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[3476] Differences in Peace
   
日時: 2018/10/01 13:30
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:1fl2iO3A

※更新鈍足!






◎はじめに
 この小説は、私が小学校高学年〜中学二年生位の間に書いたものを
 再編集したものとなっています。
 再編集とはいっても、ころころ変わる視点を統一(三人称化)したり、発見できた誤字を
 修正する程度であり、矛盾等は修正しきれていません。
 サイトに掲載するときに更なる修正や伏線の為に完全ではありませんが書き足したりしております。

 ジャンルはおそらくファンタジーです。
 常識の無い自分勝手な人物との共同生活のような内容が主となっております。
 この物語らは時代が前後していたり、複数の舞台が出てきますが
 世界観は全て同一となっています。
 稚拙な説明で申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。

◎次回予告
 更新は113話まで完了。
 次回114まで予定。いつ更新できるんでしょうか。
 
◎つぶやき
 取り急ぎ一話だけ。
 無事!内定をもらえました!!2年もかかった!
 本当に面接は万死に値している。
 データが本当に見つからないんだけど、どうしよう。

◎注意
 作品の中には流血や暴力、更には殺人描写があります。
 舞台となっている世界が地球の場合は特にありませんが、それ以外の場合は注意してください。
 また、一部エロのような物もあります。
 修正こそしていますが、考えれば推測可能なので苦手な方はご了承ください。

◎サイト
ブログ
 たまに更新予定なんかが書かれています
 
◎一覧
 Strange Friends      >>1-40
  かなり適当な設定   >>41-42
 Differences in Peace  >>43-

◎絵
 レイと奏音。このコンビは動かしやすい。
 スマホでも描けるもんですね。マウスが書きやすいけど、筆圧ではこっちに軍配。
 サイズがバカデカイかも。
メンテ

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Re: Strange Friends ( No.1 )
   
日時: 2011/11/09 17:41
名前: あづま ID:SqJEoHys

「それで、お前は誰だ?」

とあるアパートの一室。
二人の人間がそこに向かい合い座っている。
1人はスーツを着た若い女性。もう1人はセーラー服を着た少年。

「何度も言っていると思うんだけど…僕は天使みたいなものだよ。」
「誰が信じるんだ。」
「少なくとも僕は天使っぽいので、君はあと何分かで面倒になって信じるよ。これは決定事項。」

少年の言葉に、女性は頭を抱えた。





金曜日の午後9時過ぎ。
街頭に照らされた寂しい道を歩いていた。
上司の仕事を押し付けられ、定時で帰ることができたはずなのにこの時間になってしまった。
それにあいつからの救助要請メールがイライラを余計に増やす。
『趣味以外にもやる事があるだろう中卒!仕事を溜めたツケだ、絞ってもらえ。』
メールを怨念と共に返信し、もうアパートの前に来ていることに気づく。
ふと、2階の自分の部屋を見上げると電気がついていた。

「…脱出済みか?だったらメール送るなよ。」

メールを送ったことで少々発散されたイライラが倍になっているのを感じ、階段を上った。


「おい中卒!さっさと帰…は?」
「あ。」

仕事を投げ出し逃げてきただろう友人を追い返そうと思い部屋に勢いよく入った。
しかしそこには友人の姿がない。
かわりにそこにはセーラー服を着た小学3年生くらいの少年がいた。

「コスプレ?…あ、あいつが寄こしたのか?人攫いかよ…家はどこだ、送るよ。小学生だろ?もう遅いからな。
 っつか親怒ってるんじゃないか、9時だぞ今。」
「あいつって誰だい?」
「奏音って奴。……知らないのか?あ、富根紫音って名乗ったのか?」
「カノン、もしくはトミネシオン。」

そう言うと、少年の姿は一瞬見えなくなり、次の瞬間には再び現れた。
一瞬の出来事とはいえ、少年が消えた。
私ははどこかで事故ったかそれとも書類の整理中にでも落ちたかんだろうか。

「どうしたんだい?百面相じゃないか。まぁ、僕は自分の意思でここに来たんだ。
 しばらく君にはお世話になるよ、一応ヨロシクね。」

しかし目の前の少年の様子から消えたようには見えず、瞬きでもしたのかと思いなおす。
目の前の人間が消えるなど非現実的だ。

「お世話ぁ?!…なんだ、家出か?家の電話番号を教えろ。それと学校。一応両親と学校には連絡入れないと駄目だと思うんだが。
…というかお前外人か?親は日本語理解できるよな?」
「電話?そんな物いらないよ。僕は学校に行っていないし、親…もまぁ、君が連絡を取れる範囲にはいないからね。」

親が連絡を出来る範囲にはいない、とはどういうことだろう。
私の目の前にいる少年は見た目からして日本人ではない事は明らかだ。
普通に考えれば外国からの旅行者なのだろうが、一人旅は彼の年齢ではありえないだろう。
ホームステイも経済的には受け入れる事はできなくはないが、それには見えない。

「…じゃ、お前は何だ。しかたない、電話はあるから自分で連絡いれろ。世話は仕方ないからみてやるよ。金はたかるし。
 じゃ、自己紹介位するか。私は竹谷華凛。23歳、会社員だ。遅くても10時までには帰ってくるから、お前もそれまではいるように。」
「ヨロシク。僕はサクソル。君達の世界で言う天使…かな?」
「はぁ?あれか、中二病ってヤツか。早いな、発症。」
「ま、座らないかい?人間は立ちっぱなしだと疲れるだろうと思うんだけど。」
「確かに立ちっぱなしは疲れるが…お前が言うことなのか?お前も人間だろう。」
「いや、天使みたいなのだよ?君とは存在そのものが違う。僕は選ばれたんだ。」
「どっかでなにかをミスった…。」

私達はテーブル越しに向かい合って座り、しばらく質問が続いた。





こうして話は冒頭に戻る。
何度も少年に対して質問を重ねるが分かったのは【サクソル】という名前くらいだ。
いや、サクソルという名前自体偽名だという可能性も捨てることはできない。
実質、少年について分かることはゼロに等しかった。

「もういい。お前は天使だと証明できるものはあるのか?」
「あるにはあるけど…。まぁ、君だしいいか。」
「私だし…って何。」

そう言うとサクソルは周りの景色を一瞬歪め華凛の視界から消えた。
あれは気のせいじゃなかったのかと友人のことを話した直後の出来事を思い出すが
消えたから天使だ、という結論には至らない。
数秒後、彼がいたところが一瞬歪むと何かを手に持ったサクソルが現れた。

「いや…あのな、消えただけじゃ天使じゃないぞ?人間じゃないっぽいのは分かったが。」
「順応性高いね、君。確かに、消えただけなら僕が天使だっていう証明にはならないだろうね。
 だから一応、これなんてどうかな?君が働いているときに書いてたものだけど。
 けっこう訂正が必要なんじゃないかな、毛の少ない縞々の人に怒られていたよ?一応、資料も持ってきたけど。」
「は?…あー、ホント……数値一個ずつずれてる。何で気づかなかったんだ…。
 ……ここあの禿がやったとこじゃ!え、私はそこで怒られてるのか!理不尽だ、クソッ!あー、2時間あれば終わるか。
 仕方ない、色々と腑に落ちないが信じるよ!まぁ警察沙汰にはならないみたいだし、金は足りなくなったら馬鹿から貰うから心配すんな!」
「信じてくれたのかい?君って単純と言うか分からないというか…。じゃ、これ返してね。戻してくる。」
「は?え、直させてくれてもいいじゃないか。」
「僕、歴史は自分の意思で変えちゃダメなんだ。じゃ、2秒後に。」

そして強引に書類を取り上げ、周りの景色が歪みサクソルは消えた。
そして私の目の前にきっかり2秒後平然とした顔で再び現れた。

「ね?君は僕を信じただろう?あ、あとそうだ、これ美味しかった。マスターにもあげたいな。
 お金の心配は要らないんだろう?買ってくれるとありがたいんだけど。」
「嘘…月曜早く出なきゃいけないのか。っていうかこれ数量限定のやつ!勝手に食ったのか!」
「待ってるの暇だったんだよ。僕はさっきも見せたとおり時間と場所が分かれば場所も移動できるけど
 人間の気持ちも感じてみたいんだ。まぁ、おかげでタイクツが分かったようだよ、ありがとう。今日はもう寝ようか?」
「楽しみしてたのに?弁償しろ…!」
「じゃ、君が起きるときに。」
「待てコラァ!!」


周りを歪め、サクソルは消えた。
華凛は舌打ちをし、明日は休日なので読書をしようとするが怒りで内容が頭に入らない。
ふと携帯を見るとメールの着信に気づいた。
『お前ふざけんなし。おかげで軟禁されてんだけど。絶対に許さんが夏で許す』
という矛盾メールが友人から届いていた。
【夏で許す】という文字に昨年を思い出し鬱になり、これ以上起きていたらイライラで爆発するだろう。
もう夜も遅いのでシャワーを浴び、一連の出来事が夢である事を願い布団に倒れこんだ。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.2 )
   
日時: 2011/09/05 05:55
名前: あづま ID:5FlPEQFo

窓から朝日が差し込み、その光が女性を照らした。
眩しいと感じたのだろう、女性は顔をしかめ起き上がった。

「ちッ…7時か。5時間しか寝れてないじゃないか。
 昨日はシャワーだけだったっけ。風呂はいるか…てかいないのかよ。やっぱ夢か。」

布団をたたみ端に寄せると、風呂場にお湯を入れに行った。
そして湯船にたまるのを待つ間朝食の下ごしらえをしておく事にする。
冷蔵庫を見ると野菜が少ししか入っていない。
それをすべて適当な大きさに切りサラダにする。
パンも台所の端に袋ごと落ちているのを発見し、賞味期限を確認する。
…まぁ平気だろう、三日くらい。
サラダとパンを出しておき一応「食うならこれ食えよ?」と誰もいない天井に話しかけ
風呂場へと歩いていった。





「はぁ…、夢で良かったのか?嫌な夢だな。」

湯船に浸かり昨夜の出来事を思い出す。
家に帰ったと思ったら謎の少年がいて自分は天使だと言い出した。
天使であるという証拠だといって私が帰宅する前に整理していた書類と資料を持ってきて
馬鹿上司が自分のミスを私に押し付けている未来の出来事らしいものを教えてくれた。
もしこれが本当ならば癪なので月曜は3本くらい早い電車に乗らなければならないだろう。

「っつか、なんで私のところに来たんだあいつは。」

奏音のところに行けばよかったんじゃないか…?
あれは異世界やらなんだか理解しがたいものが大好きな人間だ。
男好きだしもしかしたら貞操が危ないかもしれないが、あれは見るからに未成年だ。
さすがに未成年には手を出さないだろうし、経済力も私よりはるかに上だ。
家も同学年なのに立派なのを持っているし…てか22なのによく一軒家持てるな。
まぁ、あれはあいつの才能だし趣味だからやっていて楽しいんだろう。

「本当…なんで私……?」
「それは君がちょっとお金に余裕がある平凡だからだよ。
 君は歴史の大筋に関わらないようだからね、僕がちょっとお世話になっても大丈夫だと思ったのさ。」
「な゛、どっから出てきてるんだ!」
「いや、君の未来がちょっと変わっちゃったみたいでね、起きるのが僕が見た時間より早くなってたんだ。
 でもこの程度なら君個人の歴史だし問題は起こらないよ。」
「そうじゃなくてなんで風呂場に、しかも今私は裸だぞ!!」
「歴史は変わんないし。話を変えていっつも思うんだけどさ、女体って色々面倒じゃないかい?」
「ホントに変えたな。別に面倒じゃないぞ、私は生まれてからずっと女だからな。
 昨日話した所に行ってろ。サラダとかパンも食っていいよ。私はもう上がる。」
「面倒じゃないのか…。まぁ、あの奏音って人を見る限り、君は確かに…面倒じゃないかもね。」

突然現れ目の前に座る自称天使に一瞬我を忘れる。
しかし彼には羞恥心がないのか話を続けた。
そして突然の女体の話に疑問を持ちつつ彼の視線をたどり自分の体のある一点を見ている事に気づく。

「…胸か!?お前胸のことを言ってたのか?!あいつが規格外にでかいんだ、私は小さくないぞ!!」
「確かに僕は胸を見てたけど、別に小さいとは言ってないじゃないか。じゃ、3分後に。」
「五月蝿いッ!さっさと出て行け!!」

そう言うと彼は景色を歪めて消えていった。
いちいち周りの景色を歪め消える彼に、ふと疑問が浮かぶ。
―――居間まで歩いていけないのか?10秒あればいけると思うんだが。





風呂から上がり身体を拭いた彼女はふと視線を壁に向けた。
そこには自分の身体が写っている。

「小さくない…よなぁ?」

脱衣所の鏡に映った自分を見てぽつりと呟いた。
一応Cなんだが…あいつには確かに及ばないけど……。
って…わりとCは普通だよなあ、多分…。





「よ、お待たせ。」
「いや、待ってないと思うよ?色々僕も楽しんできてるしね。
 でも、ずいぶん悩んだようだね。走るのに揺れて邪魔になったり遠くの物を取ろうとして他の物を倒さないんだろう?
 それならいいじゃないか、悩むことじゃないだろう?」

こいつ…女心を分かってないな……。
おそらく悪気はないのだろう。それがまた厄介なのだが。
サクソルはサラダのトマトだけを食べている。

「レタスは食わねーのかよ。」
「この薄緑のヤツ?なんか味がないの。せっかく食べるんだったら味があるのを食べたいじゃないか。
 だからこのふわふわしてんのもあんまり…。」
「あ、そ。じゃあ残しとけ、私が食べるから。あと今日、お前のものを買いに色々行くからな。」
「そうかい?それは嬉しいや。」
「そう、それはよかった。で、服なんだがそれしかないのか?結構目立つぞ?」
「これ?あ、変えようか?というか着なきゃいけないって結構辛くないかい?
 これいちいち作るの面倒なんだけど。みんな裸でいいじゃない。」
「着なきゃ警察行きだ。というかそれ作ってるのか?それこそ面倒じゃないか。だったら買えばいい。楽だぞ?
 あと裸でいたいんだったらアダムとイヴの辺りに行けばいいじゃないか。」
「いや…ただ単に創造するのが面倒でね?この衣服はこの身体を作るときについでに創造してるから裸と変わりないんだよ。
 まぁ、着なきゃいけないのは分かってるからそうだね、買って。」
「今すごいことを聞いた気がするがいい。ただ身長がなぁ、入るかな?」
「だったら君の身長にあわせようか。それなら入るよね?」

そう言うと返答を待たずに彼は姿を変えていった。
姿を変えるのは辛いのかときおり声が抑えられず漏れてしまっている。
変化が終わった彼は息切れしており、面影こそあるものの別人のようだった。

「っはぁ…これぐらいで…どうだい?」
「あぁ、声も変わるんだ。中3くらいか?ただ全裸はやめろ。」
「服…をくれるんだ、ろう?いいじゃないか。」
「はぁ……使ってない下着あったかな。テレビでも見て待ってろ、持って来る。」

そう言って、彼にテレビの電源を入れリモコンを手渡す。
が、リモコンは彼の手には収まらず軽い音を立てて床に落ちた。
仕方がないので自分で番組表を見る。

「ここを押すと変わる。アニメで良いか、お前子どもっぽいし。」
「君、失礼じゃないかい?アニメは楽しそうだから良いけど。」

サクソルの言葉を軽く聞き流し、彼に着せる衣服を探しに寝室へと入っていった。





「ま、こんなもんか?」

下着はボクサーといっても女物しかなかった。仕方ないからこれを着てもらうことにする。
が、流石に上の服は女物を着せるわけにはいかない。
といっても華凛は休みの日はもっぱら家にいるのでサクソルに着せるのはジャージなのだが。
友人が逃亡してきたときの服とコスプレセットを4つほども見つけたがそれは大きすぎるし女物である。
なので面倒だからと適当に入れたためサイズが小さかったジャージを押入れから引っ張り出してきた。
居間を見るとサクソルがテレビを見ている。
彼は時空移動できるはずなのにそれをしないでテレビを見ているということは案外気に入ったということなのだろうか。
ただ、全裸なのが変態くさい。

「おい、とりあえずこれで我慢してくれ。あと買ったら着替えるから。」
「分かったよ。ただこれはどうやって着るんだい?」
「そんなの私を見て察しろ。ボタンがない分楽なはずだ。」

しかしズボンの前と後ろを逆に穿いたり、首を出す部分から腕を出し着られないというベタな事をやり
サクソルがキレて華凛に死なない程度の電撃を浴びせ気絶させてしまったりして
買い物に出かけられるのは10時過ぎなのであった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.3 )
   
日時: 2011/09/05 05:56
名前: あづま ID:5FlPEQFo

午前11時。車内にて2人は言い争っている。
原因は買い物に出る前の出来事。
服を着れなかったサクソルが華凛に八つ当たりをして意識を失わせてしまい出かけるのが遅れた。
本来、彼女はそこで気絶しないはずだったので彼は歴史を変えてしまったことになる。
幸いそれは家の中で起こった出来事であり影響はないに等しいのだがサクソルは気に入らなかった。
華凛が目覚めやっと出かけたのだが運悪く渋滞につかまってしまったのだった。
彼は普段は時間を移動している為待つ事に対して耐性がない。
不機嫌になっていくサクソルに華凛がこの世界で暮らしていくための最低限のルールを教えようとした。
だが、教えられたのではダメだ、自分で勉強して分からなければならないとサクソルはそれを拒否した。
そうなると必然的に話題はなくなる。
そして彼が朝の出来事を持ち出した事によってこの言い争いが続けられているのだ。

「あぁもう、なんでこう詰まってるの?もういい、買い物ってどこでするんだい?」
「んだよ…。ここしばらくまっすぐ行って左に曲がるとあるデパートだけど?」
「そう。…あーっ、この世界の服だから時間移動できないのがホント嫌だぁ…。」
「じゃ、人間の気持ちが分かるだろう。良かったな。」
「そうだね、僕が分からないのは癪だし。寝られればいいんだけどな。」
「寝たらいいじゃないか。お前は運転しないんだし。」
「天使は寝ないんだよ。えっと…堕天使?になれば寝られるんだけど。あと悪魔も…。」
「何で堕天使が疑問系なんだ。…というかやっぱり中二病だな、お前。堕天使とか悪魔とか。」
「だって僕達正確には天使じゃないし?形容する言葉を知らないからこう教えられただけだもん。
 ちなみに天使は普段天使の住むところで暮らしてる存在。堕天使はマスターか執行部隊からの使命でその世界に対応する姿で
 それを果たす存在。使命が終われば戻るよ。それで…悪魔、は天使じゃなくなった存在。追放…かな?」
「へー…さっぱりだ。ま、私には関係ないな。というか話していいのか?私が知った事で歴史が変わったり?」
「そこは平気だよ。僕は色々できるし、乗り越える方法も人は知っているものだろう?
 それか、乗り越えても忘れちゃったりね。」
「そうか…?あ、動き始めたな。」

やっと動き始めた車の列に2人は安心する。
どうやら事故が原因だったようで、片づけが終わってしまえば後ははやい物だ。
5分ほどで目的のデパートに着き、外にでる。
デパートでの注意事項を教えようとしたが、サクソルは聞こうとしなかった。
彼の態度に迷子になりませんようにと華凛は祈る事しかできなかった。





3階の衣料品売り場。
ここに来るまでエスカレーターにはしゃぐサクソルを抑え、逆走しようとするのを止めるなどして華凛は必要以上に疲れていた。
小さい見た目ならまだしも、今は中学生くらいの見た目である。
周りの視線が痛く、無理にでも教えるべきだったと公開するがもう遅い。

「じゃ、好きなのを選べ。元のお前の身長に合うやつをな。私はその間お前の下着買ってくるから。」
「僕を放置するのかい?それは正気?」
「仕方ないだろ?渋滞で余計な時間くっちまったし。」
「僕が選びたいんだけど!」
「選ぶって…そんな種類無いと思うんだが。第一下着は見えないからセンスとかもなぁ…。」
「君は黙って。僕は選んでみたい。これは僕の意思だ。」
「分かったよ…。じゃ、そこの椅子に座ってるから選んだら来い。今夏じゃなきゃ野菜とか買いに行くんだけどなぁ。」
「了解!」

近くにあったサンダルをカゴに入れ、それを渡す。
するとサクソルは売り場へと走っていき、人の中に消えた。
今彼の外見は中学生くらいになっているが、中身はそれよりも幼く感じる。
人を見下したような発言には腹が立つが、反抗期だと考えるとなんだかほほえましく感じてしまう。
ここまで考えて、ふと自分はこんな短い時間で絆されていると感じた。
赤の他人ではあるが弟のように思え、案外自分は一人暮らしが寂しかったのではないかと。
両親にも、高校に上がってから会っていない。
あの馬鹿な友人も仕事と言うか趣味に没頭しており、会う事は年に10日あるくらいだろうか。
この事実に気づくと、こんなムカつく少年でも一緒に暮らせるのは素直に嬉しいと思った。

「ま、この世に居なくなるんだろうけどな…いつかは。」

声に出すとそれが酷く重く感じた。
それを忘れるように、椅子に座り携帯を開いた。





「や、終わったよ。これくらいで良いのかな?」
「サイズは…ま、大きい分にはベルトとかすればいいし、いいんじゃないか?じゃ、下着な。」
「めんどくさいねぇ、見えないのに着るなんて。」
「汗の吸収とかに必要なんだ。天使は汗かかないのかもしれないけど、一応な。」

衣類の会計を済まし、下着売り場へと移動する。
華凛の予想と違い、男性用とはいえ意外と種類があった。
種類の多さに彼は迷っているようで、色々な種類を勧めてみたがブリーフだけは拒否した。

「お前…なんで嫌なんだよ。」
「これはダメ!絶対に嫌だ、何かが僕にそういってるんだ!!」
「じゃ、Tバック。これのほうがやばくないか?」
「…いや、面積少ないし穿いてる感じがしないだろうからいいかも。」
「…洗濯物干しがいたたまれない。」

結局、無難にボクサータイプのを買った。





一通りの衣類を買い終え、サクソルをトイレで着替えさせる。
彼は嫌がったが、普段の外見は小学校中学年くらいなので女子トイレで着替えている。
更衣室で着替えればいいのだが、入っていった人と出てきた人が違ければ騒ぎになりかねない。

「終わったよ…開けてー。」
「鍵はそっちだ、私には開けられない。」
「あ、そうだったかい?」

トイレの扉をあけ、サクソルが出て来る。
やはりサイズは大きかったようだが、どうせすぐ成長するからと大きいものを着せていると考えれば平気だろう。
サンダルもサイズは大丈夫だったようで華凛は安心する。

「平気そうだな。じゃ、飯食ってお前の雑貨買って食料買えば終わりだな。」
「僕はお腹減らないんだけど…。」
「私は減るんだ。お前は食べなくてもいいぞ、ずっと見てろ。」
「食べる!人間をもっと知りたい!!」

彼の言動に、姿が変わってもやはり子供だと思った。
手を繋ぐと嫌がられたが、リモコンのように彼の手をすり抜ける事はなかった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.4 )
   
日時: 2011/09/05 05:56
名前: あづま ID:5FlPEQFo

「へぇ、ここがレストラン。なんか楽しそうだね。」
「昼時だし混んでると思ったが…意外と空いているな。あんまり待たないんで良いんじゃないか?」

サクソルの衣類を一度車に積み込み2人はレストランに来ていた。
今日は休日であり時間も昼時なので混んでいるだろうという華凛の予想に反し、
レストランはそれほど混んでおらず10分程度待てばいい位の人数だった。
やがて名前を呼ばれ二人で席に着く。
イキイキとメニューを広げ眺めるサクソルとチラッと見て何を頼むか決めた華凛。
サクソルは5分ほどメニューを眺め、ナポリタンとイチゴパフェを頼んでいた。

「ナポリタン…そんな家でも作れるようなものでいいのか?」
「うん。結構好きなんだよ。」
「食べた事あるのか?」
「マスターがね、好きなんだよ。僕も結構長い時間地上界にいるんだろうし。
 果物とか野生で食べられるものは結構食べてるかな。あとわりと状態がいい残飯とかもね。」
「天使が残飯ね…。あと"いるだろう”ってどういう事だ?」
「あー…僕は時間を移動してるだろう?だから正確にどのくらいいる、とか分からないんだよ。
 例えば3日後に会う約束をすれば君たち人間はその間の3日間の歴史があるだろう?
 でも僕は移動できるからその3日間の歴史が存在しないんだよね。約束をして別れた次の瞬間にはもう会えるわけで。」
「そうか…便利なような悲しいような…。」
「悲しいかな?やっぱり人間は分からないなぁ。マスターか…な、分かるとすれば。」
「マスター凄いな。」
「うん、僕らを作ったからね。いろんなことを知っているし。」
「神様みたいなもんなのか…お前のマスターは。」

この後も料理が運ばれてくるまでマスター談義を重ねた。
料理が運ばれてきてからは黙々と食べ続けた。
サクソルは華凛が頼んだドリアも食べたがり二人は半分ずつ交換した。
食べ終わった頃にパフェが運ばれあまりの大きさに華凛は圧倒されサクソルは喜んだ。





食事を終えた2人は食品売り場に来ていた。
サクソルはレストランで食べたパフェをとても気に入ったようで何度も話題に出していた。

「なぁ、晩に食べたいものとか…。」
「パフェかな。」
「それは流石に重い…。今度また出かけたらな。」
「うん……。」
「残念がるなよ。ずっと出かけないわけじゃないんだ。」
「マスターにもあげたい…。」
「作ってあげればいいじゃないか。で、晩御飯のリクエストは?」
「なんでもいいや。」
「それが一番困るんだよ、全く。」

売り場を一通り見回し、作り置きも可能だろうとカレーにする事にする。
多くあっても困らないので茶碗などの雑貨も数点セットで買い、会計を済ませる。
荷物を持たせようとするが荷物は彼の手をすり抜けてしまった。
透き通るなら仕方がないとあきらめて全部自分で持ち、手を繋ぐ。
やはりサクソルは嫌がったが、彼はおとなしくしていた。





行きの半分以下の時間で自宅に帰ってきた。
サクソルは居間のソファでアニメを見て、華凛は冷蔵庫に勝ってきた物をしまいこむ。
茶碗なども一応洗って伏せ終わった後、サクソルの隣に座ると彼が話しかけてきた。

「僕が勝手に押しかけてきたんだし聞くのもあれだけど、なんで面倒を見るんだい?
 君は気も強いようだし追い返そうと思えば追い返せるはずだよ。」
「なんでって、気まぐれじゃないか?それに、お前は言ったじゃないか。後何分間かで信じるって。
 だから私がお前の面倒を見る事は決まっていたんだろう。だから私を選んだんじゃないか?」
「いいや、僕は君の未来を一通り見たけどそれは僕の関わる前の未来だからね。賭けだったよ。
 朝もさ、僕が知っている未来では君は起きたのが10時くらいだったし君は買い物に行かなかった。」
「そうか…仕方ないよ。お前の面倒を見るって決めたからな。」
「ありがと。ただ、これで歴史が変わっても大丈夫だから…修正される。」
「修正?」
「うん。僕の存在はみんなに忘れられる。時間はちょっとかかるけど。
 修正は僕の仕事みたいなものだし。昔なら神話にする事もできるけど、今の時代は完璧にダメだしね。」
「忘れるって…私もか?」
「君は僕と深い関係になってるだろうし…一番時間はかかるだろうけど、忘れるよ。」
「……。」

彼は淡々と自分が忘れられる事について語った。
忘れられていく事に慣れているのか、それとも悲しいのか。
その表情からは何も読み取ることが出来なかった。

「みんな忘れると…お前も忘れるのか?」
「ん?僕は忘れないよ。何回も修正してるし、その一つ一つを覚えているよ。」
「お前だけが覚えているって…やっぱり悲しいよ。」
「そう?でも、全部僕が関わったから修正するんじゃないから。災害の大きさとかね。
 文明を進化させる為には災害も戦争も必要なんだ。でも、滅びかねない大きさに変える奴がいるからさぁ。
 そいつを消せれば済むんだけどね。でも僕はあいつを殺せない。」

そう言ってサクソルは遠くを見る。
華凛は彼の瞳を覗くがそこには何も映っていない。
それは闇にのまれ光が消えたのか、光が強すぎて闇が消えたからなのか。
華凛にはわからない事だった。


「もし殺せたら……お前はその人を殺すのか?」
「殺す。でも、あいつはおちた所にいるしマスターが好きなんだ。マスターが悲しむのは嫌だし……。
 それに…殺せないよ。あいつだから…僕だって……。ゴメン、ちょっと消える。」

サクソルは消えた。
彼にはおそらく別の時間軸が存在している。
彼の時間軸で精一杯悩んだ後、華凛の時間軸で数秒とたたずに出てくるのではないかと思ったがそれは無かった。
少し待ってみたが彼は帰ってこなかった。
カレーを作り一人で食べ、自室へ入っていった。





しばらく本を読んだが、サクソルのことが気になって集中力がもたなかった。
時計を見ると意外と時間が経っていないことに驚き、居間に向かう。
サクソルはまだ帰ってきていなかった。
もう、修正されてしまったのだろうか。
おそらくあれは彼の中ではタブーだったのだろう。
それに触れてしまったのだ、自分は。

「サクソル。」

彼に教わった名を呼んでみる。
返事は無かった。

「修正…されてるのか、それとも夢だった?」

朝は、サクソルが来たことを否定したくて夢である事を願った。
はっきりといって面倒であり、それを拒絶していたのだろう。
でも…今は……?彼女には分からなかった。
ただ、彼のことを大切に思うようになっている。それだけが確信を持てることだった。

「サクソル……。」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.5 )
   
日時: 2011/09/05 05:57
名前: あづま ID:5FlPEQFo

「起きて…起きてよぉ〜。珍しいねぇ、もう午後だよ1時だよ。」
「あっ、サクソル?!」
「サクソルって誰?!まさか浮気?」
「んだよ…誰だ…?」
「ひどい、ひどいわぁっ!あたしって者がいるのに浮気だなんてッ!」

ゆさゆさと揺り起こされて意識が浮上する。
良く響く演技がかった声がなんとも気に入らない。

「合鍵をお互い持ってる仲じゃない!二人で夜を共にした仲じゃない!!」
「五月蝿い黙れぇっ!!」
「ァあゲッふぁ!!」

声のする方向に蹴りを一発入れる。
どうやら命中したらしく苦しそうな声が近くで響いた。
周りを見るとすでに明るくなっている。
という事は昨日はサクソルを待ったまま寝てしまったという事になるようだ。
今日は日曜。
明日は仕事であり、サクソルは帰ってこない。
とてもやる気が起きず二度寝しようと寝転がろうと思ったら体を抑えられた。
誰だ――顔を傾けると馬鹿が覗き込んでいた。

「おわっ!…なんか用か?」
「その反応…夜を共にした仲とは思えない……。」
「修学旅行だろ修学旅行!ただ同じ部屋だっただけじゃないか…その表現はホントムカつく。」
「流石あたしの婿、感情が篭ってるぅ。用はあれです、夏のコスプレです。」
「帰れ。」
「ひっど!婿酷い!!許さない…無配のネタにしてやる…がっつりペン入れさせてやる…。」
「コスプレもペン入れもしないぞ…。」
「ハハハハハッッ!自分自身をモデルとしたキャラのエロシーンのペン入れ!
 腐ってない華凛サマには屈辱の極みだろう!しかも無配!タダであなたのエ」
「死ね!!」
「えヴッ!」

手の届く所にあったもので友人…人見奏音を殴る。
それは頭に思い切り当たりイイ音がした。奏音は余りの痛みに腕を噛み堪えている。
手元を見るとそれはリモコンであり、ふと彼の手を通り抜けてしまったのを思い出す。

「やっぱ…。」
「着てくれるのね!さすが婿…ッ!」
「着ない。ところで仕事は終わったのか?」
「モチモチ!夏の陣出られなくさせられるってなったらもう自殺もんだし。徹夜で頑張りました。
 それとキシがダウンしたらしくて臨時の担当が来て栄養も気力も補給できたし。」
「津岸さん労わってやれよ…可哀想じゃないか。栄養って何、なんか作ってもらったのか?」
「色々やってもらったんだ。キシずっとぶっ倒れてないかなぁ…。悪魔だしあいつ。
 臨時君はあたしの嫁。今回持ってきた仕事少なめだったし同人もしていいって言ってたし。
 なにより初々しいし。もうほんと嫁。全部がイイ。最高。」
「良かったな…迷惑かけるなよ。臨時にも現にも。」
「でもさ、金曜のメールに気づいたのいつ?あたし朝の8時くらいに入れたよね?
 でその3分後にキシが来てトイレ以外立たせて貰えなかった。むしろ逃げるからって付き添いだよ羞恥プレイ。
 キシの嫁から電話きた一瞬の隙にメール送ったのが多分土曜回ったくらいだし。」
「気づいたのは夜の9時くらい…だった。」
「ひっど!半日放置?!で土曜の夕方に終わってー8時くらいにキシが熱出した連絡だ、ざまぁ。
 で半くらいに臨時君が来て色々したんだ。仕事も持ってくるの少なかったし、マジイイ子。」

9時くらい…そうだ。
あのメールにいらっとして、目の前にいるこいつを怒鳴ろうと勢い良く扉を開けたらサクソルがいた。
それが金曜。
今日は日曜であり、まだ1日しか過ごしていない。
それなのに、こんなに懐かしいのか……。

「ところで婿、この服は何?ショタ趣味でもあんの?」

サクソルに買った服。
これは、修正されないのだろうか…。
言い訳はどうしようか…。

「それ…なんかホームステイ受け入れてみようかって。」
「ふーん。もしするんだったら援助はするよ、対価は萌で。あ、だったら臨時君に会ってみない?」
「なんで?」
「臨時君は外人さんです。お国の風習とか聞けるっしょ。」
「そうだな…。」
「おっけぃ!じゃ行こう。」
「家知ってるのか?」
「住み込みでとっても尽くしてくれます。」

そして2人は奏音の家に向かった。





「ただいまぁ。」
「お帰りなさい、奏音。その一人は?」
「玄関でおしゃべりは止めましょう!っつうわけで座る場所を探します。」
「すいません…お邪魔します。」

3人で部屋に入ると、そこは案外きれいだった。
どうやら、臨時の担当さんが掃除をしてくれていたらしい。
奏音はこんなに床面積が覗いているのはいつ振りかと驚いていた。

「座るスペースがあるなんて…。」
「でも、違う部屋に移してあるから。まだ終わってない。」
「でも凄いよぉ。あ、座ってね。紹介します、あたしの婿の竹谷華凛。小学校から一緒です。
 で、臨時のレオン君です。初々しいあたしの嫁です。キシは悪魔だから死ね。」
「婿じゃなくて女友達です…宜しく。」
「レオン=フレスキ。日本語の勉強で来た。こちらも宜しく。
 奏音、津岸さんも奏音を思ってるから死ねは良くないよ。」
「あいつは悪魔だもん。」
「津岸さん頑張れ…。でもレオンさん日本語うまいよ。」
「ありがとう華凛。あと、さんはいらないから。」
「よぉっし、打ち解けたな!でも浮気したら許さないからね。
 じゃレオン、君の国のお話をしてくれ。婿はホームステイの受け入れをしたいらしい。」
「そうなのか?本当?」
「え、えぇ。婿じゃないですけど。」
「そうか。それは…いいよ、話す。参考にしてくれれば嬉しいから。」
「お願いします。」

そしてしばらくはレオンの話を聞いた。
彼は以前に何度かホームステイをしたことがあるらしい。
ホームステイはその国の文化に触れたいから希望する人が多い。だから歴史がある観光地を巡ったらどうだと言っていた。
それから手伝いはちゃんとさせて、いけない事をしたらちゃんと怒る事。
日本と外国での認識は違うので当たり前だと思っている事が当たり前じゃなかったりする。
ホームステイを何度もしているだけあって、いろいろな国の話もしてもらった。
奏音は途中で寝た。徹夜が祟ったのだろうから寝かせておこうとレオンは言っていた。





「ありがとうございました。参考になったよ。」
「…それは、本当?なら良かった。もし私がいる間ホームステイをするんだったら会わせて。」
「ああ、約束するよ。」
「約束だから。奏音は寝てるし、君の家まで送ろうか?暗くなってきている。」
「え?そんないいよ。近いし。」
「でも、あなたは女性。暗いのも危ないが、暗くなってきているのも危ない。」
「あ、んー…じゃ、頼むよ。」

こうして二人で奏音の家を出る。
といっても、道を歩く二人に会話は存在しない。
華凛の家は奏音の家から20分ほどの距離であり、すぐについてしまった。

「ここだからさ…ありがとう。話しも参考になった。」
「いえ…。でもここが、あなたの家なのか?」
「そう。ま、なんか用事でもあったら来てよ。平日は仕事でいないが休みなら大体いるし。」
「ここが…そうか。そう、行く時間ができたら来るから。」
「うん、また。」
「はい、それでは。」

レオンが元来た道を歩いていくのを見送り、華凛も階段を上る。
奏音ともそれなりに付き合える人がいたんだと少し嬉しくなった。
部屋に入ると、静寂。
やはりサクソルは帰ってきていなかった。

「夢だったのか…やっぱり。」

なんか、寂しい。
私は奏音にもレオンにも嘘をついてしまった。
二人に対し申し訳ない気持ちと寂しさから逃れるように、頭を抱える。
そのまま時間が過ぎていった。
ふと、自分の後ろから規則的な音がしているのに気づく。

「ちょっといなくなっただけでこうなるんだね?」
「…サクソル?」
「そうだよ。やっぱり人間は分からないよ、今はね。」
「そうだな。お前みたいなクソ生意気なヤツには一生分かんないだろうな。」
「えー…時間がどんなにかかってもいずれは分かりたいな。僕には時間はいくらでもあるし。」
「はいはい。あ、パフェ食べにいくか?コンビニのだからレストランのよりは劣るかもしれないが…。」
「ホント?じゃ、マスターにもあげたいから君の分含めて4つ買ってよ。」
「3つじゃなくて?」
「2つは僕と華凛の分。残りはマスターと僕で食べてくる。」
「そうか…。本当にマスター好きだなぁ、お前は。」

こうして二人は暗くなりだした道をコンビニに向かって歩いていった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.6 )
   
日時: 2011/09/05 05:57
名前: あづま ID:5FlPEQFo

コンビニからの帰り道。
サクソルはマスターへのお土産として買ってもらった物を大事そうに抱えている。
彼は結局パフェ以外にも買ってもらったのだった。

「そもそもお前さ、なんでこう遅かったんだ?
 お前は時間を移動できるわけだし、消えた次の瞬間に出る事も可能だろう?」
「最初はそのつもりだったんだけど…。またあいつがやらかしててね。
 火山の爆発の瞬間に強風を起こしたんもんだから被害が広がってしまったんだ。」
「それは辛い…。」
「でもそれを起こしたのに僕はしばらく気づかなかったみたいでね。いつもそうなんだ。
 あいつは僕もマスターも気づかないところで事を起こす。で、修正したら力を使い果たしたみたいで。
 それで元の時間に戻れるほどの抵抗も出来なくってさ。」
「そうか。」
「あいつは愉快犯だから…。笑ってるんだよね、どこかで。」
「へぇ…大変だな、お前。」
「でも、これが僕の存在する理由だからね。
 あ、これからマスターのところに行くから。君が朝起きる頃に戻ってくるよ。じゃあね、おやすみ。」
「あぁ、じゃあ。」

そしてサクソルは周りに華凛以外の人がいないのを確認し消えた。
華凛はサクソルがゆがめた景色が戻るのを確認してから、自宅への道を歩いていった。





「おはよう…そして注意だ。」
「起きてすぐ注意って…なんか嫌だねぇ。」
「仕方ないだろう。今日から5日間、私は毎日仕事に出る。初めて会ったときに言ったと思うが
 遅くても10時くらいには帰ってくる。だからこの家のものを破壊しない程度には使っていいが誰か来ても居留守をしろ。
 電話はコールを2回して切れてその後すぐになったら私だ。それ以外は出ない事。」
「うん。でもさ、僕は時間移動できるから君の電話には出られないかもよ。」
「そうだな。ま、もし部屋にいて鳴ったら出てくれ。じゃ、私は行くから冷蔵庫の中のものを昼に食え。」
「分かったよ。じゃ、いってらっしゃい。」

そう言って、華凛は出て行った。
ばたんと扉が閉まる音と共に訪れた一人だけの世界。
さて、何をしようか。





電車に乗り、中を見回す。
やはりラッシュ時なので座れそうな場所が無い。
これもあの上司のせいだ…静かに呪いながら扉の前に立つ。
規則的に揺れる電車、流れていく景色。
ついこの間まで変わらない日常とがらりと変わった家での生活。
腕をつつかれ、視線を向けるとレオンがいた。

「おはよう、華凛。」
「あ、おはよう。あれ、住み込みで働いてるんじゃなかったのか?」
「そう。でも、今日は打ち合わせと津岸さんのお見舞い。奏音は趣味を終えて寝ている。」
「あぁ、やっぱり。でも大変じゃないか?あいつの趣味ってほら…特殊だろ?妹さんも漫画は手伝わされてるし。
 今はゲームにはまってるんだろう?攻略本が多く積み重なってたしな。」
「ゲームじゃないが…私も明け方まで付き合いさせられた。私が寝てしまって終わったらしい。
 申し訳が無い。奏音を最後まで楽しませられなかっただろう。」
「そんな事ないって。あいつも一人暮らしだし普段は仕事に追われてるからお前が来て嬉しかったんだろう。
 ただ殆ど寝てないじゃないか。酒もいいかもしれないが身がもたなくなるぞ…ゆっくり休めよ。」
「…お気遣いありがとう。私はここで降りる、また。」

扉が開くと同時にレオンは降りていった。
彼はなかなか人間がしっかりしているようで、自分よりも奏音を優先して考えている。
昨日は死ねと言ったのを戒めていたし。
津岸さんといい、けっこういい人に囲まれてるじゃないか。
自分が降りる駅まではもうしばらくある。
本でも読んで時間をつぶそうか……。





アニメも見た。
今テレビはニュースばっかりやっていてつまらない。
未来をざっと見たところ華凛から電話がかかってくるのは12時と24分だ。
あと3時間くらいある。
そういえば、あれは外に出てはいけないと入っていなかったはずだ。
この時代の人間の暮らしを知るのもいい事だと思う。
デパートで買ってもらった服に着替え、外に出た。
鍵は外からでは閉められないので力を使って閉める…上手くいったみたいだ。
人間の体で、外を感じる。
風が流れ、車と言う移動手段の音がずっと聞こえた。
どこへいくでもないが、ふらふらと歩く。
時間はいくらでもあるんだ――12時24分に戻ってくればいいんだから。


人間として街を歩く。
そこは、不思議な世界だった。
同じ服を着ている女や、不思議なにおいのする人。
アニメで見た服装をしている人もいた。
人間はこんな気持ちで歩いているのか、とも思ったけどそれは僕が違うからだ。
あいつが知らない事をできたんじゃないか…ちょっとだけ嬉しいと思った。

「ねぇ、ボク。ちょっといいかな?」
「ん?」
「君、小学生よね?学校はどうしたの?お家の電話番号分かるかしら?」

これは、意味が分からない。
二人組の女性…肌の感じから40代くらいだろうか…が話しかけてきた。
小学生…は華凛が僕の見た目を例えて言う事がある。
そういえば、彼女は最初小学生だから送ると言っていた。
小学生は外に出てはいけないものなのかもしれない。
日本語が、分からないふりをしておこうか。英語を話せば多分、大丈夫。

「I'm sorry. I don't understand Japanese.(すいません。僕は日本語が分からないんです。)」
「あら、英語?」
「日本語が分からないっていってるみたいね。
 えっと Have not you gone to school? Do you know parents' cellular numbers?
 (あなたは学校に行っていないの?親の携帯電話の番号を知っている?)」
「I don't understand. Ihave come to travel in the family. And it was said by my father that it would wait here.
Therefore,it is safe. Thank you.(分かりません。僕は今家族で旅行に来ています。
 そして父にここで待っているよう言われました。だから大丈夫です。ありがとう。)」
「家族で旅行に来ていて、お父さんにここで待っているように言われたらしいわ。」
「そう?じゃあ、仕方が無いわ。でもね、もし変な人に声をかけられたら大声で助けを呼ぶのよ?」
「Call help loudly if it is called by a strange person.」
「OK.See you.(分かりました。さようなら。)」

僕の答えに納得したのか、二人の女は離れていった。
この姿で出歩くともしかしたらまた声をかけられるかもしれない。そうなると結構面倒だ。
せっかく街に出たんだしマスターに何かお土産でも持って帰ろうか。
ただ僕はお金を持っていない。今は実体化しているからいつものようにとる訳にはいかないだろうし。
仕方ないから家に帰って出直そうか。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.7 )
   
日時: 2011/09/05 05:58
名前: あづま ID:5FlPEQFo

折角だし歩いて家に帰ってきた。
目的の場所に行くのにこんなに時間をかけていく事は天使にはない。
これはあいつも、そしておそらくマスターもやった事がないものだ。
初めての経験。
軽い足取りで階段を上る少年の姿がそこにあった。


家に入り時計を見る。11時40分より少しだけ前。
華凛が電話をかけてくるまで50分ほどあり、何をしようかと考える。
その時間まで飛ぶか、テレビを見て時間をつぶすか。
番組欄を見ると、今はアニメがやっていない。時間を飛ぼう。
時間を移動するため、サクソルは着ている服を脱ごうとした。すると、電話が鳴る。
一回、二回、三回…。電話は二回で切れることなく鳴り続けている。
サクソルはこれは家主ではないと判断し、彼の時間軸へと戻っていった。





「終わった…ぁ。」
「竹谷お疲れ〜。というか珍しいな、お前の事だから金曜の夜には終わらせてると思ったのに。」
「私が頼まれてた部分は終わってたんだ。阪見がやったところの修正だ…間違えたまま渡してきたんだ。
 …朝気分で早く来たら間違いに気づいた。あいつは自分の間違いを認めないだろ?だから私が苦労してる。」
「苦労してるな〜。よしっ、頑張った後輩にオレが昼飯奢ってやるよ。」
「先輩ってもたった2週間だろ…。でも、よろしく!」
「おうっ!じゃ、明日コンビニ行くか〜。」
「やっぱコンビニかよ。」

華凛は書類の修正を昼前に何とか終わらせ一息つく。
すると沼川が話しかけてきて、彼女に昼食を奢ってくれると言っていた。
彼は同期であるが、家のコネだかで他の新入社員より2週間早く出社しているらしい。
そのためか同期に対しても先輩面をするため積極的に関わろうとする人はいないが人柄は優しく評判もいい。
事実営業などもトップを誇っており社外の交友関係も広く芸能人の知り合いもいるくらいだ。
ま、金持ちの息子と言う事が一番関係していそうだが。

「それで竹谷、頼みがあるんだよ。」
「は?」
「いや実はな、営業で編集社のほうにまで行かなきゃいけねーの。お前の友達に小説家いるじゃん?
 人見奏音だったよな?そいつの所属してるところなのよ。付き添って。」
「何でだ。たしかにあいつは小学校からの付き合いだがあいつ中卒でそのあと同人生活だぞ?
 今でも仲はいいが関わりも少なかったし…。」
「んーでもさ、奏音さん経由の知り合いくらいいるんじゃない?」
「顔見知り程度ならいるが…でもなんでだ?」
「いいじゃん、なんでもさぁ。今度ケーキ買ってくるよ。な?」
「高いやつな?…仕事は今日のところあと2時間あれば終わるし、いつ出発だ?」
「一時半からだから一時くらいに駅を出れば着くから…12時半くらい?あと30分後。」
「分かった。ロビーでイイか?」
「おう。じゃー待ってる!頼りにしてる!」

廊下に消える沼川を見て、再び仕事に取り掛かる。
20分あれば少しだけではあるが進めるだろう。そのあとで一度サクソルに連絡を入れよう。





12時23分、サクソルは華凛の時間軸に来た。
電話が鳴るまで後1分ほど。こちらに来る前に脱いだ服を着ながら待つ。
しかしボタンに戸惑っている間に電話が鳴る。時計を見ると12時24分。一回、二回…切れた。
そしてまたすぐに鳴り出す。

「華凛?」
『お、いたのか。大丈夫か?』
「大丈夫だよ。華凛は?」
『私は平気だ。昼はちゃんと食っとけよ。じゃ、あと出かけなきゃいけないから。
 帰りの電車乗るときにまた電話するよ。なんかほしいものあれば今言ってくれ、買って帰るから。』
「あ、じゃあマスターになんかお土産上げたいからなんか買ってきてくれるかい?
 パフェ、喜んでいたよ。懐かしいってさ、しばらく食べてなかったみたいだし。マスター甘いのが好きだから。」
『お前ってマスター好きだな。…和菓子とかどうだ?日本のものだし。』
「いいんじゃないかなぁ。宜しく頼むよ。」
『じゃ、切るからな。』

そして電話が切られ、機械的な音が耳元で鳴る。
これからまた外に行って探索でもしようと思ったそのとき、チャイムが鳴った。
華凛は居留守を使うようにと言っていたので音を立てないように静かに座る。
しばらくすれば帰ると思ったのだが一向に帰る気配はない。
それどころかカチャカチャと音が聞こえ扉が開かれた。

「電話にあ、ショタ。」
「え、あ。?」
「人見奏音、華凛の嫁でっす!え、なんでここにショタが?あなたは萌の使徒ですか?」
「サクソル…。モエの使徒ではないかなー。」
「つーことは隠し子かーそうかぁ〜。んだよぅ婿もやる事やってんじゃん。で、婿は?」
「婿って…華凛かい?華凛なら今会社に行っているよ?帰る時に電話をくれるそうだけど。」
「会社?あ、今日月曜だ。どーりで担当がいないわけだ、打ち合わせか。ん〜…ちぃっと失礼。」

そう言い突然押しかけてきた奏音は携帯電話を取り出す。
電話をかけているのは間違いないのだが一人で笑ったりとサクソルには不思議に見える光景だった。
一度切り、もう一度電話をかけひとしきり話した後彼女は立ち上がった。

「ショタ…えっとサクソル。今からあたしは婿に会いに行くんだけど一緒に来る?
 あたしの所属してるところに向かってるみたいだわ。行きたくないけど婿がいるし近くの菓子が美味いから行こうと思うんだけど。」
「お菓子?あぁ〜でも、鍵を僕は持ってないから部屋にいないと…。」
「それなら平気です!あたしと婿はお互いに合鍵を持っているので出入りは自由です。婿とあたしは世界を共有してる。」
「…ん〜、じゃ行こうかなぁ。」
「よっしゃ、責任はあたしが取るよ。ケーキ奢れば済むしね、婿は。
 …ところでそれはあたしの理性への挑戦?上半身裸って…すでに色々はちきれそうなんだけど。」
「今日は暑いから脱いでたんだよ…。着るから…ボタンも頑張るもん……。」






「あたしと婿の出会いはねー小学校の4年生だったかなー。あたしが転校してったんだよ。
 転校する前の小学校エリートだから高校まで一直線だったんだ…同人出来ないからね、そのまんまだったら。」
「そうなんだ。」
「そうそう。で、同じクラスに婿がいたんだよ。なんかツンとしててね、それみたらビビッって来てさ。
 ところでショタは眠いんじゃない?ボーっとしてるよ。」
「いや、そんな事ないけど。」
「嘘はダメですー。寝ていいよ、資料買いたいから30分はかかるし。」
「そう?じゃ…。」
「うん、起こすからね。おやすみー。」

助手席で奏音の声を聞きサクソルは目を閉じる。
眠気など彼は感じないが一つ、考えたい事があったので周りと意識を遮断する。
奏音と言うこの女性…華凛の友人である事は知っているが、彼女は歴史に関わっている。
彼女自身がなにか大きな発明をした、という訳ではなく彼女の著作に影響され大きな発見をした人物が
2世代ほど後になるがいたはずである。
サクソルと関わる事はその人の歴史が変わる事を意味する。
今まで彼は街を出歩いたりコンビニに行ったりした。
街で出会った女性たちはサクソルが家に帰った後時間軸を遡ったら学校に行っていないと思われる子供に声をかけるのが役目のようだった。
ということはサクソルはその“子供の一人”だから彼女らの歴史に変化はない、又はサクソルが修正しなければならない
というほどの誤差は生まれない事が予想される。
コンビニでは華凛とすぐ別れてトイレに篭ってやり過ごした。店員などには華凛との関係は怪しまれないだろう。
しかし隣にいる奏音はどうだ。
彼女には名前を教えてしまったし、会話もしてしまった。
彼女は一人間として歴史に関わらず死ぬのではなく他の人間に影響を与え、発明にも貢献している。
歴史が変わってしまうのは間違いないだろう。
華凛との暮らしは諦め、修正に入るか…でも、なかなか条件が良くそれは惜しい。
車が止まり、隣の気配が外に出るのを感じつつ今後どうすべきかサクソルは考えた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.8 )
   
日時: 2011/09/05 05:58
名前: あづま ID:5FlPEQFo

どれ位の時間がたったのかわからないが、扉が開きガサガサと耳障りな音がした。
それによって遮断されていた意識が一瞬のうちに戻る。
ガサガサとしていたものが後ろに置かれると、隣に人が座る。
どうやら奏音が帰ってきたようで、彼女はサクソルの頬を触った。
それでも目を開けないサクソルに彼女は気を良くしたのか軽く抓る。
そしてクスッと笑いエンジンを入れた。振動が体に響く。
そして走り出したのを感じ、サクソルはまた周りと意識を遮断させ沈んでいった。





「じゃ、私はお前の仕事が終わるまで休ませて貰うよ。」
「え〜、一緒に来てくれねーの?」
「お前の仕事だろ?私はただ付き添いで来ただけだし。一応顔見知りはいるんだ、話しながら待ってるさ。」
「ケチー。」

沼川と別れ、食堂に向かう。
昼を少し過ぎてはいるがまだこの時間なら人はいるだろうと華凛は踏んだ。
奏音を経由し何度か話した事がある作家や漫画家の顔がう見えたが、彼らは食事片手に仕事を行っている。
自分が邪魔してしまっては悪いと思い、軽く昼食をとろうと券売機の前に立つ。
おにぎりセットとケーキの食券を渡し、隅のあいているテーブルに座る。
程なくして頼んだものが運ばれてきてそれを食べながら本を読んだ。

本にやっと意識が向きかけた頃、相席はかまわないかと話しかけられた。
顔を上げず了承の返事をすると本をいきなりとられる。
顔を上げるとそこには沼川とレオンが立っていた。

「竹谷ちゃーん?オレね、結構呼んだんだよ?それなのに返事しないし。」
「悪い…夢中になってた。終わったのか、早いな。」
「まーね、オレトップだし?ところでこいつ誰。」
「え?お前が連れてきたんじゃないのか?」
「そうだけどさーずっとお前の事見てるんだもん。なに、彼氏?」
「違うって、奏音の臨時担当。昨日と後朝もか、会ったんだよ。」
「…本当?」
「本当だ。レオンもなんか言えよ…。」
「あ、人見奏音の担当のレオン=フレスキです。奏音をよろしくお願いします。」
「ふーん…外国人か。へぇ…。」
「そうそう、色んな事教えてもらったんだ。レオン、仕事終わったのか?」
「そう、終わった。…華凛、ちょっと。あなたは残って。」

レオンは華凛の手をとりどこかに連れて行こうとする。
沼川が付いて行こうとするがレオンはそれを制し、無理矢理椅子に座らせる。
それでも付いていこうとする沼川に対しレオンは彼の耳元で何かを囁いた。
すると沼川は「そうか。」と呟きもう抵抗しなかった。
その様子に疑問を持ちつつレオンに手を引かれ食堂を後にする。
途中、女性社員の視線と興味を感じながら―――





人気のない倉庫の前。
華凛とレオンは向かい合って立っている。
レオンは私より少しだけ高く、身長は175cmほどだろう。
そんな事を考えつつ彼が話し出すのを待つ。
しかし一向に話し出す様子が見えず、微かな物音がするとそちらのほうを向きその音の判別が出来るまで待つ。
それが何度か繰り返されていた。

「レオン…なんなんだ?そんなに話しづらい事なのか?」
「あ…まあ、その。……はい。」

痺れを切らし華凛が話しかけると体を思い切りびくつかせ、目を合わせようとしなかった。
その様子に少々イライラしつつ話を続ける。

「なぁ、なんでここじゃないとダメなんだ?」
「別に…ここじゃなくても……。ただ、人が余りいないし。」
「だったらさっさと話せばいいじゃないか。物音こそしたが、人は一回も来ていないぞ?
 あと、沼川をおいてくる必要があったのか?私もまだ仕事が残っているし、さっさと会社に戻りたいんだが。」
「沼川…さんを置いてきたのは聞かれたくなかったから。…でも、仕事があるなら、いいです。
 私の話は、大きな事じゃない。流そうと思えば…出来る事だから。時間、すいませんでした。」

そう言い彼は道をあける。
彼の顔を見ようとしたが横を向かれてしまった。彼の態度に疑問を持ちつつ食堂へ戻る事にした。





「ただいま…。なにむすっとしてるんだ。」
「別に?何の話してたんだよ。」
「いや?なんか大した事じゃないから別にいいって。流そうと思えば出来る事だとさ。
 用事は終わったんだろ、さっさとケーキかって会社戻らないか。」
「何にも話されなかったのか?その割りに結構時間かかってたなぁ?」
「なんか話しづらい事らしくてな、なんか音するたびにビクついてたし。日本の風習についていけないとかそういう相談じゃないか?
 彼、日本語上手いけどまだ半月も日本にいないらしいし。」
「風習、ねぇ…。あれは…ん?なんで半月もいないって知ってるんだ?」
「昨日レオンの話聞きに奏音の家に行ったんだよ。彼奏音の家に住んでっからさ。そん時に教えてもらったんだ。
 彼、あいつん家の家事全部引き受けてるみたいだし料理も上手いらしいんだ。彼氏にするならああいうのがイイよなー。」
「…彼氏?」
「あぁ、だって尽くしてくれてるじゃん。私は彼氏作るんならそういう人がいいってだけだ。
 そういや家まで送ってもらったし、ああいうのを紳士っていうのか?日本では絶滅危惧種かもな。」
「ふーん。でもお前の話聞くとウジウジしてるみてーじゃん。そんなんがいいのか?」
「アレはなんか話し辛かったんだろ。…なんなんだよ、お前もなんか変だぞ?女々しいってか…。」
「もういい。ケーキかって帰ろう……。」

沼川は立ちそのまま歩いていく。
私も後についていくと、後ろからこそこそと話しているのが聞こえた。
声からしておそらく私がレオンに連れて行かれたときに話していた女性社員達だろうと思う。

《なんか…修羅場ってヤツ?》
《女の子の方もさ、気づいてよくない?》
《あーでもショックだなー、レオン君タイプだから狙ってたのにぃー。》
《ミコ彼氏持ちじゃん…。》
《バレなきゃいいもん。あぁー好きな子いるのかぁー。》

なんとなく入ってきた会話に耳を疑う。
まさか…でも。
レオンは良く分からないが、沼川の態度は?
あいつはレオンについて必要以上に詮索してきた気がするし…嫉妬ってやつだろうか。
なんか、そう考えると納得がいく。

「沼川!」
「…んだよ。」
「お前って、意外と可愛いな。」
「かわっ…?!」
「その反応だ、それ。じゃ、約束どおりケーキ買えよ?近くに美味しい店があるんだ。」
「おう!」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.9 )
   
日時: 2011/09/27 04:35
名前: あづま ID:NbGy7M2M

一度会社に連絡をいれてから歩いて目的の店へと向かう。
その店は裏の方にあり、近いはずの奏音の所属事務所からでも歩くと10分ほどかかってしまう。
沼川と喋りながら移動しているので、普通に歩くよりも時間がかかってしまった。

「ここだここー、美味しいんだよ。」
「隠れた名店ってヤツか?けっこう奥まってね?」
「そうだろそうだろ。奏音の忘れ物届けた時に迷子になってさ、そん時に見つけたんだ。」
「へー。後輩達にも買ってってやるか!オレんちの金で。」
「お、太っ腹!さすが金持ちは違う。」
「そうかぁ〜?」

上機嫌で店へと入る。
自分達のほかにも数組しかいない店は静かで趣のあるものだった。
どれを頼もうか、後輩には何を買えば喜ばれるか、それが頭の中を支配する。
意気揚々とショーウィンドーの前へ近づく。

「婿!」

近づこうとしたが覚えのある嫌な声に後ろから抱きかかえられそれは叶わなかった。
後ろを見ると間違えるはずのない、中卒同人作家の友人である奏音が笑顔で私を抱きしめていた。
その後ろにはサクソルもいる。

「おいお前らなんでいるんだ!」
「いや〜婿んちに電話かけたんだけど出なくてさ?で、仕事のネーム終わらせてから行ったらこのショタがいたのよ。
 でもろもろ省略してあたし達は今ここにいる。」
「なんか電話したら君がここにいるって言われたらしくてね。それで君は毎回ここに来るから待ってようってことになったんだよ。」
「補完感謝する。なんで来たかな…。」
「婿、そっちの人は?」
「あ、オレ?オレは沼川一寿。竹谷の先輩だけど。オレはあんたを知ってるよ、人見奏音さん。」
「あ、知ってるんだぁ。…な〜んか、へタレ?…いや、スイッチ入れば……」
「なにブツブツ言ってるんだい?」
「うっふふ、知らなくていい事。」

1人にまにまとする奏音に引き気味の沼川。
「こういう人なのか?」と私にこっそり耳打ちするが反応することが出来ない。
サクソルはケーキを買ってもらっていたらしく椅子に座って食べている。

「あ…よく見たらお前の車あるじゃねえか。気づけばよかったなあ。そうだ、まだレオンいたし乗せて行ったらどうだ。
 サクソルはお前の家にいさせてもいいし、私の家に戻してもいいから。ちゃんと留守番できるもんな?」
「そうだな、夕方になる前に帰った方がいいんじゃあ?担当君も連れてってさ。」
「あ〜、んだね。レオンに連絡入れてこっち来てもらお。婿に会えたし編集には絶対行かねー。」

奏音は携帯でレオンにメールを入れるため店の隅に行った。

「うん。ケーキも食べさせてもらったしね。君達の判断にお任せするよ。」
「オレ思うんだけどさ、口調がなんか上から目線じゃねーかこいつ?」
「お兄さん…ヤキモチかい?なんかイライラしてる。上手く隠せてるって思ってるのかもしれないけどさ。」
「あはは、なんか生意気だなぁ〜。ま、子どもってこんなもんかな?」
「サクソル君サクソル君、ちょぉっといいかな?沼川氏がヤキモチ、これはいったいいかなる理由で?バカノンに教えてくれないかな。」
「僕に聞くのかい、本人が目の前にいるのに?ま、いいか。僕が考えるとね、君の担当さんが嫌いなんじゃないかな?
 そのお話が出たとたんお兄さんの態度が変わったし。お兄さんはさ、好きなの?」
「…三角関係?!え、やだ!!お兄さん好きなの?」
「ッ帰るぞ竹谷!」
「え、ケーキ…。」
「また今度!!」
「はぁあ…?」

沼川に手を引かれ華凛は無理やりに店から出されてしまった。
後には静けさが残っている。
客の中でも若い女性は今目の前で起こったことを考察しており、ほかの人は迷惑そうである。
その静寂のをバイブ音が破った。

「お、メールだ。……飲み会断れなかったぁ?!あーらら、レオンお酒弱いのにね。…こりゃ早くて真夜中かな。」
「じゃ、僕たちだけで帰るのかい?」
「そーなるなあ。あ、婿にケーキを買っていってあげよう。ポイントポイント。」
「僕も帰ってからまた食べたいんだけど…。」
「いーよ、お金はあるし。資金は別にとってあるからあと今月20万はつかえるかな。」
「お金持ちなんだね。ところで何の資金なんだい?」

その一言に奏音はニヤリと笑った。

「18歳になったら教えてあげる…っへへ。」





「あーもー、ケーキ食いたかったな…。」
「…悪かったよ。」

隣を見れば、本当にばつが悪そうな沼川の顔があった。
それについ、イタズラしたくなってしまった。

「お前さ、本当に変だぞ?サクソルの言ったとおりさ、レオンに嫉妬してるのか?」
「そんなことねえよ!」
「怒鳴るなよ…怖いな。図星みたいだぞ、それ。」
「あーそうかい、そう思うんならそうなんだろうさ!さっさと帰るぞ、お前もまだ仕事終わってないんだろう?」
「そうだな、戻って仕事終わらすか。」

二人は無言のまま駅へ向かっていった。





「ショタはさぁどこから来たの?ホームステイ受け入れしたいって婿は言ってたけどいくらなんでもそれだと早いのよ。」
「僕は、君達人間とは違うってなら言えるね。」
「そなの?ま、婿のことだし合法的だろうから深く探ろうとは思わないけどね。逆トリかな、こんな身近で起こっているとは…!」
「逆トリ?」
「ショタは知らなくていい事。うっは、もうだめ脳が幸せ…溢れるよ。」
「なんか…関わらない方がいいみたいだね。ところでレオンって…誰だい?」
「ん?あ〜、臨時の担当ね。キシっていう普段のがぶっ倒れて編集長の知り合いだったっけ…で特例でやってきたの。
 日本語勉強してたみたいだから分かるし家事やってくれるし…万能君だね、いろいろ貢献してくれてるよ。」
「ふぅん。ねえ、どんな人?」
「気が利くいい子だなぁ。あ、でもちょっと気が弱いね、押しに弱いって言うか頼まれたら断れないタイプ。
 ほら、飲み会断れてなかったじゃん。お酒弱いんだよねー彼、送られてくるかそれとも…へへっ。男だらけだしね、うちは。…着いたよ、どうする?」
「降りるよ。今日はアリガトウ、ごちそうさま。」
「あ、鍵開けなきゃ。」

そう言い奏音も車から降り階段を上る。
そして玄関の戸を開けサクソルを中に入れた後、中から閉めるように言って戸を閉めた。
サクソルが中から鍵をかけると奏音はその音を確認したのか「じゃあねー。」と声がして足音が遠ざかった。
間もなく、車の走り去る音がする。
サクソルは奏音が完全に去った事を確認し、買ってもらったケーキから数点選び残りは冷蔵庫に入れ、消えた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.10 )
   
日時: 2011/09/27 04:37
名前: あづま ID:NbGy7M2M

ただいま。」
「おかえり。冷蔵庫にさ、あのお店のお菓子入ってるよ。何個かマスターにあげてきたけどね。」
「お前が頼んであいつが買ってくれたのか?あぁ、借りができたな…。」
「でもさ、あの人なんか単純そうじゃない。君と同じっていうか…、本質は似てると思うよ。」
「そうかぁ〜?…付き合い長いからな、感化されてるかもしれない。」
「でも君次第だからね、どういう人間になってどう死んでいくのかはさ。」
「だな。ま、犯罪者にはならないだろうし平凡に死ねりゃそれでいいや。ところで晩飯どうする?食べるか?」
「ん〜…今日はいいや、ケーキ食べたから別に。」
「そうか?じゃ、私だけ食べるからいいよ。その間…あ、風呂はいるか?汗流したりとか。」
「いらないよ。僕汗でないし。」
「そうか…映画見てるか?古い奴だけどあったはずだ。」
「楽しいかい、それは。」
「私は結構好きだけどな。」
「そう?じゃみる。」
「分かった。」

棚からいくつかの映画を持ってくる。
サクソルに見せると以外にもホラー…というかグロ?を選ぶ。
アニメ好きなのにな…と思うが近頃のアニメは規制が緩いのかしらんが結構残酷なシーンもあるらしい。
意外と大人の方が怖がるんだろうか…。
とりあえずデッキに入れ再生する。
怖がるのかそれとも平然としてみるのか気になりつつ食事の準備に取り掛かる。





夕飯を食べ終わりサクソルの隣に座りつついっしょに映画を見る。
何度か見ているので特に怖いとも思わないのでサクソルの反応を見ている。

今はテレビで先に進んでいた主人公と親友が戦っていて、かなり苦労しているようだ。
やっとの事でモンスターを倒し、追いついた仲間達の声を聞き笑顔で駆けていく。
すると、モンスターに止めを刺していなかったのだろう…後ろを向いた親友の脇腹を食いちぎってしまう。
血を吹き出し内臓を垂らしながら倒れる親友。モンスターに止めを刺す主人公と仲間達。
主人公達が親友の元に駆けつける―――――痙攣している親友。
これではもう助からない…主人公達はそれを置いていき次の舞台へと走っていった。


映画を見終わり、テレビを消す。
サクソルは主人公と親友が一緒に戦い始める辺りから顔をしかめていた。
やはり子どもには早かったか、と彼の様子を見て思う。
まぁ、彼の性格からいってとめても見そうな感じはするが……。

「どうだった?」
「なんか…うん。」
「その反応で正しいだろうな。私的には、親友を置いていくのがいただけないけどな。
 確かにあの怪我じゃ助からないだろうし連れて行ったら足手纏いだろうが、せめて最期まで看取るか止めを刺してやるとか…。」
「あのさ、あの二人は本当に親友だったの?一緒に戦った仲間だったのは事実だけど、お互いに親友だと思ってたのかな。」
「え?いや、思ってただろ。主人公に俺たち親友だろ?とか言ってたじゃないか。他の人たちも言ってたし。」
「確かに言ってた。でもさ、主人公の方は仲間って言ってて親友はおろか友達とも言ってない。」
「そうなのか?何回も見てるのに気づかなかったなぁ…。初見で気づいたお前は凄いよ。」
「そう?ほかのメンバーには友達って言ってたりしてちょっと気になっててさ。」
「へー…意外と見てるんだなぁお前。…11時、寝るかな。」
「もう寝ちゃうの?じゃ僕も戻ろうかな、君が起きるときに、また。」
「はいはい、おやすみ。」
「うん。」

軽く手を振り消えるサクソル。
手を振るなんて初めてじゃないか?と、案外彼も心を開いてくれているのではと嬉しくなった。
風呂に湯を入れ、その間にもう新しい情報とはいえないが新聞を読んだ。
…もうすぐ選挙か…政権変わろううがなんか似たり寄ったりなんだよなぁ。
私が知っている中で政権交代は二回起きているが、どちらも野党は与党をたたくだけで進歩しないというか。
なぜか政治についての考察をしつつ風呂に入りその一日を終えた。





「おはよ、そしていない。」

朝起きて辺りを見回すとサクソルの姿はない。
私が起きるときにって言ってたはず…歴史が変わったのか?
たしか買い物に行った日は私個人の歴史が変わっていたと言っていたはず。
映画を見たのがいけなかったのか……。
仕事の準備に取り掛かりつつあいつが出てくるのを待つがその気配がない。
私個人の歴史が変わったんじゃなくて、世界的な出来事の何かが変わったんだろうか。
だとすると半日くらい出て来れないんだっけ?

「まぁ、そのうち出てくるんだろ?行ってきます。」

誰もいないであろう部屋にただ声をかけ出発する。
今日はいつも通りの時間に出たし、特に問題がなければ8時位には帰ってこられるだろうか。
するべき仕事を頭の中で整理すると沼川のことを思い出す。
――からかっちゃったし、謝るべきだよな…。
サクソルは見た目が子供だからある程度大目に見てくれるかもしれないが注意しなかったし、悪い事したよな…。
どう謝るべきか考えるがいい案が浮かばない。
気づかぬ間に電車に乗っていたようで、もう駅に着くことにアナウンスで気づく。
はっきりいって気が重い。
沼川の反応から気を悪くしていたのは明らかだし…自意識過剰かもしれないが好いてくれている…かもしれない。
それをからかったんじゃなあ…。
電車が着き、ホームに降りる。
改札を出て光を受けると後ろから肩をつかまれる。

「よ、竹谷!」
「んぁっ!ぬ、沼川?!」

そこには沼川が立っており、いつもと変わらない笑顔で立っている。
まるで、昨日の事なんて私の夢だったのではと錯覚されるくらいに爽やかだった。

「考え事してたの〜?何〜そーだん乗ろっかぁ?」
「あぁ〜…いや、あ……。っ昨日はゴメン!悪かった!!」
「は?」
「いや、サクソルが…今うちに居候してる子なんだけどさ、お前が嫉妬してるって言っただろ?
 そういうのってさ、それが事実だろうが嘘だろうが嫌なものじゃん?
 私も注意しなかったし、お前には絶対に嫌な思いさせただろうから…。」
「あーあれ!いいよ別に、オレも子供相手にさぁ…。後で思い返して大人気なかったなって思ったし。
 気にしてないよ、全然。むしろあの子さ、洞察力鋭そうだから気をつけたら?隠し事出来なさそー。」
「あ、それは分かる。昨日も映画二人で見ててさ、あいつ初めて見るのに主人公との
 関係性について私が気づかなかったこと言ってのけるし。調べてみたら最近出た過去編みたいなので語られてたんだ。」
「へーすげー!!なんか探偵とか向いてそうだな!」

そして沼川と二人でサクソルの将来について話しながら出社した。
彼は本当に気にしていないようで、好かれている、と感じたのも自意識過剰だった気がしてなんだか恥ずかしくなった。
昼休みに一度家に連絡を入れたがいつまでたっても誰も出なかった。
やっぱり修正して力尽きたのか、それとも私が帰る頃に現れるのか…。
どちらだろうと考えつつ、仕事に取り掛かった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.11 )
   
日時: 2011/11/09 18:18
名前: あづま ID:SqJEoHys

金曜日。
サクソルがやってきて一週間たつ。
火曜日結局彼は帰ってこず、木曜の朝にのこのことやって来たのだった。
曰く『マスターと話してたら楽しくって君を忘れてた〜』だそうだ。
心配したのに…。

そんな彼は奏音とも私が会社に行っている間に会っていたらしく、おさがりのゲーム一式をもらってきた。
奏音に連絡を入れたところ新バージョンを買ったのでもう要らないかららしい。
そして私にとっては嬉しい事にコスプレは今回無しになった。
なんでもすごい萌体験をし、それを形に仕上げるまでは余計な事をしないでいたいからだとか。
かわりにレオンが買い物に行くらしくなんだか可哀想だ。
私が代わりに行ってあげられたらとは思うのだがあの地獄は味わいたくないので心の中で合掌しておいた。

「サクソル…それ何時間やってるんだ?」
「んー、君が外に行ってからずっとだね。時間も今日は飛ばしていないし。」
「え?7時過ぎに出たから…半日以上やってるのか?!もう止めろ、目が悪くなる!!」
「僕らは視力の良し悪しなんて関係な、あー消した!オートセーブの地点まで行く前に消した!!」
「オートセーブあるならいいだろ!…ったく。」

ゲーム機の電源を切ったことに対しサクソルが不満をぶつけてくる。
それを軽く流しつつテレビのチャンネルを変える。
サクソルは一仕切り怒鳴り気がすんだのか冷蔵庫にジュースを飲みに行ってしまった。
その程度なのか…と呆れつつニュースを見る。
なにやらまた汚職があったらしい。
記者に取り囲まれた政治家がカメラを手でおさ……紙を持った手が、テレビから、出てきた。
そしてそれが出るともう片方の腕、そして頭が出てくる。
そのままズルズルと出てきて一言、言った。

「執務放棄者サクソル!執行部隊長の命により執行隊ルーター、あなたを連行します!」

彼の持っていた紙に、不思議な記号が浮かび上がる。
しかし、今はそんな事どうでもいい。

「うちのテレビに飛び出す機能はない!!」
「痛っ、うやめ、止めて下さい!対象を連行したらすぐ去ります!痛い、角!それ角ですよ!
 やめ、角はダメェェッ!」
「お前が連行されろ!全裸でテレビから出てくる変態は連行されろ!」
「痛い痛い!すいませんすいません!でも、連行し、連行しないと俺帰れな、い、ったい…。」
「五月蝿いなぁ…、あれ?君ルーターじゃん。なんでボコられてるの?」





「はぁ…挨拶遅れました。竹谷華凛です。動揺したとはいえテーブルの角で重点的に攻撃してすいませんでした。
 それと半裸ですね。全裸って言ってごめんなさい。」
「いえ…俺は、天界の執行隊のルーターです。」
「うん。お互いに挨拶は終わったようだね。ところでルーター、僕は執務放棄者じゃないよ?
 ちゃんと歴史の監視と修正はやってるからね?」
「へ?」
「あ…もう執行宣言しちゃったの?ちゃんと確認取らなきゃ…君戻れないじゃん。」
「そんな、っじゃあ、俺どうなっちゃうんですか?!」
「一生人間界暮らしじゃない?」
「そんなぁ…。」
「……。」

目の前で話す二人の天使らしい者を観察する。
サクソル、見た目は小学校3年生。セーラー服。赤毛。
ルーター、見た目から判断して年は私と同じくらい。上半身裸、下半身巻き布。クセ毛。
天使って実は変態集団なんだろうか?

「っていうかやっぱりルーターも天使なのか?二人は知り合い?」
「はい、俺も天使っていうと本来は違いますがそうです。サクソル様は俺の上司に当たりますね。」
「上司って言っても直属じゃなくて、地位からいったらそうってだけだけどね。
 僕の直属はケナベルとスウィノーじゃん。」
「そうですけど…。」
「あれ?サクソル、お前って実は……偉い?」
「サクソル様は俺たちの世界の主に目通りできますからね。偉いですよ。ちなみに主から初めに作られたのがサクソル様です。
 次いでデストル様。彼は追放者ですが…っ!痛い!!」
「君さ…僕の前であいつの話はしない。何回か言ったよね?むしろ何回目かな?ね、教えて??」
「8回目…すいませんデストル様の話はもう、痛い!あ、あっあ、い、あぁああぁっぁあぁあぁぁ!!」

悲鳴を上げるルーターの口を大急ぎで押さえる。
すると一瞬見たことがない光景が見えたが、これはおそらくサクソルの力なのだろう。
そんなこと気にせず暴れるルーターの口を押さえ続ける。
今はもう夜で近所迷惑必至だ。
しばらく二人で格闘し、ルーターが暴れなくなったところで手を話す。
両者とも、息が上がっており暫く声を出す事ができなかった。

「もう、なんで華凛まで飛び掛っちゃうのさ?一瞬術かかったじゃん。」
「いや…今叫ばれたら近所迷惑……。」
「ルーターが出てきたときに君も結構大声で叫んでたよ?」
「はぁ…すいません、本当。でもサクソル様、俺みたいな下っ端の名を覚えて頂けているなんて光栄です!」
「そりゃ僕の前で何回もあいつの事喋るしね。それにお前剣だけは強かったし。」
「はい、ありがとうございます!」
「ま、この時代じゃそれも役に立たないけど。ところでお前、住むのどうするの?
 執行宣言しちゃったみたいだし人間とほぼ変わりない状態じゃん。」
「あっ…。」
「あ…なんだったら家に住むか…?お前くらいだったら働けるだろうから負担もきっと少ないし…。」
「え?でも…。」
「いいよ、角で叩いて怪我させたし。お金はさ、お前くらいなら働けるだろうから特に困らないよ。」
「でも、いざとなったら奏音からたかるんでしょ?」
「たかるって…それダメですよ…。」
「平気平気、あんたがホームステイの人っていえばいいしね。多少はなんか見返り求められるかもしれないけど。」
「でも、奏音様に負担が…。」
「あいつに様はいらないって。大丈夫、あいつ儲けてるから。」
「いや…でも……。じゃあ、じゃあよろしくお願いします。」

そういって彼は私の足元に跪く。
そしてその頭をサクソルが思いっきり踏んだ為彼は思いっきり顔から逝った。





「へぇ、じゃああいつが仕事放棄してると思って来たらしてなかったと。」
「はい…。おかげでもう戻れないかもしれないんですよ…。」
「お気の毒様…。」

現在、私はルーターと二人きりだ。
サクソルは彼のことを一通り叱り付けた後、彼を派遣したところに文句を付けに行った。
ついでに歴史も確認して必要があれば修正してくるから日曜まで戻らないとのこと。
彼が消えた後、私たちは話を続けている。

「あ、サクソルが怒った…えっと、人ってなんなの?
 前私が話してる時に無意識だったけど傷つけたっぽいことがあってそれ関連かとは思うんだが。」
「あ、気になりますか?…サクソル様はいないですし、お望みとあらば話しますが。」
「うん、気になる。話して。」
「分かりました。と言っても、これらの事件があった時、俺はまだ作られていなかったので又聞きですが…。」

そうして、ルーターは語り始めた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.12 )
   
日時: 2011/12/30 23:35
名前: あづま ID:OCbKomI2

ある時、何もなかったところに一つのものが現れた。
それはしばらく一つのままだったが、孤独に耐えられなかったのか一人の少年を作り出した。
それが現れた事によって、最初に現れたものは主となり、主が現れたところは世界となった。
主から作り出された少年は赤毛で、とても活発な子供だった。
主は、毎日飽きる事もなくその少年と遊んだ。

ある日主と少年が世界を歩いていると、もう一つの世界があることに気がついた。
それはさまざまな人間が暮らしている世界だった。
しかしそれは次々と別の光景を映し出した。
崩れていく高い建物、野を駆ける裸の者、炎に覆われた街―――
主は少年に、これはもう一つの世界の過去と未来だと教えた。

もう一つの世界が映し出す光景に、少年は魅了された。
主は、もう一人。今度は黒い髪の少年を作り出した。
彼は少年を兄と呼び、二人はすぐに打ち解けた。
主とともに三人は楽しい時間を過ごしていた。
主は、二人に名を与えた。
少年にはサクソル、青年にはデストルと。
二人は名を持つ意味を主に問うたが、主は世界では皆持っているものだと答えた。



もう一つの世界を見ていたとき、主はふと気づいたのだ。
自分が知っている世界より、文明が遅れている、と。
主はデストルに命じ、デストルは大きな災害を起こした。
人間はその災害による悲劇を繰り返さないため、対策を考えた。
そして、主の知っている世界と同じになった。

暫くたつと、今度は文明が進みすぎていた。
主はサクソルに命じ、技術を持った人間の記憶を操作した。
人々は、失った技術により発展が少し遅れた。
こうして、主の知っている世界と同じになった。

こういうことは、たびたび起こった。
主はデストルを人々の住む世界に送り、試練を与え、文明を授けた。
主はサクソルを彼らの世界に送り、記憶を奪い、文明を修正した。
こうしてサクソルは監視し修正する者となり、デストルは試練を与え繁栄させる者となった。

主は、いろいろなものを作った。
人間、動物。
しかし彼らは自分の意思で、主に与えられた姿以外にもなることが出来た。
だが、それは酷く体が重くなる行為であり、主はそれを疲れと言った。





ある時、デストルが人間の住む世界から帰ってきた。
そして彼は、サクソルに言った。

『人間達の住む世界は日々、試練により進歩している。
 私達はただ監視するだけでなにも、主と兄様とでもう一つの世界を見ていたときと変化していない。』

これに、サクソルは答えた。

『確かに変わっていないかもしれない。でも、僕はこの状態の継続を望む。
 主と、君とで永遠と暮らしていく事を。この関係の継続を深く願う。』

デストルは、答える。

『私も、それを望んでいる。この関係の崩壊は望みではない。
 ただ、進みすぎた文明や遅れすぎた文明はどんな手を施しても再び栄える事はなかった。
 自分達の世界はどちらかに該当しているのではと心配になったのだ。』

デストルの答えに、サクソルは微笑んだ。



デストルが文明を与え、サクソルが修正を加える――
はじめこそサクソルの仕事はあったが、デストルが慣れた今は彼の仕事がないに等しかった。
主は、仕事を上手くこなしたデストルにばかり話しかけ、サクソルは放っておかれた。

『お前ばかり、主に寵愛されていて不愉快だ。』

それに、デストルは答える。

『そんな事はない。主は、私のことを愛してくださっているし、兄様の事も愛していらっしゃる。
 私も兄様の事を愛している。兄様は違うのか?』
『確かに、主に愛されているのはこの身でしっかりと感じている。それにお前の事も愛している。
 ただ、自分よりも君が寵愛されているように感じてしまう。それを自覚するとよく分からない感情になる。』

この答えに、デストルは答えた。

『それはおそらく嫉妬というのだろう。私はコレもまだ良く分からない。』

二人は本心を話しているようだった。
二人はこのことを主に報告した。
主は笑い、サクソルには謝った。
自分は平等に接しているつもりだったが、そう感じたならすまないと。
そして久しぶりに3人で、世界を歩き回った。








こうした出来事に霞がかかった頃、事件が起きた。

『この停滞した世界に私は試練を与える!文明を与える!!』


反乱の実態を、はじめ世界はつかめていなかった。
しかし、世界のものの存在が消失していくにつれ、反乱者の像がつかめた。
デストル他彼の信用を得ていた数名の者達。
彼らをサクソルたちは追い詰めた。
彼らは主によって追放され、人間界とはまた違ったところに縛られた。




反乱者達は、地上で悪をなし抹消される存在を引き入れた。
彼らは無意識のうちに罪を犯してしまった存在である。
少しでも味方がほしい反乱者は彼らを匿い、力を与えた。
少しずつ彼ら以外の存在が増え、新たな世界が作られていった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.13 )
   
日時: 2011/10/09 11:32
名前: あづま ID:SqJEoHys

「…終わり?」
「はい。」

何か壮大な話が始まるだろうと身構えたのは五分前。
はっきりと言う。拍子抜けだ。

「あの…反乱軍のその後は?」
「伝わってないんじゃないですかね?少なくとも俺は知らないですよ。
 デストル様がいる世界は並の力の者じゃ取り込まれてしまうと聞いています。」
「マジ?なんか謎が深まっただけじゃないか。」
「すいません。あ、でもこれは俺が作られてすぐの話ですけどサクソル様、ケナベル様、スウィノー様が
 一度討伐に行ったことがありますよ。デストル様と共に反乱を起こし追放された者達はそこで消滅し
 デストル様は大怪我を負ったと聞いています。」
「そうか…という事は今生きてる反乱軍はそのデストルだけって事か?」
「そうなりますかねー。俺もデストル様は一度だけお姿を拝見した事があるんですよ。」
「おい、矛盾してないか?お前が作られる前に反乱者達は追放だろ。見れるわけないんじゃ…。」
「デストル様はサクソル様に次ぐ力を持っていると言われています。
 それに彼の使命はこの世界へ試練と文明を与える事。だからかこの世界には干渉できるんですよ。」
「そうなのか。やっぱ矛盾…で、そのデストルってどんなヤツなんだ?」
「あー…白人ですね。髪は黒くて長髪、男性です。追放者なので姿は変えられないはずですから。
 ま、髪は切ったり染めてたら分かりませんけど。」
「割とよくいそうな人物像だな…。」

そこで話を打ち切り、夕食の準備に取り掛かる。
ルーターにも食べるか聞くと食べると言うので彼の分も作る。
冷蔵庫には食料品が少し。
明日、ルーターをつれ買いに行こうかと頭の中で計画を立てていく。

「あ、お前はさ、天使の力って言えばいいのか?サクソルの時間移動っぽいの。それってどの程度使えるのか?」
「俺ですか?今は執行隊になってるんで基本人間と同じ…あ、軽く炎を熾したりとかなら。
 あ、あとこれは俺らの世界の全てに共通してますけど地球の生命体と比較して治癒力も高いですよ。」
「いや…便利そうだけど、そういうんじゃなくて…。姿変えたりとか。」
「それって見た目変えたりですか?子供になったりする…。」
「それそれ。」
「今…はできないですね…、すいません。俺らの世界の人の力をわけて頂ければ一時的に可能なんですけどね。
 でも俺交信手段持ってないし…。でもどうしてですか?」
「あぁ、買い物行こうと思って。服はお前くらいだと私のは入らないだろうから。」
「留守番してますよ、だったら。」
「服のサイズとかあるからそうは行かないんだ。また探すかな…。」
「すいません…。」
「いやいいって。好きで面倒見てるんだから。…あとご飯炊けたら飯な。」

待たせるのもアレなのでテレビをつけ(ニュースしかやっていない…)寝室へ行く。
ルーターはなんか真面目そうなのでアニメじゃなくてもいいだろうと思ったからだ。





「さて…困ったぞ。」

ルーターは私より背が高いし体格もいい。
上は私にとって大き目のやつなら何とか入るだろう。
問題は下だ。
ジャージはおそらく入らない。というか下着がないので入ったとしてもご遠慮願いたい。
上だけ着せて下は今彼が身につけている巻き布としたいがそれは短いので不審者と思われる可能性がある。
……。

「最終手段…か?」

これだけは着せたくないが…仕方ない。
なによりサイズがないんだ…。
晩飯食べてからでいいだろう…仕方ないんだ、これは。





「あ、味が分かる。ちゃんと残る…なんかこういうの体験しちゃうと人間っぽくてもいいかな、って思っちゃいますよ。」
「ん?お前らって味分からないのか?」
「分からない…というか理解できないんですよ。感情とかは地球の様子とか見ててこうされると嬉しい、
 悲しいとかは分かってますよ?主に仕え使役される喜びもありますし。ただそれ以外がよく理解できてないんだと思います。
 味覚と触覚も無いに等しいですね。認識すればこんな感じかな、って演技です。」
「で、お前は執行する為に人間界に来てそれらが分かったってことか?」
「おそらく。驚きですよ。色々な物が一度に押し寄せてくる感じで…楽しいです。
 あなたの料理、好きです。おいしいって言うんですね、これが。」
「ふーん…お前辛党なのか。」

冷蔵庫に残っていた野菜と少々の肉を買って全然使っていなかった唐辛子系の調味料で焼いた野菜炒めを
ルーターはおいしそうに食べていた。
誰かに食べてもらうのが幸せ、と言われているが案外それは本当なのかも知れない。
そういやサクソルもパフェ好き……。

「あれ?サクソルも甘いのとか美味しいって言ってたぞ?」
「そうなんですか?あ、でもサクソル様は仕事で人間に多く関わりますし主が人間をよく理解できるように作ったのかもしれません。」
「そういうものなのか…意外と適当なんだな…。」
「主は基本おおらかですから。それとも放任主義なんですかね?…ご馳走様でした。」
「あ、食べ終わった?じゃ、そこの流しに置いておいてくれるか?下げたらこの扉あけて入ってきてくれ。」

華凛の言葉を受けてルーターは食器類を下げに行く。
その後姿を見て、やはりあれでやむ終えないと華凛は自分に言い聞かせる。

「失礼します…。」
「最初に謝っておく…スマン。本当申し訳ないんだが……お前には女装してもらう…。」
「じょ…?」
「女の格好をしてもらう。上はともかく下はお前が着れるサイズが無いんだ…。
 だから本当、本当に申し訳ないんだがスカート……す、かっ、くっ…!」
「何笑ってるんですか!女の格好って…俺もう声も体も男ですよ?髪だって短いし…。」

《女の格好》というワードに反応してルーターも反対してくる。
確かに筋肉あるし、普通女に見えないだろうなぁ。
必死に反対してくるがその真剣な顔でスカートを穿いている様を想像してしまいさらに笑ってしまう。
ひとしきり笑い、息を整えながら続きを話す。

「…くふっ、それくらいの髪の女の子もいるって。なんなら鬘あるし。
 で、スカートは危険はいっぱいなので、その巻き布を下着代わりにしてくれ。
 …やっぱ、やっぱだ、め、っははっはははは!!スカート絶対似合わねー!筋肉が…筋肉がぁっ!!」
「鬘って…なんでそんなに準備良いんですか?!」
「いや、奏音の話したじゃん?あれけっこう体格いいから。で、コスプレするんだよ。
 置き場所無いし要らないからあげるってよこしたけど私も使わないからいいんじゃないか?」
「コスプレ…聞かないでおきます…。それ、絶対しなきゃいけないんですか?」
「まぁ、そうだな。スカー…っ、ふっ…!」
「そうですか…仕方ないから着ますよ。……何笑ってるんですか!いいじゃないですか、着るんだから!
 もしかしてからかってますか?今あなたの中で起こっている感情が複雑すぎて分からないです…。」

ため息をつくルーター。
それでも私が笑い続けているともういいですよ、と言ってテレビを見に行ってしまった。
戸の隙間から見ると彼はニュースを見ていた。
アニメしか見ない、文字通りコマーシャルになると時間を移動するという能力の無駄遣い状態の
サクソルと違いちゃんと見ていた。
そして内容も理解しているらしく、時々画面に向かい意見しているルーターを見てまた笑いがこぼれてきた。
私の笑い声を聞き見られたことに気づいたらしく、彼は顔を伏せた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.14 )
   
日時: 2011/10/09 11:33
名前: あづま ID:SqJEoHys

「……で、ここのホックをとめてチャックを上げる。それで完成。じゃできたら呼んで。」
「はい……。」

土曜の午前中。朝食は軽くとった。
ルーターに服の着方を教え、私は部屋を出る。
上はTシャツだが下はスカート。彼は心身共に成人しているように感じるので手伝うわけにはいかない。
特にスカートはホックがあるので難易度が高いだろう。
サクソルの様にはなって貰っては困るので一度実演して見せた。
とりあえずなんか長い靴下も引っ張り出してきて彼に渡してある。
これをあいつから押し付けられたとき絶対領域なるものの重要性を語られた事を思い出す。
今日は暑いが…大丈夫だろう。

「多分…できました。」
「そうか?…うん、平気そうだな。……似合わねー…。」
「それは俺が一番分かってますよ…何回も言わないでください。」

今彼はスカートとハイソックスより長い靴下、白いTシャツである。
髪も鬘をかぶり茶色のポニーテールである。
化粧はどうしようかと考えたが、彼の女装が似合わないのはどちらかといえば体格のせいだと
勝手に納得しするだけ無駄と現実から目をそらした。

「じゃ、車乗っていくからな?質問とかあれば帰ってから聞くから。
 あとデパートでは走り回るなよ?それと声は服を買って着替えるまでは何があっても出さないこと。」
「分かりました。…なんか落ち着かないですね、スカートって。
 下着代わりにつけているとはいえ…スースーして居心地が悪いです…。」
「女の私ですらスースーするしなぁ。滅多に穿かないからかもしれないが。あ、シャメっとこ。」

ルーターにシャメとは何かの質問をする隙を与えず携帯ですばやく収める。
フラッシュに体をビクリとさせたが私が玄関に向かったので何も言わずついて来た。





「うん…大丈夫じゃないな…。」
「すいません…治します、すぐ、治しますから…。」
「いやいいって…無理するなよ。」

デパートの駐車場。
そう、今回は渋滞にあったりせず流れは順調だった。
ただ、ルーターが車に乗って五分足らずで乗り物酔いになった様だった。
そのため駐車場まで何とか耐えてもらい今、窓を全開にし風に当たっている。
吐きそうにないことが救いだが体格のいいのがこう…風に吹かれているのは滑稽というか…。
記念にシャメっとく。
フラッシュの音に目を開けたルーターは音源を確認しまた目を閉じた。
よほど辛いらしく何も言ってこない。
ルーターの具合が良くなるまで常備してある本を読み進める。

「あの…そろそろ大丈夫です。すいません、余計な時間かけてしまって。」
「ん?そうか。じゃ、行くけど何があっても絶対に喋るなよ。」
「はい…。」

二人で車を降り、デパートへと歩いていく。
途中すれ違う人の視線をなんとなく感じる。隣を見れば女にしては筋肉ありすぎな感じのデカイのが。
しかも落ち着かないようで明らかに挙動不審だ。こんなのがいたら、私も見るな……。
この視線を浴びる事に堪えられないので急いで衣服売り場へと向かった。





「私はお前の下着を買ってくるから。大きめの買ってくるから緩くても我慢してくれよ?
 で、私が買っている間にお前は普段着を四着位選んどけ。終わったらそこの椅子に座ってろよ、じゃ。」
「え?一緒に行動し」
「喋らない。視線が痛い、殺されそうだ。」
「……。」

ルーターは不満そうな顔をするが、それに構わず下着コーナーへと行く。
奏音のが普通に入ったって事はおそらくサイズは同じくらい。
以前彼女の採寸をしたときの数値を思い出しそれより少し大きいサイズのものを適当に買う。
店員の顔がなんとなく引きつっていて疑問に思うが、自分が買っているのは男性用の下着だと思い出す。
サクソルのときは男児用だったから違和感は無かったんだろうな…。
店員から商品とつり銭をもらい、衣服売り場へと戻る。

そこへ戻るとルーターがなんかよく分からないのに絡まれていた。
ナンパ?
いやいや、男だぞアレは。女に見えないぞ。
ルーターは今声が出せないのでそれを振り払う事ができないようだ。
私は面倒ごとに関わりたくないので待っていると言った場所に座り本を出す。
数ページ読み進めたところで足音がし、隣に座った。
そして私の目の前にも誰かが立つ。

「あ、早かったじゃん。終わったか?」

私の問いかけにルーターは首を振り指をさす。
それは私の目の前にたった男を指しており彼に絡んでいた良く分からないやつなのが分かった。
オッサン…だなぁ、馬鹿上司を思い出す…。

「あの、なにか用でしょうか?」
「ぁん?嬢ちゃんにじゃねぇって、嬢ちゃんのとなりの子に俺は用があんの。」
「これは私の連れですが、どのようなご用件で?」
「連れぇ…?じゃ、嬢ちゃんも一緒でいいかぁ。俺と一緒にさぁ、遊ぼぉ?」

ナンパ…だと、まさか?!
これを?!

「あの、お気持ちはありがたいんですけどね?まだ私達やる事があるんですよ。」
「へぇ…?でもよ、そっちの子は一回も喋ってねぇぞ?」
「あぁ…うん、そうですね。でも本当に用事あるんで。これ以上しつこいと警備の人呼びますから。」
「チィッ…。」

舌打ちをしてオッサンは私達から離れていく。
ていうかあれ?こいつ以外と女でもいけるの?筋肉あるけど意外と通用するのか?
ルーターを頭から爪先まで見てみるが女には見えない気がする。
まぁビルダーみたいにあるわけじゃないし、スポーツ系女子って感じなら…通用するのか?
なんとなく気になり奏音に画像を添付しメールを送ってみる。
彼女はおそらく仕事をさせられていると思うので返信は時間がかかるだろう。

「で、あのオッサンのせいで服は選べてないと。」

無言で頷く。

「しゃーない、一緒に選ぶか。っつってもセンス無いから覚悟してなよ。」
「はい。」
「声出さない。…ジーパンでいいと思うんだけどな…上はお前が気に入ったので。」

十分ほどで買い物を済ませ、トイレで着替えさせる。
今回は女子トイレで着替えさせるわけには行かないので多目的トイレだ。指示を出し私は外で待つ。
数分で着替えが終わったようで扉が開きルーターが出てきた。
やっぱり筋肉あるし男だよな…あのオッサンはなんだったんだ?

「お、似合ってんじゃん。もう喋っていいぞ。鬘はとらなくていいのか?」
「取りたいのは山々ですけど借り物なんで汚したりするわけにいかないじゃないですか。」
「真面目だねぇ。じゃ、飯食いに行くか。」
「え?朝食べましたよね?」
「私らは朝昼晩食べるぞ?お前らってもしかして朝と晩だけなのか?」
「いえ。俺らの世界では食事は嗜好品ですからね、食べなくても生きていけるんです。
 今は執行者として人間とほぼかわりが無いので食べないと餓死しちゃうと思いますけど。」
「そうなのか…サクソルは食事必要ないのか?」
「でしょうね。でもサクソル様は味覚が人間と変わりないようなので楽しいでしょうし、いいんじゃないですか?」
「なんか…食費返せって気分だ。」

天使っぽいのすげえ。
意外な事実に少々驚きつつレストランを目指した。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.15 )
   
日時: 2011/10/22 09:33
名前: あづま ID:/ne/WJtI

前回サクソルと来たときはレストランはそれほど混んでいなかったのだが、
今回はそうではなく、店員に聞いたところ三十分ほど待つそうだ。
ルーターに聞けば三十分とはどれくらいかと質問され時計を示せば平気だと言う。
彼の返事を聞き名前をかいて、椅子に座って待つ。

「なぁ、ただ待ってるのも暇だしそこに本があるからそれ読んで待っていたらどうだ?」
「読みたいですけどここの字まだ読めないんですよ。すぐ帰るつもりだったんで字まで覚えてこなかったんです。」
「ここの、ってことは日本語以外は読めるのか?」
「あ、言い方が悪かったかな…地球の文字はまだ読めないし書けないです。英語と日本語は喋れますけど。
 俺が言ったのは俺らの世界の文字の事で…ただ文字がある意味はあまり無いんですけどね。」
「あまり無いって…言葉だけで伝わるのか?」
「俺らの世界の言語は共通ですから。それに主は俺らの心を読む事もできるらしいですし。
 だから嘘なんてついたら即刻ばれるんじゃないですかね?」
「そういうもんか…言語共通は羨ましいな。そうだ、帰りにドリル買おうか。お前にも働いてもらいたいし。
 ただ文字は読めないと辛いから…まぁお前は勤勉そうだしすぐ覚えるだろうよ。」
「すいません何から何まで。」
「いちいち謝らない。私が好きで面倒見てるんだ。」
「はい、分かりました。」

彼の返事を聞き本に目を落とす。
そういえばサクソルは字が読めたっけ?
サクソルが来てからの行動を出来るだけ思い出すが彼が文字を読んでいたことは無いと思う。
一応買っておこうか。





名前を呼ばれたので店員についていく。
メニューを開きルーターに選ばせようとしたが、自分は良く分からないから私に選んでほしいと言った。
だからパスタを二種類選び半分ずつ交換する事を提案すれば彼も承諾した。
パスタが運ばれてくるのを彼の世界の事について話しながら待つ。

「存在している数はよく分からないです。昨日話したとおり姿を変えようと思えば可能ですからね。
 普段獣の姿をしている者が人間の姿になったりとかしますし。肉食獣が草食獣になったりもしますよ。気分で。」
「気分って…。昨日聞いたことから察するに今はお前できないんだよな。お前の世界にいたときは出来たのか?」
「下手でしたけどね。長時間もたなかったです。だから剣だけってサクソル様も言ってたでしょ?」
「あぁ…。」
「でも日本は戦争無いんですよね。だから俺の能力が活かせないんですよ…。」
「平和主義で行こうじゃないか。」
「お待たせしました〜、和風海鮮パスタとホワイトスープパスタです。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」

そう言って店員は去っていった。

「お前はさ、どっち先に食べたいとかあるか?」
「どっちでもいいですよ。あなたが食べたいほうを。」
「そうか?じゃ私は海鮮最初に食べるから。」
「じゃ俺はこの白いのですね。」

各自皿をとり食べ始める。
ルーターははじめスープの熱さに無言で震えていたが時間をおいてからは平気になったようで普通に食べている。
食事中は会話は無く無言で食べていた。
半分ほど食べ終わったら皿を交換しまた無言で食べ続ける。
ルーターが先に食べ終わり数分後私も食べ終わる。
これから雑貨を買いに行かなければならないわけだが少し休憩する。
夏休みなので学生も多いから休憩所は人が多いだろう。だから席に座れるレストランはなかなかいいだろう。
ルーターがトイレに行くと席を立ってしまったので本を読む。
自分で結構本の虫だな、と思いながら読み進めていると椅子が引かれ座った。

「そろそ…沼川?!」
「よ。なに、買い物?あの子供はお留守番?」
「サクソルか?あいつは今帰省中。日曜にまた私んとこ帰ってくるってさ。」
「へぇ、まだいるのか。じゃ、オレとこれから遊ばないか?明日になったらまた忙しいだろ。」
「ごめん、無理だ。あー…ホームステイ受け入れてて今案内してるんだ。」
「あの子もそうなんじゃないか?大丈夫かお前の家計は。」
「ん、あいつも働くって言ってたし。」
「そうかぁ?でも困ったら言えよ、オレが助けるし。」
「頼りにしてるぞ。…あ、ルーター。紹介する、こいつ沼川。会社の同僚。」
「なっ…男?!」
「ぉお男ですよ!俺女に見えないと思うんですけど。」
「なに驚いてるんだ?オレは沼川一寿。同僚じゃなくて先輩ね、セ・ン・パ・イ。
 ところで日本語上手くないか?奏音さんの担当も外国人なのに上手いし。お前の周り日本語できる外人多くね?」

沼川の指摘に言葉が詰まる。
確かに今まで外国人で関わる人なんてALTがせいぜいだったのにこの短期間に出会いすぎな気もする。
それにALTも最初から日本語がある程度完璧に出来る人なんていた記憶が無い。皆片言だった。
実は別世界の人間なんで喋れるんだ、とは言えないしルーターは勉強してきたらしいし。
黙っているとルーターが口を開いた。

「俺は小さい頃近所に日本人の方が住んでいてそれで教えてもらったんですよ。」
「へぇ。結構長い間教わってたの?」
「う…、正確な期間はわからないですけど小学校入るときに引っ越してそれまでだったんで…二年くらい…?
 あ、でも、え…っと十五のときに一回日本に来たことがあるんで大体日本語は喋れますよ。」
「そうか、結構日本に関わってるんだな。なら喋れる事も納得。でもあの子供は?ペラペラだったよな?」
「私もよく分からないんだ。なんか喋れててさ、意思疎通できて良かった位にしか考えてなかったな。
 帰ってきたら聞いておくよ。あとレオンは編集長さんの知り合いで日本語を勉強してたらしいぞ。」
「そうなの?」
「奏音が言ってたんだ。私もよくは分からない。」
「ふぅん、外人も勤勉だなぁ。じゃ、オレ行くよ。お前が見えたから来たんだし。」
「分かった、会社でなー。あとケーキ宜しく。」
「はいはい、お楽しみに。」

そういって席を立ち沼川は売り場へと消えていった。
やっぱりサクソルの事は気に入ってないんだなと彼の口調からなんとなく伺えた。

「あの、サクソル様はあの人になんかやりました?」
「からかってた。」
「どうりでなんかよそよそしい感じだったんですね…。」
「過ぎた事だしお前に関係ないから気にするな。よし、買い物続行しようか。」
「分かりました。」

席を立ち会計を済ませ買い物を再開させる。
といってもルーターはサクソルとは違いわがままを言わないのですぐ済んでしまった。
酔い止めも一応買い効くかは分からないが飲まないよりはマシだろうという事でルーターに飲ませ帰る。





「酔い止め…効かないんじゃないですか……?」
「私は酔わないからな…。でもお前を見ると否定できない。」
「なん…クラクラする…あぁ……。」
「寝てろよもう…。」

酔い止めを飲んだにもかかわらず帰りもルーターは酔ってしまった。
その様子があまりにも見ていられないのでソファに寝かせる。
本当は布団に寝かせてやりたいのだが今は敷いていないので我慢してもらう。
私は車酔いなどは全くしない性質なのでどうすればいいのか分からないのでとりあえずゴミ箱を近くに置いておいた。

「吐きそうだったら無理しないでこれに吐いていい。なんかあったら呼べよ。」

ルーターが頷いたのを確認し買ったものを仕舞いに行った。
毎回この状態になるのであれば留守番してもらうしかないのかもしれない。
少しかわいそうだと思うがしかたないだろう。
彼は大人だし納得してくれるはずだと思いながら作業を続けた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.16 )
   
日時: 2011/10/22 09:36
名前: あづま ID:/ne/WJtI

冷蔵庫に買ってきたものをつめ、ルーターの衣類のタグを切り。
コスプレのは洗濯しても平気だと預かった時聞いていたのでそのまま洗濯機にぶち込む。
布団も敷き、ルーターの具合が良くなったら移ってもらうことにしよう。
さて、仕事も今は少ないのでやる事がない。
本はもう読み終わってしまったし奏音は時期から推測すると仕事のほうが修羅場だろうから話せない。
どうしたものかと考えていると居間から大きな音とルーターのうめき声が聞こえた。

「目、覚め…サクソル!」
「ただいま。特に異常は無かったみたいでね、帰ってきたよ。」
「そうか…異常無い事は良いことだがルーターの上に乗るな。戻したらどうするんだ。」
「戻すって何をだい?…そういえば顔色悪いね。治そうか?」

サクソルの問いにルーターは目を開けるがすぐに閉じてしまう。
それにムカついたのかサクソルは思いっきりルーターの頬を叩く。

「返事ィ!!」
「ぎゃっ…すいませ……。」
「華凛、これはいったいどうなってるんだい?こいつがこんなにダメージ受ける事ってないんだけど。」
「車だよ、車。それに乗ってこの状況。」
「あぁ、あのチンタラ遅いやつ。でも奏音のは華凛と比べて音静かだよね。
 チッ…言いたいことあるから特別に治してあげるよ全く。やりたくないけど。」
「いや、お前がルーターに乗った…なんでもない。」

サクソルはルーターの腹を思い切り踏み付けて彼から降り(ルーターがものすごく苦しそうだ)、彼の横に立つ。
そして自分の指を強く噛み、それをルーターの口に思い切り入れる。

「おい…そんな事したらよけい具合悪くなるんじゃないか?吐かない?」
「大丈夫。こっからも見たい?止めないけどね。」
「え?なんかまずいなら出て行くけど。」
「じゃ、お願いしようかな。終わったら呼ぶからさ。」





「確かに顔色はよくなってるが…。」
「でしょ?剣だけのこいつとは違うからね。」

自慢げにサクソルが私を見てくる。
確かにルーターの顔色は良くなっており今は座っている。だが、

「なんか怪我してるように見えるのは私の気のせいか。」
「気のせいじゃないですよ。ぶたれましたから。」
「お前いいのかそれで。」
「だって俺サクソル様より地位低いじゃないですか。逆らえないですよ。」
「へー、君でも分かるんだね。意外だなぁ、説明しなきゃいけないかと思ってたよ。」
「サクソルそれ失礼じゃないか。」
「いいんですよ、俺がバカなだけなんで。」
「勉強してね。で、ルーター。君に話す事だけどマスターの世界に戻れるよ。執行隊と話してきた。」
「本当ですか?!」
「良かったじゃないか。」
「はい!」

自分のもといた世界に戻れるということを聞いてルーターは嬉しそうにした。
そりゃそうだ、自分の故郷に帰れるというのと同じ感じだろう。

「うん。ただ力を取り戻したらだってさ。」
「えっじゃ、え?」
「僕は君に力を貸すのは絶対に嫌だからね。どうする?」
「サクソル…貸してやれよ。お前なんか冷たいぞ。」
「嫌だね。で、どうする?スウィノーかケナベル呼ぶ?」
「どちらの方も問題があるじゃないですかぁ…。」
「じゃあいらない?分かった、自力で頑張ってね。」

そしてサクソルは会話を打ち切ってしまった。
このままだとルーターは一生戻れないかもしれない。
事実今は帰れるかもしれないと言われた時と比べ明らかに落ち込んでいるのが分かる。

「サクソル、そのスウィノーとケナベルっていうのはお前の直属なんだよな?そんなに問題あるのか?」
「そうだと思うよ。僕は特にそうは思ってないけどこいつが言うんだし間違ってないんじゃないかな。」
「お前上司なのに無責任だな…。ルーター、そうなのか?」
「俺はそう感じてますよ。スウィノー様はおっとりしてておとなしい方ですけど干渉したがらないですから。
 多分こっちの世界まで来ないと思います。あと豹変するんで。ケナベル様は…もう……来たら最後食べられちゃいますよ。」
「あぁ、ケナベルねぇ…。草食獣に化けて油断させてシマウマ食べた事あるし…。あ、あと戦争中で行方不明者とか多いからって
 家族食べた事もあったなぁ。」
「正確には集落一つ食い荒らしたんですよ。で、十人近く生き残ったけど小さい子供だけだったんですぐ死んでしまって。
 その子供の中で生き残ったのは一人だけでしたし。」
「それ…やばくないか?」
「大丈夫だよ。シマウマのほうは周りにシマウマ以外何もいなかったし。食い荒らしたほうは何もいえないけど。
 それにケナベルにはちゃんとバツあげたし。それよりなんでお前知ってるの?」
「一応そこの世界を監視するよう言われてましたから。生き残った彼も最後は戦争で死にましたからね…。
 最後まで報われなかったというか知らなさ過ぎたんですよ。もう少し周りが見えれば違ったかもしれないです。」
「そこまで聞いていないよ。本当、馬鹿だね君。」

サクソルはそう言いリモコンでテレビをつける。
チャンネルを回すがどうやら今日はスポーツ実況でアニメが休みらしい。
舌打ちしてまた明日と言って消えてしまった。

「サクソル様っていつもこんな感じですか?」
「ん、多分そうだな。…予定表見ると明日もスポーツで朝夕アニメ無いぞ。来るなら月曜か?」
「多分一回来ると思いますよ。明日アニメが無いのは知らないんでしょうし。」
「そうか…。でもあいつの能力って楽だよな、自分が行きたい時間にいけるみたいだし欲しいな。
 過去も未来も行き来できるんだろうし…一日が二十四時間って訳じゃないんだろうなぁ。あ、はいドリル。」
「ありがとうございます。でも俺は便利だとは思いますがほしいとは思いませんね。
 主の世界では時間なんて無いに等しいけれどこちらはあるじゃないですか。あるならそれを体験したいですから。」
「ま、持ってないからこそ欲しいって思うんだけどな。飯食えるか?」
「今日はいいです…。具合は良くなったとはいえまだちょっと……。」
「そうか。じゃ、向こうの部屋に布団敷いといたからそこで寝ておけ。」
「分かりました。お先失礼します。」
「はいはい。」

ルーターが寝室に消えたのを見て自分の夕食の調理に取り掛かる。
といっても自分しか食べないのでありあわせだが。
明日はおそらくアニメが無いのでサクソルは来ても短時間だろう。

そういえば日本語が話せる理由を考えておかなければいけない。
無難にハーフ…いや、だったらそれを私が把握していないのはおかしいと思われるだろう。
ルーターは幼少時に日本人に教わり、十五で留学してきたという設定になっている。
だから近所に日本人がいました、というのはアウトだ。
食べながら考えるがそもそも私自身外国人と付き合う事が無いに等しいので何も思いつかない。
最近テレビでは日本語を喋っている外国人を見ることが多いがそれもなぜだかなんて覚えていない。
どうしたものか……。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.17 )
   
日時: 2011/11/05 06:01
名前: あづま ID:5FlPEQFo

昨日は寝るまでサクソルが日本語を話せる理由を考えていたが結局思いつかなかった。
彼が出歩く事なんて予想していなかったし、例え出歩いたとしてもまさか私達と遭遇するなんて思ってもいなかった。
いや…奏音が連れ出さなかったら会う事は無かったか。
あいつは才能はあるのは認めるが奔放すぎて全てを台無しにしているんだよな…。
それを上手く舵を取れる編集長さんと津岸さんとあとレオンもか、尊敬しなくちゃなぁ。

寝返りを打つと隣の布団にはもうルーターがいないことに気づいた。
特に用事は無いが一応着替える。
居間に行くと彼はニュースを見ていてたまに相槌をうっている。
私が入ってきた事に気づいた彼は一言挨拶しまたテレビへ視線を戻した。
テーブルを見るとドリルが置いてあり手に取ると全て終わっていた。

「すごいじゃないか。もう終わらせたのか?」
「え、っはい、終わりましたよ。結構簡単でしたね。文字は決まった音を表してるんで覚えやすかったですよ。」
「そうなのか?考えた事なかったな。ま、ひらがなカタカナだし終わるか。」
「俺的にはですけどね。あと結構前にやっていた映画だと字が出てたんでそれも勉強になりましたよ。
 それにでていないのも前後のでなんとなく推測できましたし。」
「字幕か…。朝飯はパンがあるからそれでいいとしてサクソルが日本語を話せる理由お前も考えてくれないか?」
「いいですけど…でもそれってそんなに重要なんですか?」
「沼川に疑問もたれただろ。あいつ意外としつこいから絶対月曜に聞かれる。間違いない。」
「へぇ…。大事に思ってるんですね、沼川さんのこと。」
「大事…?同僚だしな。なんだかんだで世話になることも多いし、大事かな。じゃ、飯の準備するから。」

パンを取り出し消費期限を確認。三日前なので大丈夫だ。
冷蔵庫から適当に使えそうなものを取り出し、皿を二枚取り出しテーブルに置く。
それから飲みものとコップを出して準備は終了。
席について食べ始める。

「でも勝手に決めていたら怒られませんか?あなたは不満を言われる程度かもしれませんけど俺はなにかしら
 攻撃されると思うんですけど。」
「あー…そこはしないように私が言う。で、なにかいい案は無いか?折角の日曜をコレに使うのは不満だが仕方ない。」
「そうですね…俺と同じで教わっていた、とすればいいんじゃないですか?」
「いや、多分ダメだ。お前とサクソル、それと直接関わりは無いがレオンという外国人が短期間で私の周りに集まった。
 しかも全員が日本語を完璧といっていいくらいに喋れるんだぞ。レオンはこっちに来る前に勉強したと奏音が言っていた。
 でも残り二人、どちらも私の家にいる奴の理由が同じって私が考え過ぎなのかもしれないが変なんだよ。」
「一々気にしますかねー?」





朝食を食べつつサクソルが日本語を話せる理由を考えるがいいものが思いつかない。
ルーターは別に気にしなくてもいいのではと言うがそれではダメなのだろう。
本人が来てくれれば一番いいのだがなぜか来てくれない。
アニメの時間…といっても今日はスポーツだがそれはとっくに過ぎている。
昨日の会話が聞かれていて今日はもう来ないつもりだろうか。
時計を見ればもう一時間ほどこの問題について話し合っている。もう答えも出尽くしてしまっただろう。

「なぁ、お前がサクソルを呼べたりしないのか?」
「俺が?無理じゃないですかね。」
「んじゃさ、思いっきり不祥事を起こすとかは?そうすれば絶対でてくると思うんだが。」
「不祥事って何起こすんですか。その前に俺が絶対に被害受けますよそれ。」
「だからそこは言ってやるから。無理?」
「無理ですよ。不祥事って……。」
「やっぱダメか。あー…サクソル、遊園地行こう!楽しいから。」

テレビの前が歪む。

「それで出て来るん」
「出て来たよ?」
「あ、サクソル。なんだ、今日はもう来ないと思ってたのに。」
「遊園地は一回コマーシャル見たしね。ルーター、苦しめ。」
「いやすみませんまさかでっいたあぁあぁぁ…!」
「あ、止めろって。私もお前に聞きたいことがあったし。」
「そうなのかい?まぁ遊園地に連れて行ってくれるなら答えられる範囲でよければ答えるよ。」
「遅いですよ…。」
「今は僕と、華凛が話してるの。分かるかい?お前は黙ってろ、命令だ。」
「いや…ルーターごめん。いやな、お前が日本語を喋れる理由をどうしようかと思って。」
「理由なんて必要なくない?」
「いやいるんだよ。沼川に疑問持たれたから。あいつは自分が納得するまでやるタイプだからな。」
「そう。君に迷惑がかかるんなら仕方ないね。じゃさ、その人の家に行けるかい?」
「行けない事も無いけど…いるか分からないぞ。」
「じゃ明日でいいや、家によびなよ。解決して見せるから。じゃ、遊園地行こう。
 …ルーター、さっさと着替えたら?お前は人間と変わりないんだから時間かかるし。」

サクソルは彼を蹴飛ばしつつ自分の着替えをこちらに飛ばす。
ルーターはけられた背中をさすりながら自分の着替えを取りに寝室に行った。
私は皿を下げ洗ってから伏せる。そして洗面所に行き軽く化粧をする。
こんな日はしなくてもいい気がするが一度社会にでて化粧をしてしまうと外出するのにしていないのはなんだか落ち着かない。
化粧を終え戻ってくればルーターが雑誌で頭を叩かれていた。
ただその雑誌は宙に浮いておりサクソルは一切触れておらずむしろ彼自身は蹴りを入れている。

「やめろやめろ。ほら、もう出発するから。」
「ちぇ…ほらさっさと立ってよ。お前のせいで遅れたら色々剥奪してやる。」
「それは勘弁してください…。」
「だからもう…なんでこうつっかかるんだ?」
「あ、そういえば車で行くんですか?」
「いや、電車だ。酔い難いと思うけど一応飲んでおくか?」
「ないよりはいいですよね…多分。」

薬箱から酔い止めを出しルーターに渡す。
そしてサクソルの手を引きながら遊園地を目指した。





徒歩で駅までやってきた。
サクソルはこの世界の服を着るとある程度の能力が失われるのか時間移動せずしぶしぶついて来た。
といっても最初の五分で歩くのを嫌がりルーターに負ぶってもらっての移動だったが。
そして駅に着くと物珍しさからかルーターから飛び降り走り出してしまった。
電車は後二十分は来ない。しばらく遊んでいるのもいいだろうと思ったのだ。
最初は自販機を触っていたりレストランを覗いていたりとまあ視界の範囲で動いていた。
だが、反対車線の電車から降りてきた人ごみにまぎれて一度見失ってしまった。
それから必死で探したのだが見つからずアナウンスしてもらう事を考えたときに彼は帰ってきた。

「おかえり…。」
「なんなのあれ!迷子じゃないのに引っ張っていかれたんだけど!
 そもそもあの人の鞄が僕の服に引っかかっていったのが原因なのに!軽く不幸にしてやる!」
「そんな私利私欲で力使っちゃダメですよ。怒られ、ませんね…。」
「サクソル小さいから仕方ないだろ。ルーター、ちょっと捕まえてろ。迷子になられたら面倒だ。」
「はぁ?!なんでこいつに、離せ!降ろせ!命令だ!!」
「サクソルは黙れ!帰るぞ口答えするな!お前らが私の部屋で暮らす限り私がルールだ!私が正義だ!!」
「僕は暮らしてないじゃないか!夜は君の家にいないし暮らしてるのはこの無能だけでしょ。」
「あの、視線……。」
「あ。結構注目浴びたな…。で、どうする。行くのか?」
「行く!」
「あっそ。じゃ切符買ってくるから改札の近くにいろ。あとルーター、無能は否定しろ。それと薬飲め。」
「否定すると…。」

二人を改札の近くに残し切符を買いに行く。サクソルは子供料金でいいんだよな…。
まだサクソルが一方的にだがぎゃあぎゃあと言っているのを見るとなんだか関わりたくない気分になる。
まあ、サクソルが小さいという事と彼が一方的にわめいているので周りからはわがまま息子みたいに思われているんだろうが。
というか、それを切実に頼む。

「ほら、もう喚かない。切符買ったしもうすぐ電車来るから行くぞ。」
「うー…。」
「痛かった…。」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.18 )
   
日時: 2011/11/05 06:02
名前: あづま ID:5FlPEQFo

「歩いて十五分…耐えられないよな、これ。」
「……。」
「酔い止め…飲んだよな。」
「こんなやついいから行こうよ。おいてってもいいよ。」
「……。」
「ほら、肯定も否定もしない。行こう。」
「サクソルお前薄情だな!…少し休もう。なんかほら、遊園地の中の店って結構高いから。
 だから少し腹に何か入れていこう、な?」
「僕お腹は減らないんだけど。」
「ケーキあるから行くぞ。」
「分かった!」

ルーターは電車の揺れにすら耐えられなかったらしく乗り物酔いになってしまっていた。
電車で酔う人初めて見た…。
サクソルをケーキで釣り、近くのカフェテリアに行く。
休日だが昼前なので人もまばらですぐに座れた。
座ってすぐに突っ伏してしまったルーターの頭をベシベシメニューで叩くサクソルを注意し選ぶように言う。
自分は無難にケーキセットでいいかとメニューを覗き込み決める。

「ルーター…大丈夫か?なんか食べる…のは無理そうだしなんか飲むか?」
「大丈夫じゃないです…。これは体験したくなかった……。」
「悪かったな…。」
「いえいえ…あなたに原因はありませんから。俺が弱すぎて…。」
「お前本当に剣だけなんだね。華凛、僕はコレがいい。イチゴ乗ってるやつ。」
「どれ…重!ルーター、こいつが食べ終わるまで顔あげないほういいぞ。絶対吐くから。」
「分かりました。休んでます。」

店員を呼び注文をし少し待つ。
といっても今は混んでいないので本当に待ち時間は少しだった。
もくもくと生クリームの塊にしか見えないパフェを食べるサクソルを見るとなんだかこちらが胃もたれする。
五十センチスペシャルパフェってなんだよ…と思いながら自分のセットを消費する。

「サクソルそれって多くないのか?」
「ん?まぁ僕には満腹感が無いし。それに美味しいよ。マスターの好きな味。」
「へえ…マスターとお前って嗜好が同じなのか?」
「どうだろね?考えた事なかったや。でも同じじゃないかな、僕が持って帰るものは全部喜んでくれてるし。」
「そうなのか。そういえばマスターってどんな人なんだ?」
「どんな…?男で僕が君の身長に合わせた事あったよね。あれより少し身長は高いかな。こいつより少し小さい。」

そう言ってスプーンでルーターの頭を小突く。

「若いのか?」
「そうだろうね。でもあんまり知らないなぁ。僕たちと違って成長するくらいかな、あと知ってるのは。」
「成長するのか?」
「うん。僕が初めてあった時はもう少しあどけなかった。今は君と同じくらいかな?」
「私は二十三だからそれくらいってことか。へえ……。」
「多分ね。あ、溶けてきた。」

サクソルの言う“マスター”とルーターの言う“主”同一人物。
それの像を掴もうとしたがなんか情報が少なすぎる。
特に気にする事じゃないしいいか、と食べ終わったのでスプーンを置く。
サクソルがパフェと格闘する姿を眺めつつ遊園地の予定を考える。
ルーターの乗り物酔いが酷いので揺れるのは恐らく駄目。でもベンチで待っててもらえば平気か。

「サクソル、何か乗りたい物とかあるのか?ただ行って終わりって訳じゃないだろ。」
「ああ、名前は知らないんだけどね。船のやつ。あれの先のほうに乗りたいな、ものすごく揺れてたもん。」
「あれか…ルーター、お前座って待っていられるよな?多分あれ乗ったらお前死ぬ。」
「待ってられますよ。あとそろそろ顔を上げたいんですけど。」
「別にいいよ。もう半分食べ終わっているからね。あとアイスと生クリームだけじゃないかな。」
「やめとけ。見てるだけで胃に来る。」
「そうですか。じゃあもう少し辛抱します。」

上げようとしていた頭を下げ再び突っ伏すルーター。
首痛めそうだな、と授業中居眠りばかりしていた奏音の姿勢と同じなので思う。

「頑張れ。あとサクソル、多分待ち時間が尋常じゃ無いと思うんだ。ジェットコースターとか人気なやつはな。
 日曜だから家族連れも多いだろうし二時間待ちとかもあるだろうしそれは我慢できるか?」
「大丈夫大丈夫。そこは平気、人を僕が遊ぶ時に来ないようにするから。」
「サクソル様、私利私欲は駄目ですよ。」
「だっからお前が僕に意見しないでもらえるかな。時間移動したいけどこの服だと自由に出来ないんだよ。
 一回もとの世界に戻らなきゃいけないから面倒なんだ、分からないよね?君には力が無いから。」
「はぁ…サクソル、力使わないで待つこと。洗脳だかなんだか知らないけど人の世界に関わるなら人と似たような生活をしろ。」
「ケチ…!」
「お前らの面倒見てるしケチじゃないよ、私はさ。」
「……。」
「なんか言え、ルーター。」
「……お世話になっているんで。」
「ケナベル呼ぶよ。お前なんか食われちゃえ。」





ケナベルという彼直属の人?を呼ぶと機能聞いた話で判断すれば絶対に周りに被害がでる。
そうサクソルに言い聞かせこちらに来る事は無いのだが。
そしてその問題の部下の上司は今とても不機嫌でルーターにここ十分ほど蹴りを入れている。
理由は簡単、入場券が買えていないので園内に入れないからだ。
私自身、両親が忙しく施設で寝泊りする事が多かったので遊園地に行った事など一度も無かった。
そのため並ぶだろうという事は推測できたがここまでだとは思っていなかった。

「ルーターごめん。左足平気か?」
「一応鍛えてるんで平気ですよ。どうぞお気になさらず。」
「チッ…これだからお前は嫌いなんだ。」
「いいですよ、嫌いで。でも俺はあなたについて行きますから。」
「僕に迷惑かけないならいいけどね。お前はいいとして、華凛まだ?力使えないと待つから辛いんだよ。」
「あと五人だろ、十分くらいだ。駅からここまで歩いてきたのと同じくらい。」
「分かった。」

そしてまたサクソルはルーターを蹴り始める。
というかルーターは人とかわりが無いので痛いんじゃないか、と彼の様子を伺うがそんな素振りを見せない。
むしろ笑いながらたまにかわしている位だ。剣が強いらしいので痛みには強いのかと思った。
攻撃をかわされたことにサクソルが怒りさらに力をこめて蹴りを…と思ったらフェイントで殴ろうとしたらしい。
しかしそれもルーターは受け止め笑っていた。そしてそのままサクソルを肩車している。
はじめは髪を引っ張っていたが普段より高い視線に興味が移った様でルーターの頭にあごを乗せ見渡している。


十分かからずに入場券が買え二人の元へ戻る。
肩車のおかげで人より頭が一つ分以上高いところにいるサクソルが私に気づいたらしく手を振った。

「ただいま。じゃ、入るか?それと肩車は今すぐ止めろ。」
「結構遠くまで見えるから良かったんだけどなあ。」
「でも結構目立ってますよ?それに同じように肩に乗っている子供もいますけどあきらかにサクソル様より小さいです。」
「だって君が僕を乗せたんじゃないか!」
「いいじゃないか、私もお前がやけに高いところに見えたから見つけられたんだし。でも降りないと駄目。」
「やっぱりケチ…。」





「まだ待つの?!」
「仕方ないだろ、これ結構人気らしいし。」
「最悪!」
「いやルーターの事考えろよ。あいつずっとベンチだぞ?それよりはマシ。」
「あいつは別に気にする事ないでしょ。」
「お前本当に酷くないか?」
「僕はマスターが幸せならそれでいいもん……。」

サクソルが乗りたがっていた船の列に並んで二十分。早くもイライラしだした。
表現は悪いがサンドバッグとなるルーターがいないので何にもぶつけられず見てるだけで伝わってくる。
列はまだ長いが今までの進みを考えて後三十分あればできるはずだ。
ぶつぶつ何かを呟いているサクソルをなだめつつも、長い列にため息が出る。
まだまだ遠そうだ。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.19 )
   
日時: 2011/11/19 05:55
名前: あづま ID:zjbySp2Y

「ねぇ、僕先端に乗りたいんだけどいいかい?」
「それだと次にしか乗れないけどいいかな?」
「次?!…待つよ。今まで待ったんだからすぐだと思うし。」
「そうですか、じゃあ、ちょっとこっちに避けてね。」
「すいません…お世話かけてしまって。」
「いえいえ、お客様に楽しんでいただく事が私達の仕事ですから。」

ぶつぶつと隣で何かを言われながら三十分。やっと私達の順番がやってきた。
サクソルは目を輝かせておりそれになんだか微笑ましくなる。
前の人たちが終わり、いよいよ船のアトラクションに乗り込む。
後ろにつめていくという事でもちろん私たちは一番後ろ、サクソルが望んだ場所だ。
安全ベルトを止め、動き出すのを待つ。
徐々に揺れが大きくなり、音が風のみになっていくのを感じながら楽しんだ。





「終わったな。で、次はジェットコースターだっけ?それならルーターも大丈夫だろうから迎えにいこうか。」
「そうだね。…でも結構楽しかったなー。」
「お前絶叫系が好きなのかな。だったら多分ジェットコースター好きだよ。ただ待つからな。」
「またぁ!…でもそれだけ楽しいって事なんだよね。仕方ないや。」

そしてルーターを待たせているベンチへと向かう。その前に屋台で飲みものやお菓子を買う。高い。
そして待たせてあるベンチがある場所に近づいてきたが、そこには人だかりが出来てた。
プラスの方向の予感は当たらないくせにマイナス方向への予感は当たるものだ。
そして今、全身で嫌な予感を感じていた。
思わずはぐれるのを防ぐ為に繋いでいた手を握りしめる。
しかしサクソルには痛覚は無いのかただ普通の人だったら痛がるよ、とだけ言われた。

「あ、悪い。でさ、なんかあの人だかりからものすごい嫌なオーラがするというか関わりたくないんだが。」
「…否定はしないよ。」
「やっぱり?うわー何やってるんだ。」
「ただルーターが男の人を締め上げてる。隣で女の人がお礼言ってる。…持ち物を取られてたらしいね。」
「お前聞こえるのか?こんな人ごみの中で。」
「まあ。でも今行ったら確実に注目浴びるよ。…あ、この靴の音は係の人だね。右からこっち来てる。」

サクソルの言葉に右を向くと遠くの方にこの遊園地のユニフォームを来た男が数人こちらに向かってくるのが見えた。
靴の音、しかもあんな遠いところのをよく聞き分けられたなと感心する。
むしろ彼らにとってそれは普通なのだろうか。
係の人たちが人ごみを掻き分けて行き、そして男の人が連れられて行った。

「…しばらくは近づけないね。目立ちたくな」
「サクソル様!華凛様!ちょっと助けて!」

ルーターの大声に一気に視線がこちらに来る。
突然の事に思考が停止してしまった。先に行動したのはサクソルで、私の手を放しルーターに歩み寄る。

「お前なんで言うの?!関わりたくなかったのに!」

そういって一発、蹴りを入れるが、どうやらあまり痛くないところに当たるようにルーターが動いたらしい。
動くな!という声が響く。
この世界の常識が無いといってもいいような二人ではもう対処できないだろう。
どのみちもう視線は私にも集まっている。

「はあ…連れに何か御用でしょうか?」
「ええ、この方には引ったくりを捕まえていただいたので。」
「たまたまですよ。引ったくりが俺のほうに来て、彼がそれを捕まえられた。それだけです。
 なにも感謝されるような事じゃないですよ。」
「でも…せめてお礼を…。」
「ルーター、彼女お礼したいんだそうだ。」
「え、そんないいですよ!偶然ですし気にしないでください。」
「でも…。」
「本当にいいですよ、お気遣い無く。中身は何もとられてないですよね?」
「あ、はい!」
「良かった。でもこれからは気をつけて下さいね。毎回誰かが捕まえられるわけじゃないだろうし。」
「分かりました!でも…せめて連絡先くらい…。」
「あ…居候してて…。」
「…電話でいいならお教えしますよ?」
「分かりました、是非!」

そして女の人に連絡先を教える。彼女は携帯にそれを入れ、一言礼を言って去っていった。
だが、野次馬の目線は去ってくれずにずっと私達に絡み付いている。

「なんか…すごい見られてますね。」
「引ったくり捕まえたんだろ?そりゃ目立つ。あと私のことを様付けで呼んだのもあるんじゃないか?
 呼び捨てか、せめてさん付けにしてくれ。」
「え、でも。」
「華凛がいいって言ってるんだからいいじゃないか。ジェットコースター行こう。」
「そう、全然失礼じゃないから安心しろ。じゃ、行こうか。」

視線に耐えられなくなって、ジェットコースターの方向へ二人を引っ張っていった。





「そんなに急がなくても…息切れしてるじゃないですか。」
「そうだよ華凛。君は人間なんだしもうちょっとゆとりを持ってもいいと思うよ。」
「はぁ…、そうだな。…やっぱり、並んでる、な。」
「でもそれだけ楽しいって事でしょう?並ぼう。」
「…なんか、大人になったな。」
「でもこれで面白くなかったら絶対ここになにか一波乱巻き起こりますよ。」
「…サクソル、あまり大きなのは止めろよ。」
「そだね、死人が出ない方法で信用を失墜させるくらいにするよ。」
「止めろ…!」
「いやいいでしょ。遊びに来る人は来るだろうし自由選択だよ。」

物騒な事を言い出す小さいのを見て、どうか面白いようにと願う。
なにか起こるだろうという事を知ってしまった今、絶対に罪悪感に苦しむのは間違いない。
…しかし流石ジェットコースターと言うべきか列が長い。

「なあ、多分これ乗ったら帰らなきゃいけない。」
「えー全然乗ってないじゃないか。」
「でもさ、金も厳しいし。また今度来れるときに来よう。」
「絶対ね。」
「…やっぱり電車ですよね。」
「まぁ一時間くらいかかるけど自転車でもいけるし。ただ乗れるか?」
「練習すれば乗れるんじゃないですか?」
「確かにな。サクソルは後ろ…ギリギリ乗せられるだろうし。駄目だったら練習してもらうから。」
「いや、もう場所が分かったし時間が分かれば直接いくよ。待たないで済むし。」
「そうか。やっぱり便利だなー…。」

ゆっくりと進む列に喜んでいたサクソルだが、だんだんと口数が少なくなり二十分経ってからは完全に不機嫌だった。
時折ルーターを蹴ろうとするがそうすると防がれてしまうので今は抓ったりと地味な嫌がらせになってきた。
さすがにこれは防ぎようが無いようでルーターは無言で耐えている。
それはそれでつまらないらしく、声をあげさせようと蹴りを入れるがそれはかわされてしまっている。
それが面白くなく、また地味な嫌がらせを行う。これをずっと彼らは繰り返している。
私自身はそんな彼らの様子を観察するのが面白いので、待ち時間なんてそんなに苦にはなっていない。

「君、なんで暇じゃないの?」
「まあ、人間観察かな。意外と面白いぞ。例えばあの人は暇だと時計を何回も見てしまう人だ、とか
 骨を鳴らすのがクセになってる人とか。」
「華凛は結構人を見れるんだね。いいな、そういう人材がほしいよ。こいつみたいに剣しかない、みたいなのが多いし。
 全体を見れないと駄目だからね、僕がやっている仕事は。」
「そうか?じゃクビになったら雇ってくれ。」
「…考えとくよ、君が本気でそう思っているならね。」

そしてまたサクソルはルーターを小突き回す作業に戻った。
ルーターには痛覚が存在しているようでたまに小さな悲鳴を上げている。
そういえばテレビから出てきたときにぶん殴ったときも痛いって言っていた様な気がする。
演技だと思っていたな……。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.20 )
   
日時: 2011/11/19 05:50
名前: あづま ID:zjbySp2Y

昼間の一番暑い今、電車の冷房が心地良い。
結局ルーターはジェットコースターでも軽く酔い、金ももう少ないので少し休んで帰路についた。
背もたれにもたれ青い顔をしているルーターと無料の求人情報誌を眺めているサクソル。

「お前が読んでも無意味だろ。姿は変えられるとはいえお前絶対働かないだろ。」
「まあね。でも見聞を広める意味ではいいじゃない。」
「いいけどさ。」

規則的に揺られ、各々考えをめぐらせる。





「……グロッキィ。じゃ、明日君が沼川を連れてくる直前に来るから。」

部屋に入り、着ていた服を脱ぎ捨てサクソルが言う。
ルーターは玄関で倒れている。一時間位したら復活するだろうか。

「分かった。でもちゃんと解決できるのか?」
「任せておくれよ。大丈夫、僕があいつに負けるほど馬鹿じゃないよ。」
「まあ…負けるとは思わないけど。」
「信頼してくれているのかな?じゃ、連れて来てね。」

そしていつも通り彼は消えた。

「さて。」

ルーターに働いてもらう為に求人情報に目を通す。
サクソルは彼のことを“剣だけ”とよく言い表しているが恐らく頭はいいはずだ。
字幕の漢字も前後の文脈から推測しているようだし理解力もある。
それにサクソルの攻撃をかわしているから恐らく運動神経もいいはずだ。
となると乗り物酔いにならないのであればわりとどの職業にも就けるのではないだろうか。
しかし、半分ほど求人誌を読み進めてからある問題に気づく。

「履歴書、どうすればいいんだ……。」





すでに空は赤く染まっている。
自分の経験から考えると家庭教師や塾の講師はアウト。
コンビニやスーパーなどの従業員ならいけそうだが、私の経験だと皆履歴書が必要だったのでアウト。
配達系は免許を持っていないし、自転車も今のところ乗れないのでアウト。
となるとガテン系になるのだろうか…。

「おはようございます…すいません寝ちゃって。」
「いや、いい。具合悪かったんだし。どうだ、治った?」
「ええ、まだちょっと重いですが。」
「そうか…。まだ本調子じゃないところ悪いが仕事についてだ。普段サクソルがいないとはいえやっぱり
 厳しくてさ。で、初めて会った時に言ったと思うが働いてもらおうと思う。」
「お世話になる身ですからね、そのつもりですよ。」
「どうも。ただ、講師とか教えるのは無理だろ?履歴書も捏造しなきゃいけないからそれが必要な職種も無理。
 となると結構きついんだよ。だからそこのパソコンあるだろ?私が仕事に行っている間にそれで探しててくれないか?
 自分で面接なり申し込んで行ってもいいし候補を挙げててくれれば私が後調べるから。」
「分かりました。で、決まったら報告すればいいんですか?」
「そうだな。まあバイトだし最初からいい給料出るわけじゃないから。じゃ、これマニュアル。漢字は…頑張ってくれ。」

ルーターにマニュアルを渡し自分は明日の事について考える。
沼川はサクソルが理由を直接教えたい、といえば来るだろうが絶対に怪しまれそうだ。
まあ、いいか。沼川だし。





会社。今日はあの上司がいないようでなんだか気分が楽だ。
ただ沼川が営業に行ってしまってずっと会えていない。
昼時には帰ってくるのかもしれないが多分、外食で済ますだろう。
席をはずし、家に電話をかける。

「…でない。もうめどがついたのか?」

十回ほどコールを続けているがルーターは一向に電話に出ない。
もう働き口のめどがついたのだろうか。
履歴書も書けないし難しいだろうと思っていたが意外と世界は広いのだろう。
そもそも自分がバイトを変えることが無かったのであまり知らないというだけだろうか。
力仕事だったら即戦力になりそうだしな…警備会社…は、色々調べられそうだな。無理か。

自分のオフィスに戻り仕事を再開させる。
沼川が帰ってくるのは早くて昼ごろだろうし、それまでずっと仕事をやっていよう。

「かーりんちゃん!」
「夕鶴さん…なんですか?」
「なんかしかめ面だねぇって思ったの。恋?」
「違いますって。ただ仕事終わらないなぁって。」
「でも華凛ちゃん最後には仕上げるじゃない。しかも締め切りの前日だし。今年から入ったとはいえ凄いじゃない。
 一寿君もね。今年の子達は凄いわ。」
「私はちゃんとやってるだけですよ。だから全然凄くないですって。沼川ですよ、凄いのは。」
「まぁた謙遜しちゃって!あ、邪魔になっちゃうわね、頑張ってねー!」

そう言い残し夕鶴さんは自分の席へと戻っていく。
彼女はこのオフィスの古参であり、皆の母のような存在である。
気さくで声が大きく恋愛の話と噂が好きで、でも仕事はもちろん育児もちゃんとやっているしああいう人になりたい。
沼川の帰りを待ちつつ仕事をやるが昼になっても帰ってこない。
結構遠くまで営業しているのか、粘っているのか……。あいつは肝心なときにいないような気がする。
昼に帰ってこないなら夕方まで来ないはずなのでそれまでに少しでも多く仕事を済ませようと集中させた。



(早く来いよ…もう三時だぞ…。)

意識を仕事に向けてからもうすぐ三時間。沼川は帰ってこない。
夕鶴さんが子供が帰ってくる時間だから〜と会社を出たのが二時半。多分七時頃また来るはずだ。
よっぽど交渉が上手くいっていないのだろうか?
しかしそのような心配も無用だったらしく声高らかに沼川は帰ってきた。

「T社から契約とって来ましたー!とりあえず1年間ですけど…あれ、課長は?」
「沼川君、今日は会議よ…。」
「でしたっけ。じゃ、デスクに置けばいっか。それと、お土産ですー!」

沼川がそういうと仕事に眉を顰めていた人たちも彼の周りに集まる。
彼らの後ろから私も覗くとそれはあの店のケーキで高くて手を出せなかった種類まである。

「あ、これ竹谷のお気に入りの店のなんですよ?あいつが言うんだし味は保障しますから。どーぞ!」
「おい!別に私のことは言わなくってもいいじゃないか!」
「いーじゃん、お気に入りなんでしょ?ってて、引っ張るなよ〜。」

私達の様子を見て他の人たちは面白そうに笑う…口笛をなぜ吹く。
沼川を引っ張り人もあまり通らないところに来る。…なんかレオンを思い出すな。

「ってーな、もう。なに?」
「…サクソルがさ、どうして日本語喋れるのかって言ってたよな。」
「あ、それ。別にこっちまで来なくっても。夕鶴さんいないし噂広がらないじゃん。」
「そうだけどさ…なんか、サクソルが自分で話したいって言っててさ。今日帰り来てくれないか?」
「ん?まーいいけど。」
「よかった。いつごろなら帰れるか?私はもう今日のノルマは終わってるんだけど。」
「あー…定時には。」
「分かった。絶対だぞ?」

そして二人でオフィスに戻った。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.21 )
   
日時: 2011/12/11 06:56
名前: あづま ID:FZxyYef.

