるはずだ。」
「え…でも人とかいるんじゃない?」
「今はやってないんだ。ここは寒いときに獲物が来る場所だから。」
「そうなんだ…。」
「とりあえずまっすぐ行ってくれ。そうすればどこかに出られるはずだ。」
「分かった…。」
「それと常に戦えるように。ならず者がいないとは限らない。」
「分かった。」

奏美は先頭に立ち、エドの指示で歩く。
人が歩くとは思えないような道といえない場所を歩き、どこか休める場所を目指した。





「お、おかえり。どう?」
「きけたよ。…でもまた潜り込まなきゃいけないかも。完全には分からなかった。」
「そっかぁ、まあいいんじゃね?あたしはなにしよっかなー?」
「奏音さんもなんか働く気になったの?」
「いや?ただ日中暇でさ。思えば同人とかゲームとか色々やってたんだよね。
 いかにキシの目を盗んでやるかが結構面白かったわ。エキサイティングでスリリングって感じかな。」

けらけらと笑う奏音に釣られ、想良も笑った。

「なんかさ、離れたからこそあっちの生活もいいもんだったなって思えるんだよね。」
「そうかも…あー、宿題とか大丈夫かな。」
「こら!せっかくの休みなんだしそういう話題は出さないでよ!」
「ごめんなさ…あれ、奏音さん仕事してたの?さっきの話に仕事って出てきたっけ…。」
「してたよ最終的には!締め切り二日後には終わらせてたぁ!」
「それ、駄目じゃん。」

その時いきなり扉が開いた。
そこには二人の女の子がたっていて笑顔を浮かべている。
茶髪の髪の長い方が二人に話しかける。

「はじめまして。レイモン、いるかしら?」
「れ、レイモン?」
「レイモンはレイモン。私の兄よ。…あぁ、あなた達は愛称でしか知らないかしら。レイって呼ばれてる私の兄よ。」
「あー!そうなのか、本名レイモンか!あたしでよけりゃ呼んでくるよ。」
「じゃ、お願いするわ。」

ばたばたと階段を上っていく奏音をレイモンの妹は蔑む様な目で見ている。
その目つきに想良は嫌悪感を抱きつつ、ふと思い出したことがあった。

「レイさんの妹…てことはマティーさん?」
「知ってるの?なら自己紹介はいらないわね。…あぁ、レイモン。いたのね。」
「なんだよ…もう来ねえんじゃなかったのか…?」
「うるさいわね。あんたが生きてられんのは私のおかげでしょう?愛しいお兄様?」
「チッ…今回の用は何だ。」
「それが正しいの。逃れられないわよ、あんたはね。」

この言動で想良はマティーを好きになることができないと直感した。
昼間のあの…ラリーに対する演技ですら想良は恐怖感を感じ、イライラとした。
第一段階達成だろうという喜びで薄まっていたが、マティーの言動でそれが確定したものとなった。
それに、彼女の語調からして演技ではなく心からそう思っているということが手に取るように分かる。
反論しないレイに対しても想良は心の中で不満を持った。

「アルベールを貸して貰おうと思ってね?」
「それだけにわざわざ来たってのか?次期当主様が?他にもなんかあんだろ、言いな。」
「まさか。私も忙しいし、ね?ただ息抜きと愛するお兄様達がちゃんとやってるかと思っただけよ。」
「信用できねえ。」
「そりゃあ、あなたは他人をだまして情報を得る人だもの。信用できないのが正しいあり方よ。
 情に動かされたんじゃあできないものねぇ。ベアトリクス、あなたはここに残るのよね?」
「あぁ。アルと入れ替え。それであってんぞ。」
「そ。あぁアルベール、ありがとう。またあなたの力が必要なの。分かってくれるわね?」
「……。」
「行きましょ、私には時間がないんだから。ベアトリクス、いつでも来てね。」
「じゃあなー!」

