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[830] ボクの夏休み日記
   
日時: 2014/11/07 14:38
名前: 鮎月たゆ ID:zE7hdMUk

2年2組、しいな まき。
7がつ18にち。金よう日。くもり。

『夏休み日記』

夏休み前に秋野せんせーがくれたノートにそう書いてあった。
なぜかボクだけに。
せんせーはボクに言った。

この夏休みの間はこのノートで日記を書きなさい、だって。

そこーが悪いからだと父さんに怒られた。
お母さん、はずかしいわと母さんが泣いた。

なんで二人ともそんなこと言うのかわかんない。
でも、日記なんてはじめてだ。
なんだかそう思うとワクワクしてきた。

明日からおじいちゃんとおばあちゃん家に行く。
虫とりとか、スイカ食べたり、花火みて、川でサカナとって、およいで……
毎年のこーれー行事だ。
とってもとっても楽しみなんだ。

だけどね。

じつはボクが楽しみなのはそれだけじゃないんだ。
なにが楽しみかっていうのは、まだひみつ。
だって今おしえたらつまんないだろ?

だから、このひみつはこのあとのページをよんだ人だけが知ることができるんだ。
そのほうが面白いだろ?
ボクもそっちの方がワクワクする。

だから今はおしえないよ。
知りたいのならよめばいい。
ボクのひみつをおしえてやる。



―こめんと。―

初めましての方は初めまして。
知ってる方はこんにちは、かな?
――鮎月たゆです。

短編は苦手なのでどこまで出来るか不安ですが、よろしくお願いします♪

久しぶりに戻ってきました。
また読んで下さると嬉しいです。

―もくじ。―

01-02/「ボクのひみつ」>>1-2
03- /「ソラネちゃん」>>3-5
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Re: ボクの夏休み日記 ( No.2 )
   
日時: 2008/08/11 14:35
名前: 鮎月たゆ

02/

トウヤ兄ちゃんから漆黒の翼が生えてきた。
その姿を食い入るように見ていると、凍也は右手を上げて「パチンッ」と指を鳴らした。

――すると、突如部屋一面に黒い羽根が舞い落ちてきた。
それは去年、何度も見たはずのもの。
だけど見慣れることはなかった。
ボクは肩に落ちた黒い羽根を一つ取ると、確かめるようにそれを撫でるように触る。

前に母さんともらった赤い羽根募金の羽根と同じ感触がした。
柔らかくて優しくて、そしてカラスの羽根みたくどこかトゲトゲしている。
不思議な羽根。

『捧げるは陽炎ノ唄、宴ノ杯、紅蓮ノ痛み。望むは金ノ太陽、暁ノ栄光、静かなる園……』

トウヤ兄ちゃんは前に、これを《呪文》だと言っていた。
ボクの知ってる絵本とかに出てくる魔法使いの呪文とは、ちょっと違う。
けど、どこか似てる。

『我が願う姿をその瞳に映し、我が乞うものの形を為せ――!』

ボクが持っていた羽根がどこかへ飛んだ。
同じように他の羽根もどこかへ飛ぶ。
飛んだ羽根は、トウヤ兄ちゃんの部屋の隅々にくっついた。

天井、床、壁、窓、勉強机、本棚、ふすま、ベッド。
部屋から色がなくなって、羽根によって黒く塗りつぶされていくようだった。
黒く黒く、どこまでも黒く……。
二人を闇に閉ざしていく。

だが、闇によって視界が閉ざされたのは、ほんの一瞬だった。
闇の奥で何かが光り、揺れる。
それは徐々に大きくなり、真希に“幻想”を魅せる。

――そこは小高い丘、だった。
真希の足首まで伸びた草が、風に撫でられて「サァ……」と葉と葉が擦り合わさった音を出す。
その上空は、どこまでも澄み切った青い空と、わたがしみたいに美味しそうな白い雲が浮かんでいる。

両親に連れられ、山にある牧場に遊びに行った時のことを、不意に思い出した。
空気が澄んでいて、空も地面もありえないくらい綺麗だった。
だけど今ボクが立っているこの場所は、幻だと言うのにも関わらず、
その牧場に行った時と同じ匂いと美しさを感じられた。

