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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Differences in Peace ( No.106 )
   
日時: 2012/05/12 05:12
名前: あづま ID:hC4E5Wt2

「な…!」
「お前がスパイだっていうのは…間違いなかったのかもな。」
「だっ、だったら庇わなくって良いだろ!」
「庇う庇わないじゃなくて身体が勝手に動いてしまったんだ。」
「そ、そんな…。」
「何失望しているんだ?俺が殺されれば良かったか?」
「……。」

マリーが歯を噛み合わせ音を鳴らした瞬間、どこからともなく男が現れた。
エドは無意識のうちに彼女を引き寄せ、もう一方の腕で男の首の辺りをえぐった。
最期の鼓動と連動し吹き出した血が二人の全身を染め上げ、男自身は地に倒れた。
斬られた事により筋肉が縮み、白い骨が肉の間から覗いていた。

「罪人か?焼印だろうな、斬ってしまって分からないが。」
「うわ…。」
「金目のものはないな…手付金…あぁ、酒の匂いだ。使い尽くしたか、こいつは。」
「……。」
「ははは、血まみれだな。お前も、俺も。後で掃除してもらわないとなぁ。」
「…おい!」
「マリー、俺は浪人だ。金は必要なんだよ。」
「…そうか。」

自分が言ったことを元に言葉を返され、マリーは口を閉じた。
一方エドは、未だ温もりの残るその躯を見ていた。
ガサガサとした肌、爪の剥がれた太く逞しかっただろう事が予想される指。
それを溢れ出た血に浸し、口に含んでみた。

「セルジュ…変わっているな。血が好きなのか?」
「あぁ、弟に言われた事があるよ。血が好きっていうか、戦って殺すのが好きなんだ。
 だから…間接的には血が好きだろうな。」
「そうか。そういう奴、たまに居るよな。」
「でも純粋に好きっていうのはあまりいないだろうなぁ。俺の近かった人もそうだ、自分に言い聞かせてやってるよ。
 俺は戦争に出て好きなんだなって自覚した。」
「近かった人?」
「同僚みたいなものだ。あとこう、殺した奴の身体のどこかでそいつの血をなめる癖も直したいんだよなぁ。
 良い方法知らないか?いつのまにかついてしまって直せないんだ。」
「ただ単にしなけりゃいいだろ。」
「しないと身体がうずいてな…戦った後だから特に。」

エドの口調に恐怖を感じマリーは下がった。
だが、自らが結びつけたそれでそう遠くに行く事は叶わなかった。
ピンと張り詰めた鎖がだんだんと下がっていき、ついに床についた。

「要するに。」
「…。」
「お前は女だ。」
「……どういう意味。」
「分かるだろ?俺の理解が正しければお前はそうやって暮らしていたんだ。」

マリーが後悔する間もなく、視界が塞がれた。
助けを求めようと口を開けばそれも難なく塞がれる。
数拍の後、塞がれていたそれが無くなりマリーは咳き込みながら自ら繋いだ人物を見た。
とんでもない狂犬を繋いでしまった―――

「マリー、俺は血が好きだ。」
「……。」
「俺が好きなものを、お前は全身に纏っているな。」
「…ぅ。」
「まあ、俺がつけたんだけど。」

逃げられない、本能で実感した。





「まったくもう…どこ行っちゃったのよぉ。」
「知らないよ…。」
「あんたがいけないんでしょう?さっさと見つけてちょうだい?」
「はー…帰ったんじゃない?」
「だったらいいけどね?奏音よぉ、絶対何か起こすわぁ。」
「まあ、否定は出来ない…。」
「だから、探してらっしゃい。」
「えー…僕がぁ?」

アリーは不満気な声を出した。
彼の顔にはどんな鈍感な人でも見て取れるほどの影がかかっていた。
周囲で場の片づけをしていたカメリアの兵士が気の毒そうに頭を下げた。
それをマティーは見下したように鼻を鳴らし、短く吐き捨てた。

「行け。」
「人使い荒いなぁ。マティーらしいといえばそうだけど…ま、僕らの上になるもんね。」
「そう、ね。さあ行って、見つけたら半日くらいは暇をあげるわよ。」
「そ、でも軍師様の所に行かなきゃなんないから休みは無いね。」
「……。」
「あ、あとジルの所に人を当てて欲しいなぁ。僕もあそこから見てはみるけど、宜しく。」
「…行きなさい、さっさと。」

背中を向け、居なくなった奏音を探しに行くアリーを目で追った。
それからあらかた終わった片付けを眺め、終わったら各自戻るように声をかけ、
マティー自身は一人で自らの部屋に戻るため踏み出した。


「……嘘ぉ。」

人気の無い、それは表面だけ見た場合の廊下。
先程潜り込んでいた小部屋から道を間違えた場合に行ってしまいそうな場所を一通り歩いた。
そして、違っていて欲しいという願いを見事に打ち砕く声が僅かに響いている。
ため息をつき、いかに潜り抜けるかを組み立てながら扉を軽く打った。途端、中の声が聞こえなくなる。

