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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace【42修正】 ( No.66 )
   
日時: 2012/03/09 10:35
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「寝てたから…お前は寝てただろ?」
「何が?…いや、寝てたけどよ。」
「だから何の危機感も無いんだ!あーもう、あぁ!」
「何一人で自己完結してキレてんだい?!」
「だからー…あー、言わなきゃ駄目か?」

一人で悩み、一人で怒り一人で弱気になる兄にレイも思わずあきれる。
レイの隣に腰掛けたエドはしばらく頭を抱えていたがやがて意を決したように口を開いた。
それは想良による諜報で話された事。
途切れ途切れとはいえ話されるそれをレイは黙って聞いていた。
話が終わりエドは息をつく。はじめに口を開いたのはレイだった。

「それがどうしたんだい?アリーは集落全部巻き込んでんだろ…どっかおかしいのか?」
「集落全部巻き込んだのも全部嘘だ…できないだろ、普通。」
「はぁ?別にやろうと思えばできるんじゃねえか?あそこの奴らだって優秀だぞ?」
「無理なんだよ…時間的に。」
「どういうことだ。」
「アリーが帰ってきたのは朝。そして出たのはまだ夜も明け切らない内…一日もここにいなかっただろう?」
「あぁ…なんか結構昔に感じるけどな。」
「それだ。分かるだろう?」

続きの言葉を待ったがもう喋る気も見えないエドは口を開かなかった。
レイはなぜそれが今目の前にいる兄の状態につながるのかを考えるが全く分からなかった。

「話しとくれよ。俺には分からねえ……。」
「……。」
「頼むよ、重大な事なんだろ?少しぐらい、いいじゃねえか。」

耳元で囁くがそれには擽ったそうに身を捩っただけだった。
それだけの反応にレイは物足りなさを感じ身を預け、同じ事を繰り返した。
これには効果があったらしくため息をつきエドは再び口を開いた。

「やめてくれ…俺は身内…ましてや男にまで手を出すつもりは無いんだ。」
「そりゃそうだろ。むしろ手を出されたら俺は死んでやる。で、なんなんだい?」
「時間が無さ過ぎる。それに結構俺達といたから打ち合わせするにも駄目だろ。」
「でもある程度の条件だけ上げて後自由なら…。」
「たしかに。でも駄目な事がひとつ。」
「なんだ…?」
「キルシは技術者の子供。演技で人を騙すような訓練は受けない。」
「…技術者は人が少ないから学ぶのは防衛と逃走技術。そういうことか。」
「わかったか?基本、技術者はお前と同じだ。ただ演技はしない。それにもし演技や戦闘を学んでいるのなら。」
「反乱や謀反が疑われる……。そうか…。」

レイも納得し、それから慌ててエドから離れる。
それから小さく言葉を繰り返した。事の重大さがゆっくりではあるが飲み込めてくる。
顔を上げ口を開く。

「本家に行こう…。」
「は?おい、それは正気か?」
「仕方ないだろ!奏音と奏美と想良は戦えるか?ダイアナの指導とはいえ突貫だぞ?
 対して集落のほうは子供も訓練を受けてる。それに大人もいるんだ…勝敗は見えてるじゃねえか。」
「お前とアリーが守ってやる選択肢は無いのか?今はトリクシーだっている。」
「無理さ…俺が生きてるのだってお情けみてえなもんだろ…。俺が死んでも損害は無い…むしろ得するんじゃねえか?」
「おい…そういう事、」
「事実だろ。泣きながらやってもお役目果たせねえ奴は居なくたって…別に。」
「……そういう風に言うの、やめろよ。」
「あん時死んでりゃよかったのさ。俺、必要とされてなかっただろ?」
「それは…。」
「隠すんじゃねえ!だってそうだろ?三年間放置じゃねえか…。」
「……。」
「出てってくれ。俺は自分の身以外は…むしろ自分の身も守れねえよ。」

そう言われては仕方が無いとエドは立ち部屋から出て行く。
出来るだけ音を立てないよう扉を閉め、下におりようとすると突如首筋に謎の感覚が襲う。
その瞬間、バッと蔓が身体に巻きつきこの感覚の正体が分かった。
核を引き離そうと首の辺りのそれを重点的に千切りながら声を掛けた。

「奏音?」
「…ありゃ、もう取られたか。はいはい、なんでごぜーましょー?」
「こういうのはもうやっても無駄だ。」
「いやいやあたしは日々進歩してるからね?つかわんこ怒鳴ってたねー、どしたの?」
「いや…、まだ話す事じゃない、かな?」
「なにそれ企業秘密的なー?まいいけど。」

別段気にした様子も無くエドから核を受け取った奏音はそれを腰に下げていた小さな箱に入れる。
なにかの培養地なのか土とよく分からないものが入っていたのをちらりと見たエドは見なかったことにした。
嫌な予感が全身を駆け巡った。