出て行くマティーとアルに対しベアトリクスと呼ばれた女が手を振る。
嵐が過ぎ去ったような、常に勢いに圧倒されていた奏音と想良はただ呆然とそれを見送る。
レイはため息をつき、いすにがっくりと座り込んだ。

「んだよ、元気ねえな。」
「はー…アリーならいないからな。」
「わあってる、オレが来る時大体いねーもん。慣れたよ。で、このお嬢さん方誰。」
「オレっ娘…?あ、え?アリーて男だったの?!」

ショックから早く回復した奏音が驚きの声を上げる。その声でわれに返った想良も奏音と顔を見合わせた。
レイとベアトリクスは知らなかったのかというようなあきれた目で二人を見ていた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.58 )
   
日時: 2012/03/03 15:22
名前: あづま ID:K3IWWju6

「あれ、知らなかったか?俺言わなかったっけ。」
「たぶん言われてない…。」
「言ってなかったか…トリクシー、アンリって男性名だよな?」
「オレの中ではそうだぜ?まあ違うところもあるんだな。」
「えー、男。えー…あ、あー!」

アリーが男であるという事実をゆっくりと咀嚼していた奏音が突然大声を上げる。
何事かと皆の視線を受けつつ奏音が口を開いた。

「そっか!そりゃ変態って言われるわ!」
「は…おい、アリーになにしたんだ。」
「トリクシーちゃん…?顔怖いよ…。」
「ちゃんはいらねえ、普通にトリクシーでいいって。で、何やったんだテメー。」

じりじりと迫るトリクシーにさすがの奏音もおされ気味だ。
あまりの気迫にレイでさえ一歩、彼女らから遠ざかってしまった。想良も彼を盾にするようにまわり込む。

「いやね、裸とまでは言わないけどそれに近い状態のをゆっくりじっくり観察してしまって。」
「あぁ?!」
「でも肌着っつうの?そういうのは着てたよ?だから随分ぺったんこだなーて後で思ったけどそっか、男か!
 なら無くてもおかしくないね!なぁんだ、そっか!」
「てんめぇ…。」
「でも結構いい体だとは思うわ。肌白いし…羨ましいなぁ、白人との差を考えないにしても白いよね。
 あ、よく見るとレイもおんなじくらい白ーい。」
「触んな、俺を巻き込まないでくれ!あんたら二人でさっさと解決しとくれよ!」
「なんで赤の他人が人の旦那の肌見てんだ!オレですら見たこと無いに等しいんだ!何で!」
「そ、そこなんだ。」

ぎゃあぎゃあと喚く三人を少し離れたところに避難して想良は眺めた。
巻き込まれたレイは本当に迷惑そうだが、女二人はなんだか楽しんでいるようにも見える。
入ればよかったなぁ、なんて思いながらもしばらく戯れを眺めていた。
外を見ればもう暗くなりかけている。
いつも夕食を作っているアルは行ってしまったので今日は自分が作ってみようと想良は決意した。





「あ、山小屋?」
「本当か?あ、アリーを背負えるか?」
「え…。」
「いや、無理ならいいんだ。」
「いやその、だ、大丈夫です!出来ます!」
「そうか?悪いな、小屋の中に誰かいたりしたら危ないし。」

炎のともった枝を一度地面に突き刺し、今度は奏美がアリーを背負う。
アリーは完全に意識を失ってしまったようで、なんの抵抗も示さなかった。
枝をエドが拾い上げ、先頭に立って歩き出す。
彼は彼女のことを気遣っているようでゆったりとした歩みだった。

「……。」

一方、奏美といえば首筋にかかるアリーの息に顔が赤くなった。
ただ寝ているのだ、そう理解はしているが一度意識してしまった身としては自然と体がこわばる。
意識してはいけない、する必要が無いとは分かっているが自然と顔に熱が集まる。

