このスレッドは人気!です。
ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

Re: Differences in Peace ( No.91 )
   
日時: 2012/04/09 15:55
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「なあ、この設計は駄目だ。」
「何故?」
「ここを見るんだ。この地形ではどう足掻いても北が守りづらい。必然的にそこに人員を割かなければ入り込まれるだろう。」
「それは我等も承知している。だからこそここに櫓を立て、警備をするのだ。」
「はぁ……。」
「何がおかしい。」

エドは今、とある国の城の設計へとやってきた。
出自を隠し、浪人として国に近づく。もちろん、カメリアの方針だが。
とある新興国。国主を民衆が倒し、革命がなった。

「セルジュ様…不本意だが我等は忌々しきこの館を使わなければならない。」
「その通りなのだ…。国主の圧制…邪教にそまった彼の政策によりほとんど金はない。」
「とはいえ、だ。民ごときに倒されたこの館…民のみの力。」
「今は革命がなったことで他の民衆は浮かれているもんなぁ。後の事は考えていなかったんだろう?
 だから俺みたいな浪人の力も借りたいって訳だ。」
「忝い…いつか、我等が平和な国を作り、潤ったならば改めて礼をさせていただきたい。」
「いや、しばらく寝られるとこと食い物があるだけで嬉しいよ、一週間ぐらい食えない事もあるんだから。」

エドは笑い、それに釣られレジスタンス…今はもう国の中心となる人物達も笑った。
館の設計図と、新たに加えるつもりなのだという櫓や堀の設計を見る。
二方向を山に囲まれ、一方は大河、残りの北は多少の起伏や坂はあるものの一本道だ。
こんな所に館を建てるなんて、と心の中で馬鹿にする。
大河から水を引き、館と主要な人物が住む一帯を囲い、敵からの攻撃を持ちこたえるためのものらしい。

「ならば…いったいどのようにすれば……?」
「そうだなぁ…そこは今から考えよう。ただ、この二方向の山…これが問題なんだ。」
「山があれば攻め辛いではありませんか。他国からの防護壁になると思うのですが…?」
「だが、この山は大国とつながっているぞ?あの国が戦争を起こし、一時期不利になったように見せる。」
「はぁ…。」
「そして、この国は民を中心にした国にするのだといったな?」
「はい…。」

言ってどうする。浪人とは警戒しなければならないものなのだと心の中で語りかけてみる。
追放も全て演技。身内の死罪の演技は罪人で身代わり。
一番簡単なスパイ、それをこいつらは知らないのだろうとエドは笑った。

「民が中心となれば搾取される貧困層は心が惹かれるだろう?亡命してくるかもしれない。」
「はい。我等はそういった人も受け入れる覚悟でおります。人は皆、平等です。」
「だが、それはスパイかもしれないぞ?なんでも疑わなければ。特に新興国はな。
 何故だか分かるか?」
「……。」
「新しい当主はまず国の内を知らなければならないだろう?外に気を使って内が疎かになればまだ国は不安定だ。
 反乱が起こされるかもしれない。だからといって内ばかりに気をとられ外を気にしなければ逆に攻められる。」
「……成る程。」
「少し事を早め過ぎたんじゃないか?それこそ、元当主を形だけのものにして徐々に乗っ取ればよかったのに。」
「随分詳しいね、あんたはさ。」

ずっと黙っていた女が口を開いた。
男の格好をしていたが、声で女だと分かった。
それに、胸のふくらみを隠すために首からかけた布を服に入れているのが決め手だった。

「おい、無礼な口を利くな。」
「…構わない。俺は疑えといったんだ。疑ってもらって良い…杞憂に終わるだろうがな。」
「……。」

女はエドの事をじっと見つめていたがやがて目線をはずした。
そして窓辺に行き、見下ろせる世界を眺めていた。
小さく、革命がなったことに対しての祝いを民衆は開いている。

「少し、外を歩いてくるよ。現場を見て、どういう風にするか考えてみる。二時間以内に帰ってくるよ。
 どんなに力説されても本物を見るのが一番だ。そして手っ取り早い…。」
「警護のものは…。」
「いらない。一人で誰にも邪魔されず見たいんだ。大丈夫、もし殺されたとしたらこの国の秘密を守れたと考えろ。」

ざわめきを背中に感じ、エドは出て行った。
この国はいずれ、そう短い間で滅ぶだろう。三代持てばいいものだ、と思った。
非戦を貫けばそれこそ駄目だ。それにあの設計を見る限り篭城で対抗するらしい。
篭城は、味方からの絶対の援軍を望めない限り、それはただ問題の先延ばしにしかならない。
飢えて行き、病が流行り、離反者が出るのをただ眺める事しかできない。いわば、逃避の戦法だろうとエドは思っている。
あの国の篭城は策が尽き、最期の意地で行うのが篭城。
館から外に出、眼下に広がる一時の平和の眺め、歩き出した。