「ここお前んちなのかー。」
「そう。二階な。」
「へー。」

かばんから鍵を出し中に入る。と、なぜかいい匂いが漂ってきた。
何のにおいかと進んでみるとルーターが台所に立っていた。
…なんか、ごめん。

「あ、お帰りなさい。こんばんは沼川さん。」
「こんばんはー。それとお邪魔します。」
「お前料理作れたのか!」
「いえいえ、テレビでやってたやつを見よう見真似ですよ。それより勝手にやっちゃってすいません。」
「いやいいけど。で、サクソルは?」
「あ…、寝てます?よ。」
「何で疑問系。じゃ、起こしてくるから沼川は座ってて。」
「おっけ。」

寝ているってあいつ睡眠の必要あるのか?
寝室に入ると誰もいないし布団すら敷いていない。
これは呼ぶべきなのか?

「サクソルー。」

返事が無い。というか私達が来る少し前に部屋にいるはずなんじゃなかっただろうか。
そう言っていた気がする。
折角沼川を呼んだのにどうしたものかと悩んでいると居間の方から声が聞こえた。
――ドッキリやったな……。
居間に戻ればサクソルが沼川の耳元で何かを言っている。サクソルは真剣そのものの顔だが沼川はどこか無表情だ。
なんだか話しかけづらい雰囲気にただ眺めているとサクソルがこちらを振り返った。

「やぁ。終わったよ、彼はコレで僕らには何の疑問も持たないから。」
「そうか…沼川?どうした?」
「いやぁ、オレ帰るよ。なんか邪魔しちゃったら悪いし。明日なー!」

酔っ払ったような雰囲気で沼川は出て行く。
それと入れ違いに料理を済ませたルーターが戻ってきた。
彼の表情を見るとなんだか申し訳なさそうな感じで、サクソルは何かやったと確信を持った。

「サクソル…お前沼川に何やった。」
「ん?洗脳みたいな感じだよ。これであいつは何にも僕らには疑問を持たないよ。」
「洗脳?!それ許されっと思ってるのか?」
「ばれなきゃいいじゃん。ね、ルーター…?」
「え!あ、そうですねいいんじゃないですか洗脳ぐらいいいですよそうですね。」
「お前すごい片言だよ?もう少し上手く立ち回れないの?」
「え、う。」
「はいはい、あまりルーターをいじめない。そういえば昼前に電話したんだけどお前でなかったよな?
 どっか行ってたのか?」
「あ、なんか求人誌、っていうのをもっと貰おうと思って探しに行ったんですよ。そしたら声かけてもらって。
 なんか働けそうですよ。」
「うっそ、お前が働けるの?うわ、よっぽどこの国は人材不足なんだ…。」
「サクソルすごい失礼だぞ。で、なにやるんだ?」
「なんか売るんです。チョコ…とか色々。」
「あぁ。」

そうか、と合点が行く。
個人でやっている店ならば案外履歴書が要らないだろう。店主が気に入ればいいのだ。
サクソルはチョコと言う言葉に反応していた。

「チョコを売るのかい?ねぇ、それ何個か貰ってこれない?」
「あ、居候しているって言ったら何個かお試しにってくれましたよ。でもこれからは買ってくれって。」
「だったらそれのお返しできるくらいに働かなきゃな。」
「ねえ、僕それ食べたい!」

サクソルの言葉を受けルーターは台所の棚を空ける。
そんなところに置くなんてあとでこっそり食べるつもりだったのだろうか。
戻ってきたルーターがそれをサクソルに渡す。
それは、錠剤。

「……。」
「これはあれかい?ラムネみたいなタイプなのかな?」
「そこまで説明はされませんでした…。ただ見つかったら駄目だってだけ。」
「よっぽど高いのかな?」
「なんか仕入れは安いんですけど高く売るんですよ。それこそ十倍くらいに。」
「…ルーター…。」
「なんですか?あ、華凛さんもいかがですか?」
「それってさ、《エス》とか《スピード》とかって呼ばれてないか?」
「あ、知ってるんですか?なんか種類は別ですけど呼ばれてましたよ。あとこれは《グラス》《葉っぱ》とも呼ばれてます。」
「馬鹿!!」

数時間ほど、麻薬の違法性と危険性を語ることになった。
一通り説教した後ルーターが作った料理を食べ、サクソルが麻薬販売者の記憶の修正に消えた。
彼曰く警察に出頭させてみるとのこと。
ルーターはサクソルに何度か術をかけられぐったりしている。
…仕事、どうしようか。


「ただいまルーター死ね。」
「おい。」
「…すいません。」
「ホント死ね。うん。華凛、なんかまた問題起きちゃったからしばらく来ないよ。」
「またデストル?」
「…こっちの世界じゃないけど。っていうかケナベルが重要人物が生まれる家系をつぶしちゃったから。
 で、代替する人物がいなかったらもっと時間かかるし。じゃ、ルーター死ね!」

一発蹴りをいれ(やけに尖った靴はいてたぞあいつ)サクソルは自分の仕事へと行った。
今回はルーターは避けたりせず素直に彼の攻撃を受けていた。
無言で痛みと戦っている。

「まあ、間違いはあるし…。」
「っ、でも犯罪…じゃないですか。」
「お前らは知らないだろうし…サクソルがいたから事なきを得たから…。」
「すいません本当にすいません!!」
「いいよ。ただ仕事の候補を見つけて私に見せる事にしよう。そうすればそれが犯罪かどうか分かるだろ?」
「はい…本当にすいません…。」
「もういいから、いつまでもくよくよするなって。」





あれから三日、サクソルはまだ帰ってこない。どんだけ重要な人潰しちゃったんだ。
ルーターの仕事も見つからず、個人営業の店も誰かを雇うなんてことはしてくれなかった。
今朝も求人誌の山からルーターの細い声が聞こえた。よほど弱っているのだろうか。
沼川はあれから変わらない様に見えるがサクソルたちのことは全く話題に出さなくなっていた。
定時で切り上げ家に帰ると玄関にはあいつの靴があった。

「なにやってる…。」
「あ!婿〜。ヤバイよキシ復活しちゃったぁ…。」
「華凛さん…お帰りなさい…。今日は早いですね……。」
「ただいま…で、なにやってる。」
「いやショタと遊ぼうと思ったら見慣れないおにーさんがいたので変なもん持ってないかチェックを。」
「ホームステイだから平気…というかどれくらい触ってるんだよ。ルーターも抵抗しろよ。」
「無理です…だめ……。なんか、だるい…。」
「まあ精神的にゴリゴリ削られてる気がするけど減るもんじゃないし。ていうかこの筋肉がいいよ…。」
「…着替えてくる。」

妙に生き生きとした奏音にぐったりとしたルーターを任せ着替えに行く。
あいつはどれだけ男が好きなんだ。セクハラじゃないか、あれは。
ジャージに着替え戻ると奏音はまだルーターの身体を触っていて彼はそれに身を任せている。

「透けブラー!…なんでもないよ。ていうか助けてよ、キシが復活したんだけど。あたし殺される。
 レオンは国に一回帰っちゃうしさぁ、死んじゃう。逃げたい、同人があるキシのいない日本に行きたい。」
「仕事すれば津岸さんも怒らないだろうが。あといい加減ルーターを離せ。なんか可哀想だぞ。」
「…イイ顔だけど。」

鈍い音が部屋にこだました。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.22 )
   
日時: 2011/12/11 07:01
名前: あづま ID:FZxyYef.

「すいませんでした。筋肉ありがとうございます幸せ。」
「いいですよ…もう……。」
「よっしゃ許可出た!とっつぎゃあっ!」
「許可は出していない。文脈から察せ同人女。」

ルーターに飛び掛ろうとする奏音を求人誌で叩く。
力は入れていないがそれにオーバーリアクションで奏音は返す。
それをもうどうでもいいような目でルーターは見る。なにされたんだ。

「良かったじゃないか。津岸さん復帰したんだろ?」
「レオンだけでいいのに…二人体制になったんだよ?あたしキシに殺されちゃうんじゃないかな?
 レオンと国外逃亡したい…でも日本語しかわかんない…。」
「いいじゃないか、それで真面目に仕事できるんだったら。」
「でもさぁレオンが仕事少なめにしてくれたからこそ締め切り守れたんだし。キシになったら絶対増える。
 同人出来なくなる、死んじゃう。なんのために中卒になったのあたし。レオン早く帰ってきてー…!」
「…ルーター、向こう行って休んでろ。」
「はい……。」

重たそうにルーターは寝室に消えた。
本当に何されたんだ?

「なあ、あいつに何したんだ?車で連れまわしたりしたのか。」
「車弱いの?っへーえ!今度遊ぼー。あとあたしは別に何にもしてないよ、ただ危険物持ってないかチェックしただけ。
 で、身体触ってるうちにちょっと思い出しただけ。懐かしかったんだぁ…あの筋肉。」
「何、レオンか?それとも津岸さん?」
「キシは無理。あいつはどーゆー角度から見ても無理。なんで結婚できたかなぁ?奥さんにもっといい男紹介したい。
 それとレオンはもうちょっと筋肉ついてないよ。あたしが思い出したのは違う人。」
「レオンの事も触ったのかよ。」
「減らないし?別に嫌って言わなかったからいいじゃん。あたしは楽しかった。
 ところでその凶器は何?バイトはじめるの?婿、けっこういいとこに就職したじゃん。」
「いや、私じゃないし。」

そこでこれの意味を教える。
もちろん、別世界の人間だとか麻薬の事は省いたが。
その間奏音はニヤニヤしながら聞いており時折別の凶器と言う名の求人誌で叩いたりした。

「そう。なぁんであたしに言わないの?」
「は?」
「だぁから、あたしは婿がホームステイ受け入れるんなら援助するっていったじゃん。そして対価は萌え。
 あたしんところでアシスタントはダメ?ベタとかトーンとかモデル位ならいいでしょ。給料も出す。」
「私は構わないが…ただあいつがどう思うかだぞ?第一印象がいいとは思えないんだが。」
「…そこは覆してみせる。で、おにーぃさん、どう?」

戸を開け寝室に無断で乗り込む奏音。
やっていい事と悪い事があるんじゃないかと抗議の意味をこめて軽く叩く。
それに対し愛が痛いと返されてしまいため息をつく。
しかし一向に返事がなく更に奏音は進み掛け布団を思いっきり引っぺがす。

「あぁら、イイ顔!…っとぉ、じゃないね、うん。どうした?」
「……。」
「おい本当に何やったんだ?体は丈夫だって聞いたんだが。」
「だからチェックだけ…だよ。うん。」
「…大丈夫ですよ…疲れた、だけです……。」
「何で。…とりあえずさ、こいつん所で働かないかって。」
「えっ…。」
「うわぁ〜すんごい嫌そうな顔された!」
「なんかやっただろ絶対!で、どうする?こいつの家は近いから歩いていけるし。」
「…いいですよ。」
「おっしゃ新たなる嫁!じゃさ、来てほしいときは連絡入れるよ。携帯ある?」
「嫁…?え、俺女の人の嫁になるんですか?」
「気にするな。こいつは根っからそうだ。
 携帯は持たせてないんだ。だから家に入れればいいじゃないか。折角あるんだし。」
「ん〜…あ、じゃあたしの携帯一個貸すよ。あと四つあるし。」
「何でそんなにあるんだよ!」
「仕事用同人用プライベート用婿用。」
「…私用って何だ。」
「文字通り婿の電話しか受けないやつ。他は着信拒否だから。じゃ、これプライベートの予備のやつ。じゃねー!」
「おい!ストーカー一歩手前じゃないか!!」
「はっはは!さらばぁ!!」

私の言葉を聞かずあっという間にあいつは外に出、エンジン音が聞こえた。
あいつは自分の欲望の為なら一生破れないような記録を打ち出していそうでハラハラする。
しかしこいつはいったいどうしたんだ?

「なぁ、なにされたんだ?様子がおかしいどころじゃないけど。」
「…いきなり部屋に入ってきて、そのソファに無理矢理座らされてからずっと身体触れてただけです…。
 妙に疲れた……。」
「…これから気をつけろよ。津岸さんいれば抑えられるだろうけどいなけりゃ覚悟しとくように。
 あぁ、あとレオンも常識人だし抑えてくれるだろうから。住み込みらしいし帰ってくればあとずっといるだろ。頑張れ。」
「俺なにされるんですか…?」
「ベタとかトーンは漫画の色塗りみたいな奴だったと思う。妹さんも手伝ってるって言ってたから簡単だろ。
 モデルは…気力で頑張れ。傷が残らない程度ならボコってもいいよ。」
「えぇえぇぇ…。」

奏音の元々低い高感度が更に下がっていくのを感じた。
…津岸さん、よくつきあってられるなぁ。





二週間ほどたったが、ルーターは未だに呼ばれていない。
どうやら奏音は本職の他にアニメのコミック化のストーリーを担当しているらしく趣味にまで手が回らないらしい。
もう九月。そろそろサクソルは帰ってきてもいいんじゃないかと思うが音沙汰はない。
部下の教育の重要性を彼には教えなければいけないだろう。
うちの会社はなぜか九月に夏休みがあり、観光するのにも混雑は避けられるので評判だが行事がないので暇である。

「図書館休みー行事はないー休みはあと二週間…あぁ暇。」
「でもいいじゃないですか、ゆっくりできるのは。」
「そうだが普段が忙しいとなにやるべきか分からないんだよ。…なんか無いかな。」
「そんな君には、じゃーん、お土産!」
「サクソル?!吃驚した…。」
「いいじゃん、折角帰ってきたんだよ?ルーターは死ね。」
「ま、まだ言ってるんですか…!そろそろ許してくださいよ…。」
「冗談かもよ?まぁ、ね。で、お土産。」

そう言い袋から箱を取り出す。中にはよく分からないものが入っていた。
なんだかツヤツヤしていて色はなんか毒々しい。食欲が湧かない色じゃないか、これは。
ルーターも同じように思っているようで顔が引きつっている。
その時、テレビの前においてあった携帯がメールの着信を知らせる。
これを幸いとして先に食べて置くようにいいその場を離れる。
名前を見ると奏音からでルーターに仕事かと思いそれを開く。

『あたしが修羅場してんのに旅行行くなんていい度胸じゃねーか!
 帰ってきたら見てろお前の持ってきた仕事だけぶっちぎってるから明日は覚悟しろ!
 ってか昨日レオンが帰ってきたからお前違う人の担当になれよ』

思いっきりミスっている。そうか、津岸さん復活したんだっけ。あとレオン帰ってきたのか。彼臨時じゃないのか?
というかこれなんで私のところに来たんだ。
疑問に思っていると再び奏音からのメールが来て間違って送った事に対する謝罪と
ルーターに明日来てほしいという内容だった。
それを伝えようと居間に戻るとサクソルに謎の物体を口にぶち込まれているルーターがいた。

「サクソル止めろ。ルーターが窒息死する。」
「大丈夫、死なないから。」
「でも止めろ!」
「じゃ、君も食べてよ。見た目は思いっきり悪いけど美味しい庶民食。」
「…いただきます。」

おそるおそるそれを口に運ぶ。
まぁ、見た目が悪いだけで味は美味しい。

「…すあま?」
「なんだい、それは。」
「なんかよく分からないやつ。あ、ルーター。明日奏音が来てくれってさ。担当二人紹介するって。」
「…いよいよ、ですか。」
「ま、二人は常識人だから。奏音が異常なだけ。頑張れ。」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.23 )
   
日時: 2011/12/18 00:21
名前: あづま ID:PfjF7Tho

ルーターは奏音のところに行った。…常識人が二人いれば大丈夫だろう。
今日は図書館はやっているのでサクソルを連れて行ってみた。
本当はルーターも連れて来たいのだが電車を使わなければ時間がかかりすぎるので諦めた。
折角連れて行ったにもかかわらずサクソルは本に興味を示さずずっと外の景色を見ていた。
だから読みたい本を出来るだけ借り、帰りにデパートに寄った。
近くにスーパーがあるのだが近くまで来たしという事が主な理由だ。
サクソル・ルーター共に衣服売り場、レストラン、食料品売り場、雑貨売り場しか見せた事が無く
折角の機会なので全てのフロアを巡ってみた。
サクソルが言うにはデパートも人間の視点で回るのは初めてらしい。

「人間の視点で、という事はデパートに来たことがあるのか?」
「うん。修正のためになら何回かね。それだとあくまで“仕事”でしょ。
 だから仕事じゃなくて人間みたいにこうやって来るのは初めてだなぁって思ったんだよ。」
「結構大変なんだな…。そうだ、なんかほしいものあれば言え。少しくらいなら買ってもいいぞ。」
「本当かい?じゃあ、あれがいいな。おもちゃ。あれってどういうやつなのか僕興味あるんだ。」
「やっぱり年相応だな。…二階か、降りるぞ。」

エスカレーターを使い二階のおもちゃ売り場へと降りる。
そこでサクソルが選んだのは彼がよく見ているアニメのおもちゃだった。
他にもそのアニメとのコラボお菓子もあったので買い、デパートを出る。
帰りの車の中でサクソルはお菓子を開け、それについていた食玩が彼お気に入りのキャラクターだったらしく喜んでいた。





「はー、ただいま。」
「思うんだけどさ、今誰もいないのに何でただいまって言うんだい?」
「あー…クセかな。」
「そうなのかい?よく分からないや。」
「だろうな。あ、手洗えよ。」
「はーい。」

洗面所に行くサクソルを見てから携帯を開く。
電源は面倒だったので切っており、何か連絡があったかもしれないと思ったがそんな事はなかった。
サクソルが居間で買ってきたおもちゃを開封しているのを見てから自分も手を洗いに行く。
それから奏音にルーターはいつごろ帰れるかというメールを入れると電話がすぐに帰ってきた。

『もしもし婿〜?』
「あぁ。なぁ、ルーターはいつごろ帰れるか?」
『んっとね、ルー君どう?帰れるー?……あと一時間位したら帰れるんじゃないかなぁ?』
「おい、今の間は何だ?」
『へっへへモデルしてもらってたのー。レオンも一昨日帰ってきたからいっしょに頑張ってもらったぁ。
 キシがいるとこれはできないからね!あたしの目が萎える。』
「…精神的ダメージを負わせるものだったんだな、把握した。あれ?津岸さん今いないのか?」
『今仕事編集に持ってってる。修正ない事祈ってるよ。あとダメージは失礼じゃね?腐は購買層大きいのに。
 それに今やってるのは商業誌です!属性が無い人には迷惑かけてないもん!』
「…レオンとルーターは属性あったっけ……?」
『レオンははじめこそ辛そうだったけど今じゃちゃんとやってくれてます!むしろアドバイスくれるよ。
 男の気持ちはわかんないしね。ルー君もま、慣れるよ。じっくりやってあげるから。』
「要するに迷惑かけてるじゃ…切った・・・!」

会話から不利を悟ったのだろう、奏音は私の言葉を最後まで聞かないうちに切ってしまった。
ルーターって職業に関する運がとことん低くないだろうか。
暴力罵倒、麻薬販売未遂、精神攻撃……。
レオンもなんか変な扉を開いてしまったのではないか?なんか、二人が気の毒なんだが…。

「華凛、どうしたんだい?顔が暗いよ。」
「私達だけでも…ルーターには優しくしよう……。」
「へましない限りは構わないけど…どうしたんだい?」
「…すごい、哀れだ。」
「…考えておくよ。」





奏音が言ったとおり一時間後に出たらしく帰ってきたのはあの電話から一時間半後だった。
その様子は見ていられないほどで、サクソルもからかう事ができないくらいだった。
何も言わず寝室に入ってしまったルーターを見てからサクソルは私のほうに来た。

「ねぇ奏音ってなんか精神崩壊の術でも使えるのかい?」
「まあ、それに近い事はできるんだろうな…。知らないで近づいていったら終わりを見るよ。」
「…十八歳になったら教えてくれるって言ってた事があったんだけど、それも?」
「確実にそうだな。…お前、見た目が小さくて本当に幸運だな。成人だったら絶対にルーターみたいになってたぞ。」
「うっわあ。」

どこで十八歳になったら、という話題になったのかは知らないが確実にそれ系だろう。
ゲームくれたりお菓子買ってくれたりのいいイメージしかなかったのかサクソルは完全に引いている。
それからしばらくアニメを見ていたが内容が頭に入らないらしくテレビの電源を切ってしまった。
頭を抱えてため息をついている。

「なあ、晩御飯…。」
「食べれる気分じゃないよ……。」
「そうか。…ルーター。」
「どうも。なんとか、復活しましたよ…。」
「なんか、その、頑張ったんだってね。このままヘマしでかさなかったら待遇考えるよ…。」

サクソルの言葉にルーターは微笑み、彼の向かいに座った。
しばらく無言が続いたが、サクソルが仕事の内容をきくと一瞬ためらった後ルーターは話し出した。

「最初は自己紹介でしたよ。奏音さん、津岸さん、レオンさん。みんないい人だなってこの時は思ったんですよ。
 奏音さんは、まあ…。それから奏音さんが仕事を仕上げて津岸さんが会社のほうに持っていったら豹変しました…。」
「豹変って?暴力的になったりとかかい?そういう人には見えないけど。」
「まだ暴力のほうがいいです。最初は漫画を書くからモデルになってくれ、ってポーズをとったんですよ。
 でもだんだん体のラインが分からないから上着脱いで、とか言われて最終的に下着だけ。」
「下着姿くらい別によくないかい?そんなに嫌だったの?」
「…本当、こんな仕事先でごめん。」

この先の展開がなんとなく予想できた私は思わず謝ってしまう。
それにルーターは力なく首を振りサクソルは疑問に思っている顔をこちらに向けた。
しかし私の表情からは何も読み取れなかったのかサクソルが続きを促す。

「なぜか密室に閉じ込められたんですよ、レオンさんと二人で。二人とも汗かいてきたあたりで奏音さんに呼ばれたんです。
 その時レオンさんが気を強くもって、と言ったんですがなんだかよく分からなくて。
 で、ほぼ裸の二人が密着して?奏音さんが俺らの頭を持ってキスさせようとするし…あぁ……。」
「うん…ご苦労様……。待遇、善処するね……。」
「…あんなのが友達でごめん。」
「いいですよ。悪いのはあなたじゃないし。というかあれですよ、一番辛いのはレオンさんがデストル様に似てる事ですよ。」
「…は?あいつが?奏音と一緒に暮らしている人と似ているのかい?」
「まあ、俺は遠くから見たことしかないんで絶対そうだとはいえませんよ。ただ主な特徴が似ているってだけで。
 自分の上司というか大先輩にあたるだろう人を襲うって理解できない……。それに抵抗も無いって…演技だけど…。」
「…レオンの主な特徴は?」
「レオンさんなんで平気…男としてあれはいいんですかね?彼は守備範囲広いんですか?
 でも嫌がってもいいんじゃ…あ、演技してたから普通に受け入れたのかな…でも、それいいのか…。」
「ルーター、待遇変わらなくなるぞ。サクソルの質問に答えておけ。」
「え?…あ、レオンさんの特徴ですか。白人男性。髪は黒で長さはわきの辺りまで。」
「…あいつだ!」

そう叫んだかと思うとサクソルは外に出ようとする。
それを止めようと押さえるができたのはたったの数秒ほどでするりとすり抜けてしまった。玄関から走り抜けるサクソル。
おかげで自分の腕を思い切り痛めることになる。
なぜすり抜けたのかと一瞬気をとられたうちにルーターが私の手をとった。

「追いかけましょう!」
「あ、でもいますり抜けた…。」
「分かります!でもサクソル様は奏音さんの家を知っているし、今は自分で作った服を着ていました。
 ならば自分の力を使いすぐに家の前に行くことも可能なのにそれをしなかった。それほど動転しているのだと思います。
 だから多分走っているはず。」
「え、あぁ。」
「サクソル様はデストル様を恨んでいます。もしこの世界で見つけたならば、彼を討つのに多少の犠牲は構わないはずです。
 でも、そうする訳には行かないじゃないですか?だから追いかけましょう。」
「わ、分かった。」

二人で玄関を飛び出し、奏音の家の方角へと走る。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.24 )
   
日時: 2011/12/18 00:22
名前: あづま ID:PfjF7Tho

走っていくとすぐにサクソルに追いつく。
ルーターが推測した通りサクソルは気が動転しているのか力は使わなかったようだ。
一度帰ろうとルーターが言うがサクソルはそれに耳も貸さず走り続けた。
もう言うことは聞かないつもりだろうと諦め、私たちは奏音の家に走った。

「あれ?みんな勢ぞろいで。」
「っはぁ…。」
「婿、その息切れが色っぽい。」
「っねぇ、ここにレオンっていうのがいるんでしょ?そいつどこにいるんだい?」
「レオン?今買い物行かせちゃった。…ショタ、レオンに会った事無いよね?なんで会いたいの?」
「なんでもいいでしょ?ねぇ、どこ行ったの?」
「あー…そういえばどこで買い物してるんだろ。でもいっつも一時間以内で帰ってくるしトーアじゃないかな?
 …なんか用があるんだったらあたし伝言してもいいけど。」
「トーア?スーパーの事?」
「そう。…何かあるんだったらうちで待って、ていいのに走ってったよ。」
「体力、馬鹿にならない…。」
「婿、ルー君大丈夫?息切れ酷いよ。ずっと走ってきたの?」
「あぁ。…ルーター、奏音のところで待っててくれ。レオンが来たら携帯に連絡くれ。」
「いいですけど…。」
「じゃ、行くから!」

そう言い残し華凛はサクソルを追いかけていった。
後に残された二人はそれが見えなくなるまで見送った。
そして、奏音が口を開く。

「なにがあったの、あれらは。」
「…サクソル様の、因縁ってやつ、ですかね?」
「サクソル“様”。」
「え、あ。」
「…話、してくれるんなら聞くよ。してくれないんなら、話させるから。」





「待て…、待てって!」

奏音の家に行くまでに全力で走ったからかなかなかサクソルに追いつけない。
小学生くらいとはいえ彼に疲労感が無いのかペースは全く落ちない。
だから私がいくら彼より走るのが速くても、こちらには疲労感もあるし、息切れもする。
そのせいか追いつけたのはスーパーの駐車場だった。
サクソルの格好は目立つし、私は息切れをしているので周りの視線が思い切り集まる。
だが、そんな事を気にしている場合ではなかった。

「なあ、人違いって事も……、髪が黒い白人も、珍しいってくらい、少ないわけじゃ、ないだろう…。」
「人違いなら別にいいよ。でも、あいつだったらどうするんだい?取り逃がしたら?」
「……今の時間、お前の外見じゃ補導されるだろう。…一緒に、行動しよう。」
「…足手まといに、ならないでね?」

二人で手を繋ぎ、スーパーの中に入る。
全ての売り場を念入りに調べたがレオンはいなかった。
もう帰ってしまったのではと言ったがサクソルはそれを否定した。
仕方なく周辺の住宅街なども探し、通行人には見かけなかったか質問するがだれも見たという人はいなかった。

「絶対、あいつだ。こんなに探しているのに、誰も見ていないなんておかしい。」
「たまたま…かもしれないだろ?」
「なんであいつを庇うの?何、華凛はあいつの事好きになったの?!」
「いや、それは違うって!」
「でもさ、レオンのときに言い寄られたんだろう?それで君の会社の人が嫉妬してたじゃないか!」
「いや…あれは…、……。」
「ねぇ、なんでそこで喋らなくなるの?お前もあいつの味方なわけ?僕の事、どうでもいいの?
 お前もあいつを選ぶの?あいつのほうが大事なの?」
「おい…。」
「……。僕、自分の時間で探すから。お前は僕の事どうでもいいみたいだからもう帰りなよ。」
「サクソル…。」
「否定、しないんだ。僕の事、お前もどうでもいいんじゃん…。」

ただ、そう呟いてサクソルは消えた。消える前の顔は初めて見る顔だった。
サクソルの事がどうでもいい訳じゃない。
突然現れて、最初は面倒な奴だと思っていたけど今はとても大切な人、だ。
大切な人をどうでもいいなんて思う事なんて私には出来ない。
でも、それは私の一瞬の躊躇によって伝わらないどころか真逆に伝わってしまった。
それは、レオンはデストルなんかじゃなくて、普通の人かもしれないという考え。
ルーターから以前聞いたデストルの外見とレオンのそれは一致する。
でも、レオンと会ったのはルーターから話をきく前だった。それのせいかもしれないが、
彼とデストルが同一人物かもしれないなんて一度も考えた事はなかった。
…探しながら、奏音の家に行こう。
もしかしたら本当に人違いで、レオンは奏音の家にいるかもしれない。





「おかえり。…ショタは?」
「先帰るって…。」
「ふぅん。婿、あたしは何があっても味方だからね。」
「ありがとう。…ルーターは?」
「寝てる。仕事、結構無理させたしね。抗体が無い人には辛いよね…あれはさ。」
「知っててやらせたのか?」
「知らないからこそ、どんな風になるのか見たかったから。悪い事したなぁ…給料弾ませないとね。
 婿も少し休んでいきなよ。…レオンは、帰って来てない。いつもはもう帰ってるのになぁ。」
「……。」

奏音の家にあがる。
そこは、お世辞にもきれいとは言えない家だが今の私にはなぜか居心地がよかった。
部屋の隅ではルーターが寝ていて、タオルケットがかかっている。
二人、向き合って椅子に座る。
しばらく、無言が続いた。

「…折角あげてもらったけどさ、帰るよ。」
「えぇっ、もう!?」
「鍵、開けっ放しなんだ。盗られるような物無いけど、泥棒入ったら困るし。」
「そっか…。」
「ルーターは起きたら来る様に行ってくれ。」
「分かった。」
「…面倒ごとに巻き込んで、ごめん。」
「気にしないで!いっつもあたしが巻き込んでるし?」
「じゃ。」

玄関まで来て、振り返ると奏音が笑顔で手を振っていた。
私が彼女を知ってからずっと変わらない笑顔を見て、心も少し晴れる。
軽く手を振り、家までの道を走り出す。





「婿も、バカだね……。」

扉が閉まる音。聞こえなくなっていく足音。

「ショタが帰ってるんだったら、鍵の心配いらないじゃん。」

二階に上がりカーテンを開ければ、通りを曲がる華凛が見えた。
…あの顔、一生懸命の顔。
からかわれてたあたしを助けてくれた、顔。

「大事なんだね、ショタの事。なんか嫉妬しちゃうなぁ。」

おんなじ、顔。





アパートの一室。
一ヶ月くらい前と同じく、静かでなんの返事も無い部屋だった。
サクソルは戻ってきていないし、デストルも来ていない。まぁデストルは来ないか。
一息つき、気分を入れ替える為顔を洗う。
視線を感じ、その方向を見ると子供が立っていた。

「なっ…!」
「チクタニカリン?」
「鍵、閉めてたよな。どうやって入ってきた!」
「貴女…チクタニカリン?」
「…なに。」
「チクタニカリンなのね…?」

子供が手を差し出す。その手をとらずただじっと見る。
これは危険だ――警察を呼ぼう。迷惑と叱られても構わない。
こっそりと、身体の後ろで携帯を取り出す。ボタンを押そうとした瞬間、白に視界を奪われた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.25 )
   
日時: 2011/12/23 14:34
名前: あづま ID:M0qpmRBk

なんでお母さん、いないの?
お仕事?そっか、なら我慢する……。


―ねぇ、名前なぁに?
華凛だけど。
―お家、どこ?遊びに行っていい?
……。
―遠いの?それとも習い事であそべないの?
家、ない。
―え?
お父さんとお母さんが忙しくていっつも家にいないからシセツにいる。
―寂しくない?
お仕事でいないだけだから。夏休みとお正月には帰ってきてくれてるし。シセツには会えない人もいるから。


他人の嗜好は他人のだろ?お前らがなんか言うことか?
―はぁ?だってよ、こいつキモいじゃん。キモいのにキモいっつって何が悪いんだよ!
―男同士でちゅーさせたりさぁ。お笑いならいいけどこれはキモい。サイテー。
―それに、ウチら思うんだけどさぁアニメ好きすぎじゃない?フィギュアも持ってるよこいつ。
―あとお前ウザイ。いっつも一人だし親なしのくせに!
親は、関係ない。私の悪口言いたいんだったら私のことだけ言えよ。あ、馬鹿だから言えないのか。
―お前、ふざけ
――ていっ!
―…っ、うわぁっ!
―ぎゃあぁぁっ!
……。

――ありがとー、初めてだよ。あたしのこれ見てもキモいって言わなかったの。
み、見せるなよ…。
――あっはは、ごめん。でもキモいって言われるのは分かってるし止めなくていいのに。華凛って優しいの?
なんで、私のこと知ってるんだ?
――ひどっ!あたし転校生、人見奏音。でももう一ヶ月前だよ?
そうだっけ…まぁ、宜しく。





「う…。」

どうやら昔の夢を見ていたようだ。…奏音は会った時から腐ってたんだな……。
喧嘩になりそうだった私達を止めるためになぜかあいつをからかっていた男子二人をキスさせたんだっけ。
それに驚いて相手は逃げて行ったんだったか。
起き上がると自分の部屋じゃないことに気づきまだ夢を見ているのかと疑ったが意識を失ったときのことを思い出す。
子供がいて、名前を呼ばれた。警察を呼ぼうとしたら、視界が白くなった。
辺りを見回すと整った広い部屋だということがわかった。
窓から外を見るとここは三階くらいの高さで、広い建物なのだろう。
となると、勝手に出歩くより誰かが来るのを待つほうがいいかもしれない。
ベッドに腰掛けるとタイミングを見計らったようにドアがノックされる。
返事をすると、そこには少年がいた。サクソルよりは大きい。小学校高学年。

「…目、覚めたのか?」
「見ての通り。…ここはどこだ。お前は。」
「ここは、デストルさんの家…?俺は…と、キズナ。」
「キズナ?キズナ君でいいのか?」
「そう!あ、デストルさん呼んでくる!そこ動かないで待ってろよ!」

ビシッという効果音がつきそうな勢いで私を指差し、それからキズナ君は走っていった。
私をここに連れ去ってきたのもデストルの部下なら、案外子供好き?
一分とたたず、再びドアがノックされ男性が入ってくる。
その姿を一瞬見て誰だかを判別した後、下を見て視界に入れないようにした。
豪華な刺繍の入ったソファに、男性が座る。

「…レオン、か。」
「そうなるね。結構楽しかったんだけどな、あそこの暮らしは。」
「お前は誰。」
「私は、レオン=フレスキ。奏音の、担当。…そんな顔しないで。本当のことを言うから。
 名前はデストルでサクソルは私の兄。あちらの世界で結果的には反乱を起こし、ここに追放されてしまった。」
「ここは?」
「簡単に言えば、魂の牢獄。ここに来た魂は転生させられないような魂なんだ。そして力を持てないように
 弱いものになっている。だからほとんどが子供だよ。」
「…なんか、喋り方が違うな。」
「そりゃ、私は見た目を変えられないし。だったらすこし弱気な感じがいいかなって。」
「なんで、サクソルを裏切った?あいつ、けっこうお前を恨んでいるように見えた。」

答えが返ってこないことに疑問を持ち、顔を上げる。
レオン…デストルの表情はなんだか困っているような表情だった。

「ルーター…って言っていたかな。あの子に聞かなかったのかな?彼、君に話したと思うよ。」
「あれは、又聞きだといっていた。本当のこと、おまえの感情を聞きたい。」
「…私の感情を。……興味だったよ。ただ、私個人の興味に多くの無関係を巻き込んでしまった。
 そこは反省しているよ。三人が消され、一人は無実でここに繋がれてしまっている。」
「興味…?興味で、反乱を起こして、何人も消されて、無実の罪でここにつながれている人も…?!」
「兄の力は修正だろう?それで、修正されるだろうと思っていたんだ。人間と同じように。でも、違った。
 私と一緒に反乱を起こした三人は兄と直属の二人によって消された。無実の一人…あなたも会ったはずだよ。」
「…キズナ君?」
「彼は違う。彼の魂は依存で他の魂を殺してしまうんだ。私が言っているのはグリーネル…君をここに連れてきた子供だよ。」
「…あの子が?」
「呼ぼうか。」

デストルは微笑み、首に下げていた装飾品の一部に息を吹きかける。
すると壁にかかっていた鏡が光り、そこから私を連れ去った子供が現れた。

「グリーネル、彼女に挨拶しなかったんだね?」
「デストル…さま、ごめんなさい…。」
「謝るのは私ではなく彼女に、だよ。それから、ちゃんと自己紹介して。」
「ぼくは、グリーネル。いきなり連れてってごめんなさい…。」
「あ、うん。私は竹谷華凛。…男の子?」
「まぁ、女の子に見えなくも無いよね。グリーネル、ここにいる?それとも、席をはずす?」
「デストルさまの…おそばに…。」

そう答えたグリーネルは、デストルの隣にちょこんと腰掛ける。
その様子を見ると、つい彼らが親子のように見えてしまいふき出してしまった。
それに、二人は驚いた顔をする。

「どこがおかしかったのかな?」
「いや…親子に見えてしまって。…なんで奏音のところに来たんだ?」
「偶然。私は他の国にも行って色々な人物になっているからね。一般市民だから兄の目にも留まらないのがほとんどだよ。
 ホームステイの話、あれは私がいろいろな国に行って働いたりして思ったことを言ったから信用してほしいな。」
「でも、戸籍もないし…どうやって働いたんだ?」
「洗脳だね。編集長さんもそうだし、君の同僚の沼川さん。彼にも一度洗脳をかけたよ。」
「え?」
「ほら、編集者であった時。君について行こうとしていたのに大人しくなっただろう?あの時だよ。」
「あぁ、あれ…。そういえばあの時何を話そうとしたんだ?」
「…君に関すること。でも、もう遅いからね。聞いても無駄だよ。」
「でも…。」
「過ぎた時間はどんなに悔いても戻せない。それに、いずれ忘れてしまう。時間がどんな感情も薄めてしまうからね。
 あぁ、悪いけどこれから見回りに行かなくてはいけないので失礼させてもらうよ。話し相手は必要かい?」
「まぁ…そうだな。色々な事聞きたいし。」
「そうか。グリーネルでいいかな。彼は私と同じ位…いや、私はたまに違うところに行っているからそれ以上だね。
 この世界にいるから質問したりしていて。なにかあれば彼が私を呼ぶから。グリーネル、よろしくね。」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.26 )
   
日時: 2011/12/23 14:38
名前: あづま ID:M0qpmRBk

「……。」
「あのさ、えっと…お前は無実だけどここにいるって聞いたんだ。」
「…そうだね。無実…無実……。」
「だったらさ、戻れるんじゃないか?」
「戻れるけど…戻りたくないから。ずっと…デストルさまと、いっしょがいい…。」
「好きなんだな…。」
「うん、大好き…。多分、家族みたいな感じ…。」
「そうなんだ。家族、か。」
「そう。家族は、いっしょがいいもんね…。」

家族は一緒がいい――そう言ったグリーネルの顔に初めて笑みが窺えた。
私の両親は忙しく、それにあわせて転校させるのもあれだからと私は施設で育った。
でも、夏休みの一週間と正月は絶対に帰ってきてくれてそれがとても嬉しかった。
高校に上がるときに一人暮らしをはじめてからは両親に一回も会っていない。
毎年、年賀状と誕生日にはがきが送られてくるだけになってしまった。
それが当たり前になったとき、突然の同居人が出来た。

「私も、一緒がいいと思う。家族、大事だよな。私にも血は繋がってないし、そいつらが何者か分からないけど
 大切な人たちだし、家族みたいだって思ってるのがいるよ。」
「そう。…おんなじ…なんだねぇ、ぼくとお姉さん。」
「そうだな。…これ、言いたくなかったらいいけど……なんで、反乱起こしたんだ?」
「…デストルさまは……興味。お三方は…デストルさまの言ったことに、面白そうだと思った。
 ぼくは、落とされそうになった、皆さまを助けようとして…失敗。」
「…助けようとしなきゃよかった、とか思わなかったか?」
「うぅん、思わないよ…。デストルさま、ぼくに優しく…してくれたから。ぼく、あなたの世界を見るのが好きだったの。
 でも、ぼく全然分からなくって。…デストルさま、教えてくれたの……。
 助けるの、失敗したけど…。デストルさま、怒らなかった…。ありがとう、言ってくれたの。」
「そっか。お前のこと、大切に思ってくれてるんだな。」
「それ…嬉しい……。」

グリーネルの笑顔が、窓からの光をうけて輝いた。
しかし、一瞬の後には無表情に戻り辺りを見回し、首をかしげた。
どうしたのかと様子を見ているとドアを指差した。そして、キズナ君が入ってくる。
彼に何かを呟き、窓の光に消えた。





「デストルさま…侵入者が……。」
「そうみたいだね。私の考えだと三人。」
「はい…。でも、一人は……人間。」
「彼女は冒険が好きみたいだからね。一回じゃ懲りなかったんじゃないかな?私が勧めたことだし。
 ただ、力をつけてそのままくるのは予想外だったけど。彼女は常識にとらわれないし、どっかで血が入ったんだろうな。」
「戦いますか…?」
「そうだね、ここの均衡は守らないと。でも、消しては駄目だよ、グリーネル。戦意喪失か、気を失わせるかだ。」

侵入者を迎えうつ為、二つの影は廊下を進み小さな部屋に入る。
そこには槍、刀などが並んである武器庫だった。
そこから最小限の物を取り出し、立ち去る。
外からはすでに破壊音が聞こえてきていた。それを耳にしたデストルは苦笑する。

「グリーネル、君はルーター…青年のほうと戦うんだ。彼は今執行者だから肉体を持っている。
 だからここの武器でも攻撃が通用するからね。」
「分かりました…。」
「私は兄の説得…は無理だろうね。戦うだろう。奏音は一番厄介だからキズナが華凛と合流させる。
 奏音は華凛を大切に思っているから彼女を守るほうにいってくれるだろう。」
「でも…あの人たち……華凛の家族…。飛び出してくるかも。」
「そうだね。奏音も私は裏切ったようなものだし攻撃されれば辛いなぁ。その時は、君に任せるしかないけど。
 華凛が動かなければ奏音も動かないだろうし…キズナがいてよかったよ。」
「……広間、にいる……。」
「じゃあ、君の力も最大限に使えるね。」

二人は目を合わせ、デストルは頷いた。
グリーネルは武器を構え外に一歩踏み出した途端姿が見えなくなる。
次の瞬間、広間と呼んだ方角から金属のぶつかる音が聞こえた。複数を相手にしている。

「作戦、変更のようだね。」

デストルは広間への道から華凛を置いてきた部屋へと方向を変えた。





「名前、華凛っていうんだ。」
「そう。あ、お前はさ子供の姿にされたのか?」
「ちげーよ、俺の最後の姿がこれ。女になって子供生んだこともあるんだぜ?」
「マジ?」
「あれすんげえ痛いんだよな。でも、生まれたときちょー嬉しいの。あん時は全員生き残ったんだ。」
「全員?」
「戦争してたんだよ。でも誰も死ななかった。…俺のこと、覚えてないんだろうな……。」
「もしかして私、お前に関わってた?」
「華凛は違う。俺2004年生まれだし。」
「ん?私の母親と同い年なのか。じゃ、聞けば知ってるかも。」
「無理無理。俺分かってるからさ。」

カラカラと笑うキズナ君を見て、デストルが言った意味をなんとなく理解した。
時間が感情を薄める。いずれ忘れていく。
サクソルの言っていた修正ってこういう事なのかと思っているとドアがノックされる。
返事をするとデストルが入ってきた。

「あなたは愛されているね。もう少し話をしたかったんだけどもう取り戻そうとやってきたみたいだ。
 こちらとしては何もしないであなたを返したかったんだけどね、先に攻撃されてしまって。」
「…お前が私を連れ去らなかったら……根本は反乱しなかったらこうならなかったんじゃないか?」
「私の知る限り、主は自分が知っていた歴史をその通りに動かすようにしている。…全知全能ってかんじかな。
 それは私達が生まれた世界にも同じことが言えてね。私が反乱を起こした理由はそのシナリオを教えてもらっていてね。」
「デストルさん…それ、言って…?」
「いいんだよ、私が言いたいから。私は人に試練を与え文明を授ける…そうルーターに例えられていたっけ。
 私は人と交流するのが好きでね。ただ、圧政をするようにした時レジスタンスは自分の意思で選択する、神なんていない。
 そう言っていて。それを聞いたときはおかしくて…主のシナリオどおりなのに自分の意思だなんてって。」
「……。」
「それがおかしかったからかな…ずっと心に残っていたんだ。神のシナリオなんて関係ない、レジスタンスはそう言ってたんだよ。
 それで、思いついた。シナリオを知っている私がそれに無いことをしたらどうなるんだろうって。
 あなたの世界だったらサクソルが修正してしまう。だから、主の世界を標的にした。…結果は追放だよ。」
「満足か、それ…。」
「まぁ、私なりの選択の結果だし。選択を間違って滅んでいった人たちを私はたくさん見ている。私もそれと同じだったんだろう。
 でも、間違った選択だとは思っていない。
 …こうしてる場合じゃない。キズナ、華凛を守ること。お前なら何があってもできるから。行くよ。」

デストルが私とキズナ君に持ってきていた槍を渡す。それから私の手をとり建物の中を進んでいく。
部屋から出て初めて気がついたが、金属音と叫び声が聞こえていた。
それは時代劇を思い出させ、戦いが起こっていることを悟らせる。
戦いなんてゲームや映画など現実に起こらない世代に生きてきた私は身体が冷たくなるのを感じたが、
隣を見るとキズナ君がしゃんと背筋を伸ばしているのを見て、怖がっていられないと気持ちを入れなおす。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.27 )
   
日時: 2011/12/25 17:04
名前: あづま ID:fw.QJ4fE

建物から外に出て進んでいくと、更に音は大きくなっていった。
今は石で出来た階段を上っていく。
階段が終わるとそこは小部屋のようになっており、戦いが見渡せた。
手や足を切られ、血ではない何かを流し倒れている様々なモノ。
子供が多いと聞いていた通り、戦っているのはどれも小さな子供。大きい子でも中学生くらいまでだ。
その中心で数人が背を向かい合わせ戦っている。
戦っている人間を目を凝らしてよく見ようとする。

「サクソル、ルーターはグリーネルと戦って…奏音?」
「ええ、来てしまったようで。」
「なんか…え?刀持って……うわ、なんかうねってるのだしてる!」
「やっぱり植物系…特に食虫系が得意みたいだね。血が薄まっているとはいえここまで出せるのは凄い。
 ま、彼女は元々創造に大きな力があるみたいだしそれが補助をしているんだと思うよ。」
「話が分からないんだけど…。」
「直接聞けばいいんじゃないかな、好奇心だろうけど。私と入れ違いにくるようにしよう。」

そう言ってデストルは戦いの中に飛び降りる。
その足が地に着いた瞬間戦っていた子どもたちは消え、サクソルと奏音に隙が生まれる。
それを見逃さなかったのかデストルが奏音を持ち上げ、投げ飛ばすと同時に突風が起こる。
その突風によって吹き飛ばされた奏音がこちらに気づいたのだろう、着地してから走ってきた。

「やっほ。なんか会う度に婿は違う子を引き連れてるね。ショタといいルー君といい。」
「私のせいじゃないから。この子はキズナ君。」
「よろしく!」
「わお、今度は日本人か。あたしは奏音、婿の嫁。」
「…同性婚?」
「違う。こいつが勝手に自称してるだけだ。ただの女友達。」
「そーなんだ、へえ。」

キズナ君は奏音の答えに納得しないのかじろじろと見ている。
その視線が居心地悪かったのかちょっと身体を揺らした後、成り行きを説明してくれた。

「婿が帰った後十分くらい後、ショタが来たのよ。だから家に着いた頃じゃない?なんかさらわれたからルーター起こせって。
 で、まあ面白そうだったし自分の身は自分で守るって条件でついて来たの。ま、あたしは怪我してないし。」
「何でいるのかに関しては好奇心だろうってデストルが説明してくれたよ。というか、植物?」
「レ・オ・ン。」
「は?」
「だっから、あたしにとってはあの子は嫁のレオンです。デストルとか知らん。レオンって呼んでよ。」
「あーはいはい。でもレオンって偽名らしいけど。」
「でもあたしが知ってるのはレオンです。で、植物君は私の娘です。」
「…ついていけない。」

だが、ここまで言ってある考えが頭をよぎる。

「…お前もサクソルたちの世界出身とか?」
「ばっちり地球生まれの女だよ!まぁ、萌体験のおかげだね。奏美と想良ちゃんも…は、無理か。
 持ってないか…取られちゃったし。あ、でも体術ならできるはずだよ。」
「…夢だ。」
「ひっどいなぁ。あ、また行こうかな。婿も行こうよ、だったら話が分かるはず。」
「面倒ごとに巻き込むなって!」
「でもさ、俺は信じるよ。違う世界に行って魔法使えるようになるんだろ?アニメでもあるじゃん。俺、行きたい。」
「あぁ、これでこそ子供の反応!あたしが求めていた若々しさ!
 いいよいいよ、いっしょに行こうね!あたし知り合いもいっぱいいるから案内できるよ!」
「え…あ、でも…。」
「どしたの?」
「あ…ほら、俺あんた達と住んでる場所違うから…。」

キズナ君の言うことはもっともだ。
彼は2004年生まれ…私の母と同い年なのでここに来なかったらもうオジサンだろう。
それに、彼はここを出ることは出来ない。
しかし、奏音はそんなことを知らないので自信満々に言い放った。

「大丈夫!日本人じゃん、どこ住んでても探し当てるって。それにあたし、一応作家だよ?
 編集あたりに連絡入れてくれればあたしに来るし連絡取るって!ね?」
「…ありがと。」
「連絡待ってるからね〜。…あら、戦いはちょっとやばいなぁ。」

奏音の言葉に、戦いを続けている方を見る。
離れすぎていてよく分からないが、皆まだ立っているという事だけは分かった。





「なんで華凛を連れ去った!」
「話をしてみたかったから。…この答えは不満そうだね、兄様。でも、真実だから。」
「よく分かってるね、デストル?愚弟が!なんで、マスターを裏切った!」
「前に一度来られたときにも話したけど…興味。たったそれだけ。一番簡単で、正しい理由だと思うけど。」
「ふざけるなぁッ!」
「真面目に話しているんだけど…私は。」

力を自在に使える小さな兄と、抑制された力の人の体を持つ弟。
弟の槍が兄の体を貫くが、一瞬衝撃でよろめいただけで体勢を立て治す。

「やっぱり、物理的な攻撃は効かないですね、兄様。」
「分かってるんならさっさと華凛を返してくれるかい?」
「すぐ返すつもりだったよ。でも、こちらの世界を兄様は攻撃した。一応、この世界の主としてはほおって置けないでしょう?」
「お前が…世界の、主?マスターと、同じ…?」
「そうなるでしょうね。」
「認めるか!お前がマスターと同じ?」
「兄様、冷静になって。この世界は私達に有利なように作られている。兄様は大きな力を持っているのは知っているよ?
 でも、感情に任せて無駄に打ちまくっていたらいつかは尽きてしまう。」
「黙れ!お前が僕に指図するな!裏切り者!!」

サクソルの叫びと共に氷の棘が現れ、デストルを貫こうとする。
しかしデストルはそれをかわし、サクソルをめがけて炎の風を送る。
それを避けようとせずデストルに飛び掛ろうとするが、膝を突き、悲鳴を上げる。
その様子をデストルは見つめる。

「なに、こ、っあぁぁああ!!!」
「痛みですよ、兄様。あなたに外側からの攻撃は効かないけれど、体の内側から蝕んでいくものは有効なんだね。
 どんなに強いものでも、病には勝てない。これと似たような原理だよ。」
「っはぁ…、へぇ、勉強熱心だね。そうやって僕らを攻撃できる方法探してマスターの世界に乗り込んでくるつもり?」
「もう復活…早いなぁ。…乗り込むつもりは無いよ。私はこの世界を気に入っているし。」
「どうだかね、裏切り者!!」






「…まだ、やるの?」
「お前…誰だか、知らないけど…。華凛さん、返してくれないと……!」
「あなた達が…攻撃……。しなかったら、…普通に、返すはずだったのに……。」
「信用、できる、と?」
「……。」

やってきた侵入者に、一撃叩き込む。血、が流れて…落ちた。
信用、されてないみたい……。
ルーター、男、執行者、体は人間、斬ると、血が出る。
槍二本は、力任せに…折られた。今は、剣で戦っている。
相手は、人間の体。治癒力は高いけど……あぁ、血は流れるのね…。力、落ちてきてる……。

「…本気、出せ!さっきから、サクソル様達の方ばっか、見てるなよ!」
「……。」

ばれてないと思ったけど、ばれてた。
戦意喪失……できるかな。分からない…ぼくには、わからない…。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.28 )
   
日時: 2011/12/25 17:06
名前: あづま ID:fw.QJ4fE

「うわっ…!」

グサリ。足を、斬る。膝、ついた。
……深い。力、入れすぎた…ごめんなさい……。
血が、涙が流れる…。痛い、…なみ、だ。
涙、どういう風に流れるの……?見たい、な。
傷が治らない。……力、終わった?
目の高さを合わせた…下向いてて、顔、見えない…。
髪の毛掴んで、顔、上げさせ……。

「くらえ!」
「……?…あっ。」

炎。傷を治すより、ぼくを、攻撃するのを選んだ…。
服が、焼ける……。

「、ごめんなさい…。」
「なんで…平気なんだよ。熱くないのかよ…!」
「ぼく、追放者じゃ…ない。」
「は?…なんでココいるんだよ!俺を攻撃…ッ。」

危ない…から、右肩を刺す。これで、しばらく攻撃ができない。
でも、

「目は、生きてる……。」

ぼくを、殺しそう。
……ゾクゾク、する。涙に、濡れた、生きた、目。
目が…一番、生きてるね。

「デストルさま…。」
「は?おい、まだ、俺戦えるぞ!」
「……。」
「ルーター!強がるな!お前、もう戦えないじゃないか!」
「サクソル様…俺、まだ……!」
「剣も使えないって!そんな小さい子に負けるんじゃだめじゃないか!」
「うっ……!、っ!」
「黙って…お願い……。」

向こうから、サクソルさま…の声がきこえた。…しゃべれるんだ…。
ルーター…ウルサイ……。今度は、左足。さっきと、同じ場所。
悲鳴…。でも、目は…涙に濡れただけ。…死なない。
でも、もう…動けない。デストルさま…、頑張ってるね。
ルーターの、顔を正面から、見る。
殺してやる…伝わってくるよ…ぼくを殺したがってる…でも、目は。

「怖いね…隠せてないよ。」
「怖いって…何が?」

あぁ……全然、隠れてない。涙、ずっと流れてる。

「涙…キレイだね……。」
「は、ふっふざけんな!」
「おいしそう…!」

あ、恐怖が、勝った。
なめてみる。…しょっぱい、かな。

「おいしい……怖がらないで…食べないよ…君は、キレイ。」

だから、もっと、泣いて。
涙が…見たいから。





「うわっ…!部下の教育ぐらいちゃんとやれよ!」
「…グリーネルをここまで壊したのは兄様たちだよ。それにケナベルはちゃんと教育できてるのかな?」
「お前に言われる筋合いないね!ふん、終わらせてやるよ!」

サクソルは小さな池があるほうまでデストルを誘い出す。
そこは先程まで戦っていた場所と違い地面は平らで手入れが行き届いているようにも見える。
サクソルは炎の風によるダメージしかないがルーターは体は人間。
サクソルの力や戦闘による疲労で体力が落ちているのは目に見えていた。

「どうしたんだい?疲れが見えるよ。」
「兄様と違い、体は人と変わりないのでね。…ケリ、つけようか。」

そういうが早いかデストルは右手に短刀、左手に剣を持ち一直線にサクソルへと向かう。
サクソルはその勢いを利用し、デストルの体に刀を突きつける。

「ぐぁッ…!」
「貫通…だね。自殺にも見えたけど?」
「えぇ…でも、こんな近距離からの攻撃ならば?」
「だから刀はきかな…、っ!」

デストルは右手の短刀を突き刺しサクソルの体内に自分の手を沈める。
そこから力を使い、炎を生み出す。

「ば、か…お前の手も、焼ける…!っは、あぁあ!!」
「…グリーネル!」

水のはねる音がし、グリーネルがサクソルに折れた槍を突き刺す。
その槍の色が一瞬変わった後、サクソルは悲鳴を上げる。
やがてその悲鳴も細くなり、ばたりと倒れた。

「…気絶、か。グリーネル、こんな戦いの後に悪いけどあの三人をよんでくれるかな。」
「分かった…。」
「ありがとう。」





「あ…ショタ、倒れた……。」
「サクソルが!」
「…い、痛いよ婿。…倒れ、あ。来る!」
「なにが!もールーターもやられるし…!」
「ぼくが…だよ。」
「グリーネル…!お前……。」
「あら、いろっぽ…そんな場合じゃないね!婿、あたし禿げるから!髪!!」
「奏音…てマイペースだな。」
「…デストルさまが、来てって…。」
「俺も?」
「…うん。」

グリーネルが手を差し出すがそれを無視する。
その手は、ルーターを傷つけサクソルに止めを打った手だ。
無実の罪でここにいると聞いたとき、私ははっきり言って同情した。
デストルを家族のようなものだと言って笑ったとき、共感した。
でも、もうそれは無い。
階段を降り、走ってサクソルの元へと向かう。
途中、デストルが降りた際に消えた子供が戻ってきて小刀で私を斬りつける。
それを引っこ抜きその子供に押し付けて再び走り出す。
手からヌラヌラと血が流れるがそれを気にせず走り続ける。
よく見えないその場所はとても遠かったが、疲れなんて感じなかった。
私が着いたとき、キズナ君はもうすでに着いていて奏音はルーターの元に行ったと言う。
サクソルの元へ行くとそばにデストルがいた。

「…睨まないで、とは言えないね。大丈夫だよ、気絶しているだけ。
 力を使い果たしたし、内側からの攻撃だからまぁ、三日くらいあれば目が覚めると思うよ。」
「そういうお前は…血だらけのクセに結構傷が塞がってるな?」
「体力は使ったけど力はほとんど使わなかったからかな。でも、血が流れたし…ギリギリだね。クラクラしてるよ。」
「サクソル……。」

呼びかけに全く反応しない。
生きていることの証明だろう、体が前後しているのを見て安心する。
小さい体で、頑張ったんだな……。

「手当て、してもらった方がいいかなって思うけど。どうかな?」
「……。」
「あぁ、もちろん私はしないよ。グリーネルもね。キズナはある程度手当ては出来るし、もしあれならエクリエルでも…。」
「デストルさん、エクリエルさんはこの人に落とされたんですし手当てしないと思うよ。」
「そうだったね。華凛、あなたさえよければキズナが手当てするよ。」
「…頼むよ。」
「おう!」

サクソルを抱え、キズナ君が私に手を貸す。歩き始めたら、何も考えられなかった。
風が、吹き抜けた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.29 )
   
日時: 2011/12/29 15:58
名前: あづま ID:xusckUwM

吹きぬけた風、グチャリという気持ち悪い音、奏音の声。
思わず後ろを振り返るとルーターがデストルと対峙している。
先程の音はルーターの剣がデストルのわき腹を抉った音らしく、デストルの傷口から大量の血が溢れている。
その血を見て、思わずへたり込んでしまう。慌ててキズナ君にサクソルを抱かせる。

「驚いたよ…その傷で。」
「……。」
「これは、精神力だけで立っているのかな…。」
「ルーターの、目…死ななかった……。」
「そう。じゃあこれは危険な状態だ。沈んでもらおう。」

その言葉に頷き、グリーネルはルーターの腹を一発殴る。
その衝撃でルーターは血を吐き、完全に意識を失ったようで倒れ始める。
それを奏音が押さえ、彼を負ぶった事でグリーネルを潰してしまうことを避けた。
ルーターの血を浴びたグリーネルがデストルを助け起こす。
その様子を見、皆死ななかったのかという安堵が押し寄せてきた。
キズナ君に手を引かれ、来た道を戻っていく。





「これで終わり。サクソルさんの方は俺は分かんないけど。」
「三日くらいで目を覚ますって言ってたし…信じるしか、ないじゃないか。」
「そうだね。あ、奏音とルーターさんとこ行く?俺案内するよ!」
「でも、サクソル……。」
「大丈夫だって。こいつ強いんだろ?俺見てたし。それに無理矢理こっちの世界来ればデストルさんが分かるし。
 行こうぜ!」

強引に手を引かれサクソルを寝かせた部屋を後にする。
ルーターたちがいるらしい部屋はさっきまでいたところとそれほど離れていなく、物音がすれば気づけるだろうと思った。
部屋の前まで来るとキズナ君はデストルのほうに行くと言って走っていった。
ノックをすると奏音の返事。
戸を開けたら奏音がルーターに無理矢理何かを飲ませようとしていた。
私はとりあえず椅子に座る。

「おい。何飲ませてるんだ?」
「あー…薬?っていうか飲んでくれない。」
「なんで疑問系なんだ。」
「これあのちっこい子…グリちゃん?君?がくれたんだよ。力を回復させるやつだってさ。」
「…攻撃してきたやつの、敵から貰ったものを?」
「攻撃しかけたのはあたしたち。それにあたしたちは負け。だってショタとルー君は気絶。あたしは婿たちと一緒にいたし。
 敵に情けをかけられた…でいいじゃん。そもそも殺すつもりじゃなかったんでしょ。」
「何で?いやに自信あるじゃないか。」

まだルーターは意識を失っており、薬を飲ませるのは無理だったらしい。
小瓶に栓をし、ベッドの端に置く。
それからもう一つ椅子を出してきて私と向かい合って奏音は座る。

「言ったじゃん、萌体験だよ。レオンがさ、休みたいんならいい方法教えるっ奏美の学校に行くように言うんだよ。
 で、部活してた奏美と想良ちゃんと一緒に行ったわけさ。したらトリップ。なんか魔法っぽい所だよ。」
「それがどうやって殺すつもりはない、に繋がるんだ。」
「なんか戦い方を教えられたわけ。戦争ばっかだったからね。受身とかそういう基本だけしかあたしやんなかったけど。
 で、訓練受けたおかげで想良ちゃん柔道部で唯一全国行ったじゃん…柔道は体術だし、関係なかったんだね。」
「知らなかったな、お前がそんなところ行ってるって。というか非現実的じゃないか。」

私がそう言うと奏音は面白そうに笑う。
その理由をきくと奏音は当たり前だというように答えた。

「だってさ、突然不思議な子供が来てる方が非現実。それにこんな訳分からない所にいるのにいまさら?」
「…あぁ!何か、麻痺してたよ。」
「まあ、あたし達がショタやルー君みたいに違う世界に行っちゃったって事だよ。ただ自分の意思じゃないけどね。
 あたしってなんでも首突っ込むから今回のことも予想してたんでしょ。だから訓練を受けさせた…
 そうだったら、殺そうとは思ってないわけよ。自意識過剰だろうけどね。」





一直線に走って、ノックしないで扉を開けて駆け込む。
中にはデストルさんとグリーネルさんがいて突然入ってきた俺を咎める。
…血の補給かぁ。やっぱり、ギリギリだったんだな。
でも、それどころじゃない。

「デストルさん、俺おかしいよ!華凛の近くにいると欲しくなる…。」
「華凛がかい?」
「うん。欲しい…なんで?俺、華凛に会ったのはじめてだよ。でも、欲しいって思うんだ。」
「…グリーネル、ありがとう。少し休んでいいよ、体の疲労が無いとは言え精神は疲れるからね。」
「部屋に…隅に…いれば、いい?」
「部屋じゃなくっても外を散歩したり好きなことをやるんだ。でも、しばらく部屋には入らないで。」
「みんなと…お散歩、してくるね…。」
「うん。いってらっしゃい。」

軽くお辞儀をしてからグリーネルさんは出てった。
扉が閉まって話し始めようとすればデストルさんがそれを制する。
一分くらいたってからデストルさんが口を開いた。

「ごめんね、これは聞かれてはいけないことだから。」
「いや、いいけど。でも変じゃない?初めて会ったのに欲しいって思うんだよ。」
「確かに普通なら変だね。でもね、君はもう普通じゃないだろう?人間じゃない。」
「俺…人間だよ。」
「正しくは“元”人間。…一目ぼれって事でいいんじゃないか?
 欲しいっていうのは彼女の気持ちが欲しい。でも、彼女は奏音や兄…サクソルにばかり意識がいってる。」
「うん……。でも、なんかそういうんじゃ…気持ち、じゃ。」
「どんなに願っても、どんな事をしても彼女の気持ちは手に入らない。こっちに向いて欲しい、話しかけて欲しい。
 いっしょに出かけたい、遊びたい、ずっと…彼女にそばにいて欲しい。」
「でも…。」
「彼女は違う。君は人生の中で出会った一人ってだけ。友達、がせいぜいだよ。」
「違う…俺、友達……じゃやだ…!」

なぜか涙が出てくる。
ずっと、ここに来てからずっと泣いてなかったのに初めて泣いた。
友達…じゃなんで駄目なんだろ……?
デストルさまが、俺の涙を優しくぬぐう。

「彼女がこの世界じゃ無いところに行ったらもう二度と会えないよ。」
「だったら、俺…?」
「君が、涙を流せるくらい彼女への想いが強いのは分かったよ。君は彼女に惹かれた…。」
「俺、華凛が好きって事?」
「……。」
「デストルさま?」
「そうだね…好きなんだ。でも、それは君の中に留めとかなきゃいけない。もう会えないんだから。諦めなきゃ。」
「…絶対?諦めなきゃ、駄目…?」
「うん、辛いけどね。でも、想うのだけは自由だよ。」
「……。」
「辛いね、引き離されるのは。大丈夫…君は苦しみから解放されるときが来るから。」

デストルさまが、俺の頭を撫でる。
これは、眠りなさいって合図だ…デストルさまが、笑って…あぁ、眠く、なってきた…。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.30 )
   
日時: 2011/12/29 16:03
名前: あづま ID:xusckUwM

奏音は「レオンをちょっといじってくる!」と言って出て行ってしまった。
自分の担当が敵だった…まぁ、妥当な判断だろう。
部屋は知っているらしく一人で歌いながら行ってしまった。
サクソルの様子も見に行ったがまだ意識は回復していなかった。
そのうち、ここに来る前は医者だったという子供がやって来て私は追い出されてしまった。
どうやらその子はサクソルのところに来る前にルーターの手当てもしたらしく彼は丈夫ですね、と笑っていた。
まだ意識は戻っていないそうだがルーターの所にならいてもいいといわれたので今は彼の部屋にいる。

「…。」

体には新しい包帯が巻かれていた。
ただ規則的な息が聞こえることを考えて命に別状は無いようだ。
特にやることも無く、ルーターの髪の毛を弄り回す。…いたんでないんだな…うらやましい。
茶色を帯びた黒いクセ毛を指に絡めていると徒をノックする音が聞こえた。
適当に返事をし、その人が入ってきたのを感じ取るがただその人物は座って眺めているだけだった。
どうせ奏音だろうと思っていたのだがそれは違うようで、振り返るとデストルがいた。

「…なんの用だ。」
「冷たいね。ま、私はそれに値することをやったからね。ところでこれは飲ませなかったのかい?」
「こいつが寝てるからな。飲まそうにも飲ませられないよ。奏音が諦めてたし。」
「無理矢理にでも飲ませようとは思わなかった?ルーターが起きれば帰れるかもしれないとか。」

デストルはベッドの隅の置いてあった小瓶を振る。
私が返事をしないでいるとデストルはそれを戻し、口を開いた。

「敵から貰ったものを…て思ってるね。信用してもらえるとは思っていないけど、毒なんて入れていないから。」
「…そうか。」
「信用していないね。」
「そりゃあ…。」
「なんなら私が一回飲んで見せようか。その後君の気が済むまで私を監視したらいい。
 私は今、体は肉体だし彼と状態は同じだからね。毒が入っていれば回りも時間差はあれど効くはずだ。」
「解毒剤とか忍ばせているかもしれないじゃないか。」
「なら裸にして確かめてみるかい?」
「いや、いい……。」

デストルのほうに向き直る。
彼をはじめて知ったときはレオンで、こんな人物だとは思っていなかった。
奏音を理解し、周りを気遣ってくれるいい人。
まさか、敵だなんて思わなかった。

「なあ、どれ位で目が覚めるかってわかるか。」
「薬を飲ませれば半日くらいじゃないかな。このままだったら兄様よりもかかるかもね。」
「どうにかして飲ませるしかないか……。」
「口移し?でもすればいいんじゃないかい?」
「…なんで。」
「早く目を覚まさせたい。そのためには薬を飲まさなければならない。でも意識を失っているからそれは不可能。
 だったら無理にでもこじ開けて飲ませたらいいんじゃないかなって。」
「なんか必死じゃないか?私たちを早くここから出したいように…当たり前か、侵入者だしな。
 だったらお前がやれば?」
「構わないけど。」
「…やめろ。あぁ、奏音がいるときにやってあげればいい、喜ぶよ。…楽しませることができなかったって言ってたよな、
 そういえば。よかったじゃん、望みが叶って。」
「電車のときのか…懐かしいね。口移しが楽しいのか喜ばしいのか分からないけどそうだね、もし彼女が望めば。」
「まじでやんの。」

そこで会話が切られる。もう、話す内容が見つからない。
ただ、時間が流れる。

「あ、そういえば今って何時なんだ?」
「ここには明確な時間が無いからね。みんな起きたい時に起きて寝たい時に寝る。主の世界を参考にしたんだよ。
 でも、君達が戻るときには君を連れ去ってしまった時間より少し後に行くように努力しよう。」
「そりゃお気遣いどうも。あ、思うんだけどお前が弟なのか?見た目でいけばお前が兄なんだが。」
「元は兄様よりも外見は幼かったよ。だから大人たちは油断して心を許してくれた。おかげで仕事がしやすかったよ。
 まあ私達は外見好きに変えられるからね…。私が追放される前、自我を持ったときの姿は兄様より幼かったと言えるかな。
 反乱して落とされたときにこの外見になったんだ。」
「それは、落とされた全員がか?」

その質問にデストルは遠くを見る。
懐かしんでいる、そういう表情だと思った。

「そうだよ。ヤーネルは男性体から女性体に。クリノーは幼児になり、レノメノは翼を持った人間にされたんだ。
 この三人は消されてしまったけどね。あぁ、グリーネルは追放者じゃないし外見は変わっていないよ。」
「あれ?でもさ、レノメノ…は翼を持っただけなのか?むしろ有利になっているような…。」
「レノメノはどんな事があっても諦めない性格でね。落とされた後、その翼で出口を探した。でも全く見つからなかった。
 だから彼がここを自分達の世界にしようって言い出した。皆賛成したよ。でも主は彼の失望が見たかったんだろうね。」
「失望…なんで。」
「さあ。討伐軍に彼は幻影を見せられた。そして彼は消された。なんでそうなったか今でも分からないよ。」
「そうか…。」
「ただ、時々思うことがある。」

彼の言葉に、思わず顔を上げる。

「私達の反乱も主がそうなるように仕向けたのではないかって。私にシナリオを見せ、後に反乱を起こさせる。
 でも、そのシナリオも本当のシナリオどおりに進ませる為の物だったかもしれないだろう?」
「いくらなんでも良く捉えすぎじゃないか?」
「まあ、そうかもね。でも、もし反乱を起こしたのが想定外だったら主は時を戻すなり私の存在を消すなりできたはず。
 それをしないっていうのは疑問が残ってね。私の記憶からもあの三人は消えないし。」
「……。」
「それに。」
「なんだ?」
「私がまだ人間の歴史に関われていることが変だ。私の力は人に試練を与えること。反乱したものに力を残しておくのは
 危険なはずなのに剥奪しないし。それに疑問を持って何回かちょっかいを仕掛けてるし人の世界にも関わった。
 でも、剥奪されない。私はまだ、主に必要とされているのかもしれない。」
「あ、愉快犯ってやっぱりお前か。」
「私はそう称されてるのか。まあ、私は戻るつもりは無いし主の意思ではなく自由に自分で選択して生きていくつもりだ。
 それすらも主のシナリオかもしれないけれどね。」
「そうか…主のシナリオのうちって思ってたくせにな。」
「心変わりはするものさ。それに私は内心笑ってた人に動かされてしまったようなものだし。
 ルーターが起きたら呼んでくれるかな。一つお話があるんでね。あ、ここの食べ物でよければグリーネルが持ってくるよ。
 キズナなら君は一番いいだろうが彼は今問題を抱えていてね。」
「…貰うよ。」
「そうか、分かった。じゃ、あと二時間位したら来るから。何か食べれないものとかあるかい。」
「特にないはずだ。」
「そう。…甘いものが好きらしいね。口に合うかは分からないが持ってこさせるよ。じゃあ。」

そしてデストルは出て行く。
甘いもの…こっちの世界にもあるのか、意外だな。
ルーターに薬を飲ませようとするがやはりできなくて、頬を伝って枕にしみを作った。
けっこうこぼしてしまった、と小瓶を見れば勝手に補充されたのだろうか。いっぱいまで入っている。
そういえば奏音はデストルに会いに行ったのではなかったっけ。
でも、彼がこの部屋に来た時間を考えると話した時間はとても短そうだ。
それとも奏音は部屋を知らなかったので迷子になっているとか?
そしてそのままこの建物の探検をしている……なんだかありえそうだ。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.31 )
   
日時: 2011/12/29 16:08
名前: あづま ID:xusckUwM

あれから奏音は帰って来ず、グリーネルが食事を運んできた。
なんだか見たことが無いようなものばかりで、サクソルの土産のすあまっぽいのを思い出した。
……。

「あの、こう見られていると食べづらいんだが。」
「あぁ…ごめんなさい……。ぼく、あなたたちを…傷つけてばっかり……。」
「いや、謝ることじゃないが。…食べたいのか?」
「うぅん…ぼく、食べ物要らないから。」

グリーネルは私から視線をはずし、今度はルーターを見る。
二人は戦ったのでなにか問題が起きるのではと警戒してしまう。
しかしグリーネルはただじっと見つめるだけでなにも行動しない。何がしたいのだろう。
運ばれてきた食事を終え、話しかける。

「グリーネル、ルーターがどうかしたか?」
「ルーター……一生懸命だよね。…命令なら……守る為なら、なんでも、やる。」
「真面目だよ、こいつは。」
「うん…でもね、勝てないのが…あるの。」
「勝てない?」
「恐怖…!ぼくを、殺したがってた目、が恐怖…に、なった。」
「生命の危機ってやつじゃないか?」
「あの目…目……ぞくぞくする。だぁい、すき…。」

そう言ってグリーネルはルーターの頬を撫でる。
何度か撫でておもしろそうにくすくす笑った。
こちらを振り向き、私が食べ終わったことを知ったらしい。
皿を宙に浮かせ出て行った。
彼の様子になんとなく狂気を感じた。人の危機を喜んでいる…?
それとも、自分に殺意が向くことを喜んでいるのか、恐怖に飲まれたのがおかしかったのか。





食事も終わり、何もやることが無くなった。
サクソルの部屋にも言ったが例の子供がしばらく入らないで欲しいといい入れてもらえなかった。
奏音は相変わらずどこかに行っているのか帰ってこない。
ルーターは起きる様子も無く、小瓶は枕元においておいた。
デストルはもちろんキズナ君もこちらに来ないので暇な時間を過ごす。
その時扉を開ける音が聞こえそちらを向くと小さな女の子…サクソルよりも小さい――が立っていた。

「ねぇ、あんたが華凛?」
「そうだ。…お前は?何か用か?」
「エクリエル。あんたの部屋に案内しろってさ。ついて来な。」
「でも、こいつら…。」
「あんたが気にするこっちゃないよ。さぁ、案内すっから。」

私の返事を待たずエクリエルという少女はずんずん進んでいく。
どうやらこの子は自分の言ったことを曲げないような子だ。
こういう子に逆らうと後で痛い目を見る…そう思った。


しばらく進み、階段を上り突き当りの部屋で彼女が止まる。
そして扉を開け中に入る。
続いて私も中に入るが、ベッドなど見たことがあるものが少なくそれ以上進むのを躊躇する。
そんな私に気づいたのかエクリエルは大げさにため息をつく。

「ここがあんたの部屋。向かいはもう一人のお客さんがいるよ。」
「奏音のことか?」
「名前に興味は無いんでね、ただ騒々しい女だよ。連絡機の説明する。質問は後な?
 これが連絡機…離れた部屋にもボタンを押せば通じっから。怪我のおバカさんは青31。…サクソルの野郎は青13。
 ちなみにここは赤08。向かいは赤06。デストルとグリーネルは黄19。あいつらおんなじ部屋だから。」
「便利だな…。」
「関心してんじゃねーよ。まあ青13はしばらく出れないだろうから忘れていいだろうよ。
 で、ボタンを押すと…!」

そういって彼女は青31を押してから近くのクローゼットを蹴る。
するとガタガタと音がしてから勝手に扉が開き、そこから覗くとルーターの頭が見えた。
私が見たことを確認したエクリエルはクローゼットの戸を閉める。

「まぁ、こんな風に通じんだ。間違ってボタン押しちまってもこれに蹴り入れない限り動かないし。」
「どうも。…なんか、進歩してるな。」
「あんたの死後の技術だろうね。」
「そういえばお前って怪我の治療できたりするのか?デストルが名前出してたんだけど。」
「あぁ。でもサクソルはごめんだぞ。あいつは大ッ嫌いだからな。」
「そんなに…?」
「あぁそうさ。あいつのせいでこんなガキになったんだからな。不便で仕方ねえよ。」
「なんか悪かった。」
「もう用事無いな?じゃ、行くから。」

エクリエルは出ていき、部屋にまた一人なる。
連絡機以外の見慣れないものについて彼女は一切説明してくれなかったが、使わなければ問題ないだろう。
そういえばなんだかひどく疲れた。
実際に戦ったわけじゃないし、少し切られただけだが初体験の連続で疲れてしまったのだろう。
ベッドに寝転がり、しばらく考え事をしてから眠りについた。





「幼女!幼女!」
「うるさい!黙ってろよ騒々しい!」
「あぁもっと罵って!」
「だぁぁ…っ!そんなこと言ってっとな、デストルんとこ連れてかねーぞ!」
「あ、困る。ショタには会えないしルー君まだ寝てるしー。」
「じゃあ静かにしてろ。」

婿の部屋にいったら寝てた。寝顔可愛い。
なんもやること無いから放浪してたら案内してくれた幼女発見。レオンのところに案内してもらう。
なんか喋ると必ず反発してくれるのが面白いなあ。

「ここ!覚えたな?」
「んお?意外と近いのかぁ、うん。」
「それは肯定だと受け取っからな!じゃ、もう話しかけんじゃねえよ!」
「あたしが困ったときは許してねー。」

あーあ、無言で行っちゃった。…それは肯定ととるようにしよっか。
とりあえずココの人はみんなノックして入ってくるから一応ノックする。あたし優しい。
なんにも返されない。もう一度。……、いない?

「んじゃ失礼しますー!、なんだいるんじゃん。」
「奏音…あなたは……。」
「あたしは?」
「なんでもないよ。あなたに言っても無駄だろうからね。何か用事かな?」
「別に。婿は寝てるし幼女は行っちゃうし…。暇だったから。」
「私の都合はどうでもいいんだね。あなたらしい。」
「…出てけって言わないの?」
「言っても出て行く人じゃないだろう。むしろそれを言ったら倍は残られる。」
「分かってるね。約一ヶ月の同居は無駄じゃないってかぁ。探索させてねー。」

見たところ普通の部屋で、大きなのはベッドと机と連絡機と本棚があるだけ。
机の上には何も無いし、本を適当にとって見る。読めない、英語だ。
戻して他の本を見てもなんか英語。違うのは訳分からないやつ。…なんだこりゃ。

「レオンーこれなに?っつかなんの本よ。」
「それはあなたには読めない本だよ。」
「馬鹿には読めないって!?くっそ反論できない…!高校行けばよかったか。」
「そういう意味ではないんだけど…。」

本はもう無理だとして他を観察したいけど物が無い。
連絡機はボタンが多いな。
小物は見ても仕方が無いしなぁ…。仕方ないか。

「レオンー話そー。」
「何を?」
「なに…?それはあたしじゃなくってレオンが考えてよ。」
「私がかい?そうだね…奏音は私のことをどう思う。結果敵になったが裏切りだとは考えなかった?」
「別に。あたしはレオンのことイイ人だと思ってるし敵だなんて思ってないよ。
 ってかあのオドオドしたのは演技だったのね、今素でしょ?なんかそっち方面で裏切られたわぁ。」
「話し方に関しては華凛にも言われたよ。…そう思ってもらえるなら嘘でも嬉しいな。」
「わぁ、婿と同じ!…あ、もう戻るよ。なんかやってたんだよね。じゃ、まったね〜!」

レオンの返事を聞いて出てく。うん、場所も覚えた。
ショタは今日は無理だろうなぁ…ルー君もかな。…しゃーない、手入れしておこう。





「ぁ〜…寝た……。」

起きるといつも見る天井ではないことに驚き、すぐに前回もそう思った事が頭を駆け抜ける。
そうだ、拉致されてよく分からない世界に来たんだっけ。
まだ覚醒しきっていない頭で隣を見ると透明のふたがついた食事とメモが置いてあった。
しかしそれには何も書いていなくて不思議に思い手に取ると紙が暖かくなりおもわず手を離す。
今ので完全に目が覚めた。
おそるおそるその落とした紙を見ると文字が現れており、ルーターが初めて来た時と似たものだろうと理解する。
『あなたの時間では朝の九時。それを食べたら食器類はそのままデストルさまの部屋へ』
…どれだけ私は寝たんだ。



最後の一口を食べ、箸をおく。気を使ってくれているのか和食である。食べやすいからいいけど。
デストルの部屋ってどこだったか…と建物の内部を思い出そうとしていると突然扉が開く。

「おっは、婿!いっつもあたしより起きんの早いのにねー。」
「なんか疲れてたんだろうし。そういえばで…レオンの部屋ってどこだか知ってるか?」
「レオンって言ったねー偉い偉い。あたしを嫁にする権利を差し上げよう。
 あたしはレオンに呼んできてくれって言われたから来たんだよ。だからさ、行こう!」
「テンション高いな…。お前修学旅行のとき慣れない環境過ぎて物凄いテンション低かったのに…。」
「経験経験!れっつご!!」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.32 )
   
日時: 2011/12/29 16:11
名前: あづま ID:xusckUwM

部屋を出て一歩踏み出すとどこからともなくグリーネルが出てきた。
それに驚き思わず扉にぶつかる。その音に奏音は苦笑しグリーネルは首をかしげた。

「グリちゃんどうしたの?遅かったから迎えに来た?」
「ルーター…目が覚めたから……。彼の部屋に、変更。」
「マジで。え、それでわざわざ来てくれたの?普通に紙寄こしてくれればよかったじゃん。」
「……。」
「行こっか。」
「あ、あぁ…。お前の適応性には恐れ入るよ…。」
「よっしゃ婿に褒められたー。」

一応ルーターの部屋は分かるが二人についていく。
サクソルの部屋を見るがまだ立ち入り禁止らしく扉の前に槍を持った女の子が座っていた。
あんな小さな子供でも槍を使えるのかと疑問に思う。

「…ここの、魂たち…みんな、武器、使えるよ。」
「うわっ…びっくりした。そうなのか。」
「うん…あなたも、練習すれば……?あなた、諦めなさそう。ふ、ふふっ!!」
「おい、何笑って…。」
「はっははははは!!あは、は、あははっ!!!」

いきなり高笑いをはじめるグリーネルに引く。
彼はふらふらとした足取りでそのまま進んでいく。あ、ルーターの部屋通り過ぎた。
何度か呼びかけるが反応せず歩みを進める。

「グリちゃーん、意識飛びそうだよ。あと進みすぎー。」
「あははっ、…、?あ…ごめんなさい……。」

奏音の言葉で正気づいたのか慌ててグリーネルは扉の前にやってくる。
そして軽くノックし扉を開け、私達を中に入れる。
中ではルーターがベッドに横になっていてデストルが開いたスペースに腰掛けている。

「おはよう。ルーター、もう大丈夫なのか。」
「ええ。立って歩けますよ。戦うのも、まあ…。」
「やあ、おはよう。華凛はよく眠れたようだね、一度部屋に行ってみたけど起きなかったし。」
「え、部屋に、はぁっ?!」

寝顔見られた…!
絶対情けない顔してただろうな…うわ恥ずかしい。
そんな私の心境を知ってか知らずかデストルは笑っていた。奏音はにまにまするな。

「大丈夫だよ、何もしていないから。あとグリーネル、怒らないからこちらにおいで。」
「……絶対?」
「絶対だよ。君がそんなに感情を出すことなんてしばらくぶりじゃないか。いつも君は感情の起伏が少ないから
 心配になるしね。もっと笑ったりすればいいのに。」
「…こっち来るんですか。」

デストルの言葉に私達の後ろにいたグリーネルはいつものように彼のそばへと駆け寄った。
しかしそれによってグリーネルと戦い傷つけられたルーターが不満そうな声をあげる。

「ルーター、君は逆らえる立場じゃないんだ。地位から言えばグリーネルのほうが君より上なんだよ。
 君はただの執行隊の一員にしか過ぎないけどグリネールは彼自身にしかできないことをやっているんだから。」
「えー何?グリちゃんしかできない事って何?レオン、なにそれ。」
「奏音さん…。」
「奏音は黙っていようか。」
「ひでえ…。」
「いや当然だろ。お前が話に割り込んだんじゃないか。」
「婿の馬鹿ぁぁっ!あたしの味方だと思ってたのに、思ってたのに!!」

そう叫んで奏音は部屋を出て行く。思ってたのにって二回言ったぞ。
とりあえず扉を閉めて話の続きを促す。

「…奏音は相変わらずだね。何回逃げられそうになったことか、思い出しただけで頭が痛くなりそうだ。」
「え、お前が担当でも逃げられてたのか?」
「まあ家から外には出さなかったけど。そこは津岸さんが感心してたね。
 ルーター、君はグリーネルより身分は低いしなによりも敗者だ。ある程度はしたがってもらうよ。」
「分かりました。でもデストル様、あなたの身分を出せばそれはサクソル様と同等ですし誰も逆らえないじゃないですか。
 なぜ出さなかったんですか?」
「今、私は追放されているから君とは立場が違うからだよ。その点グリーネルは追放者ではないし。」
「そうですか…。」

そう答えるがルーターの顔は納得していないと言っていた。

「で、君達に集まってもらったのはいつもとの世界に帰るか…できればこの後すぐがいいかなって思うんだけど。」
「なんでだ?」
「できるだけ早いほうがいいんだよ。兄様が開けてくれた所からなら大体時間も同じくらいに着くし。」
「…サクソルはどうするんだ。」
「それはあなたに抱えてもらうしかないかな。私は触れないからね。ルーター、君はどう思う。」
「別に構いませんよ。俺は皆に従いますから。」
「そう。じゃあグリーネル、奏音を探して広間へ。」
「…分かった。」

一言そういってグリーネルは消えた。
デストルは私にサクソルを迎えてから広間に行くように言った。
彼の言葉に扉を開けサクソルの部屋のほうの覗くと槍を持った少女はいなくなっていた。
部屋に入るとツンとしたにおいが充満しており、治療をさっきまで行っていたことを意味していた。
ベッドの近くに行くと、そこにサクソルがいた。
実際はどうか分からないが普通に寝ているみたいである。
彼を起こさないように抱え、広間と呼ばれる場所へ歩いていった。





昨日、彼らが戦った広間と呼ばれる場所。
戦いで破壊されたものも全て直っており、そこで戦いが行われたことは全く分からないほどだった。
腕の中に確かな重みを感じつつ進めば、奏音・ルーター・デストル・グリーネルがいるのを確認した。
どうやらデストルとルーターは話しているらしい。
そこまで走っていく。

「婿!やっと来たか。」
「できるだけ急いで来たつもりなんだけどな。そんなに待ったのか?」
「いや?ここ三分くらい出し全然。」
「じゃあなんでやっと、なんだよ。」
「カップルの気分?……ごめん。うー…レオン!婿来たよ!!」
「言われるまでも無いよ。」
「なんかひどい。」
「気のせいだよ、奏音。そんな事より君達がやってきたのはこの辺りでいいんだね?」
「ええ。落ちてきたのは多少のずれはあるでしょうがここですよ。」
「そうか。」

ルーターの返答を聞きデストルは何か杖のようなものを掲げる。
彼はしばらくそのままでいたがそれを降ろすとため息をついた。何があったのだろう。
少し考えたようだが、ふと、ルーターを目に止める。

「な、なんですか…。」
「君は今執行者…それも勘違いできたんだったよね。」
「そうですけど。でもそれが何か。」
「兄様はどうやら裂け目をある程度修復した上で攻撃を仕掛けたみたいでね。はっきり言って、今のままじゃ戻れないよ。」

デストルは私達のほうを振り返る。
それは戻れないという事に私達がどのような反応を示すのかを楽しんでいるように見えた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.33 )
   
日時: 2012/01/01 15:26
名前: あづま ID:iU66QbQw

どうせその内帰れるだろうとあたりまえに思っていた。
しかし帰れない、というデストルの発言に考えが遮断される。

「どうやら兄様は私があなたの世界にこの裂け目から行かないようにと考えたらしいけど…。
 余計なことをしてしまったみたいだね。」
「あー…確かになんかやってたわ。手挙げて握るみたいなやつ。」

思い出したように奏音は言う。
だが帰れないと知った今でもあいつの様子は変わらず楽観的だ。
というより事態の深刻さを理解できていないような気がする。

「奏音、お前理解できているか?もう向こうに帰れないかもしれないんだぞ。」
「うん。まあこれが初めてじゃないし。キシからも解放されるじゃん。これから好きなだけ同人でいけるよ!」
「…ここに同人ってあったか?」
「あー!!っ、無いなら作るまで!あ…自給自足じゃん…むなしい。」
「奏音さんの基準同人ってやつなんですか?」
「だろうな。」

奏音の次元での深刻な事態にことの重大さを知ったようだ。顔つきが一気に変わる。
ルーターも交えて話し合ってみるが解決方法はなかなか見つからない。
帰れないという爆弾を落としていった人物は相変わらず私達の様子を楽しんでいるようである。
そういえばこいつは愉快犯って言われてたっけか。
そして彼に従っているグリーネルは相変わらず無表情だ。

「解決策は浮かばないかな?…奏音はなんか自分の世界を作っているね。」
「悔しいけどその通りだ。」
「だってこっちまで飛ばしたのサクソル様ですし。思いつかないですよ…。」
「同人……。」
「私はね。」

デストルはルーターの方を向く。

「君を評価しているんだよ。」
「じょ、冗談はよしてくださいよ!俺なんて剣だけが取り得って…でも負けちゃったし……。」
「確かに負けたね。でも人間体だからダメージも蓄積されるし力も抑圧される中でグリーネルと渡り合ったのは素直にすごいと思う。
 それに不意打ちとはいえ私にも一撃入れたからね。」
「でも結果的に負けたじゃないですか。」
「これらを賞して君に力をあげようかなって。」
「えっ?!」
「まあただ単にグリーネルだけじゃ時空を開けるのは無理そうだからね。私はどう足掻いても人間体だから疲労もあるし。
 君に力をあげれば人間の二人は元の世界に戻れる。君は主の世界に戻れる。いい事だと思うんだけど?」

デストルの提案に顔を見合わせる。
確かに彼の案に反対する余地は無いし、私達が話し合った所でこれよりいい案が浮かぶとは思えない。
賛成の意味を込め、頷く。

「お二人は賛成のようだね。あとは君次第だよ。」
「……。」
「それに値する事はやったとは言え信用されてないなぁ。私は試練を与え文明…新たな道を授けるように言われていた。
 この世界での出来事は君達にとって試練だっただろうし、私が力を与えることで道を進めると思うんだけどな。」
「…分かりました。お願いします。」
「お願いされました。」

そうして微笑みながらデストルは一歩前に踏み出す。
そしてルーターに手を差し出し、彼もそれをとり二人は目をつぶった。

「あ、ルー君の方がレオンより背高いんだね。」
「どうでもいい。」

奏音の場違いな発言に思わずそちらを振り向いた瞬間、光があふれて目を開けていられなくなった。
しばらくたってから恐る恐る目を開ければまだ少し眩しいが周りを見れるようになった。
ルーターは膝をついていて息が荒い。それをグリーネルがさすっている。
デストルはそれを眺めていたが疲労の色が見えた。

「っはぁ…あ、戻った!!」
「そりゃあ、ね。じゃあはじめようか。時間もあんまり無いだろうしね。グリーネルが兄様の閉じた所に沿って開く。
 だからルーターはそこに入ったら維持しつつ皆を送り届けるんだ。なにを使うかは…分かるね?」
「ええ。」
「そうか。じゃあ、始めよう。グリーネル!」
「…うん。」

グリーネルが私たちから少し離れた所で両手を頭の上であわせ、それをだんだんと広げていく。
すると徐々にではあるが乳白色の空に赤い線が現れ始めた。
ルーターはグリーネルのそばに行き様子を見ている。

「あら。こっちに来た時は地面が見えたのに。これは向こうの空なわけ?」
「空…奏音の家の庭かな。そこから来たんだね。」
「おお!当たりだよん。…お別れ?」

奏音の寂しそうな声が響く。こいつ、こういう声が出るのか。小学校からの付き合いだが聞いたことがない声色だった。
それに対し、デストルは微笑む。

「分からないよ。未来を見たらつまらないからね。」
「んー…まあ、会うことが不可能だったとしてもあたしは不可能を可能にするからね!
 ちゃんと、ちゃんとそのままあたしの嫁でいること!」
「はいはい、結局嫁か。でも奏音らしいね。じゃあ、そのまま私の同居人兼仕事のパートナーでいてもらおうかな?」
「同居人止まりー?……じゃ、またね。」

奏音は笑顔でそう言い、ルーターたちの方へ歩いていく。
そしてグリーネルの力によって起こっている不思議な出来事にただはしゃいだ声を漏らしていた。
赤はだんだんと広がっており、それが夕焼けだということが誰にでも分かるくらいになった。

「もう通れるかな。華凛、二人のそばへ。」
「……。」
「今、あなたは何を言いたいのかな…。どんなに人間と触れ合っても感情までは理解できなくてね。」
「元々が違うからな…。私は人間、お前は元天使っぽいやつ。」
「天使?兄様が言ったのかな?私は天使みたいなきれいな存在ではないよ。…もう時間だ。」
「和解の可能性…ない、よな。…また。」
「機会があればね。……もう少しだけ兄を、頼みます。」

デストルに軽く体を押され、ルーターの元へ行く。
もう私達が通るくらいには十分な広さの夕焼けが見えたが道のりは遠そうだ。
サクソルをしっかりと抱え、ルーターに向かって頷く。
彼は私と奏音の肩に手をかけ、地を蹴った。すると自然と浮き上がり足の下を風が吹き抜けていく。
驚きで下を見ると真剣な顔で道を作り続けるグリーネルと軽く手を振るデストルが見えた。
瞬間、私達の周りにシャボン玉のような膜が現れ、彼らの世界は遠ざかってやがて見えなくなった。





「…これで、ぼくは終わり。…あとは、ルーター次第……。」
「お疲れ様。…でも華凛は疑問に思わなかったのかな。私はいろいろな国に行っていると言ったしそのためには
 こちらからも道を作らなければならないのに。」
「そう…いえば……。」
「言ってくれれば奏音の家の近くの道を使えたのに。でもこれも試練かな。
 彼女達には新たな道が開けてくれるよ。私がいなくなった後でも試練を与えていることに変わりは無いみたいだしね。」

両手を下ろし、グリーネルは自分の主を目に映す。
その顔からは何も読み取れなかったがただいつもの日常が帰ってきたことは理解した。

「…修正されない限り、ね。
 行こうか。キズナを起こさなければいけないしエクリエルが怒っているだろうからね。なぜ帰したって。」
「はい…いつまでも、おそば…に。」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.34 )
   
日時: 2012/01/01 23:39
名前: あづま ID:iU66QbQw

今、私たちの周りは真っ暗で風すらも感じない。
はじめは夕焼けが見えていたのだがそれもしばらく経つうちに消えてしまった。
進んでいるのは間違いないのだろうが風も感じずただ停滞しているようにしか思えない。
奏音は暇だからと言って眠ってしまい、今は私もサクソルを抱えルーターと座っている。

「なかなか着きませんね。多分これであってると思うんですけど。」
「向こうに行ったときはどれ位だったんだ?」
「一瞬でしたよ。まあ力の差なんでしょうね…。」
「あの…お前普通に座ってるけど問題ないんだよな?舵取りとか。」
「大丈夫ですって。」

妙に自信に満ちたルーターの言葉に私も一応安心する。
しかし本当にやることがない。ずっとサクソルを乗せている足も痺れてくるし。

「…あ、見えてきたな。もう後何分かで着きますよ。」
「え?なにも見えないけど。」
「確かに見えない…でも着きますから。奏音さん起こしてください。」
「あぁ。ほら、起きろ!」
「ぅ、っえ?仕事…?」
「起きましたね?じゃ、着くんで準備しててください!奏音さんはサクソル様を抱えて!」
「えー…あ、はい。」

言われたとおりまだ寝ぼけたままのようにしか見えない奏音にサクソルを預ける。
奏音はぼんやりとサクソルを抱きかかえる。大丈夫か、船漕いでるぞこいつ。
がっくんがっくんしている奴に気を取られていると突然周りが明るくなる。
いきなりの事に目がなれず戸惑っていると突然抱きかかえられる。
ルーターだな、と思った瞬間風が吹き抜ける。と同時に衝撃と痛み。

「っつ…!」
「あ、っ大丈夫ですか?!」
「舌噛んだ…ま、大丈夫だ。無事に着いたのか。」
「ええ。なんとかですけど。」

ルーターが微笑む。
一仕事終えて安心した、というような表情だ。私も微笑みを返す。
未だ抱えられたままなので降ろしてもらい奏音とサクソルを探すとすぐ後ろでなにかに衝突したような音がした。

「いったあぁああぁああっっ!!」
「うわっ!おい奏音どうした、…なんだその状況は。」
「いやぁ面目ないー。ちょっとカッコつけようとしたらね、足ひねって木に正面衝突しやしたさーせん。
 あ、でもショタは無事よ。あたしだって一応受身は取れますからぁー?」
「なにやってんだ。あぁ、家上がっていいよな?」
「おとまり?布団ならいっぱいあるよ?むしろ泊まっていっきなさい!」
「なんで。」
「まあいいじゃないですか。折角だし泊まりましょうよ。好意は受け取って損はないですからね。」
「んー…じゃ、よろしく。」
「うっは了解!」

奏音の返事を受け、彼女のあとに続いて私たちも家に入る。
…鍵閉めてなかったのかよ、不用心な。





「ここお部屋ねー…。仕事……してきやーす………。あー…まじキシ死ね。こんなに仕事いらねえ。」
「珍しいな、お前が自分から仕事やるだなんて。」
「んー?コミカライズの方にさっさといきたいんだもん。あのアニメ楽しいんだ……。」
「そうか。頑張れ。」
「うい。」

部屋の案内だけされ私たちは三人になった。
サクソルはベッドに寝かせてあり今私たちは床に座っている。

「あ、そういえばお前力戻ったんだろ?もう戻れるじゃないか。いいのか、戻らなくて。」
「戻ってほしいんですか?」
「戻ってほしいか、って言われたらずっといてほしいのが本音だよ。
 でも、お前は前に戻れるって言われたとき喜んでたし帰るも帰らないもお前の自由だ。」
「…デストル様に力を頂いて俺はもういつでも元の世界に帰れます。でもこちらには命令が下されない限り来れません。
 だからまだいますよ。俺はサクソル様に従っていきます。もちろん、あなたにも。」
「そっか。嬉しいよ……。」

手を差し出し、互いに握手する。それは自然な事だった。
その後しばらくルーターと話した。お互いの世界のこと、仕事のこと、大切な物のこと。
やはり彼は人間と価値観が違う。
なんだかおかしい、そう思ってしまうような発言も何度かあったがその度にお互いに笑った。
時間がただ過ぎていくがそんな事も忘れ、ただひたすらに語り合った。





どうやらいつのまにか寝てしまっていたらしい。毛布がかけられている。
時計を見れば四時半。だめだ、二度寝したら確実に昼夜が逆転してしまいそうだ。
ふとベッドを見ればサクソルの姿が見えず起きたのかと一気に私も目が覚める。
急いで部屋から出て二階に下りると奏音の部屋から明かりが漏れていて話し声も聞こえる。

「何話しているんだ。起こしてくれてよかったのに。」
「あ、婿!いや無事仕事が終わったのでお祝いにビール。ルー君は二十歳超えてるんだよ…ね?飲んでるけど。」
「多分。」
「おはよう華凛。色々手間をかけたね、ありがとう。
 でもこいつの方が僕より後に生まれたんだよ?僕が飲んじゃいけないのかい?」
「んー体が未成年だしショタは駄目じゃないかなぁ。」
「じゃあ体を大きくすればいいのかい?」
「駄目だ。お前病み上がりだろ?それに中身がまだ未成年だ。酒を飲むのは私が許さない。」
「ケチ。」
「ケチで結構。」

思いっきりサクソルは気分を害したようで頬を膨らませた。
その様子がおかしかったのか奏音は思い切りビールを噴出す。あ、カーペットにかかった。
咽返っている奏音の背中をサクソルが軽くさする。奏音はそれにお礼を言っていた。

「うぁー、死ぬかとおもったぁっ。ところでルー君、なんでダンマリなの。何、酔った?」
「奏音、こいつ力取り戻したんでしょ?だったら酔ったりなんてしないと思うんだけど。」
「おーいルーター…。駄目だ、完全に目がすわってる。って飲むのかよ!」
「…酒って中から効く、のかい?あ、でも毒は効かないし…特殊な力だけだよなぁ。」
「おい、もうやめろ!飲みすぎ!お前何本あけたんだよ。なんか服が酒臭いんだが。」
「え?なんぼ?…七ですよーぉ?」
「あー!駄目婿に絡んじゃ駄目!はいはい七本ぽっちで酔うおバカしゃんはお寝んねの時間でちゅよー。
 ゆぅっくり寝まちょうねー。」
「かおさー…ことは、へん……。」
「呂律回ってないぞ。もう寝とけ、悪い事は言わない。」

ごねているルーターに奏音はいらついたのか部屋を出て行ったかと思うとすぐに戻ってきてビンを渡す。
それを見て酒だとわかったらしく一気に飲むとそのまま倒れてしまった。
その様子を笑いながら奏音はサクソルに缶を三本渡す。甘酒のようだ…これなら大丈夫だろう。

「…力が戻ったはずだから眠らないのにねぇ。奏音、なにやったんだい?」
「これ度が結構強い奴なのよ、貰い物。割らないときついんだよね、…まぁくれた人は普通に飲んでたけど。」
「じゃあ酒強いのか。へえ、一緒に飲んでみたいな。あと飲み比べとかもか。」
「婿お酒強いもんね〜。上戸ちゃん!でもくれた人ザルだしなぁ…。」
「私は一升くらいなら酔う程度なんだがそれでも負ける感じか?」
「でもそれ日本酒でしょ。あっちはウイスキー一升くらい飲む強さよ。あたしなら死ぬ。」
「ウイスキーか…それは無理だな。でも酒蔵巡りとかしたいな…楽しいだろうし。」
「……まぁ、連絡取れたらまわすよ。」
「僕には何の話か分からないなぁ。あとこれ開けて。開けられない。」
「あーはいはい。」

サクソルから缶を受け取り開けて返す。私たちが話している間格闘していたらしいが開けられなかったらしい。
開けてあげればすぐにひったくられ飲み干す。

「甘いね。なんか苦いにおいしてたから覚悟してたけどこれはおいしいよ。」
「甘酒だもん!」
メンテ
Re: Strange Friends ( No.35 )
   
日時: 2012/01/07 19:25
名前: あづま ID:OQcm08Vs

「本当何なのこいつ!力戻ったのに!」
「まあいいじゃないか、結構活躍したんだぞ?褒美っでことで。」
「なんか華凛ってこいつに甘くないかい?」
「気のせいだ、気のせい。」
「車で送ってっても良いんだけどね。でも酔うんなら仕方ないし頑張ってー!」

一通り飲んだ後軽く睡眠をとり奏音の家を後にする。
ルーターはまだ潰れていてサクソルが力を使って無理矢理動かしている。
平日の午前中なので人通りはないに等しく目を心配する必要はないがやはり家に帰るまでは心配だった。

「あっ。」
「なんだい?」
「鍵ない…そうだ、閉めた後にグリーネルが来たんだった。うわ奏音に連絡入れるかな。」
「なんだ、それだけ?じゃあ僕が開けるよ。」
「開けられるのか?」

サクソルの返事の変わりにガチャッという音が聞こえる。ノブを回せば扉は開いた。
サクソルを先にいれ私は後から入り鍵を閉める。
送れて部屋に入ればルーターがソファに座らされており、その横でサクソルはただ座っていた。

「テレビ見てるかと思ったのに。」
「今の時間はやってないんだよ。夕方ぐらいにまたきたい所だけどお話があるからね。」
「そうか。」

サクソルの言葉に私も腰を下ろす。

「僕の意識がない間いろいろ気にかけてくれてたんだってね…。あいつから聞いたよ。」
「連絡…とったのか。」
「僕が意識を取り戻してすぐあいつが来たんだよ。奏音は仕事やってて気づかなかったみたいだしルーターは手伝ってたし。
 意識のない間のこと話して帰ったよ。ありがとう。僕みたいな訳分からない奴のこと大切だって言ってくれたんだってね。」
「一緒に暮らしてるからな。どんな奴でも大切になっていくよ。」

大切になっていく、という私の言葉にサクソルは驚いたような顔をした。
しかしそれはすぐに消え、一瞬つらそうな顔をする。そしてまたいつもの表情に戻った。
次々と変わる彼の表情に私も驚いたが彼は気づかなかったようだ。

「僕みたいなのが、ね…。僕は君と同じ立場なら犯罪者だよ。エクリエルに会ったでしょ?
 あれは僕が殺したみたいなもんだし。」
「でも、世界は違うとはいえ生きていたじゃないか。でもお前が修正しきれないって結構危険人物なのか?」
「そうだね…根本を狂わしかけたというか宗教関連かな。でも考えてみればあいつの世界に僕はやったんだよなぁ。
 存在を消さなかった……あいつの事、どっかで信頼してるのかな……。」
「お前たち、兄弟なんだろ?だったらどんなに恨んでもどっかで信頼してるんだろう。
 デストルが反乱を起こす前は結構仲良かったんだろ?私にはそういう人がいないから羨ましいよ。」
「まだあいつ僕の事兄って言ってるのかい?いい加減やめてくれないかなぁ…せめて言うなら僕の前だけにしてほしいよ。」

そう言ってサクソルは頭を抱えた。体は小さいが、兄なんだと思わせるような様子だった。

「こういうの聞くのはあれかもしれないが…グリーネルについてはどう思う?」
「グリーネル…か。色々な世界を見るのが好きなやつだったよ。あいつにも懐いてたなぁ。
 ルーター負けちゃったけどあいつと渡り合ったんだよね。僕じゃ多分無理だっただろうな。」
「え、という事はお前よりルーターのほうが強いのか?」
「僕が力を失った場合って事。グリーネルは光があるところなら自由に移動できるから神出鬼没って感じなんだよ。
 僕が刺された時は水の反射光から出てきたみたいだし。」

サクソルの言ったグリーネルの能力に納得する。
外ならばほぼ間違いなく彼に利があるだろうし、部屋の中では鏡で移動していた。それも反射光だろう。

「でもグリーネルってあいつの事好きすぎるなぁって思ったことはあるよ。
 マスターじゃなくってあいつに忠実すぎる。何回も戻るようにいったんだけど一緒にいたいってね。」
「まあそれは仕方ないかもな。接する態度が違ってたから。」
「…じゃ、ちょっと戻ってくるよ。報告しなきゃいけないしケナベルがまたなにかやらかさない様にしなきゃ。」
「ケナベルって問題児なんだな。その点スウィノーっていうのは普通なのか?」
「問題児、は同意かな。指示を控えめに出さないとやり過ぎて支障が出るから。スウィノーは捜索だからね。
 ただ手駒に苦労して…楽しんでるか、あれは。」
「手駒?」
「暇になるとそれの気に入ってる奴を虐めてるんだよね。干渉したくないって言って駒作ってるのに虐めるときは
 下りてってるし。…今気に入ってる奴はこの時代にいるし会おうと思えば会えるかもね。」
「本当か?会ってみたい。」
「じゃ、もし気が向いたら行くようにとでも言っておくよ。」

そう言って笑顔でサクソルは消えていった。そういえばこれを見るのも久しぶりだ。
あいつが帰ってきたらどっか遊びに行こう。
ルーターが車酔いが激しいのでどっか歩いていける場所がいいか…と計画を立てる。





あれから幾日か。遅い夏休みも終わってしまい、また日常に戻った。
計画こそ立てていたものの遊びに行くこともできず、休日に歩いてデパートに行く程度だ。
ただ、奏音が仕事を放り出して二人とどこかに遊びに行ったりはしているらしく何度か津岸さんから連絡もきたりしている。
その度に電話越しでお詫びと奏音が行きそうな場所を挙げるのが常となった。
ただ留学してきている外国人を案内している、という事で大目に見ているらしいが。本当にごめんなさい…。

「竹谷ー…また電話ぁ?何、彼氏でもできた…のか?」
「まさか。今回は津岸さん。また奏音が脱走したんだろうな。じゃ、失礼。」
「ふーん。ま、頑張れ。」

廊下に出てから電話に出る。案の定奏音が脱走したらしくまたお詫びを入れる。
そして彼女が行きそうな場所を挙げていき、電話を切った。
そしてまた仕事に取り掛かる。
数時間後、奏音を見つけたというメールが入っていた。どうやら三人であのケーキ屋に行っていたらしい。
諦めて編集社に帰ろうとしたところで発見したとか。お土産持っていましたよ、という補足もついていた。
サクソルが歩いていったことに驚いた。ルーターは力が戻った後でも車がトラウマになり乗ろうとしないし当たり前か。
彼らの土産を楽しみにしながら今日のノルマを終わらせるべく意識を仕事に持っていった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.36 )
   
日時: 2012/01/07 19:27
名前: あづま ID:OQcm08Vs

仕事を終え、家に帰れたのは九時ちょっと過ぎ。
玄関の鍵が開いているのが当たり前になっていると鞄の中に入っているそれを取り出しかけて思った。
部屋に入るとあの二人のほかに見知らぬ人物が座り何かを食べている。

「あ、お帰り。」
「お?コイツが家主サン?俺ケナベル、もう会わなイだろーけどヨロシク。」
「よろしく。なんか片言だな。それより何食ってるんだ。」
「シマウマ。コッチくる前に狩って来たンだ。うめーよ、食いタイ?内臓は俺の好物ダからアゲナイけど。」
「いや…。」
「おかげでこの部屋血だらけになったんですよ。掃除大変だった…。」

ルーターの言葉にこの部屋の惨状を想像する。
生命の特集みたいな番組でのライオンの狩りを思い出しそれを重ね合わせる。
…見られたら警察呼ばれる。

「だぁっテおめー普通に掃除してやじゃん。」
「あいかわらずだね。もう人間として暮らせばよかったんじゃない?」
「えー…。」
「ナマイキな口だナァ。よし、骨をヤろう。」

ケナベルが自分の脇に積み重ねていた骨をルーターの口に無理矢理入れる。
しかしそれは曲線を描いていて頬から突き抜けてしまった。思わず目をそらす。
だがルーターは痛みの声も上げずそれを口から引き抜いた。顔を見れば傷すら残っていない。
彼は引き抜いたそれを山のほうに投げる。カランという軽い音がした。

「うん、ゴー格!」
「はい?」
「お前もう力戻っタンだ。食いたカったんダけド残念。帰還命令ダヨ、お別れドウゾ。」
「そ、そんないきなりじゃないですか!」
「なんかコンランが起きてルンだよ、俺の責任ジャないシ。で、はいドーぞ。」

突然の宣言にルーターと顔を見合わせる。いきなりの事にお互いに戸惑いを隠せない。
サクソルといえば我関せずでありアニメを見ている。今日映画になったのをやってるのか。

「もうちょっと…いたかったんですけどね。」
「仕方ないって、仕事なんだろ?」
「でもいたいですよ。初仕事で初めて関わった人間があなたですし、色々な事を教えてくれたんですよ。」
「私も同じだよ。まだ一緒に暮らしたい。…でも、いつか別れがくることくらい…分かってたからさ……。」
「許可、取れたら…それか自由に世界を行き来できるくらい昇進したらまた、来て良いですか?」
「もちろん。…待ってるよ、いつまでも。」
「ありがとうございます。…またお会いしましょう。」

そう言ってルーターは立ち上がる。
それを見たケナベルも肉を口に詰め込み飲み込んでから彼に並び立つ。

「なんか、アッサリしてないか?」
「だってまた会えるんですから。…会いにきますからね。」
「ソウかぁ。じゃ、会える事をイノればいいんじゃねえかな。ジャネ!」

ケナベルは手を上げ、そして不思議な渦が二人を取り巻き消えた。
あまりにもあっさりとした別れに自分でも驚いた。
ただルーターは嘘をついたことがないし、どんなに時間がかかってもあえるだろうという確信がどこかにあったからだろう。
ちょうどコマーシャルになったらしくサクソルがこちらに顔を向ける。

「君の事だから泣くんじゃないかと思ってたんだけどね。」
「また会えるからな。」
「また、ねぇ…。でもあいつ頭悪いし君が死んでから会いに行くって事になるかもよ?」
「構わないさ。会えることには変わりないし。」
「また二人になっちゃったねえ。」
「いいんじゃないか?これからもよろしく。」
「うん。あ、始まった。」

コマーシャルが終わったらしく再びサクソルはテレビに視線を向けた。
私は少し遅い夕食を作りサクソルと一緒にアニメ映画を見ながら食べた。
その後二人で土産といわれたケーキを食べ、私は布団に、サクソルは時間軸に入ってった。





朝目を覚ましてから軽くシャワーを浴び準備をする。
今日は朝コンビニで買おうと冷蔵庫を見て思い、スーパーで何を買うのかも考える。
着替えも終わり後は出かけるだけとなった時サクソルが目の前に現れた。

「おはよう、朝だねぇ。」
「ああ。どうした?いつもならアニメ見てるのに。」
「今日は再放送。でも一応こっちに来てみたんだ。寂しがってるんじゃないかなって思ってね?」
「それ程でもないよ。」
「うっわ報われないなぁ。ルーターあっちで結構落ち込んでたのに。」
「だってまた会えるじゃないか。約束したんだし。」
「そう。会社遅刻するよ、行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」

電車を待っている間に、奏音にルーターが帰ったことをメールで伝える。
すぐに返信が来てそれはとても残念がると同時に彼が帰れたことに対しての祝福だった。
あの一件以降レオンの姿は見ていないらしいが、たまに部屋がきれいになっているということも教えてくれた。
それから推測するとどうやらたまに来ているらしい。
別にあたしは気にしないんだけどねーという彼女らしい言葉でそのメールは締めくくられていた。

「相変わらずだな。」

誰に、という訳ではないが声に出してしゃべってみる。
今日も会社に行って、仕事終わらして帰ってサクソルと話して。
あいつが望めばいっしょにスーパー行ってもいいな。なんか買ってやろう。そういえばカード集めてたな。
スーパーやデパートに行く度サクソルが気に入っているアニメのカードを買っているのを思い出す。
しかも近所の子供と交換までするようになったとか言っていた。
やっぱり子供だなぁ、と思いながら会社への道を歩いていった。





「ねえ兄様、そろそろ潮時じゃないかな?」
「お前……よく出てこれるね。あんだけ騒ぎ起こしたくせに。」

白一色の世界。二人だけがそこに存在していた。黒い髪の青年と赤毛の少年。
青年は少年を兄と呼び、少年はそれに一瞬眉を顰めるがそれもすぐに消え言葉を紡ぐ。

「騒ぎって…兄様が攻撃をしなければ華凛はすぐに返すつもりだったんだよ。」
「僕が知らないと思ってる?」

少年は声を張り上げる。それは世界の隅々まで届くようなよく通る声だった。
その声に青年は目を閉じてなにも喋ろうとしない。
その無言が答えだと受け取ったのか少年は言葉を続けた。

「奏音の事だよ。彼女だけじゃなくって妹とその友人も巻き込んだよね。今あっちでは大きな戦争が起こっている。
 それに君の部下。行かせたでしょ、過去に。」
「たしかに奏音をけしかけたのは私だ。でも兄様は私が起こしたことは全て無にできる力を持っているじゃないか。
 あの世界は元々存在するはずがない世界…私達の同族が生んだといっても過言じゃない。」
「否定はしない。でももう存在しているし密接に関わりあっているんだ。お前のせいだ、デストル。」
「そうかな…。悲しいな、兄様の為を思いやった事なのに。私はいつも空回りか…変われない。」
「この世界に持ち込まれた小さなもので大きく歴史が変わるかもしれないんだ。」
「だったら、なおさら修正すればいいじゃないか。」

青年は少年から離れ何かを切るような動作をする。
するとそれに沿って色が溢れ、それは夜のネオン街だということが分かった。

「全て、ね。」

一言そう言い残し青年はネオンへと消える。
残された少年はしばらくそのままでいたがやがて輪郭が消え、あたりはただ白一色となった。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.37 )
   
日時: 2012/01/19 07:03
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

ルーターが元の世界に帰った次の日の朝からサクソルの姿を見ていない。
もう十月。最初はまたどこかで大きな災害が起こってしまったのだろうと考えた。
でもそれにしては時間がかかりすぎてないだろうか。
サクソルは時間を自由に移動できるようだし、一週間程度ならばどうってことはないのだが。
遅すぎる。
だが相談しようにも奏音は今修羅場らしく携帯の電源すら入れていない。
まあ二人と遊びに行ったりしていたし仕方ないかもしれない。

「竹谷、またミスあるってよ。なんか疲れてるんじゃないか?」
「マジか。っわー、ノルマ終わるかな…?」

沼川が後ろから声をかけ私に書類を渡す。
付箋を見るとなるほど、数値がずれているから計算をしなおさなければならない。
まだ残っている仕事の量とこれを考えるとこれは残業確定だ。もしかしたら泊まらなければならないかもしれない。
思わず頭を抱える。

「っていうかこんなにミスすんの初めてじゃないか?少しくらい手伝うけど。」
「いいのか?ありがとう。でもお前これ分かるか…営業じゃん。」
「営業が得意ってだけでこういうのもできるの!」

むきになったらしく先程渡された書類をなかば強奪され呆気に取られる。
そしてパソコンに向かう彼を見て心配要らなさそうだと私も仕事を続ける。
なんか帰りにお礼でもしなければなあと思いながら作業に没頭する。





「終わった終わったぁ!」
「ゴメン…お前定時で帰れただろうにこんな時間まで……。」
「いやいやまだ九時じゃん?」
「そうだけど…。」

結局沼川は私の仕事を最後まで手伝ってくれ、ノルマどころか全てが終わってしまった。
なにか奢ろうかといったが断られてしまった。そういえばこいつ金持ちの家だった。

「あぁ、ちょっと相談?があるんだけどさぁ。」
「何?オレにできる事ならやるよ。」

人も少なくなったオフィス。今は私たちを含め十人もいない。
しかも彼らは私たちから離れたところに座っているので聞かれる心配はないだろうと思い話を続ける。

「いや、サクソルの事なんだけどね?」
「…へ?」
「サクソル。ほら、ホームステイの。」
「え、お前いつの間にホームステイはじめてたの?やりたいっていうのは聞いた気がするけど。」

沼川の言葉に頭が白くなる。彼の口調はまるでサクソルを知らないみたいだ。
そんなはずはない。彼は何度か会っているし。
…洗脳が影響しているのか?