「ここで一旦止まってくれ…顔赤いな、やっぱり無理してるんじゃないか?」
「いや、その…これはぁ…。」
「大丈夫、誰もいなかったら下ろせるから。重いだろ、ただでさえ鎧とあと武器も色々持ってるから。」
「その…うぅ…。」

山小屋から少し離れたところで奏美は止まり、エドが入ってくのを見守った。
一分とたたないうちに彼は走って戻ってきて誰もいなかったというのを話す。
それどころか数個の寝台や台所など設備もしっかりとしているらしい。
彼の後を追い、小屋の中に入る。
エドがあの機械についていた補助具を取り出し、天井近くについていた何かに乗せるとパッと明るくなった。
ほこりも無く、実にきれいだ。
部屋の奥の寝台にアリーを下ろすと今まで感じていた暖かさが無くなり、すこし寂しいと奏美は感じた。

「なにやったんだろうな。意識を失うってけっこうやばくないか?ただの疲労だったらいいんだけどなぁ。」
「うん…。」
「熱もあるなぁ…案外毒か?」
「ど、毒?!でも、え?ウチが見た限りでは攻撃あたってるようには見えなかったんだけど…。」
「でも、あいつらは針を使っていただろう?一本あたっただけで死に至るっていうのもある位だ。
 こいつは普段自分で毒薬実験してたりするからな、体が慣れてるかもしれないけど。」
「それって…毒薬自分で飲んでるってこと…?」
「そうだ。まあ、罪人買ったりしてるらしいけど。ただ毒になれた人への効果は自分でやるのが一番だって。」
「……。」
「医者探してくる。ちょっと遠いけどいるはずだ。危なくなったらアリー置いてでも逃げるように。」
「そんな事…。」
「逃げろ。」

エドは山小屋から出て行った。残された奏美はアリーの事を見る。
わずかに体が上下していることに安心はするが、それでもなぜかやりきれない気持ちでいっぱいだった。
自分がアリーに対して抱いている気持ちが分からない。

「寒い…。」

前触れも無く、急に寒さを感じた。背筋が冷たい…何か来る。
あたりを警戒しつつ、いつでも武器を作り出せるように集中力を練り上げる。
ガサガサ、と何かが動く音が聞こえるがそれが何なのか分からない。
風だろうか、それとも生き物だろうか、敵だろうか。

「っ…。」
「あ、アリー?」
「…ここ?」
「山小屋。意識失ってたよ、大丈夫?」
「来るよ…覚悟するように。」
「え、覚悟?」
「ほお、ら…。」

扉が蹴破られ、一気に冷たい空気が部屋に流れ込んでくる。
小屋の外にいるのは五人。衣類はどうみても乞食。腕や足は泥やほこりに汚れ、服は破れて黄ばんでいる。
だが、どこか高貴な身分だということが隠せていない。衣類からわずかに除く肌は汚れておらず、艶々としている。

「どうも…誰、かな?あはは、大勢で……。」
「……。」
「残党かな…戦争なんだよ……。恨みっこ無し、じゃ行かない。ね、…。」

相手は喋るつもりは無いらしいが、敵意は痛いほど伝わってくる。
リーダーと思わしき人物がヒュウ、と音を立てアリーを剣でさす。周りの男たちはそれを見、アリーに一斉にかかる。

「ひどいなぁ…、もう。っははは!」
「アリー…?」
「奏美、構えろ!」

突如、声を張り上げたアリーに促され奏美も反射で武器を作り上げる。
その瞬間、目の前と耳の横でギィン…と音が響いた。
目の前では男が奏美の太刀を受けていて、横では恐らく別の男らがアリーと戦っているのだろう。
そのうちに悲鳴と温かいものが奏美と男にふりかかる。

「や、血…!」
「…!」
「ぎゃ、やだ!」

血にうろたえた奏美を見過ごさなかった男は飛び掛ってくる。
びっ…と頬に熱が走り、斬られたという事を自覚すると同時に相手の頭に刀の鞘を振り下ろす。
鈍い音とともに、男が崩れ落ちた。