「はぁ……、なんだってんだ…。」

部屋に戻ってすぐレイは足から崩れ落ちた。
自分が何をしたいのか、なんでこんな感情になっているのかが分からなかった。
悔しさを紛らわすために床を殴るが、ただ手が痛くなっただけだった。
『なんかレイさんいきなり奏音さんのこと気にかけるようになったねぇ、好きになった?』
瞬間的に想良の言った言葉が思い出され、誰も見ていないとは分かりつつも顔を隠した。
好きになった…?嫌いか、ときかれれば違うと答えられる自信はレイにあった。
だが、好きかと聞かれた場合どう答えるのかが分からなかった。
ベッドに横になり、義眼をもてあそんでいたがだんだんと意識が遠くなっていった。
コツン、と軽い音が聞こえ落としたな…と思ったがそれも遠くに消えていった。



「レイ…?寝てるの…?義眼手入れしなよ…。」
「…、アリー…?」
「そうだよ。なんか僕の部屋に入ったかな?って思ったから来たんだけど知らない?」
「あー…なんか、部屋が取れねえからって…お前の部屋に居させたんだったかな…。」
「うげ。…はいこれ。一応洗っておいたよ。」

まだ寝起きのぼんやりとした意識の中で、レイは義眼を受け取った。
上下を確認してからいれ、ぐっと伸びをしてから弟を見た。
適当に見繕ったのか、薄い衣服を纏っているだけなので酷く無防備に見えた。

「おい、俺が言えた事じゃねえけどよ。服を着たらどうだい?」
「武器生成くらいならできるよ、安心して。」
「そうかい…まあ、用心はして損じゃねえだろ。五体満足とは言えねえんだからよ。」
「それもお互い様。大丈夫、僕は死なない…きっと。」

死ぬつもりはない。それは事実だが、いつ殺されるか分からない。
アリーはレイを見て笑った。戦に出るのは、相手を殺して、自分の夢のために他の夢を壊す事だ。
そう教えられた過去を、遠くに思い出していた。

「レイ、なんか変だよ。」
「何が?俺は別に今までとかわらねえ。」
「…そう?そうかな…。」
「あぁ。お前が疲れてるんじゃねえか?休めよ、折角帰ってきたんだし。」
「うん…。でもジルの所に行くよ。暫く会ってなかったし。」
「あ、そういやあエドがジルの話してたなぁ。」
「…見られたかな。うん、もし三人が会いたいって言ったら…ジルが良いって言ったら…。」
「会わすのか?」
「どうだろ。あまり見せたくない気もするんだよね。分かんないや…できるだけ望みは叶えたいって思うけど。
 じゃ、お互い休もうね。」

アリーは部屋から出て行った。
レイはジルのことを思い出そうとしていた。
貧困層から引き抜かれた子で、アリーとは同い年だった。
アリアという女の子と共に三人でグループを作らされ行動していたのを覚えている。
ジルは家族に少しでもお金を送るため、アリアは孤児なので見捨てられないために一生懸命だった。
だが、アリーは何をやるにも無気力でよくジルが文句を言いに来たのだ。

『なんで訓練受けてくれないんだよ。俺がリーダーなんだ、お願いだから言う事聞いてよ。』
『嫌だよ…面倒だし、できないもん。』
『お前が良くても俺が困るんだ!俺がちゃんとやらないと先生達に怒られるの!』

そういつも怒っているのを影から見ていたのを思い出した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.92 )
   
日時: 2012/04/09 15:57
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「でも温かいね…布団がぽわぽわ。」
「うん…。やばい、寝た姉ちゃんの気持ちが分かるのが悔しい。」
「あはは、でも本当に良いね。お金持ちって感じ。えへへ。」

奏音が寝入っている横で、奏美と想良は話し合っていた。
エドやアリーの部屋と違いとても豪華なそれに驚いたが、来客用だからなのかと納得させた。
ふわふわとしたそれを全身で楽しんでいた。
扉がノックされ、返事をするとミゲルが入ってきた。

「先程はすいませんでした。姉が色々と。」
「ううん、お姉さん結構楽しそうな人だったじゃん。奏音さんとも気が合いそうだよ。」
「いやなタッグになりそうだけどね。」
「良くして頂ければ幸いです。奏美様、奏音様は起きるでしょうか?」
「え、どうだろ。というよりなんで?」
「マティルド様が奏音様と奏美様をお呼びです。なんでも仕事をさせてみたいとか。」
「…え?ウチ、駄目だよ。前斬られたし…それに、っ!」
「奏美!大丈夫!」

奏美はびくりと大きく体を震わせたかと思うと口元を押さえ倒れた。
吐き気を覚えたという訳ではなく、体を丸め、震えをできるだけ抑えようとしている。
ヒュウヒュウという音も漏れていた。

「過呼吸です。落ち着いて、大丈夫。想良様、枕とっていただけますか?」
「え?あ、はい!」
「ぎゃっ……んー……?」
「有難うございます。」

ミゲルは想良から枕を受け取るとカバーを剥ぎ取り、それを奏美の口元に当てた。
想良に枕を引き抜かれたことで強制的に起こされた奏音はそれを見て、慌ててベッドから降りてきた。
苦しそうだった奏美の呼吸も次第に良くなり、やがて正常に近づいていった。
抱え起こされた奏美は何度か深呼吸をし、口を開いた。

「ありがとう…でも、ちょっとウチが一番びっくりした。」
「お気になさらずに。しかし過呼吸となると仕事はしない方がいいかもしれませんね。」
「そんな…!駄目だよ、ただ衣食住提供してもらうだけって…。」
「仕事?奏美仕事の依頼貰ったの?」
「奏音様もご一緒に、という事でしたよ。」
「え。」

