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[2213] SavingKeeper SavingTool
日時: 2013/07/27 18:44
名前: S◆f11oGkW8ig ID:hQJi43WE

 この小説の舞台はゲームの世界。時系列でいえばBW2の事件の数ヵ月後。
 本来の世界と大きく違うのは――存在する、2つの組織。


 片方は『ST(エスティー)』。

 これまで暗躍した様々な犯罪組織が皆、若い少年少女トレーナーの活躍で壊滅していることに着眼。

 若者の育成を兼ねた治安維持組織として、カントー地方の本部を中心に支部を増やし、分布を拡大しつつある。

 中でもパトロールやバトルを専門とする部隊『SK(エスケー)』は目覚しい活躍を見せている。


 もう片方は『E・S(イー・エス)』。

 構成員の全貌も、本拠地も、目的も不明の、謎にまみれた犯罪組織。

 少数精鋭の構成員は実力派揃いでただの1人も捕まっていない。

 被害は全世界にも及び、ポケモンの強奪は勿論のこと殺人や麻薬の密輸にも手を汚す。



 数年前から戦いを繰り広げる2つの組織。

 ある子供の登場が、その運命を大きく揺り動かす。




【注意点】
・世界観はゲームのそれですが、描写においてはそれを逸脱したものもあります

・状況によっては流血描写などの暴力的なシーンも含みます

・作者の都合上、コメントの返信は基本いたしません。ご容赦ください



主なキャラクター

『無所属』

ソウル(男)10歳
 やたらと冷静な新米トレーナー

ルース(?)年齢不明
 ソウルにとりついている幽霊

裏ソウル(男)10歳?
 ソウルとルースが融合した状態 クールでクレバー

『ST』

アキラ(女)16歳
 STイッシュ支部所属のSK 何かとお気楽

タカシ(男)15歳
 STイッシュ支部所属のSK 気弱で真面目

ノゾミ(女)14歳
 STイッシュ支部所属のSK したたか者

『E・S』

ツカサ(男)15歳
 子供のように無邪気だが倫理観が希薄

ゼンク(男)28歳
 無口で冷静、ツカサとは無二の仲
メンテ

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Re: SavingKeeper SavingTool ( No.2 )
日時: 2013/05/21 20:35
名前: S◆f11oGkW8ig ID:TR1QcsBo

プロローグそのA 『2つの組織』



 夜、イッシュ地方。
 電車の頭上を歩く橋――シリンダーブリッジを2人の男が歩いていた。
 片方は長身の引き締まった体格で、文句のつけようのない所謂イケメン。そしてやや長い薄黄緑色の髪と気だるげなエメラルドグリーンの瞳はまるで植物のような雰囲気をかもし出す。
 もう片方は小柄でパッと見では女子とも勘違いされそうな風貌。水色のショートヘアからぴょんと飛び出た少しの毛や大きな青色の瞳が可愛らしい。

「ねー、今日はこれからどうするの?」
「……俺は眠い」
「もうつれないなあ。せっかくイッシュ地方に来たのにぃ」
「どこであろうと、眠いものは眠い」

 クールな緑髪は絡んでくる青髪をあしらいながらも、任務について考えていた。
 彼らが所属する組織から出された任務は『イッシュ地方に向かえ』というシンプルなもの。それ以降の指令は追って出されるという。

「お前はどう思う? なぜ俺らが、このイッシュ地方に行かされたのか」
「うーん、よくわかんないや。でも確か、ST(エスティー)って最近できたんでしょ? ここ」
「そうだな。それが関係しているのかもしれん」

 ST――2人がこれまでに、幾度も聞いた名前だ。

「ここのSTってどれくらい仕事してるの?」
「新設だが人員は優秀らしい。一週間前の、バトルサブウェイのハイジャック事件もSTによる解決だそうだ」
「わー、あのハイジャック事件も? すごい人がいるんだねえ。会ってみたい!」
「やめておけ。面倒だ」
「えー? おもしろそうじゃん。いずれは会うことになるんだからさあ」
「それはそうだがな……」

 と、その時。

「待ちな!」

 後ろから、声をかけられた。
 振り返ると――屈強な男が、2人を睨みつけてきた。

「痛い目に遭いたくなきゃ、有り金を全部置いてきな」

 下卑た笑みを浮かべる男。その右手には、ナイフが握られている。

「……どうする? ゼンク」
「面倒だが、やるしかないな」

 2人は腰に手を伸ばす。そこには、モンスターボールがいくつか備え付けられているのだ。

「やる気か? オレに勝てるかよ!」

 男もまた、モンスターボールに手をかけた。


 そして、バトルは始まった――少なくとも男はそう思っていた――


 数分後。

「がはっ……!」

 男は膝を付き、シリンダーブリッジの冷たい肌に身を打ちつけた。
 その体は真っ赤に染まっている――自分の血で、だ。

「てめ……ら……ポケモンで、人間を攻撃するなんて……!」

 息も絶え絶えに、恨みを込めた目で2人を睨みつけようとしたが――

「えいっ」
「があっ!?」

 青髪の男に顔を踏みつけられる。青髪は笑うでも怒るでもなく、遊び足りない子供のような表情をしていた。

「あのね、僕らE・S(イー・エス)だよ? 戦うなら死ぬつもりでやってくれないと、つまらないじゃない」
「E・S……!?」
「そ。知らなかった? 指名手配されてるはずなんだけどなあ」

 E・S。
 その名を聞いた途端に、男の顔に戦慄が走った。恐怖と、絶望の表情。

「とりあえずポケモンはいただいてくよ。あと、まだ生きてるみたいだから止め刺さないとね」
「ひっ……や、やめ……!」

 その時。

「そこまでだぁーっ!」

 大きな声と共に、シリンダーブリッジを走るカンカンという音が響いてきた。

「チリーン【シャドーボール】!」
『リッ!』

 その傍らのポケモンが、紫色の球体を2人へと放つ。『犯罪者』への遠慮ない一撃だ。
 だがこんな距離では当たるはずもなく、難なく回避される。

「誰か来ちゃったみたいだね」
「あの制服はST。増援を呼ばれると面倒だ、行くぞ」
「うん」

 2人は男に背を向け、向かってくる相手とは逆方向に駆け出し闇に消えた。入れ替わるように、倒れた男のそばに走ってきた人物が辿り着く。
 それは15歳くらいの少女だった。白いジャケットとスカートを上下に着て、胸には『ST』という形の金のバッジが光っている。