「やるね…、あは、いいな。惚れるよ、それ。その感じ、大好きだ。」
「え?…え、好き?」
「うん、好き。ビリビリって来る。いいな、戦ってみたい。強くなったら、ね!」
「が、あぁぁあ!」

最後の一人が血の海に崩れ落ちる。ビクリビクリ、そして静寂。
それと共にアリーもぐったりと座り込んだ。息も荒く、肌の色が分からないほど血にまみれている。
奏美はあわてて駆け寄り、彼を寝台に寝かせようとする。しかしアリーは壁にもたれかかり、座った。
そして、一人の兵士の服を破き血糊で何かを書き、どこからか取り出した羽に結ぶとそれを飛ばした。
風に乗り、開け放たれた扉からそれは出て行き、やがて見えなくなった。

「…残党と見て間違いない。剣筋がしっかりしてるし、…。」
「大丈夫なの…。」
「多少癖があるけど…四人似たような剣。共通の、師匠かな。」
「斬られたりとか大丈夫?そういうの、無い?」
「…ダイアナの姐さんに怒られるよ。はー…君も平気だったんじゃん、よかった…無事、で。」
「それって…?」
「トリクシー呼ばれたら適わないし。」
「……。」

アリーの口からトリクシーという言葉が出るとなんだか奏美は心が落ち着かなくなった。
これではまるで自分がアリーのことを好きみたいではないか。二人は、結婚しているのに。
何も話さなくなった奏美をアリーが覗き込む。だが、奏美はそれから顔をずらした。
見られたくない、その思いが奏美を支配する。
物音、と共に叫び声。

「…、!」
「あぶな…!」

奏美は何も考えられなかった。
気づいたら全身に生ぬるい液体を浴び、身体を赤に染めていた自分自身がいた。

「殺し、た…?」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.59 )
   
日時: 2012/03/03 15:23
名前: あづま ID:K3IWWju6

「もう少し、早く歩けないか?」
「いやあ、すみません。これが精一杯で…。」
「俺がその道具を持っても構わないんだが…。」
「これはワシの仕事道具ですので。」
「はあ…。」

エドは山を駆け下り、三つ程の集落を周った所で運良く医者を見つけた。
このあたりは貧困地域なので最悪朝まで見つからないだろうと思っていた彼にとっては嬉しい誤算だった。
だが、この医者は老人なので自然と歩みは遅い。手を貸そうとすればそれは頑なに拒否する。
もうこの医者を見つけるまでの時間と同じくらいの時間が出発してから経っている。
思わず早足になるが、そうするとこの老人が哀れな声を出すので中々進まない。
山道をゆっくりとした足取りで進んでいく。

「なあ、医者様。結構大事じゃないかと俺は思うんだぞ。こんなゆっくりじゃ助かる人も助からないんじゃ…?」
「ワシは過疎地の医者です…人も少ない、そして狭い。これくらいで間に合うのです…。」
「あそこならそうなんだろうが…あああ…!」

急ごうというのが見られない医者にエドはもう少し遠くてもいいから若いのを連れてくるべきだったと後悔した。
そもそも腕も不確かだ。過疎地という事は道具が旧式、またはそろっていないという事も考えられる。
そこまで考えが及ばなかった自分をエドは呪いながらなかなか距離の縮まらない道を歩んでいった。





「お、すげえ。想良だったな、お前飯作れんのか。」
「まあ、一応…。お菓子のほうが好きなんだけどね。」
「すげえ…オレも作れなくはないんだけど途中で投げ出しちまうんだよな。」
「そうなの?でもできると楽しいよ。そだ、アリーになんか作ったら?」
「いやぁ…できるかなぁ?」
「できるできる!私も手伝うからさ、ね?」
「…あぁ。」
「……なんかさぁ。」
「んだよ。」
「会話がすんごい女の子なんだけど…!あたし中学のとき何してたっけ?」
「知らねえし興味もねえな。混ざってくりゃ良いじゃねえか、お前も女だろう。」
「オタ友と話してた記憶と婿に色々した記憶しかない!うわ!」
「要するに変わってねえんだな、把握したよ。」