「ほら、奏音の所属してる所に行った後のケーキ屋で会ったちっちゃい子。」
「あ、奏音さんと会ったところだよな。お前にいきなり抱きついたんだよな。」
「そうそう!そん時にいたじゃん。」
「誰が?」
「サクソルが。…え、え?」
「確かに行ったけど奏音さん以外に会ってないと思うぞ。」
「はぁ?」

思わず大きな声をだしてしまいオフィスに残っていた人がこちらを向く。
突然視線が集まったので一瞬たじろぐがかまわず話を続けようとするが言葉が出てこない。
その時、子供を寝かしつけたのかもう一度夕鶴さんがやって来た。

「みんなただいまぁ。あれ、華凛ちゃんどうしたの?」
「あ、夕鶴さん…。あの、えっと……。」
「なんか、サクソル?っていう子供にオレ会った事があるらしいんですけど記憶が全くないんですよ。」
「会った事あるって!小学校の三年位で赤毛の外国人。お前日本語ペラペラな事に疑問…あ、いや…。」
「一寿君本当に覚えていないの?」
「なんか記憶の食い違いがあるみたいで。営業の後寄ったケーキ屋で会ったって言われてるんですけどそこでは
 奏音さん意外に会った覚えがなくて。ケーキ買って普通に帰ってきたはずなんですけど。」
「いやあの時は買ってくれなかったじゃないか!サクソルがお前はレオンに嫉妬してる、お前は私の事好きなんだろうって言ったら
 お前すぐ出てっちゃった…!」

私の言葉に沼川はカァッと顔が見る間に赤くなったがそれでも冷静にしようとしていた。
だが、でた声は震えていた。

「レオンって誰?お前、疲れてるんじゃない…?」
「奏音の臨時の担当。一緒に奏音に送ってもらおうってなったじゃん。確か飲み会入ったらしくて一緒じゃなかったけど。
 え…、いたよな…。サクソルも…ルーターも…みんな、いたよ、ね?」
「華凛ちゃん?」

夕鶴さんの声にそちらを振り向く。
彼女の声はとても優しく母親の声とはこのような物だと思った。
気遣い、諭してくれる。そして心から安らげるような…そんな声だった。

「華凛ちゃん。私はあなたの言っているサクソル君やルーター君に会ったことは無い。」
「知ってます…あいつらが勝手に出歩いていない限り…会っていません。」
「あなたが言うケーキ屋に行って一寿君がその子達に会ったのは八月のことよね。」
「ええ…お盆より前。」
「私が覚えている限りじゃね、その時一寿君とあなたはケーキを買ってきてくれているわ。あなたのお勧めのお店…って言ってた。」
「それ…それは…。」

違う。必死に思い出そうとして涙が出てくる。
突然の涙に二人どころかオフィスにいた人全員が驚いたようだ。
そう…確かに沼川はケーキを買ってきたことがある。でも、確かそれはサクソルが洗脳をする前…。

「それ…って沼川がT社だったかな、そこから契約とって来たときのですよ。
 夕鶴さん、確か帰っちゃった…その時、子供さんが帰ってくるからって…帰った……とき。」
「竹谷…?」

今まで傍観をしていた人たちのほうから声が上がる。
見ればそれは私の三つ上の先輩だった。

「あのさ、T社からの契約を沼川が取ってきたときも買ってきてたぞ。
 それに夕鶴先輩のいる時…編集の方に行ったときにもお前達買ってきてたはずだ。期間限定食った覚えあるし。」
「先輩…嘘言わないでくださいよ。私真剣に悩んでるんですよ?なんで冗談言うんですか?」
「竹谷…!おい、落ち着け!」
「沼川は黙って!そんな…嘘じゃない……。いた、いたんだよ。サクソルも、ルーターも、…も、いた…。
 いたのに、いた。生活してたのに!一緒だった…一緒に、生活で、それでっ!」
「華凛ちゃん落ち着いて、座りましょう?」
「そうだ…奏音、奏音に聞いて下さいよ。あいつの所にはレオンっていうデストルがいて、一緒に暮らしてて。
 でもレオンは裏切ってサクソルの弟で担当で!」
「分かったわ。じゃあ、奏音さんに連絡入れてみましょう?携帯借りるわ。」

夕鶴さんが私の鞄から携帯を出す。そして奏音に電話をかけているらしい。
電源は入れていたらしく数コールほどの時間だろう、その後すぐに話し始めた。

「そう…なんか家族?ホームステイがいるらしくて…。……あら、来てくれるの?ありがとう。待ってるわ。」
「なんですか、その喋り方……!」
「え?華凛ちゃん…?」
「サクソルもルーターも存在して無いみたいに!私が、私嘘ついてるみたいな言い方ぁっ!」
「竹谷、一回落ち着こう?奏音さん来るんだろう、そこでしっかり話そう。な?」
「私が…信用、私信用できない?信用、しん、し、よ…。」
「そんなつもりじゃ…泣くなよ……。」

どんなに冷静になろうとしても涙が後から後から流れ出てくる。
いろいろな感情が混ざり合って溢れ出て、制御できていないようなかんじで。
分からない。わからない。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.38 )
   
日時: 2012/01/19 07:04
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「こんばんは…えっと、人見奏音です…。」
「奏音さんお久しぶりです。」
「あ、沼川君。そしてそっちの女の人が電話くれた方?」
「はじめまして、鏑夕鶴っていうの。ごめんなさいね、こんな時間に。」
「いーえ、仕事放り出せたんで。…婿っとこれは良くないな。華凛、大丈夫?」

入り口で挨拶をしていた奏音がこちらにやってくる。
こんな年になって思いっきり泣いてしまったので来て欲しくもない気がするがそんな事言っていられない。

「なあ…サクソルとルーター、いたよな。」
「……。」
「返事、してよ。いたじゃん。お前、サクソルのことはショタって言って気に入ってたじゃん。ゲーム機もあげてたし。
 それにルーターはルー君って呼んでアシスタントにしてた…よ。」
「ごめん…。ゲーム機はコスプレみたいに華凛に預けたし。渋々だったじゃん、あたし覚えてるよ。
 それにアシスタントは今いないよ。コミカライズはネームだけで後は他の人だから必要ないんだ…。」
「そんな…!」
「ごめんね。ごめん、でも、ダメなんだ…!」
「じゃあレオンは?ほら、津岸さん倒れて臨時で入った……。」
「…いなかったよ。レオンって…誰?」
「嘘、嘘うそ、うそ!」

レオンのこと、大切そうだった。デストルって呼んだらそれを奏音は嫌がった。

「あ、うそ。うそ、だ、うそ。」
「夕鶴さん、今日オレもう帰ります。竹谷送って行きます。」
「あ、車で来たから…送っていっても。」
「じゃ、オレも付き添うよ。一応ね。」
「うそ、いた。ルーター、サクソル、い、た。」
「華凛ちゃん家に私が泊まるわ。明日旦那休みだから大丈夫よ。」
「そうですか。ではいっしょに。」

誰かが私を支えて歩き出す。
そんな事されなくても、歩けるのに。
はなして、なんていう気力がもう、ない。





「ちょっと休もう。一眠りしてさ、落ち着いてからね。」
「奏音、嘘。だよね。いたもんね、いたよね?」
「お休み。一回、休もう。」

この部屋の主を寝かしつけるが三人は部屋の異常さに目を疑う。
子供用の服。明らかに華凛には大きすぎる男物の服。男児用・成人男性用の下着。
それも一着ではなく複数あるし、靴もこれらにあうであろう大きさのものが玄関に並べてあった。

「これ…オレよりも大きい人ですね。百八十ない位…でも確実に百七十五はある。」
「はぁ…。同じくらい…かなぁ。」
「何が?」
「いや…なんとなく。」
「これ、ひらがなとカタカナのドリルよ。しかも全部やってある。」

華凛の部屋へと上がった三人は各々見つけた品を手にとっては驚く。
この部屋にないであろうもの…少なくとも華凛が使うとは思えない物ばかりが部屋にきちんと整頓されている。
食器の類も一人暮らしとは思えないくらいの量がある。
布団も二組敷いてあり、誰かがいるであろう様子を出している。
夕鶴が手に取ったドリルを覗き込むと奏音が小さく悲鳴を上げる。

「どうしたの…。」
「っこれ、婿の…華凛の字です。全部…」
「でも奏音さん、これ文章が稚拙じゃないか。竹谷はもう成人してるぞ。小学生が書いた文みたいだ。」
「字は…ほら、このノートっと同じ。」
「本当ね…。」
「待てよ!なんだよこのノート!」
「日記…?え、なに…これ……これ…。」

ノートに書かれた文章を沼川が読み上げる。
それはこの部屋の主の日記のようだが、書かれている内容は驚くべきものだった。
表紙にNo.3と書かれたそれは、最初のほうは普通の日常を記してある。
だがある日突然少年が現れ自分は天使だと名乗る。彼は不思議な能力を持っていてそれが証明となった。
言い訳はホームステイだという事にする。
ノートは半分ほど埋まっており、その内容は全て彼女が会社で言ったものと一致していた。
三人は顔を見合わせる。

「ねえ、華凛ちゃんのご両親って……。」
「親は忙しくってあちこち飛び回ってるんです。だから華凛は施設育ちで…。」
「そうか…オレ知らなかった。」
「言いたがらないからね。…溜め込んでたのかな。」
「一寿君、明日私は彼女を病院に連れて行きます。だから明日は私も華凛ちゃんもお休みって伝えてくれないかしら。」
「分かりました。…じゃあ、帰りますんで。その、失礼します。」

静かに沼川は出て行く。後には女性二人が残った。

「多分、彼女は寂しかったんでしょうね。それで架空の家族を作った。」
「そう思います。…ずっと、いっしょだったつもりだったんだけどなぁ。あたし、駄目だなあ。」
「そんな事ないわよ。この“日記”にあなたは登場している。きっとあなたが必要だからだわ。」
「そうだと嬉しいな。とりあえず、あたしも帰ります。こっから二十分あれば着くんで何かあったら連絡ください。」
「分かったわ、おやすみなさい。」
「はい。よろしくお願いします。」

夕鶴に軽く会釈してから奏音は足早に部屋を出る。間もなく、車が走り出す音が聞こえた。
カーテンを開け夕鶴はライトが遠ざかっていくのを見送った。そして彼女は後ろめたさを感じつつも部屋の中を調べていった。
母としての勘。自分の子どもが何かを隠したりしたときに見破るそれを駆使し、一つ一つ確認していく。





夕鶴は華凛の部屋の中の物を粗方調べ終わった。終えて考えてみるとやはりあの日記が一番のようだ。
他人の日記を見ると言うのは気が引ける物だが覚悟を決め読み始める。
少年がやって来た、という日付まではいたって普通の事――夕鶴自身の記憶とも合っている。
だがその日を境に華凛とその他の人々との記憶が食い違っているようだ。
彼女の言葉と日記からは矛盾が見られなく、それはある一種の狂気を感じさせた。
その少年が現れる前の日の物も読んでみるが平凡な日常を記しただけの物である。
だからもう一度、今度は一つ一つの単語に気をつけながらその日からの日記を読み進めていく。
謎の少年が現れた日からの日記の文体が明るい。
余程同居人ができたという事が嬉しかったのだろうと感じさせられた。ふと、ある文に目がとまる。

《サクソルの能力は修正らしい。もし私とのことを修正したら時間はかかるが私も忘れるようだ。
 他の人はすぐに忘れるみたいだが。でもできれば忘れたくない。サクソルだけ覚えているのはなんか悲しい。
 ただ本人にその自覚がない。いつか忘れさせられるんだろうか。》

この日の日記はこの文でで締めくくられていた。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.39 )
   
日時: 2012/01/19 07:06
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「婿、あたし今度ドラマの脚本やることになったわ。」
「本当か?じゃあサボれないな。」
「ほんとだよー。あたし二次創作だからこそ気合入れてできてたのにさぁ。」
「仕事癖つけてほしいんじゃないか?」
「うぇっ!…あー、キシからメール来ちゃった。じゃ、また来るね!」
「分かった。じゃあな。」

奏音が笑って部屋から出て行く。
あれから私は休職している。もう復帰してもいいと思っているがそれは夕鶴さんが許してくれなかった。
せめて四月からにしなさい、そう強い口調で言われてしまってはどうしようもなかった。
お金は高校からバイトをして貯めていた物を使っていたが入院などでそろそろ厳しくなってきた。
残高を眺めながらどうやりくりするかと考えているとインターホンがなる。

「あぁ。今日病院か…もういいのに。それにお前にも迷惑だろ?」
「いーよ、オレは別に。お前が大事だからね。先輩として後輩の面倒はちゃんと見ないと。」
「だから私たちは同期じゃないか。それに一人でも行けるってば。」
「でもそうしたらオレ夕鶴さんに殺されちゃうもん。」

そして沼川は笑いながら外で待っていると言って扉を閉めた。
今日は温かいとはいえまだ三月。急いで着替えを済ませ沼川の元へと行く。
そして電車に乗り病院へと向かう。

私はイマジナリーフレンドという者を持っているのではないかといわれた。
社会人になり、知り合いもほとんどいない。一人暮らしだから話をできる人もほとんどいない。
そして仕事に対してプレッシャーがかかり重度のストレスから捌け口として彼らを作ったのではないかと。
彼らが消えてしまった理由は分からないがおそらく心のどこかでこのままではいけないという気持ちがあったのではないか。
そして医者はもっと周りの人とかかわりを持って頼ればいいと言った。
事実、あれから周りの人たちにも相談をするようになったし奏音は仕事がないときは来てくれる様にもなった。
そしてそれらが当たり前になってくるともしかしたらサクソルたちは存在していなかったと思うことがある。
確かに周りの人たちには彼らの記憶はない。だが、私には記憶がまだあるし服や日用品など彼らがいた事の
証明となるものはこの家に沢山あるのだ。
だから私はこの記憶が消えてしまわない限り彼らとまた会える日々をずっと信じ続けたい。





病院からの帰り道。
もう混乱は無くなってきているがまだ注意はしたほうがいいだろうとのことだ。
入院時よく話をしていた女の人と久しぶりに会って近況を報告した。
彼女曰くもう大丈夫だろうからゆっくり日常に戻るべきだと言う。
それに彼女はサクソル達の存在を認めてくれた人なのでどうしても話しやすかった。
数十分ほど話し、仕事があると言うので別れた。
今は沼川と二人駅までの道を歩く。

「みんないたんだけどなー…。」
「まだ言ってるのかー?」
「なんでそう否定するかな。いいじゃないか、私にとっては代えの効かない大切な人達だぞ。」
「それは分かってるよ。オレがお前に会いに行っても毎回そのサクソルとルーターの話じゃん。」
「それくらい大切なんだ。っていうかこれ多分お前だから話せてるんだと思うし。」
「……。」
「沼川?」

急に黙り込んだ沼川に疑問を持ち顔を見る。
なにかまずいことを言ってしまったかと顔色を窺うが彼の表情からは何も読み取れなかった。
気まずい空気が流れたがやがて沼川が歩き出したので私もそれを追う。

「四月になったら復帰しようと思うんだけどさ、それでいいかな?」
「んー、オレは竹谷が復帰したいと思うんなら別にいいと思うんだけど。」
「そうか?でもできれば新入社員が来る前がいいな。一応私が先輩なんだし。」
「まあ戻って来たいときに来ればいいよ。お前がいないと仕事多いってぼやいてたしね。」
「そっか、じゃあ調整していく。…駅着いたな。送ってくれてありがとう。」
「おう。ゆっくりしろよ。」

駅前で沼川と別れ、ちょうど電車が来たところなので乗る。
夕方らしく、学校帰りの高校生やこれから仕事に行くだろう人達が乗っている。
開いている場所を見つけそこに座って考える。
私は会社に戻って上手く働けるんだろうか。沼川が雰囲気は変わりないといっていたが精神的にまいって入院していた私だ。
サクソル達のことは現実にあった事だと確信しているし、そうなるといろいろ問題が起こりそうだ。
色々と気を使われかえってい辛くなってしまうかもしれない。不安が胸をよぎる。
こういうのは良くない…頭では分かっているがどうしようもなかった。
会社に戻ったら起こってしまいそうな不吉な出来事が次々に浮かんでいった。
ちょうど私が降りる駅のアナウンスがされ思考を中断させられることができた。
駅を出てから家まで歩くと何か考えてしまいそうなので走って帰る。
日も暮れ始め少し肌寒いと感じたが、それでも顔に当たる風は心地よかった。





家に帰ってから適当にダンボールを取り出し彼らの物をしまっていく。
はじめは捨てるつもりでゴミ袋を持ってきたが、やはり未練というかそれに入れる事はできなかった。
なぜならルーターはいつかまた会おうと言っていた。
彼らは自分の姿は変えようと思わない限りそれ固定のようなのでこの服たちもまた使えるかもしれない。
それに、一度好きになった物は長い年月の間に薄れていってもなかなか嫌いにならない。
サクソルが好きだったアニメのグッズもダンボールに詰め込む。

「終わった。……少ないな…。」

小さいと思っていた段ボール箱一箱に彼らの物が全て入ってしまった。
一ヶ月くらいしかいなかったとはいえあまりの少なさにこちらが驚いてしまう。
もっとあると思っていたのに。
それから押入れを開けて物を全てだし、一番奥にそれを入れてしまう。
こうすればよっぽどのことがない限りこの箱は出すことができない。
それにこんなに奥にしまったのだ。出そうと思っても途中で嫌になってしまうだろう。
押入れから出した全ての物も元通りに整頓し、閉める。

「さて、ファイルでも送ってもらおうかな。」

彼らのことはもう思い出すことはあってもそれに依存することはない。
自分にそう誓い、会社に送ってもらえるかどうかメールを出してみる。
だが漏洩問題などで無理だろうというのはわかっているのでこれからを考えることにした。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.40 )
   
日時: 2012/01/19 07:08
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「あの時は本当にすいません。今日から復帰します、よろしくお願いします。」

四月、私は会社への復帰を果たした。拍手で迎えられる。
結局復帰は四月の中旬となってしまいなんとなく腑に落ちなかったが。
このオフィスには新しく五人が配置され、みなが私のことを説明してくれていたらしくすごしやすかった。
ただ、一人が外国人――しかも日本語が上手なのでドキリとする。

「沼川、あの外国人って…。」
「インカリ?あいつがなんかしたのか?」
「いや…やけに日本語上手いしなんか幼い感じが…。」
「だってあいつ日本生まれの日本育ちだぜ?むしろ英語で話しかけないでくださいだってさ。
 大検受けてるから高卒みたいなもんか。」
「…未成年?」
「実際は中卒だけど大検だから高卒で採用みたいなかんじだな。酒飲めないのが残念だよ。じゃ、営業行ってきます〜。」


「華凛ちゃん、今日って夜平気かしら?」
「あ、平気ですよ。」
「よかったわ。今日新入社員の歓迎会やろうと思って。」
「そうなんですか。…あれ、やってなかったんですか?」
「みんな揃ってたほうがいいでしょ?それに華凛ちゃんの快気祝いも兼ねてるの。」
「そんな…ありがとうございます。絶対参加します。」





「それじゃあ、新入社員達はようこそ!竹谷は復帰おめでとう!乾杯〜!!」

沼川が音頭を取り、皆も乾杯した。そして改めてという事で新入社員達が挨拶をする。

「笈川友紀です。トモキじゃなくてトモノリなんで間違えないでください。そして彼女募集中です、よろしくお願いします!。」
「えー、私は澄木未希です。東舎大卒です。まだまだ未熟ですがご指導よろしくお願いします。
 トモ、彼女とか今問題なくない?」
「いーじゃない、別に。俺彼女欲しいから。ゆるがないから!」
「気にしないでくださいね、皆さん。じゃ、つぐみ。」
「はい、国崎つぐみです!未希と同じ東舎大卒です!よろしくお願いしまーす!」
「じゃあ次僕が」
「えーインカリはトリでいこーよ。」
「なんで!」
「弄られキャラだからじゃね?ホリハルどうぞー。」
「インカリごめんなー。堀田芳春です。俺は電子専門学校卒です。趣味は釣りです、よろしくお願いします。」
「え、釣り好きなの?じゃあ今度一緒に行かない?オレも釣りとか好きなんだよ。」
「本当ですか!じゃあ都合がついたときにでも!」
「おっけー。」
「お前が釣り好きなんて初耳だぞ?」
「そりゃ言ってないからな!」

楽しそうに笑う沼川に少しいらっときてメニューで軽く頭をたたく。
しかし無反応な所を見ると酒が回っているらしい。…弱かったっけ、こいつ。
まだジョッキ一杯じゃないか、と声をかけるがそれでもずっと笑っている。

「一寿君楽しそうねー。私は子どもいるから飲めないから羨ましいわ。」
「でも酔うの早すぎません?ジョッキ一杯だけですよ?」
「華凛ちゃんが酔わないんでしょうに。じゃあ、トリ行きましょう!」
「振りありがとうございます。インカリ=バネンです。前も言いましたけど日本育ちなんで英語はできません。」
「そんでもってこいつ中卒の大検なんですよ?…あれ、今年お前十九になるんだよな?なにしてたの。」
「バイトだよ。結構家計苦しかったからね。」
「へー。頭良いんだなぁ、独学だろ?というか俺が一番頭悪そうじゃね?
 未希とつぐみは東舎大だしホリハルは専門学校だし。えー…自信なくすー!」



もう時間は深夜を迎えている。
夕鶴さんは明日が早いからといって日付が変わる前に帰ってしまった。
他の人たちも酒に酔ってしまい家が近い人に強制的に帰らされる人が多かった。
私は酒に強いので基本最後まで残るのだが、つぐみちゃんは酔っ払っているが彼女は強いようでまだ平気そうだ。
残っているのも数えるほどの人数でありその人たちも十分にといっていいほど酔っ払っている。
沼川も彼の自宅に連絡をして迎えに来てもらい今しがた帰っていった。

「せぇんぱーい、お酒強いですね!私サークルで一番強かったのに負けです〜。」
「まあ一升くらい飲めるからな。」
「うわぁ〜、すっごーい!」
「大丈夫か?明日も仕事あるんだし程々にしないと二日酔いするぞ。」
「うーん、…そしたら自業自得ってことでぇ。」

へらへらと笑うつぐみちゃんにそろそろ限界を感じる。
まだ許容量ではありそうだが明日のことを考えるとこれは危険だろう。

「あの、つぐみちゃんの家知ってる人っていますか?」
「僕知ってますよ、先輩。というかつぐみの家近くなんで送っていきますか?」
「そうか?あ、そういえばお前まだ未成年だよな…なんかこんな時間まで悪いな。」
「いいえ、楽しいんでいいですよ。それにいざとなったら…あれ、先輩もしかして知りませんか?」
「何が?」

私の答えにインカリは納得したような顔をする。
それになんとなく引っかかるような物があるがなにか思い出せないので彼の言葉を待つ。

「先輩って奏音さんの友達ですよね。」
「そうだが…なんだいきなり。」
「家、奏音さんの家と大体…十五分から二十分ですよね。」
「あぁ。…なんで知ってる。」
「聞いたんですよ。」
「誰に?」

私の質問に彼はいたずらっぽく微笑む。
その理由が分からずもう一度同じ質問を彼に対してする。

「誰にでしょうね…秘密です。…つぐみと先輩ってお向かいさんですよ?今年の二月引っ越してきた人がいたでしょう?」
「あー…その時いなかったかも。」
「え、すいません。ちなみに僕は奏音さんと隣なんですよ。」
「…奏音に聞いたんだな。」
「帰ったら、分かるかもしれませんね?じゃあ僕つぐみを送っていきます。」
「そうか…私はもう少し飲んだら行くから。」
「分かりました、また明日。」

そうしてインカリ君はつぐみちゃんに肩を貸し店を出て行った。
帰り際口笛を吹かれた際には軽く笑って出て行った。…あれ、恋人同士だったのか?
まあ自分には関係ないことだと酒を飲み続ける。





家への道を歩いていると電気がついていた。今は午前三時半過ぎ。
時間こそ違うがはじめてサクソルとであった日を思い出し自然と笑みがこぼれた。

「逆パターン…か。」

あの時は奏音が逃げてきたと思ったら見知らぬ少年がいて驚かされた物だ。
だが今回はもしやと思っていたが奏音がテーブルに伏して寝ている。さすがにその体勢は辛いだろうと揺り動かすとすぐに起きた。

「婿…遅いねぇ。午前様、飲み会だぁ…お酒臭い。」
「付き合いだ、付き合い。…なんでいるんだ。また仕事貯めて逃げてきたのか?」
「まさか、今の所ちゃんとやってるよ!いやちょっとお話にね。」
「なんだ、改まって。メールでも別に。」
「まあ、ね。」

そして話をしようとするがなかなか奏音は口を開かない。
いったい何を話したいのか分からないがなにか言いづらい事なのだろうかと考えるが何も見つからない。
嬉々として自分のあれそれを話す奴になにかはばかれる事があるのだろうか。

「今…言うのもあれかもしれない。もっと早く言えば良かったかもしれないって思ってる。」
「…結婚?」

奏音は首を振る。

「ショタも、ルー君も、レオンもいたよね。」
「は?」
「覚えてるから、あたしは。」
「何言ってる…?」

訳がわからなかった。それと同時に嬉しさもこみ上げてくる。
彼らの存在を肯定されたうえに、自分以外にも知っている人がいるというのが心強かった。

「ありがとう。遅くないよ、むしろ今でよかった。」
「そう?」
「ああ。入院してるときだったらかえって辛かったかも。あ、というかお前インカリ君に話しただろ!」
「え?」
「とぼけるなって、お前の隣に住んでるって言ってたぞ。」
「…隣?あっあー、あの子か!ついついね、話しちゃったんだよ。でも次回作の案だから秘密って言ったのに…。」
「お前…!というかインカリ君もだ…なんでお前が来ること知ってるんだよ。」
「いいじゃん、あたしはフルオープン!」
「お前らしい。でもなんで?」
「覚えてる理由?…まあ、萌体験だね。ほぉら。」

そう言うと彼女のブレスレットは光を発したかと思うと彼女は手に小太刀を持っていた。
そしてそれで自分の腕を軽く斬ったかと思うと傷口に手を当てた。すると傷口は見る影もない。

「まあ、こんな風にね。これはまあお守りみたいな物よ。で、抵抗できるみたいな。」
「よく分からないが…信用できるよ。」
「よかったぁ。婿が忘れてたらどうしようかと!」
「お前の妄想で片付けただろうよ。」
「うぐっ…まぁ、あたしいっつもそうだもんね。これ言いに来ただけだから帰るよ。バイバイ。」

手を振って奏音は出て行った。そして足音が聞こえなくなる。
身近なところに不思議な力を使える人が多いな、と思いながら眠りにつく。



私は一人じゃない。
忘れない限り、また会えるかもしれない。
メンテ
Re: Strange Friends ( No.41 )
   
日時: 2012/01/22 10:11
名前: あづま ID:VK8HM60s

見る影が無い初期設定と今現在の印象での設定
上段初期設定、矢印先現在の印象
別のシリーズでメインに登場する人達はそちらで紹介します(奏音や沼川など)



竹谷華凛
 23歳 女性
 サクソル、ルーターの居候先のコスプレイヤー
 ごく普通の人間で、ごく普通の死に方だから別に関わっても支障はないらしい
 仕事の腕はわりと優秀だが、酒乱
 実家は裕福であり一人暮らしに戸惑っている
 衣類にも気を使っており、極度の潔癖症のため奏音の家にはあまり行きたくない
                  ↓
 サクソル、ルーターの居候先の社会人
 ごく普通な人生を送るはずだったが彼等と関わってしまったため不可能になった
 仕事の腕は新入社員ながらも優秀で信頼されている
 酒には強く数人で飲み比べをして負かしたが、許容量を超えるといきなり倒れるので心配されている
 両親が転勤族のため施設暮らし、一人暮らしも普通にこなしている
 衣類は動きやすさ重視でありジャージで過ごすことが多いため持っている服は少ない


サクソル
 10代前半の男の姿をしている
 デストルとは兄弟のような関係
 監視と修正の能力を持っており、それを良い事に他の世界に介入しまくっている
 エクリエルの目付け役であり、暴走を止めたのは彼
 その後地球に積極的に関わるようになった
 主至上主義であり、それに逆らうものには容赦はしない
                  ↓
 10歳に満たない赤毛の男児の姿をしている
 デストルの兄であり、彼に対するモノは複雑
 歴史の修正の能力を持ち、興味を持てばその現場に行き修正するが普段は自分の時間軸で行っている
 時間の感覚はあまり無くその場にある時計を見て確認している事が多い
 彼のほかにも少し歴史の修正を担当するものがいるが仕事の雑さを愚痴っている
 主至上主義で、そのためなら何もかも忘れる


ルーター
 20代前半の男性に憑依している
 口が悪く、それによって誤解を与える事が多く妙に気にかけている
 下っ端ではあるものの上官から直接任務を言い渡される位には信頼が高い
 適当に憑依したため戸籍は外国に存在しておりそれの解決に苦労している
 特にビザが悩みの種
 仕事こそ出来るものの爪が甘くチームプレイで無い限り何かしら失敗する
                  ↓
 20代前半の黒髪の男性の姿でありこれで実体化している
 丁寧な口調を心がけており常に敬語
 剣の腕こそ評価されているが肝心な所で失敗する為相殺されている
 しかし頭脳自体はよく、簡単な本などは読めるようになった
 ある程度の一般常識は心得ているため働かないのを苦しく思っている
 立場上弱い故か、サクソルに八つ当たりされる事が多い


レオン=フレスキ
 25歳 男性
 ヨーロッパからの留学生であり、普段は編集社でアルバイトしている
 日本語もそれで勉強している
 デストルに目を付けられ精神を乗っ取られた
 だが、勤務態度は変わらなかったため誰にも怪しまれる事は無かった
 最後、精神を開放されたときは記憶の混在に混乱していた
                  ↓
 デストルが奏音と接触するために使用した偽名
 そのため姿かたちはデストルそのまま
 妙にたどたどしい日本語と弱気な演技をしている
 編集長を洗脳し社会に溶け込んだ


デストル
 男児の姿をしている
 元は文明を与える能力を持っていたが追放された為それは無い
 主によって初めに作られた存在であり、自分以外の生命体を下に見ている
 与えるはずの文明をおかしくしたりしており、その態度により付近にいた生命体もろとも追放された
 憑依する事により他の世界に関わっている
 グリーネルの事は攻撃できないため快く思ってはいないがなんだかんだ世話をしている
                  ↓
 20代前半の男性の実体を持ち、性格は割りと穏やか
 試練を与える能力を持っている
 サクソルの次に作られた存在のため彼を兄と呼び慕っている
 主の世界に興味を持った事により追放され、その後は魂の牢獄の主となる
 時空に裂け目を作り他の世界に関わっている
 共に追放された仲間については悼んでおり、生き残りともいえるグリーネルとは行動を共にする事が多い


グリーネル
 10代中ごろの男性の姿
 光によって相手をかく乱し場を乱すことを気に入っている
 はきはきとした少年で、あまり悩む事は無い
 彼自身は追放された訳ではないが気分で魂の牢獄で暮らしている
 人間界にも積極的に関わっており、特に学校で幽霊のような事をする
 デストルには度々攻撃されるがその度に実態を消し彼をイラつかせている
                  ↓
 10代前半の男性の姿をしているが外見は中性的
 光がある所から空間を移動する能力を持つ
 ぼそぼそと喋る消極的な性格だが一度火がつくと笑いながら行為を行う
 彼自身は追放されていないが、デストルと共に存在する事を選んだ
 魂の牢獄ではNo.2となっているが普段は空を見たり子供たちと遊んでいる
 魂の牢獄に来る前は他の世界に関わる事を夢見ていた
メンテ
Re: Strange Friends ( No.42 )
   
日時: 2012/03/11 18:52
名前: あづま ID:jhZGYGUs

世界観とか用語とか

舞台
 ・地球
  2054年8月前半〜2055年4月の2週目位
  日本の少し過疎化が進んでいる辺りで、最寄りのスーパーなども十分ほど歩く
  近くには小学校〜大学までの一貫校がある(転入・転出可)

 ・主の世界
  歴史の監視を行っている以外は特に何もしていない
  執行部隊も普段はこれといった訓練はしておらず皆だらけている
  堕落しており、それを取り締まる者もあまりいない

 ・魂の牢獄
  存在するものはデストル(とグリーネル)を除き皆子供の状態
  やって来ている時代も国も様々なため衝突は絶えない
  ただあまり他の生命体が来る事は無いため団結力は高い

用語
 ・天使/堕天使/悪魔
  サクソルが自分の存在を説明するために無理矢理当てはめた言葉
  天使は主の世界にいる状態で、肉体の有無や外見を変化させられる
  堕天使はなにか任務があり肉体を持ち行動するため姿は変えられない
  悪魔は追放された存在で肉体を持つ
  これらは共通して魔力のようなものを使える
  肉体を持つ二つは異常に生命力が強く不老だが不死ではない、そして疲労もある

 ・修正
  サクソルの能力であり人の記憶のコントロールや土地の修復など
  特に歴史に関わった者の記憶は消される
  深く関わった者ほど記憶の修正は困難なため時間がかかる
  ただ、あくまで消す事が主なので対象はなんの関わりも無いものに
  謎の安心感を持ったりという妙な感覚が残ったりするのが難点

 ・DVD
  10話にて華凛とサクソルが見ていたホラーとグロのもの
  わりと人気があり、スピンオフとして過去編も製作された
  友情物のように見せているが実は違う
  この作品で死んでしまった主人公に対して友情を感じていた人物は実は片道の思い
  愛憎入り混じった復讐劇のような内容だったのが過去編で明らかになっている

 ・執行隊/執行者
  執行者は上記の堕天使と同義で、それの集まりが執行隊
  宣言をした段階で肉体を持ち、所持する命令書には紋様が浮かび上がる
  これを達成しない限り元の世界には戻れない
  また、肉体を持つというのは有利な条件の大半を失う事になるので危険

 ・放棄者
  上記の執行者が任務を怠るとこれに当てはまる
  この場合別の執行者がこれを捕獲し、残った任務は別の者が引き継ぐ
  捕獲されたものは常習の場合存在をリセットされる事もある

 ・連絡機
  色と数字のボタンを押し衝撃を与えると設定した場所に繋がる仕組みのもの
  タンス等、間違って使用する事が少ない場所に設定される事がほとんど
  この話の年代から7〜8世代後の発明


カットした話
 たいていは長かったりネタがネタだと削除してます。
 一応、番外編としてホームページに載せる予定ではいますが。
 ちなみにタイトルは今テキトーに付けています。
 
・時間の価値観(ホームページで公開済み)
  10話最後〜11話冒頭の間
  「マスターと話してたら君を忘れてた」でサクソルと衝突
  カット理由は話の必要性がわからなかったため。

 ・人間の生活
  13話終了後、基本的な生活をルーターに教える
  風呂やらトイレやら。
  カット理由は発言がモロ、性ネタ。

 ・大食いツアー
  18話休憩中のスペシャルパフェから
  サクソルの甘味、華凛の家計、ルーターの休憩の利害一致にて
  カット理由は食べるのに7時間ほどかけているのに遊園地まで行く。ハイスケジュール。

 ・貴方と初交流
  19話で助けた女性とルーターのデート
  それを影からビデオカメラ片手に尾行する華凛とサクソル
  カット理由はやっぱり性的な…orz

・身辺チェック
 21話華凛帰宅前、ルーターと奏音
 不審者とルー子(女装シャメ)をネタにからかわれる
 カット理由は必要性を感じなかったため

 ・子供と遊ぼう
  近所の子供たちとサクソルが遊ぶ話
  ただ、毎回修正しているためはじめましてから始まる日常
  カット理由はなんか鬱でこの話に合わなさそうだと思った為

・第X次原稿戦争
 奏音が担当(津岸とレオン)から逃げる話で津岸家登場
 ケーキを対価に華凛、サクソル、ルーターで逃亡
 カット理由はサクソルとレオン(デストル)の接触があったため。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.43 )
   
日時: 2012/01/25 17:27
名前: あづま ID:Ees/k.XA

「吹奏楽部かぁ…入ればよかったかな。」
「まだ言ってんの?いいじゃん、一年なのにレギュラーでしょ?」
「女子部員が少ないからね…やっと団体戦出られるくらいだもん。柔道辛い…やだー。」
「でも自分の意思で入ったんだから文句言わない。なんなら転部すれば?」
「いいよ…なんだかんだで好きだし。はやくジュース買いに行こうよ、喉渇いたぁ…。」
「だったら財布は持ち歩きなって。」

吹奏楽部が奏でる曲が聞こえる廊下を二人の女子生徒が歩いている。
一人は道着をぶら下げジャージ姿であり、もう一人はバスケットボールのユニフォームを着ている。
四階のとある教室に入り、ジャージの女子生徒がリュックの中を探る。
しかしなかなか見つからないようでもう一人が手伝いに行こうと一歩踏み出したときバタバタと足音が聞こえた。

「かーなみー!!」
「うわっ!」

カナミと呼ばれた女子生徒は慌てて教壇の上に乗ると走ってきた女は机にぶつかりそれらを倒した。
痛そうなうめき声を上げる女にあきれたように言う。

「姉ちゃん…仕事は?今山場じゃないっけ。」
「うわぁ、奏美ってばお姉ちゃんを机に激突させといて謝罪もないんだ!?」
「だったら普通に来ればいいじゃん。想良もさぁ、のんきに財布探してないでこれなんとかしてよ。」
「これ呼ばわり!」
「奏音さんお久しぶりです。」
「想良!空気読んでって!お久しぶりって…。」
「あ、財布あった。飲みもの買いにいこう。んで帰ろう。」
「ウチ着替えないと…。」

しかし奏美の言葉を聞いていなかったのか想良はリュックを背負いそのまま教室を出て行こうとする。
しかしそれに制止の声をかけたのは奏音だった。

「待って待って!あたしがなんでこんなクソ暑い時に冷房がない学校に来てるか分かってる?!」
「奏音さんのことだから仕事投げ出してきたんでしょ。」
「姉ちゃん…。」
「違うよ!今は担当が臨時だから仕事少なめにしてもらってるの。
 あたしがこんな暑い地獄に来たのはその担当君に息抜きにココ行ったらどうだって言われたからだよ。」
「姉ちゃん、それ厄介払いって言うんじゃない?邪魔なんだって、なにやってるの。」
「何って…何、かな?人権は侵害してないと思う。」
「それで奏音さんは何しに来たの?」
「あぁ、それなんだけどさ。ここに鏡ってある?なんかそこで分かるよーって言われたんだよ。長期休暇ですってさ。」
「鏡?想良知ってる?」
「一階の職員玄関のとこかな。とりあえず飲みもの買おう…干からびる。」
「あら…じゃああたしが奢ろう!お金なら今のところ平気だからね。」

そして奏音を先頭に階段を下りていく。
途中奏音の携帯にメールの着信があり、彼女はそれを見た瞬間電源を切った。
奏美はそれを見て担当――おそらく臨時のほうではなくていつもの方からのメールだろうと推測した。
そして自動販売機の前を想良と奏音は五分ほど占領し、奏美はその間に着替えを終えユニフォームを小脇に抱える。

「いいんですかー、こんなに!」
「いいのいいの!お金は萌の為に使ってこそその価値があるからね!」
「姉ちゃん…。」
「じゃほら案内案内!長期休暇なんて幸せすぎてニートだわ。」
「働いてよ。」
「じゃあ鏡こっちですー。」

今度は想良が先頭になり、廊下の端の職員玄関を目指す。
やがて鏡の前に着くが、何も起こらない。
奏音は鏡を軽くたたいたりするが反応は全くなく、三人を映しているだけだった。

「なにこれ…なんにも起こらない。」
「やっぱり厄介払いだったんだよ…。担当でも仕事はちゃんとあるでしょ。
 大方仕事のモデルとか言ってセクハラまがいの作業妨害してるんじゃない?否定できる?」
「失礼な!ちゃんと意思確認してるよ。レオンはちゃんと受け入れてくれてるから。」
「奏音さん…外国人なら日本語分からなくてそうなってるのかも。」
「ちゃんと喋ってるってば!なんで十歳位違うのにこんなに正論で攻撃されてんの……。帰ろ…なんか萎えた。」

奏音は今来た道を戻ろうと振り返り、後の二人もそれに従った。
その時強い風が吹きぬけ、思わず目を閉じる。

「風強いね。人見姉妹大丈夫?」
「平気平気。これくらいで飛んでかないよ。あ、でも婿なら飛びそう。」
「……。」
「奏美?」
「ねえ、なんで風吹いたの?」
「どうしたのさぁ。なんだろ、春一番的ななんかじゃない?今夏だけど。」
「ここ、窓ないよ…。玄関、今閉まってるし。」
「あ、そういえ、?!」

一番後ろにいた想良の事を何かが掴んでいる。
それはよく見ると鏡から出ている手のような物であり、突然のことに姉妹は固まる。
その一瞬で想良の体は鏡に引きずり込まれそうになった。
慌てて二人が彼女の手を掴むも、想良の体を掴んでいた何かが増え三人を飲み込んでしまった。
鏡は、何事も無かったかのように八月の光を照らしていた。





なにかが顔に当たり、目を覚ましたのは奏美だった。
近くには自分の姉の奏音と友人の想良が倒れていて、息を確認する。

「寝てるの…?あれ、どこ…ここ。」

奏美は辺りを見回すがそこは見たことがないところだった。
辺りは木々で覆われ、一面が緑だった。
なにをするべきか彼女は思いつかなかったので二人を起こす。

「あれっ…なにココ?」
「ウチも分かんないよ。起きたらここだった。」
「眠い…奏美、なんかあったら起こしてよ。」
「どうしてそんなにマイペースなんだよ!すこしは慌てろって!」
「時代劇みたいだね…曲者ーッ!」

リュックから折りたたみ傘を出した想良が奏美にそれで切りかかる真似をする。
しかしそれは未遂に終わった。
なぜならば折り畳み傘が氷づき、パァンと音を立てて砕け散ったからだ。
三人は突然のことに顔を見合わせ、傘を壊した人間を見る。

「ねぇ、あんた達…ここじゃ見ない顔だよねぇ。何者だい?俺ぁ女でも容赦しねえよ?」
「何者って?それって…え?」

突然現れた人はどこからともなく剣を取り出し構える。
三人か何か動きを示したら即飛び掛ってくるだろうと誰しもが予想した。

「とぼけようたって無駄だよ。まあ、見たところあんたら女みたいだし俺は男だ。力関係は分かるよな?ん?」
「はああ?!え、男!君男だったの、まじでえっ!」
「なっ!」
「奏音さん…分かるじゃん普通。声からして男でしょ。」
「うそー…ありがとうレオン…元は取れた。」
「なに話してんだよ。いいのかい、お仲間の危機だけど?」
「え。」
「あぁ、奏美!」

不思議な男の言葉にそちらを見ると奏美がその男に喉元に小刀を当てられて動けなくなっていた。
想良は人質だと言うことが一瞬で分かり、両手を挙げる。
しかし、もう一人は格が違った。

「やっぱあんた女じゃないの?奏美のほうが背高いんだけど!」
「姉ちゃん…それ今問題じゃないって。」
「だってマジじゃん。それにアイシャドウしてるよこの人!声はまあ低めだけどやってけるってば。」
「そう?そりゃありがたいね。」
「あなたも納得しないで!良いわけ?女っぽいって言われてんだよ!」
「職業柄女に変装しなきゃなんねぇ事もあるのさ。だから別に気にしねえよ。別に、な。
 なんか抜かれちまったなぁ…というか反応を見るにあの曲者ってのもまぐれだったみたいだねぇ。」
「遊んでたから…。」
「じゃ、あれかい?この世界のことはまるっきり知らない?」
「知らないけど萌はどの世界でも共通だと思いました。」
「これの言うことは気にしないでください。妹として謝る…。まあ、目が覚めたらここにいたから全く知らないよ。」
「…信用するよ?まあ、嘘だったら拷問は必須だからな?じゃあ、ついといで。」

そして彼は小刀を消し、歩き始める。
だが三人がまだ顔を見合わせてるのを見るとため息を一つ吐いた。

「じゃ、こうしようか。追って来な、あんたの姉貴が人質だよ。」
「え、ちょあたし重いよ…。」

男は奏音を抱え走っていってしまう。
これに二人は驚いたが、連れ去られては困るので必死に後を追った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.44 )
   
日時: 2012/01/25 17:41
名前: あづま ID:Ees/k.XA

想良と奏美は謎の男に連れて行かれた奏音を追って走っていた。
といっても男ははぐれさせる気はないらしく途中途中に氷の塊が道しるべとして落ちていた。
それを見失わないようにしながら走り続ける。

「わき腹痛いー…。奏美は平気?」
「ウチは全然。バスケはずっと走るしそれでかな?」
「いいなぁ。あ、氷。でもさ、あの人はどうやって刀とか出したのかな。」
「それが全く分からないんだよ。首に当てられたときも肩に手を置かれたと思ったら急にだったから。」
「手品師かな?」
「まあ、そんな穏やかな物じゃないだろうけどね。」

奏美が言うと想良も頷く。
そして走り続けると小高い丘の上に出た。そこから見下ろすと家があり集落のようであった。
そして今二人が立っている場所から少し離れたところに大きめな家が見える。
奏美は姉がそこにいるだろうと目星をつけ走り出した。想良もそれに続く。

「おじゃましまっ…!」
「あ、奏美ー。本当だね、男だったよ。」
「間違えました。すいません、以後気をつけますね。」
「っはぁ…奏美、走るの速い…、なにやってんの。」
「いや間違って違う人の家入ったみたいで。行こう、あの男の人探そう。」
「なにやってんのさ!この状況にあんた達はどうも思わないってのかい?」
「あぁ〜…今ウチ現実から逃げ出したい。」
「現実逃避はいいぞ〜。ま、入りなよ。そんでその辺座ってー。」
「だから!あんたは人質だっただろ?なんで指示してんのさ?訳分からないよ。」
「奏音さん適応力高いねぇ。」
「あぁもう!エド!さっさと下りてきて助けてくれよ、女はあんたの大好物だろ!」

男が叫ぶと上から間延びした違う男の声が聞こえた。そして下へ下りてくる音もする。
そして現れたのはがっしりとした体型の男で、眠そうにしている。
それから奏音と男のほうを見て、想良と奏美を見ると面倒くさそうにいった。

「彼女か?三人も連れてきちゃって…俺は夜出かけるからそん時な、そん時。」
「また女か!それにこいつは彼女な訳ないだろう、こんな激しい女お断りだよ!」
「俺は積極的なの好きだよ。レイ、その女いらないんだったら俺に頂戴。」
「やるからとりあえずこいつ引き離しとくれ!」
「おうー。はい、お嬢さんうちの弟から離れて。」
「うーん、結構好きだったんだけどね。でもお兄さんもなかなか良い体だ、あたしも好みだよ。」
「本当か!ありがとう、今度遊ぼうな。」
「疲れた…。あぁ、あんたらは座って。紹介させてもらうからさ。」

レイと呼ばれた男が想良と奏美を案内する。
途中、奏音に無理矢理取られた上着を奪い返し一発殴るのも忘れなかった。
あまりに痛かったのだろう、奏音は抗議の声をあげるが気遣ったのはエドだけだった。

「エド、そいつをできるだけ俺に離れたところにおいてくれ。あとこいつらの面倒見るから部屋もね。」
「いいのかー、彼女物扱いじゃん。だから女が寄ってこないんだよ。」
「え、じゃあまさか男が寄って?」
「黙れクソ女ァ!」
「ちょ、いきなり性格変わったよ?」
「レイさん図星?そういう風にすぐ怒るのって女っぽいよね。奏美はどう思う?」
「想良…言っちゃいけないことが。」
「…エド、紹介はあんたがして。俺は少し休むから。」
「そうか!誤解が生まれてても怒るなよ。」

レイは一同をキッと睨んだ後エドが下りてきた階段を上って上に消えた。
そして力任せに扉を閉めた音が響き彼の怒りが伝わってくる。
しかしエドはそんなことが起こったとは思えないような雰囲気で話を始める。

「俺はエド、ここの長男で家主。敬語は要らないよ。で、いま上がっていったのがレイっていう俺の弟。まあ女々しいのは同意。」
「あー怒ってません?」
「奏美だっけ?まあ怒ってるだろうけどきにしないでいいよ。仕事終わったばっかりで機嫌悪いから。」
「なんか逆じゃね?あたし仕事終わるとむしろ嬉しくて無敵になった気分になるけど。」
「でもそれは次の仕事が来ることじゃん。だからっしょ。で、今いないのがアリーとマティーの双子でこれも俺の下ね。
 あ、マティーはここに来ないか。それとアリーの友達のアル。めったに来ないけどダイアナ先生。これかな。」
「分かった。こっちも自己紹介するべきかな?」
「そうだね、一応してもらおうかな。名前だけなら分かったけど。」
「じゃあ私から。千石想良。家事は任せて欲しいな。」
「人見奏美。これの妹。…おいて貰っていいの?」
「別に?部屋あるしレイがいいって言ったんだし良いんじゃない?アリーはなんだかんだでいいって言うだろうし。」
「そう…。」
「なぁんかしめっぽいね。あたしは人見奏音二十二歳の独身!突然だけど弟さんを嫁にください。」

奏音の発言に周りの空気が固まる。
奏美は頭を抱えているし、想良は意味を理解できていないようだ。
エドは突然の申し入れに戸惑ったような顔をしているが、決心したようにこう言った。

「あいつは男で君は女だよ。」
「分かってるよ?」
「じゃなんで嫁なの?婿なら分かるけどさ…というより住む世界が違うから無理じゃないかな。」
「婿はもういるからね。」
「姉ちゃん、華凛さんは女でしょ。それに女友達って毎回訂正されてるじゃん。」
「でもいいんじゃない?本当に好きなら全然。」
「うわあぁ〜ありがとう想良ちゃん、あなたが理解者よ!という訳で嫁にください。そしてお兄さんも嫁に来てください。」
「なんか分かんないなぁ。でもあいつが折れたらいいんじゃないか?
 ちなみに俺は悪いけどパス。結婚したら自由に女に会えなくなるじゃん。一人の妻より百人の…ってね。」
「うわお、真理聞いた気がする。そして心から共感してしまった!じゃあお友達で!」
「よろしく!」

そして二人は硬く手を握り合った。
奏音の性格を知っている妹はここでなにが行われたのかを理解しテーブルに伏す。
想良は何が行われたのか理解できなかったらしくエドに質問した。

「あの、あなた達の仕事って?レイさんはあまり好きじゃなさそうだけど。」
「知ってどうするんだ?まあいいか。俺はたまに力仕事。レイは潜入かな、女の格好したりするから女っぽいって言わないほういいよ。
 アリーは暗殺かな。アルは撹乱とかやってる。でも仕事自体めったにないからね、普段はここで自給自足。」
「まじか。これは嫁に貰うしかない。」
「姉ちゃんのなにがそんなに反応してるの…。」
「センサー、それにあたしなら養える。彼らのためなら真面目に仕事ができる。」
「こんな姉ですがよろしくお願いします…。」
「あれ、奏美いいの?一番反対しそうだと思ったのに。」
「なんか分からない事しかないから。それに拠点を持てるのはいいことだと思うよ。」

意外だな…エドは思った。奏美というのは案外、仕事に向いているのかもしれない―――
住む所が見つかったという安心感からか三人で嬉しそうに話し続けている彼女らを観察する。
想良は頼りなさそうな外見だがうっすらと筋肉がついてきている。体術に向いていそうだ。
奏美は背が高く、全体的に引き締まっている。足の筋肉から見て瞬発力がのぞめるだろう。
奏音はどうだ…?こちらは妹とは違って全体的にふっくらとしている……。
三人が三人、別の方面で活躍できそうだとエドは思った。

「話してるところ悪いけどさ、このあたりちょっと案内していいだろうか。分からない所は聞いてくれていいんだが
 基本的なことはみなに教えておきたいんだ。」
「いいよ、ウチら世話になる身だから。」
「うん。エドさんのお好きにー。」
「分かった。奏音は?」
「いや、あたしもいいのよ。ただレイ君は?」
「篭っちゃったからなぁ…ま、置いていっていいよ。じゃ、案内するからな。」





一同は丘から下におり、集落へとやって来た。
ここは数十の世帯からなっており、皆戦闘の訓練を受けているのだと言う。
想良は小さな子供達とすでに打ち解けて遠くで遊んでいる。

「そうだ、どこに住んでる、とかは言わないでくれ。聞かれたら…そうだな、山越えてきたみたいな感じで。
 親が厳しいからお忍びとかでもいいや。ただあの家に住んでるとだけは言わないように。」
「なんで?ウチらが住んでるとまずいの?」
「まぁ…色々?」
「つうことはなに?忍びの隠れ里的に考えれば言い訳?」
「姉ちゃん、意味わからない。もしここが忍びの里だったらそうそう案内しないって。ウチらスパイかもしれないじゃん。」
「奏美だったかな、やっぱり向いてるだろう。」
「へっ?」

エドの言葉に奏美が驚いた声をあげた。だが、言葉を発した本人はただ微笑んでいるだけである。
訳が分からないという風に首を振った奏美は走っていった友人のほうを見た。
その瞬間―――

「!!」
「やっぱり…向いてるんだな。先生が喜ぶよ。」
「うわぁあああぁぁっ!!」
「なんで姉ちゃんが一番驚いてんの。」
「なにやってんのー?」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.45 )
   
日時: 2012/01/31 09:33
名前: あづま ID:ZSjGXMiM

エドは彼女らの反応を見て笑いながらスピアを持ち直した。
奏音の叫び声を聞いて戻ってきた想良もそれを見て足を止める。

「ごめん。まさかこんなに驚かれるとはなぁ…。」
「驚くって!なんでいきなり槍向けられなきゃいけないの、避けられなかったら怪我してたわ。」
「あぁあたしが一番びっくりした…心臓が鼻から出るかと思った…。」
「奏音さん普通口からじゃない?エドさんもなんで奏美に槍向けたの?」
「反射を見たくて。」

そう言ってからスピアを消してエドは歩き出した。
三人もそれについて行くが、エドがスピアを消した瞬間に顔を見合わせる。
それはあまりにも突然で、レイが奏美を人質にとったときのことを思い出させた。
突然武器を出し、突然それを消す。
今まで自分達が生きてきた中でのことでは説明できないことが起こっているのだけが理解できた。

「で、ここが川。飲み水とかもここから取るから体洗うときは今きた方からにしてくれ。」
「ん?あれ、風呂ないの?あたし風呂が好きなんだけど。」
「まあ仕事なければ入れるんだけどな。あるときは水かぶって終わりだったりするし、我慢だな!」
「えー…でも今は平気だけど冬は流石にこれは辛いよ。」
「想良にウチも賛成。せめて冬は温かいのじゃないと逆に毒だよ。」
「あたしはいいや…合わせるよ。」
「姉ちゃんいつか黴るよ。ただでさえ家がゴミなのに。」
「レオンが来てから少しきれいになったもん!」
「奏音さんが片付けたわけじゃないんだ。」
「君たち賑やかだなぁ。まあ水浴びで嫌なんだったらいろいろ教えるから自分でお湯作ればいい。
 アリーに聞けば一番いいんだけど…あと何日くらいかな。」
「そういえば仕事ってどの位やっているの?」
「あー、それ。それ聞かれるか…。教えていいのかなぁ……?」

そう言ってエドは考え込んでしまったようで無言で歩き始める。
遅れてはいけないと三人も後を追っていった。





「レイー、レェーイー!!」
「…あの?」
「三人は座ってて、ちょっとレイー?寝たのかぁー?」

彼らの家、そして三人のここでの拠点となった場所に帰ってくるとエドは三人を座らせてから上へといってしまった。
ギシギシと床がきしむ音とレイに呼びかける声がうっすらと聞こえてくるがそのほかには何も聞こえない。
三人はこの間にある程度の整理を始めた。

「ここは見た事無い物ばっかりだったよ。小さい子でも武器を持ってた。」
「でもなんていうか…ウチらが見た限りアジア系…っていうのかな。そういう人が少なくなかった?」
「うん、ほとんど白人か黒人って感じだった。奏音さんは気づいたことある?」
「…イケメンが多い。」
「姉ちゃんそこ問題じゃないよ。イケメンは今忘れてって。」
「じゃあ露出度が高い!老若男女問わず…あれ?お年寄りいなくない?」
「あ、そういえば…年いってる人でも四十…五十くらいだったね。」
「平均寿命が短いのかもね。ほら、武器を持ってるって事は戦うわけだし老衰で死ぬ前に殺されちゃうとか。」
「想良ちゃんけっこう言うね…。でも当たりかも。」

だがここまでで彼女らの考えは途絶えてしまった。
集落の人々と触れ合った時間はほんのわずかであり、表面しか見れていないだろう。
なにかここについて知れることは、と考えるが彼女らには何も浮かばなかった。

「もうあれでいい、トリップでいいよ。」
「トリップ?」
「なんか異世界に行っちゃう奴。でもあたしが知ってるどの媒体でも最終的に帰れるし楽観的に行こうよ。」
「そんな非現実的な…って言いたいけど実際起こってるんだよね。姉ちゃんに賛成。」
「私も姉妹に賛成。確かに氷だしたりしてる時点で変だとは思ったし。」
「何、なんか話してたか?」
「エド!どうしたの、いなくなったと思ったら。」
「あぁ、説明はやっぱりレイに任せるべきだと思ってな!」

エドが体を横にずらすとその影からレイが気まずそうに顔を覗かせた。
彼はしばらく視線を合わせようとしなかったが息を吐いてから話を始めた。

「さっきは悪かったよ。いきなり怒鳴ったりしちまって。」
「そんな、姉が余計なことばっかり言うから!気にしないでください、むしろこちらが謝らなければ…!」
「エドに聞いたとおり面白いお嬢さん達だね。まあ、あんたらは今日からここで生活するんだ、遠慮はいらねえ。」
「じゃあ夜お邪魔していいっすか?言われたからにはあたし遠慮しなあっ!」

奏音が途中で言葉を切ったことに疑問を持ち奏美が姉を見ると彼女は口を押さえている。
その手を無理矢理どけるとばらばらと氷塊がテーブルに散らばった。
想良と奏美が顔を上げるとレイが無表情で奏音を見ている。
それに彼女らは恐怖を感じた。エドは二人の感情を悟ったらしく苦笑いしてからレイの肩に手を置く。

「まあまあ、奏音も悪気があって言った訳ではないだろう。レイもいちいち怒らない。大人気ないぞ?」
「だからといってやっていいことと悪いことがあるだろう!?」
「まだ彼女はやっていないし言っただけじゃないか。それに夜に部屋に来るということ以外言っていないぞ。
 なに想像したんだ?やっぱり嫁貰えば?」
「う、っとにかく!俺の部屋には許可無しに来るんじゃあないよ、いいね!」
「はい…まあ用がない限り伺わないようにします…ね、想良。」
「うん。女が行くといろいろあれなんだろうからねぇ。…ここ女っ気ないね。」
「想良……ここは、そういうあれじゃあ…。」
「いいよ、あんたが常識人ってことが救いさ…。それで説明なんだけどあんたらは地球から来たってことでいいかい?」

予想していた質問とはかけ離れていた為三人は返事をするのがおくれた。

「ええ…でもそこは普通日本か、とかじゃないんですか?地球って規模広すぎ…というかここ地球ですよね。」
「残念だけど、地球じゃないんだ。まあ、地球から移動して来た人の末裔が俺らだけど。」

エドの言葉に声を失った。
いつのまにか日本はおろか地球の外に出てしまっている…その事実にただ三人は圧倒された。
しばらく沈黙が続いたが、レイがそれを破った。

「まあ、驚くのも無理は無いだろうよ。俺はこっちで生まれたからこれが常識だが向こうの人たちはみんな驚くって言うからね。
 ちょくちょく地球からもお客さんが来るんだ。本家に行けば資料もあるんだろうけど。」
「そう…ですか。」
「ゆっくり慣れりゃあいいさ、時間は死ぬまであるんだしよ。ただな、こっちに来る人間には共通点がある。」

レイが三人の顔を順番に見ていった。

「昔々、創成期の人々なら何も使わないで自由にできたんだが…時代だね。あんたらに俺は武器をあてただろう?
 それについてなんか疑問に思ったりしなかったかい?」
「ああ、それならなんで突然出てくるのかなとかなんでいきなり氷が出てくるのかとか。」
「上出来。…なんかむず痒いなぁ、敬語は無しでいいよ。とにかくだ、それの秘密はこれ。たださわんじゃねえよ。」

レイはそういってブレスレットを外しテーブルに置く。
それは一見なんの変哲も無いブレスレットで窓からの光を受けてちりばめられた宝石が光っている。
エドも弟に促され腕輪をブレスレットの隣に置く。それもきれいな細工がされていたが特に変わったところは見られなかった。

「きれいなのは分かるけど…それが不思議な能力と何の関係が……?」
「もう戻していい?ずっと外してると不安なんだが。」
「ああ、いいよ。で、こいつはいわゆる補助具だ。力を集めたり、強すぎる場合は押さえたり…だな。
 詳しい原理は俺は知らねえ。補助具無しでもいいんだがそうすると自分の力だけでやらなきゃなんねえから限界も早い。」
「ふうん、便利なんだね。」
「まあな。そこでテストだ。お前ら全員、これを使えるかどうか明日の朝試験する。使えなかったらお荷物さ。
 一応…指輪でいいか、これをやるから外で練習しておくんだよ。」

レイは腰の袋から指輪を取り出し三人に見せてからテーブルに置く。
各々指にはめたのを見て、彼は頷いた。

「うん、サイズも合ったみたいで安心したよ。」
「なんかこいつ出てこないと思ったらさぁ、これ作ってたんだぞ?
 なんだかんだ言って面倒見る気満々だったんだなぁ…でもサイズ合ってるのは何で?」
「言うんじゃねえよ…俺がお人好しみたいじゃねえか。」
「でもあなたの厚意のおかげで補助具が貰えたんだし、ね奏美!」
「うん、本当にありがとう。あなたの厚意を無駄にしないように精一杯練習するよ。」
「その言葉忘れるんじゃねえよ?ところでだな、お前、なんでずっと黙ってるんだい?
 氷で口痛めたか…?それはついカッとなっちまったもんだから…女にそういうのしたのは悪いかと思ってる…。」
「……。」
「怒ったか……。なんか、侘びできるんならするぜ…。」

レイの言葉に奏音は顔を上げた。
彼女の表情から怒っているわけではない事が窺えレイは安心したがそれならなぜ黙っているのかと問う。
それでもなお黙っていたが、奏音は口を開いた。

「女っ気がない…で、嫁もいない。あんた、もしや男にしか興奮しない性質?」
「…は?」
「あたしはイイよ、むしろその方が喜びに包まれる。エドは奥さんに縛られたくないっていう感じだから無いだろうけど
 レイは女っぽいしもしかしたらって…むしろお兄ちゃん好きだろ?愛しちゃってるでしょ?」
「……兄弟愛は認めようじゃないか。ただ、それ以上は全く無い!!」
「ぎゃ、!」

想良が顔を覆い、奏美がエドに謝り、エドはそれをなだめた。
彼らの前では奏美の頭上から氷が落ち、氷を落とした人物は息も荒く上へと姿を消したのだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.46 )
   
日時: 2012/01/31 09:34
名前: あづま ID:ZSjGXMiM

「痛い…ヒリヒリする…。」
「自業自得だよ。女っぽいって言わないほういいって言われてたのに奏音さん言っちゃうし。
 それにあれは言っちゃダメだよ。図星だったら困るじゃん。」
「想良、お前も…?」

三人は氷の山から奏音をエドとともに救出してから外に出て早速補助具の練習をし始めた。
エド曰くしっかりと目的の物を想像できればちゃんとそれが現れるらしい。
そしてしれらを繰り返すうちに体が慣れ補助具無しでも出来るようになるそうだ。
まずナイフくらい出せれば後は応用でいいらしいので三人はそれを目指しているがなかなか上手くいかない。
まず、形を保っていることができなかった。
作り出した直後はそれこそ本物と思えるようなものが出せるのだがそこで気を抜いてしまうとたちまちそれは消えてしまう。
仮に形が保てていたとしても今度は切れるものではなかったりする。

「なんかもう、いいや。お荷物でいい。」
「姉ちゃん!」

奏音はそういって草原に寝転がった。
奏美も一度それをとがめるが、彼女も想良ももう精神的に限界に近かった。

「はー…。まさかこんなに辛いとは思わなかった。」
「うん、数学とどっこいどっこいかな。」
「やめてー!ここで勉強の話しないで!!」
「姉ちゃんもうとっくに中学終わってるでしょうが!」
「睡眠学習だから実質あたし小卒なの。ってぇかあれだ、こう死神の鎌とか中二チックな……。」

奏音はそう言って素振りをする。
すると突然悲鳴を上げて丘を転げ落ちていった。
想良と奏美は慌てて後を追うとそこには驚くべき光景が広がっていた。

「奏音さん…それ、鎌?」
「うん、見たら分かるよ!だからお願いあの二人呼んで!切れちゃってる、あたしの腕血まみれ!」
「すご…じゃあウチ呼んでくるから想良はなんか適当に止血してて。」
「私止血の仕方なんて知らないんだけ、奏美ー!」
「…ばかー。想良ちゃん、とりあえずなんか肩縛ってくれない?直接はダメだ…二の腕からいっちゃったから…。」
「はい…あ、帯あそこに置いてきちゃった。」
「じゃあもう技!なんか技かけて!」
「……。」

肩だけ一転集中でかける技なんて知らない、と想良は思った。
しかし奏音の腕からはどんどんと血が流れていき、彼女の顔もそれと比例して青くなっていく。


「すいませーん…。」
「奏美か!どうした?」

家に行き声を出せばエドが返事をする。
彼は一階でなにやら手紙を読んでいたようでそれに目を落としながら返事をした。

「姉ちゃんがなんか怪我しちゃって結構血も出てて…。」
「マジ?じゃあ手当てしなければな。どこだ?」
「あ、こっちです。すいませんお世話かけちゃって。」

エドは手紙を服のポケットに入れ奏美の後をついて行った。
程なくして丘の下について二人を発見する。
あまりの出血量に一度エドは顔をしかめるがすぐに奏音の腕に手を当てる。

「痛い!」
「想良、ちょっと彼女を離して。これから治療するから。奏音、我慢してくれ。」
「ぐあああああああ!」

笑顔で我慢するように言ってからエドは思い切り奏音の腕を握った。
傷口を直接触られ強い力で握られた痛みで奏音は絶叫する。
十秒ほど奏音は暴れたがやがて荒い息で体を起こす。

「よし、治ったな。でもなんでこんな怪我をしたんだ?」
「う、きぼちわる…っ!」
「こんなに血を流したんだしそれも当たり前だな。少し休むべきではないかと思うんだが…。」
「そうだね、休んだほうがいいと思うよ。私と奏美はまだやってようと思うけど。」
「そっか、じゃあ休んでるよ…。お荷物になってるね。」

奏音はふらふらとした足取りで家のほうに戻っていった。
そして彼女が入ったのを見届けた後、エドが口を開く。

「あれは落ちてできた傷ではないな?」
「うん、奏音さん鎌出して落ちたんだよ。多分その時切れちゃったんじゃないかな。」
「鎌?」
「そう。なんか中二病って言う…まあそういう感じのを出したいみたいな事言って姉ちゃん落ちたもんね。」
「でも鎌奏美が呼びに言っている間に消えちゃったんだけど。」
「うーん…奏音か。とりあえず俺は様子見て必要なら薬でも出してくるよ。」

そう言い、エドは二人から離れていった。
右手に残る奏音の血を見、くらっとしたが気を引き締め歩いていった。





エドが家に戻ると奏音は先ほど話をしていたところでぐったりとしていた。
声をかければ返事があるし、顔を見ればむしろ普通そうである。

「サボりだな?まあ、上手い具合に怪我をしたな。演技もなかなかだった。」
「……酷い。」
「痛みは本当かもしれないが…でも、抜け出したかったのは事実だろう?」

奏音は返事をしなかったが表情で図星だろうとエドは思った。
情報が少ない地域ならば…と、もし使えた場合の計画を練り始める。
とりあえず三階の大部屋を彼女らにあてようと三階まで来ればそこでなにか音がした。

(何だ…?先生は明日来る、レイは二階…。)

懐に忍ばせたナイフを数本、手に取った。
そして慎重に音の聞こえる部屋の扉の前まで進む。彼女らにあてようと思った部屋の前だった。
扉の前まで来たが音はまだ鳴り止まない。よほど自信があるスパイか、あるいはまだ気配も分からないお子様か…。
戸を開けると同時にそれに向かってナイフを一本投げる。
キィンッ…と音がしたと同時にそれが床に落とされたのが見えた。

(覆面…十二から十四、女か。)

エドは手に持っていたナイフを構え、スピアを作り出す。女はジィ…と見るがやがて戦闘態勢をといた。
そして降参したように両手を挙げる。

「あなただったのね。」
「誰だ。」
「いいわ。任務失敗かぁ…残念。」

そして女は軽く手を振り窓を開け飛び降りた。
エドは慌てて窓から下を見るがその女の姿は見つけられなかった。舌打ちをする。
逃げられたんなら追いかけても仕方ないとエドは思い、部屋を見渡す。
自分の覚えている部屋と何も変わっていないし、何か仕込まれているとも思えない。このまま渡してしまって平気だろう…。

エドは二階に下り、レイの部屋に行く。
そして先ほどの謎の襲撃者に付いて彼に話したのだった。

「つまり、あいつらにあてるための部屋を下見したら謎の女がいたって事か。」
「そうそう。それに俺の事知ってる風だったんだ。だが俺は全くでな!」
「お前が泣かせた女じゃねぇのかい?とっかえひっかえ…。」
「でも任務って言ってたんだよなあ…。」

あの年齢ではまだ早すぎるだろう…となればかなり人数が絞り込める。
エドはその女の正体を思い出そうとつめを噛む。これは彼の癖であった。
だが頭を思い切り叩かれ顔を上げるとレイが手をさすっていた。誰から見ても怒っている。

「なん、だよ!いきなり叩く事ないじゃないか。しかも自分の手痛くしてるじゃん。」
「エドゥアール…その女が暗殺のつもりで来たんだったらどうすんだい?」
「はぁ?」
「だから任務って言ってたんだろ?そしてあんたの顔を知っていて違うと判断した。」
「おう。」
「だったらこの家の誰かを殺しに来たっつう事は全く無いとは言えねえ。
 俺はずっとここにいたから見られただろうし確率は低い。お前は違うといわれたも同然だ。」
「じゃあアリーかアルって事か?」

レイが頷く。

「確立としてはアリーが高いだろうね。あいつは小さいから隠れようと思えばどこにでも隠れられるし
 足も速い。なにより仕事がなぁ…一番恨まれちまってるだろうよ。」
「でもアルは素性不明だぞ?レイとアリーが連れてきたんじゃん。」
「それは仕方ねえだろ…二人が仲良くなっちまったんだ。引き離すのもあれじゃねえか。」
「それでお前機嫌悪かったのか!アリーがお前以外のに懐いちゃったから。」
「うるせえ…とにかく、もうあいつら中に入れろ。情報引き出され無いとも限んねえだろ。」
「分かった分かった。飯の準備頼むよー!」

エドが部屋を出て行く。後に残ったレイは謎の女について考えていた。
年は十二から十四。エドのナイフを防いだ。窓から逃げたようだがその後が確認できていない。
そしてなにより、顔を知られていて任務だといった。
探る必要がありそうだ…誰もいない部屋でレイは微かに笑った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.47 )
   
日時: 2012/02/05 21:13
名前: あづま ID:ErBYH.V.

三人が寝ている大部屋に新たな影が現れた。
それは三人の様子を眺めるとフッっと笑いをこぼし扉から出て行く。
音もせず出て行ったそれに三人は気づくことは無かった。





ゆさゆさ。
体をゆすられて想良は目を覚ました。
姉妹のどちらかが自分を起こしたのだろうと思ったがどちらも寝ている。
だが、この部屋には三人以外の人影が無い。外を見ればもう日は昇っているので二人を起こした。

「あー…おはよう。想良早いね…。」
「なんか誰かに起こされたっぽかったんだけど。」
「え?姉ちゃん想良の事起こした?」
「ー…、ぁぁー?」
「姉ちゃんじゃないみたい。」
「だって奏音さん朝弱いでしょ。絶対無いんじゃないかな。」
「それもそっか。下行こうか。姉ちゃん起きてー。」

無理矢理に奏音を起こし三人は下に降りていく。
すると昨日知り合った二人のほかに見慣れない人が部屋にいた。
エドが三人に気づき、声をかける。

「おはよ。」
「おはようございます。あの、こちらの方は?」
「あぁ、名前だけなら言っただろう?こちらはダイアナ先生、まあ俺らのお目付け役というか…。」
「小せえ時からつるんでたってだけだよ。ただ強いからな、あんたらに基礎だけでも教えてもらおうと思ってさ。
 俺が教えるよりは確実だろうからな。」
「で、あんたらが地球からの三人ね。私はダイアナ、よろしく。紹介はこいつから聞いたからいいわ。」
「よろしくお願いします。」
「私もよろしく…なんか本当、強いお姉さんって感じだねー。」
「どうもね。ところで奏音、あんたは挨拶無いわけ?年下の二人のほうが常識あるみたいじゃない。」
「あー…よろしくお願いします。」
「言われないとできない訳?…まあ、起きてすぐだけどテストするよ。
 昨日言われてたからにはちゃんとできるんだろ。私は準備したら行くからほら、あんたらは出て行って。」

三人が立ち上がり出て行くのを見送ろうとした二人も強制的に立たせられる。
レイはそれに対し仕事明けなので休んでいたいと言うが力強い左手がそれを許さなかった。
五人が外に出されると家の扉の前に不思議な模様が現れそれをみたエドは苦笑した。

「先生本気だな。まあもう暴れられないだろうし仕方ないか。」
「冗談じゃねえ…俺は仕事終わってから休んでねえんだ。一ヶ月くらいやってたのに…。」
「えぇ一ヶ月!労働基準法とかないの?あたしだったら自殺もんなんだけど。」
「姉ちゃんはこの世界にいるべきじゃない?津岸さんだっけ?あの人の苦労を考えるとここで働く習慣つけたら?」
「無理だよ、奏美。奏音さんには絶対無理。」
「なんで?」
「もう奏音さんにはクセがついてる。よっぽどの餌が無い限り無理。」
「おぉよく分かってるね想良ちゃん!」
「ははっ、激しいな!」
「俺はお前らが分かんねぇよ。」

想良をぎゅうぎゅうと抱きしめる奏音を見てレイが呟く。
奏美はその呟きが聞こえたようで彼に向かって軽く会釈する。
彼女は申し訳なさでいっぱいだった。
突然現れてきた自分達に世話を見てくれると言った人物にここまで迷惑をかけるとはとても心苦しかったのだ。
だが、この世界に来たばかりで自分達はなにもすることができない。
その揺るぎようの無い事実もまた、彼女を苦しめていた。

「うん、やっぱり君達は面白いな!だが少し離れたところに行こうか。
 先生が準備をしている間に俺たちは軽く体を温めておこう。テストだからな、軽く慣らすべきだ。」
「はいっ!でもエドさん、テストって何やるの?」
「……レイ?」
「知らねえよ。初めは俺がやるつもりだったけどエドがダイアナに言ったら張り切っちゃったんだろ?」
「まあ頑張ってくれ!素質はあるんだ!」
「無責任だ…ウチこういうの結構弱いのに…。」
「あたしは勉強してなかったから抜き打ちみたいなもんだったしいいや。お荷物で。」

奏音は楽観的に笑う。
その時家の扉が開かれ中からダイアナともう一人、男が出てきた。

「さあ、テスト始めるよ。」





「簡単に言えばこいつの背中にタグをつけた。これをお前たちはどんな方法でもいい、取るなり破るなりするんだ。」
「はい…。」
「うん。」
「マジで?え、この人から?え?」
「なんか怖い?アルはやさしいからある程度手加減してくれるわよ。」
「う…あ、奏美奏美、ちょっとアル君と並んでくれない?」
「なんで…?」
「いいからいいから!」

想良に言われ、奏美はアルの隣へと移動する。
アルもその行動の理由が分からないので彼女らのほうに向かって首を傾げて見せた。

「うぶぁっ!卑怯…。」
「おい、こいつはなに一人で蹲ってんだい?」
「知らない。なんか奏音って分からないよな、そこが面白いけど。」
「でかい…。」
「ん?」
「アル君大きい!奏美って身長何センチだっけ?」
「ウチ?っとたしか…百七十二だったかな。」
「頭一個位違う!すごいなぁ。」
「でも…動きはッ!結構、小動物…ッ!」
「…あなたは最後ね。奏美、最初にできるかしら。」
「え、あ、はい!」
「よし、じゃあ双方準備!…始め!!」

ダイアナの声が丘の上に響く。
奏美はアルから距離をとり、彼の様子を伺う。
背は高いがそれ以外の能力が未知数だ…少し離れたところから様子を見ようと奏美は思う。
彼から十歩ほど離れてから後ろに回り込むフリをした。
それに釣られアルは彼女に背を向ける。

「へぇ。すごいじゃん、奏美っていう子。」
「バスケ部員だからじゃない?フェイントだねー。」

奏美はアルの服についているタグの位置を確認し、作戦を立てる。
あの位置なら彼の背中を掠めるように走ればおそらく取れる。ならば、意識を自分と正反対の方向に向けさせなければならない。
アルにはまだ仕掛けてくる様子が見られないので奏美は意識を集中させる。
すると手の中にはナイフが数本出来上がった。
そしてそれを一本彼に向けて投げると同時に走り出す。
それに対してダイアナとレイが驚きの声を漏らすが奏美には全く聞こえていなかった。
いや、聞くほどの余裕が無かったのだ。
意識をそれに傾けてしまえば、集中力が乱れナイフは消えてしまっただろう。
彼がそれを受け止める寸前にもう一本、それに反応した瞬間にもう一本。背中を見せた。

「よし!――?!」

タグに手が届くという瞬間、右手をつかまれ抱きかかえられる。
想定外の事態に奏美は混乱した。

「な、え?」
「あー…捕まっちゃった。」
「でも結構いい線行ってたんじゃねえかな。発想はいいと思うよ、俺はさ。」
「そう、確かに発想はいいわ。ただ――」

両手を封じられ、奏美は抱かれてしまっている。体をよじって逃げ出そうとするがなかなか抜け出せない。
しまいにはアルに微笑まれてしまう。

「はい、五分。アル、もう彼女離してあげて。」
「はあ…いい線行くと思ったんだけどなぁ。…あれ、姉ちゃんは?」

レイのあきれたような視線で奏美は姉の行方を知った。
かなり離れたところでエドと一緒に遊んでいる。
想良は一気に気が抜けてしまったが、自分の頬を軽く打ち奏美に質問する。

「奏美はどうやって取ろうとしたの?」
「ん、こうナイフあたる様に投げまくったら防がなきゃいけないじゃん?それをいろんな方向からやれば隙できるだろうなって。
 で、掠めるように走れば取れるかと思ったの。」
「そっか。次、私が行きます。」
「あなたは…想良ね。いいわ。じゃあ、双方準備、始め!!」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.48 )
   
日時: 2012/02/05 21:15
名前: あづま ID:ErBYH.V.

ダイアナの声が響き、二人は向き合う。
想良はアルに向かってお辞儀をする。彼がお辞儀の意味を分かっていなさそうなので想良は言った。

「これはお辞儀といってする理由は…まあ、相手への敬意かな。よろしくお願いします、みたいな。」

するとアルもお辞儀を返してきた。これに想良は驚いた。
外国人はしないと思ったんだけどなぁ、と一瞬思うがここは勝負の場。
意識を切り替え、目の前の相手ただ一人に集中する。
―――彼は奏美の攻撃をかわすときはいつも手ではじき落としていた。
そして攻撃をすればいいのにかれは奏美を抱きかかえて動きを時間いっぱいまで封じた。
ダイアナさんは手加減してくれるとも言っていた。
だから彼に攻撃する意思は全くと言っていいほどないだろう。
想良の中で考えがまとまっていく。

「あの子、いいわ。」
「想良が?」
「だろうねぇ。あいつってなんか勝負事やってたかい?」
「柔道なら。」
「それは…一対一、じゃねえか?」
「そうだけど…それが。」
「ふーん、成る程。教えがいがありそうね。」

二人の言っていることが分からない奏美はとにかく目の前の勝負に集中する。
だが二人に動きは全く無く、時間だけが過ぎていった。
自分のことでないのは分かっているが奏美は焦りはじめる。もう二分たった。
すると突然想良が棒を作り出しアルの方へと走っていく。
だが、想良が作り出したのは長い棒。当然アルはそれを掴み、攻撃されるのを防ぐ。
だが、

「おりゃあぁあっ!」
「!!」

彼が掴みそれごと想良を引き寄せた瞬間、手を離し彼の懐へと飛び込む。
そして上着を掴んだ後はためらいも無く彼に技をかけた。
突然のことにアルが対応しきれないうちに想良はタグをすばやく取る。
そしてそれをダイアナのほうに見せるのだった。

「ふふっ、おめでとう。まさか実力で行くとはね。…ところで、あれは何?」
「柔道の技で払い腰って言うんです。はー…あんなに体格差ある人に決められるとは思わなかったぁ。」
「え、もしかして想良初めてだったの?そんな土壇場で…。」
「運が良かったんだよ。それに前が奏美だったからなんとなく戦い方が分かったんだし。
 タグ取れたのは奏美のおかげだよ、ありがとう。」
「いや…ウチは…。」
「いいじゃねえか、本人がそう言ってんだからそう思っとけよ。プラス方向だから悪いもんじゃないさ。」
「そうよ。アル、大丈夫?まだいけるかしら。レイ、一応あの二人呼んできて。」

ダイアナに言われレイはそっと離れていく。
アルはダイアナに頷いて見せてまだできるという事を示した。彼女も頷き返す。
それにふと想良は疑問を持つ。

「アル君って喋らないの?技かけた時もなんにも声出さなかったよね。」
「……。」

彼女の質問に対しアルは喉を指差してパクパクと口を開き、それから首を振った。
そのジェスチャーの意味を読み取り、想良は慌てて謝る。
だが彼は気にしていないという風に再び首を振り笑顔を見せた。
だが、先ほどと打って変わって落ち込んでしまった想良にダイアナは肩をたたく。
気落ちするな、という言葉を込めたつもりだったがそれが届いたかは分からなかった。

「…なんかレイも遅くない?ウチ見てこようか。」
「確かにそうね。奏美、まとめて呼んできてくれるかしら。」
「う、ううん!私が行って来るよ!」
「え、でも疲れてない?」
「平気!」

想良はその場から走ってエドたちがいた場所へと行く。
彼女はその場所にいるのに耐えられなかった。何気なく聞いたことが思いがけず深いものだった。
本人は気にしなくていいという素振りを見えたがそれも建前かもしれない。
その考えから逃げるように、二人を置いて走っていった。

「あ、あの奏音さぁん!」
「ん?想良ちゃんだ。どうしたの?」
「あ、もう順番で…。」
「ぎえっ!うわぁ…お荷物よろしくお願いします。」
「大丈夫だ、自信を持て!」
「うぇ…。」

エドに励まされ奏音は重い腰を上げ歩いていった。
ゆっくりではあるが進んでいることに対しエドは安心する。
やりたくない面倒くさいと二人で場所を離れてからずっと言っていたのでホッとした。

「エドさん、レイさんは?迎えに行くって言ってたのに…。」
「あぁ、声かけに来てくれたよ。そんで今仕事しに家入っちゃった。」
「ダイアナさんに怒られるよ…待ってるって言ってたのに。」
「本当?じゃあ想良迎えに行ってくれないか?俺は怖いし先に行ってる。」
「はい!」
「二階の奥の方…ドアノブにカバーかかってるのがレイの部屋だから!声かけて出てこなかったらノックして
 入っていいと思うぞ。まあ先生が呼んでるっていえばでてくるだろうから。」

エドは扉を開け、想良を中に入れた。
そして自分は走ってテストの場へと向かったのだった。





扉が閉められ、エドが走っていく足音も消えていった。想良は教えられたとおりにレイの部屋へと向かっていた。
木の階段を登り二階に出たら奥へと進んでいく。
すると一つだけカバーがしてあるドアノブがありノックするが返事が無い。
聞こえなかったのだろう、そう思ってもう一度ノックするがやはり返事は無く耳をつけてみるが音も聞こえない。
仕方が無いので申し訳ない気持ちになりつつもドアを開ける。鍵はかけられていないようだった。
一歩踏み込むと扉が勝手に閉まってしまう。開けようとしたがもう開かなかった。
スゥッと空気が冷たくなるのを想良は感じた。
だが気を持ち直し、部屋の中を見回す。それは一人にしては結構広く、隅の方に乱雑に衣類が積み重なっていた。
どうせなら畳むべきか…いや、勝手にやったら怒られるだろうと思いつつも想良は服のほうに近づく。

(あれ、女物だ…。)

近づいてその服をよく見てみれば、色々な国の民族衣装だということが分かった。
その中に想良も見たことがあるような国のそれも混ざっていて女物もちらほら混ざっている。
なんでレイの部屋に女物があるのかと思ったがそういえば初めてあった時に仕事柄女の格好もするという
本人の言葉を思い出し一人納得した。
部屋を見回すがレイの姿が見当たらない。
帰ろう、と思ってドアを開けようとしたが開かない。
あー、開かなくなってたんだっけ。どうしようかなぁ…。





「アル君だっけ?大きいねー。」
「……。」
「うえへあはへへへ…。」
「姉ちゃーん、欲情しないでー。」
「だって!これ、これはないよ!あたし生殺し?」
「奏音が自分でやったんじゃん。頑張れ、対処するんだ!」
「ゴメンね、私の専門外よ。アル、頑張って。あなたならできるわ。」

奏音のテストが始まってから早三分。
彼女とアルは互いに体を密着させ、二人の身体の周りには蔓がうねうねと絡まっている。
こうなった原因といえば奏音が開始早々、武器を作り上げようとするが失敗。
一同ため息をつくがそれも彼女にとっては想定内だったらしい。
草を適当にちぎってそれをアルに向かって投げつけたのだ。それがアルに触れた瞬間、意思を持ったように動き出した。
始めはアルも引きちぎったりして抵抗していたのだが草だった物は見る間に大きく成長し、やがて手が封じられた。
脱出が無理だと悟ったらしくキッと睨んだアルに奏音は奇声をあげ、後ろにまわりタグを取ろうとした。
だが、――――

「いただだだだっ!なにこれ、制御利かない!いたっ、出る、内臓的な何かがッ!」
「……。」
「睨まないで!あたしにまでかかってくるとは思わなかったの、頑張る!
 あたしのこれからの萌えのために練習するから!じゃないと、これは、ぐごぇ!」
「い、今お腹に入ったよね?姉ちゃん大丈夫かな。」
「大丈夫だと思うわ…うん。いざとなったら…アリーがいるでしょう?」
「でも先生、アリーはいつごろ帰ってくるか分からないぞ?そろそろだとは思うが長引けば…。」
「あぁ…でも大丈夫でしょ。奏音はタフよ。…はい、五分。残念でした。」
「マジ!うっわお荷物か。で、これは、いででで!こっの何歳か知らないけど生意気!」
「!、…!」

わずかに動かせるタイミングで互いに少しずつ痛めつける二人を見て、ダイアナはそっとため息をはいた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.49 )
   
日時: 2012/02/15 18:02
名前: あづま ID:A3byF9ug

「どうしよっかなーぁ、どうしよ…か、な……。」

想良は薄暗い部屋の中で一人座っていた。
例を探しに彼の部屋までやって来たがそこにはいなかった。しかも、その部屋に閉じ込められてしまったのだ。
力ずくで開けようにもここは他人の部屋で自分は置いてもらっている身。
何か壊してしまったらという心配で想良は何もできずにいた。
大声を出してみてもこの家の中には誰もいないのか、聞こえていないのか。
鍵穴も見つからないので鍵も作れない。
想良は途方にくれ、なにをするでもなくただ座っているのだった。

「!!」

ぼんやりとしていると突然、うつ伏せに押し倒され口をふさがれる。
抵抗しようとするが大きな力で抑えられ、体を動かすことが全くできない。
ぐっとかかる力が重くなり、顔を覗き込まれる。

「…違う、か。」
「……?」
「はぁ…ヒント少ないんだよねぇ。ごめんね、ばいばい。」

想良の顔を確認すると謎の人物は彼女を解放し部屋から出て行った。
扉が開いていることに驚きながらもいそいで後を追う。
だが、廊下に出ると謎の人物の姿は全く見えなかった。

「おい、人の部屋で何してんだよ。」
「あ。」

後ろから冷たい手が肩に置かれ、強い力で引かれる。
そちらを向けばレイがビンを片手に不機嫌な顔をしている。あたりまえだ、勝手に部屋に入ったのだから。
想良は自分がここになんのために来たのかを説明する。
その説明をきくうちにだんだんとレイの顔は青ざめていき、終いには制止の声をあげた。

「あの馬鹿…言っちまっただろうなぁ…。」
「え?」
「あぁいや…あー…まぁ、あんたらには関係ねえよ。俺の問題さ。」
「はぁ…。」

自己完結したレイは下へと降りていく。

「おい、お前は戻らないでいいのか?」
「あ、戻る。…レイさん、彼女いるの?」
「は?っあぁ、言いたかねぇがあの服は全部俺の物だよ。仕事柄女の格好もするって言っただろ。」
「そうじゃなくってなんか部屋に女の人いたから。」
「女ぁ?」
「うん。だいたい私と同じ位かな。顔見て違うって言われた。あとヒントが少ないんだって。」
「へぇ…。まぁ俺に女はいねえよ。俺はエドと違うからな、まぁ第一に似合わねぇしな、俺に女って。」
「そうかなぁ。」
「あぁ、似合わねぇ。」





「おぉ!先生、二人が戻ってきたぞ。」
「結構時間かかったわね?」
「それはいいんだよ。俺は仕事やら無きゃなんねぇからな。」
「あらそう?でもやるべき事はやらなければならないから。お分かり?」
「俺の邪魔をしたいってぇのはよぉ…く分かったよ。ま、話なら終わった後でゆっくり聞くさ。
 俺も言いたいことがあるんでね。」

バチバチと二人の間で火花が散ったように誰しもが見えた。
奏美はなにがあったのか、と想良に耳打ちするが返ってきた返事は「迎えに行っただけ。」だった。
それだけでこんなに険悪になるとは思えない奏美はただそれを見つめるしかなかった。
奏美と想良の空気まで重くなったのを感じたエドが未だ火花を散らす二人に声をかける。

「なんだ、その、先生?なにか話があるから呼んだんだろう?だからまずそれを話してしまおう。」
「…そうね。レイは終わったら、って言っていたから待ってなさいよ。」
「構いやしないさ。さっさと終わらせてくれるとありがたいね。」

レイはそう言ってフッと鼻で笑う。
ダイアナに一睨みされるがそれも気にせず彼は考えをめぐらせていった。

「今回のテストだけど全員合格。それでいいわ。」
「えっ?!あの、ウチは失敗しましたよ!それに姉ちゃんも。」
「あ、の…助けて?そろそろ、ぼっこぼこ…。」
「……。」
「ねえぇえ…?」
「あんたらは何やってんだい。俺にはさっぱりだ。」
「あ、レイ。二人救出してあげて。ただ近くに行くと巻き込まれるから遠距離でね。」
「…しゃーねーな。」

レイは二人からできるだけ下がるとそこから力を使い始める。
アルの胸の辺りがビシッという音を立てて氷が張ったと思うと二人の体を這っていた蔓も凍り動きが止まった。
その間に二人は抜け出し、特にアルは奏音から距離をとり小刀まで構えた。

「何!あたしが何した訳?テストだったんだよ、仕方ないじゃん!」
「いや、でも姉ちゃんくっついたのをいい事に触りまくってたじゃん。そりゃ距離とられるよ。」
「でも武器!武器まで!というか今小刀太ももについてたよね?」
「奏音さん…ごめん、見てなかった。」
「うがあああああ!」

想良の言葉に奏音は頭を抱えてしゃがみこんだ。
その様子を笑いながら見ていたエドが言葉を続けた。

「良い所に気づいたな!実は武器を具現化させるのって結構集中力がいるんだ。
 特に戦いだと武器を避けたり指示を聞かなきゃならないから維持させるのがつらいんだよ。」
「うん、それ位は分かるなぁ。応援とかもたまにウザいんだよね…私は集中したいのにってさ。」
「想良…なんか、うん…。」
「はは、まぁそうかもな。」
「それで、想良はまず問題なく合格。多分近距離型…直接攻撃が主になると思う。
 奏美は中距離からのかく乱ね。フェイントがあなたをいかす事になるでしょうね、私が約束する。」
「うん…あの、あたしは?えっと。」
「奏音は意外性かしら。今までの常識にとらわれないし。独創性は評価に値するわ。」
「おぉ!字書きとして結構嬉しいじゃん!」

奏音は嬉しそうに笑った。それにつられて妹も笑みをこぼす。
だが想良の反応は薄く、どう思っているのかが分からなかった。

「うん。それで私は二週間後に帰るのよ。それまでバッチリ稽古つけてあげる。
 争いがないところなんてこの世界には無いに等しいから基本は知っていないとまずいからね。」
「はぁ…。え、ウチらも闘わなきゃいけないって事?」
「まぁ郷に入ったらっていうし…いいんじゃなぁい?護身ぐらいでしょ。よろしくお願いします。」
「そういう事。私が帰った後でもこいつらに相手してもらえば自然と上達するでしょうし。」
「あたしもかぁ…ま、よろしくお願いしますってね。」
「うん。ウチもよろしくお願いします!」
「奏音も言うなんて意外ね…。まぁ、明日からやるわ、覚悟しててね。今日はもう戻って良いわ。」

ダイアナは三人とそれぞれ握手し送り出す。
人見姉妹は笑いながら今日のテストについて話していたが想良はとある疑問から二人の三歩後ろを歩いていた。
謎の女の子の存在。突然現れ、自分の顔を見て去っていった。
レイにそれを話したが彼は教えてくれなかった。だが、その口ぶりからは存在を知っていたようにも見える。
その正体を知りたいと思ったが知ったところで自分が何をしたいのかが分からなかった。
そもそもあの女の子は自分の目の前に現れることはもう無いだろう。違う、と言ったのだから。
となるとレイに聞かなければならないが、彼からは聞きだせそうにも無い。

「想良?疲れたんじゃない、やっぱりアル君から一本取ったんだしね。」
「マジで。あんな体格差あるのにー…頭一個分以上あったじゃん、すげー!」
「そうだね…疲れたかも。集中力もいるから精神的にきたのかな。」
「だよね!よし、今日のご飯はあたしが作ろう!」
「えー…姉ちゃん料理できたっけ…いっつもコンビニとかか担当さんが作ってるイメージなんだけど。」
「キシは意外と上手いね…でも嫁さんの方が好きだな。でもレオンも結構作ってくれるよ。
 いろんな国行った事あるらしいから各国の料理が食べれて面白いな。」





「侵入者?」
「あぁ、エドも見たみたいだし想良も見ている。どっちも女で、想良曰く自分と同じくらいらしい。
 同一人物と見て間違いないと思う。」

三人が家に入った後、残った三人は顔をあわせて話を始める。
アルは集落のほうへと下りていった。彼は話す事ができないので行動は自由にすることが多い。
もちろん、情報を引き出すことができないから彼らも咎めないのだ。

「俺のと同一人物だったらやばいだろうなぁ。結構手馴れだと思うぞ。」
「だから言ったんだろ…侵入に気づかなかったし、こんな短時間にやられてんだぜ?
 しかも逃げられてるときたもんだ。」
「…レイ?それって初耳よ。……へぇ、逃がした。」
「うっ…お手柔らかに頼もうじゃねぇか。」
「とりあえず対策をねろう、な!」
「そうね…でも、しばらくは来ないんじゃないかしら。」

ダイアナの言葉に二人が顔を見合わせる。
なぜそう、思うのかが分からないといったような表情だ。

「正確に言ったらしばらくは目の前に現れないだろう、という事ね。
 いきなりだったし、想良はパニックに陥らなかったんだったら顔を覚えた可能性が高い。」
「なるほど。でも俺の時は覆面してたぞ…。ただそうだな、肌は白、髪は金で真っ直ぐ。
 目はヘーゼルかな、何となく雰囲気的にだが。」
「ヘーゼル…厳しいわね。変わることの代名詞じゃない、それ。」
「でも覆面してる時点で分からないも同然だしな、まぁまぁじゃねえか?」
「そうね…ま、暗殺には注意なさい。」

その言葉が、この話題の終了の合図だった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.50 )
   
日時: 2012/02/15 18:07
名前: あづま ID:A3byF9ug

「やぁやぁお疲れ!お水はいかがかな?」
「うん、ありがと。」
「いかがかな?じゃないよ!姉ちゃんサボりすぎ、四日しかやらなかったよね?あとこれ今ウチらが汲んできたんだけど。」
「三日坊主のあたしが四日もったんだよ!表彰されていいくらいだわ。」
「まぁ受身とれるし基本は戦えるし良いんじゃないかなぁ。」
「想良!?ダイアナさんの見送りにも来ないし…なんなの姉ちゃん。」
「だって筋肉痛で痛いのに無理矢理やらされたじゃんよ。まじありえねー。つかあれで二十七?
 なんかアグレッシブじゃね?」
「でも礼儀としてさぁー!」
「奏美顔怖いよー?ま、基本くらいなら私も教えられるし。
 私たちがちょっとずつ教えていこうよ。ダイアナさんもそう言ってたし二人に迷惑かけられないじゃん。」

あのテストの日々からちょうど二週間。ダイアナは今朝方帰っていった。
奏美と想良の二人はこの期間で日課となった走りこみと力をつけるための水汲みを終えて家に戻ってきたところである。
時刻はもう空に青みが強くなっている。そんな時間だった。
ちなみにエドは用事があるといって三日ほど帰ってきていない。レイ曰く女のところに行ってるらしい。
「まぁ、女は噂好きだしな…なにか情報聞き出せるかもしれねえだろ?…今まで一回もねえけど。」
こう言ってレイは頭を抱え、それに奏美は心の中で合掌した。

「ま、受身だってできるようになったしあの草を操れるようになったのは進歩じゃん。
 あれはダイアナも知らなかったから独学だし?」
「それをアルやレイにかけるのが問題なんだよ。エドは引きちぎってたけどね。」
「馬鹿力だよね…多分大会でたら優勝できるんじゃない?」
「というより地球と体力というか素質から違うよね。このまえ十歳ぐらいの子がウチより高い枝に
 ひとっとびで乗ったのには度肝抜かれた。百八十くらいあったと思う。」
「すげ…オリンピックだ。」

話しているとコンコン、というノックと同時にあるが顔を覗かせた。
そして手を口に持っていく動作をして見せ、三人は夕食の時間だということが分かった。
下に下りていくとすでに食べるものは並べられていてレイはもう食べ始めている。
各々席に着き食事を始める。

「ねぇ、いっしょに食べ始めようとかない訳?」
「あんたらがさっさと来ねえからだろ…。」
「あー?!あたしらはトレーニングしてたんです!」
「姉ちゃん?」
「してねえだろ、あんたは。ずっと部屋に篭っててよ…豚になるぜ?」
「っ!」

レイの言葉に肩を震わせたのは想良だった。
隣に座っていた奏美はもちろん、あまりの大きな動作に全員の注目が集まる。
当の本人はあまりの注目に一瞬たじろいだようだが目を伏せ言葉をつむいだ。

「…柔道部は…食べなきゃいけない……。」
「いや、あんたに言ったんじゃ。」
「うっわ最低!レイサイテー!!女の子を傷つけたー、うっわだからモテないんだよ女が寄って来ないんだよ!」
「俺の女事情はどうでもいいだろうが!」
「謝んないんだー!あーぁ、もう駄目だね。女の子に自分の意見押し付けて破局だ、これだからレイは。
 もう慰めてもらえよ、男に!」
「なんで男!!」
「女がいいのか!この助平!」
「どうせなら女がいいだろうが!なんで男の俺が男に慰められなきゃなんねえ!」
「男の友情。……え?」
「……。」
「え?」

奏音とレイが言い争っているのを横目で見ながらアルは想良の皿に彼女が好きなものを取り分ける。
これはアルなりの親切心なのだろうが、かえって想良は落ち込んだようでため息をついてフォークを置いた。
これが分からなかったようで想良のことを覗き込むが視線を逸らされたアルが奏美を見る。

「逆効果だよ…。」
「?」
「女心を分かりなさいってことで…。」

奏美に言われても分からなかったらしいアルがクイクイと袖を引っ張る。
席を立ち、アルの耳元で奏美は囁く。

「体重を気にしているのにその人に食べ物を渡す?」
「!!」

ようやく分かったらしくアルは慌てて先ほど想良の皿に分けたのを自分のに戻し頭を下げた。
それに一瞬驚いたような顔をした想良は力なく笑いもういいと言ったのだった。
一方言い争っている二人はもう元の話題が何だったのかが分からない域に達していた。
互いの気に入らないところを言い合っている。まるで、子ども。
ちょうどその時紫色の羽が貼られた筒が窓から舞い込み、レイの目の前に落ちた。
喚く奏美を無視しレイは筒を開ける。そして内容を見るとふ、と息をついた。

「明日…あたり帰ってくるってさ。やっと面倒ごとから抜けられんのかねぇ?」
「何?誰が?彼氏?」
「彼氏ってなんだよ。俺に言ってんのか?」
「まーまー、それでレイ、誰が帰ってくるの?」

奏美が険悪な二人に割ってはいる。
レイは一瞬彼女を睨むが、ニヤリと奏音が笑ったのを見とめ息を吐き自分を落ち着かせた。
そして語る。

「アリーだよ。前に話しただろ?マティーとの双子だって。仕事終えて帰ってくるってさ。」
「あー!そういえば話してたね。」
「あぁ。あんたら二人とは年も近いはずだしこれからは俺じゃなくてあいつに振ってくれ。」
「わかった。でもマティーってどんな子?来ないんだよね?」
「本家の次期当主だよ。女が継ぐからな。気の強い優秀なやつだ。」
「ほお。そういや年が近いのは分かったけどあたしとはどうなの?」
「何歳だよ。」
「二十二。」
「お前が年上かよ!信じられねえ……。」
「え、何歳すか。」
「二十一になったばっかだよ。」
「どーりでかわいい訳だ!そっかぁ、よし!来い!カモン!」

奏音が席を立ち両手を広げるがレイはそれを見なかったことにし食事を再開させる。
眉間にしわがよっており不快感があらわになっている。
のって貰えなかった事に奏音は口を尖らせ、食事を再開させた。





「ぅー…う?」

寝床から起き上がった奏音は辺りを見回す。まだ二人とも小さな寝息を立てていた。
寝ぼけた頭で窓のほうに行けばやっと太陽が昇ったくらいでまだあたりは暗い。
二度寝しよう、奏音は思った。
だが、この世界に来てからというものの早寝早起きが習慣付けられてしまったらしい。
一度起きてしまうとなかなか寝付けなくなってしまっていた。
いくらなんでもこれは早すぎじゃないか?と思ったが起きてしまったものは仕方がない。
水浴びでもしようかと着替えの山から一組引っ張り出しそっと部屋を出て行った。


朝日を浴び、心地よい風が肌を撫でるのを感じながら川へとたどる。
水汲みでもしてやろうと思いつき樽を草に絡ませ一緒に散歩する。
目的の場所が見えてくると一人、先客がいるのがうかがえた。
遠目なので先客が服を着ているのかどうかが分からず、待つべきかこのまま進んでしまうか一瞬迷う。

(ま、怒られたら向こうむけばいいか。)

その人の反応で変えようと奏音は思い進んでいくことを選択した。
ずんずんと進んでいけばその人は薄い服のような物を着ていることが分かりひとまずホッとする。

「見ない人…と能力だね。新入り?」
「あ、うん。ここの集落の人?」
「そうだよ。」

顔も上げず話しかけてきたその人物に一瞬ぎょっとするがここらの人はまるで漫画のように気配を感じているようなことを思い出す。
相変わらず顔を上げないが肌の白いよく通る声を持つ人物だった。
その人物は川下のほうに歩いていき、枝に引っ掛けてあった布――服のようだ――をとり、眺めた。
満足したのだろう、軽く頷くとそれを肩にかけて戻ってくる。そして顔を上げた。
きれいな顔だ。奏音は思った。濡れた髪の毛が顔に張り付き、ジッと奏音を見上げる。
そして川からでて、笑みを浮かべながら囁いた。

「ミス…あなたも女ならそんなに人をじろじろ見るもんじゃないよ、変態さん!」
「はぁっ?!」

もう一度笑顔を浮かべ、その人は集落のほうへと歩いていった。
その後姿を見送った後奏音は服を着たままざばりと飛び込む。
―――きれいとか…前言撤回!
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.51 )
   
日時: 2012/02/25 13:06
名前: あづま ID:Ees/k.XA

「なんなんだよ!朝っぱらからくっ付くんじゃねぇ!離れやがれ!!」
「あぁ〜あん、やだよ慰めてよ!早起きが三文の得なんて嘘だったー!早起きしたら不愉快だぁ!」
「うるせえ!俺は仕事があんだよ、離せ!寝てろ!」
「うあああああ〜!」
「あぁもう…せめて髪の水気とってこい…聞いてやるから、もう……。」

奏音のあまりの騒ぎぶりに結局レイが折れ、彼女に椅子を勧める。
ぶつぶつと文句を言いながらもに投げられたタオルで奏音は髪の毛を拭く。
ため息を一つ、そして奏音は先ほどあった出来事を話しはじめた。

「変態って言われた?事実じゃねえか。」
「そうだよ?ただなんっか…ムカつくんだよね。あの口の利き方がホント…ふふっ。」
「んだよ元気じゃねえか。ほら、もう行け。用は済んだだろ?」
「ひどい…!」
「笑ってる奴の心配した俺が馬鹿だった。ほら、出てけ。」

力任せに部屋の外から出されてしまい、奏音は行き場をなくした。
眠くもないしどうすべきかと考えていると下のほうから物音が聞こえる。
アルが起きて朝ごはんの準備をしているのだろうと考えた奏音は何かつまませてもらおうと意気揚々降りて行った。
階段から見下ろせば確かにあるの頭が見え、どうやら誰かといるらしいという事がわかる。
ただ残念ながら階段の下になってしまいその人物が見えなかった。

「アール君、何かつまま…!」
「やあ、ミス。となると、新しい人たちってこれ?」
「…。」
「これって何?!ちゃんとあたしは人間、人間なんですー?!」
「うるさいよ。全く…ねえアル、この人って役に立つの?残りの二人は聞いたところによると伸びしろありそうだけど。
 この人は完成しててありそうにないんだよね。」
「あああああ!レイ、レーーーイ!!」
「頼りにされてるね。そのまま身を固めてもいいんじゃないかな?」
「……。」

奏音の叫びにレイと寝ていた奏美と想良も起きて下にやってくる。
まだ寝ぼけている想良が奏音が指差しているほうを振り向く。

「あれ?新しい人だぁ。千石想良だよ、よろしくね。」
「想良ちゃん?え、なに紹介してんの!」
「よろしくね。…うるさい。」
「があっ!」
「姉ちゃん!」

想良のほうをむいたまま奏音を飛ばした人に奏美が怒りの声をあげる。
奏音といえば机の角に頭を強打し意識を失ってしまったらしい。アルが手当てをしている。

「ちょっとあんた、初対面でいきなり人をぶっ飛ばすってどういう事?」
「残念ながら初対面じゃないんだ。ま、訓練受けなかったみたいだしね。君なら…?」
「ウチならって…?、!」

冷たい、奏美が感じそれと同時に体を動かす。
避けた瞬間その場所には強いうねりが生じ、周りのものを巻き込んでいる。
つむじ風のようだった。

「ほおら、避けられた。簡単だったでしょ?これを君のお姉さんは避けられなかったんだよ。自業自得だね?」
「はいそこまで。あんまり険悪になってんじゃねえよ。」
「ってー…もう!なんでいきなりあったたたた…!」
「ほら、氷。そのタオルに包んであてときな。こいつはアリー。昨日帰ってくるだろうって言っただろ。」
「アリー…あなたが。人見奏美、よろしく。姉ちゃんはまあ…うん。」
「はああ?アリーじゃないっしょ!ナシーだよあたしにとっては!」
「君ってなあに?本当に分からないよ。あ、そうだ。君達でさ、だれか僕の仕事手伝ってくれる人いる?
 この世界に来たんならさ、知っとかないとなって思うんだ。怖いならいいけど。」

ニコニコ、笑いながらアリーは椅子に腰掛ける。
その目は三人を試しているという目で、まず奏美が動いた。

「いいよ。ウチもただ飯食らいじゃ嫌だし。できることなら手伝う。」
「君かぁ…反射力はあるしいいかもね。そっちの子は?」
「私?…まあ、いいよ。」
「あたしは絶対に嫌だ!ただでさえ萌えが枯渇状態なのに働けだぁ?ふざけんな!」
「あは、いいんじゃない?それでさ、はは、あははは。」
「うっわその笑い方ムカつく。」
「じゃあ僕は準備してるよ。気が向いたらいくからね、それまでお好きにどうぞ、あはは。」





「なんなんあいつぅあー!」
「姉ちゃんなんかやったんじゃないのー?」
「なんで実の姉よりあんなの信用するの?つーかあれなに、ボクッ娘?それなら許す。」
「まあ可愛い感じだったよね。つんつんしててあんまり付き合いたいとは思わなかったけど。」
「デレがありゃなぁ。」
「想良?どうしたの?」
「ううん、なんでも。ちょっと考え事。」
「そっか。あ、走りこみ行く?」
「うん。奏音さんはどうする。」
「いってらっしゃぁ〜い。」

朝食を食べ、奏音はレイには追い出されアルにはどこかに行かれと完全にやることが無く部屋でぐったりとしていた。
アリーに会わないことが彼女の中で唯一のプラスだった。
奏美がため息をつき、想良の声と扉の閉まる音。数十秒後、外からの声で彼女らが出かけたことを確認する。
そこで奏音は目を閉じ、始まりを考える。
彼女はレオンという仕事の担当に息抜きのためといわれあの日、学校に行った。
妹の奏美とその友人の想良を途中で見つけ、レオンに言われた“鏡”の場所に案内してもらったのだ。
そして、気がつくとこの世界に来ていた。レオンは何か、知っていたのだろうか。
寝返りを打つ。見えていた世界は今、後ろに行った。
トン、背中に軽い物が乗る。

「あら、また違う。」
「なにあんたー?…あ、あたしは仕事行かないからね!」
「仕事?別にどうでもいいんだけど。あーあ、怒られる。」
「はぁ?」

背中に乗った存在は下り、窓から降りていく。
自殺?と奏音は一瞬思ったがこの世界の人々は意外と強いので大丈夫だろうと思った。
そして瞼が重くなっていく。あ、寝れるな。と思って意識が途切れた。





「着いたー!」
「なんか息切れしなくなってきたよね。はぁ…まあ疲れるけど。」
「だね。じゃあアリーの仕事?だかもあるだろうしちょっと休もっか。」
「うん。」

二人笑いながら家へと入る。
部屋にいけば奏音は大の字で寝ており奏美がため息をついた。
それから座り、一息つく。

「でもさ、仕事って何だろうね?」
「さあ。だってダイアナさんは想良は近距離、ウチは中距離って言ってたし実際内容は違ったしね。
 だからウチらでもできるような仕事じゃないかな。」
「そうだね。でもなんだろ?」

二人で話すがなかなか思いつかない。
するとタイミングを計ったかのようにアリーが部屋に入ってきた。無断で。

「疲れは取れたかな?まあ、想良はテストだよ。いきなり本番やらせる訳にいかないしね。」
「そうなの?」
「うん。それで使えるって思ったら僕の本番を手伝ってもらう。
 テストは簡単。下の集落でとある内容…密談ということになってるけどそれが話される。
 君は怪しまれずにそれを聞き出して、あるいは盗み聞きでもいい。正確な情報を手に入れる。これだけだよ。」
「つまりスパイみたいな感じ?」
「そう。まあ、君達はもう交流してるみたいだけどテストだしね。本番だったらその地域の慣わしとかも
 覚えなきゃいけないから大変なんだよ。じゃ、制限はそうだね…奏美が僕と仕事を終えるまで。」
「え、ウチら別々?」
「うん。奏美は持久力があるし実践がむいてると思うから見学してもらうよ。明日出るから。じゃ、解散。」

アリーは笑って出て行った。
二人は一緒の仕事をできると思い込んでいたので告げられた内容に驚いた。
別々の仕事…というより体験といった物だろう。

「でもさ、上手くやればいいんだよね。」
「うん。想良は姉ちゃんよろしくね。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.52 )
   
日時: 2012/02/25 13:08
名前: あづま ID:Ees/k.XA

「へー、じゃあ奏美はあいつとお仕事、想良ちゃんは諜報みたいなかんじかぁ。」
「そうだよ。姉ちゃんもさぁなんかやんなよ。あの草というか触手みたいなのじゃ絶対この世界通用しないって。」
「働けってこと?やだー。なんなら旅に出たいよ。萌え探して何万里〜。」
「言うだけ無駄なんじゃない?骨の髄までだよ、奏美。」
「な、納得いかない…!」

夕食だと呼ばれ奏音も起き、アリーからの仕事について三人は話していた。
まだ本格的な物ではない、いわば体験のような物だとはいえ二人は与えられた物に胸を躍らせていた。
反面、暗い顔をしているのはレイである。

「なぁ、集落の奴らまで巻き込むことか…?」
「本格的な方がいいじゃん。ただ仕事のほうは経験積んでからじゃないと。へまされたら困るし?」
「まあ想良の方はいいぜ?でも奏美のほうはどうだ?見学とはいえ実践の場所に連れてくんだろ。
 危ねえじゃねえか。それにお前の苦労も…。」
「別にー?レイ、奏音と一緒なのが嫌なだけでしょ。正直に言いなよ、僕も分かるし。」
「はぁ?!嫌って何嫌って!」
「嫌よ嫌よも好きのうち〜。アルもいるしさ、頑張ってよ。」
「あたしの事好きなの?」
「それは一生ねえ。」
「ひでえ。」

しかし奏音は落ち込んだ様子も見せず皿から取り分けて食べている。
届かないところにあるのはアルに取ってもらっている。
それを目で追っていたレイは小さく息をついた。

「俺が言いてえのはよ、こいつらの世界は戦争がないんだろ?だったらいきなり実践の場は辛くないかって事だ。」
「世界ではまだあるよ。日本は戦争しないからねー。」
「そうなのか?へー、俺が知ってんのは内乱って感じのところだしなぁ。時代いつだっけ、慶長と元和あたりだよな。」
「慶長…え、戦国時代らへん?」
「さあ。ばあ様がそこら辺の人なんだよ。まあもう死んでるし。あ、女が家継ぐって言ったろ?
 あればあ様が二年かからずして無法者束ねあげて一国統治の補佐まで成り上がったからさ。というよりよく知ってるな想良。」
「いや、母親が歴史好きでね…。グッズ溢れかえってるんだ。でも奏美がやばいっていうのは?」
「ようするに血とかそういうんだよ。俺は戦なんて当たり前の世界で生まれ育ったけど始めてのとき立ってられなかったし。」
「でも…ウチ、やるよ。通らなきゃいけない門だろうし、いつか通るんなら早めにやりたい。」
「じゃいいじゃん、レイは心配性だよ。ま、捕まったとしたら見捨てるからね。」
「お前…トリクシー呼ぶぞ?」

“トリクシー”という言葉にアリーは思い切り反応を示した。
先ほどまで人をからかうような目をしていたが今は感情が読み取れないほど暗い。
明らかにそれに対しマイナスの感情を持っている。

「…捕まったら救出の努力するよ。」
「なら良いんだよ。っつうか本当にトリクシー嫌いかい?」
「嫌いじゃないよ!ただ、なんか…。あ、もう準備だからいくよ、じゃね。」

アリーは慌てて皿に残っている物を掻きこみ足早に部屋を去っていく。
それからどこかで扉の閉まる音がし、無音になった。
アルも程なくして階を上がっていった。

「あの、トリクシーって?」

奏美が口を開く。

「あいつの結婚相手…政略だけどな。さばさばしてる性格だから押されてんだよ。」
「え、結婚?まだ若いよね?あたしより年下なのは分かるけどいくつ?」
「アリーか?十六だ。アルは十七だけどやつら同い年だぞ。この間十七になったはずだから。」
「へー…私達と同じくらいだと思ってたけど年上。あ、言葉遣い変えたほういいのかな。アリー先輩アル先輩?」
「いやいいよ。あいつらそういうの好きじゃねえし。
 …奏美、何があっても生きろよ。戦がない世界なら精神的に来るだろう。俺もできたら途中からでもいくから。」
「お気遣いありがと。でもいいよ、レイも仕事あるだろうし。心配しないで。」
「そうか…。想良も気負うなよ。難しいだろうからな。」
「うん。レイさんて優しいねえ…。」
「あたしは?」
「お前は俺に迷惑かけるな。だったら何しようが構わねえ。」
「あいかわらずひっでえ!」

奏音が言うがそれは颯爽様式美となっておりもうだれも反応しなかった。





まだ夜も明けきらない時刻。頬を撫でる風によって奏美は起こされた。
眠気の抜けきらない頭でそういえば仕事の見学をするのだということを思い出す。
ただ明日、とは言っていたけど早すぎるだろうと思った。
起き上がり伸びをすると小さな紙切れが宙を待った。
それは人の形をしていて、奏美はどこか夢を見ているようにそれについていく。
部屋を出、階段を下りる。
そしてひとつの部屋の前に行くとはらりと落ちた。同時に奏美の夢のようなものも覚める。

「入って。確かめたいから。」

中からアリーの声がして言われるままにする。
その部屋の中は武器や、奏美にはよく分からないもので埋め尽くされていた。明かりと共にアリーが出てくる。

「君は僕ら兄弟とは大きさが違うからねー。しいて言えばレイが近いかな。」
「え、ウチに必要なの?」
「そりゃね。ある程度は自分の身は自分で守ってよ。だからこれ…ナイフとかあとクナイ。
 日本人だし存在は知ってるよね?」
「知ってるけど…使い方なんてよく分からないよ。むしろ使う人がいない。」
「壁登ったりとかね。まああると便利だよ。あととりあえず胴体と足…これ付けてね。じゃ、外でねー。」
「え、教えてくれても…!」
「大丈夫大丈夫、じゃ、五分で。」

奏美の声も聞かずアリーは部屋から出て行ってしまう。仕方が無いのでまず渡された鎧のようなものを見る。
漫画でモブが着ているのを見たことがあるような、いわゆる飾り気の無いものだ。
どうせならもう少し可愛げのあるものが、と思ったが首を振る。
自分より身長が高いのはエドとアルだがエドは体格がよすぎるしアルは背が高すぎる。
それに自分の身長で女らしいものなのほとんど無かった。
ふと元の世界の事を思い出し寂しくなる。
だが、そんな事を思っている暇など無い。自分は今、戦に行くのだから。
記憶と想像を頼りに鎧を付ける。
難しいだろうと思ったが、位置さえ合えばどうやら勝手に装備されるらしい。
立ち上がると重さによろめいたがこれも大事なことだと思って一歩、前に踏み出した。

「あ、来たんだ。」
「うん。…なにそれ。」
「歩きで移動したいって言うんなら良いけどね。でも重いと思うよ〜?」
「移動手段なの?」
「うん。乗って。なにがなんでも覚えてもらわなきゃ。」

アリーに促され機械に足をかけ、立つ。
その後ろからアリーも乗り、補助具を持ち手に掛ける。
すると一瞬機械が光り、アリーの声と共に空へと舞い上がったのだった。

「飛んだ!凄いね、これ!」
「そう?まあこれ滅多に使わないしね、目立つから。」
「え。」
「説明するよ!今回はさる大国同士の衝突、僕は片方の陣…要を混乱させる。多少は殺すよ!
 で、上手くいけば本家が仕える所と同盟。ま、固い国だから混乱させて戦を立て直させるのが精々かな。
 時間を稼ぐのがあくまでの目的、でも攻撃されたらいくらでもぶっ殺してね!」
「殺す殺す…って物騒だよ…。」
「それが当たり前だから!あは、楽しみだね、仕事だ、仕事、あはは!」
「ちょっとー…。」

後ろで笑い出したアリーに抗議の声を上げるが届いていないようだ。
ただ、木の上におろすのでできるだけそこから動かないように、もしなにかあったら飛び降りて
自分のほうまで駆け抜けてくるようにとの事だった。
あまりにも中途半端な指示に、奏美はだんだんと心配になってくるのだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.53 )
   
日時: 2012/02/28 20:40
名前: あづま ID:kGhJ4l4c

光が顔に当たり目を覚ました想良はすでに奏美がいないことに気がついた。
それにどうやら今日は自分が一番遅かったらしい。
いつもは大口を開けて寝ている奏音も今日はすでに起きているらしく、下から声が聞こえてくる。
そういえば奏美達はいつ帰ってくるとは言わなかった。
今日すぐ帰ってくるとは限らない。もしすぐ来れるのならば時間の条件に無理がある。
ご飯を食べたら集落に行ってみよう、想良は思い下におりて行く。

「あ、想良。起こしたほうがいいか迷ったんだがな。」
「寝坊かな。ごめんなさい。」
「違うけどな、お前が起きて来ないなんて珍しいからさ。体壊したのかと思っただけだよ。」
「レイってあたし以外には優しいよね…。」
「そりゃおめえが余計なことばっかりするからだろ?普通にしてりゃあそれなりにはするさ。」
「これがあたしの普通なんですけどね?」
「世間一般で、な。お前基準だったら一生俺は区別するね。」
「奏音さん頑張ってよ。いただきまーす。」

朝食を口に運びながら想良は考える。
走りこみや水汲み等、日課としている物が終わり時間があった場合集落には顔を出している。
人数が数十人位しかいないのでもう全員の顔は覚えている。溶け込む、という第一段階はないに等しい。
となるとやはり情報収集が大きな鍵となる。
だが、相手はプロだろう。そう簡単にはいかないはず。
どうすれば情報を聞きだせるか、想良は悩んでいったのだった。





「まだ着かない?」
「とりあえずあの山におりてそれからふもとの陣まで移動。そのまえにお前を木の上にやらなきゃなんないけど。」
「ってことはあと一時間もすればいいかんじ?」
「そうだねー。あは、楽しみー。」
「……。」

朝、日が昇る前に出発したが今はもう日も高く上がっている。食事などは空を飛びながらということで非常に食べづらい。
アリーが風の抵抗を少なくしてくれているとはいえ、地に足をつけ食べることが常の奏美にとっては苦しいことだった。
アリーが指した山がぐんぐんと近づいてくる。それに比例し、奏美の心もだんだんと重くなっていった。

「よーし。ちょっとこの木の枝乗って、重くてもある程度この太さなら耐えられるはずだし。」
「それウチが重いって言ってる…?」
「僕よりは重いんじゃないのー?はいさっさと乗る。」

不安を覚えつつ木の枝に足をかける。
それは少し揺れはしたが折れる気配はない。すこし、不安が薄れた。
続いてアリーも同じ枝に移り、先ほどまで乗っていた機械を叩くと小さな音を出し消えてしまった。
補助具を付け直したアリーが奏美の手を取り説明する。

「すぐ、って訳じゃないけどあそこに陣が見えるでしょ。…壁も作らないかぁ、自信家なのかな?」
「え?」
「別に。一番こちら側に座っているのが今回の標的。野戦が大好きな人。よく見えるね?」
「うん。でもこれ近くない?百メートルないでしょ。」
「もしも君に何かあったら僕が困るからね。じゃ、よく見ててよー。」

ニッ、と笑みを見せアリーは木から飛び下りた。そしてすぐに走って行ってしまう。
奏美は自分がいなくなれば困る、と言われた事にドキリとしたがそういえば誰かを呼ばれるのだったと思い出す。
なんだか残念な気がして、それに気づいて首を振った。

(政略とはいえ、結婚してるんだよなぁ。なんか嫌いって訳でもなさそうだったし。)

奏美は昨夜のことを思い出した。
レイに結婚相手…トリクシーと言ったか、その人が嫌いなのかと言われた時すぐに反論していた。
それでもなんだかやりきれない気持ちで頭を抱える。

(つり橋効果だ…空、飛んだし。…ていうか、女?だし…。)

なんとなくもやもやとした感情を抱えつつ奏美はアリーが行動するのを待った。





「こんにちはー。」
「あ、ソラだ!ねぇ、またあれ折ってよ!」
「いいよ。今回は何がいい?」
「とぶやつ!」
「いいよー。じゃ、前とは違う奴作ってみよっか。」
「やったぁ!」

朝食を食べ終え、集落にやって来た想良はどうするべきか分からずいつもと同じように子供達と遊んでいた。
初めて行った時子どもでも武器を携帯しているのに驚かされたが今はもう慣れてしまった。
それに、社会の教科書に乗っていた写真を思い出し戦争なんだなぁと思ったくらいだった。
子どもは戦争の為の兵器じゃない…銃を持った子供とそんな字が書かれていた物があった気がする。

「はい、できたよ。」
「うわぁすっごーい!」
「ソラってすごいね!紙だけで色んなの作れちゃうんだね!」
「練習すればみんなもできるよー。」
「でも俺角があわせらんなかったじゃん。ソラがすごいんだよ!」
「私も最初そうだったよ。でもずっとやれば自然とできるようになるから。」
「ふーん。あ、待てよ!もってくなよー!」

子どもたちはなぜか折紙に夢中だ。
自分が何か作るたび、時には大人も混じり出来上がった物を見に来るのだ。
紙があればと教えたりもしたがきれいにできたのは技術者と呼ばれていたほんの数人の人だけだったのだ。
ほとんどの人は角を合わせるという初歩で脱落してしまった。
それで想良も技術者にならないかと言われたがその時はやんわりと断ったのだった。

(…もしかしたら。)

これは、使えるかもしれない。
でも、いきなり修行させてくださいは変だ。自分は一度断っている。
ならば…もっとすごいのを作ってみればいいのだろうか。

「ねえみんな、もっと細かいの作ってみようか?」
「え、これよりすげえのできるの?」
「じゃ、見ててねー。」

以前、一度だけ折ったことのある物を思い出しながら折っていく。
ただし結構前、記憶もあいまいなので難しかった。
細かいのを折る、という言葉に大人を連れてきた子供がいた。想良は目を上げ、しめたと思う。
自分をスカウトした人だ…。確か、ラリーと名乗っていた。

「はい、できたよ。」
「箱だよね?」
「そうかなぁ?」

箱にしか見えないという子供たちの前で組み替えていく。
すると箱だった物が花の形になった。
皆おもわず感嘆の声をあげる。

「わぁ、すっごーい!」
「お花だ!ソラってどうしてこういうのができるの?」
「あー…どっかで読んだんだよ。」
「じゃあそれ思い出したら教えて!ね、いいでしょー?」
「そうだねー、いいよ。」

そしてまた箱に戻すと子どもたちはさらに声をあげた。
そろそろ日も暮れてきたので帰ると言うと駄々をこねる小さな子もいた。
それを先ほどの技術者がなだめる。

「じゃあ、私はこれで。またねー。」
「ばいばーい!」

想良が坂道を歩いていると、後ろから一人走ってきた。先ほどの技術者である。
声をかけられ後ろを振り向くと、その人は息を切らせていた。

「あの?」
「あぁ、やっぱりさ、君技術者にならないか?一枚の紙からあんなに作れるんだ。絶対、いけるよ。」

彼の言葉に想良はやった、と思った。

「でも、私そういうの全然やった事ないんで…。」
「そんな、おれが教えるから、な?」
「うーん…じゃ、行けるときに……っていうのは?」
「いいよ!おれ歓迎するぜ!じゃあ、よろしくな!待ってる!」

想良の返事を聞きラリーは来た道を走って帰っていった。
途中、転んだのを見てなぜ彼が技術者になっているのかが分からなかったがそれを知るのは後の話だった。
一歩前進したように思い、想良の気持ちも晴れやかだった。

「ただいまー!」
「お、元気じゃねえか。前進したな?」
「分かるの?」
「だって隠してねえだろ?素人でも分かると思うよ、そんなんじゃな。」
「そっかぁ。あ、私技術者になります!ラリーさんにスカウトされました!」
「ラリーか…。あいつ鈍くさいからな…お前、使われんじゃねえの?」
「そうかもしんないけど…。」
「アルー、さっさと俺に飯くれ。奏音が起きねえ内に食ってさがっからよ。」

例の言葉にアルが今日の夕食を運んでくる。
それを急いで食べたレイは自分が部屋に入るまで奏音を呼ばないようにと念を押し階段を上っていった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.54 )
   
日時: 2012/02/28 20:42
名前: あづま ID:kGhJ4l4c

奏美と別れた後、アリーは少し離れたところで様子を伺っていた。
陣の周りには見張りがいない。さらにここの陣大将と言ってもいい軍師を守る人もあまりに少ない。
両脇に屈強な男を置いている。ただそれだけであった。
余程自分の策に自信があるのか、それとも罠があるのか…。
できるだけ音を立てず反対側へ回ればやっと、見張りを確認する。
どうやら、陣との通信手段を持っているようだ。ならば、気絶させないほうがいいかもしれない。
フッとアリーは笑うとそこから一直線に陣へと躍り出た。

「おや…来るとは思っていたけど、小さな子が一人?」
「敵国じゃないよ、僕はね。…攻撃、しないの?」

アリーの言葉に軍師の両脇に立っていた者たちは眉をひそめ、武器を構えた。
殺意がない…と思った刹那、後ろからの物音に気づきパッと避ける。後には、針が刺さっていた。
そしてそれがつながっている先には兵士。数十人だろうか。

「囮?…僕は敵側じゃないんだけど。」
「攻撃して欲しかったのでしょう?小さな子。」
「そっか。」

腰に下げた剣を取り軍師に近づき、相手側に攻撃を躊躇させる。投げられたのは針、少しでも間違えば軍師も犠牲だ。
彼の髪を掴み無理矢理顔を近づけ、囁く。

「攻撃されたから、反撃しても、いいよね?」

返事など待たずアリーは背後にいる男の首を一突きする。
なんの抵抗もなかった所から見てどうやら彼らは見せかけ。見た目のみ強そうな男を侍らせていたようだ。
反対側に移動するついでに軍師の片方の腕も刺す。士気は下がるだろうか。
もう片方の男も胸を一突き。
男が苦痛叫び声を上げのた打ち回る。ぬらぬらと口から血が溢れ出てきたのをアリーは目の端で捉えた。

「あ、少しずれちゃった。ごめん、もう助からないよ。」
「あなたは…!」

軍師の怒りの声を背後で聞き、思わず笑みがこぼれた。
止めをさそうと構えた剣を男の服で血を拭く。そしてやって来た一隊を眺める。
後ろを取られてはならないので脇によけ、アリーは今回の目的を話す。

「僕がここに来た理由は簡単です。僕が仕える国にフェビアン様、あなたの頭脳を貸していただきたい。」
「人を殺したあなたに、誰か力を貸すと?」
「そう。…この言葉遣いはやだな。じゃ、覚えてもらうだけにしよう!」
「…油断をせず、捕らえなさい。おそらくどこかの国のスパイでしょう。吐かせる様に。」
「あは、捕らえる?」

針が飛んでくる。しかも先ほど飛ばしたのより倍近くいる。
力を使えばどれを得意とするかがばれてしまうのでアリーは乗り気でなかった。
突風が吹き、針の軌道が乱れる。何本かは味方に当たったようだ。
針につながれた糸で腕やらが切られてしまった人もいる。

「あ、毒針か。苦しいね、楽にしてあげよう!」
「が、あっ!」
「あは、麻痺薬だろうけど。まぁ、攻撃をした相手の動きが鈍ったら斬るよね、軍師様?」
「……。」
「顔青いよ?あ、これちょうだい。切れ味良さそう。」

すでに血にまみれ斬る事が難しくなってきた剣をしまい、針の効果に苦しむ一人の兵士から剣を奪う。そして一突き。
どさりとこと切れた兵士を盾にし、小隊の体長と思しき人物まで突き進む。
アリーが近づきよく見てみればそれは先ほどの見張り兵のようだった。

「殺しとくべきだったね。おやすみなさぁい。」
「貴様…!」
「おっと。」

それは自分から刺されに来た。しかも腹だ。
そして剣を持っていたアリーの右腕をしっかりと掴み逃がさないようにとする。
後ろからまだ残っている十五人ほどがやって来る。
アリーは靴に仕込んである仕掛けをもう片方の足でいじりだす。

「ごめん、利き腕は左だから。それに、至近距離でくらいたいの?」
「なにを?」
「はは、分かるかな?」

アリーの言葉に男は身構える。どんな大技が来るか、近づいてきた一段も離れたところで足を止めた。
その男の足に沿いアリーは足を上げる。鎧のほんの隙間…太ももの付け根にずぶり、とやった。

「麻痺薬でしたー。なんかの技じゃなかったね!僕が作ったの、どう?」
「…!っ、…!」
「喋れなくなるほど効果はいい、ただし怪我人。改良しなきゃね。協力ありがとう!」

奪った剣を彼の心臓へ突き刺し、彼の剣は奪い取る。そして後ろからやって来た人たちに向かい隊長を投げ飛ばす。
ビクビクと痙攣し始め、泡を吹き死んだ。どうやら一人、体長の体を貫通したそれに巻き込まれている。
眉間を刺し、苦しみから解放した。
しかしその時、頭の中がさめるような、不思議な感覚が襲う。
直感から言うとそれはフェビアンが関わっている。どんな攻撃がくるか、アリーは構える。

「…?軍師様、戦う?」
「…捕らえ、なさい。」
「基本姿勢は変わらない…かぁ。策は曲げることも大切だよ。…ん?」

攻撃されるか、という警戒も必要なかったようだ。
しかし拭いきれない違和感にアリーは心の中で焦る。相手の意図がよくわからない。
自らの薬にやられ、鈍く呻く喉を切り裂く。これは救いなのだ、とかつての言葉が頭にこだまする。
動けない七人を始末することなど造作もなかった。始末し終え、一息ついたところに剣を捉えた。
不意打ちに思わず男の腕を掴んでしまう。
間髪いれず針の攻撃が踊り、それを男を盾にしながら防ぎつつ左手で剣を抜く。
痙攣する男に止めを刺すと数泊後右腕に重さがかかりよろめいた。
そしてまだ動ける戦う意思を持つ兵士らを相手にしていった。
結局残ったのはアリーと軍師フェビアン、そして怖気づいたのか両手を挙げ不戦の意を表している二人だけだった。
生かしておいたあの男もいつの間にかこと切れている。

「何人殺した…?あ、でも七人は自爆みたいなもんだし十六人かな?うわぁ…。」
「な…おま、え……。」

力が抜けてしまったのだろう、軍師は崩れ落ちた。
アリーが覗き込めばはらはらと涙がこぼれている。思わず笑いそうになるのをこらえアリーは言った。

「信頼してたんだね、兵士のこと。それとも自分の策かな?軍師様は策に酔ってる気がするよ。
 策だけを愛してる。」
「……いきなり、なに…を?」
「殺した奴の仲間にならない?君の策は敵を殺してる。それに、君の軍にも戦死者はいるでしょ。
 君の策は味方も殺してるんだよ。自覚してる?」

喋らないか、アリーは思った。
さすが、名の売れている軍師だけある――

「……。」
「策の、うわべだけを愛してそうだね、軍師様。こんなに殺されたのって初めて?
 それとも目の前でこんなに味方が死んだのが初めて?死を自覚したのが始めて?ま、軍師様は優秀だもんね。」

淡々とつむがれるアリーの言葉にフェビアンは涙を流し続けていた。
水音と、しゃくり上げるのが静かになった陣の中に大きな音を出す。
目をぬぐう手を押さえ、先ほどと同じように髪を掴みアリーは自分のほうを向かせた。
途端、ジクリと身体が熱を持った。アリーは違和感の正体をなんとなく悟る。
唾を吐きかけられ、さらにぬかるんだ地に汚されるのも構わずその顔をじっと見つめた。
片腕は押さえられもう片方は刺され動かすことができないようで抵抗をしない。
涙を流しながらも睨まれている事にアリーは何かを感じながらその顔を見続けた。
口を開きかけたその時、何かが風を切る音が聞こえた。
防御をしようとした瞬間、それに腕をつかまれる。

「アリー…やりすぎだ。」
「エド!女はもういいの?」
「はぁ…お前戦闘狂なのは知ってたけどここまでやるか?」
「徹底的に、だよ。あは、痛いなぁ。爪食い込んでる。」
「奏美がいること覚えてたか?」
「忘れてたなあ。でも今回抑え目だったし?」
「馬鹿!これトラウマ確実だぞ。」
「でも戦地行ったらひどいでしょう。これくらい耐えないと。」
「あーあ、いいや。俺奏美迎えに行くからなんとかしろよ。」

軽く手を振り、フェビアンに小さな声で侘びをしたエドは奏美がいる方向へと歩いていく。
その後姿を見送ったアリーはフェビアンに向き直る。

「まあ、ご検討のほどをって事で。」
「……。」
「じゃね。」
「…こい。」
「は?」
「私は国の塔にいる。来れば分かるだろう。もし、誰にも見つからず私の希望をかなえてくれれば。」
「契約成立?」
「いいだろう。」
「そう。じゃ、お楽しみに。」

軽く笑って、エドの後を追う。
なぜだかあの軍師と会えるというのが楽しみでならなかった。しかし、それがなぜなのかは分からなかった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.55 )
   
日時: 2012/02/28 20:43
名前: あづま ID:kGhJ4l4c

翌日いつもより早く起きた想良は日課を終わらせ朝食を食べてから集落へと向かった。
武器や力の練習をしている子供たちに声をかけ、技術者が住む家へ向かう。
そこは仕事場と居住場所が一つになっており、技術者とのその家族は皆いっしょに暮らすのだ。
仕事場を覗けば今まさに何かを作っている。
邪魔になってはいけないと思い想良は裏の方…居住場所のほうに回った。

「あ、ソラー!今日はもう終わったの?」
「そう。それでね、ここに弟子入りすることになったから来たんだよ。」
「ほんとー?じゃあ俺といっしょにやろっかぁ!」

キルシと言う技術者の最高責任者の息子がやって来た想良に気づき、彼といっしょに行う事となった。
ラリーはキルシ曰く今は絞られているそうだ。どうやらヘマをやったらしい。
だが、それもいつもの事なのだと言う。むしろ、起こられない日が彼には無いと言っても過言ではないようだ。

「おかしいよな、なんでラリーが技術者なれたんだろ。」
「なんか素質じゃないの?すごい事ができるとかさ。」
「ラリーの親も技術者だったのは知ってるんだけどさ、あの人達はすごかったってきいたよ。
 でも死んじゃったんだよね。」
「そうなの…?」
「うん。戦に出てそれっきり。俺も姉ちゃん死んじゃったし、母さんもいない。」

想良は声を失った。
まだ十にも満たない子供の口から淡々と紡がれる死について考えさせられてしまったからだ。
彼らは常に死と隣り合わせ。
戦争なんてとっくの昔に終わってしまった、むしろ経験した人など既に皆死んでしまった時代を想良は生きてきた。
それを知ることができるのはもう、本や漫画やアニメといった経験者が原作をしていても所詮は架空の物しかない。
ふと、奏美のことが頭をよぎる。
大丈夫だろうと思っていたが彼女は今戦場に行っているはずだ。
死という自分よりも小さな子供から言われた言葉で実感し、ぐっと胸が締め付けられた。

「ずるいよね。」
「え?」

突然のキルシの言葉。
思わず聞き返す。

「丘の上の人達。いつの間にか来て、勝手にここを治めるようになったの。」
「そうなんだ…。」

エドたちの事だというのは深く聞かないでもわかった。
この集落はあの家から見下ろせる。
今まで考えたことも無かったが、それは権力…力の差を表していたのかもしれない。

「あの人たちが来てから、俺たちの集落で死ぬ人が多くなった。
 姉ちゃん、結婚する直前だったんだよ?それなのにあいつらが仕事だって言って、五人連れてった。
 みんな、殺されたんだ…。」
「……。」
「仕事は分かってる。あいつらが来る前から戦争に行くこともあったって父さんが言ってた。
 でもそれってみんな男だったんだよ。あいつらが来てから女も行くようになった。」
「うん…。」
「こっち側は死ぬ人も多いのにあいつらは来てから誰も死んでない。おかしいよ…ずるい…!」

キルシはそれきり黙ってしまった。
顔を見れば、泣いていた。
隣に座って肩を抱く。何も言われなかったので想良はそのまま隣に座り続けた。
想良は思った。
自分の、平和ぼけした価値観から言ってもあまりにい酷くないかと。
戦争があれば、誰かしら死ぬ。誰が生き残れるかだなんて誰にもわからない事だ。
でも、結婚する前の人を連れて行くなんてあまりにも残酷すぎる。
眠ってしまったのか、もたれかかって来たキルシを起こさないように運んで行った。
するとそこへラリーがやって来た。いつもは持っていない、仕事道具を抱えている。

「ごめん!なんか子供達が来てたって言っててさ、あれ?」
「あ、キルシ君寝ちゃって…。」
「そうかぁ。珍しいなあ。いつもおれ玩具になってんのにな。どうしたの?」
「あの…。」

想良はキルシから聞いたことをすべて話した。
はじめはラリーの事も入っていたのでためらったが彼が促したので続けた。
一度話してしまえば後は最後まで次々と言葉がつながっていった。
次々と出で来る言葉に想良自身驚いていた。
ラリーは何の感情も見せず、ただ彼女の話を聞いていた。

「そっか。」
「うん…。」
「死人が多くなったのは事実。でも、戦に出るようになってお金も回るようになったからなぁ。
 誰かが死ねば、その分お金で解決しようとしてるのか分かんないけど貰えるからね…。」
「お金かぁ…。」
「そうなんだ。……現状、あの人たちに不満が出てるのもおれは否定しない。いずれ君の耳にも入ると思う。
 でも君は君の信じるようにいきなよ。信じれば、それが救いになるだろうしね。」
「そうだね。うん、私は私のやりたいようにするよ。よし、これからご教授よろしくお願いします!」
「あー…その事なんだけど。」
「え?」
「今日さ、これから集会があって…。想良はよくここに来るけどここの人間じゃないだろ?
 だから駄目でさ…いつ終わるかも分かんないし、明日からでいいかな。」
「そっかぁ、残念。」
「どこに住んでるか教えてくれたら迎えにいけるんだけど、お忍びって言うし、ね?」
「うん。ごめんね、迷惑かけちゃって。」

ラリーは首を振った。
そして別れを告げ、集会場といわれている建物に躓きながら走っていった。
それを見届け、人が見ていないことを気にかけながら家へと戻っていったのだった。