「逃がしたか……っと、それどころじゃない。救急車救急車!」

 少女はすぐさま携帯電話を取り出し、ポケモンセンターへすぐに救急車を手配するよう連絡する。
 そして血まみれの男を見下ろし、ギュッと拳を握り締めた。

「E・S……許せない……!」

 睨みあう正義と悪。
 その戦いの終わりは、果たして――
メンテ
Re: SavingKeeper SavingTool ( No.3 )
日時: 2013/06/15 21:14
名前: S◆f11oGkW8ig ID:LbmpjW5U

第一話 青い瞳の少年

 イッシュ地方。
 プラズマ団を名乗る組織の襲撃から数ヶ月が経過し、その地は平和を取り戻していた――新たな不安を、抱えながら。



「はー……今日も平和やねえ」

 晴れ晴れとした空を見上げて、少女は呟いた。歳は16歳くらいだろうか、若々しい顔立ちをしている。長い黒髪が日の光を艶やかに反射し、僅かな風を受けてさらりと流れる。上には白いジャケットと黒のシャツ、下にはジャケットとお揃いのズボンを履いていて、胸には『ST』という文字をかたどった金色のバッジがある。
 そしてその右肩には、緑色の小さな鳥ポケモンが乗っかっていた。

『ティ』

 無表情のまま小さく鳴くそれは、ことりポケモンネイティ。彼女の相棒である。

「このままのったりしたかなー、ネイティー」
『ティー』
「もう、ちょっと気を抜きすぎだよ。アキラ」

 少女をそうたしなめたのは、少女と同年代の少年。こちらはそれといった特徴はなく、緑色の髪は短く切り揃えられていて自己主張は少なめ。服装は、少女――アキラと同じものだ。

「ええやんかタカシ。気楽にいこうで気楽に」
「でも最近、イッシュでもE・Sが増えているらしいし」
「遭ったそん時はそん時バイ。ずぅっと気ぃ引き締め取ったって疲れるで」
「まあ、そうだけどさ……」

 話しつつ2人が歩いているのは、イッシュの中心部とも呼ばれる大都市ヒウンシティ。さらに詳しくいうと、セントラルエリアと呼ばれる噴水のある広場だ。
 なぜ彼女らがヒウンシティにいるかというと、それが仕事だからだ。いや厳密にいえばヒウンシティにいることが任務ではなく、『探す』ことが仕事だ。

「しっかし面倒やなあ、パトロールなんて」
「何言ってるのさ。アキラだって、自分で進んでSTに入ったのに」
「せやけど面倒なもんは面倒やで」

 ぼやきつつも、2人はさらに歩いていった。



 ヒウンシティ、北の大通り――その、ビルとビルの隙間。

「へっへっへ……欲張りは損をするもんだぜ?」

 屈強な大男が壁に向かって立っていた。もとい、自分と壁で――ひとりの少年を挟み撃ちにしていた。

「どうしたんです? 急にそんな顔をして」

 恐怖や動揺を見せるでもなく、真剣な表情で少年は男に聞いた。
 小柄な少年だった。年齢はまだ10歳そこらといったところ。パーカーにリュックサックそして動きやすそうな長ズボンと、帽子こそ被っていないがいわゆる『旅のポケモントレーナー』のステロタイプな格好をしている。実際、腰にはモンスターボールが3つ備え付けられていた。
 髪は濃い青色で、短いとも長いとも言い切れない。顔つきは幼いながらもどこか毅然としていて、男をジッと見上げる瞳は透き通るような青だった。

「この状況で、まぁだわからねえのか? ええ?」

 男はニヤリと笑ってその目を見返して凄む。2人の身長差は50cm以上もあるので、まるで覗き込む形になる。潰しているかのような圧迫感すらあった。
 だが少年は表情を崩さなかった。

「はい。わかりません。教えてください」

 なんと、真剣に男に問いを続けるのだ。

「俺はあなたからプレゼントがあると聞いて、ここに来たのですが……やっぱりプレゼントはいただけないんでしょうか」

 そう言う少年は、とぼけているようには到底見えなかった。心の底から不思議に思い、男に聞いているのだ。
 それを見て男は、思わず笑ってしまった。

「てめえバカか? まだ幼稚園児の方が察しがいいぜこりゃ! ギャハハッ!」

 その直後、男は少年の頭をガシッと掴んだ。

「簡単な話だ。痛い目に会いたくなきゃ、金出しな」

 その手にぐいぐいと体重をかけていく。少年は表情を変えないがやはり苦しいのか、男の手を自分の両手で掴み引き離そうとする。だが当然ながら離れはしない。

「観念しな。ほら、おとなしく金を払えよ。お前もトレーナー、それもヒウンまで来てるんだ。それなりに持ってんだろ? ただでさえ小さい背が、これ以上潰されねえ内によぉ……」

 そしてさらに力を加えようとした、その時。

「そこまでや!」

 男の背後から、声が聞こえた。

「な、なんだ? てめえは!」

 男が振り返る。
 そこに立っていたのは、髪の長い少女。

「問答無用や! ネイティ【あやしいひかり】!」
『ティ』
「うっ!?」

 男の眼前で紫色の光が煌いたかと思うと、男がフラつく。

「オラ隙ありやで!」

 少女はその隙に駆け出すと、なんの躊躇いもなく男の股間に蹴りを入れた。

「かっ……!?」

 声にならない悲鳴を上げる男。だが少女はさらに――

「オラオラオラオラ!」

 ――と、繰り返し蹴りを入れた。

「て、め……」

 男の顔色はみるみる悪くなり、やがて倒れてしまった。

「ふーい、ちとやりすぎたかもしれんな。まあええわ、先手必勝とらんと力じゃ勝てへんしな」
「おーいアキラ、警察の人連れてきたよ」
「おう、おーきに」

 少女つまりアキラの後ろから、タカシに次いで大人が現れる。
 ここまで――最初から最後まで、青い瞳の少年は、ずっと表情を崩さなかった。


第一話 完
メンテ
Re: SavingKeeper SavingTool ( No.4 )
日時: 2013/06/16 22:15
名前: S◆f11oGkW8ig ID:ugEawDnE

第二話 ソウルとルース

 イッシュ地方、ヒウンシティ。大男が恐喝の現行犯で(股間を抑えながら)連行された数分後。
 アキラはタカシと先ほど助けた青い髪の少年と共に、広場のベンチに座っていた。少年が『話したいことがある』と言ってきたのだ。