「入れ。」
「…失礼致します。」

静かに頭を下げながら扉を開け、部屋に入った。
ばれない様に、と一瞬上を見れば声の主、そして奏音が居る。
面倒な事になった、と口の中で呟いた。

「あれ、アリーちゃん。どったん?」
「まずは失礼をお許しください。監視が行き届かず、貴方様にご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。」
「構わないって…僕だって退屈なんだから。楽しかった。」
「…このものに処罰は?」
「しょば、処罰?!なんであたしが?」
「……。」
「な、なんかごめん…。」

処罰と言う言葉に抗議しようと口を開いた奏音も、アリーの顔を見て口を閉じた。
いいから黙っていろ、という雰囲気が手に取るように分かった。
奏音は自分と並んで椅子に座る青年を見、アリーを見た。
言葉遣いからアリーの方が下なのだろうという事は分かったがそれ以上の関係性は見えなかった。

「そんな事しなくていいよ、僕は楽しかった。
 アリー、僕を楽しませてくれた人に処罰を求めるなら君がそれを代わりに受けるんだよ。」
「…承知しました。奏音、もう帰るんだ。」
「まじで?そっか、じゃあ君!またねー。」
「うん…会えるって信じてる。」

部屋を後にし、静まり返った廊下を進んでいく。
奏音は声をかけようと口を開くが、言葉が出てくる前にアリーに睨まれ黙っていた。
見るからにして不機嫌であり、かける言葉が見つからない。
扉の前や、通路が交差している所に立つ兵士が礼をするのを何度か見送った。

「奏音…。」
「あ、喋って良い系?」
「はー…君って本当、取りあえず寒いから歩きながらね。」
「おっけおっけー。」

あの裏口からではなく、今度は少しではあるが手入れの行き届いた戸から外に出る。
話すと入ったもののそのまま進んでいくアリーに慌てて奏音は声をかけた。

「ねえ、怒ってるっしょ。居なくなったのは悪かったけどさぁ?
 携帯のGPSは使えないしあたしあそこよく分かんないし。似たような部屋ばっかりだったんだよ。」
「別にいいよ、それは。置いていったのもある意味僕の責任だし。そうじゃなくってね。」
「何さぁ…。」

アリーが歩みを止めた。
そのため後をついていった奏音が数歩前に出ることになった。
アリーは奏音を見上げ、あきれの混じった声で言う。

「あの人は国主だ。」
「え。」
「このカメリアを治めている人物…まあ、ほとんどの政治は隠居した父親がやってるらしいけど。
 でも、二代そろって表立った戦を嫌って…。」
「そ、そうすか…え、つまりあたしは王族と話してたって事?」
「話すだけならあの人は穏健だし良いよ。許してくれると思うしね。
 絶対、なんかやったでしょ。せくはら?だっけか、レイとかにもやってるよね、ミス。」
「うぅ…いや、あたしの発作というか…。」
「……。」

一瞥を与え、ため息をついてからアリーは歩き出した。
そして三人が世話になっている塔が見えると、振り返った。

「帰れるよね。」
「そりゃ、見えるし。え、アリーちゃん来ない系?」
「僕はまだやる事があるからね。じゃ。」

そう言い、一歩下がると目の前にはつむじ風が吹き上がった。
今回は外なので砂を巻き込み、痛みに奏音は目をつぶった。
風がおさまり、彼女が目を開けるとアリーはおらず、ただ塔が静かに立っているだけだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.107 )
   
日時: 2012/05/19 02:33
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

身体が重い。
そう感じ、マリーは意識を取り戻した。
記憶を辿り、あの仲間が殺されセルジュと名乗る男が…と順を追って思い出した。
まだ、完全に意識が覚醒しないのを見るとどうやら薬でも盛られたらしい。
必死に瞼を上げるも、すぐに閉じてしまう。

「…っ。」
「起きたぞ。我等に説明してもらおう。」
「……。」

先手を取られた。
この自覚を持った瞬間、意識が一気に覚醒していく。
身体は柱に縛られ、衣類もほんの情け程度にしか身に付けていない。
多少体を動かせば、うっ血しているのが分かった。
そして、足元には盥が置かれている。
どれ位、意識を失っていたのだろう―――
その疑問を汲み取ったのか後ろから声がした。

「だいたい半日だな。お前、本当にそうやって生きていたのか?」
「セルジュ…!貴様…!」
「お前がスパイ。それは揺ぎ無いだろう。隠していた秘密の文書…上手い所に隠していたな。」
「……。」
「さすが女だ。」

マリーの後ろの人物はどのような格好をしているのか分からない。
自分と同じく縛られているのを望んだが、縄は明らかに自分のを縛っているのみだ。
いつまでも後ろを気にしては仕方がないと、正面…正確には俯くような形でこの国の面々を見る。
どの人物の顔にも憎悪と困惑が見て取れた。

「マリー…どこの人間だ。」
「…言うか。馬鹿。」
「我等を裏切ればどうなるか。分かっているか?」
「さあね。でもこれで、あんたらみたいなお間抜けなお人好しにも危機感が出たんじゃないか?」
「俺たちは裏切りを予想していなかった。」
「故に我等は罰を持たない…。」

その発言を聞き、マリーはほっと胸をなでおろした。
自然と、唇には微笑が浮かぶ。
だが、それも続けられた言葉によっていとも簡単に崩れ去った。

「だが、たった今。罰則の必要を認め、かつこれ以上の犠牲を出さないためにもお前には刑を与える。」
「そうか…ふーん。」
「なんでも、ウシザキ…と言うとか。」
「ウシザキ?」