「あーお帰りー。」
「ただいま。奏音さん、レイさんは?」
「なんか部屋篭っちゃってさぁ、あたし締め出されちゃった。ひどいよ!」

机をたたき、奏音は突っ伏した。それをアルが慰めるように肩をなでる。
それをいい事に奏音はアルに飛び掛り、二人で床に転げ落ちた。アルは不快そうな顔をしている。

「いだ、いったたあ!ごめん、でも絹の肌っていうの?なんかもうキュって吸い付いてくるから。
 あたしの手に絡み付いて、あ、ごめん!痛い、いたた!」
「奏音さーん…、アル君もやめなよー。力の差っていうのがあるじゃん、ね?」
「……。」
「いでっ!舌打ちされた…!」

想良の一言で手を動かすのを止めた奏音をアルは舌打ちして避けた。
先ほど気にかけていたとは思えない扱いで、奏音は思い切り床に叩きつけられてしまった。
そしてアルは椅子に腰掛ける。我関せず、といった様子だ。

「……。」
「ひでー。想良ちゃん、収穫ってあった?」
「集落の人は不満を持ってるってだけ…。キルシ君泣いてたしなぁ、よっぽど圧政なのかなぁって。」
「想良ちゃーん、もう!演技でしょ、これ。」
「あっ。」
「忘れてたんだ。でもそれを忘れさせるくらい演技がすごいってことか。すごっ。」

集落の人々を巻き込んでいる、それはレイが言っていたしアリーも認めていた。
感じていたものが一気に解けていくのを想良は感じた。

「あれじゃない?小さい子にも演技の教育みたいな。実践に勝るものはないだろうしこっち側に
 スパイが来ないのは怪しすぎるもんね。」
「あぁぁー…じゃ、あれだ。あの集会とかも後つけるべきだったかな。」
「今から行けばいいよ。むしろ一回こっち来て正解じゃない?」
「なんで?」

想良の質問に奏音は笑う。アルはやはり迷惑そうで上へといってしまった。
それを見て奏音のテンションも若干下がる。

「すぐつけてったら逆に警戒心もあるだろうし、一回帰って安心させられた。正しかったんじゃない?」
「そっか…奏音さんすごいね。私ならぜんぜん分かんなかったよ。」
「漫画とか資料変わりに読むしね。そういうシチュが結構あるのよ、頑張って来て!」
「うん、行って来ます!」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.56 )
   
日時: 2012/02/28 20:46
名前: あづま ID:kGhJ4l4c

家を出、想良はできるだけ急いで集会場へとやってきた。集落に入るまで、誰にも会わなかった。
いつもは来ればすぐに子どもたちに囲まれていたので疑問に思っていたが、集会場をのぞいて解決した。
小さな子どもは皆、隅のほうで眠らされている。喋ってしまう危険性が多いからだろうと推測した。
見つかってもすぐに逃げられるよう、常に走れるようにしながら想良は聞き耳を立てた。

『一番上のは一対一の対人戦を得意にしている。』
『それは本当か?』
『あぁ、戦いに行ったことがあるからな、間違いない。ただ力任せにやることが多いからな。
 力の程度は未知数だが大雑把だ。避けることに専念すれば相手の疲労を待てる。』
『それにあいつは女たらしだろ?いざとなったらあたしらが相手するさ!』
『そうだな。女衆が上を相手取ろう。自由にやっていい、それがあいつらの口癖さ。
 なら俺らも自由にやろう。…反乱だがな。』

どうやら密談というのは自分たちに対する反乱のことの様だ。
しかも、仕切っている男の言葉から考えて自由に話していいというようになってるようだ。
想良には諜報の訓練、集落の子どもたちには演技、そして自分たちの弱点を知る。
なかなか上手い方法だ、と想良は感心した。
そして今まで話していたのはエドの事。力任せの攻撃をやめ、戦略をやればいい。そういう事か。

『二番目はどうだ。あいつは脅し程度にしか力を使うのを見たことがない。』
『こちらも。相手を苦しめたりとかそういうのをやってはいないな。生かしておいたらどうだ?
 金をもらうにはあいつらのパイプが必要じゃん。』
『オレ、二番目は違う国の格好とか女の格好してんの見たことあんの。で、一回出かけると長い時間いない。
 短くても一ヶ月。非戦力の諜報だな、簡単に落せる。そんで人形にしちまえ。』
『…まあ、ある程度はまともだしな。捕まえて薬漬けにでもして、俺らの人形にする。死んじまったらそれまでだ。』
『賛成よ。あの男は個人的に嫌いなの。あたしに任せてくれる?』
『妹の事は忘れろ、ナタリー。』

ナタリー、彼女はどうやらあの人たちに強い恨みを持っているという設定らしい。
というよりも、強い恨みを持っている女は複数か。彼女の発言で、エドは女衆が相手をするという事になった。

『三番目はどうだ、ラリー。』
『おれ…?』

戸惑ったようなラリーの声に想良もびくりと体を振るわせる。
恐怖に満ちた、しかし逆らえないというのが姿を見ないでもわかる声だったからだ。
演技でこんな声が出せるのか、想良は思わず口を押さえた。

『当たり前だ。あいつと一緒に仕事に行って帰ってきたのはお前だけだ。なにかあるだろう、ラリー?』
『……。』
『どうした?』
『おれは、その…具合悪くしちゃって、休ませてもらってたから、その……。』
『嘘はよくないぞ?ここにいられるのは誰のおかげだ?お前の両親ではない。
 お前の両親の戯言に付き合ってる我らのおかげだ。力のないお前を養っているのだぞ。』
『…アリーさんは、』
『名を使うな。』
『三番目は戦闘狂。闘ってるうちにだんだん狂って行って、楽しみ始める。
 …これ以上は知らないよ、もういいでしょ…。』
『力の種類は?』
『知らない。』
『嘘を言うな!力のないお前を殺すことくらいどうってことはないんだ!』

一瞬の静寂の後、ラリーの悲鳴が響いた。
あまりにも痛そうで、想良は思わず小さく悲鳴を上げしまったと思う。
何も考えず、いそいで積みあがっている木箱をよじ登り屋根の上に飛び乗る。
しかし想良の悲鳴に気づかなかったのかだれも出てくる気配はない。
中の声は聞こえづらくなってしまったので屋根に顔をうずめ、冷たさを我慢して集中する。

『風、だと思う。あの人は力を使うのが嫌いみたいで、使った力の中で一番強かったのが風…。』
『そうだ、始めからそういえばいい。…しかし厄介だな。一番目の炎、二番目の氷、三番目の風。
 どれも近づき辛いな。ナタリーは水が得意だったし、一番目の性格含め適任だ。』
『…あたしは氷はわからないけど風の弱点はわかる。ジェニーが風を得意としてた。』
『話してくれ。』
『風は自分を中心に起こす。少なくとも自分はの周りは無風空間だ。防御としてはつむじ風を使う。』
『成る程。つまり近距離、遠距離共に厳しいが一度懐に入ればという事だな?』
『そうさ。妹のことも少しは役に立つだろ?』

得意げなナタリーの声と仕切っていた男の唸り声が聞こえた。
しかし中を見ることのできない想良になにが起こっているのかを知ることはできなかった。

『そんであの大きいのは?喋らないし、力も使わない。』
『…血も繋がっていないのは分かるんだがな……ただふらふら出かけることが多い。
 それと女二人がいない時期を狙うのが最適だ。…一月のうちに、やる。』
『そうかい、あたしはいつでもいいからね。』
『…解散。』

男の声を聞き取り、またしても想良はしまったと思った。屋根から下りるタイミングを失ってしまった。
子どもたちの寝ぼけた声も聞こえ始め、見つかるの覚悟で飛び降り、一気に走る。
だれかつけているかも知れないとかそんなことは考えずにまっすぐ家へと戻る。
収穫は上々。具体的な日付こそ聞けなかったが、また頑張ろう。そう思って部屋へと入った。





「逃げなかったのはいいよ、でも吐くのは駄目ー。」
「内臓…におい…うっ。」
「ダメージ受けすぎじゃない?エド、僕ここまでなったっけ?」
「なってないな…。というより吐くなら吐いていいぞ?耐えると余計辛いし。」
「大丈夫…うぅ…声、が。」
「あーあ、だらしないなぁ。」
「はー…もう少し早くでてくるべきだったな。」
「あ、みっけ。どこの人?さよーなら!」
「うっ!」
「大丈夫か!アリー、お前なぁ…。」
「何回目かな、このやり取り。君もさ、慣れてよ、ね?」

戦いが終わり、エドも交え三人で移動していた。
奏美は先ほどのショックが癒えず、エドに支えてもらいながら歩いている。
そのエドも、顔や腕などに血が付着しており奏美は寒気しか感じなかった。
アリーは袋に入れていた何か…おそらく非常食の類のものを齧っている。
時折残党や伝令を見つけてはアリーが始末しに行くので中々彼女も辛い。
その度にエドがアリーに注意をするのだが、聞く耳を持っていないのか自分から探している始末だ。

「ていうかさぁ、飛ぼうよ。歩いてったら時間かかるしさ、ね?」
「…うん。」
「しおらしいなぁ、威勢はどこいっちゃったのさ?じゃ、出すよ!」

ギュン、という濁った音と共にこちらに向かうときに乗ってきたものが現れる。
よろよろと奏美はそれに乗り、座り込んだ。

「エドは乗る?」
「ああ。でも大丈夫か、運転とか。」
「エドも座って、膝の上に奏美を乗せてよ。それでいける筈だから。」
「はいはい。…これでいいか?」
「うん。あはは、なんか、違和感。じゃ、飛ぶよ。」

補助具を付けられたそれは空高く舞い上がった。
冷たい風が肌をなで、奏美もようやっと一息つくことができた。
特に障害もなく、下を大自然の景色が流れる。
ふと、奏美は気づいた。ここには高層ビルなどの高い建物がまったくない。
それどころか自給自足といってもいい…とにかく近代化していない世界だ。
たまにこの世界にやってくる人がいるのだというし、少しぐらい高い建物があってもいいのでは?
そう思った奏美だが、高い建物の必要性も今のところ感じられない。
でも、水道や電気は必要なのでは?なぜ、こちらの世界にはないのだろう。
いままで疑問に思わなかった自分に驚いたが、流れる景色と共にそれも忘れてしまった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.57 )
   
日時: 2012/03/03 15:17
名前: あづま ID:K3IWWju6

もう辺りも暗くなり、常に明かりがあふれている世界に育った奏美は周りが見えなくなってきた。
ただ、背中に感じるエドの温もりと息遣いが彼女を安心させた。
冷たい風が三人の肌を撫でる。
こちら側に来てからは暗くなってしまうとやれる事が少なく寝ていた奏美はすでにうとうとしている。

「寝てもかまわないぞ。まだ時間かかるだろうし。」
「うん…、でも足大丈夫…?」
「平気平気、俺は頑丈だから。つくちょっと前に起こす。」
「ありがと…ごめん。」
「…いいな、僕は眠れないのにさぁ。」
「着いたら寝ればいいじゃないか。あと一時間かそこらだし。」
「まあ、うん。そうだね……。」

頭の上で行われる会話を聞きながらエドの言葉に甘え、奏美は目を閉じる。
常に冷たい風が体にあたるが、エドと体温を共有している彼女にとって寒さは感じなかった。
まず、二人が話している内容がわからなくなって、だんだんと音が消えていく。
ゆっくりとした、確実な動きに身を任せ意識を手放しかけた。
しかしその時、大きく揺れたかと思うと風が下から吹き上げてくる。

「おい、あぁ奏美、少し避けてくれ!」
「え…?あ、はい!」
「居眠りはやめろってば、なんなんだ!」

奏美は眠い頭であわてて避けたもので前にあった何かに思い切り頭をぶつけ、それによって目が覚めた。
完全に覚めた目で見ると機械は急降下しており、エドが何とか立て直そうとしている。
それを操っていたアリーは彼の足元に座り込んでいて息が荒い。

「く、そ…!アリー、これどうやるんだ!」
「…、上にやれば…戻るはず。…なんなら、不時着でも…。」
「上?…こうか?…できない!仕方ない、不時着するからな!」
「え、え?何が起こってんの?」
「後だ!」

自体が飲み込めない奏美はエドに問うが今は答えられる状況ではない。
ぐらぐらと不安定な機体を横から体を起こしたアリーが安定させ、山の比較的ふもとに近い場所に不時着させる。
地面に機体がつき一拍の後、それは消えて三人は地面に落とされた。
ころころと転がっていく補助具をエドが取りに走る。

「どうしたの…?」

奏美はアリーに問うが答えない。ただ首を振ってうずくまってしまった。
戻ってきたエドも奏美と同じ質問をするがアリーの示した反応もまた同じだった。
エドはアリーの体を起こし、顔を覗き込む。
奏美にはどんなことが行われているのか分からなかったが、アリーはエドにされるがままだという事が分かった。
完全に体を預けている。

「…なんか俺には分からないな。とりあえず、行ける所まで戻ろう。奏美、大丈夫か?」
「ウチは、うん…平気。でもアリーって何?どうしたの…?」
「なんかやられたんだろう。これ持ってくれるか?」
「え?あ、うん。」

バキッという音がしてからエドから何かが手渡される。ずっしりとしたそれを握ると炎が先端に現れた。
どうやら木の枝だったらしく、何も見えないに等しかった奏美の目にもようやく情報が入ってきた。
アリーは焦点の定まっていない目でどこかをぼんやりと見ている。

「よっと…奏美、取り合えずふもとに降りる。ここは狩猟が行われる地域だから小屋くらいはあるはずだ。」
「え…でも人とかいるんじゃない?」
「今はやってないんだ。ここは寒いときに獲物が来る場所だから。」
「そうなんだ…。」
「とりあえずまっすぐ行ってくれ。そうすればどこかに出られるはずだ。」
「分かった…。」
「それと常に戦えるように。ならず者がいないとは限らない。」
「分かった。」

奏美は先頭に立ち、エドの指示で歩く。
人が歩くとは思えないような道といえない場所を歩き、どこか休める場所を目指した。





「お、おかえり。どう?」
「きけたよ。…でもまた潜り込まなきゃいけないかも。完全には分からなかった。」
「そっかぁ、まあいいんじゃね?あたしはなにしよっかなー?」
「奏音さんもなんか働く気になったの?」
「いや?ただ日中暇でさ。思えば同人とかゲームとか色々やってたんだよね。
 いかにキシの目を盗んでやるかが結構面白かったわ。エキサイティングでスリリングって感じかな。」

けらけらと笑う奏音に釣られ、想良も笑った。

「なんかさ、離れたからこそあっちの生活もいいもんだったなって思えるんだよね。」
「そうかも…あー、宿題とか大丈夫かな。」
「こら!せっかくの休みなんだしそういう話題は出さないでよ!」
「ごめんなさ…あれ、奏音さん仕事してたの?さっきの話に仕事って出てきたっけ…。」
「してたよ最終的には!締め切り二日後には終わらせてたぁ!」
「それ、駄目じゃん。」

その時いきなり扉が開いた。
そこには二人の女の子がたっていて笑顔を浮かべている。
茶髪の髪の長い方が二人に話しかける。

「はじめまして。レイモン、いるかしら?」
「れ、レイモン?」
「レイモンはレイモン。私の兄よ。…あぁ、あなた達は愛称でしか知らないかしら。レイって呼ばれてる私の兄よ。」
「あー!そうなのか、本名レイモンか!あたしでよけりゃ呼んでくるよ。」
「じゃ、お願いするわ。」

ばたばたと階段を上っていく奏音をレイモンの妹は蔑む様な目で見ている。
その目つきに想良は嫌悪感を抱きつつ、ふと思い出したことがあった。

「レイさんの妹…てことはマティーさん?」
「知ってるの?なら自己紹介はいらないわね。…あぁ、レイモン。いたのね。」
「なんだよ…もう来ねえんじゃなかったのか…?」
「うるさいわね。あんたが生きてられんのは私のおかげでしょう?愛しいお兄様?」
「チッ…今回の用は何だ。」
「それが正しいの。逃れられないわよ、あんたはね。」

この言動で想良はマティーを好きになることができないと直感した。
昼間のあの…ラリーに対する演技ですら想良は恐怖感を感じ、イライラとした。
第一段階達成だろうという喜びで薄まっていたが、マティーの言動でそれが確定したものとなった。
それに、彼女の語調からして演技ではなく心からそう思っているということが手に取るように分かる。
反論しないレイに対しても想良は心の中で不満を持った。

「アルベールを貸して貰おうと思ってね?」
「それだけにわざわざ来たってのか?次期当主様が?他にもなんかあんだろ、言いな。」
「まさか。私も忙しいし、ね?ただ息抜きと愛するお兄様達がちゃんとやってるかと思っただけよ。」
「信用できねえ。」
「そりゃあ、あなたは他人をだまして情報を得る人だもの。信用できないのが正しいあり方よ。
 情に動かされたんじゃあできないものねぇ。ベアトリクス、あなたはここに残るのよね?」
「あぁ。アルと入れ替え。それであってんぞ。」
「そ。あぁアルベール、ありがとう。またあなたの力が必要なの。分かってくれるわね?」
「……。」
「行きましょ、私には時間がないんだから。ベアトリクス、いつでも来てね。」
「じゃあなー!」

出て行くマティーとアルに対しベアトリクスと呼ばれた女が手を振る。
嵐が過ぎ去ったような、常に勢いに圧倒されていた奏音と想良はただ呆然とそれを見送る。
レイはため息をつき、いすにがっくりと座り込んだ。

「んだよ、元気ねえな。」
「はー…アリーならいないからな。」
「わあってる、オレが来る時大体いねーもん。慣れたよ。で、このお嬢さん方誰。」
「オレっ娘…?あ、え?アリーて男だったの?!」

ショックから早く回復した奏音が驚きの声を上げる。その声でわれに返った想良も奏音と顔を見合わせた。
レイとベアトリクスは知らなかったのかというようなあきれた目で二人を見ていた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.58 )
   
日時: 2012/03/03 15:22
名前: あづま ID:K3IWWju6

「あれ、知らなかったか?俺言わなかったっけ。」
「たぶん言われてない…。」
「言ってなかったか…トリクシー、アンリって男性名だよな?」
「オレの中ではそうだぜ?まあ違うところもあるんだな。」
「えー、男。えー…あ、あー!」

アリーが男であるという事実をゆっくりと咀嚼していた奏音が突然大声を上げる。
何事かと皆の視線を受けつつ奏音が口を開いた。

「そっか!そりゃ変態って言われるわ!」
「は…おい、アリーになにしたんだ。」
「トリクシーちゃん…?顔怖いよ…。」
「ちゃんはいらねえ、普通にトリクシーでいいって。で、何やったんだテメー。」

じりじりと迫るトリクシーにさすがの奏音もおされ気味だ。
あまりの気迫にレイでさえ一歩、彼女らから遠ざかってしまった。想良も彼を盾にするようにまわり込む。

「いやね、裸とまでは言わないけどそれに近い状態のをゆっくりじっくり観察してしまって。」
「あぁ?!」
「でも肌着っつうの?そういうのは着てたよ?だから随分ぺったんこだなーて後で思ったけどそっか、男か!
 なら無くてもおかしくないね!なぁんだ、そっか!」
「てんめぇ…。」
「でも結構いい体だとは思うわ。肌白いし…羨ましいなぁ、白人との差を考えないにしても白いよね。
 あ、よく見るとレイもおんなじくらい白ーい。」
「触んな、俺を巻き込まないでくれ!あんたら二人でさっさと解決しとくれよ!」
「なんで赤の他人が人の旦那の肌見てんだ!オレですら見たこと無いに等しいんだ!何で!」
「そ、そこなんだ。」

ぎゃあぎゃあと喚く三人を少し離れたところに避難して想良は眺めた。
巻き込まれたレイは本当に迷惑そうだが、女二人はなんだか楽しんでいるようにも見える。
入ればよかったなぁ、なんて思いながらもしばらく戯れを眺めていた。
外を見ればもう暗くなりかけている。
いつも夕食を作っているアルは行ってしまったので今日は自分が作ってみようと想良は決意した。





「あ、山小屋?」
「本当か?あ、アリーを背負えるか?」
「え…。」
「いや、無理ならいいんだ。」
「いやその、だ、大丈夫です!出来ます!」
「そうか?悪いな、小屋の中に誰かいたりしたら危ないし。」

炎のともった枝を一度地面に突き刺し、今度は奏美がアリーを背負う。
アリーは完全に意識を失ってしまったようで、なんの抵抗も示さなかった。
枝をエドが拾い上げ、先頭に立って歩き出す。
彼は彼女のことを気遣っているようでゆったりとした歩みだった。

「……。」

一方、奏美といえば首筋にかかるアリーの息に顔が赤くなった。
ただ寝ているのだ、そう理解はしているが一度意識してしまった身としては自然と体がこわばる。
意識してはいけない、する必要が無いとは分かっているが自然と顔に熱が集まる。

「ここで一旦止まってくれ…顔赤いな、やっぱり無理してるんじゃないか?」
「いや、その…これはぁ…。」
「大丈夫、誰もいなかったら下ろせるから。重いだろ、ただでさえ鎧とあと武器も色々持ってるから。」
「その…うぅ…。」

山小屋から少し離れたところで奏美は止まり、エドが入ってくのを見守った。
一分とたたないうちに彼は走って戻ってきて誰もいなかったというのを話す。
それどころか数個の寝台や台所など設備もしっかりとしているらしい。
彼の後を追い、小屋の中に入る。
エドがあの機械についていた補助具を取り出し、天井近くについていた何かに乗せるとパッと明るくなった。
ほこりも無く、実にきれいだ。
部屋の奥の寝台にアリーを下ろすと今まで感じていた暖かさが無くなり、すこし寂しいと奏美は感じた。

「なにやったんだろうな。意識を失うってけっこうやばくないか?ただの疲労だったらいいんだけどなぁ。」
「うん…。」
「熱もあるなぁ…案外毒か?」
「ど、毒?!でも、え?ウチが見た限りでは攻撃あたってるようには見えなかったんだけど…。」
「でも、あいつらは針を使っていただろう?一本あたっただけで死に至るっていうのもある位だ。
 こいつは普段自分で毒薬実験してたりするからな、体が慣れてるかもしれないけど。」
「それって…毒薬自分で飲んでるってこと…?」
「そうだ。まあ、罪人買ったりしてるらしいけど。ただ毒になれた人への効果は自分でやるのが一番だって。」
「……。」
「医者探してくる。ちょっと遠いけどいるはずだ。危なくなったらアリー置いてでも逃げるように。」
「そんな事…。」
「逃げろ。」

エドは山小屋から出て行った。残された奏美はアリーの事を見る。
わずかに体が上下していることに安心はするが、それでもなぜかやりきれない気持ちでいっぱいだった。
自分がアリーに対して抱いている気持ちが分からない。

「寒い…。」

前触れも無く、急に寒さを感じた。背筋が冷たい…何か来る。
あたりを警戒しつつ、いつでも武器を作り出せるように集中力を練り上げる。
ガサガサ、と何かが動く音が聞こえるがそれが何なのか分からない。
風だろうか、それとも生き物だろうか、敵だろうか。

「っ…。」
「あ、アリー?」
「…ここ?」
「山小屋。意識失ってたよ、大丈夫?」
「来るよ…覚悟するように。」
「え、覚悟?」
「ほお、ら…。」

扉が蹴破られ、一気に冷たい空気が部屋に流れ込んでくる。
小屋の外にいるのは五人。衣類はどうみても乞食。腕や足は泥やほこりに汚れ、服は破れて黄ばんでいる。
だが、どこか高貴な身分だということが隠せていない。衣類からわずかに除く肌は汚れておらず、艶々としている。

「どうも…誰、かな?あはは、大勢で……。」
「……。」
「残党かな…戦争なんだよ……。恨みっこ無し、じゃ行かない。ね、…。」

相手は喋るつもりは無いらしいが、敵意は痛いほど伝わってくる。
リーダーと思わしき人物がヒュウ、と音を立てアリーを剣でさす。周りの男たちはそれを見、アリーに一斉にかかる。

「ひどいなぁ…、もう。っははは!」
「アリー…?」
「奏美、構えろ!」

突如、声を張り上げたアリーに促され奏美も反射で武器を作り上げる。
その瞬間、目の前と耳の横でギィン…と音が響いた。
目の前では男が奏美の太刀を受けていて、横では恐らく別の男らがアリーと戦っているのだろう。
そのうちに悲鳴と温かいものが奏美と男にふりかかる。

「や、血…!」
「…!」
「ぎゃ、やだ!」

血にうろたえた奏美を見過ごさなかった男は飛び掛ってくる。
びっ…と頬に熱が走り、斬られたという事を自覚すると同時に相手の頭に刀の鞘を振り下ろす。
鈍い音とともに、男が崩れ落ちた。

「やるね…、あは、いいな。惚れるよ、それ。その感じ、大好きだ。」
「え?…え、好き?」
「うん、好き。ビリビリって来る。いいな、戦ってみたい。強くなったら、ね!」
「が、あぁぁあ!」

最後の一人が血の海に崩れ落ちる。ビクリビクリ、そして静寂。
それと共にアリーもぐったりと座り込んだ。息も荒く、肌の色が分からないほど血にまみれている。
奏美はあわてて駆け寄り、彼を寝台に寝かせようとする。しかしアリーは壁にもたれかかり、座った。
そして、一人の兵士の服を破き血糊で何かを書き、どこからか取り出した羽に結ぶとそれを飛ばした。
風に乗り、開け放たれた扉からそれは出て行き、やがて見えなくなった。

「…残党と見て間違いない。剣筋がしっかりしてるし、…。」
「大丈夫なの…。」
「多少癖があるけど…四人似たような剣。共通の、師匠かな。」
「斬られたりとか大丈夫?そういうの、無い?」
「…ダイアナの姐さんに怒られるよ。はー…君も平気だったんじゃん、よかった…無事、で。」
「それって…?」
「トリクシー呼ばれたら適わないし。」
「……。」

アリーの口からトリクシーという言葉が出るとなんだか奏美は心が落ち着かなくなった。
これではまるで自分がアリーのことを好きみたいではないか。二人は、結婚しているのに。
何も話さなくなった奏美をアリーが覗き込む。だが、奏美はそれから顔をずらした。
見られたくない、その思いが奏美を支配する。
物音、と共に叫び声。

「…、!」
「あぶな…!」

奏美は何も考えられなかった。
気づいたら全身に生ぬるい液体を浴び、身体を赤に染めていた自分自身がいた。

「殺し、た…?」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.59 )
   
日時: 2012/03/03 15:23
名前: あづま ID:K3IWWju6

「もう少し、早く歩けないか?」
「いやあ、すみません。これが精一杯で…。」
「俺がその道具を持っても構わないんだが…。」
「これはワシの仕事道具ですので。」
「はあ…。」

エドは山を駆け下り、三つ程の集落を周った所で運良く医者を見つけた。
このあたりは貧困地域なので最悪朝まで見つからないだろうと思っていた彼にとっては嬉しい誤算だった。
だが、この医者は老人なので自然と歩みは遅い。手を貸そうとすればそれは頑なに拒否する。
もうこの医者を見つけるまでの時間と同じくらいの時間が出発してから経っている。
思わず早足になるが、そうするとこの老人が哀れな声を出すので中々進まない。
山道をゆっくりとした足取りで進んでいく。

「なあ、医者様。結構大事じゃないかと俺は思うんだぞ。こんなゆっくりじゃ助かる人も助からないんじゃ…?」
「ワシは過疎地の医者です…人も少ない、そして狭い。これくらいで間に合うのです…。」
「あそこならそうなんだろうが…あああ…!」

急ごうというのが見られない医者にエドはもう少し遠くてもいいから若いのを連れてくるべきだったと後悔した。
そもそも腕も不確かだ。過疎地という事は道具が旧式、またはそろっていないという事も考えられる。
そこまで考えが及ばなかった自分をエドは呪いながらなかなか距離の縮まらない道を歩んでいった。





「お、すげえ。想良だったな、お前飯作れんのか。」
「まあ、一応…。お菓子のほうが好きなんだけどね。」
「すげえ…オレも作れなくはないんだけど途中で投げ出しちまうんだよな。」
「そうなの?でもできると楽しいよ。そだ、アリーになんか作ったら?」
「いやぁ…できるかなぁ?」
「できるできる!私も手伝うからさ、ね?」
「…あぁ。」
「……なんかさぁ。」
「んだよ。」
「会話がすんごい女の子なんだけど…!あたし中学のとき何してたっけ?」
「知らねえし興味もねえな。混ざってくりゃ良いじゃねえか、お前も女だろう。」
「オタ友と話してた記憶と婿に色々した記憶しかない!うわ!」
「要するに変わってねえんだな、把握したよ。」

想良とトリクシーは調理場に立ち、二人で何かを作り始めた。
邪魔になるからと運ばれてきた料理をつつきつつ奏音とレイの二人は様子を見守る。
格闘から時間が結構たってしまい、今日は遅すぎる夕食だ。
二人の間に会話は無く、料理をしている向こう側がなんだか華々しい。
想良の指示と、それに答えるトリクシーの声が二人を取り囲んでいた。

「そーいやさー。」

奏音が口を開く。レイは一瞬手を止めることで反応を示した。

「奏美達はいつ帰ってくるわけ?」
「んだよ、寂しいのか?まだ一日目じゃねえか。」
「いや、まあそうかな。シスコンだったのかねえ…というかここって平和じゃないじゃん。あたしは心配。」
「今日明日で帰ってくるだろうよ。」
「え、もう帰ってきちゃうの!」

横から想良が会話に割り込んでくる。
トリクシーに指示を与えつつ彼女もこちら側に来た。

「まあ結構近いはずだしよ、何事も無けりゃ来るだろ。エドが迎えに行く筈だしな。」
「あれ、レイさんが奏美の様子を見に行くみたいなこと言ってなかった?」
「ひでえ、あたしの妹を売ったのね?!」
「想良ぁこれでいいのか?オレにゃあこの粘っこいのからタゥト?になるってのが分かんねえよ。」
「タルトだよ。ちょっと休ませるからそこ置いててー。」
「あいよ。…しかしレイよ、約束は守れって。だから女っ気もくそもねえんだろ。」
「トリクシー様!あなたから見てもそうなのでござりまするか?!」
「なんだよその言葉遣い…。」

奏音の豹変した言葉遣いに対し顔を引きつらせたトリクシーだったが答える。

「まあ…なんだ、オレはそう思ってる。むしろ自分に女っ気がないのを自分で補給してんじゃねえの?」
「ありがとう…あたし、生きていける。幸せぇ…!」
「あんたら俺をそういう目で見てんのかい?!」
「私はそうは思わないよ。女っぽいのは生まれつき決まってるんだししょうがないよ。
 それに大丈夫、いつかは恋人出来るだろうし。男っぽい女の人だろうけどね。」
「違え…なんか違えよ、想良…。」
「やっべ最高!想良ちゃんいい、まじいい!」
「…オレらの事を言ってるか?」

よほどつぼに入ったのか奏音が想良の事をバシバシと叩く。レイは悪気のない言葉というのでさらにダメージが重いようだ。
トリクシーは自分らの事を比喩しているのではと問うが想良に否定されならばいいと返事をした。
そして席に着き、一人食事を取り始める。想良もそれに倣い、向かいに座り食べ始める。
そして二人で料理の事や恋愛の事などを話し始めた。

「じょ、女子トーク…!」
「入ればいいじゃねえか…。」

男一人という事で立場が極端に弱くなっているレイが弱々しく言葉を発した。
それがまた奏音のつぼに入ったのか後ろから思い切り抱きしめている。
ただ、腕かどこかがいい所に入ったらしく小さく声を上げた。

「うへ、やべ…ひゃははは…!」
「奏音さん大丈夫なの?」
「や、ふへへへへ…!笑ってしま、ふっふふふふ…!」
「奏音って自分を生きてんのなー。すげえ才能。」
「助けとくれよ、なに見てんだ…。」
「巻き込まれたくねえ、パス。」
「そ、ら…。」
「えーっと…。」
「料理教えてもらうから借りるぜ?」
「が、頑張って下さい…!」
「ありがとうあたし頑張る!頑張ってレイをあたしに懐かせる!あたしがいなきゃ寂しい悲しいまで行かせる!」
「うん、…うん?まぁ、頑張れよ。なんなら世帯つくっちまえ。」
「それって結婚?いいんじゃない、でこぼこコンビと見せかけて結構お似合いだと思うなぁ。」
「許可も出た!さああたしのかわいいわんこ、立派な嫁になってね!幸せになろう!」
「…不幸だ……。」
「犬呼ばわりはどうでもいいの?ペットにされちゃうよ、そのうち。」
「想良も言うな!よし、そろそろ再開しようぜ!」

空になった皿をさげ、想良とトリクシーは再び台所にたった。
二人のほのぼのとした雰囲気とは裏腹に、奏音とレイは未だ格闘していた。
といってもレイは基本的に反撃しないようにしているらしく、ただ奏音に弄ばれている。
たまに服の裾から直接触ろうとする場合は猛反撃をするのだがそれ以外はされるがまま、無心でいようとしているようだ。
ただ反撃しないのをいい事に奏音に椅子から引き摺り下ろされ馬乗りにされてしまい完全に動きを封じられる。

「重…!」
「うわああぁん、傷ついた!」
「うそこけ。ど、っどけ、っはあ…。苦しい…!」
「トレーニング。さぁ、わんこ!」
「息、が…。」
「喋らないで逃げる事に専念したほうがいいかも…ね?」

面白そうに笑う奏音と、その下で懸命にもがくレイ。
それを時折振り返りつつ苦笑いで作業を続行する想良と、彼女の技術を学ぼうと必死なトリクシー。
するとその時、ふわりと羽が飛び込んでくる。

「およ?これアリーが帰ってくるときに来たやつ?」
「……。」
「あ、ごめん避けるよ。…これ?」
「…あー、だな。」

奏音から羽を受け取ったレイは起き上がりながら結び付けられた布を解く。
アリーという言葉を聞いてトリクシーも戻ってきた。

「なんか…血、だよな?」
「……襲撃だとよ。怪我はしてないそうだがな。明日には帰れるんじゃないかとさ。」
「明日って早くね?あたし的にはもっとかかると思ってた。」
「アリーは無事なんだな?怪我、してないんだよな?」
「書いてないから分からねえ。この血もあいつのかもしんねえし、違うかもしれねえ。
 ただ分かるのは無事ってだけだな。」
「そっか…うん。オレの旦那がこんな簡単に死なねえよ。よし、景気つけるためにも頑張っかあ!」

頬を一回叩き、トリクシーは想良の元へと戻っていった。
何事か聞かれたようだが、彼女ははぐらかしたようだ。
レイと奏音は顔を見合わせる。

「奏美が、足手纏いになったんじゃ…?」
「どうだろうな。でも無事なんだろうし心配すんな。アリーは俺なんかより強いからな。」
「それはなんとなく分かる。」
「……そうか。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.60 )
   
日時: 2012/03/03 15:24
名前: あづま ID:K3IWWju6

「ほら医者様、あそこだから!あの明かりが見えるところなんだ、頑張ってくれ!」
「こんな老いぼれに…鬼畜ですのー…。」
「金は出すから!頼む!」

エドと医者は歩き続け、やっとの事で山小屋が見えるところまでやってきた。
想良はもうすぐ明るくなりそうな、そんな時間である。
元々すぐ手が出てしまうエドは何度か医者に手を出そうとしたのをなんとか食い止めてきた。
医者が文句を言わない程度の速さで歩いていくと、小屋の異変に気づく。
扉は無くなり、なにか見慣れないものが転がっている。

「医者様、走ってくれ!」
「間に合う、間に合う…。」
「っだああ!畜生が、この!」
「なっ…!」

のんびりとした、本当に患者のことを考えているのかわからない態度についにエドは医者を抱えあげ走っていく。
道具箱の意外な重さに驚くがもっと早くこうするべきだったという思いの方が強かった。
医者の抗議の声も無視して小屋まで駆け抜ければそこは血の海。

「あぁー…遅かった、遅かった……。」

キッと睨めば医者は黙る。お前がゆっくりしてたからだろう、エドは思った。
すでに死んでいる男たちの中に、奏美が座り込んでいる。アリーの姿は無い。
連れ去られたか、という疑念が生じるがそれよりも彼女の様子がおかしい事に気づく。
最悪の事態…か?

「奏美。」
「…あ…おかえりなさ、…。」
「……。」
「アリーなら、なんか水を飲むって…毒抜けるだろうって…。」
「そうか…。医者様、その男たちはもう死んでいる。どんなに見ても無駄だ。」

パクパクと口を開くが声の出ていない奏美が見ていられずつい、死体の検分を始めている医者に声をかけた。
何が起きたか…この部屋の状態、そして奏美の格好を見れば容易に想像がつく。
自分が医者を探しに出た後、残党もしくは恨みを持った連中に襲撃された。
エドは思った。アリーは弱っていた。それに、一番戦いに出ているのもアリーで恨みを買っているのは誰でも分かる。
その恨んでいる相手が弱っていれば誰しもが攻撃を仕掛ける。……それだけの、簡単な理由だ。

「頬、斬られてるな…。」
「…うん。油断した…近くって駄目だね。」
「そうか。でも、よくやったよ。相手取ったんだろ?初めてなのにすごいじゃないか。」
「そう…闘っ……、うぅ…。」
「え、あ?ごめん、なんか俺言ったのか?!」

エドは涙をこぼし始めた奏美に驚きながらもそっと肩を抱く。
自分が何を言ったのか何が彼女に触れたのかが分からなかったが遠い記憶、かつて母がしてくれた事を彼女にやる。
だんだんと大きくなっていく泣き声にさすがに医者も異常を感じたのかこちらへ近づく。

「その頬ですかな…?どれ、見せなさい。」
「…これ、結構時間がたっているぞ。」
「安心したり冷静になると途端に痛み出すのが傷…あなたが来たことにより緊張状態から脱したのでしょう。」
「そうだな…言われればそうだ。奏美、この医者に傷を見せよう。頬以外には無いな?」

頷いた奏美を医者のほうに向けさせる。
その時、外のほうからかすかな物音が聞こえ顔を上げた。

「あ、アリーか?おかえ…!」

その瞬間目の前を何かが飛んできて金属音が聞こえた。
との入り口にはエドも予想したとおりアリーが立っており、臨戦態勢だ。
何が起こったのか分からないエドに彼は叫ぶ。

「奏美を遠ざけて!」
「は?え?」
「なんでこう…あぁもう、せっかく血を落としてきたのに!」

叫ぶアリーに言われるがままエドは奏美を抱き寄せ医者から離れればその金属音はたまたまではない。
ちゃんとアリーの第一撃を防いでいたのだった。そして医者も、闘う姿勢を見せている。

「医者様…スパイ、か?」
「馬鹿者が…簡単に信用しおって…。お前らな、」
「馬鹿者はあんただよ、無視してるからね?」

遠くからのもう一撃…よく見たら石だ、それを投げつけ医者に命中させる。
よろめいた隙を突きアリーは医者を押し倒した。そしてそのまま、四肢を彼の持っていた武器で突き刺す。
最後にその武器を噛ませ舌を噛んでの自殺を防ぐ。

「どこに雇われた…?」
「…。」
「言う気は無い、まあそれもそっかぁ!さよーなら、死体検分は任せてね?」

目を見開き、首を振る男にアリーは笑顔を見せた。そして腕を振り上げる。
ドスッ…という音と共に男は沈んだ。
しかしアリーは武器も持っておらず、彼の体の下で男もまた上下している。失神させただけだった。

「エド、こいつ縛って…。疲れた……。」
「あぁ…。」

男の上から退いたアリーは気だるそうに壁へと寄りかかった。まだ完全には毒が抜けていないらしい。
男の事を死体から剥ぎ取った布で脱出されないように縛り、最後に布を噛ませた。

「奏美…少し、寝たほうがいい。俺が見張っている。もう離れない…な?」
「…でも……。」
「寝なよ。いちいち騒がれちゃ迷惑だし。」
「アリー…!」
「事実だし。…寝ろ。」
「分かった…ごめんね。」

無理やり作った笑顔を見せ、奏美は比較的被害の少ない寝台に横になる。
まもなく規則的な息遣いが聞こえ、完全に寝たことが証明された。

「寝たな…お前、奏美に対して冷たすぎないか?…おい、なに飲ませているんだ!」
「なんだろね?」

寝息を立てている奏美に対しアリーは粉末状のものを口に入れている。
エドの質問に対してもとぼけ、何食わぬ顔でまた壁に寄りかかった。
弟の奔放な態度に、さすがのエドも眉をひそめた。

「顔怖ぁい…睡眠剤みたいなもんだよ。ゆっくり休めばじき忘れるってか慣れるだろうしね。」
「そうか?信用するからな。…何があった。」
「ん?あぁ、エドがいなくなった後すぐこれらが来たんだよ。で、奏美は一人を相手取った。
 それで斬られた後、気絶させたんだね。ただ入りが甘かったらしくてねー…うん。」
「目が覚めてしまった、という事か?」
「そ。気絶させたっていうのは分かってたから情報引き出したかったんだけど…うん、殺されちゃって。」
「奏美にか?」
「うん。すごいね、戦いが無い世界の人が初陣で人殺しなんて…僕もエドに言われるまでは嫌だったのに…。」
「今はどうなんだ?あー…俺のせいだ…。」
「事実はどんな物よりキツイしね。否定したいことなら尚更でしょ。
 でさ、エドこいつ運ぶの手伝ってくれない?僕一人でやりたいんだけどまあ、希望なら見せるよ。」

アリーは気持ちよさそうに笑った。だが、反対にエドの表情は険しいものとなった。
彼がこの医者…スパイを連れて行く場所は秘密の場所。今まで何度も見せるように言ってきたが拒否され続けてきた。
ただ、エドが知っているのは罪人を買うかまたは他国から重要な犯罪人を売られそれを薬剤の実験にしていること。
何度か発狂されたのか血まみれで帰ってきたことさえある。
それに頭を抱え、必死に感情を抑え手当てした事も一度だけではない。

「分かった…でも奏美を戻してからだ。ここに置いておいたら襲撃を受けないとも限らないだろ?」
「じゃ、こいつも一緒にだね。逃げられたり、仲間が来たりしたら…ねぇ?
 でもさぁこいつがスパイだって分かんなかった?老人のふりは良いけどさ、健脚すぎるじゃん。」

そういえば、と納得する。
ほぼ休みなどなしに来たというのにあれは休憩を要求しなかった。普通の老人なら、疲労に足も立たないだろう。
よく考えればおかしいところなど山ほどあっただろうに…エドは自分の考えの浅さに頭を抱えた。

「というより僕だって一応毒薬とかは知ってるんだよ?攻撃受けたのは多分…うん、あん時だなぁ。
 でも毒を受けたのは分かってたしじわじわ解毒剤飲んでたんだし…予想外に強くて倒れちゃったけど。」
「ああ…。もう動けるか?早いほうが良いだろ。」
「そうだね。あ、補助具とってよ。それで奏美引っ張っていくから。」

エドはアリーに補助具を手渡し、縛った男を背負った。
アリーは補助具であの機体を出し、それに奏美を引きずりながら乗せた。
そして二人は、とりあえず家に帰ろうと歩き出した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.61 )
   
日時: 2012/03/07 14:07
名前: あづま ID:OQcm08Vs

「眠い…俺さっさと寝てえんだけど。」
「だって冷蔵庫無いんだもん。いっつもアル君やってたから気づかなかった。」
「我慢しろ。オレ氷作れねえもん。」
「あーぁ、俺仕事あるんだけどな?」
「そうなの?でもエドさんは女収集がてらしてるみたいだしアル君は初めて会った時…ダイアナさんと一緒
 ってことは仕事してたんだよね?アリーも今いないし。レイさんのだけ仕事見てない気がする。」
「俺は特殊なのさ。来たら長時間いねぇし報酬はたんまりよ。」
「でもしてねえって思われてる時点で駄目だな。想良、オレらは寝ようぜ。」
「えー…。」
「まだかかんだろ?こいつに任しときゃあ十分よ。信頼してるぜ、義兄さまよ。」

そう言われ、レイが常に氷を作り続ける羽目になったのは三時間ほど前。
想良は申し訳なさそうにしていたがトリクシーに無理矢理連れて行かれてしまった。
奏音は食事を終えてすぐ、上へ消えてしまった。大の字で寝ているのだろうとレイは推測する。
外はもう既に明るい。飛びかける意識を慌てて引き止める。だがしかし、それは波の如く次々とやってくるのだ。
ただでさえ眠いというのに力を使い続けることによってさらにそれが進む。
自分の力の量の少なささを呪いながらも氷を継ぎ足す。今度は大きめのを作り、しばし休憩を取る。

「血…誰のだよ…。」

しかし力を使わないことによる休息の間、手元にあるのはあの布切れのみ。
自然と、それに考えが集中してしまった。だが、吐き気がこみ上げそれを視界から外す。
血を見るのは好きではない。
向こうで何が起きたのか、アリーから送られてきたメッセージでは正確な事を察する事ができない。
奏美はダイアナによってある程度の事はできるし、エド曰く反射力もいい。
だが、そのある程度の事はダイアナがいる間に行った言わば申し訳程度のものだ。
記憶の中では訓練を行っていない時期は無いといえるこの世界の人たちに太刀打ちできるのだろうか。
レイは考えたが分からない。
優秀ではなかった自分でも訓練は泣きながらやったのを覚えている。
できなければ打たれ、痛みに対する抗体と体に覚えさせ反応し防ぐ術を覚えさせられた。
彼らの祖母も地球からやってきたが彼女は戦う術と頭脳を持っていた。
だが、戦も知らない彼女らを動かすのは早まったのではと思い始めた。
しかしその時扉が叩かれ、考えを中断させる。
誰か来たのだろうか、そう思って開ければエドが立っていた。誰かを負ぶっている。

「おう。…なんか顔暗くないか?」
「なことねぇよ。寝てねえだけだ。襲撃されたそうじゃねえか、大丈夫か?つーかそれ誰。」
「捕虜だそうだ…あれだ、あそこ行き。」
「へぇ…まだやってんのか。で、アリーと奏美は?」
「今奏美をかついで来るからこいつ預かっててくれ。なんか睡眠薬飲ませたらしいけど一応な。」
「担いで…怪我したのか?!」

だがエドは玄関先にその人間を置くと走って行ってしまった。
余程重体なのか、その心配がレイにかかる。
奏音を呼ぼうにもここから離れた場合何が起こるかわからない。
だが、エドは奏美を負ぶってすぐに戻ってきた。アリーも後ろからついてくる。

「よいせ…と。」
「斬られてるじゃねえか!ったく…手当てしたのか?」
「毒塗ってないみたいだしせいぜい化膿するくらいだよ。手当てしてる暇無かったしね。」
「顔だぞ、か・お!」
「うるさいなぁ。僕疲れてんだからぁ。」
「まだ朝早いほうだぞ。みんな起きちゃうじゃないか。」
「…こいつはいいや、どっかに縛っておこ。寝る…。」

そういってアリーは捕虜を引きずりながら階段を上っていく。
エドがため息をついたのを見てレイは理由を聞いた。

「あぁ、なんか毒受けたっぽくてな。でも…うん、解毒してたんだな。」
「冷静じゃねえか。弟が毒受けたってのによ。」
「俺は信頼して」

その時、アリーの叫び声が響いた。
何事かと急いで階段を上がれば彼の叫び声に奏音と想良も起きてきたところだった。

「あれ、奏美…?」
「あ、後でな。疲れたらしくて今寝てるから。」
「ごめーん、妹がさ…でアリーちゃんどったの?」
「奏美寝かせてこよっか。かしてー。」

想良がエドから奏美を受け取り来た道を戻る。
一瞬、アリーが手を離して廊下に堂々と放置されている捕虜を見たが頭が働いていないらしくそのまま歩を進める。
身長差があるので足を引きずってしまっているがしっかりとした足取りにエドは感心した。

「トリクシーか?」
「んー…あら、アリーちゃん押されてる。」
「関わるな。俺らも巻き込まれるぞ。」

だがエドの声は明らかに楽しみを帯びている。
確かにアリーの反応は今まで見せたことのないような反応である。
人をからかうような言動と生意気な口調は消えうせ、単純な罵倒を繰り返しながらトリクシーから逃げようともがいていた。

「痛い!離せ、離して!馬鹿ぁ!」
「だってよ、いつぶり?いっつもオレが来るときいねーんだもん。離さねえよ!」
「馬鹿!僕は疲れてんの、分かる?離せ怪力女!」
「怪力は事実だしな。なんならよぉ、オレに力のみで勝ってみろって、な?」
「馬鹿でしょ?!なんで怪力衆のお前に勝てるの!本気で思ってる、馬鹿?」
「思ってねえから言ってんだよ、離さねー。」

余裕を見せ、笑いながらトリクシーはアリーを捕獲し続けている。
想良が戻ってきて二人の様子を見、それから三人のほうを見た。
彼女の目は説明を求めている。その役目はレイが引き受け、奏音とエドは未だ格闘を続ける二人を見ていた。

「そうなんだ。…トリクシー、レイさんがちゃんとやってくれてたらできてる筈だからさ。
 一回離して下におりよ?」
「マジ?よし、行こうか。」
「離してよ…。」

想良の言葉を聞きトリクシーはアリーから離れたが手は繋いだままだった。
居心地悪そうにアリーは皆から顔を背けた。そしてそのまま拗ねた弟のようにトリクシーに引っ張られていく。

「姉弟みたい…。」
「身長はアリーのほうが大きいけどねー。トリクシーのほうが大人な感じかも。」

奏音と想良は互いに笑いあい、彼らの後を追った。
残ったエドとレイは下の人たちに聞こえないよう、気にかけながら話していく。

「なんだか微笑ましいな。俺もいつかはああなりたいかもなー。」
「なら結婚すりゃいい話だろ?エドなら相手もいるだろうさ。」
「俺は一人の妻より百人の愛人がいいね。レイこそいいんじゃないか?奏音とかと結構お似合いだと思うが。」
「無理だな。俺には合わねえよ。」
「そうかあ?ま、お前も早く身を固めろ。政略でも恋愛でもどちらでも良いけどな、女はいると結構いいぞ。
 ……そんな事より、だ。」

エドのいつもとは違う雰囲気にレイも気を引き締める。
どこかおちゃらけたそれは消え、周りの空気も変わった。

「今回の件で奏美はおそらく相当なダメージを負っている。頬の傷は…まあ最悪目立たない様にする位なら出来るだろう。
 精神面だ。彼女は人を殺してしまった。自己防衛とはいえ…。」
「ああ…でも覚悟があったはずだ。いつかは通る門…って言ってたっけな。それで落ち込むんならその程度だったんだろうよ。
 ただこれからは奏美だけじゃねえ。奏音も想良もいずれは経験するだろうさ。」
「冷たいな…それ位じゃないとここじゃ生きていけないかも知れないけど。」
「殺せねえ俺が言うなって話だけどな。俺らがどう言っても何をやっても、立ち直れるかは本人次第だ。」
「そだな。…寝たらどうだ?寝てないんだろ。」
「そうだな…そうさせて貰う。なんか重要なことがあったら起こしてくれ。」
「ああ。ま、ゆっくり寝れるようにな。」

レイが自分の部屋に消えるのを確認し、エドは捕虜を自分の部屋に縛り付けに行った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.62 )
   
日時: 2012/03/07 14:10
名前: あづま ID:OQcm08Vs

エドが下に行くと、先に行っていた人々はもう席についており想良が作ったものを切り分けていた。

「へえ…これって何だ?」
「タルトっていうんだよ。ケーキみたいなやつかな?ただ材料が曖昧だったしこっちにはあんまり無いし…。
 味は保障したいんだけど…ねぇ?」
「オレらは知らないし保障なんてすんな。あ、オレとアリーは一緒の皿で良いぞー。」
「分かったー。ラブラブー。」
「ラブラブ?…っていうか別々で良いよ…食べ辛いじゃん。」
「やっとけやっとけ。俺も女とはよくやるし。」
「あたしはやった事ないよ?!なんだろ、日本と外国の差なのかな?日本では痛いカップルぐらいじゃね?」
「私は分かんないなー…彼氏いないし。はい、どうぞ」
「一緒なんだ…。」
「いいじゃねーか、オレら夫婦だし?」

トリクシーにずっと押されているアリーを見てエドは苦笑する。
元々人と関わる事を嫌っていたのか分からないが身内以外にはずっと押されぎみの彼を知っていたからだ。

「なんかさぁ。」
「なんだ?」
「わんこといいアリーちゃんといいなんか…本当にエドと兄弟?なんか雰囲気違う気がするや。」
「わんこ…?」
「レイさんの事だよ。奏音さんにペットみたいにされてる。」
「ありゃー…。兄弟は兄弟だけど俺とレイたちは父親が違うな。というより俺だけ兄弟で違うんだ。」
「まひえ?わへあいへー?」

タルトを頬張ったまま奏音が口を開く。
もごもごと聞き辛い声ではあったがなんとか察したエドはただ「別に。」と答えた。
ただエドの父親が戦死したため跡継ぎがいない母親は新たな男を探しただけ。それだけの事だった。
説明するに及ばないと考えての発言だった。

「あれ?別々に食べちゃうの?」
「あ?」

しばらく皆が食べている様子を笑顔で眺めていた想良だが不意に口を開いた。
それはアリーとトリクシーに向けられた言葉で二人はそれの意味を理解していない。
できるだけ離れようとしているアリーとそれを押さえているトリクシーは互いに顔を見合わせた。

「何?…こんなくっ付いてるじゃん。別々って?」
「あーんしないの?するもんだと思ってた。」
「ぶっ!そ、想良ちゃん…!やめて!あたしにそんな、いやあああ!」
「あーん…?」
「なんだよそれ。おい地球組、そこだけで勝手に納得してねえであーん話せよ。」
「ひっひゃあはは!真面目!真面目な顔で言っちゃぁ、ダメだよ!はははは!」
「なんか…絶対僕はやらない。」
「オレも…なんか奏音がそう興奮するのって危険な気がするぜ…。」

笑う奏音と引く夫婦。
自分の発言により場の空気が一変してしまった事におろおろする想良と周りを気にせず食べ続けるエドがいた。





「あれ…?」

目を覚ました奏美は自分の体の血が落ちていて服装も変わっていることに気がついた。
周りを見ればあの山小屋ではなく自分たちがこの世界に来てしまってからの活動場所である事も分かった。
頬の傷も触れば痛むがすでに塞がっている。

「…ウチ、なにやってんだろ……。」

下のほうからは姉である奏音の笑い声が聞こえてきた。
奏美は自分がどれくらい寝ていたかは分からない。あまり寝ていないかもしれないし、何日も寝ていたのかもしれない。
ズシリと重い両腕に眠る前のことがフラッシュバックする。
人を、殺した―――
前の晩、奏美は覚悟があると皆の前で言った。
それは本当のことで、どこにも偽りの意識などなかった。血を見る覚悟、これから戦っていく覚悟。
ただ、殺す覚悟だけはしていなかった。レイの言葉が思い出された。
いきなり実践の場は辛いのでは、と確かに言われた。そしてそれを奏美自身が否定した。
いつか通る門ならば、と……。

「いたい…なぁ。」

一人でいるのが怖く、皆のいる下に行こうと思い立ち奏美は立ち上がった。
すでに笑い声は聞こえない。姉が勝手に笑っていたのだろうなと思い、少しだけ心が晴れた。
いつもと変わらない…周りだけ、は。
扉を開け、階段に足をかける。すると、今度は想良の声が聞こえた。

「あ、そういえば帰ってきたんだし締め切りかぁ…。」
「そうだよ。はい、発表。」

アリーの声。奏美はおりるのが躊躇われた。
このまま部屋に戻って、もう一度寝ようか。誰かが来るまで寝たふりでもしていようか。
だが、想良の声に興味を持ってしまいそのままの体勢で耳を澄ませる。

「もっと遅ければなぁ…色々聞けたかもしれないのに。」
「へぇ…なんかやったの?」
「技術者のところに弟子入りしたの。」
「へえ…まあラリーでしょ。あのお人好し…使えるけどね。」
「アリーまでそういうこと言うの?」
「まあ。事実だしね。」

奏美は想良の非難を帯びた口調にチクリと心が痛んだ。その理由はなんだか分からない。
続けられる想良の言葉に耳を澄ました。

「今回は反乱。時期はよく分からないけど一月以内だって。」
「……反乱?」
「そう。…え?間違ってるかな?」
「いや。ただ僕の口調だけで揺らぐって事は自信は少ないんだね。」
「だって帰ってくるの早いんだもん。あ、あと女二人がいない時って言ってた。」
「そっか。」
「うん。あと一番目は炎でナタリーって人と女衆が相手。二番目は氷で捕らえて本家とのパイプ…と薬漬け。
 三番目は風で自分の周りは無風空間だからそこを狙う。大きい人はふらふらしてる。だから多分勘定外。
 …これってあれだよね、エドさん、レイさん、アリーにアルだよね。」
「うん、よくできました!合格したのは想良だけだよ。」
「本当?やった、嬉しい!」
「すげ、アル相手にしたときも想良ちゃん合格だったよね。あたしすげーと思う。」

ゆっくりと、戻っていった。
『合格したのは想良だけだよ。』たった一言。それが重かった。
音を立てないように扉を閉め、目が覚める前と同じように倒れ付す。違うのは、うつ伏せだという事だった。
悔しさで涙が流れてくる。
自分は人を、殺した。想良はただ情報を集めてきただけ。
自分は実践の場に行った。想良は、集落の人たちの協力で危険は無かった。
自分のほうが何倍も危険な事をしたのに、より安全な道を行き本人は不十分だと思っていた内容で合格。
それに自分の味方でいてくれるだろうと思っていた姉も想良をほめた。

(ずるい…ウチの方が頑張った。ウチの方が辛かった…!)

止まらない涙と悔しさ。恨みのようなどろどろとした物。
そして素直に友達の実力を認められない自分への憎悪。
今までに感じた事の無い感情が一度にやってきて奏美は混乱していた。
声を漏らさぬよう服の袖を噛み、奏美は一人涙を流し続けた。





「ところでさ…トリクシー、なんでいるの?」
「良いじゃねえか。オレの第二の故郷みたいなもんだぞ、ここはよ。」
「えー?」
「はは…大方アリーがいつも逃げてるからだろ?」
「それもあるな。んでマティーが行くっていうから付いてきたんだ。」
「ようするにアリーがここに腰を落ち着ければいいんじゃない?夫婦なんでしょ、一緒にいなきゃ。」
「簡単に言ってくれるね…。」

タルトを食べ終え、今は食後の談笑だ。
アリーは下がりたがったがそれはトリクシーが許さず今彼はホールドされ逃げ場を失っている。
結婚という事を知らない奏音と想良は二人に質問し続けていた。
トリクシーが答え、たまにアリーが相槌を打つというスタイルが短時間で形成された。

「でもよかったぁ。合格かぁ、嬉しいよ本当。でも集落の人たちには私負けるよ?キルシ君には騙されたし。」
「そう?僕は合格した事なんて無かったし分かんないなぁ。…キルシが、そっか。なんかあげないとね。」
「え?アリーちゃん強そうじゃんよ。何?外の世界はもっと強いのがうじゃうじゃしてるの?」
「そういう訳じゃないけどね。…エド、寝なよ。運ぶの面倒だし。」
「オレがいるじゃん。エドなんて軽いぞ。」
「トリクシーにはそうかもしれないけど…でもほら、苦労掛けられないから…。」
「アリー…やべえ、超嬉しい!」
「やめて!抱きつかないで!」
「…寝てくるよ。お二人で幸せにな。」
「というか常に後ろから抱かれてるのに今更だよ。」
「想良ちゃんてズバッと言うよね。」

緊張が解けたのか舟を漕ぎ始めたエドは上に行ってしまった。
それを手を振り見送った奏音が口を開く。

「でもアリーちゃんすごいわ。想良ちゃんには諜報、子供達には演技、んで自分らは弱点を知る。
 あたしだったら思いつかないわ。」
「そう。…うん、そうかな?」
「受けとけよ、悪い気はしないだろ?」
「そうかもね。あと想良、集落とはこれからも接していってもらって良いかな。」
「いいよ。でもなんで?」
「依頼はしたけど期間までは言ってないんだ。それに演技と知っている人をいかに間違いだったと
 思い込ませるようなのをできるようにならないとね。」
「私既に騙されてるけどなぁ。うん、いいよ。」
「どうも。頼りになるよ、色々とね。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.63 )
   
日時: 2012/03/07 14:15
名前: あづま ID:OQcm08Vs

「おはよ。…ここ、どーこだ。」
「……。」
「もうちょっと怯えるかと思ったけど…ふーん。」

アリーは笑った。一緒に来てもいいといったエドは寝てしまった。
レイも寝ているしトリクシーはあの人らと一緒にいる。
薄暗く、決していい環境とはいえない湿った建物。まだ、誰にも見せた事の無い秘密の場所だった。
微かな呻き声、救いを求める弱々しく恐れを抱かせる声。

「はじめまして。…っはは、今日から僕が君のご主人様だ。」
「……。」

アリーが手を引くとジャリ…という音と共に男が身を乗り出した。猿轡にと噛ませた鎖が引かれたためである。
身体を縄で縛られた男――医者と騙したあのスパイの身体を眺める。
対象の様子を観察する。反応を見るため軽くつまめば、必要以上に身体を震わせた。

「へぇ…そっか。君にはそうだね、麻痺薬の実験体になってもらおう。君みたいな敏感なサンプルはなかなかいないし。
 大丈夫…死にはしないからね。」

死にはしないというアリーの言葉に安心したのか男は身体の力を抜く。
薬を取りに行くため男をつないだそれを天井近くに結びつけ、小部屋を出て行った。

「すぐにはね。…はは、内臓まで麻痺…あはは、どうなるんだろ。」

この世界に動物は少ない。貴重な食料源となっており、薬の実験のために殺すわけにはいかない。
仕事の補助として、薬は大変役に立つが効果が分からない限りなかなか使えない。
はじめは自分で飲んでいたが意識を失う事もあり効率が悪かった。そこで、罪人を買った。
今ではどこか国のほうから厄介者を売りつけてくる事もある位だ。
苦しさに縋る声を無視し、アリーは暗闇へと消えた。





「あれ?アリーどこいった、いねえ。」
「んえ?あら本当だ。でもしょっちゅうフラフラしてるしさ、あたしも分かんないわ。」
「レイさんとエドさん、奏美は寝ちゃってるしねー。」

談笑を続けていた三人はアリーが席を立ったのには気づいていたがこの家からいなくなっている事には気づかなかった。
トリクシーが部屋を見てまわった様だがどこにもいなかったらしい。
ため息をついて戻ってきた。

「なんでいっつもいねえのかなー…。」
「そういえばさ、二人の馴れ初めっていうの?それってどんなんだったの?」
「あたしも聞きたい。んで新刊のネタにしたい。」
「新刊?」
「あたしこれでも元の世界で字書きなのよ。でもマンネリするじゃん?
 だからこう、ね。なんかネタにできりゃあ嬉しいなぁって思ったのよ。駄目ならいいけど。」
「別にいいけどよ。でも元の世界って言うな。そこがあんたらの帰る場所なんだぜ?
 ただでさえこっちに来ると戻れないって言われてんだ。」
「げ。…同人誌処分できてないんだけど…末代までの恥じゃん。」
「奏音さん結婚してないから奏音さんが末代じゃない?で、馴れ初めってどんな感じ?」
「いやー…。」

顔を赤くして視線をそらしたトリクシーに想良が小さく悲鳴を上げる。
奏音はその様子をぎょっとした顔で見た後なにか呟いたが誰にも分からなかった。
想良に促され、トリクシーはやっと口を開いた。

「オレがまだ小さいころにな、複数の国が同盟して攻められた事があって。
 そん時に親父と一緒にここの本家に行って同盟頼みに行ったのよ。で、年近いから遊んでろってアリーといたわけだ。」
「へー…じゃあ幼馴染とかではないんだね。」
「政略だからな。で、たしか一週間位いたんだよな。ただ最初の三日が辛くってよ、あいつの態度が本当癪にきて…。」
「喋り方とか?なんか生意気だなって思ったよ。」
「生意気なのはあたしも思った。でもミスって言ってくれてるし敬意的なのはあるのかな?」
「多分それ皮肉じゃない?」
「えー…。」

奏音は納得いかないようだったがそれはおいておく事にしたらしい。
話を聞く姿勢を見せた。
トリクシーははじめ嫌がったものの一度話してからはむしろ楽しいらしい。

「話し方もあるんだけどな、一番はちょっかい掛けられる事だったんだよ。
 やっぱ同盟を頼む側だから大人しくしてろって言われてたし。ただ四日目にきて限界来てふっ飛ばしたんだよ。」
「ありゃー…やばいんじゃない?」
「まあな。親父に大目玉食らったよ…本当、腕折られちまったからな、そん時。」
「うげ…え、怒られて骨折られんの?何この世界怖い。」
「いやいや、オレ等が特殊なんだよ。怪力衆って言われてて肉弾戦の力押しの国だから。
 ただ力加減が苦手でなー…はずみてポッキリ。まあ日常って言ってもいいくらいだ。」
「な、なにそれ?骨折がデフォの家…なんつうフルボッコの…。」
「まあその日のうちに治せたから。オレらは色々使えるだろ?それでだからな。自力じゃ一日では無理だぜ?
 で、次の日も来たけどこっちは親父に色々言われるから無視したんだよ。
 ただそれで調子乗るからマジ切れしちゃってなー…泣かせたんだよな…そうだそうだ。」
「アリーが泣くってなんかよっぽどな気がするんだけど。泣かなさそうだよ?」
「というか過程を詳しく。」
「なんか奏音が怖いんだけど。」

身の危険を感じたのかトリクシーは少し椅子を引いた。
しかしその行動を気にする様子も見せず、むしろ奏音は身を乗り出してきた。
これには想良も硬直したが一瞬の後に目に生気を戻した。

「奏音さんは落ち着いて、逃げちゃうよ。」
「何が?あたしは今捕獲体勢なんだけど。」
「トリクシーが逃げそう。」
「…困るわ。」

そういって奏音は椅子に深く座りなおした。

「…話して平気か?」
「もちろん、さあ、その過程を!」
「過程ってなぁ…ただ両足折って逃げられないようにして左肩はずしただけだけど。」
「うあー…痛くない?先輩で大会で肩はずれた人いたけど物凄い痛がってたよ。」
「えげつない…でも、いい…。」
「こんな馴れ初めがか?なんか本当、奏音って変わってるな。」
「まーね、悪口言われたりはしてたし。で、続きは?動きを封じてその後。」
「ぶん殴ったりとか軽く刺したり体に虫這わしたりとか。自然豊かだから虫多いんだよなー。」
「虫ぃ…?え…。」
「まあ口に入ったときに泣いてたな。息詰まるし毒虫だったし。
 というかぼこって血が出た所に虫の毒が来てそれもあったかもな。」
「虫はやばいよ!あたしの天敵じゃないか!!」
「そこ普通は毒じゃない…?」

奏音の着眼点に想良が突っ込む。それをみてトリクシーは笑っていた。
その時階段を下りてくる音を感じ、振り返ってみればレイがおりて来た所だった。
いつも梳かしてある髪は少し乱れており、寝起きだというのが窺えた。
だがまだ眠そうでどこかフラフラしている。
それに気づき、いち早く反応したのは奏音だった。

「おっしゃあ、隙あり!」
「は、なん、またか!!」
「なにやってんだよ…レイ、お前もいい具合に遊ばれてるな?
 本当に奏音の犬になったらどうだ?結構似合いだと思うぞ、オレは。」
「ふざけないどくれ、よ!ったく、いっつもいつもなんでこの訳分かんねえのが俺に絡まってるんだよ!」
「でもエドさんは千切って脱出してるよ?アル君も最近逃げる様になってた。」
「うるせ、俺はあいつ等ほど力がな、い…っは、あ……。」
「えへ…そう聞いたらますますわんこに仕掛けるよっへへへ…楽しいわぁー。」
「…奥深いな、奏音。あー…でもこんなんだったな、虫。」
「ワッツ?まじワンモアセー!」

奏音が何を言っているのか分からなかったらしくトリクシーは首をかしげた。
視線で想良に訴えかけるが彼女も分からなかったらしく帰ってきたのは力ない笑みだった。
二人の様子でどうやら伝わらなかったらしいと判断したらしく奏音は再び口を開いた。

「いや…もう一回聞こうかとね。」
「What?One more say!かな?」
「そー!すんげえ想良ちゃん発音いいわ、何塾?」
「別に行ってないよ、ただ同じ部に帰国子女がいるの。それで教えてもらってるから。」
「まじかー、赤点の代名詞でも理解できるのかな?」
「分かんない…。」
「はや、く解け!」
「やです。犬は繋いでおかないと迷惑になるでしょ?勝手に種付けしたりゴミ食い荒らしたり。」
「俺は、あ、犬じゃねえっ!食われちまうのかよ、俺ぇ!」
「あぁ、こっちは動物は基本食用なんだ。貴重な肉でな、虫とかも食うんだよ。毒以外な。」
「そなんだ。で、我が愛する娘とアリーちゃん泣かせた虫との関係は?」
「ただ単に形が似てるだけだ。んで毒もってるからちょっとひんやりうねうねってだけ。」
「そっか。アリーちゃんにも仕掛けよう。」

その発言にレイが叫びに近い声を上げる。

「そんなことすんなよ!あいつ、っあれトラウマ化、してるかも分かんねえだろ!
 やんならぁ、俺だけ、に…!」
「なんという独占欲…!うん大丈夫、あたしは二人を平等に扱うからね?」
「違え、そうじゃ、ねえんだよぉ!」

二人から離れるように想良とトリクシーは外に出た。
仲から楽しそうな奏音の声が聞こえ、ふたりは恐怖に顔を見合わせしばらく家に入らない事を無言で誓った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.64 )
   
日時: 2012/03/07 14:22
名前: あづま ID:OQcm08Vs

「なんかよ、すげえな…欲望のままにしか見えねえ。」
「うん。奏美も苦労してるんだろうし、奏音さんの同級生もよく巻き込まれてるんだよ。」
「大丈夫なのか?その同級生もそのうちぶっ壊れるんじゃね、あれに付き合うと。」
「華凛さんなら大丈夫だよー、あの人色々心のうちでは楽しんでそうだし苦労人だし。
 むしろ担当さんのほうが奏美から聞く限りやばいね。家庭も守らなきゃだし。」
「うわ…なんか精神攻撃に使えそうだよなぁ。」
「あはは、それ失礼だよ。」

想良とトリクシーは家から出た後どこへともなく歩いていた。
想良は奏美を置いてきてしまった事が気がかりだったが、彼女は奏音の実の妹だ。
なんとかなるだろう、むしろして欲しいと思って二人で歩いていた。
木の枝で道を作りながら進んでいく。
時折小さな虫が驚いたように飛び跳ね、また草の中へ消えていくのを見送った。

「でもさ、私達今までこういう風にして歩いてこなかったんだけど。」
「そうみたいだよな。でも毒虫とかあと動物とかが潜んでたりするからやるべきだぜ。」
「動物…食べるんだっけ?」
「そう。虫も毒が無いやつは基本食うな。崩れるまで煮付けたりすりゃ見た目も気になんねえし。」
「へー…。」

もう一ヶ月近く暮らしているこの世界の事も知らない事が多い。
事実、トリクシーが来てから三人を受け入れてくれた人等の像が見えてきたりもした。
道を作る彼女の後を追いながら想良はふわふわとした気持ちでいた。

「うわ、」
「いて!」
「わりぃ…。戻る、戻るぞ!」
「なんで?」
「いいから!」

突如止まったトリクシーに想良はぶつかった。
だが彼女は低い凄みのある声で語りかけ、想良の手を取り走っていった。
訳が分からず手を引かれるまま行き、あの家が見えたところでやっと止まった。
日々走りこみを続けている想良とはいえ、あのような距離を走ったのは初めてだった。

「な、なに?何が見えたの…?」
「いや…お前には関係ねえ…今のところは。」
「秘密?」
「そう、だな…。戻るか、声もしないし。」

何か意味ありげな余韻を残し、トリクシーは中へと入っていった。想良もそれに続く。
レイも奏音もおらず、ただ格闘したようなあとがはっきりと残っていた。
直せる所だけ直し、見渡す。

「なんかオレも一休みする…アリーもいねえし。」
「そう?なんかごめんね、付きあわせちゃったみたいでさ。」
「いいよ、楽しいし。女が周りにいないから結構新鮮だったぜ。じゃ。」

軽く笑ってトリクシーは上へ上がっていった。
今自分以外は寝ているという状況に陥った想良は集落に行く事にした。
仕事について教えてもらおう、ただそれだけの思いだった。





「分かるかしら?この国を少しだけ、ね?時期は私が指示する。」
「……。」
「マティー、私らを呼んだと思ったらただ単に疲弊させるだけなの?
 これくらいだったらあんたお抱えのでなんとかなるんじゃない?」
「私は次期当主…まだ母がいるから上手く動かせないのよ。」

ダイアナは顔をしかめた。一方、アルはマティーから言われた事に頷いた。
高い塔の頂点に近い部屋…ここがマティーの部屋だった。
この部屋の主は気だるそうに髪の束を指で弄んでいる。

「領地を取るでもない、同盟を結ぶでもない…なんで私らを使うんだ。」
「いいじゃない。そもそも私の家は補佐しかできないのよ?ダイアナ、あなたのところとは違うの。
 ごめんなさいね?なり上がり者で。」
「そこは問題にしていない。そもそも私はあそことはもう関係ない。縁を切った。」
「パウエルから逃げるあんたの心理が分かんないわぁ…名門中の名門、敵無しじゃない。」
「たまたま古い家ってだけでしょ。それに言うならね、パウエルも補佐の家だ。」
「そ、下克上のね。そして主家乗っ取っちゃうもの…同じなり上がりの家よ。」

マティーは面白そうに笑った。そしてダイアナは既に縁が切れているとはいえ家を貶された事に拳を握る。
理解できていないというようにアルが首をかしげる。
広げられた紙の上に浮かぶ国。
愛おしそうに勝手に書き込まれてゆく戦略を眺めていたマティーがやがて、口を開く。

「でも、あなた達に拒否権は無い。ダイアナはパウエルにいれば私が命令できる身分じゃないけどもういないんでしょ。
 それにアルベールは出自不明だし…まあ捕らえられてたんだし結構いい所の人だとは思うけど。
 どっちもこっちが面倒見てるんだから働いてもらうわ。」
「仕方ない…やろうじゃないか。で、具体的なのは?」
「ただ混乱させりゃいいわよ。アリーがやったんだけどねぇ…本当、あの馬鹿が。」
「なんかしたのか?」
「ええ、混乱させただけよ。しかも連絡線を絶たなかったからすぐ編成されちゃうし。
 あそこの軍師は回転も速いし、何より運に恵まれてるわ。」

立ち上がり、紙をまとめ隅へと放り投げた。先ほどまで書かれていたものはすべて消えただの白い紙となっていた。

「まあ、とにかく戦力を秘密裏に壊していって欲しいわけ。一部隊じゃなくって…もっと、沢山。」
「まあいいけど。アルもいいよな?」
「……。」
「いいよなもなにもアルは最初から同意してくれてたわ。じゃあ、ヨロシクね。」

マティーが手を振ると、ダイアナとアルは強い力に引かれ部屋から出された。
そしてその扉は既に閉ざされ、もう開ける事はかなわなかった。
二人はあきらめ、塔の階段を下りてゆく。
腕を組み先を進むダイアナをアルは追った。





微かな声と、金属音。時折響く叫び声。
蹲り荒い息をする男を見下ろす影。
男に剣が振るわれ、それが肌を薄く切り裂き血がにじんだ。
呻き声。

「声、出していいんだよ。」
「…っ、は、……。」
「強情だなぁ…ま、そういうの僕は大好きだよ。」

アリーは屈み、先ほど付けた傷に指をねじ込む。
緩やかだった出血は増し、男も叫びをあげるが抵抗は示さなかった。
いや、できないのだ。

「麻痺薬は上々…。見せしめにいいかな、これ。悪趣味な輩に売ろうかな。」
「あっ、ぐ、…。」
「堪えてると辛いよ?もっと、声、出して。
 声を出す…特に笑うと力が入るし、なにより気持ちに余裕が出てくるんだって。」

さらに指を深いところへとやれば、男の声も比例し大きくなる。
男の口をこじ開け、子袋に入っていた錠剤を押し込む。
そして男の手を取り針を突き刺した。そして指に何かを結びつける。
しばらくし、男が手を動かし始める。それを確認し、アリーは男を壁に寄りかからせる。

「おー、やっぱり効いた。毒虫もいいね…ははは。」

そう言ってアリーは今しがた男に自分で付けた傷を手当し始める。
男はそれを怪訝そうな目で見つめた。

「ねえ…僕にさ、復讐したい?」
「…どういう?」
「あは、まあどうでもいいや…。君の意思は無関係だ。」

男の前に座り、先ほどまでそれを斬りつけていた剣でアリーは自分の足を刺した。
深く刺したため血が止まらない。
男は目の前で起きた事にただ呆気に取られていた。だが、さらなる衝撃が襲う。

「っ、ったあ…はは、痛あ…ははは。」
「なにを…。」
「はは、これっ…大好き、は、は…う…。」

アリーは自ら傷口に指を挿しいれ中で動かす。
痛いはずの行為も、彼の口からもれ出る声で悦に入っている事が男には理解できた。
それを理解した瞬間、男を恐怖が襲う。動かせるようになった手で目の前の人物を突き飛ばした。
だが、それにも楽しげな声を上げ手を取られた。

「触るな…!」
「あは…。」
「なっ…!」

アリーが男の手を傷口に添えればそれは勝手に動き出した。
正確に言えば指に巻きつけられた何かが動いている。
手から伝わる温かみと肉の感触に男は悲鳴を上げた。

「あっ…吸血、植物ぅっは、あはは、君の顔も、いいな、ぁ!」
「お前…なんなんだ。」
「あは、捕虜ごときが!答えるわけ、ないじゃ、あぁ、痛い!」

男は思った。とんでもない人物に囚われてしまったと。
やっかいな人物が標的だとは効いていたがこれほどだとは思っていなかった。

(異常者め…!)

傷口の中で自分と、そして相手の指が肉を抉るのを感じながら男はただ目の前の人物を観察していた。
痛みを楽しむ人物は少なからずいるが…男は思った。
涙を流すのはいただろうか―――?
喘ぎながら涙を流す目の前の異常者を男はただ、見つめ指を動かした。
メンテ
Re: Differences in Peace【42修正】 ( No.65 )
   
日時: 2012/03/09 10:32
名前: あづま ID:7H.bxSCk

集落におり、一段楽した仕事に汗をぬぐう大人達に声を掛ける。
皆笑顔で返してくれ、子供達はもうすぐ帰ってくるだろうという事も教えてくれた。
一人の気のいい女の人に今日は私の家で遊んでいきなさい、と想良は案内された。

「じゃあ、何かあったら呼んでね。私はもう少し仕事をやるから。」
「あ、私も手伝います!」
「いいのいいの、あなたにはそんな事させられないわ。」
「え?」
「隠したって無駄よ。どこか高い身分の娘様でしょう?素性も明かさないもの、皆分かってるわ。」
「いや…そういう訳じゃあ…。」

口ごもる想良に女の人は微笑みかける。
彼女の声に何か思い当たるものがあるはずなのだが思い出せない想良はただ曖昧に微笑み返した。
相手も疑問に思わなかったらしい。言葉を続ける。

「それにね、こう言うのは失礼かもしれないけど子供達がいると仕事に邪魔なのよ。
 かまってやりたいけど仕事しなきゃ今日の食料なんて無いからね。」
「あ…。」
「ふふ、だからあなたがあの子達の面倒を見てくれて助かってるの。よろしく頼むわ。」
「あ、はい、行ってらっしゃい。」
「ふふ、じゃあね。」

手を振って離れていく女の人を見て想良は思い出した。
あの盗み聞きした集会の…ナタリー、という女だ。
ただ声もやわらかく優しそうな見た目で想良は今の今まで分からなかった。
こういうのを気をつけるべきなのだ、見た目に惑わされてはいけないと想良は硬く決心する。

「何しようかな…。」

だが待つ間とはとても暇なものである。
紙は子供達が持ってくるものでしか使えない。そもそも、どこにあるのかが分からない。
感覚ではあと数十分はしないと子供達は解放されないはず。
想良はこっそりと家の裏へと周り例の仕事場へと行く。
そしてこっそりと廃材をいくつか拝借しいそいで戻った。
誰も戻ってきていないようで元の場所へと腰掛けた。

「そういえば建物日本的だなぁ…縁側。」

自分が今座っている所を見て呟く。
だが気にする事ではないだろうと思って小刀を作り上げ、木を削り始めた。





重たいものが背中に乗っている。
それを除けようと手を回せば温かくやわらかい物に手が当たった。
重たいまぶたを開けてみればそこには姉の体があり触ったものは腹だという事が分かった。
そして乗っているものは足らしい。
起こさないように気を使いながらゆっくりと抜け出す。
寝てしまったのか。
周りには姉以外誰もおらず、温かい日差しが部屋の中に入ってきていた。
やる事も無く部屋から出ようとしたが体が、特に腕が重い。

「筋肉痛か…。」

久しぶりのそれに気を沈ませつつ無理に動かす。
扉を開けて下に下りれば誰かが座って外を眺めていた。

「ん?あ、起きたか。」
「……?」
「不信がんなって。オレはトリクシー。聞いたことくらいあるんじゃないか?」

その言葉で一瞬にして奏美の体が熱くなった。
理由は分からない。ただ、声を聞きたくなかった。それだけだ。
だが、そんな気持ちとは裏腹に勝手に言葉が口を出てきた。

「あぁ、アリーの結婚相手の。…あれ、アリーて男だったんだ。」
「そうだぜ。なんだ、お前もそう思ってたんだ。お前の姉貴も友達もそう思ってたよ。」
「まあ…アリーってどっちかっていうと女の名前かなって。」
「ま、男らしさのかけらも無い事はオレも認める。むしろ性別逆転した方がいいかもな、イメージ的に。」
「そんな事無いよ。ウチも男っぽいって言われてたし。」
「そうか?普通に女だと思うけどな。」

しかしトリクシーの様子はどこか嬉しそうだ。ふっと緊張が切れたように感じた。
それからまた彼女は外を眺め始めた。奏美も隣に座りそれを問う。

「ん?いや、アリーいなくなっちまって。」
「え?それって駄目じゃん!」
「オレが来ると大抵いないんだ。まあ今回は見れただけ良い様な気もするけど。
 ただオレ戻れないからさぁ…。」
「戻れない?」
「あぁ。お前ら能力あるだろ?オレはそれがほとんど無いんだよ。つっても一族がだけどな。」
「そうなんだ…結構辛くない、それ。」
「ただ結構タフだから大抵のモンなら跳ね返せるぜ。それに馬鹿じゃねえのってくらい力も強いし。」
「ふーん…色々な、なんて言ったらいいんだろ…種族?がいるんだね。」
「あぁ。改造して人体がほとんど残ってないのや、特定の期間に身体を変えるのもいるぜ。」

トリクシーは笑い、外に出た。奏美もそれの後を追う。
追いかけてきたのをトリクシーは意外に思ったようだが何も言わなかった。
二人で、何も喋らず歩き続ける。
太陽の光を遮る物は無く、緩やかな風に草木が揺れるのをなんとなく奏美は眺めていた。
下のほうでは人が集まっている。だが、奏美にはなにに集まっているのか分からなかった。
また、無言で歩き続ける。

「お前さ。」
「…え?」

突然トリクシーが口を開く。奏美は油断していて返事が一瞬遅れた。
相手の顔は逆光によりよく見えないが真剣な雰囲気をまとっている。
ただ、背後の森――三人が初めて出た場所からの雰囲気も余計に空気を固まらせたように感じた。

「アリーのこと、結構好きだろ。」
「え、え?!」
「図星だな?…いいぜ、別に隠さないで。」
「…ごめん。」
「別に謝んないでいいって。」

奏美は思わず俯いた。好きなのかもしれない、そうは思ったが相手は既婚者。
それに今目の前にいる結婚相手にそれを悟られているとは思いも寄らなかった。
顔を伏せたままの奏美に対しトリクシーは口を開く。

「オレらは元々政略なんだ。同盟が終わればオレも戻る。」
「うん…。」
「それにオレが勝手に執着してるだけ。アリーはオレの事なんとも思ってないだろうし…。」
「それは…。」
「ん?まぁ、オレらはそれだけの淡白な結婚だから。別にアリーがだれと恋愛しようと…うん、構わねえよ。
 あいつも十六だし…そういうのしたいだろうからな。」
「……。」
「悪いな、こんな話しちまって。隠したい事だろうけどなんとなく言いたくなったもんで。
 忘れても忘れないでもいいよ…。」

それだけ言うとトリクシーは振り返らず走って行ってしまった。
奏美はそれが見えなくなると糸が切れたように座り込んだ。
言えなかった…と心の中で思う。
レイにトリクシーが嫌いなのかと聞かれたとき、アリーはすぐに否定していた。
なぜ否定するのかを分かっていなかったような記憶がある。つまり、自分の感情を自覚していないという事だ。
だが、助かったと思う心も同時に存在している。

「最悪…ウチ、馬鹿。最低…。トリクシーも、嘘つき……。」

構わないと彼女は言ったが、それを言うのはひどく辛いのが奏美には分かっていた。
奏美の顔も見ず走り去ってしまった。それが唯一の確固たる証拠といっていいだろう。
まだ高い日差しの中、身体を擽る風を受けながらも奏美はずっと座っていた。





「いって、何だよ!」
「まぁまぁ、ちょっと内緒の話。」
「あいつ等がいると出来ねえ話かい?だったら聞こうじゃないか。」

窓には布が掛けられ限られた光しか入ってこないレイの部屋。
レイはエドに無理矢理に起こされ不機嫌な声を出すも雰囲気を読み気を引き締めた。
なかなか口を開かないエドの手を握り早く喋るよう訴えかける。

「実はな、仕事の依頼だ。」
「俺らこなしたばっかりなのにか?へえ…近く何かあるのかねぇ?」
「……。」
「言っとくれよ、俺は察せるほどいい頭してねえんだ。」
「はぁ…俺にだ。ただしばらく帰ってこられそうに無い。」
「そうかい…行って来いよ、俺はあんたを信頼してる。俺と違ってへまもしねえだろうよ。」
「あぁ…うん、そうなんだ。そうなんだが…。」
「んだよ。」

なかなか本題に入ろうとしないエドに思わずレイも声を強くする。
しかし彼の様子は変わることが無い。珍しいな、とだけレイは思った。
メンテ
Re: Differences in Peace【42修正】 ( No.66 )
   
日時: 2012/03/09 10:35
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「寝てたから…お前は寝てただろ?」
「何が?…いや、寝てたけどよ。」
「だから何の危機感も無いんだ!あーもう、あぁ!」
「何一人で自己完結してキレてんだい?!」
「だからー…あー、言わなきゃ駄目か?」

一人で悩み、一人で怒り一人で弱気になる兄にレイも思わずあきれる。
レイの隣に腰掛けたエドはしばらく頭を抱えていたがやがて意を決したように口を開いた。
それは想良による諜報で話された事。
途切れ途切れとはいえ話されるそれをレイは黙って聞いていた。
話が終わりエドは息をつく。はじめに口を開いたのはレイだった。

「それがどうしたんだい?アリーは集落全部巻き込んでんだろ…どっかおかしいのか?」
「集落全部巻き込んだのも全部嘘だ…できないだろ、普通。」
「はぁ?別にやろうと思えばできるんじゃねえか?あそこの奴らだって優秀だぞ?」
「無理なんだよ…時間的に。」
「どういうことだ。」
「アリーが帰ってきたのは朝。そして出たのはまだ夜も明け切らない内…一日もここにいなかっただろう?」
「あぁ…なんか結構昔に感じるけどな。」
「それだ。分かるだろう?」

続きの言葉を待ったがもう喋る気も見えないエドは口を開かなかった。
レイはなぜそれが今目の前にいる兄の状態につながるのかを考えるが全く分からなかった。

「話しとくれよ。俺には分からねえ……。」
「……。」
「頼むよ、重大な事なんだろ?少しぐらい、いいじゃねえか。」

耳元で囁くがそれには擽ったそうに身を捩っただけだった。
それだけの反応にレイは物足りなさを感じ身を預け、同じ事を繰り返した。
これには効果があったらしくため息をつきエドは再び口を開いた。

「やめてくれ…俺は身内…ましてや男にまで手を出すつもりは無いんだ。」
「そりゃそうだろ。むしろ手を出されたら俺は死んでやる。で、なんなんだい?」
「時間が無さ過ぎる。それに結構俺達といたから打ち合わせするにも駄目だろ。」
「でもある程度の条件だけ上げて後自由なら…。」
「たしかに。でも駄目な事がひとつ。」
「なんだ…?」
「キルシは技術者の子供。演技で人を騙すような訓練は受けない。」
「…技術者は人が少ないから学ぶのは防衛と逃走技術。そういうことか。」
「わかったか?基本、技術者はお前と同じだ。ただ演技はしない。それにもし演技や戦闘を学んでいるのなら。」
「反乱や謀反が疑われる……。そうか…。」

レイも納得し、それから慌ててエドから離れる。
それから小さく言葉を繰り返した。事の重大さがゆっくりではあるが飲み込めてくる。
顔を上げ口を開く。

「本家に行こう…。」
「は?おい、それは正気か?」
「仕方ないだろ!奏音と奏美と想良は戦えるか?ダイアナの指導とはいえ突貫だぞ?
 対して集落のほうは子供も訓練を受けてる。それに大人もいるんだ…勝敗は見えてるじゃねえか。」
「お前とアリーが守ってやる選択肢は無いのか?今はトリクシーだっている。」
「無理さ…俺が生きてるのだってお情けみてえなもんだろ…。俺が死んでも損害は無い…むしろ得するんじゃねえか?」
「おい…そういう事、」
「事実だろ。泣きながらやってもお役目果たせねえ奴は居なくたって…別に。」
「……そういう風に言うの、やめろよ。」
「あん時死んでりゃよかったのさ。俺、必要とされてなかっただろ?」
「それは…。」
「隠すんじゃねえ!だってそうだろ?三年間放置じゃねえか…。」
「……。」
「出てってくれ。俺は自分の身以外は…むしろ自分の身も守れねえよ。」

そう言われては仕方が無いとエドは立ち部屋から出て行く。
出来るだけ音を立てないよう扉を閉め、下におりようとすると突如首筋に謎の感覚が襲う。
その瞬間、バッと蔓が身体に巻きつきこの感覚の正体が分かった。
核を引き離そうと首の辺りのそれを重点的に千切りながら声を掛けた。

「奏音?」
「…ありゃ、もう取られたか。はいはい、なんでごぜーましょー?」
「こういうのはもうやっても無駄だ。」
「いやいやあたしは日々進歩してるからね?つかわんこ怒鳴ってたねー、どしたの?」
「いや…、まだ話す事じゃない、かな?」
「なにそれ企業秘密的なー?まいいけど。」

別段気にした様子も無くエドから核を受け取った奏音はそれを腰に下げていた小さな箱に入れる。
なにかの培養地なのか土とよく分からないものが入っていたのをちらりと見たエドは見なかったことにした。
嫌な予感が全身を駆け巡った。

「あ、でもさ三年放置ってのは?そこだけならいーでしょ。」
「それは…ただレイが捕まって三年後に帰ってきただけ。でも…うん、死んだ事になってたしなぁ。
 それに探そうなんて動きも無かったし……いらない、と思われてたのは事実だ。」
「まじで?ひっでー。」
「仕方ないんだ…実力が無きゃ捨てられるのが俺達の世界だからな。」
「ふーん、でも今はそんな事ないんでしょ?お仕事貰えてるみたいだし。」
「ただ、女の仕事だけどな。レイはあまり戦いに向かないし…諜報は女の仕事だから。」
「え、それってわ!」

突如奏音の姿が消えまさかあのいつかの少女の仕業かと武器を構えようとした。
だがすさまじい音と何かがぶつかる音で彼女がただ単に階段から落ちたのだと分かった。
顔をしかめ階段を重い足取りで再び上ってくる彼女をエドは苦笑しながら迎えた。





「でき…不恰好だなぁ。」

小刀で作り上げた木彫りの人形…のような物。
手先は器用だと自負していた物のあまりの出来に想良はそれを脇にやった。
なにか設計図のような物でも作るべきだったと今更ながら反省する。
だがそれを誰かの手が取るのを見てその手の主を見るとそれはキルシだった。

「すげーじゃん、小刀だけでこういうのできるの?」
「まあ…不恰好だけどね。」
「そんなことないってー、今日はさ、何か作ってくれる?もうすぐみんな来るんだ!」
「そうだね…そうだ、今日は折り紙やめてさ何か違うの作ってみようか。」
「ほんとー?」
「うん。あ、そうだ糸ってある?色んな色あるといいんだけど。」
「うん!待って、持ってくるから!あとみんなにも来る様に言ってくるよ!」

そういって飛び降り笑いながら駆け出していった。
それを見送りながら思う。あれも演技なのだろうか、と。

(なんか人間不信になりそうでやだな。)

そう思いながらももう一つの木片に今度は印を付けていく。
大まかな形と削る深さ。
それを付け終えるころ、糸を持ったキルシと子供達が走ってきた。

「ソラ、これでいい?」
「うん。へー、色いっぱいあるね。」
「そうかな?でさ、今日は何作るの?」
「ミサンガって言って…お守りみたいな?」
「おまもり?なんか面白そうだね。」
「でもなににつかうのー?」
「簡単に言えば上手くいきますように、みたいな?自然に切れるとき願いが叶うって言われてるんだよ。」
「そうなんだ!つくろー、俺青がいい!」
「えーおれも青がいいよ!」
「大丈夫だよ、糸があれば簡単だから、ね?」

色で喧嘩を始める子供達をなだめつつ順番に希望の色を聞いていく。
そして必要な長さを切り分け渡していった。
ミサンガという未知のものに子供達はわくわくしている。

「あの…そんなに期待されると…こういっちゃなんだけどただのブレスレットだし…。」
「でもすごいんでしょ?願いが叶うんだもん!」
「それはそういう…うーん、作ろうか!」
「うん!」

子供達の期待に満ちた目をみると今更引き下がれないような気がして想良はみんなに見えるように説明していく。
糸を合わせるだけの簡単な作業なので折り紙よりは難しくなかったらしくほとんどの子が自力で作り上げていく。
特別不器用な子も手助けすればスピードこそ遅いもののちゃんと作り上げていった。

「みんなできたー?」
「うん!すごくきれい!」
「わたしこれ大事にする!簡単だったからママにもつくってあげていい?」
「いいよ。頑張ってね。」
「うん!」
「あ、いいなー。ねえソラ、俺の頭もなでてー。」
「え?いいよ。」

一人なでてやれば自分も自分もと来る子供に呆気にとられた。
だがこれも世界の違いだろうと笑いながらそれに想良は答えた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.67 )
   
日時: 2012/03/13 10:05
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「じゃあね、ばいばい!」
「またきてねー!」
「ばいばい。…今日もラリー居なかったなぁ。」

子供達にミサンガを教え少し遊んでから想良は集落を離れた。
仕事場をのぞきラリーが居るか聞いたがどうやら補助具の材料を探しにいっているらしく留守だった。
あと二三日は来ないだろう、とまで言われてしまってはどうしようもなかった。
考え事をしながら歩いていたためかどこかで道を間違ったらしい。家から離れた森の中に出てきてしまっていた。

「ありゃー…あ、ここ向こうから来た場所じゃん。」

見覚えのある景色に懐かしさがこみ上げてくる。
オレンジ色のまだら模様を木々が作っているのを見て暖かな気持ちになった。
奏音を連れ去ったレイを奏美と一緒に必死で追いかけた事が既に懐かしい。

「ん?トリクシー!」
「……想良か…。」

道から少し外れた気の上にトリクシーが座っているのを見つけた。
それはたまたまで周りを見ないで一直線に帰っていたら気づかなかっただろうと想良は思った。
彼女の元へ駆け寄れば向こうも軽い音を立て地に着地した。

「…?どうしたの、元気ない、かな。」
「別に…オレもこういう時くらいあるって事だな。」
「ふーん…でもさ、悩みなら言ってよ?私も少しくらいなら力になれるかもしれないし。」
「本当大丈夫だ。オレは平気、この世界の人間だからさ。」
「世界とか関係ないよ!」
「え?」

普段大きな声を出さない想良のそれにトリクシーも驚く。
彼女の知っている想良と違う雰囲気に戸惑いを隠せていないようだった。

「世界とかじゃない!私もトリクシーも同じ人間だよ?悩みがあっていいじゃん?」
「確かに想良たちの世界だったら悩みとか打ち明けられるだろう。けどオレ達の世界はそういうのは駄目なんだ。
 どこで誰が聞いてるか分からねえんだぜ?それを弱みに色々やらされるかもしれないんだ。」
「そうかもしれないけど私はトリクシーの仲間だから!それに…友達かなって思ってるんだよ…?」
「友達…?」
「そう。…迷惑なら、言ってよ。」
「友達…ともだち……。」

風が吹き、そこでトリクシーは自分が初めて泣いている事に気づいた。
自分がいつから泣いていたかなんて分からない。もしかしたら、想良が来たのも自分が泣いていたからかもしれないと思った。
泣きながら弱みがどうのこうのなんて馬鹿げていると自嘲する。

「ごめん…友達とか、オレ、そういうの、いなかったから…。」
「トリクシー…?」
「オレ、統治者の娘だから…みんな、敬ってて……。」
「うん。」
「だれも、対等に付き合ってくれなくて…。欲しい物みんな手に入るって陰で言われて…。」
「うん…。」
「友達、欲しくって…なのにみんな、オレが行くと恐れ多いって…勝負事も、全部…。」
「そう…。」
「そう。ごめん、泣いて…。でも、嬉しいよ。…ごめん、泣いて…泣いてて…。」
「謝んないでよ…別にいいじゃん、泣いたって。」
「悪い…。」

暖かい色の木漏れ日が二人を照らしていた。





「はー…戻ろう……。」

どれくらいそうしていただろうか。
立ち上がると足の辺りには草の跡がしっかりとついていて服には緑色のしみを作っていた。
一度部屋に戻り着替えて、それから洗いに行こうと奏美は思った。
家に入るとまだ誰も起きていないのか物音ひとつしなかった。
いそいで部屋に入り着替えを済ませ、染みを作ったのを小脇に抱え家を出る。
その時レイの怒鳴り声が聞こえて、寝ていると感じたのは間違いだったのかと思ったがどうでもいい事だった。
水流を辿り、洗濯場となっているところへと行き石に腰掛けた。それから地道に揉み洗いである。
洗剤が無い事をここまで不便に感じたことは奏美は無かった。
染み込んでしまったのかなかなか落ちず自然とイライラがたまる。

「いいや、もう。ウチしか着ないし。」

ぐっと絞りそれを木の枝に掛ける。日が沈むころにもう一度来ればいいだろう。
重い足取りで家へと戻る。

「奏美ー、どしたの?服変わってね?」
「姉ちゃん…あぁ、なんかこけたら土だらけで洗っておいたんだ。」
「マジ?なんだ一緒に頼めばよかったわー…。」
「洗ってないの?本当言えば洗ったのに。」
「残念…わんこにでも洗わせるかな。」
「おいおい、奏音も女だろう?少しは考えたらどうだ。」

奥からエドが出てきて会話に混ざった。
その顔には明らかに戸惑った微笑が飾られている。

「なんで?嫁に洗わせてなんか不都合が?」
「嫁…まだ言ってるのか。…ほら、下着とかさ、そういうのあるだろ?」
「別にあたしの下着が何なの?スッケスケって訳じゃないしむしろ男女であまり差が無いようなフォルムじゃんよ。」
「姉ちゃん、その羞恥心とかは…?」
「そうだぞ。年頃なんだしもうそろそろ婚期だろ?恥じらいとかそういうのは無いのか?」
「無い。」

奏音はきっぱりと断言した。
その速さに思わず二人は顔を見合わせ心の中でうなずきあった。

「ていうか恥じらいとかどこの大和撫子?今の時代にそんなのあるっけ?」
「大和撫子まではいかなくても…普通はあるかな。」
「だって下着だよ下着。布になにを。……エドってそーゆー趣味?」
「無いよりは有った方良いだろう?」
「胸もか?まあいいや、あたしも人の嗜好に色々言えるほど健全じゃないし。とりあえずわんこに洗わそ。」
「しばらく出てこないと思うけどな。説得するのもなぁ…。」
「更年期?仕方ないねー最近の若いのは。どれあたしが。」
「やめなよ。レイさんだって色々あるんでしょうに。それに出てきたとしても洗濯させる気でしょ。」
「おーともさ!行ってくるぜ、あたしは戦士だ!」

意気揚々と階段を上って行った奏音を二人は見送る。
彼女の一人で旋風を巻き起こし後は気にせず進んでいく様を呆れて見ていた。

「なんか…戦死しそうな気が…。」
「言ってやるな。…傷、結構見えないな。これなら完治するかも。」
「そう?…そっか、良かった。」





「お前。」
「何?僕、疲れたんだけど…。」
「血を流すからだ。しかも泣きながら…精神的にも肉体的にも普通は疲れる。
 お前は…笑えと言った。だが、お前自身は…。」
「分かってるよ…お前も分かってるなら話しかけないで…。」
「…すまん。」

男は自分の主人となったと言う人物を感じていた。肩で息をし、自分にもたれかかっている人物。
ただでさえ深い傷はそれを弄くったせいか血が止まる様子は無い。足に温かな物を感じていた。
既に麻痺薬は抜けたのか身体は自由に動かせるようになっていた。
自分にもたれかかるそれを突き飛ばす事もできるだろうがそれをあえてしなかった。
己が命じられた標的。捕らえられたとはいえもし脱出できた場合少しでも多くの情報があればと思ったが故だ。
暗いながらもわずかに見える肌や髪の色、それに声からあの毒に犯されたらしい人物だというのは分かった。

「……。」
「っ、やめてよ、触らないで。」
「…止血だ。」
「必要ないって…生きてるから血が出るんだし。」
「そうか…。」

流れ続ける血を危険だと思い止めようとすれば拒まれた。
しかも理由は生きているからだという。男は何か隠された意味でもあるのかと読もうとするがそれは見つからなかった。
互いに呼吸を感じながら時がたつ。
もたれかかっていた人物が動き、男の胸元には冷たい空気が代わりになった。
途端に身体全体が冷える。惜しい事をした、とだけ思ったのだった。

「まぁ…それなりに楽しかった、かな?」
「異常者が…。」
「あはは、慣れてるよ。自覚もしてる…抜け出すなり何なり、ご自由に。」

笑った雰囲気を残し、後には金属音と無機質な空間だけが残った。
拘束もされていない自由な身体ではあるが男は逃げようという気が起きなかった。
もう少し、奴の情報を知りたい。
手についたその人物の血液を口に含み、その血と共に笑った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.68 )
   
日時: 2012/03/13 10:06
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「ただいまー。トリクシー大丈夫?ちょっと休んだら?」
「いやいい。なんかスッキリしたしな。本当ありがとう。」
「お礼言われる程の事じゃないよ。あ、エドさん。奏美帰ってる?」
「帰ってるは帰ってるが…。」
「なんだ?エド、さっさと言えって。」

曖昧に笑うエドに想良とトリクシーは顔を見合わせた。
それからトリクシーは一瞬顔をしかめたが誰にも分からないほどの一瞬だった。
何故かを問いただそうとトリクシーが一歩、エドに向かって踏み出した瞬間轟音と共に家は揺れた。
バランスを崩した想良がトリクシーを巻き込んで転ぶ。

「痛たた…ごめん。」
「いや、オレも悪い。…エド、見てるだけじゃなくて手を貸してくれても良かったんだぜ?」
「悪い悪い。だがな、そんなことは問題じゃないんだ。あーあ、始まったか。」
「何?何か悪い事?」
「レイか?また勝手にキレやがったのか。何でまた…。」
「ははは…えっと…うん。自己嫌悪と奏音のあわせ技だな!よし、一回退避!」
「え、え…?!」
「想良、また外行くぞー。」
「奏美は!奏美どうするの?」
「奏美なら大丈夫だろう。彼女は素質もある、なにより常識人だろ?
 それはレイも認めてたらしいじゃないか。大丈夫、彼女なら止めてくれる。」

もっともらしい事を言いエドは上を見上げ心配そうな想良を抱えて外に出る。
トリクシーも後から続き外に出た瞬間、扉を硬く閉めた。
そしてエドは振り返り何かブツブツと呟く。扉に模様が現れた。
かつて、三人をダイアナがテストした際準備のために締め出された時のそれだった。

「これで大丈夫だろう。」
「そうか?オレにはそうとはあんまり思えないぞ。」
「そんな事無い…かな。あー…。」
「ねえねえ、なんでこんなに慌ててるの?レイさん怒ると怖い人?」

いまいち事態を飲み込めない想良が二人に問うが曖昧に返事をされただけだった。
想良はむっとして扉を開けようとするがあかない。
また不思議な力か、と諦めて少し下がり家の全体を眺める。
なにか音がするわけでもなく、どこからか崩壊するわけでもなくどっしりとそれは構えていた。
その時扉がいきなり開き、中から奏美が走って出てきた。
服装も少し乱れ、息も荒い。

「ちょ、みんな出てきてたの?う、ウチも少し気遣って欲しかった…!」
「悪い悪い。奏美なら大丈夫だと思ったんだ。でもその様子だとあれか、かなりやばいか?」

楽観的に笑うエドを一瞬奏美は睨んだ。だが、それも無意味な事だろうと察したようで口を開こうとした。
だが乱れた息に邪魔されなかなか言葉が続かない。
想良が奏美を座らせ、背中をさする。しばらくして落ち着いたのか奏美は口を開いた。

「なんか…姉ちゃんがレイに話しかけに行って、ウチは部屋に戻ったんだよ。エドもここまでは一緒だったじゃん。」
「あぁ。でも想良とトリクシーはいなかっただろ?話してくれ。」
「…、ウチはその後しばらくボーっとしてて。その時レイの部屋のほうで色々聞こえて姉ちゃんがまたなんか
 やったなって思った。したらいきなりすごい音がして…地震みたいだった。」
「あぁ、あれ…私それで転んだんだよ。」
「そうなの?大丈夫だった?…それで何かやばいかなって思って下に行こうとしたら…うん。」

そこで奏美は口を閉ざした。
何が起こっていたのか大体を察したエドとトリクシーはそれ以上問おうとはしなかった。
奏音の嗜好を考えれば大方、やる事は決まっているに等しかった。
分からなかった想良が三人に問うが帰ってくるのは曖昧な返事ばかり。

「想良はさ、知らないほうがいいと思うな。」
「なんで?私が知ると駄目な事なの?」
「うーん…まあ、いずれは想良もやるかもしれない事だけどな。俺的には知らないなら知らないほうがいいだろうと思うぞ。」
「エドさん…トリクシーもそう思う?」
「あぁ。まあ、だろうなー。うん…知らないほうがいい。」
「えー?」

その時後ろのほうから呼ぶ声が聞こえ、振り返ればアリーがふらふらとした足取りでやってくる。
誰よりも早く動いたトリクシーがアリーに肩を貸そうとしたがそれを断り自分の足で歩いてきた。
トリクシーも後ろから時折ふらつく彼を心配しながらついて来る。

「やあ、ただいま。そんでなにが起こってるの?さっさと家に入ろうよ。エド、術といて。」
「またあそこか。収入源だし止めはしないが…ただなんでお前は大体どっか傷を負ってくるんだ。」
「いいでしょ?僕は僕だしちゃんと生きてるよ。」
「はー…後で俺に見せろ。治してやるから。……とその前にアリー、レイを止めてくれ。
 またキレたんだかなんだかよく分からないがとりあえず。」
「分かったよ。寝かす?」
「そうだな。一回休むべきだろうし…そうするか。」
「寝かすって何?レイさんになんかするの?」
「あれだ、睡眠薬だな。強制的に眠るわけじゃないけど効果は結構いいぜ?なんてったってアリーが作ったんだし!」
「トリクシー…やめて、そう言うのは。はいエド、術といてー。」
「はいはい。」

エドが浮かびあがった模様を一つ一つ撫ぜていく。
すると最後の輝きを残しそれはゆっくりと消えていった。
扉がゆっくりと開き、中の様子を映し出す。
だがどこも変わった様子も無く、激しい物音もしない。人がいないように静かだった。

「あれ?こんなに静かだったっけ。」
「ウチが出てきたときはもう少しうるさかった気がする…。」
「私ももう少し何かあると思ったんだけどなぁ。」

想良と奏美が互いに確認しあうが互いにどこか違和感は拭いきれなかった。
エドとトリクシーも周りを見、音を聞き何もなさそうだと言う。

「おっかしいな…。絶対なんかあるだろうと思ってたんだが。」
「でも実際、なんにも無さそうだぜ?オレ少し休もうかな。今日は晩飯いらねえや。」
「そうなのか?でもとりあえず飯の時間に呼ぶよ、話したいことあるからな。」
「分かった、しばらく寝てるぜ。ついでに様子も見ておこうか?何も無さそうだったらオレそのまま寝るよ。」
「よろしく頼む。」

手を振り階段を上がっていくトリクシーをエドは心配な面持ちで見送る。
そして数分待ったがおりて来る気配は無い。エドは安心して腰を下ろした。

「よかった…なんかぶっ壊されてたらそうしようかと思った……。」
「レイさんって怒ると怖いの?なんか口調荒くなるのは分かるけど。」

想良がエドに問う。
奏美も話を聞こうと椅子に腰掛けるが隣にアリーが座っているのに気づき、ぎょっとして立ち上がった。
それをアリーが面倒くさそうに見上げる。

「悪かったね、僕が隣で。」
「いや、悪くは……ウチこそなんかごめん。」
「悪いって思ってるのかねー…?」

ため息混じりに話すアリーに奏美は申し分けなささでいっぱいになった。
それにいきなり立ち上がったことでエドと想良の視線も独占している。
それを気にしつつゆっくりと腰掛けたが先ほどよりも彼とのあいだに間が開いてしまった。

「アリー、やっぱり怖がられてるぞ。目の前であんなに殺すもんじゃない。」
「仕方ないじゃん、仕事だよ仕事。それにこいつは覚悟があったんでしょ?
 その覚悟をもってこれなんだから…その程度だったんだよ。中途半端、ははは。最悪だね。」
「ちょっとその言い方は無いよ。アリー酷くない?」
「いいよ想良…当たってるから。ウチ、戦うとは思ってたけど…ね。」

見るからに元気をなくした奏美に想良は心の中で同情した。
そして誰も口を開く事が無くかなりの時間が過ぎていったのだった。
ついに想良が自分は夕食を作るといってその重苦しい空気から脱した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.69 )
   
日時: 2012/03/13 10:07
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「あ、そういえばなんか食べたいとかある?作れるものだったら作るよ。」
「そうだな…でも俺は想良の国の料理なんてほとんど知らないしな。想良が作れるもので構わないぞ。
 お前の負担になるんじゃあ駄目だしな。」
「そう?奏美とアリーはなんかある?」
「ウチもなんでもいいよ。想良が作るのはおいしいし。」
「僕はお前が何作れるか知らないし。そうだね、お前の世界の料理がいいな。」
「うー…そういうのって一番辛いんだよ?いいや、食材見て決める……。」

個々の反応になにも得られそうなものが無いと判断した想良は食料庫に入っていった。
それからも三人はしばらく無言だった。
だが、エドが思い出したようにアリーに話しかけた。

「そういえばなんか足やってたよな。見せてみろ、治そう。」
「たいした事無いよ、一箇所だけだし。」

遠慮するアリーだがエドも譲らない。
何とか言ってくれ、と奏美もエドに手を握られ頼まれたが結果は同じだった。
するとエドの声が普段よりも若干低くなり、雰囲気も重いものとなった。

「そういう訳にはいかない。事実歩くのが辛そうだった。出せ。」
「イイってば、僕は平気。」
「奏美、アリーを押さえろ。」
「え?え、え!」

奏美は自分の身体が急に動いたように感じた。アリーの腕を取り、すばやく羽交い絞めにする。
アリーは抗議の声を上げたがエドが足の傷口を押さえた瞬間、身体を震わせ沈黙した。
しかも傷口が開いてしまったのか巻いてある布にジワリと染みを広げていった。
息を整え、二人に対する敵意をあからさまにするアリーの頭をエドは軽くなでた。

「いつまでも子ども扱いしないでくれる?」
「そうだな、でもお前は俺より年下だし。だったらこれから弟扱いにしようか。」
「ふざけないでよ。奏美もさっさと僕を離して。いつまで引っ付いてんの?」
「あの、えと、えっとぉ…。」
「無理だぞ?奏美はお前から離れられないよ。」

エドは口の中で笑う。奏美の驚きとアリーの不快感を存分に感じながら覆う布をゆっくりと剥がしていく。
だがじわじわと広がる鮮血といつまでたっても進まない作業に嫌気がさしたのだろうか、突如布と肌のあいだに手を差し込んだ。
何かが裂ける音が鈍く聞こえ、アリーが苦痛の声を漏らす。
そのとき階段を下りる音が聞こえ、奏美が顔を上げれば奏音だった。
愉快そうな顔をしてこちらへと向かってくる。

「やっほ、なにやってんの。」
「何って手当てだな。もう少し自分を気遣ってくれるとありがたいんだけどなぁ。」
「だ、だったらその手を早く抜いて上げなよ。出血量酷くなってる気がするんだけど。」
「奏美の言う通りだな。よし!」

ビィッと言う音と共にエドは巻きつけられていた布を引き裂く。
所々皮膚が布と癒着していたようで、それが無理に引き裂かれた今より出血が増す。
奏美は傷の酷さに顔を背けた。
一方奏音は妹とは真逆であり熱心にエドとアリーの顔を交互に見ている。
エドは引き裂いた布に引っ付いたそれを見て淡々と言った。

「悪いな、少しばかり皮膚まで持って行ってしまったみたいだ。まあ治せるし。」

だがその口調には謝罪の念など微塵もこめられておらず、むしろ喜びを帯びていた。
それに気づいた奏美は思わずエドを見てしまうが彼女には何があってのことかわからなかった。
奏音は傷口の周りをいじっており、時折悪戯心を含んで直接傷にに触れていた。
しかし傷口を直接触られても何の反応も示さないアリーを不審に思い顔を覗き込んだ。その時だった。

「そんなに、触りたいんなら…はは、中までどうぞ、ミス!」
「ちょ、おまっ!…言えた、一回でいいから言ってみたかった!」

奏音の指をアリーは自らの傷に沈み込ませた。新たな赤い筋を足に作る。
そしてもう片方の足で奏音の首の辺りを拘束し逃げられないようにしたのだった。
あまりに予想外の事にエドは呆然とした。

「ちょ、アリーちゃん!絞まってるよ!色々とあ、すごい!今足に力入れたでしょ、きゅってなったきゅって!」
「……少しは怯えないの?」
「いやってーかやっぱり肌白いよね!肌理も細かいって言うか…股ずれもしてないね…良いな足細くって。」
「なんか駄目だね…奏音には色々崩される。もういいや。」
「あ、あー…。」

アリーは奏音を拘束していた足をどけた。奏音といえば少し残念そうな声を出したがエドに避ける様に言われそれに従った。
そしてエドは少し広くなった傷口に手を当てた。

「うっ…!」
「我慢しろ。やられたくなかったら自分の身体を大事にするんだ。」
「……。」
「はい、終わり。そもそもこれ自分でやっても良いじゃないか。何で毎回やってこないんだ?」
「いいでしょ、別に…。」
「でもお前だけの身体じゃないんだ。同盟だってある、それを考えるようにな。」
「でも僕は自分よりなぁ…。」
「あぁ、奏美離れて良いぞ。悪かったな、強制的に服従させて。」
「あ…うん。」

奏美の手からピッと何かエドは抜いた。小さなとげのようなものであの手を握られたときのものだろうと推測した。
アリーは気だるげに立ち、レイの部屋を見てくるといって上に行ってしまった。
残されたエドと姉妹、それに食料庫から食材を抱えてきた想良は談笑を続けた。
だが、奏美はアリーが自分よりも大切だといったものに対して心の中で興味を持った。
知りたい、それがアリーの何なのかを、と……。





「レイ?れー…なにやってんの。」
「いいからぁっ、これ!これ解いとくれよ!」
「構わないけどさぁ…あれ、復活した。」
「これだから嫌なん、っくそ!」
「暴れないでよ、もー…。」

一見、布団で寝ているように見えたが近寄ってみれば謎の蔓でレイは拘束されていた。
ご丁寧に布で轡もされており、事の周到さにアリーは心の中で感心した。
そしてベッドから落ちないためか縁に固定されていた右手の布を解く。
唯一の自由な右手でレイはそれらを解こうとするが格好の獲物にそれは黙っていなかった。
すばやく腕を這い回り自由を奪う。それにまたレイは悪態をついた。

「あ、これか。」
「は、おいどこ触って。」
「核?指令部分?まあそんな所かな。ちなみにレイの体でいえば臀部。」

脈打つそれを引き離すと蔓は簡単に離れた。そしてコロコロとどこかに転がっていく。
それを見送り、アリーはレイを助け起こした。右手の痣がなんともいえない。

「むらさき、だね…。」
「そうなっちまったな。トリクシーは一回見てすぐさがっちまったし、なんなんだ!」
「僕の嫁じゃない?まあそれはいいとして下行こうよ、さっさとご飯食べて僕寝たい。」
「そうだな…これには余計な精神力を使う。」

レイは苦笑し、長時間身体を変な風に曲げていた事から来る痛みに顔をしかめながら廊下に出た。
パキパキと骨を鳴らすレイに年寄りのようだとアリーは笑う。
それをレイは適当に流し下におりていった。

「あれ、アリーは行かねえのかい?」
「ん?僕は少し休んだら…そうだね、二日後くらいには軍師様のところに行くから。一応ね。」
「軍師…また襲撃されねえようにするんだよ。俺じゃ対処できねえし。」
「うん、ありがとう。でも楽なもんだと思う、望みをかなえれば契約成立。」
「馬鹿か!お前が死んだら、とかだったらどうする気だ。」
「そしたら契約しないだけだよ。僕だって生きてたいしね。それに契約の対価は金か情報でしょ。
 じゃ、もう少し経ったらね。」

アリーは自室へといった。
レイはそれを見て彼はあまり変わらないとだけ思い、痛みに苦しみながら階段を下りた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.70 )
   
日時: 2012/03/13 10:08
名前: あづま ID:k.oE.2Ao

「あー!」
「何姉ちゃん、どうかした?」
「あぁ…あたしの最愛の娘が…!」
「娘?奏音、お前子供いたのか?それともこっちに来て…いや、まだ半年もいないし無理だな。」
「エド、突っ込みどころが……うぅん、なんでもない。」
「あー…かわいそうに……。」

席をはずした奏音は階段のほうによたよたと歩いていった。
そして何かを手に取りまた戻ってきた。
何を持ってきたのかと覗き込んだエドはあからさまに嫌そうな顔をしてそれを奏音は見咎めた。

「何その顔…あたしの娘だよ。」
「…いや。」
「何その反応!あたしの娘が可愛いからって妬いているんですの奥様!嫉妬は醜くってよ!!」
「なんか、そうだな…すごいな、奏音。」
「え?そうかな、ま、そうならそうでいいや。」

微かに脈打つそれを奏音は仕舞った。
それがなんなのかを察した奏美は気を重くしながら席を離れた。

「あれ、どっか行くの?」
「ん、服の様子見てくる。乾いてたら持って帰ってこようと思って。」
「そっかー、わんこに洗わせたかったんだけどな…あの馬鹿犬…!」
「おいおい、目の前に兄弟がいるのに馬鹿犬呼ばわりはやめてくれないか?」
「そー言ってー、本当は結構楽しんでるっしょ?アリーちゃんの傷いじってたときも楽しそうだったよ?」
「そうか?無自覚だったな、俺。」
「ほーらまた楽しそう。」
「…行って来るね、すぐ戻ってくると思うから。」
「はいはーい!」

弱々しく呟いた奏美の声を奏音が拾い、明るく送り出した。
それからニマニマとしながらエドを眺める。
その視線に何かを感じたのかエドはじれったそうに身をよじった。

「なんだ?俺は何かした?」
「んっふふ、べっつにー?いや、エドも酷い奴だなぁとね、っふふ。水面下の鬼畜かな。」
「なんだそれは?」
「関係ないよ?あたしの元の世界でのお仕事では必要なもの。」
「奏音は仕事してたのか。」
「なっ…一応してたよ、この年で一応一軒家持ってるのよ?三階建てよ?」
「三階建てってすごいのか?」
「おうよ!」

自信満々に答える奏音をエドは哀れそうに見つめた。
ここらの地域では一軒家では二階建てはもちろん、三階建ては当たり前だった。
さらに、エドは統治者補助の家の息子。これくらいで自慢げに話す奏音の心境が全く分からなかった。
よほどもとの世界でも田舎のほうの貧困階級だったのだろうと彼は自分を納得させ適当に相槌を打っておいた。
それに気を良くしたのか奏音も更に自慢を広げるのだった。
と、殺気。

「うえ。」
「てめぇ…なんで俺ばっか狙うのか説明してもらおうじゃねえか…なぁ?」
「レイ、顔が怖いぞ。刃物も出さない、危ない。」

奏音の背後からレイが現れ、首筋にナイフを当てた。
集中力を乱そうと奏音はちょっかいを掛けるが効果は無かった。どうやら本物のナイフらしい。
エドが制止の声を掛けたがレイが聞き入れる様子は無かった。

「なんでってね?なんでだろう…?」
「特に理由もなくやってたって事かい?へぇ…俺はお前のお戯れに付き合うほど暇じゃねえのさ…。」
「レイ…やめろ。」
「あ、理由あるわ理由!!」

レイの普段と違う雰囲気に流石にまずいと察したのか奏音が半ば叫び声とも取れる声を出した。
しかし考えていなかったのかしばらく沈黙が続いた。想良が何かを切っている音がするだけだった。
チリッっと痛みが走り何が起こったか分からなかった奏音はエドのほうを見た。
だが、彼はただ喋るようにというジェスチャーをしてきたのみだった。
心の中で奏音はエドに対し悪態をつき、苦し紛れだが本心を打ち明かした。

「あの…反応がいちいち可愛いから…。」
「はぁ?可愛いとか今は嬉しくねえよ、せめて女の格好してる時に言って貰いたいね。」
「え?あたしにとってはわんこは女の子っだああああ!切ったな、本格的に切ったな!!」
「ばか…。」
「ってぇ!突き飛ばしたな!ばーかばーか!!女々しいぞばあぁっか!!」
「奏音、傷治そう。そんなに深くは無いが出血は酷いぞ。」
「あ、へいへい。よろしゅーおねしゃあす。」

エドは奏音の首に手を当てる。
比較的浅い傷だったからかすぐ治り、奏音はあの腕を怪我した時の痛みを想像していたので拍子抜けした。
だが、それを見ていたレイは不愉快そうな顔をしていた。

「エド、お前も奏音の味方をするのか。へぇ、実の兄弟よりどっかのくそ女が大事かい。
 それとも俺だからか?」
「レイ、それはあまりにも被害妄想だ。確かにお前をからかった奏音も悪い。だが、それを差し引いてもお前のほうが悪い。
 冗談を冗談と受け取れなければ彼女と付き合うのは無理だ。」
「え、あたしを全否定?あたしだって真面目なときは真面目よ?」
「奏音、少しだけ黙るんだ。レイ、お前は自分の評価を気にしすぎなんだ。それで低かったら自分には無理って
 見切りを付ける。違うか?」
「そうだ。俺個人でやるんなら見切りはつけねえ。でもそうでもねえだろ?
 依頼されて金を貰うんだ。それに見合ったもん持って帰れねえんなら、見切りを付ける。当たり前だ。」
「説教系…離脱するわ。エドもサンキュ、今度その治し方教えてね。じゃ!」

奏音はその場の鉛の空気に耐えられず想良のほうへと向かった。
小学校でやれ誰君の物を誰君が盗ったというようなクラスを巻き込んでの説教とこの空気は奏音も何度か経験していた。
しかしそれも彼女にとっては勉強をしなくてすむ言わば天国の時間。
自由にニヤニヤしながら何かを書いていた記憶がうっすらと存在している。
だが、自分を発端として起こってしまったこの空気には耐えられず、想良の手伝いでもしようと急いで抜け出した。





「せっかく来てもらったけどね、もうこれ蒸しあがったらできあがりって言うか…。」
「え。マジでなんか無い?あの空気にさらされたらあたし干からびるんだけど。」
「うん、無い。奏美は戻ってきてないの?」
「あーすぐ戻るって言ってたのにね。でもまああれじゃね?水浴びついでにしてるんじゃない?」
「暗いと見えないしね。そっかぁ、でもごめんなさい。奏音さんに手伝ってもらうような事無いや。」
「うー…じゃあ寝てようかな。あ、どうせなら部屋探検しよ。想良ちゃんはどうする?」
「んー、私はこれ調整しなきゃいけないから。できたら呼ぶからね。」
「あいよー。」

奏音は目標を切り替え、意気揚々と、しかしあの二人には見つからないように階段を上って行った。
彼女は自分たちにあてがわれた部屋と一階との往復しかしていないに等しい。
探究心に胸を躍らせながら部屋を周って行った。

「レイの部屋はさっき行ったからー…ここか!鍵かかってやんのー一発目から企画倒れ笑えん。
 いーやレイのところで。」

鍵がかかっていて機嫌を損ねた奏音はレイの部屋へとターゲットを変えた。
そしてその扉は鍵がかかっておらずしめたと意気揚々入って行った。
が。

「閉まってしまった!え、何このセキュリティ!!」

扉を閉めたら施錠音がし、もしやと思った奏音は開けようとするが開かない。
だがしばらくすればレイが来るだろうしどうにかなるだろうとそのまま気にしないでおいた。
少し前この部屋の主を拘束しておいたベッドに行けばその布は引き千切られた訳でもないらしい。
それは誰かが彼を救出したのを意味している。おそらくはアリーだろう。

「美しき兄弟愛、かな。いいなー、同人やりたいわ。」

自力で抜け出せないという事はまだまだ遊びがいがありそうだと奏音は笑った。
だが、なんの反応も無い周りに虚しさを覚えボスッとベッドに座り込んだ。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.71 )
   
日時: 2012/03/19 19:05
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「出来たよー。ねえいつまで喧嘩してるの?話聞いてるとずっと同じ事しか言ってないよ。」
「俺も自覚してるんだがなぁ…レイ、頼むから納得してくれないか?お前はそういうところだけ強情すぎる。
 仕事に関しても向いてないって言われても諦めないでやってて欲しいんだが、駄目なのか?」
「駄目だね。人様に迷惑かけらんねえだろう。」
「アリーも最初評価されてなかっただろ?むしろお前よりも低かったじゃないか。
 マティーとの比較もあったし正直、俺はあいつのほうが辛かったと思う。でも今じゃ結構な稼ぎ頭じゃないか。」
「あいつは素質あったんだろ…ただサボってただけじゃねえか……俺は毎回泣きながらやって、それでも上達しなかった。」
「人には素質があるからね。気にする事無いと思うよ、レイさんは今のを続けられてるって事は向いてるし
 素質があるって事だからね。私はそういう風に思ってるよ。」
「俺はそれ嬉しくねぇ!あれで認められるのもお断りさ!」
「想良にあたるな。でも投げ出さないでやってるんだし俺もいいと思うぞ。
 あ、想良トリクシーと奏音とアリー呼んできてくれ。奏美はそうだなぁ…十分もすればいいだろうし。」
「うん。トリクシーはどこにいるの?アリーは?」
「多分三階の奥。お前達の部屋の何個か抜かしたところな。それかアリーの部屋。レイの部屋の隣。
 アリーは自分の部屋か武器庫…三階の方かな。三階の奥。向かいがわな。」
「分かった、待っててね。」

そして想良は三人を呼ぶために離れた。
階段を少し上れば中断されていた口論もまた再開されたようで自然のため息がこぼれた。
しかし、一人っ子の自分にはどこか惹かれるものもある。
喧嘩自体、想良は幼稚園のときのおもちゃの取り合い位しか浮かんでこない。
いつか誰かと言い争ってみたいなんて思いつつ、はじめに三階へあがった。
奥の部屋…どちらがどちらか聞いてくるのを忘れたがノックをしてみる。返事は無かった。
悪いと思いつつ開けてみればずらっと刀や鎧が並んでいるが人がいるようには感じられない。

「アリー、いるー?ご飯できたよー?」

しかしその声は暗い部屋に飲み込まれていった。
ならばアリーの部屋だろうと思い、奏音を起こしに行くがそこにも居なかった。
そういえば探検をするのだといって意気揚々としていたのを思い出した。
仕方なく二階におり、アリーの部屋と思われる場所をノックする。
すると中から返事が聞こえ、数秒とたたないうちにトリクシーが顔をのぞかせた。
それと同時に甘く香ばしいようなにおいもあふれてくる。

「おう、想良。どうした?」
「ご飯できたんだ。ねぇ、アリーはいる?」
「あぁ、いるぜ。オレが引っ張っていくから先行っててくれ。」
「そっか。あ、あとさ奏音さん知らないかな。いないんだよね。」
「奏音?」

口を開こうとしたトリクシーの後ろからアリーが顔をのぞかせた。
いつも下ろしている前髪を上げており、見た事も無い何かを片手に持っている。
思わずそれを見てしまった想良にアリーは説明した。

「これ?簡単に言えば僕の武器かな。剣とかじゃあ限界があるし。」
「そう…あ、これから甘いにおいするんだ。」
「鼻利くね…あまり嗅がない方がいいよ、ちゃんと判断したいんならね。
 奏音はレイの所じゃないかな、さっきレイよりも軽い足取りが入っていった気がするから。」
「アリー、そこまで分かってたのか?すげえ、オレ全然分かんなかったぜ。」
「はいはい。僕はもう少し調合してから行くよ。トリクシーもさ、想良と一緒に行ってて。
 ここにいるのあんまりいいとは言えないし。」
「おう。じゃ、行くか想良。」
「あ、うん。ご飯冷めないうちに来てねー。」

そしてアリーは軽くトリクシーを突き飛ばし部屋にこもってしまった。
だが彼女は気にする様子も無くレイの部屋に向かっていった。想良も後を追う。
扉を開け、中を覗いた。

「あ。」
「何やってんだ…?」
「いやね、いやーほら、年上のお姉さまとしては年下の男の子…しかも青春時代よ?
 エロ本持ってるかとかさー、気になるじゃない?」
「奏音さん?!それでも部屋を荒らすのは良くないでしょ!」
「犬の部屋を片付けて何の問題があるだろうか。いや、問題あるはずがない。」
「漢文だ…じゃなくって、私も前来た事あるけどこんなに汚くなかったよ。」
「想良、気にしたらもう負けだろ。行こうぜ、なんならレイは黙らせりゃいいんだ。」
「おー!トリリン分かってるー!」
「と、トリリン?…あだ名?」
「まーそんなもんかな?嫌なら言ってね、呼び続けるけど。」
「嫌じゃ…ねえな。」
「…良かったね、トリクシー。」

奏音とトリクシーが楽しそうに話す少し後ろで想良は思った。
レイの扱い、なんだかみんな酷くないかと―――





「だいたい、」
「うるせえな、もういい。俺が悪いのさ、才能も何も無くってなぁ!」
「レイ…お前の気持ちも分かるぞ?でもな…。」
「分かるわけ無いだろう?お前はいつでも上位だったじゃねえか、俺とは真逆だった!」
「もーまだやってんのー?」
「うわ、殴ろうとするな。危ないじゃないか。」
「危ない?本気でそう思ってるかい?俺の攻撃なんて大体見切れるくせによお…。」

口論から取っ組み合いに発展しかけている二人に想良はあきれた声を掛ける。
それに一斉に二人は抗議し、また言い争いを始めた。
思わずため息をつき、トリクシーに声を掛ける。

「二人ってさ、いつもこんな感じなの?」
「オレはあんまり見た事無いからなぁ…でも本家の方にいたときは…いや、分かんねえ。」
「修羅場、修羅場。うっはいいくね?」
「そういう訳にいかないでしょ…これどうやったら止まるの?」
「オレには分かんねえなー…。なあ奏音、火に油覚悟でなんかないのか?」
「え、あたしの行動火に油なの?それ確定なの?」

奏音の問いに二人は目を逸らせた。無言の肯定。
だが当の本人はそれを察せ無かったのか気にしていないのか表面上真剣に考え始めた。
ほんの数十秒にも満たない間沈黙し、そして叫んだ。

「レッツゴーマイ娘!」
「なっ!」
「またか!」
「そこってドーターとかチャイルドって言えば…。」

うねうねとした物を口論する二人に向かって投げつけたのだった。
命令に従っているそれは獲物につくと嬉々として蔓を伸ばし絡み始めた。
ギチギチと二人を締め上げ、身動きを封じる。
だが、奏音は不満気だった。ひとつため息。

「どうしたんだよ。」
「いやね、あたしがこれを使えるようになってから結構経つ訳よ。」
「そうだよね。試験のときにやったのが初めてだったから…もう来てすぐできたんだよね。」
「そうそう、あん時は焦ったわー、制御効かないであたしまで巻き込まれたよね。参ったよ、本当。」

当時を思い出し奏音は楽しそうに笑った。
荷物がいい、といって実際今はその通りである。一人だけ何もやっていない。

「うふふふ…そういえばアル君どん位で戻って来るかな?」
「アル?マティルドの依頼が終わったらだろ。結構金やるみたいだし長期間だろうな。」
「そうなんだ…いい筋肉だったんだけどなー、しっとりして手に吸い付くみたいな…。
 化粧品の宣伝文句があれで理解できたね。ただアル君は天然物だけどねー。」
「は…お前、何で?」
「あぁ、試験のときにアル君と一緒に蔓にやられたんだよ。しかもどさくさにまぎれて結構触ってたよね。」
「それはあっちが攻撃してくるからでしょ!目には目をだから肉体をだった訳よ!」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.72 )
   
日時: 2012/03/19 19:07
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「なにやってんの。」
「…いや、これはな。」
「トリクシーには聞いてないよ。僕が聞きたいのは奏音に。」
「無理だと思うなー、今の奏音さんは怖い。」
「ただ何かを書いてるだけじゃん。」
「見てみろ、分かる。」

調合を終えたアリーは階段を下りてきた。
てっきり皆は食卓を囲んでいるものと思っていたのだが実際は異なっていた。
まだテーブルには何も並んでおらず、エドとレイが蔓に遊ばれている。
それを近くで奏音が気味の悪い笑いを纏い、せっせとどこからか出してきた紙に何かを書いていた。
その様子をトリクシーと想良は遠巻きに眺めている。

「僕結構おなか減ったんだけど。」
「あ、食べる?待ってて、準備するから。その間にあの三人を何とかしてくれると嬉しいな。」
「…せめて何が起こっているのか教えてくれてもいいんじゃない?」
「奏音さんの趣味爆発。」
「オレの理解を超越した趣味だっつうのは理解した。」
「何それますます分からないよ。」

想良はそう言い残し台所へと消えた。
何か起こっているのか分からないアリーは絡んでいる二人と生き生きしている一人の所へと向かう。
奏音は気づかないのか、はたまた気にしている余裕が無いのか筆を走らせている。
どうやら目の前の二人のデッサンらしい。

「すごいね、絵上手い。」
「ふへへへ、うん。伊達に同人誌描いてないわ。アリーちゃんも混ざる?」
「絶対にお断り。ねえ、僕早く食べたいんだよ。この二人さっさと解いてくれない?」
「条件付。アリーちゃんも混ざる、あたしがそれをデッサンする。おーけー?」
「嫌だよ…でも奏音の趣味って何なの?」
「ただ単に純粋に不純に男好きってだけだよ。」
「ああそういう…。とりあえずはい、お終い!」
「あー!何やってくれてんの、ちょ、萌えは?あたしの萌えは?」
「はあ…手を封じられたのは痛かったな…。」
「……。」

