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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.146 )
   
日時: 2014/08/31 13:47
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:ZSjGXMiM

扉を開けた瞬間、更に声が大きくなる。
奏音はもはや発狂していると言ってもよく、相手の言い聞かせる声もほぼ怒鳴っているようだった。
迷惑になってしまうと慌てて奏美が扉を閉めると、扉には紋様が現れた。
ここで初めて、防音も気遣われていたのだということが分かる。

「あの…すいません……。」
「あぁ待っていろ!もうすぐ終わる!!」
「嫌だあああこいつもう嫌ああああ泣かすううう絶対泣かすうううあああああ!!」
「姉ちゃん……。」
「チッ、動くなと言っているだろう!」
「五月蝿いんだよおおぅうヤブ医者あああああああ!」
「黙れ騒々しい!すまないが男の方、この女押さえてくれ!」
「あ、棘打ちます?」
「いいやそれで副作用でも起こされたら医者として心外だ!」
「あああああヤだもーおおおおお!」

喚く奏音をエドが無理矢理抑え込んだ。
じたばたと、もはや理性が飛んでいるのか普段の彼女の力とは段違いだったが、
それでも鍛えている男のエドに勝てるほどの力ではなかった。
だが、かなりのギリギリらしく次第にエドの額にも汗が浮かぶ。

「えっと、ウチに手伝える事ってありますか?!」

周りの騒音、主に奏音の悲鳴だが、それに負けないようほぼ叫ぶように奏美が話しかけた。
それに対し医者も同じように返す。

「では青い石が中心についている小箱をとってくれ!」
「はいっ!」

彼が目線で示した場所に駆けていき、それを見つけ出す。
それを渡すと、近くにあった透明なケースに真っ逆さまにした。
するとケースの中には沢山の医療用の道具が浮かび、彼が手を出すと思い通りの物が手に吸い付いていた。

「すごい…。」
「では次湯を人肌に沸かせ!」
「はい!」
「その前にその男の汗を拭いてやれ!」
「あ、エドの?!」

奏美は慌ててエドの汗を拭き、礼を背中で聞きながら水瓶まで走っていく。
適当な盥に水を入れ、ありがたいことに図解されている使い方に従って湯を沸かす。
ほんの数分で人肌よりも少し温かいくらいになったので、零さないようにしながらも
急いで三人の乱闘と言ってもよい状態の場所へ戻る。

「ではもう下がっていろ邪魔だ!」
「え、でも……。」
「奏美は家に戻っててくれ!」
「いやああああ置いてかれるううぅあああああッ!」

必死に手を伸ばす奏音と、その手を抑え込むエド。
医者はその様子に悪態をつきながらも、的確に処置を進めていく。
エドに言われては仕方が無いと、奏美は自分たちに割り当てられた小さな建物に入った。



「うーん…一応掃除しよっかな。」

十分ほど、小さなリビングに座って待っていたが二人が帰ってくる様子はない。
あちこち探検してみると、やはり寂れてしまった宿場町。
管理する家族だけでは掃除が間に合わなかったと見える場所があり、奏美はそれを決意した。
窓を開け放し、入ってきた風で舞い上がった埃に咳き込みながら布団を払う。
動かすたびにまるで煙のように塵が落ちていき、戻ってきて良かったと心の中で思った。
咳き込みながらも掃除を終えて一息ついていると、奏音がエドと医者に抱えられ戻ってきた。

「酷い…酷いよお……。」
「もう寝ればいいだろううるさくて仕方が無かった。そこらの子供の方がまだ耐えられる。」
「まぁまぁ、奏音は正直すぎるんだ。」

妹の奏美ですら見たことの無いくらいに意気消沈した奏音は、
めそめそとしながら傷口である足をできるだけ床に触れないようにしながらソファの上で丸くなる。
医者はその様子を道端のごみでも見るような目で見ながら、エドから金を受け取って無言で去って行った。
入れかわるようにここの管理者の娘が、食事をもってやって来る。
エドは流石に哀れに思ったらしく、奏音を慰めるために手が離せなくなってしまったため奏美が対応した。

「大丈夫でしたの?」
「あ、ありがとうございます。……ま、姉ちゃんの自業自得なんで。」
「でもあれは事故でしょう?墜落からあの怪我で済んで、本当に良かった。
 ……あの医者に、何かされませんでした?」

娘が声を落として奏美に質問する。
その場には短時間しかいなかったので、エドにどうだったか聞こうとしたがそれは不可能だった。
代わりになぜ、そう質問するのか娘に聞いた。質問に質問で帰すなど無礼だと
口に出してから奏美は思い直したが、娘はそれを気にしてはいないようだった。

「実はですね、あのお方は本当に信頼のおける医者……いえ、そもそも本当に医者なのか……。」
「え?…無免許ってことですか?」
「免許?いえ、それこそ国王側近の医者でない限り、医者に免許なんてありませんわ。
 ただ、あのお方が見えてからこの町は宿泊客が増えたのですが……その……。」
「その……?」
「怪我や病気になる人が増えたんですの。」