仕事というワードに奏音が膝をつく。
想良がそれを苦笑し、自分は呼ばれていないのかと聞いた。
ミゲルは首を振ったので想良は一言残念、と呟いた。

「それではお二方、行きましょうか。想良様、しばしお待ちを。」
「やだー!行きたくない、働きたくない、はぁああっぁぁあっっ!」
「姉ちゃん……。」
「行ってらっしゃい、待ってるね。」

嫌がる奏音は電撃が食らわされ、その衝撃で手を離した彼女は引きずられていく。
微かに香ばしい匂いを残した部屋で想良は一人考えた。
なぜ、自分だけ呼ばれなかったのだろう。
テストは我ながら良くできたと彼女は自負していた。もしかしたら認めてもらえるかもしれないと。
だが、実際呼ばれたのは人見姉妹だった。
コン、という音が聞こえ返事をしようと口を開く前に誰かが入ってきた。

「アリー…。」
「や。二人はどこ行ったの?」
「なんかマティーさんが仕事の依頼みたいなこと言って連れ出された。」
「そっか。じゃあ想良だけでも良いかな。」

アリーは想良の返事も聞かず彼女の向かい――先ほどまで奏音が寝ていたベッドに腰掛けた。
手が寂しいのか腰に付けていた武器を撫で回していた。
他の二人が来るのかと期待しているのかなかなか口を開かなかったが、やがて観念したようだった。

「昨日かな。僕の部屋に居たんだよね。」
「うん…ごめんね、部屋が無いって言われたからなんだけど。」
「で、見たでしょ。絵。」
「絵…?」
「そう。…しらばっくれないでいいよ、怒らないからね。」

だが、想良には彼の言葉から少々非難めいたものも感じていた。
絶対怒ってる、それもかなり…それを感じ取り素直に謝った。

「ごめん、そんなつもりは無かったんだ。あの絵、女の子が描いたんだってね。」
「そう、僕が殺した。…聞いてるでしょ、僕がマティーの振りして情報とって殺したってさ。
 でもね、一個だけ言わせて貰うと彼女腹斬られてたの。」
「切腹…そっか、介錯……。」
「そう。話が分かるようで助かるなぁ。で、どう?ジルに会いたい?」
「え…。」

部屋に入り、勝手に品を見られたことを怒られるのだろうと想良は思っていた。
だが、あの部屋の主はそれを咎める様子はあくまで見せず想良の答えを待っている。

「会いたい。話してみたい。」
「そう。いいよ、ジルも暇だろうし。でも会わないって言われたら諦めてね。紹介くらいはしておくけど。」
「うん、そこは分かってるつもり。」
「分かった。じゃあ今から行こうか。」
「えぇ!」

そしてアリーは想良の返事を聞く前に部屋からもう出て行った。
想良も、もしかしたら何か過去が知れるかもしれない、という淡い期待を胸に急いで追った。





「簡単に言うとね、一個国を滅ぼしてもらおうと思うのよぉ。」
「えっ…。」
「ちょっとあんた簡単に言いすぎじゃね?国滅ぼすって馬鹿じゃね?」
「失礼ねえ、あんたより頭良い自信はあるわよぉ。」
「そりゃあたしは中卒ですから!むしろあたしより頭悪かったら人生終わってる。」

ミゲルにマティルドの居る部屋まで案内され、中に入ると単刀直入にこれを言われた。
仕事と言われて予想していたそれを遥かに大きく上回るそれに二人は唖然とした。
なにも喋れなくなった奏美に対し奏音は突っかかるが顔が少し引きつっている。
その二人の様子を面白そうに眺めたマティーは言葉を付け加えた。

「いわば実践よ、実践。大丈夫、少しだけど人員も割くから。」
「でも国一個滅ぼすって!酷ければ年単位なんですけど?!あたし歴史物書いたことあるから知ってんだからね!」
「また…殺す……。」
「必要があれば。奏美、もちろんあんたが死んでも良いなら殺さないで突っ立ってれば良いわ。
 あと数日あればあんなの落とせるから安心して頂戴。エドゥアールも突っ込むから。」

用が済んだとばかりに手を振るマティーに奏美は従おうとした。
また殺さなければならない。この世界に着てから、唯一嫌な事をまた…。
だが、奏音は奏美の手を取りマティーに言った。

「あたし達はね、そりゃただ飯喰らいは嫌よ?でもさ、人殺して食いたい訳じゃないんだよね。
 もっとまっとうな、メジャーな職って無い訳?」
「メジャーねぇ…そもそも一番働かないあんたに言われても説得力無いわぁ。」
「う、うるさい!」
「いいよ…ウチ、やるから。我慢すれば…うん。」
「妹のほうは物分り良いわねぇ。あと奏音、この世界の一番メジャーな仕事が戦争関係。
 殺しよ殺し。諦めなさい、嫌なら討ち死にしても良いわ。」

輝くような笑顔を浮かべ、マティーは手を振った。
奏音ももう引き止められないと素直にそれに従った。
外ではミゲルが待っており、二人の様子から一方的にされたのだろうと察しがついた。