聞いたことの無い名にマリーも聞き返す。
だが、当の本人もこの内容を知らないらしい。
ここに集まっている人も知っている人間は居ないようで、皆が顔を見合わせた。
刑を宣告した人間は、自分の発言に対し助けを求めるような目をしていた。

「簡単に言うとだ。四肢を四頭の動物に結びつけそいつらを別の方向に走らせる。
 そうすると身体は耐えられなくなって…と言う事だ。」
「つ、つまり死刑…という事で?」
「ああ。こんな人をもう出したくないだろう?だったら初めの人間の罰を重くするんだ。」
「死刑…そ、そんな…!私が…?」

マリーの絶望した声と、周囲の動揺。
エドだけが何にも動じず、彼等の反応を楽しんでいた。

「セルジュさん、それは重すぎるよ。」
「そうか?その比較はどこから出てきたんだ?」
「ほかでは…そう、殺しまでは無いような…。」
「よそはよそ、うちはうちだ。それに他国のスパイとなればまずは死刑だ。執行は…一週間以内でどうだろう。
 今すぐでは早すぎるし、かといって長く縛っていたのでは脱出してしまうだろうからな。」

爽やかに言い放ち、エドは立ち上がった。
それが合図といわんばかりに周りの衆も立ち上がり部屋を後にする。
刑の重さに多少、気の負い目を感じている人間も居るようだがそれもやがて押されてしまうだろう。
マリーは後悔した。
スパイだ、と気付いていてもあまり大っぴらに言わなければ良かったと。
一見、何も考えていないように見えるが残虐な事に関しては頭が回っている。
味方に引き入れれば…と既に遅いそれを頭から追い出した。

「後悔しているか?」
「別に…。」
「そうか。まあ、お前は脅威だったかもしれない。」

意味深な事を言い残し、マリーの死を宣言した男は出て行った。
こんな短期間であの男はこの国を掌握してしまった。
指揮をとり、民衆の支持を得た今までの苦労。全ては、国のためだった。
国の正しさを信じ、殺した人間。
あの小さな少年も思い出され、自分は意外と人に依存していると理解した。

「馬鹿みたい…。」

雫が頬を伝い、どこかに落ちていった。





「たでーま!」
「お帰りなさーい、どうだった?」
「想良、頼むからベッド直してよ!」
「あーはいはい。」
「なにしたし。」

アリーと別れ、自分達が与えられた部屋にまっすぐと帰ってきた奏音は部屋の中の様子を見て戸惑った。
明らかに何かあったと語っている。
ベッドは布団が引き摺り下ろされ、それを奏美が元に直そうと四苦八苦していた。
ただ、枕は無残に切り刻まれ隅の方に寄せられている。
そして真ん中には一人の少女。

「誰。」
「あれ久しぶり。忘れた?」
「いやあんた…えー?」
「奏美は会ってないらしいんだけどね。ここに来たばかりの頃奏音さん会わなかった?」
「えー待って思い出すわ。」
「想良、そっち持って。重い、この布団。無駄に大きい。」
「柔らかかったけどねー。あ、私は試験のときにレイさんを呼びに行ったじゃん。
 あの時に会ったんだよね、確か。」
「こっちは分かんないよ。でもあなた来たばかりだったよね。」
「そうそう。」
「いやだから名前。」

手は動かしつつも談笑を続ける想良と少女を見て奏音は口を開いた。

「ごめんね、名乗れない。でもあんたと会ったのは確実だからね?」
「そすか。」
「で、存在こそ知ってたけど会えなかった君もよろしく。」
「あ、はい。」

突如話を振られた奏美も戸惑いがちに頷く。
大体部屋が掃除された頃になると少女は立ち上がった。
そして腰の鞘に投げ出してあった剣を戻す。

「こっちは味方だからね。でも凄かったよ、手を抜くように言われなきゃ本気でかかってた。」
「……。」
「ありがとう…?」
「うん、稽古位なら二人でも出来るだろうし頑張ってね。それからお仕事に関して。
 会えなかった君と、寝ていたあなた。」
「あ、もうなの?」
「そーそー。」

肩にかけていた布で頭を覆い、顔だけを見せたまま少女は振り向いた。
そこで奏音はふと、目の前の人物を思い出した。
確か、飛び降り自殺をしたのかと思った人物である。
ただその後すぐに眠ってしまい、夢と現実の境界が分からなくなったためすっかりと忘れていた。

「だいたい五日後。それまでには準備を終わらせておく事。でも武器はある程度向こうで配られるから。」
「え、じゃあほぼいらない?あたし遊べるフラグ?」
「こっちは分からない。でも支障が出ないくらいで良いんじゃ?
 それからレイにはあの覆面は味方だっていっておいて。探るつもりみたいだし面倒だから。」
「えー?信じてくれないんじゃない?」
「信じ込ませるのが技量。あのお方は潜入からの仕事だから疑り深い。だからこそ、かな。
 頑張って、出来るように祈っておくよ。」

そう言い、行きがけに枕を手に取り奏音に渡す。
奏音が受け取ったそれは綺麗に修復されており、それを呆然と見つめた。
扉が閉まる音で顔を上げると、当たり前だがそこには誰もいなかった。