「あ、でもさ三年放置ってのは?そこだけならいーでしょ。」
「それは…ただレイが捕まって三年後に帰ってきただけ。でも…うん、死んだ事になってたしなぁ。
 それに探そうなんて動きも無かったし……いらない、と思われてたのは事実だ。」
「まじで?ひっでー。」
「仕方ないんだ…実力が無きゃ捨てられるのが俺達の世界だからな。」
「ふーん、でも今はそんな事ないんでしょ?お仕事貰えてるみたいだし。」
「ただ、女の仕事だけどな。レイはあまり戦いに向かないし…諜報は女の仕事だから。」
「え、それってわ!」

突如奏音の姿が消えまさかあのいつかの少女の仕業かと武器を構えようとした。
だがすさまじい音と何かがぶつかる音で彼女がただ単に階段から落ちたのだと分かった。
顔をしかめ階段を重い足取りで再び上ってくる彼女をエドは苦笑しながら迎えた。





「でき…不恰好だなぁ。」

小刀で作り上げた木彫りの人形…のような物。
手先は器用だと自負していた物のあまりの出来に想良はそれを脇にやった。
なにか設計図のような物でも作るべきだったと今更ながら反省する。
だがそれを誰かの手が取るのを見てその手の主を見るとそれはキルシだった。

「すげーじゃん、小刀だけでこういうのできるの?」
「まあ…不恰好だけどね。」
「そんなことないってー、今日はさ、何か作ってくれる?もうすぐみんな来るんだ!」
「そうだね…そうだ、今日は折り紙やめてさ何か違うの作ってみようか。」
「ほんとー?」
「うん。あ、そうだ糸ってある?色んな色あるといいんだけど。」
「うん!待って、持ってくるから!あとみんなにも来る様に言ってくるよ!」

そういって飛び降り笑いながら駆け出していった。
それを見送りながら思う。あれも演技なのだろうか、と。

(なんか人間不信になりそうでやだな。)

そう思いながらももう一つの木片に今度は印を付けていく。
大まかな形と削る深さ。
それを付け終えるころ、糸を持ったキルシと子供達が走ってきた。

「ソラ、これでいい?」
「うん。へー、色いっぱいあるね。」
「そうかな?でさ、今日は何作るの?」
「ミサンガって言って…お守りみたいな?」
「おまもり?なんか面白そうだね。」
「でもなににつかうのー?」
「簡単に言えば上手くいきますように、みたいな?自然に切れるとき願いが叶うって言われてるんだよ。」
「そうなんだ!つくろー、俺青がいい!」
「えーおれも青がいいよ!」
「大丈夫だよ、糸があれば簡単だから、ね?」

色で喧嘩を始める子供達をなだめつつ順番に希望の色を聞いていく。
そして必要な長さを切り分け渡していった。
ミサンガという未知のものに子供達はわくわくしている。

「あの…そんなに期待されると…こういっちゃなんだけどただのブレスレットだし…。」
「でもすごいんでしょ?願いが叶うんだもん!」
「それはそういう…うーん、作ろうか!」
「うん!」

子供達の期待に満ちた目をみると今更引き下がれないような気がして想良はみんなに見えるように説明していく。
糸を合わせるだけの簡単な作業なので折り紙よりは難しくなかったらしくほとんどの子が自力で作り上げていく。
特別不器用な子も手助けすればスピードこそ遅いもののちゃんと作り上げていった。

「みんなできたー?」
「うん!すごくきれい!」
「わたしこれ大事にする!簡単だったからママにもつくってあげていい?」
「いいよ。頑張ってね。」
「うん!」
「あ、いいなー。ねえソラ、俺の頭もなでてー。」
「え?いいよ。」

一人なでてやれば自分も自分もと来る子供に呆気にとられた。
だがこれも世界の違いだろうと笑いながらそれに想良は答えた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.67 )
   
日時: 2012/03/13 10:05
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「じゃあね、ばいばい!」
「またきてねー!」
「ばいばい。…今日もラリー居なかったなぁ。」

子供達にミサンガを教え少し遊んでから想良は集落を離れた。
仕事場をのぞきラリーが居るか聞いたがどうやら補助具の材料を探しにいっているらしく留守だった。
あと二三日は来ないだろう、とまで言われてしまってはどうしようもなかった。
考え事をしながら歩いていたためかどこかで道を間違ったらしい。家から離れた森の中に出てきてしまっていた。

「ありゃー…あ、ここ向こうから来た場所じゃん。」

見覚えのある景色に懐かしさがこみ上げてくる。
オレンジ色のまだら模様を木々が作っているのを見て暖かな気持ちになった。
奏音を連れ去ったレイを奏美と一緒に必死で追いかけた事が既に懐かしい。

「ん?トリクシー!」
「……想良か…。」

道から少し外れた気の上にトリクシーが座っているのを見つけた。
それはたまたまで周りを見ないで一直線に帰っていたら気づかなかっただろうと想良は思った。
彼女の元へ駆け寄れば向こうも軽い音を立て地に着地した。

「…?どうしたの、元気ない、かな。」
「別に…オレもこういう時くらいあるって事だな。」
「ふーん…でもさ、悩みなら言ってよ?私も少しくらいなら力になれるかもしれないし。」
「本当大丈夫だ。オレは平気、この世界の人間だからさ。」
「世界とか関係ないよ!」
「え?」