周囲に気を使い、近くにいる奏美にすら聞きとる事がやっとの位の声で娘は話し始めた。
曰く、約一月前はいつものように宿泊客は少なく、それでいて平和だった。
そんな時にあの医者が現れ、纏まった金をだし無くなったらまた言うようにと吐き捨てて、
町の中で一番上等な建物に住み着いてしまった。
この宿場町は、色々な国へ行く中継地点という位置づけであり、人は長くても5日しか滞在しない。
彼が泊まり始めてから宿泊客も増え、全盛期程とは言わないものの活気を取り戻したことから
両親たちは神のようにその医者をあがめているが、自分には信用しきれない。
それは今まで前例がなかった、宿場町での病気の集団感染や、近場で原因不明の理由で怪我をして
やむを得ずこの宿場町に滞在しあの医者から手当てを受ける。
だが、彼自身は病気になったことも、けがをしたこともないから、なにかが怪しい……と。

「わたくしが勝手に思っているだけなのですが……ふふ、すみません。
 なんだか話してみたくなってしまいまして。」
「あ、大丈夫ですよ。話を聞いたらウチも、なんとなく気になっちゃって。」
「…じゃあ、お姉さまの怪我も…?」
「いや、あれは本当に自業自得です。調子のって毒持ちの植物を自分の足にかませて、
 予想外の痛さに飛び上って、木の枝踏み抜いて貫通しただけなんです。馬鹿な姉なんです。」
「あ、そうなの……。」

意外だと言うように、その娘は笑った。
それから食べ終わったころを見計らって皿を下げに来ると言った。
最後まで片付けや捜索を手伝ってくれたあの宿泊客には、到着したばかりで疲れていると
言って、皆で食べられないことを納得させたという。

「奏美、なんだって?」
「ん?あぁ、食べ終わったころに下げに来るってさ。」

娘が建物を出て行ってしばらくしてからエドが声をかけた。
奏美のその答えには満足していないらしく、無言で手招きをする。

「何?こっちに夕食もってきた方良い?」
「そうだな。どうせならこっちで食べるか。奏音は寝てしまった。」

だが、エドの手の中にある小瓶から自分の姉は強制的に眠らされたのだと悟った。
しかし気付かれたことに対してエドは悪びれる様子もなく、それどころか奏音の顔をつまみ
本当に眠っているのか、眠りの深さはどれくらいかを確認していた。

「大丈夫、姉ちゃんは一回寝たらよっぽどの事が無い限り起きないよ。」
「その『よっぽど』っていうのが…。」
「津岸さんとか、ゲームの発売日とか、見たいテレビとかそこらへん。」
「ツギシって人は娯楽と同列なんだな……。」

同情するようにエドが言った。奏美も思わず、彼の苦労に同情してしまった。
それからエドは、娘が言った事を事細かに聞いた。
医者が疑われている、という所まで話を聞くと彼は笑い出した。

「…ま、まぁ……あいつが使っている薬や治療法は、間違ってないから。」
「どうして?」
「俺も多少は医術を知っている。その俺が知っている薬と方法だからな。
 たぶんあいつは疑われていることを知っているよ。だからこそ、素人でもわかる初歩的な方法で奏音を手当てしたんだ。」
「そうなんだ…。」
「誤算と言えば、俺達が食堂に行かずに夕食を食うことだろうな。
 多分、あいつは食堂に行かないで、他の奴らが俺達を質問攻めにすることが狙いだったんだろう。」

エドは窓を指さした。
奏美が外を覗くと、確かに医者の泊まっている建物には明かりがついている。
もちろん、他にも明かりのある建物は存在するが、中には人影が写っているのが大半だ。
しばらく眺めていると、微かに医者のいる建物の窓から光がさし、またすぐにそれは消えた。

「あまり心地よくないな、監視されるのは。早々に諦めてくれるといいんだが。」

本当に具合が悪いように、エドがつぶやいた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.147 )
   
日時: 2014/09/10 11:53
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:501YiWMk

「ねみぃ。あたしは眠い。」
「……。」
「姉ちゃん……。」
「あたしは眠いんだよ。分かる、ねぇ?
 分からないんだったら外を見てごらーん、空の色は黒いねぇ、星も見えるねえ。」
「奏美…。」
「うん、分かってるよ。……。」

ぐちぐちと奏音は文句を言っている。それをエドと奏美が半ば呆れた目で見るのはいつもと変わりはない。
だが、決定的にいつもとは違うことがある。
第一に、奏音が文句を言っている相手は上の二人ではないということ。
そして小屋の中でエドと奏美は武器を構え、十人を超える人間と対峙しているのだ。

「はぁ…小さい部屋で戦うことは好きではないんだがなぁ。」
「エド、そういうこと言ってられる状況?」
「俺一人なら、まぁ。……いや、足手まといなんて思ってないぞ?」
「……。」
「本当だぞ?」
「……まぁ、ウチはとりあえず頑張る。やれるだけの事はやって見せる……から。」

エドに対し言うのではなく、奏美は自分自身に対して言い聞かせていた。
狭い部屋、大人数、戦い慣れをしていない。ハンデを挙げればきりが無いのはひしひしと感じている。
まっすぐに切っ先を相手に向けるものの、僅かに震えているのを奏美は分かっていた。
更に、それは敵方も分かっていることも。
奏音は武器も出さず、相手に不平を漏らしていることが挑発ととられ、避けられている。
ならば、一番に狙われるのは自分であることを理解している。
あの時反射でふるった武器が、気付いたら生暖かい液体を全身に浴びていた事が。
戦いに集中しようとも、嫌でも頭の中に浮かんでくる。
と、彼女の肩にぽん、と手が置かれた。その手の主は奏音だった。