ぶすりと蔓に何かさすとそれは途端に動きを止めた。その隙に二人は脱出する。
ただいつものように核を取った訳でもないのでそのままの長さである。

「麻痺薬だよ、これ結構効くんだね…植物にまで効くとは……。」
「ちょっと一か八かであたしの娘をこんな目に…!」
「いいじゃん別に。」
「なんでみんなあたしの趣味を否定するかな、受け入れてくれてもいいじゃんよ。なんなの?襲うよ?」
「いいよ別に。でも最初にご飯食べさせてよ。想良、まだー?」

アリーは奏音を適当にあしらい台所に行ってしまった。
それを見た二人の兄はあることに気づく。自分達は奏音に構いすぎていたのではないか―――
事実、なにかと反抗していた記憶しかない。

「おい、襲うなよ?オレの旦那だぞ?」
「まあ…場合によるよ。好みの反応だったらちょいちょいやるわ。
 でも未成年には手を出さないから安心を。二十歳からよ、リアル戦線は!」
「そうか?なんか信用できねえんだけど。」
「犯罪者にはなりたくないもん。あたしだってそれくらいの分別はあーりーまーすー。」

舌を出し面白そうに笑った奏音にトリクシーは安心したような複雑なため息をついた。
だがそれに納得いかないとばかりにエドは口を挟む。

「好みとかそういう問題ではないだろう。」
「そっかなぁ…でもエドも結構女好きじゃんよ。」
「それは否定しない。だが既婚者や相手が本当に好きな人がいる場合は俺は手を出さない。」
「いや、まあ既婚者とかは色々面倒だし…。それに本当に好きな人がいるんだったら乗ってこないっしょ。
 あなたがいなくて寂しかったの…本当よ!これは過ち!!どこのくそ女、それ。」
「俺はそこまで言ってないが…でも同意はちゃんと取ってるのか?」
「ええ。エチケットもちゃんとしてますよーだ。」

二人の会話についていけなくなったレイとトリクシーは離脱する。
そしてそのままテーブルに着いた。

「しかしよ、奏美遅くないかい?服取りに行っておそらく水浴び…もう帰ってきてもいいような気がするんだけどよ。
 やっぱ女だと色々あるのか?」
「さあ。」
「素っ気無えなぁ。まあそのうち戻ってくるだろうし。」

二人が言葉を交わしている間に料理が運ばれてきた。
想良がそれを取り分けていく。
料理が運ばれてきたのを見て、エドと奏音も席に着くが互いにどこか納得していないようだった。
するとその時奏美も戻ってきた。

「ただいまー。ごめんね、遅くなって。」
「いいや、今から食べる所だ。…奏美、お前の姉はこうも節操なしなのか?」
「え、何いきなり。」
「それ後ででいいよ。僕さっさと食べて休みたい。」
「休ませないよ…襲ってやる……!」
「うん、待ってるよ。」
「キター!うん、覚悟しててよね!」
「姉ちゃん何やるつもり?!」
「うえへへへへへ…十八になったら教えてあげる…。」
「…エド、なんか話すことがあったんだろ?」

料理も全て分け終えたところでトリクシーが口を開いた。

「あぁ…。その、本家に一度行って貰おうかと…。」
「は?何で?あたしニートしてたい。」
「いや…別にな。いいだろ、別にさ。」
「僕は軍師様の所行くから行かないよ。行くなら勝手に行ってよ。」
「うー…。」

それぞれの反応にエドは言葉を詰まらした。
それを察したのかレイが助け舟を出した。

「俺らも自由に行動してるとはいえ、上には従わなけりゃならないのさ。
 今は勝手に引き入れてる。だから一応報告しとかなきゃならねえだろ、礼儀として。」
「でもマティーさん来たから向こうは分かってるんじゃない?彼女が報告してるでしょ。」
「あっ…。」

想良の言葉にレイも口を詰まらす。
マティーは奏美以外には会っているし、報告も恐らくしているだろう。
しかし、それまで黙っていた奏美が口を開いた。

「ウチらは世話になってる身だよ。どこに行けって言われれば行く。そういうもんじゃない?」
「まあそうだけど…でもさ、なんでいきなりって思って。」
「それは…明かせないな。でも悪いようにはしない!これだけは約束する!」
「っ、あぁ。俺みたいな出来損ないでもこの年まで生かしてもらってるんだぜ?損にはならねえ。」
「もう…本当の事言えばいいのに。」

突然、黙っていたアリーが言葉を発した。
元はといえば、集落の反乱の疑いがありこういう状況に陥っている。
本当の事、という混ざり気の無い言葉に三人は注目した。

「…。本家から依頼が来てるんだよ。お前達の実力が見たいって。」
「え?あ、アリー?」
「マティーから報告が行ったのはこれで確かでしょ?それで使えると思ったら多分自分等が使いたいんだね。」

何かを考える様子も無く次々と紡がれる嘘に一瞬、エドは反応が送れた。
しかし気を取り直し、アリーの言葉の後を続ける。

「実はそうなんだ。でもさ、やっぱり本家とか言うと変にプレッシャーかかるだろうと思ってな…。」
「…それマジ?」
「あぁ!奏美、俺が嘘をつく必要があるか?ここで嘘をついても全く意味をなさないだろう?」
「そうだね…でもなんでだろうね?」
「戦力不足なんだよ。産めよ増やせよでも限界はあるしね。優秀な子が生まれるとも限らない。」
「そっか…でも私がなんかの役に立つかな?」
「それなら心配いらねえ。向こうの世界から来た人は何らかの素質を持っている。」
「でもな、血は薄まっちまうから何代かするとな…。」
「トリク、」
「お前の事じゃねえって、レイ。むしろオレの事だよ。ほとんどなんにもできねえし。」

一度紡がれたならば、後は考えないでも次々と続きが出てくる。
その事実に驚きながらも、膨らんでいく話にもう終止符は打てなくなった。
戻る事のできない時間を誰も気がつく事はできなかった。

「じゃあ、みんな頑張ってね。僕は準備して、軍師様のところに行く。」
「は?少し休んでいくんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったけど…でもこいつらが動くんならね。」
「そうか。働き者だな、アリー。じゃあ、俺らは明日発とう。食べ終わったら準備するように。」
「おっけー!…ニートは駄目な雰囲気だなぁ…。」
「姉ちゃん、あのねぇ…。」
「まあいいよ。頑張ろうね、みんな。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.73 )
   
日時: 2012/03/19 19:09
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「じゃ、僕は行くからね。」
「早くないか?それにその態度はやめるように、付け込まれたらどうする。」
「大丈夫だよ、僕は一番大切なものがあるからね。じゃね。」

夕食を終え数時間の後にアリーは出て行った。
どこかに遊びに行くような軽い雰囲気をエドは咎めたが彼は聴く耳を持たずにさっさと行ってしまった。
家の中に入り、ため息をついた。その様子をレイは見て言った。

「また自分勝手に走って行ったか?」
「あぁ…直らないだろうな、あれは。マイペース過ぎだ。」
「迷惑かけなきゃ止める事もできねえしなぁ。」
「だな、直して欲しいんだが。レイ、あいつ等の準備は進んでるか?」
「さあな、女の部屋に入るなって追い出されちまってよ。」
「そうか。まあ、何が起こるか分からない。今は、寝ておこう。」
「あぁ…何も起こらないのが理想だけどな。」

静かに、呟くように行ったレイの言葉をエドは笑い飛ばした。
予想していなかったのだろう、レイは驚いて兄の顔を見る。
心の底から楽しんでいる、そういった表情で気持ちよさそうに笑っていた。

「何も起こらないのはつまらないな!退屈してしまう。」
「確かに。まあ、楽しめる事が起こるように願っておこうか…。」
「はは、お前の楽しみはなんだろうな、レイ。」
「さあなあ…あそこにはあんまりいい思い出ねえし…。」
「そうか?ま、俺は戦いたいな。殺しもしたい。」
「殺し…?!」

まさかの告白にレイは動きを止める。
女好きという欠点こそあれど、その他はまともの部類に入っていると思っていたからこその反応だった。
レイの反応を見て、エドは口の中で笑う。
だが、それも短い間の事ですぐに口の外へと出てきてしまった。
殺しを望み、笑う。

「だってな、そうなんだ。俺は戦って、殺す事を教えられた。貰った仕事の中で境界線を越えないでやる。
 それで褒められた。殺さなきゃ褒めてもらえない…簡単なすり込みだな。」
「分かってやってんのか…エド?」
「あぁ。まあ、今は褒められたいとかでやってる訳じゃないが…。でもな、その点俺はお前が羨ましい。」
「は?…俺のどこがだい?全部、エドのほうが優れてるだろ?どこに、そんなもん…。」
「今は戦の世とはいえ、本来殺しは世に背く行為だと俺は思ってる。それに、俺は喜びを感じる。
 おかしくなってんだなぁ…お前はそれが無いじゃないか、なぁ…レイ。」
「……。」
「そういう顔するな。それとも、どっかで悦びを感じてるか?まあ、お前のほうが真人間だろう。」
「俺は…。」
「答えを出す事じゃない。これは感じる事だな。…準備してくるよ、俺。」

エドは足取りも軽く自分の部屋に消えた。
一方、レイは糸の切れた人形のようにがっくりとその場に座り込む。
殺す事を自分自身はどう思っているのだろうと。
彼の殺しの概念は本来やるべきではない事、ただ生きるためには必要な事だという認識だ。
だが、あの三人の国ではもう戦は無いのだという。それからは推測されるは殺しも無いに等しい行為だろう。
奏美の反応を見ても、分かる。

「俺、どう思ってるんだ…?」

声に出し自問する。
だが、浮かんでくる答えは分からない。





「終わったー!よっしゃ終わり、あたし自由!」
「姉ちゃーん、自分でやった人がそれ言えるんだよ?」
「うへへ、あたしはニートだからな。」
「奏音さんそれ威張る事じゃないよ。もうちょっと協力してくれてもさぁ。」
「まーま、ジュース代のお返しってことで、ね?」
「あーこっち来る前の…う、ここで使われるとは…!」

反論できなくなった想良が戦線を離脱した。
終わりしだい寝ていいという事だったので布団に潜り込んでしまった。

「奏美も寝ないの?」
「そうだね…いつでるか分かんないし。姉ちゃんは?」
「んー?あたしはもう少し起きてるわ。」
「そっか…寝坊しないでね。おやすみー。」
「あいあい。明かりつけっぱでいい?」
「うん。むしろ消して踏まれたら困るしね。」
「なんかさぁ、想良ちゃんて妙に酷いよね…。いいけどさ。おやすみ。」

できるだけ音を立てないように奏音は部屋から出て行った。
携帯もとっくに充電が切れてしまい、電気の無いこちらの世界ではもはやお荷物と化していた。
文字も読めないのでこちらの世界の娯楽は無いに等しい。
ふらふらと習慣になっているように下に行けばレイが座り込んでいる。

「…?椅子に座らないのかな。よし。」

こっそりと、自分の相棒を解放する。コロコロとレイに向かって転がっていく。
そして奏音自身も音を立てないようにゆっくりと確実に階段を下りていった。
今回はただ脅かしてやろうと、拘束もゆるめになるように念をかける。

「あ、…あっ?」
「つっかまーえた!何やってんのー?椅子に座らないと体冷やさね?腹下すよ。」
「……そうかもな。」
「えちょ、え。抵抗とかしない訳?縛られてるよ?」
「…別に、俺は逃げらんねえから、しても無駄だろ。」
「そすか。えー、なんかつまんね。よっと…。」

拘束を解き、核を腰のそれに入れた。
レイは一瞬意外そうな顔をしたが、縛られた事により乱れた服を戻してから顔をそらした。
奏音は今までに見た事が無いその反応に興味を抱く。

「どーしたのさ、いっつもなら何すんだよーみたいな事言うのに。」
「別にいいだろうが。…終わったのか、準備。」
「奏美と想良ちゃんがやってくれた。あ、二人はもう寝てるよ。」
「……。」
「せめて椅子座ってくれ。あたしが腹下してしまうわ。」

それでも動かないレイを奏音は無理やり座らせる。
体格の違いや、本人の意思の動きもあり乗せるのに苦労したが。
何があったのか聞くがレイは反応を示さない。
むしろ聞けば聞くほど心を閉ざすようで最後には奏音の声など耳に入っていないような素振りさえ見せた。
普段は自分の扱いも適当に流す奏音だったが流石にここまで無視されるとむかついたらしく声を荒げる。

「なんなの?あたしレイになんかしたぁ?!そりゃ褒められるような事やった覚えは無いよ?
 でも無視って酷くね?それ一番辛いんですけど、何イジメ?変な紙でも周ってきた?」
「…別に。」
「じゃ何。あたしが原因?それともなんか別?どっち。」
「関係ない。」
「……。」
「……。」
「………。」
「………?」

急に黙り込んだ奏音を疑問に思い、レイは顔を上げた。だが、彼女の顔からは何も読み取る事ができない。
しかし一拍おいて乾いた音が響いた。
頬の痛みを感じ、手を当て、そこが熱を持っているのが分かった。
叩かれた。どこか他人事のようにそれを感じ、目の前の奏音を見た。

「もうちょっとさ、言ってくれていいじゃん?」
「…叩いた。」
「っなんなのもー!マジ何、これ外国人との壁?でも言葉通じて、はああああ?!」
「奏音、どうしたんだよ。」
「えー…やっべ、そういやレオンは日本語喋ってたな…。」
「レオン?」
「…、あー睡眠学習してたしなぁ。あ、ショタも日本語喋ってたわ。すげえさすがオタの国日本。」
「おい、レオンとかショタって…。」

だが今度は奏音が自分の世界に入り込んでしまったらしい。
レイが"レオン"と"ショタ"についてを何度か聞くが彼女は無視を続ける。
しまいにはレイが差し出した手を振り払う始末だった。
これに彼の何かが触れたらしく大声を出す。

「んだよ、無視しやがって!俺がなんかしたってのかい!」
「……別にぃ?」
「なんだよその態度!」
「だってレイに関係ないことだし?」
「はぁ?」
「……。」
「なに黙るんだよ、原因なんだよ?!」
「っくふっ!何、理解でき、はははは!痛い、腹痛ぁっははは!!」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.74 )
   
日時: 2012/03/19 19:11
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

突如笑い出した奏音にレイは呆気にとられ、固まった。
だがそのうち笑いすぎて発作のようになった奏音を見て慌てて手助けをする。
しかしそれは逆効果だったようで更に奏音の症状は悪化した。
ヒィヒィと腹を押さえながら蹲る奏音をレイはどうすることもできずにただ隣に座っていた。
こういう時に使える知識も無い自分に腹を立てるが、見守っておく事にした。

「あぁー…もしかして気づいてなかった?」
「気づくってなんにだよ。」
「あれあたしがレイにやられたのとほとんど同じ行動だかんね?」
「はぁ?俺はあそこまで感じ悪くねえよ、どうかしてんじゃねえか?」
「いやいや、あたしの方がライトだったって。ちなみにさ、レオンとかショタのこと気になる?」

体を起こし意地悪そうに笑った奏音が聞く。
それにレイは素直に頷いた。その素直な反応に奏音は満足気に笑った。
レイもいつもの、自分の知っている彼女の反応に笑みを零す。

「何だよ可愛いなぁ。ショタは婿のところにホームステイしてる外国人。っとサクソルって言ってたかな。」
「サクソル?ショタっていう愛称につながらなくないか?」
「あー、ショタっつうのは少年って事で。で、レオンってのは仕事のパートナーよ。
 いつもはキシっていうちくしょーなんだけどね、倒れちゃったからさ。臨時の担当。
 ちなみにあの子は可愛い嫁です。私が夫です。」
「嫁?…それっ…!」

奏音の言葉を受けたレイは途端に顔を赤くした。
そして言葉を発そうにも中々出てこないらしくただ魚のようにパクパクとしただけだった。
それにまた奏音が笑う。

「なにその反応ー。あたしが地球でどんな生活しててもいいでしょうが。」
「いや、構わねえ、そりゃ構わねえけどっ!」
「まー考えてる事は当たってるだろうね。そういうのでもありますよって事で。
 でもちゃんと仕事との線引きはしてるからご心配なく。つかその反応ウブいねー、レオンもそんなんだったよ。」
「俺はレオンじゃねえ!一緒にすんな、馬鹿!」
「嫉妬?かあいいなぁ、本当。」
「ちげえ、嫉妬じゃねえ!なんでおまえ、に…。」

奏音が突如自分のほうに身を乗り出し、耳元に口を持ってくる。
いきなりの事に反応が遅れ、奏音からレイは離れようとしたが背中に回された腕がそれを許さなかった。

「かわいいね…。」
「そんな耳元で言う事かっ!離せ、離れろ好色…!」
「別にさ、あたしはちゃんと、線引きできるからね?」

仕上げといわんばかりにフッと耳に息がかけられた。
本能的な危機感と、それに対する別の感情もレイの中で同時に生まれた。
奏音はレイの背に回していた腕を放し、それから彼の様子を見た。
信じられない事を言われたような、驚きに満ちた顔をしている。
だが、先ほど赤くなったときのそれがまだ抜け切っていなかった。

「なんてね。」
「……、は?」
「いやぁ、反論されると思ったんだけどね?もしかして意味分かってなかった?」
「いや…。」
「まどっちでもいいや。本当なんか、純粋に育てられたんだねぇ…。」
「……。」
「まぁ元気出たみたいでよかったわ。なにかとあたしに突っかかってくれないとレイじゃないしね。」

奏音は立ち上がり、レイを見下ろす。
未だ状況を理解できていないようで、その様子にやはりおかしく感じた。
地球での親友や臨時の仕事のパートナーの自分の趣味に対する反応が思い出され、笑う。
その声でいくらか気を取り戻したのかレイが口を開く。

「わ、わんこって…言わなかったな…。」
「そこ?まあ気分だしなぁ、こだわって呼んでる訳じゃないし。まああたし基本あだ名とかで呼んでるし。
 っつか本名レイモンなんでしょ?レイも既にあだ名みたいなもんじゃね?」
「さあ…?いや、それ愛称?」
「まああたしにとってはあだ名も愛称もイコールみたいなもんだわ。そいやレオンの愛称無いな…でも短いしなぁ。」
「……。」

奏音はレオンに対する愛称を考え始めた。
いつもの彼女からは考えられないほど真剣に思案に暮れているようでレイは新たな一面に驚く。

「ねえ、レオンに対する愛称って無い?三文字だと省略も微妙っつうか…嫁かな、やっぱ。」
「嫁…?俺にもそれ、言ってなかったかい?」
「ん?あ、言ったねそういや。やっぱ嫁でいいかなー、二人きりなら別に世間的にも大丈夫だな、よし!」
「嫁……。」
「まーなんだ、ゆっくり寝なよ。何に悩んでんのか分かんないけどさ。じゃ、おやすみ〜。」

また嵐が過ぎていくように、奏音は気分も軽く階段を上がっていった。
残されたレイはそれを目で追った。見えなくなっても、彼女が消えたところをずっと見ていた。
それからしばらく経ち、自分も部屋に戻ろうと立ち上がった。
戸締りを確認し、自分の部屋に戻る。

「なんだってんだ…なんなんだ……。」

部屋に入り、一息ついてからも自分の中で消化しきれていない何かを感じ小さく悪態をつく。
頬に手を当てそれが何かを考えようとするが、なんだか熱っぽいと思い叩かれたほうの頬だったと思い出す。
逆の方で頬杖を突こうとすれば耳に手が触れ、ばっと手を離した。
奏音の声と、息を思い出す。

「……分かんねえな、人って…。」

小さく、自分に聞かせるだけのために呟いた。





「さて。」

真っ青に晴れ渡り、雲もうっすらとしかない空。
肩に必要最低限の荷物を下げたエドが皆を見回す。

「レイはなんでこんなに気落ちしてるんだ?奏音、なんかやった?」
「ちょっとなんでド直球にあたし?!なんもやってないよ。失礼だなぁ。」
「火の無い所に煙は立たないだろ?奏音、オレ誰にも言わねえよ。なにやった?」
「だっからトリリンもなんであたしがやったの前提?!やってないって、信用してよぉ!」
「姉ちゃん…。」
「奏美もその哀れむ声やめてー!姉妹でしょ、信用してー!」
「……。」
「目逸らさないで!」

奏音の叫び声がこだました。
あまりの必死さに本当に奏音は関係していないのか、と周りが思い始めたとき想良が口を開いた。

「奏音さん、狼少年って言うじゃん。嘘をつく子供…ね?」
「……想良ちゃん、あたしのメンタル、ごっそり持ってった。」

がくりとひざを突き、泣き真似をする奏音を皆は笑った。
気を取り直すようにエドが大きな声を出す。

「まあ、レイは色々不安定だし。奏美は知っていると思うが俺達は。」

そう言うと、あの機械は目の前に三台現れた。
初めて目にする想良と奏音は驚きの声を上げ、それに近づいた。

「これで移動する。運転はなぁ…トリクシー、できるか?」
「んー…まあ、人並みにはできるんじゃねえかなぁ。」
「そうか!じゃあ奏美と乗ってくれ。」
「え。」
「スペース的にな。それでレイは奏音と。想良は俺と。いいな?」
「良くねえ!」

今まで黙っていたレイが悲鳴といってもいい位の声で叫ぶ。
予想外の言動に皆、彼に注目した。

「ちょ…ひどくね?さすがに傷つくよ?」
「レイ、本当にどうしたんだ。奏音だって移動中にあの蔓使うほど非常識じゃないだろう。」
「だったらさ、ウチと姉ちゃん交換ってのは?」
「いや…奏美も頭ぶつけてたし分かってるだろ?これ結構狭いんだ。だから身長から言えば奏美とトリクシーがいいだろうし。
 それにもし奏美がレイとだったら余計狭いと思うぞ?」
「…そっか。」

納得したようで奏美は引き下がる。
だがレイはそうも行かなかった。哀願といってもいいような口調で訴えかける。

「頼むよ、俺は絶対に奏音とは嫌だ。絶対、俺……。」
「でもなぁ、文句言うなよ。アリーがいれば良かったんだろうけどあいつにはあいつの事があるし。納得してくれ、な?」
「……。」
「そんな顔するな。……なあ奏音、本当に何にもやらなかった?」
「失礼だなぁ…やってないよ。ナチュラルってるよ、あたし。」
「うーん…まあ不満もあるようだが、納得してくれ。じゃ、乗るんだ。」

皆が機体に乗り、それぞれに飛び上がった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.75 )
   
日時: 2012/03/23 20:58
名前: あづま ID:/vOkSpZk

「つ、着いた…?」
「あぁ。ようこそ、って所だな。」
「へえ…人多いねぇ。でも何回か死んだなって思ったよ。」
「悪い悪い。俺はこういうのが本当に駄目で。じゃ、行こうか。」

大きく高い建物の前でエドと想良は話をしていた。
ここは彼等の故郷でもあり同時に仕えている国――カメリアだった。
既に他の四人は着いているらしく、なにやら手違いで姉妹は捕らえられてしまったらしい。
レイも半ば監禁状態にあり、トリクシーのみが塔の中に入れたのだと門兵が言った。
エドは門兵に礼を言い、想良と共に中に入って行った。

「しかしなぁ…もう少し待ってくれて良かったのに。おかげで手間が増えたぞ。」
「でもエドさんの運転が遅かったんじゃあ…。」
「確かに想良のほうが上手かったなあ。器用すぎないか?」
「いや…どうだろ?」
「まあ俺も教えられるくらいの技術はあってよかった。とりあえずレイを探すか。
 あぁ、結構見るに耐えないものもあるだろうが一緒に来てくれ。捕らえられないとも限らないし。」

そういってエドは階段を下りていく。
石造りのそれは明かりが差し込んでいない事もあって冷たい雰囲気を作っている。
しばらく進むとほとんど何も見えなくなり、恐怖を感じた想良はエドに話しかけた。

「ねえ、レイさんもここの国の人なんだよね?なんでこんな所に?」
「あぁ…まあなんて言えばいいんだろうな。境遇の違いって奴かなぁ。」
「でもこんな湿っぽいところにやるの?」
「ま、下は結構快適に近いんじゃないかな。止まって、扉開けるから。」

エドの声に従い想良は足を止める。
すると小さな金属が触れ合う音が聞こえ、光があふれた。
そこは想良の母親が以前動画で見せてくれたような座敷牢を思わせた。
何人か老人や幼い子供がそこにいた。
想良は思わず、この小さい子は何をしてこんな所にいるのかと聞こうとした。
だが、エドの顔を見た途端それも消え失せてしまう。冷たく、楽しむ、目。
その子供が彼に気づいて出してくれるように懇願する声も聞かず、奥のほうへと歩いていった。
するとその子供は想良のことをエドの仲間だと思ったのだろう。声をかけてきた。

「ねえお姉ちゃん!こっから出して!お願い、出して!」
「え…あの。」
「お願い!私何も知らないの!お願い、出して!パパとママに会いたい!」
「エド…。」
「煩いなぁ、全く。」
「痛、あああぁああぁぁあぁっ!!」

立ち止まった想良を気にかけ戻ってきたエドが差し出された子供の腕を蹴り上げ、焼いた。
炎に包まれた腕をその女の子は恐怖の叫び声で飾る。

「エド!ひどいよ、なにやってるの!」
「想良、こいつはスパイなんだ。小さな子供が、って思ってるかもしれないけど彼女はもう十二。子も産めるよ。」
「え…?」
「彼女は長期間監禁に近い状態で暮らして、情報を得るためだけの教育をされてるんだ。
 背が低いのは監禁状態の影響だよ。本当は罪人用の牢でもいいんだけどね、一回こいつが脱出を扇動した事があるから。」
「……。」
「信じられない?でも事実だからね。75、一々喚くな。そんな炎、お前なら何とかできるだろ。」
「……。」
「そんな顔をしても無駄だ。ほら、熱がって痛がって泣き喚かないから想良は信じないぞ。」
「チッ」

すると目の前の子供は腕を一振りした。纏わりついていた炎が消え、蹴られた所が赤くなっているだけだった。
想良は目の前で起こったことが分からないかのようにただ成り行きを見つめる事しかできなかった。
エドに促され、奥へと進む。
すると特に広い牢が並ぶところに出て、奥の明かりが灯っているところにレイが座っていた。
エドと想良がやってくるのを見つけるとレイが声を上げる。

「良かった!来てもらえねえと思ってたよ!」
「まあ俺の都合できて貰ってる様なもんだしな。それに弟が囚われてるってのも気分悪いし。」

そういってエドは牢の鍵の部分を軽く叩いた。
鍵のあく音が聞こえ、レイが出てくる。

「あぁ居心地悪かった!で、奏音たちは?」
「これからだな。」
「はぁ?!なんで助けて来ねえのさ!」
「だってあっちまで行くの面倒だし。というよりお前なんでここいるんだよ、門兵から聞いて驚いたぞ?」
「いや…なんか問答無用でよ。」
「抵抗は?」
「しようとしたさ!でも…やっぱり駄目だった。」

レイは肩を落とした。それをエドは慰め、姉妹の救出計画を話すために自室に行こうと提案した。
だが、レイはそれよりも助けに入るべきだと言う。
また言い争いになるのでは、と危惧した想良が二人に向かって話しかけた。

「まあまあ、レイさん見つかってよかったよ。」
「…でも、あいつらはまだ無事かどうか分からねえ。特に奏音とか戦闘技術皆無に等しいぞ?大丈夫じゃねえ…。」
「なんかレイさんいきなり奏音さんのこと気にかけるようになったねぇ、好きになった?」
「は、ばっ!」
「レイ…否定してたけどやっぱりそうなのか?やっぱりお似合いだったんだな。」

そういってエドは歩いていく。
想良もついて行ったのを見て、レイも歩いてきたがその声には明らかに否定をにじませている。

「大体!なんであれを好きになんなきゃいけねえんだ?俺言っただろう、積極的な女はお断りだってよ。」
「うーん…まあ奏音さんは華凛さんの事好きだしねえ。」
「華凛…?誰だよ…また俺の知らねえ人?」
「どうだっけ。奏音さんはいっつも婿って呼んでるよ?」
「あぁ、確か女友達だな。でも奏音は結構男好きじゃなかったか。」
「あー、でも華凛さんは別格みたいな感じだよ。なんだかんだで一番長い付き合いみたいだしね。」
「そっか…女か……。」
「やっぱり結構気にかけてる?」
「は?いや気にかけてねえよ、なんでそうなっちまうんだ!」
「…想良、あまり言わないでやってくれ。無自覚と葛藤は結構いいからな。」
「分かった。」
「だからなんで俺が好意持ってることになっちまってんのさ!」

先を歩くエドと想良にレイは突っかかるが、二人は互いに笑いあっただけだった。
その反応が気に食わないレイは更に色々言うが、想良に大好きなんだねと言われ黙ってしまった。
更にエドが笑うのに釣られ、想良も笑う。

「っんとに…でも俺少し安心したぞ。レイには全く女っ気がないからどうしようかと…。
 二十一で初恋か、そうか。色々頑張れよ、奏音は経験豊富みたいだしな。」
「でもそれって二次元限定って感じじゃないかな?奏音さん彼氏いたって話は聞いたこと無いなー。」
「それ本当かい?」
「うん、何かあれば奏美が言うだろうし。」
「そっか…いねえのか……あ?」
「と言う事はあれだな。一夜だけってのが多いのか!」
「なんじゃそりゃ。キャバクラ的な感じなの?」
「キャバクラ?」
「えっとー…。」

キャバクラの説明をする想良とそれを受けるエドの後をレイは追う。
ぼんやりと彼女等が来た日の事を思い出した。
曲者と言われ飛び出したらそれは勘違いで、羞恥を紛らわすためにも半ば自棄で奏音を連れ去った。
そして家に入って下ろしたらいきなり上着を剥かれたのだった。

「ひぃっ…!」
「レイさん?どうしたの?」
「なんか踏んだか?」
「え…俺、なんかしたか?」
「無自覚なの?なんかひいって言ってたからなんかやったのかと。」
「大丈夫なのか、やっぱり奏音といるとなんか辛かったか?」
「いや…まあ……。」

返事に困り俯いた事で垂れてきた髪をかき上げようとした時に指が耳に触れ、一気に昨夜のことを思い出した。
そのまま足が止まってしまう。
レイのおかしい様子にエドも何かがやばいと思ったのか階段を下りてきて様子を伺う。
だが、がくがくと震えるレイはそのまましゃがみ込んだ。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.76 )
   
日時: 2012/03/23 20:59
名前: あづま ID:/vOkSpZk

「なあ、大丈夫か?」

そういってエドは手を差し伸べた。
だが、その手を取らないレイの事をよほど具合が悪いのだろうと立たせようと肩を抱くと彼は叫んだ。

「触んないどくれよぉっ!」
「あ、おい?」
「レイさん?え、大丈夫…じゃなさそうだよ。」
「るせえ、俺は平気…!」

心配かけまいとしたのか、はたまた触られるのが嫌だったのか。
おそらく後者のほうが割合が高いのだろう、壁に寄りかかりながらもレイは無理やり立ち上がった。
だが、体の震えまでは治っていない。
立っていられたのもほんの十秒にも満たない間でまたしゃがみ込んでしまった。

「レイ、ここに入れられるとき何かされなかったか?飲まされるとか色々…。」
「されてねえ、されてねえっ!あ、だから触んないでって…。」
「駄目だ。いつまでもここにいる訳には行かない。俺の部屋に行こう、それなりにきれいだから…多分。」
「それなりなの?」
「しばらく戻ってないからなぁ…。」
「下ろせよ、さ、触るなって、あぁ…。」
「ねえ、エドさん。レイさんなんか薬やられたんじゃあ。」
「だろうな。感覚が異常なまでに過敏だな。」

レイを無理やりに担いだエドは想良を先に歩かせた。
レイ自身は抱えられていることに抵抗を見せたものの、体を動かす事もだるくなったらしくいつのまにか止めていた。
階段を上りきったその時、想良の目の前には無数の兵士が現れた。
皆、彼女にさまざまな武器を当てている。

「そこの女!いますぐ我等に従って頂こう!」
「え?私が?」
「おいおい…。」
「エドゥアール様、どうか離れてください。この女、なにをしでかすか分かりませぬゆえ。」
「あぁ…こうやって捕らえられたのか……。」

心の底からのあきれた声をエドは出した。
自分と行動しているのになぜこうまでやられなければならないのか。
それに今はレイの事も気になるのだ。おそらくは毒か何かを盛られ、本人も警戒心皆無でそれを口に入れたのだろうが。
手っ取り早く解決しようとエドは想良を抱き寄せる。

「この子はなぁ、俺の今のお気に入りだ。それで来て貰ったんだ、だからお前達に渡す訳にはいかない。」
「しかし…!」
「なんだ?俺のことを信用していないか?」
「近頃、間者が紛れているのです。エドゥアール様、その者の特徴は十五に満たないほどの女にございます。」
「…十五に満たない女など俺も何度か連れて来た事があるじゃないか。」
「え…?!」

思いがけない発言に想良はエドを凝視する。
法律が…と口を開きかけたがここは日本ではない。もしかしたらそういう法律なんて無いのかもしれない。
アリーとトリクシーも確か結婚自体は早かった気がすると思い、ぐっと疑問を飲み込んだ。

「ならばいいです…。はぁ……。」
「落ち込まないで、ミラーさん。エドゥアール様、他の女子達は西の牢でございます。
 あなた様の部屋にお連れいたしましょうか?」
「あぁ、頼む。…なあ、少しいいか?」
「はい。」
「一人…胸が大きいほう。あれはどうみても十五以上だろ?なんで牢に?」
「それは…。」

兵士が言いづらそうにする。
やはりなにか危ない目にいあってしまっているのでは、と危機感がつのる。
だが次の言葉でそれは簡単に崩れ去ってしまったのだった。

「はじめは…その、お待ち頂いていたのです。もう一人、トリクシー様とご一緒だった方も妹だと言うので…。
 ただ…兵長殿を見た途端奇声を上げなさって何やら訳のわからない蔓が…。」
「それって…。」
「それで兵長殿はお怒りになりあの方たちを牢へ、と。」
「そうか。なんか余計な労力を使わせてしまったなぁ、すまん。じゃあ、連れて来てくれ。」
「はい、しばしお待ちを。」

エドと話していた兵士が一歩引き下がり、道を開けた。
他の取り囲んでいた兵士達もそれに習い、ザッと両端に避ける。
エドはそれらに軽く労わりの言葉をかけ、想良を連れて自分の部屋を目指していった。





「姉ちゃんの馬鹿。」
「いやしゃーねーでしょ。あんないい男だよ?どれそれあれこれ見たいと思わない方が可笑しいわ。」
「可笑しいのは姉ちゃんでしょうが!あーあ…誰か助けに来てくれないかな。」
「どうだかねー…でもさ、このまま牢獄暮らしでも別に良くない?日本でも牢屋に入ればあとは税金暮らしヒャッハー!
 てかまじで変じゃね?なんで悪人って言ってるのにあたしらが養うのよ。」
「それは分かんないけどさぁ…。」

湿っぽい、ある光は燃え続け尽きる事のない炎のみ。
仕切られた牢の中で奏音と奏美はもうしばらく会話を続けていた。
向かい合った牢、できるのは会話くらいのものだった。
大きな建物の前に降り立った彼女等とレイ、トリクシーは門兵による歓迎を受けた。
そしてエドと想良を待つためにしばらく待っていると答えて数分。

『はじめまして、ようこそカメリアへ!』
『ん?誰ですか、えっと…自己紹介するべきかな?』
『どうだろうなぁ…別に長い間いる訳じゃねえだろうしいらねえだろ。それとこいつは兵長。』
『兵長さん?あれ、名前は?』
『お嬢様、私めは国を守り、それの為に果てる存在にございます。名などいらない物なのです。』
『そうなの…?』

想良は意外な事実にレイに問いかけた。彼は黙って頷き、それから顔をそらしてしまった。
納得いかない想良はトリクシーにも同様の質問を投げかけるが返ってきた返事は同じだった。

『想良、そういうもんなんだ。名前を残せるのは一握りの上流階級。それ以外は名もなき兵士。
 オレの所もそうだ。名前で呼ぶ事さえ、少ない。』
『そっか…やっぱり世界が違うんだなぁ……。奏音さん?』
『キタアアア!!』
『かの、おい!』

奏音が奇声を上げ、兵長に向かい何かを投げる。
それはあの蔓で瞬く間に兵長を縛り上げてしまった。周囲からは動揺の声が上がる。
地に倒れ付した兵長が怒りの声を上げた。

『この者らを直ちに牢に捕らえよ!無礼者!』
『あ、トリクシー様はこちらに。』
『ちょっと牢?!まじかよお!』
『姉ちゃん楽しんでない?!えー…ウチも?』
『おいてめえ!なんで俺まで引っ張ってくんだよ!俺もなんかやったってかい?』
『あ、おい!なんでレイまで連れて行くんだ?彼ここの人だろ?』
『トリクシー様、それはこちらの事情です。どうぞお気になさらず。』

にこやかに一人の兵士がトリクシーに話しかけ、他の三人は各々引っ張られていった。
心配そうにトリクシーは目で追い、あの兵士と共に奥へと消えていった。
そして彼女等はこの牢に入れられ現在に至っている。
見張りもおらず簡単に抜け出せるのではと思ったがどうやらあの不思議な力が働いているらしい。
抜け出そうという意識の元で行動をおこすと即金縛りのようになってしまうのだった。

「まじねえわ。っつかトリリンも助けてくれてよくない?なんで傍観してたんだか。」
「ウチに言わないでよ…まぁ、うん。大丈夫かなぁ…。」
「それってあたし等が?それともトリリンとレイ?」
「二重にかな。」

すぐに答えが返ってくるものだと思っていた奏美は沈黙の返事に奏音を見た。
何をしているのか分からない、ただ蹲っている。

「まぁトリリンは強いみたいじゃん、アリーちゃんぼこったんでしょ。でもわんこは良く分かんないわ。
 箱入りっぽい気がするし…でも大丈夫っしょ、あたしを運ぶくらいの力と持久力あるし。」
「そうかなぁ…。」
「あれー、もしかして信用してないの?あたしは結構いいと思うけどねぇ。」

そこでまた会話が途切れた。
奏音は床の何かを一心に見ているようで奏美の問いかけにも全く反応を示さなくなった。
あきらかに脱出しようと言う心の見えない姉に奏美はため息をつき、何か方法は無いものかと周りを眺めた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.77 )
   
日時: 2012/03/26 23:53
名前: あづま ID:IcGxi/EE

「おし。でーけたでけたっと。」
「はぁ?姉ちゃん何やってた訳?」
「いやね、愛娘が拉致されたので次女を生みました。」
「あーあ。姉ちゃん狂った。」
「ひっで!まあ見てなさい、あたしの実力にひれ伏すがいいわ!」

そう言い、奏音はすっくと立ち上がり意識を集中させ始めた。
なにをするのか、そう重い気を引き締めた奏美も黙って見守る。
その時コツコツと足音がし、奏美が振り返ると一人の兵士がいた。トリクシーと共にいなくなったその人だった。
人の好く笑みを浮かべ、二人にお辞儀をし口を開いたその時だった。

「そこのお嬢さんがぁっ?!」
「ぎゃああ兵隊さーん!なんでいるの、ちょ、ああああ!」
「姉ちゃん…。すいません…本当に姉がすいません…。」
「い、いえ…それより、っこれを!」
「あーはいはい。」
「なぜ、残念そうっ、なんですか…っ。」

湿り気を帯びたそれが落ち、丸くなった。ゆっくりと転がり奏音の手にそれは収まる。
それを兵士は目で追い、それから二人の牢を開けた。
牢を開けてくれた事に対し驚きを見せる二人に兵士は説明する。

「エドゥアール様よりあなた方を案内するように仰せつかりました。どうぞついて来て下さい。」
「え、まじ?釈放されたの?」
「よかったー…でも本当にすいません。姉がこんなですいません。」
「いえいえ、私共も何も説明せず牢に入れてしまい申し訳なく思っております。
 これにて相殺…という事にして下さいませ、お嬢様方。」

兵士は静かに笑い、先に立ち二人を案内した。
あまり怒っている様子も見られなく奏美は安心したがふと気になった事を口にする。

「姉ちゃん、ところでそれ何?」
「あぁこれ?苔から作った次女だよ。」
「へ、へえ…。」

淡々と、しかし良く分からない言葉を紡ぐ姉にしばし困惑する。
だが次女と称しているのでおそらくはあの蔓の後継なのだろうと奏美は思った。
あの蔓はここに入れられる際、没収されてしまっている。
無言で歩みを進める兵士の後を追いかけるが、日の当たる所に出、そして階段をひたすらに上っていく。
地球ではバスケットボール部、こちらに来てからはほぼ毎日走り込みを続けていた奏美には造作も無い事だったが、
運動と言えば担当からの逃亡劇でこちらに来てからはそれも無くただぼんやりとすごしてきた奏音には辛い事だった。
二人からだいぶ遅れ息切れをしながらも何とか上っていく奏音を奏美は哀れな目で見つめた。

「姉ちゃん練習しなよ?」
「う、うるぜー…。」
「はいはい、口より手を動かしてね。」
「大丈夫ですか?力を貸しましょうか…?」
「うー…いえ、自分で、ゴホッ…!」

兵士の申し出を断り、奏音は顔を火照らせながら上っていった。
ひゅうひゅうと彼女の息が煩くなった時に兵士が階段を上るのをやめ、廊下のほうへと進んでいった。
彼の髪の毛も汗で顔にへばりついており、僅かながら肩も上下している。
赤い絨毯の敷かれた廊下を一番奥まで進み、扉をノックする。
するとエドの声が聞こえ、兵士は一言奏音と奏美を連れてきた旨を言い彼女らに礼をして下がって行った。
扉を開け、エドが顔を覗かせる。

「なんだなんだ、大丈夫か。酷く息切れしてるじゃないか。」
「あぁ…なんか、階段ここまで上ってきたもので…。」
「み、水〜…。」
「うわ、とりあえず中に入ってくれ。」

奏音を見、一瞬言葉に詰まったエドだがすぐに彼女らを通した。
中には想良が座っており、レイはベッドに寝かされていた。
エドから受け取った飲み物を一気に飲み干し一息ついた奏音がそれを不思議そうに見つめる。

「わんこはどったの?」
「俺も良く分からなくてな…感覚が異常に過敏なんだ。なあ、何か見ていないか?」
「えー…なんかあったっけかなぁ。奏美、なんか見た?」
「うぅん、ウチ達急に連れて行かれた様なもんだし。」
「そうか…俺はこういうのからっきしだし、トリクシーは元々タフだから薬はほぼ効かないからあんまり知らないだろうなぁ。
 アリーは今いないし…どうすっかなぁ…。」

悩ましげにエドが呟く。
薬の知識などほぼ無いに等しい三人も黙り込んでしまう。

「とりあえず水を飲ませるくらいじゃないかなぁ…イメージ的には。」
「想良、なんか分かるのか?」
「え、いや…ただ単に体に毒物があるなら水飲んでそのまま出すのが一番かな…て…。」
「まあ、それもそうだな。仕方ない…レイ、飲めるかー?」

先ほど二人に渡したのと同じと思われる飲み物を部屋の隅の箱を蹴り上げてから出した。
部屋の中に飲み物を出す機械があるということに二人は驚いた。
枕元に行きレイと話しているがどうやら喋るのも辛いらしく、飲むのも拒んでいるのが微かに分かる。
それを察知した奏音は彼等の元に駆け寄った。

「口移し!やっちゃえ、口移し!」
「そ、それって俺とレイが…?」
「おーとも!そーれ、口移し!」
「い…や、だ…。」
「俺もちょっとなぁ……。」
「姉ちゃん……。」

戸惑い拒絶する二人を奏音は強硬な態度で攻め立てた。
苦笑するしかないエドはだんだんと押されて行くが、レイは弱々しい口調で頑なに拒否する。
傍観を決め込んでいた想良がふと浮かんだ悪戯心で口を挟んだ。

「だったらさ、奏音さんやればいいじゃん。」
「え?なにゆえ。あたしは別に構わないけどこの二人が口移ししてるのを見たいんだけど。」
「想良…?何でいきなり…そりゃ姉ちゃんに貞操観念求めるのは馬鹿だけど。」
「まあま、いいじゃん。奏音さん構わないんでしょ?エドさんも…いいよね、奏音さんとレイさんが口移ししても?」

そこで想良の真意を汲み取ったエドが頷く。
快く了解の返事をし、押さえ切れない笑みを浮かべながらレイを見た。
レイといえば想良の突然の発言とそれが了承された焦りで顔が見る間に赤くなって行った。
感覚に響かない程度に首を振るがそれは本当に僅かであり、拒絶の声も打ち消されてしまった。
想良がエドからカップを受け取り奏音に渡す。理解できていない奏美は想良の意外な積極性にただ圧倒されていた。

「ほら、じゃあよろしく頼む。まあ男の俺にやられるよりはレイも幸せだろう。」
「アイアイサー。まああたしは男同士でやってんのが見たかったんだけど。」
「やめ、……。」
「失礼なー、歯ぁ磨いてるから。」

そう言って奏音は渡されたカップの中身をある程度口に含みレイに覆い被さる。
数秒後彼女は体を起こした。レイの口元には幾筋かの雫がこぼれ、彼は息も荒く奏音とエドをにらんだ。
それを見た奏音は肩をすくめ、エドに話しかける。

「なんか暴れやがってさぁ、ちょっと零したわ。ごめん、汚した。」
「構わないさ、洗濯させればいいんだし。」
「うわーお、お坊ちゃまだ。でさ、これまたやるの?あたしの口も無限大じゃないから結構これ時間かかるわ。
 あたしとしては大歓迎なんだけどね、わんこ甘いにおいがするし。」
「そうだな…毒を抜くためにはな、ってレイ!泣くなよ、ちょっと!」
「うる、せぇ…。」
「ええちょ、泣くとかあたしに失礼じゃね?!あたしも結構傷つくんですけど口移しして泣かれるって。
 何、ファーストキス?今時そんなのって乙女かよ、ってあぁあぁぁまじちょ、泣かないでって、泣かないでってばぁ!」

エドと奏音がレイを宥めているのを見てなんとなく想良も申し訳無くなったが離れた所にいる事にした。
奏美は今までに無い想良の態度になんとなく引っかかるものを感じたがその正体は分からなかった。
姉に妙な羨ましさを感じつつ、それが何に対してか分からない彼女は友人と並びその様子を黙って見ていた。





「ほら、ここを進めばリキルシアだ。あの塔が見えるだろう?なんなら送って行くかい?」
「うぅん、ありがと。助かったよ。」
「そうかい。それにしてもリキルシアになんのごようだい?君みたいな小さな子が…。」
「ふふ、秘密。じゃあね、ありがとオジサン!」
「あぁ、頑張れよー。」

アリーは先ほどまで乗っていた荷馬車から飛び降り、礼を言って歩いていった。
ぽってりとした余裕のある華やかな色の衣服。
スースーとしてなんだか落ち着かないが潜入のための最低限の武器を隠すため、それに女の格好は怪しまれづらいので我慢する。

「なんか裸で歩いてる気分だ。」

ぼそりと呟いた言葉がちょうど反対側から歩いてきた通行人に聞こえてしまったらしく慌てて笑みを浮かべる。
しかしそれで余計に怪しまれてしまったらしく心の中でため息をつき、口を開いた。

「ねえねえお兄サン、一緒に遊ぼうか?」
「…いや、今は金が……。」
「お金なんていい、今その気分なんだ。ちょっと、行こうか…。」

男の有無も聞かずアリーは無理やりに森の中へと入って行った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.78 )
   
日時: 2012/03/26 23:56
名前: あづま ID:IcGxi/EE

「さーて…僕は男でした。お兄さん、分かるね?」
「……!」
「はは、情報を頂戴?なんでもいい、リキルシアの情報。」
「何…を?」
「そうだね…うん、塔の鍵が閉まるのはいつ?」
「ゆ、夕方…日が暮れる前、喇叭が、鳴ります…。」
「そっか。へえ、ありがとね、オニーサン。」
「ぐ、あっ!」

アリーが服を脱ぎ、体中に武器を仕込んでいるのを見て硬直した男。
足の腱を切り、動きを鈍くしたところで情報を聞き出す。
塔の鍵が閉まる…そして警備が強くなるであろう時刻を聞きあとは始末をした。
血に濡れない様服を脱いだのは正解だったと頷き、軽く葉で拭ってから再び着る。
変わらず着ている感覚の無いそれに不安を覚えながらアリーは門をくぐった。





リキルシア――最古にして最大の国。
元は違う名だったらしいがこの国を整えた人物が亡き人物を悼むためにつけた名である。
そのため通常、統治者の姓名で呼ばれる国とは違う異色のものだった。
パウエルとは戦こそ起こしていないものの険悪な国である。
賑わう人々と、高らかな楽器の音色を下に聞きながら男はため息をついた。
この国の統治者の四男、そして軍師でもあるフェビアンだった。
なにかがこの軍をかぎまわっている…それはつい先日もたらされた情報だった。
いつもならばすぐにあぶり出そうとする彼だったがそれをできずにいた。

『ファビー、探さないのか?いっつもなら探すのによぉ。』
『待ってください…考えが、ありますので。』
『そうかい、お前さんに間違いは無いからな、ハハハハ…!』

豪快に笑い飛ばした兄を苦しい気持ちで彼は見送った。
敵を欺くため、国のための嘘ならば身内にも数え切れないほどついてきた。
だが、今回の嘘は私用だ。一週間ほど前だろうか、自分に策のありようを説いてきた人物がいたのは。
目の前で自分の予想外の殺害が起き、混乱していた所に自らの策を批判された。
確かに自分の策で味方も殺しているとは自覚していなかった、と軍師として自嘲したものだった。
あぶり出してしまっては、もしかしたらその人物に支障が出るかもしれない。
もしかしたら本物のスパイであり、国を滅ぼす一大事が起こるかもしれないが今のフェビアンにそれは重要な事に思えなかった。
それを自覚しまずいと思いながらも、その人物の去り際に浮かんだ一つの願いを胸に軍師は現れるのを待った。
その願いは、国に帰りゆっくりと時間を楽しんでからより一層、強いものへとなっていった…。





「さぁてご覧に入れまするは遠き国の珍しき…」
「さーあ、とれたての野菜だ!どこよりも安いよ、買っていきな!」
「なんか凄いなぁ…都会だ。」

四方八方から声が聞こえる大広場。
こんなに人がいるならば女の格好をしてくる必要が無かったのではとアリーは後悔した。
どこか着替えられる場所が無いかと見回すが見つからない。諦めて時間をつぶす事にした。
まだ日の入りまでは時間があり、無駄に時間を過ごすのもいかがなものかと歩き回る。

「入っちゃおうかなぁ…。」

一番高い塔を見て呟いた。あそこが王族達が住んでいるという塔である。
皆王族は高いところに住むものなのだろうかと思いながら塔への門をくぐった。
庶民との交流が盛んなのか、はたまた大国と言う余裕があるのかある程度なら身分国籍を問わず入れるらしい。
自分と似たような衣類の家族連れに紛れ、内部へと侵入する。

「お嬢さん、どうした?一人かい?」
「ん?」

肩を叩かれ、振り返れば男が立っていた。
赤い髪の、大柄な男。
さわやかな笑みを顔に飾りつけ、アリーの返事を待っている。

「そうだよ。」
「へえ…どうだ、俺と一緒にまわらねえかい?何回か来てるから案内できるぜ?」
「そうなの?よろしくお願いしまーす。」

男の申し出にこちらも笑顔で答える。
案内をしてくれる、と言う事はなにか情報がつかめるかもしれない。
ただ、男の体がいやに気になった。危険だ、と心の隅で思う。
だが男はそんなことも全く知らないのかずんずんと進んで行き建物の説明を始める。
今は財政の要とも言って過言ではない建物のようだ…。

「大きい…すごいな、貯めこんでる。ちょっと貰っていきたいなぁ。」
「駄目だよお嬢さん、んなことしたらあっという間に牢獄行きだ。」
「へえ…なんで分かるの?」
「そりゃ、この国の整備がそこまで行き届いてるって話さ。塔に入ろうものなら即、分かるね。」
「すごいねぇ、物知りなんだ。」
「いやいや、弟には遠く及ばないね。」
「弟…。」

ポツリ、呟いたアリーの言葉に男が一瞬硬直する。それから事をごまかすように曖昧に笑った。
この男の体は健康状態がいい。
リキルシアのように主要都市が潤っている国ならばまず水準は高いだろうが…頭の中で男の正体を探る。

「っとな、俺の弟、学者なんだ。国にも認めてもらってんだからすげえよなぁ。」
「へえ、じゃあ…この塔の警備も弟さんが考えてるとか?」
「……。」
「どうしたの?」
「いや…なんかお前すげえよ、当てちまう!なあお嬢さん、会って行くか、俺の弟。」
「えっ!」

予想外の申し出にアリーは立ち止まる。
そしてそれと同時にこの男が軍師の兄…何番目かは分からないが年があまり変わらないように見える…だと言うことが分かった。
だが、事が上手く運びすぎている。
一般的な反応とは何か…アリーは考えをめぐらせる。

「でも…身分、低いから。お兄さんにも、こんな口調で話してちゃ、駄目だね。」
「あ、気にしたか。別にいいよ、俺がお嬢さんを招待するってんだからな。」
「だけど…。」
「いいっていいって。第一リキルシアはそんなのあんまり気にしてない。行こう、な?」
「うん…お兄さんが言うなら、いい、かな?」
「よっし、じゃあ行こうぜー。」

男が手を取り、番人にも軽く挨拶をしてそのまま通り過ぎて行く。
番人はアリーのことを暗い目で見たが、口を開く事はなかった。
まるで女を連れてきたエドに対する反応だ、と口の中で笑う。

「なー、上!フェビアン所によろしく頼む。」
「了解いたしました。こちらの女子は?」
「あぁ、俺の個人的な客。」
「あ…はじめまして。よろしくおねが」
「ほら来た、乗ってくれ!」
「……。」

床に青い紋様が浮かび上がり、男と共にそれに乗る。
一拍間が空き、それから薄い膜のような物が二人を覆うと突然周りの景色がすべて下に流れた。
風かな、とアリーは心の隅に思う。
一気に全てのものが下に流れていき思わず感嘆の声を漏らす。

「すごぉい…。」
「はは、だろ?こんなに早くいけるのはココだけだからな。パウエルもここまで早いのはまだ開発されてないな!」
「そうなんだ、本当にすごいよ!」
「褒め過ぎだって、いい気だけどな。ほら、着いたぞ。」

男の声と共に周りを覆っていた膜も無くなる。彼が一歩踏み出したのを確認し、アリーもついて行った。

「ファビー!」

男が大きな声を出すと近くの部屋から軍師が顔を覗かせる。
アリーに気づき、一瞬はっとしたような表情を見せたがすぐにそれは消えうせた。
男がアリーについてを話す。

「あぁ、すげえな。とにかく洞察力があるみたいだ。」
「それはあなたがなにか情報となりうる何かを言ったのではないのですか?」
「お前さん煩いな…お嬢さん、こいつが弟だ。」
「はじめまして、アリアと申します。」
「アリア…?」
「へえ、アリアって言うのかお嬢さん。ファビーはもしかして知り合い?疑問に持ってる声だな。」
「いや…。」
「そうか?」

だが男は納得しきっていない。フェビアンとアリーを交互に見ている。
偽名を名乗ったところで調べがついているであろう事位アリーも分かっている。
だがもし本名を名乗った場合、ここにいる二人以外も敵に回す事になるだろう。それだけは避けたかった。

「…私はこの、アリアだったかな。二人で話してみたく思います。」
「そうか?まあいいけどお嬢さんにも都合があるだろうし帰るって言ったら即帰らせろよ。」
「それは分かっております。わざわざありがとうございました。」
「ああ、じゃあな、お嬢さん。」
「ばいばーい、またご縁が合ったらよろしくお願いします。」

男に対して笑いながら手を振る。
郡市の視線を後ろに感じつつも完全にその男が見えなくなるのを待った。それは相手も同じらしい。
完全に見えなくなり、間合いからも外れたと思えるようになったとき、軍師が口を開いた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.79 )
   
日時: 2012/03/26 23:58
名前: あづま ID:IcGxi/EE

「驚いたね、まさか兄を誑かして来るとは。それと女だったか?」
「いや、男だけど。あと誑かしたんじゃないよ、お兄さんが声をかけて来ただけだからね、軍師様?」
「まあいい、本来は招かれざる客だ。とりあえず入れ。」
「えー…ま、いいや。」

フェビアンが一歩下がり、彼の部屋にアリーを通す。
私物は無に等しく、国の情勢がリアルタイムで表示される画面が窓を覆っていた。
椅子を勧められアリーが腰掛けるとフェビアンが口を開く。

「まさか来るとは思わなかった。それに来るならば夜だろうと思っていた。
 警備は厳重だが、その厳重さによる甘えもあるはずだから。お前の侵入で叱咤しようと思っていたのに。」
「はは、残念でした。まあ僕も夜に入るつもりだったんだけどお兄さんが声をかけてくれてね。運が良かったよ。」
「ほお……。」

フェビアンはアリーを品定めするように頭からつま先まで眺める。
女物のゆったりとした服を身にまとった小柄な人間。
何を企んでいるのかまでは分からなかったが、落ち着き払った雰囲気から他国への潜入は初めてでないことが窺えた。
もう一度窺い見るがその視線に動じる様子は無い。

「そうだな…まずは服を脱いでもらっていいか?その服装、武器を隠しているだろう?」
「あらら、やっぱり分かる。ま、今回の目的は契約。いいよ、でも攻撃しないで欲しいな。」
「そちらが仕掛けなければ構わないぞ。この部屋で流血ごとは避けたいしな。」
「おやさしい事で、軍師様。」

軽く笑って、脱ぎ始める。
完璧には拭いきれていなかった血を見たとき、フェビアンが身をこわばらせたのを感じ微かに優越感を感じた。
武器をすべて取り、彼に向き直る。

「…なんだ、その血は。」
「あぁこれ。これはまあ君のお兄さんのせいで無駄死にしてしまった男の人の最期。」
「殺し、」
「これが僕の策だよ、軍師様。」
「はあ…アリアというのは何だ?あの偽名、あまり使っていないだろう。」
「別に。過去のお仲間の名前。もう死んでるから探っても無駄だよ。」

教える必要は無い、と雰囲気だけで相手に伝える。
彼も探る必要は無いと判断したのか、話題を切り替えた。

「さて、私の望みだ。叶えてくれれば頭くらいは貸しても構わない。」
「うん。僕も、命をかけないでいい事なら何をしてもいいよ、国のためだ。」
「…熱心だな。私は外に出たい。」
「は。」
「外に出て、一民として触れ合ってみたい。生まれてからほとんどをこの塔で過ごしているんだ。」

予想外の要望にアリーは黙る。
戦力や金、なにか国の情報を引き換えにするのではないかと考えていたためだ。
だがリキルシアは大国。戦力や金もあるだろう。
もう少し考えを巡らせておくべきだったと舌打ちした。それに気づいたのか相手も笑う。

「駄目かな。」
「良いけど…そんなで良いわけ?お金とか戦力とか、情報とか。」
「お前は意外と頭が回らないんだな。金はある、戦力も人がいるからある。情報はこれを見てくれれば分かるだろう?
 それに技術だって兄と上ってきたあれを見てくれれば分かるはずだ。」
「うん…反省する。」
「しおらしいな。それに頭を貸す事になれば必然的に情報は手に入る。私はこの国は現状維持で良いと思っているからな。
 世の統一や他国侵略を考えず、与えられた土地の存続だけを目標にする。」
「ふーん…その割には戦をしてるね。」

アリーの一言にフェビアンは笑った。
さも愉快そうに、人の目をはばからず笑っているのが分かる。
一方、笑いを生み出したアリーは何がなんだか分からずむくれる。それを見、フェビアンは更に笑った。

「それはフェビアン=カンターがあまり世に出られないからさ。戦となれば臨機応変に指示を出さねばならない。
 私はよく野戦をやるだろう?僅かな時間とはいえ外に出られるのは嬉しい。」
「んー…。」
「納得してないな、でも実際そうなのだ。あとそのむくれ方は似合わないぞ、せめてアリアの時にやるべきだった。
 というよりアリアの喋り方は可愛らしいな、普段からそう喋れば男を手玉に取れるのではないか?」
「はぁ?!僕男なんだけど!それに小さいけどね、一応十六なんだよ、もうすぐ十七!」
「悪かったな、栄養取るようにするといい。なんなら観光して行くかな、手形を書いてあげようか?」
「うるさい!!」

アリーの様子を見、フェビアンは喉の奥で笑う。
それをキッとにらみ付け、アリーは武器を元通りに身につけ服を着る。

「まあ、契約は成立という事でいい。」
「まだ外に連れ出してないよ!」
「なに、お前の仕える国とリキルシアが同盟すればいいのだ。そうすれば私も外に出られる。」
「…そこまで考えてた?」
「どうだろうな、そのうち分かるかもしれない。ところでお前の国はどこだ、何かメリットを考え出さなければ。」
「カメリア。」
「成程。」
「あ、でもあれだからね?僕が仲介ってだけで本当に同盟結ばれるか分からないから、ね?」
「あぁ、そんな事か。別に私は外に出られれば良いからな、成立で構わない。」
「…ご大層な。」

フェビアンは額に手を当て考え始めた。彼の癖なのだろうか、とアリーは心の隅で思う。

「新興国。今は五代目、戦を嫌う領主が統べる国。勢力は主な者は他国の貧困層や孤児を取り込みそれからなっている。
 自国では複数の兄弟がいる場合は兵役が課せられ、それも大きな力となっている。――間違いないな?」
「正確には兄弟皆受ける。そして家を継ぐ人のみ戦に出ない。」
「へえ、新たな情報だ。そして同じく新興勢力で領主の補佐がパベーニュ。
 領主以外で姓を名乗る珍しい一族だがその始まりは来訪者の女。勢力も彼女の指導が生かされている。」
「当たり。こんなに知ってるならはっきりいうけど同盟いらなくない?僕らにはメリットありそうだけど
 そっちにはあるかな?」
「魅力は資源。リキルシアは他国からの商人を受け入れ商売をするための土地を与え、それからの収益も大きな財源だ。
 競売方式だからね、自然と代は上がって行く。」
「ちょっと待って。」

アリーが言葉を遮った。おかしい、と思う。国の情報を軍師はなんの戸惑いもなく話している。
下の賑わいを見ているアリーのは彼の話がフェイクだとは思えなかった。
何か裏があるのでは、と心の隅で警戒する。
そもそも相手が知っているからといって国の上についても同意してしまった。
なにか、重要な事を間違ったかもしれないと焦る。

「おかしいって思ってるな。私はカメリアのことを知っている。だが君はあまりリキルシアを知らなそうだな。
 だから互いにフェアに行こうとね。嫌ならやめるよ。」
「いいや…僕も大国リキルシアを知れるのは良いと思う。いつか、乗っ取るかもね?」
「怖い怖い、楽しみにしている。そしてカメリアの利点が資源だな。領主の方針かは知らないが閉鎖的。
 国内のみとはいえ資源もいつか尽き果てるだろう。だが私にはカメリアが滅んでもどうでも良いからな。
 ただ、資源が欲しい。まあ、極端に弱体化したら手を切らせてもらうよ。」
「まあ、それならいいかな。ただ毒虫には気をつけること、泣くよ?」
「経験談か?…閉鎖的で、戦のかく乱や暗殺、そして資源に定評のあるカメリアと最古で最大の大国リキルシア。
 仲良くして行こうじゃないか、結ばれた手が自由になるまで。」
「そうだね。伝えておくよ、さよなら、軍師様。」

そう言ってカメリアの人間は部屋から出て行った。
軍師は息を吐き出し、思案に暮れる。
この同盟、どれくらい生かせるか。そしてあの人間はどれくらい賢いのか。
使いどころを考え、そっとまぶたを閉じた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.80 )
   
日時: 2012/03/26 23:59
名前: あづま ID:IcGxi/EE

「はー…なんとならないものかな、レイ。」
「知らね…。」
「うん、何で泣いたかな。あたしに失礼。」
「分かんねえよ、俺。もう全部…。」
「分かんないで泣かれんのかよ。なにそれ生理的に拒絶されてる?」
「さぁ…もう寝たい、疲れちまった。」
「あぁそ、エド、あたしらどこ行けばいい?さすがにずっと居座る訳にはいかないっしょ。」
「そうだな…アリーの部屋にとりあえずいるか?荒らしたりしなければ怒らない…というより怒らせないが。」
「な、それ強行すぎない?!別にさ、ウチ的には野宿とかでも、厄介になってる身だし。」
「いいや、客人だ。ちょっと掛け合ってくるけど二、三日経たないと承認されないんだ。
 とりあえずアリーの部屋にいてくれ、こっちだ。」

エドはそう言ってレイに布団をかぶせてから部屋の外へと出た。三人もそれに従う。
アリーの部屋はエドの部屋の隣であり、中も物が必需品以外ほとんど無いという点でしか違いは見受けられなかった。
それを見たエドは苦笑し、自分の部屋からとりあえず布団の代わりになりそうなものを数組持ってきたのだった。

「何にも無いね。あまりここにいないのかな。」
「アリーはただでさえ俺ら兄弟の中で仕事が多いし、ふだんはあっちで生活してるからな。
 こっちに戻る事なんてほとんどないしなぁ…トリクシーと会うのが嫌らしい。」
「そうなんだ、結婚してるのに勿体無いね。私だったら好きな人と一緒に…って政略なんだっけ?
 でもアリーはトリクシーの事嫌いには見えなかったけどなぁ。」
「そうなの?やっぱりそうなんだ…。」
「奏美?なんで残念そうなの?」
「い、いや!たださ、なんかこう…仕事優先みたいなイメージあったから!」
「ははは、たしかに仕事優先になってるかもな。ここらへんに敷いとくか?」
「いいよ、寝るときになったら私たちがやるから。」
「そうか、じゃあちょっと掛け合ってくるからゆっくり寛いでくれ。」

エドは部屋を出て行く。そして足音がふつりと消えたのを三人は感じた。
想良はそのまま窓辺に陣取って高いところから眺める景色を楽しんでいた。
奏音はアリーの私物をいじっては戻している。なにか発見があるのではないかと考えているようだった。
壁に寄りかかって座った奏美は、もやもやしたものを胸に抱え込んでいた。
アリーに少なからず好意を抱いている。それはトリクシーに指摘されはっきりと自覚した。
だが、それと同時に申し訳なさが心を支配する。
トリクシー自身もアリーのことは好きだろうに、自分のことを気遣ってくれたような気がする。
本当に申し訳なく後ろめたいと同時に、自分のそれはそんなに分かりやすく態度に出ていたのかと思った。

「はあ…。」
「どうしたの?ホームシック?」
「ううん…帰りたいのもあるけどね。こっちはこっちで楽しいけど色々あるなって…。」
「あぁ…私もびっくりだよ。こういう事があるなんて思わなかった。」
「うん…ウチも思わなかった。…まさか人、殺すなんて。」
「あ…なんかごめん。」
「いいよ、でもこれが夢だったらな、って思っちゃうけどね。殺したのも、全部、夢ならって……。」

奏美は力なく笑って見せた。
案外、辛いときに笑うのは難しいし相手には頼りなく無理しているように見えてるだろうな、と冷静な部分で思う。

「私には、まだ分からないけど。でも、夢だったらちょっと寂しいかな。」
「え?」
「私はまだ本当に辛い事を経験してないから…したくないけどね。
 でもここで不思議だけどいい人たちに会えたし、いろんな事が起きてる。全部夢だったら寂しいな…って。」
「あぁ、そういう。うん、まあ全部夢だったらちょっと残念かも。」
「おぉ!?なんだこれは!」

突然、奏音が大きな声を上げる。
黙々とアリーの私物を弄っていたため、話にも交わってこなかったので二人はびくりと体を震わせた。
奏音のほうを見ると先ほどまでは布がかけられていた、ただそれだけの物に凹凸ができている。
そして彼女の手の中には小さな機械が握られていた。

「姉ちゃん!」
「いや…機械握ったらいきなり布の下に何か現れたんですけど。というかこの布の下は何も無かったはずなんだけど。」
「そうなの?隠しダンジョン的な感じなのかな?」
「多分この仕掛けかな。つか埃も無いってすごいよね、あたしの家三時間以内だけでごたごたするから。」
「それ姉ちゃんが片付けないで積み重ねるから崩れてんじゃん。」
「分かってます、でもレオンが片付けてくれたから少しはマシよ?夏の陣前に来なさい、分かるから。
 はい、ご開帳〜。」
「あちょ、弄っちゃ駄目ってー……。」

奏音が布をめくるとその下にはずらりと額が並んでおり、それに入っているのは写真だと言う事が分かった。

「カメラあるのか!あたしも欲しい…というか充電切れなきゃ取りまくるのに。」
「あ、だったら奏音さん電気使えるようになればいいんじゃない?」
「おぉ!でも練習嫌だなぁ、目覚めよ我が秘められし能力!」
「無理でしょ、練習頑張ってね、姉ちゃん。」
「けっ!…あ、これもしかしてあの子等の小さいころ?!やーなにこれ、かわいいー!」

そう言って奏音はもっとよく見ようとその額に視線を合わせた。二人もそれにつられ腰を落とす。
写真はアリーが撮っているのか彼が写っているのは他と比べると極端に少ない。
だいたいはエドとレイが映っており、いわゆる訓練風景だと言う事が分かった。

「てかわんこ泣きすぎじゃね?だいたいが戦ってるの泣いてるんだけど。」
「あー…でもまじ痛そうじゃん。顔内出血してるよ?ウチらより小さいんだし大体泣くでしょ。」
「まあそうかもしんないけど、でも反対にエドはキリッとしてるね。
 というよりこのころから周りと比べて筋肉質だねー、逆三角形だ。何歳ごろだろ?十五歳くらい?」
「まあアリーと同じくらいじゃないかなぁ。あ、これダイアナさん?若いなぁ…私怒られそうだけどね。」
「あぁほんと!すげえ、服ぴちぴち。胸無いけど。」
「姉ちゃんすごく失礼。自分がでかいからってそれ失礼、殺されるよ。」
「あたしだって好きででかくなった訳じゃないよ!遠くのもの取ろうとすると近くのもの倒すんだから!
 原稿にコーヒー零したときは死のうかと思ったぐらいだからね?!」
「それは奏音さんの不注意でしょー…。」

想良は立ち上がり背伸びをすると奥の方に伏せられている額が二つ、あるのを見つけた。
褒められる行為ではない、そう自覚しながらもそれを起こしてみる。
よく見えないので手に取ろうとしたが、それはできない様になっているらしく顔を近づけて見たのだった。

「……?」

一つ目の額には三人が写っていた。
アリーと、年は同じくらいと思われる男、何歳か年上と思われる女。皆、まだ小さく十に満たない年だろう。
もう一つは、どこかの戦場である。ただ、兵士達の鎧や武器などがただ転がっている。
戦場だと分かったのは地面に血の痕があちこちに残っていたためだった。
この写真に意味するものが分からず想良は首をかしげる。

「んあ?何これ、想良ちゃん。」
「なんか伏せてあったから見ようと思ったんだけど…。」
「うっふっふ、お主も悪よの〜。てかなにこれ?アリーちゃんと誰か達、んで…?」
「あ、戦場かなぁ。ウチ行った時もこういう所で戦ってたよ。何にも無い場所とか、山のふもととか。」
「そーなんだ、初陣とかかな。」
「あ、あの二人誰?男のほうはアル君?って思ったけど違うみたいだし。」
「分かんないや。でも勝手に見たのばれるとあれだから黙ってよう、ウチばれたらやばいと思うし。」
「そだねー、あたしだったら泣かせるけどね、ふふふ。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.81 )
   
日時: 2012/04/02 14:20
名前: あづま ID:JfOvolJk

「あらエドゥアール…なあに、なんか御用?」
「マティー…分かってるじゃないか?お前に報告がいかないなんて考えられない。」
「ふふ、残念。遊ぼうと思ったのになぁ。」
「客人の部屋を、手配して欲しい。今はアリーの部屋にいて貰ってるが…。」
「アリーの?客人に相応しくないわねえ、それともその程度の人たちなのかしら?
 女三人でしょう、あなたが全員手篭めにしたらいいんじゃあなあい?私、あなたの力を信用しているわ。」
「それは信用する事柄なのか?……複雑だな。」
「ふふふ、それだけあなたが女を連れて来過ぎって事よ。やっと上層の女達が食われなくなったと思ったのに。
 戻ってきちゃって…いいわ、エドゥアールの頼みだし特別よ?母上には何とか言っとくわぁ…明日まで待ってね。」
「はいはい、ご苦労様。」
「じゃあねぇ、親愛なる我がお兄様…ふふ。」

わざと大きく音を立て、マティーの部屋から出る。
ひとまず三人の部屋の問題は解消されたが、それ以前に引っかかる物があった。
彼女の態度がいつもと違う。
人をおちょくり、それによって相手が振り回されるのを楽しむのがマティーだがそれは見られない。
いい事でもあったのだろうか、と予想以上に早く終わったそれに安心し自分の部屋に戻る。



「あ…戻ってきたか?」
「あぁ…大丈夫か?レイ、相当悪そうだ。アリーのあれよりも悪そうだし…というより症状が違うからなぁ。」
「そうか……。」

エドが部屋に戻ってきた音に反応し、レイがかすれた声を出す。
それにやんわりと応対し、これからの事を考えた。
エドは後数日のうちに任務へと行き、万が一集落の反乱が起きてもそれに三人が巻き込まれないようにこちらへと来た。
戻ってこれるのは早くても一週間後。ダイアナ、アルもいないとなるとこちらにいてもらう方がありがたいが…。
レイも今の状態では自衛も難しい。アリーは今、仕事でいない。
それにここにも短期間しかいられないだろう。マティーの気が変われば即、帰らなければならない。
頭を使うのが得意ではないエドはベッドに腰掛けた。

「痛え…踏んでる!」
「文句言うなって、俺の寝床だろ?俺今日寝れないじゃないか、お前が居るんだし。」
「はー…つかよ、なんで俺の部屋無いんだろ。アリーも、居なかったのは同じだし、評価も……。
 なんか酷え兄貴だな、弟と比較してよ。」
「さあな…そこは分かんないな。マティーもあん時はまだ小さいから仕切ってないし。」
「ま、俺が必要って思われてねえんだな…はっきりした。」
「……。」
「そんな顔すんじゃないよ、俺は俺を見てそう思ったんだからな。エドには関係ないだろ?」
「だな。俺がお前を最後まで守ってやるよ、兄だからな。」
「どうも、頼りにしてるぜ?」

そう言ってレイは微笑む。
それに返事を返し、ふと、隣が静かなのが気になった。
奏美と想良だけならば静かなのは頷けるが奏音が居れば確実に煩くなる。
レイにも聞くがずっと静かであり、特に気に留めていなかったが確かに変だと言われた。
隣を除けば三人が集まりとある一点を見ていた。

「おーい。」
「ひいいいっ!」
「え、エドさん!」
「何見てるんだー?…なんだこれ、絵?あいつにこんな趣味あったっけ。」
「ビックリしたぁ…姉ちゃんの声で特に。」
「すまないな。…で、これなんだ?俺らの小さい頃のもあるってころはお前達が描いたんじゃないと思うが。」

エドの言葉に三人墓を見合わせる。
これはどう見たって写真。自分達が生まれる数世紀前からあるものだ。
想良が口を開く。

「これ、写真じゃないの?」
「しゃしん?なんだ、それ…あぁ、この娘のか。」
「ん…?あ、知らない子の。」

そう言ってエドは写真を取ろうとしたがそれはならず、隣にかがんだ。
懐かしそうにその写真を指で撫でる。

「アリーとチームを組んでいた子達だよ。こっちの女の子が絵に優れた子。
 そうだそうだ、色々描いてたなぁ。早く正確に描かなきゃならないからよく訓練の絵を描いてた、懐かしい。」
「そうなんだ。でもウチ絵描かないから分かんないけどこんなにきれいに描くのって難しくない?」
「それが、この子の能力。よく分からないけど記憶して、それを紙に映し出す能力だった。」
「へえ…会ってみたいなぁ。私より少し年上くらいかな?アリーが確か十六だっけ。」
「あぁ……。」

急にエドが重い声で黙ってしまった。
奏美がどうしたのかといえばただ首を振った。奏音と想良が視線を交わす。

「彼女は一生十三歳だ。もう死んでいる。」
「え……?」
「戦に行って、仲間割れして、怪我して死んだ。良くある事だよ、仲間割れ以外は。」
「なんで死んじゃったの?よっぽどの激戦区とか行かせたの?」
「そうだな…邪魔になったんだ。彼女の能力とアリーが。この男の子は一番だったけど、
 二人を始末するためにはやむを得ない犠牲になるはずだった。結果、女の子だけが殺された…というか、うーん…。」
「何?あたしらが知るとまずい事?」
「いや…まあ、弟の信用を落としたくないけどなぁ。アリーが殺したんだ。事前に情報探って、女の子だけ殺した。」
「……。」
「マティーのふりをしたんだ。今でこそマティーが髪を染めてるから違うけど元は金髪だからね、彼女。
 それで、情報を取って。アリーはそれが評価されて、ブラックリストから外れたって感じ。」

淡々と言うエドに想良は寒気すら感じた。
いつもと雰囲気は全く変わらない。だが、あの牢での瞳と同じだ。
彼は、女の子の死を悲しんでいない。もしかしたら死に対してこちらは淡白なのか…。
今横に居る姉妹は彼のそれに気づいているのだろうか、と思うがそれも無さそうだ。
ほっと、なぜか胸をなでおろした。

「へえ、やっぱ世界が違うと色々違うんだねぇ。つう事は、え?アリーちゃん最初に人殺したの十三?」
「いや?八つぐらいだったと思う。訓練に出たくない、あんたより強ければいいんでしょって先生一人殺した。
 あと彼女があいつより二歳だったかなー…とりあえず年上だったから。アリーはこの時十一歳。」
「げぇっ!なんかもう、切れたナイフ?」
「んで、この男の子に怒られてめちゃくちゃ泣かされたのな。それでやっぱり訓練行きたくないーの繰り返し。
 まああいつの評価が低かったのって訓練行ってないせいだと思うんだけどね。」
「もしかしてアリーってサボり癖あるの?面倒くさそうな事はし無さそうだなって思うけど、ウチ。」
「まあな…早く抜け出したいってわざと攻撃食らって大量出血で抜けたりしてるし。あいつなんなんだ?」
「ぎょわああ!か、考えただけで体が痛い!」

奏音が体を抑えごろごろと床を転がった。
すると先ほどまであった写真が音も立てず消えてしまった。
それに驚き、奏美が後ろに下がったところで奏音に躓き二人が団子のようになる。

「まあ、俺も仕事では人殺すしあいつだけが特別人殺しって訳じゃないから。」
「そうなの?わんこも殺してるの?」
「レイはどうだろ…一回殺したのは知ってるけどそれ以降はやってないかな、諜報だけ。」
「…もしかしてこっちの世界みんな人殺しなの?ウチなんかショックだわ。」
「そうしないと生きていけないからな。でも戦がなくなればもっと死ぬだろうし…仕方ないんだ。」

そう言ってエドは寝転がった。

「でさ、あの女の子は死んじゃったのは分かるけど…男の子の方は?」
「あぁ、彼?生きてるよ。会おうと思えば会えるけどね。」
「そうなんだぁ、会ってみたいな。」
「アリーに聞いておくよ…彼の面倒見てるのあいつだからね。…あ、普段は人雇ってるからな?」
「そうなんだ。その人に尽くしてるね、アリー。」
「ああ…トリクシーが妬きそうなくらいにな。あ、ジルって言うからな、あの男の子。
 怒られたれらユリアーン…こっちが本名。」
「了解了解〜あたしも会って良いかなぁ?」
「…変な事しなければ良いんじゃないかな。」

大丈夫だろうか、不安を抱きながらエドは目の端で奏音を見た。
獣の目をしたような気がして、一瞬だけ言わなければ良かったかもしれないと思った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.82 )
   
日時: 2012/04/02 14:24
名前: あづま ID:JfOvolJk

「ありがとうね、お姉さん。」
「いいよ別に。でもなんでカメリアなの?私も行く良いけどさ?」
「…捕まったの、妹が。助けに行きたいんだ。」
「……。」

ゆらゆらと気分の悪いゆれ方をする乗り物にアリーは乗っていた。
金を持っていそうなそれを選び声をかけたのだがこの具合の悪さはいただけなかった。
何も食べずにリキルシアを発ってよかったと思いながら目の前の女性を見つめた。
彼女の後ろには生まれたばかりと思われる赤子がゆりかごの中で穏やかな寝息を立てている。
ふっと目が合い、女性がこちらに手を伸ばしてきた。
なんだろうと思いながらもできるだけ反応しないように、できるだけ戦闘を知らないように思わせるようにしようと思った。

「えいっ!」
「な、ちょ!」
「やっぱり男の子だ。…これが。」
「や、やめてって…。」
「ばれたからって駄目よ?ナイフかな、うん。でもここだと出しづらくない?胸の辺りにつけるのって。」
「……。」

なぜばれた?アリーは目の前の女性を見る。
それを女性は笑い飛ばした。

「カメリアに行く…そりゃ、多少の心得はあるわ。んっんー。」
「ちょっと、触んないで。なんなら脱ぐから、武器も全部出すから、ちょっとー…。」
「そうねえ…まあもう少し触らせてよ。武器、どういう風に隠してるのか知りたいなぁって。」
「心得あるんならいらな、脇には隠さない!何、お姉さんどこの人?!脇は無理、っ何なの!?」
「あはは、そうねぇ。まあそういう油断が危険を生むものなの。」
「やめて、やだ…。お姉さんなんか…やだ、…。」
「そう?私は気に入った。仲良くしましょう…そうね、アンリ。」
「……。」

一瞬、何がなんだか分からなくなる。
しかし抵抗しながらでも考えようと拒絶を再開するも力が入らなかった。

「駄目よ、だぁめ。私のことも案内して頂戴な。カメリアまで長いわ、ゆっくり話して遊びましょ?」
「え、なんで…手離して。やめ!」
「んー…これ位かな、武器。じゃあ答え合わせしたいから脱いで、あなたが脱ぐって言ったもんね?」
「……。」
「あはは、上出来。さっさと脱ぐ。」

完全にペースに巻き込まれた、とアリーは思った。
そして彼女が誰なのか、されるがままで考えようとした。

「痛いっ、何…?」
「あら、痛いの?ふうん、そう…。」

だが、結論に辿り着きそうになるその瞬間にもたらされる何らかの感覚に邪魔されていった。
そして次第に意識はそれをいかにかわすかに持っていかれ、だんだんと散漫していった。





「あれ、寝てた?!」

ガバリと身を起こせば周りには誰も居ない。
ついさっきまで写真を見ていなかったかと思ったがいつの間にか寝ていたらしい。
自分はいつ寝たんだと唖然としながら奏音は周りを見た。
エドの部屋は鍵がかかっており、レイならいるかもしれないと期待した奏音は舌打ちした。
兵士に連れられここまで来た身としては下手に動いては迷子になると思い部屋に戻る。
そしていつのまにか敷いたらしい布団に横になった。

「携帯なぁ…。」

すっかり電池の切れてしまったそれを取り出し真っ黒な画面を眺めた。
雷系が使えればとは思ったもののそもそもどうやってああいうのができているのか知らない。
初日にレイが作ったと言い渡されたそれを眺めた。

「電気よ起これー。」

だが、なにも起こらず静寂のみが満たしていた。
虚しさに包まれ、寝返りを打つ。
と、その時扉を打つ音が聞こえなんとなく返事をした。誰かが入ってくる。

「んー…お、アル君じゃないか!久しぶりいつぶり?」
「?」
「あー分かんない?まいっか、どしたの?」
「……」
「何?」

意思の疎通ができないと判断したのかアルが胸元から紙を取り出した。
そして何かを書き奏音に手渡した。

「ん…あ、日本語だ。アル君書けるの?」
「……」
「そーなんだ、知らなかったわ。…下でご飯?分かった行く〜。」

立ち上がり、アルと共に進む。
だが階段を通り過ぎてしまった彼に奏音は声をかけた。

「アル君階段通り過ぎてるよ?」
「……」
「え…あ、全部平仮名になってる…え、階段関係ないの?」
「……」
「え、あたしらあの階段ここまで上ってきたんすけど…えー?」

ここまで階段を上ってきたと聞いてアルは驚いたような顔をしたがそのまま歩みを進めていった。
そして廊下の突き当たりにぼんやりとした円がある。
そこに二人で入り、ヒュッ、という音と共に下へ降り始めた。

「これなにエレベーター的な?」
「?」
「あ、エレベータを知らないのか。えっとまあ地球にある似たようなもんだよ。」
「……」
「うん、あたしやっぱり書いて貰わないと分かんないわ!」
「……」
「あ、着くの。」

小さな音を立て、とある一角にそれは止まった。アルが降りたのを見、奏音も続く。
そしてすぐ行ったところにもう皆そろっており食べ始めていた。
ただレイはまだ本調子ではないのかこの場にはいない。想良曰く向こうで食べているそうだ。

「待っててくれてたって良いじゃん!」
「だって姉ちゃん寝てるし。残しておけば良いかなって思ったんだけどね。」
「そうそう、アル君がでも連れてくるみたいな事でね。奏音さん良かったね、アル君が気遣ってくれて。」
「お、おうとも…。」
「……」
「アル君も食べ始めてる?!ええ、なんか酷くない?!」
「ほら、奏音も座って。無くなってしまうぞ?」
「あ…はい。」

奏音が席に座り、自分の皿に物を取り分けていく。
そして皆がある程度食べ、ペースも落ちてきたところで口を開いた。

「実はな、俺はもうすぐ仕事に行く。それで何日か分からないがここに滞在してもらう事になった。」
「そうなんだ。別に向こうでも良かったんじゃないの?」
「ん…まあ、その諸事情だ。ほら、お前らの実力もこっちに見せなきゃならないからな。」
「そう!」

同意の声と共に扉が開く。
一同が振り返るとそこにはダイアナとマティーが立っていた。

「私もどういう風に成長したか興味あるからね。奏美と想良は一つこなしたって言うし。
 それに奏音は兵長だっけ?一本取ったって言うじゃない。意外だけどね。」
「意外て。まいいけどさ、うん。」
「エドゥアールの行ってた客人があんた達だったとはねえ…まあ構わないわぁ。
 とりあえずどれくらい使えるのか見せて頂戴?少しくらいは働いてもらうし二人には一件の報酬を払うわ…。」
「え、そんな!私は集落の人たちに協力ってだけで仕事じゃないんですよ!奏美だけです、貰えるのは。」
「ウチも足手纏いだったし…貰える様な働きしてないから…。」
「じゃ、手付金って事にしましょう。なんだかんだで働いてもらうわぁ。
 でも仕事を割り振るには実力を知らなければならないし…そうね、食事が終わったらすぐやりましょう。」
「待て!三人は今来たばっかりなんだ。別に明日でも構わないだろ?そりゃあ俺いなくなるけどお前らだけで判断できるはずだ。」
「黙って。とりあえず食べたらすぐ来てね…屋上よ。」

そして二人は出て行こうとした。
だが、想良が大きな声で呼び止め二人が振り返った。

「あの、トリクシーはどこですか?こっち来てから会ってないんです。」
「ベアトリクスの事?彼女なら今帰省中よ…向こうにも顔を出さないと同盟している意味が無いし。」
「え?なんか急じゃないですか?」
「仕方ないのよ、あれでもいわば人質みたいなものだから。娘をやるから攻撃してこないで…てね。
 まあ一番は子供産んで向こうに居てくれればいいんだけど…こればっかりはアンリにも責任はあるし責められないわぁ。」
「そ、そうなんですか…。」
「そう、納得していただけたかしら?とりあえず待っているわ…ふふ。」

そうして今度こそ二人は出て行った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.83 )
   
日時: 2012/04/02 14:28
名前: あづま ID:JfOvolJk

「ねえ、逃げちゃ駄目かなぁ?」
「逃げてみるか?でもマティーは見つけるの早いし無理だと思うぞ。」
「まじかよ。ダイアナがマジ天使に見えるレベル?」
「救世主に見えるレベルだな。怖いぞ、マティーを怒らせると。」
「…姉ちゃんサボらなきゃ意外と強いんじゃない?」
「そうだね。男の人には精神的攻撃が素でできるしね。どうなんだろ?」
「想良ちゃんあたしを今すぐぼこって!戦闘不能にして!!」
「駄目だぞ、俺が傷治せるから。」
「オーマイガー!やっだあああ、胃が痛い…。」
「ははは…まあ、もしマティーに勝ったら俺からも補助具をあげるよ。レイからのはあいつが作ったからね。
 個人でやる分のにはどうしても限界があるからちゃんと職人が作ったのをな。」
「え?どれも同じって訳じゃないの?ていうか何個も持つもの?」

当たり前に浮かぶ疑問を奏音が口に出す。

「あ、そういえば。レイさんはブレスレットだけどエドさんは腕輪だよね。」
「あぁ。まあ好みっていうのが大きいが…ほら、俺の場合腕輪は目立つだろ?これしか付けてなかったら
 腕を切り落とされたら終わりだ。だから普通は何箇所かに付けていて、メインとサブって感じだ。」
「へー…。」
「じゃあ、運動。」

食後の運動だといわれ一同は階段を上っていた。
アルはレイの様子を見に行くと伝え抜けており、かわりに奏美と奏音を案内してくれた兵士が付き添っていた。
度々ダイアナの事をネタにしているエドと奏音を横目で見ているが口を出せないようだった。
かわりに奏美と想良に屋敷の説明をしながら屋上を目指していた。

「この階段を上れば屋上でございます。」
「そうなの?意外と短かったねえ。」
「想良?!疲れないの…ウチ結構疲れたんだけど。」
「体動かすの楽しいし。…奏音さんは大丈夫じゃ無さそうなんだけど。」
「…エドゥアール様、奏音様のことは…?」
「大丈夫だ、俺が引っ張っていくから。最初に二人を入れててくれ。」
「了解しました。ではお嬢様方…。」

兵士が扉を開け、風が吹き抜けた。
遥か下とはいえ草と土の香りをその風は運び、住む世界の違いをはっきりと実感させた。

「あら早かったじゃない。もう少しかかると思っていたわ。」
「どうも。」
「あぁ、あんたはそこらへんの隅っこに居て頂戴ね。何があるか分からないし一応。」
「了解いたしました。」
「そう。で、あの無礼な女は?」
「姉ちゃんなら…その、階段でばててます。」
「あらそ。じゃああんた達からやりますか。どっちでもいいわ、かかって来なさい。」
「え。」
「あ、あなたと?!」

意外な申し出に二人は驚いた。
誰かと戦うだろうとは予想していたが次期当主とも聞いているマティーとはだとは思わなかった。
そういえばダイアナの姿も無い。
戦うしかない、そう二人は視線を交わし、頷いた。

「ウチがやります。」
「あなたは…確か私が行った時はいなかった人かしら。…となるとあの女の妹ね。いいわ、そちらからどうぞ?」
「…はい。」
「ああ、想良だっけ?離れてなさい…そう、お利口さん。」

両者が向かい合い、空気が張り詰めた。





「ん…あ、アルか。どうしたんだい?」
「……」
「飯?悪いな、今は欲しく無えのさ。なんか飲むべきかもしれねえけど…うん。」
「……」
「悪いな、わざわざ。」

こくりと頷き、アルはそのまま部屋の隅で本を読み始めた。
できれば出て行ってくれればとレイは思ったが自分のせいで彼に迷惑をかけているのだとぐっと堪えた。
そもそもレイは何故アルが言葉を喋らなくなったのかを知らない。
小さい頃、敵国に捕虜となったときにアリーの仲介で出会った。そうだ。
だがその頃はまだ小さい声ではあったが喋っていた。覚えている。

「アル、なに読んでるんだい?」
「……」
「日本語?熱心だねえ、別にあいつ等はそのうち居なくなるだろうしこの世界の物食えば言葉は通じるじゃねえか…。」
「?」
「そういうもんらしいぜ、なんでも共通の言語じゃないと疎通が取れねえ。でも皆が他国の文化を学ぶのを拒否した。
 それでそういう風に作ったらしい。すげえなあ、創世期の皆々様方は。」
「……」
「あぁ、筆談…。よかったな、俺らの婆様が日本人でよ。」

筆談でコミュニケーションを取るという意思を見せたという事は本当に喋れないのだろうか。
だが、彼の話で自分達は脱出したといっていい。
コツコツとレイは自らの義眼を触り、片方の目で彼を見た。
脱出のショックで喋れなくなった…だが、この世界では殺人など誰もが経験してしまう事である。
何故だ…そもそも彼の出身はどこなのか…。目の前の人物を改めて知らな過ぎると思い、溜息をついた。

「あぁ、どうぞ。」

ノック音が聞こえ、扉のほうも見ず答える。誰だろうかと考えていたその時、冷気を感じた。そして、風。
だるく、動くたびにまだ痛みを感じる体をできるだけ早く動かそうとすれば立っているのは、子供。
アルがその子供の槍を掴み、防いでいるが間に合わなかったらしい。槍を血が伝う。
冷気はその子供から感じる。もしかしたら、いつかエドが言っていた侵入者だろうか。
自分はずっと部屋にいたのだろうから違うだろうと言った過去を少しだけ呪う。

「あれ…まだ……?」
「誰だい?ここに忍び込むっていい趣味だねえ?」
「……」
「あ…ここじゃ、……。」
「悪いけどこっち来な。お前は侵入者だ。」
「ごめんなさい……あぁ…また……。」

子供が槍を離した。アルもそれを受け離し、カラン。無機質な音が鳴った。
アルが子供の腕を掴み、逃げられないようにと抱き上げる。
子供は抱き上げられ、アルの目を見た。

「綺麗…。そう、あの…あの死なない目の人……会わせてみたい。」
「?」
「分からなくていい…誰も、知らない……。そう、うん…。」
「何訳の分からない事言ってるんだい?アル、そいつ連行しておくれ。」
「…あ、お兄さん…。」
「?!」

子供はアルの腕から流れるように抜け出し、レイの元へ歩いてくる。
抜け出すとは思っても居なかった二人は次の行動へ移ろうとするが体が凍ったように動かない。
子供はレイと目線を合わせ、抑揚のない声で言った。

「偽物……目が。」
「…そうだ。お前には関係ない…俺のヘマでこうなった。」
「違う…生きてる目が……偽者…。」
「はぁ?」

子供はレイの義眼を触る。
特に感覚も無く見えないが、目であるものを触られるのはあまり良い気分ではない。
手を離させようと手首をつかんだら、その手を包まれてしまった。

「楽しいね…それとも、哀しい?……お兄さんには、似合う。」
「……」
「アル、動け!捕らえろ、このガキ!」
「!」

レイの言葉に反応しアルが動く。
だが子供はするりと抜け出しレイの後ろに立った。
感情のこもらない声と瞳を尚、子供は二人に向けた。

「あなたは…大きいあなたは……無理、してる。」
「…?」
「分かってる…辛い。お気の毒……、でも、戻らない。」
「……」
「そうだよ…どんなに、願って、後悔して、謝って、嘆いて、泣いて!…戻らない……。」
「おい。お前は何を言っているんだい?全部知ってるような口ぶりだな。こいつを知っているんだったらお前は同胞か?」
「……」

アルは首を振った。彼もこのような子供は知らなかった。
子供はじっとアルを見ていた。

「諦めない…それでも。……戻らないのに、もう…。一途…本当に、会わせてみたいなぁ…。」
「……」
「……そして、お兄さん。もっと…自分を。」
「俺が何だ。」
「もっと…素直に。…気持ちは、……大事、だよ。」
「…お前に言われたかねえ。お前を知らねえけどそう思えるな。」
「ああ…そう。でも…もう、無理。……あなたには、そう。キッカケ……。」

子どもはレイから離れた。
相変わらず感情は見えず、ぼんやりとした雰囲気を漂わせていた。
ぐるりと部屋の中を見回し、部屋を照らしているランプを見た。

「ばいばい…。」
「は?」

緩く、手を振りその子は一瞬の後に消えた。
今まで見たことがない能力に彼等はただそれを見送るしか術がなかった。
レイは起こした体をゆっくりとベッドに寝かした。
あの子供は何かを知っているような口ぶりだった…。だが、いったい何を知っているのだというのだろう。
レイには目が偽者だと言い、アルには無理をしており気の毒だと言った。
やはりアルには何かがあるのだろうかと思う一方、自分に対する偽者とは何か。
それを探ろうとしたがレイには全く分からなかった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.84 )
   
日時: 2012/04/02 14:33
名前: あづま ID:JfOvolJk

「どうしたのかしら?いいわよ、いつでも。」
「……構えとかは。」
「いらないわぁ、だって、ねえ?」
「……。」
「ふふふ、怒らない怒らない。乱れてるわよ、ふふっ。」

奏美は依然、マティーと向き合っていた。
ダイアナの試験のように時間制限は無いものの、生み出されるのは焦りのみだった。
深呼吸をし、落ち着こうとするが目の前の人物を視界に入れるとまた動悸が早くなる。
いつまでたっても行動を起こさない奏美に嫌気がさしたのかマティーが言った。

「私がやっても構わないかしら?」
「…どうぞ。」
「ふふ、了解。行くわよ、避けてね?」
「え、うわっ!」

何かがおかしい…だが、感じたことのある違和感に体を動かせばそこにはつむじ風が発生していた。
そして違和感の正体は初めてアリーに会った時のあの風と同じものだと語っていた。
体が覚えていた事にぐっと自信を強めた奏美だったが次の瞬間、体が浮き上がったのを感じた。
ぐんぐんと高度を増し、髪が顔の周りで暴れる。
下のほうではマティーが笑みを浮かべて立っており、危ない、そう思った。
ギュン、と耳元で風がうなり落下を始めた。

「、…!」
「受け身を取ってねぇ、私も無意味な殺生は避けたいの。」
「!…!」

空気の抵抗で喋る事もできずただ衝撃に身構えた。
そして次の瞬間には体全体に痛み。ただすぐに動き始めた事で成功を意味していた。

「痛…。」
「そりゃそうよぉ、落ちたんだもの。でもお見事よ。」
「次は、ウチが…。」

速く動けるように。確実に攻撃が当たるように。
奏美は小さな武器を大量に創造する。
マティーは彼女の作れる多さには驚いた。そして楽しみが増えたと口の中で笑う。
向かってくる彼女を見て、ダイアナの報告を思い出した。
彼女は、フェイント――そしてダイアナもそれを活かす教育をしたらしい。

「そうねえ、あなたはこれを見たこと無いかしら。威力は劣るけど…。」
「何、?!」
「ふふふ…たっぷり味わって頂戴…奏美。」
「氷…え?」

ビキビキとマティーの目の前に十個ほどの氷が出来上がる。
だがその氷の中では赤や緑の何かがうごめいていた。
遠目にも確認できるそれに想良は呟いた。

「何、あれ…?」
「知らないのですか、お嬢様。」

隣にいた兵士が口を開く。

「あれはいわゆる能力の複合ですね。」
「能力の複合…?なんですか、それって。」
「私達は個々に得意とする一つの能力があります。エドゥアール様なら炎、マティルド様なら風。」
「うん。レイさんは氷、アリーはマティーさんと同じで風。そういう事だよね。」
「はい。しかし得意とする能力意外にも皆基本的に全てを使えます。ただし、威力が落ちる。
 威力のカバーに二つ以上の能力をあわせて使う事もできるのです…その分疲労が蓄積されますが。」
「そうなんだ…。」

兵士の言葉を受け、不安な気持ちで想良は奏美達を見た。
マティーはまだそれで攻撃する素振りを見せない。だが、奏美の警戒を楽しんでいるようだ。
事実、奏美も警戒し迂闊にマティーに近づけなかった。
せめてあれが何なのか知りたいと思ったが近づかなければ相手も攻撃する意思は無いようだ。
仕方が無い…奏美は相手に踏み込んだ。

「え…。」
「残念、ふふ。そう簡単に見せないわ…お馬鹿さん。」

何かが破ける音と共に奏美は膝をついた。
マティーが奏美の上着を破り、首元にナイフを当てている。
少し切れてしまったのか一筋血が流れた。

「負けた…。」
「そうね。そもそもあなたが勝てるわけないでしょう?」
「そうだね…。」

手当てをしなければ、そう思い想良が駆け寄ろうとした時扉が大きな音を立て開いた。
見れば奏音が立っており、横でエドは苦笑している。

「奏美!ちょっとあんたね、やって良い事と悪い事があるんだから!」
「あら…へえ。」
「な、何その反応…。とにかく次はあたしが行くかんね!想良ちゃん、トリ宜しく!」
「えっ…。」

奏音は妹を想良のほうへ連れて行き手当てを頼み、マティーと向き合った。





「…うぇうぇ。」
「何なの?さっきの威勢はどこに行っちゃったのよ。」
「多分燃え尽きちゃったわ。」
「分かんないわねえ…。」

威勢よく名乗りを上げた奏音だったが、それもマティーと向き合うまでで急速にしぼんでいってしまった。
何を仕掛けようにも彼女は武器を作れた事は無く、あの植物も今は没収され苔のものしか手元に無い。
試合以前の手詰まりに奏音は内心号泣していた。

「やべえよ。全裸で一騎打ちに飛び込んじまったよ。」
「あ、あなたねえ!もう少し羞恥心とかないの?!そういうのは口にするべき言葉じゃないわ!」
「だってマジだもん。…あれ、ひょっとしてあんた、ウブ?」
「…知らないわ。判断するのは周りよ。」
「へー…。」

しかし未だ赤みを残すマティーの顔に奏音は意地悪く笑った。
一度笑ってしまえばそれは止まらずむせ返り、腹を抱えてしまった。
マティーはそれを気を散らせるための物だと思ったが奏音はただ純粋に笑っていた。

「痛い、お腹痛…っぎゃー!!」
「少し頭を冷やしなさって!」
「おわ、飛んでる!すげーあたし空飛んでる!」
「……えー…。」

おびえるのかと思えば興奮する奏音にマティーも呆れた声を出した。
だが落下し始めてからは態度を変えた。
希望通りのその反応にマティーもやっと、落ち着きを取り戻した。

「ちょ、無い無い無い無い!落ちて、うぉえええ!」
「もう少し色気のある声を出せないのかしら…?」
「うるせー色気の無い身体しやがってぇ!思いっきり子供の身体だからねあんたー!
 年はオッケーでも見た目でロリコン扱いされるわ、あー相手がお気の毒、ああああ落ちてる!速くなった!」
「……。」

「怒ったな…奏音もなんでああ言うんだ。」
「姉ちゃんは余計なこと言うのがあれなんで…。」
「怪我の手当てってそれだけで足りますかね?」
「私にはなんとも…取って参りましょうか。」
「どうだろうなあ…まあいらないだろう。」
「そうですか…?」

首の手当てが終わり、兵士が破れた上着を縫っている横で彼等は話を続けた。
ぐんぐんと落ちる速さが増し、いつ激突してもおかしくない奏音を心配そうな目で見守る。
エドは激突する寸前に威力こそ弱いが風を使い速さを弱めようと思っていた。

「ふっふふ、行けえ我が娘よ!」
「何を…?!」

だが、奏音が胸元から何かを取り出しそれが一気に膨れ上がった。
深緑のそれに奏音は落ち、数秒後それは消え奏音は立ち上がった。服はあちこち緑色に染まっている。

「成る程…苔ね。そういえばあなたが兵長を縛った人だったっけ。」
「ん?ああそうだよ。あの人元気〜、よければ今夜の深夜貸してよ。あの人あたしが料理したい。」
「料理…?駄目よ!あの人有能なの、食べられたら困るわ!あなたカニバリズムなの?!」
「いや、食事的な料理じゃなくて…ね?」
「なぁっ、あなた、少しは恥らいなさい…!」
「無理。だってこっちきてからそういうのが無い。色々溜まる。仕事無いのにできないって死ぬ。」
「死んでなさい!大体、そんな…恥じらいも無く、そういう事を!」
「やだ生きる。だから貸してよ。いいじゃんよ。あっ、君が来る?二人でも良いよー。」
「え、巻き込まないでください!」

突如話題を振られた兵士が大声を上げた。
エドは奏音の態度に頭を抱えており、奏美は無関係を装おうとしていた。
奏美の焦点のあっていない目を想良は覗き込む。
いまいち事態が理解できていない想良は兵士に語りかけた。

「どういう事?」
「その…なんて言えば良いのか、…語り合ってみないかって事ですかね。」
「ようするに歓迎会?だったらほら、兵長さんと…ミラーさん?あの人も行けば良いんじゃない?」
「あの…。」
「多いほうが楽しいよ!多分お酒とか飲むんでしょ、私と奏美は未成年だから遠慮するけど、ねえ奏美?」
「え?…あぁ、そうだね。お酒飲めないもんね…。」
「ねーミラーって誰ー?!」
「なんかこの人と仲よさそうな人ー!」
「ま、巻き込まないでください!私もミラーさんも!」

兵士の悲痛な声が屋上に響いた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.85 )
   
日時: 2012/04/04 18:17
名前: あづま ID:AfG52.e6

「なんかもう…いいわ。勝手になさい…次、想良。」
「え?あたし勝ち?負け?」
「どっちでも構わないわぁ。あんたが好きなほう選びなさい。」
「そーぉ?じゃ負けで良いや。勝ってたら具合悪くなりそう。」

負けで良いと言った奏音にマティーは驚いたような顔をした。
具合が悪くなるとはどういう事か問いただそうとしたが既に奏音は妹の元へ行っておりそれは叶わなかった。
こんな人間は初めてだ、と少ないながらも興味を抱きながら口を開いた。

「じゃ、最後は想良よ。どうぞ、かかって来なさい。」
「はい!」
「あら…お辞儀。まあ、あんたには注意するわ…洞察力と咄嗟の判断が武器だものねぇ。」
「評価、ありがとうございます。」

想良は一言言い、ぐっと構えた。
今、目の前の人物が言っている事から推測するとダイアナの訓練により身につけたことはほとんど報告がされている。
近距離からの攻撃…主に柔道の技だがそれも相手の懐に入れなければ意味を成さない。

(遠距離はあの風と氷…近距離は今の所、無い。)
「どうしたのかしら?あなたも焦らす作戦?でも時間制限無いのよ、大丈夫かしら?」
「どうですかね…。」
「……。」
(補助具も…無い?隠してるのかな。…勝負は、近距離。)

奏音と違い何かクッションになるようなものを作れない想良はあの風を受けてしまえば不利になる。
だからといって今までマティーの身体に触れた人はいない…?

「行きます!」
「あら、宣言しちゃって…。」

想良はマティーに向かって全速力で走った。
元々足は速くない。すぐに風が自身の身体を掬い、足が地を離れた。
下ではマティーが想良のことを小ばかにしたような顔で見上げていた。

「今は戦じゃないし教えてあげるわ。そんなにまっすぐに走っちゃ駄目。ダイアナがあんたは合格したって言ったけど
 まぐれだったのかしら?」
「……。」
「口も出ない?じゃあ、落ちて頂戴。」
「ぅあっ!」

糸が切れたように身体が落下し始めた。
だが、想良は意外と時間がかかるなとのんきな事を考えていた。柔道に比べて咄嗟の判断は必要としなかった。
来る、と思い息を詰め、ガンッと身体に衝撃を感じ、起き上がる。

「あら、受身上手いのね。奏美よりもいいわぁ…でもね。」
「何ですか?」
「ふふふ、内緒。」
「そうですか。」

身体に鈍い痛みを感じながらも想良は相手の様子を見る。
何か仕掛けてくる様子は見えず、試すような笑みを浮かべていた。
口を開き、もう一方では小刀と、何か投げられる武器を作り始めた。

「似てるね…アリーと。」
「そう?不本意だけど双子だから仕方ないわ。」
「一卵性?二卵性?」
「さあね。何を言いたいのか分からないけど…その手、ふふ。私には通用しないわぁ。」
「…でしょうね。」

ばれてしまってはと想良はマティーに向かい武器を投げた。
彼女はそれを簡単にはじく。
何度かそれを繰り返し、想良はじりじりとマティーに近づいていった。

「…駄目よぉ、それ、奏美の模倣ね。」
「ひっ!」
「想良…がっかりさせないで頂戴。期待してたのよ?ほとんど経験が無い状態でアルベールに勝ったって聞いたのに。
 何をやるかと思えば奏美の真似。同じことをやるのが通用すると思って?」

風を切る音が聞こえ、想良の目の前にマティーが立っていた。
襟を握られたのを感じ、想良は動いた。

「ぐはっ!」
「同じ手が通じると思いますか?」
「あら…けっこう良いわ、ね。」
「…上手く入ったと思ったんだけどなぁ。」

どこかに当たれば、と動かした拳はちょうどマティーの腹に入ったらしい。
よろよろと二、三歩後退したマティーは想良を見つめた。
何を考えているか良く分からないが、的確な判断…もしくは強運を持っているようだ。

「でも。」
「な、うあっ!」
「止めを刺すべきね…勝ちたかったのなら。」
「うぐ、がっは…。」

押し倒され、お返しといわんばかりに思い切り腹を踏まれる。
途端に催す吐き気を何とか想良は耐えた。

「まあ、一本入れた事は評価するわ……おやすみなさい。」
「うっ…は、はい……。」
「どうぞ、お嬢様。」

いつの間にか近くにやってきていた兵士の肩を借り想良は立ち上がった。
そしてマティーを残し屋上を後にする。
戸が閉められ、一人残ったマティーは思った。
あの三人、三者三様だが使い道はあるかもしれない…少し、遊んでみようか、と。





「お姉さんさ、どこの人?」
「知りたい?教えないけどさ。」
「…この赤ちゃん何?」
「娘よ?」
「そう。カメリアには何の御用。」
「ちょっとね。」

既に暗く、月明かりしかなくなった。
アリーと女性、それに赤子は今日はもう動くのは危険だと言って森の中で野宿している。
むしろこのような森の中でとどまるのが危険だとアリーは言ったが女性は聞き入れなかった。
それどころかアリーに荷物と娘を押し付け意気揚々としている。

「あのさ、もし敵かもしれないって言うんだったらそうそう入れないんだけど。」
「そりゃそうでしょ。でも私が本当の事言ったってどうせ疑うんだから同じ。」
「まあね。でもさ、荷物少なすぎるよね?近い国?」
「どうでしょ。」
「なんで僕を知ってた?」
「聞いたからね、あんたの近い人に。」
「しばいてやろ。」
「はははは、お手柔らかにね。あぁそうだ、名前くらいは言おう。ミシェルだよ。」

アリーの質問も適当にあしらい、明かされたのは名前のみ。
奔放に振舞うその様子から恐らくどこかのお嬢様だと推測を付けた。
もしかしたらあの軍師も外に出たら途端に子供のようになるのではと胸の中で笑い、軽く走る女性を目で追った。
敵の気配も無い。

「あ、ねえこれ水音?」
「ん…そうだね、川が近くにあるかな。」
「そっか、よし水浴びしよう!あんたもする?」
「いや…いいよ。」
「そう?」

川辺まで歩き、ぐずり出した腕の中のそれを軽く揺らした。
女性が水に入る音が聞こえ、もう顔を上げても大丈夫かと思った。
赤子は静かな寝息を立て、寝入った事を確認したアリーはそっと小さな籠に寝かせた。
寒くないようにと荷物で壁を作る。

「何?なんか用?」
「……。」

後ろにミシェルが立ったのを感じ声をかけるが返事はない。
もしや敵か?と毒針に手をかけ振り返った。

「服着て!」
「いやさ…。」

だがすぐにアリーは振り返った事に後悔した。
ミシェルは何も着ておらず、恥らう様子も見せずにアリーの目の前に立っている。
逆に自分がおかしいのかと一瞬思ったが濡れた手で肩をつかまれ意識を女性にやる。
ニコッと笑みを浮かべ、次の瞬間ミシェルはアリーの服を脱がせにかかった。

「何?!止めて武器の確認もうやったでしょ!見たでしょ!」
「そうだね。でもやっぱり身体洗わないと不潔。」
「じゃああなたが服着たら浴びるから!止めてこの子どうするの!誰も見てないと危ないから!」
「じゃこいつも一緒に入れよー。」
「今寝かせたのに…それにほら、水だよ?赤ちゃんの身体に危ないから!」
「気遣ってんだ、優しい。でもほら、自分の身体がおろそか。」
「だぁっ、やめて!本当に止めて!」
「ほらほら、一緒に洗おうねー。」
「いやだあああ!」

結局下着以外の服を剥かれ、アリーはミシェルに川に投げられた。
川底に思い切り体を打ちつけ、その衝撃で水を飲んでしまい慌てて顔を出す。
むせているアリーをミシェルは面白そうに眺めた。

「あんた意外とドジだね。パベーニュさん。」
「はあ…喉いたい…。でも何?ちょ、来ないでよ!」
「傷つくー…ていうかパベーニュはもう少し性知識つけた方いいんじゃない?
 長男だっけ?あれの噂はよく聞くけど。女子を戦場跡には連れ出すな、なんてあんたの兄貴の名前で言われてるよ。」
「知らないってば!」
「ふーん…まあ奥さん大事にしなよ。」
「お気遣いどうも…本当どこまで知ってるの…。」
「骨の髄までかね?」

そう言い残し泳ぎ始めたミシェルをできるだけ視界に入れない様に心がけながらアリーは手早く体を洗った。
そもそもそういう予定が無かったので一着しか持っていない服を再び着る。
未だ泳ぎ続けるミシェルを良く分からないままアリーは隣の吐息を感じていた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.86 )
   
日時: 2012/04/04 18:18
名前: あづま ID:AfG52.e6

「お、レイ良くなったか。アル、見てくれててありがとう。助かったよ。」
「……」
「うん、じゃあな。なんか疲れてるみたいだし休めよ。」

アルはエドが戻ってきたため部屋から出て行った。
何も喋らないレイに少々疑問を抱きつつ、エドは自分がどこで寝るべきか考えていた。
布団などは向こうにやってしまったのでソファでいいか、と心を納得させた。

「なあ、あれどこにあるか知ってるか?」
「……。」
「レイ?目を開けたまま寝てるのか?」
「…違えよ…乾くだろうが。」
「起きてたのか。なあ、あれ知らない?あのほら、あれ。」
「何言いてえんだよ。」
「あー…。」

仕事に必要なもので、どこにやったか分からない物の名前が出てこないエドは困っていた。
用途を説明してもレイは知らないであろう物なのでどうしたものかと頭を抱えた。

「なあ…。」
「ん?ああ、ここにいる間は俺の部屋使っていいからな。」
「どうも…あー…。」
「どうした?言い辛いことか?」

あの謎の侵入者の事を伝えようとするもなかなか口が思うように動かない。
捕獲できたであろう距離で、実際手も触った。
なのに捕まえ損ねた。それをエドに言うのは、兄弟とはいえはばかられた。
言えば何故捕まえなかったのかと言われ、責められるかもしれない。
だが、そんなレイの心情を知る由も無いエドは探すのを諦めソファに座った。

「いいや…買おう。そういえばさ、ジルってどこにいるんだっけ?」
「ジル?誰だい、それ。」
「ほら、アリーの…。」
「あぁ…あいつ。俺は知らねえよ。そもそもあいつ処分命令出てたんだろ?それをアリーが止めてるだけ。
 …アリーって意外と金持ってるな……上を止めてるし変な施設の維持費もあるし。」
「一番動いてるからな…そっか、知らないか。じゃあアリーが帰ってくるまで待つしかないか。」
「なんでまた。今まで話したりしなかったじゃねえか。」
「俺の気まぐれ。あーあ…いいや、現地調達で。面倒くさい…寝る。明かり消す?」
「ん。」

エドは片手を挙げ何かを打つような動作をした。
すると徐々に暗くなり、間もなくほとんど見えないくらいの暗さになった。





「姉ちゃん…。」
「寝るー…。」
「かーのんさーん?」
「ぅー……。」
「駄目じゃない?寝かしておこうか?」
「いや駄目でしょ。色々あるでしょ。姉ちゃんなんで起きないかなーもう。」

既に起き朝食も済ませた二人は未だおきる気配の無い奏音をどうするべきか悩んでいた。
事情を話しサンドイッチを作ってもらったとはいえいつまでも取っておけるものではない。
昨日、結局兵士達の宿舎に突撃したらしく明け方赤い顔をした二人組みに抱えられて戻ってきたのだった。
そのため朝食に間に合わないでもとは思ったもののもうすぐ昼時となった今、起こそうと格闘していた。
奏音の携帯は既に電源が切れているので目覚ましは使えず、どうやったら起きるのか思案に暮れていた。

「そーだ。奏美、ちょっと待ってて。」
「え…いいけど。」
「うん。あと髪留めの紐貸してね。」
「あ、だったら荷物入れの中に切ってない奴あるからそれ適当に切って使ってよ。」
「本当?ありがとー。」

想良が立ち上がり奏美の荷物入れから紐を取り出して部屋を出た。
向かった先はエドの部屋。ノックをし、目当ての人物がいるのを確認した。
案の定中からはレイの声が聞こえ、いてよかったと思いながら部屋に入った。

「想良か…どうした?エドならもう行っちまったよ。」
「うん、朝ごはんの時に聞いた。もう体大丈夫なんだね。あのさ、奏音さんが起きないんだよ。」
「寝かせておけばいいだろ?どうせ働かねえんだ。」
「ううん、なんか具合悪いのか分かんないけどね、ずっと唸ってるんだ。」
「な、そ、それ…!」

動揺した。想良は思った。
レイ自身は否定しているものの彼は少なからず奏音に対し好意を持っている。
いつからレイが奏音に好意を持っていたのか想良には分からないが、確か氷で攻撃したときにも心配していた。
やはり来て良かった、と想良は心の中で思った。

「うん。でも私達はこっちの世界の病気とか知らないじゃん。だからレイさんに見て貰おうかなって。」
「ああ、そういうことなら。」

そう言って立ち上がろうとするレイを想良は一旦止めた。
彼女はレイが座っているベッドに乗り、彼の後ろに立ち髪を結ぶ。

「なあ、俺髪くらいは自分で結べるんだけど。」
「うん。でも私がやりたいって思ったから。ダメ?」
「いいけど…。結び方変じゃないかい?なんでそんなに紐長いのさ。」
「地球ではこういう結び方が流行ってたんだー。でも私柔道だからあまり伸ばせないんだよ。
 いいなあ髪の毛伸ばせて…ゴムとかいっぱい選べるんだろうなー……。」

レイの髪を結び終えた想良はベッドから降り、扉を開けた。
彼女の後ろから来たレイは、普段結ばない髪の毛を変な風にされなんだか違和感を感じていた。
解こうにも善意でやってくれたというそれがレイの意思を邪魔していた。

「ただいまー。どう、奏音さん起きた?」
「全く。ウチ姉ちゃんと一緒にくら…?!」
「なんだよ。俺がどうかしたか?」
「…え?レイ、…ううん、なんでもないや。」
「……?おい奏音、具合悪いのか?」

レイの具合悪いという言葉に口を開きかけた奏美を想良は無理矢理に引っ張った。
その不自然な行動も今は神経を奏音に向けているレイは気づいていなかった。
少し離れたところで小声で二人は会話する。

「何、姉ちゃん具合悪いって言ったの?」
「まあね。」
「言っとくけど姉ちゃん酒強いよ?あの連れて来られたのも酔ったっていうよりは睡魔に負けただけだろうし。
 二日酔いもあの人全然無いからね?」
「知らなければどうってこと無いよ。」
「えー?」
「はい、おしまい。」

一方的に想良は会話を打ち切りレイの方にいった。
奏美はなんだか意味が分からず、ただカメリアに来てから想良がなんだか積極的になったとしか思わなかった。
しかし姉を起こすのになんか良い案があるのかと信じ見守る事を決めた。

「なあ、これただ単に寝てるだけじゃねえのかい?」
「そうかな、私がレイさんの所に行くときは結構苦しそうだったんだよ。」
「そうか?でも俺が知ってる限りこんな病気はねえな。専門じゃねえから分かんねえけどよ。」
「そっか。だったらあれだね、奏音さんレイさんが来たから落ち着いたんだねえ。」
「は?」
「ほら、心を許した人と一緒にいると落ち着くっていうじゃん。奏音さん結構レイさんのこと気に入ってるみたいだし。」
「ば、馬鹿…。」
「レイさんも結構奏音さんの事気に入ってるよね。一緒にいるとなんか楽しそうっていうか嬉しそうだし。」
「……。」

二人と寝ている姉の様子を見ていた奏美はなんとなく違和感を感じていた。
確かに、姉といるときのレイはなんとなく生き生きしているような気がした。
でもそれは奏音のセクハラに彼が精一杯対応しているようなだけだと思っていた。
だが、今のレイの様子を見ていてそれが揺らぐ。
もしかしたらレイは奏音の事がすきなのか?ふと、それが浮かんだ。
そして自分達姉妹とレイ、アリーの関係が泥沼に陥っている気がして密かにため息をついた。
何も知らない、もしくは関わっていないエドと想良がなんだかまぶしく見えた。

「奏音さーん?」
「…ー、ぅ、ん…。」
「完璧に熟睡じゃねえか。…良かった、病気とかじゃなくてよ。」
「うん。そうだよ。奏音さん、少しで良いから目開けてー、目の前の人見てー。」
「…な、に…?」
「そうだよってなんだよ!」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.87 )
   
日時: 2012/04/04 18:19
名前: あづま ID:AfG52.e6

にこりと笑った想良がレイを見る。だがレイはその笑みの意味が分からず首をかしげた。
想良が息を吸い、声を低くして叫ぶ。

「起きて下さい!締め切り今日までですよ、ちゃんと終わったんでしょうね、先生?!」
「っ、ぎゃあああ!キシ?!キシが?!」
「終わったから寝てたんでしょう、さぁ、原稿ください!全くメールで送ってくれれば良いのに…。」
「ひいいいいいいっ!」

ガバリと飛び起き本能的に人のいないほうへとワタワタして行く奏音を想良は目で追った。
その反応で今までのそれが全て嘘だったと思ったレイが想良に怒鳴る。

「想良、お前、謀っただろ?!」
「えへへ、私からのプレゼントー!」
「はぁ?別に俺を呼ばなくってもいいじゃねえか!お前の良く分かんねえ低い声で飛び起きたじゃねえかよ!」
「ぷ、プレ…?そっか、ここにキシいねえ…わ……。」

意識が完全に覚醒した奏音が言い合っている――正確に言えばレイが想良に突っかかっている―――二人を見た。
しかし目の前の光景にしばらくついて行けなかったのか黙り込む。
いつもならグズグズと起こした事に文句を言う奏音が何も言わないのを不思議に思ったレイがそちらを見た。
数秒後、脳の処理が追いついたのかぱぁっと顔を輝かせた奏音がレイに飛び掛る。

「わあありがとう想良ちゃん!プレゼントだ、確かにプレゼントー!」
「ぐぁっ、んだよ!プレゼントって何だよ、俺は物じゃねえっ、て、うがっ!」
「いやいやご冗談を〜。真っ赤なおリボン付けちゃってー。何、あたしに貰われたかった?」
「は、っリボ、っおい想良ぁっ!」
「だからプレゼントー。」

そう言って想良は二人から離れ奏美の元へ行く。
奏美は想良の担当のまねにも驚いたが、なにより目の前の光景にも驚いていた。
本気で抵抗すれば逃げられそうな気もするレイがそれをしない。
むしろなんとなくそれを受けているような…良く分からない光景だった。

「奏音さん起きたよ。」
「うん。…想良ってあんなに低い声でたんだ…。」
「たまたまだよー。」
「そっか…そう。…姉ちゃん、レイの腹に肘当たってる。」
「ん?おっとごめん。ねえねえ、本当嫁においでよ。養うよ、あたし。」
「うるせ、そんなのごめ、んっ…。」
「幸せそうだねー…二人とも生き生きしてるよ。」
「え。」

想良は二人とも生き生きしているといっていたが奏美には姉しかそれに当てはまらない気がしていた。
レイは奏音に乗られ呼吸自体が苦しそうである。
奏美は想良に腕を引っ張られ、彼女のほうを見た。

「私達は下行こうよ。探検したいし。」
「え、でも…。」
「大丈夫、捕まんないようにエドさん直筆の書類があります。これを見せれば兵士さんなら案内してくれるそうです。」
「うん…じゃああの人に頼む?ウチら案内してくれた人。」
「見つけたらね。そういえば名前なんていうんだろ。奏音さん知ってる?」
「ん?あの奏美の服縫ってくれた人?」
「そう。」
「ミゲルって言われてたよー。」
「ありがと。じゃあねー。」
「待て!んだよ、プレゼントって!俺だけ災難じゃねえか、ぁっ!」

扉を開け、部屋から出かかった想良が振り返る。
後ろにいた奏美は想良の雰囲気になんとなく驚いた。試合のときの、それのような…?
ふっと笑った想良は一言、レイにかける。

「奏音さんと二人きり。嬉しいでしょう?」
「は、いや…。」
「なにそれ、あたしと二人きりが嬉しいて。」
「じゃあね、探検してくる。行こう、奏美…ね?」
「え…う、うん。」

想良の雰囲気に逆らってはいけない、それを感じながら奏美は従った。
残った二人には気まずい雰囲気が流れる。
レイの上に乗っていた奏音はどけ、逃げられないように手を握り言った。

「何?あたしと二人きりが嬉しいって。」
「……。」
「今までの復讐?…精一杯抵抗させてもらうかんね。」
「そうじゃねえ…。」
「じゃあなんなのさー。わんこ最近なんか変じゃね?あ、リボン解くね。貰ったプレゼントは開けないと。」

奏音はレイの髪の毛を結んでいた紐を解く。

「お前さ…。」
「なに?」
「元の世界の…地球、で…。」
「うん。」
「……。」
「わんここそ病気?また口移ししてあげよっかー?」
「……。」
「ちょ、反応してよ。」

いつもなら怒るであろう言葉も無視され、奏音は戸惑う。
地球でも友人や担当には適当に流される事はあっても無言で済まされる事はほとんど無かった。
むしろなんらかの攻撃が来ていた様な記憶がある。
ぼんやりとしか思い出せず離れると一気に忘れていくな、と片隅で思った。

「華凛っていうのは…?」
「あれ、前も聞かれたような…。いや、婿の事は言ってないか。」
「婿…婿って…。」
「女だからね?婿こと華凛はあたしの同級生で婿。ホームステイのショタと暮らしてるイケメンお姉さま。
 胸の大きさ気にしてるけどそんなに小さくないと思うんだよね…手にぴったり位だし…大きすぎるより…うん。」
「べ、別に大きくても構わねえんじゃねえか?」
「食いついたな、わんこは巨乳派か。」
「そ、そういうんじゃ…ただ俺は、その、お前が自分の事言ってんのかと、大き過ぎるって。」
「なかなかにセクハラじゃね?あたしじゃなかったら訴えられてるよ。
 でもあたしのは贅肉だろ痩せたらしぼむだろうからね。コスプレ自主制作だから痩せる気ないけど。」
「……。」
「努力すれば痩せるんだからね!してないだけだから、痩せる気無いだけだから勘違いしないでよねっ!」

だが、反応が鈍いレイに奏音はいよいよ何が言いたいのか分からなくなった。
漫画ではこういうとき何と言うか、主人公はどういうことを考えていたか必死に思い出そうとする。
だが思い当たるそれがなかなか無い。
趣味のものばかり読んでいた自分を呪う。そういえばあれらは完成系だった。葛藤が無い。

「ショタは小さい…サクソルっていう多分小学校の三年生くらいの男の子。キシはあたしの担当の悪魔、既婚者。
 レオンは編集長の知り合いで臨時の担当…多分未婚。沼川君…は、婿の同僚で婿の事が好きっぽい?」
「……レオン。」
「うん。臨時君ね。でもさ、前話したと思うけどあれ以上は知らないんだよ。あ、外国よく行ってたのかな?
 色んな国の言葉喋れたと思う。…わんこ何なの?会った事無いレオン敵視しすぎじゃ……。」
「いいだろうが!俺は標的騙して情報貰うんだ、疑うのが当然だろうが!」
「何怒ってんの…。」
「うるせえ!元はといえばお前が…お前が!」
「あたしが?」
「お前が……。」

だが奏音の顔を見、レイは言葉が続かなくなる。
自分がなにを言いたいのか、なんのためにこんな感情を持っているのかが全く分かっていなかった。
混乱し、次の行動をどう取るべきか分からないまま時間だけが過ぎていく。
奏音はレイが何をしたいのか分からず、二度寝したくなっていた。
レイの手をとる。

「なんだよっ!」
「わんこはさぁ。」
「離せっ!」

手を引かれ、繋がりが切れる。
だが奏音は気にする様子も無く、再びレイの手を取った。

「エドも言ってた気がするけど身を固めれば良いんじゃないかな。なんか不安定だよ。」
「俺は……。」
「不安な時とか、どうすれば良いか分からなくなった時とか。支えてくれる人がいればそれだけで結構気が楽だよ。」
「……。」
「味方がいれば…自分を信じてくれる人が一人いるだけで違うからね。周りが否定してもその一人に救われる。」

奏音はレイの手を離した。小指には赤い紐が結ばれている。
それの意味が分からないレイはじっと見つめた。

「運命の赤い糸。結ばれる人同士は小指で繋がってるんだってさ。」
「赤い…。」
「伝説みたいなもんだけどね。本当にあるわけじゃないけどみんなこういうのどっかで聞いた事あるんだ。」
「へえ……。」
「見つけなよ、その先に結んである人。あたしもう一回寝るわ、眠い。」

そう言って奏音は布団に包まり丸くなった。間もなく、規則的な息遣いが聞こえてきた。
レイはぼんやりと赤い紐の結んでないほうを見た。
それから奏音を見て――布団で姿が見えないのが残念に思えた―――もう一度紐の先を見た。
自分は持っていても仕方が無いので結び目から切り、布団からはみ出ている奏音の足にそれを結び部屋から出て行った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.88 )
   
日時: 2012/04/04 18:21
名前: あづま ID:AfG52.e6

「想良さ。」
「何?」
「姉ちゃんとレイをどうしたいの?なんかくっつけたいように見えたけどさ。」
「そうだよ。奏音さんはどう思ってるかわかんないけどレイさんは奏音さんのこと好きだからね。」
「そういうの良くないよ。」
「え?」

奏美は立ち止まった。数歩先で想良も立ち止まり、互いに見つめ合う。
誰もおらず、音もしない空間。

「ウチは戻るんだからね。ここの世界の人じゃない。想良、分かってる?
 好きになっても…好きになってもさ、どうせ離れ離れなんだよ。なら、片思いのままでも良いじゃん。」
「うん…でもさ、伝えないまま離れ離れになるよりは良いんじゃない?」
「そんなの理想論でしょ!」
「奏美…?」
「怒鳴ってごめん…でもさ、ウチだったら絶対に伝えない。別れ別れになるのに、片思いなのに…絶対、言えない。」
「…片思い、ね。」

想良が奏美のほうに歩く。
なぜか…想良に対し恐怖心を持った奏美は彼女が近づいてきた分後ずさった。
だが、壁際まで追い詰められ、逃げ場をなくす。
頭一つ分ほど小さい目の前の人物が、今の奏美には逃げられないものに見えた。

「何で片思いなの?奏音さんがレイの事好きじゃないってなんで分かるの?」
「それは…。」
「奏美こそ理想論じゃないかな。お姉さんを取られるのが悔しいのか奏美が好きな人いるのかわかんないけど…。
 多分後者だね。あ、探ろうとは思わないよ。」
「……。」
「探検、しよ。色々知りたいからね。」

想良が歩き出す。
手形は想良が持っているので離れたらまた捕らえられるかもしれない。
後を追いながらも、想良に対し拭いきれない恐怖を持ったのを自覚した。





「助かるな、荷物持ってもらって。もう見えてきたなぁ、カメリア。」
「せめて娘さんは抱こうって思わないの?」
「思わない。だって手が疲れる。」
「僕がこの子をさらうかもよ?お姉さん結構良いところの人だよね。身代金、要求するよ。」
「無理だよアンリ。私はあんたの身元知ってるんだから。それにあんたは仕事以外ではそういうのできる子じゃないからね。」
「は?なにそれ…?」
「戦闘狂なのも知ってるけど。あぁ、明かしちゃうか。あんたが取り次いだ同盟国の娘。」
「え?」

だが、覚えの無いそれにアリーは黙る。
こんなに印象に残るような人を忘れるだろうか。
記憶をできるところまで遡るが当たる人は見つからない。

「まあ、覚えてないだろうけど。…私の弟もいるはずだけど、カメリアに。」
「え?」
「知らないかな?」
「うーん…思い浮かばない。」
「そう?そいつがあんたの事教えてくれたんだけどね。」
「処分してや」
「ダメダメ、私がさせない。むしろできないよ、カメリアじゃ。」
「…お姉さん、大戦の人だね。」
「当たり。」

あっさりと肯定した女性を見る。
隠すつもりが無いのか、カメリアごときに隠すことではないと思っているのか。
大戦の国からの人物…それを順繰りに思い出す。

「あぁ、ミゲルか。」
「そう。やっぱ知ってた。ミシェルとミゲル。語源は同じ。」
「ふーん。そっか…ミゲル。なるほど…確かに処分できない。だから情報流してるのか。」
「私だけにだからお気にせず。」
「本当だかねぇ?」
「疑うだけ疑いな。でも疲れると思うよ、私。」
「そう。確かに僕は金貰って命令どおりに動く種だし…疑うのは嫌かもね。」

歩みを進め、カメリアの領域に入る。
番兵に呼び止められたがミシェルが国を言うとすぐに通された。それで本当に大戦の国の人物だと思い知らされる。

「おい、案内しろよ。」
「え?なん…。」
「ミゲルんとこ。使命あるとはいえ弟に会いたいって思っても良いでしょ。」
「あ…うん。お姉さんがね、望むなら。」

アリーは兵舎へと案内しようとした。
だが、腕の中の女の子が泣き始め中断する。

「…あの。」
「あやしてあげて。私子どもって良く分からない。」
「その態度でよく母親になれたね?!…オムツ濡れてない、……。」
「あぁ、腹減ったってことか。よろしく。」
「出ないよ!」
「頑張れ。大丈夫よ、うん。あんたならできる。私信じてるよ。」

ミシェルは手を振り歩き始めた。
あやすにしても荷物があるのでできる事が限られている。
仕方が無いので早めに荷物を降ろし、泣きやむように仕向けようと後を追った。
ふらふらと興味に引かれ道からそれるミシェルを兵舎に誘導する。

「ここ…。」
「おー。大きいね、うん。」
「ミゲルは…A棟の…八号。行く…?」
「うん。案内して。」
「了解しました。……泣き止んでよ。」





「申し訳ありません…その、兵士が大体倒れてしまって。」
「ああぁぁあぁぁ姉が、姉が申し訳ありません!」
「いえ…止められなかったのは私共ですし…。」
「それでも!こんな、影響出るまで色々と!ごめんなさい、姉が!」
「奏美、ここの人って土下座分かるの?」

奏美と想良は兵舎まで行き、ミゲルに案内を頼もうとやってきた。
しかし昨晩奏音が酒を飲み比べなどしたらしく二日酔いなどの体調不良に苛まれる兵士が多数。
本来休暇日だった兵士を駆り出し警備に当たっているという。
ミゲルは本日来客がありらしくシフトからは外れているらしい。