普段大きな声を出さない想良のそれにトリクシーも驚く。
彼女の知っている想良と違う雰囲気に戸惑いを隠せていないようだった。

「世界とかじゃない!私もトリクシーも同じ人間だよ?悩みがあっていいじゃん?」
「確かに想良たちの世界だったら悩みとか打ち明けられるだろう。けどオレ達の世界はそういうのは駄目なんだ。
 どこで誰が聞いてるか分からねえんだぜ?それを弱みに色々やらされるかもしれないんだ。」
「そうかもしれないけど私はトリクシーの仲間だから!それに…友達かなって思ってるんだよ…?」
「友達…?」
「そう。…迷惑なら、言ってよ。」
「友達…ともだち……。」

風が吹き、そこでトリクシーは自分が初めて泣いている事に気づいた。
自分がいつから泣いていたかなんて分からない。もしかしたら、想良が来たのも自分が泣いていたからかもしれないと思った。
泣きながら弱みがどうのこうのなんて馬鹿げていると自嘲する。

「ごめん…友達とか、オレ、そういうの、いなかったから…。」
「トリクシー…?」
「オレ、統治者の娘だから…みんな、敬ってて……。」
「うん。」
「だれも、対等に付き合ってくれなくて…。欲しい物みんな手に入るって陰で言われて…。」
「うん…。」
「友達、欲しくって…なのにみんな、オレが行くと恐れ多いって…勝負事も、全部…。」
「そう…。」
「そう。ごめん、泣いて…。でも、嬉しいよ。…ごめん、泣いて…泣いてて…。」
「謝んないでよ…別にいいじゃん、泣いたって。」
「悪い…。」

暖かい色の木漏れ日が二人を照らしていた。





「はー…戻ろう……。」

どれくらいそうしていただろうか。
立ち上がると足の辺りには草の跡がしっかりとついていて服には緑色のしみを作っていた。
一度部屋に戻り着替えて、それから洗いに行こうと奏美は思った。
家に入るとまだ誰も起きていないのか物音ひとつしなかった。
いそいで部屋に入り着替えを済ませ、染みを作ったのを小脇に抱え家を出る。
その時レイの怒鳴り声が聞こえて、寝ていると感じたのは間違いだったのかと思ったがどうでもいい事だった。
水流を辿り、洗濯場となっているところへと行き石に腰掛けた。それから地道に揉み洗いである。
洗剤が無い事をここまで不便に感じたことは奏美は無かった。
染み込んでしまったのかなかなか落ちず自然とイライラがたまる。

「いいや、もう。ウチしか着ないし。」

ぐっと絞りそれを木の枝に掛ける。日が沈むころにもう一度来ればいいだろう。
重い足取りで家へと戻る。

「奏美ー、どしたの?服変わってね?」
「姉ちゃん…あぁ、なんかこけたら土だらけで洗っておいたんだ。」
「マジ?なんだ一緒に頼めばよかったわー…。」
「洗ってないの?本当言えば洗ったのに。」
「残念…わんこにでも洗わせるかな。」
「おいおい、奏音も女だろう?少しは考えたらどうだ。」

奥からエドが出てきて会話に混ざった。
その顔には明らかに戸惑った微笑が飾られている。

「なんで?嫁に洗わせてなんか不都合が?」
「嫁…まだ言ってるのか。…ほら、下着とかさ、そういうのあるだろ?」
「別にあたしの下着が何なの?スッケスケって訳じゃないしむしろ男女であまり差が無いようなフォルムじゃんよ。」
「姉ちゃん、その羞恥心とかは…?」
「そうだぞ。年頃なんだしもうそろそろ婚期だろ?恥じらいとかそういうのは無いのか?」
「無い。」

奏音はきっぱりと断言した。
その速さに思わず二人は顔を見合わせ心の中でうなずきあった。

「ていうか恥じらいとかどこの大和撫子?今の時代にそんなのあるっけ?」
「大和撫子まではいかなくても…普通はあるかな。」
「だって下着だよ下着。布になにを。……エドってそーゆー趣味?」
「無いよりは有った方良いだろう?」
「胸もか?まあいいや、あたしも人の嗜好に色々言えるほど健全じゃないし。とりあえずわんこに洗わそ。」
「しばらく出てこないと思うけどな。説得するのもなぁ…。」
「更年期?仕方ないねー最近の若いのは。どれあたしが。」
「やめなよ。レイさんだって色々あるんでしょうに。それに出てきたとしても洗濯させる気でしょ。」
「おーともさ!行ってくるぜ、あたしは戦士だ!」

意気揚々と階段を上って行った奏音を二人は見送る。
彼女の一人で旋風を巻き起こし後は気にせず進んでいく様を呆れて見ていた。

「なんか…戦死しそうな気が…。」
「言ってやるな。…傷、結構見えないな。これなら完治するかも。」
「そう?…そっか、良かった。」





「お前。」
「何?僕、疲れたんだけど…。」
「血を流すからだ。しかも泣きながら…精神的にも肉体的にも普通は疲れる。
 お前は…笑えと言った。だが、お前自身は…。」
「分かってるよ…お前も分かってるなら話しかけないで…。」
「…すまん。」

