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[2184] Atonement 改訂版
   
日時: 2014/02/16 12:08
名前: Tαkα◆DGsIZpFkr2 ID:WoH5GcTY

以前同じタイトルで書いていたのですが、トリップの文字列消失&パスワード紛失、更には内容があまりにもスッカスカなので、新たに書き直すことにしました。大変申し訳ありません。
更新速度はツボツボの素早さ並にスロウですが、何卒宜しくお願い致します。


さてさて、まず注意事項です。

・ストーリーは完全オリジナル。
・第五世代(BWのポケモン)は多分出ません。
・属性の相関や技の効果などはゲーム通りではありませんのでご理解願います。ゲームでの数値的なものは一切出てきません。
・擬人化要素有りです。というか、殆ど擬人化です。かなり好みの分かれるところだと思うので、一応。
・当然ですが、荒らしや誹謗中傷は無しで。短レスやチャット化もいけません。
・宣伝に関しては、言及しません。したい方はどうぞ。

ポケモンに関してはド素人です。興味はあるけど、対戦何それ美味しいの状態。
戦術とかゼロから色々覚えるだけの気力と時間がありません……。


アドバイスやコメントについてですが、辛口大歓迎です。悪い箇所をどんどん指摘してくださると、励みになります。あまりにも文章力と表現力が稚拙で、語彙も少ないので。
我こそは、という方がいらっしゃいましたら、ビシバシとこの斜め下にいっちゃってる俺及びこの文章を指摘してください。
=================================
目次

一章 道なき道を求めて
>>1  第1話 白昼
>>2  第2話 孤児院
>>3  第3話 少女剣士
>>5  第4話 三流トレジャーハンター
>>6  第5話 小さな決意
>>7  第6話 プレリュード

二章 地神の騒乱
>>8  第7話 王都入り
>>9  第8話 襲撃
>>10 第9話 見えぬ未来
>>11 第10話 隠し事
>>13 第11話 没落貴族
>>15 第12話 地神の神殿
>>16 第13話 炎の狂戦士
>>18 第14話 大地の思念
>>19 第15話 神の眷族

三章 三聖獣
>>20 第16話 青年が求めるものは
>>21 第17話 港町カムイラ
>>22 第18話 古の宝物庫
>>23 第19話 番兵
>>24 第20話 オウランへの船旅
>>25 第21話 英雄の言葉
>>27 第22話 古き聖獣の国
>>28 第23話 束の間の観光
>>29 第24話 焦りと迷いと探究心
>>30 第25話 暗躍
>>31 第26話 聖獣達の願い
>>32 第27話 辿り着く先にあるものは
>>33 第28話 雷神が眠る平原
>>35 第29話 二人が望むもの
>>36 第30話 狂気の雷獣
>>
>>


登場人物設定
【主人公】
>>14 ハーヴィ&澪紗 

【メルクリア王国】
>>17 シデン&琥珀
>>34 エルフィーナ&ジャンヌ


【他勢力】
>>26 シノ&フューリ



裏設定とか色々
ブログ
メンテ

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Re: Atonement 改訂版 ( No.32 )
   
日時: 2012/09/17 19:08
名前: Tαkα◆DGsIZpFkr2 ID:ZBisAB4Y

第27話 辿り着く先にあるものは

 一夜を過ごしたのち、一行はセンリナ平原を目指して歩いていた。
 人通りの多い街道のためか、この辺りはオウランでも比較的治安が良いようだ。とはいえ、何度かスリと思われる者に遭遇したため、ハーヴィはその者達を体術で撃退している。
 そして、ちょうど今、エルフィーナに近づき手を伸ばしてきた男が、ハーヴィによって道端へと蹴り飛ばされた。あまり強く蹴った覚えはないのだが、男は頭から茂みへと突っ込んでいった。
「本当に手癖の悪い奴ばかりだな、この国は。それと、もう少し周りを警戒してくれエルフィーナさん。そのザマじゃあ、冒険者なんてやってられないぞ」
「すみません……」
 途中の茶店で買った鯛焼きを食べながら、頭から茂みに突っ込み、足を出してピクピクと痙攣しているスリを見て愚痴をこぼした。港についた頃よりはからまれなくなったものの、大陸と比べると、どうも警備が行き届いていないようである。
 彼の少し後ろで、あまりにも大胆な行動を見ていた澪紗は、やれやれと嘆息をもらした。
「ふむ。ハーヴィ殿は、体術も身につけているのか。今まで多くの敵と相見えてきたが、見たことの無い型だ。彼は何処であのような体術を身につけたのだ?」
 裏拳と蹴撃により撃退したハーヴィを見て、ジャンヌは興味深そうに澪紗に尋ねた。エルフィーナの供でもあり、武人でもある彼女にとっては、彼の戦い方は興味深いのだろう。
「彼は街にいた頃……かなり昔から、ゴロツキ達と喧嘩をしていただけよ」
 半ば呆れたように答える澪紗。乱暴者として有名だった彼の少年時代を思い出し、肩を竦める。
「なるほど、つまり我流ということか。しかし、喧嘩とはいえ、当時の経験が今に生かされているのではないか? 莫迦に出来たものではないな」
「それもそうね。私は白兵戦があまり得意ではないけれど、そのような経験があるのと無いのでは、いざ戦いになった時に違いが出てくるのも解るわ」
 だからこそ、多くの戦士達は日々の鍛錬を欠かさないのである。旅先で戦闘が避けられない冒険者にも言えることだろう。
 ハーヴィの場合は旅に出ることを想定していなかったとはいえ、街で喧嘩に明け暮れていたことが、こうやって今も戦えることに貢献しているのだ。娯楽の一つでしかなかったのだが、結果的には役に立っていた。
「でも、いつもボロボロになった彼を手当てしていたのは私なのよ。無茶しないでほしいわ」
「ふふっ……。何だかんだ言って、彼のことを想っているのだな」
「ええ。私も偉そうなことは言えないけど……」
「私もだ」
 お互いに苦笑する少女達。共に過ごしてきた者との絆が深まるのは、当然のことと言えよう。
 何気ない会話が一段落したところで、前を歩く二人には聞こえないように話を切り換える。それは、《神の眷族》に関することだ。まだ年端もいかぬ少女にしか見えない二人だが、その小柄な身体には、鉛よりも重いものが圧し掛かっていた。
「……すまないな」
 一部とはいえ、既に自分のことを知られている澪紗は気にすることはなかったのだが、ジャンヌはそういうわけにはいかなかった。
「ええ。気にしないで」
 澪紗は頷いて、声のボリュームを落とした。元々あまり声が大きい方ではないため、ここまでの小声で話せば、少し離れて前を歩いているエルフィーナに聞かれることはないだろう。
 自分が普通のポケモン達とは異なる存在――《神の眷族》であることを知られれば、彼女を戦禍に巻き込んでしまうだろう。城で暮らしているだけならともかく、このように外界に触れるようになっていれば尚更である。
「隠したところで、何れは知られてしまうかもしれない。その時は……」
 だが、まだその時ではない――それに、可能ならばいつまでも、自分の正体を隠し、《神の眷族》という運命から逃れるつもりでいる。そうすれば、エルフィーナを巻き込むようなことはないだろう。
 既に戦いに巻き込ませていると言われれば、反論は出来ない。この旅でも、幾度も危険な目に遭っている。特に、スイクンの洞窟での出来事は、彼女にとっては未だ信じ難いことだろう。しかし、もし自分のこととなれば、彼女は身を張ってくるに違いがない。それだけは、どうしても避けたかった。
 眷族同士の戦いは、それほど甘くないものであるから――
「他の眷族が許してくれればいいんだけど、甘くないわね」
《神の眷族》は強い力を持つため、牽制し合う関係にあるのだが――やはり、中にはより強い力を求めようと、戦いを挑んでくる者もいるのだ。もしそうなれば、戦うか朽ちるか、選択肢は二つしかない。事実、《タルタロス》に与している眷族が暗躍している。そのため、もし彼らと対峙することになれば、激しい戦いは避けられないだろう。
 それに、眷族でなくとも、力を手に入れるために挑んでくる者も少なからずいる。こちらの場合は、そのまま返り討ちにするのは容易いのだが――
「売られた喧嘩は、買うしかない……か」
「ええ。それが私達の運命ね」
 そう言って、澪紗は一人考え始めた。
 運命――そのような言葉で片付けていいのだろうか?
 もし、自分に戦いを挑んできた相手が、自分の大切な人だったらどうするのか――
(姉さん……。どうしてなの?)
《神の眷族》の二人が後方で会話をしているのを余所に、ハーヴィとエルフィーナの二人も、彼らの間で別の会話をしていた。
「しかし、意外だな。連れ戻すように言われて来たが、あっさりと承諾してくれるとは思わなかったぜ?」
 しっかりと口の中のものを飲みこんでから話し始めるハーヴィ。
 隣を歩いている淡い桃色のサーコートを着た金髪の少女エルフィーナに視線を向ける。彼女は一瞬どこか寂しそうな顔をしたが――
「お父様には、逆らえませんから。依頼書を見させていただきましたが、確かにあれはお父様の字でした。今まで私を連れ戻したのは、騎士団長やメイド長だったのですが、お父様が直接依頼されたのなら、逆らうことは出来ません」
「慕っているんだな、親父さんを」
 何だかんだ言って、やはり親には反抗しきれないのだろう。よく、十代半ばの少年少女は非行に走ることが多いが、結局は親の顔を思い出して、完全に悪に染まることが出来ない。それと同じことなのだろう。
 ハーヴィは依頼書に添えられていた手紙を少し見てしまったのだが、そこにはエルフィーナの父親マルスが、如何に心配していたかが書かれていた。子供のことを心配しない親は、いないものなのだろう。
「はい。でも、ちょっと悔しいというか、重いというか」
 その気持ちは解る――そう言いそうになったが、ハーヴィは何とか言葉を飲み込んだ。
 エルフィーナの場合は、親に逆らいたいという気持ちではないのだ。彼女の父親は、邪神大戦で活躍した英雄でもあり、そのような父を持っているからこそ、周りから期待されていたのだろう。また、親が偉大であればあるほど、そのような偉大な人物になるように、周囲からは厳しく教育される。それが、彼女にとって、大きな重荷となっていたに違いない。
「そっか」
 ただ、頷くことしかできなかった。
 箱入りのお嬢様だとは思っていたが、彼女も彼女で大きな苦労をしていたのだ。
 それに比べ、自分はどうだろうか? ただ自由気ままに旅を続けている身であり、不満に思うようなことはほとんどない。そのような自分が励ましたところで、エルフィーナにとっては何の気休めにもならないに決まっている。
 しかし――
「でもよ、エルフィーナさんは旅をしたいんだろ?」
 気が付いたら、尋ねていた。
「…………」
 無言。しかし、それは肯定を意味しているのを、ハーヴィは解っていた。
「各地の遺跡のお宝を探す……ガキの夢みたいにバカみたいだが、俺はそういうのは好きだな。ずっと城の中で暮らしているより、健康的で良いと思うぜ?」
 自分も同じようなものだ。日頃の生活を退屈に思って、旅を始める――自分でもバカだと思っているが、それが悪いことだとは微塵も思っていない。それが、結果的に澪紗の力になるという、曖昧ではあるが大きな動機及び目的に繋がったからだ。
「旅をしたいって気持ちは、親父さんに話つけたのか?」
「いいえ。でも、話したところでお父様が認めてくださるかどうか……」
 どうせ、許してくれやしない。何故なら、自分は武家の一人娘であり、いずれは政治や軍事に関わっていかなければならない身だから。
 そう言おうとしたところで、ハーヴィが口を開く。
「旅をしたいって気持ちはマジなんだろ?」
「はい」
 即答するエルフィーナ。旅をしたいという理由にどんなものがあるのかは知らないが、決意は固いようである。
「この旅では、今まで見たことの無いものが沢山ありました。《水獣神スイクン》の洞窟での出来事は今でも信じ難いことですが、そのようなものを求めていくのもいいかなと」
 普通、城の中で何一つ危険にさらされずに生きてきた身なら、目の前に神の一柱が現れるということ自体が信じられず、恐れを抱いているだろう。それ以前に、その辺りのならず者にからまれただけでも、震え上がってしまうに違いない。
「それに、私はもっと外の世界のことを知りたいので。世界が何者かによって脅かされている今、のうのうと城の中で暮らすというのは耐えられません」
 しかし、彼女は違った。敵に遭遇しても恐れずに立ち向かい、危険だと解っている場所にも恐れずに向かっていく。それは、外界を知りたいという強い意志からきているのだろうか。
「一度、親父さんに話してみろよ。やる前から決めつけないでさ」
 歩いているうちに、人通りが見られなくなっていた。
 だいぶ街から離れ、今はほとんど使われていない街道へと入ったためだ。サクラキ街道からはいくつかの細かい道に分かれているが、そこに出ると今までの風景が嘘のように、整備のされていない道に出てしまうのだ。
 というのも、新しい街道が出てきてから、そのような獣道とも言える場所を通る者はほとんどいないわけで。かつては人通りは多かったのかもしれないが、今は見る影もない。
 場所によっては、いつ崩れてもおかしくないような崖や、いつ落ちてもおかしくないようなつり橋もある。そのような場所に冷や汗をかきながらも、一行は旧街道を進んでいった。
 少々骨の折れる旅路ではあるが、あたりの風景を見たり、仲間同士で会話をしたりしていれば、そのようなことは気にならなかった。