「きれいだな……。すごいな……」
そういえば、あのときも最初にそう呟いた。
だってそれしか言いようがない。

「真希、後ろも見てみろ」
いつの間に隣に立っていたトウヤ兄ちゃんは、親指で後ろを指した。
ボクは何も考えず、言われた通り後ろを振り返って――

「うおぉ――っ!!」

それは驚嘆だったのか、感嘆だったのか。
ボクはただただ目を大きく見開いて、声を上げるしかなかった。

さっきまで緑と青と、多少の白色の世界だったのが、
――緑を塗り変え、空に顔を向ける黄色。
それは、街では花屋さんくらいでしかあまり見かけなくなったヒマワリだった。

「すっ、すげぇ! すげぇ! トウヤ兄ちゃんっ! ヒマワリだよ! ヒマワリっ」
そんなの見れば分かると凍也は冷たく返してきたが、興奮は抑まらない。
両手を振って、ピョンピョンと跳ねる。
仄かに頬が赤くなり、体中が熱くなる。

気付いたときには走っていた。
手を伸ばして、ヒマワリに触れようとして――
「真希っ!」
「――ぶっ」
何か見えない壁に顔面直撃。
あっさり撃沈。

それを見ていた凍也はハァと溜め息を吐いて、顔に手を当てた。
「前にも言っただろう? ここは元々俺の部屋の中。そしてここで見えるものは所詮幻だ。
無限に広がっているようで広がってない。幻で覆い隠しても、現実にあるものは消せない。
お前が頭っから突っ込んでいったのは、俺の部屋の壁だ」

潰れかけた鼻を抑えながら、ボクはトウヤ兄ちゃんを見た。
かなり思い切りぶつけたせいで、ちょっと目に涙が溜まっている。
背の高いトウヤ兄ちゃんを見上げるように、ボクはじっと見つめた。

トウヤ兄ちゃんが「うっ」と声を漏らし、眉をしかめ、口元を歪めた。
この術は、昔母さんがどうしても新しいバッグが欲しくて父さんにやってた仕草だ。
どうしても欲しいものとか、やってもらいたいことがあるときはやりなさい。
子供の内にねー―、と母さんは言っていた。

よく意味はわからない。
だけど効果はあったようで、トウヤ兄ちゃんは今度は大きく溜め息を漏らした。
そして、背中から生えている黒い翼から一つだけ羽根を抜くと、フゥと軽く息を吹きかける。
すると、黒かった羽根は細く緑色の棒になり、更にそれが伸びると、頭の方でパッと黄色い花が開いた。

「ヒマワリっ!」
そう叫ぶと、ボクはトウヤ兄ちゃんの元へ戻った。
「実体化してある。これなら触れる」
黄色い大きな花。
一輪だけだけど、それはとっても可愛らしく美しい。

「……真希」
ずっとヒマワリを眺めていると、トウヤ兄ちゃんが肩を叩いた。
ボクは顔を上げると、「うわぁ……」と思わず感嘆してしまった。
「今日はこれが最後の幻想だ」

夕日だ。
赤とも橙色ともおぼつかない、微かにその身を揺らす丸い大きな炎のような太陽。
黄色い絨毯(じゅうたん)に半分体を落とし、それでも最後まで辺りを照らしている。
徐々に暁に染まる空からは、瞬く星々が顔を出し始めた。

「……トウヤ兄ちゃん」
「ん?」
「きれいだね、たいよう」
「本物よりかは幻だと質が落ちてるからな。俺が知ってる一番きれいな夕日とは比べものにはならん」
「そうなの?」
「それが見えるところが近所にあるから、今度連れてってやるよ。――雨が止んだらな」

そして、夕日が完全に沈むと幻想も同時に解けた。
持っていたはずのヒマワリは黒い羽根に戻り、部屋に一面くっついていた同じ羽根はどこかへ消えてしまっていた。
――現実にもどった。
なんだか無性に寂しくなって窓に視線を移す。

まだ雨は降り止まない。
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Re: ボクの夏休み日記 ( No.3 )
   
日時: 2008/08/19 23:41
名前: 鮎月たゆ

 03/

7がつ21にち。月よう日。はれ。

今日は雨がやんだから、トウヤ兄ちゃんと<じんじゃ>にいった。
じんじゃの屋根をのぼると、そこから見える夕日がきれいなんだって。

ボクは楽しみにしてたら、じんじゃには『てんし』がいたんだっ!
なんだかトウヤ兄ちゃんとは「てんてき」らしい。
でもやさしいから、ボクは好きだな♪

また会いにいくからね、ソラネちゃん!