男は自分の主人となったと言う人物を感じていた。肩で息をし、自分にもたれかかっている人物。
ただでさえ深い傷はそれを弄くったせいか血が止まる様子は無い。足に温かな物を感じていた。
既に麻痺薬は抜けたのか身体は自由に動かせるようになっていた。
自分にもたれかかるそれを突き飛ばす事もできるだろうがそれをあえてしなかった。
己が命じられた標的。捕らえられたとはいえもし脱出できた場合少しでも多くの情報があればと思ったが故だ。
暗いながらもわずかに見える肌や髪の色、それに声からあの毒に犯されたらしい人物だというのは分かった。

「……。」
「っ、やめてよ、触らないで。」
「…止血だ。」
「必要ないって…生きてるから血が出るんだし。」
「そうか…。」

流れ続ける血を危険だと思い止めようとすれば拒まれた。
しかも理由は生きているからだという。男は何か隠された意味でもあるのかと読もうとするがそれは見つからなかった。
互いに呼吸を感じながら時がたつ。
もたれかかっていた人物が動き、男の胸元には冷たい空気が代わりになった。
途端に身体全体が冷える。惜しい事をした、とだけ思ったのだった。

「まぁ…それなりに楽しかった、かな?」
「異常者が…。」
「あはは、慣れてるよ。自覚もしてる…抜け出すなり何なり、ご自由に。」

笑った雰囲気を残し、後には金属音と無機質な空間だけが残った。
拘束もされていない自由な身体ではあるが男は逃げようという気が起きなかった。
もう少し、奴の情報を知りたい。
手についたその人物の血液を口に含み、その血と共に笑った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.68 )
   
日時: 2012/03/13 10:06
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「ただいまー。トリクシー大丈夫?ちょっと休んだら?」
「いやいい。なんかスッキリしたしな。本当ありがとう。」
「お礼言われる程の事じゃないよ。あ、エドさん。奏美帰ってる?」
「帰ってるは帰ってるが…。」
「なんだ?エド、さっさと言えって。」

曖昧に笑うエドに想良とトリクシーは顔を見合わせた。
それからトリクシーは一瞬顔をしかめたが誰にも分からないほどの一瞬だった。
何故かを問いただそうとトリクシーが一歩、エドに向かって踏み出した瞬間轟音と共に家は揺れた。
バランスを崩した想良がトリクシーを巻き込んで転ぶ。

「痛たた…ごめん。」
「いや、オレも悪い。…エド、見てるだけじゃなくて手を貸してくれても良かったんだぜ?」
「悪い悪い。だがな、そんなことは問題じゃないんだ。あーあ、始まったか。」
「何?何か悪い事?」
「レイか?また勝手にキレやがったのか。何でまた…。」
「ははは…えっと…うん。自己嫌悪と奏音のあわせ技だな!よし、一回退避!」
「え、え…?!」
「想良、また外行くぞー。」
「奏美は!奏美どうするの?」
「奏美なら大丈夫だろう。彼女は素質もある、なにより常識人だろ?
 それはレイも認めてたらしいじゃないか。大丈夫、彼女なら止めてくれる。」

もっともらしい事を言いエドは上を見上げ心配そうな想良を抱えて外に出る。
トリクシーも後から続き外に出た瞬間、扉を硬く閉めた。
そしてエドは振り返り何かブツブツと呟く。扉に模様が現れた。
かつて、三人をダイアナがテストした際準備のために締め出された時のそれだった。

「これで大丈夫だろう。」
「そうか?オレにはそうとはあんまり思えないぞ。」
「そんな事無い…かな。あー…。」
「ねえねえ、なんでこんなに慌ててるの?レイさん怒ると怖い人?」

いまいち事態を飲み込めない想良が二人に問うが曖昧に返事をされただけだった。
想良はむっとして扉を開けようとするがあかない。
また不思議な力か、と諦めて少し下がり家の全体を眺める。
なにか音がするわけでもなく、どこからか崩壊するわけでもなくどっしりとそれは構えていた。
その時扉がいきなり開き、中から奏美が走って出てきた。
服装も少し乱れ、息も荒い。

「ちょ、みんな出てきてたの?う、ウチも少し気遣って欲しかった…!」
「悪い悪い。奏美なら大丈夫だと思ったんだ。でもその様子だとあれか、かなりやばいか?」

楽観的に笑うエドを一瞬奏美は睨んだ。だが、それも無意味な事だろうと察したようで口を開こうとした。
だが乱れた息に邪魔されなかなか言葉が続かない。
想良が奏美を座らせ、背中をさする。しばらくして落ち着いたのか奏美は口を開いた。

「なんか…姉ちゃんがレイに話しかけに行って、ウチは部屋に戻ったんだよ。エドもここまでは一緒だったじゃん。」
「あぁ。でも想良とトリクシーはいなかっただろ?話してくれ。」
「…、ウチはその後しばらくボーっとしてて。その時レイの部屋のほうで色々聞こえて姉ちゃんがまたなんか
 やったなって思った。したらいきなりすごい音がして…地震みたいだった。」
「あぁ、あれ…私それで転んだんだよ。」
「そうなの?大丈夫だった?…それで何かやばいかなって思って下に行こうとしたら…うん。」