 *

 夕暮れに染まる小さな町――
 丁度、家庭を仕切る者達が、夕食の準備に取り掛かる頃。彼女達は、そこの小さな酒場で、ひっそりと暇を持て余していた。
 街道の途中にある名も無い町で、小さな店が点在する程度の規模だ。人通りもほとんどなく、住んでいる者も少ないだろう。せいぜい、旅人が中間地点として休息を取る程度のもので、大して重要な拠点と言える程のものでもない。
 だからこそ、彼女達にとっては都合が良いのだ。尤も、既に「仕事」は終わっており、特にやることもないため、このように暇を持て余しているだけなのだが。
 一人は悪魔のような角と尻尾を持つ者――亜人種のヘルガー、ナール。褐色の肌に大きな胸が、非常に煽情的な女性だ。もし夜遅い時間帯に町を歩いていたら、多くの男達は娼婦と見間違えてしまうだろう。
 スイクンの洞窟から出た後、相棒のスレインと共に町まで戻ってきたところだ。しかし、今この場にいるのはスレインではなく、別の者だった。
「どうした? さっきからジッとしてるが、腹でも壊したか?」
「いいえ。ただ、妙な気配を感じたので」
 ナールがからかうように声をかけた相手は特に気を悪くした様子も無く、淡々とした口調で答えた。
 美しい女性だ。背丈は百六十センチ台半ばといったところか。全体的に華奢な身体つきで、色白で優しげな顔付きをしている。こちらはナールとは対照的で、煽情的なイメージはない。色気がないというわけではないのだが、それを表に誇示しておらず、どちらかというとはんなりとして、清楚な印象がある。
 緩いウェーブのかかった青い長髪に、サファイアのような澄んだ双眸。耳元からは、鰭のようなものが突き出している。丈が長く、涼しげな水色のドレスの裾からは、魚の尾鰭のようなものが伸びている。亜人種のシャワーズだ。
「《神の眷族》ですね。私達以外にも、神々の遺跡を探っている者がいるようです」
「ああ、悪いな。そのことなんだが」
 手元にあるグラスに焼酎を注ぎながら、ナールは気まずそうに口を開く。
 少し前に対峙した相手のことを思い出す。かつて、眷族として目覚めてから袂を分かつことになった者だ。
 思わぬ形で再会し、自分達の目的のために戦うこととなったが、途中で邪魔が入ったために撤退せざるを得なくなったのだ。尤も、あまり戦いたくない相手でもあったのだが――
「うふふっ……。解っていますよ、ナール。貴女が《正義》と戦っている間に、《女教皇》が割り込んできたことは」
 シャワーズの女は、優しげな微笑みを浮かべて言った。その言葉に、ナールは噎せそうになったが、なんとか口に含んだ焼酎を流し込んだ。
「ふふん、お見通しってわけだな。恐れ入るよ。それで、仕事をミスった使えない私を制裁でもするのか? それなら、受けて立つぞ」
 軽く溜め息をつき、肩をすくめる。
 ナールの言葉は半分冗談であったが、半分は本気だ。しかし、彼女は黙って制裁などされる気はなかった。
「とんでもない。貴女にはまだまだ、やっていただくことが沢山ありますから」
 はんなりとした雰囲気を漂わせながら、シャワーズはにこりと微笑んだ。
「さて、私はあの子にお灸をすえなければなりません。貴女は、大陸に戻るんですよね」
「ああ。相棒が目を付けた勢力があるみたいだからな」
「なるほど。メルクリアとフルーレ連合で暗躍しているというあの……」
「ふふん、お見通しか。流石だな、《節制》」
 ナールは懐から葉巻を取り出し、指先から火を出して先端に灯した。炎を操るヘルガーである彼女にとって、この程度の芸当は容易いことである。
「では、御機嫌よう。また会いましょう」
「ん……」
 席を立ちあがって店を出ていくシャワーズを、ナールは葉巻をくわえたまま、軽く手をふって見送った。
 暫く香りを楽しんだ後、彼女は含んだ煙を一気に吐き出した。
「ふー。お前は何考えてるのか解らないよ、澪羅(れいら)」
====================================
貴重な褐色肌枠。
それにしても、男勝りな感じの女性キャラが多い。
メンテ
Re: Atonement 改訂版 ( No.33 )
   