「姉ちゃ――」
「帰れって言ってんだよおおお!眠いんだ!あたしは寝るんだあああっ!」
「……姉ちゃん……。」

安心させてくれるのか、そう思った次の瞬間の姉の言葉だった。
皮肉にも、ある意味戦いを望まない奏音の声を合図に戦闘が開始された。
この小さな小屋での戦いが、宿場町での戦いの合図だったのだろう。
あちらこちらから悲鳴と、刃物のぶつかり合う音、力を使った破壊の音が聞こえてきた。

「……奏音?」
「ああああうるさいうるさいうるさい!あたしは寝るのに!寝たいのに!」
「こいつ…。」
「いったん、退くか?」
「逃がすかああああッ!」

奏音は起きているのか、それとも寝ているのか。
その場にいる人間にはだれにも分からなかった。おそらく本能のままに行動しているのだろう。
相手方も奏音を見ていなかったことを後悔しているのと、まさかの奮闘ぶりに唖然としているのが大半である。
隙を見てエドが彼らの頭を思い切り殴り、あるいは斬り縛っているがそれでも奏音は注目の的だった。

「姉ちゃんって…こんなに強かったの?」
「いや、理性が吹っ切れているだけじゃないか?」
「え、でも素質はあったって…うわっ?!」
「ぐっ……!」
「……。」
「一応縛らせてもらうぞ。」

不意を突かれ、奏美は思わず切りかかってきた相手の頭蓋を貫いてしまう。
エドに縛られながらも、がくがくと痙攣をし血を吐きだす男を直視することはできなかった。
覚悟を決めた、そう言い聞かせ奏美は吐き気をこらえつつ部屋の中の男たちを睨みつける。
残っているのはもう数人だ。そのうち一人は奏音に馬乗りになられ殴られながら、ほぼ泣いている状態だ。

「油断するなよ、奏美。」

男を縛るのを諦めたエドが奏美に語りかけた。その男は、首に新たな穴をあけられ絶命していた。
頭を貫かれたのだから時間の問題だった、最終的に殺したのはエドだ。
しかし、直接の原因を作ったことを自覚している奏美はもうそれを見ることはできなくなった。
体を動かし、できるだけ役に立ちたいが、体が動かない。
奏美はただ威嚇するように武器を構え、エドが作業のように残りの男たちを始末するのを見ていた。
最後に奏音を引っぺがし、血と涙でぐちょぐちょの男を縛り上げると、エドは立ち上がった。

「とりあえず、終わったかな。……奏美、戦えるか?」
「う、うん……。」
「……まぁ、いいか。奏音、お前は起きてくれ。」
「……寝る。寝るんだ…。」
「それっ。」
「ぎゃあああああ!」

エドに足を踏まれ、奏音が絶叫する。
せっかく塞がっていた傷口も少し開いてしまったらしい。
ぱくぱくと口を開閉し、驚愕と抗議に満ちた目で奏音はエドを睨むが、
睨まれた本人はただ笑顔で奏音に対して武器を握らせた。

「最低限、自衛はしてくれよ?」
「…へ?」
「さぁ、こっからが本番だ!」

エドが扉を開け放した。そこでは、戦いが繰り広げられていた。
宿泊客の首が棒の先端に刺され、その下ではその持ち主の体が無造作に転がっている。
また、屋根の上で戦う者たち――おそらく屋根裏から逃げようとして、それに気づいた追手もいたのだろう。
互いに踏み外し屋根から落ち、折れた手足の痛みに悲鳴を上げる。
多少戦に心得のある者もいるらしいが、それでも劣勢は覆せないようだ。
鉄と火炎と肉の臭い。奏美は、まだ排泄物の臭いが加わっていないことに安堵してしまっていた。

「じゃ、頑張ってくれ。一応危なくなったらすぐ駆けつけられる距離にいるから。」

そう言い残して、エドは混乱の真っただ中に突入し、すぐさま賊の一人の首をはねた。
その首はただ無造作に転がるが、だれの目にも入ってはいなかった。





既に空は白み始めている。深く茂った森の中、男たちが輪になって眠っている。

「カボ。」
「なんだい?」
「すまねェ。彼は、どんな奴だった?」

身を起こしたケイが、顎で今は眠っているジョナサンを指していった。
それに対し、他の男たち、もちろんジョナサンも含めて眠っているか確認するように彼は合図した。
ほどなく、皆眠っていると確認が取れカボが離し始めた。

「ありきたりな人生だ。貧しかったが、成り上がる事に成功した友人のおかげである程度の地位に付けた。
 しかし任務に失敗して、捕虜になった。そこを逃げ出した所、その友人がやってきた。」
「へぇ。」
「ただ、その友人は始末屋で、生きるためにそいつを殺して逃亡中。
 今は薬による支配下で、それに従って行動していて、それで生き残れたら万歳って考えている。」
「なんだ、それだけか。」
「もっとあるかもしれないが、話すつもりはないだろう。
 読唇にも限界がある……声を出して話さなかったから、おそらくこちらに心は開かないだろう。」
「……そうか。」

ケイはジョナサンを起こした。
正確に言えば、起こそうとして手を動かした瞬間、彼は目を開けた。
起きた瞬間、目の前のケイとその周辺、さらに自分の体の状態を一瞬で把握したと見える彼を、
ケイは喉に何か使えるような気持ちで見ていた。