そこで奏美は口を閉ざした。
何が起こっていたのか大体を察したエドとトリクシーはそれ以上問おうとはしなかった。
奏音の嗜好を考えれば大方、やる事は決まっているに等しかった。
分からなかった想良が三人に問うが帰ってくるのは曖昧な返事ばかり。

「想良はさ、知らないほうがいいと思うな。」
「なんで?私が知ると駄目な事なの?」
「うーん…まあ、いずれは想良もやるかもしれない事だけどな。俺的には知らないなら知らないほうがいいだろうと思うぞ。」
「エドさん…トリクシーもそう思う?」
「あぁ。まあ、だろうなー。うん…知らないほうがいい。」
「えー?」

その時後ろのほうから呼ぶ声が聞こえ、振り返ればアリーがふらふらとした足取りでやってくる。
誰よりも早く動いたトリクシーがアリーに肩を貸そうとしたがそれを断り自分の足で歩いてきた。
トリクシーも後ろから時折ふらつく彼を心配しながらついて来る。

「やあ、ただいま。そんでなにが起こってるの?さっさと家に入ろうよ。エド、術といて。」
「またあそこか。収入源だし止めはしないが…ただなんでお前は大体どっか傷を負ってくるんだ。」
「いいでしょ?僕は僕だしちゃんと生きてるよ。」
「はー…後で俺に見せろ。治してやるから。……とその前にアリー、レイを止めてくれ。
 またキレたんだかなんだかよく分からないがとりあえず。」
「分かったよ。寝かす?」
「そうだな。一回休むべきだろうし…そうするか。」
「寝かすって何?レイさんになんかするの?」
「あれだ、睡眠薬だな。強制的に眠るわけじゃないけど効果は結構いいぜ?なんてったってアリーが作ったんだし!」
「トリクシー…やめて、そう言うのは。はいエド、術といてー。」
「はいはい。」

エドが浮かびあがった模様を一つ一つ撫ぜていく。
すると最後の輝きを残しそれはゆっくりと消えていった。
扉がゆっくりと開き、中の様子を映し出す。
だがどこも変わった様子も無く、激しい物音もしない。人がいないように静かだった。

「あれ?こんなに静かだったっけ。」
「ウチが出てきたときはもう少しうるさかった気がする…。」
「私ももう少し何かあると思ったんだけどなぁ。」

想良と奏美が互いに確認しあうが互いにどこか違和感は拭いきれなかった。
エドとトリクシーも周りを見、音を聞き何もなさそうだと言う。

「おっかしいな…。絶対なんかあるだろうと思ってたんだが。」
「でも実際、なんにも無さそうだぜ?オレ少し休もうかな。今日は晩飯いらねえや。」
「そうなのか?でもとりあえず飯の時間に呼ぶよ、話したいことあるからな。」
「分かった、しばらく寝てるぜ。ついでに様子も見ておこうか?何も無さそうだったらオレそのまま寝るよ。」
「よろしく頼む。」

手を振り階段を上がっていくトリクシーをエドは心配な面持ちで見送る。
そして数分待ったがおりて来る気配は無い。エドは安心して腰を下ろした。

「よかった…なんかぶっ壊されてたらそうしようかと思った……。」
「レイさんって怒ると怖いの?なんか口調荒くなるのは分かるけど。」

想良がエドに問う。
奏美も話を聞こうと椅子に腰掛けるが隣にアリーが座っているのに気づき、ぎょっとして立ち上がった。
それをアリーが面倒くさそうに見上げる。

「悪かったね、僕が隣で。」
「いや、悪くは……ウチこそなんかごめん。」
「悪いって思ってるのかねー…?」

ため息混じりに話すアリーに奏美は申し分けなささでいっぱいになった。
それにいきなり立ち上がったことでエドと想良の視線も独占している。
それを気にしつつゆっくりと腰掛けたが先ほどよりも彼とのあいだに間が開いてしまった。

「アリー、やっぱり怖がられてるぞ。目の前であんなに殺すもんじゃない。」
「仕方ないじゃん、仕事だよ仕事。それにこいつは覚悟があったんでしょ?
 その覚悟をもってこれなんだから…その程度だったんだよ。中途半端、ははは。最悪だね。」
「ちょっとその言い方は無いよ。アリー酷くない?」
「いいよ想良…当たってるから。ウチ、戦うとは思ってたけど…ね。」

見るからに元気をなくした奏美に想良は心の中で同情した。
そして誰も口を開く事が無くかなりの時間が過ぎていったのだった。
ついに想良が自分は夕食を作るといってその重苦しい空気から脱した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.69 )
   
日時: 2012/03/13 10:07
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「あ、そういえばなんか食べたいとかある?作れるものだったら作るよ。」
「そうだな…でも俺は想良の国の料理なんてほとんど知らないしな。想良が作れるもので構わないぞ。
 お前の負担になるんじゃあ駄目だしな。」
「そう?奏美とアリーはなんかある?」
「ウチもなんでもいいよ。想良が作るのはおいしいし。」
「僕はお前が何作れるか知らないし。そうだね、お前の世界の料理がいいな。」
「うー…そういうのって一番辛いんだよ?いいや、食材見て決める……。」