「凄い、簡単に直しちゃった。」
「はー…ウチらのあれは何のために…どう謝るか考えてたのにさー。」
「いいじゃん、無事に済んだんならもう忘れよ。
 それで奏音さん、どうだった?結構遅かったし楽しんできたのかなって思ったけど。」
「別になにもないかなぁ。あ、マテーちゃんがヒチョウって名前だったって事くらいかね。」
「ヒチョウ?ウチらは偽名教えられてたって事?」
「なんつったっけ…マティルドがミドルネームらしいよ。あ、あと取引先の男の人をいじりたい。
 で、国主の人と話した。」
「えぇ?!姉ちゃん、縛り首?」
「いやー…せめて禁固位じゃない?よっぽど無礼な事して無かったらいずれ許されるよ。」
「なんであたしが?!」
「それだけ信用してるんだよ、奏音さんの変態具合を。」
「……。」
「酷え…。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.108 )
   
日時: 2012/05/19 02:35
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「お嬢様方…。」
「だーかーらー!携帯いらないでしょ?それとこれも!戦場で何する気?!」
「何って何に決まってんでしょーが!ほら、商品説明ご覧なさぁ〜い。」
「姉ちゃああんっ!」
「あの…。」
「気にしないでー、いっつもこんなだから。でも仲良いんだよ。」
「同行する隊の者が荷物を預かりますので…。」
「ほら人見姉妹、ミゲルさん困ってるから。」
「……。」
「…馬鹿姉。」

もう姉妹の出発が明日に迫った夜。
朝、未だ荷造りを終えていなかった奏音を手伝おうとしたのが始まりだった。
携帯をアリーに持っていかれたままなので朝食を終えるや否や探し回り、見つかったのは昼食時。
一応全ての携帯を充電してもらい再び歩き出す。
と思いきや脇道にそれレイにちょっかいを出しにいく姉を止める。
氷を落とされ、奏音が気絶しやる気も消えうせ夕食へ。
そして空に星が輝いている今、二人は喧嘩している。

「持っていくものは最低限で構いませんから、奏美様もそんなに持たないで大丈夫ですよ。」
「えっ、でも戦いでしょ?」
「あなた方は自衛する事が最優先です。他にもありますがそれは向こうで分かるはずですから。」
「…そういえばあの時も鎧とクナイ位だったなぁ。」
「ええ、いざとなったら作り出せば良いのですから。
 荷物はそれくらいで構いませんよ、余程持って行きたいと思うもの以外はいりませんので。」
「あーそれ生身で持ってくのは…まいいか…。」
「ではなにか子袋に入れておきますよ。もう持って行って良いでしょうか?」
「あーうん、ウチは良いよ。姉ちゃんも良いんじゃない?」
「おっけーよ、あたしはそれあれば良いし。使うか分かんないけどさ。」
「分かりました。明日は誰かしらが起こしに参りますので身体を休めてください。それでは、お休みなさいませ。」

腰のベルトから丸い輪を取り出し、それに荷物を乗せるとふわりと浮いた。
ミゲルは一礼し、戸を静かに閉めて出て行った。
奏美は早々布団に潜り込んだが、想良と奏音は談笑する。

「でもさ、奏音さんは寝なくて良いの?緊張して眠れないとか?」
「いや?移動時間に寝れるだろうしまだ眠くないし。緊張もないし。」
「そうなんだ。私もそういえば緊張してなかったかなぁ、ただ忙しかった。
 まあ、みんな演技だったっていうからビックリだし素直に凄いって思うなあ。」
「ふーん、あたしは一回しかあそこ行ってないから良く分からんけどそんなに凄いのか。」
「うん、全然演技って感じがしないんだよ。ドラマでもさ、子供だとちょっと演技だなぁってなるでしょ?
 あれが全然無いの。」
「へー…。うーん、俳優がやる声優みてーなもんかな?」
「それは分かんないや…。」
「じゃあ漫画の実写化かな、まあいいわ。」

話を打ち切った奏音は携帯をいじりだした。
電話は通じず、ネットもテレビも出来ないのでまだ電源が生きていた時代に取り溜めたムービーを見るのが主だった。
想良もそれをわきから覗き、他愛の無いそれに感想をしばらく述べたりしていた。

「どはぁっ!」
「奏音さ、アリー?」
「やあ、君は早く寝なよ。任務開始は五時間後、集合は三時間半後。歩きだから寝れないよ。」
「えっ…。」
「はい、ミスは寝るように。で、想良は来てくれる?」
「いいけど…。」
「はい決まり。…眠く無さそうだし睡眠剤打とうか。」
「いいよ、寝ようと思えば…刺した?!」
「はい横になって。じゃあね、想良は借りるよ。」
「ちょー…うぁ、やべ…。」

どさりと倒れた奏音をアリーは片手でベッドに放り投げる。
片手がはみ出て揺れているが、それを直すでもなく想良の腕をつかみ部屋を出て行った。





「全くどうした訳?」
「……」
「あんたが怯えるって。マティルド、心当たり無いか?」
「ある訳無いじゃないの。私は同盟締結のもろもろやってたのよぉ?
 こいつが内通っていうのは考え辛いけどこの怯えようだと心配ねえ。ちゃんと軍を壊滅してくれるのかしら?」
「……」
「…了承したのはアルベール…あなたなのを忘れないで頂戴。どうしても駄目なら敵の目の前で自刃なさい。」
「おいマティルド!」
「いいじゃないのよ…そもそも彼はどこの人間な訳?本当に喋らないの?」
「それは…分からないけど。」