「奏美、ごめん。なんかあたし駄目だね、せめて奏美だけでも外れさせようって部屋入るまでは思ってたんだけど。
 なんか、おされたっていうか…ほんとごめん。」
「いいよ、姉ちゃんが気にする事じゃない。ミゲルさん、案内ありがとう。もう自力で戻れるよ。」
「そうですか?しかし私は部屋まで無事に送るようにというのが命でして…申し訳ありませんがご一緒させて頂きます。」

そう言ってミゲルは姉妹より数歩先を歩いていく。
腰に下げた剣に手をのせ、常に戦えるようにという気遣いが見えた。
その彼の様子に安心し、二人はあとを追った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.93 )
   
日時: 2012/04/15 00:14
名前: あづま ID:A3byF9ug

塔を出て、山に入りかけた場所。そこに目的のそれはあった。
草に覆われ隠された入り口を想良とアリーはくぐり、中へといった。
暗いがどこと無く清潔感のある通路に想良は塔の地下にある牢への道を思い出していた。
だが、それよりもこちらは静かで透明感を感じていた。

「止まって。ちょっと離れてもらって良い?中見るから。」
「分かった。……これくらいで良いかな?」
「うん。何かあったら武器使ってね。…ジル、起きてる?」

ノックをし、中の人物の声を待つが聞こえなかった。
アリーがもう一度それを繰り返すが帰ってくるのは静寂のみだった。
寝ていると判断したのか、アリーが扉を薄く開く。と、同時に腐臭が広がってきた。

「ジル!また!!」
「アリー?」
「想良、少し待ってて。隣のそう、青い石が埋め込まれているほう。そっちでお湯沸かしてくれない?」
「いいよ、でも使い方って…?」
「補助具置いて念じて。そうすればなんとなくできるから。人肌で少し熱めくらいで!できたらノックして!」

そう言ってアリーはするりと身を部屋に入れ消えた。
想良は指示されたようにお湯を沸かそうとした。
だが、水が無い。
こちらに来てからの本拠地では水瓶にあったそれも、この部屋では見つからなかった。
とりあえず耐熱性だろうと推測される容器を、これまた竈と思えるそれに乗せて辺りを見る。
すると小さな窪みを見つけ、とりあえず補助具を置き水が沸かされるのをイメージした。

「すごっ!」

するとカタカタと音が聞こえ、容器の中に水が溜まり揺れていた。温まるまで五分ほど時間がかかる。
手をいれ少し熱い、と思えるくらいになってから容器をつかみ下品だとは思いながらも両手が塞がっているので足でノックする。
すると程なくしてアリーが隙間から顔を覗かせた。

「は、裸?!」
「下は穿いてるからから裸じゃない。それ置いて、あの部屋戻って。」
「で、でも血…、あ。」
「……。」
「死んで、あの人が…?」
「違う。…もう行って。はっきり言って辛いと思うよ、この光景。」

容器を半ば強奪され、扉が閉められる。
だが、アリーが容器を取るために一瞬大きく開いた扉から全てが見えてしまった。
枕の高いベッドでそっぽを見ている人物。
並ぶ薬品。だが、その薬品の匂いを打ち消しているだろうと思われる床の上のそれ。
腹と思われる場所から何かが吹き出ている。
死体だ、部屋に戻りながら想良は思った。一瞬とはいえ、それを見てしまった。
だが、想良にはどこか現実味の無い画面の向こうの世界に見えていた。
現実だとは、受け入れたくないのかもしれない。
そうどこか冷静に考察しながらも頭を離れないそれを振り払うかのように首を振った。

「紅茶になーれ…。」

先ほど湯を沸かしたそれよりふた周りほど小さい容器を見つけ、想良は念じた。
間もなくふつふつとそれが出来、想良は補助具をはめティーカップを作る。
模様も何も無い、ただそれだけのティーカップ。
それで紅茶を掬い、粗末な椅子に腰掛け一口すすった。
一杯飲み終えた頃、何かを引きずる音が聞こえ上に消えた。そしてその後すぐ軽い足音が戻ってきて隣に消える。
もういっぱい掬い飲み終わった頃、アリーが顔を覗かせた。

「来てもいいって…でも出て行けって行ったらすぐ行けって。」
「うん。」

アリーの後に従う。
通された部屋は先ほどの惨事があったとは思えないほど綺麗になっていた。
だが、窓を開けているとはいえ抜けきっていない腐臭が事実を物語っている。
部屋に入ると、先ほどの人物はやはり変わらず空を見ている。
榛色の髪と同じ色の目を持つ青年だった。
入ってきた想良を見るとあからさまに嫌そうな顔をした。

「んで?俺に用があるのか。」
「ジル、最初っからそういう事言わないでよ。」
「と言ってもね、こんな女か、連れてきたのは。」
「……。」
「ははは、不細工だなぁ。ムカついたか、嬢さんよ。」
「別に!」
「ジルー…。」

こんな女、と言われた事についての嫌悪感が出たのだろう。
それをさらに馬鹿にされた。
自分は可愛い、なんて想良は思っていないが不細工と言われたのにはさすがに腹が立った。
文句を言おうと口を開きかけたがその前にジルが喋りだした。