個々の反応になにも得られそうなものが無いと判断した想良は食料庫に入っていった。
それからも三人はしばらく無言だった。
だが、エドが思い出したようにアリーに話しかけた。

「そういえばなんか足やってたよな。見せてみろ、治そう。」
「たいした事無いよ、一箇所だけだし。」

遠慮するアリーだがエドも譲らない。
何とか言ってくれ、と奏美もエドに手を握られ頼まれたが結果は同じだった。
するとエドの声が普段よりも若干低くなり、雰囲気も重いものとなった。

「そういう訳にはいかない。事実歩くのが辛そうだった。出せ。」
「イイってば、僕は平気。」
「奏美、アリーを押さえろ。」
「え?え、え!」

奏美は自分の身体が急に動いたように感じた。アリーの腕を取り、すばやく羽交い絞めにする。
アリーは抗議の声を上げたがエドが足の傷口を押さえた瞬間、身体を震わせ沈黙した。
しかも傷口が開いてしまったのか巻いてある布にジワリと染みを広げていった。
息を整え、二人に対する敵意をあからさまにするアリーの頭をエドは軽くなでた。

「いつまでも子ども扱いしないでくれる?」
「そうだな、でもお前は俺より年下だし。だったらこれから弟扱いにしようか。」
「ふざけないでよ。奏美もさっさと僕を離して。いつまで引っ付いてんの?」
「あの、えと、えっとぉ…。」
「無理だぞ?奏美はお前から離れられないよ。」

エドは口の中で笑う。奏美の驚きとアリーの不快感を存分に感じながら覆う布をゆっくりと剥がしていく。
だがじわじわと広がる鮮血といつまでたっても進まない作業に嫌気がさしたのだろうか、突如布と肌のあいだに手を差し込んだ。
何かが裂ける音が鈍く聞こえ、アリーが苦痛の声を漏らす。
そのとき階段を下りる音が聞こえ、奏美が顔を上げれば奏音だった。
愉快そうな顔をしてこちらへと向かってくる。

「やっほ、なにやってんの。」
「何って手当てだな。もう少し自分を気遣ってくれるとありがたいんだけどなぁ。」
「だ、だったらその手を早く抜いて上げなよ。出血量酷くなってる気がするんだけど。」
「奏美の言う通りだな。よし!」

ビィッと言う音と共にエドは巻きつけられていた布を引き裂く。
所々皮膚が布と癒着していたようで、それが無理に引き裂かれた今より出血が増す。
奏美は傷の酷さに顔を背けた。
一方奏音は妹とは真逆であり熱心にエドとアリーの顔を交互に見ている。
エドは引き裂いた布に引っ付いたそれを見て淡々と言った。

「悪いな、少しばかり皮膚まで持って行ってしまったみたいだ。まあ治せるし。」

だがその口調には謝罪の念など微塵もこめられておらず、むしろ喜びを帯びていた。
それに気づいた奏美は思わずエドを見てしまうが彼女には何があってのことかわからなかった。
奏音は傷口の周りをいじっており、時折悪戯心を含んで直接傷にに触れていた。
しかし傷口を直接触られても何の反応も示さないアリーを不審に思い顔を覗き込んだ。その時だった。

「そんなに、触りたいんなら…はは、中までどうぞ、ミス!」
「ちょ、おまっ!…言えた、一回でいいから言ってみたかった!」

奏音の指をアリーは自らの傷に沈み込ませた。新たな赤い筋を足に作る。
そしてもう片方の足で奏音の首の辺りを拘束し逃げられないようにしたのだった。
あまりに予想外の事にエドは呆然とした。

「ちょ、アリーちゃん!絞まってるよ!色々とあ、すごい!今足に力入れたでしょ、きゅってなったきゅって!」
「……少しは怯えないの?」
「いやってーかやっぱり肌白いよね!肌理も細かいって言うか…股ずれもしてないね…良いな足細くって。」
「なんか駄目だね…奏音には色々崩される。もういいや。」
「あ、あー…。」

アリーは奏音を拘束していた足をどけた。奏音といえば少し残念そうな声を出したがエドに避ける様に言われそれに従った。
そしてエドは少し広くなった傷口に手を当てた。

「うっ…!」
「我慢しろ。やられたくなかったら自分の身体を大事にするんだ。」
「……。」
「はい、終わり。そもそもこれ自分でやっても良いじゃないか。何で毎回やってこないんだ?」
「いいでしょ、別に…。」
「でもお前だけの身体じゃないんだ。同盟だってある、それを考えるようにな。」
「でも僕は自分よりなぁ…。」
「あぁ、奏美離れて良いぞ。悪かったな、強制的に服従させて。」
「あ…うん。」

奏美の手からピッと何かエドは抜いた。小さなとげのようなものであの手を握られたときのものだろうと推測した。
アリーは気だるげに立ち、レイの部屋を見てくるといって上に行ってしまった。
残されたエドと姉妹、それに食料庫から食材を抱えてきた想良は談笑を続けた。
だが、奏美はアリーが自分よりも大切だといったものに対して心の中で興味を持った。
知りたい、それがアリーの何なのかを、と……。





「レイ?れー…なにやってんの。」
「いいからぁっ、これ!これ解いとくれよ!」
「構わないけどさぁ…あれ、復活した。」
「これだから嫌なん、っくそ!」
「暴れないでよ、もー…。」