日時: 2012/09/24 17:52
名前: Tαkα◆DGsIZpFkr2 ID:CW2RfHrQ

第28話 雷神が眠る平原

 草原一帯に降り頻る雷雨。迸る煌めきが雨を照らし、白銀色に染める。
 天から降り注ぐ白銀の水滴は、まるで滝のように大地を絶え間なく打ち付けている。
 元々、センリナ大平原は年間の降水量がオウラン連邦の中でもかなり多い。
 そのためか、かつては巡礼者や観光者のために整備されていた遊歩道も長きにわたって雨に曝されてきたためか劣化しており、今は見る影もなく朽ち果てている。
 今や、《雷獣神ライコウ》が祀られていたという地も、ただ草木だけが生い茂るだけの殺風景な場所と成り果てていた。それはどの場所にも云えることだが、人々の信仰心が薄れ始めてから、神々の祀られている地というものは、忘れ去られていく運命にあるようだ。
 それでも、完全に朽ち果ててしまわないのは、少数ながらも神々という存在を信仰している、あるいは存在がいることを知っている者がいるためだろうか。
 ――くだらない。
 ただ、彼女――澪羅(れいら)はそう思った。
「神々なんて、くだらない存在……」
 降り頻る雨に濡れた瑠璃色の髪を掻き上げ、澪羅は嘆息を漏らした。身体が雨に濡れていることも相俟ってか、その仕草は何処か煽情的だ。しかし、それでいて淫らさはなく、
 神々――実に単純で抽象的な言葉だ。だからこそ、その概念は難しく、特に信仰心の無い者にとっては「何かは知らないが、大きな存在」、「いるかどうか解らない」などといった答えが返ってくるだろうし、信仰が強い者に尋ねれば「我々の心の中にいる」、「信じることによって存在する」などの答えが返ってくるだろう。中には、「畏れ多いから無闇に神と口にするな」と激怒する者もいるに違いない。
 どちらにしろ、神々がどのような存在であるのかを誰もが解るように説明することのできる者など、この世の中にはいやしない。単純で抽象的なものほど、言葉という手段で説明するのは難しいのである。
 忌々しげに思うも、それを顔には出さずに、澪羅は振り返る。
 そこには、彼女と同じくらいであろう年齢と思しき女性が立っていた。
 緩やかに内側へとウェーブのかかった銀髪に、獣を思わせるかのような鋭利な赤い瞳。美しい女性だが、美しさの中に優しさを孕む澪羅とは異なり、この女性は鋭さを持っている。美しさのベクトルが、彼女とは異なる方向へと向いているのだ。
 雨の降る草原に立つ二人の女性――高名な画家が描いた名画のひとつとしてあってもおかしくないような、何処か幻想的な光景がそこにはあった。
「ああ、本当にくだらねーぜ」
 女性らしくない口調で、銀髪の女は応えた。
 遠目では解らないが、彼女は傷だらけであった。身を包む虎柄のローブと紫色のマントはズタズタに引き裂かれ、ところどころから白い肌が露出し、僅かながらも出血している。彼女はガクリと膝をついていた。
 多くの者は、その惨さに、思わず目を背けてしまうかもしれない。しかし、それを以てしても、彼女の内には「神々しさ」というものが、輝きを帯びている。
 何故ならば――
「で、てめーはそのくだらん存在であるオレを捉え、何したい? オレ達に匹敵するような強大な力を持つ《神の眷族》たるてめーが、これ以上のものを望むとは思ねーな」
《雷獣神ライコウ》――それが、彼女だ。
 傷だらけになりながらも、彼女の覇気は失われていなかった。
「黙りなさい」
 澪羅は淡々と応え、水の弾丸をライコウに至近距離で直撃させた。水の弾丸を受けた雷神は、数メートル程吹き飛ばされ、聳え立つ石碑に叩きつけられた。そして、そのままズルズルと崩れ落ち、地面に倒れ伏した。
(ぐっ、これ程の力を放てるなんてな。流石は眷族といったところか……)
 流石に至近距離で受けたのは堪えたのか、苦痛に顔を歪め、よろめきながら、《雷獣神ライコウ》は立ち上がった。
 しかし、対峙する女――澪羅へと向けられているのは、憤怒でも憎悪でもなかった。
 ただ、何処か哀れむような悲しげな視線を、向けている。
「てめーらが何を望んでいるかは知らねーが、莫迦な真似はやめとけ。自分の身が惜しいのならば、この世界のシステムを壊そうなどと思わねーことだ」
「強がっていられるのも今のうちです。アレに抵抗するのもやっとでしょう?」
 そう言うと、澪羅は《雷獣神ライコウ》に背を向けて、歩き始めた。
 もう、この場所に用はない。既に、アレは《雷獣神ライコウ》に埋め込んであるから。まずは、見せしめだ。くだらないシステムを壊すための一手に過ぎないが、他の神々を動かすためにも、欠かせない一手だ。それに――
(もし、あの子がまた何かをしようとしても、恐怖を植え付けることが出来る……)
 決して、あの子が憎いわけではない。
 愛している。
 たった一人の、大切な肉親である。
 だからこそ、巻き込ませたくない。そのためならば、どのような手を使おうとも構わなかった。
「《神の眷族》……、そんなのに選定されなければ良かったのに」
 決められたシナリオなんて認めたくない。だから、あえて手を染めた。
 この世界では邪教とされている、《タルタロス》に――

 シャワーズの女が立ち去った後、雷を司る神は、草原の真ん中に聳える石碑に寄り掛かり、未だ勢いの収まる気配の無い雨に打たれていた。
 どうやら、かなりの力を消耗しているらしい。降り頻る雨が、自分の体力を鑢のように削り取っていくかのような感覚。全身の傷が疼き、それが何とか自分の意識を繋ぎ止めている。
「……奴らは無事か。波動は良好、特に危機に瀕している様子はねーな」
 満身創痍ではあったが、彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
 しかし、二人を救うためだったとはいえ、多少浅はかだったかもしれない。
「ぐっ……、流石にもう……耐えられねー……」
 全身に襲いかかる、どす黒い衝動。
「《タルタロス》の連中め、ふざけやがって。オレを斃したところで、システムは止められねーっつーのに……」
 どす黒い衝動が何なのか、彼女は解っていた。
 止めることもできたが、あいつらを守るためには、受け入れるしかなかった。
「だが、これも奴のシナリオに過ぎねーんだろうな。まあいい、それならば……」