「まあ、次から気をつけていただければ構いませんので。」
「すいません…迷惑しかかけていなくてすいません……。」
「お気になさらず。奏音様のおかげで普段言葉を交わさないような人とも交流をもてましたから。
 それに意外な一面を見れたり。楽しかったですよ。」
「へえ。やっぱりお酒ってすごいね。酔わせて襲撃するなんてのもあるし。飲んでも飲まれるな、って言うもんね。」
「想良、なんかやっぱりずれてる様な…いつもそうだけど。」
「…来客が来るまでの間、間取りくらいならば説明いたしましょうか。」
「あ、本当?お願いします。」

ミゲルは部屋の隅の鍵つきの棚から一枚の紙を出す。
それを指の端で叩くと茶色い線が現れ、間取りが完成していく。
奏美と想良は地球では見たことが無い技術に感心した。
だが、こちらの世界では当たり前のそれに対する反応にミゲルは顔をあげ二人を見た。

「珍しいでしょうか。」
「うん。私達は見たこと無いかな。」
「…お嬢様方は来訪者で?地球、ですか?」
「そうです。…でもエド達からたまに地球から人が来るって聞いたんだけど。あの人達のおばあさんもウチらと同じだって。」
「慶長とか言ってたよね。」
「ケイチョウ?私には良く分かりませんが…ならばお二人は可能性を秘めていますね。」
「可能性?ウチら、結構足手纏いになってる気がするんだけど…。」
「ねえ…同じ位の人が当たり前にできてることができないし。」

ミゲルは首を振る。

「いえいえ…ここまでの文明を築いたのも元は地球から来た人々です。
 そしてパベーニュの方々を見て頂ければ分かりましょうが地球から来た人物はその代で何らかの功績を残します。
 私が見たところあなたのお姉さんは才能がありますよ。」
「え?姉ちゃんが?あの人全然働かないし駄目なんだけど。」
「しかし力は持っていますね。彼女は創造性に優れています。それにあの短期間で苔…でしたっけ?
 あれを支配下に置くというのは難しいのですよ。」
「そういえば…。」

想良が口を開いた。
奏美とミゲルがそちらを向く。
想良は何かを思い出すように眉間にしわを作り、言った。

「補助具貰って…練習してる時。私達は形が保てなかったり切れないナイフしか作れなかったのに奏音さんは鎌を作った。」
「ああ…そういえばあったね。中二病みたいなの作りたいって言ってたっけ。」
「うん。自爆したけどちゃんと切れた。それに奏美がエドさんを呼びに行く間に消えちゃったけどしばらくは残ってたよ。
 そう考えるとやっぱり奏音さん才能あるのかな。」
「証拠が出たじゃありませんか。彼女は磨けば光り輝きますよ。」
「姉ちゃんが輝いたらなんか世界中といわず全宇宙の男の人が危ない気がする…。」
「それにさ、作り出すのっていわば想像力じゃん。奏音さん漫画家…と小説家もだっけ?
 とりあえず想像力はあるよね。伊達に大ヒットしてないよ。」
「まともな想像力なら良いんだけどね。」

奏美はため息をついた。想良は笑う。
ミゲルも微笑を浮かべ、二人に塔の内部を説明していった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.89 )
   
日時: 2012/04/09 15:48
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「だいたいお分かり頂けたでしょうか。」
「すっごく分かりやすかった。ありがとうございます。」
「お客さん来る前に退散したほう良いかな?そういえばミゲルさん今日オフだもんね。
 ゆっくり羽休みしたかったと思うのにごめんなさい。私達、もう行きます。」
「いえ、当然の役目でございます。御用があればまた来て下さい。」

奏美と想良が立ち上がり、部屋から出ようとした。
ミゲルも見送るために紙をしまってから、立ち上がる。
想良がドアを開けようと、ノブに手をかけようとしたときに勝手に周った。

「え?」
「やっ、久しぶ…?」

扉が開き、女性と赤子の泣き声が聞こえた。
女性は想良と奏美を交互に見つめ、それから奥のミゲルを見た。
奏美は突然現れた女性にポカンとし、想良は奥の人物を見る。

「あ、アリー。浮気?隠し子?」
「違うよ。その前になんでお前らここにいるの。」
「友達?」
「違う。なんかいつの間にか来てる厄介者かな。」
「やっか…!」
「す、座ってください…。アンリ様、お荷物お預かりいたします。…姉さんのじゃないか。」





五人が部屋にいると流石に狭く感じた。
ミシェルの娘は泣きつかれたのか眠ってしまった。

「ねえ、これ虐待じゃないの?僕この子おなか減ってるんじゃって言ったような…。」
「いやぁー寝ちゃったら逆に起こすの可哀想でしょ。」
「そういえばこの子の名前は何?名前で呼ぶのが気楽で良いんだけど。」
「あぁ、ないよ。」
「え?」
「無いって。わざわざ名前付けないから。」
「ちょっと!この子どんだけぞんざいに扱われてるの!なんでお姉さんは母親になれてるの!」

アリーがミシェルに突っかかる。
ミゲルは姉のその行動に頭を抱え、奏美と想良は顔を見合わせた。
今、ベッドで寝息を立てている小さな命は生まれてから少なくとも数ヶ月たっている。
その間名前が無かったと言われ、常識ではありえなかったことに驚愕した。

「何故、名前が無いのですか?」
「だって私等名前で呼ばれる事ないじゃん。統治者ってさぁ、当主様とか国名とか。
 名前で呼ばれる事なんてほとんど無いじゃん。だからあるだけ虚しいよ。」
「え?でもさ、近い人とかは呼んでくれるんじゃないの?私の勝手なイメージだけど。」
「分かってないね。みんな国名様だよ。それか役職とかね。名前なんて上のほうは持ったって無意味。」

そう言ってミシェルは寝転ぶ。
二人は名前の価値をほとんど見出さない彼女に圧倒された。
しばらく無言が続いたが、アリーが立ち上がった。

「僕行くよ。報告したいから。お姉さんの事は言おうか?部屋も準備…できる、と思う。」
「ん?そうだね、頼もうか。あ、ミゲルも一緒とかできる?兄妹水入らずで話したいじゃん。」
「…ミゲル、お姉さんに色々流してたそうじゃないか。」
「あ、それは…!すいません、処分なら…。」
「いいよ、内緒にしとくから。不利になったら困るしね。じゃあ一応お姉さんの事も言っておく。」
「よろしくなー。」
「…あれ。お姉さんなんか使命あるって言ってたよね。それは?」
「ん?ああ適当に済ますから。」
「本当適当だね!」

アリーはそう言って出て行った。

「ミシェルさん?…あの、使命は放棄するべきじゃないかと…。」
「呼び捨てで良いよ、敬語も面倒だし。まあ私の国では敬語使ってもらうけど。
 あと大丈夫よ、カメリアは私んとこ口出しできるくらいの国じゃないから。ちょっと位ね。」
「あ、どうも。…なんだろう、姉ちゃんと気が合いそうな。」
「姉さん、この人達にも用事がありますから。お嬢様方、足止めしてしまって申し訳ありません。」
「ん?いて貰って良いじゃん。なんか不都合あんの?」

だが、ミゲルはそれには答えず顔を少し赤くした。
息を吐き、扉を開ける。

「申し訳ありませんでした、お嬢様方。私の姉が足止めしてしまい…変わらないお付き合いをお願いいたします。」
「あ…はい。」
「気にしてないからね。あと、ミゲルさん敬語じゃなくて良いよ。なんか偉い国の人みたいだし。またね。」

半ば追い出されるように奏美と想良は兵舎を出た。
ミゲルに教わり、塔の構造はだいたい覚えたので迷わずに自分の部屋に戻る事ができた。
だが、ほとんど見張りがいないのがなんとなく気になり、今度機会があれば質問しようと思った。

「姉ちゃん、また寝てるの?ちょっと!」
「奏音さん…私達あんまり外出てないよ。三十分くらいだよね?」
「うん、一時間はないね。そういえばレイどうしたんだろうね、あ。」
「ぅ…あ、お帰りー。」
「姉ちゃんおきた?なんで一時間くらい起きてらんないの。」
「眠かったからねー。」

人の気配を感じたのか奏音がもそもそと起き上がる。
想良が取っておいたサンドイッチを奏音に渡し、奏音はそれを頬張った。
奏美は姉が蹴散らかした布団を整頓する。

「でさ、レイさんとどうだった?」
「んー?わんこ?なんか不安定ぽいなって。」
「想良…。」
「いいじゃん。で、なにかやったの?」
「何かって…何だろ。あぁ、早く結婚すれば見たいなこと言った。支えてくれる人がいれば結構安心だよって。」
「えー。」
「何、あたし選択ミスった…?想良ちゃん、え、何その反応。」

明らかに失望した想良の反応に奏音もなんとなく不安になる。
奏美はやはり姉だ、と妙な納得をしていたと同時にレイが哀れに思えた。
自覚が無い…そう思うと影が浮かび首を振る。
それを想良が見ているのに気づき顔をしかめた。

「だから、想良ちゃん赤いリボンわんこに付けてたじゃん?で、ちょうど赤だからわんこの小指に結んで
 この先にむすばってる人見つけなよって。あ、赤い糸伝説は話した。」
「姉ちゃんらしいよ。…足に結ばれてるけど。」
「足?え、うわ、きゃあああ!」
「想良ちゃん?!なんかかつて無く想良ちゃん?!」
「大丈夫、え、水?想良!!」

黄色い声を上げ、想良は奏美が整頓した布団にダイブした。そして無言でそれをバンバン叩く。
いつも少しずれた発言をするものの、行動は常識の範囲内だった彼女の行動に奏美は目を見開いた。
そして姉の暴走を脳の片隅で思い出しそれを振り払う。
無言で腕を噛み細かく震える想良を二人は呆然と見つめていた。

「…!っ、!」
「想良ちゃん…?何、大丈夫?」
「大丈夫…かなぁ?姉ちゃんと似てる反応でウチ物凄く心配なんだけど。」
「なにそのあたしが大丈夫じゃないみたいなの。大丈夫だとは思ってないけどさ。」
「〜〜!」





「ダイアナ。」
「何?」
「あなたが興味を持ったの、分かるかもしれないわ。」
「そうか。それだけを言う為に私の部屋に来たわけ?」
「可愛くないわね、もっと喜びなさいな。」

マティーはダイアナの部屋に無言で入り、何かを一生懸命に書いていた主に声をかけた。
ダイアナは顔も上げず、マティーの言葉を淡々と受け流す。
塔の中とはいえ、この部屋はとても質素なものであった。
外部を知らない人間が見たら少し金を持っている一般市民の家だと答えただろう。
柔らかさのないベッドに腰掛けたマティーが面白そうにダイアナを見る。

「あら、パウエルから?それともパウエルに?」
「関係ない。安心しな、カメリアの情報は流さないから。私の近況だ、あ!」
「ふーん…。」

力を使いダイアナの書いていた紙を取り上げる。
取り返そうと踏み出したダイアナをあざ笑うようにマティーは壁をよじ登り、天井近くまで行った。
僅かな凹凸に足を掛け、書きかけのそれを読む。

「あら本当…近況ね。」
「言った通りだったでしょ。返して、まだ書くから。」
「相変わらず雑な字ねぇ…私が代筆してあげようかしらぁ?」
「いらない。」
「そう?私だったらこんな手紙貰っても読む気起きないわぁ…返事きてるの?」
「……。」

ダイアナは黙る。マティーは予想していた通りのそれに笑った。
ベッドの上に柔らかく着地し、手紙をそっと返した。

「帰りたいって言う嘆願…いつまでたっても受け入れられないわねぇ。もう忘れられてるんじゃなあい、あなたの事。
 出て行った人はそれこそ信用されないわ。」
「…パウエルの何を知っている。」
「大戦の勝利者側の国。黒人の来訪者…私と同じくらいの女の子だったかしら?伝承だから分からないけど。
 そして謀反…何年だったかしら。それでリキルシアとは不仲よね。」
「……。」
「大戦は常識じゃない。大陸全部使ったのよ?それ位、次期統治者としては知っておかないと。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.90 )
   
日時: 2012/04/09 15:52
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「でも、今のパウエルは?」
「そうねえ…ちゃんとした血筋の人が一人抜けているけどちゃんと成り立っているわね。
 それだけ人材が豊富なのか…それとも抜けた人が必要とされてないのか…分からないわ。」
「……。」
「でもパウエルはそれこそリキルシアなら脅威になるでしょうけどその他なら簡単に潰せるんじゃない?
 誰も恐れて手を出さない国、パウエル…。リキルシアは敗戦国だけど個人的などれそれでああなったらしいし。」
「…知らない。」
「あら、変なの。それとも張子の虎かしら。長年攻められてないもの…対抗する術を失っているかも。
 私が統治者になったら攻めてみようかしら…あぁ、その前に跡継ぎ生まないとねえ…。」
「出て行け!侮辱するな!」
「面白いわぁ…自分から出て行った国なのに。」

口元に笑みを浮かべ、マティーは出て行った。
そして外に出、風の力で塔の自分の部屋まで舞い上がる。
ダイアナと話し、パウエルのもしもを知ることができて安心した。
強い国だからと皆争いを避け、パウエルは独立を保っている。
だがしかしカメリアと同じくパウエルは閉鎖的な国…どことも同盟していない。
カメリアはトリクシーの出身と同盟…一時的なものだが結んでいる。

「早く手を切らないと…損害ばっかり。」

だが、トリクシーの国へはメリットはあるもののカメリアへはない。
それどころかごく少数ながらも無駄な犠牲まで出ている始末だ。
あの国は隣国なので防衛線として、と思っていたがもう使う必要もないだろう。
パウエルは仕掛けられなければ戦をしない。文明の停滞もうかがわれる。
だが停滞していないことも考え、少数の…数日持ちこたえられる人材をおけばいい。
あの何にも役に立たない民族をいつ、攻め滅ぼそうか。

「楽しみねえ…ダイアナを使ってみようかしら?それとも、ふふ…アンリもいいかも。
 少なからずトリクシーの情はあるわよねえ…でしょう?」

扉を開け、中に双子の兄招き入れる。

「……気づいてた?」
「ええ。どう?滅ぼしてみる?好きでしょ、戦うの。」
「……。」
「顔怖いわぁ…それでなあに、私になんか用?」

じっと睨むアリーをマティーは笑った。そして目の前の人物が口を開くのを待つ。
だが、なかなか開きそうにない。
ふっと笑いアリーの手をとりマティーは自分の胸に当てた。動揺が見え、脳が愉快になる。

「だって、そうでしょう?あんたとベアトリクスの間に子供はいない。
 守るべき絆もないわぁ…なんのための政略婚だか。子供が生まれなきゃ意味ないのに。」
「…それは、僕、が……。」
「あんたが何?そんなに攻められたくなければ子供作っちゃいなさい。
 政略なんだから子供作ってベアトリクスは向こうに返しちゃってもいいのよ。逆でもいいけど。」
「無理だよ…。」

弱々しくつぶやいた向かいの人物にマティーは眉をひそめる。
小さいころから、それこそ、家やしがらみなんて知らなかった時代から…。
なんだかんだで殺すくせに、小さく心の中で呟いた。

「ふうん…あんた一回心許せばなんでもいいものねえ。ユリアーン、アリア、ローレンスもかしら?」
「それは、違う…!」
「違わないでしょ?あ、アリアはユリアーンが好きだったから大事なんだっけ。殺したものね、あんたが。
 …なんか男ばっかりね、あんた。ベアトリクスもよく考えれば男っぽいし…まあ構わないわ。」
「違うって…ジルは…。」
「お父さんみたいだっけ?同い年の父がいるか、ばぁか。早くお得意の殺しをしてあげなさいよ。
 彼、待ってるんじゃない?」
「……。」
「ふふふ、いい顔ね。私もそういう顔、できるのかしら。」

無言になったアリーを椅子に座らせる。
もう少し遊びたかったが報告を聞けなければ困るので一旦取りやめにする。
俯き、顔を見せない状態でアリーは喋った。

「軍師様…リキルシアの、フェビアン…が。同盟…を考えるって…。」
「そう?条件はなあに?」
「資源…。でも、僕分からないから…詳しくは、こっち来て、決めるからって…近日中に…。」
「そう。あらぁ、意外と軽い条件ね。」
「あと…部屋を…ミゲルのお姉さん来てるから。」
「ミゲル?…あぁ。いいわぁ、そうね。あとで案内させとく。」
「そう…うん。じゃ……。」





「移動?そっか、ここアリーの部屋だもんね。奏音さん、起きてー。」
「おう…なんか想良ちゃんいきなり切り替わったね?」
「姉ちゃんとは違うんでしょ。あ、これエドの部屋に入れなきゃなんないかな?」
「それは俺がやろう!女…それ以前に客人にやらせるなどあり得ない!」
「はあ…っどうも……。」

部屋が用意できたので移動するようにと告げてきたのは、想良に獲物を向けたあの兵士だった。
ミラーと呼ばれていたその男性は要件を告げ、布団をテキパキとたたむ。
手伝おうと駆け寄った奏美を制止し、扉を指差したのだった。
奏美はその反応に首を振り、二人の元へと歩いていく。

「でもさ、あなたお酒強いね?あたしが覚えてる限りではずっと飲んでたけど。二日酔いしてない?」
「はい!毒や酒などが効き辛い体質なんで!さぁ、案内させていただきましょう!」
「…お願いします。」

一々声が大きく、奏音は少々頭に響くと心の中でため息をついた。
だが、自分が押しかけ酒やもろもろをやったのであまり文句は言えなかった。
意気揚々と前を進むミラーを三人は数歩後でついて行った。

「さぁ、ここが部屋になります!分からないことがあったら青い突起に補助具をかざして下さいませ!
 誰かしらが参りますから、ではどうぞごゆっくり!」
「ありがとうございましたぁ。…ふぅ。なんかミラーさん元気いいねえ。」
「なんか想良ちゃんおばあちゃんみたいだねえ。」
「そんなあ、私奏音さんより年下なのに。十三なのに。」
「若いなぁ…あたし今年で二十三なのに。冬になんかプレゼント待ってるよ。」
「姉ちゃん?想良?」
「年下からプレゼントたかるんですかー?」
「あたしより想良ちゃんのほう絶対頭いい。だから要求すんの。」
「ちょっと二人とも!」

自分をおいていき内容の無い話を進めていくのを声を大にして奏美は止めた。
二人は予想外のそれに奏美を見、口を開いた。

「だってさぁ…。」
「何?ウチなんか間違った事した?」
「いや、奏美はしてないよ。たださぁ…その……。」
「豪華すぎない、この部屋。なにこれ?金持ってんなぁ…あたしなんか悲しい。
 三階建ての事自慢した気がするけどこれ見るとなんか悲しい。駄目だよこれ…あたし田舎者。…うぇ〜い!」
「姉ちゃん靴!靴ー!」

奏音はボスッとベッドに飛び込んだ。
ベッドは彼女の体を包み込むようにふわりとした。奏音はそれではしゃいでいる。
奏美に言われた事で思い出したのか靴を無理矢理脱ぎ、布団カバーに包まり無言で笑っていた。
想良が苦笑いをして奏音の靴をそろえるついでに脱げかけている靴下を引っこ抜いた。

「あ…柔らかい…。」
「でしょでしょー!やっべうはあぁあぁぁ…!」
「姉ちゃん顔キモい。せっかくのベッドの感動が消えた。」
「ひでえ…なんかやっぱあたしの扱い悪くない?」

奏音が口を開くが二人は答えなかった。無言の肯定。
一瞬むっとした顔をしたが奏音はそのままベッドに横たわり布団に包まった。
また寝るのか、と奏美がいったがそれを気にせず沈んでいった。

「なんでそんなに寝れるんだろうね。」
「さぁ…物凄い不摂生な生活してるからかな、って思うけどこっち来て今一ヶ月位?仕事もないしなぁ。」
「残ってる本能がわりと規則正しい生活させてくれるよね。」
「うん…あれ、でも姉ちゃん割と本能に従って生活してる気がする。生存競争で間違いなく滅びる。」
「あはは…でも奏音さん強いと思うなぁ。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.91 )
   
日時: 2012/04/09 15:55
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「なあ、この設計は駄目だ。」
「何故?」
「ここを見るんだ。この地形ではどう足掻いても北が守りづらい。必然的にそこに人員を割かなければ入り込まれるだろう。」
「それは我等も承知している。だからこそここに櫓を立て、警備をするのだ。」
「はぁ……。」
「何がおかしい。」

エドは今、とある国の城の設計へとやってきた。
出自を隠し、浪人として国に近づく。もちろん、カメリアの方針だが。
とある新興国。国主を民衆が倒し、革命がなった。

「セルジュ様…不本意だが我等は忌々しきこの館を使わなければならない。」
「その通りなのだ…。国主の圧制…邪教にそまった彼の政策によりほとんど金はない。」
「とはいえ、だ。民ごときに倒されたこの館…民のみの力。」
「今は革命がなったことで他の民衆は浮かれているもんなぁ。後の事は考えていなかったんだろう?
 だから俺みたいな浪人の力も借りたいって訳だ。」
「忝い…いつか、我等が平和な国を作り、潤ったならば改めて礼をさせていただきたい。」
「いや、しばらく寝られるとこと食い物があるだけで嬉しいよ、一週間ぐらい食えない事もあるんだから。」

エドは笑い、それに釣られレジスタンス…今はもう国の中心となる人物達も笑った。
館の設計図と、新たに加えるつもりなのだという櫓や堀の設計を見る。
二方向を山に囲まれ、一方は大河、残りの北は多少の起伏や坂はあるものの一本道だ。
こんな所に館を建てるなんて、と心の中で馬鹿にする。
大河から水を引き、館と主要な人物が住む一帯を囲い、敵からの攻撃を持ちこたえるためのものらしい。

「ならば…いったいどのようにすれば……?」
「そうだなぁ…そこは今から考えよう。ただ、この二方向の山…これが問題なんだ。」
「山があれば攻め辛いではありませんか。他国からの防護壁になると思うのですが…?」
「だが、この山は大国とつながっているぞ?あの国が戦争を起こし、一時期不利になったように見せる。」
「はぁ…。」
「そして、この国は民を中心にした国にするのだといったな?」
「はい…。」

言ってどうする。浪人とは警戒しなければならないものなのだと心の中で語りかけてみる。
追放も全て演技。身内の死罪の演技は罪人で身代わり。
一番簡単なスパイ、それをこいつらは知らないのだろうとエドは笑った。

「民が中心となれば搾取される貧困層は心が惹かれるだろう?亡命してくるかもしれない。」
「はい。我等はそういった人も受け入れる覚悟でおります。人は皆、平等です。」
「だが、それはスパイかもしれないぞ?なんでも疑わなければ。特に新興国はな。
 何故だか分かるか?」
「……。」
「新しい当主はまず国の内を知らなければならないだろう?外に気を使って内が疎かになればまだ国は不安定だ。
 反乱が起こされるかもしれない。だからといって内ばかりに気をとられ外を気にしなければ逆に攻められる。」
「……成る程。」
「少し事を早め過ぎたんじゃないか?それこそ、元当主を形だけのものにして徐々に乗っ取ればよかったのに。」
「随分詳しいね、あんたはさ。」

ずっと黙っていた女が口を開いた。
男の格好をしていたが、声で女だと分かった。
それに、胸のふくらみを隠すために首からかけた布を服に入れているのが決め手だった。

「おい、無礼な口を利くな。」
「…構わない。俺は疑えといったんだ。疑ってもらって良い…杞憂に終わるだろうがな。」
「……。」

女はエドの事をじっと見つめていたがやがて目線をはずした。
そして窓辺に行き、見下ろせる世界を眺めていた。
小さく、革命がなったことに対しての祝いを民衆は開いている。

「少し、外を歩いてくるよ。現場を見て、どういう風にするか考えてみる。二時間以内に帰ってくるよ。
 どんなに力説されても本物を見るのが一番だ。そして手っ取り早い…。」
「警護のものは…。」
「いらない。一人で誰にも邪魔されず見たいんだ。大丈夫、もし殺されたとしたらこの国の秘密を守れたと考えろ。」

ざわめきを背中に感じ、エドは出て行った。
この国はいずれ、そう短い間で滅ぶだろう。三代持てばいいものだ、と思った。
非戦を貫けばそれこそ駄目だ。それにあの設計を見る限り篭城で対抗するらしい。
篭城は、味方からの絶対の援軍を望めない限り、それはただ問題の先延ばしにしかならない。
飢えて行き、病が流行り、離反者が出るのをただ眺める事しかできない。いわば、逃避の戦法だろうとエドは思っている。
あの国の篭城は策が尽き、最期の意地で行うのが篭城。
館から外に出、眼下に広がる一時の平和の眺め、歩き出した。





「はぁ……、なんだってんだ…。」

部屋に戻ってすぐレイは足から崩れ落ちた。
自分が何をしたいのか、なんでこんな感情になっているのかが分からなかった。
悔しさを紛らわすために床を殴るが、ただ手が痛くなっただけだった。
『なんかレイさんいきなり奏音さんのこと気にかけるようになったねぇ、好きになった?』
瞬間的に想良の言った言葉が思い出され、誰も見ていないとは分かりつつも顔を隠した。
好きになった…?嫌いか、ときかれれば違うと答えられる自信はレイにあった。
だが、好きかと聞かれた場合どう答えるのかが分からなかった。
ベッドに横になり、義眼をもてあそんでいたがだんだんと意識が遠くなっていった。
コツン、と軽い音が聞こえ落としたな…と思ったがそれも遠くに消えていった。



「レイ…?寝てるの…?義眼手入れしなよ…。」
「…、アリー…?」
「そうだよ。なんか僕の部屋に入ったかな?って思ったから来たんだけど知らない?」
「あー…なんか、部屋が取れねえからって…お前の部屋に居させたんだったかな…。」
「うげ。…はいこれ。一応洗っておいたよ。」

まだ寝起きのぼんやりとした意識の中で、レイは義眼を受け取った。
上下を確認してからいれ、ぐっと伸びをしてから弟を見た。
適当に見繕ったのか、薄い衣服を纏っているだけなので酷く無防備に見えた。

「おい、俺が言えた事じゃねえけどよ。服を着たらどうだい?」
「武器生成くらいならできるよ、安心して。」
「そうかい…まあ、用心はして損じゃねえだろ。五体満足とは言えねえんだからよ。」
「それもお互い様。大丈夫、僕は死なない…きっと。」

死ぬつもりはない。それは事実だが、いつ殺されるか分からない。
アリーはレイを見て笑った。戦に出るのは、相手を殺して、自分の夢のために他の夢を壊す事だ。
そう教えられた過去を、遠くに思い出していた。

「レイ、なんか変だよ。」
「何が?俺は別に今までとかわらねえ。」
「…そう?そうかな…。」
「あぁ。お前が疲れてるんじゃねえか?休めよ、折角帰ってきたんだし。」
「うん…。でもジルの所に行くよ。暫く会ってなかったし。」
「あ、そういやあエドがジルの話してたなぁ。」
「…見られたかな。うん、もし三人が会いたいって言ったら…ジルが良いって言ったら…。」
「会わすのか?」
「どうだろ。あまり見せたくない気もするんだよね。分かんないや…できるだけ望みは叶えたいって思うけど。
 じゃ、お互い休もうね。」

アリーは部屋から出て行った。
レイはジルのことを思い出そうとしていた。
貧困層から引き抜かれた子で、アリーとは同い年だった。
アリアという女の子と共に三人でグループを作らされ行動していたのを覚えている。
ジルは家族に少しでもお金を送るため、アリアは孤児なので見捨てられないために一生懸命だった。
だが、アリーは何をやるにも無気力でよくジルが文句を言いに来たのだ。

『なんで訓練受けてくれないんだよ。俺がリーダーなんだ、お願いだから言う事聞いてよ。』
『嫌だよ…面倒だし、できないもん。』
『お前が良くても俺が困るんだ!俺がちゃんとやらないと先生達に怒られるの!』

そういつも怒っているのを影から見ていたのを思い出した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.92 )
   
日時: 2012/04/09 15:57
名前: あづま ID:7H.bxSCk

「でも温かいね…布団がぽわぽわ。」
「うん…。やばい、寝た姉ちゃんの気持ちが分かるのが悔しい。」
「あはは、でも本当に良いね。お金持ちって感じ。えへへ。」

奏音が寝入っている横で、奏美と想良は話し合っていた。
エドやアリーの部屋と違いとても豪華なそれに驚いたが、来客用だからなのかと納得させた。
ふわふわとしたそれを全身で楽しんでいた。
扉がノックされ、返事をするとミゲルが入ってきた。

「先程はすいませんでした。姉が色々と。」
「ううん、お姉さん結構楽しそうな人だったじゃん。奏音さんとも気が合いそうだよ。」
「いやなタッグになりそうだけどね。」
「良くして頂ければ幸いです。奏美様、奏音様は起きるでしょうか?」
「え、どうだろ。というよりなんで?」
「マティルド様が奏音様と奏美様をお呼びです。なんでも仕事をさせてみたいとか。」
「…え?ウチ、駄目だよ。前斬られたし…それに、っ!」
「奏美!大丈夫!」

奏美はびくりと大きく体を震わせたかと思うと口元を押さえ倒れた。
吐き気を覚えたという訳ではなく、体を丸め、震えをできるだけ抑えようとしている。
ヒュウヒュウという音も漏れていた。

「過呼吸です。落ち着いて、大丈夫。想良様、枕とっていただけますか?」
「え?あ、はい!」
「ぎゃっ……んー……?」
「有難うございます。」

ミゲルは想良から枕を受け取るとカバーを剥ぎ取り、それを奏美の口元に当てた。
想良に枕を引き抜かれたことで強制的に起こされた奏音はそれを見て、慌ててベッドから降りてきた。
苦しそうだった奏美の呼吸も次第に良くなり、やがて正常に近づいていった。
抱え起こされた奏美は何度か深呼吸をし、口を開いた。

「ありがとう…でも、ちょっとウチが一番びっくりした。」
「お気になさらずに。しかし過呼吸となると仕事はしない方がいいかもしれませんね。」
「そんな…!駄目だよ、ただ衣食住提供してもらうだけって…。」
「仕事?奏美仕事の依頼貰ったの?」
「奏音様もご一緒に、という事でしたよ。」
「え。」

仕事というワードに奏音が膝をつく。
想良がそれを苦笑し、自分は呼ばれていないのかと聞いた。
ミゲルは首を振ったので想良は一言残念、と呟いた。

「それではお二方、行きましょうか。想良様、しばしお待ちを。」
「やだー!行きたくない、働きたくない、はぁああっぁぁあっっ!」
「姉ちゃん……。」
「行ってらっしゃい、待ってるね。」

嫌がる奏音は電撃が食らわされ、その衝撃で手を離した彼女は引きずられていく。
微かに香ばしい匂いを残した部屋で想良は一人考えた。
なぜ、自分だけ呼ばれなかったのだろう。
テストは我ながら良くできたと彼女は自負していた。もしかしたら認めてもらえるかもしれないと。
だが、実際呼ばれたのは人見姉妹だった。
コン、という音が聞こえ返事をしようと口を開く前に誰かが入ってきた。

「アリー…。」
「や。二人はどこ行ったの?」
「なんかマティーさんが仕事の依頼みたいなこと言って連れ出された。」
「そっか。じゃあ想良だけでも良いかな。」

アリーは想良の返事も聞かず彼女の向かい――先ほどまで奏音が寝ていたベッドに腰掛けた。
手が寂しいのか腰に付けていた武器を撫で回していた。
他の二人が来るのかと期待しているのかなかなか口を開かなかったが、やがて観念したようだった。

「昨日かな。僕の部屋に居たんだよね。」
「うん…ごめんね、部屋が無いって言われたからなんだけど。」
「で、見たでしょ。絵。」
「絵…?」
「そう。…しらばっくれないでいいよ、怒らないからね。」

だが、想良には彼の言葉から少々非難めいたものも感じていた。
絶対怒ってる、それもかなり…それを感じ取り素直に謝った。

「ごめん、そんなつもりは無かったんだ。あの絵、女の子が描いたんだってね。」
「そう、僕が殺した。…聞いてるでしょ、僕がマティーの振りして情報とって殺したってさ。
 でもね、一個だけ言わせて貰うと彼女腹斬られてたの。」
「切腹…そっか、介錯……。」
「そう。話が分かるようで助かるなぁ。で、どう?ジルに会いたい?」
「え…。」

部屋に入り、勝手に品を見られたことを怒られるのだろうと想良は思っていた。
だが、あの部屋の主はそれを咎める様子はあくまで見せず想良の答えを待っている。

「会いたい。話してみたい。」
「そう。いいよ、ジルも暇だろうし。でも会わないって言われたら諦めてね。紹介くらいはしておくけど。」
「うん、そこは分かってるつもり。」
「分かった。じゃあ今から行こうか。」
「えぇ!」

そしてアリーは想良の返事を聞く前に部屋からもう出て行った。
想良も、もしかしたら何か過去が知れるかもしれない、という淡い期待を胸に急いで追った。





「簡単に言うとね、一個国を滅ぼしてもらおうと思うのよぉ。」
「えっ…。」
「ちょっとあんた簡単に言いすぎじゃね?国滅ぼすって馬鹿じゃね?」
「失礼ねえ、あんたより頭良い自信はあるわよぉ。」
「そりゃあたしは中卒ですから!むしろあたしより頭悪かったら人生終わってる。」

ミゲルにマティルドの居る部屋まで案内され、中に入ると単刀直入にこれを言われた。
仕事と言われて予想していたそれを遥かに大きく上回るそれに二人は唖然とした。
なにも喋れなくなった奏美に対し奏音は突っかかるが顔が少し引きつっている。
その二人の様子を面白そうに眺めたマティーは言葉を付け加えた。

「いわば実践よ、実践。大丈夫、少しだけど人員も割くから。」
「でも国一個滅ぼすって!酷ければ年単位なんですけど?!あたし歴史物書いたことあるから知ってんだからね!」
「また…殺す……。」
「必要があれば。奏美、もちろんあんたが死んでも良いなら殺さないで突っ立ってれば良いわ。
 あと数日あればあんなの落とせるから安心して頂戴。エドゥアールも突っ込むから。」

用が済んだとばかりに手を振るマティーに奏美は従おうとした。
また殺さなければならない。この世界に着てから、唯一嫌な事をまた…。
だが、奏音は奏美の手を取りマティーに言った。

「あたし達はね、そりゃただ飯喰らいは嫌よ?でもさ、人殺して食いたい訳じゃないんだよね。
 もっとまっとうな、メジャーな職って無い訳?」
「メジャーねぇ…そもそも一番働かないあんたに言われても説得力無いわぁ。」
「う、うるさい!」
「いいよ…ウチ、やるから。我慢すれば…うん。」
「妹のほうは物分り良いわねぇ。あと奏音、この世界の一番メジャーな仕事が戦争関係。
 殺しよ殺し。諦めなさい、嫌なら討ち死にしても良いわ。」

輝くような笑顔を浮かべ、マティーは手を振った。
奏音ももう引き止められないと素直にそれに従った。
外ではミゲルが待っており、二人の様子から一方的にされたのだろうと察しがついた。

「奏美、ごめん。なんかあたし駄目だね、せめて奏美だけでも外れさせようって部屋入るまでは思ってたんだけど。
 なんか、おされたっていうか…ほんとごめん。」
「いいよ、姉ちゃんが気にする事じゃない。ミゲルさん、案内ありがとう。もう自力で戻れるよ。」
「そうですか?しかし私は部屋まで無事に送るようにというのが命でして…申し訳ありませんがご一緒させて頂きます。」

そう言ってミゲルは姉妹より数歩先を歩いていく。
腰に下げた剣に手をのせ、常に戦えるようにという気遣いが見えた。
その彼の様子に安心し、二人はあとを追った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.93 )
   
日時: 2012/04/15 00:14
名前: あづま ID:A3byF9ug

塔を出て、山に入りかけた場所。そこに目的のそれはあった。
草に覆われ隠された入り口を想良とアリーはくぐり、中へといった。
暗いがどこと無く清潔感のある通路に想良は塔の地下にある牢への道を思い出していた。
だが、それよりもこちらは静かで透明感を感じていた。

「止まって。ちょっと離れてもらって良い?中見るから。」
「分かった。……これくらいで良いかな?」
「うん。何かあったら武器使ってね。…ジル、起きてる?」

ノックをし、中の人物の声を待つが聞こえなかった。
アリーがもう一度それを繰り返すが帰ってくるのは静寂のみだった。
寝ていると判断したのか、アリーが扉を薄く開く。と、同時に腐臭が広がってきた。

「ジル!また!!」
「アリー?」
「想良、少し待ってて。隣のそう、青い石が埋め込まれているほう。そっちでお湯沸かしてくれない?」
「いいよ、でも使い方って…?」
「補助具置いて念じて。そうすればなんとなくできるから。人肌で少し熱めくらいで!できたらノックして!」

そう言ってアリーはするりと身を部屋に入れ消えた。
想良は指示されたようにお湯を沸かそうとした。
だが、水が無い。
こちらに来てからの本拠地では水瓶にあったそれも、この部屋では見つからなかった。
とりあえず耐熱性だろうと推測される容器を、これまた竈と思えるそれに乗せて辺りを見る。
すると小さな窪みを見つけ、とりあえず補助具を置き水が沸かされるのをイメージした。

「すごっ!」

するとカタカタと音が聞こえ、容器の中に水が溜まり揺れていた。温まるまで五分ほど時間がかかる。
手をいれ少し熱い、と思えるくらいになってから容器をつかみ下品だとは思いながらも両手が塞がっているので足でノックする。
すると程なくしてアリーが隙間から顔を覗かせた。

「は、裸?!」
「下は穿いてるからから裸じゃない。それ置いて、あの部屋戻って。」
「で、でも血…、あ。」
「……。」
「死んで、あの人が…?」
「違う。…もう行って。はっきり言って辛いと思うよ、この光景。」

容器を半ば強奪され、扉が閉められる。
だが、アリーが容器を取るために一瞬大きく開いた扉から全てが見えてしまった。
枕の高いベッドでそっぽを見ている人物。
並ぶ薬品。だが、その薬品の匂いを打ち消しているだろうと思われる床の上のそれ。
腹と思われる場所から何かが吹き出ている。
死体だ、部屋に戻りながら想良は思った。一瞬とはいえ、それを見てしまった。
だが、想良にはどこか現実味の無い画面の向こうの世界に見えていた。
現実だとは、受け入れたくないのかもしれない。
そうどこか冷静に考察しながらも頭を離れないそれを振り払うかのように首を振った。

「紅茶になーれ…。」

先ほど湯を沸かしたそれよりふた周りほど小さい容器を見つけ、想良は念じた。
間もなくふつふつとそれが出来、想良は補助具をはめティーカップを作る。
模様も何も無い、ただそれだけのティーカップ。
それで紅茶を掬い、粗末な椅子に腰掛け一口すすった。
一杯飲み終えた頃、何かを引きずる音が聞こえ上に消えた。そしてその後すぐ軽い足音が戻ってきて隣に消える。
もういっぱい掬い飲み終わった頃、アリーが顔を覗かせた。

「来てもいいって…でも出て行けって行ったらすぐ行けって。」
「うん。」

アリーの後に従う。
通された部屋は先ほどの惨事があったとは思えないほど綺麗になっていた。
だが、窓を開けているとはいえ抜けきっていない腐臭が事実を物語っている。
部屋に入ると、先ほどの人物はやはり変わらず空を見ている。
榛色の髪と同じ色の目を持つ青年だった。
入ってきた想良を見るとあからさまに嫌そうな顔をした。

「んで?俺に用があるのか。」
「ジル、最初っからそういう事言わないでよ。」
「と言ってもね、こんな女か、連れてきたのは。」
「……。」
「ははは、不細工だなぁ。ムカついたか、嬢さんよ。」
「別に!」
「ジルー…。」

こんな女、と言われた事についての嫌悪感が出たのだろう。
それをさらに馬鹿にされた。
自分は可愛い、なんて想良は思っていないが不細工と言われたのにはさすがに腹が立った。
文句を言おうと口を開きかけたがその前にジルが喋りだした。

「女、出て行け。」
「ちょっ、いきなり?!」
「ジル…想良せっかく来てくれたんだし…。」
「俺はこの女を望んだ覚えはない。というかそうだな、催した。見たいのか、変態女。」
「は?ジルそれ。」
「それともお前が処理してくれるのか?不細工よ。」

ニヤニヤと思い切り人をからかう顔をしていた。
アリーも似た顔するよなぁなんて端で考えながらも想良はジルに対しさらに怒りがこみ上げてきた。
そんなに不細工って言わなくても…という反抗心が想良を自棄にさせた。

「〜〜!いいよ、私がやるから!アリー、出て行って!」
「想良、言ってる事分かってる?」
「いいから!介護くらい私だって出来る!子ども好きだもん、集落の赤ちゃんのオムツ替えたりしたもん!
 良いって言ってんでしょ!何、何なの?アリーにもやろうか?え?」
「…呼んでね。」

アリーは自分にも及びそうなので早々と出て行った。
扉を閉めたのを確認すると想良は口を開いた。ジルは呆気に取られた顔をしている。

「さぁ、そういうのどこ、タオルみたいなのはしない方がいい?えぇ?」
「……。」
「なんで黙ってる訳?まさか間に合いませんでしたぁなんて言わないよね?
 そんなんだったらてめーに始末させてやる。泣いても何しても絶対片付けしてもらうよ、覚悟してね。」
「…汚い。」
「はぁ?なに、まさか本気で。」
「ばーか、お前の言葉遣いだ。催したなんて嘘に決まってんだろ、不細工。」
「っまたー!」
「あーあ、せっかくあいつと話そうと思ったってのに。なんでおまえと二人きり。」
「知らないからそんなの!」
「お前が追い出したんだろ、女。」

吐き捨てるようにジルは言った。
想良はなんだか申し訳ない気持ちになりつつもここで引き下がれないと気を引き締めた。

「あなたは何でこの部屋にいるの?」
「知ってどうする?」
「分かんない。同情するかもしれないし、軽蔑するかもしれない、」
「へぇ…まあ人はそんなもんだ。じゃあ捲って見ろ、俺の布団。」
「……。」
「疑うな、漏らしてない。」

なおも晴れない疑惑を抱きつつも、想良は恐る恐るジルの布団を捲った。
そこで彼の体を見ることになる。
右腕は焼け爛れ、親指以外は全てつながってしまっていた。
だが、その親指も赤黒くなり突っ張った肌が動かす事は容易でない事を示していた。
両足は一見健康そうに見えるが筋肉が極端に無く、体と比べると細く感じた。
長い間動かしていないのが原因なのは目に見えている。そして注射の痕。
そして左腕には鎖と縄の痕、それに大きな傷跡がくっきりと残っていた。中には歯形もある。

「どうした、不細工が間抜け面してさらに不細工だ。」
「…どうしたの、これ…。」
「俺の結果だ。さらに神経毒で足はほとんど動かない。腕は調子がいいときしか動かせない。」
「辛くないの…?」
「辛いに決まってるだろ。お前を見ていると…お前に限らず五体満足な奴は吐き気がする。」
「じゃ…アリーも?あんなに尽くしてくれてるみたいなのに…。」
「あいつは違う。俺にとっては特別な奴だ。お互いに特別な存在だね、それだけだ。」
「……あの女の子は?」
「あいつは過去。…出て行け、女。俺の機嫌が良い時にでもまた来い。」

これ以上は彼が許さないだろう。
想良は捲った布団を元に戻し、寒くないように隙間が無い事を確認してから部屋を後にした。
アリーは先ほど想良が使っていた椅子に腰掛けていた。

「なんか追い出されちゃった。あ、アリーと話したかったって言ってたし行けば良いんじゃない?」
「そう。なんか言われなかった?」
「あんまり。ただ俺の機嫌が良い時にでもまた来いって。」
「へえ、じゃあ好印象だったんだね。そっか。待ってる?」
「うぅん、私は部屋に戻る。大丈夫だよ、近いし道も分かるから。」
「そう?気をつけてね、いざとなったら殺してでも…。」
「うん。またね、アリー。ジルによろしく。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.94 )
   
日時: 2012/04/15 00:21
名前: あづま ID:A3byF9ug

「レイさーん。」
「んだよ。俺に用があるのか?」
「やっぱり怒ってる…?」
「怒ってねえよ、俺がちょっと自分が分からねえだけさ。」
「そう。座っていい?」

想良はジルの居る場所から自分たちに割り当てられた部屋に戻らず、レイがいる部屋に来ていた。
座って良いかという問いには無言で返され、肯定と受け取り彼の視界から少し外れたところに座った。
それをレイは目の端で捕らえ、また何をするでもなく横になっていた。
互いに何かを話すべきかと胸の内で悩んだが、浮かんでくるものは何も無かった。

「なぁ。」
「何?」
「…いや。……。」
「どうしたの?なんかあるんだったら言って。」
「……。」
「迷惑かな、私出て行った方良い?」
「いや、いて良いよ。」
「そう。……。」
「……。」

会話は続かず、沈黙が流れた。
想良はレイが口を微かに動かしているのを見とめたが、それから何かが進展するという事は無かった。
言葉が口から音を伴わず出ているのだろう、と心の隅で考えた。

「レイさんってさ。」
「……。」

返事はなかった。
寝ているのかと想良はレイを見たが、彼は空を眺めていた。
聞き流されてもいいか、とおもい言葉を続けた。

「こう言うの、すごく失礼だろうけど…仕事、嫌いだよね?」
「……。」
「なんか私達の立場に立ってくれてるっていうかさ、アリーは戦うの好きみたいだし。
 エドさんは普通なのかな、って思ってたけど地下牢で良いのかな…あそこの時、はっきり言って怖かった。」
「俺は…。」
「うん。」

レイはしばらく黙っていた。
想良も無理に先を促そうとはせず、ただ沈黙を楽しんでいた。

「俺は…仕事は嫌いだな。あぁ、想良の言うとおりさ。お前の観察眼、俺は評価する。」
「ありがとう、大事にする。……なんで嫌いなの?」
「…言っても仕方無えだろうよ。お前には絶対分からねえ。」
「そうやって決め付けてー。いいじゃん、言ってくれたって。」
「なんかお前積極的になってねえか?…いいけどよ。」

だが、想良はレイを期待に満ちた目で見ている。
レイもそれを裏切る事ができなかったのか、どうせ分からないだろうと前置きして口を開いた。

「この世界では殺しが当たり前だ。パウエルが中立に近いが他は皆戦して領地を広げたりしてる。」
「うん。日本も統一されるまでそうだったからね。中立はどこだろ…忘れちゃった。」
「…そんな国あったのか、婆様は言ってなかっただろうな。まあとりあえず俺は殺しに合わなかった。
 初めての時は立ってるだけでやっとだったからよ、俺は完全にお荷物だった。」
「お荷物って…奏音さんと同じこと言ってるね。」
「奏音は今関係無えだろうが…ったく。…俺は基本戦えない。自分の身も守れない。」
「でもさ、私達の事はある意味守ってくれたじゃん。」
「は?いつ。」

想良は静かに笑った。
自分が守った覚えが無いレイはただ首をかしげていた。
本当に分かっていない無意識の行動だったのかと想良が思い、口を開いた。

「まず奏美の初仕事のとき、レイさんは心配してくれた。」
「そりゃ…だってよ、いきなり実践は辛いじゃねえか。俺らだって始めは動物から始めるんだ。
 ある程度動きにはパターンががあるけど表情からは…というよりあいつら表情ねえだろう?」
「そうだね。それにそっか、この世界だと動物少ないし食料源だもんね。
 あと一番は私達を受け入れてくれた事だよ。この世界はいわば無法者の世界みたいなかんじなんでしょ?」
「あぁ。戦が無いときは食い詰めるのが盗賊になるしあったら混乱に乗じて盗賊出るしな。」
「そんな所なんだからさ、私達絶対殺されてたよ。それを偶然とはいえレイさんが助けてくれたんじゃん。」
「あぁ…お前の言った事勘違いしたせいでな。」

懐かしそうに目を細めた。

「それにレイさん、補助具作っててくれたんだし。本当に私達助けられてるよ。だから私が出来る事だったら何でもするからね。
 家事任せて、って言ったのに結局アル君がやってたし。本当、何でも言ってね。」
「あぁ。…まあ、範囲は限られてるだろうがな。」
「まあね。でも、本当に言ってね。…うん、なんかそろそろ姉妹戻ってきそうだから行くよ。ありがと、おじゃましました。」





青空を映し、静かに流れる川。青々とし、生命を感じさせる山々。
それをぼんやりと眺めながらエドはゆっくりと歩いていた。
時折川の方角から何かはねる音がし、魚が跳ねたのだろうと推測しながら視界を後ろに移した。

「……、鋭いね、兄さん。」
「尾行をするなら標的の足音と自分の足音を溶け込ませるんだ。俺が踏み出していないときに足音が聞こえた。」
「そうかい。感謝するよ。」

男装の女が大木の陰から顔を覗かせた。
見つかったことには驚いた素振りも見せず、エドの隣へとやってくる。

「…私さ、思うんだ。」
「なんだ?」
「あんた、気づいてない?山は確かに壁にもなる。それは互いに言える事。
 でも…この川は大国のほうから流れてるんだ。それを堀にする…ありえないな、私だったら。」
「すごいな。俺も分からな」
「嘘はやめな、兄さん。浪人って…あんたこそ、どっかのスパイじゃないか?
 ここの人等は疑わないからね、私も受け入れてくれたんだ。スパイだったら仲間だ、協力してこうよ。」
「……。」
「ばらすつもりはないよ、あんたが私を言わないんなら。」

ニッっと歯を見せ女は笑った。
その笑みはエドがどういう反応をするか確かめているように見えた。
それが求める答えをエドは探る。

「あのな、スパイはスパイと明かさない物だ。それに言おう、俺はスパイじゃない。
 お前だってそうだろう?…そうだな、大河はどうしようか。お前は頭が回るようだし一緒に考えるか?」
「嘘だな。」
「は…?」
「兄さん、あんたの身体は良すぎる。一週間食えない事もあるって言ったな?」
「あぁ。」
「その割りには身体に脂肪があるんだ。」

女はエドの腕をつかみ、品を定めるように目を細めた。
そして確信を持ったかのように頷き、エドを見た。
エドは女の顔に今までのそれは通じていない、と理由無く感じた。

「私は浪人を見てきてる。大抵が飢えて、痩せてて臭う醜男だった。顔が良けりゃ暇なご婦人に拾ってもらえるからな。
 筋肉ついてる奴も居るが兄さんほどの人はいない。いたとしても脂肪まである人はいなかったな。」
「だからってな…俺は例外かもしれないぞ?」
「ああ、スパイだから浪人としては例外だろうな。どこのお兄様だ、あんた。」

はぁっ…とエドは息を吐いた。
スパイだと認める事は本能が許さなかった。
彼女があのレジスタンスの指示で探っていると言う事はありえなくはない。
認めなければ四六時中彼女の視線を感じることになるだけだろうが、認めた場合はどうなるか分からない。
同業者だった場合は彼女が言うとおりに協力関係が生まれるかもしれないがレジスタンス側だった場合は捕えられるだろう。

「俺はスパイじゃない。」
「…へぇ?」
「疑うだけ疑えば良い。俺が言ったんだからな、嗅ぎ回るなりすれば良い。何も出てこないと思うがなぁ。」
「ふざけんな!私は身分を明かしたってのにお前は明かさない?不公平だ!」
「俺は浪人。第三者的立場で国が滅んだりするのを見てきたんだ。それにお前は自分で身分を明かしたんだろう?
 なんで俺を責めるんだ。それにお前はあの国の人間だろ?」
「…近いうち、そう、近いうちだ!絶対お前を泣かせる!…せいぜい、スパイだって事を隠せるようにな、兄さん!」

女は吐き捨てるように良い、それから館の方角へと走っていった。
鋭い女も居たものだと思いながらも、彼女の言ったように川をどうするか考えた。
国の方針ではこの川を使い攻めて行くというものだったがもうそれも使えなさそうだと。
これからはおそらくあの女が付き纏うだろう。
どのように報告を入れるか考えながらもエドは楽しみを感じていた。
あの女の挑発を纏った目が自分を見ると言うのは、なんだか心地の良いものに感じていたためだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.95 )
   
日時: 2012/04/15 00:27
名前: あづま ID:A3byF9ug

「ジル…。」
「なんだよ。」
「なんでもない。ねえ、少しで良いから足動かしてみようよ。注射だけじゃやっぱり衰える。」
「気休めはいらない…もう俺、動けないんだ。足ももう感覚がほとんど無い。」
「うん…注射、分かんないんだもんね。ごめんね…。」
「お前のせいじゃない。俺が捕まったのが悪いんだからな。」

アリーは首を振って立ち上がった。
もう行くのか、とジルは言おうとしたがアリーが薬瓶を手に取り残量を見ているのが分かると口を閉じた。
複数の薬瓶を眺め、それに視線を預けたままアリーは口を開いた。

「五日くらい前?今暑いんだしさ、腐るんだよ。」
「四日だよ、お馬鹿さん。あの女は好かなくなった…あまり関わりあってくれなかった。
 俺の身体見てビクビクして…そんな奴嫌だ。どうせなら前のが良かった…鬱陶しい位話しかけてきたけどな。」
「前の人は話しかけてくるから嫌って言って殺したくせに…だから比較的動けそうな子連れてきたのになぁ。」
「五体満足の奴はもう見たくない。やっぱりお前が一番良い、俺。」
「あのね…君一応身体大きいしそうすると五体満足じゃないと無理なの。
 そりゃあ僕もいれるんだったら一緒にいたいよ。でもそれは難しいから…分かってよ…。」
「分かってる。久しぶりに会ったから少し我が儘言ってみたくなった。」

単純な理由にアリーはため息をついた。
腐臭はもう消えたのか鼻が慣れてしまったのかもう分からなくなってしまった。
窓はもう閉めようかと思ったが今日は風がありそれを感じれば心地よく感じるので開けたままにしておくことにした。
数個の薬瓶を手にアリーはジルの足元へとまわった。
それを見止めたジルはあからさまに嫌そうな顔をし、吐き捨てた。

「それやっても俺の足動かない。」
「うん。でも、もしかしたら動くようになるかもしれないでしょ。」
「無理だ。何年動けてないんだと思ってる?」
「五年近いかなぁ…よく覚えてないというか思い出したくないからね。」
「俺もな。…お前がジェイだったらなぁ。」

ジルは心の中で笑みを浮かべながら最後の言葉を付け足した。
これを言うとアリーが僅かながらも動揺する事をジルは知っていた。
自分で名乗った名前じゃないか、といつも思うがそれは頭の中にとどめいつも無表情を心がけていた。

「三人で心中できたのにな。アンリだもんな…そう簡単には死ねないし。」
「ごめん…アリアは……。」
「あれはお前の判断が正しかった。そう言われただろ。
 …そりゃ、今でも納得したくない。でもなんとなく分かるから…お前はそれ以上気に病んでくれるな。」
「……。」
「だから、お前はアリアを助けてくれたんだ。俺の頼み、ちゃんと聞いてくれただろ。」

口ではいくらでも言えるが、自分は今不快な表情をしているのだろうとジルは分かっていた。
身を起こしたアリーが少し困惑の色を浮かべたからだった。
少し大げさにため息をついて見せると、さらに困惑は強くなったのが窺えた。

「いて。」
「馬鹿、顔に出すな。」

偶然目にとまった薄い本を浮かせ、アリーに軽くぶつけた。
ぶつかった事でばさりと落ちたそれを拾い、アリーは棚にしまう。
それから再び椅子に座って口を開いた。

「それつかって動けないものかな?」
「嫌だ、疲れる。それに俺が動けるようになったらお前もう来てくれなくなるだろ?」
「そんな事無いよ。」
「嘘だな。動けない今でさえ滅多に会いに来てくれない。動けるようになったら絶対会いに来てくれない。」
「あのさー…。」
「もしも、だけどな。仕事あるのも知ってるし、なかなか忙しいんだろうなって思うよ。
 うん。俺よりも奥さん優先するべきだし。…上手くいってるか?トリクシーだっけ、名前。」
「あー…まあね。同盟はちゃんと守られてるよ、今の所は。」
「そうじゃないだろ。同盟同盟って…もっと感情は芽生えないのか?」
「えーっと、それは…うん。」

ジルからはアリーの顔が見えなくなった。
ただかすかに体が揺れているのが分かりなんだかんだ情はあるのだと安心した。
軽く笑い、視線がこちらに戻ったのを確認したうえで喋った。

「結婚生活、色々聞きたいんだからさ。俺はもう無理だし…というかアリア以外は女は愛さないから。」
「だからそれは本当に…。」
「いいんだ。ある意味俺の理想のままでアリアはいるからな。美化されてるかもな…うん。」
「わりとそのままな気もするけどね。ジル、確か僕を巻き込んで裸見せてくれって頼んだよね。」
「あぁ…口きいてもらえなくなったあれ。でも見たかったからなあ…女の裸。
 今もう一度聞くけど女の裸みたいとか思わないのか?胸膨らみ始めてるのとか…なぁ?」
「あんまり…。なんか興味わかないんだよなぁ。」
「奥さんいるもんな。いいな…。」

ぼそっと呟いたジルをアリーは笑った。頬を少し赤くしたジルは大げさにそっぽを向いた。
だが、しばらくすると体が小刻みに震え、やがて笑い声が漏れ出してきた。

「羨ましい…俺は嫁出来ないだろうしな。手伝いに来てる女も最初は良いんだけど、なんか。」
「だからって殺さないでよ。探すの苦労するんだからね?」
「嘘こけ。罪人買ってるんだろ、前の女が話してたぞ。」
「女は少ないんだよ。男でも良いなら適任探すけどね?」
「野郎は嫌だ。」
「僕も男だよ?僕も嫌?」
「お前は特別。だって俺お前の事好きだし。」
「ありがと。」

互いに笑い、後は窓から流れ込む風を感じていた。
だが、ふと思い出したようにジルが口を開いた。

「あ、そういえばあれか?奥さん頼めば裸見せてくれるか?…あ、お前限定で、で構わないから答えてくれないか。」
「…口きいて貰えないどころか両足折られて毒虫の刑。予想だけど。」
「あぁあれ。また泣きに来いよ、胸くらいなら貸す。」
「やだよ。絶対後で笑うからね。」
「笑わない、何ヶ月かしたらネタにする。あーあ…俺も色々したい。女欲しい。」
「恋愛でのそれは望めないと思うけどね…。」
「恋愛できたとしても俺の身体じゃ無理だ…世話かけるだろうし。」
「その分僕が頑張るからさ、ね?」
「女装してくるとかやめろよ?」
「しないですー。」





「想良ちゃん。どうしたの?どっか歩いてたの?」
「レイさんと話してきた。」
「え?少なくとも一時間あるでしょ。そんなに話す事あったの?」
「ていうかわんこおかしくなかった?なんか会ったばっかの印象と大きくずれてるみたいな。」
「私はあれが本来のレイさんだと思う。色々気にして最後に爆発して自己嫌悪に陥る人。」
「自己嫌悪だったの?」
「そういう訳じゃないよ。ただこのままだったらそうなりそうだなって。」

想良が戻ると二人はもう部屋に戻っていた。
五分ほど前に戻ってきたのだと説明され、やはり仕事を請ける事になってしまったらしい。
力なく奏美が笑いながら言うと、奏音は正反対に大声を出してベッドに倒れこんだ。
三人が居ない間に誰かが整頓してくれたらしくベッドは皺一つ無いのではないかと思えるくらいぴしりとしていた。

「なんでこっちきてまで仕事?やだやだ、レオンの馬鹿ー。」
「いや姉ちゃんの年だったら仕事しないとまずいでしょ。というか作家を長期休暇って意味だったんじゃないの?」
「えー。そりゃキシに会わないのは嬉しいけどさ、婿と話せないし萌えが無いしー。」
「奏音さんまた靴履きっぱなし…。」

想良が奏音の靴を脱がせに腰を上げた。
彼女が奏美の前を通り過ぎたその時、ふとある事に気づいた。
そんなはずは無いと奏美は想良に意識を集中させるが、一度気づいたそれは先入観となり拭う事が出来なくなった。
覚悟を決め、口を開く。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.96 )
   
日時: 2012/04/15 00:31
名前: あづま ID:A3byF9ug

「想良…あの、あのさ?」
「ん?なあに?」
「間違いだったら…間違いで良いんだからね?あのさ……人、殺した…?」
「殺してないよ。」
「そう…?」
「奏美、どしたの?あたし的に今の少し失礼だよ。…本当に大丈夫?」
「…ちょっと、ごめん。」

奏美も立ち上がり、想良のそばに行く。
進むに連れだんだんと確信に変わって行くそれが悲しかった。
自分だけではなく、という強い気持ちが奏美を支配する。

「やっぱりにおいがする…想良の馬鹿。」
「におい?あたしは別に分からないけど。」
「……。」
「姉ちゃんは知らないんだよ。想良、仕事あったの?それとも正当防衛?」
「…殺してないよ、奏美の馬鹿。」

だが、言った後で想良ははっとした。
目の前の奏美が悲しい顔をしている事、そしてなにより自分の声色が楽しんでいるように取る事ができた事。
自分も感化されてきているのではと心の内で思うがそれを振り払い、真っ直ぐに見た。
目の前の友人は自分の事を信じていないような目で見ていた。

「本当に殺してないから。私だけ仕事貰えなかったんだよ?もっと頑張らなきゃね。」
「頑張って…頑張って想良は人を殺すようになる訳?!どうやったらそう割り切れるようになるの!」
「奏美…私は……。」
「想良は良いよね!安全な中で、自分じゃ納得できないのに認めてもらえてさ?
 ウチは死ぬかもしれない、っていう中で頑張って実際斬られたし殺したのに認めてもらえない!」
「ちょっと奏美、一回落ち着こう?」
「姉ちゃんは黙ってよ、この腐れニート!」
「なんてこった。レッツゴーマイ…えっと…娘!」

奏音は自分に飛び掛ってきた妹をあの蔓で絡め取る。
足を取られ転んだ奏美をうつぶせにし、そのまま馬乗りになった。
自分の体の下で暴れる妹を無理矢理押さえつけ、蔓を操り首を絞める。

「やめて!奏美が死んじゃう、奏音さん!」
「…大丈夫、妹を殺したりしないから。」
「奏音さん!」
「大丈夫だよ。あたしは奏美が大事だからね、奏美を守れるんならある程度はやるよ。」

必死にもがいていた奏美の動きも鈍くなり、やがて動かなくなった。
奏音はすぐに拘束を解き、妹をベッドに寝かせようと抱えあげた。
すると数本のナイフとくないが彼女の手から滑り落ちた。ナイフは床につく直前に消え、くないが転がった。
踏まないように注意を払い奏美をベッドに横たえ、奏音は想良の目の前に座った。

「ごめんね。」
「うぅん…奏音さんが悪いんじゃないし。奏美、大丈夫かな?」
「どーだろ、あたしら大体十歳違うじゃん?あたし中卒でその後同人やってたからなぁ…。
 十六の時に漫画の作画依頼されてその時に一人暮らし始めたから…大体小一だね、奏美は。」
「そっか…じゃあ奏音さんあんまり奏美とは関わってないの?」
「でも家こっちの方に買ったからそれからは会ってるよ。でもあたし変な青春送ってたし分かんないかも。まじやべ。」

楽天的に奏音は笑うと寝転んだ。
電源の入らない携帯を弄び、ただ何をするでもなかった。
想良はその様子を見て、なんとなく口を開いた。

「多分ね、奏美が私が殺したって思うのは死体がある所に居たからなんだよね。」
「え、想良ちゃ…!」
「だから私は何もやってないよ。」

ガバリと飛び起き目を見開いた奏音を想良は笑みを浮かべながら見た。
もしかしてこう笑うのがいけないのかとふと思ったが想良は話し続けた。

「ジルに会ってきたの。」
「え、なんで!想良ちゃんの裏切り者!抜け駆けは駄目って言ったじゃない!」
「二人が行って…多分そんなに時間たってないと思うんだけどアリーが来たんだ。それで会いたいか?って言われて。
 それでついて行ったの。」
「そーなのか…。で。」

奏音は想良の方へと詰め寄った。
詰め寄って初めて、奏美の言ったとおりに良く分からないにおいがするのが分かった。
これが戦場のにおいなのかと奏音は頭に叩き込んだ。

「どんな子?」
「んー…髪の毛が何色って言うんだろうね。茶色に少し白を混ぜたみたいな色。」
「ふーん。ま、外国人の髪の毛の色ってどう言っていいか分からないもんね。金髪でも茶色じゃね?って位のもあるし
 白髪じゃね?ってのもあるしねー。」
「うん。それで動けない人だった。なんか毒でやられたって言ってた。腕も片方は火傷で見てられなかったし…。
 もう片方は傷だらけだったよ。あとなんか喋り方がちょっとムカッときた。」
「まじで?なんかアリーちゃんと似てるんだ。あたしも初めて会った時すごいムカついたし。
 変態さんって言われたし、まぁそれは事実なんだけどなんか小ばかにしたみたいな…!」
「それ私も似たような事言われた。変態女って。あと不細工って言われた…。」
「えー!想良ちゃん変態じゃないし不細工でもないじゃん。うわぁ…ジルは見る目がないのかぁ。」

想良は奏音が慰めているのか分からなかったが、彼女の本心に触れたようで嬉しかった。
なんだか良い気分だったのでそのまま話し続けた。

「でも、けっこう気遣いは出来る人かなって思ったよ。多分優しい人。」
「へー…。じゃあ二人は案外似てるのかね?あたしも会えるかなぁ?」
「んー…機嫌が良い時に来い、って言われたからなぁ。どうだろう、アリーはジルが私の事気に入ってるって言ってたけど。」
「じゃ行って良いんだよ。あたしも連れてってね、約束だぁ!」
「うん、奏美も一緒に行けると良いね。あーでも…ジル五体満足の人嫌いみたいだし…。」
「嫌い?」
「うん、吐き気がするって言ってた。」
「そっかー…あれ?じゃあアリーちゃんも結構好かれてないのかな?」
「それは無いみたいだよ。私も聞いたけど特別な奴だって。お互いにそう思ってるらしいよ。」
「え、とくべ、がうあぁあっ!」
「か、奏音さん?!」

奇声を上げ、転がりまわる奏音を想良はあきれた顔で眺めていた。
やがて奏音は頭をベッドの柱に打ちつけ、痛みに身体を震わせながら静まった。





「セルジュさん、あんたも篭ってばっかは疲れるだろ?少しくらい遊んでいきな、って!」
「あぁ。でも約束したからもう戻らないと。悪いな、折角だが。」
「あの連中は少し固すぎんだよ、折角馬鹿領主が倒れたんだ。少しくらい浮かれた方が良いぜ?」
「だが俺は金貰ってやってるからな?でもそうだな、ちゃっちゃと切り上げてもう一回来れるようにするよ。」
「待ってるぜ、あんたも俺らの仲間だからよ!」

陽気に手を振る男達に別れを告げ、エドは館への道を歩いていた。
酔っていたのだろう、男達からしていた酒のにおいは風に乗ってまだこちらへとやって来ていた。
門の前まで歩いてくればあの女がエドの事をじっと睨んでいた。
そしてふっと笑うと彼女はエドとは反対に宴のほうへと歩いていった。
彼女の行動に疑問を持ちながらも座敷に入れば、重臣となる人々は額をつけ合わせ話し合っていた。
しかし、エドが中に入っていたのに気づくと何事も無かったように彼を迎え入れた。

「どうした?何を話していたんだ?」
「いえ…我等の方針でございます。…セルジュ様、何か収穫はあったでしょうか?」
「あぁ。堀を作るといっていたあの大河、あれについてなんだが。」
「はい。」
「危険じゃないか、と思う。あれは大国側から流れているから、大国があそこから船で攻めれば堀の意味は無い。」
「なるほど。やはり、あなたを向かい入れて正解でした。」
「いいや。」
「セルジュ様?」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.97 )
   
日時: 2012/04/20 18:26
名前: あづま ID:KcT9yEBw

周囲の人達は否定したエドのことを見た。
みなの人見に疑問の色が移っている。
エドはこれは別に隠す事ではないと考え、口を開いた。

「男装している女がいただろう?あの娘が言っていたんだ。」
「あ…申し訳ない。あれはふらりとやってきた女でして…彼女と小さな男の子が指揮をし、我等は勝利できたようなもので…。」
「そうなのか。…男の子?」
「はい…なんでも彼女が旅の途中に出会ったらしく、以後行動を共にしていたとか。」
「ですが…最後の激戦にて姿が見えなくなり……おそらく。」
「そうなのか。」
「男の子が消えてから…彼女は男の格好をするようになりまして。」
「じゃあ、あの格好をするようになったのはごく最近なのか。」

これ以上、女と小さな男の子に対しての話題は出ず皆は設計図を見ながら案を出し合った。
大河には水門を作り、それにより相手方の進軍を遅らせる。
山側には強固な門を作る。最終的に決まったのはそれくらいだった。
穴だらけのサク…これならばカメリアも攻める事ができるだろうとエドはひとまず安心した。
案がまとまり、各自解散した時にはあたりは暗くなっていた。
エドは立ち上がり下を見下ろせば、遠くに火が見えていた。
周りでは影が動いている。まだまだ、民衆は浮かれているらしい。
隣に音もなく仕切っていた人物がやってきて、口を開いた。

「彼等は…革命がなったという事実に酔いしれ、先を見ようとはしていなくて。」
「あぁ…俺も篭っているのはよせ、と言われた。」
「あなた様の言葉を伝えられれば良いのですが。中には既に隠密がいるかもしれない。
 マリー…あの男装の女ですが、彼女も言っていましてね。既にスパイは入っている、警戒しろと。」

あの女が警戒を呼びかけている。それを知ったエドは一瞬体を強張らせた。
しかし相手はそれに気づく様子も無く、話を続けている。
相手が世界を知らない馬鹿でよかった、と安心しエドは適当に相槌をうった。
向こうは自分の話を聞いて貰えるという事に気分が良くなっているのか色々な事を話していた。

「待った。俺がスパイかもしれないだろう。あの娘が言うように警戒するべきだ。」
「いいえ、あなたはスパイではありません。我等の為に知恵を絞ってくれたではありませんか。」
「言っただろう、浪人は最も疑うべき存在だと。」
「疑った結果、これなのです。我等はあなたを疑うべき存在ではないと判断いたしました。」
「そうか…。ならば、あの…マリー、はどうなんだ?」
「彼女もあなたと同様です。むしろ彼女には詫びなければならない。
 大切な者を失わせてしまったのですからね。我等の為に、小さき命を消しました。」

相手が目を細めたのを見て、これは使えるだろうと思った。
そもそも彼等は一度信じれば疑う事はしないのだろう。
マリーが男の子を失った事を彼等は悔いている。ここを揺さぶれば何とかなるかもしれない。

「そういえば…小さな男の子と言っていたな。」
「ええ。」
「どの位なんだ?言っておくが十歳くらいならば立派なスパイだからな。
 激戦の混乱に乗じて抜け出したと言う事もありえる。子供だと油断しやすいだろう?」
「それならば平気です。あの子は五つにも満たないような子供でした。
 多少ませていましたけどね…ただ着眼点の良い、子供だからこそ分かるような事を言う者でした。」
「五歳…すると、うん。難しいな…。今日はもう下がるよ。明日、また起こしてくれ。おやすみ。」
「はい、お休みなさいませ。」

エドは軽く手をふってその場を後にした。
セルジュという偽名にむず痒さを感じ、なかなか力を抜けない状態が続いていた。
やっと休めるという事に気を取られていたエドは、さっきまで話していた男の隣にマリーが現れたのに気づいていなかった。





薄く差し込んだ陽光がぼんやりと部屋の中を照らしていた。
マティーは部屋の中にアリーがいるのを見て取り、彼に近づいた。
ベッドからは落ちたのか、それともベッドまで持たなかったのか床で丸くなっていた。
何度か呼びかけるも反応せず、わき腹を体重をかけて踏むと呻き声と共に起き上がった。

「夜だよ…まだ暗いよ……。」
「でも陽は見えてるわぁ。はい、さっさと起きる。」
「兵士達に頼んでよ…僕眠い…。」
「兵士達は良く働いてくれるじゃない。たまには労わらないとねぇ?」
「僕は?」
「なんで労わらなきゃなんないのよ?あんたは勝手に動き回って寝不足になってるだけでしょ。」
「だって、ジルの身体とかー…。」
「薬の開発も進むしそれは支援するわよ。でもねぇ、傷掘らせるのは明らかに余計でしょ?
 はい、目も覚めたわね。だいたいあんたがえぇと、フェビアン?だかに取り付けたんだからあんたが準備なさい。」
「えー…寝る……。」
「まったく…。」

床で寝ていることに気づいたのかのそのそとベッドに上がろうとしたアリーの足をつかんだ。
ガンッと脳に響く音と手の中の足に力が入った事で狙い通りにいった事が確認できマティーは微笑んだ。
十秒ほど後、荒い息とともに座ったのを感じマティーは口を開いた。

「完全に目は覚めたわねぇ?」
「ばっ馬鹿じゃないの?痛い…口が、舌が…!鉄の味しかしない!」
「血の味でしょう?ほら、さっさと、処理、する!」
「いだ、痛い痛い痛い!やめっ、目覚めたっ覚め、たっ!」
「あら?だったら早くその口なんとかなさい?ダラダラじゃない、さっさと出し切ったら?」
「マティーが僕の足、いやだっもう!っ、あ…う…痛い……なに刺した?」
「ちょっとした薬よ。早く目を覚ましてもらいたいからね。」
「もう覚めたよ…。」

少々息の荒いアリーを無理矢理急き立て、カメリア本家へ向かう。
相手はリキルシアという大国であり、失礼があってはならないという事でまだ夜も明け切らない内に向かうことにしたのだ。
少し肌寒い風にあたりアリーも目が覚めたらしく大人しくついてきた。
ただ部屋で刺された部分を時折気にしており、それがマティーを楽しませた。

「遅効性よぉ。大丈夫、朝日が昇るまでは確実に効かないわぁ。」
「何入れたの…?毒薬じゃ…ないよ、ね…?」
「んっんー…まああんたは気に入るんじゃなあい?
 私だったらごめんするけど…あんたはなんだかんだで癖になるんじゃないかしら。依存しないようにね。」
「本当に何?」
「だから気にする事じゃないわよお。」

後に起こるであろう事を予測し、マティーは一人笑った。
アリーは自分の知識の中で遅効性であり、かつ針程度のそれで効くものは何かと頭を巡らせていた。
その時、どこから嗅ぎつけたのか、小さな子供が二人に対し手を伸ばした。見た目からして訓練を受けている年代である。
マティーはその子供を目の端で捕らえただけでそのまま進んでいった。
土と血の臭いが鼻につき、かつて自分も似たようなそれを漂わせていただろうがそれでも不快だった。
少し進みアリーがついて来ないので振り返れば彼は自らが着ていた上着を与えていた。
ため息をつき、子供と別れて駆け足で進んでくるのを見てあきれた声で言った。

「なにやってるのかしら?」
「なんかあんまりお金ないって言ってたから。僕が着てたの売れば少しはお金になるんじゃないかなって。」
「まあそりゃあ生地が良いしお金になるかもしれないけど。」
「ちょっとでも楽してもらいたいもんね…寒い……。」
「お馬鹿さん。自業自得よ、その薄いので過ごしなさいな。」
「ええぇぇぇ…。」
「帰れば服あるんだから我慢したら?あんた無駄に服多いじゃない。レイモンよりもあるわよね?」
「うん。服ってやっぱり実用性あるじゃん。買っちゃうんだよね…。」

笑みを浮かべるアリーをマティーはただ眺めた。
双子でもこんなに違いが出てしまうのかと思うと、一瞬にして目の前の彼が憎く感じた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.98 )
   
日時: 2012/04/20 18:28
名前: あづま ID:KcT9yEBw

「良いわねぇ…。」
「何が?」
「……。」

ふと、口をついて出た言葉にマティー自身驚いていた。
むしろアリーの問いかけにより自分が言葉を発していたのだと理解した。
ただ曖昧に首を振り、尚も追及したがる雰囲気を出す片割れを視線で封じ込めた。
アリーはそれに慣れており、これを無視し追求した場合を知っているため諦める事にした。

「あ…つまり僕が軍師様の世話するの?カメリアの人はやってくれないって事?」
「さあ。ただ向こうがあんたを望むんじゃない?一応知ってるのあんただけなんでしょ。」
「多分……。」
「服ぐらいなら持って行かせるわよ。安心なさい。」
「労わるんじゃなかったの?」
「あんたのお仲間?に行かせるわよ。多分あの大木になると思うわぁ。」
「大木?」

いまいち大木というワードに人物が結びつかないアリーにため息をついた。
それと同時に結びつかないほど候補がいるのかもしれないと疑いも向ける。
道は舗装されていない、ごろごろと石が転がる所までやってきた。

「あの無駄に煩い女よ。働く意欲が見えない髪が二色の女。」
「あぁ、奏音。そういえばなんで髪の毛二色なんだろうね?全然髪伸びてないみたいだし。」
「知らないわよ。でもああ目立つ頭してるんだしちゃんとした働きすれば異名みたいなのが付くんじゃないかしら。
 それが抑止になればこっちとしても助かるんだけどねぇ……。」
「パベーニュ当主にやって頂けばいいじゃん。マティーが苦労する事じゃないよ。僕もやれる範囲で手伝うし。」
「あんた…実の親に敬語使うのはよしなさいよ。なんかむず痒いわ。」
「でもマティーが当主になったら僕は敬語使わなきゃいけないでしょ?
 なんか大変だね。みんなが…あぁ、カメリアの人以外は敬語になるんだ。そっかぁ…双子なのにね。」
「……。そうね…。」

アリーは特に気にしていないようだが、それがマティーに引っかかった。
悔しくないのか、と。
いつも比較され、蔑まれてきた。そしていずれは自ら膝をつかなければならない。
アリーが知らないはずがない。マティー自身、母を母と呼べなくなった時に気づいた。
兄弟や国を保つ要とも言える軍を支配下に置く日がやってくる。
そう遠くないであろう日々を描き、首を振った。

「とりあえず、まずは成立を目指しましょう。リキルシア。…ふふふ、こっちが利用するくらいに。」
「うん。…利用ねえ。向こうは名前が知れた軍師様だよ?」
「大丈夫よ、あんたがいれば。すぐに一本取れるなんて思ってないわ、ただしばらぁく…ね。」
「そう。……?」

アリーは左手に僅かな温もりを感じ、それを確認してから首をかしげた。
マティーは悪戯に笑い、互いに頷いて道を進んでいった。





「おい、起きろ。」
「……」
「…アル、こいつら死んでんじゃねえだろうな?」
「……」
「いや、冗談だ。そんな必死な顔すんじゃねえ、俺が悪いみてえじゃねえか。」

兵士から三人が朝食を食べに来ないと言われ、ぼんやりとしていたアルを誘い部屋に入ればまだ寝ていた。
奏音なら起きてこないのもありえると思っていたレイだったが他の二人もという事には驚いた。
アルはベッドから落ちている奏音の口と鼻をふさぎ起こそうとしているらしい。
息苦しさにもぞもぞしているのを確認した。

「あ?」
「?」
「いや、別に。」
「おい想良、俺を見てその反応は何だ。」
「えへ。おはよう。」
「あぁ…。」

想良は肩を数回叩けば気の抜けた声とともに目を開けた。
まだ眠たそうに瞼をこすっているが起き上がり伸びをしている。
次に奏美を起こそうと彼女のベッドに近づこうとした、その時だった。
アルがレイにぶつかり、二人そろって転がった。

「レイさん?!アル君も大丈夫?」
「……」
「ってえ!んだよ、なにし…。」
「…誰だ。」
「は?」
「誰?!あたしの眠りを妨げる愚民は、死ぬの?」
「奏音さん…どうしたの、キャラ違うよ。」
「むしろあたしが死ぬの!」
「……」
「寝た。レイさん、今の何?」
「俺に聞くんじゃねえよ。」

二人は起き上がり、ぶつけた所をさすった。
特にアルは出血箇所もあり小さく息を吐いた。そこに手を当て、力をこめ治す。
それを見た想良は息と共に言葉を発した。

「それ何回も見てるけどすごいよね。私もやれたら便利だろうなぁ。」
「……」
「俺でもできるぐれえだし…出来るんじゃねえか?
 他人にやってもらってもいいんだけど疲労がな。皆生きるか死ぬかだから大体は自分でやるし。」
「そうなのかぁ。じゃあさ、レイさんの氷みたいなのは?」
「それも練習すりゃあできるようになるさ。特に想良は機転も利くし…まぁ、奏美を起こしてからな。」
「奏音さんもねー。」
「……。」
「?」
「アル君にも後で教えてあげようか。」
「教えんじゃねえ、馬鹿!」
「ね?」
「……」

アルが頷いたのをレイは見た。
勝手に話が進んでいくことに重いものを抱えながらも奏美を揺り動かす。
だが、奏美は一瞬顔を歪めはしたものの寝返りをうってしまった。
なぜこんなに寝覚めが悪いのか、そう想良に問おうと口を開きかけたときある事に気づいた。

「想良…。」
「何?」
「夜…侵入者とか…そういうあれ…。」
「んー、私が分かる限りではないと思うよ。どうして?」
「?」
「こっち来い、じゃあ。」
「何、奏美がどうか…?」

レイの手招きに想良も従った。アルも気になったのか彼女の後ろから顔を覗かせる。
奏美の首元を指差した。薄い輪が首を彩っていた。

「な?…奏美が進入に気づいて、それを気絶させた。だがこれはあまり手馴れてねえよ。
 力任せにやったな。痕にぶれがある…薬盛られたりしてねえよな。今アリーいねえからわざわざ呼ぶの面倒だしよ。」
「……」
「あ、あぁ…。」

奏美を見て、想良は思い出した。
真実を言おうにも今目の前の二人は真剣に対処法を考えている。
犯人は足元で眠りこけているそれだとは思っていないらしい。

「あの…。」
「んだよ、なんか思い出したのかい?」
「……」
「あぁあ顔が、顔が怖い。…あの、奏美の首、でしょ。」
「そうさ。口封じとはいえなぁ…痕残ったらどうすんだ。顔は幸い消えてきたみてえだけどよ。」
「その…奏音さんです。」
「はぁ?」
「…?」
「奏音さんです。」

周りの空気が凍ったのを想良は感じた。二人は想良を見て、奏音を見、そしてまた想良を見た。
二人のシンクロされた動きに想良は内心笑いながらも気を引き締め頷いた。
途端、アルには呆れの色が、レイには怒りの色が見えた。
レイの表情を見たアルはまだ眠っている奏美を抱え、想良の手を取った。
それがなんなのか良く分からないまま導かれるままに部屋を出た数秒後、レイの怒鳴り声と奏音の悲鳴が部屋からあふれ出た。

「あらら…アル君は察知したの?すごいねえ。」
「……」
「…ん、あれ…。」
「奏美、おはよ。」
「おはよ。…うわぁあっ、何で?!アル、下ろして!」
「……」
「ありがと。…なに、どうしたの。何で姉ちゃん怒られ…形勢逆転した。」

だが、軽く目をそらした二人を奏美は不思議そうな目で見つめた。
扉の向こうの声で推し量れるかと耳をつけたが姉の愉しむ声とレイの悲鳴が聞こえただけだった。
後で直接聞こうと決意し扉から身を離した時チリリと首筋に痛みを感じた。
首を触り、昨日の出来事を思い出そうとし、途切れた。

「…想良。」
「なあに?」
「ごめんね、昨日。ウチ少しおかしかった。
 信用しないで自分の意見押し付けて。想良はそんなことしないよね、ごめん。」
「ううん、いいよ。ただそれ向こうの二人にも言ってね。色々哀れだから…特にレイさん。」
「うん…そうだね。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.99 )
   
日時: 2012/04/20 18:31
名前: あづま ID:KcT9yEBw

「ねえねえ。」
「なんだ?」
「最近ソラがいない。なんで?」
「おれにきかないで欲しいなぁ。
 でもいないのはここ三日くらいじゃないか?向こうにも事情があるだろうし。」
「でもさ、お前ちょっと寂しそうじゃん。」
「そりゃあ初めての弟子かもなぁって思ってたから。」
「ふーん…。」

技術者が暮らす家の屋根の上。キルシはラリーと共に抜け出していた。
下から自分を呼ぶ父親の濁ってしまった声を聞いたがそれを風と共に流した。
ラリーは抜け出したことに対し負い目を感じていたがキルシが戻る事を許さない。
子供特有のそれでラリーを縛り付けていた。

「おれ怒られるし戻りたいんだけどなぁ。」
「ラリーは俺の事嫌い?」
「嫌いじゃないよ。でもそろそろ戻らないとさぁ…。」
「駄目、ラリーは俺の子分だ。へへへ…願い、叶うかなぁ。」

そう言ってキルシは左腕に結びつけた色とりどりの輪を眺めた。
鮮やかなそれは白い肌に良く映え、人の目を引き付けさせ離さなかった。
陽を浴び、キラキラと笑顔を輝かせるキルシにラリーは口を開いた。

「それは?」
「ん、ミサンガって言うんだって。なんかこれが自然に切れた時に願いが叶うお守り。ソラから教わった。」
「子供が皆つけてるからなにかなって思ってたけど…そうか。想良もすごいなぁ、色々な事知っている。」
「うん、すごいよなぁ。難しいのも作れるし、俺達にもできるミサンガも作れるし。」
「紙一枚のあれ、あれは未だに失敗するなあ。上手くできるようにはなったんだけど。」
「無理だね。ソラより上手くなれないしソラと同じ位になれないよ。ラリーだしね。
 俺も早く願い叶いたいな…周りみんな切れてる人多いんだよ。」
「おれだしって。…どんな願いが叶ってるんだ?」
「んー…なんか訓練に合格したいとか。頑張って夜練習してる時に切れて、次の日に合格だって。
 いいなぁ、俺滅多に訓練できないし…あの人達いるとなんで出来ないんだろ。」

ラリーは言葉に詰まった。
だが、自分で頭を働かすキルシは気づかなかった。暫く考えるが諦めたように寝そべった。
キルシの鼻を香ばしい草の匂いがくすぐる。

「そういえばキルシは何を願ったんだ?」
「俺?」
「そう。やっぱり一流の技術者?」
「それもあるよ、この黄色。でも一番…ソラに教わって初めて作ったこれ。」

キルシは青いミサンガを指差す。それは一つだけ右腕に結ばれていたものだった。
彼が言った通り初めて作ったものらしく少々不恰好だ。だがよほど頑丈に出来ているらしくまだ切れる様子は無い。
ほつれが多い自分達の服を思い出し、想良という人はどこまでの技術を持っているのだろうとラリーは思った。

「これが一番のお願いのミサンガなんだ。」
「へえ…。どんな願いを?」
「知りたい?」
「まぁ…言いたくないなら、いいけど。」
「へへへ…。」

笑みを浮かべ、キルシはラリーを見た。
キルシにはラリーが何を思うのか分からなかったが、自慢したいという思いがあった。
ただ、焦らしたいという思いもある。
結局自慢したいという方が勝ち、自信満々に答えた。

「母さんと姉ちゃんに会いたい。」
「…それって。」
「うん、もう死んでるのは知ってる。でもさ、俺が一流になって、人を生き返らせるくらいすごい力が使える補助具を作る。
 そうすれば母さんにも姉ちゃんにもまた会えるし、姉ちゃん結婚できる。」
「そっか…。」
「そう!見てろよ、俺が一流になったらラリーは俺の召使な。」
「今でも子分なのに?」
「もっと子分になってもらうよ。まあ…俺よりすごいのになったら俺が子分になってやる!」
「じゃあ頑張らなきゃなぁ。」
「頑張んなよ!ラリーは俺の子分になるんだから!」

二人は笑った。
だが、その笑い声で二人の居場所を感付かれてしまったらしい。
キルシとラリーを呼ぶ怒鳴り声が迫り、二人は困ったように顔を見合わせた。

「なぁ、逃げようよ。」
「……一流になるなら、修行も必要なんじゃ。」
「うっ…父さん、俺ラリーが呼ぶからここにいたんだ!」
「キルシッ?!おれを売るのか?!」
「子分なら親分の身代わりになれよ!」





「……、いや、まじごめんね。でも奏美を心配してくれたのは嬉しいよ。」
「あぁ…。」
「もーむくれないでよー。うん、まじごめん。」
「……。」
「姉ちゃん、なにやった。」
「奏音さんだから性的な方向?それとも性的な暴行?」
「想良ちゃん?!あたしイコール性的などれそれは間違ってる!あたしだって性以外のこと考えたりする!」
「レイのその格好から説得力ない。」
「えー…。」
「……」
「あ、行っちゃうの?ダイアナさんとお仕事かあ。頑張ってね、またねー。」

アルは空気に耐えられなかったのか想良にメモを渡し、部屋から出る。
そのメモにはダイアナとの仕事があるのでもう行くという内容だった。
そういえば彼はトリクシーと入れ違いに去っていったのだと思い出しまだ仕事が終わっていなかったのかと想良は思う。
が、ふと視線の中心に目を向けそういえばレイは月単位で仕事をやるといっていたような記憶も蘇り思い直した。
そして、不満ではあるが空気を共有する。

「まず一個。なんでレイの服が脱げているんですか。はい、姉ちゃん。」
「え、あたし?…なんか眠かったのに起こされた。」
「…そういやアル君の事も蹴ったんでしょ?レイさんと激突したときのあれ。」
「激突…ってもしや二人の身体が重なった系?!」
「まあ、そんなかんじ?」
「うわああああっなぜ起きなかったあたし!グッジョブだけどなぜ寝ていた!」
「姉ちゃん?」
「すいません。」

奏美の剣幕に奏音ですら素直に頭を下げた。
想良はそれを見ながら奏音には姉としてのプライドがどれくらいあるのか考えつつレイの服を回収する。
そしてそれを持ち主の隣に置いた。
その時、レイがほとんど音が聞こえないくらいに鼻をすすったのが分かったが彼の表情は分からなかった。
もごもごと口を奏音は動かし、三人は一向に目が会う事はなかった。

「ねえ奏美…その、あの…。」
「想良、何も言えないんなら黙って。レイも、男でしょ?初めて会った時言ったよね?
 力関係は分かっているかって。本気出して良いよ、姉ちゃんも一回痛い目見ないと分かんないから、絶対。」
「それは惚れた弱みじゃない?…あ、ごめんね。」

奏美の睨み、そしてレイからの殺気のような物が想良を黙らせる。
今、部屋の中にいる中で奏美が一番背が高い。その事実が余計、彼女に威圧感を与えていた。
だが、奏音が口を開く。

「惚れた弱み?んえ、あたしに?レイが?」
「……。」
「あっ…あくまで私の予想だからね、うん。真実はレイからで…、はい。」
「想良はまたそういう事!…、そういうのはウチらが住む世界違うから…無理って。」
「レイさん、どうなの?」
「…嫌いだ。」
「え?」
「嫌いだっつったんだよ!お前みてえな屑な女はよ!」
「…そっか。」
「…そうだ。」

奏音はただ笑みを浮かべていた。
レイの声は怒りに染まっており、三人を睨みつけていた。奏美は突然のそれに驚き唖然とし、想良は黙り俯いた。
三人が言葉を発さないのを良いことにレイは喋り続ける。

「だいたい、俺は言っただろう?積極的な女は嫌いだって。お前ら覚えてるか?」
「…うん。エドさんに言ったんだっけ。」
「お前ら…お前ら全員積極的すぎんだよ!んで結局、奏音の事を好き?
 ふざけてんじゃねえ!なんで俺が滅茶苦茶被害を受けてる奴を好きにならなきゃいけねえんだい、えぇ?」
「ごめん…私調子乗ってたよね。うん…レイさんのこと考えてなかった。本当にごめんなさい。」

そう言って、想良は頭を下げた。
それがレイに伝わるかは全く分からなかったが、それが想良の出来る精一杯の事だった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.100 )
   
日時: 2012/04/20 18:34
名前: あづま ID:KcT9yEBw

「な…なんでそう謝んだよ!」
「なんでって…レイ?なんか疲れてる?」
「奏美も昨日こんな感じだったよ。わんこ、それは想良ちゃん言ったじゃん。悪いと思ったって。」
「…うん。私はレイさんの事考えないで自分が楽しいからってやってた。ごめんなさい。」
「……。」

それ以上、誰も言葉を発さなかった。
レイは自分の服を小脇に抱え、何も言わず部屋から出て行った。
取り残された三人も互いの顔を見ることができなかった。
気まずい沈黙と、鉛のような空気が流れていた。
どれくらいそうしていたか、遠慮がちなノックの音に奏美が返事をした。

「…あの、…。」
「あれ、また新しい子が。」
「……あなたが、えっと…奏音さん?」

少女は奏音を指差しそう言った。
奏音はそれに答えると少女は一礼した後部屋に入り奏音の手を引いた。

「ちょ、何?」
「あの…マティルド様があなたに頼みたいことがって…。」
「…まさかなんか毒薬の実験体になぁれ、とか?」
「それはないです…。あの、ただ御使いって。」
「奏美達じゃ駄目なの?」
「あなたをご指名で…はい。」
「そっか。…行って来やーす…。」

奏音は一歩踏み出したが少女はそれを制した。

「あの…本当に冷え込むんで…あなたも服を持って行って下さい…。」
「え?今日暖かそうじゃん。秋って感じだよ?」
「あき?…とりあえず、日が上れば寒くなりますので…。」
「そうなの?しゃーねーや。」
「待って姉ちゃん、ウチが出すからいじらないで。」

奏美が衣類をつめた棚から適当に服を出し姉に渡す。彼女はそれを腰に巻いた。
だるそうな空気を漂わせながら奏音は少女と共に出て行った。
奏美と想良は顔を見合わせ、ため息をついた。
思いがけないきっかけだったが、緊張した空気が僅かにほぐれたのが分かった。

「どう謝ろう…絶対怒らせちゃったよね。図星だったのかなぁ…。」
「また想良はそう言う…でもウチもなんだかんだ面白そうって思ってたかもしれないし…。
 二人がくっ付けば…うん、姉ちゃんが彼氏とかさ。男好きだけど彼氏までは姉ちゃん今までなかったし。」
「そうなんだ。確かに彼氏とか高校生位からが本番って感じだもんね。」
「確かに。姉ちゃん高校行かないんだもん。二次元が彼氏になっちゃってるからね…。」
「奏美はそうならないようにね。」
「ならないよ。姉ちゃんを反面教師にするからさ。」

互いに少しだけ笑った。
窓からは既に高く上り始めた光源から光が差し、既に涼しくなり始めた日を暖かくした。





「つまり、服を持って来いと。」
「はい…。」
「服くらい自分で持っていけなかったのかねー?」
「今…その、マティルド様とアンリ様で同盟締結の…で。」
「あぁそういう。…あれ、この家っていわゆる補佐じゃないの?」
「補佐です。…だからこそ、で。」
「ふーん、いわゆる下請け的な。でもさ、まだ暖かくない?九月くらい?」
「いきなり冷え込むんです…この地域。ついこの間まで暖かかったのに、っていうのが多くて。
 雪原期が…長くて。暖かいのは本当…二ヶ月あれば良いんです。」
「マジかぁ。じゃあ暖かめの…君は入らないの?」
「私は…一兵士ですから。入れないんです。」
「そう。じゃあ適当に選んでくるよ。」

奏音は少女にそう言い、案内された部屋の中に入って行った。
整頓された部屋の中のほとんどは服が場所を占領しており、奏音は頭を振った。
こんなに量があれば絶対着ない服がある…そう確信を持ちながら見て周った。
どうせなら着なさそうなのを、という心から奥の方にある薄い色の服を持ち出した。
布の厚さも程よくあるが一応上に羽織るものをと袖のない物を引っ張る。
部屋から出ると少女は奏音が最後に見た格好と寸分違わず立っていた。

「それ…!」
「ん?じゃ行こうか。あたしとしてはさっさと用事済まして帰って寝たいから。」
「ぅう…はい……。」

二人は歩みを進めたが、奏音はちらちらと少女が選んだ服を見ているのが気になっていた。
そんなに合わない色だろうかと二つを重ねてみるがそうでもない。
もしかしたら価値観が違うのかもしれないとその視線を解釈した。
エレベーターのような物で下まで下り、外に出た。
奏音には寒いとは感じられなかったが隣の少女の体が心なしか強張った様に感じた。
寒さに対し弱いのだろうと思い、進んでいく少女を追った。

「すご、あれが目的地?なんか大きい。」
「あなたは客人ですから…車のようなものがあれば良かったんですけど。
 …相手国の方が上ですから…万一、それを見られると……察してくださいますか?」
「うん。何威張ってんだこの無礼者ーみたいな感じっしょ。」
「ええ…よかった、分かって貰えて。それから、裏の方を通りますので十分位…です。」
「あいよ。…でもさぁ、ここいら本当に豪華だけどいわゆる一般市民はどうなの?
 あたし普段から篭ってるから分かんないんだよね。」
「私達ほど良い、とは言いません。…でも、それこそ…大国みたいに極端な差がある訳じゃ…。」
「じゃ、極端な差があるね。」
「え……。」

少女は自分が言った事と正反対な事を行った奏音を見た。
自分が言った事を理解してもらえなかったのかともう一度同じ事を言うが返ってきた答えもまた、同じだった。
納得していない少女の顔を見て、奏音は言った。

「君はさ、出身どこ?詳しくなんていらないから、せめて階級とか。」
「私…は元は他国の貴族の娘…です。…祖母の代に没落し、それで、えっと…私を身篭っていた母が……逃げました。
 姉や兄がいたそうですが…おそらく……。貴族の家系…だったからか、こちらで…補佐の家の兵士……です。」
「じゃあつまり一般市民の体験はしてないわけだ。」
「はい…。」
「じゃ、差がある事は間違いない。君が例えばスラム出身だった場合は…もちろん親が、でもね。
 親だったら特にこんな思いさせたくないとか自分を正当化させるためにスラムではこうだったって言うんだよ。」
「はぁ…でも、それが…。」
「つまり、多少なり一般市民の感覚を持つ訳なんだよ。でも君は貴族。一般市民の苦しみなんて分かんないよ。
 だから、あたしは差があると思う。」
「そうなんですか…勉強になります…。」

少女は頷いた。言われる事も尤もだと感じた。
奏音といえば悪くなった道に足を取られ何度か躓き、その度に石を蹴るというのを繰り返していた。
そのまま五分ほど歩き、石造りの門が顔を出す。
深緑の苔と蔓で長い間使われていないように見えるそれを、少女は軽く叩いた。

「…マティルド様の使いです。」
「…入れ。」
「行きましょう…早く。」
「うん…ってそっちが開くの?この門じゃないの?!」

門の隣の小さな囲いが開く。
そこを頭を屈め通ればカメリアの国主が住む所の裏へと出た。
奏音がそれを眺め、景色を脳に焼き付けているうちに少女は先ほどの門兵と話していた。
マティー達がいる階層を聞き、準備の進行具合を予測する。
それからぼんやりと眺めている奏音を引っ張り、中へと入って行った。

「え…やっぱり階段な訳?!」
「あの…あまり大きな声を…。」
「あ、ごめんご。…え、あの飛ぶ奴は?」
「ここでは客人も階段を使うんです…我慢、して?」
「はい。」

少女の言葉に奏音はすばやく頷いた。
なぜ今の今まで不満そうだった奏音が頷いたのか少女には分からなかった。
だが、これで行動に移せると思い嬉しく思った。


階段を上がり、奏音が息切れで煩くなって来た頃に目的の場所へと到着した。
中では十名ほどが会場を設営しており、その中心にマティルドが立っていた。
少女が軽く礼をして入っていくとマティーも気がついたらしい。
場所を適当に任せ、こちらへとやって来た。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.101 )
   
日時: 2012/04/25 18:14
名前: あづま ID:Ees/k.XA

「ありがとう、もう下がっていいわ。」
「はい…失礼、致します。」

少女が部屋から出て行き、それを奏音は目で追った。
マティーは奏音の手の中にあるそれを見て、面白そうな顔をした。
そして発された言葉にも楽しむものが隠れていないのが分かった。

「あらぁ…それ。」
「服。…割りと厚着じゃね?え、あんたこれより寒がりな訳?」
「私は平気よ。というより着るのは私じゃないからねぇ?」
「…アンリちゃんすか。」
「そうよ。あぁ、そこの奥の部屋にいるから…あと、向こうが帰るまで出ないでね。」
「なんで?!」
「向こうにスパイだと思われてひっ捕らえられるわよぉ…厄介者がいなくなるから私としては嬉しいけどねぇ。」
「…あそこの部屋?」
「そう、行ってらっしゃぁい。」

しくじったと思いながら奏音は準備をしている人達に軽く声をかけ、進んでいった。
マティーにしめされた扉を開けると此方では皆かしこまった服を着ていた。
その中ではアリーを探すのは容易な事だったが、声を出すのには幾分か憚られる雰囲気だった。
呼びかけようか一瞬躊躇しているとアリーが気づき、奏音の元へやって来た。

「やっぱり奏音か。あ、ここもう出るよ。」
「そっすか。」
「うん。奏音ってさ…登れるかなぁ?」

アリーが進み、それを奏音も追いかける。
と、勢いをつけたと思ったら壁を駆け上がり通気口のような物の中に入った。
それに奏音が唖然としているとアリーが左手を出した。

「はい、僕に掴まって良いから。」
「いやいやいやいや!え、何メートルよ?」
「んー…2メートル位来て貰えれば引き上げるよ。はい。」
「あのさ、あたしさぼり魔だったよね。ダイアナのあれもほとんど行かなかったのよ。」
「大丈夫、補助ならするから。早く、来られたら困るし寒い。」
「え。」
「はい、飛ぶ!」

仕方ないと奏音が一歩踏み出すと身体がふわりと浮いた。
そのままアリーが奏音の手を取り引っ張る。
通気口の向こう側へと着地すると寒さが波となって襲ってきた。

「……。」
「寒っ!ほんとだ、つかなんで?!」
「僕が何でだよ!よりによって女物!」
「いやなんかどうせなら着なさそうなの持ってこうと思って…。」
「…仕方ない、とっ捕まるよりいいか。あーあ…。」

不満をそのまま表しアリーは袖を通した。
そして部屋の隅に座り腰の武器を磨いていた。

「ねえ、あたしがここいる必要あんの?」
「監視。なんか男狩りに行きそうで僕は怖い。」
「失礼な…ちゃんとわきまえはある!」
「あったら襲わない。レイに突っかからない。以上。」
「ちえー…。」

論破されたように感じ奏音は寝転がった。
すると背中に違和感を感じそれを取り出すと携帯だった。
もしかしたらという期待感で電源を入れようとするがやはりつかない。
意味も無くぱかぱかと開閉するがやがて虚しさを感じやめた。

「それさぁ、似たようなの持ってたよね。」
「ん?あー…何個か持ってるしね。でもダイアナが帰るまでに使い切っちゃったから本来の役目は知らないでしょ。」
「なんだ、気を紛らわすものかと思ってたよ。使い道あるんだ。」
「ありますー。…あ、そういえば。」

奏音はアリーの正面に座った。
そして今でも数個携帯しているうちの一つ…同人用のを取り出した。
壊れても一応サイトのほうにバックアップが取ってあるという保障があるためだ。
バッテリーを抜き取り、アリーに渡す。
アリーは渡されたそれを今しがた磨いていた獲物で斬ろうとするので奏音は慌ててとめた。

「やめて!一応高いんだから!」
「あぁそう…。で、なにこれ。ごみ?」
「この子の命をごみ呼ばわりとか…あのさぁ、それに電気か雷って流せたり?」
「…できなくはないと思うよ?でも僕はそれ得意じゃないんだよ。
 薬作るのに強制的に融合させるのに使うくらいで実戦で使えるほど強いのは無理だよ。エドじゃ駄目なの?」
「エドって火じゃないっけ。」
「一番得意なのが火ってだけ。それ以外にもエドはすごいから平均以上にはできるんじゃないかな。
 僕もできなくはないけど得意なの以外は平均かそれよりちょっと劣るだろうし。」
「で、できる?」
「まぁ…弱くて良いなら。」
「あ、むしろ最初弱くしてさ、そんで駄目そうだったら強くって事で…。」
「弱くね…これ位?」

アリーが奏音の左腕を握る。
何も感じない。そう思った瞬間バチンッという音がして反射的に腕を抜き取る。
何も変わりが無いが確実に痛みを伴う左腕をさすった。

「なに…いってぇんですけど。」
「あぁうん…どれ位かなってさ。」
「一応それより弱めで。」
「はいはい。ここ触れば良いのかな…。」

アリーはぐっとバッテリーを握り、数十秒後奏音に渡した。
それを受け取ったとき、確かなあたたかさを感じた。
充電の終わったときのそれを思い出しすぐさま携帯に入れる。
ボタンを押せば、画面が白くなった。

「やったー!二つ!電源二つただし圏外!つうか三十秒くらいで電源二つ!すごくね?」
「へぇ…どんなのがうつ…っ…。」

何が映っているのか気になったのかアリーも携帯を覗き込んだ。
だが、この携帯は同人用である。
ついたという事に喜ぶ奏音はそれを暫く見せていたが反応が無いアリーを見てはっとした。

「あ。見〜た〜な〜。」
「……否定はしないよ。でも拒絶させて。」
「理解は求めない!でも…染めてあげるから…覚悟しててね、アリーちゃん。」
「なんでよりによってこれに染まるの…架空によってて楽しい?」
「煩い!あたし一応これで食ってるんだからね!
 さぁ見るが良い、わが栄光の数々を!民が平伏し我が栄光を求める様を!」
「見ないよ!」

その後しばらく、見せる見ないの無言の戦いが続いていた。





「そういえば仕事らしい仕事って奏音さん今回が初めて?」
「いやー…あれはおつかいじゃん。しかも保護者同伴…あれじゃないかな、なんとかちゃんお荷物持ってーくらいの。」
「幼稚園くらいだね、そうすると。で、持ったご褒美ってお菓子とか貰うの。」
「あー貰った貰った。ちょっと豪華なの貰うんだよ、お菓子でもチョコとか!」
「チョコくらい普通に貰えないっけ。」
「いやー板チョコ丸々一枚!ウチそれに釣られて手伝い行ってたからさ。」
「そうなんだ…。」
「うん、想良は何貰ってた?」
「えっと…。」

思わぬところで家庭環境の違いが出てきた想良はあせった。
板チョコなどは普通に貰い、むしろご褒美として大袋のものを貰っていた身としては言いづらかった。

「私はおつまみ!」
「え…。」
「ピーナッツとか、アーモンドとか!おいしいよね!」
「あ…うん、おいしいよね。」

咄嗟にあまり好きではなく父にあげていたものを言う。
今でこそ食べる事に抵抗はないが昔はあごが疲れるとごねたものだった。
奏美と想良は妙な空気になったがそれも楽しんだ。

「レイに謝りに行かないとなぁ。ウチもね、やっぱり…。」
「エドさん帰ってきてからじゃあ駄目かな?前…来たばっかりのときだっけ?
 レイさん起こって上行っちゃったけどエドさんが連れてきたんだし…それで補助具貰ったじゃん。」
「いや…あれはレイにも後ろめたい何かがあったんでしょ。今回のはウチらが全面的に悪い。」
「でもレイさんの性格だと気にしてそうだけどね。私がレイさんだったらすごい気にする。」
「ありえなくは無いけど…でも謝らなきゃぁ。」
「んー…どうしようね。レイさんデリケートだもんね、女々しいし。」
「想良ぁ…あんたもう、はぁ。」

奏美は思ったことをずけずけと言う想良に頭を抱えた。
想良は布団のはしを弄びながら、息を吐いた。
この問題はなかなか解決できそうにないというのが二人には分かった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.102 )
   
日時: 2012/04/25 18:23
名前: あづま ID:Ees/k.XA

「あぁ、アル。…そうだな、帰り…か?」
「……」
「誰が来るのか分からないけど…まぁ、同盟締結だし。お偉いさんが来るのは枯葉でも分かる。」
「……」
「あーうん、枯葉は喋んない。比喩だよ、比喩。」

ダイアナとアルは国境付近までやって来た。
出来るだけ丈夫な木の枝に立ち、遠くを望む。
青い木々が風で揺れるが、それ以外は地の果てまで動きはなかった。
空の淡い青と木々の深い色が互いに相手を映えさせている。
そのような景色もただ退屈なだけで、思わず思考を飛ばしかけては戻す。

「……」
「あぁ。分かってる。」
「……」
「私は来たのを知らせに。アルはお手並み拝見に。じゃあ、よろしく。」

ダイアナが枝から飛び降りる。
それを感じたのか、車の周りを囲う兵士が音源にそれぞれの獲物を向けた。
だが、攻撃される様子も無い。
それに息をつき、だが警戒は持ったまま国境に近づいていく。
アルは音を立てぬよう、ゆっくりと時間をかけおりた。
それからゆっくりと、向こうの足音にあわせできるだけの距離を進む。
あと、国境まで数百メートルだろうか。
アルは一団の目の前に踊りだした。

「……」
「なんだ、お前は!」
「……」
「…。間者でしょうか?」

車に一番近い兵士が中の人物に話しかける。
その人物は何か指示したようだが、アルにはそれが分からなかった。
読唇されないよう、口元を何かで隠している。
車の人物が中に隠れた。
風が切られる音が聞こえ、それは身を斬る。

「……」
「避けたか。」
「…、…」

頬に幾筋かの紋様が出来たのをアルは感じた。
そこは熱を帯び、自然と集中力を削ぐ。
だが、削がれたのはあくまで集中力。
次の瞬間には身体が勝手に動き、痛みを置き去りにした。

「……」
「ぐぁっ…!」
「貴様ァッ、わが国に楯突くが何を意味するか分かっているか?!」
「……」

攻撃をする。防がれる、反撃される。防ぐ、そして攻撃。
何度も繰り返すがそこには数の壁があった。
向こうは十人程度が攻撃を続けるがアルはたった一人。
例えこの十人を倒したとしてもまだ車を数十人が守っている。
勝ち目は存在しない。

「っ…。」
「な、お前…殺られたのでは……?」
「いや…っつ…!」
「……」
「あぁっ軍師殿!」

頭を殴られ気を失っていた一人が目を覚まし、仲間は一瞬の油断を生む。
アルはそこをなぎ倒し、力任せに何人かを車にぶつけ、投げ込んだ。
一介の兵士が車に乗れるような人物と場を共にする。
先程中の人物と話していた者の怒号と、兵士の情けない声。
アルは重要人物を直接足蹴にしないのは情けだ、と思い兵士をける。
何かが割れる音がし、兵士が向こう側へ行くのを見届けたアルは屋根の上へと飛び乗った。
そして向こう側へと着地すると身なりが一番良い男を無理矢理起こす。
夕焼け色の髪をしており、どこかプライドが高そうだとアルは思った。
車の上にその人物と共に乗る。ぐらり、車体が揺れた。

「どこの、スパイだ。」
「……」
「口を割らないのは懸命ではない。お前は見たところ腕っ節がある。現に私がこうやってお前に捕まっているんだ。
 雇われてみないか?報酬も出そう、まずはお前が仕えるところを裏切るんだ。」
「……」
「…何か、言ったらどうだ?」

だが、言葉を発さない相手に疑問を持った軍師はその顔を覗き込む。

「そうか、お前。」
「…、…!」
「口が利けないか。成程…。しかも、先天的では無さそうだ。なにか言葉を発そうと口が動いている。」
「軍師殿……。」
「少し待ってくれ。それにリキルシアの兵士が倒れたまま入国と言うのもな。
 冷水とか、そういうのを作り目を覚まさせろ。」
「はぁ…。」

戸惑いがちな部下の言葉を聞き、軍師は目の前の人物を見る。

「何か言いたい事があるか?言って良いぞ。
 信頼を得るにはまずは話を聞き、適切な判断を下さなければならない。さぁ、話してくれ。」
「……」
「どうした?遠慮する事は無い。必要なのは金か?名声か?」

キッと睨んだアルを見て、軍師は笑みを浮かべた。
自らの服をつかむ手に力が加わり、重心がぶれ始めたのを感じさらに愉快になる。

「あぁ、そういえば口が利けなかった。忘れていたよ。」
「……」
「うーん…確かにお前から情報を聞き出すのは無理だろう。だが…。」
「!」
「目は口ほどに物を言う。…聞いた事は無いか?お前は確かに潜入に向いている。
 口が利けないから情報は引き出せない。…二流はね。」

今度はアルが捕獲される番だった。
軍師が自身とアルを結びつける。そして、今度こそ隠そうとも思わずに笑みを浮かべた。

「目を、抉り取ってみようか。」
「!…、…!」
「何を驚いているんだ。目が無ければもう私はお前の感情が分からない。
 それに…声、欲しいだろう。堪えるな…苦しみの叫びかもしれないが…出るかもしれないよ。」
「……!」
「そう、こっちを向いて。目が無ければお前は更に良い潜入が出来るんだ。
 怖がるな…褒めて欲しいだろう。お前はまだ、精神が子供だ。欲しくないか?」
「!!」

顔を背け、自分を突き飛ばそうとした目の前の人物を軍師は笑った。
こんな国境付近で戦えば両国から板ばさみになるのは目に見えている。
それがないという事はこの人物はカメリアの人間。
軍師は拘束を解き、やられたように足蹴にする。
多少は恐怖感でリキルシアの力が大きく知られると良いのだが。
丁寧に脇道に消え、だがその場から離れたいあまりかまっすぐにカメリアに向かう足音を軍師は聞いた。

「そうだな。報告され、対策に慌てる時間くらいあげよう。
 リキルシアは大国だ。余裕が無い、なんて思われないようにゆっくり行こうか。」
「しかし…。」
「あまり急ぐのは良くないからね。気を失った者、しっかりとするまで待とうじゃないか。」

軍師は車の中に戻り、腰を落ち着けた。
先ほど掴まれた所が変に皺になっている。そこを直し、車に投げ入れられた人物が謝るのを聞く。

「軍師様、よろしいのですか。」
「うん?」
「同盟、締結する必要が…?」
「どうだろう。ただ、言えるのは一つ。あの男がカメリアの人間で、独断で動いたのならば同盟は無い。
 それだけだな。資源は魅力だからある程度は譲歩するつもりだよ。」
「しかし…。」
「もういいよ。」

未だ渋る重臣を下がらせる。
軍師はため息をつき、狭い車の中で精一杯背伸びをした。

「私にも、楽しみがあるんだ。」

フェビアンは呟いた。それはフェビアン意外には聞こえなかった。





カメリア領主の館の中では、アルが伝えた物により目に見えて動揺が広がっていた。
その動揺が更に尾鰭をつけ館の中を泳ぎまわる。
そういう事に切り離された空間にいる奏音とアリーの元へもおせっかいに兵士が知らせに来た。

「大丈夫?顔青いよ、見る?」
「奏音は見せなくて良い!」
「あぁ…それで…なんでも…。」
「落ち着いて。ちょっと待って。」

今にも泡を吹き倒れそうな兵士を戒める。
アリーの言葉にすら過剰に反応し、それにため息をついた。

「多分…軍師様だ。来れたのか…そっか。」
「へ?アリーちゃん知り合い?」
「まあね。軍師様は人を動揺させるのが好きなのかな。」
「アリーちゃんも似たようなもんだよね。あたしの事打ったりさ。」
「あーはいはい。女装位ならするから黙ってて。」
「はい、チャック!」

当たり外れは関係ない、動揺を取り除くために口を開く。

「君。」
「ひぃっ!」
「…伝えるんだ。これは相手側の策だ。恐怖を煽る報告をさせ、こちらを怯ませる。
 これなら強気に出ればまず、要求は飲んでしまう。分かる?」
「はい…。」
「だが。今回は力による支配ではなくこちらは資源の提供。あちらは力の提供…かな。そして両国は情報の共有。
 もし、リキルシアがそれこそ最低限の条件しか提示しなかったらどう?リキルシアの好感があがるでしょ。」
「はいっ…。」
「うん。カメリアは外では…言うの嫌だけど領主は国民の言いなり、とも言われている。
 国民がリキルシアに好感を持てば、カメリアもイコールで好感を持つ。それが狙いだと思う。」
「へ…。」
「現状維持とか…笑わせてくれるよ、軍師様。結局はカメリアが欲しいんじゃないか。
 内部からの支配を望む…って事。アルからの報告は無視…心苦しいけどね。」
「はい…では、いって来ます。」
「うん。動揺を取り除くように。」

部屋からさって行く兵士を見送る。
これで一難去ったかとアリーは思ったが肩に手を置かれた。
本能的な予感に固まる。
目が血走り、携帯の画面を見せる奏音に後ずさった。
難はまだ、去っていない。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.103 )
   
日時: 2012/05/03 08:19
名前: あづま ID:K3IWWju6

「お嬢様方、宜しいでしょうか。」
「ミゲルさん!どうしたの、お姉さん?」
「想良…。」
「いえ、姉は元気ですよ。娘も食事を与えていますし今は女性兵が面倒を見てくださっています。」
「そっか、よかったー。」

ミシェルの娘が無事だと聞き、想良はほっとした。
奏美もをそれを聞き同じく安心したのだが、ミゲルの雰囲気に疑問を持つ。
戸惑いを隠しきれていない。
想良もそれを感じ取って、ミゲルに続きを促した。

「その…はじめに耳に入れておこうと思いまして。今、要には動揺が広がっています。
 適切な判断を下せる人間は一人でも多く欲しいですから。」
「え、国家が大混乱?」
「そのような物で…。」
「ウチら足手纏いになるんじゃない?早急に出て行ったほうが…。」
「今はまだ平気です。ただ、これが民に伝わってしまった場合は考えなければならないでしょう。」

ミゲルは伝えられた内容を二人に伝える。
二人には嘘だとしか思えない内容でも、それを口に出せばミゲルはある程度はやってのける。
これを見せられると二人は伝わってきているものは本当だとしか思えなくなった。
だが、想良がふと思い出したように言う。

「それ信じなくて良いかも。」
「へ?想良、今ここでミゲルも出来た事だよ。」
「そうじゃなくって…伝わってるのは噂。ミゲルさんは出来るけどそれが全ての人が出来るものかは私には分からない。」
「……。」
「想良、それはウチらが出来ないだけかも。」
「という事は簡単な、それこそ初歩って事かもよ?そうしたらこんなに…ミゲルさんの話を聞く限り
 慌てるのは変だと思う。どんな大きさかは分からないけど尾鰭がついてる。」

想良の確信を持った言い方に奏美も押し黙る。
ミゲルは真剣な顔で聞いており、想良は続きを話した。

「あのね、内部崩壊のために噂を流すってことがあるんだよ。国をまとめるのはほんの少数。
 でも、領民は少なくとも倍以上でしょ。」
「うん。…で?」
「例えば領民のみが国に対して蜂起したとする。でも、押さえ込まれてしまう。この押さえ込むのは軍隊。」
「そうだね。日本で言うと警察とかかな?軍じゃないけど。」
「でも、この軍隊にも噂が広がれば離反者が出る。そうすると領民にだんだん勝利が傾いていく。」
「へえー…想良、物知り。」
「軍隊も領民だからね。もちろん国を治めている人も。」

想良はからからと笑った。
この状況で笑えるのをミゲルは見て取った。
奏美はただ、想良がもたらすそれに呆然とし感服していた。

「噂ってさ、しかも正反対のは流しちゃ駄目なんだよ。ちょっと考えれば噂をもみ消そうとしてるって分かるし。
 そうすると余裕無いなって余計心は離れてくし最初の噂は噂じゃなくなっちゃう。」
「お見事です。」
「へっ?」
「想良様、貴女ならばどんな時でも冷静に対処できそうですね。」
「そんなこと無いよ、私が知ってた事だっただけ。当たってるかは分かんない。」
「先程まで要は生簀のようになっていました。魚は大きくなり、別の魚も泳ぎだし始めています。」
「そうなんだ。大変じゃない?ウチよく分かんないけど…。」
「平気ですよ。一人の兵士がこの噂の意図を説いていました。正誤は分からない、と前置きしていましたが。」

ミゲルは微笑を見せた。

「今、それに縋るしかないと一気にそれが広まっています。会談の前に落ち着きと余裕がやってくれば良いんですけどね。」
「そっかぁ、すごいね、その兵士さん。」
「いつもは愚鈍な奴なんで誰かが入れ知恵したんでしょう。」
「でも良かったと思うよ。ウチもそういうのだったら縋りたいし。」
「…正反対、じゃないよね?その噂。」
「どうでしょう…?私は又聞きですから…それも尾鰭をなびかせ泳ぎ回っているのに変わりは無いですけどね。」
「あらら…。」

想良は気の抜けた声を出した。
ミゲルはいざとなった時の通路を教え、それを二人に覚えこませるとまだ客人に伝えるといって出て行った。
数分たち、完全にいなくなっただろうという時になり想良が噴き出した。

「絶対!絶対お姉さんのところ行った!ミシェルさんの所!」
「想良…?大丈夫?」
「うん、平気平気。すっごいお姉さん好きなんだねミゲルさん。」
「そりゃ…姉弟だし愛情はあるでしょ。ウチと姉ちゃんもまぁ…うん。ね…。」
「そうなんだぁ。やっぱ一人っ子だと分からないなぁ。」

想良は呟いた。
二人は安心し、場の空気もほぐれ、少し肌寒いのを感じていた。





(成程…結構落ち着いている。だが、完全には拭えなかったようだ…。)
「軍師様、これより会談となります。」
「うん、条件は任せてくれ。悪いようにはしない。」

ここまで来るのに幾度と無くこの館を守る兵士とすれ違ったが、その目には恐怖が残っている者がいた。
単純に大国を相手にするという緊張からもたらされるそれとは種の違うそれ。
もみ消すのには時間が足りなかったのだろうというのと同時にあの男がカメリアの人間と確定する。
それから、なにかしらの伝達方法を持っている。
おそらくは筆談だろうが…無礼を働いたと言って腕を切り落としてしまおうか。
だが、その光景を思い描くとどうも吐き気がする。
最後の扉を守る兵士がそれを解くと、中には小柄な女とそれを守る数人の護衛。
自らの護衛と数を比較し、まあいいだろうと軍師は足を進めた。

「この度は…。」
「その堅苦しい挨拶はいらない。私も長旅でね、早く休みたいんだ。」
「承知いたしました。それでは、こちらがカメリアが求める条件にございます…。」

渡された紙を眺める。
条件は簡単だった。互いの国が攻められたら依頼され次第救援を出す。カメリアは見返りに…もし侵攻が無くとも資源を出す。
そう簡単に資源を提供していいのか。その思いも軍師の手の仲にあるそれを見ると急速にしぼんでいった。
貴重品である紙を使う。これには驚かされたが同時に文明が遅れているとも取れる。
裕福である、ととるか文明が遅れているととるか。
もしくは紙などあふれかえるくらいに文明が進んでいるととるか。
あとでカメリアを検分しようと軍師は心に決めた。

「条件、飲ませて頂きましょう。リキルシアが求めるものは資源と相互の不干渉のみ。」
「承知いたしました。それでは、これに名を…。」

女の後ろに控えていた男が立ち上がり、軍師の前に紙を置く。
ここでも紙を使うか、とそれを眺めた。
筆を執り、条件とともに署名をする。
それを渡し、相手側の紙も受け取った。
確認し、条件に相違が無いがふと目にとまった相手の名が気になった。
全権、ヒチョウ=パベーニュ―――
目の前の人物を見る。パベーニュ、補佐の家のもの。

「この名前は何でしょうか?」
「私の本名にございます。ヒチョウ…そう読みます。」
「ミドルネームか?」
「いいえ。私共の家では通称がミドルネーム。名の所は滅多な事では使いません。」
「そうですか。…それでは、この辺りで。互いに協力して行こう。」

立ち上がり、部屋を後にする。
ヒチョウ…どの国の…どの星の名前なのだろうか。
リキルシアに伝わる歴史を思い出していくがそれのような名はあっただろうか…。

「あぁ、そうか。」
「軍師様?」
「いいや、私の中でのことだ。」

古い時代…リキルシアが出来た直後。
雰囲気こそ違うものの似たよう名なの女がいたのを思い出した。
歴史の波に飲まれ、名と数行の業績が書かれたのみの人物。
同国…もしくはそれに近い国を祖に持つ人物が彼女だろうと目星をつけた。





「ねえ!ねえ!あれが軍師さん?!」
「そうだよ…ねえ下ろして良い?」
「やだ!わりとカッコいいじゃん!王家ってイケメン多いよねー。」
「知らないよ…ねえ僕片付けに行かなきゃなんないし。」
「えーうぉおっ!」

未だ反対し続ける奏音を強制的にに下ろす。
突然の事だったがしっかりと着地した彼女を見てアリーはつまらなく思った。
今度は通気口を通らず正規のルートで向こうに行こうとすると腕をつかまれた。

「いたっ!何…?」
「うわーアリーちゃん手ぇ硬い。やっぱ武器とか握るとそうなるの?」
「離してよもう!」

奏音の手から右腕を引き抜き庇う。
それをどう思ったか分からないが奏音はアリーに抱きついた。

「何!」
「いや…採寸。布もちょうだいね、女装。」
「これ女物だから女装だよ、はいばいばぁっ!」
「スカートじゃない!」
「スカート?いや、僕本当に行かなきゃ。マティーに怒られるから!」

だが、ぎっちりと掴んでいる奏音を引き剥がすのには労力が必要だった。
やっと引き剥がせると思った所に奏音は自分ごと蔓で拘束する。
初めて拘束されたとはいえ、蔓の気色悪さに力が抜けた。
所々についている葉が肌を引っかく。
アリーはため息をつき、少しの辛抱だと身体を奏音に任せた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.104 )
   
日時: 2012/05/03 08:23
名前: あづま ID:K3IWWju6

「はい…終わりだからね、もう。」
「ういっす!アリーちゃん細いねー。ウエストあたしより無いんだねー死ね。」
「奏音が死んでよ。採寸ってこんなに時間かかるっけ?」
「うん、かかる。でも婿は手際良いから短時間だよ。五分くらい。」
「それが普通。ねえ、ミス?採寸するのに身体を触る必要あるかな?」
「触らないと採寸できないじゃん。」
「服の中に手を入れる必要性は?」
「より正しいサイズをはかるのに必要。」
「採寸が終わってても必要?」
「あたしの萌えのために必要。」
「…駄目だ、こりゃあ。」



埒が明かないと判断したアリーは奏音から離れその小部屋から出る。
奏音もそれに従おうとしたが、鼻の先で扉を閉められた。
チィッっと舌打ちをしたがすぐにそれは隠れた。
彼の服に忍ばせた携帯。

「なにっ…!」

壁一枚隔てた向こうで会談が行われている間充電させた携帯を入れて驚愕する。
GPSが機能していない。
なぜ機能していないのか…分からなかった奏音は慌てて部屋から出て、アリーを追った。





「…なんだ、これ。」
「分からないか?スパイめ。これからは私が兄さんを監視する。」
「いや…ここまでついてこなくて良いぞ?」
「それで仲間と連絡を取るわけか。へーぇ、そう。」
「あのなぁ…。」
「私は周りの目を気にしない。男だ女だこの国は関係ない平等な国だ。」
「……。」

マリーが手を振る。
それにつられエドの手も引っ張られ、二人の間には鎖が小さな音を奏でた。
今朝、エドが人の気配に目を覚ませばマリーが彼の枕元で笑っていた。
はっとして起きると右手には鎖が付けられ、それはマリーの左手へと繋がっていた。
頭が回らずそのまま会議の場へと行けば周りの人間には驚かれた。
そして一人が彼に耳打ちをし、この時になってエドはようやく重大さに気づいたのだった。
仲間と連絡を取ることが出来ない。
これはまだいい。もし囚われた場合の手段もあちらとは決めている。

「なあ、気にしないのはそっちの勝手だ。ただお前…分かってるか?」
「何を。」
「お前は男装しているとはいえ女。そして、俺は男。」
「ふん、私を襲うか。いいよ、別に。」
「あのなぁ…もう少し自分の身を大切にするとかないのか?」
「無いよ。」

あっさりと言った彼女にエドは黙った。
返す言葉が見つからず、ただ沈黙が続いていた。
マリーはそれを見て疑問を感じた。

「なにその反応。兄さん、こんなご時勢じゃ身を切って生活しなきゃなんない。
 あんたが浪人だとすれば戦の後に金品盗りに行ったりするだろ…よっぽど高いご身分とプライドが無い限りさ。」
「そうだな…。」
「な?私は女…金を貰うのにそう苦労はしない。ある意味私の戦が。」

二人の間の鎖が音を立てた。

「これだ。」
「……。」
「あの子が…あの子がいる時はやり辛かったけど。本来は、これが私の生き方だ。」

芯の通った強い声でマリーは言った。
そしてエドに微笑みかける。
彼の元へ一歩寄り、そして二人の間には赤が流れた。





「畜生…。」

戦のために使う道具、形だけ置いてあり新品同様の書物。
今使うとしたら小さすぎる武器。
記憶の中に、それを血で汚しながら誇らしげに語っていた兄を思い出した。
やはり殺しは好きなのかと思う。

「おい、入るぞ。」
「…ダイアナ。」
「お前なぁ、少しくらい敬ってくれても良くない?お目付け役だぞ、私。」
「はー…。」

誰が来たのかと顔を上げたものの、それがダイアナだと分かるとレイはすぐに横になった。
その態度を戒めるためにちょいと突いても、返って来たのは小さな呻き声だけだった。
相手側が来た事を伝え、とりあえず部屋に戻って国へ手紙でも書こうと思ったときだった。
見回りの兵士が客人が騒いでいる、と相方に愚痴っているのを耳にした。
なんでもあの三人のほかにレイも混ざっていたという。
詳しい内容こそ聞き損ねたが、その真偽を確かめようと部屋までやってきたのだった。

「どうしたの。あんたがここまで落ち込むって…あれ以来か?」
「知らねえ…関係ないだろ、出てってくれないかい。」
「そうだね、なんでそうなってるのか分かったら出てく。」
「お節介だ!あんたも想良も!なんで俺がここまで苦しまなきゃなんねえのさ!」
「何、想良と喧嘩?あんた年上だろ、少しくらい譲ってやんな。」
「俺は悪くねえ、あいつが勝手に口出して滅茶苦茶にしていきやがったんだ。」

くぐもった声で吐き捨てたレイを見てふっと笑いがこみ上げてきた。
だが、ここで笑うとどうなるか分かっているダイアナはそれを飲み込み、彼を見る。
枕に顔を押し付け、呼吸で僅かに身体が上下する意外には動きが見られない。
刺激してはいけない、と言い聞かせ口を開いた。

「じゃ、私が師として一言言ってくる。何が不満なんだ?」
「別に…。」
「そんなんじゃ駄目。嫌だと思ったら当り散らさないでちゃんと相手に言う。」
「いいよ…別に。あいつ、謝ってきたし。」
「ふーん…要するにお前が許せてないと。頭じゃ分かってても意識が許してくれないか。」
「しらね。」

レイは短く言い切りもう話す事は無いといった雰囲気だ。
大方図星でも疲れたのだろうとダイアナは推測し、そろそろ冷えてくると伝え部屋を出た。
彼の口ぶりからは何が原因か探る事ができず、想良に話を聞きに行こうと歩き出した。


「やあ。」
「わぁっ、ダイアナさん!びっくりした…どうしたの?」
「ん、ちょっと話しようと思って。奏音は?」
「姉ちゃんならお使い行っちゃったよ。」
「そうなの。動かないのに動いたのかぁ。」
「う…姉ちゃんのイメージがとことんニートになってる…。」
「でも奏音さん自称してるし良いんじゃないかな。」
「そうだけどー…やっぱニートはなぁ。」

奏美は姉に付きまとう妙な評価に苦笑した。
家族の中では稼ぎ頭になっているとはいえ真面目にやっている訳ではない。
はっきりと肯定できないがかといって否定も難しいので曖昧に笑っておいた。
ダイアナはニートと言う言葉は良く分からなかったが、ろくでも無い物なのだろうと目処をつけた。

「それでダイアナさん、話って何?奏音さんいないと出来ない?」
「いや、出来ない訳じゃない。まああいつには私が言うか、なんか恐れられてるみたいだけど。」
「あー…。」
「心当たりあるだろ。で、話。レイがなんかぼしゃってるけどなんかやった?」
「あ、それ私かな…。」
「うん、想良がーって言ってたな。」
「やっぱり?あー…もう一回謝りに行かないと…。」

想良が気まずげに顔をそらした。
その目は戸惑いを隠せておらず、罪悪感があるのを見て取れた。

「なにやったの?」
「えーと…レイさんは奏音さんの事好きなんじゃないかなぁって思ってね。
 それでくっついたらいいなぁ、なんて行動したら物凄い傷つけちゃったみたいで。謝らないとなぁ。」
「あぁ…そうなの。」
「あれ、思ったより驚かないの?ウチだったら凄い驚くんだけど。」
「そうだねぇ、でもダイアナさん結構冷静だしカッコいい大人って感じだよね。」
「ありがと、想良。何もでないけど。」
「期待してないですから。」

笑みを浮かべながら言った想良にふと思い当たった。
想良は思ったことを隠さず言う。その割りに奥に隠した心理を言い当てたりする事が多い。
それが彼女の持って生まれた才能なのか分からないがこれが原因だろうと思った。
ダイアナが話しかけないからか目の前で奏美と談笑する想良を見て、
彼女の才能と同時に最大の欠点であろう物を手に取った事が分かった。
自分はもちろんマティーが興味を持ったのも頷けると思い、奏美のそれはなんだろうという探求心が首をあげた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.105 )
   
日時: 2012/05/12 05:08
名前: あづま ID:hC4E5Wt2

「ま、あいつは頭では分かってるみたいだし気にしないでいいよ。」
「え?でもやっぱり私が色々やっちゃったから…。」
「想良…まあ、姉ちゃんと付き合ってもそうそう良い事無いと思うし。
 漫画のモデルやらされたり感想聞かれたり、もし本当に好きなら浮気に耐えなきゃいけないだろうし。」
「あぁ、レイさん潔癖っぽいし浮気なんてされたら死んじゃうかもね。」
「想良…縁起でもない…。」
「まあまあ、他人から見たほうが案外正しい事もあるもんだよ。
 レイだって死にゃあしないだろうけどいつまでたってもぐちぐちしてるだろうなっつうのは予想できる。」
「やっぱりそう思う?レイさんなんか女々しいなぁって思うし。
 あ。そういえばダイアナさんはあの人達とどれくらいの付き合い?なんかえっと…絵、みたんだけど。」

前半に毒を忍ばせつつ話題を切り出した想良に一瞬言葉に詰まる。
言って良いものかと考えるが、想良の隣に奏美を身を乗り出してきたことで逃れられないなと判断した。
といってもいつからというのはあまり覚えていない。

「あーとね…もう十五年前か?うん…多分そんくらい。私の出身国を脱走して…で、ここに流れ着いたってだけ。」
「え?」
「まあ、元が良い国だったからかここに置いて貰ってるけど。」
「そうなんだぁ。でも多少は放浪したんでしょ?私も一人旅ってやってみたいけど怖くてねー。
 ここの世界だと日本で一人旅ってなんでもない気がしてきたけど。」
「想良、ここは自給自足じゃん?日本だったらお金ないと駄目だから辛くない?」
「理想論、理想論。で?」
「でって?」
「だから、放浪中にはどんなことしてたかなって。」

想良の声色からは期待が溢れていた。
先ほどの彼女等の話から言うのには相応しくないのではないかと一瞬躊躇が生まれる。
だが、この世界を知ってもらうには仕方が無いだろうとすぐに結論が出た。
ダイアナが躊躇う必要は無く、それをどう受け取るかは目の前の二人に任せることだった。

「人斬りしてたよ。」
「え…。」
「何驚いてんのさ、奏美。この世界はそういう奴だよ。ま、斬るだけで殺したかどうかは分かんないけど。
 金品盗って、退散。それを闇業に売って生活が主だったなぁ。」
「な…なんか盗賊?」
「あー…まあそんなんかな。で、マティーらの母親…に、斬りかかろうとして逆にやられた訳。
 ただ私が出身国言ったら特別にカメリアに仕えるのを条件に許してもらえたって感じ。」
「や、やっぱりみんな殺すんだ…。」
「……。」