明かりは小さなものがひとつ。
薄暗い部屋の中、声を低くした女性二人が額をつき合わせている。
部屋の隅では背の高い男が顔を覆い座り込んでいた。
大きな体をできるだけ小さくしようとしているのか、その様子は他の二人との比較で滑稽に見えた。

「アルベール…あなたを置いているのはカメリアじゃない。パベーニュの…私達の当主が見初めて下さったからよ。
 あなたは口を割らない、文字を書けない。表情も無いに等しかったわ…少なくても私にはそう見えてた。」
「……」
「訓練を受けてから、必要最低限の文字は覚えていった。交流は避けられないから自然と表情が出るようになったわね?」
「マティルド…。」
「ダイアナ、黙っていて頂戴。これは私の問題…いいえ、家の問題に発展しかねないわ。」

そう言ってダイアナを見上げたマティルドの目には確かな光が宿っていた。
私を殺し、公の為の決断を下そうとしている。
王族であり国の実権を持つ環境の中で育ったダイアナはそれの強さを見て取り、一歩下がった。
それは不干渉の意を表すのに十分な態度だった。

「身長や全く声を出さないという特徴。あなたが覚えられる要素は腐るほどあるわ。
 あんたを元に他国から戦を仕掛けられないなんて言えない。でも、あなたを手放さなかったのは分かる…?」
「……」
「反応をしない?ふん、あんたもどっかの王族、少なくても貴族でしょう。分からない筈無いじゃない。
 利があった…たったそれだけ。」
「……」
「もう務めを果たせないならあなたを養うほどゆとりは無いわ。自分の元の国名くらい分かるでしょう?
 戻りなさい、私たちは追わないし探らないわ。」

アルは顔を上げた。
マティーは自分を蔑む様な目で見ている。それから笑みを浮かべ一歩左へと行った。
部屋の出口となる扉が視界に入り思わず視線をそらす。
ダイアナを見れば、多少眉間に皺はよっているものの目を閉じ不干渉を表していた。
立ち上がり、自らよりかなり下にある、だが見上げずに入られない顔を見つめた。

「……」
「何かしら?察しなさい、そうしたら楽になるんじゃないかしら。」
「…」
「ダイアナ、別れの挨拶位してあげたら?」
「…。どこかで、会おう。敵か味方か…分からないけど。」

ダイアナの言葉をアルは何の表情も見せず聞いていた。
意味を理解するのに時間がかかったか、それとも引き止めて欲しいと思っていたのか暫く佇んでいた。
だが、諦めたのかため息をつきドアノブへと手をかけた。
しかし次の瞬間その手はドアノブを離れ、後ろへと引かれる。

「本当にお馬鹿さんねぇ。私が言ったのが分からなかったかしらぁ?」
「……」
「あんたは家の秘密を知らないとも限らないの。ふふっ、目よ、目。
 あんた今驚いてるし恐怖、それにちょっとした安心感もあるわねえ…面白いわぁ、矛盾してる。」
「…!」
「何、なんかまずい事言ったかしら。あんたを逃がすんだったら目を潰して、脅威にならないように手も足も無くさないと。
 あら、目が大事なようねぇ…大丈夫よ、取らないわぁ。逃げない限り、ね。…ダイアナ。」
「はいはい…。心苦しいけど、アル。リキルシアにはお前がこの国の人間だってばれてる。
 お前の報告が兵を恐怖に陥れたんだ。…どっかの一般兵が話を流したことで多少の落ち着きを取り戻したけど。」
「……」
「そんでお前が向こうの…全権の方に恐怖感を持った以上、な。牢獄行き…これでも譲歩しているんだ。
 ここの普通なら斬首だよ…そんだけ、アル。お前を評価してんだ。」
「ダイアナ。」
「分かってるよ…ったく。つう訳で…な。」

牢獄という言葉で一瞬動揺を見せたアルも大人しくダイアナに引かれていった。
マティーは部屋に一人残り、全ての力を使い果たしたとでもいうように椅子に倒れこんだ。
それからもう時間が差し迫った出発の道筋を頭の中で組み立てて言った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.109 )
   
日時: 2012/05/26 09:13
名前: あづま ID:IcGxi/EE

「ねえねえ、もう夜だしどうしたの?」
「…星、綺麗だよね。」
「そうだねー、日本だとこんなに見えないし。で?」
「……。」
「ていうか私じゃなくてトリクシーと来ればいいのに。二人で満天の星空の下を散歩とか。照れないでさ、ね?」
「照れとか無ければ…うん、そうじゃない。」
「あ、じゃあトリクシーとこう夜空見たいとかはあるんだー。トリクシー聞いたら喜ぶよ。」
「そう?」
「そーそー。二人ともお互いに好きなのに壁置いてる感じだよ。」
「…そうかなぁ?」
「私にはそう見えてるかな。」