「お世話になりました。」
「もう、行くのか。」
「はい。やる事があります。」
「そうか。」
「じゃあ、頑張って。八方ふさがりになったらいつでもおいで。」

カボの言葉にジョナサンはわずかにほほ笑んだ。
次の瞬間、彼の背後で血飛沫があがる。驚きに満ちた顔で後ろを見るカボに、ジョナサンが言った。

「一応お礼のつもりです。ありがとうございました。」

体に巻き付けられた布をカボに渡し、ケイに対し頭を軽く下げ、ジョナサンは走り去った。
やはり薬の効果には逆らえず、少し逸れれば道があるものを低木をギリギリの距離で避けて進んでいく。
しばらくすると、微かな悪態と、何かが水に落ちる音がした。

「池に落ちたか。夜までに乾くといいだろうな。」
「へっ。ああいう奴は意外と死なねえ。……久しぶりの肉だな。」

メスが首元で貫通し、即死だったであろう動物を眺めた。
首が異常に細いが、それは体が異常に大きい。毛皮はおそらく、温かいだろう。
刺さっているメスで首を切り落とした所、その振動と血のにおいで他の男たちは目を覚ました。
一生、再び表舞台に出ることのかなわない男たちは、深い森の中に消えていった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.148 )
   
日時: 2014/09/10 11:54
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:501YiWMk

アリーは再び牢獄に戻ってから、監視の目を盗んで牢の様子を調べていた。
今までの事から見回りの時間と大体の収容人数は把握していたが、用心に越したことはない。
イレギュラーは常に発生する危険を孕んでいる。既にアリーは二つのイレギュラーを体験していた。
まず、おせっかいな見回りがいること。
名前も地位も知らないが、お節介にも食物を差し入れるなどの行為が目立つ。
二人一組で行動するからこそ見回りは成立するのに、彼は独自行動ばかりしていた。
一度本気で怪我をさせたが、それでも彼はアリーを避けるでもなく、担当を外されることもなかった。
第二に軍師フェビアンである。彼が一番の問題であった。
王族であるにもかかわらず、プライベートで自分に関わってくるのはアリーの予想外であった。
彼のせいで余計な物を腹に入れることになってしまったのは、アリーの心に焦りを生んだ。

(あと五分……一応、寝るか。)

体感的に、そして一度外に出た時に盗み見た時計の示していた時刻によって、
現在の時刻も大体わかるようになっていたアリーは大人しくベッドにもぐりこんだ。
こちらに入ってからはろくに動いておらず、体力の衰えも気になる。
一応、牢で重点的に調べる個所は決めている。反動が他の個所と違う壁の所だ。
補助具を使わないでも影響のない範囲で、その壁の場所は感知している。
他の補助具や、武器になりそうなものは組み込まれていない。

「おい、壁に背をつけ、両腕を挙げろ。」
「……分かったよ。」

見張り兵が、初日に入れられたとき以来やっていなかった牢内の検分を始めた。
同郷の人間、しかも血の繋がった兄弟にあったのであるからなにかしら渡されていないとも限らない。
その判断は至極当たり前の事であったが、アリーには面倒なことであった。
轡をかまされ服の中まで調べられてから、今度はとびかかられないよう柱に縛られる。
念のためとでもいうように、抜身の剣を首元に突きつけられた。

「何もない。引き上げだ。」
「チッ」

男が手を一度だけ振ると、轡とアリーを縛っていた縄が彼の腰のベルトに収まる。
アリーが誰かと通じていて、罰することを望んでいたのだろう。
言う事を聞かない囚人を罰するための鞭のほかに、拷問用の鞭が隠されることもなく身に付けられていた。
あまりの愚かさに思わず笑いそうになると、その雰囲気を察したのだろう。
目にも止まらない速さで拷問用の鞭が振り上げられ、アリーの左腕の皮を裂いた。
右腕にもつけようとしたのかもう一度腕を振り上げた所で、もう一人の見張り兵がその腕を抑える。
もう一度舌打ちをし、アリーの顔に痰を吐きつけてから男たちは出ていった。





「はぁ……はぁ……。姉ちゃん、生きてる?」
「ん、まあね。…あたしってすごいんだね!いやー大天才様だ。」
「……。」
「お前ら喋る暇があったら手を動かせ!何のために手当てをしていると思っている。
 特にお前あれ程騒いでおいて結局傷口を開かせるとはどういう了見だ」
「それはごめんってば……。」

明け方になり、太陽が昇ると賊は引き上げていった。
食いあぶれた連中の連合であったらしく、一人一人の腕はたいしたことはなかった。
防衛に徹していれば奏美ですら防げたことから、彼らがこうなったのは仕方のなかったことだろう。
しかし、人数が多すぎた。
敵味方が入り乱れていた状態では、無茶苦茶に武器を振り回す事ができない。
実際、賊にも宿泊客にも味方の刃で倒れた人たちがいくらかはいた。
エドも彼本来の戦い方をすることはできず、怪我をすることはなかったものの消化不良であった。
生き残りを医者のいる建物に運ぶため、倒壊した建物を中心に探し回っていた。

「いやさぁ、謝ってるじゃん。こっちまで歩いてきたじゃん。」
「……奏美さんトリアージ次は?」
「えっと…重症が終わったから、軽い方から二番目。」
「待機ならば7名!それか!?」
「ねえ無視なの?!ここでもあたしは蔑ろにされるの?!」
「戦力外は土俵に上がる事すら許さない!どうなんだ、待機群か!」
「あ、はい!とりあえずここの娘さんからお願いします、お湯沸かします!」
「けっ、今に見てろ。……イケメンいるかなー?」