「女、出て行け。」
「ちょっ、いきなり?!」
「ジル…想良せっかく来てくれたんだし…。」
「俺はこの女を望んだ覚えはない。というかそうだな、催した。見たいのか、変態女。」
「は?ジルそれ。」
「それともお前が処理してくれるのか?不細工よ。」

ニヤニヤと思い切り人をからかう顔をしていた。
アリーも似た顔するよなぁなんて端で考えながらも想良はジルに対しさらに怒りがこみ上げてきた。
そんなに不細工って言わなくても…という反抗心が想良を自棄にさせた。

「〜〜!いいよ、私がやるから!アリー、出て行って!」
「想良、言ってる事分かってる?」
「いいから!介護くらい私だって出来る!子ども好きだもん、集落の赤ちゃんのオムツ替えたりしたもん!
 良いって言ってんでしょ!何、何なの?アリーにもやろうか?え?」
「…呼んでね。」

アリーは自分にも及びそうなので早々と出て行った。
扉を閉めたのを確認すると想良は口を開いた。ジルは呆気に取られた顔をしている。

「さぁ、そういうのどこ、タオルみたいなのはしない方がいい?えぇ?」
「……。」
「なんで黙ってる訳?まさか間に合いませんでしたぁなんて言わないよね?
 そんなんだったらてめーに始末させてやる。泣いても何しても絶対片付けしてもらうよ、覚悟してね。」
「…汚い。」
「はぁ?なに、まさか本気で。」
「ばーか、お前の言葉遣いだ。催したなんて嘘に決まってんだろ、不細工。」
「っまたー!」
「あーあ、せっかくあいつと話そうと思ったってのに。なんでおまえと二人きり。」
「知らないからそんなの!」
「お前が追い出したんだろ、女。」

吐き捨てるようにジルは言った。
想良はなんだか申し訳ない気持ちになりつつもここで引き下がれないと気を引き締めた。

「あなたは何でこの部屋にいるの?」
「知ってどうする?」
「分かんない。同情するかもしれないし、軽蔑するかもしれない、」
「へぇ…まあ人はそんなもんだ。じゃあ捲って見ろ、俺の布団。」
「……。」
「疑うな、漏らしてない。」

なおも晴れない疑惑を抱きつつも、想良は恐る恐るジルの布団を捲った。
そこで彼の体を見ることになる。
右腕は焼け爛れ、親指以外は全てつながってしまっていた。
だが、その親指も赤黒くなり突っ張った肌が動かす事は容易でない事を示していた。
両足は一見健康そうに見えるが筋肉が極端に無く、体と比べると細く感じた。
長い間動かしていないのが原因なのは目に見えている。そして注射の痕。
そして左腕には鎖と縄の痕、それに大きな傷跡がくっきりと残っていた。中には歯形もある。

「どうした、不細工が間抜け面してさらに不細工だ。」
「…どうしたの、これ…。」
「俺の結果だ。さらに神経毒で足はほとんど動かない。腕は調子がいいときしか動かせない。」
「辛くないの…?」
「辛いに決まってるだろ。お前を見ていると…お前に限らず五体満足な奴は吐き気がする。」
「じゃ…アリーも?あんなに尽くしてくれてるみたいなのに…。」
「あいつは違う。俺にとっては特別な奴だ。お互いに特別な存在だね、それだけだ。」
「……あの女の子は?」
「あいつは過去。…出て行け、女。俺の機嫌が良い時にでもまた来い。」

これ以上は彼が許さないだろう。
想良は捲った布団を元に戻し、寒くないように隙間が無い事を確認してから部屋を後にした。
アリーは先ほど想良が使っていた椅子に腰掛けていた。

「なんか追い出されちゃった。あ、アリーと話したかったって言ってたし行けば良いんじゃない?」
「そう。なんか言われなかった?」
「あんまり。ただ俺の機嫌が良い時にでもまた来いって。」
「へえ、じゃあ好印象だったんだね。そっか。待ってる?」
「うぅん、私は部屋に戻る。大丈夫だよ、近いし道も分かるから。」
「そう?気をつけてね、いざとなったら殺してでも…。」
「うん。またね、アリー。ジルによろしく。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.94 )
   
日時: 2012/04/15 00:21
名前: あづま ID:A3byF9ug

「レイさーん。」
「んだよ。俺に用があるのか?」
「やっぱり怒ってる…?」
「怒ってねえよ、俺がちょっと自分が分からねえだけさ。」
「そう。座っていい?」

想良はジルの居る場所から自分たちに割り当てられた部屋に戻らず、レイがいる部屋に来ていた。
座って良いかという問いには無言で返され、肯定と受け取り彼の視界から少し外れたところに座った。
それをレイは目の端で捕らえ、また何をするでもなく横になっていた。
互いに何かを話すべきかと胸の内で悩んだが、浮かんでくるものは何も無かった。

「なぁ。」
「何?」
「…いや。……。」
「どうしたの?なんかあるんだったら言って。」
「……。」
「迷惑かな、私出て行った方良い?」
「いや、いて良いよ。」
「そう。……。」
「……。」

会話は続かず、沈黙が流れた。
想良はレイが口を微かに動かしているのを見とめたが、それから何かが進展するという事は無かった。
言葉が口から音を伴わず出ているのだろう、と心の隅で考えた。