 道が途切れ、その先には広大な大草原が広がっていた。
 新緑の絨毯が敷き詰められたかのようなその場所は、そのまま身を投げ出せば、さぞ気持ちよく寝られることであろう。しかし、残念なことに草原に着く少し前辺りから、雨が降り始め、今は土砂降りとなっている。
 水に濡れて肌に張り付く服の感触を忌わしく思いながらも、一行はセンリナ平原へと足を踏み入れ、今回の目的地である《雷獣神ライコウ》が祀られていると云う石碑を目指していた。
「凄い降りだな。みんな大丈夫か?」
 フードを被っても、雨が斜め上から打ち付けるため、腕で額の辺りを覆いながら、ハーヴィは後続の者達に確認を取った。彼の問いに少女達は無言であったが、特に問題はないようである。
 口数が減ったのは、雨のためではない。
 全身に襲いかかる重圧。それが、ハーヴィ達に会話をさせる気力を奪っていた。
《地神グラードン》や《水獣神スイクン》の時もそうだったが、神々の祀られていた地に足を踏み入れると、同じような感覚に見舞われていた。尤も、《地神グラードン》の時ほどの重圧はないものの、気を抜くほどの余裕はなかった。
「あれか……」
 視線の先には、何やら無造作に積まれた石があった。
 不規則に造られており、それは一種の抽象的な芸術作品のようにも思える。自然の一部と言えばそれまでかもしれないが、明らかに周りに広がる草原と比べると、この場所だけが「浮いている」のだ。
 そう。此処が、ハーヴィ達の目的地であった。
 しかし――
「何かを感じるけど、遠い? いいえ、この場所で間違いないわ」
 澪紗は何処かもどかしそうに呟いた。
 ポケモンは五感は勿論のこと、所謂第六感というものも人間よりも遙かに優れている。例えば、人間の間では未だ謎とされている「波動」といった力も、そのひとつである。しかし、それを以てしても、《雷獣神ライコウ》の存在を確認することは出来なかった。
「そっちは神々に関する情報を手に入れていないのか?」
 雨に打たれる石碑に手を置きながら、ハーヴィはクロカと心に声をかけた。
 彼女達とは別行動だったのだが、どうやら最終的な目的は一致していたようだ。道中で合流してから、今に至っている。どうやら、彼女達は山岳地帯にあった《タルタロス》の基地に攻め入った時に、《炎獣神エンテイ》に遭遇したらしい。
「……ごめんなさい。場所しか聞いていない」
「うん。元々、私達は《タルタロス》の調査とお嬢様の保護だけが目的だったから」
 申し訳なさそうに俯くクロカと心。
「別に気にすることなんてねえよ。こっちもついでに来たわけだからな。だが、問題はだ」
 そう。如何に神々と呼ばれている者達の頼みとはいえ、結局は私用に過ぎない。ハーヴィ達がオウラン連邦を訪れた真の目的は、エルフィーナとジャンヌの捜索である。既にそれは完了しているため、あとは王都まで送り届けるだけなのだ。
 既に身柄を保護しているため、無駄なことは避けるのが普通だ。だが、こうして今、二人を私用に付き合わせてしまっている。二人の身に危険が迫った場合、下手をすれば命を落とすようなこともあり得るのだ。もし、そのようなことがあれば、国家に関わる問題となるのは間違いない。
 そして、クロカと心のことも気掛かりだ。戦闘に関しては問題ないが、神々という未知の存在に挑めるかと言えば、そうとは限らない。
「なあ、お前らさ」
「お付き合いしますよ、ハーヴィさん」
 此処で待っていろ、と言おうとしたところで、それはエルフィーナの言葉によって遮られた。
「あのな、俺は」
「心配するな、ハーヴィ殿。エルフィーナ様は私がお守りする」
「…………」
 どうやら、最後まで付いてくる気らしい。実際、エルフィーナとジャンヌの戦闘力は高いし、ハーヴィはもし手合わせした場合には、勝つのは難しいと思っている。敵と遭遇したことを考えても、その点問題は無いだろう。
「で、クロカと心はどうなんだ? 付いてくるのは間違いないだろうけど」
 ハーヴィの問いに、二人は無言で頷いた。
 彼女達は彼女達で、何かしら調べることがあるのだろう。今まで何気なく接してきたが、やはり仕事――どのような物なのか、詳細は不明だが――で来ていることを、改めて認識させられた。それと同時に、ハーヴィは《暗黒の瞳(ドゥンケル・アウゲ)》という存在に、恐怖にも似た感情を覚えた。
「まあ、仕方ねえわな。俺がみんなを守ればいい――」
「くれぐれも」
 ハーヴィが言い切ろうとしたところで、澪紗が彼の言葉を遮る。
「勝手な行動や無茶な戦い方はしないこと。いいわね」
「解ってるよ。それじゃあ、とっとと調べようぜ。お、コレって確か……」
 ハーヴィの触れている石碑には、アンノーンという種族のポケモンによって記された、『古代文字』が刻まれていた。現在使われている言語の元となったものとされているが、これを解読できる者は少ない。
「んーと、雷雲を司る聖獣、此処に祀る……あとは掠れてるか」
「ハーヴィ? あなた、古代文字読めたの?」
 少し驚いたように、澪紗が彼の元に歩み寄ってきた。彼女はハーヴィが読んだであろう石碑の古代文字を目で追い始める。
「ええ、その通りね。あなたのことだから、適当なことを言っていると思ったんだけど」
「俺を何だと思ってんだよ。基礎的なところだけ勉強したんだぞ。船に乗ってる時、ちょっとだけな」
「そう言えば、何か本を読んでたわね。そのまま突っ伏していたけど」
 本来、古代文字を覚えるには、相当な勉強をしなければ覚えられない。時代によって解釈の仕方も異なるうえ、ひとつの文字にいくつもの意味があるものも珍しくないため、一日二日で覚え切れるようなものではないのだ。
 短期間で覚えることが出来たのは、彼が非常に要領のいい人間であるためだろう。
「文字の基礎的な読みと、簡単な文法や単語くらいしか解らないけどな」
 そう言って、ハーヴィは雨に濡れた前髪を掻き上げる。
「とにかく、早いとこその《雷獣神ライコウ》ってのを見つけないとな。このままじゃ、妙なプレッシャーに押し潰されちまう」
 身体に異変はないが、精神を削られていくかのような感覚がある。痛みは無いが不快感は強く、あまり長時間この場所には居たくないというのが本音である。だが、何か――特に澪紗に関すること――が解るかもしれないのだから、そうも言ってられない。
 と、その時。
「ふぎゅっ!」
 その場の緊張した雰囲気をぶち破るかのような、間抜けな声。その声の主に、視線が一斉に集中した。
 石碑の周りをふらふらと歩きながら、ことの成り行きを見ていた――はずであろうエルフィーナだ。転んだらしく、思い切り顔面から地面に突っ伏している。その時に老朽化した石碑に触れていたらしく、豪快に崩していた。もし、考古学者や神学者がこの場面を見たら、激怒するどころか失神してしまうかもしれない。
「エルフィーナ様……」
「……神の石碑が」
「派手にやったね」
「これは」
「お嬢さん、やったな」
 物凄く気まずい雰囲気だろう。
「あ、あの、すみません」
 起き上がって泥を払い、エルフィーナはぺこぺこと頭を下げた。次に、彼女の視線に移ったのは、自分が崩してしまった石碑であって――
「あああああ! 私ですよね、これ……!」
 自分がとんでもないことをやらかしてしまったことに気付き、エルフィーナは慌て始める。
 一部とはいえ、見事に石碑が崩落してしまったのだ。彼女の転倒によって。
「その……どうしましょう?」
「どうする? そりゃ行くに決まってるだろ、なあみんな。お嬢さんも決めてただろ?」
 ハーヴィはニッと笑い、周りの者達に尋ねる。彼女達も何処か可笑しそうに、頷いた。
「ナイスだぜ、エルフィーナさん」
 ハーヴィ達の様子を見て、ようやくエルフィーナは状況を理解した。
 ボロボロに崩れた石碑。その下には、人が一人通ることが出来るであろう縦穴が、ぽっかりと口を開けていた。
 手詰まりの状況から、道が開けたのだ。偶然とはいえ、それも転倒という事故であったとはいえ、エルフィーナの手によって。
 しかし、この時の一行には解らなかった。穴の奥で眠る電光の牙の恐怖を。

 *

 その場所を言葉で説明するのは、難しい。
 抽象的な言葉ではあるが、『亜空間』や『異界』――そのような言葉が相応しいことは、その場所を見れば誰もが頷くに違いない。
 尤も、誰もがその場所を容易に見ることが出来ればの話ではあるが。
 テーブルほどの大きさの土台に嵌められている水晶球。それを見ながら、赤き地神は笑みを漏らした。
「なかなか面白い状況になってきてるじゃないか。そう思わないかい、カイオーガ」
「やれやれ、《雷獣神ライコウ》が堕ち、自体は深刻になりつつあるというのに、呑気なものだな、君は」
 向かいに立っている青き海神は、肩を竦めて、嘆息を漏らす。
「だが、神の一柱が《タルタロス》の手に堕ちたというのに、未だ誓約は外されない。動こうと思っても動けないのが現状だがな。やれやれ」
「溜息ばかりついて、湿っぽいったらありゃしないね、アンタは」
「憂えているのだよ、現状を。私としては、このような状況で呑気でいられる君の方が信じられないよ」
「こういう状況だからさ。陸を見ていると、人間やポケモン達の生き様ってのを楽しめるからね。アンタも、海を守っている身なら解るんじゃないか? 今のギルドの長は、随分と信仰熱心だと聞くけど」
「さあな……。私はただ、大いなる意志に従っているだけだ」
「ふん、まあいいさ。動けない間は、眷族やそれに関わる奴らの動きを見守ろうじゃないか」
メンテ
Re: Atonement 改訂版 ( No.34 )
   
日時: 2012/10/01 23:37
名前: Tαkα◆DGsIZpFkr2 ID:otFvTe8.