「助けてくださって、ありがとうございました」

 そう言って頭を下げる少年の名は、ソウルといった。年齢は10歳、新米のトレーナーだという。

「よかよか。仕事やし」
「それよりも大丈夫? 怪我はない?」
「ええ。大丈夫です」

 まだ若いのに礼儀正しいな、とアキラは感心する。ただ奇妙なのは彼がずっと仏頂面を浮かべていること。仮面をつけているかのようにキリッとした顔のまま表情を崩さず、そのせいか10歳前後とは思えない雰囲気を纏っている。

「ほんで、聞きたいことってなんや?」
「はい」

 ひとまずは話を促してみる。いまひとつこの少年の中身が見えず不気味だった。

「まず、なぜ俺を助けてくれたんですか?」

 その質問に、アキラはきょとんとしてしまった。

「なんでって……そりゃ、ウチがSK(エスケー)やからや」
「SK?」

 聞き返してくるソウル。これも意外だった。

「なんやあんさん、SKのこと知らんのか? つーことはSTのことも知らんかいな」
「はい」

 冷静で知的な受け答えと言っていることのギャップが相当である。これはきちんと説明してやらねばなるまいと、アキラは意気込み――

「ほんじゃタカシ、説明任せた」

 ――タカシに丸投げした。

「え、僕?」
「ウチじゃ訛りでよう聞き取れんかもしれんし、タカシの方が説明うまかろ? な、頼むで」
「もう、仕方ないな……」

 渋々ながらもタカシはソウルの方に顔を向け、説明を始めた。

「まずSTっていうのは、僕らが所属している団体」
「ショゾク?」
「えっと、まあ僕らが入ってるってこと。で、STの仕事は困っている人を助けること。君みたいにね」
「なるほど。SKというのは?」
「SKはSTの中でも、パトロールとかポケモンバトルとかを得意にしてる人たち。僕とアキラは、SKなんだ」
「なるほど、わかりました。では」

 ソウルは頷くと、間髪いれずにまたこちらを驚かせるようなことを言った。

「俺を、STに入れてください」

 そう言うソウルの瞳は真剣で、とても冗談を言っているようにも子供が短慮で適当に口走ったようにも見えない。子供ながら『決断の重み』のある目をしていた。

「ほほう! よか目をするなあ、面白かやっちゃ!」
「ちょ、ちょっとアキラ。そうじゃないでしょ。えっとソウル、なんで君はSTに入ろうと思ったの?」

 するとソウルはただ一言。

「E・S」

 そう、呟いた。
 それだけで、アキラとタカシは共に緊張の表情を浮かべる。

「スカイアローブリッジで、襲われました」

 淡々とソウルは告げた。

「……そうやったんか」

 さしものアキラも茶化しはしない。『命の危機』を笑うことができるほど、彼女の心は強くない。

「よく無事だったね……怪我はない?」
「ええ。どうやら目的は、俺の……ユウカイ、だったようですから」
「誘拐?」

 変だ、とアキラは思った。E・Sの犯行の手口は殺人と金品・ポケモンの強奪。誘拐をした例など聞いたことがない。それはつまりソウルが、E・Sにとって何かしらの『特別な存在』だということだ。
 その意図を察したのかどうかは知らないが。

「たぶん、狙いは」

 ソウルはE・Sの目的を予想し、口にした――ように思えた。いや、もし彼の口から出た言葉が『それ』でなければ間違いなく『思えた』はつかない。
 しかし彼は、こう言ったのだ。

「俺に憑いている幽霊じゃないかと」



 数分後、ポケモンセンター。

「しかしなあソウル、このイッシュのSTは面倒やでぇ?」

 ロビーのソファに座ったアキラが、にやにや笑いながらソウルに語りかける。

「というと?」

 至極真面目な顔で返すソウル。ことわっておくが、彼はアキラをバカにしたりあしらったりしているのではない。どうやらこれは彼の性分らしい。

「んーとな。サボリ魔が2人に女好きと女嫌いが1人ずつやろ? ほんで男か女かわからんのが2人で、魔性の女が1人やな」
「マショーの女?」
「せや。天使と悪魔の面を持ってるんやでえっ!」
「もうアキラ、本人に怒られるよ?」
「おんやタカシ、おったんか」
「ずっといたよ」

 と、その時。

「誰が魔性の女だって?」

 アキラの背後から声。ワルビアルもとい悪びれるわけでもなくアキラが振り返り、ニヤリと笑う。

「おんや、もう来とったんか。ノゾミ」
「ふふ、地獄耳なの」

 ノゾミと呼ばれた少女もまた、怒らずに笑っている。
 彼女もアキラとお揃いの服つまりSTの制服を着ている。背は彼女より小さめだ。髪は茶色のロングで、その上には可愛らしいボンボンのついたオレンジ色のニット帽を被っていて、総じてキュートなようだがその実、雰囲気はアキラよりも遥かに大人びたものを纏っている。

「それでアキラ、話って何? それとそっちの子は?」

 ノゾミはアキラが電話で呼んだのだ。彼女はアキラの親友であり最も信頼するSK。ソウルのことを紹介する必要がある、と考えていた。

「こいつはソウル。STに入るそうや」
「よろしくお願いします」
「STに……? 大丈夫なの? 興味本位とかじゃダメだよ?」

 アキラと違ってきっちりと忠告をするノゾミ。彼女は熟練のSKであり、その過酷さもよく知っている。E・Sと交戦したことすらあり、そんな彼女がまだ幼いソウルのことを心配するのは当然といえる。
 だがソウルにだって『理由』がある。

「ま、そう来るわな。ほんじゃ行くか」

 アキラは立ち上がり、『どこに?』と怪訝そうな顔を浮かべるノゾミに対し悪戯っぽくこう告げた。

「幽霊ウォッチングと洒落込もうや」



 そして路地裏。ビルとビルの間のそこは昼間でも薄暗い。

「『彼』のことを見るには、その存在を『感じる』ことが大事らしいです」

 アキラ、タカシ、ノゾミの3人を前にソウルが語る。

「『らしい』?」
「彼がそう言ってたんです。俺はあまり頭がよくなくて、彼の助言を仰ぐことが多いもので」

 まだ3人に『彼』というのは見えない。本当にいるのかどうかすらも、疑わしい存在だ。

「話を戻します。彼の存在を感じるにはまず『幽霊が出るような雰囲気』というのがどうでもいいようで大事らしいです。それともうひとつ、名前を知ればいいんです」
「ほほう。んで、名前は?」
「『ルース』です。彼の名前は、ルース」