一見、布団で寝ているように見えたが近寄ってみれば謎の蔓でレイは拘束されていた。
ご丁寧に布で轡もされており、事の周到さにアリーは心の中で感心した。
そしてベッドから落ちないためか縁に固定されていた右手の布を解く。
唯一の自由な右手でレイはそれらを解こうとするが格好の獲物にそれは黙っていなかった。
すばやく腕を這い回り自由を奪う。それにまたレイは悪態をついた。

「あ、これか。」
「は、おいどこ触って。」
「核?指令部分?まあそんな所かな。ちなみにレイの体でいえば臀部。」

脈打つそれを引き離すと蔓は簡単に離れた。そしてコロコロとどこかに転がっていく。
それを見送り、アリーはレイを助け起こした。右手の痣がなんともいえない。

「むらさき、だね…。」
「そうなっちまったな。トリクシーは一回見てすぐさがっちまったし、なんなんだ!」
「僕の嫁じゃない?まあそれはいいとして下行こうよ、さっさとご飯食べて僕寝たい。」
「そうだな…これには余計な精神力を使う。」

レイは苦笑し、長時間身体を変な風に曲げていた事から来る痛みに顔をしかめながら廊下に出た。
パキパキと骨を鳴らすレイに年寄りのようだとアリーは笑う。
それをレイは適当に流し下におりていった。

「あれ、アリーは行かねえのかい?」
「ん?僕は少し休んだら…そうだね、二日後くらいには軍師様のところに行くから。一応ね。」
「軍師…また襲撃されねえようにするんだよ。俺じゃ対処できねえし。」
「うん、ありがとう。でも楽なもんだと思う、望みをかなえれば契約成立。」
「馬鹿か!お前が死んだら、とかだったらどうする気だ。」
「そしたら契約しないだけだよ。僕だって生きてたいしね。それに契約の対価は金か情報でしょ。
 じゃ、もう少し経ったらね。」

アリーは自室へといった。
レイはそれを見て彼はあまり変わらないとだけ思い、痛みに苦しみながら階段を下りた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.70 )
   
日時: 2012/03/13 10:08
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「あー!」
「何姉ちゃん、どうかした?」
「あぁ…あたしの最愛の娘が…!」
「娘?奏音、お前子供いたのか?それともこっちに来て…いや、まだ半年もいないし無理だな。」
「エド、突っ込みどころが……うぅん、なんでもない。」
「あー…かわいそうに……。」

席をはずした奏音は階段のほうによたよたと歩いていった。
そして何かを手に取りまた戻ってきた。
何を持ってきたのかと覗き込んだエドはあからさまに嫌そうな顔をしてそれを奏音は見咎めた。

「何その顔…あたしの娘だよ。」
「…いや。」
「何その反応!あたしの娘が可愛いからって妬いているんですの奥様!嫉妬は醜くってよ!!」
「なんか、そうだな…すごいな、奏音。」
「え?そうかな、ま、そうならそうでいいや。」

微かに脈打つそれを奏音は仕舞った。
それがなんなのかを察した奏美は気を重くしながら席を離れた。

「あれ、どっか行くの?」
「ん、服の様子見てくる。乾いてたら持って帰ってこようと思って。」
「そっかー、わんこに洗わせたかったんだけどな…あの馬鹿犬…!」
「おいおい、目の前に兄弟がいるのに馬鹿犬呼ばわりはやめてくれないか?」
「そー言ってー、本当は結構楽しんでるっしょ?アリーちゃんの傷いじってたときも楽しそうだったよ?」
「そうか?無自覚だったな、俺。」
「ほーらまた楽しそう。」
「…行って来るね、すぐ戻ってくると思うから。」
「はいはーい!」

弱々しく呟いた奏美の声を奏音が拾い、明るく送り出した。
それからニマニマとしながらエドを眺める。
その視線に何かを感じたのかエドはじれったそうに身をよじった。

「なんだ?俺は何かした?」
「んっふふ、べっつにー?いや、エドも酷い奴だなぁとね、っふふ。水面下の鬼畜かな。」
「なんだそれは?」
「関係ないよ?あたしの元の世界でのお仕事では必要なもの。」
「奏音は仕事してたのか。」
「なっ…一応してたよ、この年で一応一軒家持ってるのよ?三階建てよ?」
「三階建てってすごいのか?」
「おうよ!」

自信満々に答える奏音をエドは哀れそうに見つめた。
ここらの地域では一軒家では二階建てはもちろん、三階建ては当たり前だった。
さらに、エドは統治者補助の家の息子。これくらいで自慢げに話す奏音の心境が全く分からなかった。
よほどもとの世界でも田舎のほうの貧困階級だったのだろうと彼は自分を納得させ適当に相槌を打っておいた。
それに気を良くしたのか奏音も更に自慢を広げるのだった。
と、殺気。

「うえ。」
「てめぇ…なんで俺ばっか狙うのか説明してもらおうじゃねえか…なぁ?」
「レイ、顔が怖いぞ。刃物も出さない、危ない。」

奏音の背後からレイが現れ、首筋にナイフを当てた。
集中力を乱そうと奏音はちょっかいを掛けるが効果は無かった。どうやら本物のナイフらしい。
エドが制止の声を掛けたがレイが聞き入れる様子は無かった。