奏美は医者の助手として忙しく駆け回っている。
同じく死を見る必要があっても、救おうとした結果見ることの方が心ははるかに楽だったためだった。
奏音は足を引きずりながら外に出た。
そこには、エドにより縛られた男たちがむすっとした表情で座っていた。
陽が昇ったことにより見捨てられ、人質もかねてこちらへと連れてきていた。
簡単な手当てがされたが、医者はなかなかのやり手だった。
ある程度離れると、途端に痛みがまし血が噴き出すまじないが彼らに仕込まれてしまっていた。

「ど?元気出た?」
「……。」
「つまんね!こいつらつまんね!少しは喋ってくれていいのにつまんね!」

一番元気そうな――つまり、余計な出血をしていない人物が奏音を睨んだ。
無理やり起こされたことにより本能のままに殴りつけた奏音を、彼が恨んでいないはずはない。
しかし当の奏音は寝起きの曖昧な意識でそれを行い、そんな記憶は全くと言っていいほど残っていなかった。
他の人々はエドに殴られた事による脳内出血や、そもそも斬られたことによる怪我で
意識を正常に保っている者が、奏音を睨んだ男しかいなかった。。

「……ところでさー、なんでここを襲ったわけ?」
「どうでもいいだろう。」
「お、喋ってくれた!」
「…喋ることくらいできる、大馬鹿もの。」

一矢報いたとばかりにその男が笑う。

「……まあいいけどさ!あたしも馬鹿だしさ!
 で、質問プラスワン。名前と年齢と出身国なんかアピールポイントを五千文字以内で述べよ。」
「五千?!…名前はヒロイチ、19だ。出身は強いて言えば湊貝村。この世界の人間じゃねえ。」
「つまり来訪者?」
「知らんが、そう呼ばれたりもする。」

奏音は呆然とした。まさかこんな場所で来訪者に、しかも日本出身のそれに出会うとは思ってもみなかった。
言葉を失った奏音に対して、ヒロイチは一瞬首をかしげる。
だが、来訪者が珍しいということを知っていたので、ただ物珍しいのだと納得させた。

「あぴるーぽいんと……?というのはよく分からない。この世界の人の言葉は難解だ。」
「……。」
「あとは襲った理由だったか。金だ、金。むしろそれ以外になにがある?」
「いや、女だぜヒャッハァーみたいな。……いやそうじゃなくて!」

奏音は存在を確かめるようにべたべたとヒロイチの体を触る。
それが不快だったのだろう、腕を振り払おうとして逆に傷口を痛めたらしい。
思わず漏れ出た呻きに、奏音はガッツポーズをする。
そのポーズと、浸っている余韻の理由を彼は知る事ができなかったが、
多少動いても奏音が反応を示さないことについて、内心いたずら心が芽生えてしまっていた。

「うおぃでええええッ?!」
「はっ、弄り回したお返しだ。」
「いや掴むの…?痛い、力強すぎ、痛い……。」
「ざまぁ見やがれってんだ、なぁ?」
「ヒロイチ、変な女だなぁ。」

エドによって左腕を落とされた男が目を開けた。
おそらく意識は大分前に取り戻していたのだろう、奏音とヒロイチの会話の内容に割り込んだ。
それにヒロイチは驚く様子もなく、奏音は思い切り腹を握られた痛みで蹲っていた。

「へっ、乳を揉まれなかっただけ有り難く思え。」
「うっせ、揉まれた方がまだ嬉しかったわ……痛い、内臓ずれたかも。いや、潰れた?」
「ルカ兄貴、どうします?」
「面白い女だなぁ、本当に。」

体を起こそうとするルカに、ヒロイチが手を貸す。
腕が無くなったことによりバランスが崩れたらしいが、気にするそぶりは見られなかった。
上半身にまとっていた服をほぼ脱いで、握られた場所が赤くなっているのを奏音は確認していた。
そろりと音もなく忍び寄ったルカが、奏音の胸に手を当てる。

「……セクハラっすよ?手つきがいやらしい、スケベオヤジ…ん?年齢的にお兄さん?」
「金目当ての俺らに、違う選択肢を期待したのは、あんたじゃあないのかぁ?」
「やっぱそれも入ってんじゃん…。」
「ルカ兄貴、何を……。」
「いや、あたしは全然いいけどさ?えっとヒロ…ヒロイン……じゃない、えっと?
 ヒロなんとかくんもルカ兄貴とご一緒する?」
「はああぁあ?!」
「面白ェな、やっぱりよぉ。」
「あ、不審な動きしたら容赦なく握りつぶすけ」
「姉ちゃん、仕事!…って、なんで服着てないの?!
 ……とりあえず服着て!それで、トリアージの待機群が終わったから軽症の人探して!」

侮蔑に満ちた目で、奏美は用件だけ伝えると建物の中に顔を引っ込めてしまった。

「というわけで、お預けでした。」
「ははは、妹かぁ、愉快な女だなぁ。」
「奏美には手を出した瞬間、あんたを物理的に男から卒業させるからね?」
「お前は精神的に女を卒業してねえか、おい……。」

ヒロイチの言葉に返すことはせず、奏音は重い腰を上げた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.149 )
   
日時: 2015/05/04 08:21
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:AfG52.e6

技術者の朝は早い。特に想良は新入りだということで、まだ太陽も昇らないうちに起こされた。
ナタリーが小声でいってらっしゃい、と軽い食事が入った包みを渡しながら囁いた。
家の子供たちを起こさないようにそっと出ていき、冷気で目を覚まさせる。