想良とトリクシーは調理場に立ち、二人で何かを作り始めた。
邪魔になるからと運ばれてきた料理をつつきつつ奏音とレイの二人は様子を見守る。
格闘から時間が結構たってしまい、今日は遅すぎる夕食だ。
二人の間に会話は無く、料理をしている向こう側がなんだか華々しい。
想良の指示と、それに答えるトリクシーの声が二人を取り囲んでいた。

「そーいやさー。」

奏音が口を開く。レイは一瞬手を止めることで反応を示した。

「奏美達はいつ帰ってくるわけ?」
「んだよ、寂しいのか?まだ一日目じゃねえか。」
「いや、まあそうかな。シスコンだったのかねえ…というかここって平和じゃないじゃん。あたしは心配。」
「今日明日で帰ってくるだろうよ。」
「え、もう帰ってきちゃうの!」

横から想良が会話に割り込んでくる。
トリクシーに指示を与えつつ彼女もこちら側に来た。

「まあ結構近いはずだしよ、何事も無けりゃ来るだろ。エドが迎えに行く筈だしな。」
「あれ、レイさんが奏美の様子を見に行くみたいなこと言ってなかった?」
「ひでえ、あたしの妹を売ったのね?!」
「想良ぁこれでいいのか?オレにゃあこの粘っこいのからタゥト?になるってのが分かんねえよ。」
「タルトだよ。ちょっと休ませるからそこ置いててー。」
「あいよ。…しかしレイよ、約束は守れって。だから女っ気もくそもねえんだろ。」
「トリクシー様!あなたから見てもそうなのでござりまするか?!」
「なんだよその言葉遣い…。」

奏音の豹変した言葉遣いに対し顔を引きつらせたトリクシーだったが答える。

「まあ…なんだ、オレはそう思ってる。むしろ自分に女っ気がないのを自分で補給してんじゃねえの?」
「ありがとう…あたし、生きていける。幸せぇ…!」
「あんたら俺をそういう目で見てんのかい?!」
「私はそうは思わないよ。女っぽいのは生まれつき決まってるんだししょうがないよ。
 それに大丈夫、いつかは恋人出来るだろうし。男っぽい女の人だろうけどね。」
「違え…なんか違えよ、想良…。」
「やっべ最高!想良ちゃんいい、まじいい!」
「…オレらの事を言ってるか?」

よほどつぼに入ったのか奏音が想良の事をバシバシと叩く。レイは悪気のない言葉というのでさらにダメージが重いようだ。
トリクシーは自分らの事を比喩しているのではと問うが想良に否定されならばいいと返事をした。
そして席に着き、一人食事を取り始める。想良もそれに倣い、向かいに座り食べ始める。
そして二人で料理の事や恋愛の事などを話し始めた。

「じょ、女子トーク…!」
「入ればいいじゃねえか…。」

男一人という事で立場が極端に弱くなっているレイが弱々しく言葉を発した。
それがまた奏音のつぼに入ったのか後ろから思い切り抱きしめている。
ただ、腕かどこかがいい所に入ったらしく小さく声を上げた。