朱雀神社。
ここには昔、神様が住み着いていた。
しかし神を信仰する者が年々激減していき、いつの間にか神様はこの地を見放された。

神のいたところ――聖地と呼ばれるこの場所には時々悪霊が寄って来るようになった。
聖地とは、よく人間がその意味を間違えているが、神の力がこの地に留まっていることだ。
神の力を求めてやってくる悪霊が力に干渉されて、やがて人間に害を為す妖怪へと進化する。

しかし、害を為すのは人間だけに限ったことではないのが困りよう。
だからこそ天蓋派遣事務局から、この私――ソラネ=アルフィンドルがわざわざ派遣されてやったのだ。
別に神の力に興味があったわけじゃないぞっ!
断じてそんな低級低脳な悪魔が考えるようなことは思ってなどおらんっ!

これは人のため。
天使や悪魔のため!
だって私は中級レヴェルの天使なのだから……

「人の世のため、天上界におわす神々や同胞の天使たちや、低俗の悪魔のため……。
私は献身致しますわッ!!
だって……私は大天使になるソラネ=アルフィンドルなのですからっ……!」

くるりくるりと神社の前で白いワンピースを翻し、指を組んで天に祈るように、
そして何より己に酔いしれるように瞳を輝かせ、白い羽根を舞わせる。

どうせこの姿は普通の人間には見れないし、妖怪なんて低脳なやつらにはこれを見たって理解できない。
そういう自信からこうして踊っているわけなのだが……
「なぁなぁっ! きれいなお姉ちゃんだな、トウヤ!」
「おい、トウヤ兄ちゃんとちゃんと呼べ。……いやぁ、それにしても……ぷっ、ふふっ」

鳥居の丁度真下に、人間のちっせぇ餓鬼とでっけぇ餓鬼が見ている。
しかもちっせぇ餓鬼は目を輝かしてこっちを見ているのに対し、
でっけぇ餓鬼は口元を抑えながらソラネを見て笑いを押し殺していた。

「――な、な、なんでっ……!?」
なんで見えて……って、あのでっけぇ餓鬼から微弱ながら悪魔の気配が!
「て、てめぇ……悪魔か!」
「おやおや天使様ぁ? なんだかお口が悪いようで」
「……ぐっ!」

「まさかこんなとこで天使様のお美しい姿を見れるなんて……ぷっ」
ま、まさかこんな低級低脳悪魔にあんな恥ずかしい……す、姿を……っ!
「うるさいっ! 笑うなっ! わ、私は……私は……大天使になるソラネ=アルフィンドルだぁぁぁああっ!」

顔が真っ赤になるのが分かる。
くそ……くそ……畜生っ!!
よくも私に恥をかかせやがったなぁ!!

キッと悪魔を睨むと、やつはそんな私にせせら笑った。
「『なる』ってことは、まだなってないんだろ? それに下界に下ろされたってことは低レヴェル?」
「お前に言われたくない!」
「俺はこの下界で生まれたからな。上界にはそもそも行けない。……って、真希?」

悪魔が眉をひそめたので、私も訝しげに悪魔の視線の先を追う。
「さわり心地はトウヤ兄ちゃんのと同じなんだな」
私の美しい白い羽根に……汚らしい人間の餓鬼の手がぁっ!?
「ひぃっ!?」と思わず羽根を引っ込めると、少年は残念そうに私を見た。

「な、なんだ……この餓鬼は! 人間のくせに私が見えるのか!?」
「あぁ……真希は見えるだろうな」
そう言って、悪魔は消していた羽根を背中から現した。

「真希、そいつは見ての通り天使だ。天使は基本的に優しいやつだから、色々頼んでみたらどうだ?
無料で色んなことやってくれるかもよ?」
「た、タダなのかっ!? 天使の人はむりょーてーきょーなのかっ!?」
「それ、分かって言ってるのか?」
「――じゃあ天使さんっ! ボクに何か“げんそー”見せてっ」

天使とは、そもそも慈善事業をするためにいるわけではない。
人間の認識下では、どうも天使は幸せを呼ぶとかなんとか……

だが、実際天使はそうでもない。
誰が無料(タダ)で慈善事業しなきゃならねぇんだよ。
そもそも幻は悪魔が人間を騙すために使う一種の魔術で、悪魔の専売特許でもある。

「……真希、だっけ? 私は天使だけど無料で何かを見せることは出来ないのです。
だから、なんでもいいから君の“思い出”を頂ける?」
悪魔の好物は“記憶”。
天使の好物は“思い出”。

記憶と思い出の違いは感情である。
悪魔の好きな記憶は、生後から今までの生きてきた中の出来事のことだ。
天使の好きな思い出は、記憶のなかでも特に印象に残っているものだ。

楽しかったとか、悲しかったとか、そういう感情入りの記憶のこと。
薄っぺらな記憶よりも贅沢な好物でしょ?