「ソラー!」
「…ん?あ、キルシ君!」
「へへへ、父さんが呼んでくるようにってさ。ナタリーおばちゃん、起こしてくれたんだ。」
「うん。キルシ君は、いっつもこの時間に起きてるの?」

想良の問いに、キルシはニヤリと笑みを浮かべた。

「まっさか!…ラリーがいなくなっちゃったからさ、俺が朝の当番なんだ。」
「え、じゃあ私も?」
「うぅん、ソラはやらなくていいんだよ。」

手をつなぎながら、二人で仕事場へと急ぐ。
キルシの父でもあるこの集落の技術者の親方は、既に外に出て腕組みをして待っていた。
月明かりしかないので、そのシルエットは鬼のようにも見える。
着くのが遅くて怒っているような雰囲気を感じ、想良は思わず小走りになる。
必然的に彼女より小さいキルシも小走りになるが、彼はなぜ更に急ぐのか分からないようだった。

「おう、来たか。」
「はい。えっと、遅れて……。」
「時間通りだ。キルシ、お前は…。」
「掃除でしょ!行って来まーす。」

慣れっこだと言うように、キルシは箒を作り出してから建物の裏に消える。
小石が跳ね上がり、ぶつかる音がまもなく聞こえてきた。
早く来るように、そう言われていた想良は何をすればいいのか分からなくて立ち尽くす。
親方は何の指示をするでもなく、ただ想良をだまって穴が開きそうなくらい見つめている。
屈強な男にただ見つめられて、想良は途方に暮れた。

「えっ、あっ……本日よりお願いします!」

挨拶か、と思い立ってすぐに想良は迷惑にならないであろうギリギリの声量で喋った。
礼も腰から折り曲げ、試合でもこんなに緊張することはなかった……と回顧する。
しかし親方は何の反応も示さず、恐る恐る想良が顔を上げると中に入るように顔を動かしてから、
彼自身が先に建物の中に入る。

「おじゃまします……。」
「……。」

消え入りそうな声で言いながら想良が入ると、既に建物の中は明るかった。
親方は既に腰かけており、想良を一瞬みると向かいの椅子を指さした。
想良が座ってからも、彼が口を開くことはない。
パタパタと掃除を終えたキルシが想良の前にやってきて飲み物を置いた。
一瞬親方の目が息子を捕らえた。キルシは一瞬恐れたような目をして、奥へと引っ込んでしまう。
キルシの足音が遠くに行き、やがて聞こえなくなっても、どちらも口を開かなかった。
――なにかおかしいことをしたか、自分が丘の上に住む人間だとばれてしまったか。
まるで尋問を受けるような気分で想良は親方が口を開くのを待った。
何分ほど向き合っていただろう。数分だったかもしれないし、数時間かもしれない。
緊張で胃痛を感じ始めたころ、ついに親方は口を開いた。

「姫さ……ソラ。お前、あの力はどこで入れた?」
「力……?」

質問の意味が分からない、というような想良の反応に親方はもう一度口を開く。

「あのペンダントはな、触れた人間の力を底が尽きる寸前まで引っ張り出すもんだ。
 どんなに多くても……国や補佐の主でもあそこまでいった奴はいねえ。」
「あの、つまり……?」
「初めは故障も疑った。なんせ、俺の祖父の代から使ってるもんだ。
 だが、どこもおかしい所がねえ。となると、お前の力の量が多すぎるとしか考えられねえんだ。」
「……。私は、力なんてありません。未だに……属性攻撃?とか、できないんです……。」

想良は呟いた。それは彼女が感じている本当の事だった。
本人の状態によってムラはあるものの、奏音は初日から大きな刃物を作り出した。
また、植物を支配下に置くというのも珍しいと聞いたことがある。
奏美もつい先日、能力を覚醒させた。制御こそできないものの、大量の雪を作り出していた。
親方に言われて初めて、想良は劣等感を明確に感じた。
試験に合格したりジルの世話人を内密に頼まれたり、秘密裏に行動し他人を欺いているということに
優越感を感じていたものの、それも二人と比べて小さいことだったと感じられた。
俯き、何も答えられなくなった想良に親方は偽りを感じなかったらしい。

「力が有り余っているっつうことは、支配できりゃあ優秀な技術者――いや、それどころじゃねえな。
 この世界でなんでもやっていける人間になれるって事さ。」
「でも、私なんかに……。」
「ソラ、お前に力がねえっていうのが、嘘だ。力自体はある。諦めねえことが大事だ。
 確かに同年代と比べちゃあできる事は格段に劣るが見返せるだけのもんはある。
 鍛えりゃそこらの奴らは泡吹いて死んじまうさ。」
「私は……そんな……。」
「だいたいラリーよりは若いからまだやれる。
 ……あいつも諦めなけりゃ、それなりのもんは作れたはずなんだけどな……。」

親方の言葉に、思わず想良は顔を上げた。口をつけていたカップを、もう少しで落としそうになった。
あまりの勢いに、どうしたのかと彼は顔を想良にむける。
自分のした行動に気付き、想良は恥ずかしさで思わず顔を染めるも、親方をまっすぐに見ていった。