キャラ設定 エルフィーナ&ジャンヌ その1

「はい。でも、ちょっと悔しいというか、重いというか」

エルフィーナ・ヴェルセリエス
性別:女性 年齢:18歳
身長:167cm 体重:51kg
使用武器:レイピア
好き:冒険
嫌い:束縛、貴族社会

王族の傍系で武家の名門であるヴェルセリエス家の令嬢。次期当主として期待されているのだが、堅苦しい貴族社会にウンザリしており、冒険者として生きていくことを望んでいる。度々城を抜け出しては連れ戻されているが、それでもめげずに抜け出しを繰り返している。今回は国外に抜け出すという所業をやってのけている。このように行動力はあるのだが注意力散漫で、たまにとんでもないドジをやらかす。
家の習わしで剣術を学んでいるため、意外に優れた剣技を身につけている。しかし、技術に長けている分実戦経験が少なく、苦戦することも少なくない。それでも、この年齢の少女としては充分すぎる身体能力があるのは間違いないと言えよう。
英雄と謳われている父親を持つが、それはエルフィーナにとって大きなプレッシャーとなっている。しかし、親子仲は悪いわけではなく、父親のことは尊敬しているようだ。



「隠したところで、何れは知られてしまうかもしれない。その時は……」

ジャンヌ
種族:ロズレイド
性別:女性 外見年齢:17歳
身長:155cm 体重:39kg
使用武器:フラムベルク
好き:修行、スイーツ
嫌い:軟弱者、エルフィーナに仇なす者

エルフィーナの従者として彼女に付き添っている少女。小柄で童顔だが、それ以上に凛とした雰囲気を纏っており、まさに女騎士と言える。生真面目で融通が利かないのだが、エルフィーナのためならば自分の手を汚すことも厭わない。また、《タルタロス》に対してはあまり良い感情を抱いていない。
非常に強い植物の魔力を秘めているが、武器の扱いにも長けている。エルフィーナの鍛錬では、師として彼女を指導している。ハーヴィの我流の剣術とは違い、きちんとした流派にのっとったものであるため、隙がほとんど無い。
そんな女騎士の典型とも言えるジャンヌだが、実は自他共に認めるスイーツ好き。そのため、性格は正反対とはいえ、ハーヴィとは意外に気が合うようだ。
メンテ
Re: Atonement 改訂版 ( No.35 )
   