「レイさんってさ。」
「……。」

返事はなかった。
寝ているのかと想良はレイを見たが、彼は空を眺めていた。
聞き流されてもいいか、とおもい言葉を続けた。

「こう言うの、すごく失礼だろうけど…仕事、嫌いだよね?」
「……。」
「なんか私達の立場に立ってくれてるっていうかさ、アリーは戦うの好きみたいだし。
 エドさんは普通なのかな、って思ってたけど地下牢で良いのかな…あそこの時、はっきり言って怖かった。」
「俺は…。」
「うん。」

レイはしばらく黙っていた。
想良も無理に先を促そうとはせず、ただ沈黙を楽しんでいた。

「俺は…仕事は嫌いだな。あぁ、想良の言うとおりさ。お前の観察眼、俺は評価する。」
「ありがとう、大事にする。……なんで嫌いなの?」
「…言っても仕方無えだろうよ。お前には絶対分からねえ。」
「そうやって決め付けてー。いいじゃん、言ってくれたって。」
「なんかお前積極的になってねえか?…いいけどよ。」

だが、想良はレイを期待に満ちた目で見ている。
レイもそれを裏切る事ができなかったのか、どうせ分からないだろうと前置きして口を開いた。

「この世界では殺しが当たり前だ。パウエルが中立に近いが他は皆戦して領地を広げたりしてる。」
「うん。日本も統一されるまでそうだったからね。中立はどこだろ…忘れちゃった。」
「…そんな国あったのか、婆様は言ってなかっただろうな。まあとりあえず俺は殺しに合わなかった。
 初めての時は立ってるだけでやっとだったからよ、俺は完全にお荷物だった。」
「お荷物って…奏音さんと同じこと言ってるね。」
「奏音は今関係無えだろうが…ったく。…俺は基本戦えない。自分の身も守れない。」
「でもさ、私達の事はある意味守ってくれたじゃん。」
「は?いつ。」

想良は静かに笑った。
自分が守った覚えが無いレイはただ首をかしげていた。
本当に分かっていない無意識の行動だったのかと想良が思い、口を開いた。

「まず奏美の初仕事のとき、レイさんは心配してくれた。」
「そりゃ…だってよ、いきなり実践は辛いじゃねえか。俺らだって始めは動物から始めるんだ。
 ある程度動きにはパターンががあるけど表情からは…というよりあいつら表情ねえだろう?」
「そうだね。それにそっか、この世界だと動物少ないし食料源だもんね。
 あと一番は私達を受け入れてくれた事だよ。この世界はいわば無法者の世界みたいなかんじなんでしょ?」
「あぁ。戦が無いときは食い詰めるのが盗賊になるしあったら混乱に乗じて盗賊出るしな。」
「そんな所なんだからさ、私達絶対殺されてたよ。それを偶然とはいえレイさんが助けてくれたんじゃん。」
「あぁ…お前の言った事勘違いしたせいでな。」

懐かしそうに目を細めた。

「それにレイさん、補助具作っててくれたんだし。本当に私達助けられてるよ。だから私が出来る事だったら何でもするからね。
 家事任せて、って言ったのに結局アル君がやってたし。本当、何でも言ってね。」
「あぁ。…まあ、範囲は限られてるだろうがな。」
「まあね。でも、本当に言ってね。…うん、なんかそろそろ姉妹戻ってきそうだから行くよ。ありがと、おじゃましました。」





青空を映し、静かに流れる川。青々とし、生命を感じさせる山々。
それをぼんやりと眺めながらエドはゆっくりと歩いていた。
時折川の方角から何かはねる音がし、魚が跳ねたのだろうと推測しながら視界を後ろに移した。

「……、鋭いね、兄さん。」
「尾行をするなら標的の足音と自分の足音を溶け込ませるんだ。俺が踏み出していないときに足音が聞こえた。」
「そうかい。感謝するよ。」

男装の女が大木の陰から顔を覗かせた。
見つかったことには驚いた素振りも見せず、エドの隣へとやってくる。

「…私さ、思うんだ。」
「なんだ?」
「あんた、気づいてない?山は確かに壁にもなる。それは互いに言える事。
 でも…この川は大国のほうから流れてるんだ。それを堀にする…ありえないな、私だったら。」
「すごいな。俺も分からな」
「嘘はやめな、兄さん。浪人って…あんたこそ、どっかのスパイじゃないか?
 ここの人等は疑わないからね、私も受け入れてくれたんだ。スパイだったら仲間だ、協力してこうよ。」
「……。」
「ばらすつもりはないよ、あんたが私を言わないんなら。」

ニッっと歯を見せ女は笑った。
その笑みはエドがどういう反応をするか確かめているように見えた。
それが求める答えをエドは探る。

「あのな、スパイはスパイと明かさない物だ。それに言おう、俺はスパイじゃない。
 お前だってそうだろう?…そうだな、大河はどうしようか。お前は頭が回るようだし一緒に考えるか?」
「嘘だな。」
「は…?」
「兄さん、あんたの身体は良すぎる。一週間食えない事もあるって言ったな?」
「あぁ。」
「その割りには身体に脂肪があるんだ。」