夜道を、想良とアリーの二人は歩いていた。
星々が二人を照らし、決して真っ暗ではない道を二人は進んでいた。
全ての物が眠る時間だというように物音も二人の足音。たまにそれに驚いた虫が慌てて逃げ出す音がするくらいだった。
なかなか本題を切り出さないアリーに対し想良は不信感を持つものの危険だといわれ禁じられていた夜の外出を楽しんでいた。
だが、防寒着を着ているとはいえ冷え込みは体に牙を向ける。

「ねえ、アリー。そろそろ寒いかな。アリーも寒いでしょ、その服薄いみたいだし少し震えてる。」
「僕はいいんだ、別に。貧困層の心配でもしてあげてよ。」
「そうだね…酷い所は本当に酷いし。」
「凍死も出るからね。……想良はさ…面倒見がいいし…。」
「そうかな?」
「集落の…見てれば分かる。子供たちの顔が明るいよ。」
「そっかー。」

面倒見がいい。
自覚してなかったからこそ、褒められ思わず顔を綻ばせる。
そういえばラリーとの約束をどうしようかと一瞬頭をよぎったが自分一人では帰る事ができないのを想良は自覚していた。

「うん…それを見込んで…というか。」
「なあに?」
「ジルの…。」
「お世話?」
「ううん、ジルは筋力こそ衰えてるけど力はある。それに…あの女の末路は避けたいでしょ。」
「…殺される事?」
「そう。」
「そうだねー…。」

自分が殺される。
想良はそれを思い描いてみようとするがそれはできなかった。
実感がわかず、ただ首をゆるく振っただけに終わった。

「想良は聞いてるかな…僕は罪人を買って薬物実験の対象にしている。」
「……。」
「そこから、ジルに向いていそうな人を選んで欲しい。」
「アリーは?」
「無理、僕は行かなきゃなんない。分かると思うけどジルには介助してくれる人が必要でしょ。
 数日なら飲まず食わずでも生きられるかもしれない。訓練を受けているから。」
「うん。」
「でも、一週間以上はね。せめて水分だけでも取らないと死んじゃう。それで…だよ。
 僕が罪人を買って住まわせている場所を教える。君は集落のほうに帰ったら適当に見つけて欲しい。」

思いがけない申し出に想良は返事ができずに立ち止まった。
数歩、アリーが前に出ている格好となり彼は後ろを振り返る。

「でも、例え見つけたとしてもまたこっちに来るなんて…。」
「そこは…これ。これを対象に飲ませるんだ。一種の洗脳状態になって、こっちまで来て役目を果たす。」
「へえ…便利……。」
「請けてくれるね?」
「うん…そうだね、いいよ。」
「ありがとう、気が晴れたよ。とりあえず、そこに行くときは男装して懐に武器を潜めること。」
「自衛のため?」
「うん、命以上にね…女の人は大事だと思うし。…帰ろうか。寒い…。」
「着てくればいいのに、もー。」

足早に進む彼を想良は追った。
部屋の前までアリーは想良を送り、分かれる寸前耳元で囁いた。

「一応、ジルにあって好みでも聞いてね。まあ、その時によって変わるけど、ね。」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ、じゃあね。」

心配事が解消したからか軽い足取りで進むアリーが暗闇に消えるのを見届けてから想良は部屋へ入った。





「ん…あぁ、兵士の人……。時間ですか?」
「その通り!さぁ、体を起こし目を開け!」
「うっぜええええ!あたしはまだ寝てるの!」
「いいえ、お嬢さん!既に目は覚めております、さぁっ!」
「だああ…。」

いきなりの大声で目を覚まし、布団から出た奏美は伸びをし立ち上がった。
想良もまだぼんやりとしているが座って茶番を繰り広げる奏音と兵長を眺めていた。
布団にへばりつき離れない奏音を大声で注意する。

「想良。」
「ん…?」
「津岸さんのマネ。」
「…。先生ー!起きて下さい!」
「ぎゃあっ!」
「これは素晴らしい!そのように声色を変えられるのであればさぞ、役に立つでしょう!」
「はぁ…。ん、行ってらっしゃい、おやすみなさい。」

ぶつぶつと文句を言う奏音を兵長は引っ張って行く。
奏美もそれに続き、想良は二人が出て行くと再び布団を被ったのだった。
人気の無い廊下を歩いて、外に出る。
もう季節は冬に該当し、かつ明け方ということも手伝いとても寒い。
吐き出した息は白くなり、やがて空気に溶け込み見えなくなった。

「さぁ!背筋を伸ばして、目を開けて!出発しましょう!」
「ね、寝たい…。」
「ウチはそんなに…。というか、兵長さん。こんなまだ夜なのに元気ですね…。」
「それはそれは、お褒めに預かり光栄至極!お気になさらず、私は皆様を送り届けた後は非番ですから!」
「え…あんた来ない訳?え、まじすか。」
「私はこのマティルド様に使える身でございます。兵と言いましても護衛のみですから!」
「うっそぉ。」
「はい、真です。さぁお嬢様方、あれが行動を共にする一団でございます、お気をつけて!」

一団が見えると兵長は二人をおいてさっさと引き上げてしまった。
嵐のようなその存在に固まるが、今夜出立する一団に合流する。
その一団は皆揃えた服装をしており、二人が今回行動を共にする人物だと悟ると同じものを渡してきた。
仕草から、今ここで着る様に命じられているのが分かる。