「うへ、やべ…ひゃははは…!」
「奏音さん大丈夫なの?」
「や、ふへへへへ…!笑ってしま、ふっふふふふ…!」
「奏音って自分を生きてんのなー。すげえ才能。」
「助けとくれよ、なに見てんだ…。」
「巻き込まれたくねえ、パス。」
「そ、ら…。」
「えーっと…。」
「料理教えてもらうから借りるぜ?」
「が、頑張って下さい…!」
「ありがとうあたし頑張る!頑張ってレイをあたしに懐かせる!あたしがいなきゃ寂しい悲しいまで行かせる!」
「うん、…うん?まぁ、頑張れよ。なんなら世帯つくっちまえ。」
「それって結婚?いいんじゃない、でこぼこコンビと見せかけて結構お似合いだと思うなぁ。」
「許可も出た!さああたしのかわいいわんこ、立派な嫁になってね!幸せになろう!」
「…不幸だ……。」
「犬呼ばわりはどうでもいいの?ペットにされちゃうよ、そのうち。」
「想良も言うな!よし、そろそろ再開しようぜ!」

空になった皿をさげ、想良とトリクシーは再び台所にたった。
二人のほのぼのとした雰囲気とは裏腹に、奏音とレイは未だ格闘していた。
といってもレイは基本的に反撃しないようにしているらしく、ただ奏音に弄ばれている。
たまに服の裾から直接触ろうとする場合は猛反撃をするのだがそれ以外はされるがまま、無心でいようとしているようだ。
ただ反撃しないのをいい事に奏音に椅子から引き摺り下ろされ馬乗りにされてしまい完全に動きを封じられる。

「重…!」
「うわああぁん、傷ついた!」
「うそこけ。ど、っどけ、っはあ…。苦しい…!」
「トレーニング。さぁ、わんこ!」
「息、が…。」
「喋らないで逃げる事に専念したほうがいいかも…ね?」

面白そうに笑う奏音と、その下で懸命にもがくレイ。
それを時折振り返りつつ苦笑いで作業を続行する想良と、彼女の技術を学ぼうと必死なトリクシー。
するとその時、ふわりと羽が飛び込んでくる。

「およ?これアリーが帰ってくるときに来たやつ?」
「……。」
「あ、ごめん避けるよ。…これ?」
「…あー、だな。」

奏音から羽を受け取ったレイは起き上がりながら結び付けられた布を解く。
アリーという言葉を聞いてトリクシーも戻ってきた。

「なんか…血、だよな?」
「……襲撃だとよ。怪我はしてないそうだがな。明日には帰れるんじゃないかとさ。」
「明日って早くね?あたし的にはもっとかかると思ってた。」
「アリーは無事なんだな?怪我、してないんだよな?」
「書いてないから分からねえ。この血もあいつのかもしんねえし、違うかもしれねえ。
 ただ分かるのは無事ってだけだな。」
「そっか…うん。オレの旦那がこんな簡単に死なねえよ。よし、景気つけるためにも頑張っかあ!」

頬を一回叩き、トリクシーは想良の元へと戻っていった。
何事か聞かれたようだが、彼女ははぐらかしたようだ。
レイと奏音は顔を見合わせる。

「奏美が、足手纏いになったんじゃ…?」
「どうだろうな。でも無事なんだろうし心配すんな。アリーは俺なんかより強いからな。」
「それはなんとなく分かる。」
「……そうか。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.60 )
   
日時: 2012/03/03 15:24
名前: あづま ID:K3IWWju6

「ほら医者様、あそこだから!あの明かりが見えるところなんだ、頑張ってくれ!」
「こんな老いぼれに…鬼畜ですのー…。」
「金は出すから!頼む!」

エドと医者は歩き続け、やっとの事で山小屋が見えるところまでやってきた。
想良はもうすぐ明るくなりそうな、そんな時間である。
元々すぐ手が出てしまうエドは何度か医者に手を出そうとしたのをなんとか食い止めてきた。
医者が文句を言わない程度の速さで歩いていくと、小屋の異変に気づく。
扉は無くなり、なにか見慣れないものが転がっている。

「医者様、走ってくれ!」
「間に合う、間に合う…。」
「っだああ!畜生が、この!」
「なっ…!」

のんびりとした、本当に患者のことを考えているのかわからない態度についにエドは医者を抱えあげ走っていく。
道具箱の意外な重さに驚くがもっと早くこうするべきだったという思いの方が強かった。
医者の抗議の声も無視して小屋まで駆け抜ければそこは血の海。

「あぁー…遅かった、遅かった……。」

キッと睨めば医者は黙る。お前がゆっくりしてたからだろう、エドは思った。
すでに死んでいる男たちの中に、奏美が座り込んでいる。アリーの姿は無い。
連れ去られたか、という疑念が生じるがそれよりも彼女の様子がおかしい事に気づく。
最悪の事態…か?