「思い出?」
「そう、思い出。ただ君は、面白かったとか楽しかったとか思ったときのことを思い出してくれるだけでいいの」
「そしたら“げんそー”見せてくれる?」
「もっと別の良いものをみせてあげるわ」

悪魔は邪魔する気はないようだ。
だから悪魔はじっとこっちを見てるだけ。
人間の餓鬼はうーんと唸ってから、目を閉じた。

「じゃあ、ヤクソクだからね。ちゃんと面白いもの見せてくれよ」
「悪魔と違って天使は嘘だけは吐かない」
すると、真希の体から黄色い靄のようなのが出てきて、それが収束して塊となった。
そしてソラネがそれに触れると、ソラネの手に吸い込まれるように消えていった。

「子供は純粋だからいいわね。薄汚れた感情がない……くふっ」
綺麗な心は一番の好物。
それだけは悪魔も天使も同じ。

「いいわ、見せてあげる。私の魔術」
ソラネの白い羽根が大きく広がり、その羽根が微かに光り輝く。
真希は目を開き、凍也がするのとは違う『それ』を食い入るように見つめた。
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Re: ボクの夏休み日記 ( No.4 )
   
日時: 2008/10/04 21:51
名前: 鮎月たゆ

 04/

ソラネの純白の羽根が大きく広がり、微かに光り輝く。

それを食い入るように見ている真希は、何が見れるのかワクワクしているのだろう。
凍也は、真希の期待と喜びに満ちた顔を見るとフッと鼻で笑い、空を見上げた。

(何がそんなに面白いのかねぇ?)
己の記憶や思い出を引き渡してまでする真希が――人間が、よく分からない。
だけど、そのよく分からない人間を見ているのは、楽しい。

「俺も十分おかしい、か……」
悪魔なら悪魔らしく、人間を騙すことを面白いと思うべきなのだろうか?
――そう思わないのは、やはり俺が悪魔と人間の“ハーフ”だからだろうか?

パァン――ッという何かが爆ぜた音に、凍也は再び視線を戻す。
ソラネとか言う天使の羽根が宙を舞っていた。
そして、ソラネはその内の一つを取り、それに軽く口付ける。

すると、ソラネの足下に魔方陣が現れた。
陣の周りには天界語が書かれており、それが点滅を繰り返している。
そこでようやくソラネは《呪文》を紡ぎ始めた。

『其は我が僕、其は我が手足、其は我が力、其は我が矛、我が盾、我が片割れなり……』

足元の魔方陣が輝きを増し、不意に回転し始めた。
更に回転する魔方陣は浮き上がり、ソラネの頭上で留まる。

『我が苦しみは其の苦しみ、其の痛みは我の痛み。……天より授かりし御力、我が真名によりて、其を召喚す』

そして手に持っていた羽根を息で吹き飛ばすと、羽根は頭上高く舞い上がり、魔方陣の上へ。
そこでソラネは右手の人差し指で、羽根を指差す。

『出でよ!――誇り高き竜<エゼギス>!!』

すると一枚の羽根が大きく形を歪ませ、次の瞬間にはドラゴンの形となった。
赤い鱗に、鋭い金の眼光、大きく力強い羽根に、頭から生えた二本の角と、口元から覗く並んだ牙。
それは確かに竜だった。

……ただし2mくらいの。

「うぉぉおおおぉぉおおおっ!!」
光り輝く魔方陣と、周りを舞っていた羽根が消えてから、真希は叫んだ。
紅き竜――エゼギスは羽根を羽ばたかせてソラネの隣に降り立つと、グルルルルル……と凍也を見て唸った。

対する凍也はエゼギスの態度など全く無視し、ソラネに軽く驚いていた。
中級レヴェルで、あの召喚するのが難しいと言われるドラゴンを出すとは……

エゼギスに触りたいけど触れず、ただただ驚嘆している真希と、驚いている凍也の両反応に満足してか、
ソラネは胸を張り、腰に手を当てて自慢顔だ。
よほど嬉しいようだ。

「ふふん♪ どうよどうよ? 悪魔の幻想よりも凄いでしょ!?」
「うん! ドラゴンなんて初めて見たよっ」
興奮気味の真希は両手を振って、目を輝かせていた。

「天使はみんなそれぞれ“使い魔”を持っているの。普段は天界でお留守番してるんだけどね。
使いたいときに、こうやって召喚をするのよ!」
自慢げに話すソラネは、チラッと凍也の方を見て、したり顔。
……なんかムカツク。