「なんか…ぼろっちくね…?」
「姉ちゃん!…皆同じだから。」
「そーだけどさぁ、解れ過ぎ穴開きすぎ…。」

袖を通すと、仮面を渡される。
二人がそれを付け顔を上げるとそれが合図だったかのように一団は進みだした。
何の説明も無く無理矢理手をとられ歩かされた。
月明かりのみの夜であり、群衆の影が視界を隠す。
何度か躓き、ぬかるんだ地に足を取られながらも二人は懸命に進んだ。

「…説明いたします。」
「うっはぁっ!」
「お、大きな声を出さないで…!」
「その声…は?うーん、聞いたことあるなぁ。奏美、分かる?」
「……。」
「無視?」
「…あなたを、カメリア本家に案内した……。」
「あぁ、あの女の子!」

納得したというように奏音が再び大きな声を出す。
周りの人物は立ち止まったりはしないものの明らかに奏音に対し不快感を持っているようだった。
奏美はそれに対し申し訳ない気持ちがあるものの無関係を貫こうと無視した。
話しかけてきた女性兵士も仮面の中で眉をひそめていた。
だがそれは仮面の下の出来事であり、もし仮面が無くても夜がそれを隠していただろう。
感情を感じさせない声で言葉を続ける。

「お二方、よく聞いてください。今の格好は、追放者がする格好です。
 浪人でもなく、追放者。罪を自らが、もしくは身内が行った事により追放された者の格好です。」
「追放…。」
「はい。それから病により差別され追放された者も。烙印を顔や首筋に押されます。」
「…それってさ、ウチらも押されるって事?」
「いいえ…今はもう廃れてしまった風習ですから。ただ、追放された者はみな同じような衣類を身に纏い施しを求めます。
 そこから引き抜かれるものもいるんです…。」
「そーなん。なんか矛盾してるような気が…っつーか君、なんか喋り方おかしくね?
 前会ったときより雰囲気が違う気が…。」
「…御前だと不都合があるんです。余計なプライドが残ってるんでしょう、母が語ってくれました。
 いかに、華々しかったか…没落したとはいえ……。」

そこで少女は会話を打ち切り、二人から離れていった。
後を目で追おうとするが、皆の格好は同じ。
それに加え、夜の闇が追跡を良しとせず少女の姿を人の波に取り込んでしまった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.110 )
   
日時: 2012/05/26 09:15
名前: あづま ID:IcGxi/EE

日は顔を覗かせ、それに答えるように木々が揺れた。
その下を揃いの服装をした一団がゆっくりと進んでいた。
その一団はどこか陰気くさく、出会ったものは思わず顔を逸らしてしまう雰囲気を持っていた。
足音は揃えられ、先頭の一人が持つ鈴のついた杖がりん、りんと規則正しく鳴いていた。

「ねえねえ奏美…。」
「…何。」

歩き続けて五時間位だろうか、奏音が口を開いた。
奏美は周りをさっと窺い見るも、誰も反応を示していないようだった。
だが、所詮は仮面を見ただけ。その下の表情は全く分からなかった。

「手短にして。」
「いや、歩きすぎじゃない?そろそろ肉刺が出来てる気がするんだけど。」
「姉ちゃんが運動不足なだけ、以上。」
「えー…。」

ほかの人に倣い、正面を向き歩を進める。
妹のそれを見て奏音ももう話を続けられないと判断し前を向いた。

「あと、一時間ほどですから。」
「うぉおっ?!」
「大きな声を出さないでくださいまし。」
「あ、さーせん…。」

後ろからの声に奏音は驚くが、優しさを持つその声色に心を落ちつかせた。
聞き覚えのある声に暫く首を傾げるが、誰だか分からなかった。
ちらりと後ろを見るも、見覚えのある外見の人間はいなかった。
りん、りんという音が規則正しく、空に染み渡っていった。
雲は無く、澄んだ色をしている空は誰の歓喜も苦悩も知らないというようにただそこにあるだけだった。





「まだ一週間たってない!…セルジュ、分かってる?!」
「俺は一週間以内って言った気がするんだが…。」
「……。」
「我等も、セルジュ様の発言の通りに記憶しております。」
「…っ、死にたくない!私は、私はまだ!」
「まだ?まだ二十歳そこそこだ、とかか?二十歳どころか十になる前に死んでいく子供だっているんだぞ。」
「それは…分かってる。だけど…。」
「子供なんて煩いものだろ?女ならまだ将来を考えて優しくする気はあるが…。
 それに、他人の子供ならまだしも自分の子供なんて考えただけでも寒気がする。俺にはいらないな。」
「……。」
「マリー、そんな顔をするな。一瞬だ、とは言わないができるだけ早く止めはうつつもりだよ。…。」

にっと笑みを浮かべたエドはマリーの腕に縄をかける。
すでに両足にはそれぞれ縄が結んであり、その先には獰猛で知られている動物がいる。
今は餌に夢中になっている彼らだが、その咀嚼や息遣いでの振動がマリーの足を揺らした。
断ち切りたくても断ち切れない振動を振り切るかのようにマリーは目を硬く閉じた。