「奏美。」
「…あ…おかえりなさ、…。」
「……。」
「アリーなら、なんか水を飲むって…毒抜けるだろうって…。」
「そうか…。医者様、その男たちはもう死んでいる。どんなに見ても無駄だ。」

パクパクと口を開くが声の出ていない奏美が見ていられずつい、死体の検分を始めている医者に声をかけた。
何が起きたか…この部屋の状態、そして奏美の格好を見れば容易に想像がつく。
自分が医者を探しに出た後、残党もしくは恨みを持った連中に襲撃された。
エドは思った。アリーは弱っていた。それに、一番戦いに出ているのもアリーで恨みを買っているのは誰でも分かる。
その恨んでいる相手が弱っていれば誰しもが攻撃を仕掛ける。……それだけの、簡単な理由だ。

「頬、斬られてるな…。」
「…うん。油断した…近くって駄目だね。」
「そうか。でも、よくやったよ。相手取ったんだろ?初めてなのにすごいじゃないか。」
「そう…闘っ……、うぅ…。」
「え、あ?ごめん、なんか俺言ったのか?!」

エドは涙をこぼし始めた奏美に驚きながらもそっと肩を抱く。
自分が何を言ったのか何が彼女に触れたのかが分からなかったが遠い記憶、かつて母がしてくれた事を彼女にやる。
だんだんと大きくなっていく泣き声にさすがに医者も異常を感じたのかこちらへ近づく。

「その頬ですかな…?どれ、見せなさい。」
「…これ、結構時間がたっているぞ。」
「安心したり冷静になると途端に痛み出すのが傷…あなたが来たことにより緊張状態から脱したのでしょう。」
「そうだな…言われればそうだ。奏美、この医者に傷を見せよう。頬以外には無いな?」

頷いた奏美を医者のほうに向けさせる。
その時、外のほうからかすかな物音が聞こえ顔を上げた。

「あ、アリーか?おかえ…!」

その瞬間目の前を何かが飛んできて金属音が聞こえた。
との入り口にはエドも予想したとおりアリーが立っており、臨戦態勢だ。
何が起こったのか分からないエドに彼は叫ぶ。

「奏美を遠ざけて!」
「は?え?」
「なんでこう…あぁもう、せっかく血を落としてきたのに!」

叫ぶアリーに言われるがままエドは奏美を抱き寄せ医者から離れればその金属音はたまたまではない。
ちゃんとアリーの第一撃を防いでいたのだった。そして医者も、闘う姿勢を見せている。

「医者様…スパイ、か?」
「馬鹿者が…簡単に信用しおって…。お前らな、」
「馬鹿者はあんただよ、無視してるからね?」

遠くからのもう一撃…よく見たら石だ、それを投げつけ医者に命中させる。
よろめいた隙を突きアリーは医者を押し倒した。そしてそのまま、四肢を彼の持っていた武器で突き刺す。
最後にその武器を噛ませ舌を噛んでの自殺を防ぐ。

「どこに雇われた…?」
「…。」
「言う気は無い、まあそれもそっかぁ!さよーなら、死体検分は任せてね?」

目を見開き、首を振る男にアリーは笑顔を見せた。そして腕を振り上げる。
ドスッ…という音と共に男は沈んだ。
しかしアリーは武器も持っておらず、彼の体の下で男もまた上下している。失神させただけだった。