 ルース――ソウルをひっくり返したかのような名前だ。

「ではこちらを見てください」

 ソウルが、何もない空間を手で指し示す。

「ここに、ルースがいます。よく見てください。じーっと」

 3人が言われた通りに虚空を見詰める。一見、薄暗いだけで何も見えないが――

「ルースは俺と同じ見た目をしてます。名前を念じながら、姿を思い浮かべてみてください」

 なんだかロコンにつままれているような気分ではあるが、ひとまず従う。ソウルと同じ姿の幽霊、名前はルース、そこにいる――
 と、その時。


「聞こえるかな?」


 声が、響いた。


「その様子だと聞こえているようだな」


 ソウルとほとんど同じ声だが、その響きは全く違う。子供ではなくまるで老人の声色。それに声質がまるで――脳裏に直接響くような――


「ポッポが豆鉄砲をくらったような顔をしておるな。いや、この地方だとマメパトのような顔というのだったかな?」

 そうしている内に、だんだんと姿が見えてくる。ソウルと同じ姿が。
 しかし常人と明らかに明らかに違うのは、宙に浮かんでいることと半透明なこと。その姿はまさしく『幽霊』。

「急に唐突なことを言って申し訳ない。私がルースだ」

 腕を組み、何か含みを持つ笑みを浮かべるソウル――もとい、ルース。子供の姿なのに大人の風格を持つ、奇妙な存在。
 彼こそが、台風の目』。彼を中心に、運命はうねり始める。


第二話 完
メンテ
Re: SavingKeeper SavingTool ( No.5 )
日時: 2013/07/13 09:20
名前: S◆f11oGkW8ig ID:RcX.fBoI

第三話 刺客

 イッシュ地方、ヒウンシティの裏路地。

「性別は?」

 アキラが、幽霊――ルースに聞く。

「多分男だな」

 ルースは落ち着いた様子で答える。その声色、というよりはテレパシーなのだが、ともかくソウルと同じ声に聞こえる。

「歳は?」
「わからん。まあ若くはないと思うが」
「覚えてないんか?」
「うむ、記憶喪失なのだよ」
「そうか。さて本題に入ろう……」

 アキラは声をやや強くして、言った。

「犯人はお前だろう!」

 その言葉を聞き、ルースの瞳に妖しい光が宿りその頬はにやりと上がる。

「証拠があるのかね、刑事さん」
「ぐぬ……だが状況からすると、犯人はお前しかいないのだ! 吐け!」
「だから言ってるだろ、あれは強盗だと! さっさと調査に戻るべきだと思うがのう」
「しかし! しかしだ!」
「おいおい、何やってんの」

 ノゾミの言葉で小芝居は中止となった。ようやくツッコミが入ったと、アキラとルースは互いに笑いあう。

「いやあ、人に色々聞くんやったら、このノリは定番やろ」
「定番なのかなあ……」
「もし漫画だったら、暗い部屋・小さな机・スタンドライトに天丼のイメージが出るところだな」
「せやせや、その通り!」

 きゃいきゃいとはしゃぐアキラ。その相手が子供の姿をした幽霊であることと彼女に肩に乗っているネイティの置物っぷりがなんともシュールである。

「アキラ、ちょっとボケは置いといてね」

 そんなアキラを一旦制するノゾミ。

「まず……ルースさん、ですね?」
「いかにも。そちらの自己紹介はいらぬぞ、お主らに私が見えずとも私には見えていたからな。お主がノゾミでそっちがアキラ。それと……タカシ、だったな」
「あ、タカシおったんか」
「ずっといたよ、アキラ……」

 閑話休題。

「それでです。ソウル君をSTで保護するにあたって、あなたについて、できるだけ多くお教えいただきたいのですが」
「うむ、当然そう来るだろうな。お主は見た目より遥かにしっかりとしている」
「み、見た目については言わないでください。背が低いの気にしてるんですから」
「ははは、すまんすまん」

 ノゾミの背は置いておくとして――事実、ソウルはかの悪名高き犯罪組織E・Sに狙われている。それも目的は誘拐、それはつまりE・Sがソウルに対し何らかの『特別性』を見出しているということ。そしてソウルが持つ次第の特別性といえば――このルースなのだ。
 E・Sと戦いソウルを保護するノゾミ達STには、彼について知る権利がある。

「お答えしよう。満足いく返答でないかもしれんがな」
「はい! お願いします」

 ルースは少し考えた後、語り始める。口調は落ち着いていて淀みがない。

「まず私がソウルと出会ったのは5年前。場所はよく覚えとらんが、後で知ったことにはシンオウ地方と呼ばれる場所だったのは確かだ。以後ずっと行動を共にしておる。私はソウルからそう離れることができん不自由な身でな」

 そこでルースは一拍置き、続ける。

「で、私のことだが、実はほとんど記憶がないのだ。ソウルと出会う前の記憶が、な。理解しておったことといえば、『自分が死んだ』ことと……これは信じられんかもしれんが、『自分がポケモンだった』ということ」
「ポケモンだった? ルースさんが、ですか?」
「うむ。言葉にはしにくいが確かな『実感』としてそれがわかったのだ。そのせいかは知らんが、不思議なことに私は人の言葉もポケモンの言葉も介することができる」
「ポケモンの言葉を。それはすごい」
「もっともポケモン達が明朗に言葉を話しているわけではなく、感情や簡単な行動内容などがわかる程度ではあるがな」

 そこまで言って、ルースは肩をすくめる。

「私が言えるのはこれだけだ。参考にはなったかな?」
「うーん、ひとまずルースさんの素性というのはわかりましたね」

 ノゾミは難しい顔をしている。

「ただ、まだソウル君がE・Sに狙われる理由まではわからないかなあ」
「うむ……それは、私にもさっぱりだな」

 そもそもE・Sは、ルースの存在を知っているのだろうか? という疑問がノゾミには沸いていた。常人には見ることも聞くこともできない存在、本当にそれに気付いてソウルを狙っているのだろうか。あるいは、やはりルースではなくソウルが狙いなのか? 謎は深まるばかりだ。

「一応ソウルの家は金持ちだが、身代金目当てとは考えにくかろうなぁ」
「へえ、そうだったんですか」
「ほっほ〜う、ボンボンかいな。まあそんな気はしとったばってん」
「ほお、それはなぜだアキラ?」
「こんな天然ボケは温室育ちに決まっとるわ」
「なるほど」