「セルジュ…様……。」
「どうした?」
「その…私も調べたのです。…死刑は、重過ぎないでしょうか。」
「重い?何で。馬鹿な国主相手に革命を成し遂げ、初めての平和な国が生まれるんじゃないか。
 それに、刑は初めて行われるんだぞ?他国との比較なんてしていたら滅びてしまう。」
「……そうですか…。」
「あぁ、そうだ。」

戸惑いを見せながらも、話しかけてきた人物は離れていく。
革命のために何人も殺してきたであろう男達は、いざ刑の元に一人が死ぬと知ると怖気づき手を出そうとはしなかった。
女達は、マリーに対し同情を示すもののどこか侮蔑の色が見えている。
個を集団で非難する時の結束には敵うまいというのが簡単に理解できる光景だった。

「終わったぞ。…あとはいつでも出来る。」
「…私は、終わり……。」
「お前で始まるんだ。お前の…うん、言う必要はないか。」

エドは刑の執行はいつでも良いと声をかけた。
だが、反応が返ってこないのを見ると鞭を作り出し、それを少し離れた所で振る。
風を切り裂き、次の瞬間に弾ける様な音があたりにこだまする。
その音を聞くにつけ縄に繋がれた動物の気も立っていく。
おとなしく餌を貪り食っていたそれも蹄で地を掻き、鼻を鳴らした。
エドはそれを気にとめるでもなく、規則的に鞭を鳴らす。

「…ん?何…。」
「どうしたのだ?…執行は取り消さない…セルジュ様が、お決めになった。」
「違う!セルジュ、鞭をやめてくれ!…なんの音……これ。」
「我等には聞こえぬ。マリー、気を逸らさせようとしても駄目だ。」

だが、民衆にも多少の動揺が広がった。
マリーの勘には、革命以前にはとても世話になったのが不意に思い出された。
勘――といったがある種の訓練の賜物だろう。
だが、この平和ボケした民衆にそれが分かる訳も無く、ただただ不安を煽っただけであった。
そして、エドの鞭の音と呼応するように微かな、しかし凛とした響きを持つ音が聞こえてきたのだった。

「行け。」

中枢とも呼べる人物の短い言葉で数人の若い男が立ち上がる。
そして音のする方向へと鞘に入れたままの剣で走っていった。
しかし、数分としないうちに一人が戻ってきて口を開いた。
その声は、この処刑の雰囲気と似つかわしくない歓喜に満ち溢れていた。

「追放された人々です。この国の噂を聞きつけやって来たとの事。素晴らしい事ですよ、これは!
 彼らは独自の網を持っているとの事ですがかなりこの国は有名だと!民を差別しない弱者のための国!」

この若者の声に緊張した空気も解けていった。
それは革命がこの国の独りよがりではなく、弱者の希望になっているという事。
賛同も、得られているということ。
革命は―――正しかったのだということ。
追放され、社会に見放されたモノの言葉ではあってもそれはこの国にとって神から賜る言葉に等しかった。
そして、目の前の人物の命など正しさの前では道の端で死に掛けている虫の命にすら満たない物に変えてしまった。
今まで前例が無い、他国との比較から重過ぎると躊躇されていた死刑。
前例が無いその国に、その死刑は温かく迎えられることとなった。
人にも満たない物の言葉によって……。

「今すぐ伝えてくれ。我等は貴方がたを受け入れようと。いや…受け入れるなどという表現は合わない。
 この国は貴方の故郷だ。長き旅の疲れを癒し、家族の元へ…そう伝えてくれないか?」
「はい、承知いたしました!」

駆けてきた男はまた来た道を駆けて行く。
今度は倍の時間がかかっただろうか。りん、りんと鈴の音が辺りに響き数十人の団体が姿を現した。
仮面を被り、揃いの衣を身に纏う集団。
普通の人々ならば思わず目を逸らすその集団も、この国の人間には自分たちの手の届かない所から
遣わされたとても崇高な人間に見えたのだった。
鈴の音に心を震わせ、歩を合わせた動きに清らかなものを見た。そんな気がしたのだった。
そんな彼らだからこそ、一団の中に大きく体を震わせた者とそれを制するような動きを見せた者に気がつかなかった。

「申し訳ありません、只今裏切り者に刑を与えている最中でして。
 見苦しい光景ではありましょうがこれも我等の取り決めの一つ。どうか…。」
「いいえ…貴方がたは…私達を家族と言って下さった。家族の掟は守りましょう…。」

杖を持った人間が答える。
その人物が頷くと、残りの一団は皆に顔を見せるかのように横に数列に並び膝を突いた。
それを慌てて制すと、男は口を開いた。

「刑の執行を!」

その声にエドは頷き、全ての動物に素早く鞭を一発喰らわせた。
動物はけたたましい声で吼え、餌を踏み砕き、四方へと走り出す。
その瞬間、ほんの数十分前までは刑の執行という重石を背負っていたとは思えない歓声が上がった。
その歓声は自らの革命の正しさを喜ぶ物ではない。
罪人の悲鳴、血飛沫、そして死。
そして残った血から自らの正しさに興奮し、酔いしれ、熱狂する。
それらに期待している、死を望むただの悪鬼の歓声であった。
悪鬼の中に放り込まれ、なす術も無い人はその瞬間のために歯を食いしばった。
メンテ

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