凍也は自分の羽根を一枚抜くと、それを投げる。
そこで凍也は簡単な《呪文》を紡ぐ。
『捧げるは黒き花弁、猛き力。望むは純濃ノ命、蒼き鏡ノ媒体……。
我が願う姿をその瞳に映し、我が乞うものの形を為せ――!』

黒い羽根が水溜りの上に落ちると、それに溶けるように消えていった。
すると、その水溜りが突如浮き上がり、歪み、そして形を為していく。

――それは水で出来た虎だった。
そして、虎の形をした水だった。

「うぉぉおおおぉぉおおおっ!」
真希が先ほどと全く同じ反応で返してきた。
「すげぇ……水のトラだぁ……!」
隣でソラナがもの凄い形相で睨んできていたが、そこは口元に笑みを浮かべて返す。

「所詮幻で出来た虎……、私のエゼギスの方がかっこいいし、強いもン!」
「残念だが、この虎は水溜りを媒体としているから、実体がある。どちらが強いか試すか?」
凍也の挑発に、悔しそうにソラネが地団太踏む。

「い、いいじゃない! やってやろうじゃないのっ!」
かなり動揺しまくっているソラネは、一歩前に出て凍也を指差した。
「ただし! アンタが勝負に負けたら、私の前で土下座して、私の靴でも舐めなさい!」
「じゃあ、俺が勝ったら、お前は俺の下僕な」

なッ!?――と、ソラネは言い返そうとしたが、しかし途中で気が変わったのか、「いいわ」と答えた。
「ようするに勝てばいいのよね」
そう言ってうんうん頷く。

真希はどうやら何をするのか理解したらしく、ぴょんぴょん跳ねながら、少し離れた場所で体育座りした。
それを確認してから、凍也は自分で作った虎の隣に立った。
そしてソラネも同じようにエゼギスの隣に立つ。

――天使と悪魔が対峙した。
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Re: ボクの夏休み日記 ( No.5 )
   
日時: 2014/11/07 14:35
名前: 鮎月たゆ ID:zE7hdMUk


05/

天使と悪魔が対峙した。

最初に動き出したのは凍也の水虎だった。
水で出来てるとは言え、剥き出しになった牙と爪の鋭いこと。
そして逞しい脚が大きく大地を蹴り、エゼギスの首に向かって口を開く。
真希の目には一瞬にして水虎がエゼギスの前に跳んできたように見えた。

「エゼギスっ! そんなヤツ捻じ伏せなさい!」
御意と言うように紅き竜は、竜特有の黄金の瞳を煌めかせると羽ばたき、その体躯を動かす。
そうして襲い掛かってきた水虎を避けると、逆にその身体へ噛み付いてきた。
「ぎゃうっ」と絞り出た掠れた悲鳴を上げ――水虎の身体が弾けた。

「え」と、あまりにも呆気ない勝利に間抜け面を晒すソラネ。
でも真希はなんとなく一瞥した凍也の表情を見て「やっぱり」と苦笑した。

凍也は悪魔だ。
騙すことに長けた、悪魔。

「天使、お前の負けだ――」
凍也は言いながら、弾けたまま宙に浮く水に向けてパチンと指を鳴らした。
刹那、水が鋭い氷の槍となってエゼギスの周囲を囲む。
息を呑むソラネを見た凍也は見下すように嘲笑すると、手を伸ばした。
「“殺れ”」
「エゼギス!!」
凍也の言葉に血の気の失せたソラネが悲鳴を上げるように叫ぶ。
それを凍也はやけに冷めた面持ちで見ていた。

所詮、天使。
所詮、中級に成り上がったばかりの低級。

こんなものか、と思った直後。
「ダメだよ、トウヤ兄ちゃん!」
その声に、
その言葉に、
凍也は思わず舌打ちした。

「は、え、え、え、えぇぇぇぇぇ…………」
腰を抜かしたようにヘタレ座るソラネの眼前には、エゼギスの首をぐるりと囲むように氷槍が、間一髪で動きを止めてる。

「ソラネちゃん、だいじょうぶ……?」
そんなソラネに歩み寄って窺い見る小さな人間の子供が、あの鬼畜眼鏡の悪魔を止めた救世主(メシア)に見えたのは、
初めて味わった間近に迫った“死への恐怖”故の極限状態が原因だろう。
使い魔と主人は一蓮托生。
痛みも死も感覚全てを共有する。