「それってつまり、ラリーさんにも力はあるって事ですか?」
「あぁ、そうさ。あいつは自分が力をつかえないから、力自体がねえと勘違いしてやがる。
 実際はこの集落であいつほどのもんを作れる奴はいねえ。あいつの親だって、あいつは超えられる。」
「じゃあ、なんでラリーさんは……。」
「どっかのクズが、親の死に様を漏らしたせいだろ。ただ、そっから這い上がれない時点であいつの負けだ。
 ……ソラ、話題を戻すぞ。その力、どこで手に入れた。」

想良は答えられなかった。生まれた時――いや、この世界に来てから発現したのだ。
しかし、来訪者だといえばどこに住んでいるか聞かれるため、確実にそれをいう事はかなわない。
ただ黙っていると、親方は立ち上がった。

「言いたくねえような事して手に入れたのか、言えねえようにされてるのか。
 どっちにしろ構わねえ、お前は俺の弟子になった。逃げることも、弱音を吐くことも許さねえ。」
「は…はい!」
「うし……。じゃ、野郎どもを起こして……いや、それはキルシがやるか。
 お前は女どもと飯を作って、それから修行場に来い。」

そう言い残すと、いつの間にかやってきていた技術者の家の女に想良を預けて、
自身は工房へと消えた。なんでも、さる身分の人への献上品の依頼が来ていたらしい。
想良と同年代のその女――エステラが彼女を厨房に案内した。
そこでは既に、5人の女性がせわしなく動いていた。
いくら補助具があり、過程が省略できるのだといってもやはり忙しいらしい。

「ソラちゃんは、今日は簡単なのをお願い。この皮をむくぐらいなら、簡単だもんね?
 私も一緒にやるから、ガンバロ?」

そういってエステラが想良に渡したのは、籠いっぱいのリンゴのような果物だった。
ただしリンゴと違うのは、その色が青みが強いことと、味が芋のようなものだということだ。
こちらではこれが主食になっていることが多い。
あまりの多さに想良が呆然としていると、これでも少ない方だとエステラは想良の隣に座りながら言った。
そうして、力を使いつつ皮をむいていく。

「え、包丁じゃないの?!」
「……なにそれ?」
「え、あ、ごめんなさい……。」

驚いたが、包丁で向くという習慣が無いということを悟った想良は胸元から小刀を出した。
それを使い、無心で剥いていく。
一つが終わり、あまりの大きさと重さに手にしびれを感じていると、むいたそれが手を離れた。

「はい、次だよ、ソラ。」

笑顔で小首を傾げながらいうエステラ。彼女には人を従わせる何かがあるのだろうか。
次の物を受け取った時に、エステラは既に仕事を放棄していることが分かった。
ただ想良の剥いたそれをしげしげと眺めている。
周りの騒音と、早くしないかという無言の訴えを感じた想良は、目の前の山積みのそれに集中した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.150 )
   
日時: 2015/05/04 08:27
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:AfG52.e6

傷の手当、ならず者の捕縛。すべてを終えたといってもよいのは、もう昼近くになってからだった。
不干渉の地域であることから付近の国からの協力や支援を得ることができず、
犠牲になった者も一般市民のみであったので、これから報復などで国が動くことはありえなかった。

「……。」
「大変だね、これから。」
「姉ちゃんは気楽だね……。遅行性の毒とか、ウチ初めて見た……。」

また、襲ってきた者たちはどこの国にも属していない――つまり、過去に追放された者たちの
子孫であったことから出身国などがないことも分かった。
たったこれだけの事を聞き出すのにも、多大な時間と犠牲が必要だった。
争いによって死んだ者、逃げられないと自害した者、そしてなぜこんなことをしたのか
どこの国の者か聞き出すために、身内が傷つけられたことにより我を忘れた人間に拷問されて死んだ者。
さらに、宿屋の娘が内通者がいるのではないかと常々心配していたということが
どこからか漏れてしまい、宿泊客が互いに疑心暗鬼になってしまったことも原因だった。

「すまねえな…疑って……。」
「別に構わないけどな、原因があるからこそ疑われるんだ。」
「あぁ、でも、まさかこんな所に……王族……。」
「だから俺達は王族じゃなくて、……もういいや。」

三人が疑われなかったわけではない。
むしろ、三人がやってきたその日のうちに賊が来たものだから、一番に疑われたのは彼らだった。
しかし宿屋の娘は彼らが来る前から内通者を疑っていたこと、奏美が医者の手伝いをしていたこと、
奏音が賊の目的を聞き出していたこと。
更に、エドが賊の捕縛に積極的であったことと、マティーの偽造したカメリア王族の署名のある書状を
持っていたことから除外された。

「大変なことになっているようだな。」
「あぁ。」
「嘆かわしい、生命は平等だというのにこの有様は!」

客たちに拷問された賊の手当てを終えた医者、ジークが手についた血を拭いながら出てきた。
中を見ると喉に管を通された女性が虚ろな目で天井を見ていた。
医者は客たちの裁判に加わろうとしなかった。興味が無いとでもいうような雰囲気だ。
だが、彼の手当てによって一命をとりとめた者の仲間や家族の元へとつかつかと歩み寄った。

「あ、……ありがとうよ、お前がいなかったら……。」
「礼はいらない。それよりも、治療費だ。」
「……は?」

大切な人を救ってくれた救世主に、握手しようと差し出した手が空中で止まった。
信じられない、というような目で見ている。

「どうした?」
「いや、え、……え?」
「お前たちは国で医者にかかったこともないのか?
 ならば教えてやろうこのような行為をしてもらった人間は対価を渡さなければならないのだ。
 それは私は金でいいと言っている。」
「な、なに言ってんだ……!こんな状況で、金って……。」
「私は善意で動く医者ではない。どんな聖人も悪人も同じように処置していくそれが私だ。」
「……。」
「そしてその対価が金。金さえ貰えればどのようなものの命も最大限救えるよう努力する。
 今回は緊急事態ゆえ普段と順番が前後した。さあ治療費を払え!」