 ルースは心底納得した様子だった。



 それから彼らは、アキラ・タカシと、ノゾミ・ソウル(とルース)に分かれた。
 アキラとタカシは普通に仕事。イッシュ地方の街を巡って異常や事件がないかパトロールする、SK(エスケー)としての仕事だ。ちなみに確認するとSKはSTの中の役職のひとつである。
 アキラとしてはソウルから離れるのは(面白さの観点から)嫌だったようだが、タカシに諭され、渋々この日パトロールのないノゾミにソウルを任せることを承諾した。
 そしてソウルは望み通りSTに入ることとなった。保護するという面でもそうだが、何よりはSTの側面のひとつ――少年少女トレーナーの育成という面を活かそうと考えてのことだった。
 口にこそ出さなかったが、ノゾミは、この幼い少年が、かつてロケット団やプラズマ団のような犯罪組織に勇敢に立ち向かった少年少女達の一員になるのではないかと、密かに期待していた。




 さてノゾミとソウルは入隊手続きを行うためにSTイッシュ支部へと向かう。

「うん、今日は風がないね。運がいいよソウル君」

 ヒウンシティ北のゲートを抜けると、ノゾミは笑顔でそう語りかける。ソウルはやはりにこりともせずに

「普段は風があるのですか?」

 と真顔で返してきた。その子供らしくなさはまだ慣れずノゾミが苦笑いしていると、内心を察したのかルースが

「すまんなノゾミ。こいつは感情表現が苦手でな。敵意があるわけじゃあないのだ、許してやってくれ」

 と弁解する。その子供の面倒を見る親のような微笑ましさに、思わずノゾミはくすりと笑う。

「ええ、大丈夫です。ソウル君は好奇心が旺盛なんですね」
「私が教えたのだ、聞くべきことは聞けとな。ソウルはいまひとつお坊ちゃま気質で、間の抜けている所があり心配でなあ……」
「ふふ、本当に親みたいですね」
「ん、親?」
「なんでもないです。で、風のことだったね。ソウル君の言う通り、この4番道路は風が強い時が多いんだよ。しかもすぐそばが砂漠だから砂嵐になって……参ったものよ」
「なるほど」
「さ、ちょっと歩くよ。ライモンシティまで10分ってとこかな?」

 STイッシュ支部はライモンシティにある。建設場所の案としてはヒウンシティもあったそうだが、値段や大きさを考えた結果ライモンになったのだとノゾミは聞いていた。

「はい」

 ソウルは大人しく頷いた。



 しばらくの間、2人――もといルースを加えた3人は平穏に歩いていた。

「ソウル君は、どうしてヒウンシティに?」
「ジム巡りをしていたんです。ポケモンは前から一緒に暮らしてて、10歳になったから旅に出たんです」

 軽い雑談ができるくらいにはノゾミはソウルに慣れていた。とにかく彼は『冷静』であり悪感情はないのだというルースの説明を受けそういう心構えで話したら、会話は案外普通に成立したのだった。

「そうなんだどんなポケモンを持ってるの?」
「まだ3匹しかいません。昔から一緒にいるのが2匹と、イッシュに来てから捕まえたのが1匹です。名前は……」

 ――その時。

「ストーップ!」

 若い男の声。空からだ。
 見上げると一匹のポケモンが飛んでいる。トロピウスのようだが、色がおかしい。通常よりも黄色がかかっている。色違いと呼ばれる希少種だ。
 ノゾミはそれに見覚えがあった。

「君、ソウルだよね? ちょっと用事があるんだ」

 高い少年の声。語調はそれこそ子供のように無邪気だ。だがノゾミは逆に警戒を強める。
 トロピウスはゆっくりと降下し、ノゾミ達の前方15メートルくらいの所に着地する。ただ話すにしては随分と遠い距離だ。

「よっと」

 トロピウスの背中から、『2人』の人間が降りてくる。
 まず1人は先程の声の主――活発な印象を持つ少年。身長はやや高めで、痩せた体格。水色のショートへアーで、頭上の毛が1、2本はねている。蒼い瞳はソウルとはまた違った幼い印象があり、顔つきはどこか幼く、『可愛い』という形容ができそうだ。服は薄水色のシャツに青緑色の上着、濃い青の半ズボンに水色と白の靴。

「……ハァ」

 活発そうな水色の髪とは対照的に、もう1人は気だるげだ。身長が高く、体格もいい。肩に掛かるか掛からないかの薄黄緑色の髪。エメラルド色のやや閉ざされた瞳は、落ち着いた印象がある。顔つきはやや大人びていて、どこか眠そうにも見えた。服は黄緑色のTシャツの上に、抹茶色のフード付きの上着。深緑色の長ズボンに、首に緑色の石がはめ込まれたネックレスをかけている。そして彼はモンスターボールを取り出しトロピウスをそこに治める。
 先程の少年を『可愛い少年』と呼ぶのならば、こちらは『かっこいい青年』といったところか。

「ノゾミさん、彼らは?」

 ソウルが問う。
 ノゾミが答えるより先に、陽気な声で少年が言った。

「僕はツカサ、よろしくね! こっちはゼンクだよ」

 ノゾミの険しい表情とは不釣合いな笑顔。これから友達にでもなろうというような明るい表情だ。だがそれでもノゾミは警戒を解かない。

「ソウル君、油断しないで」

 ノゾミ横目で、ソウルを見た。

「こいつらは、E・Sよ」

 そう――この2人組、ツカサとゼンクは、犯罪組織E・Sの一旦を担う存在。無邪気な笑顔と、クールなすまし顔の裏で、幾度も幾度もその手を悪に染めてきた人間。

「はい」

 ソウルは動揺も驚愕もせずに頷いた。E・Sを前にしてもその冷静さは変わらないらしい。それこそ子供丸出しでパニックに陥られても困るので、今はそれがありがたい。
 そして、ルースはソウルの背後から2人を睨んでいる。だがE・S達はその視線に気付いていない。やはり、ルースのことが見えているわけではなさそうだ。

「何か用?」

 ノゾミが切り出した。緊張を隠し、冷たい声で相手を威圧する。だがE・Sに対してはそれもお情け程度の効果しかない。

「用は、わかっているだろう」

 青年――ゼンクが言う。ぶっきらぼうで無感情な、掃き捨てるような声。

「僕達は油断しないよー!」

 少年――ツカサが言う。その顔には未だに笑顔が浮かんでいる。
 ツカサのこの笑顔は作ったものではないらしい、ということをノゾミは以前他のSKから聞いたことがあった。なんでも彼は子供のように無邪気であり、『悪意』や『敵意』をなしに犯罪を犯すのだという。
 それはつまり『罪悪感』が、精神のストッパーが振り切れているということ。いわば暴走状態、何をしでかすかわからない。それこそ『あいつ』のように――
 ノゾミが、その名前を脳裏に思い浮かべた時。