奏美の顔には影が写った。
一瞬のことではあったが、人の生命に関することでは必ず浮かぶ。
想良は奏美とは反対に顔には希望を浮かべ、ダイアナの話に聞き入っていた。
同じように見えて正反対な二人をダイアナは見た。

「奏美、ショックな事かもしれないけどよく聞いて。この世界はみんな、それこそ小さい頃に死なない限り殺人をする。
 よっぽど上流階級の人…戦に出ない人でもだよ。」
「うん…。」
「私は脱走して生きる為に初めて人を斬った。十二歳だったと思う。…奏美と想良と同じくらいだね。」
「じゃあ…あの、他の人も……。」
「そう。エドは八歳、レイは…十六だったかな。アリーは八歳、マティーは九歳。」
「あれ、エドさんも八歳だったんだ。」
「想良は知ってたの?」
「知ってたっていうか…エドさんがアリーが初めて人を殺したのは八歳くらいだよって。」
「そうなの。どういう脈略でそうなったかはいいけど…。」

浮かない顔をしたままの奏美に苦笑し、ダイアナは部屋を後にした。





「あんれぇー?」
「どこの者だ、お前。」
「いや、この縄は?」
「言ってくれ、お前はどこの人間だ。」
「へー…?」
「間者、か?そうなのか?」
「あの…そういう目で見てもね、君既にあたしを縛ってるよね。」

アリーを見失い、勘のみを頼りに歩いていた奏音は突如、捕えられた。
部屋に引き込まれ、何かがはじけるような音と次の瞬間には後ろ手に縄で縛られていた。
腕を軽く動かすだけ重く感じるそれをただ憂鬱に見ていた。

「スパイ…なんだろ!」
「あたしは違うと思うけど。一応、あそこ…ま、マティ…マティルド?の所にいるし…。」
「パベーニュか?」
「なにそれ。いやよく分かんないけど。」
「茶色い髪の女…ここで条約を結んだ女のところか?」
「あぁ、うん。マテーちゃん。」
「そういう呼ばれ方は初めて聞いた。…失礼をした、解くよ。」

目の前の青年は奏音の後ろに…という事はせず指を鳴らした。
すると今の今まで奏音の腕を拘束していた縄が生を失ったように解ける。
それで先程のはじける様な音はこれだったのかと奏音は納得した。
血が止められていた事により少し痺れが残る腕を軽く振り、奏音は青年を初めてじっくりと見た。
今まで…こちらの世界に来てから、多くの人と出会ったと思うが彼は誰にも似ていないようだった。
ただ、整頓されながらも高貴なものを漂わすその部屋。
そして栄養が行き渡っていると見える彼の身体から、一般市民ではないだろうというのが窺えた。

「えと、君は誰すか。」
「僕…か。なんだろうね、僕は僕…てしか言えない。」
「いや…名前とかさ。」
「名前なんて無いよ、僕は人でいられないから。」
「はいぃ?」
「そ、そんな顔しないで!本当なんだ、仕方ないんだ!」

人でいられないという意外な発言に思わず奏音は凄むような声を出してしまう。
それに青年は過剰に反応し、つい先ほどまでの健康そうな顔色から一気に青白くなってしまった。
自然な動作ではあるものの、倒れないようにとテーブルに添えた手が震えている。

「いやま、訳有りってことでいいけどさ。」
「そ、そう…?よかった、信じてもらえないって思ったよ。」
「そう?まああたしが疑った所で嘘を見破れないと思うしさ。」
「ふーん…あ、あ…。」
「ちょ、ちょちょちょ!大丈夫?」

緊張の糸が途切れたのか青年は膝から崩れ落ちた。
奏音が助け起こそうとするも腰が抜けてしまったのか立つ事は出来なかった。

「仕方ないなぁ、君細いし平気っしょ。」
「え?何?」
「失礼〜。」
「なに、な、うわああ!」

青年を抱え、一番近くにあったのがベッドだったのでそこに下ろす。
とりあえず一仕事終えたと一息ついた奏音が顔を覗くと、青年は顔を背けた。
だが、一瞬とはいえ見えた顔に奏音は愕然とする。
頬は赤く染まっており、目には涙を浮かべていたのだ。
なぜそうなってしまったのか理解できない奏音はその場に立ち尽くしていた。

「…の。」
「はい?てか何そのはんの」
「無礼者!僕が、僕が何者か知っててやってるのか?知らないでやってるのか?」
「えー?」
「僕がいつ女を、っ!いつ嫁が欲しいと言った?」
「はい?」
「大体!僕はもう嫌なんだ!…っ、その身体で…おと、男を!」
「あー…?」
「何人?!」
「いや…まじ何?あ、シャメ…いや、動画かな。」
「ぎゃあああぁぁぁぁ!」

青年が叫んだのと、何かの小瓶を倒したのと奏音が構えた携帯から電子音が鳴ったのは同時だった。
画面の中でがくがくと震えている青年が映っている。
じわじわと色が変わっていく布団とその原因を作った青年を同時に映しながら奏音は口を開いた。

「大丈夫?それ、着替え…。」
「うるさい…いや…僕は死にたくないんだ……。」
「いや、殺さないですけど。いや、ホント着替え平気?」
「え…僕を、殺さないのか?」
「いやだって殺す理由ないし。」
「本当か…?よか、あぁ…ぅぁ……。」
「泣かれるとか…あたしどんだけ男に泣かれてんの?いや、泣かしてるのか?」

言葉になっていない物をもらしながら顔を覆っていた手を下ろした。
奏音は布団を濡らし、もう空になってしまった小瓶を立てた。
それを目の端で見ていた青年は初めて自分の惨状に気付き、顔を伏せた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.106 )
   
日時: 2012/05/12 05:12
名前: あづま ID:hC4E5Wt2

「な…!」
「お前がスパイだっていうのは…間違いなかったのかもな。」
「だっ、だったら庇わなくって良いだろ!」
「庇う庇わないじゃなくて身体が勝手に動いてしまったんだ。」
「そ、そんな…。」
「何失望しているんだ?俺が殺されれば良かったか?」
「……。」

マリーが歯を噛み合わせ音を鳴らした瞬間、どこからともなく男が現れた。
エドは無意識のうちに彼女を引き寄せ、もう一方の腕で男の首の辺りをえぐった。
最期の鼓動と連動し吹き出した血が二人の全身を染め上げ、男自身は地に倒れた。
斬られた事により筋肉が縮み、白い骨が肉の間から覗いていた。

「罪人か?焼印だろうな、斬ってしまって分からないが。」
「うわ…。」
「金目のものはないな…手付金…あぁ、酒の匂いだ。使い尽くしたか、こいつは。」
「……。」
「ははは、血まみれだな。お前も、俺も。後で掃除してもらわないとなぁ。」
「…おい!」
「マリー、俺は浪人だ。金は必要なんだよ。」
「…そうか。」

自分が言ったことを元に言葉を返され、マリーは口を閉じた。
一方エドは、未だ温もりの残るその躯を見ていた。
ガサガサとした肌、爪の剥がれた太く逞しかっただろう事が予想される指。
それを溢れ出た血に浸し、口に含んでみた。

「セルジュ…変わっているな。血が好きなのか?」
「あぁ、弟に言われた事があるよ。血が好きっていうか、戦って殺すのが好きなんだ。
 だから…間接的には血が好きだろうな。」
「そうか。そういう奴、たまに居るよな。」
「でも純粋に好きっていうのはあまりいないだろうなぁ。俺の近かった人もそうだ、自分に言い聞かせてやってるよ。
 俺は戦争に出て好きなんだなって自覚した。」
「近かった人?」
「同僚みたいなものだ。あとこう、殺した奴の身体のどこかでそいつの血をなめる癖も直したいんだよなぁ。
 良い方法知らないか?いつのまにかついてしまって直せないんだ。」
「ただ単にしなけりゃいいだろ。」
「しないと身体がうずいてな…戦った後だから特に。」

エドの口調に恐怖を感じマリーは下がった。
だが、自らが結びつけたそれでそう遠くに行く事は叶わなかった。
ピンと張り詰めた鎖がだんだんと下がっていき、ついに床についた。

「要するに。」
「…。」
「お前は女だ。」
「……どういう意味。」
「分かるだろ?俺の理解が正しければお前はそうやって暮らしていたんだ。」

マリーが後悔する間もなく、視界が塞がれた。
助けを求めようと口を開けばそれも難なく塞がれる。
数拍の後、塞がれていたそれが無くなりマリーは咳き込みながら自ら繋いだ人物を見た。
とんでもない狂犬を繋いでしまった―――

「マリー、俺は血が好きだ。」
「……。」
「俺が好きなものを、お前は全身に纏っているな。」
「…ぅ。」
「まあ、俺がつけたんだけど。」

逃げられない、本能で実感した。





「まったくもう…どこ行っちゃったのよぉ。」
「知らないよ…。」
「あんたがいけないんでしょう?さっさと見つけてちょうだい?」
「はー…帰ったんじゃない?」
「だったらいいけどね?奏音よぉ、絶対何か起こすわぁ。」
「まあ、否定は出来ない…。」
「だから、探してらっしゃい。」
「えー…僕がぁ?」

アリーは不満気な声を出した。
彼の顔にはどんな鈍感な人でも見て取れるほどの影がかかっていた。
周囲で場の片づけをしていたカメリアの兵士が気の毒そうに頭を下げた。
それをマティーは見下したように鼻を鳴らし、短く吐き捨てた。

「行け。」
「人使い荒いなぁ。マティーらしいといえばそうだけど…ま、僕らの上になるもんね。」
「そう、ね。さあ行って、見つけたら半日くらいは暇をあげるわよ。」
「そ、でも軍師様の所に行かなきゃなんないから休みは無いね。」
「……。」
「あ、あとジルの所に人を当てて欲しいなぁ。僕もあそこから見てはみるけど、宜しく。」
「…行きなさい、さっさと。」

背中を向け、居なくなった奏音を探しに行くアリーを目で追った。
それからあらかた終わった片付けを眺め、終わったら各自戻るように声をかけ、
マティー自身は一人で自らの部屋に戻るため踏み出した。


「……嘘ぉ。」

人気の無い、それは表面だけ見た場合の廊下。
先程潜り込んでいた小部屋から道を間違えた場合に行ってしまいそうな場所を一通り歩いた。
そして、違っていて欲しいという願いを見事に打ち砕く声が僅かに響いている。
ため息をつき、いかに潜り抜けるかを組み立てながら扉を軽く打った。途端、中の声が聞こえなくなる。

「入れ。」
「…失礼致します。」

静かに頭を下げながら扉を開け、部屋に入った。
ばれない様に、と一瞬上を見れば声の主、そして奏音が居る。
面倒な事になった、と口の中で呟いた。

「あれ、アリーちゃん。どったん?」
「まずは失礼をお許しください。監視が行き届かず、貴方様にご迷惑をおかけした事をお詫び申し上げます。」
「構わないって…僕だって退屈なんだから。楽しかった。」
「…このものに処罰は?」
「しょば、処罰?!なんであたしが?」
「……。」
「な、なんかごめん…。」

処罰と言う言葉に抗議しようと口を開いた奏音も、アリーの顔を見て口を閉じた。
いいから黙っていろ、という雰囲気が手に取るように分かった。
奏音は自分と並んで椅子に座る青年を見、アリーを見た。
言葉遣いからアリーの方が下なのだろうという事は分かったがそれ以上の関係性は見えなかった。

「そんな事しなくていいよ、僕は楽しかった。
 アリー、僕を楽しませてくれた人に処罰を求めるなら君がそれを代わりに受けるんだよ。」
「…承知しました。奏音、もう帰るんだ。」
「まじで?そっか、じゃあ君!またねー。」
「うん…会えるって信じてる。」

部屋を後にし、静まり返った廊下を進んでいく。
奏音は声をかけようと口を開くが、言葉が出てくる前にアリーに睨まれ黙っていた。
見るからにして不機嫌であり、かける言葉が見つからない。
扉の前や、通路が交差している所に立つ兵士が礼をするのを何度か見送った。

「奏音…。」
「あ、喋って良い系?」
「はー…君って本当、取りあえず寒いから歩きながらね。」
「おっけおっけー。」

あの裏口からではなく、今度は少しではあるが手入れの行き届いた戸から外に出る。
話すと入ったもののそのまま進んでいくアリーに慌てて奏音は声をかけた。

「ねえ、怒ってるっしょ。居なくなったのは悪かったけどさぁ?
 携帯のGPSは使えないしあたしあそこよく分かんないし。似たような部屋ばっかりだったんだよ。」
「別にいいよ、それは。置いていったのもある意味僕の責任だし。そうじゃなくってね。」
「何さぁ…。」

アリーが歩みを止めた。
そのため後をついていった奏音が数歩前に出ることになった。
アリーは奏音を見上げ、あきれの混じった声で言う。

「あの人は国主だ。」
「え。」
「このカメリアを治めている人物…まあ、ほとんどの政治は隠居した父親がやってるらしいけど。
 でも、二代そろって表立った戦を嫌って…。」
「そ、そうすか…え、つまりあたしは王族と話してたって事?」
「話すだけならあの人は穏健だし良いよ。許してくれると思うしね。
 絶対、なんかやったでしょ。せくはら?だっけか、レイとかにもやってるよね、ミス。」
「うぅ…いや、あたしの発作というか…。」
「……。」

一瞥を与え、ため息をついてからアリーは歩き出した。
そして三人が世話になっている塔が見えると、振り返った。

「帰れるよね。」
「そりゃ、見えるし。え、アリーちゃん来ない系?」
「僕はまだやる事があるからね。じゃ。」

そう言い、一歩下がると目の前にはつむじ風が吹き上がった。
今回は外なので砂を巻き込み、痛みに奏音は目をつぶった。
風がおさまり、彼女が目を開けるとアリーはおらず、ただ塔が静かに立っているだけだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.107 )
   
日時: 2012/05/19 02:33
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

身体が重い。
そう感じ、マリーは意識を取り戻した。
記憶を辿り、あの仲間が殺されセルジュと名乗る男が…と順を追って思い出した。
まだ、完全に意識が覚醒しないのを見るとどうやら薬でも盛られたらしい。
必死に瞼を上げるも、すぐに閉じてしまう。

「…っ。」
「起きたぞ。我等に説明してもらおう。」
「……。」

先手を取られた。
この自覚を持った瞬間、意識が一気に覚醒していく。
身体は柱に縛られ、衣類もほんの情け程度にしか身に付けていない。
多少体を動かせば、うっ血しているのが分かった。
そして、足元には盥が置かれている。
どれ位、意識を失っていたのだろう―――
その疑問を汲み取ったのか後ろから声がした。

「だいたい半日だな。お前、本当にそうやって生きていたのか?」
「セルジュ…!貴様…!」
「お前がスパイ。それは揺ぎ無いだろう。隠していた秘密の文書…上手い所に隠していたな。」
「……。」
「さすが女だ。」

マリーの後ろの人物はどのような格好をしているのか分からない。
自分と同じく縛られているのを望んだが、縄は明らかに自分のを縛っているのみだ。
いつまでも後ろを気にしては仕方がないと、正面…正確には俯くような形でこの国の面々を見る。
どの人物の顔にも憎悪と困惑が見て取れた。

「マリー…どこの人間だ。」
「…言うか。馬鹿。」
「我等を裏切ればどうなるか。分かっているか?」
「さあね。でもこれで、あんたらみたいなお間抜けなお人好しにも危機感が出たんじゃないか?」
「俺たちは裏切りを予想していなかった。」
「故に我等は罰を持たない…。」

その発言を聞き、マリーはほっと胸をなでおろした。
自然と、唇には微笑が浮かぶ。
だが、それも続けられた言葉によっていとも簡単に崩れ去った。

「だが、たった今。罰則の必要を認め、かつこれ以上の犠牲を出さないためにもお前には刑を与える。」
「そうか…ふーん。」
「なんでも、ウシザキ…と言うとか。」
「ウシザキ?」

聞いたことの無い名にマリーも聞き返す。
だが、当の本人もこの内容を知らないらしい。
ここに集まっている人も知っている人間は居ないようで、皆が顔を見合わせた。
刑を宣告した人間は、自分の発言に対し助けを求めるような目をしていた。

「簡単に言うとだ。四肢を四頭の動物に結びつけそいつらを別の方向に走らせる。
 そうすると身体は耐えられなくなって…と言う事だ。」
「つ、つまり死刑…という事で?」
「ああ。こんな人をもう出したくないだろう?だったら初めの人間の罰を重くするんだ。」
「死刑…そ、そんな…!私が…?」

マリーの絶望した声と、周囲の動揺。
エドだけが何にも動じず、彼等の反応を楽しんでいた。

「セルジュさん、それは重すぎるよ。」
「そうか?その比較はどこから出てきたんだ?」
「ほかでは…そう、殺しまでは無いような…。」
「よそはよそ、うちはうちだ。それに他国のスパイとなればまずは死刑だ。執行は…一週間以内でどうだろう。
 今すぐでは早すぎるし、かといって長く縛っていたのでは脱出してしまうだろうからな。」

爽やかに言い放ち、エドは立ち上がった。
それが合図といわんばかりに周りの衆も立ち上がり部屋を後にする。
刑の重さに多少、気の負い目を感じている人間も居るようだがそれもやがて押されてしまうだろう。
マリーは後悔した。
スパイだ、と気付いていてもあまり大っぴらに言わなければ良かったと。
一見、何も考えていないように見えるが残虐な事に関しては頭が回っている。
味方に引き入れれば…と既に遅いそれを頭から追い出した。

「後悔しているか?」
「別に…。」
「そうか。まあ、お前は脅威だったかもしれない。」

意味深な事を言い残し、マリーの死を宣言した男は出て行った。
こんな短期間であの男はこの国を掌握してしまった。
指揮をとり、民衆の支持を得た今までの苦労。全ては、国のためだった。
国の正しさを信じ、殺した人間。
あの小さな少年も思い出され、自分は意外と人に依存していると理解した。

「馬鹿みたい…。」

雫が頬を伝い、どこかに落ちていった。





「たでーま!」
「お帰りなさーい、どうだった?」
「想良、頼むからベッド直してよ!」
「あーはいはい。」
「なにしたし。」

アリーと別れ、自分達が与えられた部屋にまっすぐと帰ってきた奏音は部屋の中の様子を見て戸惑った。
明らかに何かあったと語っている。
ベッドは布団が引き摺り下ろされ、それを奏美が元に直そうと四苦八苦していた。
ただ、枕は無残に切り刻まれ隅の方に寄せられている。
そして真ん中には一人の少女。

「誰。」
「あれ久しぶり。忘れた?」
「いやあんた…えー?」
「奏美は会ってないらしいんだけどね。ここに来たばかりの頃奏音さん会わなかった?」
「えー待って思い出すわ。」
「想良、そっち持って。重い、この布団。無駄に大きい。」
「柔らかかったけどねー。あ、私は試験のときにレイさんを呼びに行ったじゃん。
 あの時に会ったんだよね、確か。」
「こっちは分かんないよ。でもあなた来たばかりだったよね。」
「そうそう。」
「いやだから名前。」

手は動かしつつも談笑を続ける想良と少女を見て奏音は口を開いた。

「ごめんね、名乗れない。でもあんたと会ったのは確実だからね?」
「そすか。」
「で、存在こそ知ってたけど会えなかった君もよろしく。」
「あ、はい。」

突如話を振られた奏美も戸惑いがちに頷く。
大体部屋が掃除された頃になると少女は立ち上がった。
そして腰の鞘に投げ出してあった剣を戻す。

「こっちは味方だからね。でも凄かったよ、手を抜くように言われなきゃ本気でかかってた。」
「……。」
「ありがとう…?」
「うん、稽古位なら二人でも出来るだろうし頑張ってね。それからお仕事に関して。
 会えなかった君と、寝ていたあなた。」
「あ、もうなの?」
「そーそー。」

肩にかけていた布で頭を覆い、顔だけを見せたまま少女は振り向いた。
そこで奏音はふと、目の前の人物を思い出した。
確か、飛び降り自殺をしたのかと思った人物である。
ただその後すぐに眠ってしまい、夢と現実の境界が分からなくなったためすっかりと忘れていた。

「だいたい五日後。それまでには準備を終わらせておく事。でも武器はある程度向こうで配られるから。」
「え、じゃあほぼいらない?あたし遊べるフラグ?」
「こっちは分からない。でも支障が出ないくらいで良いんじゃ?
 それからレイにはあの覆面は味方だっていっておいて。探るつもりみたいだし面倒だから。」
「えー?信じてくれないんじゃない?」
「信じ込ませるのが技量。あのお方は潜入からの仕事だから疑り深い。だからこそ、かな。
 頑張って、出来るように祈っておくよ。」

そう言い、行きがけに枕を手に取り奏音に渡す。
奏音が受け取ったそれは綺麗に修復されており、それを呆然と見つめた。
扉が閉まる音で顔を上げると、当たり前だがそこには誰もいなかった。

「凄い、簡単に直しちゃった。」
「はー…ウチらのあれは何のために…どう謝るか考えてたのにさー。」
「いいじゃん、無事に済んだんならもう忘れよ。
 それで奏音さん、どうだった?結構遅かったし楽しんできたのかなって思ったけど。」
「別になにもないかなぁ。あ、マテーちゃんがヒチョウって名前だったって事くらいかね。」
「ヒチョウ?ウチらは偽名教えられてたって事?」
「なんつったっけ…マティルドがミドルネームらしいよ。あ、あと取引先の男の人をいじりたい。
 で、国主の人と話した。」
「えぇ?!姉ちゃん、縛り首?」
「いやー…せめて禁固位じゃない?よっぽど無礼な事して無かったらいずれ許されるよ。」
「なんであたしが?!」
「それだけ信用してるんだよ、奏音さんの変態具合を。」
「……。」
「酷え…。」
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.108 )
   
日時: 2012/05/19 02:35
名前: あづま ID:CQ5RuU2c

「お嬢様方…。」
「だーかーらー!携帯いらないでしょ?それとこれも!戦場で何する気?!」
「何って何に決まってんでしょーが!ほら、商品説明ご覧なさぁ〜い。」
「姉ちゃああんっ!」
「あの…。」
「気にしないでー、いっつもこんなだから。でも仲良いんだよ。」
「同行する隊の者が荷物を預かりますので…。」
「ほら人見姉妹、ミゲルさん困ってるから。」
「……。」
「…馬鹿姉。」

もう姉妹の出発が明日に迫った夜。
朝、未だ荷造りを終えていなかった奏音を手伝おうとしたのが始まりだった。
携帯をアリーに持っていかれたままなので朝食を終えるや否や探し回り、見つかったのは昼食時。
一応全ての携帯を充電してもらい再び歩き出す。
と思いきや脇道にそれレイにちょっかいを出しにいく姉を止める。
氷を落とされ、奏音が気絶しやる気も消えうせ夕食へ。
そして空に星が輝いている今、二人は喧嘩している。

「持っていくものは最低限で構いませんから、奏美様もそんなに持たないで大丈夫ですよ。」
「えっ、でも戦いでしょ?」
「あなた方は自衛する事が最優先です。他にもありますがそれは向こうで分かるはずですから。」
「…そういえばあの時も鎧とクナイ位だったなぁ。」
「ええ、いざとなったら作り出せば良いのですから。
 荷物はそれくらいで構いませんよ、余程持って行きたいと思うもの以外はいりませんので。」
「あーそれ生身で持ってくのは…まいいか…。」
「ではなにか子袋に入れておきますよ。もう持って行って良いでしょうか?」
「あーうん、ウチは良いよ。姉ちゃんも良いんじゃない?」
「おっけーよ、あたしはそれあれば良いし。使うか分かんないけどさ。」
「分かりました。明日は誰かしらが起こしに参りますので身体を休めてください。それでは、お休みなさいませ。」

腰のベルトから丸い輪を取り出し、それに荷物を乗せるとふわりと浮いた。
ミゲルは一礼し、戸を静かに閉めて出て行った。
奏美は早々布団に潜り込んだが、想良と奏音は談笑する。

「でもさ、奏音さんは寝なくて良いの?緊張して眠れないとか?」
「いや?移動時間に寝れるだろうしまだ眠くないし。緊張もないし。」
「そうなんだ。私もそういえば緊張してなかったかなぁ、ただ忙しかった。
 まあ、みんな演技だったっていうからビックリだし素直に凄いって思うなあ。」
「ふーん、あたしは一回しかあそこ行ってないから良く分からんけどそんなに凄いのか。」
「うん、全然演技って感じがしないんだよ。ドラマでもさ、子供だとちょっと演技だなぁってなるでしょ?
 あれが全然無いの。」
「へー…。うーん、俳優がやる声優みてーなもんかな?」
「それは分かんないや…。」
「じゃあ漫画の実写化かな、まあいいわ。」

話を打ち切った奏音は携帯をいじりだした。
電話は通じず、ネットもテレビも出来ないのでまだ電源が生きていた時代に取り溜めたムービーを見るのが主だった。
想良もそれをわきから覗き、他愛の無いそれに感想をしばらく述べたりしていた。

「どはぁっ!」
「奏音さ、アリー?」
「やあ、君は早く寝なよ。任務開始は五時間後、集合は三時間半後。歩きだから寝れないよ。」
「えっ…。」
「はい、ミスは寝るように。で、想良は来てくれる?」
「いいけど…。」
「はい決まり。…眠く無さそうだし睡眠剤打とうか。」
「いいよ、寝ようと思えば…刺した?!」
「はい横になって。じゃあね、想良は借りるよ。」
「ちょー…うぁ、やべ…。」

どさりと倒れた奏音をアリーは片手でベッドに放り投げる。
片手がはみ出て揺れているが、それを直すでもなく想良の腕をつかみ部屋を出て行った。





「全くどうした訳?」
「……」
「あんたが怯えるって。マティルド、心当たり無いか?」
「ある訳無いじゃないの。私は同盟締結のもろもろやってたのよぉ?
 こいつが内通っていうのは考え辛いけどこの怯えようだと心配ねえ。ちゃんと軍を壊滅してくれるのかしら?」
「……」
「…了承したのはアルベール…あなたなのを忘れないで頂戴。どうしても駄目なら敵の目の前で自刃なさい。」
「おいマティルド!」
「いいじゃないのよ…そもそも彼はどこの人間な訳?本当に喋らないの?」
「それは…分からないけど。」

明かりは小さなものがひとつ。
薄暗い部屋の中、声を低くした女性二人が額をつき合わせている。
部屋の隅では背の高い男が顔を覆い座り込んでいた。
大きな体をできるだけ小さくしようとしているのか、その様子は他の二人との比較で滑稽に見えた。

「アルベール…あなたを置いているのはカメリアじゃない。パベーニュの…私達の当主が見初めて下さったからよ。
 あなたは口を割らない、文字を書けない。表情も無いに等しかったわ…少なくても私にはそう見えてた。」
「……」
「訓練を受けてから、必要最低限の文字は覚えていった。交流は避けられないから自然と表情が出るようになったわね?」
「マティルド…。」
「ダイアナ、黙っていて頂戴。これは私の問題…いいえ、家の問題に発展しかねないわ。」

そう言ってダイアナを見上げたマティルドの目には確かな光が宿っていた。
私を殺し、公の為の決断を下そうとしている。
王族であり国の実権を持つ環境の中で育ったダイアナはそれの強さを見て取り、一歩下がった。
それは不干渉の意を表すのに十分な態度だった。

「身長や全く声を出さないという特徴。あなたが覚えられる要素は腐るほどあるわ。
 あんたを元に他国から戦を仕掛けられないなんて言えない。でも、あなたを手放さなかったのは分かる…?」
「……」
「反応をしない?ふん、あんたもどっかの王族、少なくても貴族でしょう。分からない筈無いじゃない。
 利があった…たったそれだけ。」
「……」
「もう務めを果たせないならあなたを養うほどゆとりは無いわ。自分の元の国名くらい分かるでしょう?
 戻りなさい、私たちは追わないし探らないわ。」

アルは顔を上げた。
マティーは自分を蔑む様な目で見ている。それから笑みを浮かべ一歩左へと行った。
部屋の出口となる扉が視界に入り思わず視線をそらす。
ダイアナを見れば、多少眉間に皺はよっているものの目を閉じ不干渉を表していた。
立ち上がり、自らよりかなり下にある、だが見上げずに入られない顔を見つめた。

「……」
「何かしら?察しなさい、そうしたら楽になるんじゃないかしら。」
「…」
「ダイアナ、別れの挨拶位してあげたら?」
「…。どこかで、会おう。敵か味方か…分からないけど。」

ダイアナの言葉をアルは何の表情も見せず聞いていた。
意味を理解するのに時間がかかったか、それとも引き止めて欲しいと思っていたのか暫く佇んでいた。
だが、諦めたのかため息をつきドアノブへと手をかけた。
しかし次の瞬間その手はドアノブを離れ、後ろへと引かれる。

「本当にお馬鹿さんねぇ。私が言ったのが分からなかったかしらぁ?」
「……」
「あんたは家の秘密を知らないとも限らないの。ふふっ、目よ、目。
 あんた今驚いてるし恐怖、それにちょっとした安心感もあるわねえ…面白いわぁ、矛盾してる。」
「…!」
「何、なんかまずい事言ったかしら。あんたを逃がすんだったら目を潰して、脅威にならないように手も足も無くさないと。
 あら、目が大事なようねぇ…大丈夫よ、取らないわぁ。逃げない限り、ね。…ダイアナ。」
「はいはい…。心苦しいけど、アル。リキルシアにはお前がこの国の人間だってばれてる。
 お前の報告が兵を恐怖に陥れたんだ。…どっかの一般兵が話を流したことで多少の落ち着きを取り戻したけど。」
「……」
「そんでお前が向こうの…全権の方に恐怖感を持った以上、な。牢獄行き…これでも譲歩しているんだ。
 ここの普通なら斬首だよ…そんだけ、アル。お前を評価してんだ。」
「ダイアナ。」
「分かってるよ…ったく。つう訳で…な。」

牢獄という言葉で一瞬動揺を見せたアルも大人しくダイアナに引かれていった。
マティーは部屋に一人残り、全ての力を使い果たしたとでもいうように椅子に倒れこんだ。
それからもう時間が差し迫った出発の道筋を頭の中で組み立てて言った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.109 )
   
日時: 2012/05/26 09:13
名前: あづま ID:IcGxi/EE

「ねえねえ、もう夜だしどうしたの?」
「…星、綺麗だよね。」
「そうだねー、日本だとこんなに見えないし。で?」
「……。」
「ていうか私じゃなくてトリクシーと来ればいいのに。二人で満天の星空の下を散歩とか。照れないでさ、ね?」
「照れとか無ければ…うん、そうじゃない。」
「あ、じゃあトリクシーとこう夜空見たいとかはあるんだー。トリクシー聞いたら喜ぶよ。」
「そう?」
「そーそー。二人ともお互いに好きなのに壁置いてる感じだよ。」
「…そうかなぁ?」
「私にはそう見えてるかな。」

夜道を、想良とアリーの二人は歩いていた。
星々が二人を照らし、決して真っ暗ではない道を二人は進んでいた。
全ての物が眠る時間だというように物音も二人の足音。たまにそれに驚いた虫が慌てて逃げ出す音がするくらいだった。
なかなか本題を切り出さないアリーに対し想良は不信感を持つものの危険だといわれ禁じられていた夜の外出を楽しんでいた。
だが、防寒着を着ているとはいえ冷え込みは体に牙を向ける。

「ねえ、アリー。そろそろ寒いかな。アリーも寒いでしょ、その服薄いみたいだし少し震えてる。」
「僕はいいんだ、別に。貧困層の心配でもしてあげてよ。」
「そうだね…酷い所は本当に酷いし。」
「凍死も出るからね。……想良はさ…面倒見がいいし…。」
「そうかな?」
「集落の…見てれば分かる。子供たちの顔が明るいよ。」
「そっかー。」

面倒見がいい。
自覚してなかったからこそ、褒められ思わず顔を綻ばせる。
そういえばラリーとの約束をどうしようかと一瞬頭をよぎったが自分一人では帰る事ができないのを想良は自覚していた。

「うん…それを見込んで…というか。」
「なあに?」
「ジルの…。」
「お世話?」
「ううん、ジルは筋力こそ衰えてるけど力はある。それに…あの女の末路は避けたいでしょ。」
「…殺される事?」
「そう。」
「そうだねー…。」

自分が殺される。
想良はそれを思い描いてみようとするがそれはできなかった。
実感がわかず、ただ首をゆるく振っただけに終わった。

「想良は聞いてるかな…僕は罪人を買って薬物実験の対象にしている。」
「……。」
「そこから、ジルに向いていそうな人を選んで欲しい。」
「アリーは?」
「無理、僕は行かなきゃなんない。分かると思うけどジルには介助してくれる人が必要でしょ。
 数日なら飲まず食わずでも生きられるかもしれない。訓練を受けているから。」
「うん。」
「でも、一週間以上はね。せめて水分だけでも取らないと死んじゃう。それで…だよ。
 僕が罪人を買って住まわせている場所を教える。君は集落のほうに帰ったら適当に見つけて欲しい。」

思いがけない申し出に想良は返事ができずに立ち止まった。
数歩、アリーが前に出ている格好となり彼は後ろを振り返る。

「でも、例え見つけたとしてもまたこっちに来るなんて…。」
「そこは…これ。これを対象に飲ませるんだ。一種の洗脳状態になって、こっちまで来て役目を果たす。」
「へえ…便利……。」
「請けてくれるね?」
「うん…そうだね、いいよ。」
「ありがとう、気が晴れたよ。とりあえず、そこに行くときは男装して懐に武器を潜めること。」
「自衛のため?」
「うん、命以上にね…女の人は大事だと思うし。…帰ろうか。寒い…。」
「着てくればいいのに、もー。」

足早に進む彼を想良は追った。
部屋の前までアリーは想良を送り、分かれる寸前耳元で囁いた。

「一応、ジルにあって好みでも聞いてね。まあ、その時によって変わるけど、ね。」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ、じゃあね。」

心配事が解消したからか軽い足取りで進むアリーが暗闇に消えるのを見届けてから想良は部屋へ入った。





「ん…あぁ、兵士の人……。時間ですか?」
「その通り!さぁ、体を起こし目を開け!」
「うっぜええええ!あたしはまだ寝てるの!」
「いいえ、お嬢さん!既に目は覚めております、さぁっ!」
「だああ…。」

いきなりの大声で目を覚まし、布団から出た奏美は伸びをし立ち上がった。
想良もまだぼんやりとしているが座って茶番を繰り広げる奏音と兵長を眺めていた。
布団にへばりつき離れない奏音を大声で注意する。

「想良。」
「ん…?」
「津岸さんのマネ。」
「…。先生ー!起きて下さい!」
「ぎゃあっ!」
「これは素晴らしい!そのように声色を変えられるのであればさぞ、役に立つでしょう!」
「はぁ…。ん、行ってらっしゃい、おやすみなさい。」

ぶつぶつと文句を言う奏音を兵長は引っ張って行く。
奏美もそれに続き、想良は二人が出て行くと再び布団を被ったのだった。
人気の無い廊下を歩いて、外に出る。
もう季節は冬に該当し、かつ明け方ということも手伝いとても寒い。
吐き出した息は白くなり、やがて空気に溶け込み見えなくなった。

「さぁ!背筋を伸ばして、目を開けて!出発しましょう!」
「ね、寝たい…。」
「ウチはそんなに…。というか、兵長さん。こんなまだ夜なのに元気ですね…。」
「それはそれは、お褒めに預かり光栄至極!お気になさらず、私は皆様を送り届けた後は非番ですから!」
「え…あんた来ない訳?え、まじすか。」
「私はこのマティルド様に使える身でございます。兵と言いましても護衛のみですから!」
「うっそぉ。」
「はい、真です。さぁお嬢様方、あれが行動を共にする一団でございます、お気をつけて!」

一団が見えると兵長は二人をおいてさっさと引き上げてしまった。
嵐のようなその存在に固まるが、今夜出立する一団に合流する。
その一団は皆揃えた服装をしており、二人が今回行動を共にする人物だと悟ると同じものを渡してきた。
仕草から、今ここで着る様に命じられているのが分かる。

「なんか…ぼろっちくね…?」
「姉ちゃん!…皆同じだから。」
「そーだけどさぁ、解れ過ぎ穴開きすぎ…。」

袖を通すと、仮面を渡される。
二人がそれを付け顔を上げるとそれが合図だったかのように一団は進みだした。
何の説明も無く無理矢理手をとられ歩かされた。
月明かりのみの夜であり、群衆の影が視界を隠す。
何度か躓き、ぬかるんだ地に足を取られながらも二人は懸命に進んだ。

「…説明いたします。」
「うっはぁっ!」
「お、大きな声を出さないで…!」
「その声…は?うーん、聞いたことあるなぁ。奏美、分かる?」
「……。」
「無視?」
「…あなたを、カメリア本家に案内した……。」
「あぁ、あの女の子!」

納得したというように奏音が再び大きな声を出す。
周りの人物は立ち止まったりはしないものの明らかに奏音に対し不快感を持っているようだった。
奏美はそれに対し申し訳ない気持ちがあるものの無関係を貫こうと無視した。
話しかけてきた女性兵士も仮面の中で眉をひそめていた。
だがそれは仮面の下の出来事であり、もし仮面が無くても夜がそれを隠していただろう。
感情を感じさせない声で言葉を続ける。

「お二方、よく聞いてください。今の格好は、追放者がする格好です。
 浪人でもなく、追放者。罪を自らが、もしくは身内が行った事により追放された者の格好です。」
「追放…。」
「はい。それから病により差別され追放された者も。烙印を顔や首筋に押されます。」
「…それってさ、ウチらも押されるって事?」
「いいえ…今はもう廃れてしまった風習ですから。ただ、追放された者はみな同じような衣類を身に纏い施しを求めます。
 そこから引き抜かれるものもいるんです…。」
「そーなん。なんか矛盾してるような気が…っつーか君、なんか喋り方おかしくね?
 前会ったときより雰囲気が違う気が…。」
「…御前だと不都合があるんです。余計なプライドが残ってるんでしょう、母が語ってくれました。
 いかに、華々しかったか…没落したとはいえ……。」

そこで少女は会話を打ち切り、二人から離れていった。
後を目で追おうとするが、皆の格好は同じ。
それに加え、夜の闇が追跡を良しとせず少女の姿を人の波に取り込んでしまった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.110 )
   
日時: 2012/05/26 09:15
名前: あづま ID:IcGxi/EE

日は顔を覗かせ、それに答えるように木々が揺れた。
その下を揃いの服装をした一団がゆっくりと進んでいた。
その一団はどこか陰気くさく、出会ったものは思わず顔を逸らしてしまう雰囲気を持っていた。
足音は揃えられ、先頭の一人が持つ鈴のついた杖がりん、りんと規則正しく鳴いていた。

「ねえねえ奏美…。」
「…何。」

歩き続けて五時間位だろうか、奏音が口を開いた。
奏美は周りをさっと窺い見るも、誰も反応を示していないようだった。
だが、所詮は仮面を見ただけ。その下の表情は全く分からなかった。

「手短にして。」
「いや、歩きすぎじゃない?そろそろ肉刺が出来てる気がするんだけど。」
「姉ちゃんが運動不足なだけ、以上。」
「えー…。」

ほかの人に倣い、正面を向き歩を進める。
妹のそれを見て奏音ももう話を続けられないと判断し前を向いた。

「あと、一時間ほどですから。」
「うぉおっ?!」
「大きな声を出さないでくださいまし。」
「あ、さーせん…。」

後ろからの声に奏音は驚くが、優しさを持つその声色に心を落ちつかせた。
聞き覚えのある声に暫く首を傾げるが、誰だか分からなかった。
ちらりと後ろを見るも、見覚えのある外見の人間はいなかった。
りん、りんという音が規則正しく、空に染み渡っていった。
雲は無く、澄んだ色をしている空は誰の歓喜も苦悩も知らないというようにただそこにあるだけだった。





「まだ一週間たってない!…セルジュ、分かってる?!」
「俺は一週間以内って言った気がするんだが…。」
「……。」
「我等も、セルジュ様の発言の通りに記憶しております。」
「…っ、死にたくない!私は、私はまだ!」
「まだ?まだ二十歳そこそこだ、とかか?二十歳どころか十になる前に死んでいく子供だっているんだぞ。」
「それは…分かってる。だけど…。」
「子供なんて煩いものだろ?女ならまだ将来を考えて優しくする気はあるが…。
 それに、他人の子供ならまだしも自分の子供なんて考えただけでも寒気がする。俺にはいらないな。」
「……。」
「マリー、そんな顔をするな。一瞬だ、とは言わないができるだけ早く止めはうつつもりだよ。…。」

にっと笑みを浮かべたエドはマリーの腕に縄をかける。
すでに両足にはそれぞれ縄が結んであり、その先には獰猛で知られている動物がいる。
今は餌に夢中になっている彼らだが、その咀嚼や息遣いでの振動がマリーの足を揺らした。
断ち切りたくても断ち切れない振動を振り切るかのようにマリーは目を硬く閉じた。

「セルジュ…様……。」
「どうした?」
「その…私も調べたのです。…死刑は、重過ぎないでしょうか。」
「重い?何で。馬鹿な国主相手に革命を成し遂げ、初めての平和な国が生まれるんじゃないか。
 それに、刑は初めて行われるんだぞ?他国との比較なんてしていたら滅びてしまう。」
「……そうですか…。」
「あぁ、そうだ。」

戸惑いを見せながらも、話しかけてきた人物は離れていく。
革命のために何人も殺してきたであろう男達は、いざ刑の元に一人が死ぬと知ると怖気づき手を出そうとはしなかった。
女達は、マリーに対し同情を示すもののどこか侮蔑の色が見えている。
個を集団で非難する時の結束には敵うまいというのが簡単に理解できる光景だった。

「終わったぞ。…あとはいつでも出来る。」
「…私は、終わり……。」
「お前で始まるんだ。お前の…うん、言う必要はないか。」

エドは刑の執行はいつでも良いと声をかけた。
だが、反応が返ってこないのを見ると鞭を作り出し、それを少し離れた所で振る。
風を切り裂き、次の瞬間に弾ける様な音があたりにこだまする。
その音を聞くにつけ縄に繋がれた動物の気も立っていく。
おとなしく餌を貪り食っていたそれも蹄で地を掻き、鼻を鳴らした。
エドはそれを気にとめるでもなく、規則的に鞭を鳴らす。

「…ん?何…。」
「どうしたのだ?…執行は取り消さない…セルジュ様が、お決めになった。」
「違う!セルジュ、鞭をやめてくれ!…なんの音……これ。」
「我等には聞こえぬ。マリー、気を逸らさせようとしても駄目だ。」

だが、民衆にも多少の動揺が広がった。
マリーの勘には、革命以前にはとても世話になったのが不意に思い出された。
勘――といったがある種の訓練の賜物だろう。
だが、この平和ボケした民衆にそれが分かる訳も無く、ただただ不安を煽っただけであった。
そして、エドの鞭の音と呼応するように微かな、しかし凛とした響きを持つ音が聞こえてきたのだった。

「行け。」

中枢とも呼べる人物の短い言葉で数人の若い男が立ち上がる。
そして音のする方向へと鞘に入れたままの剣で走っていった。
しかし、数分としないうちに一人が戻ってきて口を開いた。
その声は、この処刑の雰囲気と似つかわしくない歓喜に満ち溢れていた。

「追放された人々です。この国の噂を聞きつけやって来たとの事。素晴らしい事ですよ、これは!
 彼らは独自の網を持っているとの事ですがかなりこの国は有名だと!民を差別しない弱者のための国!」

この若者の声に緊張した空気も解けていった。
それは革命がこの国の独りよがりではなく、弱者の希望になっているという事。
賛同も、得られているということ。
革命は―――正しかったのだということ。
追放され、社会に見放されたモノの言葉ではあってもそれはこの国にとって神から賜る言葉に等しかった。
そして、目の前の人物の命など正しさの前では道の端で死に掛けている虫の命にすら満たない物に変えてしまった。
今まで前例が無い、他国との比較から重過ぎると躊躇されていた死刑。
前例が無いその国に、その死刑は温かく迎えられることとなった。
人にも満たない物の言葉によって……。

「今すぐ伝えてくれ。我等は貴方がたを受け入れようと。いや…受け入れるなどという表現は合わない。
 この国は貴方の故郷だ。長き旅の疲れを癒し、家族の元へ…そう伝えてくれないか?」
「はい、承知いたしました!」

駆けてきた男はまた来た道を駆けて行く。
今度は倍の時間がかかっただろうか。りん、りんと鈴の音が辺りに響き数十人の団体が姿を現した。
仮面を被り、揃いの衣を身に纏う集団。
普通の人々ならば思わず目を逸らすその集団も、この国の人間には自分たちの手の届かない所から
遣わされたとても崇高な人間に見えたのだった。
鈴の音に心を震わせ、歩を合わせた動きに清らかなものを見た。そんな気がしたのだった。
そんな彼らだからこそ、一団の中に大きく体を震わせた者とそれを制するような動きを見せた者に気がつかなかった。

「申し訳ありません、只今裏切り者に刑を与えている最中でして。
 見苦しい光景ではありましょうがこれも我等の取り決めの一つ。どうか…。」
「いいえ…貴方がたは…私達を家族と言って下さった。家族の掟は守りましょう…。」

杖を持った人間が答える。
その人物が頷くと、残りの一団は皆に顔を見せるかのように横に数列に並び膝を突いた。
それを慌てて制すと、男は口を開いた。

「刑の執行を!」

その声にエドは頷き、全ての動物に素早く鞭を一発喰らわせた。
動物はけたたましい声で吼え、餌を踏み砕き、四方へと走り出す。
その瞬間、ほんの数十分前までは刑の執行という重石を背負っていたとは思えない歓声が上がった。
その歓声は自らの革命の正しさを喜ぶ物ではない。
罪人の悲鳴、血飛沫、そして死。
そして残った血から自らの正しさに興奮し、酔いしれ、熱狂する。
それらに期待している、死を望むただの悪鬼の歓声であった。
悪鬼の中に放り込まれ、なす術も無い人はその瞬間のために歯を食いしばった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.111 )
   
日時: 2012/06/04 15:00
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:AfG52.e6

だが、起こったことは民衆が期待していた物とはかけ離れていた。
痛みに我を忘れ怒り狂う動物が駆け出すと、罪人を縛っていた縄がするりと解けた。
訳が分からず座り込むマリーをエドが抱き上げ、安全地帯とも言える木の上へと登った。
怒りをぶつけるべき対象を見失った動物たちは自分の近くにいる似た様な形の生物を見つけた。
恐怖の悲鳴を上げ、逃げようと、あるいは子供を庇おうとする無力なそれら。
それに目をつけ、一気に襲い掛かる。
阿鼻叫喚…それが、これを表すのにふさわしい語であろう。

「セルジュ様、約束が、っ…!」

追放された一団を迎えに行き、且つ今は家族となったその人たちを守るように動いていた男の言葉は続かなかった。
腹を見、そこから突き出た刃を握ろうとして指が切り落とされる。
ぬらぬらと口から血が溢れ出した所で喉に短刀が突きつけられ、崩れ落ちた。

「がっ、!」
「貴様…ら。」

初めの人物が倒れると、それが合図とでも言うように追放者の集団は十人ほどを残し襲い掛かった。
ある者は屈強な男を斬り、またある者は白くきめ細かな肌を持つ女性を赤く染め上げる。
何が起こっているか理解できずわあわあと泣き喚くほんの小さな幼児を残った部隊に渡す。
するとその部隊の人間は子に針を刺し、気絶させる。
涙や血に濡れた顔を愛おしそうに拭うと、その顔は母の腕に抱かれ安らかに寝ている子供そのものだった。

「いやあぁああぁぁあっ!」
「姉さま!ねえさ、セルジュ!貴様、死罪に値するぞ!」
「…俺は構わないよ。でも君の姉さまを助けることに専念したほうがいい。
 あぁ、可哀想!もう腹まで食われてるじゃないか…ああ、それは、胎児…か?」
「あ…嫌…痛い、痛い!嫌…赤ちゃん…あなた…の、いや…よ、いや…。」
「っ、姉さま!姉さま!!」
「…。」
「姉さま、あっ、う、ぁ…ね、えさ…ま…っ。」

ある男は姉を食らったそれに頭から食われた。最期に姉を呼び、その情の深さを窺わせた。
頭は口に合わなかったのか、腹を探る。
この動物にとって、人肉は美味だったらしい。

「近親か…汚らわしいなぁ。マリー、そう思わないか?あの女は確か夫はいなかった。」
「その割にはセルジュ…嬉しそうじゃないか…。」
「ははは、俺も下に行きたいんだけどな。楽しみたい。」
「行けば?」
「そしたら逃げるだろう?それに仲間を殺してしまわないとも…な。」

マリーは不思議な気持ちで見ていた。
なぜ、自分を生かしたのかと。
自分をその刑にかけ、動物はそのまま放しこの国を襲わせてもよかったのではないかと。
聞いてみようと口を開こうとしたが、恐怖感がそれを許さなかった。
何に対する恐怖か分からなかったが、それに身を任せマリーはエドと共に地獄を傍観していた。





「れ、レイさん…。」
「……。」
「あの、あの折は本当に申し訳なくって…自分の利だけを追求して…。」
「……。」
「本当に申し訳…。」
「別にいいよ、もう……。」
「へ?」
「構いやしねえ…もう、過ぎた事だしよ…。」

朝食を終え、ふらふらと散歩しているとレイを見かけた想良は謝るために近づいて行った。
あれから避けられているらしく覚悟はしていたがあっけないそれにいささか拍子抜けしてしまった。

「あいつら、今日でたんだろ?」
「か、…奏美達?うん、今日か昨日かはよく分かんないけど夜の内に兵長さんが迎えに来てた。」

奏音さん達…そう言いかけて慌てて奏美の名前を出した。
レイも想良の不自然などもりになにか引っかかったようだが分からなかったらしく口を開いた。

「じゃあ怒って帰ってくるだろうよ、兵長は今日非番だし。」
「え、そなの?」
「それどころかあんたが知ってる兵士はみんな非番だと思う。ミゲルは姉貴が来てから休みばっかだし…。
 まあ、あいつはずっと働き詰めだったし…仕事が貰える分、幸せってやつだろ。」
「それ、嫌味…。」
「少しくらい仕返しさせてくれたっていいんじゃないかい?」
「うぅー…はい。」
「ばぁか、冗談だよ。話は終わり、俺は部屋に戻る。」

レイが笑顔を見せることはなかったが、その後姿からもう許してくれたのだろうと想良は推測した。
ダイアナが言ったとおり、どこかプライドが邪魔していたのかもしれない。
彼の真意は分からなかったが、一つ重荷が取れたという事に想良の心も軽くなった。
今日は何をしていようか、と思った時に寝る前のそれを思い出す。
ジルの好み…よく分からないが行ってみようと決意した。
そうと決まれば行動は早いもので、一度部屋に戻り着替えをし念のために武器を数本懐にしのばせる。
地球…日本にいた頃にはありえない習慣がついている事に想良は気づかず立ち上がった。

「あ、そういえば何か食べるかな?」

なにかお菓子のようなものを作りながら話を聞けば面白いかもしれない。
ここには、あの丘の上の家と違い食料の種類も量も多い。
厨房に行けば少し分けてもらえないだろうかと淡い期待を持ちながら想良は足取り軽く部屋を出て行った。





「あの、この子供たちって…どうするんですか?」
「教育です。数年後には刺客やスパイになっているでしょう。」
「…でも、本当に小さい子ばかりじゃ?五歳くらい…。」
「自我を持っている子供は適さないんですよ。母や故郷を恋しがり泣かれては困りますから。」
「つーか、奏美。」
「何?」
「この状況でよく質問できるねー。あたしはびっくりし過ぎて。」
「現実逃避。姉ちゃん好きでしょ。」
「あー。」

奏美のように現実から逃避することもなく、だからといってそれを受け入れるでもなく。
絵空事のように奏音は見ていた。
漫画やアニメなど、所詮嘘の塊を至高としていた奏音にはよく分からない光景だった。
何度もこのような状況は紙の上、一枚隔てた空想の中で見たことはある。

「え、じゃあ貧困層も…あ、姉ちゃん!」
「危険ですよ、まだ生き残りがいるかもしれませんから。」
「ちょ、もう…。」
「聞いていませんね。それで、質問はありますか?」
「あ、じゃあ……。」

姉がふらふらと列を離れるのに奏美は驚いたが、相手の声に気にかけつつも質問を開始した。
仮面を脱ぎ捨て地に落とし、惨状の中心に立ちそれを脳に焼き付ける。
腹を割かれた人間、助けを求めたまま息絶えた子供、腕を伸ばしたままの女性……。

「ん。」

大柄の男が何かに覆いかぶさっている。
退かそうとしても重くて一人では持ち上げられず、あの蔓を使い隙間を作り引きずり出した。
血にまみれてはいるが、大きな怪我は見受けられない。小さな女の子だった。

「いやぁっ!」
「え?」
「いや、いや!来るのいや!」

その子は奏音が落とした仮面を見ると狂ったように叫びだした。
助けを求めるように周りを見るが、あるのは既に事切れたものばかりである。
それらを確認するようにぐるりと見回すと、蹲り、戻し始めた。

「大丈夫…?」
「……ぅ、…。」
「酷いよねえ、もう吐かなさそうかな?」
「…うん…。だれ?」
「誰って、まあどうでも良くない?それよりさ、あっち行こうか。」
「なんで?」
「…何でって……何でだろうね?あたしの萌えの…。」
「もえ?」
「いや、いいわ。あっちで少し休むんだよ。」
「うん…。」

女の子は奏音の指をちょこんと握り、一緒に歩き出した。
途中、死体を見るたびに足を止まらせるがそれでも進みたいという意思があるのか数秒後には歩き出した。
まだ幼いからか危なっかしい歩きではあるものの一歩ずつ着実に進んでいく。
それは彼女の強さを思わせるようで、奏音も笑みをこぼした。

「あそこに…。」
「うん。」
「あそこで少し休もうか。」
「わかった。」
「…いいな、ロリ……。」
「ろり?わたしミティ。ろりじゃないよ?」
「あ、いや…ロリだよ、ミティは。」
「ろりじゃないー。」

むうっと頬を膨らませるミティに微笑ましい物を感じ、一緒に歩いた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.112 )
   
日時: 2012/06/04 15:01
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:AfG52.e6

「米粉…米粉かぁ。お米あるんだ…。」

厨房に行けば、食料を簡単に分けてもらった。
なぜそんなにくれるのかと問えばエドのお気に入り、と言う事になっているらしい。
そういえばエドの好きな人は知らないなぁ、と想良は思ったが深く踏みこまなようにした。
狭い世界の中、気まずい思いをしながら過ごすのがどれだけ辛いかが分かった。
ジルがいる場所に着き、扉をノックする。

「こんにちは…。」
「……。」
「あの、想良です……。」

寝ているのか、と諦めて帰ろうと踵を返した。
だが、その瞬間後頭部に衝撃が走る。
食料を入れていたかごを取り落とし、想良はその場に蹲った。

「〜〜〜!」
「入れば。」
「は、入ります!」
「うざい。」

落としたそれを拾い、部屋の中に入る。
部屋の中は以前と何も変わらないように見えた。
だが、鼻を裂くような腐敗臭は存在せず薬品の臭いが充満していた。
そして、肌がしみるようなぴりぴりとした雰囲気もある。

「不細工、何の用だ。」
「ま、また不細工って言った!」
「言った。用がないなら帰れ。」
「あ、り、ま、す!」
「一字一字強調するな。俺は耳は正常だ。異常にしたいのか?」
「違うのに…。はい、差し入れ。なんか作ろうかと思ったけどやる気削がれた。」
「じゃ、土にでも埋めとけ。俺は料理なんて出来ないから無駄に腐るぞ。」
「作る。」
「あっそ。」

とりあえず邪魔にならなさそうな所へそれをどける。
ジルはそれを目の端で見て、顔を背けた。
明らかに機嫌が悪く、それを隠そうともしない。

「機嫌悪くない?」
「お前に聞こう。目の前に不細工がいたら幸せか?」
「…私が来る前から機嫌悪かったと思うけど。あと、不細工でも優しければ幸せじゃないの?」
「じゃ、お前は優しくないな。」
「あんたはああ!」
「ジルだぞ。」
「知ってるから!アリーに名前聞いたしアリーがそう呼んでるのも聞いたから!」
「チッ…。」
「…アリーに関して?」

アリーの名を出せば、大げさともいえるくらいに反応を示した。
というより、隠す気もさらさらないのだろう。
身体だけが成長してしまったようなその態度は、想良の気を引いた。

「なんかしたの?相談くらいなら乗るけど。」
「そうだな。死ね、不細工。」
「っ…私のこと不細工って言えば解決するの?するならいくらでも言いなよ。」
「する訳ないだろ。お前みたいな素人にでも分かるような態度をとったつもりだ。」
「だったら何で?」
「簡単。お前には解決できないからだ。」

そう言ってジルは笑みを浮かべる。
一本とった、そう思っている顔であり事実想良も言い返す言葉が瞬時に出てこなかった。
負けるのが悔しくなんとか言葉を出そうとするが、何も出てこない。
最後に出たのは、敗北を示すため息だけだった。

「魚みたいだ。」
「はいはい…。でもさ、言ってくれても良いじゃん。解決はできないかもしれないけど一緒に考えられるよ。」
「それで俺を混乱させる気か。お前の考えは何か嫌だ。」
「…言ってよ。」
「別に。ただまたジェイ…お前にはアリーか。どっか行くから会えなくなるってだけ。」
「それだけ?」
「それだけだ。」

短く吐き捨て、舌打ちを一つ。
彼の不機嫌さの理由に、想良は呆気にとられた。
飼い主に部屋に置いていかれた犬のようなその理由におかしさがこみ上げつつもそれをぐっと飲んだ。
ここから出ることが出来ない彼にとってはアリーは大切な存在だろうというのは想良にも予測できる。
そこで今まで忘れていた本題を思い出すが、まだそれを出すには早いと感じた。
すると、そこで発動するのは想良の悪い癖だった。

「でもさ、なんでアリーじゃなきゃ駄目なの?」
「別に。」
「いいじゃん、減るもの?」
「お前に汚されそうだ。」
「失礼じゃない?」
「事実ほど残酷で失礼な物ってないよな。」
「本当に…。」
「……。」

いつまでたっても進まないどころか後退していく会話。
ズバッと本題を言うべきか、今日は諦めて何か作るべきか。

「…よし、質問。お前はアリーについてどう思う。」
「へっ?…うーん、最初は生意気で嫌なやつだと思ってたよ。あと女だと思ってた。」
「……。」
「でも色々話していくうちに良い人だな、とは。ちゃんとトリクシーの事好きみたいだし。
 一回好きになればちゃんと尽くしてくれると思うよ。だから君の事もアリーは好きだと思う。何で?」
「やっぱかー…。うーん……。」
「何?」
「騙されてないか?」
「え?」
「いや…似たような判断を、した奴が…。」
「あ、絵の女の子?」
「……!」

今度は、純粋に驚いたようだった。
想良は少々方向は違うが前進を感じ、希望が見えた気がした。
ここからどうやって膨らませようかと頭を働かせた。
絵の女の子を元に話を広げていこう、と思ったがそれは難しい事にすぐ気がついた。
なぜなら、想良はその女のこの事を全くといっていいほど知らない。
それにその子は故人だ。
手詰まりを感じ、また振り出しに戻らなければいけないのかと思ったが、それは当てはまらなかった。
ジルが、駒を進めたのだ。

「そう。俺が愛してた…。」
「え…。」
「そう、アリーに殺された…というか助けられた。俺は助けられなかった…。
 まあいい…そうだ。お前が俺を外に出してくれたら、何か教えてやるよ。交換条件だ。」
「外に…おんぶしよっか。」
「ふざけるな、振動が響くだろ。…じゃあな、不細工。もう帰れ。」
「え…料理……。」
「そこに置いてあれば俺も食える。不本意だが世話になった。帰れ。」
「はいはい…。」

結局本題にたどり着く事はできずに想良はその場を後にした。
頭を抱え、どうするべきかと思いながらついさっき来た道を引き返していった。





「この子は?」
「ミティ。生き残りみたいだよ。」
「みたいではなく、生き残りですね。…ミティ、あなたの両親は?」
「…わたしに、乗ってたのが…おとうさん。おかあさんは…分かんない。」
「成程。」
「なんの話なんだか…さっきまでの子には聞いてなかったのに。」

ミティを、子供たちを眠らせた女性に引渡し奏音は佇んでいる奏美のほうへ歩いていった。
奏美は、目の前の光景に青ざめてはいるものの意識はしっかりと持っていた。
ゆっくりではあるものの、この世界を受け入れ始めているらしい。
奏音には妹にかけるべき言葉も見つけられず、ただ彼女の後ろに立っていた。

「姉ちゃん…。」
「ん?」
「普通…普通はさ、これを見て酷いとか、やった人を許せないとか思うよね。
 ウチ、そう思えない…。なんでかな、正しいっては思わないけど間違ってるって言えない。」
「それが普通なんじゃない?あたし的にはだけどさ。」
「普通?」
「そ。日本の平均的な価値観から言えばこれは許せない事かもよ?でもそれも表面上でしょ。
 日本ではこれが起きるって事が非現実的だから許せないとか言えるけど。」
「うん。」
「こっちはこれが当たり前なんだったら許す許せないは無いっしょ。むしろ勝利か敗北かの判断かねー。
 あ、エド来た。」
「…?あ、あれか。姉ちゃんよく見えたね。」
「そう?もう一人女の人も一緒だ。」

奏音の言うとおり、エドともう一人がこちらに向かって歩いてくる。
見たところ二人とも怪我も無く、女性が少しふらふらとしている以外は健康そうに見えたのだった。
自分たちの知人と、その知人と行動を共にしている人物が無事ということを知り二人はとても安心した。
それを互いに感じ取り、彼らの元へと逸る気持ちを抑えながら駆けていく。


二人には足元に横たわる哀れな犠牲者など見えていなかった―――
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.113 )
   
日時: 2012/06/19 12:51
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:CQ5RuU2c

「やあ、一週間ぶりくらいか?」
「そーだね、何の仕事?」
「…私の見立ては……間違っていなかった…セルジュ…!」
「セルジュ?」
「俺の偽名だよ。…マリー、お前の観察眼はすごい。俺はばれるような事をしていないつもりだった。」
「……。」
「マリー、っていうんだ。へえ、お知り合い?」
「知り合いというか、俺の脅威というか。」

エドはどう答えるべきか分からないというようなジェスチャーをした。
それからマリーの腕を引き、そろいの服を着ている一団の元へと行った。
奏美と奏音もそれに従う。
だがエドの歩幅が大きいため引き離されていき、二人が着いたときは既にマリーの姿は無かった。
エドは淡々と子供を仕分けていた女性と話している。

「ふーん…じゃあ…。」
「はい、仕方がありません。」
「…?あ、おねえちゃん!おかえ」

ミティが奏音に気づき、そちらへ走り出そうとした。
その次の瞬間、きらりと何かがきらめいたかと思うとミティの体は崩れ落ちる。
ミティの意思を運命は尊重したのか、切り離された首だけが奏音の元へと転がってきた。
放物線を描いた血は地に落ち、土色のそれに紅をさした。

「ひっ…、エド、っ姉ちゃん…!」
「ミティ…?」

奏音の呼びかけに、そっとまぶたを開く。
だが、それ以上のことはせず数拍の後にミティはまぶたを閉じた。
ただ無表情で、作りかけの精巧な人形のようだった。
異なっているのは、血が流れているということ。
だが、やがでそれも尽き、ただ朽ちるのを待つのみの存在に成り果てた。
奏美は人の最期を見、耐えられないといった表情でその場を離れてしまった。

「エド。これは…?」
「この子は既に記憶も確かだ。育ちすぎでいる。国の仇のためと反乱を起こされたらたまらない。」
「でも、普通は…あたしが知ってる中で…女は殺さないんじゃない?
 男は…えっと…誰だ…源氏だっけ?確か、その人らが成人してから敵討ちした。だからどんなに幼くっても
 男は斬首なり切腹なりってのは知ってる。でも女は出家だと思ったけど。」
「出家?神に仕えるとか、乞食が施しを求める為に神の名を借りるあれ?それは奏音、お前の格好をしている者が行うことだ。
 ここでは男も女も関係なく戦い、敗者は余程の重要性が無い限り殺される。」
「でも、普通は…!」
「これが、俺の普通。俺が教わって、今まで信じている普通。この世界の普通。」

エドは言った。
奏音も理解こそ出来たが、どこか納得できなかった。
ほんの十分前、違う価値観に染まりかけたことなど分かっていなかった。
上塗りされる前のそれが、生と死を分けるそれであり、理性とも呼ばれるものだった。

「少し休むと良いよ。歩きっぱなしだっただろ?」
「そりゃ…。」
「肉刺も出来てるみたいだし…あぁ、足を引きずっていたから分かったんだ。」
「…!ううぇあ!自覚させんなし、痛くなってきた!」
「ははは、ならその痛い部分を食ってやろうか。」

エドは奏音を突き飛ばし、尻餅をついた所で靴を無理やり脱がせた。
肉刺は何度かつぶれ、所々血が滲んでいる。
傷も塞がりかけているのが何箇所かあったのをエドは確認した。
エドはその部分を掠めるように、だが痛みが伴わないくらいの力加減でなでた。

「ひゃっふぃははひひぃいいぃ!変態、手つきが変態!」
「男同士の絡みを楽しむ奏音よりは変態じゃないと思うぞ。」
「うっふそりゃ禁断の果実、ふっふふははは!くすぐったい!痒い、痒い!」
「じゃあ治すか。」
「え、っぎゃあああああ!」
「いちいち煩いぞー。」

治す、という言葉に嫌な予感を感じたのか奏音は足を引っ込めようとした。
だがそれを素早い手の動きで阻止し、例の如く強い力で握ったのだ。
途端悲鳴を上げ奏音は逃げ出そうと身をよじるが力の差の前では無意味な事だった。
時折爪を食い込ませ楽しんでいたが、さすがに可哀想だと思ったらしくもう一度強く握り手を離した。

「痛い…今までで一番長くなかった?」
「奏音の反応は面白いからな、少し遊んでいたんだ。」
「少し?」
「あぁ、最後に力を入れるまで。」
「それ大半じゃね?ふざけんなよ!わんことかアリーちゃんにやんなよ!」
「あいつらのはもう見慣れたんだ。まあ楽しいのに変わりはないがな!」
「やってんのかよ!」
「だって怪我は職業上絶えないだろ?さて、帰ろう。」
「え、もう?」
「廃墟に用はない。そのうち金に飢えた盗賊も来るだろうし。」

エドは先頭に立ち、出発のための指揮を始めた。
まもなく隊は列を成すが、格好は追放者のそれではなく軍隊そのものだった。
奏音と奏美はいまだ眠り続ける幼い子供達と共に籠に押し込められ、規則的なゆれに身を任せた。





「軍師様。」
「……何の用だ?カメリアに残らなくて…いいのか?」
「カメリアは…もう。」
「見切りを付けた……そう言いたいのか?」
「……。」
「ここにいることが返事としようか。…牢は、どういう気分かな。」
「久しぶりって感じかな。でも前のよりは素晴らしいよ。」

鉄の強固な護りを境に、二人は向き合っていた。
その場所は牢という名に相応しい。薄暗く、明かりはところどころにある燃え尽きることの無い松明の炎。
遠くからは微かな呻きが聞こえ、時折叫びと鉄がぶつかり合う。
今軍師が向き合っている人物はそれに動じることも無く、普通に受け答えもしているのだった。
檻の外の人物の後ろには、数人の武器を携えた男が控えている。
いつかの見せ掛けだけの人物ではなく、ちゃんと訓練されている。

「素晴らしい…ね。まあ、君は条約を結んだ人の血縁なのは間違いない。そうだろう?
 あの女性に君はよく似ているよ。カメリアの補佐のパベーニュさん。」
「あー、そうだね。」
「じゃあ、また会おうか。」
「ん?どっか行くの?」
「まあね、ちょっとした密談だよ。尤も、配下を派遣するけど。君には関係あるかもしれないね。
 食事は運んでくるよ…君を案内した、私の兄が。弁明を考えておくといい、あれは言葉で混乱させない限りしつこいぞ?
 私からの忠告だ。」

そう言い残し、軍師と男達はアリーの視界から消える。
後に残ったのは、松明の明かりと見えない囚人の呻きのみ。障害となる物は、特に無いように見えた。
立ち上がり、鉄の柵から頭を出す。
さすがに体を入れることは出来なかったが、それでも周囲を見回すことは出来た。
見張りと思われる人はいない。壁の厚さは、人が二人ほど。

「ばーか。」

声を出してみるが、返ってくる反応も無い。
ここまで手薄だとなんだか馬鹿にされているような感覚がし、ため息をついた。
とりあえず牢の中に頭を戻し、備え付けられえている物を見回す。
どれも牢特有で古いものばかりであるが、掃除はちゃんとされている。
自分たちの家のを思い浮かべると、ずいぶんと優遇されているように感じた。
特に仕込まれているものも無く、また拍子抜けする。
一応、脆い所が無いかと壁を蹴っていくと足に伝わる反動が違う場所に気づいた。

「ん…。」

壁の硬さには違いは見えない。蹴ると、その部分だけ反動が響いていないように感じた。
この牢の中のものは、何らかの力で床に張り付いてはなれない。
靴と身に付けていたいくつかの補助具はとられてしまい力を使うのは体力の必要以上の浪費を意味する。
数日前軍師が帰るというのでなんとなく忍び込んだのが相手方にばれていた。
とくに何の情報も得られずカメリアに残っていた。
それなのになぜ、自分は捕らえられているのか。
同盟関係とはいえ捕まえるのは捕まえるのかと少々感心し、どのようにして脱獄しようかと考える。
感情の向くままに力を使うのはよくない。
多少時間はかかるが、パターンを見よう。そう決意すると、固いベッドに寝転んだ。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.114 )
   
日時: 2012/06/19 12:52
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:CQ5RuU2c

「ただいま…。」
「おかえりー!どういう仕事だったの?」
「特に…ただ、ハードな日帰りプランだよ。」
「ふーん。」

もう日も沈むころ、奏音と想良はカメリアへと戻った。
あの鈴を持った人物の労いをぼおっとした頭で聞き、眠らされた子供たちが貧困層へと運ばれる。
貧困層では、この子供たちがまるで物のように取引されるらしい。
母として引き受ければ、金。優秀な子に育てられ、仕事を成功すれば報酬として、金。
もし仕事で死んでしまえば、金。
今日生きるか死ぬかの貧困層に金は最高の餌だった。
それを目の当たりにし、心身ともに疲れ果て部屋に戻れば想良が笑顔で待っていた。

「あ、これ。」
「ん?」
「想良ちゃん?」
「今日のお昼ご飯、久しぶりに果物出たからさ。ここ来てあんまり食べてないし食べるかなって。」
「ほー。そーいや果物無いね。いたっきまーす。」
「あ、それ!」
「すっ、え?すっぱ!」
「それこの木の実を一緒に食べないと酸っぱいんだよ…。」
「ふーん…あ、ホントだ。最初酸っぱいけど木の実が甘くしてくれてる感じ。」
「想良ちゃんの馬鹿ー遅いー!うべええええ!」

舌を押さえ呻く奏音を、奏美と想良は笑って見ていた。
それから想良が持ってきてくれていた果物を二人はかじる。
食べ終わった後は時間を忘れ談笑した。
だが、三人の中で仕事の内容は暗黙のタブーとなっていた。
暫くすると扉が遠慮がちにノックされ、まだ幼さを残す少年が顔をのぞかせた。
もう夕食の時間だという。

「じゃあ、ウチらはもう少したったら行くって伝えてください。」
「はい!…そっちの…。」
「あぁ、気にしないで。いつもだから。」
「でも…。」
「私も最初見たときはびっくりしたけどこれが普通なの。気にしないで、ご苦労様。」
「はい…失礼、いたします。」
「えー行っちゃうの?!遊んでこー折角ー!」
「うるさい!」

渋る奏音を奏美が一喝し、想良が兵士を外に出す。扉が閉まり、その音で敗北を悟った奏音はうなだれた。
がっくりと動かなくなった奏音を見て想良は苦笑したが、奏美は不満そうだった。
姉の上に乗ったままため息をついた。

「奏美、大丈夫?食べたばっかりだけどさ、行こう?」
「うん、そだね。姉ちゃんもさー、なんでこう、男にばっか声をかけるわけ?」
「男だけじゃないですーロリとかにも声かけてますー。」
「犯罪ッ!」
「ポルノ?」
「想良ちゃん…ポルノってどこで覚えたの…。」
「パソコンだよ、たいていロリコンってコメントついてるよね。」
「そっか…ネットって…偉大。」

妹の下でうなだれ、そのまま動かなくなった。
奏美はさっさと姉の上から退き、一つ伸びをしてから立ち上がった。
想良も扉を開け、夕食へ行く準備をする。
それを見て取った奏音もゆっくりとした動作で立ち上がり、相変わらずため息をつきながら二人についていった。





「マティー…確定事項じゃないだろ?」
「確定も何も分かるでしょう?」
「分かるって……。」
「分かってるわよ、納得したくないだけで。そうでしょう、お兄様?」
「エド、……俺も、信じたくは無えさ。でも、……。」
「でもって。…レイ、疑い深いのは結構だがそれを身内にまで向けるのか?!」
「仕方ないだろ、俺は疑うことが仕事なんでね、お兄様。」
「お兄様って言うのやめてくれ…二人とも。」
「えーと。」
「なにこのぴりぴりした空気。」
「姉ちゃんでも分かるって…やっぱり相当?」

夕食へといつもの間へと入った。
そこは夕食の団欒というには苦しく、通夜の後の静かな親族争いような雰囲気をかもし出していた。
三人が入っても中にいた人物は皆顔を上げ、マティーが座るように合図したのみであった。
今まで感じたことの無いそれに自然と身も引き締まる。
席に着くと待っていたとばかりに運ばれてきた料理もなんだか味気ない。
頭を突合せ無表情を貫く三人にため息をついた。

「やべー…。」
「姉ちゃん何かやった?」
「なんでいっつもあたしかな。」
「奏音さんが大体の黒幕だからじゃない?」
「んな事無い。」

その否定すら、自ら発したものとはいえ奏音も自信は無い。
ただ腹に溜めるために口を動かしている気分で、三人はなんだか複雑であった。
皿がなくなる頃、次の料理を給仕係が持ってくる。
そんないつもの事も、ただ時を刻む物にしかならなかったのを感じた。

「……ねぇ、ちょっといいかしら?」
「何ですか?」
「アンリの事…分かるかしらぁ。」
「へっ?!」
「アリーがどうかしたの?」
「どうかっていうか…うーん。あんた達に一番年が近いのがあいつでしょう?」
「あたしは無視?」
「あんたの意見って何か……役に。」

マティーは口を開くが、その目は未だ手の付けられていない料理の皿にあった。
給仕が下げようとすればそれを無言で制す。
いつもと違うその状況に三人は息を飲んだ。
エドはあまり雰囲気に違いは見られないが、もうとっくに食べ終わったスプーンを口に加えている。
レイも少しは口をつけたようだが、今は綺麗に盛り付けられたそれを無意識のうちに崩していた。
ただ事ではない。それだけは理解できた。

「アリーがどうかしたんですか?」
「どうかもなにもねぇ。……何も知らない?」
「想良、なにか分かんない?ウチらは出かけてたじゃん。」
「あたしは寝てた。」
「えー…でも二人が出かけてた時って……。」
「俺とは一回話したよな。それ以外に何も無かったのかい?」
「何もって…えっと……厨房で食べ物貰って、ジルに会いに行って……。」
「厨房、本当?」
「あ…はい。少々、食料を。」
「マティー、想良が嘘言う必要ないだろ?」

口を開いたエドをマティーはにらむ。
エドは敵わないといった様子で首を振り、またスプーンを口に加えた。
ただ居心地悪そうに身体を揺らしている。

「なぁ想良…。お前、トリクシーとも仲良かっただろ?アリーと…その、なんか言ってたりしなかったかい?
 俺はなんかあると思うのさ。」
「うーん…奏美、なんか覚えてる?」
「なんかって……。」

奏美の脳裏に浮かぶのは、青い草原。
森を背後に、辛そうな微笑。走り去る後姿。
アリーといる時はとても楽しそうで、自分の立場を述べた時は辛そうで。
こちらへ来るときも、気まずかった。
もっと楽しいことを覚えていても良いのに、思い浮かぶのはその場面ばかりだった。

「特に……怪しそうな事は……。」
「そうかしらぁ?何か隠していそうよ。」
「本当に、本当に…う、ウチだけの…感情です。」
「信用しないわよ、覚えておきなさい。」
「はい…。」

冷たく言い放れた言葉。
だが、それが今の奏美には心地よかった。
次にマティーは奏音に目を向けた。
奏音は知らないと首を振ろうとしたが、ふとあることを思い出した。

「やばい…。」
「なにかしら?」
「あ、あたしが…女装させるって言ったから…?」
「馬鹿。ねえ想良、本当に何も無い?」
「うー…あ、散歩に行った時、トリクシーは何かに驚いていた。何にかは教えてもらえなかったけど。」
「驚いていた…ね。」
「あたしは無視?」

奏音の問いにマティーは答えなかった。
それに対し分かっているとでも言いたげに奏音は鼻で笑う。
マティーは考えに沈んだのか、料理の皿をエドに押し付け胸元から取り出した紙に何かを書く。
エドは押し付けられたそれを口に運びながらマティーの紙を覗き込む。
そこにはただ意味不明な書き込みがされているだけで、考えがまとまっていないのだと理解できた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.115 )
   
日時: 2012/06/30 06:12
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

「やっぱ…あたしが女装させるって言ったからじゃあ。」
「いや…それはないでしょ。奏音さんが襲うって言った時も適当に流してたじゃん。
 エドさんとレイさんは積極的に反抗するから結構新鮮だったよ。」
「言うなよ…思い出したくねえ。」
「あー!そーだね、おし、襲いに行こう。」
「想良、責任取れよ。」
「ごめんなさい。」
「まあまあ…姉ちゃんは…うん。」

エドはマティーの皿のものも食べ終え弟の皿にも手を付ける。
レイはそれをちらりと見たが、特に気をとられるでもなくそのまま宙を見た。
マティーは未だに意味の無い記号を書き並べ、顔を上げる様子は無い。

「奏音、女装で家出は絶対無いからもうそううだうだしないでくれ。」
「というよりそれを気遣う心があるんならあんまり俺にかかわらないでくれるかい?」
「今日わんこに対する耳は日曜日です。休業日。」
「…奏音、お前の望む姿になりてえな。」
「臨時開業。」
「……。本当に、素直だな。いつもそうなら可愛げも…。」
「あ、やっぱんぐー!」
「想良……。」
「もう構わねえよ、奏美。お前が常識人だ…はー……。」

奏美は想良の口をふさぐ。
だが、その様子をレイはただ笑って見ただけだった。初めて会ったときもこのようなやり取りがあった。
それをただ懐かしく思い、目の前の光景を見てみる。
繰り返し行われるそれ。
だが、気持ちが変われば受ける印象も違うのか。

「でもさ、なんで女装平気って言えるの?レイさんは仕事で女装するみたいだけどいやそうだよね。」
「嫌そうじゃなくて嫌なんだよ。なんで二十歳過ぎて女の格好しなきゃなんねえのさ。
 まだ男の身体になる前ならまだしもって感じ。」
「はは、いいじゃないか。俺も一回騙された事あるし。」
「よくねえよ、次間違えたら死ぬからな、俺。」
「へー…女に対して熟練っぽいエドが間違えるほど……ほぉ。」
「姉ちゃん?」

感心したような目でレイの事をつま先から頭まで奏音は眺める。
奏美が諌めるような声で言うが、レイはあまり気にしていないようだった。
想良はマイペースに運ばれてきたデザートをかじっている。

「まあ、あいつが進んで女装するような奴だから。」
「は?」
「奏美、スプーン落とした。これ使う?」
「あ、うん。」
「え、アリーちゃん結構嫌がってたと思うけど?採寸とか嫌そうだったけど。」
「それは奏音が触ったんだろ?あいつあんまり触られるのは好きじゃないから。
 誰だって身体触られんのは嫌じゃねえか?」
「俺は別に?」
「あ、そ。」
「わーいゆたんぽー!」

奏音はエドに飛びつく。
食事中だ、という奏美の声は愉快そうな二人の声にかき消された。

「ははは、面白いな。」
「そういえばエドさん薄着だよね。寒くない?」
「寒いよ。だからこう、女がくっついてくれるといいよなー。
 あ、奏美も結構良かったぞ。将来結構いい女になるんじゃないか?俺の見立てだけど。」
「ど、どこで…。」
「あの機械での移動のとき。髪をもう少し伸ばして上で結うといいと思うぞ。」
「あたしよりもセクハラエド君!」
「く、君?!普通に呼び捨てで構わないぞ?」
「分かったよおにーさま!バカノンこれからお兄様って呼ぶよ!」
「奏美、奏音はいったいどうしたんだ?!
 なんか、いつも気持ち悪いといったら妹のお前に対して失礼だが本当に気持ち悪いぞ!」
「ひでー。え、エドってあたしを気持ち悪いって思ってたの?」
「男同士のあれが決定的だ。」
「おまいがー。」

暗い声で奏音がつぶやく。
それに対し少しだけマティーが目を上げたが、他の人物は慣れっこになっていたので特に反応を示さなかった。
食器がぶつかる音、ペンを走らせる音が支配する。

「よし…。」
「マティー?」
「あいつの事だもの…どうせ捕虜ね。」
「マティーはまたズバッと言ったねー…私の思い違いじゃなきゃ双子なんでしょ?
 未練みたいな感じのってないの?」
「無いわよ?口は堅いから情報が漏れるってことは無いだろうし。大方リキルシアに引っ張っていかれたんでしょう。
 …アンリって今まで何回捕まってるのかしらぁ?」
「レイ、分かる?」
「俺がいない三年の後なら…二、三回じゃねえか?」
「五年ちょっとなのにねぇ。」

しみじみと呟くマティーにレイは頭を抱え、エドは苦笑していた。
地球からの三人は意外な事実に顔を見合わせながらも、深く踏み入ることではないと暗黙のうちに頷きあった。
マティーは立ち上がり、食事は構わないのかという給仕の声を適当に流して部屋を後にした。
扉が閉まり、静寂が訪れる。
だが、その静寂を破ったのは想良だった。

「そういえばアル君は?」
「アル?そういえばいないな。仕事も聞いてないから無いだろうし…どうしたんだろうな。」
「出歩いてるんじゃないかい?あいつが喋ってる所抜けてから見てねえし。」
「え、アルって喋れてたの?ウチらに声を聞かせたくないって事…?」
「いや…ショックかなんかで喋れなくなっただろうって事さ。」
「あらま。…ん?」

奏音が何かを思いついたような声を出した。
まさかアルが喋れないことに対して心当たりがあるのかとレイが彼女を見る。
その視線を受け取った奏音はレイのほうを見た。
にこりと微笑み、レイが悪寒に襲われた次の瞬間彼女は身を乗り出す。
何をしているのかと奏音が陰になって分からない奏美と想良が首を動かしその状況を把握しようとした。

「っぎゃあああ!」
「ぐはっ!」
「姉ちゃん…一回死んで。」
「いだいいだい痛い!椅子?!まさかの物理的攻撃!」
「?奏音さんはレイさんに何したの?」
「想良は知らなくて良いよ。見えなかったなら別に。」
「ただ単に鼻をかぷってしただけだぞ。奏美、隠すことなのか?」
「うわー、犬みたいだね奏音さん。」
「んぎゃああああ!つべっ冷たい!」
「あ、氷。ウチ、レイがそれ使うの久しぶりに見た気がする。」





「あー…久しぶりに鼻痛い……。」
「今もう冬っぽいのにねえ。これからレイさんの能力は凶悪だよ。」
「んでもさ、かまくらっぽいの作ってもらえたらいいんじゃないかな?ウチ入った事無いから入ってみたいな。」
「あーかまくら!地球だとぜんぜん雪降らないもんね。いいなー。」
「え、あたしの心配は?かまくらよりあたしが下?」

既に部屋に戻り、奏音はレイに報復として鼻以外にも皮膚の薄いところに張られた氷によってもたらされた鈍い痛みに
顔をしかめていた。
奏美と想良はそれをいつものことだと感じながらベッドに二人腰掛けている。
三人そろって部屋から出ると、そこは塵一つ見当たらないように掃除されていた。
はじめは恐縮しつつも、今となってはもう慣れてしまっている。
ノックされ、奏美が返事する。
おおかた兵士だろう。そう思って無意識に返事をしたのだがその選択は間違っていた。

「こっんばんわー!」
「誰すか。」
「ん?私はあんた知らないや。」

突如入ってきた女性――ミゲルの姉、ミシェルが奏音を見ていった。
彼女に視線を預けたまま、奏美と想良の向かいに座る。

「んー、私もう帰るからさ、挨拶位してこっかなっと思って。」
「あ、そうなんですか?!わざわざありがとうございます。」
「想良だっけ?敬語はいらないって言ったじゃん。」
「いや…でも……。」
「ウチらは…えっと来訪者?確かそういうので。」
「へー来訪者!すっごいじゃんそれ!」

来訪者だと継げた途端、ミシェルのテンションがあがる。
まるで十にもならないの子供のようにベッドの上で跳ねる。
そして奏美と想良を興味深そうに触っていた。

「あぁいいなぁ、やっぱ肌若いんだなぁ!さすが来訪者!」
「え、来訪者って関係あるんですか?」
「さぁね。でもいいじゃん、若い分にはさ。」
「そうかな…ウチは早く大人になりたいけどね……。」
「そう?そう言ってられるんなら、…そう言える時代が一番楽しいわよ。」

今まで、ほんの少ししか会った事が無いとはいえ聞いたことの無いミシェルの声。
話をマジかで聞いていた二人はもちろん、奏音も興味を持ち近づいて行った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.116 )
   
日時: 2012/06/30 06:15
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

「大人になれば何でも出来る…そういう思いは捨てるべきよ。」
「え、何でいきなり。ウチ、何かまずい事言いました?」
「言ってないよ。たださ、私みたいな上の方の人間だけかもしれないけどあんまり大きな希望を持っちゃ駄目って事。
 なんでも出来るって周りにもてはやされて。実際なんでも思い通りになってたのよ。」

ミシェルの顔がかげった。
いつも陽気な様子であった彼女からは想像もつかない。
想良は、未だ自分の肩にかかっているミシェルの手が震えているのを感じていた。
少し爪が食い込み、痛みすら感じるが彼女からもたらされる物だと理解するとその痛みは心地よささえ感じさせてくれた。

「いざ独りでやったらなーにも駄目。知らなかったのよ…私は何も出来ないって。」
「ミシェルさん……。」
「なんでも出来るとか、ね。大人になればもっと出来るって思ってたのにさ?もっと良い国に出来る。
 もっともっと…てね。前代よりさらに良い国に何でも出来る私なら出来るって思ってたんだ。」
「そうなんですか…。」
「そ。大人になると出来ることが多くなるんじゃなくって選択肢が多くなるだけ。
 それを独りで上手く選べる人なんていないから。大抵は変な道選んで失敗して行き詰るから。
 子供のほうが出来ることが多いわよ。」

最後は自分に言い聞かすように、そして自分以外にこの部屋にいる人への脅しといってもいいような言葉だった。
子供への嫉妬と渇望。
かつて失い、気づいてからはもう手に入れることの出来ないものへのせめてもの復讐のような言葉。

「おかげで…ご隠居も出てきちゃうからね。ミゲルも私のせいでこっち来てるからさ。」
「……。」
「ん…なんか悪いね!押しかけといてこんな暗い話しちゃって!」
「えっとミシェルってえの?」
「何…えっと。」
「奏音。まあ落ち込むこともあるけどさ?そういう時は笑いなよ、くっだんねー事でいいし。」
「笑うってねー…私みたいなのが笑ったらかえって国民が恐怖に凍るよ。あぁご乱心って。」
「んじゃこーゆーんは?」

そう言い、奏音が携帯電話をひとつ取り出した。
見慣れないそれにミシェルが近づき、視界が開けた奏美が姉のほうを見る。
姉の持つ携帯の色を見、一瞬息を詰まらせた後叫んだ。

「姉ちゃんそれ駄目!」
「見せちったー。」
「……。」
「ど?これさ、けっこう萌えじゃない?ねっねっ?」
「萌え?」
「なんかこう…心の底からぐっとクるような…そういう感情。」
「ふーん……。」

そう言い、ミシェルは立ち上がった。
そのまままっすぐ歩いていき、扉を開け部屋の外へ出る。
それから仲を振り返り、言った。

「あんたらの事気に入ったよ。私の国にきたらタメ口許可しようじゃん。」
「え、あ、ありがとうございます…。」
「私の国はさ、中心人物はみんななんかの書物の登場人物が語源になってる名前だから。
 ミシェルって言う出来損ないいるかって言ってみ?私の国ならそれで一発だよ、歓迎する。」
「出来損ないじゃ無いですよ、ねぇ?」
「そうだよ、ウチ…結構勉強になったし。」
「そう?へえ、私は一ついいこと出来たわけだ。これからも弟をよろしく頼むよ。
 あんたらは私の萌えだね、じゃーねっ!」

最後の彼女の顔は、初めて会った時のそれと全く同じだった。
嵐を巻き起こし、本人はそれを振り返らず、そして知ることも無く突き進んでいく。
残されたところには何が無くなり、何が残るか。
それは嵐が巻き起こり、それが去らない限り人は全く分からない。
部屋に残った三人もそれと同じ状況だった。

「んま、良かったのかね?」
「そうだね…姉ちゃんもたまにはやるのかな。」
「たまにはっていうかこれが初めてじゃないかな?」
「想良ちゃんひでー。でもま、こっち来てから布教一号!けっこう上の人みたいだし広がってくれると嬉しいな!」
「え?」

へらへらと笑う姉から奏美は携帯を取り上げる。
その画面に映し出された画像を見て、取り落とした。

「あー十八禁なのに。五年早いよ奏美。」
「……。」
「え?奏音さんAVでも入れてたの?」
「……。」

奏美は押し黙った。
その様子を奏音は笑いながら言葉を続けた。

「最近の子はまったくー。あ、そういえばショタ何歳なんだろ?」
「ショタ…?」
「あれ、言ってなかった?婿のところのホームステイ。あたしの資金の使い道を教える約束を…。」
「うわ、馬鹿!姉ちゃんの馬鹿!」
「AV位ならそのショタ君でも存在知ってるんじゃないの?見せるのは良くないけど。
 それよりも奏音さん資金って言える位のお金をAVに注ぎ込んでいるの?」
「いや?同人誌だよ、びーえ」
「姉ちゃん死ね…!」
「うわ、日本刀。」
「危ないなぁ、奏美ってばー。斬れちゃうよ?この部屋のもの。」

楽天的な奏音の声を合図に、無銘の日本刀が振り下ろされた。





「あー…部屋久しぶり……。」
「悪いな、今まで使ってて。」
「別にかまわないぞ、俺が使ってていいって言ったんだからな。」
「…俺はアリーの部屋に行けばいいかな。」
「ん?別に俺の部屋でもかまわないぞ?布団あるし。」
「布団じゃねえだろ?なんか布切れじゃないか。」
「そうだけど…あいつらは文句言わなかったのにー。」
「……。」
「もう演技したくないな…。レイ、俺素直に尊敬するよ。何回セルジュって言われてるのに無視したことか。」

布団に寝転がり伸びをする。
それにあわせ、ギシリと音を立てたそれをレイは気遣うように眺めていた。
そのまま顔を押し付け感傷に浸っている兄を横目で見ながらレイは義眼を取り出した。
大事に扱っているつもりだが、傷が目立つ。

「ん、まだ使っていたのか。」
「あぁ。変えたいとは思うんだけどねぇ、愛着がよ。」
「目玉に愛着持つなよ。」
「うるせぇな、俺の身体の一部分なんだから愛着持っていいだろ。」
「ふーん。俺はまだ五体満足だから分からないな。」
「嫌味かい?」
「いいや。…あー…石の上に布切れだけってのはもう嫌だ…。」

エドはまるで百年会うことが叶わなかった恋人を抱きしめるように布団を扱った。
顔を埋め、並大抵の力では放すことが出来ないことが側からも分かる。

「エド…ベッドが物凄く軋んでるんだけど。少しは痩せたらどうだい?」
「大丈夫大丈夫、まだ耐えられるだろう。俺百キロも無い…と、思う……。」
「脂肪じゃないからいいもんだけどよ。」
「レーイ。」
「ん?」
「こっち向いて。」
「あ、じゃあちょっと…。」
「いや、義眼はいいから。その辺置いとけ。」
「あのな、っ!」

顔を背け、義眼をはめ直そうとすればいつの間にかベッドを降りた兄がその手を封じる。
手の中のそれは難なく絡め取られ、ぎりぎり届かない位置に置かれてしまった。
手を伸ばし、取り戻そうとするが指先がほんの微かに触れただけ。
仕舞いには両の手を纏められ拘束されてしまった。
単純な力の差が抜け出すことに首を振らない。レイは諦めた様に手の力を抜いた。

「前から不思議に思ってたんだがな。」
「あぁ。…あまり近くで見ないどくれよ。」
「生々しい傷とか無いよな、勿体無い。…じゃなくて、なんで義眼が動いてるんだ?」
「あれは補助具の職人が作った。」
「なるほどな。」

塞がれ、開くことの出来ないそこを触る。中は空洞のため、帰ってくる感触は物足りない。
エドが閉じたまま動きを見せないまぶたを開かせれば、レイは顔をしかめる。
筋肉と思われる部分は保護のためなのか薄い色のカバーの様な物が覆っている。
普段戦場でしか見る事の許されない体の内部の色にエドは魅せられた。
触れてみようか、その一瞬の気のそれと同時にレイの両手がするりと抜け出した。
そして、一瞬で距離が置かれる。

「縄抜けは得意なんでね。」
「油断したか…あーあ。」
「ああ。俺の勝ち…ってな?」
「勝ちを宣言するのか。…なら。」

また、一瞬で距離が詰められる。
エドの手に握られた刃物――その切っ先はレイの首筋へ触れていた。

「俺を叩きのめしてからだ、ぼーや?」
「坊やって…年そんなに離れて無いだろ。」
「はは、まあな。はい、返す。」
「握るな!壊れたらどうしてくれんだい?」
「弁償?」
「はー…。」

レイはため息をつき、手の中のそれで空洞を満たす。
何度か居心地悪そうに瞬いたが、それが終わると顔を上げた。

「ん、トラウマ解消?」
「トラウマじゃねえだろ。」
「え、結構泣いてたじゃないか。そりゃもう折檻受けるくらいに。」
「ただ単に勝ったと思ったら反撃されただけだからな、あれ。
 …思うんだけどよ、泣いてるときにさらに折檻って酷くねえか?俺あの時気絶したよな。」
「そうだっけ?」
「覚えてないなら、いい。」

もう戻ることの出来ない幼い頃の記憶。
ふと触れたそれに懐かしさを感じることは無かった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.117 )
   
日時: 2012/07/08 12:07
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:3s5vSD6c

朝になり、窓から差し込んだ光が三人を照らした。
奏美と想良はそれを感じ、身体を起こす。奏音はぶつぶつと言葉になっていない文句をいい、布団に包まった。
それを奏美が起こそうと姉のベッドに近づいた。

「おはよ…。」
「あ、姉ちゃんはやい。」
「ほんとだ。槍が降るんじゃない?」
「物騒な事言わないでよ、想良。ほら、姉ちゃん起きて。」
「ねでだい…。」

ぶつぶつと文句を言う姉を一度引っ叩き、意識を覚醒させた。
起き抜けに叩かれた事で一気に不機嫌になる奏音だが、携帯を見てにんまりと微笑んだ。
その機器の色から、奏美はそっと身を引く。
この間に想良は着替えを済ませ、姉妹の準備が整うのを待っていた。

「んー…そういえばずっと思うんだけどさ。」
「奏音さんどうしたの?」
「いや、下着関係でね。」
「朝ごはん食べに行こうか。想良、少し待っててね、ウチも着替える。」
「うん。」
「無視?!」

奏音の大声に帰ってくる視線は冷たい。
なぜそんな話をしなければならないのか。そういう話をする必要はあるのか。
当たり前の反応ではあるが、面と向かって否定されるのではなく無視という形をとられた奏音は不快だった。
とりあえず自らも着替え、二人の後を追い朝食へ向かう。
すれ違う兵士に想良はは愛想よく挨拶し、向こうもわざわざ一度歩みを止めそれを返す。

「……。」
「奏音さんも、ね?下着とか別にどうでもいいでしょ。」
「あーうん。よくないよ。」
「えー?」
「まあ、男女で差が無いフォルムっていったのはあたしだけどさ。」
「……。」
「奏美、どうしたの?黙ってるよ。」
「あ、ううん。平気平気。」
「そう?」

まだ不思議そうに思っている想良をあいまいな笑いで振り切る。
奏美は想良に対し抱いた恐怖心が完全には取れていなかった。
地球にいるときはどこか抜けていて、マイペースに物事をこなしていく人間だった。
そして言いたい事をずばずばと言い小さないさかいが生まれる事もあった。

「おはようございまーす。」
「あ、今日トマトみたいなあれじゃね?そうでしょ?」
「すいません…私は厨房を把握してなくて…。」
「あ、そなの?ごめんさぁーい。」
「奏音さんご飯になったら一気に機嫌よくなったー。動物みたい。」
「人間は動物ですから!奏美、行こ!」
「はいよ。」

なるほど、扉の前だというのにもうおいしそうな匂いはしている。
部屋に入ると、今日はエドとレイしかいなかった。
二人ともまだ食事には手をつけておらず顔が付きそうなくらいに身を寄せて話している。
それを見た奏音が、自らが動いても彼らが反応しないところを見てゆっくりと近づいて行った。

「残念だったな。」
「へっ。」
「ばーか、扉が開く音がしてる時点で気づくべきじゃないか?」
「え、え!」
「奏音っ、お前!…俺に何させる気だい?!」
「…レイさんは分からなかったんだ。」

二人の後頭部を狙った手は、エドによって押さえられていた。
そのためレイが一人でつんのめる様な形になり、彼は恥ずかしさで顔を逸らした。
しかし想良の追い討ちでもう誰も見たくないという様に突っ伏す。
給仕が運ぶべきなのかと遠慮がちに厨房から続く扉から窺い見るのに気づく人はいなかった。

「うるせぇ…見えなかっただけなんだ…。」
「見えないってやばくねーの?暗殺とかさ、ねえ?」
「やばいけどなあ、でもレイは義眼だ、おっと!」
「エド…言う事じゃねえよなぁ?俺が義眼って事今言うことじゃねえよなぁ?」
「あ、レイさん怒ったね。クソ女って言った時とおんなじ声だ。」
「想良、いまそれ思い出すこと?」
「ん、思い出しただけ。」

エドに向かっていった氷解が炎に包まれ、下には水が滴っていく。
宙に浮く炎とはなんとも滑稽だが、それも数十秒の後に互いを道連れにし消えてしまった。
だが、それを作り出した両人には険悪な空気が流れる。
想良は肩を少しだけすくめ、扉から顔を覗かせている給仕に話しかけ二人から一番離れている席に着いた。
奏美と奏音もそれに習い、想良の周りに座る。
離れているとはいえエドとレイを取り囲む暗く重い空気は目に見えてしまうようだった。
と、それから目を逸らさせる為と言ってもいい位のタイミングで料理が運ばれてくる。

「あ、ありがとうございまーす。」
「…あれ?トマトは?」
「トマト?」

給仕係がよく分からないというような仕草をする。
それに対し疑問を口にした本人は身悶えてしまい代わりに奏美が説明した。

「それでしたら夕食にと今煮込んでいるものですね。」
「だってよ姉ちゃん。」
「うっはぁあ〜…マジっすか。やった、起きてよう!」
「無理じゃないの?いつも寝てるじゃん。」
「うぐぅ。」

痛いところを口に出され黙る奏音。
エドが言い争いを投げ出し、レイの抗議の声も聞かずに口を開いた。

「はぁ…。そうだ三人とも、もう二、三日で帰るからな。」
「え?」
「だってもう実力は見せただろ?後はもう帰るんだ。ここにもう用は無い。」

エドが短く吐き捨てる。
確かに、もう用は無いといえるだろう。
だが彼らは折角生まれた家に帰ってきたといってもいいのだ。
なぜそんなに早くあの丘の上に戻ろうとするのかが分からなかった。

「いいな?」
「いいよ、ウチらは…世話になってる身だから。」
「私も…うん、あと二日はいるんだもんね…。」
「奏音はどうだ?」
「いいけど。来たくなったらあたし一人でもいけそうだっつーのは分かったしさ。」
「…そうか。」





「想良ちゃん…?」
「あ、散歩してくるから。」
「散歩ってなぁ…一人で出歩くのはやめてくれないか?」
「勝手にすりゃいいじゃねえか……自衛なら出来るんだしよ…。」

朝食を終え、各々部屋に戻ろうとした時一人別方向へ歩みだす想良を奏音が呼び止めた。
散歩というとっさの嘘は通用しない。そんな事は想良には分かっていた。
渋るエドと投げ出すレイ。奏美は二人の反応を見て口を開いた。

「だったらさ、一緒に行こうよ。」
「一緒?!それは…ちょっと……。」
「何で?」
「いや…うー…。」
「想良ちゃん…彼氏?!」
「違います…。」

未だ納得しない姉妹に対し、エドが奏音の肩に手を置く。
彼の表情はいつもと変わりが無いように見えた。
何か考えがあるのだろうと二人は身を引く。

「…早めに帰ってきてね。」
「うん、分かってるよ。」

四人に見送られ想良は離れていく。
角を曲がり、互いの姿が見えなくなる。すると想良はため息をついた。
ただジルに会いに行き、アリーから頼まれたことをするだけ。
たったそれだけの事をなぜ言うことが出来なかったのだろう、そう思った。
理屈とかそういうものではなく、あくまで直感。

「これは疑われちゃったな。」

だが、疑われたからといって何か違う行動をとればそれはさらに深めるだけだろう。
普通に過ごせばいい。
さっと外に出て、まだ二回しか行ったことのない道を歩く。
知らなければ見落としてしまいそうなその場所。
素早く入り込み、想良は姿を消した。





「エド、行かせてよかったの?ウチらは外に出てないけど危ないんじゃない?」
「治安が良いとは言えないよなぁ。」
「知るか。俺はあいつが良く分かんねえよ、お前らで一人だけなんか違うっつうか…。」
「そりゃ、想良はウチらとは姉妹じゃないし違うでしょ…。」
「まぁまぁ、エドはなんかあるんでしょ?あたしらを止めたんだしさぁ、はいご拝聴!」

奏音が仕切りなおすように手を鳴らした。
だが話す気配の無いエドを見ると、その顔は妙な戸惑いがあった。
レイは不干渉を決め込んだらしく奏音から顔を逸らしてしまう。
最後に奏美を見れば、まるでこれらの反応が理解できないというように首を振った。

「…言うか。とりあえず聞かれると困る。俺の部屋に集合。」
「あ、はーい…。」
「ここじゃ駄目系?」
「姉ちゃん、盗聴とかあるかもしれないでしょ。」
「あぁ、なるほど。」

そして、残った四人はゆっくりと上へあがっていった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.118 )
   
日時: 2012/07/08 12:11
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:3s5vSD6c

「帰れ。」
「帰りません!」
「失せろ。」
「話聞くまで失せません!」

ノックをし、普通に開けられた扉。
やはり前回は虫の居所が悪かったのだろうと思った想良が一歩踏み出すと、水の洗礼を受けたのだった。
髪から水を滴らせ、ベッドに横たわる人物と言い合うのは、相手の態度を知らなければ不謹慎に写っただろう。
だが今の想良にはそのような事を気にする暇など無いし、例え気にしていたとしても判断する第三者など存在しなかった。
言葉がつまり、唇の端をかむ相手を面白そうに眺める。

「お前、本当にタイミングが悪いのな。俺は機嫌がいいときにでも来い、と言っただろ?
 さっきまでは普通だったのにな、お前が来たせいで最悪だ。」
「最悪だったら笑ってないでしょ!」
「俺は今では…こんなんだけどな、ちょっと前までは優秀だったんだからな?
 感情を表に出さないなんて普通にやれていたことだ。お前もう少し感情を隠すことを勉強してみろ、不細工な嬢さん。」
「〜〜〜!」

ニヤニヤと笑い、相手の出方をジルは楽しんでいる。
これに乗り怒りを見せるなど相手の思う壺であり最もしてはいけない事だ。
だがそれを頭では理解していても実行するということはとても難しい。
抑えようとする葛藤すら窺えるのもジルは楽しんでいたが、想良はそこまで知らなかった。

「っはー…。あのね、私はアリーからあなたに対して聞いて欲しいって言われた事から来たの。」
「へぇ?どうせ俺につける人だろ?」
「そう、当たり。で、どういう人がタイプ?教えて?」
「さぁな。」
「な、なんで?!」

今までのジルの受け答えを見ていればそれは当然といってもいいような反応だった。
しかし頼まれた身である想良にとってはその答えがなによりも痛い。
小さいが確実にダメージを蓄積させられているのを感じ、それが焦りへとつながっていく。

「ねえ、じゃあ…あの女の子。あの女の子はどういう人だったの?」
「アリア…か?」
「多分…絵が、上手な…。」
「……。教えねえよ、外に出さしてくれてないんだから。」
「そっか。」
「あぁ、そうだ。」

気まずい沈黙が流れる。
死者――特に目の前の人物が愛していたという人について全くの部外者が踏み入るのは一種の冒涜行為だろう。
それを想良は感じ取り、口に出したことを後悔しながらも解決の糸口を探る。
あと数日すればカメリアの中心地を後にし、あの丘の上の家へと戻ることになる。
そうすればこちらへ派遣する人を選ばなければならないが、適当に選んだのであれば
無意味な死者を出すことになるのは目に見えて分かっていることである。
ならば、外に出る方法。
負ぶったりという事をジルは好んでもいないし受け入れないだろう。
地球のことを思い出す。

「…ねえ、外に出るってさ。どれ位出たいとか…あ、そもそもアリーに言ったりしてるの?
 アリーはあなたのこと結構考えてくれてるみたいだし…善処してくれると思うよ。」
「言える訳…無いだろ。俺は本来ならもう殺されている。それを金で抑えてくれてるのはあいつだ。
 それに忙しいし…嫁さんだっているのに無理言って来てもらってる…言える訳無いだろ。」
「そ、そうなんだ……。」
「それに。俺はもう分かってるんだけどな、ずっと嘘つかせてる。これ以上苦労はかけたくない。」
「嘘って…あ、言わなくていいよ。私顔に出やすいんでしょ?」

減らず口だが、人を気遣っている。突き放そうとしているが、意外と寂しがりや。
ここまで話し合ってきて、想良が抱いた彼への印象だった。
だがそれによりもたらされる負の感情を満たしてくれるような人柄を彼女は分からない。

「とりあえず…あなたに派遣する人、頑張ってみるね。殺したりしちゃ駄目だよ。アリーが直接持ってる所から
 連れて来るんだから。」
「勝手にしろ。」
「うん、勝手にする。…あ。」
「どうした。」
「うぅん、何でも。じゃあね、私はもう後何日かで帰っちゃうからもう会えないかもしれないけど。」
「そうか。俺は不細工な顔見なくてせいせいする。もう来るな。」
「最後まで素直じゃないね、またね!」

人材の決め手はよく分からない。だが、想良には一つの光が見えていた。
そしてそれを実行するためにはやくあの元の地へ帰りたい。
彼女自身作ったことは無いが、使ったことはある。
何度か試作を重ねる必要がありそうだったが、頭に思い浮かんだそれを思うと自然と足取りが軽くなっていった。





暗い、呻き。
叫び、懇願、嘆き。
なぜここに閉じ込められなければならないのか。そんな声を彼は幾度聞いただろう。
自分は悪人だ。殺すならばさっさと殺せばいいのに物好きだ。そんな自嘲をこめた呟きは何度耳にしたのか。
未だ指に残る感触。生理的な嫌悪感を覚えるその行為。
ありありと浮かび、忘れることを許さないとばかりに絡みつき腕を回す。

「煩い、全く。」
「…、ぁ……し、にし…?」
「もう、死ぬか。」
「……ぅぁ、あー…。」

目の前で、何かに拝むような仕草をするすでに女の面影を残さないそれ。
興味を持てず、その場を離れ自らが割り振られた場所へと戻る。

『抜け出すなり何なり、ご自由に。』

あの言葉に違いは無く男はすぐに逃げ出すことが出来た。
外に出れば草木が深く生い茂り、僅かに揺らせば小さな虫が驚きはねる。
日中ということもあり正確な時間を知ることは叶わなかったが、あまり長い時間は監禁されていなかったのだろう。
自らの内に残る最後の外の記憶と、その景色に大きな違いは見られなかったのだから。

「たすっ、助け…。」
「またか…あの女……。」

尤も、この人知れず存在している牢に入れられ強制的に目覚めさせられるまでの間に長い時を刻むか
余程の…大陸を渡る位の移動をしていなければの話ではあるが。
とりあえずこの牢の周りには泉が存在し、日に数匹は魚を採ることが出来た。
生活には困ることは無い。
幻覚に苦しみ叫ぶ女に舌打ちし、黙らせるために重い腰を上げる。

「ひ、い、やあ、ぁっ!苦し、痛い、い、たっ!」
「……。」
「あ、お助け…慈悲を、ぉ。」
「…騒ぐな。」
「痛い、痛いのよ…!あ、腹がぁ、骨があ、ぁ!あっうぅ…。」
「私は医者です。静かに、動かないで。」
「あぁ、あぁ!私みたいな、ぁ、こんな、貧乏人を見て下さる?」
「ええ…ですから、……お静かに!」

男に対し手をあわせ、開くことの無い目から涙を流す女の腹を殴る。
痛みに鋭い叫びを上げ、どこにそのような力があったのか分からないような蹴りが回る。
腐っても、罪人。国が手を負えなくなり、金により追い出された者。
その一撃を防ぐことには成功したものの痺れを覚え女が全盛期ではなかった事を男は感謝する。
身体を丸め、口から液体を吐き出し続けるその女は静かになった。
何度目か分からないそのやりとり。数日でまたこの女は痛みに喘ぎ、医者という言葉に手を合わせるのだろう。

「寝た、か。」

遠くではまだ、叫びや懇願が聞こえる。
男が特別なのだろう、彼のように牢から抜け出している者はいなかった。
足元に転がっている女のように、牢に鍵がかかっていない者がほとんどなのに、だ。
たいていは空腹に喘ぎ、耐え切れなくなると自らの排泄物を口にする。
男は同情し、魚を差し入れたことがあったが毒を警戒し口に入れる者は存在しなかった。
おそらく一種の刷り込みなのだろうが、その異様さは恐怖に値する。

(なぜ俺はここにいる。情報なんて、得られそうも無い。なんで。)

もう、数週間はここに人は来ていない。
自らの主のためとなりそうな情報が得られないことはとっくに理解している。
なのになぜ、不変の、繰り返すことしかないこの小さな世界に腰を下ろしているのか。
外に出ればいくらでも変化するだろうに。
男は、不変の世界の中でただ、傍観していた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.119 )
   
日時: 2012/07/15 08:48
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:A3byF9ug

「ただいま。…あれ?」

ジルとの話し合いを追え、想良が部屋に戻れば誰もいなかった。
エドの部屋だろうか。そう思いノックをすれば返事は無い。
いないのか、と諦めつつもふと出来心で扉を開けようとすれば、開いた。
鍵が閉まっているだろうと予測していたので彼女は驚く。
そして勝手に入るという罪悪感を抱えながらも部屋に入れば、確かに誰にもいない。

「いないのかな?…。」

皺がよるベッドを触れば、僅かに温もりが残っていた。
この部屋にはいないにしても、どこかまだ近くにいるのだろう。
ただ、それを理解したことを悟られてはいけない。

「いないのかぁ。…じゃ、準備してようかなぁ。」

ポツリ、と言い残す。
そして後ろを振り返ることも無く、自分達の部屋に戻るために出て行った。





バタン、と戸が閉まる音がする。
その音から数十秒後、何かが軋む音がし窓からエドが顔をのぞかせる。
あたりを素早く見渡し、部屋に何も変化が無いことを見て取ると自らの首に手をまわす奏美に放しかけた。

「行ったぞ。」
「うん…姉ちゃん、生きてる?」
「しむぅ〜腹が、食い込んでる…ハムになっちゃう…。」
「ハム?」
「えっと、食材の一つだよ。お手軽においしい感じ。」
「早くしやがれぇっ!奏音を持つ俺を少しはぁ、気遣っとくれよ!」
「ああ悪い、じゃあ窓を開けるから。奏美、よろしく。」

息を呑み、彼が片腕だけで自分とそのほかの人の体重を支える。
そしてエドに負ぶさるような形をしていた奏美が窓にとても薄い透明な板を差込み鍵を開ける。
すぐに窓を開け奏美が室内に入ると始めにエドが、そしてレイが室内に入り最後に奏音を引っ張りあげる。

「っあ゛あ゛あーー…腹が、本当に腹が!深刻な二段腹になったよ、これ!」
「てめぇ…どんな体重してるってんだよ!俺の腕を殺す気かい?えぇ?!」
「うっさいなぁ、わんこがひ弱なだけでしょうが!エドを見習いなよ!奏美をおんぶ、片手であたしとわんこ!
 必然的に自分の体重を支えるのは片手だけなんだかんね!」
「しつこく何度もわんこって呼ぶんじゃねえ!ったく、そもそも俺とエドは仕事の質が違うだろうが。」
「そーそー女の子のお仕事ー。初めて会ったときから可愛かったでちゅよぉ、
 お目目ばっちりアイラインでー。きれーなお人形しゃんみちゃいでちたぁー。わんこたんかぁいいねー。」
「てめえぇ…!」
「人の部屋で暴れるなよ?」

エドの一応の忠告も、二人には届いていないようだった。
赤ちゃん言葉で煽る奏音と、それに乗りどんどんと怒りを増幅させていくレイ。
そういうのに乗らないで冷静に判断するのがお前の仕事だろう、というエドの心中を弟は知らない。
奏美はそんな二人を呆れながら眺め、収束しなさそうなのを見て取るとエドに話しかけた。

「あのさ、…想良がどっか敵と繋がってるとか、無いと思うよ?」
「まあ、それが一番だけどな。でもな、お前たちは来訪者だ。それも争いの無い世界。駆け引きなんて分からないだろ?」
「そりゃ、ウチらの世代だったら小説とかそれ位しか…。」
「それに想良は…集落の人と仲良かっただろう。あそこなら人数自体少ないからよそ者も把握できる。
 ただここは貧困層自体多いし、繋がりなんて俺は分からない。多分無いんじゃないかな。」
「孤立してる…って事?」
「そういう感じだ。…特殊な薬で、ある一定期間、一定の条件で洗脳下に置くことも可能な薬がある。」
「そんな事…。」
「あるよ。奏美、お前も経験している。」

奏美はそんな事があったかと過去を振り返る。
しかし分からない。ぽっかりと記憶が抜け落ちているという事も無く、何か価値観が変わったという事も無い。
どれほど考えても思い浮かばないそれに、奏美は頭を抱えた。

「ほら、俺がアリーの足を手当てした時。あの時お前は戸惑っていただろう?」
「え、ああ!でも洗脳って感じじゃ…。」
「厳密にはな。あの時はお前の手に刺した小さなとげ。それで奏美はアリーの事を完全に押さえ込んだ。
 俺の力が無かったら絶対抜けられてただろう?」
「うん。…そっか、あれエドの力だったんだ。」
「まあな。自分の力とでも思ったか?それともアリーが怪我したからとか。…お前ら、終わりにしてくれ。
 俺はさ、レイ…お前の事を追い出してもいい。奏音、飢えた獣共の餌にしても俺は構わない。」

未だ言い争いを続けるレイと奏音にエドが低い声を出す。
栗色の髪が揺れ、二人を見つめたその目はとても冷たかった。
奏音はそのような挑発、と彼をからかおうとした。
だが、レイは動きが止まり脱力したかのように腕をたらし口を噤んだ。

「わんこ?」
「分かったよ…はぁ、黙るさ。」
「え、うぃ、ウィナー!」
「……。」
「釈然としない…。」

奏音が不満げにレイを眺めるがそれも一瞬で懐から携帯を取り出し眺める。
圏外であり、通話という本来の役目をそれは全うしないが保存されているそれで彼女は満足していた。
担当からのメールをことごとく削除し、出来るだけ仕事の束縛から逃げる。
ボタンを押す無機質な音を響かせながら奏音は会話を待つ。

「エド、ウチ思うんだけど想良に対して怯え過ぎっていうか…なんか、警戒心が……。」
「奏美…一つ聞こう。想良は本当にお前の世界の想良だな?」
「そうだよ。え?」
「そうだよな…うん…。強いのは…っと、何か武道をやっていたから。
 たまたまシチュエーションが体術方面だったからそれの経験が発揮されただけ。そうだよな。」
「うん、柔道でしょ?そうだと思うよ。」
「じゃあ…違うのか……?」

エドは考え込む素振りを見せる。それの意味が分からない奏美もまた黙る。
レイがため息をつき、口を開いた。

「ようするにな、来訪者――俺らはお前らをそう呼んだだろ?それに当て嵌まらねえんだ…資料の上ではな。」
「え?資料?」
「本家に行けばあるっていつか言ったじゃねえか。色々見てみたのさ。
 一度に同じ場所に出てくるってのがねえ。創成期の方々じゃあるまいしよ…分かるか?」
「全然。つうかあたしがだったら原因だと思うわけよ。」
「はぁ?!」
「いやだってレオンの言った通りに行動したらこの世界来たんだし。」
「じゃあ原因はそのレオンっていう奴じゃないか?奏音、そのレオンっていうのはどういう奴だ。」
「え、だからー…。」

奏音はレオンと知り合った経緯、そしてこの世界に来た経緯を話す。
なんの変哲も無く、いたって普通なそれ。
幾度か話を聞いているレイは黙って聞いていたが、エドは奏音が一言話す度に質問をする。
そのやり取りが終わる頃には、奏音はぐったりしていた。

「分からないな…。」
「だったらなぜ聞いたし。」
「多分関係はあるんだろうが…その人が直接の原因かというと、怪しい。」
「でもレオンは気弱だしなぁ、ないんじゃない?」
「まあ、俺らと別世界って言う時点で俺たちが対策立てても意味が無い、か…。」

ぽつり、と呟きエドは奏美と奏音に対し追い払うような素振りをする。
それを汲み取った奏美はまだ行きたくないとごねる奏音を引っ張り自分達の部屋を目指した。





「お前さん、へえ。」
「こんにちは、軍師様のお兄様。できればお名前を窺っても?」
「フィッツ。よくも騙してくれたな、おい。」
「お兄さんが話しかけてきたんじゃん。」
「うるさいな、おかげで重要な所を案内しちまった。」

ぶつぶつと呟く体格のよい青年。
軍師が言ったように、食事を片手に彼はやってきたのだ。それを格子の隙間から差し入れられる。
ドロドロとし、僅かながら腐敗臭のするそれを目の端で確認した。

「どうしたんだ?食いな、腹減ってるだろ。」
「別に。」
「へぇ、じゃあ下げてもいいかね?」
「お兄さん、その体格だし物はいっぱい食べるでしょ。」
「下げるからな、坊主。」

軍師の兄、フィッツが差し入れた手を振り払い皿を奪い取る。
その速さに一瞬目を見開いた彼を無視し、中身を眺めた。
どうやら食べ残しをかき集めたもののようで、歯形が残っているものも存在している。
そして腐敗臭の正体は皿の大部分を満たすドロドロとしたものであった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.120 )
   
日時: 2012/07/14 18:08
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:/oQuYf76

「食べなよ、ほら!」
「うわっ!」

フィッツめがけて皿を投げる。
皿は格子に阻まれたが、皿を満たしていたそれは向こうへと飛び散る。
もろにそれをかぶった彼は激昂し、格子を揺さぶる。

「てめぇ!俺にこんなんぶっかけて無事ですむと思ってんのか、あぁ!」
「無事ですむでしょ、格子があるじゃないか。
 お兄さんのその身体じゃあ入ってこれないでしょ、痩せたら?でぶ。」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

言葉になっていないそれを叫ぶ。
野生の、本来狩られる立場の物にからかわれた獣の怒りに似たその声は牢の中にこだまする。
前から、後ろから――反響するその音に呼応するかのように他の囚人も叫びだした。
大きな音に怯え、パニックに陥ったのだろうか。

「ねえ、汚いよ。唾飛ばして、青筋立てて。
 軍師様を見る限り美形の家系だと思ってたけど彼が特別だったのかな?」
「黙れ!この髪色の美しさが分からないか?はっ、お前さんは女じゃないから分からんだろうよ。
 女どもはみんな褒めるぞ?」
「色は綺麗かもね。その顔だから余計髪の色の美しさが映えるよ。」
「それ…。」
「分かんないかな、醜男って言ってんだよ?それに女が褒めてたのは家柄だよ。
 お前みたいなのに興味持つと思う?お前の一族はみんな結構美形なのにね、妾の子だったりするのかな?」

アリーが喋れば喋るほど、相手の叫びも酷くなる。
だが、互いに気づいてはいなかった。
あの堅牢な格子がギシギシと音を立てていることに。フィッツの叫びにかき消され、僅かばかり動く。

「そんなに自分の容姿に自身持ってたわけ?身分の補正がかかっているよ。」

挑発をこめたその言葉は、届いているかは分からなかった。
そもそも、フィッツは醜男という訳ではなく完全におちょくる為に言った物を真に受けていただけだった。
しかしここまで発狂するのはどこかそういった劣等感があったのかもしれない。
アリーはため息をつき再び寝転がる。
牢に慣れた身体では、多少の煩さなど気にならなかった。





「お帰り、エドの部屋にいると思ったけどいなかったね。」
「あ、うん…。」
「へえ、どこ行ってたの?」
「えっと、外。ウチも見たいって言ってみんなに連れて行ってもらった。
 想良を探して一緒に行動しようと思ったんだけどね、見つからなくてさ。ごめん。」
「ううん、いいよ。私はすぐに戻ってきたからね。」
「あたしは寝るから、お荷物まとめてね。よろしゅー。」
「あ、姉ちゃん!」

早々にベッドにもぐりこむ姉を奏美が止める。
荷物のまとめくらい自分でやったらどうだという声を、想良は軽く聞き流していた。
二人――といっても奏美だけではあるが嘘をついている。
皆で行ったのならば、ベッドのあの温もりは何だったのだろうと。
自問するが、答えは全く思いつかなかった。
ここの兵士は、部屋の主がいないうちに掃除をしているようだがベッドに座ったりはしないだろう。
それにもし座ったとしても、あの皺のよりようは無い。
僅かずつ、互いを疑っているのだということを想良は自覚し、気持ちが冷めていくのが分かった。

「あーあ、姉ちゃん寝た。
 想良、ウチらだけでも準備しようよ。もし姉ちゃんが準備しなくても対応できるようにさ。」
「そうだね。…。」

腰を上げ、双方準備に取り掛かる。
だが、滞在期間が短かったこと、そして荷物を取り出したりする必要が無いくらいに
こちらは物資があったこと。これの影響でそれはすぐに終わってしまう。
時計こそ無いが、窓からのぞく日の高さで一時間したかしないかぐらいだろうというのが推測された。
寝息を立てている奏音を奏美は恨めしげに見やり、彼女は書物を眺める。

「奏美、それ何?」
「ん?エドに借りたんだよ、兵法書じゃなかったかな、って言われた。」
「ふーん、読めるの?」
「草書だから雰囲気は。ていうか、本当に日本人だったんだなぁって感じ。」
「お祖母さんだっけ。私たちと同じなんだねえ。」

奏美の肩からその書物をのぞく。
確かに草書で、読みづらいとしか感じなかったが久しぶりに祖国を実感させていた。
慶長あたりのその人物が遺したそれ。
はるか昔であるそれが、こうして目の前にあり、それは一世紀もたっていないだろう。
この世界の法則性も分からないままその書物を眺めていた。





「お兄ちゃんお兄ちゃん。」
「……」
「少しおしゃべりしよう。」
「……」
「ねえ、聞いてるー?」

足をぷらぷらさせながら、新しくこの牢に入ってきた人物を眺めた。
背は高くて、寡黙な男性だということが分かった。
何度か話しかけるも、反応は全く示さない。つまらない、そう思った。

「ねえね、私暇なんだよ。お兄ちゃん、遊ぼう?」
「……」
「遊んでくれないの?私が捕まっちゃうみたいな悪い子だから遊んでくれないの?」
「……」

腕に触れ、存在を彼に認知させるがそれに対しても反応は示さなかった。
ただ体温を感じ、生きている人間だということは理解できたが…。
彼女は一言も言葉を発さない彼に対し幼い少女のような悪態をつき、ボロボロな布切れをかぶった。
数日前入ってきたその男性は、彼女と同じ牢に入った。
彼女は過去に脱獄を先導し、その手腕を脅威ととられ座敷牢へと移された。
初めは、あの陰鬱な牢と同じように脱獄を先導しようとした。
だが、それは叶わなかった。ここに入れられている人物は国に対し忠誠を誓っていたのが分かったのだ。
なのになぜ、牢に――その疑問は長い間暮らしていても分かることは無かった。

「ねえねえお兄ちゃん、お兄ちゃんは何でここに入れられちゃったの?大逆罪?不敬罪?
 カメリアの領主様の悪口言ったの?」
「……」

首を振った。耳が聞こえないという訳ではないらしい。
これなら…脱走できないまでも、外の様子を知ることは出来るかもしれない。
そうしたら、祖国のために情報を持って帰れるかもしれない。

「違うの?だったら…パベーニュ様?」
「……」
「ねえ、教えてよ、お兄ちゃん。お顔見せて、私が相談乗るよ!」
「…、…」
「75、何やってるんだ?」
「…!、あなた、は…。」
「パベーニュの長男のだよ、75。」

音も無く突如現れ、会話に割り込んできたその男。
いつのまにか番号で呼ばれるのにも慣れてしまったが、彼の表情だけはいつまでも慣れなかった。
冷たさと、それを引き立たせる赤い舌と短い黒い髪。
時々こうやって訪問しては、彼女の考えを乱し去っていく。

「何しに来たの?私を出してくれるの?」
「出すわけ無いじゃん。そんなに出たかったらそこにいる彼を誘惑でもしてみれば?」
「…誘惑?なぁに、それ。」
「とぼけんな、75。お前の腕の見せ所だろ。」

そう言うと、その人物は奥のほうへと進み彼女の視界からは消えてしまった。
奥の方にはほんの僅かな人数しかいない。
看守が運ぶ食事の量、僅かな衣擦れの音から彼女が判断したことだった。
最近では一人の男が入れられ、別の男とおそらく自分と同じくらいの女が彼を連れて行った。
ほんの一時間の間の出来事であったため彼女は何も知ることが出来なかった。
ただ入牢の際から男の様子が変だったことくらいである。
その症状から薬か、それに近い何かが行われていたのだろう。理解できても、いらない知識だが。
だが、先ほどの男の言葉にふと引っかかるものを覚え、反芻する。

(パベーニュ?おかしい、あんなやつパベーニュにはいなかった。
 養子…ここは女が継ぐ。実は女…うぅん、声は男だった。喉も出てた。男…嘘ついてるのか?)

自らの記憶との相違。思い違いだろうか。
なにか、この関係には隠されたものがある。そしてそれを解く鍵が目の前に転がっている。
だが、それに手を触れるには時間がかかるだろう。

「お兄ちゃん、遊びましょ。」
「……」
「眠っちゃったの?じゃ、私も寝よー。」

口を開きかけていたのに――あいつ、余計なことをしてくれた。
男の言うことに従うのは癪ではあるが、どう誘惑しようか考えた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.121 )
   
日時: 2012/07/21 01:40
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:/.uxH1tk

カメリアの中心地に別れを告げる日。
昼前に出るというエドの言葉から、奏美と想良は最後の探検をしていた。
世話になった人に挨拶をし、談笑を繰り返す。
他愛の無いそれだったが、戦もなければ余計な駆け引きも存在しないそれは心地よかった。
兵舎への挨拶を終え、建物の中に入ろうとしたその時後ろから駆けてくる音がし振り返った。

「想良ぁ、奏美!ひっさしぶり!」
「あ、トリクシー!」
「ひ、久しぶり…だね。」
「いやー、もう帰っちゃうんだろ?オレはここに残んなきゃいけねーからさ。」
「そうなの?」
「そーそー。同盟があるしな、あっちこっち行ったり来たりなんだ。大変なんだぜ?」

今帰ってきた。そう言わんばかりに彼女は多少砂埃に汚れ、背中には着替えの山を背負っている。
大変だと口で入っていても疲れは全く見せず、生き生きとしていた。

「なんかマティーがさ、あいつらも里帰りみたいな感じだからお前もしてきなさぁい、ってよ。
 まあ久しぶりに親父や国の人らにもあえて楽しかったけどな!」
「国…故郷だもんね…。」
「あ、悪い。奏美、思い出しちまったか?」
「うぅん!そんな事無いよ、こっち楽しいし!」
「思い出したほうがいいぜ?生まれ故郷なんて一つしかねえんだから。
 オレが何もなしに誇れるいい所なんだ!ちょっと暴力的だけどな…親父だけだけどよ。」

そう言うと彼女は腕をまくって見せた。傷口こそ塞がっているものの、痛々しい痕が残っていた。
木を添えていることから、どうやら骨折したらしい。
もう少し顔を見せろと怒鳴られ、殴られそうになったのを庇ったらこうなったと明るく言った。

「それ、骨が飛び出したんじゃ…。」
「あぁ、想良。察しいいな。まあ超痛えけどやっぱオレらみたいな怪力一族のコミュニケーションは
 これだなって思っちまったよ。」
「す、すごいね…。」
「そうか?ま、でもオレだって親父に取られてばっかじゃねーもん。お返しに指三本折ってやった。
 ま、すぐ治されちまったけどね。」

激しいコミュニケーションに若干引きつつも談笑する。
どれもとりとめの無いことばかりではあるが、同年代の女らしい内容だった。
身分だけでなく惑星すら飛び越えた関係だが、それを感じさせないのが共通した情だろう。

「んじゃ、オレ一回領主のとこ行くからさ。余裕があればコーリーを見て欲しいな。
 隣国だし、上空からも見えるはずだぜ。」
「うん。トリクシー、またね!お菓子とかのレシピ考えとく!」
「あぁ、待ってる。つーか行くからな。」
「うん!奏美、行こう。」
「あ…じゃあね、トリクシー。」

既に駆け出している想良の後を追うために奏美も走り出そうとした。
だが、手を握られ後ろを振り向く。
その先にはトリクシーがおり、奏美を真っ直ぐに見ていた。
一瞬にして緊張が湧き上がり、目の前の人物を見る。

「えっと…さ。」
「うん…。」
「あ…う、アリーの事、頼むな。自分勝手に突っ走って、残ってる身をハラハラさせやがるんだ。」
「うん。」
「じゃ、宜しく。…またな!」

ぱっと手を放しトリクシーはカメリアの領主が住む館へと一目散に駆けていく。
一人残された奏美は呟いたが、それは誰にも聞こえなかった。
遠くから想良の呼ぶ声か聞こえ、それに向かって走っていった。





「いないのよ!あいつら、こんな肝心なときにかぎって!」
「ナタリー…落ちつけ。」
「あたしらが立てた計画、伝わってるって事ないだろうね?一月以内…女がいないとき…!」
「一旦落ちつけ。いないと分かった以上、こそこそする必要は無い。
 こうしてやつらの目をはばからずに会談できるのはいいことじゃないか。そうだろう?」
「そりゃ、そうだけど…!」

小さな集会場。集落の人々を飲み込むのにはその大きさはちょうど良かった。
女性のいらいらとした声が響き、諌める男性の声がそれを追う。
何度繰り返されたか分からないそのやりとりに、眠らされることの無い大人たちさえ暇を覚えた。
隅で眠る子供たちは、これから大人たちが話す内容など知らない。
純白がごとき顔はこれから巻き込まれる運命を察知させていない一種の恵みだっただろう。

「あたしはね…ジェニーの仇はもちろん…だけど、一番許せない男がいるのさ!」
「だから、それはお前の担当にしただろう。薬漬けでも、なんでもやれ。ただし生かしておけ。」
「あぁそうさ。殺したりするもんか。生かして…イカシテ、いかして!いかし続けてやるつもりだよ!」
「分かった。……ラリー…何か言いたそうにしているな。」
「えぇ、おれ?!」

集会場の隅で、誰とも話さずに二人が言い合う様子を見ていた彼は驚愕の声を上げる。
話なんて聞いていなかった。そう言えば、罰せられるだろう。
だからといって、何もいわなくても結果は同じ。

「えっと、さ。」
「どうした。」
「……あのさ、穏便に済ます方法って無いかなって。おれ、丘の人たちは凄いと思うしさ?
 相手も抵抗するよ。少なからず犠牲は出る…じゃん。」
「あぁ、そうだな。」

同意を得たことでラリーの話しぶりに熱がこもる。
ここの集落での高い位置にいる者からの同意。それが低い位置の者の気をほぐした。

「でしょ!それだったらさ、なんとかこう、話し合って。
 向こうの人も理解してくれるよ。同じところで暮らしてるんだ…から、さ……。」
「……。」

だが、それも一瞬だった。
顔を上げたラリーは、その人物の――いや、周りの人間全てを見て、表情を固めた。
驚愕、呆れ、哀れみ。
なぜ理解できない。
軽蔑、嘆き、蔑み、嘲笑。
その言葉は破滅を意味する。そう思わないのか――?