日時: 2013/01/13 10:09
名前: Tαkα◆DGsIZpFkr2 ID:Zp1m0Dk6

第29話 二人が望むもの

 道が開き、内部を探索できるようになったまではよかった。
 雷雲を司る神――《雷獣神ライコウ》を求め、センリナ平原を訪れた。他の三聖獣から頼まれていた依頼を遂行するのが目的だ。
 しかし、一行を大きなアクシデントが襲った。
「ったく、ボロくなってんだから改修工事くらいしたらどうだ?」
 打ち付けた腰を擦りながら、ハーヴィは忌々しげに壁を蹴飛ばした。相当老朽化が進んでいるのか、軽く蹴っただけだというのに、彼に蹴られた壁は容易に穴があいてしまった。
「もう少し慎重に進むべきだったわね」
 澪紗は事前に受け身を取ったため、少し服が汚れた程度で済んだようだ。
 テラ神殿であったように、床が抜けたのである。その結果、先頭を進んでいたハーヴィと澪紗が落下し、パーティが分断されてしまったのだ。
「さて、どうすんだ? 見事に落ちたわけだが、俺は此処を墓にする気はないぜ?」
「構造を見る限り、何処かに戻れる場所があるはずよ」
 未知の場所で、戦力が分断するという事態はあまり好ましいとは言えない。
 クロカをはじめ、彼女達の強さは目を見張るものがある。しかし、環境が異なれば、その力をフルに発揮することは難しくなる。未知の土地での戦争で一騎当千の騎士があっさりと討たれてしまうことがあるように、下手をすれば、実力の半分どころか三割を出せないということもある。
 それでも、不慮の事故とはいえ、二人は冷静だった。
 信頼しているのだ。彼女達を。
 特に戦闘に影響するような怪我は無い。それを確認すると、落ちたフロアの探索を始めた。
「……ところで、さっきの一撃の力はどんなもんだった?」
 耐えられないほどではないが、左腕が痺れるように痛む。ハーヴィの服の袖が破け、皮製のガントレットも見事に使い物にならなくなっており、そこから肌が露出していた。その肌の部分は、何かに焼かれたかのように、赤々と爛れている。
 それでも、特に強がる様子も無く、淡々と澪紗に尋ねる。
 日頃から彼女から無茶をするなと言われているが、咄嗟に庇っていたらしい。
「力は私の十倍はあるわ。直撃を受ければ、板金鎧(プレートメイル)くらいなら軽く貫けるんじゃないかしら?」
「それなら、如何にボロ屋とはいえ、床をぶち抜かれるのも無理ないか」
 単に、床が老朽化によって抜けたわけではなかった。
 突然、天井から青白い電撃が降り注ぎ、地面を穿ったのだ。
 それはまさに、電光石火の速度であったため、避け切れる筈も無く、先頭を歩いていたハーヴィと澪紗は、そのまま落下してしまったのだ。ハーヴィは、その電撃の余波から澪紗を庇おうとして、腕を負傷してしまったのだ。
「……あなたの腕は鎧よりも頑丈なのね。たいしたものだわ」
 呆れたように、澪紗はハーヴィの負傷した腕を掴んだ。隠していたが、お見通しだった。
「いっ――!?」
「言っておくけど、次庇ったら怒るわよ……莫迦」
 澪紗はそう言うと、麻のバックパックから包帯を取り出した。然程深い傷ではないが、化膿を防ぐことと、戦闘の際に衝撃を防ぐために、それをハーヴィの腕に慣れた手つきで巻いていった。
 ハーヴィは周りに心配をかけたくないと思って隠していたのだが、無駄だったようだ。
「いつも悪いな、澪紗」
 申し訳なさそうに、ハーヴィは俯いた。澪紗に手当てをして貰うことは、今に始まったことではない。五年前に彼女と出会ってからも、ハーヴィは毎日のように怪我をしていた。ある時はよろず屋の仕事で無茶をしたり、ある時は街の酒場やカジノで喧嘩をしたりと、生傷が絶えなかったのだ。その度に、澪紗は呆れながらも彼の手当てをしていた。
「そう思ってるのなら、もう無茶しないでほしいんだけど……あなたのことだから、何を言っても無駄でしょうね」
 一通りの手当てを終えると、ハーヴィは予備のガントレットを手に嵌めた。鈍い痛みが走るが、この程度の怪我はいつものことだ。準備が出来たのを確認すると、二人は探索を再開した。
 何としてでも、分断された四人と合流しなければならない。だが、此処の地図は無いため、探索はそう容易なものではないだろう。
「参ったな。随分とでかそうだぜ? 何かしら頼りになるモノがあればいいんだけどな」
 分かれ道に差し掛かるたびに立ち止まって、羊皮紙に地図を描きこむ。そして、目印として使えそうな――携帯食料の包み紙を置いていく。非効率的だが、迷わないためには必要なことだ。だが、それも結局は気休めにしかならないだろう。
 ハーヴィが地図を描きこんでいる間に、澪紗は周囲の警戒を怠らなかった。ポケモンである彼女の方が索敵能力に長けているためだ。
「なあ、警戒しすぎじゃねえか?」
「さっきから感じる強大な力だけど、何かと戦っているのかしら?」
 澪紗は口元に手を当てて、何度も耳をピクピクと動かしながら、辺りを見渡した。何も聞こえるわけでもなく、何も見えるわけではない。だが、一種の違和感があるのだ。
「どういうことだ?」
「センリナ平原に入った時から、あなたも重圧を感じていたでしょう? その重圧を放っている何かが、より強い力を放っているのよ」
「そういや、一向に収まる気配が無いもんな。押し潰されるってワケじゃねえが、あまり長居していると、気がおかしくなりそうだぜ」
 つまり、それはこの場が神々に関係のある場所であるということを明らかにしていた。
「待てよ。何かと戦ってる……?」
 もし、そうだとしたら――
「おい、急ぐぞ澪紗!」
 ハーヴィは羊皮紙を無理矢理懐に突っ込み、駆け出そうとした。だが――
「待ちなさい、ハーヴィ」
 澪紗はハーヴィの動きにすぐに反応し、彼を手で制した。
「あいつらがその強大な力――十中八九ライコウだろうが、そいつと戦ってたらどうすんだよ? いくらあいつらが強くたって……」
「だからよ。確かに、最悪の事態も考えられるかもしれない。でも、此処で私達が冷静さを失っても始まらないわ。それこそ、向かう途中で敵の不意打ちに遭うことも考えられるのだから」
 澪紗の言うとおりだ。碌に構造を覚えていないような遺跡を考えなしに動きまわるのは、自殺行為に等しい。《タルタロス》の者達の襲撃を受ける可能性もあるし、古代の遺跡ということで危険なトラップが仕掛けられていることも充分に考えられる。冷静さを失って動けば、命を落とすことも有り得るのだ。
「畜生、何で俺はいつも……」
 ハーヴィは自分の無力さに苛立っていた。
 人並みに戦えるし、情報収集などの知的な場面でも、ある程度の貢献は出来ている。だが、いざとなった時に、いつも自分は動けずにいる。
 こんな状態で、澪紗と共にいても大丈夫なのだろうか。彼女が過酷な――如何なるものかは解らないが――運命を背負っているということは、《地神グラードン》の意識や、《|蒼き波濤(ブラウエ・ヴェレ)》のリーダーであるシノ――彼女も自分と同じ眷族と関わる者だ――から聞いた。そして、その眷族と関わることは、平穏な人生を捨てることだということも。
「焦る気持ちも解るけど、落ち着いて。だいたいの方向は判断できそうだから」
 ハーヴィの心の内を見透かしたかのように、澪紗は彼を諭した。
「そうだな……。悪かった」
 ああ、まただ。こういったところで、心配させている。
 ハーヴィは溜息をつき、懐にしまった羊皮紙を再び取り出した。無理矢理に詰めたためか、一部がくしゃくしゃになっていた。
「こっちね。今のところ、ライコウの気配しかないけれど、念のため戦えるようにして」
「おう」
 二人はそれぞれの得物を抜刀すると、慎重かつ迅速に進んでいった。
 同じような構造が続いていくが、此処は澪紗に頼った方が確実だろう。澪紗を前衛にして、ハーヴィはその後に続いていった。
「ま、今回は頼りにさせて貰うぜ」
 特に敵と遭遇するわけでもなく、二人は順調に通路を進んでいった。
 そして――
「っ……!? 嘘でしょう……」
 広間へ出ようとしたところで、突然澪紗が立ち止まった。
「うわ、いきなり止まらないでくれよ」
 ハーヴィはその場に躓きそうになったが、何とかその場に留まる。
 呆然と立ち止まっている澪紗を不可解に思ったが、彼女の視線の先に何かがあるのは間違いないだろう。ハーヴィは片手剣(グラディウス)を構えつつ、彼女の前に出た。
「うわ」
 そこに広がっていた光景は、実に凄惨なものだった。
 床には数十人もの人間とポケモンが転がっており、誰もが血を流していたり、四肢を吹き飛ばされたりしている。
 装備を見たところ、何処かの軍隊を思わせるような格好だ。オウランの装備なのか、スケイルアーマーをアレンジしたかのようなものだ。
「ひでえな、これは。見たところ、オウランの軍部の連中ってところか」
 近くに倒れていた者の装備を見ると、桜と刀の紋章が刻まれているのが確認できた。これは、オウラン連邦の国章だ。つまり、彼らがオウランと関係のある者だというのは解ったが――
(国の奴らが動いているのか? だとしたら、ヤバいな。クロカとエルフィーナの素性がバレると、色々と面倒なことになりそうだ)
 ただでさえ治安が悪い中、他国の要人と軍部の連中が動いているとなると、紛争にはならないにしろ、国家間の関係が悪化してしまうことも考えられる。
 一介の冒険者であるハーヴィにとって国際問題は知ったことではないのだが、それによって彼女達の身に何かがあることを考えると、そうも言っていられない。
 だが、それよりも――
「おい……何なんだよ、何なんだよこれ……」
 その場で何が起きているのか、理解できなかった。
「どうなってんだよ……」
 ハーヴィの視線の先には、二人の女が対峙していた。
 一人はよく知った氷の術の使い手――いや、唯一無二で、信頼できるパートナーである。
 そして、もう一人は――
「以前言った筈よ。神々に関することには、首を突っ込まないでと」
 澪紗と対峙しているのは、海のような澄んだ青色の髪の女だった。
 澪紗と顔つきが似ているが、まだ少女という言葉が相応しい澪紗に対し、その女は女性という言葉の方がしっくりとくる。華奢ではあるが、澪紗よりいくらか大人びて見えるのだ。
 水色のドレスに身を包んでおり、まるで、水が人の形を作り出したかのような風貌だ。それが、彼女の涼しげで清楚な印象を表しているかのように見える。
 そして――耳元から突き出ている魚のような鰭と、ワンピースの裾から顔を覗かせている尾鰭。
 シャワーズ――そう呼ばれる種族に見られる特徴である。
 グレイシアである澪紗とどこか雰囲気が近いのは、至極当然のことである。何故なら、グレイシアもシャワーズも、元々はイーブイというポケモンが力を得た存在であるからだ。
「姉さん……なんで《タルタロス》なんかに……?」
 二人がどのような関係であるか、ハーヴィはすぐに理解した。
 シャワーズの女性が澪紗の姉であり、澪紗が探していた相手であるということを。
「眷族に選定されてから、姉さんとも別れて、戦いばかりの日々だった……。でも、やっと逢えた……なのに、どうして……どうして《タルタロス》なんかに……」
 声を震わせながら、澪紗はシャワーズの女性に向けて必死に訴えた。
「何も、解っていないのね。貴女は、そのような運命が嫌ではないの?」
 シャワーズの女が言う運命とは、《神の眷族》に課せられたもののことだろう。
 巨大な力を持つために、眷族同士は互いに牽制し合う関係にある。そして、ある時は自分の身を守るため、他の眷族を斃さなければならないこともあるのだ。
 でも、自分の唯一の肉親と戦いたくはなかった。
「嫌よ……。でも、姉さんに逢うために、どんな相手でも殺めてきた。あの時もそうだったのに、何で姉さんは……」
「待てよ、俺を置いて勝手に話を進めるな」
 苛立ちを覚えながら、ハーヴィは澪紗の前に割って入った。そして、片手剣(グラディウス)をシャワーズの女へと突きつけた。ポケモン相手に敵うわけが無いのだが、威嚇する――いや、自分の弱さを見せないためにも、必要なことだ。
「貴方が澪紗のパートナーね。私は澪羅(れいら)。妹がお世話になっています」
 腰の前に手を重ねて、シャワーズの女――澪羅はぺこりとお辞儀をした。礼儀正しいのだろうが、その行為はハーヴィにとって、慇懃無礼に思えた。
「名前なんて聞いてねえよ。こっちは色々と聞きたいことがあるんだよ。この惨状や、澪紗とあんたの関係、《神の眷族》や《タルタロス》のこと、他にも山ほどな」
「それは、まだ貴方の知ることではないわ。それに、ただその子と平穏に暮らすことを望むのならば、知る必要もないこと。相当な覚悟はしているようだけど」
 何処か哀しげな表情を浮かべつつも、澪羅は淡々と話す。
「澪紗。今回、此処で出会ったのは偶然かもしれない。でも、私達を詮索するのは、もうやめなさい。貴女がその人と、平穏な生を送りたいのならば」
 そう言葉を残すと、辺りに白い濃霧が立ち込め始めた。
 霧はシャワーズの女の周囲から発生しており、これが彼女の術によるものであることは明らかだった。
「あ、おい!」
「待って! 待ってよ姉さん!」
 それ以上は語らず、シャワーズの女はその場から霧に溶け込むように、消えていった。
 霧が晴れたのち、そこには二人が残されただけであった。
「……ごめんなさい、醜いところを見せてしまったみたい」
 少し気まずそうに駆け寄ってきたハーヴィに対し、澪紗は何処か自嘲的に俯いた。
 彼女にしては珍しいかもしれない。青い双眸に僅かに涙が浮かんでいる。
「醜くなんかねえよ。大切な人なんだろ?」
「でも、なんかあなたをずっと騙していたみたいで……」
 必死に堪えているのか、古びたバイオリンの音のように、声が掠れる。
 騙していた――そして、隠していた。もし、自分の全てが知られてしまったら、ハーヴィを巻き込んでしまうかもしれないから――
「私……あなたと一緒にいるべきじゃないのかも……」
 一瞬、澪紗が何を言っているのか、ハーヴィには理解できなかった。
 何故? 何故そのようなことを――
「だって、私は!」
「一人で抱え込んでんじゃねえよ、莫迦。何度も言わせんなよ……」
 そう言うと、ハーヴィは澪紗の背中に手を回し、そっと抱き寄せた。
「……ッ」
 信じられないほど、弱々しかった。
 僅かな衝撃で壊れてしまう氷細工のように――
 僅かな熱で消えてしまう雪のように――
 普段の頼りがいのある少女の面影はなく、絶対零度の術で敵を次々と打ち倒していく力があるのか、疑問に思ってしまうほどだ。
「前も言っただろ、お前は俺の……大切なパートナーだって……」
 ハーヴィは暫くの間、澪紗を抱き寄せていた。
メンテ
Re: Atonement 改訂版 ( No.36 )
   