「メリルは油断しちゃったらしいからね」

 ツカサの口から、それは発せられた。ノゾミの目が見開かれる。それはE・Sの中でも、『最悪』の名前。

「まさか、メリルが、ソウル君に」
「はい」

 ソウルは平然と頷いた。

「バトルを仕掛けてきました。ツカサの言う通り油断していたようで、ポケモンを2体しか所持していませんでした」
「そ、そう……」

 それを聞いても、ノゾミはまだ少し落ち着かなかった。
 E・Sに名だたる凶悪犯がいる。『殺人鬼』『解剖魔』『マッドサイエンティスト』『霊能者』『人間兵器』――メリルはいわば、『狂人』。
 しかし改めて考えると、メリルの『最も恐ろしい点』が油断ゆえに活かされていなかったのだろう。そう考えると、ソウルの生存も納得できるかもしれない。
 フーッと、ノゾミは息を吐いた。

「ソウル君、気をつけてね。メリルは第一級危険人物、油断してなかったらヤバかったよ」
「はい」

 と、その時。

「余計な話はこれくらいにしておけ」

 ゼンクが鋭く言う。

「選べ。大人しくそいつを引き渡すか、戦うか、だ。できれば前者の方が面倒がなくていいんだがな」

 心底面倒くさそうに言い放つゼンク。恐らく彼にとってE・Sの任務など面倒くさいことでしかないのだろう。それがどんなに邪悪な行為だとしても――

「ソウル、ボールを手に取れ!」
「わかった」

 ルースの声に応じて、腰のモンスターボールに手をかけるソウル。ノゾミも同様だった。最初から、戦う以外に選択肢などないのだ。

「やれやれだ。やはりこうなるか」

 ゼンクも――

「よーしゼンク、レッツ・ゴー! だよ」

 ツカサも、モンスターボールを手に取る。人間よりも遥かに強い存在として、己が持ちうる武力として。
 ST対E・S――バトルが、始まる。

「来て、チリーン!」
『リー!』

 ノゾミが繰り出したのはふうりんポケモンチリーン。一見か弱く見えるこのチリーンこそが彼女の相棒。長く共に戦ってきた最愛の存在だ。

「えーと、行けホワイト」
『フィッ!』

 ソウルのボールから飛び出したのは、たいようポケモンエーフィ。チリーンとタイプが被っているのが少し気になるが――まあ元々ソウルの実力にそこまで期待はしていない。あくまでも彼は保護すべき対象だ。
 もっとも、手加減をしていたとはいえソウルはメリルを下した実績がある。ジム巡りの旅でヒウンシティまで来たということはジムバッジも2個は持っているはず。足手まといにはならないだろう。

「いっくよー、やっちゃえパキラ!」
『ラーグ!』
「ウンリュ、お前だ」
『ジュカッ!』

 ツカサとゼンクが繰り出したのは、それぞれラグラージとジュカイン。前者は遅くて重く、後者は軽くて強いポケモン。厄介な組み合わせだ。

「……役者は出揃ったわね」

 ノゾミは薄く笑う。ほとんど虚勢の笑みだ。
 E・Sの恐ろしさは、その凶悪性だけでなくバトルの強さもある。強い者だけを選んだであろうその構成員はジムリーダーすら凌ぐほどの実力を持つ。ノゾミとてバトルには充分な自信があったが、ソウルをかばいながら勝てるとは思っていなかった。

「始まりだ!」

 自分を鼓舞するように、ノゾミは宣言した。



「チリーン【エナジーボール】!」
『リーッ!』

 チリーンの目前に自然のエナジーが集結し緑色の球体を形作る。チリーンはそれをツカサのラグラージへと放った。

「パキラ、【ハイドロポンプ】!」
『ラグラーッ!』

 すかさずラグラージの口から猛烈な水流が放たれる。それはいとも容易く【エナジーボール】を押し返し、勢いをそのままにチリーンへと迫った。

『リッ!』

 サイコパワーでふわりと高度を上げるチリーン。【ハイドロポンプ】はその眼下を通過する。

「ホワイト、ジュカインに【サイコキネシス】」
『フィーッ!』

 ホワイト(エーフィ)の瞳が水色の光に染まる。そこからは不可視の力が放出され、ジュカインの体を狙っている。

『ジュカッ!』

 しかしすぐにその場を離脱するジュカイン。速い、念動の集中が間に合わない。しかもそのままホワイトへと接近してくる。

「【エナジーボール】」
『ジュッ!』

 今度はジュカインの口から【エナジーボール】が放たれる。しかし移動してすぐに打ったせいか狙いがホワイトから外れている。そう思ったソウルは、追撃の指示をホワイトに出そうとしたが――

「違うソウル君、狙いはあなた! 避けてっ!」

 ノゾミの声を聞き、すぐに【エナジーボール】に目線を戻す。見れば確かにそれは自分へと、一直線に迫っていた。

「わかりました」

 しかしソウルに焦りはない。冷静に横に一歩飛び退く。回避行動が遅れたせいで頬を掠める程にギリギリだった。一瞬でも反応が遅れれば直撃していただろう。

「気をつけてソウル君、これがE・Sとの戦いよ。ポケモンだけでなく人間も狙ってくる!」
「わかりました」

 それを聞きソウルは、はっきり言って恐怖を感じていた。いくら冷静でも彼はまだ10歳の子供だ。これまで感じたことのないレベルの身の危険をひりひりと感じる。今すぐに逃げ出したい気分になっていた。
 だがその感情で、彼の行動が変化することはない。『冷静』は全ての感情をセーブし最善の行動を選んでいる。

「ホワイト、もう一度【サイコキネシス】だ」
『フィーッ!』

 ジュカインはなおもホワイトに迫っていたのだ。このままでは物理攻撃が当たるほどに近づいてしまう、そうなるのはマズい。近距離では敵に部があるとソウルにもわかっていた。
 だが逆に、近いおかげで【サイコキネシス】も成功しやすい。こちらに向かってくるならなおさらだ。だから今はこれが最善。そうソウルは考えた。
 しかし。

「ウンリュ、【エナジーボール】」
『ジュカッ!』

 【サイコキネシス】の影響が出るよりも先にジュカインの口から【エナジーボール】が放たれる。
 しまった、とソウルは思った。【サイコキネシス】は念動を集中させて出す技だとルースが言っていたのを思い出す。つまり、繰り出している間は動けない。