女はエドの腕をつかみ、品を定めるように目を細めた。
そして確信を持ったかのように頷き、エドを見た。
エドは女の顔に今までのそれは通じていない、と理由無く感じた。

「私は浪人を見てきてる。大抵が飢えて、痩せてて臭う醜男だった。顔が良けりゃ暇なご婦人に拾ってもらえるからな。
 筋肉ついてる奴も居るが兄さんほどの人はいない。いたとしても脂肪まである人はいなかったな。」
「だからってな…俺は例外かもしれないぞ?」
「ああ、スパイだから浪人としては例外だろうな。どこのお兄様だ、あんた。」

はぁっ…とエドは息を吐いた。
スパイだと認める事は本能が許さなかった。
彼女があのレジスタンスの指示で探っていると言う事はありえなくはない。
認めなければ四六時中彼女の視線を感じることになるだけだろうが、認めた場合はどうなるか分からない。
同業者だった場合は彼女が言うとおりに協力関係が生まれるかもしれないがレジスタンス側だった場合は捕えられるだろう。

「俺はスパイじゃない。」
「…へぇ?」
「疑うだけ疑えば良い。俺が言ったんだからな、嗅ぎ回るなりすれば良い。何も出てこないと思うがなぁ。」
「ふざけんな!私は身分を明かしたってのにお前は明かさない?不公平だ!」
「俺は浪人。第三者的立場で国が滅んだりするのを見てきたんだ。それにお前は自分で身分を明かしたんだろう?
 なんで俺を責めるんだ。それにお前はあの国の人間だろ?」
「…近いうち、そう、近いうちだ!絶対お前を泣かせる!…せいぜい、スパイだって事を隠せるようにな、兄さん!」

女は吐き捨てるように良い、それから館の方角へと走っていった。
鋭い女も居たものだと思いながらも、彼女の言ったように川をどうするか考えた。
国の方針ではこの川を使い攻めて行くというものだったがもうそれも使えなさそうだと。
これからはおそらくあの女が付き纏うだろう。
どのように報告を入れるか考えながらもエドは楽しみを感じていた。
あの女の挑発を纏った目が自分を見ると言うのは、なんだか心地の良いものに感じていたためだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.95 )
   
日時: 2012/04/15 00:27
名前: あづま ID:A3byF9ug

「ジル…。」
「なんだよ。」
「なんでもない。ねえ、少しで良いから足動かしてみようよ。注射だけじゃやっぱり衰える。」
「気休めはいらない…もう俺、動けないんだ。足ももう感覚がほとんど無い。」
「うん…注射、分かんないんだもんね。ごめんね…。」
「お前のせいじゃない。俺が捕まったのが悪いんだからな。」

アリーは首を振って立ち上がった。
もう行くのか、とジルは言おうとしたがアリーが薬瓶を手に取り残量を見ているのが分かると口を閉じた。
複数の薬瓶を眺め、それに視線を預けたままアリーは口を開いた。

「五日くらい前?今暑いんだしさ、腐るんだよ。」
「四日だよ、お馬鹿さん。あの女は好かなくなった…あまり関わりあってくれなかった。
 俺の身体見てビクビクして…そんな奴嫌だ。どうせなら前のが良かった…鬱陶しい位話しかけてきたけどな。」
「前の人は話しかけてくるから嫌って言って殺したくせに…だから比較的動けそうな子連れてきたのになぁ。」
「五体満足の奴はもう見たくない。やっぱりお前が一番良い、俺。」
「あのね…君一応身体大きいしそうすると五体満足じゃないと無理なの。
 そりゃあ僕もいれるんだったら一緒にいたいよ。でもそれは難しいから…分かってよ…。」
「分かってる。久しぶりに会ったから少し我が儘言ってみたくなった。」

単純な理由にアリーはため息をついた。
腐臭はもう消えたのか鼻が慣れてしまったのかもう分からなくなってしまった。
窓はもう閉めようかと思ったが今日は風がありそれを感じれば心地よく感じるので開けたままにしておくことにした。
数個の薬瓶を手にアリーはジルの足元へとまわった。
それを見止めたジルはあからさまに嫌そうな顔をし、吐き捨てた。

「それやっても俺の足動かない。」
「うん。でも、もしかしたら動くようになるかもしれないでしょ。」
「無理だ。何年動けてないんだと思ってる?」
「五年近いかなぁ…よく覚えてないというか思い出したくないからね。」
「俺もな。…お前がジェイだったらなぁ。」

ジルは心の中で笑みを浮かべながら最後の言葉を付け足した。
これを言うとアリーが僅かながらも動揺する事をジルは知っていた。
自分で名乗った名前じゃないか、といつも思うがそれは頭の中にとどめいつも無表情を心がけていた。

「三人で心中できたのにな。アンリだもんな…そう簡単には死ねないし。」
「ごめん…アリアは……。」
「あれはお前の判断が正しかった。そう言われただろ。
 …そりゃ、今でも納得したくない。でもなんとなく分かるから…お前はそれ以上気に病んでくれるな。」
「……。」
「だから、お前はアリアを助けてくれたんだ。俺の頼み、ちゃんと聞いてくれただろ。」

口ではいくらでも言えるが、自分は今不快な表情をしているのだろうとジルは分かっていた。
身を起こしたアリーが少し困惑の色を浮かべたからだった。
少し大げさにため息をついて見せると、さらに困惑は強くなったのが窺えた。