「なんでってね?なんでだろう…?」
「特に理由もなくやってたって事かい?へぇ…俺はお前のお戯れに付き合うほど暇じゃねえのさ…。」
「レイ…やめろ。」
「あ、理由あるわ理由!!」

レイの普段と違う雰囲気に流石にまずいと察したのか奏音が半ば叫び声とも取れる声を出した。
しかし考えていなかったのかしばらく沈黙が続いた。想良が何かを切っている音がするだけだった。
チリッっと痛みが走り何が起こったか分からなかった奏音はエドのほうを見た。
だが、彼はただ喋るようにというジェスチャーをしてきたのみだった。
心の中で奏音はエドに対し悪態をつき、苦し紛れだが本心を打ち明かした。

「あの…反応がいちいち可愛いから…。」
「はぁ?可愛いとか今は嬉しくねえよ、せめて女の格好してる時に言って貰いたいね。」
「え?あたしにとってはわんこは女の子っだああああ!切ったな、本格的に切ったな!!」
「ばか…。」
「ってぇ!突き飛ばしたな!ばーかばーか!!女々しいぞばあぁっか!!」
「奏音、傷治そう。そんなに深くは無いが出血は酷いぞ。」
「あ、へいへい。よろしゅーおねしゃあす。」

エドは奏音の首に手を当てる。
比較的浅い傷だったからかすぐ治り、奏音はあの腕を怪我した時の痛みを想像していたので拍子抜けした。
だが、それを見ていたレイは不愉快そうな顔をしていた。

「エド、お前も奏音の味方をするのか。へぇ、実の兄弟よりどっかのくそ女が大事かい。
 それとも俺だからか?」
「レイ、それはあまりにも被害妄想だ。確かにお前をからかった奏音も悪い。だが、それを差し引いてもお前のほうが悪い。
 冗談を冗談と受け取れなければ彼女と付き合うのは無理だ。」
「え、あたしを全否定?あたしだって真面目なときは真面目よ?」
「奏音、少しだけ黙るんだ。レイ、お前は自分の評価を気にしすぎなんだ。それで低かったら自分には無理って
 見切りを付ける。違うか?」
「そうだ。俺個人でやるんなら見切りはつけねえ。でもそうでもねえだろ?
 依頼されて金を貰うんだ。それに見合ったもん持って帰れねえんなら、見切りを付ける。当たり前だ。」
「説教系…離脱するわ。エドもサンキュ、今度その治し方教えてね。じゃ!」

奏音はその場の鉛の空気に耐えられず想良のほうへと向かった。
小学校でやれ誰君の物を誰君が盗ったというようなクラスを巻き込んでの説教とこの空気は奏音も何度か経験していた。
しかしそれも彼女にとっては勉強をしなくてすむ言わば天国の時間。
自由にニヤニヤしながら何かを書いていた記憶がうっすらと存在している。
だが、自分を発端として起こってしまったこの空気には耐えられず、想良の手伝いでもしようと急いで抜け出した。





「せっかく来てもらったけどね、もうこれ蒸しあがったらできあがりって言うか…。」
「え。マジでなんか無い?あの空気にさらされたらあたし干からびるんだけど。」
「うん、無い。奏美は戻ってきてないの?」
「あーすぐ戻るって言ってたのにね。でもまああれじゃね?水浴びついでにしてるんじゃない?」
「暗いと見えないしね。そっかぁ、でもごめんなさい。奏音さんに手伝ってもらうような事無いや。」
「うー…じゃあ寝てようかな。あ、どうせなら部屋探検しよ。想良ちゃんはどうする?」
「んー、私はこれ調整しなきゃいけないから。できたら呼ぶからね。」
「あいよー。」

奏音は目標を切り替え、意気揚々と、しかしあの二人には見つからないように階段を上って行った。
彼女は自分たちにあてがわれた部屋と一階との往復しかしていないに等しい。
探究心に胸を躍らせながら部屋を周って行った。

「レイの部屋はさっき行ったからー…ここか!鍵かかってやんのー一発目から企画倒れ笑えん。
 いーやレイのところで。」

鍵がかかっていて機嫌を損ねた奏音はレイの部屋へとターゲットを変えた。
そしてその扉は鍵がかかっておらずしめたと意気揚々入って行った。
が。

「閉まってしまった!え、何このセキュリティ!!」

扉を閉めたら施錠音がし、もしやと思った奏音は開けようとするが開かない。
だがしばらくすればレイが来るだろうしどうにかなるだろうとそのまま気にしないでおいた。
少し前この部屋の主を拘束しておいたベッドに行けばその布は引き千切られた訳でもないらしい。
それは誰かが彼を救出したのを意味している。おそらくはアリーだろう。

「美しき兄弟愛、かな。いいなー、同人やりたいわ。」

自力で抜け出せないという事はまだまだ遊びがいがありそうだと奏音は笑った。
だが、なんの反応も無い周りに虚しさを覚えボスッとベッドに座り込んだ。
メンテ

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