「エド、こいつ縛って…。疲れた……。」
「あぁ…。」

男の上から退いたアリーは気だるそうに壁へと寄りかかった。まだ完全には毒が抜けていないらしい。
男の事を死体から剥ぎ取った布で脱出されないように縛り、最後に布を噛ませた。

「奏美…少し、寝たほうがいい。俺が見張っている。もう離れない…な?」
「…でも……。」
「寝なよ。いちいち騒がれちゃ迷惑だし。」
「アリー…!」
「事実だし。…寝ろ。」
「分かった…ごめんね。」

無理やり作った笑顔を見せ、奏美は比較的被害の少ない寝台に横になる。
まもなく規則的な息遣いが聞こえ、完全に寝たことが証明された。

「寝たな…お前、奏美に対して冷たすぎないか?…おい、なに飲ませているんだ!」
「なんだろね?」

寝息を立てている奏美に対しアリーは粉末状のものを口に入れている。
エドの質問に対してもとぼけ、何食わぬ顔でまた壁に寄りかかった。
弟の奔放な態度に、さすがのエドも眉をひそめた。

「顔怖ぁい…睡眠剤みたいなもんだよ。ゆっくり休めばじき忘れるってか慣れるだろうしね。」
「そうか?信用するからな。…何があった。」
「ん?あぁ、エドがいなくなった後すぐこれらが来たんだよ。で、奏美は一人を相手取った。
 それで斬られた後、気絶させたんだね。ただ入りが甘かったらしくてねー…うん。」
「目が覚めてしまった、という事か?」
「そ。気絶させたっていうのは分かってたから情報引き出したかったんだけど…うん、殺されちゃって。」
「奏美にか?」
「うん。すごいね、戦いが無い世界の人が初陣で人殺しなんて…僕もエドに言われるまでは嫌だったのに…。」
「今はどうなんだ?あー…俺のせいだ…。」
「事実はどんな物よりキツイしね。否定したいことなら尚更でしょ。
 でさ、エドこいつ運ぶの手伝ってくれない?僕一人でやりたいんだけどまあ、希望なら見せるよ。」

アリーは気持ちよさそうに笑った。だが、反対にエドの表情は険しいものとなった。
彼がこの医者…スパイを連れて行く場所は秘密の場所。今まで何度も見せるように言ってきたが拒否され続けてきた。
ただ、エドが知っているのは罪人を買うかまたは他国から重要な犯罪人を売られそれを薬剤の実験にしていること。
何度か発狂されたのか血まみれで帰ってきたことさえある。
それに頭を抱え、必死に感情を抑え手当てした事も一度だけではない。

「分かった…でも奏美を戻してからだ。ここに置いておいたら襲撃を受けないとも限らないだろ?」
「じゃ、こいつも一緒にだね。逃げられたり、仲間が来たりしたら…ねぇ?
 でもさぁこいつがスパイだって分かんなかった?老人のふりは良いけどさ、健脚すぎるじゃん。」

そういえば、と納得する。
ほぼ休みなどなしに来たというのにあれは休憩を要求しなかった。普通の老人なら、疲労に足も立たないだろう。
よく考えればおかしいところなど山ほどあっただろうに…エドは自分の考えの浅さに頭を抱えた。

「というより僕だって一応毒薬とかは知ってるんだよ?攻撃受けたのは多分…うん、あん時だなぁ。
 でも毒を受けたのは分かってたしじわじわ解毒剤飲んでたんだし…予想外に強くて倒れちゃったけど。」
「ああ…。もう動けるか?早いほうが良いだろ。」
「そうだね。あ、補助具とってよ。それで奏美引っ張っていくから。」

エドはアリーに補助具を手渡し、縛った男を背負った。
アリーは補助具であの機体を出し、それに奏美を引きずりながら乗せた。
そして二人は、とりあえず家に帰ろうと歩き出した。
メンテ

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