「ラリー…あんた、繋がっているの。」
「え、えぇ?!」
「だってさ、不満じゃない?あいつらは胡坐をかいて、あたしらをあの丘から見下ろしてるんだよ!
 あたしはジェニー!あんたは両親!ここにいる皆だって友人、恋人、家族!」
「…あ、あの。」
「皆、誰かしら亡くしてるんだよ!悔しくない?あんた。」
「そ、そりゃ…。」
「だったらあいつらの手を漏らせ…!そうだ、スパイ。あんたは二重スパイだ…。」
「おれ、あの人たちには繋がってない!本当、断じて!」
「あぁ繋がってるから!庇うのか、庇うのかぁあぁ!」
「ナタリー!」

ラリーとナタリーのやり取りを傍観していた進行役が止めに入る。
半ばヒステリーに陥った彼女の手をとり、座らせる。
ラリーはそれをぼんやりと見ていた。
視線を下に向ければ、顔を怒りで赤らめ肩を上下させる女性、
生来の優しさは消えうせ、理性を失いかけたその様は獲物を狩り損ねた獣の怒りのようだ。

「ラリー…。」
「え、あ、っがあ、ああぁぁああ!」
「お前もガキと一緒におねんねしてな。今度は長生きできるママのお話をちゃんと聞けばいい。」

男がラリーから目線をはずすと、どさり、ラリーが倒れる。
それを近くにいた女が蹴り。壁に当たった。僅かに木造の建物が、揺れる。
目を開けながらも何も見ていないそれは、誰にも目をくれられることも無く踏まれて朽ちていくだろう。
それを防ぐには、視界を取り戻し自らの足で歩かなければならない。

「……駄目だな。」

誰かが呟く。
それは支配の末の妥協の平和を甘受する孤独への主観的な軽蔑か。
それとも皆の統一された願望を成し遂げるために踏み出す絆への客観的な嘲笑か。
呟いた人が分からないのだから、誰にも意味は分からなかった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.122 )
   
日時: 2012/07/21 01:46
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:/.uxH1tk

「あーあ、お別れかぁ。」
「そう言うな、想良。」
「でもさあ…。」

こちらに来たときとは、逆に今は機体が建物に背を向けている。
やって来たのだから、帰らなければならない。
当たり前のことではあるが、なんだか寂しかった。

「エド、ちょっとウチ心配事があるんだけど。」
「ん、何だ?」
「ウチらは三人。エドとレイはどうあがいても二人。…どうやって帰るの?」
「あ…あー。」
「考えてなかったんだ!」
「…あぁ。そうだ…トリクシー一緒じゃないんだった…。」

声を低くし呟くエドを横目で見る。
本気で考えていなかったらしく、想良と奏美も顔を見合わせた。

「だったらさ、あたしが残ろうじゃないか!」
「賛成。そんでもう俺の視界に来るんじゃねえ。」
「やめてくれ。カメリアの評判が落ちてしまう。」
「何で?!」

奏音は叫んだ。自分がいることにより国単位で評判が下がる。
集団ならまだしも個人でそれがなるといわれれば、驚きを隠せなかった。

「なんで駄目なのさー。」
「奏音…。そうだな、戦場跡にはいかせるなっていう代名詞になるぞ…。」
「意味分かんね。追剥とかはそりゃ相応の覚悟できてるでしょーよ。心配しすぎー。」
「…エド、二人で名前を分かち合ったらどうだい。行く先々でお前の名前まではいかなくても聞くぞ。」
「うわああぁ…改めなきゃなぁ。」

レイが言った内容にエドは苦笑を漏らした。自らの行いとはいえ、と自虐する。
三機用意されたそれを眺めるも、解決法は見えてこなかった。
想良は、一人で運転できなくも無い。
だがもしもの敵襲。それに彼女一人で対応させることは到底不可能だった。

「仕方ない…誰か頼むか……。」
「自分の懐から出しとくれよ、自給自足とはいえ辛いもんは辛いからな。」
「はいはい。あーあ、誰がいいかなぁ、女がいいなぁ。」

腕を大きく振りながらエドは集団を離れ、兵舎の方へと歩いていった。
その姿が見えなくなるまで見送り、各自談笑を始める。
レイは機体に腰掛けその様子を眺めていた。話を振られても適当に流している。

「ん…。」
「奏美?どしたの?」
「なんか…なんだろ。…来る?」
「私は分かんないや…本当にそう思う?」
「そう言われると自信なくすけど……でも、うん。」
「…後ろの奏音さんじゃないんだね?」
「え、姉ちゃああぁああぁん!!」
「うお、ばれた。」

携帯で奏音が保存していた画像をスライドショー形式で奏美の肩越しに再生していた。
すぐさま奏美は取り上げ、電源をオフにする。バッテリーも取るのを忘れなかった。
命といっても過言ではないそれを取り戻そうと奏音が手を伸ばすが、身長差で僅かに及ばない。
爪先立ちで手を伸ばしても、高く上げられたバッテリーに触れることは出来なかった。

「ちょっとわんこ!見てないで取ってよ、あたしの命が高く掲げられてるんですけど!」
「ふざけんじゃねえよ、奏美のほうが俺より背高いだろ。」
「はぁ?!いや、ほら体力の差を見せ付けなさいよ!わんこおぉぉ!」
「うるせえ。」
「レイさんは聞いてあげないの?愛のムチ?」
「……お前、はぁ。…ちょっと、来い。」
「えー?」

レイが想良の手を引き機体から離れる。
奏美が奏音を叱る声が僅かにする。それくらいまで進んでいった。

「姉ちゃんは自重を覚えてよね。それか、?!」
「ぎゃああー!」

奏美が突如黙る。次の瞬間弾かれた様に身体を動かした。
姉を蹴飛ばし少し離れた所に着地する。二人が立っていた場所には一人少年が立っていた。
彼の手にする獲物が土にめり込み、周囲の草がこげて無くなっている。

「何だお前。かわす…お前、どこの人?」
「はぁ?ウチらはえっと、来訪者とか言われてる。」
「来訪者、ね…。馬鹿じゃねーの?」

少年の手から獲物が消え、地には深い穴が残る。ぶわり、と焦げたにおいが辺りに散っていく。
まだ子供といってもいいくらいの外見と黒い髪を持つその少年。
自らに答えた奏美、そしていきなり蹴りを入れたことに対しぶつぶつと文句を言う奏音を眺めた。

「何…。」
「うーん、違うな。…ここに、もう一人か二人。いただろう。」
「あーそーいや想良ちゃんどこ行った?」
「いたのか、そうか。…そこだな。」

そう言い残すと一直線に、走っていく。二人も機体を残している事を気にかけながらもそれを追った。

「ちっ。なんで分かったんだよ。」
「何で分かった?お前が喋ったんだろ、オジキよ。」
「オジキ?レイさんってそんな年だっけ。」
「二十一ってそんな年かい?」
「いや…多分違う。」

こうした問答をレイと想良が繰り広げている間に奏音と奏美も追いついた。
なぞの彼は周囲を包囲されたとはいえ浮かべた笑みは崩さなかった。
自分の正体なんてどうでもいいといったような雰囲気を彼は出している。

「はー…やっぱあたしも走らんと駄目かぁ?」
「姉ちゃんにはお勧めするよ。で、あなたは誰。」
「俺?オジキに聞いてごらん、分かるかもしれない。」
「オジキ?わんこが?あたしより年下のわんこが?はぁ?」
「俺に喧嘩腰で言うんじゃねえよ!俺だって分かんねえんだ!」

指をさされたレイが否定する。
本当にその人物のことを分かっていないようだった。少年が驚いたような顔をする。
見たところ奏美や想良と同年代のようだが、それ以上は分からない。

「分かんない?本当に俺のことを知らないんだな?」
「知らねえさ、お前を初めて見たよ。もし他の国でお前の事を気にかけてたら悪かった、と言っとくよ。
 あれは全部演技だ、俺はそんな情持ち合わせちゃいねえよ。」
「ふーん、じゃ…今はいい。もっと…完成してからぶっ壊すよ。」

そう言うと少年はまた走り去ってゆく。現れたときと同様、気配を感じさせないような素早さだった。
木々の葉が落ち、音も立てずに落ちていく。

「つまり、わんこが仕事先であの子を誑かしわんこの事を忘れられないあの子は必死に追いかけてきた。
 それなのに忘れられてて涙を見られないように足早に去った、という事でおっけー?」
「んなわきゃねえだろ。そもそも俺は仕事中オジキなんて呼ばれる格好しねえよ。」
「ん?じゃあレイはどういう格好してるの?ウチらと会った時は女装だったよね。」
「そこ蒸し返すのかい?…まぁ、女の格好か旅芸人だよ。」
「ふーん。どこの世界も変わらないねえ、そういうの。じゃ、もう戻ろう?エドさんもう来てるかもしれないし、ね?」

想良の一言で先ほどのところへと戻る。
レイは油断させたところでもう一度襲い掛かってくるのではと気を張っていたが杞憂に終わった。
ただエドも帰ってきておらず、再び途方にくれる。
思い出されるのは彼が自分の事をオジキと呼んだその分からない理由。
仕事中は人とかかわらずに過ごし、できるだけ仲の良い人物も作らないようにしている。
なのに、なぜ。

「なぁ、正直に言っとくれ。お前ら位だとよ、その…二十代ってオヤジなのかい?」
「ちょ、そしたらあたしババアだし。てめーあたしまだミスだからね、ミセスじゃないからね!」
「おめえに言ってねえよ。奏美、想良。どうなんだ。」
「どうって、ねえ。二十歳、ていうと遠い未来のような気もするけどオジサンとは思わないなぁ。」
「私もー。選挙権とお酒とタバコってイメージ。オジサンは無いよ。」
「だよなぁ…。」

しかし、レイのその返事は納得行かないというような声色だった。
彼の仕事柄、どこか疑うべき何かがあるのは明らかだった。だが、それが何なのかが分からない。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.123 )
   
日時: 2012/08/19 22:22
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:CQ5RuU2c

「あ…もしかしてあれの一派か?やけに手馴れみてえだし…。」
「ん?心当たりあるの?」

奏美が問う。推測の域を出ていないことは重々承知していたが何か分かることがあるかもしれないと思ったからだ。
ポケットから抜き出されそうになったバッテリーを高々と上げ、レイの返事を待つ。
奏音が想良に対して技をかけて取り返せないかと聞いているのは無視をした。

「ほら、お前らが最初に来たときの侵入者さ。エドの攻撃を防ぐ、お前らの顔を見る。
 あ、奏美は見てなかったか…。」
「あー……そういえば。」

言っていなかった。忘れていた。仕事があることを告げに来たあの少女。
あの後気まずい雰囲気になり、それのせいでレイに話すのをすっかりと忘れていた。

「少しかぎ回ったんだけどよ。全然証拠が出ねえんだ。それに…ダイアナが言ってたことを真に受けるのもどうかと思うが…
 彼女の顔は変わるからな。ヘーゼル…日の光で瞳の色が変わる。」
「ヘーゼル…ねぇ……。」
「ここであの男が俺とお前の顔を見たわけだ。残りはアリー…とアルもか?
 ま、牢獄入りで助かったんだろうな……素顔を確認しなきゃ動かねえよ、多分。」
「ん?それってさ、私がレイさんを迎えに行った時会ったっていったあの人?」
「あぁ、なんだ?知ってるのか?」

突然会話に割り込んできた想良に対しレイの目が細くなる。
彼女の洞察力、そして単独行動から疑っているのは丸分かりだった。
想良もそれは感じ取っており、あらぬ疑いがかけられてはいるもののそれを表に出さないよう平然と受け答えする。

「あの人ならさ、会ったよ?」
「へぇ…どこで。」
「えっと、割り振られた部屋。マティーさん直属の部下って言ってた気がする。
 あ、あとレイさんに言ってっていわれたんだ。忘れてたよ。」
「ふーん。じゃ、何だい?あの女と今さっきの男はそれぞれ別。そう言いてえと。」
「うん。私は誰が嘘ついてて、なんて分からないからね。判断はレイさんに任せるよ。」

会話を打ち切り、想良は奏音の元へといく。
一方的なそれをレイは怪しいと睨んだが、まだ証拠はない。それを表に出すのも褒められたものではない。

「オジキってさぁ、どういう字なんだろうねぇ。」
「字?」
「うん。ウチには日本語にしか聞こえないけど…あれ、そういえばレイって日本語喋ってるの?」
「日本語は理解出来なくもねぇけどよ、実際何語かって言われたら分かんねえな。」
「え?」
「この世界のものを食うと自然と言葉が通じちまうのさ。だから暗号とかは難しい。」
「ふーん…じゃ、日本語だったのかな。食べる前から何喋ってるかわかってたし……。」

当時を思い出し奏美は呟く。
会ったその瞬間からレイとは言葉を交わせていた。そしてエドとも。
この世界の不思議な原理に対し面白さを感じるが、羨ましさは不思議と感じなかった。
そして、一度それた話を戻す。

「で、オジキの意味だよ。父親なのか、叔父甥のそれなのか、他人なのか。」
「とりあえず父親と叔父甥のは除外だろう。俺はまず子供がいねえ。
 それにあいつは見たところお前らと同じくらい。あんなでかいガキはエドですらいねえよ…多分。」
「多分?」
「子持ちの未亡人を…。」
「あぁ、義理のって事…となると、他人なのかねー?」
「とりあえず心に留めておけって事だな。何か怪しいことがあったら言っとくれ。…ほら、エドが来た。」

レイの言葉に視線を上げると、遠くにエドの姿が認められた。
彼の後ろには女性が慌てて追いかけているのが分かった。その姿に見覚えがあった奏美は目を凝らした。
少々足を引きずっているその人物。
奏美と奏音が初めて会った時の衰弱はもう見られず、足取りもしっかりとしていた。

「やぁ、待ったか?とりあえず紹介だけ。マリーだ。」
「セルジュ、お前正気なのか?私はお前を…失敗したとはいえ告発した人間だぞ!
 殺すでもなく、お前の領地に連れて行く?私をなめているのか?」
「まぁまぁ、自由に動かせる女となると俺が取った捕虜だろ?するとまぁ…はっきり言ってお前しかいないんだ。」
「はぁ…?」
「あ、なんかマリーさん嬉しそう。」
「想良…。」

想良の発言に奏美はため息をつき、マリーは睨む。

「と、とりあえずだな!今すぐ殺すか、さもなくば解放してくれるか!どっちかの選択肢にしてくれないか?」
「殺しもしないし、解放もしないよ。今の所はね。とりあえず、はい。これに…想良、マリーとでいいか?」
「うん、構わないけど…。えっと、よろしく、マリーさん。」
「ふん!」
「女のツンデレか、ニュータイプだね。あたしのピースが埋まった。」
「はぁ?!そこのツインボム、変な事言うな!」
「つ、ツインボム?!なにが、あたしのナニが?!」
「…行かないのかい、あんたらは……。」

レイの呟きは誰にも聞こえなかった。
彼らが空へと飛び立ち、元の居住に戻るのはこれから数時間の後だったという。





「どうした?随分やつれたな…。」
「そりゃ…食べてないからね……軍師様、三日ぐらい食べないでごらんよ。」
「遠慮しておくよ。私は国を動かす手として頭は常に働かさなければいけないからね。」

気だるそうに、ベッドから身体を起こしたアリーを軍師は眺める。
入ってきて早々、軍師の兄でありこの牢の総取締りを勤めるフィッツを怒らせ。
その影響で彼は牢に関する全てを放棄し、周辺の小国へと足を伸ばしてしまった。
おかげでこの牢に入れられている者の食事はストップし、発狂する人物まで現れる始末。
ここ数日お前のせいで余計な骨が折れた、と小言を言おうと思えば予想以上の衰弱振りに驚かされた。

「腹は減らないのか?いつかの手形、あげていればよかったかもしれないね。」
「あぁ…あれ、ね……。」
「受け答えも辛いかい?余計な意地は張らなくていいんだよ。」
「張ってないよぉ……馬鹿、死ね…。」
「そう受け取っておこうか…。」

見回りの兵の言うとおりであれば、この人間はここに入ってから食事を取っていない。
初っ端腐りかけのそれを渡されたせいもあるのでは?という意見であった。
皿を入れても投げ返され、眠っている隙に食事を忍ばせれば次の見回り時には通路にぶちまけられているという。
警戒もあるだろうが、初め拒絶したことによる意地だろうと軍師は解釈した。
疲れてしまったのかアリーは寝転がり、軍師からは顔が見えなくなった。

「…ねぇ、軍師様。」
「なんだ?」
「ここ、ここさぁ……ちょっと雰囲気、異常じゃない…?」
「異常?そりゃあ牢だからね。どこかしら気の触れた人間がいるものだよ。」
「そうじゃない、移送される時の、民の目線。なんか…怖かったよ、軍師様……。」
「リキルシアは様々な国の人間が商いに来ている。土地を競売方式で買う。
 元々人が多いから必然的に需要も大きい。だから敵国の人間と隣で商売、なんてのもあるんだよ。」

いつか説明したことを、もう少し踏み込んで言う。
かつては何のかかわりも持たない国同士だったが、今は同盟国。教えていない情報も、少しは教えるつもりだった。

「軍師様は…気づかなかったんだ……。」
「なんの…事だ?」
「うぅん、何でも……その時に、軍師様の才能をそばで見られるのを、僕は願うよ。おやすみ。」
「あ、あぁ、おやすみ。次は食べるといいよ。……私の才能を、ね。」

小言を言うつもりが、逆に何かを投げかけられてしまった。
民衆の怒り、自分が気づかない何か、そして才能。
導き出される答え。反乱。

「なるほど。…いっその事、カメリアを巻き込むこともできるかな?」

組み立てられていくピース。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.124 )
   
日時: 2012/08/19 22:23
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:CQ5RuU2c

「はあぁぁ〜ん、帰ってきた!帰ってきたよ!カメリ…あ、あそこもカメリアか。
 ねぇエド、ここの地名なんていうの?あたし知らないわ。」
「地名?…レイ、分かるか?」
「あんた知らないでここの監視任されてたのかい?!」
「いやまぁ、はは。」

まさか、というレイの発言に対しエドはあいまいに答える。
ここに行けと言う指令書に書いてあったような気がするが適当に読み流したため覚えていなかった。
一足先に着いていた想良とマリーはその様を呆れた目で見ている。

「私は、私はあんな抜けている奴に!」
「マリーさん、落ちついて落ちついて。」
「すぐに女だとばれたし!」
「まぁまぁ、ね?」
「はぁ……まぁ、ここはのどかな所だな。争いが無いような、そんな雰囲気だ。」

マリーはそう言うと、集落を見下ろした。
彼らは帰還に気づいていないのかそれぞれが田畑を耕し、子供たちは駆け回っている。
これが本来あるべき人の姿なのではと想良は考えた。

「まぁ、とりあえず中に入ろう。マリーには色々聞きたいこともあるし…な。」
「…、国のことなら言わないぞ。私もそれくらいの抵抗は出来る。」
「あぁ分かった。じゃ、俺の部屋に行こうか。レイ達はどうする?」
「俺は少し休ませてもらうよ。移動とか色々、疲れちまった。」
「あたしは携帯で色々する。アリーちゃんに全部充電してもらったし、三日は持つでしょー。」
「はぁ…ウチは姉ちゃん監視してるよ。想良は?」
「私?私は…みんなと遊んでくる。久しぶりだし、楽しみだよ。」
「そ、じゃあ夕ご飯までには帰って来るんだよ。」

奏美の言葉を最後に、皆は家の中に入る。
想良はそれを見送り暫くたたずんだあと、未知の目的の場所へと歩みを進める。
教わった秘密の場所。
男装するように、と言われたが今の自分の姿はどうだろう。
髪の毛は相変わらず短いし、身に付けている服も無地の色の濃いものだった。
武器も、多少時間があれば作れるだろう。試験にも合格したことがある。それが自信だった。
記憶を頼りに、歩みを進める。





今日も、天気はいい。
ただ、草木の香りを運んでくる風はだんだんと涼しくなっていった。
簡易な生簀から魚を数匹取り出し、手近にあった木の枝に刺す。
苦しそうに身体をよじるそれも、次第に動かなくなった。火をおこし、火の通るのを待つ。
木々に覆われ、且つ念入りにコラージュされたその入り口ですら仲の呻き声を防ぐのには役に立たなかった。
叫びや、懇願。この静寂の中ではあまりにもはっきり聞こえすぎていた。

「……。」

気配、息遣い。
感じた限りでは戦いに慣れている雰囲気ではない。呼吸や足音も隠そうとしていないのが何よりの証拠だった。
今から火を消そうにも、ここでの生活痕は消えないだろう。
彼は自らの犯したミスに舌打ちした。

「…あれ?人?」
「…旅人です。道に迷いまして、ここは自然が豊かですから。居ついて、いました。」
「そうなんですかー。いいですよね、空気が綺麗だし。」

少々肩を弾ませている目の前の人物はにこやかに応対する。
そして周囲を見回し、ある一点で視点がとまった。木々に覆われた扉。漏れ出す呻き声。
彼女――声、そして体格からそう判断した――はすぐに目線を逸らし、男性に向き直る。

「あなたはなんでここに来たんですか?」
「私は、流浪の人間だ。…気ままに歩き、気に入った所で、生活する。不都合があれば…移動、する。」
「へー。やっぱり野宿が主なのかなぁ。」
「…そうなる。」

何気ない会話。だが、確実に個を知るのには重要そうなことばかり聞いてくる。
彼は目の前の人物から一歩、遠のいた。近づいては、暴かれる。
だがしかし、それは想良が許さなかった。
ぼんやりとした、僅かな記憶。引っかかる面影。

「あなた、私とどこかで会った事無いですか?見た事あるような、ないような……。」
「私に、そんな記憶は無い。…おそらく、人違いかと……。」
「うーん、なんか見た事ある気がするんだけどなぁ。」

想良は首を傾げる。会ったこと、少なくとも彼を見たことはあるはずなのだ。
それなのにその瞬間を思い出せない。
男も必死に記憶をたどった。もし目の前の女が自分を知っていた場合、どこでというのが非常に大事になる。
もしかしたら、始末しなければならないかもしれない。

「んー、分からないや。えっと…さよなら。」
「…あぁ、また。」

踵を返し、元来た道をいく女を見て男はほっとしていた。
もう少し情報を得たい。ここで殺せばどんな理由があろうと去らなければならない。
ちょうど良く焦げ目のついた魚をとり、火には水をかけ薄暗いところへと戻った。





「随分と…子供趣味な部屋だな。お前のことだからもっと散らかっているものだと思ってた。」
「はは、見た目で判断してくれるな。じゃあ、尋問を始めようか。
 と、その前に言っておこう。俺は優しいよ、ちゃんと言ってくれて正直で、従順な人にはね。」
「どうだか。一国潰す奴に優しさなんてあるのかね。」
「俺は一日で潰した。自我をもたないような幼い子しか残していない。数日は夜泣きがあるがおさまるはずだぞ?」
「ふん、仲間まで殺しそうだといってたじゃない。私は、覚えてるよ。」

窓から差し込む陽光が二人をやわらかく照らす。
二人は互いに譲らなかった。特にマリーは自分の判断が正しかったとはいえ結果的には敗北を味わったのだから
それが強いようだった。
どちらも口を開くことは無く、互いの出方を窺う。
即ち停滞を意味していたが、これは無意味な時間の浪費ではなかった。相手の器のほどを知る。
はじめに折れたのは、エドだった。

「まあいい。俺を信じるも信じないもマリー、お前の勝手だ。だがお前は俺の捕虜、好きにする権利がある。」
「分かってる。なんでもやればいい。それで私から情報を引き出せばいい。
 その情報はもはやセルジュ、お前のものだ。お前のものを使うな、と私は強制できない。」
「そうか。無駄に抵抗しないでわあわあ騒ぐ馬鹿な屑じゃなくて俺は嬉しいよ。
 さて、何から聞けばいいのかな……。」

聞く内容を考えていなかったのか、エドは目を閉じ考え込んでしまった。
彼の誘導か、それとも素なのかはマリーには察することは出来なかったが好機とばかりに辺りを見回す。
第一印象は小さな子供の部屋のようだった。
子供が使うような小さな刀。これは案外古いためエドの幼少時代使っていたものとマリーは推測した。
だが、この部屋で視線を集中させる古びた人形があった。その他にも人形が肩を並べている。

「なんだ?俺がこういうのを持っていたらおかしいか。」
「…趣味は、私は口を出さない。これがはじめの尋問ならばな。」
「没収した奴だけどさ。やっぱり変か。」
「そうかも…な。」

子供の部屋。その印象は間違いだったかもしれない。
それを連想させる物は人形…どれも薄汚れていて、全てのそれが子供の好むデフォルメされた物ではなく
深いコレクターが好むようなリアルさを持っていた。
生きているような目。しかしそれは目の前にある物だけを映しているだけで何も見ていない。
虫が食ったのか穴が開き、中身の布切れや木の実の殻が付近にこぼれていた。

「じゃあまず一つ目。お前、独身?」
「は?…はぁ?」
「いや……聞いておかないと俺の踏ん切りが付かなくてな…。」
「…そもそも私は結婚するつもりなんて無い。私はそういうのできる人間じゃない。」
「それなりの上流または極端な下層な身分。ただお前が結構な信頼を置かれてたと見ると前者だな。」
「どうでもいい。」

こういう事から、洗っていくのか。
そう理解したマリーは繋がりそうなことは口にだすまいと決意した。しかしある疑問がわきあがる。

「あの二人は…なんか違うな。」
「え?レイと俺?一応兄弟だが…あぁ、母親は同じ。父親は違う。俺らの所は女が継ぐから。
 俺の父親は戦死。」
「いや、あんたらじゃなくて…。」
「奏音と奏美?奏美と想良、それとも奏音と想良?どの組み合わせかは分からないがあの三人は来訪者だ。
 言ってなかったか?とりあえずあの年で未だに色々と出来ないのはおかしいとは思うだろう?あいつらの世界には戦がない。」
「私はそこまで見てない。」

エドとマリーの間には食い違いが存在していた。
それを互いに理解していたがどのように解消するべきか分からない。マリーは根本から語る事にした。

「なんか、想良が違うような…その。」
「あぁ、奏美と奏音は姉妹だ。性格も根っこの方では似ていると思うぞ。それで、尋問だ。」
「まだ、気になる事が…。」
「だから、想良はあっちの血じゃない。ほら、始めるぞ。」

有無を言わせないエドの雰囲気にマリーはしぶしぶながら従った。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.125 )
   
日時: 2012/09/17 16:04
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「奏美。」
「ん?」
「ちょっと来てくれ。」
「あ、うん。」

家の中に入り、エドとマリーは上へと消える。
奏音もそれを追う様に消えていった。扉の閉まる音から、割り当てられた部屋に入ったのが推測できる。
奏美も少し休もうかと思い、階段に足をかけたときにレイに話しかけられた。
それほど疲れている訳でもないし、と彼の前に座った。

「俺はお前にいくつか質問する。構わねえかい?」
「うん。よっぽどプライバシーに関係することじゃなければ。」
「まぁいい。奏音はあんたにとってなんだ。」
「え、姉ちゃん?姉だけど…うん。」

突然の質問。想良の言った事が頭の中で反響する。
レイの態度はよく分からない。単純なようで、肝心なところを理解するのが奏美には出来なかった。

「本当に、姉か?」
「え?そうでしょ。普通に姉って言われてたし、ウチも今までもこれからも姉ちゃんは姉だと思うけど。
 突然妹になりました!とかないでしょ。」
「腹違いとか、ないか。」
「無いよ。親はどっちも初恋同士。小学校から一緒なんだってさ、うらやましいね。
 それにさ、ウチが中学に上がるときの更新手続きのとき戸籍見せてもらったけど普通に姉ちゃんは姉だったよ。」

奏美は奏音が養子なんて話は聞いたことが無い。逆もまた然りだ。
まだ早い、なんて話さないこともあるかもしれないがそれならば戸籍を見せたのは最大の誤りだ。
しかし、質問の意味が分からない。
奏音のことをどう思うかでもなく、奏音とは何だ。
姉としか答えようが無かったがそれ以上のいい答えも浮かんでこない。

「なんかよ…あいつに変わった事、なかったかい?」
「変わった事?ウチが物心ついたときから姉ちゃんあんなだったよ。やれアニメだ漫画だって。」
「おかしいな…俺も鈍っちまったか……?」
「え、レイはまだまだ若いでしょ。鈍るなんて年じゃないよ、まだ延びる年でしょ。」
「担当。会った事あるかい?」
「担当って姉ちゃんの仕事の?」
「あぁ。」
「あるよ。津岸さん。想良が声真似してた人ならだけど。
 えっと臨時の…ああっと、れ、レオン?その人には会った事無いけどね、来たのはここ最近だし気にしなくていいよ。」
「そうか……。もういい、少し考えてくるよ。また二人のときに、頼む。」
「あ、うん。協力できるなら…。」

レイは上へとあがっていく。それと入れ替わるように想良が戻ってきた。
多少の息切れと、草が着いた足元。集落に行っていないことは一目瞭然だった。
想良は周りを見回し奏美がいることに気がつくと、なんの迷いも見せずに彼女の向かいに座った。
そこで気づく。微かな煙のにおい。

「想良、早かったじゃん。」
「うん。なんか集会あるらしくてさ。言われちゃった。だから後で行こうかなって。
 で、何話してたの?」
「別に何も話してないよ。」
「話してたよ、だって今座ってるとこ温かいもん。奏美が私が来る前にわざわざそっちに移ったって事無いでしょ。」
「レイと話してた。」
「ふーん。」

探るような目つきを想良は一瞬したが、自分の足にくっついている草に気づくとそれを摘み窓から投げ捨てた。
とっさの事とはいえ不要な嘘をついてしまった奏美は、その一挙一動に内心恐怖に凍りついた。
想良も、なぜ友人が嘘をついたのかが全く分からず何か隠し事があるのを見て取った。
必然的に奏音は奏美の側につく。姉妹なのだから。そうすれば自分は孤立してしまうだろう。
友人というものを超え、疑うことを余儀なくされていく。
ある一つの世界の常識に二人は染まりつつあった。





「なるほどね…軍が独自の訓練。」
「はい。」
「そっか。もう下がっていい。」

下がっていく者。その目には微かな非難がこめられていた。
同時に僅かな後悔も生まれるが今から消したのではもう間に合わないことも軍師は承知していた。
あの、軍を嗅ぎまわっていたという分子の報告は今でも続いている。
報告が途絶えるならばあの国は違うだろうと牢に繋いだため、これはカメリア及びその同盟国の線は消えた。
窓を覆うそれに目をやる。南のほうの活気が無い。軍は国境周辺を警備している。
今現在の入国は取るに足らない――脅しさえすれば降参するような小国が約二十。
武力でかかれば確実に抑えられる国が十足らず。本気でかからなければいけない国は一つだけ。
一軍隊の長が与えられたと伝わる武力国家。最近は穏健になってきたが過激なことで注意している。
その他にも個人で契約しているものが数十あるが、その人らの出身国は計算に入れるまでも無い。

「ロズ、暇があったら来てくれ。」

小さな機械に喋りかける。
すると間もなく息を切らせた少年が入ってきた。

「走ってこなくていいんだよ。暇があればって言ったんだし。」
「国のために尽くすのが仕事だから!」
「そう…国について。不満が出てるところはあるか?個人契約も含めて。」
「不満?あ、商いだとね!えっとね、西の個人で勝手に連合作ったとこ。あそこがちょっとぶーたれてるよ。
 スラムの近くじゃ商売できなーいってさ。安いからってあそこの土地買ったのにね。」
「あぁ、あいつらね…あれはいつもだろう。その他は?」
「んっと、城下のハータヤとアンティラが近々合併して大きな店にしたいとは言ってたよ!
 でもそれにもっと税金取るよって言ってから物凄い怒ってる。」

ハータヤとアンティラ。同国から来た人間が共同で治め、長い歴史の中で分裂した国。
民衆の力で最近は合併の動きがあるという。その影響なのが窺える。

「後は?外交のほうでもいいから。」
「商いのほうはもう無いかな。外交もね、パウエルの動きがほとんど無いくらいであんまりないよ!
 カメリアもあと何週間かで資源をくれるって言うしね!」
「じゃあ、戦の動きも無い。」
「戦…無いよ。だってこの前潰したじゃん!でもビックリしたよ、お兄様。
 お兄様の陣が破られるなんて思ってなかったもん!ロズはとても驚きました、まさかお兄様が!」

本当に驚いたように、しかし芝居がかった口調でロズはフェビアンに近づいた。
フェビアンはそれを弟の肩に手を置いて制し、諭すような口調で語りかける。

「私も完璧ではないからね。そう、もういいよ。ありがとう。」
「本当、もういいの?!ロズはお役に立ちましたか!」
「うん、立ったよ…。」

ぱぁっと顔を輝かし、ロズは弾丸のようにその場から立ち去る。
彼の陽気さと女のようにキンキン響く声に付き合うのは疲れるが国のため仕方がないと諦めた。
後数年すれば声も変わり落ち着きも出て少しはマシになってくるだろうと軍師は言い聞かせる。
ふぅ、と息をつき弟からの話を反芻しゆっくりと飲み込んでいく。
ハータヤとアンティラが扇動すると言う事はほぼありえない。
近々合併しようかという所で滅ぼされるような口実を与えるほどあそこの国主らは馬鹿ではないのを知っている。
パウエルの動きが無いのは気になった。閉塞的ではあるが、なんらかの情報は常にもたらされてきたためだ。

「フィッツは…周辺国として。影響は一応、侵略まで入れておくか。
 ロズも嘘をつくのが相変わらず……こんなんだから私にお鉢が回ってくるんだ。少しは考えてもらいたいよ。」

窓に目をやれば、物凄い速さで動いていく一つの点があった。
それは繁華街を出、スラムのある一点で止まる。文句を言っているという連合がある場所に相違ない。
税を上げるか、はたまた注意するか。そのような事に費やす以上の時間がたつ。

「分裂も避けられない…か。私に味方は…信頼できるものは……。」

軍を嗅ぎまわる分子の特定。
リキルシア国が王の五男、ローランド=カンター。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.126 )
   
日時: 2012/09/17 16:09
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「エド、入っても構わねえかい?」
「ん、あ、待て!俺が開ける、開けるから…五分、いや三分!」
「…始末をしっかりやって俺の部屋に来てくれ。」

扉の向こう側からの兄の慌てた声に対しレイはそっと息をついた。
考えても具体的な解決策は見つからず、多少の意見を聞こうかと思って来てみればこれだ。
つい最近は無かったからと油断していた自分自身も悪かったが、相変わらずのそれに呆れを感じずに入られなかった。
自分の部屋に入り、腰元につけている補助具をはずしドアノブにかける。
その瞬間ぱっと部屋の中が明るくなった。

「あー…片付け……。」

乱雑に積み重った服を見て、自分の始末が悪いのが原因だがうんざりする。
とりあえず地域別に分けようと近くにある山の一つを持ち上げればゴトリ、と音がした。
大方潜入のときに予備として潜ませている武器か、それをとめておく物が落ちたのだろう。
そう思ったレイは踏まないようにどけようと音のしたあたりを足で払った。だが――

「いってぇ!」

予想以上にその物が重く、硬かった。思わず抱えていた衣類を取り落とし、蹲る。
ジンジンと熱を持つ足を庇うように動けばエドがひょっこりと顔を覗かせた。

「大丈夫か?凄い音したぞ。」
「うるせえよ、勝手に入ってくんじゃねえ…!」
「なんだ、心配したから入ってきたのに。で、なんか話?」
「ん、まあな……。」

エドはレイが投げ出した服の上に座り、不快な顔をした持ち主を見てみないふりをした。
レイも言っても無駄である事は過去から重々承知していた。
乗られていない服をかき集め、適当にたたみながら口を開く。

「反乱の気は無し。アリーは消える。俺らが踊らされたって訳じゃねえだろうなぁ…。」
「おいおい、弟を疑うのか。」
「疑う…訳じゃねえよ。でもいなくなれば最低何かしら仕掛けがされると思ったんだよ。
 まあ本家行こうって提案したのは俺だしよ……やっぱりもう引退の時期かねぇ。」
「引退ってまだお前二十超えたばっかりじゃないか。三十くらいまではやるべきだろ。」
「年齢なんて問題じゃねえよ…勘なんだよ、必要なのはよ。」

服を掻き分け、何かに手が触れる。
それを引っ張り出せば木の箱で、先程蹴ったのはこれだったのだろうとレイは納得した。
中を開けても空のようで、空中に放り投げるとそれは一瞬で炎に包まれた。
パラパラと灰が落ち、それも適当に扇げば影もなくなってしまった。

「それか?蹴ったの。俺に言えば燃やすなり変なの作るなりしたんだけどなぁ。」
「そしてまた置き場をなくすのかい?……まあ自分の部屋の中に詰める分には口出すつもりねえからさ。」
「でも燃やしちゃったじゃないか、勿体無いなぁ。それで話は何だ?」
「あ、ああ……。」

レイは覚悟を決めたように話し出した。
彼が話している間エドは黙って聞いていたが時折息を呑んだり、口を開きかけたりしていた。
しかしその度、弟の表情を見て押し黙る。
話が終わった後は暫く沈黙が続いた。そして、エドが口を開く。

「お前…いいのか?」
「構いやしねえさ。…死にたくないってのが本音だぜ?
 でもよ、……うん。ちょっとぐらい、ほんの少しだけなら…時間稼ぎぐらいしてみせるさ。」
「…そうか。最低限の根回しくらいはするよ……。」
「……。」

既に彼の覚悟が決まっているのは分かっていた。
しかし、それが揺らいで欲しいという僅かな願望がこれから起こるであろう事の事実を述べていく。

「お前はここに残って反乱が起きた場合の鎮圧。……の、時間稼ぎ。」
「ああ。」
「俺達は…。リキルシアに、行く…そのあと、パウエル。」
「うまくやれよ。そうすりゃ俺も死なねえで済むんだからよ。」
「あ、ああ…できるだけ、早く…。」
「馬鹿。気づいてるって悟られねえように遅めに行動しやがれ。俺は…死ぬっつっても最悪自我が
 なくなるだけじゃねえかよ。エドやアリーみたいに殺害を最終目的にされてねえんだから。」
「でもそれは…死ぬのと同じじゃないか。傀儡なんて…。」
「薬に対する抗体…というか、慣れさせられてるんだ。いきなり致死量ぶっこまれない限り平気さ。」
「……。」
「あいつらに悟られるなよ。早く…明日にでも出発しろ。」

その冷たく突き放すような口調にエドは部屋を出て行った。
扉を閉め、自分の部屋に戻る。
彼の部屋の中ではマリーが棚に縛り付けられ、虚ろな目でエドを見た。近くには小瓶が転がっている。
エドを認識したのか一度瞬きすると、ゆっくりと目を閉じた。

「マリー、俺はまた血縁を殺すかもしれない…。」
「…そ、ぅ……。」
「しかも間接的にだ。俺が直接手を下すわけでもない、相手が完全に死ぬわけでもない…。」
「……。」
「でも実際、死ぬところは見てみたいんだよ。あいつは普段から感情を殺さなきゃ出来ない仕事だから、
 薬でも何ででもいいから生きたあいつをもう一回見たいんだ。でも情があって死んで欲しくない。
 ……少しは人の話を聞いたらどうだ…!」
「う、あっ、あ、ああ゛あ゛!」

つぷり、とマリーの露出された太ももに針を刺す。深くまでいくと、硬い何かに当たった。
肉に刺される程度ならば彼女も耐えられただろう。
ゴリゴリとその硬いそれに針を貫通させ、痛みに身体を痙攣させるマリーを眺めた。

「はーっ…はー…お前、どう…っ、ぅ…つお、り…。」
「代わりぐらい果たしてみてくれないか?」
「出来る訳…私は、私……。」

ガクリ、と首をたらしたマリーをエドは眺めた。肩は上下している――ただ気絶しただけのようだ。
針を抜き、血を噴き出している傷口に手を当てる。
間もなく傷は塞がった。エドはマリーの足から流れ床に小さく溜まっている血を掬い取り口に含む。
名残惜しそうに目の前の女性の腕と自ら縛った縄を視界にいれるが、それを解こうとはしなかったし思わなかった。
エドが幾度目か血の付いた手を口に含んだ後彼女が怪我をしていたと理解することは出来なくなった。





「ご飯、何がいいかなって……。」
「なんでも…。」
「……。」
「え、えと、マリーさんは?」
「寝てるぞ。無理やり引っ張ってきたからな、多少は疲れるだろう。」
「そう、じゃあよっぽど疲れてたらお粥みたいなの作ればいいかな?
 ……あのね、なんでそんなに皆して空気が重いのかなぁって気になるよ、私。…あ、話す事じゃなかったらいいけど。」

奏美と想良の間には気まずい空気が流れていて、それを破るかのようにエドがやってきて。
レイは体調があまり優れないからしばらく下に来ないかもしれない。彼はそう言った。
とりあえず台所の掃除をして料理を作ると宣言した想良は二人のあまりの無気力さと流れる空気に困惑していた。

「えっと…あの、あのー……材料見て考えるから。」
「あぁ。頼むぞ。」

ぱたぱたと食料庫に消える想良を見送り、エドも視線を戻した。
奏美は顔を伏せており、エドからはどんな表情をしているのかを理解できない。

「…あれ。」
「ん?」
「奏美、俺は今まで疑問に思っていなかったが。」
「うん。」
「なんで想良は家の物を色々と使えているんだ?教えた覚えが無いんだが。」
「台所とか?アルから教わったんじゃないの?」
「あいつ教えてたか…?」

ふと浮かんだ疑問を口に出せば、奏美もよく分からないというように首を傾げる。
想良はアルがマティーに連れられここを去ってからはほとんど食事を作っているのだ。
トリクシーにも料理を教えるほどを熟知していることになっている。

「なあ、奏美達の世界でも色々とここと共通か?」
「え?いや、ウチはよく分からないけど……あ、でも昔って感じってだけで。」
「昔?」
「あの、電気とか水道とか。あとガスも。魔法使うか、自力でやるかでしょ。
 地球ではそれを作ってる人がいて買う……って言えばいいのかな。そんな感じだよ。」
「ふーん……。」

エドは納得言っていないような声を出すが、それ以上探ろうとはしなかった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.127 )
   
日時: 2012/10/07 12:49
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:OQcm08Vs

「はあぁああ?!ざっけんなまじふざけんなし!
 今日帰ってきたばっかりだよね、今日!また明日には別の国?なにそれ?あたしを殺す気?過労で死ぬよ?」
「姉ちゃん、ウチらは世話になってるんだよ?合わせようよ。」
「奏美もそーやって!ヤダヤダあたしはニートするって約束したんだあああ!」
「誰と。」
「奏音の言いたい事も分からなくは無い。でもな、納得してくれないか?」
「ええええええ……。」
「駄目か?」

もう日も沈み、原理の分からない明かりで照らされた家の中食卓を囲む。
エドが明日にはリキルシアに行くと言った瞬間奏音の猛攻撃を浴びた。休む暇があったもんじゃない、と。
全員が向かうと言えばまだ納得しただろうが、説明の中でレイが残ると言ったのが失敗だったのだろう。
理由は明かせないため、自然とエドの立場は弱くなる。

「私もさ…戻って来て皆と遊びたいんだよ。キルシ君としばらく会ってないし……。
 それにラリーさんに弟子入りするって言っておきながらまだ一回もそういう感じのことしてないし…。」
「そうそうそう!てーかさ、今日までのあれは納得してるよ?勝手に世話になってるしさぁ。
 でもまたって何。外交なんてあたしに任せてごらん?第三次世界大戦幕開けするかんね?お分かりか?」
「第三次って…姉ちゃん……。」
「そうだぞ。世界大戦…っていうのはまだ起こってない。せいぜい大陸全部だぞ?それも創造期。」
「エド、論点そこじゃない……。」

がっくりと肩を落としながら奏美が呟く。
話しながらであるため箸の進みも遅い。普段であれば既に食べ終わっているような量も、人数の欠落も手伝い減らない。
眉間にしわを寄せたまま奏音は箸を咥え、行儀が悪いと嗜めるエドの声を無視した。

「…つか今思ったんだけど、あんた箸使えるんだね……。」
「ん?あ、まあな。敵地とかでは手で食べる…あれ?向こうで何回か一緒に食べた時に…。」
「ナイフとフォークだったよね?」
「ウチに聞かないでよ…まぁ、箸は使ってなかった。」
「まあ、いいか。俺は気にしてないし。祖母さまの影響だろうなぁ。
 で、とりあえず強制的に参加だ。俺だって休みたいんだぞ?他人のフリをして、何回か無視して…疲れるんだ……。」

皿に取り分けていたものを全てかきこみ、異論は許さないと言った表情でエドは三人の顔をのぞいた。
元々賛成していた奏美は頷き、奏音もしぶしぶといった表情だ。
だが、いつもは従う想良が異を唱えた。

「私はここにいたいよ。レイさんに用事があるんだったら集落の人に頭下げて泊めて貰う。」
「そういう訳には…。」
「なんで駄目なの?公儀の秘密です、とか?私探らない。だからここにいさせて欲しいな。」
「想良、…迷惑が、かかるんじゃ。集落の人たちにも生活はあるんだよ?
 ウチらはおいて貰ってるんだよ…できるだけさ、迷惑にならないようにって…。」
「…そうだけど、そうだけどさ……。」
「つか疑問。はーい。」
「なんだ?」
「なんでわんこは残る訳?」

渋る想良を尻目に、奏音が思ったことを口に出す。
なぜレイだけを残して行きたいのか、強情ともいえるその雰囲気を素直に受け取ってのことだった。
謀反の疑いがあり、それを誘い出し且つ最低限の犠牲しか出さないため。
戦の中、親兄弟が敵同士になる様なそんな世界で生きているエドですら今回のことには躊躇を覚えた。
まして今彼に疑問をぶつけているのは血縁同士殺すことなどありえない、最大限の争いと言っても口喧嘩くらいの生温い
環境を精一杯依存しあいながら生きている人間たちだ。
まず反対されるのは目に見えている。決めたのがレイであってもだ。

「…婿、入り?」
「エドさんって嘘つくの苦手でしょ。」
「そんな事ないぞ。色々隠してることもあるし……。」
「へぇ、どんな事?」
「軽くお家騒動になりそうな事とかな…。」
「エド、誘導尋問的なことされてない?想良も探らないって言ったのにさぁ。」
「あ…まぁ、パベーニュのとは言ってないだろ?」

無理やり継ぎ合わせた言葉を繋げる。

「……パベーニュ?」
「え?あぁ、俺達の苗字。言ってなかったっけ?」
「あーあたしは知ってたけど。奏美達は知ってるっけ?」
「知らないかも…。」
「私も知らなかった。」

聞きなれない姓を何度か呟き、奏美は首をかしげた。
エドはこのまま話をうやむやに出来るのではと何気なくそちらのほうへ広げていく。
想良もこれには今まで知らなかったことに気をとられ気づかなかった。

「知らなくても困ることは無いから安心してくれ。そもそも国主以外に姓を名乗ることなんてほとんど無いから。」
「ふーん。でもさ、ウチ的に苗字ないと辛い気がするんだけど。名前同じ人なんて結構いるでしょ。」
「上流階級では被る事が少ないからな。役職呼びがほとんどだし。」
「へぇ。あ、武士の社会とかもそんな感じだったかなぁ。大納言とか何とかの守とか。」
「俺らの祖母さまはそんなの無かったけどな。ま、とりあえず準備はしててくれ。
 といってもまだ荷の紐は解いていないだろう?よっぽど必要なものはリキルシアも都会だから調達できる。安心してくれ。」
「……私は、残るから。」
「……。分かった、レイにも言っておく。死ぬ覚悟でいること。」
「大袈裟だよ、エドさん。」

からかう様に想良は言った。
その口調には自信がこめられており、それはどこから出てくるのかエドには疑問だった。
しかしそれにより、もしかしたら彼女らがこの世界に来たのは"レオン"ではなく想良にあるのかもしれない。
根拠の無い手ごたえが、彼にはあった。





「お兄ちゃん、ふふ。」
「……」
「ねぇねぇ、次は抱っこして欲しいなぁ。私ね、ちっちゃいでしょ?ここに入る前は木に登ったり高いところにいるのが
 好きだったの、いいでしょー?」
「……」
「うわっ、やったー!お兄ちゃんありがとう!」

媚びへつらう声。彼女は頭の中でため息を付く。しかし、声は嬉しそうにきゃっきゃっと弾んでいた。
長い間、それこそ物心付いたときから狭い暗い部屋の中。あらゆる手を使い痛めつけられた身体。
成長するという事を放棄した結果、年相応の外見など手に入れられなかった。
そのかわり彼女に授けられたものは、相手を惑わす幼い外見。精々7、8歳程度のそれは相手を油断させるのに事足りた。
痛みから逃れるために身に付けた無気力で敵ですら哀れと思う頭の弱さの演技も彼女の固い鎧となった。

「え、もう終わり?もっとやって、お兄ちゃん。いい子にするから!」
「……」
「ねぇ、お願い…お兄ちゃん。私、いい子にするよ、お願い…だ、よぅ…。」

ぽろぽろと涙を零せば、仕方が無いと言うようにもう一度肩に乗せられる。
ここまで絆すのにそう時間はかからなかった。寡黙だという印象で困難な道を描いていた彼女は逆に困惑した。
寡黙なのではなく、口が聞けない。その分相手への意思疎通のため普段からの身振り手振りが大きく表情もよく動く。
分かり易さを心がけたのかジェスチャーは誰もが理解できる内容。
そして子供の精神のまま身体だけ大きくなったかのように、彼の感情の起伏は分かりやすかった。
頼りにされれば精一杯背伸びして、少しでも上手くいかなければぽい、と投げ出す。

「…っ、ありがと、お兄ちゃん。」
「……。」

感謝の意を見せるため、ぽんぽんと頭を軽くたたいてからぎゅっと抱きしめる。
小さいなりの、感謝。彼女が落ちないよう小さく頷いた青年の表情は柔らかかった。

(ちょろいなぁ。…こういう作りなんだ。ふぅん……。)

背が小さく見渡せなかった全体を彼女は今、見ていた。
所々死角になっている所はあるものの、全体図を思い描くのには十分な範囲だった。

「ありがとう、お兄ちゃん。もういいよ。」

お前はもう、私にはいらない。忠誠心だけ馬鹿高い、お荷物さん。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.128 )
   
日時: 2012/10/07 12:51
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:OQcm08Vs

「お断りします。」
「こっちが断るよ!姉ちゃん、さっさと寝てくれない?結構その、リキなんとか遠いんでしょ。」
「あたしは知らないよ。つかリキなんとかってどこよ。徒歩ならよく分からんけど飛ぶでしょーよ。」
「そういう問題じゃ…!なんで解いちゃったのさー……。」

物臭の姉なら荷を解くことは無いだろう。そう思っていた奏美の予想は外れた。
少なくとも食事前までは手を付けられていなかったので、明日には出かけると言うことを知っていて解いた事になる。
それも目的の物が見つからなかったのかはたまた嫌がらせかほぼすべての物が部屋中に散乱している。

「あーもー!想良は集落行っちゃうし!姉ちゃんは姉ちゃんだし!」
「そりゃそうさ!あたしはいつまでもオリジナリティさ!」
「訳分かんない!」
「落ちつけ落ちつけ。現地調達も可能なんでしょ?補佐の家なんでしょ、この人らは。金あるだろうし。」
「……。」
「とりあえずこっちになさそうなこれらを持ってければあたしは満足よ。」
「……。」

腰につけてある小さな物入れをふる奏音を奏美はため息をつきながら見た。
その中には携帯と彼女の好む物が入っているのを知っていて、携帯でないほうの必要性を理解できていないからこその反応だった。
そもそもそれは必要な行為をしなければ用いられないし、それをしなければ死ぬわけでもないし。
ミゲルが小袋に入れると言い、その通りになったそれは日の目を見ることが出来ず彼女の腰に居ついていた。

「ほんとこれ使わねーわ。十一の二乗あるよ。十二の二乗あったからまぁ使ってるのかもしれんけど。」
「二乗?二乗って…じゃあ、え?!」
「まぁこっちに来てから一回も使ってないし。よく耐えられてるわ、まったく。仕事無いからかね?」
「女でそれ携帯してるのもどうかと思うんだけど……。」
「エチケットっしょ。まああっちの滞在期間長かったらいいかもなぁ。あ、エドにあげた方いいかな?」
「各自の判断でどうぞ!」

思ったよりも強い口調で言葉が出たことに奏美は驚いたが姉も気にしている様子はなく彼女はほっとした。
気を取り直しあちこちに散らばった姉の私物を集め、荷造りをはじめる。使うかどうかは分からないが一応だ。
となりで持つべきものは優しい妹、なんて聞こえるがそれを無視した。

「そういえば独り身なのってわんことマテちゃん?
 エドは縛られたくないって言ってて実際好き放題暴れ放題みたいだから除外として。アリちゃんにはトリリンいるし。」
「あぁ、そうだね。…レイもまぁ、好きな人…。」
「なんか想良ちゃんにあたし押されてるよね。まぁ来るもの拒まずで行くけどさ。
 …何個か上げようかな、男共に。日頃のお礼として。マテちゃんは……いるかな?どう?」
「ウチに聞かないでよ……。」

トリクシーのことが出た瞬間、奏美の手は一瞬止まってしまった。
しかしそれに気付かなかったのか通常運転を繰り広げる姉に対し安心感を覚える。
言っている内容は最低に近いが、ばれていないと言うのが彼女にとっては幸いだった。
ふだんの奏音のスタンス――来るもの拒まず、去るもの追わずという無頓着に近くその時を楽しむのが一種の鈍感さを生み
それが奏美にとっては幸に働いた。
一方、振り回されているような人もいる、と一瞬レイのことを奏美は思い浮かべ一人苦笑した。





集落に遊びに行く、と半分嘘をつき想良は木の枝片手に目的の場所へと走る。
もう日も沈んでいるという制止の声を振り払い、その必死さに一種の疑いの念を向けられているのも承知していた。
むしろそれを欺いているというのが心地よく、また秘密の行動を任されているという一種の優越感が彼女を虜にした。
走っていて、気付いたことがある。
トリクシーが驚き半ば強引に離れた場所。それがこの道に通じていた。おそらく彼女は知っていたのだろう。
秘密の場所だと教わっていたこの隠れ場所。あの時はなんとなく歩いていたから自然と足が向かってしまっていた。
それに気付き、慌てて家まで戻った。

(あれ…?確かあの時今の所は関係ないって言われた。え、トリクシーは私が関わる事を知ってた?)

ふと立ち止まりあの時の事を回想する。
あの時は確か奏音の奔放さに呆れ、それの被害を被らないために外に出た。
確か虫を食べるとか、歩き方を教えてもらったような記憶もある。実際彼女の左手に握られている枝がその証拠だ。
その後家に戻り、トリクシーはアリーがいないからと言って上に行った気がする。
なんとも曖昧だが、関わることを知っていたとは思えない。偶然だったのだろうか。

「ま、いいか……。あれ?」

遠く、ちらちらと炎が見える。一筋煙も立ってはいるものの狼煙ではないようだ。
近づけばそれは帰ってきてすぐにこちらに来たときの人物だと言うことが分かった。
相手側もこんな短時間で再びあったことにいささか驚いてはいるようだが出てきた声はとても穏やかなものだった。

「昼間…の方で。こんな夜更けに散歩…ですか?」
「いえ、あ、まぁ。そんなところです。こっちは星が…よく見えるんで。」
「そうですか。…戦の、絶えない地域の人ですか?炎で、明かりが消える。」
「いえいえ、戦なんて。むしろ人一人殺されたくらいでニュースになるくらい平和な国。
 …あ、一人殺されたくらいって…うわ、うわぁ。」

自らの発言に驚いたような雰囲気を出している女を男は横目で見る。
人一人死ぬのなんてありふれている。この大陸にはどんなに豊かに見える国であっても貧困層は存在する。
物価の違いなどから国を移れば金持ちになれるのもいるが、それはごく少数。皆生れ落ちた国に腰を落ち着けている。
人一人死んだ程度でニュースになるであろう国を思い浮かべるが、思い当たる物はない。

「もしや…。」
「え?」
「貴方は、海を渡りましたか?この大陸からは断絶された小さな島国が存在していて。
 情報は無いに等しいから、私は知らないけれど。そこはとても富があふれ豊かな国で、差別も無い国だとか。」
「うわ、ジパング?」
「それが国名ですか?」
「私の出身?まぁ、ジパングって言われれば…凄い昔だけどそう呼ばれてはいたよ。」
「ジパング…。そうか、ジパングか……。」
「あ、あのあなたが言った島国は多分ジパングじゃない……。」

想良の戸惑いの声も相手には届いていないようだった。ぶつぶつと何かを喋っている。
時折ジパングと言う言葉が聞こえるがそれは地球の、はるかむかしの書物がそう称しただけ。
訂正の言葉をかけようとするものの男の集中する姿に何を言っても無駄だと言うことを悟った。
どうにか上手くして後ろに見える建物に入れないかと腰を浮かした瞬間、腕を掴まれた。

「えっ?」
「ジパング。案内してもらいたい。この場所はもう情報は得られない。やっと決意できた。」
「どういう事…?は、放してよ!」
「駄目だ。」

ぎりりと腕を掴まれている手に力がこもる。振り払おうとするも力の強さがそれを許さなかった。
手を繋がれていると言うことは互いに逃げ場も無い。一か八か、懐に忍ばせた小刀を相手に突き立てる。
どこかに刺さったのは確実だったが、男は身じろぎ一つしない。想良は初めて恐怖を感じた。
手にかかった暖かい液体ももう温度が逃げ、より寒さを際立たせる。

「野蛮なのはいけない。案内してくれ。土産話がたくさん欲しい。」
「そんな、ジパングじゃ、私の出身国は!それに私は――っ!」

『来訪者』そう言おうとした瞬間、なにかに口を塞がれるような感覚に襲われた。
目の前の男もぎょっとした顔をして思わず想良のことを放した。後ずさりし、武器を構える。
男は想良のすぐ後ろを狙い、一瞬息が出来るようになったがまたナニカによって息が詰まってしまう。
ぐっと後ろに引かれ、よろよろとよろける。意識が無くなる、そう思った。
想良は意識が薄れていくその間ずっと、男の恐怖の表情。細く青白いものが武器に絡みつく様子。
朽ちていく刀や彼の最低限の鎧。がくりと膝を突く目の前の男を見ていた。
彼が倒れたのを確認すると想良自身の意識も途切れ、地面へと倒れた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.129 )
   
日時: 2012/11/17 08:46
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「う……。」

冷たい風が頬を撫で想良は意識を取り戻した。
夢だったのかと思いたいが、目の前に人間が倒れているのを見て現実だと思い知らされた。
既に固まった金属があちらこちらに飛散している。
目の前の男の生死を確認しようと近づけばただ単に気を失っているだけだと分かった。口元の草葉が揺れている。

「大丈夫ですか…?」
「……。」

軽く揺り動かすが反応は見られない。しばらく気を張っていたのだろうか。
立ち上がり、何かかけるものでもないかと辺りを見回して想良は思い出した。この男は確か捕虜だ。
奏美が初めて仕事に行った時に捕虜にされた人間。確かあの時は眠らされていた。あちらに記憶が無いのもこれで頷ける。
想良自身あの時は寝ぼけていて記憶は曖昧ではあるが確信はあった。

「……捕虜になるくらいなら、優秀なのかな。」

多分、その通りなのだろう。
半端な強さの場合レイは情けをかけてしまいそうだが、他の二人はあっさり殺しそうだ。
それを捕虜にしたということ。何かしら彼らには足りない強さがこの男には存在していた。だから捕虜になった。

「女の子じゃないけど…でも、優しいだろうし。」

自分に言い聞かせていると言うのが正しいだろうか。
あの建物にいたと言う確証は無いが、付近に住んでいたということは知っている可能性も高い。
少々、違反にはなるかもしれないがいいだろう。
この男は自分を土壇場で助けようとしてくれたのだ。結果は失敗に終わってしまったが。
男の首筋に小さな棘を刺す。弱い力でやったと思っていたそれはずぶずぶと肉に埋まりやがて小さな模様が浮かび上がった。
こうなったらもう、完了だろう。
想良は急いでその場を離れた。

もう、ここにいる必要は無い。
ここにいるはずの人間じゃないんだから。地球の人間…だから。





「は、え?寝れないの?あたしのシャーベット計画は?」
「まぁ寝るつもりだったんだが…なんかもう行けって言われた。あいつ無駄に準備が良くて…。
 もう向こうに使者が行きますっていう手紙まで捏造したらしい。」
「あいつ?レイがやったの?」
「いや、マティー。どっちにしろ俺が行かなきゃならないんだってさ。」
「なんというご都合主義…。」
「ところでシャーベット計画って?というよりシャーベットって何だ?」
「なんかアイスとカキ氷の中間的な。レイに出掛けにやって貰おうかって言ってたんだよ。」
「アイス?」

明日は早いだろう。そう思い二人は早々に寝る準備をしていた。
途中奏音はそういえば近頃アイスを食べていないと呟き、折角レイが氷を作れるのだから何かを凍らせてもらおうかと提案した。
奏美はそれに対しあまり乗り気ではなかったが、いつもの姉のことだと適当に合わせておいた。
部屋の半分を覆う奏音の私物を隅にどけ、布団を敷きかけたときエドが出立を知らせたのだ。

「じゃあ待って。想良の布団敷いちゃうから。遅いね……。」
「案外もう約束を取り付けたのかもな。想良はなぜか運がいいというか。姐さんの試験もパスするし、
 マティーに一本入れるし。」
「あぁ…なんか営業向いてそうだわ……。キシの代わりに担当なってくんないかねー…。」

遠い目をする奏音に奏美は驚いた。
今まであちらを拒絶しているような雰囲気を受けていたため、懐かしむ様子が見られるとは思ってもみなかったためだ。
エドもそれを察したらしく、何度か頷いた。
奏美は出来るだけ丁寧に、しかし手早く布団を整理し立ち上がった。方に荷物をかける。

「よし、行こう!」
「ん、やけに張り切っているな。」
「まぁくよくよしてても仕方ないからね。ウチはウチができることを精一杯やるよ。」
「奏美は良いねえ、あたしゃあもう年だから。早寝しないと…。」
「その割りにいっつも最後まで起きてるじゃん。それに最高でゲームだかで二徹したんでしょ?」
「三徹だよ。それが精一杯。あん時は流石のキシも寝ろって言ってた。そんでゲーム盗られた。」
「それ姉ちゃんの自業自得…。」
「あ。思い出したら腹立つわー!あれ限定版の奴だったんだよ?今頃ヤツの押入れの中だろーさ!ケッ!」
「奏音、汚いぞ。……はい、もう行こう。」

足を踏み鳴らす奏音を担ぎ、もう片方の手で扉を開けて奏美を通す。
しばらく奏音はじたじたとしていたがやがて血が上り大人しくなった。
階段に差し掛かり、エドが降りようとした瞬間奏音の声があたりを貫いた。あまりの大きさに奏美が振り返る。

「隙あり!」
「はっ?ぅ、わっ!」
「え、わちょ、え、エド!」

奏音の腰から蔓が飛び出て、エドの足を絡めとった。結果踏み外すことになり、先に下りていた奏美の方へ大きく傾いた。
片手に奏音、もう片手に荷物をぶら下げていたエドはそれを防ぐ事も押し留めることもできない。
奏美は下を見下ろし、上を見上げどちらでも絶望しか見えないことを悟った。

「え、あ…!」
「奏美、飛んでくれ!下に!」
「そん、もう無理…!」

目前まで迫る二人を見て、奏美は無我夢中に両腕を彼らに向けた。
重さだけでなく勢いもあり支えきるなんて馬鹿馬鹿しい事ではあったが奏美にはそれしか出来なかった。
一瞬目の前が真っ白になり、その後グン、と勢いをつけて自分が落ちていくのが分かった。
巻き込まれた、受身を取らなくては、そう思うと同時に床が視界に入る。

(背中から落ちれない――!受身、取れない!)

それを自覚すると一気に落ちる速度が下がったように奏美は感じた。
幼少期、転びそうになったら両手でちゃんと身体を支えなさいと教わった記憶が頭をよぎる。
少し違うけれど。そう思って奏美は両腕を前に出し来るべき衝撃に備えた。





「……。」

一月の内、と言っていたらしいがもうそれは終わりに近づいている。集落の人間もあせっているだろう。
自分が一人だけであると示すにはどうしたらいいか。家に入れればいい。
皆いなくなり人手が足りない、次の仕事で必要なものを作れ。ただし極秘だからここでやれ。
数日ほど適当な衣装なりなんなりを作らせ帰らせる。途中いなくなった事を愚痴れば信用するだろうとレイは考えていた。
所詮、自分で仕事を取るのではなく命令されて戦地に赴く。必要な訓練も全てカメリア側の指示の元。
どんどんと出来上がっていくシナリオにレイは満足していた。
しかし、ふと違和感に気付く。レイは顔を上げた。
先ほど下でものすごい音がしたがどうせ行きたくないと奏音がごねているのだろうと片付けていた。
特に気にすることではない、どうせいつもあいつはそうだ、俺には関係ない。そう言い聞かせ計画を練っていた。
計画に対する違和感ではない。ならばこれは――?そう思い辺りを見回すと窓枠に水滴が付いていた。

「は?いや、まだそこまで寒くねえのに。外、そんなに寒いか…?」

違和感の正体を知るために窓を開けた。途端に吹き込む風に思わず体が震える。
そんなに気温が下がったのかと一瞬驚いたが、違うと思い知らされた。
虫が鳴いている。こんなに寒ければ雪が降り、虫は最期を向かえとっくに朽ちているはずだ。
まさか既に…と戸を開ければむわぁ…と生ぬるい塊が彼を包み込んだ。

「はぁ?!…あ、おいエド!」
「あ、レイ。ちょうど良かった。少し手伝って…。」
「家の中で火を焚くんじゃ、」
「馬鹿!走るな!」
「うぁわっ!」
「わんこがー…。」

兄の制止を振り切り、火を焚いていることを責めようと力強く踏み出したその瞬間。
ずるり、と滑り訳の分からないままレイは階段から転げ落ちた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.130 )
   
日時: 2012/11/17 08:47
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:07pgeCBU

「大丈夫?死んだ?」
「死んでねえっ!」
「あらまぁ生きのいい死体。…わんこ、目、目。」
「え、あ、わっ!」
「驚いてばっかだねー。」

義眼が飛び出ていたことに気付かず、ただ階段から落ちたことに呆然として落ちたままの体勢でいたレイは遠くにとんだ義眼を
慌ててとりに行く。それをのん気な奏音の声が追った。
それだけがぽつんとあるのはなんとも奇妙でグロテスクだ。
上下を確認しはめ直しその場にいる全員を見た。相変わらずエドは片手に炎を浮かべあちらこちらを歩き回っている。
奏音は被害の少なかったであろうテーブルにタオルを敷いて座っている。奏美はその近くの椅子に座りテーブルに伏していた。
そして一階のほとんどがまるで掃除をする前のように水浸しだ。事実レイの服も水に濡れている。

「はっははわんこ風邪引くよー。ワクチンないからさっさと服脱げー。」
「わくちん?え、やめっ!」
「姉ちゃん……やめなよ……。」

奏音はレイの服に手をかける。
彼女としては親切心二割、下心八割くらいの比率なのだろうがそれを感じさせないような笑みを浮かべていた。
テーブルに伏したままの奏美のくぐもった声にも柔らかく対応する。

「えーあたしは気遣って」
「やめろって言ってんだろうがぁっ!」
「うぉ!びっくりしたぁ…。わんこいきなり大声だしたら心臓に悪いよ、主にあた…しの……です。」
「手を出すな俺に触るな俺に構うなぁっ!いつもいつもいつもいつも!」
「え、わんこ…え?何それ、日本刀?」
「あー…まーたこうなる。もういないだろ、全く。」

レイの大声で様子を見に来たエドがうんざりだと言うように首を振った。
奏音は血の気の失せた顔でそれを眺める。今までも獲物を向けられたり氷をぶつけられたりしたが今回は何か違った。
初めて会ったとき、奏美を人質に取ったときの空気よりもさらに刺々しく、重かった。
奏美もただならぬ雰囲気に顔を上げ、置かれている状況を理解した。
尋常ではない倦怠感を振り払い、どうやれば事態は好転するかと頭を働かせた。

「はぁ、奏音、少し離れろ。」
「え、何で。」
「巻き込まれても知らないぞ!」
「だから、何!」
  
  ギィインッ――!

奏音に対する返事はこの耳を裂く様な音だった。
この音の正体はエドの放った閃光がレイの手にする刀を巻き込み粉々に砕いた音だった。
キラキラと光を乱反射し、後には何も残さない。余韻だけがその空間を支配する。
次の瞬間には既に二人は武器を合わせ、互いに一歩も譲らない雰囲気を備えていた。にやり、とエドが笑う。

「あ、この音…!」
「どした?」
「アリーと、戦って……その時のより、すごい。」

奏美は理解した。あの時アリーは本気を出していない。
薬のせいというのもあっただろうが、それを勘定に入れずとも手を抜いていたのだろう。
奏美が一人を潰すまでの間に四人、殺している。ほとんど組み合ってすぐに一人が斬られたのも覚えている。
その時の刃と刃のぶつかる音と、今の音とは全く違っていた。今の方が音も大きく、なにより一打一打が研ぎ澄まされている。
少しのぶれも見えず、目標へただ一直線に進む光の影。

「お前はそれだから駄目なんだ!なよなよしてたと思えばブチギレて!」
「うるせえ…うるせぇよ!あんたに何が分かる!」
「外的な事しか分からないな、お前は何も言ってくれないから。もう少し頼ってくれた方が嬉しいぞ?」
「そんなに言える訳ねえだろうが!」
「あー怖い怖い。」
「はっ…軽口叩いてると怪我するよ!」
「おっと。」
「ぎゃ、ああああ!」
「姉ちゃん、見てなよ……。」

レイの一撃によりエドの手から離れた剣が奏音の目の前まで飛んできたのだ。
彼女が悲鳴を上げると同時にそれは光の破片になり消えた。
エドは既にスピアを持ち攻撃に転じている。レイはエドが武器を変えた瞬間から押されていた。

「ほら、さっきの威勢はどうした。」
「うるせ、槍の方が有利……。」
「それを覆してみせろ。俺は片手だぞ?遠心力とかでぶれてしまって面倒だ。」
「そんなハンデいらねぇ!本気できやがれ!」
「いいのか?じゃあ…。」
「、ぐっ!」

左手を添えたと確認した瞬間、空間がうなりを上げレイに襲い掛かった。
レイはあまりの速さに受け止め損ねたスピアの衝撃だけではなく、自らの刀で身体を傷つける事になった。
血が流れ、彼の服を赤く染め上げる。それでも作り出した武器は先が震えていた。
やがて服は血を吸えなくなり、床に流れ出す。レイはひざをついた。息は荒く、焦点が時々合わない。

「攻撃や不意打ちは受け止めるとき両手で、な。反射的だと片手でやってしまう事が多い。」
「……。」
「そうすると自分の得意とするものだったり癖だったり。利き手を偽装していれば利き手がばれてしまう。
 攻撃を逃がすのも片手では難しい。……ほら、治してやるから。」

エドが差し出した手をレイは払った。意外そうな顔をしたものの、エドはただ頷いただけだった。
それから弟の首に手をかけ、絞めていく。
レイは小さく呻き声を上げたが抵抗しなかった。もう血を流しすぎて出来なかったのかもしれない。
数秒後には気を失いどさりと倒れた。そこでエドがレイの傷口に手をあてて治す。

「はぁ。みっともない所を見せてしまったな。」
「いやまぁいいけど。つか何が起こったよ。原因はあたし?」
「だろうなぁ。とりあえず寝かせてくるから奏音は掃除してくれ。水と血を拭いて。
 布類は作れなかったら台所のなんか棚っぽいやつの中!よろしくな!」

にかっと歯を見せて笑うとエドはレイを抱えて上階へと消えた。
奏音は雑巾のようなものを手の上に出してみるがすぐに形が変形したり、消えてしまう。
何度か挑戦したが結果は全て同じと言っても過言ではない。最後には舌打ちして自分が座っていたタオルで拭いていた。
その様子をぼんやりと眺めていた奏美がぱっと玄関の方向を眺めた。あまりの速さに奏音もつられる。
何事かと奏音が妹の方を見たのと同時に想良が家に入ってきた。

「な、何この大惨事。私がいない間に何が起こったの?」
「んっと刀沙汰。ガチバトル一歩手前を拝ませて頂きました。もぐもぐー。」
「それでで奏音さんは後片付け。ていう事は奏音さんが原因?水は水道管…じゃなくて水瓶でも壊したの?」
「い、いや…これはウチが…。」
「え?!奏美?」

想良が意外そうに奏美の事を見た。こういったトラブルを起こすような人間だとは思っていなかったからだ。
その視線すら奏美は答えるのが面倒である。疲労感はなかなか抜けない。
説明すらしてくれないくらいに自分は疑われているのかと想良は眉を潜める。
これを抗議ととった奏美は目を伏せ、途切れ途切れに喋った。

「階段から落ちそうになった。どうしようも出来なかった。」
「え、うん。」
「もう駄目だ、って思って。……姉ちゃんが落ちる前、シャーベットの話をしてた。
 向こうでは姉ちゃんが、行った時。冷え込むって言ってた。雪国の雪かき…を思い出した。」
「そう…。」

本題が見えてこない想良は相槌を打つしか術がない。
しかし奏美にはそれは冷たい反応だとしか思えなく、自分のことを証明するために口を開く。
その言葉は少々熱が篭っていた。

「それで…雪があればクッションにって。思った。それしか考えられなかった。」
「じゃあ、つまり…?」
「そう、奏美は氷属性です。エドには弱いだろうね。」

ある程度拭き終わった奏音が口を挟む。とりあえず血液だけ拭ったらしく水はまだあちらこちらに滴っていた。
能力の発現。しかも訓練すらせずこんなひょんな事で。
教えてもらわなければ出来ないだろうと思い込んでいた想良は呆然とした。

「それでまぁ、奏美は力加減が出来ないから一階特に階段周りが雪だらけよ。で、エドが溶かして掃除中に
 わんこが落ちてきましたとさ。そしてバトル。残念ながら戦いのアツさでは蒸発しませんでした、ちゃんちゃん。」
「そっかぁ。奏美、凄いじゃん!私たちの中で一番最初だよ、しかも自力だよ!」
「……そんな事、ないよ。なんかね、今物凄く疲れてるんだ。」
「いきなり使ったからじゃない?それも大量に。」
「想良、分かるの?」
「うぅん、なんとなく。多分限界で百出せるとしていきなり九十位使ったんだよ。
 こっちの人は小さいうちからちょっとずつやって常に六、七十出せるようにして必要なとき百出せるようにするみたいな。」

想良はなぜこういう事を思ったのか分からなかったが、言葉が勝手に口から出てきていた。
これには本人が一番驚いていたが目の前の姉妹はそれに納得の声を上げただけだった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.131 )
   
日時: 2012/12/30 22:15
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

想良も加わり水分を粗方拭き終わった時エドがマリーを連れて降りてきた。
マリーはエドに対し疑いの目を向けていたがエドはそれを見てみない振りをしている。
それともただ単に気にしていないのかもしれない。

「あ、マリーさん!晩御飯に来なかったから少し心配してたんだよ。でも大丈夫そうでよかった。」
「あぁ…世話、かけたよ。」
「気にしないで、軽いもの食べる?それ位なら作れるよ。」
「気にしないでいい。もうすぐ私たちは出るんだ。」
「でも想良ちゃん行かないんでしょー。」
「あ、うん。…しゅ、集落まわってみたらもう皆ほとんど寝てるみたいで。」

想良は大袈裟にため息をついた。マリーはそれを見て眉をひそめたが何も言わなかった。
エドが最後の仕上げにと熱風を起こし余分な水滴を蒸発させる。暑いという声は聞いていないようだった。

「ま、想良にはあいつの看病を頼むよ。微妙にしか治してないから血も足りないだろうし。」
「え?レイさんそんなに重症なの?」
「血が足りない感じかな。とりあえず血が増えそうな物でも食わせてやってくれ。
 あ、言ってなかったから一応言っておく。食料庫の奥に小さなへこみがある。あそこを上手く刺激すると開く。」
「うん。」
「その部屋は動物の内臓とかで…食べられない訳じゃないが苦手だった場合を考えて言わないでおいた。
 もし料理できそうだったらやってくれ。」
「うん、レバーとかホルモンとか!勝手は違うかもしれないけどやってみるね!」
「そうか。じゃああれ引っ張ってくるから少し遊んでてくれ。」

エドは家を出て行った。外に出た瞬間懐から紙を取り出しそれを放ると鳥の形に変化し羽ばたいていった。
その際に扉を開けたままにしたので冷たく心地よい空気が一気に流れ込む。
皆しばらくその空気で火照った身体を冷やし、思考を新たにしようと努力した。
奏美は奏音からタオルを奪い取り一瞬躊躇したが流しで洗い始めた。
つけて置けば自分がやると言う想良の声を適当に流して。

「想良。」
「何?」
「…あいつから聞いた。お前だけ、血が繋がってないって。」
「あぁ、一人っ子って事?奏美達とは確かに血は繋がってないけどちゃんとお父さんお母さんいるよ?」
「そうか。……家族は、好きか?」
「え、ちょっといきなり何……。うん、お父さんもお母さんも好きだよ。特にお母さんはやりたい事なんでもやらせてくれる。
 特にお母さんは周りが皆死んじゃったから優しいかな。」
「死んだ…?」
「うん。なんか強盗なんだって。旅行かなんかで違うところ行ってたから助かったらしいよ。
 親戚とかもいない孤立した家庭だったらしいから普通に寮で暮らしてたって。」

淡々と自分の母の上に巻き起こった事を語る。彼女らの世界には戦がないと聞いていたマリーは驚いていた。
戦がないということは上は国力増強に力をいれ打ち勝つ事の出来ないもの意外には全て立ち向かう事。
すなわち豊かなのだろうと思っていた。豊かであれば国民は争う理由がない。
よって殺しも存在しない。そう自己完結していたためだ。しかしこれで前提を間違っていた事を理解し心の中で安心していた。
前提を間違えれば全てが狂う。

「そ、そうか…。」
「うん。しかもそれのショックでそれ以前の記憶がないんだってさ。勉強とか苦労したって。
 でも私が今通ってるところなんだけど、そこをトップクラスで卒業してるから頑張ったんだなぁって思う。」
「え、想良のお母さんってそういうのだったの?!」

台所から戻ってきた奏美が驚愕の声を上げる。
どこからか取り出してきたメモ帳に走り書きする姉を殴るのも忘れない。

「うん。お母さんは隠したりしないで皆に言ってるから知ってると思ってた。」
「いやいやいや!犯人捕まってないの?」
「証拠がないんだってさ。刃物のようなものでスッパリ。でも切り口から刃物じゃない?みたいな感じらしいよ。」
「そうなのか…すまなかった。母親の事とはいえ思い出したくもない事だろう。」
「うぅん、全然。お母さん、昔の縁はもうないけど素晴らしい人に逢えたから幸せだっていっつも言ってるから。
 お父さんもそういうのは気にしてないみたい。今が大切、過去なんてどうでもいいって。」

想良はそう言った。実際そう思っているだろうしそれを信じているのだろう。
彼女の芯の通ったその言い分は誰もに真実に写った。ひょいとエドが顔をのぞかせ、出発を知らせる。

「じゃ、何か分からないけど頑張ってね。私もここで修行頑張るよ。」
「うん!じゃあ行って来る!お土産買えたら買ってくるね。」
「ははは、まぁ色々な所を周るから何かは買ってこれるかもな。じゃあマリーと奏美が一緒に。奏音は俺と。」
「おー。ていうか狭い。」
「仕方ないだろ、俺は大きいし。奏音も…その、な?」
「素直にデブって言えー!微妙な心遣いがいらねえええ!あーもう、向こうに行ったら拓とるかんね!
 紙と墨貰ってエドの服剥ぎ取って拓るからな!」
「…なんで?」

エドの疑問は解消される事がなく、それぞれの機体は風に乗り空へと消えた。
想良はそれを見えなくなってから数分間見送り、家に入った。
太陽が顔を覗かせていた。





「君は大切に思われてるね。」
「そう…?」
「うん。ほら、見てごらん。例のヒチョウさん、君のために文書まで捏造してるよ。」

軍師の言葉にアリーは顔を上げれば彼は紙を持っていた。
少し離れた松明のみの明かりでは読み辛かったが、それはカメリア領主からの書類となっていた。
実際署名も行われており、一見それは本物に見える。

「カメリアの国主は大変臆病だからね。いざ決意しても署名でいつも躊躇している。それがこれには存在してない。
 それに常に存在している怯えの雰囲気もない。これを書いた人間は芯の強い、揺らがない人間だ。」
「そう…、マティーは本当に凄いからね。僕なんて……全然……。」
「そうあまり卑下しないで貰いたいな。私の目利きが鈍った事になる。」
「……。」
「一応私は君のことを評価しているんだ。そう卑下されては何の為にここに通っているのか分からなくなってしまう。」

アリーはもう、ほとんど動く事がなかった。この牢に入ってからほとんど絶食を続けている。
それでも尚平常を保つ精神力には驚かされたが動きは鈍くなっていた。見張りが牢に入っても気付かない事があるらしい。
何度か無理やり食べさせようとした見回りもいたようだが、その都度攻撃され傷を負う。
傷を負い医務室へ担ぎ込まれるたびに関わる事を止める様に言っているらしいが聞き入れないのだという。
本来ならばそろそろ解雇か、と今は行方の知れない兄を思い出す。
彼は粗暴で徳も無かったがその非情さが牢番に適していた。彼は今周辺国で何をしているのだろう。

「とりあえず。君の血縁が来るらしいね。だからそれなりの持て成しはする予定だよ。
 ただ君の事は何があっても放さない。賢いからね、分かってるだろう?」
「人質……。」
「そう。まあ明日明後日には来るだろう。そんな状態でいられると困るんだ。リキルシアは囚人一人すらまともに
 扱えないのかと噂を広められてしまっては困るからね。とりあえず簡単な物でも食べてくれ。」

ギィ…と牢があけられ軍師が中に入ってくる。そしてアリーの目の前に食事の椀を置いた。
王族が囚人のためにわざわざ牢に入るという異例な事態だった。
アリーもその待遇に驚いたようだが、目線を椀にやっただけで食べようとはしなかった。
食べるつもりが無いと判断したフェビアンは一度椀を離れた所に置き、アリーを起こした。
そしてアリーの口元に匙をやる。

「そ、そんな事やっていいと、思ってる…?軍師様、王族だよ?僕は…人質……。」
「今は護衛もいない。完全に私だけの気分で来たんだ。それに今は軍師じゃなくフェビアンだ。
 フェビアン=カンターという一人の男としてお前に世話を焼いている。」

そう言って未だに納得していないアリーの口に無理やり匙を押し込んだ。
量ややり方などとても弱っている人間にやるような物ではなく、当然アリーはむせ返った。

「へ、下手くそ……!」
「…悪かったね、こういうのはやった事はないんだ。」
「怒らない訳?下手って…言ったんだよ……。」
「もっと酷い事を初対面で言われたような。それこそ私の本分に関わるくらいの。
 とりあえず今は私は王族ではないしお前は人質じゃない。対等な人間として互いに接して欲しい。」
「なんか納得できないけど…ははは、そういえば軍師様は下を味わってみたいんだっけ。」
「お前が笑ったのを久しぶりに見た気がするよ。」

アリーは口を開き、フェビアンは匙を差し出した。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.132 )
   
日時: 2012/12/30 22:16
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:iXGop02A

ひゅうひゅうと耳元で風がなる。朝日に照らされているとはいえもうこの地域は冬同然。
遠くの山は雪をかぶっているものも多い。
奏美とマリーは少し離れたところを不安定に移動する機体を微妙な心境で眺めていた。
あちらはとにかく声が耐えないが、それは笑い声であったり悲鳴であったり様々な声だった。
一度猥談すら聞こえ、あたりを思わず見回して同じように飛んでいる人がいないかと探したものだった。

「あっちは愉快だな。」
「そうだね。でもふらふらしててこっちが心配だなぁ。たまにがくってなってるよね。」
「まぁ、気にする事じゃないだろう。セルジュだってある程度のことはできるはずだろうし。」
「そうだねぇ。」

後ろでガンと音がし、機体が落ちていく。呆気にとられはるか上空で眺める二人は顔を見合わせた。
はじめに風に乗せることができれば高度や進行方向を調整するだけのそれ。
なぜこんなにも上手くいかないのかわからなかった。

「どうする?ホバリングする?」
「ホバ…?とりあえずここで待ってみよう。五分たって来なかったら私たちも下りてみればいい。」
「そうだね。」

その場で止まり、二人が消えたあたりを見下ろす。
下は山であるため木々が情報の把握を困難にしていた。ただ黒煙がうっすらと線を描いている。
風で多少は流れているが高低差を考えればそれも誤差のうちだ。
彼らが上がってくるのを二人は黙って待っていた。





「面白い事になってきたわよ、ダイアナ。」
「何が?」
「見て御覧なさい、これ。」
「鳥…あぁ、エドか。あいつがこれ使うのって久しぶりだね。」

首を前後に動かし歩いてる鳥の首根っこをマティーは掴む。それは一度身震いしただの紙に戻った。
ダイアナはそれを受け取ると目を通す。驚きの色に染まっていく彼女の瞳をマティーは笑みを浮かべながら眺めた。
何度も反復し内容を理解しようとする…それが今できる事の精一杯だった。

「嘘…これは嘘だろ?パウエルってそんな…馬鹿な……。」
「さあねえ。まだお給金あげてないからこっち来る様に言ったんだけどねえ。そうすればあんたも付けられるでしょう?
 でもこれが先にきちゃったって事は直接リキルシアに行くみたいよ。」
「私ですら入れてもらえてないのに…全くの部外者のあいつらが入れてもらえると思う?」
「さあ?頭の固いところを見せるか柔軟なところを見せるか。それとも圧倒的な軍事力かしら。
 でも馬鹿ねぇ、最初にパウエル行けばいいのに。」

マティーの言う事は尤もである。現在、表だった戦闘は無いもののパウエルとリキルシアは互いに睨みあっている。
それは数千年とも言われるくらい長い間続いている。この間戦が無かったのは奇跡と言っても過言ではないだろう。
それは互いの立場が影響しているとも言えた。
リキルシアは元々敗者が勝者から情けで賜った国。基本的に勝者には逆らう事ができない。
しかしその穏健に見せかけた裏で着実に軍事力を高めている。これに騙され侵略した国はもれなく吸収された。
これを繰り返し、現在では最古で最大の国とも言われているのだ。

「それだけじゃないだろ?反乱って…。」
「ダイアナは知らなかった?私は聞いていたからどうでもないけど。」
「でも、レイが…!」
「レイだけならまだいいのよ…。はぁ…、でも最初にパウエルに行ったら相手側に喧嘩売る事になるかもしれないわねえ。
 でもパウエルは未知数…目の前にいる誰かさんが内情を教えてくれれば一番いいんだけど……。」

一方パウエルは勝者側の人間から始まった国――正確に言えば主君からその立場を乗っ取った。
始めの人間は戦時中同様主君の補佐、参謀でいる事を望んだ。
主君はそれに勝る働きをしたと言いなんでも望みを叶えると言ったがそれを受け入れなかったらしい。
主君と共に歩む事が彼女の全てであったと伝わっている。その為彼女は自らの子孫にその願いを託し主君も了承した。
そして遠い年月の果て、とある一人の人間が一つの国の長に言う。

『私を、パウエルの血筋を貴方と入れ替わらせて欲しい。』

長は了承し、かつての最大の勝利者の国は途絶えその者の補佐が国を動かす事となった。
血一つ流れず最古の国の一つは消滅しパウエルという国がその地に刻まれた。
そしてこれがパウエルとリキルシアの溝の原因でもある。
既にその時代の人々は露と消えている。今となってはそんな事が起こったのかすら分からない。
ただ伝説として、突然の来訪者が生み出した大きな戦乱とそれにまつわる話として語り継がれているだけのものだ。
信じている人間などこの世界でもほんの少数、知らずに死んでいく人間も多いだろう。
しかしこの伝説に関わる二つの国には事情が違う。国名を挙げられているのだから意識しないわけにはいかなかった。

「あいつら運だけは強いからそれに任せましょうかしら。ダイアナ、とりあえずアルを見てきて頂戴ね。」
「うん。そうだな、行ってないし。…行っていいのか?」
「私が良いって言ってるからいいのよお。我が愛しきお母様…というか当主は最近篭りっぱなし。
 刺激が無いって嘆いてるらしいけど篭ってたんじゃあ刺激なんて無いのに、馬鹿な人。」
「そうだなぁ…。」

ダイアナは出て行った。自分の出身国に近い人が行くと言うのだから少々複雑そうな顔をしている。
彼女の足音は遠ざかり聞こえなくなった。マティーは伝わっている伝説を思い出していた。
忠誠を誓っていた補佐の子孫の野心家の補佐が主家を乗っ取る。
どこにでもありそうな事がなぜこんなに大きくどうして自分をこんなに縛り付けているのか。
母、そう呼ぶ事すら許されない人間の顔がちらつき首を振った。





「来ないね。」
「そうだな…下に行ってみるか。」
「うん。変なことなってないと良いな。グロはもう見たくないよ。」

奏美がそう言えばマリーが舵を取り下へと降りていく。
もう既に流れてしまっていたが濃い煙のにおいを追ってその場所を目指す。
少々開けたところで枝に移り、機体は補助具となって奏美の手の中に納まった。辺りを見回すが二人の姿はない。

「この辺だったよね?」
「多少の差はあるだろうけどここのはずだ。という事は下山した…いや、それはないかな。」
「なんで?そんなにこの山高くないし…下りられるんじゃない?」
「いいや、不確定な山だった場合上った方がマシだ。ここはあいつらの領地ではないだろうし迂闊な行動はしないだろ。」

そう言うとマリーは奏美にこの場所に残っているように念を押し彼女を中心に動き始める。
互いの視力でも確認できる程度の円を描いて捜索するが二人は見つからなかった。
数十分ほど探していたが結局手がかり一つ見当たらずまた二人は上空に戻る。

「折れた枝でもあれば…全く。」
「あぁ…そうだね。多分寸前で生身になったとかなのかなぁ。」
「こっちの身も考えて欲しい……山頂にはいない、か。下山したとなるとどれだけの範囲を…。」
「あ、そういえば。なんで頂上目指す方が良いの?」
「山の頂上は一つだけ、ごく狭い範囲。上っていれば必ずたどり着く場所。
 一方下山はたどり着く地点が広範囲で大体国境は山頂で分かれてる。敵地に行かないとも限らないから。」
「へえ、確かに防寒対策とか出来てれば安全だねえ。」
「川があってそれを使ってるならそれを辿る方法もあるけど野生動物に会わないとも限らないし。
 凶暴な大型ならまず死を覚悟で戦わなきゃいけないしそれで敵を呼び寄せないとも限らない。」

山の頂上近辺を離れ今度は大きくふもとの辺りを旋回する。
しかし二人を見つける事は叶わず、マリーと奏美は再び顔を見合わせた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.133 )
   
日時: 2013/03/05 11:46
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:ErBYH.V.

「嘘だ!落ちる?!」
「はああ?!あり得ないあり得ない!何この煙?!ばかじゃねーの?!」
「奏音がのど渇いたって言うから俺が渡したんじゃないか!それを零すって…!」
「今は目先の事考えてよ!ちょ、けむっ!」

時はほんの数十分ほど前。視界で確認できる程度の距離を行く奏美とマリーの機体を追いかけていた時。
喉が渇いたという奏音にエドが飲み物を差し出す。普通であればそれはそのまま奏音の手に渡るはずだった。
しかし、突如起こった強風によって機体がゆれ互いの手がぶつかりコップは地上へと落ちてゆく。
お前らも道連れだといわんばかりに液体をメインともいえる部分に引っ掛けていったのだった。
二人が顔を見合わせた瞬間に機体は大きな音を立て、その力を失った。

「痛い痛い痛い!手ぇ千切れる!ばか!馬鹿変態!」
「その言葉はそのままお前に返すぞ!」
「うっせぇこのドS魔人!さんざん人の肉刺弄んだのは覚えてるだろーな!」
「お前だって俺の事変な蔓で弄んだだろうが!」
「千切ってたくせにー!ぐぁっ!煙が目に!いったた、み、見えない!」
「擦るな、手を放すな!まったく、えっと、俺質量変動はできないんだよなぁ…。」

騒ぐ二人。五十歩百歩としか言えないような議論ではあるがそれは今の状況を忘れさせるのは十分だった。
しかし物事の打開には繋がっていない。
もうすぐ木々に激突する。そう思ったときになぞの出来事が起こった。

「……助かり、たい?」
「え?」
「お兄さんと、お姉さん…。助かりたい?」

耳元で激しい音を立てていた物がやみ、かわりに聞こえてきたのは少年の声だった。
声変わりする以前の高い声で、それは自信がないとも取れるし遠慮しているともとれる。
エドが周りを見回せば自分と目の前の少年――正確にはフードをかぶっていて分からない――以外の全ての物の時間が停止していた。
奏音は黒煙が目に入ったと直前に叫んでいた事を証明するかのように左手で顔を覆っている。
右手はしっかりと機体を掴んでおり、その機体は黒煙を上げていた。しかしその煙も停止している。
常に動くはずのそれが止まっているのを見るのは不気味だった。

「ぼくの質問……。」
「あ、あぁ。こんな所でお陀仏はごめんだ。」
「助かりたい……で、いいの…?」
「そうだ。」
「そう……。」

少年はそう呟き、エドを眺めた。頭からつま先まで時間をかけ吟味しているようだ。
次に奏音を眺める。今度は彼女を触った。コツコツ、と人間を触っているとは思えない音が返ってくる。
暫く奏音はいじくられ、その度に彼女はマネキンのような音を立てる。
それは最初は面白かったものの数回で飽きてしまいエドは風を起こし上へと上ってみた。
奏美とマリーが落ちていく自分たちを目で追っていたのが分かると少々申し訳ないと思う。
ふと、エドは気になることがあり目の前の人間に聞いた。

「お前、奏音を知っているのか?」
「……。…知ってる、でも……ここでは、未来。……ぼくには、…過去。」
「なんだそれは。意味がわから…!」

ふと、遠い昔。まだ体力面では未成熟と判断され勉学を中心に受けていた幼少時代を思い出した。
実際いるのかどうか分からない術者。エドだけには限らず周りの人間は皆あこがれた能力である『時間の所有』。
過去へ行く事も未来へ行く事も全て思いのままに出来る能力。
理屈よりも直感で動く事が好きであったため勉学の時間は苦痛であったエドもその項目だけには心引かれた。
結局一番に力を手中におさめたエドは今度はそれに磨きをかけるためにすぐに忘れてしまっていた。

「お前…時間を…幻って言われてる…?」
「これ……ぼくのじゃない…。ごめんなさい……ぼくのじゃ…。」
「じゃ、じゃあお前の近い人に協力者がいるのか?!それを持ってるんだろ?」
「……ぼくは、知らない。」

少年が答える。その声は素っ気無かったが確かな説得力を持っていた。
ならばこの状態は?エドは周りを見回す。確かに時間は止まっている。相変わらず自分達二人以外は動く兆候すら見せない。
本当にいないのか、そう聞こうとした瞬間時間が再生された。
自分の真下にはさっきまでは青々とした森が広がっていたが今は乳白色の切れ目が存在している。
いつのまに、と上を見上げるが既に少年はいなかった。

「奏音!」

自分が身勝手に行動したせいで随分と奏音と離れてしまっていた事にエドは気付いた。
そして彼女の落ちる先にもまた、違う色の切れ目がある。澄んだ色の青空だ。
もしかしたら奏音は帰れるのかもしれないと思ったがならば自分はどうなるのかと疑問がエドを包み込む。
さっきの少年の質問に助かりたい、とはっきりと答えればよかった。そう後悔したときにはもう遅かったのだ。





「なんでいない…。」
「さぁ…姉ちゃんがいるからそんな遠くにいける筈ないと思うんだけど……。」
「案外分離してしまったのかもね。動かないで私たちに見つけてもらうっていう選択肢ないんじゃないか?」
「あぁ…せめてなんか花火でもあげてくれれば…。」
「しれくれる人たちではないだろうけど。」

とりあえず人通りがそれなりに多い所を徒歩で捜索し、すれ違う人々には二人を見なかったかと質問するが返答は皆同じだった。
それどころか奏美の肌の色に驚かれる事もしばしばである。
集落にも黄色人種は極端に少なかったというのを思い出したがここまで見られるとは思っていなかった。
流石に研究させてくれ、金なら出すと浚われそうになった時はマリーが無言で相手を気絶させた。
とがめる奏美を無視しマリーはその気絶した男の懐からずっしりとした巾着を出す。

「えっと、そんなにウチって珍しい?」
「まあ、肌が黄色いから…。」

マリーは地球には興味がないのかあまり話には乗ってこなかった。
来訪者と呼ばれる事も歩きながら話したがそれも適当に流されてしまった。
もしやマリー自身が来訪者なのかと思いつき聞いたが否定されてしまう。
彼女は諸国を仕事で渡り歩くのでそれほど黄色人種も来訪者も珍しくないらしい。

「正確に言えば来訪者からの家系、だけど。」
「じゃあ結構いるの?」
「大きい国なら二つ三つは…。」

スラム街にまで足を伸ばし、金貨をチラつかせるが収穫は得られなかった。
それにイラついたらしくマリーは懐から財布を取り出しあたり一面に中身を散らす。
見た目からずっしりとしていたのが分かるくらいの金貨は普段静寂に包まれているスラムに音をもたらした。
驚いたスラムの人々が彼女と奏美を見つめる。

「私はそれを使わない。協力してくれた礼だ、拾え。」

そう言うとめったに来ない客人を拝んでみようと集まってきた人々がわっと散り金貨を拾い出した。
老若男女、動ける人間が手早く集めだす。
これから金貨をめぐる醜い争いが始まるのかと裕福な人間は思っただろうが、それは違った。
皆が集め、とある一つの家の前に集める。そして一枚ずつ、その場にいる人間に分け与え始めた。
しかしその金貨の量は膨大で、その場に集まった人間に分け与え終えた今でもまだ拳一つ分は余っている。

「それ、どうするんですか?もう一枚ずつには量が少ないよ。」
「これか?ここには歩いて来れない人間も大勢いる。せめて若い芽を生かすために使うとしよう。」
「そうなんだ。」

皆が明日を生きれるかわからない様な極限の中で生きている。死は常に彼らの背中を眺めている。
そんな状況の中だからこそ、この結束は存在しているのだろう。
奏美はそんな状況に暖かいものを感じ、マリーと共に機体に乗ってからもスラムが見えなくなるまで手を振り続けた。
太陽は既に高く上り、空は綺麗な青だ。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.134 )
   
日時: 2013/03/05 11:47
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:ErBYH.V.

「レイさん、大丈夫?」
「あ、ああ…!そ、想良?!」
「うん。心配だったし、なにより集落の皆と遊びたいし。残っちゃった。」
「なんで…!」

レイは数時間意識を失っていた。その間想良は食事の下ごしらえをする時以外は彼に付き添っていた。
その想良の心遣いをありがたいとは思いながらもレイは頭を抱えた。これでは計画が上手くいかないのは明瞭だ。
自分だけの身を守る事すら危ういのに想良も守るというのは彼には自信がない。

「あ、やっぱり迷惑だったかな。レイさんも一人でいたいときぐらいあるもんね。
 じゃあちょっと皆に泊めてもらえないか聞いてくる。いざとなったら親方さんに頼んで一晩中稽古つけてもらう。」
「え、おい。」
「ご飯下ごしらえは済ませてあるから後は焼くだけだよ。煮てもおいしいかも。その時は味は薄めにね。」

レイが目を覚ました事で肩の荷が下りたのか想良は走っていく。
止めるレイの声も聞かず、一直線に走っていった。部屋に取り残されたレイは頭を抱えた。
想良がいたのでは自分が捕まる事などできない。ただ、集落に泊まるのであれば相手方を呼びやすい。

「っあー…ったく、なんでこうも上手くいかねえのさ…。」

一人呟くも、それに反応する人間はいない。
相談する事ができる人間すらいない事にレイは何も思いつかなくなってしまった。
ただ願う事は一つ。反乱が彼らがいない間に起こらないことだ。





「あ、ソラだー。」
「久しぶりー、元気だった?」
「うん、元気だよー。ソラが教えてくれたミサンガが切れてね、ぼくね、合格できたんだよ!」
「わたしはお兄ちゃんが帰ってきたんだ!ソラのおかげだよ!」
「そっか、みんなお願いかなってるんだ。」
「うん、だからね、新しいの作ったりしてるの!うまい?」
「うんうん、上手だよー。」

集落に行けば想良はあっという間に子供たちに囲まれた。
すっかり顔なじみとなり、通りかかる人が陽気に笑いかけ手を振ってくる。
今日もまた何かを教えて欲しいとねだる子供たちに何を教えようかと悩んでいると、一人の大柄な男が近づいてくる。

「おいお前ら!抜け出して何やってんだ、あぁん?」
「あ、げっ!」

一斉に振り返った子供たちはその人間を見て散り散りになった。後に残された想良に男が近づく。
この男のことを想良は知っている。キルシの父でありこの地域の技術者を統括している。
そして、密談でナタリーと共に仕切っていた人物だ。

「あぁ、来ていたのか。暫くお前の事は見ていなかったな。」
「すいません。」
「構わんさ、どっかの姫さん。お忍びは楽しいだろう?」
「えぇ、まぁ。楽しいです。」

想良は曖昧に答えた。この男はまさに職人と言った感じで容赦がない。
一切の妥協を許さない人間らしく、自他共に厳しい。何度か会ううちに想良は分かっていた。
ナタリーとは違い彼はあの密談でも演技はしていなかったのだろう。低い声が腹に響く。
曖昧な想良の雰囲気を彼は恐れと戸惑いととったらしく幾分か和らいだ声で想良に話しかけた。

「あまり気ぃ使うな、国を知らない限り俺らは対等に扱う。敬われたかったら国をいうんだな。
 ……それと、ラリーが小屋の奥にいる。変に張り切っていたな、あいつ。」
「本当ですか?」
「身分違いもいいとこだ、せめてヤツの親なら救いがあったが。力すら全くない人間が姫さんに教えるなんざ阿呆らしい。
 気に入らない事があったら打つなりなんなりしてやれ。」
「ぶ、物騒です…。」
「姫さんのでかい力をぶっこんでやれれば、な。」

へらりと笑い、男は逃げた子供たちを追うために走っていった。十分もあれば皆捕まってしまうだろう。
想良はその光景を想像した。次々と捕まっていく子供たち、みな諦めと自らの力に対する失望の色が見えるだろう。
そしてその失望を糧に訓練し秘密裏に打倒する事を計画するのだ。
微笑ましい光景が頭に浮かび、笑みを浮かべながら想良は技術者達の住まいへと向かった。

「こんにちはー、お久しぶりでーす。」
「あぁ、ソラじゃないか。ラリーなら奥だよ、絞られてカスになってやがるぜ。」
「かす…?」
「抜け殻だよ、抜け殻。」
「親方は厳しいだろ?その中に情が無いと言ったら嘘になるけどな、気付くまでは本当に辛い。
 先輩が親方はお前の事を気にしてるから怒るんだぞー、なんて言われても本気で辛い。家系を恨むさ。」
「てめ、オレにそんな事思ってたのか?」
「割と思ってた。」
「よし、親方に進言しておこう。ソラ、とりあえずラリーが絞られて飛び出た中身を補給してやってくれ。」
「はーい。」
「やめて!そんな事されたら死んじゃう!殺されちゃう!」
「先輩としての愛情ー。」

じゃれている二人の若手の技術者の言い合いをバックに想良は奥へと進んだ。
彼らの声が聞こえなくなるのと同時ぐらいに想良はラリーを見つけ出した。彼は今想良に背を向けている。
表から見える作業場とは違うもう一つの作業場。ここは、主に見習いの技術者が特訓する場だと教えてもらった。
ラリーは今、あたり一面に散らかった道具類を片付けていた。
ガラスの破片のようなキラキラしたものもあり、近付くのが憚られた。そのため、入り口で声をかける。

「ラリーさん。」
「……想良?」
「はい、お久しぶりです。」
「あ、あー…ここ片付けていくから。」
「手伝おうか?」
「いや、危ないから……そこで待っててくれる?おれ、さっさと終わらす。」

想良は言われたとおりに作業場の入り口で待っている事にした。あいている場所を見つけ腰掛ける。
ラリーは散らかったところを一心不乱に片付け、それは見る間に片付いていった。
几帳面な人だなあ、と想良は彼を眺めていた。

「それで、どうしたの?」
「あ、えっと…弟子入りの…。やろうやろうって言ってて一回も出来てないし。
 今回は暫く泊り込みも出来るからお願いしたいなぁ、って思ってきたんだ。今日からいいかな?」
「あぁ…そういえば……。」

ラリーは思い出したように言った。度々話題に出していたし忘れる事じゃないのでは、と想良は思ったが黙っていた。
いつも余計な一言で厄介な事が起こる。ラリーの機嫌を損ねないとも限らない。
しかし彼の様子は尋常ではなかった。無気力で、全てを受け流している。
一度気分転換しようと誘って散歩に行こうか、そう想良が考えたときに片づけを終えたのかラリーが口を開いた。

「それ、やっぱり無しにしてもらえない?」
「え…?」
「だっておれに教えてもらう…じゃない、おれが教えて差し上げられる事なんてないよ。
 見て分かるでしょ、今日も怒られちゃってさぁ。」

今日初めてラリーが想良のほうを向く。彼の顔には幾筋かの火傷の痕が見受けられた。
それも軽いものではない。顔の形が変わってしまうような重いもので、水ぶくれもある。
何か布で覆っているわけでもないため、菌が入り重症になることは目に見えていた。

「火傷!消毒しないの?」
「おれ、力使えないから。このままでいいよ、大丈夫。」
「大丈夫じゃないよ、目も塞がりかけてる。見えなくなっちゃうかもしれないでしょ。
 そんなんだったら色々作れないよ…先天的ならまだしも後天的なら…今までのが全部無駄になっちゃう。」
「無駄…無駄になっていいんだよ。」
「え?」
「おれ……おれ、技術者やめる。」
「そんな…。」

思わず脱力した声が出てしまう。想良はラリーの顔を見上げたが、その目は真っ直ぐだった。
しかし希望の光は宿っておらず、先を考えての決断ではない。
むしろ自棄になり、絶望し先を見出せていないからこその決断だと言う事が分かった。

「だからさ、想良がおれのあとに入ればいいよ。ちょうど空きが出るんだから。
 最後のお願いって親方におれのかわりに想良を入れる様に頼むから。想良は凄いから、親方も喜んでくれる。」

ラリーは笑った。その声はからからとしていて、周りにむなしく響いた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.135 )
   
日時: 2013/04/20 22:09
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:KcT9yEBw

「ここは……。」

エドは目を覚まし辺りを見回した。見慣れない部屋ではあるが、様子から上流階級の人間の住む館だろうと推測した。
自分が寝かされていたベッドは大きく、身体を包み込むような柔らかさだ。豪華な刺繍のソファや壁にかかる姿見。
そのほかにも生活するには十分な物がそろっており、誰に拾われたのだろうとエドは首をかしげた。
外の様子から大体の地理は分かるかもしれない。そう思って窓から世界を見れば、言葉が出なかった。
全てが白といっても過言ではない光景。人気は全くなく、だからといって廃墟のような不気味さはない。

「やあ、はじめまして。」
「うわっ!」
「驚かせてしまったかい?何度か覗いたんだけどね、気を失っていたから。」
「え、あ、…貴方は俺が気を失っている間に何度か近くに……?」
「気持ちよさそうに眠っていたよ。」

目の前の男性の言葉にエドは戸惑いを隠せなかった。
おそらく彼は自分を拾いここまで連れてきてくれた人間なのだろう。それだけならまだしも、近づかれていた。
しかも“何度も”と口に出していたため、少なくとも数回はあったのだろう。そのいずれもエドは気づく事ができなかった。
急に黙り込んだエドを男性は面白いと思ったのかくすくすと笑っていた。

「君みたいな反応をする人が前に来たことが…正確には無理矢理招いた事があるよ。」
「そ、そういうもの…か?」
「ここに客人を呼ぶ事自体が少ないけどね。これからも、ずっと。…まぁ、座って欲しいな。」

男はソファを指差す。エドはそれに従い座った。男は彼の目の前に立っている。

「行き倒れていたところを拾っていただき有難く思います。俺は、カメリアの補佐、」
「エドゥアール=パベーニュ。当たりかい?」
「え、は、はあ…そうです。」
「よかった。こちらだけ名を知っているのも悪いからね。私は…デストル。姓は無いから。」
「そうですか…。姓は、無い?ならば貴方は国主では無いんですか?」
「そうだよ。」

男――デストルは答えた。
エドはこの部屋、そしてそれから予想される建物の全体像からてっきり彼が国王だと思っていた。
補佐であっても表向き姓を名乗らないだけで存在はしている。同盟の締結などで必要なためだ。
しかし彼は姓を持っていないという。
それに自分の名前が知られていた事にも驚いた。エドが出る戦といえば目標の全てを破壊するものだ。
他の兄弟たちのように撹乱や主要な人物を闇討ちし戦を先延ばしにするものではない。
建物を崩し、人を凶器の様に使うため力任せに戦っていると言われる事もあるが――
しかし名はなぜ知られている。エドは表には出さないものの答えを探していた。

「まず、話を進めよう。君は何でここに来たか分かるかい?」
「いえ。気がついたらここにいました。」
「そうか。…とりあえず普通に話してもらえるかな、私は敬語を使われる立場じゃないからね。」
「でも…。」
「いいんだ。追放された裏切り者に敬意は不要だ。」
「わ…分かった。」

追放されたはずなのに、なぜこのような立派な館を所有しているのだろう。
ふと引っかかったものの、エドは探らない事にした。誘導尋問などは彼の専門ではない。

「じゃあ何も知らないか。グリーネルは今回も説明をしなかったのかな。」
「グリーネル?」
「君をここまで連れてきた…いや、落としてきた子だよ。」
「あれか…そういえば、助かりたいかって聞かれた…。」
「そう、その子。とりあえず説明だけするからね、質問は最後にだ。」

有無を言わせない口調だった。

「私は一人、救いたい人間がいるんだ。その為には、時空に負荷がいる。」
「はあ。」
「既に二つはある。ここと、向こう。あと二つがいるんだ。」
「それを、俺が探せばいいって事か?」
「質問は後のつもりだったけどこれは答えよう。違う。」
「じゃあ…?」

デストルはきっぱりと言い放った。ならばなぜ、自分がここに来たのだろうとエドは考える。
そもそも言っている事も分からなかった。時空に負荷を与えるとはいったいどういう事なのだろうか。
もしや『所有者』が彼なのか。口を開こうとしたが、質問は後だと言い聞かせエドは言葉を飲み込んだ。

「君、隠してる事があるでしょ。家族にも、誰にも。自分も騙そうと必死になって否定してる事。」
「何の事だ?俺は特に…。」
「本当に?これでも?」

エドの耳元でデストルが囁く。デストルの唇が動くたびにエドの目も見開かれていく。
全てを語り終えたデストルはエドの事を眺めた。彼は今、何を思っているのだろう。

「何で…?」
「さあ、何でだろうね。」
「俺は誰にも言っていない!誰にも悟られて無いはずだ!」
「それは間違いだよ。その当事者と因果を背負った彼、そして私。少なくとも四人は知っているね。」
「う…。」
「まあ、君に責はないさ。強いてあげれば彼女と関わって味方してしまった事ぐらいだよ。
 それで、その彼か君の弟。もしくは両方と周辺の人たち。この人たちを貸してほしいんだ。」
「え、え……貸すって…?」

しかしその質問にデストルは答えなかった。ただ笑みを見せただけである。
その笑みを見た瞬間にエドの背筋は凍りついた。自分と彼は決定的に何かが違う。
首から下げられた装飾品。身体に幾重にも巻きつけられた清潔感のある白い布。隙間から覗く帷子。
どこか複数の国の文化を合わせたような外見ではあるがそれとは全く違う違和感と抱かずにはいられない畏怖。

「まあ、君に選択権は無いかもしれない。彼らは確定に近い候補者だから。」
「……。」
「よほどあれがショックだった?大丈夫、記憶くらいなら消してあげるよ。ここも忘れてもらいたいし。」
「そんな簡単に記憶が消えるわけないだろう。現に…俺が忘れたくても忘れられなかった。」
「そう。でも私なら出来る。といってもその出来事の記憶を消すわけじゃない。私に指摘された事を消すだけだ。
 君はあくまで自分と彼らだけが知っている事だと頷くんだ。」
「……、それでいい。」
「だろうね。……さあ、行くよ。」

強制的ともいえる雰囲気でエドは外に連れ出された。
意識を取り戻してからずっと振り回されっぱなしであるが、それは仕方ない事だと彼は思っていた。
それが何故かは分からなかったが世界の理に似たものだと感じていた。
館の扉を開けると、そこは異世界のようにエドは感じた。
空はどこまでも乳白色で、活気は全く感じる事ができない。

「君はリキルシアに向かう途中だったね。」
「え、ああ。奏美とマリーも一応心配してくれてる…かな?あと、奏音。」
「奏音なら大丈夫、私は彼女を良く知っている。その強さのために彼女は今違う場所に行っている。」
「そうなのか?どこで奏音を知ったんだ?」
「レオン=フレスキ。覚えていられたら奏音に聞くといいよ。」

デストルは立ち止まり、何かを開けるような動作をした。
地面に切れ目が生まれそこから下を覗くと、はるか下にマリーと奏美が見えた。
二人とも機体に乗っており何かを興奮気味に話している。

「はい、これ。少しだけパワーアップしたかもね。一応、君の事はこれで助けたつもり。負荷は背負わせないよ。」
「どうも。…負荷って?」
「彼女らはとても幸せそうだ。…その幸せは盲目にならなければすぐに壊れてしまう。」
「は?」
「なんでもないんだ。…最後に教えようかな。」
「ん?」
「私は過去を生きて未来を作るモノだって。じゃあ。」

トン、と眉間のあたりをエドはつかれた。くらりと眩暈がし、何かが流れ出ていくような感覚を味わった。
思わず苦痛に目を硬く閉じる。
次に目を開けたとき、彼の身体は空を舞っていた。上の方に黒い髪の青年がたっていて手を振っている。
彼は誰だろう、たしかこの補助具をくれた人――そう思いながら補助具に力をこめ機体が現れた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.136 )
   
日時: 2013/04/20 22:10
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:KcT9yEBw

「ってえんだよこの小娘ええ!」
「だったらそんな道端で寝るの止めてくれるぅ?」
「その猫撫で声もすんげえ腹立つ!」
「むだに煩いその声が腹立つー。」

奏音が痛みに目を覚ますと、一人の女性が彼女を見下ろしていた。
そして痛みの正体は刃の切っ先が肌に触れている身体という事にすぐ気付いた。
振り払おうと手を動かせば今度はその手に対して刃をぴたりと追尾させる。
その触れるだけで決して相手を傷つけないテクニックは素直に賞賛に値する事だが奏音はそれをしなかった。

「うん、質問しよ。あんただーれ?ここはどこだか知ってるかな?」
「だーれって…奏音。ここはあの…リなんとかに行く途中の道。」
「微妙に残念。とりあえず当たってるのはあんたの名前ー。」
「はぁ?!それほとんどはずれじゃんか!」
「馬鹿面がますます馬鹿面ぁ〜。」

きゃっきゃっと目の前の女性は笑う。危険は無いと判断したのか彼女の獲物も消え去った。
しかしその彼女の腕前から言えば余計な事をすれば一瞬で切り裂かれる。
それを証明するかのようにわざとといってもいいくらいに奏音の方を見ようとしない。
馬鹿にされている、むしろなめられていると奏音は理解した。
しかしどこだか分からない場所で孤立している状況で事を荒立てるほど彼女も馬鹿ではなかった。

「どーせあたしは中卒ですよーだ。でも一応エリート校自主転出組だし。なんかの才能はあるし。」
「チュウソツ?…その前にエリート?」
「そ。あたしが通ってたところがそうだった訳。つっても本当に活躍できて名前を残せるのなんてホンの少しな学校だけどさ。」
「学校?!…あ、エリート校だから学校なのは分かるけどぉ。」
「妹も同じとこ通ってるけど。なに、知らない?」

先ほどまでの高飛車な態度が一転、目の前の女性の目が泳ぎ始めた。
エリートと言う響きに憧れでもあるのだろうか。そう疑問に思ったものの口には出さないでおいた。
少しだけ意地悪してもバチはあたるまい。奏音は心の中で笑みを浮かべる。

「まぁいい所に就けるのは保障されてると思うけど。高校以上の自主転出はほぼ他の学校に特待で拾われたりするし。
 学校からの転出はしらん。」
「……どれくらい、勉強できる?」
「あたしは勉強嫌いだったからなぁ…。でもま、形だけ何年生ってのがあって飛び級的なのもできるらしいよ。」
「飛び……それって、どれ位頭よければできる?」
「だからあたしは勉強嫌い…。あ、でも十三、十四でもう高校の勉強理解してあと大学編入までの間
 研究してる人は何人か理系にいた。」

奏音はおぼろげな記憶を元に発言した。
その生徒たちは今は世界的に有名な会社の商品開発に所属しているらしい。
以前実家に逃亡と言う名の帰宅をしたときに奏美が持ってきていた学校誌に書かれていたのを思い出したからだ。

「それって…科挙も、できるかなぁ?」
「カキョ?効果音かなんか?首の骨やる感じ?」
「違うぅ、役人の採用試験って言えばいいのかなぁ?」
「あぁ、なんか習った記憶が…世界初のカンニング事件だっけ。」
「知らないけどぉ。」

軽口を叩きながらも奏音はその女性を眺めていた。
身体は小さく小柄で、衣類は少々汚れているが一枚身に纏っているだけである。
そして足には靴の変わりに包帯が巻かれていた。彼女の足の形は少々変形しているのがその包帯の上からでも分かる。
奏音の視線に気が付いたのか女性は言った。

「あぁ、民族的な風習だからね。でも動きが遅いからって治されちゃったぁ。」
「纏足?」
「そ。熱出たりするー。…見たところ人種的には似てるけど、あんたどこの人?国は?」
「へ?あぁ…カメリア。」
「カメリア?なにその国…響きからして白い国?」
「白?特別白って訳じゃあ。つかあんたは?」

白い国といっても特別カメリアに思い当たる事はなかった。
冬の時期が長いといい、雪の事を表しているのかもしれないと推測したがそれならば素直に雪国と言えばいい。

「こっちは清だよー。」
「シン?始皇帝?」
「そっちは昔の方だよぉ。もっともっと後の方。明の後。」
「…日清戦争の清?」
「ニッシン?…日ノ本と戦争したの?あのちまっこい国が清に勝てるかねぇ。
 あ、あんた日ノ本の人かぁ。それで、こっちではそのカメリアっていう国に拾われたのかぁ。」

中国といえばいいのに清と称し、そして日清戦争を知らない彼女。
そしてカメリアの存在こそ知らなかったものの奏音の何気ない言葉で来訪者である事を見抜いた。
これらから推測されるのは目の前の女性は少なくとも日清戦争が起こる以前の年代からこちら側に来たのだろう。
中華思想と呼ばれる物を持っているであろう彼女にはその戦争の結果など知りたくも無いだろう。
ほんの小さな島国に敗北し、眠れる獅子から張子の虎と言われたその結末。

「でもおかしーなぁ、カメリア?間違い無い、絶対?」
「うん。あたしが嘘付かれてない限り。」
「じゃあ早速規律違反の国かぁ。それ敗戦国?」
「…新興国だって言ってた。」
「そーじゃなくて。今はどこも新興国だよぉ。あんたの国主は光の方、支配者の方?」
「そういうのが無いくらい新興国じゃないの?」
「だったら違反なんだってばぁ…。」

話がかみ合わないといったように彼女は首を振った。
そのとき、二人の後ろの茂みから僅かな物音がする。奏音が振り返るよりも早く、隣の女性は飛んだ。
何かが強打される鈍い音と同時に、高らかな音がなる。周囲は濁った色の薄い幕に覆われた。

「畜生が!あんたらだぁれ、敗戦国?だったらお門違い、こっちも敗戦国だよ!」
「……。」
「カノン、スパイ?お情けのお国にまでのばすだなんて光のお方も凄い事!」
「いやいや光って何!あたし行き倒れてたじゃん!」
「スパイじゃないなら、こいつらぶちのめしてぇ!ただし殺さないように!」

口汚く罵りながら女性は一人、また一人となぎ倒していく。
しかしあくまで気絶であるため、暫く時がたてば起きだし再び攻撃を始める。
状況的に不利なのは目に見えていた。薄い膜を出している人間すら分からず闇雲に攻撃しては――。

「こーゆー時は、マイど、ドーター!」
「どぉたー?」
「しゃがんで彼女!そして動かないで!」

反射的にしゃがんだのを確認した瞬間に蔓が動くものを手当たりしだいに絡めとった。
木の上に潜んでいた男も僅かに動いたのか餌食になってしまう。
彼が術者だったのだろう。地に落とされた瞬間に薄い膜は消えうせた。

「なにこれ。」
「へっへっへー!あたしだって少しくらいは出来んのよ。」
「植物じゃない、あんたの指ー。それが発生源でしょ、それがないと出来ないの?」
「出来ないわけじゃないらしいけど。」
「じゃあ取りなよぉ、ここが弱点ですなんて言ってるもんだよ。…痛!」
「え、あれ、棘?棘なんて無いはずなんだけどなぁ。」

奏音が近づけば、その少女の指先はどろりと溶けていた。出血も酷い。

「はぁ?!こんな事なる訳?どんだけ肌弱いの!」
「知らないしー…はぁ、もう。とりあえず一人ずつこいつらはなしてよ。」
「お姉さん手を振らないでください、体液が飛び散ってます手当てしてください。あたしの顔にかか…っ目に!
 何入った、血?リンパ?白血球?!」
「さあね〜。はい、治ったよぅ。」

奏音が顔を拭えば女性はひらひらと手を振っていた。それは元の形をしていて先ほどまで欠損していたのが分からない。
そして既に細いもので男たちを縛り上げていた。
あまりの速さに奏音が口をあけてみていると遠くの方から声がした。

「シャンリー!どこに行ったー?」
「あ、はいはーい!曲者潰してましたぁー。…じゃ、行くから。一応助けてもらったし見逃すよお。
 でも次見つけたら容赦しないからねぇ、よろしくぅー。」
「あぁ、はいはい。」

ざりざりと気を失った男たちを引きずりながらシャンリーと呼ばれた女性は駆けて行く。
その後姿を見て奏音は今時分がどこにいるのか聞くのを忘れたという事を思い出した。
せめてそれだけでも聞こうと一歩踏み出した瞬間、地が消える。
勢いを殺す事ができずにそのまま落ちていくと、なぜ自分がここにいて落ちているのか奏音には理解できなくなった。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.137 )
   
日時: 2013/08/27 13:56
名前: あづま◇8kXyVF1umQ ID:30fM5xz6

大戦からの国とは言えども大国となればどこかしら手の回らないところは存在するだろう。
それは地域かもしれないし、民の待遇かもしれない。
リキルシアの城下町から西へと進んだ場所にそこはあった。
税などの負担が無いに等しいかわりに、国の側も何の対策も保障もしない地域だ。
その日暮らしのスラム街。薄く汚れ、色は存在しない。
そんな中、お情け程度に身体を泥で汚した人間が走ってくる。足音に気が付いた一人が顔を上げるとたちまち皆の目は輝く。
駆けて来た人物はローランド=カンター。現国王の五男であり外交を主に担っている。

「これはこれは!」
「前置きはいらないからね!…店の中、入れてよ。」
「畏まりました。」

恭しく、それこそ媚びへつらう様に礼をする男をロズは目の端でとらえた。
彼が持つ店の中に入れば、そこはごたごたとしていて悪臭も酷い。そこら中に虫がわいている。
スラムであり、環境は良くない。それを差し引いてもお釣りがくるほどの汚さだった。

「それでどうすんのさ?このスラムはほぼ味方についてるんでしょ?」
「えぇ。金と、不満をやれば面白いほどに。…失礼、貴方が政治担当でしたっけ。」
「構わないよ、ロズは外交の方だし!内政は関係ないからこのスラムは管轄外。
 君らは入っちゃうけどね、お客様。」
「へへへ…。」

下品な声で笑う相手に対しロズは眉をひそめるがそれを男は気にしていないようだった。
身分の差、そして彼に取り入ればもしかしたらという淡い期待があったのだろう。
事実それを糧にし幼い王族であり人を見下す口調の彼を持ち上げているのだった。
立身出世の希望が無ければこのような人間、男はすぐに潰していただろう。それくらい短気だった。

「とりあえずこのスラム…結構規模が大きいし死兵に出来ると思うんだよ。なにかしらで。
 結束は強いじゃん?だから誰かのタメに!みたいなね!」
「ええ…馬鹿みてぇに情けがある奴らさ…。一度恵んでやったら少ない金で買ってくれるようになりやがった。」
「でも初めのお金はこの僕が出したじゃないか!」
「それはとても…有難く……。」

このスラム街での商人は秘密裏に連合を組んでいる。
しかしその実態はロズを頂点とし弱者を完全に支配下に置くものであった。
スラムは情に厚い。一度商人らが金を出し合ったと言う事にして僅かではあるが食料を恵んだ事があった。
一度は遠慮したものの病人や飢えに喘ぐ幼い子らの為にそれはすべて貰われていった。
それからというものの、少し金が入ればこの店で買いに行く。
つり銭はいいのかという問いに対してもあの時の代金だと言って皆笑っておいていく。
既に元は取れているという事は知らないで自らの生活を貧しくしていくのだ。

「とりあえずね、入っている外交――カメリアの補佐とルイテン。これが終わったら決行するつもり。
 特にルイテンだね。今フィッツがいてそっちが準備出来次第だから。多分三日以上一週間未満だ。」
「フィッツ…?」
「フィッツロイ。三男で頭が弱い牢番だよ!多分彼が国王になる。僕は裏で牛耳る。」
「左様ですか。」
「そう。一応他のスラムも味方には付けてあるから。
 …かつて無い内乱だよ!すっごく楽しいよ、興ったばっかりの時すら内乱は無かったみたいなのに!」
「そうなのですか。」
「そう!しかもそれをロズが扇動しているんだ!とっても凄い!じゃあね!」

必要最低限のことしか話さず、ロズは店を出て行った。
汚らわしいとでも言うように店の外に出た瞬間、座っていたため店のどこかしらに触れていた衣類は全て脱ぐ。
内に着ていたほんの薄い布切れ一枚でスラムを出て行った。
後に残された男はその脱ぎ捨てられた衣類を大事そうに、しかし触れることなく力によって持ち上げた。
そして店の奥――先程まで自分が椅子の代わりにしていた厳重に鍵をかけられた箱を開ける。
その中にはたくさんの衣類。わざと汚したのを証明するように小さな手形が付いていて、それが汚れを伸ばしている。

「どちらに転ぶのかねぇ、王族様よ。」

新たな衣類を男はそこにしまった。その服は全てロズがやって来たときに着て、帰るときに脱ぎ捨てたものだった。
勝負は生死をかけた博打だ。どちらに転ぶかは誰にも分からない。
だからこそ、保険は用意しておく。その理由がこの箱の中身だった。





「やめるって…止めるってどういう事?」
「どういう事?そのままの意味。おれには才能が無い。才能が無い人間に教えても無駄だ。
 その点想良は手先が器用だし…王族なんでしょ?何か才能があるはず。」
「私は王族なんかじゃ……。」
「みんななんとなく分かってるよ。お忍びできたお姫様だって。」

今は場所を移動して、ラリーが普段生活しているという屋根裏部屋に来ていた。
そこには仕事に使うと思われる道具が一式と、衣類が隅に畳まれている。
そして額には指輪やイヤリング等の補助具が数点入れられていた。それはとても素晴らしい装飾が施されていた。

「でも、本当に私は王族じゃないんだ。本当は……その…。」
「言えない様な身分なんでしょ。おれとは天と地の差があるんだろ?」
「そんな事ないよ。普通の一般市民だよ…。」

来訪者だとは言えなかった。
ただ、あの丘の上の家で生活していると言わないでくれと念を押されているだけで来訪者だと告げるなとは言われていない。
それなのに言うのが憚れるのはおそらく来訪者は身寄りが無いのが常だからだろう。
一般市民。身分の“差”が無くあるのは立場の“違い”の日本で育った想良には説明が難しかった。

「おれもさぁ、両親みたいな立派な技術者になりたかったんだけどなぁ。生まれ損なっちゃって。」
「え?」
「力が無かった。親はそれに絶望して自ら戦場に行くのに志願。自殺紛いの特攻で殺されたって…さ。」
「そんな事ないよ…親は子供が本当に好きなんだよ…?」
「想良、君はまだ親になってない。
 おれの両親の最期の願いが息子を頼みます、だったんだって。もはや呪いだよ…おれにも、みんなにも。」

ラリーは顔を伏せた。想良からは彼の表情は分からなかった。
しかし雰囲気から彼は今泣いているのではないかと思った。ただそれは涙となって表面には出ていないだけで。
どうすればいいのか分からず、ただ傍らにいる事しかできなかった。

「親方はそれを守ってくれてる。物凄い怒るけど…うちの親との約束を守ってくれてる。
 でもさ、おれ力が無いからどんなに頑張っても…どんなに教えてもらってもアクセサリーでしかないんだ……!」
「……。」
「親方は多分分かってる。おれがどんなに頑張っても補助具として使えるものは何一つ作れない事ぐらい。
 でも他の技術者に教えるのと同じように扱うし、……でも、これ以上親方の手を煩わせる…訳にはいかないから。」

ラリーのその口調は一生懸命自分に言い聞かせているものだった。
本当は彼は両親の用に皆に使われ、愛されるような補助具を作りたいのだろう。しかし不幸にも彼は力を持って生まれなかった。
補助具を作るには自分の力を練りこまなければならない。それが出来ないのだから、補助具を作る事は彼には叶わない。
諦めたくないという感情と作る事が不可能だという現実が彼を押しつぶしていた。

「ラリーさんは…本当に辞めたいの?技術者…。」
「そう。どうせ作れないからね、いくら学んでも無駄なんだ。」
「無駄…。そう思ってるの?」
「思ってる。頑張っても使えなきゃ補助具じゃなくてお荷物。おれがつくれるのは補助するものじゃないから。
 身に付けている人を危険に追いやる危ないものだから、無駄。」

未だ顔を伏せたまま、しかし声だけは奇妙に明るくラリーは言った。
想良はそれで一つの決意をした。

「分かった。私、ラリーさんの後に入る。だから、頼んでね。」

ラリーは顔を上げ、困ったように笑った。その顔にはまだ未練が残っていた。
メンテ
Re: Differences in Peace ( No.138 )
   
日時: 2013/08/27 13:57
名前: あづま◆8kXyVF1umQ ID:30fM5xz6

「分かった。じゃ、…あ、今は皆に教えてるか。明日までには頼んでおくよ。」
「うん。…その、」
「あ、これあげる。いつまでたってもあったんじゃあおれ辛いし。想良が持ってた方がいいよ。」

想良は額を手渡した。窓から入ってきた光を反射し、中身は様々な影を作る。
綺麗なものだ、と想良は感じた。それに大きな力がはいっている。
しばらくその補助具に魅せられていたが、想良が顔を上げるとラリーが口を開いた。

「それ、おれの両親。それだけになって帰ってきた。」
「え、じゃあ…これラリーさんが持っておくべき物だよ。私なんかが持ってちゃ駄目なものだよ。」
「補助具は使われてこそだよ…。おれが持ってたんじゃ意味無いから。」
「でも…。」
「いいんだ。じゃあ明日、もう一回来てくれないかな?一応引継ぎとかあるかもしれないし。」

ラリーは尚も返そうとする想良に有無を言わせず額を押し付け、そっぽを向いた。
想良が何度呼びかけてももう振り返らなかった。





「いぎゃあぁあああぁぁ!」
「あ、奏音。」

バチン、という音と共に空が割れ奏音がそこから落ちてきた。悲鳴を上げている彼女の元にエドが機体を動かしキャッチした。
ぜいぜいと息切れしている彼女には何があったのか聞くが思い出せないといった。

「おかしい事だな。私たちはお前らが落ちていくのを見た。なのに上から来るのはどういうことだ。」
「俺に言わないでくれよ。俺自身よく覚えていないんだ。」
「変だよね、それなんか新しくなってるし。」

奏美が機体を指差す。
それは何本かラインもはいっており、機体の大きさも大きくなっていた。
そして荷物を入れるためのスペースすらあり、今までのぶら下げるタイプよりも安全だった。

「まぁ覚えていないという事は大した事じゃなかったんだろうな…とりあえずスピードを出していこう。
 何分くらい遅れたかは分からないが出来るだけ…日が沈む前には向こうに着きたい。」
「お前らが変な事をしなければ着いたんだろうな…。」
「そういう事は言いっこ無しだぞ、マリー。」
「じゃあエド、姉ちゃん、もう行こう!追いてっちゃうからね?」
「あ、待て。…まったく。奏音、もういいか。」
「いっすよーだ。ちゃっちゃとお願いしやすよ、旦那ァ。」
「なんだそれは?」

しかし奏音の答えを待たずエドは機体を発進させた。
彼らの記憶には存在しないが新しくなったその機体は風を切り進んでいく。
はるか先を進んでいた奏美とマリーのそれにも容易く追いつき、それ所ではなく追い抜いてしまう。
追い抜く瞬間、舵を取っているマリーの驚いた顔が見え二人は笑った。
そこから競争に発展し、互いに笑いながら抜きつ抜かれつしながら楽しむ。

「ははは…あぁ、見えてきた。あそこがリキルシアだ。塔が見えるだろう?」

エドが指をさす。それ程遠くは無いところに真っ白な塔が見え、その周辺には大きな建物が見える。
城下も賑わってはいる様だが、少し離れたところはすべて薄茶色だ。
砂と風しかその地域には無いのだろう。

「やはりどこにも貧しい所はあるものだな…リキルシアみたいな大国でも貧困層は存在する……。」
「でも、ウチが行った所は皆団結してて結構幸せそうな感じだったよ。貧しいけど、頑張ってるみたいな。」
「行った?」
「私達が行ったんだ。お前らが消えて探すついでにな。」
「ふーん、君たち社交的だねぇ。あたしだったらどっかで潰れてるわ。」
「潰れてくれてた方が有難かったな、探し回らないで済んだ。」
「マリ子のいじわるぅー。」

事実ではあるが不可抗力の部分、そして記憶の無い部分を攻められ奏音はただむくれただけだった。
一方エドはマリーが一緒ならば安全だろうがひとつ引っかかる事があった。
おそらくスラムに行ったのだろうがそこで何か物のやり取りをしなかったかと。
基本的に最下層に位置する場所ではそれを言いがかりに何かをされないとも限らない。
しかし、マリーは諸国をめぐっている。それが相手を滅ぼすための情報収集だとしても。
大丈夫だ、影響は無いと自分に言い聞かせエドは機体を進ませる。

「とりあえず手前の方で降りるからな。少し道からずれたところだ。」
「そうだな。私が見える範囲では行商のような人間しかいない…車を引いていたり、だね。」
「へえ、よく見えるねぇ。ウチにはさっぱり。」
「え、割と見えるけど。やだなぁ奏美視力落ちたんじゃね?あたしより見えないとかやばくね?」
「ウチのは勉強で目が悪いんだから。姉ちゃんみたいにゲームだったりで目が悪いんじゃないから。」
「でもあたしより悪いじゃーん。事実はっきりー。」

笑みを浮かべ、嫌味を含ませながら奏音は妹に言った。それに対し奏美は余計な反応はしてはいけないとでもいう様に黙っていた。
しかし機体の端を掴んでいる手がわずかに強張ったのをマリーは見とめた。
それから間もなくエド達が降下し始め二人もその後を追う。
そこは木々に覆われ道からの視界は悪いものの十分な広さを持っており周りを傷つけることなく二機は着陸した。

「ん?」
「どうした。」
「ここ、誰か殺されたね。草が千切れているし。」
「あぁ。マリー、よく気がついたな。」
「周りを見て前提を作らなければいけないからな。私の推理が間違ってなかったのはセルジュ、おまえ自身が良く知ってるだろ。」
「そうだな…ところでマリー、俺の事セルジュって言わなくていいぞ。普通にエドでいい。
 そっちが本名だし、無視しないですむだろうし。」

エドの提案にマリーはただ笑っただけだった。聞き入れるつもりはさらさら無いらしい。
奏美は地に降り立った一瞬でそれを判別したマリーに対して感心していた。
千切れている、と言われなければそんな所気にも留めなかっただろう。
事実、その殺人から時間は経っているのか少々いびつな形をしている葉だという印象しか抱けなかった。
もし気付いたとしても、それが殺人に結びつく事はなかっただろう。
野生の生物が食べたとしか考えないのが平和な世界の人間であるという一番の理由になるのだ。

「比較的リキルシア本国から近いな…一応軽く探ってみるか。
 ……。奏音、何してる。草を食べたければリキルシアは大きいから食用だと保障されているのがあるはずだ。」
「酷いわエドにーさま!…っつーのはおいといてね。そろそろ長男が欲しいなと。」
「長男?…奏音ってお前の姉だよね?あいつ、草と契りを結ぶのか?」
「え、そういうんじゃなくって…一種の相棒的なやつです。補助させるんです…色々と。」

話をふられた奏美が戸惑いがちに答えた。