まさかの態度に、言われた人間だけではなくこの場にいるすべての人間の動きが止まった。
皆、国で医者にかかるには金が必要なのはもちろん知っている。
だが今回はイレギュラーの状況であり、賊に財を持っていかれた者たちもいる。
理屈や道理から言えば、医者であり命を救ってくれたジークに対しそれなりの対価を渡すのは理解できる。
しかし、このような混乱した状況でこれを言うのは、他の人の反感を招くものだった。

「金、金、金って…!そりゃ、感謝してるけど!」
「だいたい今言う事なのか?!」
「今言わずにいつ言う?この混乱に乗じて逃げようとする者がいないと言えるのか!」
「だ、だったらあの賊だって……!」
「あぁ、それならば問題ない。」

ジークがそう言うと、民の間を縫って一人の男が進み出た。
それはヒロイチだった。大きく重いであろう布袋を持ち、しかしはっきりとした面持ちで彼に手渡す。
その袋を受け取ると、ジークは自らの鞄を呼び出した。その中から紋様で埋め尽くされた小袋を取り出す。
その小袋に多少の力を練り込んでから、布袋から取り出した硬貨を入れていく。
中に入る量を調整しているのと、予定以上の金額をとらないようになっているらしい。
硬貨が小袋に入らなくなるまで入れると、さっさと布袋をヒロイチに返した。

「賊の方が利口なようだ彼らは私が治療法も含めた代金の話をしたらすぐにこいつを走らせた。」
「……。」
「私は命を救うのには対価さえ貰えれば差別はしないし命を奪うこともしない!
 そんなことも分からないのか?」

金を支払い、森の中に消えていくヒロイチを見ながらジークは言った。
ヒロイチはすぐに他の人間も引き連れて戻ってくると、動ける者全員は自発的に動き、
動けないものと死体は新たに来た人間が担いで行った。
最後に残ったヒロイチが礼をして森へ行くと、彼らはもうそこから宿場町に出てくることはなかった。

「ね、ねえジークさん……あの、もう少し待ってあげても……。」
「奏美さんか。待つのは別に構わないのだが彼らの態度はどうだ?!
 状況やタイミングを言い訳にしただ払いたくないだけだというようにもとる事ができるが?」
「だって、こんな状況じゃみんなだって……。」
「ならば落ち着くまで待って欲しいと頭を下げ請い願うのが道理というものだ!
 それすらできないほどの人間なのか?畜生並の、いや畜生共は恩義を感じればそれ相応の行動をする。」
「畜生って、ちょっと、嘘……。」
「つまり畜生以下というわけだ、この場で支払いを拒む者にとって私が治療した者たちの価値は!」

もはや決裂も同然だった。
ジークには譲れない信念が、その他の者にはもはや揺るがない憎悪が。
奏美は頭を抱えた。確かにジークは頭が固く、また矢継ぎ早に主張を続けるその口調から
反発を買いやすいことはうすうす感じ取っていた。
この場の打開策が見つからず、かといって自分が恨みを一気に引き受ける勇気も切っ掛けもなく。
途方に暮れていると、奏音とエドがいつの間にか奏美の後ろにいた。

「え?」
「行くぞ、荷造りも済ましてしまった。あとは奏美だけだ。」
「でも、え、この状態で?」
「なんか本当は朝に出る予定だったんでしょ?あたしの怪我はちゃんとお金払ってたみたいだし。」
「さ、行くぞ、奏美。この場に残るのは賢明じゃない。」

後ろ髪を引かれる思いで奏美はその場を離れた。
一応自分たちが泊まるはずだった建物に戻り、自分の荷物をまとめる。
とはいっても、荷をほどく暇もない時間を過ごしていたので、
争いのさなか斬られたと思われる鞄を補修するだけであった。
部屋の中でそれが完成するのを待っていた奏音とエドだったが、突如天を突くような
怒声に思わず体を震わせる。
奏美も急いで補修を終わらせ、それを抱えながら外に出た二人の後を追った。

「なにが起こった?」
「うあぁ?!……あぁ、あんた達か。あんたらは幸運だよな、怪我もねえ、盗まれてもねえ。
 俺なんて屋根裏に逃げたら怪我こそしなかったが、荷物は全部持ってかれた。」

近くにいた男――昨晩最後まで手伝ってくれた彼にエドは話しかけた。

「娘さん、今の今まで治療で眠らされていただろ?たった今目が覚めて、医者が金を請求していることに激怒さ。
 んで、あいつが怪しいってここで言っちまった。んで、あの医者が賊を呼んだ犯人だってよ。」
「あぁ……怪しいって言ってたみたいだもんな……。」

思い出したようにエドが言った。
奏音はあまりの剣幕に首を振って、建物の中に戻った。
彼女は元々このような集団で個を責めるような雰囲気が好きではない。
奏美も姉を見習おうとしたが、その姉を助けてくれた人物が多少の誤解は有れど
それ以上に責められるのを見ているのが心苦しかった。
多少の野次馬心もありつつ、奏美は罵声の飛び交う輪の中心へと向かう。
咎めるエドの声は、聞こえないふりをした。
メンテ

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