「いて。」
「馬鹿、顔に出すな。」

偶然目にとまった薄い本を浮かせ、アリーに軽くぶつけた。
ぶつかった事でばさりと落ちたそれを拾い、アリーは棚にしまう。
それから再び椅子に座って口を開いた。

「それつかって動けないものかな?」
「嫌だ、疲れる。それに俺が動けるようになったらお前もう来てくれなくなるだろ?」
「そんな事無いよ。」
「嘘だな。動けない今でさえ滅多に会いに来てくれない。動けるようになったら絶対会いに来てくれない。」
「あのさー…。」
「もしも、だけどな。仕事あるのも知ってるし、なかなか忙しいんだろうなって思うよ。
 うん。俺よりも奥さん優先するべきだし。…上手くいってるか?トリクシーだっけ、名前。」
「あー…まあね。同盟はちゃんと守られてるよ、今の所は。」
「そうじゃないだろ。同盟同盟って…もっと感情は芽生えないのか?」
「えーっと、それは…うん。」

ジルからはアリーの顔が見えなくなった。
ただかすかに体が揺れているのが分かりなんだかんだ情はあるのだと安心した。
軽く笑い、視線がこちらに戻ったのを確認したうえで喋った。

「結婚生活、色々聞きたいんだからさ。俺はもう無理だし…というかアリア以外は女は愛さないから。」
「だからそれは本当に…。」
「いいんだ。ある意味俺の理想のままでアリアはいるからな。美化されてるかもな…うん。」
「わりとそのままな気もするけどね。ジル、確か僕を巻き込んで裸見せてくれって頼んだよね。」
「あぁ…口きいてもらえなくなったあれ。でも見たかったからなあ…女の裸。
 今もう一度聞くけど女の裸みたいとか思わないのか?胸膨らみ始めてるのとか…なぁ?」
「あんまり…。なんか興味わかないんだよなぁ。」
「奥さんいるもんな。いいな…。」

ぼそっと呟いたジルをアリーは笑った。頬を少し赤くしたジルは大げさにそっぽを向いた。
だが、しばらくすると体が小刻みに震え、やがて笑い声が漏れ出してきた。

「羨ましい…俺は嫁出来ないだろうしな。手伝いに来てる女も最初は良いんだけど、なんか。」
「だからって殺さないでよ。探すの苦労するんだからね?」
「嘘こけ。罪人買ってるんだろ、前の女が話してたぞ。」
「女は少ないんだよ。男でも良いなら適任探すけどね?」
「野郎は嫌だ。」
「僕も男だよ?僕も嫌?」
「お前は特別。だって俺お前の事好きだし。」
「ありがと。」

互いに笑い、後は窓から流れ込む風を感じていた。
だが、ふと思い出したようにジルが口を開いた。

「あ、そういえばあれか?奥さん頼めば裸見せてくれるか?…あ、お前限定で、で構わないから答えてくれないか。」
「…口きいて貰えないどころか両足折られて毒虫の刑。予想だけど。」
「あぁあれ。また泣きに来いよ、胸くらいなら貸す。」
「やだよ。絶対後で笑うからね。」
「笑わない、何ヶ月かしたらネタにする。あーあ…俺も色々したい。女欲しい。」
「恋愛でのそれは望めないと思うけどね…。」
「恋愛できたとしても俺の身体じゃ無理だ…世話かけるだろうし。」
「その分僕が頑張るからさ、ね?」
「女装してくるとかやめろよ?」
「しないですー。」





「想良ちゃん。どうしたの?どっか歩いてたの?」
「レイさんと話してきた。」
「え?少なくとも一時間あるでしょ。そんなに話す事あったの?」
「ていうかわんこおかしくなかった?なんか会ったばっかの印象と大きくずれてるみたいな。」
「私はあれが本来のレイさんだと思う。色々気にして最後に爆発して自己嫌悪に陥る人。」
「自己嫌悪だったの?」
「そういう訳じゃないよ。ただこのままだったらそうなりそうだなって。」

想良が戻ると二人はもう部屋に戻っていた。
五分ほど前に戻ってきたのだと説明され、やはり仕事を請ける事になってしまったらしい。
力なく奏美が笑いながら言うと、奏音は正反対に大声を出してベッドに倒れこんだ。
三人が居ない間に誰かが整頓してくれたらしくベッドは皺一つ無いのではないかと思えるくらいぴしりとしていた。

「なんでこっちきてまで仕事?やだやだ、レオンの馬鹿ー。」
「いや姉ちゃんの年だったら仕事しないとまずいでしょ。というか作家を長期休暇って意味だったんじゃないの?」
「えー。そりゃキシに会わないのは嬉しいけどさ、婿と話せないし萌えが無いしー。」
「奏音さんまた靴履きっぱなし…。」

想良が奏音の靴を脱がせに腰を上げた。
彼女が奏美の前を通り過ぎたその時、ふとある事に気づいた。
そんなはずは無いと奏美は想良に意識を集中させるが、一度気づいたそれは先入観となり拭う事が出来なくなった。
覚悟を決め、口を開く。
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 全部表示 スレッド一覧 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
パスワード (記事メンテ時に使用)
コメント

   クッキー保存