日時: 2014/02/16 11:54
名前: Tαkα◆DGsIZpFkr2 ID:WoH5GcTY

第30話 狂気の雷獣

 今まで何度も強敵を相手にしてきたが、コレは格が違う。ジャンヌはただ、そう思っていた。
 最大の誤算、それは相手の力量を予想していなかったことだろう。戦闘になることは、ある程度予想できた。だから、そのために武器の手入れも怠らず、来るまでの間に技を磨いてきた。
 しかし、相手が相手だった。
 この相手は、強い。それだけならまだいい。
 強いが、一線を画しているのだ。今まで戦ってきた、どのような強敵よりも。
「いいイイいああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアああああッ――!」
 轟音――いや、爆音とも取れるような咆哮。それが「彼女」から発せられた声であることに気付くのには、時間はかからなかった。その場の空間そのものを揺るがさんばかりの大きな咆哮だ。それも大きいだけではなく、その場にいる者の肉体を引き裂くような鋭さも孕んでいる。
 その爆音が響くと同時に、「彼女」から雷撃が放たれた。ジャンヌは雷の軌道を読み取ると、すぐさまその場から飛び退いた。ジャンヌが立っていた場所に幾筋もの雷撃が降り注ぎ、耳を劈くような轟音を立てて四散した。
「うぐっ!」
 俊敏な動きを得意とするジャンヌでさえ雷の速度に対応するのは難しく、完全に回避するまでには至らずに、雷撃の余波をその身に受けてしまう。木々の力は雷撃を抑えるために致命傷にはならないのが幸いか。
「ちぃッ――! 流石、雷雲の化身と呼ばれるだけはあるか」
 再び、立っていた場所に、紫電の槍が降り注ぐ。
 幸い、この場所の地盤は固いのか、床を穿たれるようなことはなかったが、直撃を食らえば大きなダメージは免れないだろう。余波を受けただけでも、痺れが全身を襲う。
 まるで身体の一部のように雷を操るその姿は、雷獣神の名が相応しいだろう。
(むう、戦力が分散したのが厳しいか)
 いや、相手の攻撃を回避することを考えるなら、少人数で正解だったのかもしれない。人数が多ければ、その分味方のことを考えて行動しなければならないからだ。ポケモンである自分ならともかく、生身の人間があの雷撃の直撃を受ければ、タダでは済まない。しかし、どちらにしろ、早めに決着を付けなければ、ジリ貧になるのは目に見えている。
「グ……が……ガああああアアアアアアアアアああああああああああああッ――!!」
 再び咆哮する雷神。その咆哮は光と轟音と化し、紫電の槍を形成し、次々と放射された。ジャンヌは雷槍を回避すると、手元に法陣を描き、妖しい輝きを帯びた葉を発生させた。
 不規則な軌道を描きつつ、輝く葉がライコウへと向かっていく。木々の力を宿したこの術は、その魔力と動き故に、回避するのが難しい。精度を高めている分威力は控えめになっているものの、この状況で大技を撃つよりは確実性を求めた方が良い。
 妖艶な光を帯びた葉が旋回し、ライコウの身体を包みこむ。
 だが――
 耳を劈くような轟音と共にライコウの身体が光を帯び、次の瞬間にジャンヌの放った光の葉は全て消滅していた。
「莫迦な」
 恐らく、いくらかのダメージは与えられているだろう。しかし、決定的なダメージとは程遠いうえ、雷による攻撃はまったく衰えていない。少しずつでもダメージを与えていければ問題ないだろう。だが、その前に自分の身体がもつかどうかが解らない。
 それに、自分以外にもこの場にはいるのだ。彼女達のことが気掛かりだった。
(私はまだ、眷族としての力がある。だが……)
 ほんの一瞬、ジャンヌは後方を確認した。
「痛ッ! 流石にきついかも」
 後方では、心が相手の雷撃の余波を相殺しつつ、クロカとエルフィーナを守っていた。だが、防御系の術を多く持たぬ故に完全に抑えることは出来ておらず、鞭のようにしなる動きを見せる電撃が、彼女の身体を撃ちつけていく。
 ある程度の威力は軽減されているが、長時間攻撃を受け続ければ、立っているのは厳しい。そうなれば、二人を守り抜くのも難しくなる。
 状況は芳しくない――いや、危機的だろう。
 神と呼ばれる存在は、これ程のものなのか――その場にいる少女達には、この世のものではない存在に遭遇したことに対する畏怖とも焦りとも思えるような表情が浮かんでいる。
「はぁ……はぁ……。流石にまずいな、このままでは」
 ジャンヌは攻撃を担当していたが、なかなか戦況を覆せずにいた。こちら側からの攻撃は、相手に到達する前に雷撃に焼き払われ、毒素による技もあまり効いている様子は無い。
 しかし、自分は無傷というわけにはいかなかった。素早い動きを以てしても、相手の雷撃を完全に回避する手立てはない。そのため、身体のところどころが、雷の刃によって抉られ、痛々しい傷口を露わにしている。
「この状況が続けば立っていられぬ……か。どうしたものか――」
 状況を打破する策を何とか探そうとしたその時――
「…………ロ……」
 ふと、雷撃の雨が止み、《雷獣神ライコウ》はがくりと膝を折った。
 一体何が起きたのか――?
「ヤ……ク……、ニ……ゲ…………」
 様子がおかしかった。《雷獣神ライコウ》は虚ろな瞳を見開き、口を大きく開けながらガクガクと痙攣している。呼吸も上がっており、それと同時に、先程までの咆哮が嘘のようなか細い声で、途切れ途切れに言葉が紡がれる。
 逃げろ――
 その場にいた少女達には、そう聞こえた。実際にそう言ったのか、あるいは単なる呻き声なのかは解らなかった。
 いや――それを解釈する暇など、彼女達には無かった。
「ア……が……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――!」
 静寂は、ほんの十数秒に過ぎなかったのだ。
 再び《雷獣神ライコウ》の双眸には狂気が宿り、手当たり次第に雷撃の雨を降らせる。
 尋常な魔力ではない。雷が壁や床に直撃するたびに、その部屋全体を揺るがしているのだ。もし直撃を食らえば、人間であれば容易く粉砕されてしまうだろう。
「はぁ……はぁ……、三人とも……、逃げ……」
 ジャンヌは完全に息が上がっていた。
 身体の至る所が傷だらけで、額からは血を流し、雷の直撃を受けた右足を引きずっている。
「でも……!」
 今までの戦いを見守っていたエルフィーナが、悲痛な叫びを上げる。ジャンヌが戦っている時は気付かなかったが、その間に彼女がこれだけの傷を受けているのを目の当たりにしたのだ。
「……私なら大丈夫……です……。時間を……稼ぎますの……で……。お逃げ……ください……」
 息を上げながら、ジャンヌが答える。
「私も残る……。早く……防いでいるうちに……」
 心も雷撃を相殺しつつ、前に出る。彼女もジャンヌほどではないが、満身創痍だ。外傷は少ないものの、長時間技を出し続けているため、かなり疲労しているのが見受けられる。
 そして、ジャンヌと心はそれぞれのパートナーににこりと微笑んだ。
「なりません! そのようなこと、私が……! うぐ――」
 エルフィーナが前に出ようとした瞬間、彼女の身体が、がくりと落ちた。
 彼女の鳩尾に、クロカの拳が入っていた。気絶させたのだ。
「……二人とも」
 グッと唇を噛むクロカ。少し強かったのか、僅かにそこに血がにじむ。
「……絶対に生きて」
 その言葉を残し、エルフィーナを抱えると、クロカは部屋を後にした。心とジャンヌが清々しい笑顔で頷いたのを、クロカは見逃さなかった。
 冷酷――誰かがその場を見ていたら、そう思われるかもしれない。合理的な考え故にこのような選択を選んだのだとしても、冷酷だと思われてしまうかもしれない。
 それでもいい。《暗黒の瞳(ドゥンケル・アウゲ)》に属してから、冷酷だの不気味だの、そういった言葉は何度も聞いてきた。慣れているわけではないが、そのようなことを気にしていては、自分の仕事は務まらないのだから。
「……あの笑顔……信じて……よかったのかな?」
 今まで、人を簡単に信じるという行為を、クロカは理解できずにいた。
 性格なのか、不幸な過去の境遇故なのか、それはクロカ自身にも解らなかった。
 でも、今は信じた。いや、信じたかった。
「……お願い……絶対に……」
 通り抜けてきた雷槍の余波を間一髪避けると、クロカは大地を蹴って大きく跳躍した。