『フィッ!?』

 ホワイトに【エナジーボール】がヒットし、自重の軽いホワイトは衝撃で吹き飛ばされる。

『フィッ……』

 なんとか空中で体勢を立て直し、着地する。ダメージこそあれどまだ戦うことは出来そうだ。しかし辛そうだ。自分のせいだと、ソウルは申し訳なく思った。
 幸いにも、攻撃が当たったせいか敵のジュカインは一旦退いたので追撃の心配はなかった。しかしまだ安心はできない。

「あはは、2人はチームワークがなってないね! ゼンク、僕らのコンビネーション、見せてあげようよ!」
「好きにしろ」

 攻撃が来る。ソウルもノゾミも身構えどうくるか見極めんとする。

「パキラ、【じしん】!」
『グラーッ!』

 大きく一声上げてラグラージが地面を踏み鳴らす。するとそこを中心に、地面を舐めるように茶色の輪が広がっていく。

「ソウル、あの輪に触れるとダメージを受けることになる。気をつけろ!」
「わかった」

 既に敵のジュカインはジャンプして回避している。ノゾミのチリーンは最初から浮いているので避ける必要もない。
 ソウルはタイミングを見計らい、ホワイトに指示を出した。

「今だ、跳べホワイト」
『フィッ!』

 サイコパワーを交えながらホワイトがジャンプし【じしん】を回避する。これで一安心――ではなかった。

「ソウル君、あなたも! ジャンプして!」

 ノゾミの声で、【じしん】がなおも消えていないことに気付く。再びのトレーナーアタックだ。

「よっ」

 縄跳びの経験ならあるソウルは難なくそれを飛び越える。もし当たったらと思うとゾッとするが、それで足が竦むようなことは『冷静』が抑えている。
 反撃をするべくホワイトに指示を出そうとしたとき――ソウルの目に飛び込んできたのは、『ジュカインを抱えるラグラージ』。

「パキラ、思いっきり投げちゃって!」
『ラーグラーッ!』
「ウンリュ、突っ込め」
『ジュカッ!』

 ラグラージが渾身の力でジュカインを放り投げ、そのタイミングにあわせてジュカインが跳ぶ。相乗したパワーとスピードにより、弾丸のようなスピードでホワイトへと迫る。
 今ホワイトは空中にいる。身動きが取れない。

「【リーフブレード】」

 ジュカインの腕にある三日月状の刃が、残酷な光を放つ。その切っ先はしかとホワイトを捕らえていた。

「チリーン、【サイコキネシス】でホワイトを!」
『リリッ!』

 ノゾミの指示と同時にホワイトが水色の光に包まれ、ぐいっと移動させられる。念動力による強引な回避だ。
 そしてそれは無事に成功し、草の刃は空を切るのみに終わる。

「失敗か……ウンリュ、一旦戻って来い」
『ジュカ』

 着地と同時に自慢のスピードで駆け出し、ジュカインはゼンクの下へと戻っていく。

「……ありがとうございます、ノゾミさん」
「いいのよ。それより気を抜かないで」

 ノゾミの表情は険しい。余裕がないことの理由が自分にあることをソウルは理解した。自分が足手まといになっているという事実を、彼はあっさりと受け容れたのだ。
 そして、ひとつの決断をする。

「ルース」

 それは、ソウルの切り札。

「やはり俺じゃ、ダメだ」

 ソウルをそう言って、そっと左目に手をやる。それでルースには通じるのだ。

「……わかった」
「ソウル君? ルースさん? いったい、何をするんです?」

 当然、ノゾミには訳がわからないだろう。だが説明している暇はない。

「ノゾミ、これから起きることに少々戸惑うかもしれん。だがこれはむしろ我らに有利に働く。見ていろ……行くぞ、ソウル」
「ああ」

 そう言うや否や、ルースは――ソウルに体に飛び込んだ。

「うっ……」

 ソウルがよろめき、ぐらつく。手を顔に添えたままに、だらりとうつむく。

「おっやぁ?」
「あれは……」

 ツカサとゼンクも『誘拐対象』の異変に気付き、事の成り行きを見守る。ノゾミも同様だ。何が起こったのか、起こるのかわからず、ただソウルを見る。
 ――やがて、ソウルが顔を上げる。

「さあ」

 その左目が、金色に染まっていた。

「再開だ」


第三話 完
メンテ
Re: SavingKeeper SavingTool ( No.6 )
日時: 2013/07/27 13:37
名前: S◆f11oGkW8ig ID:hQJi43WE

第四話 変貌


 ヒウンシティとライモンシティの間の道路の中腹で、STとE・Sのバトルは始まっていた。ソウルの誘拐を狙うは可愛げな少年とりりしい青年のコンビ、ツカサとゼンク。対するはソウルとそれを守るノゾミ。
 ソウルは善戦するがやはり実力不足は隠せない。そんな中、彼を見守る幽霊ルースがソウルの体に飛び込んだ。彼は左目に手を添え、うつむいたかと思うと――変貌した。



「再開だ」

 言い放った彼の左目の色が本来の青ではなく金色に染まっている。見たところ変化はそれだけのようだが――何かしらの違和感をノゾミは感じていた。

「ソウル君……? その目は?」

 彼に問うと、彼はこちらを見もせずに答える。

「虹彩異色症。『ソウルは』生まれつき左右の目の色が違い、金色の目は普段カラーコンタクトで隠している。今、それを外しただけだ」

 ぶっきらぼうな返答を聞きノゾミは驚いた。彼はいつも無表情で無感情だが口調は丁寧で、今言った突き放すようなものではなかっった。その上、語調がまるで――風格のある大人のような、尊大で悠然としている。
 ソウルを覆う『雰囲気』そのものが激変している。そう、ノゾミは感じた。

「……どうしたの? ソウル君」

 正直なところ困惑がかなり大きくうまく言葉が浮かんでこない。だが彼はこれだけの言葉でノゾミが何か言いたいか理解したらしく、答えた。

「ルースの、幽霊としての能力とでも言っておこう。他者の精神に自身を溶け込ませ、別の人格を生み出す。今の俺はソウルやルースからは『裏ソウル』と呼ばれている」

 裏ソウル、わかりやすいようなわかりにくいような――ソウルのセンスなのだろうか。ともあれ今はネーミングセンスなどどうでもいい。

「……『二重人格』ってこと? あなたはソウル君やルースさんとは違う人格なの?」

 実は二重人格というものには詳しいノゾミは聞いたが、ソウル――もとい、裏ソウルは首を横に振った。

「その言い方には語弊があるな。俺はソウルでもルースでもないと同時にどちらでもある、いわば2人の融合体だ。純粋な等分ではないが両者の特徴を引き継いでいる」
「……なるほど」