一方の凍也は感極まったソラネが真希を思いっきり抱きつくのを一瞥して、それから術を解く。
瞬間に氷槍が水に戻り、地に落ちた。
「せっかくの竜も主人がアレだと形無しだな」
えぐえぐと鼻水と涙でぐちゃぐちゃな顔を真希の頬に押し付ける天使に苦笑しつつ、エゼギスを見遣る。
黄金の双眸は主人を優しげな眼差しを向け、<そうでもないゾ、半端者ヨ>と答えた。

……答えた?

「はっ!?」と驚く凍也に<ソラネにしゃべったら殺すからナ、半端者ヨ>と迫力満点に脅しまでかけてきやがった。
ちなみに言語を理解する竜は“天格”と呼ばれ、その力は神の力にも勝るとも劣らずと言われている。
大きさからみてまだ子供ではあるだろうが、本来の力を出していれば凍也なんて瞬殺だ。
しかし、どうやらエゼギスはソラネに秘密にしているようだし……。
そんなエゼギスを所有しているソラネには一応勝負で勝ったわけで。

これはとんだ拾いモノだったと思っていると、空が段々赤く燃え始めた。
これはまずいと凍也は真希にひっつくソラネを蹴り飛ばし、真希を担いで羽ばたく。
そして社の屋根に降り立つと、「どうしたんだよ、ヤキモチか」と的を外した……というより本来の目的を忘れた真希の言動に呆れた。
「ほら、真希。見ろ」
「ん?―――――っおお!!!!」

凍也が指差した方を見れば、真希は目を見開いた。
蹴られて転がったソラネを起き上がらせようとしていたエゼギスも、
転がった際に腰を打って痛そうに抑えているソラネも、なんとなく真希と同じ方向を見て驚嘆した。

この街は山に囲まれた場所に位置している。
しかし西側の山には一部低いところがあって、この朱雀神社の、特に屋根の上からだとぎりぎり隠れる手前の夕日が見えるのだが。
夏場の、大体この時間にしか“コレ”は見えない。
周囲が闇に包まれかけるのに、山間から漏れる夕日の光がまるで炎の筋のように街に一直線に伸び、
街の中心にある小さな湖がそれを浴び、反射し、不思議なことにその光を天へと伸ばす。

この時季の、この時間の、この場所の、この方角。
特に雨上がりの晴れた日が、特に。
キラキラと、赤い光が湖から天へ伸び、僅かに夜空を貫いていた。
その景色に、悪魔も天使も竜も人間も、心を奪われ見惚れる。

「綺麗だわ……、こんなの、天界でも幻術でもみたことないわ」
主人の呟きに、エゼギスはソラネを見る。
長い睫毛に縁取られた、普段は丸い瞳が細められ、眩しそうだ。
しかしその瞳はキラキラ輝いていて、こっちもこっちで眩しいとエゼギスは思った。
「ねぇ、エゼギス。私、間違ってたのかもしれないわね」
ようやくしっかりと立ち上がったソラネは、不意に屋根の上にいる人間の少年と悪魔を見上げた。
「……何よ、全然醜くないじゃない」
並んで幸せそうに綺麗な景色を眺める二人にソラネは微笑ましく微笑んだ。


「さて、そろそろ今日のオチをつけようじゃないか」
エゼギスに帰ってもらった直後に、凍也はそう言いながら眼鏡を中指で抑えた。
レンズがキラリと反射し、瞬間にソラネは悪寒に身を奮わせた。
「な、何よ……」
「天使、お前は勝負に負けた。……自分で言ったんだ、忘れたなんて言わせねーぞ?」
「え?」
自分で言った……?

――――「ただし! アンタが勝負に負けたら、私の前で土下座して、私の靴でも舐めなさい!」
――――「じゃあ、俺が勝ったら、お前は俺の下僕な」
――――「いいわ、ようするに勝てばいいのよね」

確かに言ったぁぁぁあああああああああああ!?
「ちょ、あれ、本気、なの?」
「おやぁ?……大天使になろうお方が、もしやもしや……嘘をおっしゃった、と?」
「ま、まさか!」
「じゃ、あんた俺の下僕な。……ぷぷ、悪魔の下僕になった天使なんて前代未聞だろーなー」
「うえーん、やっぱ悪魔なんて大っ嫌いぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」

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