「とは言ったモノの、ちょっと難しい注文かも」
 二人の姿が見えなくなり、雷の射程外に行ったのを確認すると、心は障壁を解き、腰から三日月のように湾曲した細身の鋼鉄を抜いた。東国の武器、刀である。
「弱気だな……だが、確かにな……」
 ジャンヌも波刃の細剣(フラムベルク)を構え、《雷獣神ライコウ》を見据える。
 どうやら、再び先程と同じようなことが起きているようだ。雷神の女は痙攣しながら、虚ろな瞳を見開いている。
「アが……ぐ……、ワ……タ……し……は……?」
 二人は、《雷獣神ライコウ》の身に起こっている異変を、何となくではあるが察知していた。
 方向性の定まらない攻撃や、狂気に満ちていた瞳。
 そして、現在のように突然訪れる静寂。膝をつき、びくびくと痙攣している。
「何かに操られている……」
 それが正しい答えなのかは解らない。それでも、大きな進展ではあるだろう。
 尤も、この状況を打破できるかどうかとなれば、それはまた難しくなってくる。実際、二人には体力があまり残されていなかった。今も、何とか気合いでその場に立っているような状況である。
「……だ……メ……、ハヤ……く、ニゲ……ろ……ッ!」
 今度は、しっかりと聞き取ることが出来た。
 そう――
《雷獣神ライコウ》は、何とか自我を保ちながら、少女達に言葉を伝えようとしていたのだ。
「逃げろと……云われてもな……足がそろそろ限界かもしれん……」
「でも、戦うとなると……」
 事実、彼女達は雷撃の余波を幾度も受けてきたために、全身が痺れていた。
 冷静な表情を崩さずにいたが、かなり危険である状況に焦燥感を覚えずにはいられなかった。
「どうするか――」
「どうしよう――」
 同時に漏れた独りごとに、お互いに苦笑する。
 すると、二人の中で何かが吹っ切れてしまったようだ。
「やるだけ……」
「やってみるしかないな」
 ジャンヌは剣の周囲に葉を宿らせ、心は刀に揺らめく炎を纏わせた。
 同時に、《雷獣神ライコウ》の痙攣が止まる。
「はぁぁぁぁぁぁッ――!」
「いっけぇぇぇぇッ――!」
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああッ――!」
 眩い閃光と共に、爆音とも取れるような三人の咆哮が響いた。
 ライコウの動きがより一層激しくなる。だが、こちらも周りを気にせずに戦うことが出来るようになったのだ。ジャンヌはすぐにライコウを仕留めるべく全力で術を詠唱し、発動させた。
 描かれた法陣から、輝きを帯びた無数の葉が放たれる。今までの何倍もの魔力を込めて放っている。その分相手へと届く葉も多くなり、確実にダメージが蓄積していく。
 後顧の憂いが無くなったことにより、心も攻撃に転じることが出来た。ジャンヌの攻撃によって出来た隙を狙って、刀を振るって火焔を放った。放たれた火焔は真っ直ぐと地面を這い、ライコウの身体を包みこんだ。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――!」
 それは苦痛による叫びなのか、解らなかった。それでも、確実にライコウの体力を削ることが出来ているのは事実だろう。だが、完全に仕留めてはならない。戦っていて相手の様子を見たところ、このライコウが自分の意思で動いているのではないことが解ったからだ。何者か――恐らくは《タルタロス》に関係する者達が、ライコウに何かの手段を使って操っているのだろう。
 だが、やはりある程度のダメージを与えて戦う力を殺がなければならない。むしろ、相手が相手のため、下手に力を加減していては逆にこちら側が仕留められてしまう。だから、二人はもてる力の全てを出し切って戦っている。
 それでも、決定的なダメージを与えるには至っていない。ジャンヌと心の力は、決して弱くは無い。だが、相手が悪いのだ。神々という、一線を画すような存在であるのだから。
 どちらにしろ、このまま戦っていても力でねじ伏せられるのは目に見えている。何とかして、こちら側からの術の威力を上げる方法は無いだろうか――
(そうだ。この方法なら私の炎も強くなるし、ジャンヌも大技を使えるかも……)
 足元に降り注いだ雷撃を紙一重のところで回避しながら、心は刀を納めて、その場から大きく後方へと飛び退いた。
「ジャンヌ、ごめん。ちょっとだけ、相手を引き付けられる?」
 申し訳なさそうに、だが決意は固まったかのように、心はジャンヌに向けて叫んだ。
「無理な注文……といいたいところだが、そうも言ってられぬからな。任せてくれ」
 フッと笑みを浮かべると、ジャンヌはライコウへと突っ込んでいった。脚の感覚がなくなっていたが、そのようなことを気にしている暇など無い。苦痛と疲労に顔を歪めながらも、彼女は相手を引き付けるべく、術を詠唱していた。
 部屋の中に、心地の良い香りが漂い始めた。それと同時に、心は身体の痺れが徐々に消えていくかのような感覚を覚える。
「ありがとう、助かるよ。もうちょっとでいけるよ!」
 木々の力を宿した香りには、身体の異変を治す力がるという。それと同時に――
「よし。正気を失っているとはいえ、見事に引っ掛かってくれたようだな」
 ライコウは完全にジャンヌへと狙いを定めていた。癒しの力とは別に、相手を引き付けるような芳香を放っていたのだ。相手の闘争心を引き出すものだ。
 しかし、それはほんの一時的なものに過ぎない。故に、その香りを放ち続けながら、ジャンヌは円を描くようにライコウの周囲を走りまわった。
 その間にも、心の術は完成していた。
「よし、行くよ!」
 心が天に手を掲げると、まるで太陽に照らされたかのように部屋の中が眩い光に包まれた。
 疑似的な日光を作り出すことで、その場の空間を一時的に晴れ渡らす術だ。
「なるほど……。これなら、あの術をすぐに使える!」
 強い日差しのもとでは、木々や炎の力を宿したポケモン達は優位に戦えるのだ。また、雷の精度も半減するため、二人にとって大きなアドバンテージとなる。
 ジャンヌは刀身に強力な光を宿らせた。輝きを帯びた波刃の細剣(フラムベルク)を真っ直ぐとライコウへと向けて、彼女は強く念じた。すると、刀身から陽光を思わせるかのような眩い光線が放たれ、それがライコウの身体を包みこんだ。
 陽光の力を借りるため、本来ならば長い溜めを必要とする術だ。だが、今は心の術によって、部屋の中に疑似的な強い陽光が作り出されている。故に、溜めを要さずに術が放てたのだ。
「イイいいいいやあああああアアアアアアアアアあああああああああああッ――!」
 絶叫するライコウに向けて、心が追い打ちをかける。
「ハァァァァァァァァァァァッ――――!」
 咆哮と共に、心の全身が炎に包まれる。炎の属性を持つ彼女にとっては、逆に己の力となるものだ。そして、心の身体を包んでいた炎がライコウへと向けて放射された。赤く燃え盛る炎がライコウの全身を包み、轟音と共に小爆発を起こした。
「はぁ……はぁ……、決まったかな……?」
 自分の力をフルに使う術のため、反動として自分の内に眠る魔力を弱めてしまう副作用がある。しかし、長期戦を望めるような状況ではないため、心は躊躇わずにこの術を使った。
「はぁ……はぁ……っ……、流石に無事では……いられまい……」
 息を上げながら、二人は立ち昇る黒煙を見つめていた。
 だが――
「ぐっ……」
「あぅっ……」
 ジャンヌと心は全力を出した後に、少しでも隙を見せてしまったことを後悔した。
 黒煙の中から、ライコウが二人の姿を捉えてきたのだ。そして、ライコウの腕は、二人の首を強く握りしめていた。
「くっ……ぬかった……か……」
 ジャンヌは何とか腕を振り解こうとしたが、それだけの体力は残っていなかった。
「ぁ……はぅ……くるひ……ぃ……」
 心も目に大粒の涙を浮かべながら、足をばたつかせている。だが、それも焼け石に水であった。
「あ……ああ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――!」
 ライコウの瞳が一瞬光り、彼女の腕が眩い電光を帯びた。
 そして――
 腕を通じて、鋭利な雷の爪牙が捕らえられた二人に襲いかかった。
 最早、彼女達にそれを防ぐ手立ては無かった。


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放置しすぎ笑えないorz
最近はファンタジーの方をメインに書いていますので……

首絞めからの電撃責めって描写的にちょっとヤバいでしょうか。
メンテ

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