 言われてみればこの『裏ソウル』にはソウルとルースが同居している。冷静で無機質なのはソウルの特徴、貫禄と教養があるのはルースの特徴だ。『溶け込ませる』とはそういうことなのだろう。しかしなぜ今それを実行したのか、ノゾミはそう問いかけようとしたが――

「ねえ、そろそろいーい?」

 それよりも先にツカサが声をかけてきた。E・Sの彼ら2人は今まで裏ソウルの様子をうかがっていたようだが――『もう充分』ということなのだろう。

「しかし不思議だなあ、ソウルって。やっぱ僕らの組織がソウルを欲しがる理由もそこんとこにあるのかなあ?」

 腕を組みきょとんと小首をかしげるツカサ。どうやらE・Sがソウルを狙う理由を彼から聞こうとしても無駄らしい。子供のようなツカサならいけるのではないか、と密かに企んでいたノゾミは少し落胆する。だがそれ以前に、まずバトルに勝たねば――下手をすると命はない。

「ツカサ、そんなことはどうでもいいだろう。俺らは任務をこなすだけだ」
「うん、そうだね。じゃあさっさとやっちゃおうか!」

 攻撃が来る! そうノゾミが察知し身構えたその瞬間。

「ホワイト、ジュカインに【サイコキネシス】!」

 2人よりも先に、裏ソウルが叫んだ。

『フィッ!』

 すぐさま反応したホワイト(エーフィ)の瞳が水色に染まり、強い念動がその身から放たれる。先手を取った不意打ちの形だ。
 だがしかし、敵もさるもの。

「かわせウンリュ」
『ジュッ!』

 その念動が届く前に素早くその場から脱し【サイコキネシス】を回避する。やはりこれだけの距離があるとそう当たらないか、ならば――ノゾミが頭を巡らせたとき。

『ラグッ!?』

 ラグラージの体が淡い水色の光に包まれた。【サイコキネシス】に囚われたのだ。

「えっ!?」

 驚くツカサ。それはノゾミも同じだった。裏ソウルは確かに『ジュカインに【サイコキネシス】』と指示したはずだ。

「今だノゾミ、チリーンで【エナジーボール】を!」

 裏ソウルの声で我に返る。そう、ラグラージの動きを封じた今はチャンスだ。

「え、ええ。チリーン【エナジーボール】!」
『リーッ!』

 チリーンの目前に自然のエネルギーが凝結していき、球体として放たれる。

『グラッ!?』

 それは身動きの取れないラグラージに直撃する。みず・じめんタイプのポケモンにくさタイプの攻撃をヒットさせたのだ、ダメージは相当だろう。

「やった……でもソウル、どうやったの? あなたはジュカインに【サイコキネシス】をするよう指示したはずなのに……ホワイトが命令を無視して?」
「いや違う。エーフィの種族としての能力を利用した。エーフィは体毛の微妙な感覚で人の考えを読み取る。俺はラグラージに意識を集中させて【サイコキネシス】の指示を出したんだ。こういう戦い方は、以前にも経験があるしな……」

 その時、ノゾミは裏ソウルになることの利点を察した。ソウルの持つ『冷静さ』に、ルースの持つ『知識』『機転』そして『精神力』が加わると――それは極めて知的な策士になる。

「なるほど、戦闘用の人格『裏ソウル』か……いいね、これからも頼りにさせてもらうわ!」
「ああ……また来るぞ、気を抜くな!」
「ええ!」

 勝てる。ノゾミはそう確信した。



 ――数分後。

「ホワイト、【めざめるパワー】だ!」
『フィッ!』

 水色の小さな球体がいくつも出現し、先ほどチリーンの【あくび】を受けてしまったジュカインに直撃する。

『ジュッ……!?』

 氷タイプの【めざめるパワー】をまともに浴びてしまったジュカインは、ダメージの蓄積もあって戦闘不能に陥り倒れる。

「よーし、いい調子! いけるよソウル!」

 これでE・Sのポケモンが倒れたのは2体目。まだノゾミのチリーンもソウルのホワイトも倒れていない。ノゾミ達が優勢だ。

「大丈夫、ゼンク!?」
「ああ……だがウンリュ、パキラ共にやられるとはな」

 E・S側も焦りが見える。風が自分達の方に吹いているのを、ノゾミはしかと感じ取っていた。
 ――しかし。

「……悪いがノゾミ、もう限界だ」

 裏ソウルが不吉なことを呟く。

「え? それはどういう……」

 ノゾミが言い終わる前に。

「うっ!」

 裏ソウルが小さく唸ったかと思うと――

「こういうことだ」
「……すみません、ノゾミさん」

 ――裏ソウルは再び、ソウルとルースに分離した。

「え!? な、なんで……」
「裏ソウルでいるとすごく疲れるんです。もって10分が限度です」
「体はソウルのものだからな、2人分の精神を使い続けるには負担が大きすぎる」

 見れば確かに、一見無表情なソウルに僅かながら疲労の色が見える。彼が顔に出すとなるとよっぽどだ。
 やはり世の中、そう都合よくはいかないらしい。ソウルに大きな負担を強いた上で短時間の覚醒、それが『裏ソウル』ということか――

「しかし参った、裏ソウルを使えば敵の半分は落とせると思ったのだが……E・S、思っていたよりも強い……やれさてどうしたものか」

 ルースの顔にも焦燥が表れている。その表情に、優勢だと思っていたのが誤りであったことをノゾミは確信させられる。
 ――こうなれば、仕方がない。

「ソウル君、ルースさん」

 『あれ』を使う。

「実は私にもあるの……裏ソウルみたいな『奥の手』が」
「なんだと!?」
「本当ですか」
「ただし、一発逆転できるようなものではないし、あなた達に迷惑かけるかもしれない。だけど、やらせてもらうわ」

 正直ノゾミとしては、これを使うのはあまり好きではなかった。だが――そもそもこれは、完全には制御できないのだ。そろそろ『限界』が近づいているという自覚があった。

「……アキラが言ってたでしょ? 私のこと、『魔性の女』だって……」

 言いつつ、心の中で『リミッター』を解除する。すると心の中が大きく揺れ動き、いつもの塗り替えられるような感覚が身を包む。

「さぁ……」

 そしてノゾミは、ニタリと――悪意のこもった笑みを浮かべた。

「『魔性の女』の悪魔の面、見せてあげようじゃなぁい?」


第四話 完
メンテ

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